【邪気眼】二つ名を持つ異能者達【其ノ肆】

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101鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg
分析もしやすくなれるはずです」」」」
そう呟き、斎葉はロボットでジョーカーの居る方に飛んでいく。
ジョーカーを取り囲み、レーザーで攻撃する事で能力を調べるつもりだ
【鎌瀬一行:ジョーカー戦場へ】
102神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/13(水) 13:01:59.89 0
>>98
「ホホホ、元気のよろしいことで」
瞬脚を用いての超高速の接近にも動じず、ジョーカーは笑みを崩さずに鎌を振るった。
(……?)
菊乃はそれを不思議に思いながら回避動作に移る。
(遅え……。四傑の一人ならこんなもんじゃないはずだ)
その疑問の通り、ジョーカーの放った攻撃は然したる速度ではなかった。
それでも下位の狂戦士の攻撃──菊乃は闘ったことがないので本人は知らない──よりは遥かに速い。
しかし菊乃にとってその速度は余裕を持って避けられる一振りだった。
(まだまだ隠しダネがあるってか……?ならそいつを少しでも早く引っ張り出してやるか)
紙一重とは程遠いタイミングでジョーカーの攻撃をかわし、懐に飛び込む。
「フッ──」
攻撃の際に生じた死角から拳を繰り出す。
威力的には6割程といったところだが、速度は申し分ない。隙を考えると、回避は不可能──のはずだった。しかし──
「んだとォッ!?」
回避不可能と思われたその攻撃を、ジョーカーはいとも簡単に避けて見せたのだ。
ジョーカーはこちらの攻撃を滑らかな動きでかわし、そのままの勢いで天木の方に向かっていったのだ。
(今のは……瞬脚、か。やっぱただじゃ食らってくれねえか)
避けられたことには驚いたが、すぐに思考を切り替えてジョーカーを追う。
しかしジョーカーは既に天木に接近しつつある。今からでは接触を止める事は出来ない。
(天木……すまねえが少しだけ頑張ってくれ!)
心の中で天木に語りかけ、ジョーカーの後を追った。

そこから先の展開は、菊乃の予想を上回るものだった。思わず立ち止まって見てしまう程に。
接近してくるジョーカーに対し、天木は全く見当違いの方向に攻撃を仕掛けていたのだ。
(どういうことだ……?天木の様子から見てジョーカーの姿が見えていない、ってことはねえはずだ。
 なのに攻撃を外している──というより当てようともしていない。天木にはジョーカーがどう見えてるんだ?
 アタシには普通に見えてるんだが……。幻覚?分身?それとも鏡のような反転能力?
 いや、どれも推測の域を出ねえな。……ん?待てよ?)
そこで菊乃はふとあることに気がつく。
(天木が攻撃を外したのは十中八九ジョーカーの能力の仕業。
 だとしたら……何で"アタシにはそれが分かる"んだ?ヤツが能力を使ったんならアタシにも天木と同じ見え方になっているはずだ。
 ヤツの能力には何かしらの欠点がある?範囲が限られているか、視界に捉えた者のみに発動するか、それとも別の何か──)

そこまで考えていると、ふと視界の隅に鎌瀬達が映る。どうやら斎葉の手も借りて無事にユーキを救出できたようだ。
(これであっちは問題なくなったな。あとはアイツの能力を暴くだけだ)
再び走り出し、ジョーカーに攻撃を仕掛ける準備をする。
と、そこに何か別の物体が違う方向からジョーカーに向かっていく。その数は四つ。
(何だありゃ?ロボット?……てことは斎葉か。アイツも手伝ってくれるってか)
ジョーカーは笑みを浮かべて佇んでいる。このままでは天木が危ないかもしれない。
そう思った菊乃は、瞬脚を使い一瞬の内に天木に接近する。
「ちっと手荒になるが許してくれよな。『重力減少』」
天木の体に『重力減少』をかけ、極限まで軽くする。そしてトンッ、と天木の腹を軽く押した。
すると、重力による負荷が極限まで軽くなった天木の体は地を滑るようにして離れていき、やがて木にぶつかって止まった。
僅かな衝撃が怪我に少し響いたかもしれないが、我慢してもらうしかないだろう。

「さて、今度はこっちがお前に傷を負わせる番だ。いくぜ──『重力増加』!」
言葉と共に周囲の重力が重くなる。その数値は通常の十倍。いかに四傑とは言え、さすがに無視できない値だ。
「天木に見せた能力、今度はアタシにも見せてもらおうか。天木が受けた痛み──倍にして返してやらぁ!」
ジョーカーに向かって走り出す。今回は瞬脚を用いているため、先程よりも更に速く、文字通り一瞬で接近できるだろう。
更に自身の考えを検証するため、サーモセンサーも起動しておく。
(さぁ、来るなら来やがれ。その化けの皮、剥がしてやるぜ)

【神宮 菊乃:天木をジョーカーから離す。戦闘中】
103氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/14(木) 01:39:35.68 0
>>97
「モウ息ガ上ガッテイルノカ。ソノ様デハ、俺ヲ倒ス事ハデキナイ!」
何もない空間に向かって、エースが拳を素早く突き出す。
しかし、それは単なる素振りを意味するものではなかった。
腕周りのブレード状のオーラを、まるで伸縮自在のゴムのように伸ばし、飛ばしてきたのだ。
それは、かつて廃工場で見たものよりも、はるかに長い。

氷室は横にステップし、余裕を持ってそれをかわす。
普段のように敢えて紙一重でかわさなかったのは、二撃目を予想していたからだ。
紙一重で避ければ、恐らく避けた方向に軌道を変え、対処してくるであろうと。
「無駄ダ!」
予想通りに、エースはオーラの突きを、すぐさま横薙ぎに変換してきた。
氷室はそれを、今度は紙一重でジャンプしてかわす。
一撃目がかわされた時に生じる隙を殺すための二段攻撃。
ならば、その二撃目さえもかわせば、敵に自ずと隙が生じるのは道理。

が、その隙も敵が実力者である程、虫の命ほどの短さで消えてしまうもの。
規格外の身体能力を誇るエースが相手となれば、少しのリアクションも無駄にはできない。
氷室は空中で体勢を変えると、すぐ背後に聳えていた木の幹に足をつけ、
そのまま押し倒さんとする力強さを持って、幹を蹴った。

時速何百kmという爆発的な推進力が生まれ、一気にエースとの距離が縮まっていく。
例え高速戦闘に慣れた瞬脚の使い手でも、容易に反応できるスピードではない。
「無駄ダト言ッタハズダ!」
それでも、エースは反応した。そればかりか、もう片方の腕を突き出して、
新たなブレード状のオーラを氷室目がけて放ったではないか。
──恐るべき反射神経、そして防衛能力。
しかし、氷室にとっては、それも予想の範囲内であった。

「無駄なのは、お前の攻撃の方だ」
ブレードの先端が目と鼻の先まで迫ったその時──
氷室は右の掌を、地面に向けて差し出し、そして叩き付けた。掌から放った冷気を。
「ッ!!」
冷気の威力によって土煙が舞い上がり、エースの視界を封じていく。
同時に冷気の反動を受けた氷室の体は、重力に逆らって斜め上に浮かび、更に加速。
オーラブレードの軌道上から反れ、エースの後方に聳える大木に着地した。
勿論、それだけで終わるわけがない。視界を封じ、背後まで取ったのだから。
(奴のオーラは、私の拳撃どころか冷気さえも弾く。生半可な攻撃ではダメージを与えられない。
 だとするなら、手は一つ──!)

氷室は再び強く幹を蹴り、エースに向けて加速した。右手に強い冷気を集中させながら。
そう、狙いはゼロ距離からの『ノーザン・ミーティアー』。
コンマ一秒という正に刹那の間に無防備な背中を射程におさめた氷室は、
かつてない力をその手に乗せて、腕を突き出した。
(────!?)

その瞬間、氷室の思考は止まった。……理解できなかったのだ。
エースにダメージを与えるどころか、逆に自分自身がダメージを受けている現実が。
「グハッ……!!」
口から、いや、全身から溢れ出た血が、空間を赤く染めていく。
全身の鋭い痛みを再認識したところで、氷室はやっと自分の身に何が起こったかを理解した。
(こいつ──オーラを無数の針のようにして──!)

エースの背中が──いや、全身が纏うオーラは、無数の長い針が突き出たものに変形していた。
それが氷室の全身を貫いたのだ。しかも微小な振動によって徐々に傷口は拡大しつつあった。
「例エ如何ナル状況下ニアロウトモ、接近戦デハ俺ニ隙ハ無イ──ヌッ!?」
途中で、エースは音の外れた声を出した。
氷室の右手が強く輝いている。そう、凝縮した冷気はまだ活きていたのだ。
「そう……かい──!」
至近距離から解き放たれた冷気が、エースの全身を包み込んだ──。
104天木 諫早:2011/04/14(木) 01:47:04.71 0
>>99>>100>>101>>102
(あれは……)
天木は上空を見上げた。いつの間にか、視界に四台のロボットがいる。
新手の狂戦士か? いや、そうではない。
己の肉体を武器にする狂戦士が、メカに頼るはずがない。
(そうか、斎葉って奴か……)

「ん?」
一歩送れて、ジョーカーも接近しつつある奇妙な集団に気がついた。
「新手ですか。いいでしょう、まとめてお相手して差し上げましょう」
一瞬、ジョーカーの意識が天木から斎葉のメカに向けられる。
天木はその隙を突いて瞬脚を使った──ただし、攻撃するためではなく、一旦間合いを取るためにだ。
瞬時に10mほど距離を取った天木は、ジョーカーを鋭く睨み付けた。
だが──既にそこには、ジョーカーの姿はなかった。

「ホホホ、何処へ行くのですか?」
(──っ!?)
体が凍りつく。ジョーカーの声が、自身のすぐ背後からしたからだ。
「中々見事な瞬脚でしたよ。ですが、私が敵であったのが運の尽き」
大鎌が高々と掲げられる。
(クソ! 距離を取ることもできねェのか!)
険しい表情で悔しさを滲ませる天木の脳天に、容赦なく鎌が振り下ろされた──。
しかし──次の瞬間には、鎌は空を切った。その場から天木が消えているのだ。
「ほう」
ジョーカーがあらぬ方向に視線を移す。その先には、大木の側で蹲る天木の姿があった

「ガハッ……! 助かった、が……一瞬天国が見えたぜ……へへへ」
苦笑する天木の視線の先にいるのは、ジョーカーの側で体を構える神宮 菊乃。
あの瞬間、彼は神宮によって体を吹っ飛ばされた陰で、直撃を免れていたのだ。
「さて、今度はこっちがお前に傷を負わせる番だ。いくぜ──『重力増加』!」
神宮の言葉に呼応して、周囲の空気がまるで鉛と化したかのように、ズシリと重くなる。
「おや、体が重い。ホホホ、いい特技をお持ちのようで。これでは満足に動けません」
とは言っているものの、その声や仕草からは焦りや苦悶を窺い知ることはできない。
要するに、10倍重力下というのは、ジョーカーにとっては致命的なものではないのだろう。
(だが……いくら四傑ったって、効果がねェはずがねェ。
 踏ん張ってくれよ神宮。何とかして、奴の能力の謎を解き明かしてみせる)

「天木に見せた能力、今度はアタシにも見せてもらおうか。天木が受けた痛み──倍にして返してやらぁ!」
神宮がこれまで以上の超高速でジョーカーに接近する。
恐らく瞬脚だけではなく、重力操作も発動させているのだろう。
「ホホホ」
だが、神宮が達するよりも先に、ジョーカーは動き出した。
10倍重力下でありながら、軽々と10mほどもジャンプしたのだ。
それを見て、神宮も逃すまいと直ちに空中に飛び上がる。
そして、重そうな拳撃を、目にも止まらぬ速さで繰り出した。
(──!?)

この時、恐らく目を疑ったのは天木だけではなかっただろう。
空中に飛び上がり、拳の射程にジョーカーを捉えながらも、
神宮が攻撃したのは斎葉が操るロボットの方だったのだ。
ロボットが一台、木端微塵になって四散していく。
「なっ──どうしたってんだ神みy──! ──危ねェ!! 後ろだ神宮ァアッ!!」

気付けば、あらぬ方向に拳をぶつける神宮の後ろに易々と回り込んだジョーカーが、
鎌を持った手を大きく振りかぶっている。
その一声で我に返ったか、あるいは先程の天木のように自ら異変に感づいたのか、
神宮は首を後ろへ向けた。しかし、時既に遅し──。
振り下ろされた刃は、神宮の胸に突き刺さった。
105天木 諫早:2011/04/14(木) 01:51:44.05 0
「バカな……一体、何が……」
血を流して無残に落下していく神宮を、半ば唖然と見つめながら、天木は声を絞り出した。
(……待てよ)
そしてその時、ふと気が付いた。
今の神宮は、丸っきり先程の自分ではないのか? ……と。
つまり、神宮にはジョーカーが“見えていなかった”のではないか?
見えていたのは──ひょっとすると、実体のない幻影?
(……いや、だとしても、合点がいかねェ。何故、俺には本体のジョーカーが見えていたんだ?
 それに幻影だとしても、こうも上手く錯覚させられるものなのか?
 何か変だ……何かが……。少なくとも、ただの幻影じゃねェことは確かだ)

「ホホホ、他愛のない。もうお終いですか?」
着地したジョーカーが、倒れる神宮に向けて鎌を光らせた。
「──ッ! 止めってか! そうはさせねェエッ!!」
咄嗟に天木はワイヤーを投げ放つ。
手応えは無し。ワイヤーと接触する瞬間、ジョーカーは再度高く飛び上がったのだ。
(なに!?)
しかも、驚くことに、ジョーカーは斎葉が操るメカの、三台の内の一つの上に乗っている。

「斎葉ァッ!! 何やってんだィ!! 攻撃しろォッ!!」
直後、天木の呼びかけに応えるように、それぞれのメカがレーザー光線を発射。
「──なっ!?」
しかし、何とそのレーザーが、天木に向かってくるではないか。
天木は瞬脚でそれらの大多数をかわすことに成功するが、
かわしそこねた一つが、肩に着弾。爆発と共に肩は容赦なく抉れた。
「グハァァァアッ!!」

体ごと吹っ飛び、地を転がる天木。
ジョーカーは乗っていたメカから飛び降りると、倒れる二人を嘲るように笑った。

──ジョーカーの前に、このまま為す術なくやられてしまうのか?
かもしれない。……が、そうはならないかもしれない。
何故なら、天木には解り掛けていたからだ。ジョーカーの能力が。
(やはり……斎葉も……恐らく本物のジョーカーが見えていなかったに違いねェ。
 そればかりか、奴は俺をジョーカーだと『誤認』させられていた……!
 俺が真逆の方向にワイヤーを投げちまったように、神宮が斎葉のメカを破壊しちまったように……。
 なるほど……解り掛けてきたぜ……! 奴の能力が……!)

天木は立ち上がると、神宮に向けて言い放った。
「聞こえるか神宮ァ!? やっと、やっと解ってきたぜェ! 奴の能力がなァ!」

【氷室 霞美:更に深い傷を負う。戦闘中】
【天木 諫早:肩を抉られるも、ジョーカーの能力に気付く。戦闘中】
106神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/15(金) 11:32:32.16 0
>>104>>105
「ホホホ」
驚くべきことに、ジョーカーは十倍の重力を物ともせず高々と跳び上がった。
「逃がすかよ!お前の能力、意地でも見せてもらうぜ!」
自身も逃げたジョーカーを追って空中へ。
いかな四傑とは言え、こちらは重力操作まで使っている。追い付くのは容易だった。
「今度は逃がさねえ。食らってもらうぜ!」
先程よりも更に鋭いパンチを繰り出す。空中ということもあって避けられないはずだ。
(さぁ能力を見せてもらおうか。アタシの予想が正しければここで──)
ジョーかに拳が直撃する。まだ見えているのはジョーカーの姿だ。変化はない。
(もう能力は発動してるのか?クソッ、発動のタイミングがわからねえ……)

「なっ──どうしたってんだ神みy──! ──危ねェ!! 後ろだ神宮ァアッ!!」
突如天木が叫ぶ。その声でジョーカーの能力が既に発動していることを悟った。
「チッ、まんまと騙されたか!」
天木の言葉に従い後ろを振り向く。しかしその時には既にジョーカーの振るった鎌が眼前に迫っていた。
「ガハッ……!」
鎌が深々と胸に刺さる。体の中から血液が逆流し、大量の血を吐く。
鎌が抜かれ、自由の利かない体が地面に向かって落下を始める。
幸か不幸か痛みは感じないため、体だけが動かないという違和感──既に慣れたものではあるが──を感じながら落下していく。
(やられちまった、か。傷は──致命傷一歩手前、ってところか。
 だがアタシがやられたのも無駄じゃないはず。きっと天木がヤツの能力を解明してくれてるはずだ)
地面はもうすぐそこまで迫っている。このまま叩き付けられれば、いくら異能者でもただでは済まないだろう。
(スプラッタはゴメンだね……。まだ死ぬわけにはいかないんだよ!『重力減少』!)
激突する寸前に能力を発動、最悪の事態は免れた。

「ホホホ、他愛のない。もうお終いですか?」
ジョーカーも追って着地し、止めと言わんばかりに鎌を振り上げている。
「──ッ! 止めってか! そうはさせねェエッ!!」
しかし天木が割って入ったお陰で、鎌が振り下ろされることはなかった。

その後の攻防は、地に伏していた自分には見ることが出来なかった。
それでも、聞こえてくる声や音によって状況はある程度把握できていた。
天木と斎葉が同時に仕掛けるも、またしてもジョーカーの能力によって失敗し、天木が更に傷を負った。
しかし悪いことばかりではなかったらしい。というのも──
「聞こえるか神宮ァ!? やっと、やっと解ってきたぜェ! 奴の能力がなァ!」
天木の声が聞こえる。その声は若干の歓喜に彩られていた。
(ようやく、かい……。そうとなりゃ、アタシもこんなところで寝てるわけにはいかないねぇ……!)
ユラリと体を起き上がらせる。短時間だが治療にオーラをまわしていたため、出血は止まっていた。
「さすが『研究者』だぜ。さて、能力の解明ができた以上、後はアイツをぶっ殺すだけだな。
 いくぜ……ハアアアアアァァァァァ!」
『気昇』によってオーラを高めていく。菊乃の体を今までにない密度のオーラが覆っていた。
(クッ、予想以上にキツい……!やっぱ無理があったか……)
無傷であれば問題なかったが、今の菊乃は致命傷に近い傷を負っている。
そんな体で『気昇』を使用すれば、体にかかる負担は生半可なものではない。
(けど──そんなことは言ってられねえ。ここがチャンスなんだ、無駄にするわけにはいかねえ!)
地面を強く蹴る。踏みつけられた地面は砕け、凄まじい風圧と共に爆発的な加速で走る──否、跳ぶ。
一瞬でジョーカーの横をすり抜け、天木の元に到着する。急に止まったこともあり、後から凄まじい風が吹き抜けて行った。
「アイツの能力が分かったって?ならアンタはアタシに指示を出してくれ。アタシはアンタの指示通りに動いてみせる」
力強い眼差しで天木を見る。それは、今まで他人に身を委ねる事を避けて生きてきた菊乃が見せた初めての『信頼』の証だった。
 「なに、アンタのことはアタシが守ってやるよ。アイツの能力が分かってるのはアンタだけだ。絶対に指一本触れさせねえ」
強く拳を握り、胸の前に掲げる。しかし『気昇』を使ったことにより、閉じていた傷が再び開き、そこから血が溢れてくる。
「おい、大丈夫なのk──」
「へーきだって!このくらいなんともねえよ。余計な心配しないでアンタはこれからの闘い方を考えてくれ。
 そろそろアイツの面も笑い声も飽きてきたところだ」
ニヤリと笑い、振り返ってジョーカーを睨みつけた。

【神宮 菊乃:深手を負うが戦闘を継続】
107氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/17(日) 22:30:22.80 0
>>103
「……!」
立ち込める靄を見据える氷室は、やがて膝を落し、そして唇を噛んだ。
(なんて奴だ……)

至近距離からの必殺『ノーザン・ミーティアー』。決まったと思っていた。
ところがどうだ。靄の中から感じるのは、微塵も衰えぬ闘気と凶悪な殺気──。
「ソノ技ハ一度見セテ貰ッタ。同ジ技ハ、二度モ通用シナイ」
声がすると共に、靄が内部からの突然の突風によって吹き飛ぶ。
そうして視界に現れたのは、仁王立ちするエースの姿──。
体中の至るところに凍傷が見受けられるものの、それらは明らかに致命傷ではなかった。
(真正面から、至近距離からくらいながらも、こいつは……耐え切った! ……化け物め)

「サテ、次ハ俺ノ番カ」
エースの腕が一瞬、消える。
いや、そうではない。消えたようにみえる特性を持った拳撃を繰り出したのだ。
そしてその技の正体を、氷室は知っていた。
脳裏に蘇るのは廃工場でのワンシーン、空間を歪めるほどの衝撃波をくらったあの瞬間。

(────)
しかし、今回のそれは、明らかに記憶のそれは一致しない威力を誇っていた。
全身に切り傷が走り、同時に皮膚が千切れ飛んでいく。
更に、空間のたわみが生み出す暴力的な物理的圧力が、
鍛えられた氷室の肉体を容易く弄んでは、容赦なく骨を粉砕した。
「ゴボォオッ!!」
ダメージに逆らえず、大量の吐血をして吹っ飛んだ氷室は、
背後に聳える数本の大木をぶち抜いて、やがて地面に倒れ伏した。

「流石ニ頑丈ダナ。マダ息ガアルノカ。ダガ──」
エースが再び右手を構える。
まだ息はあり、かろうじて意識もあるとはいえ、
今の衝撃波をもう一度くらえば、次は完全にアウトであろう。
(……死ぬよりは……マシか……)
立ち上がった氷室は、傷口を押さえていた手を離すと、今度は両手首を合わせた。
エースにとっては見たことも無い構え。かといって今更怖気づくはずもない。
それだけの絶対的な自信と威力が、エースの必殺拳にはあるのだから。

「コレデ終ワリダ!!」
繰り出された拳撃から、圧倒的な衝撃波が放たれる。
しかし、氷室は動じない。何故なら彼女にも、これから放とうとする技に、
絶対の自信を持っていたからだ。
「終わりなのはお前だよ──」

氷室の手がこれまでにない輝きに包まれる。
いや──彼女の手だけではない。地面も、空気も、放たれた衝撃波も──
エースとの軌道上にある全ての物が光に包まれた。
そして、最後にはエース自身さえも──。

「──『アブソリュート・ゼロ』──」
合わせていた手首を離して、氷室は静かに呟いた。

『アブソリュート・ゼロ』──。冷気を極限まで低温化させることで、
『ノーザンミーィテーアー』を『絶対零度』の凍結波動に昇華した必殺技。
オーラの消費量は他の技とは比較にならないが、その分、威力は絶大だ。
この技の前では、あらゆるものが機能を停止し、凍りつく。
それは、激しく振動するエースのオーラでもあっても、例外ではありえない。
108氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/04/17(日) 22:34:55.12 0
「ガッ……!」
オーラごと右半身が凍りついたエースには、もはや戦闘継続の余地はなかった。
それでも、本来なら全身凍結で即死確実のところを、
半身凍結で済んでいるのは、エースの能力の高さ故であろうか。

「何故、ダ……何故、ハズシ……タ」
違う、そうではない。やろうと思えば氷室には全身を凍結させることができた。
にも拘らず、彼女は敢えてそれをしなかった。エースにはそれが解っていた。
「……何故かって?」
パチンと、氷室が指を鳴らす。
すると、エースの凍りついた右腕が、音を立てて砕け散った。
腕の中に埋め込まれた小型の機械ごと──。それが氷室の答えであった。

「私達との闘いがお前の本意ではないのなら、なるべく生かしたいと思った。それだけさ」
「……」
バタリ。エースは仰向けになって倒れた。
その顔は笑っている。だが、それは先程までの、狂気に歪んだ笑みではなかった。

「ありがとよ……これで俺は、解放された……」
温かな、人間の感情が篭った一筋の涙が、エースの頬を伝った。

【氷室 霞美:戦闘には勝ったが、全身に裂傷多数、肋骨五本骨折。更にオーラ量半減】
【エース:戦闘に敗北。右腕を失うが、人間としての心を取り戻す】
109天木 諫早:2011/04/18(月) 19:58:58.38 0
>>106
「へーきだって!このくらいなんともねえよ。余計な心配しないでアンタはこれからの闘い方を考えてくれ。
 そろそろアイツの面も笑い声も飽きてきたところだ」
(闘い方、か……)
神宮に続いて、天木もジョーカーを見据えた。

ジョーカーの能力──それは対象を『誤認』させる能力であると、天木は推測していた。
幻影を見せる能力との違いはおよそ二つ。
一つは、不特定多数の人間に同時に発動するのではなく、発動対象は恐らく一人に限られるということ。
二つ目は、対象となった人間は、能力の発動中、本体のジョーカーが一切見えなくなるということ。
(……こいつァ幻影なんかよりよっぽどタチの悪ィ能力なんじゃねェのか。
 何せ発動中は、視覚では本体の位置を決して見抜くことができねェんだからな。
 メカに乗った斎葉すら騙されたってこたァ、恐らくメカも簡単に欺くことができンだろう。
 だが……発動の対象が一人ってのがミソだ。それをこちらが上手く利用できれば……)

天木は視線をそのままに、小さな声で神宮に言った。
「いいか、とりあえず奴の能力を簡単に説明するぜ。奴の能力は……対象を『誤認』させる能力だ。
 恐らく、主に対象者の視覚情報を操作することができるんだろうぜ。
 俺やお前や斎葉が、奴自身ではないものに、思わず攻撃しちまったようにな」

かつてジョーカーは、度々赤染や氷室の前に、突然何もない空間から現れた。
そのことを天木は知る由もないが、仮に知っていれば、「恐らく」などという曖昧な表現はしなかったであろう。

「果たして操作できるのが視覚だけなのか、それは正直言ってまだ判らねェ。
 だから現時点では、狙い目は一つに絞られる。
 つまり……一度の能力発動で、誤認させることのできる対象は“一人”だってことだ。
 いいか神宮、二人同時だ。二人同時で奴に攻撃を仕掛ける。
 仮にどちらかがジョーカーの存在を誤認させられても、最低一人は奴の本体が見えているはず。
 俺の言いたいことはもう解ってンな? 二人同時に自分の見えるジョーカーをぶっ叩くンだ!
 何がなんでもなァ! そうすりゃ、俺かお前のどちらかは、必ず奴に当るはず! そうだろ!?」

合理的ではないかもしれない。もしかしたら味方が味方を攻撃し、傷つけることになるかもしれない。
だが、他に有効な手段がない以上、これが最も得策であると、天木は思った。

「──嫌と言ってもこれは強制だぜェ? さぁ! 行くぜ神宮ァッ!!」

天木と神宮は、二人同時にジョーカーへと突進した。
それを見たジョーカーはまたも上空へとジャンプして二人を見下ろす格好を取った。
彼の背後には滞空する斎葉のメカ三台。二人は、迷わずジャンプした。

「ホホホ」
ジョーカーが鎌を振りかざす。と同時に、斎葉のメカがレーザーを発射した。
ただし、レーザーの向かう先はジョーカーではなく、天木ら二人。
(やっぱりな!)
しかし、天木はそれを予想済みであった。
それも当然である。そもそも斎葉に能力をかけていなければ、
わざわざ自ら挟み撃ちの格好を誘う理由がないのだから。
(うおおおおおおおおおおおおっ!!!!)
体に次々とレーザーが着弾し、肉を抉り飛ばしていく。
でも、事前に予想できていたらこそ、覚悟もできていた。だから耐えることもできた。

「くらいやがれェェエエッ!!」
天木は勢いよくワイヤーを投げ放った。
それをジョーカーは鎌で弾き飛ばす。しかし、そんなことは当然、想定内だ。
「ウッ!」
思わずジョーカーが呻る。
弾き飛ばしたはずのワイヤーの先端が方向を変え、足首に巻きついたのだ。
「このくれェ朝飯前よ! さぁ、これで逃げ場は無ェ! 神宮──やっちまェェェエエ!!」
110天木 諫早:2011/04/18(月) 20:05:17.62 0
重い衝撃音が響くと共に、ジョーカーの衣装が破れ、千切れていく。
「ガッ!」
機械で低く加工したような鈍い声があがる。
それは紛れも無く、ジョーカーの体内にダメージが駆け巡った証であった。
(まだだぜ!!)
天木はワイヤーを強く握り締ると、地上へ向けて、ありったけの力を込めてジョーカーを振り投げた。

強烈な音を立ててジョーカーが地上に落下する。
神宮のかけた重力のせいか、まるで隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターを穿って。
地上に降り立った天木は、クレーターの真ん中で沈んだジョーカーを睨み付けた。
(ダメージはあったはずだ。だが、これくらいでくたばるような奴じゃねェはずだぜ)

その懸念は、あるいは予想は、すぐに的中した。
ボロボロの衣装とは裏腹に、まるで何事もなかったかのようにムクリと起き上がったのだ。
「素晴らしい。私の能力に気がついてからの連携は、正に見事という他はありません。
 流石の私も少々効きましたよ、フフフ……」

天木は訝しげに眉を動かした。
ダメージは確かに致命的なものではなかったかもしれない。
しかし、次もその程度で済むかは疑問だろう。何故なら既に能力は見抜かれているからだ。
ジョーカー自身、それを認めている。にも拘らず、この余裕は何なのだろうか?

「──この鎌、これは私にとってただの武器だと思いますか?」
突然の質問。予想だにしない展開に、天木はきょとんとした顔を隠さなかった。
「この鎌は『夢見の鎌』と言いましてね、実は私が発するあるモノを増幅し発信する機能があるのです。
 それは何か? ──よぉーく思い出してみて下さい。
 私が貴方がた異能者の前に初めて姿を現したのは、一体いつどこでだったでしょうか?」

(……こいつ、さっきから一体何を……?)
質問の意図するところが掴めない天木は、ただ訝るばかりで何も口にしない。
一方の神宮も、答えようとはしなかった。
しばらくの間をおいて、ジョーカーはその答えを明かしてみせた。

「そう、貴方がたは自身の“夢の中”で初めて私と会ったはずです。
 タネを明かしましょう。この鎌は、私の“精神波”を増幅して発信するのです。
 この力を使えば、私の脳内映像を送ることも、また他人の精神に干渉して、
 一部の五感機能を操作することも可能──貴方がたの視覚を操作したようにね。
 ただ、貴方がたもご存知のように、精神干渉は一度の発動につき一人が限度……
 ですが──ある条件を満たすことで、私はこの力をもう一つ上の段階まで使役することができるのです」

(もう一つ上の段階……だと?)

「すなわち、対象者の五感に干渉でき、更に“破壊”することができる──!
 そしてこの能力の発動条件は、『私自らが明かす前に、対象者が私の能力に気づく』こと──!
 ホホホ、お解かりですか? 貴方がたお二人は、自ら私の術中に嵌ってしまったのですよ!」
「──!!」

ジョーカーから明かされた衝撃の真実。
近くにいるのはヤバイ。射程がどこまでかは判らないが、とにかく一旦、距離をとらなければ。
天木はそう判断した。しかし、それは既に、間に合うはずのないものだった。
                             ナイトメア
「さぁ、招待して差し上げましょう。私の作り出す『悪夢』の世界に──!」

天木、そして神宮の視界が、突如として漆黒の闇に包まれた──。

【天木 諫早:戦闘中】
【ジョーカー:能力『悪夢』が発動。対象者は天木と神宮の二人】
111神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/20(水) 18:51:15.13 0
>>109>>110
「いいか、とりあえず奴の能力を簡単に説明するぜ。奴の能力は……対象を『誤認』させる能力だ。
 恐らく、主に対象者の視覚情報を操作することができるんだろうぜ。
 俺やお前や斎葉が、奴自身ではないものに、思わず攻撃しちまったようにな」

菊乃は天木の言葉を黙って聞くと同時に感心していた。
まさかあれだけの攻防でここまで看破するとは、と。
しかし同時に納得もしていた。『研究者』の面目躍如といったところだ。
「果たして操作できるのが視覚だけなのか、それは正直言ってまだ判らねェ。
 だから現時点では、狙い目は一つに絞られる。
 つまり……一度の能力発動で、誤認させることのできる対象は“一人”だってことだ。
 いいか神宮、二人同時だ。二人同時で奴に攻撃を仕掛ける。
 仮にどちらかがジョーカーの存在を誤認させられても、最低一人は奴の本体が見えているはず。
 俺の言いたいことはもう解ってンな? 二人同時に自分の見えるジョーカーをぶっ叩くンだ!
 何がなんでもなァ! そうすりゃ、俺かお前のどちらかは、必ず奴に当るはず! そうだろ!?」
奇策でも何でもなく、ただ突撃するだけの何の捻りもない愚策。しかしそれ故の──得策。
至極単純ではあるが、今現在取り得る唯一にして最上の策。これを逃せば次はないかもしれない。

「──嫌と言ってもこれは強制だぜェ? さぁ! 行くぜ神宮ァッ!!」
「言われなくても分かってらぁ!アンタこそしくじるなよ!天木!」
天木と二人、ジョーカーへ向けて突撃する。
それを先程と同様、ジャンプしてかわしたジョーカーをこちらもジャンプして追い縋る。
「ホホホ」
追いついたこちらに向けてジョーカーが鎌を振るう。同時にジョーカーの背後に位置していた斎葉の機械がレーザーを放つ。
レーザーの向かう先はジョーカー──ではなく、こちら。菊乃と天木に向かってくる。
天木はそれを予測していたのか、驚いた様子もなく、躊躇せずにレーザーに向かっていく。
菊乃は一瞬驚いたが、先程と状況が似ていたのですぐに対応できた。身を捻ってレーザーの雨をかわしていく。
その行動に一番驚いていたのは菊乃自身であった。
先程ジョーカーから受けた傷は、気昇の使用により再び開いている。
それに、いくら気昇を使用しているからといって、空中でこれだけの動きが出来るわけがないと思っていたからだ。
しかし実際には迫り来るレーザーを軽々とかわしている。不思議に思ったが、今はその理由を考えている暇はなかった。

「くらいやがれェェエエッ!!」
レーザーを気合で突破した天木がジョーカーにワイヤーを放つ。
ジョーカーはそれを課まで弾き飛ばしたが──
「ウッ!」
そのワイヤーが突然方向を変え、ジョーカーの足首に巻きついたのだ。
「このくれェ朝飯前よ! さぁ、これで逃げ場は無ェ! 神宮──やっちまェェェエエ!!」
「いくぜ……歯ぁ食いしばりな!『重力の戦槌』!!」
ジョーカーの腹部に強烈なパンチを振り下ろす。
「ガッ!」
鈍い叫びと共に、ジョーカーの衣服が破れていく。菊乃も確かな手応えを感じていた。
(よし!今度は間違いなく入ったぜ!)
更に天木が足首に巻きついたワイヤーを利用して、ジョーカーを地面へと叩きつけた。
『重力増加』の影響もあって、通常よりも遥かに速い速度で地面に激突したジョーカー。
そのダメージの大きさは、あたかも隕石が落下したような巨大なクレーターが物語っていた。
112神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/20(水) 18:51:59.15 0
(まともに入った。それなりのダメージはあるはずだ)
舞い上がっていた粉塵が晴れ、ジョーカーがクレーターの中心で体を起こした。
「素晴らしい。私の能力に気がついてからの連携は、正に見事という他はありません。
 流石の私も少々効きましたよ、フフフ……」
(あの程度じゃ大したダメージにはならないってこと、か。だが痛みを感じないってだけで意外と効いてるかもな。
 けど……今まで隠してきた能力が見抜かれたってのに、あの余裕は何だ?まだ何かありそうだな……)

「──この鎌、これは私にとってただの武器だと思いますか?」
突如、ジョーカーがこちらに質問を投げかけてきた。あまりに突然だったので虚を突かれた形となり、答えることは出来なかった。
「この鎌は『夢見の鎌』と言いましてね、実は私が発するあるモノを増幅し発信する機能があるのです。
 それは何か? ──よぉーく思い出してみて下さい。
 私が貴方がた異能者の前に初めて姿を現したのは、一体いつどこでだったでしょうか?」
(さっきから何言ってんだコイツ……?今更武器の説明なんて──まさか!)

「そう、貴方がたは自身の“夢の中”で初めて私と会ったはずです。
 タネを明かしましょう。この鎌は、私の“精神波”を増幅して発信するのです。
 この力を使えば、私の脳内映像を送ることも、また他人の精神に干渉して、
 一部の五感機能を操作することも可能──貴方がたの視覚を操作したようにね。
 ただ、貴方がたもご存知のように、精神干渉は一度の発動につき一人が限度……
 ですが──ある条件を満たすことで、私はこの力をもう一つ上の段階まで使役することができるのです」

(上の段階……!そうだ、何で気が付かなかった!──コイツは"夢に出てきた時も鎌を持っていた"!
 普通に使える能力なら、招待が目的だったあの時点で態々鎌を持って来る必要はなかったはず。
 てことはあの鎌は──!)
「すなわち、対象者の五感に干渉でき、更に“破壊”することができる──!
 そしてこの能力の発動条件は、『私自らが明かす前に、対象者が私の能力に気づく』こと──!
 ホホホ、お解かりですか? 貴方がたお二人は、自ら私の術中に嵌ってしまったのですよ!」
(クソッ、やっぱりか!先のアイツの武器を破壊しておくべきだったか……!)
気づいた時には既に遅かった。
ジョーカーが言うように、『もう一つ上の段階』は既に発動しているのだから。

                             ナイトメア
「さぁ、招待して差し上げましょう。私の作り出す『悪夢』の世界に──!」

──視界が突如として闇に包まれる。
(やられたぜ……。これがコイツの真の能力ってわけか)
何も見えない闇の中で一人考える。そこで、ふと気が付く。
(考える……?そうか、アイツが操作できるのはあくまで『五感』であって、思考までは操作できないってことか)
こうしている間にも、ジョーカーがすぐそこで鎌を振り上げているかもしれない。残された時間は少ない。
(五感ってことはあくまで『人としての身体機能』ってことだよな。なら──!)
一か八か、左目の神経接続をカットする。そして、改めて内蔵された機械を起動する。
これは動作を完全に機械に頼っているので、体の機能とは別に動かせるのだが──
(まさか……成功するとは思わなかったぜ)
何と、左目だけではあるが視力が回復したのだ。
(だがまだだ。これをヤツに悟られたらマズい。一発逆転のチャンスは、今じゃねえ)
目の前では、鎌を肩に担いだジョーカーが不気味に笑っていた。どうやらこちらの変化には気づいたいないようだ。
(問題はここからどうするかだな……。ん?そういや鎌瀬達はどこ行った?)
ユーキを助けた後、斎葉の機械は目にしていたが、鎌瀬と夜深内の姿は見ていない。どこかに隠れているのだろうか?
(アイツらも能力にかかっちまったのか?だがもしかかってなかったら──)
逆転の鍵は鎌瀬達──ということになる。
(頼むぜ……。うまいこと逃げ果せててくれよ!)

【神宮 菊乃:ジョーカーの『悪夢』にかかるが、左目の視力だけは回復】
113天木 諫早:2011/04/21(木) 17:04:25.99 0
>>111>>112
(クソッ! 何も見えねェ! いや……!)
暗闇の中で、天木はふとある一点に目を止めた。そこだけが何故か赤いのだ。
よく見れば、それは赤い装束に包まれた、ジョーカーの左半身であった。
(こうなったらこの暗闇を逆に利用して攻撃するしかねェ……!
 何とか奴に気づかれないよう、闇に紛れる……! もうそれしかねェ……!)
ススッ……。天木の足が音を殺して横にスライドする。
しかし──ジョーカーはそれを見逃さなかった。

「ホホホ、今更何をしたところで無駄ですよ。何故ならここは私の作り出した世界。
 貴方がたに許された行動はただ一つ、『悪夢』に絶望することだけなのですから──」

そして突然、耳に鳴り響いた、パァーンという破裂音。
いや、耳ではなく、厳密には体内だったかもしれない。
いずれにせよ、何かが破裂したような音を、天木は聞いたのだ。
(──!?)
痛みはない。慌てて全身をさすってみるが、出血しているところもない。
暗闇のため目視することはできないが、隣の神宮から聞こえる息遣いは至って平常で、
どうやら彼女もダメージを受けているような様子はなかった。
(何だ……俺の幻聴か? それとも、斎葉が何かやったのか?)
否──。それは大いなる思い違いであったことを、天木はすぐに思い知ることとなる。
既にジョーカーの攻撃は、目に見えぬ形で始まっていたのだ。

「第一感『嗅覚』──破壊」
無機質なジョーカーの声。それと共に、天木は異変に気がついた。
変に息苦しい──そればかりか、臭いを感じないのだ。
土の臭いも、太陽光を吸収した空気の臭いも、自分自身の体臭も、何もかも──。
「これは……ッ!?」     ナイトメア
「言ったでしょう? 私の能力『悪夢』は、発動対象者の五感を破壊すると。
 貴方がたお二人は今、『嗅覚』を失ったのですよ」

(まさか──まさかこいつ──!!)
ここに来て、やっと天木は悟った。ジョーカーの狙いを。
「これから一つずつ、貴方がたの五感を破壊させてもらいます。
 そして、完全なる“無”の世界が貴方がたを支配した時、止めを刺しましょう」

パァーン──!
再び体内を駆け巡る破裂音。今度も痛みは無い。
だが──新たなる異変は、既に二人の体に起こっていた。
「ガッ──! 今度は……し、舌が……!」
「嗅覚に続き『味覚』を破壊しました。
 次第に舌も痺れ、やがて息をしているという感覚すら無くなりますよ、ホホホ。
 さぁ、残るは三感──どれを破壊して欲しいのでしょうか?」

(ヤベェ……! このままだと、マジで嬲り殺しだ……! けど……!)
ジョーカーが支配する世界の中で、一体何ができるだろうか?
有効な策はあるのか? ──ない。少なくとも、天木には思いつかなかった。
故に、天木は一つの賭けに、もはやすがるしかなかった。
「神宮ァッ! こうなったら……ダメ元で奴に突っ込むしかねェ!!」

「──なるほど、ここに来てもまだ足掻こうと言うのですか。
 やはり仲間という存在は貴方がたにとって大きなもののようですね。
 いいでしょう、ならばその仲間の声を消してあげましょう」
「──ッ! させるk──ぐあっ!?」
投げ放とうとしたワイヤーがポトリと地に落ちる。
これまで経験したこともない世界に、天木は落ちたのだ。
それはすなわち──無音の世界。
ジョーカーの声も、神宮の声も、自らの鼓動音さえも聞こえない世界──。
114天木 諫早:2011/04/21(木) 17:08:18.81 0
「無の世界の一歩手前といったところでしょうか?
 これで私の声も、移動する音も聞こえなくなった。そして──」
スッと、ジョーカーの姿が、闇に溶け込むようにして消えた。
(──野郎ォ!)

「まだ『視覚』は破壊しておりませんが、こうしてしまえば私の姿は見えますまい。
 ホホホホ、伝わってきますよ、貴方がたの恐怖が!
 そして私には良く解りますよ、暗闇でネズミを狩る梟の気持ちがね!」

(ちくしょう……これじゃどこから来るんだかまるっきりわかりゃしねェ……!
 ……でも、どうやら一つだけ解ったぜ! 奴は、俺達の視覚と触覚を残したまま、殺るつもりだ!)

姿が見えず、声も聞こえない天木には、これからジョーカーが何をしようとしているのか、
本来であれば察しようが無い。しかし、これまでの戦闘で、
ジョーカーの人となりを正確に把握していた天木は、行動を読んでいた。
そしてそれは、紛れも無い現実となって的中した。

「気が変わりましたよ。全ての感覚を破壊し、貴方がたを生きる屍にしてしまったら、
 貴方がたは“死を覚悟”してしまう。そうなると、この恐怖も消えてしまうでしょう。
 貴方がたには是非、恐怖を存分に味わい、絶望しながら死んでいただきたい。
 それが私にとっては何とも心地よいのですから──オホホホホホホホ!」

(……こりゃあチャンスかもしれねェ。何せ、わざわざ向こうから来てくれるってンだ。
 いいだろう、受けてたつぜ。その残虐な性格が命取りになるってことを、思い知らせてやる!)
天木は残った感覚をフルに研ぎ澄ませて、その場に仁王立ちした。
自分が助かり、かつ相手を倒す──そんな奇跡のような起死回生の秘策があったわけではない。
彼にあったのはたった一つ、「一泡吹かせる前に死んでたまるか」という、強い気持ちであった。
(さぁ、きやがれジョーカー!)

心で強く念じたその瞬間──胸に強く鋭い痛みが走った。
ジョーカーの鎌が天木の胸の中心を貫いたのだ。
「まずは貴方から。さぁ、恐怖と絶望の断末魔を、存分にあげて下さい! ホホホホホ!」
「グッ──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
しかし天木があげたのは、痛みに、ジョーカーに負けんとする、力強い雄叫びであった。
そしてそれが生み出す爆発的な気力が、天木に血塗られた鎌を掴ませた。

「──フッ、悪あがきはおよしなさい。鎌を掴んだところで所詮貴方の力では──」
「まだだアッ!!!!」
「なに!?」
ジョーカーは驚いた。何と、ワイヤーが天木ごと、自分の体に巻きついたのだ。
「グッ、この男、まだワイヤーを操る力が!」
「ゴボッ! い、今だ神宮ァッ!! 俺ごとこいつをぶちのめせェ!!」

神宮も聴覚を失っている。いくら叫んだところで聞こえないだろう。
しかもこの暗闇の中だ。下手をすれば、天木が自分の体ごと、
ジョーカーを締め上げていることにすら気づいていないかもしれない。
それでも、天木は血を吐きながら叫び続けた。悔いは残したくない、そう思ったから。
「頼む、早く……!! 俺のことなんざ構うな!! 神宮ァァァァアアアアッ!!」

【天木 諫早:嗅覚、味覚、聴覚を破壊され、更に重傷を負うも、自分ごとジョーカーの動きを封じる】
115鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/04/22(金) 18:32:40.08 0
「やっとつい…!?」
神宮達が戦っている現場に到着した鎌瀬であったが、彼は驚いた様子で立ち止まった
(早速ピンチって訳ね…)
ジョーカーに見つかる前に、気配を劣化させ始める鎌瀬
(ジョーカーは感覚を破壊とか言ってたな…。つまりそれがジョーカーの能力? でも僕は平気だし…
斎葉君も問題なく運転(うごい)てるみたいだ。神宮さんと天木さんには効いてるみたいだな…
…で、その天木さんは捨て身でジョーカーを押さえつけてる…。天木さんは自分を犠牲にジョーカーを倒すつもりなのか…)
色々考えをめぐらせる鎌瀬。状況を整理する。神宮さんと天木さんはジョーカーの能力にかかっていて、斎葉君は無事。
そして僕はまだ気づかれて無いだろう、恐らく。そして夜深内さんが要塞内で待機。そう思考しながら、鎌瀬は頭部につけた機械のスイッチを押す。
その機械は小型脳波送受信機。スイッチを入れれば頭で考えたことをそのまま別の同じ機械に送信できる。斎葉の発明品である。
今のところそれを持っているのは斎葉と鎌瀬と夜深内のみだ
(こちら鎌瀬。夜深内さん、斎葉君。神宮さんと天木さん…特に天木さんがピンチです。力を貸してくれますか?)
((了解しました))
すぐに返信が来た。次に鎌瀬は自分の足音の大きさを劣化させ、忍び足でジョーカーの背後に移動する。もしかしたら気づかれたかも知れないが、今は気にしている場合ではない
(こうなったら奇襲するしかない…。幾ら僕が敗北者(ぼく)でも、やることはしっかりやらないと…。ま、どうせ失敗するんだろうけど。――劣化した槍(ネガティブランス)!!)
修行で身に付けた新技、劣化した槍(ネガティブランス)をジョーカー骨盤と背骨の付け根の辺りに放つ鎌瀬
116鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/04/22(金) 19:19:07.30 0
劣化した槍(ネガティブランス)とは、鎌瀬の劣化オーラを槍型にして対象に打ち込むことで、オーラにふれた部分を急激に急速に劣化させる技である。
建物の支柱の強度を劣化させ、壊すこともできてしまう。これでジョーカーの骨盤と背骨の境目辺りの強度を劣化させ、立てなくするのが狙いだ
(私も行きましょう)
夜深内もまた、戦場へと向かうのであった
【鎌瀬犬斗:劣化した槍発動 夜深内漂歌:戦場へ向かい始める】
117神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/26(火) 17:17:31.53 0
>>113>>114>>115>>116
菊乃は視覚を失ったふりを続けていた。
隣で天木が動いたようだが、視線はそちらに向けられない。視線の動きでばれてしまうからだ。
「ホホホ、今更何をしたところで無駄ですよ。何故ならここは私の作り出した世界。
 貴方がたに許された行動はただ一つ、『悪夢』に絶望することだけなのですから──」
ジョーカーの言葉と共に耳元で破裂音がした。が、刺された胸部以外に外傷は見当たらず、菊乃は首を捻った。
(またヤツの能力が発動したのか?五感を破壊する、とか言ってたか……?)
そう考えて、ふと違和感を感じた。何かが──そう『何か』が足りないのだ。

「第一感『嗅覚』──破壊」
はからずもジョーカーの言葉によってそれは解明された。
確かに、言われてみれば匂いを感じない。そればかりか少し息苦しい。
「なるほど、そういうことかい」
                  ナイトメア
「言ったでしょう? 私の能力『悪夢』は、発動対象者の五感を破壊すると。
 貴方がたお二人は今、『嗅覚』を失ったのですよ」
(今壊されたのが一つ、ってことは──)
「これから一つずつ、貴方がたの五感を破壊させてもらいます。
 そして、完全なる“無”の世界が貴方がたを支配した時、止めを刺しましょう」
(──やっぱりな。見た目からしていい性格だぜホント)
そして再び破裂音。今度はすぐに分かった。
「舌──ってことは」
「嗅覚に続き『味覚』を破壊しました。
 次第に舌も痺れ、やがて息をしているという感覚すら無くなりますよ、ホホホ。
 さぁ、残るは三感──どれを破壊して欲しいのでしょうか?」

(さて、ここからどうする?このままじゃいずれ何も感じない人形にされちまう)
事ここに至っても菊乃は驚くほど冷静であった。それもそのはず。何故なら──
(感覚がない、なんて『実験』で腐るほどやってきたからな。さすがに全部、ってのはなかったが……。
 一つ二つ程度ならなんてことはないぜ)
──そう、菊乃は過去に受けた人体実験の折に似たようなことをされた経験があるのだ。
その為、経験がない──普通の人間ならなくて当然──天木とは違い、未だ冷静でいられるのだ。
「神宮ァッ! こうなったら……ダメ元で奴に突っ込むしかねェ!!」
とそこに天木の叫び声が聞こえた。どうやら破れかぶれで特攻しようというらしいが──
(ダメだ!そんなことしたら犬死するだけだ。機会が来るまで我慢させねえと……!)
そう思い、天木に声をかけようと口を開く。そこにジョーカーの言葉が割り込んできた。

「──なるほど、ここに来てもまだ足掻こうと言うのですか。
 やはり仲間という存在は貴方がたにとって大きなもののようですね。
 いいでしょう、ならばその仲間の声を消してあげましょう」
「──チッ。天木!まだ早まるんじゃn──」
その言葉は最後まで聞こえなかった。ちゃんと言えたかどうかも怪しい。そう──ついに聴覚が破壊されたのだ。
何も聞こえない無音の世界。天木の無事を確認したいが視線はまだ動かせないためそれも出来ない。
「無の世界の一歩手前といったところでしょうか?
 これで私の声も、移動する音も聞こえなくなった。そして──」
「まだ『視覚』は破壊しておりませんが、こうしてしまえば私の姿は見えますまい。
 ホホホホ、伝わってきますよ、貴方がたの恐怖が!
 そして私には良く解りますよ、暗闇でネズミを狩る梟の気持ちがね!」
どうやら天木の視界からはジョーカーが消えたようだ。しかし菊乃には左目だけではあるが見えている。

「気が変わりましたよ。全ての感覚を破壊し、貴方がたを生きる屍にしてしまったら、
 貴方がたは“死を覚悟”してしまう。そうなると、この恐怖も消えてしまうでしょう。
 貴方がたには是非、恐怖を存分に味わい、絶望しながら死んでいただきたい。
 それが私にとっては何とも心地よいのですから──オホホホホホホホ!」
118神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/26(火) 17:18:18.36 0
(さて、ここからが正念場だぜ……)
恐らくジョーカーの矛先は天木に向いている。
先程から菊乃はジョーカーと会話をしていない。話しているのは天木のみだ。
(天木を殺させるわけにはいかねえ。しかしここまで来ると残された起死回生のチャンスは接触の瞬間しかねえのも事実……)
出来れば自分が代わりに受けたかったが、それではダメだ。二人まとめてやられてしまう可能性がある。
ゆっくりとジョーカーが天木に近づいていく。その視線は天木のみを捉えているようだった。
気づかれないように細心の注意を払って僅かに視線を横にずらして隣を見る。
そこには覚悟を決めたかのような表情で立っている天木がいた。
(諦めた、って顔じゃねえなありゃ。何か考えあってのことか?)
考えている間にもジョーカーは天木に近づき、そしてその鎌を天木の胸へと突き刺した。

「まずは貴方から。さぁ、恐怖と絶望の断末魔を、存分にあげて下さい! ホホホホホ!」
「グッ──おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
しかし次の瞬間、驚くことに天木は自分の胸に刺さった鎌を掴んだのだ。
「──フッ、悪あがきはおよしなさい。鎌を掴んだところで所詮貴方の力では──」
「まだだアッ!!!!」
「なに!?」
更にそこからワイヤーを操作し、自身の体ごとジョーカーに巻きついた。
「グッ、この男、まだワイヤーを操る力が!」
「ゴボッ! い、今だ神宮ァッ!! 俺ごとこいつをぶちのめせェ!!」

天木が何か叫んでいる。声は聞こえないが言わんとしていることは手に取るように分かった。
(全く無茶しやがって……。でも、その無茶のお陰でチャンスが生まれたんだ。無駄にはしねえ。一撃で仕留める!)
「頼む、早く……!! 俺のことなんざ構うな!! 神宮ァァァァアアアアッ!!」

尚も天木が叫ぶ。しかし菊乃は考えていた。
(どうする……?このまま攻撃してもいいがそれだと天木も巻き込んじまう。
 どうにかしてアイツだけを攻撃するにはどうしたらいい?吹っ飛ばすのは論外、か。クソッ、どうすれば──)
その時、菊乃の頭に天啓がひらめいた。飛ばすのがダメなら──落とすのはどうだ?
より正確に言えば側面からの攻撃ではなく、上からの攻撃。要するに"埋めて"しまえばいいのだ。
(何か違う気もするが……今は四の五の言ってる場合じゃねえ。やってみるだけだ!)

そして初めて視線をジョーカーに向け、三メートルほど跳び上がった。
一瞬でジョーカーの真上に到達し、『重力増加』を使って落下の際の勢いを増加させる。
(マジの全力だ。これでダメなら……)
一瞬最悪の状況が頭をよぎったが、すぐに頭を振って打ち消した。
「これで終わりだ、腐れピエロ!」
そこでジョーカーはようやくこちらを視認した。やはり片目だけとは言えこちらの視力が生きていることには気づいていなかったようだ。
慌てて動こうとするが、天木に絡め取られているため満足に動けない。
更に菊乃は、前転の要領で体を回転させながら勢いをつける。そして片足を前に突き出した。
そう──踵落としの要領である。そして突き出した足に更に『重力増加』をかける。
「いくぜ──『重力の戦槌』!!潰れやがれぇぇぇぇえええええええっ!!」
そして最後にもう一回転し、鞭のように撓らせた足をジョーカーめがけて振り下ろした──

【神宮 菊乃:拘束状態のジョーカーに『重力の戦槌』を繰り出す】
119天木 諫早:2011/04/27(水) 19:19:21.24 0
>>115>>116>>117>>118
「なるほど……。私を倒すために、自ら捨て駒になったというわけですか……!
 流石にこれまで勝ち残ってきた異能者だけのことはあるようで。
 ですが、一つ大事な事をお忘れではないのですか? 私は狂戦士なのですよ?」

天木の胸の中心に突き刺さった鎌が、不意に持ち上がった。
ということはつまり、今度は天木の喉元へその刃が向かうということである。
(──まさか!)
天木は、鎌を掴む手に一層の力を込めて、せり上がってくる鎌を下へ押し戻そうと抵抗した。
しかし──

「ガハァアッ!!」
込み上げてくるような強烈な痛みが、天木に更なる吐血を齎した。
抵抗空しく、鎌は徐々に持ち上がり、その刃が胸上部の骨や筋肉まで切断し始めたのだ。
(こ、コイツ……なんて馬鹿力だ……!!)

「私の肉体は『不死の実験』により強化され、その力は常人のそれを遥かに凌駕しているのですよ。
 貴方如きに力比べで負けるほど、私は甘い相手ではございません。
 ホホホ、このまま胸を通過し、咽を切り裂き、最後には頭も真っ二つにしてあげましょう」
ジョーカーの手に更なる力が込められ、鎌が一層加速する。
「ガッ……ァアアッ……!!」
尚も抵抗を諦めない天木であったが、多量の出血で天木の目はかすみ始めており、
もはや自力ではどうすることもできないのは決定的であった。
(ち……くしょう……! ここまで、か……!)
しかし、勝利の女神は、まだ天木を見捨ててはいなかった。

「──ヌッ?」
ふと、ジョーカーの手が緩む。
聴覚を封じられた今の天木には何が起きたのか知る由もないことだが、
ジョーカーの腰には鎌瀬が放った二本の槍が突き刺さっていた。不意打ちである。
それでも、ジョーカーは動じることなく言い放った。
「フン、見かねて加勢ですか。ですがそう慌てなくとも、すぐに相手をして──」
ところがその言葉は、不自然にも途中で切られることとなる。
否──正確には、別の声に遮られたというべきだろう。

「これで終わりだ、腐れピエロ!」

その声の持ち主は、天木、鎌瀬とは別の、もう一人のジョーカーの敵──他でもない神宮 菊乃であった。
いつの間にか彼女は、ジョーカーの真上に跳び、隕石さながらの勢いで落下してきていたのだ。
もし直撃を受ければ、如何なジョーカーといえど無事では済まないだろう。
「フン──」
ジョーカーの決断は早かった。
巻きついたワイヤーを全力で引き千切り、直撃の前に瞬脚でかわそうというのだ。
確かに、狂戦士としての力を全て発揮すれば、それも可能であるかもしれない。

「なっ……!? あ、ガァッ!!」
しかし、直後にジョーカーが発した声は、悲鳴にも似た声であった。
それもそのはず、何と上半身が腰から『捻じ切れて』いる。
原因は鎌瀬が突き刺した二本の槍。
槍が持つ劣化効果によって、ジョーカーは自分でも気付かぬ内に腰が弱っていたのだ。
そこへ体の負担を無視した動きをしようとした為に、ついにバランスが崩壊。
結果、上半身と下半身のつなぎ目が切り離されるという事態に陥ったというわけだ。

(何だ……!? こいつ、カラダが……崩れて……!!)
目の前の信じ難い光景は、天木に一瞬痛みを忘れさせるほどの衝撃を齎すと同時に、
自然と安堵の表情を齎すものでもあった。
勝利の女神は天木らに微笑んだと、もはや誰が見ても明白であったからだ。
120天木 諫早:2011/04/27(水) 19:25:41.06 0
「バカ……なっ! この私が……!!」
「いくぜ──『重力の戦槌』!!潰れやがれぇぇぇぇえええええええっ!!」
叫びながら、鞭のようにしならせた脚を、神宮はジョーカーの脳天に叩きつけた──。

ガシャァァアアン──!!

瞬間、天木の視界を覆っていた暗闇が、ガラスが粉砕されたかのように弾け跳んだ。
「ゴッ──ボハァァアアアッ!!」
同時に断末魔をあげたジョーカーも、その体をバラバラに四散させて、大地に沈んだ。

──。
────。

「ガハッ……! ざ、ざまぁ見やがれってんだィ……」
出血する胸を押さえながら、天木はその場に膝を落とし、首だけとなったジョーカーを一瞥した。
味覚も嗅覚も、そして聴覚も、闇が晴れてから自然と元に戻っていたが、
物理的な外傷が自然と治るなど、そうそう都合のよい話があるはずもない。
散々痛めつけられた天木の肉体は、正に超重傷者のそれであった。

「神宮ァ……お前の怪我も酷ェが、治療はもう少し我慢してくれ。
 悪いが俺は自分の体を優先して治療させてもらうぜ……グッ」
神宮もうなずく。仲間の中で天木が最も深い傷なのだ、それも当然だと思うのは自然である。

「だけど、治療は歩きながらだってできる……さぁ、先へ進もうぜ」
天木は落とした膝をあげ、ふらふらとした足取りで目前に迫った洞窟へ進み始めた。
ワイズマン一派との闘いには、特に制限時間というものは存在しない。
ならば怪我を完治させてからでも行動は遅くはない、そう思われるかもしれないが、
治療に専念したところで、いずれにしろ怪我が完治するのは数時間先の話なのである。
それまで待っては、敵に時間を与え、結果として敵を利することになるかもしれない。
となれば、まず一分一秒でも早くワイズマンの元にたどり着く、結局それが最も肝要なのだ。

(一秒でも無駄にはできねェ……早ェとこ奴らを片付けねェと、それこそ参っちまうぜ)

「天木! 神宮! 鎌瀬!」

遠く背後からの声に、天木は一度足を止め、そして振り返った。
見れば、海部ヶ崎が走って追いかけてくる。
「やっぱ……あいつも無事だったか。ってことは、残る狂戦士は一人──キングだけか」

天木は再度洞窟を睨むと、全員に言った。

「ジャック、クイーン、ジョーカー、そしてエース……恐らくキングはこいつらを束ねるリーダーだ。
 どんな野郎なのか、どんな能力を持っているのか想像もつかねェが、俺達はやるっきゃねぇ。
 気合を入れなおしていこうぜ!」
天木の呼びかけに全員がそれぞれ呼応する。
心強い気迫を背に受けて、天木は堂々と洞窟へと入っていった。

【天木 諫早:ジョーカー戦に勝利。治療しながら洞窟へ入っていく】
【海部ヶ崎 綺咲:天木らと合流】
【ジョーカー:『悪夢』を粉砕され、死亡】
121神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/04/30(土) 03:37:22.06 0
>>120
「ゴッ──ボハァァアアアッ!!」
菊乃の放った渾身の一撃は、ジョーカーの頭に直撃し、更にその衝撃でその四肢をも破壊した。
同時にガラスの砕けるような音がして、今まで左目だけだった視界、そして聴覚と嗅覚が戻るのを感じた。

「ガハッ……! ざ、ざまぁ見やがれってんだィ……」
天木が胸を押さえて蹲る。
本来ならば立っていられない程の──否、意識を失っていても不思議ではない重傷なので無理もないだろう。
「神宮ァ……お前の怪我も酷ェが、治療はもう少し我慢してくれ。
 悪いが俺は自分の体を優先して治療させてもらうぜ……グッ」
「アンタが死んじまったら治療もクソもない。自分を優先しな。
 アタシのことは気にすんな。どうせすぐにくたばるような体じゃねえしな」
笑いながら頷く。だが実際の所、菊乃も胸に深手を受けている。
天木の前では笑って見せていたが、体が自由に動かないことは菊乃自身分かっていた。
如何に痛みを感じないとは言え、ダメージによる身体機能の低下は他人と同様に発生する。
「だけど、治療は歩きながらだってできる……さぁ、先へ進もうぜ」
大した治療も出来てない内に、天木が覚束ない足取りで洞窟へと向かい始める。
「あー、アタシは──」
「天木! 神宮! 鎌瀬!」
菊乃が何かを言おうとした矢先、背後に位置する森からこちらを呼ぶ声がした。
その声に顔を向けると、海部ヶ崎がこちらに走ってくるのが見えた。
「やっぱ……あいつも無事だったか。ってことは、残る狂戦士は一人──キングだけか」
天木は再度洞窟を見てから、その場にいる全員の顔を見て言った。
「ジャック、クイーン、ジョーカー、そしてエース……恐らくキングはこいつらを束ねるリーダーだ。
 どんな野郎なのか、どんな能力を持っているのか想像もつかねェが、俺達はやるっきゃねぇ。
 気合を入れなおしていこうぜ!」
その言葉に皆が応じる。
「おうよ!……と言いたい所だが、アタシは悪いけど少し休ませてもらうよ。
 さっき受けた傷、思った以上に深かったみたいだ」
そういって自分の胸を指差す。そこからは真新しい血が次々と溢れ出していた。
「この傷じゃあ無理に闘っても死ぬ確率が上がるだけだ。傷が塞がり次第追いかけることにするよ。
 なに、海部ヶ崎が来たんだ。アタシくらいいなくても平気だろ?」
天木、海部ヶ崎と順番に見て、肩を竦める。
海部ヶ崎は心配そうな顔をしていたが、やがて頷いて天木に先へ行くよう促し、洞窟に入っていった。

「──さて、いるんだろ?出て来いよ」
天木たちを見送った後、振り向かずに背後に呼びかける。
「よくわかったわね。私がここにいること。気配は消していたのだけど」
岩の陰から金髪の女性──クイーンが現れる。
「何となく…な。助けられて礼も言わないようなヤツじゃないとは思ってたからな」
「あら、敵なのに随分評価してくれるのね」
「"元"敵、だろ?今は違う」
「……どうしてそう思うの?」
「もしアンタがまだ敵なら、あのピエロに加勢したはずだ。だがアンタはそれをしなかった。だからもう敵じゃねえ」
「買い被りよ──といいたいところだけど、実際どうなのかしらね?私にも分からないわ」
「そう…かい。だがアタシ……は……」
そこまで言って、菊乃は地面に倒れた。
「ちょ、ちょっと。どうしたのよ」
「……見てたんなら分かるだろ?胸刺されてんだぜ?アタシは……」
「そこまで深刻な傷なら早く言いなさいよ。さっきまで普通にしてたから大したことないのかと──」
「仲間にこれ以上心配はかけられねえ。それだけだよ。……ん?早く言え?」
「助けてもらったお礼よ。治してあげるわ」
「そいつは有難いね。出来るんなら早速頼む」
菊乃に駆け寄り治癒を始めるクイーン。
「……そういやアンタ、名前はあるのか?まさかクイーンが本名じゃないだろ?」
「……そうね。想像の通りクイーンはコードネームよ。
 折角だから憶えておきなさい。私の名前は麻梨亜──紅羽 麻梨亜よ」

【神宮 菊乃:ジョーカーに勝利。クイーンから治療を受ける】
122天木 諫早:2011/05/02(月) 22:08:35.83 0
>>121
「なるほど、やはりそんなことが。どおりでボロボロなわけだ」
天木から事の一部始終を聞かされた海部ヶ崎は、
傷だらけの天木をジロジロとねめまわして、呆れたような溜息を吐いた。
「ンだよ? まさか無傷で倒せなかったのかとか言うんじゃねェだろうなァ?」
言葉の意味をそう解釈した天木は、不快感を露にした表情で問うたが、
海部ヶ崎は真っ先に首を横に振ってそれを否定すると、改めて溜息をついて答えた。

「いや……無茶をすると思ってな。神宮のように少しくらいは休んでもよかったろうに」
「冗談じゃねェや。敵はワイズマン含めて後二人ってとこまできたんだ、休んでられっかよ。
 つーか大体、お前だってボロボロじゃ……」
言いかけて、ふと天木の表情が強張る。
「どうした?」
「い、いや……」
怪訝そうな顔をして覗き込んでくる海部ヶ崎に、
天木は思わず顔を赤らめると、やがて言いにくそうにポツリと零した。

「なんつーか……また派手な格好になってると思ってよ。まぁ、昨日よりはマシだが」
「そうか? 随分と下らないことを気にするんだな」
しれっという海部ヶ崎。
確かに身につけたシャツや短パンはボロボロになってはいるものの、
昨日ほど際どい格好ではない。男であっても人によってはまず気にもしない程度だ。
にも拘らず、天木がいちいち中学生のように顔を赤らめてしまうのは、
彼にまだ幼さがあるせいなのか、あるいは意外にも女に免疫がないからなのか。
もっとも、服装は無しにしても、そこらの下手なアイドルよりも優れた美貌を持つ海部ヶ崎に
顔を近づけられたら、本能的にそうなっても致し方ないことかもしれないが……。

「ところで……エースの方は、霞美の方はどうなったと思う?」
ふと話題がエースの件に向けられて、天木の顔もすっと真顔へと戻った。
「……負けやしねェさ。エースは確かに化物だが、あいつの実力も似たようなもんだろ?
 俺はあいつの全てを知ってるわけじゃねェが、それくらいのことは見てりゃ解らァ」
「そうだな。いずれ私達とも合流するだろう。私達はそれまでに、せめてキングを倒しておきたいものだ」
「ああ、けど……」

天木は言葉を切って、上を見上げた。
暗闇の中とはいえ、見えるはずの洞窟の天井は、もはや見えなくなっていた。

「一体、どこまで続くんだろうなァ……」
天木が不安そうに漏らすのも無理はない。
天木達が入った洞窟の中は、地下へ続く螺旋階段になっていたのだが、
下りていくこと数十段──未だ階段の終わりは見えていなかったのだ。
「弱気になったわけじゃねェんだけどよ、なんつーか……ひょっとして地獄まで続いてるんじゃねェかって、な」
「例えそうだとしても必ず終わりはある。……見てみろ、あれを」
遥か下を見据えて、海部ヶ崎が顎をしゃくる。
指し示したその先から見えるのは、一筋の光であった──。

「地獄に到着、ってか」
「私達にとっての地獄なのか、それとも奴らにとっての地獄なのかは、闘いの結果次第さ」
そういうと、海部ヶ崎は光に向かって一目散に階段を駆け下りていった。
天木は一度大きく深呼吸した後、回復させていた手を止めて、その後に続いた。

(さぁ……キングってのは鬼か蛇か、一体どっちだ?)
123天木 諫早:2011/05/02(月) 22:11:50.84 0
薄暗い階段が終わり、光の中に飛びこんだ天木達が見たのは、広いドーム状の空間であった。
ドームの内壁にはゴツゴツした岩肌が見られないことから、完全な人工物であることがわかる。

「広いな。東京のドーム球場くらいはある感じか? よくまぁこんなもんをつくったもんだぜ。
 いや、ンなことより、ワイズマンってのはどこに……」
「──ワイズマン様にはまだ会えないよ。ボクの後ろにある扉から、もう一つのエリアに行かないとね」

ふと、空間正面の彼方から聞こえてきた声。
見れば、コツ、コツと、足音を鳴らして近づいてくる小柄な人間が一人。
白い学生服のようなものを着、腰に刀剣を差している。
柄の形や全体のデザインから察するに、それは西洋のサーベルだろうか。
そして性別は……そう、女だ。ボクとは言っているが、その声といい女だろう。
いや、そもそもその顔を見れば一目瞭然。
見る人によっては海部ヶ崎よりも美人だと思うかもしれない、それだけの面をしている。

「キミたちがここに来たということは、ジャックもクイーンもジョーカーもやられたってことだよね?
 やれやれ、ボクの出番が来るなんて思ってもみなかったよ」

「お前がキング……? 男だと思ってたが……まさかクイーン同様の女だったとはな」
「綺麗な花には棘があるというだろう。女だろうと油断するな」

二人の会話にまずきょとんとしたのはキングであった。
「女? 誰が?」
「あん? まさか俺が女に見えンのか? お前以外に誰がいるんだよ、え?」
一度、目をパチクリさせたキングは、やがて「クスクス」と笑い出した。
「嫌だなぁ。ボク、男だよ?」

何を言っているのか理解できないのだろう、思わず一斉に顔を見合わせる一同。
「信じられないって顔だね? 何なら証拠見せようか?」
証拠と聞いて、思わず顔を引きつらせた天木は、全員を代表するように首をブンブンと横に振った。
(なんか見てみたい気もするが……いやいやいや! ンなことねェ! ったく、調子が狂うぜ!)

「花は花でも、さしずめ毒の花といったところか」
と、一歩前に出たのは海部ヶ崎。腰に携えた刀を、ゆっくりと抜きながら。
「君達は戦闘を終えたばかりで疲労している。ここはまず私に任せてもらおう。それに」
キングの腰に目をやって、続けた。
「どうやら奴も剣の使い手のようだからな。私が最も適任だ」

「ふーん、君も剣を使うの。面白そうだね、ボクもちょっとだけ剣には自信があるんだ」
キングも腰の鞘から剣を抜く。
日本刀よりも若干刀身が反ったその形は、正に西洋のサーベルであった。

「ならば互いに手加減は無用。行くぞ、キング──!」

刀を構えて、海部ヶ崎は猛烈なスピードで斬りかかった。

【天木 諫早:キングと対峙。現在、戦闘は静観中】
【海部ヶ崎 綺咲:キングと1対1の戦闘中】
124天木 諫早:2011/05/05(木) 22:33:05.46 0
刀と剣が交錯し、激しい金属音が鳴り響く。
戦闘開始から二分、まだ互いに一撃を入れていない点から見て、実力は伯仲──
いや、互いにダメージを与えていないから、単にそう見えるだけであろう。
時間が経つにつれ徐々に、そして明らかに、海部ヶ崎の方が押してきている。

(海部ヶ崎の動きは目で追うのがやっとだ。一方のキングは動きはしなやかだが、スピードが無ェ。
 俺でも完璧に目で捉えることができる。しかも……)

ザシュッ!

キングの右腕周りの服が裂け、鮮血が飛び散った。
それを確認した海部ヶ崎は、軽くジャンプして、キングから三メートル程の距離を置いた。
「……フッ」

短時間とはいえ、あれだけ高速で動き回りながらも、海部ヶ崎の息は少しも乱れていない。
一方のキングは、既に肩で息をし始めている。
(海部ヶ崎が本気を出し、一方のキングが様子見、という感じじゃねェな。
 むしろその逆で、キングの方が本気を出してるって感じだ。こりゃ海部ヶ崎が有利……)

そう思いかけて、天木は留まった。
(……いや、変だぜ。四傑最後の一人ってのは、“この程度”なのか?
 確かに世の中、名ばかりって奴は多い。けど、こいつに限ってそンなことが……)

その疑念は、実際に剣を交えている海部ヶ崎も同じであるのだろう。
彼女は見事先制を決めたにも関わらず、浮かない顔を一向に崩さなかった。

「おかしい、キングとはこの程度なのか? そう言いたそうな顔だね」
「……」
「安心していいよ、それは正常な感覚だ。事実、今のキミはボクの力を遥かに上回っている。
 今のボクじゃどう逆立ちしたってキミには勝てないだろう。そう、“今のボク”では、ね……。」
剣先を海部ヶ崎に向けて、キングは続けた。
「できれば“このままの姿”で事を済ませたかったけど、そうもいかないとあれば仕方ない。
 悪いけど、そろそろボクも真の力を発揮させてもらうよ」

(真の──力──? ──まさか!)
キングの言葉に、真っ先にピンときたのは天木であった。
「海部ヶ崎、気をつけろ! こいつら狂戦士が持つ武器はただの武器じゃねェんだ!
 ジョーカーやクイーンがそうだった! 油断するなよ、予想もできねェ攻撃がくるぞ!」

それに対し、「クス」ッと笑ったのはキング。
「確かにボク達四傑は、それぞれ愛用の武器を具現化する異能者さ。
 だけどキミ、一つ勘違いしているよ。それは、ボクの武器はこの剣──『王剣』じゃないってことさ」
(──なに)
「王剣は『手にした者の力を封じる』特性があってね、いわば拘束具のようなものなんだよ。
 ボクの力は体にかかる負担があまりにも大きいからね。
 普段はこの王剣を手元に置いておくことによって、抑えているんだ。
 つまり、王剣を手放した時、ボクは真の力を発揮することができる……」

キングの手から剣が離れ、床に落ちる。
途端に、キングの全身が眩しく発光し始めた。それは紛れもないオーラの輝き。

(こ、このオーラは……!!)
「さぁ、見せてあげるよ。ボクの能力、そしてボクの真の力をね……!」
125天木 諫早:2011/05/05(木) 22:37:09.87 0
見る見るうちにその強さを増した輝きは、
ドーム全体に行き渡るほどの一瞬の爆発的発光を最後に、視界から消えた。

「「っ──!?」」
しかし、それに代わって視界に現れたものを目にした海部ヶ崎、
そして天木は、思わず息を呑んだ。
何と、キングが全身、黄金の鎧に身を包んでいるではないか。
しかも気のせいか、いや……気のせいではあるまい。
キングの肉体が一回りも、二回りも大きくなっているのだ。

「驚いてくれたようだね? これこそボクがつくりだした究極の鎧──『王纏甲冑』──。
 そして今のボクこそ、狂戦士四傑の一人であるキングなのさ」

低い、まるで地の底から響いてくるような声。
その姿といい、声といい、先程までのキングとは正に別人であった。

「ヤベェぞこの雰囲気……。海部ヶ崎、ここは全員で戦った方がいい。
 お前一人じゃ、多分勝ち目は無ェ……!」
「……くっ」
二人のやり取りを見ていたキングは、やがて「ニヤ」っと笑った。

「全員で戦う、か。懸命な判断だね。だけど、結局は同じことさ。
 一人だろうが全員だろうが、キミたちではボクには勝てない。
 ボクがこの鎧を纏っている限りは、ね」

「……そんな台詞は実際に闘ってみてから吐くもんだぜ」

「フッ、ならばかかってきなよ。現実の厳しさを、嫌というほど教えてあげるよ」

天木は一度全員に目をやると、再びキングに向き直り、叫んだ。
「言われなくても行ってやらァッ!!」

【天木 諫早:キング戦突入】
【キング:『王纏甲冑』発動。正体を現す】
126神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/06(金) 00:57:34.79 0
クイーンはそう名乗り、治癒を続けている。
「麻梨亜──いい名前じゃねえか。ところで……」
「何かしら?」
「アンタ、狂戦士になる前の記憶とかって残ってるのか?」
「……いいえ。残念ながら憶えているのは名前だけよ」
「そっか。ま、名前だけでも憶えてるならいいじゃねえか」
「どうかしらね……。──あら?」
クイーンが顔を上げ、洞窟の方を見た。
「どうした?」
「あなたの仲間達とキングが戦闘を始めたようね」
「本当か?ならこうしちゃいられねえ。アタシは行くぜ」
そういって立ち上がろうとした矢先、足元がふらつき倒れそうになる。
慌ててクイーンが支え、転倒は免れた。

「ちょっと、まだ動いちゃだめよ。全然治ってないんだから」
「そんな悠長な事言ってられるかよ。仲間が闘ってんだぜ?助けに行くのが普通だろ」
「今のあなたじゃ行っても盾にすらなれないわ。寧ろ足を引っ張るだけよ」
「アタシ的にはもう治ってるつもりなんだけどなぁ……。そんなに酷いのか?」
「参考までに言っておくけど、普通の人間だったらとっくに死んでてもおかしくない傷よ。
 治るまでじっとしてなさい」
「チッ、しょうがねえな……。皆、生きててくれよ……」

「──!!」
更に少し時間が過ぎ、治癒も終盤に差し掛かった頃、クイーンの表情に変化が現れた。
険しい表情で洞窟を見ている。
「また何かあったのか?」
「ええ。キングが本気を出したわ」
「本気……そんなにやばいのか?」
「少なくとも私、ジャック、ジョーカーの三人でやったとしても勝てる見込みは少ないわ。
 『王纏甲冑』──そう呼ばれるあの能力には、ね」
「『王纏甲冑』……。名前だけ聞くと防御に優れてるだけみたいな感じがするな」
「"だけ"?それで充分じゃない。
 いい?防御に特化しているということはこちらの攻撃はほぼ通用しないということ。
 それが何を意味するか……分からないほど馬鹿じゃないわよね?」
「当たり前だ。しかし……そうなると勝ち目なんてねえじゃねえか。こっちの攻撃は通用しないんだろ?」
「全く通用しないとは言ってないわよ。ただ、かなり厳しい闘いになるのは事実ね。……はい、終わったわよ」
「助かったぜ。アタシは洞窟に行くが、アンタはどうする?」
「私はここにいるわ。流石にあなた達に加勢するわけにもいかないしね。
 ……ま、精々頑張りなさいな。死なない事を祈っててあげるわ」
「そりゃどーも。嬉しくて涙が出るぜ。……んじゃ、アタシは行くぜ。じゃあな」
別れの言葉を告げ、菊乃は洞窟に入っていった。

「は〜、こりゃまた随分深いな……。アイツらはこれを降りていったのか」
目の前に広がる底の見えない螺旋階段を見て、菊乃は溜息を漏らした。
「チンタラ降りてたんじゃ時間がかかるな。ここは一つ、裏技を使うか」
そう言うと、何と階段を無視して中心に飛び込んだのだ。
菊乃は暗闇の中、遥か下方に向かって凄まじい速度で落下していった──。

【神宮 菊乃:クイーンと別れ洞窟に入る。螺旋階段を落下中】
127鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/05/07(土) 16:30:58.92 0
>>121
>「……そうね。想像の通りクイーンはコードネームよ。
 折角だから憶えておきなさい。私の名前は麻梨亜──紅羽 麻梨亜よ」
「…よ、よろしくお願いします紅羽さん。僕は鎌瀬犬斗です」
何気にまだ居た鎌瀬。取り合えず自己紹介をする
『私ハ斎葉巧ト申シマス』
操っているロボから音声を出す斎葉
『…サテ、ソレデハ…。終了(シャットダウン)、退出(ログオフ)!』
操っていたロボットが動きを止める。斎葉が能力を解除して自分の身体に戻ったのだ

「…さて、では私(本体)も行くとしましょう。電気屋型機動要塞、戦闘専用形態(バトルモード)」
電気屋型要塞の戦闘で使われる部分だけを切り離し、其処に搭乗。洞窟に走らせる斎場
「まぁ、すぐに着くでしょう。…ユーキさんには治療室で休んでいてもらいましょう」

『皆さん、お待たせいたしました。夜深内…』
『…もう終わっているみたいですね』
遅れて夜深内がやってきた。正直動かしきれていない気がする
「あ、夜深内さん! もう皆洞窟に入っていったみたいですよ。この後斎場君も来ると思います…」
『了解です。私達はどうします? 先に行っていましょうか?』
「うーん…そうだねぇ。僕はとっても弱いから、細心の注意を払わないと。…こっそり階段を下りましょう」
『そうですね、了解です。では、行きましょうか』
こうして鎌瀬と夜深内も階段を下りていった
【鎌瀬犬斗&夜深内漂歌:洞窟に入り、螺旋階段を静かに下りる
斎葉巧:本体に戻り要塞の戦闘用部分と共に洞窟に向かう】

128天木 諫早:2011/05/10(火) 02:04:36.04 0
「くらえキング! 『飛花落葉』!!」
海部ヶ崎が切っ先をキングへと向ける。
と同時に、彼女の背後から現れたのは──否、飛び出たのは無数の黒き物体。
それらの正体は全て鋭利な刃物。
周囲の土から鉄分のみを取り出し、瞬時に武器化したものだった。

「へぇ? 一瞬の内にこれだけの武器を精製(つくり)出すことができるのかい。
 大した能力だね。だけど……」
「──!」
武器が次々とキングに命中していく。
しかし、キングは文字通り、微塵も揺るぐことはなかった。
命中した武器は全て、キングの鎧に触れた途端、木端微塵となったからだ。
鎧に覆われたキング自身は蚊に刺された程も感じていないだろう。

(あれだけの武器を……! けどな! ンなこたァ計算の内なんだよォッ!!)

バラバラになった武器の破片を掻い潜りながら、天木は宙に舞った。
そして、オーラを込めたワイヤーを、力いっぱい投げ放った。
「うっらァっ!!」
くねくねと、それでいて素早く死角に回り込んだワイヤーは、
それこそ蛇が獲物に巻きつくように、目にも止まらぬ速さでキングを縛り上げた。
「まだだぜェッ!!」
続いて間髪入れず、天木はポケットに忍ばせておいた鉄球を取り出すと、
素早くオーラを込めて勢いよく射出した。
「『凶弾(キラーショット)』!! ジョーカーの時はやられてばっかだったがよォ、今度はそういかねェ!!」

「──違うね。“今度も”そうはいかないの間違いだよ」
「──!?」
瞬間、天木は目を大きく見開いた。
何と、いつの間にかワイヤーが千切れて吹っ飛んでいる。
しかも、自身の持ち技の中で、最も貫通力が高いはずの『凶弾』が、
鎧に触れた途端に砕け散ったではないか。
(オーラで強化している俺の武器までが……! 何て、何て硬ェ鎧なンだ!)

「さて、抵抗はもう終わりかな? なら、そろそろ──」
ふっと、天木は不敵に笑らった。
「──そろそろ、なンだって? 策は二重に三重に──そして四重にだ。
 言ったろ、今度はそうはいかねェってよォ!!」
「──!」

今度は、天木の背後から何かが飛び出た。
──それは双刀を手にした海部ヶ崎であった。

「頼むぜェ! 海部ヶ崎ィッ!!」
「受けろキング!! 我が必殺の──『百花繚乱』ッ!!」

無数の光の軌跡を描いた紅の剣閃が、キングに容赦なく炸裂した。
129天木 諫早:2011/05/10(火) 02:09:05.59 0
キィィィイイイイインン……!!

金属音がドーム全体に響き渡ると共に、細かな金属の破片が飛び散った。
「なっ……にっ……!?」
その時、愕然としたのはキングではなく、海部ヶ崎であり天木であった。
これまで傷一つ付かなかった海部ヶ崎の刀が、ボロボロに欠けてしまったのだ。
「一度じゃ理解できなったかい? ボクの鎧の防御力が」
対するキングの鎧には、またしても傷一つついていない。
不敵に笑うのは今度はキングの番であった。

(目にも止まらぬ高速の乱撃術! それを受けたにも関わらず、無傷だってのか……!?)

「策は四重に、とか言ってたね? ならば今ので打ち止めかな?」
「……くっ!」

キングの眼前に着地した海部ヶ崎は、即座に自らの後方に向かって跳んだ。
刀が傷付けられるほどの防御力の前では、迂闊に接近戦はできないと判断したのだろう。
しかし──。

「「──!?」」
その時、一瞬、呼吸を忘れるほどの衝撃が二人を襲った。
キングから離れたはずの海部ヶ崎の直ぐ目の前に、キングがいる──。
「じゃあ、今度こそボクの番だね? 少し強くいくよ──」

ドンッ!!
まるで壁を破壊したかのような重低音が響き渡る。
次の瞬間には、海部ヶ崎は頬を思い切りへこませて、弾丸のように吹っ飛んでいた。
「海部ヶ──」
「他人の心配をしている余裕なんてキミにはないはずだよ」
「!?」

直ぐ目の前からの声。天木は咄嗟に身構えたが、時既に遅し。
肉体を粉々にされたかと錯覚するほどのとてつもない衝撃が、全身を駆け巡ったのだ。

「ガハァァァアッ!!!!」

ドォオンッ!!
天木は、後方の壁に勢いよくぶち当たり、更に壁の中深くに沈み込んだ。
その衝撃でジョーカー戦の傷口が再び開いたか、全身から容赦なく血が溢れ出た。
(は、速ェ……! し、しかもこのパワー……!)

「グッ……ガハァツ!!」
視界の端では、海部ヶ崎が立ち上がろうとしながらも、膝を震わせて吐血していた。
天木の数倍は頑丈な肉体を持っていそうな海部ヶ崎ですら、既に満身創痍に近い……。
天木は、ギリリと歯軋りした。
(ヤベェ……! 俺達が疲労していることなんざ関係なしに、こいつはヤベェ……!
 もしかしたらコイツ……氷室やエースよりも……!!)

「おやおや、もうダウンかい? じゃあ、次の攻撃で、キミたち二人は終わりかな?
 もう少し楽しませてくれると思ったんだけど、残念だよ、フフフフフ」

キングの残酷な笑みの前に、天木はただ、打ちひしがれるしかなかった。
(クソ、が……!!)

【天木 諫早&海部ヶ崎 綺咲:ダメージ大。戦闘中。】
130神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/13(金) 17:50:36.56 0
>>129
菊乃はどこまでも続く闇の中を落下していた。未だに底には辿り着かない。
(アイツら無事か……?いや、ひどい様だが無事じゃねえだろうな。
 相手は他の三人を束ねてたヤツだ。いくらあの二人でも劣勢は必至だろう。
 だから……だからこそ早く行かないと!クソッ、どこまで続いてんだ!)
焦る気持ちを抑えて気を鎮める。
(そういや氷室はどうなったんだ?アイツのことだから死ぬ事はないと思うが……。
 さっきは姿を見せなかったな。どっかで療養でもしてんのかね)
氷室が負けているかもしれない、という考えは不思議と出てこなかった。
確かにエースは氷室にも匹敵しかねない強力な異能者だ。しかしそれでも氷室が負ける姿が想像できないのだ。
それは無意識の内に氷室を信頼している証拠であった。

そうして落下している内に、最下層と思しき場所が見えてきた。
(光……?あれが一番下か。よし、一気に行くぜ!『重力増加』!)
体にかかる重力が増す。それと共に落下の速度も上がり、まるで隕石のように落下していった。

「おやおや、もうダウンかい? じゃあ、次の攻撃で、キミたち二人は終わりかな?
 もう少し楽しませてくれると思ったんだけど、残念だよ、フフフフフ」
光に近付くと共にキングのものと思しき低い声が聞こえてきた。
やはり──と言うと彼らに失礼だが──劣勢だったようだ。

──ドンッ!!
その直後に最下層に着地する。その衝撃で床にはピキピキという音共に皹が入り、フロア全体が揺れた。
俯けていた顔を上げ、前を見る。そこには黄金の鎧を身に纏った筋骨隆々の男が立っていた。
視界を巡らせると、海部ヶ崎と天木が映る。しかしその体は既に満身創痍といっても過言ではないほど傷付いていた。
だが最悪の事態──既に殺されている、という事態にはなっていなかった。二人とも生きている。

「どうやら間に合ったようだね……。着いたら死んでましたじゃ笑い話にもなりゃしねえ」
鎧の男──キングがゆっくりとこちらを振り向く。その顔は醜く歪んでいた。
「アンタがキングかい?ある意味予想通りっつーかなんつーか……」
キングは動かない。菊乃はふと、クイーンから聞いた話を思い出していた。
(あれが『王纏甲冑』とやらか。こっちの攻撃はほぼ通用しない……だったか?
 ただ単に防御が高いのを嵩にかけて攻めてくるなら単純なんだが……そううまくはいかねえよな。
 最後に出てくるようなヤツだ、そう馬鹿じゃないだろ)
攻め方を考える。が、いい案は浮かばない。
(チッ、どうするかな……。いや、まずは──)
キングの相手をする前にやるべき事があった。まずは二人を助けることが先決だ。

「イチかバチか……行くか」
小声で呟くと、瞬脚で移動し海部ヶ崎の元に辿り着く。海部ヶ崎は服を己の血で濡らし、床に膝を突いていた。
「大丈夫か?まぁ死んでないだけマシだな。『重力減少』」
海部ヶ崎の返答を待たずに海部ヶ崎に能力をかけて肩に担ぐ。そして再び瞬脚を使い、今度は天木の所へ行く。

「随分手酷くやられたな。ま、海部ヶ崎にも言ったが生きてて何よりだ」
海部ヶ崎を静かに壁に寄りかからせ、天木を壁から救出する。
一連の流れの間、キングはこちらを見ているだけで動かなかった。

「余裕かましやがって……腹立つぜ」
キングを睨み付けながら二人に話しかける。
「さてお二人さん。アイツをどうにかする何かいい策はないかい?……当然アンタらだってまだ諦めたわけじゃないんだろ?」
ニヤリと笑って二人の顔を見る。その顔は満身創痍ながらも闘志に満ちていた。

【神宮 菊乃:最下層に到着。海部ヶ崎、天木の両名を救出】
131鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/05/16(月) 18:04:16.53 0
>>129>>130
(拙いよ夜深内さん。あのキングとか言う人の鎧。防御力が半端ない…。
…僕の劣化した槍でも貫通できるかどうか…)
(『ですね。流石王者(キング)と言ったところでしょうか』)
階段の陰から様子を見る鎌瀬と夜深内。鎌瀬の能力で気配を劣化させている
(さて問題はここからだね…。ジョーカー戦のときみたく不意打ちで奇襲するか
それとも神宮さんたちと合流して策を練るか…)
(『そういえば鎌瀬さんのオーラって自分の身体から離せないんでしたっけ』)
(ん? そうだよ。だから必然的に技は全部近接になるわけだけど…まぁ、オーラを伸ばせば遠距離もいけるんだけどさ)
極力小さな声で会話する二人
(『ではこうしましょう。私は神宮さんたちと合流します。ですから鎌瀬さんはキングの鎧をどうにかしてください』)
(そうだねぇ…。うん、分かったよ。じゃ、頑張ってね)
(『貴方も頑張ってくださいね』)
『すみません。遅れてしまいました。私にも協力できることがあるのなら。』
モニターに文字を映し出す夜深内
『いえ。私にも協力させてください』
文字を映し出しながら、神宮たちに近づいていった
(やれやれ、またこういう役か…ま、僕らしいよね
さて、劣化した槍は一点を集中して劣化させるタイプの技だ。全体を硬い装甲で覆っている相手には分が悪い)
思考する鎌瀬
(だったらこれで行くか…。ま、どうせうまくいくわけ無いんだけどさ。劣化憑き(ネガティブスピリット)!)
手から幽霊のような形をしたオーラを出し、飛ばす鎌瀬。狙いはキングの鎧。
劣化憑きはその名の通りオーラを幽霊のように取り憑かせて、その個体を確実に劣化させていく技である。この技を身体に直接受ければ次第に身体は重くなり、
さらに力も弱っていき、まるで悪霊に呪われたかのようになる。故に“劣化憑き”。

その頃…
「さて。洞窟に着きましたね。では、参りましょう!」
起動要塞に乗りながら、階段を駆け下りる斎葉。恐らくもうすぐ合流することだろう
【夜深内漂歌:神宮たちと合流 鎌瀬犬斗:劣化憑き発動 斎葉巧:洞窟到着】


132天木 諫早:2011/05/19(木) 02:48:13.83 0
>>130
突然、フロア全体が揺れる。
「どうやら間に合ったようだね……。着いたら死んでましたじゃ笑い話にもなりゃしねえ」
と同時にフロア出入り口から現れたのは、神宮 菊乃であった。

「へへ、調度いいところに来てくれたぜ……。俺ら二人だけじゃ、持て余してたもんでな……」
これまで苦悶の色だけが浮かんでいた天木の顔に、ほっとした笑みが戻る。
しかし、それも一瞬。体内でくすぶる激痛は、直ぐに顔を引きつらせた。
(──チィ、体が思ったように動かねェ! まだ、闘わなきゃならねェってのに……!)

「随分手酷くやられたな。ま、海部ヶ崎にも言ったが生きてて何よりだ」
と、不意に神宮の声。
ダメージで思考が鈍り、集中力が散漫になっていたせいで気付けなかったのだろうか。
いつも間にか天木は、神宮の肩に担がれて、壁の中から救出されていた。
(へっ、頼りになるぜ……)

張り詰めた緊張感が解け、思わず安堵したせいだろう。
天木の瞼は自然と重くなり、ゆっくりと閉じられていった──。
(──とっ!)
だが、閉じきってしまうその瞬間に、天木は心に渇を入れてカッと目を見開いた。
(俺は馬鹿か! 神宮だけに任せるわけにはいかねぇだろうが!)
そして、ぱっくりと開いた傷口目掛けて、思い切り手刀を差し込んだ。

「──ぐっ!!」
電撃を受けたような鋭い痛みが全身を駆け巡る。
気でも触れたのかと、周囲にはそう思われるかもしれない。
だが、当の天木は至って冷静であった。
「〜〜〜痛ってェェェ! ……けどよ、お陰で目はバッチリと冴えたぜ……!」
今の行為で更に溢れ出した血を、ボタボタとまるで雨のように地面に滴らせながら、天木はしたり顔で笑った。

「自らを傷付けることで気を失うのは避けた……なるほど、まだ諦めてはいないというわけだね」
腕を組んでやれやれとでも言いたげなキング。
例え天木が戦闘を続行しようとも、結局は同じことだと言い切れる自信があるのだろう。
(……確かに、奴にはその自信を裏付けする確かな実力があるみてェだ。……だが)
天木は神宮に向き直って言った。
「奴を倒すには、まずはあのヨロイを何とかしなきゃならねぇ。
 だが、奴のヨロイは……所詮小手先の技じゃ傷一つつけられねェシロモノだ。
 だから……そう、だからこそ、俺達が取るべき道はたった一つに絞られる。
 ──それは、奴のヨロイをぶっ壊すまでひたすら全力で攻撃する──!」

ひたすら全力で攻撃する──そのような単純な提案すら策と呼ばれるのなら、
今頃策士と呼ばれる存在はこの世に溢れ返っていることだろう。
「やれやれ、やはりそれしかないか」
だが、海部ヶ崎はそれを馬鹿げたものと一蹴することはなく、真っ先に賛同して見せた。
キングを倒すにはまずヨロイを──というのは、彼女も同様の見解であったからだ。

「……悪ィな。実力が不足してる分、頭でカバーしなきゃならねぇポジションなのによ……
 毎度毎度、策っつー策を出せねーで、そんで無茶させて……ホントすまねぇと思ってる……。
 神宮、こんな役立たずな俺の提案でも、ジョーカーの時みてェに乗ってくれる気があンならよ、
 次の俺の合図で一緒に攻撃を仕掛けてくれ……! 強烈なヤツをな……!」

ワイヤーをこれまでにないほど強く握り締めて、天木はキングを睨んだ。そして──

「──さぁ、行くぜ!!」
キング目掛けて猛烈なダッシュをかけた──。

【天木 諫早:戦闘中。】
133神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/19(木) 21:38:55.36 0
>>131>>132
『すみません。遅れてしまいました。私にも協力できることがあるのなら。』
『いえ。私にも協力させてください』

天木らを助けた後、夜深内がこちらへ来た。どうやら自分のすぐ後から追いかけてきたようだ。
(ってことは鎌瀬や斎葉なんかもいるのか……)
そう思い辺りを見回すと、少し離れた場所に鎌瀬がいた。斎葉の姿は見当たらない。

「ありがたいねぇ。けど、正直に言わせてもらうとアンタに出来ることはあんまねえな。
 恐らくキングに小手先の攻撃は通用しねえ。となれば方法は一つ。──肉弾戦しかねえ。
 アンタは見た感じそっち向きじゃなさそうだから、出来るとしたらサポートだな。
 それでもよきゃあ手伝ってくれるかい?無理なようなら離れてな」
そう言って夜深内を見ると、考えるような仕草をしていた。
今言われた事を考えているのか、既にサポートの内容を考えているのかは分からない。
あまり時間もないので天木達の方に向き直る。

「奴を倒すには、まずはあのヨロイを何とかしなきゃならねぇ。
 だが、奴のヨロイは……所詮小手先の技じゃ傷一つつけられねェシロモノだ。
 だから……そう、だからこそ、俺達が取るべき道はたった一つに絞られる。
 ──それは、奴のヨロイをぶっ壊すまでひたすら全力で攻撃する──!」

天木の言ったそれはもはや策とは呼べない代物だった。
しかし実際に今の所それしか方法がないのも事実であった。
「やれやれ、やはりそれしかないか」
しかし海部ヶ崎はこの馬鹿げた策に笑うことなく賛同した。
やはり海部ヶ崎もあの鎧をどうにかしなければ、と言うことは既に分かっていたのだろう。
「馬鹿げてるねえ──けど、アタシは好きだよ。結局単純なのが一番分かりやすくていい」
菊乃も頷いて同意する。
彼女は『王纏甲冑』の強さの程を直接見ていないので分からないが、二人のやられ方を見ればその強さは推測できる。

「……悪ィな。実力が不足してる分、頭でカバーしなきゃならねぇポジションなのによ……
 毎度毎度、策っつー策を出せねーで、そんで無茶させて……ホントすまねぇと思ってる……。
 神宮、こんな役立たずな俺の提案でも、ジョーカーの時みてェに乗ってくれる気があンならよ、
 次の俺の合図で一緒に攻撃を仕掛けてくれ……! 強烈なヤツをな……!」
「ジョーカーの時も言ったろ?アタシはアンタを信じてる。
 アンタが指示を出してくれればアタシはその通りに動く、ってな」
天木に視線を向けずキングを見据えて答える。

「──さぁ、行くぜ!!」
「さって、先頭はアタシに任せてもらおうか。怪我人を最前線に出すほど薄情じゃないからね」
言い終わると同時に気昇によりオーラを体に漲らせる。
「その鎧と余裕の表情──絶対にぶっ壊してやる。どんな手を使ってでもな」
爆発的な加速でキングに向けて一直線に飛び出した──。

【神宮 菊乃:戦闘中】
134天木 諫早:2011/05/22(日) 23:41:21.88 0
>>133
「ボクの鎧を破壊するまで攻撃を続ける、か。フフ……それまでに君達の肉体が持てばいいけどね」
接近してくる三人に向けて、キングは素早く拳を突き出した。
キングと三人までの距離はまだ五メートルはある。本来であれば空振りで終わる正拳突きだ。
ところが──

(──!?)
突如、鳴り響いた無数の打撃音──。天木は思わず足を止めた。
何と、先頭を切って走っていた神宮が空中を舞っている。
しかもその全身に、まるで殴られたような無数の拳の跡を刻みつけてだ。

「神──」
「止まるな天木! 狙い撃ちにされるぞ!」
と、うろたえる天木の横を颯爽と駆け抜けたのは海部ヶ崎。
あの一瞬に何があったのか、それを彼女は解っていた。
だからこそ、動揺することもなく、足を止めることもなかったのだ。
(狙い撃ち──だと? 一体、神宮は何をされたんだ──!?)

天木から、まるで疑問を投げかけるような視線をぶつけられたキングは、
「これが答えだ」とでも言うように再び拳を突き出した。

「くっ!」
その動きに合わせて、海部ヶ崎が突然横にステップする。
するとその瞬間──海部ヶ崎の足元の床が、紙一重のタイミングで砕け散ったではないか。
(──これは!)

「気がついたかい? これはボクの圧倒的な速さで繰り指された拳が生み出す強力な空気圧──
 ボクは『王拳』と呼んでいるけどね。これを使えば、そこそこの遠隔攻撃も可能というわけさ」
またもキングが拳を突き出す──。それを見て、天木は咄嗟に高くジャンプした。
ドン! という破壊音と共に、天木の真下にある床が大きく抉れる。
(そこそこの攻撃、だと──? 冗談じゃねェ、並の人間なら一発でお陀仏になる威力じゃねェか!)

「さぁ、どこまでかわせるのかな?」
今度は両手で、しかも連続して拳を突き出すキング。
ドン! ドン! ドン! ドン!
海部ヶ崎の周りの床や壁に、次々とクレーターができていく。
「くっ! 避けることで精一杯か! これでは近付くことすら──」
「──!! やべェ! 後ろだ海部ヶ崎ィ!!」
天木の声。それで海部ヶ崎は気が付いた。後ろにキングがいる──と。
135天木 諫早:2011/05/22(日) 23:46:27.46 0
「油断したね? ボクが『王拳』でじわじわ甚振るだけだと思ったかい?」
「!? しまっ──」

またしてもドン! という打撃音。
だが、今度のそれは床ではなく、海部ヶ崎の肉体から発されたものだった。
空中から勢いよく落下して、地面に叩きつけられる海部ヶ崎。
その直ぐ傍に着地したキングは、冷酷な目つきを持って彼女を見下ろした。

「所詮、キミもこの程度か。悪いけど、ここで終わりにしてあげるよ──」
ゆっくりとキングの腕が振り上げられる。
「ぐっ……く、くそ……」
それを見ながらも、動かない海部ヶ崎。いや、ダメージが大きく、動けないのだろう。
彼女ができることといえば、もはや苦しそうに、悔しそうに呻くだけであった。

(──!?)
しかし、キングの腕が振り下ろされようとしたその瞬間、天木は思わず唖然とした。
「うっ……ゴホッ! ゴホッゴホッ!」
キングがその場に蹲って、なにやら苦しそうに咳き込み始めたのだ。
しかもそれだけではない。気のせいか、鎧が透明になっているように見える。
それはつまり──『具現化された鎧が消えかかっている』という証──!?

「くっ……ゴホッ! も、もう“発作”が……!」
キングの口元が赤く滲んでいる。どうやら吐血しているらしい。
ダメージを受けていないはずの彼がどうして苦しんでいるのか、それは定かではない。
(──いや、何だっていい! 今がチャンスだ!)
しかし、いずれにしても、これは天木らにとって絶好のチャンスなのだ。

「おおおおおおおおお!!」
天木は服に仕込んだ数本のナイフを、手首が半円を描く動きに合わせて、まるで手裏剣のように投げ放った。
「くらっとけェ!! 『飛爪(ディメンションクロー)』をなァ!!」

【天木 諫早:ナイフを放つ。】
【キング:突然吐血し、苦しみ出す】
136鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/05/24(火) 18:43:28.66 0
>>133>>134>>135
>「ありがたいねぇ。けど、正直に言わせてもらうとアンタに出来ることはあんまねえな。
 恐らくキングに小手先の攻撃は通用しねえ。となれば方法は一つ。──肉弾戦しかねえ。
 アンタは見た感じそっち向きじゃなさそうだから、出来るとしたらサポートだな。
 それでもよきゃあ手伝ってくれるかい?無理なようなら離れてな」
(サポートですか…。さて、どんなサポートをしましょうか…)
どんなサポートをするか、何時サポートするか考えている夜深内
(…先ずは様子を見ましょう)

>「うっ……ゴホッ! ゴホッゴホッ!」
>「くっ……ゴホッ! も、もう“発作”が……!」
突然キングが咳き込み始め、しかも吐血したように見える
(どういうことだ…? 僕の能力は鎧にしか影響していないはず… 発作…?)
その様子を不思議そうに見つめる鎌瀬。鎌瀬の劣化能力は、肺や気管支を劣化させれば咳を出させることもできるし、
血管の強度や弾力を劣化させれば、自らの血圧で出血させることもできる。尤も、それにはかなりの集中力と根気が必要なわけだが。
しかし鎌瀬は、どちらもやっていない。ゆえにこれは、キング自身に原因があるといえる
(しかも鎧が消えかかってる…。でもまだ念のため憑いておこう)

そして
「おまたせしました、皆さん」
斎葉が戦闘用起動要塞(元電気屋)に乗ってやってきた
【夜深内漂歌:サポートについて思考
 鎌瀬犬斗:引き続き劣化憑きでキングの鎧を劣化
 斎葉巧:到着】
137鬼々壊戒:2011/05/24(火) 22:30:58.96 0
名前:鬼々壊戒(きき かいかい)
性別:男
年齢:16
身長:178Cm
体重:65kg
職業:フリーター
容姿:短く黒い髪にジャンパー、ジーンズ
能力:破壊ノ記憶
キャラ説明:
ごく普通のフリーターだったがある日、能力が目覚めた
彼の能力は破壊ノ記憶と呼ばれる、その由来は自分の認識できる、
範囲のものを破壊する事からそう呼ばれる
ただし同時に破壊できるのは今現在3つまで
能力の覚醒と同時に人格の分裂、多重人格となった


【パラメーター】
筋力:B
俊敏性:B
耐久力:S
成長性:C

射程:A
破壊力:S
持続性:C
成長性:C
138神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/25(水) 02:29:44.76 0
>>134>>135
「ボクの鎧を破壊するまで攻撃を続ける、か。フフ……それまでに君達の肉体が持てばいいけどね」
キングが構えを取り、パンチを繰り出す。
(何を──グッ!)
キングの行動を不思議に思い、様子を見ようとした次の瞬間、菊乃の体は浮き上がっていた。
前方からの無数の衝撃。見えない何かによって進攻は止められたのだ。

「ガハッ……。これは……拳?まさか、拳圧を飛ばしたってのかい……?」
吹き飛ばされた体を空中で無理矢理立て直し、床を数メートル滑り何とか止まる。
そして自分の体を見ると、無数の殴られた跡がある。
(やっぱりこれは──)
「気がついたかい? これはボクの圧倒的な速さで繰り指された拳が生み出す強力な空気圧──
 ボクは『王拳』と呼んでいるけどね。これを使えば、そこそこの遠隔攻撃も可能というわけさ」
キングが海部ヶ崎達に向けてこの攻撃の正体を明かしている。
(思ったとおり、か。しかし何つー重さだよ。
 アタシならまだしも、怪我してる天木や海部ヶ崎が食らったら致命傷になりかねないな)
そう──全快で、更に気昇まで使っていた菊乃ですらそれなりのダメージである。
これがもし怪我人である二人に当たりでもしたら、恐らく一撃で動けなくなるだろう。
(さて、どうするかな……)

「──!! やべェ! 後ろだ海部ヶ崎ィ!!」
「油断したね? ボクが『王拳』でじわじわ甚振るだけだと思ったかい?」
「!? しまっ──」
考えるのを止め、再度走り出そうとした瞬間、恐れていたことが起きた。
ドン! という音に続き、海部ヶ崎が空中から勢いよく落下してくる。
恐らくは先程の攻撃を直接食らったのだろう。飛ばした拳圧より直接の打撃の方がダメージが大きいのは明らかだ。

「所詮、キミもこの程度か。悪いけど、ここで終わりにしてあげるよ──」
倒れ伏す海部ヶ崎の横に着地したキングが、止めと言わんばかりにゆっくりと腕を振り上げる。
(──マズい!アレを食らったらお終いだ!)
そう思った瞬間、体は動き出していた。
先程より速度は劣るものの、それでもかなりのスピードで二人に接近していく。だが──
(クソッ、間に合わねえか……!)
あと一歩、というところでキングの腕が今まさに振り下ろされようとしている。しかしそこで戦況に変化が生じた。
「うっ……ゴホッ! ゴホッゴホッ!」
突然キングが咳き込み出し、膝を突いて蹲ったのだ。更に無敵を誇っていた『王纏甲冑』も半透明になっているではないか。
「くっ……ゴホッ! も、もう“発作”が……!」
(発作……?まぁ何にせよ、折角出来たチャンスだ、生かさない手はねえ!)
二人の下に辿り着いた菊乃は、まず海部ヶ崎を抱き上げてその場を通過する。
「ちょっとヤバいな……。少し我慢してくれよ、『重力減少』」
海部ヶ崎に『重力減少』を極限までかけ、辺りを見回す。そして──
「──いた!出番だぜ、夜深内!絶対に落とすなよ!」
壁際にいた夜深内に向かって海部ヶ崎を勢いよく放り投げる。
重力が極限まで軽くなっているので、まるで宙に浮かんでいるように夜深内へ向かっている。あれなら体への負担もかなり軽減できているはずだ。
(さて、次は──)

「くらっとけェ!! 『飛爪(ディメンションクロー)』をなァ!!」
再びキングの方に向かうと、天木が既に攻撃を開始していた。
「やるじゃねえか天木!そうこなくっちゃなぁ!」
自身も床を蹴って跳び上がる。更に天井も蹴って真上からキングに接近する。
「『重力増加』──喰らいな、『重力の戦槌』!」
途中で体勢を入れ替え、飛び蹴りの要領で突進する。
更に天井を蹴って加速した事により、通常よりも遥かに威力の増した状態でキングに向かって流星の如く向かって行った。

【神宮 菊乃:海部ヶ崎を夜深内に任せ、キングに『重力の戦槌』をしかける】
139天木 諫早:2011/05/28(土) 11:38:22.78 0
>>136>>138
キングの四方八方から『飛爪』が、そして真上から神宮が迫る。
「やれやれ……油断も隙もあったもんじゃないね……」
それを見たキングは、口元の血を拭いながら立ち上がった。
しかも、消えかかった鎧を再びハッキリと具現化させて。

(──また鎧を! けど、やるっきゃねェンだ!)
天木は無我夢中で拳を繰り出した。
その動きに合わせて、かつてないスピードでキングの間合いに飛び込んだ『飛爪』は、
次々とその刃をキングに突き立てた。しかし──

「甘いよ、キミ」
キングは動じない。ナイフは鎧には突き刺さっても、
中の肉体にまでその刃が達することはなかったのだ。
(チィイ! あれだけ加速をつけても突き刺すのが精一杯かッ!)
絶好のチャンスだった。それでも、それをモノにするには、自分では力不足だったのか?
そう思った天木は、自分の無力さにギリリと唇を噛んだ。

「──!!」
しかし、そんな天木を救ったのは──神宮 菊乃であった。
彼女は何と、首に突き刺さったナイフに拳を──『重力の戦槌』を叩き込んだのだ。
まるで釘にハンマーを打ち付けるように。
「ガッ!?」
キングの首から口から、血が溢れ出す。
それは鎧を突破したナイフが、キングの首に突き刺さった証明であった。
                                          ハンマー
(俺のナイフを“楔代わり”にして──! ミョルニュル──それは正に『鎚』ってわけか!)

「まだ……まだだよ。たかがナイフ一本で、このボクが……うっ! ゴホゴホッ!」
吐血しながら咳き込むキングは、ガクリとその場に膝をついた。
「如何に狂戦士といえど、流石に首へのダメージは効いた……」
言いかけて、天木は直ぐに口をつぐんだ。
キングを覆っていた鎧がどんどん透明になっていく──
しかもそれと共に、キングの体もどんどん縮んでいくではないか──。

(……効いたどころじゃねェ。勝負あり、だったか……。それにしても……)
心の中で勝利を確信した頃には、既にキングはあの美少年の姿に戻っていた。

「ゴホッ……! ここまで……まさかここまでボクの体が衰えていたなんてね……。
 もう少し早くキミたちと闘えていれば、キミたちを木端微塵にできたものを……」

ダラダラと血を流す首を抑えながら、キングは土気色の顔で天木たちを見上げた。
「天木、神宮……とどめだ」
そう言ったのは、夜深内に支えられながら、二人に歩み寄ってくる海部ヶ崎。
どうする? とでも訊きたげな神宮の視線に、天木は小さく首を振って答えた。
「……いや、その必要は無ェかもしれねェ。
 さっきから気にはなってたんだが……こいつもしかしたら体を……」

「ククク──お察しの通りじゃよ」
天木の声を遮る別の男の声。一同の視線は、咄嗟にその声の方向に──
あのワイズマンのいるエリアに通じると言われた扉に集中した。
そこで一同が見た者は、白装束に身を包んだ小さな老人であった。

「彼ら狂戦士は、放っておけばいずれ死にゆく運命。だからこそ彼らは“わし”に組したのじゃ」

【キング:戦闘不能】
【天木らの前に謎の老人が現れる】
140鬼々壊戒:2011/05/28(土) 21:34:42.42 0
>>138-139
「ここは・・・・・」
いつも通りあても無くフラフラしてたはず・・・・
此処は何処だ・・・・?どうしても思い出せない・・・・
『どうした・・・・?』
そんな事を考えているともう一人の俺が話しかけてきた
「・・・・いや・・・なんでも・・・・」
厄介だ・・・・こいつはトラブルが大好きだ適当にあしらって・・・・
『どうでもいいがぁ・・・・あれ・・・・』
「ん?」
遠くの方で誰かが戦っている
『どうする・・・・出るか?』
また面倒事か・・・・
「いや・・・その必要は無さそうだ」
戦闘は終わり誰かがでてくる
「人・・・・老人か?」
『で?・・・どうするんだ?』
「このまま様子を見よう」
物陰に隠れる
141神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/05/31(火) 15:57:46.36 0
>>139
「やれやれ……油断も隙もあったもんじゃないね……」
キングがゆっくりと立ち上がる。
それに呼応するかのように半透明になっていた鎧も再びハッキリと見える。
しかしそれでも天木は怯まず『飛爪』を繰り出し、キングの鎧にナイフが刺さるが──

「甘いよ、キミ」
キングは全くダメージを受けた様子もなく平然としていた。
そう、確かに天木の『飛爪』はキングの鎧に突き刺さった──が、それだけである。
鎧に刺さりはしたものの、キングの体には届かなかったのだ。

(今のは『飛爪』とかいうやつか?アタシと闘った時にもやってたっけ……。
 しかしあの時より遥かに強力になってるはずなのにダメージ無しとは、恐れ入るね)
菊乃は突撃しながら考えていた。
このまま自分が拳を叩き込んでも同じような結果になるのではないか──?
(なら、どうする──?)
そこで菊乃の視界にあるものが飛び込んできた。──そう、キングの首の部分に刺さった天木のナイフである。
それを見て閃いた。『あれ』に打ち込んだらどうなるか──?
(今のアタシは『槌』。そしてあれはナイフ──いや、『楔』。
 『楔』を『槌』で打ったらどうなるか──?そんなの聞くまでもねえ!)

「そこだぁぁぁぁぁああああああ!!」
キングの頭につけていた狙いを変え、首に刺さったナイフに拳を振り下ろす。
普通のナイフだったら拳が当たった時点で砕けてしまいそうだが、生憎と"普通の"ナイフではない。
天木のオーラが詰まったそれは、菊乃の拳を受け、鎧を貫通しキングの体に突き刺さった。

「ガッ!?」
呻きと共に刺さった箇所から血が吹き出る。今度こそダメージが通ったようだ。
「まだ……まだだよ。たかがナイフ一本で、このボクが……うっ! ゴホゴホッ!」
それでも尚戦う意思を見せたキングであったが、吐血と共に床に跪く。
(血の出方から見て、頚動脈がいったな。さすがにあれじゃ闘えないだろ)
その考えを肯定するかのように、キングの鎧が急速に消え始め、体も縮んでいく。
(意外とあっけなかったな。しかしさっきも気になったが、アイツ体が──?)

「ゴホッ……! ここまで……まさかここまでボクの体が衰えていたなんてね……。
 もう少し早くキミたちと闘えていれば、キミたちを木端微塵にできたものを……」
もはや生気のなくなった顔でこちらを見上げるキング。その顔につい先刻まで圧倒的な力を誇っていた姿は見る影もなかった。
「天木、神宮……とどめだ」
不意に後ろから声をかけられる。振り返ると、夜深内に方を支えられた海部ヶ崎がこちらに歩いてきていた。
「……」
無言で天木の方を振り返る。その瞳には採決を委ねる意思が込められていた。
「……いや、その必要は無ェかもしれねェ。
 さっきから気にはなってたんだが……こいつもしかしたら体を……」

「ククク──お察しの通りじゃよ」
天木が首を振って答えた直後、その言葉を遮るようにフロアに別の声が響いた。
皆の視線がフロアの先にある扉に集中する。
その扉は開け放たれ、そこから一人の人間──白装束の小柄な老人が現れた。

「彼ら狂戦士は、放っておけばいずれ死にゆく運命。だからこそ彼らは“わし”に組したのじゃ」
(放っておけばいずれは死にゆく、か。一つ道がずれてればアタシもそうなってたのかねぇ……。っと、それより──)

(アイツがワイズマン、か。まさかこの期に及んでまだ敵がいるとは思えねえ。
 ま、何にせよ漸くツラが拝めたぜ)
一つ間違っていたら自分の主になっていたかもしれない男を、菊乃は複雑な感情で見つめていた。

【神宮 菊乃:戦闘終了】
142天木 諫早:2011/06/06(月) 03:42:57.15 0
>>141
「……どういうことだ? いや、それよりお前は一体……?」
訊ねる天木に、老人はまず人差し指を一本、突き立てた。
「質問は一つずつにしてもらえんかのう、お若いの?
 せっかちは損をするということを知っておいた方がええぞ? フォッフォッフォ」

(このジジイ……)
その“如何にも”というような老人の物腰に、天木は不快感を隠さなかった。
一方の老人は、そんな天木を見て更に肩を揺らして笑った。

「フォッフォッフォ、感情の出やすい奴じゃな。
 まぁ……折角じゃ。お主の質問には一つずつ答えてやることにしよう。
 まず一つ。何故、狂戦士がいずれ死にゆく運命なのか……。
 
 ──狂戦士には痛覚がないことは既に知っておろう。
 痛覚がないということは、肉体のダメージや負担の一切を無視できるということ。
 それは狂戦士にとって最大の武器になる──と同時に最大の欠点にもなるのじゃ。
 何故だか解るかの?」
「……」
「ダメージや負担は無視できる……そう、あくまで“知らぬ振り”ができるだけなのじゃ。
 “ないがごとく”を決め込んでも、その肉体にはダメージが刻まれ、負担が蓄積されている。
 そして極限まで蓄積されたそれらが、肉体を最終的にどこへ導くか。
 ──そう、肉体の“崩壊”──つまり“死”じゃよ」

「ゴホッゴホッゴホッ!」
咳き込むキングをジロッと見ながら、老人は二本の指を立てた。
「崩壊の前兆にはおよそ二段階がある。第一段階は、肉体に訪れる激痛。
 そして第二段階は、痛みとは違う体に起こる変調。
 通常の人間であれば第一段階で自らの体に起こった危機に気がつく。
 じゃが、痛みを感じない狂戦士は、例外なく第二段階で気がつくのじゃ。
 今の医術ではどうすることもできない状態になって初めてな。

 ──キングの場合、これまでの闘いによって全身に蓄積されたダメージや負担が、
 胸に溜まった“淀み”のようなものになって、それが苦しさとなって表れている。
 わしが開発した生命維持の特殊カプセルをもってしても、余命は残り一ヶ月といったところじゃろう。
 もっとも、寿命が近いのはキングだけではない。他の四傑も似たようなものじゃがな」

四傑が近い内に死ぬ運命にある──その事実を知った時、
天木にはなぜ狂戦士がワイズマン側についたのか、その理由が解った気がした。

(こちらにつけば、その身体を治すとでも言われたのか……)

土気色の顔をして咳き込むキングを、天木は複雑な表情で見据えた。
若干、その表情には哀れみも含まれていたかもしれない。

「しかし、誤算も誤算であったわい。自らの生命(いのち)に関わること、
 もう少し必死になってくれるかと思ったのじゃが……まさかここまで役立たずだったとはな。
 所詮はカノッサが生み出した『失敗作(クズ)』、命令一つまともにこなせぬという訳か」

(──!!)
だが、その老人の言葉を聞いた瞬間、天木の表情は激情のそれ一色に染まった。
143天木 諫早:2011/06/06(月) 03:46:07.75 0
「てっ……めぇえ……!!」
ドスの効いた声を発しながら、地面を砕かんとする力強さで、一歩踏み出す天木。
「フォッフォッフォ、もう闘いたいというのかな?
 好戦的でせっかちじゃのう。まだわしは名乗ってすらおらんというのに」
それとは対照的に、老人は肩を揺らして笑った。

「うるせぇ……! だったらさっさと名乗りやがれ! その瞬間、テメェをぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「いいじゃろう。わしの名は──」
「──白済。『白済 閣両』だ」
だが、答えたのはその老人ではなく、天木らの背後から現れた氷室 霞美であった。

(氷室──!!)
瞬間、その場にいる全員の顔色が変わる。それは老人さえも例外ではなかった。
即座に海部ヶ崎は、全員を代表したかのような疑問を投げかけた。
「……君はあの老人を何者か知っているのか?」
氷室は小さく頷いた。

「白済 閣両……カノッサ機関の参謀だった男だ。
 三ヶ月前の本拠地崩壊に巻き込まれて死んだかと思っていたが……
 なるほど、魔水晶と共に脱出し、こんなところに行き着いていたとは。
 狂戦士が処分されずに生き残っていたのも、お前の手引きがあったからだな?」

続けて投げられた質問に、白済はその顔をニィと歪め、初めて氷室に対し口を開いたが──
──言葉が吐かれることはなかった。

(なっ!?)
天木が唖然としたのも無理はない。
いつの間にか白済に接近した海部ヶ崎が、刀で彼の首を切り落としていたのだ。

「カノッサの亡霊が──!」
はき捨てる海部ヶ崎の目には、かつてないほどに怒りが満ちていた。
思わず、背筋にゾッとしたものを感じるほどに。
そんな海部ヶ崎の早業と迫力に、誰もが唖然とし驚愕している。

「──!?」
だが──全員が真に驚愕したのは、次の瞬間であった。
──切り離された胴体と首の切断面から機械が見え、それがバチバチと火花を飛ばしている。
それはつまり──白済という老人の正体が、人間ではなくメカであったという事実を示していた。

「どういうことだ……? ワイズマンが……機械……?」
天木は全員に視線を送ったが、答えられる者は誰もいなかった。
「……この先に行ってみれば解るさ」
いや、たった一人だけ、その答えのヒントとなるものを示した者がいた。
それは──キング。
「白済 閣両という老人は、ワイズマン様が遠隔操作している機械人形。
 ワイズマン様自身じゃないんだ。ワイズマン様は理由(わけ)あって動けないお体だから……
 普段は白済を使って、この世で暗躍しているんだよ」
「……ワイズマンってのは、一体……?」
訊ねる天木に、キングは
「ボクには何もいう権利がない。全ては、その目で確かめてみるといい。
 ボクを倒したキミ達には、ワイズマン様のフロアへ行く資格がある……」
と言うと、それ以上は何も言おうとはしなかった。

天木は再び全員を見ると、小さくゆっくりと頷いて、無言のまま走り出した。
(いいだろう、この目で直に確かめてやるぜ! ワイズマンの正体をな!)

【天木 諫早:ワイズマンのフロアへ向かう】
【キングら狂戦士の命が長くないこと、白済 閣両の正体がワイズマンの機械人形であることが判明】
144鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/12(日) 17:20:46.79 0
>「ゴホッ……! ここまで……まさかここまでボクの体が衰えていたなんてね……。
 もう少し早くキミたちと闘えていれば、キミたちを木端微塵にできたものを……」
(いったいどういうことなんだ!? 僕が劣化させるまでもなく、彼の身体は劣化してたってことなのか?)
驚いている鎌瀬。未だに隠れているが。

>「ククク──お察しの通りじゃよ」
>「彼ら狂戦士は、放っておけばいずれ死にゆく運命。だからこそ彼らは“わし”に組したのじゃ」
突然姿を現した謎の老人。
(な…あのおじいさんはいったい…!? 敵? 味方? いや、どう考えても敵だよな…)
(只者ではない気配を感じるような気がします)
突然の老人の出現に、身構える鎌瀬と夜深内
(…? あのおじいさん、何か違和感が…。まるで、人間じゃない、みたいな。そんな感じがしますね…。これはいったい?)
その中で、何とも言えない違和感を感じている斎葉。この違和感の正体は何なのだろうか?
145鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/12(日) 17:23:06.20 0
>>139-143
>「フォッフォッフォ、感情の出やすい奴じゃな。
 まぁ……折角じゃ。お主の質問には一つずつ答えてやることにしよう。
 まず一つ。何故、狂戦士がいずれ死にゆく運命なのか……。
 
 ──狂戦士には痛覚がないことは既に知っておろう。
 痛覚がないということは、肉体のダメージや負担の一切を無視できるということ。
 それは狂戦士にとって最大の武器になる──と同時に最大の欠点にもなるのじゃ。
 何故だか解るかの?」
鎌瀬(え…痛覚がないって寧ろ不便なんじゃ? 自分のダメージも分からないんだし。痛みを『なかったこと』にできるなら話は別だけどさ…)

>「しかし、誤算も誤算であったわい。自らの生命(いのち)に関わること、
 もう少し必死になってくれるかと思ったのじゃが……まさかここまで役立たずだったとはな。
 所詮はカノッサが生み出した『失敗作(クズ)』、命令一つまともにこなせぬという訳か」
(失敗作…クズ…欠陥品…ゴミ…カス…劣等者…ふふふ)
老人の『失敗作(クズ)』と言う言葉を聞き、様子が変になる鎌瀬。鎌瀬の他人とは比べ物にもならないほどの劣等感に響いたのだろう
146鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/12(日) 17:55:58.83 0
>「カノッサの亡霊が──!」
>「──!?」
>「どういうことだ……? ワイズマンが……機械……?」
海士ヶ崎が切り落とした百済の身体から火花が飛んでいる。どうやら機械だったようだ
(ああ…成程…さっきの違和感はこれですか…)
百済が機械だと分かると、斎葉は要塞から降りて、百済を担いで回収した
「機械が相手なら僕の見せ場です。たっぷり改造して改変して改良して…ワイズマンに太刀打ちできる兵器(メカ)にして差し上げましょう…」
【鎌瀬犬斗:特に何もできないまま戦闘終了 斎葉巧:百済閣両を回収し改造開始】
147神宮 菊乃@代理:2011/06/12(日) 18:00:52.73 0
>>142>>143
「……どういうことだ? いや、それよりお前は一体……?」
「質問は一つずつにしてもらえんかのう、お若いの?
 せっかちは損をするということを知っておいた方がええぞ? フォッフォッフォ」
いきなり現れた老人に対し、天木が不快感を露にして質問を投げかける。

「フォッフォッフォ、感情の出やすい奴じゃな。
 まぁ……折角じゃ。お主の質問には一つずつ答えてやることにしよう。
 まず一つ。何故、狂戦士がいずれ死にゆく運命なのか……。
 
 ──狂戦士には痛覚がないことは既に知っておろう。
 痛覚がないということは、肉体のダメージや負担の一切を無視できるということ。
 それは狂戦士にとって最大の武器になる──と同時に最大の欠点にもなるのじゃ。
 何故だか解るかの?」
「……」
「ダメージや負担は無視できる……そう、あくまで“知らぬ振り”ができるだけなのじゃ。
 “ないがごとく”を決め込んでも、その肉体にはダメージが刻まれ、負担が蓄積されている。
 そして極限まで蓄積されたそれらが、肉体を最終的にどこへ導くか。
 ──そう、肉体の“崩壊”──つまり“死”じゃよ」
老人は懇切丁寧に説明した。狂戦士の肉体の秘密を。

「ゴホッゴホッゴホッ!」
話が途切れたところでキングが咳き込む。それを一瞥しながら老人は話を続けた。
「崩壊の前兆にはおよそ二段階がある。第一段階は、肉体に訪れる激痛。
 そして第二段階は、痛みとは違う体に起こる変調。
 通常の人間であれば第一段階で自らの体に起こった危機に気がつく。
 じゃが、痛みを感じない狂戦士は、例外なく第二段階で気がつくのじゃ。
 今の医術ではどうすることもできない状態になって初めてな。

 ──キングの場合、これまでの闘いによって全身に蓄積されたダメージや負担が、
 胸に溜まった“淀み”のようなものになって、それが苦しさとなって表れている。
 わしが開発した生命維持の特殊カプセルをもってしても、余命は残り一ヶ月といったところじゃろう。
 もっとも、寿命が近いのはキングだけではない。他の四傑も似たようなものじゃがな」
他の四傑も似たようなもの──その言葉を聴いて菊乃はクイーンと別れるときの事を思い出していた。
あの時彼女は軽口を叩いてはいたが、その表情はどこか哀しげだった。
もしかしたら──いや、十中八九彼女は自分の運命を理解していたのだろう。自分の命はこの先長くない、と。
(それなのに、アイツは最後までそんなそぶりを見せずにアタシを治療してくれた。
 そんなことをしたら自分の寿命を縮めるだけなのは分かっていたはずなのに……)
菊乃はクイーンの境遇を不憫に思った。それ故に、老人から放たれた次の言葉は彼女を黙って聞く事は出来なかった。

「しかし、誤算も誤算であったわい。自らの生命(いのち)に関わること、
 もう少し必死になってくれるかと思ったのじゃが……まさかここまで役立たずだったとはな。
 所詮はカノッサが生み出した『失敗作(クズ)』、命令一つまともにこなせぬという訳か」

「……!ふざk──」
「てっ……めぇえ……!!」
ふざけるな、と叫ぼうとした菊乃の言葉は遮られ、隣にいた天木から今までに聞いた事のないほど低い声が上がった。
「フォッフォッフォ、もう闘いたいというのかな?
 好戦的でせっかちじゃのう。まだわしは名乗ってすらおらんというのに」
対して老人は、今までと変わらず飄々とした態度で笑っていた。

「うるせぇ……! だったらさっさと名乗りやがれ! その瞬間、テメェをぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「いいじゃろう。わしの名は──」
「──白済。『白済 閣両』だ」
その声はこの場にいた誰のものでもなく、背後から聞こえてきた。
148神宮 菊乃@代理:2011/06/12(日) 18:01:47.54 0
その声はこの場にいた誰のものでもなく、背後から聞こえてきた。
(……やっと来やがったか)
天木ら一同が声の方へ振り向く。菊乃も倣って振り向くと、そこには予想通り氷室 霞美の姿があった。

(白済……?どっかで聞いた事あるな……)
「……君はあの老人を何者か知っているのか?」
誰も言葉を発さない一同を代表して、海部ヶ崎が氷室に質問する。
氷室はそれに答えるように僅かに頷いた。
「白済 閣両……カノッサ機関の参謀だった男だ。
 三ヶ月前の本拠地崩壊に巻き込まれて死んだかと思っていたが……
 なるほど、魔水晶と共に脱出し、こんなところに行き着いていたとは。
 狂戦士が処分されずに生き残っていたのも、お前の手引きがあったからだな?」
(ああ、それでか。道理で聞いた事あると思ってたぜ)
菊乃は思い出していた。
かつて研究所にいた頃、こんな噂を聞いたことがあったのだ。
本部には桁外れの知識を有した参謀がいる。その男の名前は──
(確か白済、だったな)
菊乃が過去を思い出し、目の前の男について分析していると、老人──白済は氷室の質問に答えるべく口を開いた。
(おっ……)
しかし、その口から言葉が発せられる事はなかった。その前に海部ヶ崎が白済に接近し、その首を切り落としていたからだ。
「カノッサの亡霊が──!」
憤怒の形相で吐き捨てる海部ヶ崎。菊乃も、まさかいきなり殺すとは思っておらず、しばし固まっていた。

「──!?」
しかしその次の瞬間には、今度は海部ヶ崎も含めた全員が驚愕する事態を目の当たりにした。
首を切られ、盛大に血を噴き出して死ぬかと思われていた白済だが、切断面からは一滴の血も流れず、代わりに火花が散っていた。
──そう、目の前にいた老人は人間ではなく機械だったのだ。
「どういうことだ……? ワイズマンが……機械……?」
思わず天木が呟くが、その呟きに答えられるものはいなかった。
「……この先に行ってみれば解るさ」
否、一人だけいた。蹲っているキングである。
「白済 閣両という老人は、ワイズマン様が遠隔操作している機械人形。
 ワイズマン様自身じゃないんだ。ワイズマン様は理由(わけ)あって動けないお体だから……
 普段は白済を使って、この世で暗躍しているんだよ」
「……ワイズマンってのは、一体……?」
「ボクには何もいう権利がない。全ては、その目で確かめてみるといい。
 ボクを倒したキミ達には、ワイズマン様のフロアへ行く資格がある……」
キングは天木の質問には答えず、それだけ言うと口を閉ざした。
天木が全員を見回して皆が頷いたのを確認すると、何も言わずに走り出した。他の面々もそれに続く。ただ一人を除いて──。

菊乃も皆についていくために走り出そうとした。しかし次の瞬間──
「グッ、ゴホッ……!」
突然その場に蹲って咳き込み始めた。
しばらく咳き込んだあと、口元を手で拭うと、そこには真新しい血液が付着していた。
「キミも……ボク達と同じなのかい?」
すぐ近くにいたキングが話しかけてくる。
「冗談じゃない。アンタらみたいな人形と一緒にするな。
 アタシは今まで独りで生きてきた。アンタらみたいな誰かの手を借りなきゃ生きられない人形とは違うんだよ」
それだけ言うと、立ち上がって走り出した。フロアを出るまでキングの視線を感じながら──。

走って行くうちに皆の背中が見えてきた。もうすぐ追いつくだろう。
(さっきはキングにああ言ったけど、アタシももう長くはない、ってことかねぇ……。
 結局はアタシも人形だった、ってことか。泣けてくるじゃないか)
皆の背中を追いながら、己の死期が近いかも知れない事を菊乃は考えていた。

【神宮 菊乃:皆より少し送れてワイズマンのいるフロアへ向かう】
149天木 諫早:2011/06/13(月) 20:58:03.19 0
──扉を抜けた天木は、そこで思わず立ち止まった。
視界に広がるは一直線に伸びる薄暗い通路。
そして、距離にして二百メートルはあるだろう彼方の通路の先にぼんやりと見えるのは、
通路よりも遥かに漆黒に染まった暗闇。
(あの暗闇……あれがワイズマンのフロアの出入り口か)

「泣いても笑ってもこれが最後の闘いだ。
 ……正直言うと、ここまで誰一人欠けずにこれるとは、私も予想していなかった。
 誰もが満身創痍とはいえ、ここに戦力として未だ存在していること……これは大きい。
 私と海部ヶ崎の二人だけでは、ここに辿り着くまでに殺られていたはずだ。
 よしんば辿り着けていたとしても、恐らくワイズマンと闘えるだけの体力は無かっただろう。
 だから今、改めて思う。お前達と会えて良かったとな」

いつもの無表情ながら、温かみのある眼差しで全員を一瞥する氷室。
ある者はそれを微笑で受け止め、ある者は照れくさそうに鼻を掻いた。

「へっ、一人も欠けてねェってのは、何も“ここまで”の話じゃねェだろう?
 ワイズマンを倒したその時も、俺達は全員生き残ってる! そうだろ!?」

今度は天木が全員を一瞥した。
その眼には些かの不安も恐怖もない。あるのは、敢然たる勇気と希望の二つ。

「さぁ──目指そうぜ! 全員が無事に生き残る、完全なハッピーエンドをな!」

天木に呼応して、その場の全員は一斉に歩き出した。
幻影島で最後となる戦場に、そしてその先にある輝かしい未来に向けて──。



ワイズマンのフロア──そこは先程までのキングのフロアとは別世界そのものであった。
空間の広さや構造こそほとんど同じだが、壁と言う壁にメカがあしらわれ、
床と言う床に得体の知れない液体が入った巨大な試験管が置かれている。
そう、これはフロアというより研究室と言った方がいいだろう。

「──反逆者一行のお出ましだぜ! さぁ、とっとと出て来たらどうだ、ワイズマン!」

不気味なほど静まり返ったフロアに、天木の尖り声が反響する。

「ククク……」

それに呼応するように、どこからともなく聞こえてきたのは野太い声。
それはこの島に招待された異能者ならば忘れようもない──間違いなくワイズマンの声であった。

「哀れな異能者諸君、我が『聖域』にようこそ」

ゴゴゴゴゴゴゴ……。
直後にフロア全体を包んだ重々しい音と振動。
(──!?)
果たして、何が始まろうとしているのか──天木は咄嗟に辺りを見回した。
いや、実際は見回そうとして、止めていた。
天井や壁の破片がパラパラと落下してくる中、彼は直ぐにその答えを“目撃”したからだ。

視線の前方──出入り口付近に位置する天木らとは対象位置のフロア奥。
そこの何トンもありそうな壁がゆっくりとせり上がり、巨大な何かを眼前に晒していくではないか。
(なっ……! こ、これは……!?)
天木が仰天したのも無理からぬことであった。
何故なら彼が見たのは、周りにある試験管などとは比べ物にならない、
まるでビルのような巨大さを誇る紫色の液体に満たされた試験管──
そして、その液体に漬かる、巨大な“脳みそ”であったのだ。
150天木 諫早:2011/06/13(月) 21:08:10.44 0
「我こそがワイズマン──悠久の時を生きる、不滅の存在──この世で最も神に近い存在──」

(こいつが、こいつがワイズマン、だと……? まるっきりの化物じゃねェか……!!)

唖然とする一同。そんな中、直ぐに冷静さを取り戻し、身を一歩乗り出したのは海部ヶ崎であった。
「不滅の存在、だと? ワイズマン、貴様は一体……」

一呼吸を置いて、ワイズマンは言った。
「遥か昔──高度な科学力を持つ文明が、この地球上に栄えていた。
 科学によって支えられ、科学によってあらゆるものが解明される、現代文明の究極形ともいえる世界。
 そんな世界に──ある時、その科学力を持ってしても到底太刀打ちできない、
 圧倒的な超パワーを秘めた存在が現れた。それが諸君ら異能者が『始祖』と呼ぶ存在であった。
 突如として現れた自らの理解を超える謎の存在に、古代人は恐れ戦き、恐怖を増幅させていった。
 そして増幅された恐怖は、やがて始祖に対抗する秘密兵器、“人造生命体”となって具現化された。
 古代人が数千年かけて蓄えた膨大な知識を持つ、正に科学の粋を結集した存在──それが私だ」
                           ワイズマン
(……そうか……だからか。なるほど、だから『賢者』という大層な名前を自称していやがったのか)

それぞれが何かを思うのをよそに、ワイズマンは続ける。
                               コア
「しかし、始祖と戦った私は無残に敗れ、私自身の“核”となる脳を残して、この世から消えた。
 私は再起を期して地下に潜伏し、肉体の再生を待ったが──
 それより先に私の創造主である古代人は滅び、いつしか始祖もこの世から消えていた。
 本来であればこの時、私は生来の目的を失い、ただ自然と滅び去るはずだった。
 しかし──私は生き延びた。始祖の抹殺ではない、別の目的を自ら見出していたからだ。
 すなわち、始祖のような強く美しい肉体を手に入れ、
 唯一絶対の“支配者”として永遠にこの世に君臨すること──!」

この時、何か得心がいったように「ハッ」とした顔をしたのは天木だけではなかった。
そう、誰もが気がついたのだ。この幻影島の闘いそのものが、
ワイズマンの肉体となりえる人物を見つけるための選定試験であったことを。

「──始祖は幾度となく輪廻転生を繰り返し、『化身』としてこの地球上に度々現れた。
 化身は私の野望の最大の障害となりうる存在……決して無視できるものではない。
 そこで私は、その化身の体を乗っ取ることを考えた。
 肉体を手に入れると同時に天敵を排除する最良の方法だと思ったからだ。
 そして500年前、私は自らの手足となる白済を作り上げて、化身のもとに向かわせた。
 しかし、所詮は異能も持たぬたかだが機械人形。化身の前ではどうすることもできなかった。

 そんな時だった……『降魔の剣』というものがこの世にあることを知ったのは。
 そこで私は発想を変えた。化身からは肉体ではなく、“異能”をもらおうとな。
 カノッサの雲水 凶介を扇動したのも、全ては始祖のエネルギーの結晶体『魔水晶』を手に入れる為。
 この幻影島では手足となる屈強な肉体を手に入れ、私の野望はとうとう完成を見るはずだった……」

「まさか、か? 肉体となる候補者に追い詰められたのは誤算だったな」
と、皮肉めいた口調で言ったのは氷室。
しかし──ワイズマンは直ぐに「ククク」と笑い始めた。

「誤算? 確かにそうだ。しかし、ククク……私を追い詰めてしまったことが、逆に諸君らの誤算なのだ。
 何故なら、肉体がない今の私でも、諸君らをこの世から消し去ることは十分に可能だからだ──」

ふと、脳の一部がかすかに金色に輝き始める。
何かと一瞬眼を凝らした天木は、直後に大きく眼を見開いた。

ワイズマンの脳の一部に小さな金色の球体が埋め込まれている──。
天木自身ははじめて見るものだったが、それは正に魔水晶に違いなかった。
(まさか……まさかあれが!)
ワイズマンは驚く面々をせせら笑うように言った。
151天木 諫早:2011/06/13(月) 21:12:23.57 0
「──私の人造生命体としての能力は“オーラをバリアーと化す”こと。
 この島を覆うバリアーは私が持つオーラの大部分を割いて展開したものだ。
 故に本来であれば今の私は丸腰同然、戦闘能力は皆無。
 しかし、私はその戦闘能力を、この魔水晶によって補うことができる──!」

──魔水晶が激しくスパークし、溶液をゴボゴボと泡立てる。

「ククク、さぁ、今こそ見せてやろう! 魔水晶の力を──!!」

そして、巨大な試験管がパァーンっと音を立てて砕け散ったのは、ワイズマンが叫んだその時であった。
分厚いガラスが破片になって飛び散り、それと共に中の溶液が勢いよく噴き出す。
──いや、出てきたのはそれだけではない。無数の光の軌跡が天木らに向かって飛び出してきたのだ。

「!?」
瞬間、表情を一層激しく変化させたのは、氷室であった。
(速ェ──!! 一体なんだ!? いや、考えてる暇はねェ! ここは避けるのが最優先だ!)
その変化が何を意味するのか知らずに、あるいはその変化に気付くこともなく、
天木らはそれぞれ紙一重ながらも向かってくる光を上手くかわしていく。
しかし──それを見た氷室は声を張り上げた。

「それを紙一重で避けるな!!」
それが一体何を意味するのか、天木は咄嗟に理解ができなかった。
が、直ぐに理解した。というよりは、身をもって思い知ったというべきだろう──。

「ガハァァァアッ!!」
天木の胸が爆煙に包まれ、血肉が千切れ飛んでいく。
かわした筈の光が、突然軌道を変えて襲い掛かってきたのだ。

思いもよらぬ攻撃に誰もが負傷している中、たった一人氷室だけは、
空中に浮いているワイズマンを無傷で見据えていた。

「今のは……カノッサ四天王『切谷』の技・『百雷槍』だな? なぜお前が──」
「まだわからぬのか? これが魔水晶の力なのだということを。
 私はこれまで見た異能者の技を、この魔水晶を通して完全に“再現”できるのだ」

魔水晶が再び激しくスパークする。しかも今度は金色と白の光が交互に入り混じって。

「そう、このようにな! 『雷光乱咲槍』──!!」

凶悪な輝きを放つ二つの光が、圧倒的な数をもって放たれた──。

【天木 諫早:ワイズマン戦突入。ダメージ中。更に満身創痍に】
【ワイズマンの正体が明らかに。魔水晶を使って攻撃を開始する
152神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:47:42.79 0
>149>150>151
皆から少しだけ遅れた菊乃であったが、扉を抜けたところで立ち止まっていたので追いつくことが出来た。
どうやら遅れてきたことには誰も気がついていないらしい。少しホッとした。

「泣いても笑ってもこれが最後の闘いだ。
 ……正直言うと、ここまで誰一人欠けずにこれるとは、私も予想していなかった。
 誰もが満身創痍とはいえ、ここに戦力として未だ存在していること……これは大きい。
 私と海部ヶ崎の二人だけでは、ここに辿り着くまでに殺られていたはずだ。
 よしんば辿り着けていたとしても、恐らくワイズマンと闘えるだけの体力は無かっただろう。
 だから今、改めて思う。お前達と会えて良かったとな」
表情はいつも通りだったが、その言葉にはいつもなら存在しない暖かみが込められていた。
皆が好意的な表情でそれを受け止める中、菊乃は少しだけ違う感情でそれを見ていた。

「へっ、一人も欠けてねェってのは、何も“ここまで”の話じゃねェだろう?
 ワイズマンを倒したその時も、俺達は全員生き残ってる! そうだろ!?」
氷室の言葉に感化されたように天木が全員を見回して言う。
それに合わせて全員が最後の敵に向かって一斉に足を踏み出した──。
153神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:50:59.64 0
──薄暗い回廊を抜け、辿り着いた先は、一言で表すなら研究所だった。
キングと闘ったフロアやこれまで通ってきた道とは一線を画した──まさに別世界だった。
四方を見渡しても、見えるのは壁に埋まった機械や試験管の数々。
「──反逆者一行のお出ましだぜ! さぁ、とっとと出て来たらどうだ、ワイズマン!」
人影どころか生き物の気配すらしないフロアに天木の声が響き渡る。
「ククク……」
だが、誰もいないはずのフロアから声が返ってきた。
その声はこの島に来て一番最初に聞いた、それでいて忘れようのない声──ワイズマンの声であった。
「哀れな異能者諸君、我が『聖域』にようこそ」
次の言葉と共に、フロア全体が振動する。
咄嗟に周囲を警戒して素早く見回す。そして菊乃の視線はある一点で止まった。
それは前方──自分達の逆位置に相当するフロアの端。その部分の壁がせり上がっているではないか。

(今度こそワイズマンのお出ましってわけか。どんなツラか拝んでや──)
そう思って見えてきたものに視線を向け、そこで数秒間思考が停止した。
見えてきたもの──それは、もはや試験管とすら呼べないような代物に満たされている不気味な液体、そしてそこに浮かんでいる脳みそだった。

(おいおい……拝むツラすらないとは。こりゃあ予想の斜め上だね。キングが言ってたのはこの事だったのか)
しばし唖然としていると、海部ヶ崎がワイズマンに語りかけていた。ワイズマンも言葉を返している。
(脳みそと喋るなんて中々──いや、この先死ぬまで体験できない貴重な経験だね)
などと場違いな事を考えていたが、会話の内容はしっかりと聞いていた。
154神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:52:45.89 0
会話の内容を要約するとこうだ。
まずワイズマンは人間ではなく(脳みそだけで生きている時点で当たり前だが)人造生命体であるということ。
遥か昔に栄えた古代文明の技術によって造られたらしい。
そしてその時代に現れた『始祖』という存在に敗れ、その肉体を失った。
しかし核となるあの脳みそだけは残り、消えてしまった始祖の代わりに新たな目的を見出し、活動を開始した。
その目的とは始祖に成り代わること──即ち、最強の存在としてこの世に君臨し続けることだった。
(成る程な。この島で起こした下らねえバカ騒ぎは自分の体を手に入れるためのもんだったって事か)

話はまだ続く。
始祖は『化身』と呼ばれる存在になって転生を繰り返し、度々地上に現れていた。
ワイズマンは当初、その肉体を手に入れようと白済を作り上げ、化身とぶつけた。
しかし結果は惨敗。
そんな折、『降魔の剣』なるものの情報を手に入れ、化身の肉体ではなく異能(ちから)を手に入れようと考えた。
その為に雲水らを扇動してカノッサの乱を引き起こし、『魔水晶』なるものを入手した。
そしてここ、幻影島でベースとなる肉体を手に入れ、ワイズマンの計画は完遂するはずだった。

(その『魔水晶』ってやつが化身とやらの力の塊って事か?しっかし──)
「まさか、か? 肉体となる候補者に追い詰められたのは誤算だったな」
菊乃の心中を代弁するように氷室が皮肉を言う。しかしワイズマンは意にも介さず、静かに笑い始めた。
「誤算? 確かにそうだ。しかし、ククク……私を追い詰めてしまったことが、逆に諸君らの誤算なのだ。
 何故なら、肉体がない今の私でも、諸君らをこの世から消し去ることは十分に可能だからだ──」
155神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:55:16.58 0
ワイズマンがそう言うと、脳みその一部が発光し出した。
よく見ると、ワイズマン自体が発光しているのではなく、そこに埋め込まれた"あるモノ"が発光しているのに気がついた。
今までの話を統合すると、恐らくはあれが魔水晶と呼ばれるものなのだろう。
その力の程は知れないが、先程の話を聞くにあれは異能者の祖たる存在の力の結晶。
実際に目の当たりにしなくともその効果は推して知れるだろう。

「──私の人造生命体としての能力は“オーラをバリアーと化す”こと。
 この島を覆うバリアーは私が持つオーラの大部分を割いて展開したものだ。
 故に本来であれば今の私は丸腰同然、戦闘能力は皆無。
 しかし、私はその戦闘能力を、この魔水晶によって補うことができる──!」
魔水晶が一層強く輝き、試験管の中の液体が沸騰したように泡立つ。
「ククク、さぁ、今こそ見せてやろう! 魔水晶の力を──!!」
その叫びと共に、巨大な試験管が砕け散り、中の液体と共に破片が周囲に飛び散る。
──と同時に視界を埋め尽くすほどの光の鞭が、菊乃達に襲い掛かってきた。

「!?」
それを見た瞬間、氷室の表情が劇的に変化したのを菊乃は見ていた。
(何だ?あれを見た途端氷室の表情が──っと、今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!……ん?)
目の前の光の奔流を見た瞬間、菊乃の頭に一つの情報が流れて込んできた。
(何だこりゃ……?百…雷…槍…?あの光の事か?と言うより、何でアタシはそんな事を知ってるんだ?)
156神宮 菊乃@代理:2011/06/16(木) 21:56:17.48 0
考えている間に光は眼前に迫っており、慌てて回避する。しかし──
「それを紙一重で避けるな!!」
氷室の怒号が響き渡る。しかしその時には既に遅かった。紙一重でかわしていた菊乃に、軌道を変えた光が襲い掛かる。

「──チッ!そう言うことかい……!」
地面スレスレを跳んで回避していた菊乃は、無理矢理体勢を変え、地を蹴って跳び上がる。
しかし無理な体勢で跳び上がったため、かわし切れずに足に光が掠る。
「……ッ!」
激痛に顔を顰めながらも、空中で体勢を整えて離れた場所に着地する。

「今のは……カノッサ四天王『切谷』の技・『百雷槍』だな? なぜお前が──」
「まだわからぬのか? これが魔水晶の力なのだということを。
 私はこれまで見た異能者の技を、この魔水晶を通して完全に“再現”できるのだ」

(カノッサ四天王の技だって……?何でアタシがそんなもん知ってたんだ!?)
先程頭の中に入ってきた情報、その正体を知って混乱する菊乃。しかし相手にそんな事は関係ない。
「そう、このようにな! 『雷光乱咲槍』──!!」
ワイズマンが再び叫ぶと、金と白、二色の光が混ざり合い、激しくスパークしながらこちらに向かってくるのが見えた──。

【神宮 菊乃:ワイズマン戦開始。足に軽傷を負う】
157氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/06/20(月) 03:57:27.41 0
視界全てを多い尽くすような凄まじい数の光の軌跡に──氷室は思わず唇を噛んだ。
なまじ技の正体を知っている分、自らに迫った危機的状況がありありと分かるからだ。

(迂闊だった──奴が切谷の技を使えると知った時、既に行動しておくべきだった!)

カノッサ四天王『切谷 沙鈴』最大の必殺技──『雷光乱咲槍』。
圧倒的スピードと攻撃力で敵を瞬時に死に至らしめるこの技は、
例え体力が万全の状態の氷室であっても、とても無傷でかわせるようなものではない。
もっとも、万全であれば、オーラの大半を防御に回すことで最小限のダメージで切り抜けることはできるだろう。
しかし今の氷室では、とてもそれだけのオーラを展開することはできない。
正に『雷光乱咲槍』のたった一撃が致命傷になりかねない状態なのだ。

(──これをやるのは気が進まないが、やるしかない!)
それ故に、というべきだろうか。
氷室は全身に纏っていたオーラを、素早く急所のみに集中させた。
この危機的状況をまず生きて切り抜ける為に、急所以外の肉体を捨てる判断をしたのだ。

客観的に見て、それが真に最善の策であったかどうかは判断しかねるところである。
だが、仮に最善でなかったとしても、既に光の刃が放たれていることに変わりは無い。
後は、もはや運命の神に、最善の結果が出るよう祈るしかないのだ。
158氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/06/20(月) 03:59:48.85 0
ズギャアァァァッ!!

「!?」
──土壇場での祈りというのは、通じるものか。結果は何と吉と出た。
とはいえ、果たしてこのような結果を、一体誰が予想しえただろうか?

光の刃は確かに轟音を発するほどに激しく炸裂した。
しかし、天木や神宮、ましてや氷室に対してではない。
直撃を受けたのは、氷室らの前に突如として現れた、巨大な鉄の壁であったのだ。

「物質錬成『マテリアル・コンストラクト』──」
後ろから聞こえる静かなる声──その主は、ユーキ・クリスティ。
「なっ!?」
驚いたのはワイズマン。それも無理はない。
完全にダメージを受けるはずの技が、誰も傷付けることなく遮られてしまったのだから。
「物質強化『マテリアル・エンハンスメント』──」
続くユーキの声は、これまた静かなるもの。
しかし、その後に発せられた音は、それとは対照的な非常識で規格外のものであった。

ドンッ!!

物理的な突風を生み出す程のそれは、瞬く間に周囲の機械や試験管を木端微塵に砕き、ワイズマンに達した。
「──ォォォオオオオオオオオオッ!!」
呻き声とも、絶叫ともつかぬ声を、ワイズマンがあげる。
その光景は“爆音に脳を揺らす”という言葉が正にピッタリであった。

「衝突のエネルギーを音に換えて跳ね返す──これはさしもの『賢者』も予想できなかったようだね」
してやったり、とでも言うような、それでいてそれを必要以上に誇示することのない、
クスリとした微笑をユーキは零した。
159氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/06/20(月) 04:01:56.59 0
(──無知とは恐ろしいものだな。知らなかった、こいつが──
 いや、“こいつらが”ここまでの使い手だったとは──)
今度は氷室がクスッと笑った。ただ、それはユーキとは性質が全く異なる。
強いて言うなら自嘲に近いものだったろう。

氷室の両目の端には、三つの人影が映っていた。
それは今正に壁を飛び越えて、ワイズマンに攻撃を仕掛けんとする天木、神宮、海部ヶ崎。

「この隙はぜっっっったいに逃さねェッ!!!! 『ブラッディィイイイイジェイルッ』!!!!」
天木の掛け声と共に無数の武器がワイズマンに向かう。
しかもその武器は、海部ヶ崎が自分の体から取り出し、事前に空中に放り投げていたものだった。
「くらえワイズマン!! 『飛花落葉』ォオオオオッ!!」
今度は海部ヶ崎が声をあげる。
そして彼女が放ったものは、何とユーキが作り出した巨大な鉄の壁そのもの。

(私よりも先に攻撃を仕掛けたばかりか──互いに互いの武器を利用し合って──。
 まるで何十年も共にしているようなコンビネーション──。
 ──これまで生き残ってきたわけだ。こいつらを甘く見てたのは私と、そして──)

三人よりも一歩送れて、氷室も飛び上がった。

「──お前だけだったようだな、ワイズマン──」
そして続けた。右手に、冷気を集約させて。

「──『ノーザンミーティアー』──」

【氷室 霞美:ノーザン・ミーティアーを放つ】
160名無しになりきれ:2011/06/21(火) 01:59:33.19 0
その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。その目気色悪すぎこっち見んなど田舎富山男死ね。
161鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/21(火) 18:46:59.07 0
>>149-159
「あれ、もう皆行ってしまった様ですね…追いかけましょう!」
閣両の改造を終わらせ、全速力でロボを走らせる斎場
「ちょ、遅いよ斎場君!何してたの…!」
斎葉より先について待っていた鎌瀬が言う
「少し改造をしておりました」
「なるほど…」

「泣いても笑ってもこれが最後の闘いだ。
 ……正直言うと、ここまで誰一人欠けずにこれるとは、私も予想していなかった。
 誰もが満身創痍とはいえ、ここに戦力として未だ存在していること……これは大きい。
 私と海部ヶ崎の二人だけでは、ここに辿り着くまでに殺られていたはずだ。
 よしんば辿り着けていたとしても、恐らくワイズマンと闘えるだけの体力は無かっただろう。
 だから今、改めて思う。お前達と会えて良かったとな」
「…僕が死んでないのって、良く考えたら奇跡だよな…」
その後、斎葉が辺りの機械に目を輝かせたり、鎌瀬が自分の生をかみ締めたりした
「哀れな異能者諸君、我が『聖域』にようこそ」
遂にラスボス・ワイズマンが姿を現す。そしてワイズマンがラスボス特有の長い台詞で語り、

「ククク、さぁ、今こそ見せてやろう! 魔水晶の力を──!!」
無数の光が此方に襲い掛かる
「ちょ、無理無理無理無理!!! こんなん避けらんないって!!! うわああ『劣化した盾(ネガティブシールド)』!!」
劣化した盾により攻撃の威力を弱めた鎌瀬だったが、それでも光は鎌瀬に少なからずダメージを与えた
「く…これは拙いですね…避雷針!!」
要塞の上方に避雷針を出現させ、攻撃を誘導しようとする斎場。しかし…
「!!?」
光はそれをものともしないように軌道を変えて要塞の真ん中に襲い掛かった
「くッ…何とかメインコンピュータの損傷は防げましたが…かなり被害が…!」
(む、これは当たったら只では済みませんね…! 吸電体(エレキボール))
イメージした物を出力する能力で、電気を吸収するボールを創り出す夜深内。しかし、それでも吸収仕切れなかった電撃が夜深内を襲う
(!!!!!!)
声にならない悲鳴を上げる夜深内(喋れないけど)




162神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/06/22(水) 02:39:52.59 0
>>157-159
目の前に煌く無数の雷光。それはもはや回避がどうの、というレベルではなかった。
どこへ逃げようとも避けることは適わない。そんな状態だった。

(クソッ、こんなん避けるに避けられねえ!
 ……こりゃ下手にジタバタするよりは動かねえ方がいいかも知れねえな)
着地した地点からワイズマンに向かって飛び出そうとした菊乃であったが、『雷光乱咲槍』を前にそれを諦めた。
目の前には回避不可能の雷撃。しかも一撃一撃が必殺レベル。そんなものに飛び込むのは自殺行為以外の何物でもなかった。
(どの道避けられねえんだ。この際全力で防御してダメージを出来るだけ抑えるしかないな)

キングとの戦いで負ったダメージがまだ回復しきっていないが、それでも七割程度の力は出せる。
無理をすれば全力も出せない事はないが、その場合体の無事は保障しかねる。
(さて、今の状態でアレを食らって立ってられるかね……。カミサマにでも祈るしかないか)
オーラを漲らせ、両腕を体の前面でクロスさせ、防御の体勢をとる。目を瞑り、来るべき衝撃に備えた。

ズギャアァァァッ!!

しかし、その行動は結果的に言うと無意味だった。
予想していた衝撃はなく、代わりに凄まじい轟音が前方で鳴り響いたのみだった。
163神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/06/22(水) 02:41:54.46 0
その事実に驚いて目を開けると、そこには自分たちを守るように巨大な壁──鉄板が聳え立っていた。
「物質錬成『マテリアル・コンストラクト』──」
最後尾にいたと思っていた自分の更に後ろから静かな、しかしハッキリと聞こえる凛とした声が聞こえた。
驚いて後ろを振り返ると、そこには先程までいなかった人物──ユーキ・クリスティが立っていた。
「なっ!?」
ワイズマンが驚く。
しかし、完全に決まったと思っていた攻撃が、それも予想外の方法で防がれたのだから、驚かない方がおかしいだろう。
「物質強化『マテリアル・エンハンスメント』──」
ユーキが静かに言葉を紡ぐ。直後──脳を揺さぶられるような轟音が轟いた。
その轟音は、周囲の壁や天井を、速度と言う圧倒的な力で蹂躙して進んでいく──ワイズマンに向かって。

「──ォォォオオオオオオオオオッ!!」
ワイズマンが絶叫する。
「衝突のエネルギーを音に換えて跳ね返す──これはさしもの『賢者』も予想できなかったようだね」
ユーキが不敵な笑みを浮かべ、ワイズマンに言い放った。

(ハッ、凄いなアイツ。こんな事まで出来るとはね。
 ──っと、感心してる場合じゃない。これは"チャンス"ってやつだね)
そう思い前方に目を向ける。そこには既に飛び出している二つの影があった。
ユーキの造り出した壁に向かって突進している二つの影──天木と海部ヶ崎だった。
自分も遅れまいと駆け出す。
164神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/06/22(水) 02:44:00.28 0
「この隙はぜっっっったいに逃さねェッ!!!! 『ブラッディィイイイイジェイルッ』!!!!」
天木が叫び声と共に技を仕掛ける。しかし打ち出したのは天木自身の武器ではない。
海部ヶ崎が予め空中にばら撒いていた無数の武器を利用したのだ。
「くらえワイズマン!! 『飛花落葉』ォオオオオッ!!」
続いて海部ヶ崎も叫ぶ。
しかも打ち出したそれは、先程ユーキが造り出した巨大な壁そのものだった。
後方では氷室のオーラが急速に上がっていくのを感じる。
(皆遠距離攻撃か。アタシも何か考えとけばよかったかなぁ……。ま、今更言っても仕方ねえか)
皆の攻撃方法を少し羨ましく思い、しかしすぐに振り払った。
(今のアタシはこれしか出来ねえ。なら出来る事を全力でやるだけだ!)

「ちょっと借りるぜ、海部ヶ崎!」
そう叫ぶと、高速で飛行している鉄板に瞬脚で追いつき、何とその上に飛び乗った。
鉄板がワイズマンに到達するまでまであと少し、と言うところで、背後から声が聞こえてきた。
「──『ノーザンミーティアー』──」
「今だ!!」
その瞬間、鉄板から勢いよく跳び上がる。天井に到達し、慣性の力で一瞬静止する。
そして足にオーラを込めて天井を蹴り、弾丸のように飛び出す。
「──『重力増加』──」
そして能力を使って更に落下速度を速め、三人の攻撃を追いかけるようにワイズマンに向かう。
全身にオーラを漲らせ、隕石のように突撃していく。
「ゴホッ……!チッ、そろそろアタシもヤバイか……?だけど、この一撃だけは当てる!
 いくぜ脳みそ野郎!『重力の戦槌』!!」

【神宮 菊乃:『重力の戦槌』でワイズマンに突撃する】
165鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/06/22(水) 07:32:50.31 0
「そう、このようにな!『雷光乱咲槍』ーー!!」
ワイズマンが無数の雷光を飛ばす
「これは…防ぎきれない…!」
「物質錬成『マテリアル・コントラクト』ーー」
「なっ!?」
「物質強化『マテリアル・エンハンスメント』ーー」
ワイズマンが放った無数の雷光を、鉄の壁を精製し跳ね返すユーキ
「ユーキさん!? 助かりました、ありがとうございます。…傷はもう大丈夫なのですか?」
ユーキにお礼を言い、尋ねる斎葉

「この隙はぜっっっったいに逃さねェッ!!!!『ブラッディィイイイイジェイルッ』!!!!」
「くらえワイズマン!!『飛花落葉』ォオオオオッ!!」
「ーー『ノーザンミーティア』ーー」
天木、海部ヶ崎、氷室がワイズマンに技を放つ
「うう、皆強いなぁ…僕なんか足元に及ぼうとすら出来ないよ…
やっぱり僕、来なかった方がよかったのかな…あはは、でも…来ちゃったんだし、駄目もとで頑張るかぁ」
ぶつぶつと、弱音を吐く鎌瀬。さて、少年漫画では精神が力に影響する、なんてことがよくある。
例えば、絆の力で新しい能力に目覚めるとか。友を亡くした怒りでパワーアップとか。
そんな風に、普通は『諦めない心』こそが力になるのだがーー鎌瀬の場合は違う。何より、『諦める心』こそが力となるーー
「劣化した剣(ネガティブレイド)…!」
オーラを剣の形に変え、ワイズマンにぶつける鎌瀬
「やりますか…。『サイバーネットワーク』構築!」
電気屋型要塞と閣両、そして自分の左腕を無線でリンクさせる斎葉
「プラグイン、インストール!自動修復プログラム、発動!
それに並行し、誘導ミサイル発射!!!」
(私も…! 空想爆弾(イマジネーション・ボム)!!)
続いて斎葉と夜深内も技を出す
【鎌瀬一行:負傷、ワイズマンに攻撃】
166天木 諫早:2011/06/25(土) 01:33:44.91 0
ワイズマンに向かっていくそれぞれの必殺技。
しかし、魔水晶が黒き輝きに包まれたのは、それらが炸裂するよりも早かった。
「調子に──調子にのるな──。さぁ、開け! 亜空間の入口──『カオスゲート』よ!」

──瞬間、ワイズマンの前方に、黒い円形状の空間が出現。
天木には知る由もないことであったが、それはかつてのカノッサ四天王筆頭、
あの『雲水 凶介』が使った能力に違いなかった。

(!!)
ブラックホールのような穴の中に次々と飲まれていく必殺技。
「フハハハハハハハ! 私に触れることなど何人にもできぬのだ!」
ワイズマンは嘲笑った。
しかし、予想だにしない展開を前にしても、天木は表情を崩すことはなかった。

「──ワイズマン、あんたには目ン玉が見あたらねェが、一体何で視覚を補ってンだ?
 何かのセンサーか? それとも心眼ってヤツで物を見てンのかい?
 何にしてもよ──高速で移動するモンを捉えるのは限界があるみてェだな」

ふと、天木の視線が天井へと移る。
そこには──天上を蹴って隕石さながらに落下する神宮の姿──。

「亜空間とやらの入口を開くんなら、自分の頭上にも開いておくんだったなァ!」
「!!」

そこでワイズマンは初めて自らに迫った危機に気が付いた。
そして、それが精一杯であった。
落下のエネルギー全てを込めた神宮の鉄拳が、その時炸裂したからだ。


「ゴォォオアアアアアアアアアアアアアアア──ッ!!」

肉片が飛び散り、ワイズマンが絶叫する。
神宮が叩き込んだ『重力の戦槌』は、ワイズマンの右脳部分を文字通り破壊したのだ。

(……!!)
それでも天木はまだ表情を緩めない。
これで終わるような生易しい相手ではないことを知っていたからである。
167天木 諫早:2011/06/25(土) 01:38:01.02 0
「オのレェ……マサか、まさカこコまデ私ヲ追い詰メルとは……」

ところどころで音調のズレた言葉を吐きながら、地に沈みかけたワイズマンが再び体制を立て直す。
(今のでくたばるわきゃねェとは思ってたが、確実に効いている……! 恐らく後一押しだ!)

天木は再びワイズマンに接近せんと、一旦はつま先に体重を乗せて前屈みとなった。
が、すぐに重心をかかとへ戻した。
魔水晶が再び妖しげな光を放ち始めたからである。

「だガ、これ以上ハやらセン……! 近ヅケるもノならバ近づイテみるガ良イ!」
ワイズマンが叫ぶ。と同時に、魔水晶から10を数える巨大な光弾が発射された。
その正体は『エルフ・ブリッツェン』。
狂戦士四傑の一人ジャックが持つ、最大の必殺技であった。

「チィっ! ──ぐうぅっ!!」
紙一重で着弾を免れた天木だったが、直後の爆発の余波まではかわせなかった。
巨大な爆発は彼の体をいとも容易く吹き飛ばし、容赦なく壁に叩きつけた。
背骨がきしみ、内臓が今にも破けそうな痛烈なダメージが天木に駆け巡る。

──直後、天木は力なくその場に倒れ付した。
筋肉が痙攣を起こして上手く動かない──。
それは天木の肉体が、ついに限界を迎えてしまったことを意味していた。
(クソッ! こ、ここまできて……! か、体が言うことをきかねぇ!)
そこに駆け寄ろうとする者は誰もいなかった。
仲間達は天木のように限界に達することはなかったものの、
もはや戦闘以外で使う体力を残してはいなかったのだ。

「ククク……一人脱落シタようだガ、他の者達モ限界が近イヨウだな。
 それとモ、ソの“振り”をシテ攻撃の隙ヲ窺ッテいルのか?
 イズれにシてモ、次で勝負ガ決マル──何故なラ」
またしても魔水晶が妖しげに光る。
それは止めのエルフ・ブリッツェンの輝きに違いなかった。

(後一撃……後一撃だってのに……! くそっ……たれがァ!!)

「コレカら、今ヨリも強力デ巨大なエルフ・ブリッツェンを放つカラだ。
 今ノ諸君ら二、そレヲ避けきル体力は残ッテいまイ。フフフ……悔いルがイイ。
 私ニ逆らッタことヲ、あノ世でタッぷりとナ……。
 ククククク──サラバダ、愚かナ虫けラ共ヨ──!!」

全てを飲み込むような巨大な閃光が、今放たれた──。

【天木 諫早:体力が尽きる】
【ワイズマンが特大のエルフ・ブリッツェンを放つ】
168鬼々壊戒:2011/06/25(土) 18:50:23.22 0
>>155-167

「やばいな・・・・」
一気に劣勢になっていく
『助けた方がいいんじゃねぇか?』
「だが・・・」
今出ていけばこちらも無事ではすまない・・・・どうしたら
『うじうじすんな!!!』
「うっ・・・・さぁてと・・・行くぜぇ!!」
物陰から飛び出し能力を使う
「消し飛べ!!!破壊の記憶【護破】」
(巨大な光が消える)
「だいじょぶかい?」
光が消えそのあとにたつ

【戦闘に介入】
169名無しになりきれ:2011/06/27(月) 17:51:57.84 0
>>168
今更だけど参加希望者はまずプロフを避難所に投下。
それとトリップもつけるのがルールだよ。
170神宮 菊乃@代理:2011/07/02(土) 21:48:29.68 0
>>166>>167
「調子に──調子にのるな──。さぁ、開け! 亜空間の入口──『カオスゲート』よ!」

その叫びと共に、ワイズマンの前方に黒い空間が出現した。
味方の技は次々とその中に吸い込まれていく。
(ありゃやべえな──って、アタシも吸い込まれるんじゃ!?)
空中からワイズマンに向かっていた菊乃は、前方に展開されている"アレ"が上にも来たら──と焦った。
他の皆のように飛び道具ではない自分は、体ごと吸い込まれる事になる。
そうなったらどうなるか──想像はできなかった。
無理もない。今までに見た事のない技だったのだから。

(けど、もう技は止められねえ。それにアタシの体ももう……。このまま行くしかない!)
覚悟を決めてワイズマンに突撃していく。

しかし──予想に反して黒い空間は上方には展開されなかった。
「亜空間とやらの入口を開くんなら、自分の頭上にも開いておくんだったなァ!」
天木の声が聞こえ、そこでようやくワイズマンがこちらに気付いたようだった。
しかし時既に遅く、菊乃はワイズマンの直上に迫っていた。

「いっけぇぇぇぇえええええええええええ!!」
『重力の戦槌』がワイズマンに直撃し、その本体の右側の部分を爆散させた。

(いったか……!?)
着地し、態勢を立て直しつつワイズマンのほうに向き直る。
「オのレェ……マサか、まさカこコまデ私ヲ追い詰メルとは……」
「おいおい、体?半分吹き飛ばされてまだあんな元気なのかよ……」
ダメージは負っているものの、未だにワイズマンは健在であった。
「だガ、これ以上ハやらセン……! 近ヅケるもノならバ近づイテみるガ良イ!」
再び魔水晶が妖しく輝き、そこから10個の巨大な光球が発射された。

「さすがにアレ食らったらただじゃすまねえな」
大きく後ろに跳び退り、光球を回避する。
その光球は、着弾と同時に周囲に凄まじい爆発を引き起こした。
狭くないとは言え、室内での連続した巨大な爆発。その衝撃は凄まじいものだった。

爆発の余波もおさまり、周囲の仲間の姿を確認する。その中で一つ、目に留まったものがあった。
壁際に倒れている天木だった。しかし天木は起き上がるそぶりを見せない。
(まさか……今のでやられちまったのか!?)
よく目を凝らしてみると、微かに動いている。どうやら死んではいないようだ。

「よかった……グ、ゴホッ!」
安堵した直後、菊乃は咳き込む。
しばらくしておさまり、口元に当てていた手を離す。そこには血液が付着していた。
幸い菊乃はワイズマンをは挟んで皆とは反対の位置にいるため、それに気付いた者はいないようだった。
(アタシの体もそろそろ限界か……。もってあと一、二撃ってところか)
「ククク……一人脱落シタようだガ、他の者達モ限界が近イヨウだな。
 それとモ、ソの“振り”をシテ攻撃の隙ヲ窺ッテいルのか?
 イズれにシてモ、次で勝負ガ決マル──何故なラ」

そうこうしている間に、魔水晶が三度輝き出した。
「コレカら、今ヨリも強力デ巨大なエルフ・ブリッツェンを放つカラだ。
 今ノ諸君ら二、そレヲ避けきル体力は残ッテいまイ。フフフ……悔いルがイイ。
 私ニ逆らッタことヲ、あノ世でタッぷりとナ……。
 ククククク──サラバダ、愚かナ虫けラ共ヨ──!!」
先程よりも更に巨大な光球──もはや閃光と呼ぶにふさわしいそれが放たれた。

(迷ってる暇はねえ。どうせアタシは長くはないんだ。最後に一花咲かせてやろうじゃねえか!)
菊乃は迫り来る閃光に向かって走り出した。

【神宮 菊乃:最後の一撃を仕掛けるため、ワイズマンに向かう】
171氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/02(土) 22:02:38.56 0
>>170
ドォォォオオオオン──!!

ドーム全体を激しく揺るがす巨大な爆発──。
もうもうと粉塵が立ち込め、亀裂の入った天上や壁から、大小様々な破片がパラパラと落下する。
「馬鹿メ……そンナか細イ肉体デ全テの威力を受け切レルとでも思ッテいたノカ?
 私のエルフ・ブリッツェンは、あらゆるモノヲ飲み込ミ消し去る威力ガあるのだ。ハハハハハ!」
その中で、ワイズマンは一人高笑いをあげた。
爆発の中心にいた神宮は勿論、その後ろの氷室達も木端微塵に消し飛んだに違いない──
事実、そう確信するに十分すぎるほどの凄まじさが爆発にはあったのだ。

「ハハハハハ──ハッ!?」
しかし──その高笑いは突然止まった。
粉塵がおさまるにつれて、あるはずのない黒い人影が現れたからだ。

「……ま、間に合った……ようだ、な……」
苦しそうな男の声と共に、明らかとなる人影の正体。
それは何と──あの『エース』であった──。
「なンだト──!?」
エースの登場にワイズマンは驚いた。
そして、エース一人が全ての光球をその身に受けていた事実に気付き、更に驚いた。
そう、彼は神宮よりも先に光球の前に踊り出て、氷室らを身を訂して庇っていたのだ。

「エース──!? 何故私達を庇った!?」
との氷室の問いに、エースは儚げな笑みをもって返した。
「あ……あんたには、正気に戻してもらった恩がある……からな……。
 あんたに死なれちゃ……その恩も二度と返せなくなる……
 だから……だから、これしか方法がなかったの……さ……」

バタリ。それだけ言って、エースは仰向けに倒れた。
それが全ての力を使い果たしたことを意味しているということは、誰の目にも明らかであった。

「おノレ……! 出来損ナいの分際デ私の邪魔ヲしおッテ……!!
 ……ダが、結局ハ同じこト。コレデ邪魔者は消エタ。次こソお終ワリにしてヤロウ!」

殺気を強め、再び攻撃態勢をとるワイズマン。
だが、その一瞬を、海部ヶ崎だけは決して見逃さなかった。

「──おおおおおおおおおおおおおおお!!」
全ての力を脚力に換えて、海部ヶ崎が突進する。
彼女とて体力は限界に近い。本来であればこのような素早い反応はできなかっただろう。
だが、それを可能にしたのは、目の前で自らを庇って死んでいったかつての敵の姿。
メンバーの中で最も義理堅く、情にもろい彼女が奮い立たないはずがないのだ。
172氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/02(土) 22:07:30.26 0
「──マダそのよウナ力があったトハ褒メテやろう。しカシ、無謀だっタナぁ!!」

しかしその時──一瞬の内に極限まで肥大化した光が、突進する海部ヶ崎目掛けて放たれた。
(!!)
氷室達の目の前で光に飲み込まれ、巨大な爆発に包まれる海部ヶ崎。
「クククク! 確かニ私の隙ヲ突イタのは見事ダッた!
 シカシ! ソノ程度のスピードに私ガ瞬時に反応できなイとでモ思っテいたノカ!」
氷室は目を見開いて唖然とした。いや、彼女だけではない、その場にいる全員も同様だ。
だが──彼らはワイズマンの反応速度などに驚いたわけではなかった。
あの一瞬に、海部ヶ崎の身に纏われた“モノ”に、驚きの眼差しを送ったのである──。

(あれは──)
爆発の煙から海部ヶ崎が飛び出る。その身に、金色の“鎧”を纏って。
「……まさか!! あれは『王纏甲冑』……!!」
と天木。そう、色や形といい、爆発に耐え切るほどの無敵の防御力といい、
海部ヶ崎が纏う鎧は、あのキングの『王纏甲冑』に違いなかったのだ。

(──)
その時、ふと背後の気配に気付いた氷室は、咄嗟に振り返った。
「ボク……は……人形じゃない……。ボクだって……自分の意思で動いている……。
 元の体に戻りたいと……ワイズマン様にすがったのも……
 君らにこうして味方したのも……全部ボクの意思だ……。
 ボクは、人形じゃ……ない…………ゴホッ! ゴホッゴホッ……!」

そこにいたのは、土気色でげっそりとやつれた顔の少年──キングであった。
キングは神宮に弱々しい目を向けると、苦しそうに咳き込んで、やがてその場に崩れ落ちた。

「キング……! 貴様ッ……貴様マデ!! おォオオのぉオオオれェェエエエッ!!」
更なる裏切りを目の当たりにしたワイズマンが怒りを撒き散らす。
そしてそれは、ワイズマンが見せた致命的にして最後の隙であった。

──これまでにないスピードを持って海部ヶ崎が突進していく。
いや、突進というよりは、宙を弾丸のように飛翔しているといった方がいい。
彼女は、氷室が全ての力を振り絞って放った冷気砲をその背に受けて、
一瞬の内に爆発的に加速したのだ。

「なニィ!!!!」
その速さはワイズマンが反応できるスピードを遥かに超えていた。
「──終わりだ、ワイズマン──」
173氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/02(土) 22:13:41.22 0
──走る無数の光の軌跡。着地し、ゆっくりと納刀する海部ヶ崎。
氷室が見たのはそれだけだった。
そう、彼女には見えなかったのだ。海部ヶ崎の剣の動きが、まるで光が走ったようにしか。

「バ……バカ、な……! 悠久ノ時ヲ生キル……コノ、コノ私ガ……!
 崩レ……ル! コノ私ガ……! 魔水晶ヲ得タ、無敵ノコノ私ガァ゛ァ゛……!!」
呻き、徐々に肉片と血を撒き散らし始めたワイズマンを、
振り向き様に一睨みした海部ヶ崎は、最後に痛烈に吐き捨てた。

「あの世で悔いるのは、貴様の方だったな。今度は地獄で悠久の時を生きるがいい」

「バガナ゛……!! バァァァァァカアアアァァァァナァァァァアアア゛ア゛ア゛アア゛ア゛──!!!!」

瞬間、ワイズマンは断末魔の叫びをあげて、木端微塵に崩れ落ちた。
ボトボトと落ちる肉塊、ビチャビチャと床に降り注ぐ赤黒い液体。
そして──硬そうな金属音を発して、床を転がる金色の球──。

それを静かに拾い上げた海部ヶ崎は、仲間達を一瞥して、誇らしげに高く掲げた。
それこそが、まるで勝鬨の代わりであると言うかのように──。

【氷室 霞美:ワイズマン戦に勝利。戦闘力皆無】
【天木 諫早:ワイズマン戦に勝利。戦闘力皆無】
【海部ヶ崎 綺咲:ワイズマン戦に勝利。戦闘力皆無。魔水晶奪還】
【エース:力尽きて死亡】
【ワイズマン:バラバラに切り裂かれて死亡】
【キング:瀕死】
174神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:43:50.91 0
>>171->>173
閃光は段々と迫っている。
しかし菊乃は臆するどころか、速度を落とすことなく走り続けている。
(カッコよく止めの一撃、といきたかったけど、どうもアタシのガラじゃない。
 ──ならせめて皆の盾になるくらいは!)

そう──菊乃はこの最大の攻撃に対して、迎撃ではなく防御を選んだ。
エルフ・ブリッツェンをその身に受け、仲間が反撃できるチャンスを生み出そうとしたのだ。
(今のアタシに出来るのは精々これくらい……。後は頼んだぜ。
 ……もう話すこともないだろうけどな)
菊乃とてこの攻撃を受けて生きていられる自信はなかった。
万全の状態ならまだ分らなかったかも知れないが、満身創痍のこの状態では確実に死ぬだろう。
しかし、それでも限界を超えてオーラを搾り出せば、かなり威力を相殺できる。
完全に止められないのが悔しかったが、今の状態を考えればそれでも上等だろう。

「さぁて──最期の死に花、徒花にならないようにするか!」
気合を入れてオーラを充実させる。
命を削り、肉体の限界を超えて放出されるオーラに体が悲鳴を上げる。
腕や足、様々なところから血管が切れ、血が噴出する。
しかし菊乃は気にも留めず、オーラの密度を更に上げていく。
(カラダが壊れ始めたか……。でもそんなこと気にしてる場合じゃない!)

閃光は眼前に迫り、視界を覆い尽くすほどになっていた。
死を覚悟し、しかし更に速度を上げて閃光に突っ込む。
(さぁ──来やがれ!)
そして閃光をその身に受けようとした瞬間──横から一つの影が躍り出てきた。

(な──こ、こいつは──!?)
予想だにしていなかった第三者の出現に混乱する菊乃。
そしてその顔を見て混乱は更に大きくなった。
175神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:46:25.85 0
「お前は──エース!?」
そう──その人物は洞窟に入る前、氷室と死闘を繰り広げたであろうエースだった。
──何故ここに?どうして自分たちを助けようとする?──
疑問は尽きなかったが、問答をしている時間はなかった。
菊乃と閃光の間に割って入るエース。
「お前、どうして──!?」
とっさに口から出たその言葉に、エースは肩越しに振り向き微かに笑って答え、閃光の中に消えていった──。

直後、凄まじい爆音と共にフロア全体が激しく揺れた。
「馬鹿メ……そンナか細イ肉体デ全テの威力を受け切レルとでも思ッテいたノカ?
 私のエルフ・ブリッツェンは、あらゆるモノヲ飲み込ミ消し去る威力ガあるのだ。ハハハハハ!」
粉塵が舞い、天井やら壁やらの破片が落下する中、ワイズマンの高笑いが響いた。

「ハハハハハ──ハッ!?」
しかし粉塵がおさまった時、そこ声は驚愕に変わった。
爆心地にいるエースを見たためだろう。その顔には信じられない、と言う感情がはっきりと見て取れた。

「エース──!? 何故私達を庇った!?」
氷室がエースに問う。今度は体ごと振り返り、再び笑って答えた。
「あ……あんたには、正気に戻してもらった恩がある……からな……。
 あんたに死なれちゃ……その恩も二度と返せなくなる……
 だから……だから、これしか方法がなかったの……さ……」
それだけ言うと、エースは力尽き倒れた。もう起き上がる事はないだろう。

(あーあ……。おいしいとこ全部持っていかれちまったよ。
 ははっ、アタシにまだ生きろってか?でも──ありがとよ)
エースが自分の体について知っていたか定かではない。
しかしあの振り向きざまの笑み、あれはこう言っているようにも思えた。
──お前はまだ死ぬべきじゃない。生き延びろ──
176神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:48:28.99 0
「おノレ……! 出来損ナいの分際デ私の邪魔ヲしおッテ……!!
 ……ダが、結局ハ同じこト。コレデ邪魔者は消エタ。次こソお終ワリにしてヤロウ!」
菊乃がエースとの最期のやり取りを思っていると、ワイズマンが再び攻撃態勢に入っていた。
(感傷に浸るのは後でいい……。今はあの野郎をぶっ殺すだけだ)
ドス黒い感情が湧き上がってくる。それがエースの死によるものなのかはわからない。
殺意すら超越したそれは、もはや言葉では言い表せないものだった。
──ピピッ カチリ
頭の中で何かが外れる音が聞こえた気がする。しかし今の菊乃にはそんなことは関係なかった。
瞳が光を失い、表情もなくなる。それは宛ら本当のロボットのようだった。

「コロス……」
凄まじい殺気を放出しながら感情のない声でそう呟き、ワイズマンに向かおうとした矢先、またしても自分を通り越す影があった。
海部ヶ崎である。彼女は菊乃が動くより早く、ワイズマンに向かって突進して行った。

「──マダそのよウナ力があったトハ褒メテやろう。しカシ、無謀だっタナぁ!!」
しかし海部ヶ崎がワイズマンに到達するより一歩早く、極大の閃光が放たれた。
先程の自身と同じように爆炎に包まれる海部ヶ崎。
しかし次の瞬間、その場にいるワイズマンを除く人間が驚愕した。
爆炎の中から無傷で海部ヶ崎が飛び出してくる。その身には黄金の輝きが纏われていた。
そしてその場にいる誰もがその輝きに見覚えがあった。

「……」
菊乃も無言でその光景を見ていた。と──
「ボク……は……人形じゃない……。ボクだって……自分の意思で動いている……。
 元の体に戻りたいと……ワイズマン様にすがったのも……
 君らにこうして味方したのも……全部ボクの意思だ……。
 ボクは、人形じゃ……ない…………ゴホッ! ゴホッゴホッ……!」
声の主に振り返ると、そこには弱々しい姿の少年──キングがいた。
キングはこちらに視線を向けていた。菊乃は無機質な瞳で視線を返す。
しばし視線を交わした後、キングは崩れるようにその場に倒れ込んだ。
177神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/04(月) 12:50:32.78 0
同時に菊乃の瞳に光が戻り、表情も元に戻る。
「キング……さっきは悪かったな、人形なんて言っちまって。
 アンタは"人形"なんかじゃない。一人の"人間"だったよ。
 感情なんかに乗っ取られてるアタシの方がよっぽど"人形"だったな……」
自嘲気味に笑い、戦いの行く末を見届けるため、再び前を向いた。

「──終わりだ、ワイズマン──」
菊乃が視線を戻した時には、既に決着がつこうとしていた。
ワイズマンの体に走る無数の軌跡。
菊乃にはワイズマンの体に一瞬にして閃光が走ったようにしか見えなかった。

「バ……バカ、な……! 悠久ノ時ヲ生キル……コノ、コノ私ガ……!
 崩レ……ル! コノ私ガ……! 魔水晶ヲ得タ、無敵ノコノ私ガァ゛ァ゛……!!」
ワイズマンの体が軌跡に沿って徐々に崩れ始める。完全に崩壊するのも時間の問題だった。
「あの世で悔いるのは、貴様の方だったな。今度は地獄で悠久の時を生きるがいい」
「バガナ゛……!! バァァァァァカアアアァァァァナァァァァアアア゛ア゛ア゛アア゛ア゛──!!!!」
断末魔の叫びと共に、ワイズマンはこの世から消え去った。
後に残るのはバラバラの肉片と赤黒い液体、そして魔水晶だけであった。

海部ヶ崎が魔水晶を拾い、こちらに向かって頭上に掲げた。
勝ち鬨──なのだろう。海部ヶ崎は喋らなかったが、そんな気がした。

「終わった、か……ゴホッゴホッ!アタシの体も終わったってか?
 ハハッ、笑えねえ冗談だぜ……ガハッ!」
その様子を見ていた菊乃だが、大きく咳き込んだあと大量の血を吐き、その場に蹲った。
(この調子じゃ、あと数時間ってとこだな。あんだけ力使ってよく保ったってとこだな……。
 ま、このまま死んだとしても悪くはねぇな……)
肉体から崩壊の足音が聞こえる中、菊乃は穏やかに笑っていた。

【神宮 菊乃:戦闘終了。肉体の崩壊が始まる】
178氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/04(月) 22:39:34.27 0
>>174>>175>>176>>177
「勝った……んだな? ハハハハ……ハハハハハハ」
天木は笑った。心の底から込み上げてくる喜びを抑えきれないというように。

「……私でさえも剣閃を追うことができなかった。……たいした奴だ、お前は……」
続く氷室は、天木のように笑いはしなかったものの、その言葉は感嘆と安堵に包まれていた。

「いや……安心するのはまだ早いようだ」
しかし、対する海部ヶ崎は、険しい顔を崩さぬまま、視線を氷室らを通り越してその先の出入り口へと向けた。
それによって初めて氷室も気がついた。いつの間にか集まっていた、複数の敵意に。

「ゲッ、ゲゲゲ」
「ギヒヒヒ、ヒヒヒヒ」

耳障りな気色の悪い声に、思わずチッと舌打ちする氷室。
氷室はズキズキと傷む体を奮い起こして、キッと気配の方向を凝視した。
そこで見たものは、首筋にCOの文字と一桁の数字を刻み込んだ四、五人ほどの男達。
(やはりか。雑魚がまだ生き残っていたとは……)

「テメェらのボスは死ンじまったってのによォ、それでもまだやる気があるみてェだな……。
 折角、終わったと思ったのに……ぬか喜びさせンなよなァ、くそったれがァ!」

天木も何とか立ち上がろうとするが、脚に力が入らないのか、直ぐに崩れ落ちる。
氷室はツゥーっと大きな汗を鼻筋に走らせた。
普段であれば、雑魚の狂戦士の四人や五人くらい、軽く倒せる力があったろう。
だが、この場にいるのは、自分を含めてもはや闘う力を残していない者ばかり。
(最後の最後で……やってくれる……)
「誤算」の二文字が、氷室の頭にチラつく。

「ギギギギ……ヒィヤアアアアアアア!!」

その時、狂戦士の内の一人が、奇声をあげて氷室に飛び掛った。
「!!」
本来であれば氷室にとっては何のことはないスピードだが、
体が言うことを聞かないでは反撃は勿論、よけることもできない。
(──クッ! こんな雑魚に──!)

氷室は自らの命運を呪うように、ギリッと歯軋りした。
しかし──氷室も、そして狂戦士達も気付いてはいなかった。
彼ら狂戦士達にも誤算があったことを……。

「ヒッ!? ギィイイヤァアアアアアアアア!!」

飛び掛った狂戦士が、突如として炎に包まれる。

「ギヒィイイイ!?」
「アギャアアアアアアア!?」
「ゲヒヤアァァアアアアア!?」

しかも、突然発火したのはそいつだけでなかった。
気がつけば、現れた狂戦士全てが火達磨となっているではないか。
179氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/04(月) 22:44:11.09 0
(!?)
床をゴロゴロと転げ回り、苦しそうにもがく狂戦士。
氷室も、天木も、海部ヶ崎も、誰一人としてこの光景の原因を説明できる者はいなかった。
ただ、狂戦士が苦しみ悶え、やがて動かなくなる様を、唖然として見つめるだけであった。

「──ゾンビ野郎共がまとめて移動しているから、気になって後をつけてみたら……
 なるほど、ここがワイズマンのアジトだったってわけかい。
 そんでお前達があのクソッたれ野郎を倒した勇者たちってわけだな」

そんな時、倒れた狂戦士達の更に背後から、ふと現れた男がいた。
中肉中背、ワインレッド色の髪の毛が特徴的なその男は、
じろっと辺りを見渡すと、足元で横たわる物言えぬ狂戦士の亡骸を蹴飛ばした。

「どうやら想像以上の死闘だったようだ。タイミングがよかったぜ。
 ワイズマンの墓前にあんたらの死体を花として添えさせるわけにゃいかねぇからな。
 ……あぁ、紹介が遅れたな。俺は『赤染 壮士』。
 あんたらと同じく、この島に招待されたついてない人間の一人さ」

それだけ言うと、赤染はくるっと踵を返して、背中越しに続けた。

「このアジトは崩れ始めている。瓦礫の下敷きになりたくなきゃ早く脱出した方がいいぜ」

肩に乗った岩の破片をパッパと手で振り落としながら、赤染は通路へと走り去っていった。
確かに先程からパラパラと瓦礫が落ちてきている。
一刻も早く脱出しなければならないのは事実であろう。
だが、氷室は敢えて、判断を委ねるように海部ヶ崎に目を向けた。

「彼とはこの島で会ったことがある。危険ではなく、信頼できる男だ。
 私は天木を担いでいく。霞美、キミは神宮を頼む。
 そして鎌瀬……キミはキングを頼む。私は彼に命を助けられた……放っておくことはできない」
氷室は「了解」と一言発し、蹲る神宮の腕を自分の肩に回して、走る海部ヶ崎の後に続いた。
             あの頃
(海部ヶ崎 綺咲……三ヶ月前とは比較しようもないほど成長したようだ)
氷室の脳裏に、かつて海部ヶ崎に言った台詞が蘇った。

『だったら覚えときな。“力無き正義”は無意味であるばかりか、偽善でしかないってことを』

(……今のお前なら、胸を張って言い返せるだろう。力が無いとは言わせない、と……)

海部ヶ崎はまだ気がついていなかった。
かつて氷室に追いつけ追い越せと、夢に描き望んだ力が、既に自分にあったことを。
そしてその力は既に、氷室の先を進むという形で具象化されていたことを。

【氷室 霞美:神宮を連れてアジトを脱出】
【海部ヶ崎 綺咲:天木を連れてアジトを脱出。本体・能力のパラメータ急上昇。完成を見る】
【赤染 壮士:一桁台の狂戦士を殺害後、アジトを脱出】
180神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:18:08.52 0
>>178>>179
ワイズマンとの戦闘は終わった。皆が喜びや安堵に浸る中、菊乃は静かに微笑んでいた。
肉体の崩壊は既に始まっている。徐々にだが体の内側から壊れていく感覚がある。
もし天木が万全の状態だったなら、治せる、とまではいかなくてもかなり進行を遅らせることが出来たかもしれない。
が、天木は既に満身創痍。自力で起き上がる事すら出来ない。

「いや……安心するのはまだ早いようだ」
ふと、海部ヶ崎の声が聞こえた。その声は入り口に向けられている。
(……?)
僅かに顔を上げ、海部ヶ崎の視線の先を追いかける。
するとそこには──

「ゲッ、ゲゲゲ」
「ギヒヒヒ、ヒヒヒヒ」

菊乃がその声を聞くのは初めての事であった。しかしその顔つきには見覚えがある。
以前市街地で参加者の男と闘っていた人物の顔つきによく似ていたのだ。
そして人語を喋らず、奇声を上げている事からも推測できる。

「狂戦士、か……。このタイミングで来るとはねぇ」
このタイミング──そう、ワイズマンとの戦闘が終わった直後。
即ち、全員がまともに動けない状況での襲撃。
皆が万全の状態ならば、例え一人でもあの程度人数なら問題なく葬れただろう。
しかし現状は闘う力が残っていない者ばかり。天木に至っては満足に動くことすら出来ない。

(こりゃあ、ヤバイね……。死ぬならもう少し綺麗な所で死にたかったけど……。
 ──冗談言ってる場合じゃないね。切り抜けられる要素がない)
181神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:20:08.81 0
「ギギギギ……ヒィヤアアアアアアア!!」
狂戦士の一人が氷室に襲い掛かる。しかし氷室は苦しそうに顔を歪めるだけで動こうとしない。
──否、動けないのだ。
如何に氷室と言えども、先の戦闘で力をほぼ使い果たした今、狂戦士を相手に出来る力は残っていないのだ。
狂戦士が氷室に迫る。そしてその太い腕で殴りかかろうとしたその時──

「ヒッ!? ギィイイヤァアアアアアアアア!!」
突然絶叫を上げて炎に包まれる。
「ギヒィイイイ!?」
「アギャアアアアアアア!?」
「ゲヒヤアァァアアアアア!?」
それと同時に後ろにいた狂戦士達も次々に炎に包まれていく。

誰もが唖然としてその光景を見つめる中、菊乃は一人記憶を辿っていた。
そう──菊乃は目の前に広がる炎には見覚えがあったのだ。
先程話した市街地での戦闘。その折に見た炎に似ていたのだ。

「──ゾンビ野郎共がまとめて移動しているから、気になって後をつけてみたら……
 なるほど、ここがワイズマンのアジトだったってわけかい。
 そんでお前達があのクソッたれ野郎を倒した勇者たちってわけだな」
そんな声と同時に、狂戦士達がいた入り口から新たに一人の男が現れた。
(まさか……)
菊乃はその男に見覚えがあった。市街地での戦闘で狂戦士と戦っていた炎を操る男。
(あれから姿が見えなかったけど……生きていたとはね)
男は足元に転がっていた狂戦士の死体を蹴飛ばすと辺りを見回してから口を開いた。

「どうやら想像以上の死闘だったようだ。タイミングがよかったぜ。
 ワイズマンの墓前にあんたらの死体を花として添えさせるわけにゃいかねぇからな。
 ……あぁ、紹介が遅れたな。俺は『赤染 壮士』。
 あんたらと同じく、この島に招待されたついてない人間の一人さ」
182神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:22:17.35 0
男──赤染はそう名乗ると踵を返し、更に続けた。
「このアジトは崩れ始めている。瓦礫の下敷きになりたくなきゃ早く脱出した方がいいぜ」

赤染はそれだけ言うと、そのまま回廊を走り去っていった。
赤染の言う通り、先程から断続的な震動と共に小さな瓦礫が降り始めている。このアジトも長くはないだろう。
一刻も早く脱出、と行きたいところだ。菊乃も天木よりは幾分マシだが何とか歩ける、と言う程度でしかない。
急がなければ崩壊に巻き込まれ、アジトと運命を共にする事になるだろう。

そんな中、氷室は動こうとはせず、海部ヶ崎に視線を送っていた。その視線に海部ヶ崎は言葉で答える。
「彼とはこの島で会ったことがある。危険ではなく、信頼できる男だ。
 私は天木を担いでいく。霞美、キミは神宮を頼む。
 そして鎌瀬……キミはキングを頼む。私は彼に命を助けられた……放っておくことはできない」

「了解」
氷室は海部ヶ崎に返答し、こちらに向かって小走りに近づいてくる。
そして菊乃の腕を自身の肩に担ぎ、海部ヶ崎の後を追い始めた。

「……まさか、アンタに肩を貸してもらう日が来るとはね。
 人生、どこで何が起こるかわかったもんじゃないね……ゴホッゴホッ……!」
咳き込み、血を吐きながらも小さく笑い、氷室に語りかける。当の氷室は聞いているのかいないのか分からなかった。
顔を上げるのも億劫なので、表情を見る事も出来ない。担がれている腕の感覚も疾うになくなっていた。

「折角色々と認識を改めたってのに、これから先……が…見られそう…に…ない…のが…残念…だ…ね……」
(チッ……予想より大分早いね……。この分じゃ、いつまで保つか……)
先程と比べて、意識が大分薄くなっている。近いうちに意識をなくすかもしれない。
そうなってしまえば、後は肉体の崩壊と共に訪れる死を待つばかり。
菊乃に残された時間は、刻一刻と消費されていった。
183神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/06(水) 02:24:46.40 0
その頃、アジトの地上入り口付近──

「この震動……そう、ワイズマン様は負けたのね。アジトも崩壊寸前……彼らは大丈夫かしら?」
クイーンは腰掛けていた岩から立ち上がり、アジトの入り口を見つめ佇んでいた。

「キングは生きているみたいね。──とは言っても瀕死、ってところかしら?」
そう呟く彼女の周囲にも、真新しい血痕がいくつも飛び散っていた。

「もうすぐ来るみたいね。今後どうするかは一応キングに聞いてみましょうか」
岩に座りなおし、直に来るであろう勝利者達を待つことにした。

【神宮 菊乃:氷室と共にアジトを脱出】
【クイーン:洞窟入り口にて一行を待つ】
184氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/07(木) 03:23:34.95 0
>>180>>181>>182>>183
ズズズズン……。

地下アジトへ通じる出入り口、北東の洞窟が音を立てて崩れ落ちる。
「ハァ、ハァ……」
氷室は息を切らしながら、巨大な岩石に埋もれたそこを振り返った。
──間一髪のタイミングだった。
後一分──いや、後三十秒も遅れていたら今頃はあの中に埋まっていたに違いない。

『タイミングがよかったぜ』という先程の赤染の言葉を思い出す。
確かに、結果的にはあらゆる意味でそうだった。
赤染が来なければ狂戦士を倒すことはできなかっただろうし、
仮に自力で狂戦士を退けていたとしても、脱出する時間はなかったはずだからだ。

「運悪くこんな島に連れてこられたと思っていたけどよ……
 最後の最後で運が味方してくれたってのは、考えてみりゃ不思議なもン……
 ……っ!?」
しみじみと言いかけた天木が、突然その声を詰まらせる。
彼の視線の先にあったのは、無言で佇む赤染……
そして、岩に腰を下ろす一人の金髪の女性の姿であった。

「──クイーン!」
直後に飛び出た天木の言葉に、その場にいる全員の体が硬直した。
まさか、一難去ってまた一難なのか? 誰もがこう思ったのは自然な流れである。
しかし、クイーンに最も近い位置で対する赤染だけは、落ち着いていた。

「心配すんな、この女からは敵意や害意は感じられねぇ。
 恐らくあんたが待っていたのは俺達じゃなく、あんたら狂戦士のリーダーだろ?」
そう赤染が訊ねた瞬間、ふとクイーンの表情が緩んだ。
それは肯定を意味するものだと、少なくとも氷室はそう解釈した。

「もはや敵ではない……ってなるとだ、俺達の当面の問題はたった一つ。
 この島からどうやって脱出するか、だな?」

腕を組み、遥か遠くの海を見やる赤染。
確かに、島の周りは360度海に囲まれている上、島には飛行機は勿論、
クルーザーやボートなど海を渡る手段が何もないと来ている。
これでは如何な異能者といえども脱出は困難である。
しかし、そう思うのはあくまで赤染個人であって、海部ヶ崎はそうではない。

「いや、その心配はない。ワイズマンが死んだということは、この島覆うバリアーも解かれたということ。
 つまり外部との通信も可能になったということだ。既に角鵜野市の仲間(アリシア)に念話を送っておいた。
 いずれこの島に来てくれるだろう」

海部ヶ崎の胸元には、紐で括りつけられた光る玉がぶら下がっていた。
そう、いつぞやアリシアから渡された、念話通信用の宝玉である。
「それよりも問題は……」
海部ヶ崎の視線が、赤染から氷室へとスライドする。
いや、正確には、氷室の肩を借りたまま、苦しそうにうつむいている神宮にであろう。
「……隠してもわかる。神宮、キミもキングと同様の病を発症していたようだな。
 それも病状が急速に悪化している。放っておけば、恐らく数時間ともつまい。……違うか?」
185氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/07(木) 03:27:33.28 0
それはこれまで肩を貸し続けていた氷室も薄々感づいていたことであった。
                               コイツ
「天木、医術に心得のあるお前から見て、キングや神宮の病気は何だと思う?」

と、氷室に問われた天木は、静かに海部ヶ崎の背から下りると、その場から動かずにじっと二人を凝視した。

「……詳しく診てみなきゃわかンねェが……息切れに吐血、断続的な激しい咳き込みから見ると、
 肺組織が破壊されかけているのかもしれねェ……。
 しかも、何らかの合併症も引き起こしていると厄介だぜ……。ここにゃ何の設備もねェからな。
 海部ヶ崎の言う仲間が一分一秒でも早く来てくれることを祈るしか……」

ふと氷室の脳裏に、キングのフロアにて、白済の言っていた台詞が蘇る。

『じゃが、痛みを感じない狂戦士は、例外なく第二段階で気がつくのじゃ。
 今の医術ではどうすることもできない状態になって初めてな』
『わしが開発した生命維持の特殊カプセルをもってしても、余命は残り一ヶ月といったところじゃろう』

そして湧き上がった一つの疑問。
白済の口振りからして、ワイズマンは病を治すという条件の下に狂戦士を従えていた。
しかし、医学やワイズマンが作り上げた設備で治すことができないのであれば、
彼ら狂戦士は一体ワイズマンの言葉のどこに自分の体を治してもらえるという根拠を見出したのか。
(……まさか……)
氷室には解った気がした。その言葉の根拠が。

「海部ヶ崎、お前の持っている“それ”を使え。恐らくそれが彼らを治す唯一の手段だ」
氷室の人差し指が海部ヶ崎の──彼女が手にする金色の水晶を指した。
そう、持ち主の意思と力次第で、あらゆることを可能にする魔水晶である。

「恐らく、その魔水晶の力を制御する資格と実力があるのは、
 ワイズマンに止めを刺し、魔水晶をその手にしたお前だけだ。
 お前を助けたキングや共に死闘を潜り抜けた神宮を救いたいと願うならば……やってみろ」

……暫しの間を置いた海部ヶ崎は、やがてコクリと頷き、ぐっと魔水晶を握り締めた。

「私はかつて、目の前で不知哉川さんを失い、黒部さんを失った。
 もうこれ以上、目の前で仲間を……人を死なせてなるものか……!
 頼む魔水晶……! その力で、仲間の命を助けてやってくれ……!」

救いたいと、助けたいと願う念。そして仲間を想う強い気持ち。
それは魔水晶を強く発光させた。
ワイズマンの時のような、邪悪などす黒い輝きではない。
まるで見る者全てを癒すような、何ともいえない優しい輝き。

そしてその輝きは、一瞬、その場に大きく弾け広がったと思うと、
神宮、キング、クイーンの三名にまるで粉雪のように降り注ぎ、
やがてそれぞれの体全体を癒しの輝きで包み込んだ。

(これが……魔水晶の本当の力か……。なんという慈愛に溢れた光……)
徐々に三名の体から輝きが消えていく。
その頃には、海部ヶ崎の手にあった魔水晶は、まるで煙と化したように消えていた。

【氷室 霞美:現在地・北東の洞窟前】
【海部ヶ崎 綺咲:アリシアに連絡後、魔水晶を使って三名の体を癒す。魔水晶は消滅】
186アリシア:2011/07/07(木) 19:11:27.93 0
>>184>>185
氷室に支えられた菊乃は、仲間達と共に洞穴の入り口に辿り着いた。
皆ボロボロの体──赤染以外──を引きずりながら入り口を通過する。
直後、轟音を立てて入り口が崩れ落ちた。
赤染の救援がなかったら、今頃はあの瓦礫の下にいただろう。それ程にギリギリのタイミングだった。

「運悪くこんな島に連れてこられたと思っていたけどよ……
 最後の最後で運が味方してくれたってのは、考えてみりゃ不思議なもン……
 ……っ!?」
安堵と共に口を開いた天木だったが、突然その言葉は途切れる。
顔を上げることが出来ない菊乃は、不思議に思いながらもそれの意味するところは確認できない。

「──クイーン!」
しかし、次に飛び出た天木の声で、その原因が分かった。
動かない体に鞭打って僅かに顔を上げると、そこには四傑のもう一人の生き残り──クイーンがいた。
その場にいる全員が硬直する。
無理もないだろう。ワイズマンとの戦いで仲間は皆ボロボロ。
直後の狂戦士達の襲撃も、赤染がいたからこそ凌げた。それも相手が普通の狂戦士だったからだ。
しかし今目の前にいるのは、狂戦士の中でも頂点に位置する四傑の一人、クイーンである。
赤染一人では勝てるかどうか分からないし、万が一赤染がやられた場合、こちらは全滅必至である。

しかし菊乃はそのことを全く危惧していなかった。
何故なら、既に知っていたからだ。──彼女に敵意がない事を。
菊乃は洞窟に入る前、彼女から治療を受けている。その際に言葉も交わした。
その中で、彼女はもう狂戦士として行動する事はないだろう、と感じていたのだ。

「心配すんな、この女からは敵意や害意は感じられねぇ。
 恐らくあんたが待っていたのは俺達じゃなく、あんたら狂戦士のリーダーだろ?」
赤染がクイーンに問いかける。その問いかけにクイーンは微笑むことで答えた。

「もはや敵ではない……ってなるとだ、俺達の当面の問題はたった一つ。
 この島からどうやって脱出するか、だな?」

赤染が腕組みをして視線を海へと移す。それは菊乃も考えていたところだった。
島にはテレポートのようなもので連れて来られたが、肝心の帰り方については何も知らなかった。
それもそのはず。ワイズマンの目的は強い異能者の肉体を得ることであった。
もしそれが叶えば、参加者の生き残りはいなくなるのだ。帰り方など伝える必要はないし用意する必要もない。
187神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 19:13:32.45 0
>>186
名前ミス
188神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 19:59:17.77 0
「いや、その心配はない。ワイズマンが死んだということは、この島覆うバリアーも解かれたということ。
 つまり外部との通信も可能になったということだ。既に角鵜野市の仲間に念話を送っておいた。
 いずれこの島に来てくれるだろう」
そんな心配をよそに、海部ヶ崎はさらりと言い放った。
(迎えが……来る……?)
海部ヶ崎の言葉は百パーセント信用できるものではなかったが、確認する術がない以上、無駄な詮索はやめた。

「それよりも問題は……」
海部ヶ崎が続けて言葉を紡ぐ。
「……隠してもわかる。神宮、キミもキングと同様の病を発症していたようだな。
 それも病状が急速に悪化している。放っておけば、恐らく数時間ともつまい。……違うか?」
その言葉を聞き、菊乃は海部ヶ崎に顔を向ける。
「流石に……ここまでヤバくなりゃ隠せねえか…も、ゴホッ……!
 尤も……もう隠す必要もねえか。お察しの通り、アタシは狂戦士の連中と同じ状態だよ。
 今なら分かるだろ……?この島じゃ……ゴホッゴホッ!」

咳によって中断されたが、海部ヶ崎にも言わんとしていることは伝わっただろう。
『現状この島では治療どころか延命すらも出来ない』
海部ヶ崎もそれが分かったようで、苦い表情をしている。






「海部ヶ崎、お前の持っている“それ”を使え。恐らくそれが彼らを治す唯一の手段だ」

と、そこで氷室が会話に入ってきた。
彼女の指差す先には、海部ヶ崎が持っている黄金に光るもの──魔水晶があった。
「恐らく、その魔水晶の力を制御する資格と実力があるのは、
 ワイズマンに止めを刺し、魔水晶をその手にしたお前だけだ。
 お前を助けたキングや共に死闘を潜り抜けた神宮を救いたいと願うならば……やってみろ」

少し時間を置いてゆっくりと頷いた海部ヶ崎は、魔水晶を握り締めてその願いを口にした。
「私はかつて、目の前で不知哉川さんを失い、黒部さんを失った。
 もうこれ以上、目の前で仲間を……人を死なせてなるものか……!
 頼む魔水晶……! その力で、仲間の命を助けてやってくれ……!」

海部ヶ崎の言葉と共に魔水晶が煌き、暖かな輝きが菊乃、キング、クイーンの三人に降り注いだ。
柔らかな光に包まれた瞬間、体の内部から聞こえていた崩壊の足音は途絶え、体が癒されていくのが分かった。
(暖かい……。これもあの魔水晶の力なのか。使い手しだいでこうも変わるもんなんだな……)
やがて光が収まり、海部ヶ崎の手にあった魔水晶はいつの間にかなくなっていた。
189神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 20:01:18.42 0
「信じられないわ……体が治ってる」
同じく光を浴びたクイーンも、言葉の通り信じられないと言った表情をしている。
「もう死ぬ覚悟も決めてたと言うのに……どうしてくれるのかしら」
口調とは裏腹に、その顔は穏やかな微笑を浮かべていた。

海部ヶ崎達が喜びを分かち合う中、クイーンはキングの元へ向かった。
「さて、生き延びてしまったわけだけれど……あなたはこれからどうするのかしら?
 ──何て言ってみたけど、実は私も何も考えてないのよね。──折角だし、二人で旅でもしてみる?」



所変わって角鵜野市──

アリシアは自宅のある咸簑山にいた。
海部ヶ崎達が旅立ってから幾日かが過ぎた。あれから一度も連絡はなかった。

「海部ヶ崎さんは大丈夫でしょうか……。
 連絡が来ないところを見ると、何らかの妨害を受けているか、したくても出来ない状況にあるのか……。
 前者ならまだしも、後者の場合最悪の事態も──」
脳裏にふと嫌な予感が過ったが、頭を振って掻き消す。
「彼女なら大丈夫。きっと素晴らしい仲間を集めて邪悪な存在を打ち倒してくれることでしょう。
 何より彼女自身、素晴らしい資質を持っているのですから──」

──とその時、いつでも出られるようにと常に手元に置いておいた宝玉が輝き出す。
それは待ち望んでいた海部ヶ崎からの連絡であった。

──今回の事件の首謀者を倒し、魔水晶を奪還した。帰還の手段がないので手を貸して欲しい──
それが海部ヶ崎からの通信の内容だった。
それを聞いたアリシアは、顔を綻ばせて喜びを顕にした。

「やはり海部ヶ崎さんに頼んで正解でしたね。
 あの子は確かに強い。しかしそれは肉体や能力の強さだけではない。
 直向に仲間を信じる心、どんな事があっても仲間を助けようとする行動力──。
 それこそが彼女の真の強さ、なのでしょうね」
誰に言うでもなく独り言を呟くと、座っていた椅子から立ち上がり、パタパタと部屋から出て行った。

(──さて、支度も済みましたし、そろそろ行きましょうか)
支度といっても服を着替えたくらいなので大した時間はかかっていない。
「海部ヶ崎さんに渡した宝玉の気配は……あった」
呟くように言うと、音もなくその場から姿を消した──。
190神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 20:04:04.74 0
幻影島に到着したアリシアの前には、十人ほどの男女がいた。
見知った顔もいるが、知らない人間の方が圧倒的に多い。
アリシアは天木たちの方に向かって優雅に一礼し、口を開いた。

「初めまして、の方が殆どですね。
 私はの名前はアリシア。そこにいらっしゃる海部ヶ崎さんの友人──と思って下さい」
自分の素性は敢えて語らない。語る必要はない。
自分が始祖(化身)の関係者だと分かってしまったら、要らぬ誤解を生むかもしれないからだ。

挨拶が終わったところで海部ヶ崎の元へ歩いていく。
「この度は本当に有難うございました。それで、魔水晶は──そうですか。
 いえ、それでよかったのかもしれません。
 貴方が持っていれば安心でしたが、この先万が一悪人の手に渡るとも限りません。
 あのカノッサの事件、そして今回のようなことを二度と起こさない為にも、消えてしまったほうがいいでしょう
 持て余すようなら私が──と思っていましたが、最後にいい使い方をして下さったようですね」

海部ヶ崎から事の顛末を聞き、自らの考えを述べる。
そしてパンッと胸の前で手を合わせると、皆を見回し、笑顔でこう言った。

「さて、皆さんのお疲れのようですね。僭越ながら私が治療させて頂きます」

その場にいた全員が唖然とし、何を言ってるんだこいつは、と言う表情でアリシアを見ていた。
いや、厳密には二人──氷室と海部ヶ崎は表情を変えなかった。
この二人はアリシアの存在を知っている。海部ヶ崎に至っては過去に治療を受けたこともある。

普通の人間なら、これだけの負傷者を一人で治療するのは到底不可能である。
以前海部ヶ崎を治療した天木を思い出して欲しい。一人分の怪我を治しただけで彼は相当に疲れていた。
如何に医術に秀でているとは言え、限界と言うものがある。
それを目の前の女は一人で全員の治療をすると言っているのだ。正気の沙汰ではない。
191神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/07(木) 20:06:11.88 0
不審に思った人間は多数いるだろう。もしかしたら感づかれるかもしれない。
しかしアリシアは気にせず治療に移っていった。

以前海部ヶ崎に施したように、一人ずつ手を握り、治療していく。
その際に名前を聞いて、顔と共に記憶していく。

海部ヶ崎以外の全員の治療を終え、最後に海部ヶ崎の元へやってきた。
そして同様に手を握り、オーラで治療していく。
「元はと言えば私の不始末から始まった一連の事件……。私の手で決着をつけるべきでした。
 しかし魔水晶は悪しき者の手に渡り、ついには私の力をも撥ね退けるほどになってしまった。
 そこでこの島に招待された貴方に頼むしかなかったのですが……。
 やはり私の目に狂いはなかった。貴方は本当に素晴らしい人でした。
 最後にもう一度お礼を言わせて下さい。本当に有難う」

海部ヶ崎はちょっと照れ臭そうな、しかし凛とした表情で頷いた。
海部ヶ崎の治療も終え、皆の方に向き直る。

「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
そう言うと虚空に手を翳し、何かを呟いた。すると目の前に現れたのは不気味に口を開く漆黒の空間。
何とそれはカノッサ四天王の雲水が使い、先程の戦いでワイズマンも使用した『カオスゲート』であった。
皆が一様に驚く中──直接見ていない赤染はあまり驚かなかった──アリシアは笑顔で告げた。

「前に雲水さんがこれを使っていたのを思い出しまして。便利かな?と思って借りちゃいました」
こんな事をしたら余計に怪しまれるのだが──本人は相変わらずニコニコしていた。

「さぁ、どうぞ。これの性質上角鵜野市にしか行けませんが、そこはご了承下さいね?」

【神宮 菊乃:洞窟を脱出。魔水晶の力により完全に治癒】
【クイーン:魔水晶の力により完全に治癒。キングに今後の事を相談する】
【アリシア:カオスゲートを展開。行き先は角鵜野市】
192鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/09(土) 19:11:05.79 0
>>173-191
>「バ……バカ、な……! 悠久ノ時ヲ生キル……コノ、コノ私ガ……!
 崩レ……ル! コノ私ガ……! 魔水晶ヲ得タ、無敵ノコノ私ガァ゛ァ゛……!!」
呻き、徐々に肉片と血を撒き散らし始めたワイズマンを、
振り向き様に一睨みした海部ヶ崎は、最後に痛烈に吐き捨てた。

>「あの世で悔いるのは、貴様の方だったな。今度は地獄で悠久の時を生きるがいい」

>「バガナ゛……!! バァァァァァカアアアァァァァナァァァァアアア゛ア゛ア゛アア゛ア゛──!!!!」
「勝った…んだよね…。僕、殆ど何もしてないけど…でも勝ったんだよね…。
あぁ、『勝った』…か。この言葉、使ったの何年ぶりだったかなぁ…」
「やりました…よね? 第二形態とか出ませんよね?」
『大丈夫でしょう…。血肉を撒き散らしてましたし。…でも、勝てて、よかった…』

「終わった、か……ゴホッゴホッ!アタシの体も終わったってか?
 ハハッ、笑えねえ冗談だぜ……ガハッ!」
「か…神宮さん!? どうしたのですか…!? ああ、どこかにその症状を和らげる機械は…!」
神宮が突然吐血し、苦しんでいるのを見て驚く斎葉

>「彼とはこの島で会ったことがある。危険ではなく、信頼できる男だ。
 私は天木を担いでいく。霞美、キミは神宮を頼む。
 そして鎌瀬……キミはキングを頼む。私は彼に命を助けられた……放っておくことはできない」
「分かりました…。僕の能力(ちから)では病状を劣化させてその場を凌ぐ位しかできませんが…」
劣化のオーラでキングの病気の症状を劣化させることで、一時的にマシな状態にしようとする鎌瀬

>「どうやら想像以上の死闘だったようだ。タイミングがよかったぜ。
 ワイズマンの墓前にあんたらの死体を花として添えさせるわけにゃいかねぇからな。
 ……あぁ、紹介が遅れたな。俺は『赤染 壮士』。
 あんたらと同じく、この島に招待されたついてない人間の一人さ」
「あ…あの…よろしくお願いします…赤染壮士さん…。僕は…鎌瀬犬斗です」
「よろしくお願い申し上げます、赤染さん。僕は斎葉巧です。機械を弄っている最中に飛ばされてきた機械工です」
『夜深内漂歌です。よろしくお願いします、赤染さん』
赤染に自己紹介をする三人




193海部ヶ崎 綺咲:2011/07/09(土) 22:23:49.63 0
>>189>>190>>191
体を包み込む光が消えていくと同時に、
地面に横たわっていたキングがパチリと目を開け、ガバッと上半身を起こした。
「これは……」
怪訝な顔で自分の体を隅々まで見渡すキングに、クイーンは言った。
「さて、生き延びてしまったわけだけれど……あなたはこれからどうするのかしら?
 ──何て言ってみたけど、実は私も何も考えてないのよね。──折角だし、二人で旅でもしてみる?」

「生き延び……た?」
ふと視線をクイーンから外せば、そこには天木、海部ヶ崎、氷室の姿。
「これが魔水晶の力か。今にも死にそうだった奴が当然のように蘇ったぜ」
言う天木に、キングは初め驚いたように目を丸くしたが、
やがて事の経緯全てを理解したのか、複雑そうに呟いた。
「……そうか、キミ達はワイズマン様を倒したのか……。それで手に入れた魔水晶で、ボクを……」

「折角助かった命だ。生まれ変わったと思って、精々、懸命に生きるんだな」
と氷室。ぶっきらぼうだが、これが彼女なりの励ましの言葉なのだろう。
「生まれ変わった……か。……フフフ、そうだね。
 これからは、これまでできなかったことをしてみるのもいいかもしれない。
 クイーン、ボクは南の方に行ってみたいな。
 きっと向こうの海は、ここよりも……穏やかで綺麗なんだろうね……」

遥か彼方から聞こえてくる波の音。
それに引き寄せられるかのように、遠い目をするキング。
その時の彼の頬には、一滴の涙が伝っていた──。


アリシアが現れたのは、それからしばらく経ってからのことであった。
この島に来てから僅か二日だというのに、海部ヶ崎はアリシアの顔が妙に懐かしい感じがした。
恐らく、それだけこの二日という時間があまりにも濃いものだったからだろう。

「元はと言えば私の不始末から始まった一連の事件……。私の手で決着をつけるべきでした。
 しかし魔水晶は悪しき者の手に渡り、ついには私の力をも撥ね退けるほどになってしまった。
 そこでこの島に招待された貴方に頼むしかなかったのですが……。
 やはり私の目に狂いはなかった。貴方は本当に素晴らしい人でした。
 最後にもう一度お礼を言わせて下さい。本当に有難う」

手を握り、深々とお礼を言うアリシアに、海部ヶ崎は戸惑いを隠せなかった。
照れ臭かったというのもあるが、どこか自分ひとりの手柄にされてしまっているのが、
何とも後ろめたくもどかしかったのだ。
「い、いや……私などより、他の皆の方が……」
たまらずそう言いかける海部ヶ崎の肩に、ポンと手が置かれた。
「褒められたら素直に喜ぶべきさ。今回の闘いの主役は、間違いなくお前だったんだからな」
氷室の言葉に、海部ヶ崎は一瞬沈黙したが、
やがてフッと微笑を零すと、アリシアに向き直って彼女の手を改めて握りなおした。
そこには戸惑ってばかりの先程までの海部ヶ崎の姿はもうなかった。
あったのは、幾多の死闘を潜り抜け、成長を遂げた一人の戦士の姿であった。
194海部ヶ崎 綺咲:2011/07/09(土) 22:26:20.30 0
「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
言うアリシアに、異論を唱える者は一人もいなかった。
誰もが一刻も早くこの血生臭い島から出たいと思っていたからであろう。

「さぁ、どうぞ。これの性質上角鵜野市にしか行けませんが、そこはご了承下さいね?」
笑顔で言うアリシアの横に、漆黒の空間が出現する。
それは海部ヶ崎にとっては忘れようもないもの──
そう、かつて雲水が使い、ワイズマンも使った『カオスゲート』であった。

魔水晶なしで雲水の能力を再現してみせる彼女に、誰もが驚いた。
だが、それでも心の底から仰天した感じではない。
それはカオスゲートを展開する前から、彼女を良く知らない者であっても、
彼女がこれまでの異能者とは一線を画する、
規格外の存在であるという認識を持っていたからではないだろうか。

「回復能力者でもなさそうなのに俺達全員を軽く回復させちまう力といい……
 やっぱり、何かもう何でもアリって感じだな。……一体、何者だってんだ?」
訊ねる天木に、海部ヶ崎は誇らしげな顔付きをもって返した。
「仲間さ。私の大切な」
「……ん〜、そう言う意味で訊いたんじゃねェんだけどよォ……ま、いいか」

苦笑しながら、天木は一番乗りでカオスゲートに入っていった。
続いて赤染、氷室が躊躇なく入っていく。
海部ヶ崎もそれに続こうとするが、寸前でピタリとその足を止めた。
「……」
振り返れば、そこには埋もれた洞窟。
耳を澄ませば聞こえてくる海岸の音。
それらが、この二日間の出来事を走馬灯のように蘇らせる。

(素晴らしい仲間に会わせてくれたこと……ワイズマン、それだけはお前に感謝しよう。
 さらばだ、散っていった者達よ。さらばだ、幻影島──)

様々な思いを残し、こうして海部ヶ崎はカオスゲートに消えていった──。

【海部ヶ崎 綺咲:カオスゲートを潜る。→角鵜野市へ】
【キング:完全に治癒。南を旅したいとクイーンに言う】
195鎌瀬犬斗 ◆K3JAnH1PQg :2011/07/09(土) 22:39:34.03 0
「初めまして、の方が殆どですね。
私の名前はアリシア。そこにいらっしゃる海部ヶ崎さんの友人ーーと思って下さい」
「さて、皆さんお疲れのようですね。僣越ながら私が治療させて頂きます」
「あ…はい…。鎌瀬犬斗です、よろしくお願いします…。あ…あの、ありがとうございます」
「ありがとうございます。斎葉巧と申します。どうぞよろしくお願い致します」
『ありがとうございます。夜深内漂歌です。よろしくお願いします』
治療を受けながら自己紹介する三人

「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
そう言い、手をかざして何かを呟くアリシア。すると目の前に黒い空間、『カオスゲート』が現れる
「すごい…」
アリシアのそれを見て、感嘆の声を漏らす鎌瀬。そして、戸惑いつつもゲートに入っていく三人
【鎌瀬一行:カオスゲートに入る】
196神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/10(日) 02:10:41.44 0
>>193>>194>>195
魔水晶により体が治ってから少し時間が経ち、ようやく終わったという実感が沸いてきた。
するとどこからともなく、そして音もなく一人の女性が現れた。

「初めまして、の方が殆どですね。
 私はの名前はアリシア。そこにいらっしゃる海部ヶ崎さんの友人──と思って下さい」
アリシアと名乗るその女性は、海部ヶ崎の友人だと言った。見た目こそ普通の女性だが、何かが違う。
(何だコイツ……?何かわかんねえけど普通じゃない)
それが菊乃の抱いた感想であった。違和感を感じたが、その中身まではわからない。
しかし海部ヶ崎の友人と言っているし、現に海部ヶ崎とも親しそうに話している。
(余計な詮索はしない方が吉、か)
そう思い、アリシアの正体については考えないようにした。

「治療も終わりましたし、そろそろ帰りましょう」
皆を治療して回っていたアリシアがそれを終えると、唐突にそう言った。
確かに唐突ではあったが、皆は一刻も早くここから出たかったはず。寧ろ待ち望んでいただろう。

「さぁ、どうぞ。これの性質上角鵜野市にしか行けませんが、そこはご了承下さいね?」
アリシアがそう言った直後に彼女の横に出現したものを見て、菊乃は驚いた。
なんとそれは、先程の戦いでワイズマンが使用していた『カオスゲート』だったのだ。
ワイズマンですら魔水晶の力を使っていた。それを目の前のこの女性は何事もなく使用した。
先程の治療といい、普通ならアリシアを知る海部ヶ崎以外──厳密には氷室もだが、菊乃は知らない──の誰もが訝しむはず。
しかし誰しも驚いてはいたが、どこか納得したような表情もしていた。
それはこの女性が現れた時から感じていた違和感を皆も感じていたためだろう。

カオスゲートに天木、氷室、鎌瀬達、そして海部ヶ崎が消える。
海部ヶ崎は入る直前に複雑な表情をしていたが、最後は晴れやかな顔で消えていった。
(これを潜ればまーた逃亡生活の始まりか……。いい加減諦めてくれないかねぇ。
 ま、この島にいる間だけはそれも忘れられたけどな。それ『だけ』は感謝するぜ、ワイズマン。あばよ──)

再び流浪の生活に戻ることに若干の嫌気を感じ、しかし清々しい表情で菊乃はカオスゲートへと入っていった──。

【神宮 菊乃:カオスゲートを通り、角鵜野市へ】
197クイーン:2011/07/10(日) 02:37:45.65 0
>>193>>194
「生き延び……た?」
声をかけたキングはどこか呆然としながら周囲を見回していた。

「これが魔水晶の力か。今にも死にそうだった奴が当然のように蘇ったぜ」
キングの視線の先にいた男が呟く。
その言葉にキングは驚いたが、すぐにその言葉の真意に気がついた。
「……そうか、キミ達はワイズマン様を倒したのか……。それで手に入れた魔水晶で、ボクを……」
クイーンは先程の会話で自らそれを口にはしなかった。
憚られた訳ではないのだが、聡明なキングならすぐに気がつくだろうと思ったのい敢えて言わなかったのだ。

「折角助かった命だ。生まれ変わったと思って、精々、懸命に生きるんだな」
男の横から氷室 霞美がややぶっきらぼうに口を挟む。
「生まれ変わった……か。……フフフ、そうだね。
 これからは、これまでできなかったことをしてみるのもいいかもしれない。
 クイーン、ボクは南の方に行ってみたいな。
 きっと向こうの海は、ここよりも……穏やかで綺麗なんだろうね……」
波の音に吸い寄せられるように彼方を見るキング。その頬には一筋の涙が伝っていた。

「南──暖かそうでいいわね。きっと海も穏やかで綺麗だわ。
 ──いえ、きっとどこへ行こうとも『ここ』よりは穏やかだわ……」

クイーンの言う『ここ』には二つの意味が込められていた。
一つはこの幻影島。
数多の異能者達が殺し合い、その命を散らせて言った悪夢の島。中には自分が手をかけた者もいる。

もう一つは『ワイズマンの下』。
ワイズマンの配下についてから、一度でも『穏やかだ』と思った日々はなかった。
毎日のように暗い洞穴の底での潜伏の日々。いつ来るかもわからない開放の日。
決してワイズマンを憎んでいるわけではなかった。寧ろ忠誠を誓っていた。
しかしながら、一度でいいからのんびりと一日を過ごしてみたい、という願望は少なからずあった。
それが叶う事はないと知りながらも、思いを馳せていた。

「ワイズマン様、どうか安らかにお眠り下さい。いつの日か地獄でまたお会いしましょう──。
 さぁ、私たちを縛る鎖は既に断ち切られた。まずはこの島から外の世界へ行きましょう、キング──いえ、『みちる』」
柔らかに微笑みながら、クイーンはキングに手を差し伸べた。

【クイーン:キングの要望を受け入れ、承諾する】
198氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2011/07/12(火) 01:35:14.41 0
ゲートを潜って僅か一秒、海部ヶ崎は漆黒から再び太陽を視界におさめていた。

──肌を優しくなでるそよ風。木々や葉が擦れあう音に混じって、
どこからともなく聞こえてくる車や電車の音。鼻をつく緑の香り。
そして視線を落とせば、眼下に広がるは西日を受けて朱色に染まりかけた巨大な湖──。

忘れようもない、ここは角鵜野市の南の高台。確かに……そう確かに帰ってきたのである。
「ん〜〜〜」
空気を胸一杯に吸い込み、子供のような無邪気な顔で気持ちよさそうに伸びをする。
それは安堵と喜びの二つを、海部ヶ崎が体全体を使って表現したものであった。

「へェ、ここが角鵜野市か。都会と自然が上手く調和してるって感じだなァ」
感心したように街を見渡しながらも、無事に帰って来れて緊張の糸が緩んだせいだろうか、
天木は最後にだらしなく大あくびかいた。
「あんたはここの人間じゃねぇみてぇだが、これからどうするんだ?」
その横でそう言ったのは赤染。
天木は顎に手をやり、少し考える素振りを見せると、やがて頭を欠いて答えた。
「そうだなァ……これから職場に戻るっつっても、無断欠勤を続けちまってっからなァ……。
 もうあの場所に俺の席は無くなってるかもしれねェ……。
 まぁ、今日は疲れちまってるし、とりあえず今夜一晩はここに止まって、後のことはゆっくり考えらァ」

「よければ私の家にこい。少し手狭だが、一晩宿を貸すくらいの広さはある」
海部ヶ崎の提案に、天木は一瞬ドキリとしたように顔を紅潮させた。
氷室は女であるが、男である彼の脳裏を過ぎったことくらいは想像がつく。
つまり……海部ヶ崎はどう見ても独り者。
一人暮らしの女性の部屋に、男が泊まるということは……思わずドキリとしても無理はない。
「あ、あぁ〜〜……なんつーか、俺一人で泊まるってのも何だか……」
「嫌か? それなら神宮、どうせならキミも来たらいい。
 確か研究所の追っ手に追われていて、特に行くあてはないんだろう?
 ……まさか厄介ごとに巻き込むことになると私に遠慮するような事は言わないだろうな?
 一度、共に命をかけて闘った仲なんだ。今更水臭い台詞は許さないぞ」

と、海部ヶ崎が神宮に訪ねるその横で、今度は赤染が鎌瀬らに口を開いた。
「ところで……お前達は? 見たところ学生のようだが、まさかお前らもこの街の人間か?」

神宮が、鎌瀬らが返答する。
その様子を傍から静観していた氷室は、彼らの会話に一区切りがついたところで、
一人くるりと踵を返して歩を進めていった。
「あ、おい! あんたは?」
それに気付いた赤染が呼び止める。
氷室は首だけを彼に向けると、いつものような調子で言った。
「本業に戻るだけさ。これでも明日を生きる生活費を稼がなきゃならない身分なんでね」
そして首を戻して、再び歩を進めかけた彼女を、今度は海部ヶ崎が呼び止めた。

「霞美!」
「……」
「また会おう。今度は戦士としてではなく、一人の友人として。
 それまで……元気で」
氷室の首が海部ヶ崎に向けられる。その時、彼女の表情はフッと微笑を浮かべていた。

「フッ、お前達も、な。──それじゃ、バイバイ」
手をヒラヒラと振って去っていく後姿を、海部ヶ崎はいつまでも誇らしげな顔で見つめていた──。
199海部ヶ崎 綺咲:2011/07/12(火) 01:44:35.35 0
「それじゃあ、そろそろボクたちも」
その声に、一同の視線が一斉にキングへと注がれる。
「キミ達ももう行くのか。どうやら遠いところへ行くようだが、元気でな」

海部ヶ崎の言葉に、キングは溢れんばかりの笑顔を持って返した。
「ボクは大丈夫、体の方はすっかり良くなった。心配しなくても元気でやれるよ。
 キミたちの方こそ元気でね。──それじゃ、行こうか? クイーン」
氷室とはまた別の方向に去っていくキング、そしてクイーン。
その足取りに、もはや死を待つばかりの人間の弱々しさはなかった。
あったのは、新たなる人生を切り開かんとする、確かな力強さであった。

「……行っちまったな。なんつーか、敵として対峙してた時間の方が長いってのによ、
 こうして去っていくのを見ると……不思議に寂しい気がするのは何でなんだろうな。
 あ、そうだそうだ。ところで赤染だっけか? お前はこれからどうすンだ?」
天木に今後の事を訊かれ、赤染は溜息をついた。
「あぁ……あんなボロ道場でも、放っておくわけにゃいかねぇからな。
 いずれ故郷へ戻ることにするぜ。──んでも、とりあえず今日一日だけは──」
不意に赤染がニカッと笑う。
「俺もあんたと一緒に海部ヶ崎の家に泊めてもらう事とするぜ。
 何せホテルで一泊するにしても金がねぇし、それに……
 女の家に男を一人だけ泊めさせるってのも何となく癪なんでな。
 精々、お邪魔虫になってやるさ」

「おいおい、俺が何かするとでも思ってンのかァ?
 コイツに手なんか出してみろって。一瞬であの世に行っちまうっての。
 折角助かった命、精々大事にしねェとなァ?」

冗談交じりに……といっても半分は真面目に言っているのだろうが、
おちゃらけた口調で大げさに両手を広げて困った顔をしてみせる天木。

「ハッ……ハハハハ! そりゃ違ぇねぇや!」
笑う赤染。
「? 何だかよくわからないが、来るなら歓迎するぞ。一人でも多い方が賑やかだ」
二人の会話をよく理解できぬまま、ただ笑顔を浮かべ続ける海部ヶ崎。
気がつけば、その場にいる全員が、三人につられて笑っていた。

「ハハハ、何だか盛り上がってきたなァ! ……よォーし!
 鎌瀬、斎葉、夜深内、ユーキ、そしてアリシア! こうなりゃお前ェらも全員ついて来い!
 今夜は今日の勝利と帰還を祝って、朝までドンチャン騒ぎだァァアア!!」

──朱色に染まりかけた夕空に、楽しげな笑い声が響き渡る──。
それはいつまでもおさまることはなかった。いつまでも、いつまでも──。

【二つ名を持つ異能者達Part2 氷室 霞美編:完】
【二つ名を持つ異能者達Part2 海部ヶ崎 綺咲編:完】
【二つ名を持つ異能者達Part2 天木 諫早編:完】
200神宮 菊乃 ◆21WYn6V/bk :2011/07/12(火) 15:25:36.11 0
アリシアのカオスゲートに入って一瞬視界が暗くなる。
しかし次の瞬間には景色は一変し、崩れた洞窟は消え去り、代わりに豊かな自然と美しい湖が飛び込んできた。
菊乃は角鵜野市に着いてから市街地しか歩き回らなかった為、一瞬ここがどこなのか判断できなかった。
しかしすぐにアリシアの言葉を思い出し、ここが角鵜野市だということに気付く。

「やっと戻ってこられたな。しかしこんないい場所があったのか。もっと散策しておけばよかったかな」
周りでは天木や赤染達が今後のことについて話している。

「あんたはここの人間じゃねぇみてぇだが、これからどうするんだ?」
「そうだなァ……これから職場に戻るっつっても、無断欠勤を続けちまってっからなァ……。
 もうあの場所に俺の席は無くなってるかもしれねェ……。
 まぁ、今日は疲れちまってるし、とりあえず今夜一晩はここに止まって、後のことはゆっくり考えらァ」

赤染の『ここの人間じゃない』という言葉を聞いて、菊乃も自分の今後について考える。
菊乃は角鵜野市在住の人間ではない。追っ手から逃れている内に偶然辿り着いただけだ。
故に住む場所はない。当然あてにできる人物もいない。

(これからどうすっかな……。母さん達に会いに行きたいけど、そしたら家族まで巻き込んじまう。
 ……会いに行くのは全部片付いた後だな)
遠くの地にいる家族のことを思い出し、会いに行けないことに歯噛みする。

「よければ私の家にこい。少し手狭だが、一晩宿を貸すくらいの広さはある」
そんな中、海部ヶ崎が天木にそう提案した。天木は驚いている。顔が赤い理由は想像に難くない。
「あ、あぁ〜〜……なんつーか、俺一人で泊まるってのも何だか……」
天木がしどろもどろになりながら返答に窮している。
宿を提供してもらえることは嬉しいが、状況が状況なだけに素直に頷けないのだろう。

その様子を見て、菊乃は微笑ましく思った。
つい数時間前まで死闘を繰り広げていたのが嘘のようで、実はあれは夢だったんじゃないか、と思えるほどに。

(いいねぇ、ああいうの。だけどアタシはアソコニ混ざるわけにはいかない。──いや、混ざれない。
 アタシなんかが一緒にいたら皆に迷惑かけちまう。 結局のところ、アタシは一人でいるのが一番いいんだ)
輪の中に加わりたい、という衝動を己の状況を省みて押さえ込む。
今の菊乃にできることは、幸せそうな仲間達の顔を、一歩引いたところから眺めることだけだった。