>『トロい…トロいよ♪君のスタンドは〜♪そんなんじゃ蚊一匹殺せやしないよぉ〜〜だ♪』
風に舞う木の葉の如く御前等の拳をひらりと回避したアメリカねずみは宙を行く。
こちらの攻撃の届かない範囲を浮遊。逃げを打たないのはその必要がないから。
ザ・ファンタジアの防御性能は御前等の攻撃力を軽く凌駕していて、例え拳を当てたとしてものれんに腕押し、糠に釘。
>『♪そーいうのジャパ〜ンでは"キモヲタ"って言うんだろぉ〜♪
繰り返すけど、ダッサwwww♪ついでにそのバンダナもwwダサッ♪』
その発言で御前等の心に赫怒の炎が灯った。
「貴っ様ァァァァァァァァァッ!!大きなお友達が社会通念的に言ってキモいのはまあ認める!
認めるが!――この俺を!そのセンスを!侮辱するのだけは絶対に許さんぞおおおおおおおおおおお!!」
精神の炉に甚大な薪がくべられ、彼の内燃機関は渦動する。
大地を踏み締め咆哮の如き唸り。魂を鼓舞し、スタンドに鬼神の迫力を宿す。
「この俺のファッションセンスをディスるってことは貴様は相応のお洒落さんなんだろうなッ!
そのデザインで!貴様なんかが…『お洒落』だと…?勝負しろアメリカねずみ!!!今ここで!!貴様を倒す!!!
シャツinズボンにバンダナが『最強』だって!!!俺が証明してやる!!!」
かくして勃発したオシャレ論争にしかしザ・ファッションセンスは取り合わない。
空中で形状を変える。細胞分裂の如く細切れになり始めた。その数、やがて数十匹。
>『君たちの下品なスタンドに近づかなくても、ダメージを負わせる術はあるんだよぉ〜〜♪
単細胞な君たちとは違って、僕の能力は応用が効くんだ♪』
「っは!何をやり出すかと思えば細切れになっただけじゃあないか!そんなちっぽけな蚊柱で何をするって――」
>『鼓膜に直接ダメージを与える超音波だァーーーー!!♪
ここにいる連中全員!耳から血を噴出させて悶絶しやがれぇぇぇーーーー♪♪』
始まったのは鳴動。空気を微細に揺らす振動。ぽつりぽつりと聞こえ始めたそれらは次第に数を増やす。
ねずみ算に増え続け、やがてホールを埋め尽くすそれは羽音だった。
「ぐあああああああああああああああ!!!!!!!!」
御前等は耳を抑えて蹲った。
耳元で蚊にぶんぶんやられたら相当イラッと来る。それが幾重にも連なり、更に指向性を持って御前等を攻め立てる!
あまりのストレスに御前等は耳から血が出そうになった。直接鼓膜をドンドコ殴られてる気分だった。
「ぐげげげげげごごごごごがががががが……っ!」
のた打ち回る御前等!しかし音の責め苦は止むことはない!ラテンさんのことなど視界に入ってないかのように!
御前等はホールの床をごろごろと転げまわる!水もないのにバタ足を始める!頭が割れそうだった。
そして。
「……――――お?」
音が、消えた。
スピーカーの電源をブツ切りにしたかの如き静寂。
先生がマジギレしたときの教室内のような居心地の悪い静謐は、いつ追撃がくるかわからないからだ。
果たして追撃はなかった。アメリカねずみはまるきり、うんともすんとも言わなくなったどころか――姿を消してしまったのである。
「どこへ――まあ良い。ラテンさんの止血が先だ。天野クーン氷をくれ!血がヤバいことになってる!」
ホールのどこかにいるであろう天野。彼へ向けての救援要請を御前等はどこへともなく張り上げた。
【アメリカねずみの攻撃がストップ。どっかにいるであろう天野くんに氷を要求】