茅野いずみが初めて異性を意識するようになったのは、中学生の時。
ある日の友人の一言が始まりだった。
実はクラスに好きな人がいる、どうか協力して欲しい。
比較的同級生達と仲の良かったいずみは、自分なら役に立てる、と思ってその申し出を快く引き受けた。
その男子に好きな人がいるのかどうか、それを聞き出してもらえないだろうか。
もちろん自分に頼まれたということは内緒で、という条件付きだった。
回りくどい物言いは意図的に避け、単刀直入に聞き出すことに決めた。
……くんって、今好きな人いますか?
校舎裏に呼び出したのはいずみからで、最初に言葉を切り出したのも同様に。
まるで天気の話でもするかのように、さりげなさを装いながら。
すると……は一瞬驚いたような目でいずみを見たかと思えば、顔どころか耳まで真っ赤に染めて俯いた。
…な、なんでそんなこと聞くんだよ…
熱でもあるのかと心配しながらも、友人からの頼みを優先する為、話を続ける。
少し考えこむようなフリをしてから。
ええと……単純に気になるからなんですけど。…駄目、ですか?
すると弾かれたように顔を上げる……、二人の視線がかち合う。
………れ、は
……?あの…、ごめんなさい。よく聞こえま…
お、俺は……お前が好きだッッ!!
良く言えば王道、悪く言えば古典的。
今時の少女漫画でも有り得ないような粗大ゴミレベルにクサすぎる展開を経て、いずみは男性を異性として認識、意識するに至った。
そしてこの日から、昼ドラ展開を地でいくような三角関係が幕を開けることになったのだが。
今はそんなことよりも――
>「いまはテンダー・パーチっていう喫茶店にいるんだが、よければここまできてくれない?
「テンダー…パーチ?ですか…」
そういえばそんな名前の店の話をしたような、教室での友達との会話を思い返す。
確か場所は……
「…分かりました。すぐに行きま……――」
>それなりにおご……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
突如携帯のスピーカーを通じて家中に響き渡る絶叫、思わず耳から離す。
携帯を凝視したまま身動き出来ずにいたが、すぐに思い出したように再度携帯を耳に当てて蒼月に呼び掛ける。
「も…もしもし…!?蒼月さん…?だ、大丈夫ですかっ!」
蒼月の返事はない、というよりはどよめき声が煩く、何も聞こえない。
ただ「骨まで溶かされる」やら「メディック!」やら物騒なキーワードを拾えた程度だ。
――…これは、まさか…
もはや会話が成立していない通話を切ると、急いでいつもの制服に着替える。
――蒼月さんは魔法少女の襲撃に遭った…?
あの悲鳴は明らかに不意を突かれて出たような声だった、つまり突然攻撃を受けたに違いない。
それが魔法少女の仕業ではなかったとしても、蒼月の身に人為的な危険が及んだのは確実だ。
何にしろ丸腰で行くのは自殺行為だ、魔法が使えるのなら話は別だが。
いずみはすぐさまキッチンに向かうと、今朝洗ったばかりのコップや皿に混じってギラリと光る一物を握り締めた。
怪我をしないように新聞紙で包み、学生鞄の中にそっと忍ばせる。
次に調理用具が入った棚を開き、“パンはパンでも硬くて食べられないパン”でお馴染みのアレを取り出す。
そして、それも同様に鞄の中に。
「…急がないと、蒼月さんが危ない」
逆に危険人物と思われかねない装備を詰めた学生鞄を手に、いずみは家を飛び出して行った。
「っ、はぁ……はぁ……。こ、ここ…?」
息も切れ切れに辿り着いたのは、他でもない『テンダー・パーチ』。
看板にそう書かれたその店は、外から見た限りでは普通の店だった。
この場合での普通というのは、決して飛び抜けた物がないという意味ではない。
そこはむしろ普通ではない、気品漂う中にも可愛らしさがアクセントを放つ外観はとてもオシャレだった。
普通ではないというのは、つまり傍目には何もないように見えるということ。
心なしか一部の窓が白煙で曇っているようだったが、いずみはそれには気付かない。
店内へと通じるドアの脇に身を潜ませ、学生鞄から新聞紙に包まれた物体を取り出す。
その端を引っ張り勢い良く剥がす、すると中から現れたのは……
「“これ”なら私でもなんとか戦えるはず…」
鉈だった。
一度は包丁を持参しようとしたが、これでは心許ないと思い直し、家にとんぼ返り。
そして持ってきたのは、大振りの刃が暴力的に煌めく鉈。
「ええと、それと……」
そこでもう一つ、取り出す。
同じように新聞紙で包まれた物体、先ほどと同様の動作でそれを剥ぎ取る。
そうして現れたのは、ノコギリだった。
一度はフライパンを持参しようとしたが、これでは心許ないと思い直し、家にとんぼ返り。
そして持ってきたのは、獰猛な獣の牙のようにギザギザの刃が狂気的に煌めくノコギリ。
「うん…これで大丈夫」
危険人物に対抗する為の武器を改め、慎重にドアノブに手を掛ける。
やっぱり怖い、急に襲われたらどうしよう、中に誰もいませんように、必死に願いながらノブを捻る。
ノブが回り、端まで到達したのを確認した後、躯ごとぶつかるようにして押し開けた。
店内に突入するいずみ、右手に鉈、左手に鋸という常軌を逸した出で立ちで。
「そっ…そこまでです!!蒼月さんを離しなさいっ!!」
だが、そこに蒼月の姿はない。
代わりにガスマスクを着けた得体の知れない女性が何事かと顔を出した。
「あらら、オープン初日で強盗?これってある意味ついてるのかしら!」
「きゃあああぁぁっ!?…え、誰…というか何…!?」
「テンダー・パーチの店長でっす☆」
――絶対嘘だ。ガスマスクを着けた喫茶店の店長なんて聞いたことがない。この人、変人?
「も…もしかして貴方が蒼月さんを…?いっ、今すぐ蒼月さんを出しなさい!!」
「お金を要求しないで人間を要求する強盗!新しいっ!それって新ジャンルかしら」
「ふざけないでください!わ…私は…っ、本気なんですから!」
両手に握った鉈と鋸を前に突き出し、ガスマスク店長を精一杯威嚇する。
【喫茶店内、現れたガスマスクゆりかさんと対峙(?)】
【本当に攻撃しようとは思っておらず、鉈と鋸はあくまで護身の為】
【ブラック魔法少女 壱斬 千渦 編 第弐話 『平穏偽装』 】
「きええええええええええいっ!!!!!!」
巨体といって差し支えの無い男が絶叫と共に放った、竹刀による縦一線。
腕力の上に技術が加算されたその一撃は、まともに受ければ大の大人であろうと
骨を砕く程の威力を保有している。つまりそれは「技」としての域にまで達した一撃。
例え剣道を齧っていた事のある人間であろうと、それを避ける事を出来る者は少ないだろう。
しかし――――
「――――」
「っ……くそおっ!!どうして当たらねぇんだよっ!!」
放たれた豪閃が相手を捕らえる事はなかった。
ただ空を切り、大気を揺らすに留まる。
攻撃を外した――――いや、外されたその男は苛立ちを隠さぬ瞳で
息を切らせながら目の前の相手を睨み付ける。
「――――遅いからよ」
その視線への返事は、凛とした静かな声だった。
恐るべき事に、そこに居たのは、巨漢が放った一撃をそよ風の如くいなしたのは、
絹の如き黒髪に人形の如き美を宿す、隻腕の少女であった。
その少女の淡々とした言葉を聞き、見る間に巨漢の顔が紅くなる。
侮辱された、と思ったのだろう。この巨漢、技術こそ在るが如何せん精神面にかんしては未熟が残る。
「ふ、ざけんな!!俺は全国区の腕前だぞ!?テメェみたいな女に速度で負ける筈があるかっ!!」
「……そう思うならそうなんでしょうね。貴方の中では」
対峙する少女が冷静であり、汗の一つすらかいていない事で、ますます巨漢の怒りは膨れ上がる。
そして、羞恥か憤怒か高慢か。巨漢はとうとうこの試合のルールを破ってしまった。
すなわち「突き」の禁止。この試合を始めるに当たって、危険だからと双方が同意したルール。
それを男は破った。そして――――その突きは男のどんな攻撃よりも速かった。
(ふん、俺は突きが一番の得意技何だよ――――え?)
そう、確かに速かった。が、遅かった。
「危ないって言ったわよね」
直後、男の竹刀が縦に圧縮され、膨らみ、砕け散った。
男は最後まで何が起こったかも判らぬまま、竹刀の破片に眉間をしたたかに撃たれ、意識を失った。
この刹那、なにが起きたのか――種明かしをすると、それは実に単純な事である。
黒髪の少女が、相手の突きに対して寸分違わぬ異常な精度を持って
相手の竹刀の頭に「合わせ」て突きを放ち、その余りの速度と威力に巨漢の突きは撃ち負け砕けたのだ。
「今時、道場破りなんて流行らないわよ」
この試合、心技体、全てにおいて隻腕の少女――――「一斬千渦」の圧勝であった。
千渦は竹刀を床に置くと、タオルで少しだけかいた汗を拭き、用意してあった麦茶を飲む。
先ほどの時代遅れの道場破りを外へと放逐した今、この道場には一人として人影は無かった。
ただただ静謐が支配する空間。まるでその主であるかの様に、飲み干した麦茶のコップを床へ置くと、
千渦は障子を開き、道場の庭を眺める。
「……まだ帰って来ないみたいね。あの爺は」
爺……少女が呟いたたその人物は、この『道場』の本来の主の事である。
一文字鉄砕(いちもんじ てっさい)。かつて大きな大会で何度も優勝し、
多くの剣道家から剣聖と唄われている人物。
最も、その実体はエロ爺なのだが、それでもその強さと築きあげた人脈は本物。
達人という言葉が相応しい人物で、現在の千渦の身元引受人でもある。
そんな訳で、千渦は鉄砕が用事――――(キャバクラ通いなのだが千渦は知らない)を済ます間、
居候としてこの道場の保全や稀にやって来る道場破りの撃退に勤めているのであった。
「……」
千渦はやがて障子を閉めると、道場の隅で正座をし、静かに目を瞑り、身動ぎ一つしなくなった。
一本の芯でもあるかの用に「しゃん」と伸びた背中。
その姿勢の美しさは、まるで千渦をまるで美術品の様に魅せる。
と、そんな感じで一時間ほど瞑想していたその時。
道場の近所であろう。直ぐ近くから喧騒が聞こえてきた。
それにもみじろぎせず静かに座った千渦だが、その脳裏には疑問符が浮ぶ。
果たして、この近所にそんな騒がしい在っただろうか。
そう思い――――そして、そういえば今日が近所の喫茶店の開店日だという事に思い当たった。
基本的に外出をあまりしない千渦は近所の事と言えど、聞き流す程度にしか
覚えていないのだ。
だが、今回千渦はその騒ぎに関わるつもりは無かった。
元々人付き合いを好む性格でもない。そのまま沈黙し、自身の内面の奥へ奥へと瞑想を続ける。
【ブラック魔法少女 鷹河明日香編 幕間 「明日香はどっちだ」】
明日香が魔法少女になってから、日常にある変化が訪れた。
今まで自分を担当していたトレーナーがジムを辞め、新しく雇ったトレーナーが自分を担当することになった。
それだけなら、よくある些細な出来事であるはずだった。
なんと、トレーナーとしてやってきたのは、明日香に魔法核を渡した眼帯のオヤジだったのだ。
「ゼィ…ハァ…ゼェ」
いつもどおりのロードワーク、だが、明日香の様子がいつもと違う
肩で息をし、顔には大粒の汗を浮かべ、足取りは重い
「こらぁ!まだ休んでいいっつってねぇぞ」
その後ろから原付に乗った親父が明日香の後を追い、尻を叩く(直接的な意味ではなく)
「ハァ…そんなムチャなぁ」
思わず明日香はそう漏らす
「口答えすんじゃねぇ!もう五キロ加重だ」
オヤジは即座に指を鳴らした瞬間、明日香の動きが止まる。
明日香の疲労の原因、それはオヤジの魔法によるものだった
明日香は現在おおよそ40kgの負荷を負わされた状態でいつも通りのトレーニングをさせられていた
(流石にこの段階はまだ早かったか?)
オヤジは一旦原付を止め、明日香の様子を伺う。ことによっては負荷を軽減させようかと思ったが
「フンギィィィィ!!!」
予想を裏切るように再び明日香は動き出した。
しばらくして
「うし!このへんで休憩にするか」
と喫茶店「テンダーバーチ」の前でオヤジが止める
「や…やったぁ」
明日香はふらふらな足取りで店のドアに手をかけようとした瞬間、動きが止まる
また加重された訳ではなく、店内の異常な状態に気がつき手が止まったのだ。
「の前に、ちょっとスパーでもするか」
店内の状況を明日香以上に把握していたオヤジは明日香の耳元でそう呟くと
思いっきり明日香を突き飛ばし、強制的に入店させた。
「いたたたた…いきなり何するんでうわぁ!」
振り返り、オヤジに文句を言おうとした瞬間、目の前にあったのはいずみが握る大鉈の先端部だった
「わッわっわ…」
驚きのあまり後ずさりしたところを、ゆりかが捕まえる。
「あらヤダ!あなたもしかして女子ボクサーの鷹河さん?ちょうどいいところにきてくれたわね」
逃げられないようがっしりと肩を掴みゆりかは話しかける
「今強盗に入られているんだけど、どう?やっつけてくれない?やっつけてくれたらうーん?」
「え…あ…はぁ?」
「しばらくの間、ケーキとドリンク只にしてあげるわ!まかせて、私ダイエットメニューも得意なの♪」
と掴んでいた手を離し、軽く背中を押される。
「さぁ皆さん本日のメインイベントのはじまりはじまり!」
ゆりかがゴング代わりにティースプーンでカップを叩く
(スパーってこういうことだったのかぁ)
オヤジの言葉の意味をようやく理解し、即座に拳を構える。
「あの…なにかの間違いとかイタズラの類だったならそれを早く捨ててください。私、本気でいっちゃいますから」
万が一のために、明日香はいずみに警告する。
答えがNOだった場合、明日香は即座に左ジャブを打ち出すかもしれない。
【ゆりかといずみの中に割って入り、いずみと対峙
ちなみにオヤジは既に店内でくつろいじゃってます】
>「それなりにおご……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
店内に響き渡るガンダムさん(私服)の悲鳴。
彼の股間からはもうもうと煙というか化学スモッグ的な気体が発生し、ズボンの生地を溶解させていた。
「お、おきゃくさまっ!只今お拭きいたしま……ぎょえああ!」
「うひい!店員Aがやられた!メディック!メディ〜〜〜〜ック!!」
>「はいは〜い、お客さんはさがって、さがって!バイオハザードが発生しているからね」
ガスを吸って志半ばに倒れる同僚、その身体を掻き抱き慟哭する同僚。
ガスマスクを着用した店長がオーダー帰りに颯爽と現れ、理奈を伴って事後処理に尽力している。
「うう……ごめん理奈ちゃん……君のような若い世代にまでこんな責務を……」
南雲は唇を噛み締めながら俯いていた。もちろんエプロンの裾をきゅっと掴むのも忘れない。
これをやるのとやらないのとでは発生するリビドー係数(いわゆるひとつの萌え要素)が段違いなのである。
夕暮れに佇む老紳士のひとときという名のバイオハザードはその爪痕を人々の心に何時までも刻み続けるだろう。
そう、たった一人の不運にして哀れなる男性客と男性機能の犠牲によって……!
(いやいやいや)
それではいけない。責任というものは、例え履行できなくてもとらんとする意志こそが肝要。
六法全書も最高裁も伊藤誠もそう言ってる。相手の心証次第では示談の道もあると。
「わかりました……この坂上南雲、責任をとります!責任持って新しいモノで弁償をば!」
最近の性転換技術は発達しているというし。
溶けたガンダムさんのガンダムな部分をこう、新しく成形し直す的な手術を……。
「とりあえず当面はキッチンよりご用意いたしましたこのバナナで手を打っ」
>「そっ…そこまでです!!蒼月さんを離しなさいっ!!」
バナナ片手にガンダムさんに迫ろうとする南雲に、背後から牽制の声がかかった。
振り向くと、これまたいつぞやの花の魔法少女が――鉈と鋸の二刀流でエスタークのように仁王立ちしていた。
「積極的に切断する方向のオペですか!?」
そんな大味な刃物で切った貼ったできる部位なんでしょうか。中に誰もいないと思うんですが。
ていうかガンダムさん蒼月さんって言うの。めんどくさいからガンダムさんで統一するけど。みたいな思考の上滑り。
>「あらら、オープン初日で強盗?これってある意味ついてるのかしら!」
>「ふざけないでください!わ…私は…っ、本気なんですから!」
魔王と対峙する勇者の如く、現れたるは店長。でもこっちもこっちでかなり悪魔っぽいビジュアル。
鉈女vsガスマスク女という、B級企画映画のような好カードにオーディエンスは湧きに湧いた!
「すげェ……!この勝負、どう転ぶかわからねえぞっ……!」
「一見武器持ちの鉈女が有利に視えるが……しかし店長も侮れん。なんてったって夕暮れに(ryを創り上げた女だ」
「オッズは1:1,2ってところか。さあさ、張った張った!睨み合いに突入した今が賭け時だよ!」
>「あの…なにかの間違いとかイタズラの類だったならそれを早く捨ててください。私、本気でいっちゃいますから」
ついにはトトカルチョまで始める者が出始めた頃、店長は召喚魔法を唱えた!
ギャラリーの中から選び出される一人の少女。店長曰く女子ボクサー歴戦の雌だとかなんとか。
>「さぁ皆さん本日のメインイベントのはじまりはじまり!」
鉈女vs女子ボクサー。
なんかもう色々と収拾のついてない戦いはさておいて、店長は通常業務に戻らんとばかりに厨房へ引っ込んでいった。
流石は自称1000の資格を持つ女。店員のミスから起きた乱痴気すらもエンターテイメントに変えてしまったのだ。
南雲はそんけいのまなざし(棒読み)でそれを見送りながら、自分も配膳途中の品があったのを思い出して踵を返した。
>「――で、何でお前らがここにいるんだよ……」
「わお、麻子っちゃんじゃん」
店長と入れ替わるようにフロアに出てきたのはこれまたいつぞやの……鎖の魔法少女。
猪間麻子と名乗った彼女は、テンダー・パーチの制服に身を包んでもじもじしていた。
なんでここに?とか、どこからここに?みたいな疑問は置いといて、南雲はとりあえず率直な感想。
「よく似合ってるよー。でもよく似合うサイズの制服が理奈ちゃんのも合わせて2着もあるのはどういうことなんですか店長」
「あらあ、アタクシ1000の資格を持つ女よ。こんなこともあろうかと用意するなど造作もないわ☆」
「想定してちゃマズいケースだと思うんですが!なに小学生雇うこと前提で経営してるんですか!?」
「雇用じゃないもーん。麻子りんはちょーっとした恩返しとしてお手伝いしてくれるんだもんね?ね?」
いいのかそれで。それでいいのか労働基準法!ナメられすぎじゃないの!
いよいよ追求してはいけない闇に触れた気がするので南雲は手を引いた。麻子っちゃん、君の犠牲は忘れない。
>「いいか。お前らは何も聞いてないし、今日見た事は全部忘れる。いいな!絶対だからな!」
「いやぁー?お姉さんちょっと忘れられそうにないかなー。夜寝る前とかに思い出してニヤニヤします」
これだ。店長と会話してるとどうにも突っ込み側に回ってしまう気がするので。
こうやって小さい女の子をニヤニヤからかってるときが一番輝いてる気がする。
フロアの方では鉈女vs女子ボクサーが白熱のデッドヒートを繰り広げているさなかのようだった。
騒ぎに加わらない一部の静かな客は、熱狂する取り巻きを横目に見て嘆息する。
「ったく……喫茶店だってのに静かにできないのかねえ連中は。理奈ちゃん可愛い」
「まったくその通り。紳士は厳かにアフタヌーンティーを嗜んでこそですな。理奈ちゃん可愛い」
「ですなですな。我々は紳士なので。店員も客に劇物ぶち撒けるようなドジっ娘(笑)ですし。あ、理奈ちゃんは可愛い」
(駄目な紳士たちだっ……!)
開店一日ではあるがそろそろこの喫茶店の集客傾向が見えてきた。
テンダーパーチの客層が大別して二つ。店長の放つお祭り騒ぎのエンターテイメントを騒いで楽しみたい層と。
レベルの高いと評判の女子店員を愛で眺め肴にしつつティーをしばくといった自称紳士層。彼らは後者。
「このロリコンどもめ!ガチ刑法に抵触する小学生になんかいつまでも固執してんじゃあないっ!
ここは食べごろ熟れどきピチピチメリハリぼでぃーの16歳、坂上南雲一等接客兵と楽しくお話しなーい!?」
南雲は紳士たちへ向けてしなを作った悩殺ポーズ。紳士たちは一瞥して、それから互いに顔を付き合わせた。
「然るに政治とは施政者の側も模索を繰り返している分野も多く、なかなか打開策が見出せない部分は否めんよな」
「しかし君、現代政治とは民主主義が殆どだ、往時の封建制のように苛烈な打ち壊しは起きにくいのではないかね」
「まあ待たれよご両人、蜥蜴の尻尾切りと言うように模索のち不可分を除いて不要部分を切り捨てるなどどの時代でも」
「こ、高度の政治的な問題を議論し始めた……!?」
なんでだ。
彼らの紳士力を減衰せしむるなにやらでも南雲から放射されたのか、いやはや。
ジト目で睨みつけると、紳士たちは慌てて取り繕うようにして手を振った。
「や、だって歩く炉心幼壊と言わしめた理奈ちゃんならいざ知らず、南雲ちゃんってリビドーからは程遠いじゃん?」
「デートのときにペットボトルで凍らせた麦茶持参しそうだし」
「ファミコンのカセット吹くんじゃなくて端子舐めそうだし」
「失礼な想像をするなーっ!流石にファミコンは古過ぎるわ!せめてスーファミとかゲームキューブでしょ!」
あと麦茶凍らせて何が悪い。
「あーすまん、そうだったな。ファミコン世代はてんちょぶべっ!?」ドパンッ!
そのとき、南雲の耳の傍数センチを横切って何かが背後から前へ飛んで行った。
次の瞬間喋りかけた紳士の一人、その顔面が白く染まっていた。眼と鼻と口の区別もつかぬまま分厚い何かに覆われている。
飛んできたものの正体は生クリームのたくさん乗ったパイ。飛んできた元の方向は厨房の奥。
「てんちょー、食べ物を粗末にするのは流石にどうかと……」
「あらあ大丈夫、そのパイはその客に出す予定のだったから☆お客様のお口にダイレクトに配膳しただけ♪」
合理的な口封じだった。
「ところで店長」
「なあに南雲ちん?」
「ファミコン世だいえなんでもないです仕事に戻りまっすラララ勤労の喜びーーっ!」
店長が巨大な中華鍋を振るっているのを見た南雲は回れ右。まかないがダイレクト配給されかねない。
紳士はもごもご言いながらパイを剥がさんとじたばたしていたが、やがて力尽きた。なまんだぶ。
ガンダムさんを巡ったキャットファイト(?)も佳境に入っているようだ。オーディエンスの白熱は止まない。
>>293 >>296 (時系列は気にしない方向で)
「おりょ?理奈ちゃん、どったの?」
客の一人となにやら話していた理奈が首を傾げながら戻ってくる。
歳は理奈や麻子とさほど変わらないか少し上の、女子中学生風の少女。
果たせるかなその娘を視界に入れた途端、南雲の魔法核もまた反応した。
(これは――)
女子中学生だけではない。
観葉植物の傍の席で読書する少女や、オーディエンスの外で女子ボクサーを応援する禿げに眼帯の中年男性からも。
同様の違和感というか、波長――魔力の気配が感じられる。中年男性に到っては比べ物にならない規模だ。
似たような膨大さに覚えがあった。南雲の契約した悪魔、あのチンピラ悪魔と同質の魔力。
そして。
「理奈ちゃん、アレ……!」
理奈の制服を引っ張って、気取られないように身体で隠しながら指をさしたその先。
喧騒も気にせず読書を続ける少女――どこかで見たような気もしたが、彼女の首から下がったペンダント。
ゆっくりと呼吸するように明滅するそれは、紛れもなく魔法少女の願いの源、魔法核だった。
ガンダムさんといい、花の魔法少女といい、理奈や麻子や自分といい、そして新手の者たちといい。
「魔法少女率、凄いことになってない?」
【日常の一幕】
【萌ちゃん(変身後のインパクト強過ぎで変身前は南雲主観では初対面)の魔法核を見て理奈ちゃんに耳打ち】
>「いやぁー?お姉さんちょっと忘れられそうにないかなー。夜寝る前とかに思い出してニヤニヤします」
「よーしいい度胸だ。一生忘れられねえようなトラウマで今日という日を忘れさせてやるよ」
獰猛な狼の笑みが、麻子の表情に舞い戻った。
不敵な歩調で彼女は南雲へと歩み寄り――
「お客様ぁ、このお店は初めてですか?初めてですよねぇ。オープン初日ですもんねぇ。
私お客様に是非食べてもらいたいオススメメニューがあるんですけどぉ……いかがですかぁ?」
そのまま通り過ぎ、語尾に逐一『♪』や『☆彡』が付きそうな声色と口調でお客様の傍に立った。
返事は聞かない。鼻の下を伸ばして呆然とする客を視界から外し、狂乱の最中にある厨房へ一声。
出てきた料理は、夕暮れに佇む老紳士――因果応報の象徴を、麻子が両手で抱えた。
「あぁ、安心しろよ。ぶち撒けるなんて野蛮な真似はしねぇさ」
打って変わって晴れやかで愛嬌に満ちた、花びらが舞うような笑顔を浮かべる。
裏側から、隠し切れないどす黒い地獄の瘴気を漂わせながら。
「けど……お客様に食い物をぶち撒けるような悪い店員には、指導が必要だよなぁ?」
更に歩み寄る。同時に極々細い鎖で店内の椅子を操作し、南雲の背後へと運んだ。
後退りをすれば丁度足を引っ掛け、腰を下ろしてしまう位置だ。
そして一度着席してしまえば、不可視の鎖が南雲を雁字搦めにするだろう。
「ほら、お客様には誠心誠意、愛を込めて、こうやって接するんだよ。はい、あーんっ……ってなぁ」
異様に柄の長いスプーンで掬った夕暮れに佇む老紳士を、南雲の口にゆっくりと近づける。
南雲とスプーンの距離が近づくに連れて、麻子の悪辣な笑みが濃度を増していく。
「――まったく、賑やかなのは良い事だが……喫茶店と言うのは本来憩いの場であるべきだ」
不意に、入り口から響いた声。
「もう少し『静粛に』……だよ。諸君」
スーツに身を包んだ、若く怜悧な雰囲気の女性が一声――瞬間、全ての騒動が収束した。
南雲の目と鼻の先にまで迫っていた夕暮れに佇む老紳士は揮発したかのように消え去り、
蒼月にぶち撒けられたナポリ混じりの劇物は、店員の抱える耐蝕容器に収まっている。
「えっと……これ危ないので、お預かりしますね。あっ、急に話しかけてごめんなさい!」
茅野の背後から滑らかな動作で鋸と鉈が没収された。
年の頃は恐らく茅野と同程度。黒髪のお下げに眼鏡を掛けて、地味な少女だった。
接近を気付かせない動作だが、高い技術の賜物と言う訳ではない。
気配も足音もあった。ただ、存在感があまりにも欠如していただけで。
「ほらほら、アンタもさっさとそれ下ろして」
言葉と共に明日香に歩み寄る少女――短髪に淡青色で控えめなフリルTシャツとデニムスカートにスニーカー。
明日香の間合いの外で両手を上げて、手のひらをひらひらと踊らせる。
「可愛い女の子が鼻血ブーとかマニアック過ぎでしょ?」
と、次の瞬間、少女は明日香の目の前にまで距離を詰めていた。
明日香の拳に、彼女の手のひらが被せられる。
『……君達は魔法少女だろう?なに、取って食ったりはしないよ。少し話がしたいだけさ。安心してくれ』
魔力による意思疎通、念話が発信される。
「ふむ、誰でもいいんだがね。騒ぎが収まったのなら席に案内してもらえるかな?」
注目を散らす為に一言、不可解な現象に対する疑問を、義務で押し流させた。
何食わぬ顔でスーツの女性は紅茶とケーキのセットを注文する。地味めの少女が念話を引き継いだ。
『えっと……まず誤解しないで欲しいんですけど、私達に敵意はないんです。ほ、本当ですよ!ウソじゃありませんからね!』
一人勝手に慌てふためいている所に店員が声をかける。
地味めの少女の動揺ぶりに拍車がかかり、溜息交じりに短髪の少女が続ける。
『ちょっと頼みたい事があるのよ。アンタらにとっても、多分悪い話じゃないよ。
少なくとも喫茶店で血みどろバトルをおっ始めるよりかはさ』
スーツの女性が注文を終えた。二人の少女に目配せで、後は自分が説明する旨を告げる。
『まあ聞くだけ聞いてくれ。まず……私達の説明からさせてもらおうかな。
私達は『楽園派』と呼ばれる派閥を組んでいてね。簡単に言えば、ハト派って事さ。
夢を奪われるつもりも、奪うつもりもない。徹底した専守防衛。ハトだって百羽いれば、タカを追い返す事くらい出来る』
まずは自己紹介。
『私はその責任者みたいなものさ。恥ずかしながら、『楽園』の中では最年長の魔法少女でね。
っと、申し遅れたけど、私は苗時静(なとき・しずか)だ。よろしく』
はっと気が付いて、地味めな少女も後に続く。
『あっ!も、申し遅れました!私、目立零子(めだち・れいこ)って言います!』
更に短髪の少女も。
『私は駆走知史(かばしり・ちふみ)、よろしくねー』
『さて、話を続けさせてもらうよ。次に知ってもらいたいのは……この新聞だ』
テーブルの上に大きく――横目で見ようと思えば見えるように、新聞紙が広げられた。
『失踪者の帰還や原因不明の昏睡からの回復がここ数日、全国で相次いで起きている。
単刀直入に言うと彼らは敗北した魔法少女で、全ては悪魔の差し金だ。
とは言え、悪魔が慈悲の心に目覚めたと言う訳ではなくてね』
辟易と嫌悪が入り交じった溜息が零れる。
『彼らは夢と心の代わりに、絶望を与えられた。
そしてそれが、失った物を取り戻す為に魔法少女を襲えと駆り立てる。
他人の夢や心で、自分の喪失感が埋められる訳はないのにね。
悪魔達からしてみれば、彼らは……そう、ボーナスキャラのような物なのだろう。
魔法核を奪い続ける彼らを倒せば、きっと多くの魔法核が手に入る』
口の中に広がる苦い感情を塗り潰すべくケーキと紅茶を一口。
一度、静が店内の魔法少女達に視線を配った。
『私達は彼らを『亡者』と呼んでいるが……まぁここまで言えばもう察しは付いているだろう。
この辺りでも、『楽園』の住人が亡者に襲われている。君達には、ここら一帯の亡者を排除して欲しい。
勿論、報酬はある。亡者の持っていた魔法核に加えて、私達が正当な防衛の結果得た魔法核も明け渡そう』
魔法少女ならば誰もが魅力を感じるだろう報酬。
『……本当は、そこの狼さんに頼みに来たんだけどね。
こんなにも小鳥がいるのなら、『楽園』への体験入園を兼ねてもいいかもしれないな。
悪意がない事を前提に、私達は来る者を拒まない。平和な日々を取り戻したかったら是非言ってくれ』
お世辞にも好意的とは言えない視線に猪間麻子が、微かに両眼を細めた。
『……いいんじゃねぇの?行って来れば。悪いけどアタシはまだここに用があるんでね。
遠慮しとくよ。アンタ達『楽園』からすれば、アタシはブラックリストの筆頭だろうしな』
改心したと告げた所で、信じてもらえる訳もない。
淡々とした口調に微かな皮肉を込めて、投げ返した。
『体験入園の会場は既に用意してある。君達に野心か、平和への渇望があるのなら、すぐにでも案内させてもらうよ』
――鉄砕の道場へ、また一人踏み入る者がいた。
恐ろしい巨躯を誇る訳でもなければ、修行で凶相に歪んだ面をしている訳でもなく。
挑戦者は、白衣に白袴を矮躯に纏う、黒髪を後ろで一つに束ねた、端麗な容姿の少女だった。
腰には黒い鞘に収められた、真剣を差している。
「……手合わせ、願えますか」
言葉は尋ねる形だが、言葉は有無を言わさぬ響きを秘めていた。
千渦を前にして、少女は静かな声色と共に刀を抜く。
少女の小さな体躯から俄かに、熾烈な気迫が溢れ出した。
横溢するのは気迫だけではない。魔法少女特有の気配も混じっている。
構えは正眼、一足一刀の間合いまで躙り寄る。
そこで、静止した。あと一歩踏み込めば、刃が届く。
だが動かない。己の刃が届く距離とは、即ち相手にとっても必殺の間合い。
無論、少女――影野刃月(かげの・はつき)とて、生半可な太刀筋を見せるつもりは毛頭ない。
それでも動けない。相手は隻腕だと言うのに――
前進と同時に突き、いなされて首筋を刃で撫で切られる。
上段、初動を見抜かれ踏み込むと共に腹を裂かれる。
下段、躱されて刀を戻す前に上段から深く斬り付けられる。
――勝てる手立てが、流れが見えない。
「……凄まじい手練と、お見受けしました」
敵意を消し去りながら一歩、畏怖に負けて二歩、刃月が後退した。
刀を収め、頭を下げる。
「突然の無礼をお許し下さい。貴女の実力がどれほどの物か、確かめる必要があったのです」
そして刃月はその場で正座をして、両手を床について説明と懇願を始めた。
亡者、楽園、依頼、報酬、見学――『楽園』の意図を残さず告げる。
「決して悪い話ではない筈です。どうか、お力添えを願えませんでしょうか」
【亡者の軽い説明→夢と心を無くした空洞が絶望で埋まりきった元魔法少女。魔法核を求めて魔法少女を襲う。
『楽園』→奪うも奪われるも嫌な魔法少女達の集まり。防衛と報復以外の全ての戦闘を放棄している
亡者を倒して報酬が欲しいor楽園に興味があるなら招待するよと勧誘】
>>297 蒼月 徹
>>300 茅野いずみ
>>306 鷹河明日香
>>307 坂上南雲
>「それなりにおご……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
夕暮れに佇む老紳士のひとときをまともに受けたガンダムのお兄さんから、命の砕ける音が聞こえた。
夕暮れに佇む老紳士のひとときがお兄さんのズボンの大事なところに穴を開け、肉の焼けるような匂いと共にあたりを白煙が包み込む。
白い闇の向こうから悲鳴が聞こえなくなるのと同時に、お兄さんのシルエットも動かなくなった。
……夕暮れに佇む老紳士のひとときって、必殺技だったんだ。
って、おいっ!流石にそれはまずいだろっ!
喫茶店のメニューで人死にが出るとか聞いたことないんですけどっ!?
「理奈〜?コホー」
ひいぃ!叔母さんがフォースの暗黒面に……!!しかし、もともとそれっぽい人なので全く違和感を感じない。
……ところでそれ、何を被ってるんですか?
「ガスマスクよコホー」
>「お、おきゃくさまっ!只今お拭きいたしま……ぎょえああ!」
>「うひい!店員Aがやられた!メディック!メディ〜〜〜〜ック!!」
私たちの分は?
「無いコホー」
……もういいです。突っ込むのも疲れてきました。
>「うう……ごめん理奈ちゃん……君のような若い世代にまでこんな責務を……」
嫌です!こんなことで人の命なんか背負いたくありませんっ!
>「わかりました……この坂上南雲、責任をとります!責任持って新しいモノで弁償をば!」
その手に持ったバナナはナンデスカッー!?
あれ?何だか私、結局突っ込み役になっちゃってるよ……だって二人とも何処まで本気わかんないんだもん!
>「そっ…そこまでです!!蒼月さんを離しなさいっ!!」
そのとき、店の入り口から聞き覚えのある声が意を決するような響きで聞こえてきた。
【続く】
>>300 茅野いずみ
>>306 鷹河明日香
>>309 坂上南雲
この声は……
茅野さん――っ!?
忘れもしない。南雲さんやお兄さんさんと一緒に生死の境を彷徨っていた私を助けてくれた人だ。……自らの魔法核を、犠牲にして。
でも良かった……やっぱり無事だったんだ。
向こうはまだ私に気がついていないらしい。
声をかけようと思ったそのとき、彼女の両手にごっつい“鉈”と“鋸”が煌いてるのが見えた。
――――え?
思わず凍りつく。
向こうはまだ、私に気がついていないらしい(気持ちさっきとは違うニュアンスで)。
どうしよう、きっと私から魔法核を取り返しに来たんだ……。
マズい!返すのはいいけど茅野さんの魔法核、私のとくっついちゃって離せないよ!?
どうしよう? ど う し よ う !?
>「積極的に切断する方向のオペですか!?」
それだ!流石南雲さん、ナイスッ☆ でも、魔法核って鉈や鋸で割って大丈夫なの……?
「その男の子なら大丈夫よ、南雲ちん。心配ないわ。
アレックスはむしろチョバムアーマーを脱いだ後こそ本領を発揮するものだし。さて――」
全く噛み合わない台詞を差し挟んだ叔母がおもむろに茅野さんの前へと躍り出る。
>「あらら、オープン初日で強盗?これってある意味ついてるのかしら!」
>「きゃあああぁぁっ!?…え、誰…というか何…!?」
>「テンダー・パーチの店長でっす★コホー」
アナキン・スカイウォーカーの成れの果てにしか見えません。
>「も…もしかして貴方が蒼月さんを…?いっ、今すぐ蒼月さんを出しなさい!!」
>「お金を要求しないで人間を要求する強盗コホー!新しいっ!それって新ジャンルかしらコホー」
>「ふざけないでください!わ…私は…っ、本気なんですから!」
蒼月さん……?もしかして、ここで倒れてるガンダムのお兄さんのこと……?
だとすれば私はどうやら大変な勘違いをしていたらしい。
じりじりと対峙する茅野さんと親戚のダース・ベイダー。何だろう、心が、痛いです。
そこへ新たな影が!
>「あらヤダ!あなたもしかして女子ボクサーの鷹河さん?ちょうどいいところにきてくれたわね」
>「さぁ皆さん本日のメインイベントのはじまりはじまり!」
>「あの…なにかの間違いとかイタズラの類だったならそれを早く捨ててください。私、本気でいっちゃいますから」
突然現れた女性ボクサーが叔母に代わって茅野さんの前に立ちはだかる。
だ、大丈夫かな……?
緊迫した店内の光景に湧き出す一部のギャラリー。
店長は厨房に消えた。南雲さんは仕事に戻った。私はおろおろと見守ることしかできない。
忙しくて騒がしくて大変だったけど、思えばこのときはまだ――――平和だったんだよね。
【続く】【騒ぎが収まるのを見守り、蒼月さんが目を覚ますまではここにいたことにしてください】
>>296 奈津久 萌
>>309 坂上南雲(同じく時系列はいずれにも入れられる方向で)
勉強をしていたお客さん(
>>287 塞守 真衣)の席から戻った後のこと。
>「おりょ?理奈ちゃん、どったの?」
南雲さんに話かけられた。
私が感じた“先程の不可解”が顔に出ていたのだろうか?
「い、いいえ。何も……」
多分、自分の思い違いだったはずだ。だってさっきの反応は――お兄さんのものなんだから。
しかし、南雲さんは同じようには考えなかったらしい。
>「理奈ちゃん、アレ……!」
私の袖を引っ張り、周囲を警戒しながら誰にも気付かれないように注目を促す。
その指先が示した先には――魔法核のペンダント!?
持ち主の顔には見覚えがあった。確か、変身後と変身前の姿にすごくギャップのある「拳」の魔法少女だ。
自分から戦いは挑まないけど、向こうから喧嘩をふっかけられたら迷わず応じるタイプの人だったと思う。
敵ではない。しかし、味方でもない。
…………
何かヤダなー、こんな考え方。
>「魔法少女率、凄いことになってない?」
「そ、そうですね……」
南雲さんの勘の良さには驚かされるばかりだ。いや、もしかすると私が鈍すぎるだけなのかもしれない。
何となく、何となくだが魔法少女以外の【別のもの】の反応も混じってるような気もする。どうなってるの、ここ?
うーん……
と、とりあえず、考え過ぎても仕方無い!今は自分の仕事に専念しよう。
テーブルを行ったり来たりしているうちにたまたま視線が合った「拳」のお姉さんに、私は声を出さずに挨拶した。
『ど、どうも』
思念通話。ちょっと前に覚えた魔法少女の基本スキルだ。短い距離なら覚えたての私でも簡単に扱える。
【南雲さんに言われて悪魔らしき反応だけ探知。仕事しながら萌さんに軽く挨拶】
>>306>>310-312>>315 テーブルを指でコツコツと扣きながら、萌は文章を目で追う。
「……来ないな」
注文した品が、ではない(もちろんそれはそれで待ってはいるけれども)。
魔法核をあからさまに見せることで何処かしらから何かしらのリアクションが得られるのではないかと期待していたのだが、
思ったより食いつきが悪いようで、南雲が理奈に耳打ちをしたのが視界の端に見えたくらいだ。
それすら、もしかしたら仕事上のやりとりの可能性もある。
(チックショウ、帰りにジム村田のDVDでも借りていくかな)
バス釣り名人のDVDを見ただけで釣りがうまくなるなら世話はないのだが。
萌はため息混じりに本を伏せる。
その、瞬間――。
ちぃん、と陶器を金属で弾く音が疾り抜けた。
(……これはッ!)
同時に店内に満ちる気配、これは紛れもなく闘気!
待っていたものではないがようやく起きた変化に萌は顔を上げる。
排煙機構が動作し、ようやく晴れ始めた白煙の向こうに人影が二つ。
鉈と鋸を構えるいずみ。そして拳を構える萌の見知らぬ少女、鷹河明日香。
(見知らぬ……?いやどっかで……、いやいやそれよりも一体何がどうしてこうなった?
やっぱりここはファイトクラブ?はたまたいつの間にやら"静かなる丘"に迷いこんで?)
ナパームの三製法やしばりくびの歌が萌の脳裏を駆け巡る中、二人の少女の戦いの幕が切って……
>『ど、どうも』
「はうあ!?」
漫☆画太郎もかくやと言わんばかりの表情で驚愕する萌。周囲を見渡すと理奈と目が会った。
(え、テレパシー?すげー、魔法だー)
どうも萌には自分が"魔法少女"であることを忘れる癖があるようだ。
『からだのちようしはもういいみたいですね』
初めて携帯でメールを送るおばあちゃんのような文面を思い浮かべる。
通じるか今ひとつ不安だったが、うまく"送信"できたようだ。
そういえば名乗りも交わしていないな、と思い出し、せっかくだし思念でもって自己紹介でも、と考えた萌の耳を
>「もう少し『静粛に』……だよ。諸君」
冴えた声が打った。
声の主は"楽園派"筆頭、苗時静。
静は通された席の上に新聞を広げる。
店の真ん真ん中のその席なら、店内にいる魔法少女全員がそれを見ることができた。
ちょっと木に視界を塞がれがちな萌も例外ではない。
紙面では原因不明の昏睡から回復した少女の記事が比較的大きく扱われている。
>『失踪者の帰還や原因不明の昏睡からの回復がここ数日、全国で相次いで起きている。
> 単刀直入に言うと彼らは敗北した魔法少女で、全ては悪魔の差し金だ。
> とは言え、悪魔が慈悲の心に目覚めたと言う訳ではなくてね』
続く話を、萌の主観で要約すればこうだ。
"悪魔が、願いを餌に咥え込んだ少女たちを、出がらしになってもちぎって煮出してまだ搾り取ろうとしている"
そして、
"その娘らをシバキ回して止めをさしてやれば報酬が得られる"
非常に胸糞が悪くて素敵な話だ。もともと"断たれた"相手なら呵責も軽く済む。
>『体験入園の会場は既に用意してある。君達に野心か、平和への渇望があるのなら、すぐにでも案内させてもらうよ』
だが、最後の言葉には萌は否定を返す。
『悪いんだけど、"今すぐ"ってのはちょっとね』
なぜならば――
(なぜならば!)
「おまたせしましたー、こちら人参と山芋のスフレに、水切りヨーグルトの抹茶ティラミスと東方美人になりますー」
魔法少女ではない、ただの店員が彩りも鮮やかな二つのケーキとお茶を運んできた。
そう、萌は注文した品をまだ目にしてすらいなかったのだ。
「あ、どうもー」
愛想良く店員から皿を受けとり、ひとまず茶をすする。
鼻腔から微かに残っていた硫黄臭が追い出されて、代わりに甘い香りが満ちる。
それからティラミスを口に運び、抹茶の苦味と水切りヨーグルトを使用したチーズクリームの爽やかな酸味を楽しむ。
カロリーがおいしさの単位などというのは魂にまで脂肪がついた人間の世迷言にほかならない。
低カロリーでも美味い物は美味いのである。
【至福】
目を覚ますと周りは白で一色、そういわば高濃度粒子領域、はたまた噂のニュータイプフィールドか
ついに俺もニュータイプに……?いや、イノベイターか!
どちらにしても人類の革新か、それはいいな
いやしかし、ニュータイプは人類が宇宙という新たなる生存環境に適応し目視による空間把握が困難かつ
空気の振動を介して声で意思を伝える手段がないために脳波による意思疎通、一種のテレパシーのようなものが発達、空間把握能力を補うために脳自身の
機能が増幅されたのではないかというのが俺のニュータイプ論だ
まあ、トビア・アロナクスの言葉を借りれば”宇宙に適応した人間”というわけだ
いや、まてまてまて、おかしいだろ?さっきまで喫茶店で紅茶とケーキとクラブハウスサンド待ってたはずだ
いくら俺がニュータイプ的素養の高い人間だからといって喫茶店でいきなり覚醒するはずがない
思い出せ!思い出すんだ俺!一体何があったのか
確か……ジブラルタルでケイトが支えてクワンリーが「機体はそのまま、パイロットは死んでもらうが……」
いやこれは昨日見ていた機動戦士Vガンダム第14話「ジブラルタル攻防」だ
戻りすぎた。そうだ!喫茶店で謎の劇物が俺を襲って!
すべてを思い出した
「ハッ!俺は……」
目覚めると周りはすべて白かった
「煙幕?」
魔法少女が俺を狙って強襲?阻止臨界点はとっくに超えちまってるようだ
ならなぜ俺は死んでない?これは別のなにかがあるとみた
魔法でそれほどのダメージは受けていないがおとなしくしていたほうが賢明だ
狸寝入りを決め込んでいると嫌な予感しかしない怪しい3人組がやってきた
>「もう少し『静粛に』……だよ。諸君」
ほらやっぱりだ
やつらは『楽園』といううさん臭さ爆発のやつらだ
組織名が楽園とはまた怪しい、しかしこいつらの持って来た話は魅力的なものだった
>『私達は彼らを『亡者』と呼んでいるが……まぁここまで言えばもう察しは付いているだろう。
この辺りでも、『楽園』の住人が亡者に襲われている。君達には、ここら一帯の亡者を排除して欲しい。
勿論、報酬はある。亡者の持っていた魔法核に加えて、私達が正当な防衛の結果得た魔法核も明け渡そう』
狸寝入りは終了決定だ
「オーケー、その話、俺は乗った。よりどりみどり結構じゃないか
俺は力が欲しいからな」
>「けど……お客様に食い物をぶち撒けるような悪い店員には、指導が必要だよなぁ?」
麻子が凶悪至極な笑みを浮かべて夕暮れに佇む老紳士のひとときを運んできた。
狂気じみた激臭と反社会的なビジュアルに思わず後ずさりする南雲。刹那、膝の裏がかっくんと屈折した!
(椅子ッ――!?いつの間に!)
気付いたときには時既に遅し。立ち上がろうとした南雲は、自分が眼に見えないほど極細の糸に拘束されていることを知った。
否、糸ではなく。――魔法少女・猪間麻子の固有魔法、魔法の鎖である。
>「ほら、お客様には誠心誠意、愛を込めて、こうやって接するんだよ。はい、あーんっ……ってなぁ」
「いやいやいやいや!わたしお客さんじゃないですし!っていうかスプーン溶けてる溶けてる!」
げに恐るべきは容器すら五分と持たないその侵食性能。原子炉の容器でも持ってこなければ保存は務まらないだろう。
夕暮れに佇む老紳士のひとときという食べ物は、およそ刹那的な賞味を楽しむための料理であった。
楽しめるかはこの際別として。某所では罰ゲームに用いられているというし。某所って何だ。ペリカが基本通貨の強制労働所か。
>「――まったく、賑やかなのは良い事だが……喫茶店と言うのは本来憩いの場であるべきだ」
どこからともなく入店した、落ち着いた風の女性客の鶴の一声で、世界がガラリと瞬転した。
テレビドラマでカメラが別のシーンに切り替わったような『違和感のない異物感』。
見れば、南雲の鼻先に鎮座ましましていた存在感がまるきり消失し、ガンダムさんも驚きの白さでクリーニング完了していた。
>『……君達は魔法少女だろう?なに、取って食ったりはしないよ。少し話がしたいだけさ。安心してくれ』
およそ超然のものとしか思えない現象が目の前で起こった。
畳み掛けるように数人の、堅気から一歩踏み出したような目をした女性と少女が集団でご来店。
頭の中に直接響いてくるような、『ある共通項をもつ者同士で通じる言葉』。
>「ふむ、誰でもいいんだがね。騒ぎが収まったのなら席に案内してもらえるかな?」
この状況。
(新手の魔法少女――!!)
咄嗟、南雲は椅子ごと飛び退いた。麻子とて想定外だったらしく意識の集中が途切れ、鎖は戒めを解き自重で椅子が落ちた。
この数秒で、南雲が取った行動はおよそ三つ。
入り口付近にたむろしていた魔法少女達から距離をとり、
理奈を庇うようにして魔法少女達との直線上に割って入り、
エプロンドレスの内側に仕込んであった自動拳銃のセーフティを静かに解除していた。
が、それも徒労に終わる。
魔法少女達に敵意はなく(あるいはそれを装っているかだが、いずれにせよ一触即発という雰囲気ではない)、
さりとてただの挨拶というわけでもなさそうだ。最年長の苗時と名乗った女性は、あくまで静寂に言葉を滑らせる。
>『さて、話を続けさせてもらうよ。次に知ってもらいたいのは……この新聞だ』
長いので以下要約。
魔法核を奪われて廃人になった少女たちが、津々浦々で息を吹き返しているらしい。
ただしそれは手放しで喜べる奇跡ではなく、悪意による必然だった。希望の代わりに絶望を携えた彼女たちは『亡者』と呼ばれていた。
苗時たちハト派の魔法少女――『楽園』の魔法少女達は、この『亡者』による魔法少女狩りの憂き目にあっているらしく。
とどのつまりこれは、『楽園』への勧誘と『亡者』に対する警告、両方を兼ねた彼女たちなりのパフォーマンスなのである。
>『体験入園の会場は既に用意してある。君達に野心か、平和への渇望があるのなら、すぐにでも案内させてもらうよ』
『……怪しい』
南雲の回答は、端的にして率直。
同時に、魔法少女のブラックな部分を散々見てきて、およそこの戦いの酸いも甘いも知ってしまった彼女にとっては当然の帰結だ。
『言っちゃなんだけど、あなた達もーーーーーれつに怪しいよ?話の真偽を判断する材料が、こっちにはなきに等しいんだもん。
ニュースがその話題で騒いでるのは知ってるけどさ、それと亡者云々との因果関係については、あなた達に聞いた情報が全て。
初対面の、しかもいきなりお仲間ぞろぞろ連れて他人のテリトリーに上がりこむ連中ってのはね、胡散臭さ無量大数だよね』
こう見えて漫画読みでもある南雲は、『カイジ』とかでそういう感じにホイホイついていったノンケが酷い目に合う類型を見てきた。
極端な話、苗時の語ったことの全てがウソっぱちで、『楽園』は超タカ派だったりして、これが大掛かりなペテンだったとしても。
南雲は驚かないし、文句も言わない。ただ信頼できるソースが欲しいだけだ。
『例えばさ、今この店やこの近所で"亡者"ってのとエンカウントして、それをみんなで撃退するような流れだったら
信用しちゃうかもだけどね。あっはは、流石にそんな都合のいいことは、ないかっ』
せっかくだからフラグも立てておく。
ともあれ南雲のスタンスは現状、限りなく黒に近いグレーでの、猜疑であった。
【『楽園』の話に猜疑的】
322 :
名無しになりきれ:2011/05/18(水) 14:22:55.51 O
?
>>317 萌
>「はうあ!?」
私の念信を受けた「拳」のお姉さんが驚愕の表情を浮かべる。
一瞬作画担当が交代したんじゃないかという程のリアクションだ。
私、何か悪い事したかな……?
お姉さんの顔芸が何を意味していたのかがわからないまま少しの間佇んでいると、返事が返ってきた。
>『体後容姿(からだのちようし)はもういいみたいですね』
正しく受信できてるのかちょっぴり怪しいけど、こう聞こえたんだから仕方ありません。
とりあえず、前日の出来事から体の心配をしてもらったのは間違いないみたい。
「おかげさまですこぶる好調です」という意思表示をこめて、笑顔でお辞儀する。
年齢の割りに背も低く、発育もよろしくない私としては……容姿の面までは自信無いですけど。
【続く】
>>310-312 『楽園』派&猪間麻子
>>321 坂上南雲
>「もう少し『静粛に』……だよ。諸君」
その『声』を受けて――慌ただしかった店内の空気が俄かに入れ替わる。
消失した劇物。
収められた鉈。
下ろされた拳。
え?今この人たち、『何を』したの? むしろ『いつから』そこにいたの――!?
突如現れた三人の女性が、来店と同時に異質な緊張感を呼び込んだ。
多分あの人たちも魔法少女なのだろう。
素直に驚くことしかできない私は、ありのまま今起こった事を話すことしか能の無いポルナレフさん状態だ。
>『……君達は魔法少女だろう?なに、取って食ったりはしないよ。少し話がしたいだけさ。安心してくれ』
畳み掛けるように看破される私達の正体。店内にいる不特定多数の魔法少女に向けられた念話。
>「ふむ、誰でもいいんだがね。騒ぎが収まったのなら席に案内してもらえるかな?」
齢は私の叔母と同じぐらいか、リーダー格らしき女性が声をあげる。
店内を見回す彼女達に応じ、その視線を遮るように誰かが素早い動きで私の前に割って入った。
南雲さん――?
カチリという無機質で小さな音が聞こえて、私は思わず手に持っていた丸トレイを抱きしめた。
>『えっと……まず誤解しないで欲しいんですけど、私達に敵意はないんです。ほ、本当ですよ!ウソじゃありませんからね!』
わたわたとした口調で念話を引き継いだ地味目のお姉さんに何故か親近感を覚えて、私はほんの少しだけ気持ちを緩ませた。
苗時さん、目立さん、駆走さん。
『楽園』派と名乗る彼女達三人の話(特に専守防衛的なところとか)は、私にとって何だか魅力的に聞こえた。
私は別に魔法核を集めたいわけじゃない。「今は」ただ――この力で誰かの願いを守れたらいいなって……漠然と考えているだけだ。
>『……本当は、そこの狼さんに頼みに来たんだけどね〜』
>『……いいんじゃねぇの?行って来れば。悪いけどアタシはまだここに用があるんでね。
遠慮しとくよ。アンタ達『楽園』からすれば、アタシはブラックリストの筆頭だろうしな』
麻子さん……。
以前までの彼女の行いを考えれば、この返答は仕方無いかもしれない。
撃退して相手から得た魔法核を「正当な防衛の結果」と言ってしまうこの人たちの考え方も……なんだかひっかかる。
とりあえず、ここは
『あの……その前に一ついいですか?その、『亡者』になってしまった人ってもう魔法少女には戻れないんですか?』
返答の保留。勧誘に対して質問で返す。
姑息なやり方だけど、この世界は慎重すぎるぐらいが――きっと丁度いい。私達は既に一度騙されているんだから。
それに……一連の問題は茅野さんとも無関係じゃないかもしれないから。
【返答を保留、苗時さんに質問】
>「オーケー、その話、俺は乗った。よりどりみどり結構じゃないか」
『いいね、分かりやすい子は嫌いじゃないよ。私達を害さない限りはね』
>『悪いんだけど、"今すぐ"ってのはちょっとね』
>『……怪しい』
『うん、だろうね。だけどそう思うって事は、君達が既に辛い目を見たからだ。
そうだろう?だけどそんな君達にこそ、私達『楽園』は手を差し伸べたいんだよ』
純白の羽が舞うような微笑みと共に、苗時静は答える。
>『例えばさ、今この店やこの近所で"亡者"ってのとエンカウントして、それをみんなで撃退するような流れだったら
> 信用しちゃうかもだけどね。あっはは、流石にそんな都合のいいことは、ないかっ』
『……いや、案外この店は危ないと思うよ。これだけ魔法少女がいたら、亡者が嗅ぎ付けるのは時間の問題だ』
楽しげで平和な、止まり木のような世界が壊されてしまうかもしれない。
静かで鋭利な返答――率直な意見であり、善意の尾に火を点ける言葉でもあった。
『とは言え、ただ信じて欲しいと言うのも芸がないよね。だから――』
微かな笑みと同時に、苗時が腕を動かした。
鋭く振るい、その手から解き放たれた球体が弧を描く。
そして――緩やかに南雲の手に収まった。
透明な立方体に包まれた空色に輝く球体、苗時の魔法核が。
『私の魔法核だ。君に貸しておこう。大切に扱っておくれよ。持ち逃げは勘弁して欲しいかな』
事もなげに、苗時は言う。
『私達はこれからすぐに場所を変える。亡者をおびき寄せる為に用意した、『楽園』のステージに」
無論、持ち逃げされたところで取り返す術はある。
楽園の魔法少女が集結すれば、相手が多くの魔法核を所有していようと押し潰せる。
誰か一人が奪われたのなら、全員で取り戻す。楽園の基本姿勢だ。
だが、当然ながら無傷でとはいかない。
楽園に被害なく亡者を排除する為に、余計な戦いを生んでしまっては本末転倒だ。
とは言え、南雲が善良な少女ならば持ち逃げなど当然考えず。
また魔法核を貪欲に求めているのなら、たった一つではなく報酬を求めるだろう。
魔法核は欲しいが闘争は嫌だと言う卑しい者ならば――大した敵にはなり得ない。
『そこでそれを返してくれればいい。信用という利息を添えてね』
ウィンクと共に告げる。
>『あの……その前に一ついいですか?その、『亡者』になってしまった人ってもう魔法少女には戻れないんですか?』
『……どうだろうね。亡者に関しては、私達も殆ど分かっていないんだ。
捕らえて人体実験と言う訳にもいかないしね。
安直に考えるのなら……自分の魔法核を取り戻せば、戻れるんじゃないかな?』
顎に右手を添えながら呟き、更に一言付け加える。
『敗者復活戦と言わんばかりにね』
この戦いも悲劇も、全て悪魔のゲームに過ぎない。
誰もかもが、自分さえもが気分を害する、けれども吐かずにはいられなかった皮肉だ。
『さて、それでは私達は退散するよ。余計なものを呼んでしまう前にね』
楽園の魔法少女達が席をたつ。
『……町外れに、閉鎖したテーマパークがあるだろう?あそこなら誰にも迷惑を掛けずに済む。待っているよ』
背中越しに言葉を残して、苗時は店を後にした。
【次のターンくらいにはバトルに持ち込めます。
他に希望の展開があればその限りではありませんが】
>『……いや、案外この店は危ないと思うよ。これだけ魔法少女がいたら、亡者が嗅ぎ付けるのは時間の問題だ』
南雲が念信間で放った冗談に、しかし苗時は穀膳と答えた。それは完膚なきまでの、マジレスだった。
話しに聞く亡者とやらは、魔法少女の気配に反応して集まる、およそ自律的な思考を放棄した行動傾向に律せられるらしい。
これではまるで、ゾンビか何かだ。それもホラー物ではなくパニック物のそれである。得体のしれない恐怖というよりかは――災害。
>『とは言え、ただ信じて欲しいと言うのも芸がないよね。だから――』
苗時が何かを放った。緩やかな放物線を描き、それは南雲の胸元へと吸い込まれる。両手でキャッチ。
掌の中に覚えのある温もりが灯った。形こそ違えど、それがもたらす雰囲気は、南雲のものとよく似ていた。
すなわち。
>『私の魔法核だ。君に貸しておこう。大切に扱っておくれよ。持ち逃げは勘弁して欲しいかな』
「わお。本気なのおねーさん」
さすがの南雲もヘラヘラするのをやめた。己の手の中にあるのは、確かに魔法核に違いなかった。
魔法少女の命と言い換えても遜色ない最重要物件だ。おいそれと人に触れさせて良いものじゃない。
逆説的に言えば、魔法核を貸すという行為は――何にも勝る『誠意』や『信頼』の証明となる。
そして同時に、南雲はこの話を信じざるをえない政治的な立場に立たされることとなった。
『あちらがここまでしているのだから』。……往々にして善意や誠意というものは、悪意よりも鋭い心理的な楔となる。
そしてこの苗時静という女性は、そうした『善意の使い方』とも言うべき処世術の類に長けているのだった。
すなわち、南雲は信用に足る情報源を得ることなく、信じないという逃げの選択肢を潰されたのだ。
>『私達はこれからすぐに場所を変える。亡者をおびき寄せる為に用意した、『楽園』のステージに」
超然とした態度を崩さず、苗時は続けた。
己の命を相手の牙の真下に置いているとは思えないほどに涼しい顔。きっと保険があるのだろうと南雲は予想する。
そう、保険。この女は始めから、魔法核を担保にしようとなんて思っちゃいない。楽園という組織が、立場が、権力が。
苗時静にとってのリスクを排し、望む結果を生み出す一つの『武装』として機能しているのだ。まったく狡猾な女であった。
>『そこでそれを返してくれればいい。信用という利息を添えてね』
そうしてそんなことを、白々しく言ってのける。付随するウインクは、今まで見た誰のそれよりも蠱惑的だった。
南雲はテレパシーの周波数を一つ隣に移し、苗時にだけ聞こえる秘匿回線を繋いで囁いた。
『苗時さん、意外と性格悪いね』
自分が、他人のそういう賢しさを嫌いじゃないということを、南雲は知っていた。酷薄な笑みを悟られぬよう気を揉んだ。
ともあれこれで魔法核二つ。『楽園』の迎撃ポイントに着くまでの間は、南雲も理奈やガンダムさんのように二倍キャンペーンだ。
新たな武器を手に入れた時の人間特有の、なんとも言えない全能感が、今は心地良かった。酔ってしまわぬように自制する。
>『あの……その前に一ついいですか?その、『亡者』になってしまった人ってもう魔法少女には戻れないんですか?』
共用回線の方で理奈が問うた。
慈愛溢れる彼女のことだ。亡者さえも救おうとしての発言だろう。問われた苗時は思案するように零す。
>『……どうだろうね。亡者に関しては、私達も殆ど分かっていないんだ。捕らえて人体実験と言う訳にもいかないしね。
安直に考えるのなら……自分の魔法核を取り戻せば、戻れるんじゃないかな?』
(……でもそれは、魔法少女システムの本旨から逸脱する行為で。端的に言って『骨折り損』になる)
魔法核は戦利品だ。血反吐を吐くような戦いを経験して、手足ちぎれてでも掴みとった勝利の証だ。
だから『亡者』は忌むべき存在だと南雲は思う。堕ちてしまった者への憐憫じゃない。往生際の悪い敗者への怒りだ。
亡者と生者に戻すという作業は、そこに至る全ての魔法少女の命がけの戦いの結果を、リセットすることにほかならない。
だから南雲には、亡者を助けるという発想は始めからなかった。シビアな考え方だが、そうでなくては生き残れないのがこの戦いだ。
>『……町外れに、閉鎖したテーマパークがあるだろう?あそこなら誰にも迷惑を掛けずに済む。待っているよ』
そこまで言い残して楽園のリクルーター達は引き上げて行った。
魔法少女の密度が一気に下がって初めて分かる、店内に満ちていた無色透明の圧が抜けていった気がした。
「ふう。どうしよ、理奈ちゃん。わたしこんなのもらっちゃったんだけど」
掌に未だ乗っかっているのは、四角いアクリル・ケースのような意匠の魔法核。
中心に輝くその光は、南雲と同じ空色で手の中を照らし続けている。
「悪徳商法みたいなことするなー。知ってる?ネガティブオプションって言って、頼んでもない商品を送りつけて代金請求すんの。
普通は無視して放っとけばいいんだけど……今回ばっかはそうもいかないね。真偽はどうあれ、返しに行かなきゃ」
町外れの、閉鎖されたテーマパーク。苗時はそこで待つと言っていた。
行ってみる価値はあるだろう。よしんば罠だったとして、無警戒に近づくよりかはずっと生還率も高いはずだ。
機動力に長けた南雲の固有魔法は、本来こういうときの逃走なんかに役立つのかも知れない。
「ちょうどあと20分でバイト上がりだし、行ってみよっかな」
そんなこんなで20分後。
南雲は町外れの閉鎖されたテーマパークの、正門前に自転車を漕ぎ着けた。
私服姿に、腰には模型屋で買ったエアガン用のホルスターを提げている。マジカルハジキが威嚇するように収まっていた。
念の為に南雲は紙飛行機を一翼飛ばした。テーマパークの上空を旋回し続けるようプログラムしてある。
「苗時さーん。ブツのお届けにあがりましたんですけどー」
正門の影に左半身――心臓のある位置を隠しながら、南雲は呼んだ。
【魔法核を受け取る。テーマパークへ】
>>318 萌
>>319 蒼月 徹
>>321 坂上南雲
「拳」の魔法少女の反応。
>『悪いんだけど、"今すぐ"ってのはちょっとね』
>「おまたせしましたー、こちら人参と山芋のスフレに、水切りヨーグルトの抹茶ティラミスと東方美人になりますー」
ひとまず、軽食を摂る。何故ならここは喫茶店だから。
抹茶ティラミス美味しそう! いいなぁ。うぅ……見てたらますますお腹空いてきた。
時計を見る。2時まで、もうちょっと。
蒼月さんの返答。
>「オーケー、その話、俺は乗った。よりどりみどり結構じゃないか。俺は力が欲しいからな」
苗時さんの話にノリノリです。夕暮れ(以下略)のダメージも見られません。
損傷軽微、ピンピンしてます。もしかして蒼月さんはフェイズシフト装甲なの?
幼い頃、シン・アスカさんみたいな兄が欲しいと思っていました。周りの友達はキラ派ばっかりでした。回想終わり、マル!
南雲さんの場合。
>『……怪しい』
で、ですよね……。
私とはまた違った視点で楽園派に対する不審点を指摘する南雲さん。
言われてみると、確かにまだ亡者と遭遇していない私達には苗時さんの話を鵜呑みにすることができない。
>『例えばさ、今この店やこの近所で"亡者"ってのとエンカウントして、それをみんなで撃退するような流れだったら
> 信用しちゃうかもだけどね。あっはは、流石にそんな都合のいいことは、ないかっ』
ざわ・・・ざわ・・・
南雲さん、そんな怖いこと言わないで……
【続く】
>>325 苗時 静
>>327 坂上南雲
>『……いや、案外この店は危ないと思うよ。これだけ魔法少女がいたら、亡者が嗅ぎ付けるのは時間の問題だ』
――ヂリッ!
ふいに胸の辺りが熱くなる。始めて麻子さんと会ったときと――同じ感覚だ。
苗時さんの言葉が火花となって私の中にある可燃性の何かを刺激する。
この人は多分、遠まわしにこう言っているのだ。「周りの人間を巻き込みたくなければ、早くここから離れろ」と。
なるべく人目がつかないように目的を果たしたい魔法少女と違い、亡者は魔法核を得るためなら手段を選ばない。
そう言っているようにも聞こえる。――文字通り、いつか映画で見た生前の本能だけで動きまわるリビング・デッドのように。
亡者が本当にそういう存在なら、こんなのまるで……地獄からきた悪魔のすることだ。――悪魔?
>《悪魔達からしてみれば、彼らは……そう、ボーナスキャラのような物なのだろう》
そういえばさっき苗時さんも悪魔って言ってたっけ?それは一体、何者なんだろう?
>『とは言え、ただ信じて欲しいと言うのも芸がないよね。だから――』
私がボンヤリ考えている間に苗時さんが次の行動に移る。
>『私の魔法核だ。君に貸しておこう。大切に扱っておくれよ。持ち逃げは勘弁して欲しいかな』
>「わお。本気なのおねーさん」
――――!? 思わず昔のヤンキー漫画風の感嘆符を浮かべて絶句する。
やられた! これじゃ南雲さんから『断る』という選択肢を奪ったも同然だ。
持ち逃げなんてしようものなら――この人達は、きっと容赦しない。南雲さんもそれには気付いているだろうけど……。
>『私達はこれからすぐに場所を変える。亡者をおびき寄せる為に用意した、『楽園』のステージに」
>『そこでそれを返してくれればいい。信用という利息を添えてね』
ウインクを浮かべる苗時さん。その涼しげな瞳が私の前に立つ南雲さんに向けられ、一瞬だけ硬直する。
交わされた視線の間にある無言のやりとりを、私はただ、黙って見守っていた。
【続く】
>>326 苗時 静
私の質問に対する苗時さんの答えはこうだった。
>『……どうだろうね。亡者に関しては、私達も殆ど分かっていないんだ』
多分、これは本当だと思う。
>『捕らえて人体実験と言う訳にもいかないしね』
人体実験。こういう言い方をされると調べようという考え方自体がいけないことのように感じてしまうから、不思議です。
>『安直に考えるのなら……自分の魔法核を取り戻せば、戻れるんじゃないかな?』
私も同じことを考えていました。確かに、安直過ぎるかも。
……確証が得られいないということは、楽園派の中でまだ誰も試したことがないということだ。
まあ、当然だよね。
>『敗者復活戦と言わんばかりにね』
始めからこういう風に考える人達が亡者になった魔法少女まで積極的に助けるなんて――思えないし。
『ありがとうございました』
とは言っても、確証のない方法で亡者になった人たちを助けようとするのはあまりに危険すぎる。
亡者になった人がどんな状態なのかわからないけれど、当人にハッキリと戻る意思が無ければ説得すらできない。
下手すれば返り討ち、自分まで亡者にされてしまう可能性があるということだ。
常識的に考えれば見ず知らずの人の為にそこまでする義理なんて、どこにもない。
――こういう風に考える私にも、この人たちを責める権利なんて……無い。
だけど、もし私を助けたせいで亡者になってしまった人がいたとしたら?
不安に駆られ、蒼月さんが座っている辺りに視線を走らせる……いない!
さっきまでそこに立っていたはずの茅野さんが、何処にも見当たらない!
何処……私が見落としてるだけだよね?トイレかな?
>『さて、それでは私達は退散するよ。余計なものを呼んでしまう前にね』
>『……町外れに、閉鎖したテーマパークがあるだろう?あそこなら誰にも迷惑を掛けずに済む。待っているよ』
楽園派の魔法少女達が順に席を立って店を出て行く。
俄か雨の暗雲が通り過ぎて、止まり木の空が晴れの青さを取り戻す。
けれど再び降りた優しい陽射しは、もう私の心を落ち着かせてはくれなかった。
【苗時さんの解答にお礼。店内にいたはずの茅野さんを見失う(勘違いかもしれない)】
>>328 坂上南雲
>「ふう。どうしよ、理奈ちゃん。わたしこんなのもらっちゃったんだけど」
「もらったんじゃなくて、貸してもらったんでしょ」
南雲さんの手のひらで空色の魔法核が光る。南雲さんのものと同じ色だ。
>「悪徳商法みたいなことするなー。知ってる?ネガティブオプションって言って、頼んでもない商品を送りつけて代金請求すんの」
「あ、社会の授業で習ったことあります。他にはキャッチセールスとか、ねずみ講とか……」
>「普通は無視して放っとけばいいんだけど……今回ばっかはそうもいかないね。真偽はどうあれ、返しに行かなきゃ」
「私も一緒に行きます」
街外れにある閉鎖されたテーマパーク。昔パパに一度か二度、連れて行ってもらったことがある。
しばらく行かないうちに潰れてしまったけど、今でも一部のアトラクションがそのまま放置されている所だ。
>「ちょうどあと20分でバイト上がりだし、行ってみよっかな」
時計を見る。1時40分。南雲さんの言葉に頷いたそのとき
「――理奈」
叔母さん?
「ちょっと早いけど、上がっていいわよ。バックにお茶とお菓子も用意してあるから、南雲さんも麻子さんも飲んでいって?」
「う、うん……」
アプリコットの甘い薫りが疲れた気分に心地いい。
アップルタルト、ストロベリーバームクーヘン、そして……抹茶ティラミス♪
賄いは中々豪華だった。
折角のお茶だけど、ゆっくり飲んでる暇は無い。
私はカップをソーサーに置き、南雲さんと麻子さんに質問した。
「あの、さっき苗時さんが誰かのことを“悪魔”って言ってましたけど、二人は“悪魔”に会ったことあるんですか?」
20分後、私は南雲さんと共に約束の場所へと到着した。
【ターン2終了。南雲さんに同行する意思表示。出陣前にお茶を飲みながら二人に質問。
(意外に思われるかもしれませんが、理奈はまだセールスマン達が何者かを知りません)】
ブラック ≪ベ イカ レント・コ ンサルティング≫ 反社会的暴力組織
▼ 社員同士の裏切り(密告、チクリ)をさせている
▼ 経営者江口新が絶えず社員を疑っている(監視カメラ、張り込み)
▼ 社員を、恐怖感、危機感、不安感で操る
▼ 重要事件を紛糾問題にすり替え、口頭でごまかす
>「苗時さーん。ブツのお届けにあがりましたんですけどー」
「やあ、いらっしゃい。来てくれて嬉しいよ」
晴れやかな声と共に姿を現して、苗時が微笑む。
歩み寄り、魔法核を受け取って、そのまま別の魔法核を手渡した。
「受けてもらえるんだね、本当に良かった。これはちょっとした気持ちだよ。
……まぁ、前金と思ってくれても構わないけどね」
有無を言わさぬ嬉々とした笑顔で、二の句を継がせない。
勢いのままに話題を流し、転換する。
「さて、それでは早速だけど、亡者を誘き寄せるとしようか。
それまでの間だけど、君達には楽園を楽しんでもらおうかな」
笑顔のまま、苗時が手を叩いた。
後ろに緊張した様子で控えていた目立零子が、恐る恐る手を掲げる。
目立の願いと魔法――『地味な自分からの脱却』『光と飾りの創造』。
金色の輝きが彼女の手から溢れ、拡散する。
光が世界を塗り替えていく。閉鎖され、寂れた遊園地が瞬く間に無数の彩りに満ちた。
更に新たな魔法少女が二人現れる。どちらも年端もいかない少女だった。
まず一人が、目立と同じように右手を天へとかざす。
動物や童話の住民を模した着ぐるみが、あちこちに出現した。
少女の願い――『めいっぱいオシャレがしたい』。
生まれたのは『服を作り出す魔法』。およそ戦闘では生き残れそうにない力。
続いてもう一人が空へ手を伸ばす――秘めたる願いは『ぬいぐるみとお友達になりたい』。
顕現される奇跡は『命なき物に仮初の生を』。
着ぐるみが、動く事をやめたアトラクションが息を吹き返す。
また一人、もう一人と魔法少女が現れて、魔法を振るう。
夢の墓場に、願いと奇跡が満ちていく。
最後に、苗時が右手を掲げた。
『静かな時』を願う魔法が、遊園地を包み込む。
ここはもう、誰も足を踏み入れる事のない『楽園』となった。
魔法を知り、或いは呪いに蝕まれた少女達でなければ、決して辿り着く事のない『楽園』に。
「楽園へようこそ、二人とも」
再び生を得た遊園地の煌きを背に、苗時が微笑みを湛えながら言った。
「これだけ派手に魔法を使えば、亡者達も嗅ぎ付けてくるだろう。
他の魔法少女がやってくる可能性も、あるにはあるけど……邪魔にはならないさ。
これまで『楽園』に手出しする者には、容赦なくやってきたからね」
苦笑を残して振り返り、遊園地を見上げながら、言葉を紡ぐ。
「……随分と大変だったよ。やればやられると、他の魔法少女達に知らしめるのはね。
多くの争いがあった。敵も私達も多くの血を流した。その上に、この『楽園』が成り立っているんだ」
けれど、と言葉の架け橋を繋ぐ。
「多大な犠牲を払っても尚、この『楽園』はどうしようもなく不完全で、不安定だ」
声の調子を沈ませて、続ける。
「亡者の件で、悪魔達はこのゲームの『ルール』が変更出来ると分かってしまったからね。
いつ連中が、この楽園を『禁止事項』にするか分からない。闘争を『強制』するか分からない。
もしそうなってしまったら……きっと楽園の皆は、殆どが生き残れないだろう」
弱々しい魔法に乏しい魔力、皆無に等しい戦闘能力。
身を寄せ合って、辛うじて生きていられる魔法少女達は、今更『楽園』の外では生きていけない。
「明日には『楽園』は失われてしまうかもしれない。
もしかしたら、この先ずっと安寧の日々を過ごしていけるのかもしれない。
いつ、その日が来るのかは分からないんだ」
細く、長い吐息。息を深く吸い込んだ。
「だけど、だからこそ……私はその日が来るまで、この『楽園』を守ってみせる。
それ以外の理由で、『楽園』が失われるだなんて、そんな事は絶対に許さない」
意志を研ぎ澄まして、決意を言葉にして形にする。
「――なんて、そんな事は君達には関係ない事だったね。ついお喋りになってしまったよ」
理奈と南雲へ振り向いて、苗時は困ったような笑みを浮かべた。
「とにかく、今は『楽園』を楽しんでおくれよ。
たしか知史君は今手が空いている筈だから、彼女にガイドを……知史君?」
首を左右に回して駆走知史の姿を探し、彼女の様子に苗時が疑念の声を零した。
駆走は膝を突いて項垂れていた。呼吸を荒げ、肩を大きく上下している。
明るい表情で彩られていた顔は蒼白で、冷や汗に塗れている。
他の魔法少女が数人、心配そうに駆け寄った。
苗時も同じように一歩――直後に、風切り音。青黒い閃き。
駆け寄った魔法少女達が、同時に崩れ落ちた。
代わりに、駆走が立ち上がる。
血に濡れた刃を手に、青黒い衣装を纏い、胸には漆黒の穴を、そして狂気の笑みを浮かべて。
すなわち――亡者の覚醒。
「……一体、いつ魔法核を無くしていたんだい?」
苗時が問う。
「おー、流石に冷静ですねぇー。カッコイイなぁー……じゃなくて、えっと、三日くらい前でしたっけ。
魔法少女になったばかりなのに、何だか物凄い怖い子に当たっちゃいましてね。
後で知ったんですけどあの子大層なベテランだったんですねー。あはは、本当に運がないなぁ私」
明朗で饒舌な語り口。だがどことなく悪意が潜んでいる。
「だけど三日前、その可哀想な知史ちゃんにも幸運が舞い降りたんですよ。
あのいけ好かないクソ眼鏡。初めに騙された時は殺してやりたいくらいでしたけど、
「実は私達、このゲームに新たなシステムを導入しようと思っていまして。
貴女はとても不幸ですが、運がいい。産声を上げた夜に失った夢を取り戻すチャンスを、その日に得られるのですから」
だったかなぁ?とにかくこれは本当に助かっちゃいました」
左手を目の横に添えて営業スマイルを真似ながら、駆走が三日前の夜を演じる。
「あ、でも初めはこんなつもりなかったんですよ?人の夢を奪ってまで〜とか、色々考えてたんです。
でもその夜の内に他の魔法少女に出会った時、私急に気が遠くなって……気が付いたら魔法核が一個、手の中にあったんですよ」
胸の穴から一つ、魔法核を取り出した。
橙色の、誰の物かも分からない魔法核。
夢を失い、代わりに絶望で満ちた心の穴を満たしはしない、他人の夢。
「それで怖くなって、逃げ出して、そしたら知史さんが来て楽園の説明を受けて、
目の前の逃げ道に考えなしに飛び込んで、気が遠くなるのを必死で堪えていたけど……結局はこれ。
ってのが事の顛末ですねー」
自嘲の笑みを浮かべた。
「でも、今思えば馬鹿な事をしてたもんですよ。だって今、私とっても充実してるんです。
他人を蹴落とすって、夢を奪い取るって、なんて楽しいんだろう!って。
その上、運がよければ自分の夢まで戻ってくるんですから……いい事ずくめですよ、ホント」
両腕を広げて、駆走が満面の笑顔を浮かべる。
胸に開いた奈落の奥で、絶望の闇が蠢いていた。
苗時が、苦渋の表情で口を開く。
「……君の苦難に気付いてあげられなかったのは、私の責任だ。
年長者として、楽園の責任者として、恥ずかしい限りだよ」
「おぉー、この状況でも大人ですねぇ。つくづくカッコい……」
苗時の表情が、眼光が変わる。
憐憫と負い目が消え去り、瞳に決意が満ちた。
「だけど、残念ながら君は今から楽園の敵だ。排除させてもらう」
「……わぉ、ますますカッコイイ」
「無論、彼女達がね」
背後の理奈と南雲を勢いよく指差しながら、付け加えた。
「……前言撤回しちゃおっかなぁ」
「悪いけど、私には楽園の皆を護る義務があるんでね……君の相手は出来ないな。
二人とも……よろしく頼むよ」
「ま、いいですけどね。ちょっと順番が変わるだけです。誰一人逃したりはしませんよ」
苗時が退く。理奈と南雲への加勢は出来ない。
駆走が楽園の住人を狙った際に、その攻撃を『沈静化』する為に。
駆走が子供が棒切れを弄ぶように剣を振り回して、理奈達を睨む。
「折角だから先手は譲ってあげるよ。ほら、年上の余裕って奴?
どう?苗時さんほどじゃないけど私もカッコ良くない?あはは」
快活な笑い――不意に、変貌する。
「ほら、かかってきなよ」
酷薄で冷淡な、歪んだ笑みに。
「どうせ私の呪い――【付平等】《フェアトレード》には叶いっこないんだからさぁ」
【亡者→駆走。行動→先手を譲る。
呪い→願いから生まれるのが魔法。絶望から生まれるのが呪い、みたいなもの】
>『いいね、分かりやすい子は嫌いじゃないよ。私達を害さない限りはね』
「はっ!お前らこそ俺の邪魔をするなよ。俺は力が欲しいだけだ。その場を与えてくれたお前らに感謝こそすれ襲うようなことはないさ」
できればここで強くなる。いまはまだ扱える機体が少なすぎる。そう、俺はもっと多くのガンダムになりたいんだ
俺は懐疑的な他の少女を黙って見ていた。あいつらの不安もわからなくもないな。どう見てもこいつらは怪しい
>『……町外れに、閉鎖したテーマパークがあるだろう?あそこなら誰にも迷惑を掛けずに済む。待っているよ』
場所は……あそこか、子供の頃にはよく行ったことがある。なんの変哲もない普通の遊園地だ
「オーケイ、ちょっと遅れると思うが、俺の分は残して置いてくれよ」
俺はやっと来たケーキと紅茶とクラブハウスサンドを急いでかきこんだ
【自宅】
俺の自宅はごく普通の一軒家、自慢と言えば築年数がまだ5年にもみたないことだな
べつに俺が稼いで建てたわけではないから、不満もなにもないのだがな
俺は2階に上がろうとすると妹が喫茶店はどうだったかと聞いてくる
「うまかったよ。こんど行ってみたらいいよ。お前と同じぐらいの年代の子も働いてるからな」
それだけ言うと俺は2階にある俺の部屋に向かった
まず目に入るのが俺がいままで集めたガンダムグッズだ
プラモデルやフィギュアを中心に飾ってある
そこから何機か取り出し、リュックの中に入れた向かうは町外れの遊園地、たぶん他の奴らはもうついているだろう
【遊園地】
俺がつくとそこはずいぶん前に閉鎖したはずなのにずいぶんと賑やかな様子だ
「すでにパーティは始まってるのかよ。」
すぐに中に入る。すぐに『楽園』の連中と理奈と南雲の姿が見えた
だが、様子がおかしいあきらかに雰囲気が悪い。俺は遠くから彼女達の様子を見ることにした
【いままで連絡がなくて、すみません
最近、忙しいので中身も少し薄めで申し訳ありません】
にんぽ帳焼かれた
339 :
名無しになりきれ:2011/06/05(日) 20:08:40.05 O
おっぱい揉んであげよう
一応保守
みんな全滅したのか・・・?
342 :
忍法帖【Lv=38,xxxPT】 :2011/07/16(土) 19:51:50.88 0
死んだよ
343 :
名無しになりきれ:2011/07/16(土) 20:05:46.49 O
ざまぁ
神田の行動。
>「……とにかく、ありがとね」
駆走さんの瞳から絶望の淀みが消え、その表情に笑みが浮かんだ。彼女にはまだ「自分」が残っている。
>「え?あれ?そこ流しちゃう?……まぁいいけどさ」
流したわけじゃない。
この人が魔法核を取り戻し、本当の意味で『生者』に戻れるかを確認できるまで、私は安心できない。
「ありがとう」なんて、受け取れない。そんなありがとうは「ありがとう詐欺」だ。
>「えっと……確か、鎖使いの女の子だったけど……別に探し出そうとか、そんなのはいらないよ?
>夢がなくたって……別に、生きていくには困らないだろうしさ。案外世の中、そんな人ばっかなんじゃないかな」
だってこんなこと言っちゃってるんだもん。
いや、別に生きててくれるのは嬉しいよ?魔法核を取り戻したくないって言うならそれでもいい。
鎖使いの女の子(時系列的にやっぱりなーとは思ってたけど多分麻子さん)にお礼参りに行くとか言い出さなくて、本当に良かった。
でもそれじゃ大事な前提が抜け落ちてる。
この人は今の自分が偶々悪魔の悪戯のようなもので生かされてるだけだって、全く気が付いてない。
もしこの先、悪魔の気が変わりでもしたら糸の切れた人形みたいに眠れる廃人に逆戻りだ。そんなの生きてるなんて言えない。
駆走さんは廃人になる前に『亡者』になったからその自覚がないかもだけど、苗時さんの話では実際に廃人になってしまった人は……確かにいたんだ。
あの悪魔がこんなことで私たちを手放してくれるような手ぬるい連中なら、私はとっくの昔に魔法核なんて手放してるよ。
しかし――
『苗時さん、もしかしてあなたは……最初から何かご存知だったのではないですか?』
>「……だとしたら、なんだって言うんだい?」
彼女の口から明かされたのは、不足した仮定による裏返しの肯定。
即ち、苗時さんは初めから駆走さんが『亡者』であることを知っていたという……事実?
考えてみれば、魔法少女として私たちよりもはるかに格上のこの人が知らなかったというのがそもそもおかしい。
>「だって君達は、何も聞かなかったじゃないか」
随分無茶を言う。
ええ、確かに聞きませんでした。ことここに到るまで聞こうとも思いつきませんでした!
ようやく気付いた。私が天性の「嘘吐き」とすれば、苗時さんは筋金入りの「誠隠し」だ。
>「君達の活躍で、結果として皆が得をした。それ以上に大事な事があるかい?ん?」
多数の利益を得る為に仲間すら切って使う。リスク回避には外部の人間を利用する。分のいい保険だ。
「い、いずれにしてもあなたがたが『楽園』を名乗るのであれば、今は駆走さんを助けることを考えるべきでは……?」
【続く】
なな板で再開されたようで嬉しいです
皆さんのレスを毎回楽しみにしていたのでこれからも是非頑張って下さい
――それは多分、願望に近かったのだろう。
「駆走さんが今後あなたがたに危害を加えないって言うのであれば、もう『楽園』の敵じゃありません。
けど、今のままじゃいつまた『亡者』に戻ってしまったり、気を失って廃人になってしまうかもわからないんです」
他力本願と言い換えてもいい。
私は苗時さんに……『楽園』に駆走さんを見捨てて欲しくなかった。
散々他の魔法少女を傷つけてしまったこの人を今更受け入れるなんて難しいかもしれない。
けどそれは、『亡者』故に仕方なかったことだ。悪いのはきっと――彼女にこんなことをさせた、悪魔のほうだ。
「さっき本人の言葉を聞いて希望が出ました。魔法核のアテはあります」
<……今からだ。今からアタシは、“魔法少女”になる。
一番高い所に立って、誰も彼もを守れる“魔法少女”になってやるんだ。アタシみたいになっちまう奴が、一人もいなくなるように>
今のあの人なら、きっと手伝ってくれるはず。
「だからお願いです。どうか駆走さんを『楽園』に戻してあげてください」
当の駆走さんは自分の魔法核なんていらないと言っているけど、どうでもいい。危機感が足りないだけ。
例え苗時さんがあらかじめ事情を知った上で私たちを炊き付けたのだとしても、そんなの関係ない。
いえ、ぶっちゃけハラワタ煮えくり返ってますけど………………でもでも!
元々私は苗時さんの誘い方には懐疑的だったし、実際彼女が南雲さんにあんなことをしてこなかったら依頼に乗ることも無かっただろう。
こんな状況にはならなかったはず。
それでも私に我慢ならない点があるとすれば、『楽園』を名乗るこの人たちがまだ可能性の残っている駆走さんを助けないことだ。
だけど……これはやっぱり私が“魔法少女”として自分を納得させる為のエゴでしかない。
わかってるんだ。だから、私が苗時さんに要求できるのは……ここまで。強いて言うなら
>「つっても、あんたらだってお仲間が返ってくりゃあ初めに考えてた以上の得でしょ?
>もし成功したらギャラにもう少しイロつけてくれてもいいんじゃない? 」
拳の魔法少女が端的に要求を突きつける。
私にはもうこれ以上誰かの『願い』を背負う勇気は持てないからいい。そもそもこの人を止める権利も無いし。
正統な報酬……か。
>「いやいやいやいや。ちょっと待ってよ」
南雲さん……。
>「こんなのってないよ。あんまりだよ。
> 結果的に得とか言うけどさ、わたしたち思っきし怪我してますし。損得の勘定は結構だけどさ、損得で感情は割り切れないよ。
> 殴られたから殴り返して痛みが消えるわけじゃないし。殺されたから殺し返したってプラマイはゼロじゃなく双方マイナスだよ」
そうだ。今回の件で一番“誰か”を許せない人がいるとすれば……多分この人かもしれない。
でも、南雲さん。流石にこればかりはどうしようもないよ。元々相手の方が大きかったわけだし。
周囲の空間からガソリンのような匂いが消えた。南雲さんが物体生成を解除したのだろう。
>「いやね、何が言いたいかって言うとですね。――溜飲を下そうと思って」
彼女が漏らしたその言葉の次に、信じられない光景が待っていた。一つの銃声を合図に、それは始まった。
【苗時さんに要求。南雲さんの行動の少し前】
347 :
名無しになりきれ:
【入社危険】ベ_イカレ_ント・コ_ンサ_ルティング【常習詐欺】
派遣待機社員は何も設備が無い部屋に監禁されカメラで行動監視
新卒内定辞退強要 退職休職強要実行犯の執行役員南部光良が在籍
違法派遣事前面接 新卒就職ブラックリスト指定 顧客情報漏洩