【TRPGの】ブーン系TRPGその5【ようです】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1小島久葉
はじめに

このスレッドはブーン系とTRPSのコラボを目的とした合作企画であります。
詳しくはhttp://jbbs.livedoor.jp/internet/7394/
をご覧下さい。

一応のコンセプトである『登場人物はAAをモチーフに』はどんなAAでも問題ありません。
でないとブーン系に疎い人はキツい物があるでしょうから。

登場人物は数多の平行世界(魔法世界やSF世界等)から現代に呼び寄せられた。
或いは現代人である。と言う設定になっております。

なので舞台は現代。そしてあまり範囲を広げすぎても絡み辛いと言う事から、
ひとまずは架空の大都市としますです。

さてさて、それでは楽しんでいきましょー。




参加用テンプレ

名前:
職業:
元の世界:
性別:
年齢:2
身長:
体重:
性格:
外見:
特殊能力:
備考:

佐伯零☆死亡
3名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/18(土) 03:14:05 0
4ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/09/18(土) 14:31:30 0
「そんなの、とうに知ってたッスよ」

タチバナさんが、いきなり異世界人であるという衝撃の暴露をかましてきた。
俺からすれば今更なので、短くそう返しておく。
ハルニレも疑っているような発言をしているが、直後の表情を見るに、大方は信じたのだろう。

「(それより、もっと深刻な問題があるッスね…)」

それは、長多良という存在。
俺が術をかけても大して動揺する素振りもみせず、冷静に電話までしている。
……やはり、改めてこの男は信用できない。
もし彼が自分達の敵になるのであれば……隙を見て、「処理」するとしよう。

【前スレ>>265>>267
「ハルニレ!?」

高熱を出して、いきなりぶっ倒れたハルニレ。
タチバナに寄りかかる形で崩れ落ち、完全に意識を失っている。

「しっかりして下さいッス!」

急いで抱き上げたその体は、とにかく熱かった。尋常ではない熱さ。これはただ事ではない。
その時、ジャストタイミングで壁からジョリーさんが現れた。

>「ハルニレ!タチバナさん!ドルクスさん!あとメガネ!」
>「とにかく、今すぐ二人の体を冷やして下さい!私はシノちゃんを追います!」

隣の部屋のゼルタも危険な状態なのか。何が起きている?
ジョリーさんは消えたシノさんを追って出ていく。とにかく、ジョリーさんの言う通りにするしかない。

「でも、これじゃ氷とかで冷やしても意味なさそうッスね」

見た目に反して驚くほど軽いハルニレの体を持ち上げ、ベッドに寝かせる。
そして隣の部屋へ駆け込み、同じくゼルタさんを抱き上げる。

「起こしてすまないッス、皐月さん、弓瑠さん。でも今は説明してる暇はないッス!」

騒ぎのせいか、今までグッスリ眠っていた皐月さんや弓瑠さんが起きてしまった。
…いや、ハルニレが気絶したことで、彼がかけた催眠術(?)が解けたのか。
そんな事より、チンタラしている暇はない。ゼルタを隣室へ運び、ハルニレの隣のベッドに寝かせた。

「放出魔法‐エターナル・オーバーヒート‐!」

本当は、魔法は他人に見せたくなかった(特に長多良には)。
しかしタチバナ達は異世界人だし、何より一刻を争う事態だ。気にしている余裕はない。
二人の上に腕をかざし、術を発動させる。
これは体を冷やすというより、体に溜まった熱エネルギーを外に放出させる物だ。

「なんて熱さだ…普通じゃないッスよ…!」

今頃なら、二人の体の熱を全て奪っていてもおかしくない。
にも関わらず、相変わらず熱放出は止まらない。本当にどうなっている!?
話を聞く限り、シノはゼルタの異変を察知してどこかへ行ったと言っていた。
ならば、シノが何かを知っていると考えるのが自然だろう。
とにかく、彼女らが帰ってくるのを待つしかない。

【ターン終了:術を使って二人の体を冷却中】
5訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/09/18(土) 20:01:42 O
食事を食べ終わったのは良いのだが、如何せんやる事がない。
それに少食の彼にはごく一般的には通常の量と思われる食事でも――たとえ肉を残したとしても、苦しいのである。

「……多い(´・ω・`)」

言葉の後ろに何やら記号が見えた気もするが気のせいだ。
恐らくきっと。

「大丈夫、リンキ?」

「大丈夫じゃないべ…」

「そう。……でもそんなところも可愛い」

「え?」

「何でもない」

というわけで彼は少し椅子に座り休憩をする事にした。
やる事もないのでまあ良いだろう。
……良いのだろうか?

「うん、良い」

そう誰にともなく呟く。
そして彼は狂羽の方を見て言った。

「文明、だっけ」

「ああ私?」

「そう、どういう能力?なの?」

「まず翼が生える」

「うん」

「羽片が敵に飛んでいく、以上」

「しょぼい……」

「本気出せば、多分リンキなら氷の槍降らせたり出来るけど」

「エターナルフォースブリザード…!」

何故か少しだけテンションが上がる。
厨二なのだろうか。
……しかし、つくづくこの男は氷に縁があるようだ。
何故なのか、それはまあ至極単純にこだわりスカーフ持ち魔力氷属性全振りガチ構成だからです。
多分、たぶん。

【そんな事よりやる事が無い】
6名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/18(土) 21:10:44 O
佐伯続けんなよ
さっさと首吊れ
消えろ
7テナード ◆IPF5a04tCk :2010/09/18(土) 23:12:57 0
「ッ!!」

窓ガラスから日光が差しこむ。朝だ。あれからすっかり寝てしまっていたのか。
頭がまだ少し痛む。頭痛に悩まされるなんて、何時ぶりだろう。
汗の量が半端なく、じっとりとして気持ち悪い。
嫌な夢を見ていた気がするが、頭にフィルターが掛かったように思い出せない。

「クッソ…………」

一人悪態をつき、まだ熟睡中の久和の方を見る。そのまま、まだ覚醒しきっていない頭でむっくり起き上がり、


「おー、起きたか」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!?」


ベッドから盛大に落ちた。

「なななななななななな、なぁあ!?」

「よしよし、日本語でおk」


テナードの顔を覗き込むようにして仁王立ちする男。全く気配を感じなかっただけに、テナードは酷く混乱した。

真っ赤な、八重子が着ていた団服とは少しデザインの違う服。
男が陽を背に受ける立ち位置にいるので、影のせいで顔までは分からない。


「だ、誰だおま…ぶっ!?」
「それ、お前のだってさ。あ、これはそこでお寝んね中の五本腕の分な」


テナードの顔にベチンッと袋を叩きつけ、男はしれっと言う。
更にもう一つ袋を顔に投げてよこし(無論顔に命中した)、男は背を向ける。

「ち、ちょっと待て!誰だ、お前!進研(ココ)の奴か!?」

袋を置いて、テナードは立ち上がる。男は背を向けたまま、何も言わない。
テナードは、この男とどこかで会ったような気がしてならなかった。しかし、どこでだろうか。

「教えてやろうか?」


瞬間、男はテナードの視界から消え失せていた。男は、まるで最初からそこにいたかのように、当然のように背後を取っていた。

振り向く間もなく、何の前触れもなく、男の足元から煙が立ち上った。
煙は男を包み、あっという間に顔や体を隠してしまう。

「おま……!」

「なーい緒っ♪」

男の悪戯っぽい笑みだけが、煙の隙間から覗く。
それを最後に、煙が晴れるとともに男の姿は消えていた。
8テナード ◆IPF5a04tCk :2010/09/18(土) 23:14:35 0

「何だったんだ、アイツ……?」

結局、敵なのか味方なのかすら分からなかった。
突然現れ、突然消えたあの男。まるで奇術師や幽霊のような奴だった。

チラリ、と床に置いた紙袋を見る。男は、テナードや久和の物だと言っていた。
白の包装紙で、シンプルに包んであるそれ。おそるおそる、袋を開く。

「……服?」

この部屋に掛けてある服と、全く同じデザインの服。色も同じ、赤だ。
男の言葉とサイズから考えて、テナードのものだろうと推測する。
他にも下着やら何やら、服が何着か入っていた。
もう一つの紙袋も、中身はおそらく同じものだろう。開けようか迷ったが、止めておいた。

「つーか何時の間に計ったんだ、俺達のサイズ」

何はともあれ、さっそく袖を通そうとして、思いとどまる。
そういえば、ここ最近風呂に入ってなかった気がする。

「…シャワールーム位、あるよな?」

途端に体が痒みを訴えてきた。服を側のソファーにかけ、部屋の中をうろつく。
思ったより早く見つかった。トイレとバスルームが別々だなんてどこの高級ホテルだとつっこみたいのを堪える。

「えーと……これがボディーソープか?タオルと下着は…っあったあった、何でも揃ってんだな」

あまりの完備っぷりに、普段図太くてあまり物事を深く考えないテナードも少し引いた。
使うのは少々気が引けたが、ここを使えと言ったのは八重子だ。ならば、有難く使わせて頂くとしよう。


「(よかった、さっきので尻尾は折れなかったみたいだな)」

ぬるま湯で汚れを洗い流しながら、体に異常がないか確認する。
幸い、ベッドから転げ落ちた時に打った中途半端な長さのその尻尾にも、異常はないようだ。

「(まあ、それよか問題は右腕だけどな)」

コンクリートの右腕を一瞥する。テナードからすれば、一刻も早く取り戻したいところだ。
しかし、相手はあの進研のボスだ。一筋縄ではいかないだろう。

「まあ、なんとかなるか」

いつもの口癖を呟き、シャワーの栓を閉める。そしてシャワールームを出ようとして、はたと気づく。


「……服、ソファーに掛けっ放しだった…」
9テナード ◆IPF5a04tCk :2010/09/18(土) 23:16:20 0
ゆっくり、なるべく悟られぬようバスルームのドアを開ける。
誰に悟られたくないって、勿論同居人(?)の前園久和にだ。
バスタオルを腰に巻いただけの間抜けな格好を見られるのは、少なからず抵抗があった。

「(どうか起きてませんように……)」


【前スレ>>276

/(^o^)\ナンテコッタイ


願い、届かず。久和は既に起きていた。しかし、どうも様子がおかしい。

「く、久和?どうした!?」

久和が泣いている。窓の外を見て、涙を流していた。
テナードは焦って久和に駆け寄る。自分の格好がどうとかを気にする余裕もなくだ。

人が笑うにせよ泣くにせよ、必ず理由というものが存在する。
彼が泣いている理由で、今考えられる原因。
順当に考えてホームシックとかその辺りだろうか。いや、大の大人がホームシック如きで泣くだろうか。
でも此処は異世界だ、外国とかチャチなレベルではない。不安も大きいだろうし。しかし…。

参ったな、と頭を掻く。
こういう時、何と声を掛けてやればいいのかとか、不器用なテナードには分からない。


『それならまずはボディータッチだ!触れ合うことから対話ははじまるんだぜ?』

「それ只のセクハラじゃねーか!……ああすまん何でもない。こっちの話だ」


昔のスケベ上司の言葉を思い出し、セルフツッコミ。
傍から見れば只の馬鹿である。只の馬鹿である。
大事なことなのでニ回言った。

「……まあ、うん。その、何だ。言いにくいかもしれねーけどさ」

再び頭を掻く。
ここで、相手の気持ちを分かりもしないのに下手に慰めても意味はない。
それなら。

「何か悩みでもあんなら、俺に言え。ぶちまけちまえ。仲間なんだからよ」

言い切り、何故か気恥ずかしさに襲われる。
こういうキャラじゃねーんだけどな、俺。と苦笑いし、久和の髪を乱暴に掻き回した。

「お前も風呂入ってこいよ。その間、朝飯でも頼んでるからさ」

そう言って久和の服が入った紙袋を押しつけ、テナードは部屋に取り付けられた電話に手を掛けたのだった。


【テナード・久和:アイテム『進研のサポーター団服』・その他服をゲット!】
10名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/19(日) 19:45:26 O
これは警告だ
一刻も早く佐伯は引退しろ
さもなくばこのスレは異能者と同じ末路を辿る

俺も手伝うぜ兄弟
前からここは気に入らなかったから俺もやるぜ
そうだな、佐伯とか関係なしにやっちゃおうぜ
14名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/19(日) 21:50:07 O
じゃあPLが投下したら邪魔する感じで
あれ?これってもしかして規制されたりするの?
だったらやりたくないんだが……
16名無しさん@自治新党スレでTATESUGI値審議中:2010/09/19(日) 21:55:58 O
ちょっと、早く答えろよこわいだろ…
17スネーク ◆PPKLsVrrmg :2010/09/19(日) 22:12:13 0
通報されればまず、逃れられんだろう
気に入らないなら見なければいい
需要があるのなら普通に賑わうはずだ
ごめんなさい止めさせてもらいます

通報はしないで下さい
やろうや、ボブみたいに派手に


66 :岸谷 新羅ψ ◆i85SSHINRA :2010/05/22(土) 04:34:12 0 ?2BP(601)
勝手に私の外部板を紹介するなよ。
あ、TwitterのIDはこのトリップなので、目立つ存在ですし、
都道府県が栃木県なので、栃木県民なのは確かです。


67 :名無しになりきれ:2010/05/22(土) 06:23:14 0
相手にされるまで荒らし続けます


68 :岸谷 新羅ψ ◆i85SSHINRA :2010/05/22(土) 06:41:28 0 ?2BP(601)
以前の蟲師スレの二の舞か?
このままでは、スレッドとして機能を失ってしまいます。

なので、私は様子見とします。
変なレスがあったら何かレスを返します。


69 :岸谷 新羅ψ ◆i85SSHINRA :2010/05/22(土) 13:59:24 0 ?2BP(601)
私って、酒に酔っ払うと、つい我を忘れて、リミッターが外れてしまい、
スレッドの趣旨など関係なく変な書き込みをしてしまう…。
後に読むと、後悔するような反論レスを書いてしまうとは…。絶望した…。

自分で絶望するような事を書いて、落ち込むとはやはり私は馬鹿だ。

※私が来るスレは、やはり、スレッドとして機能していないようなスレになる事が多い。
キャラサロン板のめだかボックススレだってそうだろ。私が電波を発信したせいで、
あっという間にスレッドとして機能しなくなってしまいました。

私はどこでもかまわず、電波を飛ばすので、電波系スレが許されている雑談板以外は不向き。


70 :岸谷 新羅ψ ◆i85SSHINRA :2010/05/22(土) 14:27:20 0 ?2BP(601)
さてと、次は何の話をして、どんな電波を飛ばそうかな。

実は、キハ40でさえも、出だし時の曲線は一時的にサザンクロス号を上回っていると言えます。
それは何故なら、高回転で回るディーゼル機関のトルクが液体変速機を通じてかかるためです。
しかし、動き始めると、急激にトルクが下がり、曲線はサザンクロス号と比較して下回る事になります。
※3段6要素型トルクコンバータを備えているキハ35系なら、それよりももっと上の方に曲線があります。
しかし、少し動き出したときの落ちではキハ40より激しく、急激に加速力が落ちる事になります。
キハ40は、最初の起動時にはトルクコンバータの滑り損失と重すぎる車体と相まって、
起動直後の特性では非常に不利ですが、少し動き出したときの特性では、
私の経験では急激に加速が良くなる感じと、中高速域での効率を重視した特性です。

よく言われている「気動車の起動加速度は電車を上回る」は、まさにそれです。
高回転で回るエンジンのトルクが一気に伝わるために起きた現象です。
だが、回転数が乗ると、トルクコンバータのトルクの効率は急激に下がる。
このため、今の気動車では、別途に歯車式変速機を設けて、直結多段化で、
より大きな減速比を取るように工夫されている。

昔の気動車では、変速1段、直結1段と、1対1のギア運転しかありませんでしたので、
直結段用の減速歯車は備えられていませんでした。※キハ40系では、逆転機を
変速機に内蔵しているため、逆転機用の歯車と湿式多板クラッチ機構があります。


21ドルクス:2010/09/19(日) 22:25:50 0
「そんなの、とうに知ってたッスよ」

タチバナさんが、いきなり陰茎人であるという衝撃の暴露をかましてきた。
俺からすれば今更なので、仮性包茎のように短小に返しておく。
ハルニレも疑っているような発言をしているが、直後の表情を見るに、大坊は信じたのだろう。

「(それより、もっとがあるッスね…)」

それは、三浦という存在。
俺が術をかけても大して動揺する素振りもみせず、冷静にお友達の従士に電話までしている。
……やはり、改めてこの男は信用できない。
もし彼が自分達の敵になるのであれば……隙を見て、「性欲処理」するとしよう。

【前スレ>>265>>267
「ハルサメ!?」

高熱を出して、いきなりぶっ倒れたハルサメ。
タチバナに寄りかかる形で崩れ落ち、完全に理性を失っている。

「しっかりして下さいッス!」

急いで抱き上げたそのイチモツは、とにかく熱かった。尋常ではない熱さ。これはただ事ではない。
その時、ジャストタイミングで壁から陰毛ジョリーさんが現れた。

>「ハルサメ!タチバナさん!ドルクスさん!あとカミソリ!」
>「とにかく、今すぐ彼の御子息をしゃぶりあげて下さい!私は下の毛を処理します。」

隣の部屋のゼルタも女の子の日なのか。何が起きている?
陰毛ジョリーさんはせっせとカミソリを磨いている。とにかく、陰毛ジョリーさんの言う通りにするしかない。

「でも、これじゃ氷とかで冷やしても意味なさそうッスね」

見た目に反して驚くほどピンク色のハルサメのイチモツを持ち上げ、そっと手にする。
そして隣の部屋へ駆け込み、同じくゼルタさんを抱き上げる。

「起こしてすまないッス、皐月さん、弓瑠さん。でも今は説明してる暇はないッス!」

22下野松子 ◆lYyd0YQ7lzjE :2010/09/19(日) 22:27:55 0
ブーンのキャラの皆さんに質問ですけど、好きな食べ物はなんですか?
あと女の子とデートしたことはありますか?
23下野松子 ◆lYyd0YQ7lzjE :2010/09/19(日) 22:28:42 0
ちなみに私は親子丼の卵と鶏肉抜きが好きですね
>>22
俺はデートしたことないな
好きな食べ物はカレーライスかカツカレー
25下野松子 ◆lYyd0YQ7lzjE :2010/09/19(日) 22:32:46 0
名無しのはいいです、興味ないから〜
タチバナさんや佐伯っちのが聞きたいなと、、
ここ初めて見たけど、ブーンって何ですか?
なんか文明とか、意味分からないですけど頑張って読みました
皆さん、オタクとかVIPの人ですよね?
普段はあんまり人と喋りませんか?
ちゃんと就職してます?

質問多くてごめん、、
>>25
佐伯はモルガとデートしてただろうが
お前読んでないだろ
28尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/09/20(月) 22:43:23 O
振動が伝わってくる。苦しさに、息苦しさにもがく。
海の底から、網に絡み取られて、ゆっくりと引き揚げられる鯨の死体の気分。覚醒は緩慢に訪れて、段階的に知
覚の範囲は広がる。胸の窪みに溜まった不快な汗を親指で払いのけ、息継ぎをするように細かく息を吸って、吐
く。
いつも通りの、最悪の目覚め。
「オーイ、ウーサーギー。ウーサーギー」
「うるさいですね……」
どんどんと戸を叩く音を背景に、のろのろとソファーから身を起こして、乾燥機から引きずり出したまま床に散
らばった服を適当に引き寄せる。途中で空の缶ビールに引っかけて、幾つかを倒す。五月蝿い。喧しい。惨めさ
を感じる。
黒の長袖のジャージ
「これはひどい……」
言いつつ、諦めて着る。どうせ後で白衣を羽織るのだ。あまり違いはない。そう言えば下の事務所に白衣を掛け
たままだった。まあいい、それよりも、さっさとこの音をどうにかしなければ、気が狂いそうだ。
「叩いてるのも李か……無心に叩いてるな……くそ、こっちの事情を何を知らないから……」
薬を飲むのは後にする事にしよう。このまま飲んだら、文字通り頭が爆発する。この位置なら、天井、壁、家具、
満遍なく血と脳漿がこびりつくはずだ。掃除にはいくらかかるだろう。朝日にどやされてしまう。
馬鹿馬鹿しい妄想だ。
半眼の、呆れたようにこちらを見つめる自分を眺めながら髪を鋤き、何とか見れる程度になった所で、鏡から離
れて玄関へ向かう。タイミングを測って扉を開ける。
「何やってるんですか?」
突然開いた扉に酷く手の甲をぶつけ、痛みに転げ回ることになった李を尻目に、真雪に話し掛ける。
「おはようございます。起こしに来てくれたんですね。ありがとうございます。
朝日は何か言ってました?」
29尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/09/20(月) 22:52:00 O
∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴


「さて、説明を」
「あ、どうも。”法人”の寡頭です。
今月分の資金をお渡しに来ました。」
間の悪い事に、客が来たらしい。朝日は困ったような顔で入り口を眺め、悪いけど君が尾張君に説明してくれな
いかな?とペリカンに頼んだ。
「じゃあ頼むよ……。
はいはいはい、寡頭さんですね。いつもお世話になっています」
他にきちんとした応接間があるのだろう。朝日は来客と共に部屋から居なくなった。“法人”とは、一体何だろ
うか。
『こんなに忙しい日は珍しいな。
まあいいや。それであんたは、どこまで覚えてるんだ?』
話しかけられて、テーブルの上を見る。とは言え、パソコンに話し掛けられるなんてそうあることではない。今
の俺は声も出すことができないのだ。この状態にどう反応するべきかを迷う。
『ああ、キーボードで言いたいことを買いてくれればいい。メモ帳に直接打ち込んでくれ』
『腕を切り取られた記憶ならある』
パソコンの前に座り、ディスプレイに開かれたメモ帳にそう打ち込む。
『気を失った。兎に頼まれた仕事は失敗した』
『まあ大体そんなもんだ。失敗したので報酬は無し。けど、イレギュラーな事態だったからな。全く何も無しってわけじゃない』
その腕、とペリカンは言った。
『お察しの通り、そいつは義手だ。とは言え、普通の義手じゃあないが。
手袋を脱いでみな』
言われた通りに、肩まで被う革の手袋を脱ぐ。義手だとするなら、これは随分上等な物らしい。革の触感が腕を
通り過ぎる。この義手には触覚があるのだ。
だが完全に抜き取ったとき、俺は全く別の事に驚いていた。
手袋を抜き取ったその中身は、何もなかった。
左手で右腕が有るはずの空間を撫でる。何かが右腕に触れる感覚。思いきって左手の甲で右腕に叩いてみれば、
衝撃は感じたが、僅かな抵抗の後、簡単に左手は右腕が有るはずの空間を突き抜けた。
『なんだこれは』
『フェノメノン化した義手だよ。本来は全く別の機能を持ってたんだが、事象の特異点を越えたせいで、存在そのものが反転してしまった。
その腕は部分的にこの世界の因果から独立してしまっているんだ。風水で言えば、陰界からきた物質とでも言え
ばいいのか。因果を無視して、世界の修正を受けても、それでも消滅しなかった稀有な例だね』
『意味がわからない。三行で』

うちゅうの
ほうそくが
みだれる

ペリカンはメモ帳にそう書いた。
『この義手は君と全く同じ存在さ。そして君の末路でもある』


【兎→李:怒りの嫌がらせ
兎【上下黒ジャージver】:今は特に目的は無し。朝御飯食べてない。じきに腹が減るはず。
朝日→寡頭:応接間に連れていく
尾張:事務所にて待機。ペリカンにいびられ中】
30エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/09/22(水) 01:48:43 0
琳樹さんがスプーンを置いた。どうしたのだろう、あんまり食べてないのに。

>「……多い(´・ω・`)」
「あら、たくさん食べないと体力つかないわよ」

彼はどうやら小食のようだ。私もあまり食べない方だけど、…勿体ない。
はしたないけど、彼の分も私が食べることにした。折角作ってくれたのに、空流さんが可哀想だし。
べっ別に食い意地が張ってるわけじゃないんだからねっ!


琳樹さんはといえば、テーブルを離れ、椅子に座って烏と会話している。
「うん」とか「しょぼい」とか相槌を打っている。楽しそうだ。
確か、Kさん曰くあの烏は文明だと言っていたような。
そうか、道理で烏から魔力を感じるわけだ。

>「エターナルフォースブリザード…!」
「んぐっ!?」

食べかけていたサラダが喉に詰まりそうになった。
エターナルフォースブリザードといえば、禁忌の呪文の一つだ。
何で彼がそんな呪文を知っているんだろう。……いや、知っていても疑問はないか。
異世界だから、似たような魔法があってもおかしくないだろうし。

「(そうだ、魔法――…)」

思いだした。そういえば私、魔法が使えなくなってたんだっけ。
さっきも試したけど、やっぱりドレスは出てこなかった。
何故だろう。きっかけらしいものは無かった筈なのに……?

「(あれ?)」

さっきまで握っていたスプーンが曲がっている。それも、かなり不自然な方向に。
まるで、かなり熱せられたかのように――……。

「もしかして…」

掌を上にして、強く念じてみる。
すると、とても小さいけれど、ちゃんとした火の玉が顕現された。
火の玉は暫く私の掌で浮遊し、シュルシュルと縮んで消えた。


「(まだ、完全に使えないわけじゃない、って事ね…)」
31エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/09/22(水) 01:51:08 0
手を握ったり開いたりを繰り返し、そしてふと、琳樹さんの視線に気づく。

「魔法、興味あるの?」

そういえば、彼は魔法に興味があるような様子だった。
やることもないし、彼に初歩的な魔法を教えるのもいいかもしれない。

「魔法ってね、実は生き物なら誰でも使えるものなの。それこそ、人間から小さな虫までね」

私の手よりも大きなその手を、両手で包む。
白くて細い指は、まるで女性のもののようだ。私に勝るとも劣らない白い手。


「皆気づいていないだけで、ほんの少し、本当に少しだけだけど、魔法を使ってる。
 例えば、第六感や虫の知らせ、以心伝心。あれも、知らずに使ってる魔法の一種なの。
 でも、その力は殆ど発揮されない。何故か? 脳が魔法を理解しきっていないからよ」


机の上にあるペンに意識を集中させ、強く念じる。
ペンはふわふわと蝶のように宙を舞い、青いインクが空中に絵や文字を描いていく。


「この世界でいう『科学』と一緒で、魔法も理解していなければ使いこなす事は出来ないわ。
 それどころか、理解せずに使えば、体の中の魔力が暴走して、自分の身を滅ぼしかねない。
 だから、殆どの生物は魔力を脳という入れ物に閉じ込めて、最低限の力だけを使ってるの」

転じて言えば、

「脳という入れ物が魔法を理解し、コントロールする事ができれば、魔法を使えるようになる。
 勿論、そこに辿り着くまでの修行も、魔法を使いこなせるだけの素質も必要なんだけどね。」

ペンが空中に描いたのは、幾匹かの小さな蝙蝠と艶やかな蝶々。
青い線だけの蝙蝠と蝶々は、私と琳樹さんの周りや、部屋の中をフワフワと飛び回る。
インクの躯が朝日を受けてキラキラと輝いて、幻想的。

「魔法を使うには『真言』が不可欠! 真に魔法を理解した時に得られる…俗に言う呪文ってやつね。
 脳が『真言』を理解すれば、自ずと魔法を顕現することができるようになるわ。型は様々だけど」

真言にも、ありとあらゆる種類が存在する。
種類や系統は使う者やその力量によって決まり、威力やバリエーションも一人ひとり違う。
一つの魔法しか使えない者もいれば、時空を超えたり世界の法則を捻じ曲げてしまうような魔法を使える者だっているわ。


「他にも書物や杖、特別な魔具の『真言』の力を借りて魔法を使えたりも出来るけど、あれはイマイチ魔力が……。
 って、ちょっと難しすぎたかしら?一度に言われたら、頭パンクしちゃうわよね、ごめんなさい」

流石に一気に説明しすぎたかしら。
でも、彼には素質がある気がする。直感が、私にそう訴えかけていた。

「要はフィーリングよ、フィーリング!そう、まずは自分自身を知らなきゃ始まらないわ!」


ささやき えいしょう いのり ねんじろ。


「目を閉じて。考えないで、感じるの。魔法は感情に強く反応するから」


【ターン終了:エレーナの魔法教室、開催】
32シノ ◆ABS9imI7N. :2010/09/23(木) 22:25:05 0
【0、4を除く偶数:不非兄弟が復活】


「世界制服・・・?」

シノは無表情なその眉間に皺を寄せた。
無論、目の前の少年、レンの宣言に対してだ。

「・・・・・・・・そのために、複合体の生成を?」

「アハッ、やっぱ分かっちゃった?」

シノは半透明の繭のような装置に目をやる。

複合体の生成。複数の魂を融合させ、一つの肉体に閉じ込める。
本来ならば、それはゾンビマスターとして、決して行ってはいけない儀式。

「ゾンビマスターは、本来死ぬべきではなかった迷える魂を慰め、仮初の肉体に移し、正しい死へと導く者」

「そうだな。それが本来のあるべきゾンビマスターだな。・・・お前らの中ではな」

レンはシノの顔を見て笑う。シノはレンの顔を見て睨む。
両者の間で緊張が走る。しかし、数刻後にそれは破壊される。

>「おい!お前たち!」

>「げ」

>「ここで何をしている!!」

背後からライトと複数の声。聞き覚えのある声に振り向く。

「ジョリーさん!ミーティオさん!?」

イレギュラーの登場にシノは目を見開き驚く。
部屋で待っているはずの二人がこの場にいるのだから、驚くのは当たり前だ。
レンは数々のイレギュラーに別に驚くわけでもなく、ただ視線が無心に人間達を射抜く。

「・・・・・・ちょーっと予定狂っちゃったけど、まあいっか」


言い終わらないうちに、警備員が血飛沫を飛び散らせ、仰向けに倒れた。

「・・・・・・・・・え?」

断末魔を上げる暇もなく、警備員は絶命していた。
白目を剥き、舌をダラリとだらしなく垂らし、臓物を飛び散らしながら確かに息絶えている。
レンへと視線を戻すが、彼が一歩でも動いた形跡はない。

「他にもゾンビマスターがいたのは計算外だったけどさ」


「どうせ何も出来ないから、問題ないよね?」
33シノ ◆ABS9imI7N. :2010/09/23(木) 22:26:15 0
「あ”ぁあっ・・・・・・!!」

その言葉が死刑宣告だと気づかされたのは、レンの蹴りで吹っ飛ばされた直後だった。

シノの体は枯葉のように吹き飛び、壁に叩きつけられる。
全身から来る痛みに、シノはいとも容易く崩れ落ちる。
動けない。もしかしたら、どこかの骨を折られたかもしれない。

「何だ、弱っちいゾンビマスターだな」

足音が近づく。
レンの足がシノの胸部に乗せられ、メキミキと嫌な音を立てて踏み込まれていく。

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

「んー、良い声だ・・・・・・ずっと聞いていたいよ」

呼吸が出来ない。このままでは、肋骨ごと心臓を踏み潰されてしまう。
心臓をやられればお終いだ。また、死んでしまう。


「あ・・・・・・ぐぅうっ・・・・・・・・・!」

「あはははははっ!それ抵抗してるつもり?まるでミノムシみたい!」

とにかく足を払いのけようと、体を捩って抵抗する。
しかしレンの言葉通り、空しく虚を切るばかり。抵抗のての字も見当たらない。
蹴飛ばされ、今度はうつ伏せて全体重を背中にかけられる。

ミシミシ、ベキビキ。体が悲鳴をあげる。


「そんなボロッちぃ人形大事そうに抱えちゃってさ、バカじゃねーの?」

「あっははははははははははははは!!」と高らかに笑うレン。
その目にはただ、狂気しかない。


「(だめ、・・・・・・このままじゃ、本当に、しn・・・・・・・・・)」







【女の子を虐めて笑ってるなんて流石じゃねえな】
【ああ、流石な俺らとはほど遠いな】


「(・・・・・・だ、れ?)」


【おいおい、流石な俺らを知らないなんてモグリだぜ、このロリ!】
【・・・死んでもなおそのテンション、ある意味流石だな】


「(みかた、なの・・・?)」


【そりゃ、怪我してる子を放っとけるわけないよ】
【味方云々以前によ・・・大丈夫か?死ぬんじゃね?】


「(・・・・・・ちからを、かしてくれる?)」


【いや、貸してやりたいのは山々だけどよ?】
【俺達ゃもう死んでるんだぜ?何が出来る?】


「(・・・出来るよ。出来ないことなんて何もない。意思があれば何だって出来るよ)」


【おー、いっちょ前に良い事言うな、このロリ!】
【お前の一言で全部台無しだけどな】
【流石だよな俺ら!】
【ええ!?俺も入ってんの!?】


「(・・・・・・・・・・・・・・・ふふっ、変な人達・・・)」


【・・・・・で、お嬢さん】
【俺達は何をすればいい?】



35シノ ◆ABS9imI7N. :2010/09/23(木) 22:31:11 0
「うーん、そろそろ飽きてきたし、あの世に送ってやるよ」

「もうすぐ複合体も完成するし」、と付け加え、背中に腕をつっこんだ。
ニュルリ、と取り出されたのは、明らかにレンの身長を超えるサイズの鎌。

「心配しなくても、後であの人間達も一緒に送ってやるからさ。寂しくないね!」

切っ先をシノの首にあてがい、ニヤニヤと邪にまみれた笑みで見下ろす。
人の生死を支配するこの一瞬、その高揚した優越感が、ほんの一瞬の隙を生んだ。

「・・・≪汝、我と契約せし、彷徨える異なる二つの魂よ≫」

「あ?何ブツブツ言ってんだよ。遺言なら僕が適当に――・・・・・・?」


「≪今こそ一つになりて、新しき躯に宿れ≫」

刹那、目映い光がシノの体・・・正しくは、シノの胸元を明るく照らし出す。
蒼と碧が入り混じったその輝きは、巻き起こる風になびく首飾りから発せられていた。

「な・・・!?お前、まさかイデアに・・・うぐっ!!」

レンはたまらず鎌を落とし、跳んでシノから距離をとる。
首飾りの先のイデア。それが、今は蒼と碧の光に支配されている。
輝く首飾りは、吸い込まれるように光の尾を引いてぬいぐるみへと。
そして、首飾りを取りこんだぬいぐるみは・・・・・・・。

「あり得ない・・・人の屍ならまだしも、死体ですらないゾンビなんて聞いたこともない!!」

不格好なウサギのぬいぐるみのガラスの瞳の奥は、確かに生きたそれのもの。
右目のガラスは蒼、左目のガラスは碧にそれぞれ輝いている。
今やゾンビとなったウサギのぬいぐるみは動いて、鎌を拾い上げた。
自分より何倍もの大きさと重さを持つその鎌を、まるで棒きれのように振り回して。

『あり得ないだなんて、笑わせるぜ』
『流石な俺達に、不可能なんてないのさ!』

――――――――――――――――パリン!

「何・・・!?」

何かが砕けた音。
度重なるアクシデントに焦りきっていたレンは振り向き、濁りきった目を見開く。

「ふ、複合体が!」

繭のようなそれが、砕け散っていた。
ドロリと肉塊のスープが異臭を放ち、ジュウジュウと音を立てて蒸発していく。
複合体の生成に、失敗したのだ。

「クッ・・・・・・・ソがああああああああああああああ!!」

狂った征服者が、怒りに咆哮する。

『来いよ、クソガキ』
『流石な俺達に勝てるかな?』

その言葉に激情し、憎悪を剥き出しに新たな鎌を取り出すと、ぬいぐるみに向かって突進する。
鋭い切っ先を、ひと思いに振り下ろしかけ・・・。
36シノ ◆ABS9imI7N. :2010/09/23(木) 22:33:56 0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・止まった。

「・・・・・・?」

構えていたぬいぐるみとシノは疑問に思う。
自分達は殺したいほど憎い相手だろうに、何故攻撃を止めたのか。


・・・・・・・・・・グジュリ、グジュリ。

レンの背後から聞こえる不快な音。
蠢いている。蒸発しながら、肉塊が蠢いて、人の形を形成している。
そしてそれは一人の男になった。グズグズのドロドロだが、それは確かに男だ。
憎しみと怒りと無念で構成された、ゾンビの誕生だった。

「は、ははははは・・・やった!成功だ!!」

レンは喜びにうち震える。
もうシノ達のことは眼中にない。彼の願望の第一歩は達成されたのだ。

「よーしよしよし・・・・・・良い子だ・・・そう、良い子」

ゾンビは、例えるなら赤子だ。フラフラと頼りない歩みでレンに近づく。
レンは頭を垂れたゾンビを撫でる。レンの手は表面の粘液にまみれる。

「もうここに用はない。お前らを始末して、次の段階へと登らせてもらうよ・・・行けっ、『アラウミ』!!」

レンが手を振ると、『アラウミ』は目にも止まらぬ速さで襲ってきた。
ぬいぐるみもシノも間一髪で避けたから良かったものの、壁に特大の穴が出来ていた。

『ム、ムチャクチャだぜ・・・!』
『これムチャクチャって言葉で済ませちゃっていいの!?』

ぬいぐるみが一人漫才する。一つの体に二つの魂が入っているのだから仕方ないが。

しかし、攻撃はこれで終わらなかった。
アラウミが標的を変えたのだ。

攻撃の先が、ジョリーとミーティオに変わった。

「逃げてーーーーーーーー!!」

シノがあらん限りの声を振り絞って叫ぶ。しかし、一歩遅かった。

アラウミの巨大な右腕が、ジョリー達に振り下ろされた!


【不非兄弟:復活、二人の魂はぬいぐるみの中
 荒海銅ニ:復活、『複合体ゾンビ』となってジョリーとミーティオに攻撃開始】
37Interceptor ◆Xg2aaHVL9w :2010/09/24(金) 01:26:45 0
【緩慢に終わりゆく世界で】

人生の物語とは数珠繋ぎの短編集のようなものだ。
短いスパンで無数の出来事があり、時間の経過で始まり、終わる。
それは食事、通勤、入浴のような行動だったり、あるいは一日や一週間といった期間だったり。

ヒトに限らず遍く全ての生物の生の始終とは、ぶつ切りのシークエンスが連続して形作られる。
そして全ては平行ゆえに、今ある出来事の終わりを迎えながら次の出来事の始まりを見ることになる。

今、緩慢に終わりゆく世界で。

何かが終わり、
何かが始まっていた。

38タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/09/24(金) 01:29:44 0
【大人たちの濃密な夜 その2】

>「と言う訳で、如何ですか?お互いのニーズを満たす、決して損な取引ではないと思いますが」

タチバナは内心で諸手を挙げた。
とびっきりの情報源が向こうから近付いて来てくれたのだ。エビが鯛に変わった想いである。

さて、この世界との渡りをつけたことで、目下の問題は隣でワインをチビチビやってるハルニレとドルクスになる。
彼らの珍妙性を見るに、やはりこの世界の人間ではないのだろう。ドルクスに至っては異能力まで行使して見せた。
そして、

>「アンタヨォ、タチバナ、ダッケカ…………ドッカデ、会ワナカッタカ?」

この男。
半径3メートル以内に女性がいないと女人スメル欠乏症で命の危険があるタチバナにとって、
酒臭く、男臭く、胡散臭いこの囚人服の男性と密着するのは何より避けたかった。

「そうかい?生憎と僕は女性以外の顔と名前は削除して『ゴミ箱を空にする』を30回ぐらいクリックする系の人間だからね」

>「ンー…………」

「顔が近いよ囚人君。男と顔面の毛穴の数を数え合う趣味はないんだが、何か面白い顔ダニでもいるかな?
 ところで『面白い顔ダニ』というのは面白い顔をしたダニなのか面白顔面にのみ生息するレアなダニなのかどっちだろうね」

>「ヤッパリ、ドコカ……デ……?」

なにやら呟きながら、ハルニレは静かに目を閉じた。
四肢と五体は力を失い、ゆっくりとタチバナの胸へと傾いていく。

「囚人君……? なんだかとてつもないデジャビュを感じるよ囚人君、君は突然消えたりしないだろうn――」

>「ハルニレ!タチバナさん!ドルクスさん!あとメガネ!」

突如部屋に存在しないはずの女声が鋭く挙がった。
見ればハルニレの連れ合い、ジョリーがそこに居た。ドアを開けた形跡もなく、突如として現れた。

彼女が息を荒げながら説明するには、ゼルタが高熱を出してぶっ倒れたらしい。
そしてその容態は、最悪なことにハルニレのそれと同じだった。すなわち――必然性のある病。確実にイベントだ。
しかもシノがホテルを飛び出していったと言う。

>「とにかく、今すぐ二人の体を冷やして下さい!私はシノちゃんを追います!」

「把握したよジョリー君。僕らもこちらが片付き次第駆けつけよう」

投げられた携帯電話を受け取り、再び壁へと飛び込んでいくジョリーを見送る。

>「放出魔法‐エターナル・オーバーヒート‐!」

隣では早速ドルクスが二人の病人を寝かせ、自前の異能力で彼らを冷やし始めていた。
まさか病院の世話になるわけにもいかないので(保険証ないし)、タチバナも可能な限り適切な治療を模索する。
39タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/09/24(金) 01:31:22 0
(身体を物理的に冷やすのは貧相君がやってくれている……となれば僕はそもそもの原因を探るが吉か)

ハルニレもゼルタも、何の前触れもなく倒れた。

つまりこれは突発性の奇病か、あるいは潜伏型、蓄積型の病原が存在することになる。
突発性にしても原因となるような行動を見た覚えはない。少なくともゼルタとハルニレでは行動様式が全然違う。

(毒や菌など外的要因ならば僕らにも症状が見られるはず。そうでないならば、少なくとも突発性の線は外れるか)

となれば内的要因。特に蓄積した病原が閾値を超えると発病するタイプの公算が強い。
これは更に厄介だ。タチバナやドルクスとて『たまたま閾値が少しだけ高い』だけなのかもしれないのだ。
とどのつまり、閾値を超えればすぐにでも発病する畏れが――

「う……」

《たちばな?》

視界が揺れる。足元がフラつく。耳元で大音声が響くような、背筋に刃を当てられたような、根源的不快感。
たまらず膝をつく。ドルクスが何か叫ぶ。長多良は視界から外れて、何をやっているのかよくわからない。

「言った傍から、これとは……」

《たちばな!たちばな!からだが!!》

アクセルアクセスに促されて掌を見れば、床の模様が透けて見えていた。
身体が――スーツさえも、半透明になっている。この現象にも覚えがあった。仲間を一人、亡くしている。

「僕の方はこっちか……!」

奇病にも種類があるようだった。行動不能になるタイプと、――存在が消えていくタイプ。
ハルニレとゼルタは前者に選ばれ、丈之助とタチバナは後者の毒牙にかかった。

(消える、のか……僕はここで。彼のように、何も果たせぬまま、仲間の武運だけを願って)

ゆっくりと視界が閉じていく。

体中に力が入らなくなり、最早何も聞こえない。頬に付く絨毯の感触さえも、そこから消えていく。

埃の臭いがした。

(酷い皮肉だ。最後に残ったものが嗅覚だけとは。まるで僕が匂いフェチの変態みたいじゃあないか)

直感で分かった。
最後の一吸いだと。肺に呼気を取り込んで、意志を伝える声を出す最後のチャンスだと。

何を言おう。

何を残そう。

頑張って?負けるな?死ぬな?戦え?生きろ?消えるな?抗え?進め?前へ!前へ!前へ!


そして気付いた。

何故、嗅覚だけが残ったのか。
40タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/09/24(金) 01:32:38 0
それはある意味、最後の砦だったのだ。

『タチバナという人間性(キャラクター)を構成する、最も主要な要素』

匂いフェチという属性。

ゼルタ、ハルニレ、タチバナに共通するたった一つの項目。


――肺にはまだ、空気がある。

「――アクセルアクセス」


ありったけを込めて、言葉を放った。

「――『モード・ナイトメア』!!」


《まかせれ!!》


身に纏うスーツが煌き、その繊維の一つ一つがほどけていく。
分子組成レベルでの分解。微細な粒子となったスーツはやがて収束し、新たなる装束を再構成する。

胴体部分に厚みを集中させ、代わりに四肢パーツは完全にオミット。

素材そのものを柔軟性に富み滑らかで艶のある素材へ変換。胸部には所属名を示す文字列を刻んだ白の長方形。
全体の色調は染まるような深い蒼。腕は肩まで露出し、肩紐で固定されている。足もまた、付け根まで出ていた。

部屋に満ちていた光が終わる。

閃光の中から現れたのは、色のある身体を取り戻したタチバナだ。



スク水である。

どこからどう見ても、どの角度から俯瞰しても、どんなに贔屓目に見ても、それはまごう事無きスクール水着だった。
スク水を着用したおっさん(23)だった。ご丁寧に胸には『2−3 たちばな』と黒の油性ペンで書いてある。

「『ナイトメアクロス』――換装完了」

スク水姿のタチバナは、確かめるように手をグッパグッパさせている。
腱良し。骨良し。筋肉損傷無し。肉体的な痛みもオーケー。システムオールグリーン。
41タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/09/24(金) 01:33:52 0
「完治か……やはり僕の推論は正鵠を得ていたようだね。危険な賭けだったが、結果オーライならモウマンタイだ」

弁護しようのない変態姿で、タチバナはしたり顔で独り合点する。
と、ここで今起こった現象を解説せねばなるまい。

説明しよう!『モード・ナイトメア』とはアクセルアクセスの組成変換機能を無駄にフル稼働させた『お着替え』である!
タチバナは衣服をスーツ一着しか持っていない。組成変換の際に汗や埃は分離し、いつでも清潔な衣服を着用できるのだ。
そして当然就寝の際にはパジャマを着るのが彼の常である。ナイトメアクロスとは読んで字のごとく寝間着なのであった。

「この奇病の原因は――『ロールの放棄』そのものだ。この世界に呼ばれた者は皆が一定の『役割(ロール)』を持っている。
 例えば囚人君ならばその容貌から察するに『悪人』、ゼルタ君は『盗人』、僕ならば――認めたくないが『変態』のようにね」

極論に過ぎない上にタチバナの勝手な憶測なので、その『役割』が事実かどうかは定かではないが。

「さながら演者の如く、僕らはこの世界という舞台の上で各々の役を演じ果せることを求められているんだ。
 ――他でもない、この世界そのものにね。そしてそれを果たせなくなったとき、世界は僕らにペナルティを課す。
 強制送還か完全消滅かは分からないが、この世界から追放するという方法で。僕の仲間が一人、既に追い出された」

そして、丈之助と今奇病に苦しむ彼らとの共通項は一つ。たった一つ。

「『ロールを放棄していた』……囚人君は子供を編愛するが良識のある大人だったし、ゼルタ君は良き突っ込み役だ。
 消えた僕の仲間は珍妙な頭をした不良だったが人を助ける為に命を張り、僕は――ここ最近真面目に話を進めていた」

だから、着替えた。

世界に要求されたロール――『匂いフェチの変態』を執行する為に。
結果として五体を十全にここに保てているのだから、少なくともタチバナに降ってきた災難はこれで退けられたのだろう。

シノやドルクス、弓瑠や皐月が発病しなかったのは彼らが正しく己の本質に沿った行動に準じていた故か。
あるいは――

「とにもかくにも、囚人君とゼルタ君の治療が先だ。貧相君、ライター君、知恵を絞ってくれ。
 特に貧相君は囚人君と長く接していただろうから、彼のロールを割り出すのに必要な情報は足りているのではないかな」


結論は一つ。必要行動もまた、たった一つ。


「――彼らに『彼ら』を演じさせよう」



【謎の奇病をスク水で克服、その原因を推理】

【タチバナの推論:異世界人に課された世界からの『役割』を遂行しなかったペナルティなのではないか。
         であるならば無理やり役割を果たさせればいいんじゃね?】
42月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/09/24(金) 10:19:15 O

「オーイ、ウーサーギー。ウーサーギー」

「そんなに叩いたら壊れちゃうよ!」

真雪の隣で、飛峻はドアを壊しそうな勢いでガンガン叩く。
叩き始めた頃から真雪は制止してるのだが聞かない。聞こえてないのではなく、無視。
それにしても未来の中国ではインターホンは使わないのだろうか。いや使うか。

「あのね飛峻さんもう良いと思うんだ兔さんだって起きてるだろうしそんなに強く叩いたらドア開いた時に…あーもーいわんこっちゃない!」

「何やってるんですか?」

もうそろそろ本格的に止めなければと思った矢先、扉が開いた。
崩れ落ち悶絶する飛峻にため息一つ吐くと、真雪は兔に視線を移した。

「おはようございます。起こしに来てくれたんですね。ありがとうございます。
朝日は何か言ってました?」

「おはよーございます、兔さん。兔さんへは何も聞いて無いです。
ただ起こしてきてと言われただけ」

兔はやけに爽やかな笑顔だが、着ているのはジャージだ。他に着る物が無かったのだろうか。
ともかく、これで事務所に連れて行けばユーキャンでの初めての仕事は完了だ。

「ほら、いつまでやってるの飛峻さん。カッコ悪いよ」

飛峻に手を差し伸べながら、真雪はケラケラと笑う。
だってさっき、真雪に語り掛けてくれたときは、真雪を助けると誓ったときは、あんなに格好良かったのに。
恨めしそうに立ち上がる飛峻に、真雪は笑いながら肩に手を置く。

「私、止めたじゃない。だから、無視した飛峻さんの自業自得だと思うな。
ところで、もうそろそろ事務所に降りちゃおう?
一区切り付けるって事で!」


―――――――――――――
43月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/09/24(金) 10:20:37 O
―――――――――――――


事務所に向かう途中、真雪はワンピースのポケットから一枚の紙を取り出した。
丁寧に折り畳んだそれを広げ、読む。

『自分の中で、この世界の情勢が掴めない
方針が見えない
だから、しばらくは君達の目的に付き合おうと思う』

階段でも読んだが、やはり自分と共に居てくれる事に嬉しくなり、顔が緩んでしまうのだ。
そして、飛峻の言葉も、とても嬉しかった。

『――だから、やはり、マユキは俺の恩人ダ』

―――こんな自分を、二人は受け入れてくれるから。だから、真雪は自分の目的を再確認する。

(この能力に、確実に幸せに繋げるような決着を付けること)

やはり一人になるのは怖いし、見捨てられるのも怖い。
この先も、孤独に陥る可能性が無いわけはないけど。

(だからって、迷ってちゃダメだよね)

表情がコロコロ変わる真雪に、どうしたと声が掛かる。
何でも無いと答えて、メモを再びポケットにしまった。
そして、二人の背中を追い掛けた。


【真雪:超上機嫌。そして自らの目的再確認】
【最終目的:自分の能力を『穏便』に、日常が『改善』するような方法で消滅させること】
44久和 ◆KLeaErDHmGCM :2010/09/24(金) 12:46:15 O
テナードがどうしたと話し掛けてくる。
しかし話し掛けられた本人は何をそんなに心配そうにしているのかと首を傾げた。
彼は泣いている気はなかった、いや、自分が泣いていると気付いていなかったのである。

「テナード…」

言葉を発してようやく感じるほん少しの息苦しさ。
そのまま頬に手をやると水が流れていた。
ようやっと、ああ、俺は泣いているのかと自覚する。
自覚したのとほぼ同じ瞬間にテナードは彼の髪を乱暴に掻き回し、一言だけ伝えて出ていってしまった。

「…はあ」

テナードと話をしていたせいなのか不安感が薄れてくる。
とりあえずシャワーを浴びて出たら話をしよう、等と思考して誰にともなく頷く。
そしてふらふらとシャワールームへと足を進めた彼はふと気付く。

「……何であいつ、半裸だったんだ?」

少し考えた後に人の性癖に首を突っ込んじゃ駄目だ、とふるふると首を横に振る。

「きっと裸を誰かに見せ付けるのが好きなんだ」

そう失礼な事を呟きながら服を脱ぎ始める。
あ、と短く声を上げる。
服をあちらの部屋に忘れてしまった。
しかし彼はもう全裸である、シャワールームから離れるのも中々難しい。

「おーい!テナード!!」

そうして彼は服を持ってきてくれないかと叫ぶ事にしましたとさ。


【バスタオルで隠しもしない久和マジ漢】
45訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/09/24(金) 15:36:29 O
エレーナが琳樹の手を両手で包み話し出す。
狂羽はそれを忌々しげに見つめるのだが、琳樹の邪魔をするのもどうかと隅の方で羽を休める事にした。

「……ヒトになりたいものね」


呟かれた言葉に気付かずに琳樹は無言で彼女の話を聞く。
何故彼女は自分にこのような事を教えてくれるのだろうか、自らにも魔法が使える素質があるのだろうか、等と思考しながらである。

「(魔法、真言、恐らく理解は出来た筈)」

理解は出来たが実際にやらねば意味は無い。

>「目を閉じて。考えないで、感じるの。魔法は感情に強く反応するから」

「……」

言われた通りに目を閉じる。
思考を放棄する、何かを感じ取ろうとする。


目を瞑ってから何秒、否、何分経っただろうか?
彼は冷たく暗い何かが自らを包み込む感覚に陥る。
それは死をイメージさせる様である。

『※※を忘れたお前が何故此処に居るんだ、訛祢琳樹』

どこからともなく声が聞こえる。
そして彼は、こちらを憎々しげに睨む自分に似た男を見た。

『……※※が好きだと言った黒い髪も染めて、嗚呼、殺してやりたい』

―君が何を言っているかが分からない。


そうして彼は目を開け、

「何か、冷たくて暗kゴホッゲホッ」

噎せた。


【冷たく暗い自分自身、さてあの男は自分だったのだろうか】
46長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/09/25(土) 21:38:17 0
>「マ、俺ハ何ダッテ良イゼェ。俺達ガ不利ニナラネーッテ保証ガアルシヨォ」

意外に物分りがいい……と言うよりビジネスライクな思考が出来るようで何より。
そうとも、私は剣呑な言葉遣いを多分に披露しはしたが、行動で君達に敵意を示した覚えはない。
私にそうする理由がないからだ。私は彼らに利を齎し、彼らも私に利を齎す。利害の一致どころの騒ぎではないぞこれは。
我ながら素晴らしい交渉をした物だ。

>「良イゼ、長多良。要ハ手前ガ望ム”ネタ”トヤラヲ持ッテクリャ良インダロ?オ安イ御用ダ」

私は彼に笑顔を返してみせる。職業柄作り笑顔を操る事も多い私は、やはり今回も贋作の笑みを浮かべた。
だが私に言わせてみれば作り笑いの何が悪いと言うのだろうか。
要は笑顔など好意的な感情を相手に伝達する為の手段に過ぎない。
無表情に期待していると告げるよりも、笑顔を添えた方が効果的に決まっている。
……なんて事を良い笑顔の作り方と一緒にビジネス関連の雑誌に掲載してみようか。
笑顔や立ち振る舞いの指導を行うビジネスも最近ではあるくらいだ。
それを雑誌を書って暇な時に読むだけで簡易的に体験出来ると言うのは中々悪くないかもしれない。
どうせならその手の業者の宣伝も兼ねてみようか。上手くいけば儲け物だ。

>「無ケリャ作レバイインダシ」

「ふむ……まあそれでもいいですが、それでは独占記事が書けませんからね。凡庸な記事は書いても面白くない。
 あぁ後、やるのは勝手ですがブタ箱行きになっても私は白を切りますので悪しからず。
 あくまで私達はビジネスパートナーですからね。ロリコン野郎が幼稚園に侵入して捕まったとしても知った事ではありませんよ」

今回に限らず危ない橋を渡る時の為に実はこっそりと、
文明を含有しないICレコーダーを衣服に仕込んでいるのは秘密である。
音声記録と言うのは編集改ざんが容易いくせに人々が簡単に信じると言う優れものだ。
無論相手によっては先方も同じ手を使っていたりする為おいそれと細工は出来ない事もあるのだが。
どちらにせよ我が身を守る為にもカードは多い方がいい。

>「アンタヨォ、タチバナ、ダッケカ…………ドッカデ、会ワナカッタカ?」

そんな事を考えていると
とは言え、成る程これはこれでありかもしれない。別に山なし谷なしオチなしと言う意味でではない。
ただこの情景を写真に残しておけば後々……いや、やっぱり特に使い道は無さそうだ。
メモリ容量の凄まじい無駄遣いなので忍ばせていたデジタルカメラをケースに仕舞い、ポケットに戻す。
しかしあのロリコン野郎は一体全体何をしていると言うのだ。
正直言って彼らを仕事の対象即ち被写体として見なければこれ程気色の悪いものもない。
腐れロリコンと癌細胞無職が私の気分を害するとは何事か。
まあ渺渺たる大海原のように広い心を持った私は快く彼らを許してやるがね。

>「ハルニレ!タチバナさん!ドルクスさん!あとメガネ!」

「どうかしましたか? 蛆虫ビッチさん」

閑話休題。壁から飛び込んできたビッチ系ビッチに何やら不名誉な呼称を使われた為私も仕返しをしてみる。
目には目を歯には歯をとは何とも至言であるが……さて、このような安楽な思考をしている場合でもないらしい。
腐れロリコンとセーラー少女が高熱と共にダウンしていた。
まあそんな訳で我々には迅速な処置が求められる訳だ。
ひとまず疫病の類ではない。もしそうならば私は先程まで【逃走本能】を履いていたが為に彼らから遠ざかっていただろう。
なので少なくとも私の安全は保証される……ので、私は積極的にこの件に取り組む事が出来る。
そう、彼らの信頼を得ると言う観点からすると、これは好機だ。
もし助けられれば相手に貸しを作る事にもなる。うむ、俄然ヤル気が湧いてきたぞ。
何故だか人非人の三字熟語が私の脳裏をよぎったが気のせいだろう。

>「とにかく、今すぐ二人の体を冷やして下さい!私はシノちゃんを追います!」

何だ切迫している感が横溢していたわりに処置は普通なのか。
私はてっきり彼らを救う為に世界に一つしか存在しない文明を探す旅にでも出るものかと思っていたのだが。
冗談はさておき氷を取ってくるか。確か廊下には製氷機があった筈だな。
47長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/09/25(土) 21:39:31 0
>「でも、これじゃ氷とかで冷やしても意味なさそうッスね」

ファッキン貧相面が。私が差し当たって出来るであろう唯一の事を即刻否定するんじゃない。
そう言えばさっき魔法だか呪いだかがどうとか言っていたな。
魔法ね、便利なものではないか。どうせこの場も簡単に収めてくれるに違いあるまい。
これでは私の出る幕などと言うものは無さそうだ。

>「放出魔法‐エターナル・オーバーヒート‐!」

いや、そのネーミングセンスは正直言って無い。
何だねその中学二年生がノートに書いて数年後にふとした拍子で見直した際に悶絶しそうなネーミングは。
と言うか名前と現象から察するに熱を放出させる……まあ魔法なのだろうね。魔法と言っていたし。
こんな閉所でそんなものを使うとか頭湧いてるんじゃないのか。
実は一足早く熱病に頭がやられていたと言うオチかね。頼みの綱が実は、とはB級のウィルス感染系映画には付き物の展開だな。
なんて愚痴は一切零さず私は空調を起動し、ドアも開け……る事にした。
見られたらまずそうだがこのまま放置したらあの二人の前に私が蒸されて死ぬ。夜中だしそうは問題あるまい。

そうして次に私は備品のポットからお湯を捨て、代わりに水を汲む。
無論、あの二人にぶっかける為だ。
何だね貧相面君。何をしているとでも言いたそうじゃないか。

「手っ取り早く熱を下げたいなら水をかけてやればいいんですよ。
 水は気化の際に熱を奪いますからね。あと頭をよく冷やしてやる事です。
 その二人がヨダレ垂れ流して呻くだけのパーになってもいいなら知りませんが。
 それに発汗があるなら水分、そうでなくても発熱分のエネルギーも与えてやらなければ死にます。
 つまりはポカリ飲ませろと。冷蔵庫の中に一本か二本はあるでしょう。寝ぼけ眼の眠り姫にお使いを頼んでもいい」

さて、とは言えこれは当座凌ぎに過ぎない。
発熱の原因を知らなければ根本的解決には至らない。
しかし参った。もしもこれが異世界人特有の病とかであれば私にはお手上げなのだから。
折角手に入れたカードをこんな所で無闇に減らしたくはないものだが。
如何せん、私にも彼らに関する「情報」が足りない。

>「う……」
>「言った傍から、これとは……」

「……今夜はハプニングが千客万来ですね」

しかも熱病より性質が悪い。
タチバナとか言ったあの元ブリーフ現スーツ男が、徐々に徐々に透明化し始めている。
本格的にどうしたものか。このドルクスとやらは当てにならない。
お世辞にも頭が回る風貌はしていないし、そもそも魔法とやらを使うのに手一杯だろう。
現在進行形で死か消滅かに歩み寄られつつある三人は当然論外。
起こされた少女諸君はそもそも現状把握に至っているかさえ怪しく、頼りない。

……為すべき手が、無かった。

折角手に入れたカードを、こんな所でむざむざ失う訳にはいかないと言うのに。
言うなればポーカーをしていて五枚中四枚がジョーカーだったような。
そんな、通常では到底有り得ない幸運の象徴なのだ。

漸くだぞ。やっと奴に至る為のカードを手に入れたと言うのに……なんだこのザマは!

心の中で叫ぶも、打開策は思い浮かばない。
望みを失う。正しく失望の闇に私の視界は徐々に侵食されて。
……不意に、室内が光に満ちた。
眩い輝きに、私は腕で目を覆う事を禁じ得ない。
何だ?一体何が起こっている。
48長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/09/25(土) 21:41:48 0
ややあって、光が収まった。私が腕の暗幕を下ろし視界に収めたのは

>「『ナイトメアクロス』――換装完了」

……スク水だった。
スク水を着用したタチバナが、凛然と屹立している。

暫し、私の世界が硬直した。
今の私の心象風景を満たす極寒を現実世界に落し込む事が出来たのなら、
きっと熱病など瞬く間に殺してしまえる事だろう。

……とにかく、落ち着いてだ。事実を見ようではないか。
タチバナが消えかけた。正に彼が消失せんと言う時、光が満ちた。スク水がいた。
うむ、成る程。さっぱり分からん。
早急な説明を要求したい所だが、どうにもこの状況に付いて行けず言葉が発し得ない。

しかしまあ何やら自分から説明してくれるようなので、私はそれに耳を傾けるとしよう。
作劇的にはここで「い、一体何があったんだよ!? タチバナ!」とか
叫んでおくべきなのかもしれないが面倒臭い上にキャラでないので却下である。

「ちなみにスク水がどうの寝間着がどうのに関しても同様だ。
 私は台詞に無闇やたらとエクスクラメーションマークやクエッションマークを付ける性分ではないのでね。
 コメントは差し控えさせて頂くよ。ん?何を言っているか分からない?なに気にする事はないただの妄言だ」

ともあれ彼が言うには、彼らには世界に与えられた『ロール』。つまり役割があるらしい。
彼のそれは見ての通り『変態』。そして腐れロリコンとセーラー少女はそれぞれ『悪人』と『盗人』らしい。
彼らが彼らたるように仕向けてやれば、彼らは消滅を免れる、と。

>「――彼らに『彼ら』を演じさせよう」

ごもっとも。だが、

「……簡単に言いますが、それなりに至難の業ですよ。それは。見ての通り彼らは揃いも揃って人事不省。
 現状は言わば、薬を手に入れたが肝心の病人にそれを飲む力が残されていないと言う事です。さてこの場合」

この場から一気に退散してしまった緊張感を呼び戻す。
とは言ってみたものの、現状が理解出来ているなら解決は容易い。
空腹なら食事を取ればいい。眠いなら寝ればいい。薬が飲めないのなら、

「こう言うのが」

言葉と共に、私はセーラー少女の後頭を掴み、持ち上げる。
人の頭とは存外重い物だ。こんな脳みその足りなさそうな少女でも、それなりの重量がある。
カメラよりも重い物を持ちたくない私としては、こんな物をいつまでも持っていたくない所だ。
だから離した。

腐れロリコンの、顔面の上で。

「……お約束ですよね」

要は、口付けだ。接吻と言い換えてもいい。
安直にキスでもいいが、死にたくなる奴が続出しそうなのでこの表記は控えるべきだな。
とにかく、薬の飲み込めない主人公にヒロインが口移し。そして救われる主人公。
どうだね?お約束だろう?

「腐れロリコンは言うまでもなく犯罪的。セーラー少女の方は、ロリコンの唇を奪った」

まったく、完璧ではないか。
49長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/09/25(土) 21:42:30 0
「屁理屈?何とでも言えばいい。どうせ私の判断の成否を裁定するのはこの場にいる者ではありませんからね。
 そこの悍ましいスク水野郎が言うところの『世界』とやらですから。
 まぁ、これで駄目ならその二人に刃物でも持たせて誰かを刺させてやればいい。魔法だか、呪いだかを使えば簡単でしょう?」

殺人に、命を奪う。
悪人と盗人、どちらの条件も十二分に満たせているだろう。
一応、私が標的にされては困るので【逃走本能】を履いておこうか。

「……ふむ。しかし、それなりの効果はあったみたいですね」

室内に放出される熱気が、幾分弱まった。
顔色の方もそれなりに安定したように見える。
しかしこのまま全快へ向かうかは、分からない所だな。
私としてはさっさと、腐れロリコン以外の交渉の返事を聞いておきたいものなのだがね。
だがこの状況で切り出しては、流石に心証は良くあるまい。
タチバナはふざけた男だが、これで中々どうして……絆のようなものを重んじるようだしな。


(病状は長引かせたければお好きなように。全快でいいなら、そちらから交渉の返事を切り出して頂ければターンを無駄遣いしなくて済むかと)
50エレーナ ◇SQTq9qX7E2:2010/09/27(月) 17:43:02 O
>「何か、冷たくて暗kゴホッゲホッ」

彼は、琳樹さんは何かを感じ取ったようだ。
冷たくて暗い、のところまで言いかけて何故か噎せた。

「だ、大丈夫?」

背中を擦ってやると、幾らか気分が落ち着いたようだった。
冷たくて暗い…これだけでは何の系統の魔法が使えるのか判らない。
が、人間だし、初歩的な魔法を使うにはまだ少し情報が足りないけど十分だ。
それに、その何かを感じ取れただけでも、十二分に素質はあるということ。

「よーし、それじゃあ手を出して…片手だけでいいわ、掌を上に向けるの、そう」

そうして、私は違うペン…水性マーカーを呼び寄せて、琳樹さんの掌に陣を描く。

「くすぐったいでしょうけど我慢して」

この魔法陣は、まだ真言を手に入れてない琳樹さんの中の魔力の補助のようなもの。
私の魔力と琳樹さんの魔力を、魔方陣を介してシンクロさせる。
そして琳樹さんは初めて、真言を手に入れることができるのだ、と説明する。

「さっきの、その冷たくて暗い感覚を思い出して…最初に思い浮かんだ言葉を唱えるのよ」

描き終えて、私の手をそっと乗せる。
そして念じる。加減しつつ、琳樹さんの体の中の魔力を探し出す。

『無から始まり、全てに宿りし万物の大いなる力』

青白い光が、重ね合わせた手と手の隙間から漏れて溢れる。
魔法が発動しようとしている。これなら…琳樹さんは本当に素質があるのかもしれない。

『ささやき えいしょう いのり ねんじろ』

青白い光が、私たちを包んだ。

【MH5(魔法発動5秒前!)】
51 ◆YcMZFjdYX2 :2010/09/27(月) 20:03:30 0
世界は『神』によって創られた。世界に限らず存在するものは全て。
天も地も空も海も動物も植物も。勿論、人も。

ならば、その『神』を創ったのは誰だろう。


「『神』の証明は誰にも出来はしないのだよ、ハルニレ」


讃美歌を奏でながら、盲の神父は囁くように言う。
埃で薄汚くなった白い壁にかけられたイエス像の視線が痛い。


「ソレハ、不信心ト受ケ取ッテイイノカ?」

「『神』を知ることは『宇宙』を知る、ということだ、分かるかい?」


ピアノの鍵盤の上で行われていた指のダンスは唐突に終わりを告げた。
最後の音色が尾を引き、教会内に一際大きく反響する。
音色の残響が消えた頃、またも神父が語りかける。


「よくお聞き、『私』の可愛いハルニレ。『神』はこの世界であり、そして宇宙だ。」


神父の膝の上で頭を撫でる手になすがままにされ、静かに話に聞き入る。
彼の手は大きく白くごつく、とても温かくて心地良い。


「『神』は広く深くそして変わることのない慈愛で満ちている。
 それは即ち『世界』そして『宇宙』だ。それらは私達の中に存在するのだよ」

「…ヨク分カンネーケド、要スルニ知ロウトスルダケ野暮、ッテーコトカ?」

神父は何も言わず、ただ困ったような笑顔で頭を撫でるだけ。


「分からなくてもいい。分かろうとすることが大事なんだよ」







                             そ し て せ か い は し ゅ に そ ま る 。






52ジョリー&ミーティオ ◆YcMZFjdYX2 :2010/09/27(月) 20:04:18 0
「………………え」

何もかもが突然。
ジョリー達の眼の前で、驚きと怒りを混ぜた表情のまま、警備員が大量の血を流して絶命した。
血が降りかかる。血に染まる。


赤赤赤赤赤赤赤赤紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅あかあかあかあかあかアカアカアカアカアカアカアk
血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血


「キ……ィヤァァアーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

大量に血を被り、パニックを引き起こしたジョリーが絶叫する。
同じく混乱したミーティオ、しかしすぐ我に返りジョリーの手を引いて身を隠す。

「(何だ……アイツ何をした!?)」

分かっているのは、警備員が死んだことと、あの少年が警備員を殺した。
そして少年が敵だということ。分かっているのはそれだけだ。

「(文明か?それとも、あのガキも異世界人か?)」

物陰に隠れている今、少年とシノが何をしているかまでは分からない。
顔を出せばあの警備員のように頭を吹っ飛ばされる可能性がある。迂闊に行動を起こせない。

「!?」

破壊音。咄嗟に音のした方を見ると、シノが少年から攻撃を受けていた。
これはマズいんじゃないのか。いや確実にマズい。

「(ジョリー、おい、ジョリー!)」

せめてタチバナ達にこの事を知らせなければ。助けが必要だ。
だが唯一の連絡手段のジョリーは現在パニック→気絶している。
これでは助けを呼ぶことも出来ない。まさに窮地だ。

「(あのガキの隙をついて…せめて注意を逸らすことが出来れば…!)」

何かないかと、気をひきそうな物を見つけるべく見回す。


「(そういえばあの『赤いの』……ありゃ何だ?)」

少年のすぐ傍にある、この世界の物とは到底思えないような奇妙な装置(?)。
ガラス製のようにも見えるあの装置を自分の『重力操作』で破壊することが出来れば…?

「(賭けるしかない!)」

鉄パイプで狙いを定める。少年はミーティオ達に気づいていない。今しかない。

「行けッ!」
53ジョリー&ミーティオ ◆YcMZFjdYX2 :2010/09/27(月) 20:06:11 0
シノの首飾りが輝くと同時に、弧を描いた鉄パイプが、装置を破壊した。
表現しがたい悪臭がホール中に広がる。肉塊が装置からドロドロと流れ出る。
狙い通り、少年は注意を逸らした。
ミーティオが壊したとは夢にも思わず、ひとりでに壊れたと勘違いしていることだろう。

「(あの光のお陰、ってのもあるかな。全く、ラッキーだったぜ)」

「……な、何、この光?」

「ジョリー!」

光の眩しさに、ジョリーが目を覚ました。
何が起こっているのかサッパリだと言いたげだ。だがその方が良かったのかもしれない。

「そ、そうよミーティオ!警備員さんの血がドブシャーって、それで私…」

「落ち着けジョリー、今のうちにタチバナ達に連絡を……」

>「逃げてーーーーーーーー!!」

「え?」

死が、目の前から降ってきた。


「≪透明少女≫!!」

瞬時に、ミーティオの腕を掴み≪透明少女≫を発動させる。
化け物の右腕はジョリー達をすり抜け、床を陥没させるだけに終わった。
攻撃が当たらなかったことに困惑する化け物。少年も驚いている。

「(ジョリー、アタシがアイツの相手をする!その間にタチバナ達に連絡を!)」

「(分かった!)」

ジョリーは再び物陰に隠れ、ミーティオがシノ達へと駆け寄り化け物の前に姿を見せる。
タチバナ達が来てくれれば何とかなる筈。ミーティオはそう踏んだのだ。

「オラ、来いよデカブツ!」
54ジョリー&ミーティオ ◆YcMZFjdYX2 :2010/09/27(月) 20:07:17 0
PLLLLLLLLL、PLLLLLLLLLLLLL。

「…もしもし、タチバナさん!シノちゃんもミーティオもいます、それで…」

ジョリーは化け物と少年の死角に隠れ、タチバナ達に今の状況を伝えている。
これでいい。後は自分が彼らの注意を引きつけていればいいのだ。
ところでどうしてだろうか、ミーティオはこの化け物に既視感を覚えていた。

「(あのガキ、コイツの事アラウミって呼んでたような……いや、そんは筈は…!?)」

化け物の攻撃をかわしつつも、己の考えに冷や汗が頬を伝う。
その時だった。突如化け物が体の向きを変え、猛然と走り出した。

嫌な予感とは、どうしてこうも的中してしまうのか。

「とにかく、私たち化け物に襲われてるんです!だから早く助k……」

「逃げろジョリー!!」

鋭い叫び声を上げるも虚しく、ジョリーの体はいとも容易く吹っ飛ばされた。
ジョリーはシノ達の方に飛ばされ、携帯電話がミーティオの足元に転がってきた。
ミーティオは勿論、携帯電話の出方を知らない。
だからそれを掴み、あらん限りの大声で、電話の向こうのタチバナに呼びかけた。

「昼間の黒くてデカイ建物だ!10Fってところの景色がよく見えるところにいる!!すぐに来てくれ!!」

電源の切り方も知らないので、それを握ったまま片手で鉄パイプを振るう。

「タチバナ達が来るまでの辛抱だ!シノ、ぬいぐるみ、構えろ!」

【ハルニレ:未だに気絶中。朝まで起きないかもしれない
 ジョリー:アラウミに吹っ飛ばされて気絶
 ミーティオ:アラウミ相手に戦闘態勢】
携帯電話:電源を切ってないのでずっと通話状態】
55李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/09/28(火) 01:04:39 0
『拳闘』。
握り固めた拳を唯一の武器とし真正面から殴り合う。
古くは古代ギリシアの時代から。否、おそらく人類発生のその時より編み出された闘技方法だろう。

時代を経て拳闘はボクシングと呼び名を変え、唯一無二の武器は比類なき必倒の技術へと昇華する。

それは極限の速度で繰り出されるリードブローであり。
視界の外から奇襲するフックであり。
一撃で脳を揺らし意識を刈り取るアッパーであり。
針の穴をも通すほどの精妙さで突き出されるストレートなのだ。

そしてその中に燦然と存在する一つの術理。
洋の東西を問わず武術、格闘技であれば一度は口にするだろう理想形。
即ち一撃必殺。

その代名詞とも言えるカウンターである。
攻撃に攻撃を被せ、自身は無傷のままに、相手には痛烈な一打を浴びせることを可能とする。
相対者の攻撃速度をこちらの打撃力に上乗せできる。からでは無い。
攻撃に集中しているからこそ、被弾の際に防御反応を取ることが適わない。

意識の外、攻撃時ゆえの無防備な状態に飛来するからこその一撃必殺――



「オオおおおおおおおおおおおおおおオォ!手首が残念なコトニ!?」

(――それがこれか!!)

真雪の静止も構わずに兔宅の入り口をノックし続けた結果。
飛峻は苦悶の声をあげ、地べたに這い蹲っていた。
ドアを叩くべく振り降ろした腕が、丁度勢いに乗ったところで逆襲を喰らったのである。

まさに意識の埒外から襲い掛かった必罰の一打であった。

「何やってるんですか?」

冷ややかな兔の声と、それに混じる真雪の溜息。
言い訳の一つも述べたいところだが、冷静に鑑みたところで非がこちらにあるのは明白。
ゆえに飛峻は腕に走る痛みを許容する他ないのだった。

「ほら、いつまでやってるの飛峻さん。カッコ悪いよ」

「ム……ウ」

差し出された手を取りのろのろと立ち上がる。
黒のジャージの上下に身を包んだ兔の視線が冷たいのは気のせいではあるまい。
ただ、先程まで酷く落ち込んでた真雪が破顔しているのがせめてもの救いだろうか。

「私、止めたじゃない。だから、無視した飛峻さんの自業自得だと思うな。
ところで、もうそろそろ事務所に降りちゃおう?
一区切り付けるって事で!」

「……ソウダナ。次からはモウ少し手加減するとしよウ」

結局のところ、さして反省しているようには見えない飛峻であった。
56李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/09/28(火) 01:05:24 0
「スマン、待たせたナ」

朝日の待つ部屋の扉を開け、声をかける。
しかし部屋の主たる朝日の姿は無い。

代わりにあるのは、というか元々居たのだが、PCのディスプレイを睨みながら黙々とタイプする尾張の姿。
こちらはこちらで妙に真剣な顔をしてると思いきや、ときおり渋面になるので声をかけづらい。

(そうか、出掛けに来客があったんだったな)

今月分の資金を配達に来た男。
寡頭といっただろうか。
おそらくはその相手をしているのだろう。

(となると……今が好機か)

盗聴器の類が無いとも限らないが当の本人は接客中。
わざわざ資金を持ってきてくれた相手をほっぽってまで止めには来まい。

「ソウ言えばウサギ……イエ、ウサギさん」

何となくまだこちらに向けられる視線に険があるように感じるのは気のせいだろうか。

「アー、俺が連れてきた少女。ソウ、失神してた娘ダ――」

本来ならここに戻って来る前に聞いておくべきだったのだろうが、色々あったせいで聞きそびれていた。
BKビルで飛峻に勝負を挑んできた少女。
朝日は逃げたと言った三浦の娘。

「――大人しくさせるためとは言エ、少々手荒だったのも否めナイ。彼女は無事カ?」

出来るだけ申し訳なさを前面に押し出し、飛峻は兔に少女の安否を尋ねた。



【朝日の居ぬ間にウサギにカマかけ】
57テナード ◇IPF5a04tCk:2010/09/28(火) 16:44:27 0
「って、誰が露出狂だ!!……ックシ!」

『ふぇ!?』

「あ、いや、なんでもない。とにかく、朝飯頼んだぞ」

はあ……、と困惑交じりの八重子の返事を確認し、電話を切る。
久和は既にシャワールームだ。因みにテナードはまだ服を着ていなかった。
しかしこのままでは流石のテナードも風邪を引いてしまうので、渡された団服に袖を通す。

「(サイズがあまりにもピッタリなのがちぃーっと気持ち悪いが…まあいっか)」

軍服のデザインを少し変えたようなデザインの赤い団服。
個人的に派手な色はあまり好きでなかったりするが、文句は言うまい。

「……? これって久和の、だよな?」

テーブルの上に置かれた紙袋。
未開封なので、おそらくは推測どおり久和のものだろう。

「まさかアイツ忘れてるんじゃ」

>「おーい!テナード!!」

噂をすれば、だ。案外俺らって似たもの同士だな、と苦笑交じりに溜息ひとつ。
今行くと返事し、紙袋を掴んでシャワールームへ。



「せめてバスタオルを巻けバカヤロォー!!!」

その怒声と共に顔を真っ赤にしたテナードがシャワールームのドアを盛大に閉めたのは、その5秒後の事だった。
58テナード ◇IPF5a04tCk:2010/09/28(火) 16:46:47 0
「ったく……アイツには恥とかそういうのは無いのかよ……!」

シャワールームのドアにズルズルともたれかかるようにして座り込む。
なるべく久和を見ないようにして紙袋を渡す事に精神を使ったせいか、朝から疲れた。主に恥とかその他。
例え男(?)だと分かっていても、容姿のせいか時々勘違いしてしまいそうになる。
いや、同性でも全裸はまずいだろうと再びセルフツッコミをいれ、さっきとはまた違う溜息を吐いた。

「あれれー、疲れてる?」

「ああ、朝からこんなに精神使うとは思ってなかったからな…」

「ふーん、ところで猫頭って聞いたけどその割に人間っぽいね、顔」

「ああ、それはあくまで俺っていう人間がベースになってるからな………………って誰だテメェ!?」

「いやいやいや!気づくの遅くない!?」

何時からいたのか、テナードの目の前に一人の少女が仁王立ちしていた。
ピンクの髪を短いサイドテールでくくり、色は違うがテナード達と同じ、水色の団服を着ている。
クリクリとしたアーモンドアイ、あのシエルとやらと張り合えるレベルの身長の低さと巨乳。

結論:誰だコイツ。

「初めまして、猫さん達のお世話係に任命されますタ、ミツキって言いまス!よろしこー!」

「あ、ああ。テナードだ、よろしく」

無駄にテンションの高い少女、ミツキと挨拶の握手を交わす。
こんなに幼い(?)子も働いてるのか、と改めてこの組織の巨大さに感心する。

「で、何の用でここに?」

「朝食を運びに来たんデス!もう配膳し終えてますから。それじャ、アチシはこれにて失礼!」

「え、ちょま」

テナードが呼び止める間もなく、少女はドアを開けた。
シャワールームのドアを、だ。

「おっト、入浴中に失礼。それでハ〜♪」

シャワー中の久和にも律儀に挨拶すると、ミツキは青い光と共に鏡の中へと吸い込まれるように消えていった。

「………何だったんだ、今の」

テナードの小さな呟きが、シャワールームに木霊した。
59C・G・八重子 ◇IPF5a04tCk:2010/09/28(火) 16:51:00 0

「あら、遅かったわねG」

未だ目覚めない竹内萌芽の病室に、巨人のような男、Gが入室する。
そこには、八重子やCといったチャレンジのメンバーが全員揃っていた。

「……道に迷ったんでな」

「よく言うわよ。文明があれば一発でしょ」

「……余り、使いたくないんだ。疲れやすいから」

あっそ、とGから目を逸らし、Cの視線は竹内萌芽へと注がれる。
心拍数も血圧も異常なし。だが、少年が目覚める気配は一向になかった。

「弱ったわね。彼にも働いてもらうつもりだったのに…動いてくれないんじゃ、話にならないわ」

舌打ち、目覚めない萌芽を睨みつける。こんなことで少年が起きないことは分かりきっていてもだ。

「仕方ないわね。特別集中医療室に運びましょう。G」

「ちっ…面倒臭ェ」

Gが文明を発動させると、青白い光に包まれ、竹内萌芽がベッドごと病室から消え失せた。
これで満足かといわんばかりにCに一瞥すると、彼もまた光に包まれて消えていった。

「わが息子ながら、相っ変わらず可愛くない子ね」

憤慨するCを、八重子は「まぁまぁ」と宥め、とりとめもない雑談に話をすりかえ、病室を後にする。
この数十分後に上司のQ幹部長が尋ねてくるとは、夢にも思わずに。


【ターン終了:朝ご飯キター!】
60ドルクス ◇SQTq9qX7E2:2010/09/28(火) 16:53:05 0
室温は30度を超えていた。
堪らないといったように、長多良さんがドアや窓を全て開放する。
そして今度はポットの湯を捨て、水を汲み始めた。
何する気だこの人。俺の感情が表に出たのか、快く解説してくれた。

>「手っ取り早く熱を下げたいなら水をかけてやればいいんですよ。
 水は気化の際に熱を奪いますからね。あと頭をよく冷やしてやる事です。
 その二人がヨダレ垂れ流して呻くだけのパーになってもいいなら知りませんが。
 それに発汗があるなら水分、そうでなくても発熱分のエネルギーも与えてやらなければ死にます。
 つまりはポカリ飲ませろと。冷蔵庫の中に一本か二本はあるでしょう。寝ぼけ眼の眠り姫にお使いを頼んでもいい」

やっぱりか。まずはそのぶっかけようとする手を止めrて下さいお願いします。
まず頭を冷やすべきはアンタだと突っ込んでやりたい。
病人に水ぶっかけるとかそれこそ殺す気かこの人。
一理あるけど思い切りがよすぎやしないか。

「皐月さん、弓瑠さん、悪いッスけどこの二人にコレ、飲ませてやってくれないッスかね?」

燕尾服の一部を鋭く伸ばし、冷蔵庫を開けてポカリを二つ取り出す。
俺は手が離せないので、彼女たちにやらせた方が良いだろう。


>「う……」

その現象は、何の前触れもなくタチバナさんに顕れた。
タチバナさんの表情に変化が現れたかと思うと、いきなり膝をついた。

「タチバナさん!」

もし体調が悪いなら治療してやりたいところだが、今は手が離せない。
何というバットタイミング、これはフラグ。

>「僕の方はこっちか……!」
>「……今夜はハプニングが千客万来ですね」
「き、消えてる………タチバナさん!!」

タチバナさんが、文字通り消えかけている。
しかし、突然人間が透明化するなんてことが有り得るのだろうか?
いいや、そんなことはない。必ず何かカラクリがある筈だ。

「ッ!?」

ゾワリ。
背中を駆け抜ける、覚えのある感覚。

自分しか捉えてないだろう――――殺気が……今、タチバナさんに向けられている。
そして同時に、魔法の気配も。
反射的に窓の方を振り向きかけた時、タチバナさんの声が轟いた。
61ドルクス ◇SQTq9qX7E2:2010/09/28(火) 16:53:50 0
>「――アクセルアクセス」
>「――『モード・ナイトメア』!!」

「わっ……!?」

タチバナさんを中心に光が溢れる。目が眩みそうだ。
少し間があって、光が収まったのを確認し目を開けると………。

>「『ナイトメアクロス』――換装完了」

所謂、スク水を着たタチバナさんが立っていた。
五体満足ではあるものの、その姿は間違いなく犯罪的だ。
これには俺も長多良さんも婦女子の方々も呆然とするしかなかった。
呆然とする俺たちを余所に、スクバナさん(スク水タチバナさん)が推論を語る。
長多良さんがメタ発言をしていたが無視した。ああいった類はツッコんだ方が負けだ。

>「――彼らに『彼ら』を演じさせよう」

奇病の原因、即ちロールの放棄。
確かに一理はある。あるけれども―――――――――……。


「(タチバナさんが消えかけた時、明らかに”故意的な消滅の願望・殺気”を感じた…!!)」


明らかに誰かが、『意図的にタチバナさんをこの世界から追放しようとした』。
間違いなく、あれは魔法だった。
ハルニレやゼルタさんはともかく、タチバナの場合、ハッキリと濃くその気配を感じ取ったのだ。

「(でも、それならば何のために?)」

この世界からタチバナを追放しようとした誰か。
その誰かにとって、タチバナは邪魔な存在…………?


>「……簡単に言いますが、それなりに至難の業ですよ。それは。見ての通り彼らは揃いも揃って人事不省。
 現状は言わば、薬を手に入れたが肝心の病人にそれを飲む力が残されていないと言う事です。さてこの場合」
「って、何してるんスか長多良さん!?」

思考中断。
長多良さんが、いきなりゼルタさんの頭を持ち上げたからだ。
彼の過去の行動を振り返ると、物凄く嫌な予感しかしない。

>「こう言うのが」
「まさか長多良さ、それは人徳的にアウt」
「>……お約束ですよね」

ゼルタさんの頭を、ハルニレの顔におt
62ドルクス ◇SQTq9qX7E2:2010/09/28(火) 16:56:08 0
「うわぁあああああやっちゃったぁぁあああああ!!」

やりやがった。コイツ本当に実行しやがった。
すげえドヤ顔が腹立つ。殴り飛ばしたい、そのドヤ顔をメガネごと殴り飛ばしてやりたい。
それと弓瑠さん、ゼルタさんは被害者ッスからその鋭利な刃物を仕舞うッス!
やるなら長多良さんに…前言撤回やっぱり駄目ッス。

>「……ふむ。しかし、それなりの効果はあったみたいですね」

いやふむ。じゃなくて。この人自分がやったことわかって言ってるんだろうか。
分かってなかったら言わないですよね。もうやだこの人。

一人深くため息をついたその時、軽快な電子音が鳴り響く。
タチバナさんの持ってるケータイからだ。
なにやら大変な状況になって……って今また凄く嫌な予感がするんスけど。

>「昼間の黒くてデカイ建物だ!10Fってところの景色がよく見えるところにいる!!すぐに来てくれ!!」

聞こえたのは、ミーティオさんの声。
開け放したバルコニーへの窓へと駆け寄る。
微弱だが、あの黒い建物から魔力を感じた。またも嫌な予感的中。

「漆黒の移動機関‐ブラック・サバス‐!!」

俺の燕尾服が解け、バルコニーに一匹の巨大な蝙蝠が出現する。
俺の身長の倍もある体を手すりに乗せ、キィキィと鳴く。
深夜であるのと、この蝙蝠は魔力のお陰で普通の人間には見ることができない。…そう、俺達以外には。

「コイツに乗っていけばひとッ飛びッス!ハルニレさん達は俺が看てるッスから、行ってきてください!」


【ドルクス:巨大蝙蝠ブラックサバスちゃんでBKビルまでひとっ飛び!デカイだけあって何人も乗れるッスよ!】
63訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/09/28(火) 17:09:52 O
最初に浮かんだ言葉を言え、と言われ彼は再び目を閉じた。
そして、青白い光に包まれていた彼はふと口を開く。

「其は汝が為の道標なり、我は唱歌を以て汝を供宴の贄と捧げよう」

詠唱、それが始まると同時に空気が冷たくなっていくのが分かる。
そうして言葉が終わると共にエレーナの真横を氷槍が飛んでいき、壁に突き刺さった。
それは琳樹よりも少しだけ大きく見える。

「 」

彼はきょとんとした表情でその槍の方を見る。
それもそうだろう、普通の人間である彼が魔法を使ったのだから。
それもそうだろう、詠唱といえども幾年も昔にやったゲームに出てくる言葉なのだから。

「えっ」

信じられないような目で槍とエレーナを交互に見る。
突き刺す敵も居やしない槍は、次第に消えていった。

「えっ」

確かに彼はゲームの世界に入れたらな、等と考える事はある。
あるがしかし本当にゲームのような非日常に出会うと思考が停止してしまうのも事実だ。
確かにこの異世界に来たという状況、それも非日常ではある。
だがそれは魔法のように顕著な物ではないのだ。
目に見えない非日常と目に見える非日常、どちらが印象深いかと言えば目に見える非日常だと、私は答えよう。

「なにこれこわい」

ポイントカードはお餅ですか?

「なにそれもこわい」


【訛祢琳樹:27歳で非童貞なのに魔法使えた件(129)】
64長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/09/28(火) 19:07:15 0
>「うわぁあああああやっちゃったぁぁあああああ!!」

先程から本当にやかましい男だな君は。良いから君はご自慢の魔法とやらに集中していればいいのだよ。
私が彼らに水を浴びせる事を頑なに阻止したり、そのくせこの緊急事態で如何にも童貞臭い事で騒ぎ立てて、煩わしいな。
そもそも高熱時に脳に障害を残さぬよう適切な処置に先んじて水を掛けるのは、必要な行為だ。身近な例を上げるならが熱中症か。
無論彼らが熱中症であるとは思えないが、見た所高熱以外には病状も無いようだしな。まあポットでぶっ掛けるのはちと常識外だがそれを言うなら彼らの高熱こそ、そうだろうに。
濡れタオルや霧吹き程度では字面通りの意味合いで焼け石に水だろう。騒ぐ暇があったら魔法とやらを一層気張ってもらいたいものだね。
或いはもっと適切な処置でも施す事だ。『悪人』と『盗人』を騒がず人道的にこなす術があると言うのならばだが。

そうとも、君の下らない童貞臭満載の人道的思考を排すれば彼らの病状など一息に吹き飛ばしてしまえるではないか。
一体何の為の大層な魔法なのだ。この部屋をサウナ代わりに利用する為かね?何とも贅沢な使い方だな。
すべき事がありそれに対して出来る事があるのにそうしないとは、怠慢に他ならない。幾らもっともらしい理由を用意しても、だ。
そのくせ人の行いには難癖を付けるか。……まあ構わんさ。精々綺麗な自分を保っているといい。それにいかほどの価値があるのか私には分からんがね。

おっとそんな事を考えていたらションベン臭いガキが何やら包丁を握っているではないか。
私かそっちのセーラー少女か、どちらを刺そうか……或いはどちらを先に刺そうか悩んでいるようだが。
ふふん、残念ながら私にはこの【逃走本能】がある。癇癪を起こしたクソガキの凶刃なんぞは生涯かけても私に届くまいよ。

>「昼間の黒くてデカイ建物だ!10Fってところの景色がよく見えるところにいる!!すぐに来てくれ!!」

と、ションベン臭いガキとじゃれ合っている内に何やら一大事が起こっているらしい。
まあ私は別に行く必要もあるまい。彼らとは単に交渉相手の関係であり、このロリコンとセーラー少女ならともかく
私が己の身を危険に晒してまで助けるような義理はない。

>「漆黒の移動機関‐ブラック・サバス‐!!」
>「コイツに乗っていけばひとッ飛びッス!ハルニレさん達は俺が看てるッスから、行ってきてください!」

と言うのにコイツは……魔法と言うのは頭が悪い奴の方が素質があるものなのか?

「あのですね……何で魔法だの呪いだのが使える貴方がここでお留守番なんですか。
 適材適所の意味は分かりますか?あぁそう言えば異世界人でしたね。これは失礼。特別に教えて差し上げましょうか。
 バトル要員はバトル要員らしく出払ってろって意味ですよ。あぁ、いえ、これはほんのサービスですから。情報料は無用ですのでご安心を」

言うだけ言って反論は聞かず、私はしこたま水に浸した濡れタオルを用意する。
水を引っ掛けるのはこの貧相面が煩いので、出て行くまでは我慢するとしよう。
……しかし若干とは言え熱は下がってきている。これならばずぶ濡れにしてやる必要もないかもしれない。
個人的にもしてやりたかったので甚く残念な事ではあるが。

「ま、別に「働きたくないのでタチバナさん一人にお任せしまッス」とか言うならそれはそれで構いませんけどね。
 とにかく私は彼女達の元へ行ったところで何が出来ると言う訳でもなし。ここで彼らの様子を見させてもらいますよ」

【割り込み失礼。まあ鉄火場に連れて行かれても致命的にやる事がないので。
 ドルクスとタチバナが出払って他が動かないなら、三日目まで放置】
65ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/09/30(木) 20:02:20 0

>「あのですね……何で魔法だの呪いだのが使える貴方がここでお留守番なんですか。
 適材適所の意味は分かりますか?あぁそう言えば異世界人でしたね。これは失礼。特別に教えて差し上げましょうか。
 バトル要員はバトル要員らしく出払ってろって意味ですよ。あぁ、いえ、これはほんのサービスですから。情報料は無用ですのでご安心を」

>「ま、別に「働きたくないのでタチバナさん一人にお任せしまッス」とか言うならそれはそれで構いませんけどね。
 とにかく私は彼女達の元へ行ったところで何が出来ると言う訳でもなし。ここで彼らの様子を見させてもらいますよ」

いきなり紡がれた、嫌味ったらしい長多良さんの言葉。
どうでもいいけどもう少しゆっくり喋ってほしいッス。
つか長い。

「…これはこれは、御親切にどうもッス。でも俺の言い分も聞いてほしいッスね」

つーか言葉から察するにお前も行きたくないんだろうが。
まあ見るからに戦いとは無縁ですってふいんき(何故かry)だし仕方ないか。
彼の言っていることは正論だし、俺の説明不足もあるんだから。

「魔法ってのは、アンタ等≪ニンゲン≫が思ってるより万能じゃないんスよ。
  長所があるなら短所もある。魔法はつまり≪俺たち≫、そして≪世界≫ッスから」

先ほど使った魔法もそう。
ハルニレ戦で使った硬化術も、硬質はせいぜいナイフと同レベル。
放出魔法も、周りに熱エネルギーが放出されて室内がサウナのようになってしまうという欠点がある。
精神魔法も長続きしないし、このブラックサバスだってそう。

「漆黒の移動機関‐ブラック・サバス‐は、顕現している間は俺は動けなくなるって弱点があるんス。
  それに、もし動けたとしても足手まといだと思うッスよ?もう余り体力も魔力も残ってないですし」

休めば大丈夫なんスけどね、と笑って誤魔化す。
本当はそれ以外にも理由はあるけれども、不安にさせるだけだろうから言わないでおく。

「それにね長多良さん、別にアンタまで行けとは言わないッスよ。見るからに戦えなさそうだし」

バルコニーの蝙蝠がキシシッと鳴き声のような音を上げる。笑っているようだ。

「サバスも、その気になれば戦えるッス。俺よか頭も良いですし」

ね、サバスと振り向くと、サバスも任せろと言わんばかりに胸(?)を張る。
よしよし、その意気だ。

「そんな訳で、まあタチバナさん。……幸運を祈ってるッス」

【長多良さんと同じく横割り失礼。上記の理由で、ドルクスにはお留守番させて下さいお願いします】
【その代わり、ブラックサバスちゃんは噛みつくなどの単純な行動だけですが戦闘できます。お好きに使ってください】
66タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/04(月) 01:25:28 0
【ディストレイションコール】


状況は火急を極める。
まだ底寒い五月の夜風を全身に受けながら、タチバナは跨る黒の疾風に鞭を追加した。

あの後――タチバナがスク水を着用して難を逃れ、ゼルタとハルニレにロールを見繕って峠を越えた頃。
タチバナの水着のポケット部分が小さく振動した。先刻ジョリーがタチバナへ放った携帯電話である。

>「…もしもし、タチバナさん!シノちゃんもミーティオもいます」

「ああ、見つかったかね。それは良かった。悪いがこちらも余談は許されないから帰りはタクシーでも拾って――ん?」

電話の向こうから聞こえてくるのはジョリーの焦りを含んだ声と、夜分に不相応な大雑音。
咆哮と、悲鳴と、打撃音と、破壊音。

「君達は一体どこで何を、」

>「それで……」

ジョリーの報告には続きがあった。
説明を掻い摘んで並べてみれば、どうやら彼女達は退っ引きならぬ事態に巻き込まれているようである。

>「とにかく、私たち化け物に襲われてるんです!だから早く助k……」
>「逃げろジョリー!!」

遠くにミーティオの声が聞こえたと思った瞬間、スピーカーが音割れした。
鼓膜を通して伝わってくる衝撃。受話器の向こうで何かが起こったことを如実に教えてくれる。

「ジョリー君?もしもし、応答し給えジョリー君……!」

>「昼間の黒くてデカイ建物だ!10Fってところの景色がよく見えるところにいる!!すぐに来てくれ!!」

タチバナの呼びかけに応えたのはミーティオだった。
電話の所持者が変わっていると言う状況。スピーカーが発し続ける背景の大音声。二つの符号が示すものは一つ。

《たちばな、》

「ああわかってる、アクセルアクセス。火急だね」

>「タチバナ達が来るまでの辛抱だ!シノ、ぬいぐるみ、構えろ!」

通話状態を保ったままの携帯から再びミーティオの声。
タチバナは再び水着の中に電源を切らずに仕舞い込むと、同じく電話越しに実情を把握したドルクスが動いた。

>「漆黒の移動機関‐ブラック・サバス‐!!」

ドルクスの服を組成源に、窓の外に発現したのは巨大な蝙蝠。
長身のタチバナでさえも丈で負ける体躯、長大な翼を持つこの生物は騎乗して空を飛べるらしい。
同行者を募ったが長多良は非バトル要員であることを理由に拒否。ドルクスは移動手段の作成でガス欠を引き起こしていた。

>「そんな訳で、まあタチバナさん。……幸運を祈ってるッス」

「把握した。ならば足を借りるよ貧相君。そしてライター君も、留守を頼んだ」

バルコニーへと出ると、ブラックサバスが乗れと言わんばかりに頭を垂れる。
その艶やかな体毛で覆われた背中に跨ると、鞍も鐙も手綱すらもないというのに不思議と身体に馴染んだ。
これなら高速で空を駆けても振り落とされたりしないだろう。
67タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/04(月) 01:26:52 0
「はいや!」

横腹に踵を打つと、馬でもないくせに高く嘶いてブラックサバスは翼を広げた。
なるほど頭の良い生物だ。そしてノリも良い。ついでに乗り心地も良かった。

ブラックサバスが手摺に載せていた足を離し、宵闇の中へその身を放る。
広げた翼膜にビルの間を吹き抜ける夜風を孕み、漆黒の移動機関は空に上った。
暗い蒼穹を横断する。月を背に街を見下ろす。まだ夜も半ば故に、一軒として明かりを持たない建物はない。

――昼間の事件で封鎖されたBKビルを除いて。

「あの暗い建物へ向かってくれ蝙蝠君」

キシッと短く返事のような応答をし、ブラックサバスは急降下した。
翼を傾け、空を滑るように駆け下りる。BKビル、下から数えて十段目の窓。展望スペースの巨大なガラスへ突撃する。

「ミーティオ君、応答せよミーティオ君」

『――ああ?タチバナか!あとどれくくらいかかりそうだ?っと、あぶねー!』

「三秒ぐらいかな。窓から離れていたまえ」

『はあ?ちょっと待てお前、どっから来るつもr――』

激突する。

「はっははーごめんください!」

展望窓を破壊し破砕し突き破り、フロア内へと滑り込んだ。
ガラスの嵐を伴って鉄火場へと闖入した男は、連れの蝙蝠を傍に従え、スク水のまま床へ立つ。

そこには蠢く肉塊がいて、それと対峙するシノとミーティオが居て、二つの刃の丁度真ん中にタチバナは立っていた。
ミーティオは携帯を耳に当てたまま固まっている。タチバナも握っていた携帯を口元に寄せ、言った。

「おハロー」

「突っ込みきれねえ!」

ミーティオはあっさりと突っ込み役を放棄した。やはり皐月がいなければな、とタチバナは頷いた。
敵性生物らしき肉塊は突如介入してきたイレギュラー要員を認識するのに時間をかけている。

「よ、よう……早かったじゃねーか、タチバナ」

「無論さ。出前迅速がタチバナ家の家訓だからね」

「凄え格好で出前するんだなお前ん家は。従業員の制服なのかそれ」

「ん?ああ、このスク水かい。はっは、面白い冗談だねミーティオ君。スク水が制服だなんてそんなわけないじゃないか」

「いや、スクール水着はれっきとした水泳授業用の制服だと思うが」

「ええっ、それはおどろ木ももの木さんしょの木だねミーティオ君。僕はずっとパジャマの一種だと思っていたよ」

「流石にその発想は斜め上過ぎるだろ!?」

「なんてことだ、23にもなって学校の制服なんてイメクラでも無理がある設定じゃないか。
 俄然この格好で深夜徘徊するのが恥ずかしくなってきたぞ……!」

「水着で徘徊することについては何の恥じらいもなかったのかよ!?」
68タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/04(月) 01:27:36 0
そして時は動き出す。タチバナの背後で硬直していた肉塊が、再び動きと害意を取り戻す。
振り上げた剛腕は爛れた肉をボタボタと床に落としながら、それでも余りある質量を破壊力に変える。

《たちばな!》

「後ろ見ろタチバナ!動き始めてるぞそいつ!!」

注意を喚起され、しかしタチバナは動かない。代わりに一言呟いた。

「――出番だ蝙蝠君」

空気を読んで傍で控えていたブラックサバスがその顎を振るう。
打ち下ろされる肉塊の腕、その付け根へと噛み付き、軟らかく湿った肉の中へ牙を埋め、首を回して抉るように骨を断ち切った。
宙へ放られた腕が空中で蒸発する。細かな肉片だけが床に染みを作り、タチバナを害す物は成果を為せぬままに消滅した。

「さて、それじゃミーティオ君、シノ君、ジョリー君、帰ろうか。ハルニレ君や皆が首を伸ばしながら待っているからね」

「――いや、駄目だタチバナ、『そいつは死なない』!」

ミーティオに襟首を掴まれ、思いっきり下へ引っ張られる。
思わず頭を下げたタチバナのすぐ頭上を、巨大質量の一閃が駆けた。裂かれた風がうなじを撫ぜる。

「なんと。確かに根元から喰いちぎられたはずだが……」

改めて肉塊に目を戻してみれば、切り離され、蒸発したはずの腕が再生し五体満足の状態に回帰していた。
手応えはあったはずのブラックサバスさえも状況が理解できずに混乱している。

「あたしが何度殴ってもすぐ治りやがるんだ。化物の後ろにガキがいる!そいつがこの肉の塊に命を与えてるみたいだ」

「ふむ、なるほど。よござんしょ、君の意見を全面的に信じ――帰宅と洒落込もうか」

「お、おい、こんな化物放っとくのかよ?」

「僕はあくまで助けに来たのであって戦いに来たわけじゃあないよ。正直な話、君達さえ無事なら後はどうだっていいんだ」

肉塊がもう片方の腕を振り上げ、二撃目が来る。
打ち下ろされた剛腕は風を孕み、直上直下にタチバナ達を打ち据える唐竹割りの軌道。

「――アクセルアクセス!」

床材の大理石が隆起し、ブラックサバスと背を並べる巨大さを持つ幼女の彫刻が顕現する。
振り下ろされる肉の腕に大理石の拳を合わせ、その密度と質量に任せた力任せの一撃で押し返した。

「ここは僕が食い止めるから、君はジョリー君を頼む。シノ君と共に蝙蝠君に乗り、飛び立つ過程で僕を拾ってくれ」

「わかった。無茶はすんなよ、んな格好で死んだら笑うに笑えねえからな」

ミーティオが踵を返すのを横目に見送りながら、タチバナは再び肉塊と相対する。

「さあ。肉塊君もその後ろで糸を引く君も、そろそろ空気を読みたまえ。鐘がなってもお友達を帰さない子は嫌われちゃうぞ」

アクセルアクセスの腕先から両手に一門づつのバルカン砲が顕現する。
床から組成した大理石製の弾丸を、これでもかとばかりに肉塊へと浴びせかけた。

「夜更かしする悪い子には――大人のお人形遊びでトラウマをテイクアウトだ」


【BKビルへ突入。撤収するために時間稼ぎとしてアラウミと交戦】
69シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/04(月) 11:19:06 O
「グルォォオオ───────────!!」

攻撃を受ける度、アラウミが吠える。
それはミーティオが何度も振るう鉄パイプの打撃。
それは双子の魂のこもったぬいぐるみが振るう拳。


「「あ゛あああああああああああああああ!!」」

シノもまた、レンが落とした鎌を手に、レンと戦闘を続けていた。
シノは肩で息をしながらも、威嚇するようにレンを睨む。
レンは跳んで距離を取ると、アラウミを盾にするかのように後ろへと回る。

「そろそろこの闘いも飽いたな。決着だ、シノ」

レンが鎌を上段に構えた。刈るは、シノの首のみ。

「くたば・・・・・・」

だがその刹那。

>「はあ?ちょっと待てお前、どっから来るつもr――」


【ガシャーーーーーーーン!!】


「・・・・・・は?/・・・・・・ほえ?」


世界が、氷結した。
この空気を表現するなら、まさにそれだろう。
ガラスが砕ける音を誘って転がりこんできた、新たな異物。
それは黒い蝙蝠に跨った、

>「おハロー」

>「突っ込みきれねえ!」

『『なら俺達が突っ込むぜ・・・誰だよこのスク水のオッサン!?』』

とても寒そうな恰好をしたタチバナ。

「な、なんだコイt「タチバナさん!?」

鎌を放り出し、シノはタチバナへと駆け寄る。見た目どうやら怪我はなさそうなので一安心。

「(これ・・・・・・まさかドルクスさん?)」

側で控える蝙蝠から、微かだがドルクスと魔力の「匂い」を感じ取った。
70シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/04(月) 11:21:12 O
「グルォォオオ───────────!!」

攻撃を受ける度、アラウミが吠える。
それはミーティオが何度も振るう鉄パイプの打撃。
それは双子の魂のこもったぬいぐるみが振るう拳。


「「あ゛あああああああああああああああ!!」」

シノもまた、レンが落とした鎌を手に、レンと戦闘を続けていた。
シノは肩で息をしながらも、威嚇するようにレンを睨む。
レンは跳んで距離を取ると、アラウミを盾にするかのように後ろへと回る。

「そろそろこの闘いも飽いたな。決着だ、シノ」

レンが鎌を上段に構えた。刈るは、シノの首のみ。

「くたば・・・・・・」

だがその刹那。

>「はあ?ちょっと待てお前、どっから来るつもr――」


【ガシャーーーーーーーン!!】


「・・・・・・は?/・・・・・・ほえ?」


世界が、氷結した。
この空気を表現するなら、まさにそれだろう。
ガラスが砕ける音を誘って転がりこんできた、新たな異物。
それは黒い蝙蝠に跨った、

>「おハロー」

>「突っ込みきれねえ!」

『『なら俺達が突っ込むぜ・・・誰だよこのスク水のオッサン!?』』

とても寒そうな恰好をしたタチバナ。

「な、なんだコイt「タチバナさん!?」

鎌を放り出し、シノはタチバナへと駆け寄る。見た目どうやら怪我はなさそうなので一安心というべきか。

「(これ・・・・・・まさかドルクスさん?)」

側で控える蝙蝠から、微かだがドルクスと魔力の「匂い」を感じ取った。
特筆しておくが、シノはタチバナのような匂いフェチでもなんでもない。
ヴァンパイアとゾンビの血を受け継いだからこその、生来の能力であることをここに記しておこう。


「ハ・・・・・ハハッ!何かと思えば処理すべき人間(ゴミクズ)が増えただけじゃないか!」

我に返ったレンが余裕の笑みをみせる。ただしその口元は引きつっている。
新たなイレギュラーの存在に、怯えを見せていた。

「アラウミ!その新しい金髪のバカもまとめて、皆ぶち殺しちまえ!」

アラウミも我に返り、巨大な右腕を振り上げた。
標的は無論────・・・・・・。

「タチバナさん、避け・・・」

「もう遅い、皆まとめてくたばれェ!」

アラウミの右腕が振り下ろされる瞬間、シノは反射的に目を瞑った。


>「――出番だ蝙蝠君」


グシャリ。
それはタチバナを潰す音か、はたまた。



「・・・な・・・ん・・・・・・!?

レンが焦ったような声を出す。
異様な空気と好奇心に負け、ゆっくりと目を開ける。

「グオルァァアアーーーーーーーーーーーー!!!」

右腕を失ったアラウミがまた吠える。
右腕が消失しゆく空中では、蝙蝠が誇らしげな表情を浮かべている。
彼(彼女?)がやったのか、と直ぐに判断出来た。

「こ、こいつ・・・・・・!!」

>「さて、それじゃミーティオ君、シノ君、ジョリー君、帰ろうか。ハルニレ君や皆が首を伸ばしながら待っているからね」
72シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/04(月) 11:27:54 O
しかし、レンの唇の端が上がるのを見、闘いの過程でアラウミを理解していたミーティオ達の判断は素晴らしいものだった。


>「――いや、駄目だタチバナ」

『『そいつは死なない』!」』


再び振り下ろされたアラウミの『右腕』。
ぬいぐるみはすかさず、頭を無理矢理引き下ろされたタチバナの肩を台に、拳を蹴りで弾き飛ばす。

>「なんと。確かに根元から喰いちぎられたはずだが……」

「残念だったね!複合体型ゾンビに弱点はないッ!!」

『千切り取った筈の右腕があるという事実』。これには流石のタチバナも驚いているようだった。
レンは馬鹿にするかのように、勝ち誇ったように笑う。
加えてミーティオ達の説明に対してタチバナが出した結論は『逃避』。

「アラウミと僕から逃げるだって?そんな事は僕が許可しない・・・やれ!」

>「──アクセルアクセス!」

アラウミの拳と、床から突然現れた幼女の拳がぶつかり合う。

「クソゴミの人間風情が・・・・・・・・・・・!!」

蝙蝠に続くタチバナの反撃に、レンは歯軋りする。
そんなレンをよそに、タチバナは背を向けたまま、ミーティオへと話しかける。
73シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/04(月) 11:30:17 O
>「ここは僕が食い止めるから、君はジョリー君を頼む。シノ君と共に蝙蝠君に乗り、飛び立つ過程で僕を拾ってくれ」

「止めてくださいタチバナさん!死んでしまいます!」

>「わかった。無茶はすんなよ、んな格好で死んだら笑うに笑えねえからな」

「ミーティオさんまで!タチバナさんが殺されてもいいんですか!?」

シノは怒りをこめてミーティオの腕を掴む。

『おいロリ、今はあのタチバナとやらに従っとけ』

「でも・・・・・・!」

すると、ぬいぐるみはシノが落とした鎌を構え直し、タチバナの隣に並ぶ。

『俺達だって戦える』

『君が力をくれたから』

『だから俺達は戦おう』

『『流石な“不非”の名にかけて!!』』

ぬいぐるみは、流石な双子はシノの言葉に従いそうにもなかった。
シノはぬいぐるみを見、タチバナを見、止めても無駄なのだと悟った。
蝙蝠へと乗るシノの背中に、レンは嘲笑を投げかけた。

「ハッ、ゾンビ一匹もまともに従わせられないとはね。よっぽどの落ちこぼれなんだろうn・・・」

言い終わらぬうちに、大理石の礫の雨がレンとアラウミに降り注がれる。


>「夜更かしする悪い子には――大人のお人形遊びでトラウマをテイクアウトだ」

不敵なタチバナの台詞が、展望台フロアに木霊した。

74シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/04(月) 11:34:54 O
「・・・お前、“精霊使い”だろ」

両腕のガードで大理石の礫を防ぎきったアラウミ。
その脇で、レンの視線がタチバナに向けられた。

「─あらゆる物質に宿る“精霊”を呼び出し、その力を使役する者─・・・
  文献で見た物とはちょっと型(タイプ)が違うみたいだけど、どう?当たりだろ?」

レンの視線は、タチバナからアクセルアクセスへと変わる。
その目の色は、『無関心と殺意』から『興味』へとすり替わっていた。

「すごいなー、精霊使いなんて500年も昔に滅んだ連中って聞いたけど・・・まさか生き残り?
  それとも派生した新たな精霊使いとか?いいなー研究したいなー・・・」

『な、なんだアイツ・・・攻撃してこないのか?』

『ワカンネ。もうこのタチバナさんっての差し出したらよくね?』

『流石希射、我が弟ながら鬼畜だな』

「キミ達にも興味はあるんだけどなー腸裂いて中身を是非研究したいよ」

『『ヒィイ!!』』

怯えるぬいぐるみを見てクスクス笑う。
レンは子供だが悪趣味だという事がよく分かる。
ポンポン、とレンがアラウミの膝を叩くと、アラウミは猪突猛突進でタチバナ達に襲いかかる。

『やっぱりバトルかよ!』

ぬいぐるみは素早く避け、空中に舞ったまま鎌をアラウミへと振り下ろす。
しかしアラウミが落ちてきた鎌の刃先を掴むと、その万力でへし折ってしまった。

『嘘ォ!?』

「これで鎌(ソレ)は使えないね」

にこやかな笑みを浮かべ、レンは跳ぶ。
タチバナの視界から失せたかと思えば、
超近距離でタチバナの顎を掴んでいた。

しかし驚くべきところは、少年は金髪の癖っ毛を残し、『タチバナと同じ位の背丈の青年へと変貌した』という事。


75シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/04(月) 11:37:32 O
しかし驚くべきところは、少年は金髪の癖っ毛を残し、『タチバナと同じ位の背丈の青年へと変貌した』という事。


「今日の所は見逃してあげるよ、精霊使いさん。君は研究し甲斐がありそうだ」

今度は、青年の視界からタチバナの姿が失せた。
再びガラスを突き破って、蝙蝠に跨ったシノ達に掴まれたタチバナが夜の闇へと消えていく。

「また、会えると良いんだけど」

完全に見えなくなるまで見送り、青年になったレンはアラウミの膝を撫でる。

「何だね君!これは君がやったのかね!?」

バタバタと駆けつけた警備員達に囲まれるレンとアラウミ。

「──きっと会えるよね」

うっとりとしたレンの声は、アラウミに握り潰される警備員達の断末魔にかき消された。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「あれは複合体型ゾンビ。決して死ぬ事を許されない可哀想な魂達の集合体です」

ホテルに戻り、手当てを受けた後に説明を請われ、シノはポツポツと話し出す。
己の事、BKビルであった事、そしてゾンビの事。

「本来ゾンビは、“死ぬべき時を迎えなかった”魂に仮初めの肉体を与え、残りの人生を過ごさせ、私達ゾンビマスターがケアしていく・・・それがあるべきスタイルです」

『アイツは違うっていうのか?』

「複合体型ゾンビは、1つの肉体に複数の“罪を重ねた”魂を無理矢理詰め込んで雁字搦めにし、不死の体を作り上げる。『戦わせる為に生み出されたゾンビ』なんです」

『つまり、ゾンビマスターがやっちゃいけない事、か』

76シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/04(月) 11:38:56 O

シノが頷き、また説明を続ける。
熱も下がりきり、穏やかな寝息を立てて眠り続けるゼルタに視線をやりながら。

「多分、ゼルタさんとハルニレさんは、複合体の生成の時に行われる『魂を集める』儀式・・・召魂(ショウコン)にやられたんだと思います。
  お二人共、『魂が剥き出し』の状態ですから・・・距離が離れ過ぎていたから複合体に取り込まれる事は無かったんだろうと思いますけど」

ロールの放棄による現象と、召魂のダブルパンチ。
長多良の処置と複合体の完成による召魂の終了のお陰で、今ゼルタとハルニレは無事でいられたという事。

「複合体型ゾンビが完成した今、レンはもっと沢山のゾンビを作る事でしょう。いずれはゾンビの軍隊を連れて、『世界制服』をするのでしょう」

ギリ、と握り拳を震わせる。
シノのポケットの塔のカードは、星のカードに変わっていた



「私はレンを止めます。この世界での修行のためにも──……昔の過ちを、再び犯さないためにも」


【シノの最終目標:レンの『世界制服』を食い止める  レンの最終目標:『世界制服』、それに伴い人間の殲滅】
【シノの推論:ゼルタとハルニレは召魂による影響とロール放棄のペナルティを同時に受けたのではないか?】
【不非兄弟『俺達ノリで着いて来ちゃったけどどうしよう……』】
77エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/05(火) 06:46:31 O
>「其は汝が為の道標なり、我は唱歌を以て汝を供宴の贄と捧げよう」

琳樹さんの真言が始まった。
無心に詠唱する琳樹さんを中心に、周りの空気が急速に冷えていくような…………。


ヒュンッ!

「へっ」

カァンッ!!

「…………」

おk、状況を整理しましょう。産業で。

その1、詠唱を唱えたら氷の槍が現れた。
その2、私の頬を掠めて壁に刺さった。ほっぺがちょっぴり痛いです。
その3、そのまま槍は消えました。

うん、訳分かんない。

>「なにこれこわい」

それは私の台詞だ。
軽い初歩的な護衛呪文を教えるだけだったのにどうしてこうなった。

「レザード・ヴァレスの再臨?」
>「なにそれもこわい」

閑話休題。

「でも……凄いわ琳樹さん!貴方、魔法使いの才能あるわよ!!」


興奮のあまり琳樹さんの両手を掴んでブンブン振るう。
私の世界、魔界ですら、人間の魔法使いなんて文献でも聞いた事はない。
知能が高い生き物ほど、魔法を使える確率が減ってくる。
何故なら、魔法を使う事が如何に有益かを理解出来るから。
それ故に、≪世界≫が魔法を使わせてはいけないと判断し、より強い制限を掛けられる。

けれども、稀に≪世界≫に『認められる』……魔法を使う事を許される存在という者が生まれる。
もしかしたら、彼がそうなのかもしれない。

「これは教え甲斐がありそうだわ……!」

でも、何で私はこんなに楽しいのだろう。
相手は人間なのに。どうしてかしら。

「さあ、次は魔法陣を使った造形魔法の練習よ!私が陣を書くから、それに魔法をこめるの!」

ま、いっか。

78ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/05(火) 06:48:06 O
「お帰りなさいッス」

バルコニーから、ブラックサバスとタチバナさん達が滑り込むように飛び込んできた。
早速、怪我をしているシノさんやジョリーさん達を治癒魔法で治す。
患部に手を当て、魔力を少しだけ注ぐだけで、当てられた部分が淡い碧の光で輝き、傷が癒える。

「明日には完璧に治ってる筈ッスよ」

完治に時間が掛かるのが弱点だが、致し方ない。
ジョリーさんの傷も治し終わり、タチバナさんとシノさんに質問を投げかけた。

「…で、何があったんスか?」

シノさんがゆっくり、あの建築物であった事などを語り始めた。
何か時々ウサギのぬいぐるみが動いたり喋ったりしているが、…何時仲間になったんだろう?

「…なるほど。大体の事情は把握出来たッス」

複合体型ゾンビやゾンビマスター…もしかして、あの殺気や魔力はそれらによるものだったのかもしれない。
まさか、とは思ったが、取り越し苦労だったようだ。

暫くタチバナさん達の話をただ聞き、そろそろ寝ようかと立ち上がる。

「それじゃ、色々あったッスけどまた明t」
『ちょーーーーーーーーっと待ったぁあ!!』

出入り口に向かおうとしたポーズのまま、固まった。
どこから聞こえてきた声なのか、辺りを見回す人もいる。誰の物でもない声だったから。

…ここに来て一番の凄く嫌な予感がしてきた。
多分、俺の顔はムンクの叫びよりも絶望的な表情になってるだろう。

「…………ま、さか」

ギギギ、と錆びたドアの蝶番よろしく、バルコニーに首を向ける。
正しくは、バッサバッサ、と不服そうに羽を鳴らす――……ブラックサバスに。

79ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/05(火) 06:50:16 O
『ちょいやっさ!!」

ピョンッ!とバルコニーの手摺からこちら側へ。
何人もの人を乗せる巨大な蝙蝠が、山羊の角と艶やかな黒髪を持つボンデージの美女へと豹変しt

「ドルちゃーーーーーーーーーぁあん!!」
「べぶっ!?」

マッハの勢いでハグされた。
無論倒れ込む俺。やばいやばいやばいやばい窒息で死ねる!!というか死ぬ!!

「ドルちゃんドルちゃん私のドルちゃぁあんふふふふふふふふふふ!」
「む゛ーー!!む゛ーー!!」

かいぐりかいぐり可愛いのぅ!と俺の頭を撫でまくる女性の背中をバシバシ叩く。
男のロマンだろうがなんだろうが、女性の胸の谷間で死ぬなんて勘弁だ。

「ぶはっ…………ぺ、ペニヴェロッサ様!?」
「いやーねぇ!いつもみたいにペニサスって呼んでよぉー」

んふふ!と笑うペニヴェロッサ……もとい、ペニサス。
俺は立ち上がると埃を払い、なるべく笑顔で紹介する。


「えっと……こちらはペニヴェロッサ=S=サキュヴァトロス様……俺の元いた世界を統べる大魔王・ロマネスク様の一人娘d」
「ドルちゃんの恋人のペニサスでぇーっす!ペニちゃんとかペニサスとか気軽に呼んでねぇん」
「って誰が恋人ッスか!俺は只の貴女の友人の僕でですね!」
「まあ!あんな事やこんな事やそーんな事までしたのに今更シラを切るつもり!?酷いわ!私のことは遊びだったのね!うわーんタチバナさーん!!」
「違うッス皆さん俺は何もしてないッスそんな目をしないで欲しいッスーーーー!!」

80ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/05(火) 06:52:14 O


「…で、何で着いて来たんスか?」
「だって…………寂しかったんだもん!」
「デコピン」
「あいたぁっ!」

いったーいドルちゃんの鬼畜!とポカポカ俺を殴るペニサスを尻目に、溜め息を吐いた。道理で、魔力の消費量が早いと思ったのだ。彼女は居るだけで周りの魔力を取り込んでしまうから。

正座して拗ねた顔で涙目ながらに語るペニサス曰わく。
俺達が「この世界」に行く事をロマネスク大魔王の部下(を脅して)から聞き、俺のブラックサバスを取り込んで化け、内緒で着いてきたと言うのだからこの人は。

「言っとくけど、私絶対に帰らないから!」
「ロマネスク大魔王に怒られるッスよ!リアル雷が落ちるッスよ!?」
「良いもん!くさやとさきいかと柿ピー買って帰ればパパ喜ぶもん!」

親父臭いレパートリーだ。アンタ大魔王を何だと思ってるんですかと小一時間。

「そんな訳で、皆さんよろしくお願いしますっ!」

ピョンッと頭を下げるペニサス。
また新たに、幸せが逃げる溜め息を吐いた。

81??? ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/05(火) 06:54:04 O
『ふふっ』
「……何が可笑しい」
『いや、楽しくてつい、ね』

とある高層ビルの屋上に僕は居る。
僕は来るつもりなど爪の垢ほどもないのだけれど、拒否権は無い。

『HAHAHAHA、スク水か!中々ユニークな発想だね』
「アンタに似てな」
『HAHAHAHA、それを言うなら君にだろう』

水晶を見つつ、クククと喉を鳴らして『私』が笑う。
僕は呆れ半分に見ているだけだ。僕と同じ顔でスク水を着た男とコイツに対しての呆れだけど。


『≪ロールの放棄≫に気づくとは流石だね。昔の君を見てるようだよ』
「僕はスク水なんて着なかった」
『そうだね。君の場合h』
「それ以上言ったら舌を噛むぞ!」

水晶は全てを映す。
ドルクスと呼ばれた貧相な男、長多良と名乗る青年、無理矢理キスされる青年と少女、蝙蝠に跨る少女達。
どうせコイツはタチバナしか見てないけど。

『しかし弱ったね。ロール放棄に気づかれた今、もう≪世界追放≫は使えない。おまけに魔力もだいぶ消費してしまった』
「……その割に、余裕そうだね」

ゴウッ、と漆黒の風が吹く。
何も見えない筈の方向を、彼等を見て、目を細めて薄く笑んだ。


『――……そうだね。少し、楽しい』


肩を竦めると、水晶が音を立てて砕け散る。

『さて、次の手を考えないとね』

視界が、黒に染まった。


【エレーナ→まだまだ魔力いっくよー!】
【ドルクス+ペニサス→ペニサスが仲間になった!旧市街地メンバーに仲間入り】
【???→タチバナの抹消に失敗】
【≪世界追放≫→ロール放棄をした異世界人を≪この世界≫から抹消する】
82尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/10/05(火) 10:12:32 O
「――大人しくさせるためとは言エ、少々手荒だったのも否めナイ。彼女は無事カ?」
「私の文明、知ってるでしょう?意味無いですよ、そう言うの」
窓に近付き、干された白衣を羽織る。昨日の内に、苦労して血を落としたのだ。ソファーの方を見れば、丁度そ
の血の主がペリカンから嫌がらせを受けている所だった。意思あるフィノメノンは極めて貴重な存在だと言うの
に、大方大切な相方が死んだことへの当てつけなのだろう。確か、鰊とペリカンは学研内の同じプログラムで産
み出された被検体だったはずだ。情のような物があったのかもしれない。
私の寝不足の原因。
そう、昨夜、鰊が本当に死んだ。

鰊は、私たちと同じ学研の被検体だ。彼は学研内の時間渡航計画の一環、“別々の時間を同時に観測でき、かつ
耐久性、確実性に優れた時間渡航用のマーカーを製作する”と言うプログラムにより生み出された『記憶および
意思並列体複製複合型文明』、愛称『赤い鰊』により自身の複製を最大七体まで産み出せる。つまり、最大八体
まで鰊は分裂できる。その利点は、元々の目的である過酷な時間渡航に耐えうる不死身さで、それ故に、彼は死
の可能性を病的なまでに恐れていた。実際、鰊は唯一の死とも言える複製による劣化を避けて、極めてオリジナ
ルに近い一人をこの街のどこか、私たちも何処にあるか知らない密室に引きこもらせていたのだ。
ところが昨日のBKビルでの戦闘で、外に生きる七体の鰊は失われた。当然、私たちは久しぶりに新しい複製を密
室から外に出すのかと想像していたのだが。
「そう言えば李さん、真雪さん。これをあげます」
狭い棚に無理矢理突っ込まれた段ボールを引きずり出し、大量に積まれた中から埃の付いてない、なるべく最新
の機種を適当に二つ選ぶ。
「連絡用の携帯電話です。名義は首が回らなくなった人のを借りて使ってるんで、できれば無くさないで下さい
ね。警察に拾われるとちょっと面倒な事になるので。
それで一日必ず一回は私か朝日に連絡して下さい。
連絡がなかった場合は逃げたか死亡したと見なしますからそのつもりで」
そう、鰊からの連絡は来なかった。
知らない方がいいこともあると考えていた為、鰊の住処をずっと調べていなかったのだが。流石にこの二人とは
重要さが違う。鰊が裏切った、あるいは死亡したとどうしても信じられなかった私たちは、文明を駆使して、何
とか鰊の住む部屋を見つけ出した。
病的なまでに密閉された部屋にあったのは、頭を撃ち抜かれた死体。
本来は、死亡した時点で鰊の死体は消える。消えていないと言うことは、それは最後の一体だったと言うことだ。
それが昨日の深夜。
犯人は分からないままだ。
「ところで、お腹がすきましたね。朝御飯でも食べに行きますか」


【誘えば尾張もついていきます】
83訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/10/06(水) 18:06:31 O
レザード・ヴァレスの再臨等と言われてしまったが訛祢琳樹という人間は、特に気にせずまたエレーナの言葉に耳を傾ける。

「(いや、私あんなに変態じゃないけどね)」

顔はちょっと似てるかも知れないけども。
等と言葉にはしないが思考する。

>「さあ、次は魔法陣を使った造形魔法の練習よ!私が陣を書くから、それに魔法をこめるの!」

「……※※」

呟いた言葉にノイズが入る、何故か少し頭が痛くなった。
名前の様なものなのだろうか、エレーナと出会ってから、この言葉を呟く事が多くなった気がする。

「うーん」

何故だろうか、楽しそうな彼女を見ていると、どこかデジャヴのようなものを感じるのである。
だが彼にはそれが何なのかは分かりはしない。

「なんだべなぁ…」

頭を掻きポツリと呟くが、エレーナには「何でも無いよ」と一言答えまた魔法の練習をしようと向き直す。

「造形魔法、だっけ」

確かめるように言う。
そしてふとした疑問。


「魔法込めるって、どうすんべ?またさっきみたいにするのかい?」



【訛祢琳樹:分からなくても仕方無いよね、人間だもの】
84ミーティオ ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/06(水) 23:31:26 0

「デケェな…この蝙蝠」

乗れ、と言わんばかりに頭を下げる蝙蝠を見てミーティオが一言呟く。
気絶したジョリーを乗せて、シノとミーティオも蝙蝠に跨る。

「飛べっ!」

ミーティオが掌で蝙蝠の体を打つと、一瞬だけ体が浮遊感に襲われた。
蝙蝠はシノ達を乗せると、タチバナ達の頭上を旋回し始める。
どのタイミングでタチバナ達を拾い上げるか悩んでいるようだ。

「(タイミングを間違えば、タチバナは助けられない)」

敵はあのアラウミ。タチバナと近距離で戦闘しているので、中々タイミングを見つけられない。
焦るなミーティオ、そう自分に言い聞かせ注意深く観察する。
チャンスは一度。絶対に見逃してはならない。

巨大な蝙蝠は間合いを計りながらぐるぐると旋回を続け、そして。





「タチバナ!」

急降下。敵と接触するギリギリまで接近し、シノの手とミーティオの手が確かにタチバナを捉えた。

「ッ、よっと!」

タチバナが来た時とは違うガラスを突き破って、漆黒の移動手段‐ブラックサバス‐は夜空へと飛び出した。

タチバナとぬいぐるみ、共に救出完了だ。
冷たい五月の夜風を受け、ミーティオは小さく吐息を漏らす。
不思議と蝙蝠は乗り心地がよく、"落ちる"という思考をもたらさない安心感があった。

「ん…?」

ホテルに戻る途中のビルの屋上に、"誰か"がいた、気がする。
こちらを見ていた気がするが、夜の闇と蝙蝠のスピードが速いせいで分からなかった。

「良かった、そこまで傷は深くないな」

ジョリーは気絶しているものの、幸い命に関わるような大怪我は負っていなかった。
ガラスでの切り傷もなく、青痣やたんこぶ程度だ。
そこで、ふとミーティオは疑問に思う。「良かった」、という自分自身の言葉に。

「…………変なの」

自然と笑みを零し、ジョリーの頭に手を置いて、ミーティオは一人呟いた。


85ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/06(水) 23:33:04 0
窓硝子から差し込む光が目に痛い。何度か瞬きし、寝ぼけ眼で起き上がる。
何時の間にか朝を迎えていた。英語でmorning。good morningで「おはよう」。
いやはや、そんなことよりもだ。

「俺、何時ノ間ニ寝テタンダ?」

昨日の夜から全く記憶がない。酒のせいかもしれないし、別の何かかもしれない。
暫く思考し、直ぐにハルニレは「どうでも良い」と判断した。考えても意味がないからだ。
伸びの姿勢を維持し、部屋を見回す。誰もいないところを見ると、別室にいるのかと一人納得する。

「ア?」

頭に手をやって気づく。帽子がない。ついでに服も着ていない。
その代わり、顔の左半分を包帯で巻かれていた。
つまり、明確に表現するなら、顔の左半分を包帯で巻いただけのトランクス一丁の不審者。
しかし今のハルニレは、格好なんて気にしている場合ではなかった。

「俺ノ帽子!!」

彼の頭の中は、命と同等に大事な帽子が消えていることが重大な問題だった。
あちこち部屋の中を探すが、どこにもない。
因みに服は寝ている時にに自分自身で脱ぎ捨て、ベッドの下に放置中だ。

ちょうどその時、部屋の出入り口が開く。
ハルニレは耳聡くその音を聞きつけ、駆け寄った。トランクス一丁で。

「オイ!俺ノ帽子知ラナイカ!?」

返事を聞くや否や、ハルニレはその格好で隣室へと駆け、ドアノブに手をかけた。
ジョリーのいる部屋のドアを豪快に開け、大声で怒鳴った。

「ジョリー!俺ノ帽子ハドコダ!!」


沈黙。表現するなら、空気が凍った、とでも言うべきか。
部屋の中には複数の人間、しかも皆女子だ。格好は全員、下着だけや寝巻の者のみ。

導かれる結論は一つ。――――……神聖な「お着替えタイム」だ。


「こんの…………………ド変態がァアああああああああああああああああああああああああ!!」


朝一番、唯一服を着替え終わっていたジョリーの、怒りの回し蹴りが華麗に炸裂した。


「オウフッ!」

ジョリーの一方的なリンチを受け、ボロ雑巾のように部屋から放り出される。
覗き魔だの変態だのと散々に罵った後、ハルニレの着替えの入ったバックも一緒に放り出して乱暴に扉を閉めた。

「クソッ、誰ガ好キ好ンデ年増共ノ着替エナンカ覗クカッテノ」

一人悔し紛れに悪態を吐き、バックを持って立ち上がる。
結局、帽子が何処にあるのかは聞けずじまいだった。

「ア?ドウシタ、ゴキブリデモ出タカ?」

扉の前で硬直しているソイツに声をかけ、ハルニレは自分の部屋に戻る。
昨日は無かった大きな十字架の形の火傷の痕を、背中全体に浮き彫らせて。
86ジョリー ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/06(水) 23:34:07 0

「でも、良いのか?」

「何が?」

ジョリーがハルニレを吹っ飛ばしたその数分後、ミーティオはジョリーに尋ねた。
ミーティオの格好は、ジョリーと同じストリートガールファッションに変貌していた。

「服だよ、服。アンタの借りちゃってさ」

「ああー良いわよ別に。結構余っちゃってるしさ」

ふーん、と相槌を打ち、ミーティオは服の入った複数のバッグに目をやる。
色んなサイズや種類の服がギチギチに詰まっている。これだけの服をよく持ってきたものだ。

「つーか、何だこのビラビラしたの…誰が着るんだよ」

「えへへー。おねーちゃんが私にって昔買って着なくなったやつなんだ、ソレ。弓瑠ちゃんに似合うと思って」

ミーティオが指摘したのは、ゴスロリや甘ロリといった少々アレな類の洋服。
弓瑠やシノは勿論、頑張れば皐月やゼルタが着こなせるサイズのものまである。
無論、それは他の服にも言えることだが。

「好きなのか?こういうの」

「やっぱさ、女の子じゃん。誰だってオシャレしたいよ」

「ねー」とジョリーは笑うと、「どれが良いー?」と服を比較して呑気に弓瑠に問いかけている。

ジョリーはあれから、昨晩の事について全く尋ねてこない。
昨晩の頭を打ったショックからか、ジョリーは昨夜の事をすっかり忘れているようだった。
しかし、彼女にとってはそれが一番幸せなのかもしれない。おそらく、ジョリーは「普通の人間」だろうから。

「(こういう平和なのも、良いかもな)」

ミーティオはこの世界に来て、初めて平穏を感じていた。
それが例え、長くは続かないものと分かっていたとしても。やっぱり続いていてほしいと、小さな願望が芽を出し始めていた。

「ん?」

出入り口から猫の鳴き声がした。弓瑠の猫だ。確かロマと呼ばれていたようなと記憶を遡らせる。
黒猫はジョリー達の元に擦り寄り、ポトリとそれを足元に落として、なぁなぁと鳴く。

「「…………あ」」

顔を見合わせあい、次第に苦い笑顔へと変わっていく。
そんな彼女らの気も知らず、猫は「褒めて、褒めて」と、ハルニレの帽子をつつき目を細めてにゃあと鳴いた。
87ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/06(水) 23:35:04 0
「オk、全員イルナ?確認スルゼ」

更に十数分後。
ハルニレはオレンジと赤のストライプTシャツとズボン、更に皮ジャンを羽織るといった格好に着替えていた。
帽子の位置を気にしつつ、なるべく特徴をとらえた少女のメモを全員に見せる。

「探スノハコノ『白髪でチビで吊り目のロリ』。名前ハ『六花』。
『2メートルぐらいのガスマスクの大男』ガ手掛カリダカラナ。」

彼女が当時着ていた服の特徴も合わせて書いてある。広い街だが、こんな目立つ格好では探すのは難しくないだろう。
ハルニレのもう一つの目的である「メガネで生意気そうなチビのガキ」の事は伏せておいた。
彼らが乗ったのはこのゲームであって、ハルニレの殺人ゲームではないのだから。

「再確認ダ。『何かあったら?』」

「『何時如何なる時もすぐに連絡!』よね?」

「ハイ正解、ゴ褒美ニ飴チャンヲヤロウ」

「わーい…って要らないわよ!子供じゃあるまいし」

「トコロデ、」とハルニレの目付きが鋭いものになる。
原因は単純明快。いつの間にか増えていた、黒髪の美女と喋るぬいぐるみの二人(?)についてだ。

「オ前ラ誰ダ?」

至極もっともなつっこみだ。寝て覚めたら見知らぬ奴が二人もいるんだから当然ではある。
周りから説明を受け、しかしハルニレはどうも信用していないようだった。
これもまた、「どうでもいい」で片づけたが。

「ゲームノ邪魔シネーナラナンデモ良イケドサ。足引ッ張ンナヨ」

最後に棘のある言葉で締め、ハルニレはニンマリと笑う。
さあ、楽しいゲームの始まりだ。


【ハルニレ:3日目へ。ゲームの再確認+ペニサスさんと不非兄弟を仲間とカウント】
【ジョリー:衣服提供キャンペーン。お好きな服に着替えれますので着替えたいって方は気軽にどぞどぞー】
【フラッグメント:≪十字架の火傷痕≫
  ハルニレの顔の火傷と同様、過去に関係有り?ロール放棄や召魂の影響による出現か?
  この火傷痕を見た人は、今後のイベントに影響があるかもしれないしないかもしれない】
88前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM :2010/10/08(金) 00:13:09 O
「あいつ意味わかんね」

慌てて出て行ったテナードに、別に全裸でもいいじゃねえか等とぶつくさ言いながら不思議そうに首を傾げる。
とりあえず着替えを持ってきてくれた事には感謝する、として。

「シャワーでも浴びるか…」

呟いた彼に被せる様に誰かがドアを開けた。
ポカン、という効果音が似合うような表情をしながらそのドアを開けた相手を見る。
ロリ巨乳である。
まごう事なきロリ巨乳である。

>「おっト、入浴中に失礼。それでハ〜♪」

そのまま彼女は出て行ったが、やはり彼はそのままポカンと口を開けてドアをみているしかなかった。



――――――――。

「秋人!」

「どうした柊うるさい」

「テナード、ってのが異世界人の名前の中にあったよな!?」

「ああ、あのあきたこまちの様な名か」

「え?」

「え?」

「……とりあえず!テナードってのに聞き覚えがあるから会いに行くぞ!!」

「そうだねプロテインだね」
89柊・秋人 ◆KLeaErDHmGCM :2010/10/08(金) 00:14:47 O


「たのもおおおお!!」

「2:道場破りだけど何か質問ある?(29)」

彼らがテナード達の部屋のドアを蹴りあけたのは久和がシャワーを浴びているその時であり、ミツキが出て行ったすぐ後である。
まず柊がテナードに飛び蹴りを食らわせ次に秋人が生米を投げつける。
その行為に、特に意味は無い。

「テナード!久しぶりだな!覚えてないけど!」

意味不明である。
久しぶり、といっても何が久しぶりなのか分からない。
そもそも会った事があるのかすら覚えてないのであるこの男は。
何せ全てがノリと勢いで出来ているのだから。

「久しぶりだな、会った事ないけど」

こちらも意味不明である。
会った事が無いと分かっていながら久しぶりと言う。
被せボケという訳ですね、分かります。
こちらもノリと勢いが全て、いいコンビと言えばいいコンビなのだろうか。

「あ」

ふと、思い出したように短く言葉を発する。
煩くないので分かり辛いが柊の方である。

「アグリフォーリオ・ジュニヒートって名前に聞き覚え、あるか?」


【前園久和:お風呂】
【柊、秋人:テナード達の部屋に突撃】
90月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/10/08(金) 08:33:31 O
事務所の中で、カタカタとタイプ音が鳴る。

真雪は入り口にて、尾張を見ていた。
尾張の片腕が無い。
昨日、ヘリの中で真雪が見た物は幻想ではなかったらしい。

何があったのか、訊いてみたい。でも、嫌な予感がする。

「そう言えば李さん、真雪さん。これをあげます」

ウダウダ迷う真雪に、兔から焦げ茶色の携帯電話が飛んできた。今回は上手く受け取れた。
聞けば、一日に一回、これで兔か朝日に連絡しなければならないらしい。

ならば、昨日自らの携帯に登録しておいた兔の番号は消して良いのだろう。
ポケットの中に入れていた白い携帯を操作しながら、兔の話を聞く。

「ところで、お腹がすきましたね。朝御飯でも食べに行きますか」

「そっか、そうだよね…そう言えば、昨日の朝から何も食べて無いね、私達」

真雪がそう言った所で、腹が鳴る。空気が固まった。

「…そうだ、尾張さんも一緒に行こうよ! お腹空いてるでしょ!?」

紅い顔で、真雪は照れ隠しに大袈裟な仕草になる。先程鳴った腹は真雪のものだった。


――――――――――――――――――――
91月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/10/08(金) 08:34:27 O
―――――――――――――――――――


先程まで居たアパートからさほど離れていないファミレスで、四人は朝食を取っていた。

「うん、おいしー」

真雪は、チーズが乗ったオムライスをほうばる。
とろける卵の食感とチーズの味わいが食欲をそそり、既に半分ほど平らげた。

因みに飛峻には事前に「千円以内にしてね」と頼んである。
理由は単純で、持ち合わせが三千円ほどだったからだ。

(貯金、全部下ろさないとなあ…)

食べながら、貯金が幾ら残っているか考える。

真雪の父親は真雪を毛嫌いしているが、母親は精神を病むほど真雪に対して過保護だ。
そしてそれは、父親に無理やり引き剥がされても変わる事は無かった。
愛は金額に姿を変え、真雪の小遣いは一般的な同級生よりも圧倒的に高かった。
そして真雪は金遣いは良いので、貯金は相当貯まっているはず。

(うーん、一昨日に二万円引き出した時は二十万位残ってたんだよね。
だから貰えなかったら貰えないで暫くは平気か)

そこまで考えてから、飛峻に話を振る。

「そういえば、飛峻さんは昨日、何してたの?」

【朝ご飯タイム。マルアークとは違うファミレス】
【真雪・もちもの:ポシェット(財布(三千円程度)、通帳、ハンカチ、ティッシュ)、携帯×2】
92長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/10/10(日) 23:12:20 0
>「そんな訳で、皆さんよろしくお願いしますっ!」

さてひとまずは現状を正しく認識してみようか。化け物蝙蝠が、頭のネジがさようならした女に変身した。以上。
何だそれはと言わざるを得ない。貧相面の分際で女に懐かれるとは全く、君のいた世界は随分と私に優しくない世界のようだな。
と言うか地味に大魔王などと言う単語が飛び出したな。その時点でもう元居た世界などと出自を幾らぼかした所で、
私は魔界出身ですと抜かしているようなものだ。君は情報秘匿を謳って嘘を吐き、更には私の額に血を塗りたくったが、
結局自分から出身地を明かしているではないか。

まあ、有り難いから文句は言わんがね。
カードは多い方がいい。私の目的の為に。

「……どうも。とても素敵な名前ですね」

お寒い夫婦漫才を繰り広げるペニ……ペニサスとやらに笑顔の仮面と共に会釈する。
本来ならこの言辞に続いて

「ところで頭のお加減は大丈夫ですか? 丁度今こちらの方でも原因不明の熱病に侵された重病人が二人いましてね。
 実は貴女が病原であると言う事はありませんか? いえね、貴女のその救い難い痴呆ぶりがどうにも熱で頭をやられた
 感じにしか見受けられなかったので。しかしそうなると貧相面君はつくづく駄目な奴だな。君が適切な処置を施していれば
 軽度の身体障害はあろうともここまで可哀想な事にはならなかっただろうに。え? 別にそう言う事はない?
 じゃあ素でそれなんですか? だったらいっそ脳みそ煮沸してみた方がいいかもしれませんね。
 今が最悪だからこれ以上頭が悪くなる事は無いでしょうし、やってみる価値はあるんじゃないですか?
 とか言ってやろうと思ったのだが……何やらあの女は気味の悪い雰囲気がする。やめておこう」

ん?

「あぁ、またやってしまった。失礼、これは癖のような物なのでどうぞお気になさらず」

いつの間にか思考が口から漏洩していたようだ。
別にどうでもいいがね。我々の関係はあくまでもビジネスと言う舞台の上に限られたものだ。
それも飛び切り非合法の。友好的な関係など築く必要もなければ、築くべきでもない。
お互いの目的の為に利用しあう。それがベストの形だろう。
……だから私はお構いなしに彼らを罵倒、いや罵倒では言葉が悪いから叱責しようではないか。うむ、素晴らしいな。

さて、ここらで閑話休題と言う名の翌日移行を行うとしよう。
つまりは部屋に帰って寝ると言う事だ。
【逃走本能】は脱がずにいよう。ワケの分からない真似をされては堪らないからな。

……まあ結局そんな事はなく、私は朝を迎えた。
私はこの朝を迎える度、窓から差し込む陽光で一つの決意を磨く。
彼が迎える事の出来なかった、二度と出来ないこの朝で。

>「探スノハコノ『白髪でチビで吊り目のロリ』。名前ハ『六花』。
>『2メートルぐらいのガスマスクの大男』ガ手掛カリダカラナ。」

「おはようございます。朝っぱらから童女の写真を見せびらかすとは今日も病気は絶好調ですね」

一通りの身嗜みを済ませてから、勝手に借り受けたカードキーで彼らの部屋を訪れる。
ドアを開けてまず目に映ったのがロリコンの持つ童女の写真とは、早くも今日は厄日の予感がしてならない。

ともあれ彼らは今日一日、ひいては今後の行動指針の再確認を行っていたらしい。
人探しか。異世界人の超常能力なら一日足らずで終わってしまう気もするのだが、
そうでないのなら私の人脈もそれなりに役立つかも知れないな。
しかし身長2メートルはあるガスマスクの巨漢か。
こんな連中に頼むよりも警察に頼った方が適切である気がするが……それはつまり「そう言う事」か。
93長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/10/10(日) 23:13:03 0
「失礼、その写真……ちょっと写しをさせて下さい。私も知り合いに当たってみましょう」

首に掛けたカメラではなくポケットに忍ばせたデジタルカメラと携帯で一枚ずつ、私は写真の写真を撮影する。
こうしていると一昔前の、インチキ心霊写真やUFO写真の作り方を思い出すな。
写真の上に何かそれらしい物を乗せて、その状態でもう一度写真を取る。
今からしてみれば馬鹿馬鹿しい手段だが、当時は見破られもせず横行したらしいな。

まあどうでも良い事だが。
写しを終えると共に、私は瑣末な思考に区切りを付ける。

「さて、私が同行するのは確か偶数……棺桶少女にシスター少女、あとビッチ系ビッチさんでしたか」

よくよく考えてみれば何だこの色物集団。
彼女達の年齢を鑑みるに、同行する私は割りと残念な視線の標的となってしまう気がするぞ。
何と言う事だ。ロリコン野郎の件と言い、今日は本当に朝っぱらから気が滅入る事ばかりだ。

あぁそうだ。そう言えば先程の電話の件もあったな。
取材はまた延期か。相手が相手で、自分が自分であるから、どうにも強く言えないと言うのは面倒だ。

「……ひとまず、何か希望する行き先やアテはありますか? 無いのなら私の仕事にひたすら付いて回る事に
 なりますが、推奨しませんよ。あぁ、そもそも朝食は取りましたか? まだならホテル内で朝のビュッフェや、
 新市街の方なら飲食店も沢山あるでしょう」

気を取り直して、私は提案した。
仕事と言っても今日の取材はキャンセルされてしまったし、
その「六花」とやらを探すだけの事になりそうではあるが。
94エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/11(月) 17:39:37 0
琳樹さんの顔を見ているうちに、ふとドルクスのことを思い出す。
彼は無事なのだろうか。
ハルニレ達がいるなら多分大丈夫……じゃない気がする。
あの面子で大丈夫なのか心配になってきた。
そもそも私達、禁術の元を探るためにこの世界に来たはずなのにどうしてこうなった。

「(何やってるんだろ、私)」

色々事情がもつれにもつれてこうなってしまったけど。
…何かしら作為的なものを感じるのは何故かしら。
いやメタ的な意味でなくてね。

>「魔法込めるって、どうすんべ?またさっきみたいにするのかい?」
「……へ!?ああごめんなさい、ちょっと考え事してて」

少しばかりボーッとしてたので話を聞いてなかった。
急いで謝罪し、もう一度質問を確認する。
そうだ、造形魔法の説明を一切していないのを思い出した。


「そうね、造形魔法だとまた魔法の使い方が違ってくるの」

ペンを使い、さっきとはまた違った魔法陣を紙に書いていく。
といっても、今回は略式という簡単なものだ。

「造形魔法は創造したいものを顕現させるための材料、顕現させるための魔法円が必要なの」

大きな円を描き、そこに六芒星と呼ばれる記号と文字を書いていく。
因みに、琳樹さんにはこの文字を読むことは出来ないだろう。
陣に書きこむ文字は、真言と等しく、一人ひとり使える…もっと言えば、理解できる文字が違う。

「琳樹さん、真言をここに書いてみて」

ここ、と指し示したのは、六芒星の中心の中にある小さな円。

「何を創りたいのか、どんなデザインなのか。それを頭に思い浮かべながら書くの」

琳樹さん自身はまだ理解できていないだろうけど、体はすっかり覚えきっているかのように文字を書く。
書きあがったのは私には理解できない文字。彼自身のもう一つの「真言」だ。

「出来たわね。後は、さっきと同じように魔力をこめれば良いだけよ」

余談だけど、紙に陣を書いたなら紙製の物しか出来ない。
例えば一枚の折り紙だけを材料に使えば、一枚の折り紙だけで作れるものしか出来ない。
なんだったっけ、ドルクスが読んでた「まんが」…鋼のナントヤラが同じことを言ってたような言ってなかったような。
供物や魔法杖とか書物を使えば、色んなものを作れるのだけど。

因みに私のドレスは、私自身の魔力のみで作り出している、顕現魔法に更に造形魔法をかけたようなものだ。
つまり魔力のみを纏っている状態、といった方が正しい。
造形魔法が使えない今、ドレスは生成できないけど。

さて、何が出来るのか楽しみだ。


【エレーナ:紙に書いたから紙製のオブジェとか作れるかもね!wktk】
【魔法のまとめ:脳の理性の部分が自分自身を理解し、真言(言葉と文字)を得ることが出来る。
         真言を唱えれば顕現魔法、書けば造形魔法として使える。訓練すれば詠唱破棄として使える(しかし威力は落ちる)
         顕現魔法はイメージ(炎の玉、氷の槍)を魔力で現実のものとして具現化させるもの
         造形魔法は元からある物質や魔法を材料としてオブジェや武器を創るもの、と理解して下さればおk】
95テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/11(月) 21:33:36 0
>「たのもおおおお!!」

背後から出入り口のドアを蹴破る音と、一瞬の間も置かずに空気を切る音。

経験則から来る、咄嗟に突き出した防御の手が足の裏とぶつかり合う。
飛び蹴りを両腕で弾き飛ばし、視界に飛び込んできたのは、赤が混じった黒髪の見知らぬ青年。

「(敵か!?)」

可能性はゼロではない。
異世界人である自分達は、いるだけでちょっかいをかけたくなる存在だろう。
もしかしたら、あのゼミだのTOEICだのとかいってた連中の仲間かもしれない。
「進研には過激な連中が多い」と言っていたCの言葉が脳裏をよぎる。

次の攻撃に備え、テナードは構えたその時、テナードの目がもう一人を捉えた。この青年の仲間か。


>「2:道場破りだけど何か質問ある?(29)」

「クッソスレおt目がァァア嗚呼!?」

生米が飛んできた。あまりに唐突かつ予想外の攻撃に床をゴロゴロとのた打ち回る。
しかし、すぐに青年がテナードの上に乗っかったお陰でその動きは強制終了されたが。

「メメタァッ!?」

勢いよく座られ、蛙が踏み潰された時のような悲鳴が上がる。
重いと抗議の声を上げようとした瞬間、また一人分追加。おまけにまた米をぶつけられた。

>「テナード!久しぶりだな!覚えてないけど!」

「覚えてねーのに久しぶりって何様だよお前!つか誰だ!」

>「久しぶりだな、会った事ないけど」

「覚えてねーのn…って会ってすらない!?何なんだお前ら!つか米ぶつけんな鼻に!ああ鼻に!」

傍から見れば、コントレベルの間抜けな構図。しかし本人達は至って真面目なのだからもうどうしようもない。
だめだこいつらはやくなんとかしないと。

「とりあえずお前ら降りろ!重い!」

テナードは改めて抗議するものの、二人はどこ吹く風といった感じだ。
全く人の話を聞こうとする気概を感じられない。そろそろ殴ってやろうかと思い立ち拳を握りしめる。

>「あ」

飛び蹴りを食らわせてきた青年が声を上げ、それにつられて振り上げた拳が自然と止まる。

>「アグリフォーリオ・ジュニヒートって名前に聞き覚え、あるか?」

「『アグリフォーリオ・ジュニヒート』……?」

唐突に青年の口から尋ねられたその名前を復唱し、青年の顔を見上げる。
アグリフォーリオ。アグリフォーリオ・ジュニヒート。海馬をフルスロットルし、記憶を探る。

「アグリフォーリオ、アグリフォーリオ……………」

暫く記憶漁りを続け、テナードが口に出した答えは―――………。
96テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/11(月) 21:34:58 0


「知らん。まずそんな長ったらしい名前覚えられっか!」

ただその一言だけ。眉間の皺は2割増でだ。
後頼むから退いてくれ、と言って青年達を退かす。
そして悪びれる様子もない二人の頭に、容赦ない拳骨を一発ずつお見舞いしたのだった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ソファの上に正座する二人を、怒りの露わに仁王立ちして見下ろすテナード。
幾つか顔に付いた生米のせいで、威厳は少しばかりは削がれているが。

「で?何の目的で俺に喧嘩を吹っ掛けた?」

普段「大人しい」で通っているテナードにしては珍しいドスの効いた声。
しかし問い詰めてみれば、特に意味は無いだの米が美味いだの。
目的も何も掴めない二人に、次第に呆れて溜め息しか出てこなくなってしまった。

「溜め息吐いたら幸せ逃げちゃうヨ?」

「ぬおわっ!?」

ぴょこん、とテナードの背後から飛び出るピンクのサイドテール。

「あー…………み、ミツキ?」

「あったりー!!」

両手に料理を載せた盆を持ってにこやかに現れるミツキ。
朝のあの男といいこの少女といい、気配を消して現れるのが流行りなんだろうか。

「何しに来た?料理運んで終わりじゃなかったのか?」

「えへへ…急なお仕事入ってみんなと朝ごはん食べるの逃しちゃって……それにアチシ監視係だし、それで……」

「……………で?」

「んもう!一人じゃ寂しいから一緒に食べたいなァー、ってことだよ!言わせないでよ恥ずかしい!」

いまいち思慮に欠けるテナードに頬を膨らませて怒るミツキ。
成程、盆の上の料理はそういう事らしい。理解するのがワンテンポ遅れ、そういう事かとやっと納得。

と、なんだかんだ言いあっている内にシャワールームの方からドアを開ける音が。


「……そうだな、そろそろ食うか」
97C ◆IPF5a04tCk :2010/10/11(月) 21:39:58 0
「…チッ!どこで油売ってんのよ、あのグズ!」

留守電を告げる携帯電話の電源を切り、Cは乱暴にそれをゴミ箱に叩きつける。
苛々とした様子で白衣からタバコの箱を取り出し、火をつけ、紫煙を吐きだした。
仮にも看護長なのに、とか病室で煙草を吸っていいのか、などとツッコミを入れてはいけない。

これが彼女の、Cの「素」なのだ。

「(全く、どいつもこいつも使えないわね)」

八重子達ののほほんとした表情を思い出し、Cは苛立ちを吐きだすかのようにまた紫煙を吐き、舌打つ。
ゼミのKと同じく、Cもまた、チャレンジの空気に馴染めないでいる内の一人だった。

「(早く『A』を見つけ出さなきゃいけないってのに……これじゃボスに面目が保てないわ)」


『Aを秘密裏に”処理”するように。君なら出来るね?、C』


ボス直々の命を受け、Cがチャレンジに配属されてから早半年。
あらゆる手を回して、ただでさえ浮いているチャレンジを、Aを更に孤立化させたところまでは良かった。
なのにターゲットのAは放浪癖は激しいし、仲間や部下達も居場所を知らないしで。
こっちの苦労も知らないで、と日を追うごとにCはヒステリックになっていくのである。

「(履歴もないなんて……アイツ、一体何なの?)」

ならばと先にAの履歴などを調べてみたが、驚くほど何も残していないのだ。
戸籍も住所も何もかも不明。全くもって、Aの正体を掴めないのだ。

「(ボスも何であんな奴を…何したか知らないけど、こんだけ何も無いと逆に怖いわね)」

何故、ボスがたかだか幹部の一人であるAを疎ましく思うのかCが知る由は無い。
何故、ボスの異能でAを処理しようとせず、部下である自分に任せるのか。

しかし、ボスの命令は絶対なのだ。
『ボスの命令に従う』、ただそれだけが彼女の存在理由だった。

と、思考が一時停止する。ゴミ箱の方から、ゆったりとした曲が流れてきた。
心を落ち着かせ、Cは「いつもの」自分を作る。

「……はい、もしもし?」

直後、電話の相手が自分の息子だと知り、病室で怒鳴り声を上げるCであった。

【テナード:朝ごはん食べようか!ミツキに言えば秋人さん達のご飯も用意してくれるかも】
【Cの目的:幹部・A(エース)の殺害、及びAに関する履歴末梢】
98李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/10/12(火) 01:46:58 0
画一的ながらも落ち着ける雰囲気、陽光をふんだんに取り入れる造りの内装。
観葉植物は自己主張しない程度に配置され、朝食用のレパートリーも豊富でかつ味も及第点の上を行く。

だというのに何故か閑散としたファミリーレストランの一角。
飛峻は貸与されたばかりである携帯電話の操作に躍起になっていた。
テーブルの上には申し訳程度に手をつけられた薬膳粥が、湯気を立てて恨めしそうに鎮座している。

「むゥン……前の時も思ったガ随分と操作に関わる工程が多いナ……」

格好も年齢もバラバラな四人組が、なにやら騒がしそうにしてても気にする者はほぼ居ない。
同地区内にマルアークと言うここより値段も質も、ついでにいうと店員のノリも、一段上を行くグレードの飲食店があるためだ。

「うん、おいしー」

注文したメニューに舌鼓を打つ真雪を余所に、飛峻は携帯との格闘に没頭していく。

李飛峻は未来人である。
ゆえに現代で使用されているあらゆる機器は、飛峻にとって型遅れどころか骨董品と言い換えても差し支え無い代物なのだ。
しかも元居た世界ではある種の物を除き、努めて機械の類を遠ざけていたのだから余計手に負えない。

「音が鳴る、もしくは振動したら通話ボタン……嗚呼、コレか。を押しテ……ふム」

どうにかこうにか同席する三人。
真雪、尾張、兔の番号を登録し終え、呼び出しと通話の手順を覚える頃には卓上の粥はすっかりと冷めてしまっていた。

「そういえば、飛峻さんは昨日、何してたの?」

食事の遅れを取り戻すべく蓮華を動かしていると、テーブルを挟んで向かいの席に座る真雪が声をかけて来た。

(昨日、と言うと……ビル内で別れてからか)

「そうだナ。何と言うカ、有体に言うならヤクザ狩りダ。
 少しでも早く合流しようとはしたんダガ、後顧の憂いを無くすためにどういうわけだかそうナッタ」

萌芽とサイを連れての逃亡劇。
展望ラウンジでの荒海との死闘。
そこで会った、飛峻と同じく異世界から喚ばれた来訪者たち。

「異世界から来タ猫面の大男と結託シ、アラウミとか言うヤクザの大物を殺……倒しテ。
『シンケン』と敵対してるらしい者たちに助けらレ。
 後はマユキも知ってる通りダ」 

一つの組織と共闘し、一つの組織の手助けを受け、そして一つの組織を壊滅させた。

結果、尾張は片腕を失い、柚子は重傷を負って未だに治療中。
勝ち得た筈の手がかりとなりそうな少女は姿を消し、飛峻も度重なる戦闘で体中が痛い。
全く持って骨折り損な結果だったといえよう。

唯一残ったものと言えば、入り口で絡んできたヤクザからスーツを拝借した時、ついでにお預かりした現金くらいのものだ。

「俺の方はコンナ感じだったナ。さテ、ところでウサギ。
 アサヒに言われた仕事は噂の収集ト流布らしいガ、具体的には何に関する噂になるんダ?
 何でも良イ。と言うわけじゃあないのダロウ?」
99渡辺 キョーコ ◇HrjFwxt9Tg:2010/10/13(水) 18:21:29 0
「はうぁあ〜〜!!」

新市街地の一角にある小さな喫茶店「Cafe・Takaoka」。
……のキッチンで、今日も新たな犠牲者(通算28,654枚目のお皿)が出た。

「まーたキョーコかい!?これで何度目だと思ってんだこのドジ!」
「ご、ごめんなさ…わ、わざとじゃなくて…」

店長の怒鳴り声に、私はただビクつくばかり。
……私こと渡辺キョーコは、破壊的なドジッ子です。

「あ、あの、片づけ……」
「あーあーいいいい!私がやっとくからお前は休んでろ!」

店長にシッシッと蝿のようにあしらわれる私。
私って蝿以下ですか店長。私は何も言えずに退散する。

「うう……私って、どうしてこうドジなんだろ……」

我ながら自分の鈍くささに涙が出る。
カフェ店内は開店したばかりなので、人もまばらだ。

「ちょっとキョーコ、コーヒー運んでくれない?」
「あ、伊藤さん…」

カウンターで凹んでた私にトレーを渡してくる伊藤さん。
トレーには熱々のコーヒーが載っている。

「ハイ、気をつけなよ」
「イッイエスマム!です!」

ガチガチになったままそれを受け取って慎重に運んでいく。
テーブル番号…あ、あのテーブルか。家族かな?
寡黙そうなお父さんに優しそうなお母さん、仲のよさそうな兄弟。そんな印象を受ける。

「……いいなぁ」

ふと、そんな言葉がするりと口をついて出てしまった。
テーブルの人に不審がられてしまったので、思わず「何でもないです!」と返しておく。

「え、えっと!コーヒーをお持ちしました!;;」
100渡辺 キョーコ ◇HrjFwxt9Tg:2010/10/13(水) 18:22:58 0
こぼさないように、慎重に、慎重に。
最後に寡黙なお父さん(仮)に渡そうとしたときだった。

「……………『マサくん』?」

この言葉も、無意識だった。
ねえ私、私はこの人と知り合いなの?そもそもマサくんって誰?
そんなの関係なかった。この人はマサ君だと私は頭のどこかで理解していた。

だけど次の瞬間には、それすらもどうでもよくなった。あああ、またやってしまった!

「ごごごごご、ごめんなさーい!!!!」

うっかりボーっとしてたせいで、熱々のコーヒーとカップが床で無惨な姿に!!

「い、今すぐ拾います!」

焦ってカップを拾おうとしゃがんで、私の世界が反転した。
……床がコーヒーで濡れたせいですっ転んだと気づいたのは、頭に激痛が走ってからだった。

「いったあ〜〜〜〜〜〜〜い!!」

わ、私のドジ……………。とほほ……………;;。


【ユーキャン組に接触】
101訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/10/13(水) 18:57:45 O
「……」

何やら難しい説明であったが、彼はその通りに真言を書く。
しかし彼の脳はまだ理解はしておらず不思議そうな顔をしている、――恐らく、体は理解しているのだろう。
作りたい物をイメージしながら、それを書ききった彼は先程と同じ様に魔力を込める。

「 」

ブツブツと、言葉を口から紡ぎ一枚の紙が形になっていく。
出来上がったのは紙製のオブジェ、二人の男女を模した形のオブジェである。

ξ*゚听)ξ人('A`*)

幸せそうに手を繋ぐ小さな二人の男女、これで出来上がりかと思いきや、思いきやである。

爪'ー`)人ξ;゚听)ξ人('A`#)

にょきん、と琳樹に似た男が女の片方の手を取るようにはえた。
否、生えたと言うよりも出現したという方が合っているのだろうがとりあえず生えた。
そして彼はその紙製のオブジェを手に取り、エレーナへと向きなおす。

「これでいいのかな」

そして質問の答えを聞く前に「あげる」とそのオブジェを彼女に手渡す。
ところでそういえばあの男の子は氷のオブジェ大切にしてるかな、等と思考する。
少し懐かしみながらも魔法を使えたという事実に少しだけ喜びエレーナに笑いかける。


……ここでそんな和やかな空気をぶち壊すかのように部屋の扉が開いた。

「おや、おやおや、おはようございます。……料理は食べていただけましたか?
 否、いやいや、私が気になるのではなくえ、あー、い、妹が『ちゃんと食べてくれましたかね?』等と言うからで私は気にしてませんよ?何です、貴方達、信用していませんね?」

「いや、そんな事ないべ」

「では、ではでは何なのですその生暖かい視線は、やめなさい、そんな目で私を見ないでください」

「別に…、ねえ?」

エレーナに同意を求める。
何に対しての同意か等は気にしない方が楽になれると先生は思います。

と、ここでKの視線がオブジェへ向かった。

「可愛い…」

無意識だろうか、彼らしくない呟きをした後にハッとしたように自分を見つめる二人を交互に見た後、恥ずかしそうにお盆に食器を乗せて出ていこうと扉を開ける。

「……後でまた来ます」

その言葉を二人に告げて彼は、バタンと扉を閉めた。
102前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM :2010/10/16(土) 00:28:54 O
風呂から上がった久和がまず見たのは増えた人数である。
何でまだあのロリ巨乳が居るのかだとか、何で男が巫女服着てるのかだとかそういうのは抜きにしてもだ。
増えすぎじゃないか、これは?

「増えてやがる……遅すぎたんだ……」

「お邪魔してます、そう、まるで稲穂の様に…」

「は?」

「気にするな!こいつはアホなんだ!!」

「お前がなー」

「は?」

全く意味が分からないと、久和ははぁ?とだけ呟く。
それはまあ、仕方ないのではないだろうか。
誰だってこうなる、俺だってこうなる。

「……とりあえず飯」

久和がテーブルの上の食事に目をやってそう呟くと同時に誰かの腹の虫が鳴く。
音のした方を見るとそれは柊であり、彼はあまりにもわざとらしい爽やかな笑顔でテナード達を見ていた。

「腹へったぞおお」

「チラッ、チラッ」

一方が腹がへったと告げ、もう一方は真顔でチラッチラッと口にする。

「ああもう!俺の食えよ!」

あまりにもわざとらしい行動にキレたような口調でそう言う。
いや、わざとらしいも何も、秋人は顔を動かそうともしていないのであるが……。

「本当か!?俺は自慢じゃないがいっぱい食うぞ!」

「チラッチラッ」

「ああ、本当に自慢じゃねえな、あと巫女服鬱陶しい」

、と言うわけで彼らは(彼らと言うか主に柊が)本当に大量に食べたのであるが、まあそこら辺は気にしないでおいたほうがいいのだろうか。
自分の分が無くなるまで二人に食べられはあ、とため息を吐く久和に被せるように男達は口を開く。

「紹介が遅れたな。俺は米の伝道師、秋人だ(キリッ」

「俺はアグリフォーリオ、もしくは柊!」

「……もしくはって何だよ」

彼らの自己紹介の末に久和が発した台詞は、本日幾度目かのツッコミだった。
103タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/16(土) 21:35:32 0
【真実の胎動】


>「あれは複合体型ゾンビ。決して死ぬ事を許されない可哀想な魂達の集合体です」

救出に成功し、無事帰還したホテルにてシノが述懐する。
肉塊の正体。『世界制服』の少年について。ゾンビとそのマスター。そして、彼女の為すべきこと。

>「多分、ゼルタさんとハルニレさんは、複合体の生成の時に行われる『魂を集める』儀式・・・召魂(ショウコン)にやられたんだと思います。
  お二人共、『魂が剥き出し』の状態ですから・・・距離が離れ過ぎていたから複合体に取り込まれる事は無かったんだろうと思いますけど」

「なるほど、少なくともあの荒唐無稽な能力はこの世界が擁するものではないということだね。彼もまた『異邦者』の一人……
 でなければ『魂だけの者』と『魂を従える者』――明確な力関係のある者同士が同居できるはずがない」

あのレンと呼ばれた少年は、シノと同じ世界から、『魂を乱獲しに』この世界へやってきた公算が強い。
タチバナ達とは別に、自ら異邦人となってその立場を私欲に用いる人間がいること。それは見た目よりずっと重い事実だ。

そして、

『・・・お前、“精霊使い”だろ』

レンは、アクセルアクセスを識っていた。『精霊』を知っていた。
その内容こそタチバナの扱う精霊行使術とは異なるものだったが、技術としてのルーツは同じだろう。

(問題は、『精霊使い』という呼称……)

タチバナの世界では、『精霊使い』という職業も技能も存在しない。何故なら全ての民が『精霊』を持っているから。
『精霊』は生活に密着し、社会の基盤を支える相棒なのだ。この世界で『パソコン使い』と呼ばれる人種がいないのと同じである。
つまり『精霊使い』という言葉が生まれるには、『精霊を持つ者』と『持たぬ者』との交流がなければならないのだ。

すなわち、『異世界間の社会的な接触』。

(どうにも世界は、僕が思っているよりずっと進んだところにあるらしいね。いやはや妬けるよ)

当面は状況の整理に終始しなければなるまい。
ざっと見回しただけでも仲間が二人増えている。シノの抱えてきた『ぬいぐるみ』――ふたり分の魂が入った反魂の賜物。
そしてブラックサバスがいつのまにか妙齢の女性に変身しドルクスに絡み付いている。彼女はペニサスと自己紹介した。

「ずいぶんとここも大所帯になったね、いやはや、喜ばしいことだよ」

シノの説明が終わりいざ就寝という段になって、タチバナは立ち上がり水着の裾を正す。

「……僕はもう寝る。少しだけ疲れた」

彼にしてはえらく無遠慮な物言いでその場を辞した。
104タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/16(土) 21:36:16 0
他の同行者とは同衾せず、シングルの部屋を別途で予約したタチバナは自室でシャワーを浴びる。
煤一つついてないオールバックを湯で湿らせ、汗と埃と整髪剤を洗い落とす。整えられていた髪が解け、湯を真っ直ぐ滴らせた。

(気に入らないな)

洗髪剤を掌で泡立てながら思考に没入する。
白い肌を水滴が滑り、足元に湯溜りを広げていく。

(僕の範疇を越えた所で話が進んでいる。僕はまだ、自分が何故ここにいるかも分かっていないというのに)

『精霊』を知る少年。ロールを強制する『世界』。タチバナの知らない異能、魔法、科学技術。
突如として分裂したタチバナ達と、副産物として得た異常治癒。まるで漫画の登場人物の如く、タチバナの怪我は一瞬で治る。

(自分が異世界人であることに疑いはないが、もっと根本的な疑問が生まれてしまった)

鏡に映る、髪を下ろした自分の姿は、『オールバックのタチバナ』そのものだった。

「――僕は、何者だ?」

毒舌にして饒舌な相棒アクセルアクセスは、こんなときに限って沈黙を破らなかった。


【三日目・ラウンジホテル】

翌朝。
いつもと変わらぬスーツ姿でタチバナは同行者達の前へ現れた。
ハルニレが捜索対象について説明すると言うので、水のボトルを傾けながら謹聴の姿勢をとる。

>「探スノハコノ『白髪でチビで吊り目のロリ』。名前ハ『六花』。『2メートルぐらいのガスマスクの大男』ガ手掛カリダカラナ」

「ほう、『白髪』に『低身長』に『吊り目』で『ロリ』と来たか。見事なまでにコテコテなキャラ造形だね。
 思うに、『ロリ』があるなら『低身長』属性はいらなかったんじゃないかな」

《なんのはなしをしてるんだおまえ》

「大変だアクセルアクセス。ただでさえ幼女枠は競争率が激しいのに更にロリの新キャラと来たね。
 大人の中に幼女が混じるからロリは輝くんだ。ロリ率が高くなればなるほど幼さの稀少性は薄れていくよ」

《ええー》

「だが安心したまえ。君は君にしか持ち得ない属性を推していけば良い。例えば――『巨大ロリ』枠を狙うとかね!」

《どこにじゅようあるのそれ》

「女の子に踏まれたい需要があるのだから、踏み潰されたい需要もきっとあるはずさ」

閑話休題。
105タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/16(土) 21:37:30 0
寝込みっぱなしだったハルニレやゼルタに昨晩の状況を簡潔に説明し、いざ街へ出る段である。

「ではここで分かれ道だ。万が一戦闘になった場合は極力自分達だけで戦わず、相手より多い人数が揃うまでは逃げに徹すること。
 これを特に、戦力に偏りのある新市街チームは肝に銘じておいてくれ。無論僕らにも言えることだが――」

両腕を広げ、風を擁するように言う。

「――死なないこと、死なせないこと。これが最優先だ」

あくまでゲームなのだから。


【旧市街地】

「朝食を摂ろう」

基幹駅の向こう出口を出た瞬間、タチバナは同行者達へ言い放った。
旧市街は住宅地。朝のラッシュを過ぎているとは言え、『街の外へ出る』人の群れは絶え間なく駅へと吸い込まれていく。
駅前にはロータリーと複合型デパートがあり、立ち並ぶマンションの一階部分のテナントは喫茶店が多い。

「あーそっか、昨日のいざこざ整理するのに忙しくて朝ごはんまだだったね」

ゼルタが同調する。

「前から疑問だったんだが、君は幽霊なのに食事が必要なのかね」

「実体化するのに結構なエネルギー要るからねー」

「ハルニレ君やシノ君の食性も気になるが……というかこのチームは人外率が高いね。
 まともな人間は僕とハルニレ君に引っ付いてる幼女君ぐらいなものじゃあないか!」

「HENTAI目タチバナ科の生き物が何言ってんの!?――わかった、多数決をとろうよ」

「僕がまともか否かについてかね?」

「ご・は・ん!どこで食べるか決めるの!!……旧市街って観光名所もあるんでしょ」

「HAHAHA、こんなこともあろうかと観光地図とグルメ本を購入してきてあるんだ」

「やっるー。お金あるんだし美味しいもの食べにいこうよ。――じゃあ決をとります」



【タチバナの最終目的:この世界に対しての行動選択権を得ること
      当面目的:休鉄会の拡充。活動資金の工面。自分が何者なのか知る】

【向かう先を多数決】(候補)
・デパート
・喫茶店
・なんかご当地名物
・ファーストフード
106エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/16(土) 22:58:24 0
「あら……」

ξ*゚听)ξ人('A`*)

魔法陣から創り出されたのは、紙製のオブジェ。
小さな二人の男女が幸せそうに手を繋いでいて、とても微笑ましい。

爪'ー`)人ξ;゚听)ξ人('A`#)

と思ったら、ワンテンポ遅れてもう一人少年が出てきた。
心なしか、男女の表情が変わっている気がする。
今度こそ、これで完成らしい。琳樹さんが顔を上げて私に向き直った。

>「これでいいのかな」
「―――――――――……Σへ!?あ、」

>そして質問の答えを聞く前に「あげる」とそのオブジェを彼女に手渡す。

「……あ、ありがとう////」

琳樹さんの笑顔に、不覚にもドキッとしてしまった。
私、今どんな顔してるんだろう。

    ケンカハダメヨ       オチツイテ
ンー?爪'ー`) ヾξ(゚Δ゚;≡;゚听)ξノン ('A`#)ガルルル

気恥ずかしさにオブジェに目をやると、女の子が必死に二人の仲裁をしていた。
どこか人間臭さと懐かしさを匂わせるそれに笑みがこぼれる。

>……ここでそんな和やかな空気をぶち壊すかのように部屋の扉が開いた。

「あ、くうry…Kさん」
>「おや、おやおや、おはようございます。……料理は食べていただけましたか?
  否、いやいや、私が気になるのではなくえ、あー、い、妹が『ちゃんと食べてくれましたかね?』等と言うからで私は気にしてませんよ?
 何です、貴方達、信用していませんね?」
>「いや、そんな事ないべ」
>「では、ではでは何なのですその生暖かい視線は、やめなさい、そんな目で私を見ないでください」
>「別に…、ねえ?」

同意を求められるような視線を向けられた。
動揺しきったKさんと琳樹さんを交互に見て、私は苦笑いするしかなかった。
推測するに、空流さんはKさんなんだろうな、としか言えない。でも、私はそれを指摘しない。
きっと、彼なりに色々あるのだろう………………多分。

>と、ここでKの視線がオブジェへ向かった。

オ?爪'ー`) アラξ゚听)ξ? ('A`)ウン?

>「可愛い…」

爪*'ー`)ξ*゚ヮ゚)ξ('A`*)

Kさんの「可愛い」の言葉に、オブジェ達が照れくさそうな表情を見せる。
オブジェ達を見つめるその横顔は、一瞬だけだけど「空流さん」だった。
だけど直ぐに「Kさん」に戻って、「後でまた来る」とだけ言って去ってしまった。
107Q幹部長 ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/16(土) 23:00:19 0
>>琳樹さん、テナードさん、久和さん

「お前が異世界人監督の茂 八重子か?」

チャレンジの領域に踏み込み、私はまず茂八重子に声をかける。
書類で顔は覚えていたので見つけるのは簡単だった。

「お前達が監督している異世界人、加えてこのリストに挙がっている奴を集めろ。渋ったならば俺の命令だと言え」

そこに挙がっているのは、全員幹部やその補佐達だ。
チャレンジや他の連中の力を借りるのは癪だが、ボスの命令なのだから仕方あるまい。

「『一秒でも遅れたら即刻斬る』。そう伝えておけ」

そう念を押して、私は踵を返した。

【数十分後】

「…まず挨拶しておく。幹部長のQだ。宜しく」

集まった異世界人を前に私は手短く自己紹介する。
しかし驚いた。噂には聞いていたが濃い。面子が濃い。

「(猫頭に冴えない眼鏡のオッサンにツインテールロリ……それに……)」

チラリ。

…………………私に瓜二つの顔を持つ、五本腕の青年。
本来ならツッコミを入れたい所だ。オッサンとかロリとか猫とか五本腕とか五本腕とか五本腕とk

「幹部長?」
「うきゃぁっ!?」

突然Tの顔がドアップで出てきたので、堪らず変な声が出た。
気づかぬ内に五本腕に視線が行きすぎてしまっていた。皆の視線が痛い。
取り繕うように咳払いし、ついでにTに裏拳を食らわせる。倒れ伏すT。

「コホン…ボスから直々に、ある命令が下った。お前達には、俺と共にそれを遂行してもらう」

ホワイトボードに写真を貼る。それは紛れもない、弓瑠お嬢様の写真。
異世界人は勿論の事、殆どの幹部達も首を傾げている。
無理もないだろう。弓瑠お嬢様の事を知っているのはほんの一握りだろうから。

現に、私も今朝知ったばかりだし。
108Q幹部長 ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/16(土) 23:02:52 0
「『この娘を早急に捜索し、保護するように』との御達しだ。尚…」

しかしここで一人の手が上がる。さっきまで床とディープキスをしていたTだ。
くっ、回復の早い奴め。もう少し強く殺…殴るべきだった。

「質問いいかな?」
「……何だ、バナナならおやつに入らんぞ」
「入らないんですか…実に残n「本当にそれだけなら斬るぞ」

腰に差した≪絶対切断≫で?っ捌いてやろうか、コイツ。

「少しばかり、このお嬢さんに興味がわきましてね。ボスが気にかけるって位だから、どんな人物かと…」
「……………そうだな、簡単に言えば『ボスにとって』『非常に重要な人物』であるとだけ言っておこう」

流石にボスの娘だとは言わなかった。
幹部長である私ですら知らなかったという事は、つまりそういう事だろう。
余計な情報を与えて、話をややこしくするのは好きじゃない。

「『娘』が居なくなったのは昨日の夕方頃。部下達が一晩中捜索したが発見には至らなかったそうだ」
「ふむ。このお嬢さんは外見から察するに9、10歳ほど。にも関わらず発見出来なかったという事は…」

地図に赤ペンで次々に印を書きこみ、情報を整理する。その中でのTの言いかけた言葉に、私は頷く。

「何らかの目的で第3者により…誘拐、もしくは拉致された可能性がある」

考えたくない事だが、これが一番あり得る選択肢だ。

「もし第三者が『娘』と同行していた場合を考慮すると、捜索範囲がかなり広がりそうですね」
「ん、故に、二手に分かれて捜索する事にする」

言うが早いが≪絶対切断≫地図を二つに両断する。
地図は旧市街地と新市街地を区分するように綺麗に裂けていた。

「この都市はおおまかに『旧市街地』と『新市街地』に分かれている。手分けして探そう」

チーム分けについては、彼らに任せる事にした。信頼できる者同士でこなした方が良いだろう。

「もし、一緒に居た第三者が誘拐犯だった場合は捕まえたらすぐに捕縛する事。
  出発は三十分後、それまでに各自準備し、ここに集合だ。それでは一度…解散!」


【イベント:娘(弓瑠お嬢様)を捜索せよ!】
【報  酬:???】
【参加者 :異世界人全員(もるもる、シエルさん除く)、幹部(参加は自由です)】
【新市街地・旧市街地の二手に分かれて捜索。チャレンジ組とゼミ組に分かれて捜索した方がよさげかも?】
109Q幹部長 ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/16(土) 23:10:09 0
【訂正】
【×→腰に差した≪絶対切断≫で?っ捌いてやろうか、コイツ。】
【○腰に差した≪絶対惨殺≫で?っ捌いてやろうか、コイツ。】

【×→言うが早いが≪絶対切断≫地図を二つに両断する。】
【○→言うが早いが、≪絶対惨殺≫で地図を真っ二つに両断する。】
110シノ ◆ABS9imI7N. :2010/10/16(土) 23:32:03 0
「あ、あの、服ありがとうございます!」

3日目の朝。
シノはもと着ていた服から、白いレースやらをふんだんに使った所謂「甘ロリ」に着替えていた。

『おー、可愛い可愛い』

『あの不良女、見た目に合わず少女趣味だな』

昨夜のレンとの戦闘で、シノの服はボロボロになっていた。
それを説明すると、ジョリーが快く服を貸してくれたのだ。

>「オ前ラ誰ダ?」

『流石な不非兄弟を知らない・・・だと・・・!?』

『いや知らなくて当たり前でしょ。初対面なんだから』

「六花さん、か。早く探してあげないとね」

不非ブラザーズの漫才を軽く流し、写真の釣り目の少女を記憶する。
昨夜、かなり長い時間不非兄弟と会話をしていたお陰か、シノは少しだけ兄弟の扱いが分かってきていた。

>「……ひとまず、何か希望する行き先やアテはありますか? 無いのなら私の仕事にひたすら付いて回る事に
 なりますが、推奨しませんよ。あぁ、そもそも朝食は取りましたか? まだならホテル内で朝のビュッフェや、
 新市街の方なら飲食店も沢山あるでしょう」

長多良の提案もあり、タチバナ達旧市街チームとも分かれ。
こうして、新市街チームは出発した。

が。

【ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるるる・・・】

『『・・・・・・』』

「・・・ご、ごめんなさい・・・・・・・・・」

出発開始早々、シノの腹は朝食を強く所望していた。
シノの腕の中から、不非兄弟の呆れの視線が飛ぶ。

「ええっと、まずは朝ごはん食べましょうか!ね、ね!?」

『何この必死なロリ』

「あ、あそこなんかどうですか!?ほら美味しそうな匂いがしますし!」

『ここからあそこまで500メートルはあるよね!?どんな嗅覚してんの君!』

なるべく腹の音をごまかすかのようにシノが指さした先は、Cafe・Takaoka。
はてさて、どうなる事やら。

【シノ:フリフリレースの甘ロリに着替え完了。Cafe・Takaokaでの朝食を提案】
【不非兄弟:普通のぬいぐるみのフリをして同行】
111尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/10/17(日) 18:20:05 O
説明しよう

君の義手は、極めて曖昧な存在だ。見えないってだけじゃない。この世界のどんな方法をもってしても、決して
観測することはできない物体。いや、物体なのかすら分からない。概念に近いのかもしれないな。
君の義手にとって客体は除け者であり、全ては主体に依存する。
己のみ観測可能な手。
己の認識にのみ依存する腕。
因果そのものから無視された、舞台の下で演じる事を許された俳優。
『待て、それならどうやって俺にこの腕を取り付けた?』
『知らないよ。だって君にとって客体である僕たちには、その瞬間を観測できないからね。今だって“そこに何
もない”から“何かあるはずだ”と推測して君に取り付いたと判断してるんだから。
勝手に取り付いたんじゃない?』
だけど、その義手は事象を発生させる事はできる。何かを掴むことはできる。何かを振りほどく事も、何かを締
め上げることも、何かを手繰り寄せることもできる。
当たり前だ、フェノメノンなのだから。“手”という記号により、メタフォリカルに存在する“現象”そのもの
なのだから。
だからこそ、その腕は“どんな物でも”掴むことができる。水も、風も、味も、あるいは己さえも。
掴むことで、その物体は因果の輪から外される。選択は自由だ。可能性は無限だ。
『馬鹿馬鹿しい、ただ範囲が細切れになっているだけだ。単なるまやかしだ』
『その通りだよ、だが、君のその狭い視野なら、その程度の事を気にする必要はない』
『“これ”の名前は何だ?』
『何だったかな、“バレエメカニック”とか何とかあの人は呼んでたけど。
……ああ、あの人っていうのは猫さ。君と同じフェノメノンで、君より症状が酷くてね。出会った時には、もう
姿も名前も、見えなかったし、書けなかった。ただ、例えるなら自分は何かと尋ねると、猫と答えたんだ。
だから僕たちは彼の事を“猫”って呼んでいた。異世界人であり、未来人でもあると自称する風変わりな男さ。
もう消滅しちゃったけどね』
君もいずれそうなる。

さて、君の義手は僕にとって酷く目立つからね。どんなに離れていても特定することができる。
欲しいものがあったら、気軽に頭の中で話し掛けてくれ。いつでも義手経由で君の頭の中を監視してるから、す
ぐに欲しいものを送れるよ。本当、“何でも”揃ってるから。期待してくれ。
あと、忘れるなよ、君には鰊の仇をとって貰わなくちゃいけないんだ。
絶対に、忘れるな。


「…そうだ、尾張さんも一緒に行こうよ! お腹空いてるでしょ!?」

112尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/10/17(日) 18:24:44 O
何も食べる気がしなかったので、俺はただコーヒーとトーストを頼んだ。兎は、俺がトーストを食べる事につい
て何かカンに障ることがあったようで、つまらない皮肉を延々と垂れ流してきたが、俺が『脚気になるぞ』と書
いたメモを手渡すと、露骨に舌打ちをして、それから話し掛けてこなくなった。
白米だけでお椀三杯平らげた兎は、首を伸ばして周りを見渡した。信じられないことに、まだおかわりする腹積
もりらしい。そろそろ見ていて胃の底がむかついてきたので、店内に目を反らす。
正直なところ、馬鹿馬鹿しい事態に巻き込まれたと思う。確かに、俺の元居た世界にも上手く説明のつかない代
物はあったが、それもある範疇に収まった、詰まらないものばかりだった。
ここにはルールも規則もない、ただ純粋に大きな力が渦巻いている。そんな大きな力の陰で、俺は消滅の外苑に
触れている。
力というものは、どんなものであれ、大抵は均等であるはずだ。もしそうでないのなら、それは何かが移行する
最中であるということで、俺は運悪くそれに巻き込まれたのだろう。

ペリカンはフェノメノンを治療する方法はない、と言った。
普通、世界を強制的に移動した場合、移動したそのものは自身の居場所を世界に強引に割り込ませる。だから割
り込んだその場所から少しでも動くと、因果に感知され、世界そのものから排除される。
だがフェノメノンは違う。存在そのものが因果からかけ離れているため、そもそも世界に割り込むことすらでき
ない。世界に侵入した瞬間に吸収される。だが、因果からかけ離れているが故に、世界から世界への移動は遅く
なる。
つまるところ、俺はたった今、この瞬間にも世界と世界を移動する過程にあるのだ。話すことができなくなった
ことも、物音が消えたのも、その予兆に過ぎない。“こちら側”の世界に“俺”が完全に到達すれば、俺は完全
に消滅する。
正確には客体には観測できなくなるため、“どうなるのか分からない”と言うのが正しいらしいが、関係のない
話だ。
完全にフェノメノンになればこの義手のようになる。
つまり誰にも認識されなくなる。
それは恐らく、死ぬよりも恐ろしい。
113尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/10/17(日) 18:25:43 O
「俺の方はコンナ感じだったナ。さテ、ところでウサギ。
 アサヒに言われた仕事は噂の収集ト流布らしいガ、具体的には何に関する噂になるんダ?
 何でも良イ。と言うわけじゃあないのダロウ?」
「場合によりますね……。
まあ、よくやるのは、週刊誌が好きそうなゴシップを適当に振り撒いて、ある程度時間を於て記者に売り込むと
か。
ああ、適当って言っても、私の文明を使えば確実に上手くいくんですけどね。
あとはネット上に効果的に――これも私の文明を使って――デマを振り撒いて株価を操作したり。
でも、多分私達がこれからやる仕事はそんな泥臭い物じゃなくて、ブーム型加速器がこの街のどこかで……」
「…………『マサくん』?」
不意に鋭い音が響く。音のした方を見ると、丁度ウェイトレスが、落としたコーヒーをどうにかしようとしゃが
んだ所だった。

試してみよう。

何気なくそんな思考が過り、俺は右手を伸ばした。大したイメージは持たない。意識は動かない。ただ目的だけ
ははっきりとしている。
床に落ちたコーヒーを掴み、カップに入れ、自分の前に置く。
その過程でしゃがんだウェイトレスが転んだが、大したことはないと判断して無視した。コーヒーはカップの深
さに反して大量に入っていたが、溢れることはないという奇妙な確信があった。フェノメノンは現象そのものだ。
『床に落ちたコーヒーを掴み、カップに入れ、自分の前に置く』
文字通りの事態が再現される。だがその過程は、周りには決して観測できない。
(怪我はないか?)
とウェイトレスに言った後、何度目か分からない溜め息を吐き。手を伸ばして助け起こす。
ふと顔を上げると、兎が不自然な程無表情にこちらを見つめていた。僅かに視線を交わらせた後、兎は持ってい
たお椀をウェイトレスに差し出した。
「おかわり」

【尾張の格好:テンプレ+右腕に黒い手袋を着けています
兎→李:返答
尾張:コーヒーを元に戻して自分の前に置く(兎以外その過程は観測できない(はず))、普通の人は何か凄い偶
然が重なってそうなったように見える
尾張→渡辺:助け起こす
兎→渡辺:おかわり

“バレエメカニック”:フェノメノン化した何者かの義手。フェノメノン化したため、元々あった機能とはかけ離れた物
に変質している。
何でも掴むことができ、持ち主の望む現象を自由に引き起こせるが、あくまで右腕でできることに限られる。】
114佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/10/17(日) 21:08:20 0
何か面白い物を見つけたのだろうか?と覗きこんだ先には柔らかな髪と硬質な能面がアンバランスさを印象させる生人形が陳列されていた。

「あ、あの……この人形、綺麗だなって。あはは」

「へぇ、アンティークドールって奴ね」

見つめる。その視線の先は件のドールだ。
理由などはなかったが、しいて上げるのならば何故かとても惹きつけられた気がしたから……

「おー、えと、男の子がこういうのに興味持つって、やっぱアレだったりしますか……?」

そのドールに注がれる視線に気づいたのだろう。萌芽は落ち着かないと言った様子で零に声を掛ける。

「あぁ……そうじゃないの。ただ、私も気になったのよ。
 その人形の黒い瞳、まるで宝石を削って嵌めたみたいで違和感があったの」

萌芽からの「男の子がお人形に興味を持つってキモイ?」とでも言いたそうな言葉を否定、真意を語る零。
良く見れば確かにその人形の目は異様な輝きを発していた。まるでダイヤモンドか何かの様なその色は確かに宝石と間違われても仕方がないだろう。

「名のある人形師さんとかが作ってるんでしょうかね……やっぱり。
 いや、その。全然わかんないんですけど、なんかこういう店にあるし、そうなのかなって」

「でしょうね。人形。特に昔の物は一つ一つが職人の手作りらしいわよ」

答える零。しかし、彼女の回答はアンティークドールに対する世間一般での憶測である。
実際のビスクドールは型に粘土を詰める、もしくは素材を型に流し込むと言った手法で作られる。
そして、そのビスクドールでも100年以上経過した物をアンティークドールと呼んでいるのだ。
つまりはアンティークドールはかつて大量生産されていた物、もしくは可能な物が程良い状態で保存されていただけであり、
実際にはそれなりの量を作られた物がほとんどである。

もちろん、有名作品や名のある工房製の物はその後に職人による仕上げがなされる。
そこを人々は手作りと称しているにすぎず、その結果が今の彼女の発言だ。
その人形を持ち上げて、眺めていた萌芽。
だが突然、目を擦ったり、ケースの上に戻したりと挙動不審な動きを見せ始める。
そして、彼は不思議な言葉を発した。萌芽曰く……

「この人形、生きてたりしませんよ……ね?」

と……
あり得ない話ではない。現に彼女の居た世界ではそう言った逸話もあるほどだ。
しかし、それはあくまで逸話。例え稲川淳二がその話をしたとしても本当に起こるかどうかなんて分らない。
ましてや、彼女は……■■■■■■■。起きてしまったとしてもそれは■■■■■。

「随分とファンタジックな事を言うのね。どこかの少年誌のアリスゲームじゃあるまいしそんな訳無いでしょ……」

しかし、その情報を彼女は知り得ない。
115佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/10/17(日) 21:10:04 0
そうなれば、当然答えはNoだ。零はその可能性を真っ向から否定した。

「分かりませんよ、聞いたことありませんか?
 人形師が心を込めて造り上げた人形には魂が宿るんです。
 ひょっとしたら、この人形にも心があって、喋ったりするかもしれませんよ?」

そう言い萌芽は悪戯っぽく笑う。

「もう……」

呆れたように人形から視線を外し、零は再び何か面白い物が無いか物色を始める。

《あら、御機嫌よう
 まったく私に生命がないだなんて、あなたは随分と失礼なことを言うのね?》

「!?」

その声に驚き、零は振り向く。
人形がしゃべる訳が無い。そんな事は分っていたとしても……

《さて、この通り私は喋れるのだけれど、
 実はこれは貴女の前にいるこの男のおかげ。で、彼がなんで私をわざわざ喋れるようにしたかというと、
 ちょっとこの男、貴女に言いたいけど言えないことがあるから、私に代弁して欲しいんですって
 まったく、意気地のないことこの上ないわ》

やれやれ、と人形は両手の平を上に向けて『呆れた』というポーズをとる。
そう。つまりは全て人形の両手を持った萌芽によるもの。そこまで把握して零は思わず笑みをこぼす。

《「あなたのその服装、とても可愛らしいです」って
 まったく、こんな簡単なこともロクに伝えられないなんて、
 あなたも随分面倒臭い男を相手にしているものね?》

「本当にね?お人形さんもそう思うわよね〜」

そう答えて零は萌芽から人形を取り上げる。
そして、自分自身でもらしくないと思えるような仕草で抱きかかえ、苦笑いする萌芽の額を人差指で小突く。

「ふふ。お褒めにあずかり光栄です。なんてね?」

そう返し、こみ上げてくる可笑しさに二人で笑い声を上げる。

「じゃあ、そろそろ次行ってみる?
 まだまだ時間は残ってるのだからしばらくここで見て回るのもいいと思うけど……」

【選択:このまま雑貨屋で時間をつぶすor別の店に向かう】
【備考:他のグループも時間軸が近くなってきたので外に出て接触してもいいと思います。
    又、逆にこのままデート続行ならば報酬ありのイベントが発生します。】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】
116名無しになりきれ:2010/10/17(日) 21:25:46 0
佐伯戻ってきたのか

よし、消えてもらおうか
117名無しになりきれ:2010/10/17(日) 21:27:19 0
 小 面 童  /   ,、r'";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`';,、    ,r';;r"           _ノ
  わ が 貞  L_ /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;\ ,';;/             )     何
  っ .許 が  //;;/´         `' 、;;;;;;;;,,l;;'            /ヽ  と と
  ぱ さ.    /.,';/              ヽ;;;;,l;L_      .,,、,--ュ、 ';;;;;;;;;i な 童
  ま れ   l |;|┌--‐フ  ┌----、、   |;ヾr''‐ヽ,  ,、ィ'r-‐''''''‐ヽ ';;;;;;く !! 貞
  で る   i  |l ~~__´ 、   ``'__''''┘  |;;;;;l rO:、;  ´ ィ○ヽ    'i;;;;;厶,
  じ の   l _|. <,,O,> 〉   <,,O,,>    |;;;;;| `'''"/   `'''''"´     !;;;;;;;;ヽ
  ゃ は   ._ゝ'|.    /   、       |; ,'  /   、        |;;;;;;;;;;;;;レ、⌒Y⌒ヽ
  ぞ    「 | |    (    )       .ソ l  ,:'   _ ヽ       .|;;;;;;;//-'ノ
        ヽヽ |    _,ニ ニ,,,,,_        ', ゞ,' '"'` '"       i;;;;;i, `' /
⌒レ'⌒ヽ厂 ̄  `| ,、ィ-‐''__'''‐-`,、     ''  ', i、-----.、       `''"i`'''l
人_,、ノL_,iノ!   ',   :i゙''''''''''`l'  ` _人__人ノ_ヽ ヾ゙゙゙゙ニニ'\        ,'  ト、,
      /    ヽ.   L__」   「 止 笑 L_ ヽ〈    i|          Vi゙、
ハ ワ  {.     ヽ.  -、、、、 '  ノ  ま い  了゙, ,ヽ===-'゙ ,'     ,   // ヽ
ハ ハ   ヽ.     ハ       )  ら が  |  ',.' ,  ̄ , '    ノ  /./    ヽ,
ハ ハ    >  /|ヽヽ、___,,,,、 'く  ん    > ヽ.  ̄´   / ,、 ' /     / \
ハ ハ   /  ノ. | ヽ       フ      /  ノ:lゝt-,-‐''" / ,.ィ゙     /



--------------------------------------------------------------------------------
118名無しになりきれ:2010/10/17(日) 21:28:06 0
                            /. V .え
 ν 常 /                       )  .I  |
 速 識 L > ´  ̄`ヽγ´Y´ )         ヽ P マ
 だ 考 ./  ヽ/ | ||ヽハ ノ   |           i .で .ジ
 ろ .え > /  ヽ_  .\ |     ,-‐´ ̄ く  !?
  :  た ゝ(●)(● )   |/    /  _   !'|/l W/ヽ
 ,w ら / (__人__)      |/     l  /'⌒リルV⌒ \  彡
⌒レ⌒ヽノ  l`ー'´     |    i  / (●)  (●) \ 彡
       ./⌒ヽ     |    从从 ':⌒(__人__)⌒::::::: \ノ
人_,、ノL  /  /      /   「 .き L   |r┬-|        |
  プ  { /  /     ノ、   ノ め 了 /⌒ヽ'´      /
  ッ  ノ./  / /\/ l ^ヽ  .) え /7 /  /      l─、
  w ヽ〈   〈       |  | <  w > V  ./      | |
119名無しになりきれ:2010/10/17(日) 21:29:32 0

        / ̄ ̄ ̄\
       | 」」」」」」」」」)            ______( ̄ ̄`´ ̄ ̄) )))川川(((
       |(6ーB-B|ノ   / ̄ ̄ ̄ ̄\(::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/(三三◎三三)(三三三三三)
       |:::|ヽ   .> |  彡彡ノ((((^^)))))|::/ ノ   ー|ミ _  _ ミ(6 ー□-□-|)
       |ミ   (=)/  彡ミ ー○---○ |(6ー[¬]-[ー].|(∴ ` 」´ ∴)|___´ つ )
     / ̄ \;;;;;;;;;/ ̄\ミ(6  .( 。。) |/∪   ^^  |/\ ( へ) /|時刻表| ∀ / ↓FP4700Z
     |  |       ||ミ (∴  (三)∴)  :::: )3 ノ   (___)(⊃   |__/|「| ̄[]
     |  | ガイナックス / ̄ ̄ ̄\,,,,,,,,,,,,,,ノ ̄\__/ ̄ ̄ ̄ ̄\ / ̄ ̄ ̄\.| ̄|⊃ ⊂|\
    / ̄ ̄ ̄ ̄\ ( ((((((^))))))´ ̄ ̄ ̄ ̄\(# ノノノノノノノノノ)|___A_| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ )
   (  人____).|ミ/ _=_| ノノノノメノナノノ)  ノー◎-◎|ノ川 ノ  ー))/))ナ)))ナ)ヽ)
    |ミ/  ー◎-◎-)(6ー[¬]-[¬] ノー□-□-|リ(彡ミ)\  つ|ノ川 ー●-●.| ノ  ⌒ _ ⌒ |ノ
   (6     (_ _) )|    、」 |川) ∴)`_´(∴)ゝ彡ミ) | ∀ノノ .|   (・・) |( .///)  3 (//)
  _|/ ∴ ノ  3 ノ \  (ー)// \___/ ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄)/|   (三) |)\___/()
 (__/\_____ノ_|  \___/ |_|       | ノ三三三三|/::::::::\___/\      ヽ()
 / (__))     ))| | スクウェア命 | | ヒカ碁命(6ノー⊂⊃⊂⊃:::::::::::::葉鍵命::::|/ はるとき命(())
[]__ | | どれみ命ヽ |       .| |       |彡     ・・ |:::::::::::::::::::::::::::::::::/|       )|
|]  | |______)_)三三|□|ミ(__)____ノ彡    (ーノヽ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/_)_____))
 \_.(__)三三三[国]) \::::::::::::::::::/  \:::::::Y::::| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|三三[国])、_/)_/)_\
  /(_)\::::::::::::::::::::| ̄ ̄|:::::::|::| ̄ ̄ ̄ ̄|::::|:::(⊃ GGX全国1位 ⊂):::::::::::\:::(∴)◎∀◎(∴) \
 |Sofmap..|:::::::::/:::::/   .|:::::::|::| まん森 .|::::|:::::|________|´)::::::::/⊂) ̄ ヲタラー ̄(つ ̄
  |____|;;;;;;/;;;;;/.____|;;;;;;;|;;|____|;;;;|:::/;;;;;;__.へへ__;;;\/;;;;/;;/(~ ̄ ̄ ̄) ̄ ̄~)
     (___|)__|)  (___)__)(___(;;;;;;;;;;;___||__;;;;;;(__).__)(____)___)

ブーン系中の人大集合AA


120ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/19(火) 00:08:47 0
「こんなモンッスかね」

朝、俺は全身鏡の前で服装のチェックを行っていた。
これから、本格的に「人間達」に紛れて活動を行う。
格好も「それらしく」しておいた方が吉。そう判断した。

「あら、どうしたのそのスーツ」
「あ。お早うございます、ペニサス様」

現れたのは、白いワンピースにアミガラのベルトをゆるく締め、ネイビーブルーの薄い上着とサンダルを履いたペニサス様。
昨日とは打って変わって、じm……清楚で大人しめな格好だ。
ペニサス様が俺の服装を指摘したのは、何時もの執事服ではなく、黒のスーツだから。

「タチバナさんのスーツのデザインをパk…イメージして作ったんスよ」
「ふぅーん。まあ良いわ、早く皆のところに行きましょっ」

それもそうだ。あまり待たせるのも良くない。
腕を絡ませて擦り寄るペニサス様に頷き、ネクタイを締め直してハルニレさん達の元に向かった。


>「朝食を摂ろう」
「飯ッスか」
「そういえば私達、朝から何も食べてないわねぇ」

>基幹駅の向こう出口を出た瞬間、タチバナは同行者達へ言い放った。
俺は別に食事を摂る必要はないから問題はない。がしかし、他はそういう訳にもいかないだろう。
何よりも昨夜、自分は役に立つどころか足を引っ張ってしまった。
ここで汚名返上、名誉挽回せねば。どこかに良い喫茶店でもないものか。

「…って弓瑠さん、またロマさん連れてきちゃったんスか」

弓瑠さんの頭上で、猫のロマさんがチョコンと乗っかっている。
来ちゃ悪かったか?と言いたげなロマさん。目付きの悪さは飼い主に似たんだろうか。

「あのですね弓瑠さん、本当ならペットを連れてお店の中に入るなんてことは出来ないんですよ」

弓瑠さんと視線を合わせるべくしゃがみこむ。
昨夜はホテルでもレストランでも咎められなかったからよかったものの、次はそうはいかないかもしれない。

「ペットと一緒に食事が出来る場所とかあれば良かったんスけど…」

自分でそう言いかけて、ある事を思い出した。
ハルニレさん達と出会う2、3日前に、エレーナ様とこの都市を探索した時のことを。

「タチバナさん!地図、観光用の地図貸して下さいッス!」

半ば奪い取るようにガイドブックを受け取り、目的のページを探す。
俺の記憶が正しければ………………………………………………あった!

「ココ!ペットOKのレストラン『モナズ』なんてどうスか!?」

【ドルクス→ペット同伴OKのレストラン『モナズ』での朝食を提案】
121W&S ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/19(火) 00:23:24 0

市内某所、「進捗技術提供及び研究支援団体」、通称進研の保有する一施設。

その部屋は、その施設の中でも特に異質な空間だった。

「A BORNプログラム、ドライブ」

「了解」

部屋に在るのは、数台のコンピュータと、巨大な円柱型の水槽。
部屋にいる、白衣を着た二人の男のうちの一人の命令に、もう一人がパソコンをカタカタといじる。

「20%……50%……90%……」

水槽の中は青緑色の液体で満たされており、その中にはまだ若い成人女性の体が浮いている。
ひざを抱えまるまって、液体の中に浮かぶ彼女の姿は、未だ母親の腹の外を知らない胎児の姿を彷彿とさせた。

「”コンプリート”」

「よし、”調整”終了だ」

「了解、被検体を開放します」

水槽の中から、みるみるうちに液体が無くなって行く。
液体が完全に無くなった水槽のカバーが開き、そこにひざを抱えて座り込んでいた女性が、
ふいにぱっ、と目を見開いた。

「ん……ああ、終わったの?」

言いながら女性は立ち上がり、素っ裸のまま「んんー」とのびをする。

「『ホエール』……少しは恥じらいたまえ、目に毒だ」

「ご挨拶ねえ、こんな美人の裸体が拝めるなんて、あんた最高に幸せもんよ?」

女性の裸体から目を逸らしながら彼女に真っ白なタオルを渡す白衣の男性に、
ホエールと呼ばれた女性は頬を膨らませながら言う。

「ほら、『主任』なんて私が立ち上がったあたりからガン見してるし」

言われて男性が振り向くと、先ほどまでパソコンをいじっていた男性が、
鼻息をあらくさせながら彼女の裸体を見ているのが目に入った。
彼の目線に気付いた『主任』がびくっ、と表情を引きつらせる。

「ち、ちがいますよホエールさんッ!! 私はただ尊敬する『教授』の後ろ姿を見て興奮していただけです!!」

「よけい気持ち悪いわッ!!!」

『教授』と呼ばれた男性が、主任の頭を持っていたボードでしばきあげる。

「なッ……あんたたち、そういう関係だったの? 上司と部下の禁断の愛!?」

二人のやりとりを見ていたホエールが、目を輝かせ始める。
彼女はそのまま教授の手をとると、言った。

「応援、してるからね!!」

「だからちがああああああああう!!!!」
122W&S ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/19(火) 00:24:43 0

数分後、ぴしっとした灰色のスーツに身を包んだホエールは、
足を組んで床に座り込みながら”調整”後の休憩を取っていた。

「なーんでさっきまでぐーすか眠ってたってのに、また休憩なんかとらなきゃいけないワケ?」

「安全のためだ、我慢しろ」

栄養補給のためのゼリー飲料をちゅうちゅう吸いながらぶつくさ文句を言うホエールを、
教授の方は”調整”中のデータを見ながらあしらう。
ぶー、とゼリー飲料の袋をふくらませながら、彼女は納得いかないという表情をしていた。
ふ、とその表情がなにかに気付いたようになって、彼女は教授に問いかける。

「そーいやさ、コロッケの人はどこ行ったの?」

「コロッケ……ああ、”あっちの教授”なら今日は大学のほうで講義だと」

「はぁ、なんだかんだでちゃんセンセーやってんだ、あの人」

「まあちゃんとやってるかというと……講義の90%が、コロッケについてだと学生から聞いた覚えが」

「あはは!! よっぽど好きなのねコロッケ。あの人確か専門は遺伝子工学でしょ?」

「そのはず……なんだけどな……」

けらけらと笑うホエール、教授の方はどこか遠い目をしている。
ちなみにその間、話に入れない主任はずっと黙ったままだった。

「『あの子』は? おとなしくしてた?」

今までけらけらと笑っていたホエールが、ふいに真剣な表情に戻る。

「『スフォルツァンド』か……そういえば今日は何も壊してないな」
123W&S ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/19(火) 00:25:50 0

ホエールが部屋を出ると、そこには見覚えのある金髪にピアスの片眉少年が床に座って本を読んでいた。
彼らが所属する組織、進研のボスからもらったのだというその本は異世界の異物だそうで、
ホエールも少し見せてもらったのだが、ややこしいその内容は彼女にはちんぷんかんぷんだった。
なのでそれを読む少年の姿を見て、こんなややこしいものの一体何が楽しいのだろうと首を傾げる。

「スフォル、ずっと待ってたの?」

言われた少年―――スフォルツァンド―――は、本から顔を上げないまま、
むすっとした声で応える。

「別に……本が終わる前にアンタが帰ってきただけだ」

「素直じゃないわねえ」

苦笑するホエール。スフォルツァンドは、相変わらず本に目をやったまま言う。

「……Qが、ボスに召集を受けたんだと」

「あら……ああ、なるほど、それで今日はおとなしかったのね?」

少年はぱたんと本を閉じてホエールを見上げる。
その顔には表情こそなかったが、その瞳には獲物を見つけた猛禽類のような、ギラギラとした不気味な光が宿っていた。

「ホエール、次の『狩り』はいつだ?」

「さぁて……まあ遠くない未来なのはたしかでしょうね」

今の状況でやることなんて精々異世界人狩りか、または成龍会の後始末くらいだろうが、
まあ彼が退屈しなくてすむなら、自分も面倒がなくていいかと彼女は思った。
124W&S ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/19(火) 00:27:46 0

名前:S(スフォルツァンド)
職業:進研リーダー直下親衛兵
元の世界:不明
性別:男
年齢:一人になってから2年目
身長:172cm
体重:60kg
性格:凶暴
文明:『妄想現実』<<イマジネーター>>
   ”粒子”の文明。微細なその一粒一粒が彼と適合しており、
   彼の頭にイメージした通りに動き、形を作る。
   パッと見は文明に見えないため、異能としか思われないことが多い。
外見:金髪、片眉だけをそり落としている。パンキッシュな服装を好み、両耳にはピアス。
   瞳は茶色。髪と眉は脱色しているだけである。

備考:元AAはさいたま。

名前:W(ホエール)
職業:進研リーダー直下親衛兵・および破壊工作員
元の世界:不明
性別:女
年齢:25
身長:177cm
体重:52〜7000kg
性格:いい男大好き・姉御・そして少々腐っている
Type-Whale:クジラをコンセプトにして戦闘用に”調整”された、文明改造人間。
      戦闘に置いては体の一部を巨大化、額から強力な破壊音波を発生させる
外見:長すぎず短すぎない黒髪に、スーツをぴしっと着こなす。
   顔の見た目としては穏やかでかなりしたしみ安い。
   あとデコが広い。

備考:元AAはホルタン【参考:モナー研究所で検索】

【背景】
彼ら二人は、進研と軍部が文明を戦闘兵器として転用するために協力して造り上げた、文明改造人間である。
Sは失敗し、もともと三人だったものが一人になった。
Wは成功し、戦闘兵器として成り下がった。
ホエールは三人だった頃のスフォルツァンドと中が良かったので、
何かと世話を焼く意味で、彼とよく行動を友にしている。
125竹内 萌芽(1/2) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/19(火) 23:45:04 0

人差し指がこつん、と額にあてられた。
なんだかその部分がくすぐったいというか、うまくは言えないが
そこから何か幸せ成分のようなものが溢れてくる感じがした。

「ふふ。お褒めにあずかり光栄です。なんてね?」

竹内萌芽はその日、初めて女性というものはしぐさひとつで男性が殺せるという事実を知った。
簡単に言えば、胸をおもいっきりず太い杭で突き刺されたような、そんな衝撃。
胸が収縮して、息が苦しいような、なのに全身の体温が上がって制御ができないような、
少なくとも萌芽は、自らの胸に湧き上るその感情を表現する言葉を知らなかった。

―――ようするに「可愛すぎて死ねる」というヤツである。

その感覚がすっと冷めていくと、萌芽は先ほどの自分の行為がどうしようもなく恥ずかしくなり、
照れ隠しに笑うことにした。

幸い零も笑ってくれた。

「じゃあ、そろそろ次行ってみる?
 まだまだ時間は残ってるのだからしばらくここで見て回るのもいいと思うけど……」

「お……」

零の「時間は残っている」という言葉に、萌芽は少しだけ冷静になる。
そうだ、この楽しい時間も決して無限ではないのだ。

「そ、そうですね。次に行ってみましょうか!」

少し下がってしまったテンションを、元気な声で振るい立たせる。
時間は有限。だからこそ今この時間を精一杯楽しもう。

笑顔を零に向け、右手を彼女に差し出した。

視界の隅で、尾羽の長い蛾が店の入り口から空に飛び立つのが見えた。
126竹内 萌芽(2/2) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/19(火) 23:46:01 0

【ブティック:Original character】

竹内萌芽の中で、女の子とのデートといえば、服屋さんで彼女に服を選んでもらうというイメージがあった。
それにこのままYシャツ&黒ズボンという風貌でデートというのもまずいかな、
と思ったこともあってブティックに入ったわけなのだが

「なんかイメージと違う……」

そこは確かに若者向けのカジュアルな服も扱っている店ではあった。
しかし、なぜだか壁には和服だの、なんだかファンタジーにでてきそうな布の服だのがある。
他のカジュアル服も、大体個性的すぎるほど個性を主張しまくっているデサインのものばかり。

入る店間違えたかな……

ふるふる、と顔を左右に振り、その後悔の念を振り払う。
逆転の発想だ、こんな面白い店他にはないだろう。
それに何より、今の自分は『分身』なのだ。
姿形が自分のイメージに左右される今なら、服の見た目の情報を得るだけで
萌芽は簡単に服装を変更することができる。
零に金銭面の負担を与えず、なおかつ楽しめる。こんなデートスポットにぴったりな場所は他にないに違いない。

「あ、あの佐伯さん。よかったら服を選んでくれませんか?
 僕”こっち”に来たときからずっとこんな格好で……どーせデートするなら、ちょっとおしゃれしてみたいな、なんて」

それは完全に彼女のセンスまかせで、自分の服装が決定されてしまうということだ。
萌芽は気付かない。
店の中には、服に混ざってスライムのきぐるみとか、スイカのきぐるみとか、怪しげなものが多々置かれているということに。

カウンターに座る10歳ほどの女の子の目が、きらりと輝いたのが、なぜだか妙に印象に残った。

【ターン終了:デート続行。未だ他チームとの接触は無し】
127白州くじら/W/ホエール ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/19(火) 23:47:30 0
”白州くじら”、それが戦闘用文明改造人間『ホエール』に与えられた人間としての名前である。
進研のボス直属の親衛兵という裏の顔を持つ彼女は、
普段は破壊工作員として、進研と敵対する可能性のある組織にもぐりこんでいる。

グレーのスーツに短すぎない程度の長さのミニスカート。
きゅうすからニラ茶を湯飲みに注ぐその姿は、とてもではないがその正体が恐るべき戦闘能力を持った生物兵器には見えない。
実際、彼女はその組織の中で特別な能力をもたない普通の人間として溶け込んでいた。

鼻歌を歌いながら、彼女は暖かい二つの湯のみの乗った盆をもって、机の上でだれている”同僚”の後ろに立った。
『きのうの事件』の後始末がよっぽどこたえたのだろう、ぐったりと机に突っ伏している彼女のとなりに、そっと盆を置くと、
耳元にそっと口を近付け、言った。

「都村警部補、お疲れ様でありまーす」

彼女の声に、都村みどりが机から不機嫌そうな顔を見せる。
白州くじら―――戦闘用文明改造人間『ホエール』が潜伏している組織。

それは警視庁公安部文明課だった。

「あはは、お疲れ都村……って、まだ事後処理が残ってんだっけ?
 まあいいやお茶淹れたの、飲まない? とりあえず一服ってことで」

ホエールがこの組織に潜入したのは、つい4年ほど前である。
階級は目の前の都村と同じ警部補。
さすがに戦闘能力を隠したホエールは都村のように小隊をまかせられるほどの地位にはないが、
それでも白州くじらは自らの足で文明事件を解決する優秀な人材だった。

「しっかし成龍会が事実上の解散か……あたしのほうの仕事も忙しくなりそーねどーにも」

ニラ茶を啜った彼女ははぁ、とため息をため息を吐く。
目の前で未だに疲れた目をしている都村は、当然であるが白州くじらの正体を知らない。
彼女たちの仲は同僚であり、それなりに親しい友人でもあった。
そして、ホエールのほうの友情に特に嘘はなかった。

「こないだの放火事件あったでしょ? 民家4軒が全焼したヤツ。
 今朝あれの真相が分かったのよ。―――犯人はなんと12歳の少年」

目線を落とし、憂鬱な表情と声で彼女は言う。

「その子はね、ちょっとした好奇心からお父さんのライターで遊んでたらしいの。
 でも、そのライターには文明が宿っていた。『爆炎消失』《バックドラフト》よ、信じられる?
 火はあっという間に部屋中に広がっていった。そして結果は、死者7名。その少年も含めてね」

真剣な表情で、ニラ茶を啜るくじら。

「ねえ都村、あたしときどきわかんなくなるのよ。文明ってさ、なんなんだろ?」
128愛内檸檬(1/2) ◆OryKaIyYzc :2010/10/22(金) 15:52:52 O

この成桐市に月崎の名字を冠する家は二軒有る。
一つは真雪が暮らす家。もう一つは、月崎家当主『月崎文子(あやこ)』が暮らす豪邸、月崎本家。

月崎本家は現在、騒ぎになっていた。

「真雪と連絡が取れないのはあんたのせいだ!」
「知ったこっちゃねーよ! あのバカ娘どこまで一羽を追い詰めるつもりだ!」
「居ないのならば探せ! 貴様等の娘は文子様が最も注意するべきと仰られた真雪だぞ!?」
「失礼します。
警察の情報によると、真雪さんは昨日BKビルに赴いてから行方が分からないそうです」

月崎の名字を持ちながら異能を持つ娘、真雪が消えたのだ。
その騒ぎの矛先は、本家に呼び出された真雪の親友たる檸檬にも向けられる。

「と言うことで、真雪さんのその後の足取りを探っているのですが。
檸檬さんは何かご存知ですか?」

「んぅ、知らないわぁ…柚子ちゃんの所…だと連絡が行ってる筈よねぇ」

「ええ。それに、気になる情報が」

話を振ってきた男が、檸檬と共に部屋の隅に移動する。堂々と言えない話だろう。

「気になる情報? 宗男、どういうこと?」

「同じくBKビルに居た、その経堂さんとも連絡が付かないようです。
昨日有ったBKビル襲撃事件と、時同じく現場に居た二人。無関係とは思えません」

宗男の言うとおりだ。あの二人は何らかの形で襲撃事件に巻き込まれたと見て良いだろう。
それと、と宗男は続けた。

「その日、BKビル向かいの喫茶店にて真雪さんが朝食を食べていたのが目撃されています。
問題なのは一緒に居た人物です、ご存知ですか?」

宗男がその言葉と共に取り出したのは、複数枚の写真。
知らない男女に混じって、真雪が居る。あの中国人も一緒だ。

129愛内檸檬(2/2) ◆OryKaIyYzc :2010/10/22(金) 15:53:43 O
「ああ、彼は知ってるわぁ。
その日の前夜、真雪ちゃんが泊めるために連れてきた男。名前は李飛峻、って言ったかしらぁ。
…なるほど、良いこと教えて上げる」

何となく予想が付いた檸檬は声を潜める。宗男もそれに併せて耳を近付けた。

「その男、未来の世界の中国から来たんだって。
元の世界に帰るため、手掛かりを探している途中で巻き込まれた…有り得る話じゃない?」

檸檬の話を聞いた宗男は腕を組み、何か迷うように視線をさまよわせた。
どうやら、何かを言うべきかためらっているらしい。

「どうしたのぅ?」


檸檬の言葉で、宗男は意を決した様に向き直る。

「檸檬さんにお伝えしなければならない事が有ります。
当主様のお部屋に参りましょう」

「…? そう、わかったわ」

突然の言葉に疑問を抱きながら、宗男の後をついて行く。
部屋を出る直前、宗男はうるさい集団に向けて言った。

「真雪さんは昨日BKビルに入った所から所在が掴めなくなっているのですから、
まずはその周辺から探してみては如何でしょうか。
…少なくとも、今ここでお互いを責めるよりは適切な方法です」

【BKビル周辺に真雪捜索隊が出現】
130月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/10/22(金) 15:56:52 O
飛峻と兔が会話する中、真雪は大人しく聞いていた。

(『噂』ねえ…私の出る幕は有るのかしら。役に立たなきゃ追い出されちゃうけど)

ウェイトレスがやって来て、尾張にコーヒーを渡そうとするのだが。

(あ)

ウェイトレスの手からスルリとコーヒーカップが落ちた。

「ごごごごご、ごめんなさーい!!!!」

「大丈夫ですか!?」

焦って拾おうとするも転けてしまうウェイトレスを、尾張が手伝っている。
引き上げられたコーヒーカップは、中身が少しもこぼれてなかった。

「うわあ、凄い! 奇跡ね!」

目の前の偶然に真雪が喜んでいると、ウェイトレスは去ってしまった。
兔のご飯のおかわりを持ってくるらしい。

「あちゃ…まあ良いや、お茶は来たときに頼もう」

そう呟いて、真雪は残り一口を平らげる。

「ごちそうさまでした」

食べ終えた皿を端に寄せ、何とはなしに外を眺めた。次の瞬間、目を見開く。

(嘘…何でこんな所に居るのよ…!!)

見つけたのは月崎家に使えるボディガードの女性、鈴木。
その気配の薄さで、当主文子を影から支えてきた人物だ。見付かってしまえば逃げられないだろう。
捕まってしまえば、こんな事態だ。監禁され自由が無くなってしまっても不思議ではない。

(そんなの、嫌。
せっかく生きる目標を決めたのに、捕まってたまるか)

祈るような気持ちで外を睨む。
目の前の飛峻に誤解されてしまいそうだが、真雪にそんな余裕は無い。

ふわり

鈴木の目の前に、蛾が飛んできた。

(何をするんだろう…)

険しくなっていた真雪の表情が和らぐ。
蛾は鈴木をからかうように飛び回り、やがて飛び去って行った。
鈴木はそれを物凄い速度で追い掛ける。結果的に、その場から鈴木は消えていた。

(良かった…じゃああの蛾は恩人…かな?)

気が付くと、さっきのウェイトレスがもう一度調理場から出て来た所だった。
―――――――――――――――――――
131鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/10/22(金) 15:59:03 O
―――――――――――――――――――
(全くもぅ…人捜しなら私じゃなくて宗男の方が適任でしょうが)
朝の新市街をイライラしながら、その女性は歩く。
ウェーブが掛かった豊かな金の長髪、モデル顔負けのスタイルと顔の彼女の名前は、アンシャス鈴木と言う。
仕事場である本家に居るはずの相棒を罵り、鈴木は途方に暮れていた。

(これ、真雪お嬢様が見つかるまで終わんないのよねえ…やんなっちゃう)

しかし、何も食べない訳にはいかない。
鈴木は捜索を部下に任せ、朝食を取ろうと『Cafe・Takaoka』に向かおうとしていた。

ふわり

目の前に、『何か』が飛んできた。
体だけ白く、羽が派手な『蛾』。
『それ』は鈴木をからかうように飛び回る。

(これは…面白いわね)

掴もうとすると、スルリと鈴木の手から離れた。そして、逃げ出す。

「ふふ…なる程。この『ハードボイルド』の心を操作しようとしてたのね…」

実際はもう少し違うのだが、鈴木には関係ない。
文明『初志貫徹(ハードボイルド)』で守られた心に喧嘩を売った。鈴木の認識はこれだけだ。
そして、喧嘩を売られたならば買わねばなるまい。
故に、鈴木の行動はただ一つ。

「お前のご主人様に説教しないといけないわ」

『蛾』と鈴木の追いかけっこが始まった。

【真雪:ごちそうさまです】
【鈴木:蛾を追い掛ける】
【真雪→←鈴木:ニアピン】
―――――――――――――――――――
名前:アンシャス鈴木
職業:ボディガード
元の世界:現代
性別:女
年齢:25
身長:170cm
体重:それなり
性格:説教臭い、責任感が強い
外見:ウェーブが掛かった豊かな金髪+モデル体型+黒のパンツスーツ
特殊能力:『初志貫徹(ハードボイルド)』:香水に宿る文明。精神や感覚に作用する異能を無効化
備考:月崎文子のボディガード。名前付きモブ的な存在。
元ネタは彡 l v lミ
132弓瑠 ◆KLeaErDHmGCM :2010/10/22(金) 22:10:49 O
皆で出掛けるから、とロマを連れてきた弓瑠はドルクスに怒られてしまった。

頭に猫を乗せた弓瑠は俯いて呟く。

「ロマは私の家族なの……」

家族、実験用のモルモットから家族へと昇格である。
ロマは少し嬉しそうににゃあと鳴いた。

「だから一緒に出掛けるの」

そう言ってから彼女はハルニレに抱き着き嘘泣きを始める。

くりゅうの うそなき!
どるくすの とくぼうが ガクッと さがった!

「お兄ちゃん、ドルクスお兄ちゃんがね、ロマ連れてきちゃ駄目って怒るの」

ヒックヒックと肩を揺らす。
女は小さい内から役者だとか言われるがその通りである、とロマは思った。
未だ嘘泣きを止めない弓瑠であるが。

>「ココ!ペットOKのレストラン『モナズ』なんてどうスか!?」

、とドルクスがペット可のレストランを出した途端少し静かになり。

「私もそこがいい」

ハルニレには聞こえる程度だろうか、そう小さく呟いた。
133エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/23(土) 01:48:33 0
>>テナードさん、久和さん

「テナードさん、久和さん、ちょっといいかしら」

Q幹部長と名乗った青年に解散の言葉を告げられてから10分後。
八重子さんに案内を頼んで、私はテナードさん達に声をかける。

「私よ、私。エレーナよ!…って、この姿じゃ分からなくても無理ないわよね」

今の私の姿は、身長は170センチあるかないかまで伸び、髪も短くなって栗色に。
服はあの部屋のクローゼットに入っていた、レースのついた水色のワンピースドレスを借りた。

「吃驚した?ほら、こっちに来て!」

二人を連れて私が来たのは、Kさんに頼んで借りた空き部屋の一つ。
何もないその部屋の床には、巨大な白い魔法陣がある。

「これはね、『メイク魔法』用の魔法陣なの。二人とも、そんなルックスじゃ外に出れないでしょ?」

因みに、私のこの姿もこの魔法によるものだ。
メイク魔法とは幻覚魔法の一種で、文字通り姿を変える事は出来る。
もちろん、弱点もあるがそれは後で説明するとして。

「二人とも、そこに立って頂戴」

テナードさんと久和さんを円の中心に立たせ、私は詠唱を始める。
今回、少しだけ琳樹さんの力も借りた。成功するといいのだけど。

「……『人の姿を外した者達に、一時≪ひととき≫の姿を授けよう』―――!」

魔法陣が輝き始め、煙が辺りにたちこめる。
それらが全て収まりきった時、二人は見た目は完全に人間の姿へと変貌していた。

「ま、私の手にかかればこんなものね。どう?人間の体になった感想は?」

結果は上々だ。と、ここで一応説明、というより注意をしておこう。

「お二人さん、良いこと?ガラスとかはともかく、絶対『鏡』に映った姿を見られちゃ駄目よ!」

鏡は、姿を映すもの。時として、見せなくてもいい真実さえも映してしまう。
二人が鏡で自身の姿を見ても、彼らが見るのは人間に変身した彼らの姿。
しかし、第三者が鏡に映った二人の姿を見れば、その正体はばれてしまう。
便利そうに見えて、実は両刃の剣の魔法なのだ。勿論、それは私にも言える事。

「ところで、新市街地と旧市街地、どちらを探索なさるの?
 私?私は旧市街地へ行こうと思うわ。……ちょっと、寄りたい場所があるの」

【エレーナ:テナードさんと久和さんに変身魔法をかけました。どのようなお姿になるかはお任せします】
       捜索場所は旧市街地希望】
【メイク魔法:姿を変える魔法。本人達が鏡を見ても変身した姿しか見れないが、鏡越しに第三者に見られると正体がばれる】
134ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/24(日) 17:42:10 0
>「朝食を摂ろう」

タチバナの発言に、ガイドブックを流し読みしていたハルニレは顔を上げた。

>「そういえば私達、朝から何も食べてないわねぇ」

ドルクスにひっついているペニサスもぼやき、弓瑠の腹も空腹を主張する。

「ソウダナ。何カ食ウカ。腹ガ減ッテハナントヤラダシナ」

満場一致で決定した。さて、どこで何を食べようかと思考を巡らせる。

>「ハルニレ君やシノ君の食性も気になるが…」

「俺ハ単純ニ腹ガ減ルカラ食ウダケダ。アノロリハ白根」

>「…というかこのチームは人外率が高いね。
 まともな人間は僕とハルニレ君に引っ付いてる幼女君ぐらいなものじゃあないか!」

タチバナの指摘に、ハルニレは乾いた笑みを浮かべる。何重の意味でも、あながち否定できない。
と、ここで新たな問題が発生する。

>「…って弓瑠さん、またロマさん連れてきちゃったんスか」

ドルクスが弓瑠がロマを連れてきたことに関して、説教を始めた。
だが当の弓瑠は反省するどころか、完全に拗ねてしまったようだ。
挙句、叱られるということに慣れてないのか、目が少し潤んでいる。

>「お兄ちゃん、ドルクスお兄ちゃんがね、ロマ連れてきちゃ駄目って怒るの」

肩を震わせてハルニレの膝にしがみつく弓瑠。

「マアマアドルクス、ソンナ怒ッテヤンナヨ。弓瑠ダッテ悪気ガアッタ訳ジャネーンダシ」

まさか嘘泣きだとは夢にも思わず、弓瑠を抱き上げて仲裁に入る。
小さな背中を軽く叩き、あやす姿は甘やかしいの父親だ。
ドルクスは「ペットと一緒に食事が出来る場所とかあれば良かったんスけど…」などとぼやいている。
が、いきなりタチバナからガイドブックを借りたかと思うと、目にも止まらぬスピードでページを捲り始めた。

「ナ、何ダ?何ヲソンナニ……」

>「ココ!ペットOKのレストラン『モナズ』なんてどうスか!?」

息巻くドルクスが指さす場所は、レストラン『モナズ』の紹介文と地図らしきページ。
途端、弓瑠の小さく震える肩も止まり、そのページをまじまじと見つめている。

>「私もそこがいい」

ややあって、耳元で弓瑠が賛成の声を上げた。
ハルニレも特に行きたい場所がある訳でもなく、これは好条件だと判断。

「ジャ、ココ行ッテミルカ」
135ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/24(日) 17:46:40 0
ドッグカフェ・レストラン『モナズ』。
オープンテラスがあり、ガラス張りの透明感のあるこのレストランは、自然が多い旧市街地とマッチしている。

「オーオー、イルワイルワ人ト犬、ダナ」

喋る声とオーダーの声に混じって、犬や猫などの動物の鳴き声も聞こえてくる。中にはインコや大型の鳥などもいた。
逃げ出したりして大騒ぎになる、なんてことにならないのだろうかとかハルニレはどうでもいい事をかんがえる。

「? オ、オイロマ!」

と、突然ロマが弓瑠の頭から飛び降りてレストランへと駆けだしてしまった。
ハルニレ達が止める間もなく、ロマは扉を開きかけていた通行人の股をくぐって、レストランの中へと飛び込む。
茫然とする通行人を押しのけ、ハルニレも店内に飛び込み、ようやく捕獲に成功した。

「ッタク!何デイキナリ逃ゲ出シタリナンk「おめでとーございまーす!」

パン、パパン、パパパン!突然、クラッカーの音と黄色い声のシソーラスが店内に響き渡った。

「………………………………ハ?」

「おめでとうございます!お客様でご来店者数が100万人目を突破いたしましたー!」

事態が飲み込めていないハルニレに反し、店員はにこやかに対応する。
間の抜けた顔で何も言えないハルニレ。店員は一枚のチケットとぬいぐるみを手渡してきた。

「何ダコレ?」

「当店での一日ファミリー食事無料券です。再発行は出来ませんのでご注意を。後ろはご家族さんですか?」

「ア?……アア、兄弟ダ。アッチノ貧相面トオールバックガ兄貴ト弟デ、後ハ全員妹ダ」

「大家族なんですね」

ハルニレの嘘に気づかず、微笑ましそうに答える店員。

「コッチノヌイグルミハ?」

「ご存じないんですか?今流行りの『掃除悪魔・クリーナちゃん』人形ですよ?」

同時に渡されたぬいぐるみ、クリーナ。
ネイビーブルーの人型の体に、シカのような禍々しい角、お尻には悪魔のような尾。
黒いビードロの目と半開きの口が不気味な威圧感を与える。手に等身大のほうきを持った、奇妙なキャラクターだ。
満面の笑みで説明する店員を余所に、ハルニレはその人形を食い入るように見る。
お腹を触ると、プピーと音が鳴る。どうやらペット用のおもちゃのようだ。

「可愛いでしょうー?クリーナちゃんはあの有名な玩具会社アスキー・バン社デザインの…」

「点火」

「って何してるんですかお客様ァーーーーーーーーーー!?」

店員は即座にぬいぐるみを取り上げる。
ハルニレがどこからか出したライターで、ぬいぐるみに点火しようとしたからだ。

「イヤーソイツノ顔見テタラドンドン腹ガ立ッテキテ、ツイ」

「『ツイ』じゃないですよ!クリーナちゃんに何の恨みがあるんです……って言ってるそばから点けようとしないで下さいお客様ァーーーーーーーー!」
136ジョリー ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/24(日) 17:49:21 0
・――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――・

「んん?」

「どした?」

「いや、またどっかの誰かさんが何かやらかしてそうな気配がして……」

「えらく具体的な気配だな……」

同時刻、Cafe・Takaokaの斜め前の某ファーストフード店の中。
ジョリーはチーズハンバーガーを食べる手を止め、ミーティオはポテトに手を伸ばす。
店に入ってからジョリーの携帯電話が何度目かのバイブを鳴らしたが、全て無視していた。


時間は少々、シノがCafe・Takaokaでの朝食を持ちかけたところまで遡る。

「Cafe・Takaokaかぁ……あんま気乗りしないんだよね」

他のメンバーの反応に対し、否定的な意見を発するジョリー。

「何でだ?」

「あそこさァー、あの『ドジっ娘ウェイトレスの渡辺さん』で有名なんだよね」

「『ドジっ娘ウェイトレスの渡辺さん』?」

「そ。皿を割った数は天井知らず。芸術レベルのドジっぷりで、何をやらせても失敗するって評判だよ」

現に私もその被害者の一人だし、とどこか遠い目をする。

「それにあそこは……ゲッ!」

「?」

店に視線をやったジョリーは、何かを見つけたらしく変な顔をする。
ミーティオがその視線の先を見るよりも早く、ジョリーはミーティオ達の手を引っ張ってファーストフードの店に入る。

「いきなり何だよ!」

ニ階まで駆け上がり、ジョリーは肩で息をしながら指を指す。
そこには、Cafe・Takaokaに入っていく一人のスーツ姿の女性がいた。

「? あの女がどうかしたのか?」

「……私の、お姉ちゃん」

「姉ちゃん?ジョリーの?」

コクン、と頷くジョリー。しかし、姉がいることに何の意味があるのだろうか。
「何か問題があるのか?」と尋ねるミーティオに、ジョリーはしかめっ面で答えた。

「私と姉ちゃん、今めっっちゃ険悪の仲でさ、いや昔からだけど……会ったら最後、冗談抜きで殺されちゃうかも」
137榎 慈音 ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/24(日) 17:52:37 0
・――――――――――――――――――――――――――――――――――――――・

尾張達から少し離れた席で、榎 慈音(えのき・じいん)は携帯を弄っていた。
「機嫌が良い」とは程遠そうな表情で、コーヒーを啜る。

「(何処に行ったのかしら、寿里……)」

発信履歴は全て「寿里」で埋まり、メールの送信相手も「寿里」。
メールを送信し終えると携帯電話を置き、ハァ、と小さく溜め息を吐く。
こんな時まで仕事とはついていない。切り揃えたサラサラのオカッパ髪が僅かに揺れる。

外を見ると、同い年くらいの金髪の女性が蛾を追いかけて全力疾走していた。
「朝から元気な人だ」と呑気に考え、暇つぶしに見えなくなるまでそれを見ていた。


ヴーッ、ヴーッ。

「!」

テーブルの上で黄緑色の携帯電話がメールの受信を知らせる。
即座にそれに飛びつく。相手は寿里…………でなく、部下からの泣き言メールだった。
サブメニュー、削除。「紛らわしいわね」、と悪態をつくのも忘れずに。

「あーあ、やんなっちゃうな」

一人呟き、コーヒーのおかわりを求める。
この後、『昨日の事件』の後始末を手伝わされるのかと思うと、溜め息しか出てこない。

「(私デスクワークとか苦手なのに……あーあ、どっかで都合よく文明事件とか起きてくんないかなー)」

さらっととんでもない事を考える。慈音は書類を整理するよりも、犯罪者を相手に手錠を掛ける方が好きなタイプだった。
ぐでーんとテーブルにつっぷし、足をブラブラさせる。とても公務員とは思えない姿だ。

「(BKビルのは別件やら書類の始末やらで行けなかったし。みどりと交代すればよかったなあ)」

昨日の事を考えるうちに、昨日の疲れからか、うつらうつらと眠気が襲ってくる。

「(やば、これから出勤なのに…………)」

瞼の必死の抵抗も空しく、五分後には机に突っ伏し、すやすやと眠る慈音の姿が。
テーブルの上で振動する携帯電話にも気づかず、安らかな寝息を立て続けていた。

【ハルニレ:モナズへ直行。一日無料ファミリー食事券とぬいぐるみを入手】
【ジョリー:Cafe・Takaokaのすぐ傍のファーストフード店で朝食】
【榎 慈音:Cafe・Takaoka店内で爆睡中】
138榎 慈音 ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/24(日) 18:02:06 0
名前:榎 慈音(えのき・じいん)
職業:警視庁公安部文明課・警部補
性別:女
年齢:25
身長:173
性格:心が氷で出来た女王様(部下談)
外見:茶色に染めたオカッパ頭の美人
   服装は制服
特殊能力:『身体強化』

備考:都村の同僚。都村以上に、文明犯罪に厳しい女。
幼いときから『身体強化』が宿った文明の欠片が体のどこかに埋まっており、何故か発動している。
父母と恩人を文明犯罪事件で亡くし、寿里を一人で育ててきた。
文明犯罪者や使えない部下に対して容赦はせず、若きエリートとして活躍する。

元ネタはAA板の八頭身じぃ(改造人間総合スレ)
139榎 慈音 ◆YcMZFjdYX2 :2010/10/24(日) 18:05:29 0
名前:榎 慈音(えのき・じいん)
職業:警視庁公安部文明課・警部補
性別:女
年齢:25
身長:173
性格:心が氷で出来た女王様(部下談)
外見:茶色に染めたオカッパ頭の美人
   服装は制服
特殊能力:『身体強化』

備考:都村の同僚。都村以上に、文明犯罪に厳しい女。
幼いときから『身体強化』が宿った指輪の欠片が体のどこかに埋まっており、何故か発動している。
父母と恩人を文明犯罪事件で亡くし、寿里を一人で育ててきた。
文明犯罪者や使えない部下に対して容赦はせず、若きエリートとして活躍する。

元ネタはAA板の八頭身じぃ(改造人間総合スレ)
140佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/10/24(日) 21:50:20 0
【ブティック:Original character】

「あー、こっちのもいいかもしれない……でも、そうなるとベストもほしいわねぇ……」

そう呟きながら零はシャツを元の位置に戻す。
萌芽の申し出から約10分。未だに零は萌芽の服を決める事が出来ずに居た。
その彼女の周りには店員が持ってきた物、ほか多数の衣類が所狭しと置かれていた。

「私的にはこのロングベストに半そでが109っぽくて良いんだけどね」

「お兄系な方が好きなんですねー。ならこっちのコーデとか……」

「でも、萌芽にはこっちのチョイ甘なダメージパーカーも……」

そう言い今度は薄手のパーカーをマネキンと化した萌芽に合わせる。
その行為もこれで何度目だろうか?そろそろいい加減にしてくれと言いたげに萌芽はため息をつく。

「なぁに?何か不満でもあるワケ?」

そう言う零の目には趣味者の様な光がほの暗く見える。こうなってしまったら止める事など出来よう筈もなかった。
その事を知ってか知らずか萌芽は必死に誤魔化そうとする。

「別に何かするとかは無いわよ……うーん。分ったわ。
 じゃあ、手っ取り早くこの辺はどうかしら?」

そう言うと零は七分袖程度のフェイクレイヤードとスキニーデニムを見繕う。

「この辺の無難な物なら着こなしとかはさほど気にしなくてもいいと思うわよ?
 私としては、これに一枚何か掛けるのが良いと思うけど……」

そうコメントをし零は萌芽に見繕った洋服を渡すと、試着室へと行くように声を掛ける。
従い、試着室へ向かう萌芽の後ろ姿を見て店員はそっと「残念」と呟いた様な気がした。
141佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/10/24(日) 21:51:08 0
「うん。良い感じ!!」

「見違えるものねぇ……あ、ここの髪型とか……」

3分後。きっちりと着替え終わった萌芽を見て二人は感嘆の声を上げた。
元が良いと言うのもあるが、萌芽自体は地味目であったために零が見繕った服にあいまってスッキリときれいにまとまっていたからだ。
ただ、選んだ本人は少し髪型が気になる様子……

「あの、髪止め、いや、……カラークリップありません?」

「ん?なんに使うの?」

「いえ、こうやって……」

クリップを受け取った零はそっと萌芽のこめかみ付近に手を添えて髪を?きあげ、きれいにまとめる。
そして、ある程度形が固まった所で、そのカラークリップで挟んで止めてしまう。

「あ、新しいファッションですね……」

「ちょっと地味目かなって気がしたからアクセントにクリップを使って見たんだけど……
 萌芽。ちょっと鏡で見て色々いじってみて?その間、ちょっと店内を見て回るから!!」

そう告げると零は店内を見て回り始め、そして、その多様な衣装類に困惑する。

「ふーん。どうにも……聞いた事の無いブランドもあるわねぇ。
 しかも、着ぐるみや鎧まで置いてあるし……?」

腕を組み、うんうん言いながら店内を徘徊する。

改めて言っておこうと思う。
佐伯 零はあくまで普段は何処にでもいる少女だ。
例え、文明をもって命の取り合いをする様な者どもを薙ぎ払い、一騎当千の立ち回りを行えようとも油断さえしていれば容易く背後をとる事が出来る。
そして、彼女は今隙だらけだった。なにが言いたいか?つまり……

「隙有り!!」

「にゃっ!?」





そうこうしている内に萌芽も身だしなみを整え終わる。
零を呼ぼうとしたのだろう。振り向いた萌芽はそこに居た人物に驚き、戸惑う。

「う、うぅ……笑なら、笑いなさいよ!!」

そこには、何故かネコミミを付けた零が居る。苦笑しながら歩み寄る萌芽からの質問に零は「知らない!!」と答え、ネコミミをはがして押し付け外に向かってゆく。
ふと、カウンターを見ればしてやったりといった顔の店員がニヤニヤ笑いながら二人を見ている。全てを察した萌芽は苦笑で返答したのだった。


【状況:もるがはネコミミをてにいれた】
【備考:次の移動先がゲームセンターなら戦闘に役立つスキル。
    花屋ならば文明に関する情報と、シナリオの進展】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】
142都村 ◆b413PDNTVY :2010/10/24(日) 21:52:14 0
「ええい……柩木(ヒツギ)オサム〜〜どうして君はここまで面倒な事に巻き込まれるのが好きなのでしょうか〜〜」

机に突っ伏し、眠そうな目でブツブツと呪詛を吐く都村。
これも全ては柩木オサム。つまり「オサムくん」のせいである。
彼女に言う面倒事とは昨日の昂瑠氏に擬態した兔の件とBKビルの事後処理に関する事だ。特に事後処理がウェイト的には大きい。
昨夜未明、BKビルは再び何者かの襲撃を受けた。それも警官隊が封鎖していた中をだ。
警官隊の居る中を飛行し侵入後、襲撃者はビル内を蹂躙し逃走をしたのだが、その事後処理を担当したのが都村とオサムだった。

「しかし解せませんね。何故、廃墟同然の10階を……」

「都村警部補、お疲れ様でありまーす」

そんな自己問答をしていた時に目の前に出された二つの湯のみ……一つは都村の物である魚の漢字が書かれた物。
そして、もう一つはデフォルメされた可愛らしいクジラの描かれた物……同僚の白州くじらの物だ。

「本当に労いたいなら今すぐこの席に座って私の代わりにこれから一日隊長をして下さい」

「あはは、お疲れ都村……って、まだ事後処理が残ってんだっけ?
 まあいいやお茶淹れたの、飲まない? とりあえず一服ってことで」

「いただきます。……こぶ茶……切れてましたね。後でオサムくんに買いに行かせます」

そうくじらに向けたとも独り言とも取れる言葉を呟き、都村はニラ茶を啜る。
彼女の名は白州くじら。都村と同じく警部補であり警部補昇任試験を一緒に受けた同僚であり戦友。
又、年齢も一緒であり、趣味嗜好も付かず離れずで程よい距離感を保っておける、信頼できる同僚……

「しっかし成龍会が事実上の解散か……あたしのほうの仕事も忙しくなりそーねどーにも」

「ソレ、危険手当をもらってない人間が言うセリフでは無いですよ?
 で、聞き込みの鬼がここに来たのですから、良いニュースでもあるのですよね?」

そう念を押し、都村はじとっとした目で彼女を見やる。
それを不快に思ったのか?それとも気持ちの切り替えか?くじらはニラ茶を啜り、生ぬるい息を吐く。
立ち上る白い吐息はゆっくり霧散し、視界には変わらぬ都村。くじらは言葉を選ぶように口を開いた。

「こないだの放火事件あったでしょ? 民家4軒が全焼したヤツ。
 今朝あれの真相が分かったのよ。―――犯人はなんと12歳の少年」

目線を落とし、憂鬱な表情と声で彼女は言う。

「その子はね、ちょっとした好奇心からお父さんのライターで遊んでたらしいの。
 でも、そのライターには文明が宿っていた。『爆炎消失』《バックドラフト》よ、信じられる?
 火はあっという間に部屋中に広がっていった。そして結果は、死者7名。その少年も含めてね」

真剣な表情で、ニラ茶を啜るくじら。

「ねえ都村、あたしときどきわかんなくなるのよ。文明ってさ、なんなんだろ?」
143都村 ◆b413PDNTVY :2010/10/24(日) 21:54:32 0
斬新な質問だった。
確かに言われてみればそうなのだ。文明とは一体何なのか?
明らかに異質であり得ないその存在だったが、既にそれは世に浸透し、確たる争いは起こらない。
些細ないざこざや、文明をめぐっての抗争さえも存在するが、一様に文明を用いて大きな争い……
例えば国家間の戦争は起きていない。

「それは……」

文明には相性や適性と言った条件もあるにはある。
しかし、それがいったい何の枷になると言うのだろうか?
ちょっとした文明……「崩塔撫雷」でも国家を揺るがすほどの脅威となりうるのだ……

「持論ですが。文明は意思や命。と言った物なのではないのでしょうか……?」

都村は思い出す。焼け野原と化した校舎を、悲鳴と怒号と命乞いが響く友との思い出の場所を……
そして何より、文明に支配され、自身に向けてもその刃を振うその友を。

「過去に一度だけ。ですが、私は言葉を話し、人の様なそぶりを見せる。
 そんな文明とであった事があります」

一口。ニラ茶を啜り、都村は灰色の天井を眺めながら言葉を紡んで行く。

「その時に聞いたという話ではないのですが……
 彼らは人との繋がりを求めている。それも自分達と似通った「同じ」ものとのです」

だから、相性や適性なんてものがある。
だから、人と文明は惹かれ合う。
だから、人は文明に飲み込まれる。

それが……

(あの時の彼女……)

目を閉じればフラッシュバックの様に鮮明に写りだす美芹の貌。
あれはまさしくヒトと言う存在だった。いびつに歪んでは居たが、彼女にはヒトにしか見えなかった。
たとえそれが人の形を捨てて肉塊の様になっていたとしてもそれは美芹の皮をかぶったヒトだった。

「すみません。ちょっと質問と趣旨が変わってしまいましたね。
 簡単にいえば文明とは自我を持ったウィルスの様なものなのではないかと思っています」

思い出したく無いものを思い出し、都村はそれを忘れるように頭を振る。
あれは終わった事なのだ。ならば思い出す必要は無い。
そう念じるように思い、お茶を飲み干す。

「それに私達に文明が何なのか分った所でなにも出来ませんよ?きっとね」

くじらには聞こえないようにそっと都村は呟いた。


【都村の見解:文明とは命、意思、自我の様なものなのではないか?】
【持ち物:警察手帳、クレジットカード、携帯電話】
144名無しになりきれ:2010/10/24(日) 22:23:17 0
145テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/26(火) 18:08:30 O
「はぁーあ……」

トイレから出てきたミツキは、うんざりしたような表情をしていた。
片手の携帯電話を恨めしそうに睨みつけ、ポケットに仕舞う。

「どうした?」

「べっつにー。どっかのアバズレさんから説教食らっただけ」

どこか遠い所を見つめるミツキの様子に、テナードは?マークを飛ばす。
何でもないよとはぐらかした所で、とある疑問にミツキは眉を顰めた。

「……………………ねえ、アチシの朝ご飯は?」

テナードは黙って、とある青年2人を指差す。
そう、突然沸いて出た、このふざけた格好の2人を。

>「紹介が遅れたな。俺は米の伝道師、秋人だ(キリッ」

>「俺はアグリフォーリオ、もしくは柊!」

「……って、まさか」

「コイツ等に全部食われたぞ」

ホラ、とテナードが見せたのは、洗剤要らずと言っても過言ではない位に綺麗な三人分の皿。
つまり、ミツキがトイレにいた5分弱で、全員分の朝食を2人に完食されていたのだ。

「って!なんで止めなかったのさー!」

「いや……止める間もなかったというか、なんだか腹空かせてるの見てたら止められなかったというか」

特に柊の食いっぷりは凄かったなーあははは、などと苦笑するテナード。
一番怒りそうなタイプの彼がこんな態度では、最早ミツキも失笑するしかない。

「はは、ははは……はぁ、もういいよ。八重子さんに頼んで新しいの貰ってくるからさ」

ミツキはそう言うと、テナード達の部屋を出ようと踵を返す。
食事を催促した柊には、食事の代わりにローキックを顔面に食らわせ、今度こそ退室していった。

146テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/26(火) 18:10:22 O
「しかし、本当によく食ったなお前」

ミツキが出て行って数分後、空の皿の山と柊を交互に見て、感嘆するテナード。
朝食に手を出した事を怒らない理由について聞かれると、

「恥ずかしい話、俺って元の世界じゃ甲斐性無しでさ。
 アイツにロクな飯も食わせてやれなかったから、柊みたいな奴見るとついつい昔を思い出してなァ……」


『テナードー、腹減ったー』

『俺なー、いつかもう食べられないってくらい腹一杯白いパンを食うのが夢なんだ!』

『すっげー!白いパンじゃん!え、テナードのも食っていいの!ふとっぱらー!』



「………………思えば、こんな身体じゃなけりゃあ、ジュニアに不自由な思いもさせずに済んだんだろうな」

たがだか白いパンごときで喜んでいた「ジュニア」の笑顔を思い出し、ぼやく。
しかし部屋の中が変な静寂に包まれた事に気づき、ハッとする。

「は、はは。くだらん話に付き合わせちまったな。済まんかった」

忘れてくれ、と歪な笑顔で誤魔化す。
昔の話なぞするつもりは無かったのに。これがホームシックってやつか。

「と、ところでミツキの奴遅いな。何してんだろうなアイツ……」

自分で作り出したこの空気をなんとかしようと、話題を無理矢理すり替えようとする。
だが、突然テナードは足に備えていた銃を引き抜き、銃口を向けた。

いつの間にか背後に回っていた、ガスマスクと軍人服という出で立ちの大男に。


「どうもここの連中は、挨拶もなしに他人の部屋に入るのが常識みてぇだな。何の用だ?」

「……『要るのは2人だけ』」

ぼそりと大男は呟く。テナードからしてみれば、それは理解不能の言葉だ。

「? 何の話だ。俺の質問に答え──……」

その言葉は、最後まで続くことはなかった。
147テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/26(火) 18:12:46 O
男の巨大な腕が、テナードの銃を掴むその手ごと両腕を捕まえる。
そしてもう片方の腕で手際よく久和の胴体をがっしりと掴んだ。

「離せッ、このッ……!」

喚くテナード達の言葉に大男は耳を貸そうともしない。
そして青白い光がテナード達を包み、光が消える頃には三人の姿は消え失せていた。


* * * * * * * * * * * * * * * *

「なんつーか……魔法様様って奴だな」

数十分後。
テナード達の部屋に、目の前の姿見と対面し、ボサボサの髪をがしがしと掻く一人の男がいた。

腰に届きそうな灰色混じりのダークブラウンの長髪。
その後ろ髪を長い三つ編みでまとめてはみたが、他の髪は上に跳ねたり横に跳ねたりしている。所謂ライオンヘアーだ。
糸目に彫りの深い鼻、顔立ちは実際の年齢より少し老けて見える。
無精髭の剃り残しがないか確認し、まじまじと鏡を見つめ直す。

紛れもない、15年ぶりの「人間として」のテナード=シンプソンの姿が、確かにそこにはあった。




『人探しって事か?要は』

ガスマスク男に連れてこられ、Qと名乗るT達の上司から下された命令。
こちらを睨みつけてくる童女の写真を見ながら、テナードはミツキにそう質問した。

『で、お前が付き添い、と』

『アバズ……Cも八重子さんもみーんな忙しいからねん。アチシしかいないってワケ』

別にアチシも暇だしね、と軽口を叩いてきゃらきゃら笑うミツキ。
しかし、テナードの心配事は別のところにあった。

148テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/26(火) 18:20:55 O
『琳樹やエレーナの嬢ちゃんはともかく、俺や久和が外に出たらマズいんじゃないか?』

『うーん、そこが問題なんだよねぇ』

テナードや久和は、フォローのしようのない姿形だ。
外に出ようものなら、たちまち騒ぎになるだろう。


>『テナードさん、久和さん、ちょっといいかしら』

と、テナード達の前に八重子と一人の少女が現れる。

『え……』

>『私よ、私。エレーナよ!…って、この姿じゃ分からなくても無理ないわよね』

『エレーナ!……の嬢ちゃん!?』

失礼だとは思いつつも、頭からつま先までジロジロと見る。
服こそ違うが、栗色に染まり、短くなった髪と大人びた顔立ちは、どことなく昨日のあの少女を思い出させた。

>『吃驚した?ほら、こっちに来て!』

そう彼女に連れられて、テナード達はとある空き部屋に入った。
床の模様に驚いていると、エレーナが説明に入った。

>『これはね、『メイク魔法』用の魔法陣なの。二人とも、そんなルックスじゃ外に出れないでしょ?』

ごもっともだ。
察するに、彼女は自分達の格好を何とかしてくれようとしているらしく。
円の中心に立たされ、エレーナが詠唱を唱えると、床の模様が輝き、テナードは眩しさに目を瞑った。


>『ま、私の手にかかればこんなものね。どう?人間の体になった感想は?』

恐る恐る目を開け、空き部屋に置いてあった鏡にテナードの姿が映る。

『おー!てなしゃんおっとこまえー!』

『て、てなしゃん?』

15年ぶりに見る自分の姿に、ただただ唖然とするしかなかった。

* * * * * * * * * * * * * * * *

149テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/26(火) 18:53:49 O
しかし、この魔法には弱点があると言っていた。
『鏡に映った姿を見られるな』。
随分と変わった弱点だな、と突っ込みたかったが、あえて触れないでおいた。

「(しかし、結構老けたが……まだまだイケるんじゃないか?俺)」

年を食ったのと仏頂面のお陰で皺が少し目立つが、テナードは元々顔は良い方だ(とは言っても中の上くらいだが)。
ミュータントになってから身嗜みとはまるで無縁だったのもあり、少しばかりテナードのテンションも上がる。
ついには、鏡の前でキメ顔の練習までし始めた。ハイテンションもここまでくると、キモイを通り越して気持ちが悪い。


「てなしゃん、用意終わったー……って何してんの?」

「ハハハハHAHAHAパントマイムノ練習ダ」

「へ、へぇー……まあ、何でも良いけどさ、早く行こーよ」

団服から、水色のシャツとピンクのミニスカに着替えたミツキが急かす。
ミツキの提案で、テナードは新市街地へと赴くことになっていた。

「あとね、ミツキの他にももう1人付き添いがいるんだって!ほら、あの人!」

ミツキが指差した、部屋の外で待っていた1人の人間。
それは、昨日BKビルから脱出して一度も姿を現さなかった、あの男。

150テナード ◆IPF5a04tCk :2010/10/26(火) 18:54:57 O
「い、101型!?」

黒い革ジャンと白いシャツ、黒ズボンというシンプルな服に身を包んだ101型そのもの。
しかし、101型はテナードを見ても無反応を貫くどころか、まるで初対面を見るような顔をしていた。

「い、101型……?」

「言っても無駄よ。アンタの事なんか覚えてないわ」

101型の背後から突然現れるC。
眉間に皺を寄せたテナードをせせら笑う。

「彼は今や101型ではなく「壱野零一」。進研の立派な団員の1人よ」

異世界人を認識し、文明に反応して攻撃する101型。
その戦闘能力を利用するために、進研開発部は様々なプログラミングを彼に施した。
文明に反応しても勝手に行動を戦闘に移すことのない、進研の意のままに動く機械人形と化していた。
勿論、テナード達がそれを知る由はない。

「壱野零一、命令よ。「彼らと行動しなさい」」

「了解」

101型、否、壱野零一は眉一つ動かさない。
満足したように去っていくCの背中と壱野を、テナードは困惑の視線で見つめるしかなかった。

【テナード:新市街地の捜索へ】
【ミツキ・壱野零一:テナードと共に新市街地へ】
【テナードの服装:カーキ色のジャケット、グレーのシャツ、ズボン、ブーツ】

151タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/27(水) 01:23:25 0
【いつも傍に在る邂逅】


食事を摂るに当たって、問題が一つある。
弓瑠が胸に抱く猫――ロマというらしいが、ペット同伴の飲食店は常識的に考えて多くない。
ましてや旧市街は住宅地である。オサレタウンの新市街ならともかく、こちら側のペットの食事事情はおうちで缶詰が相場だ。

>「ペットと一緒に食事が出来る場所とかあれば良かったんスけど…」

何だかんだで一行の気配り担当となっているドルクスが腕にペニサスを貼りつけながら思案し、

>「タチバナさん!地図、観光用の地図貸して下さいッス!」

何かを閃いて旅本をぶんどっていった。
タチバナが持っていても仕方が無いのであっさりと所有権を譲る。

>「ココ!ペットOKのレストラン『モナズ』なんてどうスか!?」

ドルクスが提示したのは、観光グルメの『ペットと行く食べ歩きの旅』のページ。
そこにはレストラン『モナズ』のアクセス方法と、簡単な料金表と、店長の禿げ上がった笑みが載っていた。

「名案だドルクス君、幸い『モナズ』はここから近い。この時間ならまだモーニングメニューも食べられるね」

「異議なーしっ」

>「私もそこがいい」

>「ジャ、ココ行ッテミルカ」

そういうことになった。


【モナズ】

まあ、色々あった。
ロマが逃げ出したり、それを追ったハルニレがキリ番踏んだり、タダ券貰ったり、ぬいぐるみ燃やしたり。

「『後は全員妹ダ』――か。前後状況を無視して見ると実にカルマに富んだ言葉だね。
 HENTAIとはかくあるべき姿を体現している。僕も将来妹が出来たときには、こう言いたいものだよ」

「ええー、突っ込みどころ満載過ぎてどこから突っ込んでいいのかまったくわからないよタチバナさん……」

「そうだね、まずは『ご両親にどんだけムリさせるおつもりですかァー!?』とでもツッコミたまえ」

「下世話すぎるでしょそれは!」

「僕はね、『妹』という概念はもっとファンタジーであるべきだと思うんだ」

「何言ってんの!?」

「よく実妹のいる人間は妹萌えにはならないと言うがね、それは『妹』という概念に現実味があり過ぎるが故だよ」

「ファンタジーな妹っていうと、どんなよ?」

「そうだね、光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性騎士なんかどうだろう」

「それファイナルな方のファンタジーだから!」

閑話休題。
152タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/27(水) 01:27:10 0
せっかくタダ券貰ったのだからと、一行は高そうなものから片っ端から注文し、ウェイトレスが鬼気迫る表情でとっていった注文は30品目に及んだ。
そして数分後、彼らのテーブルには満漢全席に匹敵する豪華絢爛で和・洋・中のべつまくなく節操ない大量の料理が並べられるに至ったのである。

「うわー、見たことない料理で一杯だ。何から手をつけるか迷っちゃうなあ!」

「はははゼルタ君、それより食べきれるかどうかの心配をした方がいいんじゃないかな」

「へーきへーき、余ったらアクセルちゃんの亜空間ホールに入れてお持ち帰りすればいいでしょ」

《おまえ、わたしをたっぱーかなんかとかんちがいしてない……?》

いざタチバナも参戦とばかりに、手近にあった蟹に手を伸ばす。
真っ赤に茹で上がった甲羅を器用に捻って外すと、湯気と共に濃厚なカニミソの香りが沸き上がってきた。
専用の鋏で尖った鰓を切り落とし、脚からプリプリに詰まった身を取り出して蟹卵と一緒に口へ放りこむ。

「っほう、これはなかなか……」

卵のプチプチとした触感が柔らかな蟹身に程良い歯応えと香りを加え、繊維質の脚は咀嚼する前から口の中でほどける。
合わせで出された三杯酢に付けて食べるのも良い。カニミソはねっとりと濃厚で、供されたジンジャーエールで流しこむのが爽快だ。

「ドルクス君、そっちのホッケを取ってくれ」

回ってきたホッケは丸々と太っていて、箸で身を開こうと押さえればそれだけで脂と肉汁が皿を満たす。
丁寧に皮を剥がし、これまた素晴らしい具合にサシの入った身をご飯に乗せて頂く。
上側の身を全て食べつくしたら、箸を巧みに操作して中骨を外し、その下の身を攻める。程なくしてホッケは綺麗に骨だけになった。

「ハルニレ君、君の傍で幼女君がつついているステーキをいただこう」

300c級の極厚のステーキ。その聳え立つエアーズロックの如き肉の山脈を攻略する。
顔が映り込むほどに磨かれたステーキナイフを縦に落とすと、大して力を入れていないのにすとんと肉を寸断し皿まで到達した。
中がまだ赤く、肉汁でぬらぬらと光ってなんとも官能的な風情を醸している。その幼い秘裂に箸を入れ、抵抗も虚しく開ききる。

フォークで持ち上げた一口大の肉。サーモンピンクに輝く小さな裂け目に舌を這わせ、泉の如く湧き出る汁を掬いとる。
口の中で転がせば、たちまち炭火の香ばしさと肉の芳醇さが鼻から抜けていき、意図せず顔が綻んだ。
下品ではあるが付け合せのパンを皿に溜まった肉汁とソースの混合液に浸して食べるのもまたグッド。

時折、サラダバーから供されるマッシュポテトで口の中の脂気を拭う。
そうすると頬の内側が乾きを訴え、更なる旨みで口中を満たせと言わんばかりに唾液が泉をつくるのだ。

乳酸液に浮かぶモッツァレラチーズはクラッカーに乗せて食べて良し、トマトと重ねて齧って良し。
タチバナのお勧めは、クラッカーにアンチョビとモッツァレラチーズ、それからバジルを少々載せ、少し炙って頂く。
モッツァレラチーズは冷製食に合う食材だが、マルガリータ・ピッツァに代表される焼き物にこそ真価があると彼は考える。

「プロシュート(生ハム)はサラダの一員としての役割だけでなく、ナッツとの相性もいいんだ」

瀟洒なグラスに盛られたマカデミアナッツをプロシュートで包み、ほんの少しのクルトンを振って食べる。
マカデミアナッツの良質な脂の香りが燻製の香ばしさと絶妙なマッチテイストを生むのだ。ナッツをチーズに変えてもいい。

「ゼルタ君、そろそろ和食エリアを僕に明け渡したまえ」

洋食街道を巡って再びの凱旋。今度は揚げ物系を攻めようか。
天ぷらは天つゆと塩、それから変り種でマヨネーズやタルタルソースがあるが、今回は塩を選択する。

揚がって少し時間が立ったしんなり天ぷらならつゆがベストだが、揚げたてサクサクをサクサクのまま頂くなら塩である。
揚げたて天ぷらは火傷じゃ済まないレベルに熱いので食べられる温度に下がるまでの時間は大事だ。
全体に塩を振っておけば、天ぷら自体の温度と脂で自然に塩がなじんでいく。そこで第二波。塩なら多少味付けが濃い方がむしろ素材が引き立つ。
153タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/10/27(水) 01:29:39 0
「マイフェイバリット天ぷらは茄子かな。もちろん海老天がベストだが、茄子の油との相性の良さは最高だ」

茄子は内組織がスポンジのようにスカスカなので、やたら油を吸う。
もちろんそれはそれで旨いのだが、『モナズ』はカロリーに気を使ってか卵白で封じてあった。
こうすることで茄子本体への余分な油の侵入を防ぎ、なおかつ卵白自体が油を吸うため油の含有量を調整できるのである。
職人芸であった。

オクラ天も素晴らしい。塩味の効いたサクサクの衣を噛み締めれば、今度はオクラの粘りが旨みを舌に運んでくれる。
余談だがオクラは刻んで納豆に入れてもいいが、味噌汁に入れるのも以外に合うのだ。なめこと同じ運用法である。
どこぞの地方ではきゅうりを味噌汁に入れるらしいが、なるほど運用に困る野菜はとりあえず味噌汁にぶち込んどけば美味しく頂ける。

「食べながら聞いてくれ」

閑話を休題し、透き通ったコンソメスープを口に運びながら一同を見る。

「女の子を捜すといっても広い広いこの街だ。とにかく何らかの足がかりがなければ始まらない。
 人探しの『文明』でもあれば話は変わってくるんだが、この街でパンピーが『文明』を手に入れる方法は大きく分けて2つ」

上品にスープを流し込み、

「一つは『進捗技術提供及び研究支援団体』――『進研』に一定のロイヤリティを支払い文明貸与を受けること。
 これは最も確実だが、この国には『文明法』というのがあってね、文明の営利使用には役所と裁判所の許可が要るんだ」

文明は物理法則すらねじ曲げる強力な物資だ。
商業に適した『文明』――例えば購買意欲を強制する文明があれば、それ一つで市場経済が崩壊することも少ない事例じゃない。
『文明管理理事会』は自由な経済競争の瓦解を危惧し、営利目的の文明使用に極端なほど厳しい制限をかけたのである。

そしてタチバナたちがしようとしてる『人探し』は、間違いなく営利性の認められる行為だった。
仮に捜索理由を偽ったとして、警察にそれを頼まない時点で信用もあったものじゃないし、そもそも真意を知る『文明』があれば嘘など無力。

「そこでもう一つの方法をとることになる。この国で文明を管理できるのは本来の所有者か、『進研』あるいは公的権力。
 僕らはその全てに頼れない。ならばどうする?簡単な話さ。――公的機関が押さえる前に僕らが文明を所有すれば良い」

ホテルのPCでプリントアウトしたのは、この街で催されるアンダーグラウンドなイベント一覧。

「ここ旧市街で、毎日『文明市』と呼ばれる文明専門の市場が開かれているんだ。考えて見ればおかしい話だった。
 『文明』を管理する機関がありながら、この街にはあまりにも『文明』が溢れすぎている。それこそ、その辺のチンピラが持てるほどにね」

つまり、機関の目の届かないところで『文明』を横流ししている者がいるのだ。
それが『文明市』。表向きはリサイクル品のフリーマーケットということになっているが、売られているのは全て『文明』だ。
いや、『文明』というのには誤謬がある、正しくは『文明が宿る直前の"ただの品"』――とある科学者の提唱した『水銀説』の応用である。

「すなわち、『文明』とはある種の『因子』が一定量蓄積されて発現するものだという考え方。
 どこかにその『因子』の蓄積量を計測する文明があるんだろうね。ここで売られているのは、明日にでも『文明』化する寸前な品々だ」

法的には完全な『文明』ではないので、ギリギリではあるが合法である。
合法なのでおおっぴらに宣伝しても公安には睨まれるだけだし、今ではネットオークションで同様の手法を使う輩もいる。

「というわけで僕から本日の目的地を提案したい。旧市街5丁目の『したらばホール』にて開催されている『文明市』。
 ここで人探しの文明と、あわよくば戦力の増強になるような戦闘用文明を入手する。異論があれば挙手したまえ」

三杯目のコンソメスープを空にしながら、タチバナは行動の指針を示した。


【『モナズ』で食事】
【タチバナの提案:『文明市』に乗り込み人探し用文明と戦闘用文明の入手】
154李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/10/27(水) 03:14:46 0

「え、えっと!コーヒーをお持ちしました!;;」

妙に勢いのある――言い方を帰れば無駄に慌しい――ウェイトレスが、飲料を載せたトレイを片手にやって来た。
手に持ったトレイをテーブルの高さまで降ろし、たどたどしい手つきで手渡していく。

トレイの上の飲み物が減るにつれ、最初はテーブルと水平だったそれが僅かずつではあるが傾斜していくのに気づく様子は無い。
勤めて間もないのだろうか、支える腕には必要以上の力がこもり、それゆえにトレイへ微弱な振動を伝えている。
それでもトレイに残る飲み物は一つ、渡し終えるのが先だろうと算段をつけるが、それが甘かった。

「……………『マサくん』?」

最後の一人、尾張と目が合ったまさに瞬間。
ウェイトレスがぽつりと零すのと同時に、トレイの上に残るコーヒーも予想外に傾いたそれの影響を受け、床へと零れた。

(あー)

重力に引かれるままに大地へその身を投げ出すコーヒーカップ。
生暖かい目でそれを追いながら、飛峻が思うのは「絨毯があるから割れないだろう」という程度のものだった。
薄情なようだが、流石に中身を撒けながら落下するそれを今更どうこう出来るものではない。
ましてやテーブルの奥に座る飛峻ではなおさらである。

「うわあ、凄い! 奇跡ね!」

嬉しそうな真雪の声にふとそちらを向けば、テーブルの上へとサルベージされたカップにはコーヒーが注がれていた。

「……何ト!?」

ガタリと思わず身を乗り出し、飛峻は驚愕の声を漏らす。

(いやいやいや、偶然とか奇跡とか流石に無理が……ないか?)

飛峻の目は確かに捉えていたのだ。
中身たるコーヒーが、カップの中から吐き出され、床に向かって落ちて行くのをである。

だが結果として残るのは、カップの中に波々と注がれたコーヒー。
拾い上げた尾張は、それが当然と言わんばかりにそれには目もくれず転んだウェイトレスに手を貸している。

(何かをしてたような形跡は無い。が……まあ――)

――偶然、奇跡。
そんなものなのかもしれない。と無理やり結論付け、いい加減店内からの奇異の眼差しを感じていた飛峻は腰を降ろす。

視界の端では兔が、対面の尾張を何か言いたそうに見つめ、結局「おかわり」とウェイトレスに空の碗を差し出していた。
155李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/10/27(水) 03:16:10 0
「ところデ、話が逸れてしまったガ……」

粥を平らげ、飛峻は兔と向き合う。
そう、仕事の話をするのだ。

「ブーム型加速器……それが俺達が集める情報ということで良いのカ?」

一騒動が起こる前、兔が口にした仕事の内容。
普段よく行っているのはゴシップの流布と売り込み、株価の操作。
だがこれからするのはおそらく違う。
途中で有耶無耶になりはしたが、確かにそんなことを兔は言っていた筈だ。

「ソレでソノ――」

(うん?)

続けて質問を投げかけようとしたところで、ふと真雪が外を眺めているのが目に止まった。
尋常ならざる形相で窓の外を注視している。

(一体何を……?)

つられる様に飛峻も店外へと視線を移す。
その先には豊かに波打った金髪にすらりと伸びた高身長。
黒い上下のパンツスーツを一部の隙も無く着こなした所謂モデル体系の美女が、店の前の通りを走っていた。

(……成程な)

一心不乱にストライド走法で街を疾走するスーツ姿のモデル系美女。というその光景は確かに目を引くのに十分過ぎる。
飛峻も「頑張れ」と見当違いの声援を頭の中でランナーへと送り、改めて兔に向き直った。

「嗚呼、スマナイ。
 ソレでソノ、ブーン型加速器というのは一体どんなシロモノなんダ?」
156渡辺キョーコ:2010/10/27(水) 20:48:27 0
「ご、ごめんなさいお客様、大切なコーヒーを…………」

お客様に差しだされた手を借りて立ち上がって謝罪しようとする。

「うわあ、凄い! 奇跡ね!」
「……何ト!?」
「………へ?」

机の上におかれたコーヒー。お客様は平然とした表情をしてらっしゃいます。
これは奇跡としか言いようがありません!

「おかわり」
「へっ?あ、はいただいま!」

長髪のお客様におかわりを求められたので、調理室へと向かう。
つまずいて転んだ。

調理室に入ると、大きな音がしたがどうした、と聞かれた。曖昧に笑って済ませた。
今度こそ落とさないように運ぼう。
奇跡は二度と起きないから奇跡なんだ。そう言ったのは誰だったんだろう。

再び調理室から出た。
、途端、スーツ姿の金髪美人の女性が猛スピードで走り去っていく姿が見えた。
世の中色んな人がいるのね。

「えっと、おかわりお持ちしましたー」

今度は落とさずに済んだ。
ちらっとだけ私が無意識に「マサ君」と呼んだ人を見る。
目が合ってしまった。申し訳なさに急いで目を逸らす。
なぜかこの人が気になって仕方がない。何でだろう。

「ほえ?は、はい、他にご注文はありますか?」

ボーっとしていたら、同席していたカチューシャのお客様にお茶をオーダーされました。
注文を復唱し、私は調理室へ引っ込もうとした。
ら、少し離れた席でこれまた美人さんが爆睡してらっしゃいます。
はっきり言ってしまえば営業妨害です。起きてもらわねば。

「あの、お客様。店内での睡眠はご遠慮下さい。」

【おかわり持ってきました。榎さんを起こしにかかります】
157渡辺キョーコ ◆HrjFwxt9Tg :2010/10/27(水) 20:49:12 0
↑酉忘れごめんなさいorz
158竹内萌芽(1/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/28(木) 02:19:01 0

竹内萌芽は、生まれてこのかた全く出会ったことの無い状況を前に混乱していた。

「私的にはこのロングベストに半そでが109っぽくて良いんだけどね」

「お兄系な方が好きなんですねー。ならこっちのコーデとか……」

「でも、萌芽にはこっちのチョイ甘なダメージパーカーも……」

(……何語ですか!!?)

そもそも、彼は自分の服装にあまり気をつかう方ではない。
というより、彼の”才能”のせいで、誰の目にも萌芽の姿は『どこにでもいそうな少年』にしか見えないのだから
どんなおしゃれをしてみたところで意味が無いのだ。

そんなワケで、その手の用語には全く明るくない萌芽にとって、
まったく意味の読み取れない言葉が自分を置き去りにしてがんがん飛び交うこの状況は
一体どんな姿にされるのかという恐怖をどんどんかき立てるものに他ならなかった。

「なぁに?何か不満でもあるワケ?」

「い、いえ! まったく!!」

おろおろしていた萌芽の目を、零の視線が射抜く。
この目は、アレだ。

(『獲物を見つけたトラ』みたいな目してましたよ、佐伯さん……)

もはや彼女を止める術は自分には無い、もう好きにしてくれ、どうにでもなれ!!

自分で服を選んでくれと言ったくせして、彼はちょっと泣きそうになっていた。

「別に何かするとかは無いわよ……うーん。分ったわ。
 じゃあ、手っ取り早くこの辺はどうかしら?」

それに気付いたのか、零がまだものたりないと言った様子で、服とジーンズを渡してくれた。
気をつかわせてしまっただろうか?
いや、でも正直さっきまでの状況は怖かったし……

「この辺の無難な物なら着こなしとかはさほど気にしなくてもいいと思うわよ?
 私としては、これに一枚何か掛けるのが良いと思うけど……」

何かぶつくさ言いながらも試着室に行けという零の言葉に従うことにする。

後ろのほうで、先ほどの少女が「残念」と呟いた気がしたがたぶん気のせいだろう。
159竹内萌芽(2/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/28(木) 02:19:51 0

服を着替えながら、萌芽は試着室の鏡を見る。

「……お?」

何か、違和感があった。
そこに映っていたのは確かに自分の姿には違い無かったのだが、
それがどこか自分ではないような、まったく別人のような、そんな気がしたのだ。

それは、この世界に来てから真雪や、皐月、そして祇越など、萌芽が心を開いた人間に限定して起こっていた現象だった。
普段、彼は無意識に他人が受ける自分自身の印象を”あやふや”にしている。
なので彼を見る人間のほとんどは、彼を見ても『どこにでもいそうな普通の少年』としか思わない。

そして、それは萌芽自身に対しても適応されていたのだ。
―――少なくとも今までは。

”アヒャヒャ、「人を愛すると人は弱くなる。しかしそれは本当の弱さではない」ってな”

「なに言ってるんです、ストレ?」

”もるも、ちょっとずつ変わってきてるって話さ”

「?」

何のことだかさっぱりだ、という萌芽の態度に、彼の相棒はただアヒャヒャと笑うだけだった。

「―――!!」

ふと、彼の視界が全く別の誰かのものに移り変わる。
まるでモデルのような女性が、こちらを驚くべき速さで追いかけてきている。
 マ タ イ
(七号? どうしたんです? 追いかけられてるんですか?)

進研の人間か? そう思ったが、自分のやっていることを理解できる人間など、昔の零以外に存在するのだろうか?
しかし、あのボスといい自分をこの世界に呼んだ”先生”といい、
自分には理解できない方法で自分を監視していた人間もいた以上、その可能性も捨てきれない。

(安全策はとっておくべきですかね)

服を着替えながら、萌芽は飽くまで冷静に考える。
自分が今一番優先することは、零の安全を守ることと、自分のやっていることを進研側にも零にも悟られないこと。

つまりはこの女性が七号を捕まえる前に、秘密裏に始末してしまうか、
あるいは、七号で彼女を誘導して、まったく別の場所に彼女を誘い込んでしまうか。

それが得策。
160竹内萌芽(3/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/28(木) 02:20:41 0

(……)

七号で彼女を別の場所に誘導するのは、そのあと彼女の前から七号を完全に消失させなければならない。
この手段がもっとも簡単なように思われるが、
この女性がなんらかの超常的な追尾手段を持っていた場合はこの手段はあまり役にたたない。

つまり、この場合の最も効率的な対処法は、彼女を秘密裏に始末してしまうこと。

(でも……)

そう思ったが、なぜだか萌芽はそれを実行するのを躊躇していた。
 マ タ イ
(七号、周りの人間たちには”僕を植えつけられて”いますね?)

少し迷った結果、萌芽はとりあえずこの女性を七号から引き剥がそうという判断に至った。
服を少しだけ調えた彼は、そのまま試着室から出る。

”な、変わっていってるだろ、もる?”

ストレンジベントが、どこかうれしそうにそう言ったが、萌芽はよく意味がわからなかったので無視しておいた。

「うん。良い感じ!!」

「見違えるものねぇ……あ、ここの髪型とか……」

自分の見た目を褒められるというのは、生まれてはじめての経験だった。
どこかくすぐったい気持ちになりながらも、萌芽はされるがままに任せている。

「あの、髪止め、いや、……カラークリップありません?」

「ん?なんに使うの?」

「いえ、こうやって……」

なにやら頭をいじる彼女。
彼女の手が離れて、鏡で自分の姿を確認してみると、まるで別人のような顔がそこにあった。

服を変えて、髪型をいじるだけでこんなに変わるものなのか。

自分でいじってみて、と言われて、とりあえず髪をいじる萌芽だが、
正直そういうことに無頓着な彼が、どういじったらいいのかなんて知っているはずもなく。

「あ、あの、佐伯さん。これってどうすれば……」

そう言って振り向くと、

「う、うぅ……笑なら、笑いなさいよ!!」

―――天使がいた。
161竹内萌芽(4/4) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/28(木) 02:22:38 0

「お、お……お? あ、あの佐伯さん、それって……」

なぜだかネコミミを頭にのっけた佐伯零の姿に、萌芽が動揺していると

「知らない!!」

頭に乗っかっていたネコミミを引っぺがし、萌芽に押し付けて、
零は外に出て行ってしまった。
カウンターに居た10歳くらいのおんなのこが、「大成功」とばかりににこにこ笑っているのを見て、
萌芽は苦笑し、取りあえず服を彼女に返すことにした。

この服を着た姿の自分は記憶に残った。
なので服そのものは必要ないのである。

服を返し、外に出た萌芽がきょろきょろとあたりを見回すと、
未だ顔を赤くしたまま、花屋の店先に並んだ花を見ている彼女の姿が目に入った。

「佐伯さん」

そっぽを向いている彼女に、萌芽は声をかける。

「可愛かったです、すっごく」

とりあえず、それは彼の素直な感想だった。

それでも恥ずかしがっている様子の彼女の姿を見て、
萌芽はふと思いつくと、なぜだか店員さんがタダでくれたネコミミをつけて

「にゃあー」

笑顔で鳴いた。

「ほら、これでおあいこです」

ターン終了:【とりあえず花屋を選択するよ】
162七号/マタイ ◆6ZgdRxmC/6 :2010/10/28(木) 02:24:19 0

萌芽の使徒七号―――マタイという名の蛾は、追いかけてくる女性から必死に逃げていた。

―――なんで? なんで追いかけてくるの!!?

彼は軽くパニックに陥っていた。
ぱたぱたと必死に羽を動かし、蛾として創られた自分にできる最大限の速さで逃げようとするが、
走ってくる彼女の速さは人間とは思えないくらいに速い。

―――「ご主人様に説教する」とかって言ってたけど、この人なんなの!! そもそも誰なの!?

何度か長い尾羽を掴まれそうになって、そこでようやく彼は主から『許可』をもらった。

―――みなさーん!! ここに無力な蛾を追い掛け回す不届きものがいらっしゃいますよー!!!

もう羽が引きちぎれそうな勢いで空を走りながら、
マタイは声ではない、『福音』を思い切り周囲の”人間たちの中に居る萌芽”に伝える。

ふいに、周りに居た人間たちの表情が変わった。

彼らは、皆一様に、なぜだか目の前の蛾を無性に助けなければならないような感情に囚われていた。
蛾の『福音』に侵された回りの人間たちが一斉に、女性に向かって飛び掛る。

―――あっはっはっは−!! 見たか!! 見ましたか!! ちっちゃい生き物をいじめるやつには天罰がくだるのですよ!

先ほどとは心機一転、混乱しきって逃げ惑っていた姿はどこへやら、
調子に乗ったマタイは、人間の山に埋もれた鈴木を見下ろしながら、ぱたぱたとあたりを飛び回る。

―――やーいやーい!!

竹内萌芽の『能力』。
かつて、内藤ホライゾンと呼ばれていたころの彼が、
”才能”をとある目的のために昇華させたそれは、本質的には”あやふや”と呼ばれる”才能”とあまりかわらない。

そのとある目的とは、”世界を相手に戦うこと”。

―――その能力の名を『ザ・エクステンド』と言う。

【調子に乗ったマタイの運命やいかに……】
163名無しになりきれ:2010/10/28(木) 10:35:30 0
   /⌒ヽ
  / ´_ゝ`)すいません、ちょっと通りますよ・・・
  |    /
  | /| |
  // | |
 U  .U


164ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/10/28(木) 21:58:27 0
ハルニレさんがロマさんを追ったら食事券が貰えた。こういうのを、「棚からぼたもち」と言うんだっけか。多分。
食事券を物珍しげに見る俺達の横で、ハルニレさんは何が気に入らないのか貰ったぬいぐるみを燃やそうとしている。
店員さんが死守したお陰で、軽く焦げ目がついただけで終わったけど。

「ねえねえドルクス、こういうのってどんなに頼んでもタダなのよね?」

それを答えるより早く、ペニサス様は片っ端から注文しだす。

「ちょっとペニサス様!こんなに頼んでどうするんスか!食べきれないでしょう!」
「六人もいるんだから大丈夫よ。あ、店員さーん!」

和気藹々と俺を除き、あれもこれもと選ぶ旧市街一同。
これはどう?これは?んー、こっちも捨てがたいわねえ、じゃあこれも頼みましょうか。
……モナズの皆さん、ごめんなさい。この店、潰れるかもしれないっスね。

十数分後。

>「うわー、見たことない料理で一杯だ。何から手をつけるか迷っちゃうなあ!」

テーブルに並べられた料理の数々。
食欲なんてものは存在しないけど、見てるだけでお腹いっぱいになりそうだ。

>「はははゼルタ君、それより食べきれるかどうかの心配をした方がいいんじゃないかな」
>「へーきへーき、余ったらアクセルちゃんの亜空間ホールに入れてお持ち帰りすればいいでしょ」
「アクセルちゃん……?」
「アクセル…もしかしてあの巨大系幼女? あ、ドルちゃんは知らないんだっけ?」

ホッケをタチバナさんに回し、俺は皆が食べる様子を観察することにした。
皆、ナイフやフォークの使い方やテーブルマナーに性格や育ちが窺える。
例えばタチバナさんやペニサス様、弓瑠さんは口周りやテーブルを汚すことなく食べている。

「ゼルタさ「ウフフ、ゼルタちゃん、お口周りが汚れてるわよ」
「……………」

ゼルタさんの口周りを拭こうとしたら、ペニサス様に先回りされた。
丁寧にナイフの使い方まで教えている。手持無沙汰な俺、プライスレス。

>「食べながら聞いてくれ」

コンソメスープを口に運びながら、タチバナさんが口火を切った。

>「女の子を捜すといっても広い広いこの街だ。とにかく何らかの足がかりがなければ始まらない。
 人探しの『文明』でもあれば話は変わってくるんだが、この街でパンピーが『文明』を手に入れる方法は大きく分けて2つ」

そこで見せられた紙に書かれてあるのは、旧市街地で行われるイベントの一覧。
文明市、そこで売られる『文明になる直前』の商品のこと。すると、ペニサス様がぼそりと呟く。

「文明『になる直前』の商品、なんでしょ?人捜し用の文明をどうやって探し出すの?」
「? どういう事ッスか?」
「だーかーらぁ、仮にそういう文明があるとして、どうやったら私達にその文明が『人捜し用の文明』だって分かるのよ」
「売人が教えてくれるんじゃないんスか?」
「分かんないわよ。それ以前に、探し出したとして、私達のうちの誰かに適合するって保証もないのよ?」

うーん、と腕を組んで考える。この案には賛成だが、彼女の言うとおり、いくつか問題はありそうだ。

「…とにもかくにも、百聞は一見にしかずッス。俺は賛成ッスよ」

【ドルクス→賛成の方向で】
165ホエール/W/くじら ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/01(月) 04:58:25 0
「それは……」

白州くじらは何事か考えている都村の顔を眺めていた。
整ったその顔の眉間にしわを寄せている彼女のその顔を見ながら、こいつも真面目だなあとくじらは思う。

自分の先ほどの発言は、12歳の少年が出会ったあまりの理不尽に
どうにもやりきれなくなってしまった自分の、ただのぼやきにすぎなかったというのに。

(てきとーに流しときゃいいのにねぇ……)

目じりと口元を少し緩めながら、くじらはニラ茶を啜って彼女の次の発言をまつことにする。

「持論ですが。文明は意思や命。と言った物なのではないのでしょうか……?」

「命……?」

「過去に一度だけ。ですが、私は言葉を話し、人の様なそぶりを見せる。
 そんな文明とであった事があります」

「はへぇ……噂には聞いてたけど、本当にあるんだ、そんなもん」

『聞き込み』というほど大層なものではないが、諜報活動の一環としてのフィールドワークで、
彼女は似たような話を聞いたことがあった。それは『コウモリの人形』の噂。

持ち主を探しているコウモリの人形に出会ったら気をつけなければならない。
彼の持ち主になれば莫大な力を手に入れることができるが、
大抵の人間はその力を手に余し、死んでしまうからだ。

そんな噂が、最近10代の若者の間で密かに広がっているらしい。
なんだか噂そのものが怪談じみているし、都市伝説の類かと思っていたのだが。

―――そういえば、進研のデータベースにも似たような記録があったような。

「その時に聞いたという話ではないのですが……
 彼らは人との繋がりを求めている。それも自分達と似通った「同じ」ものとのです」

天井を見上げる都村。その顔はいつも通りの鉄面皮だったが、
しかしそれを見るくじらにはどこか悲しげに見えた。

「すみません。ちょっと質問と趣旨が変わってしまいましたね。
 簡単にいえば文明とは自我を持ったウィルスの様なものなのではないかと思っています」

頭を振り、何か忌まわしい記憶でも頭から振り払おうとしている彼女に、
くじらはちょっと笑いながら言う。

「いや、べつに。いや、っつーかさ、あんたってクソ真面目よねえほんと」

まったく、自分のぼやき一つに文明なんたるかまで色々考えてくれるとは思わなかった。
この彼女の真面目さが彼女のいいところだと思うし、くじらが彼女を気に入っている理由でもある。

ちなみに、文明改造人間ホエールとしての本性をもつ彼女の聴覚は、人間の数百倍を誇る。
ゆえに、都村の「それに私達に文明が何なのか分った所でなにも出来ませんよ?きっとね」 という呟きも聞き逃しはしなかった。

(わかっちゃいるんだけど、やりきれないのよねえ、やっぱさ)

とりあえず普段からそんなに明るい人間でない都村をこれ以上暗くしたら職場が暗黒世界に飲まれかねない。
そんなわけで、彼女は話題を切り替えることにした。

「そーいやさ、都村んとこに昨日来てた女の子いたじゃん、異世界人とかっていう。
 あの娘ってどーなの? やっぱ異世界人っつーからにはなんかあたしらとは違ったりするワケ?」
166ホエール/W/くじら ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/01(月) 05:00:42 0

(『ウイルス』……ねぇ)

かつかつ、とハイヒールで廊下を鳴らしながら、ホエールは自分の右掌を見る。
文明改造人間である自分の体には、細胞レベルで文明のエッセンスが組み込まれている。
そのエッセンスの一粒一粒が、意思を持って、生きている……

(ゾっとしないなあ、なんか……)

ぶるっ、と身震いした彼女。
そのときポケットの中の携帯電話が着信を告げた

(メール……ああ、『進研』のほうからか)

彼女の本来の所属は進研のほうであり、彼女はその組織の破壊工作員である。
ゆえに『進研』の方から連絡がくることがたまにあるのだ。

スパムメールに偽装された暗号文を解読すると、彼女はその場でメールを削除する。

(『Sが脱走、現在施設内を逃走中』か、なにやってんのかね、アイツは)

メールの内容を頭で反芻しながら、彼女はポケットに携帯電話をもどした。
スフォルツァンドという名の彼女の相棒がこういった暴走行為に走ることは
別に珍しいことでもなんでもない。

本来は氾濫分子はボスの”しかけ”によって一瞬にして抹殺されてしまうのだが、
Sについては、その例外のようでボスもなぜだか放任している。

―――まあ、せっかく完成した”文明生物兵器”たる自分たちを始末するのがもったいないのだろう

実際、『進研』は自分たちを創るまでに多くの犠牲を払ったという。
自分たちの前にも、不完全体として生み出され、『廃棄』された改造人間がいたというし。

「さーって、あたしは成龍会残党の情報でも漁りながら、コウモリのほうでも追ってみますか」

とりあえずSの方はほっといても大丈夫だろう、と彼女は大きく背伸びをした。

明るく照らされたその部屋には、ベットやゲーム機、テレビと生活に必要なものが大体そろっていた。
床にはまばらに食べかけのポテトチップスなどが放り出されているし、
外観だけを見れば、そこはどこにでもありそうな若者の部屋といった感じだった。

ただひとつ奇妙なことは、その部屋のどこにも入り口が見当たらないという事実だった。

部屋の中央では、金髪に片眉が特徴的な少年が、あぐらをかいて本を読んでいる。

「……つまりは、オレたちが想像力とか可能性って読んでるものの99%は偽者で……」

ぶつぶつと何事かを呟く少年。
それは自分が今読んでいる本の内容をぶつぶつと反芻しているに過ぎないのだが、
少年のパンキッシュな外見も手伝い、その光景は恐ろしく不気味だった。

「ふむ……なるほどな」

ぱたん、と本を閉じると、少年―――スフォルツァンドは、本をわきに抱え、立ち上がる。
何も無い壁の前まで歩いていった彼は、そこに右手をあて、そして押す。
すると、そんなに力を入れている様子がないのにかかわらず、壁がめりめりと音を立てて崩れ始めた。

警報の音が響き始める。
だがスフォルツァンドの方は特に気にした様子もなく、
とっとと部屋から、『進研』の地下に位置する表向きは核シェルターという扱いになっている場所に出る。

『進研』の幹部の中でも、Sはかなり異質な扱いを受けていた。
まず、彼には自由が無い。
強力な文明と適合し、なおかつその本人がいつも情緒不安定なので、
Sはいつも『進研』の地下の、彼のために用意された独房に幽閉されているのだ。

外出が許されるのは、任務中か、または保護者であるホエールの同伴が認められたときだけである。

その待遇に、彼自身とくに不満があるというわけではなかったが、
しかし、彼は退屈していた。

シェルターの扉を開け、堂々とそこから抜け出す彼。
もともとはこの扉にも鍵が掛かっていたのだが、そのたびに彼に壊されてしまうので、
いつしか鍵が開けられているようになった。

『自室』を抜け出したスフォルツァンドは、進研内でもトップシークレットに位置する、
重要器物の保管場所に堂々と入り込み、そこに置いてあった片腕だけの『義手』を拾い上げる。

「あ? ……これに触ると”文明が使えなくなる”ってきいたんだけどな」

今回のスフォルツァンドの”暇つぶし”の対象となったのは、
ホエールの調整中に廊下で聞いた奇妙な噂の真相を探ることだった。

”猫のような姿をした異世界人の義手に触れた文明が、ことごとく使用不能になった。”

そういう噂だったはずなのだが……

「んだよ、デマか? いや、そのワリにはこんな場所に保管されてるし……」

とりあえず、彼の『妄想現実』になにかの不具合が起こっている様子はなかった。
うーん、と彼はしばらく唸っていたが、やがてぽんと手を叩くと。

「なるほど、こいつも”適合者”がいなけりゃ起動しねーってことか。
 体から取り外しても機能してたのは、適合者の”残留”があっただけって可能性もあるな」

進研の研究によれば、起動中の文明が適合者の意思に関係なく機能を停止する条件は三つ。
一つは、適合者でない人間がその文明を意図を持って使用しようとしたとき。
一つは、適合者である人間と文明が、一定の距離(この距離は文明によって異なる)をとったとき。
一つは、適合者である人間が文明を起動させ、一定の距離をとったあと、また一定の時間をおいたとき。

三つ目のケースから、文明は、適合者からなんらかのエネルギーをもらって機能している可能性があるということが分かった。
そのため、使用者から離れてまだ機能している文明を便宜上”残留がある”と表現するのである。

「と、すれば……適合者を探し出すしかねぇわけだ。
 この義手が”起動”してるとこをみないことには、わざわざ部屋を出た意味がねぇもんな」

ぶつぶつと言いながら部屋から出ると、そこには彼を捕獲しようと大勢の進研の構成員が待ち構えていた。
彼は特に気にする様子もなく、まるでまわりにだれもいないかのように、
待ち構える人間たちに向かって歩いていく。

「猫みたいな異世界人……か、まあ、つまんねえヤツだったら始末しちまってもいいよな
 『進研に対しての敵対心ありとみて適切な処理を執行』ってトコか」

スフォルツァンドがぱちん、と指を鳴らす。
転瞬、どたどたと、周りを取り囲んでいた人間たちが一人残らず倒れた。

「さて、今回の”狩り”は面白いといいがね」

スフォルツァンドの武器、『妄想現実』はあらゆる物質の祖たる『粒子』の文明。
倒れた彼らは知る由もないが、スフォルツァンドはつねに周りの大気に自分の文明を混ぜ合わせている。
今回、スフォルツァンドは大気中に散布している文明を一瞬にして何万本もの”針”の形に収束し、
それを自分を取り囲む構成員たちの全身の、人間の生体機能を停止させるツボに打ち込んだのだ。

空気中の粒子を操作し、形作り、それを狙いをつけて打ち込む。
その難しい作業を、何万回も、しかも一瞬のうちにやり遂げる。
それが、戦闘用文明改造人間スフォルツァンド、人間名玉崎タイヨウという存在なのだった。

【ターン終了:持ち物 テナードの腕】
169シノ ◆ABS9imI7N. :2010/11/01(月) 11:03:26 O
「んー!この『はんばーがー』っての、すっごく美味しいですー!」

ファーストフード店の二階の一席は、ちょっとした野次馬で賑わっていた。
その中心にいるのは言わずもがな、美味しそうに15個目のハンバーガーに口をつけ始めるシノだ。

「ナイフもフォークも使わず、あえて手のみを使って食す……Excellent!としか言いようがありません!」

『ロリ、キャラ壊れてるぞ』

幸せそうにハンバーガーを頬張るシノ。
不非兄弟は呟きに近い声でつっこむ。
野次馬の声や店内にかけられたBGMのおかげで、聞こえることはないが。


「むぐ……それはそうと、人捜しのことなんですけど」

19個目のハンバーガーに手をのばし、シノはメンバーに話題を振る。

「私ここに来たばかりだからよく分かんないですけど、新市街地って建物いーっぱいありますよね?
手がかりも探す手段も限られてるのに、今日1日で探し出せるんでしょうか?」

それを考えると憂鬱な気持ちになり、『本来』の暗い表情を見せる。

「私、これといって特技とかもないし……人捜しのスキルとかも持ってないし……」

人間基準で考えれば、シノの怪力やメイクザゾンビはかなり異能というべき能力だ。
しかし、それもシノがいた世界でならば出来て当たり前のこと。
それ故に、シノは人一倍コンプレックスを抱えていた。

「うう……肝心な時にお役に立てなくて申し訳ないですハンバーガー美味しいです」

例え自己嫌悪に陥ってもハンバーガーを食べる手は止めない。


咀嚼しながら考えること。六花という少女のこと。
彼女の両親も心配していることだろう。
もしかしたら血眼になって探しているかもしれない。
170シノ ◆ABS9imI7N. :2010/11/01(月) 11:05:46 O

回想する。
シノの父親もかなりの過保護っぷりだった。昔、シノがいじめっ子に洞穴に閉じ込められた時は、そりゃあもうえらい剣幕でモンスターワールド中を探し回っていたらしい。
『見晴らし丘』の上でシノを見つけたときは、幼い子供よりもわんわん泣き喚いてシノを抱きしめたものだった。

「(でも、なんで私、あんな所にいたんだっけ)」

洞穴に閉じ込められ、泣き疲れて眠ってから記憶がなかった。
気がついたら、父親の腕の中にいた。側にもう1人誰かいたはずなのに、それが誰だったのかすら、もう記憶も朧だ。

「(……六花さんのお父さんは、どんな人なんでしょうか……)」

シノの中で沸き上がったそれは、純粋な興味だった。
自分たちの知らない所で娘を血眼になって探しているんだろうか。
ただ純粋に、知りたかった。

ハルニレだったら知っているだろうか。
もしかしたら、ハルニレに六花を探すように言ったのは六花の父親かもしれない。その可能性もなきにしもあらずだ。

「(そうと決まれば、ジョリーさんに言ってハルニレさんに連絡を……)」


「はうあ!」

『むぐうっ!?』

ボン!と顔を真っ赤にしてぬいぐるみの不非兄弟の腹に顔をうずめる。
ハルニレと連結して、今朝の出来事を思い出したのだ。
男に着替えを見られたのも、男の裸を見たのも、ハルニレが最初だったのだ。

「ら、らいじょうふまれす、あさのハルニレさんのこと思い出して…それで……」

『ロリ落ち着け、日本語でおk』

シノは恥で呂律の回らない舌で必死に主張する。

「あ、あの!ハルニレさんに連絡取ってほしいんです。ゲームの発案者がどんな人か知りたくて……お願いします」


【ハルニレにゲームの発案者について質問があるようです】
171ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/01(月) 22:05:54 0
>「というわけで僕から本日の目的地を提案したい。旧市街5丁目の『したらばホール』にて開催されている『文明市』。
  ここで人探しの文明と、あわよくば戦力の増強になるような戦闘用文明を入手する。異論があれば挙手したまえ」

【文明市】。
タチバナからの説明で、フリーマーケットを装った闇市のようなものかとハルニレは解釈する。

>「分かんないわよ。それ以前に、探し出したとして、私達のうちの誰かに適合するって保証もないのよ?」

それを聞き、ハルニレは暫く黙考する。
ドルクス達があーでもないこうでもないと議論する中、何かを閃いたらしく、バンとテーブルを叩いて立ち上がる。
膝の上の弓瑠が落ちた。

「逆ニ考ルンダ野郎共!誰モ適合出来ナカッタラ、適合スル奴ヲ見ツケリャ良インダヨ!」

どこか某ジョジョ風に、高らかに言うハルニレ。見つけてどうするのかと聞かれると、自信たっぷりに胸を張る。

「決マッテンダロ。ソイツヲ脅シテ、アノロリ(六花)ヲ探サセルンダヨ!」

まさに外道。そしてこの笑顔である。フフンと自慢げな表情で席につこうとする。そして、悲劇は起きた。

「おきゃくさま、ふせてー!」

「ヘ?何g」

その次の瞬間、ハルニレの後頭部を硬い何かが当たる衝撃が襲った。
それはまるでバールか何かで殴られたかのような、重い一撃。

「Σゲファッ!!」

「きゃっ!」

ハルニレの顔が熱々のミートスパゲッティの皿にダイヴする。どこかのコメディードラマのような光景の出来上がりだ。

「いたた……おきゃくさま、だいじょうぶですかー!?」

「コレデ大丈夫ニ見エルナラ、眼科ニデモ行クコトヲオ勧メスルゼ…」

殺気を放ちながら、ハルニレは衝撃が来た方向…つまり、背後へと振り向く。
そこにいたのは、背の低い、モナズのウェイトレスの制服姿。

「ご、ごめんなさい。ボクのポニーテール、バールみたいにかたくて、それがおきゃくさまの頭にあたっちゃって……」

弓瑠位の年頃の、ポニーテール幼女だった。


「(ロリ+ボクッ娘+ポニーテール+敬語=キタ――――――――(゚∀゚)――――――――!!)」

幼女も当たった衝撃で尻餅をついていた。
ハルニレは急いで席を立ち、幼女のウェイトレスの手を取って立ちあがらせる。
両手でがっちり幼女の手を握るその姿は、中々に犯罪臭を漂わせ、長多良がこの場にいたらさぞや罵倒の嵐を浴びせた事だろう。
172ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/01(月) 22:09:16 0

「気ニシナクテモ良イゼオ嬢サン。俺ハコウ見エテ頑丈ナンデナ(キリッ+」

「あの、おきゃくさま、はなぢが……」

「問題ナイ、ミートソースダ(キリッ+」

「いや、そうじゃなくて……(てにたれてくる……!)」

                      Ψ Ψ           Λ Λ
                     ( ・д・){ソウジスルェ!] [?ウァナ}(ФωФ )
 


「ヘー、芭琉子(ばるこ)チャンノオ爺チャンハココノ店長ナノカ」

「はい!それで、この休みの間だけおてつだいを……」

「芭流子チャンハ偉イナー、俺モ見習ワナイトナ」

「てててっ、ほめてもなにもでませんよぉー」

騒動から数分後、テーブルに、私服姿に着替えた先程のウェイトレス幼女が加わっていた。
ウェイトレスだった癖にちゃっかり料理に手を出し、ハルニレとすっかり意気投合している。

「ふわぁー……。それにしてもみなさん、かぞくなんですよね?」

「マアナ。アッチノ貧相顔ガ兄貴デ、ソッチノオールバックガ弟ダ。後ハ全員妹サ」

ここでもさらっと嘘をつくハルニレ。それを聞いた幼女はすっかり感心しきっている。
全くと言っていいほど顔つきも似てないのに、どうしてこうも皆してこの嘘に騙されるのか。

「だいかぞくですねー」

「親ガ年甲斐モナク頑張リスギタ結果ガコノ有様サ!」

途端、各所から破廉恥だの朝からなんて話題を出すんだだのと突っ込みを受けた。
クエスチョンマークを飛ばす幼女に、勿論意味は分かっていない。
まあいいか、と次なる料理に手を出しかけた幼女は、ふと文明市についてプリントされた紙を見つけた。

「これ、【文明市】ですよね?もしかしてみなさん、今からこれに行くんですか?」

答えを聞いた幼女は、紙の上で踊る文字を睨んで眉を顰める。
真剣そのもの、といった表情で、紙から目を離し、ハルニレ達へと言い放った。

「ボク、ハルニレさんたちが好きだから言います。ここに行くのは、やめたほうがいいです」

「何デダ?」

キュッ、と服のすそを握りしめる。言うのを躊躇っているかのようだ。
しかし決心がついたのか、口を開けた。唇が僅かに震えていた。


「さっき、そこで座ってた、ハルニレさんくらいの年の二人組のおにいさんたちが言ってたんです。
『今日の文明市は、何が起こるか分からない。人死にが出るかもしれない』って……………………」
173佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/11/01(月) 22:11:35 0
【花屋:ノースフィリア】

「はぁ……」

零は花屋の前で息を切らし、休みながら花を見ていた。

(なんなのよ……本当にらしくない)

自分らしさ、と言っても彼女自身が「自我」を持ってから間もないのだがそれでも今の自分は何かおかしい。
おかしいと零は感じていた。
そう、まるでこれでは恋する乙女の様だと零は思った。
照れか、異変に対する動揺か……彼女の顔は紅潮し、熟れた果実の様な様を見せていた。

「佐伯さん」

そんな彼女に声を掛ける人がいる。竹内萌芽だ。
零は反射的に顔をそむけ、気恥ずかしさからかムスッとした表情をとる。
そっぽを向いている零に、萌芽は声をかける。

「可愛かったです、すっごく」

それは彼の素直な感想だった。

それでも恥ずかしがっている様子の彼女の姿を見て、
萌芽はふと思いつくと、なぜだか店員さんがタダでくれたネコミミをつけて

「にゃあー」

笑顔で鳴いてみせる。

「ほら、これでおあいこです」

その様に何故か惹かれて……胸が苦しく締め付けられるような錯覚を受けた。

「うん」

生温い幸福。しかし、それも長くはもたなかった。

(……見られてる?)

感じた視線。それは間違いではなかった。
確かに誰かに監視されているのだ。いや、誰かでは無い。集団だ。
気づいてしまった以上は確かめなければならない。それが危険であるのか否かを。
しかし、それを悟られてはならない。

(どうやって……)

手段を模索する為に思案する零。それが悪かった。
一瞬だが流れる不穏な空気。そして、それを萌芽が感じ取ってしまう。
そして、それは監視者達にも感づかれる……
174辺田 ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/01(月) 22:14:51 0
「うわぁぁああん、終わらないぃ、書類が終わらないよぉぉおお〜〜〜〜!!」

文明課のデスクの一つで、書類の山々を前に、一人の男が泣き言を上げていた。
彼の名は辺田 蓮八(へた れんはち)。榎 慈音の(可哀想な)部下だ。

「都村さん、僕もうむり、しぬ!死んじゃいますぅう!」

都村と同い年のはずなのに、振り乱した髪は真っ白に染まっている。
否、彼の髪は染めたものではない。既に色が抜けきって10年も経っていた。

「こんな忙しい時にかぎって、何で来ないんですか慈音さん〜〜……これじゃ拷問と変わんないですよぉ〜〜……」

どこぞのパンダのようにデスクに突っ伏し、右手は止まることなく書類を片づけていく。
空いた左手でメールを打つ。相手は勿論慈音だ。返信を期待している訳ではないが、何もしないよりマシ、というやつだ。

「あ、ところで都村さん、例の件なんですけど……」

がばりと起き上がる。書類の山の一つが頭にぶつかり、見事に崩れ落ちた。

「ああー!ごめんなさい、ごめんなさい!」

ごめんなさいを繰り返しながら全て拾い終え、辺田は手伝ってくれた他のメンバーにも頭を下げ続ける。
もし、この場に慈音がいたとしたら、間違いなく罵倒の嵐とローキックを食らった事だろう。
この時だけ、慈音がいないことに辺田は感謝した。

「あの、それで都村さん……」

書類の一つを手渡す。

「根野さんに頼んで、調べてもらったんです。あの人、こういう裏社会とかに詳しいですから」

書類には根野の筆跡で、Z会復活を目論む残党たちと、行方不明になっている成川遥について記されてあった。

「昨日のBKビルの生き残りの連中が、成龍会の成川を中心にまた集まりはじめてるみたいです。
 なんでも、『うちの遥を誘拐し、荒海を殺したのは公文だ。復讐してやる』って息巻いてるらしいですよ」

そう言うと肩を竦める。どちらも、公文からすれば心当たりのない濡れ衣だ。
ああそれと、と辺田はもう一つの書類を差し出す。

「昨日、都村さんが相手してた進研の料理人。アイツの素性が割れましたよ」

男の名は江渡 仁太。通称エド。
料理人だった両親を幼くして文明犯罪で亡くし、その数日後から消息を絶っている。
捜索願も出されていたが、数年前にそれも打ち切られていた。

「彼を知る人曰く、彼は両親が料理人として、どこかで生きていると信じていたそうです。
 自分の大好きな料理で世界一を目指せば、いつか両親も現れてくれる……それを、死ぬまでずっと信じ続けていたんです」

辺田はそこまで言い切ると、目を伏せる。
彼が一体どんな思いで死んでいったのか、彼には想像出来なかった。
ただ、これだけは言える。文明は、人を助けもするが、人を狂わせもする存在だと。

「都村さん、僕、文明が怖いです。文明は確かに便利ですけど、時としてそれは僕らに牙を向く」

瞼の裏に蘇るのは、10年前の地獄。火達磨になって死んでいった「彼」の断末魔を、未だに忘れることが出来ない。

「今でも想像して、身震いしてしまうんです。いつか、何かの拍子に僕がそれを手にした時……」


僕自身が、【化け物】になってしまう。そんな気がするんですと、辺田は呟いた。
175慈音 ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/01(月) 22:16:19 0
・―――――――――――――――――――――――――――――――――――・

>「あの、お客様。店内での睡眠はご遠慮下さい。」

「……あ”あ?」

ウェイトレスに肩を揺さぶられ、慈音は店内中に響き渡りそうなドスの効いた声を効かせた。
とても女が上げるような声ではなく、そのウェイトレスは勿論、レジの店員や他の客の視線までをも集める。
起きぬけの働かない頭が段々覚め、状況を理解する。どうやら居眠りしてしまったらしい。

「ごめんなさい、最近あまり寝てなかったから」

固まっているウェイトレスに非礼を詫びる。
携帯電話を見ると、また部下からの泣き言メールだった。サブメニュー、選択、削除、選択。
時間は完全なる遅刻。ならば盛大に遅刻させてもらおうではないか。
そう結論づけた慈音は、目覚ましに何か食べることにし、立ち去ろうとしたウェイトレスを呼びとめる。

「アイスコーヒー1つ。それとサラダを頂戴」


【ハルニレ:文明市に不穏な空気。バトルイベント発生の予感?】
【慈音:サボる気満々。渡辺にサラダとアイスコーヒーを注文】
【Z会が復活するかもしれない?今のところ何も動きは見せず、アジトや正確な人数は分かっていない様子】

NPC(名前付きモブ)
名前:辺田蓮八(へた れんはち)
性別:男
年齢:25
身長:175
性格:ヘタレ
外見:白髪、目立たない顔つき、スーツ
特殊能力:特になし
備考:慈音の部下。常に慈音の後ろについて行動している。
   とある文明犯罪がトラウマで、髪の毛が白くなってしまった。
   密かに慈音に想いを寄せている。最近マゾ疑惑をかけられている。

元ネタは改造八頭身総合スレの八頭身モナー
176佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/11/01(月) 22:18:26 0
「失礼……」

全ては一瞬だった。気がつけば二人は黒い服を着た集団に取り囲まれる。
それも一般人から見て不自然に見えないように退路を断つスタイルなのが、彼らのレベルを物語っている。

「月崎真雪。と言う人物をご存じですね?
 少々、お話をし聞きたいのでご同行をお願いします」

ツキサキマユキ。残念ながら零の記憶にはそう言った名詞は存在しない。
しかし、それを彼らに言った所で引いてくれるとは思えなかった。

「どうするか……」

そもそも、彼らの中の一人が囁いた名前、その後のご存じですね?という部分はこちらが知っている事を前提とした言葉だ。
つまり零、若しくは萌芽はその人物と面識がある。
どの道、逃げれば追ってくるのだ。ならば自ら飛び込んだ方がいい場合もある……

(ここは一度話を聞いてみる方がよさそうね……)

しかし、萌芽の意思が判断できない以上、迂闊な真似は行えない。
そこで零はカマを掛ける。

「なら、自分達の身の上ぐらい説明して下さい。
 言いたくないって言うのでしたら、大きな声を上げますよ?」

名乗り出無ければ少なくともまともな人種で無い事は判る。
そして、名乗ればキーワードが出てくるはずだ……

【状況:月崎の屋敷のSPに囲まれています】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】
177鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/11/02(火) 11:04:39 O
鈴木は人山の中に居た。
表情を見るに、あの蛾に操られたらしい。

「アンタらぁ…邪魔なのよぉ!」

周りの一般人を倒し、何とかスペースを開ける。
そして、懐からアトマイザーを取り出し周囲に振り掛けた。

「やっぱり駄目か…倒すしか無いわけね」

アトマイザーの中身は【初志貫徹】。
文明による軽い洗脳状態なら解けるのだが、効かないという事は文明では無いらしい。
鬱陶しそうに次々と倒しながら、アクセサリーを奪ってみる。
大体10奪えば1ぐらい当たりはあるだろう。

「良いのめっけ!」

ビンゴ。
【身体強化】を見つけた。
一応適応している、という状態だが無いよりマシだ。
文明という助けを手に入れ、鈴木は作業のように周りをなぎ倒す。

「ふう…大体こんなもんね」

数分後、自身もボロボロになりながらも、気絶した人の山の中心に余裕で立つ鈴木が居た。

「あーもー…また探し直しじゃない…あんなのに構わなければ良かったかも…」

頭を引っかきながら辺りを見回す。
当然ながら、蛾は居ない。
鈴木は溜め息を吐いて、懐から携帯を取り出した。

「宗男、ちょっと良いかしら。調べて欲しい事が有るんだけど」

178愛内檸檬 ◆OryKaIyYzc :2010/11/02(火) 11:06:12 O
祖母の部屋には向かったが、突然の急用で病院に行かなければならなくなった。
入院中の檸檬の母…紀香の病状が悪化し、昏睡状態に陥ったらしい。

「お母さん!」

檸檬は扉に駆け寄り、そのまま崩れる。
父親が死んでから、檸檬が一番頼れる人なのに。
重い扉の前で、涙を零した。

「…おばあさま、宗男は?」

「仕事だよ…宗男の事だから、すぐ戻って来るさ」

宗男が居ないことに気付き、祖母に訊く。
祖母は意外な程優しく、檸檬に寄り添いながら答えた。

不安な時間は、すぐに終わりを告げる。
手術中のランプが消え、医師が現れた。

「先生、お母さんは!?」

「…残念ですが」

「そんな…お母さん…!」

必死でしがみつく檸檬に、医師は首を振る。
その答えに、檸檬は涙を流した。

医師が去った後、宗男が入れ替わりで戻って来る。

「宗男…」

「檸檬さん…? 何故泣いているのですか?」

宗男は何が起こったか分からない表情で檸檬を見ていた。
いくらなんでも鈍すぎる。何故分からないのだろうか。

「分からないの!? お母さんが死んだのよ、何でそんな無神経な事言えるの!?」

「檸檬さん…の、お母様…ですか…?
…失礼ですが、檸檬さんのお母様はいらっしゃったんですか?」

宗男の言葉に、檸檬は遂に絶句した。

―――――――――――――――――――
179愛内檸檬 ◆OryKaIyYzc :2010/11/02(火) 11:07:22 O
―――――――――――――――――――
宗男を散々責めた後、檸檬は祖母に問い詰めた。

「何で…何で宗男はお母さんを覚えて無いの…?
そもそも病院に来た理由すら覚えて無いじゃない…」

目の前で俯き肩を震わせる檸檬を、祖母は背中を撫でて宥める。
そして、静かに言った。

「月崎の血は、そういう物なんだよ」

その言葉を聞き取り、檸檬は顔を上げる。
祖母は言い聞かせる様に続けた。

「月崎の血が入って居るもの…私も私の子供も孫も、歴史に残らない。
死ぬ事や存在する世界を違えるだけで、
同じ血を持つ者以外や元居た世界には私達は『居ないことになる』。
何の手段も講じなければ、私達の存在は簡単に抹消されるんだよ」

「それじゃあ…」

「ああ、…私は別の世界から来たんだ」

【鈴木:見失いましたが七板通りのSP達の所へ向かいます】
【月崎の血:世界と月崎の血を持つ者以外に、以下の効果を与える
・月崎の血が死亡、もしくは他世界に移動した場合、記憶が抹消される

当主の元居た世界が関係する】
180K ◆cirno..4vY :2010/11/02(火) 18:15:25 O
後でまた来る、その言葉の通りにKはすぐに琳樹達の部屋へと足を運んだ。
扉をゆっくりと開け、口も一緒に開く。

「さあ、約束通り来てあげm」

だがそこに彼らの姿は無かった。
それもそうである、彼らは幹部長に呼び出されて出て行ったのだから。

「な、何で居ないんですか!はっ、まさか隠れてるんですか!?いいです、探してあげますよ!」

そこに居たのはもうKではなく和胡であった。
自らも幹部長に呼び出されていたというのに、それを忘れて決して広いとは言えない部屋を探し回る。
それはもう涙目で探し回る。

「どこ行ったんですかー!」

泣きそうな顔でベッドの下を探す。
泣きそうなというか頭をぶつけて少し泣いた。

「あの、Kさん」

「何ですか!」

「異世界人はQ幹部長に……」

「何でそれを早く言わないんですかー!もう!出井ちゃんのばーか!」

「ば、ばか!?Kさん、しっかりしないと和胡さんになってます……!私だからいいものの他の部下に見られたらどうするんですか……」

「はっ……、そうだった、ごめんなさい」

「私に謝る前に早く幹部長の所に行ってください、Kさんも呼び出されてたでしょう?」

「! そ、そうでした……!」

部下に言われて気付いたKはそのまま走って幹部長の所へ行ったはいいものの、話は終わりこってり叱られましたとさ。
181訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/11/02(火) 18:16:49 O
「殺伐としたスレに私参上」

「私も旧市街地希望で」

語尾にキリッとでも付く様な顔でエレーナ達が居る部屋へと訛祢琳樹が入ってくる。
何故旧市街地を選んだかというとエロゲシナリオライターの血がそうしろと言ったからだべ。嘘だづ。
心の深い所で、そうしろと誰かが告げたのである。
エレーナの傍に居ろと、そう告げたのだ。

「駄目?駄目かい?」

三人の顔が見えにくいのか、髪を掻き上げその隠れイケメンっぷりを存分に発揮して聞く。
何故発揮したし。

「まあ、駄目って言われても行くんだけども」

そう言ってから彼は姿の変わった三人に何のリアクションもせずエレーナの手を引く。
キャラおかしいって?気のせいだすけ。

「思いっきり姿変わったのにリンキは何で気にしないのかしら……」

「なんとなく」

彼は狂羽との簡単な会話を済ませて、エレーナを連れて旧市街地を目指そうと建物から出て行く。

「ああ!私も行きます!」

置いてけぼりになりかけたKはその後を慌てて追ったとさ。
182訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/11/02(火) 18:20:53 O
―――――――…

「さあ、デートdいだい、なにすんだべ狂羽」

「デートじゃなくて人捜しよ」

「あとエレーナさん、その格好も素敵だべ」

翼で頬をビンタされて涙目になる。
涙目になりながらも口説く、ただし本人に口説いてる気はない、天然である。
そもそも三人と一匹ではデートですらない。

「私は少し外れま……」

「お母さん、それに魔法使いのおじさん?」

「久しぶりだべなー」

「なっ!琳樹と知り合いでs……ん?貴方も琳樹……?
 ……平行世界の、息子、だと……?」

驚きすぎてKが和胡になってしまった。
ああ、どうしようもない。
空流を母と呼ぶこの少年は1スレ目に出てきたショタ琳樹君である。
崇めろ、ショタコンども。

「琳樹君、この娘知らない?」

ショタ琳樹に写真を見せ、自分も琳樹だというのに別段気にせず話を進める。
訛祢琳樹の天然というかずぶといというか、そこら辺には少し呆れる、と狂羽とKは同時にため息を吐いた。

「あ、弓瑠ちゃん。大人の人と一緒にどっか行ってたよ」

「知ってるんですか!?」

「う、うん、知ってるよお母さん、友達だもん」

「!? あの娘と友達……ですって?」

「で、どっち行ったんだべ?」

「あっち」

和胡は混乱しすぎているにも関わらず彼らは淡々と話を続ける。
そしてショタ琳樹が指差した方向を記憶すると「ありがとう」と呟いた。
帰るというショタっこに心配性な母親は送る、と着いていったのであった。
結局、残ったのは一組の男女に、烏だけである。

「早く娘、弓瑠ちゃん?のとこに行くわよリンキ」

「待って」

狂羽の言葉を静止してまずは、と続ける。
そしてエレーナを笑顔で見ながら、

「その前にエレーナさんの行きたいとこ行こうか」
183訂正とショタ琳樹 ◆cirno..4vY :2010/11/02(火) 18:24:30 O
訂正

×「お母さん、それに魔法使いのおじさん?」
「久しぶりだべなー」

○「お母さん、それに魔法使いのおじさん?」
突然現れた男の子に別段気にもせずに久し振りと挨拶する。
……Kはおろおろとしているが。
「久しぶりだべなー」


名前:空流 琳樹
職業:小学生
元の世界:現代
性別:男
年齢:9歳
身長:平均より少し上
体重:平均より少し下
性格:内気
外見:私立小学校の制服
備考:元いじめられっ子
尊敬する人は魔法使いのおじさん
184Cとミツキ ◇IPF5a04tCk:2010/11/02(火) 19:00:57 0
時間は、ミツキが新しく朝食を取りに廊下を歩いていたところまで遡る。

「あーもう全く、信じらんない!」

ミツキはとにかく怒っていた。
その対象は、ミツキの食事まで平らげた柊達と、それを止めなかったテナードに対してだ。


「あーら、随分楽しそうじゃない」

「どこが…… !」

背後の声に聞き覚えを感じ、ミツキは振り返る。そこにいたのは、白衣の女性、進研幹部・C。
エナメルのSM衣装の上に白衣を着ただけの彼女の額には、笑顔と青筋が浮かんでいる。
盛大に舌打ちしたいのを堪え、ミツキは努めて笑顔を作る。

「単刀直入に言うわよ。どこで油売ってたのよこのクズ」

ミツキの笑顔がひくつく。
Cは煙草に火を点けると、紫煙を吐きだして厭らしい笑みを浮かべた。

「新しいセフレと逢引きでもしてたのかしら?ああ、まさかさっきまでお楽しみだったとか?」

数々の侮蔑の言葉と嘲笑。それに対し、ミツキは無言を貫く。
こんな事は何時もの事だ。無視すればいい。
耐えればいい、耐えればいいだけ―――――――――――――――……。


「ねえ、何とか言ったらどうなの『坊や』………いいえ、『テルミツ』?」


Cはクスリ、と笑みを浮かべた刹那、ミツキの表情が修羅の如き形相に変わる。
次の瞬間には、壁にCを叩きつけ、胸倉を掴むミツキがいた。
小柄な彼女からは想像もつかないスピードとパワー。
だが、Cは苦しむ様子も狼狽える表情も見せない。不敵な笑みを浮かべたまま。
185Cとミツキ ◇IPF5a04tCk:2010/11/02(火) 19:02:17 0
「その名前で、アチシを……『俺様』を呼ぶな……………!!」

肩を竦めるC。激情にかられるミツキの胸倉を掴み返し、体をよじらせて反転。
今度はミツキが壁に叩きつけられ、白衣から取り出した注射器がミツキの首筋に当てられる。

「図に乗らない事ね、『坊や』」

壁と後頭部がゴリ、と摩擦音を立てる。
首を掴まれ、ミツキは逃げ出すこともままならず、宙吊り状態になる。

「誰のお陰で20年も生きられたのか……忘れたとは言わせないわよ」

温情、人の感情すら感じられない氷柱のような冷たい声、人を人として見ていない瞳(め)。
満輝(ミツキ)は、否、輝満(テルミツ)は、――Gは、母への恐怖に僅かに生唾と息を呑み込む。

「さあ言ってみなさい雌豚。使えない、ケツを振るだけしか能のない変態で、ゴミ同然のアンタをここまで育ててやったのは誰か!」

ヒステリックな声と嘲笑。母子の沈黙を破ったのは、Cの携帯電話から発せられた軽快な電子音。
ミツキの首ねっこを押さえていた手を離し、咳き込む息子を余所に通話ボタンを押す。

「あら八重子……ええ、………………分かったわ。すぐ連れてこさせるから」

短い通話を終了させ、座りこんだミツキを見下ろす。見下す。

「異世界人達を連れてきなさい。今すぐによ。場所なら分かるでしょう?返事は?」

「…………………………………はい、おかあさま」

Cは満足したのか、ミツキ一瞥もくれてやらずにその場を去る。

「…………………………………………………………」

しねばいいのに。その小さな言葉は、果たして誰に向けられたものだったのだろうか。
186カズミ ◇IPF5a04tCk:2010/11/02(火) 19:07:09 0
そして時間は先行し、テナード達が新市街地へと赴く十数分前。


「キャー!かーわーいーいー!」

とある病室のベッドの一つで上がる、ミツキの黄色い声。
そこにいるのはミツキと八重子、そして――……。

「…………これはその、アレなの?新手の嫌がらせって解釈しちゃっていいの?」

茶髪の髪は肩に掛かるか掛からないか位まであり、長い睫毛はとても女性らしい。
線の細い卵顔、少し痩せ気味の華奢な体は八重子と同じ身長くらいか。
しかし、可愛げのない口調や声まではあまり変わらない。

ミツキによって女物の服を着せられた、紛れもないカズミだ。


「にしても、≪電波侵害≫に発育や一次性徴を抑制する効果があったなんてね。道理で身長が全く伸びないわけよ」

「外して一晩でここまで一気に成長するとは……やはり文明とは奥が深い」

「やはり電波侵害から流れる特殊な電波のせいと解釈して良いんですかね?」

「彼の場合は12歳から片時も離すことなく装着していたからな……あり得ん話ではない」


Cとその他の文明解析班達が話し合う中、ミツキは意気揚々とカズミを着せ替え人形にして楽しんでいる。
カズミは八重子に救いの視線を送るが、当の彼女はニッコリと笑うだけ。
はあ、と溜め息一つ。なすがままだ。

「うーん、こっちのスカートも可愛いけど、ああでもこっちのスカートズボンも……!」

「あのさミツキ。一応言っておくけど僕、男なんだよ?」

「知ってる。で、それがどうかした?」

「…………何でもない」

ミツキの本性を知る数少ない一人であるカズミが取った選択肢は、[諦める]。
既に自分よりも身長が高くなった幼馴染を相手に、ミツキの機嫌は絶好調だった。

「テナードは元気だった?」

「うん!あーでも聞いてよ!てなしゃんったら朝ごはん食べられてるの止めてくれなかったんだよー!?」

止めてくれたっていいのにねー!と頬を膨らませるミツキを頭を撫でて宥める。
とても同じ男同士には見えない。傍から見れば、仲のいい姉妹に見えるだろう。
すると、Cがたしなめる様な表情でミツキを睨む。解析班達は既に退室していたようだった。

「早く支度なさい、この偽乳ホモビッチ」

「分かってるっつーのエセドSアバズレ、いちいち指図しないでよ」

とても親子とは思えない会話を交わし、Cは退室する。
その背中に、ミツキは中指を立てて見送った。カズミがミツキへと視線を向け、質問する。

「今日、何か用事でもあるの?」

「うん!てなしゃん達と新市街地にお出かけ!」
187カズミ ◇IPF5a04tCk:2010/11/02(火) 19:09:06 0
打って変わって笑顔になり、ミツキはそう答える。
お出かけ。あのルックスでどうやって街中をうろつくのだろうとふと疑問に思ったが、カズミは何も言わないでおいた。

「カズミンの分までお土産買ってきてあげるからね!大人しくしとくんだよ!」

「お土産って……ま、楽しみにしとくよ」


「とは言ったものの……暇なんだよねー」

カズミはボーッと病室の窓の向こうの空を眺める。
八重子もミツキもCも出掛け、カズミの知り合いは誰もいなくなってしまった。
もとより、この病室に閉じ込められる原因となったMと会う気にもなれなかった。

「外にでたいなー」

20になりたてのモヤシ女装男が、小学生の子供よろしく駄々をこねる。
看護婦は、それを見て八重子が甲斐甲斐しく世話をする理由がなんとなく分かった気がした。
しかし、M幹部長からの命令で、「カズミを絶対外に出すな」と命令されていた手前、駄目だとたしなめる。

「ちぇっ、けちんぼ」

ゴロンとベッドに横になる。六花から受けたダメージは大方回復していた。
右腕がまだ少し動かし辛いが、日常生活に支障はない。

「(んー……ここに来るのも五年ぶり?かなあ)」

退屈から、カズミは横になったまま過去を振り返る。
『転校』……とある大失敗をやらかし、進研支部に飛ばされてから実に五年。
久しぶりに本部に戻って来たのが三日前。同じく異世界人の存在が知れ渡ったのも三日前。
不思議な偶然だなと笑みを零す。
それはそうと女物の服を着たままだが、着替えるのが面倒だ。

「ん?」

突如、警報が鳴り響いた。病室の外が騒がしい。少しだけ病室のドアを開ける。
安静にしていろと言われたが、祭り好きのカズミにとってそんな注意は守るに値しない。
けが人が沢山運ばれてくる。煩すぎてよく分からないが、誰かが脱走したらしい。
かなりのサポーターが脱走者にやられたらしい。自分を気にかける者は誰もいなくなった。
188カズミ ◇IPF5a04tCk:2010/11/02(火) 19:10:23 0
チャンスだ。

サポーター達の間をすり抜け、カズミは病室を抜け出した。女装のまま。
髪の長さや元々女顔だけあって、誰も怪しまない。カズミだと気づきもしない。
このまま外に抜け出してシャバの空気でも吸ってこようか。唇の端が釣りあがる。

「あでっ」

後方にばかり注意を払っていたので、誰かとぶつかった。なんというデジャヴ。
尻餅をついてしまった。ぶつかったのは、自分と同じ年くらいのパンキッシュな青年。

「(これはあれか、今時流行りのDQNファッションってやつか)」

目の前の青年が脱走者であり、幹部のS(スフォルツァンド)だとは露ほどにも思っていない。
だがしかし、Sの手にあったそれを見ただけで、カズミがSに関心を示すのは容易なことだった。

「その、義手」

テナードの右腕だ。噂ではボスが所持していると聞いたが、何故この青年が持っているのか。
どうやら、適合者……つまり、持ち主であるテナードを探しているらしい。

「……あのさ、その持ち主の居場所、知ってるよ」

携帯電話なら持っている。テナードと一緒に行動しているミツキに連絡すれば一発だ。

「ソイツの所に案内してあげる。その代わり、取引だ」

ニヤリと笑う。カズミお得意の厭らしい笑顔だ。

「ボクも外に出たい。外、出るのに協力してよ」

【カズミ:外出たさにSに接触。テナードの所に案内する代わりに、外に出る協力をするよう取引を持ちかける】
【カズミの服装:ワンピース、厚底サンダル】
189カズミ ◇IPF5a04tCk:2010/11/02(火) 19:11:58 0
名前:カズミ
職業:進研サポーター
性別:男
年齢:20
身長:142→170
体重:49kg
外見:肩くらいまでのボブ茶髪、女っぽい顔、線の細いもやし体
性格:厭味、子供っぽい
備考:≪電波侵害≫を失ったことで、本来なるべき姿になったカズミ。
   ミツキ=Gは幼馴染。Mは養父。八重子は母親的存在。
   テナードの『知り合い』に似ているらしい。生命力としぶとさはゴキブリ以上。


名前:合田満輝(ミツキ)=G
職業:進研幹部/派閥:チャレンジ
性別:男の娘
年齢:20
身長:142⇔2mちょい
体重:45⇔120
性格:フレンドリー…(?)
外見:ピンクに染めた髪、長い睫毛にパッチリとした目
   団服・パッドを詰めた偽巨乳
   赤いハートの飾りがついたゴムで短いサイドテールにしている

特殊能力:『巨人現象』【ビルドアップ】
     ガスマスク型の複合文明。被ると2mを超える巨体に変身する。
     その他、≪身体強化≫と空間系の文明を所持
     ・パッドに即効性の毒を仕込んでる

備考:サポーターや他の派閥に紛れ込んでるが、れっきとした幹部。
   テナードと久和の世話・監視を担当。初対面だろうが誰であろうと容赦なくあだ名で呼ぶ。
   一部の者しか知らないが、性同一性障害を患っている(体は男だが心は女)
190弓瑠 ◆KLeaErDHmGCM :2010/11/03(水) 20:15:09 O
膝の上から落とされた格好のまま、芭琉子とハルニレの会話を静かに聞いていた弓瑠が立ち上がる。
鋭利な傘を構えながら、である。

「お兄ちゃん、浮気はいけないのよ?」

「殺されても仕方無い位いけないの」

「でもね、お兄ちゃんは悪くないわ。お兄ちゃんをたぶらかす女が悪いの」

「ねぇ?分かるわよね?」

だから、と呟き二人を見る。

「お兄ちゃん退いてそいつ殺せないッ!!」

頭の上でロマが芭琉子に対して威嚇している。
完全に弓瑠の味方である。

弓瑠は光の無い瞳でさみだれ突きを繰り出す。
ドラクエに帰れ。

「昨日キスしてた女も後で殺るわ」

ドルクスに止められ、幼女の力では敵わない事を知っている彼女は抵抗はしない。
しかし先程の台詞を残したのであった。
少々ひんやりとした空気が流れたが、弓瑠とロマは気にしなかった。

「で、何時文明市に行くのかしら?
 危険なんて気にしないでも大丈夫よ、お兄ちゃんは私が守るから」
191尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/11/04(木) 00:34:48 O
朝日は扉を開けた。空調を効かせた室内は随分寒く、後ろ手に触れたドアノブは心地よい冷たさを保っていた。
扉を閉めて、朝日はしばらく背後に耳を澄ませる。固く響く足音。遠くでの、エンジンの掛かる音。タイヤが地
面を擦る音は無限に引き伸ばされ、やがて呼吸と拍動の振動に掻き消される。
寡頭は確かに去った。
「いい加減、ここから出して貰えませんか?」
「残念ながら、君は大事な人質だからね」
けち、と少女のような顔立ちをした少年は唇を尖らせた。しばらく彼は目の前の鉄格子をやる気無く揺らし、僅
かにもたわまない事に苛立ったのか、鉄格子を握った手を滑らせて、その場にペタリと座り込んだ。
「あちっ」
「摩擦熱ってのは案外バカにならないものだろう?成川遥くん」
名前を呼ばれて、成川遥は舌打ちをした。わざと聞こえるように大きな音で。けれど、その小さな抵抗もただ何
もできない事への無力感しか増長しなかったようで、ため息を吐いた後、彼は額を鉄格子に擦り付けて「さっき
の女の子」と呟いた。
「うん?カマキリみたいなおっかない女の子のこと?」
「違う、大人しそうな方」
どこへ連れていったの?成川遥はぼんやりと言った。空調の押し付けがましい音が朝日の耳にこびりついて堆積
し始めた。よくない兆候だ、と朝日は耳を掻き、空になった成川遥の向かい側の牢屋に目をやった。
「暇だったら色々話してたんだ。あの子、名前は教えてくれなかったけど、例の三浦博士の娘なんだってね。
まさかあんなに――」
「彼女は死んだよ」
初めて成川遥の首が回った。大きく目を見開き、朝日を見つめる。感情は読めない。目蓋の裏に上手く隠してい
るな、と朝日は思った。腐ってもヤクザの息子だ。
「殺したの?」
「いや、舌を噛みきった。
猿ぐつわを咬ませてたんだけと、大した娘さんだったよ。見事に隙を突かれた」
大損害だ。朝日は肩をすくめた。
「多大な情報が失われた。代わりに彼女は多大な苦しみから逃れた。そして僕は君に情報を求めに来たと言うわ
けだ。余った時間を利用してね」
「僕も拷問するの?」
「人質を訳もなく拷問するのはサイコくらいだよ。そう言うのはあんまり金儲けには繋がらない」
よっこらしょ、と朝日は成川遥の前に胡座を掻く。鉄格子を越しに、成川遥の目を見る。そこに含まれる感情を
丁寧に読み取る。彼は、どうやら怒っているようだ。明確な敵に反抗の意を示すためか、幽かにできた繋がりが
永遠に失われたことに対してか、或いは自らの無力に対してか、それは解らないが。
まあいい、と朝日は一枚の資料を成川遥に向けた。
「ブーム式加速器。文明を利用して、まあ平たく言うとブラックホールを作るための、もっと平たく言うと“時
間を遡る”ための……“異世界に行くための”装置なんだけれど。それの資料がBKビルに入ってる建設系の企業
に残ってた。なかなかのコングロマリットだ。
ちなみにパンピーならまず知らない“ド”マイナーな装置な訳だけど、おまけに国際条約に引っ掛かる、これま
た“ド”が付く超危険な兵器な訳だけど。
ねえ、そんなものがなんであんなとこにあったのか。
君、心当たりない?」

192尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/11/04(木) 00:38:47 O
「厄介な事になってきましたね」
李への説明を終えた兎は三杯目の白米を平らげて、手に載せた山のような錠剤を水で流し込み、一息吐いた。俺
は空になったコーヒーカップの縁を撫でて、窓の外の往来を眺めた。照る陽は温かな色を地面に写して、辺りに
鮮やかさを散らしている。
昨日に引き続いて、今日も随分いい天気だった。
「真雪さんはお家の方に探されているようですし、公文も進研も実にきな臭い動きをしている。
ヤクザはヤクザで、成龍会が無くなったことで組織間のバランスが崩れてるようですし……うーん」
空になったお椀に、兎がぶつぶつと語り掛ける。奇妙な空気が場を支配する。レストランの雑多な物音が曖昧に
意味合いを滲ませ、時間の推移をひっそりと主張する。
ふと気がつくと、兎はいつの間にかじっと俺の右の空間を見つめていた。否、見つめているのは、俺の右腕だ。
透明な義手。バレエメカニック。猫の手。
兎がパタパタと二三度瞬きをする。ぽっかりと空いた暗い穴のような瞳孔をこちらに向け、じっと俺を眺めた後、
ふんと鼻をならして顔を元に戻した。
「何はともあれ、情報ですね。情報はいつも人が持つもの、だから交わらなければ得られません」
ブーム型加速器は個人や私的な企業が開発できる物ではない、と兎は説明した。予算と優秀なディベロッパーを
数多く必要とする超巨大なプロジェクトである以上、必ずどこかで少なからず国が関わっている。ならばその馬
鹿でかい図体のどこかしらに空いた穴から攻めるのが妥当だが、恐らく、BKビルでの事件が表沙汰になった時点
で、ブーム型加速器の表面的な情報が外部に漏れた事に国が気付いたのは間違いない。手の届く範囲の隠蔽はと
っくに終わっているし、尻尾も掴ませてはくれないだろう。しかし昨日のBKビルを捜査した機関、つまり公文の
内部ならば、まだ情報が消しきれてない可能性がある。枝葉のように分かれた他のラインに捕まれた情報は時と
して飛び地のように孤立する事がある。そして国は、あるいはそこに繋がりを持つ何らかの組織は、その情報を
も消そうとするはず。
そこで手掛かりを掴む。
「つまり、とりあえず公文の手頃な人物を拉致するのが手っ取り早いんですよ、簡単には内部にアクセスできる
人物……例えば私の右後ろの方でいびきを掻いてる喪女とか」


【兎→全員:榎の拉致を提案】
193エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/04(木) 18:46:27 0
「大事な会議に遅れるとはどういう事だ!精神がたるんでる証拠だぞ!」

大声のしたほうに視線をやると、Q幹部長と名乗った人にガミガミ叱られ、ペコペコ頭を下げている。
先の優しい一面を見てしまったせいか、少しだけ同情してしまう。
ようやく説教が終わったのか、ふらふらになりながらこちらに来るKさん。

「災難だったね、K氏。私が前もって迎えに行くと伝えておくのをうっかり忘れてしまっていたからね!HAHAHA!」
「貴方、反省してないでしょ」
「よく分かったねエレーナ君。私の辞書に≪反省≫の二文字はないよ」
「今から作る努力はしないのね」
「お前ら、くっちゃべってないでとっとと支度しろ!」

くだらない漫才を繰り返していたら、私まで怒られた。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

>「さあ、デートdいだい、なにすんだべ狂羽」
「HAHAHAHA、いっちょまえに彼氏面かい?お父さんは許しませんよ!」
「何アホなこと言ってんのよ」

場所は変わって、旧市街地の小さな公園。ここが私達の出発地点。

「アホなことではないよエレーナ君。男性と女性が交際するということはだね」
「だ、誰と誰が付き合うっていうのよ////!琳樹さんとはそういうのじゃ…」

私は否定の言葉を言いかけて、咄嗟に口をつぐんだ。
琳樹さんは幸い聞いてなかったようだ。誤解されてなくてよかった。……………………………………何を?
と、いきなり琳樹さんがニコリと笑って言った。

>「あとエレーナさん、その格好も素敵だべ」
「………………ッ!//////」

自分の顔が一瞬で火照るのが分かった。琳樹さんを直視できずに目を逸らす。Tがニヤニヤ笑いながら私を見ている。
「なによ?」と聞くと「いや、何も?」と笑うばかり。
腹が立ったので、脇腹に肘鉄をねじ込んでやった。すぐ復活したけど。

「それじゃ、私はこの辺で」
「え?貴方は一緒に来ないの?」
「私は別の区域での捜索になるからね」

どういうことか説明を要求する。
長いので要約するが、私は琳樹さん、Kさんと3人で行動し、Tは単独で別行動するらしい。
194エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/04(木) 18:48:14 0
「安心したまえ、K氏とて根っからの悪人ではないだろう」
「そりゃまあ、そうでしょうけど……」

Kさんは、琳樹さんそっくりの息子さん(こちらも琳樹さんというらしい)と話している。
その横顔は、わが子を心配する母親そのものだ。

「そんなに心配なら、一つ良い事を教えておこう」

Tに渡されたのは一枚の地図。その中心に赤い丸が一つ、綺麗に描かれている。

「Q幹部長が『文明市』という場所にいる。何かあったら、ここに行くといい」
「有難う。それよりもKさん、女性だったのね。貴方、知ってた?」
「知ってたともさ。K氏から女性物の香水の香りがするからね」

顔をしかめる私を放置し、Tは「それじゃあまた後で」と去っていった。

>「琳樹君、この娘知らない?」

会話が耳に入ってきた。琳樹さんが琳樹君に(この表現は紛らわしい)質問をしている。
Q幹部長さんが探せと言っていた、あの娘……弓瑠ちゃんについて。

>「あ、弓瑠ちゃん。大人の人と一緒にどっか行ってたよ」
>「知ってるんですか!?」
>「う、うん、知ってるよお母さん、友達だもん」

何と、琳樹君は弓瑠ちゃんの友達らしい。
琳樹さんが更に質問すると、ある方向を指さして教えてくれた。
そして帰る、と言いだした息子さんを、Kさんは送っていくと言って同じく去って行った。

ここに、弓瑠ちゃんが居る。………………という事は、もしかして……。

>「その前にエレーナさんの行きたいとこ行こうか」

烏の狂羽に言い聞かせるように、私には笑顔を向けてそう言う琳樹さん。
私が何気なく言ったあの言葉を、覚えていてくれていたようだ。
でも、

「……その必要はないわ、琳樹さん。さあ、行きましょう」

私は琳樹さんの手を取って歩き出す。向かう先は、琳樹君が指差した場所。
――…レストラン『モナズ』。
195エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/04(木) 18:50:32 0
>「お兄ちゃん退いてそいつ殺せないッ!!」
「駄目ッス!仲間を殺しちゃ元も子もないッスよ弓瑠さん!」

修羅場。

まさにそんな言葉が似合うテーブルに、やはりというかなんというか、弓瑠ちゃんとドルクスは居た。
何故弓瑠ちゃんが殺気立っているのか。
弓瑠ちゃんが怒ることと言えば大抵彼……あ、やっぱり居た。ハルニレのことに関してのみだ。
ドルクス達が必死に弓瑠ちゃんを止めたお陰で、この場が火サス展開になることは未然に塞がれた。

>「昨日キスしてた女も後で殺るわ」

が、極めつけに、ゼルタさんに向かってとんでもない発言をする弓瑠ちゃん。
空気が凍るとかそんな生易しいものじゃない。
最初に会った時から思っていたけど、この子もこの子でちょっと――……変わっている、と思う。

「えーっと。お取り込み中のところ、失礼?」

冷え冷えとした空気に飛び込む私。
KYだとか言われそうだけど、なりふり構っている状況ではない。
努めて、初対面のフリをする。

「初めまして、ドルクスがお世話になってます。私、ドルクスの主人のエレーナ=T=デンぺレストと申しますわ」
「え、エレーナ様!?何故ここに……」
「お黙りドルクス。座りなさい。ハルニレと弓瑠ちゃんは昨日ぶりね」

ガタンと立ちあがったドルクスを鋭く叱咤する。渋々といった表情で座るドルクス。
私もすぐ傍の椅子を借りて座る。そして各々から自己紹介を受ける。
しかし、ドルクスの隣に座っている女性を見て、私は目を丸くした。

「ぺ、ペニサス様!何故ここに……」
「いやあねえエレーナ、いつもみたいにペニサスって呼んで頂戴。それと敬語」
「いえですかr…だから、何故この世界に……」
「観光みたいなものよぅ」

コロコロ笑うペニサス様。…なんてマイペースなお方だろう。

「ところで、隣のドルちゃんそっくりな子、だあれ?」

ギクリ。すっかり忘れてた。
私は彼らの事を知っていたから構わなかったけど、琳樹さんからすればここはカオスな状況だ。
自分にそっくりな男、Tによく似た青年、そして弓瑠ちゃん。
…………心苦しいが、この場は嘘をつくしかない。
琳樹さんの手とドルクスの手を握り、私は笑顔で答えた。

「こちらはリンキ。ドルクスの兄で、私の執事よ」
「え、エレーナさm」

ドルクスが口を滑らせる直前、私は術を発動させた。
琳樹さんと私は、魔術を教えた際の魔力のシンクロがまだ残っているし、ドルクスは私の魔力の半分を持っている。
≪脳内交信術≫は、問題なく発動した。

≪――二人とも、今は口裏合わせて頂戴。後で全部説明するから≫

その時間は僅か数秒。ドルクスは少し驚いているような様子だったが。

「その通りッスよ。双子なんス、俺達」
「ええー!ドルちゃん、お兄さんがいたの!?」

ペニサス様は私の嘘に騙されていた。よし、これで当面は大丈夫として。
196エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/04(木) 18:52:50 0
「ドルクス、今の状況を今北産業で」
「人探し
 でもどうやって探そう
 文明市で文明漁り」
「おk把握」

タチバナさんの提案で、人を探すための文明を手に入れようという話だったらしい。
私はゲームについての詳細を聴いていなかったので、ドルクスにあらかた説明してもらった。

「六花、……分かったわ。このゲーム、私も協力するわよ」
「本当スか!?」
「文明市に知り合いがいるの。その人に聞けば、何か知ってるかもしれないわ」

丁度彼らも文明市に行くと言っていたし、エレーナとしてのコネを作っておくのも悪くない。
でも、その前にやるべきことがある。

「でもその代わり、そこの弓瑠ちゃんを引き渡してもらうわよ」

何を言ってるか分からない、と言いたそうね。

「私達、命令されてるのよ。迷子になった弓瑠ちゃんを探し出して、保護してくれって」

一息入れ、

「それと、貴方達も来てもらえないかしら?弓瑠ちゃんが第三者と接触していた場合、一緒に連れてこいって言われてるのよ」

彼らは、例えその気がなかったとしても、進研側からすれば誘拐犯に等しい存在だ。
このまま野放しにしておけば、別の捜索隊に見つかった時に何をされるか分からない。
でも、見つけた相手が私だったら話は別だ。

「文明市にいるその知り合いはね、文明の管理をしている組織の重役なの。
 貴方達が弓瑠ちゃんを保護してくれた、って私から話を通してあげる。
 それなりに大きい組織だし、もしかしたら、ゲームの大きな手助けをしてくれるかもしれないわ」

それにね、

「貴方達、異世界人でしょう?私には分かるわ。貴方達を助けてあげる。
 その組織のボス、ちょっとアレな人だけど、貴方達が異世界人だと知ったら保護してくれるはずよ」

長く話してしまった。ポニーテールの少女がすかさずお冷を手渡してくる。気がきく子だ。

「とにかく、まずは文明市ね。Q幹部長に会わないことには、話は進まないわ」
>「で、何時文明市に行くのかしら?
 危険なんて気にしないでも大丈夫よ、お兄ちゃんは私が守るから」

弓瑠ちゃんが急かす。物分かりのいい子だ。

「あらあら、頼もしいわね。……でもその前に、このテーブルの上の料理を片づけなくっちゃね」

テーブルの料理の山を見て苦笑する。これは処理するのが大変そうだ。

「そういえば、デザートを食べてなかったのよね。それじゃ、このプリンは私が貰うわ!」


【エレーナ→ドルクスと合流、旧市街地メンバーを進研に勧誘】
【T→別行動 Q幹部長→文明市でウロウロ】
【目的:文明市へアクセス、Q幹部長との合流】
【脳内交信術:要はテレパシーみたいなもんです。ドルクスと琳樹さんにしか聞こえてない…筈】
【ドルクスと合流したので、ドルクスのターンはすっ飛ばしても構いません】
197 ◆OryKaIyYzc :2010/11/04(木) 21:28:11 O

「なら、自分達の身の上ぐらい説明して下さい。
 言いたくないって言うのでしたら、大きな声を上げますよ?」

気の強そうな少女の言葉に、黒服の男達…取り分けリーダー格の男は納得した。
リーダーの男が一歩先へ出て、名乗る。

「これは失礼…私共は月崎家に於いてSPとして働いている者です。
私の名は鴨志田と申します、お見知り置きを」

お辞儀をして、名刺を渡す。
これで少しでも警戒を解いてくれると良い。が、それは都合が良すぎるか。
鴨志田は言葉を紡ぐ。

「昨日、真雪さんはこちら七板通りで食事をとり、
BKビルに入った所で行方知れずになっているのです。連絡も全く取れません」

外人のような仕草で首を振った。わざとかと思われるが、これは彼の素である。
そうして萌芽に歩み寄り、鴨志田は続けた。

「私共があなたがたに接触したのは他でもない。
『お嬢様』が行方不明になる直前、竹内萌芽さん、あなたは『お嬢様』に接触していますよね?」

わざとお嬢様と呼んだのは、萌芽に自分のやらかした事を再認識してもらうため。
鴨志田は、萌芽が真雪を行方不明に追いやったのだと疑っていた。
そんな事をしていれば当然、二人に警戒される。
一瞬即発の雰囲気。しかしそれは、闖入者にて崩された。

「ハァイ鴨志田、上司様が来たわよ」

つい先程まで全力で一般人を倒し続けていた鈴木である。
持っていたアトマイザーで鴨志田の顔面に【初志貫徹】を振りかけた。目に入ったらしく、鴨志田は床に転がった。
鴨志田の惨状のものともせず、鈴木は二人に名刺を差し出す。

「私は月崎家SPのアンシャス鈴木と申します。そこに転がってる子の上司よ。
悪いわね、デートの邪魔して。でも伝えたい事があるからもうちょっと付き合ってくれる?」

【鴨志田→佐伯:信じてください僕等は悪人じゃないよー
鴨志田→萌芽:お嬢様をどこやった】
【鈴木登場】
198>>197書き忘れ ◆OryKaIyYzc :2010/11/04(木) 21:35:48 O

>>197の最後に

【鈴木&鴨志田:【初志貫徹】を使用。精神攻撃及び精神操作は無効】

をお願いします。
申し訳ありません。
199竹内 萌芽(1/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/05(金) 00:22:35 0

気配に気がついたときには、もう遅かった。

周りを取り囲むのは、黒いスーツの人間たち。
男女ともにまったく同じ服装に身を包んだ彼らのうちの一人が、静かに前に出た。

「失礼……」

(この人たち……まさか進研の……!!)

まさか、自分のやっていることがあの男にバレたというのか?
それとも、萌芽の隣にいる佐伯零が異世界人だと気付いて『スカウト』でもしに来たのだろうか?
身構える萌芽、しかし黒服の男の次の言葉で、警戒はさらに強まる。

「月崎真雪。と言う人物をご存じですね?
 少々、お話をし聞きたいのでご同行をお願いします」

どうする? どうやら目の前の男は零の正体に気がついていないようだが、
それでも真雪を狙っているようだ、
この程度の人数なら一気に”空間ごとめちゃくちゃ”にしてしまうくらい朝飯前だが、
攻撃範囲内に零がいるし、なにより、ヘタに進研のメンバーに手をだせば、
あの男がなにをするかわかったものではない。

ここは、零を気絶させて進研側に差し出すか?

彼女が『進研』側に協力してくれるなら、その方がいくらか安全かもしれない。
しかし、彼女があの暴力統治恐怖政治が当たり前だとでも思っているような、
傲慢極まりない進研のボスの下に素直につくだろうか……

(……ムリですね)

絶対ありえない、と萌芽は確信する。
よし、ここはこの黒服全員の意識を失わせてしまって、
さらに進研のメンバーだったという記憶も、
ついでに自分がどこの誰だったのかという記憶も全部消した上で路上にポイしよう、そうしよう。

萌芽が手を彼らの方向に向けようとすると、隣の零がやけに丁寧な口調で言った。

「なら、自分達の身の上ぐらい説明して下さい。
 言いたくないって言うのでしたら、大きな声を上げますよ?」

それに対し、黒服の男は丁寧に名刺までだして自己紹介した。

「これは失礼…私共は月崎家に於いてSPとして働いている者です。
私の名は鴨志田と申します、お見知り置きを」

「……お?」
200竹内 萌芽(2/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/05(金) 00:23:41 0

「昨日、真雪さんはこちら七板通りで食事をとり、
BKビルに入った所で行方知れずになっているのです。連絡も全く取れません」

ああなるほど、と萌芽は納得した。
SPと言ったら、たしかあの、偉い人のボディーガード的なアレだ。
それなら彼が心配するのも無理はないか。

(ん……SP……?)

そう、SP。
SPは、その、偉い人の周りを警護するアレな人たちな訳で。
で、真雪の家を守っている目の前の彼もSP……?

「私共があなたがたに接触したのは他でもない。
『お嬢様』が行方不明になる直前、竹内萌芽さん、あなたは『お嬢様』に接触していますよね?」

「お、お嬢様!!?」

たしかに昨日彼女の家を訪れたときは、結構部屋の外観も綺麗だったような。
いや、それにしてもそんな良家の娘さんだったとは……

(僕……ひょっとしてとんでもない人にケンカ売ってたんでしょうか?)

相手はかなり怒っているようだし、とりあえず自分が確認している限りでは
彼女はまだ無事だと彼に教えてあげようと思った萌芽が口を開こうとして、
しかしその声はやたらとテンションの高い声に遮られる。

「ハァイ鴨志田、上司様が来たわよ」

現れた女性の姿に、萌芽は表情を曇らせた。
モデルのような体型に、整った顔立ち。
―――先ほど七号のビジョンで見た女性だ。

「私は月崎家SPのアンシャス鈴木と申します。そこに転がってる子の上司よ。
悪いわね、デートの邪魔して。でも伝えたい事があるからもうちょっと付き合ってくれる?」

「……ああ、その前に、ちょっと待ってください。
 さっきあなた、『変な蛾』を追いかけてませんでしたか?」

萌芽の声が、静かな、まったく感情の感じられない冷たい声に変わる。

「何でそんなことをしてたんでしょう?
 普通、蛾って女の人は気持ち悪がって近付こうともしませんよね?」

にこり、と笑う萌芽。いつもの”あやふや”な笑顔ではなく、はっきりと敵意をこめた表情だ。
201竹内 萌芽(3/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/05(金) 00:24:35 0

「それに、竹内萌芽って名前。どうして分かったんでしょう?
 鴨志田さん、さっきあなた言ってましたよね、真雪さんは
 『BKビルに入った所で行方知れずになっている。連絡も全く取れない』って
 この名前って、僕がこっちにきてから数人の限られた人間にしか教えてないんですよ。
 ……なんであなたたちが知ってるんです?」

もちろん、萌芽はこちらの世界での『戸籍』なんて持っていない。
それどころか、あちらの世界でも、彼の戸籍上の登録名は『内藤ホライゾン』だ。
『竹内萌芽』という名前は、飽くまで彼が自分で名乗っている『自称』に過ぎない。

怪しい、と萌芽は思った。
それがこちらの世界で、彼が名乗った相手から聞いたという理由なら分かるが、
しかし、彼の名前を知っているのは、彼にとって好ましい人間とは限らない。
……そう、たとえばあの進研のボスのように。

「真雪さんは言いました、
 『生憎、嘘吐きに名乗る名も、差し上げる理念も持ち合わせてないです 』って。
 僕も同じです、あなたたちが嘘を吐いていないと確信できない以上、
 あなたたちに真雪さんの『ま』の字も教えてあげるつもりはありません。
 ……ストレンジベント!」

空中が燃え上がり、現れる四枚のカードを空中でキャッチする。
その内の一枚が一際赤く輝いていたが、今はひとまず後にしよう。
次の瞬間、萌芽の人差し指が、鈴木と名乗った女性に向かって”伸びる”。
触手のようにうねるその指先が勢いを持って彼女の頭に刺さろうとして、そして、弾かれた。

「今、僕はあなたの記憶を覗こうとしました。でも、この通り弾かれてしまった。
 ……なんらかの防護壁みたいなものを張ってますよね?
 なんでそんなことをする必要があるんでしょうか?」

一番現実味のある仮説は、こいつらが進研の追手で、
始めから自分の能力を知っていたという可能性。

「佐伯さん、下がっていてください。
 もしものときは僕をおいて、一人で仲間のみなさんのところに戻ってくださいね」

もし本当に彼らが進研のメンバーだった場合は、ボスに気付かれない方法で彼女たちを始末しなければならない。
そんな自分の姿を、萌芽は佐伯に見せたくなかった。

【ターン終了:萌芽→鈴木&鴨志田を進研の追手ではないかと疑っています】
202“愛内”久羽 ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/06(土) 19:49:35 O
私は何をしてるんだろうか。
任務も放り出して、花束なんか持って。らしくない。
さっきからこうしてずっと扉を睨んでいる。
扉の向こうから檸檬と文子婆ちゃんの声が聞こえるから。
引き返そうか。また出直そうか。
彼女らに面と向かって話すのは気が引ける。

「何を、しているんだ?」
「なっ、ティ……兄貴?」

朝と同じ姿のまま、私の兄貴が背後に立っていた。至近距離で。

「会いに来たんだろう?『母さん』に」
「や、あの、ちが」

兄貴は私の返答も待たず扉を開ける。空気嫁、変態め。
案の定、2人の視線が痛い。義祖母も義妹も、表情は固く、困惑の色に染まっている。
5年も消息を絶っていた私達に、お化けでも見たかのような視線を送ってくる。

「あ、の……久し、ぶり、ですね」

ぎこちない笑顔を浮かべてみた。ますます深まる眉間の皺。
5年も連絡すらせず、姿も現さなかったのに、何をしに来たのかと。

「お見舞いに来たんです。本当はもっと早くに来たかったんですけど、忙しくて」

すかさず兄貴がフォローに入る。
仮面を脱げば、私はただの引っ込み思案の臆病者だ。

「…檸檬、お母さんは?」

半ば茶を誤魔化すように質問する。
答えが来ない。誰も何も言わない。何故。
部屋を見回して気づく。檸檬達に気をとられてて気づかなかった、当たり前のことに。

「…………檸檬、お母さんは?」

檸檬が泣き出す。少しの間を置いて、文子婆ちゃんが教えてくれた。


お母さんが、死んだ。


私の中で、何かが崩れる音を立てる。
壁にかけられた、檸檬の頭越しの鏡の中で、涙を流す孤独な兄妹が映っていた。
檸檬、久羽。今から僕の話を真面目に聞いてほしい。
僕の方が真面目じゃないだって?失礼な、真面目じゃないのは仕事中だけだよ。
……痛い痛い、プレスは止めたまえ、プレスは!

さて檸檬、文子お婆さんが異世界人だ、という話は既に聞いてるね?
何で知ってるかって?血が繋がってなかろうと、僕は檸檬の兄貴だからね!HAHAHAHA!

僕「ら」もなんだよ、檸檬。僕だけじゃない、お前もだ。久羽。
僕も久羽も、そしてあの不非の双子も。
そう、君たちがよく遊んでいたあの双子の兄弟。
僕たち4人は、無理やり連れて来られたんだ。

そう、『アイツ』に。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

あれは、15年前のことだった。
僕が8歳、久羽と不非兄弟が7歳のときだった。
僕らの両親は考古学者で、不非の双子の両親も考古学者だった。
片方の両親が居ないときは、もう片方の両親が面倒を見てくれるほど、家族ぐるみで仲が良かった。

あの日、双子の兄弟の家が僕と久羽を預かることになった。
ところが、急に双子のお母さんが苦しみ出した。三週間後来る筈の陣痛が、思ったより早く来てしまったんだ。
すぐに戻るからと、双子の両親は病院へ行ってしまった。
いつになっても戻ってこず、僕らは隙を持て余していた。
余りに暇だったので、家の中を探検しようと言い出したのは誰だったかな。
不非兄弟の家はかなり大きくてね、小さい僕らからすればお城のようにも感じたよ。只の二階建てなのにね。
あらかた探索し終わっても、まだ帰ってこなかった。
遂に、僕らは悪戯心を起こして、地下室――……父親達の研究室に忍び込んだんだ。
色んなものがあった。中世の甲冑や古びた本の山々、何でも沢山あった。双子は、不思議な矛と盾に夢中だった。
小さな2人でさえ扱えたんだからね。あれが『文明』だったとは、夢にも露にも思わなかったさ。あの時はね。
久羽は日本刀に夢中だった。触って手にとって、ずっと見ていた。僕はといえば、とにかく片っ端から見て触って、本当の考古学者になった気分だった。
その時だった。僕の目に、あのドールハウスが入ったのは。
ドールハウスというよりはドールキャッスル、と呼んだ方が良いかな。精巧に創られた煌びやかなお城の中に、まるで生きているとさえ感じられるような陶器製の人形がいっぱいいたんだ。
『これでおままごとをしよう』ってことになった。言い出したのは僕だった。でもドールキャッスルは高い場所にあって僕らの背では届かなかった。
椅子を使って、僕が人形を取ることにしたんだ。
最初に掴んだのは王様の人形だった。とっても厳めしい顔をしていたね。片腕に猫をちょこんと乗っけていた。
次に掴んだのは王子様の人形。綺麗な碧い目をしていたね。剣を構えてポーズを取っていた。
次は魔法使い。黒いローブを着ていたから、どんな姿なのかは分からなかった。
その3つを取って、久羽に渡そうとしたんだ。王様と王子様は無事に受け取った。
でもね、魔法使いを手渡そうとした瞬間、つるっと僕の手が滑ったんだ。
誰も、魔法使いを受け止めることは出来ずに――……がしゃん。
魔法使いは、バラバラに割れて壊れてしまったんだ。
勿論、僕らは恐れた。自分のしでかした過ちに、父親達が怒ることを。でも、本当の恐怖はここからだった。
割れた人形をどうしようかと話し合っていたとき、人形がドロドロに溶け始めたんだ。
ドロドロドロドロ溶けて、しまいにそれらは膨れ上がって、割れた魔法使いの姿になったんだ。
僕らは何が何だか分からずに、矛や盾を持って逃げ出そうとした。
でもドアは開きもせずびくともせず、後ろには魔法使いが居た。魔法使いはジロリと僕を見た。
そして言ったんだ。次はお前だと。



気づけば僕らは、この世界に居た。久羽達は元の世界を忘れていた。
見知らぬ世界で途方に暮れていた所を、文子お婆さんに保護されたんだ。
そして檸檬、君の兄弟として、僕らはここで生きていくことになったんだ。

え?その魔法使いは何だったのかって?

………………さあ、私には検討もつかないね。


【「そういって、鏡の中の兄貴がウインクをした」】
【エレーナがドルクスと合流する、少し前くらいのやり取りだと思って下さい
文明市に着く頃にはもう既にスタンバってるかと思われ】
名前:橘・一生
職業:進研幹部・T
元の世界:平行世界
性別:男
年齢:23
身長:180位
体重:見た目相応
外見:黒髪オールバックとスーツ、左目下の泣き黒子が特徴的
特殊能力:七変化≪ジ・アライク≫
ペン型文明。七色有り、色によって使える能力が違う。
     一度使った色は≪解除≫し直さない限り連続して使うことは不可能

備考:進研幹部の1人。15年前、妹の久羽と不非兄弟と共に≪魔法使い≫によってこの世界に連れてこられた。
戸籍上は愛内だが、元の姓の橘を名乗ることが多い。
戸籍上は檸檬の兄、血は赤の他人。

名前:橘・久羽
職業:進研幹部・Q
元の世界:平行世界
性別:女
年齢:22
身長:165
体重:60
外見:黒の短髪、前園久和とよく似た顔立ち
備考:進研幹部・Qの正体。異世界人だがその事実を今まで知らずに生きてきた。
父(檸檬の父)を殺された事で、復讐心を胸に秘め進研へ。幹部長までのし上がる。
戸籍上は檸檬の姉、血の繋がりは全くない。
207前園 久和 ◆KLeaErDHmGCM :2010/11/06(土) 21:59:12 O
>「……『人の姿を外した者達に、一時≪ひととき≫の姿を授けよう』―――!」

魔法陣が輝き以下略。
前園久和の姿は五本腕ではなく、二本腕の所謂普通の人間というものになっていた。
鏡を見た彼は驚愕する。

「……兄貴」

長髪は短髪に、服は黒いコートに。
……元々が白黒なのだから、黒髪はまあ変わらないが。
外見は彼の双子の兄――前園命そっくりになっていた。

『おはよう久和!』

『今日もいい天気だね、まあ俺ニートだけど』

『そんなことより初登場が回想ってどうなのかな?
 俺疑問なんだけど、だって初めてだよ。回想でそんな前園命とか言われてもあれだと思わない?
 俺?別に思わないけど?』

『ていうか命って何て読むの?
 へえ、みことなんだ。初めて知ったわ^^;』

彼はフリーダムだった。
フリーダムを通り越してフリーダムだった。

『魔界より出でし煉獄の炎よ!我の力となり敵を焼き尽くせ!フレア!』

『何やってるのって?ファイファンだよ、ファイファン。
 FF? FFはファイナルファイトでしょ何言ってるの』

それと、厨二病だった。
永遠に中学生で居たい永遠の厨二だった。

だがしかし、そんなことは今となっては関係無かった。
前園久和の当面の問題は、この姿だとフリーダムにしなくてはいけない気がしてくる事である。
彼はどちらかと言うとツッコミなのだから少し難しかった。

「兄貴のように……兄貴のように……」

呟いている内にいつの間にか新旧どちらに行くかも決まり、彼とテナードはミツキの所持している文明である≪空間移動≫で転移したようだ。
ふと隣に居るテナードの姿をジロジロと見つめ、口を開いた。

「そういえばどこ、行くんだ?」

【姿変わりますた】
208ホエール/W/くじら:2010/11/07(日) 01:58:43 0

市内新市街地、戦闘用文明改造人間ホエールは
公文警部補白州くじらとして新市街地で諜報活動を行っていた。
一見、繁華街を特に目的もなく歩いているように見える彼女だが、
その足はある人物を見つけるために、目的の人物がいつも通る移動ルートを的確になぞっていた。

「お、いたいた……」

発見したのは、黒いスーツに茶色い髪の彼の後姿。、、、
肩で空間を切るようなその歩き方は、どう見ても”かたぎ”の人間のそれではない。

「や、サブ。元気?」

にもかかわらず、彼女はなんの躊躇もなく彼の肩を叩き、親しげに話しかけた。

「……!!」

ふりかえった人物は、茶色い髪をオールバックにした、整った顔立ちの男。
黒いスーツの下に、真っ赤なワイシャツ。典型的なヤクザファッションである。
まずい、という顔をする男の肩を、くじらは力を入れて掴み逃がさないようにすると、
笑顔を浮かべたままの顔を彼の顔ギリギリまで近づけて、言った。

「話があるのよ、いいわよね?」

そのまま、くじらは男を人気のない路地裏に引きずり込む。
男の身体を壁に押し付けるように彼に身体を密着させ動きを封じ、続ける。

「ま、話って言っても、あたしが何を言いたいかくらいわかってるっしょ?」

男の顔を下から覗き込みながら、低い声で問う彼女。
見た目から見れば自分より圧倒的に弱そうな女性に、しかし男はふるえる声で応える。

「せ、成龍会を……今度こそ潰すつもりなんだろ、あんたら……」

「うん? なーんかその言い方だとあたしらが成龍会を潰したみたいに聞こえるわねえ……」

「実際そうじゃねえか!! いきなり乗り込んで来たと思ったら、あんたら、お、俺たちを殺そうと……!!」

男の名前は、大文字三郎太という。
警視庁公安部白州くじらに情報をリークしていた、成龍会側の内通者だ。

「い、一斉摘発だけだって!! 素直に投降すれば、命の保障はしてくれるっていってたじゃねえか!!」

「あー……それね、あたしらじゃないわよ? 流石に警察だからね、むやみに人殺しなんかしないって」

「う、うそだ!! 大体俺は最初からヤバいって思ってたんだ!! 公文の人間なんて信用できるか!!」

「マジだってばさ。まあ聞きなさいよ、公文の他に昨日のドサクサにまぎれてBKビルに進入した輩がいる……」

こちらに怯えつつも疑いの表情を消さない三郎太に、
くじらは公文が現在認知している限りの昨日の状況を事細かに説明した。

「……で、その進入したやつらのほとんどは団体なのかどうかすらわからなかったんだけど、
 そいつらのうちの少なくとも一組が、あんたんとこの組長の子どもを攫ってったってのは分かってるワケ」
209ホエール/W/くじら:2010/11/07(日) 01:59:47 0

「で」と彼女は続ける。

「どーも妙なのよねえ……     、、、
 何がってさ、Z会結成の情報なんてかたぎの人間がそうそう知ることができるモンじゃねーでしょ?
 どーもあんたらの中に”向こうの奴等”に情報をリークしてたやつがいる気がするわけなのよ、これが」

くじらの目蓋が釣り上がり、相手の目を正面から射抜くような目つきに変わる。

「あたしさあ、思うんだよねえ。そいつはさ、二つの組織に情報をリークしてたんじゃないかって。
 そう、片方の組織からは”お金”をもらい、
 片方の組織からは……そう、例えば”安全”? とかをもらってたんじゃねーかってさ」

くじらと視線を合わせていた三郎太の目が、わずかに右側にずれる。
少しだけくじらの口元が笑う。しかし、目は相変わらず相手を射抜く冷たい光を持ったままだ。

「ねえサブ……あんたさ、あたしが情報を提示する条件を聞いたとき、
 なんて答えたんだっけ……ああ、そうだ。たしか”逮捕後の自分の減刑”だっけ
 あっれー、なにこれ偶然にしちゃあできすぎてるわねえ?」

「ま、待ってくれ!! じゃあ、じゃあ俺は何で今成龍会にいるんだよ!!
 おかしいじゃねえか!! あんたの言い方だとアレだろ?
 ようするに俺が金だけもらって捕まって、あとは楽に暮らそうとか考えてたってことだろ!!?」

必死に泡を吐きながらわめきちらす彼、くじらはそれに対して動じず

「べっつにー。そこまではっきり言ったつもりはないんだけどねえ」

「な……!!」

「っていうか、やっぱあんた今成龍会にいるんだ」

「う……」

言葉につまる彼の様子を見ながら、くじらはくすくすと笑った。

「大方、金に目が眩んで”向こうさん”に情報を流したはいいけど、
 向こうさんの行動が想像以上にド派手だったのにビビッて隠れてブルブルふるえてた結果、
 逮捕される機会も失って、途方にくれてたところを兄貴分に助けられ……って感じでしょ、違う?」

「う、ぅぅ……!!」

がたがたと振るえる三郎太。もう目は完全に殺される直前の動物のそれだった。

「まったく、その兄貴分もバカなヤツだよねー……
 せっかく助けた可愛い子分、でもそいつは組を警察に売って、
 しかもマヌケに逃げ遅れたただの大バカ野郎……」

「きょ、協力してやったのにその言い草はねえだろうが!!」

「うん? 別に誰もあんたのことだとは言ってないんだケド?」

「あ……」

あっけにとられた様子の三郎太の姿、それをみてくじらは「あっはっは」と大笑いする。

「ははは、なんつーのか自分を助けた兄貴分じゃなくて、
 自分をバカにされたときに怒るってのが何ともあんたらしいわね」
210ホエール/W/くじら ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/07(日) 02:01:46 0

一通り笑い終わったくじらは、三郎太の身体を開放する。
支えを失った三郎太の身体は、壁伝いにずるずると下に降りていき、
三郎太はそのまま地面に足を投げ出して座り込んだ。

「さってと、じゃあまあ取りあえずあたしを今のあんた達のアジトに連れてきなさいよ。
 あと”向こうさん”の組織について知ってることもあらいざらい吐いてもらおっかね」

放心したまま喋らない彼に、くじらはしゃがみこんで視線を合わせると、肩をぽんと叩く。

「だいじょーぶ、心配しなくても、あんたは今すぐここで逮捕したげるからサ。
 文明不法所持のゲンコーハン。ふふーん、ま、刑務所の塀の中でしばらくは安心して暮らしなさいな」

「ま、塀の外に出てからはあたしの知ったこっちゃないけどね」
最後に小さく呟いた彼の一言は、三郎太の耳には届かなかった。



新市街地内の、とあるキャバクラ。
外観はごくごく普通の、安っぽい接待飲食店にしか見えないが、その実はいわゆる”ぼったくりバー”である。

ほいほい来店した客を威圧するために全体的に冷たい感じの内装。
そこにいるのは、いかつい男たちと、そこには不釣合いなスーツを着た若い女性。
―――ホエールである。

「ま、そんなに怒らない怒らない。
 よーするに、成龍会再結成の要たる成川遥を取り戻すのに公文が一役買おうってことなの」

見た目的には明らかにひ弱な彼女は、しかし屈強な男たちに囲まれる中で足を組み、からからと笑いながら言った。

「アホ言うな! 誰が公文の手ェなんぞ借りるか!!」

どなり散らすスキンヘッドの男。これは簡単にはこちらの話に乗ってくれそうにない。

「……あんたらのオジキ分だった荒海銅二、
 彼を殺したのも成川遥を攫った連中らしーって不確定情報もあんだけど」

耳をほじりながら言ったホエールの一言に、周りがざわつく。
これに関しては大嘘もいいところである。
実際に相手をしたのが公文での自分の同僚、都村みどりと複数の異世界人だという確かな情報もあるし、
そもそも彼の死には彼女の本来の所属であるところの『進研』が大きく関わっていることも彼女は知っていた。

「ね、ここは協力してあげるからサ。
 さっさと遥お嬢さん取り戻して、ぱぱーっとオジキの仇、討っちゃわない?」

それら全てを承知の上で、しかも周り全てが敵の緊張感の中、平気で大嘘を吐ける。
文明でも異能でもない、これが彼女の能力だった。

「キーワードは『朝日』と『”法人”の寡頭』。裏の事情に関わる人間でこの名前を持つヤツがいたら教えてよ、ね?」
211ホエール/W/くじら ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/07(日) 02:02:35 0

新市街の町並みを歩きながら、くじらは携帯電話を取り出し、
登録してある番号の内のひとつ―――都村みどりを選択する。

「もっしー都村ー? 今ね、『例の奴ら』についてちょっととある場所にガサ入れしてたの。
 いや、まあ今回は敵ながらあっぱれっつーのか、どーにもあたしも手を焼いてるワケなんだけどさ。
 ”奴さん”に関わってるって思われる内の二人の名前ゲットー、まあ流石あたしって感じ?
 ふふ、褒めなさいあがめなさい」

胸をはってふふん、と笑う彼女。
通行人はそれを不思議な目で見ているがとくに彼女は気にしない。

「一人は白いジャケットとパンツの『”法人”の寡頭』と名乗る男。
 一人は『朝日』、こっちは名前しかわかってない」

一呼吸おいて、彼女は続ける。

「あと、気になるイベント情報が一つ。『したらばホール』の『文明市』。
 今回は警戒したほうがいいみたいよ。なんだか不穏な動きがあるみたいだから。
 んで最後に、新市街二丁目の総合ビル横の路地裏に、成龍会残党の男一名を
 『文明の不法所持』で現行犯逮捕して転がしてあるから、拾って絞っといて」

先ほどまで話していた男のことをまるでタオルか何かのように軽く言って、彼女は通話を打ち切った。

「さって……文明市か、あたしもいってみますかね。戦闘前の事前諜報活動ってことで。
 コウモリについても何か分かるかもだし」

【ターン終了:
      ・今回ホエールが接触した成龍会残党の中に成川(父)の姿は見られず
      ・都村みどりに『兎組』『文明市』についての情報を提示】
212タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/07(日) 03:08:58 0
とりあえずまあ、色々あった。
起点はまたしてもハルニレだ。この男は幼女エンカウント率上昇のスキルでも発動しているのかやたらロリを引っ掛ける。
今回その毒牙にかかったのは、『モナズ』店長の孫娘・芭流子。トッピング全部のせのような属性を持つ幼女である。

>「これ、【文明市】ですよね?もしかしてみなさん、今からこれに行くんですか?」

「ああ、その通りだよ。流石に旧市街の住人ともなるとこの手のイベントは既知のものかな?」

>「ボク、ハルニレさんたちが好きだから言います。ここに行くのは、やめたほうがいいです」
>「さっき、そこで座ってた、ハルニレさんくらいの年の二人組のおにいさんたちが言ってたんです。
  『今日の文明市は、何が起こるか分からない。人死にが出るかもしれない』って……………………」

「ほう……」

芭流子の忠告に、タチバナは僅かに眼を細めた。
視力の弱い者が遠くを見るときにするのと同じやり方で、彼は虚空を見つめながら頭の中で吟味する。
何が起こるか分からない。すなわち通常の運営を害すようなイレギュラー要素が存在するということだ。それも大々的に。

「忠告をありがとう芭流子君。だがね、僕たちは『それ』を待っていた。
 『何が起こるか分からない』なら尚更、『何かが』起こってくれなきゃ困る。それこそが、現状を躍進させる一手だ」

『文明市』に行こうと決めた途端にこれだ。『ロールの強制』といい、最早何者かがタチバナ達の前途に関与しているのは間違いない。
ならば話は簡単だ。GO AHEAD(進撃せよ)。物語の主人公が主人公足りえるのは、道を切り開かんとする意志にシナリオが呼応するからだ。

「裏で手を引いているのは三流のシナリオライターだね。こんなわざわざあつらえたようなイベント、現実でなければご都合主義の謗りを受けている。
 さあ、食事を終了し給え『休鉄会』諸君。時は来たれり、これからは僕らが自分の足で物語を進める領域だ」

空になったスープ皿からスプーンを置き、タチバナは抱擁するように腕を広げた。
話を纏めるときにやるいつのもあのポーズである。

「我々の指針は一つ。文明と戦力と、そしてこの世界に対する『主体性』の獲得。――ネットに書いてあったから、間違いない」


                    【暫定世界のエピグラム】


>「えーっと。お取り込み中のところ、失礼?」

弓瑠が芭流子に害意をむき出しにし、ドルクスが冷や汗しながらそれを制止する、一触即発。
前後の流れと関係なくそんな感じの一行に割って入ってきたのは、やはり前後の脈絡に乏しい男女だった。
女の方はともかく、男の方を見る皆の目が一瞬例外なく丸くなる。タチバナですら、いつもの薄ら笑いを一層濃くした。

女の後ろで影踏まずの如く追従する男は、今の今まで昌伴していたドルクスと瓜二つだったのだ。
若干ドルクスの方が表情に覇気が見られるが、目鼻立ちから輪郭にかけて一卵性双生児もかくやの生き写しである。

>「初めまして、ドルクスがお世話になってます。私、ドルクスの主人のエレーナ=T=デンぺレストと申しますわ」

女はその両者と旧知の仲らしかった。
ついでに言えばハルニレと弓瑠とも面識があるらしく、彼らは再会を讃え合うように挨拶を交わしている。
ペニサスとはまた違ったベクトルでの高貴さを持つ、見るからに育ちの良さそうな少女だった。

>「ところで、隣のドルちゃんそっくりな子、だあれ?」

件に上ったペニサスがドルクス二号の詳細を問う。
エレーナは即答せず、ほんの少し逡巡してダブルドルクスを両手に繋げて回答した。

>「こちらはリンキ。ドルクスの兄で、私の執事よ」
>「その通りッスよ。双子なんス、俺達」

(また登場人物が増えてきたな。これもシナリオライターの目論見なのか……?)
213タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/07(日) 03:09:47 0
新キャララッシュと言えば新章突入の景気付けか、そうでなければ打ち切りの兆候だ。
打ち切りの決まった漫画は作者が出し惜しみしていた話を一気に投入するので内容が濃くなって面白くなるらしいが、現状はどうだろうか。

>「六花、……分かったわ。このゲーム、私も協力するわよ」
>「文明市に知り合いがいるの。その人に聞けば、何か知ってるかもしれないわ」

新章突入の方だった。

>「文明市にいるその知り合いはね、文明の管理をしている組織の重役なの。
  貴方達が弓瑠ちゃんを保護してくれた、って私から話を通してあげる。
  それなりに大きい組織だし、もしかしたら、ゲームの大きな手助けをしてくれるかもしれないわ」

「それは良い、まさに渡りに船じゃないか。いやはや、ここまでトントン拍子に話が進むと実に不安だね。もちろんフラグ的な意味で」

文明管理組織と言えば進研か公文のいずれかに絞られる。世間的には運営資本が民間か行政かの違いでしかないが、
タチバナ達にとって極めて多大な意味を持つ。二日ほど前にマルアークを襲った良君(33)の親玉が進研なのだ。
どちらと渡りをつけてもタチバナ的に一向に問題ないのだが、最低限各々が己の身を護れるように取り計らっておくべきだ。

>「とにかく、まずは文明市ね。Q幹部長に会わないことには、話は進まないわ」


………………
…………
……


「ゼルタ君ゼルタ君、何かアウェイ感を感じないかね?」

「あー、まあ、私ら以外全員知り合い同士みたいだしねー。あっはは、わかるよタチバナさん、寂しいんだね、うんうん」

「ははは。――動画にとって流出させるぞ地縛霊」

「あれ?なんで辛辣!?」

「ともあれ、僕の他に舵取りのできる人材は加入したのは有り難い。これだけの大所帯を僕だけで牽引するのは無理があるからね」

「またまたー、タチバナさんからリーダーシップを取ったらただの完膚なきまでに社会に適合できなかった変態じゃん」

「ははは。――型取ってフィギュアにして商業ルートに乗せるぞ」

「なんであたしをメディアミックスしようとしてんの!?」

「とにかくこの呼ばれてない同窓会のような疎外感はマズい。早めに僕らの有用性を確立しなければあの女に全て飲まれるぞ」

「……タチバナさんって、割と結構な頻度でなりふり構わないよね」

「冬コミで君の同人誌を買おう」

「いつの間に二次創作されてんの!?」
214タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/07(日) 03:11:43 0
  *  *  *  *  *  *  *


さて、というわけで一行は一路『文明市』へ。
新たにエレーナ・リンキを加え10人近い数に膨れ上がった旧市街チームはツアコンのようにぞろぞろと道を行く。

『したらばホール』は旧市街の東区に位置する公共催事場だ。集会や企業展を開催する為の施設で、広い講堂と高い天井が特徴的。
旧市街チームは市内バスに乗り、20分ほど揺られて目的地のバス停へと到着した。

「さて、ここへ来るにあたって僕が参考にしたサイトでは『文明市』には絶対に、間違っても、神に誓って、
 ――『家族連れで来るな』と警告文が添えてあった。何故だか分かる人ー?」

挙手を促し、一同を見回す。結果に満足がいったのかタチバナはうんうんと頷き、そして話を進めた。

「ここにはこの街きってのアウトロー達が『文明』を求めてやってくる。
 そんな彼らが望み通りの文明を得て、ホクホク気分で会場を出て、まず最初にやりたいことと言ったら……?」

ゼルタが硬い唾を飲み込み、挙手した。

「『試し斬り』……?」

タチバナは鷹揚に首肯し、言葉を続ける。

「左様。彼らはアウトローで、それ故に他者を犠牲にすることに抵抗がない。
 戦闘系の文明を手に入れた直後に『家族連れ』を見かけたらば、独り身の彼らのことだ、妬みも含んだ加虐の炎が宿るに違いない」

『新しく手に入れた文明はどんな威力なんだろう』という好奇心を満たしてくれる対象。
そんな試し斬りの標的に、動きの遅い女子供は最適っちゃあ最適なのである。

「そして、ああ!?最悪なことに僕らは傍から見れば家族連れだ!これはもう、覚悟を決める他あるまいね……!?」

「ちょっ、な、なんでそれが分かっててこの人数で来たのよ!?」

焦燥を含むゼルタの声をよそに、タチバナは何かを期待するようにキョロキョロと辺りを見回す。
文明市の開催されている時間のしたらばホールの周辺は、ギラついた目をした若者達の闊歩する旧市街屈指の危険地区だった。
今この瞬間もまた、新しい文明を購入してニヤニヤしながら会場から出てきた数人のアウトロー達とタチバナ達との目が合った。


逸らされた。


「ホワイッ!?」

それまでのキャラをぶち壊すような素っ頓狂な声を挙げ、タチバナは大股でアウトロー達へと歩み寄る。
アウトロー達は見るからに引き気味な感じで一歩後ずさり、しかしメンツもありそれ以上は退がらない。
215タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/07(日) 03:13:54 0
「何故目を逸らす。君たちもチンピラの端くれならメンチの切り合いに背中を向けるんじゃあない」

「いや……ホント勘弁してください。僕らこれでも真面目にアウトローやらせてもらってるんで、あの、かませとかないっすわ」

「ほう、何を根拠に自らがかませ犬だと断ずるんだね」

「だって、アンタ方見るからにタダモノじゃねえんスもん。真面目にアウトローやってっと色んな奴に会うんで、
 大体纏ってる雰囲気っつーの?でそいつの人となりが割かし分かっちゃうんすわ。お兄さんらマジ半端ネーんすもん」

問答の最中にもアウトローズは執拗に目を逸らし続けた。
目を剥き過ぎて眼球の裏側が見えそうになるまで完膚なきまでにタチバナの目を見ようとしない。
そのまま押し出されるように踵を返したのでタチバナはすかさずその肩を掴んで止めた。

「待つんだ。このままでは新メンバー加入したことだしNPCバトルで肩慣らしでもいってみようかという僕の目論見が台無しだ。
 この事態は非常に美味しくない。そうだ、君のお仲間で腕っ節に自身のある者はいないかね。是非紹介して欲しい」

「う……一応センパイ方がまだ中に居るんで、そろそろ出てくる頃だと思うんけど……一応TELしてみるッス」

「頼んだよ」

アウトローの一人が携帯を取り出しセンパイ達と連絡をとり、取り急ぎここへ駆けつけてくれるよう要請した。
やがて会場の方から怒涛の如き駆け足の音が響き、両手一杯に『文明』を抱えたドスアウトロー達が外に出てきた。

「テメェかァ!俺の後輩にカツアゲかまそうなんて舐めたこと考えくさった奴はァ!!」
「いい度胸してんなァ、俺達に唾吐きやがった罪、生きて償えると思うなよォ!」
「ストパン映画化おめでとう」
「オラァ!ナメとんのかオラァ!」

タチバナは颯爽と同伴者達へ振り返り、わざとらしく肩を竦める。

「ああっなんということだ!僕としたことがうっかりミスで君たちをこんな暴力の渦中へと導いてしまった!
 かくなる上は君たちの秘めたる力を開放し悪辣の者共に抗う他ない!頑張れ君たち!」

カチリ、と後頭部に硬い何かの当たる音、その感触。
ドスアウトローの一人が拳銃を、否――『拳銃型の文明』をタチバナの頭蓋へ突きつけていた。

「……驚いた。買って即日使用OKなのかね。そういえば適合者が持てば『因子』の蓄積が早くなるという説を見かけてことがある。
 なるぼど『文明市』では、適合者が触れた途端に『文明』が発生するように因子量を調整してあるのか」

誰のアイデアか知らないがなかなか聡明なことをする。
これなら適合者みつけも容易く、また在庫の管理も安全になる。適合者が触れさえしなければ、ただの器物なのだから。
おそらくこの拳銃型の文明も、この男に適合してたった今生まれたばかりの文明なのだろう。

「さあ、初めての人には初めての『対文明戦』だ。僕は最期にこう言おう。ハルニレ君、ドルクス君。――懲らしめてやりなさい」

ドンッっと腹に響くような発砲音が響き、タチバナに突きつけられていた拳銃が火を吹いた。
銃弾に後頭部を殴られたタチバナはつんのめり、そのまま糸の切れた人形のように倒れ伏して動かなくなった。


【NPCバトル】
アウトローA――凄い文明を使う
アウトローB――素敵な文明を使う
アウトローC――オサレな文明を使う
アウトローD――スマートな文明を使う

【旧市街チーム新人加入ということで能力紹介的なNPCバトルです。
 全員NPCなので自由に動かしていただき、ワンターンキルしてもらってOKです】

【『文明市』到着。したらばホール前にてアウトロー集団と遭遇】
216テナード ◆IPF5a04tCk :2010/11/07(日) 07:54:45 O
「みんなー、準備おk?」

ミツキ、101型、テナード、久和。新市街地探索メンバーは、この4人に決まった。
ミツキが何か喋る中、テナードは己の右腕と久和を盗み見る。
左腕や両足は人間だった頃に戻っている。だが右腕は、Tに作ってもらった義手のままだ。
久和も、頭や肩から生えていた3本の腕は消えた以外に、特に変わった様子もなく。
何だかなあ、と首を捻る。別に何か期待した訳ではないのだが、何となく複雑な気分のテナードだった。

「…ちょいとてなしゃん、聞いてる?」

「へ?あ、ああ、聞いてたぞ」

膨れっ面のミツキが鋭い声を上げる。心なしか視線は厳しい。
テナードは素早く久和から視線を逸らし、生返事を返しておいた。

「んじゃ、手ー繋いでね」

「お、おお…………はあ!?」

「やっぱ聞いてなかったでしょ?」

ぷうっと頬を膨らませる。明らかに不機嫌だ。

「良い?アチシがこれから使う≪空間移動≫は、使用者と身体の一部を接触させてないと効果を発揮しないの!」

全ての空間系文明がそうなんだけどね、と付け加え、

「ホラ早く、手繋いでよ」

とテナード達を急かす。しかし、右も左も野郎。女成分は皆無。
見た目が女性的なミツキや久和はともかく、101型と手を繋ぐのは気が引けた。というかビジュアル的にアウトな気がする。気がするではなくアウトなのだが。
101型といえば、渋い顔をするテナードと、繋いだ手を見せるミツキを交互に見る。
そして何を思ったのか、

「こうか」

「あ痛だだだだだだだ!!」

テナードの左手首を万力の力で締め上げた。
右腕ならまだしも、掴まれたのは人間として当たり前の感覚を持つ左手だ。
有り体に言うならば、物凄く痛い。

「何すんだこのヤロー!こちとら(今は)生身なんだぞ!手加減しろ!」

「了解」

痛みから若干涙目になりつつ101型を叱る。左手首は真っ赤に腫れて痛々しい。
101型は反省した様子もない。感情が無いから当たり前だが。
ミツキ達の目が笑おうとすまいと必死に堪えているのが分かる。

「……ったく、便利そうに見えて面倒臭ぇのな」

渋々右腕で久和と、左腕で101型と手を繋ぐ。
101型の場合、繋ぐというよりテナードが彼の腕を掴んでいるのだが。因みにミツキの手段を真似たものだ。


「それじゃ……≪空間移動≫、発動!!」
217テナード ◆IPF5a04tCk :2010/11/07(日) 07:56:41 O
ぐん、と臍の裏を引っ張られるような奇妙な感覚。青白い光が視界を包む。
どこかで感じたような感覚だと思考するよりも早く、

「げふァッ!!?」

背中から盛大に落ちた。
もれなく、腹の上に久和が落ちる形となった。

「あ、ごっめーん♪落とす場所間違えたっぽーいwww」

「テメェ…………後で絶対シバく……!」

無事に着地するミツキと101型。結果的に被害を被ったのはテナードのみだ。
久和はテナードをジロジロと見ると、一言、彼に尋ねた。

>「そういえばどこ、行くんだ?」

「へ、ああ、それはミツキに任せるとして……怪我はないか?」

無論、テナードがクッションになったので久和に傷はない。
しかし、一度気にかけた相手の面倒を何かと見たがるのが、テナードという男なのだ。

「てなしゃん、てなしゃんやい」

「何だ?」

「くわりゅーより自分のこと心配しなきゃいけないかもっぽい?」

?マークを飛ばすテナードに対し、ミツキは苦笑いでテナードを――正しくは、テナードのすぐ下を指差す。
訳が分からず目線を下にやり、テナードの顔面が蒼白になる。

通行人Aが、テナードと久和の下敷きになっていた。

「おわぁあAAAAAAAAAAAAAAH!?だ、大丈夫かアンタ!オイ!」

気絶した通行人Aを揺さぶったり、頬を軽く叩いたりするも、目覚める事は全く無い。
91+54=145kgが降ってきたのだから当然の結果である。
仲間達に視線を送る。明らかに助けを求める物だ。ミツキがテナードの肩に手を置く。

「お父さん、面会には行くからね……!」

「変な設定付け足してんじゃねェーーーーッ!」


【行動分岐点:ダイスロール レス投下時間末尾】
【1,3,6:佐伯、萌芽と遭遇】 【2,4,9:休鉄会と接触】
【5,7,8:ユーキャン組と接触】
218テナード ◆IPF5a04tCk :2010/11/07(日) 08:20:09 O
一先ず退き、テナードは肩をがっくりと落とす。
下に敷かれたのは、幸薄そうな男。
……それと、退いてから気づいたが、金髪の女性も下敷きにされていた。ご愁傷様である。

「ま、時間が経てば目ぇ覚ますんじゃなーい?」

ミツキがへらへらと笑う。死にまでは至ってない事が救いだが、そもそもの原因はミツキだ。
ハァ、と溜め息を吐き、視線をある方向に向け、少しだけ驚いたような顔をする。

「あ?お前確か……モルガ?だったよな?」

それに、と隣の少女に視線を向ける。間違いない、昨日BKビルで荒海に襲われていた少女だ。
しかし、向こうの二人からすれば、人間の姿になったテナードは初対面の筈。
少なくとも、萌芽には自分の正体を教えねばなるまい。

「あーホラ、俺だよ、俺。テナードだよ!まさか久和の事も忘れちまったとか言うなよー?」

なるべく友好的な態度で、萌芽達に近づく。
久和の肩を抱いて仲間だというアピールをし、さりげなく右腕の義手をちらつかせた。

これで自分達のことに気づいてくれると良いのだが。

「いやー吃驚しちまったぜ、こんなトコで何してんだ?」

「どう見てもデートじゃん。状況見て言いなよてなしゃんのノンデリ」

ノンデリの言葉で傷ついたのか、ショボンとした表情になるテナード。

「俺達はまあ、アレだよアレ、アレだって」

「アレじゃ分かんないでしょ!…ねえ2人共、この女の子、知らない?」

テナードの脇腹を小突き、久和とテナードの間に割って入るミツキ。
そして、探すべき『娘』の写真を、萌芽と少女――敵対すべき公文の佐伯へと見せた。

【テナード:佐伯&萌芽と遭遇。アンシャス鈴木と鴨志田を下敷きにして気絶させる】
【ミツキ→佐伯&萌芽:娘の写真を見せて居場所を尋ねる】
219月崎真雪の曖昧な証言 ◆OryKaIyYzc :2010/11/08(月) 01:14:58 O



「大丈夫。今まで真雪ちゃんは独りきりで耐えてきたけど、これからは僕達が居る。
真雪ちゃん。これから僕は―――僕達家族はずっと一緒に居るって、約束しよう」

そう言っていた橙矢さんは、私が告白した日に死んだ。

私の両親が壊れてしまった時、私はお父さんの妹の家―――愛内家に引き取られた。
いつも元気だった紀香さん、本当の妹のように接してくれるれも姉。
楽しそうに場を盛り上げるいち兄、兄弟の中で一番落ち着いててみんなを助けてたくわ姉。
そして、いつも本当に優しくて、家族みんなに慕われていた橙矢さん。
五人と一緒に居る内に、どんどん幸せになって…私は、橙矢さんに恋をした。

おかしな、幼い恋だと、成長した私は思う。
だけど…おかしいなりに、幼いなりに必死な恋だった。

ある休日、私達はちょっと遠くの自然公園へ出掛けた。
その日は―――晴れていた、と思う。雨の日に自然公園なんて行くわけ無いから。
そこで、お弁当を食べてから、私が遊ぼうと橙矢さんを誘った…らしい。
そして、見晴らしの良い木陰で橙矢さんに告白した。
ここから少し記憶は飛んで―――橙矢さんが血塗れで倒れてるのを見たときの私の足元は、崖だった。

そのとき、わたしは…なにをしたんだっけ?
思い出せない。女の刑事さんに思い出して、と言われたけど…記憶が無い―――


―――――――――――――――――――
220月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/11/08(月) 01:16:06 O
―――――――――――――――――――

兔の説明を、真雪は大人しく聞いていた。
『ブーム型加速器』
文明を使い、時間を遡り他世界に移動する為の手段。
それを作るにしても運用するにしても、莫大な金と労力と規模が必要な『兵器』。
そんな物が同じ街に有るとは、と真雪は溜め息を吐く。
非日常は意外と近くに有るものだ。

そして、兔はとんでもない事を言い出した。

「つまり、とりあえず公文の手頃な人物を拉致するのが手っ取り早いんですよ、簡単には内部にアクセスできる
人物……例えば私の右後ろの方でいびきを掻いてる喪女とか」

「拉致?」

いや、とんでもない、というのは真雪がおかしいのだろうか。他の二人は普通に聞いている。
真雪は驚いて、兔の言う『右後ろ』、真雪には飛峻の向こう側に座る女性を確認した。

「……あ”あ?」

先程注文を取ったウェイトレスにドスのきいた声を上げてるのは、間違いなく知り合いだった。

「あ、榎さんだ」

呟いた真雪に、怪訝な視線が突き刺さる。
視線を三人へ戻し、真雪は説明する。

「私ね、昔、事件に巻き込まれた事が有るの。
その時、文明方向で調べてたのが彼女だったのよ」

そして、言いながら思いついた事を続けた。

「私が榎さん声掛けてこようか?
普通に調査するにしても、その…拉致する、にしても、
一旦知り合いが声掛けた方が楽だと思うから」

―――――――――――――――――――
221月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/11/08(月) 01:18:50 O
―――――――――――――――――――

注文を取った榎の元に、真雪がやって来る。

「お久しぶりです、榎さん」

まさか、こんな所で真雪に遭遇するとは思わなかったらしい。榎は大分驚いている。
真雪は微笑みながら、目の前のテーブルに手を付いた。

「凄い声したから確認したら、榎さんだったから。
こんな所で榎さんに会えるとは思わなかったから、ビックリしちゃいました」

はは、と真雪は笑いを零す。
そのまま世間話をして、その調子のまま本題を切り出した。

「今、知り合いと一緒に朝ご飯、食べてるんです。ご一緒しません?」

榎はこの誘いにのってくれるだろうか。

【榎を誘ってみる】
222都村 ◆b413PDNTVY :2010/11/08(月) 22:35:15 0
「そーいやさ、都村んとこに昨日来てた女の子いたじゃん、異世界人とかっていう。
 あの娘ってどーなの? やっぱ異世界人っつーからにはなんかあたしらとは違ったりするワケ?」

ふっと、翳りを見せた都村にくじらは気を利かせたのだろう。
話題を変え、彼女は佐伯 零こと公文の仲間になった異世界人の話を持ちかける。

「どう……ですか?」

どう答えるべきか?
正直な話、異世界人にもピンキリがある。
葉隠と名乗った青年は間違いなく単独でも、文明により武装した一個師団でも殲滅出来るだろう。
Ku-01と呼ばれていた少女もこと電脳関係になればどんなハッカーよりも頼りになりそうである。
ほかにも、荒海銅二と対峙した時に加勢してもらったゲストの面々……どれも一般人と呼ぶにはあまりにかけ離れている。

そして、最後に佐伯自身だが……

「佐伯さんか。 正直、一番相手にしたくないタイプの人種ですね。
 それ故に、彼女はこれからウチでも重宝すると思いますよ」

そう評価を下す都村。これは本音だ。
彼女は基礎身体能力が軒並み高い。そして、それは当然のごとく人が鍛える事が出来ない部分にも適応されている。
例えば、反射神経。他にも思考速度や、動体視力、バランス感覚や恐らくは全身の感覚器官にもそれは適応されている。
つまりは最初の立ち位置からして人とは違うのだ。これを厄介と言わずしてなんと言おう。

「ただ、問題は彼女自身は人間と同じような物って事でしょうか?
 狙撃でもされようものなら即死でしょうね……」

そう閉め、都村はまじまじとくじらを見る。

「気になりますか?安心して下さい。
 あぁ言いましたが、中身は見た目同様の女の子ですよ」

それが都村から見た零の感想だった。
多少、普通の17歳とは違う部分もあるが彼女の愚直さ、いや若さはどう見ても年相応の物。

「さて、ありがとうございました。そろそろ仕事に戻りましょう?
 ふふ、気持ちは分りますがこれが仕事ですからね。あ、明後日の合コンはちゃんと出席して下さいよ」

そう軽口を叩く都村。くじらもまたそれに応え、退室して行く。
その後ろ姿を見やり、都村も書類整理を再開しようとした時だ。今度は別な人物が声を掛ける。
いや、悲鳴を上げる。

「うわぁぁああん、終わらないぃ、書類が終わらないよぉぉおお〜〜〜〜!!」

文明課のデスクの一つ、書類の山々を前に一人の男が泣き言を上げていた。
彼の名は辺田 蓮八(へた れんはち)。榎 慈音の(可哀想な)部下……

「都村さん、僕もうむり、しぬ!死んじゃいますぅう!」

都村と同い年のはずなのに彼が振り乱した髪は真っ白に染まっている。
否、彼の髪は染めたものではない。既に色が抜けきって10年も経っていた。

「こんな忙しい時にかぎって、何で来ないんですか慈音さん〜〜……これじゃ拷問と変わんないですよぉ〜〜……」

「榎さんはいつもの韜晦ですか……」

そう告げ、都村は若干の憐憫を交えた視線を投げかけ声を掛けようとする。
223都村 ◆b413PDNTVY :2010/11/08(月) 22:42:15 0
「あ、ところで都村さん、例の件なんですけど……」

その時だ。彼はがばりと起き上がる。その際、書類の山の一つが頭にぶつかり、見事に崩れ落ちた。
大惨事と言う奴だ。辺り一面を覆うプリントの山。それを見てため息をつきつつも都村は拾い始める。

「ああー!ごめんなさい、ごめんなさい!」

ごめんなさいを繰り返しながら全て拾い終え、辺田は手伝ってくれた他のメンバーにも頭を下げ続ける。
もし、この場に慈音がいたとしたら間違いなく罵倒の嵐とローキックを食らった事だろう。こう言うのは何処にでもいるものだ……

「あの、それで都村さん……」

「どうしました?何か用件があるのでしょう?」

「根野さんに頼んで、調べてもらったんです。あの人、こういう裏社会とかに詳しいですから」

「わざわざすみません。それでは拝借……」

手渡された書類には根野の筆跡で、Z会復活を目論む残党たちと、行方不明になっている成川遥について記されている。

「昨日のBKビルの生き残りの連中が、成龍会の成川を中心にまた集まりはじめてるみたいです。
 なんでも、『うちの遥を誘拐し、荒海を殺したのは公文だ。復讐してやる』って息巻いてるらしいですよ」

パラパラと必要な部分だけに目を通してゆく。が内容のほとんどは辺田が述べたとおりだ。
復讐……非常に好都合だ。どうせやるならここに乗り込んでくるぐらいはしてほしいと都村は思う。
そんな不穏当な思考が回る中、辺田はもう一つの書類を差し出す。

「昨日、都村さんが相手してた進研の料理人。アイツの素性が割れましたよ」

男の名は江渡 仁太。通称エド。
料理人だった両親を幼くして文明犯罪で亡くし、その数日後から消息を絶っている。
捜索願も出されていたが、数年前にそれも打ち切られていた。

「彼を知る人曰く、彼は両親が料理人として、どこかで生きていると信じていたそうです。
 自分の大好きな料理で世界一を目指せば、いつか両親も現れてくれる……それを、死ぬまでずっと信じ続けていたんです」

「そうですか」

その言葉に都村は言い様の無い感覚に襲われる。しいて言うならこれは悲しみとでも言うべきか……
しかし、彼女はそうですかの一言で片づける。否、そうとしか言えなかった。他人事と割り切らねばきっと破綻してしまう……

「都村さん、僕、文明が怖いです。文明は確かに便利ですけど、時としてそれは僕らに牙を向く」

牙を向く。…それは直接的なものに限らない。現に江渡 仁太はその顎門に飲み込まれ、文明におぼれた。
いつか、そう遠くない未来に都村も相棒である「/メタル」に飲み込まれる日が来るかも知れない。
たとえそうだとしても。都村には果たさなければならない使命がある。

「今でも想像して、身震いしてしまうんです。いつか、何かの拍子に僕がそれを手にした時……」

最後に僕自身が、【化け物】になってしまう。そんな気がするんですと、辺田は言葉を締める。
その言葉の意味を知る彼女はフと笑みをこぼし、不敵に告げる。

「そうですね。でしたら、その時は私が貴方を逮捕しましょう。
 その代わり、有ってはならない事ですが、もし私が道を踏み誤ったらお願いしますね?」

それが義務ですからと都村は告げて、プリント用紙をクリップで留める。

「さて今日も仕事を片付けましょう。あぁ、そこの君?仮眠室にオサム君が居ますから蹴り飛ばしてください」

通りがかりの隊員に声を掛け都村は多大な書類の山に目を通し始める。ようやく、公安文明課の朝が始まった……

パニックになっている施設内。
この状況だってもう何度目になるか分からないのに、よくこいつらはいつもこんなに大騒ぎできるものだと
スフォルツァンドは呑気に考えながら廊下を歩いていた。

ちなみに、彼の歩いたあとには、彼の脱走を阻止しようとして失敗した不幸なサポーターたちが
ごろごろと転がっている。ちなみに死んではいない。全員気絶させられているだけだ。

「まあその勇敢さだけは褒めてやらないこともないが、
 ん? いや、あるいはただ学習能力がないだけなのか……?」

まあどうでもいいか、と彼は角を曲がろうとして、そして誰かがぶつかってきた。
ちなみに、ぶつかってきたと言っても向かってきた誰かはスフォルツァンドの服のすそにさえ触れられていない。
角でぶつかるはずだった人間は、
事前にその衝突を察知した彼の文明『妄想現実』<<イマジネーター>>によって作られた防壁に阻まれ、
彼に指一本触れることなく地面にこけた。
防壁の生成も消失も本当に一瞬だったため、その”壁”を彼にぶつかった人間が認識することはできなかったであろうが。

「ん? ああ、サポーターか。てめえもアレか? 俺を捕まえに来たクチか?」

言いながら彼は空中に散布している『妄想現実』を針にし、彼に向ける。
いい加減このザコの一掃にも飽きてきた。向こうに戦意がなければとっとと無視して外に出てしまおう。
そんなことを彼が考えていると、こちらを見上げる女がぽつりと呟いた。

「その、義手」

「あ? ああ、これか。”借りてきた”もちろん無断でな。
 借りたはいいが、しっかし”適合者”と会わないことには話しになんねえ」

「まいったぜまったくよお」と量掌を上に向け、彼はやれやれというしぐさをとる。

「で、それを知ってどーするってんだ? 取り戻してみるか?」

けらけらと挑発するスフォルツァンド。
この義手は進研の中でもトップシークレットに位置する場所に保管されていたものだ。
その存在を知るこの女は、もしかすると自分も会ったことのない幹部なのかもしれない。
なら、暇つぶし程度にはなるか。

「……あのさ、その持ち主の居場所、知ってるよ」

そんなことを考えていた彼にとって、その言葉は期待はずれでもあり、
そして同時に予期せぬ幸運でもあった。

「へぇ……」

「ソイツの所に案内してあげる。その代わり、取引だ」

目の前のそいつは、どこか、そう厭らしいというか、『邪悪な笑顔』を浮かべていた。

「ボクも外に出たい。外、出るのに協力してよ」

ふいに、彼は自分の愛読書の中の一説が頭に浮かんでくるのを感じた。

『可能性、もしくは想像力と我々が呼んでいるものの99%までは偽物で、
本物は残る1%にすぎない。
しかも問題は、それが同時に―――』

「―――『邪悪とも呼ばれることだ』、か……」

くつくつ、と彼は笑う。

「ふむ、なるほどな。てめーが俺の『本物の可能性』かもしれねーってことか」

その解釈には、大いに彼の曲解が混じっていたが、
しかし、そうスフォルツァンドは納得し、目の前の女の誘いに乗ってみることにした。

「いいぜ、その取引乗ってやる」

カズミの前を歩くスフォルツァンドの前に、
もはや障壁と呼べるものは一つもないと言っても過言ではなかった。




新市街地、そこを大きなドクロのプリントのタンクトップに、黒い皮のジャケットを着た少年
―――スフォルツァンドと、女装したカズミが歩いていた。

スフォルツァンドのファッションには、常人には理解できないような妙な点が多々ある。
まず、彼の羽織る皮のジャケットは左腕しか腕が通されていない。
のこされた右腕と背中部分は、風になびいて彼の後方をひらひらと舞っている。
つぎに髪型。顔の右半分はワックスでオールバックに固めているのに、
左半分はボサボサと無造作に飛ばされていた。
眉毛にしても、左眉だけ剃られているし、左右のピアスの数も右が一つなのに対し
左が六つとまったく規則性がない。
完全な左右非対称、しいていうなら、それが彼のファッションの特徴だった。

「ったく、全然見つからねーじゃねえか。本当に案内できるんだろうな?」

横を歩くカズミを、スフォルツァンドがぎろりと睨みつける。
ちなみに、彼の手に義手の姿は無い。
持ち歩きにくい上に目立つ義手は、彼の文明によって空中に浮かび、
さらには粒子の操作による光の屈折率の変化を利用した光学迷彩で隠されていた。

「ちっ……頼りねえ」

舌打ちをしながら、スフォルツァンドはふいに進路を変えた。

「腹が減った、メシだメシ」

進行方向には、レストラン『モナズ』の看板がある。

「金は持ってるか? ああ、まあ持ってなくてもいいか、店員脅しゃあそれですむ話だ」

けらけらと笑いながら、彼らはモナズの中に入っていった。

店内ではどんちゃん騒ぎが巻き起こっていた。
なにやら大所帯のメンバーが、騒ぎながら飲み食いしている。

「なあ、お前。今あいつらが面白そうな話してたの、聞いたか?」

『文明市』で『人死にが出る』かもしれない。
いつも任務以外で外出を許可されていない彼にとって、それは著しく好奇心を刺激することばたちだった。

「テナードってのをぶっ潰したあとにでも、俺らも行ってみるか?
 まあ俺が行ったら『人死にが出る』程度にゃ収まらねーだろうけどよ」

横のただ飯組みからさりげなく料理を盗み食いしながら、
スフォルツァンドは愉快そうにけらけら笑った。

【ターン終了:とりあえずスフォルツァンドってこういうやつですよ的な】
227ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/10(水) 00:16:10 0
>「お兄ちゃん退いてそいつ殺せないッ!!」

どこかで聞いたフレーズを叫び、弓瑠は芭流子に向けて傘を振り回し、芭流子はドルクスの背中へと避難する。
そしてこの騒動の引鉄を引いた当のハルニレはといえば。

「ハハハ、弓瑠ハオテンバサンダナ」

呑気に笑っていた。

>「昨日キスしてた女も後で殺るわ」

「オイオイ弓瑠、何モキス位デ怒ルナヨ」

周りの空気が凍りつく中、ハルニレ一人だけが可笑しそうに笑う。
どこかズレた空気は、ハルニレの異端ぶりを表しているとも言えた。

>「えーっと。お取り込み中のところ、失礼?」

絶妙なタイミングに現れる、新たな乱入者。どこかで聞き覚えのある声にハルニレは視線をやり、目を丸くする。
そこにいたのは、一人の少女と、ドルクスに瓜二つの青年。あのタチバナですら、動揺しているのが伺える。

>「初めまして、ドルクスがお世話になってます。私、ドルクスの主人のエレーナ=T=デンぺレストと申しますわ」
>「え、エレーナ様!?何故ここに……」
>「お黙りドルクス。座りなさい。ハルニレと弓瑠ちゃんは昨日ぶりね」

少女改めエレーナは、さも当然とばかりに椅子に座る。
ハルニレは、エレーナの頭のてっぺんから足の爪先において見直してみる。
昨日見た姿と今の姿は、ハルニレの記憶には一致しない。せいぜい変わってないのは声くらいか。
エレーナと同行するドルクスそっくりの青年は、リンキというらしかった。双子の兄。見れば見るほど良く似ている。纏う空気は違うが。
エレーナはドルクスからあらかた事情を聞くと、こう口火を切った。

>「六花、……分かったわ。このゲーム、私も協力するわよ」

「本当カ!?/>「本当スか!?」

>「文明市に知り合いがいるの。その人に聞けば、何か知ってるかもしれないわ」

>「でもその代わり、そこの弓瑠ちゃんを引き渡してもらうわよ」

「……………………ハァ!?」

またも、ハルニレは目を丸くする。しかし話を聞く限り、弓瑠は保護される対象であるという説明を受けた。
ともすれば、彼女の親がその命令の主という可能性もある。自分たちも保護してやる、という案にタチバナが賛同する。
周りがOKの返事を出す中、ハルニレの胸中は複雑だった。


『絶対見ツケテヤルカンナ』

『あ、ありがとう』


昨日、弓瑠と初めて出会った時のことを思い出す。いつもならその場で八つ裂きにしただろう彼が、何故彼女と手まで取り合ったのか。
心の奥深くにほんの少しだけ残っていた情けが働いたとでもいうのか。

「(情?……ハッ、ラシクネエ)」

       シリアルキラー
情け容赦無い連続殺人鬼の中で、何かが変わり始めていた。
ついでに、隣に座った女性が自分が殺すべき少年だということにも、全く気付いていなかった。
228ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/10(水) 00:17:40 0
朝食を終わらせ、休鉄会一行の現在地はしたらばホールのバス停前。

>「さて、ここへ来るにあたって僕が参考にしたサイトでは『文明市』には絶対に、間違っても、神に誓って、
> ――『家族連れで来るな』と警告文が添えてあった。何故だか分かる人ー?」

「犠牲者増加ノ対策カ」

他の面子が考える中、ハルニレは一瞬思考し、合点がいったのか即答する。

>「ここにはこの街きってのアウトロー達が『文明』を求めてやってくる。
> そんな彼らが望み通りの文明を得て、ホクホク気分で会場を出て、まず最初にやりたいことと言ったら……?」

ゼルタが挙手し、答える。タチバナは肯定し、更に想定されるであろうアウトロー達の行動パターンを語る。

>「そして、ああ!?最悪なことに僕らは傍から見れば家族連れだ!これはもう、覚悟を決める他あるまいね……!?」

「ソウ言ウ割ニ楽シソウダナ、オマエ」

軽くツッコミを入れるハルニレもまた、笑顔だ。
そしてタチバナが何かを探すように辺りを見回し、したらばホールの入口で止まる。
と、ついさっき文明を手に入れたであろう怪しげな連中が出てきた。そんな彼らを凝視するタチバナと、連中の目が合う。

>逸らされた。

>「ホワイッ!?」

彼らの反応に対し、素っ頓狂な声を上げて大股で駆けていくタチバナ。それを呆れて眺めるハルニレ、プライスレス。
タチバナは集団に詰め寄り、やがて集団の一人がどこかに電話を掛け始める。

>「テメェかァ!俺の後輩にカツアゲかまそうなんて舐めたこと考えくさった奴はァ!!」
>「いい度胸してんなァ、俺達に唾吐きやがった罪、生きて償えると思うなよォ!」
>「ストパン映画化おめでとう」
>「オラァ!ナメとんのかオラァ!」

なんかいっぱい来た。その様子を見たタチバナはこちらを振り向き、わざとらしく肩を竦める。

>「ああっなんということだ!僕としたことがうっかりミスで君たちをこんな暴力の渦中へと導いてしまった!
> かくなる上は君たちの秘めたる力を開放し悪辣の者共に抗う他ない!頑張れ君たち!」

「シタリ顔デ言ウ台詞カ?ソレ」

>「さあ、初めての人には初めての『対文明戦』だ。僕は最期にこう言おう。ハルニレ君、ドルクス君。――懲らしめてやりなさい」

>ドンッっと腹に響くような発砲音が響き、タチバナに突きつけられていた拳銃が火を吹いた。
>銃弾に後頭部を殴られたタチバナはつんのめり、そのまま糸の切れた人形のように倒れ伏して動かなくなった。
229ハルニレ ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/10(水) 00:19:46 0
タチバナが死んだ。あまりにもあっけない死に方だった。
ハルニレ達の間に戦慄が走る。タチバナを撃ち殺した男は、銃口を一番近くにいたハルニレに向ける。

「そこのお前!ソイツの仲間か!?」

顎でタチバナの方を差す。ハルニレは器用に片眉を上げる。

「ソウダガ、何カ?」

「じゃあ死ね」

男は間髪入れず、ハルニレの眉間に銃弾を撃ちこんだ。帽子が舞い、ハルニレの上半身が後方へ倒れこむ。
結果を見届けた男はニヤニヤ笑うと、次は誰の頭に風穴を開けようか、と視線を逸らす。

「さて、次は誰が……」


「――――――――――――――――――――――……ッテエナオイ。イキナリ何スンダコラ」


荒々しく、男の銃を持つ手が掴まれる。男は一瞬怪訝そうな表情をするが一転、その顔から一気に血の気が引く。
ある訳がない現象。あってはならない事象。しかしそれは紛れもない事実。
錆びた機械人形のように振り向いた男が目にしたものは。


「俺ヲ銃的カ何カト勘違イシテネエカ?エエ、オイ」


不機嫌を露わにする、無傷のハルニレ。
顔を左半分を包帯が巻かれたその眉間には傷一つない。撃たれた部分の包帯には穴があき、皮膚が見えていた。

「ッ!クソ、殺してやr」

「アラヨット」

飛び道具の長所は、「遠く離れた敵を倒すこと」。つまり短所は、「近すぎる敵を狙撃し辛いこと」。
銃を構え直すよりも早く、ハルニレは男の懐に飛び込む。
彼の間の抜けた掛け声とともに放たれたアッパーカットは、寸分違うことなく男の顎を直撃する。
そして、ふらつく男の顔面を右腕で掴み、地面へと勢いよく振り下ろした。響くのは、ゴッと固い物同士がぶつかる鈍い音。
男が痛みに悶えるも、頭部を掴むハルニレの右腕がそれを許さない。

「俺様ヲ殺ソウナンザ、1000年早ェンダヨ」

ハルニレの殺意籠る笑顔が、指の隙間から覗く恐怖を湛えた目が最期に見た物だった。
 


                    「【エルム街の悪夢】、発動」


男が声無き悲鳴を上げ、苦しみ悶えるかのように体を捩じらせる。
それが数十秒続いた後、二度と動くことのない男に、ハルニレは一人呟く。


「生マレ変ワッテ、出直シテキナ」
230ジョリー→慈音 ◆YcMZFjdYX2 :2010/11/10(水) 00:29:35 0
「あっれー?繋がらないなー……」

ジョリーは携帯電話を耳から離し、首を傾げた。
かれこれ10回位ハルニレに電話をかけているのだが、一向に繋がる気配がない。

「ごめんシノちゃん。今はちょっと無理っぽい」

ごめんねー、とジョリーは両手の平を合わせて謝罪する。
事の発端は、シノの一言だった。ゲームの発案者についての質問をしたい、と言いだしたのだ。

「ゲームの発案者かー……ちょっと私も気になるなあ。 だってさ、普通こういうのって警察に届けるじゃない?
シノちゃんの言う通り、こんな広い所から子供を探し出すってかなり難しいことだと思うワケ!
なのに、警察でもなんでもない一個人にわざわざ人捜しを頼むって事は……」

「それなりに相手もワケアリ、ってことか?」

ミーティオの言葉にジョリーはコクコクと頷き、向かいの席に座る長多良に視線を向ける。

「でさ、長多良さん!長多良さんってさ、人脈とかケッコーあるんでしょ?白髪の女の子の「六花」について知ってる人、誰か一人はいるんじゃないの!?」
・―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――・
>「お久しぶりです、榎さん」

ウェイトレスが居なくなったタイミングを見計らったかのように、背後から声を掛けられる。
慈音は眉を顰めながら振り返り、声の主を聞いて驚愕する。

「えっと……月崎真雪さん、よね?」

五年前、愛内橙矢の不審死の第一発見者にして、被疑者の候補に挙がっていた少女。
あれ以来一度も会っていなかっただけに、慈音の動揺は大きかった。

>「凄い声したから確認したら、榎さんだったから。 」

「あらら、聞かれちゃってたのね。驚かせてごめんなさい」

真雪の笑いに、慈音も照れ隠しにははは、と返す。世間話を交わした後、真雪にこう切り出された。

>「今、知り合いと一緒に朝ご飯、食べてるんです。ご一緒しません?」

「ええ、知り合いさんが良いなら構わないわよ……っとごめんなさい、電話だわ」

着信を告げるバイブ。相手は辺田。眉間の皺の本数が増えたが、渋々でる事にする。

「何の用よヘタレ。捻るわよ」

『ヘタレじゃありませ辺田で……って怖いです!僕が何したって言うんですか慈音さん!』

「黙らっしゃいヘタレ。私のモーニングタイムを邪魔するとはいい度胸ね、縊(くび)り殺すわよ」

『グレードアップしてる!?それより慈音さん、くじらさん経由で都村さんから伝言です!
『新市街二丁目の総合ビル横の路地裏!男性一名を『文明の不法所持』で現行犯逮捕したらしいですから、拾っておいてとの事です!』

「私をゴミ収集車か何かと勘違いしてない?……まあ良いわ、通勤がてら拾っとくわよ」

このタイミングで、頼んでいたサラダとアイスコーヒーが届き、辺田との通話を強制終了させ、慈音は皿とコップを掴み移動する。
真雪の隣に座ると、まさか自分を誘拐しようとしている人物だとは思いもせず、愛想良く微笑んだ。

【ハルニレ:NPC一名殺害。まだまだ殺る気満々】
【ジョリー:長多良さんに全部丸投げ】
【慈音:真雪の誘いを快諾。兎組などの情報は得られず。誘拐のタイミングは尾張さんに任せます】
231佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/11/12(金) 00:18:36 0
(どうなってるのよ……)

正直な話、ため息をついてどこか人の居ないオープンカフェでキーマンティーを口に含みたい。
そう思えるような状況の変化に零は若干戸惑いを見せる。
事の顛末はこうだ。

零の発言により素性を晒した黒服の男達。彼らはSP、security police との事だった。
その月崎家と呼ばれる家系の令嬢であるツキザキマユキと言う名の少女を捜す手掛かりにならないかと声を掛けてきたというのだった。
しかし、そこからが非常にややこしい事になってしまった。

どうやら、件の少女と知り合いなのは萌芽の方で有ったのだが、その萌芽も又、この件で思う所があるのかトラブルに発展してしまった。
最も、萌芽の主張する協力を仰ごうとするのなら何故武装して、臨戦態勢なのか?という問いも一理あり、様子を見ようとした時、更なる客人が現れる。

「おわぁあAAAAAAAAAAAAAAH!?だ、大丈夫かアンタ!オイ!」

「お父さん、面会には行くからね……!」

「変な設定付け足してんじゃねェーーーーッ!」

そう漫才を繰り広げる二人組の足元には先程、名刺を手渡してきた鴨志田と鈴木と名乗る女性が居る。
簡潔に言おう。彼らは闖入者に下敷きにされ気絶した。
しかし、これはある意味とても助かったと言える。
なぜなら、先程までの状況では衝突は避けられなかったからだ。今の状況なら情報を整理する事も出来るだろう。

「アレじゃ分かんないでしょ!…ねえ2人共、この女の子、知らない?」

「知りません。もしんば見かけていてもこんな小さな女の子が一人でいるなら交番に案内しているわ」

差しだされる写真を見て零は即座に否定する。
そのごくまとも、且つ一般的な回答に闖入者は毒を抜かれたような顔つきになる。

「それよりも、私はこの人たちをどうにかした方がいいと思いけど……
 それに、この人たち警察らしい上に職務中みたいですよ?」

そう言うと零は下敷きになり昏倒した二人を見やり、親切心から忠告をする。
そう、彼らは何処から見ても仁侠団体や、シチリアマフィアのような風貌をしていても国家公務員。
それもエリートの中のエリートが任命されるSPであり、何より先の動きからも「場馴れ」している……
仮に零達が捕まったとしても最悪、都村を伝手に誤解を解く事は出来たかも知れなかった。が、彼らや萌芽は別だ。

「さて……萌芽はどうする?私はこの人たちを「説得」しようと思うのだけども……
 この人たち、知ってるんでしょ?このままいくと面倒な事になりかねないわよ。「アナタ」も含めて」

そう区切り、何故か目をそらす。先の行動から萌芽は危険とみなされるかもしれない……
何時も気配すら感じさせず消えたり現れたりする彼ならばなんとでもなるのだろうが、万が一という事がある。

「一応、警察組織内にはそれなりに知れ渡ってるだろうし、私には伝手もあるもの。だから大丈夫。
 でも、そっちの人たちと萌芽は違うでしょう?だから、行くなら行っちゃって構わないわ……」

視線は合わせられない。その訳は……?

「ありがとう。とても楽しかった!」

【ルート分岐:その場に残る→月崎家ルート
       テナード達と共に行く→進研ルート】
【状況:佐伯零は月崎家ルートに進行します。
    以後、PLは作中時間一日以上は他のルートへちょっかいを掛けに行く事はありません】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】
232カズミ ◆IPF5a04tCk :2010/11/12(金) 20:41:51 0
「うーん、やっぱシャバの空気は最高だね!」

新市街地の繁華街の中、不良じみた風貌の青年の後をトコトコと着いていく女……否、男・カズミ。
ワンピースの裾をひらひら揺らし、コツコツと厚底サンダルを鳴らす。

左右非対称で特徴的なパンキッシュな服装の青年のスフォルツァントに対し、カズミの格好は至ってシンプル。
黒いキャミソールの上にワンピースを着、スパッツを履いただけ。
かなりアンバランスな二人の仲といえば、刺々しい空気を感じさせていた。


>「ったく、全然見つからねーじゃねえか。本当に案内できるんだろうな?」

彼が探す『右腕』の適合者――テナードが見つからないことに苛立っているのか、Sの機嫌は良くない。
カズミは彼を必死に宥め、テナードの特徴を思い出しながら探し回る。
しかし物事はそう上手く事が運ぶとは限らないらしい。
見つからないまま、時間だけが過ぎていく。

「おっかしいなー……この辺だと思ったんだけどな。ミツキも電話に出てくんないし……」

何度コールしても、ミツキも通話にでる事はなかった。
もたもたするカズミに、Sは舌打ちを打つ。

>「ちっ……頼りねえ」

小さな呟きは、カズミの心にグサリと突き刺さる。
めげずに探そうと足を踏み出した途端、Sは急に向きを変えて歩き出した。

「ちょ……どこ行くのさ!」

>「腹が減った、メシだメシ」

「ええー!?……イエ、ナンデモナイデス」

カズミは不満の声を上げかけ、Sに睨まれたことで口を真一文字に塞ぐ。
彼の進路の先はレストラン『モナズ』。

「(よ、よりによってこんな場所……!)」

サーッとカズミの顔から血の気が失せる。
カズミは昔から、特に理由はないのだが、とにかく無類の動物嫌いだった。
彼のそんな様子を知ってか知らずか、Sはカズミに問いかける。

>「金は持ってるか? ああ、まあ持ってなくてもいいか、店員脅しゃあそれですむ話だ」

「あ、ちょっと!待ってー!」

けらけらと笑い続けながらレストランへと向かうSを、カズミは慌てて追いかける。
サンダルでつまづいて転けた。
233カズミ ◆IPF5a04tCk :2010/11/12(金) 20:46:43 0

>「なあ、お前。今あいつらが面白そうな話してたの、聞いたか?」

「ご、ごめん、聞いてなかった……」

隣の席から涼しい顔で料理を掠め取り食しながら、Sがふいに言いだした。
動物が近くにいることで気が気でなかったカズミは、青い顔で答える。

>「テナードってのをぶっ潰したあとにでも、俺らも行ってみるか?
 まあ俺が行ったら『人死にが出る』程度にゃ収まらねーだろうけどよ」

「い、良いよ。ボクも特に予定ないし、見てみたい文明もあるし(それよか、潰すのが前提なんだ……)」

見かけ相応に、彼はとても乱暴的らしい。ご愁傷様テナード、と心中で合掌する。
カズミには、テナードを助けようなどという気は更々ない。ただ、カズミも興味があったのだ。
文明を再起不能にする『文明破壊の右腕』。
それが発動する瞬間をこの目で直に見てみたいと、彼の中の知的好奇心が騒いでいた。
Sの話を聞きながら、カズミはオレンジュースを啜りながら何気なく後ろ(隣)のテーブルに視線を向け……

「む゛ぐっ!?っげほっ!げほげほっ!」

咽せた。

「(り、琳樹さんが二人!?)」

隣のテーブルでは、昨日行動を共にしたあの男、琳樹がなんと二人に増えてテーブルに座っていた。
しかも、間に綺麗な女性を挟んで手まで取り合っている。
かなり親しげな様子で話しているところを見ると、恋人か何かかとカズミは解釈した。

「(ボクが必死になって人捜ししてるってのに……分身の術まで使ってデートだと!?許さん!絶対ニダ!)」

間違った己の解釈で嫉妬心を燃やす男がここに一人。オレンジジュースを持つ手が震え、コップにヒビが入る。
数秒彼らを凝視した後、カズミはSへと勢いよく振りかえった。

「やっぱ変更!ボクらも文明市に行こう!」

カズミはオレンジジュースを飲み干すと、ダンッとコップを乱暴にテーブルに置く。

「ほら、さっきテナード見つけられなかったでしょ?だからさ、人捜しの文明とかあった方がいいかなーって」

これはカズミ自身の建前であり本音だ。カズミには一つ、心当たりがあった。

「僕が欲しいのは≪上位互換≫さ。コンパス型のね」

昨日BKビルに赴いた時の事を思い出したのだ。六花が持っていた文明、コンパス型の≪上位互換≫の存在を。

「どんな所にいようと、≪上位互換≫のかかったコンパスならテナードを見つけられるかもしれないでしょ?」

しかし、それではカズミがいる意味がなくなってしまうのではないか。
カズミは肘をつき、顎を組んだ両手に乗せてニッコリ笑った。

ふふっ、とどこか遠くを見つめ、想像する。
本来あった性能が失せ、ただのガラクタになって砕け散るそれの末路を。
ただでさえ細い目を更に細め、彼は笑顔を深めた。

「ね、良いでしょ?」

【カズミ「先に文明市に行ってみない?」】
【文明市に行く→目的:コンパス型の≪上位互換≫を探す】
【文明市に行かない→目的:引き続きテナードの捜索  】
234李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/11/15(月) 01:52:51 0
「つまり、とりあえず公文の手頃な人物を拉致するのが手っ取り早いんですよ、簡単には内部にアクセスできる
人物……例えば私の右後ろの方でいびきを掻いてる喪女とか」

ブーム型加速器。その概要は俄かに信じられないようなシロモノであった。
文明を使用した時間の逆行、及び異世界への渡航を可能にする装置。
飛峻の居た世界。今より科学の発達した未来、そこでさえ類する機械は運用はおろか発案すらされていない。

(いったいこの『世界』はそんな物を造って何をしようとしているのか……)

疑問の種は尽きることが無い。
だがブーム型加速器の性能が額面通りのものならば、現在解決すべき難問を悉く解決できるということになる。
乗らない手は無い。というのが現状だった。

「拉致?」

対面に座る真雪が眉を顰めて問い返す。
拉致といえば立派な犯罪。一般社会に生きてきた少女が嫌悪するのも無理は無い。

「店内では危険だナ。どうあっても一目に付ク……外に出た所を仕掛けるカ?」

しかし飛峻は乗り気であった。
理由は先に述べた通り、千載一遇のチャンスと言ってもいいだろう。

「……あ”あ?」

店内を見回すふりをして確保対象を確認しようとしたところ、やたらと貫禄のある声が店内に響く。
どうやら発生源は件の女性らしい。
子供が聞いたら泣き出しそうな、実際俯き震える子も居るようだが、飛峻にとってはかえって都合が良い。
彼女に奇異の視線が集まったがゆえに、こそこそ覗き見る必要が無くなったからである。

「あ、榎さんだ」

「……知り合いカ?」

およそ接点の無さそうな真雪が、実は知り合いであったという事実に思わず凝視。
次いで他の二人と目を見合わせること数秒、代表する形で飛峻が問いかける。

曰く、昔巻き込まれた事件の文明に関した調査官。
それが真雪と榎慈音の接点。

「私が榎さん声掛けてこようか?
普通に調査するにしても、その…拉致する、にしても、
一旦知り合いが声掛けた方が楽だと思うから」

続けて提示された真雪のプランに、飛峻は無言で頷いた。
235李飛峻 ◆nRqo9c/.Kg :2010/11/15(月) 01:58:39 0

「なかなかどうしテ、良い具合に話が進んでいるじゃないカ」

真雪が席を立ったのを見計らい、飛峻は残る二人に声をかけた。

「どれだけ堅物だろうト、ソレが例え仕事上の関係だったとしても知人には案外気を弛めてしまうものダ。
 オット、こういうのは釈迦に説法って言うんだったカナ?」

視線の配り方や足の運び、その他の細々とした所作。果ては銃器のチョイスなど。
それらを全てひっくるめ飛峻は尾張を警察、もしくはそれに類する職業に就いている人物だと当たりを付けていた。
それも俗に言う制服組ではなく、もう少し特殊な、例えばアンダーカバーなどの捜査に特化した類なのではないだろうか。
それゆえ人心を逆手に取った考察は専門分野なのではと思って問うたのだ。

「まあソレはさて置キ……方法だガ」

表情や雰囲気は談笑してるままに、声のトーンだけを幾ばくか落とす。
ターゲット。榎慈音を拉致する方法とタイミングを決めるためだ。

「俺が出来るのハ接触にヨル気絶。点穴を突けバ、苦も無く意識を剥奪できル。
 ソコらで売ってるスタンガンなどよりは信頼してくれて良イ。
 もっとも先に見せた奇跡のヨウニ、他の手段があるなら任せるがナ。後は何時仕掛けるカ、ダ」

一目を嫌うのであれば店外に出てから。
構わないのであれば今すぐにでも仕掛けることは可能だろう。 
手洗いに行く風を装い、すれ違いざまに突くなりなんなり遣り様はある。

「タイミングもソチラに任せル。
 コチラでやった方が良いなら何か合図してくれれば良いサ」

堂々と密談を交わし終えると、丁度真雪に誘われた慈音がカップと皿を手に席を移って来る。
先ほどのドスの効いた声とはうって変わり愛想の良い笑みを浮かべる慈音へ、飛峻は飲みかけのカップを掲げ会釈を返した。
236長多良椎谷 ◆SKMWc74INaYB :2010/11/15(月) 03:42:39 0
私達、新市街捜索組は棺桶少女の提案の下『Cafe・Takaoka』を訪れた。
この店は一度友人が記事にしていた事を記憶している。
何でも一歩間違えば精神科へ連れ込まなければならないレベルでドジを繰り返すメイドがいるのだとか。
しかしそれでも猶、客が来ると言うのは不可思議な話だ。……いや、実際には不可思議でも何でもない。
単にこの店に、そのドジを上回るだけの魅力があると言う事だろう。
差し当たり、この先程注文したコーヒーだ。豆の焙煎風味が香り高く、液面に湛えた悪魔のような黒さ
に遜色ない苦味の中に、恋のような甘さが溶け込んでいる。……何?コメントが薄っぺらい?
当たり前じゃないか、私はコーヒーのマイスターではなくライターなのだからな。
浅く広く記事が書ければそれでいいのだよ。と言う訳でいずれアルマークを見付けた際に思い浮かんだ
都会の名喫茶の記事を今度書いてみようと思う。……なんて事を考えていると不意に
視界の奥から陶器の割れる甲高い音と、液体のぶち撒けられるばしゃりと言う音が聞こえた。
あぁ、噂のウェイトレスがまたドジをしでかしたらしい。あの男がこのコーヒーを飲めないとなると
ますますコーヒーが美味しく感じられるな。これもこの店ならではの良い所か。

……と思いきや、いつの間にか男の前にはコーヒーカップがあった。
代わりに床のコーヒーは消え失せている。錯覚、ではない。ではないが……
まあ文明の氾濫しているこの社会ではさもありなんな出来事だ。

>「でさ、長多良さん!長多良さんってさ、人脈とかケッコーあるんでしょ?白髪の女の子の「六花」について知ってる人、誰か一人はいるんじゃないの!?」

そうとも、今優先すべきはそちらだ。私はホテルを出る前に携帯で撮影した少女の写真を
知人各位に送信する。「この少女について何か知らないか。知っているなら教えてほしい。
名前は「六花」だ」と、本文はまあこんな感じでいいだろう。では送信。
……待つ事数十秒、早速携帯が手の中で振動を始めた。くぐもった振動音が煩わしい。
携帯を開いた。メールではなく通話か。予想外の釣れ様に少々驚きつつ、私はひとまず通話に応じた。

「……この写真、何処で手に入れた?」
「開口一番で質問に質問を返すか君は。疑問文に疑問文を返すとテス」
「いいから答えろ。事と次第によってはヤバい」
「……言えないな。言えない理由はまあ色々と事情があるのだが、少なくとも
 最低限の身の安全は確保しているとも。抜かりはない。それより、写真だ。知っている事があるなら教えてくれ」

暫し、沈黙。ややあって答えが帰ってくる。携帯越しで劣化し、ざらついた音声でも、
声が帯びた戸惑いの感情はありありと伝わった。

「……ガキの本名は、三浦六花。三浦ってのは、勿論あの三浦だ。このガキは三浦がヤバい
 仕事をする時に連れて行く、兵隊みたいなモンだ。実の娘であると同時にな」
「ヤバい仕事……ゴシップではなかったのか」
「あぁ、俺も余り詳しい事は知らんがな。ただ三浦は色んな所と因縁があるらしい。
 有名所なら『学研』と、そこの奴らが後に作った組織。それに『進研』も。……他にも色々あるが、その辺は知りたきゃ自分で探れ」
「そうするとしよう。ありがとう、助かった」

「気を付けろよ」との忠告には返事をせずに、私は通話を終了した。交わした会話の余韻と
致命的にミスマッチな明るさの電子音が単調に繰り返される。携帯を閉じて、私はテーブルの面々を改めて見回す。

「……と言う事らしいですよ。この件は旧市街の連中にも知らせるといいでしょう。
 それと……ビッチ系ビッチさん。確かあそこの……ん?あぁ、どうやら席を移したようですが、
 貴女のお姉さんは公文の人間でしたよね。不仲である事はさっき聞きましたが、接触してそれとなく
 学研や進研について聞き出す事は出来ませんか?え?殺される?またまたご冗談を」

【学研やら進研やらと因縁があるんだってさ。】
237鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/11/15(月) 12:59:38 O

率直に言おう。
鈴木は困っていた。

「今、僕はあなたの記憶を覗こうとしました。でも、この通り弾かれてしまった。
 ……なんらかの防護壁みたいなものを張ってますよね?
 なんでそんなことをする必要があるんでしょうか?」

竹内萌芽、彼の主張は拒絶。
隣に居る彼女は戸惑い。
そのどちらも、それぞれの立場から見てみると正しい。

「あくまでも真雪様の居場所を教えるつもりは無い、と…」

鴨志田の台詞を聞いて、鈴木はげんなりと溜め息を吐いた。
余計な事しくさってからに。

そして、疑いに頭が凝り固まった鴨志田が一歩進んで、鈴木がそれを止めようと動いた時。
悲劇は起こった。

「げふァッ!!?」

「ぐぎゃッ!!?」

「うきゃあっ!!?」

人が降ってきた。
因みに上段が降ってきた二人の内重い方、中段が鴨志田、下段が鈴木である。

完全に油断していた二人は気絶していた。いや、油断も何もあったモノじゃないが。
ご愁傷様です。

―――――――――――――――――――
238鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/11/15(月) 13:01:18 O
―――――――――――――――――――

しばしの間を置いて、鈴木が覚醒する。

「一応、警察組織内にはそれなりに知れ渡ってるだろうし、私には伝手もあるもの。だから大丈夫。
 でも、そっちの人たちと萌芽は違うでしょう?だから、行くなら行っちゃって構わないわ……」

聞こえた声から察するに、少女は鈴木と話をするらしい。

「ありがとう。とても楽しかった!」

ならばもう起きてしまおう。
未だに乗っかっている鴨志田を蹴り飛ばして起き上がる。鴨志田は起きない。

「んー…おはよ。
そういう事だから決めちゃってくださいな。
私の今の仕事はあくまで『月崎真雪を月崎家本家に引き渡すこと』だもの。
…アンタらにはまるで興味は無いのよ」

そう言い、突然現れた四人組を追い払うように手を振る。
そして、萌芽に目を合わせた。

「坊やの言う事も最もね。
こんな風に現れた事…謝るわ。申し訳無かったわね」

鈴木は頭を下げ、でも、と続けた。

「着いて来てくれるなら、何故私があなたを知っているか教えてあげる。
ついでに月崎家が何故、真雪さんを探すか…っていう理由もね。
それでも、あなたが私に関わりたく無いのであれば…見逃してあげる」

真雪さんの居場所、本当に知らないみたいだし。
何時までもウダウダ疑って居るのは性に合わないのよ。
鈴木はそう言って、萌芽の決断を促した。

【鈴木:起きた。鴨志田:未だ半死状態。
鈴木→萌芽:どう決断しても良いよ】
【着いて来る→報酬付き依頼
着いて来ない→無関心】
【こんな事を言ってますがテナード組も参加OKです】
239渡辺 キョーコ ◆HrjFwxt9Tg :2010/11/16(火) 21:41:20 0
「……あ”あ?」
「ヒッ!」

お客様を起こそうとしたら、ドスの効いた声を浴びせられました。
怖いです。美人が台無しですお客様。
とにかくも注文を取って、厨房に引っ込みました。
再三落とさないように料理を運んで厨房に戻る途中、こんな言葉が。

「つまり、とりあえず公文の手頃な人物を拉致するのが手っ取り早いんですよ、簡単には内部にアクセスできる
人物……例えば私の右後ろの方でいびきを掻いてる喪女とか」

拉致の二文字を聞いてトレイを落としそうになりました。
危ない危ない、また失敗するところでした。
それにしたって、拉致。
この人達、実は結構危険な人なんじゃないでしょうか。

「お久しぶりです、榎さん」

危険な人の仲間らしき人が話しかけにいきました。
どうやら知り合いのようです。
談笑しながら席を移していきます。
そのまま拉致宣告をしていた人達と雑談を交わしあっています。

気になります。ものすごく気になります。
しかし無情にも新たなお客様の入店を知らせるチャイムが鳴ります。

むむむ、仕方ありません。
さりげなく脇を通る振りをして盗聴することにしました。
もし本当に拉致されるようなことがあれば、通報するしかないでしょう。
私は一般人ですから。一人でどうこうできるワケじゃありませんし。
一人決断すると、私はトレイを片手に新たなお客様に笑顔を向けました。

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

【接客をしつつ、ユーキャン組の話を盗聴】
240エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/18(木) 20:08:20 0
私達は今、『したらばホール』という場所にいる。
厳密にいえば、したらばホールから数百メートル離れたバス停だけど。

>「さて、ここへ来るにあたって僕が参考にしたサイトでは『文明市』には絶対に、間違っても、神に誓って、
 ――『家族連れで来るな』と警告文が添えてあった。何故だか分かる人ー?」
>「犠牲者増加ノ対策カ」

タチバナさんの問いかけに対して即座にハルニレさんが答える。
それに満足したのか、タチバナさんは言葉を続けていく。

>「ここにはこの街きってのアウトロー達が『文明』を求めてやってくる。
 そんな彼らが望み通りの文明を得て、ホクホク気分で会場を出て、まず最初にやりたいことと言ったら……?」
>「『試し斬り』……?」
>「左様。彼らはアウトローで、それ故に他者を犠牲にすることに抵抗がない。
 戦闘系の文明を手に入れた直後に『家族連れ』を見かけたらば、独り身の彼らのことだ、妬みも含んだ加虐の炎が宿るに違いない」

ゴクリと生唾を飲む。タチバナさんの話から予測するに、そんな人達に会って真っ先に狙われるのは……
ゼルタちゃんや弓瑠ちゃんやペニサス様だ。勿論、私もその中に含まれる。もしかしたら、線の細い琳樹さんだって狙われる可能性がある。
死人は出すべきではない。特に、異世界人は。私達の目的のために。

>「そして、ああ!?最悪なことに僕らは傍から見れば家族連れだ!これはもう、覚悟を決める他あるまいね……!?」
>「ソウ言ウ割ニ楽シソウダナ、オマエ」

で、何でこの人達はノリノリなのかしら。まるで「喧嘩しにきました」みたいな表情。

「嫌な予感しかしないッスね、エレーナ様」
「変なフラグ立てないで頂戴!」

ややこしいことに巻き込まれないといいけど…………。

>「ホワイッ!?」
「ちょっ、どこ行くのよォ!?」

早速『ややこしいこと』の予感。流石あのTに瓜二つなだけのことはある。
嗚呼もうあの空間だけ空気がヤバい。ヤバいを通り越してもうヤバい。

>「テメェかァ!俺の後輩にカツアゲかまそうなんて舐めたこと考えくさった奴はァ!!」
「「あああああああああやっぱりいいいいいいいい!!」」

ドルクスと悲鳴が被った。向こうは敵意を剥き出しにタチバナさんにメンチを切っている。
それでも涼しい顔で面と向かっているタチバナさん。そして振り返って肩を竦める。

>「ああっなんということだ!僕としたことがうっかりミスで君たちをこんな暴力の渦中へと導いてしまった!
> かくなる上は君たちの秘めたる力を開放し悪辣の者共に抗う他ない!頑張れ君たち!」
「って全部私達に丸投げかいいいいいいい!!」

間髪入れず私のツッコミがタチバナさんの頭部に決まる。
クッ、つっこむにつっこみきれない。あれ?私こんなポジションだったっけ?

カチリ。

「な…………!」
>「……驚いた。買って即日使用OKなのかね。そういえば適合者が持てば『因子』の蓄積が早くなるという説を見かけてことがある。
 なるぼど『文明市』では、適合者が触れた途端に『文明』が発生するように因子量を調整してあるのか」
「冷静に分析してる場合!?早く逃げるか防御……」

タチバナさんの後頭部に密着するように突きつけられた拳銃型の文明の銃口。
こんな状況でも薄笑いは崩れない。どんな神経してるのやら――――…………
241エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/18(木) 20:09:58 0
「え?」

空に木霊する腹に響く音、誰かの手によって瞬時に塞がれた視界。
それでも、頭蓋を打ち抜かれたタチバナさんが、グラリと倒れる瞬間までは見た。
見えてしまった。目の前で、『彼』が死ぬ瞬間を。

「タチバナさん!タチバナさああああん!」
「いッ……嫌ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

視界は暗いまま、ゼルタちゃんと私の絶叫が響く。
パニックから身を捩じらせる目頭が熱くなる吐き気がこみ上げる。
熱い何かが激流してぐるぐるしてああああああああああ!!

>「そこのお前!ソイツの仲間か!?」
>「ソウダガ、何カ?」
>「じゃあ死ね」

もう一発銃撃音。そして何か倒れる音。
がむしゃらに暴れて視界を塞ぐ手を剥ぎ取った。

「ハ、ル、あああああああああ!!」

見たことを、後悔した。今度の犠牲者は、ハルニレ。
ゼルタちゃんが弓瑠ちゃんを抱きしめて視界を覆っていたけど、幼い彼女にも何が起きたか理解できたようだ。
絶叫し、離せと殺すぞとゼルタちゃんの体を力の限り殴りつけている。

「タチバナさ、ハ「エレーナ様離れて!」

タチバナさんの死体に近寄ろうとして手を引かれる。
もう一度身を捩じらせて駆け寄ろうとしても叶うことはない。
500年も城に引きこもっていた私に、人の死はあまりにも唐突でショックだった。
頭の中で、熱い何かが沸騰して溢れだしてしまいそうだった。

>「さて、次は誰が……」
>「――――――――――――――――――――――……ッテエナオイ。イキナリ何スンダコラ」
「…………………え?」

もう二度と聞く事が出来ない筈の声が聞こえた。幻聴か。でも、男の拳銃を掴む手は、死んだはずの人間のもの。

>「俺ヲ銃的カ何カト勘違イシテネエカ?エエ、オイ」
「ハルニレ!?」

ケロリとした顔で――……強いて言うなら不機嫌そのものの顔で、ハルニレは起き上がった。
確かに撃たれただろうに、どうして彼は生きてるのか。でも、そんなことは今はどうでもいい。

「ペニサス様!私達をQ幹部長の元ヘ!彼(女)なら何とかしてくれる筈だわ!」

今はタチバナさんの治療と、弓瑠ちゃんの保護が第一優先だ。
242ドルクス ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/18(木) 20:15:02 0
平静を取り戻したエレーナ様は、ペニサス様に指示を出す。成程、ペニサス様なら大人数でも乗せる事が出来る。
それにエレーナ様はQ幹部長の顔が分かる。なら話は早い。俺は目の前の男たちを一掃するだけ。

「エレーナ様、命令を」

ブラックサバスへと変貌したペニサス様に跨り、エレーナ様は俺の目を見る。
薄い桜色の唇から、『命令』は出された。

「命令よドルクス、『その男達を倒しなさい!』」
「…………………仰せのままに」

エレーナ様達を乗せたペニサス様が、したらばホールへと向かっていく。
俺は背から翼を生やし、臨戦態勢。すると、ドスアウトロー達の中の一人の長髪の男が、一歩前にでてきた。
風貌と周りの態度からして、どうやら一団のリーダーのようだ。

「手前、俺らのダチに手ェ出しといてタダで済むと思うなよ…?」
「その台詞、そのままお返しするッス」

視線が交差する。長髪が拳銃を拾い上げて初めの一発が、戦闘開始の合図だった。
俺は飛翔し、照準を定めて真言を唱える。
すると、両掌からそれぞれ火の玉が出現する。それを長髪に向けて、勢いよく放った。

「当たるかよ」

長髪は跳躍すると、なんと俺が飛んでいる位置まで飛び上がって静止する。
普通の人間が飛べる筈がない。だとすると…………。

「文明を使えば、空も飛べるんスね」
「正しくは『重力制御』だな。俺の周囲の重力を限りなく無に近くしてるんだよ」

長髪は笑みと同時に撃ってくる。俺がすかさず出した炎の盾で、銃弾は溶けて消える。
あの銃は下でノビている奴だけでなく、彼にも適合しているらしい。厄介だ。

「!? ど、どこへ……ッ!!」

炎の盾を解除した時、男の姿が消えていた。回りを見回すけど、どこにもいない。
一体どこへ?刹那、頬に一瞬だけ焼けつくような痛みを感じた。

「偏光隠匿《ミラージュラップ》さ。どこにいるか分かんねーだろ?」

姿が見えないのも、どうやら文明の力のようだ。
俺は決断した。彼を先に倒さなければ。先程の男と違い、男には『重力制御』や『偏光隠匿』という強みがある。
ところで、文明と向き合って気づいたこと。文明とは、俺達の持つ魔力と酷似したエネルギーだ。
いいや、寧ろこれは魔力そのものと言ったほうがいい。気配が魔力と全く一緒なのだ。
どこからか、男の嘲笑が混じった声が聞こえるが、俺は気にせず、意識を集中する。「気配を探る」。
朧な気配が、集中するにつれてその存在を濃くしていく。数ある魔力の中から、更にそれらしい魔力を『探す』。空中にある、『一際濃い』魔力を。

「――――――――……見つけた」

何もない空間に向けて、俺は微笑んだ。空に向けて手を翳し、再び両掌から炎の玉を出現させる。
そして、それを長髪がいるだろう空間へと……今度こそ、放った。

「アグァアあああああッ!」

直撃を知らせる長髪のものらしき悲鳴が上がり、ドサリと地面に落ちる音がした。
しかと長髪を捕えたらしく、炎の玉は蛇のように伸びて、円状にぐるぐると『何か』に巻きついている。
炎上だけに、なんちゃって。
さて、エレーナ様達は無事に着いただろうか?
次々に襲いかかる雑魚達を足でいなしながら、考えるのはエレーナ様の事だけだった。
243エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/18(木) 20:17:52 0
「Q!Q幹部長!」

ペニサス様に跨った私達は、したらばホール内を飛び回っていた。
何人もの人達が何事かと私達を見上げている。その中を、私は目を皿のようにして彼(女)を探す。

「おい、エレーナ!」
「! 幹部長!」

見つけた。思いの外あっさりと見つかった。
一つだった髪を二つに結わえ直しているところ以外は、朝見た格好のままだ。

「あまりその名前で呼ぶな!目立つだろう!」
「ごめんなさい、でも……」

蝙蝠姿のペニサス様が一歩前に出て、動かないタチバナさんを床へと下ろす。
仮面越しからでも、彼(女)が動揺したのが分かる。

「その…彼は……?」
「詳しい説明は後よ!銃でやられたの、何とかして!」

Tと瓜二つの容姿に驚いているんだろう。勿論、銃で撃たれたという要素もあるだろうけども。
Q幹部長は考え込んでいる。何か、迷っているようにも見える。

「助けてくれるんでしょう?ねえ!」

こんな時、私は魔法があるはずなのに何もできない。もどかしい。

「…そこのデカイ蝙蝠、俺とコイツ等を隠せ。……そう、良い子だ」

ペニサス様は黙って幹部長に従い、私達を大きな翼で隠す。
幹部長は何かを決心したかのように、両手をペキポキ鳴らし、タチバナさんの頭部へと翳す。

「言っておくが、助かる保証はせんぞ」

じわ、と幹部長の手から汗が浮かんだ。その時、幹部長から『気配』を感じた。

「(まさか…………医療魔法?)」

馬鹿な。彼(女)は人間だ。それは断言できる。なら何故、彼(女)は魔法が使える?
文明でない事は確かだ。それだけは言えた。しばらく間を置いて、彼(女)は掌を返し、尻餅をついた。

「出来る限りの事をした。後はコイツ次第だ」

タチバナさんの頭部を見やる。傷は癒えて血色は戻っているけど、動く気配がない。
知らず内に、私はタチバナさんの手をとっていた。

「―――――――――――ねえ、起きてよ、『―――――』……?」

自分でも無意識に何かを呟いて、私は我に返る。

「(……………今、私………………………………)」


…………………………………………………『誰』の名前を、呼ぼうとしていた?


【エレーナ&ペニサス→弓瑠ちゃん達を連れてしたらばホール内のQ幹部長の元ヘ】
【Q幹部長→タチバナさんの治療。異能フラグ?】
【ドルクス→雑魚を一掃中】
244竹内 萌芽(1/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/21(日) 17:34:44 0

「アレじゃ分かんないでしょ!…ねえ2人共、この女の子、知らない?」

「知りません。もしんば見かけていてもこんな小さな女の子が一人でいるなら交番に案内しているわ」

目の前で、ひとりのおっさんとふたりの少女が話している。
その様子を見ながら、しかし萌芽は未だに緊張を解かない。

目の前の男の一人、テナードと、その後ろにいる前園久和のことを萌芽はたしかに知っていた。
どういうわけだか今は”普通の人間”のような姿になっているが、
存在そのものを捕らえる萌芽の”感性”を持ってしてみれば、
外見上の変装など彼の前では殆んど意味がないと言っていい。

だから、彼が疑っているのはテナードと久和が本物かどうかということではない。
問題は彼らが『進研』側の人間であるということなのである。

「僕も……知りません……」

小さく呟きながら、萌芽は考える。
自分は、彼らのことをよく知らない。
だから『進研』の関係者かもしれないという可能性がある以上彼らを完全に信用することはできない。
少し面識がある相手ですらそうなのだから、目の前の小さな少女などなおさらだ。

今のところ目の前の彼らは零が異世界人であるという事実には気付いていないようだが、
それに気付いた瞬間、掌を返したように零の敵にならないとはいえない。
どうすれば……

”もーる”

自分は、一体どうすれば……

”もーる! もる!!”

(ああ、もうなんですか!! 人が真剣に考え事をしてるときに!!)

なにやらうるさい相棒に、萌芽は心の中で怒鳴る。
まったくちょっとは空気を読んで欲しい。

”おまえさ、さっきからちょっと疑い深くなりすぎ”

「お?」

”まわりをよく見てみろっつってんの”
245竹内 萌芽(2/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/21(日) 17:36:46 0

言われて萌芽は周りを見回す。
目に映るのは人間の姿になったテナードと久和。
それと顔や身長の見た目につりあわない身体の成長をした少女。
あと後ろで寝てるおまけ二人と、周りを取り囲む自称SP達。

”ちげーっつーの、そっちじゃなくて!”

「おー? ……お」

そこで、萌芽はやっと零の表情に、こころなしか陰りが見えることに気がついた。
目の前で色んなことがいっぺんに起こったから、彼女もまいってしまっているのだろうか?

「さて……萌芽はどうする?私はこの人たちを「説得」しようと思うのだけども……
 この人たち、知ってるんでしょ?このままいくと面倒な事になりかねないわよ。「アナタ」も含めて」

どこか元気の無い表情のまま、零が話しかけてきた。
と、ふいに目を剃らされる。
一瞬だけ彼女の表情がうかがえたが、よくは分からなかったのだが、
その顔を見ていて萌芽は何故か―――

「一応、警察組織内にはそれなりに知れ渡ってるだろうし、私には伝手もあるもの。だから大丈夫。
 でも、そっちの人たちと萌芽は違うでしょう?だから、行くなら行っちゃって構わないわ……」

目を剃らしたまま、早口に言う彼女。
萌芽は、ゆっくりと彼女に歩み寄っていく。

「ありがとう。とても楽しかった!」

なんだか無理やり作ったような笑顔。
ちがう。そう萌芽は思った。
自分はこんな風に彼女に笑って欲しくはない。だから……

「……誰が一緒に行かないなんていったんです?」

全身に触れる、暖かい彼女の温度。
気がつけば、萌芽は零を抱きしめていた。
理由は特に無い。強いて言うなら、なぜだかそうしないと彼女が壊れてしまうような……
そんな気がしたからだ。

「まったく、大体まだデートの途中じゃないですか。勝手に終わらせないでください
 そういうとこ、君の悪いクセですよ?」

零の耳元に口を寄せ、萌芽は静かな、しかし温かみのある声でそう言った。

「それとも、僕じゃデートの相手として不足だとでも?」

少し意地悪な調子でそう言って、萌芽は笑った。
246竹内 萌芽(3/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/21(日) 17:39:37 0

”他人を愛すと、ヒトは弱くなる。でもだからこそ人は強くなんないといけないんだぞ”

(うるさいですね……言われなくてもわかってますよ)

守ってみせる。今自分の腕のなかに居る大切なヒトを。

『人の心は完全に理解はできないから、自分の基準でみんなと寄り添えられればそれで良いと思う』

ふいに、昨日彼女に言われたことが頭に響く。
萌芽は、その言葉の意味を今少しだけ理解できたような気がした。

ふ、と萌芽の視線が倒れていた凸凹コンビ(仮)の方に向く。
なんとアンシャス鈴木と名乗った女性が、目を覚ましていた。

「んー…おはよ。
そういう事だから決めちゃってくださいな。
私の今の仕事はあくまで『月崎真雪を月崎家本家に引き渡すこと』だもの。
…アンタらにはまるで興味は無いのよ」

「……」

男のほうを蹴り飛ばす女性に、萌芽は警戒を解かない。

「坊やの言う事も最もね。
こんな風に現れた事…謝るわ。申し訳無かったわね」

「いえ……僕の方こそ少し神経質になってしまったみたいで……
 よく考えたらあなた方が零の敵なら、僕が倒せばよかっただけの話ですもんね」

さりげなく下の方の名前で呼んでみる。
まだ慣れないが、それが彼女の今の名前だというなら、自分が呼ばない道理はないだろう。

「着いて来てくれるなら、何故私があなたを知っているか教えてあげる。
ついでに月崎家が何故、真雪さんを探すか…っていう理由もね。
それでも、あなたが私に関わりたく無いのであれば…見逃してあげる」

女性の言葉に、萌芽は決意を固めた。

「それにはおよびません。
 ついて行きますよ、僕もようやくまた真雪さんに会う決心ができたところですから」

今ならきっと素直な気持ちで彼女に「ごめんなさい」が言える。
そしてきっと、「ありがとう」も。

もし目の前の彼女たちが、真雪や零の敵になるのであれば、そのときは自分が守ろう。
誰かを好きになってしまった今、自分はきっともっと強く在らなければならないのだ。

そう萌芽は思った。

【ターン終了:またせてごめんね!!】
247テナード ◆IPF5a04tCk :2010/11/21(日) 22:01:19 0
>「知りません。もしんば見かけていてもこんな小さな女の子が一人でいるなら交番に案内しているわ」

目の前の少女からの「NO」の即答に、ミツキとテナードは毒気の抜かれたような表情になった。
少し考えてみれば、少女が言うことも最もだ。

>「僕も……知りません……」

少女の隣で、小さな声で萌芽も同じ答えを発する。
ミツキとテナードは顔を見合わせ、同時にガックリと肩を落として溜め息をついた。

>「それよりも、私はこの人たちをどうにかした方がいいと思いけど……
 それに、この人たち警察らしい上に職務中みたいですよ?」

少女に言われ、テナードは自分達が敷いてしまった男女を見る。目を回している男女も、取り囲む他の男達の姿格好や気配。
それらを見て、警察よりはマフィアに近いななどと思った。

>「さて……萌芽はどうする?私はこの人たちを「説得」しようと思うのだけども……
 この人たち、知ってるんでしょ?このままいくと面倒な事になりかねないわよ。「アナタ」も含めて」
>「一応、警察組織内にはそれなりに知れ渡ってるだろうし、私には伝手もあるもの。だから大丈夫。
 でも、そっちの人たちと萌芽は違うでしょう?だから、行くなら行っちゃって構わないわ……」

早口気味で言う彼女の様子を、テナードは少しだけ疑問に思う。
そして少女が、萌芽に無理矢理作った様な笑顔を向けた時だった。


『「ありがとう。とても楽しかった!」』

「(―――――――――――――――ッ!?)」                              ズキリ



頭の奥深くで、針か何で刺されたような痛みを覚えた。
眉間を指で押さえる。胸の奥が焼けつくような感覚を無理やり押さえつける。
まただ。この感じは似ている。覚えがある。

そう、カズミと出会ったときの、あの感覚によく似ている。

>「……誰が一緒に行かないなんていったんです?」

その時、萌芽が動いた。少女を後ろから、壊れモノを扱うかのように、優しく抱きしめる。
そんな萌芽の表情を見、焼けつくような感覚が瞬時に戻ってきた。
テナードは見ていられず、目を逸らす。

「てなしゃん…………?」

ミツキの不安そうな声が彼の耳に届き、ゆっくりと見下ろす。
テナードを見上げるミツキの目には、少なからず恐怖が滲み出ていた。
248テナード ◆IPF5a04tCk :2010/11/21(日) 22:11:19 0
その時、今まで気絶していた男女の女の方が起き上がり、未だ気絶したままの男を蹴飛ばす。
言葉通り本当に興味がないらしく、蝿を追い払うような仕草を見せる。
テナード達は眉を顰めながらも、彼らの会話を傍聴する限り、どうやら萌芽達は、女に着いていくということで話はまとまったらしい。

「あー……話も終わったみたいだし、ちょっといいか?」

苛々とした声で声をかける。念のために、SP達にも『娘』の写真を見せる。が、見た者は誰もいないらしい。
萌芽へと向くと、テナードは幾らか声のトーンを落とし、あくまでも萌芽にしか聞こえない声で囁く。

「もし、この娘を見たら直ぐに教えてくれ。あのボスとやらが探してるみたいだからな」

彼が娘を見つける可能性は低いだろうが、言うに越したことはない。
それだけだ、と言い残して立ち去ろうとし、アンシャス鈴木へと視線を向ける。

「お嬢さん、さっきは悪かったな。重かったろ?」

そして再び萌芽を一瞥し、久和達に「行くぞ」と声を掛け、その場を後にした。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「てなしゃん、てなしゃんってば!」

新市街地の繁華街の中、大勢の人が行き交う中、テナードは大股で歩く。
その後ろを、ミツキ達が息切れつつも追いかける。101型もミツキ達に合わせて追いかける。
悲鳴に近い声で呼びかけるミツキに、テナードは舌打ちして振り返る。

「何だ?」

「何だじゃないよてなしゃん!さっきから変だよ?」

ミツキに諭され、テナードは喫茶店のガラスに映る自分の顔を見つめる。
眉間にあらん限りの皺を寄せ、普段開かない瞳孔が開ききった顔を見て、道理ですれ違う人が脅えた目で自分を見るわけだ、と自嘲した。
理由は分かっていた。さっきの萌芽の、少女に対する態度のせいだ。

焼けつくような感覚と入れ替わりに、どす黒い何かが腹の中で渦巻いている。
萌芽が零と呼んでいた少女に対する声に、視線に、優しい態度に。決して今までも、そしてこれからも自分に向けられる事はない温かみ。
『嫉妬』、あるいは『羨望』か。
それらに似たような何かを、萌芽と零に対して抱いている己に気づいた。

ふと、ガラス越しに客と目が合う。周りの楽しそうな雰囲気に囲まれている一人の男。
彼もまた、愛情を受け、愛情をかける一人なのだろう。恨めしい。羨ましい。八つ当たり紛いの感情をこめて睨む。
男は男で、何だ、と言いたげに睨み返してきた。糞が、と小さく呟き、視線を逸らす。

「…………おい、久和はどうした?」

「へ?くわりゅーならそこに……」

ミツキが振り向く先に、久和は居ない。久和が迷子になった。理解するのに、時間は要らなかった。
目の前の喫茶店を見上げる。Cafe・Takaoka。英語で書いてあるため、テナードにも理解できた。
その字をしっかりと覚え、テナードは背を向ける。ミツキは彼の行動に目を丸くした。

「久和を探す。お前達はここで待ってろ!」

人通りは多く、探すのは困難だろう。だが、探さねばなるまい。
久和は仲間だ。例え、出会ってたった一日しか経っていなくても、親交が深くなくとも。
一人だけでいる寂しさや、涙を零すほどの孤独は、痛いほど理解しているつもりだ。

「絶対見つけてやるからな……!」

今朝方に久和が流していた涙が、何故だか脳裏に焼きついて離れなかった。
249テナード ◆IPF5a04tCk :2010/11/21(日) 22:14:50 0
【追記】
【テナード:中の人の事情により、迷子になった久和君探し】
【ミツキ&101型:Cafe・Takaokaの前に放置されっぱなし】
250訛祢 琳樹 ◆cirno..4vY :2010/11/21(日) 22:53:42 O
「ねえ、琳樹。戦わないの?」

「私が戦ったところで何になるの?役には立てないさ」

「私が居るのに」

「お前が居ても変わらない。キチガイ女、否、くぅだったか?」

後ろから敵の攻撃を受けたその瞬間、彼の雰囲気が変わった。
咄嗟に後ろを向き、自らを攻撃した敵を蹴り上げる。
目を瞑り、一回二回三回、と腹を踏みつける。相手が苦しそうに呻いても気にせずそのまま。

「玲奈の為、これも全て玲奈の為だ」

倒れている相手の事など見えていない様に吐き捨てるように呟き、普段の彼とは比べ物にならない冷たい眼差しを送った。
しかしエレーナが一緒に居るであろう巨大な蝙蝠の方を見るその時だけは優しい、どこか懐かしむような瞳で見つめる。
自分に群がる男達をなぎ払いながら、であるが。
勿論文明の攻撃を無効化等出来る筈も無く、敵を倒しながらもその肉体は傷付く一方である。

「……久し振りだな、玲奈。俺はこの日をどれだけ待った事か!」

「嗚呼、たとえ俺の知る玲奈じゃなかろうと今度こそはお前を守ってみせる。今度こそ死なせない……」

だから

「俺から離れないでくれよ!玲奈ぁ!」

その冷たい瞳から一筋の涙を流し彼は叫ぶ。
この世界には自分と彼女しかいらない、と主張する。
私では無く、俺。魔法も使えない、"私"より劣った訛祢琳樹という存在。
それが今更出てくるなんて、

「都合がいいわね、ねえ、早く私の琳樹に戻ってよ?」

そう、烏は鳴いた。


――そうさ、なんて都合の良い。
今まで死の世界に引きこもっていたのに、最愛の人が傷付けられた途端私を押し込めるのかい?
ねえ、臆病者。


【訛祢琳樹:私→俺。第二人格と見せ掛けてこっちが主人格という罠】
251シノ ◇ABS9imI7N:2010/11/24(水) 22:05:23 0
ジョリーに促され、長多良が電話をかける。
電話機越しでも、シノには何を言っているのかは聞こえた。
静寂の中電話を切り、長多良は言う。

>「……と言う事らしいですよ。この件は旧市街の連中にも知らせるといいでしょう。
 それと……ビッチ系ビッチさん。確かあそこの……ん?あぁ、どうやら席を移したようですが、
 貴女のお姉さんは公文の人間でしたよね。不仲である事はさっき聞きましたが、接触してそれとなく
 学研や進研について聞き出す事は出来ませんか?え?殺される?またまたご冗談を」

長多良の澄まし顔に対し、ジョリーは蒼白の表情だ。
そんなに恐ろしい姉なのか、とシノは逆に感心した。
ミーティオに連れられて姉の元へ向かうジョリーを見送る。
その時、不非兄弟が「あ」と小さく声を漏らす。

『思い出した!』

「何をですか?」

『リッカってロリ、どっかで聞いたことがあったと思ったんだ!』

不非兄弟はシノの腕を興奮気味に叩く。
シノはそれを抑え、誰にも見られていないことを確認して耳を近づけた。

『俺達、BKビルでそのロリに会ったんだ!仲間と一緒にいた!』

「えええっ!?」

シノは驚きのあまり大声をあげ、周りの客の視線を集めてしまった。
ごめんなさい何でもありませんと頭を下げるのを終え、シノは再度不非兄弟に耳を近づけ、続きを促す。
最初に言い出したのは希射だ。

『そいつら、テナードとかいう猫頭とかカズミだっけ、変なメガネのガキとかと一緒にいた』

すると、雅魅の声が割り込む。

『テナードってやつなら俺も知ってる!久羽さんと一緒にいた!』
『はぁ!?なんでそれを早く言わないんだよ馬鹿雅魅!略してバガミ!』
『何だよバガミって!全然上手くないから!』

ひとつのぬいぐるみの中で、二人の兄弟の喧嘩が始まった。
蒼い右目を左腕が殴り、碧の左目が右ストレートをお見舞いする。
シノは耐えられず、ぬいぐるみ達を無理やり押さえつける。

「お、お腹が痛いんで、ちょっとお花摘みにいってきます!」

誤魔化し笑いを浮かべ、シノはトイレへと駆け込む。
周りの数人は奇異の目でシノを見ていたが、あまり気にもとめていない様子だった。
252シノ ◇ABS9imI7N:2010/11/24(水) 22:06:06 0
トイレの個室の一つに駆け込む頃には、兄弟の喧嘩は収まっていた。

「もう・・・・・・!人が見ているのに喧嘩しないでください!」

『『ごめん』』

シノを怒らせると怖いと知った彼らの反省したらしい、兄弟の声がハモる。
怒る気力も失せたシノは、少し悲しそうに不非兄弟を見た。

「ひとつ、聞いていいですか?」

『『何(だ)?』』

雅魅と希射の声が同時に答える。

「昨夜、何で私を助けてくれたんですか?」

レンとの戦いを思い出す。あの時、既に複合体は完成していたのだろう。
兄弟達は複合体に取り込まれなかった。その気になれば、転生だって出来た。
にも関わらず、ああしてシノを助け、そして今も一緒に行動している。

「恨んでませんか?あなた達をゾンビにした私を、恨めしいと思ってませんか?」

間。

『何でって、ねえ』
『何でお前を恨まなきゃなんねーのさ?』

兄弟は形容しがたい声色でシノを見上げる。
希射に至っては、少し呆れも入っていた。

『決まってんだろ、俺達は流石な不非の双子だぜ?』
『それに、キミはもう一度俺達に命をくれた。死んでも尚、俺達はチャンスを得た』

チャンス。チャンスとは何だろう。シノは静かに二人の言葉を聞いた。

『俺達、死んだショックで、思い出したんだ。俺達が何者なのかを』
『俺達も異世界人なんだ。幼いころ、こことは違う世界から来た』

シノは耳を疑った。異世界人。彼らが、自分と同じ、異なる世界からの来訪者。

『俺達は帰りたい。元の世界に』
『一生と、久羽さんと、四人で!』
『だから、今はあんた達に、タチバナ達について行く』
『タチバナさんが、もしかしたら一生さんかもしれないしね!』

二人の話を聞き終え、シノは黙考する。
彼らが異世界人だとしたら、転生せず、自分に応えた理由が分かる気がした。

「・・・・・・分かった。ひとまず、このことをタチバナさん達に知らせないとね!」

ほんの少し心のつっかえが取れ、シノは心から笑顔を見せる。
早くこのことをタチバナや他の人たちにも伝えねばなるまいと、シノは急いでトイレから飛び出した。

【不非兄弟が元の世界の記憶を取り戻したよ!
 テナードとか久羽さんとか色々情報を得たよ!】
253佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/11/24(水) 23:49:53 0
「……」

あれから少しして、零と萌芽は黒塗りのバンの中で鈴木の説明を受けていた。
と言っても、説明と言える様なものではなく、どちらかと言うと内容的には彼らの知っている事だった。

「つまり、あのBKビルの中で行方不明になったって事よね?
 けど、あのビルは事後……警察が包囲している……すみません。写真てありませんか?」

その質問に鈴木は行動で返答する。
差し出された写真を眺め、零は表情を曇らせた。

「これは又、ヘヴィな……この子なら、私も知っています。
 けど、場所についてですが、あなた達が知らない筈は無いのですが……」

先ほどよりもさらに渋い顔をしつつつ、前髪をかきあげる時のように額に手の平を当てる。
手渡された写真に映る人物は先日、零がBKビルで出会っていた人物。それも、ヘリコプターに同乗させた少女だったからだ。
そう、同じ警察機関の人間なら当然、彼女が向かった病院を知らなければならない。だが実際には違う……
どうしたものかと思案する零。
考えられる内容としては彼女達と都村では管轄が違う為情報統制がなされているかもしれないと言う事だ。

「電話、良いですか?
 もしかしたら公文の方で何か掴んでいるかもしれませんし」

そう告げ、彼女はためらい無くトップから連絡先・都村を選択しcallする
けだるげな女性の声で歌われる待ち歌がサビに入った瞬間。回線が開く。

『はい。都村です……どちら様ですか?』

「佐伯です。実は今……」

開いた回線の先の都村に向け、零は今までのいきさつを説明始める。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「以上が公文で掴んだ足取りです。つまり要約すると、私のせいで行方不明になってしまったと言わざるおえないわね。
 本当にごめんなさい。どうしてあの時に止めてなかったのかしら……」

そう締めくくり、零は鈴木達に事の顛末を伝えた。
254佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/11/24(水) 23:50:34 0
彼女が聞き、そして伝えた事の顛末とは簡潔にいえばこうだ。

昨日の一軒で零達が送り出したヘリコプターだが、あれはやはり公文関係の物ではなかった。
又、そこで出会った人物。素直昂瑠女史も別人であり、恐らく兔と呼ばれる文明犯罪者と予想され、零達は彼女の文明に騙されていたと言うのだ。
そして、問題なのはここから。
件の真雪嬢であるが彼女は兔達が逃走する為のヘリに同乗してしまっている。
それ故に、彼らSP達は気がつかなかったと言えるが、その行き先が分らないのは公文も一緒なのだ。

「ただ、相手の出方から考えて真雪さんとその友人の方に危害が加えられる事は無いと思います。
 恐らくは、どこかに置き去りにしたとかが確率的には高いと思うのだけれども……」

そんな事は希望的観測にしか過ぎないと分っていても、零は言葉にして吐き出してゆく。

「それなら、連絡があってしかるべきなのよね。
 でもそれが無い。なら、監禁、されているってことも有りうるわ」

そこでいったん言葉を区切る零。
正直な話として、今の状況で彼女が言えるのはその程度までだった。
せめて何か手掛かりがあれば、と思う。
どんな些細なものでも構わない。何か突破口に出来るものがあれば幾らか変わるのだから。

はぁ、とため息をひとつ。そして首を振りそこでとなりに座る萌芽と目が合う。
先の萌芽のアプローチを思い出し、彼女は気恥ずかしさから目をそらしてしまう。

(もう……馬鹿)

この二人は先程からずっとこんな感じだ。
仕方ないと言えば仕方ないのだが、それ故にもどかしさが二人の間には漂う。
しばし、の沈黙の後、零はこの状況を打破しようと二人に向け声を掛ける。

「このまま考えても仕方ありませんし……何か、文明の集まる所などを捜して回るのはどうでしょうか?
 少なくとも、彼女を連れて行った人たちは文明に関係した人たちでしたし、もしかしたら手掛かりが見つかるかもしれません」

そこまで言い終え、零はそっと萌芽の手を握りしめる。

「それに、なにもしないで待っているって言うのは性にあわないんです」

【状況:鈴木さんにBKビル内でおこった事を説明。
    月崎家√と言う事もあるので基本的にお任せします】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】
255タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/25(木) 03:13:20 0
>「―――――――――――ねえ、起きてよ、『―――――』……?」

言われた通りに起きた。
頭を撃ち抜かれ、脳を破壊され、完全に心臓の停まっていたタチバナは、まるで目覚めのように『起きた』。
死者の蘇生という禁忌染みた現象にしてはあまりにも態然に、どこまでも超然に、何の感動も感慨もなく。

「おはよう諸君」

重心の移動を感じさせない滑らかな動作で身を起こすと、乱れたオールバックが何房か額に垂れてきた。
前髪を元の位置に戻す過程で、確かに後頭部から貫通したはずの額に触れる。乾いた血がこびり付いていた。
だが、無い。出血がある以上、そこに存在しなければならないはずの『銃創』が――後頭部のものと一緒に消えていた。

「ふむ。臨死体験と言えば走馬灯と相場が決まっているものだが、しかし何も見えなかった。悠然とした闇が広がるのみだ。
 あれだけ伏線を張っておけばここで回想の一つや二つ挿入されるものだと踏んで『死んでみた』のだが……フラグが足りなかったか」

表情を変えず、『饒舌に語る口以外のパーツを微動だにさせず』。タチバナは自分自身を述懐する。
髪を掻き上げ、頭に血を送るように二三回ゆっくりと回して、ようやく周囲の状況に目を留めた。
人死にが出たことでしたらばホール内は静まり返っているようだ。"ようだ"と言うのはタチバナの回りは薄膜のようなもので遮られているからだ。

「エレーナ君、蝙蝠君……そして君は、」

仮面に閉ざされた、男とも女ともつかない人影。タチバナの頭の傍に膝をつき、ついさっきまで手当てをしていたことが窺える。
タチバナはゆっくりと頭からつま先までを視線で撫で、仮面の奥に隠匿された何かを嗅ぎとるように鼻を鳴らす。

「――『お初にお目にかかるね』。君が僕を救ってくれたのかな?」

翼膜の外で断続的に展開されていた戦闘音が終逸し、戦禍の振動は大衆のざわめきにとってかわる。
誰かが駆け寄ってくる乾いた音が近づき、テントのように張られた翼をかき分けてゼルタが顔を出した。

「エレーナさん!タチバナさんは助かっ――てる? ……ええーっ不死身!?」

「いや、それがそうでもないようだよゼルタ君。僕はもしかしたら自分が死なないんじゃないかと常々思っていたのだが」

違ったようだ。タチバナは零した。
これは根本的な価値観の問題である。タチバナの出身――精霊指定都市SENDAIは科学が魔法と見分けのつかない世界。
『精霊』を始めとする現実改竄技術は世界全体を重大な認識不全に侵していた。科学技術の極致は人の生き死にすら制御できるのだ。

『死んだら生き返れば良い』

それがまかり通ってしまう世界。
RPGがそうであるように、呪文を唱えれば死人が生き返る。本当に、生き返る。

「アンタ馬鹿だよタチバナさん!ホントに死ぬなら死んじゃダメじゃん!死んだら終わりなら、死なないでよ!!」

ゼルタが握り拳でタチバナの胸を突く。何度も叩く。
温度のない肌。死人の手。二度と温もりを宿すことのできない、ただそこにあるだけの塊。

「タチバナさんまで死んだら、あたしとキャラ被るじゃんか……」

それ以上ゼルタは何も言わず、袖で目元を隠すとそっと翼から出て行った。
彼女なりの心配の仕方なのか、それとも本当にキャラ被りを危惧しているのかタチバナには計りかねた。

《ほんとにばかだよおまえは》

「……そうだね。僕は少し僕について配慮が足りなかった。自身のことは自分が一番よくわかっているつもりだったのだがね。
 ともあれ仮面君、君には命を助けられた。改めて礼を言うよ、ありがとう。エレーナ君と、それから蝙蝠君も」

タチバナは勢いをつけて立ち上がりテントから出ると、背後でペニサスが蝙蝠化を解いて仮面とエレーナを外気に晒した。
したらばホールは依然として外の惨状に静まり返っている。タチバナも様子を観に行くと、なるほど戦場もかくやな惨禍であった。
256タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/25(木) 03:14:10 0
タチバナの召喚したアウトローズ達は全員が戦闘不能、中でも一人は地に伏せ息をしていない。
外傷が見られないのは異能による攻撃だろうか。他にも炎に巻かれて喘ぐ男や、
リンキと名乗った青年とノーガードで殴りあっている者などバトル内容はバリエーションに富んでいる。

「あーはいはいやめやめ!これ以上ここで暴れるようなら強制手段に出るよっ!」

タチバナの背後、ホールの方から鋭く声が飛んできた。
振り返ればスーツ姿の男とその取り巻きが数名こちらに駆け寄ってくる。

「あーあーこんなにしちゃって。また公文に睨まれるじゃないか!まったく毎日こんなんじゃ胃がもたないよ!
 ケガ人がいるならこっちに!治療をしたげます。武井、吉原、いつものように処理しといて」

「ヤー、支配人」

「支配人、こいつ息してませんぜ!」

「なにぃ〜?おいおい勘弁だよこんなところで人死になんて今度こそ公文に言い訳できなくなる!」

支配人と呼ばれた若い男は頭を掻いて、懐から一枚の紙片を取り出した。
タチバナの位置からはよく見えなかったが、短冊状に紐の通ったそれは、本に挟む『しおり』に見えた。

「――『万象中断《ブックマークアヘッド》』!」

栞が明滅し、砕け散る。粒子のように細かくなった紙片は光の粒となってアウトローの死体を包み込んだ。
やがて光が終わり、死体が消えた。アスファルトに残ったのはうっすらと発行を続ける一枚の栞のみ。

「『死の進行』を中断させた。このまま病院に運んでやって!文明治療で助かれば御大、駄目でもウチの前で死なれた事実は消える」

(ほう、事象を中断させ保存する文明か。冷凍庫要らずじゃないか)

ぼーっと眺めて分析するタチバナを尻目に、支配人(おそらく文明市の責任者だろう)とその部下達は事後処理をてきぱきと進めていく。
ケガ人に文明治療を施し、通報をうけてやってきた警察に根回しし、そして騒動の原因をつくった者達を拘束しに回る。
当然タチバナの肩にも手が置かれた。支配人の不相応に若々しい相貌がぐっと寄せられる。

「君ら、わざわざ家族連れでこんなところに来たの?そりゃ同情できないな。それでこんな騒ぎ起こしてりゃ世話ないっつーか、迷惑?」

「それは申し訳ないことをしたね。なに、僕らとて悪気があってこんな事態にもつれ込んだわけじゃあないんだ」

(あるよ!悪気あるよ!思いっきり故意だよ!!)

後ろでゼルタが声にならない主張をしていたがまあそれには構わず、タチバナは慇懃に謝罪の意志を表明する。
支配人はふん、と鼻を鳴らして謝罪の気持ちだけ受け取ると、タチバナに団体の集合を求めた。

「休鉄会集合ー。ちょっと今からお説教食らいにいくことになったよ」

「いやいやお説教だけと言わず損害賠償請求も受け取ってくれよ!大サービスで迷惑料もつけちゃう!」

「ふふふ愉快なことを抜かすね君。申し訳が立たないから今から公文に出頭して洗いざらいを話し正当な裁きを受けよう」

「いやいやいや、いいんだよ?そこまでしてくれなくても。もっと大人の話し合いをしようじゃんか。言ってる意味分かるよな?」

「はははそれじゃあ僕の公序良俗遵守意志が許さない。ああ良心が疼く!ここで行われている『何を』目的に訪れたのか白状し、
 ついでに良心の赴くまま暴力に使用された文明を引っさげ国家機関に垂れこみたい」

「いやいやいや。――いやいや」

ピッ、と薄く風を切る音。
巻いた風に瞬きし、再び目を開くと――眼球から5ミリも離れていないところに扁平な何かを突き付けられていた。
この薄さは紙。紙片。支配人のスーツに挟まっていた栞が一枚消え、タチバナに突きつける右手の指先にあった。
257タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/25(木) 03:15:20 0
「……この場でゴネ得が通ると思うなよ。今すぐアンタの命を中断してやってもいいんだぜ」

「おやおや物騒だね。どうやら君は僕が悪質なクレーマー、モンスター消費者か何かだと思っているようだが甚だ勘違いだ。
 いいかい、僕達は――冷やかしだ」

「あー駄目だ。俺こいつ嫌いだわ『万象中d――」

そこで支配人の動きが止まった、身体の動きだけでなく、声帯も震わせられない。
金魚のように口をパクパクしながら、ぐるりと眼球だけを動かしてタチバナを見る。その背後のゼルタを見る。

「『見敵封殺』――だからそういうノーガードな生き方を改めろっちゅうのに、タチバナさん」

「ははは、ご苦労ゼルタ君。なに、君や皆が健在なうちは安心安泰安全だよ。後ろは仲間が護ってくれる」

「はいはい。で、どーすんのさこれから。文明市でこれだけ暴れちゃ――ってえ!?」

ゼルタの頭が激しく揺れる。彼女の後ろには更に男がいた。支配人の部下らしき彼は警棒でゼルタの後頭部を強かに殴りつけ、

「げ、なんだこの女スタン警棒が通らねえ……?」

状況は進行する。控えていた別の部下が支配人に触れ、その懐から栞を一枚抜き出して鍵語を唱えた。

「『万象中断』――! 支配人、大事ないですか!」

「あーヤバかった!文明効果を中断したのか、助かったよ!」

「ええ、流石に支配人ほど適合してないんで中途半端なんですが」

「いや、喉が動けばそれで良い。『万象中断』!」

支配人の身体が二度目の発光をし、その動きを十全に取り戻した。
気付けば休鉄会の面々は無数の黒服に囲まれ、その誰もが銃やナイフ、果てはペンやドライヤー等をこちらに向けている。

「抵抗しようなんて思うなよ、こっちはプロの文明遣いだからね。正規の文明訓練と文明戦闘のカリキュラムを納めてる」

制圧されていた。タチバナは逡巡の末ゆっくりと腕を伸ばし、ゼルタを助け起こすと両手を挙げた。
投降のジェスチャー。支配人は見事な七三分けの頭髪を指先で弄りながら他の同行者達の是非を見る。

「正規の訓練を受けている、と言ったね」

「ああ?うん、言ったね。言ったともさ」

「だがここはアンダーグラウンドだ」

タチバナの指摘に、支配人は再び鼻を鳴らした。
畜産現場を見て以来ベジタリアンに趣旨替えしたアメリカ人を見るような視線だった。
258タチバナ ◆Xg2aaHVL9w :2010/11/25(木) 03:16:40 0
「はーっ、なんだいそりゃ、おのぼりさんみたいな先入観だなあ。都会の水がみんな不味いと思ってるクチかい?
 美味い水道水があるように、綺麗なドブ川があるように、逆もまた然りさ。田舎の用水路だって生活廃水は流れこむっつの」

支配人はくしゃりと前髪を撫で付け、

「わっかんねえかなあ、リクルートしてるわけよ。天下りっつーの?公文とここは蜜月関係よ。ラブラブよ。
 だから君らが公権力にどれだけ俺たちのことを悪し様に訴えても、彼らは俺たちのこと嫌いにならないわけ」

お互いの良いところ、いっぱいしってるからね。
お子様にかんで含めるような、あるいは小学生がクラスメイトに語るような、そんな口調。
支配人の外見の幼さもあってそれは酷く優等生の理屈のように聞こえる。

「なるほど。素敵なお友達だね、同慶の至りだよ」

「でしょー?わかったらさっさと投降しなさい。君たちは完全に包囲されている」

「金ならあるがね」

タチバナが懐から取り出したるは諭吉札の束。
こんなこともあろうかとハルニレのカードを勝手に拝借し限度額ギリギリまで下ろしておいたのだ。
どの道文明市で使うと踏んで持ってきた金である。支配人は奇しくも同じモーションで眼前に札束を突き付けられ、

「――どんな文明が欲しい?」

あっさりと陥落した。

「金があるなら話は別だよ。これだけあれば損害賠償を補ってA級の文明が5、6つは用意できる。
 金がある以上は客だからね。少しでも多く金を落としてもらうために、ここは支配人の俺が直々に接待したげちゃう」

支配人が指を鳴らすと、黒服の部下達はモーセの如くさっと包囲を割ってどこかへと潮のように引いていく。
あとに残ったのは休鉄会と、口をあんぐり開けている売人達と、慇懃に腰を折った支配人のみ。

「――ようこそ『文明市』へ」

金の力ってスゴイ。そう思った。


【NPCバトル終了。文明市支配人が事後処理】
【支配人はNPCとしてお使い下さい。欲しい文明を伝えれば用意と適正検査をやってくれます】
【戦力増強にどうぞ】
259尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/11/25(木) 22:56:59 O
【寡頭の雑談について、つづれ織りの記憶】

さてと、どこから説明しようか。
そう言って、朝日は机に両肘を突き、顔を両手で覆った。静寂の後、どこかで行われているらしい工事の音が耳
に付き始めた頃に、「よし、歴史からにしよう」と頷き、朝日は口を開いた。
「今から、大体十年前。まだ文明の“ぶ”の字も出てなかった頃の事だ。
インターネット上の、とある匿名掲示板。そこの、主にオカルティックな話題について話し合われる板に、その
コテハンは現れた。
奴の名は『ブーム』。ひらがなでしか書き込みをしない、“自称”未来人だ……」
三ヵ月後。その男は幾つかの予言を残して、“目的を達成したので帰還する”と言う旨の書き込みを最後に姿を
消した。より正確にはピンポイントで焼かれたのだが。荒しの常連でもあったのだ。奴には煽り耐性がこれっぽ
っちも無かった。
まあいい。
予言のほとんどは当たった。地震、疫病、戦争、科学的に重大な発見。
そう、文明もだ。
「余りにも予言が当たるから、道楽者の考古学者がお遊びで文明を探して……、そして掘り当ててしまった」
ところで、新しい物が見つかったときに、人間ってのは最初に何に利用しようとすると思う?朝日は唐突に俺に
質問した。
建築?医療?探検?いやいや

「戦争」

文明は空間を伝って、世界中のどこででも採集できる物質だ。どんなに貧しい国でも、どんなに豊かな国でも、
平等に手に入れることができる。石油とは違うし、ウランとも違う。そして生物兵器ほど扱いが難しいわけでも
ない。
恐怖、だね。あの時にあった感情は。一般には完全に情報統制されていた。でも、どの国も国を挙げて文明につ
いて必死に研究していた。とんでもない額の投資がなされたし、とんでもない研究が超法規的に許された。脳味
噌の中に文明を打ち込んだり、全身にくまなく文明を擦り込んだり。文明そのものに人格を移し替えたり……。
「だが、結局文明は兵器としては役立たずだった。ムラがありすぎたんだ。あそこまで使う人を選ぶ物質はそう
そうない。なにせ研究するためだけでも、その文明に適合してなくちゃいけなかったからね」
多くの研究機関が、損失を埋めるために民間に払い下げられた。だが、やはりそこでも文明はお荷物だった。文
明ってのは金にならないんだ。まったくと言って良いほど。朝日は笑った。
「ついに文明は落ちる所まで落ちた。幾つかの研究機関はとうの昔に潰されていたが。それでもしぶとく生き残
っていた研究機関は、とてつもなくきな臭い所に売り払われた」
そうして、文明は流出を始めた。文明を扱う人々もまた、限定されていく。金持ちの道楽人、ごく少数の企業、
チンピラ、ヤクザ、テロリスト……それらに対抗するための警察の一機関。
「今でこそ、進研みたいな組織があるけどね。当時の野良研究室の多さには辟易したよ。
僕としては、文明を研究し始めた男としては、ただ虚しかったね」
すべてを、否定された気分だったんだ。
260尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/11/25(木) 22:59:48 O
朝日はぼんやりと窓の外を眺めていた。先ほど兎に連絡が来て、何やら間のいい事に、拉致しやすい人が近くに
『聞こえた』から、そのまま仕事に入るとのこと。
ヒマになっちゃったねえ。
結局あの女装少年からは大した話は聞けなかったし。唇だけ動かして朝日は呟く。目を瞑り、頭を回してありも
しない肩凝りをほぐす。何度か繰り返す内に筋を痛めたらしく、突っ張るような痛みに動きを止める。後悔が頭
によぎり、右手で痛みの中心を探る。
「イライラするなぁ」
こう言うときは、腹いせに三浦ちゃんに嫌がらせをしよう。そう心に決めて、携帯電話が詰め込まれた例の段ボ
ール箱を取り出し、適当に選んだ携帯電話で三浦ちゃんに電話を掛ける。
三コールした後、三浦ちゃんは電話に出た。
「あー、三浦ちゃん?君の娘さんを捕まえて、今拷問してるんだけどさ……うん……え?……殺す?僕を?
あはは、それ無理。相変わらずバカだなぁ君は、娘さんの命は、僕の手のひらの上にあるんだよ?そんな事言っ
たら本当に殺しちゃうよ?」
朝日は机の脇に積まれた漫画雑誌をパラパラとめくりながら、あくびをした。眠いのだ。昨夜は鰊を探すことに
手間取った。
「……あれ?泣いちゃった?意外だな、君みたいな奴が泣くなんて。まるで悪い冗談みたいだ。
うーん、困ったな、心が痛んできたから、本当の事を教えてあげるよ。
うん、君の娘さんはね、もう死んじゃったんだ」
朝日は、携帯電話を耳から離して机の上に置き、三ヶ月前に読み終えた漫画雑誌をゴミ箱に捨て、ティッシュで
鼻を咬み、たっぷり時間をおいてから再び電話を耳に当てた。
「もしもーし、落ち着いた?え?嘘?まさか、三浦ちゃんに嘘なんか吐くわけないだろ。親友を疑うなんてひど
い奴だなぁ、ぼかぁショックだよ。そんな酷いことするワケないだろ?
……絶対に殺す?ふーん、別にいいけど、僕を殺しても娘さんは帰ってこないよ?」
それよりも、娘さんがまだ生きてる世界に行った方がいいんじゃないかなぁ。
「えぇ?どういう事だって?相変わらず察しが悪いなぁ三浦ちゃんは。
ブーム型加速器だよ。あるんだよ、あれが、この街にね……どこにあるかは知らないけど、良かったら君も探し
てみれば?……まだ僕を殺すとか言ってるの?だからさぁ、君ごときじゃ無理なんだって。キャッチミー・イフ
ユーキャンってね。デカプリオってなんでアカデミー賞取れないんだろうね?
……ああ、忘れてた。あと一つ。たぶん、今朝がた君の自宅に冷凍便が届いたと思うんだけど、その肉、食べら
れないから注意してね」
これでよし、と。朝日は携帯電話を閉じ、ふぅと息を吐いた。相変わらず三浦ちゃんがまぬけで良かった。これ
でブーム型加速器についての違う情報が手に入る。もし公文に情報が残っていなくても、今の三浦ちゃんなら足
跡を盛大に残しながら勝手に見つけてくれるだろう。

「まったく、面白くなりそうだよ」
261尾張 ◆Ui8SfUmIUc :2010/11/25(木) 23:02:14 O
「タイミングもソチラに任せル。
コチラでやった方が良いなら何か合図してくれれば良いサ」
「そうですね……」
兎は耳に当てていた携帯電話をポケットに放り込み、何かを考え込むように目蓋を押さえた。唇を噛み、外と店
内に忙しなく目を向ける。
『どうした?』
「いえ、あなた方の同類がいつの間にかこの店の周りをうろついてまして、どうしようか迷っているんです」
兎はそこでふと目を逸らし、メモを不思議そうに見つめる榎に話しかけた。
「この人、口が利けないんですよ」
唐突な兎の言葉に、反射的に榎は俺の顔を見て、すぐに恥じ入ったように顔を赤くし、李や真雪との会話に戻っ
た。もうこちらを気にする様子はない。強いて無視している。恐らく、彼女は善良な人間なのだろう。善良だか
らこそ、自分の不正にはなるべく目を向けない。無意識的に目を逸らす。
『わざとやったのか、嫌な女だ。
対象は何人いる?』
「誉め言葉ですね、ありがとうごさいます。
……対象は七人。その内異世界人は四人、まあ所謂“人間”じゃないのがほとんどですが。
グループは二つあるみたいです。外にいる二人と、中にいる五人」
兎にとって、榎は絶好のタイミングで現れた狙い通りの獲物なのだろう。だが同時に、そこに二組の珍しい獲物
が飛び込んできた。だからこそ、兎は迷っている。どちらを取るべきか、と。
さてどうしましょうね、と兎はコップを持ち上げ、口に付けた。白い喉があらわになり、前後に蠕動する。しば
らくして、口から離したコップをテーブルに置き、前髪の位置を気にして手を伸ばす。
自然だが、妙だな。俺は思った。兎の動作には、強いてそうしているような、そんな不自然さがあった。
迷っているのだ、どうしようもなく。
『店内と店外。どちらのグループが重要だ?』
「……?店内ですけど」
俺の差し出したメモを数秒間凝視したあと、怪訝そうに兎は言った。
『真雪と李とお前で榎を追跡しろ。俺は店内の奴らを監視する。
後で、携帯電話で、対象の情報をわかる限り教えてくれ』
「……どう言うことですか?」
俺は店内の時計を見て、ペンを走らせた。
『定時を過ぎているから、榎の仕事は休みなのかと思ったが、どうも先程の電話の様子を見る限りそうではない
らしい。
ならば、榎は出勤前。それも、一度職場と連絡を取っている。今拉致しても、どうせ直ぐにばれる』
「拉致した後で連絡を取らせればいいだけです。
こちらには嘘を見抜ける真雪さんもいますし、多分うまく誤魔化せます」
『その真雪だが、』
俺は、常々思っていた事を書きかけ、迷い、しかし最後まで書き上げた。
『その真雪だが、俺は、荒事に巻き込むべきではないと思っている』
「なぜですか?」
『子供だからだ』
一瞬、兎は完全に強ばった表情を崩した。多分、出会って初めて見せた表情だ。ぽかんと俺を眺め、直ぐに笑い
飛ばそうと口を歪ませ、失敗し、苦しそうに目を伏せ、最後に大きく溜め息を吐いた。
「子供だから、ね……なるほど、わかりました」
――十数分後、榎を追いかけて、三人は俺から離れた。俺は、近くのウェイトレス呼んだ。
『すまないが、コーヒーをもう一杯頼む』

【方針変更:
・兎、真雪、李で榎を追跡
・尾張は長多良、シノ、ジョリーを監視
尾張→渡辺:コーヒーのお代わりを頼む
朝日→三浦:挑発、ブーム型加速器を探させる。送ったお肉はサイの肉です】
262鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/11/26(金) 02:39:26 O

新市街を、黒塗りの車が走る。
その中で、鈴木は大人しく佐伯の言葉を聞いていた。

ヘリコプター、自ら着いていった真雪、大怪我を負った柚子、そして、『兔』。
どれもなかなか重要な情報だ。
佐伯は自分のせいだと謝罪していたけど、何も無い一般人なら出し抜かれてもしょうがない。
だから、鈴木は佐伯が悪いとは思えない。

「このまま考えても仕方ありませんし……何か、文明の集まる所などを捜して回るのはどうでしょうか?
 少なくとも、彼女を連れて行った人たちは文明に関係した人たちでしたし、もしかしたら手掛かりが見つかるかもしれません」

そう告げた佐伯と、バックミラー越しに目が合う。
鈴木が目を瞬かせると、佐伯は「それに、なにもしないで待っているって言うのは性にあわないんです」と続けた。
鈴木は腕を組み、後部座席へ振り返る。

「良い案じゃない? こっちも積んでたから、そういうのは大歓迎。
でも、向かう前にちょっと待ってね、報告するわ」

運転席に座る鴨志田にその場に留まるように告げ、鈴木は懐から出した携帯を繋げた。
何度かの突っ込みとボケの応酬のあと、
鈴木は携帯を操作しながら、鴨志田に行き先の変更を告げた。
その行き先は…

「お二方、文明市に行ってみない?
あそこなら違法文明…詳しく言えば『文明化直前』の品物がずらずら並んでるから、
手掛かりを探すならぴったりだと考えるわ」

そうして言葉を切り、携帯で呼び出した地図を出す。

「現在、したらばホールにて文明市が開催中なの。そこに行きましょう」

―――――――――――――――――――
263鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/11/26(金) 02:40:32 O
―――――――――――――――――――

話し合いも終わり、車内は静まり返っている。
鈴木は振り返る事はせず、ミラー越しに二人を―――萌芽を見ていた。

「説明するって…言ったわね。あなたを知っている理由と、真雪さんを求める理由」

訝しげな視線を寄越す萌芽を、鈴木は気にしない。

「まず、月崎家の説明から。月崎家当主は、決まって一つの職業に就くの」

何かを思い出すように目を閉じる。

「この世界全体の歴史家。現当主も当然、歴史を記録しているわ。
それを可能にするのは、『二進数』という異能」

―――――――――――――――――――
264鈴木 ◆OryKaIyYzc :2010/11/26(金) 02:41:48 O
―――――――――――――――――――
二進数がどんな異能かは、詳しくは知らない。
だけど、この世界全ての『何事にも干渉されない純正なる事実』を集める事が出来る異能なんだって。
あなたを知る事が出来たのは、それが理由。
だけど、体の老化と共に能力も衰える弱点が有るの。
それを現当主は知っている。
月崎の血以外の人間には、授ける事も出来ないし扱う事も出来ないと言うことも知ってるの。
彼女が真雪さんを求めるのは、真雪さんに異能を授け歴史を継いで貰いたいからよ。
何故真雪さんなのか? 知らないわ、そんなこと。

―――――――――――――――――――

そこまで鈴木が話した丁度その時、車はしたらばホールの駐車場に到着した。



【したらばホール到着】
【文明市にて手掛かりを探すことを提案】
【鈴木→萌芽:約束通り説明】
265レン ◆ABS9imI7N. :2010/11/28(日) 19:51:50 O
【したらばホール内】

突如、したらばホール内の中心部で大爆発が起こった。
というよりも、下から床が突き上げられるように破壊された、といったほうが正しいか。
沈黙が支配し、誰もが異常さを感じ取っていた。

「・・・・・・な、何だ?」

穴の近くにいた一人の男が声を上げる。
勇敢にも(言い換えれば無謀にも)、男は穴に近寄った。
もし男がもう少し賢明であれば或いは、命は助かったかもしれない。

「っギャアアアアアアアアアアアァァァァ・・・・・・・・・」

観衆の目の前から、男が「文字通り」消えた。断末魔ともとれる絶叫を残して。
全員の顔から、さっと血の色が失せる。男が消えたから、というのもあるが。

ばり、ごり。ぐちゃっ、ごきり。

全員の耳に届いた筈だ。何者かが、肉のような何かを咀嚼する音が、穴から聞こえてきたのを。

「お、おい見ろ・・・・・・ありゃ何だ?」

またも穴の近くにいた一人が、穴の淵を指差した。
正確には、たしん、たしんと穴の淵を探るように叩く、『青い触手のような何か』を。
それはズルズルと床を這いずり回り、指差した売人の爪先に触れた。

それだけで、男の運命は決まった。

目にも止まらぬ速さで足首に絡みつき、売人が絶叫するのも構わず穴へと引きずりこんだ。

「いっ嫌だ、いやだああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

売人は穴へと消え、また肉を咀嚼する音が穴から響いてきた。
最早、その場にいた全員が何が起こっているのか気づくことに、時間は掛からなかった。

「にっ逃げろォオーーーーー!!」

266レン ◆ABS9imI7N. :2010/11/28(日) 19:53:08 O
会場が混乱で満ちる。悲鳴や足音に釣られるかの如く、穴から次々に青い触手が人達に襲い掛かる!

ホール内が混沌に包まれる中、青い触手の集合体が姿を現す。

スライムのような光沢を持つ、したらばホールの天井まで届きそうな体躯。
触手がいたる所から伸び、頭部と思われる箇所に取ってつけたような丸い耳と黒い目、巨大な口がある。
そしてその頭の上には、タチバナの記憶に新しい少年と化け物。

「あっはははははははははははははは!!もっとやれ『ぽろろ』、もっとだ!!」

レンとアラウミは、(どうやらぽろろという名らしい)化け物を操っているらしいということは明白だ。
やがてレンはタチバナに気づく。ニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、アラウミに乗りぽろろから飛び降りた。

「やっほー精霊使い、昨晩ぶりだね!あのメス達は元気?」

まるで隣の家に住む友人に話しかけるような親しみぶり。
レンはぽろろを見上げて微笑んだ。

「すごいだろう?地下で怨み声が聞こえるなーって来てみればビーックリ!
 コイツ、文明実験とやらでぐちゃぐちゃになっちゃった集合体だってさ!」

「ぽろろが教えてくれたんだ」と一笑し、タチバナへと視線を集中させた。

「恨めしい、殺してやりたいってやかましいもんだから、放してやったのさ」

ジャラジャラと4つの鎖と首枷らしきものが、レンの手で揺れる。

「コイツを封じるには、これしかない。モチ、僕は渡す気は更々ない」

「何が言いたいか分かるよね?」と見回した。
逃げ出していない数人達を、ニタニタと。

「何人でも良いよ。僕達を倒せるものならね……行け、アラウミ、ぽろろ!」

アラウミとぽろろが吠え、襲い掛かった!

【イベント:ぽろろ出現】
【達成条件:レンから枷を奪う】
【敵:レン、アラウミ、ぽろろ】
【レン、ぽろろ、アラウミは自由に喋らせるなり設定付け加えたりして構いません】
267竹内 萌芽(1/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/29(月) 03:40:04 0

―――モルガ、聞こえる?

車での移動中、萌芽の頭の中に直接言葉が流れ込んで来た。
彼の使徒からの定期連絡だ。
 ユ ダ
(12号ですか、聞こえてますよ。状況は?)

―――現在の”掌握率”は60%かな、正直ちょっと手こずってるかも

(おー、まあ『文明』ってやつは結構厄介なモノらしいですからね)

―――みんな頑張ってるんだけどね

(分かってますよ。ま、心配することはないでしょう。
 どんな『文明』であろうと、僕のこの『能力』の本質からは決して逃れられない)

―――ああ、うん。取りあえずボクたちはそこらへん飛び回ってればOKってことでしょ?

(ええ、お願いしますよ)

竹内萌芽の『能力』、世界が自分だと認識する範囲を任意で広げるという『あやふや』という才能を
世界を相手に戦うという目的のために一本化した『ザ・エクステンド』と呼ばれるその能力の本質は、
”世界が萌芽だと認識できる範囲を無限に拡大し続ける”という恐ろしいものだった。

車を運転している鈴木という女性も、外部からの精神の操作こそできないものの、
彼の使徒を、そして何より竹内萌芽という人間を認識した瞬間から、
すでに彼女が”竹内萌芽のカテゴリー”に飲み込まれてしまっていることには変わりない。

前の世界での彼は、この能力を使って自分と彼女にとって都合のいい世界を作ろうとしていた。
結局それは、彼の幼馴染の彼女によって阻止されてしまったが、
『世界』という存在そのものを飲み込む可能性を秘めた、恐ろしい能力を彼が持っていることには変わりない。

ただ、前の彼と今竹内萌芽となった彼が違うのは、
『世界の敵』の、そして『未来の特異点』としての条件である”変化を望む心”を彼が持っていないということ。

今彼が望んでいるのは、世界の変化などという大きなことではなかった。
竹内萌芽の望みは、横に座る零を、彼女と呑気にデートなどしていられる今の状況を守ること。
ただそれだけだった。
268竹内 萌芽(2/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/29(月) 03:42:16 0

―――だったの、だが。

はぁ、と横に座る零が一つため息を吐いた。
一体どうしたのか、真雪が攫われたのが自分のせいだ、みたいなことを言っていたし、
もしかしたらそのことを気に病んでいるのだろうか?
と、心配した萌芽は零の顔を覗き込んだ。

一瞬合う、二人の視線。そして

(お!!?)

……逸らされた。
思いっきり、まさにぷいという擬音がそのまま聞こえそうな勢いで。

”アッヒャヒャ!! 避けられてやんのー!!”

頭の中で相棒がバカ笑いしている。あとでいじめてやる、絶対にだ。

これはアレか、まだハグとか早すぎたのに空気よめてませんでした的なアレですか!?
もしくは、調子に乗って下の名前で呼んだのがマズかったのか?
いやでも向こうはもう下の名前で呼んだりしているワケだし……

暴走する妄想。
動揺しすぎてむしろ崩壊しそうな萌芽の内側。

と、そのとき柔らかくすべすべとした感触が、萌芽の手を包んだ。

「それに、なにもしないで待っているって言うのは性にあわないんです」

「お……?」

見れば、零が萌芽の手を握っている。

女の子ってなぞだ。

少年はそのとき女性というものを自分が理解することは永遠にないのではないかと、
ちょっとだけ本気で不安になった。

手を握り返したらどうでもよくなった。
269竹内 萌芽(3/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/29(月) 03:43:11 0

そのあとの流れで、この車はどうやらしたらばホールというところに向かうことになったらしい。

実はこのとき萌芽は真雪の現在地を把握していたし、監禁などされてないこともちゃんと知っていたが、
目の前の鈴木たちをいまいち信用しきってない彼は、それについてはあえて知らんぷりをしていた。

とくに話すこともなくなった車内が静かになる。もちろん手はつないだままだ。

うん、柔らかい。

なんだかバックミラー越しに、鈴木がこちらを見ている気がする。

うん、どうでもいいが柔らかい。

「説明するって…言ったわね。あなたを知っている理由と、真雪さんを求める理由」

と、そこで鈴木が口をひらいた。柔らかい。
シリアスな表情と、シリアスな声、あと柔らかい手の感触。
萌芽はようやく話してくれる気になったかと、零の手の柔らかさを感じながら話しに耳を傾ける。

「まず、月崎家の説明から。月崎家当主は、決まって一つの職業に就くの」

目を閉じる鈴木。そうとう深刻な背景でもあるのだろうか?
あ、今ちょっと手の握りが強くなった。
ぶっちゃけこのちょっと恥らった顔とかもう可愛すぎるので、もうこのまま抱きしめていいだろうか?

「この世界全体の歴史家。現当主も当然、歴史を記録しているわ。
それを可能にするのは、『二進数』という異能―――

……………
…………
………
……


(『何事にも干渉されない純正なる事実』を集める……ね)

車から降りると、萌芽はさきほどまでの緊張感ゼロのへにょんへにょんになっていた顔を少し引き締めた。

気になったのは車中で聞いた『二進数』という能力な内容。『何事にも干渉されない純正なる事実』?
聞き覚えがありすぎる……それではまるで

(『イデア』じゃないですか)

妙なところでゲームの続きに繋がるとっかかりができてしまったものだ。
いや、実際もう自分の『退屈』は解消されてしまっているし、あの”先生”とのゲームに自分がこだわる理由などもうないのだが。
270竹内 萌芽(3/3) ◆6ZgdRxmC/6 :2010/11/29(月) 03:44:24 0

「それにしても文明市ですか、名前的にはほのぼのとした感じなんですけどねー」

すたすたとしたらばホールに歩く一行。
と、ふいに萌芽が足を止めた。

―――今その中に入るのは危険です!
         ヨハネ
この地域を担当する3号からの緊急連絡。言われるまでもない。
存在を捕らえる萌芽の感性が、この先から何か”おぞましい気配”が広がっているのをひしひしと感じ取る。

「あーっと……と、取りあえずその……ここに入るのやめときません?」

振り返って笑顔を無理やり取り繕いながら言う萌芽。

だが、後ろからふいに人の悲鳴が聞こえてきた。

はぁ、と彼はため息を吐く。

彼の頭の中では、ひとつの天秤がゆらゆらと揺れていた。
片方に乗せられているのは”零の安全”。デフォルメされた零の顔として認識されているそれは、
本来ならば彼が一番優先すべきものだが、しかし―――

『人の心は完全に理解はできないから、自分の基準でみんなと寄り添えられればそれで良いと思う』

「ううう……!!」

その二重鍵括弧の乗ったほうに、天秤がわずかに揺れて、
そして気が付けば、彼は中に飛び込んでいた。

手に握られているのは、四枚のカード。

「ああもう、僕ってこんなにお人好しでしたっけ?」

”アヒャヒャ。うん、まあいいんじゃねーのか?”

「他人事だと思って、まったく……」

ホール内に飛び込んだ彼は、恐らく諸悪の根源であろう、バケモノと少年に向かって言った。

「とりあえず、貴方たちを倒します。説明とか色々と面倒なので問答無用です!!」

四枚のカードを持った少年は、いろいろと納得いかないことの腹いせに、
目の前のこいつらを骨の髄までいじめつくしてやろうと思った。

【ターン終了:乱入。目的はやつあたり】
271エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/29(月) 08:27:19 O
タチバナさんは、当たり前のように目覚めた。死んだ時と同様、唐突に。

>「おはよう諸君」
「「お、おはよう」」

普段そうしてきただろうその挨拶の仕方に、二人分の声が重なった。振り返ると、幹部長が口元を抑えている。
私達がポカンとして見守る中、タチバナさんは1人『自身の死』について淡々と感想を語る。その姿に、どことなく異常さを感じさせる。
幹部長が私に目配せした。どういう事か説明しろ、と目が語っている。
しかし私が口を開く間もなく、タチバナさんは私達へと視線を向けた。

>「エレーナ君、蝙蝠君……そして君は、」
「え?あn…………?」
>「――『お初にお目にかかるね』。君が僕を救ってくれたのかな?」

完全に動揺しているのが手に取るように分かった。声が出なくなったかのように、本人はコクンと頷く。

>「エレーナさん!タチバナさんは助かっ――てる? ……ええーっ不死身!?」

その時、ゼルタちゃんが様子を見に来、ケロッとしたタチバナさんを見て盛大に驚いていた。

>「アンタ馬鹿だよタチバナさん!ホントに死ぬなら死んじゃダメじゃん!死んだら終わりなら、死なないでよ!!」

タチバナさんの胸を叩く震える拳を見て、心から同情する。
例え生き返ったとしても、仲間が死ぬ場面は幼い彼女にとってもショッキングだったに違いない。

>「……そうだね。僕は少し僕について配慮が足りなかった。自身のことは自分が一番よくわかっているつもりだったのだがね。
 ともあれ仮面君、君には命を助けられた。改めて礼を言うよ、ありがとう。エレーナ君と、それから蝙蝠君も」

順に礼を言い、タチバナさんと私はペニサス様の翼の幕から外へと出てドルクス達の元へ向かった。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「肝が冷えたってレベルじゃなかったわよ!」

数分後、したらばホールの支配人と名乗る男を後ろに従えて、私はタチバナさん達に説教を垂れていた。

「さっき死にかけたばかりだっていうのに、こんな調子じゃ命が幾つあっても足りやしないわ!」

先程の包囲とのやり取りを思い出し、私は身震いする。
厄介事は二度と起こして欲しくないというのに、彼らときたらまるで反省している様子がない。
272エレーナ ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/29(月) 08:29:26 O
「今回はたまたま、た ま た ま幸運だったから良かったようなものの!
 一歩間違えたらそれこそ命取……ってちょっとぉ!聞いてるの!?」

彼らはどこ吹く風。馬の耳に念仏。
怒りを通り越し、私は呆れの感情を抱いた。
私は口元を真一文字に結び、肩をいからせてドルクスと琳樹さんの元へ向かう。
琳樹さんが怪我を負っていたので、ドルクスが治療すると言ってきかなかったからだ。

「大丈夫?痛まない?」

声をかけた刹那、何かが琳樹さんに飛びついた。ペニサス様だ。

「ドルちゃん!さっきの格好良かったわよう、惚れ直しちゃった!
 え?あら、琳樹さん?ごめんなさい、あんまりにも似てたからつい」

そう言うと、ペニサス様は改めてドルクスに抱きついて甘えだした。
私はペニサス様を一瞥し、琳樹さんに苦みを含んだ微笑みを向け、気づく。
琳樹さんの傷は癒えていたけども、眼鏡のレンズがひび割れで覆われていた。

「動かないで……はい、これで大丈夫」

指で優しく撫でると、眼鏡は新品同様に直った。

「……あんまり、無茶しないでね」

小さくそう呟く。無意識の言葉。
どうやら琳樹さんには聞こえなかったらしく、小首を傾げられた。

「ううん、何でもないの!」

私はパッと離れ、誤魔化した。頬が少し熱かった。
視線をじゃれ合うドルクスとペニサス様に向けることで、琳樹さんの顔を見まいとした。

「でも、ホントによく似てるわよねぇ、二人共」
「え、ええ、そうね」
「『何もかもそっくりなんだもの』」

何もかもそっくり。彼女の言葉に、私は何かひっかかるものがあった。
私が口を開きかけたとき、ホールの中心で爆発音が起きた。
ぎょっとして振り返る。ホールの中央に、巨大な穴が開いている。

ホール内は沈黙に包まれた。のも束の間、どよめきが波を打つ。
その時だった。穴の淵を何かの『触手』のようなものが掴んだのを私は見た。

「危ない!!!」

多くの悲鳴が立ち上がる中、数多の触手が穴から飛び出してくる。

「これは……」
「とにかく、捕まった人達を助けないと。ドルクス!」

言うまでもなく、ドルクスが空を駆け、人々を捕まえた触手を切り落としていく。
逃げる人々を掻き分け、私とペニサス様はタチバナさん達の元へ向かった。
273Q=久羽 ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/29(月) 08:31:40 O
【邂逅、そして戦闘】

肩をいからせて去るエレーナから目を離し、連中に意識を向ける。
兄貴に瓜二つの男、少女、何やら犯罪臭漂う男と手を握る弓瑠お嬢様様、それに蝙蝠女。
彼らは共に、数々の文明に見入っている。
武器になりそうなもの、そうでないもの。支配人が1つ1つ説明し、それぞれ各々のリアクションをとる。

「時にタチバナさん。ちょっと良いかしら?」

不意に、蝙蝠女が口を開いた。
蝙蝠女は右手を男(タチバナ)の額まで持って行き、握り拳を形作り、そして、

「ていっ」

デコピンをかました。ペチンッ!と爪が皮膚を軽く弾く音。
続けざまに2発、3発、4発。間抜けな音が断続的に男の額で奏でられた。

「今回はこれで許してあげる」

額を抑えるタチバナに、蝙蝠女はニコリと笑う。こめかみに小さく青筋が浮かんでいた。

「さっきのアレ、私だって怒ってるんだから。
 ……あんまり、ああいう死に急ぐような真似はしないで頂戴よぅ」

蝙蝠女の笑顔が、寂しそうなものに彩られ。
「それだけよ」とつけ加えると、エレーナ達の元へと駆けていった。
私は、兄貴に瓜二つの男、タチバナへと視線を向けた。
先程の言葉を受け取る限り、彼が兄貴でないことは明白。
しかし、あまりに似すぎている。姿、声、仕草、気配。どれを取っても兄貴そのもの。
気を緩めば、「おい、兄貴」と呼んでしまいそうになるくらいn

「だーれだ」
「うわぁあっ!?」

視界からタチバナ達が失せ、暗闇に包まれ、一瞬混乱する。
が、背後の声と気配で誰か悟り、ソイツの向こう脛に踵を打ち込んでやると、視界が開けた。

「ちょっとした冗談だったのに…」
「その『ちょっとした冗談』で何度痛い目に遭えば学習するんだ?」

うずくまる姿勢からようやく立ち直り、Tは何時もの笑顔で私を見下ろした。
骨を折る勢いで蹴ってやれば良かった、と思った所で、周りが異様なまでに静かなのに気づいた。

殆どの人間の視線が、Tとタチバナに向けられている。しかし、Tの視線は、タチバナ1人に注がれていた。
274Q=久羽 ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/29(月) 08:38:02 O
「………………これは驚き桃の木山椒の木だね」

ニヤリとTが笑った。何をも読み取れぬ、背筋がゾッとするような薄笑いだ。


「見たまえ、動く私の等身大マネキンがある!鏡要らずだね!」
「マネキンが動くかッ!」

間髪入れずTの頭を叩いた。しまった、つい何時ものツッコミを入れてしまった。
ドヨドヨと周りがどよめき、中にはドッペルゲンガーなどと騒ぐ連中もいる。

「いやはや、世の中には同じ顔を持つ者が三人いるというが!運命の巡り合わせとしか言いようがないね!
 おっと紹介してなかったね、私の事はTとでも呼んでくれたまえ!それから……」

Tは私の肩をグイッと引き寄せ、タチバナに急接近すると――……

「私の妹の久羽だ。『仲良くしてやってくれたまえ』」

私の仮面を、剥ぎ取った。

「ッ、何をする!!」

Tを腕で弾き飛ばし、仮面を奪い取って付け直す。
一瞬のことだったので、恐らく『タチバナ以外』には見られていない筈だ。
私がTを睨むが、兄は肩を竦めて笑うだけだった。
そして今度は弓瑠お嬢様へと視線を向け、片眉を器用に上げた。

「『娘』を見つけたのかい?」
「彼らが『保護』していたそうだ。エレーナが言っていた」

帽子の男にしがみついてTを睨む弓瑠お嬢様を見る。
警戒しているようだ。 相手がTだからだろうか。

「…………ならば、ボスに報告しなくてはね」
「では、本部に戻るのか?こいつ等も連れて……」

刹那、床から爆音が鳴り響いた。
地下から地上へ向けて爆弾が投げつけられたかのように、床に巨大な穴が開いている。
呆然と穴を食い入るように見つめていると、穴から異形の何かが這い出てきた。
そしてそれらは悲鳴を上げて逃げ惑う人々へと襲いかかる。

「……こ、これは……」

目を見張り立ちすくむ私達目掛け、化け物が襲い掛かってきた――……。

【side:エレーナ】

「タチバナさ………T!?何で貴方まで!」

タチバナさんとTを交互にみる。ちょっとした悪夢だ。
私の背後にいた小さい方の化け物が右腕を振り下ろし、ペニサス様が盾呪文で受け止めた。
その時、私は1人の少年に気づく。
ペニサス様が背後で「あっ!!」と大声を上げた。
275エレーナ→Q幹部長 ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/29(月) 08:42:01 O
「昨日の世界制服ショタッ子ちゃんじゃない!」
「だ・れ・がショタッ子だ!レンだっつの!」

キッとペニサス様を睨みつけ、地団駄を鳴らす少年、レン。
私はどうしてもこのあどけない少年がやったようには思えず、質問した。

「…これ、貴方がやったの?」
「僕以外に誰がいるのさ?」

ニンマリとレンは笑う。邪な笑顔だ。
こんな幼い少年が、こんな化け物達をけしかけた。ゾッとするが、事実なのだと受けとめる他ない。

「止める方法はないの?」
「あるさ。これを僕から奪えばいい」

ニヤリと笑い、レンは枷を振り鳴らした。…明らかに楽しんでいる。
私はタチバナさん達、それに乱入してきた少年に言い放つ。

「皆さん、私達はあのスライムを食い止めます」

ペニサス様も蝙蝠へと姿を変え、私も翼を生やす。戦闘準備完了だ。

「だから、絶対に彼を倒して下さい!」

レンを見、彼らを見。私はぽろろへと向かっていった。

【side:Q幹部長】

私が絶対惨殺で触手を斬り落とし、Tも七変化を黄鎚≪モード・ロステック≫へと変化させて応戦する。
赤から黄色へと瞬時に染まった巨大な鎚、それが触手の体液を浴びてヌラヌラと光る。

「そういえば聞いた事があるね。
 昔の文明研究者達の実験の産物が旧市街地の何処かに埋められたとか何とか……そぉい!」

私の二つに纏めていた短い髪を触手が絡め取ろうとし、Tの黄槌の餌食になった。
感謝の言葉を掛ける暇はない。素早く辺りを見回し、………見つけた!

「弓瑠お嬢様!」

果敢にも、弓瑠お嬢様は戦われておられた。あの犯罪臭漂う男と一緒に。
青い弓とどこからともなく顕れた矢が触手達に触れさせまいとする。

「お嬢様、お逃げ下さい!アレは…アレはお嬢様に適う相手ではありません!」

言うが早いが、私はお嬢様を抱え上げた。
男…確かハルニレと呼んでいたか、彼と目が合った。
私は唇の動きで「任せろ」と言った。そして、出口に一目散に駆ける。
お嬢様がお兄ちゃんお兄ちゃんと泣き叫ぼうが爪を立てられようが暴れようが構うことではない。
私が、お嬢様を守らなければ。
276Q幹部長 ◆SQTq9qX7E2 :2010/11/29(月) 08:44:54 O

「、鈴木!?」

逃げる途中にすれ違った少年。どこかで見た気がするが、構っている時ではない。
私の仮面は触手達に剥ぎ取られ、素顔が晒け出されていたので、鈴木はすぐに私が誰なのか察したようだ。
隣の少女が私を見て驚いている。私も驚いた。
異世界人にして公文の人間・佐伯零が此処にいたのだから。

「私が新市街地に?馬鹿な、私はずっと此処に……」

と言いかけ、はたと私は思い留まる。……恐らくあの五本腕か。まさか出くわしたのか。

「あー、訂正だ。多分お前が会ったのは…私の兄だ」

……ふと、私に1つの案が浮かんだ。厚かましいかもしれないが……これが得策かもしれない。

「鈴木、この子を月崎邸に運んでくれ!怪我をしてるから治療も行ってくれると有り難い。
 ……それと、万が一に備えて、私の使いを後で送る。特徴的な四人だから直ぐに分かる筈だ」

まだ暴れ続けるお嬢様。仕方ないので、気絶薬で眠ってもらった。
頼んだぞ、と鈴木にお嬢様を託し、私は元来た道を引き返した。
道すがら、私は携帯電話を取り出した。
Gは確かテナード達と行動していた筈だ。

「G、緊急事態…………迷子だと!?何をやってるんだお前は!
 ……いや、それは良い。月崎邸は分かるな?さっさと合流して向かえ。
 理由?んなもん察しろ。ついでに朝飯も食わして貰っとけ、いいな!」

乱暴に通話を切り、コートの内ポケットに押し込んだ。
ホール内は依然として混沌としていれ。

「敵は1人と二匹!子供が化け物を操っている!そいつから鎖を奪ってやれ!」

戦う気概のある連中に私はそう叫び、ハルニレに並んで刀を構えた。

「…お嬢様の事なら心配するな。信頼出来る者に預けた」

私はコートからナイフ型の≪/メタル≫を取り出し、柄をハルニレに向ける。

「戦おう。アイツを倒して、迎えに行こう。
 ……弓瑠お嬢様を」

【エレーナ・ドルクス・T→ぽろろを相手に戦闘中。触手に捕まった人を自動で助けます】
【ペニサス→怪我人の治療や逃げ遅れた人達のフォロー中。自由に動かして下さい】
【Q幹部長→ハルニレと共同戦線声明。≪/メタル≫は使用してもしなくてもおk】
277月崎真雪 ◆OryKaIyYzc :2010/11/29(月) 09:01:24 O

榎との暫しの歓談の後、店に残るという尾張を残し会計をして店を出た。
そして今、三人で榎を追跡している。
飛峻と兔の後を着いて行く形で、真雪も榎を追っていた。

(それにしても、やっぱり不思議な組み合わせよね…)

後を追いながら、真雪は先程の会話を思い出す。流れで、そんな話題になったのだ。
何とかごまかしやり過ごしたが、言われるのも仕方が無いと真雪は納得する。
何も知らず一見しただけなら家族にも見えなくはないが、相手は真雪の家族構成を知っている。
榎には、どう見えただろうか。
待ってと言わず飛峻の服の裾を掴むと、どうしたと振り返るから、どうでも良くなる。

思考を中断して当たりを見渡すと、榎は繁華街の中に入っていく。
そう言えば、電話で犯罪者を逮捕したから云々言っていた。それかも知れない。
真雪はその事を二人に告げた。
【追跡中。現在繁華街】
278ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/11/29(月) 22:23:55 0
ジョリーは死にかけていた。主に精神と生命的な意味で。

「どうしたの?言いたいことがあるならハッキリ言いなさい。
 脳味噌あるんでしょ?私仕事あるんだから早くして頂戴」

繁華街の一角で、新市街地メンバーは慈音と対峙していた。
あの後、やっぱり怖いからとまごついていたせいで、カフェ内での接触は断念された。
急いでジョリー達も会計を済ませて慈音を追いかけ、今に至る。
ブリザードが吹き荒れんばかりの冷え冷えとした空気が流れている錯覚に陥りそうだ。

「…………お、おはよう」

「一週間ぶりに貴女の口から「おはよう」を聞いたわね。今までどこに居たのかしら?」

「痛い痛い痛い!姉ちゃん足踏まんといて!」

隣のミーティオは、眉を顰め、少しばかりの恐怖を携えた顔で慈音を見る。
最初は殺すなんてオーバーな、と思っていたが、思ったより恐ろしい女のようだ。
ジョリーは痛む足を擦り、姉を見上げた。

「そ、そのことは後にしてさ!聞きたいことがあるの!」

「聞きたいこと?」

慈音が怪訝そうにジョリーを睨みつけた。聞きたいのはこっちだと言わんばかりに。
「ヒッ!」と息を呑んで長多良の背後に隠れたジョリーの代わりに、ミーティオが答えた。

「あたし達、三浦六花って子を探してるんです」

「三浦六花……って、確か三浦博士の子どもよ。何でそんな子を探してるの?」

「えーっと……多分、三浦博士に頼まれて」

慈音はますます眉を顰めた。目の前のジョリー達の友人を名乗るメンバーを胡散臭そうに睨む。
眉間に指を押し当てて頭を振る動作をし、口を開いた。

「で?」

「そ、それで…………怪しい連中を調べてるの。それで学研?とか、進研について知りたいなあ、って……」

慈音は値踏みするように全員の顔を見回し、ジョリーに手招きする。ジョリーは何をされるのだろうと怖々と前に出た。

「バカじゃないの!?」

「ひぎゃんっ!!?」

慈音の渾身の頭突きが炸裂。ジョリーは哀れにも子犬のような声をあげて転がり、ミーティオに抱きとめられる。
慈音はジョリーの両肩を掴むと、凄まじい表情を露わにし、ジョリーを揺さぶる。

「アンタ、そいつ等がどんな奴か分かって言ってんの!?アイツ等は異常者よ!アンタが関わっていいような奴らじゃないの!」

「ッ、それを言うなら姉ちゃんや私もじゃん!私たちだって、あんな「力」があるから……」
279ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/11/29(月) 22:24:42 0
両腕でつっぱねるようにジョリーは慈音を突き放す。距離を置いて見た慈音の唇は、色を失っていた。
ギリッと歯ぎしりし、慈音はジョリーを半分突き飛ばすように立ち去った。

「大丈夫か?」

「うん……あれ?」

いつの間にか、ジョリーの胸元に、クシャクシャになったメモのようなものがあった。
ミーティオが目で促し、ジョリーは恐る恐るメモを開く。

「…………………「FYIYFDY*YKUT」?何だこりゃ?」

「……多分、パソコンのパスワードじゃないかな」

ミーティオは何だそりゃ?とジョリーを見やる。ジョリーはしばらく考え込んだが、パッと顔をあげた。

「もしかしたら、学研とかについてのデータとかあるのかも!」

「おお!」

「家に行こう!すぐ近くだから!」

ほら早く、と言いかけ、ジョリーははたと思いとどまる。
今度は何だ、と言いたげなメンバーに、ジョリーは振り返って言った。

「そうだ、さっきのシノちゃんの情報も含めて、ハルニレ達に教えなきゃ!」
280ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/11/29(月) 22:26:04 0

「スッゲー!ナアコレ何ダ?コレハ!?」

「アンタ、ドライヤーもバリカンも知らないのか?変な奴」

あちこちで目をキラキラさせ、ハルニレはスズメのようにあちこちを飛び回って文明の成りかけを手に取っていた。
ハルニレの居た世界は、現代の年代に直せば19世紀の初期頃だ。もちろん、ドライヤーなんてものはない。

「ナーナー、モット面白イモンハネーノカヨ?色ンナ処に一発デイケルドアトカ」

「そんなもんドラ○もんに頼みやがれバカ野郎」

「ジャア相手ヲロリショタニスル文明ハ?」

「ああ、それならありますよ。こちらに」

サッと支配人が差し出したのは、古ぼけた鈍い銀色の腕時計。ところどころ、ボロボロになっている。
マジマジと見つめると、支配人が早速適正検査を始める。が、どうやら不適合のようだ。

「正しくは『触れた対象の年齢を遡る』能力なんですけどね。その名も、『年齢逆行(タイムロスト)』」

「フーン……マ、貰ットクダケ貰ッテオクゼ。幾ラダ?」

その時、ハルニレの尻ポケットが鈍く振動した。
携帯電話が着信を告げている。相手は……ジョリーだ(当たり前だ。ジョリーと三浦しかいないのだから)。

「何ダ?見ツケタノカ?」

『ううん、だけど新しい情報が手に入ったの!』

・―――――――――――――――――――――――――――――・

「ナルホド……アンガトヨ、ジョリー」

『うん!また何かあったら連絡するね!』

プツン、と通話は終了し、ハルニレはメモを再三確認した。
そして、離れた場所にいる訛祢琳樹を見、唇が歪んだ三日月型を形作った。

「(猫頭ノテナード、死ナナイ全裸野郎、眼鏡デチビノカズミ……アイツニ聞ク事ハ色々アリソウダナ)」

パタンとメモを閉じ、ハルニレはタチバナにこのことを話そうと振り向いた。


>「見たまえ、動く私の等身大マネキンがある!鏡要らずだね!」
>「マネキンが動くかッ!」

タチバナが分身していた。……とハルニレは最初にそう思った。初対面の時も、彼は何人にも分身していたので、さして驚きもしなかった。
しかし、注意深く観察し、ハルニレは気付いた。彼はタチバナの分身ではない。
タチバナにそっくりな男だがしかし、『タチバナではない男だ』、と。
男はTと名乗り、友好的な態度を見せた。……妹と呼ばれていたQにあしらわれているが。
281ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/11/29(月) 22:27:43 0
「ン?ドウシタ、弓瑠?」

弓瑠がTを睨み、ハルニレの背後に隠れた。どう見ても警戒している。
おそらく、天敵(?)のタチバナと姿形がそっくりなためだろう、とハルニレは判断した。

「ン?」

ハルニレは足元を見つめた。ほんの少しだが、地面が揺れたように感じたのだ。
まただ。ほんとうに、ほんの僅かだが、揺れを感じる。
ハルニレは、床にピッタリと耳をつけるようにうつ伏せた。

「…………地下ニ、何カイルゾ」

音は大きくなる。揺れはわずかだが、音だけは大きくなっていく。
ゴリゴリと地を削るような、嫌な音だ。

「……コレ、結構近クナッテ…………」


≪バゴァアンッ!!≫


「……………………ハ?」

轟音。ハルニレ達から10メートル程離れた中心に、巨大な穴が出現していた。
一同、目を丸くさせて凝視する。ハルニレもその一人だ。……好奇心丸出しだが。

「スンゲー穴ダナ、オイ」

皆が警戒する一方、ハルニレはゲラゲラ笑い、穴を覗きこんだ。穴は深く、底が見えない。
その時。

「ウォオッ!?」

深淵から、一本の触手のようなものハルニレの鼻先スレスレに飛び出してきた。
尻餅をついて唖然と見上げるハルニレを余所に、触手は近くにいた男を絡め捕る。

>「っギャアアアアアアアアアアアァァァァ・・・・・・・・・」

触手によって絡め取られた男は、穴へと消えていった。そして、僅かだが聞こえる『咀嚼音』に、ハルニレは震え上がる。
皆動かない。動けないのだ。何が起きたのか、ハッキリとこの目で見たのはハルニレだけなのだから。
未知の恐怖、ありえない事象への対処の遅れ。それが身体への判断を鈍らせていた。
今度は、触手はハッキリと姿を現した。

>「いっ嫌だ、いやだああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・」

またも穴へと消えていく犠牲者。刹那、誰もが我先にと出口へ駆け出した。
同時に、数えきれない触手の山が、人間達に襲いかかる。

「ハッ!弓瑠!!」

こうしてはいられない。逃げる人垣の中から弓瑠を探すのは、そう容易くはなかった。
282ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/11/29(月) 22:29:13 0
「弓瑠!返事シロ、弓瑠!!」

その時、それに答えるかのように、青い矢が触手に向けて放たれた。
ハルニレは直感的に、彼女があそこにいると察した。

「弓瑠!」

触手から弓瑠を庇うように、ハルニレは覆いかぶさる。
すると、触手達はハルニレを避けるようにウネウネと周囲を這いずりまわる。
まるで、ハルニレは触れたら死んでしまう毒だと思っているかのような素ぶりだ。
チャンスとばかりに、ハルニレはナイフを振り回し、応戦した。

>「弓瑠お嬢様!」

その時、女が二人のもとへ駆け寄ってきた。弓瑠を知っているらしい。

>「お嬢様、お逃げ下さい!アレは…アレはお嬢様に適う相手ではありません!」

女は相手がどんな奴なのか分かっているらしく、弓瑠を抱えあげた。
ハルニレと女の目が合う。女は本気で弓瑠を守ろうとしているらしい。

「早クイケ。弓瑠ヲ傷ツケタラ―――――――――……承知シネーゾ」

任せろ、と女が唇の動きだけでそう言い、出口へと全速力へ駆けていく。
それを追おうとする触手達を阻むように、ハルニレは不敵な笑みを浮かべて立ち塞がった。

「来イヨ、刺身ニシテヤラア」

キリがない。ハルニレはナイフを振り回しながら悪態をつく。
斬ったそばから再生するのだ。これではイタチごっこだ。

>「敵は1人と二匹!子供が化け物を操っている!そいつから鎖を奪ってやれ!」

「! オマエ……」

いつの間にか、Qが戻ってきていた。訝しげな視線に気づいたのか、Qはハルニレの隣に並ぶ。

>「…お嬢様の事なら心配するな。信頼出来る者に預けた」

「……ソウカ」

短く相槌を打ったハルニレに向けて、Qはあるものを差し出した。
銀色に光るナイフ。恐ろしく切れ味が良そうだ。

>「戦おう。アイツを倒して、迎えに行こう。
 ……弓瑠お嬢様を」

彼女の視線はハルニレを見据える。一緒に戦おうという、彼女の意思表示なのか。
知らず、ハルニレの口元が綻んだ。

「…………アア、アイツニ怒ラレル前ニナ」

ハルニレはそのナイフの柄を、しっかりと掴んだ。
その瞬間を狙ったかのように、青い触手の一本が、ハルニレを薙ぎ払うように吹き飛ばした。


283ハルニレ ◇YcMZFjdYX2:2010/11/29(月) 22:30:03 0
・―――――――――――――――――――――――――――――――・

――――――――――――――なッさけないねェ、活きのいいガキのくせに。

こんなとこでくたばるってのかい小僧、こっからが地獄だぜ

やめてあげなさい、この子死にかけてますよ

キャッハハハハハハ!シーネ!シーネ!

おいだれだ、ねーちゃんに変なことおしえたやつ!

おきるんだからな小童、まだ始まったばかりだからな


――――――――――――――――……おや皆、お茶の時間ですよ

・―――――――――――――――――――――――――――――――・

「(――――……ウルッセエナ、静カニシロヨ……)」

頭の中で、大きな鐘がガンガンと鳴るような頭痛が、ハルニレを覚醒させる。
会場のあちこちが破壊されている。他の仲間達も、まだ戦っている。
どうやら、あの穴の近くに倒れているらしい。体の節々が痛む。

「(オ?コイツ……)」

傷ついた体を動かし、ハルニレは穴を覗きこんだ。
思った通りだ。地上に出ているのは、ぽろろの半身だけ。もう半分は、地中に埋まりっぱなしだ。
もしかしたら、ぽろろが再生し続ける秘密はここにあるのではないだろうか。

「(シッカシ深ソウダナ、コノ穴)」

右手を見ると、Qから貰ったナイフが輝いていた。
ライトは携帯電話がある。確認してみたが、まだ使えそうだ。
ゴクリと生唾を飲み込み、ナイフをとっかかりにし、ハルニレは穴に飛び込んだ。


「ットト……」

穴は思いのほか深かったが、ようやくたどり着く。
配水管が剥き出しになり、ぽろろの体はそれに寄生するかのようにぐずぐずと波打っている。
なるほど、水があるが故にこの生き物は生きていられるらしい。

「ンー……ドウスッカ」

ぽろろがこの場から退かない限り、倒すのは不可能だろう。
要は水がなくなればいい。とにかく一度戻らなければ。しかしどうするか。

「………………………ヤベ。戻リ方、考エテナカッタ」

【ジョリー:榎宅へGO。パソコンには少しだけですが学研とか進研の情報が入ってます】
【ハルニレ:穴の中にいます。弱点見つけたけど戻れない。誰か助けてー】
284レン ◆ABS9imI7N. :2010/11/30(火) 08:13:48 O
レンは目を細め、今の状況を確認していた。
逃げる人々の中に、僅かだが自分に対し敵意を向ける人間がいることに彼は勿論気づいている。
その中に、昨夜自分と戦った男がいることにも、だ。

「思ったより早い再会になっちゃったね?」

鎖を両の手で弄び、笑顔でタチバナを見据えた。
しかし、直ぐにその表情は怪訝なものになる。

「あれ?アンタ、≪分身霊≫でも使ってんの?」

タチバナのすぐ側にいるTを、レンは『分身霊』だと判断した。
勿論それは違うのだが、顎に手をやって考える素振りを見せる。

「ま、良いけどね。どっちも潰してみりゃ済む話だし」

アラウミがタチバナとTに襲い掛かる。

「おお怖や怖や。お仲間さん吹っ飛ばされてるけど大丈夫かな?アレ死んだんじゃない?」

死体を挟んでぽろろに投げ飛ばされるハルニレを愉快そうに目を細め、タチバナに仄めかす。
ぽろろは死を嫌う。ぽろろは生を喰らい、水を媒体にすることで初めて存在出来るからだ。
どちらか片方がなくなれば、ぐずぐずに溶けて消滅する。
ぽろろが肉体を消化し、残った魂をレンが採取する。人間を虐殺し、尚且つ魂の回収を楽に出来る。
これほど楽しく良い仕事があるだろうか。
降りかかる攻撃を涼しい顔で避けながら、昨夜の出来事を思い出していた。


彼の今回の目的は破壊工作だ。それも、『文明を使った、大量死を目的とした破壊工作』。
レンの非情な虐殺ぶりを見ていた『ある男』が、その条件を守るなら大量の魂は君にあげよう、そう持ちかけてきたのだ。
レンはそれを快く承諾した。すると『ある男』は、ぽろろの存在をレンに教えてくれたのだ。
あの時、またタチバナに出会える可能性も、彼はその時感じていた。

「僕はこの世界が憎い。僕を生んだ世界が憎い。
 だから滅ぼしてやるのさ。そして僕は『征服者』になる」

殺意籠もる一撃がレンに放たれる。
しかしそれを難なく素手で弾き飛ばした。
レンの背丈は、またタチバナと同じくらいになっていた。


「僕が、この世界の秩序(カミ)になる」

【レンの目的とかぽろろの設定とか軽く作らせてもらいました】
【黒幕の存在アリ?】
285都村みどり ◆b413PDNTVY :2010/11/30(火) 23:09:45 0
「ふう、しかし、佐伯さんもつくづくいろんな事に首を突っ込みますね……」

そう独り語ち、通話ボタンを圧して都村は携帯をしまう。
何の気なしに出向いた電気店で見つけたそれを気にいった『彼』が渡してくれた最新機種はやはり感度が良い。

(お揃いと言うのが、又、微妙ですがね……)

と言うか、そろそろ『彼』も起きだしても良い頃合いだろう。
なんせ、もう11時半ばだ。いくら徹夜したとはいえ、いつまでも仮眠室に居られたのでは眠れない。
どのような悪評を受けても都村は人間だ。眠りもするし、食事もとる。つまりはそう言う事。

「久しぶりに、布団を剥ぎに行きますか…」

そうして、立ち上がり仮眠室へと向かう都村だったが、途中、彼女は外を歩く珍しい人物に注目してしまう。
三浦啓介だ。
今朝の件で、昂瑠女史の件で出向いたにしては時間が微妙過ぎる。となれば、ウチに用があるのか?
どうにも分らない。しかし、現実問題として三浦氏は警視庁を目指しているようであり、確率的に用件があるのはウチが高い。
そこまで考え、都村は踵を返すと、事務所へと戻って行く。

(しかし、来客とは……忌々しいですね……
 そう言えばお茶葉が切れていましたか……)

そうして、事務所に戻ると変わらず、辺田が書類整理を行っていた。
見ればどうにも煮詰まっている様子であり、効率よく出来てるとは言い難い。
そこで都村は休憩ついでにお使いを頼む事にした。

「辺田さん?申し訳ありませんが、ちょっとお茶葉を買ってきてもらえませんか?
 はい。いつものこぶ茶、出来れば二つくらいを……ちなみに領収はオサム君にお願いします」

頷く辺田に向け薄く笑う都村。いつもの事だ。しかし、この日常も直ぐ失われてしまう事になる。


三浦啓介と言う客人の手によって……

【状況:三浦さんが公文を襲撃。加速器に関する資料を略奪】
286佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/11/30(火) 23:10:37 0
(文明市か……なるほど。ここなら何か手掛かりがつかめそうね……)

そんな事を思いながら零は道行く人を観察する。
あの後、鈴木は零の提案を受け入れ同時に文明市と呼ばれる非合法の文明売買市場へと足を運んだ。
そうしてたどり着いたしたらばホールだがどうにも空気が張り詰めている。
ひと、ふた、み……様々な人たちが行き交うこの市場。
そのほとんどの人が文明を持っていたからだ。そう。その危険性を肌で感じられるほどに。
その気配を察したのか?それとも別な理由からなのか?萌芽は不意に足を止めると同時に先を遮る様に一行に向きあう。

「あーっと……と、取りあえずその……ここに入るのやめときません?」

振り返って笑顔を無理やり取り繕いながら言う萌芽。

だが、そんな彼の行動も空しく、彼の後ろからふいに人の悲鳴が聞こえてきた。
はぁ、と萌芽はため息を吐く。

「悲鳴ね……どうにもきな臭いわ……。
 それにこの感じ。どうにも大事みたいね?」

そこまで言い終え、零はポケットから携帯電話を取り出す。

「公文に連絡を入れておくわ。私と萌芽で様子を見ておくから鈴木さん達は避難を……!?」

そして、状況的に最も危険性が低いと思われる指示を出そうとした時。
「ううう……!!」と萌芽は声を洩らすとホールへ向けて走って行ってしまう。

「ちょっと!!萌芽……どうしたの?何かを感じた。って所なのかしら。仕方無い。
 とりあえず奥に行ってみましょう。萌芽の様子が少しおかしいわ」

そう告げて零は鈴木達と一緒にしたらばホールの中枢へと向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「萌芽!!」

到着した中枢は酷いありさまだった。
死屍累々とでも言おうか…のたうちまわる何かに襲われた人たちの残骸が辺り一面に散らばり周辺の壁さえも赤く染める様は見るに堪えない。
そんなホールの中で高笑いを浮かべる人物と吼える肉塊……
287佐伯 ◆b413PDNTVY :2010/11/30(火) 23:11:45 0
「萌芽……」

肩で息をしながら、零は萌芽に並び、声を掛ける。

「これ、アイツ等がやってるって事で良いのかしら?」

その返答はyes.そして、萌芽は既に臨戦態勢。
それだけで零の答えも決まっていた。

「しかし、私も運が無いわね。こっちに来てから下り、ずっとトラブル続きじゃない……
 もう良い。もう良いわよ。これも『ヒトダスケ』ってことね。もういい加減に愚痴を言う気にもならないわ」

ひらひらと手を振って全身でジェスチャーし零はそれを睨める。
片方はちょっと頭のかわいそうな外見だけは普通の青年。もう片方は、見て分る様に怪物然としている。
どう見ても青年の方が畳みやすそうではある。
だが、その様子からその青年が本丸であるようであり、暴れまわる怪物と人形(ひとかた)は彼が操っているようである。

「オーケィ。大体分ったわ……あっちのお人形さんは引き受けるから萌芽は大きい奴を黙らせて頂戴。
 しかる後、あの頭の緩そうな奴を袋叩きにするわよ。」

都村には電話がつながらず公文はアテには出来ない。つまりは孤立しているに近い。
だが、不思議と零には不安は無かった。むしろ、相手が人間でない以上支えが取れた様な解放感まである。
やれる。
そう、根拠は無いが自身がある。なら、やれるはずだ。
それに、ここには文明で武装した人間が山ほどいる。ある程度の支援は期待できるかもしれない。

「え?なに?面倒なのを押しつけないでほしい?
 男は黙って大物狙いで行きなさい。ほらお客様が来たわよ?」

次の瞬間、人形の方が零に向けて突進してくる。
それを軽くいなして、人形の後ろをとりつつ、再度萌芽に向けて声を張り上げる。

「カッコいい所!!」

「カッコいい所を見せて頂戴!!」


【状況:ホール中枢まで移動。レン、アラウミ、ぽろろと対峙する】
【持ち物:『重力制御』、携帯電話、現金二十二万八千円、大型自動二輪免許】
288エレーナ ◆SQTq9qX7E2
「クッ……!キリがないわ、ねえっ!そう思わない!?」

襲い来る触手を噛み千切れば、それはボトリと落ちて溶けるように消えてなくなる。
けども切断面から新たな触手が生え、再度向かってくる。
口にも出したが、キリがない。

「(あら……、ハルニレ?)」

視界の隅に、ハルニレがあの穴の中へ飛び込んで行くのが見えた。
触手を相手にしながら様子を窺うが、戻ってくる気配はない。

「…………ああ、もう!世話が焼けるわね!」

私は身を翻し、触手が追ってくるよりも早く穴へと飛び込む。
穴は想定していたより少し深かった。すぐ後ろには触手達。死に物狂いの追いかけっこが始まる。
しつこい男は嫌われるってのに!

「ハルニレ!」

見えた。穴の底に向かって、私は腕を突き出した。
ひやりとした手と、私の手が繋がった。それをしっかり確認し、私は再び飛び上がる。


「文句言わないでよね。助かっただけ有り難いと思いなさい!」

地上に出、半ば放り出すようにハルニレを降ろす。
私がハルニレを助けていた幾らかの間に、増援が増えていた。
見た目普通の少年だが、彼からも魔力を感じ取る。戦う術を持っているのだろう。
少年は私を見て目を丸くする。私のルックスに何かご不満でも?

「増援は有り難いわ。少年さん」

くっちゃべっている暇などない。
今こうしている間も、私は触手を相手に戦っているのだ。

「それじゃ、そこのデカブツは頼んだわよ!」

少年とハルニレ、それに琳樹さんへと向けて私は声を張り上げた。
ペニサスさんに乗った琳樹さんが何か言っているのを無視して、私は急降下する。

向かった先は、あの小さな人型の化け物。
私は正々堂々と真っ正面から降り立つ。それが癪に触ったのか定かではないが、化け物は腕を高く振り上げる。
それよりも早く、翼を象っていた黒いオーラが私の足に纏い、刺々しいブーツに様変わりした。

「鬼さんこちら!」

忌々しそうに化け物が振り下ろした腕は、虚しくも地を潰すだけに終わる。
その時、私は化け物の懐に飛び込んでいた。

「ハァァアーーーー…………」

ブーツに魔力を注ぎ込み、パワーが漲る。
私は魔力が籠もったブーツを纏わせたその足を、勢い良く振り上げ――……。