「俺の予備の奴でいいならやろうか?」と話を聞いていたエルフが言ってくる。
「儀式に失敗した時の為に作ってたんだが結局余ってさ、そんな小奇麗でもないけど」
そう言うとズボンのポケットからオパールの埋まった契約の指輪を差し出してくる。
別のエルフから「お前いっつも指輪2個常備してたもんなー!」と言われ目の前の青年が
居心地の悪そうな顔をする。精霊に気に入られず契約に失敗した場合も指輪は消費する。
そのためもう一つ用意するというのは精霊使いの間ではそれほど珍しい話ではない。
「え、い、良いんですか、その、いいなら是非今すぐお願いします!」
落ちてきたぼた餅にマイノスは遠慮なく飛びついた。相手の方もそれを聞いて顔に安堵の
色を浮かべる。ここに来てようやく真っ当な精霊との契約に少年の胸は高鳴った。
「やっと、やっとちゃんとした精霊が僕の手に・・・」
そういうといつの間にか方々から今のやり取りを見ていた同業者たちから声がかかる。
「風の精霊はピンきりだから」「良いのがあたるといいな」「術被りにだけ注意な」
自然と頬が緩んた所に「まっとうでない」の代表が今更ながらやって来た。正確にはまだ精霊ではないが。
安眠の加護が付くと聞いて里の人々から寝具や飾り、着物などをごてごてと付けられ今の今まで寝ていたのだ。
食堂に入ってくるなり持ち主達にあれこれ毟り取られてすぐに普段の姿になるが、昨夜の就寝時の平民と
王様並の格差が思い出されて、笑顔が苦笑いに変る。良い気持ちも程よく畳むと少年はカナと指輪をくれた
エルフを促し、当然目の前に座っていた商人の少女に断って支度を整えた。