【TRPG】ブラック魔法少女2

このエントリーをはてなブックマークに追加
92坂上南雲 ◆E2LWmlZqtA :2012/09/27(木) 00:13:58.45 P
迷わず、変身する。
空色の輝きを四肢に浴びて、一瞬。南雲は祝子が鏡の中に見た、長い銀髪と蒼の飛行服を纏う魔法少女へ変わっていた。
粒子のように舞う長髪を風に流しながら、彼女は魔法核に願いを問うた。

「『ライトウィング<ホークアイ>』!」

連続して空色が爆ぜる。南雲の双眸を覆うように、半透明のレンズを持つゴーグルが出現した。
レンズは画面となっていて、様々な情報が奔るように記述されていく――戦闘機用のヘッドマウントディスプレイ(HUD)である。
南雲が飛ばす手のひら大の紙飛行機を偵察機として、テレパシーの相互通信により俯瞰情報を取得していく固有魔法の応用だ。
この魔法によって彼女は広い視野と高精度な戦術情報を手に入れることができる。
そうして手に入れた情報は、絶望の一言に尽きた。

「なに、この大きさ……!!」

魔法少女は体得的に自分以外の者の魔力も感じ取ることができる。
大きさや、質で、ある程度相手の力量や自身の勝率をも計り知ることは、熟練の魔法少女ならば可能だ。
南雲にもそうした素養は備わっていて――彼女の感覚器たる偵察機でそれを感じることができた。

魔力量だけならば昨夜戦った門前百合子も相当なものだった。
しかしいまもなお肌を叩き続ける余波の源は、どんぶり勘定でも門前の五倍近くを叩き出している。

「苗時さんクラス――『エルダー級』!この街にまだ、このレベルの魔法少女がいたなんて!」

しかし、ありえない話ではない。
魔法少女もベテランになると、隠した魔力の残り香すら捉えられない隠匿技術を持つ。
常に実力の半分も出さず、密かに狩りを続けてきた魔法少女がいるとすれば、まさに今そいつとニアミスしている!
偵察機がようやく偵察情報を持ってきた。魔力爆発の爆心地は――この店のすぐ近く。
鯨のように巨大な魔力の持ち主は、現在高速でTenderPerchから遠ざかっている。
すぐさま念信で、得た情報を萌・理奈・麻子――それからゆりかと祝子にも送り、偵察機を二機ほど、その後を追跡させる。

「どうする、このまま店内で息潜めてれば、少なくともいまあのエルダーに襲われることはない。
 でも、これはチャンスでもあると思う。あのエルダーが誰かと戦うなら貴重なエルダー級の戦闘情報を掠め取ることができるし、
 それこそ潰し合ってくれるのなら、漁夫の利狙いでみんなで奇襲ってプランも現実味を帯びてくる」

しかしこれは賭けだ。
エルダーが『そこまで読んで』、間抜けな魔法少女を釣り上げるつもりで餌を撒いているのだとしたら、
勢い勇んで出ていくのはそれこそ奴の大口に自ら飛び込むようなものである。

そして懸念はもう一つ。エルダーへの反応で魔法少女を見分けられるのは、なにもエルダー当人に限らないということ。
その辺で一般人面して潜んでいる魔法少女が、エルダーに気を取られている南雲たちを奇襲しても不思議はないのだ。

「日和った意見を言わせてもらうと、ここは"見"に徹するのが安牌だとは思う。
 状況が流動的すぎるよ。何一つ安心して決断を下せない現状じゃ、何もしないのが一番の安全策ではあるよね」


【真央ちゃんの魔力に反応。超絶ビビる。紙飛行機の偵察機を二機、真央ちゃんの追跡に回す】
93Interceptor ◆E2LWmlZqtA :2012/09/28(金) 00:23:08.68 P
もう日も昇り切った時刻だというのに、その部屋は依然として闇の帳を下ろしていた。
否、光源はある。ちいさな灯が、二つ並んで虚空に赤を点している。
ゆらり、ゆらりと不規則に揺れる二つの炎は、まるで闇に住まう獣の眼光のよう。

「通りゃんせ」

揺れる光に呼応するように、声があった。
声は穏やかなリズムを刻む、歌声だ。曲調とは裏腹に、歌は今にも消え入りそうな、掠れたか細い音だった。

「とおーりゃんせー」

炎に照らされた、灯台の下には、歌声の主の顔があった。
橙色の灯の傍でも、際立つほどに白い肌は、いっそ病的ですらあり、双眸など店先に並ぶ鮮魚を想起させる。
若い、少女だった。ぞっとするほど長い、艶のない黒髪を額で分け、鉢巻のように白布を巻いている。
両こめかみの部分に、一本ずつ蝋燭を立ててあった。二つの灯は、真っ暗な部屋を仄かに照らす。

少女は白い肌襦袢に身を包んでいた。
もしも彼女が目を閉じていたら、これから火葬される死人にしか見えないことだろう。
しかし、少女は眼を閉じない。眼球が乾ききって光が消え失せても、それこそ魚のように見開き続けている。

そして彼女の足元には、二つの人影が転がっていた。
この部屋の、本来の持ち主たる老夫婦。彼らは縛られてもいないのに動かず、轡をされてもいないのに喋らない。
死んでいるわけではない。意識もある。故に老夫婦は、自分たちが指先ひとつ動かせず、声も出せないことに混乱していた。

彼らのすぐ傍に、藁人形が二つ落ちている。
それぞれ、胸の部分に五寸釘が刺さっていて、下の床へ藁人形を縫い止めていた。

「こーこはどーこの細道じゃ……フフフ、い、一体どこなのかしら、私の歩く修羅の道は……!」

少女――『縁籐きずな(えんどう きずな)』は、自らのものも含めて10の魔法核を保持する『夜宴派』。
公式戦においては、正面きっての戦闘よりも密かに相手を呪い殺す戦法に定評のある――遠隔呪殺系魔法少女である。

 * * * * * *
94Interceptor ◆E2LWmlZqtA :2012/09/28(金) 00:24:22.61 P
『不自然なワゴン車』に目を付けていたのは、真央だけではなかった。
この街に潜む、何人かの魔法少女のうち、熟練の者は違和感を確信に変え、独自に対処を打っている。
きずなもその中の一人だった。
彼女はワゴン車を発見してすぐに、適当なマンションの一室に押し入って住人を『制圧』。
きずなが『呪術』と勝手に呼称している固有魔法発動の儀式を行う祭壇を構築していた。
縁籐きずなの固有魔法『友情絶対☆不滅宣言』は手元の類似物を対象に"見立て"、両者の状態や動きを強制同期させる魔法。
この国では古来から、人形や相手の身体の一部を『相手に見立てて』、そこに攻撃を加えることで呪詛としてきた。
藁人形を痛めつけることで、同じ災難が相手本人にも起きるよう願ったのが『丑の刻参り』と言う呪いの祖だ。

同じように、きずなは例えば藁人形を相手に"見立て"て、それに釘を打って固定すれば、相手を金縛りに陥れることができるのである。
同様に藁人形を自分自身に見立てることで、藁人形の見聞きした情報を自分と同期することも可能。
そうして創った、意のままに動きまわる藁人形の使い魔を、きずなはワゴン車の周りに多数放っていた。

>「 どうせ、素直に話しても殺すつもりでしたしね」

そして現在。
ワゴン車を追わせていた使い魔が大破した追跡対象の現場へ辿り着いたとき、真央は生き残りの一人を尋問している最中だった。
遥か遠くの『祭壇』で、儀式の準備を完了させていたきずなは、手元に新しく用意した藁人形へ固有魔法を発動。
五寸釘を掲げ、藁人形の胸のあたりへ金槌で思い切り打ち込んだ。

生き残りの頭へ刃を差し込まんとしていた真央の動きが停止する。
彼女が如何に強靭な肉体を持ち、不屈の精神を持っていても、この硬直は固有魔法によって保証されている。
駄目押しのように藁人形の右腕の部分にもう一本。真央の右腕にぶら下げられていた、男の身体が地面に落ちた。

真央は、注意深く観察すれば己の胸と右腕に不可視の杭が刺さっているのに気付くだろう。
五寸釘を人間サイズに巨大化させたようなこれは、痛みはなく、異物感もないが、虚空に対象を縫い止める力を持つ。
そして、魔法少女の膂力ならば案外簡単に抜くことができることも知るはずだ。
不可視の釘も、抜いてさえしまえば真央の動きを束縛する役目を失いただの見えない杭と化す。

だから、きずなは既に次の手を打っていた。
真央の背後に、巨大な人影が現れる。身長2メートルはあろうかという、特大サイズの藁人形だ。
藁の繊維で編まれた四肢は、本物の筋繊維のように密度高く硬く引き締まってる。
そんな、偉丈夫の右腕が、拳の形に握られた。魔力による強化をされた横薙ぎのパンチが真央を襲う!

―― 一方、締め切られた部屋できずなは真央と同期させたものとは違う藁人形を弄っていた。
まるで人形遊びのように、藁人形の両腕を両手で握って動かす。その動きが、真央と戦う藁人形に反映される。
五寸釘で動きを停めて、巨大藁人形による近接攻撃で仕留める。きずなの常勝戦術であり、長い戦いで磨きぬかれた戦法だ。

巨大藁人形を破壊されても、ダメージを受けるのは手元の操作源たる藁人形だけ。
自分の命は賭けに晒さず、一方的に相手を殺す、実にシステマチックに構築された呪術狙撃であった。
魔力を辿られて居場所が露呈しないように、市内数カ所に設置した使い魔を経由して魔力を送る周到ぶりである。

『え、エルダー級……!お、お、大物が釣れたわ……!ここで勝って、一気に魔法少女卒業よ……!!』

手元の藁人形がきずなの声を拾って、真央と対峙する巨大藁人形に音声を同期する。
西呉真央は、不可避の硬直と強襲してきた人形、そして居場所の掴めぬ敵本体を相手取らなければならない。
この苦境に、彼女はどう立ち向かう?

【真央→遠隔呪殺系魔法少女「縁籐きずな」による呪術攻撃】
【状況:・胸と右腕に不可視の五寸釘が貫通、抜かない限り金縛り継続。
    ・巨大な藁人形が現れ、近接攻撃を仕掛けてきた!
    ・敵本体はこの街のどこかの部屋に潜伏しており、魔力の出処を悟らせない工作をして隠遁中】
95Interceptor ◆E2LWmlZqtA :2012/09/28(金) 00:25:41.21 P
名前:縁籐きずな(えんどう きずな)
所属:夜宴派(元の所属は『隠形派』と呼ばれる暗躍系派閥の一員)
性別:女
年齢:15
性格:非常に根暗で陰気だが無駄に行動力がある
外見:艶のない黒の長髪を真ん中分け。肌が死人のように青白い
魔装:白襦袢、蝋燭を立てた頭巾。いわゆる丑の刻参りの衣装そのもの
願い:好きな人とその彼女が末永く幸せにいられますように

魔法:『友情絶対☆不滅宣言-ウラミハラサデオクベキカ-』
   対象を手元の類似物に"見立て"、動きや状態を強制同期させる魔法。
   藁人形を特定人物に見立てて動きを封じたり遠くの大きな藁人形を手元の小さな藁人形で見立てて遠隔操作したり。 
   五感も同期可能。なお硬度などの性質も見立てた対象と同じになるため、
   例えば人間に見立てた藁人形を捻り切って殺害、といったことはできない。人間を捩じ切る腕力がない限りは。

属性:呪
行動傾向:周到な準備と情報さえ持てば、エルダー級にも立ち向かうガッツはある
基本戦術:五寸釘で動きを停めた後に巨大藁人形でまったり撲殺
うわさ1:懸想していた彼の心を射止めたのが彼女の親友だったので、友情を選び身を引いて応援することにしたらしい。
うわさ2:なのに願いを込めて見たら何故か呪い系の能力になっちゃったわー(棒)
うわさ3:実は親友も魔法少女だったらしい。
96萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/09/29(土) 16:19:24.61 0
まるで合一を望むかのように背を壁に貼り付ける萌。
悲しいかな、そこまでしたところでもともとが長身なのだからさして隠身効果もないのだが。

そのタイミングで携帯が鳴動した。
マナーモードにしたままだったのは何よりだ。
"新人"が物音一つでいきなり暴れだすこともあるまいが無用な刺激は与えるべきではない。

もっとも、マナーモードにしていなかった場合ちゃんとアラームで目を覚ましていたであろうから、
そもそもこんな状況にいない可能性のほうが高いのだが、今となっては詮無いことだ。
(いいかげんスマホに変えよう)
固い決意とともにポケットからそろりと携帯を引きぬき、ヒンジの音がしない程度まで開いた。

>『すごく……大きいです』
ディスプレイから目に飛び込んできた文面がそれだった。
(うーん、既知の情報だなあ)
しかしながら的確ではある。
萌は、南雲との対比からすると祝子の身長は最低でも180と目星を付けた。
少なくとも半径数百m以内には同等の体格の女性など居はしないだろう。

その誤認不可能な少女("少"かどうかは疑問が残るところではあろうが)と南雲の間に一悶着起きているようだ。
顔を半分だけ出して様子をうかがうと、南雲が包丁を突きつけられていた。

常人であればここで慌てて止めに入るのだろうが、それは間違いというものだ。
こういった状況下ではそれこそ物音一つで暴発しかねない。
(つーか下手に割って入ったら刺された上に撃たれるでしょこれ。しっかし、魔法の使い方も知らんのかね、これだからルーキーは)
そして、奇しくも南雲と同じような思考から、祝子の"歴"を推量する。

正面切って一対一、相手は不慣れとくれば南雲が負ける道理などありはしない。
結果を先に言えば、確かに南雲は負けはしなかった。ただし勝利を得られもしなかった。

>『止しな』

念信が響く。それだけで南雲は動けなくなった。そして、萌も。
それから直感する。もうひとつ感じた魔力反応が悪魔のものであることを。
(……いやさすがに魔法核ばら撒いてるだけあるわ)
暴れ始めた心臓を、呼吸によって制御しつつそう考える。
97萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/09/29(土) 16:21:44.85 0
場が硬直したのを見計らったようにゆりかが仲裁に入った。
それから南雲と祝子は手を握り合った。とりあえずは和解が成立したようだ。
>『萌ちゃん、こっち出てきて大丈夫だよ。この不良新人――』
念信に従って踏み出しかけた足が、瞬時にバックステップを刻んで萌を物陰へ押し込む。

ヤモリの念信と違い、明瞭明白な害意を含んだ膨大な魔力。
それが、この場に居合わせた一同に防御行動を取らせた原因だった。

南雲は即座に変身し、魔法を展開する。
萌も変身しかけたが踏みとどまった。祝子に目撃されたらまたぞろパニックの元だ。
もう一度呼吸を整え直してから、ゴーグル越しに宙を見る南雲の元へ歩み寄る。

>「苗時さんクラス――『エルダー級』!この街にまだ、このレベルの魔法少女がいたなんて!」
出てきた情報は概ね予想していたとおりだった。
門前や梔子と向かい合った時でも笑っていられた表情筋がすっかり凍っている。
萌にしてみれば相手の"でかさ"を推し量るだけならそれで足りた。

それでは足りない細かな情報は南雲が拾い集めて周囲に送る。
魔力源は店の近くから高速で離脱中。
追うか、留まるか。

>「日和った意見を言わせてもらうと、ここは"見"に徹するのが安牌だとは思う。
> 状況が流動的すぎるよ。何一つ安心して決断を下せない現状じゃ、何もしないのが一番の安全策ではあるよね」

「序盤は相手の出方を見るべき……ってね。
 頭っから飛ばしてって30秒でKOとか笑ってらんないでしょ。試合ならまだしもさ」
萌は即座に南雲の意見に賛同する。
不可避の状況下でなら前に出ることを第一義としていても、のべつ幕なしフルアヘッドしているわけではない。

(それに、今までこそこそやってた奴がいきなり全力出す、ってねえ)
もしも以前からこのエルダーが力を振るっていたのであれば、苗時やゆりかから何がしかの情報が得られたはずだ。
それがなかったということは、これが"初見"である可能性が高い。

何のために"今""ここ"でそうするのか。
示威か、さもなければ誘いであると萌は断定する。
示威だというならこのまましっぽを巻いているところを見せてせいぜい好い気にさせておけばよし。
もちろん誘いなら出ていくのは論外だ。
98萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/09/29(土) 16:22:35.09 0
『それよっかこっちの処遇じゃね?』
肉声ではなく念信を送りつつ、視線を送る。
その先には人間山脈守本祝子が屹立していた。

(しかしでっけーなー、あたしより10センチ以上あるよね)
改めて祝子を見ると素直に圧倒される。
少なくとも萌が対峙してきた相手の中に、こうはっきりと"見上げる"事が必要だった相手はいない。

(さすがタッパの分だけリーチもあんなー。あれ、この服……)
一度頭から足まで下ろした視線を、再び上げていく。
やたらと強調されたヒップやバストが否応なしに目に入ってくるが、ちょうどそのあたりで萌は首を止める。

(まさか――コンプレッションウェア?この女、自分からこれを……?)
コンプレッションウェアとは、適度な加圧を行うことで様々なサポートを得られるとする衣類を称して言う。
不要な筋肉の動きを抑制することで疲労を軽減させたり、姿勢や動作の矯正を行うなど目的は様々である。
当然のことながら圧力を与えるため完全に身体に密着している。
ちょうど、祝子が着用している制服のように。

もちろんこれはただのゆりかの趣味なのだが、知らない萌からすれば
(これ着て店に出るとか有り得ねーだろフーゾク一歩手前じゃん)
と言うのが正直な感想なので、何かしらの意図があってのこの服装であると結論づけられることになる。

ならばその意図とは――
(常に備えている――何に――?そう、闘争に――!)
この時点で萌えは祝子を油断のならない闘士であると見立てた。

そして視線はさらにその上――顔へと至る。
黒く短い髪。
射抜くような視線。
そして、その瞳の奥。
萌はそこに虎を見た。

「よし、来い」
認識した瞬間、萌は自然に構える。
(棚や台で寸断されたこの厨房という閉鎖空間……、つまりサイドを取るのは絶望的。
 リーチの及ばないあたしが圧倒的に不利に見える……。
でも、手足の長さは回転の遅さに繋がる。なら、手数で押し込んでやれる。
怖いのは……やっぱ前蹴りと打ち下ろしのストレートか……)
そしてリーチを生かした相手の攻撃をいかにいなすかを瞬時にシミュレート。

むろん一連の思考、行動の何もかもが思い込みの産物だ。
萌の主観からすれば祝子ほどの体格を有していながら"何もやっていない"などもはや理解の外なのである。

【牙をむく】
99守本祝子 ◇noRVshsj22:2012/10/08(月) 00:11:08.78 0
何故、南雲を魔法少女と認識した瞬間に敵意が沸いたのか、今の祝子には説明出来ない。
ただ漠然と、「彼女は脅威である」と第六感が告げたに等しい。

その理由は一つ、ヤモリの手鏡。
反射魔法を併せ持つ鏡は、南雲の魔法少女としての姿だけでなく。
彼女の魔力をそのままダイレクトに、祝子に向けて反射した。
魔法少女になりたての祝子にとって、魔法核を幾つも所有する南雲は、どれほどの脅威になりえるか。

>「……私からもお願いするわ、二人とも」

ヤモリからの念信で硬直した一瞬を狙ったように、ゆりかがその場を諌めるべく言葉を重ねる。
祝子は蒼褪めたまま、壊れたロボットのように視線を向ける。

>「この子は守本祝子さん、うちの新人であなたの後輩。どうして魔法少女なのかは――私もさっぱりよ。
 こないだまで普通の子だったはずなんだけど……。ちなみにあっちの悪魔とは縁があってね、昔魔法の先生をしてもらったことがあるの」
>「で、こちらは坂上南雲さん。うちの従業員でここではあなたの先輩。もう知ってるみたいだけど魔法少女よ。
  うちの姪っ子がしょっちゅうお世話になってる。後は――本人から聞いて頂戴」

「ア、ハ、ハイ」
>「とりあえず、ここで戦うのだけは勘弁して頂戴。 あと、南雲ちゃん……入るのはいいけど、学校のほうはいいの?」

祝子だけが状況を把握しきれず。カオナシのような受け答えで済ませる。
――待てよ。あっちの悪魔とはつまりヤモリの事じゃないのか。魔法の先生て。そんなキャラかアイツ。
それ以前に店長も魔法少女かっていやいや年齢的にアウトだろ。あー元か、そうか。後でヤモリは殴ろう。
で、目の前の少女・坂上南雲も魔法少女。ブルゾン姿の魔法少女。色んな意味で残念すぎやしないか。
コスキャバ一歩手前の自分が言えた義理ではないが。

祝子のお粗末脳味噌がキャパシティが限界を超えかけた頃、すっと南雲から手を差し出された。

>「坂上南雲16歳、好きな臓物はアンキモとからすみです。新鮮過ぎるのは勘弁な!
  ――包丁で握手するつもり?」
「(ぞ、臓物?)
 えっと……守本祝子、年は18。砂肝とこのわたが好きデス。……よ、よろしく」

言われて包丁を逆の手に持ち(頬がやや紅潮させつつ)、握手を交わす。
何が悲しくて花の乙女が自己紹介で酒の肴を語らざるを得ないのか。本人は同類の登場でそれどころではないが。

>「!!」

「ひっ……!?」

握手したまま「今日の晩御飯はタコのカルパッチョかなー」などと暢気に構えていたその一瞬。
ぞわり、と項を、味わったことのない悪寒が駆け抜ける。
”なりたて”で右も左も分からない祝子でさえ、その強大な魔力を全身で感じ取る事が出来た。
南雲と違い剥き出しの祝子は、一瞬にして不快感に襲われ、その場に崩れ落ちる。

『気をしっかり保ちな、祝子。気圧されてんじゃないよ』

ヤモリの念信が届く。同時に、祝子の周囲にのみ、先程襲ってきた強烈な気配が途絶えた。
雛鳥同然の祝子を守るかの如く、ヤモリが祝子の周囲に反射魔法を展開させ、不可視の壁を作ったのだ。
ともあれ、ヤモリのお陰で立ちあがれるだけの余裕が出来た。脳内でイメージし、念信を送る。

『あ、あんがと。変な奴や思うとったが、優しい所もあるんじゃな……』
100守本祝子 ◇noRVshsj22:2012/10/08(月) 00:11:47.54 0
『んにゃ、ここで恩売っておけば晩御飯にはありつけるかにゃー、なーんて』
「……………………。」

感謝しなきゃよかった。やっぱり一発は殴っておこう。それに聞きたい事も、それはもう山ほどある。

>「日和った意見を言わせてもらうと、ここは"見"に徹するのが安牌だとは思う。
 状況が流動的すぎるよ。何一つ安心して決断を下せない現状じゃ、何もしないのが一番の安全策ではあるよね」
>「序盤は相手の出方を見るべき……ってね。
  頭っから飛ばしてって30秒でKOとか笑ってらんないでしょ。試合ならまだしもさ」

また新たな少女が現れる。変身した南雲を見ても驚く表情一つ見せず、冷静に意見を述べる。
察するに、南雲の仲間か。もしかすれば、ゆりかの姪とやらかもしれない。
じろりと少女(萌)に睨みあげられ、祝子は居住いを正した。自然と互いにガン垂れる形となる。

>「よし、来い」
「えっ」

何を思ったか、少女は構えた。
洋画か、でなければ年末年始のTVで見たような見たことないような構えだ。
どうすべきか。来いと言われたからには行けばいいのだろう。
萌の勘違いなど露知らず、祝子は字面通りに受け取り、そのまま萌に向かって歩き出す。

「ひぇあっ!?」

転んだ。正しく表現すれば、何も無い厨房の床で踵が滑り、スライディングの格好で萌に向かって転んだ。
その姿はウンヶ月ぶりに満塁ホームランを決めホームベースに突っ込むカープ選手のバッターが如く。
かの、えの素の菖蒲沢よろしく、モロパンチラを主張するように、そりゃあもう派手に転んだ。
ついでに周囲の人間も巻き込んだやもしれない。

「痛たたた……」

起き上がった瞬間、転んだ拍子に手放した包丁が、萌の頭に向かって落下する――。
刹那、切っ先が見えない壁にぶつかったように跳躍し、その矛先が高速で天井へと向かう。

「――何やってんの、お前?」

黒い革手袋を嵌めた右手が、鮮やかな手並みで包丁の切っ先を受け止める。
何時からいたのか、厨房の天井から、スーツ姿のヤモリが呆れ返ったようにこちらを見下ろしていた。

「…………………………そーいうアンタはそこで何しとるんね」
「んん、ゆりかの『お気に入り』達の顔が見たくってさ」

ヤモリは包丁を棚へと投げつけて仕舞い、地上へと降りた。正しくは祝子の腹へと落下した。

「へぶぅっ!?」
「パンツ見えるぜ、クマさんプリント。さて……坂下北雲にナックル・ジョーだっけ?
 初めまして、アタシは闇のセールスマン『屋守』、コイツ(祝子)担当。用件はシンプルに1つだ」

ニタリ、と悪魔特有の笑みを浮かべる。
意味不明な登場を披露した正体不明の悪魔。その目的は――

「――――どっちでもいいから、ここの代金(朝食代)、奢ってくんね?」

只のタカリだった。

【派手にすっ転ぶ】
101佐々木 真言 ◇EDGE/yVqm. :2012/10/08(月) 19:49:07.15 P
(最近、視線を感じるけど。ここでも、有るな)

ちらりと窓の外を伺い、また食事へと戻っていく佐々木。
車の方向を一瞬一瞥したのは偶然だったが、その時点で僅かな違和感を感じていた。
そして、その違和感は徐々に増していたが、そもそものこの状況の異常さにカモフラージュされ、己が追跡されていたことにはこの時点では気がつくことはなかった。
ホットサンドに大口を開けてかぶりつき、溶けたチーズの熱さに顔を顰めている最中、状況が動いた。

「……ッ」

僅かに目付きに鋭さを混ぜ込み、顔を上げ窓の外に視線を向ける。
魔力の探知の為に魔力の隠蔽のレベルを普通程度に下げようとするも、その必要すらなかった。

――エルダー級。

何時か佐々木真言が倒さなければならないであろう存在。
この世に害を成す為の願いの為に他者の魔法核を奪うのならば、それがどれだけ強大な存在であろうとも佐々木にとっては全て敵に他ならない。
満足に動くことのない右腕が痙攣を起こし、麻痺していた意識は断続的な疼痛によって即座に現実に引き戻された。
皿の上には手からこぼれ落ちて崩れた無残なホットサンド、制服の胸元にはチーズが飛び散っていたが気になどしている場合ではない。

(考えろ、今、取るべき行動は。
 ……隠密? いや、エルダー級を前に存在を隠しきるのは私の魔力隠蔽でも難しいか。
 今ここでエルダー級を討つ、いや、無理だ。私一人で準備も無しに敵うはずは無い。
 だとすれば、ここは助勢。下手に迷うよりは、大きく動くべきだ)

ぐるぐると思考を回し、展開し、積み上げ、塔は結論に達する。
即ち、エルダー級に一時的な協力者として接触し、エルダー級の魔法少女と魔法少女ではないのに魔法少女並の魔力を持つ存在についての情報を得る事が今取るべき行動だ。

決まれば行動は迅速だ。刃を振るう心が定まれば刀は使い手の意思のままに振るわれるだけなのだから。
鞄から財布を取り出し机に叩きつけ、眼鏡を放り投げながら店のドアに向かって佐々木は駈け出した。
行動を見れば、文字通り坂上南雲の言う所の間抜けな魔法少女に他ならないが、そこでこうするのが佐々木真言の思考。
覚悟を決めれば虎穴にすら望んで入る、己に対する危機と成功した場合の利益を天秤にかけ今は動くべきと決めた。

「行く、よ」

外に躍り出ると同時に小さく呟き、次の瞬間には佐々木の肉体に黒い靄が絡みつき、靄が全身を覆えば霞を切り裂く黒いコートの裾が翻り、魔法少女は駈け出した。
魔力量としてはそれほど特筆する点は無い、2000程度の中堅程度と言った魔力量だ。
逆に特筆すべき点としてはその外見に有るだろう。
あまりにも華やかさ、美しさからはかけ離れた暗色の衣装は、その他の魔法少女が勇者や魔法使いに例えられるのならば暗殺者のそれに近いものだ。
彩度の低い灰色と鈍色を基調とした和装の上にインバネスコートをはためかせる少女は鴉にも見える。
編み上げブーツの靴底が地面を強く叩くと同時に、スポーツカーもかくやという速度で剣士は駆け抜ける。

(喫茶店の魔法少女か、偵察……だね。
 なら、今すべき事は前に進むこと、手の内はなるべく明かさずに)

障害物の多い地上では速度が落ちる。
佐々木は地面を踏み、前方向ではなく斜め上方向――ビルの壁へと向けて跳躍。
地上のそれを踏みしめるのと変わらぬように当然な様子で壁を足場として踏みしめれば速度を遮るものはもはや存在しない。
102佐々木 真言 ◇EDGE/yVqm. :2012/10/08(月) 19:50:34.34 P
一般人と90度ズレた地上を駆け、佐々木真言はエルダー級と黒服の男、そして新たに現れた魔法少女の元にたどり着く。

着地の瞬間に衝撃を逃がすために地面を転がり即座に立ち上がる。
全身をすっぽりと覆うマントのようなコートに体は隠され動作の起こりを認識する事は難しい。
長めの金髪の前髪から覗く瞳は周囲を睨めつけ状況を確認、精神を整え深く息を吸い、腰を落とした。

「エルダー級。そこの黒服に対する行動が終わるまで、私が藁人形を相手する。
 お前を狙うつもりは無い。……そもそも、敵うはずは無いから」

淡々とした事務的な口調で西呉にそう話しかければ、その後は一瞥もせずに藁人形の前に立ちはだかる。
細身、小柄。だがこの少女は魔法少女であり、外見のイメージなど一瞬で覆されるのも当然の道理。

「遠隔系。本体は弱い。
 拘束しなければ、相手を倒せないのならば。
 藁人形単体は、大した脅威ではない」

藁人形と西呉の間に佐々木は割り込み、そのパンチを前にして引く事は無く、逆に一歩前に前進する。
体の軸をずらし、薄い胸をこするようにして腕は振りぬかれた。
その動作で藁人形の懐に入ると同時に佐々木は右腕を左の腰から右上に向けて袈裟に振り上げる。

「試し切りの、感覚に似ている」

竹を芯に濡らした藁を巻いた巻藁は、切った感触が人間によく似ている事から居合や剣術の鍛錬に良く使用されているものだ。
要するに、異形の藁人形だが、それを切り裂く感覚は佐々木にとっては日常的なもの。
全身を捻り刀を引きぬく動作はぐんと伸ばされた藁人形の右腕へと藁人形の胴体も同時に引き裂きながら切り裂く袈裟斬り。

魔力で生成された大太刀の切れ味は並み居る名刀妖刀にも負けず劣らず。
それに更に佐々木の固有魔法『念動力』が加わる事で常識外の膂力と速度と切れ味が更に上乗せされている。
特殊な魔法は同調した魔法核の分の1つしか持たず、己の固有魔法は身体能力強化と装備に強化に特化している。
それが極めて高い魔力効率と高い出力を佐々木に約束していた。

魔法少女、佐々木真言は剣を抜いた。
藁人形の胴体に刀の切っ先がめり込み、繊維を断ち切る感覚が指先、掌の神経を駆け抜け脳髄に伝わる。
意図せずして佐々木の口は自然に開き、肺の中の空気は押し出され声帯を震わせ、空気に音響を響かせた。

「ダァ゛ア゛ァ゛ア゛――ッ゛!」

奇声染みた気勢と共に、佐々木の剣閃は銀色の弧を描く。
この剣閃が通れば藁人形の腕は間違いなく落ちることだろう。

【・佐々木変身
 ・鞄とか財布とか眼鏡とかはテンダーパーチに置きっぱなし
 ・坂上さんの偵察機には気がついている
 ・現状は西呉さんに加勢
 ・藁人形に対して袈裟斬り中】
103黒服達 ◆kH9u2I.n64bx :2012/10/11(木) 04:42:33.24 0
端的に言って、状況は最悪だった。

監視を看破される事はまだいい。
看破されていても一定以上の情報を得ることは可能であるし、仮に戦闘となっても
数の論理で何とかしてしまえるだけの性能が彼らにはあったからだ。
干渉し返してこないなら見逃せばよいし、血の気の多い相手なら撃退すればよかった。
だがそれは、一般的な魔法少女相手の話だ。

エルダー級。
彼らの主人も含めて十数人しか存在しない、圧倒的な力の保有者。
しかも、“触手”……西呉真央は、純粋な戦闘能力にステータスのほぼすべてを割り振ったタイプだ。
そして、ステータスの総合値……魔力値は、彼らの主人のものと完全に拮抗する。
まともな戦闘では勝ち目があるはずも無い。
小細工が通用する相手でもない。

小蝿と人間の力関係を連想してもらえれば分かりやすいだろうか。
小蝿は人間の様子を観察することが出来るし、その気になれば鬱陶しがらせる事も可能である。
だが、ひとたび人間が小蝿を排除することを決めた場合、小蝿が逃げ切れる可能性はゼロに等しい。

なので。
交戦状態に突入した段階で、彼らの目的は生存ではなくなっていた。
104黒服達の生き残り ◆kH9u2I.n64bx :2012/10/11(木) 04:43:38.00 0
黒服たちの中で最も年嵩だった男……彼の名前に意味は無いが、仮に黒木としておこう……は、地面に落下して咳き込んだ。
黒木はこのワゴン車内の黒服のまとめ役であり、それに見合った実力を持っていた。
それが彼を、西呉真央との交戦を経ていまだ生にしがみつかせていたと言える。
もっとも、それが仇となり、西呉真央に情報を与えてしまうところだったが。

黒木は状況をすばやく認識する。
西呉真央は硬直している……そして、彼女の背後に現れた巨大な藁人形。
覚えがあった。文字通り、黒服たちの間で通称“藁人形”と呼称されていた魔法少女、縁籐きずな。
助けに入られる覚えはないが、黒木にとってその介入が好都合であることは確かだ。

黒木は即座に西呉真央から距離を置こうとして……身体がろくに動かないことに気がつく。
緑籐きずなの魔法ではない。純粋に肉体的ダメージの影響だ。
しかたなく、西呉真央の足元にくず折れたまま、スーツのカフボタンに手をやる。
ダイイングメッセージを残そうというのではない。ボタンに仕込があるのだ。
彼らの主人の固有魔法の産物。
リーダー格である黒木にのみ付与された切り札。二つの魔法のあわせ技。

《七日目の余技-トイクリエイト-》……魔法をこめた、非魔法少女の者にも使用可能な道具を作り出す固有魔法。
《即席英雄-インスタントマスタリー-》……ごく短時間の間、特定の事象に対しての能力を飛躍的に向上させる固有魔法。

『念を込めることで誰でも能力を強化できるボタン』。状況を選ばず対応できる、万能の一手。
それを、黒木は二つ使用する。
一つは自己治癒力の強化。
もう一つは肉体の敏捷性の強化。
それを、可能な限り魔力を隠蔽し、倒れたままの状態で起動する。

逃げの一手。
西呉真央と交戦して勝てるなどと言う夢物語を、黒木はまったく念頭においていなかった。
チームのメンバーが壊滅した今となってはなおのことだ。
そして、彼はまだ『死んでいない』。
ならば出来ることは、戦力損耗を抑えるための、撤退だった。

だが。
魔法が発動し、黒木のダメージが回復し始めるのとほぼ同時。
鉛色の閃光が目を射る。

(……佐々木……真言……!)

完全に想定外の介入だった。
これでは、黒木のダメージが回復しきる前に西呉真央が呪縛を解く可能性が高い。
やむをえない。
黒木は悲鳴を上げる身体に鞭を打って、なんとか地面を転がり、西呉真央から距離を置く。
立ち上がれるまで後数秒、と言ったところか。
その間に西呉真央が呪縛を解けるかどうかが、黒木の生死の分かれ目だった。
105大饗いとり ◆kH9u2I.n64bx :2012/10/11(木) 04:44:31.43 0
「……」

あたしは沈黙する。
あたしは思考する。
あたしは沈思黙考する。

答えは未だ出ない。


【ワゴン車部隊:リーダー格を残して壊滅。
 ワゴン車部隊リーダー(黒木):逃げようとするも逃げ切れるかは不透明
 大饗いとり:謎の沈黙……?】
106神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/10/12(金) 09:22:27.29 0

――結局のところ、二度目の悲鳴も私のモノでした。

【南雲】「魔法少女になっちゃったんで来るべき戦いに備えて修行するため今日は休みます」
【萌】 「あ、すんません奈津久ですー。昨日の練習で開始直後に一発いいのもらっちゃって、
     なにがなんだかわからなくなったので病院行くから休みますー」

時計の針を見るなり直ぐさま欠席という判断をくだせる素敵なお姉さま方に倣い、携帯電話を取り出してみる。
私の場合、学校よりも家族に連絡したほうがいいのかもしれない。

電話帳を開き、ママの番号にコールを入れる。

【ママ】『はいもしもし』
    「あ、理奈ですけど――」
【ママ】『……誰?』
    「ママ、冗談キツいよ(T∀T;)」
【ママ】『え?……あ、ああ!ごめんね、理奈。寝ぼけてたわ。それよりアンタ学校はっ!?』
    「えっと、まだ叔母さんのお店……その事なんだけどね。ちょっと――風邪、ひいちゃったみたいで……」
【ママ】『…………』
    「きょ、今日は、休もうかなー……なんて(ゴ、ゴホゴホ)」
【ママ】『……………………』

うわー、すっごい疑われてる。 まあ、当然ですけど。

    「だ、駄目かな?(||´Д`)oゴホゴホ!!」
【ママ】『……今回だけよ』
    「あ、ありがとうございまーす!!」

よかった――って、完 全 にバレてるよコレ……。    
はあ、やれやれ。終話ボタンを押し、深く溜息をつく。

【麻子】「……何かよくわかんねーけど、学生って身分も大変なんだな」

生きるか死ぬかを学ぶより大事な勉強って何だろうって気もしますけどね、今の状況だと。
まあ、普通はコレが子どもの仕事みたいなものですから……っていうか、麻子さんも本来なら私と同じ義務教育を受けてる年齢ですよね?

【萌】「んじゃ時間も確保できたことだし、とりあえず亀の甲羅背負って走ろー」

階下へと去っていく南雲さんを他所に早速練習メニューを提示する萌さん。
それを聞いた麻子さんが「よしきた」とゾウガメサイズの甲羅を生成する。私の体重を遥かに超える質量がズシリ!と床を軋ませた。


【続きます】
107神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/10/12(金) 09:24:07.82 0

ねえ、麻子さん。なんでもいいけど、どうして私の分しか甲羅がないの……?

朝日が差し込む冬の室内でふと冷や汗を流しそうになったそんなとき、開け放したドアの隙間から一機の紙飛行機が飛んできた。
目の前にいた萌さんが唇に人差し指を当てつつ立ち上がる。多分、南雲さんからの伝言だろう。
渡された紙にはこう書かれていた。

『魔法少女来店セリ・要警戒・魔法使ウベカラズ』

【萌】「……だって」

言いつつ携帯電話を操作する萌さん。南雲さんにメールを送ったらしい。

(あ――そっか、魔法少女だからって魔法だけに頼る必要はないもんね)

念信は確かに便利だけど、今は使えない。時にはマジカルよりデジタルのほうが有効な時もあるのだということを学んだ瞬間でした。

【萌】「二人はとりあえず部屋にいたほうがいいと思う」

「あの……私たちも一緒に降りたほうが」

萌さんの意図が読めなかった私は小さな声でそう返す。が、着替えながら喋っていた萌さんには聞こえなかったみたいで、重ねて次の行動を言い渡される。

【萌】「万が一ここでやりあうことになったら、まずは店長さんとか連れていったん逃げて」

そう言い残し、萌さんは下のフロアへと降りて行った。

【麻子】「まさかもう来やがったのか……早すぎだろ」

二人だけになった二階の寝室で、麻子さんが舌打ち混じりにそう呟く。
えっと……何の事言ってるのかさっぱりわからないんですけど。私は麻子さんに呟きの意味を尋ねようとした。

けれどそのとき――私の電話が鳴り響く。着信。知らない番号。

    「……はい?」
【??】『もしもし。神田さんの携帯で合ってますよね?』
    「そ、そうです。失礼ですけど……どちら様ですか?」
【??】『あ――やっぱり覚えてませんよね。こないだ『楽園』でお会いした……』

この、大人しそうな喋り方は……もしかしてっ!!

    「日立さん!?」
【零子】『目立です……お約束なボケをくださってありがとうございます』
    「わああ!すいません!すいません!」
【零子】『いいんです。こんな地味な私でもちゃんと覚えてくれてる人がいるんだなって思うと――嬉しいですから……』

あの、それはちょっと喜びのハードルが低すぎやしませんか……?


【続きます】
108神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/10/12(金) 09:25:49.57 0

麻子さんが私の方を見ている。念信が使えないので受話器の口を塞ぎ、「『楽園』の人」と簡単に説明を済ませる。

    「と、ところで……どういったご用件ですか?」
【零子】『苗時さんのお使いです。頼まれていた『夜宴』の動画ディスクを焼いたので、お届けしようかと……』
    
あ、それって昨日の晩南雲さんが『楽園』に依頼してたやつですね。

    「早っ……もう出来たんですか!?」
【零子】『いえ、こういう時のためにあらかじめ作ってあったんです、苗時さんの指示で。私、データの整理とかそういう編集作業、何気に得意ですから』

流石苗時さん。用意がいいというか何というか。目立さんが私の番号を知ってるのはそういう理由らしい。

【零子】『本当は坂上さんに直接お渡ししたほうがいいんでしょうけど……私その……あの人のこと…………ちょっと(震え声)』
    「えっと……何となくわかりましたから、無理に言わなくていいですよ(−−;)?」
【零子】『すいません。店長さんにもお電話したんですけど全然繋がらなくて……」

この時間だとお店にかけないと出ないんじゃないかな?叔母さん「仕事中だと集中し過ぎて鳴ってても気づかない事が多い」って言ってたし。
なるほど、消去法的に後は私か萌さんしかいないわけなんですね。麻子さんは携帯電話、持ってな――


【???】『止しな』


――――ビクッ!!!!

突然聞こえてきた念信とそれに伴う巨大な魔力に飛び上がる私。隣にいた麻子さんにも届いていたらしく、驚愕の表情を浮かべている。
何、なに、ナンナノ? これって下から……? 下の階に一体何がいるの??

【零子】『神田さん……どうかしたんですか?』
    「いえ――何でもありません。大丈夫です。あの、ディスクならわざわざ持ってきていただかなくても郵送とかで良かったんじゃ……?
     それに目立さん、学校は行かなくていいんですか?もうこんな時間ですよ?」

折角持ってきてもらうのにこの言い方は気を悪くするんじゃないか、と思いつつ、それでもやっぱりそこまでしてもらうのは気が引けてしまいます。
……既に学校をサボることを決めちゃった私が言うのも何ですけど。

【零子】『ああ、それなら気にしないでください。家はこの近くですし、私の学校今日は“創立記念日”でお休みなんです♪』
    「そ、それならいいんですけど……今、どの辺りにいるんですか?」


【もう少し続きます】
109神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/10/12(金) 09:28:00.94 0
一部訂正:麻子さんは携帯電話持ってます。
110神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/10/12(金) 09:28:46.62 0

【零子】『お店のすぐ近くですよ。駅周辺のマンションの下あたりって言えばわかります?』
    「あ、はい、だいたいは」
【零子】『…………』

受話器の向こうから不自然な沈黙が流れて会話が途切れる。散発的に聞こえてくる車の音で、目立さんが今車道の横を歩いていることをぼんやりと知ることができた。

    「どうかしたんですか?」
【零子】『――いいえ、何だか今日は黒いワゴン車を何台か見かけたなって。別に特別珍しい車種ではありませんが」
    「ワゴン車ですか?」
【零子】『はい、側面の窓にスモークを貼っててちょっと怪しい感じの車です。それだけならいいんですけど……何だか、見られてるような気がして』
    「…………」
【零子】『あはは、やだ。自意識過剰ですよね///? 私みたいな地味な人間が誰かに見られてるなんて――――』

通話に対する意識はそこで消し飛ばされた。

「!?」

突如出現した強大な魔力。
先ほどのものとはまた違う、高い攻撃性を秘めた“それ”の圧力に当てられて、私は弾かれるようにすぐさま魔装に身を包みました。

【零子】『い、今のは何でしょうか……?』

目立さんも同じものを感じ取ったらしい。発生源は――――外。

「わかりません…………でも、気をつけて」

直後、階下から南雲さんの念信がイメージとして届けられる。
『ライトウィング<ホークアイ>』。その遠距離情報集・共有能力によって補足した新手の魔法少女。その実力……エルダー級。

【麻子】「こいつ、誘ってやがるな」

私同様、魔装に身を包み既に臨戦態勢に入っていた麻子さんが険しい表情を浮かべて鼻を鳴らした。
けれど、幸いな事に“それ”はこの【Tender Perch】から遠ざかっているという。

「もしもし、目立さん?今外にいるのは多分危ないです。今日はもう帰ったほうが……」

受話器の向こうから返ってきたのは、大きな破壊音。

「目立さん?どうかしたんですか!?」

【零子】『嘘……そんな……こんな所で…………人を………………殺した?』

何者かの恐怖に震える目立さんの声を最後に、私と目立さんの通話は「ガチャ」という鈍い音によって途切れてしまいました。


【理奈・麻子さん共に変身しました。西呉さんの黒服さん殺害現場に目立さんが居合わせている様子】
111神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/10/12(金) 09:31:09.03 0

何度掛け直してみても、目立さんは電話に出ませんでした。

【麻子】「……下りるぞ」

携帯電話を持ったまま絶句する私を麻子さんが呼びかける。
こないだ会ったときに思ったけれど、目立さんは戦いが得意な人じゃない。
きっと無理はしないはず。もし本当に危ないと思ったときは『コール』か何かで助けを求めてくるはずだ。

今のところその様子は無いから……うん、きっと大丈夫。

【南雲】「日和った意見を言わせてもらうと、ここは"見"に徹するのが安牌だとは思う。
     状況が流動的すぎるよ。何一つ安心して決断を下せない現状じゃ、何もしないのが一番の安全策ではあるよね」
【萌】 「序盤は相手の出方を見るべき……ってね。
     頭っから飛ばしてって30秒でKOとか笑ってらんないでしょ。試合ならまだしもさ」

聴覚を強化し、階段を下りながら南雲さんと萌さんの声を耳で拾う。
何だか厨房が騒がしいけれど、気にしてはいられない。

【祝子】「へぶぅっ!?」

!?

厨房にはまるで格闘ゲームのような光景が広がっていました。
うちの制服に身を包んだ大柄なお姉さんが、天井にへばりついていたスーツ姿の別のお姉さんからのしかかりを受けていたのです。
あれって確かヘッドプレスって言うんですよね? ベガ様が使う有名な技なので私でも知ってます。

どう見てもヘッド(頭)じゃなくてお腹に落ちてますけど。

【屋守】「パンツ見えるぜ、クマさんプリント。
     さて……坂下北雲にナックル・ジョーだっけ?初めまして、アタシは闇のセールスマン『屋守』、コイツ(祝子)担当」

闇のセールスマン! ということは……この人も悪魔なの? 
じゃあ、さっきの大きな魔力はこのお姉さんが原因なんだ……一体、何のつもりでここへ?

【屋守】「用件はシンプルに1つだ――――どっちでもいいから、ここの代金(朝食代)、奢ってくんね?」

魔法少女にタカる悪魔。私の知る限り聞いたことがありません。新しいです。新しすぎて意味がわかりません。
叔母さんが何か言いたそうな顔をして……止めました。溜息をついてます。「一度や二度じゃない」って顔をしています。何があったんだろ?

【麻子】「ふざけんなよ――」

隣にいた麻子さんが顔を俯かせ、肩を震わせていました。続く叫びはきっと魂の遠吠えに相違ありません。

【麻子】「悪魔の辞書には“働かざるもの食うべからず”って言葉は無えのかああああぁ!!?」

麻子さんが言うと……なんか切実です。
そんなことよりそこで踏まれてるお姉さん、早くどいてあげたほうがいいんじゃ…………ほら、段々顔が青くなってるし。中身出ちゃいますよ?


【合流。今回は以上です】
112西呉真央 ◆yAQfcFtrvY :2012/10/15(月) 16:40:23.24 0
世界征服に必要なものはなんだろうか?
どの国家よりも強大な軍事力だろうか?
それとも、この世のありとあらゆるものを買えるほどの資金力か?
いや、あらゆる人を引き付け、魅了し、狂奔させるほどのカリスマかも知れない
だが、それを魔法に求めるのは…間違いだ。
それでは、ただ自分が倒すべき相手と同じ立ち居地に立つだけで
目的を達成するにはほど遠い。
それ故に、西呉の固有魔法は自身が掲示した支配者の三条件とは別のベクトルのものになった。
それは、『規格外の怪物への変貌』という世界征服から少し離れたような魔法だ。
人と同等の知能を有し、一個大隊以上の戦闘力を持ち、核の炎の中でも悠々と歩き
どこにでも潜み、どこにでも潜入出来るほどの潜伏能力を併せ持つ怪物
その圧倒的な暴力で人類を蹂躙し、そして、さながら魔王のように世界を支配することが
西呉の目的であり、その為の作った固有魔法こそが
『破滅を齎す者【サタンオブアポカリプス】』なのである。
だが、あくまでもそれは理想、完成形だ。
エルダー級の魔力を有していても、未完成な現状は理想とはほど遠い触手の化け物と言える。

触手が黒服の頭蓋を抉る感触よりも先に感じたのは『固定』だった。
まるで何かに縫い付けられたかのように、自身の体と右腕、そして、触手たちが動きを止める。
「な・・・」
リアクションを取る間もなく、背後から何者かによる打撃が脇腹に突き刺さる
「がぁ…!!!」
痛みで思わず声が上がった。
この程度の打撃ならば、体を『緩ませる』ことで無効化できているはずなのにそれさえも出来ず
モロに入ってしまったらしい。
悶絶しながらも、真央は目の一つを体表を滑るように動かし、背後にいる敵を視認する。
「…どうやら、やっかいな相手に目をつけられてしまったようですね」
視線の先に居た藁人形を見た瞬間、真央の表情が曇った。

縁籐きずな…固有魔法で不可視の杭で相手を拘束した後でダラダラと殴り殺すいけ好かない魔法少女
戦法から見て、接近すればどうとでもなる相手ではあるが、問題なのは固有魔法の性質だ。
射撃系の遠距離魔法とは違い、彼女の魔法はどこから来るのか見当がつかない。
仮に分かったとしても、そこまで行く前に彼女の魔法で拘束されて終わり
と先手を打たれてしまった場合、どうすることも出来なくなってしまうのだ。
だが、あくまでも、それは一対一でやる場合だ。二人がかりで戦った場合ならば、まだ勝機は見えるが…
個人主義の自身にそんな都合のいい味方なんて存在しない。
113西呉真央 ◆yAQfcFtrvY :2012/10/15(月) 16:42:45.63 0
(とにかく耐えながら、居場所まで接近するしか無いようですね)
そう覚悟を決め、辛うじて動く左腕を胸と右腕に刺さっている杭に絡ませ引き抜こうとするが
次の一撃までに間に合いそうにない。
その次の瞬間、黒衣の魔法少女が真央と藁人形の間に入り、藁人形を斬りつける。
「自身の実力を過信しない人は好きですよ」
にんまりと微笑みながら、真央は杭を引き抜く
抜けた瞬間、「固定」の感触が消え、真央はすぐさま、距離をとり、辺りを伺う
先ほど逃がした黒服はダメージが回復していないのか、視界の範囲に居る。
喫茶店のほうから魔力の反応を感じる、おそらく何かしらの魔法で情報収集しようという判断だろう
「ただ…見ず知らずの相手の言うことを聞くほどお人よしじゃないんですよ…ねッ!」
続けざまにそう言いながら、真央は先ほど引き抜いた杭を藁人形と黒服に投げつけた。
杭はどちらにも刺さったが、黒服は何も刺さらなかったように逃げ、藁人形は先ほどの真央のように固定された。
「残念…どうやら、杭の効果があるのは自身か対象にした相手だけみたいですね
 アレにも効果があったなら、少しは考え直したんですけどね」
わざとらしくそう言いながら、黒衣の魔法少女を見やる。
魔装で印象がやや変ってはいるが、あの喫茶店にいた不良学生と見ていいだろう。
(見られるつもりは無かったのですが…これでプラマイゼロということにしておきましょう)

元々の目的に区切りを付け、思考を切り替える。
(早々に白旗を揚げた魔法少女を嗾けても靡くとは思えませんし、戦闘を継続するつもりなら
 きずなは彼女も殺しに来ると考えていい。)
「私を説得しようとか考えないほうがいいですよ。そうしている間に藁人形に殺されますからね
 私よりも先にあっちを殺したらどうです?もしかしたら、それで光明が見えるかも知れませんよ」
(ならば、こちらから嗾けるだけのこと。)
そう言い残して、真央は壁を駆け上がり、縁藤の魔力を感じ取る。
(なるほど、辿られないように使い魔を使ってカムフラージュしている訳ですか…)
考えを巡らせながら、真央は宙へ身を投げる。
落下している最中、彼女の両手の形は崩れ、そして、翼竜のような翼に形を変える。
(だが、その警戒心が裏目に出たようですね!!!)
疾風と共に彼女はある点に向かって羽ばたいた。

114西呉真央 ◆yAQfcFtrvY :2012/10/15(月) 16:44:12.16 0
数分もしない間に縁籐きずなは恐ろしい光景を目の当たりにするだろう。
何故なら、決して辿り付く事のないエルダーが目の前に迫っているからだ。
「聞かれる前に答えてあげますよ。どうしてここがわかったか」
機嫌が良さそうな口調で真央は話すが、既に部屋いっぱいに凍りつくほどの殺気が充満している。
「簡単ですよ。あなたが警戒心の強い魔法少女だからですよ
 使い魔を使い魔力を木の根のように張り巡らせたのは、ただ単に自分の居場所を隠す為だけじゃなく
 相手に『辿った先にあなたが居る』と錯覚させるのが真の目的だった。
 そうやって偽のポイントに誘き寄せ、徹底的に叩きのめすか、そそくさと逃げる為にね」
一歩近づく
「だから、あえて反応が薄いここに来たということです。
 まぁここに来る前に杭を打たれるかと思いましたけど、その辺は運が良かっただけなのかも知れませんね」
もう一歩踏み出した瞬間、真央の指が縁籐の腕を突き刺す。
「どうやら、この距離なら私のほうが早いようですね」
一歩近づく、今度は足が切り落とされた。
一歩近づくたびに、真央はきずなの体の一部を奪い取っていく
もし真言が真央の魔力を追って来たなら、血塗れの真央と原型を留めていない肉塊が散ばっている光景を見ることになる。
「案外早かったんじゃないんですか?藁人形の魔法少女ならこの通り片をつけたところです。
 いつもならこんなことしませんが、特別にあなたにあげますよ」
そう言って魔法核を真言に渡すと真央は大きく欠伸をして、部屋を後にしようとする。
「全くとんだ食後の運動でした。やっと寝れますね。あ…そうでした今は見逃してあげますけど
 油断したところを…なんて考えないほうがいいですよ。じゃあ、 さ よ う な ら 」
115坂上南雲 ◆E2LWmlZqtA :2012/10/22(月) 00:02:53.49 P
「やばい、やばい!」

黒いバンに突っ込むエルダーを見たあたりで、南雲は偵察機を戻した。
魔法少女としての強さもさることながら、残虐性が上記を逸している。
あんな街中で、誰が見ているかわからないような往来で人を殺しに行った。

南雲が短い魔法少女としての戦歴で培った、人外としての常識や定石に一つもまともにあてはまらない。
これで、偵察機に気取られていれば、あのエルダーは確実にこのテンダーパーチを突き止めるだろう。
そうなったとき、この都筑ゆりかが築いたささやかな幸せの灯る場所がどのような惨状を辿るか想像に難くない。

だから、南雲は腰を退いた。情報収集などと悠長なことは言っていられない。関わりあいになることすら禁忌に思えた。
幸いにもエルダーが尾行に気付いた様子はなかったので、これ以上ちょっかいをかけなければ大丈夫だろう。

>「序盤は相手の出方を見るべき……ってね。
 頭っから飛ばしてって30秒でKOとか笑ってらんないでしょ。試合ならまだしもさ」

そして先刻の南雲の提案に、萌も異論はないようだった。
流石にエルダー級。麻子を含めても魔力量のアベレージが1000前後を行き来する彼女たちに勝ち目は乏しい。
ジャイアントキリングにしたって、程度の問題ってもんがある。

>『それよっかこっちの処遇じゃね?』

そしてある意味こちらもジャイアントキリング……守本祝子こと巨新人。
萌は、祝子の頭のてっぺんからつま先までを舐めるように観察していた。
南雲もそれに倣うが、

『あーわたしムリ。つま先まで見る頃には頭がどんな形してたか忘れちゃいそう』

ピチッピチの制服は、いまにもはちきれんばかりに肉感を湛えている。
見る人が見れば大変劣情醸す素敵な造形ではあるのだろうが、生憎と南雲のストライクゾーンからは外れていた。
申し訳ないが未開の地で部族に崇め奉られそうなタイプの女子はNG。

>「よし、来い」

萌が拳を構えた。
ゴリアテと対峙した少年ダビデの如く、その目線は遥か上方を貫いている。
……でもこれ、萌ちゃんが変身したらわりと体格的にもどっこいどっこいになるのでは?
しかし実現してしまうとちょっと喫茶店の背景としては濃厚すぎる光景なので南雲は黙っておいた。

「はい、じゃあ金的・噛み付きなし1ラウンドスリーカウントで手早くお願いします。……ファイッ!」

傍にあった中華鍋をおたまで小突く。
魔装を纏っての膂力だったので、思いの外でかい音が厨房に響いた。

>「ひぇあっ!?」

ゴングに弾かれるように祝子が動いた。
身体を前に深く傾け、両腕を真っ直ぐ前へ――いきなり仕掛けるつもりだ!
冷静に見てみると躓いてすっ転んだ以外のなにものでもなかったが、間の悪いことに祝子は包丁を所持していたッ!
手から放たれた包丁は不自然な放物線を描いて萌の頭蓋を貫かんと迫るゥゥゥ――!!
116坂上南雲 ◆E2LWmlZqtA :2012/10/22(月) 00:05:04.18 P
>「――何やってんの、お前?」

しかし、包丁が萌の顔面に到達することはない!放物線の頂点で、何者かが刃を掴み止めたのだ!
意外!それは天井に直立する人影ッ!烏のように真っ黒なスーツに身を包む謎のスレンダー美女ッ!!
女は包丁をどっかにやると、天井から足を離しくるりと回転して祝子の腹の上に降り立った。
メメタァ失敗したカエルみたいな声を出して祝子がうめく!

>「パンツ見えるぜ、クマさんプリント。さて……坂下北雲にナックル・ジョーだっけ?
 初めまして、アタシは闇のセールスマン『屋守』、コイツ(祝子)担当。用件はシンプルに1つだ」

小学生みたいな覚え違いをして屋守と名乗った悪魔が言う。
おそらくこいつが、さっき止めに入った、祝子贔屓の悪魔に違いない。

>「――――どっちでもいいから、ここの代金(朝食代)、奢ってくんね?」

「ええー……」

残念すぎる悪魔の要求に、南雲は隠さず肩を落とした。
悪魔ってモノ食うの?とかお金ぐらい物体生成で作れや!言いたいことはたくさんあった。
(もっとも、日本で流通している貨幣にはシリアルナンバーが入っているので精巧な偽札でもバレるときはバレるが)
しかし諸々の文句が口から出る前に、二階へ続く階段から怨嗟に満ちた声が聞こえた。

>「ふざけんなよ――」

魔装に身を包んだ麻子が、射殺さんばかりの視線で悪魔を睨めつけていた。
なんだろう。なにか深刻な因縁でもあって、ここで会ったが百年目的な状態なのだろうか。

>「悪魔の辞書には“働かざるもの食うべからず”って言葉は無えのかああああぁ!!?」

違いました。この年で尊き労働をご経験なさっている麻子っちゃまのお怒りは上記の通りでした。
学生の本分たる勉強もろくにしないで親のスネをしゃぶりまくってる南雲には耳の痛いご指摘、ご尤もです。
そして確かに、いい年こいた大人が学生にメシたかるとかみっともないにも程がある。

「……よござんしょ。ご飯代、払ったげるよ」

南雲も店員としてメニューには精通しているので、客の机を見れば大体の金額は計算できる。
屋守がたいらげた量は、一般客基準で言えば相当多いけれど、まだ常識的な範疇だ。
店員割引を使えば南雲の給料一日分ぐらいで払いきれる、はず。

「でも働かざるもの食うべからずってご意見にはわたしも同意です。
 メシ喰わせてもらうんなら、相応の労働にて対価を貰わないとね」

そろそろ祝子の顔が青紫を通り越して土気色になり始めたので、腹に陣取っている屋守の手を引きどかしてやる。

「わたしたち、そこの祝子ちゃんと同じで魔法少女になってから日が浅い。
 ついさっきニアミスしたエルダー級みたいに、いつ強敵と殺し合いになるかわからないってのが目下の懸念です。
 というわけで、タカリ悪魔こと屋守さん。一宿一飯の対価に貴女に要求します」

南雲は変身を解いた。祝子を助け起こそうとして、あまりにも体重差がありすぎて、やめた。
さっき聞いた、耳寄りな情報。屋守とゆりかの関係について――

「――わたしたちの師匠にもなってください」


【屋守にメシをおごる代わりに、魔法の指南を要請】
117萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/10/25(木) 16:20:59.66 0
>「はい、じゃあ金的・噛み付きなし1ラウンドスリーカウントで手早くお願いします。……ファイッ!」
つまり頭突きしようが目を潰そうが肛門に指突っ込んで寝技から抜けようが何でもあり。
(うーん、実にさらりとエグいレギュレーションを設定する……)

ナチュラルに初期UFCばりの緩いルールを提唱し、有無をいわさず試合を運ぶ南雲の手腕に萌は思わず舌を巻く。
遊園地跡における知史との一幕を見るにトラッシュトークもいけるようなので、良いプロモーターになれるだろう
(選手だけではなく主催者も口が悪いのが最近のトレンドだ)

鉄と鉄が触れ合う、ゴングよりは銅鑼に近い音が厨房の空気を圧する。
それよりも先に祝子は既に動いていた。
構えを取らず、全く力感なくただ歩いているように見える(事実そうなのだが)挙動から、音に背を押されるように
>「ひぇあっ!?」
これも全く予備動作を見せないレッグダイブ(ただの転倒)。

(この力みのない動きからのテイクダウン!!こいつ、まさか……!?)
変身していないにもかかわらず、それと変わらない速度で思考を走らせる萌の脳裏に、一つの名前が浮かぶ。
旧ソビエト時代、広大な国土に起因する多様な人種、民族、地域それぞれの、
あるいは他国の技術をも統合して創設された格闘技。

――システマである。

ほぼ同じような過程を経ているサンボとの違いは、
徒手格闘術だけではなく銃器、刀剣などを有する者同士での攻防、
あるいは一方のみが武装した状況での戦闘法などを包括している点にある。
日本において学ぶことができるのは護身術としての部分を抽出したものだけだが、
軍隊格闘技としてであれ、護身術としてであれ、根底には"脱力、呼吸、姿勢、移動"の4つを保つという原則がある。

露骨な構えを取らず、脱力することで相手に無用の刺激を与えない。
深い呼吸を意識することで脱力を持続させる。
同時に姿勢を保ち、不意の事態への即応を可能にする。
そして、捉えられることがないように位置を変え続ける。

つまり、ただ歩くように近づいてそこから即座に足を狩りに行き、
ついでにナイフも投げるという祝子の戦術はまさにシステマのそれなのだ――

――再度確認しておくが、もちろんこれは萌の思い込みである。
118萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/10/25(木) 16:22:58.78 0
余談だが萌はシステマがあまり好きではない。
目元を叩いてから金的、手を捻り上げて金的、前蹴りで金的、しゃがみこんで金的、目標をセンターに入れて金的……と、
効果的なのは疑いようがないのだがあまりにも即物的ではないかと思えて仕方がないのだ。
(などと考える萌でも実際に暴漢に襲われたとしたら股ぐら蹴りあげることを選択するのだろうが)

更に余談を重ねるが"優しく指導します"などという護身術教室には通わない方がいい。
是非、本気で落ちる寸前まで首を絞めてくれそうなトレーナーがいるところを選ぼう。
暴漢が優しく襲ってきてくれるはずなどないのだから。
一番いいのは逃げるための脚力を鍛えることだが、そのために走りこむのにすら危険が伴う昨今、
悲しいことだが振るうにせよ受けるにせよ暴力には慣れておくべきである。
最も望ましいのは離れておくことなのだが。

などという尺稼ぎはさておくとして。
相手がストライカーではないということも当然想定済みの萌は最小限のステップでタックルを切る。
(しつこく繰り返すが、そもそもファイターでないという想定はしていない)
――しかし、頭上への警戒は怠っていた。

きん、と鋼の跳ねる音がして、そこで初めて上を向く。
>「――何やってんの、お前?」
黒尽くめの女が一人、天井に"立って"包丁を摘んでいた。

その台詞は明らかに萌に向けられた言葉ではない。
だが――
ヤモリがいなければ確実に包丁は萌に当たっていた。
致命の一撃には程遠いだろうが、しかしそこへ繋がる隙になった可能性は高い。

粋がって挑んでおきながらのこの体たらく。
アマで無敗というありがちな実績に慢心していたのではないか。
萌にはそう言われているように感じられた。

>「パンツ見えるぜ、クマさんプリント。さて……坂下北雲にナックル・ジョーだっけ? 」
「……誰がワドルディだテメー」
軽やかかつ的確に祝子の上に降り立ったヤモリの言葉に応じる萌。
しかしその舌鋒にはどうにもキレがない。
「何をやっている」という言葉は心を押しつぶしていた。
ちょうどヤモリの下の祝子のように。

>「初めまして、アタシは闇のセールスマン『屋守』、コイツ(祝子)担当。用件はシンプルに1つだ。
>――――どっちでもいいから、ここの代金(朝食代)、奢ってくんね?」
強大なる悪魔の厚顔無恥さに萌は思い切り眉を顰める。
自分が苗時にしたものも大概だが、これは何の対価もない一方的な要求ではないか。
119萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/10/25(木) 16:25:02.43 0
その時、背後から萌の内心を代弁するかのような叫びが轟いた。
>「悪魔の辞書には“働かざるもの食うべからず”って言葉は無えのかああああぁ!!?」
その咆哮に、かけられた鍋や調理器具が共鳴を起こしている。
「そーだそーだ、弱者からの搾取を許すなー。貧民にもパンをー。労働者は団結せよー」
萌は便乗して、青さを通り越して赤い思想をぶちまけた。

しかし加熱してゆく二人とは裏腹に、一人南雲は冷静だった。
>「……よござんしょ。ご飯代、払ったげるよ」
ヤモリの手を引いて祝子の上からどかせつつ、言葉を繋ぐ。

>「わたしたち、そこの祝子ちゃんと同じで魔法少女になってから日が浅い。
> ついさっきニアミスしたエルダー級みたいに、いつ強敵と殺し合いになるかわからないってのが目下の懸念です。
> というわけで、タカリ悪魔こと屋守さん。一宿一飯の対価に貴女に要求します」

そして変身を解いて、次のように結ぶ。
>「――わたしたちの師匠にもなってください」

なるほど、考えてみれば報酬を先払いするだけのことでしかない。
そう気づいた萌は、自分からも条件を出す。
「それがアリなら、じゃあ昼と晩持つからさ……あたしの担当になってください!」
言いながらヤモリに肉薄し、柔道のメダリストの如き神速の組手で両襟を取ってしがみつく。

「頼むよルー!なんでもしますから!オナシャス!」
右を向いても左を向いても新顔がどっさり。
そんな状況下で、キモカワイイ系キャラクターからカワイイを取り去ったような、
あるいはファッションモンスターからファッションを抜いたようなナマモノの下で命を張るのは、
なんともモチベーションが上がらないものなのだ。

しかし――一番の懸念である変身後の外見は、担当が替わったところで変化しない可能性のほうが高いのだが。

【リクルート】
120佐々木 真言 ◇EDGE/yVqm.:2012/10/30(火) 00:45:59.14 0
>「自身の実力を過信しない人は好きですよ」
「過信は技を鈍らせる。から」

藁人形の腕を切り落として、跳ねるような動きで後ろに飛び退ると同時に刀を構え直す。
距離を作るためにこちらに腕を振るう藁人形を見て、少女は咄嗟に右腕を振りぬいた。
風を切る音が響き、藁人形の腕には投擲された刀が垂直に突き刺さる。

曲がらない芯を得た藁人形は、その動作を鈍らせるのは必然だったろう。
なにせ、筋肉のように絡み合い柔軟性を持っている故の戦闘力だったというのに、その柔軟性を阻害するような異物を差し込まれたのだから。

>「私を説得しようとか考えないほうがいいですよ。そうしている間に藁人形に殺されますからね
>私よりも先にあっちを殺したらどうです?もしかしたら、それで光明が見えるかも知れませんよ」
「言われ、無くとも。……やる、さ」

次の一撃を放つことができずに硬直する藁人形を前に、佐々木は魔力を練り右手に日本刀を作り出す。
西呉の姿が消えると同時に、佐々木は藁人形に向き直った。
関節部から刀身を飛び出させ、腕を振りかぶる目の前の藁人形、だが、遅い。

「――キィィィエァッ!」

響くのは、雄叫びのような気勢。
黒いインバネスコートの裾が翻り、銀の弧が二度描かれる。
佐々木の居場所は、藁人形の頭上、刀を両手で握りしめた唐竹割りの構え。

「シィッ!」

もう片方の腕を切り落とされ、胴を横に両断された状態の藁人形に、ダメ押しの空中からの唐竹割りだ。
異様な動作――地面に向けて体を引き下ろすような加速――を得た佐々木の斬撃は、人に近い感覚を持つ巻藁で出来た藁人形を人間を解体する様にバラバラに切り砕いた。
藁人形の肉体に突き刺さっていた日本刀は粉々に砕けて魔力となって霧散する。

一瞬の沈黙の後に、残心を解く。
深く息を吸い、吐いて黙想。精神の昂ぶりを沈めた後に、現在の状況を確認する。
まず、周囲を見回せば、見覚えは無いが、魔法少女であることが分かる者の姿があった。

「――そこの、人。私が、見えているなら、あなたは魔法少女の筈。
 私の来た方向に、他の魔法少女も居る模様。
 状況確認をしたいなら、そっちに逃げることを、お勧めする」

目立と理奈には呼ばれている魔法少女に、淡々と早口でそう提言すると、佐々木は他の魔力を探知し始める。
あまり魔力の探知は得意ではないが、エルダー級の気配ともなれば読み取れない理由は無い、そして恐らくその先には、今しがた引き裂いた藁人形の主が居るはずだ。


121佐々木 真言 ◇EDGE/yVqm.:2012/10/30(火) 00:46:55.46 0
(急ぐ、か。相手の実力と情報、できる限り掴んでおきたい)

小走りでビルの壁に向かって歩き出し、ビルの壁に足をつければ、そのまま全速力でビルの屋上へと駆け上る。
壁を蹴って、高く跳躍し、魔力の感じられる方向を視認、着地と同時にビルの屋上を飛び移りながら黒い風は駆け抜けていく。
外部に魔力をあまり開放しない佐々木の移動ルートは、他の魔法少女にはあまり掴みづらいものだったろう。

「――こっちのほうが、早いッ」

刀を振りぬき、ビルの窓ガラスを吹き飛ばしながら、西呉と緑籐の居る部屋に乱入する佐々木。
そして、場の状況を確認すれば、既に凄惨に緑籐は清算され、エルダー級は傷一つなく立っている光景がある。
理不尽としか言い用のない力、光景を前に、しかし佐々木は怯える様子は無い。
本来は痙攣をしているはずの右腕は固有魔術によってミリ単位で掌握されている為、表面からは何一つの動揺は見受けられなかった。
が、その目つきを見れば、明らかに露骨な警戒が存在しているのは明白だ。

>「案外早かったんじゃないんですか?藁人形の魔法少女ならこの通り片をつけたところです。
?いつもならこんなことしませんが、特別にあなたにあげますよ」

「あなたがそれを持つよりは、私がそれを持つほうがまだ彼女の精神衛生にもいいだろうし。受け取る」

相手の差し出す魔法核を受け取り、懐にしまい込む。
減少した僅かな魔力を取り戻す様に、佐々木の魔力が追加された。
血に塗れた力だが、もとよりこれまでに集めた魔法核の大半も血肉を引き裂きながら手に入れたものだ。
僅かな嘔吐感を感じながらも、それを灰色の感情の奥に塗り込めて努めて平常通りの無表情を顔に貼り付ける。

>「全くとんだ食後の運動でした。やっと寝れますね。あ…そうでした今は見逃してあげますけど
>油断したところを…なんて考えないほうがいいですよ。じゃあ、 さ よ う な ら 」

「――ん、エルダー級。あなたが、油断している程度で獲れる相手とは私も思っていない。
 私は、少なくとも分を弁えてはいるから。滅多に、分の悪い賭けはしない主義」

佐々木は無駄な事をしない。
少なくとも、勝ち目が一分もない状況で、無意味な正義感に駆られて無意味な戦いを挑み無意味に終わるようなことは決して考えない。
ひたすら堅実に、倒すべきもの≠倒すための下準備をした上で、佐々木はこれまで得てきた魔法核の内の半分を手に入れていた。
故に、今は下手な動きをすべき時でも無いし、大胆に動いたのは最初にあの状況に介入しようと思ったあの決断一つで十二分に過ぎていると判断していた。
その為、取るべき行動は相手を追わぬことであり、下手に相手を刺激しないことに尽きる。

が、しかし。
帰り際の西呉を見て、命知らずな事に佐々木は西呉を呼び止めた。
刀を構えず、闘うつもりは無いという事をアピールしながら、小柄な少女は目を細めて相手を見定めるような視線を向ける。

「去る前に、答えてもらえるなら答えて欲しい。
 ――あなたは、何を望んで魔法少女になったのか。
 教えてくれない、か」

佐々木の無機質な瞳の奥には、揺れ動く狂熱が見え隠れする。
魔法少女である以上は、他人のことなど気にせず己の夢のみを突き詰めるのがある意味ではあるべき姿である。
そして、どちらかと言うとストイックな部類に入る佐々木が、あろうことか他人の夢を気にするような言葉を口にする。
妙な違和感のようなものが、その言動からは感じられるかもしれない。

相手が答えれば、相手をこれ以上引き止めることは無い。
相手が答えなくとも、それ以上相手を引き止めるようなことはしないだろう。

そして、戦闘が終わり、西呉と別れれば、放置した学校の鞄等の回収をする為にテンダーパーチへと歩みを進めていく。
魔力を極力隠蔽しながら、油断をせず腰には日本刀を携えたまま。
店の前で一瞬躊躇った後に、書生の様な格好をした魔法少女は、素性を明らかにした姿で本日二度目の来店をするのだった。

【・藁人形惨殺
 ・西呉さんから、緑籐さんの魔法核を受け取る
 ・なぜ魔法少女になったのかを西呉さんに問いかけ
 ・魔法少女姿のまま警戒状態でテンダーパーチへ帰還】
122西呉真央 ◇yAQfcFtrvY:2012/10/31(水) 20:16:34.08 0

真言に呼び止められ、西呉は思わず足を止めた。
「なにか?」
振り返らず、目を一つだけ真言に向け、相手の様子を伺う。
出会いがしらに白旗を上げているだけあって、闘争の意思は感じることは無かったが
何かを見極めようとする真言の視線が気にかかった。
そして、真言は「何を願ったか」と問う。
「…」
西呉はしばし黙ったまま真言を見る。
真言に堅実な印象を受けていた西呉からしてみれば、この問いは予想外のものだったので
西呉は少しばかり困惑していた。
思わず何かの罠なのではないかと思い、真言には悟られぬように周囲を警戒しようかと考えたが
改めて真言の目を見て、それを止めた。
(この問いは彼女の願いによるものと考えていいでしょうね)
人は時に目的、信念の為にソレとは真逆のことをする。
時に、遊ぶ為に働き、得る為に浪費し、そして、平和の為に人を殺す。
それは西呉も例外ではないし、また、真言も同じだ。

西呉はそう結論づけ、目を戻して振り向く
「…ニュースを見たとき度々思うんですよね。なんで、こんなにもこの世界は不安定なんだろうって
 争わずに平和に暮らしましょうと言っているのに、未だに戦争を続けている地域があるし
 それとは無関係な国は国で裏で何をやっているかわかったもんじゃない」
おもむろにそう語りながら、西呉は掌の上に地球儀を作り出す。
「何年もの間、ずっとその原因を考えたんですよ
 そして、分かったんです。誰も望んでいないからならないんだって
 平和になってしまえば、この陣取りゲーム(戦争)が出来なくなるから、だから、
 人は争いの火を灯す訳ですよ。どこかの国が完全に勝つまでね」
地球儀を弄びながら淡々と話を続ける。
「だから、こうしてしまえば、誰も戦争しようとは考えなくなる
 それにこうしてしまえば、少年兵、食糧不足、難民の問題も解決できますしね」
西呉は地球儀を思いっきり回し、それを真言に投げ渡す。
回転を止め、地球儀を見たなら、普通の地球儀にあるはずのものが無くなっていた。
「私は、世界征服による世界平和を実現するための力を願いました…じゃ、今度こそさようなら」
国境が消された地球儀を残して、西呉はその場を去った。

「思わずあんなことを言ってしまいましたが…大丈夫でしょうか」
エレベーター内で1人そう呟きながら、後悔した。
真言は氏族所属の魔法少女ではないと考え、正直に話したが
今思うと、所属してもしなくても、あんなヤバいことを抜かすエルダーの存在を知ったなら
駆け込み寺よろしく、氏族に逃げ込み情報を流す可能性もあることを失念していた。
「まぁいいでしょう。これも世界征服の為だと思いましょう」
エレベーターを出て、西呉はそのまままっすぐ部屋に向かい
着替えずにそのままベットに突っ伏し、そして、そのまま眠りに落ちていった。
123守本祝子 ◆BYQwSunNFIA4 :2012/11/07(水) 22:48:24.26 0
>「ええー……」
>「ふざけんなよ――」

真っ先に屋守のタカリに反応したのは、呆れて物も言えない南雲……
ではなく、幼い幼女を伴って新たに顔を出した魔法少女・猪間麻子。
面を俯かせ、わなわなと震えている。泣いているのかと思ったが――

>「悪魔の辞書には“働かざるもの食うべからず”って言葉は無えのかああああぁ!!?」

違った。憤怒と共に吠えられた。
麻子の熱の入った言葉に、屋守はニヒルな笑みを浮かべた。

「フッ、ならば敢えて私のモットーを答えてやるさ――”働いたら負けだと思っている”ッ!!」

発想が只のニートだ。

>「そーだそーだ、弱者からの搾取を許すなー。貧民にもパンをー。労働者は団結せよー」
「貴様、よもや北国の共産主義者の手の者か!皆の者、出会え出会えー!」
(早く退け馬鹿悪魔ッ……!)

完璧に只の悪ノリと化している。
下敷きにされた祝子はといえば、屋守の重みに耐えかねて死にかけていた。

>「……よござんしょ。ご飯代、払ったげるよ」

わあわあと騒ぐ(大人げない)大人のやり取りを尻目に、やれやれと南雲が名乗りを上げる。
しかし交換条件を持ちかけられる。飯代を支払うのだから相応の労働を要求する、と。

>「わたしたち、そこの祝子ちゃんと同じで魔法少女になってから日が浅い。
  ついさっきニアミスしたエルダー級みたいに、いつ強敵と殺し合いになるかわからないってのが目下の懸念です。
  というわけで、タカリ悪魔こと屋守さん。一宿一飯の対価に貴女に要求します」
>「――わたしたちの師匠にもなってください」

「ちょ……ちょお待ちィ!自分らにも悪魔おるんやろ!?そっちに教わりぃや!」

咳き込みながら起き上がるや、祝子は凄い剣幕で割って入る。
南雲達もなりたてだというのなら、自分は先日なりたてのぺーぺーも良い所だ。
基本のノウハウすら教わっていない状態で師匠をいきなり奪われることに、祝子は危機感を抱いた。

「アンタも何とか言いや!」
「オッケー」
「そうそうオッケー……ってアホかァ!!」

オッケーサインを出した屋守に、すかさず脳天からコンマ0.5秒で突っ込みの張り手を入れた。
予想外のノリのよさだったのでついつい乗せられかけた自分が憎い。

>「それがアリなら、じゃあ昼と晩持つからさ……あたしの担当になってください!」
「待ちィっちゅーとろーがァ!屋守取られたらウチはどうなるんじゃあ!」
>「頼むよルー!なんでもしますから!オナシャス!」
「えーどーしよっかなーアタシ力道山が好きなんだよねー(チラッチラッ)」
「あーも゛ー!毎朝飯作っちゃるけんウチの指導しぃや!まともな術の一つすら覚えとらんので、こっちゃあ!」
124守本祝子 ◆BYQwSunNFIA4 :2012/11/07(水) 22:49:12.82 0

傍から見たら悪魔の競り合い。正し賭け金は飯代である。
当人は「だーれーにーしーよーうーかーなー」等と楽しんですらいる。
しかし飽きたのか、いい加減収集をつけようと決めたのか、「まあご飯代はともかく」と切り出す。

「アタシとしちゃあ鍛え甲斐のある子を育てたいのよねー。強さへの執着心!ガッツ!何より情熱のある子ッ!まあ後半は嘘だけど」

邪魔にならぬようカフェの隅の席へと移動し、椅子の背にふてぶてしく凭れかかる。
性懲りもなくまだ食事を頼む。人の奢りだろうがこの悪魔は容赦というものを知らないようだ。
話を戻して、屋守は全員の申し出を断る様子はなかった。
他の悪魔の担当だろうが、全く関係ない様子である。

「ええの?ウチ等からすればライバルみたいなもんじゃろ?」
「いーのいーの。魔法核を集めさせることより、魔法の指導する方が性に合ってるっつーか?
 第一はアタシが面白いと感じて、自分勝手好き勝手出来ること。先輩達にゃ変な奴って思われてるだろーけど」

けらけら笑う。

「先輩達が見込んだ子なら、尚更鍛え甲斐がありそうってもんよねー。
 東雲(しののめ)ん所のは下手に弄くり回したら何て言うか分からないけど、まあその時ゃ逃げりゃいいし」

このごに及んで南雲の名前を覚える気が更々ない様子を醸し出しつつ、あっけらかんと言ってのける。

「それに祝子、お前にとっても悪い話じゃないぜ?
 何せお前は魔法少女なりたて!雑魚!体の良いサンドバック!ショッカー!スライムA!路傍のアリンコに等しい!
 今の内にチーム戦で敵グループを一掃、ついでにおこぼれ預かれるかもしれないぜ?悪い話じゃないだろ?」

酷い言われようだ。
屋守の汚いプランなど、泣き崩れ、机に突っ伏す祝子の耳には届かない。右から左へ流れて行く。
言うだけ詰り倒すと、屋守の興味は理奈と麻子達に移った。

「どう?お望みならチミ等にも稽古つけたげるよ?勿論、見込み次第では修行代はタダにしてやっても構わないぞっ」
「上から目線な上に、こっちが受ける前提で話してないか……?」

麻子の睨みを受け流し、屋守は豪快に笑い飛ばす。

「どっちにしろ、今のままじゃ誰一人、到底今のエルダー級には抗えないんじゃね?つか潰されるって、アリンコみたいに」

頬杖をつき、あっさりと断言する。

「アタシなら強くしてあげられるぜ。短期間で、今の2倍、いや3倍の戦闘技術を身につけさせてやるさ」

自信ありげ、否、確信すらある物言い。
その根拠はどこからくるのか、身近な「経験者」が教えてくれるかもしれない。――見栄っ張りの可能性も捨てきれないが。
ピッ、と鋭く指を振った。

「1週間!お手軽体験コースだ。アタシがみっちり修行してやる。これで効力が効かないと思ったら……破棄してくれて構わない」

「今のチミ等は”まだまだ”自分の持つ魔法ってのを開花しきれてないのさ。だからアタシの手で、見違えるほどに花開かせてやるよ――!」

【まずは体験コースから如何です?】
125黒服達の生き残り ◆kH9u2I.n64bx :2012/11/09(金) 04:52:11.28 0
鉛色の魔法少女の乱入。
数合の交戦。
それですでに決着はついていた。

いや、「乱入」から「交戦」に至った段階でもはや緑籐きずなに勝ちの目はなかった、と言えるだろう。
緑籐きずなは「呪い」を操るタイプの魔法使いだ。
呪いは、事前に相手の存在を認識し、対応していなければ効果を発揮し得ない(少なくとも緑籐きずなの操る呪いはそうだ)。
それはつまり、乱入者の存在を何よりも苦手とすることを意味する。
交戦対象をあらかじめ緑籐きずなが選んでおけるような状況ならば(例えば「夜宴」での戦いや、的を絞った不意打ちのような状況ならば)有利。
そうでないならば不利。
魔法少女には非常に良くある、濃淡のはっきりした戦闘スタイルであった。


無論。
上記のような冗長な分析をしている余裕は、黒服の年嵩の男……先ほどまでに引き続き、黒木と呼ぼう……にはなかった。
彼が今するべき事は、生き延びること。
それ以外に思考を行うことは彼のするべきことではなかったし、実際彼はそれを行っていなかった。

疑問に思う人がいるかもしれない。
いかに厳しい訓練を受けたであろう猛者とはいえ、まったく無駄な思考を行わないなどということが、果たして人間に出来るのか。
その疑問には、そう答えよう。
人間にできるかは分からないが。
彼らにはできる。


話を戻そう。
さきほど、黒木が立ち上がるまでに西呉真央が呪縛を解けるかどうかが、彼の生死の分かれ目だ、と述べた。
その言は、結果的には間違いだった。

西呉真央は、黒木が立ち上がる一瞬前にその呪縛から逃れていた。
が、黒木の生死を分けたのはその事実ではなく、次に彼女の行った行動だった。
西呉真央は、自身に刺さっていた杭を、藁人形と黒木にそれぞれ投擲したのだ。
黒木にとっては嬉しい誤算である。
彼は(この表現は正確ではないが、今はあえて訂正しない)、緑籐きずなの固有魔法の特性を熟知していた。
彼女の魔法の特性上、事前に存在を察知していない者を、その杭は束縛しない。
結果、黒木は立ち上がり、西呉真央から十分に距離をとることが出来た。
触手による直接物理攻撃「のみ」を得物とする西呉真央相手なら、この状態からどのような攻撃が行われても対応、逃走することが可能な距離だ。

もっとも、その警戒自体は杞憂に終わった。
西呉真央は、空高く舞い上がるとどこかへ飛んでいったのだ。
おそらく、何らかの手段で突き止めた緑籐きずなの元へだろう。哀れ彼女はまな板の上の鯉、と言うわけだ。

次いで佐々木真言も戦闘態勢を解き、周囲を見回す。
そのタイミングで、黒木は、ある少女の方に目を向けていた。

もし、目立零子がこのタイミングで黒木と目が合っていたら、彼女は奇妙な感覚を味わったことだろう。
それは、無機的な何かを通じて、何者かに見られる感覚。
例えば、監視カメラが自らに対してズームした瞬間を目撃したかのような……。
126大饗いとり ◆kH9u2I.n64bx :2012/11/09(金) 04:52:50.41 0
「目立零子……『楽園派』の囲われ、かー」
「うわあ」

ソファにもたれかかりつつ思わず漏れたあたしの呟きに、レギオンはわりと素に近い(そう見える)反応を返した。
というか、若干引いていた。なんでだ。

「いやだって、ねえ……こんな地味な女の子の事まで調べ上げているなんて、どんなえげつない事をしたんだろうって思うよ」
「失礼なー。ちょっとローラー作戦で顔写真リストアップして、後は興信所の真似事しただけだよ」
「うん、十分にえげつない。それの元締めが魔法少女だって言うんだから世も末だね」

やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめるレギオン。
それをジト目で眺める間も惜しかった。あたしは現状、目立零子をどうするか、即断を求められているのだ。
そして、あたしはそうした。

「んー……放置」
「おや、即答でそっちにいくか。非戦闘系の弱い魔法少女はねらい目なんじゃないかと思ったけど」
「冗談。『楽園派』の元締め……苗時静のエグさを知らないからそういう事言えるんだよ。
 伊達であの人数をまとめられてる訳じゃないベテランだ。あたしなんて全力でいってもやり合えるかどうか」
「ふうん」

興味なさそうに流したレギオン。
あたしが視界を共有している男の視線の先では、佐々木真言が目立零子に一言二言言うと、その場を立ち去っていた。
さて、と。男に立ち去る命令を発しようとしたあたしの耳に、レギオンの呟きが届いた。

「楽園を標榜する臆病者を君がどうするか、興味があったんだけどな」

思わず表情を凍らせるあたし。
とっさに、ある命令を発していた。

「『目立零子』」

目立零子は驚いただろう。これまで一言たりとも言葉を発していなかった男が、急に自分に声をかけたのだから。
あたしは命令を続ける。男は言葉を発する。

「『命と魂が惜しければ、今見たことは、全て忘れろ。誰にも言ってはいけない』」

さもなくばどうこう、という文言は必要ないだろう。さすがにこれで通じないほど鈍い娘ではないはずだ。
私は男に撤退の命令を出すと、ソファに深く、深く身体を沈めた。

「いやあ、お見事。きれいな挑発だね」
「どっちがよ、殴るよ」
「殴ってから言わないでほしいな……うん、これでどっちに転がってもそこそこに面白い」

レギオンは頬をさすりながら、満足げに笑う。
そう。あたしの今の行為は、明確な挑発だった。
俗に、「人に情報を広めたければ『これは内緒の話なんだけど』と冒頭につけろ」と言ったり言わなかったりする。
人は、妙な条件付けをされるとそれに逆らう方向のベクトルが発生してしまう生き物なのだ。
元々、目端の利く魔法少女の間ではすでに「奇妙なワゴン車」の情報が流れていると聞く。その拡散速度はこれで一気に加速するだろう。
特に、『楽園派』を標榜するあの連中……もしくはそれに近しい魔法少女の間には。
そうなれば、ちょっかいを掛けてきた連中があたしに魔法核を(結果的に)持ってくることも増えるだろう。
もちろん、広がらない可能性もある。すべては目立零子の出方次第、という側面は否めない。
だが、それはそれで損はない。現状が維持されるだけのことだ。
腹立たしいのは……。

「全部あんたの仕込みどおりかー。あーあ、乗っちゃったあたしもバカだよなー」
「それでも君はあそこで乗ってこざるを得ない。知ってるよ、聞いたからね」
「……やれやれ」

そのとおりだ。かつて、あたしはこいつに全てを吐いていたのだ。
いろんな感情がごたまぜになったので、あたしはとりあえずソファに深く、深く身体を沈めた。
127Fragment 3/6 ◆kH9u2I.n64bx :2012/11/09(金) 04:54:35.09 0
「なんだ……そりゃ」
「おおー、なんか煌びやかな感じに……って、どーした。まじめな顔して」
「何をどう願ったらそんな悪い冗談みたいな魔法が発現するんだろうね……。
 支配と隷属を司る、いわば王の魔法。僕の知るパターンの中でも最悪さでは群を抜く奴だ。
 君、一体何を願ったんだい?」
「世界纏めて約6000年分の文明退行と、以降の永遠の停滞」
「……また、ずいぶんと悪趣味だね。何だってそんな願いを……」
「もちろん、意味はあるよ。ヒントは戻った後の年代。
 あんたが悪魔だっていうならわかるでしょ? これぐらい」
「……アッシャーの年代記。天地創生か」
「そ。神は世界をつくり、楽園に人を住まわせた。その楽園に世界を戻す。人類に知恵の実は必要ない」
「そうか、君の望みは……」

『揺り篭の如き楽園。永久の安寧か』
128大饗いとり ◆kH9u2I.n64bx :2012/11/09(金) 04:55:31.07 0
【黒服たちのリーダー格(黒木):撤退。その際、零子に口止めをする。
大饗いとり:黒木に指示を出して高みの見物。
レギオン:見物
目立零子:言うだけ言われて放置】
129神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/11/21(水) 01:28:38.10 0
麻子さんの叫びに対し、屋守さんなる悪魔は虚笑を以て応じた。

【屋守】「フッ、ならば敢えて私のモットーを答えてやるさ――”働いたら負けだと思っている”ッ!!」
【麻子】「…………ッ!!?」

うわ、どうしよう。悪魔というより、駄目な大人だよ!っていうか、モットーってあなた……潔いにも程があります。
絶句する麻子さんの側面から萌さんの援護射撃が入る。

【萌】 「そーだそーだ、弱者からの搾取を許すなー。貧民にもパンをー。労働者は団結せよー」
【屋守】「貴様、よもや北国の共産主義者の手の者か!皆の者、出会え出会えー!」

そういえば最近の中国は半分資本主義みたいなものだって、担任の先生が言ってた。あ、今は関係ないか。
前時代的闘争に空騒ぐそんな厨房で、この人が静かに口を開く。

【南雲】「……よござんしょ。ご飯代、払ったげるよ」

南雲さんだ。

【南雲】「でも働かざるもの食うべからずってご意見にはわたしも同意です。
     メシ喰わせてもらうんなら、相応の労働にて対価を貰わないとね」

一宿一飯の対価として南雲さんが出した要求、それは――

【南雲】「――わたしたちの師匠にもなってください」

――ええ!?南雲さん、それ……どういうこと。本気で言ってるんですか?
だってその人……それは悪魔なんですよ?だいたい私たちがこんな目に合ってるのだって、元はと言えば…………

【祝子】「ちょ……ちょお待ちィ!自分らにも悪魔おるんやろ!?そっちに教わりぃや!」

いつの間にやら回復したお姉さんが割って入る。不思議な事を言う人だ。
教わるも何も、私と契約した悪魔なんて普段どこにいるかも分からないし、魔法の使い方なんて教えてくれた例(ためし)が無い。ゆとり教育?何デスカソレ?
性格の違いなのか何なのかわからないけど、悪魔によってそんなにも魔法少女の扱いに差が出るものなの?

【祝子】「アンタも何とか言いや!」
【屋守】「オッケー」
【祝子】「そうそうオッケー……ってアホかァ!!」

屋守さん、了承。あまりの快諾っぷりにお姉さんがノリツッコミを入れている。このお姉さん……結構乗せやすい人なのかも(をい)。

【萌】「それがアリなら、じゃあ昼と晩持つからさ……あたしの担当になってください!」

萌さんまでっ……!?Σ( ̄□ ̄lll) さっきまであんなこと言ってたのに、変わり身早過ぎですよぉ〜!!(TдT) グスン…


【続きます】
130神田理奈 ◆4ryk6C0aKWzm :2012/11/21(水) 01:34:35.55 0
【屋守】「まあご飯代はともかく――アタシとしちゃあ鍛え甲斐のある子を育てたいのよねー。強さへの執着心!ガッツ!何より情熱のある子ッ!まあ後半は嘘だけど」

厨房からホールへと移動し、屋守さんはそう言った。都合私も麻子さんも魔装を解き、全員お店の隅にあるテーブルに集まっている。
背もたれに体重を預けた屋守さんが追加注文。……まだ食べるんだ。

【ゆりか】「毎度ー★」

直ぐさま叔母が応じる。……これで南雲さんの時給にして約一時間半が飛んだ。
お姉さんと屋守さんのやり取りを眺めている間、例によって魔法で料理を配膳した叔母が私に念信を送ってきた。

【ゆりか】『まだ言ってなかったわね。そこにいる悪魔はかつて私の魔法の先生だったの』

屋守さんが?

【ゆりか】『屋守がいてくれたおかげで私は自分の願いを叶えることが出来た。
      あんたがどう思ってるかは知らないけど――――それだけは動かしがたい事実よ。受け止めなさい』

スタッフの人に呼びかけられ、叔母は厨房の方へと戻っていった。

【屋守】「どう?お望みならチミ等にも稽古つけたげるよ?勿論、見込み次第では修行代はタダにしてやっても構わないぞっ」
【祝子】「上から目線な上に、こっちが受ける前提で話してないか……?」

「…………」

【麻子】「てめぇ……いい加減にしろよ」
【屋守】「どっちにしろ、今のままじゃ誰一人、到底今のエルダー級には抗えないんじゃね?つか潰されるって、アリンコみたいに」

<…………身の程を知りなさいな、おチビさん> <……オッケ。安い買い物だよ>

「――――!」

蘇る銃声の記憶。屋守さんは頬杖をつき、見透かすような視線で私を見た。

【屋守】「アタシなら強くしてあげられるぜ。短期間で、今の2倍、いや3倍の戦闘技術を身につけさせてやるさ」

もう二度と、あんな思いはしたくない。
今私が使うことができる魔法だけで。その全てで。せめて自分だけでも……大事な人を危険な目に合わせないだけの力が、技術が欲しい。
思えば初めて戦ったあの夜――私が麻子さんに勝てたのは本当にただの幸運だった。
南雲さんに助けてもらって、萌さんがいて、茅野さんや蒼月さんもあそこにいて、麻子さんが連戦の後に無理な大技を何回も繰り返して疲れていたから勝てたようなものなんだ。
私だけの実力じゃない。確かに魔法は私の思いに応えてくれる。けれど、ここから先の戦いは……思いだけじゃ、きっと勝てない。

【屋守】「今のチミ等は”まだまだ”自分の持つ魔法ってのを開花しきれてないのさ。だからアタシの手で、見違えるほどに花開かせてやるよ――!」

「お願いします。私――強くなりたいです!!」

教わる相手が悪魔か人間かなんて、この際関係ありません。
考えてみれば同じ悪魔でも私は別に屋守さんに恨みがあるわけじゃないしっ! ……都合良過ぎるかな、私。

【麻子】「あたしはいい……こんなやつの世話になるなんて御免だからな」

麻子さん……何だかめちゃくちゃ怒ってる。今のままでも十分強いと思うけど、それでいいの?
私は屋守さんにお辞儀をした後、隣にいるお姉さんに視線を送った。こういうノリのいい人には先制攻撃が一番。まずは――

「はじめまして!私、神田理奈っていいます。うちの店長……もとい叔母さんがお世話になってます。
 これから大変ですけど――――“一緒に!”がんばりましょうね! よろしくお願いしますっ☆」

挨拶!見上げるような身長差など恐れず、果敢に握手!!


【屋守さんに特訓の申し込み。祝子さんに自己紹介】
131Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2012/11/22(木) 12:47:06.69 0
【零子】(な、何が――起きてるんですか?)

眼前で捻転し続ける情報と状況の渦。
彼女が先ほどまで何を見ていたかということについての詳細は省くべきだろう。

往来でワゴン車が破壊され、
それに乗っていた男たちが魔法少女に殺害され、
その背後に突然藁人形が出現し、
さらに現れた黒衣の魔法少女がそれを切り倒した。

事実だけを簡潔に並べるならばこういうことなのだが、これらが一体どういう事情によって引き起こされたかについて、目立零子は全く理解できなかった。

男たちを殺害した魔法少女――西呉真央がその姿を翼竜のようなものに変えて飛び去っていく。
その一方では黒衣の魔法少女による無数の剣閃が藁人形を八方四散に寸断していた。
へたり込む目立零子。
魔力の塵と消える刀。

呼吸を沈め、黒衣の魔法少女――佐々木真言が振り返る。
和装の上に羽織った漆黒のインバネスコート。……まるで大きな鴉だ。同じ剣士型の魔法少女でも白袴に身を包む影野刃月とは全く対照的な印象である。
零子の視線に気付き、佐々木真言がやってくる。

【零子】(どうしよう……目が合ってしまいました)

魔装に身を包んだ魔法少女を見ることが出来るのは同類だけだ。原理までは不明だが魔法少女の共通認識である。
背筋に震えが走る。自分も先ほどの藁人形のように、バラバラにされてしまう――ということにはならなかった。

【真言】「――そこの、人。私が、見えているなら、あなたは魔法少女の筈。
     私の来た方向に、他の魔法少女も居る模様。状況確認をしたいなら、そっちに逃げることを、お勧めする」
【零子】「……え?」

それだけの情報を告げ、大鴉は去っていった。壁面を疾駆し、ビルの隙間へと消えていく。

【零子】「何だったんでしょうか……?」

Tender Perch。彼女の来た方向の先に自分の目的地があることは明白だ。零子は西呉を追った真言の背中を見送り、立ち上がった。
スカートの埃を払いつつ、ふと周囲を見渡す。半壊したワゴン車の周囲に人が集まってきた。離れたほうがいいだろう。

その時、零子は人ごみの中にいる黒服の男に見られていることに気付いた。彼女はその名を知らないが敢えて付け加えよう。
ワゴン車に乗っていた男たちの一人、黒木だ。
零子は全員殺されたかと思っていたが彼だけは生きていたのだ。

【黒木】「『目立零子』」
【零子】「……?」

何故自分の名を知っているのか。いぶかしむと同時に零子は目の前の男から奇妙な印象を覚えた。
まるで人間の形をした無線機と会話しているような――その眼球の先に別の人間がカメラで観察しているような――

【黒木】「『命と魂が惜しければ、今見たことは、全て忘れろ。誰にも言ってはいけない』」

それを伝えるや否や、男は新たにやってきた別のワゴン車に乗って去っていった。

【零子】「…………」

蒼白の顔面で立ち尽くす、目立零子。合図のように電話が鳴った。
132Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2012/11/23(金) 04:18:17.98 0
※   ※   ※

【南雲】「わたしたち、そこの祝子ちゃんと同じで魔法少女になってから日が浅い。
     ついさっきニアミスしたエルダー級みたいに、いつ強敵と殺し合いになるかわからないってのが目下の懸念です。
     というわけで、タカリ悪魔こと屋守さん。一宿一飯の対価に貴女に要求します

     ――わたしたちの師匠にもなってください」

【萌】 「頼むよルー!なんでもしますから!オナシャス!」

一方のTender perchでは南雲と萌が飯代を対価に屋守に魔法の師事を要求していた。
屋守のタカりに対する南雲の切り替えしに関心する一方、都築ゆりかはある種の懐かしさを覚えた。
彼女もかつてあのような形でなし崩し的に弟子になったのだ。
働いたら負けと当人は口にしている。が、おそらく屋守による食事の無心はあくまで自分が世話を焼く為の口実に過ぎないのだろう。

【ゆりか】(……悪魔だけに、なんてことは口が裂けても言えないけど)

その悪魔に対し抵抗感を抱いていると思しき理奈に念信を送った直後、ゆりかはスタッフから電話の呼び出しを受けた。苗時 静だ。

【ゆりか】「もしもし」
【静】  「平日のこの時間にしては随分騒がしいね。まさか昨晩から彼女たちは一度も帰らず、学校も休んだのかな?」
【ゆりか】「そうだけど、何か文句ある?」
【静】  「ふむ、一教育者としては本来なら咎めるべきところなのかもしれないが……今回に限り都合がいい」
【ゆりか】「で、用件は何なのよ?」

【静】  「少し……厄介なことになった」

ゆりかは無言を以て会話を促した。

【静】  「先ほど『夜宴』に属する氏族『穏形派』の構成員が何者かに殺された。そのことで『楽園派』に嫌疑がかけられている」
【ゆりか】「殺された?『夜宴』なら当然でしょうに。何か問題でもあるの?」
【静】  「モグロの話を忘れたかい?『夜宴』の魔法少女が試合以外でお互いを襲うのはご法度だ。粛清の対象なんだよ」
【ゆりか】「話が見えてこないわね。それでどうして私の店に電話する必要があるの?」
【静】  「順を追って説明しよう。
      非常に不愉快な話だが、『夜宴』の悪魔とその運営は登録された魔法少女と、その属する氏族の構成員全てのおおまかな位置情報を常に把握している」

もっとも、その権利は各氏族のエルダーにも与えられている。苗時 静も例外ではない。

【ゆりか】「えぐいわねー」
【静】  「……で、殺された『穏形派』の構成員というその娘は君の店の近所で生命反応が途絶――消息を絶ったそうだ。およそ十数分前に、ね」
【ゆりか】「言っとくけど、うちの店の子じゃないわよ」
【静】  「わかってる。だがさらに間の悪いことに、現場にはうちの子(目立零子)も居合わせていたようなんだ……容疑者というわけさ」
【ゆりか】「じゃあその子が?」
【静】  「まさか。あの子には無理だよ。だが、この件について何らかの形で関与していた重要参考人なのは確かだ」
【ゆりか】「どうしてそう思うの?」
【静】  「先ほど彼女に電話してみた。あの子は私に隠し事をしている――あの年頃の子どもがつく嘘なんて私には手にとるようにわかるんだよ」
【ゆりか】「……あんたみたいな先生がいたら学校に行くのも楽しくなりそうね。勉強だって捗るんじゃない?」
【静】  「減らず口は構わないが無関係を装うのは止めてくれよ」
【ゆりか】「どういうこと?」
【静】  「『穏形派』は犯人の身柄引渡しを要求している。できない場合は報復行為を宣言されたよ」
【ゆりか】「言いがかりね。知らないもんは知らないんだから仕方ないじゃない。だいたい『隠形派』とやらの自作自演かもしれないわ。正義があるなら受けてたてば?」
【静】  「分が悪いな。『隠形』と『楽園』じゃ象と蟻とまではいかないまでも象と牛ぐらいの力関係だ。
      向こうとしては大量に魔法核を得る大儀名文が出来て願ったり叶ったりというわけさ。氏族間抗争に発展すればまず君の店が発火点になるだろう……。
      君の店の従業員及びお客様は『楽園』所属として登録されているからね」


【続きます】
133Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2012/11/24(土) 00:32:50.85 0
電話越しから一蓮托生を迫る苗時に対し、ゆりかは聞こえよがしに舌打ちした。

【屋守】「アタシなら強くしてあげられるぜ。短期間で、今の2倍、いや3倍の戦闘技術を身につけさせてやるさ」

厨房からホールの風景を覗き見るゆりか。かつての師が理奈達に対し自信に満ちた啖呵を切った。その内容に偽りは無い。

【ゆりか】「……要求の期日は?」【静】『――――』
【屋守】 「1週間!お手軽体験コースだ。アタシがみっちり修行してやる。これで効力が効かないと思ったら……破棄してくれて構わない」

悪い条件さえ重ならなければ……。

【ゆりか】「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一度教えて★」
【静】  『1週間だ……それ以内に真犯人を特定し、身柄を『隠形派』に引き渡す必要がある』
【ゆりか】「はあ……………………厄介なことになったわね」
【静】  『はじめにそう言ったはずだけど?』
【ゆりか】「ええそうでした――ところで苗時、“できなかった場合”はどうするの?」
【静】  『…………』
【ゆりか】「目立さんとやらを向こうに引き渡す?」
【静】  『そのときはそのときで別に考えるとしよう。とりあえず、もうすぐ目立さんがお使いついでにそちらへ到着するはずだ。どうにかして情報を引き出して欲しい』
【ゆりか】「簡単に言ってくれるわね」
【静】  『ついでに殺された少女――縁籐きずなの所持していた魔法核の魔力波長も伝えておこう。届いたかな?』
【ゆりか】「来た……最近は電話でこんなこともできんのね」
【静】  『では、後は頼んだ。私のほうも独自に調査しておこう』

通話はそこまでだった。再び大きな溜息をつき、都築ゆりかはホールへと顔を出した。
いくら常時自然体で通している変人店長でも、これから修行に向けて頑張ろうという空気の彼女たちにこんなことを伝えに行くのは……流石に気が重い。
厨房から出てきたゆりかに屋守が視線だけで振り返る。

【屋守】 『苗時か』
【ゆりか】『……どうしてわかるんですか?』
【屋守】 『デビルイヤーは地獄耳なのさ♪』

師匠、それはいつの歌ですかと突っ込む余裕は無かった。ホール内にいる5人の魔法少女に対し、一斉に思念を送信する。

【ゆりか】『みんな――ちょっと聞いてくれる?』


※   ※   ※

――数分前。

目立零子の電話が鳴った。

【零子】「……はい」
【静】 『私だ。お使いの途中に済まない。妙なことを聞くようだけど、何事も無かったかな?」
【零子】「え……はい、あの……いえ、どうぞ」
【静】 『実はね――』

苗時は遠籐きずなが今零子のいる場所のすぐ近くで殺害されたこと、それによって『楽園派』が『隠形派』に嫌疑をかけられていることを告げた。


【続きます】
134Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2012/11/24(土) 00:36:00.58 0
【静】 『勿論、私は君が犯人だなんて思ってはいないよ。ただ、君がそこにいるということだけは確かなんだ……何か見たりはしてないかな?』
【零子】「あの……」

<命と魂が惜しければ、今見たことは、全て忘れろ>

【零子】「知りません」
【静】 『先ほど君は何か言いかけていなかったかな?」

<誰にも言ってはいけない>

【零子】「…………いいえ、何も」
【静】 『…………わかった。そのままお使いを続けてくれ。休みの日に悪かったね』

通話はそこで終わった。終話画面を見たまま立ち尽くす目立零子。これでよかったのだろうか、否、いいわけが無い。
しかし、周囲を取り囲む雑踏の中にあの視線が――人型のカメラ越しに感じたあの眼が――まだ近くで己を監視している錯覚に襲われ、零子は恐ろしくなっていた。
“ここ”では無理だ、とても喋れない。裏返せば零子は自分の気持ちと正反対の事をしていたことになる。

<状況確認をしたいなら、そっちに逃げることを、お勧めする>

大鴉の助言を思いだし、零子は歩を進める。それが本来の役目だと、自分にそう言い聞かせながら。


※   ※   ※


【ゆりか】『――と、いうわけなの』

都築ゆりかは苗時との会話内容ときずなの魔力波長を全員に伝えた。

【屋守】 『はっはっはっ、こいつらのお試し期間と丸被りじゃないか――どうしてくれんだよ?』
【ゆりか】『そんなの、私に言われましても……』

場が状況整理に費やされていたその時、魔法少女が来店した。正確には再入店、というべきなのか。

彼女はどういうわけか魔装に身を包んでいる。
魔装と判断出来る材料については周囲の反応により明白であった。
この場にいる魔法少女五人+魔女一名+悪魔一柱以外、店内スタッフの誰ひとりとして彼女の来店に気付いた者がいないからだ。

【目立零子:身の危険>条件付けとなってしまい、本当は伝えたかったがこの場では苗時に嘘をつく】
【佐々木真言さん来店】【もう少し続きます】
135Interval ◆4ryk6C0aKWzm :2012/11/24(土) 00:38:36.82 0
【次のセリフまで】魔法少女の不可視とそれに伴う犯罪性について【読み飛ばし可】

かつて坂上南雲は後見及び担当のヤクザ……もとい悪魔から魔法少女が見えない理由について「物理法則から踏み出している」という説明を受けた。
人間の認識能力という意味においてはこの説明で十分なのだが、ここでは少し解説を加える。
そもそも「見る」という行為は光の可視領域における映像の投写と、それを受容した脳の意味付けによって成立する。
魔装にはこれら両方を歪める力があるのだ。幽霊のように影を作らず、また通常のカメラで撮っても“映らない”のはこの為である。

故に、人々は彼女たちの存在に気付くことができない。
彼女たちの行為――戦いを隠蔽する目的で悪魔が用意した独自の法則、それがこの『魔法』の正体である。

時に、この法則は魔法少女たちに思わぬ副産物をもたらす。

実質的に古典的サイエンスフィクションに登場する透明人間へ任意で変身できる彼女たちは、あらゆる特権を手にしたことになる。
まず手始めに映画やライブ、温泉、鉄道といった娯楽施設や公共交通機関……本来有料であったそれら全てを誰にも見つからずに無料で利用できてしまうこと。
当然、これらは犯罪であり反社会な行為に他ならない。だが知ってしまったが最後、彼女たちは常にそういった誘惑と戦い続ける宿命を負うこととなる。
バレなければ傷つく人間がいないからだ。

良心と戦う者、使っても罪悪感に苦しむような者はまだマシな部類と言えよう。
酷い輩になるとこの特権をさらに悪用し、住居の不法侵入や窃盗・万引き、無銭飲食、果てはここでは書けないようなあんなことやそんなことにまで手を染める者すら存在する。
稀に存在する男性の魔法少女(?)が同類の中でも特に忌避されているのは、このような事情が潜在的にあるのかもしれない……。

――で、あるからして

【ゆりか】(わざわざここに戻ってくる理由がわからないわね……)

都築ゆりかは黒衣の魔法少女――佐々木真言の顔を覚えていた。
平日の午前中から堂々と制服姿で来店してきた女子高校生……印象に残らないほうがおかしい。
忘れ物を取りに来た……無銭飲食が目的ならあまりにも間抜け過ぎる。それはない。となると彼女は何か別の理由で外にいたのだ。
そこへ――

【屋守】『手間が省けて良かったな……』

真言の魔力波長を感じ取った悪魔が静かに囁く。エルダーに出来て彼女に出来ない道理がない。何より、悪魔は助太刀こそしないが――

【屋守】『どうもそいつが持ってるみたいだぜ。縁籐きずなの魔法核』

助言だけはしてくれる。魔法少女たちの視線が佐々木真言へと集められた!


【レスは以上です】【長いので避難所にて要約&解説】
136坂上南雲 ◆E2LWmlZqtA :2012/12/02(日) 23:09:19.11 P
>『――と、いうわけなの』

巨大な新人・祝子の登場を皮切りに状況は転がり始めた。
謎のエルダー級の出現、祝子びいきの悪魔屋守の甘い誘惑……。
南雲たちを取り巻く現状が、山道を転がり落ちるかのように、流動し、流転していく。
そして、事態は一層深刻なものへと変わってしまっていた。

「目立ちゃんが、被疑者に……?」

ゆりかが受けた電話の相手――楽園派の首魁こと苗時静が語った内容。
それは、ついさっきこの街で一人の少女が殺され、その咎を南雲の知っている者に負わされかけているというもの。
目立零子。直接的戦闘力に乏しく氏族に庇護を求めた、典型的な『楽園派魔法少女』。

殺された魔法少女――『縁籐きずな』が所属していた氏族、『隠形派』。
彼女たちが"被疑者"目立零子を擁する楽園派に提示した、下手人引渡しの期限は一週間。
奇しくもそれは、屋守の言う『おためしコース』の期間と同一である。
そこに因果関係は見えないが、もしもこの悪魔がはじめから全て分かっていて言っているのであれば、説得力のある数字だ。

一週間。
それまでに、縁籐きずなを殺した真犯人を突き止めなければ、目立が代わりに制裁される。
そんなこと、あの苗時が許すわけがないから――そのときは、戦争だ。もっと多くの魔法少女が駆り出され、死ぬことになる。
死者の中には、楽園派の代理屋をやっている南雲や萌や理奈も、きっと入っているのだ。

(最も双方に被害が少なくて、穏便にことが運ぶのは、目立ちゃんをとっとと隠形派に引き渡すこと)

目立の固有魔法は戦闘に使えるものではないから、南雲一人でもなんとか制圧可能だろう。
あとは、苗時が背信に気づいて動き出す前に目立の素っ首を箱詰めして隠形派宛てに着払いで送付すればおしまいだ。
それで済む。目立と殺された魔法少女以外の、誰も傷つかずに済む、コスパ最強の選択肢だ。
苗時と仲の悪い南雲が一人で先走ったならば、萌や理奈に塁が及ぶこともないだろう。

(だけど――目立ちゃんは、)

かつて。
ほんの数日前の南雲が、その手で殺害した少女の仲間。
そして南雲はあの時――目立をも殺そうとしていた。哄笑(わら)いながらの、機銃掃射で。

その件について、南雲の思うところは大きい。
謝るつもりはない。反省もしない。殺し合うのが魔法少女の本分ならば、彼女と目立は正当に己を果たそうとしただけだ。
しかし、それでもいまは、苗時と示談し、敵対関係を解いた身。
まして南雲は、殺せるほどに目立を憎んじゃいないのだ。

『信念としての魔法少女』。

魔法少女をとりまく残酷なシステム――ブラック魔法少女に抗うために南雲が標榜する哲学。
そこに則れば、ここで目立を殺して隠形派に差し出すことなど、それこそ己に対する背信だ。

それに、事態はそんなに単純でない可能性がある。
隠形派の目的が、『仲間を殺されたことに対する報復』ではなかった場合だ。
つまり、そんなことは些細なきっかけに過ぎず、もっと壮大なものを彼女たちが狙っているとしたら。
137坂上南雲 ◆E2LWmlZqtA :2012/12/02(日) 23:10:32.70 P
例えば――楽園派を攻める大義名分を獲得したいとか。
夜宴派同士の潰し合いはご法度。しかし、相手が先にそれを侵したならば、紳士協定を護る謂れもない。
多くの魔法少女が夜宴派に所属する第一の理由は、この同士討ち厳禁の鉄則によって野良試合での死亡リスクを減らすためだ。
逆に言えば、好戦的な魔法少女にとって、夜宴に参加している非戦闘系氏族の魔法少女達は――

(囲われた羊のようなもの!戦闘慣れしておらず、しかもそれなりに魔法核を所有してる、絶好の獲物……!!)

夜宴のシステムは弱者に理想的だ。
特に、氏族として参加している場合、実際に戦うのは代表者のみで、その他の者は戦闘義務を課されない。
それでいて、野良試合で他の夜宴派に狩られる心配もなくなる――安心して生活できる。
結果的に、長く生き残っていながら戦闘経験に乏しく、氏族内の配分で魔法核だけはちゃっかり受け取っている、
言わば『養殖モノ』な魔法少女を、結果的に夜宴は多数輩出しているのだ。

誰かが、その旨みに気付いたのだろう。
そして、手を出さずにいられなくなった。
今回の、隠形派と楽園派との緊張が、そういう思惑の果てに生まれたものなのだとしたら。

――目立を差し出したところで、何も好転しない!
また別の言いがかりをつけられて、じわじわと搾り取られていくだけだ!

「とりあえずこの件について、わたしのスタンスをはっきりさせておくね」

ゆりかの説明を聴き終わってから、五分近くを彼女たちは沈黙で埋めた。
それぞれ、思うところがあるだろう。そして南雲は、己の中に方針を得た。

「こういうのは絶対に自分から謝っちゃだめだよ。非を認めれば、確実にそこに漬け込まれる。
 目立ちゃんを引き渡すってことは、どんな形であれ『うちが悪かったです、ごめんなさい』って意志の表明になっちゃうから。
 既成事実ができれば、この先のあらゆる交渉ごとで、楽園派は隠形派に頭が上がらなくなる」

徹底抗戦――まではいかないにしても、下手に出るものではない。
目立の名誉はもちろん大事だが、それ以上に、いま彼女をないがしろにすることは全ての最悪の発端になりかねない。
南雲は

「わたしは、目立ちゃんを守るよ。真犯人が見つかろうが見つかるまいが、ここだけは変わらない。
 それで隠形派が怒って攻めてくるんなら――この一週間で、わたし達がそいつらより強くなれば良い」

新しい師匠もできたことだしね、と南雲は言葉を締めた。
そして――しばらくして。

>『手間が省けて良かったな……』

屋守が、声ではなく念信で言葉をつくった。

>『どうもそいつが持ってるみたいだぜ。縁籐きずなの魔法核』

屋守が顎を向けた先。
そこには魔法少女がいた。

(気付かなかった――――ッ!)

魔力の隠蔽。その点にかけて、襲来した魔法少女は達人級の技術を持っていた。
感知能力に優れた南雲が、変身していなかったとは言え、屋守に言われるまで気付かなかったのだ。
それともエルダーの大きすぎる魔力にあてられて、感覚が狂わされた――?
138坂上南雲 ◆E2LWmlZqtA :2012/12/02(日) 23:11:17.96 P
そして、魔力を隠した魔法少女をひと目でそれだと認識できたのには理由がある。
袷に袴、軍用みたいなごついブーツ。インバネスコートに、あろうことか帯刀(!)までしている。
かような時代錯誤も甚だしい仮想を、大須観音以外の場所でする者がいるとすれば、魔法少女に他ならないだろう。
魔装を纏っている。つまり――戦闘態勢だ。

「ッ!」

二人して唖然としていた理奈と麻子をそれぞれ左右の脇に抱えて、南雲は背後へ跳躍した。
室内ゆえに大した距離は稼げない。それでも、一足一刀の間合いからは脱出する。
魔装も纏わずに無理に跳んだものだから、体中の筋肉が悲鳴を挙げていた。
しかしそれらの悲鳴が蚊の鳴くように聞こえるほど、心臓がとんでもない鼓動を刻んでいた。

『縁籐きずなの魔法核を持つ魔法少女――それって、真犯人ってことなんじゃあないの!?』

殺し合いが珍しくもないこの業界において、殺害がちょっとしたトピックスになる人物――
縁籐きずなは、それなりに手練の魔法少女だったのだろう。それを、ほんの短時間で殺してのけた。
その事実からでもこの書生風の魔法少女が只者じゃあないことがありありとわかる。わかってしまう。
それこそ、エルダー級並の……

(……ん?そういえば、この魔法少女はあのエルダー級とは違うんだよね)

南雲はほんの少しの間だが、この近所に現れたエルダー級の姿を目撃している。
そして目の前の書生風の魔法少女は、明らかにそのエルダーとは異なる外貌をしていた。

『縁籐きずなを殺った犯人は、てっきり例のエルダー級だと思ってたけど……違うのかな』

念信を襲来者を除く全員に通した。
この魔法少女が縁籐殺害犯だとすれば、あのエルダーの魔力爆発は一体何だったのか。
それとも、エルダー≠書生という認識がそもそも間違いで、二つは同一の存在なのかもしれない。
外見を変える魔法なんて珍しくもない。目立の固有魔法がまさしくそれだ。
しかし書生風から感じる魔力の量は――

『エルダーほどの圧はない……だけど、わたしたちより遥かに強い。気をつけて』

低く見積もって、南雲の三倍――四倍はあろうかというもの。
対してこちらは南雲、萌、麻子、理奈の四人。祝子の協力を得られれば、数字の上ではなんとか拮抗できるレベルだ。
あとは、相性と経験の差。そして地の利だろう。勝手知ったるテンダーパーチの環境が、吉と出るか凶と出るか。

『萌ちゃん、相手を刺激しない範囲でわたしから距離をとって。祝子ちゃんも』

相手の得物が腰に帯びただんびらなら、能力は近接攻撃系と推測できる。
こういうとき、まず考えるべきがお互いの位置取りだ。
少なくとも、刀の長さ分だけは離れるべき――これなら誰か一人が斬られても、残った者がフォローに回れる。
最悪なのは、味方同士の距離が近すぎて纏めて攻撃を食らう羽目になることなのだから。
南雲は動いた。念信の周波数をオープンチャンネルに切り替え、書生風の魔法少女に言葉を放つ。

『いらっしゃいませお客様、ご来店ありがとうございます――ご注文は?』

まず知るべきは、相手の目的。
縁籐きずなを殺した帰りに、魔装のままでお茶しに来た意味。
書生風が隠形派と楽園派のいざこざを把握しているとしればなおのこと、リスクの高い行為に身を投じる必要がどこにあるのか。
見極めるための質問を、念信越しに投げた。


【真言ちゃんの出現にビビり、後ずさる。真犯人=真言ちゃんと誤認中、エルダーとの関係に疑問】
【生身のまま(変身すると戦闘意志ありと思われるおそれがあるため)、真言ちゃんにここへ来た目的を念信で質問】
139萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/12/06(木) 23:59:38.07 0
>「待ちィっちゅーとろーがァ!屋守取られたらウチはどうなるんじゃあ!」
「知るか!野垂れ死ね!」
すっかり和気藹々と打ち解けた様子で言葉を交わす一同。
今日この時が初対面であることなど忘れてしまいそうな光景だ。

萌は祝子の顔面に投げつけてやろうと塩を握りこむ。
しかし、そのあたりで屋守が河岸を変えようとホールへ出た。
収集をつけかねたのか、あるいは仕事の邪魔だけれど雰囲気が妙すぎて声をかけられずにいる従業員(非魔法少女)が
厨房の隅でいよいよもって泣き出しそうになっていたりしたのが見えたのか。

しかし真実はどちらでもなかった。
なんと屋守は座るなりオーダーをしたのだ!
(まだ……まだ食う気か!)
魔法が使えても、自らを客観視するというのは難しいものである。

「負けるか!とりあえずワンプレートください!」
ワンプレートとは読んで字のごとく、一つの皿に全ての料理を載せたメニューのことだ。
今日はグリルドベーコンにスクランブルエッグがメインになるらしい。
しかし、茶碗に盛ったライスの上で同じ事をすると、
途端にただのズボラ飯という扱いなってしまうのはなぜなのだろう?

そんな命題に取り組む萌には一切構うことなく屋守は厨房での話を続ける。
>「アタシなら強くしてあげられるぜ。短期間で、今の2倍、いや3倍の戦闘技術を身につけさせてやるさ」
その言葉に、紙ナプキンで金魚を折っていた萌の手が一瞬止まる。
仮にこれがスポーツや格闘技の話題であったとしたら「適当ぬかすなコラ」と屋守の頬げたを張り飛ばしているところだろう。
努力は即効性がない薬である。萌は十分すぎるほどにそれを知っている。

しかし、今回に限っては有り得ないことではない。
なにせ魔法という肉体を凌駕した領域の話で、しかも一同もれなく初心者なのだ。
ここから倍くらいならたしかに難しいことではなかろう。
――そうなってもまだまだ上がいるというだけのことだ。

>「1週間!お手軽体験コースだ。アタシがみっちり修行してやる。これで効力が効かないと思ったら……破棄してくれて構わない」
>「お願いします。私――強くなりたいです!!」
最終的な屋守の提案に意外にもまず理奈が乗った。
理奈もまた岐路にいる自分を意識しているのだろう。

さて萌としてももちろん拒む理由はない。
闇雲に自己流で鍛錬するよりもトレーナーがつくほうが効果が高いものだ。
というわけで屋守教官によるデビルズブートキャンプへの参加を表明せんとした萌の動作を、ゆりかからの一報が中断させた。
140萌 ◆Gw1TY5I6ic :2012/12/07(金) 00:02:11.52 0
>『――と、いうわけなの』
>「目立ちゃんが、被疑者に……?」
誰だっけ?とは聞くまい。萌が目立を知っているかはこの問題の本質には一切関係がない。
少なくとも今のところは協力体制にある楽園派所属の魔法少女に、
他派閥構成員殺害の嫌疑がかかっているということだけ理解していれば済む。

>「わたしは、目立ちゃんを守るよ。真犯人が見つかろうが見つかるまいが、ここだけは変わらない。
> それで隠形派が怒って攻めてくるんなら――この一週間で、わたし達がそいつらより強くなれば良い」
「つーか、わかってていちゃもんつけに来てるんだろーしねえ、そいつら……」
苗時によれば勢力規模において楽園派は隠形派に劣るのだという。
飲み込まれずに済んでいるのは氏族間に"惣無事令"が布かれていたおかげ。
図らずも大手を振ってそれを破る絶好の機が訪れた。これを逃すはずはない。

もちろん隠形派とて無傷ではすまないだろう。
だが構成員の数が減っても所有する核が増えれば勘定は黒字と考えられないだろうか。
(萌自身はあまりそういう思考はしたくないが)

聞けば、目立は戦闘は不得手。引き渡してもすぐにそれは先方にもわかるはずで、
『一人で縁藤を殺害できたとは思えない、共犯がいたはず』などと言われてしまえばどうしようもない。
逆に戦闘力の高い魔法少女が被疑者だったとしたら、最低でもそのまま血祭りにあげて戦力を削りにくるだろう。
事件が起きてしまった時点で、差し出すという選択はマイナスにしかならないと決定されているわけだ。

「とりあえずやりあう方向で考えるっきゃねーでしょ、完全に余計なゴタゴタだけどー」
心底嫌そうに呟く。もちろん実際に嫌がっているのだが。
とはいえ、これから先、しくじれば夜宴本体と事を構える可能性すらあることを考えれば
"前哨戦"がこの程度ならむしろ僥倖というべきなのかもしれない。

「なんとかおさめてせいぜい高く恩売ろーぜ」
売る先は言うまでもなく苗時だ。無くすものばかり考えてみても仕方がない。
得られるものについて思いを馳せねばやっていられないこともあるものなのだ。

萌は一日が始まったばかりだというのにはや疲れきった様子でテーブルに突っ伏す。
顔が窓に向いた。その向こうに黒い服の少女が見えた。店に入ってくる。

>『手間が省けて良かったな……』
>『どうもそいつが持ってるみたいだぜ。縁籐きずなの魔法核』
屋守が間口に降り立った八咫烏、佐々木真言へ向けて顎をしゃくる。
三本目の足と見まがうばかりの大太刀の、黒塗りの鞘がぬるりとした光を放った。
141萌 ◆Gw1TY5I6ic
(――見える距離なのに反応がない!?)
初来店時の経験から、萌にはお互い変身していなくてもある程度の反応は追えるという意識があった。
だが、真言は見えているどころか近づいてきているのに一切波動を感じられない。

>「ッ!」
南雲が即座に間合いを切る。"荷物"二つ抱えての割には見事な跳躍だ。若干足がグネったようにも見えたが。
>『縁籐きずなの魔法核を持つ魔法少女――それって、真犯人ってことなんじゃあないの!?』
『知らん。でも都合はいい』
正面から撃破したのかもしれないし、脇から掠めとったのかもしれない。
しかし真犯人かどうかは最早どうでもいい問題だ。魔装状態で乗り込んでおいて害意がないとは言わせない。
魔装ではなくコスプレで、それで出歩く趣味の持ち主であると考えられなくはないが、
そんな痛い人がたまたま殺害された少女の核を持っている可能性は、さて何パーセントになるだろう。

>『萌ちゃん、相手を刺激しない範囲でわたしから距離をとって。祝子ちゃんも』
真言の魔力圧を探った南雲が一同へ指示を飛ばした。
初撃で一網打尽という可能性を考慮したのだろう。まずはセオリー通りの行動だ。
もちろん萌は
『断る!』
それを一言に切って捨てた。なぜか――

「ご、ご注文頂いいた分は以上でおそ、おそろいですね……?」
さっき厨房で泣きそうになってた店員が料理を運んできたからである。
噛みまくりの台詞からは明らかに"追加注文はかんべんしてください"という空気が渦巻いている。
まったく接客業は楽ではない。

もう一つ。
いざやりあうとなった場合に間合いが離れすぎていると萌にとって不利なことも理由に挙げられる。
萌の有する飛び道具は隙の大きいカマイタチのみなのだ。
悠長に狙ってる間に、切り刻まれてそのまま粘りが出るまでよく捏ねられかねない。
この位置からなら南雲が斬られる隙に仕掛けられるし、また逆に萌が斬られている隙に南雲がフォローできる。

しかし、断りはしたが南雲の懸念ももっともなことである。
というわけで、萌は皿に手を付ける屋守に擦り寄った。

抜き合わせてからの逆胴であればいささかなり対処の時間が増えるし、上段や突きなら的になるのは一人。
一番まずいのは腰から抜きざまの一撃である。
仮にあの太刀が及ぶ範囲だけが脅威になるとしても、一歩と少し踏み込めば大半が間合いの内だ。
しかし南雲を別とすれば一番近いのは屋守。当然、斬撃は先に屋守に到達する。

(ま、師匠とするからには手並みを見ておきたいってことで一つ……)
などと考えながら萌はパンケーキにナイフを入れた。

【屋守を平気で盾にする】