そして、極限の状況、絶体絶命のこの状態、僕は深く息を吸い考えを巡らす。
…………
(まず、この惨状の原因を考えろ…)
………
(そして、今の鳥島の状況…)
……
(鳥島の証言、そんで針鼠の鞄…どこかで見たような気もするが、それは今はいい…)
…
(これだ!)
「鳥島さん、その怪物は多分、放っておけば消えるんで…上手く立ち回ってください。
それと、ベル…いや、敵がもう1人そっちへ行きました」
おそらく、鳥島が今襲われている相手は、勝川隆葉の河童と見て間違いないだろう。
だが、釈然としないことが一つある。
「もう1人の能力は、自分の燐粉がかかった物を自在に飛ばす能力ですが、生物にかけた場合は
しばらくは自分の意思で飛ぶことが出来るそうです。うまく使えば…どうにかなりますよね」
僕はそれを伝え、電話を切った。
先日のスリ事件の後、僕は関わったBOOKS能力者達の基本情報を一通り調べておいた。
その中でも、彼女=ティンカー・ベルの能力の詳細は簡単に調べ上げることが出来た。
街の自警活動者の中でも、ヒーローとして一番派手に動いていたのだから、当然の帰結だ。
それよりも…河童たちは確かに素早かったが、ここで具現化した河童たちを鳥島の元へ向わせたのなら
少なからず、現場に近い僕らはそれを視認できたはずだ。
勝川の召還能力にも限界がある。いきなり遠く離れた場所に河童を出現させるのは不可能だろう。
それなのに気がつかなかったということは、誰かがそこまで送り飛ばしたということになる。
そんな真似が出来て、尚且つこの施設にいる人物…それは佐川琴里。
僕らがこの状況を脱するには…逆に彼女の力が必要だ。
「僕が盾になる。だから、先に施設内に行け」
針鼠にそう指示を出すと、僕は彼と警察の間に割って入り壁になりつつ、施設内へ逃げ込む。
身長的にカバーにはならないが、誤射の危険性がある以上彼らは撃つことはできないはずだ。
「止まりなさい!」
警官たちの制止の声が、空しく響く。
目論見通りに事が進んでいるのを確認すると、すぐさま僕も施設内へ逃げ込む。
「佐川!佐川琴里!返事をしろぉ!」
ここまで来たらもう時間との勝負だ。
一秒でも早く佐川を見つけ、口八丁手八丁で鳥島の元へ飛ばなければ、このまま僕も御用だ。
佐川を見つけるよりも早く、子供達を誘導していた警官と鉢合わせることになったが、問答無用で殴り飛ばす。
警官の叫び声と少女達の悲鳴が交差するが、構わず見知った顔を探す。
ようやく、見つけることが出来た。
「…さっき河童を不審者に飛ばしたよな?僕とこいつもそこに飛ばせ、河童だけに任せておくには心配だ」
突然入って来て警官を殴り倒したうえに、いきなりここまで言うのも色々とおかしいのは判っている。
だけど、上手く誤魔化せる方法が全然思いつかなかったのだからしょうがない。
「僕とコイツはその不審者に爆弾をつけられてしまってね。あと30分でソイツをどうにかしないと爆発してしまうんだ。
だから、早く飛ばせ。巻き添えで死にたくないだろ!」
もうヤケクソだ。出鱈目言っちまえ!!!