ファンタジーロボット大戦2

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174セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/11/15(月) 17:35:06 0
魔力が横溢した時にのみ感じられる激しい衝動がセラの中にこみ上げ
精霊機に産み落とされた世界のシルエットがプラズマ化した大気によって淡く輝く。
今まさに、獲物を求め解き放たれようとしているホーリークルセイド。

(フィリップがアーサーに何を言われたのかはわからないけど、彼はどんな形であろうとシュバリエから降りるべきよ。
泥棒を追いかけてると自分が泥棒の顔になってるって話があるけど、今のフィリップの心には明らかに影が落ちているわ)

思案を巡らせているセラ。刻々と変化する状況。

>「隊長殿、何故拙者をまだ狙うのでござるか、もうお主一人でござるよ。これ以上の戦いは無意味でござる、
>お嬢さんも武器を納めるでござるよ。話し合いが大事でござる」

「私も話し合いをするのは大賛成」精霊機はほんの少し光を弱めた。
そして、イサームを人質に続く飛陽の撤収勧告のあとフィリップの口から驚くべき言葉が発せられる。

>「イサーム卿、貴官もティルネラント貴族ならば、敵の捕虜となって利用されるより、名誉ある死を選ぶべきではないか?」
「そ、そのようなことをする必要はありません!!」セラの精霊機は完全にホーリークルセイドの光を失っていた。

「くっくっくっく…あっはっはっは…」シュバリエからイサームの擦れた笑い声。
「俺はティルネラント貴族の名誉や誇りなど、とうの昔に捨てている。あのお方に忠誠を誓ったあの日から!」

疲弊しきった顔のイサームが足元に落ちている闇のピアスを拾い何かを祈ると意図せずに頭に進入してくる笑い声。
その後、ピアスから暗闇が広がり操縦席を満たしイサームを飲み込んだ。

「え?え!?うわああああああああ!!!!」
命丸ごとイサームを飲み込んだ闇は、この一瞬だけ力を増幅させシュバリエを体内から喰らっている。
がらんどうになったシュバリエは飛陽の三両目の重さで潰れ、体外に闇を溢れ出させると暗闇の渦に三両目を飲み込んでいく。

カチカチと歯を鳴らして震えている光の精霊フィー。
沈没船のように三両目を飲み終えた闇から複数の黒い手が、
もの凄い疾さでフィリップや飛陽、エルトダウンの精霊機に伸びていく。
人間なら軽く一掴み出来るほどの巨大な黒い手。掴まれたら闇に引きずられてしまうことだろう。

【この場にいる全員の精霊力に反応して無差別に襲い掛かる巨大な闇の手】
175セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/11/15(月) 17:40:16 0
×セラの精霊機は完全にホーリークルセイドの光を失っていた。
○動揺したセラの精霊機は完全にホーリークルセイドの光を失っていた。
すみません。前に「動揺した」を入れて下さい。
それと、闇の手は溺れるものは藁をも掴むみたいな一時的な、しょぼい敵です。
176エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/11/16(火) 00:48:30 P
/そこまで補給に事欠く作りの機体に乗ってて傭兵は無理があるでござる」

的確で鋭い突込みがエルトダウンを襲う。

「ま、言われてみれば…ね。ちょっと無理がありすぎたかな」

ポリポリと頭を掻く。ほんの小さく、まいったな、と呟いた。

"まァ、なんにせよ俺らはこの戦闘に介入するつもりはねェからよ。安心しな、ござるの兄ちゃん"

ファラーシアは確かにそう言った。が、エルトダウンは参戦する気でいた。
主な理由はやはりデータである。局地的戦闘のデータを得れる機会なのだ。逃すわけにはいかない。

「フム、今はいろいろとややこしそうだから私はオブザーバーでいるよ」

そういいつつも、エルトダウンはゆっくり静かにホロウ・クロウラーの武器の安全ロックを外していった。
そして最後のビックアルバレストの安全ロックを解除しようとした瞬間、

"まずいッ!エルトダウン、出せェ!最大戦闘速度だ!"

突然叫びだすファラーシア。あまりにも唐突だったので、エルトダウンはすぐに反応することが出来なかった。

「なっ…!!間に合わな…ッ!?」

迫り来る黒き手。恐らく人間ならば一飲みに出来るほどの大きさだろう。
極限の軽量化機体であるがゆえ、比較的小柄な大きさのホロウ・クロウラー。
もしかすると引きずり込まれるかもしれない、そう思ったときにはすでに黒の手は目前に迫っていた。

しっかりと、それでいてどこかゼリー状のような感じでホロウ・クロウラーを掴んでいた。

"気付かなかったぜ…急に成長しやがった。なんてヤローだ、チクショウ!"

ホロウ・クロウラーの機体背部からは、最大出力でブースターを噴かしているためか、
本来ならば余剰分の精霊力が青い粒子となって現れるのだが、今回はそれが赤色、というよりもオレンジ色の粒子になっていた。
だが、それでも黒い闇の手は機体をがっしりと掴んで離さない。
それどころかゆっくりと後ろに引っ張られているような感覚まである。

「そんなバカな。なんてパワーだよ、まったく。でも、これは良い情報かもね。出力面の改良が少し必要か…」

【ホロウ・クロウラー、闇の手に捕捉されました】
177飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/11/17(水) 00:34:10 0
「あ、こらお主!そんな事言って本当に自爆したら苦労して手に入れた最新型が!」
フィリップの呼びかけに焦りつい本音をこぼしてしまう飛陽。急いでフォローに入るべくとイサームに通信しようと
した時、不吉な言葉を聞くことになる。

>俺はティルネラント貴族の名誉や誇りなど、とうの昔に捨てている。あのお方に忠誠を誓ったあの日から!」
直後に戸惑いの気配を含んだ悲鳴が挙がったかと思うと乗っているシュバリエから嫌な異音が聞こえ始め
飛陽の重量に耐えられなくなり潰れる。

「本当に自爆って何じゃああぁあこりゃああぁああー!」
潰れたシュバリエの装甲ごとどこかへ向かってズブズブと沈んでいきその上吹き出した黒い手に
抑えつけられるといよいよ以て異常事態に飲み込まれていく。

その時既にドリルの方を引きずり込まれた3両目の連結部に面した扉が開くと何かが勢い良く飛び出していく
「ジェニファー!おお、今回はちゃんと連れてってるでござる!グッジョブでござる!」
サボテンの植木鉢にどうやったのか木の根や草でできた小包が括りつけられている。

ジェニファーについているのは飛陽の基底格、中枢と言うべき人格を司る部品であった。これが
それぞれの車両に組み込まれ同時に起動することで普段のしぶとさを発揮するのであるが
起動している部品の記録や引き継ぎができていない時に全て破壊されればそれは飛陽の死を意味する。

飛陽は自分の人格を作る人工知能は量産しなかったのである。厳密に言うとスペアの生産はしている
のだがそれは同時に起動する、つまり飛陽が複数人存在するという状態が発生しなようにしてるのである。

それは一重にジェニファーとの約束もあるが飛陽が機械の中で「個」を持つためにとっている行動でもあった。
「ジェニファーの拙者の換えはすぐそこまで来てるでござる!そこまで逃げるでござるよ!」

半ば以上体を吸い込まれ身動きが取れなくなっているが目一杯叫ぶ。
今の飛陽の人格は核の名残だがこの取り返しの付かない余白こそが「個」と呼びうるものかも知れないが
それは誰が知るものでもなかった。

遠方の地面に墜落したジェニファーは闇と同じように地面へと沈み姿を眩ませる。それを見届けた時には最早
闇の中から空を見上げるような体勢になっていた。

(これまででござるな、しからば)
「各々方!今から最後の拙者が自爆する故、明かりが見えたらそこに明かりを集中させるでござる!
威力ではなく、光量を優先させるでござる!コヤツは、多く、ひか、ちょっ、このっ!」

機体の機能が軒並み奪われつつある状態に飛陽は焦りよりも怒りを覚える。
「調子に乗るなこのお化けがああああああぁあああぁああーー!」
直後に爆発。暗闇の渦に明かりが灯り手が少しだけ怯む。

【飛陽 全機ロストにより戦闘不能 ジェニファー 地中からこちらへ向かっている最中の予備のボディとの合流を急ぐ】
178フィリップ ◆i3/u6CmHbc :2010/11/18(木) 02:50:54 0
セラのホーリークルセイドを霧散させ、飛陽との舌戦でも優位にたって、フィリップの心に一瞬、油断が生まれた。
その時を見計らったかのように、黒い手がシュバリエを包みこんだ。
操主の油断故か、反応の遅れたシュバリエは為す術も無く、闇に飲み込まれていった。

【フィリップ(闇色の触手の中)】
フィリップは何もない闇のなかで半ばまどろみながら、ティルネラントが侵攻してきたときのことを思い出していた。

彼の父の領国であり、彼の故郷でもあるアルザス領は、強大な王国軍の前に為す術も無く蹂躙され、多くのものが失われた。
そのなかでも最も残虐だった士官がイサーム・カラムであり、軍紀を遵守し、必要以上の血を流さなかったのが、セラの第4軍団の将兵であった。

だから、フィリップはイサームと同じ隊に配属になったとき、必ず彼に復讐すると決意していたし、イサームへの冷酷な態度もここから発している。
セラがフィリップの「心の影」と考えたものは実はフィリップのイサームに対する個人的な復讐心であって、機体の特性によって生じたものではなかったのである。

【シュバリエ、闇のなかに飲み込まれる】
【フィリップの過去の回想、「心の影」の正体を特定】
179セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/11/18(木) 17:09:41 0
「あの方に忠誠?あの方って誰!?」とセラが呼びかけると
「え?え!?うわああああああああ!!!!」と断末魔の叫びで答えるイサーム。

「イ、イサーム!!どうしたの!?なぜ、闇の精霊がここに!?」
…返事はなかった。

イサームのシュバリエから噴出した無数の闇の手が一瞬の隙をつきエルトダウンとフィリップを捕らえる。
闇の精霊と一言でいってもアデラのように巧みに使いこなせる者もいれば
レオニール・ルラン・ファーブニールのように囚われてしまう者もいる。
ならばこの闇の手の正体は一体何か。この場にいる者に知る術はない。

「くっ…飛んでっ!セラフィー!!」
まばたき一つの差で急上昇し、闇の手から逃れるセラ。
水あめのように伸び、空まで追いかけてきた闇の手たちは光の翼の羽ばたきによって払い落す。
だが光と闇がぶつかった衝撃はセラフィーの精霊力を激しく消耗させた。

「やっ…ばい。フィーは闇は苦手なんだよねぇ。ん…?
…あれ?よく見たらASLの精霊機も捕まっちゃってる?ぷぷ…油断してたのね」
(あいつはアルタイテンとの一回戦めで圧縮砲の雨をアルタイテンごと私に放った戦場荒し。
あの時にセラフィーの腕を飛ばされなかったらアルタイテンを一突きにして勝負はついていたのよ。たぶんね)

「光の翼で闇の手を斬ったら、みんなを助けてあげれるんだけどー…ASLだけは見殺しにしちゃおうかな?」
空中の安全圏にいるセラが目を細めてにやにやしていると

>「各々方!今から最後の拙者が自爆する故、明かりが見えたらそこに明かりを集中させるでござる!
>威力ではなく、光量を優先させるでござる!コヤツは、多く、ひか、ちょっ、このっ!」

「…だって!聞いてるASL?光の翼で闇の手を斬ってあげるから、あなたも手をかしなさい!!
闇の固まりにむけて全弾一斉掃射の飽和攻撃よ!ケチるんじゃないわよ!!」
(まー私は余力を残すけど。それに飛陽の三両目から精霊が逃げるのをみたわ。自爆って言ってもあのタイプはホントに死ぬことはないはず)
そう言いつつ心で思いつつ急降下し、光の翼でホロウ・クロウラーを掴んでいる闇の手を斬断するセラ。

「次はフィリップ!」
セラが急旋回してフィリップを救出に向かおうとした瞬間。

>「調子に乗るなこのお化けがああああああぁあああぁああーー!」
飛陽が爆光をあげると闇の手たち一瞬怯む手を見せたが、まどろみの中のフィリップは動かず、シュバリエと共に闇の中心に引きずり込まれる。
闇の中心は三両目の爆心地。つまり闇の手に引きづられて飛陽の自爆に巻き込まれる形となるフィリップ。

爆光の中にイサーム・ガラムの幻影らしき黒い影が現われる。

「逃さん…おまえだけは…逃さんぞ…フィリップ!!」
プライド。劣等感。戦闘本能。イサームのどす黒い心の闇がフィリップの心に侵入してくる。
飛陽の爆光にもフィリップのシュバリエだけは逃さなかった闇と同化したイサームのその執念には凄まじいものがあった。

【エルトダウンさんは救出】【闇の手がフィリップさんを飛陽さんの自爆に巻き込む】
180エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/11/21(日) 20:42:09 P
ずぶずぶと機体が闇に沈んでいく。
もうこれまでか、と思われたときだった。

/「…だって!聞いてるASL?光の翼で闇の手を斬ってあげるから、あなたも手をかしなさい!!

"へへへ、良いねーちゃんだな。ありがとよ!エルトダウン、行くぜェ!お礼参りだッ!!"

出力が最大状態のホロウ・クロウラー。
一気に加速する。ある程度のG耐性があるエルトダウンも急な加速に少し嗚咽を漏らした。

「助けてもらった以上はね。もっとも、飛び道具なんてこのアルバレストくらいしかないんですがね」

後方支援装備ならばカノン砲があったのだが、
今回の出撃は資料の回収。よって偵察仕様の装備なのだ。
特別な武装は殆ど無い。

"無の精霊の力を見せてやんよ。エルトダウン、アルバレストの準備は良いなァ?合図と同時に発射しろよォ、いいなッ!"

フッと鼻で笑うエルトダウン。しかし、ここはファラーシアに従うことにした。
そして、ファラーシアのカウントダウン。
ゼロの合図と共にエルトダウンがビッグアルバレストの引き金を引く。

空気中を真直ぐに、黒い塊に向けて飛んでいくボルト。

「…ファラーシア、何をしたんだい?特に変わった様子は見えないけど…」

"まァ見てなって。着弾時が勝負だ。もっとも、トドメを刺すのは他の連中に任しちまうがな"

そしてボルトが黒い塊に直撃する…と同時に着弾点からまばゆい光が漏れ出す。
周囲の大気がその光に吸い込まれるように収束される。

「アレは…ランページ・アトモスフィアと同じ原理を?考えたね、ファラーシア」

ランページ・アトモスフィアの弾丸生成は主に二段階に分かれている。
一段階目は吸気口より吸入した大気をファラーシアの力を利用して大気の弾丸を作る。
二段階目は機体に備えられた特殊な機構によってそれが拡散しないように固定するのだ。

そして、今回は一段階目のみを利用したのだ。
ファラーシアがボルトに細工をし、衝撃が加わると大気の塊を作り出すようにしておいたのだ。
だが、本来の二段階目がないため、大気は固定されずに拡散される。

そうして、収束された大気がチチッと輝き、
着弾点の付近が吹き飛んだ。

勿論、火薬を使ったわけではない。火も出ない。ただ、空気を利用しただけの爆発。

"まァ、俺が本気だしゃあこんなモンよ。汚ねェ塊に大穴開けてやったぜ、ハハハ"

【闇の固まりにダメージを与えました】
181飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/11/23(火) 19:03:07 0
ジェニファーは地中を進んでいた。新手に備えて呼んでおいた自分たちの増援へ向かって。
サボテンのくせに地中に潜り掘り進むという気味の悪いことをしながら。

植物の精霊でありながら人型を取っていないこの精霊の目的はひどく単純なものだ、足がわりに
使っている飛陽と大差がない。つまり増加である。旅先の土地に自分の種を撒いては増やすという
本能に則って行動する。名前は誰が付けたか分らないが何時の頃から名前を問われればそう教えている。

知能が高く(というか話せないだけで人とあまり遜色が無い)自分の目的の為に何が必要かを
考え放置されていた飛陽を手に入れた。初めはぎこちなかった彼の人格回路が今の性格になったのも
この植物のせいである。廃材の山から使えそうな部品を飛陽に集めさせてはジャンク弄りが好きそうな
人間達に飛陽を嫌というほど弄らせた。

その結果がアレである。幸いにして量産こそできたもののできあがるまでの過程は全く不明である。
脱出の際に稼動していた人格回路を次のボディに移植すれば「さっきまでの」飛陽は復活する。

ジェニファーは知識はあっても情がある訳ではない。個に拘る飛陽の心情までは理解出来ないし
する気もない。ただ自分の為にあちこちを駆け回る行動と利害が一致していたから
咎め立てするようなことはしなかった。ただそれだけである。

正直ジェニファーは即座に複数の飛陽の人格を目覚めさせたほうが防衛しやすいだろうと思っていた。
何の為のバックアップかとジェニファーは不思議がる。心なしかトゲの数が増えている。

この本体が死んでも既に根を張り育った種を新しいジェニファーにすればいい。そう思っている、
またそのような構造をしているこのサボテンは、ある程度同じことができるということで
飛陽を選んだのだが彼が同じことをした事は殆どない。

それがまたジェニファーに不可解の念を覚えさせるのだ、既にこれまで移動してきた土地で
次の自分になれるまでに育ったモノがいくつかある。それ故この飛陽の保護も乗り気でない。

今暴れている黒い手もそうだが新手を感知したときにあった嫌な何かはエルトダウンには見当たらなかった。。
人でないジェニファーに気のせいという概念はない。アジト内の総力を集めなければ不安要素たる
何かは排除できない。現に飛陽と修理機の2機を使ってやっとの相打ちである。

迫る危険の大きさに反比例してジェニファーは、人間でいう所の「気怠さ」に似たものを感じていた。

【ジェニファー、精霊機用のエレベーターに接近】
182フィリップ ◆i3/u6CmHbc :2010/11/25(木) 01:38:52 0
<フィリップ視点>
どれくらい夢のなかを彷徨っていただろうか。
フィリップの意識が覚醒しかけたとき、彼と彼の機体は飛陽の爆発によって引き起こされた闇の大波に飲みこまれようとしていた。
(俺はここで終わるのか・・・)
同僚を売った報いを受ける時がきたのだ。
フィリップが再び薄れてゆく迫り行く死を受け入れ、目を閉じたとき、大気の槍が闇を貫いた。

<ネージュ視点>
「お前をこんなところで死なせてたまるか!」
ネージュはそう叫ぶと、エルトダウンの砲撃によってできた亀裂から機体を脱出させようとする。
一方、闇の手もそう簡単に獲物を逃してはくれない。
周囲から凄まじい力での圧迫に耐えきれず、翼は折れ、左腕は失われた。
精霊に守護されていない人間ならば容易に圧死するであろう重圧を受けて、彼女の主が意識を手放してもなお
ネージュは闇の先の光を目指して歩みを進めた。

無間に続くかと思えた闇からやっと這いでたとき、威容を誇ったシュバリエは単なる精霊機の残骸と成れ果てていた。

【シュバリエ、闇から脱出する過程で大破】
183セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/11/25(木) 16:48:47 0
ホロウ・クロウラーの無の精霊力が闇に大穴を穿つ。
「…あっ!」セラは驚きの声を洩らした。
操者であるファラーシアの技量には感心するが、同時に歯がゆさを感じる。
優れた力をどうして万人のために使おうとしないのだろう。

「や、やるわねー…戦場荒しさん」操縦席で小さく囁くセラ。
一方、闇に開いた亀裂から吐き出されるように這い出てくるシュバリエ。

「フィリップが生きていてくれた!!」喜色を浮かべたセラの機体に光の精霊力が漲る。
「冥府へと導く破邪の煌きよ。我が声に耳を傾けたまえ。聖なる祈り。永久に紡がれん…。
災いよ灰塵と化せ!!ホーリークルセイド!!!!!」
機体胸部で集束した光が圧縮され闇の集合体に解き放たれる。

ぐわああああああーっ!!!!!

闇と同化したイサームの怪が膨張し爆ぜると、光の影に成り下がりすべては消失した。
精霊力を消耗したセラフィーはというと地上に落下し、
地面の前で翼を、ひと羽ばたかせさせて空気のクッションに舞い降りる。

「飛陽もシュバリエも大破。今回は引き分けってことでよろしくて?」深呼吸をして、まわりを見渡す。
ジェニファーも感じていた先ほどまであった何かに見られているという気配はすでになかった。

「追い払った闇がどこまで深い闇かなんて私にはわからないし…。
ただ言える事は、あの闇の精霊力がイサーム一人の力だとは考えられないってことね…。
アルス将軍本人が何らかの形で闇と通じているのか、
それともイサームの単独行動だったのかはわからず終いだったけど…」

セラの独り言のあとに急接近してくる二つの精霊力。
「うそ…」
風圧が地面を圧倒して砂埃が巻き起こると目の前に現われたのは2機のシュバリエ。
「おみごとですフィリップ殿。飛陽討伐に成功なされたようですね」
飛陽の残骸を確認したシュバリエの操者の声は平淡で喜びも何も感じられない。
ただイサームのシュバリエの残骸に目をむけたときに薄い笑みを浮かべたように思われた。
「彼は…(くす)いえ、何でもありません。我がシュバリエにお乗り下さいフィリップ殿。帰還いたしましょう」
シュバリエの大きな手が大破したフィリップの機体に差し伸べられる。

「…(イサームって厄介者だったてこと?なんかそんな感じ。
これを見越しての飛陽討伐だったとしたら恐るべしアルス将軍ね。
白か黒かわからないような灰色の部下は、体裁よく消そうとしてたってこと?
イサームはミッションクリアしたとしてもあの二人に殺されたてたのかもね…)ちょっとかわいそう」
セラは如何にも自分は正義の賞金稼ぎだという風に堂々と精霊機の胸を張ってみせた。
新手の2機のシュバリエが無駄な争いをすることはないことは予想できたのだが。

「あー疲れたー。私はただの賞金稼ぎなのに巻き込まれちゃったんだよー。ピュ〜ピュ〜♪」
誤魔化すセラだったが案の定シュバリエの二人の操者はそんなことなど気にもとめていなかった。


【闇の手消滅】【新手のシュバリエの操者がフィリップさんを迎えに来る】
【エルトダウンさん以外は消耗しちゃっているので話の中では日を置いたほうがいいのかな?】
184セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/11/28(日) 17:37:50 0
ジェニファーが精霊機用エレベーターの前まで近づいたときに、ちょうど良いタイミングで扉が開く。出てきたのは厳つい精霊機。
それは化け物の電気ショックから回復したアロルのアルフィーだった。それは、見上げているジェニファーを大跨ぎして戦場に駆けて行く。
「え?サボテン!?今のサボテンだったよな?まだ目がぼやけてるのか?」と操縦席で、かぶりを振るアロル。

一方、街――
四機あるシュバリエのうち二機は大破。残っている二機のシュバリエの操者がアジトの住民たちに拡声器で問いかける。
「無駄とわかって聞こう。我々が破壊された街の復興を支援する代わりに、
街の統治権を我がティルネラントに譲渡するというのはどうか?」
アジトの住民たちは一斉にジェームズを見、彼は怪訝な表情でシュバリエの操者に答える。
「復興支援などいらん!その代わりこの土地を二度と戦場にしないと約束をしてもらおう!」
シュバリエの操者たちは快活に笑いジェームズのを案を承諾すると一陣の風とともに飛陽のアジトをあとにする。
「ふう…去ったか…。飛陽くんみたいに頭が回らんからあんなことを言ってしまったよ…」
「平和が一番ッス!」歯の欠けたメガネの技術者がジェームズの肩をたたいた。

「フィリップは新手のシュバリエに乗って行っちゃったのかな?
いちおう解決したってことよね?それに今回は、ASLは巻き込まれっちゃっただけみたいだし…。
こんな辺鄙な所を何で飛んでいたかは不明だけど…。あとはジェームズさんの問題ね」

で、話の結論から言うと、セラはジェームズの妹をアジトに呼び一緒に住まわせることに決めた。
もともとはストロベリーフィールズの農場で使用人として生活していたジェームズたちは下界の暮らしに満足していなかったのである。
ジェームズが行方不明になった後に、妹は農場から逃げ出し占い師になったという事だ。

――復興しつつあるアジトの民家でセラとアロルはイチゴジャムのたっぷり塗られたパンを頬張っている。
「おいしいおいしい。次はどこへ行こうかな…」

【フィリップさんが迎えにきたシュバリエで帰ったかどうかはお任せ。エルトダウンルート発動?】
185飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/11/28(日) 19:06:50 0
アロルの機体に遅れて飛陽のボディが現着した時には既に二機のシュバリエは飛び去っていった後だった。
取り急ぎ新しい体に回路を移植する(構造は企業秘密だ)と飛陽は声を荒らげて復活したことを示す。
今度の体は灰色の幾分簡素な機体だった。

「さあ、第二ラウンドでござる!っておや?」
しかし街の様子からいって概ね事態は収拾が着いたような空気を見せており、彼はジェニファーや
ジェームズから話を聞いて情報の整理をすることとなった。

それから少しして

(見計らったように現れた二機、それも隊長機と同格と思わしきスペック、そして統治権を求める、これは・・・)
飛陽は自分が会ってはいない彼らの思惑を考えていた。幾つか見当がつくのはイサームが最後にしたことが
当人にとって予定と違っていたであろうこと。そうでなければあんな悲鳴は上がらない。

そしてイサームが自分を明らかに「人間として」捉えに来たのでないことは彼の攻撃から予想できた。
対人用とも取れる腐食風なんぞ使えば最悪中身は残らないだろう、生死を問わないといっても死体が
残らねば話にもならない。そして現れた二機が自分を見逃した理由、それは何か。

自分が容易に倒せるからだろうか、それならばむしろその場で終わらせる方が合理的だ、イサームは
何かは知らされていない何かをして自滅し、そして後から来た二人は彼の任務を知らなかった可能性がある。
切り捨てる予定の者に適当な理由を宛てがい当人以外はそれを知らないという訳だ。

根拠は薄かったがそれくらいしか今は思い付かない。そして今一番重要なことは統治権を求められたことだ。
敵は「無駄と知りつつ」言ってきた。引き上げた彼らはジェームズの言い分を承諾したそうだがどこまで本当か
分かったものではない。

(ここはティルネラント領外の無法者のアジト、攻め込まれる理由は事欠かない、ここで仕留められなかった
ことは失敗だったかも知れんでござる)

流石に今すぐは皆疲労が激しいので後で言うことにするが飛陽は思いついた最悪の事態に備えての
対処を練り始めていた。現状で残った問題はただ一つ、新手の男の対応だった。ここで彼の目的を
聞いておかねばならない。皆に後日集まるように告げるとエルトダウンへと向き直り

「それで、お主はどうするでござるか?拙者の首ならまた今度、別の用ならそれはそれ、もし戦闘がしたい
だけとかだったら後で他の機体で模擬戦でもするでござる。機体の整備がしたければそれもして行くと
いいでござる。それで問題がなければ後で一つ頼まれて欲しいんでござるが」

一方的に捲くし立てる返事を待つ。山の天気は変わりやすい、もしかしたらこれは嵐の前触れなのだろうか。

【飛陽 なんとか復活、エルトダウンに質問攻め、色々と考え中】
186エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/12/01(水) 13:38:04 0
呆気なかった。エルトダウンは殆どボーっとしていただけである。

"で、これからどーすんだ、エルトダウン?もちろん、資料は取りに行くがここから無責任に逃げだすつもりかァ?"

「ン…そんなワケないよ。私は逃げも隠れも責任逃れもするつもりはないさ。ちゃんと話し合って…」

エルトダウンとファラーシアが今後について話し合っていると、

/いいでござる。それで問題がなければ後で一つ頼まれて欲しいんでござるが」

「まさか。私はそもそもこの戦闘に巻き込まれただけの存在だよ。君の首を取るなんてとんでもない」

"機体の整備くらいはしておくべきじゃねェか?慣れねェ偵察装備だ。ちょーっと見ておくだけでも大分違うと思うぜ"

それもそうだ、とエルトダウン。

「じゃあ、ご好意に甘えるとするよ。少し整備させてもらう。
 けど、そのお願いは聞けるかわからないね。私たちも仕事があるんだよ。とっても重要な」

エルトダウンは正直言ってこれ以上かかわりたくはなかった。今すぐにでも鉄の翼に帰りたかった。
嫌な感じがするのだ。胸騒ぎが。

(N2-ALW…音沙汰無しか。そろそろ動いてもいいハズだぞ、極東支局の変態マニアどもめ)

そう、例の悪魔の話である。極東支部、ジパングにて開発された人間を媒介とする人工精霊"ヌル"の後継型。
もともと、仕事の速さと質には定評のあるASL極東支部。その中でも秘匿中の秘匿を扱うと噂される第2研究局の開発だ。とっくに完成していてもおかしくはない。
むしろ、もう戦場に投入されてると考える方が自然である。
それがエルトダウンの胸騒ぎの原因であった。

どうかこれがただの気のせいであるように、とエルトダウンは思いながら、簡単な機体チェックのためにホロウ・クロウラーから飛び降りた。

【一応あいまいな返事を】
187セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/03(金) 15:24:16 0
フィリップを裏切りアジトの住人になった兵士たちの群れの中。
紛れ込むようにそのピアスの男はいた。
名前はブラッド。金色の短髪に、こめかみから旋毛にかけて雷のようにジグザグな切り込みがはしっている。
両耳で揺れる漆黒のピアスはイサーム・ガラムが身に着けていたものと同じ形。
男は痩せこけてはいたが眼光鋭く、黒曜石を削ってできた彫刻のような筋肉を身に纏っておりとても元敗残兵には思えない。

男は兵士たちの集団から違和なく離脱すると、戦闘によって破壊され広場と化した街の一角で、
飛陽の残骸を調べていたようだったが、お目当てのものは見つからず焦燥の色をあらわにする。
「…チッ!」小さく舌打ちをするブラッド。
彼が目的の物がすでに消失したと諦め、密かにアジトの近くまで迎えに来ているであろう
仲間との合流ポイントに移動を始めようと思った矢先、 灰色の戦車がこちらに接近して来た。
それは飛陽であった。

飛陽はエルトダウンと会話を始める。
飛陽の傍ら。ホロウ・クロウラーから飛び降りた男にもブラッドは見覚えがある。
もちろん直接出会ったことはないのだが仲間のスパイが、
ASLの施設から生きた情報の一部を盗みだすことに成功していたため彼の特徴を知っていたのだ。

そして人口精霊"ヌル"の後継型の存在も…。

飛陽の声を聞き生存を確認したブラッドはニヤリと笑うと
何知らぬ顔で兵士たちの群れに再度溶け込み時を待つことにした。

=夜=

アジトの遥か上空。朧げな月の光と同化するかのように銀色に輝く機体が浮かんでいる。
ラドムームだった。
「このポイントから下降してブラッドという男を回収する。それが今回の任務か。
しかしこの下は山岳地帯のはず。このような所で何をしているのだブラッドと言う男は…」
生命の存在できない虚空。精霊機の中でムラキの独語が宙に舞う。

地上へ下降し始め、雲の底を抜けると眼下に広がるのは寂寥感漂う山岳地帯。
「ん?あれは?隠しアジトではないか?」
機体の足の裏。望遠した重力の底に見えるのは飛陽のアジト。
「今回の指令は親愛なるイサーム卿からの命令ではあるが何かしら腑に落ちん。
なぜこのようにコソコソせねばならんのだ。精霊反応を探知されてはならぬよう
一度世界の外に出て、降りてこなければならんとは…。まことにまどろっこしい!」

月の精霊の加護を受けているラドムームは宇宙空間を移動することが出来た。
それを買われ今は亡きイサームに指名されていたわけであったのだが…。

ムラキはラドムームの精霊炉を停止させパラシュートを開くと、夜の帳に紛れつつアジト付近の岩山に機体を降下させる。
「うむ。定刻通りにポイントへの侵入に成功。あとはブラッドを待つだけか…」

その頃。ブラッドは飛陽の眠るドッグに侵入していた。果たして飛陽が、眠るのかどうかは定かではなかったが。
ブラッドはジェ二ファーが入り込むであろう機体部分をそっと抉じ開け闇のピアスを掌に乗せ念じる。
念動を受けたピアスからは無数の黒い触角が生え、それは飛陽内部に侵入しあるものに触れると、
その情報を抜き出しどこかへ送信した。

「本当は擬似人格システムそのものを回収したかったんだが仕方ねぇ。データだけを抜き取らせてもらったぜ」
ブラッドはそう言い残すと外にいるムラキと合流して飛陽のアジトをあとにする。

ロンデニオンとの戦線辺りまで移動し安全を確保したラドムームの中。
ブラッドはムラキに伝えた。
イサーム卿がセラや飛陽たちによって討たれたということを…。
「なんとぉおぉ〜…」
友人のイサームの死に、顔面を震わせ怒りに燃えるムラキの両眼。
激しいムラキの怒りを感じ、ブラッドは心の中でほくそ笑んでいた。
【今回は伏線回収のお話でした】
188飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/03(金) 21:35:55 0
「ふーむ、二十年近く前のデータ、でござるか」
周囲の人々がまだかろうじて無事な建物や基地へと避難して夜を過ごしている頃、飛陽はドックで
客人の話に耳を傾けていた。

「拙者が作られたのが二年といくらか前でござるから流石に知らないでござるなあ。
破棄されてたここを使い回しちゃいるでござるが、その前にも何度かここにはASLや野盗が入ってた
んでござる、売り払えるものは殆どなかったから前任者が黙って持ってったんじゃござらんか?」

ただ、と飛陽が付け加える

「初めてここの機材を技術部にイジらせた時、中身が初期化されてたんでござる。そのままでも
なければ再起不能でもない。何か変だなとは思ったんでござるが、あ!思い出したでござる!
なんかものものしい記録用紙が隠してあったんでござる。日記もあったんでござるがどっちも血とか染みが
あって祟られてそうなので麓の沼地に祠を建てて祀ってあるでござる」

中身は見たら襲われること請け合いだろうから見ていないと念を押しておく。こういう日頃の心がけが
大事である。ちなみに正体はバレてると思ってるので自分からバラしてしまっている。

「まあ後日山を降りたら探すといいでござる」
そこまで話すと今度は頼みの件に移る。
「で、さっき言った頼みなんでござるが簡単でござる、近々また一戦ありそうだからその時に
こちら側に付いて軽く一撫でして欲しいと言うんでござるよ」

どうにもこのまま済ませてくれる手合いとは思えない。もしも大規模な戦闘がここで起こったら
今度こそどうにもなるまい。

「まあ逃げる分にはそれほど問題がないので文字通りその暇があればでいいでござる」
互いに要件を伝えその場は解散する。そして時間は皆が寝静まった夜へと移る。

(さて、明日から大忙しでござるな、皆を別のアジトへ一度移してそれから、む?)
何者かがドックへ入ってくる。自分に乗ってジェニファー用のコクピット(というより戸棚)をこじ開け何かを
飛陽に入れる。当のジェニファーは街の除染作業のため今は畑に植わっている。

(なんぞ拙者でも乗っ取ろうというんでござろうか、何にせよまだ仲間がいたようでござる)
敢えてなすがままでいることで、相手の行動を観察する。何かはよく分らないが自分と同調した何かが
どこかへ自分の情報を送信しているらしい。
189飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/03(金) 21:39:05 0
>本当は擬似人格システムそのものを回収したかったんだが仕方ねぇ。データだけを抜き取らせてもらったぜ

深夜の曲者はそう告げるとどこかへと去っていく。彼らの狙いはやはり機械としての自分だったのか。
(なるほど、機体のシステムに同化することでセキュリティに引っ掛からないのは大したものでござるが、
それはつまり自分から送信してるってことでござる。送り先は・・・ふむふむ)

飛陽が「自分から」そこへ同じように自分の情報を送信すると直後に異物が持っていた宛先が消失する。
しかし二度目の自ら送信した履歴は飛陽の中に残ったままだ。ギリギリ間に合ったようだ。

(相手に取り憑いて頭の中を覗いてる最中、それを相手が自覚して逆に自分を覗き返しているとは夢にも
思わんでござろう、同じ穴の狢がミイラになるとは正にこの事)
飛陽も飛陽で強引な乗っ取りには同じ手を使うことが無いわけでは無いので大した驚きはなかった。

送信先に極めて単純なウイルス(開けると同じデータが次々開かれる類のもので防がれると形を変える)を
送ると飛陽は目の前の選択に頭を悩ませた。

(とりあえず朝になったら皆を他のアジトに移す、これは決定。ではその後は?この送り先に乗り込むか、
それとも来るかどうかわからない敵を待つか・・・)
攻めるなら一刻も早く行かねばなるまい。その場合守りがいない以上このアジトは敵襲があった時に落ちる。
守るのなら飛陽のデータはそのまま明け渡すことになるだろう。どうすべきか。飛陽は決断した。

「巧遅拙速に如かず、でござるか」
翌朝、飛陽はアジト内の者に「念のため」と言いここから離れたアジトへ移るよう言い渡し撤収させると
ジェームズ達に鉢に分けたシシミアや他の農作物の苗を持たせ基地から退去させる。

そしてセラ達に自分がこれから帝国領内にいるであろう先日のシュバリエの乗り手と繋がりのあると覚しき者
の元へ向かう事を告げた。
(敵の場所は帝国領内、敵の名前はメドラウト、それだけ分かれば充分でござる)

【飛陽 一度基地を放棄し送信先へ乗り込もうとする】
190フィリップ ◆i3/u6CmHbc :2010/12/03(金) 22:59:04 0
【ストロベリーフィールズ、第3軍団本営】
迎えに来たシュバリエのうち一機に同乗して第3軍団に帰ったフィリップはアレス将軍から呼び出しを受けた。

赤い髪に精悍な顔立ちのアレス将軍は30代半ば。軍団を指揮する将軍としては異例の若さで、王族を除いた軍団指揮官の最年少者である。
「フィリップ卿、ご苦労だった。君のおかげで不純物を多少なりとも減らすことができた。礼を言う。」
ここで言う不純物とは、生まれながらのティルネラント人ではないティルネラント軍人を指す。

(これがメドラウト卿の側考え方なのか)
あの日、アーサーからフィリップに渡されたのはシュバリエだけではなかった。
アーサーが「この国の闇」と呼んだ宮廷、議会、そして軍を巻き込む派閥抗争に関する資料もフィリップの手に渡った。
191フィリップ ◆i3/u6CmHbc :2010/12/03(金) 23:15:52 0
それによると、今ティルネラントの上流階級の間にはいくつかの派閥があって、そのうち一つを率いているのがメドラウト卿とのことだ。
派閥抗争による弊害の一つは特定の派閥による情報の独占を引き起こす点にある。

アレス将軍がムラキの手に入れた飛陽の人格システムの解析を軍全体で行うのではなく、第3軍団だけで行うと決めて
それに対する援助のためにフィリップを使者としてАSLへと派遣したのはこのような背景があったのである。

【飛陽の人格システム解析のためアレス将軍がフィリップをАSLに派遣】
192エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/12/04(土) 01:07:45 0
/「ふーむ、二十年近く前のデータ、でござるか」

「そうなんでござるよ」

戦場で出会った彼―飛陽というらしい―と完全に打ち解けてしまったエルトダウン。
ふざけて彼の独特な口調を真似する。

/あって祟られてそうなので麓の沼地に祠を建てて祀ってあるでござる」

"おうおう、そりゃあ良かったぜ。祀るってこたあ、即ち保管するとほぼ同義だからなァ"

ファラーシアは相変わらずの態度であったが、
飛陽の話を聞いているエルトダウンは真剣であった。
もしも中身を見ていたのならば……ASLのマニュアルでは飛陽を始末しなければならなかった。
だが、幸い彼は見ていないようだ。胸を撫で下ろすエルトダウン。

/「まあ逃げる分にはそれほど問題がないので文字通りその暇があればでいいでござる」

"ハハハ、そんなに緩くて良いのかァ?まあ、資料の件もあるしな。
 俺らからしてみりゃあ廃棄されてるもんだと思ってたからなァ。そんくらいはお安い御用よォ。な、エルトダウン?"

「うん、そうだね。ASLじゃあ指令を受けてない戦闘に介入するのはかなりタブーだけど、今回くらいは良いだろう」

ASLも案外緩いな。ファラーシアはエルトダウンの言葉を聴いてそう思っていた。

――その頃、鉄の翼ブリッジ

『アルヴェリヒ艦長代理。例のティルネラントの使節はどう処理したので?』

鉄の翼で待機していたサイアニス。アルヴェリヒは手に持った書類に目を通している。

[フム…スパイの可能性も捨てきれない。事実、過去に何度か空き巣にはあってるワケだし。
とは言うもののもはやASLも各方面で分裂状態。極東のN2がある以上…な。
どうやらフィリップ…と言ったか、彼も精霊機乗りらしい。いざとなれば加勢してもらえばいい]

その知らせは明朝、突然に届いた。
相手はティルネラント。とある高性能のシステムの共同研究を申し立ててきたのだ。
勿論、そのシステムはある程度ASLにも渡る手筈になっている。そうでなければ共同研究など受け入れるわけが無い。

更に言えば、各方面の研究局の技術力との差別化を図る為でもあった。
極東方面は既存の技術の応用力がずば抜けて高い。
南方面では地道な作業に定評がある。特筆するならばその蒸気機関である。
他のどの研究局よりも効率的で低コストの蒸気機関を開発したのもASL南部支局だ。その一部はホロウ・クロウラーにも流用されている。
極北方面はもはやASLとは別の組織である。北極点の環境保全のために日夜努力しているらしい。

そこで西部支局は独自の技術の発展をスローガンにすることを決めた。
既にランページ・アトモスフィア等の独自機構の開発に成功している。独自力で攻めるしかない。

『例のヤツも、すでにこちらに輸送されたと聞きます。もしも我々と接触して来たならば…艦長代理、貴方ならどうしますか?』

[私かい?私ならばN2を使って、生意気な西部支局を技術力ごと武力で接収するね。もしくは、完膚なきまでに叩き潰す。君は?]

冷酷に、それでいて楽しそうに言う。ああ、この人もASLの人間なのだとサイアニスは思う。

『私ですか?……私にはわかりません。私は使うよりも使われる側、駒のほうが似合っていますから』

【エルトダウン、飛陽の提案を受け入れる】
193セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/04(土) 17:04:36 0
翌朝。朝の湯浴みを終えたばかりのセラが、宿舎の窓辺でほてりを冷ましていると飛陽が来た。
彼は、先日のシュバリエの乗り手と繋がりのあると覚しき者の元へ旅立つことに決めたらしい。

「ありゃ?その送信された場所って座標軸からすると白亜の塔じゃない?真っ白くて大きな塔が廃墟の真ん中に一本そそり立っているの…
私も子供の頃行ったことがあるんだけど不気味ところよ。もとは聖都として繁栄してたとこらしいんだけど今じゃ王族の墓所みたいになってる。
場所はストロベリーフィールズの東。ちょっと足をのばせば海。そのむこうはジパングってところ。
それと、その都には王族以外足を踏み入れてはならないと言う掟があるの。まあ、理由はわからないけど気にすることじゃないかも。
古代王族の末裔たちが特別感を出したいだけに決まってるから…。でも誰もいないはずの場所に送信されたとか気持ち悪い…。
幽霊にでも送信したのかしら…」

セラはそそくさと着替えて愛機に乗り込むと飛陽を追いかけながら話し続ける。

「ストロベリーフィールズにはアレス将軍が駐屯しているから下手に動いたら斥候に見つかって面倒なことになると思う。
でも禿山から少し下って大陸を横断してる峡谷を使ったら、逆に近道になると私は思うんだけど、どう?
谷沿いにもいくつかの街はあるから補給にもことかかない。まー補給する必要もなく白亜の塔まで直行出来ると私は思う…」

セラの言う峡谷とは古の時代巨神が大地を斬って造られたと噂される大峡谷。谷底に水はなく荒地ではあったが戦車なら走行可能だろう。

【中途半端になってしまってごめんなさい。お話を進めていただいても結構です】
194セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/05(日) 19:21:56 0
=ストロベリーフィールズ近郊、第三軍団本営=

飛陽のウィルスによって白亜の塔にはデータは送信されなかった。
現在、データが存在する場所は飛陽本人と、直接飛陽と邂逅を果たしたブラッドの闇のピアス。
しかし闇のピアスはムラキのもとからアレス将軍の手に渡りフィリップのもとへ、
終いにはASLの手に渡ることとなった。それは何故か。

ムラキはイサームの友人ではあったが、その前に一人の武人。
ブラッドの行動を不審に思った彼はブラッドをアレス将軍の前につき出したのである。

「血を流すことを恐れぬ者だけが覇道を歩むことを許されるのだ。賢しい宮廷の老人たちにその資格はない」
本営から東の空、白亜の塔の方角を見つめながらアレス将軍はひとりごちた。
195エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/12/05(日) 19:59:40 0
――ASL極東方面第2研究局・特別研究用区画

ジパングにASLの前身となるTU(※)が創設されて以来、ジパングではジパングに古来より伝わる伝説、
"鬼伝説"を再現しようと試みてきた研究者達がいた。
196エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/12/05(日) 20:21:49 0
彼らはASLの総合研究局との併合を拒み、独自に精霊機の開発を進めていたのだ。

TU時代、精霊機の研究・大量生産が盛んだった頃の負の遺産、
製造ナンバー"キ-零壱『鴉天狗』"ならびに"キ-零弐『酒呑童子』"。
それらがある日、突然、特別研究用区画ごと忽然と姿を消していたのだ。
もちろん、そこに居た研究員ごと、文字通り消滅してしまった。

その謎の怪事件は迷宮入りしたままであった。
しかし、その二機の精霊機があれから数年経った今、発見された。

――鉄の翼

[フム…南部支局からの救援要請と同時に送られてきたこの写真だが…]

『コイツらですか、南部支局の管轄領を荒らしまわった所属不明機は』

鉄の翼のブリッジで、送られてきた情報を見ながらサイアニスとアルヴェリヒが会話している。

[TU時代の遺産だ。あの頃は制御する、という概念自体我々には無かったからな。
大火力、大出力。どう考えてもオーバースペックだ。
どうやらあの頃は、ただ作って放置、研究者どもの完全な自己満足だったらしい]

禍々しいその姿。ジパングを代表する妖怪に相応しい圧倒的な破壊力。
犯人は分かっていた。ASL極東支部、そして恐らくそれらの精霊機はN2-ALW計画によって生み出された物。

『南部支局の3分の2が灰になったのも無理は無い…か。しかし驚きました。まさかヌルの後継型機体が"2つ"も存在するなんて…』

はぁ、とアルヴェリヒが大きな溜め息をつく。隣に座っていた通信官に耳打ちをする。

[ともかく、エルトダウン君と連絡が付き次第、すぐに呼び戻す。
言いたくないが、君一人ではコイツらを止めることはまず無理だ]

『……わかっています。…ですが、彼と共同でも東の最新技術によって改装されたこのような"鬼"を相手にするのは…』

当たり前だ。旧世代の機体ならば基本スペックは最新鋭の機体であるホロウ・クロウラー、シュヴァルツ・ヴァルトには及ばない。
しかし、南部支局からの情報を見る限りでは、その殆どが最新の技術に取り替えられているようだった。

[安心したまえ、サイアニス君。我々には無人兵器"黒い風"がある。それに、ティルネラントもローガンブリアも放置はしまい]

激しい戦闘になるぞ、と最後に付け加えるアルヴェリヒ。

『どちらも有人機。搭乗者が気になりますね。これだけ高濃度の精霊力を直で浴びて無事で済むとは思いませんが』

[ともかくいつでも出れるようにしておいてくれたまえよ。整備は怠らないように]

【ヌル2が2機存在する事が判明。そろそろ本格的にN2ルートに入らせてもらいます】

※TU(技術研究共同体、テック・ユニオン。後にASLとなる組織)
197飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/07(火) 19:48:02 0
白亜の塔、王国と帝国を巡る情勢がまだ穏やかであった頃、戦乱の以前に建てられたティルネラント王族の
霊廟である。国交があった時は定期的にそれぞれの交流の場としての役割も持っていた。それ故に
ローガンブリアの領内にあったのだが、最近ではいよいよ顧みられることもなくなった場所である。

「ふむ、つまりは限りなく王国領に近い帝国領ということでござるか」
道を進みながら飛陽がうなる。エルトダウンはと言えば祠の方へ回っているので
合流は多少遅れるかも知れないとの事だった。ちなみに今はシュバリエにボロボロにされた事を受けて
新しい緑系の迷彩のが施された新しい体に換装していた。

そんな中にスパイらしき人物が兵器の情報を送るとなれば後は予想がつく。
墓地を秘密裏に何らかの研究施設へと改修している可能性が高い。
(存外バチ当たりな話でござる。まあ拙者には関係ない話でござるが)

血のついた紙媒体に恐れをなして丁重に祀っておきながらそんな風に考える。
これから他人の墓で戦闘するかもしれない事を思えばまずバチが当たる筆頭はコレなのだが。
進路を登録されている地図と照らし合わせているとセラから説明が入る。

谷底を行けば見張りに見つからずに安全に行けるだろうとの事だったが飛陽は乗り気でない。
このまま敵に見つかったまま目的地まで追われた方がいい気がしているのだ。それというのも

「いや、拙者はこのまま真っ直ぐ見つかりながら行くでござる。注意がこちらに向けばまず間違いなく
お主は見つからんでござろう。それに後から客人もやりやすいはずでござる」
そう言うと進路を変えずに直進する。

もちろん何の考えもなくこんな発言をしているわけではない。最悪目的地の兵と挟み撃ちに合う危険は
あるが、国境付近の軍が自国内にある、相手側の霊園に殺到し戦闘まで起これば嫌でも帝国軍は
こちらに来る。あとは戦闘さえ起こしてしまえば乱戦に乗じて逃げる機会が生まれる。

自分たちと相手しかいない状況を、飛び陽炎は極力避けたかった。
「人気の失せた所には、やはり鬼か蛇か人しか住まないでござるよ」
大地を踏みしめながら、飛陽はごちた。

【飛陽 自分は直進してセラに別ルートからの進むことを提案】

今回の飛陽の変更点 装甲と耐久力がBに トリモチと撒菱が別れたので一両目の背部に
撒菱ランチャー装着 二両目背部の砲台がトリモチのみのランチャーになりました。
198セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/09(木) 16:33:31 0
廃墟と化した街の中央。人間を見下すかのように、聳え立つ白亜の塔。
白い外壁は何千ものアーチ状の窪みで装飾され、その一つ一つの窪みには、
塔を外敵から守護するかのように武具を纏った「巨像」が起立している。

塔の内部は見た目とは真逆に漆黒の虚(ウロ)で満たされており
主のいないはずの闇に複数の声が響き渡る。

「我々のもとに送信されてくるはずの情報はウィルスによって破壊された。そこまではいい。問題はそのあと…
アレス将軍はフィリップと言う者をASLに使いに出しピアスにバックアップされている情報を何食わぬ顔でASLに引き渡したのだ。
その行動は明らかに我々を愚弄している!」

「よもや我らの目的に彼奴は気づいておるのではあるまいな?それならば第三王子のように消えてもらわねばなるまいて」

「いや。消すにはまだ早い。まだ我らには手足となって働くものが必要じゃ。
それに彼奴は王国一の機動力を誇る大三軍によって守られておるのじゃぞ。容易い敵ではない。
下手に尻尾を見せてしまえば噛み付く口実を与えてしまうことになるじゃろう。
彼奴がストロベリーフィールズに駐屯しておるのはジパングに侵攻するためではなく、我らを牽制しておるのかも知れぬ」

「ならばジパングに潜伏している闇の下僕たちを早々にASLに侵入させピアスを取り戻さねばならんな。
我らには我らの擬似人格システムの利用法がある。あれが手に入りさえすれば我らは絶対的な力を手に入れることが出来る。
そうなれば王国軍も帝国軍も纏めて蹴散らすことができるのだ!」

この時。虚に潜む声の主たちはASLや飛陽の行動を知るよしもなかった。
199セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/09(木) 16:34:11 0
>「いや、拙者はこのまま真っ直ぐ見つかりながら行くでござる。注意がこちらに向けばまず間違いなく
>お主は見つからんでござろう。それに後から客人もやりやすいはずでござる」

(うー。嫌われちゃった?残念。相手は機械なのに…なんだかふられたみたいな気持ち)
ふと飛陽の言葉を思い出しながらセラが操縦桿に力をいれると峡谷をぬけた。白亜の塔は目と鼻の先だった。
「何が起こるかはわからないから警戒してねアロル」
「……」追従するアロルからの返事はなく替わりに衝突音が峡谷に鳴り響く。
音のした方向を見れば峡谷の岩壁に衝突し煙をあげているアロルの機体がある。損傷は軽微だが様子がおかしい。
まさかと思い互いの機体の胸部を合わせ胸郭を開き精霊機の中を確認すると、大汗をかいてぐったりしているアロルがいた。
彼の額に手をあて熱を確認するとまるで焼け石のようだった。
「大丈夫!?すごい熱じゃない!!ど、どうしよう…。えっと…ここから一番近い街は…
ジパングしかないわね。はやく治療しないと!」

=ジパング・ティルネラント大使館=
アロルの病状は深刻だった。大使館の医師の話では命の危険があり、
数日以内に特効薬を飲ませなくてはならないということだった。
大使の話によると、旅の薬売りが特効薬をもってASLにむかったということだったので
セラは予定を変更してASLにむかうことにした。

=ASL施設内部=
フィリップは廊下で少女とすれ違う。
「おにぃさん。元気のでる薬いらんあるか?」
ASLに使者として派遣されたフィリップに気安く話しかけてきたのは中国風の少女。
チャイナ服姿で背中に薬箱を背負っており、一見、薬売りの少女のように見える。

「これ飲んだら高濃度の精霊力にも耐えられるあるよ。暴走した精霊力のなかでも毒されないある。
元気百倍あんぱんまんある。ほんとあるよ。リーフイせっかく遠くから来たのにASLの人、
薬がいらないかもしれないと言ったある。話が違うある。リーフイは呼ばれてきたあるよ。責任者呼ぶある!」

リーフイはぷんすか怒りながらフィリップについていく。

「おにぃさ〜ん、ティルネラント人あるね?ティルネラント人はお金持ちあるから、この薬を買うあるね〜」
背中から抱きつきフィリップの首に手をまわすとリーフイのその手には小さなナイフが隠されていた。

「アレスの犬め。闇のピアス渡すある。渡さなければ首と胴が別々に故郷に帰ることになるあるよ。持ってないって言うなら今すぐ殺すある」
肌蹴たリーフイの胸元には黒い宝石のペンダントが見え隠れしている。
200セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/09(木) 16:36:02 0
地を這うように進む精霊機を先頭に数機の精霊機の集団が進行している。
ラドムームのムラキであった。
「飛陽…か…。あの時、偶然出会ったものが、これほど深く我が人生に侵食してこようとは…」
隊の両翼を守りながら疾走する戦車型の精霊機は数日前に飛陽から購入した代物である。

ムラキには飛陽討伐の命令がおりていた。
何故ならアレス将軍は、データを回収出来なかったメドラウト卿が
オリジナルの飛陽の健在を知れば再び彼を狙ってくると考えたからである。
ならばオリジナルを破壊してしまおうと一度交戦経験のあるムラキ隊が送り込まれることとなったのだ。

「ムラキ隊長!!シュバリエから飛陽発見との連絡が入りました!!場所は白亜の塔から西へ5キロ地点。
聖都に進入されたは厄介だと、こちらの合流を待たず空爆を開始するとのことです!!」

「なにっ!!?貴族がなめたマネを!!イサームの敵を討つのはこのオレだ!!」
ラドムームの眼光が血塗られた月光のように妖しく光る。

そして飛陽。

天空から飛来し、糸で結ばれているかのように飛陽に直進していく誘導弾は二機のシュバリエが放ったものだ。

「我らは貴族ゆえ…。聖都での戦闘は好まぬ。古の王族への香華として墓前で散ってもらうぞ飛陽…」

【セラ:ASLに向かいました】
【ASL施設内でフィリップさんがメドラウト卿のスパイにナイフを突きつけられました】
【飛陽さんは白亜の塔から5キロほど離れた地点でシュバリエから空爆攻撃されました】
201フィリップ ◆i3/u6CmHbc :2010/12/10(金) 00:19:14 0
<ネージュ視点>
ネージュは少し不機嫌であった。
ASLに来てからフィリップに急に女運が向いてきたような気がするのだ。
鉄の翼でフィリップを応対したサイアニスという女性はいかにもフィリップの好みそうなタイプであったし、
施設に来てからも(油断させるための罠という可能性はあるにせよ)基地の女性たちから好意的に見られているようである。

ネージュにとって、これはかなり重大な問題であった。
過去の主の何人かは、特定の女性を愛するあまり、それまで彼らを守護してきたネージュを遠ざけ、非業の死を遂げているからである。
それゆえ、今日もネージュはフィリップのあとをつけ、主が変な女に引っ掛からないよう、見張っていた。

チャイナ服姿の少女がフィリップに声をかけたとき、ネージュは彼女のことを気にも止めなかった。
(しつこい女を主は好まない。この女は警戒しなくてよいか)
しかし、その少女に対する侮りは数瞬後には怒りに代わっていた。

「小娘が、私の主を脅すとはいい度胸ではないか」
物陰から出たネージュはりーフィに向けてこう言い放った。

【ネージュ、りーフィと対峙】
202エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/12/10(金) 02:15:57 0
/「小娘が、私の主を脅すとはいい度胸ではないか」

[困るねえ、勝手に入り込んで、そんなことしてもらっちゃあ。
んああ、私の名前はアルヴェリヒ・ツィーゲ。フィリップ君だったね。その者は知り合いかい?]

フィリップと謎の女が対峙しているところに偶然通りかかったアルヴェリヒ。
艦長だが、あくまで代理であり、航行技術もそれほど真剣に学んだわけではない。
故に彼、アルヴェリヒはオートパイロットシステムに任せて自分は鉄の翼内をブラブラすること多いのだ。

[ン、そこのレディ。知ってるか?ASLではちゃんと認可された人間じゃないといかなる施設にも入れないことになってるんだよ。
どこから潜り込んだのかは知らないけど、薄汚いネズミは死刑にしなければならないってマニュアルに書いててね。死刑だよ、わかる?]

とは言うもののASLの殆どの施設の管理はずさんである。
時たま、コソ泥や物乞いが入り込んでくるのだ。もちろん、毎回マニュアル通りの適切な方法で処理される。

[えーっと、とりあえず身分証明書に当たるものを5秒以内に掲示してもらおうか。
理由があるなら10秒まで待ってあげるよ。コンマ1秒でもオーバーしたら君の頭に穴が開くと思っていてくれたまえ]

フフッとアルヴェリヒは不敵な笑みを浮かべると、腰から回転式拳銃を取り出し、二人に向けた。

[さ、早くしたまえ。時は有限だ。このように浪費するものではないと、私は思うがね。
ああ、それとここでは君たちの国の法は通用しないと思っていてくれたまえ。では、よろしく]

そうして、やや怒り気味にチャイナ服姿の女に言った。

――ジパング・極東支部第2研究局・エントリーロビー

「ダメだ。我々は薬屋ではない。帰るんだ」

ジパングの研究局はずさんなASLの中でも割と水準の高い警備体制が敷かれている。
守衛の男は突然「薬がほしい」と言ってきた女を追い返しているところである。

「薬売り?そんな人間は来ていない。薬ならば街の薬屋を訪ねろ。そこに薬が無ければここに持ってくることだな。被検体は一体でも多いほうがいい」

そうして軽く守衛があしらっていると、その女は大使館から渡されたであろう書類を突きつけてきた。

「大使館のお墨付きか。異国の要人か、それとも観光客か…?フン、良いだろう。薬売りは来ていない。
 これは本当だが、もしかすると研究員の中に特効薬を持っているか、製薬できる人間がいるかもしれない」

極東支部はASLの中でもかなりイレギュラーな存在だ。国家に帰属しないASLだが、ジパングとの関係はかなり親密だ。
その大使館からの令状付きなのだ。関係保持の為にも薬を手配しなければならない。

「少し時間がかかる。ここで待っているか、もしくは街医者を訪ねてみろ。その判断はお前に任せる」

その守衛の男の言葉は少々キツかったが、どこか優しさを含んでいた。

【アルヴェリヒ:チャイナ女とフィリップに銃を突きつけて、身分証明を要求。
 ジパング:セラに待つか街医者を訪ねるかを迫る】
203セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/11(土) 16:48:13 0
>「小娘が、私の主を脅すとはいい度胸ではないか」

「ふん。おまえ、こいつの精霊あるね?女もスパイも度胸が肝心ってことあるよ」
主の命がリーフイの手に預けられている以上、ネージュが手を出せないことは容易に推測できる。
が。そこに現われたのはアルヴェリヒ・ツィーゲ。

>[さ、早くしたまえ。時は有限だ。このように浪費するものではないと、私は思うがね。
>ああ、それとここでは君たちの国の法は通用しないと思っていてくれたまえ。では、よろしく]

(こ、こいつ…まじあるか!?あの目はまじあるね!)
「かまーん!!シャウロン!!」
リーフイが叫ぶと廊下の天井の通風孔の蓋がガランと落ち、ぬるりと大蛇のような精霊が顔を出した。
否。大蛇というよりも頭に角を生やし爛々と燃える大きな両眼は伝説の龍を想起させる。
グワッ
その場にいる者を威嚇し開いた真っ赤な口からは、突如高濃度の霧が噴出されると周囲の視界を奪っていく。

霧にまぎれリーフイはしゃがみ込むと犬よりもはやく廊下をひたひたと走り猿のように通風孔まで跳躍する。
ボゴン!背中に背負っていた薬箱は狭い通風孔の入り口にぶつかって木枠や引き出しからバラバラに砕け散ったが、
本人は通風孔の中に潜り込むことに成功し外部に逃走することにも成功する。

「失敗ある!結局ピアスは手に入らなかったある!」
半べそでASLから飛び出して来るリーフイにセラが気がつくのに時間はかからなかった。
「あの子。見るからに外部の人間だし、いかにも薬売りって格好してる…」
それは、先ほどASLの職員に待つか街医者を訪ねろと言われたセラが待ちきれずに精霊機に乗ってジパングに帰ろうとした時のこと。

セラは逃げるリーフイの眼前ににドーンと精霊機の足を落す。
「あなた薬屋さんでしょ?万能薬をもってるでしょ?」
「ビックリしたある!万能薬なんてもうないあるよ。でも作るのは簡単ある。シシミアの実をすり潰すだけでいいある。
わたしは先を急いでいるある!どけある!しみたれおんな!」
「そ、それを言うなら、しみったれでしょ!私はしみったれでもないんだけど。しみたれは汚らしい…」
いつの間にかリーフイは消えていた。少し離れた所から東洋風の精霊機がもの凄い速さで飛んでいく。
「なんだか一人でばたついてしまっているみたい…。なるほど。シシミアの実って飛陽さんのアジトになっていたやつね。ジェームズさんが育てていた珍しい実…。
ほんとにもう運がいいのか悪いのかわからないわ。それってすごくいい香りがしたから、貰ったのものを私の操縦席に置いてあるんだよね」

セラは大使館に帰りアロルにシシミアの実を潰して飲ませた。医師の話では数日も安静にしていれば体力も回復するそうだ。

【リーフイ逃げました】【セラはジパングの大使館に帰りました】
204飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/11(土) 17:36:06 0
目的地までもう少しという時に限ってトラブルは起こるものである。
セラの連れの少年が熱を出したというのだが症状は高山病のものに近い。ストロベリーフィールズ付近特有の風土病で
村やアジトに薬はあるだろうが大分離れてしまっていた。

それにしても山を離れてから発病するとは何とも間の悪い男だと飛陽は思った。
セラが少年を連れて街へと引き返す姿を見送ると、飛陽は構わず目的地へ向け出発する。

程なくして大きな白い塔が見えてくるのと、それと同時に複数の機影が自分へと
向かってくるのが分かったのはほぼ同時である。空を飛ぶ機体は先日見たシュバリエ、
そして今大地を蹴立てて迫り来るのは・・・

「おや、拙者をお買い上げ頂いた方々ではござらんか」
アジトが襲撃された次の日、飛陽に襲撃という名の売り込みをかけられた駐留部隊がそうとは知らずに
購入していった機体が確かにそこにあった。

構造は人が乗るコクピットが追加され武装もティルネラントの聖霊機が使う機関銃が取り付けられている他
鉤爪でなく正面に盾が据付られている。動きがぎこちないのは慣れていないのかはたまた
一人乗りで他の車両に操者がいないせいか。

当然だが車両の一つ一つは一機の聖霊機よりも撃たれ弱い。飛陽のようによく動くならそれなりの
適性と訓練が必要となる。一車両一人に乗っているとなれば人的な被害は膨れ上がるだろう。
そのため本体以外の車両は自動操縦にできるよう設定できるのであるが、この設定も弄った側の技術に
よるので一定の戦果を出すのは難しい。

とはいえ飛陽からすれば一番攻撃が当たりやすい高さなので相性は良くない。売り方と飛陽という
機体を考えれば、売った後日に戦場で出くわすことも珍しくはない。そもそもあまり売れないが。

「ふむ、新型に拙者にいつかの隊長格、拙者窮地でござるがここまで警戒されるとは、
拙者の知名度も中々のようでござるな」

場違いな感動を覚え胸を熱くさせていると自分へと空爆が始まった気付く。もとより直線であまり速度のでない
飛陽が弾を振りきれる訳もない。その場で急停車して砲塔を誘導弾へと向ける。
自分が留まることで弾の進路は単純なものとなる。

空中から飛来した誘導弾は僅かに角度を修正しながらこちらへと迫ってくる。作りたての撒菱ランチャーから
起用にも一発ずつ弾を撃ってこれを迎撃すると辺りを伺う。

「皆さんお揃いでござるな、できればここを通して欲しいのでござるが」
様子見を兼ねてこちらから声をかける。白亜の塔の目前で、三者まんじりともせず睨み合う。

【戦闘開始 飛陽 呼びかけを行って様子見の構え】
205セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/12(日) 16:39:24 0
遠くに見えるのは暗雲を背景に白い塔が亡霊のように浮かびあがる姿であり
その足元は数百年間もの間、人の住まなくなったがらんどうの建物で埋め尽くされている。

今、戦場となるのは元聖都から僅かに離れた大地。春の海の波のように緩やかな丘が連なり、波間に浮かぶ船のように大岩と林が、
それぞれ遮蔽物と死角を生み出している。丘の合間を縫う様に小川や池なども存在し地上戦を挑むには多彩な土地と言えよう。

相殺された誘導弾の残骸から立ち昇る煙を追って空を見上げれば、
頭上を二機のシュバリエが獲物を狙う鷹のようにぐるぐると旋回している。
表向きは飛陽討伐。だが実は飛陽オリジナルの人格システムを破壊しメドラウト卿に渡ることを阻止すること。
ブラッドと言うスパイの捕獲はこれほどまでに急激に事態を折り曲げていた。

アレス将軍もメドラウト卿もことの全容が明るみに出れば王国そのものを敵に回してしまうことになる。
この戦いは覇権を奪うための言わば裏工作。渦中にいる飛陽はたまったものではないだろうが。

>「皆さんお揃いでござるな、できればここを通して欲しいのでござるが」

ラドムームは小高い丘に立ち、持っていたティルネラント旗を地面に突き刺す。

「どこへ向かおうとしているのだ飛陽?メドラウト卿に金で雇われでもしたか?」
ムラキは問う。目星はついているが証拠はない。適当に鎌をかけたつもりだった。
飛陽にとっては意味不明な質問だろう。
「軽率な口は慎めムラキ」とシュバリエから声。
「慎んでいただきたいのは貴公らのほうだ。飛陽討伐は我らに直々に下された命令。
横槍は止してもらいたい。最新鋭のシュバリエ二機が賊一人を相手に動いていると見えては白亜の塔の老人たちに訝しまれますぞ」
「……。そうか。ならば我らシュバリエは、空から貴下たちのお手並みをゆるりと拝見することにしよう」
「ありがたい。ムラキ隊の戦いぶり、とくとごらんめされい!」

両翼の戦車隊から機関銃が放たれる。陣形は地形を利用したものではなくあくまでも隊形を優先したもの。
左右から掃射される弾丸の交点には飛陽。つまり飛陽は十字砲火を受けることになる。
真ん中の本体の精霊機隊はというと飛陽の砲撃を警戒しながら盾を構え間合いを詰めていく。
先の戦闘よりも防御力が向上していると判断したムラキは近接戦闘による斬断が有効と判断したようだ。

【シュバリエは静観】
【戦車隊が右翼左翼から十字砲火。真ん中の精霊機隊が盾を構えながら接近中。真ん中の本体の後ろにムラキのラドムームが追走】
206フィリップ ◆i3/u6CmHbc :2010/12/12(日) 23:37:15 0
>エルトダウン氏
<フィリップ視点>
リーフィから解放され、強ばっていた身体から力が抜け、倒れそうになるのをネージュが支え、なんとか態勢を整える。
(できるだけ、動揺していることを隠すようにしなければ)
「お初にお目にかかります。アルヴェリヒ殿。ティルネラント王国軍第3軍団所属、フィリップ・アルザスです。
これが私の身分証明書です。ご覧になられますか?」
そう言って、フィリップは自分の身分証明書をアルヴェりヒに差し出した。

【フィリップ、アルヴェリヒに身分証明書を差し出す】
207飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/16(木) 18:35:27 0
ムラキがメドラウトの名を口にした時の好意的でない態度から目的の人物が
それなりに後ろ暗い人物であると飛陽は推察する。それならばと思い口八丁でやり過ごせないものかと
言葉を探していると攻撃が開始されてしまう。

急いで分離して回避行動をとるが停車していた為に避けきれなかった分のかダメージを受ける。
追加装甲にいくつかの弾痕を刻みながら、分離した前二両は左右の敵車両と精霊機隊の間へと向かうが
同じようにムラキ隊の車両も自動操縦の各車両を切り離して飛陽を包囲する。

「中々に仕込みが上手く言ってるようで実に何より!」
搭乗者の覚えも悪くないようで飛陽はとても満足そうだった。傍目には頭数が4つ増えて完全に
包囲されているのだが、ある程度進んで聖霊機隊へ近づくと飛陽は彼らに背を向けて車両へと突進する。

上から見れば左右の車両とムラキ達で形成された三角形の縦の直線と内部を逆戻りしている風に
見えたことだろう。各車両の機関中がこちらを向くが気にせずに突っ込む。背後から肩透かしを食らったムラキ
達が援護攻撃を始めるが多少の損耗はやむを得ないと諦める。

「っ!?どうなってんだ!どうして撃たない!クソっ!」
相手の乗り手の衝撃の声が伝わる。何故かすぐ側の車両が飛陽を撃ってくれないのである。
命令を受付け実行し続けているのに。故障なのだろうか。

答えは否である。問題が起きたのは飛陽が車両の射線軸の後方にムラキ達を巻き込んだからである。
味方に弾が当たらないように行動するのは基本事項であるし、それを避けて援護できるのは
地味に人の判断力があってこそである。

生身の打ち合いなら気をつける事でも多少頑丈な聖霊機なら仕方がないと装甲便りに味方毎撃つことが
できる。だがそういった現場の判断を自動操縦は出来ない。きちんと味方の為を思って行動している。
先に相手が倒れるとしても撃たないのである。

「安全装置はデリケート故、人間みたいに強引にはできないんでござるよ」
自分はできる事を棚上げすると各車両をトリモチと撒菱で動きを止めていく。
いくつかは武装とキャタピラをトリモチで封じられ、いくつかは足元で撒菱が爆発してひっくり返る。

腕が無いので取り付けた武器が使えなくなる、ひっくり返されると亀のように
戻れなくなってしまう等無力化する状況が人型よりも多いのが車両型の泣き所である。
まあ、後者は起こしてもらえれば戦線復帰が可能なのだが。

そうこうしている内にも中央の聖霊機隊からの援護射撃は散った飛陽を確実に捉えており二両を封殺
しているうちにも被害が蓄積されていく。

(やっぱしまずいでござるな。アレを撃つにはもう少し目的地に近づく必要があるでござる、しかし)
上空ではシュバリエがじっと戦況を見ているせいで押し通ることができずにいた。

【飛陽 分離後に同タイプを撃破 ダメージ増加、中央のムラキ隊と交戦開始】
208エルトダウン ◆iGrjUqKhz2 :2010/12/16(木) 23:24:37 0
N2-ALW計画の要であるヌルは完成していた。
しかし、ヌルは今までの精霊機と殆ど同じ構造。ただの上位互換に過ぎなかったのだ。
革新的技術を欲するASLは思案し、一つの案を導き出した。

――搭乗者を必要としない、それでいてフルスペックで稼動できる精霊機

それこそがN2-ALW計画の真なる目的だった。
精霊機大量生産時代という暗黒時代の負の遺産、"キ号精霊機"まで持ち出したのはそのためだった。


ASLは方面によって区分けされており、対立までも生じてしまっている。
しかし、表面上は全ての研究局が友好状態を装っているのだ。
それ故、今回の話は起こるのである。

鉄の翼はエルトダウンの帰還を待つことなくジパングへと向かった。
極東方面からの要請である。あくまで友好を保つためにその要請を受け入れたのだ。

/これが私の身分証明書です。ご覧になられますか?

[ああ、君が。書類上では既に見知っているよ。伝達も受けている。身分証明は構わないよ。
しかし……あの女は誰なんだい?フィアンセ…ではないようだけれども]

鉄の翼がジパングに駐留中、鉄の翼へと女が侵入、さらにそれをみすみす取り逃がすという異例の事態。
狙って起こったものとしか考えられなかった。
恐らく狙いはフィリップの持ってきた人格プログラム。

(なるほど、画期的な技術だ。狙われるのは仕方あるまいね)


極東支部の考え。それは、ヌル2をその身に宿すセラエノーシャーズ、そしてもう一人、謎の人間。
彼らが搭乗する機体、"キ号精霊機"にフィリップによりもたらされる人格プログラムを導入するというもの。
そうすることにより、搭乗者が搭乗時は勿論、搭乗していない、即ち無人の状態でも100%かそれに近い数値で稼動できるというものだ。

しかし、アルヴェリヒもエルトダウンもサイアニスもその計画は知らない。
ましてや、極東支部の人間でも知っているのは一部だけだろう。

後にこの人格プログラムの一件が、とんでもない事態を引き起こすことも知らずに。

――ストロベリーフィールズ 麓の沼地

「ここらへんかな。彼の言っていた祠とやらは」

ホロウ・クロウラーからパッと飛び出すと、沼地をずぶずぶと歩き進めた。
辺りは一面、枯木ばかり。その上、濃霧まで出ている。

「ストロベリーフィールズって名前とは裏腹に不毛な土地だね。誰の命名だよ、まったく」

"確かになァ。けどよォ、ちょーっと前までは戦乱で血が流れてたんだろ?それがストロベリーに見えたとかだろうよ"

他愛も無い会話をしていると濃霧の中にポツリと寂しく立っている祠を見つけた。
近寄り、中身を確認する。

「これだね。ちゃんと花まで供えてあるよ。飛陽くん、ありがとう。じゃ、帰ろうか」

"あーエルトダウン。誠に申し訳ないことだがよォ、ホロウ・クロウラーを濃霧で見失っちまった。ハハハ、沼地で迷子になっちまったぜ、ヒャッハー"
209セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/17(金) 17:10:17 0
ムラキの戦車隊は模擬戦闘で見せた高い能力を実戦で発揮することは出来なかった。
電子化された姿勢制御機能や射撃統制装置は宝の持ち腐れ。
逆に敏感な安全装置が目標の後ろにいる友軍に反応し射撃を停止させている。

「ええい!かまわず撃たんか!」「撃て!撃てー!」
多勢に無勢であるが故に、逃げる飛陽を追う形になると予測していた本隊の精霊機隊は
意に反し懐に潜り込んできた敵に対し浮き足立つ。
見れば、飛陽を包囲しようとしていた両翼の戦車隊も沈黙。隊は逸早く翼を?ぎ取られしまった形だ。

「こしゃくな!!蜂の巣にしろ!!」
方陣に近い陣形をとっていた中央の精霊機隊は盾の隙間から散弾を撒き散らす。
飛陽の低い車体は流線的装甲によって避弾経始であり、
波間に消える船のように地形を盾としながら疾走する戦略によって散弾は主に大地を削る羽目となった。

「やつは大地の子か?大地がやつを味方している!
やむおえん!こちらも三機一組となり、地形を利用しつつ独自の判断で飛陽を攻撃!砲撃には充分警戒しろ!!」
中央の九機の精霊機隊は三機一組となって散開し攻撃を開始。

兵士「こんちくしょう!目線が変わるだけでこれほど厄介なものなのかよ!足元ー!!」
その場で精霊機の左右の足をドタバタさせながら旋回し、飛陽に散弾を放つ兵士もいたが感覚がつかめず直撃までには至らない。
間合いを取れば相手優位で砲撃の危険性が高く、接近戦では慣れない下からの攻撃。ムラキ隊は苦戦していた。

「我が友イサームをやっただけのことはある!!」
ラドムームが巨大な三日月刀を振り回しながら飛陽の車両本体に接近して来る。
分離した車両のどれに人格が宿っているかはムラキには判断できなかったのだが、それは単なる偶然。

「おまえの人格システムは破壊しなければならん!ブラックボックス的なものもまとめてな!
おまえがメドラウト卿と合流し、そのシステムを利用されることはあまりにも危険過ぎるのだ!!」

【三日月刀で飛陽さんに斬りかかるラドムーム】
210セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/17(金) 17:14:17 0
×翼を?ぎ取
○翼をもぎ取

本体の精霊機隊は全部で9機の予定です。
ラドムームを合わせて10機になります。
211セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/19(日) 15:24:09 0
名前 タロ・ムラキ
年齢 39
性別 男
容姿 あごひげ
体格 立派
性格 真面目
身分 ティルネラント王国第三軍部隊長
所属 ティルネラント王国
説明 飛陽とは因縁もち

機体設定
機体名 ラドムーム
精霊の種類 月
精霊の名前 ムチマロ
精霊力 3000
耐久力 B
運動性 C
装甲 B
武装 三日月刀
ビームマシンガン×2(両腕に内蔵)
グレネード×4
サテライトライフル(月の精霊力の込められた対物ライフル。直進性が強く射程が広い)

機体&精霊説明
月の精霊力を宿した銀色の精霊機。重力を操り飛行する。
宇宙空間でも行動可能。
212セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/19(日) 15:52:50 0
人物設定
名前 リーフイ
年齢 14
性別 女
容姿 いちおう可愛い
体格 普通
性格 悪。毒舌。
身分 不明
所属 メドラウト卿のスパイ
説明 運動神経に優れ拳法も使える。

機体設定
機体名 シェンロン
精霊の種類 霧
精霊の名前 シャウロン
精霊力 2000
耐久力 C
運動性 B
装甲 C
武装
ドラゴンクロー(龍の首を模した腕部に装備されている牙状の武器)
ドラゴンファイヤー(龍の首を模した腕部に装備されている火炎放射器)
機体&精霊説明
両腕部のドラゴンは分離し自由飛行が可能。
213セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/19(日) 17:12:26 0
機体設定
機体名 アムーラ
精霊の種類 月の低級精霊
精霊の名前 人の数ほど
精霊力 2200
耐久力 C
運動性 C
装甲 C
武装 ロングソード
大盾
機関銃
グレネード×4
バズーカ(3機)

機体&精霊説明
ムラキ隊の量産型精霊機

【出番とかあんまりないと思いますけどいちおう】
214飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/19(日) 22:33:47 0
四角い体と言ってもきっちり四角四面という訳ではない。被弾した場合に被害はなるべく
減るようにいくらか丸みを帯びている。まあサイコロのようだと言えば聞こえはいいだろうか。
三つの車体に別れた飛陽を追いムラキ隊もまた三つの隊へと別れる。

しかしムラキ以外は飛陽の動きを追い切れない。決して早くはないのだが、地形が有利に
働いているというのが大きかった。ある程度整えられた林、緩やかな段差のある地面、
足元のゴキブリを叩くのに反射神経が特化している人間がたまにいるが、機会が手でそれを
行おうとすれば話は違ってくる。障害物があるなら尚更だ。

飛陽からすれば驚異なのは自分よりも早い機体と同直線上並ばれることと飛行型を相手にする
事なのだが今はどちらも揃っている。僅かずつだが確実に白亜の塔へと近づいているがまだ遠い。
これ以上寄ればシュバリエが再度攻撃してくる危険もあったし何よりムラキが間近に迫っていた。

>「おまえがメドラウト卿と合流し、そのシステムを利用されることはあまりにも危険過ぎるのだ!!」

ムラキの声に飛陽は確信する。間違いなく目的の人物は黒。そして自分が接触することを阻止
しようとしている。これを使わない手は無かった。始めに彼らは言った。「金で雇われたか」と、
そして「軽率な口は慎め」と、これはつまり「勝手に内輪の話をバラすな」もしくは「件の人物に聞かれたら
どうするのだ」という風にも取れる。

(なんだか分からんでござるが、誤解しているなら好都合でござるよ)
ラドムームが接近しながら繰り出してきた突きを鉤爪でなんとか避けるがとうとう追いつかれてしまう。
並走しながら追撃を重ねるムラキを撒くことができない。どうすればと飛陽は思案する。

(今拙者の二両目と三両目はあそこ、ならば)
切り離した自分を敢えて追い詰められるように追っ手の前へ身を晒す。ほんの少しの間に
ムラキ隊と飛陽の立ち位置は入れ替わっていた。塔側に飛陽、その前にムラキ。

追い詰められながらも連結して一機へと戻ると、飛陽は停車して追って達と睨み合う。
敵の敵が味方となるのか、それとも敵のままなのか、分らなかったが彼はこの状況に一石投じる事にした。
(これで上のがどういう奴らかもわかるでござるな、さて吉と出るか凶と出るか)

「・・・・・・は、話が違うでござる!く、謀ったなメドラウトオオオオオオオォォ!」
激情を演じて目の前にトリモチと撒菱をばら撒きながら塔へと身を翻す。一度見せた手の内
である以上ほとんど回避されて反撃が飛んでくる。もったいなかったが追加装甲を破棄してそのまま
塔へと向かう。件の人物に賊と内通しているという濡れ衣が着せられた事で相手に動揺が広がるのが伝わる。

ムラキ隊も直ぐ様追ってくるが攻撃の厳しさは先程と変わらない。しかしこれで何かの変化はあるはずだった。
塔はもう目前、彼らに動きがあり次第、飛陽は「支度」を済ませるつもりだった。

【飛陽 いつもの形態に ムラキの言いがかりを肯定することで状況を掻き回そうとする】
215セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/22(水) 16:38:32 0
戦況にシュバリエの操者達は焦った。

「ムラキ隊は何を遊んでいる!このままではエサに逃げられてしまうぞ!」
もはや静観出来る状況でもなく、二機のシュバリエは飛陽の追撃を始める。
そう、まるで兎を追う鷹のように。

>「・・・・・・は、話が違うでござる!く、謀ったなメドラウトオオオオオオオォォ!」

激情を演じる飛陽の機体から繰り出される無数のトリモチや撒菱。
地上ではラドムームが回避運動をしながらそれらを斬り払い飛陽の後部車両に飛び乗ることに成功。
ぐうん、と機体の重さで沈むマニュピレータ。

「謀った?貴様も騙されたということか?飛陽。それならば我々につけ。大三軍のアレス様にな。
メドラウト卿は表向き、王国の良心と謳われてはいるが、国王を唆して戦争を始めた張本人。
武人なら誰もが許せぬような下衆の男なのだ。
まあ、我々に従うことがかなわぬと言うのであれば貴様は予定通りに破壊しなければならぬ。
ASLで解析中のコピーよりもオリジナルのほうが明らかに利用価値は高いはず…。
どうだ?この話。貴様が仲間になれば、きっとアレス様もお喜びになろう」

三日月刀は天に振りあげたまま。
返答しだいでムラキは飛陽の電脳を破壊するつもりだったのだが…。
「うぉおーっ!?」
突然、飛陽の追加装甲が剥がれ落ち、装甲と共に大地に滑り落ちるラドムーム。
それを尻目に近づく二機のシュバリエ。

「馬鹿なやつだ!もう見てはおれぬ!」
塔は目前。限界点と判断したシュバリエは超低空飛行で飛陽に鉄槍を振りかざした。

瞬間。影が機体を薙ぐ。
謎の衝撃によって宙へ飛ばされたシュバリエは、肩口から胸郭へと火を噴きあげたのち悲鳴のような爆音を残し宙に散華した。
「あ!!あれは!!」残ったシュバリエの操者が声を震わす。
どこから現われたのであろうか。影の正体は漆黒の精霊機。
「…シュバリエを斬断するなど…。あのような芸当が出来る人間はこの世にたった一人。まさか…あのお方が生きておられたとは…。
しかし何故…。本当にあのお方ならば、何ゆえ我々の前に立ちはだかるのだっ!?」

漆黒の精霊機は答えず、赤い両眼を妖しく点滅させると背中から無数の誘導弾を射出させた。
「くっ!!」
シュバリエは急旋回しつつ応射し、互いの誘導弾は絡み合う巴蛇を想起させつつ空を爆炎で装飾させる。
「例えあのお方でも空でシュバリエに敵うものか!!」
空を舞うシュバリエの操者の眼前に影。
「何ぃ!」
漆黒の精霊機の手がシュバリエの頭を鷲掴みにしていた。シュバリエの操者に漆黒の精霊機の動きは見えなかったのだ。
「なんと言う膂力か!!化け物め!!」操縦桿を動かし抵抗するもののノズルからは虚しく精霊力が噴出されるだけ。
もう一方の手が紙を剥ぐように胸板を引き剥がすと、恐怖にひきつった操者の姿が表に出る。
漆黒の精霊機は掴んでいた頭を強引に機体側に引き付けると膝頭でむき出しの操者を座席ごと潰す。
そしてあたりに飛び散った装甲がきらめきを放ちながら雪のように舞う。

潰れた胸を露にしシュバリエが無残に落ちた。地上ではムラキが驚愕していた。
「…まさか…。ルーデル王子…」
ルーデル王子。王国の第三王子。毒殺されたと噂されていたセラの腹違いの兄である。

「白亜の塔にようこそ。飛陽君」漆黒の精霊機から若い男の声。
続きムラキ隊の兵士たちが同士討ちを始める。残ったのはバズーカを装備している三機のアムーラ。
9機の兵士のうち三人がメドラウト卿の息のかかったスパイだったのである。
「ムラキ隊長。貴方は殺したくありません。白亜の塔までご同行願います」
216セラ ◆eqAqXE3VMc :2010/12/22(水) 16:53:56 0
ムラキは捕虜となって白亜の塔に拘束される予定です。

【シュバリエ二機とも撃墜されました】
【ムラキ隊にはスパイがいて同士討ち。残ったのは三機のアムーラ】
【ルーデル王子。漆黒の精霊機で登場しました】

【ルーデル王子:飛陽さんを白亜の塔へご招待】
217フィリップ ◆i3/u6CmHbc :2010/12/23(木) 23:58:57 0
>エルトダウン氏
りーフィによる襲撃を受け、アレス将軍は人格システムの安全の確保のため、フィリップをストロベリーフィールズに呼び戻す決定をした。
それと同時にアレス将軍からASLに送りつけられてきた抗議文書はASLの危機管理能力に疑問を呈し、
国際法によってその身の安全を保障されている使者の安全すら守れないようでは、将来、王国とASLとの友好関係に「憂慮すべき事態」が生じる可能性があると警告していた。

>セラ氏
ーストロベリーフィールズ、第3軍団本営ー
ムラキを通じて「ルーデル王子復」活の一報を受けたアレス将軍は、白亜の塔へのフィリップの派遣を決める。
(残っているシュバリエはあれしかない。
それに何度も死線をくぐり抜けたあいつならあるいは・・・)

【アレス将軍、ASLにりーフィの襲撃に対して抗議し、フィリップをASLからストロベリーフィールズへ召喚。】
【フィリップの白亜の塔への派遣が決定】
218飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/26(日) 18:04:26 0
逃げようとした矢先に背部に乗られて車体が沈む。飛陽の上でムラキが何かを言い始める。
内容はと言えば、自分をメドラウト卿の手先と思い込んでの寝返りの打診だった。
しかし幸か不幸か返事をする前に乗っているムラキ毎装甲が剥がれ落ちてしまう。

(おあ"ぁ!折角引っかかってくれたというのに!)
これでは勧誘に応じる態度を取っても信用して貰えるかは疑わしい。見す見す好機を逃した形になってしまった。
内心で焦る飛陽と露骨に慌てるムラキ。二人を見て焦れたシュバリエが上空から迫って来る。
ついに来たかと身構えると片方が何者かの手によって爆散する。

瞬時に判断できたのは影の正体が武器ではなく機体だということくらいだ。人の目に優しい淡い緑色の
迷彩をまとった飛陽の車体とは正反対である。見ていると両者は交戦を開始する。
どうやら味方同士ではないようだ。

シュバリエの動きは悪くなかった。少なくとも以前戦ったイサームより劣るということは無い、
にも拘らずあっさりとコクピットを潰されて地面へと落下していく。黒い機体の速さはセラの機体か隊長格の
シュバリエ程度はあろうか、しかし単純な力で圧倒的な差があった。

(それに比べて拙者のスペックはそこのアムーラとどっこいどっこい、速さ、力、技量、
どれをとっても状況改善の見込み無しでござる)

>「白亜の塔にようこそ。飛陽君」

逃げる為にちらちらとムラキ隊を見ていると不意に声をかけられ、それと同時にムラキ隊で同士討ちが始まる。
あれよあれよと言う間にたったの3機へと数が減った。彼らは黒い機体の手の者だったらしい。
戦いの構図は飛陽対ムラキ隊(1対14)から飛陽対新手の黒い聖霊機とアムーラ(1対4)へと変わっていた。

ムラキはと言うと流石に身動きが取れないようだった。死人が生きていて敵になり「味方」は全滅、
裏切りによって部下も全滅しともすればムラキ対新手(1対4)にも成りかねない今の状況で
即座に動けというのは難しいだろう。

先程と一転して降伏勧告をされたムラキは恐らくこのまま、ではどうやってこの状況を脱するのか。
数も戦力もない今、飛陽は奥の手を使うことにした。砲塔を黒い機体へ向けて何かを撃ち出す。
弾は、黒い機体の頭上で破裂すると辺りに笛を吹く様な音と真っ赤な煙をばら蒔いて消滅する。

そしてそれを見計らって飛陽は一般回線へと通信を入れる。
「周辺を警ら中のローガンブリア兵へ救援を求む!こちらは賞金首の飛陽!白亜の塔にて
ティルネラントの補給活動を発見!現在攻撃を受けている、至急来られたし!繰り返す・・・」
219飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2010/12/26(日) 18:07:32 0
先程撃ったのはローガンブリアの信号弾である。
飛陽がこういう時のために用意しておいた物でティルネラントのもある。
新型や施設云々と言えば尻込みして来ない可能性があるので敢えて補給活動などと言って
直ぐに来られるようにしたのだがそれでも五分といったところだ。何せ敵国とはいえトップの墓である。
隠れ蓑にしていたとはいえ踏み込みにくいかも知れない。

「生憎と、拙者の頭は企業秘密でござってな。体以外売るつもりはござらん」
小さく断りを入れて見栄を切る。

それでもこの場をやり過ごすにはたった二人ではどうにもならない事は明らかだ、援軍を呼ぶしか無い。
だがアムーラ三機は殺気立ってこちらを照準内に収めているし、上空の機体も余裕がある。
正直数が減って乱戦にならなくなった分不利になったと言える。

「・・・大人しくしていて欲しかったのですが、仕方がありません。ここで回収するとしましょう」

飛陽の突然の反抗にがっかりしたようなため息を吐くとそれが合図となったのか、
アムーラの攻撃が飛陽に向けて開始される。尻を叩かれる形となって三両目が爆発する。

その隙に二両目の背部の砲塔がぐるぐる回り始めると煙幕を周囲に掃き出して大きめの『繭』を作る。
接近すれば視界にべっとり貼りつくので時間稼ぎになるだろうと踏んでのことだ。
飛陽はこのままゆっくりと後退して先程動きを封じた車両型を味方に組み込むつもりだった。

煙幕が近くに着弾したバズーカの爆煙で吹き散らされるが構わず吹き続ける。一機繭に包まれると完全に触れた
面に塗料が付着して目隠し状態になる。いくらも続けられるものでもないが、いまはこうするより仕方ない。

「そこの隊長機!呆けてないでさっさと逃げるでござるよ!あ奴の狙いにはお主の口封じも入ってるでござる!」
相手からすればさっきの飛陽の大声が別に意味で狂言だったと誤解されたかも知れないが、
それでも変わらない出来事、即ちムラキの暗殺を示すことでムラキと一時的にでも共闘しておきたかった。

戦いは始まったばかりだが、ムラキと飛陽の命のカウントダウンは早くも始まっていた。

【飛陽 ルーデルに対して反抗し煙幕の中に籠城しつつゆっくりと後退、ムラキに呼びかけ
     及び周辺のローンガンブリア兵へ救援要請】
220ルーデル ◆eqAqXE3VMc :2010/12/28(火) 17:09:32 0
>「そこの隊長機!呆けてないでさっさと逃げるでござるよ!あ奴の狙いにはお主の口封じも入ってるでござる!」

「飛陽!お前はいったいどっちの味方なのだ!?それに逃げろだと?ぐぐぅ…」
ムラキの混乱も無理はない。もとはティルネラント同士の内部紛争。それに拍車をかけるように続く仲間の裏切り。
しかし明らかに不利な状況にムラキは飛陽と共に戦場から離脱することを決意し、手始めに友軍に状況を説明し命令を下す。

「よく聞け!生き残った戦車隊は飛陽を援護!敵は裏切り者のアムーラ3機。
それに漆黒の精霊機には充分に警戒しろ!奴は強い!やすやすと撃ち落せると思うな!」

遠くで命令を聞いていた戦車隊は、すでに仲間同士で車体を牽引し体勢を整えている。

「会話は聞いていましたぜ!だからアムーラには俺を乗せとっけって言ったでしょうが!
それは良いとして隊長!飛陽と一緒に真っ直ぐに俺たちのいる方向に下がって来て下さい!
敵の予想進路に火線を重ねて集中砲火を浴びせてやりますぜ!!」

ムラキの戦車隊も飛陽のように煙幕を吐きつつ戦闘配置につく。
吐き出された煙幕は所々霧がかかったように地上に死角を生みだし、
その霧の海に浮かぶ無数の島となった小高い丘に戦車隊は陣をとり砲撃を開始した。

爆音が一つ響く。

後退する飛陽を追いかける敵側に霧はなく1機のアムーラが戦車隊の砲撃で四散。
アムーラ隊もバズーカで応戦するものの戦車隊は砲撃終了と同時に霧の海に消え再び違う丘から現われては砲撃を再開する。
戦車隊が始めての土地でこのような迅速な対応が出来る理由はただ一つ。
簡易電脳で視認され立体化された地形が水晶スクリーンに投影され、戦場をまるで俯瞰で見ている状態を作り出しているのだ。

「とりあえず霧の海に逃げ込むぞ!飛陽!そしてそのあとは……。そのあとに考えるぞ!!」

後方からは残存したアムーラ2機が接近し砲撃をしているものの飛陽が作り出した繭のために命中率は低い。
というか攻撃そのものが弱弱しい。理由は飛陽を生け捕りをしなくてはいけないからだ。
目標の位置が完全に把握できない以上、火力の高い武器は使用できないのだろう。

漆黒の精霊機はというと戦車隊の砲撃を悠々と避けながら空から飛陽に接近中。

「このマハーカーラからは逃げられない」

精霊機。マハーカーラの操者には余裕があった。
兎にも角にもまずはムラキ隊を殲滅し残った飛陽をゆっくりと捕獲すればそれでいい。

アムーラが飛陽の進路を断つべく進行方向に立ち塞がる。それをムラキのラドムームが切り払おうと三日月刀で応戦。
その時だった。マハーカーラの額から黒い光が地上にむけ放たれたのは。

「ぬあ!!」ムラキは咄嗟に飛翔する。

地上に残されたアムーラは一瞬で蒸発し飛陽の進行方向には、巨大なエネルギーで削られて出来た大穴が出現した。
黒い光が生み出した爆発は大地を破壊し凄まじい爆風と土砂を飛陽に浴びせかける。
221飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2011/01/02(日) 00:22:48 0
残存したムラキ隊を戦力に加えることに成功したものの状況は膠着状態に陥っていた。
車両型の弱点は横転と飛行型である。横に並べば機体の身長差が生じるが上から狙い打たれることには
人型も車両もあまり違いはない。

それ故に煙幕を張って時を稼ぐ以外に手段がないのである。敵にあるのは慢心ではなく余裕。
飛陽を捉える為に加減しているのも、言い換えれば彼が生き長らえているのもその余裕の為である。
もしも用は無いと見切りを付けられればこの場の全員は今頃皆殺しとなっていてもおかしくない。

曲がりなりにも相手ができそうなのはムラキのラドムームだけである。彼を援護して後退するのが
最善なのだが問題が一つあった。そこまで煙幕が保たないのだ。

>「とりあえず霧の海に逃げ込むぞ!飛陽!そしてそのあとは……。そのあとに考えるぞ!!」
残る2機のアムーラの内1機を他の車両との連携でダルマ状態にした所でムラキから共闘を承諾する
声が聞こえる。振り返ればムラキがアムーラと切り結ぼうしていた。

これで数の上では4対1、と思った飛陽の予想は過程を違えてではあるが現実のものとなった。
黒い光が味方機諸共に地面を薙いだのである。広い範囲に大きめの、良く言えば塹壕、悪く言えば
落とし穴にもなりそうな穴が出来上がっている。真っ向から土砂を叩きつけられた飛陽は
「オーウ・・・」と呻くのがやっとだ。

「なんて威力だ・・・」「掠ってもマズイな」「これはもう駄目かも分からんね」
兵士と共に感想を述べているとムラキのことに思い当たり辺りを見回す。今ので蒸発してしまったのだろうか、
だが上空に逃れたことに気づくと飛陽は今度は怒号を発した。

「的だぞ降りろ!」
言うが早いか黒い機体は先程の光をムラキへと放つ。他の2両がアンカーで急いで引きずり下ろす。
その時妙な事が起きたのである。間に合わずに当たって四散すると思われたムラキの機体が損傷こそすれ
無事に地面に戻れたのである。自由落下ではありえない勢いでラドムームが落下したのである。

「密集隊形!」
飛陽は叫ぶと他の二人とラドムームを囲み煙幕を吐きながらぐるぐると回りだして煙幕の繭を更に濃く、大きくする。
アジト襲撃で懲りて以来煙幕からは毒を抜いておいた事が功を奏した。お陰でこうして連携ができるのだから。

しかしこの状態は相手がその気になればさっきの攻撃で一掃できる配置でもあり全て相手の出方
次第という弱点がある。はっきり言って手詰まりだった。
222飛陽 ◆fLgCCzruk2 :2011/01/02(日) 00:26:07 0
(どうするか、背後にはこの大穴、前には敵のエース、煙幕が切れるのも時間の問題)
頭を悩ませながらラドムームの周りを回遊する車両達、ちなみに視界は最早全員塗料べったりで
俯瞰の画面を頼りにしている状態だった。その飛陽はふと有ることに気が付く。

他の2機は人が乗るにあたって飛陽のボディを改修したものだが異なる点は武装が鉤爪から機関銃、
機会制御が人操作に変わったくらいである。故に今2両目に備え付けの煙幕を各々で使っているのだが、
彼らにはまだ3両目がある。飛陽の頭脳にいつもより高めに電圧が走る。

ドリルの着いた3両目、大穴、煙幕、這いつくばったムラキ。
「これでござる!各々方、よく聞くでござる!」

飛陽は起死回生の一手を説明した。内容は至極簡単、敵に気付かれないように2機の3両目を切り離し
ラドムームが穴の底へアンカーを持って降ろす。2機は急いで穴を深く奥へと掘り進む。高さが合わないので
ムラキは這いずることになるがこれで逃げ道を作る事ができる。穴が開いたら用済みの2両目は自爆させる。

後は穴掘りの音を消すために散発的に威嚇射撃をしながら残った1両目は飛行形態となり順次穴底へ
軟着陸をすればいいのだ。問題は敵が前述の通りまとめて片付けようとしたり視界が潰れるのを
承知で地上戦を仕掛けて来ると詰むとい事だった。

「ディック、トム、やれるか」
飛陽の案を受けたムラキが部下へと問うと、二人は応と答えた。ラドムームが3両目を2機とも穴底へ
降ろすと二人はぐるぐる回り方を自動操縦に切り替え、3両目のトンネル掘りへと指示を出す。

「そのままずっとそうしているつもりですか」
黒い機体から声がかけられる。3人が自分の作業をこなしているのだ。何が何でもここは
繋げなければいけなかった。

「やかましい!煙幕が切れるまででござる!それくらい待てぬでござるか!それからまずは
名を名乗れでござる!拙者は飛陽ちゃん!」

そうして飛陽は、いつバレるかも分らない舌戦を始めたのだった。

【ムラキ隊、煙幕の下で逃走用のトンネルを突貫工事中、飛陽、ルーデルへ会話及び威嚇射撃】
223ムラキ(セラ) ◆eqAqXE3VMc
>「ディック、トム、やれるか」
「やらいでか!上手くいきゃあ大峡谷に抜け出せるかもしれやせんぜ!」
もこもこと土に潜っていく飛陽モドキたち。

>「やかましい!煙幕が切れるまででござる!それくらい待てぬでござるか!それからまずは
名を名乗れでござる!拙者は飛陽ちゃん!」

「飛陽ちゃんですか…。あなたのことは知っています。僕の名前はルーデル。
この精霊機「マハーカーラ」で世界を破壊する者です。そして飛陽。あなたは新世界の鍵となるもの。
ここで僕たちの仲間になればあなたの命は保証すると約束いたしましょう」

威嚇射撃を悠々と避けつつ、勧誘は自分に飛陽が従って当然という口調で行われた。
それを聞いたムラキは返答によっては飛陽を破壊しなければならないと再び思案する。

飛陽の返答を待たずに先に開いたもの、それは漆黒の精霊機マハーカーラの肩に装着されている貝殻のような大盾。
両肩の開いた大盾内部からはダムルー(太鼓)のような円形の物体が現われ大気を振動させていく。
ドン。ドーン。ドーーン。
変調しながら鳴り響く重低音にまず始めに異常をきたしたのはラドムームの装甲だった。
「装甲ランクB―固有振動周波数同調完了―」
マハーカーラの両肩のダムルーから煙幕の繭に向け破壊振動が照射されラドムームの装甲が瀬戸物のようにひび割れていく。
「何故だ!?装甲が砕け散る!?」
破壊されていく理由はマハーカーラの両肩の太鼓から照射されている指向性の高いソリタリーウェーブによるもの。
目標物の固有振動周波数に太鼓の周波を合わせているために逆に強度が低くても材質の異なる飛陽や戦車隊の装甲は依然健在だ。

「このままでラドムームはもたん!いっそ煙幕の外に出て刺し違えるか!?」
ムラキは一人、特攻を決意する。
「早まりなさんな隊長さんよー!!今の敵さんのわけのわからん太鼓攻撃で掘ってた地盤が車両ごと下の空洞に落ちましたぜ!!」
「なに!?どういうことだ?」
「延々と掘らなくっても地下道がすでに地の底にあったってことですぜ」
「馬鹿な!ロンデニオンの地下遺跡のように、ここにもそのようなものが!?ならば話は早い!」
ムラキはわざと通信回線を故障したようにしルーデルに聞こえるように叫んだ。
「メドラウトの…ガ…手に渡るぐらいなら死ね飛陽!!ガー…」
そして皆で地下道に逃げ込み、そのあとに無人の戦車隊の2両目を自爆させ土で穴を埋める。
これで皆死んだということに偽装出来れば、すべては万々歳であった。

戦車隊を先頭に飛陽、ムラキが地下道を行く。進む方向は勿論白亜の塔と正反対の方向。
地下道は広く精霊機でも立って歩けるほどだった。

「煙幕が晴れて、我々の死体があがらなければルーデル王子も訝しむだろう。
だが流石に地下に逃げたとは思わんか?彼がこの地下道の存在を知っていたとしたら話は別だろうがな。
それにしても毒殺されたはずの王子が生きていたとは。祖国に戻って語っても誰も信じないだろう」
ムラキは顎髭をしごきながら誰に話そうとしているわけでもなく宙に言葉を投げつける。
飛陽等がイサームの仇ということは今は頭にないらしい。

「とりあえず飛陽。今のお前は我々の捕虜だ。そこの所は重々肝に命じておけ…」
そのムラキの言葉には力がなかった。一同はどこまで続くともわからない地下道を進んでいく。