マザーコンピューター"ゼウス"に支配され、人々が心の自由を奪われた世界にて――
人類が生み出した最後の希望、その名は”デビルチルドレン”!
ジャンル:SF風未来ファンタジー
コンセプト:打倒ゼウス! 人々の心の自由を取り戻せ!
GM:無し
NPC:共有式
名無し参加:あり
決定リール:あり
レス順:無し
版権・越境:このスレの設定に合わせてコンバートをお願いします
敵役参加:あり
避難所の有無:あり
備考:コメディスレなので細かい事は気にせずに楽しみましょう!
詳しくはこちら
エデンの図書館 〜電脳神話デビチル! まとめwiki
http://www53.atwiki.jp/devilchildren/pages/1.html
さて、私が禅問答なんて仕掛けたのは、マリアの考え方が知りたかったからだ。
私の問いに、お酒がまわってるであろう彼女は流暢に答える。
その答えは、私にとって生温くさえ思える理想主義的なものだった。
他の街で犯罪が行われない理由が分かっていない。
彼らは犯罪をしないのではなく、しようと思う事すら許されていなかったからだ。
人間の思想すら縛る天使たちのやり方は、許されていいものじゃない。
その点彼女たちの行う統治はまさに賞賛に値するものである。
だが、だからこそ犯罪の発生を食い止められないのは皮肉な話でもある。
人間にとって理想的な社会と言うのは、そう簡単に作れるものではないということだろう。
>「あと、今更ですけど……性善説と性悪説、これは本来意味合い的にはどっちも同じなんですよ。
『人は生まれつきは善だが、成長すると悪行を学ぶ』というのが性善説で『人は生まれつきは悪だが、成長すると善行を学ぶ』というのが性悪説です。
つまり、どちらの見解でも結局「人は善行も悪行も行いうる」のであって、まあ区別するのはナンセンスですよ〜」
「確かにそうですよ。区別する事に意味なんてないですよ」
この話題はここまでだ、掘り返しても何も生み出さないだろう。
見ると、彼女はもう酒瓶を5本も空けているようだ。
ツンとする刺激臭に独特の緑色の液体…おそらくはアブサン酒であろう。
毒草であるニガヨモギを漬け込んだ世界でも指折りな高アルコール酒。
ニガヨモギの成分で、薬物的効果もあるという合法ドラッグでもある。否、一部地域では非合法のお酒だったはず。
とにかく、そんなものを何本も空ける彼女は只者ではあるまい。それとも、天使はお酒に強いのであろうか?
やがて、晩餐会も終わりを迎える。
時計を見ると、日は落ちたがまだ寝るには早過ぎる時刻である。
そんな折、シャルルからひとつの提案が上がった。
>「さて、散歩がてら買い物でも行きましょうか」
「賛成ですよ、夜の街をぶらつくのも乙なものですよ」
軍資金は無限にあるのだ、使わない手は無い。
さて、猫バスで向かった繁華街は、夜だと言うのに大変に賑わっていた。
これが他の街ならば、日が落ちると同時に外出禁止令が出されるところだ。
私たちはそんな賑わいの中、ひときわ大きなショッピングモールへと足を運んだ。
「お、見たことの無いフレーバーの茶葉が売ってるですよ。これは買いですよ」
買い物を大いに楽しむ私たち。
こんな事をしていて良いのだろうかと疑問も浮かぶが、今は考えない事にする。
だってお茶がこんなにたくさん売っているのである。我慢など出来まい。
厳選に厳選を重ねた結果、私は20種ばかりの茶葉を購入した。
これでも控えめな方である。むしろ「全部」買いをしなかった私を褒めて欲しい。
何はともあれ、これで当分はお茶に不自由する事はないだろう。
日に5回はティータイムを必要とする体なのだから仕方ない。
そんな風にショッピングを楽しんでいた、そのときである。
店先で、仮面を被った一人の人物とすれ違った。ちょうど、能面の泥眼のような仮面だ。
あれが魔法狂い…?私の視線はその人物の背中へと張り付く。
一緒に歩いていた他のメンバーも、その異様ないでたちに気付いたようだ。
声をかけて話を聞くべきか、それとも気付かれずにあとをつけるか。さぁ、どちらにしよう。
>「もてなしてもらって何だけど、私はまだあの天使たちを信用したわけじゃないですよ。
あまり期待するのはやめたほうがいいですよ」
「…ふぅ」
私は、その言葉を聞いて溜息を吐いた
「そんなことわかりきったことでしょう?
いくらあの方たちが友好的とはいえ本当は敵と敵であるという関係なのです。
ですから本来こう言ったことになるのはあり得ないことなのはご存じでしょう?
…まぁ、私としては、あの方たちを信じたいのが本音です」
私はそういうと、ブラック無糖のコーヒーを飲む…やはり砂糖を入れよう
それとある話声が聞こえてきた
>「あと、今更ですけど……性善説と性悪説、これは本来意味合い的にはどっちも同じなんですよ。
『人は生まれつきは善だが、成長すると悪行を学ぶ』というのが性善説で『人は生まれつきは悪だが、成長すると善行を学ぶ』というのが性悪説です。
つまり、どちらの見解でも結局「人は善行も悪行も行いうる」のであって、まあ区別するのはナンセンスですよ〜」
「…くだらない」
私はそう呟くと、コーヒーをまた飲む…砂糖5袋位入れれば美味しくなるかな?
……うえ、甘すぎた
>「さて、散歩がてら買い物でも行きましょうか」
「…、了解、私もお付き合いしますよ」
私は、にこやかにそう言った
同時にシャルルがチーズ中毒ではないかと思った…
そして猫バスで行ったショッピングモール、私は何も買わなかった
特に買う者がなかったからだ…一応赤いマフラーを買った、なんかほしかったから…
「…、ふむ、まさかそれっぽい人とまた合うとは…」
私はその異様な仮面をつけた男を目で追う
「みなさんも気付いているようですね…、私はあのものを追おうと思いますがみなさんはどうしますか?」
>「賛成ですよ、夜の街をぶらつくのも乙なものですよ」
>「…、了解、私もお付き合いしますよ」
と、いう訳で、アタシ達は夜の街に繰り出した。
ノビーは体調不良という事で猫バスで休ませる事にした。
>「お、見たことの無いフレーバーの茶葉が売ってるですよ。これは買いですよ」
「あら、マジカルチーズ!? 魔法のように美味しいチーズかしら」
アイネはお茶を選び、アタシはチーズを買い溜める。
キラーさんは特に買う物がないようで、赤いマフラーを買っていた。
山のように買い物をしたアタシ達を見て驚いている事だろう。
「あ、お茶は乾物だし塩味が強いものは保存が効くから大丈夫よ〜」
そういう問題ではない気もするが。
とにもかくにも、そんな和やかな雰囲気は、俄かに一変する。
仮面を付けた異様な雰囲気の人物とすれ違ったのだ。
>「みなさんも気付いているようですね…、私はあのものを追おうと思いますがみなさんはどうしますか?」
アタシ達はすでに魔法狂いの仲間と接触している。
もう面が割れているとしたら、話しかけても良い結果にはならないだろう。
逆に尾行なら、これだけの人通りがあれば気付かれずに出来そうだ。
「追ってみましょう。上手くいけばカタコンベの場所が分かるかも」
謎の人物から近づきすぎず離れ過ぎないように歩きはじめる。
>「追ってみましょう。上手くいけばカタコンベの場所が分かるかも」
私たちは、すれ違った仮面の人物を追いかけることに決めた。
尾行と言っても、この賑わいの中なら気づかれずに追うのはさして難しくはない。
仮面の人物…体格からして、おそらく男だろう…は、わき目も振らず歩いていく。
買い物でも終えた帰りなのだろう。その足取りには迷いが見られない。
少し進んだところで、男はわき道へと入っていった。ここからは慎重に追わねばなるまい。
「気づかれるとまずいですよ。気配を殺すですよ」
皆に注意を促し、私たちはさらに男の後を追う。
男はまるで猫のようにしなやかに、裏路地をまっすぐ進んでいく。
後を追う私たちの気配は、まだ悟られてはいないようだ。
そのとき、男はふと立ち止まった。
気付かれたかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
男はおもむろに屈み込むと、足元の鉄格子を開いたのだ。
どうやら地下に潜るらしい。これはまさしくカタコンベへと行こうとしているのではないか。
しかし、地下道ではこれまでのような尾行が通用しない。
一度見失えば、もう追うことは不可能になるだろう。
そこで私は、少々大胆な作戦へ出ることにした。
腰のボトルの一本を開き、中の水を男に向けて射出したのだ。
水は気付かれることのないまま男に命中し、その袖口を濡らす。
「水の気配で追えるですよ。これなら見失う心配もないですよ」
とはいえ、水の気配で追えるのはほんの数分だけだ。急がねばなるまい。
私たちは男の後を追い、地下道へと入っていく。
暗い地下道は先がほとんど見えない。だが、追跡者としては明かりを使うことも出来なかった。
暗い中手探りではしごを降り、地下道を進み、またはしごを降りる。
そんな風に、どれだけ進んだのだろうか。急に開けた空間に出た。
「ここがカタコンベ…なんですかよ?」
地下と言っても、思ったより生活感があり清潔そうだ。
道がまっすぐに伸び、それに沿って小さな明かりが灯っている。
さらにその両脇には小さな小屋が並び、彼らはそこで生活しているらしい。
様々な仮面をつけた人物が行き交っている。風体からして、皆魔法狂いのようだ。
>「ここがカタコンベ…なんですかよ?」
アイネの機転で、アタシ達は魔法狂い達のカタコンベを突きとめることに成功した。
もしも正体に気付かれたら何が起こるか分からない。
まず第一にすべきことは、彼等と同じように仮面を付けることだ。
といっても都合よく仮面なんて持っているわけはない。
ここでアタシの能力をおさらいすると、お菓子なら何でも出せる能力。
ところでテレビで飴細工の大会を見ていると、もはや飴である必要は無いと思わないだろうか。
それは置いといて、アタシは仮面型の飴すなわち飴で出来た仮面を人数分出した。
「はい、これ付けて〜。デザインが気に入らないなんて贅沢言っちゃ駄目よ」
仮面を付けて変装完了したアタシ達。
「うん、完璧ね! ……ん?」
アタシ達の前を、素顔の人物が通り過ぎて行ったような気がした。
しかも、その顔は見覚えがある気がする。
「イトさん……?」
彼女はやはり魔法狂い又はその関係者だったのだろうか。
カタコンベへの潜入を果たした私達だったが、仮面のことをすっかり忘れていた。
周りの人間はすべて仮面を装着しているのだ。このままではどうしても浮いてしまう。
その焦りを気づかれたのか、はたまたタイミングが良かっただけか、ちょうどシャルルが仮面を用意してくれた。
ただし、仮面は飴製である。繰り返す、飴製である。
念のため少し舐めてみた…甘い、飴である。
>「はい、これ付けて〜。デザインが気に入らないなんて贅沢言っちゃ駄目よ」
こんなの長時間付けてたら飴が溶けてべたべたになるような、などと文句は言えない。
デザインは特に文句はないのだが、やはりその辺が気になる。
とはいえ、他に方法もないので大人しく仮面を装着した。
あとでちゃんと顔を洗おう、そう心の中で誓う。
なんだかんだで変装完了した私達、さてこれからどうしようかと思った、そのときである。
>「イトさん……?」
私達の横を素顔の人物が通り過ぎたのである、そしてその人物には見覚えがあった。
イト…かつて私達が助けた女性だ。彼女もまた魔法狂いなのであろうか?
一瞬躊躇したが、思い切って声を掛けることにする。
「イトさん!イトさんじゃないかですよ」
声に振り向いた彼女はまさしくイトさんであった。
このままだと分からないかと思い、仮面を外して挨拶をする。
「覚えているか、私たちですよほら」
「あなた達でしたか、お久しぶりです」
一瞬警戒していたようだが、仮面の下の素顔を見せると安心したように挨拶を返してくれた。
「次はこの街の開放ですか?悪魔さんたちも忙しいようですね」
「まぁそんなところですよ、イトさんはなぜここに?」
「彼ら…魔法狂い達の協力者をしているんです。詳しい話は座って話しましょう」
そう言われて案内されたのは、一軒の小さな小屋だった。
聞くと、彼女は今この小屋に間借りして生活しているらしい。
小さなテーブルを囲うように座ると、イトさんがお茶を出してくれた。
喉も渇いていたし、ありがたい限りだ。
私はすぐにお茶を飲み干すと、話を聞くべく口を開いた。
「聞かせて欲しいですよ。イトさんは何者で、なぜ魔法狂いの協力者をしているのかですよ」
イトさんはが以前別れた時に意味深な態度を見せていた事を思いだす。
罠の可能性もある事に思い至りどうしようか迷うが、先にアイネが声をかけていた。
>「イトさん!イトさんじゃないかですよ」
はらはらしながら会話を見守るが、イトさんは魔法狂いに協力しているとあっさりと言う。
でもまだ油断はできない。警戒しながら小屋までついていく。
>「聞かせて欲しいですよ。イトさんは何者で、なぜ魔法狂いの協力者をしているのかですよ」
「……そろそろ頃合いかもしれませんね。
この前は騙してごめんなさい。私は――ゼウスの工作員なんです。
でも貴方たちと共に戦う意思に嘘はありませんでした。
私の任務は……壊れたプログラム、つまり暴走した天使を始末すること。
あの街……ヴィエナのホストは人間を殺し過ぎた。
そしてこの街のホストは人間を自由にしすぎる。これではいつか破綻するのは目に見えています」
暴走した天使にそのまま統治を続けさせるぐらいならいっそ街が解放されて人間が野放しになる方がまし、という事か?
ゼウスは自らの手下である天使が自らの地位を乗っ取る事を何よりも恐れているのかもしれない。
「それで魔法狂いと結託して……」
「ええ。
ところで提案があるのですが……あなた達の目的はゼウスを倒す事、そのために街をゼウスの支配から解放していく事でしょう?
利害は一致しています。ここは一つ私達と手を組みませんか?」
イトさんはアタシ達が天使に招待されている事を知ってか知らずか、自分たちの陣営に入らないかと誘いをかけてきたのであった。
どうやら意見が纏まったらしい
だがそこで
>「はい、これ付けて〜。デザインが気に入らないなんて贅沢言っちゃ駄目よ」
「…まぁプログラムですから問題ないでしょうね」
と、呟くと仮面をかぶる…甘い味と匂いがする
さて、そんなこんなでみなさんの知り合いと思わしき人と接触
>「イトさん……?」
「……………イト?」
思わず私は繰り返して言いました
そしてそのイトと呼ばれる人に案内されて、ある小屋に入る私たち
>「……そろそろ頃合いかもしれませんね。
この前は騙してごめんなさい。私は――ゼウスの工作員なんです。
でも貴方たちと共に戦う意思に嘘はありませんでした。
私の任務は……壊れたプログラム、つまり暴走した天使を始末すること。
あの街……ヴィエナのホストは人間を殺し過ぎた。
そしてこの街のホストは人間を自由にしすぎる。これではいつか破綻するのは目に見えています」
(気に入らないな………コイツ)
なんとなく、私はこの人が好きにはなれませんでした、本質が合わない気がするのです
>「ええ。
ところで提案があるのですが……あなた達の目的はゼウスを倒す事、そのために街をゼウスの支配から解放していく事でしょう?
利害は一致しています。ここは一つ私達と手を組みませんか?」
「…………」
正直、断る以外の考えはなかった
ここで下手を打てば大変なことになるような気がするが、どうしても断る以外の手段は思いつかなかった、だから
「…………私は手を組むのには反対しますよ」
イトの口から、真実が語られていく。
彼女はゼウスの派遣した工作員であり、この街の天使を抹殺するのが目的だと言う。
そのために、魔法狂いたちと結託して反乱を起こそうと企んだのだ。
なるほど、イト…ゼウスの考えも理解できるかもしれない。
命じるがままに統治を行えない統治者は敵だとみなす。
その考えは実に安直で、しかし安心できるものだ。
下手に力をつけた天使より、人間のほうが安全だとみなしているのであろう。
すぐに別の天使を派遣すればよい話なのだから。
しかしそのためにイトのような工作員を用意して動かす、その考えが私は気にいらなかった。
人間を都合のよい道具だとみなすその発想に、虫唾が走る。
>「ええ。
ところで提案があるのですが……あなた達の目的はゼウスを倒す事、そのために街をゼウスの支配から解放していく事でしょう?
利害は一致しています。ここは一つ私達と手を組みませんか?」
この街の天使を倒すために共闘しようと言う。
しかし相手はゼウスだ。そう易々と手を組むなんて出来ない。
>「…………私は手を組むのには反対しますよ」
キラーが真っ先に意見を言う。その案に私も賛成だった。
「私も反対ですよ」
言いながら立ち上がる。立ち上がると、少し頭がすっきりした気分になった。
「理由は二つ。一つ目は、あなたがゼウスの手下だから。
たとえどんな理由があろうとも、ゼウスと組むだなんて出来ない相談ですよ」
呉越同舟、なんてことはそう易々とはありえないのだ。
ゼウスと共同戦線を張るなんて考えたくも無い。
「二つ目は、この街の天使は信用に足る人物だからですよ。
彼女たちに任せておけば、この街も安泰ですよ」
私たちはすでにこの街のホストと接触しているのだ。
実際に話してみて、その考えを理解している。
私たちデビチルの行動目標は、人間たちの幸せを守ること。
そのためにアリアたちに街を託すことが、私たちにとって最良の選択なのだ。
「以上の理由により、イトさんと組むことは出来ないですよ。
いや、ひょっとしたら私たちは敵同士かもしれないですよ」
イトを見る目にちょっとだけ敵意を込める。
この街を転覆させるために魔法狂いたちを焚き付けるなんて、やっていいはずは無いのだ。
「……あれ〜?悪魔さん達は〜?」
ぽややん、とした声が宴の終わった応接室に響く。言わずもがな、我等が大将のマリア様だ。
つーか、飲み過ぎだっての。あー!絶対明日に響くぞコレ!アタシはアタシの仕事があんのに!
「とっくの昔にショッピングに出かけたっつーの。マリアは飲み過ぎだ。何本飲んだんだよ?
その机の下に転がってる空き瓶数える気にもなんねーよもう。てかもう寝ろ!オイ!」
そう言ってアタシはパチンと指を鳴らす。それに合わせ応接室を開けて数人のアタシ直属の黒服天使達が姿を現す。
「「「「何か御用でしょうか!アリアの姉御!」」」」
大教会本部の白服天使と比べるとアタシ直属の黒服天使はフレンドリーだ。
部下と上司と言うよりも、理解ある、あー人間で言う所の舎弟の当たる様な気がする。
「御用も御用だ。わりーがココの片づけを頼む。うちの料理人達には無理させちまったからな。
1週間ほど休暇、それと上乗せの賃金を与える。で悪いが、その間のアンタ等の食事は外食になっちまう。
勘弁してくれ。もちろん、食事代はアタシが持つ、業務に支障をきたさない程度に飲み食いしてくれ」
アタシの言葉に黒服天使達は、ビッ、とふざけ半分の敬礼をする。
「ありがたいお言葉です!アリアの姉御!遠慮なくゴチになりやす!」
そんな黒服天使の言葉に思わず笑みがこぼれる。
「アンタ等のその態度は気が楽になるよ。此処の白服天使も少しは見習えってのなー」
そう言ってアタシは泥酔状態のマリアに肩を貸すと、マリアの自室に連れて行き、ベッドに寝かせる。
連れてく過程で既にマリアは寝息を立てていた。気楽なもんですねーマリアはさー。
すーすー、と完全に寝に入ったマリアの髪をさらりと撫でる。
「さて、と。アタシはもう一仕事あるんだよなー。まったく、『ショッピング』ねー……」
悪魔さん達がそれだけで済めばいいけどなー。
アタシはマリアの完全な就寝を見届け、自室に帰る。
「……チックタック、インフィ、トリック、夜に悪いが集合だ。とっとと集まれー」
アタシはほら貝の形をした魔法狂いのアイテムの一種、『強制集合貝』を口に当てると3人の魔法狂いを呼び出す。
「何々?僕ってば夕食の真っ最中だったんだけど!?」
最初に現れたのはチックタック。時計の形を模したマスクをしている。能力は瞬間移動。
煙で覆った対象物(自分含む)を任意の場所に移動させる魔法を持つ。
欠点としてはチックタックの行った事ある場所しか移動できないという事。
「久しぶりだね。また何か新しい悪戯道具でも思いついたのかい?」
次いで現れたのはインフィ。麻袋に$のマークが書かれたマスクをしている。能力は無限増殖。
アタシと共同で『中身の減らない金貨袋』を作った友人だ。悪戯好き同士気が合うと言った所だろうか。
ただ、凄いと思える能力もインフィ自体の出せる煙の少なさから使用限度が限られている。
「俺を呼んだってことは、いつものアレだろ?報酬はキチンといただくよ」
最後に現れたのはトリック。この魔法狂いのマスクは……あえて例えるならグチャグチャの不定形のスライム、と言った所だろうか。
コイツの能力は物体変化。無機物、有機物どちらも一定時間自由に姿形を変える能力だ。もちろん自分を含めて。ちなみにこんな口調だが女だ。
「アンタ等さ、悪魔がこの都市に入ったって知ってるかい?」
全員そろった所でアタシが口火を切る。
「あー、そう言えば噂になってるね。地下が大騒ぎしてたよ」
インフィがぼんやりと思い出したかのように言葉を紡ぐ。
「あれ?悪魔ってアレでしょ?なんだっけ?ほら、各都市の解放してるっていう」
「つーことはアレか?ついにこの都市も俺達の時代に戻るって事かい?」
チックタックはどこかどうでもよさそーな感じだが、トリックは少し乗り気だ。
機密情報何てこんなもんだよなー……ホント、何処で漏れてるんだかねー……。
「そうはさせねーよ。で、その悪魔達が今、ショッピングに行ってるんだけどさー……」
そう言ってアタシは懐から地図を取り出す。そのシャルル達の位置は明らかにカタコンベを示している。
「これどー思う」
「カタコンベだね」
「カタコンベだな」
「カタコンベだよね」
満場一致かー、間違いであってほしかったけどなー……。
爆薬に火種、爆発する前に何とかしなきゃなー……。
「はー、ま、そう言うわけなんだよ。今からアタシ此処に行くからさ、チックタックとインフィ、ついて来て。
で、トリックはアタシの身代わりを頼む。帰ってきてから金貨は払うから。じゃ、早速よろしく」
アタシがそう言うと、トリックは指先からアタシに煙を掛ける。
メキメキと物騒な音が鳴るが痛みは無い。ただ天使の証の純白の翼が消え、身長と髪が伸びる。
「いつもながらに見事だねー、トリックの魔法は」
「御世辞はいい、後で金貨を払え」
すでにトリックの姿は私の姿に変わっている。口調と態度さえ気を付ければバレやしないだろう。
いつも通りの態度にアタシは苦笑し、マスク作成専門の魔法繰狂いに作ってもらったマスクを被る。
幾つものベルトが顔を覆うマスク。片目と口のみが露出したマスク。
魔法狂いに変化したアタシの名前は、チェイン。煙により鎖を出現させ相手を縛る能力。
「じゃ、トリック、アタシの身代わりよろしくな。くれぐれもバレるなよ。バレたら金貨は無しだ。
それじゃ、チックタック、場所の移動を頼む。インフィも離れるなよ」
「アイサー!それじゃ行くよ!いざ、悪魔達の元へ!」
そう言って両手から大量の煙を出したチックタックは次の瞬間、その場から姿を消していた。
そして次に現れたのは、悪魔達のリーダー、シャルル達の目と鼻の先だった。
>「…………私は手を組むのには反対しますよ」
>「私も反対ですよ」
イトの誘いに、二人は果敢に反対を表明した。
少しの間アイネに任せて成り行きを見守る。
>「理由は二つ。一つ目は、あなたがゼウスの手下だから。
たとえどんな理由があろうとも、ゼウスと組むだなんて出来ない相談ですよ」
>「二つ目は、この街の天使は信用に足る人物だからですよ。
彼女たちに任せておけば、この街も安泰ですよ」
>「以上の理由により、イトさんと組むことは出来ないですよ。
いや、ひょっとしたら私たちは敵同士かもしれないですよ」
アタシも立ち上がり、アイネに加勢する。
「――そういう事よ。
仮にこの街の天使がすでにゼウスのプログラムを外れている、というなら
つまりこの街はすでにゼウスから解放されている、という事になるんじゃないかしら。
呉越同舟、とはならないようね」
「そうですか……。それなら仕方がないですね。
と言いたいところですが懐に入り込んできた敵をそのまま帰すわけにはいけませんので……
皆、来て!」
イトさんの合図と同時に、大勢の魔法狂い達が雪崩れ込んでくる。
これはフルボッコフラグではないか。小屋はすでに包囲されていたのだ。まずったな……。
が、魔法狂いのうちの一人が意外な行動に出た。進み出て、必死で訴えかける。
「悪魔の方々! 待ってくれ、俺の話を聞いてくれ――!
俺達の祖先は昔一度この街を解放した事がある……」
「本当に!?」
アタシ達デビチル以前に天使を倒し街を解放した者達がいる事に驚く。
彼の話はこうだった。
マリアとアリアが来る以前、この街は他の天使が統治していたという。
その天使達は、今とは違って他の街と同じように圧政を敷いていたそうだ。
この街に昔から息づいていた魔法使いの末裔達は、天使に戦いを挑み見事勝利した。
しかし、解放してそのままにしていたらすぐに次の天使が派遣されてしまう。
そこで彼らがとった方法は、ゼウスに目を付けられないように自らが圧政を敷く事だった。
その体制は何十年か続き、その本来も意味も忘れ去られた頃、マリアとアリアがやってきたという。
彼等は次々と人間寄りの条件を提示し、瞬く間に人々の支持を集めた。
逆に、長年圧政を続けた魔法使い達はすっかり悪者扱いになってしまい、いつしか魔法狂いと呼ばれるようになった。
その上新しく来た天使達は、魔法使いの魔法が効かない仕様となっていたそうだ。
それなら確かにマリアやアリアの言っていた事とも矛盾は無い。
しかし彼の言う事を信用していいのだろうか。
それに、昔経緯は色々あったにしても、今皆が幸せになれる方を取る方がいいとも思う。
「……少し、考えさせてくれる?」
「考える余地がどこにある!? 奴らはああ見えて周到なゼウスの手先だ!
そもそも最初から……ゼウスは人間を幸せにするためなんかに造られたわけじゃ」
「それ以上は駄目よ」
何かを言おうとした魔法狂いをイトさんが制止する。
イトさんは何かを知っている……? 彼女にはゼウスの工作員以上の正体がある気がする。
その時だった。突然目の前に3人の人影が現れる。
それを認めたイトさんが言った。
「あら、地上組さん達。頃合いのようだしここはお開きにしましょうか」
彼等は地上の穏健派魔法狂いのようだ。魔法狂いも一枚岩ではないようだ。
それより、この登場の仕方は明らかにアタシ達が目当てだよね?
「あなた達は……? もしかして迎えにくるように言われた?」
私の話にシャルルも加わり、手を組まないと言う意思を伝える。
イトの話に乗るわけにはいかない。それは多くの人を傷付けてしまうからだ。
>「そうですか……。それなら仕方がないですね。
と言いたいところですが懐に入り込んできた敵をそのまま帰すわけにはいけませんので……
皆、来て!」
イトの合図に従い、大勢の魔法狂いたちが小屋に入ってくる。
私たちはどうやら包囲されているらしい。しまったと歯を食い締める。
すぐにボトルのキャップを開き臨戦態勢をとる。この数の手勢を突破するのは正直苦しい。
いざ戦わんとしたその時、思いもかけない事が起こった。一人の魔法狂いが進み出て話し始めたのだ。
彼はこの街の歴史を語りだした。かつて天使と戦い、そして勝利したことを。
しかしそれで平和が訪れたわけではなく、圧政の末彼らは放逐されたのだ。
そんな歴史があったなんて…私は呟く。それでは魔法狂いたちはなにも報われていないではないか。
彼らのためにも、この街は真に開放されなくてはならない。
>「……少し、考えさせてくれる?」
>「考える余地がどこにある!? 奴らはああ見えて周到なゼウスの手先だ!
そもそも最初から……ゼウスは人間を幸せにするためなんかに造られたわけじゃ」
>「それ以上は駄目よ」
イトは何かを隠している。反射的にそう思った。彼女とてただの工作員ではないらしい。
「イト、あなたはいったい何を…?」
それ以上の言葉を紡ぐことは出来なかった。
なぜなら、突然目の前に煙が立ち込め、その中から三人の人物が現れたからだ。
三人はいずれも特徴的なマスクをしていたが、少なくとも一人は女性であろう。
特に女性のほうが危険度が高い。そう判断する。しかし一体彼らは何者であろう?
どうやら我々を囲んでいる魔法狂いたちの仲間ではないらしい。彼らもまた内部分裂を起こしているのだろうか。
>「あら、地上組さん達。頃合いのようだしここはお開きにしましょうか」
その言葉とともに、小波が引くように魔法狂いたちは姿を消していく。
その流れに乗じて、イトも姿を隠してしまった。…だが、彼女とはまた必ず出会える。そう確信できた。
とりあえず、今は私たちの目の前に現れた三人の対応だろう。
少なくとも見た感じ、彼らに敵意はないように思えた。
>「あなた達は……? もしかして迎えにくるように言われた?」
シャルルがそう話しかける。私は黙って、彼らの動向を見張っていた。
アイネさんも意見に賛同してくれた、ちょっと意外だ
そして魔法狂いがこちらにきました
>「悪魔の方々! 待ってくれ、俺の話を聞いてくれ――!
俺達の祖先は昔一度この街を解放した事がある……」
どうやら深い事情がある模様
っとと、予想外にもアリアさんたちが現れました
>「考える余地がどこにある!? 奴らはああ見えて周到なゼウスの手先だ!
そもそも最初から……ゼウスは人間を幸せにするためなんかに造られたわけじゃ」
(…、このひと、ゼウスの開発目的を知っている…?)
>「それ以上は駄目よ」
(…どうやら知られたくない事実を彼らは知っているようだな)
と、考えるとアリアさん達に顔を向ける
(あの魔法狂いの言う通りならば…和解は可能かもしれない
…今はなりゆきを見守ろう)
アタシの読み通り、悪魔達はそこに居た。
かー!嫌な予感的中!まあ、今の様子だと裏切って魔法狂い側に付こうって気にはなってねーみたいだけど。
>「あら、地上組さん達。頃合いのようだしここはお開きにしましょうか」
魔法狂いのなかでもマスクを着けないのは珍しい。それが今ここにいる、リーダー格の魔法狂いなら尚更だ。
でもまあ、アタシ等の存在は今この場ではどうやらこの女にとって不都合らしい。
「あらあら、地下組の皆様。今晩は、もう行ってしまわれるなんて残念ですわ」
女の言葉に合わせる様にアタシは口調を変えて言葉を返す。一応正体がばれねーように、だな。
そんなアタシの言葉に応えることなく、まるで波が引くようにシャルル達を取り囲んでいた魔法狂い達も引き始める。
見知ったマスクを被っている奴はいねーか……目先の利益目当ての大した実力無い小物だけ、って訳だな。
>「あなた達は……? もしかして迎えにくるように言われた?」
突然現れたアタシ達に多少の驚きを見せつつもシャルルはアタシに問いかける。
流石、悪魔達のリーダーだねー。状況判断能力に長けている。
そんな悪魔達にアタシはマスク越しに、にっこりと笑みを浮かべた。
「迎える?いえいえいえ、そんな恐れ多い。私(わたくし)達は件の悪魔様達がどのようなモノか見学しに来ただけですわ。
あ、申し遅れました私の名前はチェインと申します。以後お見知りおきを。この2人は私の友人の……」
「チックタックだよ!よろしく!ふーん、君達が悪魔かぁ……んーあんま僕たちと変わんないねぇ」
「私はインフィだ。悪魔と言うからには何と言うかこう、もっと邪悪な感じがすると思ったけど……そんなこと無いみたいだね」
各々自己紹介を済ませる。
「それにしましても、今の地下組の魔法使いが木端ばかりで幸運でございましたね悪魔様。
魔法使いの治める『ゴールド・スミス』と幹部が来ていたら否応なしに地下組に協力を強要されることになっていたに違いませんわ。
それに私達も『ゴールド・スミス』がいなかったから此処に来れたというもの、まったくホントに運が良いですわ」
アタシはパンと両手を叩いて悪魔達の幸運を称える。
ま、あのクソオヤジが迂闊に動くわきゃねーだろうけど。近いうちに幹部か本人が接触して来るに違いねー。
その前に悪魔達を納得させて、この都市から出て行ってもらえるといーんだけど……ま、もう少し仲良くやりたかったけどさー。
「さて、聞きたい事は色々ありますでしょう。その前に少し私達と地下組の説明をいたしましょう。
魔法使いの地下組と、地上組の違いについて、ですわ。ま、すぐに終わりますのでご清聴を」
そう言ってアタシは説明を始める。
「まずは地下組、ですわね。ま、簡単に言いますと先ほど言いました『ゴールド・スミス』率いる魔法使い達の事ですわ。
未だに地上の奪還を虎視眈々と狙っているグループ、という割には規模が大きいですわね。
今まで少々の小競り合いがありましたけれども、天使様達が煙も経たぬうちに討伐しております。
なので地下組にとって今回の貴方達の訪問はかなりの僥倖の筈ですわ。どうか身辺にお気を着けなさいませ。
あと噂ですけれど、『ゴールド・スミス』はかなりの年齢らしいですわ。数百歳とかなんとか。まあ、都市伝説レベルですけれど」
そこで一旦言葉を切って、コホンと咳払いをする。
「では次に地上組、所謂私達の事ですわね。まあ、簡単に分類すると2つのカテゴリーに分けられますわ。
1つに、能力はあったけど圧政などに興味なく魔法を使えない人と良好な関係を築いていた魔法使い。
2つめに、能力はあったけどそれが弱すぎて差別されていた魔法使いですわね。彼らにとっては現状の方が過ごしやすいのでしょう
さて、これで一応地上組と地下組の説明は終わりですわ。悪魔様達、なにかご質問はございますでしょうか?」
再び笑みを浮かべてアタシはシャルル達に微笑みかけた。
地上組の魔法使い達の自己紹介に応え、こちらも自己紹介をする。
「アタシはシャルルよ。一応このデビチルパーティーのリーダーをやっているわ」
>「それにしましても、今の地下組の魔法使いが木端ばかりで幸運でございましたね悪魔様。
魔法使いの治める『ゴールド・スミス』と幹部が来ていたら否応なしに地下組に協力を強要されることになっていたに違いませんわ。
それに私達も『ゴールド・スミス』がいなかったから此処に来れたというもの、まったくホントに運が良いですわ」
地下の魔法使い達を牛耳る総元締めは、ゴールド・スミスというらしい。
年齢は数百歳らしいと聞いて、アバターかもしれないとピンときた。
>「では次に地上組、所謂私達の事ですわね。まあ、簡単に分類すると2つのカテゴリーに分けられますわ。
1つに、能力はあったけど圧政などに興味なく魔法を使えない人と良好な関係を築いていた魔法使い。
2つめに、能力はあったけどそれが弱すぎて差別されていた魔法使いですわね。彼らにとっては現状の方が過ごしやすいのでしょう
さて、これで一応地上組と地下組の説明は終わりですわ。悪魔様達、なにかご質問はございますでしょうか?」
「魔力の過多で差別……か」
ゼウスの目を逃れるための圧政をはじめるも、長年続けているうちにやっている側もやられている側も本来の目的を忘れて行ったのかもしれない。
今更裏切って魔法狂い側に付く気はない。でもさっきの魔法狂いの話が本当だとしたら、このままにしておくのは忍びない。
何とかならないものだろうか。
地下組をゴールド・スミスという強力なリーダーが率いているならそのゴールド・スミスを説得できれば和解させる事が可能かもしれない。
それに彼はアタシ達の知らない何かを知っている可能性もある。
「マリアさんとアリアさんが来るずっと前、この街を支配していた天使がいたって本当?
きっと彼ら、本当はマリアさんアリアさんには何の恨みもない。案外和解は可能かもしれないわよ。
アタシ達デビチルという要素は長年の膠着状態を打開するまたとないチャンスだと思うの。
そのためにはゴールド・スミスとやらに会わなきゃいけないわけだけど……」
そこまで言ってある名案を思いつき、アイネとキラーさんに提案してみる。
「そうだ、魔法狂い達が明日の会談に乱入を狙っているというなら
乱入される前に魔法狂いの代表も正式に招待してもらうというのはどうだろう。
うまくいけば仲直りさせられるかもしれない……!」
私たちは突然現れた女、チェインからこの街の根幹に関わる話を聞いた。
この街の魔法狂いたちは2つの勢力に別れているということ。
そして、そのうち地下組の連中には、それを取りまとめるゴールドスミスなる人物がいること。
私たちの今の立場は、天使寄り…つまり、地上の魔法狂いたちに近いということになっている。
なので、チェインたちは信用して問題ないだろう。彼女たちが我々を騙すと言うのは考えづらい。
問題は地下組の魔法狂いたちだ。謎の人物、ゴールドスミスとイト。彼ら率いる魔法狂いたちは敵ということになる。
最悪の場合、未だその力は未知数な彼らとの戦闘になるかもしれない。ここは慎重に決めねば。
私たちの存在は彼らのパワーバランスを覆してしまう。慎重を期すのは当然の事だ。
さて、私たちの目的はそもそもこの街を開放することだった。
天使たちの圧政を取り除き、この街に平和をもたらすこと。
しかし実情は天使たちによる行政はとても素晴らしく、介入する必要はなかった。
この街の政治は天使たちに任せても良い。それが私たちの総意だ。
しかし、ここで問題がひとつ、それは地下の魔法狂いたちのこと。
彼らはこの街の政権を奪い、魔法狂いたちの天下を取り戻そうとしていることだ。
私たちとしては、正しき政が行われているなら誰が政権を持っていても問題はない。
しかし、魔法狂いたちが作ろうとしている社会は魔法狂いたちを頂点とする階級社会。
正しき治安をよしとする私たちとしては、ここは見逃せない問題だった。
私たちの目的は地下組の魔法狂いたちを改心させ、この街の平和を守ることだ。
当初の目的とは大きくかけ離れているが、現状はこれが最善だろう。
そうなると、今目の前にいるチェインに協力するのが妥当だ。
そのとき、シャルルが私たちに相談を持ちかけてきた。
>「そうだ、魔法狂い達が明日の会談に乱入を狙っているというなら
乱入される前に魔法狂いの代表も正式に招待してもらうというのはどうだろう。
うまくいけば仲直りさせられるかもしれない……!」
「それは良いアイデアですよ。うまく行けば一挙に解決できるかもしれないですよ。
しかし問題がひとつ、どうやってゴールドスミス本人を動かすというのかですよ?
ただ招待するだけでは、きっと相手は動かせないですよ」
ゴールドスミス本人を動かすためには、私たちが直接出向いて彼を説得する必要があるだろう。
敵陣の最奥でのその行為、おそらくはかなりの危険が伴うに違いない。
「チェイン、私たちはゴールドスミスに会って話をしてみたいですよ。
その辺は何とかならないものか、協力を要請したいですよ」
地上組の代表たちの力を借りれば、あるいは何とかなるかもしれない。そう考えての要請だった。
それで駄目なら私たちで何とかしなければならないだろう。
「…」
ずっと考えてきたことだった
マリアとアリアは『本当の意味で』信用できるのかと…
…結論を急ぐにはまだ早い…か
>「そうだ、魔法狂い達が明日の会談に乱入を狙っているというなら
乱入される前に魔法狂いの代表も正式に招待してもらうというのはどうだろう。
うまくいけば仲直りさせられるかもしれない……!」
「…賛成と言えば賛成、反対といえば反対ですね」
と、私は言う
「とにもかくにもミスタースミスに会わなければならないでしょうね」
…正直会うのに気が乗らない。
そのゴールドスミスという方の性格が分からないからだ。
もし憎悪が、強い憎悪があるとすれば…
「…そうでないことを祈ろう。
おっと…」
私としたことが…、ニヤけた顔を真面目な顔にしていた
>「マリアさんとアリアさんが来るずっと前、この街を支配していた天使がいたって本当?〜
シャルルの問いにアタシは答える。
確か、アタシ達が派遣される前に何年かの間があったのは事実だ。
その間の事はアタシもマリアも文献でしか読んだ事がない。
「えぇ、事実ですわ。と、言いましても私達が実際に知っている訳ではありませんの。
知っているとするならば、先ほど申し上げたゴールド・スミスくらいでしょうか、都市伝説が事実ならばですけれど。
しかし、私の意見を述べさせていただくのならば……」
会うのは止めた方がいい、と、口を挟もうとした時だ。
>「そうだ、魔法狂い達が明日の会談に乱入を狙っているというなら〜
>「…賛成と言えば賛成、反対といえば反対ですね」
思わぬ展開に口が挟めない。
いや、だってまさか、そー来るとは思っていなかった、微塵も思っていなかった!
「え?いや、その……」
>「それは良いアイデアですよ。うまく行けば一挙に解決できるかもしれない〜
「だから、あれ?あのー……」
あまりの話の進み具合に3馬身差ほどつけられて置いて行かれるアタシ。
「聞いて無いっぽいね」
「そうだね、トントンと悪い方に事が進んでいるようだね」
そんなアタシを苦笑いで見つめる魔法狂いの友人2名。
あるぇー?こんな筈じゃ無かったんだけどもなー。
いやさ、予定じゃ、さっさとカタコンベから退散しよう的な雰囲気になるはずだったんだけどあるぇー?
どの辺で予定が狂った?どの辺で選択肢をミスった?アタシ。
>「チェイン、私たちはゴールドスミスに会って話をしてみたい〜
などと自問自答を繰り返しているとアイネがアタシに声を掛けてきた。
「は?え?いやぁー……うふふ、悪魔様達、ちょっとタイムよろしいでしょうか?」
チックタックとインフィを呼び、シャルル達から少し距離を取る。
内緒話開始。
「……いや、どうしたものでしょう?凄い方向に話進んでいるのですけど」
と、小声で切り出すアタシ。
「うん、チェイン。僕はほぼチェインのせいだと思うな」
そう言うは、笑顔のチックタック。
「そうだね、私もチェインが悪いと思う」
そして苦笑いのインフィ。
「なんでですか、私はちゃんと外に出ようと誘導をしたといいますのに!」
「いやだってチェイン、スミス卿のこと話しちゃうんだもん。悪魔達から見ればそれは興味持つって」
「私もチックタックに同意見だ。今この場で話す必要はなかったね。なんで話したのかな」
「……『魔法使いの地下組と、地上組の違い』についての説明の中では、出して置かなければいけない人物だろうと思いまして」
「本当に変な所で正直だねチェインは。適当に『私達も知らないけど強いリーダーがいる』程度の情報でよかったじゃないか」
「うんうん。しかも数百年生きてるなんてさらに興味を引く様な事言っちゃってさ。
興味を持ってください、って言ってるようなもんだよ?」
「…………返す言葉もございませんわ」
確かに、こうして聞くと完璧なアタシのミスだ。さて、どーしたもんかな。
此処で下手に反対してカタコンベから追い出してもシャルル達の事だ、意地でも会いに行くだろう。
かといって、手助けするのはどーにも危険すぎる。アタシはいーとしても、この2人を巻き添えにするわけいかない。
だったらいっそ、居場所だけ教えて……いやいや、一番危険だ。下手したら最悪の結果を呼びかねない。
「……しょうがないですわね、ギャンブルは好きではないのですが」
「ん、何か決まった?ていうか今更だけどチェインがその喋り方してるのって新鮮だね!」
「お黙りなさい!元々、こっちの私はこの話し方が素ですわ!」
「茶化すのは良くないよ、チックタック。で、どうするんだい?」
茶化しにかかってきたチックタックをインフィが注意する。
「イチかバチかですけど、案内しますわ。ただ、貴方達はお先に帰ってくださいまし。
戻ったらトリックに私の続きをお願いします、と、言伝を頼みますわ」
「それは……」
「いくら君でも危険じゃないかい?」
「いいんですの、私の失態は私が取り返しますわ!」
内緒話終了。
と言うわけで……。
「私がゴールド・スミスの所まで案内させていただきますわ。
他ならぬ悪魔様達のお頼み、断るほど私達は愚かではありませんもの」
にぱー、と笑いながら宣言(言ってもマスク被ってるから口と片目しか見えないだろーが)。
そして、そこで一旦、言葉を切る。
「しかし、ゴールド・スミスは地上の魔法使いの方に非常に厳しいお方ですわ。
ですので、申し訳ありませんけれども私の友人、チックタックとインフィは此処にて」
アタシが2人を見ると、2人も最初不安そうにこちらを見ていたが何か納得したような表情で頷く。
どーせ、アタシには何を言っても効かない、とかそういうのを納得したに違いない。
「うん、まあ、僕達が行っても足手まといになっちゃうかもだしね」
「そうだな、私達はお暇させてもらう事にしよう。悪魔達、私達の親友をお願いするよ。
それじゃあ、チェイン、また会えることを祈って」
インフィの言葉が切れると同時にチックタックは自身とインフィに煙を掛ける。
煙が晴れた後には、2人の姿は跡形もなく消えていた。それを見て私はパンと大きく両手を叩く。
「さて、参りましょうか。悪魔様、何があるか分かりませんわ、一応ご覚悟を」
>「チェイン、私たちはゴールドスミスに会って話をしてみたいですよ。
その辺は何とかならないものか、協力を要請したいですよ」
>「とにもかくにもミスタースミスに会わなければならないでしょうね」
>「は?え?いやぁー……うふふ、悪魔様達、ちょっとタイムよろしいでしょうか?」
ゴールドスミスに会う方向で意見が一致したアタシ達。
チェインさんは少し戸惑った様子で仲間達と打ち合わせを始める。
やっぱりはいそうですかと会わせてはもらえないかしら……。
そう思っていた時。チェインさんがこちらに戻ってきた。
>「私がゴールド・スミスの所まで案内させていただきますわ。
他ならぬ悪魔様達のお頼み、断るほど私達は愚かではありませんもの」
「チェインさん……! ありがとうございます!」
>「しかし、ゴールド・スミスは地上の魔法使いの方に非常に厳しいお方ですわ。
ですので、申し訳ありませんけれども私の友人、チックタックとインフィは此処にて」
これだけなら、一緒に行ったら交渉の邪魔になるから、と取っていただろう。
しかし――
>「うん、まあ、僕達が行っても足手まといになっちゃうかもだしね」
>「そうだな、私達はお暇させてもらう事にしよう。悪魔達、私達の親友をお願いするよ。
それじゃあ、チェイン、また会えることを祈って」
二人が垣間見せた不安げな表情と、インフィの言葉からなんとなく理解した。
アタシ達はまさしく敵の親玉の元に自分から飛び込むのだ。
もしかしたら相手から見れば飛んで火に入る夏の虫、かもしれない。
でも虎穴に入らねば虎児を得ず! ここでうまくやればこの街が抱える問題を一挙に解決できるだろう。
まさに正念場だ。
>「さて、参りましょうか。悪魔様、何があるか分かりませんわ、一応ご覚悟を」
「ええ、いざとなったら戦いも辞さない覚悟よ!」
アタシ達は今までに二つの街を圧政から解放してきた。
圧政を張ろうとするのが天使か特殊な人間かの違いだけでやる事はいつもと一緒だ。
一つだけ引っかかるとすれば――もしそうなったら
ゼウスを倒す、という希望を託してアタシ達を作ったリリスさん達はどう思うのだろう。
でも、”プログラム通りにいかないというプログラム”をアタシ達に組み込んだのもまた彼女たちなのだ。
ならば本来の使命から外れた行動もそれはそれでアリなのかもしれない。
チェインさんに先導されてゴールドスミスのいる場所へと向かいながら仲間達に告げた。
「もしもゴールドスミスと戦う事になったら……普通に考えれば命令違反になっちゃうわね。
でも信じてみましょう。リリスさんがアタシ達に組み込んだ無限の可能性、というプログラムを」
「んー……はぁ……」
俺は大きく伸びをすると、猫バスの中の医務室のベッドから起きた。
ヴィエナでイトに銃口を向けた後、気分が悪くなって倒れた俺は、今までずっとここでトライヴ化抑止剤と性抑止剤を点滴しながら寝ていたのだ。
…俺の様な体のデビチルは、時たま再生の反動で急にトライヴ化の兆候が見えたりするので、精神的ショックを受けたりするとすぐに安静が必要で、
リンネにいた頃もこうして何回か保健室で薬打たれている事があったのを憶えている。
時計を見ると、俺がイトに銃向けてから丸二日位寝てたのがわかる、おかげで体が寝すぎでだるい。
さて…。
…どーしよ、何で猫バスの中誰もいないの?
え?何?みんなヴィエナのホストのあの何か残酷な女(名前ど忘れした)にやられたの?
じゃなんで俺だけ無事?
あ…あわわ、こりゃヤバイぞ。今もじゃあ猫バスの周囲を改造人間が取り囲んで…。
「おお、トム、目が覚めたか。」
うろたえる俺に、横合いから声がかかった。
凛々しいそのお声は…。
「カルレアさん!」
「やっとおきたな、お前が寝ている間にヴィエナは開放されたぞ、今いるここはロンデニオンだ。」
猫バスの保持のために残っていてくれたカルレアさんから事情を聞いた俺は、ふーっと椅子に腰掛けた。
「?どうした、普段のお前なら即座に飛び出していきそうだが…。」
そんな俺の姿に、驚いた表情を見せるカルレアさん。
まぁ、アキヴァから単身バイクで飛び出す程の好奇心旺盛な俺を見ればそうも思うだろうが…。
「いや…あれが俺の性何ですが、その…、今性抑止剤ってのの効果が効いててで外に興味がわかないんですよ」
そう言って、頭なんぞをぼりぼりかく俺。
「む?そんな便利なものがあるのなら、何故それをみんな使わないんだ?」
「いや、性と一緒に能力を大幅に制限するんです。だから魔人化できなくなるし、普通の能力も使えなくなるし、挙句焦燥感がすごくてとても何かする気おきなくなるんですね」
「ふぅむ」
俺の説明になるほどとうなづくカルレアさん。
まぁ、シャルル先生らは心配だが、生身の臆病者の馬鹿学生が一匹加わって脚を引っ張ると悪いので、今回はお留守番していよう。
ちょうど猫バスの中ゲームあるし。
「カルレアさん、マリカーしません?マリカー?」
「うーむ、だからってゲームはどうかと思うぞ、いい機会だ、私がお前を鍛えてやる」
「は?え?」
言って、俺の手をつかむカルレアさん。
ヤバイ目がマジだ。
「射撃だけでは駄目だ、多少なりと部の心得が無ければイザというとき危ない!」
「いや、シャルル先生も言ってたじゃないっすか、ほら、武力解決は良くないって…」
「心身鍛錬だ、でははじめるぞ」
「いやあああああああああああああああああ」
>「私がゴールド・スミスの所まで案内させていただきますわ。
他ならぬ悪魔様達のお頼み、断るほど私達は愚かではありませんもの」
しばらく内緒話をしていた様子だが、どうやら決着が付いたらしい。
チェインの案内で、私たちはゴールド・スミスに会いに行くことに決定した。
>「さて、参りましょうか。悪魔様、何があるか分かりませんわ、一応ご覚悟を」
大きく手を叩き、彼女はそう言う。大丈夫だ、覚悟などとうに出来ている。
>「ええ、いざとなったら戦いも辞さない覚悟よ!」
その言葉に呼応して、私は大きくうなずく。戦いの準備はいつだって出来ているのだ。
かくして、私たちはチェインの案内でスミス卿の居場所にと赴く。
道は暗く、かろうじて足元が分かる程度の明るさだ。
足元に気を付けながら進んでいると、ふとシャルルが口を開いた。
>「もしもゴールドスミスと戦う事になったら……普通に考えれば命令違反になっちゃうわね。
でも信じてみましょう。リリスさんがアタシ達に組み込んだ無限の可能性、というプログラムを」
「私たちにとって敵とは街の脅威となる者ですよ、命令違反とて辞さないですよ」
その通り、私たちの目的は街に平和を届けること。
そのための障害となるのなら、たとえ誰だろうと戦うのだ。
…ふと、まだリンネに居た頃を思い出す。
リンネ…学園都市で暮らしていた頃の私は、戦いが生活のすべてだった。
トライヴ狩りを専門とする組織に、私は在籍していたからだ。
召集がないときは普通の学生として過ごしていたが、それは仮の姿。
私にとって生活とは、起きて食事を摂り、戦い、戦い抜いてそして眠る…そんなサイクル。
迷うこともなければ揺らぐこともない、ただ戦うだけの生活だった。
敵が何者かなんて考えることもない、そんな生活。
今のように己の信念を持って戦うなんて、思うことすらなかったのだ。
そう思うと、ここに来て私は変わったのだなと感じる。
何のために、誰のために戦うのか常に考えている。それはなんだか不思議な気分だった。
どれだけ進んだのだろう、私たちはカタコンベから更に下層へと来ていた。
魔法狂いたちの親玉…そう考えると思わず、腰のボトルへと手が伸びてしまう。
落ち着け私…ここにいるのはまだ敵と決まったわけではないのだ。
私たちの目的はスミス卿との会談、戦うのは最後の手段だ。
前を歩くチェインが足を止める。どうやら目的地に到着したらしい。
ここから先は何が起こっても不思議ではない。用心するに越した事はないだろう。
>「ええ、いざとなったら戦いも辞さない覚悟よ!」
「・・・・・・いいお返事ですわ、シャルル様」
いやいや、煽ったのアタシだけどさ、変にやる気を起こされても困んだけどなー。
てかなんだ、シャルル達、もしかして戦う気まんまん?
>「もしもゴールドスミスと戦う事になったら……普通に考えれば命令違反になっちゃうわね。
でも信じてみましょう。リリスさんがアタシ達に組み込んだ無限の可能性、というプログラムを」
>「私たちにとって敵とは街の脅威となる者ですよ、命令違反とて辞さないですよ」
やめて!変に悲壮な決意固めないで!てかそんな気ねーから!多分だけど、戦わねーから!
ゴールド・スミスのオヤジだっていきなりけしかけてきやしねー筈だ。
・・・・・・いや、どーかなぁ。なんか、段々アタシも不安になってきた。大丈夫、だよなぁ?
あー、一応釘を刺しとくべきかな?
「あの〜、悪魔様方?先ほど言った私が言うのもなんですが、一応、穏便に済ませる方向でお願いし―――」
そう言って後ろを振り返った時だった。
シャルル達の遠く背後にハロウィンカボチャのマスクを被り、ロッドを構えた魔法狂いが目に止まる。
あ、マズい。そう思い終わる前に、アタシは右手を大きく開き、シャルル達の肩越しに黒い煙を放つ。
「ッ、伏せて下さいまし!」
黒煙の中からじゃらじゃらと音を立てて無数の鎖が伸びる。
無数の鎖は宙で蠢き、獲物を補足した蛇のようにハロウィンカボチャの魔法狂いに巻きつきその動きを止める。
「・・・・・・随分なご挨拶ね、魔法使いの裏切り者さん?」
ぐるぐる巻きになったハロウィンカボチャとはまた別の方向からアタシ達に向かって声が掛けられる。
声の先には黒のゴスロリ服にウサギの仮面を被った魔法狂いの姿。
「そちらが先に手を出そうとしたんですわ、番犬の躾はきちんとしなきゃ駄目ですわよ。ラビットさん」
「・・・・・・やっぱ同属でもムカつくわね、裏切り者って」
そう言ってラビットは指をさすようにこちらに向け、構える。
ヤバイヤバイヤバイ、変に悪化したどうしようどうしようどうしよう!
てゆーか、さっそく3人の幹部の内の2人が出てくんじゃねーよ!あーもう!
「10秒数える間にパンプキンの拘束を解いて此処から立ち去りなさい。
じゃないと、全員お菓子に変えて蟻の餌にするわよ裏切り者さん?」
凍りつくようなその言葉に思わず冷や汗が流れた。
アタシは小声で素早くシャルル達に話しかける。
「申し訳ありません、シャルル様、アイネ様、キラ様。なんとか時間を稼いでいただけないでしょうか?
正直、ラビットと私の魔法は相性がよくありませんの。まともにやって勝てる可能性はほぼゼロですわ。
それに、此処で大きな戦闘になってしまったらゴールド・スミスとは、きっと一生話し合えませんわ、だから」
出来れば武力行使は無し、で、と続けようとした所で冷や水のような言葉が浴びせられる。
「なに喋ってんの?カウント始めるわよ裏切り者さん」
あとはシャルル達に託すしかない。あーもー、ホントにギャンブルだなぁ!
>「あの〜、悪魔様方?先ほど言った私が言うのもなんですが、一応、穏便に済ませる方向でお願いし―――」
「あはは、心配しなくてももちろんそのつもり……何!?」
>「ッ、伏せて下さいまし!」
とりあえず伏せると、頭上をチェインさんの放った鎖が掠めていった。
その先にいたのはハロウィンカボチャのマスクをかぶった人物。
アタシ達はカボチャの魔法狂いに狙われていたようだ。
>「・・・・・・随分なご挨拶ね、魔法使いの裏切り者さん?」
さらに、ウサギの仮面をかぶった魔法狂いが現れる。
>「10秒数える間にパンプキンの拘束を解いて此処から立ち去りなさい。
じゃないと、全員お菓子に変えて蟻の餌にするわよ裏切り者さん?」
その言葉通りに想定すると、こいつの魔法は相手をお菓子に変える能力だろうか。
かなり、否、滅茶苦茶危険な能力だ。常識的に考えて勝ち目はない。
そこで、チェインさんからの依頼。
>「申し訳ありません、シャルル様、アイネ様、キラ様。なんとか時間を稼いでいただけないでしょうか?
正直、ラビットと私の魔法は相性がよくありませんの。まともにやって勝てる可能性はほぼゼロですわ。
それに、此処で大きな戦闘になってしまったらゴールド・スミスとは、きっと一生話し合えませんわ、だから」
明らかに格上の能力持ち相手に大きな戦闘にしないように時間を稼げ、と!?
無茶な注文をなさる、でもやるっきゃないよね!
「【午後三時饗宴《trick and treat》】!」
腕を一振りし、お菓子を象った魔法のステッキを現出させる。
イチかバチか、ハッタリで切り抜けてやれ!
「誤解を与えてしまったようね、アタシ達は戦いに行くわけじゃないの。
飽くまでも平和的に話し合うつもりよ――【お菓子の家《スイートホーム》】!」
アタシが今のところ持つ中での最大級の大技を御開帳。
辺りが白い煙に包まれ、一瞬にして周囲が壁に囲まれた部屋のような風景に変わる。
チェインさんがハロウィンカボチャを拘束している鎖は丁度いい位置に開いた窓から出ている形に。
よく見ると壁はビスケット。壁だけではなく全てがお菓子で出来ている。
そう、某童話で有名なお菓子の家だ。
何の事はない、普段と同じお菓子を作り出す能力を大規模に使っただけだが、一見凄そうな能力に見えるだろう。
というより見えてくれなければ困るのだ。奇しくも、相手も同じお菓子系能力者。
「それよりあなたもお菓子が好きなのね、気が合いそうだわ。
お菓子の家でお茶会としゃれ込みましょう。アイネ、お茶は用意できるかしら」
アタシは不敵な笑みを浮かべながら、切り株、否、超堅焼きバームクーヘンの椅子をラビットに勧め、アイネに声をかける。
声をかけたところで今お茶が用意できるかは分からないが、もしもお茶がなければ名実共にお菓子会になるだけの事だ。
「さんじゅ〜…さんじゅ〜いち〜」
「腕の振りが遅くなってきているぞ!もっと気合を入れろ!」
猫バス内の道場。
カルレアさんに連れてこられたここで、俺は如何にデビルチルドレンが必要な存在であるかを身をもって味わっていた。
…即ち、天使にしごかれるのが如何に過酷かを身をもって味わっていると言うわけである。
重い鉛の入った素振り用木刀を持たされ、正しいフォームを強制されての素振り動作…。
地味に辛いよう、腕が…腕が痛いよう…。
「カルレアさ〜ん…」
「師匠と呼べ」
「ノリノリにならないでくださいよカルレアさん」
「師匠だ!マスターでもいい!」
「……」
駄目だこりゃ、交渉に応じる気配が無いよこの人。
ねぇいどっかに逃げ道は…。
「……強行突破しかねぇ!」
「待て馬鹿者。」
最早これまでと気合を入れて逃げようとしていた俺は、しかし迂闊に次の行動を口に出したのが悪かった。
あっさりカルレアさんに服のすそを掴まれてしまう。
……ふふふ、だが甘い!
「キャーストオフ!!」
「ぬおっ!?」
俺は勢いよく上着を脱ぐと、脱いだ勢い(?で上着をカルレアさんの頭に被せ、道場から脱出した!
「ごめんカルレアさん!俺真面目に鍛えるとか勘弁だわ!」
「ぬぅ!待て貴様!!」
走って逃げる俺を、背後からカルレアさんが猛スピードで追ってくる。
だが、俺の逃げ足は学園一の快速超特急!如何にカルレアさんでも追いつけない!
すさまじいスパートでカルレアさんから逃走し、幾つも路地を曲がり、排気ダクトに潜り、ドアを開け閉めしまくって…。
…気がつくと、俺は見知らぬ場所にいた。
何やら周囲は白い壁に囲まれ、照明も薄暗い。
どこからか得体の知れない声が聞こえ、何やら低い音があちこちから聞こえてくる…。
こ…こかぁ一体…。
アレか?
知らないうちに外にでちまったのか?
いや、でも壁にNEKOBASSなどと書いてあるし、恐らくまだ猫バスの中なのだろう。
…何なんだこのバス、前々からスペースが妙に広いと思ってたが中どう考えても亜空間になってるじゃねえか…。
いや…まぁ、変形したりするし、生きてるっぽいしまともなメカニックとは思っちゃいなかったがまさか中がここまで広いなんて…。
……今まで深く考えてこなかったが、何なんだろうなこのバス。
…能力者とはいえ仮にも子供に渡す物なんだし危ない物とか無いだろうしまして危ない輩なぞいるわけないだろうし、いい機会だから探索してみようかな…。
いやしかし…うーん…。
……まぁ、たまにはいいか、性でなく、普通の興味で探検すんのも。
何か使えそうな物があるかも知れないし。
どの道カルレアさんから逃げなきゃならんし。
うん、よし、猫バスの正体究明と、だだっ広い中身の探索に出発だ!
レッツラゴー!
>「あの〜、悪魔様方?先ほど言った私が言うのもなんですが、一応、穏便に済ませる方向でお願いし―――」
>「あはは、心配しなくてももちろんそのつもり……何!?」
>「ッ、伏せて下さいまし!」
チェインが足を止めたので到着したのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
瞬時にその場に伏せると、頭上をチェインの喚び出した鎖が後方へ飛んでいく。
見ると、かぼちゃの仮面を被った人物が拘束されていた。
どうやら気がつかない間に背後を取られていたらしい。危ないところだった。
>「・・・・・・随分なご挨拶ね、魔法使いの裏切り者さん?」
さらに横合いから声、今度はウサギの仮面を被った女性の姿。
反射的にボトルのキャップを開き、水球を体の周りに展開させる。
敵の力は未知数。ここは迂闊に攻撃を繰り出せない。
>「申し訳ありません、シャルル様、アイネ様、キラ様。なんとか時間を稼いでいただけないでしょうか?
正直、ラビットと私の魔法は相性がよくありませんの。まともにやって勝てる可能性はほぼゼロですわ。
それに、此処で大きな戦闘になってしまったらゴールド・スミスとは、きっと一生話し合えませんわ、だから」
戦闘をせずにこの場を切り抜けろと!?随分と無茶な注文だ。
だが、確かにここで戦闘になっては話し合いなど成立しないだろう。
無茶な注文には無茶な行動で答えるしかない。
>「誤解を与えてしまったようね、アタシ達は戦いに行くわけじゃないの。
飽くまでも平和的に話し合うつもりよ――【お菓子の家《スイートホーム》】!」
シャルルの声と共に、周囲の景色が変わる。どうやらお菓子の家を召喚したらしい。
お菓子の家を盾にするつもりか…否、ウサギの彼女も家に招き入れている。
なるほど、ここははったりで切り抜けるつもりらしい。いい度胸だ。
「動かないで、動いたらこの水球が頭を吹き飛ばすですよ」
無論この水球にそれほどの威力はない。本気モードになれば可能だが。
>「それよりあなたもお菓子が好きなのね、気が合いそうだわ。
お菓子の家でお茶会としゃれ込みましょう。アイネ、お茶は用意できるかしら」
「もちろんですよ。シャルル、ついでにティーカップもお願いするですよ」
体の周囲に展開している水球を、細かく分子振動させて熱を生み出す。
疲れるので普段はあまりやらないが、熱湯を作ることも可能なのだ。
熱湯となった水球に、今度は先ほど購入した茶葉を加える。
茶葉があって良かった。でないと今頃白湯を提供していたところだろう。
出来上がったお茶を、用意してもらったお菓子のティーカップに注ぐ。
防水性が気になるところだが、彼女のことだ。きっと大丈夫だろう。
出来上がったお茶を一口。我ながら上出来の淹れ具合だ。
「さて、即席のお茶会をするですよ、まずは一杯どうぞ。
どうして我々を襲おうとしたのか、まずはその辺から聞きたいのですよ」
お茶を飲みながら不適に微笑む。鉄面皮には少々自信があるのだ。
>「誤解を与えてしまったようね、アタシ達は戦いに行くわけじゃないの。
飽くまでも平和的に話し合うつもりよ――【お菓子の家《スイートホーム》】!」
「・・・・・・あら?これは魔法使いの技じゃないわね」
シャルルの作った『お菓子の家』を見てラビットは呟くように言う。
つーか、すげぇ。悪魔ってこんなこと出来るんだ。
>「動かないで、動いたらこの水球が頭を吹き飛ばすですよ」
「・・・・・・なるほど、そこの裏切り者を除いた他3名は噂の悪魔、ということでしょうか」
さらに水球を周りに展開するアイネの能力を見て、ラビットは確信に至った様だ。
ペットボトルから意志を持った生き物のように滑らかに動く水、アイネの能力は液体操作か?
悪魔って凄い、いやマジで。なるほど、2ヶ所の都市が落とされたのもある意味納得だ。
ちなみに『そこの裏切り者』ってーのはアタシの事だろどーせ!嫌みったらしーなもう!
>「それよりあなたもお菓子が好きなのね、気が合いそうだわ。
お菓子の家でお茶会としゃれ込みましょう。アイネ、お茶は用意できるかしら」
>「さて、即席のお茶会をするですよ、まずは一杯どうぞ。
どうして我々を襲おうとしたのか、まずはその辺から聞きたいのですよ」
「・・・・・・私は、いえ、私達は他の魔法使いみたいに貴方達のご機嫌を窺う魔法使いじゃないわ
だから、質問に答える前にはっきり言っとくわよ。これは不愉快だわ」
ラビットは微動だにせずに口から静かに煙を吐く。
その次の瞬間、ラビットの周りに展開していた水球が音を立てて落ちた。
ただ落ちただけではない。水球の形を保ったまま床に落ちたのだ。
「相変わらず厄介極まりない魔法ですわね、まったく」
「・・・・・・裏切り者は黙ってなさい。次に言葉を発したらクッキーに変えてしまうわよ」
ラビットの厄介な魔法は奇しくもシャルルの能力と酷似している。
シャルルが無からお菓子を生み出せるのなら、ラビットは存在する物全てを変える事が出来る。
ランク付けをするなら魔法狂いの中でも危険度特S級の魔法狂いだ。
「・・・・・・さて、まず私が不愉快だった点を言わせてもらうわ。アイネって言ったかしら?
『動いたら頭を吹き飛ばす』?どう考えても平和的に話し合いを行う言葉じゃないわ」
床に落ちた水球をラビットは踏み砕く。
バキバキと音を立てて砕ける水球、その欠片からは甘い香りが漂ってくる。
「・・・・・・あと、いくら水球を出しても無駄よ。私のほうが早く魔法を展開できるもの。
ちなみに、今の水球は飴玉に変えさせてもらったわ。まあ、蟻の餌ぐらいにはなるでしょう」
そう言ってラビットは手をアイネの方に煙を吹きかける。
アタシが鎖を出して止めようとするが、煙が晴れた先にいるアイネに何の異常もないので一安心する。
「・・・・・・貴女の所持してる物騒な水分は全部変えさせて貰ったわ。
先ほど見た感じだと貴女、好き勝手に液体を操作できるみたいね。悪いけど水飴に変えたわよ。
一応水分だから操作できないことないだろうけど、さっきみたいに素早くは動かせないでしょう。
それで、次は私が貴女に言わせてもらうわ。変な動きをして見なさい、今度は貴女が水飴になるわよ」
言いながら指先をティーカップに入れ、そして抜き出す。
ティーカップに指を入れた時に煙を出したのだろうラビットの指先には丸いケーキが刺さっていた。
・・・・・・チートだろコレ。旧天使たちが魔法狂いに撃退されたのも頷ける。
そんな事をアタシが考えているとラビットはシャルルに目を向けた。
「・・・・・・さて、貴女が悪魔たちのリーダーよね。私はラビット。一応魔法使い達の副リーダーって事になるのかしら。
まあ、別に覚えても覚えなくてもいいわ。私個人は貴方達悪魔になんの興味もないもの。
それに残念だけど私は貴女と気が合わなさそう。明らかにタイプが違うもの」
そう言って嘲笑を浮かべた後、余裕綽々と言った様子で言葉を紡ぐ。
「…・・・というか、下がどう言ってるか知らないけど。貴方達なんていなくたってもうすぐこの都市は私達の手に戻るのよねぇ。
だから貴方達なんていてもいなくてもどっちでもいいのよ」
そう言ってラビットは先ほどまで紅茶だったはずのケーキをパクリとほお張る。
「・・・・・・そうそう、アイネ。貴女の質問に答えてなかったわね。簡単な事よ答えてあげる。
無断で他人の領地に足を踏み入れた者は殺されても仕方ない。逆にその侵入者を殺した者は賞賛されて然るべき。
つまり、勝手に入ってきた不審者を攻撃しようと殺そうと私の裁量の自由ってわけ、理解できたかしら?
さて、いつまでもパンプキンを縛ってないで開放してくれないかしら?裏切り者さん」
>「もちろんですよ。シャルル、ついでにティーカップもお願いするですよ」
アタシの無茶振りを、アイネはお安い御用とばかりに引き受けてのけた。
幸いな事に、つい先刻買った茶葉があったのだ。
買っている時はまさかこんなところで役に立つとは思いもしなかったが。
アイネの要請に応え、アタシは飴細工のティーカップを出現させる。
砂糖が少しずつ溶け出してお茶がほんのり甘くなるのがいい所でもあり欠点でもあり。
>「・・・・・・私は、いえ、私達は他の魔法使いみたいに貴方達のご機嫌を窺う魔法使いじゃないわ
だから、質問に答える前にはっきり言っとくわよ。これは不愉快だわ」
アイネの水球が形を保ったまま地面に落ちる。
やっぱりそう簡単にこちらのペースに飲まれてはくれないわね!
更に、水を水飴に変えたりお茶をケーキに変えたりやりたい放題だ。
何でもお菓子にすればいいというものではない。綺麗な水や美味しいお茶を愛するアイネに怒られそうな所業である。
>「・・・・・・さて、貴女が悪魔たちのリーダーよね。私はラビット。一応魔法使い達の副リーダーって事になるのかしら。
まあ、別に覚えても覚えなくてもいいわ。私個人は貴方達悪魔になんの興味もないもの。
それに残念だけど私は貴女と気が合わなさそう。明らかにタイプが違うもの」
「ええ、申し遅れたけどアタシはシャルル。そうね、アタシもそう思う。明らかにタイプが違うわね」
それは性格上もそうだが、能力についてもだ。
共にお菓子を作り出すという点でとても似ているが決定的に違うところがある。何も無い所から作り出すか、ある物を変えるか。
そして原理として上位なのはアタシの方かもしれないが、危険なのは明らかに相手の方。要するに本気でヤバイ!
落ち着けアタシ。冷静さを失えば切り抜けられる物も切り抜けられなくなる。
>「…・・・というか、下がどう言ってるか知らないけど。貴方達なんていなくたってもうすぐこの都市は私達の手に戻るのよねぇ。
だから貴方達なんていてもいなくてもどっちでもいいのよ」
>「・・・・・・そうそう、アイネ。貴女の質問に答えてなかったわね。簡単な事よ答えてあげる。
無断で他人の領地に足を踏み入れた者は殺されても仕方ない。逆にその侵入者を殺した者は賞賛されて然るべき。
つまり、勝手に入ってきた不審者を攻撃しようと殺そうと私の裁量の自由ってわけ、理解できたかしら?
さて、いつまでもパンプキンを縛ってないで開放してくれないかしら?裏切り者さん」
幸いにも、反論の糸口を掴む。明らかにハッタリだ。
アリアさんが言っていた、”天使には魔法狂いの魔法は効かない”が真実であれば、の話だが。
「本当かしら。
あなた達の魔法は確かに強力だけど……今の世代の天使には効かない、と聞いているわ。
だからアタシ達を簡単に始末するわけにはいかない、そうでしょう?
始末するにしろ仲間に取り込むにしろ、最高権力者の判断が必要なんじゃなくて?
そうだとしたら今ここで争う必要はないわ」
薄暗い猫バス奥地を歩き回ってしばらく立つけれども、段々猫バスの正体がわかってきた。
見る部屋見る部屋に散らばる試験管、ビーカー、何かの機械…。
恐らくここはヘルが完成するまで使われていた、母さん達の研究施設なのだろう。
で、ヘルができて研究所としての役目を終えた猫バスが、俺達の元にお下がってきたというわけだな。
……どうでもいいが何で猫のバスなんだろう。
正直ダサい、ヤダ、救世主の乗るもののデザインじゃない。
もっとこう、ドラゴンとかグリフォンとかエヴァンゲリ○ンとか格好良くてそれっぽいデザインがいっぱいあったはずだ。
こんなどっかの三流妖怪退治屋の乗り物みたいなの何て…。
などと愚痴を考えながらまた一つ部屋の扉を開けると、そこには何やら研究台の様な物が一つあり、その上に一本のコードが載っていた。
近づいて、とりあえず手にとって見る。
そこで、研究台の上にメモが乗っているのがわかった。
えーと何々…
【スキル取替え機】
デビルチルドレン同士の能力を交換する事ができるアイテム。
ただし、性まで入れ替えてしまうので、使用の際は注意すること。
使用の際は能力を交換したいデビルチルドレン同士がコードの端と端を持って、端についているスイッチを入れるだけ。
これで間単に能力が入れ替わる。
デビルチルドレン同士以外では使うことはできません。
へー……。
面白いな。
でもまぁ、古い機械だしアテになりそうにゃ無いけど。
俺はスキル入れ替え機をキープすると、更に奥へと歩き出した。
>「・・・・・・私は、いえ、私達は他の魔法使いみたいに貴方達のご機嫌を窺う魔法使いじゃないわ
だから、質問に答える前にはっきり言っとくわよ。これは不愉快だわ」
次の瞬間、水球へ流していた意識が途絶える。水が水でなくなった?そんな馬鹿な。
能力の加護を失った水球は地へ落ちる。否、それはすでに水ではない。
「水を別の物質に変換したのかですよ。…厄介な能力ですよ」
>「・・・・・・さて、まず私が不愉快だった点を言わせてもらうわ。アイネって言ったかしら?
『動いたら頭を吹き飛ばす』?どう考えても平和的に話し合いを行う言葉じゃないわ」
「それは失礼したですよ。でも、あなた達に平和的な話し合いが通用するんだかですよ」
すると彼女は私に向けて煙を吹きかけてきた。瞬時に防御体制をとるが、煙相手に防御など意味を成さない。
煙が晴れたとき、私は何か異常な違和感を感じた。腰の水が変質している!?
>「・・・・・・貴女の所持してる物騒な水分は全部変えさせて貰ったわ。
先ほど見た感じだと貴女、好き勝手に液体を操作できるみたいね。悪いけど水飴に変えたわよ。
一応水分だから操作できないことないだろうけど、さっきみたいに素早くは動かせないでしょう。
それで、次は私が貴女に言わせてもらうわ。変な動きをして見なさい、今度は貴女が水飴になるわよ」
ラビットは勘違いしているようだ。液体操作は液体の粘度に関わらず操作できる。
その気になれば水飴だろうと強力な武器となるのだ。
だが、私はそれどころではなかった。ボトルの水全てを水飴に換えた?なんてことを。
これでは今後喉を潤せないではないか、貴重な水になんてことをしてくれる。
しかしラビットの悪行はそれに留まらない。今度はせっかく淹れたお茶をケーキに変えてしまったのだ。
どういうつもりだこのウサ公は。飲み物のありがたみを何も分かってはいない。
はっきり言おう、私はキレた。もうこのウサギ面を許すことなんて出来やしない。
>「・・・・・・そうそう、アイネ。貴女の質問に答えてなかったわね。簡単な事よ答えてあげる。
無断で他人の領地に足を踏み入れた者は殺されても仕方ない。逆にその侵入者を殺した者は賞賛されて然るべき。
つまり、勝手に入ってきた不審者を攻撃しようと殺そうと私の裁量の自由ってわけ、理解できたかしら?
さて、いつまでもパンプキンを縛ってないで開放してくれないかしら?裏切り者さん」
「なるほどですよ。ところでウサ公は『親の恩は送っても水の恩は送られぬ』という格言をしっているかですよ
水の恩恵は計り知れないですよ。その水を大切にしない貴様は…どうなるかわかるかですよ」
リミッター解除。魔人化能力を発動する。
空中の水分が集まり、背中で翼竜のような水の翼となって展開していく。
幸いにもここは地下だ。淀んだ空気中の水分は地上よりも濃く、また地下水脈にアクセスすることも容易い。
魔人化した私なら、それらの水分を自由に扱うことが出来るのだ。そう簡単に枯渇はしない。
続いてボトルの水飴を展開。圧縮して鋭い高圧の矢へと変貌させる。
私の脳は怒りで沸騰していたが、戦闘に関しては冷静な部分が表に出る。
敵の能力は煙で包んだ対象をお菓子へと変えること。そう、煙である。
煙などいくら展開しようが吹き散らしてしまえば良いのだ。幸いにも魔人化すると翼が生える。
「今度こそそのムカつくウサギ面を吹き飛ばしてあげるですよ。覚悟ッ!」
なんだかよくわからない展開になってきている
どうしよう、私、交渉スキルないよ…
>「今度こそそのムカつくウサギ面を吹き飛ばしてあげるですよ。覚悟ッ!」
っとと、ヤバイ、戦闘突入はダメだっちゅうに!
私は即座に右手の真っ黒い手袋を深紅の手袋に変えて右腕だけ魔人化させる。
そしてその場に会ったロールケーキを持って能力を発動して小型爆弾に変える
「アイネさん!!」
そう呼びかけてこちらを魔人化して振り返った彼女の顔に向けて水風船爆弾を投げつける
「BON!」
という掛け声とともに彼女の眼前で小型爆弾が爆発して彼女の頭を熱風が襲う
「落ち着きなさい!ここで争ってはいけません!
元々話し合いにしようとしてるのになぜ争いに発展させるのですか!」
珍しく私は怒声を放った
「失礼を軽くお詫びします」
と、頭を少し下げる、その間に右手袋を真っ黒い手袋に変える
…ラビット微妙に近づいてきている
「あの…少々よろしいですか?」
と、目をランランと輝かせて言う。
おそらく悪魔の皆は気付いたはずだ
特にアイネは『それ』の犠牲になった!
「あなたの手を舐めさせてください!」
と、ラビットの腕にとびかかった…
>「なるほどですよ。ところでウサ公は『親の恩は送っても水の恩は送られぬ』という格言をしっているかですよ
水の恩恵は計り知れないですよ。その水を大切にしない貴様は…どうなるかわかるかですよ」
「……さあ?貴女がソレを教えてくれるっていうの?上等だわ」
水の翼を生やし臨戦態勢なアリア、そして静かながらも臨戦態勢明らかなラビット。
いよいよ、アタシも覚悟を決めなくてはいけなくなってきた。
うあー、ギャンブルは失敗かー……そーいや、アタシ、賭け事弱いもんなぁ……。
>「今度こそそのムカつくウサギ面を吹き飛ばしてあげるですよ。覚悟ッ!」
水飴の矢を構えながらその言葉をアイネは紡ぐ。
実に勇ましい事だ。しかし、いまこの現状はアタシが望んだ状況ではない。
アイネは完全にその気だ。真面目にラビットに対峙する覚悟だ。
その気迫はアタシが保証する。ガチで怒っている。対するラビットも然りだ。
しかし、此処で大事にしてしまってはゴールド・スミスが引っ込んでしまう。
さて、まだなんとかなる。多分、問題はどうその始末をつけるかだ。
「……やってみなさい、水飴のようにトロットロに内臓を溶かしてあげるわ、悪魔さん」
ラビットは得意気にその顔に笑みを浮かべる。長年試し相手がいなかった憂さ晴らしか、躊躇は微塵も感じられない。
ならば、アタシが先陣を切るしか他あるまい。
アタシは2人の間にどう飛び出そうと思案したその時の事であった。
>「落ち着きなさい!ここで争ってはいけません!
元々話し合いにしようとしてるのになぜ争いに発展させるのですか!」
今までまったく視界に入っていなかった悪魔の一喝。
ラビットは首を傾げる。おそらく、彼の存在を理解できなかったのだろう。
>「あなたの手を舐めさせてください!」
そして、その後に続く言葉も、理解できなかったのであろう。
少なくともアタシはそう思った。
しかし、ラビットは違う。悪魔の噂を聞いていたのだろう行動を移し口を笑みの形に歪める。
キラーの口内に収まったのは間違いなくラビットの指先。
「……構わないわ。どうぞ、舐めるなり、ねぶるなり、お好きなように。
ただし、それ以上の動きをしてみなさい貴方の内部からチョコに変えていくわよ。
……さて、これで立場は対等。いえ、それ以上かしら?人質は1人で十分ですから」
だが、この時点で、ラビット、いや、魔法狂い側は憶測で勘違いしてることが1つある。
果たして、悪魔に彼女等の魔法は効くのかどうか?それは誰も実戦していない。
天使側に近い、悪魔側だ。効かぬと考えるが普通であろう。しかし、ラビットはハッタリを効かせている。
実際に効果は分からないが此処は賭けるしかねー!
これで立場は対等、いや、やや魔法狂い側が優位に立ってしまった。
アタシはグッと自身の出していた鎖を握り締める。
だが、完全にココからは賭けになる。
シャルル達には申し訳ないけど……悪魔の可能性に賭けるよか他ない!
アタシは左腕で自身に鎖を巻き付け、がっちりと固定した上で、シャルルに小声で口添えする。
「シャルル様、私は貴方達の噂を疑っていました。
それこそ眉唾物かと。しかし、今は信じるしか他ありません。貴方達が起こした奇跡を」
そう、アタシだからこそ分かる。悪魔達の奇跡。
「簡潔に伝えます!ラビットの魔法には弱点が幾つかあります!
1つ、自分が出したお菓子にはお菓子以上の変化を加えられないということ!」
そう言って思いっきりパンプキンに縛りつけた鎖を引っ張る!
身体から首にかけて掛かるGに対して何の準備もしていないパンプキンはモノの見事にシャルルが作り出した家の窓際に引っ張られる。
「そして2つに!『本物』のお菓子に関してラビットは変化を加えられない事ですわ!
貴方達は不条理をチャンスとして条理に覆す存在!そうして2つの都市を解き放ってきた筈!
不可能を可能とするその力を!私はその可能性を、その奇跡を!信じますわァー!」
そう叫びながら握り拳を構え、パンプキンの仮面にその握り拳を叩き込む。
恐らく引き込まれた勢い+アタシが引き寄せた勢いにより大変な勢いが掛かっている事だろう。
それは顔面の何処に当たっていても失神は免れまい。
そうしてアタシの拳はハロウィンパンプキンの口部に当たり、ぐったりとパンプキンの身体の力は抜ける。
「……信じられない、なんで?なんで私の魔法は効果をなさないの?」
己の魔法に絶対の自信をおいていたラビットも、涎の染みついたキラーの口内からその指先を放す。
呆然と呟くそれは自身の魔法が悪魔に効果がない事が完全に証明された証拠であるに他ならない。
アタシは自身の煙を展開し、ラビットを捕獲する準備を整えた。
しかし、その準備はブラフというか囮に過ぎない。
てーか、鎖を出した所で何かのお菓子にされて簡単に抜け出されてお終いだ。
だけど、アタシのさっきの言葉の意味をシャルルが理解していてくれたのなら……。
ラビットを捕縛し無力化することも出来るだろう。多分、ていうか頼む!
まったく、ホントのホントに、一思考事がギャンブルだなぁ!
>「なるほどですよ。ところでウサ公は『親の恩は送っても水の恩は送られぬ』という格言をしっているかですよ
水の恩恵は計り知れないですよ。その水を大切にしない貴様は…どうなるかわかるかですよ」
「ちょっとアイネ、ここは穏便にと……」
軽く焦りながらアイネをなだめる。
敵が水を粗末にした事に怒るだろうなぁとは思ったものの、予想以上のマジギレ。
>「今度こそそのムカつくウサギ面を吹き飛ばしてあげるですよ。覚悟ッ!」
アタシの言葉など聞くはずもなく、アイネは魔人化を御開帳。
背には水で出来た翼が展開され、さながら激流の魔女だ。
>「落ち着きなさい!ここで争ってはいけません!
元々話し合いにしようとしてるのになぜ争いに発展させるのですか!」
存在を忘れられかけていたキラーさんが、アイネを止めに入る。
そしてラビットに頭を下げる。
>「失礼を軽くお詫びします」
>「あの…少々よろしいですか?」
>「あなたの手を舐めさせてください!」
まさかのここで性癖発動。果たしてこれが吉と出るか凶と出るか――
慌てて取り乱しでもしてくれればいいのだが、相手の反応は至って冷静なものだった。
>「……構わないわ。どうぞ、舐めるなり、ねぶるなり、お好きなように。
ただし、それ以上の動きをしてみなさい貴方の内部からチョコに変えていくわよ。
……さて、これで立場は対等。いえ、それ以上かしら?人質は1人で十分ですから」
キラーさんが人質に取られてしまった!
しかし、魔法狂いの魔法が天使には効かないのなら、悪魔にも効かないはず!
>「そして2つに!『本物』のお菓子に関してラビットは変化を加えられない事ですわ!
貴方達は不条理をチャンスとして条理に覆す存在!そうして2つの都市を解き放ってきた筈!
不可能を可能とするその力を!私はその可能性を、その奇跡を!信じますわァー!」
覚悟をきめたチェインさんが、鎖でパンプキンを引き寄せパンチを叩き込む。
キラーさんは未だ体のどこもお菓子に変えられる事なく無事だ。
>「……信じられない、なんで?なんで私の魔法は効果をなさないの?」
呆然と呟くラビット。
キラーさんは、魔法狂いの魔法が悪魔には通用しない事を身を持って示したのだった。
チェインさんが鎖を放つのとほぼ同時に、アタシも拘束の魔法を使う。
「残念でした! あなた達の魔法は悪魔には効かないのよーっ! 【弾力拘束《グミロープ》】!!」
超硬質の縄状グミを放ち、ラビットをぐるぐる巻きにする。
今まで見て来た結果、魔法狂いが魔法を使う時は手から煙を放つ事が分かった。
ならば気を付けの姿勢で簀巻きにして拘束してやれば魔法を封じる事が出来る。
とはいえグミはグミ。魔法を使わなくとも気合で引きちぎれるかもしれない。
が、上からチェインさんの鎖が巻きつけば完璧だ!
【ごめんなさい、今回思いつかなかったのでかなり短く】
ぶらぶらと猫バスの中を歩いていると、一台のテレビを発見した。
何やらつまみを調整する事で、外部の電波を受信できるつくりらしい。
…そういえばアキヴァでテレビ放送が始まるとか言っていた。
これで見れるかもしれないな、よしいじってみよう…。
お、つながったつながった。
えーっと番組表番組表…。
お、八時半からスーパーヒーロータイムで魔法少女まど○☆マ○カってのがやるのか。
へー、まぁ、タイトルからして少女向けの作品だから面白くないだろうけど…。
ウルトラ○ンの次だし、みとこっと。
あ、そうだ、せっかくだし明日の朝までここにいてスーパーヒーロータイム見ちゃおう。
どーせカルレアさんこないだろーし、うん。
ラビットの脳天を吹き飛ばそうと水飴の矢を射ようとしたその刹那。
>「アイネさん!!」
その声に振り向くと、目の前に投げられたロールケーキが破裂する。
突然の出来事に防御する事もままならず尻餅をつく。
行き場を失った怒りが、キラーの方へと矛先を変えた。
「何をするですよ!」
>「落ち着きなさい!ここで争ってはいけません!
元々話し合いにしようとしてるのになぜ争いに発展させるのですか!」
怒声を浴びせられ、私は正気へと帰る。それと同時に、魔人化も解除された。
私は何をキレていたのだろう。そうだ、ここは落ち着いて対処しなければならない。
落ち着いて周りを見回すと、ちょうどキラーがラビットに声を掛ける所だった。
しかし、あの目はやばい。彼の衝動が抑えきれなくなっている目だ。
>「あなたの手を舐めさせてください!」
あーあ、やっぱりそうだ。ああなってしまえば彼を誰も止めることなど出来やしない。
しかしラビットに抵抗の兆しは見られない。どうやら構わないらしかった。
>「……構わないわ。どうぞ、舐めるなり、ねぶるなり、お好きなように。
ただし、それ以上の動きをしてみなさい貴方の内部からチョコに変えていくわよ。
……さて、これで立場は対等。いえ、それ以上かしら?人質は1人で十分ですから」
キラーは人質になってしまいました、合掌。
だが、彼とてデビチルの一員だ。無理に助けようとしなくても大丈夫だろう。
もっとも、彼の能力等については未だ不明瞭な部分が多いのだが。
そのとき、チェインがシャルルに話し掛けていた。どうやら作戦があるらしい。
ここは彼女たちのサポートに徹しよう。そう考え、水飴に変えられてしまった水球を展開する。
魔人化していない今の状態では、水飴で岩を砕くような芸当は出来ない。
それでもきっと、何もせず待機しているよりはましだろう。そう考えた。
チェインが屋外に伸ばしていた鎖を引き寄せ、近づいたパンプキン頭にパンチを入れ気絶させる。
敵は少ないほうが良いのだろう。私はぐったりしている彼の鎖を巻き直し、しっかりと拘束した。
>「……信じられない、なんで?なんで私の魔法は効果をなさないの?」
どうやらキラーの体で魔法を試していたらしい。人質とか言いながら、何をしているんだか。
しかしこれで悪魔の体には魔法が通用しない事が証明された。ならば恐れる事は何もない。
呆然としている彼女に、シャルルの拘束魔法とチェインの鎖が巻き付く。
お菓子を別のお菓子に変化する事が出来ない彼女ならば、この拘束は解くことは出来ないだろう。
これで敵は片付いた。もう一安心だろうと、私も警戒態勢を解く。
さて、ここに簀巻きにされたラビットとパンプキンの両名がいる訳だが、どうしよう。
チェインに問うてみたところ、彼らはスミス卿率いる三幹部の内の二名らしい。
「あと一人はどんな奴ですよ?もっとも、まともな奴でない事は間違いないだろうがですよ。」
彼らをこの場に残していくか、引きずってスミス卿の家まで届けるか悩ましいところだ。
家まではあとほんの少しだ。(キラーに頼んで)引きずって行けば、大して時間も掛かるまい。
私も一緒に運べばいい?否、私の体は重労働には不向きなのだ。
「キラー、こいつらをスミス卿の屋敷まで運べるかですよ?」
>「……構わないわ。どうぞ、舐めるなり、ねぶるなり、お好きなように。
ただし、それ以上の動きをしてみなさい貴方の内部からチョコに変えていくわよ。
……さて、これで立場は対等。いえ、それ以上かしら?人質は1人で十分ですから」
「では遠慮なく」
と、言うとそのまま舌を周りからすれば気持ち悪く、しかしラビットがする感覚はまるでマッサージをされてるように気持ちよかった
「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロりんちょ」
と、ものすごい早さで舌を動かす
>「……信じられない、なんで?なんで私の魔法は効果をなさないの?」
「ん〜、ごちそうさま」
満足な表情で言う
>「キラー、こいつらをスミス卿の屋敷まで運べるかですよ?」
「はいは〜い、それじゃ少し眠っていてくださいね?」
と、『いい笑顔』で言うと二人に当身を入れて気絶させる
「さて、行きましょうか」
ほっこりとした顔で二人を担ぐ、そしてパンプキン、ラビットの両名の手を舐めまわしながら…
「・・・・・・うわぁ・・・・・・」
キラーの見事なレロレロっぷりに思わず天使側の反応が出てしまう。でもしょうがないと思う。
うん、だって、本当に、うわぁ、としか言いようがないのだから。
prprなんてカワイイレベルじゃないベロンベロンだな、ありゃ。
なんだろう昔に読んだ漫画を思い出す。確か『何とかの何とかな冒険』の3部だったかな。
あるキャラがサクランボをこう、レロレロと・・・・・・その時からアタシはそのキャラが嫌いになった。
「・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・うん、キラーにサクランボを渡すのと、この姿での握手は避けよう。
天使の時のような奇跡は2度も続くまい。
簀巻きになったラビットとパンプキンを背負い、なおも手をprprしながら歩くキラーの姿を見ながらアタシは誓った。
>「あと一人はどんな奴ですよ?もっとも、まともな奴でない事は間違いないだろうがですよ。」
「……へ?あぁ、ええ、そうですわね。確かに、まとも、とは言い難いですが、少なくともこの2名よりはマシですわ」
アイネの質問で我に返り、その問いに答える。
「ですわよねぇ?ノスフェア?」
そして前を見据え、口を開く。
前方には何もない。いや、何もいない様に見えるだけだ。
「んだよぉ、もうバレちったの?つまんねぇ」
何もない空間の中で、ばさりと彼を覆っていたフードが剥がれ落ちる。
フルフェイスの無駄にリアルな心臓のマスク、だらしない着こなしのスーツに痛んだ革靴。
ゴールド・スミスの幹部にして彼に次ぐ実力の魔法狂い。
「覗き見とは良い趣味とは言えませんわね?」
「あんだけ騒ぎが起こってりゃ気付かねぇわきゃねえって。
あんまりにうっさいからスミスのおっさんが会ってくれるってよ……条件付だけどな」
言いながら簀巻きにされた2人の魔法狂いを指差す。
「条件はたったひとつ、そいつらを解放しろ今この場で。
でなきゃ会わないし、テメェ等全員出すなってさ。まったく面倒くさいったら無えよ」
そう言いながらも溢れ出すノスフェアの殺気に冷や汗を流さずにはいられない。
「……シャルル様、アイネ様、キラー様、ここは言うとおりにしたほうがよろしいかと。
おそらく、この中の誰もノスフェアには勝てませんの。彼は」
言い掛けた時、アタシの台詞に被せる様にノスフェアが声を上げる。
「他人の口からネタ晴らしは勘弁ってなぁ。ったく、自己紹介と能力説明位してやるよ。
ノスフェア、能力は超高速自動自己再生、武器はこの五体全て、だ」
(顔は見えないが)ドヤ顔のノスフェアの言葉にアタシは小声で付け加える。
「……ちなみに私の鎖を軽く引き千切るぐらいの筋力がありますわよ、あの男。
自身の能力を良い事に無茶な訓練を繰り返してるらしいですから、所謂脳筋ってやつですわね」
その小声の軽口もノスフェアの前では薄ら寒く聞こえることだろう、天使の時ならともかく魔法狂いじゃ勝てる気がまるでしないのだから。
>「キラー、こいつらをスミス卿の屋敷まで運べるかですよ?」
「二人は大変でしょう。一人はアタシが引きずって行こうか?」
と聞いている間にもキラーさんは手際よく二人を気絶させ、事もなげに二人を担いだ。
そこまでは普通なのだが……
>「さて、行きましょうか」
担ぎながら両名の手をなめまわしている。
「……。なんだか楽しそうだしお任せするわ」
気を取り直してアイネが話を本題へ戻す。
>「あと一人はどんな奴ですよ?もっとも、まともな奴でない事は間違いないだろうがですよ。」
>「……へ?あぁ、ええ、そうですわね。確かに、まとも、とは言い難いですが、少なくともこの2名よりはマシですわ」
>「ですわよねぇ?ノスフェア?」
>「んだよぉ、もうバレちったの?つまんねぇ」
早速三人目の幹部がご登場。
ゴールドスミスに会う事が出来る交換条件として、二人の解放を提示してきた。
本気か、罠か、どっちだ――!?
>「……シャルル様、アイネ様、キラー様、ここは言うとおりにしたほうがよろしいかと。
おそらく、この中の誰もノスフェアには勝てませんの。彼は」
>「他人の口からネタ晴らしは勘弁ってなぁ。ったく、自己紹介と能力説明位してやるよ。
ノスフェア、能力は超高速自動自己再生、武器はこの五体全て、だ」
それを聞いて、真っ先にトム君の能力を思い起こす。
超高速自動自己再生――明らかに酷似している。
ラビットの能力といい、魔法狂いの魔法はアタシ達の能力とやはり何か関係があるのだろうか。
>「……ちなみに私の鎖を軽く引き千切るぐらいの筋力がありますわよ、あの男。
自身の能力を良い事に無茶な訓練を繰り返してるらしいですから、所謂脳筋ってやつですわね」
高速再生と怪力は別問題だと思うが……それ程激しい鍛錬を行って怪力を手に入れたという事だろうか。
何にせよこいつは能力を補助として自らの体を武器に戦う肉体派のようだ。
それに対して拘束中の二人は、アタシ達に魔法をかけても無効化されるため恐れるに足らない事は立証済み。
どちらが危険性が高いかは自明の理。
グミのロープによる拘束を解きながら皆に声をかける。
「……ここは彼の言う通り解放しましょう。キラーさん、その……名残惜しいのは分かるけど二人を離してくれる?」
さて、テレビのある部屋を確保した俺は、カルレアさんが来ないように入り口にバリケードを設置!
ひたすら室内でごろごろしていた。
あー……なんでこう、時間を無駄にするようなごろごろとする時間っていいんだろうなぁ…。
こんなだからきっとニートが世の中から無くならないんだ、うん。
まぁ、今のこの世界にニートがまだ存在してるかは怪しいけどさ。
性抑止剤が切れるまでまだまだ時間あるし、ひたすら今日はだらだらしよう。
…いや、でも外では今頃シャルル先生たちが血みどろバトル繰り広げてるかもしれないんだよなあ…。
で、何だ、もしかしたらシャルル先生らが全滅して、今にもこのバスに天使達が押し寄せんとしてるかも知れないし…。
そんな中俺だけこんな風にサボってごろごろしてるのは大いに問題あるよな、うん。
どっちみち戻ってきたシャルル先生たちにカルレアさんが俺の有様をチクッたらただでさえ関わる人間が少ない今の状況下で俺がみんなから嫌われるだろうし…。
うーん…ごろごろしてるのは駄目だ、何か不安になってきた。
せめて明日の朝位まではまじめにしていよう。
でも何する?
外に出るのはNGとして、ここの中でできる事…。
武器だ!武器を探すんだ!!
ここが母さんらの昔の研究施設だったら、天使等と戦うための武器が保管してあるはずだ。
バイオハザードの研究施設がごとく。
よし!それを探し出そう!
そんなわけで猫バス内を歩き回ること数時間。
「第六武器庫」なる武器庫を発見した俺は、中にある武器の類を物色していた。
えーと、AKっぽいマシンガンが3丁、これにあう7.62mm弾が350発。
M16っぽいアサルトサイフルが1丁、こっちにあう7.62mm弾は150発。
ベレッタ似の拳銃が15丁、これ用の9mm弾が200発。
ニューナンブ38丁、38スペシャル弾もどきが1000発。
手榴弾24個。
サーベル35本。
スタンロッド5個。
コンバットナイフ4本。
あとステルスガン2丁、予備バッテリー3個。
ガトリングガン2丁、弾は…ああああ数えてらんね!たくさん。
レミントンっぽいショットガン4丁、弾は80発。
長槍4本。
弓10個、矢が…なんでこんなのあんだろ、230本。
俺の体に合う防弾スーツが10着と俺の頭にあうサイズのヘルメットが10着。
合わない奴も各々10着づつと…。
…まだまだあるが、とりあえずこんなところだろうか。
まぁ、どれもこれも古めかしい武器ばかりだし大型兵器も無いが、拳銃位しか武器が無かったこれまでに比べればかなりマシになるだろう。
最も相手が魔法使える天使だからこんな武器じゃ太刀打ちできるか怪しいが…。
でもここが第六って事は、第一から第五までがあるわけだよな。
猫バスの中に格納庫とかもあって戦車とかもあったりして。
おお!性が覚醒してないのに段々好奇心が沸いてきたぞ!
待ってろ!戦車!今行くぜ!
運んでくれと頼んだ手前、キラーの舐め回しを止めることは出来ないのだが……。
「・・・・・・うわぁ・・・・・・」
>「・・・・・・うわぁ・・・・・・」
思わずチェインとハモってドン引いてしまった。
だって、アレだもん。気絶しているとはいえ二人が可哀想だ。
これは可哀想な事故だ、そう思って忘れることにする。
気絶しているのがせめてもの救いであろう。私なら御免だが。
さて、話を戻してチェインに尋ねる。最後の一人の幹部についてだ。
かぼちゃ頭はともかく、もう一人の幹部があの様子だ。ろくな人物ではあるまい。
流暢に答えるチェインは、ふと前方へ視線を戻し言い放った。
>「ですわよねぇ?ノスフェア?」
>「んだよぉ、もうバレちったの?つまんねぇ」
虚空からそれに応える声。否、応えた人物は最初から目の前にいた。
何らかの光学迷彩のようなものだろう。被っていたフードのようなものを脱ぎ放った彼は、なんだかグロテスクなマスクを被っていた。
現れた敵の姿にとっさに戦闘態勢を取る。幹部だと言うことは、油断できない相手だと言うことだ。
驚いたことに、ノスフェアと呼ばれた彼はゴールドスミスに会わせてくれると言う。その条件とは……。
>「条件はたったひとつ、そいつらを解放しろ今この場で。
でなきゃ会わないし、テメェ等全員出すなってさ。まったく面倒くさいったら無えよ」
思ったよりも妥当な提案だ。こちらとしても、早々に人質を解放すべきとの判断だったので申し分ない。
それにしても何という殺気であろう。肌にぴりぴりと伝わる殺気で落ち着かなかった。
きっと相当に強いのだろう、一切の油断を許せない相手だった。
チェイン曰く、彼はこの場の誰よりも強い。そう言われるのも納得だった。
>「他人の口からネタ晴らしは勘弁ってなぁ。ったく、自己紹介と能力説明位してやるよ。
ノスフェア、能力は超高速自動自己再生、武器はこの五体全て、だ」
>「……ちなみに私の鎖を軽く引き千切るぐらいの筋力がありますわよ、あの男。
自身の能力を良い事に無茶な訓練を繰り返してるらしいですから、所謂脳筋ってやつですわね」
なるほど、再生能力に加え怪力まで備えていると言う。敵に回すには厄介な相手だ。
再生能力者に対する戦法も無くはないが、今この場では難しいだろう。
私の液体を操る能力はオールレンジだが、それでも近接戦闘では押し負けてしまうのだ。
ここは戦闘に持ち込むのは不利だ。大人しく人質を解放すべきだろう。
シャルルの指示でグミと鎖による拘束を解き、二人を解放する。
意識は未だ戻らないようなので、そのまま引きずってノスフェアに引き渡す。
そんなに筋力があるのなら、二人を運んでも全く問題はないだろう。
彼は二人を担ぎ上げながら、顎で道を示す。このまま付いていけば良いのか。
私たちが目指していたスミス卿の居城は、もうすぐそこだった。
地下とは思えない高い柵の門扉を潜り、庭を抜けて正面の大扉の前に立つ。
私たちが目指す相手は、すぐ目の前だ。
悪魔達の背丈は3倍はあろう大扉を開いた途端、眩い光が全員を照らした。それは溢れんばかりの黄金の光だった。
ゴールド・スミスの王室は全てが例外なく黄金で出来ていた。
床も、壁も、天井も、玉座へと続く僅かな段も、シャンデリアや王室内を彩る装飾品、玉座に至るまで全てが黄金で作られている。
そして玉座に深く腰掛けたゴールド・スミス自身もまた黄金をその身に纏っていた。
髑髏のアーメットヘルムに過剰な装飾のついたフルプレートアーマー。
玉座の奥の床に所狭しと突き刺さった幾百の槍や剣、そしてさらにその奥に存在する数十体の人の形をした像。
その全てが黄金で出来ていた。
「やぁ、よく来た。悪魔諸君に地上の恥晒し。
私こそがゴールド・スミス、魔法使いの最高位。魔法使い達の王だ」
その声色は凛と響く男性の音色。緑黄色の瞳が髑髏の奥からシャルル達を見つめていた。
「さて、噂には聞いていたが・・・・・・悪魔とはなんとも信じがたいものだ。それが年端もいかぬ君達のような存在なら尚の事。
しかし、私の配下2人を倒しそこに立っている、それが事実だ。その存在を信じ、その実力を認めるしかない」
玉座に深く腰掛け、頬杖をつきながらも感嘆とした声でシャルル達の実力を認める。
しかし、認めただけであって、彼は悪魔の力を恐れていたわけでも必要としたわけでもなかった。
ただ、自分の領地で好き勝手に五月蝿く暴れていたから静かにしてもらう為に呼んだだけであった。
頭の中では、有効活用できたらいいな。程度には考えていたであろうが、どの道そこまで期待していないのが事実である。
悪魔の力は噂と真実で十分理解している。部下も事も無げに倒された、なるほど、強いのだろうね。
だが、それでも、そうしても必要、欲しいとは到底思えないし、考えられない。
それが、もしかしたら自分達の種族よりも強い存在なら尚の事だ。
ゴールド・スミスは何よりも自身が強くあろうとした。なぜならそれが王の務めだから。
その結果、彼自身も忘れてしまう程の過去に天使達を自分達、魔法使い達の手で撃退した。
そして人類を平和へと導いた。だがそれ故に驕った、私達魔法使いという種族こそが弱き者を制御、支配する立場なのだと。
このまま都市を開放してもまた天使が現れる。では、どうすればいい?簡単だ。都市を開放しなければいい。
我等魔法使いが上に立ち、支配し続ければいい。そうすればまた天使が来ても、有事の際は私達魔法使いが前面で弱者を守れる。
最初は驕りはあったものの使命があり、誇りがあった。しかし、時が経つに連れ、それは少しづつ、だが確かに捩れていった。
それは弱者への差別へ、それは弱者への侮蔑へ、それは弱者への嘲笑へ。
時を重ねるごとに捩れ狂っていったそれを止める術は誰にもなく、さらに時を重ねた。
そして天使が再び現れ魔法使いは敗れた。久方ぶりに現れた天使は魔法の効かない身体へと姿を変えていたからだ。
結果、魔法使い達は天使に敗北し、その殆どが暗い暗い地下へと潜っていったのだ。
そう、自分達のよりも強い優れた種族の力によって。
だからゴールド・スミスは自分たちより優れた力を好まない。優れた可能性を好まない。
たとえその力が、都市を真の開放へ導く力でも、だ。
「それで、何か用があるからわざわざ此処まで来たのだろうけれど、何の用かな?
その用が果たされることは、まあまず無いだろうがとりあえず言うだけ言ってみるといい。
なに、何事も挑戦だ。もしかしたら多少の興味くらいならもってやれるかもしれないしね」
あくまで彼は、聞いてやる、というスタンスを崩さない。
しかも面白半分と暇潰し半分で、だ。
スミスは首を少し傾けると2人の魔法使いを背負ったまま突っ立っているノスフェアに声を掛ける。
「ノスフェア。その2人は適当な所に放り投げておいていいからチャイを淹れてきてくれないかな。
あぁ、もちろん砂糖と蜂蜜と練乳ありありで頼むよ。ふふ、君等の用件がこのチャイの茶菓子代わりになることを願うよ」
戦車探して猫バス内をうろついていると、今度は食料庫を見つけた。
入ってみると、でかい冷蔵庫みたいなのがあり、中には大量の保存食と共に、なぜかチーズとかケーキとかの生菓子が…。
絶対悪くなってるだろ、これ!と思い、賞味期限いつまでだ?と表記を確かめると、そこには「永久保存可」の文字が…。
あー、そういや未来だったなぁ、こんな技術もあんのかぁと感心すると共に、何個か持っていこうと缶詰をポケットにしまおうとして、ふと、手が何かに触れた。
何だろうと思い、出してみると、何のことは無い俺のケータイ…。
……ん?ケータイ?
そういやこの世界で通じるのかな?これ。
電話会社はこっちには無いだろうし…。
ってかリンネの世界の仲間の番号しか無いから通じたとしても意味ねーだろ。
何でこんなもんまで一緒に…。
と思いつつもとりあえず開き、繋がるか試そうと住所録を開いてびっくり!
そこにはシャルル先生を含むリンネ時代の仲間の番号のほかに、治安維持のために各地に残ったユダや軍人女の番号が!
さっすが母さん達だ、何の説明も無くこんな便利な道具を用意してくれてる何て!
せっかくだから現状把握をしよう、っつーわけでシャルル先生に電話電話〜。
住所録からシャルル先生の番号選んでっとw
あ、でも息を潜めてどっかに隠れてたりしてたらまずいか…。
いや、そしたら猫バスで救援にもいけるしむしろかけた方がいいよな?
よしかけるぞ!
お、鳴ってる!鳴ってる!
「あ、もしもし、シャルル先生!すっげーだろ!ケータイ繋がるんだぜこの世界、しかも新規で仲間になったメンバーの番号がケータイに自動で更新されてんの!
母さん流石だよなぁ。」
でもどうやら向こうは相当シリアスな状態だったらしく、何やら俺の電話にしらけた様子…。
「…あ、何か忙しかったですか?後でかけなおします?」
俺の問いかけに、しかしシャルル先生はまぁせっかくだから今こういう状況だからどうすればいいかトム君も考えてと、わかりやすく現状を説明してくれた。
とりあえず猫バスで急遽かけつけなきゃいけない状況じゃ無いらしい。
「で、えーと、上の街は皆幸せに暮らしてるけど、魔法使い達はそれが面白くない、先祖の土地を取り戻したい、で、ゼウス的にはそれは願ったりで、イトさんが敵の工作員でそれを援助しているとそういう事ですね?」
シャルル先生の説明を要約すると、そういう事になる。
あー…。
俺さ、そういう話する奴見ると毎回思う事があるんだよなぁ…。
あれだ、ヒーロー物で「人類は他の星を害する可能性がある」とか言ってやたらに人類に攻撃してくる癖に、マジで極悪なだけの宇宙人とか怪獣は放置してる奴等。
アレだ、これ。
「先生、それさ、魔法使いの方々にゼウスの脅威からロンデニウム救うのはとりあえず後回しにして、もっと別の、ヴィエナみたいに本格的にヤバイ状況の街を開放するのを優先するように言ってみたらどうですか?
だってそーでしょ?ロンデニウムの人達別に今即効で天使に滅ぼされそーなわけでなし。
他にもっとヤバげな街があるだろーからそっちをまず皆で協力して救ってからでもロンデニウム奪回は遅くないと思うんですよね。
それに他の街助けてる間にもっといい方法が浮かんでくるかもしんないじゃないですか。
こんな街の地下でギャングやテロリストみたいな事やるよりも、世界に羽ばたいて活躍した方が人類のためになるんじゃないですか?」
要するに迷惑がられてるとこで活動するよりもっと他に活躍を待ち望んでる場所があるでしょーがとそういう事だ。
それでもロンデニウムだけにこだわるようなら、そんなもんただのわがままである。
後はもう武力行使しかない。
「シャルル先生、猫バスが必要になったらまたかけなおしてください、すぐ、救援に向かいます!」
そう言って、俺はとりあえず食料庫から出た。
もしものときのために、操縦席にいかなければ…。
「やった…ついに四天王を倒した…わけでもないけどこれでゴールドスミスのいる金剛城の扉が開かれる!!」
などとソードマスターヤマトごっこをしている場合ではないが
厄介な事にアタシ達は真面目な正攻法に捕らわれると負けるという因果を背負っているのである。
いや、でも今回の敵はゼウスの手下ではないから真面目に超美麗アクションやかっこいい台詞でいったほうがいいのか!?
どうなんだろう……。扉が開いた瞬間、視界が黄金色の光に染まる。
「うわ、まぶしっ!」
アタシはいつも通りでいいのか正攻法でいくのがいいのか未だ決めかねていた。
そもそもデビチルはゼウス軍以外の存在と戦う事を想定されて作られていないのだ。
とにかく、ゴールド・スミスの居城はその名前に違わず全てが金ピカだった。ナイス成金趣味。
>「やぁ、よく来た。悪魔諸君に地上の恥晒し。
私こそがゴールド・スミス、魔法使いの最高位。魔法使い達の王だ」
>「さて、噂には聞いていたが・・・・・・悪魔とはなんとも信じがたいものだ。それが年端もいかぬ君達のような存在なら尚の事。
しかし、私の配下2人を倒しそこに立っている、それが事実だ。その存在を信じ、その実力を認めるしかない」
とりあえず仰々しい雰囲気に合わせて跪く。
「お会いできて光栄です。ゴールドスミス卿。
わたくしはシャルル・ロッテ。こちらはアイネ・リヴァイアスとキラー・ヨカゲシでございます」
>「それで、何か用があるからわざわざ此処まで来たのだろうけれど、何の用かな?
その用が果たされることは、まあまず無いだろうがとりあえず言うだけ言ってみるといい。
なに、何事も挑戦だ。もしかしたら多少の興味くらいならもってやれるかもしれないしね」
「早速ですが実は……」
まさに交渉を始めようとした時だった。ケータイの着メロが鳴り響く!
【交わした約束忘れないよ 目を閉じ確かめる〜♪ 押し寄せた闇 振り払って進むよ〜♪】
「…………」
発信源はポケットの中。さりげなく携帯電話が装備されていたのだった。
かかってきた事がないから存在を忘れていたのである。取り出してみればディスプレイに「トム」の文字。
一瞬これどうしようという微妙な雰囲気が流れ……一刻を争う緊急事態かもしれないので後ろに下がって背景と化してから電話に出る。
「申し訳ありません、仲間から緊急連絡が入った模様です」
>「あ、もしもし、シャルル先生!すっげーだろ!ケータイ繋がるんだぜこの世界、しかも新規で仲間になったメンバーの番号がケータイに自動で更新されてんの!
母さん流石だよなぁ。」
一瞬ずっこけそうになったが、この際なので今の状況を相談してみた。
受話音量を最大にして、近寄れば会話の内容を聞ける状態にする。
>「先生、それさ、魔法使いの方々にゼウスの脅威からロンデニウム救うのはとりあえず後回しにして、もっと別の、ヴィエナみたいに本格的にヤバイ状況の街を開放するのを優先するように言ってみたらどうですか?
だってそーでしょ?ロンデニウムの人達別に今即効で天使に滅ぼされそーなわけでなし。
他にもっとヤバげな街があるだろーからそっちをまず皆で協力して救ってからでもロンデニウム奪回は遅くないと思うんですよね。
それに他の街助けてる間にもっといい方法が浮かんでくるかもしんないじゃないですか。
こんな街の地下でギャングやテロリストみたいな事やるよりも、世界に羽ばたいて活躍した方が人類のためになるんじゃないですか?」
「なるほど、それもそうね……」
確かに理屈は通っているけどあの手のタイプはもはや理屈なんて吹っ飛んでロンディニウムに固執している可能性も高いからどうなんだろう。
でも試しに言ってみる価値はある。
>「シャルル先生、猫バスが必要になったらまたかけなおしてください、すぐ、救援に向かいます!」
一端電話を切ったアタシは、再びゴールドスミス卿に向き直る。
あのタイミングで電話がかかってきたのは、やっぱりアタシ達に正攻法は無理というお告げなのかもしれない。
「大変失礼いたしました。
まず前提として忘れないで戴きたいのはアタシ達は対ゼウス特攻兵器――ゼウスに対抗するために作られた存在だという事です。
ならば本来はあなた達と敵対しない……どころか同志であるはず。
私達は今までの旅で心の自由どころか生存権すら脅かされている都市を見てきました。
人々のためを思うなら真っ先に手を差し伸べるべきはそちらなのではないでしょうか」
とは言ってみたものの……
うーん、やっぱり「金ピカのマイホーム立てちゃったしわしゃーここを動かん!」って言いそうな気がする……。
ノスフェアに導かれてくぐった大扉の先は、黄金煌く玉座の間だった。
飾られている彫像やシャンデリア、床や壁に至るまですべて黄金で出来ている。
一人の人間が集められる黄金の量ではない。おそらくこれも魔法によるものだろう。
ラビットと同じ物質変換だろうか。だとすれば厄介な能力である。正直敵にしたくない。
さて、成金趣味丸出しの部屋の奥、玉座に彼はいた。ゴールドスミス卿である。
彼自身も黄金を身に纏い、玉座に深く腰を下ろしこちらを見つめていた。
>「やぁ、よく来た。悪魔諸君に地上の恥晒し。
私こそがゴールド・スミス、魔法使いの最高位。魔法使い達の王だ」
王を名乗るに相応しい、凛と響く声だった。
彼曰く、悪魔を見るのは初めての事のようだ。当然である、悪魔なんてそう何人もいない。
正直部下二人を倒したのはチェインの功績だが、説明するのも面倒なので黙することにする。
我々はたくさんの天使達に勝利し都市を開放してきた悪魔なのだ。ネームバリューは大きいほうが良いに決まっている。
背中に翼を生やし角を持つ恐ろしい姿……などと不穏な噂が飛び交うのは正直不本意なのだが。
まぁ翼が生えるのは本当のことだし我慢をしよう。私の場合水の翼だけれども。
王、ゴールドスミスは思ったより友好的に接してきている。
とはいえ、それはあくまで上から目線。新しいおもちゃのような扱いであるが。
何はともあれ、話を聞いてくれるのであれば有難い。会話とは結構難しいコミュニケーションなのだから。
それにしてもチャイとは羨ましいな……私達にも供してくれないのだろうか。
シャルルが代表として言葉を紡ごうとしたとき、場違いな着メロが辺りに鳴り響く。
覗き込んでみたところ、どうやら相手はトムのようだ。全く、何をするか分からない人である。
漏れ聞こえてくるシャルルとトムの会話を聞くに、どうやら魔法使い達を仲間に取り入れる算段をしているようだった。
なるほど、面白い提案だ。すでに対策されているとはいえ、彼らの力は有効に活用できるだろう。
しかし、私の考えは少々違っていた。私の目的は、この街で起きているいがみ合いを解決することだからだ。
魔法使い達と天使との間にある確執。それを解消せねば、真の平和とは言い切れない。
そのために必要なのは話し合いだ。私達は彼らの架け橋とならねばなるまい。
「明日、天使達が執り行う会談はご存知かですよ?
私達としては、あなたにその会談に出席して欲しいですよ。」
私は言葉を続ける。今出来るすべての言葉で、彼の気持ちを動かさねばならない。
「この街ではせっかくの魔法が衰退していく傾向にあるですよ。
かつて魔法都市と呼ばれたこの街の文化が無くなるのはもったいない話ですよ。
あなたも気づいているだろうが、魔法は大きな産業となる力を秘めているですよ。
その力をこんな地下で腐らせているのはもったいない話ですよ。
天使との確執があるのは理解できるが、そこは抑えて欲しいですよ。
私達ならば、この街に新しいビジネスモデルを提供できるですよ。」
言葉の半分は今思いついたはったりである。だが、相手の興味を引くことは出来るはずだ。
長年の確執を取り除く手段、それは商売……金の力なのである。
商売は時に国をも動かす。この街を根底から覆すことが出来るはずなのだ。
それに、商売ならこちらにもひとつのアドバンテージがある。
これまで開放してきた街ならば、商売相手として特権的に結ぶことが出来るのだから。
>「大変失礼いたしました。
まず前提として忘れないで戴きたいのはアタシ達は対ゼウス特攻兵器――ゼウスに対抗するために作られた存在だという事です。
ならば本来はあなた達と敵対しない……どころか同志であるはず。
私達は今までの旅で心の自由どころか生存権すら脅かされている都市を見てきました。
人々のためを思うなら真っ先に手を差し伸べるべきはそちらなのではないでしょうか」
>「明日、天使達が執り行う会談はご存知かですよ?
私達としては、あなたにその会談に出席して欲しいですよ。」
シャルルに続きアイネは話を進める。
>「この街ではせっかくの魔法が衰退していく傾向にあるですよ。
かつて魔法都市と呼ばれたこの街の文化が無くなるのはもったいない話ですよ。
あなたも気づいているだろうが、魔法は大きな産業となる力を秘めているですよ。
その力をこんな地下で腐らせているのはもったいない話ですよ。
天使との確執があるのは理解できるが、そこは抑えて欲しいですよ。
私達ならば、この街に新しいビジネスモデルを提供できるですよ。」
「はっ、アッハッハッ! これは面白い、あぁいや失礼。大変壮大な話だ。
聞いたかノスフェア。私達が考えている事とはあまりに懸け離れ過ぎて、ククッ」
そう言ってゴールド・スミスはパンパンと手を叩きながら足を組み替え下顎部のヘルムだけを外しチャイを啜る。
チャイは混ぜられた甘味料によってサラサラとした液体ではなくドロドロの粘液と化していた。
「ふふ、重ね重ね失礼。いやまさか、君等がそんな提案をしてくるとは。あまりに予想外だった。
他の都市への復興に、ビジネスねぇ。いやぁ考えた事もない。斬新な考えだ」
さっきからおかしいおかしいと考えてた事がはっきりと分かった。
この魔法狂い共、ていうかクソオヤジは……。
「いやぁ、なに。気を悪くしないでくれよ悪魔諸君。別に君達の考えを軽視してる訳ではないんだ。
いや、むしろ私達の考えがあまりに矮小過ぎたのが問題と言った所か」
そう自身を嘲りながらもクソオヤジの声は愉快そうに歪んでいる。
あぁ、やっぱりそうか。アタシの嫌な予感が的中する。
そもそも、シャルル達に喰い付かなかった時点で嫌な予感はしていたんだ。
「ふふっ、私はね。ただ、この都市を奪い返せればよかったんだ。
生まれ育った都市を、収めるべき都市を、天使共の好き勝手にさせるのが我慢ならなかったんだ。
他の都市の事、ビジネスの事なんか考えても無い。ただただ、私達の私怨さ」
チャイの入っていた黄金の杯をノスフェアに投げ渡すと、クソオヤジは言葉を続ける。
「どんな形でもいい、たとえ文明を維持できなくともから都市を取り戻したい。私達の手に治めたい。
そもそも私達の物だった都市が天使に奪われるのは大変気に喰わないし我慢ならないのだよ。
自身の領土を大切にしたい、というのは生物として当たり前の感情ではないのかな?」
先の戦で奪われた土地を取り戻したいという感情は、土地を治める王にとっては当たり前、否、当然と言った所であろうか。
それは他の民に比べ、病的といっていいほどに。
「長年考えた、考えに考え考え続けた。そして達したのだ。天使を駆逐する可能性を。
……確か、天使達は人間の管理が最善の目的だったな。よくよく考えれば支配ではないのだ。
では、天使が人間の管理が出来ない事態に陥ったならばどうなる? 例えば異常なほどに人間の数が減少する、とかな。
ふふっ、考えるまでもない。それは異常だ。異常ならばどうなる? そう消されるのさ、なに難しい話じゃないウィルスと一緒さ!
異常なプログラムは削除の対象となる。特に当初の目的と相反するプログラムなら尚更の事さ」
……このクズめ! クソオヤジめ! アンタが何をしようとしてるかもう容易く想像できる。
アタシは両手を構える。いつでもその事態に対応できるように。
「ほう、恥晒しも流石に気付くか。そうかそうだなそうだよな、私はお前の――――!」
クソオヤジが言う前にアタシの煙が宙を渦巻き、鎖がその腕に巻き付き、言葉を止める。
感情の制御が出来ない、あぁ畜生! もうどうでもいい!
アタシは叫ぶようにその言葉を口にする。
「トリック、魔法を解け! 今すぐにだ!」
そう言った瞬間、ゴキゴキと鈍い音と共に背が縮み、背中から純白の翼が生える。
魔法使いのチェインはその姿を天使アリアへと姿を変える。
チェインのマスクを剥ぐ様に取ると、親父に指を差して高らかと宣言する。
「畜生! もう我慢ならねーぞクソ親父! マリアの願いを、テメーのクソくだらない野心で壊させるもんか!
今からアンタは完全にアタシの敵だ! 親だからと言って容赦すると思うなよクソ親父!」
あー…あれだ、前回、シャルル先生にかけた電話。
アレ、まだ切ってなかったりする。
リンネ世界の携帯はメカを改造する能力を持つデビルチルドレンがクラスメートや先生の携帯を好意で魔改造してくれているのでめちゃくちゃ収音能力が高い。
だから、ゴールド・スミスの暴走した発言は、俺の耳にもしっかりと届いていた、
勿論、何か唐突に現れた(いや、俺ほら、その場にいないから俺から見たらとーとつに出てきたようにしか見えんのよ)ゴールドスミスの娘らしき女の存在も!!
このままではラストバトルに突入し、んでももって両者血で血を洗うバトルに突入する!
ぬぅ、シャルル先生の変身体が戦闘に特化した天使に勝てないのはアキヴァで実証されちゃったし、アイネも多分似たようなもんだろう。
敵の本拠地でパワーバトルは分が悪い!
猫バスで応援に行きたいが、さっきから迷路に迷ってここがどこだかわからないからコクピットに行けないし、更にシャルル先生のいる位置がわからんから助けにもいけない!
どうする!こういう時、シャルル先生を救うには…。
…そうだ!
ゴールド・スミスだって人間、なら、心の中に、わずかでも良心があるはず!!
その良心に訴えかけよう!
……ただし、絡め手で!!
「シャルル先生!音量を最大にして、ケータイをゴールド・スミスに向けてください!!早く!!」
俺の指示に、シャルル先生がケータイをゴールド・スミスに向けたかどうか、確認する事無く、俺は叫んだ!
「待て!ゴールド・スミス!!あなたは…いや、あなた達は天使に操られている!!!」
声を限りに、俺は叫んだ!
「俺はデビルチルドレンの科学力を結集したオペレータールームからそっちの部屋の情報をスキャニングしてたんだが、天使の本部施設から、人間の脳に干渉する干渉波が出ているんだ!!
相手はあなた達を暴走させて一方的に魔法使いを悪役に仕立て上げて、難癖つけて世界への見せしめにあなた方を街ごと消すつもりだぞ!!」
はい、デマカセです。
勿論デマカセです、100%嘘です。
けれども、俺はこの嘘でリンネ時代幾多のピンチを切り抜けてきている。
正直者の天使としか戦っていない連中をだますことくらい、できるはずだ!
…だって何か、シャルル先生たちまで騙されてる臭い雰囲気だもん、電話の向こう。
「力に任せて人間同士で殺しあっちゃいけない!それよりも、力を合わせて、敵の総大将を叩き潰しましょう!今こそ、デビルチルドレンと魔法使いが手を組んで、ゼウスの僕どもを根源から死滅させる時です!!
ゼウスの洗脳に負けないで!!」
加えて、わずかな良心があれば、あんな言葉通りの事何かしたいはずは無い。
ここはゼウスの天使の親玉に罪を全部かぶってもらおう。
……え?天使の親玉はイイ奴なのに罪を着せてもいいのかって?
いいよ、だって俺、天使の統治何かみとめねーもんw
幾ら今までまともな統治してきたって所詮はゼウスの回し者。
ゼウスがその気になれば幾らでも統治方法が変えられるし、更に言えばシャルル先生達が信じてる人格だってゼウスが俺達がいなくなった後自分好みに都市を作り直すための闇の人格だってあるかもしれない。
それをぶっ倒したら都市の人間が不満に思う?
あ ま っ た れ る な !!
そう思うのなら、自分達の力で統治者と戦って、自分達の力で自分達の都市をいい方に導けばいい。
優れた統治者に全部任せて自分達は導かれるばっかりになってるから、上に立つ連中がこんな風になるんだ!
ゼウスを倒した後、世界の未来を作っていくのは人間だ。
この都市の人間が統治者を失って駄目になるようなら、ここの人間どもに、未来を作る資格は無い!!
この街を統治する天使には悪いが、貧乏くじを引いてもらおう。
多分これでイトの思惑も外れるだずだ。
まさか甘ちゃん揃いのデビチルが、本気で魔法使いと組んで、統治天使と戦いだすなんて、奴は考えてもいないだろうから…。
訂正です
>そう思うのなら、自分達の力で統治者と戦って×
>そう思うのなら、自分達の力で統治者に返り咲いたゴールド・スミスと戦って○
【ごめんなさい、読み返してみたら上の意味がわからなかったので無かった事にしてください】
あー…あれだ、前回、シャルル先生にかけた電話。
アレ、まだ切ってなかったりする。
リンネ世界の携帯はメカを改造する能力を持つデビルチルドレンがクラスメートや先生の携帯を好意で魔改造してくれているのでめちゃくちゃ収音能力が高い。
だから、ゴールド・スミスの暴走した発言は、俺の耳にもしっかりと届いていた、
勿論、何か唐突に現れた(いや、俺ほら、その場にいないから俺から見たらとーとつに出てきたようにしか見えんのよ)ゴールドスミスの娘らしき女の存在も!!
このままではラストバトルに突入し、んでももって両者血で血を洗うバトルに突入する!
ぬぅ、シャルル先生の変身体が戦闘に特化した天使に勝てないのはアキヴァで実証されちゃったし、アイネも多分似たようなもんだろう。
敵の本拠地でパワーバトルは分が悪い!
ここはやはり猫バスの出番だ!!
俺は駆け足で迷路の中を走り…。
走り…。
走り………。
だああああああああああああああああああここどこだよ!!
操縦席がみつからねぇ!!
このままじゃシャルル先生達が…。
……やむ終えん、こんな手は使いたくなかったが…。
「カーーーールレアさーーーーーーーーーん」
俺は声を限りに迷宮の中で叫んだ。
俺を探して迷宮の中を歩いていたカルレアさんは即座に俺の叫びを聞き取ったのだろう。
途端にすさまじい怒りの形相を浮かべたカルレアさんが俺の元にすっとんでくる!
「トムぅ!!きっさまぁああああああ!!さんざん逃げ回った挙句いまさら呼び出してどういう…」
「いや、そ、それより今シャルル先生が大変で…」
これこれしかじかと俺はカルレアさんに事情を説明する。
「ぬ、それはいけない、よし、私は来た道を覚えているから操縦席まで案内しよう!」
「さっすがカルレアさん、愛してる!」
「調子に乗るな!!」
カルレアさんに拳骨を見舞われつつ、俺は彼女の案内で操縦席へ向かう。
待ってろシャルル先生!今助けに行くぜ!
>「この街ではせっかくの魔法が衰退していく傾向にあるですよ。
かつて魔法都市と呼ばれたこの街の文化が無くなるのはもったいない話ですよ。
あなたも気づいているだろうが、魔法は大きな産業となる力を秘めているですよ。
その力をこんな地下で腐らせているのはもったいない話ですよ。
天使との確執があるのは理解できるが、そこは抑えて欲しいですよ。
私達ならば、この街に新しいビジネスモデルを提供できるですよ。」
流石アイネ、相手は金ピカが大好きなゴールド・スミスだけに金に釣られるかもしれない
と思ったが、やはり駄目だった。
>「どんな形でもいい、たとえ文明を維持できなくともから都市を取り戻したい。私達の手に治めたい。
そもそも私達の物だった都市が天使に奪われるのは大変気に喰わないし我慢ならないのだよ。
自身の領土を大切にしたい、というのは生物として当たり前の感情ではないのかな?」
アタシの悪い予感通り、ゴールドスミスはマイホームを手放したくなかったのである!
それも大津波が迫っているというのに「わしゃーここを動かん!」と言って聞かない頑固老人並みに!
>「長年考えた、考えに考え考え続けた。そして達したのだ。天使を駆逐する可能性を。
……確か、天使達は人間の管理が最善の目的だったな。よくよく考えれば支配ではないのだ。
では、天使が人間の管理が出来ない事態に陥ったならばどうなる? 例えば異常なほどに人間の数が減少する、とかな。
ふふっ、考えるまでもない。それは異常だ。異常ならばどうなる? そう消されるのさ、なに難しい話じゃないウィルスと一緒さ!
異常なプログラムは削除の対象となる。特に当初の目的と相反するプログラムなら尚更の事さ」
それはそうだけど……だからどうしたというのだろう。
人間の中に魔法の素質のある者と無い者がいるだけの話で、魔法狂いとて人間だ。
よってゴールドスミスも人間……今は人間じゃなくなっているとしても元人間であったはずだ。
天使を消すためとはいえ同じ人間を殲滅するなど出来るはずが……
>「ほう、恥晒しも流石に気付くか。そうかそうだなそうだよな、私はお前の――――!」
>「トリック、魔法を解け! 今すぐにだ!」
お前の何!? そう思っているうちに、チェインさんがアリアさんに姿を変えた。
いや、戻ったのか。もう何が何だか……
>「畜生! もう我慢ならねーぞクソ親父! マリアの願いを、テメーのクソくだらない野心で壊させるもんか!
今からアンタは完全にアタシの敵だ! 親だからと言って容赦すると思うなよクソ親父!」
「親!?」
ちょっと待て、ちょっと待てちょっと待て! アリアさんは天使、ゴールドスミスは魔法狂いで親子!?
天使アリアではなく魔法狂いチェインの方が本当の姿だというのならまだ理屈は通るけど……。
とりあえず分かった事は、ゴールドスミスは何らかの手段で人間達の数を大幅に減らそうとしているらしい事
そしてもはや話し合いでは解決できなさそうという事だ。
“異常なプログラムは削除の対象となる。特に当初の目的と相反するプログラムなら尚更の事さ”
ゴールドスミスの先程の言葉が頭の中に木霊する。
対ゼウスプログラムであるアタシ達がゼウス側に与し曲がりなりにも人間だった者に刃を向けていいのか――
首を横に振ってその考えを振り払う。
「アイネ、アタシ達は人間達の幸せのために作られた……そうよね?
きっとリリスさん……母さんならそのつもり。――【午前二時饗宴】!」
アイネに向かって確かめるように呟き、魔人化――
漆黒の翼を広げ大鎌を携える、人々がイメージする悪魔に近い姿に変化する。
「話は後だ――悪いが手加減は出来そうにないぞ?」
そう言いながらアリアの隣に並び立つ。
魔人化により一時的に戦闘系能力者となった途端になんとなく直感したのだ、こいつ強いと!
結論から言うと、ゴールドスミスの懐柔は失敗した。彼は商売の事など眼中に無かったのである。
他に説得する方法などすぐには思いつかない。一体どうしたら良いのか。
そうこうしているうちに、ゴールドスミスの演説は続く。
>「長年考えた、考えに考え考え続けた。そして達したのだ。天使を駆逐する可能性を。
……確か、天使達は人間の管理が最善の目的だったな。よくよく考えれば支配ではないのだ。
では、天使が人間の管理が出来ない事態に陥ったならばどうなる? 例えば異常なほどに人間の数が減少する、とかな。
ふふっ、考えるまでもない。それは異常だ。異常ならばどうなる? そう消されるのさ、なに難しい話じゃないウィルスと一緒さ!
異常なプログラムは削除の対象となる。特に当初の目的と相反するプログラムなら尚更の事さ」
人間を減らす!?何を言っているのだ、この男は。
そんな事をすればこの街は崩壊してしまう。否、それ以前に殺戮など認められないことだ。
狂っている。目的と手段がごちゃまぜになって、引き返しようのないほど歪んでいるのだ。
私達は彼の悪行を止めねばならない。より多くの人類を救うために!
そのときだった。チェインが煙と共に鎖を出現させ、ゴールドスミスの腕に巻きつかせる。
そして、目の前で驚くべき変化が起きる。チェインの姿が変わったのだ。
背中から生える純白の翼、見慣れた顔、間違いない。彼女は天使アリアだ。
更に驚いたのはその発言だった。
>「畜生! もう我慢ならねーぞクソ親父! マリアの願いを、テメーのクソくだらない野心で壊させるもんか!
今からアンタは完全にアタシの敵だ! 親だからと言って容赦すると思うなよクソ親父!」
親、確かに彼女はそう言った。
アリアは人間とのハーフなのだろうか?だとすれば、彼女が魔法を使えることにも納得できる。
しかし人間と天使が結ばれるものなのか。ゼウスは何を考えているのだろう。
だが、それを確かめている時間は私達にはなかった。
今は目の前のスミス卿を止めなくてはならない。人々を救うために!
>「アイネ、アタシ達は人間達の幸せのために作られた……そうよね?
きっとリリスさん……母さんならそのつもり。――【午前二時饗宴】!」
その呟きと共に、シャルルは魔人化する。大鎌を構えた姿は美しかった。
それに合わせ、私も魔人化を行う。もう手加減をしている場合ではない。
「すべての水よ……私に力を!」
全身に力が満ち溢れ、水を操作できると言う全能感が体を支配する。
ここはどうやら水道が通っているらしい。水が面白いように集まってくる。
きっと今頃はどこかで水道管が破裂しているだろうが、そんなものは無視だ。
間もなくその水は背中に集まり、水の翼となって展開した。
水を司る魔女の姿……それが私である。
変身を終えシャルルと共にアリアの隣に立つ。
今ならば分かる、ゴールドスミスの恐ろしさはこれまでの比ではない。
だが、私だって負けない。これまで幾度と無く死線を潜ってきたのだ。
「お前の身勝手な欲望はわかったですよ。でも、そんなことはさせないですよ。
降伏するなら今のうちですよ?私達はお前に手加減は出来ないのだからですよ!」
>「話は後だ――悪いが手加減は出来そうにないぞ?」
>「お前の身勝手な欲望はわかったですよ。でも、そんなことはさせないですよ。
降伏するなら今のうちですよ?私達はお前に手加減は出来ないのだからですよ!」
恐ろしい、だが同時に、とても綺麗だ。
シャルルとアイネの悪魔化した姿を見た正直な感想がそれだった。
ハッ、こりゃあれだ。他の都市が落されんのも納得だわ。
仮にシャルルかアイネ、どちらか1人と戦ったとしても勝率は5割もねーだろ。
平和主義の守備一辺倒のアリアなら……ダメだな、戦う姿も思いつかねー。
だが、ここまで心強い味方が出来て尚、目の前の親父に勝てるイメージが浮かばない。
「……ハッ、手加減して勝てるような気楽な相手なら、いーんだけどな。
シャルル、アイネ、色々聞きたい事もあんだろーけど、悪ぃーが今は目の前に集中してくれ。
ぶっちゃけ、アンタ達2人のその姿を見てもアタシはまるで安心できねーんだ」
両手をわきわきと動かしつつ、アタシも構えを取る。
槍が無いのが心細い。この親父の前じゃいくら備えても備え過ぎって事はない。
あぁ、分かってんよ。あのクソ親父の強さはこのアタシが一番理解してんだからな。
「まったく、いつからそんな戯言を吐くようになったのかな? チェイン。
昔はもっと可愛げのある娘だったのだけど、何処で育て方を間違えたか。
……ところで、いつまで私の腕をこの忌々しい鎖で縛りつける? この不敬者が」
そう言った瞬間、黄金の鎧の隙間という隙間から蒸気の様に勢いよく黒煙が噴き出す。
煙は1秒もしないうちに広すぎる黄金の王室を黒く埋め尽くした。
その直後、一閃の黄金の軌跡がアタシの鎖を寸断する。
黄金の軌跡を作り出した正体はゴールド・スミスの後方に無造作に刺さっていた一振りの剣。
その剣が黒煙に触れた瞬間、弾かれるように高速で射出され鎖を断ち切ったのだ。
【黄金支配】、それが魔法使いの王、ゴールド・スミスの能力だ。
全ての物質を黄金に変換させ、形を変化させ、好き勝手に動かし操る能力。
しかし、ゴールド・スミスの恐ろしさはその強力な能力ではない。
いや、その能力自体も強力無比だが、それだけではないのだ。
ゴールド・スミスの真の恐ろしさは煙の放出量にある。
仮にゴールド・スミスが本気で煙を放出したら、1区まるごとが黒煙に包まれるだろう。
「チッ、先手討たれたみてーだな。シャルルにアイネ、防御に専念しろ!
アタシだけで防ぎ切れるかわかんねー。念には念を入れろ! そら来るぜ!」
座ったままの態勢で人差し指を立てるクソ親父。
次の瞬間、親父の後方でただ突き刺さっていただけの黄金の剣と槍が揃って宙に浮かぶ。
その数は浮かび上がっているのだけで優に100を超えていた。
「剣と槍よ矛先を揃えろ。さて我が愚娘と悪魔諸君は何処まで耐えられるか、試してみるとしようか。
第一射、一斉射出開始。続いて第二射、第三射、第四射、さらに補充、装填、射出に備えろ」
百以上に及ぶ黄金の凶器が、アタシ達に向けて文字通り雨の様に降り注ぐ。
「防鎖結界! アタシ達を守れ!」
その言葉と共にアタシはシャルル達の前に1歩踏み出し、両腕を広げ、光の中から鎖を召喚する。
アタシ達の周りを幾重の鎖が渦を巻き、防御に徹する。
天使の時の鎖の数、頑強さは魔法狂いの姿の時の比ではない。
剣の切先を逸らす鎖、槍を受け止める鎖、高速で回転し弾き返す鎖。
槍の無い今の状況じゃあ、防戦に徹するしかない。それでも弾き切れなかった数本の剣は後ろに通してしまう。
しかし、今のアタシはこの黄金の雨に耐えるしかない。背後のシャルル達の無事を信じて。
カルレアさんの手で頭にこぶを量産されながら、何とかたどり着いたコクピット。
さあ、変形してゴールド・スミスと決戦だ!
……。
「カルレアさん」
「何だ?」
「ゴールド・スミスってどこにいるんだ?」
「私が知ってると思うか?」
…。
ドゥうおわああああああああああああああああああ肝っ心な事忘れ取った。
目の前に敵がいるわけじゃねえんだった、コクピットだけ来ても意味ねぇよ!
そうだ先生に…って聞ける状況じゃないわなぁ…。
………うーみゅ、一体どうすれば…。
「トム!シャルルの携帯の電波を逆探知して場所を特定したぞ!それを追え!」
おお!いつの間にかオペレーター席についたカルレアさんが頼もしい事を言ってくれた!
よおし!それを頼りにシャルル先生達のところに……
「あ、駄目だ、シャルル達がいるのは地下だ、猫バスはでかすぎて入れない」
「え!?じゃあどうすんの!」
「決まっている!トム、お前あの迷路で腐るほど武器を手に入れていただろ?それを使えそれを」
「生身で行けてことっすか?無理無理無理!デビルチルドレンと互角かそれ以上相手にあんな装備でいくなんか無理!ド無理!しかも俺今不死身の能力が封印されてっから死ぬ!5秒で死ぬ!」
「ぬ…ええい、情けない…。シャルル、聞こえるか?カルレアだ!」
俺から携帯をふんだくり、カルレアさんが受話器の向こうに叫んだ。
「猫バスをそこの地下の入り口に待機させる!何とかそこまで脱出してきてくれ!」
「あ、そうだ、その間に、街の住人達を非難させましょう!」
「よし!そうだなそうと決まれば…」
「わー!駄目駄目!カルレアさん駄目〜」
俺のアイディアを聞いたカルレアさんがすぐにスピーカーに取り付こうとしたので、俺はあわててそれを止める。
その際勢いあまって胸をもんでしまったので、カルレアさんが真っ赤になって神速のキックを放ち、それがモロに腹に突き刺さったが、それどころじゃないので今は気にせず俺は言う
…どうでもいいが、おっぱいは宇宙なんだと今再認識した。
シャルル先生のも良かった(アキバ編の最後のほう参照)、とても良かった、しかしカルレアさんもいい、アイネは多分駄目だ、見るかにちっぱ……あぁ、ごめん脱線した。
「ぐふっ……いきなりゴールドスミスが街を吹っ飛ばそうとしてるなんて行ったら街がパニックになって余計な死人が出ますよ…」
「ならどうする!」
「この街の行政組織に事情を話すしか無いと…」
「ふむ…よし、猫バスはここを動けない、私が行政府に行って、事情を話してくる、お前はシャルル達の所へ」
「わかりました、お願いします」
いい胸をしたカルレアさんは猫バスから降りて恐らく行政府だろうこの街で一番でかい建物に屋根の上をぴょんぴょん飛びながら向かい、俺は恐らく地下と繋がってるだろうマンホールの前に猫バスを移動させる。
中途、一般市民が恐れおののいて2〜3事故も起こったようだが、気にしてられない!許せ!
「さて…鬼がでるか蛇がでるか…」
額に浮かんだ汗をぬぐいながら、俺はマンホールを見つめてつぶやいた。
>「お前の身勝手な欲望はわかったですよ。でも、そんなことはさせないですよ。
降伏するなら今のうちですよ?私達はお前に手加減は出来ないのだからですよ!」
>「……ハッ、手加減して勝てるような気楽な相手なら、いーんだけどな。
シャルル、アイネ、色々聞きたい事もあんだろーけど、悪ぃーが今は目の前に集中してくれ。
ぶっちゃけ、アンタ達2人のその姿を見てもアタシはまるで安心できねーんだ」
アリアの言葉に、今目の前にいる相手が相当な強敵である事を改めて確信する。
>「まったく、いつからそんな戯言を吐くようになったのかな? チェイン。
昔はもっと可愛げのある娘だったのだけど、何処で育て方を間違えたか。
……ところで、いつまで私の腕をこの忌々しい鎖で縛りつける? この不敬者が」
辺り一面に黒煙が立ち込める。
今まで見てきた例によると、魔法狂いが魔法を使う時は必ずこの煙が発生する。
煙に覆われた場所が魔法の効果範囲と見ていいだろう。
要するに、こいつの魔法は今までの相手とは段違いに広範囲に及ぶ!
一体どんな能力だ!? と、一振りの剣が高速で踊り鎖を断ち切った!
よく見るとそれはピカピカの黄金になっている。
>「チッ、先手討たれたみてーだな。シャルルにアイネ、防御に専念しろ!
アタシだけで防ぎ切れるかわかんねー。念には念を入れろ! そら来るぜ!」
てっきり背景だと思っていた無数の黄金の剣や槍が宙に浮かび始める。
ただの成金趣味のインテリアじゃなかったのか!
それが次々と襲い掛かってくるのだからたまったもんではない。
>「防鎖結界! アタシ達を守れ!」
アリアの鎖が踊り、大部分の剣や槍を弾き返す。
尚もその防御を掻い潜ってきた剣を大鎌を振るい弾き落としながらも、状況を観察する。
弾き返した剣や槍はすぐに相手の支配下へと返っている、それが相手の弾が尽きないからくりだ。
このままでは防戦一方だ。何とかせねば……
アイネの水なら、相手に防がれずに攻撃を加える事が出来るかもしれない。
そこまで考えた時、繋がったままになっている携帯から声が聞こえてきた。
>「ぬ…ええい、情けない…。シャルル、聞こえるか?カルレアだ!」
> 「猫バスをそこの地下の入り口に待機させる!何とかそこまで脱出してきてくれ!」
「そんな無茶な……! いや待てよ」
来た道を返って地上まで脱出するのは不可能に近い。
この立地は地上侵略を虎視眈々と狙っているゴールドスミスにとっても不便すぎるのではないだろうか。
つまり――リンネの国会議事堂に総理大臣が使う隠し通路があったのと同じように(!?)
ゴールドスミスが地上への行き来に使う専用通路かワープ魔法陣みたいなのがあるのかもしれない。
あるとしたらどこだろう。真っ先に目についたのは――金ピカの玉座だった。
どこがどう怪しいと聞かれたら困るが見るからに怪しい。
具体的にはあの椅子をずらしたら下から何か出て来るんじゃないかと思ってしまう。
いや、こんなギャグのような謎理論を繰り広げている場合ではない。
とにかく攻撃するにしても椅子を押してみるにしても(!?)少しの間でもこの槍の雨を止めなければ――
「――パイダークネス!」
一時的に視界を奪って時間稼ぎ出来ないものかと、鎌を振るうついでにパイを発射。
当然世の中お菓子ほどは甘くは無く、ゴールドスミスは首を横にずらしてサッと避けた。
心なしかドヤ顔してるように見えるのは気のせいか!?
が、幸い魔人化によって普段の能力も強化されている。
こうなったら下手な鉄砲数うちゃ当たるの精神で連射だ。
>「……ハッ、手加減して勝てるような気楽な相手なら、いーんだけどな。
シャルル、アイネ、色々聞きたい事もあんだろーけど、悪ぃーが今は目の前に集中してくれ。
ぶっちゃけ、アンタ達2人のその姿を見てもアタシはまるで安心できねーんだ」
「私にも分かるですよ、あの男の強さが。最初から全力で行くですよ」
チェイン……いや、アリアの声に呼応して私は構えをとる。
部屋はゴールドスミスの手によって黒煙に包まれた。今までの経験からして、これは相手が魔法を使う合図だ。
しかもこの煙、今までとは量が格段に違う。これが奴の強さだろうか。
黒煙に辺りが包まれた直後、一振りの黄金の剣が飛来し、アリアの鎖が断ち切られた。
黄金を操る能力、それが彼の魔法なのだろう。注意しなくてはならない。
>「チッ、先手討たれたみてーだな。シャルルにアイネ、防御に専念しろ!
アタシだけで防ぎ切れるかわかんねー。念には念を入れろ! そら来るぜ!」
煙に触れた無数の黄金の剣や槍が、浮かび上がりこちらに狙いを定めてくる。
すぐにそれらは、弾かれるように私たちに向けて襲い掛かってきた。
アリアの鎖がその大部分を弾き返し、受け流す。防ぎ切れなかったそれらはシャルルが大鎌で弾き返していた。
防御はこの二人に任せていれば安全だろう。だとしたら私に出来るのは攻撃だ。
攻撃の準備にと手の前に集めた水塊に圧を加えていると、シャルルの電話から声が聞こえた。
> 「猫バスをそこの地下の入り口に待機させる!何とかそこまで脱出してきてくれ!」
なんて無茶振り!正直そう突っ込みたかった。こちらは今そのような場合ではない。
例えこの場所から入り口まで戻れたとしても、ゴールドスミスが付いて来るという保証はない。
正直な話、何とかして猫バスをこの場所まで転移させるほうがまだ現実的だった。
転移……仮に猫バスにそのような機能があるのなら、我々全員を外へと転移させてくれればまだ勝利の道は見えるかも知れない。
この場所はゴールドスミスの懐中だ。正直この場では分が悪いのだ。
ところで、何故か電話の向こうでトムが私に対しとても失礼な事を考えている気がした。
よし、あとで必ず溺れさせよう。そう胸に誓う。
などと回想していたが、今はそれどころではない。目の前の敵に集中しなくては。
すでに準備を終えていた水の塊に命令式を植え込み、手から放つ。
放った水塊は、鎖の隙間を掻い潜ってゴールドスミスに向け飛び出していく。
それはただの水弾ではない。超高圧に圧縮された水の塊である。
高水圧になった水は凶器と化す。触れたすべてのものを断裁するのだ。
「この攻撃、簡単には避けきれないですよ!」
放たれた水は三つの球に分離し、ゴールドスミスの周りを囲い込む。
そして、彼を中心に回転しながら水弾を発射し始めたのだ。
単発では簡単に避けられてしまうような攻撃でも、三方同時攻撃なら話は違う。
しかも発射された水は例え避けられようとも、また元の水球へと還っていく。
彼の黄金の槍が尽きないように、こちらの水弾も尽きる事はないのだ。
水の塊は変幻自在に動き、その間も射撃の手を休める事はなかった。
常に死角から放たれる水弾を避けきる事は適わず、じりじりとその黄金の鎧を削っていく。
さらにシャルルからの援護射撃、パイダークネスの連射が彼に向けて飛来する!
背後に響き渡る剣を弾き落とす音、そして前方で繰り広げられる視界を奪うパイと鎧を削る水球の連撃。
座していた親父もいつの間にか立ち上がり回避に専念していた。
多分それは『遊んで』いられなくなってきている証拠だ。余裕がなくなってきている。
「いいぜ! シャルル、アイネ! その調子で削り取れ!」
鎖の数をさらに追加! 増やせ増やせ増やせ! 攻撃に役立てないなら防御を徹底するまで!
襲い来る剣と槍、全てとはいかないが、その殆どを弾き落としてやる!
親父が射出する剣と槍を増やす度に、アタシも鎖を増やしていく。
マリアの護衛長の肩書は伊達じゃないってね!
「……なるほど、見くびっていたのは私という訳だな。慢心も毒という事か」
クソ親父はその場に立ち、必要最低限の無駄のない動きでパイと水球を躱し続ける。
しかし、三方向から放たれる水球から放たれる水弾は流石に躱しきれるものじゃない。
その水の弾丸は容赦なくクソ親父の黄金の鎧を削り落としていく。
「仕方がないね。流石に1人で3人相手は堪える。ならば余興はここまで、ノスフェア」
その刹那、黒煙を巻き上げ1つの影がアイネ目掛けて飛び掛かる。
「ッ、アイネ!」
アタシの声が届いたか否かは定かではないが、その影から放たれた一閃をアイネは回避する。
「チッ、避けられたか。つか、オッサン剣撃ち過ぎ。少しは加減しろっつーの」
アイネに超高速の蹴りを放った影、ノスフェアは言いながら自らの身体に刺さった数本の剣を引き抜く。
右胸、喉、左肩、太腿、剣が突き刺さった個所はいずれも重症、いや致命傷になりえる人体の急所だ
しかし、剣が引き抜かれた傷跡は煙に覆われ、即座に修復されていった。
ふと今までノスフェアが立っていたであろう位置を見れば綺麗に剣と槍が刺さっていない。
そしてその後ろには気絶したパンプキンとラビットの姿があった。
つまり、今までコイツはあの2人を1人で守ってたって事か、自分の身を挺して。
それはノスフェアの能力が有ればの荒業だ。通常の魔法狂いには出来やしない。
「さて、一番面白そうな嬢ちゃんを指名した訳だが。期待に応えてくれよ。
俺は一回イッたぐらいじゃ満足しないからよ、っと」
そう言ってくたびれたスーツに隠したホルスターから工具用の釘抜き付ハンマーと射出式釘打ち機を取り出し、構える。
右手にハンマー、左手に釘打ち機、リアルな心臓のマスクから覗く瞳が期待と狂気に歪んでいる。
「あぁ、俺を無視してオッサンをその水球で狙い続けるってのも有りだぜ。
だけどまぁ、そんな余裕が有ればだけど、なァッ!」
ノスフェアは台詞と共にアイネに飛び掛かり、そのハンマーを一閃する。
人間の力を遙かに凌駕するその一閃がアイネに連続で襲い掛かる。
「アイネッ、って、畜生!」
加勢に出ようとした瞬間、目の前に数本の剣が突き刺さる。
んの、クソ親父が!
「人の心配をしてる暇があるのかな? そら、アゲていくぞ」
再び襲い掛かる無数の剣と槍の雨、それを召喚した鎖で全力で弾き続ける。
あークソ! このままじゃ埒が明かない! てーかジリ貧だ!
「シャルル! この状況、クッ、なんとかなんねーか!? いい加減、このままじゃ、っとぉ!」
ガシガシ降り続ける雨を弾きながらシャルルに叫ぶようにアタシは問い掛けた。
悪いがアタシは考えてる暇はねー、アイネも多分そんな余裕ないだろ、てことは、消去法でシャルルに頼るしかない!
さて、地下で激しい戦いが繰り広げられているが、今俺にはやる事が無い。
……何かテレビでも見るか。
えーっとアキヴァの放送データを受信してーっと。
何が事態を好転させるかわからんし、スピーカーのままになってるシャルル先生の携帯から俺の見てる番組の音声が流れるようにしておこう。
きっとまた緊迫した戦いが俺が見てる番組のせいで台無しになったりしていい風に傾くに違いない。
……何かいつもシリアスで武力行使な事をやってきた俺が今回はギャグ要因っていつもと逆転し取るな。
まぁ、シャルル先生の場合はあれで真面目なんだけど、俺の場合は怠けてふざけてこれなんだからどっちが見てて気分いいかっていうとシャルル先生なんだろうなぁ…。
まぁいいや、えーっと、何見るか何見るか…うわ、ほとんどアニメと特撮だよ、アキヴァチャンネル。
頭だし機能あるから好きな番組を最初から見れるのがいいね。
よーし見るぞー。
えーと…何見るか…ガンダム?いや、戦場でガンダム見てもなぁ…。
じゃあ…プリキュア?いや俺女の子向けの作品はなぁ…。
琴浦さんとからきすたはやってねぇな…あれ面白いのに。
…いっそエロい奴やってないかな、女性陣がいないからアダルト作品見放題……。
……待てよ。
そうか!地下の連中は恐らく激しい禁欲生活にあったはず!
そこをつけば、連中の士気を大いに下げられるんじゃないか!
そうだよ!決して俺はやましい気持ちだけでエロい作品を見るわけじゃないんだよ!
後で理由付けもできるよ!!
よっし!!俺はエロ作品を見るぞ!ジョジョ!!
アダルトチャンネルに設定して〜…。
…さて、何を見るか。
○獄戦艦…いや、ハードすぎるな…対魔忍ア○ギ……同じくハードすぎる……。
エスカレ○ヤーかファ○レス戦士プリン…うーん…いやだから戦う系のは…おお!
よし、今回これだ、初○。
恐ろしく無口の少女がヒロインの○犬、ピンクパイナップルの!
うし!見るぞ!
……。
『視聴中(エロアニメの音声は携帯をつーじて戦場に垂れ流されています)』
…フカヤ、うらやましいなフカヤ…。
うわ///そんな///うっは///
おおおおおおお!!おっふ!超おっふ!
…おおおおおお!///
おおおおおおおおおおおお///
//////
…ぬふぅ。
まだ20分くらいあるな、引き続き視聴を続けよう。
どーせシャルル先生達が地下で決着をつけるだろう。
だから俺の仕事はここでエロアニメを視聴するこ…おおおおおおお///2回戦北ーーー。
うひゃひゃひゃひゃ///
アリアの鎖が踊り、ゴールドスミスの刃とアイネの高圧水弾が飛び交う。
戦況は互角……と見えて、アイネの激流が少しずつ鎧を削りつつある。
だが忘れてはならない。
こちらは三人総出でかかっているのに対して、向こう側にはまだ腹心が一人控えている。
つまりそいつが動き始めて初めて本番、という事だ。
>「仕方がないね。流石に1人で3人相手は堪える。ならば余興はここまで、ノスフェア」
ゴールドスミスの号令と同時に、アイネに飛びかかる影――
鎌を一閃、飛んできた剣をそちらに弾き飛ばす。
これに反応できるだけの手練れなら回避を優先するだろうし
避けられずにまともに刺さればいくら再生能力があるとはいえ少しは隙が出来るはず……
と思ったのだが、それは見立てが甘すぎた。
>「チッ、避けられたか。つか、オッサン剣撃ち過ぎ。少しは加減しろっつーの」
次の瞬間、ノスフェアは体に突き刺さった何本もの刃を涼しい顔で引き抜いていたのだ。
>「さて、一番面白そうな嬢ちゃんを指名した訳だが。期待に応えてくれよ。
俺は一回イッたぐらいじゃ満足しないからよ、っと」
ノスフェアは、ゴールドスミスに対して最も有効な攻撃手段を持つアイネに狙いを定めたようだ。
>「あぁ、俺を無視してオッサンをその水球で狙い続けるってのも有りだぜ。
だけどまぁ、そんな余裕が有ればだけど、なァッ!」
>「シャルル! この状況、クッ、なんとかなんねーか!? いい加減、このままじゃ、っとぉ!」
普段の能力はともかく、魔人化時のアタシの能力は純然たる戦闘特化型。近接戦闘ならアイネよりアタシの方に適性がある。
ゴールドスミスに対する攻撃はアイネ、防御はアリアに任せてアタシがノスフェアを引き受けるのが最善の策だろう。
「アイネ、そいつはアタシが引き受ける! だからそいつの言う通り成金オヤジを狙い続けろ!」
アイネと交戦しているノスフェアの元に一足に跳び、大上段に振りかぶり縦真っ二つにする軌道で振り下ろす。
もちろんこんなに大きな動作の攻撃が当たるとは思っていない。こちらに気を引くためのパフォーマンスだ。
案の定ノスフェアは難なく避け、ほんの少し掠った傷が瞬時に再生されていく。
「ひゅーっ、物騒だなあ!」
「見事な再生能力だ……だがスッパリ切断されてしまえばどうかな? アタシの魔人化能力は……ポロリもあるぞ!」
これは別にお色気的な意味では無く、どこがポロリするかといえば腕だったり足だったり首だったりする。
アタシの切断能力が勝るか相手の再生能力が勝るかの真っ向勝負だ。
といっても当然相手は再生能力だけではなく純粋な戦闘能力も相当なものなので、すぐに腕や足が飛ぶなんて事にはならない。
刃とハンマーがぶつかり合う金属音が鳴り響き、射出された釘を大鎌の柄で弾く。
今の所少年漫画に出しても何の問題も無い至って健全且つ正統派な接近戦……だったはずが。
『ふふ、こんなに(自主規制)……』
『(自主規制)が(自主規制)なのぉおおお!』
『(―――――自主規制―――――)』
何故かエロアニメらしき音声が流れてきた!
>うわ///そんな///うっは///
>おおおおおおお!!おっふ!超おっふ!
>…おおおおおお!///
>おおおおおおおおおおおお///
ついでにトムの喜ぶ声も……。もはや正統派バトル終了のお知らせである。
想定しているのとは別の意味で非健全な方向に転がり始めてしまった。
しかし先程まで寝込んでいたはずのトムがもうあんなに元気になっている。
これがエロアニメの威力か。やはり人間の自由な発想というのは凄い物だ。
激しいバトルを繰り広げながらも、しみじみと且つゴールドスミスにも聞こえる程の声で語る。
「あれはつい先刻まで精神的ショックで寝込んでいた仲間でな……。
魔力持たぬ人間があれ程人を元気付ける物を作る事が出来る。
素晴らしいとは思わないか?」
>「ッ、アイネ!」
その声が響くより一瞬早く、私はノスフェアの攻撃から身をかわしていた。
精神のほとんどは水球を操作する集中力に使われていたが、不意打ちに反応するくらいは辛うじて出来るのだ。
何せアリアの鎖とて万能ではない。落とし損ねた剣を避けるために気を回していたのが幸いした。
>「チッ、避けられたか。つか、オッサン剣撃ち過ぎ。少しは加減しろっつーの」
そう言って体中に刺さった剣を抜くノスフェア。彼は今まで身を挺して仲間を守っていたのか。
さすが自己再生能力者らしく、その傷跡は煙に覆われると一瞬で回復していた。
彼は侮れない。しかも今の彼の獲物は私に向いているらしい。気をつけなければ。
>「さて、一番面白そうな嬢ちゃんを指名した訳だが。期待に応えてくれよ。
俺は一回イッたぐらいじゃ満足しないからよ、っと」
「あいにくとあんたと楽しくお遊戯している余裕はないですよ。
遊びたいなら他を当たってくれですよ」
気軽な口調でそう言い返す。実際あんなやりにくそうな相手と戦いたくはない。
水による攻撃はその多彩さが売りだが、どれもいまひとつ攻撃力が弱いのが欠点なのだ。
彼と戦ったとして、おそらく勝負は五割かそこら。相性は最悪である。
しかし彼はスーツの下に隠していた物騒な工具を取り出すと、私に襲い掛かってきた!
>「あぁ、俺を無視してオッサンをその水球で狙い続けるってのも有りだぜ。
だけどまぁ、そんな余裕が有ればだけど、なァッ!」
鋭いその一撃は、私に届く前に大鎌で防がれた。シャルルが加勢してくれたのだ。
確かに変身した彼女であれば、近接戦闘において有利に事が進むだろう。
>「アイネ、そいつはアタシが引き受ける! だからそいつの言う通り成金オヤジを狙い続けろ!」
そう言って、ノスフェアの気を引くシャルル。ここは大人しく彼女に任せて良いだろう。
私は改めて精神を集中し、ゴールドスミスへの射撃の精度を上げていく。
どうやら彼は剣の操作に集中している間は、鎧の補修まで気が回らないらしい。
否、気が回らないのではなく、おそらくそれが彼の魔法の限界なのだろう。
突くべき弱点はそこだ。彼が攻撃をやめない限り、その防御は限りなく薄いのだ。
もう数発も当てれば彼の鎧は破壊できる。そのときが攻撃の最大のチャンスだと思われる。
いざと気を引き締めて攻撃を加えようとしたそのとき、シャルルの携帯から不穏な音声が流れ出した。
>うわ///そんな///うっは///
>おおおおおおお!!おっふ!超おっふ!
>…おおおおおお!///
>おおおおおおおおおおおお///
どうやらトムは、所謂エロアニメと言うものを鑑賞し始めたようだ。
それっぽい音声もばっちり届いている。一体どういうつもりなのか?
少なくとも、トムにはあとでお仕置きが必要だろう。覚悟しておいて欲しい。
しかし彼にどういう意図があってこんな事をしているのだろうか?まさか間違いではあるまい。
……と、思わず攻撃の手を休めてしまったが、どうやらゴールドスミスもあっけに取られたらしい。動きが止まっている。
これは好機!と、私は特大の水の塊を召還する。人間一人ならこれで包み込めるサイズだ。
これを高々と頭上に掲げ、思い切り振り落とす。狙いは動きの止まっているゴールドスミスへと。
本来は防御用の能力だが、攻撃にも転用できるのだ!
「溺れるがいいですよ!必殺アクアウォール!」
>うわ///そんな///うっは///
>おおおおおおお!!おっふ!超おっふ!
>…おおおおおお!///
>おおおおおおおおおおお///
>「あれはつい先刻まで精神的ショックで寝込んでいた仲間でな……。
魔力持たぬ人間があれ程人を元気付ける物を作る事が出来る。
素晴らしいとは思わないか?」
「……いや、まったく思わないな。というかまだ精神を患ってるんじゃないかな君のお仲間は。
仮にも仲間が戦っている最中、1人情事の実況中継って……」
今まで雨の様に降り注いでいた剣や槍はその動きを止め、同時にアタシの鎖もその動きを止めた。
ノリノリで戦闘に興じていたノスフェアでさえその動きを止めている。
「無理矢理いい話で纏めようとしてるけども明らかにまだ精神を患っているよこれは。
ていうかこれが平常運転だとしたら狂ってるとしか思えないな。地下だが良い医者がいる紹介しよう」
本気で心配顔(といっても顔は見えないが)のクソ親父が攻撃を止めている。
っていうかこれって……。
「チャンスだ!アイネ!」
親父よりも早く正気に立ち直った私はアイネに声を掛ける。
アイネもアイネでそれを理解していた様で私が声を掛けるよりも早く手を打っていたようだ。
>「溺れるがいいですよ!必殺アクアウォール!」
アイネは超特大の水球をクソ親父に叩きつけた。
「ッ!?なんとぉッ!」
そんな親父の驚愕の叫びが消えぬうちに水球は親父を包み込む。
「ッし!アイネ!そのまま抑えておけ!攻鎖結界!殺(と)ったぞクソ親父!」
光の中から召喚された新たな鎖はただの鎖ではない。先端に杭の付いた特別性だ。
アタシはアイネの水球の檻の中に閉じ込められている親父に向け、その鎖を撃ちだした!
鎧を貫く感触が鎖を通してアタシに伝わる。でもまだ足りない。
「まだだ!第一射、二射、三射!続けて穿ち貫け!」
アタシの声に呼応して鎌首をもたげた鎖たちが蛇の様に水球に向かって突進する。
その全てが『鎧』を貫通した手応えを感じた。
「あれ!?ちょ、まっ!」
時同じくしてノスフェアの隙を見てシャルルが動いた瞬間、ノスフェアもその槌で鎌を弾こうとした。
だが、それにはコンマ数秒の遅れ。
シャルルの刃は左肩から入り、右脇腹を抜け、袈裟懸けの様にノスフェアを両断した。
瞬間、紅い線がノスフェアの身体を斜めに駆け巡り、ズルリとその身体が二分された。
零れ落ちる湯気だった臓物と血液。大きく見開かれたノスフェアの目玉。
「ガッ、アァッ!ゲボッ、ガッ、テメェ……ァ……」
そんな断末魔を残し、ノスフェアは息絶えた。
全てを終えた、かのように見えた静寂の中、ぼそりと言葉が呟かれる。
「確か、何と言うんだったか……キャストオフ、とでも言うんだったかな?」
水球と杭の嵐に沈んだはずの親父がそこに居た。
否、親父と言うには若すぎる。青年と呼ぶに相応しい相貌、端正な顔立ち。緑黄色の瞳とアタシと同じ紅く長い髪。
無駄な贅肉など無く均整のとれた肉体、そして……ブーメランパンツ。っていうかブーメランパンツ!?
……この変態親父が。
思わずこんな奴の娘なのか、という恥ずかしさから顔を覆てしまう。
だが、そんな事を悠長にしてる間もない。即座に(精神の)態勢を立て直す。
「てか、なんで無事なんだよアンタ。あそこから抜け出すって……」
「なにも難しい事じゃあないよ愚娘。鎧を瞬脱しただけだ、その推進力で脱出したまで。なぁに難しいことなどないだろ?」
いや、その説明はいろいろおかしい……。
そんな突っ込みを入れる余裕も無く親父は言葉を紡ぐ。
「それにしてもあの恥知らずの陽動からの水球か、生半可じゃあないね。悪魔というものは」
そう呟いた親父。ピクリと嫌な直感が背筋を走る。煙の性質が変化した!?
「アイネ纏わりついてる煙を飛ばせ!シャルルもだ、早く!」
アタシは純白の翼をはたたき、自分に纏わりついていた煙を散らせる。
それからコンマの差だろう、アイネの作った水球が金塊に変化したのは。
いやそれだけではない。今までアイネが使用していたであろう水も何もかもが黄金に変化していた。
シャルルが散々投げまくっていた潰れたパイもその形のまま黄金に変わっている。
「フン、腐っても私の娘か。流石に私の能力を把握しているな」
親父は鼻で笑った後、パチンと指を鳴らす。
「ノスフェア、いつまでふざけているんだい?さっさと起きるといい」
親父がそう言った瞬間、ビクン、とノスフェアの上半身が動く。
「ありゃバレてら?でもアレ迫真の演技だっただろ?『ガッ、アァッ!』って、真に迫ってた感じ?」
斜めに寸断された下半身が立ち上がり、未だ床に伏している上半身の腕を持ち上げ切断面を繋ぎあわせる。
その瞬間、切断面から煙が湧きだし切られた衣服以外が再生する。
「目の前で爆弾抱えて身体全体粉々に吹き飛んだ事を忘れたか?アレで再生可能なら今のは屁でもないだろうね。
それよりも、ノスフェア、アレ」
「ま、確かにそうか、っと。ほれ、これだろオッサン。多少計画が前倒しになったけどまあいいか」
そう言ってノスフェアがスーツから取り出し、親父に投げ渡したのは手に収まらない程の1つの瓶。
「正直、君達悪魔と愚娘を侮り過ぎていたな。全力でやるにはここでは些か狭すぎると思わないかな?」
親父はそう言いつつ瓶を床に叩きつける。
既に煙で充満していた室内に割られた瓶の中から新たな煙が雲散する。
あれは、他の魔法狂いの魔法?煙だけを瓶に閉じ込めたか。
「転移の魔法さ。私達は今から地上に出る。それがどういう意味か理解できるかい?
止めたかったら追ってくることだ。あぁ、それとついでに君達の下品なお仲間にも挨拶しようか。それでは、また後ほど」
そう言いながら親父は二本の黄金剣を拾うと大げさな会釈をしその場からノスフェアと共に姿を消した。
「あッ!クソ、シャルル、アイネ!追うぞ!アイツ等が地上に出たら何するか想像つくだろ!
幸い転移の煙は消えてない!さっさと追わないとマジでロンディニウムが黄金都市になっちまう!」
時同じくして。
「コイツか、あの不敬者は」
「コイツだろうな、てか俺コイツのせいで上半身と下半身がグッバイしてんだけど。
まあ、半分不死身みたいなもんだからいいけどな」
突如としてトムの目の前の現れたゴールド・スミスとノスフェア。
その視線はそのトムの痴態を目にしたからか蔑みに満ちている。
「そこの不敬者、名を名乗れ。貴様のせいで私は鎧を脱ぐことになった。
功績に免じ首を刎ねる前に、名前を名乗る事を許可しよ……って、如何わしい嬌声を上げているソレを消せ!
なんだ?最近の若者はTPOも弁えないのか?ていうかTPOって言葉知ってるか?」
「いや、俺もオッサンも見た目はそうコイツと大差ないからな。理由知らねぇととんだブーメラン発言になっちまうぜ。
つか、オッサンはコイツの相手しなくてもいいだろ。できれば可愛い嬢ちゃんの相手がいいが、コイツの相手は俺がやる。
だからその辺の建物でもなんでも黄金にして新しい鎧作ってこい。嬢ちゃんの裸は大歓迎だが野郎の裸は見てらんねぇ」
そう言って槌と釘打ち機を構えるノスフェアはまだ準備も何も出来ていないトムと対峙した。
さて、のんきに初○を視聴していた俺の眼前、正確には猫バスの外のすぐまん前に、突如、ラスボスと思わしきガチムチパンツレスラーと、何かハンマーを持った男が現れた。
とっさの事に、俺は……俺は……
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
男で………ブーメランパンツのおっさんで………ブーメランパンツのおっさんで抜いてしまった…
だって……だって突然、突然出てきて、もっこりが……もっこりが……。
>「そこの不敬者、名を名乗れ。貴様のせいで私は鎧を脱ぐことになった。
功績に免じ首を刎ねる前に、名前を名乗る事を許可しよ……って、如何わしい嬌声を上げているソレを消せ!
なんだ?最近の若者はTPOも弁えないのか?ていうかTPOって言葉知ってるか?」
「いや、これは逆ネネカ隊戦法という立派な戦術だ!引っかかる貴様が悪い!そう!悪魔で策略!策略なんだ!!」
主に携帯電話の向こうに向かって必死に叫ぶ俺。
しかし、しっかり指示に従ってテレビは消し、股間の大事な何の白い液を拭き、ティッシュを捨ててパンツとズボンを装着する。
そういや最後に洗濯したのってアキヴァ出たときだったような…。
あ、違うな、カプセル入る前に着替えたか。
>「いや、俺もオッサンも見た目はそうコイツと大差ないからな。理由知らねぇととんだブーメラン発言になっちまうぜ。
つか、オッサンはコイツの相手しなくてもいいだろ。できれば可愛い嬢ちゃんの相手がいいが、コイツの相手は俺がやる。
だからその辺の建物でもなんでも黄金にして新しい鎧作ってこい。嬢ちゃんの裸は大歓迎だが野郎の裸は見てらんねぇ」
そう言って、何やらハンマーと釘打ち機を構え、俺(猫バス)に攻撃の姿勢をとる男。
俺はぽりぽりと後ろ頭をかくと、立ち上がって操縦席に着き、コンソールを操作した。
えーと…あった、猫バス内MAP、使用、武器、えーと、ステータス画面、装備……じぇんぶ…よし。
散々不死身不死身言ってたし、まぁ、大丈夫だろ、この位、別に敵だからたとえ死んでもかまわんし。
ってかあれだ、こいつさっさと倒さないと後ろのおっさんのためにやばくなるのは俺のほうだろ、この状況。
ってなわけで俺は猫バスを変形させて人型にして大きく後ろに跳躍し不死身男をロックオン。
猫バスダンジョン内で見つけた武器をありったけ全部猫バスのウェポンラックに転送し、「デビルチルドレンの能力、武器を装備する(普通の人間ももってるけどw)」で猫バスに装備させた(はたからみると猫バスは無数の銃口の生えたような姿になってます)。
で、後は襲い掛からんとする不死身男めがけ…
AKっぽいマシンガンが3丁から7.62mm弾が350発。
M16っぽいアサルトサイフルが1丁から7.62mm弾150発。
ベレッタ似の拳銃が15丁から9mm弾200発。
ニューナンブ38丁から38スペシャル弾もどきが1000発。
手榴弾24個。
サーベル35本。
スタンロッド5個。
コンバットナイフ4本。
ガトリングガン2丁からでかい弾たくさん。
レミントンっぽいショットガン4丁から、弾は80発。
長槍4本。
弓10個から矢が230本。
一斉射撃で降り注いだ。
まぁ、こんだけ撃ちまくればクロックアップしたライダーでもかわせんわな…。
これで倒せる保証はない、いや、多分全く効果が無かったりするだろうが、足止めくらいにはなるだろう…。
いや、なってくれ。
これで駄目ならこのステルスガン(対象を透明にする銃)で自分撃って逃げるしかない!
>「……いや、まったく思わないな。というかまだ精神を患ってるんじゃないかな君のお仲間は。
仮にも仲間が戦っている最中、1人情事の実況中継って……」
>「無理矢理いい話で纏めようとしてるけども明らかにまだ精神を患っているよこれは。
ていうかこれが平常運転だとしたら狂ってるとしか思えないな。地下だが良い医者がいる紹介しよう」
こうして、強引になんとなくいい話で丸め込もうとする作戦は失敗に終わった。
それもそのはず、いくらいい話っぽくしてみたところでエロアニメはエロアニメである。
が、当初の作戦は失敗したもののそれは他の効果を生んだ。
相手がいわゆる「1ターン行動不能」状態になっている!
すかさずアイネがゴールドスミスに特大魔法を叩き込む!
>「溺れるがいいですよ!必殺アクアウォール!」
一方のアタシもノスフェアに斬りこんだ!
「必殺―― 一・刀・両・断!!」
>「ガッ、アァッ!ゲボッ、ガッ、テメェ……ァ……」
まさに一刀両断の言葉通りに、ノスフェアは真っ二つになった。
「やった……か!?」
そしてアリアの鎖がゴールドスミスの鎧を貫通する――
こうして全てが終わ……らなかった。
>「確か、何と言うんだったか……キャストオフ、とでも言うんだったかな?」
そこにいたのは今まで想像していた成金オヤジのイメージとは程遠い端正な顔立ちの青年であった。
しかし最も特筆すべきは……その大胆すぎるファッションであろう。
「何だそのふざけた格好はっ!」
>「てか、なんで無事なんだよアンタ。あそこから抜け出すって……」
>「なにも難しい事じゃあないよ愚娘。鎧を瞬脱しただけだ、その推進力で脱出したまで。なぁに難しいことなどないだろ?」
成程、ふ○こちゃ〜ん!と一瞬で服から抜け出すル○ンと同じ原理か! これをル○ン現象と命名しよう。
名前を付けた所で何一つ謎は解明されていないのだが、名前をつけるとなんとなく分かった気になるのが人間(悪魔)心理の不思議なところ。
と、くだらない事を考えている場合では無かった。
>「アイネ纏わりついてる煙を飛ばせ!シャルルもだ、早く!」
言われた通りに漆黒の翼をはためかせて煙を吹き散らす。
一瞬後、アイネの作り出した水球やアタシのパイが全て黄金に変化していた。
デビチルの作り出した物すら黄金に変化させたということ、そして先程のアリアの慌てよう
それららから導き出される結論は……ゴールドスミスはアタシ達自身も黄金に帰る事が出来る!?
>「ノスフェア、いつまでふざけているんだい?さっさと起きるといい」
>「ありゃバレてら?でもアレ迫真の演技だっただろ?『ガッ、アァッ!』って、真に迫ってた感じ?」
「そんな事だろうとは思っていたが……やはりそうか!」
正直名演技に騙されかけていた。やっぱり「やったか!?」はやれてないフラグなんだよな。
ともあれこれで敵は本気になってしまった。
これから地上侵略を始める、止めたかったら追って来い、とのこと。もう後戻りは出来ない。
>「転移の魔法さ。私達は今から地上に出る。それがどういう意味か理解できるかい?
止めたかったら追ってくることだ。あぁ、それとついでに君達の下品なお仲間にも挨拶しようか。それでは、また後ほど」
>「あッ!クソ、シャルル、アイネ!追うぞ!アイツ等が地上に出たら何するか想像つくだろ!
幸い転移の煙は消えてない!さっさと追わないとマジでロンディニウムが黄金都市になっちまう!」
「下品なお仲間……。トムが危ない!」
謀ってか偶然かは分からないが、とにかく結果的にエロアニメがきっかけで鎧の中身を公開する事にされてしまったのである。
その屈辱は相当なもの……なのかもしれない。
すぐさま煙の中に飛び込み転移。そこで目に飛び込んできたのは――猫バスが弾幕を乱射する光景であった。
さっきまでエロアニメ鑑賞していたとは思えない全力っぷりである。
「にゃおーん!!」
猫バス――またの名をビッグキャットが雄たけびをあげると、鷲、ゴリラ、ワニ、ライオンの姿をした愉快な仲間達が飛んでくる!
ヴィエナにて手に入れた猫バスの姉妹作達である!
「よし! アタシ達も乗って戦おう!」
そう言ってアタシはライオン型ロボに飛び乗った。
必殺のアクアウォールは見事ヒットし、そこをすかさずアリアの鎖が貫く。
同時にシャルルもノスフェアを一刀両断し、すべてに決着が付いた、と思われた。
しかし……。
>「確か、何と言うんだったか……キャストオフ、とでも言うんだったかな?」
いつの間にかゴールドスミスは水と鎖の呪縛から逃れていた。
ブーメランパンツ一丁という、目も当てられない格好で。
>「何だそのふざけた格好はっ!」
>「てか、なんで無事なんだよアンタ。あそこから抜け出すって……」
>「なにも難しい事じゃあないよ愚娘。鎧を瞬脱しただけだ、その推進力で脱出したまで。なぁに難しいことなどないだろ?」
会話が噛み合っているんだかいないんだか。
とにかく、彼は私たちの思わぬ方法であの呪縛から脱出したらしい。
>「それにしてもあの恥知らずの陽動からの水球か、生半可じゃあないね。悪魔というものは」
「褒めても何も出ないですよ。不意打ちは攻撃の王道ですよ」
そう軽口を叩く。こちらは正々堂々と不意を打ったまでのことである。
しかしその瞬間、嫌な予感が胸を貫いた。奴が何か仕掛けてきている!?
同時にアリアの叫び声が響く。
>「アイネ纏わりついてる煙を飛ばせ!シャルルもだ、早く!」
慌てて背中の水翼をはためかせ、周囲の煙を打ち払う。
その直後だった。私の操作していた水達が、一斉に黄金に姿を変えたのは。
煙に触れているすべての物質を黄金に変える……おそらく奴の能力のひとつだろう。厄介な能力だ。
黄金を自在に操作できるだけではなく、黄金そのものを生成できるとは……困った事である。
対策としては、この翼を生かし煙を寄せ付けない事か。面倒な話だ。
>「ノスフェア、いつまでふざけているんだい?さっさと起きるといい」
その声に呼応して、さっきまで真っ二つになっていたノスフェアが起き上がる。
彼の再生能力も伊達ではないようだ。粉々にされても平気とは……。
黄金使いに再生能力者、彼らを打ち倒す手段などあるのだろうか?
>「正直、君達悪魔と愚娘を侮り過ぎていたな。全力でやるにはここでは些か狭すぎると思わないかな?」
そう言うと、ゴールドスミスはおもむろに小瓶を床に叩きつける。
中からあふれ出てきたのは魔法の煙だ。ゴールドスミスのものと性質が違うのだろうか。
>「転移の魔法さ。私達は今から地上に出る。それがどういう意味か理解できるかい?
止めたかったら追ってくることだ。あぁ、それとついでに君達の下品なお仲間にも挨拶しようか。それでは、また後ほど」
そう言って煙の中に消える二人。彼らはまんまと地上に出たのであろう。
私たちは、まだ消えぬ煙に身を投じ、大急ぎで二人のあとを追った。
煙を潜ると、そこは私たちが地下に潜入した場所であった。
付近には猫バスが停車している。きっとトムがここまで回してくれたのだろう。
先行していた二人に対峙する猫バスは、おもむろに二足歩行形態に変形すると、ノスフェアめがけ一斉掃射を始めた。
発射されたのは無数の弾丸からナイフ、矢まで。荒い攻撃だがトムらしい。
奴の能力を考えるとこれで倒すのは無理があるが、時間稼ぎくらいにはなってくれるはずだ。
>「にゃおーん!!」
猫バスの雄たけびに呼応して、ヴィエナで手に入れたロボットたちが飛んできた。
ここからはロボットバトルのターンだ。容赦などしてやるものか。
私はトムの様子が気になったので猫バスへ乗り込む。案の定操縦席でヘタれていたので押しのけて操縦席を占拠する。
怪しげな音楽をBGMに(自前)シャルルの搭乗したライオンロボを中心として4体のロボが合体していく。
完成したのはかつて敵であったビッグジュゼッペである。だがしかし合体は止まらない。
ビッグジュゼッペは一旦ばらばらになると、猫バス……否、ビッグキャットを中心に再構成されていく。
かくして、まるで鎧のようにロボットを身に纏ったビッグキャットが完成した。
いや、もうビッグキャットという名称は不釣合いだろう。
「「「攻強皇國機甲、ハイパービッグキャット!見参!!」」」
これぞ変形ロボと合体ロボの合わせ技だ。うん、格好良く決まった。
ネーミングセンスがないのはこの際スルーして欲しい。こういうのは勢いが大事なのだ。
さて、生身の人間二人を相手に合体ロボで応戦というのもえげつない話だが、この際どうでもいい。
私たちにはこの街を救うという使命があるのだ。全力で挑まねばならない場面である。
「行くですよ、ハイパービッグキャットパンチ!」
目の前に立つ二人に向けて、渾身の一撃を振り抜いた。
「ミンチよりひでぇや」
辺りに散った肉片と瓦礫を見てそう呟いたゴールド・スミス。
が、あくまでそれだけの感想でありノスフェアに対する心配は微塵もない。
ノスフェアの肉片からは黒い煙が吹き出し、徐々に人間の形を形成していく。
「さてさて、向こうはとんでもない兵器を出してきたようだね。
なんと言うんだろう、とんでも兵器、かな? 科学進んだものだねぇノスフェア」
「ゴホッ、あーあーテステス。まったく冗談じゃねぇよ。たった一人にあの火力。
オーバーキルだよ、オーバーキル。此処はハンバーガーヒルか? ペチペチハンバーガーこねちゃいます?」
ようやく肉片から再生が完了したノスフェアは喉の状態を確認しながらゴールド・スミスの言葉に応える。
>「「「攻強皇國機甲、ハイパービッグキャット!見参!!」」」
「で、オッサン。いつの間にかすんげぇのが出て来てるけど大丈夫?」
「問題ない。彼女等悪魔は強い、躊躇が無い、容赦がない。が……しかし、一歩遅かった」
>「行くですよ、ハイパービッグキャットパンチ!」
唸りを上げて放たれる超重量級の一撃。
当然そこに出来上がるのは血に塗れたミート煎餅が2つ。
だが、あるはずのミート煎餅は無く。代わりに超重厚な黄金の壁が出来上がっていた。
幾分か黄金の壁にめり込みその一撃を止めるビックキャット。
「ゴールデン・ウォール……君達の来る前に既にこの区の仕込みは済んだ」
言われてゴールド・スミスの背後を見れば眩い黄金の街に人。
黄金変換で区の物質全てを金に変え、壁は黄金変化でそれらを溶解し変化させ作り出した。
「さてさて、こちらもお返しと行こうかな。ゴールデン・ストライク!」
ゴールド・スミスの背後の黄金が形を変え巨大な拳へと姿を変える。
その巨大な一撃は間違いなくビッグキャットの機体をとらえていた。
シャルル達が大決戦を繰り広げている、その頃。少し離れた広場にて。
「あー、最悪だ最悪だ! 黒服の天使、あぁ、このさい白服でもいいや!それと協力してくれる魔法使いたち集まれ!」
『強制集合貝』を吹き、少し待つ。
「「「「「お呼びでしょうか、アリアの姉御!」」」」」
「「「「「この異常事態の不始末の件ですか? まずはご説明を、アリア様」」」」」
「呼んだかな? 就寝前のチックタック、此処に参上!」
「意外とシリアスな場面だよ。自重しなよチックタック。インフィ、此処に」
「いきなりの変装解除、聞いてないぞ。まあいい金が貰えるならな。トリックだ。
他にも多数の地上組の魔法使いが来ている。お前の人徳だなアリア」
広場に集まった天使、魔法使い達をぐるりと見回す。
まったくこの異常事態だってのによくもまあ。馬鹿だなぁコイツら。
やば、すこし目頭が熱く……。ってそれはいいんだよ!
「悪ぃが状況の説明をしてる暇は無ぇ。ただ一つ簡潔に言うならロンディニウムの危機って所だ。
責任は後でアタシがいくらでも取る。この首、必要なら戦犯として落とされるのも辞さない。
だけど、その前にお前等の協力が必要だ!」
アタシは一拍置いて、叫ぶようにその言葉を口に出す。
「今、アタシの友達が、大切な親友がこの都市の為に戦ってくれている!
何のメリットもない! ただ、それが責務だからと無償で戦ってくれている!」
本当は何か悪魔達に有利な件があることは確かだがここは黙っておこう。
アタシもよく知らねーし。だけど戦ってくれているのは事実だ。そこは曲げられない。
「決して勝てるとは言えない戦いだ。敵は魔法使いの王! それでも戦ってくれている。
アタシ達に出来ることは何だ!? ただその無事を祈ることだけか!?
否、違う! もっと何か、何か出来るはずだ!
そこでアタシは今、この場の指揮官として命じる! 全員、区の住民を全力で避難させろ! 一人も見逃すな! 親友の恩義に報いよ!」
もうこの戦いを止めることは出来ない。ならば、シャルルやアイネ達に少しでも戦いやすい場を作ること。
「1分以内に区の避難を完了しろ! 必ずだ! 黄金に変えられてしまったものはこの戦いに勝てば戻せる!
だから全力を尽くせ! これは命令であり、心からの願いだ! 全隊行け、生きて戻れ! これ以上の犠牲者を出すな!」
アタシの気力に押されてか、全天使、そして魔法使いは散っていった。ただ一人を除いて。
「ふん、自分の首を掛けるとはらしくねぇな。アリア」
「……トリックか。マリア様は?」
「それを報告するために残ったんだよ。とっくに起きてる。今はこの戦いを見守っている。
アレだ。高みの見物ってヤツだな。アンタが現場で頑張ってるのに気楽なモンだぜ。お偉いさんは」
「マリア様はそんな天使じゃない。それは私が一番分かってる」
「……どうかな、アンタのそれは親愛か憧れだろ? 理解からは一番遠い位置さ」
「…………」
「ま、いい。俺は金さえ貰えれば文句は無い。クレバーな性格なもんでね」
そう言ってトリックはその場を去っていった。その数十秒後、一人の天使が報告に来る
「アリア様、区の住民の避難、完了しました!」
先ほどのトリックの言葉に首を振り、呼吸を整える。考えるのは、後でいい。
「……さあ、いくぜ。アタシの最大全力の能力が広範囲、縛鎖結界!」
アタシが地面に手を付いた瞬間、幾万幾億もの鎖がアリアやシャルル、ゴールド・スミスを中心にドーム状に形を変え彼らを覆う。
これがアタシの最大出力。これで他の区には被害は及ばない。
あとは、任せたぜ。シャルル、アイネ、トム。失敗しても恨まねー、だから絶対に成功させな。
>「「「攻強皇國機甲、ハイパービッグキャット!見参!!」」
暫しの絶叫マシーンの状態の後に、いつの間にかビッグキャットを中心として超五体合体。
モニターを見ると、ヘタレたトムを押しのけてアイネがビッグキャットの操縦席に座っていた。
「一気にカタをつけるぞ!」
「行くですよ、「ハイパービッグキャットパンチ!」」
息を合わせて必殺のパンチを放つ。
しかしそれは突如として現れた黄金の壁にめり込んだ。
>「ゴールデン・ウォール……君達の来る前に既にこの区の仕込みは済んだ」
「見え透いたハッタリを……!」
>「さてさて、こちらもお返しと行こうかな。ゴールデン・ストライク!」
黄金の拳が迫ってくる!
「迎え撃て!」
瞬時にしてハイパービッグキャットの片方の手に大鎌が現れ、もう片方の手が巨大ハイドロポンプに変形する。
猫バスの搭乗者の能力を反映する能力はハイパービッグキャットになっても健在……いや、むしろ強化されている!
ハイドロポンプから発射された超高圧の激流が黄金の拳の勢いを弱め、更に大鎌で受け止める。
暫しの拮抗状態の後、互いに距離を取って睨みあう。
「どうした? どこからでもかかってこい」
「無茶言うなよオッサン、心優しい悪魔ちゃんが弱い人間を巻き添えに出来るわけないだろお?」
こちらの弱みを完全に読まれている!
当然こちら側は少なくとも人的被害は出さないように戦わねばならないが、向こうは何人死のうが構わないのだ。
しかもそれを相手が織り込み済みとなれば明らかに不利。……その時だった。
>「1分以内に区の避難を完了しろ! 必ずだ! 黄金に変えられてしまったものはこの戦いに勝てば戻せる!
だから全力を尽くせ! これは命令であり、心からの願いだ! 全隊行け、生きて戻れ! これ以上の犠牲者を出すな!」
モニターに映るのは、必死で声を張り上げるアリアの姿。
その想いが通じ、迅速に避難を開始する人々。
>「……さあ、いくぜ。アタシの最大全力の能力が広範囲、縛鎖結界!」
アリアの鎖が外界から隔絶された闘技場を作り出していく!
「ありがとうアリア。残念だったな……これで条件は同じだ!」
ハイパービッグキャットが左右で様相の異なる翼――水の片翼と漆黒の片翼を広げる。
そして猫の手の中に現れたものは……自在に姿を変える、美しくも恐ろしい水の大鎌だった。
「高圧の水は金属をも切断する。合わせろ、アイネ!」
先程は打撃だった故黄金の壁に防がれた。ならば斬撃なら――?
鋼よりも鋭い水の刃が弧を描き、二人の立つ空間を切り裂く。
渾身の力を込めて振りぬいた拳は、突如現れた黄金の壁に阻まれた。
どこからこの大質量の黄金を用意した……?いや、答えは目の前にあった。
見ると、この区画全域の街並みが黄金に変わっていたのだ。
>「ゴールデン・ウォール……君達の来る前に既にこの区の仕込みは済んだ」
先に黄金を生成したからあとは操り放題と言う訳か……厄介な事をしてくれる。
だが奴とて一度に操れる黄金の量は限られているはず。まだ勝機はあるはずだ。
>「さてさて、こちらもお返しと行こうかな。ゴールデン・ストライク!」
黄金で生成された巨大な拳がハイパービッグキャットへと迫る。
この距離ではすでに避ける事は不可能……ならば取る手はひとつ!
>「迎え撃て!」
次の瞬間、ハイパービッグキャットの片手に大鎌が、もう片手にハイドロポンプが現れる。
猫バスの特殊能力、搭乗者のパワーを機体に反映させる事が出来るのだ。
ハイドロポンプの水流が黄金の拳を押し返し、そこを大鎌で受け止める。
両者の力は現時点で互角と言ったところか……力押しで敵う相手ではないようだ。
本当はもっと派手に暴れたいところだが、ここで暴れると街に被害が出てしまう。
何か……何か策はないものだろうか?
>「どうした? どこからでもかかってこい」
>「無茶言うなよオッサン、心優しい悪魔ちゃんが弱い人間を巻き添えに出来るわけないだろお?」
こちらの手の内を見透かされている……!
せめて、この街の人々が迅速に避難してくれたのなら……。
そのときだった。モニターに映る必死な姿のアリアに気付いたのは
>「1分以内に区の避難を完了しろ! 必ずだ! 黄金に変えられてしまったものはこの戦いに勝てば戻せる!
だから全力を尽くせ! これは命令であり、心からの願いだ! 全隊行け、生きて戻れ! これ以上の犠牲者を出すな!」
見ると、たくさんの天使や魔法使いたちが街の人々を避難させてくれている。
間もなく避難は完了し、街には誰一人としていなくなった。
これならば被害を気にせず戦える!
>「……さあ、いくぜ。アタシの最大全力の能力が広範囲、縛鎖結界!」
更にアリアが鎖で私たちを囲むようにドーム状の閉鎖空間を作り出してくれた。
この区間のみでの戦いとなれば、相手の黄金の使用量も減り有利に戦えるはず。
>「ありがとうアリア。残念だったな……これで条件は同じだ!」
「覚悟するですよ。今の私たちは半端なく強いですよ?」
出力は最大、ハイパービッグキャットの背中から水と漆黒の二枚の翼が生える。
そして手中に生成されたのは、高水圧の水で出来た大鎌だった。
高水圧のウォーターカッターは鋼をも切り裂く。ましてや黄金など容易く切断するだろう。
>「高圧の水は金属をも切断する。合わせろ、アイネ!」
「承知!食らうがいいですよ、アクアデスサイズ!」
水の刃が空間を切り裂く。その刃は、間違いなく二人の姿を捉えていた。
しかし、それもまた黄金の壁で阻まれる……と思いきや、その壁を水の大鎌は真っ二つに切り裂いた。
黄金は所詮金属では柔らかい方、高圧の水の前には盾となり得ないのだ。
黄金の壁を踏み台に斬撃をかろうじて避けたのだろう、二人に鎌を突きつける。
「今のあなたたちに勝ち目はないですよ。今だけなら投降を許すですよ、どうするですよ?」
「さすがにこの状況じゃオッサンを守りきる自信はないわ、どうするオッサン?」
オッサン、もといゴールドスミスは沈黙を保ったままだった。
この場から逆転できるような秘策でもあるのだろうか?
私たちは、半裸で佇むゴールドスミスの動向をじっと見つめていた。
>「承知!食らうがいいですよ、アクアデスサイズ!」
水の刃がスパっと黄金の壁を切り裂く。
それでもノスフェアにゴールドスミスが伴われる形で避けられ、回避される。
しかし連続で仕掛ければ避けきれなくなるのは時間の問題だ。
>「今のあなたたちに勝ち目はないですよ。今だけなら投降を許すですよ、どうするですよ?」
>「さすがにこの状況じゃオッサンを守りきる自信はないわ、どうするオッサン?」
すごむアタシ達を前に、暫し沈黙するゴールドスミス。
沈黙していたかと思えば、突然拍手をしはじめた。
追いつめられておかしくなったのだろうか。
「素晴らしい! 私達をここまで追い詰めるとは噂に違わぬ……いや、噂以上の実力だ!
いやはやたまげた……よもやこれを使う事になろうとはね。
……そなた達の力に敬意を称してとっておきを見せてあげよう!
とくと目に焼き付け、冥土の土産とするがよい!! ふんっ!」
本日最大級の魔法が炸裂する――!
領域中の黄金が一斉に浮き上がり、ゴールドスミスの周囲に集結していく!
ただ集結するだけではなく、巨大な人型の形を成していく。
変化が終わった時そこに佇んでいた物は――世にも製作費がかかりそうな黄金色に輝く巨大ロボットであった!
「金色黄金機神、ゴールデンボンバァアアアアアアアア!!
おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
金色と黄金が微妙に被ってるじゃん!とツッコみたくなる名前だが、ロボのネーミングについてはこちらもとやかく言える程ではない。
黄金の両こぶしを使っての百烈拳が炸裂する!
「ぐあっ……!?」
しかし先程証明されたように黄金の強度より水の鎌の切断力の方が上。
1, 2発喰らってよろめきながらも、黄金ロボの両腕を切断する。
しかし切り落とされた腕が浮き上がって再びくっつく。
戦闘のモーションはノスフェア、再生はゴールドスミスで分担しているのだろう。
「どうだ、私の真の鎧は! いつも着ているのはこれの簡易版に過ぎないのだよ。
流石に狭い地下でこんなものを着るわけにはいかんからなあ!! はーっはっはっはっは!」
ゴールドスミスはテンション絶好調で高笑い。無駄なドヤ顔が目に浮かぶようだ。
鎧をじわじわ削るのが出来ないのなら、直接コアを叩きに行くしか方法はない。
問題はご本人さん達がどこに入っているのか分からないという事。
普通に考えれば真ん中あたりだが、意表を突いて足等にいるのかもしれない。
「要は一息にお前の乗っている場所を切ってしまえばいいんだろ? 行くぞアイネ!」
考えたって仕方がない、どこが当たりか割らなければ数撃つだけの話だ。
巨大ロボット同士の大決戦が始まる!
>「素晴らしい! 私達をここまで追い詰めるとは噂に違わぬ……いや、噂以上の実力だ!
いやはやたまげた……よもやこれを使う事になろうとはね。
……そなた達の力に敬意を称してとっておきを見せてあげよう!
とくと目に焼き付け、冥土の土産とするがよい!! ふんっ!」
突然の拍手と共にそう言ったゴールドスミス。次の瞬間、周囲の黄金が一斉に動き出す。
人型の形状に集結したそれは、まさしく黄金のロボットとも言うべき代物だった。
圧倒的な存在感……否、むしろあまりの趣味の悪さと言って良いだろう。
こんなものと戦わなければならないかと、ちょっとだけがっかりしてみる。
>「金色黄金機神、ゴールデンボンバァアアアアアアアア!!
おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
あまりのネーミングセンスの無さに呆然とするが、突っ込んでいる余裕はなかった。
黄金の両腕による素早いパンチが炸裂してきたからだ。
巨体に似合わぬあまりの速さに対応し損ねるが、そこは合体した新生ビッグキャット、ほとんどダメージはない。
逆にこちらから鎌を振るい、ゴールデンボンバーの両腕を切断する。
しかし相手もさる者、すぐに両腕を復元して襲い掛かってきた。
>「どうだ、私の真の鎧は! いつも着ているのはこれの簡易版に過ぎないのだよ。
流石に狭い地下でこんなものを着るわけにはいかんからなあ!! はーっはっはっはっは!」
高笑いが周囲に響き渡る。市街地を黄金に変えたばかりでなくこうも五月蝿いとは、全く迷惑な連中である。
>「要は一息にお前の乗っている場所を切ってしまえばいいんだろ? 行くぞアイネ!」
「合点承知ですよ!こんなやつ、木っ端微塵にしてくれるですよ」
水の鎌を回転させ、黄金ロボを滅多切りにしていく。
回復力で勝る相手に対し、こちらは運動性能で上を行っているようだ。
ならば、相手の動きより早く細切れにしてやれば済む話である。
最初の一撃で相手の頭をすっ飛ばし、宙に浮いたそれを更に切り刻む。
しかし相手は意に介さずこちらに拳を振るってきた。
黄金の拳を鎌で受け、押し返す。頭が弱点かとも思ったが、そうではないようだ。
ふとそのとき、嫌な予感が走った。反射的に回避運動を取る。
「食らうがいい、ゴールデンショットォォォ!!」
その声と共に放たれたのは黄金の槍。胴体の穴から射出したようだ。
タイミング良く物陰に回避したから良かったものの、当たったらただでは済まなかっただろう。
しかし飛び道具とは厄介だ。こちらも飛び道具を使いたいところだが、トムではないのでいまいち操作が分からない。
しかもトムが先ほど、大半の射出武器を使ってしまったのである。こちらには玉数もない。
手段としては、放たれた槍を払い除けつつ相手に接近し、攻撃するしかない。
手段を選んでいる余裕はない。タイミングを見計らって、物陰から飛び出す。
すぐさま飛んできた黄金の槍を弾き返しつつ、一気に間合いを詰める。
「覚悟ですよ、ウォーターカッター!」
そう叫びつつ、黄金ロボの胴体を縦横に両断する。
それでも動き続けるロボに対し、さらに鎌を振るった。
胴体は崩れ落ち、下半身のみが直立している状態……仮に弱点が胴体にあれば、これ以上動く心配はないはずだ。
しかし油断は出来ない。胴体からの操縦で下半身が動くかも知れないのだ。
私たちは、油断することなく相手の出方を伺った。
「終わりだな、おっさん」
ノスフェアがまるで何事も無いように呟いた。
「……そうだな、終わりだ。いや、終わっていたなノスフェア」
そう、終わっていた。勝敗が、ではない。
勝負そのものが、何もかもが、ある瞬間から終わっていたのだ。
「それでも戦ったのは意地かい? おっさん」
「いや、なに悪足掻きさ。それと人間どもの希望とやらの悪魔達の力を見てみたかった」
「そっか。いやぁ〜、しかしなんだな。あのアリアちゃんがここまで力をつけてたなんてなぁ」
「ふん、腐っても我が愚娘といったところさ」
どろり、と、まるでバターが溶けるように金色黄金機神の下半身は蕩け、中から2人が現れる。
ゴールド・スミスが黒煙を放出すると溶けた黄金が元の家や人に戻っていく。
「黄金支配、解除。私達の負けだ。そして、君達の敗北だ」
両手を上げたゴールド・スミスは薄い笑みを浮かべながら辺りを見回す。
黄金にされた人や動物たちは何がなにやら分からないと混乱の極みだ。
それを見たゴールド・スミスとノスフェアは訝しげな顔をする。
「ふん、何を考えているのやら。まだ、猶予があるみたいだね」
「あぁ、だがあんま時間がないと考えたほうがいいぜ、おっさん」
ノスフェアの言葉に頷くとゴールド・スミスは両手を上げた姿勢のまま言葉を紡ぐ。
「悪魔諸君、その物騒な機械から降りて話をしないか? 多分、君達も興味を惹かれる話だろうよ
人間どもの希望の体現者、天使達への切り札、成功体である君達には、ね」
一方その頃、少し離れた広場にて。
クソ親父達とシャルル達の死闘が始まって少しした頃だろうか。マリアが私の元にやってきた。
すっかり酔いの抜けたその顔は規律を遵守する指導者その者だ。
あの宴会の時のぽややんとした雰囲気はまるでない。
「アリアちゃん、今の状況を簡潔に説明」
「……シャル、いや悪魔達が魔法狂いと接触。目的は話し合いだったが、そのまま交戦となり今の状況だ」
「ふ〜ん、それで〜、今中の状況はぁ〜?」
中の様子を探れるのはその結界を創り出したアタシしかいない。
何百何千億という鎖で編みこまれたドーム状の結界を覗く術はマリアでも無理だ。
「魔法狂いの親玉が降参、見事、悪魔側の勝利って所だな。結界解いても問題ないんじゃねーか、と―――?」
そこでアタシが言葉を止めたのはマリアの顔があまりにも無表情だったからだ。
なんの感情も読み取れない。まるで仮面をつけたようなその表情のまま、マリアは言った。
「ね〜、アリアちゃん。縛鎖結界って圧縮すること出来ないかなぁ〜?」
聞き違いであって欲しいが、残念ながらアタシの耳はどこぞのライトノベルに出てくるような主人公の様には出来ていない。
「……出来るが、それは結界内で懸命に戦っていたシャルル達を殺しちまうことになるぜ」
そんな当たり前の答えをアタシはマリアに返す。
アタシの縛鎖結界はその大きさを自由に伸縮出来る。
それこそドーム状に出来るし、中にいる奴をブチッと圧縮して潰してしまう事も可能だ。
「えぇ、それは承知の上よ。悪魔さん達を殺してしまうことになるわね。
とてもいい娘達だったからとても残念だわぁ〜」
ゾワリと背筋を色とりどりの毛虫が走っていく気色悪い感覚が流れる。
悪感、怖気、人間はその感情を色々な言葉で言うだろう。
「……何故? それをしなくちゃならねー? このままシャルル達が勝って同盟結んでハッピーエンド、って訳にはいかねーのか?」
頬を伝う汗を拭いもせずに、マリアの言葉に反論する。
「……? それこそ言わなきゃ解らないアリアちゃん? 今この瞬間、ゼウス様に立てつく2つの勢力の大物を仕留めるチャンスなのよ?
いえ、悪魔さん達に至っては根こそぎ排除する千載一遇のチャンス。
この功績があれば、後の都市の運営もそれはもう華やかで素晴らしいモノになるわよ?
この都市の人間さん達の管理は完璧に、恒久の平和が約束されるの。アリアちゃん、貴女には辛い事だけど切り捨てる覚悟も必要だと私は思うの」
かつて私がそうしてきたように、少数を切り捨て、多数を生かし、そして繁栄させる。
マリアは無表情のままそう続けた。……いや、違う。これはマリアじゃない。
たとえ、マリアが口にしていたとしても、マリアは絶対にこんな事、言わない。
「アリアちゃん、貴女がつらいのはよく分かるわ。だから、その捕鎖結界の魔力を私に譲渡しなさい。
潰すのは、私が一瞬でやってあげるから。これも人間さん達の為なの。恒久の平和の為なの」
『……どうかな、アンタのそれは親愛か憧れだろ? 理解からは一番遠い位置さ』
ふと、先ほどのトリックの言葉が頭を掠める。
親愛は確かにある。憧れもある。だけど、理解が無いわけじゃない。
はは、一体アタシが何年マリアの下で一緒に働いてきたと思ってんだよ。
くだらねー、こんな事、マリアが言うわけねーじゃんか。
もう、汗は流れていなかった。
「わりぃーが、この魔力の譲渡は出来ねー。アタシは友達を裏切らない。
チックタック、アタシの槍を! どーしても魔力を奪いたいならアタシを殺していきなマリア。
ま、その前に、何かに操られた頭ぁ、元に戻してやっからよォッ!」
黒煙と共にアタシの手に現れる愛槍、胸ポケットからタバコを取り出し口に咥える。
火は付けない。このタバコに火をつけるのはこれを無事に乗り越えてからだ。
>「黄金支配、解除。私達の負けだ。そして、君達の敗北だ」
黄金ロボの下半身が融け、中から二人が出てきた。
黄金にされた物や人々が元に戻っていく。
降参、と見てよいだろう。でも”君達の敗北だ”とは一体?
ただの負け惜しみであってくれればいいのだが……
二人は周囲を見回して意味ありげな言葉を交わす。
>「ふん、何を考えているのやら。まだ、猶予があるみたいだね」
>「あぁ、だがあんま時間がないと考えたほうがいいぜ、おっさん」
その言葉の意味は分からなかったが、つられて周囲を見回して何となく違和感を覚えた。
少し遅れて違和感の正体に気付く。
そろそろ解除されていいはずの縛鎖結界が解除される気配がないのだ。
>「悪魔諸君、その物騒な機械から降りて話をしないか? 多分、君達も興味を惹かれる話だろうよ
人間どもの希望の体現者、天使達への切り札、成功体である君達には、ね」
ロボから降り、警戒しながらも魔人化を解除する。
縛鎖結界はまだ解除されない。何とも言えない嫌な予感が背筋を走る。
「お茶でも飲みながらゆっくり話しましょうか
……と言いたいところだけどどうも呉越同舟ってやつになってしまったかもしれないわね」
ゼウスに忠実な普通の天使から見れば、敵対する二つの勢力を一緒に捕えている形の格好の状況。
しかし縛鎖結界を操っているのは天使としては規格外のアリア。
一緒に自ら危険を犯して戦ってくれたアリアが黒幕のはずはない。ならどういう事……?
「もしかして今こんな状況になっている原因にもその話が関係してくるのかしら。
黒幕の心当たりがあるの?」
戦いは終わった。私たちはゴールドスミスに勝利したのだ。
黄金は元の物質に戻り、黄金にされた人々も元に戻った。
ふっと肩から力を抜く。相手が黄金使いだから勝てたようなもの。仮に鋼鉄を使われたら勝てなかったかも知れない。
>「黄金支配、解除。私達の負けだ。そして、君達の敗北だ」
君達の敗北?妙な事を言う。まるで私たち以外にも勢力があるような言い方だ。
悪魔と魔法使い、そして……まさか天使勢を指しているのだろうか?
否、天使たちは交渉もうまく行き私たちを攻撃しないはずだ。
しかしそれが誤りだったとしたら?とにかくゴールドスミスに問い質さねばならないだろう。
>「悪魔諸君、その物騒な機械から降りて話をしないか? 多分、君達も興味を惹かれる話だろうよ
人間どもの希望の体現者、天使達への切り札、成功体である君達には、ね」
「どういう意味だですよ。それに私たちの敗北とはですよ?」
質問を呟きながら、ひとまずはビッグキャットから降りる。
魔人化能力を使い過ぎてしまった。明日辺り全身の痛みに悩まされる事だろう。
魔人化能力は大きな力を得る代償に、体力を酷く消耗する。
私の場合は体力を大幅に消耗し、筋肉痛を引き起こすのだ。
まぁ、能力の代償に人間性を失う連中に比べたらずっとましだと思う。
少なくとも私は、今のところ人間性を失ってはいないのだから。
>「お茶でも飲みながらゆっくり話しましょうか
……と言いたいところだけどどうも呉越同舟ってやつになってしまったかもしれないわね」
そのときようやく私も異変に気づく。アリアの縛鎖結界が解除されないのだ。
こちらの様子が分からないわけでもあるまい。これも何か意図があるのか?
「お茶にしたいのは山々、いい加減喉が渇いたですよ」
本当はビッグキャットに引き返し本当にお茶を用意したいところだが、その余裕はなさそうだ。
仕方なしに残り少なくなったボトルの水を飲み干す。残りはあと一本、残しておかねばなるまい。
>「もしかして今こんな状況になっている原因にもその話が関係してくるのかしら。
黒幕の心当たりがあるの?」
「お前が言っているのは天使勢の事なのかですよ?少なくともアリアは味方ですよ」
それだけは間違いではないはずだ。私たちを体を張って助けてくれた、彼女が嘘など付くはずはない。
いっそ結界を破壊してしまおうかとも思う。ビッグキャットの力なら可能かも知れない。
とは言え、鋼の鎖による結界を破壊するのは一苦労だろう。戦闘で消耗した私たちには厳しいだろうか。
少なくとも今は、アリアを信じて待つより他に方法はなかった。
ここは暫し、再びブーメランパンツ一丁になったおっさんと会話でもしよう。
>「どういう意味だですよ。それに私たちの敗北とはですよ?」
>「お茶でも飲みながらゆっくり話しましょうか
……と言いたいところだけどどうも呉越同舟ってやつになってしまったかもしれないわね」
>「もしかして今こんな状況になっている原因にもその話が関係してくるのかしら。
黒幕の心当たりがあるの?」
>「お前が言っているのは天使勢の事なのかですよ?少なくともアリアは味方ですよ」
「さて、どう話したものだろうかね? 時間制限がわからないとはなんとも不便だ」
コンクリートの床に黒煙を吹きかけ、一部を黄金に変換する。
そうしてゴールド・スミスが指を鳴らすとまるで茸がにょきっと生えるが如く即席の椅子が人数分飛び出してきた。
「とり合えず掛けたまえよ、落ち着き無く立ったまま肉団子になるのは嫌だろう?」
いの一番に黄金の椅子に腰掛けながらゴールド・スミスは言った。
「では先に答えから言おうか。この賭けは、マリア・マーガレットの総取りといヤツだ」
「知ってんだろ? あの巨乳でタレ目でぽややんとした天然っぽい、天使どもの総大将の事だよ。
そいつの指示であの鎖が一気に俺達を潰す。それで終いだ、何故だか今は何の変化も無いがな」
ゴールド・スミスの言葉を引き継いで、ノスフェアが付け足す。
フン、と鼻で笑いながらゴールド・スミスは自嘲の笑みを浮かべる。
「まったく愚娘だ愚娘だと罵って来たが、ここまで甘々の愚娘だったとはね。
チェインはね、口調は『ああ』だが根っからの平和主義者だったのさ。
『人と魔法使いは平等にすべきだ』『差別なんてするもんじゃねー』、なんて甘いことを言って私といつも喧嘩ばかりしていたさ」
自嘲的な笑みが、少しばかり昔を思い出すような懐かしそうな顔になった。
「さて、話は変わるが。私達が数十年前に天使達を倒した話は聞いたかな?
その様子だと聞いたようだね。
では此処からが多分、君達にとって興味を惹かれる話だ。
私達が勝利して、それとほぼ同時期に魔法使い達が数十名姿を消した」
とんとん、と肘掛を指で叩きながらゴールド・スミスは説明を続ける。
「いや、消した。というのは正確ではない、攫われたのさ。誰に? 答えは簡単、天使と人間にさ」
ゴールド・スミスの言葉に2人の悪魔に少なからずの動揺が感じ取れた。
「まずは天使からだ。前々の戦争では両者無傷とはいかなかった。魔法使い側にも何名か犠牲者が出た。
その犠牲者の亡骸を連れ去った天使が目撃されている。
次に人間。確か『ヘル』とかいう所から来た連中だったな。アレは攫っていったというよりも洗脳という方が正しいか。
ともかく、私たち仲間の亡骸と仲間達はこの都市から姿を消した、そして数十年後……」
少し間を作るゴールド・スミス。
「見ての通りの様だ。戻ってきた天使達は魔法が効かない身体となっていた。
そして天使に対抗できる魔法使いの上位種の悪魔、つまり君達が現れた」
それの意味する所は? ゴールド・スミスは考える。
おそらく、彼らは私達の仲間を研究したのだろう。天使の方は亡骸を、人間の方は生きた検体を使って。
研究……いかにも生易しい言葉の響きだ。その内容は凄惨極まるものだろうに。
「……悪魔諸君、君達は一体どういう過程で生まれ、どれ程の犠牲の果てに生まれたか考えたことはあるかな?
君達希望の光の裏には影がある。光が強ければ強いほど尚のこと、ね」
さて、と、一通り語り終え、一息付き頭上を見上げるゴールド・スミス。
幸い、まだ結界が圧縮される気配がない。まったくあの愚娘は相も変わらず甘いことだ。
「あぁ、そうそう。この鎖の檻を壊す事を考えているのならまったくの徒労だよ。
私の愚娘はある意味特別でね。天使と魔法使いの複合体、とでも言うべきか。
故に、魔法の構造が複雑過ぎてね。例えるなら簡単に解けるように見えて数百年費やしても解けないパズルといった所か。
ともかく、いかに強い諸君等であろうとあの鎖の檻は、多分、破れない。
あぁ、それとくれぐれも勘違いはしないでくれよ、私は間違ってもあの天使どもと交わってはいない。
前の戦争の事故で、チェインは『ああ』なったんだ。もし此処を生きて出られたら直接聞くがいいよ。
チェインが『ああ』なった理由をな。まあ、生きて出れたらの話だけどね」
言われるがままに黄金の椅子に座り、漁夫の利を狙う黒幕の正体が告げられる。
それは今まで盲点だったが冷静に考えてみれば納得というものだった。
あの行き過ぎなまでのぽややん天然はこちらを油断させるためのフェイクだったのだ。
おそらくべろんべろんに酔っぱらったのもこちらに行動を起こさせるための演技だったのだろう。
>「知ってんだろ? あの巨乳でタレ目でぽややんとした天然っぽい、天使どもの総大将の事だよ。
そいつの指示であの鎖が一気に俺達を潰す。それで終いだ、何故だか今は何の変化も無いがな」
>「まったく愚娘だ愚娘だと罵って来たが、ここまで甘々の愚娘だったとはね。
チェインはね、口調は『ああ』だが根っからの平和主義者だったのさ。
『人と魔法使いは平等にすべきだ』『差別なんてするもんじゃねー』、なんて甘いことを言って私といつも喧嘩ばかりしていたさ」
チェインの方がゴールドスミスの娘としての本来の名前、アリアは飽くまでの天使側としての名前、という事か。
ゴールドスミスの昔を懐かしむような表情が妙に印象に残った。
「アリア…チェインが抵抗してくれているのね……。
あら? アリア、マリアの事を心底敬愛していたようだけど……
もしかしてあの酔っぱらい、アタシ達だけじゃなくてずっと一緒だったアリアまで騙しとおしていたの!?
それじゃあアリアは……」
正体が恐ろしい独裁者だったとはいえずっと仕えてきたアリアと、出会ったばかりのアタシ達。
その二つのどちらかを選ぶ決断を迫られているのだ。
ゼウスに忠実にして計算高い計画性、あのぽややん天然こそが今まで最も典型的なゼウスの手先だったのだ。
今の平和的な統治は時が来るまで大部分の人間達を懐柔して味方につけておくための打算か……。
自分達の脅威と成り得る者を駆逐した瞬間に正体を現して独裁者になるのかもしれない。
それから、以前の戦いが終わった時の話が語られた。
>「……悪魔諸君、君達は一体どういう過程で生まれ、どれ程の犠牲の果てに生まれたか考えたことはあるかな?
君達希望の光の裏には影がある。光が強ければ強いほど尚のこと、ね」
魔法のメカニズムを解析、プログラム化してリンネのシステムに落とし込んだ……という事だろうか。
その解析の過程は狂気の所業だったのかもしれない。
「この話、トムには言わない方がいいかもしれないわね……。とにかく今は」
脱出が先決、そう言おうとしたのを見透かしたかのようにゴールドスミスが言う。
>「あぁ、そうそう。この鎖の檻を壊す事を考えているのならまったくの徒労だよ。
私の愚娘はある意味特別でね。天使と魔法使いの複合体、とでも言うべきか。
故に、魔法の構造が複雑過ぎてね。例えるなら簡単に解けるように見えて数百年費やしても解けないパズルといった所か。
ともかく、いかに強い諸君等であろうとあの鎖の檻は、多分、破れない。
あぁ、それとくれぐれも勘違いはしないでくれよ、私は間違ってもあの天使どもと交わってはいない。
前の戦争の事故で、チェインは『ああ』なったんだ。もし此処を生きて出られたら直接聞くがいいよ。
チェインが『ああ』なった理由をな。まあ、生きて出れたらの話だけどね」
アバターの存在が示しているように実体からプログラムへの変換が可能なら、何らかの理由で実体とプログラムが融合する事もあるのかもしれない。
人間“チェイン”が天使”アリア”と融合した結果生まれたのが現在のアリア=チェインという事なのだろうか。
とにかく今は直接鎖を破壊するのが不可能なら他の方法を考えなければ……。
アリアと連絡が取れる手段があればいいのだが。
「鎖で封鎖されちゃあ携帯電話は通じないだろうし……そうだ、猫バスの放送機を使いましょう!」
少なくとも選挙カー程度の出力はある猫バスの放送を音量最大にすれば、外まで声が聞こえるだろう。
アイネと一緒に猫バスに入って行きつつ、ゴールドスミスも動員する。
「あなたも来るのよ! いくら喧嘩ばっかりでも親子は親子なんだから!」
それはアタシ達だって同じ。
リリスさん達がどんな所業に手を染めていたとしても、親子……創造主と被造物である事実を変える事は出来ないのだ。
増してやアタシ達を作り出すためにそれをやっていたのだから、猶更……。
意を決して猫バスの放送のスイッチと、外の音が拾える集音器のスイッチを精度最大で入れる。
集めた音を解析して会話の抽出等も出来るすぐれものだ。
『アリア、聞こえる? 確かにアタシ達が作られた過程はあなたの理想とはかけ離れたものだったのかもしれないわ。
制作者に代わって謝るわ、ごめんなさい。それでも……今のアタシ達はあなたと同じ道を行けるかもしれない。
それからチェイン、ゴールドスミスさんと最後まで喧嘩したままなんて駄目!
ブーメランパンツで成金趣味の父親なんて嫌かもしれないけど親は選べないのよ仕方がないじゃない!』
そこで音声を解析していたシュガーちゃんが大声をあげた。何かとんでもない会話でも抽出されたのだろうか。
「シャルルさん違います、アリアさんはマリアさんと一人で戦ってるようです!
鎖を解かないのは……おそらくボク達を守るため!」
「なんですって……!?」
マリアを取る選択肢は彼女の中に最初から存在しなかった。
アリアの事を見くびって勝手に必至に説得していた事に恥ずかしくなるが、言った内容自体はどちらでも通用するものだったのがせめてもの幸い。
何事もなかったかのように装って続けるが、感動のあまり単刀直入に一言言うのが精一杯だった。
『だからアタシ達も……一緒に戦わせて!』
>「とり合えず掛けたまえよ、落ち着き無く立ったまま肉団子になるのは嫌だろう?」
「趣味の悪い椅子ですよ。もう少しまともな椅子はないものかですよ」
皮肉を言いつつ進められるままに腰掛ける。案外座り心地は良かった。
純金製の椅子に腰掛けるなんてまたとない機会だ。今はこの座り心地を楽しもう。
などと思いつつ足を組む。きっと長話になるのだろう。まずはリラックスだ。
>「では先に答えから言おうか。この賭けは、マリア・マーガレットの総取りといヤツだ」
予想できた答えだった。他に黒幕がいるなら彼女以外はありえない。
アリアはそれを見越して行動していたのだろうか?否、彼女の言動からはそんな動きは見られなかった。
>「まったく愚娘だ愚娘だと罵って来たが、ここまで甘々の愚娘だったとはね。
チェインはね、口調は『ああ』だが根っからの平和主義者だったのさ。
『人と魔法使いは平等にすべきだ』『差別なんてするもんじゃねー』、なんて甘いことを言って私といつも喧嘩ばかりしていたさ」
平和主義者……そう、彼女は最初から私たちに敵意なんてなかった。
だとするとこの状況は、アリアの意思で引き起こされたものではないのだろう。
アリアはマリアに騙されていた。そう考えるのが妥当なところだ。
きっと彼女は今マリアの指示を否定し、私たちを生かそうとしてくれている。そうに違いない。
だとすると、残された時間はあまりにも少ない。私たちにできる事は何かないのか。
そう考えていたが、ゴールドスミスが続けて話した内容に意識を向ける。
彼曰く。
かつてこの地で起きた戦いの後、いくらかの仲間が”奪われた”。
奪ったのは天使と人間、それもヘルの人間だったらしい。
ヘルと言えば、私たちが生まれた土地だ。彼らはきっとヘルの研究員だったのだろう。
そして時は過ぎて現在。魔法に耐性を持つ天使と、私たち悪魔が生まれた。
どちらも元はひとつ、この街の魔法使いを元に作られた存在だったのだ。
>「……悪魔諸君、君達は一体どういう過程で生まれ、どれ程の犠牲の果てに生まれたか考えたことはあるかな?
君達希望の光の裏には影がある。光が強ければ強いほど尚のこと、ね」
「元から私たちは幾億の犠牲から生まれた『希望』ですよ」
そう、あの夢のような世界、リンネを超えて私たちは生まれてきた。
私たちが生まれるまでに、どれ程の可能性が摘み取られたのだろう。
計算を超えた可能性の果てに生まれた私たち。天使に対抗する剣だ。
私たちの双肩には全人類の希望が託されているのだ。今更重みが増えたってへっちゃらだ。
むしろ、だとしたら今まで以上にこの街の人間を守らねばならないだろう。
さて、おっさんの長話もここまでだ。我々は今動かねばならない。
この街の人間を、そしてアリアを救うために!
>「あぁ、そうそう。この鎖の檻を壊す事を考えているのならまったくの徒労だよ。
私の愚娘はある意味特別でね。天使と魔法使いの複合体、とでも言うべきか。
故に、魔法の構造が複雑過ぎてね。例えるなら簡単に解けるように見えて数百年費やしても解けないパズルといった所か。
ともかく、いかに強い諸君等であろうとあの鎖の檻は、多分、破れない。
あぁ、それとくれぐれも勘違いはしないでくれよ、私は間違ってもあの天使どもと交わってはいない。
前の戦争の事故で、チェインは『ああ』なったんだ。もし此処を生きて出られたら直接聞くがいいよ。
チェインが『ああ』なった理由をな。まあ、生きて出れたらの話だけどね」
最後に聞きたくなかった事を告げられる。だとすればどうすれば良いのだろう。
せめて、外部にいる彼女たちと会話が出来れば……。
>「鎖で封鎖されちゃあ携帯電話は通じないだろうし……そうだ、猫バスの放送機を使いましょう!」
「ナイスアイデアですよ、シャルル。とにかく今は出来る事をしなければですよ」
ゴールドスミス達も連れ立って、猫バスへと搭乗する。彼らもまた当事者なのだ。
それに、何とかして彼らの力を使ってここから脱出する事も考えられる。
悪魔の力を増幅する装置……魔法使いたちの力もまた増幅出来ないだろうか。
とりあえず運転席へ向かうと、拡声器と集音器のパワーを最大まで上げる。
>『アリア、聞こえる? 確かにアタシ達が作られた過程はあなたの理想とはかけ離れたものだったのかもしれないわ。
制作者に代わって謝るわ、ごめんなさい。それでも……今のアタシ達はあなたと同じ道を行けるかもしれない。
それからチェイン、ゴールドスミスさんと最後まで喧嘩したままなんて駄目!
ブーメランパンツで成金趣味の父親なんて嫌かもしれないけど親は選べないのよ仕方がないじゃない!』
>『だからアタシ達も……一緒に戦わせて!』
『そうです、私たちは共に戦う仲間ですよ!マリアを正気に戻さなくては未来はないですよ。
あなたには私たちがついているですよ。だから諦めないで、私たちに力を貸して……っ!』
精一杯の大声で、それだけを伝える。私にはこれ以上言う言葉はない。
この声が彼女に届くと良いのだが……せめてそれだけを願う。
未だ鎖の結界は収縮することも開放する事もなく、私たちの前に立ち塞がっている。
ビッグキャットに変形した猫バスを操作して、壁の前に立った。
鎖を一束掴み取り、引き千切ろうとしてみる。これは硬い、そう易々とは破れないか。
ふとひとつのアイデアが閃き、ゴールドスミスへと向き直る。
「スミス卿、あんたの力をこのビッグキャットで増幅して、この鎖を金に換えることはできないのかですよ」
ビッグキャットは搭乗した悪魔の能力を増幅してくれる。源流が同じ魔法使いの能力も、きっと増幅してくれるだろう。
分の悪い賭けだが試してみる価値はある。何事もやってみなければ始まらないのだ。
操作席をゴールドスミスに明け渡し、簡単な操作説明を行う。精神感応式だから簡単だ。
これで駄目ならアリアの意思に賭けるしかない。私たちに出来るのは、ただ願う事だけだ。
>「元から私たちは幾億の犠牲から生まれた『希望』ですよ」
アタシ達の誕生の秘密を知ってもアイネは揺らぐことはなかった。
やはり彼女はこのパーティーの中で誰よりも”強い”。
でも最初からこちら側にいる人間達の尺度で見れば、リンネの中での出来事は所詮プログラム上の空論で実際に起こってはいない事。
生身の人間が犠牲になったという事実とは比べるべくもない事だ。
一方、アタシ達の尺度で見ればリンネの中で起こった事も紛れもない真実で……一体どこからが真実と言えるのだろう。
果たしてプログラムの実体化であるアタシ達は実在の存在と認めてもらえるのだろうか。
世界が平和になった後、アタシ達に人権は認められるのだろうか……。
今はこんな事を考えている場合ではない、袋小路に入りかけた思考を目の前の事に引き戻す。
アイネはアタシと共にアリアに声をかけた後、ゴールドスミスにとある提案をするのであった。
>「スミス卿、あんたの力をこのビッグキャットで増幅して、この鎖を金に換えることはできないのかですよ」
「でも天使に魔法使いの魔法は……そうか、アリアは純粋な天使じゃないから……!」
魔法使いの魔法がアリアに効いていたのを思いだす。
そしてアリアの本来の名前は”チェイン”――鎖。
あの鎖を操る能力は天使としてではなく魔法使いとしての能力なのだろう。
ゴールドスミスも同じ事に思い至ったようで。
「成程、源流が同じとなれば……分かった、やってみよう!」
操縦席に座り、操縦用の水晶に手をかざすゴールドスミス。
「娘よ……父親を舐めてもらっては困るぞ、まだまだ若いもんには負けん! ゴールデン・チェイン!」
いちいち技名を叫ばないと気が済まない体質のようで、例によって無駄に力いっぱいドストレートな技名を叫ぶ。
それと同時に辺りに煙が立ち込め……煙が晴れると鎖が黄金色に変わっていた。
それだけではない、黄金支配――それは黄金を自在に操る力。
黄金と化した鎖が一気に解け、視界が開ける。
変化はまだ終わらない、解けた鎖が今度はアリアと対峙しているマリアに絡み付かんと襲い掛かっていく!
113 :
名無しになりきれ:2013/10/16(水) 17:00:20.00 0
114 :
名無しになりきれ:2013/10/17(木) 18:48:25.09 0
アイネはおちんちんに謝らなければならない
>「娘よ……父親を舐めてもらっては困るぞ、まだまだ若いもんには負けん! ゴールデン・チェイン!」
わざわざご丁寧に技名まで叫ぶゴールドスミス。元気のいいおっさんだ。
しかし肝心の技のほうもうまく行ったらしく、みるみる黒光りする鎖が黄金へ変わっていく。
そして黄金に変わった鎖が解け、外の様子が見えた。やはりアリアはマリアと対峙している。
まだ双方にらみ合いと言うところか。今ならばまだ間に合うはずだ。
彼女たちを出来ることなら争わせたくない。一応二人は姉妹なのだから。
黄金の鎖は解けただけでは終わらず、その矛先をマリアへと向ける。
マリアにいざ絡みつかんと鋭く伸びる黄金の鎖。しかし、変化はその瞬間起こった。
彼女に触れる端から、鎖は元の煙となって消えてしまったのである。
「あれは……ディスペルの一種なのかですよ?」
おそらくはゼウスが開発した対魔法用解呪なのだろう。魔法を煙に還元してしまうのだ。
ただの煙では天使にダメージを与える事など不可能だ。
これが魔法使いが天使に勝てない理由……その恐ろしさに戦慄した。
天使は私たち悪魔が狩らねばならない。誰の手を借りる事もなく。
私は素早くゴールドスミスと運転を代わった。ビッグキャットを外に出すのだ。
黄金に染まった鎖の隙間から飛び出す。次の瞬間、鎖のドームは収縮して消えてしまった。
「天使マリア、最初から私たちを騙していたのかですよ」
ビッグキャットのスピーカーから、私はそう問いかける。
油断したところを攻撃するつもりだったのか。確かに彼女ならそれが出来ただろう。
こんな状況でもなければ、私たちは彼女と相対すこともなく敗れ去っていた。
私たちは、ほんの少し運が良かったのだ。それだけのことだろう。
マリアは黙ったまま、私たちを睥睨する。その瞳には間違いなく敵意のみがあった。
「アリア、ここは私たちに任せて下がるですよ。あなたは彼女と戦ってはいけないですよ」
アリアを護るように、ビッグキャットは前進し彼女の視界を遮る。
天使と戦うのが私たちの領分だ。彼女を戦わせる訳には行かない。
さて……と改めてマリアと対峙する。こちらの余力は十全ではない。
度重なる戦闘で疲弊しているのだ。勝負は一瞬で決めなくては。
おそらくはそう長くは戦えないだろう。長引けば確実に負ける。
幸いにも他の天使たちは命令系統の混乱で動けずにいた。今が唯一のチャンスだ。
私は足に力を溜めると、それを一気に開放、マリアへと飛び掛った。
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118 :
パティ:2013/10/26(土) 03:55:01.41 0
、 l , ‐ 〇 ‐' l `
||__,____、_________|| || l l l ※ || / V ヽ / V ヽ . .. || || | ||※ ※..|| `l___l´ ..ll___.l l .|| || | || ※ || || || | || 150d..|| || || ヽヽニニニニノ || || <○√ || || ‖ || || くく ||
しまった!今日はいい天気だ! オレが布団を干しているうちに外へ出かけろ!早く! 早く!オレに構わず出かけろ!
>「あれは……ディスペルの一種なのかですよ?」
「人間の魔法は天使には効かない……か。
ビッグキャットで増幅しても駄目なものは駄目みたいね」
>「天使マリア、最初から私たちを騙していたのかですよ」
ゴールドスミスに代わって運転席に着くアタシ達。
アリアはやはり、永年仕えてきたマリアの豹変に戸惑っている様子。
>「アリア、ここは私たちに任せて下がるですよ。あなたは彼女と戦ってはいけないですよ」
「アリアごめん、辛いだろうけど邪魔するな!」
口調が変わったのは再び魔人化した影響。アリアの前に立ちはだかり、殺る気満々で臨戦態勢に入る。
「待ってくれ……それはマリアじゃない! マリアがそんな事を言うはずがないんだ!」
シュガーちゃんが苦々しい表情で呟く。
「いいんです、やってしまってください! ……くそっ、堕天させる事さえ出来れば……」
それは最初に解放した街、アキヴァでの出来事。
確かにあの時は天使を堕天させる兵器”ピュグマリオンの矢”があったからどうにかなったけど……
拘束して絶対当てる状況で発射、もしくは巨大化した相手を遠距離から狙う、等といった極めて使える状況が限られる大掛かりなものなのよね。
それでも持ってきていれば良かったと今更思うが、後悔したって詮無い事だ。
マリアが腕を掲げる。天より降り注ぐ裁きの光柱――いかにも天使らしい戦闘スタイル。
光の柱がアタシ達のいる場所目がけて突き立った……時にはアタシ達はそこにはいない。
一瞬にして肉薄、マリア目がけて鎌を振り下ろす、はずだったのだがそれは一瞬の出来事だった。
その時、アタシとアイネに加えてもう一人、操縦用水晶にカルレアさんの手がかざされていた。
水の鎌は日本刀型の刃となり、絶妙のコントロールで背中の部分を削ぐように切り裂いた。
丁度アタシが巨大化したソニアさんの背中のファスナーを切り裂いた時のように。
「シャルル、私はあれからずっと考えていたんだ。堕天は……伝染するのではないかと」
堕天は伝染する――実はアタシもあの時のアキヴァの天使達の様子を見てかなりの確信を持ってそうではないかと思っていた。
戦いの日々のうちに忘れていたが……カルレアさんもアタシと同じ仮説に行きついていたのだ。
近くにいただけで影響を受けるのなら、堕天した者の攻撃を受ければ可能性は十分にある。しかし危険な賭け――
マリアは気を失ってその場に倒れ込んだ。こうなれば後は狙いどおりにいってくれる事を願うしかない。
マリアへの一閃が決まろうとしたその時、変化は起きた。手にしていた水の鎌が日本刀型になったのである。
見ると、いつの間にか隣に立っていたカルレアが水晶に手を差し伸べていたのである。
悪魔の力を増幅する機構は、魔法使いだけでなく天使にも通用するのだ。驚きの発見である。
さて、日本刀と化した水は正確にマリアの背中を切り裂いた。皮膚に届くかと言う絶妙な加減で。
マリアはその場に倒れた。動く様子はない。とりあえず鎮圧には成功したようだ。
しかし何故カルレアは私たちに手を貸したのだろう?不思議に思い、彼女を見る。
>「シャルル、私はあれからずっと考えていたんだ。堕天は……伝染するのではないかと」
堕天の伝染……彼女はマリアを堕天させるべく、行動に打って出たらしい。
なるほど、カルレアの仮説が正しければおそらくマリアを堕天させられたはずである。
天使にとっての弱点、背中の中心を裂いたのもおそらくはそのため。
マリアを堕天させれば、天子の組織構造は崩壊する。つまりは私たちの勝利だ。
倒れたマリアのもとに、アリアが駆け寄る。意識はないが、どうやら命に別状はないらしい。
「マリアが堕天している……これもデビルチルドレンたち、シャルルたちの能力なのか?」
アリアがそう問いかける。彼女には、マリアが堕天したことを本能的に理解できたのだろう。
説明が面倒なので私は彼女に小さく頷きかけた。まぁ悪魔の手柄なのだ。問題はない。
この街はこれで天使の支配から解放されたのだ。喜ぶべきことだろう。
「アリア、これでこの街は開放されたですよ。後の指揮をアリアに任せたいですよ。それと……」
そう言って私はゴールドスミスたちの方を見やる。街が解放されたのなら、彼らに救いがあっても良いではないか。
戦いを経て、彼らも私たちに従ってくれるはずだ。もう禍根は残らない。
「……魔法使いたちも、この街で自由に暮らせるよう手配させてくれですよ」
私たちに出来るのはこの程度が精一杯だ。街を変えていくのはアリアに任せよう。
魔法使いとのハーフであるアリアが指揮を執ってくれるなら、この街も平和になるはずだ。
いくら時間が掛かるかは分からない。しかし、平和は必ず訪れるだろう。
堕天したマリアから影響を受けたのか、アリアがよろめく。そしてふと憑物の落ちたような顔で起き上がった。
堕天の伝染。アリアもまた堕天したのだろう。この感染は末端まで行き届くはずだ。
アリアは、未だ意識のないマリアを担ぎ上げた。そして市庁舎へ帰ってゆく。
「終わったですよ、シャルル。私たちも一度アキヴァまで帰ってみてはどうだろうですよ」
これからの戦いでは堕天させると言う事が鍵になるだろう。そのためにはピュグマリオンの矢が必須だ。
彼らもきっとあの兵器を改良させていてくれるはずである。それを取りに戻るのもひとつの手だろう。
「いいえ、その必要はないですよ。今届いたようですから」
シュガーがそう言う。いつの間にか彼女は地面に魔法陣を描いていたようだ。
物質転移の魔法陣。有機物は送れないが、ある程度の質量なら距離を無視して転移可能な技術。
今魔法陣の中はアキヴァと繋がり、荷物が届けられたようだ。
荷はまさしくピュグマリオンの矢。しかもどうやら改良が施されているらしい。
全く、タイミングの悪い届け物である。あとちょっと早ければ、ここぞと活用できたのに。
しかし、この荷物は天の采配である。これがあれば私たちも有利に戦ってゆけるだろう。
>「マリアが堕天している……これもデビルチルドレンたち、シャルルたちの能力なのか?」
その言葉に心底ほっとする。
捨て身の防衛プログラムの起動、などという危惧していた事は起こらなかった。
本当は堕天使カルレアさんからの伝染なのだが、説明すると長くなるのでまあ今はそういう事にしておこう。
>「アリア、これでこの街は開放されたですよ。後の指揮をアリアに任せたいですよ。それと……」
>「……魔法使いたちも、この街で自由に暮らせるよう手配させてくれですよ」
「アリア、あなたの言った通りマリアさんは取り付かれていたのよ。この世界の恐ろしい支配者にね……」
どうやらこの戦いは単純に天使を倒せばいいというわけではないようだ。
特にこの街のように天使が住人の支持を得て統治しているような場合、普通に倒してしまうと解放した後の収集が付かなくなってしまう。
>「終わったですよ、シャルル。私たちも一度アキヴァまで帰ってみてはどうだろうですよ」
>「いいえ、その必要はないですよ。今届いたようですから」
シュガーちゃんがお取り寄せしたピュグマリオンの弓矢改。
それには以前より小型化が施され、狙いをつけやすいように照準合わせシステムが搭載されていた。
これで天使を倒さずに効率よく街を解放していく事が出来る。
さて、お次の冒険の舞台は――といきたいところだが、この街でやる事がもう一仕事残っている。
魔法使い達も何か知っているようだったし、この街は世界に関わる重要な情報が眠っている……可能性がある。
それはある場所を見せて貰えば明らかになるだろう。
そもそも、そこを見せてもらえるかの判断待ちの間にアタシ達がフラフラ出歩いて今に至ったのだが。
「アリア――禁書庫を見せてもらう事は出来るかしら」
>「アリア――禁書庫を見せてもらう事は出来るかしら」
忘れていた、そういえばそんなこともあったか。見る意味は減ってしまったが手がかりくらいはあるだろう。
天使が蒐集し、そして封印した知識と技術の保管庫。見る価値はあるに違いない。
シャルルの声に、アリアは振り返ってこう言った。
「いいぜ、今なら見せてやる。ただし……」
ふう、と息をついて言葉を紡ぐ。まるで苦虫でも噛み潰したような声で。
「見た事を後悔するなよ?正直オススメしないぜ」
後悔……まるでこれからパンドラの箱でも開けようかという言い草だ。
果たして何があるのだろう?見てはいけない何かが、そこに眠っているのだろうか。
と、かくして再び天使たちの本拠地に案内された我々は、その禁書庫の扉の前に立っていた。
鍵を取りに行って来る、とはアリアの言だ。そういえば、この扉には二つの鍵が必要らしい。
アリアの持つ鍵と、マリアの鍵。この二つが揃って初めて扉が開くのだそうだ。
やがて、すぐにアリアは鍵を持って姿を現した。聞けば、マリアの懐から鍵を持ち出してきたらしい。
いまだ目覚めない彼女の事だから仕方あるまい。それに、意思を確認するまでもないだろう。
ゼウスの支配下から解放された彼女に、今更守る秘密などあるだろうか。
まぁどんな秘密が眠っているのかは見てのお楽しみだ。ちょっとわくわくする。
アリアは二つの鍵を同時に差し込むと、くるりと回した。
すると小さな地響きと共に、扉の錠がゆっくりと解除される音が鳴り響く。
そして、重い扉がゆっくりと開く。つん、と鼻を突くのは埃とカビの臭い。
長い事封印されていたのだから当然のことだ。少々汚いのは我慢しよう。
中は薄暗く、先は見通せない。アリアは持ってきていたランプに火を灯した。
彼女が先頭に立って、禁書庫の中へと足を踏み入れる。続けて私たちも付いていった。
「ここにあるのはこの街の古い資料と、押収した危険な魔法道具だ。あんまり触るなよ?」
確かに、棚に所狭しと並べられているのはなんだか得体の知れないアイテムばかりだ。
触るなと言われると、つい触ってみたくなってしまう。
試しに手近にあった銃のようなものを手に取る。引き金が付いているのだから、射出するタイプの道具なのだろう。
と、ついそこで手が滑った。握り直そうとして、うっかり引き金を引いてしまう。
すると突然轟音と共に、私たちの入ってきたドアが吹き飛んでいた。
ちなみにあと10センチ狙いがずれていたら、シャルルに大きな風穴が開いていただろう。
「あちゃー、ごめんですよ。ついつい、えへへ」
笑って誤魔化す私。現状は笑いどころではないのだが。
「だから触るなと言ったのに……まぁいい、あの扉は自己修復出来るからな」
確かに見ていると、みるみるドアが復元されていた。侵入者防止の策なのだろう。
私は持っていた銃を元の場所に戻し(今度は慎重な手つきで)辺りを見渡す。
外側の壁に沿った一面は、どうやら資料庫になっているようだ。圧倒的な量のファイルが並んでいる。
これだけの書類に目を通すのは一苦労だろう。覚悟して挑まねばならなそうだ。
名前 カミラ・ドラクレア
外見性別 女
外見年齢 24
髪の色 黒
瞳の色 赤紫
容姿 白い憲兵服、憲兵帽、外套を着用。腰まで届く長髪、切れ長の目
備考 外套はヘルにて強奪した魔法道具 ドMでもありドSでもある
好きなもの 大逆転 逆境 思い通りにならない現実 炎 硝煙の香り 武器全般
嫌いなもの ワンサイドゲーム 勝利の決まった勝負 弱い者(敵限定)
うわさ@ 銃火器や剣や弓、爆発物、毒薬に至るまで様々な武器を使うのが好き。そういった意味では重度の武器マニア
うわさA 勝ちの決まった勝負を悪とし、逆境を善しとする性格の為、敵味方がコロコロ変わる。
普段の能力 【火炎操作】どんな小さな火でも操る事が出来る。ただし火が無ければ役立たず。
魔人化後の能力 【火炎操作+】火を発生させ、操ることが出来る。所謂、パイロキネシス。身体に纏わす事も可能。
【竜人変化】牙や鱗が生える 竜の翼が生える 爪が鍵爪に変化する 身体能力が底上げされるなど
抑えられない衝動 自分に圧倒的不利な状況、其処からの逆転勝利を好む為、悪魔天使関係なく弱い方に付く。
「それが貴女の能力? 憑依って言ったところかしら? ま、無様に負けたみたいだけど」
『千里眼』という名の双眼鏡のような魔法道具から眼を離し、私は天使に話しかける。
名も知らぬ天使は顔を憎々しく歪めながら静かに頷いた。
「……そうです。睡眠状態や意識がない人間に憑依して操る能力です」
操られた人間は性格、思考、能力を奪われ動かされ続ける。
彼女はそうやって人間たちを操りながらこの都市を支配したと言う。
「それは素敵な能力。でも、それ以外がポンコツ過ぎてお話にならないわね」
ギリ、と歯を噛み締めた音が聞こえた。
よほど私の言い方が気に入らないみたいね、どうでもいいけど。
「ま、いいわ。やった事のない天使、しかもホスト級のテスト頑張ってくれたし。
操られたホスト級は負荷が掛かり過ぎて意識不明になっちゃったみたいだけどね」
……それにしても、やっぱりあのデータと研究員が言ってたことは事実だった。
勝利する存在、いや、勝利することが決まった存在。
嫌悪感と愛好感が入り混じった感情、愛しい愛しい私の御敵。
ゾクゾクとした快感にも似た刺激が背筋を駆ける。乾いた唇を舌で撫でる様に舐める。
「ここで貴女を殺したら彼女達はここに来ない、それは私が困るわ。
だから現状維持。私が貴女を殺していない以上、いずれ彼女達はこの都市に辿り着く」
真紅の外套と漆黒の長髪を翻し、この都市のホストに背を向け出口に向かって歩き出す。
「だからそれまで貴女は独りでそこに居なさい。その時が来たら、私が貴女を守ってあげる」
「! ……どの口が!」
ホストは悔しそうに搾り出すようにこちらを睨み付けながら呟く。
怨嗟のような声を背に受け、思わず口が笑みの形に歪む。
「あは、そうよね。でも弱い貴女達がいけないんでしょう?
弱すぎて弱すぎてあまりに惨め、だから私が味方をしてあげるの」
私の欲望の為に。口に含んだ言葉を吐かずに部屋を出る。
その瞬間、途端に血と硝煙の香りが鼻腔と肺を満たす。
血の香りの正体は、数時間前まで此処を守護したいた天使達のものだ。
数は覚えていない。沢山居たっていうのは覚えている。
「死骸が残らないから、天使っていまいち達成感に欠けるのよね。
ま、いいわ。後片付けが面倒じゃなくていいとしておきましょう」
それに天使の戦力がどれ程のものか調べることが出来たし。
装備の差と奇襲っていうのもあったんだろうけど、弱かったわね。都市による個体差というのもあるのかしら?
いずれにしろ、駄目ね。全然、燃えなかったわ。弱い生物を虐殺するほど萎えるものもないわ。
彼女達はどうかしら? 過剰な期待は落胆の元だけど……。
「ふふっ、それでも期待してるわよ、先輩方」
そう言いつつカミラは歩き出す。
彼女の奇襲した天使本拠地。その通路の壁にはあらゆる所には数え切れないほどの弾痕と血痕が付着していた。
>「見た事を後悔するなよ?正直オススメしないぜ」
怖い物見たさ、とは少し違うかもしれないが、そう言われるとますます見たくなるのが人情(悪魔だけど)というもの。
世界の根幹にかかわる物凄い重大な秘密が眠っているのかもしれない。
それは敵の正体を見定めるのにきっと役に立つはずだ。
>「ここにあるのはこの街の古い資料と、押収した危険な魔法道具だ。あんまり触るなよ?」
触るなよと言われたそばから、アイネが引き金の付いた銃のようなものを手に取る。
「ちょっと! あんまり……ほげぇえええええええええええ!?」
隣を猛スピードで何かが通り過ぎるような風を感じたかと思うと、後ろのドアが吹き飛んだ。
言わんこっちゃない!
>「あちゃー、ごめんですよ。ついつい、えへへ」
「いや、ドア壊れちゃったんですけど!?」
>「だから触るなと言ったのに……まぁいい、あの扉は自己修復出来るからな」
「治るんかい!」
自動修復機能が付いているとは、流石は魔法の街の禁書庫だ。
気を取り直して、庫内を見渡す。
資料だけでも相当な量で、どこから手を付けていいやら分からない。
まさかアリアが言ったお勧めしないぜ後悔するなよと言ったのはこういう意味だったのだろうか。
しかしアタシはこれでもリンネ時代は研究者のはしくれだったのだ。
その経歴が活かされる時が来たようだ。と、気合いを入れていると……
「それ全部見てたら何年もたっちまうだろう。
分かりやすく要点をまとめたものがここにあるぜ。マジでお勧めしないが……」
「あ、さいですか」
アリアさんが渡してくれたものは、金メッキのド派手の装丁の本。
魔法の仕掛け絵本のようだが……アリアがお勧めしない意味がなんとなく想像ついた気がする。
地面に置いて開いてみたとき、無駄なインパクトを伴って想像は確信に変わったのだった。
立体映像のブーメランパンツのおっさんが出てきて喋り始めたのだ。
ゴールドスミスさん何やってんの!
『まず結論から言っておこう、ゼウスは危険だ。
しかしトンデモ学説として誰にも相手にしてもらえないからここに録画して残しておく事にする。
出来れば私の思い違いであってくれることを説に願う。
そうだな、まずはこの世界――サイバーミースの成り立ちから」
どうやらこの世界の名は電脳神話――サイバーミースというらしい。
ゴールドスミスのおっさんの話をそのまま書くと長いので要約すると、このようなものだった。
この世界は元来、人々の言葉や想いが力を持ち、魔法が当たり前のように存在する世界だったそうだ。
しかし、若く資源が豊富なこの世界は、外界からの侵略により何度も危機に瀕した――
そこで世界は外敵の侵入を防ぐためにある方向へと向かっていった。
外界からの侵略など存在するはずがないという集団妄想を作り上げ、それによって外敵の侵入を防ごうというものだ。
世界法則そのものである魔法法則から必要最低限の部分のみが切り抜かれて科学と名付けられ、それが世間の常識となった。
そして魔法は、世間一般では無い物とされ、異界からの防衛を担う役目を負った一部の者のみに秘密裡に受け継がれていったのだ。
しばらくはそれで上手くいっていたが、それは束の間の平和だった。
高度に発展した科学は魔法と区別が付かないとはよく言ったもので、際限なく発展する科学を放置しておけばいつかは元の木阿弥だ。
それに気付いた魔法使い達が焦り始めた時にはすでに遅し。
もはやかつての魔法の領域に片足を突っ込みつつある科学者達――その虚構の常識の綻びから、音も無く外敵は入り込んできたのだ。
メサイアと名乗ったそいつは科学者達にゼウス開発を唆し、完成へと手引きした。
その真の目的は――ゼウスの支配によって人々の心を殺したところでこの世界を一挙に奪い取るため!
最後は、自分の服装の趣味のために周囲に取り合ってもらえなかった遺憾の念(服装関係あるか? いや、物凄く関係あるな!)
そしてせめてロンディニウムだけでもゼウスの支配から守ってみせるとの決意の言葉でビデオレター(?)は締められていた。
その決意が年月を経るうちに「わしゃあマイホームを動かん!」に変化してしまったのだろう。
「ここってそういう世界だったのね……」
最後の三行は飽くまでもゴールドスミス説なので鵜呑みにしてはいけないが
少なくともゼウスが今や人々を幸福にするどころか恐怖のディストピアを作り上げて心を殺しにかかっているところは当たっている。
参考までに頭の片隅に留めておく価値はあるだろう。
頭の整理をする暇もなく、シュガーちゃんが駆け込んできた。
「大変です! 他のデビチルによって街が制圧されたという情報が……」
「そりゃあアタシ達以外のチームだっているわよ。良かったじゃない、街を解放できたんでしょ?」
「それが……制圧されたのに解放されてないようなんです。
一説によると天使を壊滅させるだけ壊滅させて土壇場で天使側に寝返ったとか……」
「はァ!?」
アタシの素っ頓狂な声が書庫内に響き渡るのであった。
禁書庫に保管されていた資料は莫大な量だった。これではどこから手を付けていいやら。
とても全部を見ることはかなわないだろう。当てずっぽうで攻めてみるか。
>「それ全部見てたら何年もたっちまうだろう。
分かりやすく要点をまとめたものがここにあるぜ。マジでお勧めしないが……」
と、どうやらまとめ本があったらしい。ありがたいことだと素直に受け取る。
しかしお勧めしないとはどういう意味だろう?余程の内容なのだろうか。
無駄に装飾の付いたその本は、どうやら魔法の産物による映像記録媒体らしい。
さてどんなものかと開いて見た瞬間、疑問は確信へと瞬時に変わった。
映された映像は、ブーメランパンツのおっさん……ゴールドスミスだったのだ。
どうやらブーメランパンツ一丁の姿は昔から変わらないらしい。どこまで変態なのだ。
ゴールドスミスの語る世界の歴史とゼウスについての物語は、なかなか興味深いものだった。
かつて魔法で繁栄を極めた世界と、科学が生み出された理由。そして科学の先にあるもの。
何より驚いたのは、ゼウスの開発に関わったと言うメサイアの存在だ。
世界の外側から現れた来訪者……おそらく真の敵はそいつに違いない。
メサイア……これから敵としていつか出会うであろう存在を記憶する。
私たちにはゼウスを撃破し世界を救うと言う使命があるのだ。その存在は必ず仇となるだろう。
しかしスケールの大きな話である。どこまで信用したらいいのか分かりやしない。
まぁ、心に留めておいて害のある話でもないだろう。おっさんの人生経験もあてにはなるはずだ。
>「ここってそういう世界だったのね……」
「確かに驚いたですよ。しかし魔法から科学が生まれたのなら、私たちも魔法が使えるのかですよ?」
確かに私たちが使う異能の力は、すでに魔法と言って差し障りないものであろう。
物理法則など端からガン無視しているのである。今更魔法の一つや二つ、不思議ではない。
その事に頭を巡らせていると、血相を変えたシュガーちゃんが飛び込んできた。
大変だと言い話した内容は驚くべきものであった。なんとデビチルが天使側に寝返ったと言う。
果たしてそんな事があるものなのだろうか……いや、デビチルとて人である。考え方次第で変わる事もあるだろう。
ともかく一大事、まずはその叛乱が起こったと言う街に赴かねばなるまい。
シュガーちゃん曰く、その街はここロンディニウムからそう離れていない街だそうだ。猫バスで半日と言ったところだろう。
すぐさま出発……と行きたい所だが、まずは物資を補給する必要がある。アリアに頼んでみよう。
幸いにもアリアは快諾してくれた。武器弾薬から食糧まで融通して貰えると言う。
もちろん新鮮で綺麗な水もたっぷりと。これがなければ生きてはいけない。
意外と安全でおいしい水はなかなか手に入らないものなのだ。その点、ここの浄水設備は優秀と言えるだろう。
私は空気中の水蒸気を操って水を生成することは出来るのだが、これでは微量しか手に入らない。
水をほとんど生み出せない以上、常に水を持ち歩く事が能力を最大限に生かすコツなのだ。
とにかく補給は出来るのだ。あとは折を見て出発するだけである。
土壇場になって寝返るとは、何か特別な報酬でも提示されたのだろうか?
考えてみても分からない。まずは赴いて話を聞いてみる他はないのだ。
>「確かに驚いたですよ。しかし魔法から科学が生まれたのなら、私たちも魔法が使えるのかですよ?」
「少なくともアタシ達の力が魔法を基にした物である事は間違いないわね。
もしも世界が常識の結界が無い状態になったとして、本家本元の魔法が使えるかは……分からない」
人造生命は魔力を持たない、という設定は色んな所でよく聞いたものだが
アタシ達もゼウスに対抗できる異能を授けられた代わりに、本物の魔法は使えないのかもしれない。
「でも人間が使う本物の魔法にゼウスが耐性を持ってしまった以上、対抗できるのはアタシ達の力しかないのね……」
外敵の侵略を防ぐための結界として働いていたはずの”常識”は、ひとたび敵自身に利用されると恐るべき脅威となる。
世界の殆どの人はゼウスに洗脳され、それが人類を平和に導く神だと信じて疑わないのだから。
もしかして、魔法使いの魔法が天使の耐性を打ち破れないのは、常識によって魔法使い達の存在が隠匿されてきたのが一因かもしれない。
アタシ達がゼウスに対抗できるのは、人類の希望の光として皆の期待を背負っているからなのかもしれない。
本当のところは誰にも分からないのだが。
ゴールドスミスさんにビデオレターを見た事を告げると、見て貰えたことがどことなく嬉しそうな様子。
それを生暖かく見守りつつアリアさんに頼んで物資の調達を行う。
一つ気になるのは地下の道中で出会ったイトさんのこと。
彼女が言いかけたのも、ゴールドスミスさんと同じ内容の事なのだろうか。
だとしたら、真相を探るためにゼウスの側に潜りこんでいるのかもしれない。
いずれにせよまたどこかで逢い見える事となるだろう。
「じゃあね、アリア……チェインと言った方がいいかな。お父さんと仲良くね」
お世話になったアリアに別れを告げ、いよいよ件の都市へ向かう事とする。
道中でシュガーちゃんが都市の解説をする。
「芸術の都パリエス。
通りは前衛的な恰好をした人々であふれ個性的なデザインの建物が立ち並び
あらゆる場所がラクガキ……もとい個性的な芸術作品で埋め尽くされたとても活気のある街だったそうです。
尤もゼウスが支配してからというものゼウスを祀る建造物や讃える絵ばかりになってしまったようですが……」
「そりゃそうよね。
しかしデビチルが天使側に寝返ったって……実は天使がいい人で住人側がゼウスの手先だった、とか……?」
天使が何らかの拍子に堕天した、等はまだ可能性はあるが、住人側がゼウスの手先は意味不明である。
もう訳が分からないが、とにかく行ってみるしかないだろう。
本当にそうだったとしたらそのデビチルに加勢するまでだし
デビチルの反逆だったとしても、天使のほとんどがすでに壊滅しているなら勝てるはずだ。
という後から振り返れば楽観的過ぎる見通しを乗せて、一路芸術の都へ猫バスは走るのであった。
人類の希望を産み出す場所、そこで産まれるのは希望だけとは限らない。絶望もまた産まれる。
なにも不思議なことじゃあない。希望と絶望は表裏一体、光在る所に影も必ず存在する。
と、まあ、そんな事を考えてみたが、初めは私も人類の希望になりうる存在だった。
神と呼ばれる圧倒的な力に僅かな希望を背負って立ち向かう存在? なにそれ、最っ高に燃える展開じゃない。
初めはそう思った。そう、順調な都市の解放、新しい悪魔の誕生に浮かれた研究員の迂闊な言葉を聞くまでは。
「やっぱり君達は特別だ。君達が誕生した時点で人類の勝利は決まったようなものだな」
いや、迂闊というには些か厳しい。この研究員は、ただ、知らなかった、それだけだ。
そして思い込んでいた。この場所から産まれ出るのは自分達の味方だと。
萎えるのよねぇ、そういう展開。決まりきった勝利? なにそれなにが楽しいの?
私は、ふぅ、小さく溜め息つくと、腰の軍刀を手に取り、そして……。
「……殺したんですか」
私の言葉を遮り天使が言う。
「いやん、私はそこまで馬鹿じゃないわよ。私の天敵を生み出してくれる夢のような人達よ、易々と殺すわけ無いじゃない。
峰打ちよ。きちんと治療を受ければすぐに元気になる程度には加減はしたわ」
そんなこんなで、近くに居た研究員を一通り気絶させた私はデータと不思議道具を4つ程失敬して此処に来たってわけ。
自身の此処に来るまでの経緯を話し終えた私は足を組みかえ、椅子に座り直した。
「……その、マントもそうなんですか」
真紅の外套を指差し、天使が問う。
「ええ、この外套が今のところ一番役に立っているわね。好きな武器のデータをダウンロードして外套の中から手元にお届け。
近代兵器からクラシックな物まで手広く品揃え。欠点といえば戦車や戦闘機とか条約違反の兵器は使用不可ってところかしら。
ま、これのお陰で先輩達のおもてなす準備も出来たし、そう贅沢も言ってられないか」
先輩達が来るまで間、私はこの都市を彼方此方駆け回り、方々にトラップを設置してきた。
もちろん、人間の方々には外出禁止令を強く出しておいたから、トラップに引っ掛かって死ぬ事は無いでしょ。
……まあ、忠告守らないで外出て死んだら自己責任よね、流石にそこまで責任見れないわよ。
「……卑怯だとは思わないんですか?」
「ん、何が?」
「貴女のしてる事は不意打ちや騙し討ちみたいなものですよ」
あら驚いた。まさか天使にこんなこと言われるなんて。それも憑依なんて卑怯の定番みたいな能力を持ってる天使に。
「貴女だけには言われたくない、と言いたい所だけど答えてあげる。
単純に考えの違いよ。私の不意打ち騙し討ちは信頼の証なの。これぐらいじゃ死なないだろ倒せないだろって。
こうすれば良かったとか、あれを使用したら勝てたとか、一点の疑問の入る余地もなく曇りもない戦い、全力。
そんなのが大好きなのよ私、脳が痺れるほどね。打てる手は出し惜しみしない、全力で打たせてもらうわ」
「…………」
「ま、それこそ価値観や考え方の違いだから、無理に納得してもらうとも押し付けようとも思わないわ。
んじゃ、それはそれとして住民の方々には説明したけど貴女に説明してなかったから説明するわね」
そういって部屋に設置してあるホワイトボードに都市の図を書く。
「まずは都市の出入り口周辺ね。貴女に聞いた外に通じる出入り口全てに6砲身ガトリング式回転キャノン砲を仕掛けておいたわ。
センサー式で100m先の動く目標物を瞬く間にミンチに出来る、私のお気に入り。
撃つまでに時間が掛かるのと命中率が低いのが難点だけど……ま、破壊力と連射力、それに広範囲の制圧力はそこを補って余りあるわね」
元々対艦ミサイル迎撃用に使われたもの、それを人型相手に使用するには少々無理がある。
だから、これはご挨拶みたいなもの、私から先輩たちへの宣戦布告及び信頼の証。
「……撃たれる前に入り口を抜かれたら?」
「そこも布石を打ってあるわ。先輩達は必ず足を止める。いえ、止めざるを得ない」
この都市を囲うように地雷を設置。こう見えても私、仕事は速いの。
無警戒に進めば地雷に足をとられる。止まれば撃たれ、焦って進めば地雷で吹き飛ぶ、となれば後は撤退だけど……。
それも封じる策がある。……策と呼べるような上等なものじゃないけどね。
「あは、ともかく仕込みは万全よ。ま、細工は流々仕上げは見ての御覧じろ、とだけ、言っておくわ」
一路芸術の都パリエスへと向けてひた走る猫バス。その中で、私は紅茶を淹れていた。
今日の紅茶は桃のフレーバー、桃の甘い香りが特徴の紅茶である。
「ふぅ、やっぱり紅茶は良いものだですよ。シャルル達も飲むかですよ?」
茶会は大勢のほうが美味しく感じるものだ。賑やかなのもまた良いだろう。
間もなく私たちは事件の現場、パリエスへとたどり着く。そこで一体何が起こったのだろう。
入ってきた情報はわずか。パリエスへ侵攻したデビチルが制圧後、天使側に寝返ったと言う事だけ。
侵攻したのはたった一名のデビチル。単独の行動だったらしい。情報はその程度だ。
天使を攻略した後に寝返ったのは、おそらく天使たちの上に立つため。だがその理由は何だ。
考えても一向に分からない。こればかりは本人に聞いてみる他はないだろう。
私たちの目的は制圧されたパリエスに赴き状況を確認、場合によっては武力で事態を収拾すること。
反抗したのは同じデビチルであるから、あまり武力に頼る真似はしたくないのだが。
「そろそろ街が見えてきたですよ。街へは徒歩で向かおうですよ」
猫バスはとにかく目立つ。いざと言うときは遠隔操縦で来させる事も出来るし、外で待機させといて良いだろう。
私たちは猫バスを停車させ、徒歩で街へと赴く。猫バスは林の茂みに隠しておいた。
街の周りは開けた更地になっている。一応街へ続く道は城門になっており、開放されている。
見張りは居る様子はない。少なくとも街を閉鎖してはいないようだ。
先頭を切って歩み出す私。だがしかし、その歩みは意外な形で中断される事になった。
何かを踏んでしまったと言う嫌な感覚。何かは言うまでもない、私はこれを良く知っている。
地雷、である。地雷には踏むだけで発動するタイプと、踏んだあと足を離す事で発動するタイプがある。
今回踏んだのは運良く?離す事で発動するタイプのようだった。
「皆止まるですよ。ここは地雷原になっているようだですよ、足元に気をつけてですよ」
慌てることはない、私はこの感覚を良く知っている。地雷は仕掛ける側だったけれども。
私はリンネでただの学生生活を謳歌していた訳ではない。トライブの制圧部隊に所属していたのだ。
戦いのエキスパートだけで構成された戦闘部隊。私はその中で小隊長を務めていた。
能力がいまいち戦闘向きでない私が小隊長として戦って来られた理由、それは戦闘の知識である。
銃火器の扱いや爆弾の効果的な仕掛け方。いかに罠を張り敵を追い詰めるか。そんな知識だ。
銃火器は正直性に合わなかったのであまり使ったことはないが、罠を張るのは得意だった。
もちろん地雷の取り扱いも得意である。こんな風に踏んだときの対処法は把握している。
私は落ち着いた手つきで腰のボトルを一本取ると、中の水を足元に撒いた。
水が地面に染み込んでゆく。私は染み込んだ水を操作して、地雷の信管だけを的確に破壊した。
ふう、と吐息をついて私は足をどける。それにしても、踏むまで気付かなかったとは私も鈍ったものだ。
この地雷を仕掛けた犯人はおそらく、恐ろしくその手のものの扱いに長けている。
おそらく罠はこれだけではないだろう。城門、そしてその先の街中にも仕掛けてあると見るべきだ。
「おそらく罠はこれだけではないはずだですよ、どうするですよ?」
罠と知りつつ渦中へ飛び込むのは恐ろしく勇気のいる行為だ。
敵はおそらくこれをゲームとして楽しんでいる、私にはそう感じた。
それならば。私たちは裏をかこうとせず正面から挑むのが定石か。
挑むに足る勇気なら持ち合わせている。こちとら遊びで戦っている訳ではないのだ。
とりあえず地雷だけなら気をつけていれば、少なくとも私は大丈夫。
後の者はどうなのだろう。私はちょっと心配そうな面持ちで後ろを見やった。
>「ふぅ、やっぱり紅茶は良いものだですよ。シャルル達も飲むかですよ?」
「ええ、ご一緒させていただくわ」
能力でお菓子を出して、お約束のお茶会。
激戦の地に向かうかもしれないのに呑気なものだが
真剣な顔を突き合わせてあれやこれや話していたところで行ってみるまで分からないのだ。
ならば割り切って移動時間を楽しんでしまえる図太さも素質のうちだろう。
そうしているうちに猫バスはパリエスへ到着。
>「そろそろ街が見えてきたですよ。街へは徒歩で向かおうですよ」
前を歩くのはアイネ。
彼女はリンネ時代に戦闘部隊として最前線にいたので、こういった事には彼女の方が適任だ。
対してアタシはリンネ時代何をしていたかというと
トライブ化を防ぐための研究(と言えば聞こえはいいけど結局お説教じみた精神論の域を出なかった)とか
どうしてデビチルは生まれたのか、取りとめのない事ばかり考えていた。
そんなアタシが選別を潜り抜けた事に意味があるとすれば
その探究心をもって各地に散らばる情報のピースを集め世界の隠された真実を解き明かすことなのであろう。
ゼウスを倒すためにそんな事は必要ないかもしれないが、単にゼウスを倒せば全て解決というわけにはいかないような気がするのだ。
不意にアイネの足がぴたりと止まる。
>「皆止まるですよ。ここは地雷原になっているようだですよ、足元に気をつけてですよ」
「……踏んだの!?」
足を離した時に爆発するタイプであった事、そして経験豊富なアイネが先頭を歩いていて、さらに彼女が水使いだったことが幸いした。
アイネは能力を使って手際よく地雷を解除し、事なきを得た。
>「おそらく罠はこれだけではないはずだですよ、どうするですよ?」
幸い律儀にアイネのすぐ後ろを歩いていたのでまだ被害にはあっていないが、このままではいつ爆発して吹っ飛ぶか分からない。
更に、他の罠まで組み合わせて来られたら最悪だ。
「歓待の準備はバッチリのようね。こちらもお菓子でも持参しましょ」
スチャっとお菓子のステッキを顕現させ、一振りする。
虚空から現れたのは超巨大な飴玉。それを蹴っ飛ばして転がす。
程なくして地雷を踏んだらしく、爆発して粉々に砕け散った。
「これをしながら進もう」
そうやって進み始めた矢先、ガトリング砲の発射音のようなものが遠くから聞こえた気がした。
地雷撤去用に作った雨に銃弾が降り注ぎ、一瞬にして粉砕される。
アイネによると動く物に反応するセンサー式キャノン砲らしいとのこと。
「……それってヤバイでしょ!」
今回はたまたまターゲットが飴玉だっただけで、いつアタシ達が穴だらけになるが分かったもんじゃない。
ここはまだ距離があるので降り注ぐ銃弾はまばらだが、発射地点に近づくほどヒットの確率は上がる。
地雷があるので走って突っ切るわけにもいかない。それなら……飛んで突っ切るしか無いっしょ!
ロンディニウムで魔人化を使い過ぎた感があるので、出来ればあまり使いたくは無かったのだが、背に腹は代えられない。
まあリンネでトライブ化しないための授業を偉そうにやってたアタシに限って多少の事では自分を失わない自信はあるのだが。
魔人化して背に漆黒の翼を広げたアタシは、左腕でアイネを体との間に挟み込むように抱え上げる。
撤退も考えないでは無かったが、戻ってもいい方法の当てがあるわけでもなく時間がかかればそれだけこちらが不利になるだけだ。
「行くぞ! しっかり捕まっとけアイネ!」
この命中精度なら全速力で突っ切ればどうにかなるだろう。
右腕を開けているのは、もしも銃弾が飛んできた時に大鎌で弾き落とす算段だ。
そんな事が出来るかは不明だがやってみるしかない。
私は天使をパリエスのとある場所に幽閉し、都市が一望できる塔にて先輩たちの様子を見ていた。
地雷を踏んだのは、感が良ければ気付く。地雷を爆発させないで無力化、これも地雷の基本的仕組みが分かっていれば可能だ。
「……だけど信管だけを的確に破壊って、ねぇ? 構造を熟知してなきゃ無理よそんなの」
千里眼を覗きながら呆れた様に呟く。
いかに能力の応用が利くからといって知識無しにはあの芸当は出来やしない。
「もしかして、あの先輩って同属? でも、私の隊にあんな能力持った娘、居なかったわよねぇ」
ま、リンネの世界が同一の物とは限らないし、私が知らない能力なんてそれこそ幾らでもあるだろう。
んでんで、もう1人の先輩は確か、お菓子の魔女だったかしらっと。
「ん〜、にゃるほどねぇ……知ってたけど、こっちもやるわね」
問、お菓子なんかで何が出来るのか 解、地雷を除去できます。
テストでそんな解答を書いたら間違いなく×をくらうだろう。
「でもぉ、地雷は攻略出来てもガトリング砲の掃射とのダブルアタックはどうか、しら、って、あぁ忘れてた」
そういや魔人化すれば飛べたっけ先輩って……んー、初歩的ミス。
あぁあぁ、早い早い。あ、弾いた? 今弾丸弾いた? あーあ、どんどん距離が詰められてくわ。
解き放たれた矢のように一直線にこちらに弾丸を弾きながら先輩達は向かってくる。
「着弾まであと何秒? まったく爆発するわけじゃないけれどあんなスピード出したまま突っ込まれたらこっちが困るわね」
対艦ミサイル迎撃用のガトリング砲の掃射を潜り抜ける、って、ますます普通じゃない。
にしても抜けられるって思ってたけど、こんなにすんなり抜けれちゃうとはねぇ。
んー、決して過小評価してた訳じゃないけれど、思いのほかスペックが高い。修正修正。
「ま、なんにしてもそんなに急いで行っちゃ嫌ぁよ先輩、もっと楽しみましょ、っと」
おもむろに床に無数に置いてあった兵器のひとつを掴み取るとスコープを覗き照準を先輩に狙い定める。
砲身近くに備え付けられた二脚を接地し狙いを固定する。その二脚は蟷螂の前足を彷彿とさせる。
銃の通称はアンチマテリアルライフル、または対物ライフル、対物狙撃銃。
名前の通り、人ではなく物に対し使われる超大型弾を使用する小銃。
人に使っちゃうと条約に触れちゃうかもね〜、ま、先輩達、人間じゃないから大丈夫でしょ。私もだけど。
「に、に、に、に、ただいま狙いを定め中、……Lock on Ok、外さないわよ、っと」
先輩は地雷原とガトリング砲の掃射を半ば抜けかけていた。
狙いをつけ、そのまま引き金を絞る。1発、2発、3発、立て続けに引き絞る。
その度に肩を蹴り抜かれるような様な衝撃が走るがそんなの気にしない。
観測手がいなくて時間が掛かったけど狙いは良好、少なくとも一発目は確実に着弾した。
先輩の体勢に大きなブレと飛行スピードに明らかな減速が生じたからだ。
でも、死んではいない。あの手に持った鎌で弾いたか、それとも抱えられてる先輩がどうにかしたか。
そもそも身体に着弾したら身体に大穴が開いている。いかに悪魔といえど再生能力が無い限り死ぬに決まってる。
スコープの光の反射で狙撃がばれたとしても、今まで撃たれていた方向と明らかに違う方向から撃たれたら動揺する。
いや、そもそも対応できただけで賞賛に値する。
頭で様々な考えが錯綜する中、手に持った対物ライフルを後方に投げ捨て、私は塔の外へダイブした。
「あは、竜人変化」
ああ、もうごちゃごちゃ考えるのは後でいい。これはチャンス、先輩が体勢を崩した。
立て直すのにどれくらい掛かる。そう時間はかからない2秒? 3秒? ともかく私には十分だ。
このチャンスに首を取る。取れなくても、ああもう、理由なんてどうでもいい。少し手合わせしてみたい。
ついでに出来たら首も貰えたらなー、なんて。
背に生えた翼を羽ばたかせ、軍刀を抜きながら先輩目掛けてぶつかる勢いで高速で突っ込む。
「Look at Me! 先っぱぁぁぁぁい!」
超高速の突進に紛れ、気の触れた様な叫び声が響き渡る。
そして、すれ違う刹那、私は先輩の首目掛けて軍刀を薙ぎ払った。
ガトリング砲の雨が降り注ぐ中、私は何をしていたのかと言うと荷物になっていた。
飛行するシャルルの片腕に抱かれての荷物行。なんとも情けない体たらくだ。
しかしこれは仕方ないことであった。正直言うと、私の飛行能力は高くない。
背中に翼こそ生やすが、あれはイメージの産物であって、実際には液体操作で飛んでいる。
つまり、飛行ではなく浮遊なのだ。このようにスピードを出すことは難しい。
水圧を利用したロケット式の加速方法は可能であるが、あれは大量の水と能力を使うのだ。
消耗が激しいため、実戦ではほとんど使えない。と言う訳での荷物であった。
「シャルル、私のバリアで援護をするですよ。このまま突っ切ってですよ」
水を展開し、泡で覆うようにバリアを張る。弾丸を弾くことも可能な頑丈なバリアだ。
透明なため、遠くから見るとまるで何も見えないだろう。
更に。ちょっとした仕掛けを施す。後々功を奏するだろう。
その直後だった。別方向から弾丸の気配!
ぎりぎりで防御が間に合う。続いて放たれた弾も的確に防御した。
しかし、このままお荷物になっていたら相手に狙われる一方だ。
いざとなれば私も魔人化し二手に分かれる。それが最良の選択だろう。
敵の規模も目的も分からない以上、二手に分かれるのは危険ではあるが仕方ない。
と、そのとき。
>「Look at Me! 先っぱぁぁぁぁい!」
いきなり突っ込んできた。
突っ込んできた方角からして、どうやら彼女が対物ライフルを射撃してきたのだろう。
初撃から命中させる的確な射撃技術。おそらくは相当な腕前だ。
その彼女がすれ違いざま、軍刀を振るう。
放たれた一撃は正確無比、シャルルの首を薙ぎ払った。ように見えた。
しかし。
「幻術、アクアファンタズマ、ですよ」
水の膜を透過した物体は、屈折率により位相がずれて見える。
要はそれを利用した視覚トリックである。魔法でも術でもなんでもない。
だが、単純であるからこそいざと言うときに役立つ。
突っ込んできた彼女が斬ったのは、ただの薄い水の膜であったのだ。
しかも、彼女が斬ったのはただの水ではない。私の支配下にある水なのだ。だからどうとでもなる。
私は水を瞬時に鎖状へと変え、彼女の軍刀を絡めとる。最近覚えたテクニックだ。
更に私は魔人化能力を発動、シャルルの手から離れ、自律飛行をとった。
魔人化能力で強化された水の鎖はそう簡単に外れる事はない。
私たちは空中で、距離をとったままにらみ合う。
「私はデビルチルドレン、アイネですよ。貴様の所属と名前を要求するですよ」
全速力で飛ぶ。風景が後ろに目にも止まらぬ速さで流れていく。
>「シャルル、私のバリアで援護をするですよ。このまま突っ切ってですよ」
「ああ、頼りにしてるぞ!」
アイネの言葉通り、弾丸を気にせずに最短ルートを飛ぶ。
透明なバリアに弾丸らしきものが弾かれるのが見えた。
「よし! もう少しだ頑張ってくれ!」
もう少しで街に着くあたりで、竜の翼を持つ者――件のデビチル?が軍刀を振りかざして突っ込んできた。
その姿はまるで……お伽噺に出てくる竜人だ。
アタシは魔人化でオーソドックスな悪魔をモチーフにしたような姿になるが、アイネは水の精霊とも言うべき様相になる。
ならば魔人化であのような変化をするデビチルがいても不思議はない。
軍刀は正確無比にアタシの首を切り落とした……はずだった。アイネが張った水の膜が無ければ。
>「幻術、アクアファンタズマ、ですよ」
アイネは魔人化し、自力で浮遊する。移動体勢から臨戦態勢への移行だ。
アタシも大鎌を構えて謎のデビチル?と対峙する。
>「私はデビルチルドレン、アイネですよ。貴様の所属と名前を要求するですよ」
「同じくデビルチルドレンのシャルルだ。
随分と過激な挨拶をどうも。まず確認しておくがお前が天使側に寝返ったというデビチルか?
アタシ達はこれでも今までに色々な街を見て来た。……天使が味方をしてくれたこともあった。
だから事情によっては考えるつもりもある。いきなり首を取られたらそれも出来ないだろう」
速度、良し。狙い、良し。手応え……無し!
絶好の速度、絶好のタイミングで薙いだ軍刀は僅かな水を切り払うのみに留まった。
どうやら、アイネ先輩の能力によって狙いを狂わされたようだ。
2人の先輩は空中で距離を取り、私と向き合った状態で話しかけてくる。
>「私はデビルチルドレン、アイネですよ。貴様の所属と名前を要求するですよ」
>「同じくデビルチルドレンのシャルルだ。
随分と過激な挨拶をどうも。まず確認しておくがお前が天使側に寝返ったというデビチルか?
アタシ達はこれでも今までに色々な街を見て来た。……天使が味方をしてくれたこともあった。
だから事情によっては考えるつもりもある。いきなり首を取られたらそれも出来ないだろう」
なるほど、とても理性的だ。だけど、私は興奮でそれどころじゃあない。
赤い糸? 運命の出会い? 信じるわ、だってこんな素敵な先輩に会えたのだから。
「あ、ああ、あああ、ああああああぁぁぁぁぁ!!! マジパネェ! 先輩達のスペックマジパネェ!
なにこれ!? これなに?! 無茶苦茶燃えるんですけど!? 最ッ高に燃えるんですけどォォォ!?」
絡まった水の鎖に構うことなく軍刀を投げるように手放し両手で頭を抱え、満面の笑みで絶叫する。
若干口調が変わり、ハイテンションになっているが、これは私の魔人化後に出る悪癖だ。
「Excellent! 素晴らしい! 美しい! 壊したい! 壊されたい! 勝ちたい! あああああぁぁぁぁ!」
がりがりと湾曲した竜角の生えた頭を掻き毟り、口から涎を垂らしながら絶叫する。
「あぁあああああぁぁぁあぁぁぁ! …………あ?」
一頻り絶叫し終えた後、思い出したかのように眼球だけをギョロリと動かし若干引き気味な先輩方を見る。
…………いけない、いけない。あまりにキャラとかけ離れた事をしてはいけない。
「あー……コホン、失礼。少々興奮してしまいました」
咳払いをし、服装と姿勢を正す。顔には笑みを張り付かせたままで。
「不意打ち失礼。私は先日誕生したデビチル、カミラ・ドラクレア。以後よろしくお願いします」
にこりと笑ったまま距離を詰め、先輩達に向けて手を差し出す。
「アイネ先輩、突然攻撃した相手に対しての知的な態度、実に美しい。シャルル先輩、理由があれば造反も許すその心根、実にお優しい。
あぁ、この時ばかりは私は運命と神を信じるわ、だって愛しい愛しい先輩達に会えたのだから! 嗚呼今日この日に感謝を!」
2人は差し出した手をまだ取ろうとしない。警戒してるのだろうか? だけど、それでいい。
「あぁ、そして今日この日を呪います! 憎い憎い怨敵と会えたこの日を、拳銃!」
言葉の最中に叫ぶと同時に私の両手には2丁の拳銃が握られていた。
卑怯? いいえ、信頼の証よ、そして愛情と憎悪の気持ち。
私から至近距離からの熱烈なご挨拶、ですよ。受け取ってくださいね先輩。
「May your soul rest in peace!」
その言葉が言い切る前に私は2丁の拳銃の引き金を複数回絞っていた。
>「あ、ああ、あああ、ああああああぁぁぁぁぁ!!! マジパネェ! 先輩達のスペックマジパネェ!
なにこれ!? これなに?! 無茶苦茶燃えるんですけど!? 最ッ高に燃えるんですけどォォォ!?」
突然の絶叫と共に縛られた軍刀を手放し頭を掻き毟る彼女。あまりに突飛なその行動に、私は少々理解出来ずにいた。
水の鎖に繋がれた軍刀は放物線を描き落ちていくと思いきや、私は鎖を引いて手元へと手繰り寄せた。
彼女が捨てたものであろうと武器は武器、持っていて損はないだろうと思い、私はそれを構える。
しかし彼女の特異なこの行動はなんだろう。戦いに飢えた戦闘狂そのものではないか。
彼女の行動はすべて戦闘狂としての性に操られるが故の行動だったのだろうか。だとしたら話にも裏付けられる。
戦いを望むが故に単身この街へ赴き、そして勝利。それでもまだ物足りないからと、私たちを誘い出したのであろう。
その行動原理を私は知っていた。トライブへと堕ちる直前の者たち、その最後の行動に似ている。
破壊衝動の赴くままに行動していては、彼女も危険な状態へと陥ってしまうであろう。
その前に止めなくては、私たちの手で。無理かも知れないが、ここで引くような真似は出来ない。
>「不意打ち失礼。私は先日誕生したデビチル、カミラ・ドラクレア。以後よろしくお願いします」
カミラと名乗った彼女は、今度はまるで敵意を感じさせない態度で私たちへと近づいてきた。
もちろん警戒は怠らない。差し出された手にも応じはしなかった。
>「アイネ先輩、突然攻撃した相手に対しての知的な態度、実に美しい。シャルル先輩、理由があれば造反も許すその心根、実にお優しい。
あぁ、この時ばかりは私は運命と神を信じるわ、だって愛しい愛しい先輩達に会えたのだから! 嗚呼今日この日に感謝を!」
どうやら私たちを先輩として敬ってくれているらしい。しかし何だろう、この違和感は。
彼女の視線は飢えた狼の目。獲物を睨み付けるその視線に他ならなかった。
>「あぁ、そして今日この日を呪います! 憎い憎い怨敵と会えたこの日を、拳銃!」
その言葉と共にカミラが虚空から取り出したのは二丁の拳銃。
音声認識で物体を呼び寄せる装備なのだろうか。そのくらいあっても不思議ではない。
とっさに私は前に出て水の膜を張る。激しい水流で構築されたそれは、拳銃程度なら容易くはじき返す。
>「May your soul rest in peace!」
弾丸をしっかりと受け止め逸らす。安らかな眠り?馬鹿を言っちゃいけない。私たちはこんなところで立ち止まれないのだ。
多くの都市を、人々を救い、いつか必ず学園都市にあるというデウス本体を倒さねばならない。
その日まで私たちは足を止めることは許されない。たとえどんな犠牲を払おうとも。
「そんな弾丸程度では私の水は破れないですよ。本気で掛かって来なさいですよ」
挑発の言葉と共に、私は持っていた軍刀を投げつけた。
ただ投げつけた訳ではない。水流でブーストし、まるで鎖鎌のように遠隔操作可能な武器として。
勢い良く射出されたそれを避けるのは困難だろう。例え避けたとしても、遠隔操作で返す刀が襲ってくるのだ。
>「あ、ああ、あああ、ああああああぁぁぁぁぁ!!! マジパネェ! 先輩達のスペックマジパネェ!
なにこれ!? これなに?! 無茶苦茶燃えるんですけど!? 最ッ高に燃えるんですけどォォォ!?」
暫し悶えた後、いきなり礼儀正しくなったかと思うと手を差し出してくる。
> 「あー……コホン、失礼。少々興奮してしまいました」
> 「不意打ち失礼。私は先日誕生したデビチル、カミラ・ドラクレア。以後よろしくお願いします」
アタシ達の前に現れたデビチルは、あらゆる意味で常軌を逸していた。
そして危険だ。比喩や慣用句的な意味では無く、文字通りの戦闘”狂”。
見たままの意味で危険なのももちろんだが、これより酷い状態になる可能性がある。
アタシの研究によると、好戦的な性格の者程トライブ化しやすい傾向があるのだ。
一体何の手違いでリンネはこのようなデビチルを世に送り出してしまったのか――
否、デビチルとは計画通りにいかない事を意図した計画。
ならばこれすらも……?
確かな事は、どちらにせよ勝利しなければ先はないということだ。
>「May your soul rest in peace!」
射出された拳銃をアイネが水の膜で防ぎ、さらに軍刀を操作して遠隔攻撃を仕掛ける。
相手は純戦闘特化の戦闘狂、二対一とはいえ一筋縄ではいかないだろう。
アタシは軍刀と連携して鎌を振るい、斬りかかる――と見せかけて相手の顔に向けてパイ生地を飛ばす。
ギャグのような攻撃だが、当たれば少しの間視界を奪う事が出来る。
それは戦いにおいて隙を作るには十分すぎるほどの時間だ。
空を切り裂いて投げつけられた軍刀、アイネ先輩の水が絡んでるってことは一筋縄じゃいかない。
刃物に鎖や鉄線を巻きつけて遠距離から攻撃する武器がある。鎖鎌なんかその際たる物だけど。
これはそれよりも数倍厄介。透明無音の水の鎖、しかも、手先からは動きが読めない。
というかアイネ先輩の能力って大概チートですねぇ。ま、私も人のこと言えませんけど、ね!
軍刀をギリギリまで引き寄せ、最小限の動きで刃を避ける。
この手の武器は避けた後ほど恐ろしい。避けても弾いても次の手に繋げられる。
ならどうするか? こうして動きを止めてしまえばいい。
「あは」
頬を掠め、横切っていく軍刀。その軍刀に私は思い切り噛み付いた。
牙が鋼に食い込む、勢いで歯が持っていかれないように首と咬筋に力を込める。
それと同時に、鋼の味が口に広がるより早く、私は手を広げる。
「ふんとう(軍刀)!」
開いた手に召喚される一振りの軍刀。それはシャルル先輩の鎌に対する攻撃を防ぐため。
だが、鎌は振るわれること無く、眼前には1つのパイ。
「!」
慌てて空いた手で防ごうとするがギリギリで間に合わない。
いや、正確に言えば半分は間に合った。片目に一時的な刺すような痛み。
半分閉じたぼやけた世界。でも半分は見える。
顎に力を込めると同時にバキンと音を立てて軍刀の刃が砕ける。
口内で鋼の大きな欠片が舞う。もう一噛み、鋼がさらに砕ける。
近くにいるのはシャルル先輩、Present for You!
口内に転がる鋼を思いっきりシャルル先輩に吐き掛ける。
未だぼやけては視界の中にシャルル先輩はいる。あは、思いっきり突いて刺してあげる!
弓を引くように軍刀を引き、シャルル先輩に突き刺そうとして私は動きを止めた。
「あ、あ、嘘嘘、無し無し、待った、先輩今の無し。Take it easy」
シャルル先輩の眼前に突き付けた軍刀を引き、私は言う。
「あー、やっぱ強いわ先輩方。本当に、敬意を表して称えたくなるほど、強い」
引いた軍刀を腰に挿した鞘に収め、頭をカリカリ掻きながら罰の悪そうな顔をして言葉を続ける。
半ば本当に尊敬するように、半ばその強さに呆れるように。
「やっぱ先輩達パナい、本当マジでパナい。生半可じゃ駄目ですね。てなわけでこのラウンドは引きます。
ま、先は長いですしね。情報収集したいなら街に下りてどうぞ。罠仕掛けてありますけど。
あぁ、それと私も一応デビチルなんで人に危害は加えてないですよ、好きなだけ話てくださいねぇ」
外套を大きく広げると中から無数の球体が転がりだす。
催涙弾と閃光弾だ。ご丁寧にピンまで抜かれた。
「それじゃ先輩、ばぁい」
私の言葉が終わるか終わらないか、鼓膜を破るような爆音と花火と見紛うほどの閃光が空を響き染め上げた。
私の放った即席の鎖鎌は、カミラの喉元目掛け正確に飛んでいく。
避けられても返す刀で攻撃可能な多段構え。水使いは応用技こそ真骨頂なのだ。
予想通りカミラは首の動きだけで軍刀の攻撃を避ける、と思いきや思わぬ行動に出た。
横切っていく軍刀を、なんと口で噛み付く事で止めたのだ。その行動は尋常ではない。
確かに魔人化による能力の向上により、身体能力が著しく増加するタイプもあると聞く。
顎の力だけで軍刀を止める事も可能ではあるだろう。しかしそれは可能と言うだけで、決して誰にでも出来る事ではない。
刃物を恐れないその神経は、およそ尋常なものではないであろう。
かくして彼女は私の攻撃を顎で止め、さらに軍刀を振るう事でシャルルの攻撃をいなそうとする。
しかしシャルルも百戦錬磨、鎌による攻撃はフェイクで、本命はパイによる視界封鎖だった。
見事カミラの顔に命中するパイ。相変わらずいつ見ても滑稽な絵である。
だが視界の封鎖は完全ではなかったらしい。彼女は動きを止めない。
口に咥えていた軍刀が音と共に砕け散る。なんて咬筋の力だろう。
その噛み砕いた破片をシャルルに向けて吐き出し、更に軍刀で攻撃を仕掛ける。
シャルル危うし、そう思いフォローに水弾を放とうとした私だが、思わぬ光景にその手を止めた。
カミラがシャルルに向けた刃を引いたのだ。攻撃の意思がない、と言う事だろうか?
「あ、あ、嘘嘘、無し無し、待った、先輩今の無し。Take it easy」
そのまま軍刀を鞘に仕舞い、カミラは言葉を続ける。
「やっぱ先輩達パナい、本当マジでパナい。生半可じゃ駄目ですね。てなわけでこのラウンドは引きます。
ま、先は長いですしね。情報収集したいなら街に下りてどうぞ。罠仕掛けてありますけど。
あぁ、それと私も一応デビチルなんで人に危害は加えてないですよ、好きなだけ話てくださいねぇ」
その言葉の真意は分からない。彼女にとってこの戦いはゲームのようなもの、なのだろうか?
呆れる私たちを尻目に、カミラは外套を大きく広げる。と、その中から何かが転がり出た。
手榴弾の何かだ!そう判断し水膜を張るが遅し。爆音と閃光が辺りを染め上げる。
何とか催涙弾だけは防げたものの、水の膜では閃光までは防御出来ず、私は視界を失う。
ようやく収まった頃には、カミラはその場所から跡形もなく姿を消していた。
「まさかあの場面で逃げるとは、一本取られたですよ。
しかし追うと言っても情報がないですよ、カミラの言う通り情報収集するのかですよ?」
おそらくは催涙弾をまともに食らったであろうシャルルに洗顔用の水を傾け、問いを発する。
市街地戦でのトラップの存在はまさに脅威である。私とてその全てを掻い潜ることは不可能かも知れない。
私は眼下に広がる街を見下ろす。おそらくは天使たちによる厳戒令でも敷かれているのだろう、人影は一切ない。
私たちはまだこの街に来たばかり、重要拠点の場所すら把握はしていない。
手っ取り早いのは街の住人に尋ねるのが一番だが、さてどうしようか?
「私としては住民の話を聞くべきであると判断するですよ。天使たちの動向も気掛かりだしですよ」
カミラはアイネの操る軍刀を口で受け止めるという荒業に出た。
アタシの放ったパイは、カミラの片目を捕える。
それでもひるまずに、鈍く輝く何かを吐きかけてくるカミラ。
とっさに鎌を振るい大きな塊を弾くが、小さな破片のようなものが腕を掠り薄く血がにじむ。
なんと、軍刀の欠片だ。
カミラは軍刀を歯で受け止めたのみならず、そのまま噛み砕いて攻撃の手段としたのである。
感心している暇はない、このような動きは次の真打のためのお膳立てというのが戦いのセオリーだ。
案の定、相手が取ったのは突きの構え、アタシはそれを迎え撃つべく体勢を整える――
いや、思ったより速い! 間に合うか!?
>「あ、あ、嘘嘘、無し無し、待った、先輩今の無し。Take it easy」
次の瞬間、カミラはぴたりと手を止めていた。そのまま軍刀を鞘に納める。
>「やっぱ先輩達パナい、本当マジでパナい。生半可じゃ駄目ですね。てなわけでこのラウンドは引きます。
ま、先は長いですしね。情報収集したいなら街に下りてどうぞ。罠仕掛けてありますけど。
あぁ、それと私も一応デビチルなんで人に危害は加えてないですよ、好きなだけ話てくださいねぇ」
「情報ならお前から聞くのが一番速い! 待――」
>「それじゃ先輩、ばぁい」
続きの言葉は凄まじい爆音にかき消された。炸裂する閃光に思わず目を閉じるが――
何これ、痛い痛い! 閃光弾だけではなく催涙弾も仕込んでいたようである。
>「まさかあの場面で逃げるとは、一本取られたですよ。
しかし追うと言っても情報がないですよ、カミラの言う通り情報収集するのかですよ?」
アイネの水で顔を洗いながらアイネの提案に同意する。
「や・ら・れ・た! 悔しいがそうするしかないな……」
街の中に降り立って魔人化を解くアタシ達。
「さっきあのまま軍刀を突かれていたら危なかったかもしれない。
カミラからしたら敵を仕留められたかもしれないチャンスをみすみす逃したということね。
あいつ、戦い自体が目的なのかもしれない。それなら最後の最後で天使側に寝返った事に説明が付くしね……。
罠を仕掛けていると言っていたわね。慎重にいきましょう」
通りには人っ子一人見当たらない。罠だらけで危なくて出歩けないという事だろう。
壁には落書き……もとい宗教画っぽい絵画がびっしりと描かれている。
偶然一つの絵が目に入った。……というかこれは宗教画なのか?
天使っぽい人達がやたら楽しそうに踊ってるようにしか見えないし
中心にいるハゲのおっさんに【ゼウス→】という注が付いていたりするんですけど……
ちょっとゼウスさん俗っぽすぎやしません? この街の天使的にはこれでもOKなのだろうか。
「ああ、その絵が気に入ったか」
「えっ!?」
見れば民家の窓から住人が顔を出している。
「この前天使どもへの腹いせに描いてやった絵だ。一応ゼウスを賛美する絵だから天使も黙認せざるを得ないみたいだ」
「お、おう…。この街の天使はどういう支配をしていたの?」
「いや、特に圧政はしない。
ただいつの間にか荘厳なゼウスを祀る教会が出来ていたり正統派の美しい宗教画が書かれていたりするんだ。
それで気付けばいつの間にかゼウスの信者が増えて……ってなところ」
「えーと……つまりこの街の天使達は芸術を使ってゼウスの権威を広めたということ?」
「話はそんなに単純じゃない。どうも寝てる間に自分達がやっていたらしいんだよ。
この街を支配していた天使の特殊能力だという説が有力だ。
で、デビチルだかチルチルミチルだかが来て天使をのしてくれたらしくて
夢遊病がぱったり出なくなったのはいいんだが街中に罠をばらまかれて出歩けなくなってこのザマだ。
これなら天使の支配の方がまだマシだ、アンタら、あれの暴走を止めるために派遣されてきたんだろ。早くどうにかしてくれ
とはいっても一般市民の俺には詳しい情報は分からん。
地下に出入りしてる奴らなら色々知ってるんだろうが……」
「なるほどねえ……」
この都市も例に漏れず、ゼウスの目を逃れるための地下世界が広がっているようだ。
情報量にしても罠を逃れるという意味でも、今回もそちらから攻めるのがいいだろう。
「地下の入り口はどこか知ってる?」
「いくつかあるんだがここからだと……遠いな。
いや、近所に一つあるにはあるが……あのカラフルな家の中なんだけど……なんというかお勧めできないというか……
家主が大変な芸術家気質というか……」
「あのカラフルな家ね、ありがとう」
飴玉を転がしながら歩き出そうとしたところ、早速飴玉が地雷を踏んで爆散した。
爆煙が収まってみると、いつの間にかいた知らない人がえらく興奮している。
リンネでいうところのいわゆる原宿系の服を着ていて、奇抜な髪型をしている。
「素晴らしい! 芸術は爆発だ!」
「何やってるの、出歩いたら駄目よ!」
「素晴らしい芸術は極限の状況下から生まれるのだ!」
さっきお勧めできないと言われた意味をなんとなく理解したアタシは、窓に向かって「ああこの人ね」という視線を向ける。
窓から顔を出した人は無言で頷き返すのだった。
「あー、負けた負けたI'm a Loserって、おっと」
先の一線で負けた私を出迎えたのは投擲された一本のナイフだった。
「あらら、なんのつもり? これが貴女の為に精一杯戦った私に対する仕打ち?」
「……なんのつもりはこっちの台詞です! あの戦闘貴女は勝てた筈、どうして見逃すような真似を!」
あぁ、なにを怒ってるかと思ったらさっきの戦闘についてか。
おおかた、私が貸した千里眼で覗いていたのだろうけども……優勢に見えた、ねぇ。それは大きな間違い。流石、残念スペック。
「……勝てたはず? ねぇ本当にそう見えた? そう見えましたぁ?
この節穴! と言って差し上げるわ。見た目ほど優勢じゃなかったわよ今の戦闘」
乱雑に置かれた携行糧食を手に取り無造作に口に運びながら答えた。
水飴とチョコを練り合わた液体に、大量のピーナッツをぶち込み固めた一品。
カロリーだけを摂取する為に作られた携行糧食は次々と私の腹の中に収められていく。
「刀を突き付けた時、閃光弾催涙弾を撒いた時、少なくとも2回チャンスはあった。
では何故見逃したか答えはeasy。どちらも私が無傷で抜けられないからよ」
手に付いたチョコを舐め取り、2本目に手を伸ばす。
「奇襲の前提は無傷か軽微で相手に致命的な傷を負わすこと。
1回目はアイネ先輩に邪魔されただろうし、2回目は私自身も視力を奪われたから手が出せなかった。
仮に倒せたとしても私が怪我しちゃ意味ないって、万全でタイマンでもキツいのに。
さっきの奇襲で腕か脚か、もしくは傷を負わせられたら良かったんだけどそれも無理。
私の手札も少し明かしちゃったしねぇ、奇襲は失敗したら悲惨ね。敵が警戒するし自分は手札を見られるし、良いとこなし。
ま、失敗しない奇襲をしかけるのが1流なのだろうけど、とすると私は2流ね。あは」
半ば自虐的な物言いに天使が不満げな顔をする。
その顔は明らかに「なに負けたのにヘラヘラしてんだ」とそう言っている。
「……弱音ですか?」
ジト目に押し殺した言葉、私は思わず失笑する。
「まさか、言い訳よ。さて、と、カロリーの補給は済んだ。燃料はMax。調子は最高。
次のラウンドは貴女にも手伝ってもらうはよ。打てる手は全部打たなきゃね」
さ、先輩達はどこかしら。千里眼を覗きながら私は言った。
>「素晴らしい芸術は極限の状況下から生まれるのだ!」
「素晴らしい勝利は極限の苦境から生まれるのです! なーんて、やほー先輩達Payback timeですよ」
先輩がいるであろう地雷の煙があがった箇所で聞こえた言葉を真似しながら登場する。
ちなみに竜人変化済み、ていうかこの状態じゃなきゃこの手は打てない。
「なんか、先輩達地下に行くみたいじゃないですか。で地下に行かれるとこの手は打ちにくくなるんで急いで来ちゃいましたぁ、きゃは。
てか、なんで住民の方外に出てるんですかねぇ、出ると危ないって言ったのに、責任取れませんよー。ま、いっか」
私は先輩達の距離を観察する、うん、ちょうどいい感じに間が出来てる。
住民の方1人紛れてるけど、そっちは天使に任せればいいか。無闇に殺さないだろう。
「じゃ、そゆことで長引かしてもアレなんでいっちゃいます。
決戦術式、隔離結界。発動です」
言葉を発した瞬間、アイネ先輩とシャルル先輩の間に炎の壁が出来る。
炎の壁は勢いよく広がり私とシャルル先輩を囲むように四角の壁を造り、最後に天井に蓋をする。
決戦術式、文字通り意図的に相手を取り囲み逃げ場の無い空間を作り出す私の最上級の技の1つ。
例え、核兵器をだろうと、トライブ化したデビチルだろうと、深海に沈めようとこの炎が消すことは出来無い。
ま、魔人化しても数分しか持たせられないのと、一回使うとしばらく使えないのが難点だけど。
「はーい、隔離結界の完成です。私と先輩の2人だけの部屋ですよ。
あ、その炎特別製なんで触れないでくださいね。一瞬で炭になって終わりとかあっけないの嫌なんで」
戦力分散は戦いの基本。私はシャルル先輩を天使はアイネ先輩を、まあ相性ってのもあるんだけど。能力的に。
「それじゃ時間も勿体無いんで軍と……いや」
軍刀を外套からDLしようとして手を止める。
たまにはこういうのもいいか。上手くいったら御の字だ。
「あは、シャルル先輩とはこっちで戦りましょう。マスケット!」
言葉と共に2丁のマスケット銃が両手に握られる。ついで外套から数丁の同型のマスケット銃が花が咲くように地面に設置される。
「さあ、シャルル先輩。溶ける様に戦いましょう」
その頃、外では。
「……こんにちは。初めまして、礼儀として名乗っておきます。ルドル・ワールライダー。この街のホストをやっている天使です」
その声は確かに女の声、そのものだった。しかしその姿は中年の男性。
「……一応、あの女の策ということで大変気に入らないですが貴女と此処で戦います」
「といっても、人間の身体で貴女とまともに戦えると思ってません、ので」
「急遽」
「今活動停止中の」
「人間を30人程」
「見繕っておきました」
ある者は家から、ある者は路地裏から、老若男女様々な人たちが様々な凶器をもって現れた。
皆、それぞれの口でルドルの言葉を喋り、彼女の代行をする。
「「「「「「「……それじゃあ、始めましょう」」」」」」」
その言葉を合図に、住民達はアイネに向けて走り出した。
私たちはトラップの存在も覚悟して地上に降り立った。まぁ罠の過半数はシャルルの飴玉が潰してくれるだろう。
あと気になるのはセンサー式のマシンガンのようなトラップだが……まぁこれも気をつければ大丈夫なはず。
街を歩く私たちは、間もなく奇妙な壁画のある路地へとたどり着いた。宗教画……なのだろうか?
訝しげに眺めていると、民家の窓から誰何する声。どうやらこちらの事情はすでに知られているらしい。
彼の話には、奇妙な点があった。
「寝ている間に、なのかですよ?おそらく催眠術か何かなんだですよ。注意しておく必要がありそうですよ」
厄介な特殊能力は何らかの形で私たちの障壁と成り得るだろう。注意が必要だ。
それよりも、今は地下に行く手段が問題だ。とりあえず彼から目的の場所は聞き出せた。
と思ったら早速奇妙な人物登場……芸術家というのは奇矯な人物しかいないのだろうか?
そういえば、この街は芸術家のための街だった。変人に出くわす確率が高そうだ。
などと思っていたら背後から気配。慌てて振り向くと、そこにはさっきのカミラがいた。
>「素晴らしい勝利は極限の苦境から生まれるのです! なーんて、やほー先輩達Payback timeですよ」
すでに魔人化済みの様子。どうやら今度こそ本気で挑んでくるつもりなのだろうか。
何か策があるのではないかと警戒する。その警戒が仇となった。
>「じゃ、そゆことで長引かしてもアレなんでいっちゃいます。
> 決戦術式、隔離結界。発動です」
私とシャルルの間に炎の壁が出来る。その炎は瞬く間に四角い部屋となって、彼女らを包み込む。
私は水属性であるが故に炎の気配には敏感だ。その私の勘が、この火力は絶対に消せないと告げていた。
もとより手持ちの水だけでは普通の消火活動すらままならないだろう。
どうやらカミラはシャルルとの一対一での決闘を望んでいるようだ。私はお払い箱、なのだろうか?
中の様子は窺い知ることが出来ない。まぁこれほどの火力、そう何分も持続は出来ないはずである。
とりあえず待つか?否、他にも多数の気配。どうやら今度は私の客のようだ。
>「……こんにちは。初めまして、礼儀として名乗っておきます。ルドル・ワールライダー。この街のホストをやっている天使です」
「私はアイネ、デビチルのアイネですよ。この名を忘れられないようにしてやるですよ」
現れたのは天使ではない、普通の中年男性だった。しかし声は女性のもの。
しかも現れたのは一人ではなかった。老若男女、様々な者たちが一斉に現れる。
手にはそれぞれ包丁やバットと言った凶器を手にしていた。敵意は十分だ。
それぞれが発する声はルドルと名乗った天使のもの。まさか、夢遊病の特殊能力とはこれのことか!
何らかの手段で睡眠中の人間の肉体に干渉、操作を行う。原理は単純だが恐ろしい能力だ。
何しろ私たちデビチルは生まれたときから刷り込みで、人間を殺害する事が出来ない。
人間の味方として作られた存在であるのだから当然である。寝返り防止の策だ。
だが、こちらにも策がある。
>「「「「「「「……それじゃあ、始めましょう」」」」」」」
現れた住人は一斉にそう声を発し、襲い掛かってきた。
「ああ、よいともですよ。この程度の人数で私を止められるのかですよ」
応じるように身構え、挑発する。
水は使わない。私はただの水使いではない。あのトライブ狩りの小隊長だったのだ。
この程度の人数なら、体術だけで十分に応戦できるのだ。
最初に向かってきた男性をもう一人に向けて投げ飛ばす。弱い。
統制の取れた行動で向かってくるのは厄介だが、一人ひとりの能力は知れたものだ。
更に襲い掛かる女性から武器を奪い、炎の壁に投げ込む。そして腹に一撃。
先ほども言ったが、私たちデビチルは人間を殺害出来ない。だが加減をした攻撃なら別だ。
せいぜい気絶する程度の攻撃であれば、自由に行使する事が出来る。ただし、熟練した腕前が必要になるが。
水を用いた能力は戦闘に不向きである。それが故に、私は武道を極める必要があった。
拳術に剣術、様々なものを武器として取り扱える訓練を、弛む事無く毎日繰り返したのだ。
対トライブ用に特化した武術の腕前、それはこの場で遺憾なく発揮された。
走り寄って来る人々の動きを見極め、的確に排除していく。
武器は奪うが使わない。拳でなければ手加減して攻撃することは難しいからだ。
その動きは、まるで華麗なダンスのようにも見えた。それほど熟練した動きである。
残りはざっと20人……その辺になって、ようやく相手の動きが変わった。
一人ずつ襲っているようでは相手にならないと気付いたようだ。今度は数人がかりでいっぺんに襲ってくる。
しかし、巧みな位置取りで牽制をする。隙を突くように一対一に持ち込み、処理していった。
「やっぱり弱いですよ、ルドルと言ったか。私を倒したければ千人連れて来い、ですよ」
そう言った頃には、すでに敵の人数は10人を切っていた。この間たったの数分、たいした運動にもならない。
「だからお前はカミラにも負けたんだですよ。もっと学習しろですよ」
言いつつ敵中に飛び込む。最早蹂躙しているのは私のほうだった。
急所を的確に突き気絶させる技量は本来非常に難しいものだが、私には息を吸うように出来た。
それほどまでにトライブとの戦いは過酷だったのである。潜り抜けた修羅場の数が違う。
さて、そろそろこの炎の壁も消えるはずだ。あちらの戦いはどうなっているだろうと、私は目を向けた。
>「なんか、先輩達地下に行くみたいじゃないですか。で地下に行かれるとこの手は打ちにくくなるんで急いで来ちゃいましたぁ、きゃは。
てか、なんで住民の方外に出てるんですかねぇ、出ると危ないって言ったのに、責任取れませんよー。ま、いっか」
「だからってフツーこのタイミングで来る!?」
いやだってあんな風に撤退したらちょっとは間を開けると思うでしょ雰囲気的に!
我ながらこの相手に普通は通用しない事をいい加減覚えなければ。
>「じゃ、そゆことで長引かしてもアレなんでいっちゃいます。
決戦術式、隔離結界。発動です」
>「はーい、隔離結界の完成です。私と先輩の2人だけの部屋ですよ。
あ、その炎特別製なんで触れないでくださいね。一瞬で炭になって終わりとかあっけないの嫌なんで」
「なるほど……タイマン勝負がしたいのね。
普通の敵なら相手を全員まとめて片付けたがるけどやっぱり変わってる」
周囲に聳え立つ炎の壁。
スポーツならともかく命を賭けた戦いでタイマン勝負をしたがる奴というのはあまりいない。
アタシが助けを呼べないのはもちろんだが、炎の壁を消さない限り相手もそれは同じ条件なのだ。
>「あは、シャルル先輩とはこっちで戦りましょう。マスケット!」
「”とは”って……アイネに変なおもてなししてないでしょうね!?」
向こうは向こうで盛大なもてなしを受けている気がする。ご丁寧な物だ。
カミラの両手には二丁のマスケットが握られ、地面にはマスケットの花が描かれる。
場違いな感想だが、その様は美しいと言って良かった。
「マスケットか……リンネ時代の親友を思い出すわね」
>「さあ、シャルル先輩。溶ける様に戦いましょう」
対するアタシも魔人化――
ただし手の中に顕現させるのは、大鎌ではなく某付き飴をモチーフにしたロッド――通常時の武器だ。
いつもの魔人化時の武器である大鎌は正統派近接戦向きの武器。
今回相手はマスケットを使ったトリッキーな戦いを挑んでくるつもりだ。
ならばこちらも、トリッキーな戦いが出来るお菓子で迎え撃つとしよう。
お菓子メインで戦うならば大鎌よりもこちらの方が使い勝手がいい。
「そうね、一緒に甘い夢を見ましょうか。Trick and Treat!」
一斉に爆ぜるマスケット銃。
ロッドを一閃し粘性の高い水飴の網を広範囲に射出。撃ちだされた弾丸を絡め取る。
そして――
「お返し!」
マシンガン状に飴玉を発射。
お菓子といっても身体能力は魔人化仕様。飴といえども高速で射出すればその威力は相当なものだ。
脆いので殺傷力は低いが、その代わり体の表面で砕けて傷を作るので結構痛い。
そして戦意を削ぐにはダメージ自体よりも痛みの方が重要だ。
明確に相手の命を刈り取るための武器である大鎌とは違い、お菓子はお菓子だ。
戦闘に応用は出来ても、結局は殺さない、殺せないもの。だからこそ全力で迎え撃つ事が出来る。
先程の戦いで遅れをとったのは、同じデビチルであるカミラを殺める事に心のどこかで躊躇いがあったからなのかもしれない。
(我ながら甘いな……。まあ、仕方ないか。だって私は”お菓子の魔女”)
飴玉で牽制しながら、バトンから伸びるリボンのように、グミのロープを打ち出す。目的は拘束だ。
>「そうね、一緒に甘い夢を見ましょうか。Trick and Treat!」
その言葉を引き金に、両手のマスケット銃の引き金を絞る。
撃鉄が落ち、火薬が爆ぜ、鉛玉が射出された瞬間手に持った2丁を投げ捨て、花弁を毟るように地面に咲いたマスケットを補充する。
投げ捨てと補充を流れるようなスピードで行えばあっという間にマスケットの在庫は無くなる。
数十発の鉛玉を受けたシャルル先輩は黒煙の晴れた先で蜂の巣になって……いなかった。
当たり前です、そりゃそうです。このぐらいで殺れるわきゃないですもんね!
粘性の高い液体を広範囲に網を張り、それは蜘蛛の巣のように鉛玉を絡め取る。
「ひゅう、やっるぅ〜、って痛ッ!」
>「お返し!」
その台詞と共に色様々な弾丸が私に襲い掛かる。
とっさに外套を前に出し防ごうとするが防げる筈がない、私は外套を貫き私にも致命的なダメージを与える。
だが、それは私に襲い掛かったそれが鉛玉だったらの話だ。
初弾が着弾した瞬間の痛みの違和感、次弾が着弾した瞬間、頭が理解した。
これは飴玉? 痛いけど、それだけ。絶えられないほどじゃない。
ましてや魔人化で竜の加護を受けている今、竜鱗の肌を傷つけるも威力も無い。
しかし、僅かに感じるこの違和感はまさか……。
両腕で十字を作り、視界を確保出来るだけの隙間を明け突っ込む。
バチバチと大粒の飴が外套に弾け砕ける、衝撃が腕に響く、生身だったらもしかしたら骨に皹位は入ってるかもしれない。
その時、視界に半透明の縄のような物が移った。おそらくデータにあったグミのロープ。
あぁ、シャルル先輩……やっぱり貴女は。
先ほど感じてた違和感が確信に変わった。
声に出さずに両手に軍刀を召喚し片方でグミを絡めとり、もう片方で射程圏内にあった先輩の喉に突き付ける。
軍刀の切っ先が首の薄皮を切り、うっすら血が滲む。後ほんの少し力を込めれば肉を裂き骨を抉り勝負は決する。
「……やっぱり、シャルル先輩は優しいですねぇ。そこまで優しいと、私、惚れちゃいますよ?」
そう言いながら軍刀を引くと二本とも投げ捨てる。戦る気、失せちゃいました。
だってシャルル先輩、全力であっても本気じゃないんだもん。そんなのに勝ったって意味ないですし。
「さてと、どうします? この結界時間になるまで消えないですし、お話でもしますか?
ま、私は萎えちゃいましたけど先輩が続けるって言うんならこの『お遊び』続けます?」
そうどんなに全力を出しても本気じゃないならこれはお遊びだ。私は出来るならお遊びはご遠慮願いたい。
「さ、どうします? シャルル先輩。今なら答えられる範囲で何でも教えちゃいますよぅ?」
一方その頃。
>「やっぱり弱いですよ、ルドルと言ったか。私を倒したければ千人連れて来い、ですよ」
その言葉に私は歯軋りする。私の用意した私の複製たちの3分の2はすでに戦闘不能にされている。
そんな馬鹿な、いくら悪魔っていったってこんなに強い筈は……。
>「だからお前はカミラにも負けたんだですよ。もっと学習しろですよ」
残りは5、いや、3……くっ、私、1人だと? そんな馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!
今まで感じたことの無い屈辱、羞恥心が私の心に一気に襲い掛かる。
苦汁の味が口の中に広がり、どす黒いコールタールのような液体が私の体内に満ち、頭は熱くなり、顔は怒りで紅潮していく。
アイネは興味が尽きたかのように既にこっちを見ていない。その態度に熱くなった頭がさらに熱くなり、ブチリと何かが切れた。
何故、悪魔ごときが私を馬鹿にする!? 人間を今まで管理してきた私を舐めたような態度を取る!
こんな事あってはならない何があろうと天使を見下す存在などあってはならない。
私は最高にして至高の天使! 最大にして最強の『操る』能力を授かったエリートだ!
そんな私をこの悪魔は……!
「わ、私は天使の中でも最上位の能力を与えられたんです! 私は強いのです! こっちを見なさいアイネェッ!」
目の前が赤く染まり、叫ぶように手に持ったナイフを突き出しアイネに突進する。
が、次の瞬間、腹部に衝撃が走り、次いで肺に詰まっていた空気が吐き出される。
今まで感じたことの無い感覚に思わず身体をくの字に曲げて悶える。
自分の腹部に何が叩き込まれたのか理解できない。いや、考える余裕なんて無い。
「ガッ、ハッ?! ゲァ……」
陸に打ち上げられた魚のように必死に空気を取り込もうと身悶える。
「……な、なん、何なのですか、貴女達は……こ、この、都市は……上手く機能していた、のに。
……し、静か、に、平穏に……それを、壊して……な、何を……。
……わ、わ、私は、い、われる通り、やっただけなのになんで、こんな……仕打ちを……」
朦朧とした意識の中、アイネに対し私(おっさん)は半泣きで胸に留めていた事を訴えていた。
既にその場に立っていたのは私ともう一人、最初に喋っていた中年男性だけだった。
怒りに満ちた彼の顔を、既に私は見ていない。未だ消えぬ炎の壁に関心を寄せていた。
こちらはあらかた片付いたのにシャルルはまだ苦戦しているのか。助けに入る方法は……そんな事を思いながら。
そんな態度に逆上したのであろう、中年男性ことルドルは顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。
>「わ、私は天使の中でも最上位の能力を与えられたんです! 私は強いのです! こっちを見なさいアイネェッ!」
そのまま前傾姿勢を取り駆け寄ってくる。手にはナイフ、あんなもので私を害すつもりか。
私は半歩引く事でナイフの一撃を華麗に避け、その勢いのまま掌底を腹に叩き込んだ。
それは見事に決まり、ルドルは腹を押さえ身悶えする。
支配の能力を得ても、ダメージを受けるようでは何の意味もないと思うのだが。
何が最上位の能力だ。全く使いこなせてはいないではないか。敵としてちょっと残念過ぎる。
>「ガッ、ハッ?! ゲァ……」
「情けないですよ、全く鍛練が足りていないですよ」
うずくまるルドルを、呆れたような目で見下ろす。その目には一ミリの慈悲もない。
>「……な、なん、何なのですか、貴女達は……こ、この、都市は……上手く機能していた、のに。
……し、静か、に、平穏に……それを、壊して……な、何を……。
……わ、わ、私は、い、われる通り、やっただけなのになんで、こんな……仕打ちを……」
「何が言われる通りだ、ですよ。お前には支配者の貫禄すらないのかですよ。
私たちデビチルは世界を人間の支配に取り戻そうとしているだけですよ。
人間は天使の力を借りずとも、自力で生きてゆく強さを持っているですよ」
未だうずくまる彼の体を靴底でひっくり返し、私は相手の目を見てそう言う。
そもそも天使による統治など不要なのだ。人間は人間だけで生きていける。
さて、そしたらこのおっさんをどうしてくれようか?かりそめの肉体をあまり痛めつける訳にもいかない事だし。
「おい天使、お前の本体のいる場所に案内させてもらうですよ。この街は私達が征服するですよ」
その征服で一番厄介なのがカミラの存在だが、きっとシャルルが何とかしてくれていると信じる。
彼女のお菓子を用いた変幻自在の攻撃は強力だ。きっとカミラとて苦戦を強いられることだろう。
私に出来るのはこのおっさんの姿をした天使を少々痛めつけて、必要な情報を聞き出す事くらいだ。
指の骨を折るくらいならすぐに治るし大丈夫だよね、などと考えていたら、ようやく炎の壁の勢いが治まってきていた。
シャルルと合流したら、この天使の本体をやっつけてしまおう。
カミラにあごで使われる存在とも言っても、やはり天使は脅威である。早めに叩くべきだろう。
「しまっ――」
やはり相手は戦闘のプロ、捕縛を狙った事で隙を作ってしまった。
軍刀がグミを絡め取り、もう片方の軍刀が喉元に付きつけられる。
しかし、そこまで追い詰めておきながらすぐに軍刀を放り投げた。
最初に戦った時と一緒。
>「……やっぱり、シャルル先輩は優しいですねぇ。そこまで優しいと、私、惚れちゃいますよ?」
アタシがこうなったのは、リンネ時代にトライブ化した親友の首を刈り取った時からだ。
もうあんな思いはしたくない、同じデビチル相手には特に。
魔人化時は殺害に特化した能力でありながら、その能力を100%は発揮できない矛盾。
「……勘違いするな。殺さないから優しいとは限らない。
アタシの仲間には殺してもらえずに捕虜として扱き使われている元天使もいるんだからな」
>「さてと、どうします? この結界時間になるまで消えないですし、お話でもしますか?
ま、私は萎えちゃいましたけど先輩が続けるって言うんならこの『お遊び』続けます?」
「お遊び……? アタシ達には人間をゼウスの支配から解放するというれっきとした目的がある」
人を馬鹿にした話だが、これは謎だらけの相手から話を聞き出す恰好のチャンスだ。
活かさない手は無い。
>「さ、どうします? シャルル先輩。今なら答えられる範囲で何でも教えちゃいますよぅ?」
アタシは魔人化を解き、通常時の姿に戻る。
奇襲してきたかと思えば勝利目前で勝手に帰って行ったり帰って行ったと思えば直後にまた出てきたりと
訳の分からない奴だが、今は騙し討ちはしてこないという変な信頼が何故かあった。
「アタシに言わせりゃあなたの方こそ『お遊び』に見えるわ。目的が見えてこないんだもの。
そうね、例えば……アタシ達がこの街から撤退する――って言ったらどうする?」
普通に考えてまず思いつく、この街の支配が目的だとすれば、まず街を制圧してから好きなだけ支配すればすむ。
単なる戦闘狂なら、こんなややこしい事をしなくても普通にデビチル活動をしていれば強い天使とはいくらでも戦える。
まさかのゼウス賛成派なら、最初から天使の味方をすればいい。
引っかかるのは、実態はどうあれ表向きは飽くまでも土壇場で天使側に寝返った、という体を取っているということだ。
ピンポイントでこのシュチュエーションでなければならない理由が何かあるのか――それを探る質問だ。
パリエスについて俺が目にしたのは、大きな炎の四角、だった。
また洒落になんないバトルやってんだなぁなどと思いつつその炎の部屋に近づいていった俺は…。
…っと、いきなり俺が現れたから読者の皆さんが混乱していると悪いのでここに至るまでの経緯を書いておこう。
やぁやぁ皆さん、出たり入ったり忙しい男、トム・ジリノフスキーです。
ロンデニウムでアイネに吹っ飛ばされていらい出番の無かった俺が何をしていたかといいますと…。
…入院、してました、頚椎損傷して。
えぇ、アイネさんです、あの時彼女に突き飛ばされた際倒れた先に三角錐の硬い物が落ちてましてね。
はい、そうです、そこで首を打って、能力が回復してなかった俺は首の骨にひびが入ったため、ロンデニウムで養生しててシャルル先生達と一緒に行動できてなかったわけなのです。
で、能力が回復して、例のエアバイクで追っかけてきたらこうなってた、とそういうわけなのさ。
あ、何かこう、街の中に外壁上って入ったりとかしたから罠とかかからず無事ここまでこれた…のはいいけど、どういう状況だ?これ?
制服の上に猫バスダンジョンで見つけたボディアーマー、そいで腰には拳銃を3っつ、両脇と後ろにつけて、懐にはアキヴァで手に入れた強力兵器を入れていて完全装備の俺は。
装備のおかげで心に余裕を持って炎の壁に近寄り、その周囲をぐるっと回ろうとして…。
「あ!アイネじゃん。よかったよかった、合流できて」
アイネを発見する事に成功した。
あ、もち、わざとじゃなかったしあの場合彼女は最良の手を打っていたので、アイネに俺は別に何か恨みをもってたりはしてないよ、うん、病室来て謝ってくれたし、もうチャラ、チャラ、この話題なし。
同じような状況でシャルル先生は胸もましてくれたのにこいつは…とか思ったり何かしてないよ、マジで。
……そういえばマジで無いなーと思い視線を胸に一瞬向けたらアイネから殺気が感じられたので、顔に視線に、頭を現実に戻して彼女に質問する。
「そのおっさんどうしたんだ?ってかシャルル先生は?あ、着るか?これ?俺いらんから」
とりあえず、彼女に状況を聞いてみる事にする。
ついでに自分が着てたボディアーマーを彼女に勧めてみた。
ちょいとサイズが大きいけれども、まぁ、能力で戦うこいつには動きが少し乱されても問題ないだろ。
>「……勘違いするな。殺さないから優しいとは限らない。
アタシの仲間には殺してもらえずに捕虜として扱き使われている元天使もいるんだからな」
やだー、それ含めた優しさだって言ってるんですよ先輩。
その元天使のお仲間とやらだって本当に嫌なら、とっくに自害してますって。
それを死なせずに仲間にするってどんだけ凄いことか分かります? いやんホントマジ優しーマジ惚れそう!
私は身体を震わせ、ぐねぐねと身悶えた。
>「アタシに言わせりゃあなたの方こそ『お遊び』に見えるわ。目的が見えてこないんだもの。
そうね、例えば……アタシ達がこの街から撤退する――って言ったらどうする?」
ぐねぐねと身悶えしていた身体がピタリと止まる。
「あは、いやですねぇ、諦めないに決まってるじゃあないですか。私しつこいんですよ?
どんなに逃げても追いかけます、何回何十回何百回何千回何万回何億回何兆回何京回、那由多の彼方まで逃げても追いかけます。
それこそ神話のストーカー級も裸足で逃げ出すほどの粘着っぷりをご披露しますよ先輩。
でもアレですねぇそれじゃあ先輩達は逃げてればOKみたいになっちゃいますね、じゃ、逃げたらその街がドッカーン、ってどうです?
たまたま私が爆弾を持ってて、たまたま爆弾の威力が街を吹き飛ばせる程で、たまたま落としちゃって、たまたま爆発しちゃったみたいな?
そーんな不幸な出来事が起こっちゃうかもしれませんねぇ、っと」
ふと、結界を見れば火力が弱まってきている。
「あーあ、残念。もうちょっと先輩とお喋りしたかったですねぇ、ま、次の機会もありますよね?」
そういって先輩に背を向けた。炎は急速に勢いを弱め部屋としての役割を保てなくなる。
まるで見えない扉が開くように炎が一部が雲散し、外への出口が現れる。
一度出口が開いてしまえば、そこからジワジワと炎の壁は崩れていった。
私は倒れているおっさんとアイネ先輩と、誰か、視認すると同時に明るく声をかけた。
「いやーん! アイネ先輩、弱い者いじめは駄目ですよ。しかも絵的になんだか危ない感じぃ。
そういうPlayですか? Deepですねぇ、これもart? なぁんて、冗談ですよ冗談!」
アイネの足元に倒れてるおっさん(天使)を見て、溜め息を吐く。
「あは、その様子じゃあ疲れさすことも出来なかったみたいですねぇ、うーん予想道り。
まったく優秀な能力なのに使う側の性能が悪いとこうまで残念になるのねぇ。
ねぇ、さっさと能力解除なさいな。使い捨ては貴女の能力の利点の一つでしょう」
僅かにピクリとおっさんの身体が動く、うつ伏せの状態でぼそぼそ何かを言っているようだが聞こえやしない。
「はいはい、恨み言は後で聞いて上げるから、さっさと帰りなさいお疲れ様でした」
そう言うとおっさんの身体は動かなくなる。
はぁ、ともう一度溜め息を付くと再び笑顔を作りアイネ先輩に声をかけた。
「というわけで、アイネ先輩楽しめなかったみたいですいませんね。ま、次の機会に……?」
と、そこまで言った時、アイネ先輩といた誰かの顔が目に入った。
「おや、こちらもしかしてトム先輩!? いやん、一度会ってみたかったんですよぉ! あ、握手いいですか?」
そう言ってトム先輩の手を無理矢理掴むと強引に握手をする。
「あは、以後よろしくお願いします。トム先輩とスルのも楽しみにしてますので……あ、これお近づきのしるしですぅ」
片手をトム先輩の眼前に突き出す、手には黒銀の小さな鉄の塊、ワルサーPPKが握られている。
「I hope my feelings reach you♪」
言いながら私はその引鉄を絞った。
相変わらず足元に伏し何事か呟いているおっさん(天使)を眺めていると、思わぬ方から声が掛かった。
>「あ!アイネじゃん。よかったよかった、合流できて」
顔を出したのは懐かしいトムの姿。療養を終えたのだろう。その姿は元気そうに見える。
ここまでのトラップにも掛からなかったようだし、相変わらず不思議な男だと思ってみたり。
まぁ彼の能力なら、トラップに掛かっても致命傷には至るまい。ここのトラップは対人戦仕様だし。
「ああトム、久しぶりですよ。ちょうど飽きていたところだったから良かったですよ」
そう言って、つま先でおっさん(天使)を軽く蹴っ飛ばす。
大勢で襲ってきたのにこの体たらく。私は心底呆れ返り、退屈していた。
対人格闘戦も満足に出来ないのか、最近の天使は。ちょっと絞め殺してやりたい気分である。
まぁ、私の格闘術は対人戦ではなく対トライブ用に形成されてきたものだし、仕方が無いのかも知れないが。
>「そのおっさんどうしたんだ?ってかシャルル先生は?あ、着るか?これ?俺いらんから」
「このおっさんは天使の傀儡ですよ。シャルルはあの炎の中にて交戦中、あとアーマーは汗臭そうだからいらないですよ。
現在はカミラというデビチルが離反して暴れているですよ。それの捕縛が任務ですよ」
本当のところ、アーマーが必要ないのはこれ以上装備を重くしたくないためである。
腰のベルトに吊るした液体の量は約5リットルに相当する。これが案外重いのだ。
私は小さな体躯だし、あまり体力には自信がない。素早く動くためには重量を削減する必要があるのだった。
そのとき、ようやく炎の壁が崩れるように消え、中からカミラの姿が現れた。
その後ろにはシャルルの姿。見たところ怪我はないようだし、どうやら無事だったらしい。
現れたカミラはこちらの姿を視認すると、嬉しそうな笑顔を浮かべ近づいてきた。
>「いやーん! アイネ先輩、弱い者いじめは駄目ですよ。しかも絵的になんだか危ない感じぃ。
そういうPlayですか? Deepですねぇ、これもart? なぁんて、冗談ですよ冗談!」
「この天使が弱いだけですよ。こんな歯ごたえのない天使、初めてで呆れるですよ」
カミラはいまだうずくまる天使に声を掛けると、やがて天使が抜けたのか動かなくなった。
>「というわけで、アイネ先輩楽しめなかったみたいですいませんね。ま、次の機会に……?」
そこまで言ったカミラだが、ふと視線を逸らしトムの方を見ると、言葉を紡ぐのをやめそちらに向き直った。
>「おや、こちらもしかしてトム先輩!? いやん、一度会ってみたかったんですよぉ! あ、握手いいですか?」
そう言って半ば無理やりにトムの手を取り握手をする。相変わらず行動の意図が読めない奴だ。
>「あは、以後よろしくお願いします。トム先輩とスルのも楽しみにしてますので……あ、これお近づきのしるしですぅ」
>「I hope my feelings reach you♪」
突然トムの眼前に突き出されたのは銃。当たり前のようにそれは眉間を捉え、引き金が引かれた。
銃声と共に、大きく仰け反るトムの姿。私は倒れるトムを視界から外し、素早く液体を支配下に置く。
トムのことなら大丈夫だ。避けたか、当たったとしても能力があるはずである。
私は液体を放ち、カミラを覆うように展開する。
「動くな、ですよ。今お前の周りにあるのは濃硫酸。動けば火傷じゃ済まないですよ」
>「あは、いやですねぇ、諦めないに決まってるじゃあないですか。私しつこいんですよ?
(中略)
そーんな不幸な出来事が起こっちゃうかもしれませんねぇ、っと」
思った通り、彼女の目的は街の支配ではないらしい。
ではアタシ達の抹殺が目的かと言うと、それも違う。
今までにこちらを仕留められるチャンスが何度もあったにも拘らず、自らそれを逃している。
もしかして戦い続ける事自体が目的?
そうだとすれば戦意喪失させるのは至難の業、ある意味一番厄介だ。
やはり息の根を止めるしか方法は無いのだろうか……。
そうしている間に、炎の壁の持続時間が切れたようだ。
>「あーあ、残念。もうちょっと先輩とお喋りしたかったですねぇ、ま、次の機会もありますよね?」
「……そうね。アタシもあなたの事をもっと知りたいわ」
それは紛れもない本心だった。デビルチルドレン――イレギュラーで運命を切り開く存在。
リリスさんの言葉を信じるならば――どんなトンデモないデビチルだって
いや、トンデモなければトンデモないほど、この世に送り出された意味はあるはずだ。
炎の壁が無くなってみると、そこにはおっさんを蹴っ飛ばすアイネ。
えーと……これってどういうシュチュエーションだろうか。ってかアイネってここまでドSキャラだったっけ!?
とシャレでは済まない事態かもしれない事に思い当たる。
このところ魔人化能力を連続して使っている影響が出ているのかもしれない。
アタシはリンネ時代にその分野の講師をやっていただけあってまだ大丈夫だが、アタシだって時間の問題だ。
派手にドンパチやるのはクライマックスだけで良かった今までの街と違い、戦闘狂カミラを相手取る限り、断続的に戦いを仕掛けてくるだろう。
早く決着を付けなければ最悪の事態になる……。アタシ達はすでに凄まじくヤバイ状況に陥っているのかもしれない。
大変由々しき問題だが、しかしその思考は一端脇に置かれる事となった。
その横にボディアーマー売り込み中のトムがいたからだ。
カミラがこの思わぬニューフェイスを見逃すはずはない。
>「おや、こちらもしかしてトム先輩!? いやん、一度会ってみたかったんですよぉ! あ、握手いいですか?」
怪我治ったんだ、とかよくここまで一人で来れたね、とか言う暇も無く、トムはターゲットロックオンされた。
これはヤバイパターンだ!
>「あは、以後よろしくお願いします。トム先輩とスルのも楽しみにしてますので……あ、これお近づきのしるしですぅ」
>「I hope my feelings reach you♪」
注意を促す間もなく、撃たれた。
当たったのかマ○リックス避けを敢行したのかよく分からないが、大きく後ろにのけぞるトム。
倒れないように後ろから抱きとめる。
「大丈夫!? 訳わかんない奴だから気を付けて!」
その間にも、いち早くカミラを濃硫酸の檻で囲むアイネ。
>「動くな、ですよ。今お前の周りにあるのは濃硫酸。動けば火傷じゃ済まないですよ」
実のところ、こっちの世界でデビチルがトライブ化した、という報告はまだ聞いていない。
だからといってならないという保証はない。
「アイネ、もう魔人化してはいけない。……でも、今だけはそのまま――」
もはや同じデビチルを殺したくないなどと悠長な事を言っている場合ではないのだ。
仲間がトライブ化する事だけは避けなければならない。
カミラを見据え、静かに問いかける。
「彼女の言う事は本当よ。教えて……天使の本体はどこにいるの?」
カミラは相当な強敵。正直、今の状態のままでは全員で殺す気でかかったとしても100%勝てるわけではない。
ならば先にホスト天使をピュグマリオンの矢で撃って街を制圧し、天使達を動員すれば戦いは大幅に有利になる。
そう思っての事だ。
>「このおっさんは天使の傀儡ですよ。シャルルはあの炎の中にて交戦中、あとアーマーは汗臭そうだからいらないですよ。
現在はカミラというデビチルが離反して暴れているですよ。それの捕縛が任務ですよ」
「いやどっちかと言うとお前の方が離反したように見えるんだが気のせいか?」
羽もわっかも無いおっさんを蹴りながら凶暴な事を言うアイネに、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
アイネは真面目でいい子なんだろうが、ちょいと性格がきついとこがあるな…。
いや、まぁ、俺が前回あんなすさまじいセクハラをしでかしたのがいけないのと、母なる海のように懐が広いシャルル先生しか近場に女がいない状況が続いたから(ってもこっちきてまだあんまり日がたってないわけだけれども)比べるとあれなだけで彼女は普通…。
>「いやーん! アイネ先輩、弱い者いじめは駄目ですよ。しかも絵的になんだか危ない感じぃ。
そういうPlayですか? Deepですねぇ、これもart? なぁんて、冗談ですよ冗談!」
などと考えていると、明らかに普通で無い声が聞こえてきて、俺はわれに帰った。
見れば、そこにはいつぞやの軍人女のような女性が一人…。
しかし雰囲気はあの真面目な軍人女と違い、ふざけてる…というか、壊れている、というか…。
>「あは、その様子じゃあ疲れさすことも出来なかったみたいです〜〜
女の口ぶりから、どうもこの男は天使に操られていたらしい。
あー…、そういう天使も出てきたかー、そろそろそーいうのも出てくるんじゃないかなーなんて思ってたんだよなー。
>「おや、こちらもしかしてトム先輩!? いやん、一度会ってみたかったんですよぉ! あ、握手いいですか?」
「っお!?」
などとぼんやり考えていると、女の方が俺に気づいて近づいてきた。
瞬時に間合いをとろうとするが、素人の俺にはそれすらもできない。
あっという間に間合いに入られてしまう。
>「あは、以後よろしくお願いします。トム先輩とスルのも楽しみにしてますので……あ、これお近づきのしるしですぅ」
や……ややややべェこの女、強い!
駄目駄目だ駄目だやられるやられるやられるやられる!?
スル?スルってアレか!
もしかしてシャルル先生等が戦ってるのって女同士でスルのがいやで…
>「I hope my feelings reach you♪」
「わげねよな”」
女の腕に握られていたワルサーが火を吹き、俺の眉間に穴が開いた。
弾丸は頭蓋骨を貫通し、脳の中心の辺りで停止する。
即死…である。
意識が薄れていく……。
>「大丈夫!? 訳わかんない奴だから気を付けて!」
カサイセイの能力で地獄から瞬時に意識が舞い戻ってきた俺は、柔らかくて暖かい感触の中で覚醒する。
その感触の中で、俺を気遣うやさしい言葉をかけてくれたのは勿論…。
「シャルル…先生…。」
うェ〜〜んシャルル先生、あの女が俺の眉間をワルサーで撃った〜、首チョンパにして〜。
とその胸に泣きつきたい気持ちを抑え、俺は名残惜しい気持ちをこらえながらその懐から開放してもらうと、頭を振って頭の中に入った銃弾を摘出する。
…流れ弾とかで頭撃たれるのは初めてじゃないので、こういう時の対処には実はなれてたりするんだ、俺。
>「アイネ、もう魔人化してはいけない。……でも、今だけはそのまま――」
などと考えていると、シャルル先生が衝撃の告白をした。
どうもこの馬鹿女との戦いで、シャルル先生達は魔人化能力を使いまくってしまい、最早危険らしい。
しかし、こういう相手は意外としぶとく能力を温存してたりするものである。
まして…。
>「彼女の言う事は本当よ。教えて……天使の本体はどこにいるの?」
素直にシャルル先生の質問に答えるとも思えない。
……よし、会話に気を取られている隙に俺が撃ってしまおう。
腹とかに当たっても即死でなければ今は未来なんだから医者行けば直せるだろう…。
仮にそこで死んでも正当防衛だ、こっちは頭撃たれたんだから文句なんぞ言わせない。
俺はさりげなく、女の視界から外にでると、取って置きを使うべく、懐に手を入れた。
よし、悟られて無い、行ける。
俺が懐から出したのは、アキヴァ丸三工房で作った取って置きのレーザーガンだ。
銃弾では避けられる可能性があるが、こいつなら光の速さだから避けられないし。
0、5秒の照射で厚さ5cmの鉄板も貫通するから防弾着も無意味。
更に、今はアイネの濃硫酸で動きが取れていない。
イケる。
俺はためらわず、女のわき腹めがけてレーザーガンの引き金を引いた。
銃口が赤く輝き、熱線が女めがけて発射される。
>「動くな、ですよ。今お前の周りにあるのは濃硫酸。動けば火傷じゃ済まないですよ」
「Wow! 相変わらずアイネ先輩は容赦がないですねぇ。ま、それがアイネ先輩の魅力なんですけど」
周囲を覆うように展開された濃硫酸をチラ見しつつ、軽口という名の本音を叩く。
>「彼女の言う事は本当よ。教えて……天使の本体はどこにいるの?」
「いやん、シャルル先輩そんな凄んじゃいやですよぉ。あー、でもそうですねヒントくらいなら、っと……?」
……? 瞬間、腹部を肘で小突かれた感触が身体を駆け巡る。一歩、歩を後ろへ。
脇腹にポツンと空いた黒い穴。一瞬、それが何であるか理解できない。
数瞬の葛藤の果てにこれが狙撃された物だと理解する。
「ッッッ―――!? アッッッ!?!? ――――――ッ!?」
痛みが身体から脳へ伝わった瞬時にその身体をくの字に身体を折り曲げる。
高温で熱された赤い火箸を臓腑の最奥へと突っ込まれた感覚。
口からは涎ではない泥のような粘ついた赤い液体が吐き出される。
目からは水ではない熱水のような透明の液体が零れあふれる。
撃たれると理解して撃たれるのと、理解できずに撃たれるのではその衝撃は異なる。
身体は痛みに対して準備出来ていないし、心は覚悟を決めていない。だからこの醜態もしかたがない。
……いや、これは言い訳。ここは戦場で、目の前にいるのは敵だ。
敵の能力を見誤った私の失態。だからこの痛みと醜態は必然の罰なのだ。
トム先輩の再生能力がここまで高性能だとは……。
脳を打ち抜かれもこの短期間に蘇生・活動が可能、なんてペテン、なんてチート。
……否、能力だけじゃあない。トム先輩の状況判断含めた基本スペックも滅茶苦茶高い。
その事実に思わずにやけてしまう。ああ、私が敵に回しているのはそういうとんでもない奴らなんだ。
傷口を押さえた手からは依然、鮮血が溢れ出ている。私はその傷口を『焼いた』。
「――――――――――――ッッッッッ!!!」
声に為らない絶叫を上げ、くの字に折れ曲がった肉体が弾ける様に弓なりにしなる。
肉と血液が焼ける匂いが当たりに漂う。
血を止める為とはいえ、我ながらトンだ荒療治だ
「き、希硫酸は100℃以上で濃硫酸に……濃硫酸はさらに300℃以上加熱することで分離し物質へ……」
呻くようにその言葉を口にしながら、私の周囲の濃硫酸の檻を超高火力で熱していく。
不揮発性の濃硫酸中の水分が蒸発し、分離していく。
周囲に残ったのは物質となり粉状となった三酸化硫黄のみ、それをまたいで歩を進める。
口に含まれた粘ついた液体を吐き出し、口内を自身の能力で熱し浄化する。
「あは」
その言葉を絞るように口に出し、活歩しトム先輩と距離を詰める。
まるでその腕は蛇ようにトム先輩の首に絡みつく。
その身体は娼婦のようにしなだれトム先輩身体全体に絡みつく
そしてその唇を奪った。唇をこじ開け、舌をねじ込み、口内を蹂躙する。
十数秒の時が過ぎ去った後、ゆっくりとその唇を離した。
「……はぁ、良い気付け薬代わりになりました、どーも感謝です。初めてだったらすいませんねぇトム先輩。
にして私、トム先輩のこと本気で気に入りそうです。だって私にここまでの傷を負わせた人、久しぶりですから」
トム先輩から身体を離し、2人の先輩を見つめる。
「ヒントを上げると言いましたけど、少し待ってくださいねぇシャルル先輩アイネ先輩。
とりあえずこの傷、治してきちゃうので……それじゃあ愛おしい先輩方、また後ほど、ばぁい」
そう言いながら片手を上げる。瞬間、炎が辺りを紅蓮に染め上げる。
私は炎に紛れ、その場から姿を消す。閃光弾を撒き散らしながら。
カミラの動きに注意しつつ、私は彼女を逃さぬよう集中する。
>「アイネ、もう魔人化してはいけない。……でも、今だけはそのまま――」
そう言えば、最近魔人化能力を酷使していたのかも知れない。色々忙しかったのだ。
このペースで使い続ければ、遠くない将来私もシャルルもトライブ化してしまう。
しかし今は強敵が目の前。果たして力をセーブしたまま戦うということは出来るのだろうか。
>「彼女の言う事は本当よ。教えて……天使の本体はどこにいるの?」
>「いやん、シャルル先輩そんな凄んじゃいやですよぉ。あー、でもそうですねヒントくらいなら、っと……?」
次の瞬間だった。カミラが驚いたような顔で脇腹を押さえ、うめき声を上げる。
手の隙間から見えたのは黒い穴。間もなく、その穴から赤い液体があふれ出した。
今のは射撃ではない、もっと別の何か……そう思って振り向くと、トムが銃のような何かを構えている。
あれはレーザーガン?なるほど、対象を音もなく射抜ける訳だ。
深手を負ったカミラなら簡単に捕らえられるだろう。そう思ったのもつかの間、彼女は意外な行動に出た。
>「――――――――――――ッッッッッ!!!」
肉の焼ける匂い。そう、彼女は自らの能力で傷口を焼いたのだ。
その痛みは尋常ではないだろう。しかし自殺行為ではない。止血は効果的な治療法だ。
あっけに取られ見ていると、更に彼女は能力を発動する。
>「き、希硫酸は100℃以上で濃硫酸に……濃硫酸はさらに300℃以上加熱することで分離し物質へ……」
周囲を覆っていた濃硫酸を熱したのだ。思わぬ誤算である。彼女の能力を見誤っていた。
薬品だろうと水だろうと、液体であれば熱すれば蒸発する。
私の能力の応用で熱湯を蒸発しない程度に熱を維持するなどは出来るが、基本外部からの熱はコントロールの埒外だ。
気体となった液体は能力では元に戻せないのだ。氷になってしまっても同じである。
言わば、炎熱系の能力者は私にとって最悪の相性なのだ。これ以上の敵はない。
枷となっていた硫酸の壁から開放された彼女は、悠然と歩を進めトムのほうへとやって来る。
そして、またしても驚くべき行動に出た。
トムの身体に絡みつくようにしなだれ、その唇を奪ったのである。
濃厚なその行為は、十数秒にも及んだ。その間、ただただ見ているしかない。
トムがショックを受けなければ良いのだが……私の脳内では、そんな心配が渦巻いていた。
>「……はぁ、良い気付け薬代わりになりました、どーも感謝です。初めてだったらすいませんねぇトム先輩。
にして私、トム先輩のこと本気で気に入りそうです。だって私にここまでの傷を負わせた人、久しぶりですから」
>「ヒントを上げると言いましたけど、少し待ってくださいねぇシャルル先輩アイネ先輩。
とりあえずこの傷、治してきちゃうので……それじゃあ愛おしい先輩方、また後ほど、ばぁい」
その直後、彼女が腕を上げると同時に炎が周囲を取り巻く。しまった、逃げる気だ。
私はすぐに行動を起こそうとしたが、もう遅い。カミラの姿は炎に紛れてしまう。
続いて小さな爆発と閃光。その衝撃に意識が揺れ目が眩む。
おそらくは閃光弾だろう。自由に武器を調達できるあの道具は最早チートである。
こうして、私たちはまたしても彼女を取り逃がした。探してももう遅いだろう。
「どうするですよ、今のうちに地下への入り口を押さえておくのかですよ?」
芸術は爆発だとか言っていた人物は物陰からこちらを観戦していたようだ。
こんな戦闘を見て芸術に良い影響でもあるのだろうか?芸術家の思考は分からない。
きっとたくさんの炎や爆発を見て満足しているだろうその芸術家に話しかけてみる。
「アトリエに行きたいのか?ああ、構わない。ただし、条件がひとつある」
「その条件とは何だですよ」
「描きかけの絵があるのだがな、いまいち構想がまとまらない。
お前さんたちの力で絵を完成して欲しいのだ。このくらい出来るだろう?」
「あんたの絵に私たちが加筆してもいいのかですよ?」
「何、構わんさ。どうせ完成しなければ捨てる絵だったのだからな」
そう言って、とりあえず家の中に案内された。中はそこらじゅう汚れだらけ、未完成の作品だらけだった。
これだと言われ見せられた絵は、何を描いたものなのか皆目検討が付かなかった。
前衛芸術とでも言うのだろうか?キュビズムなのかシュールレアリズムなのか。
これに加筆しろと言われても、果たして何を描けば良いのだろう?
「諦めたですよ、他の二人に任せたですよ」
そう言って早速投げ出す。絵など一度たりとも描いた事はないのだ。出来る訳がない。
教師であるシャルルなら、あるいは独自の思考を持つトムなら、あるいは何とかなるかも知れない。
>「いやん、シャルル先輩そんな凄んじゃいやですよぉ。あー、でもそうですねヒントくらいなら、っと……?」
アタシの質問に答えようとして急に言葉を止めるカミラ。
正直アタシも一瞬何が起こったのか分からなかった。
>「ッッッ―――!? アッッッ!?!? ――――――ッ!?」
トム君の手には銃。彼は見事不意打ちを成功させたのだ。
再生能力が想像以上で相手もノーマークだったのだろう。
それにしてもここまでガチでダメージが入ったっぽいのは初めて見た。
>「き、希硫酸は100℃以上で濃硫酸に……濃硫酸はさらに300℃以上加熱することで分離し物質へ……」
傷口を焼いての荒療治に、硫酸に対するこの対処。この状態で何たる冷静な判断力。
やはり相手はあらゆる意味で戦闘のプロだ。
>「あは」
「な、何よ……」
流石に痛みのあまりおかしくなったのか、フラフラと歩みを進めるカミラ。
そのまま倒れる、と見せかけてトムへとしなだれかかる。
「ちょっと……!」
もしかしてこのまま戦闘不能かな?と思ったせいで反応が遅れた。
哀れ、トムは唇を奪われてしまったのである。
「えぇえええええええええええええ!?」
>「……はぁ、良い気付け薬代わりになりました、どーも感謝です。初めてだったらすいませんねぇトム先輩。
にして私、トム先輩のこと本気で気に入りそうです。だって私にここまでの傷を負わせた人、久しぶりですから」
「あ、あなたねえ、いきなりちょっと濃厚すぎるわよ! そ、そもそもそういうのは双方の同意の元に……」
>「ヒントを上げると言いましたけど、少し待ってくださいねぇシャルル先輩アイネ先輩。
とりあえずこの傷、治してきちゃうので……それじゃあ愛おしい先輩方、また後ほど、ばぁい」
アタシもこれには動転して、ピントのズレたツッコミをしている間に逃げられてしまった。
こうやってこちらを動転させるのも、相手の戦術の一つなのかもしれない。
気を取り直してこちらはこちらで探索を進めるとしよう。
そして現在――アタシ達は謎の絵の前にいた。
>「諦めたですよ、他の二人に任せたですよ」
アイネがいち早く匙を投げる。
そもそもこれは本人すら何を書いているのか分かっていないのではないだろうか。
こうなりゃハッタリで何となくその気にさせる作戦だ。
「これは予言の絵……? きっと神と悪魔の最終決戦ね!」
とりあえず絵の中のよく分からない楕円に耳と足を付けて猫バスにしてみる。
「こっちのごちゃごちゃしたよく分からないのがゼウスかしら」
かなりのキラーパスだが、妄想力が豊かなトム君ならまあ大丈夫だろう。
>「いやん、シャルル先輩そんな凄んじゃいやですよぉ。あー、でもそうですねヒントくらいなら、っと……?」
俺の放ったレーザーは、狙い通り女の脇腹を貫通した。
命中だ!やった!いや、まだか?
どうだ?やったか?やったか?
> 「ッッッ―――!? アッッッ!?!? ――――――ッ!?」
思わず生唾を飲み込み、じっと効果の程を凝視する俺の前で、女は体を折、苦しみだす。
やった!
効いてる!効いてる効いてる!
……あれ?この後どうしよう。
俺はこの時気づいた、女を撃ったはいいが、相手が苦しんで意識を失うなり、死ぬなりしなければ、拘束する事など今ここにいる面子にはできないのだ。
あんな風に半端に意識があって苦しんでいるだけでは、下手に拘束しようと近づいたところでイタチの最後っ屁で殺されかねない。
かと言って、追い打ちをかけるわけにもいかない。
あれは本気で死にそうな様子なので、ここで銃撃で追い打ちをかけたりしたら本当に死んでしまう。
それはしたくない、そんな人を殺した罪を背負い続けるような覚悟は俺にはない。
だから、相手がダメージを負って大チャンスなのだけれども、結局何もできないまま、俺は女を見ているしかない。
だけれどもこのまま相手が意識を失ってさえくれれば後はワイヤーか何かで縛って…。
>「あは」
「あ…アワワ…」
結局、俺が脳内で意識のないあの女を亀甲に縛る妄想にかられている間に、女は動けるまでに回復してしまった。
やばい。
これ絶対やばい、
殺される。
本気のシャルル先生と互角に渡り合うっつーことはあれだろ?俺の逃げ足やら銃撃やらじゃ真正面からじゃどうしょもないってこったろ?
2秒で俺5体バラバラだろ?
ヤバイ。
しぬしぬしぬ!死ぬ!死ぬ!やめてこないで、あばばばば…。
あ、去年の暮に死んだばーちゃんが、ばーちゃんが見える。
トム、何とかオリジナルとかいうクッキーもって川の向こうで俺を…俺を…
うわあああああああああああああああああああああああああ
距離、距離詰められた、いるいるいる、目の前、死ぬ!絶対痛くして殺される。
助けて!シャルル先生助けて、助けて!死ぬ!怖い、まだやだ、俺死にたくない。
DTを、せめてDTを捨ててこの世に俺の種をまいてから…
あとまだ、まだあれ、続き、続き見てない、帰ってきたウルトラマンの。
いやだ、やだよ!マジやめて、ウルトラマン助けて!
あ……ば…漏らした、今、ズボン濡れて…。
「むぐぅ!?」
何か?何か口の中入ってきた!?
何?何か、口が、口の中が…。
死ぬの?俺死ぬの?
でも何かこう…異物感が…柔らかくて…。
息が…いい匂いがする…。
あったかい?首が…手が回っててあったかい。
あれ?え?俺、何されてんの?
唇に…唇が重なって…え?
頭の中が真っ白になってた俺が意識を取り戻した時、俺の唇と女の唇の間に糸が引きながら、女の顔が俺の顔から離れていった。
…き…キスされちゃった…。
>「……はぁ、良い気付け薬代わりになりました、どーも感謝です。初めてだったらすいませんねぇトム先輩。
にして私、トム先輩のこと本気で気に入りそうです。だって私にここまでの傷を負わせた人、久しぶりですから」
へ?
え?何?不意打ちされて喜んでるわけ?
あ、え?あれか、弱い俺が自分に傷をつけたから、ごほーびってわけ?
え?
え?で、キス?舌入れてきて。
「……初めて、でした、どうも。」
あまりのことに俺は茫然としながらも、とりあえず嬉しかったので素直に今の気持ちを口にした。
どうしよう、まだ気持ちの整理がつかない…。
>「あ、あなたねえ、いきなりちょっと濃厚すぎるわよ! そ、そもそもそういうのは双方の同意の元に……」
意識の向こうで、シャルル先生が動揺しながら突っ込みを入れてるのが聞こえた後、何やらまぶしい光が輝き、目の前にいた女は消えた。
…確認しよう。
キスされた、俺、キスされた。
……あとおしっこ漏らした。
>「どうするですよ、今のうちに地下への入り口を押さえておくのかですよ?」
初キスを奪われるという俺の人生の一大事にかかわらず、しかし、アイネは冷徹に話を先に進め始めた。
うん、うん、確かに、そうだ、俺の唇の件は今、どうでもいい、っつーかどうしょうもない、置いておこう。
初キスは好きな人と決めてたわけでもないし、いい。
いいんだ。
今は考えるのよそう。
…その代りこの感触は覚えとこう。
忘れないようにしよう。
…しばらく、夜中に使えるから。
ともかくそうこうしてるうちに俺達は、芸術家のおっさんに協力を得るべく、アトリエに行くためにおっさんの書いている絵を完成させる事となった。
その前におっさんに洗濯機と乾燥機を貸してもらい、ズボンを洗って乾かす。
…さすが未来、ズボンはあっという間に元通り。
便利だな、おい。
こういうもん作ってくれてるところだけは俺ゼウスを評価できるよ、ほんとに。
で、俺達はアトリエとやらに行くために、おっさんの構想中の絵を完成させることとあいなった。
>「諦めたですよ、他の二人に任せたですよ」
一番手、アイネはすぐに諦めて投げ出し。
>「これは予言の絵……? きっと神と悪魔の最終決戦ね!」
二番手、シャルル先生は前衛芸術にパーツを加えて今の世界の状況を描いた絵にしようとし始める。
要するにシャルル先生もどうしたもんだかわからないという事だろう。
…どうでもいいが、アイネって見た目や話し方に反してやたらドライでクールなとこあるな。
ヴィエナでも簡単に改造人間倒してたし。
こいつ何者なんだろう。
っつか一緒に旅してる仲間がエッチな目にあって動揺してるんだから少し位気にかけてくれたってよさそうな…。
いや、あって間もないもんな。
まともに話したこともないし。
…いや、でもそれにしてもなんかこう、仲間が傷つくのに慣れてる節があるな、こいつ。
俺が頭撃たれたってのに全く動揺してなかったし。
戦闘系の学科の出身か?
聞きづらいな…。
…まぁ、どっちみち仲良くはできそうにないな。
住んでた世界が違いすぎるし、俺何かこいつには捨て駒にもならない使えない奴程度にしか…。
シャルル先生だってキスの件について触れてくれたっていいじゃねぇか。
いや、まぁ、大丈夫なのは明白だけど、さ。
俺ってそんなメンタル強いやつに見えるんだろうか?
…いや、思われてないだろうけど、逆に面倒くさいやつって思われてるんだろうなぁ…。
大体この世界じゃもうシャルル先生は先生でもなんでもなくて、俺の保護義務も糞もないんだし…。
きっと本当に面倒くさくなったらあっさりと…。
「君」
「うお!?は、はい、すいません、何でしょう。」
「いや、絵について、何か思いついたかい?」
「あ、ぇ?ああ、そうでしたね」
キスされた事がきっかけで、それに対して動揺し、俺がキスされた事など全く無視して目の前の問題に黙々と取り組む仲間たちに、
俺の思考が負の連鎖に陥っていたところで、おっさんが俺に話しかけてきた。
そうだ、絵だ、絵を完成させるんだよな。
動揺してる場合じゃない。
大体、こんな世界にいきなり連れてこられて、シャルル先生もアイネも人のことなんかかまってられない位に動揺してるはずなんだ。
それを俺ばかりわがまま言ってたらいけない。
むしろ俺は死ににくい体なのだから、この体を生かして仲間を助けなければ…。
…死ににくい、体?
で、シャルル先生が描いてるのは…この世界を描いてる絵で…。
そうだ!!
「借りますよ」
「え?君、それは私の鋏……うわあああああああああああああああああな、何してるんだ!て…手首を!?」
俺はおっさんから鋏を借りると、おもむろに腕の動脈をぶった切った。
俺の腕に激痛が走り、血がどくどくどくどくと噴水のように噴射する。
ええい、これでは足りない!ここもだ!!とうっ!
「ひぶ!?くひゅーくひゅー…」
「う…うわあああああああああああああああああ首が、く、首が…」
俺は今度は鋏で頸動脈を切断し、さらに血を噴出させる。
カサイセイはまだ発動しない。
ギャグキャラボディで補えるダメージなので、痛みと貧血感が俺の意識を朦朧とさせる。
そんな中で、俺はアイネを見た。
「液体を使う能力者」のアイネを見た。
「アイネ、俺の……れの…血を………血を…使え!書くんだ。直感で、お前の見た中で一番やばかったトライヴ……絵の……絵の…」
薄れゆく意識の中で俺はアイネに訴える。
俺は絵が全く得意ではない。
それはアイネも同じだろう。
だが、俺は最高の画材を提供できるし、アイネは見るものに不安と恐怖を与える文字通りの悪魔…形を持った絶望達をいくつも見ていて、それを自由に操れる水で描くことができる。
そうして描いた形を持った絶望を、シャルル先生が描いた最終決戦の場に書き足すのだ。
書き足す場所は指定しない。
恐らく、直感でここだっと思えるところに配置できるはずだ。
どうだアイネ、俺だって役に立つんだぜ!ないがしろの捨て駒なんかにすんなよ!
…って、アイネは別に俺を仲間はずれにも邪魔者にもしてないんだけれども、さ。
あー…意識遠くなってきた、早く止血、止血…。
炎と閃光弾で先輩達の目を眩ませた後、私は最初に先輩達を狙撃した塔に戻っていた。
同じ場所への連続の帰還は避けるべきだし、単純に天使を隠した場所に行く体力と気力が無かったという理由もある。
それに能力を使い過ぎた。私の能力は無限ではない。
炎を操るのは簡単だが、火力を増したり熱を上げたり戦術として使用するのに莫大なカロリーを消費する。
様々な武器や道具が乱雑に転がる床に座り込み、身体を壁に預ける。
「……あー、本当に先輩達パネェ、痛ッ……」
ジリジリと焼けるように痛む腹部、というか、実際焼けているんだけども。
既に血は止まっているけれども流し過ぎたし、痛みは毛ほどもとれやしない。
あまりの痛みに頭がグラグラする、吐き気もする、明らかに血が足らない。
無言で床に散らばった中の救急キットに手を伸ばし、中から減痛剤が入った注射器を取り出す。
「……感覚鈍くなるから嫌なのよねぇ、これ……ouch!」
ブスリと注射器を腹に刺し、グルグルと傷口を包帯で覆う。
ふう、とりあえずはこれでいい。トム先輩が撃ったのがレーザーガンだったのは不幸中の幸いだ。
弾丸が内部に残ることはないし、重要な臓器も逸れているのも幸運だった。
「……はぁ、傷残るかしらねぇこれ。んもう、トム先輩ったら容赦ないんだから」
ジクジクと嫌な痛みを発し続ける脇腹を撫でつつ嬉しそうに唇に笑みを浮かべる。
ま、それはそうと血もカロリーも足りないわね、ここで食事ってのもいいけれど……1人じゃ寂しいわ。
陰気な天使との食事ってのも気が滅入るし、ここはやっぱり。
憲兵服を羽織り、外套を装備しいつものように千里眼を覗き込み先輩達の様子を探る。
? そんなに移動はしてないようね、それじゃ食事をしにいきましょう。
>「アイネ、俺の……れの…血を………血を…使え!書くんだ。直感で、お前の見た中で一番やばかったトライヴ……絵の……絵の…」
「oh……なんてSplatter……なぁんでいきなりトム先輩が首掻っ切ってんですか?」
先ほどの戦闘箇所からあまり離れていない家に無断で入り込むと修羅場の真っ最中だった。
締め切り間近の漫画家でもここまでの修羅場はそう無いだろう。
急に進入してきた私にトム先輩以外の全員の目が向けられるが、正直、私に注目してるどころではない気がする。
「いやん、まさに修羅場って感じですかぁ? あぁ、私のことならお気になさらず、邪魔はしませんよ。
今回は戦闘が目的じゃないですし、私の用事は先輩方の用事が終わった後、ということで。
トム先輩止血手伝いましょうかぁ? 舐め取っちゃいます? ペロペロしちゃいますぅ?」
私が早々に投げ出した絵を、シャルルとトムは真面目に取り組んでいるようだ。
>「これは予言の絵……? きっと神と悪魔の最終決戦ね!」
まずはシャルル、絵筆を取った彼女は中央付近の楕円を猫バスへと描き換える。
出来はまずまずと言ったところだろう。しかし……。
「ふむ……もう一声欲しいところだな」
画家の彼はいまだ納得していないようだ。これ以上何を描けば良いのだろう?
私には端から何が描いてあるのか分からないので、これ以上手を出しようがない。
トムは何やら考えている様子だったが、おもむろに鋏を手に取ると意外な行動に出た。
>「借りますよ」
>「え?君、それは私の鋏……うわあああああああああああああああああな、何してるんだ!て…手首を!?」
手首の動脈をぶった切る。紛れもない自傷行為だ……一体何のつもりなのか。
彼はその程度の怪我で死ぬようなことはない。では一体何の意味があるのだろう?
呆然と見ていると、トムは更に自らに鋏の刃を向ける。
>「ひぶ!?くひゅーくひゅー…」
>「う…うわあああああああああああああああああ首が、く、首が…」
今度は頚動脈。普通の人間ならこれで死んでいるところだろう。
しかしこれだけ血をばら撒いて、一体何のつもりなのか……血?
何かを思いつきかけた私に、トムは視線を向け訴える。
>「アイネ、俺の……れの…血を………血を…使え!書くんだ。直感で、お前の見た中で一番やばかったトライヴ……絵の……絵の…」
血液、絵の具、トライヴ……私の中ですべてが繋がる。
血の絵の具でトライヴを描けと言うのか。なんという無茶を言う男だ。
確かに私はあらゆる液体を制御する事が出来る。血液とて例外ではない。
液体を用いて、建物の見取り図などを描いた事もある。確かに出来なくはないのだ。
「トライヴ……あの化け物を描けば良いのかですよ」
意識を集中、飛び散ったトムの血液を一滴残らず集める。
どうでも良いが出し過ぎだ。これだけあれば立派な壁画が描けるだろう。
更に集中、血液を生き物のように動かし、かつて見たトライヴの姿を模倣する。
最も恐ろしかったトライヴ、私はその姿を忘れたことはない。
それは、私と同じトライヴ殲滅部隊に所属していた男だった。
皆を助けるために能力を酷使し、とうとうトライヴへと堕ちてしまった男。
悪魔そのものと言った姿へと変化した彼は、圧倒的な力で蹂躙した。
一体何人の同志が力尽き倒れただろう。残ったのは、私を含めたほんの数人だった。
彼が倒れる時、最後の理性を振り絞って残した言葉は懺悔だった。私はあの言葉を忘れない。
彼の生き様、トライヴとしての恐ろしさ、そしてあの悲しい懺悔の言葉を、私は血液に込めてひとつの形を成す。
それを平面にして転写。絵画の中央に堂々と描いた。
出来栄えは上々。トムの命と私の恐怖を具現化したのだ。
果たして画家はどんな反応を返してくれるだろうか?……と、彼を振り返ると。
そこにいたのは、いつの間に紛れ込んだのであろう、カミラの姿だった。
>「いやん、まさに修羅場って感じですかぁ? あぁ、私のことならお気になさらず、邪魔はしませんよ。
今回は戦闘が目的じゃないですし、私の用事は先輩方の用事が終わった後、ということで。
トム先輩止血手伝いましょうかぁ? 舐め取っちゃいます? ペロペロしちゃいますぅ?」
「トムは死なないから問題ないですよ。それより貴様、何の用で来たですよ」
余ったトムの血液で短刀を作り、刃を向ける。あれほどの怪我をしたと言うのに、もう復活したのか。
液体で構成した刃物はあまり切れ味が良くないのだが、今はこれしか手持ちがないので仕方ない。
この女……本当は私たちを遊びたいだけなのだろうか?そんな疑問が頭をよぎる。
そうだ、例えカミラだろうと元は私たちの仲間なはずだ。話し合いで何とかなるかも知れない。
「何のために私たちを攻撃するですよ?遊びのつもりか……それとも離反かですよ?」
>「君」
>「うお!?は、はい、すいません、何でしょう。」
>「いや、絵について、何か思いついたかい?」
>「あ、ぇ?ああ、そうでしたね」
トム君はやはり先程の事件の動揺を隠しきれない様子。
ズボンが洗濯機逝きになるという二次被害も出てしまった事もあって(もう乾いたけど)敢えて触れないでおいたのだが……。
>「借りますよ」
>「え?君、それは私の鋏……うわあああああああああああああああああな、何してるんだ!て…手首を!?」
トム君は鋏を手に取ると突然リストカットを敢行した!
そこまで深く傷付いていたとは……! やはり慰めておくべきだったのか。
リンネ時代に一応講師をやっていたアタシともあろうものが痛恨の判断ミスである。
>「アイネ、俺の……れの…血を………血を…使え!書くんだ。直感で、お前の見た中で一番やばかったトライヴ……絵の……絵の…」
その言葉を聞いてはじめて、トム君の意図を理解する。無茶しやがって……!
>「トライヴ……あの化け物を描けば良いのかですよ」
トムの血を操り、アイネが鬼気迫る絵を描く。
トライヴ殲滅部隊にいたアイネだからこその絵だ。
>「いやん、まさに修羅場って感じですかぁ? あぁ、私のことならお気になさらず、邪魔はしませんよ。
今回は戦闘が目的じゃないですし、私の用事は先輩方の用事が終わった後、ということで。
トム先輩止血手伝いましょうかぁ? 舐め取っちゃいます? ペロペロしちゃいますぅ?」
「あぁ、またなのね……」
アタシは頭を抱えた。今度は流石にもうちょっと間が空くと思ったんだけどなあ。
幸いアイネは先程のアタシの忠告を忘れていないようで、臨戦態勢に入る様子は無い。
むしろトライヴの恐ろしさをより知っているのはアタシよりアイネの方だろう。
>「何のために私たちを攻撃するですよ?遊びのつもりか……それとも離反かですよ?」
丁度格好の教材が目の前にあるし、久々に授業だ。
カミラもリンネから生み出された存在なら知っているはずではあるのだが……。
「好戦家も大概にしないと……あなた戦いの度に魔人化してるでしょう。
その調子で戦い続けたらこうなるわよ」
そこまで言って、ある考えが頭をよぎる。
デビチルには誰しも抑えられない衝動という者がある。
アタシだったら食いしん坊、アイネだったら水分、トム君だったら騒動に首を突っ込むことという具合にだ。
もしかしたら、カミラの場合はそれが戦いなのだろうか。
しかし、そうであるとすればリンネ時代にとっくにトライヴ化し、この世に生み出されることは叶わないはずだ。
もしかしたら、彼女はトライヴ化を克服した固体なのかもしれない。
そうだとしたら凄い発見じゃないか!? 久々に研究者としての好奇心が首をもたげてしまった。
トライヴ化しない方法を確立するのが、アタシの研究の究極の最終目標だったのだ。
「あなたもリンネのプログラムから生み出されたのよね。
リンネ時代から今みたいに戦い好きだったの?」
俺の流した血液で、アイネが世にも恐ろしい形相のすさまじいトライヴを書き上げる。
白い憲兵服、憲兵帽、外套を着用。腰まで届く長髪、切れ長の目…。
「ってさっきの女じゃねえか!!」
薄れていた意識もどこへやら、マジ物の脅威の出現に驚いた俺は、傍にいたおっさんの手を取ると、おっさん宅の風呂場に駆け込み、内側から施錠した。
…こんなちゃちなカギなど速攻で破壊されそうだが、この隙に窓から外に逃げればいいのである。
「おっさん!行け!GOGOGO!!」
「いや、外へ出るといたるとこに罠が…」
窓を指さし、おっさんを逃がそうとしている俺に、そういえばそういう場所だったことを告げて外に逃げられないと告げるおっさん。
アカン、これじゃどうしようもない…。
俺一人ならどうにでもなるが、正義の味方デビルチルドレンが民間人のおっさんを火の海になる5秒前な家屋に残すわけにもいかないし…。
…ってしまった!シャルル先生たちを置いてきたままだった!!
い…イカン!シャルル先生達は今魔神化できない!
ドアの向こうですでに大ピンチに陥っているかも…。
武器だってアイネにヴィエナで拳銃渡した位しか先生たちが武器らしい武器持ってる記憶が無いから、生身の先生達じゃ相手が例の拳銃出しただけで大ピンチ…
「お…おっさん!ピンチになったら窓から逃げろ?な?すぐ逃げろ?」
俺はおっさんにそう指示すると、そっと、風呂場から出ると、脱衣所の戸を少しだけ開けて、そこから拳銃を出して外の様子をうかがった。
幸い、先生たちはまだ無事なようであり、相手も魔神化してないようだ。
流石に今撃っても絶対に効かない事は分り切ってるので、シャルル先生が何やら質問しているようだし、俺も様子を見る。
>「トムは死なないから問題ないですよ。それより貴様、何の用で来たですよ」
その言葉と共に私の眼前に突き出される真紅のナイフ。
>「何のために私たちを攻撃するですよ?遊びのつもりか……それとも離反かですよ?」
「やーん、アイネ先輩怖いですぅー。遊びのつもりでも離反のつもりもないんですぅー、許して? ね? きゃは!」
最っ高に腹の立つスマイルでアイネ先輩の言葉に答える。
あ、やばい。ナイフの切先が私の胸部にちくりと刺さった。おこですか? おこなんですか?
>「好戦家も大概にしないと……あなた戦いの度に魔人化してるでしょう。
その調子で戦い続けたらこうなるわよ」
と、助け舟を出すようにシャルル先輩が言葉を挟む。
「あは、心配してくれるんですかぁ、どうも感謝ですぅ」
>「あなたもリンネのプログラムから生み出されたのよね。
リンネ時代から今みたいに戦い好きだったの?」
「Yes、私はEveryday年がら年中平常運転で戦うの好きですよ。
でもでも、勘違いして欲しくないんですけどぉ、別に私はそこまで戦闘好きって訳じゃないですよ? 私が好きなのは……」
言いながら人差し指を立てた腕を掲げ、少し言葉を溜める。
「Victory! そう私が愛してやまないのはVictory! 勝利です!
ただの勝利じゃないですよ。逆境に逆境を重ね、絶望の淵からか細い光明を見つけ出し、その腕で泥まみれになりながら掴む勝利。
互いの心臓を取り出して目の前でそれを潰しあうような真剣勝負、互いの全てを出し尽くして勝利を奪い合う真剣勝負。
あぁ、それを出来る相手がいると思うだけで胸が高鳴ります興奮します濡れちゃいます」
それだけを一方的に捲くし立てると身体を抱え身悶えする。
「アイネ先輩さっき言いましたよね? 何のために先輩達を攻撃するのか? この為です。
私が極上にして最高の勝利を手に入れる為には先輩達に本気になって貰わなきゃ『全力』じゃあ意味ないんですよ。
その為には私は何を捧げても惜しくないのです。身体も命も尊厳も、小さな犠牲にすぎないのですから」
アイネ先輩の目を覗き込むように私は言葉を紡ぐ。
アイネ先輩の瞳からは何も読み取れない、否、そもそも私には何も読み取る気は無い。
私の衝動が理解してもらえるとは思っていない。今までもこれからも、敵も味方もころころ変えて私は生きていくのだ。
まあ、この戦いで生き残れるとは限らないのだけれど。
私は場の空気を変えるようにパンと両手を叩く。
「ま、私のクソつまらない話はどうでもいいんですよ、先輩達へ用事があって来たんですから」
そう言いつつ床に置いた大きな麻袋を掴むと大きなテーブルに乱雑に投げる。
袋の中身は天使の貯蔵庫から奪ってきたチーズにミネラルウォーター、携行糧食、トム先輩は趣向が分からなかったので適当に。
「あは、食事にしません? さっきも言いましたけど今回は先輩達と戦うつもりはありませんので。
トム先輩も、今は銃撃ったりしないですから出てきてくださいよー、カミラ嘘つかない、ですよー!」
>「やーん、アイネ先輩怖いですぅー。遊びのつもりでも離反のつもりもないんですぅー、許して? ね? きゃは!」
カミラの軽口に、思わずいらっとして血のナイフを突きつける。
一体どういうつもりだろう、この女は。
先ほどのダメージは相当深刻なものだったはずだ。すぐに復帰するのにどれだけの精神力を必要としたのか。
いずれにせよ、侮れない相手ということは間違いない。
その動向に注意し、警戒を怠らないのが最善の策である。
>「Yes、私はEveryday年がら年中平常運転で戦うの好きですよ。
> でもでも、勘違いして欲しくないんですけどぉ、別に私はそこまで戦闘好きって訳じゃないですよ? 私が好きなのは……」
>「Victory! そう私が愛してやまないのはVictory! 勝利です!
> ただの勝利じゃないですよ。逆境に逆境を重ね、絶望の淵からか細い光明を見つけ出し、その腕で泥まみれになりながら掴む勝利。
> 互いの心臓を取り出して目の前でそれを潰しあうような真剣勝負、互いの全てを出し尽くして勝利を奪い合う真剣勝負。
> あぁ、それを出来る相手がいると思うだけで胸が高鳴ります興奮します濡れちゃいます」
要するに戦闘狂の一種なのだろう。なんと業の深い衝動なのか。
ぎりぎりの勝負、その果てにある勝利を掴みたいという気持ちくらいは私にも理解出来る。
だが、狂おしいほどにそれを欲する姿は、最早狂気としか言いようがない。
>「アイネ先輩さっき言いましたよね? 何のために先輩達を攻撃するのか? この為です。
> 私が極上にして最高の勝利を手に入れる為には先輩達に本気になって貰わなきゃ『全力』じゃあ意味ないんですよ。
> その為には私は何を捧げても惜しくないのです。身体も命も尊厳も、小さな犠牲にすぎないのですから」
そう言って、彼女は私の目を覗き込む。
カミラの目は、狂気に染まっていた。
勝利のために何を捨てても構わないという信念、それが恐ろしいほどに。
思わず何かを口にしようと思ったそのとき、彼女は突然手を叩いた。
そして手にしていた大きな麻袋をテーブルに投げる。
袋を覗き込んでみると、チーズにレーション、そしてミネラルウォーターが!
>「あは、食事にしません? さっきも言いましたけど今回は先輩達と戦うつもりはありませんので。
> トム先輩も、今は銃撃ったりしないですから出てきてくださいよー、カミラ嘘つかない、ですよー!」
意図は不明だがミネラルウォーターがあるならば仕方がない。
「まぁ私たちも休憩を必要としていたですよ。
カミラ、あなたを信用した訳ではないが、ここは休戦にしようですよ」
そうまくし立てると、適当に席に着きミネラルウォーターのボトルに手を伸ばす。
毒入りの可能性もあったが、私には水に混入物があれば即座に知覚できる。
ボトルの水を検分した結果、毒は含まれていないことが分かった。
「少なくとも水に毒は入っていない様子だですよ。
シャルル、それにトムもそんなところに隠れていないで席に来いですよ」
ボトルの栓を開けると、カミラに小さく礼を言って口に含む。
口内に広がる爽やかな冷たさと微かな甘み。
この銘柄の水ははじめて見たが、どうやら当たりだ。とても美味しい。
水をもう一口飲んで、次いでレーションに手を伸ばす。
不味いとよく言われるレーションであるが、私はこの食べ物は嫌いではない。
作られた目的が明確である。その一点において、レーションは信頼出来るのだ。
私は厳重に密閉されたパンの容器を開くと、水と一緒に口に運んだ。
うん、普通に美味いじゃないか。
「さて、食事にするということは話し合いの場が欲しかったということかですよ?
どういう目的があるにしろ、話があるのなら話で穏便に決着を付けたいですよ。
カミラ、あなたが勝利したいというのは理解出来たですよ。
でも、仲間である私たちを襲う理由にはならないですよ。
カミラは既に天使と戦ったはず、もう戦う理由など存在しないはずではですよ?」
>「おっさん!行け!GOGOGO!!」
>「いや、外へ出るといたるとこに罠が…」
トム君が芸術家をこの場からひとまず退避させる。
確かにただでさえややこしいこの状況にこの芸術家がいると更にややこしくなりかねないので、妥当な判断だろう。
>「Yes、私はEveryday年がら年中平常運転で戦うの好きですよ。
でもでも、勘違いして欲しくないんですけどぉ、別に私はそこまで戦闘好きって訳じゃないですよ? 私が好きなのは……」
>「Victory! そう私が愛してやまないのはVictory! 勝利です!
ただの勝利じゃないですよ。逆境に逆境を重ね、絶望の淵からか細い光明を見つけ出し、その腕で泥まみれになりながら掴む勝利。
互いの心臓を取り出して目の前でそれを潰しあうような真剣勝負、互いの全てを出し尽くして勝利を奪い合う真剣勝負。
あぁ、それを出来る相手がいると思うだけで胸が高鳴ります興奮します濡れちゃいます」
カミラの話を聞いて、益々謎が深まった。
年中そんな調子で戦ってトライブ化しなかった、とはどういうことだろう。
>「アイネ先輩さっき言いましたよね? 何のために先輩達を攻撃するのか? この為です。
私が極上にして最高の勝利を手に入れる為には先輩達に本気になって貰わなきゃ『全力』じゃあ意味ないんですよ。
その為には私は何を捧げても惜しくないのです。身体も命も尊厳も、小さな犠牲にすぎないのですから」
彼女が望む物は、真剣勝負らしい。間違いない、彼女の抑えられない衝動はそれだ。
命すら小さな犠牲と言い切る彼女にとっては、トライブ化する事の危険を脅したり諭しても無駄。
一方、魔人化し過ぎるとトライブ化するという制約が根本にあるアタシ達は、常にいかに真面目に戦うのを最小限に勝利を収めるかを課題としている。
困った話である。
>「あは、食事にしません? さっきも言いましたけど今回は先輩達と戦うつもりはありませんので。
トム先輩も、今は銃撃ったりしないですから出てきてくださいよー、カミラ嘘つかない、ですよー!」
「食事って……いくらなんでも……、と思ったけど腹を割って話すには悪くないかもしれないわね」
テーブルの上に広げられる食料。その中にチーズを発見してしまったのだ。
チーズを出されてしまったからには抗う事はできない。
>「まぁ私たちも休憩を必要としていたですよ。
カミラ、あなたを信用した訳ではないが、ここは休戦にしようですよ」
>「少なくとも水に毒は入っていない様子だですよ。
シャルル、それにトムもそんなところに隠れていないで席に来いですよ」
アイネもミネラルウォーターの魔力には勝てなかったようだ。
それでも毒が無いか検知するのを忘れないのは流石である。
>「さて、食事にするということは話し合いの場が欲しかったということかですよ?
どういう目的があるにしろ、話があるのなら話で穏便に決着を付けたいですよ。
カミラ、あなたが勝利したいというのは理解出来たですよ。
でも、仲間である私たちを襲う理由にはならないですよ。
カミラは既に天使と戦ったはず、もう戦う理由など存在しないはずではですよ?」
チーズをかじる。程好い塩味とコクが口の中に広がる。
思わずどこで買ってきたのか聞きそうになって、やめる。
強奪してきたものだと言われたところで、食べるのをやめる事はできないからだ。
抑えられない衝動というやつは本人にはどうしようもないものなのだ。それはカミラも同じ。
ならば、その衝動を他に向けさせるしか手は無い。
「そうなのよね。
世界を支配する神であるゼウスに立ち向かう方が一介のデビチルであるアタシ達を相手にするより遥かに強大で燃えると思うけど……。
それに全力の真剣勝負がしたいと言われてもアタシ達は頻繁に魔人化するとトライブ化してしまうからなかなか全力で戦えないのよ。
もしあなたがトライブ化しない方法を教えてくれる、なら話は別だけど……」
聞いてみたものの駄目で元々、明確な答えが返ってくることは期待していない。
彼女がここまでトライブ化せずにすんだのは、単に運がよかったか、特別トライブ化しにくい体質か
仮にトライブ化しない方法があるとしても無意識に行っているというところだろう。
主な意図は、飽くまでもアタシ達との真剣勝負を諦めさせ矛先をゼウスに向けさせるための交渉材料だ。
シャルル先生の質問に、おとなしく答えながら、女…カミラか、カミラは食事の用意を開始する。
>「あは、食事にしません? さっきも言いましたけど今回は先輩達と戦うつもりはありませんので。
> トム先輩も、今は銃撃ったりしないですから出てきてくださいよー、カミラ嘘つかない、ですよー!」
なるほどなー…、この女は勝利を欲する性なわけだ。
ヴィエナみたいに,世界にはゼウスに壮絶に苦しめられている街の人たちが大勢いるだろうに、自分勝手な事をほざいてくれるもんである。
こいつの自分勝手な態度と、全世界にかけている壮絶な迷惑には憤りを感じる…が。
それは…仕方がないのだ。
だってこの女もデビルチルドレン、俺がヘタレで平和主義者()なのに厄介ごとに突入するのをやめられないように。
この女も他人の迷惑になる事がわかっていても、戦うことをやめられないのである。
> シャルル、それにトムもそんなところに隠れていないで席に来いですよ」
そんな事を考えていたら、アイネが俺を一緒の食卓につくように呼んできた。
やはりこの女は肝が据わっている。
対人戦…心理戦の経験もあるのかもしれない。
彼女もああ言っているし、あまり空気を読めない真似もしたくないし、ここは出ていくことにしよう。
………ああ!ダメだ!トム・ジリノフスキー!またエッチなハプニングを期待するな!
あのベロチューみたいな出来事は絶対起こらない、っていうかここから俺を待つカミラの態度は、雑魚を見るハイパー虫を見るような目で見られるタイムだけだ!
忘れろ、ベロチューは忘れろ、俺!
>「そうなのよね〜
俺が煩悩に悶えながらぎくしゃくとテーブルにつく横で、シャルル先生は冷静に自分らと戦うよりもゼウスと戦った方が燃えると証言した。
それは俺も同意できる。
「うん、シャルル先生の言う通りだと思う。
この町の天使がどうだったか知らないけど、ヴィエナだと強力な改造人間、ロンデニオンだと魔法使い、どっちも相当ヤバイ相手だった、それこそ、全員生還できたのが不思議なくらい。
俺はどっちも途中から病欠したからよくわからないけど、少なくとも楽勝じゃ無かった、間違いなく」
そう言って、一人頷く俺。
実際、俺はもしあのままヴィエナやロンデニオンでシャルル先生達と一緒に戦っていたら、死んでいたかもしれない。
それほどまでに、厳しい戦いだったのだ。
そして…。
「あとさ、ゼウスはまだ……俺達と戦うための天使を繰り出してきていない。
ウルトラマンに対するブラックキング、キカイダーに対するハカイダー、仮面ライダーに対するイカデビル。
そんな強力な…デビルチルドレンと戦う事に特化した天使がまだ現れていないって事は、ゼウスはまだ全然本気じゃないんだと思う。
だから、こんなとこで俺達相手に戦うより、そいつらとまず戦った方がいいんじゃないかな…。
あとさ…ヴィエナでゼウスの使徒が住民を無慈悲に殺したり拷問したり、改造したりしていた。
そういう連中を何とかできるのは俺達しかいない。
だから…良心が残ってるなら、性に打ち勝って、邪悪な敵と戦ってほしい…。
それが出来ないなら……ファーストキスの相手を殺したくないけれども…」
言って、言葉を斬る俺。
この後の台詞が、一番大事だ。
俺はそっと、アイネの肩に手を置く。
「お前をアイネが成敗する。うん、主にアイネが!」
戦闘能力、経験、そのどちらも俺は劣っているから無理なので、正直なところを俺は述べた。
【現在のシナリオは一端保留として次のシナリオを開始します】
パリエスでの騒動がひと段落し、アタシ達は猫バスのオペレータールームに集合して次の行先の選定に入っていた。
(パリエスでの顛末については機会があれば他の場所で語られる事であろう)
地図上にいくつか光る点が表示されている。
「なんだかんだでもう4つ都市が解放されたのね。この調子で行きましょう」
「そうですね! と言いたいところですが……」
シュガーちゃんが思わせぶりな発言をする。
「何よ、気になるじゃない」
「そろそろゼウスが我々デビルチルドレンを危険視し始めるかもしれません」
「というと……?」
「今までの敵は飽くまでも人間を支配するために作られた天使でしたよね。
対デビチル戦に特化した天使を作ってくるやも……」
「やめてよ演技でもない!」
平和な荒野をとっとことっとこ走る猫バス。
バリエスではやばかった。
何がどうやばかったかは…俺の言葉では言い表せない!
特にあれだ、カミラが……。
……そういや次の目的地ってどこだろう。
「シュガーちゃん、次ってどこ向かうんだ?」
「次は……食欲の町、コリットー・スナーロです。
美食が自慢の町ですよ」
「美食の都市ねぇ…、どうせまた滅茶苦茶になって美食どころじゃないんだろ?」
「それがその…」
シュガーちゃんの返答が、何やら尻すぼみになった。
どうしたんだろう?
各都市がゼウスのために各々の好きな物を封じられてる事なんて、今までよくあった事だろうに…。
「コリットー・スナーロは今もしっかり、美食の町として機能し続けているんです…。
しかも、かつての栄光時代よりもはるかに…」
「えぇ!?どういうこったいそりゃ」
「人間の三大欲求、食欲、性欲、睡眠欲はゼウスも必要な物だと認めているんです。
だから、この三つをつかさどる街だけは、ゼウスも押さえつけたりせず、むしろ盛り上げているんですよ」
ゼウスが認める街……ねぇ…。
「それって解放する意味あんの?」
「問題は、それらの町はその一点に特化しすぎている事です、つまり、それ以外の楽しみは完全に封じられ、しかも、人々はその楽しみを得るために過酷な労働が強いられていて…。
……もしかすると住民の労働量はヴィエナ以上かもしれません」
「過労死者続出って事かよ!」
「コリットー・スナーロは平均寿命がワースト5位以内に常にある、街なんです。ちなみに一位は性欲の…」
「そっちはこのスレでは行かん!」
何かとても俺の行きたくなるような街の名前が出てきかけたが、カルレアさんがシュガーちゃんの口をふさいだ。
それにしてもたった一つの楽しみのために、過剰な労働を強いられる街…。
手ごわい戦いになりそうである。
コリットー・スナーロ、管理施設、Bショック・クラブ
コリットー・スナーロを収める、殿様みたいな格好の天使、U・ザンは、その日も自らの作った料理に酔いしれる街の人々を、巨大なBショック・クラブの塔の天辺から見下ろしていた。
街はこの塔の下にある巨大な食堂を中心に、広大な工場施設が並んでいる。
その工場では寝る時間まで管理された作業員達が生産ラインにしばりつけられ、一日15時間、労働を行っていた。
だが、すぐ下の食堂だけは違う。
仕事で疲れにつかれ、腹を空かせた人々は、そこでUザンの作っためちゃくちゃおいしい料理に酔いしれ、生きる喜びに満ち満ちている。
「わしの収めるこの街は今日も完璧、早う邪魔なカタコンベを叩き潰し、永遠の平和を…」
「無理ね、少なくとももうすぐそれは不可能になる」
悦に浸るUザンの後ろに、いつの間にか、黒いフードの影が3っつ、音もなくたっていた。
驚いたUザンは、すぐさま声を張り上げる。
「ええい曲者か!であえであえ!」
Uザンの声にこたえ、部屋のあちこちから武装した天使が出現、フードたちを取り囲む!
「何者ぞ!貴様らは!」
「落ち着きなさい、Uザン」
問いかけるUザン、その後ろから聞こえた声に、びくりとしたUザンが振り向くと、そこには今そこに包囲されているはずの黒フードの一人の姿があるではないか!
「な…」
「私たちは対デビルチルドレン特殊天使!もうすぐこの町にデビルチルドレンが来る。
私たちは、ゼウス様の直命で、ここに参上した」
驚くUザンを無視して、黒フードは証明書を見せながら、淡々と言った。
それを聞いたUザンが激しく動揺する。
「デビルチルドレン、だと!?それで…この町はどうすれば…」
「奴らを街に招きいれてほしい、そこで、正々堂々戦いを挑む」
「無茶な!相手は今まで複数の都市で無数の天使を倒してきたのだ!真っ向勝負など…」
「私たちはゼウス様が新たにデビルチルドレンを倒すために生み出した存在、敗北はありえない」
ゼウス様が新たに生み出した。
その言葉を聞いた途端、今まで黒フードに敵対的だったUザンの顔に、なあんだという安心が生まれる。
「ならば安心した、ゼウス様に敗北はない!特殊天使殿、コリットー・スナーロ、戦いの役に立ててくだされ」
「ありがとう、Uザン、協力に感謝します」
食欲の町、コリットー・スナーロ。
そこで待ち受けるゼウスのしもべは、これまでとは一味もふた味も違う!
はたして、デビチルたちの運命は…
「コリット・スナーロ、ですか。私はおいしい水があれば十分ですよ」
猫バスに揺られる車内、私はいつものように水を呷りながらトムたちの話に耳を傾けていた。
食欲を満たすための街、さながら美食の街ではなく飽食の街と言ったところか。
なんにせよ、人間を蹂躙する天使のやり方には反対だ。なんとしても止めなければなるまい。
しかし天使はなぜ人間の管理にそこまで執着するのだろう?
彼らの技術があれば、人間を管理するまでもなく滅ぼす事も可能だろうに。
ゼウスが作られたという経緯に秘密があるように思える。
いつか分かる事かも知れないが、少なくとも今はまだ分からない事なのだろう。
「ところで、今のうちに宣言しておくのだが、ですよ」
そう言って、私は立ち上がる。
今のうちに伝えなければ、作戦も大きく変更されてしまうのだから。
不思議そうに私を見る視線にちょっとこそばゆさを感じながら、私は大きく言い放った。
「時間的にそろそろ限界だから、向こう一週間は魔人化をやめようと思うですよ」
変身時の時間を正確に測定した結果の判断である。
魔人化能力は強力だが、反面トライブ化を促進させると言う特性も持つ。
私はそのまま解説に移る。
「先の対カミラ戦、及びパリエス攻略戦において、私は少々能力を酷使し過ぎたですよ。
ご存知の通りこの能力は時間制限付き、あまり無理は出来ないですよ。
私の計算によると、今週中に能力を使えたとしてもあと一回限り。それ以上は限界ですよ」
ちなみに計算式は、対トライブ部隊が死ぬ気で計測した実戦に基づく証明付きである。
「おそらく二人の能力は無理しない範囲なら使用可能。でも、私は限界ですよ」
私は今回戦力として期待が出来ない。その事はどうしても伝える必要があった。
一週間も休めば、また問題なく能力を使う事は出来るようになる。しかし、それを待つ事は出来ない。
なぜなら、人間たちの命が掛かっているのだから。一刻も早く駆けつける必要がある。
「まぁ心配ないですよ。今回はこれを使うつもりだからですよ」
そういっていつの間にか足元に置かれていた得物を持ち上げる。
アンチマテリアルライフル、一般に対物ライフルとも呼ばれる大口径の銃である。
その威力はすさまじく、二キロ先離れた人物の胴体を両断するほどである。
なぜ対物ライフルなのかと言うと、私の能力との親和性が高いから、なのだ。
その威力ゆえに反動が大きく、二脚なしで使おうとするのは難しい銃なのだが、私の能力「水を自在に扱う能力」と合わせると面白い事になる。
反動制御に水を用いる事で、立ったまま対物ライフルを構えて精密射撃が可能になるという訳である。
銃の扱いに長けているほうではないが、これだけは私の特技なのである。えへん。
>「コリットー・スナーロは今もしっかり、美食の町として機能し続けているんです…。
しかも、かつての栄光時代よりもはるかに…」
>「えぇ!?どういうこったいそりゃ」
>「人間の三大欲求、食欲、性欲、睡眠欲はゼウスも必要な物だと認めているんです。
だから、この三つをつかさどる街だけは、ゼウスも押さえつけたりせず、むしろ盛り上げているんですよ」
「それは素晴らしい……じゃなかった、まずいぞ!」
性欲とかいうワードが聞こえてきた気がするが、色んな意味でヤバそうなので気のせいという事にしておこう。
それは置いといて、目下の問題は今から行くのが美食の町ということだ。
アタシの衝動は美味しそうな食べ物に目が無い事。
普段は死闘の場に目につく所に食べ物は置かれていないので
アタシの衝動を知っている敵が食べ物で釣ろうとでもしてこない限り表立って問題にはならないのだが……。
今回は何と言っても美食の町。衝動が 大☆暴☆走 してしまう危険性があるのだ。
高級チーズがずらりと並んでいよう日にはもう……。
>「コリット・スナーロ、ですか。私はおいしい水があれば十分ですよ」
色んな意味で舞い上がっているトム君やアタシを尻目に、アイネは落ち着いている様子。
食欲を満たすために過重労働を強いられる街は、美食の町ではなく飽食の町だろうと冷静に分析する。
「それもそうね。……そうよ、そんな悪趣味な生産体制じゃあきっと安かろう悪かろうの量産体制。
味はどうでもいいさっさと大盛り持ってこい! 的なやつよ!」
そう自分に言い聞かせる。本当にそうだとすれば大した問題は無いのだが……。
アタシの衝動は食いしん坊と言ってもどちらかというとグルメタイプであって大食いタイプではない。
>「ところで、今のうちに宣言しておくのだが、ですよ」
>「時間的にそろそろ限界だから、向こう一週間は魔人化をやめようと思うですよ」
アイネのこの言葉に、食欲が暴走したらどうしようという端から見るとギャグのような悩みは一端脇に置いておかれる事になった。
>「先の対カミラ戦、及びパリエス攻略戦において、私は少々能力を酷使し過ぎたですよ。
ご存知の通りこの能力は時間制限付き、あまり無理は出来ないですよ。
私の計算によると、今週中に能力を使えたとしてもあと一回限り。それ以上は限界ですよ」
「そうね……随分無理をさせてしまったわ」
まだ記憶に新しいパリエスでの死闘。
途中でアイネの異変に気付いたアタシは魔人化しては危ないと言ったものの
結局どうにもならずにあの後もアイネは危険を承知で魔人化して戦ってくれたのだ。
アイネの魔人化能力は強力であるが故に、制限や弊害も厳しいものなのかもしれない。
>「おそらく二人の能力は無理しない範囲なら使用可能。でも、私は限界ですよ」
「大丈夫よ!
ほら、前回はデビチルが相手だったからアレだったけど
そもそもゼウスの手下と戦う時はいかにして真面目に戦わずして勝つかが課題なわけだし……。
アタシ達の本来の戦い方に立ち戻るいい機会よ」
そもそもデビルチルドレンというのは華麗な作戦
(端から見るとふざけた作戦に見えるかもしれないがその時当事者達は大真面目なのだ)
で戦わずにして勝とうとした挙句に
うっかり作戦失敗する事こそが成功の元というジレンマを抱えた存在なのだが
正統派バトルではうっかり作戦失敗も起こらなくなってしまう。
仮に戦闘能力を磨きまくって勝ち進んでいったとしてもそれではいつか壁にぶつかるのだ。
>「まぁ心配ないですよ。今回はこれを使うつもりだからですよ」
アイネが持ち上げたのは、小柄な体躯に似合わぬ大型の銃。
どう見ても地面に固定しなければ無理そうだけど、水を操る能力と組み合わせる事で手で持って撃てるらしい。
「さ……流石元戦闘部隊」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして猫バスはしばらく走り……
「んー?」
双眼鏡をのぞきながら首をかしげる。何かやたら派手じゃないかい?
色とりどりのアドバルーンがあがってるし横断幕みたいなのがはためいてるし。
横断幕をよく見ると「ようこそデビルチルドレン様御一行!」と書いてある……。
「なんだかすでにバレバレみたいなんだけど……どうしましょう」
ここまでのあらすじ。
トムはメインキャラと敵を一度に動かすのは難しいため、アキヴァを守るユダが風邪引いたとの知らせを受け、代わりにアキヴァを守るべくアキヴァへ戻る事とあいなった。
☆ ☆ ☆
「皆さーん」
コリットー・スナーロの入り口の横断幕やアドバルーンに呆けるシャルル達に、横合いから声がかかった。
見ると、そこには、緑色のウェーブ髪をした女性、そう、イトの姿があるではないか。
「お久しぶりです、皆さん」
「イトさん、どうしてここにいるんですか?」
手を振りながらホバーオートバイで近づいてきたイトに、シュガーちゃんが驚いて尋ねると、イトはオートバイから降りて、微笑んだ。
「ご心配なさらずに、わたくしは戦うつもりはありませんわ、証拠に、ほら」
そう言って、イトが遠くの荒野を指さすと、そこの地面が盛り上がり、隠れていたミサイル砲台や大砲が現れた。
「皆さまがここに来るまでに、幾らでもわたくしたちは皆さまを攻撃する事が出来ました。
しかし、武力行使で皆様デビルチルドレンを叩き潰しても、それは私たちの勝利にはなりえません」
「どういう事です?」
「皆さまデビルチルドレン、その目的は、人類の解放。
仮に皆様がそれを成しえたとして……その先に人類を待つのが、真の絶望だけである事、それを知っていただかなければ、勝ったとは言えないのです」
イトはそういうと、何か言い返そうとするシャルル達を手で制した。
「口ではなんとでもおっしゃれます、しかし、それはあなた方が自分たちの非力さを理解していないがための事。
もし、あなた方がそれは違うと力いっぱい胸を張っておっしゃりたいのならば…」
びしっと、イトはシャルル達を指さす。
「私たちとの戦いをお受けくださいまし!
真正面から私たちに挑み、勝ってお見せてください。
それができないのなら、あなた方には人類を解放した後、その後の世界を支える事なんかできませんわ」
シャルルとアイネ、二人の瞳を交互に見据えながら、イトは力強く行った。
「ちなみに…」
……突然、シャルル達の「すぐ後ろ」から女性の声がした。
見れば、いつの間にか、息のかかるくらいの距離に、フードをかぶったアイネと同じくらいの背丈の人物が立っているではないか!
全く気配は無い。
「勝負の内容は……料理対決!!」
そして、その人物は真剣な口調で、脱力するような事を述べた。
いざコリットー・スナーロに到着した私たちを待ち受けていたのは、色とりどりの横断幕やアドバルーン。
まるで歓迎されているかのようなムードに、出鼻をくじかれて驚くことになってしまった。
入り口に到着し猫バスを降り、辺りを見渡してみると、そこにあったのは懐かしいイトの姿。
どうやら彼女は、いまだ工作員として活動しているらしい。妙な因縁もあったものだと思う。
重たい背中のライフルを揺らし、私はイトに近づく。武装はしているが、一応敵意はない。
>「ご心配なさらずに、わたくしは戦うつもりはありませんわ、証拠に、ほら」
「歓迎してくれるとは驚いたですよ。それで、今回は話し合いで決着を付けるとでも?」
その問いに答えはない。
私は彼女の説明を聞く姿勢をとる。どういうつもりかは、すぐ分かる事だろう。
と、話を聞いているうちに周囲への警戒を怠っていた。
そのために、私たちは「彼女」の接近に気づく事が出来ない。
気付いたのは、「彼女」が十分に接近し声を発したあとだった。
>「ちなみに…」
とっさに振り向きざま、大き過ぎる銃を腰溜めに構え警戒をする。
気配はなかったように思う。だとしたら凄腕の手練か?まさに脅威に感じた。
体格は私と同じくらいの小柄、気配がない以外は特に何も感じることは出来ない。
その彼女は、イトの言葉に続くようにして驚くべき事を言った。
>「勝負の内容は……料理対決!!」
料理、対決?今料理対決と言ったように聞こえたが、何かの聞き間違いだろうか?
困ったような面持ちでシャルルのほうを見ると、彼女も混乱している様子だ。
「えーと、確認すると料理対決とは、お互いに料理を作ってその腕を競う、あれ……ですよ?」
「その通りです。他に料理対決などありますか?」
イトに質問を質問で返されてしまう。確かに、他に料理対決などあろうはずはない。
このメンバーに料理が出来る人物などいただろうか?シャルルはお菓子を作れるとしても……私は料理など作った事もない。
ちょっと相談。そう言って、私は一同を集め会議を開く。
「私は料理などしたことはないですよ。シャルルと……それにシュガーは料理の経験はあるですよ?」
「残念ながら私も料理の経験はありません」
シュガーも料理の知識はないと言う。まぁ当然の事だろう。
私はため息を付いて、今後の方針を決める。彼等の対決を受けるか否か……悩むべきはそれ以前か?
軽く頭を振り雑念を取り払う。私たちデビチルはいつもそうだったではないか。今後の方針など、決めるべくもない。
「分かった。その対決、確かに受けようですよ。ただし条件と質問があるですよ」
「ええ、何ですか?」
「まずは質問。食材などの持ち込みは可能だろうかですよ?」
そう、食材だ。料理の決め手は食材の選び方にあると聞いたことがある。
こちらで何とかして最高の食材を手に入れることが出来れば、あるいは勝てるかも知れないのだ。
「続いて条件ですよ。時間が欲しい、料理の特訓をする期間を設けてはどうだろうですよ?」
私たちは今のままで勝機はないだろう。しかしここは美食の街、人や書物を頼れば何とかなるかもしれない。
そのためには時間が必要だ。何とかして時間を稼ぎ、勝機を見出す必要があるだろう。
アドバルーンや横断幕に呆然とするアタシ達を、行く先々で現れる謎の女性――イトが出迎える。
敵か味方か、その真の目的や素性は謎に包まれている。
今の所分かっている素性としてはゼウスの工作員なので敵対関係にあたるのだが
彼女のお蔭で窮地を切り抜けた事があるのも事実だ。
>「皆さまがここに来るまでに、幾らでもわたくしたちは皆さまを攻撃する事が出来ました。
しかし、武力行使で皆様デビルチルドレンを叩き潰しても、それは私たちの勝利にはなりえません」
>「どういう事です?」
>「皆さまデビルチルドレン、その目的は、人類の解放。
仮に皆様がそれを成しえたとして……その先に人類を待つのが、真の絶望だけである事、それを知っていただかなければ、勝ったとは言えないのです」
「真の絶望……?」
彼女は何かアタシ達の知らない事を知っているのだろうか。
それをアタシ達に知らしめなければ勝った事にならないとはどういう意味だろう。
>「口ではなんとでもおっしゃれます、しかし、それはあなた方が自分たちの非力さを理解していないがための事。
もし、あなた方がそれは違うと力いっぱい胸を張っておっしゃりたいのならば…」
>「私たちとの戦いをお受けくださいまし!
真正面から私たちに挑み、勝ってお見せてください。
それができないのなら、あなた方には人類を解放した後、その後の世界を支える事なんかできませんわ」
有無を言わさぬ気迫に質問するタイミングを逃してしまった。
まあ謎多き彼女の事、もし何か知っていたとしても今はまだ教えられない、というところだろう。
>「ちなみに…」
>「勝負の内容は……料理対決!!」
「えっ!?」
背後で声がしたような気がして振り向くと、いつの間にかフードを被った人物が現れていた!
アタシのみならず戦闘熟練者のアイネも気配を感じられなかったようだ。
それだけでも驚きなのだが、更に驚きなのはその内容である。
>「えーと、確認すると料理対決とは、お互いに料理を作ってその腕を競う、あれ……ですよ?」
>「その通りです。他に料理対決などありますか?」
相手の意図は不明、はっきり言って料理対決などしている場合ではないというのが正直なところだが……
相手は全く気配を感じさせずに背後を取る程の手練れだ。
普通に戦っても勝ち目はない気がする。
かといって料理対決なら勝てるのかというと微妙なところだが……
寄り集まって作戦会議。
>「私は料理などしたことはないですよ。シャルルと……それにシュガーは料理の経験はあるですよ?」
>「残念ながら私も料理の経験はありません」
「お菓子なら少し。まぁ能力を使えば一級品を作れるけど多分能力の使用は禁止……よね。
料理は……あると言えるほどは無いかな。カルレアさんは……」
「うむ、私は対戦相手をずんばらりと捌く事なら出来るが」
「……ですよねー」
結局誰も料理対決を受けられる程の料理技能は無いという結論に落ち着いた。
お茶会対決ならアイネのお茶淹れとアタシのお菓子で上等なんだけどねえ……。
と、いうわけで。
>「分かった。その対決、確かに受けようですよ。ただし条件と質問があるですよ」
無理無茶無謀でも受けて立つ、それがデビチルクオリティ。
ただし勝つための足掻きは忘れない。
>「ええ、何ですか?」
>「まずは質問。食材などの持ち込みは可能だろうかですよ?」
>「続いて条件ですよ。時間が欲しい、料理の特訓をする期間を設けてはどうだろうですよ?」
料理の特訓をする期間、と言ってはいるが短期間では限界がある。
実際には食材の調達をする時間にあてるつもりだろう。
リンネ時代に読んだ漫画の中には毎回究極の食材を手に入れるために魔境の地に踏み入ってバトルする
料理漫画か異能バトル漫画か分からない漫画もあった。
アタシ達も究極の食材を手に入れる事が出来れば勝てるかもしれないのだ。
どうやってかって? それはいつも通り地下住人ネットワークやらを駆使してだな……。
この街の住人は美食のために過酷な労働を強いられているという。
ゼウスの支配に反感を持っている者達もいるはずだ。
「それと……作る料理は自由、ということでいいかしら」
課題メニューが決まっていては勝負に勝てる程の食材を調達できる確率は格段に低くなってしまう。
ましてやその場で課題メニューを発表、などもってのほかだ。
202 :
名無しになりきれ:2014/07/08(火) 03:15:57.78 0
正規空母 加賀 ◆KAGAzJ8GUMさんチィーッス!
関係ないスレに誘導されてやんのw
保守