>「起きるですよ、起きるですよー」
(おきてるのに)
私は無口になっていた。もともと大人しめだし、天然ボケのところもあったけど
そういうありふれたぼんやりしていて聞いていませんでしたっていうのとは違ってた。
なんていうか時間の流れ方が変わっていた。へんなところで止まっちゃったっていうか。
>「私はアイネ。アイネ・リヴァイアスですよ。以後お見知りおきを」
「…私の名前はノビです。もしかして…あなたはハチ公ソースのことを知っていますか?」
私はアイネをじっと見て言った。
音楽の時間に聞いていたアイネ・クライネ・ナハトムジークが頭の中で流れてて
青いネコもすやすやと眠っている。その青いネコが眠っている部屋というと
学校の音楽室で、先生が飼っていたペットの名前がハチだったことを思い出していて
ハチ公ソースのことが口からあふれだしたのだった。
もしかしたらアイネならハチ公ソースのことを知っているかもしれないと。
>「はいはいみんな、集まって〜」
「どうして?集まるのになにか意味ってあるの。それをするのが正しいっていうことが
ゼッタイにたしかで、ちゃんと安心していられることがあるの?」
私はとがった声でシャルルに質問をするとためいきをついた。
でも蟻を踏んでしまわないように確かに集まって、シャルルのことを
ながいこと目をあけてみていた。
>「…私の名前はノビです。もしかして…あなたはハチ公ソースのことを知っていますか?」
「ハチ公ソース?ちょっと何を言っているのかわからないですよ」
ノビの言葉に対し首を振る。心当たりは全く無い。
それにしてもハチ公ソースとは何だろう?
ハチ公はかの伝説の忠犬ハチ公だとして、ソースとは一体…?
もしかして、商標登録されたハチ公印のソースでも売られているのだろうか。
いずれにしても、考えたところで仕方ない。
私はノビからアリアへ向き直り、彼女の話に耳を傾けた。
「こちらこそよろしくですよ。敵ではないことは一応把握したですよ」
そう言いながら、差し出された彼女の手を握り返す。
罠の可能性は十分にある。しかし、今争う理由もまた無いのだ。
>「はいはいみんな、集まって〜」
シャルルの呼びかけに集い、話を聞く。
要するに彼女の話に乗っかろうと言うことらしい。
「状況は分かったけど、アリアの話を鵜呑みにするのは早計ですよ。
ここはひとつ、ロンディニウムを直接視察するのはどうだろうですよ」
私たちデビチルはあくまで人間の味方だ。
人間たちが何不自由なく暮らしているのを検分できたら、問題は何一つないだろう。
それに、私にはロンディニウムを見物したいという思いがあった。
かの街は大変美しい教会のある都だと聞いたことがある。
ごみごみしたアキヴァや殺風景なヴィエナと違い、さぞ見所があることだろう。
たまには観光気分で行動するのも悪くは無い…と思う。
>「どうして?集まるのになにか意味ってあるの。それをするのが正しいっていうことが
ゼッタイにたしかで、ちゃんと安心していられることがあるの?」
「えーと、それはね……」
どうやら眼鏡娘は不機嫌らしい。何か気に障るような事を言っただろうか。
こちらを見ている彼女は、努力して目を開けているようで……
「こっちの世界に目覚めたばかりでお疲れみたいね。
猫バスの中で休めるから安心して」
とにもかくにも即席の作戦会議は進み、程なくして結論は出た。
>「状況は分かったけど、アリアの話を鵜呑みにするのは早計ですよ。
ここはひとつ、ロンディニウムを直接視察するのはどうだろうですよ」
「そうね、人間達が幸せなのは天使側の思い込みって事もあるわけだし……
アタシ達の目で見て確かめましょう!」
再びアリアのほうに歩み寄って、その事を告げる。
「一つ、お願いがあるの。
一度アタシ達自身で街の様子を見てから話し合いの席に臨みたいのだけど……いいかしら?」
シャルルがこちらに目配せをしてくる。
あー、ありゃちょっと待ってて、ってヤツか。作戦タイムね、OKOK。
アタシは軽く片手を振りそれに答えた。
暫くした後、シャルルが近寄ってくる。どうやら答えが出たみてーだな。
>「一つ、お願いがあるの。
一度アタシ達自身で街の様子を見てから話し合いの席に臨みたいのだけど……いいかしら?」
「ん、あー……なんだそんな事かい。いいぜ全然オーケーだよ。
断る理由なんて全然ねーし、むしろ、街の様子見てもらった方が話し合いも進みやすいだろーし」
グッ、と親指を立て、アタシは了承のサインを出す。
そしてその他の悪魔と適当(ちなみに握手は止めた。何でって?だって紫髪はアタシの手をジロジロ見てくるし、ノビは不機嫌そうだし)に挨拶を済ませた後
「それじゃあ早速行くか、って言いたいとこだけど……アンタ等、悪魔のくせに翼がねーのな。
イメージじゃ蝙蝠っぽい翼でも生えてるもんだと思ったけど……それじゃ飛べねーわな。
ま、アタシだけ先に飛んでくってのも何だし、そこのファンタジーな乗り物に乗らせてもらってもいいかい?」
猫の様な奇妙な大型バスを指差し言う。
さっきから気になってたけど、なかなか可愛いじゃねーか。
なんだ?生きてんのかありゃ?不思議な生き物もいたもんだな。
「でさ、シャルル。ちなみにバス内は禁煙かな?いやー、結構長距離飛んだら疲れてさー。
あ、ちなみに天使の中じゃ飛行速度はトップクラスなんだぜアタシ。
ま、それはともかく出来たら一服してーところなんだけどさ。ダメかい?
ロンディニウムでも禁煙の風潮が結構あってさ、喫煙者肩身狭いんだよなー。主様も煙草あんま好きじゃねーし」
と、一気に捲し立て、懐から出した煙草を口に加えピコピコ動かし誇示しながら悪魔達のリーダーであるシャルルに聞いた。
アリアは、アタシの申し出をあっさりOKした。
一体どんな街なのだろう、楽しみだ。
油断してはいけないとはいえ、観光気分が無いと言ったら嘘になるだろう。
>「それじゃあ早速行くか、って言いたいとこだけど……アンタ等、悪魔のくせに翼がねーのな。
イメージじゃ蝙蝠っぽい翼でも生えてるもんだと思ったけど……それじゃ飛べねーわな。」
「あんまり悪魔っぽく見えないでしょ? でも変身すると羽が生えてきたりするのよ。」
>「ま、アタシだけ先に飛んでくってのも何だし、そこのファンタジーな乗り物に乗らせてもらってもいいかい?」
「もちろん! 乗り心地抜群の猫バスの旅へようこそ!」
>「でさ、シャルル。ちなみにバス内は禁煙かな?いやー、結構長距離飛んだら疲れてさー。
あ、ちなみに天使の中じゃ飛行速度はトップクラスなんだぜアタシ。
ま、それはともかく出来たら一服してーところなんだけどさ。ダメかい?
ロンディニウムでも禁煙の風潮が結構あってさ、喫煙者肩身狭いんだよなー。主様も煙草あんま好きじゃねーし」
煙草吸う天使もいるのか――!
煙草を吸うデビチルもいるのだから天使が吸っても何ら不思議はないのだが、ちょっと意外。
未成年者が煙草なんて吸ったら駄目よ〜と一瞬言いかけたが、ここは学園都市ではないのだ。
増してや、目覚めたばかりのアタシよりもこの天使の方がおそらく年上になるのだろう。
「うーん、匂いがこもったら困るわねえ……」
その時、シュガーちゃんがすかさず口を挟んだ。
「換気設備付きの喫煙室を確認済みです」
「マジで!? ……という事で大丈夫みたいよ」
と、このように猫バス内には様々な設備が備わっているのだ。
いつの間にか部屋が増えていたり、色々と計り知れない乗り物である。
こうして、アタシ達は猫バスに乗り込んでいく。
画面に出ている目的地候補の中からロンディニウムを選択し、自動操縦で発進した。
>「ハチ公ソース?ちょっと何を言っているのかわからないですよ」
「いい。あなたにはわからないよ」
>「こっちの世界に目覚めたばかりでお疲れみたいね。
猫バスの中で休めるから安心して」
「ほんとう?」
わたしは、うれしいというより訝しげに聞いた。
「そのネコばすのなかにたべものはある?わたし、おなかすいちゃったよ」
>「もちろん! 乗り心地抜群の猫バスの旅へようこそ!」
私は猫バスに乗り込むと真っ先に食堂に入って席についた。
「すみません。うどんを湯がいてください。
すみません。だれかいませんか?」
と言ってわたしは変なふうに笑う。
どんなふうに変かっていったら、顔に暗い穴があくように。
かくして、私たちのロンディニウムへの旅は始まった。
自動操縦の猫バスに揺られるだけの暢気な旅だ。
今回はデビチル一行に加え、天使であるアリアも同乗している。
そのことが微かな緊張を与えてはいたが、概ね暢気な旅と言っていいだろう。
私は特に座るでもなく、思い思いに過ごす他のメンバーを観察していた。
>「すみません。うどんを湯がいてください。
>すみません。だれかいませんか?」
「うどん?了承したですよ。ちょうどお昼だし、他の人もうどんでいいのかですよ?」
奇妙な笑みを浮かべるノビに返事を返し、他のメンバーにも問いかけた。
ちょうど退屈していたし、と私は料理をすることにする。
全員へのオーダーを聞き終え、私は調理場に立った。
まずは大鍋にお湯を沸かし、うどんをゆでる準備をする。
その間にも隣でだし汁の準備をし、具材を包丁で切る。
タンタンと言う小気味良い音が、猫バスの中に響く。
料理をするのは楽しい。私はこれでも料理は得意である。
はじめは能力の制御のために始めた料理だったが、今ではすっかり趣味になっている。
液体を操るという私の能力は、料理をするときにとても便利なのだ。
ほどなくして全員分の料理を作り終え、中央のテーブルへと運んだ。
温かい湯気を放つうどんが食欲を誘う。
「それでは、いただきまーす。ですよ」
出来立てのうどんに箸を伸ばす。
うどんの茹で加減、だしの具合、共に完璧である。
私は満足のいく出来に、舌鼓を打った。
「ところで、ロンディニウムという街はどんな街ですよ?古くは魔法都市、と聞いたですよ」
食事をしながら、私はさりげなくアリアに問う。
魔法とは私たちが使う特殊能力と深い関わりがある。
というか、魔法の延長線上にあるのが私たちの能力なのだ。
物理法則を無視した能力を、制限こそあるものの無尽蔵に扱える。
それを魔法と呼ばずして何と言おう。
なので、魔法の研究が盛んだったと言うその都市には大いに興味があった。
もしかしたら、私たちの力となる何かがそこにあるかもしれない。
うどんをすすりながら、私はそんなことを考察していた。
>「換気設備付きの喫煙室を確認済みです」
>「マジで!? ……という事で大丈夫みたいよ」
「お、マジか、ありがたい!それじゃさっそく」
言いながらアタシも猫バスに乗り込み喫煙室に入り、咥えていた煙草に愛用のライターで火を点けた。
そして思いっきり吸い込む、心が落ち着く、心地良い。はー、ようやく一息つけたなぁ……。
そうやって数本の煙草を楽しんだ後、喫煙室を出ると何やら良い香りが漂っていた。
中央のテーブルには人数分のどんぶりが置かれている。
お、美味そう。アイネが作ったのか?つか、悪魔が料理、ねぇ……。
こうして見てる分にはどーにも悪魔っぽくない、ていうか普通の人間みたいじゃねーか。
>「それでは、いただきまーす。ですよ」
そのアイネの言葉を合図に食事が始まった。
アタシは出来たての温かなうどんを音を立ててズルズルと啜る。
美味い!
「おー!マジ美味ぇ!うちの教会専属料理人達に勝るとも劣らねーぞこれ、スゲーなアイネ!」
そうアイネを褒め称える。瞬く間にどんぶりの中は空になった。
>「ところで、ロンディニウムという街はどんな街ですよ?古くは魔法都市、と聞いたですよ」
他の奴等より早く食事を終えたアタシにアイネは質問してくる。まあ、これから行く街だしなぁ。
「あぁ、ホントに遥か昔の話だなそりゃ。もう魔法を使う連中は一部除いて全員地下に潜っちまった。
今は普通の……いや、他の都市に比べちゃ人間が住みやすい街になってると思うぜ。
なんせ外から逃げて来た人間が『此処は楽園だ!』、なーんて感激するぐらいだし。
ショッピングモールに娯楽施設、高級デパート、他の都市じゃご法度だってモンがうちじゃオーケーだし。
ゼウス様も主様も何を基準にオーケー出してんだかねぇ、ま、アタシにゃよくわかんねーし、どうだっていいや」
そう言ってアタシは悪戯っぽい声を上げてケラケラ笑う。
「ま、娯楽ったって流石に賭け事やら風俗はうちの主様が認めなかったからダメだったけどさ。
観光したいんなら東門から入る事をお勧めするよ、そーいう施設がごちゃごちゃしてる場所だから退屈はしないと思うぜ。
人間やら天使の暮らしがみたいなら北門、西門は工場やら開発施設ばっかであんま面白くねぇからお勧めしねーな。
南門は人力発電施設があるくらいだし、見学してーならやっぱアタシ的に東門か北門をお勧めするぜ」
>「すみません。うどんを湯がいてください。
すみません。だれかいませんか?」
>「うどん?了承したですよ。ちょうどお昼だし、他の人もうどんでいいのかですよ?」
「構わないけど……作ってくれるの?」
台所をのぞきこむとアイネが手際よく料理をしていた。
液体を操る能力がうどんをゆでるのに一役買っている。
程なくして美味しそうなうどんが食卓に並んだ。
「いただきまーす。美味し〜い! 凄いじゃない!」
>「ところで、ロンディニウムという街はどんな街ですよ?古くは魔法都市、と聞いたですよ」
>「あぁ、ホントに遥か昔の話だなそりゃ。もう魔法を使う連中は一部除いて全員地下に潜っちまった。
今は普通の……いや、他の都市に比べちゃ人間が住みやすい街になってると思うぜ。」
アリアの話によると、魔法使い達は地下に潜っているらしい。
都市の枕詞が示す人々が地下に追いやられている点は、他の都市と一緒のようだ。
科学文明の全盛期には魔法の存在は公には否定されていたらしいけど――
やっぱりこの世界には確かに魔法が実在するのね。
>なんせ外から逃げて来た人間が『此処は楽園だ!』、なーんて感激するぐらいだし。
ショッピングモールに娯楽施設、高級デパート、他の都市じゃご法度だってモンがうちじゃオーケーだし。
ゼウス様も主様も何を基準にオーケー出してんだかねぇ、ま、アタシにゃよくわかんねーし、どうだっていいや」
何故ゼウスはロンディニウムに限ってそのような統治を許しているのだろうか。
例えば、そうまでしても住民を自分たちの側につけておかないと危険、とか――?
ロンディニウムには何か秘密が隠されているのかもしれない。
視察でその手掛かりを掴まねば!
「えーと、じゃあ東門でいい?」
目当てはもちろんショッピングモールに娯楽施設!
……じゃなかった、出来るだけ人が多い所にいって情報を集めるのだ!
やがて、中央に大教会がある立派な都市が見えてきた。
>「うどん?了承したですよ。ちょうどお昼だし、他の人もうどんでいいのかですよ?」
「あなたが作るの?」
わたしは目を見開いて驚いた。ハチ公ソースのことも知らないくせに
アイネはうどんを作ると言った。
そしてしばらくしてテーブルの上にはうどんが置かれた。
スープには色がついていて変な臭いがする。
わたしは眉をつりあげる。
わたしは白いものしか食べられない。
うどんと言っても麺しか食べられないのだ。
>「それでは、いただきまーす。ですよ」
アイネの暢気な顔。毒うどん作ったくせに笑顔。
まるで変態のよう。
>「おー!マジ美味ぇ!うちの教会専属料理人達に勝るとも劣らねーぞこれ、スゲーなアイネ!」
たちまち空になるどんぶり。
アリアはまるで飢えた野良犬のようで品性のかけらもないようにみえた。
わたしは他の人もそんなふうなのか恐る恐る見てみた。するとシャルルは
>「いただきまーす。美味し〜い! 凄いじゃない!」
うわっつらだけの言葉。いったい何がすごいのか教えて欲しい。
理由や意味がないことは人は嫌う。迫害されて陰口を叩かれる。
そんな生き方をしていたらだめ。気をつけなさい。
わたしはため息を吐きながら流しの前までくると
うどんの汁を捨てて水で洗ってから箸の先にぐるぐると
捲きつけながらもちもちと食べた。湯がいてって言ってるのに
アイネはうどんに味とかつけるなんて常識がまったくない人間と思う。
>「ところで、ロンディニウムという街はどんな街ですよ?古くは魔法都市、と聞いたですよ」
>「あぁ、ホントに遥か昔の話だなそりゃ(略)
>「えーと、じゃあ東門でいい?」
「いいよ。どこでも。ここは楽園なんかじゃないし」
猫バスは東門についた。
わたしは窓からそっと外を見る。
外は人々で溢れかえっている。
「あのー、バスっていつころ出発するんですか?しばらく自由行動でいいですか?」
わたしは運転手さんに聞いて、出口を降りる。
門をくぐるとお店とかがあって目移りする。
ちょうど噴水の中央に見事な彫像が立っていてその肩に美しい蝶が止まっていた。
蝶は群れをなしてお花畑を飛ぶべきなのに…。
わたしは小石を掴んで投げたけど、当たりそうになっても蝶は逃げなかった。
「お花畑に帰るの!!」
と叫んで、わたしはもう一度小石を投げた。
「”魔法使い”達は地下に、なるほど…ですよ。」
どうやらこの街にも複雑な事情があるらしい。
何故他の街は完全なディストピアになったのにも関わらず、この街の統治は完璧なのだろう。
これは調べてみなくてはならない。そう強く感じた。
調べるにはまず人の集まる東からだろう。
>「えーと、じゃあ東門でいい?」
>「いいよ。どこでも。ここは楽園なんかじゃないし」
「賛成ですよ。まずは買いm…聞き込みから始めなくてはですよ。」
概ね賛成と言うことで話は付いた。
猫バスは東門から街に入る。案の定街は人で溢れ返っていた。
どの人間たちも一様に楽しそうだ。統治による重圧があるようにはとても思えない。
私たちは猫バスをシュガーに任せ降りた。
街の煌びやかな様子や豊富な商品に思わず目移りする。
しかし、ここは我慢と己を律し聞き込み調査を開始する。
返ってきた答えは皆同じ、この街を賛美するものばかりだった。
「この街?ああ、いい街だよ。平和だし物資も豊富、暮らしに困るようなことは何もないさ。」
「昔は魔法使いの連中が取り仕切っていたが、今はその頃よりずっと豊かなもんさ」
「俺は他の街からの移民だが、ここはまるで楽園さ。領主様のおかげだよ」
本当にこの街の住人は豊かに暮らしているようだ。
私たちの目的は、ゼウスによる圧政から人々を解放すること。
しかしこの街にはその圧政の影も形も見られなかった。
これではこの街を開放する理由がない。
これも、ゼウスのエラーによるものなのだろうか。
ふと見ると、ノビが噴水の彫像に向けて石を投げている。
あの子は何をしているのだろう…そう思ったが、声をかけるのはやめておいた。
そんな折、私はひとつの不穏な噂を耳にした。
「なんでも地下の連中が、近日中にも蜂起しようと結託しているらしい。
奴等は乱暴な連中だ…何をするもんかわかったもんじゃねぇ。」
この話に信憑性はない。だが、注意しておくことに越したことはないだろう。
街での情報を一通り集め終えた私は猫バスへ戻った。
他のメンバーの顔を見るに、集まった情報は同じようなものだったようだ。
私はお茶で渇いたのどを潤しながら、今後について考える。
天使の申し出による調停は、現時点では全く異論のないものだ。
今後彼らにこの街の管理を任せたままでも、何も問題はないだろう。
つまり、今回私たちはお役御免と言うわけだ。
せっかくなので、ここで観光していくのも良いかもしれない。
ノビがうどんの汁を捨てて麺だけをもそもそ食べていた。何だありゃ。
>「いいよ。どこでも。ここは楽園なんかじゃないし」
「そうね、ここは楽園なんかじゃない。
ゼウスは人類を楽園《ユートピア》に導くために造られた――
でも蓋を開ければ出来た物はディストピアだったっていうありがちな話ね……」
だがしかし。目にしたロンディニウム、そこはまさしく楽園だった。
立ち並ぶ店店。語らう人々。美しい噴水。
見た事も内容な活気と平和が両立した奇蹟のような街だ。
>「なんでも地下の連中が、近日中にも蜂起しようと結託しているらしい。
奴等は乱暴な連中だ…何をするもんかわかったもんじゃねぇ。」
「……やっぱりそこだけは他の街と一緒なのね」
もしその勢力に今回の調停の情報が流れたら
同盟締結を阻止しようとここぞとばかりに狙って調停の場に攻め込んでくるかもしれない。
「ところで魔法使いの居住地域はどこから入るの?」
アタシはアリアに聞いてみた。
魔法――もしかしたら、アタシ達の能力の原型かもしれない力。
立ち入り禁止区域、とかでなければどんな人たちなのか実際に見ておきたいものだ。
>「えーと、じゃあ東門でいい?」
>「いいよ。どこでも。ここは楽園なんかじゃないし」
>「賛成ですよ。まずは買いm…聞き込みから始めなくてはですよ。」
各自の意見とのことで今後の方針は決まった。
東門の門兵も余裕で乗り越え(アタシがいたから)、中へ進む。
いつもの東門の雰囲気だ。人間達が楽しげに犇めき、アタシの部下の黒服達が違反者を目を光らせて見張っている。
「まあ、好きにしてくれ。アタシはアンタ等が戻って来るまで一服してっからさ。
あーそれと違反行為はしてくれんなよ?まあ、賢明なアンタ等の事だからんなこたしねーだろーけどさ」
度を過ぎた違反行為はアタシ直属の黒服天使が容赦なく捕まえに行くからなー……。
「ま、かつての人間並に常識しってりゃ問題ねーだろ。じゃまあ、ごゆっくりー」
笑いながらそう言いアタシは再び口に煙草を咥え、喫煙室に入る。
そしてどれ位の時間が流れただろう、いつの間にかシャルル達は猫バス内に戻っていた。
山盛りになった灰皿を見て思わず苦笑する。こりゃいくらなんでも吸い過ぎたなー。
>「なんでも地下の連中が、近日中にも蜂起しようと結託しているらしい。
奴等は乱暴な連中だ…何をするもんかわかったもんじゃねぇ。」
>「……やっぱりそこだけは他の街と一緒なのね」
喫煙室から出たアタシはそのやり取りに口を挟んだ。
「ま、前々から蜂起の話はそれこそ腐るほどあったけど煙だけさ、燃え上がるこたーなかった。
だけど今回はアンタ達がいるから『魔法狂い』共も事情が違うんだろーな。煙じゃすまそーとしない。
ッたく、何処で情報が漏れたんだかね。てか機密情報ったってそんなもんか。ま、ザルに水を入れるようなもんだからねー」
漏れるのは自明の理ってヤツだ。
>「ところで魔法使いの居住地域はどこから入るの?」
「……あー、何?会いたいの?『魔法狂い』の奴等に」
シャルルの質問に少しだけアタシの声が低くなる。
これが純粋な『魔法狂い』の興味から出た質問ならいいけど……これが別の意味だったらマズイ。
悪魔と『魔法狂い』が結託したら勝てない、こともない、と思うが……街に被害は避けられない。
アタシはある意味、街の中心に悪魔と言う名の爆弾を運んじまったようなもんだ。取扱いは存分に注意しなければならない。
「一応、正常な『魔法狂い』は普通に人間として暮らしてるよ。北の居住区に行きゃ会えんだろ。
街で罪を犯した『魔法狂い』は人力発電所の地下で強制労働中、っつったって他の施設よりはマシな扱いさ。
三食休憩付の週休2日だからな。どこぞの都市より大分マシなもんだろ。で、その他は全員カタコンベだ
カタコンベの場所はアタシとマリアが把握してるが、悪ぃがアタシからアンタ達には話せない、『まだ』な」
それと、『魔法狂い』のことを詳しく教えといたほうがいーだろ。
「『魔法狂い』は分かりやすい格好してっからすぐに分かると思うぜ、なんてーか、ほら『こだわり』ってーのかな。
アイツ等全員、魔法を使える奴はいろんな『マスク』をしてんのさ。個性みたいなもんかね?
ガスマスクみたいのから馬の被り物みたいのまで、色々あっけど奴等が使える魔法によってマスクの形も異なる。
あー、ちなみに魔法についてだけど、奴等の魔法はアンタ等のとはちょっと違うぜ」
資料で見たシャルル達の魔法を思い出す。
「アンタ等は無から何かを生み出したり、何の前触れも無く何かを操ったりと出来るけど奴等は違う。
奴等は体内から出る煙を媒介に魔法を行使する。物を通して煙を出す奴もいるけど……あー大体は手のひらや指先、口からかな。
基本魔法は1人1種類、効果は様々だがまったく同じ魔法を使う奴はいない。似たような魔法ならあるけどね。
それと、『魔法狂い』達の使う大体の魔法はアタシ等天使にゃ通用しない、此処までで質問あるかい?」
彼は皆と行動していなかったはずだ
どういうことかわかるだろうか?
彼はアイネの質問に答える前に幸せそうな、『本当に幸せそうな顔で』いきなり寝たのだ
いきなりのことで分からない、とりあえず寝たのだ、いきなり、何の前触れもなく
そんな彼はもちろん皆とは近くにいない、そう、近くにいないはずだったのだ!、ついてきていないはずだったのだ!
だが彼は…
「んー、杏仁豆腐を二つ頼めるかな?」
なんとノビの真横にいたのだ!、気配もなく、いきなり真横にいたのだ!
「ん〜?、何をそんな驚いているのだね?、私はさっきからいたぞ?」
それは本当なのだろうか…、まったく気配はなかった
そんな彼は…不気味すぎた…、そして今も…
「あー、さっきはいきなり寝てすまんね、そして初めて会う人もいるようだからもう一回自己紹介をしよう」
そう不敵に笑って彼はこめかみをいじくって立ち上がる
その異様に大きな身長、変わった服装、その彼のどれもが不気味な威圧感があった
「私の名前は、キラー・ヨカゲシ、変わった名前なのは気にしないでくれ
年はこう見えても18歳とかそのあたりだ、よろしく頼むよ…」
と、大胆不敵な笑みを濃くして言った…
気球がおりてくる。わたしは腰を浮かして噴水から逃げた。
学校のプールに塗られている青いペンキと同じ色の空には雲ひとつ浮かんでいない。
UFOなんて子供じみたことをいっているわけじゃないけど、
気球はこんな日に空に浮くものだし、一休みするために降りる場所は広場が相応しいはずだ。
もしもわたしが操縦士だったら絶対そうするのに。
噴水をあとにした私は街の声を聞く。
>「なんでも地下の連中が、近日中にも蜂起しようと結託しているらしい。
奴等は乱暴な連中だ…何をするもんかわかったもんじゃねぇ。」
「なあに、どうしたの?」
わたしは街の人に聞きなおした。
すると前の道を歩いていた女が足早に遠ざかる。その正体はアイネだった。
まったく人騒がせで、ブスのくせに大げさ騒ぎ立てるからうんざりする。
>「なんでも地下の連中が、近日中にも蜂起しようと結託しているらしい。
奴等は乱暴な連中だ…何をするもんかわかったもんじゃねぇ。」
>「……やっぱりそこだけは他の街と一緒なのね」
謎の会話はたびたび繰り返されていた。
シャルルの言葉は難解な場合が多い。
>「ところで魔法使いの居住地域はどこから入るの?」
>「……あー、何?会いたいの?『魔法狂い』の奴等に」
「魔法狂い?いったいなんの話なの?」
わたしにはちんぷんかんぷんな会話だった。
それにいつのまにか、隣にキラーがいる。
>「私の名前は、キラー・ヨカゲシ、変わった名前なのは気にしないでくれ
年はこう見えても18歳とかそのあたりだ、よろしく頼むよ…」
「私の名前はノビよ。こちらこそよろしくね。それで
こいつがシャネルで…これがえっと、アイラ。そんでもってこいつはシムラよ。
たしかにそうよ。名前と顔が似てるから間違わないでね」
キラにそういったあと、わたしはアリアの話を思い出して問う。
「どうして天使に魔法狂いの魔法が聞かないの?」
「アイラとシャネルは魔法狂いに会いたいの?それはどうして?」
「キララは杏仁豆腐が好きなのはなぜ?わたしと同じで白いものしか食べられないの?」
窓の外には、午後の陽射しが油をこぼしたようにいっぱいに溢れていた。
「外で黒服の天使たちを見かけたですよ。あれは警察組織か何かですよ?
この街の警備システムは、彼らが管理しているのかですよ?」
猫バスに戻った私は、車内で待っていたアリアにそう問う。
これ程の賑わいある街を作り上げたのだ、彼らのような組織があってもおかしくはない。
問題は、その警察組織である彼らが行き過ぎた取締りをしていないか、その一点にあった。
この街の様子を見るに心配するようなことはないと思うが、行き過ぎた取締りは軋轢を生む。
その軋轢は火種となり、やがて社会を内側から崩壊させるだろう。
その心配があっての質問だった。
>「ところで魔法使いの居住地域はどこから入るの?」
>「……あー、何?会いたいの?『魔法狂い』の奴等に」
その質問には私も興味があった。
この街において負の存在である彼らは、どのような生活を送り、どのような思いを胸に秘めているだろう。
出来ることなら直接会い、話を聞いてみたかった。
また、魔法と言う力も気にかかった。力ある存在は否応なく社会を歪ませる。
魔法狂いたちとの均衡が取れているからこそ、この街が成立しているのだろう。
アリアの話によると彼らは地下のカタコンベに隠れ住んでいるらしい。
しかし、その場所は教えてもらえなかった。
おそらく、力ある彼らの側に私たちが付くのを恐れたのだろう。
無理もない話だ。私たちは存在するだけで街を崩壊させるポテンシャルを秘めているのだから。
「ひとつ質問ですよ。なぜ天使にとって脅威でない魔法狂いたちを弾圧したのですよ。」
一応、彼らはかつてこの街で横暴を働いていたことは住民たちからの聞き込みで知っている。
しかし、それとこれとは話が別だ。
天使にとって脅威でない、人間にだけ害悪となる存在ならば、放って置いても問題はなかったはずだ。
なぜ天使でありながら人間の側に付き、彼らを取締ったのか。それが問題だった。
何故この街の天使たちは人間を大切にするのだろう。
他の街では見られなかったその違いが、喉に刺さった骨のように気がかりだった。
>「んー、杏仁豆腐を二つ頼めるかな?」
そのとき、今まで寝ていたキラーがようやく目を覚ましたようだった。
のんびりしたものだ、この異様な風体の男は何を考えているのかいまいち掴めない。
「杏仁豆腐ならシャルルに頼むと良いですよ。
一度自己紹介は済ませたけど、私はアイネですよ。改めてよろしく」
ノビのいい加減な紹介を訂正しつつ、私は彼に自己紹介をする。
念のため、もう握手するのは控えておいた。
>「アイラとシャネルは魔法狂いに会いたいの?それはどうして?」
「それはね、ノビ。彼らが力ある集団だからですよ。
この街は人間と天使、そして魔法狂いたちの微妙なバランスで成り立っているですよ。
だから魔法狂いに話を聞くことで、この街について深く知ることが出来るですよ。
それと、私の名前はアイネですよ?」
念のため訂正をつけつつ、彼女に簡単な説明をする。
これで通じたのだろうか…微妙なところである。
>「外で黒服の天使たちを見かけたですよ。あれは警察組織か何かですよ?
この街の警備システムは、彼らが管理しているのかですよ?」
「あー、黒服の天使達はアタシの部下さ、全員ね。アイネの言う通り、街の警備はアイツ等に任せてる。
って言っても行き過ぎた取り締まりは無いと思うぜ。
そういうのがあった場合は逆に人間側から大教会に通報がある、見かけた場合も即通報してくれって双方に言ってあるし。
それに大教会とうちの部下は同僚じゃないから妙な仲間意識が在るわけじゃないしな、多分情報の隠匿も無い」
>「ひとつ質問ですよ。なぜ天使にとって脅威でない魔法狂いたちを弾圧したのですよ。」
「あー、それな。やっぱ気になるよな、えっとな」
アイネの質問に答えようとしたその時だ。
>「ん〜?、何をそんな驚いているのだね?、私はさっきからいたぞ?」
今の今までいなかった奴が急にノビの隣に現れた。
……結構悪魔ってなんでもありなのな。さすがにもう多少の事じゃおどろかねーけどさ。
>「私の名前は、キラー・ヨカゲシ、変わった名前なのは気にしないでくれ
年はこう見えても18歳とかそのあたりだ、よろしく頼むよ…」
「あー、よろしくなキラー!……握手は……した方がいいか?しない方がいいか?」
一応、台詞の前半分はキラーに、後半分はアイネに。
最初に会った時のアタシへの手への異様な視線が忘れられなかったからだ。
>「私の名前はノビよ。こちらこそよろしくね。それで
こいつがシャネルで…これがえっと、アイラ。そんでもってこいつはシムラよ。
たしかにそうよ。名前と顔が似てるから間違わないでね」
そのノビの言葉に思わず口に浮かべていた笑みが消える。
何故なら、コイツはノビは、今、言ってはならない事を言ったからだ。
「おい、先天的に脳にバグ抱えてんのか、強烈な電波受信してんのか、それとも唯の馬鹿なのかふざけてんのか知らねーけどさ。
いずれにせよ名前、間違えてんじゃねーよ」
名前というものはそのモノを特定するだけじゃない。
誰かがそのモノの為に必死に考え、悩み、そして付けてくれたものだ。
礼儀作法、言葉遣い、態度、清潔感、容姿、このどれが悪くてもアタシはそれだけでソイツを判断したりしない。
だけど、名前を間違えられのはダメだ。それがワザとなら、悪ふざけならなおの事ダメだ。
それはアタシ自身を、いや、それ以上にアタシに名を与えてくれたゼウス様を侮辱する行為だ。
>「どうして天使に魔法狂いの魔法が聞かないの?」
「その質問、たった3文字の名前を間違える馬鹿に教えたって意味ねーだろ?
だから、アタシは、アンタの、質問には、答えない。今後一切な。アタシは無意味な行動はあんま好きじゃねーんだ」
そう言ってノビの質問を切り捨て、アイネに向き合う。
「で、アイネの質問は、なぜアタシ達にとって脅威でない魔法狂いたちを弾圧したか、だったな」
今の重い空気を払拭しようと、一回咳払いをして質問に答える。
「あ〜、最初は弾圧するつもりはなかったんだ。『魔法狂い』ったってカテゴリーは人間に類する、つまりは保護すべき存在だ。
だけど、魔法狂いどもはアタシ達の統治を許さなかった。というよりも、自分達以外の特別な者の存在を認めなかった。
で、アタシ達に反乱をしてきたわけ。まあアタシ達は人間には迂闊に手を出せないし、魔法も効かなかったしな。
ま、それこそ初めのうちは『そのうち分かってくれるだろう』って静観してたんだけどさ……」
そう言ってアタシはポリポリと頬を掻く。
「でもそんな反乱の時、人間に……あー、つまりは魔法を使えない普通の人に、結構な被害が出てな。
というか魔法都市っつったって魔法を使えない者、魔法を使えても能力が弱い者が大多数の都市さ。
反乱が続けば続くほど、苦しむのは彼等だ。それはダメだ、それは許しちゃいけない。
アタシ達天使の目的は『人間達の悠久に続く平和の管理』だ。だから大多数が苦しんでるその現状は見ていられなかった。
だから主様とアタシは少数の魔法狂い共を切り、大多数の普通の人間達を取る事に決めたのさ、これが魔法狂い弾圧の理由って訳」
魔法狂い達は弾圧されてるとはいっても、三食休憩付の週休2日という
他の街の人間達と比べると破格の厚待遇だった。
カタコンベの場所は流石に今は教えてくれないらしい。
>「んー、杏仁豆腐を二つ頼めるかな?」
「あら、どこ行ってたの!?」
キラーさんが突然現れた。いや、ずっといたけど気配を消していたのか?
とにかく、これが彼の能力なのかもしれない。
>「私の名前はノビよ。こちらこそよろしくね。それで
こいつがシャネルで…これがえっと、アイラ。そんでもってこいつはシムラよ。
たしかにそうよ。名前と顔が似てるから間違わないでね」
「アタシらは高級ブランド創始者と某大作RPG7作目の踊り子剣士と大物お笑い芸人かい!
どんなカオスなパーティーだよ! シャルル、アイネ、アリアよ」
アナグラムのように名前の文字が入れ替わってごちゃごちゃになっていたらしい。
>「杏仁豆腐ならシャルルに頼むと良いですよ。
一度自己紹介は済ませたけど、私はアイネですよ。改めてよろしく」
「アタシは”お菓子の魔女”シャルル。はい、杏仁豆腐」
能力で出した杏仁豆腐をキラーさんに渡す。
>「どうして天使に魔法狂いの魔法が聞かないの?」
>「その質問、たった3文字の名前を間違える馬鹿に教えたって意味ねーだろ?
だから、アタシは、アンタの、質問には、答えない。今後一切な。アタシは無意味な行動はあんま好きじゃねーんだ」
その様子を見ていて、リンネ時代にしていた研究の一端を思い出した。
魔術の世界では、名前には特別な魔力が宿るとされる。
偉大な魔術師を巡るとある伝説では、魔術師は普段決して真名を名乗らない。
真名を敵に知られる事は弱点を知られる事そのものだからだ。
名前を書いた相手が必ず死ぬという恐怖のノートを巡る息詰まる戦いの伝説、なんてのもあったわね。
その伝説も、いかにして敵の真名を掴むかというのが最大のキーポイントになっていた。
奇しくもここは魔法都市、もしかしたら何か関連があるのだろうか――
>「で、アイネの質問は、なぜアタシ達にとって脅威でない魔法狂いたちを弾圧したか、だったな」
アリアは大多数の一般人守るため、と答えた。
元々ゼウスが作られたのは人間達の悠久の平和のためであるので、別におかしなところはない。
だけど、何か引っかかる。そう、話の流れが遥か遥か大昔の一神教による魔女弾圧に奇妙な程一致するのよね。
真実とはいとも容易く時の流れに埋もれるもの。
一度強固な統治体制が確立されてしまえば、何が善で何が悪か操作する事なんて統治者の思いのままなのだ。
この街には何か秘密がありそうな気が……。
「北区に行ってみましょう。居住地域の様子と――それから、図書館ね」
文献調査で何か手がかりが掴めるかもしれない、アタシはそう考えたのだ。
天使にとって都合の悪いものがあればとっくに処分されてるんじゃないかって?
その通り。だけど、見逃される程度の他愛もない物語の中に、意外と真実は隠されていたりする。
―― ロンディニウム学園付属図書館
こうしてアタシ達は北区にある図書館にやってきた。
勉強をする学生や、本を借りに来た市民たちでそこそこ賑わっている。
“歴史”のコーナーの本を手に取る。
思った通り、アリアから聞いた通りの情報しか出て来なかった。
次に”小説”のコーナーへ。
帯によると何やら大ヒットしたらしい王道の魔法学校もののファンタジー小説を手に取る。
魔法学校に入学した少年の、闇の魔法使いとの戦いの物語だった。
所々見てみると――箒にまたがって行う空中競技。手に汗握る魔法バトル! なかなか面白い。
「ねえねえ、結構面白いわよ」
と仲間達に本を勧めながらもアタシは考えていた。
闇の魔法使い――? そもそもこの街の魔法使い達は果たして一枚岩なのかしら……?
>「それはね、ノビ。彼らが力ある集団だからですよ。
この街は人間と天使、そして魔法狂いたちの微妙なバランスで成り立っているですよ。
だから魔法狂いに話を聞くことで、この街について深く知ることが出来るですよ。
それと、私の名前はアイネですよ?」
「ふーん。しることって大切なことってノビしってる。
でもしらなかったほうがよいことも世界にはあるから。気をつけなさい」
わたしはパチパチとまばたきをしながらアイネに忠告した。
秘密を知ってしまったら殺されることもある。
よくしらべたねぇと拍手をされながらピストルでズドン。
アイネのブスの顔が苦悶に歪むのだ。
そんな心配をしているとアリアが尖った声で…
>「その質問、たった3文字の名前を間違える馬鹿に教えたって意味ねーだろ?
だから、アタシは、アンタの、質問には、答えない。今後一切な。アタシは無意味な行動はあんま好きじゃねーんだ」
「もともと、あなたが質問に答える意味もないじゃん。
もう、まどろっこしいのよ。べつにあなたがいる意味もないし。
この先なにかあるっていうの?なにをみせてくれるっていうの?
嘘かほんとかわからないことぺらぺら話されても時間のむだなのよ」
わたしは鼻白んだ顔を隠すように、アリアを一瞥すると椅子に腰をおろす。
目標とか目的とか意味とか意味がわからない。そもそも質問を聞いてどうするの?
――ロンディニウム学園付属図書館。
>「ねえねえ、結構面白いわよ」
「ふーん、おもしろそう。ねむくって字とか読むのは疲れるけど。
本の世界って夢と現実がごちゃまぜになってるから不思議ね。
ほんとうのこととウソがまじりあってるんだもの」
私は欠伸をかみ殺しながら椅子に座ってテーブルにうつぶせになる。
途端に瞼がおもくなる。思考が蕩けて意識が所々飛んでゆく。
現実の世界で色々なことを考えてるのがばかばかしく思えたりする。
>「私の名前はノビよ。こちらこそよろしくね。それで
こいつがシャネルで…これがえっと、アイラ。そんでもってこいつはシムラよ。
たしかにそうよ。名前と顔が似てるから間違わないでね」
「ノビた…、じゃないのか、ノビさんだね、よろしく」
ジッと手を見詰めてる
「……、おっと、私はロリコンじゃない…」
変なことをつぶやく
>「キララは杏仁豆腐が好きなのはなぜ?わたしと同じで白いものしか食べられないの?」
「き、き、キララ?…、まぁいいか。
いや、なんとなく、だ」
と、ひきつった笑みを浮かべて言う
>「杏仁豆腐ならシャルルに頼むと良いですよ。
一度自己紹介は済ませたけど、私はアイネですよ。改めてよろしく」
「OK,ありがとうアイネさん」
この男、衝動や見た目はともかく基本的に礼儀正しい性格のようだ
>「あー、よろしくなキラー!……握手は……した方がいいか?しない方がいいか?」
「あぁ、NICE TO MEET YOU、よろしく…、握手…、あくしゅ…、しゅ…、手…、あ!、いやなんでもない!」
一瞬、目に危険な色を宿したようだがすぐに元に戻る
…、手に対する視線が相変わらず半端ないが
>「おい、先天的に脳にバグ抱えてんのか、強烈な電波受信してんのか、それとも唯の馬鹿なのかふざけてんのか知らねーけどさ。
いずれにせよ名前、間違えてんじゃねーよ」
>「その質問、たった3文字の名前を間違える馬鹿に教えたって意味ねーだろ?
だから、アタシは、アンタの、質問には、答えない。今後一切な。アタシは無意味な行動はあんま好きじゃねーんだ」
「む、同行者が失礼を働いた、すまない」
代わりにキラーが頭を下げて謝る
「私が代わりに質問させてもらいます、なぜ、貴方達に魔法狂いの魔法が聞かなかったのでしょうか?」
と、もう一度聞く
>「あら、どこ行ってたの!?」
「ずっと寝てました、それで貴方達の声で起きてですね、普通に歩いてきたはずですが…」
>「アタシは”お菓子の魔女”シャルル。はい、杏仁豆腐」
「すみません、感謝します」
>「もともと、あなたが質問に答える意味もないじゃん。
もう、まどろっこしいのよ。べつにあなたがいる意味もないし。
この先なにかあるっていうの?なにをみせてくれるっていうの?
嘘かほんとかわからないことぺらぺら話されても時間のむだなのよ」
「まぁまぁまぁ、お二人とも落ち着いてください、はいノビさん、アリアさん」
一つずつノビとアリアに渡す
「ここで争わないで下さいよ、彼女の無礼は私がもう一度謝ります、すみません」
と、頭を下げる、………、以外に仲間想いなのかもしれない
そして図書館へ…
>「ねえねえ、結構面白いわよ」
「えぇ、なかなかに興味深い本があります」
そういって彼が読んでいるのは……、読んでいる本の題名は…『手』
内容は絵、彫刻などで作った手の写真集だ
「『手』……、あぁ、この彫刻の手、なんてすばらしいのでしょう、この絵のしなやかな手も捨てがたい!
まさかこんな本に出会えるなんて〜♪」
本当にうれしそうな顔をしている、周りの視線に気付かずに
「ハッ!、すみません、浮かれてました、……、早く目的の本を見つけましょう……こんな公式の場においてあるかどうかは怪しいですけど…」
一瞬、キラーの周りを見る目が鋭くなる
アリアがノビと口論している。原因はノビが名前を間違えたせいだろう。
しかし仲裁に入るのはやめておいた。キラーに任せておけば大丈夫だろう。
ノビに対して不満があったのも事実だ。彼女の態度にはそこはかとない悪意を感じるのだ。
ノビだって明確な悪意の元行動しているわけではないのだろう。
しかし、どうしたって彼女の言動が気に食わないのは事実だ。
これでは今後の行動に支障が出てしまう。何か対策を講じるべきだろう。
といっても、彼女の行動は全く読めない。さて、どうしたものやら…。
>「で、アイネの質問は、なぜアタシ達にとって脅威でない魔法狂いたちを弾圧したか、だったな」
アリアが強引に空気を変えてくれた。これで話し合いに集中できると言うものだ。
彼女の話によると、魔法狂いたちは人間に害為す存在だったらしい。
より多くの人間を救うため、少数であった魔法狂いたちを弾圧した。
なるほど、確かに合理的な方法だ。私が彼女の立場であっても、その方法を推奨しただろう。
それで完成したのがこの街か…ここのホストたる天使は、本気で人間たちを大切に思っているらしい。
天使の個性による差なのか、それともゼウスのエラーなのか、本気で分からなくなってきた。
いずれにせよ、ここのホストと話し合ってみたい。そう強く感じた。
そもそも人間がゼウスを作り上げたのは、より優れた統治者を作るためだ。
人間以上の存在…天使による統治こそが、人間の恒久的な幸せになると考えられたのだ。
しかしゼウスは人間を抑圧しディストピアを作り上げた。
最初のボタンの掛け違えはどこだったのだろう?
エラーを誘発したゼウスの設計?
それとも、人間以上の存在を作ろうとしたその考え方?
考える程に、わからなくなる。
目下私たちの敵であるゼウスは、果たしてどんな存在なのか。
いずれこの目で確認しなければならないだろう。
そうこうしているうちに、猫バスは北区にある図書館へとたどり着いた。
蔵書数はなかなかに多そうだ。これなら調べがいもあるというもの。
私は他の書物に目もくれず、この街の行政について書かれた本を探し始めた。
>「ねえねえ、結構面白いわよ」
あちらではなかなか楽しそうな本を見ている様子だ。
一人離れたキラーが異常なテンションなのは、見なかったことにしたほうがよいだろう。
そのとき、私の目に一冊の本が目に留まる。
どうやら、この街で行われている行政会議の議事録のようだ。
こういう議事録を公開しているのはなかなかに珍しい。
内容をぱらぱらと見て、驚く。
人間と天使たちが綿密に話し合って、行政を決めているらしいのだ。
行政に人間の主張が多分に盛り込まれている。それだけでも驚くべきことなのに。
ゼウスの基本姿勢から大きく外れたその議事録を見て、私は不安を隠せなかった。
私たちの真の敵とは何者だろう。ゼウスか、天使たちか、はたまた人間か。
こんな平和な街を作るために、私たちは頑張ってきたのではないか。
私はどうすればいいのか、いつの間にか分からなくなっていた。
>「もともと、あなたが質問に答える意味もないじゃん(略)嘘かほんとかわからないことぺらぺら話されても時間のむだなのよ」
「そーかい、別にアタシは信じてくれなんて一言も言ってないぜ?アタシは質問されたから答えたのみだ。
それに、テメェの言葉は悪魔の総意じゃなくテメェ個人の意志だろ、この世界にうんざりしてんならテメェが」
消えちまえ、そう続けようとした時、アタシとノビの間にキラーが割って入った。
その両手には白い杏仁豆腐、アタシの大好きなさくらんぼもご丁寧に添えてある。
>「まぁまぁまぁ、お二人とも落ち着いてください、はいノビさん、アリアさん」
「あ?え?」
急に差し出された杏仁豆腐を疑問符いっぱいの顔で受け取る。
いや、これはキラーが食べたかったからシャルルに注文したんじゃ……。
>「ここで争わないで下さいよ、彼女の無礼は私がもう一度謝ります、すみません」
アタシは気まずそうにポリポリと頬を掻く。
「んだよ、別にアンタが謝る様な事じゃ……、あー、いや、アタシも悪かった、かな」
そうだ、唯のくだらない戯言にカッとなり過ぎた。
アタシは一応この都市のマリアの護衛長兼治安の長なんだ、短絡的に言葉を暴言を発するわけにはいかない。
ま、些かの手遅れ感もあるが……。
アタシは手渡された杏仁豆腐を口に運ぶ。まろやかな甘みと、さくらんぼの優しい甘みが気持ちを落ち着かせてくれる。
キラーの奴、まさかこの為に杏仁豆腐を?偶然?それともこの展開を読んでたのか?
……だとしたら、唯の仲間思いなだけじゃなくてそーとーの策士だな。良い意味で。
そして場所は北区の学園付属図書館へ。
この図書館は学園付属ながらもそこらの図書館に負けない蔵書数を要する。
ちょっとした子ども向けの絵本から小難しい哲学書まで、数千、数万冊の書物を保管してある。
>「ねえねえ、結構面白いわよ」
>「ふーん、おもしろそう。ねむくって字とか読むのは疲れるけど。
本の世界って夢と現実がごちゃまぜになってるから不思議ね。
ほんとうのこととウソがまじりあってるんだもの」
シャルルは児童文学のコーナーへ、そしてノビは相変わらず訳わからない事を言っている。
それを見てアタシは思った。
そうか、ああいう電波タイプの言葉は流しちまえばいーんだ。いちいち相手にする必要なんかねーんだな。
あー、んで、他の二人は、っと。
そうして周りを見渡せば、アイネが行政の議事録を広げて難しい顔をしている。
「難しそうな顔して読んでんなアイネ。頭の良さそうなアンタの事だ、その文書、理解できねーでその顔って訳もねーだろ。
そんなに人間側の主張を取り入れるのが珍しいこったねぇ?ま、今までの都市を見てたらそー思うわな」
茶化すように笑うとアタシは少し真面目にアイネを見る。
「そこの会議にさ『魔法狂い』の主義主張も取り入れたかった、話し合いたかった、って主様が言ってた。
甘過ぎなんだよな、うちの主様は……。でも、アタシもホントはさ、主様と同意見だったよ。
人間も、魔法狂いも、天使も、全員仲良しでやれればいいんだけどな。ま、アレだ。世の中ままならねー、ってやつさ。
でもまぁ、現状を後悔はしるわけじゃねーぜ、今のこの都市が、アタシ等の信じた道なんだからさ」
ま、天使はともかく、人間は全員が全員別個の考え、主義主張を持っている。それがこれだけの人数生活してんだ。
だから、当たり前だけど、それを纏め上げんのは相当難しい。でも今の現状はアタシとマリアが『正しい』と思って取った手段だ。
だから、これからはこの現状よりも、もっと、さらに、より良くしていかなきゃならない。
出来たら魔法狂いも含めて、だ。それが、天使の務め、だとアタシは思う。
アタシがそう言った時だ。
>「『手』……、あぁ、この彫刻の手、なんてすばらしいのでしょう、この絵のしなやかな手も捨てがたい!
まさかこんな本に出会えるなんて〜♪」
>「ハッ!、すみません、浮かれてました、……、早く目的の本を見つけましょう……こんな公式の場においてあるかどうかは怪しいですけど…」
「ノビもだけど、キラーも存外に読めねーよな……、ま、ちょっと変わった性癖があるくらいで性格はいいからノビよかマシか」
キラーの浮かれきった言葉に、そう独り言を呟くと、アタシはキラーの元まで歩んでく。
「確かにこんな公式の場にはねーんじゃないかな、アンタ等の目的の本は、って何が目的の本かはよくわかんねーけどさ。
ま、多分だけど、アタシ等の事とか、魔法狂いの奴等の事が詳しく書いてある本だろ?しかも裏の事がさ」
アタシは右胸の内ポケットから金色に輝く鍵の束を取りだす
「アタシはさ、嘘とか誤魔化しとかあんま好きじゃねーんだ。だからシャルル達が望むなら、見てみるかい?
禁書庫を、さ。魔法狂い達に係わる書物、呪物、アタシ等に係わる書物、宝具、それが収められてる場所さ。これはその鍵」
鈍色の輪っかに何十もの鍵が括りつけられている。アタシはそれを誇示するようにじゃらじゃらくるくると回す。
「この鍵束は決められた手順で全てを使い切らなきゃいけない鍵、その手順を知ってるのはアタシと主様。
しかもこの鍵はこれだけの数があっても片鍵でね、もう片方は主様が持ってるし、もう片方の鍵束の手順を知ってるのも主様だ。
つまり、アタシと主様の許可を取って尚且つ同行させなきゃ見られない訳だけど、アタシは許可するぜ。後は主様次第だけどな」
アタシは言いながらパッと懐から一枚の地図を取り出す。
その地図は今、この図書館の全体図を映し出し、そのある一点がピコピコと点滅している。
無論、その点滅しているのは悪魔達のリーダーたるシャルルのマーカーだ。
「これも多分、その禁書庫から取って来たモノさ。ま、これは魔法狂い達が作ったモノだけどな。
その人物を知っていれば、即座に場所を知らせてくれる優れもの。ちなみにシャルル達の場所が分かったのもコレのお陰さ。
ま、対象と話したりして詳しく知ってなきゃただの点が蠢く地図だけどな。
だからシャルル、アンタ知らないうちに魔法狂いか、もしくはそれに近しい人物と会話してんじゃないか?アキヴァか、それともヴィエナかで」
アタシはシャルルにそう告げ、キラーに向き直る。
「あー、その、なんだ。さっきはその悪かったな、気を使ってもらって」
今のアタシは少しバツが悪そうな顔をしているのだろう。
慣れない事をするからだ、まったく。
ポリポリと頬を掻くとアタシは握手の為にキラーの前に手を勢いよく差し出した。
無論、キラーの特殊な性癖を知った上での行為だ。
「いや、悪かったな、は適切じゃねーな。だから、あー、なんだ言い難いなもう。ともかく!ありがとうな、キラー!」
私の発言にたいして、キラーはいわゆるフォローというものをしてくれた。
でも、名前を間違えただけであんなにアリアが怒るなんてありえないと思う。
もともと大人しめの私なのに苛立ったり困惑したりさせられた。
だから私は机に不貞寝。もう杏仁豆腐なんていらない。
なんにもいらない。ぜんぶいらない。
アイネも勝手に本を読んでたらいいし、
アリアとキラーも仲良く握手でもしてたらいい。
教室でもみんな私から離れていくし、ここでもそうなのだ。
(きらい。みんなだいっきらい)
歯噛みして、机に突っ伏していると、お腹が痛くなってくる。
だから、そっと席を立ってシャルルに小声で
「お腹が痛いから、トイレに行ってきます」
そう言った。あとのことはシャルルに任せるのだ。
なんとかこの事態を治めることができた、もしこのまま雰囲気が悪くなったりしたら堪らない
(もう少し…仲良くしようとは考えないんですかね…)
別に私はノビさんが嫌いなわけじゃあない、ただ…相手側から協力関係を、しかもこっち側に乗り出してきたのだ
そんな度胸あることをして襲いに来るとは考えにくい、…信用を失えば面倒くさいにことになる
(………、先が思いやられます)
頭を抱えるキラーだった……
>「ふーん、おもしろそう。ねむくって字とか読むのは疲れるけど。
本の世界って夢と現実がごちゃまぜになってるから不思議ね。
ほんとうのこととウソがまじりあってるんだもの」
「まぁ、そういうのは物の書き方……ですね、まぁ面白いのであればいいんじゃないでしょうか?」
私はそういうとそばを離れる
単純に他のみんなの様子を見るためだ、そこでアイネさんとアリアさんの姿を見かける
>「そこの会議にさ『魔法狂い』の主義主張も取り入れたかった、話し合いたかった、って主様が言ってた。
甘過ぎなんだよな、うちの主様は……。でも、アタシもホントはさ、主様と同意見だったよ。
人間も、魔法狂いも、天使も、全員仲良しでやれればいいんだけどな。ま、アレだ。世の中ままならねー、ってやつさ。
でもまぁ、現状を後悔はしるわけじゃねーぜ、今のこの都市が、アタシ等の信じた道なんだからさ」
そんな話をしている二人気付いた私、そしてその発想の元であるアイネさんのところに行く
「………アイネさん、あなたこんな風に感じていませんか?」
「ゼウスは本当に敵なのか?、本当の敵はほかにいるのではないか?、と…違いますか?」
答えを待たずに私は言う
「別にあなたがどう考えようと私は構いません、ただ私は自分のやるべきことをやるだけですから…」
いったん区切り、間を開ける
「………ただ…、もしあなたが私の前に立ちはだかることになったら……、容赦はしません」
私は、かる〜く殺気を向けて言った、…正直言って私は仮にも仲間に手を向けたくはない
それも女性などと……、そんなことになりたくない、だからこの後笑って私は言う
「ま、ま、今はそれを考えるべき段階じゃないと私は思うんです。
もう少し、気持ちを落ち着かせましょう、決断を決めるのは…、まだ先だと思いますから」
と、優しい笑みを浮かべて言った
そこでアリアさんが話しかけてくる
>「確かにこんな公式の場にはねーんじゃないかな、アンタ等の目的の本は、って何が目的の本かはよくわかんねーけどさ。
ま、多分だけど、アタシ等の事とか、魔法狂いの奴等の事が詳しく書いてある本だろ?しかも裏の事がさ」
>「アタシはさ、嘘とか誤魔化しとかあんま好きじゃねーんだ。だからシャルル達が望むなら、見てみるかい?
禁書庫を、さ。魔法狂い達に係わる書物、呪物、アタシ等に係わる書物、宝具、それが収められてる場所さ。これはその鍵」
>「この鍵束は決められた手順で全てを使い切らなきゃいけない鍵、その手順を知ってるのはアタシと主様。
しかもこの鍵はこれだけの数があっても片鍵でね、もう片方は主様が持ってるし、もう片方の鍵束の手順を知ってるのも主様だ。
つまり、アタシと主様の許可を取って尚且つ同行させなきゃ見られない訳だけど、アタシは許可するぜ。後は主様次第だけどな」
>「これも多分、その禁書庫から取って来たモノさ。ま、これは魔法狂い達が作ったモノだけどな。
その人物を知っていれば、即座に場所を知らせてくれる優れもの。ちなみにシャルル達の場所が分かったのもコレのお陰さ。
ま、対象と話したりして詳しく知ってなきゃただの点が蠢く地図だけどな。
だからシャルル、アンタ知らないうちに魔法狂いか、もしくはそれに近しい人物と会話してんじゃないか?アキヴァか、それともヴィエナかで」
「………」
私は考え込む、………、確かにそんなところに行くのは魅力的だ、役に立つ可能性も多いにある、しかし…
と、考えているところでアリアさんがまた話してくる
>「あー、その、なんだ。さっきはその悪かったな、気を使ってもらって」
…?、さっき…?、と、考えているとアリアさんが手を差し伸べてくる…え…?
>「いや、悪かったな、は適切じゃねーな。だから、あー、なんだ言い難いなもう。ともかく!ありがとうな、キラー!」
「………」
しばらく硬直してしまった
「あ………、いえ、別に礼を言われるほどでもないですよ」
ようやく思考が追いついた私はそう言う、事実あんな場所で口論など聞きたくもないし信頼関係も失いたくはない
………、そして一番の問題点…それは……
「…ハァ、ハァ…」
目の前でアリアさんが差し出す『手』……、くぅっ!、舐めたい!、しかしそんな意思を押し殺して握手をする
「ハァ、ハァ……こ、これからよろしくお願いしまう…」
しまった、噛んでしまった、…、が、我慢だ、ここであの衝動を出してしまえば信頼関係はパーになってしまう!、耐えろ、耐えるんだ私!
と、そこでノビ君がシャルルに話しかけている
>「お腹が痛いから、トイレに行ってきます」
そんな声が聞こえた私は
「もし禁書庫に行く際に誰かを置いていくのもひどいので誰かがいなかった場合私が残ります」
そういうと衝動を無理やり抑え込み。トイレの近くに立つ
(………、やっぱり………舐めておきたかったな………)
皆は膨大な量の本にそれなりに興味を示しているようだ。
>「ふーん、おもしろそう。ねむくって字とか読むのは疲れるけど。
本の世界って夢と現実がごちゃまぜになってるから不思議ね。
ほんとうのこととウソがまじりあってるんだもの」
「そうよ。
いかにも尤もらしいお堅い本が嘘で塗り固められている事もあれば
荒唐無稽な夢物語の中にも一片の真実が隠されていたりもするの。
不思議でしょ?」
>「『手』……、あぁ、この彫刻の手、なんてすばらしいのでしょう、この絵のしなやかな手も捨てがたい!
まさかこんな本に出会えるなんて〜♪」
手の本をみているキラーさんはとても嬉しそう。
まるでアタシが様々なチーズを前にしている時みたいね。
>「ハッ!、すみません、浮かれてました、……、早く目的の本を見つけましょう……こんな公式の場においてあるかどうかは怪しいですけど…」
「いいのよ。デビチルならみんなそうなんだから」
一方アイネは正統派路線で、この街の行政等の本を調べていた。
そんなアイネに、キラーさんが物騒な事を言い始めた。
>「………アイネさん、あなたこんな風に感じていませんか?」
>「ゼウスは本当に敵なのか?、本当の敵はほかにいるのではないか?、と…違いますか?」
>「別にあなたがどう考えようと私は構いません、ただ私は自分のやるべきことをやるだけですから…」
>「………ただ…、もしあなたが私の前に立ちはだかることになったら……、容赦はしません」
「仮にゼウスが本当の敵ではないとしても…そんな事にはならないんじゃないかな。
だってゼウスの圧政があるべき姿とはどうしても思えないしアイネだってきっとそう。
解放されたアキヴァやヴィエナの人々の嬉しそうな顔といったら……!」
それを見てアリアが声をかける。
>「難しそうな顔して読んでんなアイネ。頭の良さそうなアンタの事だ、その文書、理解できねーでその顔って訳もねーだろ。
そんなに人間側の主張を取り入れるのが珍しいこったねぇ?ま、今までの都市を見てたらそー思うわな」
そして話は一気に核心へ――
>「アタシはさ、嘘とか誤魔化しとかあんま好きじゃねーんだ。だからシャルル達が望むなら、見てみるかい?
禁書庫を、さ。魔法狂い達に係わる書物、呪物、アタシ等に係わる書物、宝具、それが収められてる場所さ。これはその鍵」
アリアはこの街の”主様”――おそらくホストの許可が出れば、禁書庫を見せてもいいと言った。
そして彼女は、マーカーが光る不思議な地図を示す。どう見ても魔法のアイテムにしか見えない。
「それって……!」
>「これも多分、その禁書庫から取って来たモノさ。ま、これは魔法狂い達が作ったモノだけどな。
その人物を知っていれば、即座に場所を知らせてくれる優れもの。ちなみにシャルル達の場所が分かったのもコレのお陰さ。
ま、対象と話したりして詳しく知ってなきゃただの点が蠢く地図だけどな。
だからシャルル、アンタ知らないうちに魔法狂いか、もしくはそれに近しい人物と会話してんじゃないか?アキヴァか、それともヴィエナかで」
「すでに魔法狂いかその仲間に会ってるですって……!?」
今までの道中で出会った人々を思い浮かべる。
ただの人間ではなく不思議な魔法のような力を持つ人々。それに該当するとしたアバターしか考えられない。
ミルヒー、ピュグマリオン……それから、リリスさんもだ。
でも魔法狂いの魔法は天使には効かないと言っていた。
しかしアバターは天使やデビチルと同じ情報体に属するから天使に攻撃を加える事が出来る……。
そうじゃないとすれば他に考えられる人は――まさか、イトさん……!?
アタシが頭を捻っている間に、アリアとキラーさんが打ち解けつつあった。
>「あー、その、なんだ。さっきはその悪かったな、気を使ってもらって」
>「いや、悪かったな、は適切じゃねーな。だから、あー、なんだ言い難いなもう。ともかく!ありがとうな、キラー!」
>「ハァ、ハァ……こ、これからよろしくお願いしまう…」
一方、ノビーはその様子を見て不機嫌な様子。
>「お腹が痛いから、トイレに行ってきます」
「大丈夫……?」
>「もし禁書庫に行く際に誰かを置いていくのもひどいので誰かがいなかった場合私が残ります」
アタシも付き添うように見せて、ノビーに付いていく。
ところでデビチルは情報体だ。
現実世界に転生してしばらくしてふと気づいたのだが、トイレに行く必要がないのである。
でも精神的な要因でお腹が痛くなることは十分に考えられる。
キラーさんに外で待ってもらって、女子トイレ内まで一緒に入って行ってノビーに言い聞かせた。
「確かにあの怒りっぷりは普通じゃないとも思うけど、人も天使も色々過去があるものよ。
名前を間違えられるのを特に嫌うようになった理由が何かあるんじゃないかな。
それにキラーさんはフォローしてくれたでしょ?
アイネもとってもいい子だからまだあなたが来たばかりで戸惑ってるだけですぐに仲良くなれるよ。
アタシ達は現実世界に転生できた時点で選び抜かれてるのよ。
きっとあなたの力が役に立つときがくるわ」
元気が出るGABA入りのチョコレートを渡し、励ますようにぽんっと軽く肩を叩く。
「アタシはアリアから話を聞いておくからノビーをお願いできる?」
キラーさんにノビーを頼み、アリアやアイネの元へ戻る。
ノビーの事が気にならないわけではなかったが、キラーさんが付き添ってくれるというのもあるし
禁書庫を前に久々に研究者としての探究心が疼き、抑えきれずにいたのだ。
「ごめん、お待たせしました。金書庫だけど……アタシは見たい。
アリア、当主の天使様のところへ案内してくれるかしら?」
>「難しそうな顔して読んでんなアイネ。頭の良さそうなアンタの事だ、その文書、理解できねーでその顔って訳もねーだろ。
そんなに人間側の主張を取り入れるのが珍しいこったねぇ?ま、今までの都市を見てたらそー思うわな」
「よその都市とは大違いですよ。正直驚いたですよ。」
素直に感想を述べる。本当にここの行政はよく出来ているのだ。
ただ少数派の魔法狂いたちを放逐したから出来たというわけではない。
真に人間の幸せを願っていなければ、こんな行政は出来まい。
ここにはゼウスの作るディストピアではない、本当の楽園があると確信できた。
この街の天使たちなら信用しても構わない、そう感じた。
そのとき、キラーがこちらに近づいてきた。
議事録を読んで不可解な顔をする私に思うところがあったのだろう。声を掛けてくる。
>「………アイネさん、あなたこんな風に感じていませんか?」
>「ゼウスは本当に敵なのか?、本当の敵はほかにいるのではないか?、と…違いますか?」
>「別にあなたがどう考えようと私は構いません、ただ私は自分のやるべきことをやるだけですから…」
>「………ただ…、もしあなたが私の前に立ちはだかることになったら……、容赦はしません」
「心配は要らないですよ。私は仲間を裏切るような真似はしないですよ」
キラーの放つ殺気に対し、私は笑顔で言葉を返す。
>「ま、ま、今はそれを考えるべき段階じゃないと私は思うんです。
もう少し、気持ちを落ち着かせましょう、決断を決めるのは…、まだ先だと思いますから」
「確かにそうですよ。ゼウスが今後どう動くかもわからないですよ」
そうだ、この幸せな街は砂上の城とも限らないのだ。
ひとたびゼウスが動けば、崩れてしまうかもしれない平和。
私たちが考えるべきは、今後のこの街を守ることだろう。
もしゼウスが動けばこの治安は崩れてしまう。しかし開放すると言うのも危険だ。
開放された街は、すなわちゼウスに敵対すると言うことだ。
これまでどおりの平和な街でいられるか。不安なところである。
>「仮にゼウスが本当の敵ではないとしても…そんな事にはならないんじゃないかな。
だってゼウスの圧政があるべき姿とはどうしても思えないしアイネだってきっとそう。
解放されたアキヴァやヴィエナの人々の嬉しそうな顔といったら……!」
シャルルが会話に加わる。彼女の言うことも道理である。
少なくとも、これまで私たちが行ってきた解放運動は間違ってはいなかった。
この街では、これまでの道理が通じない、ただそれだけの話だ。
私はボトルの水をごくごくと飲む。少し冷静にならなければならないだろう。
>「アタシはさ、嘘とか誤魔化しとかあんま好きじゃねーんだ。だからシャルル達が望むなら、見てみるかい?
禁書庫を、さ。魔法狂い達に係わる書物、呪物、アタシ等に係わる書物、宝具、それが収められてる場所さ。これはその鍵」
この街の裏の顔、魔法狂いたちの作ったアイテム。確かに興味のあるところだ。
アリアは言葉を続けながら一枚の地図を取り出す。
一見するとこの図書館の地図にしか見えない。しかし、その地図は今私たちが居る一点を示していた。
>「これも多分、その禁書庫から取って来たモノさ。ま、これは魔法狂い達が作ったモノだけどな。
その人物を知っていれば、即座に場所を知らせてくれる優れもの。ちなみにシャルル達の場所が分かったのもコレのお陰さ。
ま、対象と話したりして詳しく知ってなきゃただの点が蠢く地図だけどな。
だからシャルル、アンタ知らないうちに魔法狂いか、もしくはそれに近しい人物と会話してんじゃないか?アキヴァか、それともヴィエナかで」
知らないうちに出会っている…?果たしてそんな人物が居ただろうか。
私もこのパーティーに最初から居たわけではない。
そんな私に思い当たるのは、ヴィエナに行く途中で出会ったイトさんだけだ。
どこか不思議な雰囲気を持った彼女…確証はないが、そうかもしれないとぼんやり思った。
そんなことを考えているうちに、アリアとキラーが会話をしている様子だ。
>「いや、悪かったな、は適切じゃねーな。だから、あー、なんだ言い難いなもう。ともかく!ありがとうな、キラー!」
驚いたことに、アリアがキラーに対し手を差し出している。
初めて彼に会ったときの一幕が頭をよぎる。
このままでは、彼の衝動が発動してアリアの手を舐めてしまう!
慌てて止めに入ろうとした私だった。が、
>「ハァ、ハァ……こ、これからよろしくお願いしまう…」
キラーは手を舐めようとしなかった。
表情から察するに、どうにか衝動に打ち勝ったらしい。
偉いぞキラー、ですよ。私は心の中でそう呟いた。
ここで手を舐めて一悶着あったら面倒なことになっていただろう。
彼の衝動は今後何かと問題を引き起こす可能性がある。
今後は、周りが気を払ってサポートしていく必要があるだろう。
そう思ったとき、ノビがシャルルに話しかけているのが目に留まった。
>「お腹が痛いから、トイレに行ってきます」
体調でも悪いのだろうか。心配である。
様子を見に行こうかとも思ったが、先にシャルルが向かっていった。
彼女に任せておけば安心だろう。私はアリアと共に待つ事にした。
「ところでアリア。先ほど話していた主様、とはどんな人ですよ?
優しい方なのは分かったけど、アリアはずいぶんと信用しているなと思ってですよ」
何気なく問いかける。別に他意はない。
ただ、どうせこのまま会いに行くなら、先に話を聞いておくのも悪くないと思ったのである。
>「ごめん、お待たせしました。禁書庫だけど……アタシは見たい。
アリア、当主の天使様のところへ案内してくれるかしら?」
「私もその禁書庫とやらをぜひ見てみたいですよ
それに、その主様というの方とも話してみたいですよ」
>「もし禁書庫に行く際に誰かを置いていくのもひどいので誰かがいなかった場合私が残ります」
「いいよ。むりしなくって。余計なお世話しないで」
私は呆れたような顔してそっぽをむく。
キラーは明らかに、アリアにたいして何かの気持ちをおさえている。
そんなキラーの気持ちを邪魔するほど、私は野暮ではないのだ。
だから、わたしはトイレに入って鏡をみた。
映っているのは、小さく固くなってしまったような顔。
じぶんでも、こどもみたいな顔をしてるって思いながら
私はお腹をおさえて痛みがおさまるのを待っていた。
>「確かにあの怒りっぷりは普通じゃないとも思うけど、人も天使も色々過去があるものよ。
名前を間違えられるのを特に嫌うようになった理由が何かあるんじゃないかな。
それにキラーさんはフォローしてくれたでしょ?
アイネもとってもいい子だからまだあなたが来たばかりで戸惑ってるだけですぐに仲良くなれるよ。
アタシ達は現実世界に転生できた時点で選び抜かれてるのよ。
きっとあなたの力が役に立つときがくるわ」
「……わたし、選ばれたくなんかなかった。
わざわざ転生させられてこんな嫌な思いをするなんて信じられないよ。
もう前に住んでたところに帰りたい。こんなところなんていや」
だだをこねる私に、シャルルは励ますようにチョコをくれた。
でも私は白いものしか食べられない。だから
「……これ、あげる」
トイレから出て、キラーにチョコを差し出した。
「……さっきは、ありがと」
キラーの目を見れずに、私は言った。心臓がどきどきした。
こめかみがじんじんとして意識が白んだ。
「あなたは、なんのためにたたかうの?わたしにはそれがわからないの。
それなのにみんな狂ってるみたいに何かをしようとしてる。
それって私のほうが狂ってるの?だれとも争いごとなんてしないで
ねむっていたいの。これってわたしが欠陥品だからなの?」
それから、わたしはシャルルについていって話を聞くことにした。
私と神様、どっちがおかしいものなのか。それを知りたいって思ったから。
腹を壊したノビ、ノビの案内の為に残ると言ったキラー、そしてノビの心配をしてトイレまで付いてったシャルル。
それぞれ散って行ったが結局は禁書庫へ行くことへ決定したらしい。
……にしても、なんだかんだで、仲間思いの連中が多いよなー。
最初は、悪魔なんて、って思ってたけど、これなら安心してマリアに会わせられそうだ。
と、考えていた時だ。
>「ところでアリア。先ほど話していた主様、とはどんな人ですよ?
優しい方なのは分かったけど、アリアはずいぶんと信用しているなと思ってですよ」
アタシと2人でシャルルの帰りを待っていたアイネが話しかけてくる。
「あぁ、主様はアタシの大切な恩人さ。主様がいなきゃ今のアタシはいねーよ。
それと主様はどう思ってるかわかんねーけど、アタシは――」
>「ごめん、お待たせしました。禁書庫だけど……アタシは見たい。
アリア、当主の天使様のところへ案内してくれるかしら?」
>「私もその禁書庫とやらをぜひ見てみたいですよ
それに、その主様というの方とも話してみたいですよ」
そこまで言いかけたタイミングでシャルルが戻って来た。
言いかけた続きが多少気になる素振りを見せながらも、アイネもシャルルに同調する。
「そか、まー、話し合いはもともとこれは主様からの申し出だからな、受けてくれてこっちが礼を言うよありがとう。
それで禁書庫なんだけど、中央の大教会の地下、危険管理指定な場所にある。ま、『禁書庫』だしな」
アタシはそこまで言うと、少し気まずそうな顔をして頬を掻く。
「それで、だ。散々見せる見せる言って申し訳ないが、先に主様と話し合いをしてもらいたい。
さっきも言ったけどもう一つの片鍵の手順が分かるのは主様だけだ。アタシ1人の一存じゃ入れない。そこは理解してほしい」
それと、と付け足して黒服の懐をもぞもぞと漁る。
地図といい、鍵束といい、なんとも収容性に優れた内ポケットだ。
「んー、お、あったあった。ほれ、シャルル」
そう言ってアタシが投げたのは使い古された手のひらに収まる布袋だ。
「もう夕方だ。夜になると地下に逃げた魔法狂いの動きも活発になる。
夜に外に出るのは危険ってこった。一応夜間の警備強化と夜21時以降の一部の人間以外は外出禁止令は出してる。
ま、それはいい。アタシが言いたいのは、多分、主様の許可が取れても今日は禁書庫は見られない。
大教会の地下の殆どを占める禁書庫だ。ざっと雑に見ても3、4日は余裕で潰れるぜ。そんな長い時間地下にいたんじゃ気分も参っちまう」
途端にアタシは顔に悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「だから、役に立つのがソレさ。アタシと魔法狂いの友達との共同開発!中身の減らない金貨袋〜!」
胸を張り、ドヤ顔で昔見たアニメの某青狸の真似をする。
「こういう街は珍しいんだろ?だったら地下の調べものがてら、地下の空気に詰ったら東区で好きなだけショッピングでもするといい。
あー、でも、あんまりの常識外れな多用は止めてくれよ。経済バランス壊しちまうし、何よりアタシが主様に怒られちまう」
ケラケラ笑って、シャルル達に告げる。まあ、この2人ならその心配も無用だろう。
「んじゃ、行こっか。あー、それと、大教会の天使は街の天使やアタシみたいにフランクじゃないから気を付けろよ。
主様は別だけど他の奴等は徹底的に冷静でなんてーか、融通の利かないお堅い奴等ばっかりだ。
あー、そいや、昔なんかの本で読んだことあんな……あ、そうだ『お役所体質』、そういう表現がよく合うぜ」
説明してて、思った。
あー……やべ、マリアにゃ会いたいけどあんまり大教会行きたくねー。
―大教会ホール1F受付―
そんなこんなで大教会に付いた途端にアタシは受付の修道服の天使に呼び出される。
「アリア様、先日の北区からのクレームの処理が2件。東区からのクレームの4件の対応書類が未だ提出されてませんが」
ほら、早速来たよ。
「いや、口頭で言ったろーがよ。北区は学園でのいじめ問題、首謀者4名は誠心誠意の謝罪の上で1週間の人力発電所、労働賃金は慰謝料として被害者へ。
そんでそれを2か月放置した馬鹿教師は2か月停職、その間の仕事は人力発電所。労働賃金の30%は同じく被害者に。
んで心を入れ替えたら教師復職で、半年間の間、給料の30%をカット、その30%は学園の清掃費用に回せ」
修道服の天使はアタシの言葉を一言一句聞き漏らさず、羽ペンで書類に書き留めてく。
「わかりました、続いて東区からのクレームですが……」
少し責める様な視線に、思わず目を逸らす。
「チッ、わかってんよ。うちの部下がやり過ぎたって話だろ?だがあれはカツアゲと暴行を目撃したからの事だ。
事情はもう部下から聞いた。それとうちの部下と目撃者の証言はとってある。少し過剰かもしれねーが、正当な判断だ。
部下を処罰する理由はねーよ。むしろ、路地裏で女をレイプしようとした奴と弱い子どもから何度も金巻き上げよーとする奴に手心なんて加えるかよ」
アタシの逸らした視線は、もう既に修道服の天使と向き合っている。
確かに全治2週間の怪我を負わせたのは少し過剰だったかもしれない。しかし、アタシの部下は間違ってない。
「つまりやり過ぎではないと?」
「そのとーりだ。アンタ等も少しはな、加害者の通報を鵜呑みにすんじゃなくてそっちで考えてくれ。
言われたとーりやるばっかが仕事じゃねーだろ。ちったぁ頭使って考えろ」
そう言うと、アタシはこの話は打ち切りだ、と言わんばかりに両手を振る。
「主様が招いた客人を連れてきた。主様は?」
「……2階の応接室にてお待ちしております」
ぶっきらぼうに答える天使に、思わず溜め息を吐き、シャルル達に向き直る。
「だとさ、とっとと行こーぜ」
アタシ達は受付を通り長い階段を上がると、広い廊下を歩いて行く。
夕日に染まったステンドグラスが美しく廊下の絨毯を彩っている。
廊下にはゼウス神の彫像やアンティークが高そうな花瓶。壁には宗教画が等間隔で飾られていた。
「人間と天使が一緒に過ごして、人間側の意見を譲歩するとさっきみたいな弊害も少なからず出て来る。
ハハッ、ま、そういうことする人間は少ないけどな。でも、0には出来ない。難しーもんだよな」
長い廊下を歩きながらアタシは独り言のように呟く。
そうして、応接室の巨大な扉の前にたどり着いた。
「んじゃ、主様とご対面と行きますか。そうそう、あんま心配してねーけど、一応注意事項。
うちの主様はアタシみたいに短気じゃねーし、大抵の無礼は大らかに許してくれる。
だが、ゼウス様を侮辱する発言や行動はくれぐれも止めた方がいい。マジで、な」
失礼します。シャルル達に忠告した後、アタシはそう言って扉を開く。
そして広い円卓の一番後ろの席で出迎えるのは数時間ぶりに会うマリアの姿。
「お帰りなさい、お疲れ様〜、アリアちゃん。
そして、こんにちは……あら〜?時間的にはもう、こんばんは、かしら?
まあ〜、それはともかく初めまして〜、悪魔さん達。
私はマリア・マーガレット。この都市のホストを務めさせていただいてます。この街は貴方達を歓迎しますよ」
そう言ってマリアは、いつものように、にっこり、と、微笑みを浮かべた。
>「だから、役に立つのがソレさ。アタシと魔法狂いの友達との共同開発!中身の減らない金貨袋〜!」
>「こういう街は珍しいんだろ?だったら地下の調べものがてら、地下の空気に詰ったら東区で好きなだけショッピングでもするといい。
あー、でも、あんまりの常識外れな多用は止めてくれよ。経済バランス壊しちまうし、何よりアタシが主様に怒られちまう」
「凄い……! ありがとう、常識の範囲内で使わせてもらうわね」
アタシ達の事を信用してくれているのね。ん? 今魔法狂いの友達って言った……?
「へー、魔法狂いの友達もいるの? 本当に交友関係が広いのね」
そしてアタシ達はガチガチのお役所体質の大教会に案内された。
ゼウスが信仰のみならず政治まで全てを支配する今の世の中では大教会とはいうのは実質教会兼役所となるので無理も無い事かもしれない。
お役所体質の天使とのやり取りの末に、ようやくこの都市のホストであるマリアさんの元へたどり着く。
>「お帰りなさい、お疲れ様〜、アリアちゃん。
そして、こんにちは……あら〜?時間的にはもう、こんばんは、かしら?
まあ〜、それはともかく初めまして〜、悪魔さん達。
私はマリア・マーガレット。この都市のホストを務めさせていただいてます。この街は貴方達を歓迎しますよ」
いかにもこの街のホストらしく、物腰柔らかで器が大きそうな方だ。
アタシは恭しく礼をして自己紹介をする。口調も相手に釣られて自然と丁寧になる。
「始めまして。わたくしはこのチームのリーダーのシャルル・ロッテです。
この度は画期的な調停の席に招いて戴き歓迎です」
仲間達にも礼をするように視線で促し、本題に入る。
「単刀直入に言いますと、是非とも禁書庫を見せて戴きたいのです」
結論から先に言っておいて、経緯を続ける。
「話し合いに先だって街の様子を見させて戴きましたが
人と天使が共存しているのは他の街には見られないのでとても素晴らしく感激しました。
アタシ達の目的は飽くまでも人間の幸福。
全世界の人間達がこのように幸せに生きられるようになれば必ずしも貴女方と対立する必要は無いと思うのです。
どのような経緯でこの街がこのようになったのか探って他の街にも応用できれば……と思うのですが
そのためにも是非とも禁書庫を見てみたいのです」
>「いいよ。むりしなくって。余計なお世話しないで」
なんとなくノビ君の考えてることは予想はつく…、だったらむしろ止めてくれ!!
>「アタシはアリアから話を聞いておくからノビーをお願いできる?」
まさか頼みごとをされるのは予想だった…、という顔をしているんだろうな、私は
「えぇ、もちろんですよ」
と、私は柔らかな態度で言う、そして少しするとノビ君が戻ってくる、とたんに私に何かを差し出してくる
それはチョコだった、受け取るとノビ君が予想外なことを言ってくる
>「……さっきは、ありがと」
目を合わせないでそう言ってくれた…、照れてるのだろうか?、それ以上に私は意外と感じた、そしてさらに飛んでくる言葉に驚いた
>「あなたは、なんのためにたたかうの?わたしにはそれがわからないの。
それなのにみんな狂ってるみたいに何かをしようとしてる。
それって私のほうが狂ってるの?だれとも争いごとなんてしないで
ねむっていたいの。これってわたしが欠陥品だからなの?」
「…、私は何のために戦う…か…、もちろん、私の為ですよ」
と、私は笑いながら言う
「人は…、いえ、意識あるものはすべて狂っているのです、誰もが欠陥をもちます。
しかしだからこそ意識ある、『生』あるものは美しい…、成し遂げようとする、狂ってもなおすること…、それは生きることを成し遂げようとするのじゃないですか?
私は少なくともそう考えています…、欠陥のない存在はいないのですよ…私自身、欠陥は数多くあるのですから…」
と、笑って言う
「さ、行きましょう、みなさんから遅れてしまう」
私は…、もらったチョコレートを口に入れる…、苦くて、甘かった
そしてアリアさんの後に続く…、アリアさんへの報告を盗み聞きした私は、なぜか胸がモヤモヤした
>「お帰りなさい、お疲れ様〜、アリアちゃん。
そして、こんにちは……あら〜?時間的にはもう、こんばんは、かしら?
まあ〜、それはともかく初めまして〜、悪魔さん達。
私はマリア・マーガレット。この都市のホストを務めさせていただいてます。この街は貴方達を歓迎しますよ」
「初めまして、私の名前はキラー・ヨカゲシ。
好きに読んでもらってもかまいません…、私たちをこのような場所に歓迎してくださり、誠にありがとうございます、光栄です」
と、片膝をつき、頭を下げて言う、…言葉が間違ってはいないか気になった…
猫バスに乗ってほんの少し、私たちは大教会へとたどり着いた。
時刻はもう夕刻、教会にかかる西日がまぶしく見えた。
教会に入るとすぐ、黒服の天使が話しかけてくる。
話はどうやらアリアにあるようだった。私たちはそれを待ちながら聞くともなしに聞いていた。
話の内容は、この街の警察組織である天使たちの事務処理のようだ。
アリアは矢継ぎ早に飛んでくる質問に対し、流暢に答えている。
その応答は驚くほど適切で、とても人間味のある答えだった。
これらの質問を処理できなかった天使たちのほうが、おそらく天使としては普通なのだろう。
天使たちはあくまでゼウスの末端個体、彼らは機械的に人間を管理するのが普通だ。
しかし天使の上位個体は、より人間に近い感性と独立した思考回路を持つ。
この場合、上位個体であるアリアたち一部の天使の考えが、この街を動かしているのであろう。
ゼウスのやり方は、人間を機械的に管理し保護するというのが一般的だ。
人間を家畜のように管理された街では犯罪も起こりえず、交通事故すら起こらない。
これで、表面的には「平和で安全な街」が形成される。ディストピアの出来上がりである。
しかしアリアたちは、人間の尊厳を遵守し自主性を許している。
なぜ彼女らがそんな思考を持つに至ったのだろう。興味のあるところだった。
…と、などと考えているうちにアリアの話は終わったようだった。
>「主様が招いた客人を連れてきた。主様は?」
>「……2階の応接室にてお待ちしております」
>「だとさ、とっとと行こーぜ」
促されるまま、私たちは長い廊下を歩く。
>「人間と天使が一緒に過ごして、人間側の意見を譲歩するとさっきみたいな弊害も少なからず出て来る。
ハハッ、ま、そういうことする人間は少ないけどな。でも、0には出来ない。難しーもんだよな」
「しかし、あなたたちは人間たちに自由意志を許しているですよ。
今まで見てきた街では、人間は犯罪を犯す前に檻に閉じ込められていたですよ」
私はそう言葉を返す。
ゼウスの機械的な処理ではない、温かな血の通った処罰。
それが与えられているだけでも、大きな違いである。
やがて私たちは大きな扉の前にたどり着いた。
ここが応接室らしい。扉は開き、私たちは中へと通される。
中にあるのは巨大な円卓。その一番奥に、一人の女性が座っているのが見えた。
>「お帰りなさい、お疲れ様〜、アリアちゃん。
そして、こんにちは……あら〜?時間的にはもう、こんばんは、かしら?
まあ〜、それはともかく初めまして〜、悪魔さん達。
私はマリア・マーガレット。この都市のホストを務めさせていただいてます。この街は貴方達を歓迎しますよ」
「お招きに預かり光栄ですよ、マリア。私はアイネ・リヴァイアスと申すですよ」
なるほど、と思った。
彼女のようなおおらかな女性がホストであれば、あるいはこんな街が生まれるのかもしれない。
私たちは促されるままに部屋へ通され、席へとつく。
応接間に円卓とは、これもまた彼女たちの精神の表れだろうか、とも思う。
>「単刀直入に言いますと、是非とも禁書庫を見せて戴きたいのです」
シャルルがそう切り出す。彼女らしいやり口だ。
確かに禁書庫は気になるところだ。あるいは、この街の秘密が眠っているのかもしれない。
しかし私は、禁書庫よりもホストであるマリアそのものに興味があった。
街を作り、動かすのは人である。
この街の最高権力者である彼女がどんな人物なのか、そこが気になっていた。
なので私は、禁書庫の話が終わったところで。
「マリア。あなたはどうしてこの街をこんな風に作ろうと思ったですよ?
この街が他の街と大きく違うのはあなたも承知のはず。
なぜ人間を管理せず自由にさせているのか、その考えが聞きたいですよ」
ゼウスの侮辱にならないよう言葉を選びながら、そう質問した。
まぁ〜、本当に……なんというか、普通の人間さんっぽいですね〜、悪魔さん達は。
しかし報告書によるとこれで不思議な御業を使うと言いますし〜、でも良い人達そうですねぇ。
これが私の悪魔さん達を間近で見た第一印象でした。
>「始めまして。わたくしはこのチームのリーダーのシャルル・ロッテです。
この度は画期的な調停の席に招いて戴き歓迎です」
>「初めまして、私の名前はキラー・ヨカゲシ。
好きに読んでもらってもかまいません…、私たちをこのような場所に歓迎してくださり、誠にありがとうございます、光栄です」
>「お招きに預かり光栄ですよ、マリア。私はアイネ・リヴァイアスと申すですよ」
「あらあらまあまあ、これはこれはご丁寧に。
悪魔さん達にはわざわざご足労頂いて……本来ならこちらからお出向きしなければいけない所ですのに。
あ〜、そんなキラーさん頭を上げてください。そんな畏まった態度は無しでお願いします。
……でもやっぱり、私の目に間違いはありませんでしたね〜。悪魔さん達は良い人達ですね〜」
ね、だから言ったでしょうアリアちゃん?私はアリアちゃんに得意気な視線を送る。
悪魔さん達の前だからでしょう。アリアちゃんは、『はいはいそのとーりでした』と、うんざりしたような顔をする。
ついでに付け足すなら、『だからそんな得意気な視線を今アタシに送ってくんな』という声が聞こえてきそうな気がする。
人前では私達は完璧な主従関係に徹している。即ち、私が所謂『主様』でアリアちゃんが『従者』という設定だ。
アリアちゃん曰く、『一応の上下はしっかりしといた方がいーだろ、色んな意味で』だそうですけど……。どういう意味でしょう?
>「単刀直入に言いますと、是非とも禁書庫を見せて戴きたいのです」
「あ〜、禁書庫ですかぁ、それはもう……」
悪魔さん達のリーダー、シャルルさんの言葉に私は一旦言葉を止める。
……って、禁書庫?禁書庫ってあの禁書庫ですか!?
あれ〜?ちょっとアリアちゃん?あれ?なんで悪魔さん達が禁書庫の存在を?というかもしかして、言いました?
アリアちゃんをガン見すると、露骨に視線を逸らす。
あ、言いましたね。絶対にアレ、アリアちゃん禁書庫の存在をバラしましたね?
いや〜、アリアちゃんの性格分かってますけど〜……それだけ悪魔さん達が信用できるって事でしょうけれども。
>「話し合いに先だって街の様子を見させて戴きましたが(中略)そのためにも是非とも禁書庫を見てみたいのです」
「や〜、それは私達の街を褒めてくださって大変光栄なのですが〜……禁書庫ですかぁ……」
いやぁ〜、私だって分かってるんですよ〜?下手に隠すのが必ずしも良い結果を生まないって事は。
でも、なんでもかんでも見せてしまうのが最良の結果を生むとは限らないのではな〜、とも思うのです。
「ん〜、シャルルさん。大変申し訳ないのですが〜……一晩、私に考える時間をいただけませんか?
アリアちゃんが貴方達を信用しているのは分かりました、でも〜、禁書庫はそう気軽に見せられる場所ではないんですよ〜。
呪物や取扱い注意の本や宝具がわんさか保管してある危険な場所ですし、ですから大変申し訳ないのですが簡単に許可を出すわけには……」
そう言って私はペコリと頭を下げる。
「ですので、ごめんなさい。一晩時間をくれると嬉しいです」
>「マリア。あなたはどうしてこの街をこんな風に作ろうと思ったですよ?
この街が他の街と大きく違うのはあなたも承知のはず。
なぜ人間を管理せず自由にさせているのか、その考えが聞きたいですよ」
と、一時会話が途切れたタイミングでアイネさんから質問が飛んできた。
私はそのままの態勢でアイネさんの方向に視線を向ける。
「えと、ん〜……確かに私達の街は確かに他の街と色々と大きく違いますね〜。
アイネさん、私達の、天使の目的は『人間さん達の悠久に続く平和の管理』、と言うのは聞きましたか?
ただ、私達がするのは『悠久の平和』の管理であって、人間さん達の管理ではありません。
もともと此処は人の世ですからね〜、私達がなんでもかんでもがんじがらめにしては人という種は遠からず途絶えてしまいます。
ですから〜、出来るだけ人間さん達の自主性、みたいのを取り入れているんです〜……と言ってもまだ問題は山積みですけど……」
アハハ、と気まずそうに私は笑う。
ん〜、少し暗くなってしまいましたね〜……いけませんいけません!
私はゴホン、と咳払いをし、声の調子をガラリと変える。
「まあ、難しいお話はここまでにしましょう〜。今日は悪魔さん達も色々とお疲れでしょう。
だからまずはお食事にしましょう!食事は人も天使も、そしてきっと悪魔さん達も幸せにします!
何か食べたい物や飲みたい物はありますか?出来る限り、リクエストにはお答えしますよ〜。
なんでも言ってください!今日は悪魔さん達の歓迎会、みたいなものですから!」
そういって私は出来る限りの微笑みを浮かべた。
>「ん〜、シャルルさん。大変申し訳ないのですが〜……一晩、私に考える時間をいただけませんか?
アリアちゃんが貴方達を信用しているのは分かりました、でも〜、禁書庫はそう気軽に見せられる場所ではないんですよ〜。
呪物や取扱い注意の本や宝具がわんさか保管してある危険な場所ですし、ですから大変申し訳ないのですが簡単に許可を出すわけには……」
>「ですので、ごめんなさい。一晩時間をくれると嬉しいです」
「もちろんです。良い答えを期待しております」
>「えと、ん〜……確かに私達の街は確かに他の街と色々と大きく違いますね〜。
アイネさん、私達の、天使の目的は『人間さん達の悠久に続く平和の管理』、と言うのは聞きましたか?
ただ、私達がするのは『悠久の平和』の管理であって、人間さん達の管理ではありません。
もともと此処は人の世ですからね〜、私達がなんでもかんでもがんじがらめにしては人という種は遠からず途絶えてしまいます。
ですから〜、出来るだけ人間さん達の自主性、みたいのを取り入れているんです〜……と言ってもまだ問題は山積みですけど……」
管理の方法はその街に配備された天使の自主性に任されているということだろうか。
否、天使はゼウスの端末、と聞いている。
この街にはゼウスにとって、人間達を力で抑えつけるよりも懐柔したほうがよい特殊事情があるのではないだろうか。
思い当たる事と言えば結局は魔法狂いに行きつくわけだが。
>「まあ、難しいお話はここまでにしましょう〜。今日は悪魔さん達も色々とお疲れでしょう。
だからまずはお食事にしましょう!食事は人も天使も、そしてきっと悪魔さん達も幸せにします!
何か食べたい物や飲みたい物はありますか?出来る限り、リクエストにはお答えしますよ〜。
なんでも言ってください!今日は悪魔さん達の歓迎会、みたいなものですから!」
アタシは皆の好物を思い浮かべた。
アイネは美味しいお茶、ノビはうどんをわざわざ汁から出して食べていた。
キラーさんは……手?
「お気遣いありがとうございます。デビチルには個性的な嗜好がありまして。
ではお言葉に甘えて……各種お茶、何も味がついていないうどん
手羽先、それからチーズの盛り合わせを用意していただけると嬉しく思います」
手が好きだからといって手羽先が好きかどうかは微妙なところではあるが。
>「あらあらまあまあ、これはこれはご丁寧に。
悪魔さん達にはわざわざご足労頂いて……本来ならこちらからお出向きしなければいけない所ですのに。
あ〜、そんなキラーさん頭を上げてください。そんな畏まった態度は無しでお願いします。
……でもやっぱり、私の目に間違いはありませんでしたね〜。悪魔さん達は良い人達ですね〜」
「ではお言葉に甘えて」
そういうと立ち上がる
>
「まあ、難しいお話はここまでにしましょう〜。今日は悪魔さん達も色々とお疲れでしょう。
だからまずはお食事にしましょう!食事は人も天使も、そしてきっと悪魔さん達も幸せにします!
何か食べたい物や飲みたい物はありますか?出来る限り、リクエストにはお答えしますよ〜。
なんでも言ってください!今日は悪魔さん達の歓迎会、みたいなものですから!」
>「お気遣いありがとうございます。デビチルには個性的な嗜好がありまして。
ではお言葉に甘えて……各種お茶、何も味がついていないうどん
手羽先、それからチーズの盛り合わせを用意していただけると嬉しく思います」
(…なぜに手羽先を選んだ!!?)
「あ、ではローストチキンを…それと白米をお願いします」
と、私は頼む
禁書庫の話はどうやら明朝に持ち越されたらしい。無理もない話だ。
セキュリティの厳重さから見ても、そうやすやすと人様に公開出来る代物ではないのだろう。
なんだか無理な相談を持ちかけたようになってしまって、少々申し訳なく思えてきた。
>「えと、ん〜……確かに私達の街は確かに他の街と色々と大きく違いますね〜。
アイネさん、私達の、天使の目的は『人間さん達の悠久に続く平和の管理』、と言うのは聞きましたか?
ただ、私達がするのは『悠久の平和』の管理であって、人間さん達の管理ではありません。
もともと此処は人の世ですからね〜、私達がなんでもかんでもがんじがらめにしては人という種は遠からず途絶えてしまいます。
ですから〜、出来るだけ人間さん達の自主性、みたいのを取り入れているんです〜……と言ってもまだ問題は山積みですけど……」
「貴重なご意見をありがとうですよ。少し分かった気がするですよ」
自主性…そんな一言で片付けられる代物ではない気がするが、少なくとも嘘はついていないのだろう。
やはり、何か外的な要因があってのこの統治なのだろうか。
だとしたら、魔法狂いたちの件もあながち的外れではないのかもしれない。
考えられるとすれば、何か天使の思考に影響を及ぼすマジックアイテムとか…。
さもなければ人間たちに強く出れない特殊な事情でもあるのだろうか。
いずれにしても、考えるのは明日になってからだ。
のども渇いてきたし、今日のところはもう休みたかった。
>「まあ、難しいお話はここまでにしましょう〜。今日は悪魔さん達も色々とお疲れでしょう。
だからまずはお食事にしましょう!食事は人も天使も、そしてきっと悪魔さん達も幸せにします!
何か食べたい物や飲みたい物はありますか?出来る限り、リクエストにはお答えしますよ〜。
なんでも言ってください!今日は悪魔さん達の歓迎会、みたいなものですから!」
>「お気遣いありがとうございます。デビチルには個性的な嗜好がありまして。
ではお言葉に甘えて……各種お茶、何も味がついていないうどん
手羽先、それからチーズの盛り合わせを用意していただけると嬉しく思います」
「お茶!おいしいのをよろしく頼むですよ」
何はともあれお茶がいただけるのならそれ以上何も望むまい。
事前にある程度準備してあったのだろう。料理はすぐに運ばれてきた。
豪華な料理が並ぶ…本当に歓迎会をやるようだ。
何ももてなしを受ける理由のない私たちからすれば、なんだか申し訳ないのだが。
さて、歓迎会が始まって30分、私は料理を肴にお茶をごくごくと飲んでいた。
ここのお茶は実においしい。きっと水が良いのだろう。
キラーはローストチキンをおかずにご飯を食べている。意外と普通だ。
シャルルは次々と運ばれてくるチーズに夢中になっている様子。
きっと彼女の衝動はそれなのだろう。でなければあんな大量のチーズ食べれる訳がない。
ご満悦のところ申し訳ないのだが、私はシャルルとキラーに話しかける。
「禁書庫の話、もし断られたらどうするつもりですよ。
私としては、魔法狂いたちのカタコンベを当たる方が無難に思えるですよ」
そう話を切り出す。
正直なところ、禁書庫を見せてもらえるかどうかは五分だと踏んでいる。
次善の策は用意しておくに越したことはない。
「もてなしてもらって何だけど、私はまだあの天使たちを信用したわけじゃないですよ。
あまり期待するのはやめたほうがいいですよ」
まさか罠に嵌められるとかそんなことはないだろうが、用心はすべきだ。
私はそのままお茶を片手に、今度はマリアの元へと話しかけに行く。
「豪華なおもてなしをどうもありがとうですよ。
私はおいしいお茶をいただけてご満悦ですよ。
さて、マリア。マリアは性善説と性悪説はご存知かですよ。
人間の本性は善なるものか悪なるものか、その辺はどう考えているですよ?」
何のことはない、ただの禅問答だ。
もしこの質問をゼウスにしたら、間違いなく悪だと即答されるだろう。
でなければ、人間の平和のために人間を拘束するなんて思考に陥るはずがない。
まあ、悪だという考えは私も概ね賛成なのだが。
悪魔さん達の歓迎会が始まって30分が経過した頃でしょうか〜、アリアちゃんが私に話しかけてきました。
「主様、そろそろ飲酒はご自重なされてはいかがでしょう。明日のご公務に差支えが」
そう言って片手に持った水を私に差し出す。
ゆらゆらと視界と身体が揺れてますね〜。良い感じにお酒が回ってきた証拠です〜。
というかぁ、これぐらいじゃ酔った内に入らないですよ、アリアちゃん分かってますでしょう?
「ん〜、まだ大丈夫ですよぉ〜…酔ってません。アリアちゃんは心配性ですねぇ〜」
「酔ってる人の酔ってない発言程当てにならないものは無いですよ。というかなんですかその緑色のお酒は?」
「あぁ〜、これはですね〜……アブサンと言いまして最近はハマってるんですよ〜」
アリアちゃんはテーブルの上に乗っている瓶を取り、ラベルを見る。
「……アルコール度数……70度!?いやいやいや、主様洒落にならねーですってコレ
いやこれマジでやべーって、洒落になんねーですって」
そんなこんなでアリアちゃんと話しているとアイネさんがこちらに近寄ってくる。
>「豪華なおもてなしをどうもありがとうですよ。
私はおいしいお茶をいただけてご満悦ですよ。
さて、マリア。マリアは性善説と性悪説はご存知かですよ。
人間の本性は善なるものか悪なるものか、その辺はどう考えているですよ?」
唐突な質問ですね〜……まあ、私もお酒が入っているので大して気にはしませんけど〜。
「ん〜、善か悪か、ですかぁ〜。まあ、まず私達天使の立場の見解としては、人間さんの本性は性悪説ですねぇ。
根拠としては私達『天使』の存在がそれを証明してしまってまいす。
人間さん達がもともと善で在るならば、私達、管理者が作られる理由はないですしね〜」
そういって私は緑色の液体をグビリと飲み干します。
焼くような刺激が喉から食道、そして胃へと降りていく。すでに空になった瓶が5本テーブルの上に乗せられていた。
「でも〜、私個人の意見を言わせてもらうのなら〜……性善説、を支持しますね〜」
空になったグラスに新たな緑色のお酒を注ぐ。これで6本目。
「元々、性善説の意味は『善を行うべき道徳的本性を先天的に有しており悪の行為はその本性を汚損・隠蔽することから起こるとする説』、です。
アイネさんはアキヴァやヴィエナと比べ、この都市は良い、と言ってくださいましたね〜。
他の人間さん達も同じように言ってくれます。しかし、そんないい都市でも犯罪が起こってしまうのです。
しかし、アキヴァやヴィエナは人間さん達にとって劣悪な環境にも関わらず、犯罪らしい犯罪がまるで起こりません。
私的な意見ですけど、環境によって人間さんは変わってしまうんですよ〜。善が先天的ならば、悪は後天的です。
それが恵まれた環境、他の都市よりも規制が緩やかなこの都市なら、ある程度の犯罪も許される。
元々、善だった人間さんが、ぬるま湯の様な環境にいずれ満足することなく悪の行為に走る。
どちらが正しいのか難しい問題ですよね〜、アイネさん?」
酔いが回ってるからでしょうかね〜、いつもより口数が多くなってしまってますね〜。
「あと、今更ですけど……性善説と性悪説、これは本来意味合い的にはどっちも同じなんですよ。
『人は生まれつきは善だが、成長すると悪行を学ぶ』というのが性善説で『人は生まれつきは悪だが、成長すると善行を学ぶ』というのが性悪説です。
つまり、どちらの見解でも結局「人は善行も悪行も行いうる」のであって、まあ区別するのはナンセンスですよ〜」
そうして私はゆらゆら揺れる視界の中、再びグラスにお酒を入れ、グイッと飲み干した。
ゴーダチーズ、チェダーチーズ、カマンベールチーズ……
次々とチーズを口に放り込んでいると、アイネが話しかけてきた。
>「禁書庫の話、もし断られたらどうするつもりですよ。
私としては、魔法狂いたちのカタコンベを当たる方が無難に思えるですよ」
「もぐもぐ……え、でもカタコンベはまだ見せられないって…むぐむぐ」
>「もてなしてもらって何だけど、私はまだあの天使たちを信用したわけじゃないですよ。
あまり期待するのはやめたほうがいいですよ」
アイネのその言葉にはっとする。
危ない危ない、すっかりチーズで餌付けされるところだったわ。
アイネは見た目は年端もいかない少女だが、メンバーの中でで一番冷静かもしれない。
そしてアイネは、マリアに禅問答のような問いを仕掛ける。
対するマリアは、酔っていい気分になったのか饒舌に語っていた。
どうやらマリアは他の街の惨状を本当の意味では知らないようね。
犯罪が起こらないのは当然、ヴィエナなんて支配への反逆という”犯罪”を企てた時点で抹殺されていたのだから出来るはずがないのだ。
>「あと、今更ですけど……性善説と性悪説、これは本来意味合い的にはどっちも同じなんですよ。
『人は生まれつきは善だが、成長すると悪行を学ぶ』というのが性善説で『人は生まれつきは悪だが、成長すると善行を学ぶ』というのが性悪説です。
つまり、どちらの見解でも結局「人は善行も悪行も行いうる」のであって、まあ区別するのはナンセンスですよ〜」
「そうね。
本来善だが放っておくと悪に走ってしまうから統制しなければいけない、のが性善説。
本来悪だが統制する事によってそれを抑える事ができる、のが性悪説。
結果的には一緒なのよね〜。でも、恐怖以外で統制する方法はないのかしら」
すぐに思いつくのは、信仰や崇拝。しかし畏敬と畏怖は紙一重。やはり恐怖と密接に結びついている点は否めない。
いや、人々を団結させる方法がもう一つあった。畏れ多い者への畏敬とはある種真逆。
どこか天然っぽい不思議な魅力のある目の前の人物への”力になってあげたい”という思いで団結させ統制する、のがこの街の統治方法!?
そうこうしているうちに、夕食会は終わる。
「御馳走様でした。本当に素敵な晩餐会だったわ。……特にチーズ」
アタシは、アリアからお借りした魔法の袋を広げて仲間達に見せながら言う。
「さて、散歩がてら買い物でも行きましょうか」
ただ遊びに行くわけではない。アリアは、夜になると魔法狂いの動きが活発になる、と言っていた。
運が良ければ遭遇できるかもしれない。