人間とエルフTRPGスレ

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206マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/18(土) 20:24:17 0
マイノスには今のやりとりは何とか見えたし理解もできた、しかし体は全く動かせない。
当然だが武闘家相手に術師に毛が生えた程度の身体能力では太刀打ちは全くできないだろう。

奇しくもバートが言ったことをそのまま証明される結果となったことに、自分が咄嗟に前に
飛んだのも案外間違った事でもなかったのかも知れない。時期は遅かったが
そして確信する、見た目よりもずっとこの男の攻撃範囲は広い。それこそ視界の遠い先にいて初めて
射程外ということができる、そんな風に思えてならなかった。

(夜以外は絶対に無理だ、逃げ切れ無いだろうし耐えきれない)
全くそうは聞こえない冗談を言ってイーネを解放するのを見ると慌ててイーネに駆け寄る。
この鉱山において今やすっかり回復薬になりつつあるがそれにも構わず手当をしようとする。

腕は多少捻った程度、腰は軽度の打ち身、骨が折れたりという事もなく胸をなで下ろす。
「あー焦ったぁ、いきなり何してんですかあ、もう、逃げ道作る前から飛びかかるなんて
イーネさんらしくないじゃないですか!こっちの息止まるかと思いましたよ!」

てきぱきと治療しながらぶちぶちと文句をいう。後で「手加減したつもりだったんだけど」とか
「全然痛くなかったんだけどね」等というのはゴメンである。
そしてその間ににもちらちらと髭面の小人を見る、自分にとっては文字通り驚異的な男だ。

「あなたも!距離外すくらい余裕だったでしょ!全く大人気ないんだから・・・」
ついつい力量も顧みず双方に説教を食らわすとついでとばかりに面食らったままでいた他のエルフ
たちに、先程まで捉えられていた人達の中で動けない人や一緒に戦ってくれるような人がいないか
聞いてくるよう指示する。なんだか説教癖がついたような気がして、少年は頭痛を覚えた。

「とにかく、敵じゃないならそれでいいです、カナさんの言うとおりで僕たちはここの一番下を
目指してるだけです。・・・死んだかと思いましたよ」
最後に疲れと一緒に大きくため息を吐くと、「この人が早とちりしてすいません」イーネを見つつ誤った。
207イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/19(日) 15:27:38 0
…勝負はあっけなく付いた。

「イテテテテイタイネ離すネはーなーすーネッ!
やれやれ、そうならそうとさっさと言うネ、イーネ達戦闘中だから勘違いするネ。
…と、ドワーフ族とは初めてネ。かの一族とはファン家初代当主の頃から金銀や宝石の取引でえらく世話になったと聞くネ。
イーネもまたファンの商人ネ、よろしくネ」

こちらもニヤリと笑い返す。軽く極められた腕を振ってみるが痛めた様子はない。…だいぶ手加減されてしまったようだ。
イーネは隣でブツブツと文句を垂れながら治療を申し出る世話焼きからひょいひょいと身をかわしながら、取り落とした短刀を急いで拾い上げる。
…危ない危ない、抜き身のまま手を離したせいで魔法が必要以上に収束している。留め金を外さないまま用いたのは正解だったようだ。
軽く振って魔力を払い素早く鞘に収めてから、それをマイノスに指し示し言う。

「イーネが考えなしに飛び出すわけないネ。頭ちゃんと動いてるネ少年?
この扇刃を抜いた時点でこの辺一帯の……アハハ、まぁ奥の手使わず済んだのは幸いネ」

…笑って誤魔化したが、実はこの短刀「扇刃」はかなり危険な代物だったりする。
イーネには生まれつき魔術師としての才能…魔力を体内に蓄積する能力がほとんどない。
しかしその特異体質故に魔法を行使する事だけは出来る…そのジレンマを解消するためだけに、この扇刃は開発された。
特殊な鉱石を鍛造し削って幾重にも重ねた刀身は、自動的に周辺の風を魔力に変換し蓄積、必要に応じ使用者に供給する特性を持たせてある。
モノがものだけに用途はかなり限られるが、それ故に無詠唱での魔術行使もある程度可能である。
…しかし風を、空気を吸収するという事は即ち、周辺の酸素を著しく消費するのだ。室内での使用は非常に危険である。
例え野外であろうと、使用者はまもなく酸欠に陥るだろう…無意識に周辺の風を支配し制御しているイーネでもなければ。
ぶっちゃけてしまうと、それを見越した上で引き抜いたイーネであった。

しかし…マイノスの言葉通り、あまりにも直情的に攻撃を仕掛けた感は否めなかった。
仲間…ネ。そう小さく呟き、そしてらしくないネと微笑む。
二人が危険であると判断した瞬間には既に身体が動いていた。いつの間にか、彼らにそれ程の信頼を置いていたらしい。

捕らえられた者たちの治療は他に任せ、イーネは一通りの顛末をバートへと語る。
そして問うた。

「途中ですれ違った訳でもなさそう…という事は奥から来たネ?
こんな物騒なところでまさか穴掘りというわけでもあるまいネ、何故ここに?話と利益次第じゃ力を貸すのも吝かじゃないネ」
208カナ ◆utqnf46htc :2010/09/20(月) 19:47:50 0
私は格闘技と言ったら柔術しか知らない。いや、むしろ私の細い体で扱うにはそれしか無かったと言うべきか……。
本当に何の才能にも恵まれなかった自分が妬ましいな……。
しかし、護身程度だが柔術を叩きこんだ故に解る……、目の前の戦闘にて使われた戦術……。
彼が本気になったのならば私位なら、考える隙も無く殺されていただろうな……。
技を極められて、まずいと思い影に貼る事で相手の動きを封じる影縛りの札を取り出したが
解放した所を見て、それはどうやら徒労に終わったようだ。正直使いたくなかったから良かった……。

私は事態の収束を見て、煙草を取り出し火を付ける。ん、煙草の残りが少なくなってきたな。
そう、彼が此の事件に絡んでいるハズも無い、小人族と言うのは魔術に長けておらず、それ故に滅んでしまったのだから……。
それに、そう言う者を使っているならば、とっくに交戦を交わしているだろう。
対峙する敵が彼ならば、こんな姑息な手段等取らずに真っ向勝負に出てくるだろう。まぁ、その方が断然早いからな……。
思うに、敵は接近戦を好まず、正面に出てこれない人物となる。そうなるとこの辺りを統括する人間の上層部の者か?
貴族思想は今や大分抜けて来たが、それでもまだ上下関係を作りたがると言う。その上の者の犯行だと私は思っている。
私は何時も様に煙草を吸いながら自らの考えをまとめていく。
しかし、一つ解らない事が有る。その上の人間共がこんなにも急いで強大な戦力を作らねばならなかったのか……。
領土拡大にしたって人里は我々の種族と人間の混合した物。勝手に何かをやれば内部から分解してしまう。
エルフ族迫害の為だけに一国をも滅ぼす兵器を作るとは思えない…。うむむ……此処を突き詰めれば答えに辿りつきそうだな……。
其処まで考えて煙草一本を消費してしまう。考えをまとめたいが今回は此処までだな……。
そのまま煙草を口に入れ、咀嚼し飲み込む。最近コレが癖になってきたな。
ん? 悪食だって? 仕方ないだろ他人とは食が合わないんだ。

……しかし、もう出会う事も無いと思っていた小人族とはな…、最早会えないと思っていたから少し嬉しいな……。
今の戦闘で何処にも怪我を負ってはいない様だな、何と言うか我々とは違い力強い印象を受ける。
おっと、折角名乗って貰ったと言うのにこっちから名乗らないのは失礼になるな……。

「私の名はカナ、カナ・マヤカサ。薬師をやっている長耳族(エルフ)だ。
 大戦以来見ていない小人族に出会えるとはな、古き友人に出会えた様に嬉しいぞ。」

丸々百年ちょっとの再開って所だな。彼との面識は無いのだがな……。
再会に感動していると彼から今の状況を聞かれ、ふと戦士達の事を思い出す。
結果としては助ける結果となったが、彼等が死んで居れば死霊……いわば不死族としての再開になっただろうな……。
考えただけでもゾッとするな……。
彼から此処にはこの戦士達を助けに来たのかと問われる。まぁ、戦士達はついでに他ならないさ。

「結果的に彼等を助け出す事にはなったが、救出が目的ではない。
 此処で行われようとしている古に禁された術の執行を妨害に来たのだ。
 此れが発動してしまっては此処一帯所か、此の国が危ういらしいのでな。」
209バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/09/21(火) 19:10:53 0
誤解が解けた模様なので、バートは腕を軽く回して近くの壁に軽くもたれる。
冷静に見直してみると…何とも筋肉に欠ける面子のパーティだと思いつつ水を一口含む。
ここまで来れているという事は、それなりの腕前があるのであろうが…
最初に話しかけてきたのはエルフであった。今までバートが出会ってきたエルフとかなり雰囲気が違う。
この様なエルフばかりなら話しやすいのだがとバートは心で思いつつ返事をする

「ほうほうカナ殿は薬師殿か…
 昔からワシらは生傷耐えぬ種族なのでエルフの薬師殿とは、常々良い取引をさせてもらったものじゃよ。
 懐かしいのう…」

前の大戦前にワシらの集落に来られていたエルフの薬師殿にも会いたいものじゃ…
バートは平和だった時代を懐かしむ。
懐かしむバートを現実世界に引き戻したのは、マイノスの言葉であった。

>「あなたも!距離外すくらい余裕だったでしょ!全く大人気ないんだから・・・」
眉があがる。ここ二百年は自分に説教をしてくる存在等いなかったのだ。
なんというか久しぶりの説教というのは、心地良いものだとも思いつつ武人としての
思考が同時に働きつい反論してしまう。

「残念じゃが、ボウズ。それは間違いじゃよ。
 先ほどの状況では短刀を奪うのが最も手早く状況の収集が出来るのじゃ。
 躱しただけでは第二撃や別の手が来るかもしれぬ。
 相手の戦力を削ぐというのは状況の収集手段としては一番よいのじゃよ」
そこまで、話してふふんと鼻をならす。
「まあ、ワシに説教をした度胸という点ではお主は驚胆の持ち主じゃな」

イーネと名乗った女性はドワーフと交易のあった商人の出の模様だ。
「ファン家か…ワシは聞いた事がないが、我らと交易が出来ていたのなら信用に足る家の出と言える。
 よろしくじゃ。お嬢ちゃん」
イーネの笑みに、バートは笑みで返す。

>「途中ですれ違った訳でもなさそう…という事は奥から来たネ?
>こんな物騒なところでまさか穴掘りというわけでもあるまいネ、何故ここに?話と利益次第じゃ力を貸すのも吝かじゃないネ」
軽く腕を組み。顎髭を撫でながらバートは答える。どうやら考えたりする時は
このドワーフは自然にこのポーズを取るらしい。
「そうじゃな…この横穴より先に数百メートル程先行して探索しておったのじゃが、
 後方が、えらくうるさかったので何事かと戻ってきた訳じゃよ。
 そこでお主達に遭遇した訳じゃ…
 で、ワシの目的というのは、同族探しじゃ。わしらは珍しい鉱石のある地下を住む場所として選ぶからのう…」

そこまで話して一拍…
「お前さん達の目的は古に禁された術の執行の阻止とな。
 大層な術を使う輩がまだまだ世の中にはおるものじゃな。」
「ワシの目的には関係ないので、ここでおさらばじゃ…と言いたい所じゃが、
 相手が魔術師となるなら話は別じゃ。腕慣らしにワシもお主達について行くとしよう」

そこまで言い切りニヤリと笑う。
「報酬はアルコールのきつい酒で十分じゃぞ?」
210マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/22(水) 18:14:23 0
手当をしようとするとイーネがひょいひょいと身をかわすのでマイノスは少しイラついた。
「あ、こら、逃げないで下さい、ちょっと」
ケタケタと笑いながらこちらをあしらう様を見るとどっちがシルフか分からない。

そんな不毛な応酬をしている横からとバートが反論する、思っても見なかったことに少し鼻白むマイノス。
確かに言われて見ればさっきのイーネだったらそこからまた追撃していたかも知れない。
こっちを見てニヤニヤしている彼女を見るとバートの言い分が正しいように思えて、最もだと
言う代わりに小さくを息を吐いて肩を落とす。

自分よりずっと強い相手に勢いでつい説教してしまったことは相手の方も好意的に済ましてくれたことだしこの際
置いとく事にする。次からはなるべく気をつけようと彼は固く心に誓う、そんな少年を放っておいて早くも二人は
何事もなかったかのように話を始める。驚くほどにアッサリしている。後腐れがないにも程があるが実際に
サバサバした人同士が和解する時というのはこれぐらい早くしかも味気ないので傍で見てる方が置いてけぼりを
食らうことはままあることである。

どうやらバートも同行してくれるらしいと聞いて内心で喜ぶがやはり気になって訪ねてしまう。
「でも本当にいいんですか。この先はやっぱり危ないですよ、あなたくらいの腕なら脱出だって
できるでしょう。正直辞めといた方がいいでしょうし、あ、決して信用してないとかじゃないです!
ただ、危険な事を手伝ってもらうのって、後ろめたいっていうか何ていうか・・・」

上手く言えずに途中からしどろもどろになってしまう。はっきり言えばバートの存在は戦士たちがいないこの
一行には尚更ありがたがったし必要だった。その事がマイノスにきちんとバートに危ないから辞めておいた方がいい
と言うことを躊躇わせていた。既に先程来た道を戻り始めているがその道すがらでの事だった。

「とにかく、本当にいいんですか!良いって言ったらもう戻れないんですよ!」
なんとかそれだけ言うと今度は答えを聞かずにずんずんと歩いていってしまう。なんというか気不味くなって
その場に居づらくなってしまったのだ。心なしかその後ろ姿はそわそわしている。
211カナ ◆utqnf46htc :2010/09/22(水) 18:49:37 0
ふむ、戦士達共々私を襲った盗賊たちの体の自由も戻ってきた様だな。
私特性の毒抜きを使ってやってるんだ、良くならないハズも無い。だが、どんなに回復が早くても暫くは満足に動けないだろうな。
盗賊達を見捨てる事も出来たが、そんな事はしない。目の前に助けられる命が有るのに何もしないと言うのは流儀に反する。
自己満足だと言われればそれまでだが、私は生きて行くのに多くの命を奪ってきた……。
それは国が一個壊滅するような数をな……、それ故に私は人々を救うと誓った。一種の罪滅ぼしなのかも知れないがな……。
一番私を許していないのは、他でもない私自身なのかも知れないな……。全く…自らでも不器用だな、と思う。
今誰が嫌いと聞かれたら自分だと迷いなく答えるだろうな……。

残り少なって来たが、私はどうしても口寂しくなり煙草を咥え、火を付ける。
少し赤み掛かった煙を吐き出す。成程この空間の瘴気濃度は気のせいではない程低いらしいな。
これは意図的に作ったのか……? 瘴気の性質上この部屋にも溜まっているだろうから此処は人を生かす為に作られた場だろうな…。
だとしたら、何かの術式が施されている筈なんだが…、見つけた……。天井に張り巡らされた魔術回路。色的に水の浄化結界。
成程、土の妨害結界を割いてまで此処に浄化結界を置いたと言う事は、どうであっても早くエネルギーが欲しかったらしい…。
しかし、本来人間が得意とする六行を見ないのは何故なのだ……? 異種族が雇われているのか? それとも……
そこで丁度、彼…いやバートより返事を貰う。大戦前の平和な頃を思い返しているらしい。
確かにあの頃は平和と言う言葉が良く合った。我々薬師も暇で傷薬や風邪薬位しか作って居なかったな……。

「ああ、我々薬師にとっても良い取引相手だったのだがな……。
 あの頃は傷薬位しか売れない程平和であったな……、本当に懐かしい……。」

私は吸い終わった煙草の火を消すと口に放り込んだ。
さて、我々は此処でじっとしている訳にもいかない、此処で行われている事を阻止に来たのだ。
正直行きたくは無いのだが、そろそろ行かねばな……。

「さて、と……。その平和にする為に今奮闘している世を乱す輩を一発ぶん殴って来るとするか……。
 私も冷静を装っているが心中穏やかではないのでな……」

次に私は戦士達や盗賊達に地上へと出る事を命じたのだが、言う事を聞いてはくれなかった。
その体では無理だと言ったのだが、我々だけ助かって命の恩人が助からないのは目覚めが悪いらしい。
私はそこで説得を諦めた。最早何を言っても無駄だろう……。しかし、助けた命、そう易々とは散らせはさせないぞ……?
それがどんなに苦しむ結果となったとしても……な。

正直バートより放たれた言葉に耳を疑った。我々は死をも覚悟して此処まで来た。
戦力不足も良い所だったので、加勢してくれるのは助かるが、其処までしてもらう義理は正直無い。
まぁ、その豪快な性格故に、戦いに自ら望み退く事をしなかった者達の生き残りだ、言って聞く様な者では無いだろう……。

「ああ、此処から帰れたなら取って置きの酒をやろう。ただ、私は飲んだ事が無いので味の程は解らんがな。
 後、この先危ないと感じたら我々の事は良いから逃げてくれ……、我々は此処に死すら覚悟の上で来た。
 貴方に其処まで付き合わせる義理も無いのでな……。」
212名無しになりきれ:2010/09/24(金) 12:51:39 0
・・・来たか、だが邪魔立てはさせん

今宵こそ満願成就の時、あと僅かで完成する

最後に、十分な月光を当てなければ・・・

さて、まずはこの天蓋を払うとしようか


【激しい地響きを起こしながら、鉱山の底に巨大な割れ目が開く】
213イーネ ◆pNvryRH4rI :2010/09/24(金) 20:18:12 0
「なるほど同族探しネ…100年前の災厄で滅びたとも聞くケド、現物がここにいるからには探す価値もあろうネ。
フム…あるいはファンのツテを頼れば何か情報があるかも知れないネ。我が一族は世界中で商いをしてるからネ。
最寄りの街…イービスにはないケド、その先の都には確かウチの商館があるはずネ。イーネも興味あるし紹介するネ」

以前閲覧した、災厄前の時代に記された門外不出の帳簿を思い出し脳内で捲りながら提案する。
かの種族との取引ではかなりの利益が上がったと記載されていたように思う。希少な品ばかり得られる上に、彼らの持つ驚くほど卓越した審美眼、そして気に入った相手に対する気前の良さ…どれも取引相手として得難いものだ。
ここで糸口を掴んでおかない理由はなかった。

「イーネとしても、ついて来て貰えるなら助かるネ、ご覧の面子だから苦労してたネ…ッて、おーい少年!勝手に先行くと危ないネー…いやいや、少年も若いネ勇ましいネェ」

バートとの会話の途中だったせいもあり、一人先へ行くマイノスの背中をつい見送ってしまう。
…トイレでも行きたかったのかネ?などと首を傾げてみたり。


ちょうど酒の話題も出て、イーネもそれお相伴に預かりたいネなどと騒ぎながら進んでいた、その時だった。
突然に洞窟全体が鳴動し、激しい揺れに襲われる。音から察するに、上層では崩落も起こっているようだ。
咄嗟に身を低くして構える…が、どうやらイーネらがいる洞窟は丈夫なものだったようだ。揺れが収まったのを見計らい、一息ついて肩に降った土埃を払う。
と…不意に空気の流れが大きく変化した事に気付く。洞窟の先から漂ってくる新鮮な外気…ゴーレムを地下で造って完成した時どうするのかとは思っていたが…まさか!

「これは…ついに敵も動いたようネ!
イーネ先に行くネ、風の感じからしてもうすぐそこネ、既に少年は着いたかもだから心配ネ」

そう言い放ち駆け出す。
直感だが、外に出られてはおそらく勝ち目はあるまい…急がなくては!
214バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/09/27(月) 16:28:27 0
百年一人で探索を続けていたからか、久々に会う人間の対応に懐かしさを感じた。
人間独特の…遠慮というか…バートにいやドワーフが余り持たない感じを懐かしいと思う
途中で辞めるなら初めから言い出しはしないし、やると決めたことは貫徹するのが彼らの一般的な考え方だ。

>「とにかく、本当にいいんですか!良いって言ったらもう戻れないんですよ!」
>「イーネとしても、ついて来て貰えるなら助かるネ、ご覧の面子だから苦労してたネ…」
「ふむ…お主ら人間は面倒じゃのう…もっとストレートに物事を考えぬか。
 危険なヤツがおるのじゃろ?この状況で止めれるのがお前さん達しかいないならお前さん達が止めるべき事じゃよ。
 後は単純。親玉を見つけて殴り飛ばす。それだけじゃよ。」

フォッフォッフォと一段と大きな声で笑う。
今更、小声で話しても相手には気づかれているだろうし、バートのみ先行して隠密しても余り状況は変わらないだろう。
バートは後ろ腰に鎖で繋がれた一組3本の棒を取り出す。一本の長さは60cm程度であろうか。
ブンと降り伸びきった瞬間に手元の金具を回す。そうすると鎖が棒にしまわれ3本の棒は一本の長い棒になった。

>「ああ、此処から帰れたなら取って置きの酒をやろう。ただ、私は飲んだ事が無いので味の程は解らんがな。」
「酌をしてくれれば十分じゃよ。お主達エルフと酒を呑むのも久々じゃ楽しいじゃろうな…
 さて、その前に一仕事に行くとするかのうお嬢ちゃん。」
まだエルフ族の方が思考的にはバート達ドワーフに近いのだろうか。
そう思いつつも、バートは棒を試しに数回降る。

久々に使うがゴーレムの類が相手となると素手だけでは厳しい可能性がある。
リーピング・モーラーの得意な相手というのはあくまで気が流れる生体や間接を持つ生き物だ。
それ以外を相手とする場合には、好みでは無いが武器を用意無くては厳しいだろう。
この三節棍は、黒檀を使い両先端等の金属部分には希少金属アダマンティンを使用している一品だ。
久々に使用するが、違和感は無い。これなら十分じゃろうと金具を操作し、繋がれた一組3本の棒の状態に戻す。

「さて、早く行かぬと少年に置いてきぼりにされるのう」
フォッフォッフォと笑いながら駆けようとした時、洞窟全体が鳴動し、激しい揺れに襲われた。
ドワーフは低重心故に地震の中でも割と平気に動ける。バラバラと落ちてきた危険そうな岩だけを三節棍で払う。
特に先ほどの地震で誰かが怪我をしたとかはなさそうだ。

揺れが収まる頃には地下から風が吹き抜けてきているのバートは感じた。
どうやらイーネも気づいているようだ。
「そうじゃの…ボウズが危険かもしれぬ。さっさと行くにこした事は無いか。」
そう言い終わるが早いか、身をかがめ素早くダッシュをしバートは地下へと進んでいくのであった。
215マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/27(月) 22:40:40 0
その少年はひどく落ち込んでいた。一見すればその有様に不釣合いな程落ち着いているようにも見えただろう。
つい気恥ずかしくて勝手に先走ってしまい、自分たちが入ってきた横穴の入り口、そこまで急いで
戻ってきてしまった。それも一人、気づいた時にはしまったと思いながらも皆を待とうと決めた矢先、
山全体が震えた。彼もまた危険を感じて、自分の力量を顧みず足止めをと思い奥へ向かった。

先は少なくとも分からなかったがバートが来たと思われる道はすぐわかった。向こう側からこちらに続く
足跡を辿ればよかったのだから。そしてその足跡が切れた先にやや大きめの穴が開いていたのだ。

この先へ進めば何かと出くわす、そんな気がして、それならせめて声の一つでもかけて時間稼ぎをしよう
と思ったのだが、なにも地震が起きたからといって罠が解除されるわけではない。バートの足跡が
途切れた先へ踏み出した途端に腿のあたりまで地面が盛り上がり足をすっぽりと土台のような地面に
固められてしまったのだ。

身動きが取れず今襲われたら一溜まりもないのでその当時は相当焦ったが、待てど暮らせどゾンビも犬も出て来ない。
本来なら侵入者はこれで終わりなのだろうが、ことも終りに差し迫った今となってはそれらも仕舞ったのか静かなものだった。
精霊たちも仲間のもとへ置いてきてしまった。地震の最中に只々待ちぼうけの時間が過ぎていく。

そんな中でマイノスの頭は急速に冷めていった。
(無事だからいいけど、ほんと何やってんだろ、僕、折角勢い込んで走ったのに・・・)
座ることもできないまま立ち尽くす、大きめの石が降るなどしてくれればまだ緊張感も保てたが
まるでダメ出しするかのように小石が彼を小突くばかりであった。

「まだ罠があります!気をつけて下さい!・・・・・・ふう」
聞こえるかは別としてそれだけ叫ぶと項垂れて沈黙する。そうこうしてる内にも揺れは大きくなっているが
今の彼にはこうして少しだけでも体面を取り繕うことしかできなかった。
216カナ ◆utqnf46htc :2010/09/28(火) 22:45:43 0
私は未だなお戦力不足を感じながら、先に通ずる道を歩いていた……が
……丁度その時鉱山は地から響く呻き声の様な音を立てつつ大きく揺れた。
な、何だ…これは……まさか……完成してしまったのか……?
幸運な事に我々の居た坑道は崩れる事は無く、生き埋めになる事は避けられた。あんな体験は一生に一度で十分だ。
しかし、それよりも今の揺れは、……ん? 妨害結界が大きく割れ動作しなくなっている……、どうやら私の勘は当たったらしい。
完成して邪魔になったので取り払ったと言う所か……。ならば急がねば鉱山内部ならば辛うじてどうにかなるが、
外に出られてしまえば我々の手が及ばなくなってしまう、そうなってしまえば最早我々には如何する事も……。

「急ぐぞ!手遅れになる前に!同族の者達は先に来い、
 戦士達は動ける者も居るだろうが動けない者を連れて警戒しつつ後から来てくれ」

最早目と鼻の先となった最下層へと我々は全力疾走していたが、その途中……。
そう、最下層目前にて先行していた少年へと出会う。最初は我々の到着を待っていたと思ったが、
足元が土で固められている所を見ると、どうやら何らかの罠にかかった様だった……。
妨害結界が崩れる前に敵の足止めにまんまとかかってしまった様だな……此処に来て此れだけとは幸か不幸か……。
私は土台となっている土を物理手段で崩し、少年を救出した。少し荒々しいが大本が動いてない故に方法は此れしか無かっただろう。

「此れに懲りたら単独先行は慎む事だな」

少年に一喝を入れて我々は再び最下層へと急ぐ、幸いに結界は動いていない為にその後はすんなりと進めた。
そして最下層にて最初に出迎えてくれたのは、濃厚な瘴気に成る前の純粋な魔……、強すぎて噎せ返りそうだ……。
天井に大穴が開いているが、誰の目にもその場は何かしらの魔術を行った後と言うのが解る程人工的に変えられていた。
その規模と魔術構造から神殿並みの構造とまで分析した所で中央に巨大な物体を発見した。多分アレが問題の物だろう……。
鉱物である事が嘘で有るかのような生物的な姿をした竜が、作り物と言うのが疑いたくなる程の威圧感を引き下げて其処に存在した。
どうにかしようとする前に恐怖で私の方がどうにかなってしまいそうだな……。口から心臓が飛び出してしまいそうだ……。
しかし、生まれたての今なら何とか出来るハズだ……。私は薬箱を下すとありったけの札と素材を取り出した。
217カナ ◆utqnf46htc :2010/09/28(火) 22:47:04 0
「散開!木の束縛術式にて束縛を試み……ッ!?」

同族に呼びかけ儀式魔術の実行をしようとしたが、それは結局未遂で終わってしまう。
突然に脇腹に走る激痛に私は持っていた物を丸ごと全て取り落としてしまう。
な! こんなに早く敵襲か!? しかし、そんな気配等微塵も感じなかったぞ……!
急いで対処しようと振り向くと、今まで付いてきた同族が私の背に深々と刃を刺している所だった。

「な……何故……」

同族は刃の柄を離すと私の射程外へと飛び退いた。
足に力が入らなく膝を地に付く、脇腹からは夥しい量の血が流れ出しているのが解る。
失血性ショックか……。口が震えてまともに言葉が出てこな……くそっ……傷は内臓まで達していたらしい……吐血が……。
べちゃべちゃと滴り落ちる吐血に対して私は酷く冷静であった。むしろ、心の何処かで自分の命を諦めた様だった……。
その一遍には、やっと死を持って罪を償えると言う満足に近い感情もあっただろう……。
しかし、今は甘んじて死を受け入れている場合ではない。この傀儡竜をどうにかしなければな……。
せ、せめて……一矢報いて……。私が這いずって札を取ると、その手を踏みつける人物が居た。

「さて、諸君。遊戯は楽しめたかな?」

ああ、同族の裏切りから薄々は気づいていたぞ……!まさか貴様が黒幕だったとはな……。
そこに居たのはエルフ族の里長であった。身分の高いものが後ろで糸を引いてるとまでは予想の範囲内だが、
まさか同族の方だったとはな……。私はみすみす敵の別働隊を引き連れてきてしまっていた様だな……。
里長に向かい何故こんな事をしたと言う旨を言に発しようとしたが、私の口から出てくるのは血のみであった。

「何故こんな事をと言う顔をしているな? そうだな、ここは人間を迫害するとでも言っておこうか」

顔が狂気に歪む、大方理由はどうでも良いのだろう……力に溺れた者の末路とは醜い物だな……。
くそっ……そんな事の為にようやく終結した争いを再発させるつもりか……そんな下らない事はさせんッ!
私は踏まれていない方の手で脇腹に刺さっている毒素でボロボロになった刃を抜き取ると
里長の足に向けて突き刺そうとするが、簡単に避けられる。まぁ、今はこれで良い……手から足を退けられれば……。
刺さっていた刃を抜いた事により更に血が吹き出し血溜まりと言える程の量に達した。これでは此処の汚染は免れないな……。

毒溜まりへのリスクを冒してまで止めを刺すこともないと思ったのか里長は私から遠ざかる。
私は血を大量に失ったと言うのに酷く重い体を起すと、薬箱から有る植物の種を出し刃に結び付ける。
それを未だによたよたとしている竜へと投げつけた。
刃は簡単に竜に突き刺さり、その種からは夥しい量の茨の蔓が生えて飛び立とうとする竜を地面へと縛りつけた。
流石は魔の塊の様な傀儡だ、魔で育つ茨もさぞかし育つだろう……。
218代理投稿:2010/09/29(水) 21:59:37 0
空気の流れが広い空間が近くにある事を示している事を感じながら、道の真ん中に立つ邪魔な塊を蹴り超えて更に駆け……ん?

「ッと、何か踏んだと思ったら久しいネ少年…それは新しいギャグか何かネ?きっと畑でやるほうがネタとして正しいと思うネ」

道に生えた残念な野s…もといマイノスを振り返り、呆れて溜息をつく。一瞬でも心配をしたイーネが馬鹿だった。

「ホント緊張感のない少年ネ…ああ、風が出てきたからこの羽虫は返すネ。じゃ」

肩に留まっていたシルフを邪険につまみ落とすと、マイノスを助けもせず奥へと注意を向ける。ついでに泣き言も聞き流した。
商売繁盛と相互扶助をモットーとするファン一族は、同時に足を引っ張る者は容赦なく切り捨てよと家訓に書く程苛烈な精神を持つ。って言うかあれくらいどうとでもなるだろう普通。

ようやく追いついた一行がせっせと拘束を叩き壊すのを確認しながら、奥から微かに吹く風を全身で感じ取る。
たとえ地の底であろうと、風が吹く場所であればそこはイーネにとっては快適な空間だ。正直この展開は僥倖ネと思いながら、腰の愛刀… 扇刃を引き抜いた。
風を受けた刃は瞬時に魔力を収束、柄を通してそれを伝えてくる。一時的に魔力値を魔術師並みに引き上げられて、ただでさえ重さのない身体が更に軽くなるのを感じた。
扇刃の長時間使用は色々と負荷もかかるとは言われた気がするが、そもそもイーネには戦闘行為に時間を掛ける習慣がないためその副作用は経験した事がない。というか高価な魔道具だから普段あまり使いたがらないのだ。


洞窟の最下層…龍の亡骸が眠るはずのその場所は、半ば異界とでも呼ぶべき儀式場だった。
裂けた天井から差し込む月光はまだ低く、壁の一部を照らしている程度で暗いが… おそらくは長い時間を掛けて作り上げたのだろう。丁寧に均された床には幾つもの魔法陣の跡が刻み付けられ、祭壇が設えられている。
隅の方には古びたツルハシや鎖の絡んだ滑車などが打ち捨てられていて、この場所で採掘から組み立てまで全て行なわれていた事が容易に伺える。
そして…広い空間の中央には、まるで神像のように…龍の彫像にも似た姿のゴーレムが鎮座していた。
219イーネ(代理):2010/09/29(水) 22:01:03 0
…カナが倒れ、イーネらもそれぞれ反乱したエルフに取り囲まれた。ある者は曲刀を、またある者は小型の弓を構え徐々にその輪を縮めてくる。
魔法でどこかに潜んでいたのだろう、敵の首領と思われるエルフをイーネは睨み付ける。エルフ族の長達だけが身に付ける独特の飾り…なるほど、そういう罠だったか。
しかし気付いても今更である。周囲に漂う血と毒の臭気に顔を顰めながら、気付かれないよう構えたままの扇刃…その柄に仕込んだ留め具へ指を伸ばす。あの出血はまずいのだが、この状況では助けるどころではなかった。

暫し睨み合いが続くと思われたその時、カナの最後の力を振り絞った行動が状況を覆した。

「な、何をしたッ!?」

ゴーレムに絡み付いた蔦に気をとられた敵の隙をイーネが逃すはずもなく。
突如巻き起こる旋風にエルフ達が吹き飛ばされ、そして次の瞬間にはすでにイーネは倒れたカナを背後に庇い立っていた。
その手には先ほどまで構えていた短刀…しかし形状が変化し、透けるほど薄い銀の刃が、まるで扇のように展開している。
…よく目を凝らせば、その一枚毎に異なる術式が透かし彫りされているのわかるだろう。能力を極端に限定する事で短刀の性能を両立させた杖…とでも言うべき代物だ。

「……戦争するなら大いに結構ネ…エルフなら知っておろう、250年程前の紛争では我が一族、実に儲かったそうネ」

立ち上がったエルフらを制しつつ、目でマイノスを背後へと促す。零れた血から濃厚な瘴気が立ち上っているが、今なら扇刃で払うくらいは出来るだろう。
イーネはそのまま言葉を続けた。

「だが、その根性はどうにも気に入らないネ。求めるが故の戦いではなく、単に手にした玩具を振るってみたいだけとは無駄遣いも甚だしいネ。
…それに… そこな玩具はイーネが預かる大事な商品、さっさと利子付けて返すがいいネ!」

叫びながら、腕を翻し強風を巻き上げる。とにかく時間を稼がねば…。
220マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/09/30(木) 23:31:58 0
(今度からはスコップも持ち歩こう)
土の拘束を解かれて彼はそう思った。カナからは喝を入れられイーネには頭を踏まれて
この上バートからも何かあるかと思うとがっくり来てしまう。イーネからシルフを返してもらうが
シルフの方は名残惜しそうだった。

ここに来て風が吹き始めている事に、外に通じる穴も開いているのかも知れないと漠然と思いながら
皆の後を付いていきそして目的のモノを発見する。その場に充満した魔力を思わず攻撃と勘違いする。
あまりに存在感があったこととその風貌から始めはそれがゴーレムだと気付かなかった程だ。
久しぶりに合流したキャクとライザーも珍しく真剣に警戒している。

「これが、本当に・・・?」
いっそ神秘的とすら言えそうなその姿に見入っていると彼の目の前に信じられない、信じたくない光景が
映る。音もないというのはこの事だろうか。それまで、さっきまで共に進んでいたエルフたちがカナを
刺していた。見る間に血溜まりが広がりそこに誰かが現れて何かを喋り出すが何も頭に入ってこない。

カナが何かをし、ゴーレムが蔦に絡まり、イーネが飛び出し、いつのまにか辺りにひしめいていたエルフを吹き飛ばす。何も
考えられないままに、カナに駆け寄る。瘴気に顔しかめるが気にする余裕もない。

この機に囲まれていた、戦士や盗賊の中でもまだ比較的体力があるものは手近なエルフたちに踊りかかっていった。
呆然と、イーネに庇われるままに辺りを見回す。エルフ達の中には村で世話になった者も何人かいた。
目が合って逸らされる、それが悲しかった。血溜まりに横たわるカナを見ながら漸くマイノスの頭は冷えていった。

(後で、謝りにいかないとな)

そう思いながらもカナにリザレクションまがいをかけるとキャクにそう命令した。
「キャク、カナさんを食べろ、辺りの血も残さず吸え、出血を最優先で治すんだ」
キャクは頷くと大きく膨らみカナを丸呑みにすると地面の汚染された地面を吸いだす。まるで色だけ抜き取るかのように
血を啜る。
221 ◆e7fRsOMIvgdV :2010/09/30(木) 23:57:59 0
カナを飲み込んだキャクをマイノスは急いで指輪に戻す。
キャクの特性なのか相手を捕食する時にそのまま食べるのでなく一時的に生命力の塊の
ように分解することができるのだ。これを逆に使えば一度分解した獲物を再構成して
吐き戻すことができるのだが、その為には傷を治す分の魔力をキャクに送り続け無ければならない。

食われた者はその時の状態に応じた量の塊でしばらくの(キャクに頬張られている)間留まる。
この状態に魔力を送るのだが指輪に戻したのはゴーレムが完成したせいで周辺から魔力を補給できなくなり、
消費を抑える為であった。先程のリザレクションは文字通りの一時しのぎだが効果はあるのだ。

死に瀕した者にかけると与えた生命力が霧散することも戻ってくることもなく奪われてしまう事が
よくある、
それを知った上でかけたのだが、案の定生命力は帰ってこない。
傷が深かったせいか指輪越しでも魔力の消耗が激しい。
その分早く回復もしているという事なのだが、この状況では逃げることもままならない。

「カナさんは大丈夫です、今、治してます・・・もう少し、もう少しですから」
額に玉の汗を浮かべ片膝を付きながらマイノスは言う。そう、確かにもう少しなのだが、それまで持つかどうか
厳しい所だった。この状況で魔法を唱えらえては一溜りもない。何か手は・・・
「そうだ、シルフ!呪文が聞こえたら相手の声を変に響かせるのってできるか」
「まかせなよ!そういう悪戯は大得意だぜ!」

辺りの空気を変質させながらシルフは空間を駆けまわる。これで少しでも詠唱の邪魔ができればいいが・・・
222バート ◆XXXSBkU.Mk :2010/10/04(月) 20:19:37 0
道を進むと少年マイノスが罠にはまってるのをカナが助けている所だった。
助けようと少年に手を伸ばそうとして違和感を感じた。
何か嫌な予感。戦いの場に長年身を置いてきたモノが感じる違和感。
誰が敵か?それを確認するまでは不要に動くのは危険か…
そう思いつつも、バートは助け出された少年の臀部を叩き、笑いながら土を払った。

その後の展開…彼が違和感を感じていたのはエルフ達の距離と殺気だったのだ。
しばし様子を見る。カナは即死ではない模様で、なにやら化け物に食われているが
マイノスの使役する魔物の様だ。これは問題無い。
助け出した戦士達や盗賊達は、よろよろだが、エルフ達に立ち向かっている。これも問題無し。
イーネは風を興し長老と呼ばれたエルフの阻害をしている模様だ。これも問題無し。

敵と認識するのはカナ以外のエルフじゃな…そうバートは認識し一呼吸する
今まで様子をただ単に見ていたバートでは無い。気を練っていたのだ。
十分に練り上げた気が丹田に貯まっているのを確認する。

ズンッ!……

おもむろにバートは震脚を踏む。
十分に練り上げられた気を含む震脚はそこにいた者達に地震が起きたかと錯覚をさせる。
バートはカナの方を見る。そしてボソリをつぶやく
「構わぬ…な?…」

同意を求めている訳では無い。謝罪をする訳でも無い。が…今からカナの同族を殺すのだ。
それだけを伝えバートは震脚を踏んだ脚をゆっくりと滑らす。

「…押して参るッ!!」

そうバートが吠えた瞬間バートのいた地面が抉れはじけ飛んだ。
バートが居た場所の近くに居たエルフが二人同時に姿を消す。そして、グシャァという鈍い音が響く。
先ほどの位置から20m程離れた所で砂煙が立ち上がり、2体のエルフが地面に首から突き刺さっていた。
それを認識した瞬間に、弓を持ったエルフ達は砂煙に向かい弓を素早く連射し始める。
そこに居る者をが危険だと認識したのだ。数十本の矢が砂煙に向かって放たれる。
矢が新たな砂煙を巻き起こそうとしている様だ。

しかし新たな砂煙が起きることは無かった。
両手に矢を受け止めているドワーフがゆっくりと砂煙の中から現れる。

「こんなモノではワシを倒す事は出来ぬ。」
そい言うと同時に矢をエルフ達に投げ返す。
エルフ達の顔に絶望が浮かばないのが気にくわないと思いつつも
バートは手近なエルフを狙い低い姿勢で飛びついていくのであった。
223カナ ◆utqnf46htc :2010/10/05(火) 22:03:30 0
人の体とは本当に数字では表せない神秘で溢れていると思う。
最早男性であっても今の私と同じ量の血を流せば、命の危険所か失血性ショックでもう命は無いだろう。
奇跡とかそういう物は信じないタチなのだが、こういう時ばかりはその存在を信じてみたくなる……。
全く神はどうしてここまで私を試す真似をしてくれるのだ……。救世主でも無ければ英雄、勇者でも無いこの私に……。

体が動かない……どんなに必死に力を入れようとも最早ピクリとも動いてはくれない。
それに加え、眼が見えなくなっている故に、自分がどんな状態になっているのかも解らない……。
開いているのか、閉じているかももう己では窺い知れないしな。
いよいよ持ってまずくなってきたな……もう痛みすら感じなくなってきた……。
ああ……それにしても寒い……、強烈な積雪の中で蹲っているかの様な寒さだ……。
こんな辛い思いをしなくてはいけないのならばいっその事、一気に此の命持って行ってくれたらいいのに……。
いや、此処で死んでは罪滅ぼしにならん、私は出来る限り多くの命を救うと誓ったハズだ、
まずは手始めに此処から生きて帰らないとな……!

とは言っても今自分の体がどんな状態で、どの向きを向いているのかさえ自らで伺い知る事は出来ない。
この状況での打開策はほぼ無に等しい。考えろ、考えるのだ……知恵こそ神から授かった我々唯一の武器なのだから……。
いや……旧約聖書では人々が神から奪った事になっていたな……。
しかし、さっきの様な凍えるような寒さは無い……また一歩死に近づいたのか……?
くそっ……まだ打開策すら思付いていないと言うのに……、今程時間が惜しいと思った時は無い……。

まずは……だ、今此処で出来る事を考えよう。勿論な話だが儀式魔術執行は不可能だ。アレには物質的な準備が必要だ。
持続する魔力素さえあれば精神世界でも使えるには使えるのだが……残念な事に私には魔力素そのものが無い。
此処は一か八か私の中に眠る毒素の一斉解放をしてみるか……?
ダメだ危険過ぎる……。敵諸共連れの者……いや、この森の生態系が崩れる程の毒を有している……。
しかし、思考は煮詰まり大詰めかと思ったが、少しずつ手足の感覚、視界が戻ってきている……?
ん……? 未だ良く見えないが周りの感触が岩肌とは違う……? 何かの回復装置の中にいるのか……?
い、いや、この感触は前に一度味わった事が有る……。 此処に来た当初……思い出したくも無い記憶だ……。
とは言えこの処置は魔術的治療、助けられた側の私に取っては文句も言えないのだが……この感触……。

ふと傷口に触れてみると生物的な感触では無く、まるで鉱物でも触っているかの様なごつごつとした手応えを返してきた。
……いや、傷口だけではない硬質化した"何か"は私の全身を覆う様に存在している。
後に知る事になるのだが、この時私は悪魔の様な姿をしていたらしい。
その姿は岩石の様な外殻に蛇の様な尻尾、頭には巻き角、背には羽まで生えていたそうだ。
それを知る由も無い私はただうろたえるだけしかできなかった。 魔で血が変質してしまったのか……?
224マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/10/09(土) 21:53:54 0
体術に特化しているというだけあってやはりバートは並の化物ではなかった。
魔法に対する防御呪文の一つもかけてやれば充分この場を納められそうな勢いだった。
だが今のマイノスにはそれだけの余裕はない、少しづつだが髪の毛が脱色を始めている。

カナの回復を待っていると指輪の中で動きを感じて視線を指先へと移す。治療が終わった!
「終わりました!カナさんが出ます、後で戻しますから姿は気にしないでください!」
そう言い天高く左手をかざすと指先から黒い影が辺りに広がり女性でなく異形が飛び出して来た。

色々と差異こそあれ似たようなモノになった経験が自分にもあるマイノスはやはりこうなったかと頭を振る。
キャクの力はそっくりそのまま傷を塞げるがそのために使った力の余剰分を綺麗に体に収めさせることはできず
余った分が余らない体に作り替えてしまうという欠点がある。そのため簡単に言うと怪物になってしまうのだが
扱いは低級の呪いと同じなので解呪の呪文を唱えれば元には戻れる。

しかし今はその姿でいてもらった方が安全だと踏んであえてそのままにしておく。
「この人はカナさんです!攻撃はしないでください!あとでもどしますから!」
同じ事を繰り返し周囲の味方に注意をする。とくに見た目が見た目なのでバートとイーネの
行動をとかく警戒しなければいけない。

まだ上手く状況が飲み込めてないカナをその場に置いてバートや他の戦士たちに倒されたエルフの亡骸へと
駆け寄ると手をついて無詠唱で魔力と生命力の吸収の魔法を試みる。
死んだばかりのモノにもそれはわずかに残っている。どっちがアンデッドか分からない事をしつつカナに呼びかける。

「カナさん、今は姿が変わってますが命に別状はありません!もう少し辛抱してください!」
死体がミイラ化したと思うと次の死体に取り掛かる。髪の毛の色が徐々に戻ってくる。
(一刻も早く回復しないと、でもこれってどっちが悪人か分かんない図だよなあ・・・)
225名無しになりきれ:2010/10/13(水) 19:30:32 0
保守
226GM ◆iFsjS9olvSiZ :2010/10/20(水) 01:50:30 0
保守
227名無しになりきれ:2010/10/22(金) 20:11:33 0
なかだし
228マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/10/31(日) 18:05:19 0
髪の毛の色が戻って来たことと魔力が全回復したことは全く別物である。
最低ラインを割り込んだが為に生命力を消費して魔力に充てていたというだけなのだから。

それ故にバートが仕留めた亡骸がなけなしの力を奪った所でいくらになるものでもない、
眼前に死体がミイラのようになった所で手を話しもう一度当たりを見回す。
自分の所に矢が飛んでこない理由が分かった。大半がバートに攻撃を集中させており自分たちに
来る矢はイーネが例の短刀で風を起こして弾いていたのだ。

カナに対しては魔法を使おうとエルフたちから呪文の詠唱が聞こえて来たがイントネーションがおかしい。
それに気づいて一度詠唱が中断されるが他ならぬ彼から教わった小手先の技だ。すぐにバレて
魔法を使わえれては堪らない。

バートは釘付け、カナからの返事はまだなく、イーネは矢を凌ぐことに手一杯、今は自分がなんとか
動くしか無い。どうすればいいかを目一杯考える、エルフの里長か竜骸石のゴーレムの破壊。
どちらか一方を達成できれば流れはこちらに傾くはずだ、そう思いカナが動きを封じた「竜」へと視線を移す。

いた。何人かの護衛を引き連れて「竜」に絡まる蔦を外そうと躍起になっているがどうやら上手くいっていないらしい。
数で優位に立ちそして混戦に陥ってる今、誰に感づかれることなくそこまで行った彼らはまだ自分たちの状態に
気づかれたということに気づいていない。今なら奇襲をかけることができる。

その為にはどうやって向かうのか、イーネにもう一度シルフを取り憑かせれば速さで言えば恐らく最速、しかし
そうすると今度は自分たちが矢に晒されることとなる。自分が行けば、武器もなくどう足掻いても経験的に
劣っている自分が魔法戦を仕掛けるのは無謀、となれば残る選択肢は・・・

「ライザー!バートさんの真上までいったら思いっきり輝いて、頼んだぞ!」
そういってバート頭上にカンテラのような見た目のライザーを飛ばして相手に呼びかける。
自分でやったこととはいえ声の聞こえ方がおかしい、相手にもこちらの意図が通じるか一抹の不安がよぎるが
今更止めることもできない。

「バートさん、合図があったら向こうへ走って下さい!なるべく上を見ないで!」
どうか伝わって欲しいと思いながら奥の「竜」を指差すとそのまま自分からバートの方まで駆けて行く。
[デストロイゴーレム・レンタルの用意あり、但し:修理費其方持ち]
230GM ◆iFsjS9olvSiZ :2010/11/09(火) 22:15:55 0
保守
231カナ ◆utqnf46htc :2010/11/12(金) 22:50:42 0
私は何て無力なのだろうな。自分の無力を噛みしめる。情けないな……本当に……。
他のエルフは努力すれば武であれ、魔であれ才能こそ無くとも、そこそこの実力を得る事が出来る。
それに比べ、私は剣を持てば剣に振り回され、魔に限ってはとんでもない制限が付いて回る。
神に授けてもらったこの最強の生態毒も、手を取り合って強くなる我々知識動物には不要の産物。
毒を持っていると言うだけで命を狙われた事すらある。全く理不尽な事だ……。
しかし、意識の深層ではこの毒を自由に振りまき、周囲の一掃を図りたいと思っている。
毒を使いたくないと思う自分と、毒を行使してみたいと思う自分。どちらも偽りのない私の意志だ。
故に私は自分の事が嫌いだ。自分自身を許してやる事は今後一切出来そうもない……。
いっそ悪人にでもなれば気も楽かも知れないが、私は其処まで賢く無い上に自らを罪人だと思っている。
いいさ、その罪を一生を持って背負ってってやるさ、この地獄の様な世でな……。

私は周囲の感触が急に無くなるのに気が付いた。
それが空間から外に出された事に、目が見えない為に気がつくのに時間がかかり、着地しようとするが派手に転げた。
しかし、この外殻の御蔭か痛みは殆ど無い。成程、コレならばもう死にかける事は無いだろう。
訂正しよう目が見えないから転げた訳ではない……、外殻が固まって体が動かない……。
どうやら動かし方が特殊らしいな、自らの体だってのに動けないとは……まるで赤子だな。
何か外で言い合っている様だが、まるで壁越しで聞いてるかの様に微かにしか聞こえない。
今は外部の事を気にしていても仕方がない。コイツを動かす事を第一に考えないとな……。
しかし、どうやって動かすんだ…? このっ!動けっ! くっ……ダメか……。
さっきは自由に動けていたのに…… そもそもさっきとの違いは……まさか……。
この外殻を動かすには魔力が必要なのか……? もう絶望的じゃないか! くそっ!動け!動いてくれ!

その時、誰か解らないが尻尾の上を誰かが通って行った。
その際尻尾を思いきり踏み込んで………。私は余りの痛さに飛び上がってしまった。
この外殻感覚通ってるのか……。怪我の功名と言えば聞こえは良いが、どう言う原理か解らないが動いてくれた様だな。
どうやら眼が見えないと思っていたが外殻の眼が閉じていただけの様だな。
まぁ、粗方予想は出来たが、やはり人の姿じゃないな……。本当にどっちが悪役だか解らないな……。
ここまで来たら落ちる所まで落ちてやるさ、全ては一人でも多くの人命の為。

先ずは状況確認だ、突っ込むだけでは勝てない戦いという物がある。私は腕力の類を持っていない故に常に考える事で危機を脱してきた。
向かうは戦力を削ってでも竜についた蔦を取ろうと必死な同属達。
コレが開放されれば今の状況が丸ごと引っくり返るだろうな。それだけの力は確実にあるだろう。
それを阻止すべく仲間が接近を試みるが矢と物量に阻まれて難攻している。
しかし、そちらで引き寄せている事で儀式魔法を組むだけの時間がある。問題は何を執り行うか……。
反魔空間を作り出すか? …いや、ダメだ……この鉱山自体の魔術式は壊れたが、
後いくつの魔術式があるか解らない上に下手をすれば鉱山までも崩してしまうかも知れん……。

気づけば仲間の方に秘策がある様なので、複数人の動きを一時的を止められる術式を執り行おう。
抵抗が高ければ直ぐに振りほどかれる呪術だが、今は一秒であっても戦局を変えてしまう、そんな局面だ。
私は何か久しいとも感じる儀式魔法の準備を執り行う。白墨を走らせ、回路を置き、そして薬箱の上に銀の皿を置く。
そして、銀の皿へ水を注ぎ込み、術式は完成。魔方陣が輝くと私を含めた周囲の同属に茨が絡みつく。
これで少し位の時間は稼げるだろう……。
232名無しになりきれ:2010/11/20(土) 22:20:26 0
保守
233カナ ◆utqnf46htc :2010/11/23(火) 00:19:48 0
どうやら仲間達の方では目立った進展は無く、未だ硬直状態にあった。
所詮は、この程度の簡単な術式ではダメだったと言うことか……。いや、こっちの戦力が低すぎるのか……。
相手にしているのは一個小隊のエルフ達。それも全てといかないが遠距離の攻撃法を持っている。
魔術の類は今のうちはどうにかなっているみたいだが、それも時間の問題だな……。
それに竜に巻きついている茨の蔓も強い魔を浴びせ続けられ、吸収と成長が追いついていないな、こっちも時間の問題だな……。
防御が追いついている今のうちに打開策を練っておかないと、あっという間に全滅してしまう……。

ううむ、出来れば同属に使いたくは無かったのだが、状況が状況だ毒での一掃を図ろう。
出来ることなら死傷者を出さずに無力化したかった所だが、そんな悠長に構えている暇も戦力も無い……。
もしかしたら同行した者達に被害が出てしまったらと考えると、自然に腰が引けていたが今はそんな事を言っている場合ではない。
腰にある針銃を引き抜こうとしたが、其れは空を薙いだ。そうだった……今は変てこな外殻に覆われているのだった……。
薬箱に予備を入れておいて助かった。しかし、薬箱に入っていたこの紙切れは何なんだ……?(>229)
まぁいい何処かの広告でも紛れ込んだのだろう。ここまで追い込まれたのも久しぶりだ。最早同属と言えども容赦はしない。
同属達に毒を撒くと言うのに私の心は踊り、早くトリガーを引けと理性ではない部分の自分が呼びかけてくる。
全く自分のこう言う部分が反吐が出る程嫌になる。コレが無ければ今まで生き残っていない訳だがな……。

一個小隊はあった同属達の数は一個分隊にまで減った。防戦一方だったのが一変したな……。
まぁ、掠り傷が付いただけで死に至る恐ろしい猛毒が塗ってあるから当然と言っては当然だろうな。
針銃が命中した者達は、まだ息があるが昏倒していて、死ぬのも時間の問題だな…。
本来はこう言う者達を助けるのが私の仕事なんだがな……。殺らなければ、こっちが死んでいた様な状況だ恨むなら族長にしてくれよ…。
しかし、毒で同属達は何とかなるかも知れないが、当然全身鉱物である竜には無効もいい所だ。
鉱物を溶かす毒も存在はするにはするんだが、圧倒的な物量の差で表面を溶かすのがやっとだろう……。
それも、あの強大な魔を纏っている故に効くかどうかも危ういしな……。
……ん? 何か族長が竜の上で騒いでいるな。

「貴様等、これで勝ったつもりか! 我々はこんな所で立ち止まったりはせん! エルフよ永遠なれ!」

なっ!? 刃物を自らの胸に突き立てて自害しただと!? 押されている物の決して劣勢ではなかったハズだが……。
いや……アレは竜を強化させる儀式だろう。其の証拠に茨の蔓が魔を吸収しきれずに一斉に枯れていく……。
くっ……、最後の最後でやってくれたな! くそっ、コレで戦局一気に変わった。一国勢力と喧嘩出来る竜か……ゾッとしないな……。
仕方ない……出来ることならば二度と使いたくなかったが最後の手段を……。

「"黒死蝶"!」

私の手から放たれたそれは酷く小さく弱弱しい一匹の黒い蝶。それがひらひらと竜へと近づく、その効果は私の毒性を相手に加える。
その結果は形ある物ならば例外なく崩壊させる力を持つ、正に私の最終兵器だ。竜に使われている石もただでは済まないんだけどな…。
しかし、黒死蝶は竜に届くこと無く空中分解してしまった。くそっ、魔が強すぎて効果が及ばない……!
直接打ち込まなければ効果は先ず無いだろう……。しかし、直接打ち込む事が出来ればこの戦いは決着する。
鉱山をも汚染してしまうが、コイツが外をのさばっている方が脅威だろう……。

「竜への接近を試みる、誰か援護を頼む」

そう言い放つと私は竜に向かい一直線に駆け出した。
234マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/11/23(火) 17:58:40 0
相性が悪かったのかバートにシルフが付けられず帰って来てしまった。
どうしたものかと焦れていると復帰したカナが慣れない体で術を発動させ他のエルフの動きを止めて
銃で射殺していく。相手の数が減りこちらの体勢も立て直し始めた所に変化が起きる。

エルフの族長が自らの命と引換えに竜の縛めを解いてしまう。呪い儀式と同様のやり方で
解き放たれた竜は先ほどよりも強く、その存在を強めている。遅れを取り戻そうとするかのように枯れた蔓を
食いちぎっては飲み込んでいく。

「キャク、いつもの!」
そういって急いで自分の使い魔の中へ避難する、するとカナが何やら黒い蝶を投げかけるが
それは相手に届く前に霧散してしまう。どうやら奥の手らしいが当てないといけないだろう。
自分の生半可な術では最早足を引っ張ることも手助けも難しい、そう考えているとカナが竜へと
駆け出していく。無茶にも程があるとマイノスは思った。下手をすれば周囲の魔力にあたって失神するかも知れない。

「無茶です!戻って!」
(どうするどうするどうすれば!シルフを使って追いかける、ダメだ追いついてもそこまで、
ライザー、電気がないし目眩ましも効かないみたいだ、ラック、チャームじゃだめだろ!キャクは・・)

そこで手をかけている歯を見てダメだなと頭を振る。手詰まりだ、どうすればいいかをマイノスは
未熟な頭で考えたが援護の策が思いつかない。

(いっそ、逃げちゃうか?これまでっぽいし)
一瞬過ぎった邪念を急いで打ち消す、それこそダメだ。相手の竜は今や月光に照らされその姿を
夜の中に浮立たせていた。夜、大量のキャクが呼べればまだわからないが今は煌々と月が輝いている。

あれがある内はいくらも呼べるものではない。歯がゆい思いをしていると竜の色が翳る。上を見れば月に
雲が差し掛かっていた。このまま月が隠れればあるいは、マイノスは固唾を飲んで空を見る。

(曇れ、雲れ、曇れ、曇れ、雲れ!曇ってしまえ!)
願いが通じたのかはたまた単なる天候不順か薄い雲が月にかかり覆い隠すと竜の姿もまた見づらくなる。
(来た!)
「カナさん!『たくさん』呼ぶからそれに紛れて!」

雲の流れは早くそして不規則だった。急がなくてはならない。マイノスは自分が入っている奴の同族を
呼ぶための呪文の詠唱を始める。

「木霊せよ木霊せよ木霊せよ、遍く世界を掻き抱く夜の腕に、遍く風の吹き荒ぶ夜の胸に、
夜の空、夜の海、夜の大地、一切に息づく汝の子等を今一度我が前に遊ばせ給え!」
シルフの力でキャクの力を増幅し急いで仲間を呼び寄せる。月が明ける前にありったけ集めなくてはならない。

口の中から普段の何倍のもの音と速さで打ち鳴らされる歯は迫力満点で心臓に悪かった。しかしその甲斐あってか
遠くから地鳴りが聞こえてきたと思うと、既に見慣れた饅頭たちが鉱山の天井から次々と零れて落ちてきていた。
「片っ端から吸いとって行けえー!」 マイノスは彼らに号令を下した。
235カナ ◆utqnf46htc :2010/11/25(木) 18:02:20 0
生物を大量に殺した事があるか……? 多分、殆どの者が"無い"と答えるだろう。
しかし、今現在我々が生きる為に一日で数多の命が奪われている。それが生きていると言う事だ。
何時だって人々は失ってからその大切さに気が付く、それを自覚している者なんてよっぽどの聖人か心が壊れた者だ。
そういう意味では私の精神は既に壊れている。私に大罪を与える事になった私に潜む猛毒、これは何の意味があるのだろう……。
考えた所で答えなんか出ないのは既に知っている。全く神と言うヤツは気まぐれ過ぎる。故に私は神が大っ嫌いだ。
もしも手が届くなら、もしも出会えるならば、刺し違えてでも殺してやろうと思っている。
まぁ、最も敵に向かい神風をかけている為に、もう少しで会えるかも知れないぞ神よ……。もし、会えたなら覚悟しけおけよ…。

竜の姿は酷く威圧的であった。一歩近づく毎に心の臓腑が締め付けられる様な感覚に襲われる。
しかし、私が此処で立ち止まれば、折角終息した大戦を呼び起こしてしてしまうかも知れない……。それだけは避けなければ……。
其の為ならば、この体朽ち果てようとも貴様を倒してくれるわ!

気が付いたら私は走りながら叫んでいた。自分を奮い立たせる為か、恐怖を忘れる為か自分でも解らないがな……。
しまっ! 興奮していて竜の挙動を見ていなかっ………。 な、何が起こったんだ……? 気が付いたら体が壁に縫い付けられている……?
外殻のお陰か痛みは殆ど無いが、その外殻に亀裂が幾つも入っている。こ、これはどう言う事なんだ……?
私が最後に見た光景は竜が大きく口を開けた状態だった。あの後どうなったんだ……?
今の状況が把握出来なく、整理を行っていると竜が再び大口を開ける。い、いかん! 何か解らないが次が来る!

次の瞬間、全身が引き裂かれたかの様な痛みが全身を襲う。 わ、私の体はどうなった……ん…だ……?
くっ……外殻が衝撃に耐え切れずに砕け散ったのか……。 其の程度で済んだのは幸か不幸か……。
全身の痛みを無視して立ち上がるが、目前にあった光景は長い尾を横に勢い良く薙いでいる光景だった。これは絶対に避けられな………。
私は全身に広がるとんでもない痛みで気が付いた。 どうやら尾が当たった瞬間から壁に当たるまで気を失っていた様だ……。
口に広がる鉄の味と視界が紅色に染まる。 どうやら衝撃で目と鼻の毛細血管が切れたのだろう……。
流石は一国と喧嘩出来る竜だ、あんな巨体を一瞬で動かしてきやがる……。 まるで私が幼児向けの人形にでもなった気分だな……。
いや、実際ヤツが本気になったなら、私などチリすら残っていないだろう。 文字通り遊ばれているのだ……。
それに抵抗する所か、身動きを取るのでも精一杯だ。 竜は立ち上がってくるのを待っているらしく倒れている内は攻撃して来ない。
くそっ、遊ばれているって解っているのに何も出来ないとは……。 この手で触れることさえ叶えば勝つ事が出来ると言うのに……。

しかし、それでも私は立たなければならない。他の者が新しい玩具になる事を防ぐ為に……。
生き残った薄情な同属達は既に最下層を去っている。 咎めたりはしないさ……誰だって自分の命が大切だものな……。
その醜さが我々知識を持った人類と言う生き物なのだからな……。 差し詰め私は変人かな……。
次の一撃が竜から放たれた。 手加減しているのだろうが頭の中で爆弾でも爆発したかの様な衝撃に襲われる。

何度それを繰り返しただろうか……見える範囲だけでも左腕が曲がらない方向に曲がっている。
その他は全身から激痛を発している為に何処で何が起こっているか解らないな……。立とうとしても付いた手が曲がらない方向に曲がる。
ずるずると這いずって進むがそれだけでも激痛が全身を襲う。 余りの痛みに、それ以上進めなく仰向けになって呼吸を整える。
ふと、天井を見ると天井から見えていた月が雲に覆われ、曇っていくのが見えた。
月明かりも無く周囲は漆黒に包まれる。眠い、酷く眠い……。私はもう疲れた……、先に寝させて貰うとしようか……。

しかし、私の眠りを阻害する様に大声が響き渡る。 たくさん……? その意味はその数秒後に解ることになる。
天井の亀裂から白い物が雪崩れ込んでいる。 説明しなくても解るだろう? それ自体が生き物の様な饅頭の大群だ。
私はそれが竜に飛びついて行くと同時に体に鞭打って立ち上がった。 今まで散々弄んでくれたな、たっぷりとお返しをしてやらないとな。
早いとは御世辞にも言えないが、私は走り出した。一歩づつ全身に激痛が走る。そして、饅頭の処理で気を取られている竜の尾に手を触れた。

「ぐっ…・・・こ、黒死……、黒死…蝶……」
236カナ ◆utqnf46htc :2010/11/25(木) 18:03:08 0
発音は大分怪しかったが、どうやら無事発動してくれた様だ……。
其れも束の間、竜の尾によって弾き飛ばされてしまった。 ああ、ついてないな全く……。
数バウンドしてからようやく私の体は止まった。 とんでもない痛み……だ、気を失った方が楽なんじゃないのか……。
竜を見ると尾から黒い痣の様な物が広がっていく、これが全身に及ぶと例外無く物体は腐り堕ちる。
しかし、それだけならもっと気軽に使っているんだがな…。 そう、この術には致命的とも言える副作用がある。
対象が腐り、朽ちると次は場を汚染し始める。 故に私みたいに毒を糧にする者以外は大急ぎで脱出しなければならない……。
此処も向こう100年位はこの毒は抜けないだろうな……。 また一つ汚染地帯を作ってしまったか……。

くっ……息が詰まりそうだ……。どうやら折れた肋骨が片方の肺に突き刺さって今自分の血液で溺れている状態だろう……。
恐らく足も折れているな、全く力が入りそうにない……。 全く……後衛がやる様な戦闘じゃないな……。
どうやら感覚が通っていたらしく竜が毒に汚染されて暴れているな……、呼び覚まされたと思ったら毒で破壊される……。
竜が可愛そうに見えてくるな……。 まぁ、かといって私にはもうどうする事も出来ない、せめてもう二度と呼び起こされない事を祈る…。
恐らく、私の毒を持ってしても、元となった骨と心の臓腑は破壊出来ないだろうからな……。

さて、私ものんびりしてられないな……、薬箱までたどり着ければ転送儀式を実行出来る。
流石に私に毒は効かないが、薬箱や服となれば話は別だ。こんな場所で身一つとか自殺行為だからな……。
それに、薬箱には大切な商売道具が沢山入っている。 ましては儀式用の銀の皿だけは何があっても持ち帰らなければな……。
加えて、流石に無いとは思うが、逃げ遅れた者達の為に……。
薬箱を目指しズリズリと這いずって行く、何とも情けない姿だな……。 まるで芋虫にでもなった気分だ……。
ああ、例えるんじゃなかった……、更に気分が悪くなった……。

予想以上に時間を食ってしまったが、薬箱まで到達する事が出来た……。もうお前を放すもんか。
手で白墨を持とうとするが指が各自変な方向に曲がっている。仕方ない……口に銜えて描くか。
体を這わせ、術式を完成させていく。 御世辞にも上手いとは言えないが魔法陣が完成した。まぁ、今の状態から見れば上出来だろう。
儀式魔法の中でも最も簡単と言われる施設脱出の魔方陣だ、後は回復陣も容易に作る事が出来る。
人の手が入っている遺跡や森に狙ったかのように転送陣や回復陣が放置されているのは、設置の容易さ故かも知れないな。
これは陣を描くだけで周りの魔を集め、自動で発動する様になっている。 これも陣設置の容易さに拍車をかけている。
陣が周りの魔を集めて光り輝く、後は陣に入るだけだ……。

「転……送………じゅ……術…し、式……」

顎で魔方陣を指すが、伝わったかどうか解らない。
そろそろ……私の意識も限界か……目が覚めたら全滅でしたった事は無い様…にな……。
其処で私の意識は途切れている。
237マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/11/27(土) 20:51:00 0
かろうじて援軍を呼ぶことには成功したが既にカナばボロボロ、というよりズタズタといった方がいい有様だった。
それでもカナは何とか竜に辿りつくと「何か」をしたようだった。
俄に竜が悶え始める。苦し紛れの攻撃に跳ね飛ばされたカナがこちらに転がってくる。

(折角助けたというのにまた死にかけて、でも・・・!)
紛れもなく今、自分の命は彼女の行動によって長らえている。その事実に苦いものを覚えながら
駆け寄ろうとする。既にこの場を去ったエルフ達と違い戦士や盗賊達も取り残されていた。

長居は無用だがカナの手当を済ませて全員でここから脱出というのも時間がかかる。
以前のように降り注ぐキャクを使って逃げるかとも思ったマイノスは信じがたい光景を目にする。

これまで防戦一方で沈黙を守っていたイーネが竜へと走っていたのだ。
何をするつもりかと見ていると、毒が回ったのとは違う、暴れて竜が自ら壊した部分を
せっせと拾い信じられないことに滝登りの如くキャクを登って鉱山を抜け出す。

呆気に取られているとまた戻ってきて同じことを繰り返す。遠目に見ても苦しそうだが、どうせなら
もっと早くその底力を出して欲しかったものである。何やら回復薬のようなものも惜しげもなく使い
竜骸石を集めて驚くべき速さで鉱山を縦に数往復する。

そして最後の往復の時には口惜しそうに竜の顔を見ると脱出してそれきり戻って来なくなる。
流石に商人、判断が早い。

気がつけばバートの姿も見えない。勝負が着いた以上彼も引き上げたのだろうか。
はっと我に帰りカナへ視線を戻すとそこに彼女の姿はない。あるのは歪な形の魔方陣だ。
魔術の教本で見た覚えのある物だ。どうやらあれで脱出したらしいが

(あの状態で作ったんだ、行き先まで安定してない可能性がある、急がないと手遅れになるかも
知れないってのに!)

目の前の魔方陣に入れば鉱山の外までは出られるだろう、だがそこにカナがいなければ意味が無い。

マイノスはカナを追いかける為の、そしてカナを助ける為の手段を固めるために周囲へと呼びかけた。
「全員この魔方陣へ入って!でもその前に一列に並んで、自分の前の人に自分の血を塗っておいて下さい!
急拵えだから逸れる危険が有ります、指先くらいでいいです。既に出血している人は前の人に塗って服を掴んで!」

そこまで言って自分は魔方陣の側に立つと足元のカナの流したであろう血を触る。右手が焼け全身が総毛立つが
構わずにラックを呼びその手に留まらせる。これで互いに血で血を結び合流しようと言うのだ

後ろの方で竜が崩れ落ち石へと戻ると、その足元から染みが広がるように毒が地面を伝ってくる。
「行きます!」
マイノスが魔方陣に入ると彼に連なる戦士たち以下全員が手や服を掴み合って続いて行く。
238マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/11/27(土) 20:54:22 0
白い光が一面黒へと変わったとき、雲が月を通りすぎて辺りを照らすまでは誰もそこが何処かは分らなかった。
「外だ!」「出られたんだ!」「生きてるぞー!」
口々に歓声を上げる者たちとは別にマイノスは自分の精霊であるトンボがある方向へ飛んで行くのを追った。

真っ黒い塊が蹲っているのを見つけると彼はそれの元まで全力で走った。ひしゃげたという以外に形容できない
姿の女性を前に付いて来た何人かは息を飲み、諦めの言葉を呟く。
「集まって下さい!今なら彼女を助けられます。急いで!」

その言語に真っ先に駆け付けた者がいる、戦士A,B,Cの三人だった。
「やっと終わったと思ったのによ」「これ本当に助かんのかよ」「早くしないか少年!」
状況が飲み込めていない彼らにマイノスは言った。

「もう出血がどうこう以前に彼女の命が消えかかっています」
周りからもそれは見れば分かることだ。

「皆さんの命を、ほんの少しでいいんです。分けてもらえませんか」

そう言うと彼らはぎょっとして後ずさる、今まで監禁されて強制労働の憂き目に遭っていたことを思えば
無理からぬことだった。

「少しって、どれくらい?」
興味本位で聞いてくる声にマイノスはこの場の全員の数を数えながら「少し」の内容を計算する。
「この人数なら出血してる人を除けば、全員鼻血を出してムダ毛が脱毛するくらいで済みます」

その言葉にそれくらいならとほぼ全員が協力を申し出る。一時的にだが恩を感じてもいるのだろう。
当然嘘だが、了承された以上善は急げだ。マイノスはその場の全員の生命力を分け与える呪文を唱え始めた。

「邪なる者、全てを許したもう神よ!願わくば我が命に従いわんことを」
朗々と続くそれは知識のある者が聞けば、邪法や禁呪といわれる類のものであることに気づいたかも知れない。

「天よ間違え給え!地よ過ち給え!神よ偽り給え!かの者の傷は我らが傷なり、かの者の咎は我らの咎なり!
失われし命は我らの命なり、世界よ異なる結末を思い出し給え!」
呪文を唱え終えると周りの人間が一斉に気を失いそれと同時にカナの顔に血色が戻ってくる。

しかしまだ足りない。傷口が半分閉じて足が治ると逆にマイノスの体に傷が開き足が折れる。
少年は脂汗を浮かべながらもカナの呼吸が落ち着いたのを確認すると最後に互いの止血だけ済ませキャクを呼ぶ。

「もう、本当に、世話、が、か、かる」
カナの腕は折れたままだが今はもうこれが精一杯だ。今度は自分が死にそうなのでキャク口の中に入ってさっきまで
彼女にしたのと同じ治療を自己に施す。痛みと共に意識が薄れていく。彼女の無事は確認できなかったが
疲労に耐え切れずにキャクとなったまま少年は眠りの井戸へ落ちて行った。
239カナ ◆utqnf46htc :2010/11/30(火) 18:28:32 0
ん……? 御前が神か? という事は私の命は終わってしまった様だな。
まぁ、良い折角会えたんだ、ちょっと運命ってヤツについて殺し合いでもしながら語ろうか?
幸いにも時間だけはあるんだからな、例えこの結果が世界を滅ぼそうと私は貴様を殺す!
……なんだと? 私の時間が無い? どう言う事だ、命乞いのつもりならば聞かないぞ。
何…? 体が消えていく…。まだ来るには早かったかだと!? これも貴様が仕組んだ事だろうが!くそっ…!
また貴様の言う所の気まぐれと言うヤツか? それで幾つの命が不幸になった事か……。

……ぐ…未だ全身の激痛は健在か……無くなってくれていれば助かったが、そう言う訳にもいかないか……。
動く箇所が増えている…? 通常ならば命が数回終わってもおかしくない怪我だったハズだがな……。
また誰かに助けられたのか……。 全く、つくづく思い通りにならない運命らしいな。
さて、少し座標はズレたがどうやら脱出に成功したらしい、ふむ……現在位置は鉱山付近の森の中か、
周りに倒れている奴等の手当てをしてやりたい所だが、今は鉱山だった物の成れの果てを見て置こう。
一応だが隠蔽はしておくか、まだ同属の者達がこの辺りを彷徨っているだろうからな……。
まぁ、見る以外にもちゃんとした用があるんだがな……。 全くこの体質はどうにかならない物かな……。おっと薬箱を忘れる所だった。
周囲に動物の気配所か魔物の気配すらない、木々だって葉は全て落ち赤く変色している。汚染は重度か……。
たどり着いたか……、泥沼……いや、黒い溶岩と言った方が解りやすいな……。また汚染地域を増やしてしまったか……。
私はその死の沼から黒い猛毒を手で掬うと口に運んだ。 見た目に反して清涼感が喉を抜ける。気が狂いそうになる程の激痛が和らいだ。

呼吸を整えると折れた腕と指を力任せに元に戻す。 壁への激突の痛みに比べたらどうって事ない痛みだな。
肺に刺さった肋骨を優先して固定は後回しだ。 切り開く以外に方法がなさそうだが最低限の施設すら無いか……。 まるで戦場だな……。
薬箱から自分用に作った銀製の手術道具を取り出す。 麻酔の類は私には効果が無いし……、痛いのは好きじゃないんだがな……。
自分の体にメスを通す事になろうとはな……。 まぁ、結果を言うと術式は成功した。 こう見えても薬師だからな。
肋骨を元の位置に戻して血と空気を抜き、内臓表面にある脂肪膜にて穴を塞いだ。 縫合の際は痛みで手が震えてまずかったな……。
後は折れた骨が再び内臓に刺さらないように胸部を固定して、一応の術式は完了だ。 暫くは走ったり無茶は出来ないな。
手術道具を清潔な布でふき取る。私の血によってまるで焦げた様な跡が大量に付いたが、一応清潔には出来た。
一々捨てなければならないのはとても面倒だな……、どうにかならないかね……。
しかし、毒のお陰で術後の感染症を全く視野に入れなくて良いのは大きいし、抗生物質なんて打ち込んだらどうなるか解らんしな……。
再び死の沼から猛毒を掬い上げ、口へと運んだ。 コレで回復は通常の人よりかは早いだろうが、完治は最低でも2週間位か…。
次に共に地獄から生還した者達の治療としないとな。 私みたいに手術を必要とする者は居ないから治療は簡単だろう。

まず戻った私は倒れた者達を囲むように大きな魔方陣を設置した。 地にそのまんまとか不衛生この上ないからな。魔術空間を作ろう。
魔術空間と言っても御大層な物ではなくて、四方煉瓦造りの広いだけの空間だ。 ベットとかの物も作れなくもないのだが数が作れない。
隠蔽効果も付けたかったが、今は如何せん素材が無い。 外から見れば煉瓦造りの窓の無い家に見える事だろうな……。
結局は地べたに寝かせる形になるのだが、土の上よりかはマシだろう。 しかし、こうしてみると本当に戦地みたいだな……。
さて、怪我をした奴等に抗生物質を打ち込んで置くか、仮にも助けられた訳だしな。
少々痛い出費だが、命が無かったと考えれば些細な事柄に過ぎない。 コレもある種の毒には変わりない訳だし、また作れば良い事だ。

命は助かったが、魔素も薬草も毒草も薬も何もかも品切れだ。 今襲われたら抵抗すら出来ないだろう。
薬箱から煙草を取り出し、火を付ける。 煙草を吸うのも酷く久方ぶりな気がするな……。
さて、戦いは終わった物のこれから如何するかな、エルフの里にはもう帰れそうには無いし、人里に行くにも良い顔はされないだろう……。
いっそこのまま立ち去るか……? いや、満足な装備も無く山を抜けるのは危険極まりない。 全く、自らの無力が恨めしい。
今の所は皆が目を覚ますまで此処の保持に努めよう。 その後の事はそれからだ。
240マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/02(木) 19:21:40 0
疲労と肩代わりしたカナの消耗に耐えかねて眠りに就いたマイノスは懐かしい物を見ていた。
「あれ?ここはどこだろう、ねえ、おじさん、だれですか?ここは?みんなは?」
それは彼の始まり、「マイノス」の始まり

そこは山小屋のようで、人の気配の全くない場所だった。
「ここは人が名を付けることの能わぬ山、私はバーンズ、今日からお前を精霊使いとして育てる者。
そしてお前の家族だが、お前はもう帰る事はできない、早々に忘れるがいい、お前は今日からマイノスだ」

目の前にいたのは自分を拐った者達の一人、バーンズと名乗った老人を少年はよく覚えている。
「え、そんなのいやだ、おうちにかえりたい・・・。それにぼく、マイノスじゃないよ」

「いや、今日からマイノスなのだ。お前の以前の名前は意味が無い。ここでは、今日からマイノスだ」
幼い抗弁を気にも留めず淡々と言葉を告げる老人は、マイノスに精霊使いになることを強いた。
「やだー!おとーさーん!おかーさーん!わああーん!」

何度も逃げ出した、しかしその度に途中で傷つき、死に瀕しては連れ戻される日々が続いた。
逃げ出す為の力が必要であることに少年が気付き修行を受けるようになるまでそう日は掛らなかった。
バーンズもそれを見越してマイノスに精霊と接し方と基礎的な魔術の訓練を施した。

後で聞いたところ彼らは人で在る為の多くのモノを対価に捧げ、人よりも精霊に近くなっていた。
自分たちが精霊となる前に後継者を探すべく素養のある者を攫っては精霊使いにしようとしていたらしい。
彼は言った。「精霊使いとして長じた者は自ずとこうする」と

精霊使いの素養、魔法を使う者たちの言う才とは異なるそれは、生まれながら高い技量や魔力を持つ事では
なく、精霊の入れ物としての器の大きさ、感情や存在感の大きさ、言い換えれば対価の多さを示すのである。

それから数年、少年は自分の名前と目的を忘れないままその山で訓練を続けた。
戦士や魔法使いを志す者であればその年月で何らかの才覚を身に付けられるであろう時間を、
精霊に対する五感を身につける事に費やした。

そして初めて精霊と契約を交わしたあの日に、幾つか終わりと始めりが交錯することになる。
「マイノス、お前は精霊との接し方を身に付けたようだな。後はお前が精霊と契約をすれば全ては終わる、
私自身を精霊と化しお前と契約する。それでおまえの精霊使いとしての修業は完了する」

そして用意されたコハクの指輪を小指に嵌めたマイノスは意識を集中する。
(長かった、これでやっと帰れる。帰れるんだ)
強い望郷の念を糧に精霊を呼ぶ。目の前で人の形を失い霧散していくバーンズを
指輪に収めるべく契約の言葉を口にした時、ソレは現れた。
241マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/02(木) 19:24:35 0
一匹のトンボがひらひらと飛んできたかと思えば指輪に吸い込まれていく。
精霊の名前は「ラック」、人へ強い思いを抱く者の元へ訪れるその精霊は、皮肉にも修練の中で
感情が希薄になっていく精霊使いには縁の遠い存在だった。

「マイノス、それと契約してはならない!」
バーンズの警告にしかしマイノスは従わなかった。既に身に付けた感覚からどちらが「善い」かは分かっていたから。
精霊に近づくに連れ生物の本能を精霊へと傾けたバーンズを受け入れることは、
未だ若い生き物である少年にはできなかった。

「バーンズ、ごめんなさい。でもこの子の方が「ボクに取っては」きっと正しい」
長い年月の中で僅かに培われた思いも虚しく、マイノスはラックと契約した。
瞬間、それまで褪せた感情、失われた気持ちが息を吹き返すのを感じて文字通り生き返ったような気がした。

「マイノス、お前はまだ、そんな感情を持って、お前という奴は・・・!」
それまで「入れ物として」育ててきた物が、いずれは精霊とすべく作ってきた物が逆に生物と絆を結ぶ
精霊の手によって手折ってきた感情毎覆されたことに、バーンズの中は怒りに似た、しかしそれ以上に
激しい感情によって塗りつぶされていた。

一方でマイノスはラックを通して自分の周りの歴史を見ている。人の過去を辿る力で、
今はバーンズの過去を知る。彼も自分と同じような境遇で自分の師と契約した瞬間彼は彼でなくなっていた。

「止せ、マイノス、私を見るな!私を覗くな!」
激昂して襲ってきたバーンズとは対照的にマイノスは為すがままだった。自分の師が別人にとって
変わられた誰かで、自分もそうなるかも知れなかったことを思うと、哀れでそして悲しかった。

取り殺される間際、バーンズは消滅してマイノスは命拾いした。ラックが彼を守ってバーンズを、いや
バーンズに入っていた誰かとバーンズの縁を切ったが故に老人は消滅してしまった。だが助かった方
はと言えば呆気無い終わりに胸を痛めるばかりだった。

「可哀想だね・・・バーンズ・・・」
その呟くと少年は帰路へと赴いていく。今となっては懐かしい、今も消えてくれない思い出をキャクになった
マイノスは見ていた。

「うーんうーんっ、はっ!」
唸されていたらしい。手も足もない体を起こすと目の周りが冷んやりとしていることに気付く。どうやら
泣いていたらしい。見回せばまだ辺りは暗く、巻き添えにした連中が倒れたままだ。違う点と言えば傷ついたカナが
静かに座っていた事だ。どうやら気がついたらしい。マイノスは自分の今の姿を考えずに安堵の声を漏らした。
242カナ ◆utqnf46htc :2010/12/04(土) 20:40:20 0
また汚染地帯を増やしてしまったか……。 大気は淀み、水は飲めなくなり、作物は育たなくなる。
つい最近にこの地方に着たとは言え、エルフの里と人里は最早満足な生活も成り立たないだろう……。
エルフの里も一部の者達は邪な考えを持っていたが、その殆どが善良なる一般人達だ……。
二つの都市を私が殺してしまったと同じ事なのだ……。 作るのは容易い事ではないが、壊すのはどうしてこんなに簡単なのだろうな。
使う毎に土地までも汚染して住民に多大な迷惑をかけて、しかも当の本人は起きた事に対して何も出来ない……か…。
毎回使う毎に二度と使うまいと思うのだが、毎回の様に使ってしまう。 やはり私は弱い者なんだろうな……。
私の技は相手を倒す技ではなく、殺す技。 体術も剣術も魔術も持たない私は実はどれよりも殺す術に長けてる……か。
力が欲しい。 相手を打ち砕く力では無く、相手を救う為の力が欲しい……。 こう望む私は傲慢なのだろうか……?
どう転んだとて私の周りが笑顔で満たされる事は決して無い。 私に関わったなら須らく不幸が訪れる。
そして、何時しか付いた名は『デスポーション』。 私に関わったなら死が訪れる、何と的を得ている名だと納得した物だ。

今の時にして卯刻位か、東の空が明るくなってくる頃合だな。
胸部骨折の為とんでもない熱さと痛みを感じながらも、私の意識は連戦に告ぐ連戦の疲れで途切れようとしていた。
しかし、それを妨害するようなけたたましいラッパの音色が響いた。 な、何だ何だ!? 大天使の七つのラッパか!?
それに準じて、死んだように眠っていた一同が酷く驚いた様子で目を覚ました。 何だ?と聞く声が多いが、それは私が聞きたいな。
私はそっと入り口から様子を見ようと顔を出すと、相手は天を貫くのでないかと思うぐらいの声を張り上げて何かを言い出した。

「我々はイービス都市騎士団也! 其処の者達を騒動の犯人と見なし拘束する!」

見ると鎧と剣でゴテゴテな上に馬に乗った者達が一個小隊は居る。 どうやら思っていたより汚染の被害が大きかったようだな……。
戦うのは最早不可能。 逃げるのにも徒歩では直ぐに追いつかれてしまう。
いや、此処はこの騒動を元から話せば罪には取られないかも知れない……実際賭けだがな……。
私は骨折して動かない腕とは逆の腕を上げ無抵抗をアピールしてから、煉瓦造りの建物から出る。

「待ってくれ、コレには理由が……」

数人の鎧兵士が馬から下りて一斉に私に剣を向け、黙れと一喝を入れて会話を一方的に止める。
くそっ、全く聞く耳持たずって事か……。 この様子だとこの辺を通った者達全てに同じ事をやっているのだろう……。
その気持ちは解らんでも無い。 自らの土地を汚染でダメにされれば穏やかにとは行くまい……。

「言い訳は都市にて聞く。おい!拘束具を人数分用意しろ。」

騎士団の連中は全身を覆える拘束具を取り出す。 拘束具に書かれているのは封魔の呪文か……。
相手は我々の事を呪術団体と思っているらしいな……。 もし呪術を使うのだったなら騎士団の命は無いんだがな……。

「同行の者達は関係ない! 拘束するなら私だけを……ぐはっ…!」

く、くそ……無抵抗である人の鳩尾を思いっきり殴りやがって……怪我人にする事じゃない……ぞ……。
余りの痛みで地に跪き、胃の内容物を吐き出す。 もう……無茶苦茶だ………。
惨めなのと救われない思いと色々な思いが織り交ざって、気が付けば私は泣いていた。
くっ……、こんな状態で私が頭脳を使わねばならぬのに……、どうして……どうして止まってくれないのだ……。

「それを判断するのは我々だ。黙って付いて来て貰おうか」
243カナ ◆utqnf46htc :2010/12/04(土) 20:43:24 0
その後の経過は顔までもすっぽりと覆い隠してしまう拘束具に包まれてしまった故に解らなかったが、
後ろ手に縛られ、馬車の様な物に載せられて何処かに運ばれた。 多分家畜運搬用の物だろう。 臭いがきつい……。
何処かに到着する頃にはすっかり落ち着きを取り戻し、涙も止まっていた。
だが、未だに精神面ではざわつき、不安定である事には変わりは無いんだがな……。

到着した施設に辿り着いたら先ず真っ先に私が連れて行かれた。
部屋を数回挟んだ所で椅子らしき物に座らされた。 どうやら尋問の類らしいな。
腕や足はガッチリと椅子に縫い付けられ、微かに動かすことも困難な状況だが、
異端審問や拷問の類じゃないだけ良い方と考えるべきかな。 しかし、相変わらず怪我人に対しての扱いじゃ無いな……。

「申し訳無いけど邪視の類を持っているといけないので、そのまま質問させて貰うよ。」

誰かの声がする。 どうやらこのままで尋問は続くらしい。 目が塞がっている為相手の性別も解らないな。
声だけで判断すると同性だが、些か判断材料が少なすぎる。 さて、それはさて置き此処で事情を話せば何とかなるかも知れないな…。
私はダメでもせめて何の罪も無い同行した者達だけでも開放して貰わねばな……。

「さて、良いかな? ダメでも質問するんだけどね。 さぁ、先ずは事件の動機から伺おうかな?」

私は目の前の誰とも解らない人物に対して、動機と言わずに今まで起こった事を事細かに説明した。
そして、同行していた者達には罪は無く、本当に付いて来ていただけと付け加えてな。

「ふむ、言い分は良く解った。 しかし、私もそれを信じてあげたいけど証拠が無い限りは……。
 一応上には報告させて貰うよ。 それまで君達の処分は保留にしておくよ。
 良い部屋とは言えないけど、上の決定が出るまで部屋を用意して置くよ。」

部屋と言っているが、どうせ牢獄だろう。 どうやらこの都市にとっては私達は犯罪者で決定済みらしいからな。
英雄と大犯罪者は紙一重とは良く言った物だな、どっちにしたっても大量殺人を犯している身だからな……。
証拠は毒沼の奥底に今も沈んでいる。 呼び起こさない方が良い代物だ。 故に証明出来る物等無いと言う事だ。
待遇には納得いかないが間違った事をしたとも思っていない。 ああしなければ、この都市は今頃地図から消えていただろうしな。
まぁ、牢獄に入れられるのもコレが初めてと言う訳でも無いしな、慣れれば野宿よりかは過ごし易い場所だ。

牢獄に到着すると拘束具を外された。薄暗くて良く解らなかったが既に同行していた者達が牢獄に入れられている様だった。
抜け目無い事に牢獄にも魔封の印が施されている。 念の入れようには此処まで来ると呆れるな。
私が主犯と思われているらしく尋問されたのは私だけだった様だ。 まぁ、各地で私の悪名を上げたらキリが無いしな……。
当然だが薬箱や針銃も奪われている。 今此処に居るのは只の無力な一人物さ。
どうせ何かをやったとしても無駄に終わる故に、骨折が癒着するまでゆっくりと休ませて貰うかな。
そう言えば、まだ一睡もしてないじゃないか……、どうりで死ぬ程眠い訳だな……。
牢獄に入れられて数歩後に景色が歪んだと思うと私は倒れ込む様にして深い眠りに付いた。
244マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/06(月) 19:52:51 0
カナに声をかけようとしたその時、突然辺りにラッパの音と大声が響いた。
>我々はイービス都市騎士団也! 其処の者達を騒動の犯人と見なし拘束する!

本当に突然だった。いや、周囲を注意深く警戒していればすぐに分かったのかも知れない。
しかし全員が全員今まで眠っていた上にまだまだ疲労も抜けていない状態だった。
折角助かったというのにもうまた何処かへと連れていかれるのかと落胆する者も多い。

騎士団とは言っているが扱いは相当に手荒だった。
他の者も随分乱暴に引っ立てられたが術後間もないカナまで殴られるのを見て起き抜けだった
マイノス(現在はキャクと同化中)は背筋がぞっとする感覚に襲われながら騎士団の者に
文字通り「食ってかかった」

「あ!こら!怪我人になんてことをするんだ!よさないかこの恥知らず!」
勢い良く腕にかぶり付く、とはいっても実際に食いちぎる訳にもいかないのでそれなりに
加減はしたのだが驚きと怒りから猛反撃を受けてしまった。

「なんだこいつ!喋ったぞ!」「魔物だ!」「早く殺すんだ!」
口々にどよめきが広がり何人かが剣を抜く。
「いいか!お前らくらいの年なら無条件に敬語使ってやるほど僕は優しくないからな!」

言っている間に切りかかられたので回復したばかりの魔力で守備力の上がる魔法を咄嗟に唱えると
剣が弾かれる。硬さが売りのキャクの体に補助をかければ、ちょっとした魔法剣でも切れない程頑丈になる。

「お前たち、せめて盗賊と捉えられてた戦士の区別くらいつけないか!」
うるせえっ、という声と共に蹴り飛ばされると丸い体が災いしてコロコロと転がってしまう。
この状態でも魔法は使えるがそれで他の者が攻撃されては堪らないので文句を言う以外は為すがままだった。

「遊んでいるな!戻るぞ!」
そう指示が飛ばされる頃には味を占めた騎士たちにボールのようにリフティングされていた。
「いい加減にしろ!それでも騎士か!この」
言い終わらない内に思い切り蹴られ、起き上がった時には既に皆いなくなった後だった。

それから追うことしばし、戦力的にはアテにならなくとも人探しには自信があるマイノスは
持てる精霊の力を使って馬より早く転がって目的地へとたどり着いたのである。
時間にして早朝から朝へと移ったばかりという頃だ。
245マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/06(月) 19:56:48 0
元より騎士団と目立つ名乗りをした以上見つけるのにそれほど苦労はしなかったが。
「ん?あ、おい魔物だ!魔物がでたぞ!」「本当だ!何でこんな街中に!」

それまで人々の奇異の目も相当だったが今は気にしていられない。この建物の中にカナがいるだろうと
踏んでマイノスはここまで来たのだ。

「カナさんに合わせて下さい!」
そう言うと衛兵は警戒から好奇へと色を変えた目でこちらを見てくる。
「おい、喋ったぞ」「ああ、喋ったな」

「何ですか皆して喋った喋ったって失礼でしょう!そんなことよりここに連行された薬師のカナ・マヤカサさんに
合わせてください!僕の恩人なんです。彼女は無実です!」
心象を考えて敬語を使っているがマイノスの中では騎士団の株はストップ安だ。

きぃきぃ言っていると門番は顔を見合わせて、定型文のように
「ダメだダメだ!帰った帰った!」と言った

何とかしなくては行けない、何とかしなくては。さっきまでの相手は逃げることが困難な相手だったが
今度の相手は攻めこむのが難しいときている。マイノスはなるべくならやりたくはなかったが
早々と最後の手段を使うことにした。

「仕方ない、こうなったら」
赤と黒の不吉な色合いの饅頭が勢い良く大口を開くと、「おおっ」と驚きの声が上がる。
彼はその大口で手近な地面を食べ始めた、正確には掘り始めた。

しばらくの間、門番が歪な穴に饅頭が埋まるのを見ていると後ろでくぐもった音が聞こえた。振り返れば
赤カビ饅頭が飛び出して隊舎へ向かい跳ねだしている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人組の男達はそれをしばし黙って見送っていたが、やがてもう一度顔を見合わせると
「・・・!侵入者だー!」
漸く状況を理解して敷地内へ警告を出す。

「ええい洒落臭い!この状態なら人間くらい僕だって戦えるんだ!待ってて下さいカナさーん!」
マイノスは隊舎へと突入した。
246カナ ◆utqnf46htc :2010/12/08(水) 20:33:22 0
私が微睡の中で私は過去の出来事を客観的に見ていた。
周りに有る形有る物が全て崩れ去って、私の周りには泥沼の様な物が広がっているだけ。
人々は逃げ惑い、逃げ遅れた者は断末魔をあげて文字通り人が溶けていく。
忘れる事は簡単だが、この光景を自分への戒めの為に忘れない様にしている。
かつて私が故郷と呼んだ小さな島国の小さな集落、それを崩壊させ鉱山同様毒沼の底に沈めたのは私だ。
しかし、それは事故だったにも関わらず私の心は躍っていた。 今まで敵わないと思っていた大人達が無様に崩れていく。
そう、私は故郷を沈めた時に持っていた感情は"狂喜"だった。 楽しかった。 笑いが止まらなかった。
それは、まるで生まれて初めて砂糖がたっぷり塗された菓子を頬張った子供の様に、目を輝かせながら……。
世界にはこんな楽しいことがあるのか! と当時の私はくるくると回りながら鼻歌交じりにただ踊っていた。
其れからの私は純粋で有るからこそ恐ろしいまでの子供と成っていた。 私は毒を振るう事を遊ぶ事だと思っていた。
黒い黒い蝶が舞う、黒い黒い花が咲き乱れる、黒い黒い木々の中にぽつんと出来た毒の花畑で、踊り狂う悪魔の子。
私の体は毒を糧に選んだのか、その頃から人との食が合わなくなっていた。 その時は周りが毒であったから問題は無かったがな……。

その時現れたのは、箪笥の様な巨大な薬箱を背負い込んだ薬師のおっさんと名乗る人物。
おっさんは解毒の類を得意としていて、自らの体を解毒しながらも私の傍に居て、物を教えてくれた。
何時でも解毒の煙草をプカプカと吹かし、何時もニヤニヤとしている端から見れば怪しい人物だ。
今思えばこの出会いが無ければ、孤独な毒の森の主と成っていただろう。 私は毒の節度を学び、毒も人を救う事がある事も学んだ。
其れからは同じ薬師としておっさんと一緒に各地を回り、薬を学び、医療を学んだ。
そして、一人立ちとなった時におっさんは私に自分の姓と名をくれた。 しかし私は姓を逆にして受け取った。
何時か、何時の時か、私が過去に毒にて殺した数と同じだけの数だけの命を救った時に、その名を元に戻す事を誓って……。
以前の私は其処で死に、新しい名を手に入れて生まれ変わった。 その時に人を殺す毒では無く人の命を助ける毒を造ろうと決めた。

『しかし貴様はまたその数を増やしつつあるではないか』

その声に私の意識は覚醒した。 ゆ、夢か……。
我ながら嫌な夢を見た物だ……。 過ちに気付く時には既に手遅れとは良く言った物だ……。
私は頭を抱えると顔が湿っている事に気が付く、どうやら私は寝ながらにして涙を流していた様だ。
フフ……悪魔とも呼ばれた私が今はこんな調子か……。 堕ちる所まで堕ちたって所かな……。
相も変わらず不安定な精神を引き摺りながら、体を起すとなにやら私の体に衣服と思われる布が掛かっていた。
其れと同時に肋骨に激痛が走り、起き上がった体をそのまま衣服に臥せる。 脳内麻薬が働いて麻痺していた痛みが開放されたのか…。
そんな事をやっていたら、同じ檻に入れられている者達が話しかけてきた。 内容は安否を確認する物だった。
良好とはとてもじゃないが言えないが、薬箱も奪われていて満足な治療を施す事が出来ない故に無理をして大丈夫と言って置いた。
心配そうに再び安否を確認してくるから、良好ではないが鎮痛処置を取れない故に何も出来ない事を告げると悔しそうな顔をしていた。
私は大丈夫だ、痛みは酷いが命に別状は無い。 しかし、骨を抜いた方がまだマシなのでは無いか……この痛みは……。

どうやら、話によると寝床が無かったので怪我人を優先して自らの服で簡易的に寝床を作ったらしい。
一応は介抱してくれた事に関して感謝の意を告げると私は恩人故に気にしなくて良いと返してきた。
他の怪我人も抗生物質が効いたのか、もう殆ど目立った怪我は無い。 良かった、毒は役に立っている……。
何やら檻を揺すって無実だと騒ぎ立てて居る者達も居るな……。すまない、私なんかに付き合わせてしまったばっかりに……。
せめてこの者達だけはどうにかしてやりたいな。 コレは私だけの罪だ。 いや、私が背負うべき罪なのだ……。
思い返せば、黒死の術を扱えば何時も同様な事になっていたな……。
聖なる泉に巣食った邪獣を黒死で退けた時は本当に殺されるかと思ったな。
それと比べれば、この状況は幾らかマシと言う辺りかな……。
247カナ ◆utqnf46htc :2010/12/08(水) 20:39:13 0
……ん? 何か外の様子がおかしい、何かいやに慌しい様な……。 侵入者…?
全く…少年か…、逃れたと言うのに私なぞに構わずに隠れていれば良い物を……。

それに私は此処を出るつもりも無いし、ましてや脱獄するつもり等毛頭無い。
そう、これは私が犯した罪に対しての罰なのだ。 私はどうなっても構わないが、巻き込んだ者達は私の罪に関係無い。
少々荒いが、少年と一緒に、罰の舞台から御退場願おうか……。 黒死の罪が有る以上私は人々が望む罰を受けなければならない。
人々を救おうとした結果がどちらにとっても破滅を導くか。 苦しみ無く逝けた事を考えると竜の方がマシとも思えてくるな。

私は激痛を引き摺りながらも牢へと近づく、鉄檻にしがみ付いていた者達が開き道を開ける。
掌の肉を食い千切ると鉄檻から手を出し、鉄檻の鍵を握り締める。
鍵から揚げ物料理でもしているかの様な音と鉄の焼ける嫌な香りが辺りへと広がる。
毒によってポロポロになった鍵から手を離すと扉に蹴りを入れて鉄檻の扉を無理矢理押し開ける。
こうやって幾つの鉄檻を破って来ただろうかな……。 全く捕まる事が多いとこう言う術に長けてしまうな……。
まぁ、こんな事を魔術を扱わずに出来るのは私位だろうけどな……。

「さぁ、御前達早く行け。私は罪を清算する為に此処に残る。」

そんな事言えばこいつ等が素直に応じてくれるとは思っていなかったが、思った以上に猛反発をされた。
私を連れて行けば足手纏いになると言った所で聞く気は全く無さそうだ……全く……。
この様子だと引き摺っても連れて行かれそうだな……。 仕方が無い……。

「仕方が無い、其処まで言うのならば誰か手を貸してくれ。 痛みで走れそうに無いからな」

さて移動しようとした矢先、地の底より響く地響きの様な振動が地を揺すった。
軽い地震よりも余程揺れるんじゃ無いだろうか……? 立つのもやっとだ……。
其れと同時に天を裂く様な……いや、国中にまで響き渡る様な轟音が……、いや、正に音の壁が都市を襲った。
それに続いて、建物が倒壊する様な音が連なって響く。 一体何事だ……?
何が起こったか困惑していると外が騒がしくなって来たな……。 それにしても、尋常じゃない程の騒ぎだな……。

すると聞きなれた音が私の耳に飛び込んできた。 な……!この音は……!
そう、その音は私の血液が物を溶解する時の音、それを何十倍かにした様な何度聞いても嫌な音だ。
私以外に、この毒を扱える物等……、ま、まさか……、いや、そんな訳が……。
しかし、実際朽ちた姿も見ていない故に、その可能性は十分過ぎる程ある……。
だとしたら、またこの都市が崩壊する危機が訪れている事になる……!

「この騒ぎの原因に思い当たる節がある故に確めたい。急いで外に出るぞ」

好都合にもこの騒動で施設に最低限の人すら居ない。
脱獄する為とは言わないが、嫌な予感がする。 予感は何時も当たって欲しくない時に限って良く当たる。
同行した者の手を借りて私は痛む肋骨を引き摺って移動を開始する。 急がなければならないのにもどかしいな……。
248マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/11(土) 22:57:30 0
息巻いて突撃したものの結果は散々だった。始めのうちは押せ押せで進めたのだが
髪の毛を掴まれたのは不味かった。手も足もない体なのだから手も足も出ないのは当然だった。
乱暴に振り回された挙句マイノスはまんまと捕獲されてしまったのだ。ご丁寧に猿ぐつわまで噛まされて。

(はあ、せめてあそこで口から出て元に戻っとくべきだったかな、でも相手も抜身だったし
けっこう緊張感出てたからそこで叩っ斬られないとも限らないしなあ。はあ、何をやってんだ僕は)

助けに来たのに同じ目に会い、マイノスはすっかり意気消沈していた。
今では口に布を噛まされ文字通りその辺の上着かけに吊るし上げられて
先程までの逸る心も何処吹く風だ。あまりの虚しさに思わず目尻も熱くなる。

詰めていた騎士もどこかへ去ってしまったし物珍しさに寄って来た人々も失せた。
口から出る手段も封じられてただでさえ人より少ない方向がさらに塞がれてしまった。
体を揺すってなんとか脱出を試みるも結果は芳しくない。

だが何度目かの振り子運動を繰り返していると微かに地揺れが起きる。このまま行けば上着かけが
倒れて何とかなると期待を膨らませるが揺れは予想を遥かに超えて大きくなっていく。
マイノスが自由を取り戻す頃には今度は地響きで身動きが取れない程だ。

何が起こっているのかと考えた時、ソレは聞こえた。地震に続き遠くから肉を焼くような音、続いて奇妙な風。
嫌な予感しかしないが恐る恐る窓の外を伺うと

「・・・やっぱり・・・なんか前より凶暴そうになってる・・・」
洞窟でカナの毒に朽ちたはずの竜が街へと進撃して来ている。その体は鉱山で見た時よりも
痩せている。以前は頑強な骨の体だったが今では抜身の刃物を連想させるような細身だった。

(もしかして自分の崩れた骨を取り込んだとか?じゃあ、まだまだ価値はあるってことだけど)
ドス黒い煙を体中から吹き出しながら竜は何かを探すように街を練り歩いている。
見つかる前に逃げなければならない。

そう思っていると声がかけられる。振り向くとそこにいたのは鉱山で一緒になった盗賊の一人だった、
どうやら彼もこちらの顔を覚えていたようだ。早く着てくれと案内されるとそこにはカナがいた。
案の定体中ボロボロだ。傷口がかなり痛々しいので顔をしかめずにはいられない。

「カナさん、よかったぁまだ生きてた、本当にもうなんて言ったらいいか」
カナが生きていることに安堵の息を漏らすと今の自分の状態ではカナの手当ができない事に気が付く。
自分の傷はとうに癒えているのだからこの姿でいる理由はない。例によってキャクに吐き出されると
ようやく人間のマイノスへと姿が戻る。回復や積もる話をしたかったが建物の揺れは激しさを増す一方だった。

「取り敢えずここから出ましょう。生き埋めなんて御免ですからね」
マイノスはカナ達と共に館からの脱出を始めた。
249カナ ◆utqnf46htc :2010/12/14(火) 18:45:46 0
奪い返した薬箱と装備にて鎮痛処置と回復処置を施して、痛みは無いが上手く動かない足を動かして出口へと向かっていた。
途中にて施設の者達に見つかったりもしたが、私達所では無かった様だ。それもそうだ、今やこの施設は崩れ行くある真っ只中である。
数多くの罪人も助けてやりたいが、全てを助けている間に私達まで瓦礫に押しつぶされてしまう。
正義には犠牲が付き物なんて考えは大嫌いだが、もうどうする事も出来ない……。
私は薬箱から一つの札を取り出して床に投げ捨てる様に置いて行った。気休め程度の幸運のお守りだ、汝等に幸あらん事を……。

出口に向かい疾走を繰り返していると、散り散りになっていた盗賊の一人が何かを見つけたらしくこっちに寄って来る。
彼に続き見覚えのある影が続いた。 影というより饅頭の姿だが私にはそれが少年だと直ぐに解った。
彼の十八番と言うべきその饅頭の姿は見慣れたくないが、見慣れていた。
ふむ、どうやら無事だったようだな。 侵入者の騒ぎを聞いた時はどうなる物かと思ったが、無事で何よりだ。
しかし、出会って直ぐに少年は私が生きている事を安堵していた。

「私はまだまだ死んでやるつもりも無いぞ。」

それにこの怪我は命に別状は無いと付け加えて置いた。 今まで窓の無かった地下の様な場所を通っていた故に、
少年が出てきた部屋から光が漏れていたので窓があると睨み部屋に入ると、外の様子を伺った。
やはりと言うべきか、何と言うか……。 其処には毒すら身にする竜の姿があった。
都市までは形を保っていた様だが、我武者羅に暴れ出した結果その体は崩壊し、まるで腐ったかの様なドロドロとした身となった。
しかし、毒でやられなかった骨部分だけは未だ健在で、ゾンビと言う単語が良く似合う容姿になっていた。
アレが全て私の毒と同等の毒を放っていると思うと頭を抱えたくなるな……。

くそっ、あのまま静かに眠っていてくれていれば良かった物を……。
しかし、それを考えるとどうしてあの竜がこの都市を襲ったのが謎になってくる。
様子を伺うと何かを探している様子だが、我々に復讐を企てる程の頭脳が有るとは到底思えない。
すると、残りの自らの体のパーツを探しているのか……。 全く厄介な事になった……。
突然目の前の窓にヒビが入る。考え事をしていて失念していたが、この施設は今崩壊真っ只中だったのだ。
いくら幾度と無く無茶を繰り返してきた私でも建物に潰されるのは勘弁願いたい。
急いで外に出ようとすると、壁に一振りの剣……いや、美しい曲線を持つ"刀"が掛けてあった。
今は無き故郷にて、その昔大量に作られていた武器だが、大陸の叩き付ける剣術とは合わずに復旧しなかった物だ。
ほぅ、観賞用としては勿体無い位に良い物だな。 この施設と一緒にコレが崩れるのは些か惜しいな。
一目惚れに近い物だろう、気が付くと私はその刀を手に取っていた。 其処で強く呼ばれた為そのまま走って部屋を後にした。

施設の外に出ると、逃げ惑う人々と、溶解され切った体を懸命に動かして自らのパーツを探している竜の姿が飛び込んできた。
先程騎士団と名乗っていた者達も懸命に竜と戦っているが、見た所防戦にも足止めにもならない始末だった。
竜の動きを止めたいのならば、竜の心の臓腑だった石を取り出すか、完全破壊するしか道は無い。確実な方を選ぶとしたら前者だろうな。
しかし、取り出すにはあの毒の中に入り魔術の繋がりを断ち切って無理矢理引きずり出す必要がある……。
何の装備も無くそんな真似が出来るのは、この世界探しても私位しか居ないだろう……。
黒死蝶だけでいままで倒れ無かった者は居ない為、倒したと思い込んでしまったのが今回の失敗だな。

「今回は私の失態だ。ここから先は私だけで行く、お前達は此処で待っていろ」

こう言った所で聞く様な奴等では無い事は解っている。 当然の様に反発してくる。
今回お前達が要るとリスクが高いんだがな……。 私は除け者にしようとこんな事を言ってるのではないと言うのに……。
余りの反発振りに私もたじろいだ。 何と言う気迫……、何故其処まで私の為に怒れるのだ。 罪多きこの私の為に……。

「……全く、御前達には負けたよ。 私が毒竜の体内へと侵入する。その間、被害が広がらない様に安全域から毒竜を引き付けて置いてくれ」

私は薬箱と刀を近くに居た者に預けると、毒竜へと真っ直ぐに走り出した。
250マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/19(日) 19:30:53 0
大分足に来てるくせに竜へ突っ込むとカナが言う。
目の前の人物の容態と台詞を繋げられず、マイノスはその言語の意味を考えてる。

もう一度確認するとカナがもう一度、毒の塊になった竜へ向かい魔術の繋がりを断つと言う。
無茶である。見たところ傷口を塞ぐ布に焼けた後が殆どない。手の出血もそうだ。
明らかに血が足りていない。

急いで静養させなければ今度こそ死ぬかも知れない。どんな馬鹿でも分かりそうなことだ。
一人でいくという彼女にマイノス以外にも反発する声が挙がるのも無理からぬことである。
ただ逃げると言っても逃げ切れるのかという疑問があるし、竜をこのままにしておく訳にもいかない。

振り仰げば石の骨でできた竜の肋骨の内側に煌々と輝く玉が見える。表面にびっしりと何かが
掘られたあの球体が心臓部だろう。胃袋も何も無い体は飲み込まれずとも内側へ入り込む事は
可能だと示している。示しているができるかどうかは別問題だ。

結局また彼女に無理をさせることに歯がゆさが振り返すが急いで思考から追い出す。
謝罪も感謝も後ですればいい、なにしろ今はその後がないかも知れないのだから。

「折角外に出られたのに・・・後で絶対安静ですからね、約束ですよ」

気を散らして足止めをしてくれというカナに戦士たちは乗り気だった。始めからまともな攻撃が
通用しそうにないのは足元で蹴散らされている騎士団や勇士の様子からも分かっていたことだ。
大型の投石機でも使わなければ物理は通らず、攻撃魔法も聞いてはいるがどれだけ時間がかかるか・・・

迷っている間にも皆は既に動き始め、路上は混乱の一途を辿っている。仕方がないとマイノスも意を決した時、
ざわりと嫌な匂いが鼻につく。いや、実際にはこれから嗅ぐだろう匂いを今嗅いだような気がしただけ。
頭の中でそれが整理されない内に、彼は足元の騎士団に向けて叫んでいた。

「後ろおおおおお!跳べえええええーーーーーーーー!」

一拍。勘の良い者は足元から竜の背後へと抜けるが、逃げ遅れた者は頭上から吹き抜ける赤い色の
風によって腐るの待たずに砂となって崩れ落ちる。遮蔽物もぐずぐずに溶け出すがまたも腐りきらずに
砂となる。毒性が強すぎるのか毒のブレスが石化のブレスになりつつあった。

よく見れば竜の口の辺りで大気が渦巻いては赤く染まっていく。鉱山で見た瘴気によく似ていた。
肺もないのにどうやってと思ったがどうやら魔力で集め毒を足し破裂させるという仕組みらしい。もう一度
撃とうとするのを見てマイノスは咄嗟にシルフを呼び出して故意に風を足す。予定よりもかなり早く
大気が集まった事で制御に失敗したのか竜の周りの大気が一度霧散する。

「二手に別れて!風を吹かせますから、逃げるときは竜の背後から風下へ駆け抜けて下さい!」
押し留めることはできそうにないので、せめてブレスの範囲を狭めようとマイノスは大風を吹かせ始めると
今の妨害に気付いたのか竜がこちらに振り向く。そして何も無いはずなのに、確かに目と目が合った。
251名無しになりきれ:2010/12/25(土) 23:01:42 0
保守
252カナ ◆utqnf46htc :2010/12/26(日) 16:18:09 0
毒とは、ある時は生物を破壊する成分。 しかし、生物以外への破壊となるとそれは薬となる。
抗生物質とは菌が作り出した菌への毒。その成分は人には及ばず、結果人の生命を助ける役割を担っている。
その様に毒と言うカテゴリーでの種類こそ多いが、その実"毒"は我々の身近な場所に溢れている。
体が自ら作り出すものにまでそれは含まれる。 ありとあらゆる種類、そして効果が存在している。
人体を破壊し崩す破壊の申し子の様な物もあると思えば、人体を害から助ける物も存在する。
私は人を破壊しすぎた。 今度は人を害から助けてやる番だ! 汚染するばっかりが毒では無い事を見せてやる。

体が軋む、眼が霞む、呼吸が苦しい、平行感覚がおかしい。
今自分の調子はどうだい?と聞かれれば最悪と答えるだろう、その表現すら生ぬるい位私の体は悲鳴を上げ続けていた。
辛うじて痛みは抑えられているが、こんな走って居られない程の重症だと自らでも気付いている。
その時後ろから少年の声が聞こえた。 内容は私の体の事だ、そんな事言われなくても解っている。
しかし、コレは私しか出来ない事で、出来る事なら私だって他人に任せて安静にしていたい所さ。

「後で自縛してでも安静にしてやるさ」

後ろに居ると思われる少年に振り向かずに片手をひらひらとして其れに答えた。
さて、問題はどうやってあの毒竜の体内、いや、毒の中に入り込むか、だ。
相手が巨大な毒のスライムだったなら簡単だったんだがな……、大部分が溶解されているが鉱山で脅威の戦闘力を誇った竜なのだ。
これはやはり貧乏くじを引いたかな……。 これは相当骨が折れそうだ、二重の意味でな。

ようやく毒竜と戦線を繰り広げている騎士団の元に到達したかと思ったら後ろから大声が響き渡った。
咄嗟に立ち止まり防御体制を取る私の元に血よりも紅い旋風が吹き抜けた。 数秒間だが私の視界は真っ赤に染まった。
少し強い風位だったが、周りの者は風に耐えられないのでなく、その毒性に耐えられなく文字通り崩れ落ちていく。
その風が巻き起こった場所で形有るのは私だけだった。 くそっ……また助けられなかったか……!
竜はその攻撃が有効と知ると再び息を吸い込む様な動作を行う。 器官が無いと言うのに息系の攻撃か、腐っても竜と言うことか……。
しかし、物理に頼っていない今しかチャンスは無い。 私は再び竜に向かって疾走した。
竜は追い払おうと動作を入れようとするが、息系の攻撃は中断が出来ないと言う欠点を持つ故に易々と懐へと潜り込めた。
私はその隙を付き巨大な毒の体へと身を潜らせた。 毒内に入って最初に感じたのは水に飛び込んだ様な冷たさだった。
体内だからもっと脈動とかあるかと思ったがとんだ期待外れも良い所だな……おっと、私の目的はコイツの分析では無い。
この竜も思えば可愛そうだな、没したと思ったら無理矢理復活させられて、意思に関係無く動かされた挙句に毒による腐敗。
待っていろ、今直ぐに私が再び恒久の眠りに付かせてやる。 まぁ、早くしないと私の呼吸も続かなくなってしまうのもあるがな……。
私は毒の海と化した竜の中を泳ぎつつ、手探りで心の臓腑だった石を探す。 内部は思っていた以上に広いな……。

途中で竜が内部に入り込んだ私を取り除こうとしたが、その度に別の動作に切り替わった所を見ると外の連中は案外上手くやってるらしい。
そんなこんなで、やっとの思いで心の臓腑まで到達した私は強引に術式から強引に引きちぎるべく手を伸ばした。
石に手を触れた刹那、竜の物と思われる膨大な記憶が流れ込んできた。 時にして約瞬く間の時間に竜の一生を私は体験した。
つまり、此れがこの竜の真理と言った所か……。 ふと心の臓腑を見上げると其処には魔法文字にて真理の文字が書き込まれていた。
この文字を掻き消せば竜を形作っている記憶が消え、元である竜の骸だった石へと戻るハズだが、
当然にも今現在私が知っている中で一番の硬度を誇るこの石が簡単に削れるとも思っていない、やはり心の臓腑を抜き取るしか無いのか…。
私は心の臓腑を持つ手に更なる力を加え、術式ごと心の臓腑の抜き取りに掛かる。 魔力元が切り離されれば流石に止まるだろう。
しかし、私の両の手は心の臓腑同様に紅蓮に輝き、石との繋ぎ目が無くなり、指先の感覚はもう既に無い。
私を取り込むつもりか……! まぁ、良いだろう……私とお前どっちが先に終焉を迎えるか、今一度勝負してやろう……!
253マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/29(水) 22:18:29 0
軽口を叩いて竜へと向かうカナの背を見送ると、マイノスは再びブレスの邪魔をするべく
集められた大気に風を過剰に供給する。しかし竜の知能というか学習能力は極端に高かった。
同じ失敗を繰り返せば別の攻撃に切り替えても良さそうなものだが、逆に大気の収束が
どんどん早くなっていく。

(も、もしかしてコツとか掴みそうなのか!?まずいぞ、このままだとこの手も通じなくなって・・・)
つぅっと冷や汗が頬を伝う。長引かせたブレスを撃てるまでの時間が元通りに近づき、霧散させることも
次第に難しくなってくる。明らかにこちらの妨害を利用し始めている。

相手が完全に慣れてしまえばこれは逆効果になる。しかし今止める訳にも行かない。止めきれずに
放たれたブレスは取り込んだ風とマイノスが作りだした気流によって威力と射程こそ伸びたものの、
その範囲は直線的となり周囲の者の回避を容易にしていたからだ。

コツを掴み始めたのは竜ばかりではない。息が解き放たれるタイミングを何人か覚え出している。
そう遠くないことだが限界が来るまでこの術を止めてはいけない。

(でも、どうしよう。あんなのいくらなんでも僕の術や精霊じゃ耐えられないぞ。もしこのまま
見切られちゃったりしたら。ああ〜考えてなかったぁ!)

このまま見切られてしまえばその時真っ先に死ぬのは間違いなく自分だろうと、マイノスは思った。
構図としては味方が横と後方に散開して尻尾や高濃度の魔力や瘴気に苦戦しながら竜を包囲している。
ただマイノス「だけ」が正面に立ち、ゆっくりと後退しながら牽制している。

周囲からは果敢に見えたかも知れないが散開時に出遅れてそのまま戦闘に入ってしまっただけなので
実は相当心細い。先程目が合った瞬間などは恐怖を突き抜けて呆けてしまったくらいだ。
攻撃も重量のある鈍器による投擲や魔法に切り替えっているが控えめの域を出ない。

骨身に纏った毒の外套が飛び散るのである。そのせいで後方の魔法使いは大きめの魔法を唱えられず、
小出しになっている。わずかな飛沫でも当たれば致命傷に成りかねないのだ。
これは前方にいるマイノスの風向きのせいでもある、陣形のミスと言うしか無いが前に回れば
大掛かりな魔法を使えなくもない。

しかしそんな自殺行為は誰もしないし前に誰もいなければ竜はいる方を向くだろう。
そしてマイノスでなければ今の妨害はできず風を止める、もしくは自分の方へ風を吹かせて飛沫が
味方へ飛ばないようにすると漏れ無く「大掛かりな魔法」と毒の飛沫に巻き込まれることは必至だ。
流石にそこまではできない。そして何よりそんな暇が竜が慣れ始めてきた辺りから消え失せてしまった。

カナが竜の体内へ潜るのが見えた。上手くいけば直に竜は倒れる。だが問題が一つ発覚してしまった。
どうやってもカナが出てくるであろう時間よりもマイノスの邪魔が効かなくなる方が早い、そしてそれは
マイノスの頭上に向けてブレスが放たれる事を意味していた。
254マイノス ◆L2ncxGVyg2 :2010/12/29(水) 22:21:34 0
狙いも適当だったのが数の多い所から、今では包囲を崩すように吐いて来るようになった。
となれば今度はマイノスを、そして彼と同じように邪魔立てできる者から率先して攻撃していくだろう。
記念すべき戦術的犠牲者第1号の汚名を授与される時は目前に迫っていた。

カナを掻き出そうしながらも他への攻撃の手を休めない、そうこうしている間に約束の時が訪れた。

「あ・・・」

いくら風を送っても、風向きを変えても、びくともしない。それどころか何かした分だけ圧縮された大気が
大型化していくではないか。

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!)
終りを実感した時、通り抜けたはずの恐れが戻ってきた。目を閉じそうになる、もし閉じたら死ぬ、
そう思い耐えようとするが、彼の瞼はひどく重たくなっていた。

少年が最後に自分の恐怖と対峙している最中、相手の方はといえば溜めに溜めた大気を叩け付けるべく、
ゆっくりと首をもたげている所だった。最早お前は眼中にないと言わんばかりに余裕を持って。

ゆっくり、ゆっくりと赤く濁った大気の塊が膨らんでいく。放たれれば水風船を割った時のように
辺り一帯に飛び散るだろう。竜が今正に吐き出そうとしたのと、マイノスの視界が眩しい赤に染まる。

赤色の正体は爆発だった。だがそれは竜の息ではなく、魔法のソレだった。後ろの魔法使い達もまた、
マイノスの時間切れに気付いてこの時を狙っていたのだ。衝撃の大きさに竜の体がつんのめると
赤い風と黒い飛沫がマイノスの真後ろに降り注ぐ。次いで鉱夫たちが丸太を持って後ろ足を突いて
体勢を崩させることに成功する。

難を逃れたマイノスは歓声が上がる中を零れた毒を吹き散らしながら走った。
次の手を考えなければいけない。今の攻撃でもまだ足りないのだ。もう一撃されれば一たまりもない。

「ラック!カナさんの所へ行ってくれ、こっちはまだ大丈夫だから」

マイノスはカナの身を案じるとラックを呼び、彼女のもとへと向かわせた。この加護で一時的に
この場の人たちとの縁を深めるのが狙いだった。縁が深く、強く、そして多く結ばれているほど
その人の存在と生命は強固になるからだ。

一匹の蜻蛉が、この場の一縷の望みの元へと飛び立っていった。
255カナ ◆utqnf46htc
そうだな、この世に悔いが無いと言えば嘘になるだろうが、人の命なんぞ意図も容易く終わってしまう。
努力しようがどんなに抗おうが生きている限りは絶対に避けられない因果。 人が知恵の実を口にしてから繰り返される生命の因果。
そんな事を言うのも私は今絶体絶命の淵に立たされているからだ、竜の心の臓腑は私を取り込みつつある。
少しづつ心の臓腑は私の力によって動いているが取り込む速度の方が早い、最早両腕は飲み込まれ脇腹の辺りまで進んでいる。
進行するに当たって体の組織が強引に変化している訳だから、まるで捻り切られている様な耐え難い程の痛みが襲ってくる。
最早流す涙も枯れ果て私の世界が痛みに支配されようとしていた。 肺が潰れていないだけ感謝しないとな……。
しかし、このままの動きではどう頑張った所で先に待っているのは絶望。 最後は何の役に立てずに犬死か、罪人の私には似合いの死様だな。
あーぁ……折角此処までやったと言うのに今まで私がしてきた事が全て無駄になってしまったな……。
も、もうだめだ……上半身の殆どを取り込まれてしまった……、もう直ぐ肺か……息苦しくなってきたな……。
いざ目の前にすると死ぬのはやはり怖いな……、済まぬな少年よ……約束は守ってやる事は出来そうに無いな……。
永遠に安静に出来ると言う意味では約束は守れるかな……。 こんな事になるなら墓に刻む用に私の真の名を教えて置くんだったな……。
私の目の前はゆっくりと紅蓮に染まっていき、目の前が真っ暗となった。 ぁ……意識がぁ……。

気が付くと私は只広いだけの何もかも白い空間にぽつんと一人で立っていた。 天国……って訳では無いらしいな。
それにしても殺風景を通り越してまるで白い液体が満たされた容器の底の様な圧迫してくる白を感じるな……。
ぐるりと回りを見回してみるが、障害物とは一切無く地平線の先まで真っ白だ。 なんだか気味が悪いなぁ……。
とりあえず私は歩いてみる事にした。 進んでいるのか止まっているのか解らない変な感覚に襲われる。
それもそうだ、目印になる様な障害物も色の付いた物も全く無い。 唯一あるとしたら私だけだ。
果たしてどれ位歩いただろうか、時間間隔と距離感覚が取れない為どれ程歩いたか等解る筈も無かったが、
只歩いているだけって言うのも退屈故に自然と考えが巡ってしまう。 不思議と不安とかそう言うのは無かった。
しかし、楽しいと言う訳でもなく、本当に普通に歩いているだけだ。 果てがあるのか解らないこの空間を……。

視界の端に何かがチラチラすると思ったら其処には一匹の蜻蛉の姿があった。
この蜻蛉は少年が扱っていた精霊の一つだったな。 精霊には詳しくない故にコイツがどんな効果を持っているか私は知らない。
話し掛けるべきか迷っていると蜻蛉は私をすり抜けて私が歩いてきた方向へと飛んでいった。

「あっ…! ま、待てっ!」

踵を返し、急いで追おうとするが蜻蛉の姿は既に何処にも無かった。 しかし、その代りに紅蓮に染まった心の臓腑が浮いていた。
私は咄嗟に構えたが不思議にも、どうしてもこの竜が悪い様には見えなかった。

『願わくば、我汝と共にあらん事を……』

……え? な、何だって……? どう言う事だ……? 私は行き成りかけられた言動に困惑していると、
今までふわふわと浮かんでいるだけだった心の臓腑が急に猛スピードを出して私に迫ってきた。
咄嗟に両手を胸の前でクロスさせて防御しようとするが、心の臓腑は私の腕をすり抜けて胸に体当たりを仕掛けてきた。
まるで心の臓腑が爆発でもしたかの様な激しい衝撃と共に体中が煮え滾る様なとても耐えられない熱さが襲ってきた。
耐え切れずに上げた悲鳴は最早人の物ではなかった。 く…そ……私の体はどうなってるんだ……。
それに加え私の体は巨大化して行った。 果てが無いと思っていた白い世界は見る見る内に窮屈になっていった。
そこで私はこの白い空間の真意に気が付いた。 そうか、コレは卵を意味していたのか……。
つまり、竜は私を取り込んだのでは無く、寧ろその逆で竜は骸の体を捨てる事で傀儡の呪縛を断ち切ろうとしていたのか……。
そして、私はついに卵の中の世界を打ち破って外の世界へと新たなる私が誕生した。

魔術回路を失って崩れたのか、骨の残骸が回りに散らばっていた。 どうやら、私が誕生するより前に既に決着は付いていた様だ。
しかし、竜に打ち勝ったと言うのに歓声一つ上げずに皆キョトンとした様子で私を見ている。 どうしたのだ……?
不振に思い自らの身を見てみると、まぁ…何というか……私は生まれたままの姿で立っていた。