【邪気眼】二つ名を持つ異能者達

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1テンプレ1/2
ここは【二つ名】を持つ異能者達が通常の人間にはない特殊な【オーラ】を駆使して
現代日本っぽい世界を舞台に能力バトルを展開する邪気眼系TRPスレッドです。
ローカルルール、テンプレ、重要事項等の説明は↓に。

*ルール
・参加者には【sage】進行、【トリップ】を推奨しております。
・版権キャラは受け付けておりません。オリジナルでお願いします。
・参加される方は【テンプレ】を記入し【避難所】に投下して下さい。
・参加者は絡んでる相手の書き込みから【三日以内】に書き込むのが原則となっております。
 不足な事態が発生しそれが不可能である場合はまずその旨を【避難所】に報告されるようお願いします。
 報告もなく【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったと見なされますのでご注意下さい。

*テンプレ
【プロフィール】
名前:
性別:
年齢:
身長:
体重:
職業:
容姿:
能力:
キャラ説明:

【パラメータ】※基本ランクは「S→別格 A→人外 B→逸脱 C→得意 D→普通(常人並) N→機能無し」の六つ。
(本体)
筋  力:
敏捷性:
耐久力:
成長性:
(能力)
射  程:(S→50m以上 A→20数m B→10数m C→数m D→2m以下)
破壊力:(能力の対人殺傷性)
持続性:
成長性:
2テンプレ2/2:2010/05/21(金) 17:15:19 0
*FAQ
Qキャラには二つ名が必要なの?
A絶対に必要というわけではありません。あればいいという位の認識で結構です。

Qオーラってなんだよ?
A異能者にしか見えない、使えない、特殊なエネルギーを指します。
 異能者はそれを物質化したり飛ばしたり……まぁ、某ジャンプ漫画の「念」みたいなもんだと思って下さい。

Q最低ランクがDの常人並なのはなんで?
Aオーラが使える分、非異能者より肉体が強化されている為です。

Qここは「二つ名を持つ異能者になって戦うスレ」?
A違います。戦うスレは当スレの前身スレではありますが、世界観等は踏襲されておりません。
 戦うスレについては【避難所】>>1のまとめサイトをご覧下さい。

*避難所(前身スレの避難所を引き続き使用しております)
P C:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1254052414/
携帯:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/computer/20066/1254052414/
3名無しになりきれ:2010/05/21(金) 23:43:25 0
「食物連鎖というのがあるだろう?
 草をシマウマが食べ、そのシマウマを虎が食べる。
 プランクトンを魚が食べ、その魚を鯨が食べる、というアレだよ。
 人間がこの星の支配者だといわれているのは、その虎や鯨を狩ることができるからさ。

 では、草食獣を捕食する肉食獣が如くヒトを狩れるのは?
 それは同じヒトではない。我々のような『異能者』だよ。

 おかしいと思わないか?
 我々はヒトより優れた『力』を持っているにも関わらず、彼らと同じ支配階級に甘んじている。
 それどころかその力を持っているが故に、時に迫害され、あろうことか否定もされる。
 他でもない我々より遥かに脆弱で劣っているはずのヒトにだ。

 力なき者が我が物顔で君臨する……数千年来続くこの矛盾に終止符を打たねばならない。
 そう、我々の……我々『カノッサ』の手でな。

 ……だが、それにはまず見つけ出さなければならない。
 『始祖』……その力を受け継ぐ『化身』をな……」


──舞台は現代の東京に似た巨大都市。
物語は、ここから始まった。

── 【邪気眼】二つ名を持つ異能者達 ──
4氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/05/24(月) 20:16:52 0
100万ともいわれる人口を抱える大都市、『角鵜野市(かくうのし)』。
街の中心はここ数十年の内に建てられた高層ビル群が並ぶ新興都市の様相を呈しながらも、
東は海に面し、西には湖があり、南には緑豊かな山が聳え、
北には古い史跡や町並みが残る、歴史ある観光都市として有名である。
しかし、まさか人々で賑わうそんな大都市で、凄惨な戦いが勃発することになろうとは、
この時、誰が予想したであろうか……。


──街の中心部から少し北に外れること1km。
そこのとある市街地に、小さな椅子に腰掛けながら、道行く人をぼーっと見つめている若い女性がいた。
青い髪と少々釣り上がった目、そして部活帰りの学生のような紫のジャージ姿が特徴のその女性の傍らには、
「占い・一回千円」記された小さな看板がある。
どうやら客が来ないので暇を持て余しているらしい。
と、そこに季節はずれの黒いコートを羽織った長身の男が、閑古鳥の鳴く客用の椅子にどかりと座り込んだ。
「占ってもらおうか」
待ち望んでいた客である。が、彼女の表情は相変わらず冴えない。
それもそのはず、彼女にとって男は顔見知りで、しかも客ではなかったからだ。
「客じゃない奴を占う気はない。それに、どうせ占ったところで結果は前と同じだ」
途端に男がクククと笑い出す。
「良く言う。人の顔を見てその印象だけで物を語るのが占いとはな」
「だが、私の勘は良く当たる。知ってるだろ?」
「……フン」
彼女の切り返しに、男は返す言葉を見つけられないと言ったように歯切れの悪い言葉を残すと、
一つの間を置いた後、即座に話題を変えた。
いや……彼女の店に立ち寄った本当の目的、本題に入ったと言うべきだろう。

「──『化身』がこの街のどこかにいる」
男を見る彼女の目つきが一瞬、変わる。
「この俺、直属の諜報部隊が掴んだ情報だ。間違いない」
神妙な顔付きのまま放たれた言葉は、充分な真実味を帯びていた。
まさか、こんな近くに……
そうは思いながらも、彼女は彼の言葉を信じざるを得なかった。
「灯台下暗し……といったところだな。まさか私達の膝元に降臨されていたとは」
「だが、この街、どういうわけか我々以外の『異能者』の反応が数多く確認されている。
 これでは特定するのは困難……そこで炙り出すことにした。
 ……既に多数の戦闘員をこの街に送り込んだ」
5氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/05/24(月) 20:18:59 0
「戦闘を誘発させて、その中で一際大きい反応を見せた奴を見つけ出す……ってわけ」
男は正解というようにニヤリと笑って見せた。
「だけど、だったら私がわざわざ出向く必要はないだろ?」
男は小さく首を振った。
「どうやらこの街の『異能者』どもの中には、通常では考えられんほどの力を秘めた奴らがいるらしい。
 オーラを使えるというだけの戦闘員どもだけでは不足なのさ。
 既に他二人の四天王はこの街で探索を始めている」
「四天王『筆頭』のあんたは? また高みの見物かい?」
「ククク、そう言うな。これでも他にもやることがあるのさ」
そう言うと、『筆頭』と呼ばれた男は席を立ち、彼女に背を向けて歩き出した。
が、何かを思い出したようにすぐにその足を止め、背を向けたまま言った。

「あぁ、最後に訊いておこうか。──俺とお前──『氷室 霞美』との相性はどうだ?」
彼女は、『氷室 霞美』は間髪入れずに即答した。
「前にも言ったろ。相性は最悪──」
「そうか……。ククク……」
男は何ともいえぬ不気味な笑い声だけをその場に残し、人ごみの中へと消えていった。
一人残された氷室は、ふぅと小さく溜息をついて、やがて店仕舞いを始めた。
もはや、趣味にかまけている暇は、氷室にはないのだ。

【下級戦闘員(銃やナイフで武装した非異能者。通称「雑兵」)×200
 中級戦闘員(オーラだけが使える能力無しの異能者。)×100
 上級戦闘員(能力を持つ異能者。)×不明
 四天王(上級以上の精鋭異能者。)×3
 が角鵜野市に送り込まれる】
6阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/05/24(月) 20:38:53 O
 ポ イ ズ ネ ス
毒に愛された女

それは都市伝説のようなものであった
「体が毒でできている女」
それがその伝説である
シンプルで他の人に伝える面白さはない
だがその伝説はなかなかとだえず一部の人の間で語りつがれるのだった
--------------------
「お譲ちゃん金持ってない?」
「持ってません」
「本当に持ってないの?」
一人の女性が四人の男性にとりかこまれていた
「持ってません」
女性はきつく言い返した
「ふーん、じゃあこのバッグ見せてもらうね」
女性が持っていたバッグを一人の男性が奪う
「金はいってそうなバッグじゃん」
男性はバッグをあける
「この女、ナイフ持ってるぜ」
男性はバッグの中からナイフをとりだして他の男性に見せる
「護身用かな?」
男性はそのナイフを女性につきつける
「やめてください」
「やめなーい」
その次の瞬間女性は服の中からナイフを取り出す
「まだ持ってやがったのか」
そして女性は自分の手のひらをナイフで切る
「おいおい、気が狂っちまったのか?」
女性は血がついたナイフを振る
そのナイフは男性の腕をかする
「結構扱いなれてるんだな、だが四人相手に勝てるとでも?」
そういったのは切られた男性とは別の男性である
次の瞬間切られた男性が倒れる音がする
「お前……何しやがった…」
一人の男性が殴りにかかる
女性はまたナイフを振り、男性をかすめさせる
そしてその男性も地面に倒れる
二人の男性は後ずさりをしはじめる
「おい……こいつ……まさか……」
「まさか……なんだよ?」
         ポ イ ズ ネ ス
「こいつ……毒に愛された女じゃないのか?」
「そんな……まさか……そんなはずが……」
二人の男性は女性に背を向け逃げ始める
女性はバッグに入っていたナイフを拾いそのナイフにも血をつける
そして二本のナイフを二人の男性に向けてそれぞれ投げる
ナイフは背中にサクッとささり次の瞬間二人の男性が倒れる音が響く
-------------------
          ポ イ ズ ネ ス
『聞いたか? 毒に愛された女がでたらしいぞ』
『ああ聞いたさ、四人殺されたらしいな』
7阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/05/24(月) 21:13:37 O
哀は臨時収入に顔をほころばせていた
哀の主な収入はスリである
森で暮らし食料などは自分で調達しているのだがそれでも金は必要だ
スリで得た金は服や消耗品につかう
たまに入る臨時収入ではちょっと値段の高いものを買うのだ
哀の持っているちょっと高そうなナイフとバッグは臨時収入で買ったものである
「今回は何買おう」
今にもスキップをしだしそうな勢いだ
この臨時収入での買い物が唯一の哀の楽しみとなっていた
それでも哀が殺人鬼にならないのは楽しみはたまにあるからいいと理解しているからであろうか
「……また……?」
哀はいきなり姿勢を低くし、建物の陰に隠れる
そして隠れながらちらりとまた道を見る
その視線の先にはオーラを持つ人間がいた
哀は今までオーラを持つ人間を何回も見てきた
しかし今日はおかしい
オーラを持つ人間を見る頻度がいつもとは段違いだ
哀はオーラを持つ人間を見たらすぐ逃げるようにしている
「ああ……買い物はまた今度か……」
8棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/05/25(火) 00:21:28 0
薄暗いオフィスの肘掛け椅子に一人の男が座っている。
大きな机と椅子、それ以外は木のクローゼットと簡易キッチンしかないオフィスは全体の半分は何も置いていなく質素、いやむしろ殺風景と言うべきであろう。
ここは棗探偵事務所、その男とは事務所の主である棗 遼太郎である。
今のご時世探偵なんてものに頼る人物は殆どいない、よって遼太郎は日々暇をもてあましていた。
その静寂を破るように携帯の着信メロディが鳴り響く、退屈な日常を壊す音。
「やれやれ、携帯ということは依頼ではなさそうですね」
一人ため息をつくと、通話ボタンを押す。
「はい、棗です」
「狩りを始めろ、」
その一言だけで電話はきられた、だが遼太郎にはそれが何を意味するものか充分に理解できた。
静かに立ち上がると、机から黒い手袋、すっかり色あせた木のクローゼットからは黒のコートを取り出し身に纏う。
「面白くなってきました、久々に暴れてくるとしましょうか」
端正な顔に小さく笑いをうかべて遼太郎は事務所の扉を開けた。
眩い日差しが遼太郎の黒を照らす、その黒は光りを吸収し影を作り出す。
「鍵は必要ありませんね、どうせ何もありませんし」

【棗遼太郎: 角鵜野市へ能力者狩りに繰り出す】
9海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/05/25(火) 01:44:49 0

「これがかの大都市『角鵜野市』か。」

黒い野球帽と同色のタンクトップを着た長身の女性から感嘆の言葉が漏れた。
とあるビルの屋上の幅数センチのフェンスを囲む枠の上に、彼女は佇んでいた。

「流石は人口100万人超。ここまで人が犇きあっているのを見るのは初めてだ。」
朝の通勤ラッシュによってわらわらと混み合っているスクランブル交差点を見ながらそんなことを呟いた。
彼女は片手に大きめのギターケースを持っているのにも関わらず、バランスを崩すことなく大きくノビをした。
朝の新鮮な空気と輝かしい朝日はどこの街でも同じものだと彼女は再認識した。
ただ少しばかり空気の方は汚れているか、と嫌味ではなく感想としてそう思った。

「この街で旅も最後になればいいですね。ね、父上。」
彼女は少しだけギターケースの口に隙間を作ると、その間からケースの長さギリギリに収まっていた刀が一本、
?ひとりでに?ケースから抜け出し彼女の右手に納まる。
「『無間刀』……それさえ取り戻せば、また緩やかな生活に戻れる…」
そう呟き、もう二度と取り戻すことの出来ない父の姿をまぶたの裏に浮かべる。
しかしそれに甘えることは無く、ただ尊敬と子としての愛情の念をその刀に宿らせた。

「では……行ってきます。」
刀は又ひとりでに宙を舞い、ケースの中へと戻っていく。
ギターケースを肩で担ぎなおし体を百八十度回転した後に跳んだ。
彼女はフェンスから軽々と屋上に着地し、そして………………………………清掃のおばちゃんに怒られた。
10海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/05/25(火) 01:46:45 0
――――PM09:30 マクドナルダ 某店
「さすが都会だな。あんな朝から出勤して働いている人が居るとは、今までのビルではなかったことだ。」
正確には清掃員は雇われの外部の者で、更に清掃時間はむしろ遅い方であったが、彼女……海部ヶ崎 綺咲は
持ち前の思い込みの強さでなんの違和感も無く納得した。
というより、そういう知識は無かったので勝手に想像するしかなかった。
                                      アレ
「これから先はビルに登るのは控えるべきか……しかし、あまり人目のつくところで刀を取り出すのはまずいだろうし…」
海部ヶ崎は朝食であるサラダとチキンを店内で頬張りつつ、これからの生活プランをたてた。
一番の心配は寝床であった。今回は長期の滞在になりそうなので部屋を借りてもいいのだが問題があった。
彼女は幼少期より山に暮らしており、更に唯一の身内である父親がすでにこの世の人間ではない。
その為に保護者どころか保証人になってくれる人が居らず、正規の手続きで部屋を借りることは出来ない。

(居ないことはないけれど……あの人には頼みたくないなぁ……既に『無間刀』の情報で多大な貸しがあるし。)
ホテルという手もあるが、ここら辺は今まで滞在してきた街よりランクがいくつも上だ。
ホテルもそれに合わせて値段のランクが高い。短期ならともかく、何ヶ月も泊まるには適さないだろう。

「……いっそのことキャンプセットでも購入して、南の方の山に住むとするか…」
何気なく呟いた一言だったが、意外といい案かもしれない。
自分は街を渡り歩いた期間より山で暮らした期間の方が長いため、今でも難なく山暮らしが出来るだろう。
山でのキャンプを半ば本気で考えつつ、朝食を食べ終わると海部ヶ崎はあることに気がついた。

自分を監視する者の目線に、そして隙を窺っているような気配に。

トレーやゴミを回収箱に運びつつ、自然に店内を見回す。
どうやら店の奥の方に座っているスーツ姿の三人が不穏な気配のモトらしい。
しかし幸いなことに向こうはこちらが気付いたことに気がついていない。
ということは、
(誘い込むか……奴ら、気配の消し方や目配りからして一般人ではない…機関か)
「なら、好都合だな。」
三人に背を受け、自分にだけ聞こえるように小さく呟く。
ギターケースを肩に背負い、店を出ると数秒遅れて三人も自然に行動を開始する。
(しかし、この街中でどこに誘い込むべきか……)
通勤ラッシュも終わって人が疎らになった歩道に出ると、とりあえず住宅街や繁華街とは逆方向へ歩き出した。
悩んだ結果三人が付いてきている事を確認しつつ、とりあえず適当に街を歩くことにした。

【海部ヶ崎 綺咲:機関の下級×2、中級×1を人気の無いところへ誘い込むため移動中】
11諫早 六見 ◆6LsGmK0rgs :2010/05/27(木) 00:51:31 0
─am10:00─角鵜野市某所:雑居ビル3階“新都市出版本社” 

「なあむーちゃん、最近噂の幽霊バイク、知ってるかい?」

整理整頓とは程遠い、雑然としたオフィス。
書類が積み上がる鬱蒼とした森のようなデスクの奥から、
くたびれた雰囲気も露わな記者の男──緑川(みどりかわ)に声を掛けられて、
丁度茶の用意をしていた諫早六見(いさはやむつみ)は振り返った。

「……何ですか?それ。」

「ま、良くある怪談さ。静かな夜道を車で走ってる、そこに聞こえてくるエンジン音。
何だろーな、バイクかなぁなんかやだなーと思ってると、前方に一台のバイクが現れる
ってわけ。お決まりのごとく、フルフェイスのメットで顔は分からねぇ。
それがそのまま凄ぇスピードで突っ込んできて───、あわや正面衝突、
大事故かってとこで……すり抜けていくんだってさ。気付いたら何事もなかったように
後ろにいて走り去っていく、と。」

……どこかで聞いたような話だ。
特に面白味も新鮮さもないそれに、六見の片眉が綺麗に持ち上がる。
感想を求めるように首を傾げる男のその所作に、馬鹿馬鹿しいと軽く溜め息を吐き出し、
六見は元の作業──湯呑みに茶を淹れる作業に戻る。

「むーちゃんもバイク乗ってんじゃん、見たことねぇの?」

黙々と作業を続ける六見の背に向かって尚も呼び掛ける緑川。
無言を返していると、ジッポライターを点ける音がした後、
緑川の座る古い椅子の背もたれが苦しそうな悲鳴を上げた。
適当に湯を入れた急須を揺すってから、歴代総理の名前がずらりと書かれた
変な湯飲みに緑茶を淹れる。若干濃い気もするが問題ないだろう。

「お知り合いだったりしたらさ、連れてきてよ。ネタねぇんだよ、今、全然。」

そう繋げる緑川の汚い机の上に総理湯呑みを置くと、そのまま横目で男の顔を見つめる。
疎らに生えた無精ヒゲ、ボサボサの髪はやや白髪交じり、銜えた煙草から紫煙が立ち上っている。

「……知り合いも何も、それあたしの事ですから」

酷くあっさりとした六見の口調に、緑川の唇から煙草が零れ落ちた。

「──なんて。ビックリしました?……じゃ、お使い行ってきます。」

その表情をしっかり堪能した後、にこりと邪気のない笑顔でおどけてみせる。
固まったままの緑川の後ろを通り過ぎ、六見は自分の席の背に掛けてあった黒い
ライダースジャケットを手に取るとオフィスを飛び出した。
12諫早 六見 ◆6LsGmK0rgs :2010/05/27(木) 00:54:05 0
弱小零細出版社たる新都市出版が本社を据えるこのビルに、エレベーターなんて洒落た
便利なものがあるはずもなく、六見はいつものように軽い足取りで階段を下っていく。
ジャケットのポケットに突っ込んでいた革のグローブを手に嵌めながら最後の一段を降り、
太陽光の下に一歩踏み出した六見の足が止まった。

(何……?)

それはほんの僅かな違和感だった。
見慣れた街の空気が、いつもと違うような気がする。
眉間に皺を寄せて考える──異能の者の、オーラの気配が濃い。

(警戒してし過ぎる事は、ない。……気を付けるべきね。)

そう思いながら止めていた足を動かし始める。
いつもの癖でビルとビルの間、愛車のある駐輪場への近道である仄暗い裏道に入って
──六見は自分の認識の甘さを後悔することになった。

「ハーイ、こんにちはァオネーサン。」
「馬鹿、今はまだおはようの時間だ。おはよう、お嬢さん。」

チンピラ風の男と、スーツ姿の男。
笑顔で挨拶をした二人の男に、六見が言葉を返すことはなかった。
項の辺りがゾワゾワして気持ち悪い。

(こいつら……、異能者だ。)

そう確信すれば、自然と二人を見る六見の視線が鋭いものになる。

「……出会って早速で済まないが、死んでもらうよ。」

スーツの男が全く済まないと思っていない、柔らかな口調でそう言った。

「ごめんなさい。あたし仕事中なんで。」

対する六見は、ナンパを断るような口調で男の言葉を斬って捨てる。
路地裏特有のどこか淀んだ空気が、重くなった気がした。

【諫早六見:路地裏で機関の初級×1、中級×1と対峙中】
13 ◆3LPMHhiq9U :2010/05/27(木) 19:40:42 0
>>10修正
PM9:30⇒AM9:30
14海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/05/28(金) 02:13:35 0
機関の尾行者達を引き連れ、街中を歩き回ること数分。
辺りは真新しいマンションやモデルハウスなどが立ち並ぶ、新開発地区へと姿を変えていた。

(空き家ばっかりで人が居ない・・・・・・別荘地なのでしょうか?)
またも間違った結論を脳内で浮かべるも、突っ込む人間が居ないためにまたも簡単に彼女は納得してしまった。
(あんなビルみたいな別荘まで建っているとは、余程の金持ちが建てたのでしょうね・・・)
彼女は建物の判別が苦手で未だにビル、マンション、アパートなどが区別できない。
そのため彼女の中では三階以上の建物は無条件でビルなのだ。
しかしこの勘違いは、大抵は正解なのでまだマシな勘違いなのだが……

新開発地区に入ると人の往来は激減する。
暇そうな大学生や散歩のお年寄り、買い物途中の主婦など、ここにくる途中に何人もの人間と遭遇したが
歩くにつれてその数は減っていき、遂に周囲には自分と背後の機関員のみとなった。
それと一回、野球帽で目線を隠して背後を確認すると尾行者の人数が減っており現在は二人だけだった。
減った一人は恐らく後方以外の位置で海部ヶ崎を付けているのだろう。
つまり、今この場には計三人の人間しか存在していないのだ。
(向こうも流石に誘導されていると気付く頃でしょうし。先に動かれる前に動きますか。)
するとなんの前振りも無く、唐突に海部ヶ崎は近くの電柱を”垂直に駆け上がり”、モデルハウスの屋根へと飛び乗った。

彼女の能力は自身のオーラによる磁力の発生とその操作。
彼女の作り出す磁場は自然界にあるものより指向性や力そのものが格段の差がある。
そのため足の裏を電柱の芯となっている鉄筋にコンクリ越しで引き寄せて、今のような芸当が出来るのだ。

彼女の突如の行動にスーツ姿の二人は数瞬だけ動揺するが、すぐさま行動を尾行から追跡に移した。
片方は小型の無線機でどこかに連絡し、もう片方は懐からサイレンサー付の拳銃を取り出して地上から追いかけてくる。
海部ヶ崎が屋根から屋根へと八艘飛びのように渡っていくと、前方に一つの影が立ち塞がった。
スーツ姿であることから、途中で姿を消した機関員だろう。
おそらく役割通りに尾行のバックアップに来たのだ。
男はオーラを纏った拳をボクサーのように構え、殺気を放ち始める。
海部ヶ崎は走るスピードも方向も変えることなく、前進を続けた。
そして、二人がぶつかり合うと思われた瞬間、海部ヶ崎の姿が消えた。
「……!?」
男はすぐに下に降りたものだと思い屋根の淵まで移動して姿を確認するために頭を突き出した。
すると、その動きは突如現われた銀色の影に拘束された。

「動くと確実に死ぬように喉を斬りますよ。」
いつもの口調で放たれた言葉は、いつものようなどこか調子の抜ける内容では無かった。
彼女は電信柱に垂直に立ちながら、そのギターケースとおよそ同じ長さの刀を男の喉もとに突付けている。
後追いの二人が追いついてすぐさま拳銃を構えるも、海部ヶ崎はすぐさま男を盾にするように屋根に飛び乗る。

「動かないでください。こっちはあなた方に傷一つ、痣一つもつける気はありません。
 だから、ただ質問に答えてください。それだけです。」
傷一つ、痣一つ付ける気はない。その言葉の意味は別に彼女が不殺主義者や心優しいという訳ではない。
ただ単に必要ないと、そう決め付けたからである。
大人が怒った子供を優しくなだめる様に、高校生が幼稚園児に腕相撲を挑まないように。
力の差がありすぎるためにまず力を必要としない、そういう判断なのだ。
下の二人はともかく、拘束中の男はその意図を彼女の言動や雰囲気で読み取り、抵抗する気が既に失せていた。
もう海部ヶ崎の質問に男は簡単に答えるだろう。機関への忠誠心が許す限り、だが。
そして、数秒で何から聞き出すかを決めて、口に出した。

【海部ヶ崎 綺咲:男から情報を聞き出そうとする】
15棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/05/28(金) 18:19:10 0
事務所から当てもなく歩いて数分、未だにお目当てのモノが見つからない。
人通りの多い大通りの方を歩いてみるが一向に見つかる気配が無い。
(おかしいですね、もう少し居ても良さそうですのに……。 尤も私が探れない程の能力者しかいないという事もあり得ますが)
遼太郎のような異能者はオーラという独特の気を身に纏っている、この気は普通隠せるものではないが、使い手であればあるほど上手く気を隠すことが出来る。
だから自分より強い異能者を見つける時には戦っている時以外は分からないのだ。
何か情報が無いかと、他の戦闘員に連絡を付けようと携帯電話を開く。
すると、視界の隅に慌ただしく駆けているスーツの男が映る、僅かだがオーラを感じなくもない、確実とは言えないが異能者だろう。
遼太郎はその男が向かう先に何かがあると踏んで、後をつけていくことにする。
次第に人通りが減っていく、新開発地区へ向かっているようだ、あの場所はまだ空き家が多いため戦うにはもってこいの場所だと言える。
(私の読みは当たっていましたか)
戦闘員らしき男と一人の女性が戦っている、まだ幼さを残した美しい顔つきの女性。
その容姿には似合わず、黒い野球帽、黒いタンクトップ、ジーンズという男の様な格好をしている。
勝負と言っていいのか分からないが、その勝負の決着は一瞬でついた。
電信柱に垂直に立ちながら長い刀を男の喉もとに突付ける女性、そして男を盾にしながら屋根に飛び移る。
(強い、私でも戦えばただではすみそうにありませんね)
遼太郎は彼女が立っている屋根の近くにある電信柱の影の上に立つ、その影は屋根の上、彼女の真後ろまで伸びている。
遼太郎の身体が影に溶ける、刹那、遼太郎の身体は女性の後ろに現われる。
「物騒ですね、そんなものを持っていては可愛らしい顔が台無しですよ、お嬢さん」
男の喉もとに突きつけられていた刀を手でやんわりとどかす。
そして、男の身体を蹴り飛ばす、鈍い音とともに男は吹き飛び屋根から転げ落ちていった。
すぐさま遼太郎と距離を取る女性。
「初めまして私は棗 遼太郎、貴女のお名前は何ですか? いや、そんなに睨まないで下さい、私は美しい花を摘み取ったりはしません。 もし花に棘でもあれば話は別ですが」
遼太郎は微笑むと手を胸の前に持っていき仰々しくお辞儀をした。

【棗遼太郎: 海部ヶ崎の名前を聞く、出方によっては戦闘意思あり】
16阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/05/28(金) 23:26:05 O
買い物をあきらめた帰り道
哀は人気のない道を選んでいた
哀はオーラを視覚以外で感知するすべをもたない
オーラとは何か、能力とは何かさえわかっていないのである
もちろんオーラを隠すすべも持っていない
しかし哀は幸運にも体液にオーラがある程度溶け込むので体外に出るオーラは普通より少ない
そのことが今まで哀を生き延びさせてきたのかもしれない
オーラについてもっと知っていたら、何事もなく帰ることができていたかもしれない
哀は一人の女性を見てしまったのだ
電信柱に垂直に立っている女性を

(あれ……どうやってるの……)

哀は物陰に隠れ様子を見ることにする
見ていると女性に一人の男性が話し掛けている
哀は妙な予感がした
今にも戦闘になりそうなその空気を感じ取ったのだ
しかし哀はそれに興味を持った
今まで感じたことのない空気に
これから始まるかもしれない光景に

【阿合 哀:海部ヶ崎と棗を陰から見ている】
17氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/05/29(土) 04:26:23 0
それは正に一瞬の出来事だった。
男が彼女と出会い、対峙して、殺気を放ってから攻撃に移る、ほんの僅かな間。
そんな瞬きほどの刹那に、男は首をかつてない方向へと曲げられ、地に伏していた。
恐らく、男は死に至るまでの残りの数秒間、途切れ行く意識の中で漠然と考えることだろう。
何があったのか、何をされたのかと。
そして永久に気がつかないだろう。
今この時、地に伏す彼の足元に佇む女に、氷室 霞美に殺されたのだということに。
「やっぱりハズレか。まぁいいけど」
戦闘相手は目的の人物ではなかったが、
氷室は特にリアクションもなく、何事もなかったように瀕死の男に背を向けた。
彼女にとって人間を殺めるのは人間が虫を払うのと同じ感覚なのだ。

『カノッサ』の実質的リーダーである四天王『筆頭』と別れてから僅か数分。
氷室は早々に一人の異能者をこの世から葬り去った。
この恐るべき早業は彼女の戦闘能力の高さの証明ともいえるが、
実はもう一つ、この結果を生み出したのには大きな要因があった。
それは彼女の左耳から左目にかけて装着された特殊な片眼鏡である。
通称『スキャナー』と呼ばれるこの片眼鏡、実はコンピュータが内蔵された小型レーダーなのである。
感知するものは通常の人間には一切ない特殊なオーラ。
つまり、異能者を発見する為の機械なのである。
スキャナーは電圧操作によって感知した異能者の居場所、そこまでの移動距離、
そしてオーラの多寡によって強さまでもレンズ上に数値化してくれる上、
通信機能までついている優れモノで、その利便性からカノッサ戦闘員の大半が装備している。
いくら異能者が多い街とはいえ、氷室がこの広い角鵜野市で早々に異能者を発見できたのも
その小型レーダーを装着しているからなのだ。

しかし、その高性能なレーダーでも、無数の異能者の中から特定人物を見つけ出すことは難しい。
そう、激しい戦闘でも起きない限りは……。
氷室は再びレーダーに目を通した。
「ピピピ」という電子音と共に、レンズに無数の○と特殊記号が浮かび上がる。
探知した中から少しでも強い反応を見せたオーラをレーダーが絞り込んでいるのだ。
(それにしても……)
氷室は思った。
通常、一都市に存在する異能者は、三人居れば多い方と言われている。
しかし、この街はどうだ。レーダーはその100倍以上の膨大な数を捉えている。
カノッサの戦闘員の数を差し引いても、これは異常ともいえる数値だ。
(……何か、厄介なことにならなきゃいいけどね)
氷室が目を細めていると、レーダーが一際大きな電子音を発してレンズに結果を映し出した。
レンズには五つ、六つほどの反応と、それぞれまでの距離を算出していた。

「さて──ここから一番近い反応は──」

氷室の目が、遥か南の空を捉えた。

【氷室 霞美:中級レベルの一般異能者一人を瞬殺。各PCの反応を捉え、そのいずれかに向かう】
18虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/05/30(日) 17:39:42 0
角鵜野市にある双綱(ふたつな)高校。そこの生徒である虹色 優は部活を終えて帰る途中だった
「ん…やっと終わった。帰るか…」
彼の家は学校から近いので徒歩で帰ることになる
「何だアレ?」
何かを見つける虹色優。どうやら小学生が不審者に襲われているようだ
「…ああいうのが居るから僕たちロリコンの未来が暗くなるんだ…」
ブツブツ言いながら不審者のほうに近づいていく
「君何してんの?そんなことしてもいいと思ってる?」
「何だ? お前も死にたいのか? だったらお前から先に殺してやるが?」
包丁を光らせる不審者
「…不審者どころじゃなかったか。危ないよねそんな物振り回しちゃ? 」
「危なくないと思ってたら…凶器にするわけねーだろ!!」
包丁を振りかざす殺人鬼。そんなのには目もくれず、虹色優は絵を描き始める。
「さよなら…」
突如、虹色優の目の前に巨大な鷲が現れ…殺人鬼を攫って行ってしまった…
「よし。君達、怪我は無いかい?」
笑顔で小学生達に尋ねる。
「だいじょーぶだよ。ありがとうおにーさん」
「兄ちゃん名前なんていうの?」
「僕は虹色優。小学生の味方だよ! 今度からは変な人について行っちゃ駄目だよ?」
「「はーい!!」」
「分かればいいんだ。それじゃあ、バイバイ!」
「バイバイ!」
「バイバイ、おにーさん!」
小学生と別れた後…
「ふふ…おにーさん、か…。可愛かったなー。ぜひ今度遊んでやりたいものだ…!」
19海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/05/31(月) 00:27:20 0
>>15
海部ヶ崎の口から質問が発せられる――――その直前。
「物騒ですね、そんなものを持っていては可愛らしい顔が台無しですよ、お嬢さん」
その突然現われた声の主は男に掛けられた刃の拘束を解き、更に解放された男を地面へと蹴り落とした。
目の前の出来事に海部ヶ崎は、すぐさま距離をとるべく後方へ低く跳んで刀を構える。
「初めまして私は棗 遼太郎、貴女のお名前は何ですか? いや、そんなに睨まないで下さい、私は美しい花を摘み取ったりはしません。 もし花に棘でもあれば話は別ですが」
突如現われた男……棗 遼太郎は自己紹介と共に丁寧にお辞儀をした。

(……どうやって現われた?)
突如現われた棗に、海部ヶ崎は当然の感想を抱いた。
(瞬間移動系?それとも気配を消すような能力……どっちにしろ、逃げるのは難しいか…)
とりあえず会話を続け、相手の目的や出方を伺うことにした。
棗に返事をする前にスーツの三人に目をやると、既にその姿を消していた。
彼らは十中八九機関の人間だろう。確証はないが自分は機関のアジトを狙ってこの街に来たのだから。
なら彼らを逃がしたことによって、自分の事は機関に知られることだろう。
(初日から顔を覚えられたくは無かったが……まぁ、遅かれ早かれ知られることになるなら気にする必要はないか…)

「私は海部ヶ崎 綺咲と言います。花が何とかって言いましたが、私の貴方への警戒心は変わりませんよ。
 助けてもらったわけではありませんし、逆に折角のチャンスをあなたが文字通り足蹴にしたのですから」
と言ってもそれに対しては特に焦りも怒りもない。
何回か機関の連中と対峙したことはあるが、経験上あの程度の人間は百単位で配置される。
おそらく街を散策したら、また簡単に出くわすだろう。

「こっちからも質問です。あなたは機関か、それと似たような所の出身の人間なのでしょうか?
あなたの行動や身体から出る雰囲気が一般の人間のものとは思えません……あなた、何者です。答えてくれませんか」

相手の能力を警戒して、気付かれぬように左手のギターケースをいつでも開けられる用意をしておく。
(街に着いた初日で、全て使うような戦闘にならなければいいのですが……)

【海部ヶ崎 綺咲:棗 遼太郎の正体に疑問を持つ】
20棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/05/31(月) 21:46:51 0
「私は海部ヶ崎 綺咲と言います。花が何とかって言いましたが、私の貴方への警戒心は変わりませんよ。
 助けてもらったわけではありませんし、逆に折角のチャンスをあなたが文字通り足蹴にしたのですから」
「こっちからも質問です。あなたは機関か、それと似たような所の出身の人間なのでしょうか?
あなたの行動や身体から出る雰囲気が一般の人間のものとは思えません……あなた、何者です。答えてくれませんか」

綺咲の白い喉仏から奏でられる音律は凛と澄み渡り遼太郎の耳まで届く。
その瞳にはありありと警戒の色を滲ませていた。
遼太郎は自分の返答が殆ど正体を告げているようなものだということを理解しながら口を開く。
「私が紳士である事が分かって貰えませんでしたか……。 それと綺咲さん、私は貴女の質問には何一つ答えることはできません」
わざとらしく肩を落として見せかぶりを振った。
「でも貴女のような美女に迫られたらおもわず喋ってしまうかもしれませんね」
薄く笑みを浮かべると一気に綺咲との間合いを縮め、彼女の胴体めがけ横薙ぎに鋭い蹴りを繰り出す。
並の人間なら反応も出来ない速さだが綺咲は当然のように躱し、攻撃を避けられ僅かに体勢を崩した遼太郎に袈裟懸けに斬りつけてくる。
遼太郎は軸足に力を込め、片足だけで大きく後ろに跳躍する。

「おっと、危な――っとと」
大きく跳躍しすぎたのかそこには足場はなく、遼太郎は無残に地上へと落下する。
落ちた体勢は悪かったものの二階建てだったことに加え、落ちた場所に植物が植えてあったことで全くの無傷であった。
しかし、これほど大きな隙を見逃すほど甘い相手では無かった。
遼太郎が落ちるとすぐさま電信柱を垂直に渡り、刀で遼太郎を串刺しにするべく迫ってくる。
重力による加速で鋭さを増す綺咲の刃が深く突き刺さる。

「やれやれ、危ないですね。 でも、貴女の手によって死ねるな――うぼぁ」
遼太郎は影に溶け綺咲の刃を避け、綺咲の真横に現われるがそれを見越した綺咲の蹴りによって言葉を遮られる。
そして地に突き刺さった刀を引き抜き、再び剣を振るう、その見事な剣舞は思わず戦うことを忘れて魅入ってしまうほどに美しかった。
遼太郎はただひたすら攻撃を避け続ける、何の意味もない回避に見えるが遼太郎は綺咲の影が自分の前に伸びるような立ち位置になるように誘導しつつ回避していた。
精一杯回避しても綺咲の剣戟が遼太郎に幾つもの傷をつけていく、遼太郎は迫り来る白刃を気にもとめず唐突に動きを止める。

「貴女は強い、しかしこのままでは貴女は私には勝てませんよ」
綺咲が肉薄してくる、その影が遼太郎の足下に触れた途端その動きは止まる。
口に笑みを張り付かせ、綺咲に問いかける。
「私の能力は分かりましたか? ヒントが欲しいようでしたら差し上げますよ、尤も次の一撃を耐えることが出来たらですけどね」
遼太郎は前に踏み込み踵を軽く上げると、片足を軸として体重の乗った鋭い回し蹴りを綺咲の腹部に叩き込む。
まるで鞭のようにしなる足から繰り出される蹴りに綺咲の身体は埃のように吹き飛んだ。

「もっと美しく啼いて下さい、ゲネラルパウゼにはまだ早いですよ」
【棗遼太郎: 海部ヶ崎 綺咲に戦いを挑む】
21阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/01(火) 16:59:25 O
海部ヶ崎と棗の戦闘
それは哀にとっては恐ろしいものであり興味深いものであった
おそらく彼らにとってはお互い小手調べであろうが能力者を見たことがない哀にとっては新鮮だ
そして彼らの会話にも哀は興味を持っていた
特に二つの単語、「能力」と「機関」が哀の耳に残っていた

(能力……おそらく今彼らが使っている力のことか……
そうすると……私の毒も能力?
もしかしてたまに見るオーラのようなものは能力を持っていることの証?
それに機関ってなんなんだろう……
あの女の人は好いていなさそうだけど……
でも能力に関する機関である可能性は高い……
じゃあその機関に接触すれば能力について知ることができるかも……)

哀はいろいろと考えた
仲間が欲しい
その欲望が哀の好奇心を助けていた
そしてその好奇心はここにいたら危ないという危機感をもかき消すものとなっていた
しかし陰からでたら危ないという最低限の危機感をかき消すことはなかった
22氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/06/03(木) 04:14:18 0
>>18
氷室は屋根から屋根へと、まるで普通に道を歩くかのような涼しい顔で飛び移っていく。
その超人的ともいえる移動スピードはスキャナーが捕捉した目標との距離をグングンと詰めていく。
目標まで残り50m──40m──30m──20m──
接触まで秒読み段階に入ったその時、氷室の頭上を大きな黒い影がかすめた。
「──!?」
頭上を見上げた氷室は、思わず目を大きく見開いた。
影の正体、それは巨大な鳥──
見たこともない程の巨大さを誇る怪鳥が一人の男を掴んでどこへともなく羽ばたいてゆく姿だった。
(誰かの能力……)
異様な光景に、氷室はすかさずそう直感した。
そしてその能力を持つ者こそ、スキャナーが捕捉した異能者であろうということも……。

スキャナーが電子音と共に大きな矢印を表示し、その方向に補足した目標がいることを告げる。
氷室が目線を移すと、そこには痩せた高校生くらいの少年の姿があった。
一見すると異能者に見えないほどひ弱な体格をしているのだが、
彼の体から微かに立ち昇るオーラは、スキャナーが捉えた異能者であるという紛れも無い証拠であった。
「……あんな冴えないのが『化身』とは思えないけど……」
浮かない顔をしながら呟く。
だが、かといって確かめもせずに目算だけで済ませるわけにもいかない。
氷室は一つ大きく深呼吸をした後、何を思っているのか不敵に笑いながら
「ふふ…おにーさん、か…。可愛かったなー。ぜひ今度遊んでやりたいものだ…!」
と漏らす少年の背後に、静かに降り立った。

「そんなに遊びたい? なら相手してあげようか? この私がね」
声には殺気も怒気も、その他の感情も一切込められていない、乾いたような声に少年が振り向く。
その顔はいきなり現れた女に驚いているような、
何を思っての言葉なのか理解するのが難しいといったような、そんな感じだ。
氷室は、そんな少年が抱いた疑問を見透かしたように、目を細めて言った。
「私が何者か、その質問に対して言えることは一つ。私はあなたの命を狙う敵だということ。
 お解かり? 解ったなら────初めから全力でかかってきな。
 万が一にも生き延びたいなら、あなたはそうするしかない……」

【氷室 霞美:虹色 優と接触】
23海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/06/03(木) 04:18:53 0
>>20-21
「私が紳士である事が分かって貰えませんでしたか……。 それと綺咲さん、私は貴女の質問には何一つ答えることはできません」

……なんだか正直に名前を答えた自分が馬鹿なような気がした。
それと女性をいきなり名前で呼ぶのも紳士として如何なものかと思われるが、海部ヶ崎はその手のマナーに疎いので気にしなった。
しかし、その返答はやはり棗は表の世界に生きる人間ではない事を表している。

「でも貴女のような美女に迫られたらおもわず喋ってしまうかもしれませんね」
その言葉が終わると既に棗は海部ヶ崎の目前まで迫り、鋭いミドルキックを放とうとしている。
海部ヶ崎は僅かに身を後ろに引くことでそれを回避し、そのまま右手の刀で袈裟斬りを仕掛ける。
だが、相手は片足でいとも簡単に後方へと跳躍して凶刃から逃れる。
(さっきの歩法、今の跳躍力。これは能力?それとも鍛錬によって獲得したものだとしたら、相当の実力者だ……)

「おっと、危な――っとと」
棗は自らの意思とは関係なく地上へと落ちていった。
それを機に海部ヶ崎は攻勢へと転じた。電柱を蹴って、棗の喉元を目掛けて刀の切っ先を突き出す。
その切っ先を相手は姿を消し、自分の真横に現われることで回避した。
「やれやれ、危ないですね。 でも、貴女の手によって死ねるな――うぼぁ」
運良く一瞬で反応して、相手の腹に蹴りを叩き込み、そのまま凶刃を片手で振るって相手に斬りかかる。
刃は致命傷とはいかずとも、徐々に棗の衣服やその肌に切断していく。しかし唐突に海部ヶ崎の体が固定される。
「私の能力は分かりましたか? ヒントが欲しいようでしたら差し上げますよ、尤も次の一撃を耐えることが出来たらですけどね」
張り付いたような笑みでそう言い終えると、先程と違って一つ一つの動作をじっくり行ってのすさまじい威力のミドルキックを放った。
(く……防御も出来な――――)
棗のつま先は吸い込まれるように海部ヶ崎の脇腹に突き刺さり、そのまま体をつま先の延長線上に吹っ飛ばした。
「もっと美しく啼いて下さい、ゲネラルパウゼにはまだ早いですよ」
24海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/06/03(木) 04:21:03 0
ガシャアァ!!と、180cmもあるその体は数m先に停めてあった車のドアにキャッチされることになった。
ガラスに少しばかりヒビが入り、その蹴りの威力を物語っている。
海部ヶ崎は蹴られた箇所を片手で押さえ、もう片方の手にある刀を杖にして立ち上がろうとする。
「……紳士というのは、女性をやさしく扱う人種の中で最上級の者だとあの人から聞いていたのですが…
 そうでも無いみたいですね…まぁ、紳士でもいろんな人が居るとも言っていましたが…」
視線は相手に向けたまま、ゆっくりとその場に立ち上がろうとする。
そして彼女にとっては珍しく、戦闘中に意味も無く長々とした台詞を放った。
勿論ゆっくりした動作も長い台詞も時間稼ぎである。普段はこんな事はしないが相手の性格と強さを判断しての行為だ。
その行為によって得た数秒で、これからの事を考える。
(正直ここまで手強いとは……能力は突きの回避と身を削ってまでの立ち回りで使ったあの技から見て影を扱う能力か)
ここまでに1.79秒。
(そうすると、これはこのまま逃げてしまった方がいいかもしれない。影から影へ渡る能力があったとしても、逃げかた次第で
どうとでもなるし。なによりここで大怪我をしてまで戦うのはデメリットが多いし、メリットも0に近い)
3.68秒経過。
(何より最初に仕掛けて来たのは、向こうだ。それを無利益で最後まで付き合うのは、それこそ馬鹿正直な行為だろう。
それに私は戦闘に快楽を感じてるわけでもない。あくまで、目標は『無間刀』のみ…)
4.73秒経過。
考えが纏まると同時に、海部ヶ崎は完全に立ち上がり、刀を両手で構える。
「……決めました。もうあなたと戦う理由が見つかりません。なので、これでさよならです」
棗はその言葉の意味を考える前に、気付いたのだろう。ある“違和感“に。
そしてその違和感の原因――――ギターケースは棗の後方二m付近に落ちていた。
海部ヶ崎は蹴られた時に彼の回転の向きとは逆の方向、つまり彼の死角を使って能力によってあそこに配置したのだ。

(飛花落葉―――!!)

能力で止め具を外すと、ケースの隙間から飛び出したのはフリスビーサイズの両刃斧一本とナイフ二本であった。
その四つの刃は高速回転し、棗の体を切断するべく不規則な軌道を描き飛来する。
だが、これしきは簡単に避けられる…………のは分かっていた。
棗が全て避けきった後、再び海部ヶ崎の方角を向いたとき、棗の視界は複数の飛来する車体によって埋め尽くされていた。

ドガシャァアギャガギャギャガガガ――――!!!!

凄まじい轟音と大量の部品を周囲に撒き散らし、車はスクラップの山となっていた。
そして、そこには当然の如く海部ヶ崎の姿も武器もギターケースも、全てが全て姿を消していた――――――
25海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/06/03(木) 04:22:42 0
「……このまま逃げるのも勿体無いかな」
海部ヶ崎は棗より、家数軒分ぐらい離れた場所に身を潜めていた。
刀や斧もギターケースに入れて、息を殺し、気配を消す。
彼女は山暮らしの期間中に戦闘訓練を一通り受けてきたのだが、その中で気配の消し方はずば抜けて上手かった。
おそらくあの山で気配を消した彼女を見つけられる生き物は父と、あの人だけだろう。
だから、見つかる心配は無い…はずなのだが……
(これからあいつを尾行すれば、機関のアジトの位置が――――ん?)
少し場所を変えようと移動すると、そこには少女が自分と同じく物陰に隠れるように身を潜めていた。
少女と言っても、自分の背が高いだけでおそらく自分より一つ二つぐらいしか違わないだろう。
その黒髪ショートの女の子は驚いたような顔……というか、驚いている。
(しまった、人が居たなんて気付かなかった……って、まずい!!)
慌てて、海部ヶ崎はその少女の口を手で覆った。そして空いてる手の人差し指を鼻に当て、静かにするようジェスチャーで伝える。
今相手は自分を探している筈、自分はしっかりオーラも消してあり、少女も能力者ではないのかそれとも自らの意思で
消しているのかは分からないがオーラは微弱だ。
なら、この少女が驚きと動揺で気配が大きくしなければ、見つからないはずだ。
(少しだけ我慢してください。なんとか逃げ出せたのですから……)
そう小声で少女に語りかけ、棗の様子を伺った。

【海部ヶ崎 綺咲:棗 遼太郎から姿を消し、阿合 哀と共に身を隠す】
26名無しになりきれ:2010/06/03(木) 18:41:45 O
>>25
ドガシャァアギャガギャギャガガガ――――!!!!
その轟音に哀は思わず顔を伏せる
そしてまた顔をあげるとそれまで戦っていた女性の姿が消えていた
哀はスクラップの山周辺を目で探す
しかしどこにも女性の姿はない
そして少し嫌な予感がする
(私のことに気付いたんじゃ……
とりあえず……場所を変えよう……)

哀は物陰に隠れながら少しずつ移動する
そして驚愕した
先ほど消えた女性が目の前にあらわれたのだ
そして女性は自分に手をのばしてくる
殺される、一瞬そう思うがその手は自分の口を覆う
もう一方の手の人差し指を鼻にあてているのを見て静かにしろと言いたいのだと気付く
そこで哀は落ち着いたようでバッグに手を突っ込む

「(少しだけ我慢してください。なんとか逃げ出せたのですから……)」

女性が話し掛けてくる
言われなくても暴れようなどという気はない
もしそうしたいのならすかさず口にあてられた手を噛んでいる
哀は息をひそめるようにした

【阿合 哀:海部ヶ崎に遭遇し一瞬驚くがすぐ落ち着き息をひそめる】
27阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/03(木) 18:42:26 O
名前忘れ
28棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/06/04(金) 18:56:32 0
目の前には何台も積み重なった車体の山。
対象を完全に見失ってしまった。

「磁力ですか……やられましたね、私とのダンスはお気に召さなかったですか」

気配を探ってはみるがうまく隠されているのか全く感じることが出来なかった。
遼太郎は踵を返して新開発区域から立ち去ろうと歩き出すが、すぐ歩みを止め後ろを振り返る。

「一つ言っておきますが、貴方が私達を追っているとしてもそこらの下っ端からではなんの情報も得られませんよ。
私くらいのレベルでなければ何も知らないでしょう」

これは勿論はったりで遼太郎も機関の何かを知っているという訳ではない。
実際に戦い、遼太郎の強さを感じた相手からすれば信憑性のある情報になるであろう。
それだけ言うと遼太郎は再び背を向け歩き始める。

(お腹が空きましたね、何か食べに行きましょうか)

行き先を大通りに決め、少し早い昼食を取ることにする。
遼太郎はジャンクフードと呼ばれるもの全般があまり好きではない。
しかし、そんな我が儘を言っていられるほど財布に余裕があるわけでもないので仕方なくファーストフード店に入る。

「さて、これからどうしましょうか……さっきの獲物を取り逃がしたのは痛手でした」

そう呟くが遼太郎に選べる選択肢は多くない。
何にせよ狩りを続けなければならないのだ。
全く肉汁のない固い肉の入ったハンバーガーを平らげると、遼太郎は静かに席を立った。
そしてまた当てもなく街を彷徨い始める。

【棗遼太郎:再び街に繰り出す】
29虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/04(金) 18:57:47 0

>>22

「…ごめんなさい。年上には興味ないんです」
そう言いながらも絵筆を手に取る
(僕を殺す? どうして?)
画用紙に大きなカラスをたくさん描き襲い掛からせる
(とにかく何とかしないと…!)
巨大なハゲワシ、狩猟用鷹、鳶、梟も描く
(これで何とか…)
30氷室 霞美@代理:2010/06/05(土) 19:57:34 0
>>29
てっきり、奇声なり何なりあげて、飛び掛ってくるかと思っていた氷室だったが、
少年の反応は意外にもというか、あまりに予想外のものであった。
少年は画用紙を広げて呑気にも絵を描き始めたである。
まるで、学校の美術の授業にでも迷い込んだかのような戦闘とは程遠い眼前の光景に、
氷室はしばし、毒気を抜かれたようにぽかんとせざるを得なかった。
しかし、現実では確かに戦闘の火蓋は切って落とされたのである。
氷室がそれに気付いたのは、画用紙に描かれた無数の鳥達が一斉に飛び出し、
それらが周囲を囲んでからだった。

それでも氷室は特に驚く様子もなく一羽一羽を睨め回す。
「なるほど……やっぱりさっきの鳥もあんたの能力。
 要するに自分で描いた絵をオーラによって現実世界に具現化する……ってとこだろ?
 ……これだけの物体を一度に具現化できるということは、
 ハズレにしては中々の力があるみたいだけど……」
鳥達に向けられていた視線がゆっくりと少年へと戻る。
この時、既にその目はまるで針のような鋭いものへと変わっていた。
「言ったはず。初めから全力でかかってきなってね」
その言葉と共に、氷室が纏っていた微量なオーラが一瞬の内に膨れ上がる。
まるで爆発が起こったように瞬時に膨張・拡大したそれは、
強烈な波動となって周囲に群がっていた鳥達を一斉に跳ね飛ばした。
オーラの膨張はその後急速に収束し、また再び微量なものへと変化していったが、
それでも、それだけでも、少年に力の差を思い知らせるのにはもはや充分であった。

「無力な凡人ども相手ならいざ知らず……
 異能者相手に、ましてやこの私に、鳥などが通用すると思ったら大間違いさ。
 覚えときな。異能者を倒そうと思ったら、せめて爆弾ぐらいは具現化しなきゃ話にならないってね」
悪魔のような微笑を見せながら、氷室は一歩、また一歩と少年との距離を詰める。
それはまるで蛇に睨まれた蛙が成す術なく蛇の接近を許す光景そのものであった。
後は蛇に飲み込まれるを待つが如く、ただ死を待つのみ……
しかし、そんな少年の窮地を救ったのは、皮肉にも彼女と同じカノッサの人間であった。

「確かここら辺で大きな反応があったが……」
「だが、ほんの一瞬だけだぜ?
 この街の異能者どもにしてはやけに反応がデカかったし、故障かもしれんぞ」
「かといって確認怠ったのが上に知れたらそれこそ大目玉だ。とにかく確かめて……」
突然の声に、氷室は足を止めた。
見れば、少年の後ろの路地から、二人の黒服が姿を現したではないか。
彼らの顔に見覚えはないものの、その身なりからカノッサに所属する中級レベルの
戦闘員であるということは直ぐに判った。
「あ……あぁっ……! こ、これは……!」
彼らは氷室の顔を見ると、突然その顔色を変え背筋を伸ばして見せた。
任務を果たす為に現れただけの彼らに非はないのだが、
氷室にとってはその堅苦しい連中の登場によって正に水を差された格好である。
完全に毒気を抜かれた彼女は、急速に少年に対しての興味を失っていた。

「……私はもう行く。こいつの始末はお前らに任す」
「は、ははっ!」
氷室は彼らと少年に背を向けると、二度と振り返ることなくその場を去った。
彼女には、既に次の戦闘のことしか頭にないのだ。

【氷室 霞美:次のPCへと向かう。代わって中級戦闘員×2(NPC)が虹色 優の相手を務める】
31海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/06/06(日) 01:04:41 0
>>26-28
「一つ言っておきますが、貴方が私達を追っているとしてもそこらの下っ端からではなんの情報も得られませんよ。
私くらいのレベルでなければ何も知らないでしょう」

それだけ言い残すと、棗はあっさりと引き上げていった。
立ち去った後も、用心深く周囲の気配を確認するもどうやら本当にこの場を去って行ったらしい。
はぁ、と安堵の息を漏らした後に慌てて少女の口から手を放した。
(この人、別荘地にいるって事はもしかして、この辺りのどれかの家の持ち主?となると、お嬢様ってことになるのかな……)

「す、すみません!!とっさの事だったので……お怪我とかしておられないでしょうか?
 気分が悪くなってしまったりとか、体調がすぐれなかったりとか……」
海部ヶ崎の口調は元から丁寧の方だが、今は勘違いによって更にバカ丁寧なものへと昇華していた。
あまり同世代で、しかも初対面の相手に使わないだろう言葉遣いでなおも少女の身を案じた。
必死に心配する長身の女性に見上げる形になっている少女が何か言おうと口を開いた、その時……

ファンファンファンファン―――――

遠くからパトカー用のサイレンが木霊しているのに気付いた。
(……そうか、しまった!!車があるということは近くに人が居るって可能性もあるから、誰かに通報されたのかも。まずい……)
チラ、と振り返ると山となっている廃車達。
そして目の前には金持ちのお嬢様(勘違い)。
(確か、父上が言っていたな……ヤバくなったら逃げろ、と。)
ギターケースの紐をギュッと握りなおし、野球帽を深く被りなおすと少女に顔を合わせた。

「すみませんが、ちょっとこっちに!!事情は後でお話しいたしますので、いまはこっちに!!」
そう言いながら、海部ヶ崎は少女の手をサイレンと逆の方角へと引っ張っていく。
やはり体格の差か、それと事態が飲み込めていないのも合わさって
少女は言われるがまま、引っ張られるがままに海部ヶ崎と共に住宅街の方角へと走る羽目となった。

――――AM11:30 とある公園 ベンチ
随分な距離を走破し、二人は住宅街の隙間に出来た小さな公園に行き着いた。
遊具らしきものは何も無く、ただ住宅を守るグリーンのネットとベンチが二脚設置されているだけの広場だ。
「飲みもの買ってきました。お茶でよかったですか?」
そういって、片方のアルミ缶を少女に手渡す。
相変わらず丁寧な口調だが、幾分か緊張も疲れによってほぐれてきた様だった。
二人は冷たいお茶で一服し、落ち着いてきたところに海部ヶ崎が話を切り出した。
「さっきはすいませんした。警察に捕まったらいろいろと私が困るので、こんな無理やり連れてくる形になってしまって。」
ほぼ元の口調に戻り、最初に謝罪を述べてから、
「こっちが喋ってばっかりで悪いのですが、あなたは見ていたのですよね?私とあの男の戦闘を。」
それに少女は肯定の意を述べる。
「それで逃げなかったのは、やはり……チカラを?」
その問いに少女は…………

【海部ヶ崎 綺咲:阿合 哀に能力者なのかどうかを尋ねる】
32阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/06(日) 18:30:16 O
>>31
「す、すみません!!とっさの事だったので……お怪我とかしておられないでしょうか?
 気分が悪くなってしまったりとか、体調がすぐれなかったりとか……」
女性は口から手を放したあとそう話し掛けてくる
あまりにも丁寧なその口調に哀は少しとまどう
そしてとりあえず気を遣ってもらったことに対してお礼を言おうとするがその瞬間

ファンファンファンファン―――――

パトカーのサイレンの音が聞こえてくる
その音に目の前の女性はびくりと反応する
そして女性は哀の手をとり引っ張りだす
「すみませんが、ちょっとこっちに!!事情は後でお話しいたしますので、いまはこっちに!!」
その緊迫した言い方に哀は何も言うことはできなかった

――――AM11:30 とある公園 ベンチ
「飲みもの買ってきました。お茶でよかったですか?」
軽くありがとうございますと言い、女性からお茶を受け取る
「さっきはすいませんした。警察に捕まったらいろいろと私が困るので、こんな無理やり連れてくる形になってしまって。
こっちが喋ってばっかりで悪いのですが、あなたは見ていたのですよね?私とあの男の戦闘を。」
落ち着いたところで女性が話し掛けてくる
ここで嘘をつく理由もないので素直に肯定する

「それで逃げなかったのは、やはり……チカラを?」
この質問には少し答えるのをとまどった
質問されてから一瞬時間をあけたあとで曖昧な返事を返す
「逃げなかったのは……ただの好奇心です
あんなのを見るのは初めてでしたから
それにあなたたちが話していることに興味があって……」
嘘は話していない
何かあれば自分の毒でなんとかしようという気は全くなかったのである

「教えてください
能力って何なんですか?
機関って何なんですか?」

【阿合 哀:海部ヶ崎に能力、機関について問う】
33虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/06(日) 20:59:39 0
>>30
「…鳥で目を眩ませている隙に逃げようと思ったんだけど…」
弾かれた鳥たちを見てそう呟く優
「それにしても…怖いおば…女性だったな」
本人の前だったら、もしかすると殺されかねない発言をしかける
「ってそんなこといってる場合じゃないよね…」
中級戦闘員の方を向き、
「ここは見逃してくれませんかね?」
そんなことを言い出す優
「お前…職務怠慢って知ってるか?」
「…まあ、そうなりますよね」
そういいながら絵筆を手に取り…
「それなりのものを出さないとまずいみたいだね…」
マンモスの絵を描き、背中に乗る
「な…何だ、あれ」
「見ればわかるだろ。マンモスだ」
34棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/06/07(月) 01:23:02 0
>>28
もうそろそろ正午になろうかという頃、遼太郎は大通りを歩いていた。
綺咲に逃げられて以来能力者を見つけられていなかった遼太郎だが、つい先ほど遼太郎でもはっきりと分かるほどの大きなオーラの反応を感じた。
その地点を目指して歩いていくうちにオーラの主がはっきりした。

「この冷たいオーラは・・・・・・彼女ですか」

近づくにつれどんどん大きくなるオーラ、これほどのオーラを持つ人物はそう多くない。
ふと遼太郎は近くの花壇に咲いていたマーガレットを見つけると、口元に笑みを浮かべた。
白いマーガレットを一輪摘み取ると懐に仕舞う。
道の先には目立つ青髪が見えてきた。
遼太郎は影を伝い一気に接近すると、懐から先ほど摘み取ったマーガレットの花を取り出し、跪きながら捧げる。
女性は遼太郎の接近には気づいていたようで特に驚いてはいなかった。
そして遼太郎は上目遣いに彼女を見上げ軽く微笑みながら口を開いた。

「お久しぶりです霞美さん、早速ですが今日は手土産があります。
恋を占う花マーガレット、どうです私の恋の占いをしてくれませんか?」

【棗遼太郎:氷室の前に現れ挨拶】
35虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/07(月) 07:48:29 0
突然現れたマンモスに多少驚きつつも、冷静に身構える中級戦闘員たち
「さて、もう一度聞きますけど、見逃してくれませんかね?」
「…何度聞いても答えは同じだ」
「そうですか…なら、仕方ありませんね」
再び筆を取り、今度はロケットランチャーの絵を描き、戦闘員に向けて撃つ。
しかし…
「おっと危ねぇ!」
戦闘員の出したオーラによって防がれてしまう
「…だめか。これはあまり使いたく無かったんだけど…」
爆弾を抱えた鳶をたくさん描き、戦闘員を囲ませる
「さらに…」
不死鳥を描き、鳶たちの方に飛ばす。不死鳥が羽ばたいた時に落ちた火の粉が爆弾に移り…
「芸術は、爆発だ」
大爆発を起こし、爆煙と爆風が戦闘員を囲む
(さて、どうなる? …オーラで防いで無傷だとかいうオチはやめてくれよ?)
画用紙と筆を構えながら爆発した方を見る
「さて、今の内に…」
爆煙で視界を封じている間に、紙に強力なスタンガンを装備した自画像を描く
「げほ…ごほ」
爆煙が晴れて、傷を負った戦闘員が姿を現す
「…!」
次の瞬間、バチン!という大きな音とともに、二人の戦闘員が倒れた
「ふぅ…何とか作戦成功」
具現化した自分にスキャナーを一つだけ奪わせて、
36虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/07(月) 08:22:47 0
自宅へ帰っていく優
【虹色優、中級戦闘員×2に勝利】

「ただいまー」
「お帰り…ってどうしたの兄さん! 土だらけだよ?」
優を迎えたのは虹色 詞音(しおん)。彼の双子の弟である
「ああ、ちょっと帰りに異能者に襲われてね…」
「…全く気をつけてよ兄さん? 僕たち異能者は何かとねらわれやすいんだから…。能力はなるべく隠さないと…」
弟に注意されて、
「だって小学生がピンチだったから…つい…」
そう答える優
「そうか…ならしかたないね」
どうやら詞音も優と同じ趣向を持っていたようである
「何なんだよ全く…本ぐらいゆっくり読ませてくれよ、兄ちゃんたち…」
赤ずきんちゃんの本を抱えながらでて来たのは虹色 御伽(おとぎ)。優たちの一つ下の弟である
「ああ、兄さんが異能者に襲われたらしいんだ」
そう答える詞音
「ふーん。本当ねらわれやすいものだね僕たち異能者は」御伽がそう言うと、
「でもその代わりお土産もって来たから!」
鞄からスキャナーを取り出す優
「ど、どうしたのそれ!?」
「…一つしかないみたいだね」
スキャナーを見て、そう反応する詞音と御伽
「中級戦闘員と戦って…ちょっとね。数の方は僕に任せて」
そう言いながら
37虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/07(月) 08:54:23 0
二階の自分の部屋に戻る優
「えーと…まず、此処がこうなってて次に…」
スキャナーをよく観察しながら設計図とスケッチを描く優
そして、30分後…
「出来た…。初めて見る機械だったから時間がかかっちゃったよ」
具現化させた二つのスキャナーを持って下りていく優
「おまたせー。出来たよ」
「ありがと」
「サンキュ」
こうして、虹色三兄弟はスキャナーを手に入れた…

【プロフィール】
名前:虹色 詞音(にじいろ しおん)
性別:男
年齢:17歳
身長:160cm
体重: 48kg
職業:双綱高校軽音楽部
容姿:兄と殆ど同じ。こちらはいつもヘッドホンとマイクを付けている
能力:歌を歌う、または曲を演奏することで、その歌詞や音楽になぞらえた現象を起こすことが出来る
(例:ロンドン橋:橋を出現させ、崩して落とす、ゴ○ラのテーマ:ゴジ○を召喚、等)。また、音を具現化して攻撃できる
キャラ説明:性格は穏やかだが兄よりは明るい。兄同様ロリ&ショタコン。歌が非常にうまく、老若男女あらゆる声を出せる程
声域も広い。腹筋、肺、喉が他人より発達しているため、かなり長い時間歌っていられる。ポップス、ロック、演歌、オペラ、ラップ
、アニソン等、どんな歌でも歌える。また、楽器も得意で、管楽器、弦楽器、打楽器と、いろいろな楽器を演奏できる
常にキーボードを入れたバッグを持っている。また、声真似も得意
好きなもの:音楽、ロリ、ショタ、芸術的なもの
嫌いなもの:演奏の邪魔をする奴、20歳以上の女性、芸術的でないもの

【パラメータ】
(本体)
筋  力:C(腹筋はS)
敏捷性: D
耐久力: C(肺の耐久力はS)
成長性: C
(能力)
射  程:歌の内容による
破壊力: 歌の内容による
持続性: B
成長性: C
38虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/07(月) 09:09:34 0
【プロフィール】
名前:虹色 御伽(にじいろ おとぎ)
性別:男
年齢:16歳
身長:157cm
体重:45kg
職業:双綱高校アニメ研究会&図書委員
容姿:兄達と殆ど同じ。兄達よりも小柄。眼鏡を掛けている
能力:本やテレビの現象、登場人物、道具などを具現化できる(ただし二次元に限る)。媒体となる本やビデオを持っていないと使えない
また、本人や、本人が指定した人を二次元に連れて行くことも出来る。本の内容になぞらえた能力を使うことも出来る
キャラ説明:冷静で穏やかな性格。だが結構妄想力がある。読書好きでいつも本を持ち歩いている。活字の本もかなり読むが、
漫画、アニメ、ラノベが好きなオタクっぽい一面もある。本を読むのも好きだが、話を作るのも得意。速読が出来る

【パラメータ】
(本体)
筋  力:D
敏捷性: D(本を読む速さはS)
耐久力: D
成長性: C
(能力)
射  程:本の内容による
破壊力:上に同じ
持続性: B
成長性: C
39氷室 霞美 (代理):2010/06/09(水) 00:06:02 O
>>34
目標までおよそ1kmの道のりを、氷室は自動車顔負けのスピードで駆け抜けていた。
スキャナーに表示された目標との距離がグングンと縮まっていくが、
同時に氷室は、もう一つの反応との距離も縮まっていることに気が付いていた。
しかもその反応、氷室に負けず劣らずの大きなものである。
だが、敵ではない。カノッサの幹部である彼女には反応が誰なのかは大方の察しがついていたのだ。
「やれやれ」
氷室は敢えて“そいつ”に聞こえるように大げさに溜息をついてみせた。
それでも、既に彼女の傍まで接近してたそいつは、黒い髪を靡かせたその男は、
性懲りも無く軽く口元を歪めてキザったらしく一輪の花を彼女に差し出して言った。
「お久しぶりです霞美さん、早速ですが今日は手土産があります。
恋を占う花マーガレット、どうです私の恋の占いをしてくれませんか?」
氷室は無表情で花を受け取ると、
「嫌い、好き、嫌い、好き……」
と交互に繰り返しては一枚一枚、無造作に花びらを千切っていく。
これは最後に千切った花びらが「好き」であれば、
思いが成就するという古くから伝わる単純な占い遊びの一種である。
要するに、男は氷室自身に自分との恋の相性を確かめさせたいのだろうが……
「嫌い……」
男の思惑通りにいかなかったか、無情にも「嫌い」の一言を残して最後の一枚が千切られた。
ただ、実はこれは、氷室が予め花びらの枚数を数えていて、
敢えて最後に「嫌い」が来るよう逆算しての結果なのである。
「お目当ての娘はあなたのこと嫌いだってさ。
 言うまでもないと思うけど、占いは有料。口座に振り込んでおきなよ」
氷室は花びらのなくなった花を投げ捨てると、冷たく言い放った。
そうやって彼に対する心情をそのまま態度に表すも、
当の男は慣れっこといった感じなのか、それとも右から左といった感じなのか、
その微笑む顔に変化は見られない。
40氷室 霞美 (代理):2010/06/09(水) 00:07:20 O
そんな男の名は『棗 遼太郎』。上級ランクに位置するカノッサ構成員の一人である。
その実力と戦闘好きの性格から「カノッサの剣」と畏敬の念を持って呼ばれてはいるが、
一部ではそのキザな言動から「軟派くん」「女たらし」などと言われることもしばしばな、
氷室の性格からすれば溜息だけが出るような人物なのだ。
そこで氷室が
「……いつまで付いてくる気だ? 互いに油を売ってる暇はないだろ?」
と、任務という理由をつけて体よく棗を追い払おうとする言葉を口にするが、
その時、突然鳴り響いたスキャナーの電子音が、それを遮った。
自然、氷室の足が止まり、つられるように傍にいた棗の足も止まる。
スキャナーはこれまでとは違った方向に反応を、
それも非常に微弱な、極めて小さなものをキャッチしていた。

オーラはそもそも生物なら誰しもが秘めている潜在エネルギーである。
普段、オーラを体に纏っていない一般人でも何らかの拍子に体から微量に放出される例がある為、
あまりに小さい反応はオーラを認識してない一般人か小動物かとスルーされるケースが多いのだが、
今回に関しては、氷室はその小さ過ぎる反応が逆に気になった。
というのも、体に纏うオーラはその量を訓練次第で自在にコントロールすることが可能で、
小さい反応ほど逆に実力者であるという可能性も否定できないからだ。
特に、上級以上の異能者が容赦なく狩り出されるこの街ならば、それは尚のことであろう。
(反応は一つ……いや、同じ場所に二つか。一般人が偶然キャッチされたにしては出来すぎね)
棗を見て、氷室は自分が向かわんとしていた方向を顎でしゃくった。

「あの方向へ800m程先に私が追っていた異能者がいるけど、そこはあんたに任せる。
 私の所に来たのも他に感じた異能者が居なかったからだろうから、調度いいだろ?
 私は今キャッチした反応の方へ行く。
 何かあったら…………あ、いや、止めとく。
 連絡しろと言ったら、あんたの場合何もなくても、連絡入れてきそうだからね」

呆れたような視線を投げかけながら、氷室は棗に背を向け、小さな反応のもとへと走り去っていった。

【氷室 霞美:棗に向かう場所を指示し(相手はPCでもNPCでも構いません)自分は海部ヶ崎らのもとへ向かう】
41海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/06/10(木) 02:06:32 0
>>32
「逃げなかったのは……ただの好奇心です
あんなのを見るのは初めてでしたから
それにあなたたちが話していることに興味があって……」

(つまり、異能者じゃないってことですか。異能を知らず、しかも一般人の女の子があの光景を眺め続けていられたとは、
好奇心旺盛というか、怖いもの知らずというか……)

「教えてください
能力って何なんですか?
機関って何なんですか?」

「……ダメです。あなたには教えられません。」
少女の問いを、海部ヶ崎はハッキリと拒絶した。
それは海部ヶ崎と棗の出会い頭でのやり取りの様で不快な気持ちになったが、仕方が無いことだ。
ベンチから立ち上がって、彼女に背を向けると海部ヶ崎は拒絶の理由について説明していく。
「チカラも持たないあなたが、その二つを知るのは危険でしかありません。
 先ほどの光景を見ていたなら分かるでしょうけど、彼らは生半可な連中ではないのです。
 あなたが異能者だったのなら、教えることで身を守る手助けになりますけど、そうでないなら知らない方が確実に安全です。」

これは彼女の身を案じての事。それは彼女も分かってくれることだろう。
ただの女の子が興味本位で首を突っ込むには相手が悪過ぎる。不良やヤクザどころではない。
機関にとって殺しの一つや二つは、必要があれば即実行可能なことなのだ。
出会った間もないが、自分と同世代の少女が死ぬようなことは出来れば避けたい。
しかし…………

「……でも、己の命を危険に晒してでも知りたいという理由と覚悟があるのなら、私の知る範囲の事をお話します。」
振り返り、彼女の眼を真っ直ぐに見つめながらそう問いただした。
これはやはり甘さなのだろうか、と海部ヶ崎は考える。
しかし、何も知らないというのが辛い事だという事を自分は理解している。
何故なら、自分も無間刀と共に真実を求めにこの街に来たのだ。
『父の死』と、『父を殺した犯人』という真実を。

【海部ヶ崎:阿合 哀に問いかける】
42黒部 夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/10(木) 03:01:32 0
時間遡ること数時間前、角鵜野駅の改札口から出て来た大柄の男が居た。
名は、黒部夕護。
歩くだけで人目を引く程の巨躯の男は、外の眩しい光に一瞬目を細める。

(良い天気だな。長期任務は流石に辛かったが、…やっとゆっくり休めるか)

そんな事を思いながら、自宅のある方角へとゆっくり歩いていく。
彼の仕事はフリーのボディガード。呼ばれれば誰の護衛でも行う、さながら傭兵のような仕事である。
要人の長期海外視察に伴い、専属護衛として依頼を受け、この町に帰るのは実に2ヶ月ぶりだった。

(…しかし、なんだ。この町はもっと平和だった気がするが…)

(物騒な輩が多い。私が居ない間に、何か起きたのか?)

彼はオーラの多寡を肉眼で見ることが不得意であるが、経験からの勘が、すれ違う一般人の中に
高い戦闘能力を持つ者が居ることを告げていた。

(ふん、それに私についてくる者も5、6人…いや、もう少しいるか?)

(視線は感じるが、場所までは解らんな。さて、どうしたものか…)

そんな事を考えながらも、全く外見上に変化は無い。
しばらく歩き、大通りから人気が無い路地へと歩を進めていく。

――突如、一定のリズムで歩いていた彼の歩みが止まった。
周りに人気は…一般人の気配は無い。物陰からぞろぞろと戦闘員が姿を現す。

「けっ、食えねぇ男だぜ、あれだけのオーラを隠しもせずに纏い続けやがって、
俺らをおびき寄せる為のエサって訳かい。」

「だが、見ての通りだ、これだけいりゃぁあんたでも苦労すんだろ。俺らをハメるつもりで
路地裏に誘ったのが仇になったな!増援は呼んであるから、覚悟しろッ」

戦闘員達が言い放ち、全員が戦闘態勢に入る中、夕護だけが首を傾げていた。
43黒部 夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/10(木) 03:06:42 0

「…いや、路地裏というか、此処は私の家の前だが…お前達、仕事の依頼では無いのか」

一瞬の沈黙。何を言い出すのか、この男は。

「…オーラについてはすまない、隠し方を知らないんだ。誰かに習った訳でも無いからな。」

ぽりぽりと頭を掻きながら、本当にすまなそうに男は呟いて。

「どうやら私と闘うつもりらしいが、私は特にお前達と戦う意思は無い。出来れば見逃してくれないかな。それと…」

「今から仕事の依頼に切り替えてくれても良いぞ。?」

あっけに取られた戦闘員達だが、次第にその顔が怒りに染まる。

「黙って聞いてりゃ言ってくれるじゃねーか、増援なんぞ必要ねぇ、今此処で死にやがれッ!」

跳躍し、素早く夕護を取り囲む戦闘員。しかし夕護はため息を一つついただけだった。

「かかれェッ!」

ある者は背後から、ある者は飛び掛り、ある者は馬鹿正直に真っ直ぐ…そしてその攻撃は、
『彼の体に傷をつけられなかった』。
予想外の反動に、地面に叩きつけられる数名の戦闘員。何が起こったか解らない彼らに、夕護は静かに言い放つ。

「悪いな、私は過剰装甲(アルティメットシールド)…生半可な攻撃は意味が無いんだ。さて、今から正当防衛に入らせて貰う。」

彼の体の周りに、透明な箱型の障壁が展開されていた。それらは直ぐに消え去り、そして男は構える。
その拳は、決して素早くは無かった。ただ、オーラの強化も手伝って、圧倒的な、壊滅的な、その殴打の重さ。
まるでゆっくり迫る銃弾のように、対象に死を植えつけるほどの剛拳が、放たれた。
爆発のような、凄まじい音と共に、男の拳が近くに転がっていた戦闘員の顔の真横のアスファルトに突き刺さる。
障壁を拳に纏うことで攻撃力の増強と拳の防御を同時に行っていたのだ。

「おっと、外してしまったか。しかしお前達がまだこの町で戦うのなら…」

無表情のまま男は呟き、そして一言。

「次は、当てるぞ?」

数秒後、男の周りには人っ子一人居なくなっていた。

「…今のような奴等が街中に大量にいるとなると、まずいな。さて、私は誰を護るべきか…」

独り言。そして彼は町の中心部に向かう。
そこに強力な異能者の気配を、うっすらと感じ取りながら。
44阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/10(木) 18:19:55 O
>>41
「危険なのは……知ってますよ……」
哀は女性の眼を見つめかえしそう答える
「あなたのいうチカラというものなのかどうかはわかりませんが……
特殊な体質のようなものなら……あります……
といってもあなたやもう一人の男の人と戦って自衛できるほどのものでもないですが……」
哀は女性のことを信じ、自分のことについて話しだす
「毒に愛された女(ポイズネス)って知ってますか
結構マイナーな都市伝説みたいなんですけど……
それが私なんです
体が……厳密に言うと体液が毒なんです
今までこの毒で何人もの人を殺しました……
母もこの毒で私を産んですぐ……」
哀は少し下を向き自分の胸に手をあてる
「父は私の毒を知るとすぐ私を咸簑山に捨てました……」
咸簑山(みなみのやま)とは角鵜野市の南にある山である
「まだ幼かったので父のことはほとんど覚えてません
覚えているのは父の名前と最後に言った言葉のうちの三つの単語
『能力』『機関』『化身』だけです
それであなたたちの話にそのうちの二つが出たので気になったんです」
哀はまた顔をあげる
「私……父に会いたいんだと思います
ずっと父は私を捨てた悪いやつだと思って父を忘れようとしてきたんですが……
なぜか父を知りたいと、父が最後に言った言葉を最後まで思い出したいと思ってしまうんですよ
父を知れば父に近付けるから
だから知りたい
知りたいんです」

【阿合 哀:海部ヶ崎 綺咲に自分の能力と過去を打ち明ける】
45黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/11(金) 00:41:55 0
「向こうだな」

夕護は呟いて、更に足を進める。その時、向かう先には、氷室と棗が居た。
オーラを感知したのでは無く、ただ単に気配を感じただけ。つまりは勘である。
しかし、彼はこれまでそのような勘に多く助けてこられた事を自覚しており、
信じるに足る、と判断していた。

(…気配が薄くなった。分散したか。…何かと出会いそうな、そんな予感だな。)

(鬼が出るか、蛇が出るか…おっと、これは)

その距離、100m。向こうから歩いてくる、男に目を留めた。
黒髪のその名は、棗。

(…手強そうだな、これは…蛇か。)

誰が見てもわからない様な表情の変化。彼としては少し笑ったつもりなのだが。
驚くほどの無表情のまま、夕護は棗へと接近していく。そして。

「…すまない、お前は…この街の敵か、それとも味方か?」

ある程度近付いたところで、唐突に質問した。

「今日は何だか街がおかしい、オーラを纏った者がたくさん蔓延っている。
先程も私は襲われたのだが。…襲った奴の、仲間か?」

一歩、近付く。

「知らないならそれで良い」

更に、一歩。

「知っているなら、教えて欲しい」

歩くごとに、威圧感が桁違いに上がっていく。

「…仲間なら、即刻立ち去れ。」

厳然とした声が、棗に届いた。

【黒部夕護、路上にて棗 遼太郎と接触。】
46棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/06/11(金) 17:32:55 0
「お目当ての娘はあなたのこと嫌いだってさ。
 言うまでもないと思うけど、占いは有料。口座に振り込んでおきなよ」

そう言い花びらが無くなったマーガレットを放り投げる霞美。

「残念、振られましたか。
相変わらず可愛いお方だ」

遼太郎何食わぬ顔では立ち上がるとさりげなく霞美について行く。
そんな遼太郎の気配を察してか嫌そうな顔で霞美は振り返った。

「……いつまで付いてくる気だ? 互いに油を売ってる暇はないだろ?」
「あの方向へ800m程先に私が追っていた異能者がいるけど、そこはあんたに任せる。
 私の所に来たのも他に感じた異能者が居なかったからだろうから、調度いいだろ?
 私は今キャッチした反応の方へ行く。
 何かあったら…………あ、いや、止めとく。
 連絡しろと言ったら、あんたの場合何もなくても、連絡入れてきそうだからね」

「私のことをよく分かっていますね、嬉しい限りです。
そちらの方向にいる能力者は恐らく磁気を操る能力者です、先ほど戦いました。
手強いのでお気をつけて、あと今夜ディナーでも一緒にどうです?」

遼太郎の声が届いたか分からないまま霞美は走り去っていった。

「随分と嫌われているのか、それとも好意の裏返しですかね」

何とも気持ち悪い独り言を呟きながら霞美と反対方向に歩いていく遼太郎。
ふと目の前から強いオーラを感じた。
強いオーラを纏った男は遼太郎目指して一歩一歩近づいてくる。

「…すまない、お前は…この街の敵か、それとも味方か?」
「今日は何だか街がおかしい、オーラを纏った者がたくさん蔓延っている。
先程も私は襲われたのだが。…襲った奴の、仲間か?」
「知らないならそれで良い」
「知っているなら、教えて欲しい」
「…仲間なら、即刻立ち去れ。」

威圧感のある声、歩き方を見ても素人ではない事が分かる。

「おやおや、いきなり何ですか?
貴方を襲った人が誰なのか分からない以上私の仲間かどうかなんて分かりませんよ。
それと街の敵か味方かという質問にも答えかねます、街に聞いてみないと分かりませんから」

夕護の威圧感のある態度とは裏腹に微笑む遼太郎からはまるで威圧感は感じられない。
しかし、その笑みはどこか空々しいものがあった。

「貴方こそ何者なのです? この街の正義の味方とかですかね。
私が貴方にとって敵か味方か試してみますか?」

相手を馬鹿にするような態度で挑発する遼太郎。
戦うかどうか聞いておきながら遼太郎にはこの獲物を逃がすつもりなど毛頭無かった。

【棗遼太郎: 夕護に敵意があるかどうか聞く】
47黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/11(金) 18:09:54 0
「おやおや、いきなり何ですか?
貴方を襲った人が誰なのか分からない以上私の仲間かどうかなんて分かりませんよ。
それと街の敵か味方かという質問にも答えかねます、街に聞いてみないと分かりませんから」

空虚な声が通りに響く。

「貴方こそ何者なのです? この街の正義の味方とかですかね。
私が貴方にとって敵か味方か試してみますか?」

あからさまな挑発。そこに敵意と、そして言葉とは裏腹に逃がす気配が無いことを感じ取った。
しかし、彼の返答は決まっている。

「確かにそうだな、お前が敵か味方か、私を知るはずが無いのに答えられないのは当然だ、悪かった。」

さも当然のように頷きながら。
この状況でもマイペースを貫いていく。

「正義の味方、というのは違うな、雇われればどちら側にもつく…が、この街は居心地が良いのでね、
自分の為に騒ぎを鎮めに来た、といったところかな。そして試すのは…」

言葉を切り。

「よしておこう。私は専守防衛。お前から仕掛けるというのであれば別だが。それに、まだ情報が無い。出来れば逃がして欲しいものだ。」

そしてそのまま、棗を通り過ぎようとする。
彼にとっては、攻撃とは自己防衛の手段であり、自ら行うものでは無い。

「ところで、向こうの方に何か大きな気配を感じたのだが、…知り合いか?」

夕護の指差した先は、氷室が向かった公園の方角。

【敵意は今のところ無し】
【黒部夕護:遼太郎に逆に質問する。】
48氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/06/11(金) 21:11:51 0
>>41>>44
角鵜野市中央区から少し南に外れた場所にある小さな公園。
そこに、二人の人物がいた。
一人は無地の野球帽を被った長身の女性に、
もう一人は日本人らしい黒髪を短く切りそろえた同じく女性である。
二人とも年齢は10代後半といったところだろうか、とにかく若い。
先程から何かについて夢中で話し込んでいる様子だが、
どうやらその内容は、年頃の女性が嬉々とするような、世間話や雑談の類ではないらしい。
そう、雰囲気からすれば、むしろ神妙な、深刻な話の類であるようだ。
だが、会話に熱中するあまりか、二人はまだ気が付いていなかった。
その話以上に深刻な事態が自らに差し迫っていたことに……。

「お話はすんだかしら?」

突然の声に、そしてその声の方向を振り返ってみて、二人は驚いただろう。
何せ二人のいるベンチから僅か数メートル後ろという位置に、
いつから居たのか、一人の女性が腕を組みながら二人をじっと見据えていたのだから。
何を隠そうこの女性こそ氷室 霞美。
そして彼女ら二人こそ、氷室のスキャナーが捉えた異能者であった。
氷室のスキャナーが自動的に二人にセットされ忙しく詳細データを導き出していく。

「異能値(オーラレベル)50に65……」

異能値とは体外に放出されたオーラの量を計測し数値化した値である。
中級クラスの異能者の場合でも、全力時に纏う異能値は平均しておよそ400程度、
通常時でも200前後と言われているから、二人のその値は驚くほど低いものだ。
それこそ偶然放出し体に纏うに至った一般人と見られても仕方がない。
それを狙って敢えてオーラを抑えているのだとしたら実に巧妙であるが、
それも見た目の数値に相手が騙されればの話であって、
氷室のようにその目で直に確かめようとする人間には、通用しないのだ。

「さて、本当にこの数値の通りかどうか確かめなきゃね。
 力を隠し持ってるなら出し惜しみはしない方がいい。実力を出し切れないまま死にたくないだろ?」

鋭い眼光を二人に叩きつけながら、氷室はゆっくりと一歩、また一歩と歩み寄る。

【氷室 霞美:海部ヶ崎らと接触】
49海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/06/13(日) 00:11:00 0
>>44>>48
……そうか。彼女が求めていたのも私と同じ、父の真実だったのか。
彼女の父が機関の関係の人間ならば、あの人に聞けばなにか分かるかもしれない。
それに化身というのも気になるし、一度あの人に連絡を取ってみるか。
その旨を伝えようとしたが、お互いまだ名前も知らないことに気付いて先に自己紹介を行うことにした。
だが、それは新たな声によって阻まれる。

「お話はすんだかしら?」

振り向くと声の主は海部ヶ崎達の僅か数メートルの所に立っていた。
紫のジャージを着用し、腕を組んだ体勢でこちらを窺っている。
(ッ!! さっきの機関の男と同じで能力か何か? いや、これは違う)
単純に格が違う……今の私では確実にヤられる。それを一瞬で思い知らされた。

「異能値(オーラレベル)50に65……
さて、本当にこの数値の通りかどうか確かめなきゃね。
 力を隠し持ってるなら出し惜しみはしない方がいい。実力を出し切れないまま死にたくないだろ?」

どうやらこちらがオーラを隠していることに各章は無いらしいが、“殺す”ことは決まってるらしい。
(さっきの言葉通りだと、彼女があのジャージの女性と戦うのは無理だ。逃げるとしても、先程よりキツイこの状況では……)
考えている間に一歩ずつ、一歩ずつとジャージの女性は近づいてきている。
この状況で海部ヶ崎が思い浮かんだ手段は一つしかなかった。

「数値? 力? 私にはあなたが何を言ってるのか分かりませ……」
そう言い終える前に海部ヶ崎は二つの行動に出た。

一つ、公園の周りのグリーンネットを張っている鉄の支柱、計八本を『飛花落葉』でジャージの女性に発射する。
金属製の重低音を響かせ、鉄柱は標的の周辺に突き刺さりグリーンネットのお陰もあって数秒だが視界を奪う。

二つ、背後の少女に「逃げてください。後で絶対に合流しますから」と告げてベンチごと公園の外へ『飛花落葉』で発射する。
ベンチは少女を落とさぬように少し傾きながら、低空飛行で疾走し、そのまま住宅の影へと消えた。

この二つを同時に行うことの意味は単純。少女を逃がし、その後の逃走時間を稼ぐためだ。
ジャージの女性の方に向き直ると、当然ながら簡単に鉄柱とネットの塊から脱出していた。
「……どうして機関の人間は会話の邪魔ばかりするのでしょうか…順番ぐらい守ってください。」
右肩に背負っているギターケースをぐるん、と縦に一回転させるとその一瞬でケースから抜き身の刀を取り出した。
それからギターケースの紐をタスキ掛けにすると、刀を両手で構える。
(能力使用による疲労は無いけれど、さっきの機関の男にやられた脇腹が多少痛むか。
逃げるのがよさそうだが、戦いに集中しなければ、一瞬で決まってしまう……!!)
死ぬわけにはいかない。
彼女の父への道を探してあげるまで、そして何より私の父上の真実と無間刀を取り戻すまで――――

【海部ヶ崎 綺咲:阿合 哀を逃がし、氷室 霞美と対峙】
50名無しになりきれ:2010/06/13(日) 13:48:36 O
「お話はすんだかしら?」
後ろから突然声が聞こえる
驚き後ろを見ると顔に異様な機械をとりつけた女性が立っていた
「異能値(オーラレベル)50に65……
さて、本当にこの数値の通りかどうか確かめなきゃね。
 力を隠し持ってるなら出し惜しみはしない方がいい。実力を出し切れないまま死にたくないだろ?」
その言葉を聞きバッグの中に手を突っ込みナイフを二本つかむ
(戦わなきゃ……多分逃げられない……)
ナイフをバッグからだし太ももを切る
太ももには二本の平行な傷ができ、ナイフには哀の血液がつく
そしてそのナイフを後ろにいた女性に向けようとしたとき
「数値? 力? 私にはあなたが何を言ってるのか分かりませ……」
公園の周りのグリーンネットを張っている鉄の支柱が飛んできて後ろにいた女性のまわりにささる
「逃げてください。後で絶対に合流しますから」
先程まで横にいた女性がそう話し掛けてきたかと思うとベンチが動きだす
哀はそのベンチに乗り飛ばされる
(私を逃がすために……)
哀は自分の血液がついたナイフをベンチの元の位置の方に投げる
「使ってください」
そう叫ぶと哀はベンチとともに住宅の影にに消えていった

【阿合 哀:自分の血液のついたナイフを残し逃げる】
51阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/13(日) 13:49:16 O
また名前忘れ
52棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/06/14(月) 17:37:43 0
>>47
「確かにそうだな、お前が敵か味方か、私を知るはずが無いのに答えられないのは当然だ、悪かった。」
「正義の味方、というのは違うな、雇われればどちら側にもつく…が、この街は居心地が良いのでね、
自分の為に騒ぎを鎮めに来た、といったところかな。そして試すのは…」
「よしておこう。私は専守防衛。お前から仕掛けるというのであれば別だが。それに、まだ情報が無い。出来れば逃がして欲しいものだ。」

そう言い、遼太郎の横を通り抜けようとする夕護だったがふと思い直したように止まり、先ほど分かれたばかりの霞美を指さし口を開いた。

「ところで、向こうの方に何か大きな気配を感じたのだが、…知り合いか?」
「ええ、私の美しい上司ですよ、でも照れているのか中々構ってもらえないのですよ」

両腕を大きく開き、首を振りながら苦笑する遼太郎。
そして、遼太郎の横を通り抜けようした夕護の前に再び回り込む。

「貴方はこの街が好きなら何もしない方が良いでしょう。
それでも何かを探るのでしたら・・・・・・」

刹那、遼太郎は夕護に肉薄すると、その大柄な肉体へと蹴りを叩き込む。
夕護は微動だにせず、それを受ける、綺咲を吹き飛ばしたのとあまり威力は変わらないはずだったが夕護は1ミリも動かなかった。

「消しますよ、って言おうと思ったのですが・・・これじゃあかっこつきませんね」

自分の攻撃が通用していないことを感じた遼太郎はすぐ夕護から距離をとる。
そして拳を構え夕護と相対する。

「正当防衛はするのですか?」
【棗遼太郎:夕護に戦いを挑む】
53氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/06/14(月) 18:04:09 0
>>49>>50
ピピ!

スキャナーが発した電子音に、氷室は思わずその足を止めた。
ほんの僅かな一瞬の内に、長身の女性の異能値が、大きく跳ね上がったのだ。
必殺技を持つ異能者は、その技を発動する瞬間、
どうしても平常時より多くのオーラを練らなければならない。
威力の高さはオーラの使用量に比例するからだ。
(──さて)
故に氷室の視線が、女性の一挙一動に注がれることになったのも、至極当然の流れであった。
「──!?」
しかし、不意に眼前を緑の網が覆う。
反射的に後方にジャンプするも、時既に遅し。
氷室の体を囲むように配置されていた網は、彼女の行く手を完全に阻んでいた。
(これは──公園の周囲に張られていたネット! あいつが操作したのか!)
攻撃の瞬間を見極めんと自らの視界を狭めてしまったことが、
かえって攻撃を許す要因となってしまったのだ。
だが、それでも氷室に微塵も動揺はない。
氷室は手刀の形に変えられた手で素早くネットを切り裂いて見せた。

「何のつもりだ? こんなもので私を……」
言いながら、再び女性に視線を向けた氷室は、その目を一瞬大きく開けた。
そこに立っていたのはどこから取り出したか、いつの間にか刀を構えていたあの長身の女性。
いや、驚くべきはそこではない。もう一人の、あの黒髪の女性がいないのだ。
スキャナーの表示を確認すると、一つの反応が高速で氷室から離れていっている。
咄嗟にその方向を見るが、既に建物の影に入ってしまったのか、彼女の姿は視認できなかった。

「……逃がす為の時間稼ぎか……」
氷室は小さく舌打ちしながら呟いた。
だが、その言葉に悔しさや怒りは滲んでいない。
スキャナーさえあれば、いずれは探し出せるからだ。
「だけど……私の動きが止まったあの一瞬の時間を攻撃に使わなかったのは間違いだったな。
 さっきの異能値がほとんど全力時のものだったとしたら、これから先、あんたに勝ち目はない。
 私の隙を突かない限りは……ね」
「フッ」と小さく笑い、またジリジリと距離を詰めていく。
「でも、私はもう隙を作らないし、作らせない。
 もっとも、まだ力を隠してるんだとしたら話は別かもしれないけど……さて、どうかな──?」

瞬間、氷室の足元で粉塵が巻き上がった。
同時に彼女の姿がその場から消え、次の瞬間には、女性の背後に回り手刀を繰り出していた。

【氷室 霞美:戦闘開始】
54黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/14(月) 20:34:12 0
「貴方はこの街が好きなら何もしない方が良いでしょう。
それでも何かを探るのでしたら・・・・・・」

回り込まれた、その事を認識する。そして、放たれる鋭い蹴り。
生身での防御は間に合わず、反射的に夕護は体の周りに障壁を張った。
速く、そして重い衝撃。
障壁に受けたダメージ量から、戦わずに去れるような甘い相手では無いことを読み取る。

「消しますよ、って言おうと思ったのですが・・・これじゃあかっこつきませんね」

そして、反撃の隙も無く身を引くという、徹底した戦い方。
夕護は解る者にしか解らない僅かな苛立ちの色を見せる。
本来なら、この段階で能力を悟られるようなヒントは出さなかった。
しかし、能力を発動「させられた」のだ。

「正当防衛はするのですか?」

その問いに。

「…しなければ、此処から帰れそうに無い、な。…『纏拳』」

苦々しく答えると同時に、薄青の光が彼の体を包み込んだ。
踏み込み、開いた距離を詰める。
一歩ごとに足元のアスファルトが弾けて散る。

「それに私に攻撃するならば、戦わぬ理由も無いだろう」

片手を引き、拳を開く。
押し出すような動作で、前に突き出す。

「まずは蹴りのお返しだ、――『衝打』ッ!」

小細工無し。ただただ真っ直ぐな攻撃を繰り出す。
青い光に包まれた掌が、棗を弾き飛ばそうと迫る。
55海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/06/17(木) 02:29:05 0
>>50>>53
「使ってください」
その叫びと共に、先ほどまでベンチがあった場所に二本のナイフが残された。
(彼女の血が付着している? 彼女の能力は体液が毒であること、ならこれは毒塗り刃か)
視線の端でそれを捉えると、ナイフは金属製のベルトの装飾に吸い寄せられ、海部ヶ崎の腰に固定された。

「……逃がす為の時間稼ぎか……」
「だけど……私の動きが止まったあの一瞬の時間を攻撃に使わなかったのは間違いだったな。
 さっきの異能値がほとんど全力時のものだったとしたら、これから先、あんたに勝ち目はない。
 私の隙を突かない限りは……ね」
「でも、私はもう隙を作らないし、作らせない。
 もっとも、まだ力を隠してるんだとしたら話は別かもしれないけど……さて、どうかな──?」

「……機関の人間はよくしゃべる」
小さい声でそう呟いた直後、ジャージの女性が粉塵を残して視界から消失する。
正確には粉塵をおこした後、姿を消したのだが、一瞬の出来事にその二つが同時に起きたかのように見えた。

そして、背後からの殺気。

(後ろ……っ!!)
とっさに身を捻り、相手の攻撃を紙一重で逃れる。
(手刀!? さっき、容易くあの網を切り裂いた……)
海部ヶ崎はそのまま体の向きを半回転させつつ、その回転を利用して相手の首へ横一文字に刀を振る。
しかしそれは予測されていたかのよう避けられ、刀は虚しく空を切った。
至近距離は危険だと判断し、即座にバックステップを踏んで相手と約二メートルの間合いを取る。
それはたった数秒の間の出来事だった。
だが、この一連の動作が海部ヶ崎にある決心をさせた。

「……ダメですね。どうやら私の考えは甘かった」
その発言と共に海部ヶ崎は肩に背負っていたギターケースを自分の目の前に突き立てた。
そして金具を開けつつ、
「予想以上に私とあなたとの差は激しい。だからいきなり全部使う破目にはなりたくありませんでしたが、仕方ありません。
…………一気に全力です」
その台詞と同時に通常より大きめのギターケースの内側より銀色の突風がジャージの女性へ吹きぬける。
一直線の軌道の為、その線上を離れることで簡単に避けられる。
ジャージの女性が銀の風の軌跡を眼で追うと、そこには風の正体が姿を現していた。
それは刃。
手斧、剣、ナイフ、鎌、日本刀、刀身のみの刃―――――
どれもがゲームや漫画で見かけるサイズよりは一回り小さいものだったが、刃の光は充分の威光を放っている。
そしてそれらはまるで棘の如く、切っ先を全てジャージの女性一点に向けられている。
その刃たちのうちの一本の剣の上に、ケースを背負い、刀を持った海部ヶ崎がジャージの女性を見下ろしている。

「……いきます!!」
その声と共に海部ヶ崎は地を駆けて、相手へ突進する。
そしてその周りを無数の刃たちが直線かつ、不規則に飛び交う。
それはまるで刃の鎧。切り裂くではなく、突き刺すことを重点とする攻撃。
宙を舞う無数の刃は相手の動きを封じ、手に握り締めた刀が命を狩る。
刃の嵐に身を包み、海部ヶ崎は自分の持てる力の最大に近い技を放つ。

百花斉放――――――!!

【海部ヶ崎 綺咲:氷室 霞美に攻撃】
56氷室 霞美@代理:2010/06/18(金) 06:38:53 O
>>55
できうる限り気配を殺し、電光石火の如く素早く突き出された手刀。
並の異能者であればとてもかわせるものではないだろうが、
女性はそれを紙一重とはいえ、無傷でかわしてみせた。
氷室は反射的にフリーのもう一方の手を女性がかわした方向へと差し出しかけるが、
目は、銀色の光が横に弧を描いて迫ってきているのをしっかりと捉えていた。
手を引っ込め、咄嗟に顎を浮かせて背を反る氷室。
人間の身体など容易く切り裂く銀色のそれは、
正に閃光の如くのスピードで氷室の喉元を掠め、彼女の視界から消えていった。
体勢を戻した頃には、女性は既に彼女から二メートル程離れた位置に移動していた。

氷室が粉塵を巻き上げて姿を消してから、僅か2.8秒程の短い攻防。
それでも、氷室は女性に対して、予想以上の手応えを感じていた。
(一瞬の殺気を感じ取り、あのタイミングで放った手刀をかわすとはね……)
殺気と呼ばれる気配をほんの刹那に抑えることのできる氷室の奇襲──
それを無傷でかわし、間髪いれず反撃に転じる……これは中々できることではない。
今度は氷室の口元が弧を描いた。
ガラにもなく、まるで久々に出会えた強者(つわもの)との戦闘を楽しむかのように……。

「予想以上に私とあなたとの差は激しい。だからいきなり全部使う破目にはなりたくありませんでしたが、仕方ありません。
…………一気に全力です」
女性の目つきが変わった、その瞬間、またしても銀色の光が……
いや、銀色の光を纏った風が、氷室の横をかすめて吹きぬけた。
その正体は、古今東西のあらゆる刃を揃えていると言っていい、“刃物の一群”だった。
その内の一つの剣に女性が飛び乗るのを視認すると同時に、スキャナーは再び数値の上昇を告げた。
(────)

「……いきます!!」
女性が叫び、剣に乗ったまま突進を開始する。
同時に他の刃達もその切っ先を全て氷室に向け、不規則に舞いながら接近する。
氷室はバックステップをしながら一本、一本、迫る刃を流れるような動きでかわしていく。
「……!」
だが、不規則な動きをする刃の軌道をそう容易く見切れるものではない。
刃の切っ先が小さく頬を切り抜け、また右腕のジャージの裾を裂く。
これではいずれ急所に突き刺さるのも時間の問題である。
とはいえ、刃の嵐に身を包む本体に切り込むのも、そう容易な話ではない。

「仕方ない」
そう呟くと、氷室はその足を止めた。
途端に周囲に蠢く刃達が隙ありといわんばかりに一斉に向かう。
しかし、氷室はその瞬間を待っていたかというようにゆっくりと両手を刃に向けると、
素早く腕を横に振り抜いた──。
57氷室 霞美@代理:2010/06/18(金) 06:41:21 O
──ギャキィィィイイイイイン……ッ!!

瞬間、金属音が辺りに轟き、銀色の鉄の破片が周囲の空間に舞い上がる。
ある刀は刀身ごと吹き飛ばされ公園の遊具や地に突き刺さり、
ある剣や鎌は切っ先を切断され無残に落下した。

「能力は使わない気でいたんだけど、私も甘かったよ。まさかこれ程の量のオーラを操作するとは」
と言って女性に見せ付けたその手の指先からは、透明な刃状のオーラが形成されていた。
『アークティッククロー』──氷室の能力である冷気を刃状に圧縮。
それを指先に形成することで鋭い爪を持つ猛獣が如くの斬撃を繰り出し、
敵の体に裂く・凍るの二つのダメージを同時に与える技である。
ただ、どれ程の威力を持っていても、媒体は柔らかい生身の手。
不規則な動きをする刃の動きを見誤ったか、右手の甲は真一文字に大きく切り傷をつけられていた。
氷室はその傷をペロリと舌で舐めると、再び女性の視界から姿を消した。
そして彼女に視認されるより早く、氷室は冷気の爪を彼女の左脇腹に繰り出した。

──ビリィィイ!

服の裂ける音が響き、四つの爪跡が彼女の脇腹に残る。
しかし、それは深くはない。瞬間的に腰を捻ったか、傷はかすった程度のものに過ぎなかった。
間髪入れずにもう片方の左手で今度は腹部の中心目掛けて爪を差し出す。
それも今度は刀で弾かれる。だが、その時には既に、
初めに繰り出された右手が心臓部の左胸目掛けて振り下ろされていた。

──ズバッ!

今度は浅くは無い。
彼女の左胸から腹部中心にかけて、傷口が凍りついた大きな爪跡がくっきりと刻まれた。
だが氷室にも息をつく間はない。彼女の反撃も必死である。
元々、二人は総合的な身体能力では思ったほど大きな差はない。
無傷でかわすことは難しいと判断した氷室は、終いには後方に大きくジャンプをして距離をとった。

「どこで身に着けたか知らないけど、全く見事な腕よ。
 カノッサ四天王の一人、この氷室 霞美に対して真っ向から闘える力があるなんてね。
 ……あなた、一体何者?」

【氷室 霞美:名を訊ねる】
58名無しになりきれ:2010/06/18(金) 22:23:50 O
    . . ....-‐…‐-. . .. .
                        /.:.:.:::::゚.::::::::::::/.:::::::::::`: . .、
                        , ′.:.:.::::::::::::::::::/.:::::::::゚:::::__:::::丶
                          /:::::::::/'ヽ.::::::::::::::::::::::::::::7/:__::::::ヽ
                      /::::::/  ノ.:.:::::::::::::::::::ヘ.Bay ★::::::::}
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                        j/    /___::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
                   /   ∠;;;;;;;;ヽ、 ̄ ̄ ̄ ゙゙゙̄ー―-=ニ:/
                   / ー''"´  Y/´ \、:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
                 /´     ̄ ̄`ヽ}′   `::-ニ二三三三三二ニ丶
.                /     )ーく  }      .,;;;;;;;;:=''"/,,,  ヽ三三::ヽ
               /     厂  ゝ {、     -・=ュ ; | "''=:;;;ヽ ーニ彡′
               ,.ヘ/     /`ヽィ八 ノノ     、__ノ.  | r・=-/
               /:::::::\   /     /   ヽ、    i. |ヽ__ノ
           ,../::::::::::::::::::\     /;;.,       ィ´ ' .ヽ r'
        ,.く::::\::::::::::::::::::::::\ ...イ::.、\; ....       `⌒iT゙ /
       /::::::\::::\::::::::::::::::::::::>'\\:`::::ヽ:.;.....   ,_ノ_二ヽ
      /.::::::::::::::::ヽ.:::::ヽ.:::::::::::/ヽ.\\\:::::::`ト ;;.:;.:.ヽヾ土|ナ゙/
    /.:::::::::::::::::::::::::::\.:::\ノ    ヽ.\\\{:川::::\ \__,.ノ
59棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/06/19(土) 16:02:55 0
>>54
「…しなければ、此処から帰れそうに無い、な。…『纏拳』」
「それに私に攻撃するならば、戦わぬ理由も無いだろう」
「まずは蹴りのお返しだ、――『衝打』ッ!」

オーラを纏った拳が遼太郎へと迫る。
馬鹿正直な直線的な攻撃、常人なら避けるのも難しい攻撃ではあったが遼太郎には何てことのない攻撃だった。
その攻撃を避けると直ぐに反撃体勢に入り、拳と脚での連撃を叩き込む。
完璧に攻撃後の隙をついたはずであったが、全て何かに防がれていた。

「これはやっかいですね。
私の攻撃が何も通用しない、このまま戦っても私の体力が先に尽きることは明白ですね」

遼太郎は懐からナイフを取り出す、そして夕護に投げつける。
しかし、またもや効果がない、夕護が防御するまでもなく外れたのだ。
ナイフは夕護の後方の地面に突き刺さっていた、夕護の影が伸びている地面に突き刺さっていた。
ふいに夕護の肩が切れ、血が滴る。

「影縫い。
貴方が守らなければならないものは自分の身体だけではありませんよ」

遼太郎は素早く夕護に肉薄し、蹴りを繰り出す。
夕護はまたもそれをオーラで防ぎ、カウンターとして遼太郎の脇腹へと拳を振り下ろす。
遼太郎は身体を捻り回避を試みるが、攻撃直後では上手く避けられず直撃とまではいかないものの吹き飛ばされる。
その時にナイフを回収すると、再び構え直す。

「中々重い攻撃ですね、結構効きましたよ。
さあ次は何も見せてくれます? もっと私を楽しませてください」

【棗遼太郎:戦闘中】
60阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/20(日) 22:09:54 O
――――PM00:00 角鵜野駅
「こっちにも……」
公園から逃げた哀は角鵜野駅で物陰に隠れていた
哀の太ももには包帯がぐるぐると巻いてある
「なんでこんなに……」
角鵜野駅にはオーラを持った人が多く集まっていた
たまに先ほども見た機械を顔につけている人もいた
哀はそのような人を見るたび息を殺し身を隠した
逃げないといけない
でもどこに逃げればいいのかわからない
哀が唯一知っている逃げ場所は咸簑山だけである
咸簑山に行く一番楽な方法は今いる角鵜野駅から電車で咸簑駅まで行く方法である
しかし今はそれも難しい
バスやタクシーなど他の交通機関を利用すればいいのだが哀は電車以外に乗ったことがない
(歩いて咸簑山までか……頑張ってみるか……)
哀は角鵜野駅の外に出て、歩きはじめる
(あの人……大丈夫だよね……)
自分を逃がしてくれた女性の無事を祈りながら哀は歩く
(また会える……絶対に)
哀の歩く速度が少しずつ速くなり、しまいには走りだす
61海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/06/22(火) 12:34:03 O
>>56-57
『百花斉放』は海部ヶ崎がギターケースに隠し持っている武器を全て使用する大技。
使用する武器の総数二十三。総重量四十キロもある鋼の刃たちはこの時代、この国では異質な存在だ。
この手の非実戦的な武器は主に、カノッサ機関などが属する“裏の社会”に流通しており、それには異能力が関係している。
異能力者が珍しくない“裏社会の人間達”の戦闘において、銃火器はオーラの使い方次第で簡単に捻じ伏せられるものなのだ。
その為オーラの使い手達は戦闘の主軸や補助に、銃よりオーラの力を付加しやすい打撃の武器を選ぶ。
斧や刀、鎌などの武器を『そういう理由』で作る職人や密造者が多く存在する。
海部ヶ崎が所有している複数の武器もそのなかでも一級品の業物なのだ。
だが、

「仕方ない」
──ギャキィィィイイイイイン……ッ!!

激しい金属音と共に、刃の嵐はガラス細工のように砕け散った。
青髪の女性はオーラを手に集中させ、それを刃のように操ったのだ。
その刃によって砕かれた断片はまさに花弁のように辺りに降り注ぎ、無残な姿へと変貌した。
実戦の回数はまだ多くはないにしろ、今まで海部ヶ崎の戦闘スタイルの主軸を担っていた武器たちが……あっさりと砕けたのだ。

「能力は使わない気でいたんだけど、私も甘かったよ。まさかこれ程の量のオーラを操作するとは」

八割方、武器としての命を絶たれた己の獲物を見つめていた海部ヶ崎は青髪の女性の声にハッと我にかえる。
(駄目だ、駄目だ。武器はまだ残っている。まだ戦える……)
技が通じないのと、武器があっさりと破壊された事実に怯んだ海部ヶ崎だったがすぐさま構えを整えた。
相手は見たところ、頬や手の甲、それにジャージが所々裂けたこと以外ほぼ無傷と言ってよかった。
しかしこちらも戦力は削がれたものの、今の攻撃では傷は負ってはいない。
そして青髪の女性が自らの手の甲の傷を軽くなめた後、再び姿を消す。

──ビリィィイ!
海部ヶ崎の黒いタンクトップの脇腹にあたる部分が裂け、白い肌が露出する。
それはダメージには繋がらないにしろ、手刀での攻撃時と違い“命中”している。
(スピードが上がった!? 完全に避けきれな……)

──ズバッ!
「くぁ…………!!」
氷の爪痕が海部ヶ崎の体へ袈裟懸けに深く刻まれ、出血に至るよりも速く凍結する。
ギターケースの紐も同時に断たれ、ケースが鈍い音をたてて地面に落下した。
そのたった一撃で、一気に形勢は不利なものへと変わってしまった。
追撃を許さん、と刀で反撃を行うも、あと一歩のところで届かない。
その攻防も長くは続かず、敵にバックジャンプで大きく距離をとられてしまった。
着地際に攻めようも、体が傷のせいでそこまで瞬時に動いてくれなかった。
62海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/06/22(火) 12:36:19 O
「どこで身に着けたか知らないけど、全く見事な腕よ。
 カノッサ四天王の一人、この氷室 霞美に対して真っ向から闘える力があるなんてね。
 ……あなた、一体何者?」

(……四天王? 確か機関のトップ4のこと……道理で強いはずだ…くっ…!!)
斬撃と凍傷の痛みに気力と体力をどんどん削られて、既に海部ヶ崎は体力の半分近くを奪われていた。
さらに凍結時に出来た氷が血液の循環を妨げ、出血もしていないのに貧血に似た症状を起こし、思考にまでダメージを与えていた。
そんな状態でも、海部ヶ崎はゆっくりと口を動かした。
インフィニット・セイバー
「『幾億の白刃』という二つ名を持った剣士を、あなたは知っていますか?」

『幾億の白刃』
それは八年程前に消息を絶つまで、裏の社会でフリーの殺し屋の中では最強を謳われた一人の異能者で剣士の男の名だ。
殺し屋の名が売れてしまうのは喜ばしくない事なのだが、異能力という目立つ武器を使うため仕方がない。
しかしその剣士の戦闘時、又は戦闘後の光景は目立つどころではなく、一度見たら忘れる者は居ないとされる。
何故なら、剣士が去った後の戦場は、標的も、護衛も、異能者も、全てが剣によって作られた墓標の下敷きになっていたのだ。
草原の様に地に刺さっている幾億の刃は見た者に強烈な印象と、恐怖を与え、そこから『幾億の白刃』と渾名された――――
そういう、剣士が居たのだ。
八年前に消息を絶ってから、裏の社会では病気かなにかで死んだのだろうというのが定説だった。

「私は知ったんです。実はあなた達カノッサがその剣士を殺したことを、そして剣士が所有していたある刀を手にしたことを。
 私は、ただそれを求めてこの街に来た、武器収集家ですよ」

最後の一言だけは嘘である。
下手に関係をバラして、警戒されては“この先”やりづらくなる、とこの戦いの後も見据えてのことだった。
海部ヶ崎は腰に手をやると、逃がした少女が託したナイフを一本握り締め、刀と変則的な二刀流で構える。
(相手はこれが毒付きだとは分からない筈…その隙を狙えば……)

「こっちも疑問なのですが、あなたのように強い機関の人間が何故こんな街中でいきなり戦闘を行うのです?
 さきほどもあなたに勝るとも劣らない、自称紳士の機関の人間を見たのですが、やはりいきなり戦闘を仕掛けられました
 一体、この街で何が始まるのですか?」

【海部ヶ崎 綺咲:二刀流で構えつつ、質問する】
63黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/23(水) 23:54:12 0
(切られた、ナイフ…ッ!?障壁が破られたか…いや、明らかに弾いたはず。)

ふいに訪れた不可解な攻撃に、夕護は思考する。纏拳は自分の体の周りに障壁を纏う、つまり破られれば全体の障壁が消えるはず。
しかしそのような形跡は無く、切られたタイミングは弾いたナイフが地面に落ちたと同時。つまり――

「影縫い。貴方が守らなければならないものは自分の身体だけではありませんよ」

(――影、か―――ッ!)

厄介な攻撃だ、と夕護は考える。その体躯故に影の面積は大きくならざるを得ない。今が昼で助かっているようなものだ。

(恐らく、影と敵本体を同調させて攻撃を行うような技。
本体で無いナイフでも効果があるならば、本体と影の接触は何が起こるか解らんな…)

纏拳により近接戦闘では絶対的な優位を持つ夕護だが、このような攻撃を防ぐような手段を彼は持たない。
また、纏拳自体が非常にオーラの消費が激しい。座標を固定した単純な障壁で無く、動きを捕捉し続ける、高度な技。
それ故にこの状態は長くは続かず、またダメージを受けても消耗していくのだ。

(向こうの体力切れか、こちらのオーラが切れるか、このまま待っていては危ない、な)

棗の繰り出したナイフを、影への攻撃をされないよう逆方向に右手で弾き、左手で肩へ手刀を振り下ろす。
棗は攻撃した体勢から見事な足捌きで手刀を交わし、更なるカウンターとして上段への蹴りを放つ。
それを夕護は『障壁で』防いだ。体に接触する前に止められた攻撃、タイミングをずらした棗へと夕護の大振りな攻撃が襲う。

拳の軌道は見え見えだった。棗は難無くそれを下がって避ける――が。

「『障壁』展開。先程は避けられたが…」

ふいに棗の背中に衝撃が走る。棗の後ろに展開された障壁が退路を断っていた。
そして両脇に横への回避を妨げる2枚の障壁が展開される。人工的な青い光を放つ袋小路。
夕護の右手を覆う青い光が明るさを増す。片腕を引き、そしてその掌を押し出すように…

「今度はどうかな?…『衝打』ッ!!!」

攻撃が放たれた。

【黒部夕護:引き続き戦闘継続】
64虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/24(木) 17:40:45 0
今日は学校が休みなので久しぶりに三人で散歩に出かけることにする
「今日は何事も無いと良いけど…」
優がそう呟く。
「そうだね、なるべく物騒なことには巻き込まれたくないし」
「同感…」
詞音、御伽も続く。
「まあ、あまり目立つような行動は控えた方が良いね」
「他の能力者に狙われたらまずいし…兄さんみたいに」
「わ、悪かったよ! でもしょうがないだろ!? 子供が困ってて助けない方が無理だよ!」
「そうか…なら仕方ないね」
仲良く話しながらいつものコースを歩く虹色兄弟。
そう、このまま何も無ければいつもの日常。いつもどうり家に帰っておやつを食べて。
ゲームやらをして遊び、宿題を終わらせ、夕飯を食べてお風呂に入って歯を磨いて寝る。
何事も無く一日が過ぎていく。それを彼らは願っていた…
【虹色優、詞音、御伽、角鵜野市を徘徊中】
65氷室 霞美@代理:2010/06/24(木) 23:39:06 O
>>62
インフィニット・セイバー
「『幾億の白刃』という二つ名を持った剣士を、あなたは知っていますか?」

女性の口から出た思いもよらぬ名に、氷室は一瞬、眉をピクリと動かした。
知らないはずがない──
『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』とは、
今から八年ほど前に『無間刀』なる刀を所有していたが為にカノッサと対立し、
氷室ら四天王によって殺された有名な殺し屋の二つ名である。

「私は知ったんです。実はあなた達カノッサがその剣士を殺したことを、そして剣士が所有していたある刀を手にしたことを。
 私は、ただそれを求めてこの街に来た、武器収集家ですよ」

(武器収集家……? フッ、見え透いてるね……)
八年前に突如として裏の世界から行方をくらました『幾億の白刃』については、
今日まで事実が流布されることなく、憶測のみが様々に飛び交うに留まっている。
全てがカノッサによって極秘裏に処理され、事実が明るみに出ることがなかったからだ。
にも拘らずそれらを知っているとなれば、少なくとも各地を放浪する武器収集家ではないことは明白である。
(まぁ、喋る気がないならそれでもいいさ)

「こっちも疑問なのですが、あなたのように強い機関の人間が何故こんな街中でいきなり戦闘を行うのです?
 さきほどもあなたに勝るとも劣らない、自称紳士の機関の人間を見たのですが、やはりいきなり戦闘を仕掛けられました
 一体、この街で何が始まるのですか?」
と、ナイフと刀を構えながら訊ねる女性に、氷室は
「──世界が、本来あるべき姿に戻ろうとしているだけさ」
と一言、放った。
女性には何のことか理解できないかもしれない。
しかし、このままカノッサの計画が進めば、彼らの言う通り世界が変わるのだ。
──弱者が息絶え、強者のみが生存を許された世界に──

「さて、これ以上の問答は時間の無駄。そろそろ決着をつけようか?」
氷室の両手の指先から、再び刃状の冷気が形成される。
しかし、今度の氷室は左手を女性に向けるのみで、足を動かす気配がない。
というのも、彼女の『爪』は、短い間合いでのみ威力を発揮するものではないからだ──。
「迂闊に近付いて反撃されると厄介。だから、ここから切り刻ませてもらうよ。
 ──受けろ、我が爪の恐怖を! ──『アークティッククロー』!!」
瞬間、女性の体の皮膚が、鋭利に切り裂かれる。
氷室が、指先に形成した爪をあたかも弾丸のように飛ばしたのだ。
「痛みで悶え死ぬのが先か、それとも凍りついて死ぬのが先か……さて、どっちかな?」

【氷室 霞美:アークティッククローを飛ばし、切り刻んでいく】
66棗遼太郎 ◆R9F5WG6Bjw :2010/06/25(金) 21:42:30 0
「『障壁』展開。先程は避けられたが…」
「今度はどうかな?…『衝打』ッ!!!」

不意に背中に異物の感触、遼太郎は夕護の障壁が遠距離に展開できる可能性を考えていなかった。

「し、しまっ」

言い終える前に夕護の拳が遼太郎に炸裂する、何とか身体を捻り衝撃を拡散させようとするが、狭い空間の中、そう自由には動けずに直撃する。
遼太郎は膝から崩れ落ちる、仕留めようと夕護の拳が再度迫る。

「そう・・・・・・何度も喰らっていては身体が・・・・・・持ちませんよ」

息も絶え絶えの遼太郎は懐から球体の物を取り出し、夕護の背後に投げる。
それは直ぐに爆発し、眩い光を放つ、そう閃光弾だ。
夕護の後ろで光が発生したことにより、影は自然と前にできる。
遼太郎の足下へと。
夕護の身体が完全に静止する、その一瞬の隙を遼太郎は見逃さなかった。
障壁が張られる前にがら空きの腹部へとナイフを突き立てる。

「本当は心臓に突き刺したかったのですが、時間をかけると防がれてしまうのでね。
そこで我慢してください」

そう言うと、遼太郎は近くの影を伝い、夕護から離れる。

「今回は痛み分けと言うことで、私ももう立っているのが限界なので。
闇の帳よ!」

遼太郎がそう叫ぶと、夕護の視界が深淵の闇に一瞬奪われる、視界が晴れたときには遼太郎は既に消え去っていた。

「中々手強い相手でした、でも次こそは仕留めますよ」

【棗遼太郎:夕護との戦闘から離脱】
67黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/25(金) 23:58:34 0
入った、そう感じた。

オーラにより基本的な運動能力、戦闘力は増強されるが、それにも個々人でクセがある。
夕護の場合は圧倒的なパワーファイタータイプであり、オーラの補正はスピードよりもそのパワーに重きが置かれていた。
しかし能力は『障壁』。弾き返す衝撃以外は攻撃目的で使い難く、どちらかと言えば補助的で相性が悪い。
その代わりに得たものが意外な程の射程距離と持続性であった。
彼のダメージ源は自身の体術、剣術に頼らざるを得ない。
そのため、必然的にこの能力は彼の強力無比な一撃を確実に叩き込む為の布石に利用される。

故に一撃。その一撃のみを狙っていた。

「勝負をつけよう…ッ!」

とどめとばかりに、さらに間合いを詰める。
崩れた遼太郎に、重い拳を振り下ろす――その瞬間に、彼の時間は止まった。

(―――何を――、決まっている、『本体』に『影』を踏ませてしまったのだ――閃光弾、予想外ッ――
なるほど、この場合は――踏まれた者の『固定』が行われるわけか――ッ!やはり深入りは、避けるべきだった――)

遼太郎のナイフの、熱い感触がじわりと染み込んだ。

「本当は心臓に突き刺したかったのですが、時間をかけると防がれてしまうのでね。
そこで我慢してください」

十分に傷が深い。我慢など、たちのわるい冗談だ。形勢は明らかに悪い――が、次の遼太郎の言葉で自身の攻撃もまた相手に大きなダメージを与えたことを知る。

「今回は痛み分けと言うことで、私ももう立っているのが限界なので。」
「…なるほどな、私もそれで助かるというわけだ…。こんな窮地は久しぶり、…生きていれば次は打ち倒して見せよう――ッ!」

めったに変わらない表情だが、口の端が少しつりあがった。そして視界が閉じ、そこには男の形は無かった。

「…、やはり自分を護る戦いというのは、難しいな…傷が深い、手当てを…」

ナイフを引き抜き、よろ、と歩き始める。
どこか人気の無い場所、そこで治癒障壁を張れば傷を癒すことも出来るだろう、と考えていた。
しかし彼の感覚は戦闘後ということもあり鋭敏になっていた。角の先、多数のオーラを感じ取る。

(…敵ならば、最悪の事態…!さっきの奴が援軍を連れてくることすらありえる、…いや、待て、このオーラに敵意は感じない…)

そう判断し、それでも道の角からある程度の距離を取る。

「…………ぃだろ!? 子供が困ってて助けない方が無理だよ!」
「そうか…なら仕方ないね」

角を曲がってきたのは、兄弟と思われる3人の少年達だった。
子供、という事に若干驚きながらも、彼は声をかける。

「…三人、か。どうやら異能の持ち主らしいが…お前達は、私の敵か、味方か?」

腹部を押さえてはいるものの、そこからは多量の出血が見えるだろう。

【黒部 夕護:虹色兄弟に接触】
68赤月怜 ◆KvtDeyvrJ2 :2010/06/26(土) 15:07:56 0
「此処はどこだい?僕は家に帰るとしていた筈なんだが。」

道の真ん中に青年が立っている。
青年は周りをキョロキョロしているが戸惑っては居ない。
見た目は平凡な青年は周りを見るのを止めると手に持っていたコンビニの袋からサンドイッチを取り。食べ始める。

「何か嫌な予感がするな」

小さく呟きながら歩き出す。
その歩調は戦士でも兵士でも暗殺者でも無い。唯の一般人

「危ない事が無いと良いんだけど」

嫌そうな顔と声を出すが眼は嬉しそうに輝いている。
ふと歩くのを止め後ろを見る

「とりあえず索敵でもするか……【シャドウ】」

青年の影が三次元な形になる。すると影が起き上がる。青年はそれを気にせず喋るのを続ける

「何だか嫌な予感がする。周りの警戒を頼んで良いかい?」

コクリと影は頷くと液体状になり何処かへ消えた。

「……コッチかな…」

あくまでのんびりと自分の思った方向へ歩き始めた。
そう、≪漆黒の鉄血鬼≫が

【黒部 夕護:虹色兄弟達の方向へ歩き始める】
69虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/06/26(土) 15:21:04 0
>>67
「…三人、か。どうやら異能の持ち主らしいが…お前達は、私の敵か、味方か?」
その言葉を聞き、自分達の平和な日常が壊れてしまうのではないか、と一瞬恐れるが…
もしこの人が敵なら、もう僕たちを襲っているはず…と思い、
「…貴方が僕たちに攻撃してこないなら、僕達は貴方の敵ではありませんよ」
と答える虹色優。
血塗れになった黒部夕護のお腹を見て、
「ところで、どうしたんです? …その傷」
詞音が、そう尋ねる。
「…刃物で…刺されたような傷跡…。どういうことです…?」
御伽が傷口を見て、さらに尋ねる
【虹色兄弟:黒部 夕護と会話】
70赤月怜 ◆KvtDeyvrJ2 :2010/06/27(日) 02:05:34 0
ふと怜の前方に二人の黒服が歩いていた。
彼らはお互いに喋っていた為怜を見ずお喋りに夢中になっている。
二人ともスキャナーを付けているようだが怜が異能者だと気づいていない。
それは彼の能力にある。
オーラの一部分の性質を変え、スキャナーに反応しないようにしているのである。

「…また機関って奴か。」

怜が彼らとすれ違った瞬間赤い軌跡が二人の黒服を縦横無尽に駆け巡る。
だが彼らはそれに気付かずまっすぐ怜の脇を通り過ぎて行った。

「【シャドウ・ブラッド】、頭を潰すのを最初にしなくちゃ。何があるか分からないんだ。一撃で倒さないと。」

そう呟きながら怜は歩き続ける。
だが先程まで影が無かった怜の足元には影が出来ていた。
先程と同じく普通の影では無い。
黒い筈の影の色は赤黒く、怜と同じ形の筈の影は何故かカマキリの上半身の形をして実体化していた。

「そんなに落ち込まないで良いよ、僕が指定しなかったんだ。非は僕にだってある。」

明らかにショボリとした巨大カマキリの影に苦笑しながら己の非を詫びた。

「彼らが女性だったら血を飲むだけで生かしておいたんだけどね」

怜が己の体を極限まで変化させた結果血を飲みたいという欲求が生まれた。
体を元の一般人の状態に戻し血を飲むととてもじゃないが飲める代物では無いのだが体を変質させ飲む血はとても美味しく感じるのだ。

「さぁ、先を急ごう。目立つのは御免だ」

怜の背後では二人分の肉塊と断面が綺麗な黒い布が生まれていた。
人が居ない道にはそれに気づく者は居なく怜はそれを知ってか知らずか先程の言葉とは裏腹にのんびり歩き続けた。
だが先程とは違う方向へ。

【赤月怜、カノッサの中級戦闘員を二人オーラ感知不可能な攻撃を仕掛け暗殺。死体は道路に放置。氷室 霞美と海部ヶ崎 綺咲の方向へ歩き出した】
71阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/27(日) 02:11:50 O
ホームセンターからでてくる哀
哀は途中でナイフを買うため寄り道をしていた
護身用のナイフを二本とも渡してしまったため身を守る方法を失っていたのだ
流石にそれでは危険すぎるので新たにナイフを買ったのだ
四人の男を殺したときに得た臨時収入で
(新しいナイフ……
本当は別の物を買いたかったけど仕方ないよね……)
哀は買ったナイフを眺めニコニコ笑う
(これで……強い人と出会わなければ逃げられる……)
72海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/06/27(日) 20:14:41 O
>>65
「──世界が、本来あるべき姿に戻ろうとしているだけさ」

この言葉に海部ヶ崎は、その意味も意図も何一つ理解することは出来なかった。
ただ……山で育ち、たった数ヶ月の旅を経験しただけの19の少女にとって、『世界』という単語は
とても縁遠いものに聞こえた。

「さて、これ以上の問答は時間の無駄。そろそろ決着をつけようか?」
青髪の女性の両手が、爪状から刃状に変化したオーラに覆われる。
これまでの攻撃からまた一瞬の強襲を仕掛けるか、と海部ヶ崎は警戒したのだが……

「迂闊に近付いて反撃されると厄介。だから、ここから切り刻ませてもらうよ。
 ──受けろ、我が爪の恐怖を! ──『アークティッククロー』!!」

その言葉が言い終わったときには既に海部ヶ崎の露出した脇腹から血が流れていた。
「ッ!! 攻撃!?」
「痛みで悶え死ぬのが先か、それとも凍りついて死ぬのが先か……さて、どっちかな?」

攻撃を受けた後に理解が出来た。これはあの手のオーラを飛ばしたモノだと。
その手から高速の魔弾たちが次々と、真っ直ぐな軌跡を描き、海部ヶ崎に襲い掛かる。
彼女の二刀を握り締めた両手は器用にその刃を操って、冷気の塊の軌道を逸らす。
(接近戦でもあの爪は弾けた。だからこれも弾ける…………けど、動けない)
体に受けた大きな爪痕。それを抱えた今の海部ヶ崎にはここから反撃する力は体には残っていない。
苦痛の表情は野球帽のつばが真昼の太陽の影で覆い隠しているから、幸い相手には気付かれていない。
(でもこちらの体力が限界なのがバレなくても、どちらにしろこのままだと……)
能力で反撃するにしても、さっきみたいに一瞬で砕かれるだろうし、なにより貴重な武器を更に失う事になる。

「なら、前に進むしか……無い!!」
海部ヶ崎は両手の動きを最低限に控えて地を蹴り、駆け出した。
体温によって徐々に溶け出した腹の凍傷から、血が流れ出す。
オーラの弾丸は致命傷になるものだけを弾き、残りは無視をしてとにかく足の動きに集中した。
無視したものは次々と体に命中し、太ももや二の腕が切り裂かれ、凍っていく。
(私が悶え死ぬか、凍死するか、“それとも”あなたの首が飛ぶか……勝負!!)
二人の異能者が近距離攻撃の範囲にお互いに相手を捕らえた瞬間だった。

一閃――――

その閃きのなかで幾重もの斬撃と金属音が混ざり、二人が交差し終える。
青髪の女性は肩から多少の血を流すも、それほどの深手にはなっていない。
それに対し、海部ヶ崎は――パキン!! と手にあったナイフが砕け、それと同時に露出した脇腹から血が飛び散った。

「せめて、その肩の傷がナイフのものなら……」
ドサ。血だらけの四肢はそのまま地に伏せ、腹の傷が血溜まりを作っていく。

(こんな形じゃ……父上に…会えないのに…取り返すって……ちゃんと刀を取り戻してくるって……)
肉体は血の中へ、精神は父へ悔いる気持ちで、海部ヶ崎は深く沈んでいった。

【海部ヶ崎 綺咲:敗北】
73氷室 霞美@代理:2010/06/28(月) 21:44:20 O
>>72
氷室の指先から次々と冷気の爪が放たれる。
女性は手にした二刀の刃で弾いていくが、
高速で際限なく繰り出されるそれをこの先全て防ぐことなどできるものではない。

「なら、前に進むしか……無い!!」
当の彼女もそれは解っていたのだろう。
彼女は意を決したように、ほぼ無防備となって弾幕の中に向かっていった。
敢えて自らを傷付ける攻撃に打って出る、それは一か八かの賭けには違いない。
しかしながら、この局面では最善の策であろうことにまた違いはないのだ。
氷室もそれは解っていた。
「そう、一縷の望みにすがりたいなら、それしかないだろうね」
氷室が下げていた右腕を起こす。
その指先に形成されていた爪は、まるで彼女の挑戦を待っていたかのように
より一層鋭利なものへと変貌しており、鈍い冷気の輝き放っていた。
「──けど、その希望も今引き裂かれる。体ごとね──ッ」
氷室が地面を蹴り、地面をかすめながら女性目掛けて猛烈な勢いで跳ぶ。
そして二人の体が交錯した瞬間、希望を引き裂く爪が、空気を切り裂く刃が同時に繰り出された。

──斬撃の衝突音が辺りに鳴り響く──。
その中、二人は互いに背を向け静かに着地した。
「まさか、私に一度ならず二度までも傷をつけるとは……」
言いながら、後ろを振り返った氷室の右肩から、ブシュッと血しぶきがあがる。
一瞬、顔を苦痛に歪めるが、氷室はすぐにニヤリと笑って見せた。
「せめて、その肩の傷がナイフのものなら……」
女性が血を噴き出して倒れ込む。
彼女は手にしていたナイフを砕かれ、脇腹に致命傷を受けていたのだ。

「そのナイフ……ただのナイフじゃなかったんだろ?
 妙に自信を持って繰り出してきたように見えたからね。破壊させてもらったよ。
 もっとも、そのお陰でもう一方の刀で肩を斬られたけど……
 あの一瞬に生まれた隙を見逃さないなんて、やっぱり大した腕だよ、あんた」
氷室は死にゆく強敵への手向けというように賞賛の言葉を口にした。
しかし、既に気を失っているのか、女性には反応がない。
スキャナーも急速に彼女の異能値が落ちていくのを計測していた。
これは、もはや放っておいても数分後には完全に死に至る、そんな絶望的な瀕死の状態を示しているのだ。

(それにしても……この娘、一体何者だったのか。
 我々の存在を知り、しかもあの刀のことまで知っていた……とてもただの異能者とは思えない。
 ……まぁ、何者であろうともはや終わったこと。どうでもいいこと、か……)

氷室は死を待つばかりの女性を一瞥して、公園から立ち去った。

「……さぁ、次は何者が相手かな」

【氷室 霞美:海部ヶ崎が死んだと思い、公園から去る。現時刻PM12:00】
74氷室 霞美@代理:2010/06/28(月) 21:47:37 O
角鵜野市の西地区──そこには角鵜野湖(かくうのこ)と呼ばれる巨大な湖が広がっていた。
そこは海や山などと並んで、市内有数のレジャースポットとして人々に広く認知されているが、
実はその湖に、もう一つの裏の顔があることを知る者は少ない。

湖の底──水深400mの湖底、それより更に底の地下。
本来、ただの土で埋め尽くされているはずのそこには、
頑丈な鉄筋とコンクリートに覆われた、巨大な地下基地が広がっていた。
内部は近未来的な設備が整えられ、大勢の人間が通路を行き交い、中には武装した人間もいる。
これこそが湖の裏の顔──そう、秘密結社カノッサの総本部が置かれていたのだ。

氷室が海部ヶ崎と戦っていた頃、ここ地下基地のメインルームでは、
市内に放たれた構成員達の通信による戦果報告を逐一耳に入れる、
黒服と、季節外れの黒コートに身を包み、黒い長髪をオールバックに決め込む若い男がいた。
この黒づくめの男の名は『雲水 凶介(うんすい きょうすけ)』。         リーダー
彼こそ氷室が「筆頭」と呼んだカノッサ四天王の筆頭、事実上のカノッサの指導者である。

「計画の発動からおよそ三時間あまり……
 直ぐにでも尻尾を出すかと思ったが、どうもそうはいかないようだな。
 なぁ……? 白済よ」

雲水とは対照的に、白装束に身を包み長い白髭を蓄えた小さな老人が、彼の横にすっと現れる。
老人の名は『白済 閣両(しらずみ かくりょう)』。
雲水の補佐役を務めるカノッサの知恵袋といわれる人物である。

「偉大な力を持つ存在でありながら人と同化し、人に異能をもたらしたと伝えられる我らの『始祖』。
 神の気まぐれが生んだ存在なのか、それとも悪魔の悪戯によって生まれた存在なのか、
 『始祖』の正体は今となっては定かではない。
 しかし、数百年に一度、『始祖』の血を色濃く受け継ぐ異能者、すなわち『化身』がこの世に降誕する。
 そして十数年の時を経て、自らの宿命に目覚めその力を発揮する時が正に今であるということに、
 本当に間違いはないのだな? 白済よ!」
「ホッホッホ、これは心外ですな雲水様。
 この閣両、生涯に渡って『化身』について調べ尽して参りました故、間違いなどありえませぬ。
 『化身』は間違いなくこの街のどこかにおり、そして、近々必ず覚醒(めざ)めまする。
 雲水様は、その時をただ待っておればよいのですじゃ……」
「……そうか。では、言うとおりただ待つことにしようか。
 愚かなる人間どもよ……精々、今の内に短い人生を楽しんでおくがいい」
雲水は、これまでに無いほどその顔をどす黒く染め、続けた。

「そう、我々が『化身』を擁し、全世界を席巻するその日までな…………」

【筆頭の名は雲水 凶介と判明。白済 閣両が登場。】
75阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/29(火) 23:10:38 O
「すみません……ちょっといいですか……」
後ろからいきなり話し掛けられる
哀は驚き後ろを振り向くとスーツ姿の男性がたっている
そしてその男性はオーラを纏っていた
哀は跳んで男性から距離をとる
「そんなに警戒しないでください」
「いきなり後ろに立たれたら誰だって警戒しますよ」
そう、いきなりだったのだ
哀は周りにオーラを纏った人間がいないか常に確かめながら歩いていたのだ
つまりこの男性はものすごい速さで動いたか何らかの方法でオーラもしくは自分自身を隠していたのである
「少し聞きたいことがありまして」
「何ですか……」
「阿合哀という女性を知りませんか」
自分の名前が出され驚く
「知ってますよ」
「本当ですか?
それではお話を……」
「その前に……あなたは誰なんですか」
「それは……言えません……今は
うかつに話すと機関に見つかるんでね……」
「見つかったら……」
「殺されます」
少しの間の沈黙が流れる
「ここじゃなんなんでとりあえず話せる場所に行きましょうか」
哀もこの男性に聞きたいことがあったので男性の提案にうなずく
76阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/06/29(火) 23:10:55 O
――――とある喫茶店
「それで本題に入ってもいいですか」
「その前に私からも聞きたいことが」
「何ですか、答えられる範囲でなら答えますよ
情報のギブアンドテイクですね」
「オーラとか能力とかについて教えてほしいんです
あと機関についても」
「……いいでしょう」
男性は一瞬ためらうが答える
そして説明をはじめる
「まず、オーラとは生物なら誰もが持っている特殊なエネルギーのことです
そしてオーラをうまく使うことができるのが異能者です
異能者は他人のオーラを視認したりオーラを纏って自分の身体能力をあげたりできます
そして人によってはそのオーラの性質を物質化したり飛ばしたりすることができます
それが能力です
そして機関は正確にはカノッサ機関といい、化身を探している秘密結社です
今、角鵜野市をうろうろしてる怪しいやつらが機関の人間です」
「化身って何ですか」
「化身とは始祖の血を色濃く受け継いだ特殊な能力のことです
始祖はいろいろ説がありますが世界で最初の異能者と言われています
そして近々この角鵜野市で化身が覚醒めるそうです
機関はその化身を今必死になって探しているというわけです」
「なるほど……」
「これでいいですか」
「はい……」
「それで……阿合哀さんはどこに……」
「私が阿合哀です」
「ふむ……なるほど……」
「あまり驚かないんですね」
「まあ想定内です」
「ところで少しくらいあなたのことについても教えてくれていいんじゃないですか」
「そうですね……
私、乾 大輔と申します
アソナというグループに属しております
あなたの父、阿合 昭も同じアソナに属しているんですよ」
「私の父が……」
父の名をあげられ再び驚く
「一緒にアソナに来ていただけませんか」
「父に会えるんですか」
「ええもちろん」
「じゃあ……行きます」

【阿合 哀:乾 大輔についていく】
77黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/06/30(水) 07:53:10 0
>>69
「…貴方が僕たちに攻撃してこないなら、僕達は貴方の敵ではありませんよ」

その言葉を聞き、夕護はいくらか表情を緩めた。…つもりだが、恐らく虹色達にはわからないだろう。

「…そうか。安心してくれ、こちらにも攻撃の意思は無い」

そういい、住宅の壁にもたれる。

「この傷は…影使いの能力者から受けたものだ。中々手強い…気をつけてくれ、お前達も能力者なら、恐らく攻撃の手が迫ると思う」

夕護の周りに直方体の黄色に光る障壁が展開される。障壁から発される光はゆっくりと彼の傷に染み込んでいくように見えた。

「この町に、どうやら能力者を狙うテロリストのような輩が潜入しているようだ。目的は解らんが…」
「…ところで、お前達は戦えるのか?」

【黒部夕護:虹色兄弟に質問する】
78海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/07/02(金) 01:22:50 0
>>73
海部ヶ崎が敗れ、氷室が立ち去ってから約一分後。
血に伏した動かぬ人間と、砕けて破片となった刃が周囲に飛び散った、この殺伐とした空間に新たな人影が加わる。

「お、あれが回収対象か?」
「ん……そうなんじゃねーの?」
血に沈んだ体を見つめながら公園に進入する二人の男。
二人の容姿はどこにでも居そうな、ただの大学生であった。
片方の男が持っている大きなゴルフバッグ以外は。
「うぁ、マジで人が死んでらぁ。おっかねーの」
「んなこと言ってねーで、とっととバッグに死体入れろよ」
彼らは機関のためにこのように、戦闘のあとを隠すために派遣された人員である。
だがしかし、“彼らにその自覚は無い”。
機関の精神干渉系の異能力者によって作られた操り人形――通称『デバッガ』と呼ばれるが、もとは……いや今もただの一般人だ。
オーラを使えなく、戦闘もできない。そんなデバッガ達は雑務をさせられるために機関に利用されている。
主な仕事は、死体を片付けて血を適当に消し、周辺の戦闘の痕跡を抹消する。自覚無く。
仕事を終わったら、あとは適当に記憶を改竄されて自然にもとの生活に戻る。記憶無く。
あらかじめプログラムされた仕事を、その場に近いものが処理する。そういうシステムなのだ。
これは機関が今回の作戦を隠密に済ませるために講じた手の一つだ。
現在、この街には莫大な数のデバッガが存在し、知らず知らずのうちに機関に利用されている。
ただ、それだけ膨大な数の人間を操るため、デバッガ達の作業内容(手順、時間、確実さ)は本人の性格や思考回路に頼ることが多いのが、玉に瑕だ。

黒系の服を着た男が、周辺の刃を集め始め、白いTシャツを着た男が海部ヶ崎の体に近づいた。
「……うわ、こいつまだ生きてるよ」
「マジかよ」
彼らはどうやら、あまり良いデバッガではないらしく、早々に作業の手を止めた。
「こんなに血ぃ流してるのに?」
「いや、この血溜まりさ、薄く広く広がってるから、あんま出血してねーんだと思うよ」
「それにしても、頑丈だろ……で、どうするよ?」
       ヤ
「そりゃー……殺っといた方がいいだろうよ」
「そうか」、と黒服の大学生はたった今回収したナイフを逆手に握り締め、一瞬の迷い無く振り下ろした……が、その手を何者かが掴んだ。

「おっと、女の子の柔肌にンナ事したら、アカンよー」
「んな!? なんだよ、お前!!」
二人の大学生達の横にいきなり見知らぬ男性が立っていた。
二カッとした張り付いたような笑顔に、どこの国のものか分からない奇妙な模様の付いた半纏を着た男が。
全身から醸し出している雰囲気は、まるで胡散臭さを凝縮したような感じだった。
黒服はすぐに、手を振りほどこうとしたが何故だか力が入らない。
いや、むしろどんどん弱まっていく感じだった。
ドサ、と黒服の青年はそのまま海部ヶ崎の様に倒れてしまった。
「おい、どうしたんだよ!!」
「まぁ、そう怯エンといてーな。痛いモンちゃうし」
白いTシャツの男が反応できない速度で、その頭は男に鷲掴みにされた。
「ほな、オヤスミな」
「あ……あぁああ…」
白いTシャツの男も黒服に続くように、その体は地面に崩れ落ちた
79海部ヶ崎 綺咲@代理:2010/07/02(金) 01:44:59 0
「さて、と。キサちゃんとの久々の再会がこんな大ピーンチな状況なのは残念やけど……」
見た目では中年に成りかけ始めた年齢といった半纏男は、年齢にそぐわず肌つやが無駄に良いその顔を海部ヶ崎の傷に近づけた。
「とりあえず、止血しとかんと、こりゃマジでヤバイわ」
出来るだけ揺らさないよう、その血だらけの体を仰向けにして、そのままお姫様抱っこでベンチに運んでいく。
「うつ伏せで倒れタンのが幸いやったな。ま、キサちゃんが頑丈だったから、この出血量で済ンダンやろうけど……」
ベンチにゆっくりと海部ヶ崎の体を下ろして、上着(大学生から剥ぎ取ったもの)を枕にした。
「さて、どんくらいオーラを送ればいいやろ? あんま多すぎても負担になるやろうし」
海部ヶ崎の負傷とは裏腹に、軽い感じに独り言を呟く半纏男。
彼がオペをするときの医者のように両手をあげると、そこにオーラが充実していく。
「んじゃ、こんくらいでいっか」と言い終わると同時に、その手を前に向けた。
触れても居ないその手から、徐々にオーラが海部ヶ崎の体に行き渡って行く。
行き渡ってから数十秒後、傷は塞がり、血の流れは外に漏れることは無くなった。
「止血はOKっと。もう少ししたら、目ぇ覚ますやろ」
歌うようにそう呟くと、彼はオーラを送るのをやめて目覚めのあいさつをどうするかを考え始めた。

【海部ヶ崎 綺咲:公園で半纏男から治療を受ける】
80虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/07/02(金) 13:42:08 0
>>77
「この町に、どうやら能力者を狙うテロリストのような輩が潜入しているようだ。目的は解らんが…」
その言葉を聞き、少し深刻な表情になる虹色兄弟。
「…ところで、お前達は戦えるのか?」
「「「ええ、一応戦えますよ」」」
見事にハモる三人。流石兄弟といったところだろうか。
「僕はこんな具合です」
画用紙にツバメの絵を描き、飛ばしてみせる優。
「僕は…」
そういってキーボードを取り出し、ゴ○ラのテーマを演奏する詞音。
すると何処からかゴ○ラが現れた
「…とまあ、こんな感じです」
しばらくするとゴ○ラは消えていった
「僕は…こんな感じです」
御伽はヘンゼルとグレーテルの本を鞄から取り出し、パラパラとめくり始める。
すると目の前にお菓子の家が出現した。
そして、御伽が本を閉じるとお菓子の家は消えていった
【虹色兄弟:黒部夕護に能力を披露】
81 ◆DniA.t9cN6 :2010/07/02(金) 21:55:50 O
――――アソナの本拠地

「ここがアソナの本拠地です」
乾について歩く哀
しばらく歩くと部屋につき、椅子に座ることをすすめられる
哀は素直にそれに従い椅子に座る
「あの……父は……」
「あなたの父なら今出かけてますよ
あなたを捜すためにね
他にも何人かあなたを捜すためにでてるんですよ
電話で見つけたということは伝えたので皆もうすぐ帰ってくると思いますが」
乾は立ち上がり「コーヒーでも入れましょうか」と聞いてくるが哀は「結構です」と断る
乾は「ジュースのほうがよかったですか」と冗談っぽく言うが哀は真剣な顔で質問を投げ掛ける
「私を捜していた理由は何なんですか」
「そんなに急がないでもいいじゃないですか
まずは落ち着いてから……」
「教えてください」
哀は乾の眼をじっと見る
「それは……」
乾は哀の後ろの方に視線をうつす
「あなたの父に聞いた方がいいんじゃないですか」
哀は一瞬その言葉が理解できなかった
そして哀が後ろを振り向くと、そこには一人の男性が立っていた
その顔は、はっきりとは覚えていないが雰囲気だけは覚えている
その髪型も、体付きも、立ち方も、なんとなくだが覚えている
「哀……」
「お父さん……」

【阿合 哀:父親と再会】
82阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/07/02(金) 21:56:51 O
名前忘れか……
83黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/07/02(金) 23:33:18 0
>>80
三人の能力を見て、あらかた感覚で理解する。
三人とも兄弟という事もあり全員同タイプの能力、何らかの事象をそれぞれの媒体を用いて具現化する。

「なるほど…な。面白い能力を持っているようだ…攻撃力の程は解らんが、応用性に優れている。」

優に向かって告げる。

「私は黒部夕護という。障壁を使う能力者だ。能力の特性から、主に『護る』戦いを得意としている。」

口の端を僅かに上げて笑いかける。

「君達は…そうか、虹色兄弟…優、詞音、御伽、か。…非常事態だが、よろしく頼む」

虹色兄弟の名前を聞き、そして首をこきっと鳴らす。
いつの間にか腹の傷は先程よりも小さくなっており、出血も収まってきているようだ。
周りを取り囲む黄色い障壁は溶けるように無くなっていく。

「本題に入ろう。…敵の目的はまだ解らないが、敵の行動から相当な被害が出ていると思う。
狙われているのは恐らくこの町だけだろう、つまりこの町でなければならない『何か』があるということだ。
目的が解らない今、不用意に戦うことは避けたい。私にこの傷をつけた敵の能力者も、更に上がいるような口ぶりだった。
次出会って無事に済むと考えるのは少し甘いだろうからな。」

「当面集めたいのは情報だ。何の為に能力者を襲っているのか、何故この町なのか、知らなければいけないことがたくさんある。
お前達は何か知っていることは無いか?」

【黒部夕護:虹色兄弟と情報を共有しようとする】
84氷室 霞美@代理:2010/07/03(土) 17:28:53 O
「──あぁ、さっきまで妙な娘と闘ってたところさ。
 お前のスキャナーにも、南のACU-276地点で反応があっただろ?」

先程の公園からざっと1km東に位置する海に面した廃ビル──
そこの屋上で、海の潮風にその青い特徴的な髪をサラサラと靡かせながら、
一人ぶつぶつと呟く氷室の姿があった。
誰もいない屋上で、肩から出血した女性が、顔に変な機械をつけて独り言を呟く……
もし誰か見ている者がいたら、何とも薄気味悪い光景に見えることだろう。
しかし、周囲には誰もいないとはいえ、氷室は決して独り言を言っているわけではない。

「ああ、やたらでかい反応が二つな。その片方がお前だったのか?
 フッ、まぁそんなところだろうとは思ったがな」

氷室の顔に装着されたスキャナーから少々斜に構えたようなクールな男の声が漏れる。
スキャナーについている通信機能を使い、会話していたのだ。
相手は当然同じカノッサの人間。それもただの構成員ではない。
『ディートハルト・アイエン(藍園)』──日本人とドイツ人の血を引く異能者であり、
『冥界の傀儡師(ハデスマリオネイター)』の異名をとる四天王の一人である。

「しかし、お前が闘っていたその娘は、一体何者だったんだ?
 俺のスキャナーが故障していなければ、その数値は確かに2000を超えていた……
 カノッサの戦闘員でもない小娘にしては異常に高い数値だ」
「妙なのは数値だけじゃない。あの娘はカノッサのことも、『無間刀』のことさえ知っていた」
「なんだと? 『無間刀』についてはカノッサでも上級以上の者でしか知りえぬことだ。
 一体どこからどうやってそんな情報を……」
「さぁね。結局、正体もわからずじまいさ。
 ただ、筆頭が言うには、少なくとも同じようなレベルの使い手はまだ他にもいるらしい。
 ディー、お前も気をつけた方がいいんじゃないか? 油断するとその首、危ないかもね」
と氷室が鼻先で笑うと、一方のディートハルトも「ククク」と笑い声を漏らした。
「冗談を言うな。中級を圧倒できるレベルだろうが、所詮この俺の敵ではないさ。
 そいつらもいずれそれを思い知るだろうぜ」
「相変わらず血の気が多い奴だな。ま、お前が張り切ってくれると私も楽ができるからいいけど」

「おっと、そろそろ通信を切るぞ。油を売ってるとまた筆頭に言われるからな。
 とその前にだ、白済の爺さんから秘密裏に新たな命令が下ったそうだが、聞いたか?」
「何だって?」
「筆頭は思ったように戦果が出ぬ現状にお怒りのご様子。
 事後処理はワシが受け持つ故、これまで以上に徹底的に、無差別にやることを許可する。
 ……だ、そうだ」    アイツ
「……フン、相変わらず雲水も気が短いね。子供の時と変わってな──」

突如、ドーンという爆音が響き渡る。
爆音の方向を見れば、東地区市街にある建物から赤い炎と黒煙がもうもうと立ち昇っている。
それは、カノッサが本格的な無差別殺戮に乗り出したことを示す、合図であった。

「……ククク、部下どもも発破をかけられてその気になったか。
 化身を捕獲した頃には、この街は消えてなくなってるかもしれん。
 こりゃあ爺さん、自分で言い出したこととはいえ、処理が大変だろうぜ。同情するねぇ。
 お? 爆発に刺激を受けたか、早速あちこちで強い異能が発生し、動き出したようだぜ。
 さぁーて、ゴキブリ狩りに行くとするか……!」
というディートハルトの嬉々とした声を残して、スキャナーは交信を終了した。
「……」
いつもの様にその表情に変化はない氷室だったが、
悲鳴と絶叫の入り混じる炎の色を映し出すその瞳は、どこかおぼろげに見えた。

【氷室 霞美:現在地、東地区に佇む廃ビルの屋上。】
【四天王の三人目の名は『ディートハルト・アイエン』と判明。カノッサの攻撃が一層苛烈になる】
85阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/07/03(土) 23:18:31 O
阿合哀の父、昭は哀に抱きつく
しかし哀はそれを拒み腕をはじく
「そう……だよな……」
昭が少し寂しげな表情を浮かべる
「違う……違うの……
私の涙が……傷口にかかっちゃだめだから……」
哀の眼からは涙がこぼれていた
そして昭の体には小さな傷がいくつかついていた
「その傷……どうしたの?」
「ああ……機関のやつらと少し戦ってな……」
二人とも涙声である
「ごめんな……今まで一緒にいてやれなくて……」
「……うん……」
哀の涙が少し落ち着いてくる
そして哀が自分が捜されていた理由を聞こうとしたとき
「すみません、緊急事態です」
乾が横から話し掛けてくる
乾は哀と昭が再会の感動に浸っている間に連絡をうけていたらしい
「機関がついに本格的に動きだしたそうです」
「そうか……ここもスキャナーの通じない加工をしてあるとはいえそのうち危なくなるな……」
昭の表情が一気に厳しくなる
「哀……時間がない……
手短に話そう……私たちが哀を捜していた理由、そして哀の役割を」
その言葉を聞き、哀も真剣な表情になる
「まず、私たちアソナはもともと全員機関の人間だった
私たちは皆、機関に騙され機関の本当の目的とは違う目的を聞かされていたんだ
そしてある日私たちは知った
機関の本当の目的を
化身を自分たちの手に納め、世界を支配しようという計画を
そして私たちは反抗したんだ
もちろん機関は裏切りを許すはずもなく私たちを殺そうとした
いや今でも殺そうとしている
だが私たちは阻止しなければいけないんだ、機関の計画を
だから私たちは逃げた、全力で
そして機関の計画を止める方法を考えた
私たちはひとつの方法を見つけたんだ
それは『人工化身』をつくりだし、機関と戦うことだった
そして調べると『人工化身』をつくるには哀の体が必要だとわかったんだ
つまり哀には『人工化身』の体になってほしいんだ」
86虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/07/04(日) 14:27:10 0
>>83
「当面集めたいのは情報だ。何の為に能力者を襲っているのか、何故この町なのか、知らなければいけないことがたくさんある。
お前達は何か知っていることは無いか?」
「知ってること…ですか…」
優はしばらく考え込み、氷室に襲われたときのことを思い出す
「そうですね…小学生達を襲う怪しい奴を追い払ったら、女性が現れて…
『私が何者か、その質問に対して言えることは一つ。私はあなたの命を狙う敵だということ。
 お解かり? 解ったなら────初めから全力でかかってきな。
 万が一にも生き延びたいなら、あなたはそうするしかない……』
って言って…僕が鳥を具現化して応戦したらオーラで簡単にはじかれたので
恐らくかなり高レベルな能力者だとは思うのですが…」
もう少し考え込み、何かを思い出したように顔を上げ、
「あ、そういえば道を歩いてる時に少しその人の独り言を聞いたのですが…
確か『化身』がどうとか言ってたと思います…」
「…でもこれだけじゃなんともいえないですよね…」
しばらく表情を暗くする優
「…そうだ! 貴方、携帯持ってますか? 急なことで巧く情報が集められなかったもので…
ですから、お互いに何らかの情報を得たらそれを伝え合うというのはどうでしょう?」
【虹色優:携帯を鞄から取り出し、番号の交換を持ちかける】
87赤月怜 ◆KvtDeyvrJ2 :2010/07/04(日) 21:34:31 0
>>84
道を歩いていた怜は突然止まった。
「良い…匂いがする」
肉体が人間の枠を超えている怜は街中からする血の匂いの中からとても香ばしい血の匂いを嗅ぎ分けた。
「先程の奴らとは別格だね。でも…飲みたい」
突如怜は走り出す。屋根の上を匂いの強い方へ最短距離で跳ぶ。
街の周りで爆音が響く。だが彼には関係無い、此処は彼の住む場所では無いのだから。
前方を見れば屋根の上で黒服が拳銃を構えていた。無意識に自分のオーラの性質を元に戻していた様だ。
「そこの男、止まれ!」
黒服が喚く。止まる?馬鹿かこの男は。こんな良い匂いが眼と鼻の先にあるのに止まれる物か。
そう心の中で毒づくも怜は何もしない。
「チッ!」
男が銃を撃つが気にしない、怜には頼れる仲間が二人いる。
怜の頼れる仲間は己の主の期待通り働いた。
【シャドウ】と呼ばれた怜の影が黒服の背後に出現し円錐状に形を変え黒服の腹を貫いた。
【シャドウ・ブラッド】と呼ばれた赤い影の様なモノが怜へ迫る弾丸を全て弾く。
黒服が屋根から落ちていくのには眼をくれず怜は屋根を跳びながら再び自分のオーラを変質させオーラを隠す。
匂いの発生場所の詳しい探索には心配は無い。【シャドウ】が探している。
【シャドウ】達には指示を出している。
【シャドウ】は周りの探索と敵遭遇時は攻撃。新たに血の匂いの発生場所の特定の三つ
【シャドウ・ブラッド】は怜の影に扮し、怜を守り、怜の周囲に近づいた敵への攻撃の三つ。
近くの廃ビルに黒く細い柱が立った、【シャドウ】が血の発生場所らしき所を見つけたらしい。
怜は大きく跳躍すると黒い柱の隣へ降りた。
そこには肩を怪我した青髪の女性が居る。
「そこの人、少し良いかな?」
突如話しかけた怜を見て青髪の女性がほんの少し驚いていた。
「顔も可愛いね、パーフェクトだ。」
女性に近づきながら怜は呟いた。
「君の血を飲ませて欲しいんだ。」
普段通りの温和で和やかな表情で怜は言った。
【赤月怜:カノッサ中級戦闘員一人に勝利。その後氷室霞美に血を要求】
88氷室 霞美@代理:2010/07/05(月) 22:09:01 O
>>84
炎──それは氷室にとって呼水。
心の奥底に封印した、かつての記憶を呼び覚ます、呼水でしかない。
絶え間なく鳴り響く銃音、人々の悲鳴と絶叫、そして焼かれゆく──

「……クッ」
氷室は目頭を押さえ、肩を震わせながら脳裏に浮かぶ幻影を懸命に振り払う。
「久々に……きたか。ようやく克服できたと思ったんだが……」

目頭から指を離した時には、氷室は既に平常心を取り戻していた。
それまでにかかった時間はほんの数秒と言ったところだろうか。
しかしその間、スキャナーが一瞬だけ迫り来るオーラを感知していたことに、彼女は気がつかなかった。

「そこの人、少し良いかな?」

突然の背後からの声に、氷室はいつもの余裕の表情なく、驚いたように振り返った。
と、そこには、黒いワイシャツにジーンズを穿いた、若い男の姿。
「顔も可愛いね、パーフェクトだ。」
ナンパでもするかのような台詞を吐きながら近付いて来る男には、
依然としてスキャナーは何の反応も示さない。
だが、かといって一般人ではないのは明からである。
というのもこの廃ビル、老朽化のため途中で階段が崩れており、
屋上まで一般人では決して登ってくることができないからだ。
(異能者か……。しかし、スキャナーにまるで反応がないのはどういうことだ……?)

疑問を感じている氷室に男は和やかな表情のまま続けざまに言う。
「君の血を飲ませて欲しいんだ。」
「フッ……」
氷室は表情を変えずに鼻で笑って見せた。
果たして、ここで「はい、わかりました」という奴がいるだろうか?
力づくを前提にした要求以外の何物でもないだろう。
つまり、事実上の宣戦布告である。少なくとも氷室はそう解釈した。

「『お前を殺す』と、なぜストレートに言わない? 私は回りくどい奴が嫌いでね」
瞳孔が見る見る開いていき、目つきが一層の鋭さを増す。
遥か格下の相手ならばそれだけで威圧され畏縮してしまうところだろう。
だが、彼は違った。それは彼の実力がそこらの雑魚とは違うという証明である。
氷室はまた鼻で笑った。

      私ら
「何だかカノッサと同じ臭いがするよ、お前。どうやら立場は違えど、生きてきた世界は似てるようだね。
 だが、だからこそ、私らにとっては危険だ。──お前は殺すよ」
両の指から、鋭利な爪が形成された。

【氷室 霞美:闘いを開始する】
89黒部夕護 ◆9DmPnTSErk :2010/07/06(火) 02:19:14 0
>>86
「なるほどな、高レベルな女性の能力者、先程私が戦った男の上司に当たると考えても良さそうだ。」
「つまりはあれ以上の能力者が1人いる、というわけか、さて、どうするべきか…」

そして、その一言に引っかかる。

「化身…?まて、私はそれをどこかで…いや、気のせいかもしれない。注意すべき単語であることは確かだな」

そういって、考え込んだ。

「携帯か、文明の利器を使うべきだな、こういう時は。お互いの情報がやり取りしやすい。
解った、私の番号は…」

昔ながらの機種の携帯を取り出して、番号を確認し、伝えていく。
程なくして番号の交換は終わる。

「…ところで三人で、大丈夫か?いや、すまん、見た目はまだ学生といったところだからな。
私も負傷した身で言うべきでは無いが」

少し笑って、もう一度インプットした情報を考え直す。

「私はもう少し町を回ろう、何だか先程から騒がしいのでな。それに、化身が気になる。」

【黒部夕護:虹色と携帯番号を交換。情報を共有する。】
90阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/07/08(木) 01:09:16 O
「人工……化身……?」
「ああ、人工化身だ」
「化身をつくるってこと?」
「そういうことだ」
「できるの?」
「できるさ」
哀は半信半疑というよりは驚きでいっぱいだった
「どうやって……」
「始祖の血液を血管に大量に入れるんだ」
「始祖の……血液……?
そんなものどうやって手に入れるの?」
「実は私たちにも少しは始祖の血液は流れているんだよ」
「つまり……」
「能力を持つものは皆始祖の子孫なんだ」
「そう……だったんだ……」
「私たちは研究を重ね、始祖の血液を解析した
そしてアソナの一人が能力を使いその血液を増やしたんだ」
「それで血液はどうやって血管にいれるの?
もしかして全部注射?」
「それはアソナの一人が能力を使って血液を入れ替えてくれるよ」
「よかった……」

「あれ……」
「どうした」
「血液を血管にいれるだけなら誰でもいいんじゃない?」
「それが駄目なんだ……
普通は耐えられないんだ、始祖の血液に
始祖の血液には無限にオーラを生み出し続ける力があるんだ
私たちはその力が能力の源だと考えてる
そして生み出されたオーラはすぐさま血管から外にでるんだけどな……
そのうちの一部は血液に溶けてしまうんだ
そして血液に溶けたオーラは有毒な物質に変わってしまい、普通の人なら死んでしまう」
「つまり、私は毒に耐性があるから大丈夫ってこと?」
「そういうことだ」
「……」
「お前にしかできないんだ……」
「……」
「大丈夫、哀のことは必ず守る、必ず」
「……本当に必ず?」
「ああ……」
「信じる」

【阿合 哀:人工化身の体になることを承諾する】
91赤月怜 ◆KvtDeyvrJ2 :2010/07/08(木) 06:28:29 0
「フッ…」
眼の前の女性が鼻で笑った時怜はもしかしたら血を飲ませてくれるのではと期待した。
だが次の言葉でそれは誤りだと分かった。
「『お前を殺す』と、なぜストレートに言わない? 私は回りくどい奴が嫌いでね」
怜は眼の前の女性がそう言うと心の中で盛大に溜息をついた
怜には眼の前の女性を殺す気など無い。
殺したらもうその人の血は飲めなくなるが生かしておけばまた血が飲めるかもしれないからだ。
突如彼女から殺気が膨れ上がる。そして確信する。
自分の勘づいた通りこの女性は強い。
だが己には“今は'’恐怖心など無い。
殺気と怒気も今の自分には恐れることなど無い。
「何だかカノッサと同じ臭いがするよ、お前。どうやら立場は違えど、生きてきた世界は似てるようだね。
 だが、だからこそ、私らにとっては危険だ。──お前は殺すよ」
彼女の指から爪が生える、パワータイプでは無い様だ。
これ以上無駄な思考をしてしまっては討ち取られるだろう、それは御免したい。
「【シャドウ・ブラッド】」
掌から徐々に赤黒い物体が姿を形作る。
作られたのは1,3m程の日本刀。
性質を変化させ鋼鉄よりも硬く、鉄の数倍重くした。僕の愛刀。
爪は準備できた、次は牙だ。
左手を己の胸に置くと彼と彼の見る世界が変わる。
自分の心の奥底の生物としての狩人を呼び起こす。
今の彼には穏やかさなど無く眼は冷めたガラスの様に思える。
手に持った刀を構える、己の間合いを理解し相手のどんな動きにも対処できるように。
彼自身の視界も変わっていた。
先程までの世界とは一変した冷たい世界。相手と自分の殺気がそこにはある。
相手の殺気を身に浴びる。怖い。
だが己も唯暇潰しに刀を振っていた訳ではない。
能力者から生きる為少年と呼べる頃からずっと生きる為に刀を振ってきた。
力に酔った能力者を殺し実戦も理解し能力で練習相手も作り出し何度も練習した。
またそれをするだけ。
怜は上段に構えると、一気に踏み込む。
たった一歩で間合いを詰めると眼に見えない程の速度で袈裟切り。だがバックステップで避けられる。
避けられた刀が地面に当たり彼の前方の地面を破砕し、吹き飛ばす。
切れ味がいくら良くても怜の馬鹿力とこの刀の重量では斬撃は打撃と変わらない。
避けた氷室に向き直り刀を構える。
「一つ聞いておく。君の名前は?」
【赤月怜:武器を大気中の塵から作り出し自らも豹変する。氷室霞美に斬撃】
92虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/07/08(木) 18:41:03 0
>>89
「…ところで三人で、大丈夫か?いや、すまん、見た目はまだ学生といったところだからな。
私も負傷した身で言うべきでは無いが」
「ふふ…そうですね。気をつけることにします」
優が答える
「私はもう少し町を回ろう、何だか先程から騒がしいのでな。それに、化身が気になる。」
その言葉を聞き、
「そうですか…。それでは、さようなら」
「さようなら」
「さようなら」
優、詞音、御伽の順に別れの挨拶をする
「僕ももう少し散歩しようかな…」
【虹色兄弟:黒部夕護と別れる】
93氷室 霞美@代理:2010/07/09(金) 22:09:04 O
>>91
氷室の爪を見て、男も得物を取り出す。
いや、というよりは、氷室と同様創り出したと言った方が正しい。
突如として空中に現出したそれは、赤黒い何とも不気味な輝きを放っていた。
(刀……? オーラを具現化したか、あるいは大気中の物質を練ったものか……)
いずれにしても、わざわざ具現化した物体となれば、
何かしらの特殊な効力が付加されていると考えるのが妥当である。
(要は迂闊に近付くと危険──まずは様子を見るか)
氷室はじりじりと慎重に間合いを取りつつ、突き刺すような視線で男の動きを牽制する。
対する男も隙は見せず、ただじっと氷室の様子を窺う。
膠着状態に突入する典型的な流れである。
しかし、その均衡が崩れたのは、膠着状態に突入するかと思われた矢先のことだった。

男の姿がその場から消える。
いや、並の異能者であったならそう錯覚してもおかしくはない。
しかし、氷室の眼は男が高速で間合いを詰めつつ刀を振り下ろす姿を捉えていた。
瞬時に後方にステップを踏む氷室の胸元を、刃が紙一重でかすめる。
体ではなく空を切り裂いた刃は、その勢いのまま地面に直撃──
硬いコンクリートで固められた地面を木っ端微塵に粉砕した。

「一つ聞いておく。君の名前は?」
「知りたいなら、まず自分から名乗るのが礼儀というものだろ?
 ……まぁ、いいさ。私の名は氷室。カノッサと呼ばれる組織の者さ」
再び刀を構えた男に、氷室は目を細めながら答え、そして続けた。
「ハンマーで叩いたような破壊力、そして刃毀れ一つしないその強度。
 やはりただの刀じゃないな。普通の刀とは強度も、恐らく“重さ”も違う──。
 いくら私でも直撃したらただじゃ済まないだろう」
氷室は更に後方にステップし、先程よりも広く距離をとると、爪の形成された指をすっと男に向けた。

「直撃すれば──ね」
指先が鈍く発光──瞬間、全てを裂き、凍らせる恐怖の爪弾が放たれた。
それも無数に次々と、まるでマシンガンのように。
だが、爪弾だけで倒せるとはハナから思っていない氷室は、
もう片方の手に、密かに強力な冷気を集約させつつあった。

【氷室 霞美:遠隔戦に持ち込む】
94赤月怜 ◆KvtDeyvrJ2 :2010/07/14(水) 16:41:18 0
「知りたいなら、まず自分から名乗るのが礼儀というものだろ?
 ……まぁ、いいさ。私の名は氷室。カノッサと呼ばれる組織の者さ」
眼を細めながら答えた彼女は
「ハンマーで叩いたような破壊力、そして刃毀れ一つしないその強度。
 やはりただの刀じゃないな。普通の刀とは強度も、恐らく“重さ”も違う──。
 いくら私でも直撃したらただじゃ済まないだろう」
そう言った彼女に怜は驚いた、あの攻撃を見てそこまで冷静にいられるとは思っていなかったのである。
目の前の彼女はさらに後方へ下がり刀の間合いから離れた。
後方へ離れた彼女は怜へ氷の爪を向けると
「直撃すれば──ね」
そう言った瞬間機関銃の様に高速連射される爪。
飛来する爪は速い上に連射力もある、刀じゃ全ては防げない。なら数を減らせば良い。
怜は左手で刀を持つと右手の掌を前方に向ける。
「【シャドウ・ブラッド】」
掌から小さな杭が次々に撃ち出され頭や心臓へ向かう爪弾とぶつかり合い相殺する。
そして急所以外の自分に当たる軌道の爪弾は刀で叩き斬り、受け流す
「ゴメンね、名乗り遅れたよ。僕の名前は赤月怜、いや漆黒の鉄血鬼の方が有名かな?まぁ黒いワイシャツとジーンズを着ているとしか噂されてないけどね。」
怜は軽い口調でそう言いながら目の前の彼女を観察する。
今彼女は片手のみで爪弾撃っている。
残った手で何故撃たない。撃てるのは片手だけ?それは否だ。そんな弱点を放っておくはずはない。
なら大技を使うつもりなのか、ならば此方も準備だけはしておいて損は無いだろう。
「【シャドウ・ブラッド】」
刀を握っている手にオーラを集中させ変質させ技を発射するその瞬間まで威力を高め続ける。

【赤月怜:爪弾を杭と刀で撃墜し大技を使う為の力を溜める】
95ディートハルト・アイエン@代理:2010/07/15(木) 02:06:32 P
街のあちらこちらで爆音が轟き、その度に真っ赤な炎と黒煙が天を汚す。
それらに誘われるかのように、とこからともなく現れた漆黒の皮を纏う狼達が、
炎と煙から逃げ惑う子羊達に群がり、容赦なくその牙を突き立てる。

「ひいいいい!」
「だ、誰か、誰か助けてくれーー!!」

人々の悲鳴と絶叫、ほとばしる鮮血、ゴミのように打ち捨てられる肉塊。
ここにはもはや戦いとは無縁の平和な都市の日常はない。
あるのは、さながら内戦の最前線にでも迷い込んだかのような、
ただ無差別に破壊と殺戮が繰り返される非日常の光景であった。

「警察だー! 誰か警察を……いや、軍隊を──ヒッ!?」
「無駄だ。この街は我々の手によって通信網が外部から隔絶されている。諦めろ」

狼達の頭目がニタリと笑い、逃げ惑う男の首目掛けて腕を一閃する。
瞬間、男の首から上はまるでミキサーにかけたようにズタズタに引き裂かれ、
真っ赤とも真っ黒もつかない血を噴き出しながら無残に四散した。
                                 カノッサ
「もっとも、軍隊など所詮は凡人の集団。呼んだところで俺達の前ではどうすることもできんだろうがな。
 ──そぉら、手を緩めるな! 動いてる奴は全員殺せ! 無差別に、徹底的にとの命令だからな!
 殺した分だけ化身に近づける、それを忘れるな!」
「オオオオッ!!」

頭目の、いや、ディートハルト・アイエンの咆哮に、黒尽くめの部下達が呼応する。
まるで枯れ木を薙ぎ倒すかの如く蹂躙される人々を見て、ディートハルトは一人ほくそ笑んだ。
「初めからこうしておけばよかったのさ。どっち道、無能者どもは淘汰される運命にあるのだからな。
 そうだ、もっと血を流せ、もっと地獄を見ろ……かつて俺が味わった地獄をなぁ……!」

ピピピ!
「──ッ」
高揚にその顔をどす黒く染めかけて、ふとディートハルトの顔が神妙なものとなる。
装着するスキャナーが彼に代わって冷静に強い異能をキャッチしたのだ。
距離は近い。どうやら騒ぎを嗅ぎ付けた者が向かっているらしい。

「──フッ、この高ぶりを鎮めるには調度いい」
ディートハルトは燃え盛る炎を背にして、目標の反応に向かった。

【ディートハルト:黒部夕護のもとへ向かう】
96鳴神 御月@代理:2010/07/16(金) 20:05:03 0
――角鵜野市都心から東へ数キロ離れたとある港の端にある防波堤。
そこに一人の人間が座っていた。
ぱっと見は少女のように思える。堤防に座っているために地面に広がるほどの長い銀髪に整った顔立ち。
10人に聞けば10人が美少女と答えるような容姿。
しかしそれは当人にとって邪魔以外の何者でもなかった。

「ふぁ…眠…」
彼女、いや"彼"は手に持つ棒状のものを少し揺すって欠伸と共に呟いた。先端からは糸がたれて海中に消えている。
要するに――彼は釣りをしていた。しかし彼の横に置いてある水槽に魚の姿は見えない。
後方の街で現在起こっている事態を何となくはわかっているようだが、興味を見せるそぶりはない。実際あまり興味がないのだろう。
そんな彼に二人の男が近寄る。

「お嬢ちゃん、こんなところで何してるんだい?」
「…」
少年は答えない。というよりも聞いていない。
「おい、聞いてんのか?」
「…」
「おい!」
「…釣り」
少年は面倒くさそうに答える。
「あぁ!?んなモンは見りゃ分かんだよ!馬鹿にしてんのかテメェ!?」
「おい、落ち着け!」
「止めるな!!ブっ殺す!!」
止めようとする背の高い方の男を無視し、背の低い方の男が少年に掴みかかろうとする。

その刹那――男の首は胴体と離れていた。
意思をなくした男の体は、勢いをそのままに少年の体をすり抜けそのまま海に落ちる。首はその場に落ちた。

暫し呆然としていたもう一人の男が我に返る。
「き、貴様……今何をした!?」
男が拳銃を構える。
男の目には突然仲間の首が飛んだようにしか見えなかった。
少年は黙って釣りを続けている。
「こ、答えろ!今何をした!?」
男は怯えながらも再度叫ぶ。

「あ、釣れた」
少年の手には一匹の魚。

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
怒りと恐怖で精神が限界に達した男が震える手で発砲しようとする。
しかし男が発砲するより早く、男の喉に何かが刺さった。
薄れ行く意識の中、男が最後に見たものは、こちらに鋭い視線を向ける少年と自分の喉に刺さる、銀色に光るメスの柄だった。

「さて、次はあっちに行こうかな…」
少年は歩き出す。背後にあるものなど気にも留めず。一匹だけ釣れた魚を手に下げ、「何か」が起こっている街へ――

【鳴神 御月、下級戦闘員×2に勝利。角鵜野市に入り非戦闘中の人物いずれかに向かう】
97ダークフェニックス ◆vmVAU8BU2zJP :2010/07/16(金) 22:45:49 0
街のあちらこちらで爆音が轟き、その度に真っ赤な炎と黒煙が天を汚す。
>>95の惨状を生み出している異能者の1人が彼、コードネームダークフェニックス。
カノッサに古くから雇われし傭兵、人呼んで地獄の破壊神。

「俺の弾丸に触れると…火傷するぜ」

ピッ
そう言って彼が指差した方向に向けて、その指先から細いビーム状のオーラが真っ直ぐ放たれる。
ビームが放たれるのは一瞬の出来事。気づいた瞬間、オーラの向けられた場所から爆炎が巻き起こり、街を破壊しつくす。

「もっとも、軍隊など所詮は凡人の集団。呼んだところで俺達の前ではどうすることもできんだろうがな。
 ──そぉら、手を緩めるな! 動いてる奴は全員殺せ! 無差別に、徹底的にとの命令だからな!
 殺した分だけ化身に近づける、それを忘れるな!」
「オオオオッ!!」

ディートハルト・アイエンの咆哮に、黒尽くめの部下達が呼応する。
その中で風貌は似通っているが、彼だけはその咆哮の中に交わらず、ただ黙々とビームで街の破壊を続けている。

「初めからこうしておけばよかったのさ。どっち道、無能者どもは淘汰される運命にあるのだからな。
 そうだ、もっと血を流せ、もっと地獄を見ろ……かつて俺が味わった地獄をなぁ……!」
「地獄の炎はこんなにぬるかないぜ…」

彼のつぶやきは高揚したディートハルトには届かなかった。
ピピピ!
スキャナーが強い異能を察知するが、彼は特に気に留めず街の破壊を続ける。
どうせ他の連中のスキャナーにも反応が出ている。誰か適当な奴が行くだろう…

「──フッ、この高ぶりを鎮めるには調度いい」

…そう思っていたがまさかディートハルト自身が行くとはな。この部下達は野放しか。
まあこの場にスキャナーに反応する異能者もいないし、あの様子から駆けつけてくる異能者が来てもディートハルトが相手をするか。
もっとも、異能者に入り込まれたところで、この場にはこの俺がいるし戦力に問題ないがな。
ピッ
そして彼は街の破壊を続ける。

【ダークフェニックス:ディートハルトのいた場所で街の破壊を継続】
98氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/07/16(金) 23:45:05 0
>>94
爪弾は一直線に男へ向かい、次々と鋭い衝撃音を発して視界から消えていく。
しかし、氷室は依然として表情を緩めない。
小気味好い音を残したとはいえ爪弾は男に命中したわけではなく、
男の掌から放たれた杭と衝突し空中で消失しているに過ぎなかったからだ。

(刀以外のものも創り出すことができるのか。
 しかも飛ばすこともできるとは、思った以上の応用力……。読みが外れたね)

難なく遠隔戦に対応されては、間合いの優位性はもはや無いに等しい。
氷室は誤算に小さく唇を噛んだ。

「ゴメンね、名乗り遅れたよ。僕の名前は赤月怜、いや漆黒の鉄血鬼の方が有名かな?
 まぁ黒いワイシャツとジーンズを着ているとしか噂されてないけどね。」
ふと、男が、いや赤月 怜が軽い口調で答える。
氷室はしばし何かを考え込んだ後、彼に向けていた手を下ろし、爪弾の放出を止めた。
「赤月 怜……漆黒の鉄血鬼……か。なるほど、話を聞く分だとそれなりに有名らしい。
 実際、そうなっておかしくはない程の力はあるようだし、確かな洞察力もある。
 ──あの爪弾の雨の中、右手の違和感を感じ取っていたみたいだからね」
言いながら、胸の前で右手をぷらぷらと振ってみせる。
その時には、集約されつつあった冷気の気配は、もうどこにもなくなっていた。
怪訝な顔をする赤月に氷室は「フッ」と口元で弧を描いたが、
その顔とは裏腹に彼女の両指からは殺気の充満した輝きが放たれていた。

「これ以上、互いに離れて闘っても、恐らく埒があかない。
 決着を着けるには、やはり接近戦(これ)しかないだろう……」

不意に、氷室が腕を横に一閃する。その瞬間、再び爪弾が空間に撃ち放たれた。
だがこれは布石。一瞬だけでも赤月の視界から姿を消す為の目くらましだ。
赤月が爪弾を弾く間に、彼の後ろへと回った氷室は、殺気に満ちたその爪を突き立てた。
しかし、彼にも見抜かれていたか、紙一重で体をよじられ不発に終わる。
(さっきの女よりもいい反応──けど──)
すぐさま手首を赤月のかわした方向へひねり、突きを瞬時に横薙ぎへと変える。
だが、その方向には既に赤月の体はなかった。
彼は先読みしていたのか、体を地に沈み込ませるように屈ませていたのだ。
しかも、その体勢から体をよじった力を利用して半円を描くように刀を繰り出していた。
(──!)
赤黒く輝く切っ先が空気を切り裂いて迫る。
完璧なタイミングで放たれたカウンターは、如何な氷室といえどかわすことはできない。
氷室は咄嗟にもう一方の手を刀の軌道上へと、すなわち首を守るようにして差し出した。

冷気の爪と刃が交錯する。
その時、媒体である指が、鈍い音と共にかつてない方向へと折れ曲がった。
刀の質量に遠心力がプラスされたとてつもない衝撃に、骨そのものが耐えられなかったのだ。
氷室は顔を顰めるより早く、足で男の横腹を蹴り飛ばし、その反動で刀の間合いから離れた。
99氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/07/16(金) 23:48:14 0
「──私の動きについてこれる奴はこれまでにも何人かいたけど、
 あのタイミングからカウンターを放ち、私の指を折った奴はいなかったよ。
 まさか敵に傷を負わせようとして私が負傷するなんてね」
折れた指を掴み、強引にもとの位置へと戻す氷室。
その顔に笑みこそなかったものの、その声はどこか不気味な余裕さえ感じられた。
「だけど、その力いつまで持つかしら?」

今度は真正面から氷室が接近し、同じく真正面から斬撃を放つ。
それが今度は赤月の横腹の肉を抉った。途端に彼の顔色が変わる。
それもそのはず、先程までなら難なくかわしていたであろう馬鹿正直な攻撃である。
氷室がニヤリと小さく笑い、続いて心臓を貫かんと手刀を差し出す。
彼は腰を捻って致命傷は避けたが、完全に避けきれずに胸板に真一文字の傷を許していた。

「──『急に奴のスピードが増した。今までのは本気じゃなかったのか?』──
 何て思ってるんだとしたら、それは大きな間違いだよ。
 戦闘に夢中で気がつかなかったと思うけど、よぉーく周りを見てみなよ。何か気付かないか?」

不敵に笑うその氷室の口から、“白い息”が吐き出される。
そう、周囲の気温が極端に低くなっているのだ。
勿論、これは自然にそうなったのではなく、異能力によって引き起こされたものである。

「今の気温は氷点下さ。体温の低下は思考を鈍らせ、筋肉の柔軟性を失わせる。
 私のスピードが増したからついていけないんじゃない。
 お前の身体機能が低下したからついていけなくなったのさ」

『フリジッドゾーン』。
大量の冷気を体から放出することで、自身の射程内に一種の極寒地帯を作り出す大技である。

「ここは私の土俵。さぁ、お前はこの劣勢をどう挽回するのかな?」

【氷室 霞美:フリジッドゾーン発動】
100阿合 哀 ◆DniA.t9cN6 :2010/07/17(土) 00:08:20 O
哀は昭に連れられてある部屋に行く
そしてその部屋には台があり、哀はその上に寝転がるように言われる
そしてそのあと人が何人か部屋に入ってくる
その中には乾も含まれている
「これが私たちアソナのメンバーだ」
「これで全員?」
「ああ」
「案外少ないんだね」
「ああ」
「そういえばお父さんも能力あるの?」
「予知夢をたまに見るくらいだ」
「すごいじゃん」
「ああ」
少し微笑みながら二人は話す
「念のために眠らせてから血を入れることになる」
「その眠らせるのも誰かの能力?」
「ああ」
「少数精鋭なんだね」
「そこが不安なところなんだよな」
「どういうこと?」
「機関は人工化身のことを知っているかもしれないのさ
それで人工化身をつくるために私たちを集めたのかもしれない
そのために私たちを騙したのかもしれない
……と言っても、知られていたとしても私たちができることはひとつしかない」
「うん」
「心の準備はできたか?」
「正直できてない
人に頼りにされるのとか初めてだし
でもやらなきゃいけないのはなんとなくわかる
私、助けられたんだ、女の人に
名前は聞かなかったけど
私を機関の人から逃がしてくれた
私はその人のためにも頑張る」
「頑張ってくれ」
阿合の横に一人の男が立つ
そして男は哀の顔のうえに手をかざすと哀はすぐ目を閉じた

【阿合 哀:始祖の血をいれてもらうため眠りにつく】
101鳴神 御月@代理:2010/07/17(土) 16:13:31 0
>>92
少年は角鵜野市の中を歩いていた。
時折爆発のような音が聞こえ、黒煙が立ち上るのが視界に映る。
しかしさして気に留める事もなく、少年は歩き続ける。

「お腹、空いた…」

少年は空腹だった。
手に魚を持ってはいるが、調理する器具がない。
包丁なら自分で"生成"出来るのだが、切るだけでは意味がない。
せめてまな板ぐらいは欲しいものである。

どこか調理できそうな場所はないかと探していた時、ふと何かを見つけ立ち止まり帽子のつばを上に傾ける。
それはこちらに向かって歩いてくる三人の少年達の姿だった。

何か―恐らくは商売だろうと思われる―の気配を感じ取った少年は、三人に向かう。
港を出るときはまだ元気だった魚は、既に動かなくなっていた。

三人との距離が近づく。
眼鏡などの細かな違いはあるが、顔の造りが皆似ている。恐らくは兄弟か何かだろう。

そして三人の前まで歩いていき、かぶっていた帽子を取って声をかける。

「…何かお困りのことはありませんか?」

【鳴神 御月:虹色兄弟に接触】
102虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/07/18(日) 16:21:39 0
>>101
「…何かお困りのことはありませんか?」
その言葉を聞き、
「特に何も…あ、そうだ! 先日、謎の女性に襲われて…
 その女性は…化身がどうとか言ってたんですけど、それについて何か知りませんか?」
「それとこの辺りって異能者が多いんですか?」
と、優が訊ねる
「ところで、貴方お腹が減ってるんじゃないですか?」
詞音が訊ねる
【虹色兄弟:鳴神御月に質問をする】
103海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/07/18(日) 22:38:21 0
>>78-79
――ちちうえー、ひとつ聞いてもいい?
(これは……)
――その呼び方はやめてくれ。俺はお前の親父でもないし、そんな敬称で呼ばれるほどの人間でもない
(夢? これが走馬灯というやつか……)
――だってちちうえは私の命の恩人だし……それに“あの人”がこの呼び方の方が父上は喜ぶって……
――あの糞半纏野郎がッ……あぁ、もう好きに呼べばいい。で、質問ってのは
――ちちうえがいつも持ってるその真っ黒な刀ってなにかなー?って
(あれ、こんなこと聞いたかな……覚えてない。私の年齢から見るに、私が父上に助けてもらって数年後ぐらいだと思うけど……)
――これは『無間刀』って俺は名付けたんだが。ま、お前はまだ知らなくてもいいモノだ
――なにそれー、ずるいよー
――ま、分かりやすくいえば俺の大事な宝物だ
――宝物……じゃあ、私が守ってあげる! 恩返し!
――はは、無理無理。お前なんかに任せたらそこらへんの野犬にでも取られるのがオチだ
――そのときは取り返すもん!! 絶対、絶対!!
(……そうだ、取り返さなきゃ。あれは父上の大切なもの。私が取り返す。
どんなことをしても返しきれない恩を、少しでも返すために……!!)
104海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/07/18(日) 22:47:55 0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ん……あれ? 私、生きて……」
半身を起き上げ、横に目をやると「ウーン」と唸る奇妙な模様の半纏を負った背中が一つ。
「あれがええかなぁ…………おし、ようやく決ま……って、ああ!? キサちゃんがもう起きとるがな!!」
半纏男はそう言ってオーバーリアクションをした後、大げさに頭を抱え始めた。
男が着ている半纏には細い線が大量に描かれ、まるで西洋の魔方陣とアフリカ民族が儀式に使う模様を足したような奇妙な模様をしている。
半纏の下は白いワイシャツに下は黒いスラックス。まるでスーツの上着だけを間違えたような格好だ。あるいは電気屋の店員風。
男はある程度悶えた後、ピタっと動きを止めて散切り頭と狐のような糸目を海部ヶ崎に向けた。
「キサちゃんはその回復力と頑丈さが売りなのは昔から知っとるけど、ここまでとはなぁ。いやぁ、計算違い計算違い」
「霊仙(りょうぜん)さん、助けてくれたのは嬉しいけれど、なんでここに? この街に着くのは今日の夜だったんじゃ……」
「いやぁ、キサちゃんに会いたくて会いたくて、我慢が出来なかったんや。キサちゃんは受け止めてくれるか?この熱いパトスを!!」
自信満々に親指立てて変態のような事を口走る、霊仙こと不知哉川 霊仙(いさやがわ りょうぜん)。
彼は海部ヶ崎の父こと『幾億の白刃』と古くからの仕事仲間であり、十年以上情報屋を営む人物である。
その腕は本物で、特に相手に悟られることなく情報を得るのが得意であり
未だに彼と世界一の殺し屋に繋がりがあったことは綺崎以外には知られていない。
ただ、彼は自分が気に入った相手にしか情報を売らず、『幾億の白刃』はその数少ない一人である。
そして、綺咲もまたそのうちの一人であって、そのためいろいろと綺咲の力になってくれている。

霊仙の冗談に付き合わず海部ヶ崎はベンチから立つと、能力を使って遠くに落ちてあるギターケースを引き寄せた。
「ん?」
一直線に飛んでくる黒いケースを片手でキャッチすると、男が二人倒れるのに気付く。
「あれは?」
「あれも含めて色々説明はしたる。けど、人や警察着たらメンドイから怪我ふさがったばっかで悪いんやけど歩けるか?」
ええ、と短く答えると再び能力を使って、周辺に散らばった武器とその破片をケースにやや乱暴につっこんだ。
それを霊仙が海部ヶ崎の代わりに担いで、二人は『あれ』呼ばわりした男達をほっといて公園を後にした。
105海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/07/18(日) 22:52:05 0
――――PM1:30 街の中央部 とある車内
「つまりカノッサ機関は始祖とかいう異能力者の力を受け継ぐ化身を探してる……ということですか」
野球帽を脱いで肩ほどまである黒髪を窓から吹き込む風になびかせながら、海部ヶ崎は昼食であるコンビニのおにぎりを頬張る。
二人は現在、霊仙が用意した白いキャンピングカーで街中を走行している。
目的地はなく、ただ単に戦闘の現場から離れようという目的で北へ進路をとっていた。
「正確には始祖は人智を超える、人間ではない存在らしいけどな。
 始祖の伝説はオーラを研究してる人間達の間では有名やけど、単なる御伽噺扱いや。せやから俺も最初は信じられへんかったが、
 どうやら最近、機関はこの辺の街を注意深く調査しとったらしくてな」
「そしてこの街に化身がいる、と機関は確信した」
「そうや。さっきの倒れてた男達も化身の炙り出しを円滑に進めるための策の一つやろ」
一通りの説明が終わると今度は、海部ヶ崎が今日のこれまでについて説明しだした。

「――――と、ここまでが私がこの街に着てからの半日です」
「カノッサ機関の自称紳士と戦って、金持ちの嬢ちゃん連れて逃げて、その後カノッサの四天王とタイマン〜?
 随分スリリングな半日やなぁ」
「自分でも生きてるのが不思議なぐらいですよ。実際霊仙さんが来なかったら確実に死んでましたし」
「まさに俺はキサちゃんの命の恩人やな。
 さぁ、俺のことも父上と呼んで敬ってちょうだ……アカンて!!中身入りの缶ジュースを飛ばすのは!!つーか運転中運転中!!」

【海部ヶ崎&不知哉川:キャンピングカーで街を北に向かって走行中。海部ヶ崎の怪我は塞がるもダメージは重い】
106鳴神 御月@代理:2010/07/19(月) 03:24:39 0
>>102
「特に何も…あ、そうだ! 先日、謎の女性に襲われて…
 その女性は…化身がどうとか言ってたんですけど、それについて何か知りませんか?」
「それとこの辺りって異能者が多いんですか?」
「ところで、貴方お腹が減ってるんじゃないですか?」

一気に質問され、頭の中で整理する

「最初の質問…。化身、という言葉はどこかで聞いたことがある。でも詳しくは知らない。ごめん…。
 次の質問。異能者…かどうか分からないけど、さっき港で変な二人組に会った。
 確かに、普通の人間じゃない気配、たくさん感じる…。
 最後の質問。お腹、すごく減ってる…」

質問に答え、少年達に聞いてみる。

「あ、名前…。鳴神 御月。一応何でも屋やってる…。男、だよ?それで、ものは相談なんだけど…。
 もし良かったら、雇ってくれないかな…?護衛から庭の手入れまで何でもやる…。あ、君達学生かな…?報酬は、ご飯食べさせてくれればいいから…。
 無理なら、せめてまな板貸してくれる…?」

【鳴神 御月:虹色兄弟に依頼の話を持ちかける】
107ダークフェニックス ◆vmVAU8BU2zJP :2010/07/19(月) 22:52:09 0
ピッ
ピッ
ピッ
スキャナーの反応した場所へディートハルトが向かって何分くらい経っただろうか。
角鵜野市の1割は崩壊したかと思い始めた頃、どこから入り込んできたのか、この場所に腕に包帯を巻いた中学生くらいの少年が姿を現した。
スキャナーに反応を見せなかったから、ディートハルトも見逃したか。
少年の出現に気づいた黒服達が少年の下へと寄っていく。

「けっ、なんだただのガキじゃねえか――」

ピピピピ

「ん?スキャナーに反応が…って、なんだこのガキの異能値!?」
「な…ちょっと待て!スキャナーの故障か!?」
「お…おい…まさかこいつが化身なんじゃ――」

黒服達が騒ぎ始めた。それまで特に気に留めずにいたが、"化身"と聞いて俺はその少年に対して興味を向ける。
そして振り向くとスキャナーはインフレを起こし始め、少年は包帯の巻かれた腕を中心に、この場を包み込むほどの膨大なオーラを放っていた。

「…エターナルフォースブリザード」

そして少年の声に呼応するように、突如その場一帯に猛吹雪が吹き荒れ、少年の眼前全ての敵を覆い尽くす。
当然この俺ダークフェニックスもその敵の中に含まれ、攻撃に巻き込まれている。
吹き荒れる猛吹雪は少年の腕に巻かれた包帯も無造作に吹き飛ばす。

「一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる…」

少年の言霊に反応するように俺達は氷結していく。
その最中、包帯の取れた少年の腕に通常の人間には存在しない"第三の目"を俺は見た。

「な、なに!!」
「か…身体が…」

その場にいる者は皆うろたえもがく。だがどうやらこの技の前に逃れる術は存在しないようだ。

「相手は死ぬ」

少年の第三の目に映る全ての生命活動は停止する。この一瞬の刹那、この場から逃げ出せた者は誰一人いない。

「これ以上この街で好き勝手させて溜まるか…この邪気眼でお前達カノッサは俺が倒す!」

無数の氷の墓標に少年は背を向けて歩き出した。

【ダークフェニックス、他下級戦闘員50人、中級戦闘員25人死亡】
108ダークフェニックス ◆vmVAU8BU2zJP :2010/07/19(月) 22:54:08 0
少年は氷の世界を背に歩いていた。第三の目が開ききった腕を抑えながら。
「ぐわっ!…くそっ!…また暴れだし――」

「――ヘルズボルケイノシュート」

バンッ!!
その銃声と同時に少年は自分の胸から一瞬"何か"が飛び出すのその第三の目は捕らえた。
だが"それ"を防ぐ事はできなかった。正確には"それ"は少年を胸を後ろから貫いていた。

「死の世界から呼び寄せた闇の火弾をマッハ2でぶつける。相手は死ぬ」

貫いた"それ"は黒い炎を纏った闇の火弾…

「バカな…この技を受けて――」
「死なないはずがない…か?」

バタリ
少年疑問を最後まで言い終える事なく倒れ伏す。貫かれた胸の傷口は炎を上げてその全身を黒い炎が焼き尽くしていった。
闇の火弾を撃ってきたのは、氷の中から腕だけ出し、その指先を銃口のように向けた状態で話しかけてくる名も無き黒き男。

「確かに"死んだ"さ。一瞬の刹那、防ぎようのない吹雪に氷結していく身体に流れる血液は凍り、心臓は止まった。
 貴様のエターナルフォースブリザードで俺は"死の世界"へ送られた。そのおかげでこうして闇の火弾を手に入れたわけだ」

彼の周りを覆った氷は湯気を立ち込めながら徐々にヒビ割れていく。

「とんでもない技だったが"死なせた"相手が悪かったな。俺の名はコードネームダークフェニックス、人呼んで地獄の破壊神。
 炎のオーラを掌る異能者であり、地獄送りになろうとそこを破壊して何度でも蘇る闇の不死鳥だ」

言い終えると同時に彼を覆っていた氷は完全に崩壊した。

「だが貴様は違ったらしいな…」

これだけ強大な異能値を持つ者ならもしかしたらカノッサの探す化身かもしれないと思ったが…
化身がこの程度で死ぬようなものなら所詮カノッサの求めるものでは無かったという事。

「デバッガ達の相手も面倒だ」

氷を抜け、身体の自由を取り戻すと彼は別の場所へと移動していく。
後には無数の氷の墓標と、少年だった灰の中に埋もれた邪悪なオーラを放つ1つの目玉が残された。

【ダークフェニックス:謎の中学生異能者に勝利、場所を移動】
「いたいた、哀れな虫が……」

電柱のてっぺんからディートハルトが見下ろすその視線の先には、
見るからに西洋のものと思われる剣を一本背中に背負った、長身の男がいた。
その風貌といい隙のない歩き方といい、スキャナーが指し示す反応といい、
もはや彼がディートハルトの標的となった異能者であることを疑う余地はない。

ディートハルトは電柱から飛び降り、改めて真正面から男を見据えた。
男は初め、突然出現したディートハルトに驚いていたようであったが、
彼が殺気の満ちた目をしていることに気付くと、すぐにその表情を戦士のそれへと変えた。
      祭り
「久々の殺し合いなんだ。精々、楽しませてくれよ」

ニヤリと黒く染まった顔をして、ディートハルトはおもむろに掌を向ける。
そのゆらりとした不自然な動作に、何か奇妙な違和感を感じ取ったのか、
男は体の構えを解いて咄嗟にその場から跳び上がった。
瞬間、男の背後に聳えていた厚いコンクリートの壁が、
まるで見えない針にでも刺されたように、蜂の巣のような無数の小さな穴を空けた。
しかし、男はその奇怪な現象に目を奪われる間もなかった。
空中へと逃げた男に向けて、ディートハルトが腕を振り上げたと思えば、
無数の穴の空いた壁がまるでナイフで切り取られたかのようにバラバラになり、
次の瞬間には、男の体のいたるところから血の飛沫が噴き出していたのだ。

思いも寄らぬ形でダメージを負いながらも、男は腕をついて何とか着地する。
その時、彼は気がついた。自分の体に、無数の細かな切り傷が刻まれていたことに……。

「──フッ、感謝しろ。今のはほんの小手調べ。敢えて致命傷にならぬようにしてやったのだ」
クックックと文字通り彼を見下すディートハルト。
そこで男は初めて口を開いた。
「一体……一体何者だ、お前は……!」

「フッ、そうだな。名も知らぬ敵に倒されるのも不憫というもの。
 教えてやろう、俺の名は『ディートハルト・アイエン』。
 この街に狼どもを放った組織の四天王、すなわちカノッサ四天王の一人よ!」
「カノッサ……。そうか、先程闘った男も、あんたらの組織の人間だったのか。
 ……何故だ、何故こんなことをする……」
「知ったところで無駄だ。どうせ貴様はこの場で死ぬのだからな」

すっと腕を上げるディートハルトを見て、男は素早く後方にジャンプし距離を取る。

「わけもわからぬ内に死ぬ気はない。
 お前がその気なら、この黒部 夕護、一切の容赦はしない……!」
ピピピ!
「ほう……」
スキャナーの数値が上昇している。
文字通り男が──いや、黒部 夕護が本気となったのだ。
それは先程までの数値のおよそ三倍。
血の気の多い人物と知られるディートハルトが、その口を二ィと歪ませるには十分な材料であった。

「ククク、そうこなくてはな。さぁ、貴様の真の力を見せてみろ!」

【ディートハルト:戦闘開始】
110虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/07/20(火) 19:05:56 0
>>106
「ありがとうございます」
質問に答えてくれたことに、優がお礼を言う
「あ、名前…。鳴神 御月。一応何でも屋やってる…。男、だよ?それで、ものは相談なんだけど…。
 もし良かったら、雇ってくれないかな…?護衛から庭の手入れまで何でもやる…。あ、君達学生かな…?報酬は、ご飯食べさせてくれればいいから…。
 無理なら、せめてまな板貸してくれる…?」
「最近物騒なので…ぜひお願いします」
御伽が雇うことに賛同する
「ええと、食べ物ですか。どんな食べ物が良いですか?」
優が尋ねる
【虹色兄弟:鳴神御月を雇う】
111鳴神御月 ◆21WYn6V/bk :2010/07/20(火) 23:11:56 0
>>110
「ありがとう。あ、これ良かったら食べて…。まだ新鮮だから…」
手に持っていた魚を差し出す。まだ釣ってからそんなに経っていない。
「好き嫌いはない…。何でも食べられる…。あ、あと玄関先、最悪庭でもいいから横になれる場所、
 貸してくれるとうれしい…。」

最悪家に置いてもらうのが無理でも、御月は野宿に慣れていたのでそれでも良かった。

「…雇ってもらうにあたって、確認事項…。基本的に護衛だから一緒に行動するけど、
 何か頼みたいことがあれば別行動も可能。例えば、情報収集とか…。
 あと、これから話す2つは必ず守ってほしい」

少し声のトーンを落として―元々あまり抑揚はないが―少年達に言う。

「1つ目…。依頼人の言葉がない限り、たとえ目の前で人が襲われてても、助けない。
 つまり、依頼人の言葉以外では動かないということ…。逆に、依頼人である君達が予め言ってくれれば、
 人助けなんかもする…。
 2つ目…。こっちのほうが重要かも…。満月の夜には、絶対に自分に近づかないで欲しい」

2つ目を若干強めに言い、説明を終える。

「仕事について、何か質問があればどうぞ…。あと、名前、教えてくれるかな…?」

【鳴神御月:虹色兄弟と契約完了】
112ダークフェニックス ◆vmVAU8BU2zJP :2010/07/20(火) 23:56:40 0
スキャナーの反応がおかしい。
どうやら先程の少年のケタ外れの異能値の計測、強力な猛吹雪などもあって故障しかけているようだ。
元々異能値の計測よりも、探知機能を重視するように作らせた特注品だ。
先程のような異能値の計測を想定したつくりではないのだから、壊れても仕方がない。

ピピピ

だがそのおかげか、壊れたといっても探知機能に関しては正常に作動している。
…異能値の計測機能は完全に壊れているようだが。

「異能者は…どうやら"上"の方だな」

スキャナー越しに視界に映る生物は2つ。
人型の男と…それを掴んで飛ぶ巨大な鷲。>>18で虹色優によって生み出され>>22で氷室霞美も見たあの怪鳥と男である。
スキャナーの計測機能が壊れているといったが、異能者の探索にはかえって都合の良い状態になったといえる。
スキャナーは巨大な鷲から3000以上の異能値を計測、掴まれた男には全くの無反応。
だがスキャナーをずらして肉眼で見ても、どう見積もっても鷲からそれほどの膨大なオーラは放出されていない。
潜在的な異能値を表示しているという見方もできたかもしれないが、それなら男の方からもわずかなりと異能値が計測されるものだ。
このスキャナーは異能値の正確性はともかく、異能者とそうでない者を明確に現すようになったようだ。
もっとも鷲は正確には異能者ではなく、異能力で作られた存在であるが、彼にその事を知る由は無い。
対象のはっきりしたところで彼は鷲を指差した。

「俺の弾丸に触れると…焼き鳥だぜ」

ピッ
そして指先より放たれる街を焼き尽くした破壊光線。
光線が命中すると、鷲は掴んでいた男を放して、全身が燃えて火の鳥になりながらもがき苦しみ、やがて爆発した。
爆発とともに鷲から観測されていた反応は完全に消失する。
放された男は当然落ちていく。そして落ちた先の大通りは車が行きかっている。

ピピピ

その先にスキャナーが新たな異能者の反応を見せた。
通常よりはるかに大きな異能値として反応するスキャナーは、他のスキャナーでは見つけられない程遠くにいる異能者を察知する事も可能となったようだ。
男が落ちた先、スキャナーが反応を示した場所は>>105の海部ヶ崎綺咲と不知哉川霊仙がキャンピングカーを走らせている場所だった。
空から落ちてきた存在に、キャンピングカーは停止する。

「俺の弾丸に触れると…火傷するぜ」

ピッ
そこへすかさず破壊光線を撃ち込む。命中したキャンピングカーは先程の鷲のように炎上し、爆発する。
後に続く車両も二次災害を起こして次々と炎上していく。
これで死んだはず…普段ならそれで終わっていただろう。
だが壊れたスキャナーは俄然、その場から異能者の生存反応を示したままである。
数値に関しては全く当てにならなくなったが、どれだけ微弱であろうと異能者の有無は確実に示すようになったのだ。
ならば消さねばならない。たとえそれが死にかけであろうと、戦う力が残っていなくとも、標的を見逃す真似を俺はしない。
そして炎上する地獄の中に俺は歩を進めていった。

【ダークフェニックス:巨大鷲に勝利。遠くの海部ヶ崎&不知哉川の乗るキャンピングカーを攻撃、その場に向かう】
113名無しになりきれ:2010/07/21(水) 01:06:52 0
ごぼぼぼぼっ!マンコ大洪水!
114 ◆ccAShjBgwc :2010/07/21(水) 05:30:45 0
115赤月怜 ◆KvtDeyvrJ2 :2010/07/21(水) 22:03:36 0
「赤月 怜……漆黒の鉄血鬼……か。なるほど、話を聞く分だとそれなりに有名らしい。
 実際、そうなっておかしくはない程の力はあるようだし、確かな洞察力もある。
 ──あの爪弾の雨の中、右手の違和感を感じ取っていたみたいだからね」
彼女は僕が何かを感じていた右手を振って答える。
だがその手はもう先程の何かは無い。唯の手
あの違和感は何処へ行った。

「これ以上、互いに離れて闘っても、恐らく埒があかない。
 決着を着けるには、やはり接近戦(これ)しかないだろう……」

出来れば生かしておきたかったが此処までの強さだ、殺した方が割が良い。
そう考えた瞬間もう一度彼女は氷を放って来た。
そしてまた先程と変わらない戦闘。
あえて違うところを言えば僕が彼女の指を折ったという所だけ。

「──私の動きについてこれる奴はこれまでにも何人かいたけど、
 あのタイミングからカウンターを放ち、私の指を折った奴はいなかったよ。
 まさか敵に傷を負わせようとして私が負傷するなんてね」

僕も此処までの人とは有った事は無いよ。

そう心の底で溜息を吐く。
氷室の余裕のある笑み、それを見た瞬間また氷室が飛び出してくる
防げず斬られた。
先ほどとは段違いな速度に怜は顔を歪める。
そしてまた氷室の攻撃が迫る。腰を捻ってよけようとするが胸板が斬られた。

「──『急に奴のスピードが増した。今までのは本気じゃなかったのか?』──
 何て思ってるんだとしたら、それは大きな間違いだよ。
 戦闘に夢中で気がつかなかったと思うけど、よぉーく周りを見てみなよ。何か気付かないか?」

そう喋る氷室を見た怜は悟る。先程のはコレか。

「今の気温は氷点下さ。体温の低下は思考を鈍らせ、筋肉の柔軟性を失わせる。
 私のスピードが増したからついていけないんじゃない。
 お前の身体機能が低下したからついていけなくなったのさ」

マズイ。
このままじゃ逃げる事が出来ないだろう。
でもそれ以上に

「残念だよ、君の血が飲めそうにない。」

そう言った怜は右手を前に付きだす。
その右手から生まれたのは先程までの刀や杭ではない。
もっと原始的。
固め、造形するでも無い。
唯ぶつける為に放ったモノ。
怜の腕から出た影の様なモノ、実際はオーラを変質させた物だが。
それを固めて飛ばすでもなくゲル状のモノを放つ。
だが今回の『ソレ』は常軌を逸している。
まるで大津波の様な巨大さがある。だが津波と違うのは色が赤黒い事とその量。
上にも長いがそれ以上に波の様に壁になるのではなくまるでポンプの亀裂から噴き出す水の様に勢い良く溢れ出る。
冷気でも凍らない。凍る前に後ろから新たに跳び出す【シャドウ・ブラッド】に押され前へ進む
逃げ場など与えない。右にも左にも上にも【シャドウ・ブラッド】によって逃げ場は無い。
「【シャドウ・ブラッド】」
さぁ生きて見せろ。
この戦場の全てを蹂躙する津波から。

【赤月怜:オーラのほぼ全てを使って巨大津波を発生。】
116氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/07/23(金) 02:37:14 0
>>115
氷室は鹿を崖に追い詰める獅子のように堂々と歩みを進める。
全てが彼女に有利に働くこの条件化の中では、もはや趨勢は決したかのように見えた。

「残念だよ、君の血が飲めそうにない。」

しかしこの赤月の言葉で、今度はこれまでの雰囲気と、氷室の顔色が一変する。
彼が向けた右掌、そこに先程までとは比にならない、とてつもない量のオーラが集まっていくのだ。
しかも、見る見る変質していくそれは、刀や杭という見慣れた物体と化すのではなく、
赤黒く染まった見たこともない奇妙なゲル状の物体へと変わっていくのであった。
(全力だな……)
氷室はそう直感し、体に力を込めた。
その直後──周囲の大気が鳴動すると共に、氷室の視界が赤黒く覆われた。

それは赤黒いゲル状物質の巨大な津波──。
それが上から、前後左右から、まるで水流の結界となって氷室に押し寄せてきたのだ。
フリジッドゾーンの冷気が表面を凍らせても、
後から際限なく雪崩のように押し寄せてくるそれを止めることはできない。
防ぐことも、逃げることもできない。できることといえば、波に飲まれるのを待つだけ。

「──本当にそうかな?」

だが、氷室は絶体絶命のピンチなどと微塵も感じていないようにぽつりと呟き、
そして何を思ったか、その下の地面を思い切り強く蹴った。
その刹那、「ドッ」と音を立てて、巨大な波が氷室のいた場所を飲み込んだ──。
四方からの激流に飲まれれば、圧殺されるどころか、水圧で肉体ごとバラバラに引きちぎられるだろう。
しかし赤月にとっての誤算は、ここが“地上”ではなく、ビルの“屋上”であったことである。

──バゴッ!
突然、赤月の真後ろの地面が音を立てて砕け散る。
それと同時に、そこからコンクリートの破片と、右手を赤月に向けた氷室が舞い上がった。

「地上ならいざ知らず、ここは屋上だよ。床を踏み抜けばそこが脱出口になる」
掌が青白く輝く。そこには、既にこれまでに無いほどの冷気が球体となって集約されていた。
これぞ先程撃ち損ねた彼女の取って置きの技──『ノーザンミーティアー』である。
                   ・. ・ .・ ・ .・. ・ ・. ・ ・ ・ ・
「私の血が飲めそうにない──正にその通りになったな」

──猛烈な吹雪を思わせる冷気の波動が、ビルを飲み込んだ。

【氷室 霞美:ノーザンミーティアーを放つ】
117虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/07/23(金) 18:50:20 0
>>111
「ありがとうございます」
魚を受け取った優がお礼を言う
「…雇ってもらうにあたって、確認事項…。基本的に護衛だから一緒に行動するけど、
 何か頼みたいことがあれば別行動も可能。例えば、情報収集とか…。
 あと、これから話す2つは必ず守ってほしい」

「1つ目…。依頼人の言葉がない限り、たとえ目の前で人が襲われてても、助けない。
 つまり、依頼人の言葉以外では動かないということ…。逆に、依頼人である君達が予め言ってくれれば、
 人助けなんかもする…。
 2つ目…。こっちのほうが重要かも…。満月の夜には、絶対に自分に近づかないで欲しい」
「はい、分かりました。基本的には一緒に行動、頼めば別行動も可…っと
僕達の言葉以外では動かない、満月の夜には絶対近づかない(←重要)っと」
鞄から取り出したメモ帳に御月の言葉をメモする優
「…あ、質問は特に有りません。…名前ですか? 僕は虹色優です」
「同じく詞音です」
「…御伽です」
三人がそれぞれ自己紹介をする
「あ、これ、僕からの報酬として受け取ってください」
優が画用紙にミートソーススパゲティを描いて具現化し、手渡す
【虹色兄弟:契約の内容を了解】
118鳴神御月 ◆21WYn6V/bk :2010/07/24(土) 01:37:28 0
>>117
「…あ、質問は特に有りません。…名前ですか? 僕は虹色優です」
「同じく詞音です」
「…御伽です」
「優、詞音、御伽。覚えた…。これから宜しく…」
三人の自己紹介を聞き、頭の中に記憶する。すると
「あ、これ、僕からの報酬として受け取ってください」
と言って画用紙を持った少年―確か優だったか―が何かを描いた。

――ミートソーススパゲティだった。

次の瞬間、画用紙の中から出てきたそれはおいしそうに湯気を立てている。
恐らく優は、画用紙に描いたものを具現化する能力を持っているのだろう、と考えた。
とそこで自分が空腹だったことに気がつく。
「ありがとう…。いただきます」
受け取った皿を一度地面に置き、両手をパン、と軽く鳴らて食べ始める。
「おいしい…。久しぶりの食事…」

「ごちそうさま…」
ここ数日まともなものを口にしていなかった御月は、あっと言う間に食べ終えて手を合わせる。
「さて、それじゃあどうしようか…?遠くの方でいくつか戦闘の気配がするけど…」
そう言って御月は気配のする方を眺めて目を細めた。

【鳴神御月:虹色兄弟に指示を仰ぐ】
119海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/07/24(土) 03:31:08 0
>>105 >>112
「さっきの爆発は一体……方角的には東からですよね」
「機関が乱暴な手を打ちだしたんやろ」
それはほんの数分前、中央地区から北地区へとキャンピングカーがその境目を越える時だった。
突如、爆発音とともに真っ赤な炎と真っ黒な煙が東地区から昇ったのだ。

「今も断続的に小さい爆発音が聞こえるやろ? 今頃向こうは世紀末みたいな弱肉強食の世界とかしとるわ」
「え?……でも、彼らの目的は化身の捕獲なんでしょう? そんなことしたら、化身が逃げたり、誤って化身自体を殺す可能性もありませんか?」
「幾つか考えられるのは、化身は死んでても利用可能か、もしくはこんな作戦を決行しても『化身は絶対に死なない』という根拠があるのかもな」
「根拠?」
ここで一旦会話を区切り、霊仙は運転しながらスラックスのポケットから煙草と取り出し、シガーライターで口に咥えた煙草に火を付けた。
「フゥ……そうやな、四天王まで出張っとるとこ見るに、化身を宿した人間はもう覚醒間際で既に相当の実力者になっとるのかもな。
 ま、なんにしても無間刀を取り返すには最悪の状況やっちゅうことは変わらんけどな」
「そうですね……」
ごそごそ、と布の擦れる音。海部ヶ崎は先ほどの戦闘で大きく破けたタンクトップを脱ぎ捨てて、
霊仙が用意してくれた新しいものに着替えている途中だった。
(……一応、俺には見えない位置で着替えてくれてるけど、どうせ窓開けっ放しなんやろなぁ。
 そういう常識が全くなかった三年前に比べたら、だいぶマシになったんやろうけど……
 最初は、そこら辺の公園で寝てたからなぁ。お金渡してても宿泊施設について教えへんかった俺が悪かったんやけど)
彼女を溺愛している霊仙にとっては、海部ヶ崎の常識のなさには内心心配している。
そんな彼が、今朝の海部ヶ崎が計画していた山でキャンプという案を半分本気で考えていた事実を知ったら、恐らく全力で阻止することだろう。
120海部ヶ崎 綺咲 ◆3LPMHhiq9U :2010/07/24(土) 03:40:03 0
着替えが終わったのを見計らって、霊仙はこう言い出した。
「そうや、キサちゃん。これ見てみ」
霊仙の片手が掴んでいるのは一見ただのサングラス。
相手の意図が分からず、首を傾げる海部ヶ崎に霊仙は補足説明をつける。
「スッキャーナー♪」
「あぁ、さっき化身と一緒に説明したやつですか。って、なんで霊仙さんが持ってるんですか」
「そりゃー、こんな便利なもん付けてる奴が何百人と街にいるんやで、一個ぐらい欲しくなるや……」

――――グシャ
「おっと」
車を急停止させると、その肉が潰れる嫌な音ともに落下してきたのは人間だった。
「なんや……」

――――ピーピー
続けざまに言葉を遮る突然の音。こんどは件のサングラスからだった。
「……まずい、攻撃や!!」
その叫びが終わるときには、既に二人とも半身、車の外へ飛び出していた。

――――ゴォン!!
キャンピングカーに一条の光が突き当たると、それは一瞬で火炎と化して対象を爆発させた。
その飛び火により、周囲の車も幾つか激しい爆音と共に誘爆する。


「あたた……おーい、キサちゃん、大丈夫か〜?」
「ええ、なんとか」
情けない呼びかけとは裏腹に燃えさかる車体の向こう側から聞こえたのは、全然平気そうな海部ヶ崎の声。
「あ、そうか、キサちゃんは磁力を使ったから、俺なんかよりよっぽど早く脱出できたわけか。ずっこー。
 俺なんかちょっぴり、燃えかけたで? つうか燃えたで? 二秒ぐらい」
大の字で二車線となりの車のボンネットに倒れていた霊仙は起き上がり、周囲を見回した。
「あーあー。ホンマ派手にやるわ」
霊仙はさっきの爆発でも手放さなかったサングラス型のスキャナーを装着し、攻撃の主を探した。
しかし、その相手は肉眼でも確認することは出来た。
悲鳴をあげて逃げ惑う人々の波を逆らい、こちらに向かってくる黒コートの男。
「ありゃー、こっちに来よるわ」
ボンネットから降りると、こちらを見つけた海部ヶ崎が駆け寄ってきた。
青髪の女性との戦いで多少破れたジーンズ以外は確かに無傷で平気そうだった。
「どうします?」
「そうやなぁ、キサちゃん。なんか武器もって出れた?」
「この刀一本が限界でした……」
「そうか……よし、じゃあここは俺に任しとき」
すぐそこまで迫ってきてる黒コートの男に、半纏男は正面から向き合った。
「えぇ!? でも、霊仙さんの能力は戦闘向きじゃありませんし、私まだ戦えま……」
「ええから、ええから。任しときって。それにキサちゃん、怪我が塞がったばっかりで、フラフラやん?
 ここは、俺の雄姿をその美しい眼(まなこ)に焼き付けて、完璧グレートな俺のことを見直しときな」
海部ヶ崎の肩を、パシっと軽く叩き、黒コートの男へと歩き出す霊仙。
その後は何も言わず、海部ヶ崎はただ黒地に白い線の奇妙な模様が描かれた背中を見つめていた。

「やー、やー、やー、初めまして機関員くん。いきなりの派手な挨拶ありがとさん。燃えるほどビックリしたで。
  ……で、聞いても答えは分かりきってるんやけど、一応聞いとくわ。何か用かな?」
胡散臭さが滲み出てるそのニカっとした笑顔で、そう呼びかけた。

【不知哉川:海部ヶ崎には下がらせ、一人でダークフェニックスと接触】
121ダークフェニックス ◆vmVAU8BU2zJP :2010/07/24(土) 21:56:34 0
>>120
炎上の中、スキャナーが生存を示す2つの異能者はどちらも大したダメージが見られなかった。

「やー、やー、やー、初めまして機関員くん。いきなりの派手な挨拶ありがとさん。燃えるほどビックリしたで。
  ……で、聞いても答えは分かりきってるんやけど、一応聞いとくわ。何か用かな?」
「なに…少し知りたい事があるだけだ」

彼は2本指を立てて、海部ヶ崎を下がらせて近づく不知哉川を指差す。先程と同じ破壊光線を放つのである。
効かない事は想定している。知りたいのはその手段。
特殊な技で防いでいるのか、肉体機能の強化によって避けているのか、食らっていながら効かないのか。
単なる偶然で無事だったのならばこれで死ねばいい。
今俺のスキャナーは壊れて、異能値が正確に割り出せない。力量の程は全く読めない。
だが異能者の位置は確実にわかる。この場所に存在する異能者は俺を含めた3人、標的は目の前の2人だけだ。
この場にいた他の者は皆逃げ出したようだが、スキャナーに反応のない人間をわざわざ標的にして追う気はない。

「俺の弾丸に触れると…」

破壊光線を放つ前口上を呟く。特に何も言わなくても出す事はできる技だが、指差しを行った時の口癖になっている。
指先にオーラが集中する。そのオーラが、不知哉川の持つサングラス型のスキャナーに隠し切れない反応を示す。
そのオーラは光線を放つ寸前で"2つ"に分かれた。
彼は立てていた2本指をVの字に開き、不知哉川だけでなくその後方にいる海部ヶ崎にも向けたのだ。

「火傷するぜ」

ピピッ
そして破壊光線は2人に向かって同時に放たれた。

【ダークフェニックス:不知哉川と海部ヶ崎に同時に破壊光線を放つ】
122名無しになりきれ:2010/07/24(土) 22:24:57 0
板違い
「お前に言われるまでもない──!」

黒部が高速で接近を開始する。
フェイントの気配すら感じさせない馬鹿正直な突進である。
そこに何かの意図を感じながらも、自分に絶対の自信を持っているディートハルトには
敢えて様子を見るという選択肢はなかった。

「──いいのか? わざわざ俺の間合いに入ってきても!」

再び腕を一閃する。
また目に見えない何かの力が黒部の体を刻まんとする合図であった。
しかし、今度の黒部は、それを許さなかった。
黒部の纏った青みがかったオーラが、目には見えない物理的な攻撃を完全に跳ね除けたのだ。

「──いいのさ。でなきゃお前にダメージを与えられないんでな」
目を丸くするディートハルトの眼前にまで迫った黒部が、
その逞しい体を呻らせ豪快な拳打を放つ。
「チッ!」
無防備な下顎目掛けて放たれそれをディートハルトは後方にジャンプしてかわす。
しかし、四天王の一人と畏怖される存在でありながら、
さして身体能力の高くはない彼には完全に避け切ることはできなかった。
腹部から胸部にかけての服が、拳圧によって引き裂かれていた。
まともに受けていたらもしかしたらこの一撃で勝負はついていたかもしれない……
そう思わせるには十分な威力のあった拳打であった。

「なるほど、自らを強化する典型的パワータイプの異能者か。
 近付けなければダメージを与えられない。それ故、自らの能力を防御に置いているのか」
そう分析してみせるディートハルトの視線は、
黒部の体を覆う青みがかったオーラに向けられていた。
「……一度見ただけで異能者としてのタイプと能力の特性まで解るのか、流石に鋭いな。
 だが、私も解ったよ。お前の技の正体が“糸”だということをな」
鋭く睨み返す黒部に、ディートハルトは眉をピクリと動かし、そしてニヤリと笑った。
「ほう……気が付いていたのか。気が付くまでもうしばらく時間がかかると思っていたがな」
すっと腕を上げるその指からは、太陽光に照らされてキラキラと光る何かがあった。
それは黒部の言うとおり糸──。
細く透明な、それでいてコンクリートをチーズのように切り裂く程の強靭な糸が、
指先から無数に垂れ下がっていたのだ。

「攻撃された瞬間、オーラが無数の細かな何かを弾いた感触があったのでね。
 咄嗟に目を凝らしてみたら……というわけだ」
「なるほど。しかし、解ったところでこのまま俺の『四肢烈斬糸』を防ぎきることはできまい!」
両の指から飛び出した無数の糸が周りの電柱や壁を切り裂きながら黒部の体を包む。
黒部の体の表面を覆う特殊なオーラの壁はそれを次々と跳ね除けていくが、
その耐久力にも限界があるであろうことはディートハルトにも解っていた。

「俺は貴様のオーラを破るまでこうしていればいい話だ!
 間合いで勝るこの俺を貴様は捉えることができまい!」
「それはどうかな……!」

黒部は体中に迫る無数の糸の波に逆らって再び突進を開始した。
オーラが破られる前に近接戦闘で決着をつけようという気なのだろう。
確かに、これでは如何な強靭な糸をもってしてもどうすることもできない。
動きを止めようにも、優に100Kgを超えるその巨体と物理攻撃を弾く特性をもったオーラの前では、
坂道を転げ落ちる岩に向かってホースの水をかけるようなものだ。
「チッ……!」
バックステップで間合いを保とうとするが、相手はただ前だけを見据えて突進してくる。
これでは勝負にならない。あれよあれとその距離は数十センチにまで縮まり、
先程までとは一転して、今度はディートハルトが黒部の攻撃に対処せねばならなかった。
「――『衝打』!!」
繰り出された拳を掌で受け止める。
しかし、オーラの強化が手伝った圧倒的な衝撃に、手の骨が耐えられない。
「うおっ!?」
流石に眉を顰めるディートハルト。それでも黒部は攻撃の手を緩めない。
「──はっ!」
思わず拳の大きさが倍に膨れ上がったように見えるほどの威力を纏ったパンチが
ディートハルトの顔面に向かって放たれる。
今度は両手で、しかも掌を糸で覆ってそれを受けとめんとするが……

「ぐはぁっ!!」
オーラで練られた強靭な糸のクッションなど、まるで無きが如しの黒部の拳撃は、
ディートハルトを体ごと吹き飛ばし数メートル後ろの壁に叩きつけた。
「やはりな。お前は接近戦はお得意ではないようだ。
 単純な身体能力だけなら先程戦ったあの男の方がまだ高いだろう。
 糸の間合いを生かした闘い方に慣れ過ぎた為か、
 それとも身体能力を犠牲にして手に入れた力なのか……」
「フッフフフッ……」
ディートハルトはゆっくりと体を起こして不敵に笑った。
依然、有利な立場であるにも拘わらず、その不気味な雰囲気に黒部は思わず一歩、後ずさりした。
「確かに……俺より素早く、力強く動ける奴らなど、そこら辺に腐るほどいるだろう。
 俺など身体能力で見れば二流も二流。もしかしたら三流かもしれん。
 ──しかしそんな俺が、何故カノッサで最強を誇る四天王の一人に数えられていると思う?」
「…………」       ハデスマリオネイター
「今こそ見せてやるぞ。『冥界の傀儡師』と呼ばれる俺の真の力をな!」

ディートハルトが右手を開き、その指先を黒部と向け糸を放った。
ただならぬ雰囲気に黒部は技である『障壁』を今度は眼前に展開するが、
何と糸はその壁を紙切れのように容易く突き破り、黒部の体へと突き刺さった。
「……ッ!?」
黒部は驚いた。物理攻撃を弾く障壁をいとも簡単に貫いたのも驚きだったが、
それ以上に妙なのは、体へと突き刺さったにも拘らず痛みがまるでないことだった。
「クックック……これで貴様は俺の操り人形よ」
その言葉で黒部は初めて異変に気が付いた。
体が動かない──手も足も指も、まるで体全体が金縛りに遭ったように動かないのだ。

「こ、これはっ……!」
「──『四肢掌握糸』──。
 例えどんなにパワーがあろうが一度この糸に支配されたら最後、
 抜け出すことは絶対不可能な地獄の糸よ。
 ククク、さぁ貴様はどんな死に方がお望みかな……?」

【ディートハルト:四肢掌握糸によって黒部の肉体の自由を奪う】
125名無しになりきれ:2010/07/26(月) 00:51:46 0
糞スレ
126不知哉川 霊仙 ◆3LPMHhiq9U :2010/07/27(火) 21:27:28 0
>>121
近づくにつれ黒コートの男の人相がはっきりとしてくる。
とはいうものの、男の顔には特殊加工で中が見えないゴーグルが装着されており眼が隠されていた。
声や眼以外の顔のパーツから見るに、男は二十代半ばぐらいだろうか。
眼という顔の中での重要なファクターが欠けていては表情も読みづらいな、と霊仙は思った。

「なに…少し知りたい事があるだけだ」
発言後、黒コートはその知りたい事を言葉ではなく行動で確かめるようだった。
「俺の弾丸に触れると…」
指先をこちらに向け、そう呟いた直後に膨大な量のオーラ値が霊仙のスキャナーに確認される。
出所はもちろん男の指先からである。
(オーラ値が車ん中で見たのと同じ。これがさっきの攻撃の正体やな……)
「火傷するぜ」
発言直後、指先の発射口が二又に分かれて二つの砲門から二条の閃光が放たれる。

「ったく、ここで攻撃を許したら、俺のかっこいい台詞が台無しやん」

発射の瞬間――さっきまで数メートル先に居た霊仙が突如、黒コートの目前に現れた。
そのまま間髪入れずガッと男の伸ばした腕を掴み、手首を捻って射線を曲げる。
曲げられた射線上にあったビルの壁に大きな爆発音と共に大きな窪みを二つ生み出された。

「こないな危ない能力(もん)、そう容易に振り回すもんちゃうで。ダークフェニックスくん♪」

黒コートの男こと、ダークフェニックスはすぐさま霊仙の手を振り払って二、三メートルの距離を置いた。
その顔からはゴーグルでは隠しきれない驚きと警戒の色が窺えた。
「まぁ、安心してーや。いまのはオーラが使える者だったら訓練次第で誰でも出来る単なる歩法や。
 俺の能力は対峙した相手の情報を得る、『心理の収集家』。で、ちょーっと俺の話聞いてくれへんかな?
 どうせ、一人で行動してるんやろ?」

      オーラプロファイリング          
霊仙の能力『心理の収集家』は相手のオーラを吸収することで相手に関する情報を問答無用で得られる。
だが本人が重要だと思っている情報や多くの情報を得るには相応の量のオーラを吸収しなければならない。
そのため今の一瞬では相手も気づかないほどの微小なオーラしか吸収できず、
霊仙は相手の名前とこの場所に来るまでの経緯しか分からなかった。
だが、それでいい。
ある事実、そしてこの状況を生み出せればいいのだ。
ある事実――見知らぬ相手に自身の情報が知られているという事実は確実に相手の警戒を誘い、警戒心は慎重さと冷静さを呼び、対話の場を作る。

霊仙は自分の能力については詳しいことを言わず、話を続ける。
相手も霊仙の思惑通りにその警戒心から大人しく話に耳を傾ける。
「俺は別に殺人快楽者でも殺人腕自慢でもないから、そう正面から真っ向勝負ッ!…っちゅーのは好きやないねん。
 でさ、俺らしいやり方であんたとコミュニケーションを取りたいわけなんやが……はやい話が取引や」
かけていたサングラス型のスキャナーを外して、特徴的な糸目を露出させる。

「あんた等『化身』っつーの探しとるんやろ。俺の能力……実に『人捜し』に向いとると思わへん?
 俺が居ればだいぶ見つかる可能性が高くなるだろうし、なにより俺はこの街の出身や。
 こんな騒動をさっさと終わらせたいっていう住民としての気持ちがあんねん」
後半は真っ赤な嘘なのだが、嘘など吐きなれてる霊仙はさらに言葉をスラスラと続ける。
「見返りは俺と、後ろに居る俺の妹の安全。もしも俺や俺の妹がその『化身』ならあんたらの作戦に協力するし、あいつも能力者や。戦力は多いほうがええやろ?」
相手の目を見つつ、煙草を取り出す霊仙。ライターで火を付け、一服する。

「俺らが化身であれば労せず捕獲完了、化身でなくても戦力補充となる。あ、捕虜でもええで?兎にも角にも、悪くない話やろ?」

【不知哉川:取引を持ち掛ける】
全身を震わせ力任せに糸から脱出しようとする黒部。
その姿はまるで蜘蛛の巣でもがく蝶のようであった。
「フッ、自慢のパワーも形無しだな。如何に貴様がもがこうとこの糸から逃れることはできん。
 しかしこの俺は違うぞ? 貴様の体も、指一本で動かすことができるのだからな!」
ディートハルトが右手の人差し指を第二間接からクンと折り曲げる。
すると、力強く拳を形作っていた黒部の右手が、突然自らの頬にその拳を叩き込んだ。

「なにっ──ぐうっ!?」
黒部の口元からツーッと血が垂れる。
黒部は一瞬、何が起こったのか理解できないといった表情をしたが、それも無理はない。
何故なら今のは彼自身の意思によって起きたものではなく、
そう、ディートハルトの意思によって行われたものだからだ。

「クックック、自分のパンチを喰らった気分はどうかな?
 貴様は四肢掌握糸によって単に体の自由を奪われただけではない。
 俺が操る哀れなマリオネットに成り果ててしまったのだ。
 
 さぁ、今一度訊こう。貴様はどんな死に方がお望みだ?
 じわじわと体の関節全てを捻じ切られて悶絶死したいか?
 それとも、一思いにその首を落とされて死にたいか?」

残酷な笑みを浮かべてディートハルトは二択を迫った。
黒部は答えようとしない。選べるはずの無い二者択一なのだからそれも当然である。
だが、果たして黒部は選びたくないから沈黙を守っているのか、
それとも選ぶ必要がない──すなわち、まだ戦闘を諦めていないから答えないのか。
未だ戦闘意欲を失っていないその顔は、ディートハルトに後者を思わせた。

「気に入らんな、その顔が……!
 敗者に相応しく、地べたに這いずって命乞いでもしたらどうだ?
 そうすれば万に一つも命だけは助かるかもしれんぞ?」
「……だったらこの糸を解いたらどうだ? 今の私ではそれがしたくできないだろう?」
冷ややかな目をしながら黒部が言い返す。
正論を言われて返す言葉がないディートハルトは、感情の高ぶりにギリッと歯軋りした。
だが、ここで激情に駆られて一思いに殺してしまっては後味が悪い。
そう感じたディートハルトは、黒部に完全な敗北感を与えてから殺す、
最も残忍な方法をとることを決めた。

「絶体絶命の窮地でありながらそのような減らず口を叩ける度胸があるとはな。
 ……いいだろう。ならばその強がりがいつまで持つか試してやる!
 まずは貴様の剣で、自分自身の手足をゆっくりと切り落としてもらおうか。
 そして地に這うことしかできぬ芋虫になったところで、じわじわと殺してやる……!
 その心臓が鼓動を止めるその時までな……フフフフフ……!」

これまでにないほど残酷にその口元が弧を描く。
体から発せられるおぞましい殺気に、流石の黒部もその額に一筋の汗を流した。
「さぁ、剣を取れ」
ディートハルトが折り曲げていた人差し指を再び立てると、
また黒部の右手が自動的に動き、今度は背中に背負った剣の柄を掴ませる。
「この剣はナマクラだ……。人の肉体を斬れるようなシロモノではない……」
と黒部は言うが、ディートハルトは意に介さない。
「安心しろ、時間はまだタップリとある。
 その肉体が千切れるまで何度も刃を振り下ろしてもらうだけだ」
「くっ……!」
鞘から抜かれた剣が高々と空に向かって掲げられ、照り返された日光を辺りに散らす。
「さぁ──やれ」
非情な宣告と共に、ディートハルトがふっと指の力を抜いた。

しかしその時──彼の装着するスキャナーが、通信回線を開いた。
指を折りかけた動作が寸前で止まる。

「全戦闘員に告ぐ! 全戦闘員に告ぐ! こちらは本部!
 スキャナーのスキャニングを妨害する特殊加工の施された怪しい建物を発見した!
 つい十数分前に異能反応のある人物がその建物に入ったとの目撃情報もあり!
 場所は南地区BZZ-901地点!
 至急、四天王含めた全戦闘員は急行せよ! 繰り返す──」

「……山のふもとあたりか……。チッ、いいタイミングで見つかりやがる……」
恨めしそうに南の山を見つめるディートハルト。
一方の黒部は内容を聞き何かを考え込むような顔をしている。
そんな黒部に、ディートハルトは直ぐに顔を向けなおして、
「運のいい奴だ。貴様の命、もうしばらくの間預けておいてやる。
 もっとも──次に会う時まで、生きていたらの話だがな──」
と言い、左手を黒部に向け何かを放った。
それは針のように硬く、そして細く短い、透明な幾本かの糸。
そらは正に目にも止まらぬ速さで黒部の額に命中──
そのまま頭蓋骨を貫き、脳へと沈み込んでいった。

「それは『脳操糸』というオーラで練られた糸。
 脳に打ち込むことでそいつの思考を操作し、いわば自動操作で動く人形を作り出すものだ。
 糸を打ち込む箇所によって脳に与えられる指令(プログラム)は異なるが、
 貴様には特別に闘争心を増幅させ、戦闘に明け暮れる修羅の日々を用意してやった。
 
 ──そう、与えた指令は『命ある限り、カノッサ以外の異能者をとにかく殺せ』──だ。
 ついでに俺のことや、自らが操られていることを他人に伝えられぬようにもしておいた。
 ククククク……貴様は既に殺人マシーンだ。精々、カノッサの為に邪魔者を消すがいい」
黒部の体を操っていた四肢掌握糸の糸がすっと消え、ディートハルトが彼に背を向ける。
「ぐっ……ま、待て……!」
立ち去ろうとするディートハルトを追いかけようとする黒部だが、
長い間、強制的に体を支配されていた為の一時的な後遺症か、思うように走れない。
「待てーーッ!!」
「フフフフ……アーッハハハハハハハハッ!!」

黒部の叫びも虚しく、黒尽くめの狼は残酷な高笑いを残して、白昼に消えて行った。

【ディートハルト:『脳操糸』を黒部に打ち込み、アソナの本拠地へ向かう】
【黒部 夕護:カノッサ以外の異能者を殺すバーサーカーとなって街をうろつくことに。
        ※出会った人はNPC化した彼と強制的に戦闘となります。】
129ダークフェニックス ◆vmVAU8BU2zJP :2010/07/27(火) 23:57:18 0
>>126
「ったく、ここで攻撃を許したら、俺のかっこいい台詞が台無しやん」

撃つその瞬間、男の方に俺は腕を掴まれ、光線の軌道を変えられた。
標的とした2人のどちらにも当てる事ができずに、逸れた光線は遠くのビルを破壊する。

「こないな危ない能力(もん)、そう容易に振り回すもんちゃうで。ダークフェニックスくん♪」

…俺は名乗っていないはずだ。
この男、はじめ俺の事を知らないような口振りだったが、どうやら考えを改める必要があるようだな。

「まぁ、安心してーや。いまのはオーラが使える者だったら訓練次第で誰でも出来る単なる歩法や。
 俺の能力は対峙した相手の情報を得る、『心理の収集家』。で、ちょーっと俺の話聞いてくれへんかな?
 どうせ、一人で行動してるんやろ?」

訓練次第で誰でも出来る単なる歩法か…
それは俺が大した訓練をしていないと言いたいのか?どの程度まで俺の事を知ったというのか。
そしていつの間に情報を取られた?姿を見られた時からか?オーラを出した時からか?腕を掴まれた時からか?

「俺は別に殺人快楽者でも殺人腕自慢でもないから、そう正面から真っ向勝負ッ!…っちゅーのは好きやないねん。
 でさ、俺らしいやり方であんたとコミュニケーションを取りたいわけなんやが……はやい話が取引や」
「あんた等『化身』っつーの探しとるんやろ。俺の能力……実に『人捜し』に向いとると思わへん?
 俺が居ればだいぶ見つかる可能性が高くなるだろうし、なにより俺はこの街の出身や。
 こんな騒動をさっさと終わらせたいっていう住民としての気持ちがあんねん」
「見返りは俺と、後ろに居る俺の妹の安全。もしも俺や俺の妹がその『化身』ならあんたらの作戦に協力するし、あいつも能力者や。戦力は多いほうがええやろ?」

相手の目を見つつ、煙草を取り出す霊仙。ライターで火を付け、一服する。

「俺らが化身であれば労せず捕獲完了、化身でなくても戦力補充となる。あ、捕虜でもええで?兎にも角にも、悪くない話やろ?」

俺は話の途中で攻撃が来る事も警戒しつつ、目の前の糸目の口が閉じるまで待った。

「――…そうだな。せっかく貴様の能力を教えてもらったんだ。俺の能力が何の力なのかも教えておこう。
 どうやらそこまでの情報は読み取れなかったようだからな」

沸々と俺の中に湧き上がる感情は普段は出さない別のオーラを生み出す。
その身体から薄く滲み出るオーラが、俺の身体を離れて霊仙を包み込んでいく。
だがこれは情報を与える目的で吸収させる為に放ったオーラではない。
そのオーラは…敵を焼き尽くすための怒りのオーラ。

「炎だ」

ボッ
霊仙の持つ煙草の先の小さな火が突如巨大な炎を上げ、手元から霊仙を焼き尽くさんと体中に燃え移る。
130ダークフェニックス ◆vmVAU8BU2zJP :2010/07/27(火) 23:58:59 0
先程霊仙を包んだオーラは、この炎にとって言わばガスのようなもの。振り払って簡単に逃れられるものではない。
そしてガスであるオーラは吸収できても、その炎自体は霊仙がライターで付けた普通の火であり、
対象を燃やし尽くすか、オーラを吸収しきってガスが無くなるまで、水場のないこの場所では簡単に消える事はない。

「あいにくだったな。俺は貴様の知る情報とは違う任務を受けている。
 『手を緩めるな! 動いてる奴は全員殺せ! 無差別に、徹底的に』
 これがディートハルトから伝わった俺達への任務だ」

もっともそれを聞いていた他の奴らは皆死んだがな。

「あと化身の事だが…『殺した分だけ化身に近づける』だそうだ。どういう意味だろうな?」

体中炎に包まれた霊仙を横目に、海部ヶ崎の方を指差す。1人に集中して改めて破壊光線を放つ気である。
先程とは違い、霊仙は自らを焼き尽くす炎を鎮火させる事に専念しなければならず、こちらに注意を向ける余裕はない。
仮に捨て身のつもりで炎を纏って俺に突っ込んだとしても無駄だ。俺の身体は炎に対して耐性がある。
もっとも『訓練次第で誰でも出来る単なる歩法』を女の方も持ち合わせているなら避けられるだろうが――
>>128
――その時、スキャナーの通信回線が開く。多少ノイズが聞こえてくるので、この機能もやはり若干壊れているようだ。

「全戦闘員に告ぐ! 全戦闘員に告ぐ! こちらは本部!
 スキャナーのスキャニングを妨害する特殊加工の施された怪しい建物を発見した!
 つい十数分前に異能反応のある人物がその建物に入ったとの目撃情報もあり!
 場所は南地区BZZ-901地点!
 至急、四天王含めた全戦闘員は急行せよ! 繰り返す──」

ここまで聞こえて通信は途切れた。通信機能も完全に駄目になったようだ。
だが必要な情報は伝わったので問題ない。
ピッ
海部ヶ崎に向けて破壊光線を放つ。仕留められればそれでいい、そうでなくても優先任務が変わったので構わない。

「火の鳥形態(ファイヤーバードフォーム)」

2人がこちらに気を向けない内に、オーラを背に集中させ、巨大な炎の羽を形成する。
空は狙われやすいからあまり多用しないのだが、至急急行という事なので仕方がない。
炎の羽を羽ばたかせて、俺はその場から飛び去る。

【ダークフェニックス:不知哉川の取引を蹴って、アソナの本拠地へ飛ぶ】
131鳴神御月 ◆21WYn6V/bk :2010/07/29(木) 00:18:40 0
「あ…」
気配のする方を見た御月は、ふと空を見て顔色を変えた。

――満月。

そう、東の空にうっすらとだが満月が見えた。
幸い、周りはまだ明るい。夜になる前に彼らと離れればいい。
「いきなりで悪いんだけど…。今日は満月みたいだから、夜は一緒にいられない…。
 明日の朝には戻るから…。ごめん…」
「そうですか…。気をつけて下さいね。では、また明日」
「うん…。そっちも気をつけてね…」
優達と挨拶を済ませ、反対方向に歩き始める。

――久しぶりだな。1ヶ月ぶりか?――
「黙れ…」

頭の中に声が聞こえる。

――さぁ、今宵も壊し尽くそう――
「黙れ…」

頭を抑えて低く冷たい声を出す。

――ククク…その理性、今宵はいつまで保つかな?――
「黙れ!」

――さぁ、夜はこれからだ。存分に楽しもうではないか――
「何度も思い通りにはさせない…!」

御月はふらつく頭を抱えて、街へ向かった。

【鳴神御月:虹色兄弟と別れ、街へ向かう】
132虹色 優 ◆K3JAnH1PQg :2010/07/30(金) 16:48:45 0
>>131
空を見上げ、
(ああ、なるほど、満月…)
心の中でそう呟く優
(苦労してるんですねえ…)
御月とは反対方向に歩き始める
(…そういえば御月さんが向かった方向って…街があったような…)
いやな予感がしたため、蝶の絵を描き御月の行った方に向かわせる
「…さて、もう遅いし帰るか!」
「うん」
「…賛成」
【虹色兄弟:御月の言った方角に蝶を向かわせる(優と感覚共有可)、家に向かう】
133氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/07/30(金) 20:20:18 0
>>116
「フッ」
吹雪が治まって尚、強烈な冷気が充満する空間に静かに着地した氷室は、
目の前の光景に思わず勝ち誇るように笑った。
眼前に広がるは、あらゆる物体が凍りつき、空気中にダイヤモンドダストいわれる氷の結晶が浮遊する、
正に極地にでも迷い込んだかのような先程までとは全く違う別世界。
強烈なノーザンミーティアーの一撃は空間そのものの姿を180度変えてしまったのだ。

しかし、一度は勝利を確信した氷室も、やがて顔を曇らせた。
赤月の死体がないのだ。そしてその代わりあったのは、階下へと通じる大きな穴。
「チッ、私と同じ手を……」
氷室は舌打ちしながらすかさずスキャナーを確認する。
反応はない。逃げる途中で息絶えたとも考えられるが、100%当てにはできない。
赤月のオーラはどういうわけかスキャナーに探知されないからだ。
(……まぁいい)
それでも、氷室は既に彼を死んだものと考え、生死の確認をしようとは思わなかった。
即死は免れても無傷で逃れられるほどノーザンミーティアーの衝撃は甘いものではないのだ。
遅かれ早かれ死ぬ確率は高い──それは氷室自身が良く解っていることであった。

「それにしても、一体いつになったら化身は見つかるのやら。
 流石の私もこんな連中ばかりと闘い続けるのは御免だよ──」
連戦の疲れと未だ見通しが立たない状況に流石の氷室もぼやく。
そんな時、特徴的な電子音を発して、スキャナーが鳴った。

「全戦闘員に告ぐ! 全戦闘員に告ぐ! こちらは本部!
 スキャナーのスキャニングを妨害する特殊加工の施された怪しい建物を発見した!
 つい十数分前に異能反応のある人物がその建物に入ったとの目撃情報もあり!
 場所は南地区BZZ-901地点!
 至急、四天王含めた全戦闘員は急行せよ! 繰り返す──」

「やれやれ、言った側から、か」
まるでタイミングを見計らったかのように届けられた待ち望んでいた情報に、
氷室は呆れとも安堵ともつかない溜息をついた。
スキャナーを通して目標地点の方角を見据える。距離はおよそ4kmと表示されていた。

「山のふもとあたりか。──全く、今日は一日移動してばっかりだ」
再びぼやきつつ、氷室は高さ30mあろうかというビルの屋上から平然と飛び降りて、
目標のポイントへと走り去っていった。
134氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/07/30(金) 20:22:52 0
角鵜野市南地区──ポイントBZZ-901。
市内を見下ろすように佇む巨大な山のふもとに、黒き衣をまとう異質な人間達が集結していた。
誰も彼もがその目に殺気を滾らせ、一方的な殺戮ショーの開始を今か今かと待ちわびている。
そんな中、命令を発する当の幹部連だけは、冷静な面持ちで建物を見据えていた。

「おい、これはどういうことだ?」
辺りに散らばる黒服の数が異常に少ないのを見て、氷室は近くに居た部下に思わず訊ねた。
「は、はぁ……それが……」

「現在、下級戦闘員の数が98人。中級戦闘員が41人。上級戦闘員が13人──。
 後は全て死亡が確認されているが行方不明──だそうだ」
「──ッ。ディー」
口ごもる部下をおしのけて登場したのはディートハルト・アイエン。
彼は氷室の姿を認めると、ニィーとその口を歪ませて見せた。

「フッ、相変わらず釣り目が似合う奴だ。トゲのある性格は変わってなさそうだな」
「お前こそ減らず口を叩くのは変わってなさそうだな。……それより、その数字はどういうことだ?」
「聞いての通り、軽く半数以上は返り討ちに遭ったってわけだ。
 どうやらお前や筆頭が思っていた以上に、高いレベルの異能者が多かったんだろう」
「……確かに、そうかもな……」

氷室は感慨深く呟いた。
考えてみれば、氷室自身、中級では相手にならないクラスとの連戦をこなしていたのだ。
雑魚の割合が多いにしては気になっていたことである。

「……あいつもまだ生きていたのか」
氷室が顎でしゃくったその先には、ゴーグルを装着し鳥の紋章が描かれたコートを羽織った男がいた。
「ダークフェニックスか。奴は能力だけなら俺達にも匹敵する力を持っているからな。それに──」
「?」
「お前に噛み付ける度胸がある。ああいうタマは殺されても死なないだろう」

クククと笑うディートハルト。
その時、ふと氷室の目がダークフェニックスと合った。
何が気に食わないのか、彼の視線は相変わらず睨みつけるようなものだ。
「……お前の言うように腕はいいんだがな。バカなのが玉にキズだ」
ダークフェニックスには聞こえない程の小さな声で呟き、氷室は冷たく「フン」と顔を背けた。

「おっと──お喋りはここまでのようだぜ」
今度はディートハルトが顎をしゃくる。その先には、あの雲水 凶介の姿があった。
「普段はアジトに篭りっ放しなのに……一体どんな風の吹きまわしかな」
「フッ、いよいよ化身の捕獲に乗り出すか」

【氷室 霞美:アソナ本拠地前に戦闘員が集結。雲水 凶介も登場】
135バーサーカー黒部@代理:2010/07/30(金) 22:23:08 0
「命ある限り、カノッサ以外の異能者をとにかく殺せ…」

『命ある限り、カノッサ以外の異能者をとにかく殺せ』
頭の中に聞こえるその言葉に従ってとにかくカノッサ以外の異能者を探した。
そしてふらつく頭を抱えてオーラを発する異能者を見つける。

「何度も思い通りにはさせない…!」

そこで一つ疑問が生まれる。
そして気づく。これはこの指令(プログラム)の隙。
俺はカノッサかどうかの見極めなど付かない。聞いてみなければわからない。
だから頼む。カノッサでないなら答えないでくれ!

「…お前はカノッサか?」

指令を果たす為の行動に抗う事はできず、俺は鳴神御月に声をかけた。

【黒部夕護:鳴神御月と接触】
136ダークフェニックス@代理:2010/07/30(金) 22:23:57 0
角鵜野市南地区──ポイントBZZ-901。
俺を含め、集った者達の衣服はみんな黒を基調とするカラーで統一されている。
>>134
そこに現われた無数の黒服の男達の中で目立つ青髪のジャージ女。
あいつを見ていると俺の中のオーラが抑え切れない衝動に駆られる。
この夏のくそ暑い中、みんな黒い格好で統一を図っているというのに、あの女はやはり涼しい風貌で現れた。
みんなの上に立つ四天王という幹部の立場だから、自由にしていいとでも思っているのだったら大間違いだ。
上に立つ者ならばこそみんなの見本とならねばならない。
それを誰も咎めない。立場の関係を恐れてるのか力の関係を恐れてるのかは知らないが、貴様らが言えないのなら俺が言おう。
そう思って黒服達から氷室の方を向き直すと目が合った。…俺の方を見てたのか?
氷室はなにやら呟いて顔を背ける。

「なんだジャージ女…今俺を笑ったか――」
「おっと──お喋りはここまでのようだぜ」

氷室に近づいていったところでディートハルトが止めに入る。
その顎で差す先に四天王筆頭、雲水凶介がいた。俺と似たような黒いコートを着ている。

「…ジャージ女、あれが上に立つ者の正しい振る舞いだ。今後もカノッサにいるつもりなら心得ておけ」

【ダークフェニックス:雲水を見ながら氷室に今後格好を正すように言う】
137鳴神 御月@代理:2010/07/31(土) 14:56:41 0
>>135
「…お前はカノッサか?」

視界の外から声がした。
声のした方を見ると、190以上はあろうかという巨躯の男がこちらを見ていた。
どうやら自分に声をかけているらしい。
自分がカノッサかどうか聞いてきた、ということは2つの可能性が考えられる。
1つは、彼はカノッサの敵で、自分と共に戦ってくれる人間を探す、若しくはカノッサの人間を殲滅して回っている場合。
もう1つは、彼はカノッサの人間で、異能者狩りを行う部隊の人間である場合。
どちらも考えられる。痛む頭でどうするべきか考える。もうあまり時間がない。

――ククク…さぁ、どうする…?――
「じ、自分、は…」
頭痛は限界に達している。

――決められないようだな…では――
「カ、カノッサ、の…」
視界が歪み、頭の中が空白になる。

――交代の時間だ――
最後まで答えられず、意識を手放した。


「"我"がカノッサか、だと?――下らん」
問いかけてきた黒部夕護に対し、そう答えた。

【鳴神御月:????と人格交代。黒部夕護の問いを一蹴】
138氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/08/03(火) 00:04:32 0
>>136
雲水を指してダークフェニックスが言う。
「…ジャージ女、あれが上に立つ者の正しい振る舞いだ。今後もカノッサにいるつもりなら心得ておけ」
しかし、氷室はそれに対し何の反応も示さずに雲水へと歩み寄っていった。
意識して無視したわけではない。
単に雲水に気を取られ、ダークフェニックスの言葉が耳に届かなかっただけであるのだが、
それをどう解釈したのかはダークフェニックス本人次第である。

「今頃は本部の椅子に腰掛けてのんびりとコーヒーでも飲んでるかと思ったけどね。明日は雪かな?」
開口一番、皮肉たっぷりの言葉を浴びせる氷室。
しかし雲水はそれを意に介すどころか、逆に氷室をいたわるように彼女の頬に手を当てた。
「どうした、意外と手こずったか? 体中傷だらけじゃないか」
「……馴れ馴れしく触るんじゃないよ。
 こっちは手を抜いて闘ってやってたんだ。本気出して殺した相手が化身じゃまずいだろ?」
言いながら氷室は手を払う。きっぱりと言ってのけたが、この言葉、半分は強がりであった。
氷室が本気で闘ってはいなかったのは事実である。
しかし、仮に本気であったとしても、無傷で済むようなレベルの異能者でなかったのも確かなのだ。
それは実際に矛を交えた氷室自身がよくわかっていたことである。

「──お前では無理だ。いや、お前だけじゃない、他の四天王であってもな──」
いつになく神妙な顔付きで雲水が漏らす。
この言葉に、氷室達は顔色を変えた。

「異能を世にもたらした始祖、その力を受け継ぐ化身は、神に等しい存在だ。
 神の力の前では所詮人間などどんなに束になったところで敵うはずもない」
「お、おいおい、じゃあ俺達は何の為に化身を探し出したってんだ!? 筆頭よォ!」
声を荒げるディートハルトに、雲水は言った。
「──わからんか? だからこそ、俺が来た──」

二ィと、怪しく笑う雲水の顔を見て、即座に「ハッ」としたのは氷室とディートハルトだった。
二年前──死闘の末に雲水が手に入れたあの切り札を、二人は思い出したのだ。

「さて……そろそろ始めるか」
雲水は建物の入り口を不気味な眼差しで見据えた後、チラっとダークフェニックスに視線を向けた。
「ダークフェニックス、先陣はお前に任せる。これより上級以下の部下どもを率いて乗り込め。
 歯向かう奴がいたら殺して構わん。ただし、化身を発見したら直ちに報せろ、よいな?」

「……筆頭、それより『キャス』の奴がまだ来ていないんだけど?」
氷室の言う『キャス』とは、まだこの場に現れていない最後の四天王のことである。
スキャナーを聞いていないわけがないので、まだ来ていないということは何か不足の事態でも
発生したのかもしれない。だが、雲水は特に気にする風もなく、サバサバと言った。

「放っておけ、いつものことだ。その内くるさ」

【氷室 霞美:現在地変わらず。雲水がダークフェニックスに攻撃の指令を出す】
139バーサーカー黒部@代理:2010/08/03(火) 00:10:50 0
「"我"がカノッサか、だと?――下らん」
「そうか…下らん…か」

その一言で判断はついた。この異能者はカノッサではない。
ならば殺さなければならない。

『障壁』

自分を中心に鳴神を囲むように、半径10m程度の青みがかった壁を作り出す。
本来は自分を外側から自分や護衛者を護る為の技。
しかし相手を殺す事を重点に置く今の彼にとっての使い道は、相手を逃がさないように閉じ込める為の壁である。

「これで逃げる事は敵わない。殺されてもらおう」

一定ダメージを受ければ壁は壊れるものの、それに手間をかけようとすれば隙ができる。
逃げようとも、突っ込んでこようとも、『衝打』を叩き込みお前を殺す。

【黒部夕護:自分と鳴神御月を『障壁』で閉じ込める】
140鳴神 御月@代理:2010/08/03(火) 21:05:24 0
「そうか…下らん…か」

眼前の男はそう呟き、周囲に青みがかった壁を作り出した。
(本来この手の能力は対象の守護に使うものだが…。どうやら今は我を逃がさぬ為に張ったらしいな)
(とすると、先の御月の考察は後者、と言う事になるな。まぁいい、少し遊んでやるか…ん?)
ふとあることに気付く。どうも相手の動きに違和感を感じた。
(もしや…ククッ、そういうことか)

「これで逃げる事は敵わない。殺されてもらおう」
男はそう口にする。

「逃げる?馬鹿を言うでない。何故我が貴様の様な、それも"誰かに操られるような"雑魚相手に逃げなくてはならないのだ?
 それに、人の事をとやかく言う前に前に自分の心配をしたらどうだ?」

男は気付いていないようだが、男の背後、さらに正確に言うなら首のすぐ後ろと頭上にメスが数本浮いていた。
さらに自分の背後に手を向け、力を集中させる。無論、視線は相手に向けたまま。
(この手の障壁は過剰な力を加えれば壊れるはず。向こうも分かっているはずだがな)

「フフッ…さぁどうする?」

【????:黒部夕護にメスを突きつけ、『障壁』の破壊を試みる】
141ダークフェニックス@代理:2010/08/03(火) 21:06:40 0
>>138
「ダークフェニックス、先陣はお前に任せる。これより上級以下の部下どもを率いて乗り込め。
 歯向かう奴がいたら殺して構わん。ただし、化身を発見したら直ちに報せろ、よいな?」

筆頭は直接俺に任務を言い渡す。わざわざ了承の確認を取らずとも、俺は言い渡された任務は黙って遂行する。
たとえその任務がどれほど理不尽でも、何の意義を見出す事ができないものでもだ。
カノッサがそういう組織である事は昔からわかっている。わかっていてついていっているのだ。

「……」

『乗り込め』か。化身を探すなら建物ごと破壊してしまえば早そうなのだが、化身が消し飛ぶ恐れがあるのか?
もしその程度の奴なら、俺には化身かどうかの判別などつきそうもないんだがな…まあ他の奴に判断させればいいだろう。スキャナーの通信機能も壊れているしな。

「…四方向から突入する。1個小隊下級20人中級10人上級3人の計33人で3個小隊を編成、残りの下級18人、中級11人、上級3人は俺に付け。
 俺の隊が正面、3個小隊はそれぞれ裏口、屋上、地下から突入する。各自能力に合わせて迅速に分かれろ」

この場に集った部下達を、力の配分を考えて均等に分ける。
人数の関係上、下級の代わりに中級上級がいる分、俺の隊は若干他より強くなっているが、ゆえに正面という最も狙われやすい場所を選んだ。

「各小隊、指定位置での待機完了との報告です」

俺は報告を受け取ると、その報告者からスキャナー受け取って無線のように口元に持ってくる。
それから懐からは銃を取り出し、空に向けて高く上げる。

「ではこれより突入する。化身の発見は四天王に報告、その他のトラブルがあれば俺の隊に報告、以上だ」

バンッ
俺は引き金を引いて空砲を鳴り響かせる。突入の合図だ。

【ダークフェニックス:部下達と共に正面、裏口、屋上、地下の四方向からアソナ本拠地に突入】
142阿合 昭 ◆ICEMANvW8c :2010/08/04(水) 17:43:04 0
アソナの本拠地──。
そこは放置され無人となっていた民間企業の研究施設をアソナが改修し、
対カノッサ用に造り上げた一種の要塞である。
その外壁はあらゆる電磁波の干渉を撥ね退けるばかりか、
大型ミサイルを打ち込まれても傷一つつかないほどの強固な耐久性を誇る。
内部もコンピュータによって完全自動管理されており、
侵入者がいようものなら即座に蜂の巣にするだけの防衛システムが構築されている。

しかし、それがカノッサに通じるかどうかはまた別である。
カノッサとはそれだけの異能者を多数に抱えているのだ。
そしてそれは、メインルームのモニターから外の様子を窺っている阿合 哀の父、
阿合 昭がよくわかっていることでもあった。

「完全に囲まれているな……。いずれ見つかるとは思っていたが、タイミングが悪い……」
娘、阿合 哀が『人工化身』になるべく、医務室に運ばれたのがつい一時間前のことだ。
輸血が完了するまではまだもう少し時間がかかる。
唇を噛む阿合 昭の背後から、黒スーツ姿の男、乾 大輔が更に悪い情報を知らせる。
「130名余りの戦闘員が出入り口に殺到。どうやら攻撃の命令が下されたようです」
「防衛システムのレベルを最大に引き上げろ」
「既にやっております。しかし……」

モニターの映像が正面出口、裏口、屋上などに切り替わる。
映像は天井や壁に設置された機関銃が無数のレーザー光弾を照射し、
敵戦闘員を次々と倒していく様をとらえていた。
しかし、昭らにはわかっていた。倒れているのは下級兵士のみ。
中級以上はハエでも避けるような動きでかわしているということを。

「……やはり、時間の問題かと」
「……他のメンバーは?」
「既に10名全員がそれぞれの場所に配置されております。
 屋上、裏口では既に交戦状態にある模様。ですが、恐らくそれも……」
「わかっている。……敵とは物量が違いすぎる……」
「お気になさいますな。アソナに入ったその時から、我々は皆、あなたに命を捧げています。
 命が尽きるその時まで、哀さんの為に一分一秒でも長く足掻いてくれるでしょう」

階下から爆発音が響き、建物全体が揺れる。
通路から聞こえてくる敵の足音は先程よりもずっと大きなものになっていた。

「乾、行くぞ」
「はっ」
乾にはその行き先は聞かずともわかっていた。
この期に及んで昭が向かう場所といえば、娘である哀が輸血を受ける医務室以外ない。
父親である昭も、自らに課せられた使命は、娘の為に命を賭すものと理解していた。

「私に何があろうとも、お前だけは──」

【阿合 昭:3F中央のメインルームから同階東の特別医務室へ向かう】
143ダークフェニックス@代理:2010/08/06(金) 22:09:17 0
アソナの本拠地――
正面出入り口より突入したダークフェニックス率いる小隊は、防衛システムと戦っていた。
メインルームのモニター映像は天井や壁に設置された機関銃が無数のレーザー光弾を照射し、戦闘員を次々と倒していく様をとらえていた。
次々とレーザーに撃たれてバタバタと倒れていく下級戦闘員達。

「…え?」

中級以上の異能者は皆レーザーを避けて、機関銃を破壊している状況である。
だが、その中で他の下級戦闘員と同じように、レーザーに撃たれて床に仰向けに倒れている異能者がいた。
それが彼、ダークフェニックスだった。

「……お前達は先に行け」
「…了解」

様々な疑念や思惑はあっただろう。
それでも統一されたカノッサの隊は彼の命に黙って従い、そのまま先へと進んだ。

バタリ
そしてレーザーで体中を撃ち抜かれ、内臓の至る所が穴だらけとなった俺は、ゾンビになった。

【グヘヘヘヘヘヘヘ、アバババババ、ゾンビだぜぇーーーーーーーーーーー】
144ダークフェニックス@代理:2010/08/06(金) 22:12:05 0
アソナの本拠地――
正面出入り口より突入したダークフェニックス率いる小隊は、防衛システムと戦っていた。
メインルームのモニター映像は天井や壁に設置された機関銃が無数のレーザー光弾を照射し、戦闘員を次々と倒していく様をとらえていた。
次々とレーザーに撃たれてバタバタと倒れていく下級戦闘員達。

「…え?」

中級以上の異能者は皆レーザーを避けて、機関銃を破壊している状況である。
だが、その中で他の下級戦闘員と同じように、レーザーに撃たれて床に仰向けに倒れている異能者がいた。
それが彼、ダークフェニックスだった。

「……お前達は先に行け」
「…了解」

様々な疑念や思惑はあっただろう。
それでも統一されたカノッサの隊は彼の命に黙って従い、そのまま先へと進んだ。

バタリ
そしてレーザーで体中を撃ち抜かれ、内臓の至る所が穴だらけとなった俺は、失血と呼吸困難で死んだ。

【ダークフェニックス、下級戦闘員18人死亡】
145ダークフェニックス@代理:2010/08/09(月) 17:47:49 0
>>143-144
グヘヘヘヘヘヘヘ、アバババババ、ゾンビだぜぇーーーーーーーーーーー

死の寸前、俺は何かが憑いたように狂った言動を取った。
…いや、今日死ぬのはこれで2度目だ。何かに憑かれてもおかしくはないだろう。

――だが目覚めて理解した。
目の前には俺と共にレーザーで撃ち殺された下級戦闘員がゾンビと化していた。
初めはディートハルトが仕込みを入れていたのかと思った。
だがこの様子は見覚えがある。
かつてカノッサの中で行われていた下級戦闘員の強化、不死の実験。
その実験でゾンビとなった下級戦闘員は中級と張り合えるほどの肉体に強化する事に成功したが、
彼らは知性を無くし、忠実な戦闘員としては使い物にならない為、実験は中断された。
天井や壁にある壊された機関銃を見る。…まさかあのレーザーがその放射線だったのか?
ゾンビとなって蘇った下級戦闘員達は穴だらけの身体で、奇声を上げている。
俺もああなっていたかと思うとゾッとするな。

『いまのはオーラが使える者だったら訓練次第で誰でも出来る単なる歩法や』

あの男の言葉を思い出す。俺以外の異能者は皆レーザーを避けていった。
レーザーを食らった俺の身体中にあった穴は、目覚めた時から焼き塞がれている。
どうやら俺は、実際にこの体質に頼り切って訓練を怠っていたようだな。
今後もあまり死に続けるようでは、身体は無事でも、精神を別の奴に乗っ取られかねない。
地獄の奴らから見れば、この身体はそれだけ価値のあるものだからな…

ガッ
その身体を風穴の開いた手の触れられた。
その手は爪を立てて俺の血を搾り出そうとしている様子だった。

「……離せ」

爪を立てるゾンビは言う事を聞かない。…いや、声も聞こえていない様子だ。
振りほどこうとするが、ゾンビの力は並みの腕力の俺では振りほどく事はできない。
ならば仕方が無い。

「『歯向かう奴がいたら殺して構わん』この任務における筆頭の言葉だ」

ボッ
俺に爪を立てていたゾンビは炎に包まれ燃えていく。
当然俺にも飛び火は来るが、俺の身体は燃えない。その怒りのオーラは怒りの対象のみを焼き尽くす。
間もなくゾンビは焼き崩れた。跡形も無く焼き尽くせばゾンビも蘇る事はない。

「先に地獄で待っていな…ラ・ヨダソウ・スティアーナ」

ラ・ヨダソウ・スティアーナ…俺が傭兵時代から使われていた別れの言葉だ。
そこに込められた意味は知らないが、仲間を手にかける時、俺は今でもこの言葉を使う。
だがその余韻に浸る間もなく、様子に気づいたゾンビ達が次々に俺に襲い掛かってきた。

「なんでカノッサの実験の産物がこんな所にあるんだろうな…」

ゴオッ
まとまったゾンビ達は俺の怒りの炎で一掃された。

【ダークフェニックス:ゾンビとなった下級戦闘員達を焼殺】
146氷室 霞美@代理:2010/08/09(月) 17:49:03 0
ピッピッ──スキャナーが順調に時間を刻んでいく。
建物から聞こえてくる悲鳴と銃声、爆発音に耳を傾けているだけで、
はや10分が経過しようとしていた。

「相手が100人や1000人いるわけでもあるまいに……何手間取ってやがる」
苛立つように地面から小石を拾っては次々に握りつぶしていくディートハルト。
氷室は彼ほど気が短くはなかったが、「手間取っている」ということに関しては、
彼女も内心、気にはなっていたことであった。
「筆頭。そろそろ相手が何者か教えてくれたっていいんじゃないか?」
「……」
流し目をして訪ねる氷室に、雲水はただ同じように横目で返すだけで、答えようとしない。
氷室の経験上、これは見当もつかず答えられない、という意思表示ではなく、
見当はついているが、何か理由があって答えたくない、といったものだろう。
「スキャナーさえ通さないあの建物……明らかにカノッサを意識して造られてる。
 見当くらいはついてるんだろ? どうせ隠したっていずれバレるんだ、教えなよ」
引き下がらない氷室に観念したか、やがて雲水はその重い口を開いた。
「恐らく、化身を匿ってるのは『アソナ』とかいう元・カノッサの構成員で作られた組織だ。
 人数にして10名足らずらしいが、随分前からこの街で活動しているらしい」

「裏切り者どもの集団かよ?
 なるほど、それなら確かに化身の存在を嗅ぎ付けていてもおかしくねェな。
 ……だけどよ、裏切り者は機密保持の為に真っ先に消されるはずだろう?
 他でもない筆頭、あんたお抱えの『暗殺部隊』にな」

訝るような視線を投げかけてディートハルトが言う。
雲水が抱えている部隊には諜報部隊をはじめいくつか存在する。
その内の一つに、裏切り者を抹殺する為だけに組織された暗殺部隊がある。
任務が暗殺という失敗が許されないこの部隊は、上級以上の選りすぐりの武闘派で構成される。
故に一度目をつけられれば、まず助かる者はいないと言われている。
実際にそれが彼らの信頼にも繋がっていたし、同時に離反者の続出にも歯止めをかけていた。
それが影で離反者を多く取り逃がしていたとなれば、不審に感じるのは当然である。

「……以前、差し向けた暗殺部隊が全滅した、ということがあっただろう?」
雲水の言葉に二人は記憶を辿った。
そして思い出したのが遡ること二年前──あの『幾億の白刃』との闘いである。
あの闘いは四天王全員が乗り出すことになった過去例にないものだったが、
そもそもそうなった原因は、まず差し向けた当時の暗殺部隊が全滅したからなのだ。
少なくとも雲水も氷室もディートハルトも、そう報告を受けていた。

ここで氷室は雲水が何を言わんとしているのか気がついた。
「まさか……全滅というのは虚報? 暗殺部隊そのものが裏切っていた……?」
氷室も、流石のディートハルトも、これには驚きを隠せなかった。
だが、こう考えれば雲水が珍しく答え難そうにしていたのも、
アソナというありえない裏切り者集団が存在するのも、全て合点がいくのである。
    インフィニットセイバー
「あの『幾億の白刃』との闘いで何を知り、裏切りと至ったのは今となっては定かではない。
 だが、いずれにしろ奴らはここで裏切りの報いを受ける……それだけは確かだ」
147氷室 霞美@代理:2010/08/09(月) 17:50:10 0
部下から初めて報告が入ったのは、そんなやり取りから更に10分後のことだった。
いや──報告と言うよりは、戦闘員の悲愴な実況とでも言った方がいいだろうか。

「こちら第3小隊!
 敵の9名までは始末しましたが、と……突然現れた少女に、戦闘員が次々と塵にされて……
 こ、こんな光景は初めてです! とにかく異常な──ヒィッ!? ぎゃああああああああ!!」
「こちら第4小隊! こちら第4小隊! 化身と思われし少女が恐るべきスピードで──
 ヒッ、こっちへ来たぁぁぁーーー!! 助けてくれェぇええええええッ!!」

──ブチ。
氷室は、耳を劈くような悲鳴の連続に、たまらずスキャナーの電源を落とした。
「……私の鼓膜を破る気かい。……そろそろ私達も出番かな?」
と雲水に目を向けると、彼は無言ながら「ああ」と言うように建物に向かって歩を進めた。
「いよいよか」と笑うディートハルトが直ぐ後に続き、少し遅れて氷室も続く。
彼らの表情に恐怖は微塵もない。あるのは、余裕からくる平然とした表情だけであった。


──アソナ本拠地三階──
「ぎゃあああああああ!!」
腹を強引に引き裂かれて、戦闘員がまた一人、血を噴き出して絶命する。
その返り血を浴びながら、少女は無機質な眼差しのまま、ただ新たな獲物を見据える。
「…………」
感情の無い、機械のような目。
彼女が、ほんの数時間前に父親との再会に感極まり涙した少女、
阿合 哀であることなど果たして誰が信じるだろうか?
「な、なんてことだ……」
娘の戦いぶりを物陰から見つめる父親、昭の顔は恐怖に引きつっていた。
始祖の血によって人工化身としたまではよかった。
しかし、彼の誤算は、眠りから覚めた娘が正に化身の力を持つ殺人マシーンと化していたことだった。

「まさか、始祖の血が人格にまで影響を及ぼすとは……完全に誤算だ……。
 私には……いや、例え誰であっても、哀は制御できない……!!」

今の昭にできることといえば、ただ後悔の念に頭を抱えるだけであった……。

【阿合 哀:人工化身(戦闘マシーン化)し、カノッサの戦闘員を次々と葬っていく。
       オーラの絶対量増大・本体、能力のパラメータ全てA以上にアップするが、その代わり理性を失う】
【アソナの構成員は昭を残して死亡】
148鳴神 御月@代理:2010/08/09(月) 17:51:11 0
「――!?」
黒部は驚いていた。御月の行動の速さにも驚いたが、それ以上に驚いたことがある。
「何故、私が操られていると分かった?」
「簡単なことだ。貴様の表情と行動に違和感を感じたのでな。どうも自分の意志で
 動かせているわけではなさそうだったからな――む」
黒部の質問に答えていたが、遠くの方で戦闘、そして人が死んでゆく気配を感じた。
それも大量に。そして更に別の気配も。

「この気配は…。ふむ。どうやら貴様と遊んでやる暇はなくなったようだ。悪いが少し眠ってもらうぞ」
そう言って黒部に向かって走り出す。
「何?それは出来ない相談…ッ!?」
向かってくる御月に対し、『衝打』を叩き込もうとした黒部は顔を歪ませた。
腕が、いや全身が動かない。
「貴様、何を…!」
「悪いな。貴様の神経を一時的に麻痺させた。こいつでな」
そういって御月は左手に細い鍼を作り出して見せた。
「く、メスは囮だったのか…!」
動けない黒部の側頭部に、右手に作り出した剣の柄を叩きつける。
「ぐっ…」
まともに食らった黒部は吹っ飛び、『障壁』に激突して地面に落ちた。
「そこでしばらく寝ていろ。朝になれば動けるだろう」
御月はそう言いながらも走る速度を落とさず、剣を構えて『障壁』に突っ込む。
「フッ―!」
気合と共に剣に能力を込めて一閃。『障壁』を粉砕、そのまま走り去っていった。

【鳴神御月:黒部夕護に勝利。アソナの本拠地へ向かう】
149ダークフェニックス@代理:2010/08/10(火) 18:44:12 0
>>147
「まさか、始祖の血が人格にまで影響を及ぼすとは……完全に誤算だ……。
 私には……いや、例え誰であっても、哀は制御できない……!!」
「何が誤算だ…白々しいな、阿合昭」

人工化身が戦闘員達と戦ってる物陰で、遅れてきた俺は頭を抱えている見覚えのある面を発見する。
機関の裏切り者の1人、阿合昭。

「俺の記憶では、貴様は予知夢を見る能力があるはずだ。
 無かったとしても強力な異能、それも始祖の血など取り入れて人格になんの影響も与えないわけがない事ぐらい予測できる。
 そんな事もわからないレベルならジャージ女の占い(笑)の方がまだ当てになるぜ」

先程葬ったゾンビ達がその例だ。あいつらは異能者じゃなかったが、あのレーザーと始祖の血では力の上昇は比較にならないだろう。
この女が異能者だったとしても正気でいられるわけがない。

「貴様はわかっていたんだろう?今日この日、カノッサに自分が裏切りの報いを受ける事を。
 そして我が身を護る為に、実の娘を殺人兵器にした。我々を抹殺する為にな。
 誤算だったのは貴様がこの日、死ぬ運命が変わらない事だろう?」

俺は阿合昭を指差す。その先に破壊のオーラが集中している事はこの男が異能者ならわかるだろう。

「その女は貴様を護りはしない。わかるな?今貴様の運命を左右するのは俺の意思1つだ」

人工化身と戦闘員達の戦いを背景に、俺は裏切り者を追い詰める。

「だが俺はこの任務で『歯向かう奴がいたら殺して構わん』と言われているが、貴様ら敵の殲滅を命じられてるわけではない。
 貴様がこれから俺の要求に歯向かわなければ、この場から生かして逃がしてやろう。
 もちろん他のカノッサの連中からもな。そろそろ四天王の連中も動く頃だから決断は早めに頼むぜ」

今からこの言葉を信用できるか裏付ける予知夢を見ている時間などない。
この時点で俺は嘘を言っているつもりはないが未来は確かではない。
"今"の俺の意思がどうでも、この要求はそれを約束させないものである事はこの男にもわかるだろう。
だがこの男が自分の命を第一に考えるなら選択肢はない。

「要求は1つだ。俺に始祖の血をよこせ」

【ダークフェニックス:阿合昭に始祖の血を要求】
150阿合 昭@代理:2010/08/10(火) 18:45:23 0
>>149
「何が誤算だ…白々しいな、阿合昭」
背後からの突然の声に、昭は驚き、そして振り返った。
「──ッ! お前は……」
そこには素顔を覆い隠すゴーグルと小麦色の肌が特徴的な見覚えのある男が立っていた。
昭の記憶に間違いがなければ、その男の名は「ダークフェニックス」。
カノッサの中で四天王に次ぐ実力を持つ異能者である。

「俺の記憶では、貴様は予知夢を見る能力があるはずだ。
 無かったとしても強力な異能、それも始祖の血など取り入れて人格になんの影響も与えないわけがない事ぐらい予測できる。
 そんな事もわからないレベルならジャージ女の占い(笑)の方がまだ当てになるぜ。

 貴様はわかっていたんだろう?今日この日、カノッサに自分が裏切りの報いを受ける事を。
 そして我が身を護る為に、実の娘を殺人兵器にした。我々を抹殺する為にな。
 誤算だったのは貴様がこの日、死ぬ運命が変わらない事だろう?」

すっと哀を指差すダークフェニックス。
その指先からは強力なオーラが集まっていることは、昭にもわかっていた。
「その女は貴様を護りはしない。わかるな?今貴様の運命を左右するのは俺の意思1つだ」
「……私に何をさせようというのだ?」
その問いに、ダークフェニックスは小さく笑って、答えた。
「要求は1つだ。俺に始祖の血をよこせ」

「……フッ、フフフフ……。始祖の血か……そんなものを手に入れてどうする気だ?
 まさか自ら化身となるつもりか? ……だとするなら無駄だと言っておこう。
 娘が人工化身となれたのは、生まれつき始祖の血に対する抵抗力を持っていたからだ。
 他の人間が真似したところで一秒と持たず肉体ごと塵と化すのが関の山だ」

途端に嘲るような顔でダークフェニックスを睨め回す昭は更に言葉を続ける。

「そしてお前は誤解している。私は我が身可愛さの為だけに行動はしない。
 でなければ常に付き纏う死のリスクを背負ってまでお前達を裏切ったりはしなかった。
 能力である予知にしても、実際は精神が戦闘時における一種の興奮状態にある時のみ自動で発動し、
 脳裏に数秒先の未来が過ぎる程度のもので、お前が考えているほど神がかり的なものではない。
 遠い先の未来を読むことができたならば、失敗すると判っている人工化身計画など推進しなかった。

 フッ……もっとも、始祖の血の影響を事前に予想できなかった以上、
 私はお前の言うような利己的な人間と過小評価されても致し方のないことだがな……」

今度は昭は目だけを、今も尚、一方的な虐殺を続ける哀に向ける。

「娘には敵も味方も関係ない。今や無間に溢れ出すパワーと闘争本能しか持たぬ獣だ。
 父親である私を見ても、今の彼女は迷うことなくその牙を突き立てるだろう。
 それも娘の運命を狂わせた報いとして甘んじて受けねばなるまい。
 ……しかし」

目をゆっくりとダークフェニックスへと戻した昭は不気味に笑った。

「私の誤算は同時にお前らにとっての誤算だ。もはやお前達でもどうすることもできまい。
 化身を弄ぼうとした報いを受けて、その淡い野望と共に潰えるがいい……フフフフ」

「──さて、それはどうかな?」
低い、それでいて澄んだ声が、ダークフェニックスの遥か後ろから木霊した。
151氷室 霞美@代理:2010/08/10(火) 18:47:43 0
「……ッ!? 雲水 凶介……!!」
「やはり『アソナ』の頭目は貴様だったか、昭よ。久しぶりだな」
ダークフェニックスの遥か後ろ、階下に繋がる通路から現れたのは、
カノッサ四天王の筆頭雲水──そして、氷室とディートハルトの三人だった。

「……私が生きていたことに、よく気がついたな……」
「いや、流石の俺も確信したのはついさっきだ。
 カノッサの膝元で組織を立ち上げて起きながら寸前まで尻尾を出さない……
 流石は闇に慣れた元・暗殺部隊長、諜報部隊を煙に巻くのもお手のものってわけだ」

「おひさー。その様子じゃ今まで元気にのうのうとしていたみたいね」
軽く手を振りおちゃらけた口振りなのは氷室。
だが、そんな調子の声とは裏腹に、目だけは笑っていない。
「マジで生きてたとはな。……フッ、それだけの度胸と腕だ。
 裏切ったりしなけりゃ、貴様は今頃俺らに次ぐ幹部だったろうによ、勿体ないねぇ」
と大げさに両手を広げて見せるディートハルトも、目は笑っていない。

「……雲水、お前は間違っている。私がカノッサを裏切ったのは、そう思ったからだ」
「ほう? では、俺は自らの正しさを証明するまでだ」
ツカツカと雲水が歩を進め、ダークフェニックスの横を通り過ぎ、昭に近寄っていく。
「できるわけがないといった面持ちだな。では訊こう、お前が生み出した“アレ”は一体なんだ?」
雲水の冷たい視線の先には、その身を返り血で真っ赤に染めた、生きる戦闘マシーン──。
「アレに俺達が倒されればお前はそれで満足なのか?
 目の前の敵を失った貴様の娘は、更に敵を求めて修羅の道をひた走るのではないか?
 寿命が尽きるその時まで──俺達の代わりに──何千、何億という屍を積み重ねて──!」
「──ッ!」
「強い者だけが生き残る修羅の世界──ククク、正に俺達が理想とする世界じゃないか。
 わかるか? 如何なる詭弁を弄そうとも、お前の本質は『俺達と変わってねぇ』のさ!
 お前の正義こそ、結局は俺達の考えが正しいと、自ら証明しちまってる物に過ぎねェのよ!」

昭の数十センチ前まで迫ったところで雲水は足を止め対峙した。

「どけ。もはやお前に用はない。用があるのは後ろの娘だ」
「……無駄だ。哀は、誰にも制御できん。お前であっても──」
「初めからその気はない。俺が利用したいのは化身じゃない、化身の圧倒的なパワーだからな」
「なんだと……それは……」
「これ以上は問答無用。──ディー!」

瞬間、雲水の五体の間を掻い潜って放たれた透明な糸が、昭の全身を貫いた。

「──『四肢掌握糸』──。悪いなダークフェニックス。貴様の獲物はたった今から俺の獲物に変わった。
 手出しはするな。勿論、あの娘にもだ」
ディートハルトはダークフェニックスから雲水に視線を移す。
既に雲水は身動きのとれなくなった昭の横を悠然と抜け、
禍々しいオーラに包まれた哀の至近距離にまで迫っていた。

「な、何をする気だ雲水!?」
「昭……お前の誤算は、結局“お前だけの誤算”だったということだ。それを今、見せてやる」

【氷室 霞美:3F到着】
152ダークフェニックス@代理:2010/08/11(水) 14:37:50 0
>>150-151
「──『四肢掌握糸』──。悪いなダークフェニックス。貴様の獲物はたった今から俺の獲物に変わった。
 手出しはするな。勿論、あの娘にもだ」
「――了解」

ディートハルトの命に対して俺は指を下ろして背を向ける。

「愚かだな、黙って血をよこせば助かったものを」

阿合昭に向けてぼそりとつぶやき、氷室を横切る時に皮肉も忘れない。

「ジャージ女、貴様は来る必要なかったと思うぜ」

俺は四天王を尻目にその場から立ち去った。


――1F裏口――

『まさか自ら化身となるつもりか? ……だとするなら無駄だと言っておこう。
 娘が人工化身となれたのは、生まれつき始祖の血に対する抵抗力を持っていたからだ。
 他の人間が真似したところで一秒と持たず肉体ごと塵と化すのが関の山だ』

本当にそう思っているのなら黙って血を渡せばよかった。
あの男が俺達の身を案じる理由なんてない。
そうしなかった理由…おそらく生命の危機に瀕して、あの男の予知能力が発動したのだろう。
俺に血を渡したらどうなるか…を。
血の効力があの男の言う通りなら、場所のおおよその見当はついた。
かつてカノッサを裏切った暗殺部隊。
そこの所属する阿合昭がいたこの組織で、それを持っているとすれば…おそらく血液を入れ替える能力の異能者。
部下の連絡からこの能力者の戦闘が行われていたのはおそらくこの場所。
そこにはカノッサの基調となるいくつもの黒い服を被った大量の塵と、白衣を着たアソナメンバーが倒れていた。
その顔は予想通り、血液を入れ替える能力の異能者。

「…予想通りだ」

不自然に倒れたまま白衣に突っ込まれた手には、赤い液体の入った小瓶が握られていた。
この1本の血を戦闘員の血と順番に入れ替えて、戦っていたのだろう。
一撃必殺の能力ではあるものの、物量には敵わずここでやられたわけだ。

「始祖の血であればいいが…」

戦闘員の血と入れ替えた状態でやられたのなら、この瓶に残っている血はただの異能者の血だ。

【ダークフェニックス:始祖の血(?)を手にする】
153氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/08/13(金) 22:27:01 0
──ズズズズズッ──
雲水の右の腕先が消えてゆく。いや、消えたのではない
空間の一部に黒い穴が空き、そこに腕先を突っ込んだのだ。

「待ち望んだぞ、この時を」

雲水の腕先が穴から引き出された時、
その手には全てが黒く染まった一振りの刀が握られていた。
初めて目にするはずの昭ですら、それが普通の刀でないことは即座に理解できた。
それだけの禍々しい異彩ともいえる輝きを刀は放っていたのだ。
「…………ッ!!」
彼女は目を丸くして一歩、後ずさりをした。

「古文書によればこの年に化身が覚醒するとあったが……
 まさか現れたのがこのような人に造られし紛い物だったとはな。
 流石の白済もそこまでは読み取れなかったか。もっとも──」

刀を肩に乗せてゆっくりと哀に近付いていく雲水。
隙だらけの雲水を前にしても、哀は先程のようにガムシャラに飛び掛るようなことはしない。
いや、できないと言った方が正しいだろう。

「──この刀に本能的に恐怖しているところを見ると、
 人造物とはいえそのポテンシャルは真の化身と大差ないのだろうがな。
 そうであれば紛い物だろうが何だろうが問題はない。
 俺は当初の予定通り、事を進めるだけだ……」
哀の眼前にまで迫った雲水は腕を高く上げる。
刀は、いつの間にか逆手に持ち替えられていた。
「そう、このようにな!」
そして、その顔をどす黒く染めながら、彼は抵抗しない哀に向けて容赦なく刀を振り下ろした。
「や、やめろォォオオ!!」

──ドス!
昭の叫びも虚しく、黒き刃は彼女の胸を薄紙の如く貫いた。
胸から背中から血の飛沫が飛び散る──そこまでは雲水らにとっては見慣れた光景である。
しかし、驚くべきはその後。血と共に、突然、傷口から黄金色の何かがほとぼしったのだ。
エクトプラズムのようにも見えるそれは、辺りに強烈な光を発しながら空中に集まり出し、
やがて黄金色に輝く一つの小さな水晶程度の“球”を形成した。
雲水はそれを手へと収めると、その金塊のような輝きに魅せられるように、その顔を愉悦に歪めた。

「ククク、ついに手に入れたぞ。これが化身の、化身の圧倒的オーラを凝縮した輝き……!
 古文書に記されていた『魔水晶』か!」
「な、なん……だと……?」

突然の超展開に唖然とする昭。雲水はそんな彼に対しフッと笑うと、
「フン、何も知らないとは哀れなものだな。いいだろう、冥土の土産に教えてやる。
 この刀は何なのか、そしてこの球が何なのか、全てな……!」
と、全ての謎を語り始めた……。
154氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/08/13(金) 22:30:58 0
「知っての通り、この刀はただの刀ではない。
 遥か昔、我々と同じ力を宿した者が、すなわち異能者が自らのオーラによって具現化したものだ。
            前の持ち主
 『無間刀』──と『幾億の白刃』は呼んでいたが、これはあくまで俗称に過ぎない。
 真の名は『降魔の剣』──! あらゆる“魔”を払う力を持つ伝説の武具だ。

 刀を具現化した本人が死んでも、この刀はこの世の物体として完全に実体化している。
 その原因は定かではない。しかし、一つ確かなことは、この刀が古来より対化身に用いられていたことだ。
 神にも等しい力を持つ始祖。その血は時に破壊と殺戮に駆られる。この娘がそうだったようにな……」

と、雲水は足で、血を流して床に伏す哀を小突いた。

「一度、破壊と殺戮の衝動に駆られた化身は、全てを滅ぼすまで戦いを止めない。
 故に自らの身を護る為に当時の異能者達は化身を倒す方法を巡らせた……。
 それがこの剣を使い、その身に宿した魔力を払う……という方法だった。
 体外に排出された莫大なエネルギーは凝縮・封印されて球となり、長い年月を掛けて浄化される。
 ただし、封印とはいってもエネルギーを球として物理的に固めているに過ぎない。
 手にした者の力量と意思次第では、中の力を自在に引き出すことができるのだ……」

ニィと笑う雲水を見て、瞬間、昭は先程の言葉を思い出した。
『俺が利用したいのは化身じゃない、化身の圧倒的なパワーだからな』
そして気がついた。その言葉の意味を。

「貴様……自らがその力を手にするために……!」
「化身といえど意思を持った人間。化身が俺の理想に反発する可能性がある。
 そうなれば、危うくなるのは俺達の身だ。
 そこで考えたのさ。化身のパワーだけを何とかモノにできないか……ってね。
 調べたらどうやら凄腕の殺し屋がそれを可能にする武器を持っているという。
 俺達はそれを奪い、ひたすら古文書に記された化身覚醒の時を待った。
 その正体がまさかお前達に造られたモノだとは思わなかったが……
 ククク、結果としてはお前達のお陰で長年の夢が叶ったってわけだ。ありがとうよ」
「クッ……!! ウオオオオオッ!!」

雲水の皮肉な笑みに昭は体を震わせて唸った。
しかし、どんなに体に力を入れても、ディートハルトの糸から逃れることはできない。
その姿は正に蜘蛛の糸に絡め獲られ死を待つばかりの虫に等しかった。

「もうそいつに用はない。始末しろ、ひと思いに首を捻じ切ってな」
「娘の方は?」
「放っておけ。直に死ぬ」
「了解──。さぁ、いよいよ年貢の納め時だぜ?
 なーに娘も直ぐに後を追うだろうぜ。悲しむこたぁねぇよ」

残酷に言い放つディートハルトに、昭はただ、無念の涙を流すしかなかった。

「哀……すまない……私はお前を守ってやれなかった……。
 父親らしいことを何一つしてやれなかった私を……許してくれ……」

【雲水 凶介:化身の力を物質化した魔水晶を手に入れる】
【阿合 哀:化身の力を失い、更に胸部に深手を負い重傷】
155鳴神 御月@代理:2010/08/13(金) 22:32:39 0
「ここか…」
"彼"はアソナの本拠地に辿り着いていた。
目の前に入り口がある。雰囲気からして裏口のようだ。

裏口から中に入る。上の階からは幾つか能力者の気配がする。
「数は3、いや4…?1人は先程の男を操っていた奴。もう1人は以前に感じた事のある気配だ。
 あとの2人は…知らんな」
ざっと上の階にいる人間を検証する。そして自分の前方にも1人、能力者の気配がする。
「こちらも知らんな…。まぁ、会ってみれば分かるか」
そう呟き、通路を歩き出す。

少し歩いたところで、無数の倒れ伏している人間を目にする。
どうやらここで戦闘があったようだ。
その屍の中、1人佇む者がいた。手に何かを持ち、小さい声で何か呟いている。

「……う…りだ」
「…その…あれば…」
距離が離れているせいか良く聞き取れない。背格好から察するに男だろう。
更に男に近づいていく。
(赤い…何かの血液か…?)
男と3m程離れた位置で立ち止まる。
「貴様、ここの人間か?ここで何があった?」

【鳴神御月:アソナの本拠地に到着。ダークフェニックスと接触】
156ダークフェニックス@代理:2010/08/14(土) 21:46:55 0
>>155
「貴様、ここの人間か?ここで何があった?」

血が始祖の物であるか確かめようとしていたら、その場に得体の知れない存在が現れた。
いや、それが異能者である事はわかる。
男だか女だかわからないとか、それもあるがそういう話ではない。
得体の知れないは外見ではない…中身だ。

「…貴様こそ、その様子では此処と無関係の人間だろう。何の様――」

――そうか、魔水晶に引き寄せられた異能者か。
どうやら筆頭は予定通り魔水晶を手に入れる事ができたようだな。

「…ここで何があったか?何もないさ」

俺は持っていた血の小瓶を自分のコートのポケットに突っ込む。

「何かあるのはこれからだ」

俺は天井を仰ぎ見る。

「魔水晶に惹かれて、間もなく街中の異能者が此処に集結する。
 そして魔水晶を求めて戦い、奪い合い、最後にそれを手にしていた者だけが夢を叶えられる」

魔水晶がその真の力を引き出すには、水晶化してからまる1日はかかる。
その間、その魔力は自然に異能者を引き寄せる。魔水晶を持つ者は時間までこそこそ隠れて過ごす事は許されない。
もっとも、筆頭の古文書にはそこまで記されてはいないがな。
――数多のオーラがこの場に集まってくる。この日の為に俺が街に配置していた異能者達が。
集まる前に絶滅させられるんじゃないかと焦っていたが、アソナの連中が早めに尻尾を見せたおかげで事は順調に進んでいる。
筆頭に古文書を見せ、アソナに化身を作り出らせ、魔水晶を生み出させ、異能者達を戦わせる。
全てはこの俺が仕組んだ事。

「ゲームの始まりだぜ」

ピッ
俺は目の前の得体の知れない異能者を指差し破壊光線を放つ。
午前中の異能者狩りを生き残った貴様が、筆頭を倒す力を持つ者か試してやろう。
もっとも手加減するという意味ではない。力無き者なら俺にとって必要ないからな。

【ダークフェニックス:鳴神御月に戦いを仕掛ける】
157氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/08/16(月) 20:23:01 0
──メキャァッ!
気味の悪い音を立てて、昭の首がかつてない方向へと折れ曲る。
こうなると苦しむ間もない。即死である。
昭はガクリと膝をつくと、そのまま力なくうつ伏せに倒れ込んだ。

ピピピ!
瞬間、氷室、雲水、ディートハルト……この場にいた全員のスキャナーが一斉に鳴る。
レンズはこの場所に近付きつつある多数の反応を表示していた。
「……妙だね」
この事態に氷室が怪訝な顔をするのも当然であった。
スキャナーさえ通さない特殊防壁で囲まれているこの場所を、
突然、不特定多数の人間が同時に嗅ぎ付けることなどまず考えられないだろう。
「おい、他にも魔水晶を狙ってる組織があるのか?」
横目で訊ねるディートハルトに、氷室は「さぁ?」と肩を窄めて、目線を雲水へと向けた。
そんなことを知っている人間がいるとすればカノッサの中でも彼しかいないのだ。
自分に質問が回ってきたことを察した雲水は、魔水晶をポンポンと手の上で弄びながら嘯いた。

「組織にしてはそれぞれの動きに統一性がない。恐らくこの街の生き残りの異能者どもだ。
 光に引き寄せられる虫の如く、化身の強大なエネルギーが、連中を本能的に引き寄せているのさ。
 魔水晶が完全な石と化すまで後24時間……なるほど、流石は殺戮の神である始祖の化身。
 その身から異能力を失っても闘いを引き起こすか」
「つまり、連中と奪い合いが起きるってわけね」
氷室の問いに雲水は「あぁ」と答えるように、
空中に上げた魔水晶をこれまでになく力強くキャッチしてみせた。

「だが、遅かれ早かれ闘う羽目になるならと、この場で迎え撃つのはあまりに芸がない。
 魔王が勇者ご一行を迎え撃つのは自分の居城と相場が決まっているからな」
そう言う雲水の背後の空間が黒く染まり出す。
雲水が持つ技の一つ──『カオスゲート』が発動したのだ。
それは建物からの撤収、アジトへの速やかな帰還を決めたことを意味していた。

氷室が生き残りの戦闘員にスキャナーで通信を送るも、応答は一つもない。
生命反応をサーチしてもダークフェニックスと思われるものしかキャッチできなかった。
「奴を除いて全滅……か。どうする?」
     ヤツラ
「調度、連中をふるいにかける“置き土産”が少なかったところだ。奴にはその先鋒でも務めてもらうさ」
「置き土産?」

氷室が訊くと、雲水がクイッと顎をしゃくる。
その先で見たものは、今まで血の海に沈み沈黙を守っていた戦闘員の亡骸が、
ディートハルトのオーラを受けてその体をむくりと起こしているところだった。
  ゾンビ
「屍人形に殺られる程度ならハナから俺達と闘う資格はない。
 どうせ闘うなら少しは楽しませてくれる相手でないとな。
 ディー、ゾンビの数は?」
「そうだな、30体ってところか。あまり五体満足の死体がなかったもんでな」
「十分だ。ダークフェニックスも合わされば、何十人かはここで振るい落とされるだろう。
 さて、何人アジトに辿り着くか楽しみだな……フフフ」

雲水は不気味な笑い声を残して空間に開けられた黒き扉に消えていった。
氷室も虚しく横たわる親子の姿を一瞥して、無感情な表情でその場を後にした。

【氷室 霞美:アソナ本拠地→カノッサ本拠地に瞬間移動】
【阿合 昭:死亡】
【阿合 哀:瀕死】
【カノッサ戦闘員:全滅。その内、30体が屍人形として異能者達を待ち受ける】
【屍人形:能力なし。ディートハルトのオーラによって本体のパラメータだけがオールBとなったゾンビ。
      ただし思考力なし。五体をバラバラにしない限りいかなるダメージを受けても復活する】
158鳴神 御月@代理:2010/08/16(月) 20:24:15 0
>>156
「魔水晶に惹かれて、間もなく街中の異能者が此処に集結する。
 そして魔水晶を求めて戦い、奪い合い、最後にそれを手にしていた者だけが夢を叶えられる」

「魔水晶?懐かしい名だな…。だがそんな物の為に来たわけではない。
 懐かしい気配を感じて来たまでよ。しかしこれは――」

「ゲームの始まりだぜ」

その言葉と共に一筋の光線が迸った。体をひねってかわす。

「ふん。話くらい最後までさせろ。どうやらここで"作られたモノ"は紛い物のようだな。
 久方ぶりに彼奴と話が出来ると思ったが…。どうやらそれも叶わんようだしな。
 ともすれば、こんな場所に用はない」

「さて、残り時間も少ない。少し"こちらの"力も使わんと感覚が鈍るな」

体の中心に力を凝縮する。それはさながら圧縮された大気の如し。

「貴様はどうやら面従腹背というわけでもなさそうだな。いい話が出来そうだ。
 しかし今は時間がないのが惜しい。それに貴様と戦う理由もない。
 今日はこれにて失礼させてもらおう」

極限まで圧縮させた力を解放する。

ズッ――
瞬間、大爆発が起きた。特殊な異能力ではない。純粋なオーラの解放による爆発。
立ち込める爆煙の中、ダークフェニックスに背を向け、その場から立ち去る。

「我が名はアリス―アリス・フェルナンテ。満月の夜にまた会おう。貴様が生きていれば、な」

そういい残し、アリスは姿を消した。

【アリス・フェルナンテ:ダークフェニックスとの戦闘を回避。アソナの本拠地を後にする】
159ダークフェニックス@代理:2010/08/17(火) 00:10:00 0
>>157-158
逃げたか…まあそれほど力を持たない者なら、この俺相手に逃げるのは利口な判断か。
事実、俺も筆頭と戦わずに事を成す為にこうして策を張り巡らせているわけだしな。
しかし、このままではみすみす筆頭に魔水晶をくれてやる結果に終わってしまうな…
それにしても最近、破壊光線が人間相手に当たらないな…的がやり手だからと思いたいが、俺自身に問題があるのだとしたら――
そんな事を考えていると、筆頭達がこの建物からいなくなってる事に気づく。
…とすると、アリスとかいう女は魔水晶が移動したからこの場から移動したのか。
そうすると、此処に向かってきていた街の連中も行き先を変えるだろう。

「わざわざ無駄にゾンビを作ってご苦労な事だ」

この様子はディートハルトの能力によるものだ。ただの操り人形として動いてるこいつらの肉体に魂はない。
ならば供養する必要はないし放っておこう。それにここでディートハルトに能力を使わせている事で、後々事が有利に運ぶだろう。
さて、街の連中と四天王と行き先は――

ピピッ
外の様子を探ろうとしていると、スキャナーが建物内でオーラを観測する。
屍となったゾンビ供にオーラは存在しない。まだ誰か生き残りがいたのか?
そう思ってオーラが観測される先程いた3Fに足を運ぶと、すぐにその正体は知れた。

「……」

『手出しはするな。勿論、あの娘にもだ』

――俺はその部屋を出て同階を捜索する。
この建物と人員から考えて、様子を知る為のモニター室があるはず。

―――
――


『調度、連中をふるいにかける“置き土産”が少なかったところだ。奴にはその先鋒でも務めてもらうさ』

先程の部屋の様子を映すモニター、自分が出て行った後の様子を再生すると、そこには望んでいたものが映されていた。
新たな任務の言質、その前の指令『手出しをするな』を打ち消す契約。

「了解、筆頭。でも連中は此処には来ないぜ」
160ダークフェニックス@代理:2010/08/17(火) 00:12:34 0
俺は再び先程の部屋に戻る。
瀕死の状態、それでも確かにスキャナーが生存を示すその異能者のもとに。
人工化身となる為に生み出され、死にかけている哀れな娘のもとに。
俺は意識を失っているその娘の衣服を、無間刀に刺されて裂けていた胸元から引き裂く。

「起きろ…始祖の血が水晶化して抜けた事で、"貴様"の人格は戻っているはずだ」

そしてあらわになったその胸の先に、感情の火の粉を落とす。
俺が炎で回復できるのは自分だけだ。他人の命を簡単に奪ってきた俺に、他人を救う力は生まれない。
俺のオーラは感情に強く影響される。心から自分が生き残りたい気持ちになれても、他人を救う気持ちになんて絶対になれない。
だから俺のこの娘に対して生み出せる感情は…性欲、死なすのはもったいないといった感情。
この火の粉はこの娘を殺す為の技ではなく、熱くさせる…もとい苦痛で意識を戻させる荒技。

「――ッガハァ!!」

娘、阿合哀は苦痛に顔を歪ませながら意識を取り戻す。
すぐにまた意識を失いそうだが、俺はすかさず先程手に入れていた血の小瓶を取り出し、その胸の傷口に血を一滴垂らす。

「――ッウアアアァァァ!!!」

傷口は毒が入り込んだかのように、ぶくぶくと血の泡を立てている。
その様子を見て、俺はこの血が始祖の血であった事を確信した。

「意識を保っていろ…貴様が化身に人格を支配されたのは、おそらく貴様が眠った状態で血を取り入れた事が原因だ。
 力を我が物としたければ痛みに耐えろ。死にたくなければ生を実感しろ」

他の者ならば一瞬で塵になって苦痛を感じる事もなく死に至る。
だがこの娘の身体はそれを許さない。
そして意識を失う事は俺が許さない。娘が気を失いかける度に、一滴ずつ傷口に血を垂らす。
その度に建物内に絶叫が響き渡った。

【ダークフェニックス:阿合哀に始祖の血を取り入れる】
161アリス・フェルナンテ@代理:2010/08/18(水) 16:30:41 0
――アソナの本拠地から離れたアリスは住宅街を歩いていた。
頭の中に声が響く。

――体を…返せ…!――
「む、もう終いか。少々つまらんな…。今回は何も壊していないではないか…。
 まぁいい。お前に頼みがある」

――ふざけるな…!誰がお前の頼みなんか…!――
「まぁそう硬いことを言うな。何も破壊活動を行えと言うのではない。ただある人物に会って
 欲しいのだ。そう―ダークフェニックスという男にな」

――ダーク…フェニックス…?――
「うむ。カノッサとか言う機関の構成員らしい。我はあの男が少々気に入った。
 是非とも一度話をしてみたい」

――!!駄目だ…!自分は優達の護衛…。敵対する機関の人間なんかに――
「何なら話すときだけ体を貸してくれればいい。用が済んだら返すさ。
 記憶も共有する。それならいいだろう?記憶を共有するということは
 "封印"もかけない。自力で取り返せるはずだ。まぁ今すぐじゃなくてもいい。
 だが近いうちに、な」

――………――
「沈黙は肯定と受け取るぞ。別にお前の雇い主に悪い方向には持っていかん。
 久方ぶりに気に入った相手だ。話くらいさせろ。―化身のことも気になるしな。
 まぁ、今はお前に体を返すとしよう。だがこれからは任意に交代を行えるようにする。
 もちろん普段はお前が使っていて構わん。しかし半分は我の体でもあるのだ
 こちらだけ制限付きというのは不公平であろう?"封印"は外させてもらう」

御月が何かを言おうとしたが、それより早く目を閉じて意識を集中させる。
目を開けたとき、左の瞳が茶色に戻っていた。それと同時に体が軽くなる感覚。
不満げな表情で御月は辺りを見回す。そこには一軒の家。表札には虹色と書いてある。
今は考えることを止め、帰還を報告するべくチャイムを鳴らした。

【アリス・フェルナンテ:鳴神御月と人格交代。虹色兄弟の家に到着。
              以後自由に人格の交代が可能】
162海部ヶ崎&不知哉川:2010/08/21(土) 15:30:28 O
ダークフェニックスとの闘いの後、不知哉川と海部ヶ崎は徒歩で数キロの道のりを移動し、
数十分という時間をかけてアソナ本拠地近くの南地区郊外まで辿り着いていた。
しかし、視界の先にアソナ本拠地をうっすらとらえ始めた頃になって、
二人はこれまで警戒に動かしていた足をピタリと止めた。
眼前に、この世の物とは思えない“異形”が、行く手を阻むように蠢いていたからだ。

「こらまた気味の悪いモンを……」
不知哉川は目の前の光景に呆然とするしかなかった。
人間の形をしているが人間ではない──
寄生とも呻き声ともつかぬ声を発しながら光のない眼差しでただ動く物に反応する、
さながら亡者と化した化物達が人々を襲っているのだ。

「キサちゃん、あれなんだかわかる?」
「……服装から見てカノッサの戦闘員ですね。しかし様子がおかしい。
 あれではまるで……」

ピピピ!
ふと不知哉川のスキャナーが鳴る。
見れば、レンズに表示された周囲の生命反応が次々と消えていっている。
知っての通りスキャナーはオーラを持つ者にしか反応しない機械だ。
つまり、異形に襲われているのは異能者ということだが、そうなると一つの疑問が沸く。

「……でも、よりにもよって何でこんなとこに集まってたんやろか?
 異能者同士集まって井戸端会議でもしとったんか?」
「それにしたって数は10や20は下りませんよ。まるで何かに誘き出されたような……」
「誘き出された…………あっ」

二人は顔を見合わせた。
つい十数分前、突如脳裏に浮かんだ“光の球”──
その瞬間、何とも言いようのない感覚に襲われ、
自然とこの場に急行しなければという衝動に駆られたことを二人は思い出したのだ。

「そうや……ここへ来たのは自分中では無間刀を取り戻す為と思っとったけど……」
「そもそも我々が初め向かっていたのはこことは別方向の北地区。
 それがいつの間にかここへ……
 まるで虫が光に吸い寄せられるかのように、自然とあの建物に向かってたんですよ」
「あの光の球……恐らく機関が何らかの力で俺らに送ったメッセージみたいなもんやな。
 他の連中も俺達と同じ、無意識の内にそのメッセージに従ってここへ来たんやろ」
「えぇ。そしてあの化物達は、ここに集まった人達を抹殺する為に機関が放ったモノ」
「そうとわかればこんなとこに居る必要なし! とっとと踵返して行こうや!」
「えっ? でも、もしかしたらあの建物にまだ機関の幹部が……」
「仮に居るのが四天王だったら返り討ちに遭うのが関の山やろ。今のキサちゃんと俺だけで勝てると思う?」
「うっ……」
「な? ほな、わかったらさっさとこんな物騒なところから離れよ──」
「──ッ!! 霊仙さん、危ない!!」
「へ?」

突然、海部ヶ崎が腰に刺した刀を抜きながら不知哉川の真上に跳んだ。
そして彼女は不知哉川の高等部をかすめる形で刃を一閃──
次の瞬間、切り離された異形の上半身と下半身が、ゴロリと不知哉川の前を転がった。
163不知哉川&海部ヶ崎:2010/08/21(土) 15:32:57 O
「危なかった……。霊仙さん、どうやら我々は既に囲まれてるようですよ」
海部ヶ崎がキッと辺りを睨め回す。
既に周囲には、濃さを増していく暗がりに混じって、多くの異形達が集まっていた。
「あ、あぁ……。しかしキサちゃん、相変わらず容赦なしやな……。
 胴体が見事に真っ二つやで……」
それでも綺麗に真っ二つになった異形の死体の方が今の不知哉川にとっては目を見張る光景なのか、
彼は異形の死に様をまじまじと窺っては、口に手を当てて嘔吐の真似事をしている。
「うっわ……見るも無残っちゅーのはこのことやな……」
彼がそんなことを言ってる間にも、海部ヶ崎は素早く敵の数を把握する。
数は一、二、三…………海部ヶ崎の前に四体、そして背を向ける方向に四体、全部で八体。
「霊仙さん、敵の数は八。私は前の四体を倒しますので、霊仙さんは後ろの四体を頼みます」
「……四体? 違うでキサちゃん、正確には“五体”や」
「え?」
不知哉川の言葉を不審に思った海部ヶ崎がふと振り返る。
そこで彼女は自らの目を疑った。
先ほど真っ二つにしたあの異形が、何事もなかったかのように立ち上がっていたのだ。

「信じられる? こいつの上半身と下半身、磁石のように引き合わさったんやで?
 ……キサちゃん、こいつらの目ェ見てみ? 気付いた? 死人のそれと同じなんや。
 こいつらは能力者によって操られてるだけの死体──
 こんなんまともに相手してたら時間がいくらあっても足りひんで」
「ゾンビ──ですね、正しく」
「そう。んでも、恐らくオーラによって操作されてることに変わりはない。そこで……」

不知哉川が親指を立ていつになく堂々と胸を張る。
何を言わんとしているのか即、理解した海部ヶ崎は、異形達に向き直って刀を構えた。

「わかりました。私があいつらをバラバラにして動きを止めます。
 奴らが復活する間に、霊仙さんは奴らを操るオーラの吸収をお願いします」
「任しとき! 一人残らずただの死体に戻したるわ!」


──同時刻、ところかわって西地区にある角鵜野湖の底──
カノッサの秘密本部最下階である地下25階──。

「──オーラを纏う者を自動的に感知し移動を続ける。
 その身が文字通り朽ち果てるまでこの世をさ迷い続けるのか。
 なるほど、あのゾンビどもは正しく亡者の名に相応しいな。
 で、どれだけ減ると見ている?」
広いフロアにぽつんと一つだけ置かれたソファーに深々と腰をかけた雲水が、
目の前で直立するディートハルトに目を向けた。
「そうだな。今も生き残っている連中が50人としても、明日の朝までには半分以下になり、
 更にこのアジトに潜入してから半分減り、俺達と闘える連中はほんの一桁だろう。
 しかも俺、氷室、キャスの三人を倒さなければ筆頭のもとには辿り着けない。
 筆頭、あんたはどうせ闘うなら楽しませてくれる相手でないと、とか言ってたが、
 あんた自身が闘う可能性は0.01%もないと思うぜ?」
「それならそれでも構わんさ。所詮は余興……24時間後に起こる事に比べればどうでもいいことだ。
 フフフ、今から楽しみだな、魔水晶による新たなる世界創造が。
 魔水晶が完成したその時こそ、俺は何物をも越える偉大なる存在──神となるのだ──!」

【不知哉川&海部ヶ崎:ゾンビと遭遇。戦闘に。現時刻PM6:00】
164ダークフェニックス@代理:2010/08/22(日) 02:14:39 O
「アアアァァァ!!!」

>>160からずっと絶叫を挿みながら娘に血を取り入れていると、小瓶に入っていた始祖の血はやがて空になった。
化身の異能者としての圧倒的な回復力で、娘の傷口はだいぶ塞がりかけたが、まだ皮膚の再生まで至っていない。
このまま放っておけば治るとは思うが、念には念を入れておく。

「仕上げだ」

もっとも先述の通り、俺は自分以外を回復させる技も使えないし、オーラを分けて回復させるなどといった芸当もできない。
俺ができるのは精々殺意を抱かないようにして、威力を抑えた炎を浴びせる事。
これから取る手段は、その再生しきっていない傷口を焼き塞ぐ事――

「グアアアァァァアアアアァァァッ――!!!」

――娘は完全に気を失った。俺はそうさせまいと炎を浴びせ続けたが目覚る気配がない。ついに精神が限界を迎えたようだ。
だが、意識のあるうちに始祖の血は全て注入した。ならば愚かな殺人兵器として目覚める事はないだろう…
俺は炎を消そうとするが、その前に傷口を焼く炎が消えていく。娘の掻いた汗が炎を消したように見えた。
火加減してあるとはいえ、汗ごときで消えるような炎ではないはずだが…そう思っていると、生じた水蒸気――毒ガスが俺の鼻を刺激した。

「――エンッ!!!」

ブーッ!!
その毒ガスにやられ、俺は勢いよく鼻血を噴出しながらふらつく。
そうか――これが本来この娘が持つ能力…それが発動したのなら人格の変化は確かに免れたと見ていいだろう。
ふらつく身体で娘を近くのベッドに寝かしつけ、俺は建物の外の様子を探った。先程からゾンビ達が騒がしかったのだ。
>>162-163
建物の外では街の異能者達がゾンビ供と戦っていた。
もう此処に魔水晶は無いのに何故集まってきた?
まさか筆頭が魔水晶をこの建物に残している……ありえないな。
それにあのアリスという女が出て行ったのが証拠…いや、そう言えばあの女は違う理由で此処に来たと言ったいたか?

『懐かしい気配を感じて来たまでよ』

――アリス・フェルナンテ。もしかすると奴は…
考えに耽っていると、外から耳障りな叫び声が思考を阻害した。

「任しとき! 一人残らずただの死体に戻したるわ!」

様子を見ると、先程対峙した2人がそこにはいた。
先程対峙した時、女の方は怪我でまともに戦えない様子だったはずだが、その様子が感じられなくなっていた。
男の方も俺の怒りのオーラで焼かれた後遺症をまるで感じさせない軽い口ぶりだった。
予定が狂い始めた。カノッサはおおよそ思惑通りに動いているが、街の異能者達が思惑を大きく外れている。

「まずいな…生き残りという事で多少期待交じりだったが、街の連中のほとんどがやられている。
 それにあの2人組が無事な様子から、どういうわけか俺の力もかなり弱まっているとみえる。
 くっ、何故せっかく手に入れた始祖の血をこんな女に使ってしまった――いや」

俺は、始祖の血を取り入れて再び人工化身と化したであろう阿合の娘を見る。
その目に映るのは完全に塞がり、先程の焼き跡すら消えている胸の傷口。

「悪い方にばかり予定が狂っているわけでもないか」

そして人工化身の娘は目覚め、俺たちは視線を交わした。

【ダークフェニックス:阿合哀に始祖の血を全て取り入れる】
165鳴神 御月@代理:2010/08/22(日) 02:16:40 O
ピンポーン――

チャイムを鳴らすが反応がない。聞こえていないのだろうか?

ピンポーン―

もう一度鳴らす。またしても反応なし。
というより家の中から人の気配がしない。玄関の鍵もかかっている。

「優達…どこ行ったんだろう…?」

今の街の状況を考えると、外出は好ましくない。
カノッサの動きも活発になってきている。

「いったいどこに…」

――そう言えばダークフェニックスが、魔水晶に惹かれて異能者が集まる、と言っていたな――

アリスの声が頭の中に聞こえる。

「それは本当…?」
――こんなことで嘘をついてどうする。信じる信じないはお前の勝手だがな――

アリスの話が真実ならば、優達もそこに向かった可能性が高い。自分は幸か不幸か、アリスのお陰で影響を受けずにすんでいる。

「すぐに行かないと…!」

【鳴神御月:虹色兄弟の捜索開始。アソナの本拠地へ引き返す】
166鳴神 御月@代理:2010/08/22(日) 02:18:55 O
御月は屋根の上を跳んでいた。
優達の安否が分からない以上、一刻も早く見つけ出さなければならない。

「もうすぐ着く…。優達…無事だといいんだけど…」

そんな事を言っているうちに、アソナの本拠地が見えてきた。

「あれは…?」

足を止めて様子を見る。
誰かが戦っている。どうやら男女二人組のようだ。カノッサの戦闘員に囲まれている。
しかしよく見ると、戦闘員の様子がおかしい。普通の人間の、少なくとも理性的な動きではない。
二人を囲んではいるが、一人一人バラバラの動きをしているし、呻き声のようなものを発している。

「人間じゃ…ない…?」
――そのようだな。肉体的には既に死んでいる――
「助けてあげたいけど…今は優達が先…」
――待て。少し体を貸せ――
「何…?どういうこと…?」
――先程話したことだ。どうやらあの建物にまだあの男が残っているようだ。それに――
アリスが一瞬言葉を切る。
――いや、お前には関係ないか。とにかく体を貸せ。雇い主も探してやる――
「…わかった」
渋々意識を集中させる。徐々に意識が水の底へ沈んでいくような感覚。
瞳が碧に変わり、アリスが表に出る。

「こんなに早く機会が訪れようとはな…。クックック…」
戦っている二人の頭上を飛び越え、建物に向かう。
その際に剣を何本か生成し、二人組を囲むゾンビ達に向かって適当に投げつける。運がよければ何匹かに当たるだろう。

「これは…"彼奴"の気配…?そうか、目覚めたか。紛い物とは言え、"彼奴"の血が入っているのだ。
 我のことも覚えているやも知れん。そしてあの時の事も――」

【御月→アリス:アソナの本拠地へ到着】
167不知哉川&海部ヶ崎:2010/08/25(水) 19:38:08 0
「はぁぁぁぁッ!!」

暗闇の中からアルトヴォイスが響き渡る。普段であれば可憐に聞こえるその声も、
今ばかりは激しいばかりの殺気にコーティングされて聞く者を威圧する。

「うぅぅ〜〜」
「あぁぁ〜〜」

しかし、闇の中、不気味に呻き続ける“彼ら”が怯むことはない。
既に死した彼ら亡者は、痛みを感じることがない、死の恐怖を感じることがない。
与えられた命令(プラグラム)に忠実に従うことしかできないのだ。
故にタチが悪い。闇の中でも的確に敵のオーラを視認し、機械的とはいえ素早く動く。
そして一発一発の拳撃が極めて重い。
例え異能者であっても戦闘に不慣れな者であれば即座に肉塊へと変えられてしまうだろう。

だが、プログラムに従う彼らの利点はそのまま弱点へと繋がる。
戦闘に卓越している者であれば、彼らの動きの法則性を即座に見極め、
まるでゲーマーがやり飽きたゲームソフトを容易くクリアすることができるのと同様に、
ほとんど何の苦もなく撃破することができるのである。

事実、先ほどから殺気混じりの声を発し、
群がる亡者達に向けて容赦なく白刃を振るう女、海部ヶ崎 綺咲がそうであった。
「はっ! てやっ!」
その一声一声が暗闇で発せられると同時に、
亡者達が一人、また一人とその白刀によって肉体を欠落され無残に伏していく。
その数は既に海部ヶ崎の前に現れた亡者の数である9に到達していた。
「やっぱり操作されているのか。動きが極めて機械的だ。
 如何に速く重い攻撃だろうと当たらなければどうということはない!」
だが、亡者はそれだけでは倒せない。致命傷を受けても即、再生するのだ。
それでも海部ヶ崎の圧倒的優位は変わらない。
彼女の傍らには亡者の『天敵』ともいえる男がいるからだ。

「南無阿弥陀仏……。成仏せぇや」
もがれた四肢が地に横たわる胴体に向けて動き出すところを狙って不知哉川が手をかざす。
するとそれを合図にしたかのように、亡者達の肉体やその一部からどす黒い湯気のようなものが立ち昇ると、
それらは全て吸い込まれるようにして彼の手の中へと消えていった。
途端に亡者達の肉体がピタリと動きを止める。
不知哉川の能力『心理の収集家』の前には、オーラによって操作される存在は敵ではないのだ。

ふぅと息をつき、刀を納めながら海部ヶ崎は亡者達が横たわる背後を振り返る。
だが、不知哉川の能力を知ってる彼女が、もはやその視線を亡者達に向けることはない。
視線の先にあるのは不知哉川。
彼女が気になったのは彼が吸収したオーラの持ち主の情報であった。

「どうです?」

海部ヶ崎が訊ねるも不知哉川は無言のまま何の反応も示さない。
『心理の収集家』で得られる情報は吸収したオーラの量に比例する。
不知哉川がオーラを吸収したゾンビの数は9体。相当な量である。
これだけの量であればゾンビを創り出した者の今日一日の行動から会話の内容、
果ては少しでも頭を過ぎった過去の記憶さえも把握することができるが、
その膨大な情報量故に今の不知哉川の脳は処理に追われ、意識が一瞬飛んでいる状態なのだ。

「……」
目を開いたまま一言も発さずに、電池の切れた玩具のように静まる不知哉川。
その見た目とは裏腹に、彼の脳内では様々な情報が映像化され、
それらが次々と再生されては入り混じるという混沌とした状態に陥っていた。
168不知哉川&海部ヶ崎:2010/08/25(水) 19:39:08 0
逃げ惑う人々──氷室 霞美──ダークフェニックス──黒部 夕護──阿合 哀──
アソナ──人工化身──魔水晶──無間刀──幾億の白刃──そして雲水 凶介──
浮かんでは消えてゆく光景に人々の顔、木霊する声──
これらはディートハルトが今日一日で見たものであり聞いたものである。
映像の再生が始まってから三十秒──ここに至って不知哉川は初めて事の全貌を把握した。
と同時に脳は処理を追え、不知哉川はハッと意識を取り戻した。

「……そうか、そういうことやったんか……」
「どうでした?」
「あのゾンビを操ってたのはカノッサ四天王の一人やったんや。だから色々わかったで。
 あいつらが何故無間刀を奪ったのか、そしてどこに無間刀があるのか全部な……」

こうして不知哉川は事のあらましを語り始めた──。
現代に現れた化身はアソナによって人工的に創られた存在であること──
その人工化身が海部ヶ崎が公園で出会ったあの少女であること──
カノッサが無間刀を使って魔水晶を作り出したこと──
そして、雲水 凶介という男の企みのことを──。

「……あの無間刀にそんな秘密が……知りませんでしたよ」
「そらそうやろ。俺だって知らん事やったんやから」
タバコの煙をふぅーと吐き出し、意外な顔をする海部ヶ崎を見つめる不知哉川。
しんみりとした顔はしているが、その不知哉川でさえ、自分で言いながら驚きの連続であった。
それだけカノッサの企みは二人の想像の上を行く途方も無いものだったのだ。

「まさか本気で全世界の支配を企んでたとはなぁ……。
 しかもそれが夢物語と言えんところが何とも……」
「魔水晶……でしたっけ?
 ……話を聞く限り、確かにその雲水という男なら悪用できるかもしれませんね。
 でも魔水晶が完成するには24時間かかるということですから、その間に何とかできれば……」
「ゾンビを30体も操作しておきながら屁でもないような顔をしとったディートハルトっちゅー男や、
 キサちゃんが闘った氷室っちゅー女の実力の上を行くような男みたいやったで?」
「しかし、このまま放っておくわけには……
 無間刀だって取り返さないと、またいつ悪用されるかわかりませんよ?」
「そうなんやけどなぁ……その無間刀を持ってんのが雲水やねん……。
 正直、それこそ化身がいなきゃ対抗できんやろうなぁ……」
「化身……ですか……」

ふと海部ヶ崎の顔がアソナの建物へ向けられる。
それにつられるように不知哉川もその顔を建物へ向けた。

「? どうしたん?」
「人工化身になったあの少女……阿合 哀さん、でしたっけ?
 確か重傷ではあるもののまだ死んではいないということですが」
「あぁ、瀕死で時間の問題っちゅーことみたいやけどな。まだ生きてるんちゃう?」
「瀕死なら霊仙なら治せますよね? 彼女に会って話を聞いてみませんか?」
「そないなことしてどうするん? 彼女はもう化身の力はないんやで?」
「でも、会って話せば、何かわかるかもしれませんよ?
 このままじっとしてたって事態は好転しないんですから。とにかく何か行動を起こさないと。
 それに……知らない人でもありませんから、このまま見殺しにすることはできません」
「……キサちゃんに頼まれたら嫌とは言えんわな……。よし! 行ってみよか!」
「はい!」

話が纏まった二人は急いで建物へ向けて駆け出した。
中にかつて出合ったダークフェニックスがいることも、
そして数百メートル後ろから、不気味な影が迫っていたことにも気付かずに……。

【不知哉川&海部ヶ崎:ゾンビ9匹を倒しアソナ本拠地へ。鳴神の存在にはまだ気がついていない】
【ゾンビ:15匹が戦闘不能。残り半分は建物外の街で他の異能者と戦闘中】
【???:アソナ本拠地に向けて接近中】
169ダークフェニックス@代理:2010/08/26(木) 16:28:47 0
「……!!」

>>164の後、目覚めた阿合の娘は自分のはだけた格好に気づくと、シーツで上半身を覆い隠した。
先程のような心のない殺人兵器ならありえない行動だろう。

「…思ったより早い目覚めだな…毒に愛された女(ポイズネス)。その回復力こそ化身の真の力か」
「……!?お父さん!!」

目覚めた阿合の娘は俺を訝しげに見た後、部屋の中を見回し、うつ伏せに倒れた父親のもとに駆けつけた。

「お父さん!お父さん!!」
「もう死んでるぜ…それより、あまり泣きつくような真似はよしたほうがいいな」
「…あなたに何が――」

そこまで言って阿合の娘は気づいたようだ。泣きついていた父親の身体が溶け出している事に。
ディートハルトに殺された事が原因でも、俺が何か細工をしたのでもない。阿合の娘の涙が溶解液となって、その父親を溶かしていたのだ。
毒に愛された女(ポイズネス)が心を失わず、化身の力を手に入れた代償だろうか?

「――あなたが」

ふと気が付くと娘はこちらをきっと睨んでいた。毒の涙で泣きはらした眼を充血させたその形相は、憎悪と憎しみに彩られていた。

「あなたが殺したんですか?」
「…違うな。俺はその男に火の粉1つ向けてない。この建物のモニタールームに行けば証拠も映っている」

その言葉を聞くと娘は顔を逸らした。
目の前の相手にぶつけられると思っていた憎悪と憎しみを抑えるのに必死な様子が見て取れた。
そして、それとは別に深い悲しみも…

「…そんな父親でもやはり大切か」

阿合昭に良い噂は聞かなかった。
カノッサの裏切り者となる前にも、生まれてくる娘を異能者とする為に母体となった妻を死に至らしめ、
あげくの果てに、異能者として生まれた娘を恐れて捨てた最低な父親という話だった。
そして捨てた娘との初めての再開の理由が、その娘を殺人兵器にする為だ。
もし俺の両親がそんな人間で、俺の目の前に現れたら俺はどうするだろう?
この娘のように、親をかけがえのない存在として受け入れるだろうか?
170ダークフェニックス@代理:2010/08/26(木) 16:36:19 0
俺は阿合昭の死体を燃やさんと視線とオーラを送った。そのオーラに阿合の娘は気づいたようだ。
阿合昭の死体がやがて燃え始めると、阿合の娘はその死体を抱き寄せて俺の方を睨む。

「なにを――」
「貴様の能力では死者を蘇らせる事はできない。むしろこのままでは跡形も無く溶けて消えるぜ。
 ならばせめて火葬にして、遺灰ぐらい残してやったほうが報われると思わないか?」

今使っている炎は特殊な炎ではない。俺は何も感じないようにしている。
俺のこの男に対する感情を露にすれば、骨も残さない業火で焼き尽くす結果になるだろうからな。
阿合の娘はしばらく燃えている阿合昭の死体を放さなかったが、やがて観念したかのようにその死体を手放す。
俺は火葬を続ける。そうしている間、阿合の娘は部屋の様子を伺っており、ゾンビに使われなかった五体不満足のカノッサ戦闘員の死体を目にする。

「他の人達は…カノッサの人?」
「そうだな」
「これはあなたが?」
「……」

やはり人格をのっとられていた間の記憶は無いようだな。

「……」
「やっぱりそうなんですね?」

俺がしばらく沈黙を保っていると、その態度を肯定と捉えたようだ。
阿合の娘は目覚めた時と違って、好意的な解釈をするようになった。勘違いだがな。

「アソナの人ですか?それとも」
「アソナの者ではない」
「じゃあ…」
「俺はカノッサの人間――」
「え?」
「――を憎む者だ」

ちょうど阿合昭の死体は燃え尽きた。肉が焼け落ち、そこには遺灰と遺骨が残されていた。

「これをどうするかは貴様の好きにし――」
「あの!!」
好きにしろと言い掛けたところで口を挿まれる。

「……」
「カノッサと敵対する人なら…一緒に戦ってくれませんか!?
 …私、感じるんです。自分の中に流れる血を…その圧倒的で強大なオーラを……でも」
阿合の娘は遺灰を見て俯く。その目にはまた、遺灰を溶かしかねない溶解液の涙が浮かんでいた。

「独りじゃ…ダメなんです…」
娘の涙が零れ落ち、遺骨の一本を溶かしつくす。

「今まで独りでいる事なんて当たり前だったのに…あの人に助けられて…お父さんに会って、もう独りじゃないって思ったら…
 もう孤独に耐えられなくて……それに、いつまた私が私でなくなるかと思うと…不安で…」
…どうやらこの娘はのっとられていた間の記憶もあったようだ。
記憶のないフリをしていたのは、夢とでも思いたかったのか?
「……」
「……」
――娘は本能的に感じていたのだろう。
化身の力を取り入れた自分自身の圧倒的な能力、そして訪れる絶望的な孤独。心を失わずに手に入れた力の代償を。
そして俺がその領域で共にいられる存在である事を。
俺は阿合の娘とそれ以上の言葉を交わす事なく無言で抱き寄せ、そのままベッドに押し倒した。
俺が使った性欲の炎の効力もあっただろう。だがもともと娘もそれを求めていたのだろう。抵抗は全く無かった。
吐息一つでも常人なら昏倒するような毒でできた身体を、愛せる者など今までいなかっただろう。
だが俺は違った。娘の毒の吐息は俺の生存本能を刺激し、この身を炎のオーラで熱くさせ、身体に回る毒を弱める。
炎と毒。俺達は互いのオーラに身体を火照らせ、熱く刺激的な、人間には到達し得ない領域に達しようとしていた…
171ダークフェニックス@代理:2010/08/26(木) 16:39:27 0
>>166-168
ピピッ
そんな二人の世界を壊す電子音が部屋に響いた。
俺達以外の、すぐ近く、この部屋に向かってくる異能者にスキャナーが反応したのだった。

「……」
「……」

邪魔者を迎え撃とうと俺は無言のままベッドから降りるが、阿合の娘にコートの袖を掴まれた。
俺は部屋の外に向かおうとした足を止め、掴まれていたコートを阿合の娘に羽織らせ、その唇に炎のオーラを纏った熱い口付けをする。
外国では挨拶レベルのほんの軽い口付け、それでもお互いに蕩けそう…いや、溶けそうな口付けだ。
汗も涙も体液の全てが毒となる毒に愛された女(ポイズネス)、その唾液も当然、俺の口を溶かしにかかる溶解液である。

「俺はどこにも行かない。すぐに戻る」

俺は阿合の娘を部屋に残し、口にオーラを集中し、溶けかけた唇や歯茎を再生しながら部屋を出ていった。


――3F廊下――
スキャナーの反応がどんどんこちらに近づいてくる。その存在はまだ記憶に新しいものだった。
銀髪碧眼の女、先程逃げ出した異能者、アリスと名乗った得体の知れない存在。その存在と再び対峙する。
そして俺はその存在に、何故魔水晶の無くなったこの場所に異能者達が集まってくるのかおおよそ察しがついた。
だがこの女が何者であっても俺の取る態度は変わらなかった。

「…もし先程簡単に逃げられたのが、自分の実力だと思っているのなら過信しない事だ」

先程目の前の相手と対峙した時、俺は特に戦いを強いられていたわけではない。だが…

「俺は任務として受けた事を、けしてしくじる事はない」

今は此処に来る異能者の"振るい落とし"の任務を受けている。

「そして、この場所に貴様らが集まる限り俺に与えられた任務が変わる事はない。
 魔水晶を手に入れてそれで終わりと思っている筆頭は、隠れている事しか頭に無いからな…
 だから"貴様ら"も実力で助かったなどと思わない事だ」

そしてアリスの後方、曲がり角の向こうにスキャナーが示す2つのオーラに語りかける。先程まで外で戦っていた2人。
そうだ…そもそもそこの2人組を仕留め損なった事も、急に別の任務を入れられた事が原因だ。
俺は弱くなっていない。此処でこいつらを仕留める事でそれを証明する。

「それに個人的にもいいところを邪魔されて、貴様らに対して強い怒りを感じている」

かつてないほど、自分の中で感情と直結したオーラが高ぶっているのを感じていた。
そのオーラは身体から漏れ出し、怒りの矛先となるアリスを囲んでいく。
先程逃げる際に見せたオーラの圧縮解放による爆発…氷室霞美のような強大なオーラを誇示する傲慢な技。
アリスがまたあのような逃げ方をしようとすれば、アリスのオーラに俺の怒りのオーラが点火し、爆発の威力を自身がそのまま受ける事になる。
強大なオーラを誇る事による過信がその身を滅ぼす。
さらに俺のオーラの分広がる爆発は、俺のオーラが直接届かない死角の2人も巻き込む事になるだろう。

【ダークフェニックス:阿合哀を部屋に残してアリス、不知哉川&海部ヶ崎のもとへ向かう。
             アリス・フェルナンテを怒りのオーラで包み込む。曲がり角の向こうの不知哉川&海部ヶ崎にも気づいている】
172アリス・フェルナンテ@代理:2010/08/27(金) 20:10:18 0
>>171
アリスは通路を歩いていた。
周囲は無残に破壊されている。先程自分が引き起こした爆発のせいだろう。

「この先にあの男と彼奴の血を持つ者がいる――む」

ふと、自分の周囲を異質な何かが覆っている事に気が付く。

「これは――可燃性のガスのようなもの、か。あの男の仕業だな。先程の我の爆発を警戒してのことか。随分と慎重だな。いや、臆病と言うべきか。
 丁度いい。あんなものを実力と思われても困るからな。元より同じ相手に二度も使うつもりはない」

悠然と通路を歩いていく。と、後方に気配を感じて立ち止まる。

「2人か。何者…いや、考えるまでもない。先程外にいた2人だろう。まっすぐこちらへ向かってくるな。ここで待って殺しても良いが…。
 時間の無駄だな。それに"用事"を邪魔されても面倒だ。どれ、ここは1つ罠でも仕掛けてみるか」

そう言って槍を創り出し、左右5本ずつ壁に掛ける。次にメスを30本ほど創り、天井にある通気口の蓋の内側に設置。
最後にオーラを細い糸状にし、通路に細かい格子状に描く。

「これですり抜けることは不可能。この線に触れれば罠は作動する。まぁ目に見える槍を破壊すればメスだけになるが…。稚拙だな。罠とすら呼べん。
 まぁこの程度軽く抜けてもらわんとつまらんな。さて、相手を待たせては失礼だ。行くとしよう」

再び歩き出す。

広間のようなところに出たところで、前方より歩いてくる影が見えた。
顔が視認出来る位置で立ち止まる。

「また会えて嬉しいぞ、ダークフェニックスとやら。この先に彼奴の血を受け継いだ娘がいるのだな?貴様とも話をしたいが、まずはそちらと話をさせてもらおう。
 なに、すぐに終わる。聞きたいことがあるだけだからな。何なら後ろから来る二人組でも相手にしてはどうだ?暇潰し程度にはなるだろう。
 それと最初に言っておくが、今のところこちらに交戦の意思はない。ただし、そちらの返答如何によっては貴様の"職務"に付き合うことになろう。
 我は貴様と話をしに来たのと、質問があるだけだと言っておこう。まずは質問からだ。ここに高校生くらいの男が3人来なかったか?」

ダークフェニックスに語りかける傍ら、頭の中で言葉を紡ぐ。

――そこにいるのか?始祖の血を受け継ぎし娘よ。我の気配は既に感じているはず。我の気配に少しでも何かを感じたのなら返事をしろ――

【アリス・フェルナンテ:後方の気配と罠の作動に留意しつつ、ダークフェニックスと会話を始める。
              同時に阿合 哀にオーラによる念話を飛ばす。特殊な波長の為、傍受・妨害は不可能】
173不知哉川&海部ヶ崎:2010/08/27(金) 20:11:58 0
建物の入口に足を踏み入れた海部ヶ崎は、思わず口を押さえずにはいられなかった。
彼女が目にしたのはあらゆる場所に散乱した人間の死体、死体、死体──
それらの血肉によって床は足の踏み場もないという身の毛もよだつ戦慄の光景であった。

「この光景はディートハルトっちゅー男のオーラから読み取った通りやな。
 間違いあらへん。ここでさっきまで、機関とアソナとの間で闘いがあったんや……」

予めこの光景を視ていた不知哉川でさえ、悪魔の所業ともいえる凄惨さの前には目を背けるほどだ。
だが、かといって、いつまでもこうして入口で立ち止まっているわけにもいかない。

「哀さんが倒れてる場所はどこなんですか?」
二人には目的がある。阿合 哀と接触し、情報を得なければならないのだ。
その為にはここを突破し、いち早く瀕死の彼女を救わなければならない。
不知哉川はオーラから得た情報をもとにその場所に続く階段を指で指した。
「えーと……そうや、確か三階や。三階東の医務室近くで倒れてるはずや。
 会話の内容から四天王はもうここにはおらんとみて間違いない。接触するなら今や!」
「いきましょう!」
言うより早く海部ヶ崎は階段に向けて駆け出す。
「あ、あ〜……仏さんを踏んづけて……。祟られても知らんで……」
眉を寄せて不知哉川がそれに続く。
できるだけ死体を踏まないように、慎重に踏み場を見つけながら──。


──三階廊下──。
ここまでくれば、後は前方十数メートル先に見える曲がり角を曲がるだけで彼女のもとへと辿り着ける。
しかし──
「──待った! キサちゃんストップ!」
突然、不知哉川が止まり、海部ヶ崎を手で制止した。
「何事ですか!?」
「あかん……スキャナーに反応があるんや。この先で、それも三つも」
レンズにその三つの反応の数値が表示される。
その数値が大きいものなのか小さいものなのか、
スキャナーを使い慣れていない不知哉川には判断がつかぬところだが、
迂闊に近づいてはいけないとわかるぐらいの殺気だけは感じとっていた。

「しくったわー。まさか先客が居るとは……スキャナーでサーチしとけばよかったわ」
「機関でしょうか?」
「わからへん……んでも、まだ残ってる奴がいるとしてもおかしくないかもしれんな。
 せめて機関の人間やなければええんやけど……」

「それに個人的にもいいところを邪魔されて、貴様らに対して強い怒りを感じている」

角の向こうから男の低い声が聞こえてくる。
誰かと会話をしているように聞こえるが、自分達に向けられているようにも聞こえる。
それだけの激しい怒気が空気を伝って曲がり角の向こうから感じられるのだ。

「バレてるんでしょうか? だとしたら、我々を敵とみなしている」
「えぇい、ままよ! いくでキサちゃん!」

ここまできたら、敵がいようと進むしかない。
二人は決心したように、曲がり角に向かって勢いよく足を踏み出した。
174不知哉川&海部ヶ崎:2010/08/27(金) 20:13:19 0
が──その刹那、二人は違和感にその思考を目まぐるしく変えた。
微かだが足が感じ取った何か物理的な感触──糸のように弾力があり、細いもの。
そして一瞬、目の端で光った鋭利な刃。
これらが意味するものは一つ──すなわちトラップ──!
非異能者であれば不可能なほどの素早い判断力と変わり身の速さをもって、
二人は直ぐに回避行動へと移行した。

それと同時に、コンマ0.1秒の誤差なく上から放たれた無数の刃。
正確には槍とそしてナイフかメスのような刃物だろう。
かわすか弾くか、いずれにせよ数が数である。
そのどちらか一方に行動が偏れば無傷では済まないだろう。

「──!」

二人がとった行動は一致していた。
身を屈めて刃の雨が降り注がないトラップゾーンの外へ踏み出しながら体を反転、
地面をスレスレを滑る回避行動をとりながら命中しそうなものを得物で防ぐというものだった。

刀と鞘で二刀流を形成し、手首を激しく回転させて、上半身前面を防御していく海部ヶ崎。
一方の不知哉川はそのような得物がないが、
器用にも指の隙間で刃を受け止めて、見事に致命傷を防いでいる。

──トラップゾーンに足を踏み入れてから1.5秒──
二人は見事にトラップゾーン外への回避を成功させた。
だが、流石に無事にとはいかなかったようで、
海部ヶ崎は防御の及ばなかった右足に二本、
不知哉川は左の脛と右腕に一本ずつ刃の直撃を許していた。

「あいたたた……ご丁寧にこんなもんを仕掛けてくれるとはなぁ」
「ここを去った四天王が仕掛けていったんでしょうか?」
「そんな情報なかったで? 多分、この先にいる奴が仕掛けたんや」

二人は言いながら刺さった刃物を抜いていく。
「……毒、は塗られてなさそうですね」
「不幸中の幸いってとこやな。即効性の神経毒でも塗られてたらお手上げやったで」
そして不知哉川は自分と海部ヶ崎の傷口に手を当ててオーラを充実させていく。
オーラを受けた傷口は見る見る内に塞がり、ものの1秒もかからずに皮膚は再生されていった。

「大丈夫ですか?」
海部ヶ崎が訊ねる。大丈夫ですかとは、傷の心配をしているのではない。
負傷したことで余分に彼のオーラを消費させてしまい、その分の体力の消耗を心配しているのだ。
だが、当の不知哉川は涼しい顔で答えた。
「さっき大量にオーラを補充させてもらったもん。この程度の浅い傷なら問題ナッシングや。
 さ……それより……」
不知哉川は立ち上がってすぐ目の前にまで迫った曲がり角を見据える。
いや、見ているのは、そこから流れてくる目には見えない戦闘の気配だろう。
「どうやら三つの反応は仲間同士じゃないみたいやな。
 その内の一つと一つがこれから闘り合おうとしとるようや……」
海部ヶ崎も立ち上がり彼の横に並ぶ。
「このまま進めば間違いなく我々も巻き込まれますね。……かといって」
「終わるのを待っとったらあの少女は死んでまうかもしれん。他にルートもないようやしな。
 しかもその内の一方は俺らに気がついとる。もしかしたら両方かもしれへんけど。
 いずれにせよ一度行くと決めたんやし、腹ぁくくって行こうやないか」
「いつになく強気ですね、霊仙さん」
「なぁに、痩せ我慢してるだけや。キサちゃんの前やもん。ブレた事言ったら見損なうやろ?」
「……今、決まったって思ってません?」
「……気のせいや」
一瞬の沈黙の後、二人は気を取り直すように前に向き直り、今度こそ角を曲がった。

【不知哉川&海部ヶ崎:角を曲がる。】
175ダークフェニックス@代理:2010/08/28(土) 16:58:03 0
>>172
「また会えて嬉しいぞ、ダークフェニックスとやら。この先に彼奴の血を受け継いだ娘がいるのだな?貴様とも話をしたいが、まずはそちらと話をさせてもらおう。
 なに、すぐに終わる。聞きたいことがあるだけだからな。何なら後ろから来る二人組でも相手にしてはどうだ?暇潰し程度にはなるだろう。
 それと最初に言っておくが、今のところこちらに交戦の意思はない。ただし、そちらの返答如何によっては貴様の"職務"に付き合うことになろう。
 我は貴様と話をしに来たのと、質問があるだけだと言っておこう。まずは質問からだ。ここに高校生くらいの男が3人来なかったか?」
「……」

俺は名乗っていないはずだ…まあ先程から知らなかった言動があったわけではないし、これは初めから知っていても不思議ではない。
だが不思議なのはこいつが今、始祖の血を受け継いだ"娘"と言っていた事だ。
先程会った時の口ぶりからアソナと関係があるとは思えない。化身のオーラを感じ取ったとして年齢や性別までわかるものか?
そこまでオーラを読み取れる技量があるなら、この先にあいつ以外の気配が無い事くらいわかるはずだ。

「…愚問だな。どこにそんな"遺体"がある?」

俺について知っているようだが、俺がみすみす誰かを通すと本気で思っているのか?
…それとも時間稼ぎか?何を狙っている?
今あの2人が来るあたりに仕掛けがあるようだが、とくにこちらに影響はなさそうだ。
やはりあの2人が来るのを待っているのか?まあいい…1人でも3人でも俺は負けない。

「それと勘違いしているようだが、俺は暇潰しで貴様らの相手をしてるわけではないし、交戦の意思など関係ない。
 俺は此処に来る異能者の"振るい落とし"を任されている。それに貴様のような奴をあいつに会わせるわけにもいかないからな」

この女から感じる得体の知れない中身、そして先程の言動…

「…貴様が始祖とどんな仲だったとしても、今のあいつは俺の物だ」

そう言ってアリスを指差す。オーラを指先に集めたそれは攻撃の意であると同時に、彼女を敵として明確に示す宣言であった。
>>174その後、残りの2人もこの場に来た。


――3F医務室――

『そこにいるのか?始祖の血を受け継ぎし娘よ。我の気配は既に感じているはず。我の気配に少しでも何かを感じたのなら返事をしろ』
「――っ!!う…あ…あああ!!!」

阿合哀は苦しみもがいていた。
アリスの特殊な波長が阿合哀に語りかけると同時に、その血に眠る化身の人格を呼び覚まし、その身を再び支配しようとしていたのである。

「はあ…はあ…」

阿合哀は化身の人格に抗い続けた。
次に化身に身体を許せば"自分"は二度と戻る事ができない事を感じ取っていたのだ。

「たす…け…て」

『意識を保っていろ…貴様が化身に人格を支配されたのは、おそらく貴様が眠った状態で血を取り入れた事が原因だ』

そう言って自分に血を与え、命を救ってくれた彼を彼女は覚えている。
"自分"を必要としてくれた彼を求めて阿合哀は、身体を引きずって部屋を出ていった。

【ダークフェニックス:アリス・フェルナンテに敵対表明】
【阿合哀:部屋を出る。アリスの特殊な波長で、化身の人格が目覚めかける】
176アリス・フェルナンテ@代理:2010/08/29(日) 19:14:55 0
>>175
「…貴様が始祖とどんな仲だったとしても、今のあいつは俺の物だ」

どうやらダークフェニックスはここを通す気はないらしい。それならば――。

(む、罠が作動したか。どうやら奴らは切り抜けたらしいな。そう来なくては)
罠の作動を感じたが、気配は2つとも健在。この分だとかすり傷すら負わせていないかもしれない。
思考を中断し、目の前の相手に切り替える。
フッ、と溜息を1つ吐いて眼前の男に語り掛ける。

「何か勘違いをしているようだな。別に娘に用はない。用があるのは"意識"の方だ。体に用はない。
 それと1つ言っておこう。我は誰に聞かずとも化身が"女"であると分かるのだ。
 しかし…貴様のような奴、とは随分な言われ様だな…」

一瞬、自嘲的な笑みを浮かべるが、すぐに掻き消す。

(娘の方が動き出したか。こちらに向かっているようだな。先程の呼びかけには反応を示したようだが――)

暫し思案してから哀に念話を送る。

――娘よ。よく聞け。先程我が呼びかけた際、貴様の中に眠る始祖の血が反応した筈だ。だが恐れることはない。
意識を集中させて、化身としての意識を体の外へ追い出すように念じろ。なに、心配はいらん。貴様の体は既に回復している。
怪我が再発することもないだろう。頼む、我…いや、"私"の"母"を返してくれ!もう充分だろう?化身が現れた時代、人々は化身を見つけては
悪魔だの化物だと言って殺したり、何かの実験台にしたり…。母は何もしていないのだぞ!?いや、それどころか意識を表に出したことすら1、2度しかない!
何故母だけがこんな仕打ちを受けねばならない?これ以上、母を苦しめないでくれ…――

途中から感情が制御できなくなり、哀に全てを打ち明けてしまう。

――この話をしたのは貴様が初めてだ。本当なら、貴様を殺してでも母の意識を取り返すことは出来る。だが貴様はどことなく母に似ている…。
出来れば貴様を殺したくはない。返してくれるのは意識だけでいい。意識と力を切り離す方法はある。力のほうは"貴様ら"の好きにするといい。
人を救うも良し。人を殺めるも良し。使役する者次第だ。私達には関係ない。私はただ、母と居たいだけなのだ…。これがいけないことなのか?
…もし少しでも思うところがあるなら、返事をしてくれ。私の名はアリス。念話は繋げておくぞ――

哀に告げて、意識をこちら側に戻す。

「さて…貴様に話を持ちかけても無駄だということは良く分かった。だがこちらにも目的がある。貴様を殺してでもあの娘に会わせて貰うぞ。
 >>174後ろにいる貴様らも同じだ。――邪魔立てするなら容赦はしない」

底冷えする声でそう呟き、オーラを解放すると同時にアリスの体に変化が起こる。
美しい銀色だった髪は血のような紅(あか)へ、瞳も同様に変化する。
背中には――オーラで形成されたものだろうか?――光り輝く一対の翼が出現した。

「さぁ…誰が相手だ?」

【アリス・フェルナンテ:阿合 哀に自身の秘密を打ち明け、反応を待つ。封印していた始祖の力を解放。
              ダークフェニックスに敵対、背後に居る海部ヶ崎らに対し牽制の言葉を投げかける】
177ダークフェニックス@代理:2010/08/29(日) 19:16:36 0
「何か勘違いをしているようだな。別に娘に用はない。用があるのは"意識"の方だ。体に用はない」

同じじゃないか…筆頭は化身の力を。この女は化身の人格に用があるだけ。あいつをただの入れ物としか見ていない。
そしてこの女もあいつの身体に用はない…やはり殺すつもりか。
この女の口振りからこいつの中身は古の始祖の関係者…
そして先程モニタールームで見た筆頭は言っていた。

『刀を具現化した本人が死んでも、この刀はこの世の物体として完全に実体化している。その原因は定かではない』

無間刀…降魔の剣…対化身武器。
俺の予測では、おそらくこの女が筆頭の持つ降魔の剣を生み出した異能者だ。
刀が消えないも筋が通る。それを生み出した異能者は今も此処に存在しているのだからな。

「さて…貴様に話を持ちかけても無駄だということは良く分かった。だがこちらにも目的がある。貴様を殺してでもあの娘に会わせて貰うぞ」

大方再び化身を封印しようとでもしているのだろう。
だがあいつは今始祖の血によって命を繋いでいる状態だ。絶対にさせるわけにはいかない。
そう言うとこの女はオーラが解放した。先程のような爆発を起こすものではなかった。
髪と瞳の色が変わり光の羽を生やす。魔を払う刀たる降魔の剣を生み出したというなら、その能力は魔を払う聖なる光といったところか?
この予測が正しいなら、俺が始祖の血を取り入れていたら、かえって勝ち目が無かったかもしれない。だが――

「…翼を生やした程度で粋がるなよ?」

『火の鳥形態(ファイヤーバードフォーム)』

俺も背中に炎の翼を生やす。この女を通す事などさせないし逃がしもしない。
俺があいつに始祖の血を与える結果になったのは、此処で俺を倒す為の運命だったのだろう。

「そしていつまでも自分が…自分だけが死なぬ身でいられると思うな…古き者」

言い終えると同時に、俺は一瞬でにアリスに詰め寄る。
本来飛行に使う炎の翼の火力を、地上移動に生かしており、そのスピードはマッハに匹敵する。
そんなスピード下にあれば、摩擦で自分の身が燃える事にもなるが、炎の異能者であるこの身にダメージはない。
接近戦を仕掛ける俺は、オーラを込めていた指で直接アリスの身体を突き狙う。

『爆砕秘孔(バーニングフィンガーアタック)』

本来破壊光線を撃つ為に指先に集中している破壊のオーラを、相手を突く事によって直接打ち込む。
破壊のオーラを打ち込まれたものは発火し、やがて爆砕する。
距離を取った状態で光線を避ける事が可能であっても、この手段なら外してオーラを失う事はないので、
当たるまで何度でも間を置かずに攻撃を繰り出せる!

【ダークフェニックス:炎の翼を生やしてアリスに接近戦を仕掛ける。他の2人はあまり気に留めていない】
178不知哉川&海部ヶ崎:2010/08/29(日) 19:17:42 0
「げげっ! あそこに居るのダークフェニックスっちゅー奴やないか!」

角を曲がり、二つの反応の正体を視認した不知哉川は、見るからに嫌そうな顔をした。
それもそのはず、二つの内の一つは先程二人が乗ったキャンピングカーを破壊したあの男だったのだ。

「人がせーっかくいい話を持ちかけてやったのに、それも聞かんと攻撃しやがって……。
 お陰であの車(レンタカー)は俺が弁償するハメになったんやで?
 このせちがらい世の中、俺の薄給だけでどうやって返せばええねん!」
「霊仙さん、私に向かって言わないで下さい」
「……しゃーないやん。面と向かって言える相手やないんやし……」

先程までの強気を打ち消すような不知哉川の情けない言葉に、海部ヶ崎は「ふぅ」と溜息をついた。
(やはりここに残っていたのは機関の構成員……。でも、あの人は……?)
海部ヶ崎が視線を向けたのはダークフェニックスと対峙する一人の男。
状況から見ればダークフェニックスと闘おうとしているのは彼だが、一体何者なのだろうか?

「あの男……何者だと思います?」
「男……? あれ、女やないの?」
「女性にも見えますけど……雰囲気でてっきり男だと……」
「確かに中世的な顔やけどな、女独特の甘酸っぱーいニオイがすんねん。あら女や」
「は……はぁ……」

いつになく真顔でそう断言する不知哉川。
ニオイで判るなど、海部ヶ崎にはまるで理解できない境地ではあるが、
こういう事に関しては不知哉川の方が一枚上手であることは知っているので、
海部ヶ崎は首を捻りながらも納得するしかなかった。

「機関の構成員と闘おうとしてるってことは今回の一件に巻き込まれた側なんやろうけど、
 ここに居るってことはあのゾンビ達を倒してきたってことやろ? 敵に回ったら厄介やで……」
「……そういえば霊仙さん、反応三つあると言ってましたね? 後一つはどこに?」
「この通路の先や。角を曲がったすぐのところに『医務室』があるんやけど、多分、その部屋や」
海部ヶ崎は不知哉川が顎をしゃくった先を見る。
ダークフェニックスの後方数メートルその場所には、確かに分かれ道のない曲がり角があった。
「その部屋に……何者ですかね?」
「気になるのはその反応が他二つに比べて極めて小さいって点やな。もしかしたら死に掛けとるのかも」
「死に掛け──それって──」
「阿合 哀。そう考えるのが一番自然やろ。あの部屋は雲水に刺された通路のまん前やしな」
「ならば直ぐに──」

と、海部ヶ崎が足を一歩踏み出したその時、
強烈な殺気が彼女の行く手を阻むように立ち塞がった。

「さて…貴様に話を持ちかけても無駄だということは良く分かった。だがこちらにも目的がある。貴様を殺してでもあの娘に会わせて貰うぞ。
 >>174後ろにいる貴様らも同じだ。――邪魔立てするなら容赦はしない」

殺気を叩きつけたのは二人に背を向けた形でダークフェニックスと対峙するあの女──
「クッ──」
「キサちゃん、今はこらえるんや」
必死に抗おうとする彼女の肩に手を置き一端下がらせる不知哉川。
「しかし──うっ」
振り返った海部ヶ崎は、対峙する二人を冷静な目で見据える彼に、言葉を続けることができなかった。
「チャンスは直ぐに来る。それを待つんや」
その言葉には確かな説得力があった。
少なくとも、冷静さを欠いていた彼女よりは、彼の言葉に従った方が得策であるのは間違いない。
それを即自覚した海部ヶ崎は素直にコクンと頷き、彼と同じように静かに二人を見据えた。
179不知哉川&海部ヶ崎:2010/08/29(日) 19:18:52 0
「さぁ…誰が相手だ?」
銀髪の女が呟く。それと同時に、彼女に変化が起きる。
長い銀髪が見る見る内に真っ赤に染まっていく。
そして背中にはオーラで形成された光り輝く翼が現れたのだ。
だが、二人はそれに驚く間もなかった。

「…翼を生やした程度で粋がるなよ?」
臆することなく言い放ったダークフェニックスにも変化が現れる。
彼もまた同様に、炎を翼としてその背に形成したのだ。

「そしていつまでも自分が…自分だけが死なぬ身でいられると思うな…古き者」
その言葉が吐かれる同時にダークフェニックスの姿が消える。
いや、違う──。海部ヶ崎と闘った時の氷室同様に、高速で移動したのだ。

「──速い!」
海部ヶ崎は思わず唸った。
かろうじて目で捉えられるものの、そのスピードは自らのものと
明らかな差があることを知らしめるものだった。
一方のあの赤髪に変わった彼女も、それは同じだった。

「やっぱりバケモン同士や。くわばらくわばら、闘ってたら危なかったで。
 けど、こうして待っとったおかげでこっちはチャンスってわけや。キサちゃん」
二人の闘いに呆然としていた海部ヶ崎が、はっと我に返る。
「は、はい!」
「行くで、今がチャンスや」
と、不知哉川が、激しい闘いが繰り広げられる通路を親指で指差した。
「い、今ですか!?」
海部ヶ崎が驚くのも無理はない。今の内に通路を通過して部屋へ行こうというのだから。
決して広いとはいえない通路。素知らぬ振りをして二人の横を通ることなどできるだろうか?
疑問を投げかけるような顔をする海部ヶ崎。だが、不知哉川は一片の動揺もなく言った。

「見たところ二人の実力を拮抗しとる。
 今、二人の目は目に、手は手に、足は足に、互いにその神経を集中させとるわ。
 今この場に震度七の地震がこようが二人は気付かんと思うで?
 何かに気を取られるようならその隙に攻撃を受けて死んでまうかもしれんしな。
 実力者ほどそこら辺はよぉー知っとる。だから気を取られようにも取られへんのよ。理性が許さんのや」
「……そう、なんですか……」
「キサちゃん、俺の能力知っとるやろ? 人間の心理くらい少しは研究しとるんやって」

フッと軽く笑いながら親指を立てる不知哉川。
これについても彼が一枚上手である。海部ヶ崎は頷き、素直に従うことにした。

「けどな、二人の攻撃の流れ弾には気ィつけんとあかんで?
 こればっかりはどこからくるかわからんからな。油断してるとあの世行きや」
「わかりました」
「ほな、いこか」

不知哉川と海部ヶ崎の二人はキッと前を見据え、激戦続く戦場の中に、自ら飛び込んで行った。

【不知哉川&海部ヶ崎:二人の横を通過しようとする】
180ダークフェニックス@代理:2010/08/30(月) 21:45:00 0
>>179
「今、二人の目は目に、手は手に、足は足に、互いにその神経を集中させとるわ。
 今この場に震度七の地震がこようが二人は気付かんと思うで?
 何かに気を取られるようならその隙に攻撃を受けて死んでまうかもしれんしな。
 実力者ほどそこら辺はよぉー知っとる。だから気を取られようにも取られへんのよ。理性が許さんのや」

丸聞こえだった。本当に気づいていないと思っているようだ。
あまりに愚かだ。俺は初めから3人同時に相手のつもりでいる。
タイマンを張るスポーツなどではない。命をかけた戦いは常に横槍に注意している。目の前の1人だけに全神経を集中しているわけがない。
目だけでなく話声を聞く耳、風を感じる肌、オーラを察知する感覚。
この場に存在する全てに対して反射的行動の取れるように、俺は戦闘態勢をとっている。

「ほな、いこか」

そして無謀にも2人は自分達の戦う横を抜けようとする。
こいつらをあいつに会わせたところで、化身の力に敵うとは思わない。
だが、こいつらを此処で再び逃がす事は任務に反する事となる。
何よりもその舐めた態度が気に食わなかった。

「させると…思っているのか?」

翼を使って飛行移動しながら、指先による攻撃で腕はアリスへ向けるのに集中している。
だがそれだけで俺が手一杯になっていると考えるようでは、所詮凡人思考だ。
戦いの中で生きる異能者を理解していない。
そして何より翼の生えた者を理解していない。
俺は脚に炎を纏わせ、2人が横を通り抜けようとする瞬間にその身に燃え盛る脚で、まず男の方に強烈なキックを繰り出す。

「――エン!!!」

キックを食らわせた男は来た方角に向かって、数十m先の壁まで吹っ飛ばされた。
炎の翼と同じロケットブーストの火力とスピードを込めていたブレイズキック。
この男も光線を避けていたが、そのオーラを使った歩法とやらは所詮足にオーラを込めてスピードを上げるもの。
同じ足技であれば、オーラだけでなく炎の能力でブーストを加えた分、圧倒的に速いこの蹴りを近距離で避ける事など不可能。
仮に軸足を狙われようと、翼で飛んでいる状態でバランスを崩される事は無い。

【ダークフェニックス:アリスへの攻撃を続けながら、不知哉川を蹴り飛ばし通過阻止】
181アリス・フェルナンテ@代理:2010/08/30(月) 21:47:27 0
>>179
「…翼を生やした程度で粋がるなよ?」

そう言ってダークフェニックスも自分と同様に翼を生やした。あちらは炎だが。

「そしていつまでも自分が…自分だけが死なぬ身でいられると思うな…古き者」

言い終わると同時に、凄まじいスピードで自分に詰め寄ってきた。
指先にオーラを込め、こちらの体を直接狙っているようだ。
恐らく、以前対峙した際に放ったあの光線、あれを発射せずに指先に集めることで相手の体に突き刺し、
内部から破壊しようというものだろう。

(娘の方はまだ返答をよこさぬか…。まぁ病み上がりでは意識の集中も儘ならぬか)

「ならば…。貴様に面白いものを見せてやろう」

迫り来るダークフェニックスの攻撃を迎え撃とうとした瞬間、

「今、二人の目は目に、手は手に、足は足に、互いにその神経を集中させとるわ。
 今この場に震度七の地震がこようが二人は気付かんと思うで?
 何かに気を取られるようならその隙に攻撃を受けて死んでまうかもしれんしな。
 実力者ほどそこら辺はよぉー知っとる。だから気を取られようにも取られへんのよ。理性が許さんのや」

背後から声が聞こえてきた。どうやらこちらには聞こえていないと思っているようだ。

「ほな、いこか」

どうやらこちらの戦闘を無視し、やり過ごそうと思っているようだ。

(もう少し頭のいい奴らだと思っていたが…。まさかここまで馬鹿だとは。先程警告してやったにも関わらず
 自ら飛び込んでくるとは)

「――エン!!!」

そう思っているうちにダークフェニックスが男の方を蹴り飛ばした。

(流石だな。ならば我は残った女か)

「先程の警告を聞いていなかったのか?もし聞いていたのなら、死ぬ覚悟はあるのだろうな?」

ダークフェニックスに男を蹴り飛ばされ、一瞬動揺した女の腹に素早く掌底を叩き込む。
接触の瞬間にオーラを爆発させ、掌底の勢いと共に女を吹き飛ばす。
女も超人的な速度で反応し、自ら後ろに飛んだが、爆発の勢いを殺しきれずに男とは違う方向の壁に叩きつけられた。
182アリス・フェルナンテ@代理:2010/08/30(月) 21:48:46 0
(ほう、あの女もただの雑魚ではないようだな)

海部ヶ崎の身のこなしに感心しつつ、腕を戻す。

「さて、これで邪魔者は居なくなった」

再びダークフェニックスの攻撃に意識を戻す。しかしそのとき既に攻撃は体の寸前に迫っていた。

ズブッ――ダークフェニックスの指がアリスの体に突き刺さる。
本来ならここから破壊のオーラが打ち込まれ、爆砕するはずである。
しかしそれは発動しなかった。ダークフェニックスの表情が僅かに変化する。

「何故、という顔をしているな。無理もない。貴様にとっては未知の現象なのだからな。
 貴様、『降魔の剣』という刀の名前を聞いたことはあるか?今は『無間刀』と名を変えているようだがな。
 その力は、簡潔に言えば刺した相手のオーラを全て吸い出す、というものだ。その刀を造ったのは誰だと思う?
 ――そう、他ならぬ我だ。もっとも、あれは化身用に調整してあるから他のものに効果はないがな…。
 刺した相手のオーラを吸い出す、ということはその逆も可能ではないか?つまり"刺す"のではなく"刺されば"、延いては"触れれば"いいのだ。
 元々降魔の剣もそのように造っていたが、先程も言ったとおり化身用に調整した為にその機能は封印してある。
 さて、そろそろ貴様も気付いているのではないか?――自分のオーラがなくなり始めていることに」

ダークフェニックスの表情が更に変化する。
一瞬の硬直。時間にすれば0.1秒にも満たない僅かな隙。
アリスはその隙を見逃さなかった。

「――縛」

先程の罠と同じように、オーラを糸状に操作、ダークフェニックスの体に巻きつけ、縛り上げる。
見た目は同じように見えるが、罠の時とは糸の強度が桁違いである。

(尤も、この男にこの様な小手先の攻撃が通じるとは思っていないがな)

「さぁ、次はどうする…?」

【アリス・フェルナンテ:海部ヶ崎を弾き飛ばし、通過を阻止。
            ダークフェニックスのオーラを吸い出し始めると同時に拘束】
183ダークフェニックス@代理:2010/08/30(月) 21:50:10 0
「さて、そろそろ貴様も気付いているのではないか?――自分のオーラがなくなり始めていることに」
「…くくく…俺のオーラが無くなる?…この程度で俺が戦意を失うとでも思ったか?」

自身を縛る糸を焼き払おうにも、そのオーラも吸い取られていく。
ならばできる事は…ひたすらオーラを出し続ける事。
精神力、薄れ行く意識との戦い、ただ"自分"を強く保ち続ける事。

「俺のオーラはそこらの異能者とは本質的にが違うんだ。
 肉体が限界を超えても、魂という炎が消えない限り、無限に燃え続ける!!」

魂の炎、それが俺の肉体が死の状態からでも再生を可能とする源。

「それに…その"器"は貴様のものではないだろう?」

俺の予測通りこの女は古の存在だった。本来の生物の寿命を越えて現存している存在。
だがこいつから感じた得体の知れなさはそれだけではない。
中身に反してその肉体が老いていない。
今にして思えばオーラを吸って若さを保っていたという事も考えられなくはない。
だがそんな事をして生きながらえていて、存在を隠していられたとは思えない。
つまりアリスは、化身の人格と同様に"憑依"した魂の存在。憑依された者は俺と同じ時代を生きる人間。
だが既にその身に2つもの存在を入れている事で、器としてオーラの許容量はどれほど残るだろうか?

「身に余る存在を抱えた状態で、果たしていつまで耐えられるかな…」

吸い出されていくオーラに込めた感情は"自分"を保ち続ける事。
相手に取り込まれた事で、破壊の質を変えられ相手の物にされたのなら、変わらない事に集中する。
そして馴染まないオーラを率先して吸収させる事で、質より量で破壊する!!

「ハアアアアアァァ!!!!!」

掛け声を出し、気合いを入れ、一気にオーラを放出し吸収させる。
"俺の"オーラは貴様ごときには身に余るものと思い知れ!!!
アリスに流れ込むオーラによって跳ね上がった異能値に、それを観測する俺と倒れている男のスキャナーが木っ端微塵になる。
そこから見えた俺の目は白目を剥き出しにしながらも、心はひたすら自分を保ち続けていた。

【ダークフェニックス:自分のオーラを一気に吸収させる。そのオーラの量にアリスの異能値を観測したスキャナー崩壊】
184不知哉川 ◆ICEMANvW8c :2010/08/31(火) 20:12:27 0
>>180-181
「ほな、ご苦労さん。お先に♪」
火花散る二人の横をピッと手を立てて通り抜けようとする不知哉川。
「あれ?」
だが、その余裕の顔も、瞬間固まる。
ダークフェニックスがその目線をふっと不知哉川に向けたのだ。
つまり、気がついていないどころか完全に視認されているわけだ。
「──まずい! 霊仙さん、避け──」
海部ヶ崎が言う。
しかし、その言葉が届くより先に、不知哉川は腹部に強烈な蹴りを入れられ吹き飛ばされていた。

「――エン!!!」

来た道を強制的に押し戻され、不知哉川はその身を角の壁に勢い良く打ち付ける。
「霊仙さ──」
彼の名を呼びかけて、慌てて海部ヶ崎は口をつぐんだ。
自らに迫る殺気の存在に気がついたのだ。
「先程の警告を聞いていなかったのか?もし聞いていたのなら、死ぬ覚悟はあるのだろうな?」
同時に背後から聞こえてくるのは赤髪の声。
彼女の行動は素早かった。
というより、反射的に体が動いてしまったといった方が正しい。
背後から迫る殺気を体の前面で受け止めるようにして体を反転。
更に予想されるダメージ軽減の為に床を蹴り、自ら背後に飛んだのだ。

「ぐうっ!?」

瞬間、赤髪が繰り出した手から、充満されたオーラが炸裂する。
爆発と自らの跳躍力が重なった勢いは、海部ヶ崎の体を軽々と後背に吹っ飛ばし壁へと叩きつけた。

「さて、これで邪魔者は居なくなった」
そう勝ち誇る赤髪の声は無残に床に伏す二人にも届いていた。
もはや眼中にはないというように再び戦闘を再開するダークフェニックスら二人を横目に、
不知哉川は腹部を抑えてふらりと立ち上がった。

「キサちゃんすまんなぁ……。けど、キサちゃんなら受け身をとって大事には至っとらんやろ。
 俺はこの様やけどな……あいたたたた……」
患部を労わるようにさするその手からはオーラの輝きが満ちている。
肋骨が盛大に折れていて、本来であれば立ち上がることすら困難であるが、
幸い彼は能力によって自らを治癒することが可能なのだ。

「けど、言ったやろ? 俺ら腹ぁ括ってんねん。
 砲弾飛び交う戦場を、初っから無事に通れるとは思ってへんわ」
二人が闘う通路を見据えてニヤリと笑う不知哉川。
その視線は二人を超えたその先──すなわち海部ヶ崎が飛ばされた場所に向けられている。
そう、目的の部屋とは目と鼻の先の、もう一つの曲がり角である。
しかも、そこには既に、地に伏しているはずの海部ヶ崎の姿はもうなかった。

「何もかも計算しとったわけやと言えんのが情けないけどな。
 俺らの内、一人でも接触できればよかったんやから、ま……結果オーライやろ。
 ……真に強いモンってのは、運を味方にできる奴なんやで」

二人を一瞥した不知哉川は、再び通路を通ろうとはせずに、逆に出口へ向かった。
海部ヶ崎が瀕死の阿合を保護したら、速やかに脱出するだろう。
そうなればもはやここに用はないのだ。後のことはここから離れ、闇に紛れてからである。

「ここは三階。キサちゃんなら十分飛び降りられる。
 ……手負いの俺は無理……っちゅーか、手負いじゃなくともする気はせぇへんけどな。
 奴らがゴタゴタしてる間がチャンスなんや。スキャナーも壊れたみたいやしな。
 今なら闇に紛れれば追われることはない……可及的速やかに頼むで、キサちゃん」
185海部ヶ崎 ◆ICEMANvW8c :2010/08/31(火) 20:20:21 0
三階の医務室前──そこに辿り着いた海部ヶ崎は、声を張り上げていた。

「阿合さん! ……阿合さん!」
抱き抱える少女に向かって必死に呼びかける海部ヶ崎。
その顔を少し紅潮させた少女は、紛れもなくあの阿合 哀であった。
「阿合さん! 私です! わかりますか!?」
「…………」
海部ヶ崎に何度も揺さぶられて阿合がやっとうっすらとその目を開く。
「気がつきましたか! 良かった……。どうか安心して下さい、怪我は私の仲間が治し……」
言いながら、一瞬、海部ヶ崎が言葉につまる。
彼女の服には確かに血がついているものの抱き抱えたその体には傷がないのだ。
「……瀕死の重傷ではない……? 霊仙さんの情報が間違っていた……?」
そう口にしてみても不知哉川の情報が間違っているはずがない。
それは長年、彼と面識のある海部ヶ崎が良く解っていることである。

「しかし、これはどういう……」
「はぁ、はぁ」
「うっ!」
疑問にとらわれる海部ヶ崎の腕を、突然阿合がグッと掴む。
「た……すけて……このままじゃ……わた……し……は……」
彼女は苦しそうな瞳を向けて、声を絞り出した。
しかしその表情とは裏腹に、腕を掴む彼女のその力はとても苦しむ人間とは思えないものだった。
(──! な、なんだ、この力は……!)

「はや……く……わたし、を……」
「……わかっています。私は貴女を助ける為にここへ来たのです。さぁ、早くここから脱出を──」
「それは──ダメ──! わたしを、あの人のもとへ……」
「あの人? それは──」
ピッと阿合が指を指す。そこは、未だ殺気が渦巻くあの通路であった。
「早く、あそこへ」
「阿合さん、あそこに行けば再び戦闘に巻き込まれるだけです。
 そう、貴女を殺そうとしたカノッサの戦闘員の闘いに」
「──カノ──ッサの──? ──そんな、早くいかなきゃ──」

ゆらりと立ち上がった阿合が、その足をふらつかせながらも戦場に通じる通路を進んでいく。
「あの人が……危ない……私も、いかなきゃ……」
「阿合さん!」
海部ヶ崎が必死に呼び止めるが彼女はそれを聞こうともしない。
力づくでも止めようかという思いが海部ヶ崎の脳裏を過ぎるが、
どうしたことか膝を屈したまま立ち上がることができない。
まるで、彼女に内在する“何か”に本能的に恐怖しているかのように……。

(何なんだこの感覚は……。わからない、私は一体“何を”、彼女から感じているというんだ!)
海部ヶ崎は、彼女が自ら離れていくその姿を、ただ見届けることしかできなかった。

【不知哉川:能力で怪我を回復させながら建物外へ】
【海部ヶ崎:建物三階東医務室前。阿合と接触するも保護はできず。怪我はなし】
186アリス・フェルナンテ@代理:2010/09/03(金) 16:33:03 0
>>183
「ハアアアアアァァ!!!!!」

掛け声と共にダークフェニックスのオーラの放出量が急増する。
大量にオーラを吸い込ませ、空気を入れすぎた風船のように内部から破壊しようという魂胆か。

(だが浅はかだな…。この男は降魔の剣を知っているのではないのか?)

本来の能力は先程教えたばかりだが、今現在伝わっている能力は知っているはず。
これは決して"吸収"などではない。単に"排出"しているだけである。
その証拠に、自分の背中に生えた翼からは、ダークフェニックスのものである燃え盛るオーラが絶えず排出され続けている。
そしてその先には、凝縮されたオーラの結晶が出来つつある。
媒体が己の体ということを除けば、降魔の剣を刺しているのと状況は変わらないのだ。

(それに気付かぬほど愚かではないと思ったが…?)

ふとダークフェニックスを見ると、常に身に着けていたゴーグルのようなもの――確かスキャナーといったか――が木っ端微塵になり、
素顔が露出している。白目を剥き出しにしながら、オーラを放出し続けている。このままでは、もって後数分だろう。
極度にオーラを放出し続けた結果、意識がなくなり昏睡状態になる。命に関わるほどではないにしろ、回復に時間はかかる。
この男には篩い落としという任務もあったはず。
本来なら何人も相手にするはずのところを、たった一人を相手にし、その結果が昏睡。任務としては失敗以外の何者でもない。

(この男は任務に忠実な機械(マシーン)かと思ったが…。どうもそうではないらしいな。何故そこまで必死になる?)

そこで、ふとある考えに辿り着く。

(もしやこの男…そうか、そういうことか。それならば先程の言動にも得心がいく)

頭の中で完結し、思考を中断する。
そして軽く辺りに目をやると、先程弾き飛ばした女が居ないことに気付く。

(女の姿が見当たらんな…。一体何処へ…まさか!)

ある種の予感を感じ、付近の気配を探る。

(やはり…!我としたことが抜かったわ)

あの女と化身の娘が接触しているようだ。二つの気配が密着している。
このまま連れて行かれては面倒だ。気配を追いかけることは出来るが、手間は省けた方がいい。

(やはり先程殺しておくべきだったか…。いや、あの女の実力を見誤った我の失態か。ならばここは…)

「おい、先程の女と化身の娘が接触しているようだが、いいのか?」

【アリス・フェルナンテ:オーラ放出中のダークフェニックスに哀と海部ヶ崎の接触を伝える】
187ダークフェニックス@代理:2010/09/03(金) 16:34:05 0
「おい、先程の女と化身の娘が接触しているようだが、いいのか?」
「無問題だ。貴様と筆頭以外にこの街であいつを倒せる奴はいないからな…
 それより貴様こそ俺を"必死にさせたまま"でいいのかな?」

白目を剥いたままの俺の目はもう見えない…だがその口調から内部破壊は失敗した事が覗える。

「貴様の反応からして吸い出された俺のオーラは、どうやら溜め込まれたわけではなかったようだが、
 俺にとってはこの"必死な感情"の込められたオーラが、その質を変えられずに出せればそれで良かったのだ」

アリスの翼の先の結晶にヒビが入る。
そこにあるのは変わらぬ俺の意思、俺のオーラ。
他の者に使われる力の結晶ではなく、俺の力を宿した卵。
卵を突き破り、現れたのは黒き炎のオーラでによって形作られた巨大な鳥。

『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』

俺の中で最も強く燃える感情…必死な…死にたくないという想い。
そのオーラの集合体として生み出された俺の分身。
その我の強さは、けして俺以外のオーラに染められる事のない不死の存在。
その想いの強さは自分の命を脅かす者全てを焼き尽くす。
自身を追い詰めるオーラの放出は、この分身を作り出すエネルギーを用意する為であり、その必要な感情を引き出す為でもあった。

「現世と冥界を行き交う不死鳥は貴様を魂ごと焼き尽くす!!
 貴様がいかに強大な存在だったとしても、過去の亡霊は消える運命にある!!死ね…アリス・フェルナンテ!!!」

闇の不死鳥(ダークフェニックス)はアリスを翼の先から全身にかけて、黒い炎となって全身を炎で包み込んだ後、
その炎の中から再び鳥の形を成して、溶け込むように俺を炎で包み消えていった。

【ダークフェニックス:『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』でアリスを包んだ後、自身にその存在を戻す】
188アリス・フェルナンテ@代理:2010/09/05(日) 18:29:55 0
>>187
「現世と冥界を行き交う不死鳥は貴様を魂ごと焼き尽くす!!
 貴様がいかに強大な存在だったとしても、過去の亡霊は消える運命にある!!死ね…アリス・フェルナンテ!!!」

突如として背後に黒い炎が発生し、瞬く間に全身を包み込んだ。

(これは…まずいな。まともに食らえば如何に我とて危うい。だが目的の為にもここで死ぬわけにはいかん)

「実に見事な腕前よ。此度は我の負けだ。化身の娘も一先ず諦めよう。目的を果たす為、今は倒れるわけにはいかん。
 しかし敗北したことは事実。そこで貴様の実力に敬意を表し、これをくれてやろう」

ナイフを生成し、自分の腕を切りつける。
溢れ出した血液を集め、凝縮する。やがてそれはパチンコ玉程度の大きさになった。
その球体を指で強く弾く。それは目にも留まらぬ速さで、ダークフェニックスの口内に入り、喉を通過する。

「それは我の血液から"あるもの"を分離、凝縮したものだ。効果の程は貴様自身で確認しろ。
 影響の出方も貴様次第だ。…まぁ貴様ほどの実力者ならくたばりはしないと思うがな」

そう言っている間にも、自らを包む炎の勢いは一向に弱くならない。

「(グッ…やはりこの状態では保たんか)最後に1つだけ言っておこう…。我は"生まれたときからこの体だ"。
 『原初の異能者』(ザ・ファースト)という言葉を追ってみろ。貴様の疑問も解けるかも知れんぞ…。
 尤も、文献などが残っていればの話だが。では、さらばだ不死鳥よ。再び相見えることを楽しみにしているぞ…」


弱々しい声で言い終わると同時に意識を集中する。するとアリスの体をまばゆい光が包み込んだ。
光が収束し、そこから現れたのは一頭の白銀の獅子だった。
全身に凄まじい火傷を負ってはいるものの、その姿は荘厳の一言に尽きる。

「グオオオオオオオオオオオ!!!」

獅子は雄叫びを上げ、突進して施設の壁を破壊。長い鬣を靡かせ外に飛び出して行った。

【アリス:ダークフェニックスに自らの敗北を宣言、始祖の血の結晶を飲ませ撤退
      ダークフェニックスはまだ始祖の血とは気付いていない】
189ダークフェニックス@代理:2010/09/05(日) 18:31:01 0
「グオオオオオオオオオオオ!!!」

雄叫びが止んだ頃、この場からアリスのオーラを感じなくなった。
未だ目は見えないまま。目が見えないからこそ、他の感覚…オーラを感じ取る感覚は鋭くなっている。
だからそのオーラを感じないという事は本当にこの場からいなくなってしまったのだ。
そして、いなくなるまでは生きていたという事。

「…何故仕留め損ねた?『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』」

仕留め損ねてなんてないさ…"この命を脅かすアリス・フェルナンテ"は死んだ。
その証拠に、彼女はこの身を更に強くする"力"を残していったじゃないか。

「そんなものが無くとも既に化身の力は俺の味方にある。
 あの女を此処で殺しておけば化身を脅かす力も、筆頭の持つ降魔の剣も消え、俺達に負ける可能性は消えていた」

一理あるかもしれない。でもその役目を僕に任せたのがいけなかった。僕には彼女を殺す事なんてできないよ。

「それはあの女が『原初の異能者』(ザ・ファースト)という存在だからか?
 奴の方が強いから殺せなかったと…貴様はそう言いたいのか?」

……

「答えろ『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』。貴様は俺の中で最も強い、死にたくない感情のオーラの集合体。
 本気の力が通じない相手がいるようなら、俺は貴様を――」

…本気を出していれば彼女は魂もろとも消滅した。どんな生き物にとって生存本能に勝る力なんて存在しない。

「つまり本気を出さなかったと言うわけだな?」

…仕方が無いじゃないか!!"父様"には解らないだろうけど、僕にとって彼女は――

「もういい…貴様は消えろ」

やめてくれ父様!!僕は消えたくない!!せっかく生まれて来る事ができたのに…うあああああ!!!

俺の中の『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』の意識がどんどん鎮火していく。
俺が死にたくないという感情を無くす事はないから、奴が完全に消える事はないだろう。
だが再び『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』を使う事があっても、俺は"こいつ"の意識を二度と解き放つ事はない。
完全に消されなくとも、それは奴にとって死も同然だ。
190ダークフェニックス@代理:2010/09/05(日) 18:31:41 0
『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』の意識がほぼ消えかけた頃、俺は身体中に一気に負担を感じ始めた。

「くっ…やはり奴に生存本能をほとんど持たせてあったからか回復が遅いな」

その時、ふとアリスが去り際に言っていた事を思い出す。

『それは我の血液から"あるもの"を分離、凝縮したものだ。効果の程は貴様自身で確認しろ。
 影響の出方も貴様次第だ。…まぁ貴様ほどの実力者ならくたばりはしないと思うがな』

俺の中に入った赤い球。
奴が始祖の時代の存在であったならば、これも始祖の血と同様に強化効果が期待できるだろう。
口振りから言って、リスクも同様と見られるがな…だが俺には死の状態からでも蘇る不死の力が――
――ほとんど消えかけてるのではないか?
どくん!
更に重い負担を一気に感じた。それは肉体的にも、精神的も俺を蝕んでいく。
まずい…俺の不死の源である『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』がいなくなれば、この血で死んだ時に蘇生は叶わない。
しかし俺は今肉体だけでなく、精神も弱っている…こんな状態で奴を解き放てば――

何を迷ってるんだ父様?

「――!!貴様何故!?…うっ」

何故って…それは僕が聞きたいよ。血反吐なんて吐いて…このまま死んで蘇る力なんてない事ぐらいわかってるはずだよ。

「だが…貴様を解放すれば――」

僕に人格を乗っ取られる?まあそうだろうね。そうすればもう消される心配もないしね。

「そんな事になるなら…」

肉体の死を選ぶ?父様本当に生存本能無くなってるんだね…でもね。

どくん!

父様はもう僕を抑えつけられない。
彼女の残した血が僕に力を与えてくれてるんだよ。

「何故…"貴様にだけ"力が…やはり生存本能の差――ぐっ」

…違うよ、そんなものじゃない。父様にはきっと一生わからないだろうけどね。

「これは"母様"から"僕"へのプレゼントだったんだよ」

かつてその身体の主だった魂はその灯火を、深い闇の中に捕らわれていった。
そして新たにその身体を手に入れた魂は、自身を生み出したオーラの主を父と呼び、
それを結晶化させて卵を形作った、血を分けて強固な人格を持たせてくれた『原初の異能者』(ザ・ファースト)を母と呼んだ。
『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』の魂に支配された彼の身体は、髪の色素が抜け白髪化し、白目を剥いていたその目は閉じられ、
今までの彼からは全く出てこない、にこりとした笑顔を形作っていた。

【ダークフェニックス:始祖の血の影響で『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』に人格を乗っ取られる】
191闇の不死鳥@代理:2010/09/05(日) 18:32:53 0
死にたくない…そんな人間の誰もが持つ感情から来るオーラから僕は生まれた。
生まれたといっても、そこに僕が自由にできる身体はなかった。
ただその身体の主のいる世界を共に体感させてもらっていただけ。
ほぼ不死身の能力を持った主が、真に生命の危機に瀕した時、初めて外に出してもらえた。
外に出て初めて触れたのは、赤い髪と目をした、翼の生えた女性だった。
そして彼女の中に吸い込まれ、気づくと僕は硬い結晶の中にいた。
その結晶を破り再び外に出ると僕は形を持っていた。大きな…とても大きな鳥の形をしていた。
この時初めて僕は自分が生まれた事を実感した。
自分の存在そのものを成すオーラの主を父、それを生き物の形にしたしてくれた彼女を母とした。
だが僕はまだ自由ではなかった。外に出て形をも持てたにもかかわらず、父様に命じられたのは母様を殺して再び自由のない身体に戻るだけ。
そして、そこに母様を殺したくないという我を通せば父様は僕を消していった。
僕はそんな父様を憎んだ。
もうダメかと思った。
だがそんな僕の元に1つの希望が舞い降りた。
母様は僕にその血も分けてくれた。僕を強くし、この身体の自由を得られる力をくれた。
僕はそんな母様を愛した。
僕は自由を手に入れた。

「……」

さて…まずは何をしようか?やはり母様を追いかけてこの想いを伝えるべきだろうか?
そうだ…母様に名前を付けてもらおう。
父様は僕の事を自分の分身としか思っていなかった。でも僕は一人の確立した存在として生きていく。いつまでもあの男の名でいられない。
母様はどこへ行っただろう?まだそう遠くには行ってないはず――

「あの――」

どくん

僕の中に取り込まれてる母様の血が反応している。
声を掛けてきたのは、父様が部屋に残してきた娘…『毒に愛された女(ポイズネス)』と父様は呼んでいた。
確かこの娘は父様が始祖の血を取り入れて、化身の力を得た…もしかして母様のくれた血も同じなのかな?
でもこの娘に取り入れた血は母様じゃなくて、他の人間から採取されたもの…と父様は言っていたな。
じゃあこの娘は僕の何になるんだろう?姉様…妹…兄弟とも違う気がするな。

「さっきの人…ですよね?無事でよかった。名前まだ名乗ってませんでしたが私、阿合哀と――」
「ああ、阿合の娘でしょう?カノッサと戦って欲しいって話だったっけ?」
「え!?…あ…はい」

そうだな…せっかく母様に会うのだから、土産の一つくらい持っていくべきかな。
カノッサの筆頭の持ってる降魔の剣と魔水晶…きっとあれは母様の物なんだよね。
あれを僕が取り返してこよう。きっと母様は褒めてくれるだろう。

「…あの貴方の名前は――」
「いいよ、カノッサと戦うって話。さっさと潰してこよう」
「……」
「あ…でも僕の中にも始祖の血があるって事は、降魔の剣に太刀打ちする術が…」
「?それはどういう――」
「ああ、もう1人くらい連れてこうと思ってね。そういえばさっき君の方に行った娘がいたはずだけど殺しちゃった?」
「え!?いえ、そんな事…」
「じゃあそれ連れて行こう。ここまで来れたんだからそれなりに使えると思うし」
192闇の不死鳥@代理:2010/09/05(日) 18:34:41 0
「それは私の事か?」
「そうだ」

そう声を掛けてきて姿を現した残りの1人、海部ヶ崎綺咲。
その娘に俺は近づいていき、阿合に聞こえないようにその耳元でささやく。
阿合と同じ、彼の中にも同様の"何か"を感じた海部ヶ崎はその場で身動きが取れないでいた。

「カノッサと戦ってやるって言ってるんだ。無駄に混乱を招くような事を口走るなよ?」
「くっ…」

僕がカノッサにいた事など、そんな過去を持ち出されて貴重な化身の戦力に疑念を抱かせても面倒なので釘を刺しておく。
僕の知るカノッサの情報を話し、大方の作戦の説明を終えた後、3人でカノッサ本拠地に向かった。

【闇の不死鳥:阿合哀と海部ヶ崎綺咲を連れ、カノッサ本拠地に向かう】
193アリス・フェルナンテ@代理:2010/09/05(日) 18:35:44 0
「ハァ…ハァ…先程のあの攻撃、あれは一体何だったのだ?我をここまで追い詰めるとは…。
 この『楽園の守護者』(エデンズガーディアン)の生命力ですら、最後まで食らっていたらどうなっていたことか…」

アソナの本拠地を脱出した後、アリスは付近の雑木林にいた。髪や瞳の色、翼は元に戻っている。
体が思うように動かない。恐らく原因は、先程のダークフェニックスの最後の攻撃、『闇の不死鳥』のダメージだろう。
そしてダークフェニックスに与えた己の血液。あれは単なる血液ではなく、自らの力の源である始祖の力の結晶。
故に己の身を削ったようなものだ。体力もオーラも低下している。
しばらくは回復に専念しないと、雑魚相手ならいいが強者とは戦えない。

「あの後奴にどういった影響が出ているのか確かめたいところだが…。無理は出来んな。少々危険だが少しでも寝ておかなければ…」

木に寄りかかり、体を休める。暫くして、静かな寝息が聞こえてきた。


――かあさまかあさま〜。これみて〜――

――まぁ、上手に出来ましたね――

――これ、かあさまにあげる〜――

――ありがとう、アリス。お母さん嬉しいわ――

――えへへ〜。とうさまにもあげてくるね〜――


「……」

意識が覚醒する。どうやら夢を見ていたようだ。

「懐かしい夢だな…。幸せだった頃の夢だ。あの頃は争いなどという言葉とは無縁の世界だった。
 母が居て、父が居る。ただそれだけで良かったのだ。なのに…」

頭を振って思考を止める。今更悔やんでも仕方のないことだ。
眠っていた時間は僅かだが、オーラは6割程回復したようだ。ある程度の敵ならば対応できる。

「さて、まずは降魔の剣を取り戻さなくてはならないな。あれがなければ全力が出せん。
 しかし一体どこの誰が持っているのやら…。この付近にあることは間違いないのだが…」

ふと、近くにオーラを感じる。始祖の力は感じないので、ダークフェニックスや化身の娘ではないようだ。

「一体誰だ?…この目で確かめるのが一番早いか」

オーラを辿っていくと、そこには一人の男が居た。

(あの男…先の二人組の片割れか。近くに女の気配は感じない…。一緒ではないのか?)

疑問に思いながらも、男に近付き話しかける。

「貴様、こんなところで何をしている?」

【アリス:不知哉川 霊仙を発見、接触する】
194不知哉川 霊仙:2010/09/07(火) 12:42:45 0
「遅っいな〜〜。一体何してんねん、キサちゃんは」

建物外の門の前で、不知哉川は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、建物上階部を見つめた。
建物から脱出しておよそ五分。未だ海部ヶ崎が脱出した気配はなかった。
いや、あるいは既に脱出したことに不知哉川が気がつかなかっただけなのかもしれないが、
スキャナーの不調で自身の視覚でしかそれを確かめられない不知哉川にとっては、
仮に気がつかなかったとしてもそれは致し方のないことと言えた。

「もー、肝心な時にこれやもんなー。だから機械っちゅーもんは嫌なんや」

故障したスキャナーがグシャりと握りつぶされる。
こうなると海部ヶ崎に発見してもらうしかない。
だからこそ敢えて人目につくように建物の正門前に立っているわけだが、
それは逆を言えば敵に発見されるリスクも背負っているわけである。
不知哉川が珍しく痺れを切らしたのもそのせいなのだ。

海部ヶ崎を置いていくわけにはいかない。
かといって、仮に既に脱出していたら、ここで待っていても余計な危険が増えるだけである。
(脱出してるかどうかは置いといて……やっぱ、これ以上ここで待っとくのは危険やろな。
 キサちゃんなら多分死ぬことはないやろし、ここで一旦離れ離れになっても、
 またどこかで合流することもできるやろ……。うん、そうやな)

内心、どこか都合よく今後の行動を決めた不知哉川だったが、
突然、背後から声をかけられたのは、その矢先のことだった。

「貴様、こんなところで何をしている?」
「……折角決心したところを、ええタイミングやなぁ。もしかして狙ってたんと違う?」

皮肉な笑みを浮かべて振り返る不知哉川。
その目の先には、ダークフェニックスと死闘を演じていた、あの赤髪の女の姿があった。
(ったく、やれやれやで。
 けど……わざわざ俺に声をかけたってことは、話し合いの余地があるとみてええんやろか?
 もっとも、闇討ちを嫌うタイプやと、まず声をかけて……ってな感じなんかもしれんけど。
 ……まぁ、物は試しや)

交渉の余地ありと踏んだ不知哉川は、飄々とした口調で語りかけた。

「まぁまぁ、そう構えなさんな。俺らの目的はあんたやないし、闘いや人殺しが趣味でもないねん。
 だから俺はあんたと闘う気はナッシング。あんたもそうなら、ここは黙って行かせてくれへんかなぁ?」

更にとぼけた顔でことさら体中に隙を作ってみせる。
敵対の意思なし、というのをそのまま体現してみせた格好だ。
(少しわざとらしいかなぁ。んでも、生き残る確率は1%でも上げとかんとな)

しかしこの時、彼はまだ知らなかった。
命がけの駆け引きを徒労に終わらせる闖入者がすぐそこまで近付いていたということを。
195不知哉川 霊仙:2010/09/07(火) 12:46:51 0
──ジャリ。
突然の背後からの靴音に、不知哉川は思わずその顔から飄々とした笑みを打ち消し、硬直させた。
いや、不審な靴音が彼にそうさせたのではない。。
無機質で、静かで、それでいて肌を突き刺すような鋭い不気味なプレッシャー……
それが彼にそうさせたのだ。
(なんや──この感覚は──。──ゾンビ? いや、違う──。一体、何モンや──!)

恐る恐る、といった表現そのものに、不知哉川はぎこちなく首を回して、背後を振り返った。
そこには、その顔をマスクで覆いながらも、性別を特定できるくらいふっくらした胸を強調させるような
黒い無骨な戦闘スーツに身を包んだ、金髪の女が佇んでいた。
普段であれば敵と判っていてもだらしなく鼻の下を伸ばしていたところかもしれない。
が、彼女を包む不気味なオーラの前には、流石の不知哉川もそういう気分になれなかった。

「……現在、戦闘反応なし。……やはり既に終わっていたか」

どこか無機質だが、ハスキーなアルトヴォイスが響き渡る。
(筆頭……? そうか、やっぱ機関の人間ってわけやな。
 にしても、ちょっと遅刻しすぎやろ。大幹部にしてもこんな大胆なことができる奴がおるんか……?)
そう思ったところで彼はディートハルトの記憶の中にあった一つの会話を思い出した。

『……筆頭、それより『キャス』の奴がまだ来ていないんだけど?』
『放っておけ、いつものことだ。その内くるさ』

「──あっ──そうか、あんたがキャスやな!」
思わず口に出し彼女を指差す不知哉川。
最初、彼女はそれに驚いた様子だったが、直ぐに口を真一文字に閉じてフッと笑みを零した。
「ほう……私の名を……。どこで聞いたか知らぬが、光栄なことだ」
「四天王の一人やろ? 他の三人はとっくにアジトへ帰ったで?」
「そうか、やはりな。どうやら無事に魔水晶を手に入れたようだが、
 この場で全ての邪魔者を片付けないところは、筆頭の考えそうなことだ」
彼女がマスク越しから二人を一瞥するのを不知哉川は感じていた。
そして、同時に嫌な予感も。
(おいおい、まさか……)

「このままアジトへ戻るのは簡単だが、もののついでだ。
 貴様らが筆頭と闘うに値する異能者かどうか、この場で私が確かめてやろう」
彼女を取り巻くオーラが目に見えて増幅し、これまで以上に空気が張り詰める。
(一難去ってまた一難! やっぱこうなるんかい!)
不知哉川は唇を噛んだ。それでも不安が大勢を占める中、少々の心強さだけは感じていた。
相手は自分と、そして赤髪の彼女を同時に敵とみなしている。
敵の敵は味方。つまり、ここはタッグを組んで闘うことになるのだろうから。
(何か皮肉めいたもんを感じるが、不幸中の幸いってヤツやな。……ん?)

戦闘態勢に入った不知哉川の目が一瞬止まる。
対峙した彼女が背中に手を回し、竜の装飾品が巻きついたけったいな細長い一本の棒を取り出したのだ。

「今の内に教えてやろう。『キャス』とは私の愛称のこと。
 本当の名は『切谷』──『切谷 沙鈴』という。これから死ぬまでの短い間、覚えておいてもらおう」

掴んだ棒にオーラが纏わりついていく。いや、吸収しているのだろうか。
オーラを含んだ棒はその先からスパークを発すると、やがて一つの白い“光の刃”を形成した。

【不知哉川 霊仙:四天王最後の一人、切谷 沙鈴と接触。戦闘に】
196アリス・フェルナンテ@代理:2010/09/07(火) 21:01:08 0
「まぁまぁ、そう構えなさんな。俺らの目的はあんたやないし、闘いや人殺しが趣味でもないねん。
 だから俺はあんたと闘う気はナッシング。あんたもそうなら、ここは黙って行かせてくれへんかなぁ?」

男――確か霊仙と呼ばれていた――は好きだらけの格好でそう言ってきた。
見たところ、戦闘に関しては大した能力者ではない。ダークフェニックスには遥かに劣るだろう。

「貴様をここで殺すことは簡単だが…貴様には聞きたいことが――」

──ジャリ。
不知哉川にそう言いかけたところで、場に第三者の足音が聞こえる。

(ようやくお出ましか。先程から気配は感じていたが…。此奴は何者だ?まぁ味方でないことは確かだな)

不知哉川の背後から現れた人物を一瞥する。
そこには長い金髪を靡かせ、顔を大きなマスクで覆った、黒いボディスーツを着た女が立っていた。

「……現在、戦闘反応なし。……やはり既に終わっていたか」

声は無機質で抑揚がない。まるで機械のようだ。

「──あっ──そうか、あんたがキャスやな!」

キャス、というのがこの女の名前らしい。どうでもいいことだが。
不知哉川はキャスと会話を始めた。
話の内容からすると、この女のアジト、即ちそこにいる筆頭と呼ばれる人物が魔水晶を持っているらしい。
恐らくは降魔の剣もその人物が持っていることだろう。

(ならば話は早い)

「このままアジトへ戻るのは簡単だが、もののついでだ。
 貴様らが筆頭と闘うに値する異能者かどうか、この場で私が確かめてやろう」

どうやら向こうもその気だったようで、爆発的にオーラが増幅する。
そして女は背中から竜の装飾が施された一本の棒を取り出した。

「今の内に教えてやろう。『キャス』とは私の愛称のこと。
 本当の名は『切谷』──『切谷 沙鈴』という。これから死ぬまでの短い間、覚えておいてもらおう」

女の持っている棒にオーラが伝わった途端、先端がスパークし、光の刃が出現した。

「"貴様が"死ぬまでの間か?確かに短い間だな。だが貴様には少々聞きたいことがある。
 それを吐いてもらうまでは殺さんがな」

(とは言えまだ本調子ではないな…。先程の会話の中で少し回復したとは言え、まだ7割程か。
 雑魚なら良かったが…この女はそうではないらしい。果たしてどこまでいけるか。降魔の剣さえあれば良かったのだが…)

そう思い、戦闘態勢をとる。しかしまだ"変身"はしない。
まずは相手の力量を推し量る。といっても量る必要もないかもしれないが。
そこでふと、脇にいた不知哉川に目が留まる。

「貴様にも聞きたいことがある。一時ではあるが力を貸してやろう。
 さて、時間も惜しい。始めるとするか、盲目の女よ」

【アリス:切谷 沙鈴と接触。不知哉川と共闘体制をとる】
197不知哉川 霊仙:2010/09/08(水) 16:09:07 0
>>196
(切谷……沙鈴……?
 なんや、また機関にありがちなけったいな名前かと思うたら、エライ可愛げのある名前やないか。
 ……あの棒から発してる攻撃的なオーラからは全く想像つかん名前やで)

不知哉川は妖しげに光る刃の輝きを注視しながら、
何か言いたげな赤毛の視線に応じるようにチラチラと散発的に彼女に目を向ける。
「貴様にも聞きたいことがある。一時ではあるが力を貸してやろう。」
そう返答した彼女に、不知哉川はほっと安堵するように息をついた。
内心ではそれを予め承知しておきながら、
敢えて芝居がかったリアクションをするのは彼の愛嬌といったところだろう。

「さて、時間も惜しい。始めるとするか、盲目の女よ」
目を切谷に向けて赤毛が言い放つ。
切谷はそれに頷くように、無言で棒を──
いや、棒先に光の刃が形作られたその形状はもはや槍と言った方が近いだろうか、
その槍を彼女は背中に回し、そしてそれを勢いよく横一文字に振りぬいた。

そのスピードは“速い”の範疇に入るものだろう。
しかし、切谷から不知哉川まではおよそ六メートルの間合いがあるのだ。
槍の長さは伸ばした彼女の腕と切っ先をプラスしてやっと三メートルに達するくらいであり、
これではどれだけ勢いよく振りぬいても切っ先が届くことはないはずである。
(なんや──? 一体、何考えて──)

不知哉川は即座に彼女の行動の意味に思考を巡らした。
いや、巡らしかけて、直ぐにそれを頭から振り払っていた。
その要因となったのが、思考を巡らしかけたその一瞬に、目の端に映った“白い光の線”。
わずか数十センチに過ぎなかったあの光の刃が、
槍を一閃したほんの瞬き程の刹那に残り三メートルの距離を余裕で補うほど“伸び”、
今正に二人の胴を切り落とさんと鞭のようにしなって真横から急接近してきたのだ。
(────!!)

咄嗟の驚嘆や、悲鳴の声をあげる余裕すらなく、
不知哉川はただ無言でほとんど反射的にありったけの力を持って地を蹴った。
高く跳び上がった不知哉川の足を光の刀身がかすめてゆく。
後0.1秒でも行動が遅れていたら足首を切り落とされていた、そんな紙一重での回避であった。

「──よく避けた。流石にこれまでの闘いを生き延びてきただけのことはあるようだ──」

地に降り立った不知哉川に、とても褒めているとは思えない無感情な声が耳を突く。
その言葉は彼に向けられていたものであったし、どうやら赤毛にも向けられたものであるようだった。
彼の目の端では、胴が繋がった赤毛の無事な姿を捉えていた。
そして同時に、建物庭を彩っていた周囲に木々や石像が、同じ高さで綺麗に切断されている光景も。

今度は槍が真正面に構えられ、切っ先が二人に向けられる。
その時には既に切っ先は元の長さへと戻っていた。

(……なんちゅー奴や……俺にはいつ、どうやって縮んだのかさえ判らんかったで……。
 俺に解ったのは、どうやらあの切っ先を自在に高速で伸縮できるらしいってことくらいや。
 ゴムや鞭のような性質を持っとんのか、あるいは蛇腹のような構造になっとんのか……
 ……けど、本当にそれだけなんか? あの槍には何かまだ秘密が隠されてるんやないのか?)

「特にそっちの女の方。素晴らしい反応だ。やたら異能値が高いだけのことはある。
 だが、次はどうかな……?」
再び槍の切っ先がバチバチとスパークを発し始めた。

【不知哉川 霊仙:攻撃を回避するが、もういっぱいいっぱいな様子】
198虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/08(水) 19:40:35 0
「久しぶりに…外に出てみようか」
窓の外を見て優が呟く
「しばらく外にでてなかったな…服が絵の具だらけだ…学校だけは行ってたけど」
画材を鞄に入れ、一階に下りていく
「兄さん? どこへ行くの?」
詞音が訊ねる
「うん。久しぶりに外へ出てみようと思ってね」
優が答える
「兄さん…やっと外に出る気になったんだ…」
「うん。いつまでも隠ってる訳にもいかないからね」
「御伽ー!御伽ー!」
「何…うるさいんだけど…」
詞音に呼ばれ、御伽がやってくる
「兄さんが外へ出る気になったらしいんだ」
「え…!? 本当なの…? 兄さん」
御伽が優に確認する
「うん。この地域には異能者が多いみたいだから、いつこの家が危険になるか分からないしね」
「そうと決まったら早く行こう、しっかり準備して」
「うん…」
【虹色兄弟:久しぶりの外出】
199アリス・フェルナンテ@代理:2010/09/08(水) 21:11:23 0
「特にそっちの女の方。素晴らしい反応だ。やたら異能値が高いだけのことはある。
 だが、次はどうかな……?」

(予め警戒しておいて正解だったな。やはりただの武器ではなかったようだな。今の一撃でで確信した)

沙鈴の攻撃を後ろに飛んでかわし、再び対峙する。
どうやら男の方も無事なようだが、見たところ避けるので手一杯なようだ。
それに訳が分からない、という顔をしているのであの武器の性質も分かっていないようだ。

「切谷、とか言ったな。随分面白い武器を持っているじゃないか。見た目は普通の棒だが…。
 どうやら貴様の能力の方に種があったようだな。成程、"自分のオーラを自在に変形して具現化する"か。
 確かにその能力なら切っ先のない槍にも納得がいく。さしずめ"魔槍"と言った所か」

しかし能力が解明できたところで解決策が浮かんだわけではない。
あの武器を前に間合い等というものは無意味だろう。
切っ先が変幻自在なら、どこにいようと関係ないのだから。

(さて、どうするか…。あの男に戦闘は期待できんな。我一人で戦うしかないか。
 あまり体を酷使したくはないのだが…)

剣を一本生成し、オーラを込めて強化する。
あちらの武器もオーラで出来ている以上、そう簡単に壊れることはないはずだ。
横に着地してきた不知哉川に目を向ける。

「貴様に戦闘は期待しない。我が奴を引き付けておく。
 その間に奴の弱点、若しくは隙を見つけ出せ。出来るなら一発でも入れてみろ。
 貴様も能力者なら身体強化くらいは出来るだろう?」

不知哉川にそう言って、沙鈴に向き直る。

「すまんな。先程は少々貴様を侮っていた。中々やるではないか。
 我も少しだけ本気を出そう」

意識を集中し、始祖の力を解放する。
しかし翼は生えてこなかった。

(とりあえず3割程で様子を見るか。今は全力で7割だからな…)

「では、参る」

地を蹴って、沙鈴に向かって突進するかの様な勢いで迫る。

【アリス:不知哉川にサポートを言い渡し、沙鈴に反撃開始】
200不知哉川 霊仙:2010/09/10(金) 19:32:48 0
>>199
「切谷、とか言ったな。随分面白い武器を持っているじゃないか。見た目は普通の棒だが…。
 どうやら貴様の能力の方に種があったようだな。成程、"自分のオーラを自在に変形して具現化する"か。
 確かにその能力なら切っ先のない槍にも納得がいく。さしずめ"魔槍"と言った所か」

自信たっぷりに言い放たれた赤毛の言葉に、不知哉川は目を丸くした。
切谷が繰り出した光の刃は、オーラを変化させたものであるということは彼にも解っていたが、
その能力の詳細まで推測を及ばせることはかなわなかった。
敵の攻撃はたったの一回。それも一瞬の内であったのだからそれは無理もないのだが、
赤毛はその一瞬の初撃を見ただけでさも当然の如く、
彼が及ばなかった遥か深淵の領域まで看破したと言うのだから、驚くのは当然であった。

「大した洞察力だな」
切谷は、静かで短く、相変わらず感情が窺えない声で答えながらも、
その内容は肯定の弁と受け取ってまず間違いないものだった。
(なんとまぁ……やっぱバケモンを理解できんのはバケモンだけっちゅーことやな……)
不知哉川とて一般レベルから見れば決して弱いわけではない。
だが、その力量を持ってしても次元が違うと痛感せざるをえないほどの会話。
不知哉川はもはや驚きを通り越して呆れるしかなかった。

「貴様に戦闘は期待しない。我が奴を引き付けておく。
 その間に奴の弱点、若しくは隙を見つけ出せ。出来るなら一発でも入れてみろ。
 貴様も能力者なら身体強化くらいは出来るだろう?」

それ故に、彼はこの赤毛の言葉を素直に受け入れることができた。
(確かに俺はサポートに徹した方がええやろな。俺が闘っても、足手まといになるだけや)
赤毛が切谷に向き直り、再び両者が戦闘体勢に入るのを見計らって、
不知哉川はその足を徐々に後退させていく。
それが五歩、六歩──そして七歩目を数えた時、膠着状態だった闘いは再びその戦端を開いた。

一本の剣を生成した赤毛が切谷に向かって勢い良く地を蹴る。
気のせいかダークフェニックス戦の時ほどのスピードは感じられないが、それでも十分に速い。
だが、切谷の動作はそれよりも速かった。
一直線に向けていた槍を背中に回し、既に再び攻撃せんとの体勢を取っていたのだ。
赤毛の間合いに入るより先にまたあの光の刀身を繰り出すつもりだろう。
(だが、その初太刀の軌道を見極めることができれば……)
槍のように間合いに利点がある武器というのは、一振りごとの動作が極めて大きいという欠点がある。
実際、最初の攻撃がそうであったように、特殊な槍といえどそれは変わらないのだろう。
初太刀をかわすことができれば、次の攻撃までの大きな間を突き、反撃することは十分に可能である。
しかも赤毛ほどのスピードを持つ者であれば尚のことだ。

切谷は構えた体勢から勢い良く槍を一閃した。
先程と同じく刀身は伸ばし、その軌道は横薙ぎである。
だが、赤毛はそれを跳んでかわした。それも刀身が足の裏をかすめるくらいの低い跳躍で。
勝手な解釈かもしれないが、不知哉川にはそれが“敢えて”の動作であったように見えた。
不知哉川のように結果として紙一重だったのではなく、
地面に着地するまでの時間を惜しんだもののように彼には感じられたのだ。

いずれにしても、初太刀を避けられた切谷は、その体に大きな隙を生んでいた。
着地した赤毛はそれを見逃さんと素早く再加速をかける。
第二撃のない空間を一挙に駆け抜けた彼女は、
剣の範囲内に足を踏み入れると同時に容赦なく剣を振り下ろした。
201不知哉川 霊仙:2010/09/10(金) 19:35:20 0
(──なんや、結構あっけなく決まって──)
その瞬間、不知哉川は彼女の勝利を確信した。
それだけ常識では不可避の完璧なタイミングで剣は振り下ろされていたのだ。

だが──
耳障りな衝撃音を発して展開していく目の前の光景に、不知哉川は思わず自らの目を疑った。
ダメージを受けていたのは切谷の方ではなく赤毛の方だったのだ。
それも胸部全面がズタズタにされ、更に焼け焦げているという奇妙な傷跡を負って。

「なっ──」
予想だにしなかった衝撃的光景に不知哉川がやっと声を出せた時、
赤毛は後背に勢い良く吹っ飛んで地に伏していた。
「なんや──? 一体、何が──?」
「知りたいか?」
湧き出る疑問を吐き出すように言った不知哉川に、切谷はその無感情な声を向ける。
そして彼の返答を待つより先に、彼女は種明かしというように槍先からオーラを出現させた。
「──!」
それはこれまでの白い刃状のものとは違っていた。
槍先からオレンジ、あるいは黄色に見える無数の閃光の柱を高々と伸ばして、
空気中で激しくスパークを繰り返すそれは、まるで電気で構成された刀身のようであった。
「電……気……やと?」
「──『雷刃槍(ライトニング・ランス)』──。
 稲妻のような不規則な軌跡を描きながら、稲妻の如くのスピードで敵を粉砕する。
 変幻自在高速のこの軌跡は目で追うことも、読むこともできない。故に防御も回避も不可能。
 私の力を見誤り、『様子を見よう』などと戯言を弄していると……こうなるのだ」
切谷は赤毛に向かって小さく顎をしゃくる。
そしてこれまで一貫して無表情だったその口元を、初めてニヤリと歪めた。

(状況に応じてオーラを変化させる……思った以上に厄介やで。
 しかもあの稲妻なら、槍先をどこへ構えていようが同じ事や。
 変幻自在……奴には初めっから隙なんかなかったっちゅーわけやな……!)

「もっとも、お前らの……いや、この赤毛の力も私の予想以上のものかもしれない。
 異能値にしても瞬間的な上げ幅の桁は異能者の範疇というよりはむしろ化身に近いものがある。
 だとするなら、我々は──」
切谷はぶつぶつと独り言を言い始めて、その途中で言葉を切った。
地に伏せていた赤毛がゆっくりと起き上がったことに気が付いたのだ。
傷の手当をしてやろうか、との思いが不知哉川の頭を過ぎったが、
背筋がゾクッとするような奇妙な空気を赤毛から感じ、彼はすんでで思いとどまった。

(この感覚……なんや……こいつ……。
 ……やっぱただ強いだけの異能者とはどこか違うみたいやな……。
 化身に近いもの……一体どういう意味や……?)

【不知哉川 霊仙:戦闘中。アリスの正体に疑問を持つ】
202アリス・フェルナンテ@代理:2010/09/10(金) 22:13:44 0
地を蹴って切谷に接近した直後、彼女の動作は速かった。
すぐさま槍を構え、横薙ぎに一閃した。速度は超高速。

(しかし、横薙ぎに来ると分かっていれば避けるのは造作もない)

低い跳躍で交わす。切っ先が足のすぐ下を掠めていくのが分かる。
だが当たった訳ではない。そのままの勢いで着地、別方向から再度仕掛ける。
あの槍は柄の部分だけでこちらの刀身ほどの長さがある。
ということは例え切っ先に間合いがなくとも、あの柄の部分には事実上向こうは切ることの出来ない空間が存在する。
そこに入り込めば剣の方が圧倒的に有利だ。
懐に入り込み、剣を振るう。

(もらったか。存外呆気なか――)

自分の一撃が入るか否かの一瞬――その次の瞬間には吹き飛ばされていた。
何が起こったのか理解するまでに数秒を要したが、やられた瞬間を思い出して理解する。

(あの音、そして閃光…雷か。派手にやられたものだな…。如何に力をセーブしていたとは言え、
 並みの能力者なら傷1つ付けられぬこの体にここまでの傷をつけるとは)

「もっとも、お前らの……いや、この赤毛の力も私の予想以上のものかもしれない。
 異能値にしても瞬間的な上げ幅の桁は異能者の範疇というよりはむしろ化身に近いものがある。
 だとするなら、我々は──」

切谷が何か言っている。
よく聞き取れないが、つまりはこういうことだろう。

「我の正体が気になるようだな。知りたくば貴様らの仲間にでも聞いてみたらどうだ?
 筆頭とやらなら知っているかも知れんぞ?クックック…」

口元を緩めて嗤う。
今の言葉は、不知哉川に向けられた言葉でもあった。
この男も、切谷の言葉を聞いてから訝しげにこちらを見ていたのだから。

「貴様のような奴に会えてよかったよ。いや、寧ろ会いたかったのかも知れん。
 久々の感覚だ…。存分に楽しませたもらうぞ。なぁ切谷、いや沙鈴よ」

抑えていた残りの力を解放する。
今までなかった翼が生え、オーラの放出量が爆発的に上がる。
その勢いはかつてない程で、周囲は嵐のような状態になっている。

「さぁ仕切り直しと行こうか。あっさり死んでくれるなよ?」

【アリス:気分が高揚したことによりオーラが全回復。出力全開が可能】
203闇の不死鳥@代理:2010/09/10(金) 23:18:26 0
それはカノッサ本拠地に向かう道中の事――
人の影の形をした化け物が、小さな少女を襲っている場面に遭遇した。
実はこの影の化け物は赤月怜の放っていた【シャドウ】の一つであり、少女は>>18で襲われていた小学生の一人だった。

「――っ!『飛花落葉(ひからくよう)』」

それを見て真っ先に少女を助けに飛び出したのが海部ヶ崎だった。
彼女はそのオーラは周りに拡散させていたらしく、少女をその場から奪取した後に、
周りの電柱が一斉に【シャドウ】に引き寄せられて倒れ、その人の形の原型を留めないほどに潰した。

「もう大丈夫――」

そう少女に言い聞かせる海部ヶ崎の後ろで【シャドウ】が、原型を留めて再び直立した。
やはりあれは人ではなく影でできた存在…人に対する殲滅方法は効かない。
そして僕もああいう存在だったからわかる。ああいう存在は意思があったとしても、自分を生み出した者以外の言葉は聞こえない。
その生み出した者が近くに感じられず、今まさに目の前の2人が危険に曝されているのなら、僕の取る行動は1つだろう。

「甘いな」

僕がその言葉に込めたのは少女を助けに飛び出した海部ヶ崎に対して、
あの程度で【シャドウ】を倒した気になっていた海部ヶ崎に対して、
そしてその海部ヶ崎と、海部ヶ崎の助けようとしていた少女を助ける自分に対しての一言だった。
僕は自身に炎のオーラを纏わせる。
今の位置関係は僕の後ろに阿合、僕の目の前に海部ヶ崎と少女、その後ろから【シャドウ】が襲い掛かろうとしてる状況だ。
僕の位置に大きな炎が上がれば、必然的に海部ヶ崎と少女の後ろに影が伸びる。
そして【シャドウ】もその影に含まれ、倒れるように後ろに叩きつけられた。
その時、僕は影を支配していた。炎によって作られた明かりの中で倒され立つ事ができず、
周りの影からも離された【シャドウ】はその場から逃げる事ができない。

「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」

同族だった者へ送る別れの言葉。
僕は指先から放つ破壊光線の威力とその光で、地に堕ちた影の化け物を粉砕した。

【闇の不死鳥:【シャドウ】に勝利】
204闇の不死鳥@代理:2010/09/10(金) 23:22:42 0
「……」

海部ヶ崎は僕を不思議そうな目で見ていた。2人を助けたのがそれほど意外だったのか…
いや、この街に来てからの表立った父様の行動からすれば無理もないか。

「……あ…」
「ありがとうおにーさん。あの…これ」

何か言いかけた海部ヶ崎を遮るような明るい笑顔と声で、少女が僕に礼の言葉を言う。
そして礼のプレゼントのつもりか、自分の髪に付けていたリボンを僕に渡す。

「…せっかくだから家まで送ってやろう」
「!?」

僕の言動に驚きを隠せなかったのはやはり海部ヶ崎だった。

「な…何を企んで…」
「そうですね。こんな夜道に1人で帰すのは危険ですしね」

阿合は特に疑念も感じず僕の意見に賛同する。
阿合にとっての僕の印象…正確には父様の印象は、自分を助けてくれた人以外になく、好意的なものしかない。

「……あの、ごめんなさい」
「ん?」

気が付くと少女の笑顔は曇らせて俯いていた。

「私…家がわからなくて…」

迷子――この暗がりであの影から必死に逃げていたのなら無理もない。
だが次に少女の発した言葉は、そんな考えに再び"甘さ"を認識させた。

「自分の名前も…わからなくて…」

少女は記憶喪失だった。
205闇の不死鳥@代理:2010/09/10(金) 23:26:51 0
>>198
だが僕の意識は別の方向にも向けられて、少女の記憶喪失への反応が薄くなっていた。
射程圏内に一気に3つの異能者のオーラを感じて始めたのだ。
その内1つは>>112で大鷲から感じたオーラと同じものだった。
あれは異能者が変身でもしているのかと思っていたが、僕や先の影のような使い魔的な存在だったのか?
先の影の主とは違うものの、人を襲う目的で使い魔を使役する異能者には変わりない。

「少し待ってな」

そう言い残して阿合、海部ヶ崎、少女のもとから離れて1人でそのオーラの主達に会いに行く。
その時少女に微笑が浮かんでいたかに見えたが、暗闇ではっきりとはわからなかった。
そして、少し離れた場所で民家から出てくる3人を目にした。
その3人は似た容姿をしていて、差別化を測るかのように絵の具だらけの服、ヘッドホン、眼鏡を1人ずつしていた。

『ここに高校生くらいの男が3人来なかったか?』

その3人を目にした時、母様の言葉を思い出した。
もし母様が言っていたのがこの3人ならば、母様の事を知る事ができるだろうか?

「…お前達は『原初の異能者(ザ・ファースト)』を知っているか?」

そんな考えから出た第一声がこれだった。

【闇の不死鳥:1人離れて虹色兄弟に接触】
206虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/11(土) 20:03:38 0
>>205
「原初の異能者(ザ・ファースト)、ですか…?」
「知らないです…。御伽は何か知ってる?」
「いや、全然…」
「名前からして世界で最初の異能者とかそんなんかな?」
優、詞音、御伽、優がくちぐちに言う
本当に知らないようである
【虹色兄弟:闇の不死鳥の質問に答える】
207闇の不死鳥@代理:2010/09/12(日) 03:07:58 0
>>206
やはり母様が言っていた奴らではないようだ。

「まあそうだろうな…だがこれはお前のペットだろ?」

そう言って3人の前に出した掌を上に向けると、空中に人魂のごとく夜道を照らす炎が浮き出た。

『走馬灯』

僕の見た記憶を映像にして映し出す炎。
その炎は僕が>>112で見た、男を掴んで飛ぶ大鷲の光景を映し出す。
それは画面外から飛んできた光線で爆破した大鷲の最期から、
空から落とされて>>120で最期を迎えた、掴まれていた男の最期まできっちり映し終えると、炎は消えていった。

「お前は何の為にこいつを生み出した?」

それが能力によって作られた存在でも、操られた存在でも、その時点でこの鷲はこの少年の所有物と化している。
なら僕はそれを生み出したものと断定する。
だが、同じように異能者の一時的な目的の為だけに生み出された僕は、この存在についていろいろ思うところがあった。

「この男を殺す為か?」

再び先程のように掌の上に炎を出す。そこにはグロテスクに潰れて死んでいる男の顔がアップで映された。

【闇の不死鳥:『走馬灯』で虹色優の出した鷲と、掴んでいった男の末路を見せる】
208虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/12(日) 10:09:32 0
「!!」
突如、炎に映像が映ったことに驚きつつも、
「確かにそれは僕が生み出したものですが…」
優が言う
「ペットではありません。“作品”です」
一呼吸おき
「その男が小学生の集団を襲っていたので、助けるために出しました」
映像を確認し、
「しかし妙ですね…」
そう呟く優
「その鷲は僕が生み出したものですから、僕の意思で操作、もしくは僕の指示した場所へ向かうことになっているんです」
「つまりですね…」
少し呼吸をおき、
「誰かが途中で無理に落としたりしない限り、その男が死ぬことはなかったんですよ?」
優が言う
【虹色優:闇の不死鳥の質問に答える】
209不知哉川 霊仙:2010/09/12(日) 20:56:56 0
>>202
「我の正体が気になるようだな。知りたくば貴様らの仲間にでも聞いてみたらどうだ?
 筆頭とやらなら知っているかも知れんぞ?クックック…

 貴様のような奴に会えてよかったよ。いや、寧ろ会いたかったのかも知れん。
 久々の感覚だ…。存分に楽しませたもらうぞ。なぁ切谷、いや沙鈴よ」
赤毛の纏うオーラが更に充実していく。
いや、それだけではない。ダークフェニックス戦の時に見た、あの翼も生えてきたのだ。
それだけでもオーラは勢い良く増進し周囲に風を巻き起こす。

「さぁ仕切り直しと行こうか。あっさり死んでくれるなよ?」

台風を思わせるような風の中、それを気に留める様子もなく赤毛が言い放つ。
一方の切谷もまるで動じることなく静かに槍を肩に乗せて真正面から対峙した。
(ったく、えらいことになったで)
このまま二人が闘り合えばここら一帯は焦土と化すだろう。
それが解るくらい、実際周囲にはそれだけの攻撃的オーラが漂っていた。
不知哉川は溜息をつきながら、静かに一歩、また一歩と後退していく。
(幸い、俺の存在は二人の眼中にはない。悪いが隙を見て退散させてもらうで。
 命あっての物種やからな。闘いの余波に巻き込まれておっ死ぬなんて御免や)
逃げる隙があるとするなら、二人が激突するその瞬間しかないだろう。
不知哉川はこれまでになく二人の動きにその神経を研ぎ澄ませた。

「人ならざる者……そういうことか……。面白い」
だが、ふいに切谷の吐いたその言葉が、急速に周囲から張り詰めた空気を消していった。
(なに……? どうしたんや……?)
不知哉川が驚くのも無理はない。
切谷は手にした槍を背中に戻すと、なんと赤毛に背を向けたのだ。

「魔水晶が完全なものとなるまでまだ時間はある。
 どうせなら楽しみは残して置いた方がよかろう。貴様らの命は、明日まで預けておく」
「な、なんやと……?」
「どうやら我々のアジトに招待される資格が貴様らにはあるようだ。
 決着はそこでつける。それまでに精々体力を蓄えておくことだな。
 ……そうだ、名前を聞いておこうか」

切谷がまず不知哉川に視線を向ける。
自分の名前など覚えてもらわなくとも、とは思ったが、答えないわけにもいかない。
不知哉川は溜息を一つついた後、ゆっくりと答えた。

「俺は……不知哉川 霊仙や。……別に覚えなくてもええで」
「……」
次に赤毛に視線が向けられる。
彼女は、はっきりとした声で「アリス・フェルナンテ」と答えた。

「アリス……か。覚えておこう」
そんな無機質な声を最後に、切谷はこの場から姿を消した。
まるで暗闇に溶け込むようにして──。

【不知哉川 霊仙:戦闘終了】
210闇の不死鳥@代理:2010/09/12(日) 20:59:46 0
>>208
「"作品"…か。その言い草はこいつが自分の意思を持たない生命体とでも言いたいのか?」

僕は再び『走馬灯』を浮かばせ、先の回想を映し出す。

「だがそれならやはりお前にも責任はある。この鷲を撃ち落とした者も、捕まっていた男を助ける為に鷲を攻撃したのかもしれない。
 ちゃんと殺さないように作られた作品であれば、襲撃を受けて苦痛を感じて急に離したりせずに落下していき、
 そう高い所から男を落とす事なく、殺さずに遠ざける役目を担えただろう。
 それができなかったのは、この"作品"を作ったお前にも責任がある。そうは思わないか?」

『走馬灯』は僕の言う事に合わせて鷲をアップで映したり、光線を受ける場面を映したりと場面が切り替わる。

「『誰かが途中で無理に落としたりしない限り、その男が死ぬことはなかった』?
 ではお前はその男の命を助けるつもりがあったと言うのか? 
 何を思ってこれを"作った"?絶対にこの男を殺さないように運ぶ為にこの鳥を作ったのか?
 猛禽類の鍵爪が1つの尊い命を運ぶものとして本当に安全と思ったのか?」

『走馬灯』は、炎の中に鷲の最期と男の最期を何度も映す。

「お前はこうして男が死ぬ事を期待してこの"作品"に運ばせた。違うか?」

【闇の不死鳥:殺意を否定する虹色優に、男に対する殺意を持っていたと指摘】
211アリス・フェルナンテ@代理:2010/09/13(月) 01:35:31 0
>>209
「魔水晶が完全なものとなるまでまだ時間はある。
 どうせなら楽しみは残して置いた方がよかろう。貴様らの命は、明日まで預けておく」

「どうやら我々のアジトに招待される資格が貴様らにはあるようだ。
 決着はそこでつける。それまでに精々体力を蓄えておくことだな。
 ……そうだ、名前を聞いておこうか」

まず不知哉川に視線が向けられ、彼が嫌そうに名乗る。
つぎにこちらに視線が向いた。

「アリス・フェルナンテ。…名乗ったのは貴様で二人目だ」

「アリス……か。覚えておこう」

相変わらずの機械的な声でそう言い、沙鈴は文字通り姿を消した。

「まだ聞きたいことがあったのだが…、まぁ明日で良いか」

沙鈴がいなくなり、不知哉川に目を向ける。

「さて、貴様にも聞きたいことがあると言ったのを憶えているな?
 では答えてもらうぞ。何故化身の娘を狙った?貴様らも化身の力が目当てか?
 だとすれば――」

そこまで言いかけたところで、頭の中に声が聞こえてきた。

――大変だ…!優達が能力者と接触している…!――

「そんなに慌ててどうした?あの男子(おのこ)らも能力者だろう?」

――…ダークフェニックスだ。奴が優達に接触しているんだ…!――

「ふむ、そうか。あの程度では死なんと思っていたが…。
 しかしよくよく縁のある男よな。で、我にどうしろと?」

――決まっている…!助けに行くんだ…!お前が行かないのなら自分が行く…!――

「わかったわかった。そんなにいきり立つな。約束は守る。それに貴様が行くより我が行った方が早い。
 …おい貴様。少々付き合ってもらうぞ。我はこれから用事を済ませねばならん。
 しかし貴様にまだ聞きたいこともある。故に我と一緒に来てもらう。貴様に拒否権はない。
 なに、心配するな。今のところ貴様に危害を加えるつもりはない。貴重な情報源だからな」

不知哉川にそう言い放ち、目を閉じてオーラの増幅装置である翼に意識を集中する。
眩い光が体を包み込み、一頭の白銀の獅子が現れた。

――行くぞ。振り落とされるなよ――

呆然としていた不知哉川を咥えて背に乗せ、疾風の如きスピードで走り出した。

【アリス・フェルナンテ:戦闘終了。不知哉川と共に虹色兄弟の所へ向かう】
212虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/13(月) 23:07:27 0
>>210
「自分意思を持たない生命体…? 違いますよ。
作者(ぼく)の魂(こころ)が宿った芸術作品です」
まず真っ先にそこを訂正する。美術部としてのプライドだろうか
「僕はこの鷲に指示を出して飛ばしましたが…『打ち落とされる』ことを想定した指示は出しませんでした
つまり、『たとえ撃たれても絶対離すな』なんて指示してないんですよ。僕の芸術作品は多少の自我を持つ。
だから、驚いて離してしまうのはごく自然の行為なんですよ」
長く喋った後、息を継ぎ
「でも、確かにこの鷲を作った僕にも責任はあるかもしれませんね。すみません」
素直に謝る
「でもですね…〜にも責任があるとか、元はと言えば〜…なんて言ってたらキリがないですよ。
これを打ち落とした何者かはもちろん、この鷲を作った僕…。
小学生を襲っていたその男、男と出会ってしまった小学生、その現場を偶然目撃した僕、
男を犯罪者にしてしまった親族、友人、環境、記憶…。
こんな風に、ね」
一呼吸おき、
「でも、こんなに人や物を並べても…結果は『鷲が撃ち落とされたから男が死んだ』なんです。
僕に殺意があろうとなかろうと。撃ち落とした人に殺意があろうとなかろうと。
213闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/14(火) 00:35:12 0
>>212
「男が死んだ責任が何にあるかなんてどうでもいいんだ」

僕はいくつか問答を経て、この少年がどういった人間かわかった。
予想通りこの少年は自我を持っているとわかっていた鷲を"作品"としか見ていなかった。

「僕は君のように、簡単に命を生み出せる異能者が気に入らないんだ。
 そうやってどうでもいい男の命については考えても、自分の作った命は所詮物としか見ていない」

父様も会って間もないような阿合を助けて、僕は消そうとした。

「これは同じ鳥類からの怨念の炎と思ってくれ」

『運命の輪・火炙りの刑』

僕が指を円を描くように1回くるりと回すと、虹色兄弟の周囲1mと無い半径を円で囲むように炎が上がった。
あの鷲と同じ破壊光線で消すのがいいと思ったが、やはり命の尊さを感じて死んでいってもらうのが大切だと思い、
あえて時間をかける手段を取った。
この時僕は彼らの能力を知らないでいたが、その炎は虹色兄弟達の周りで勢いよく燃え盛り、
紙類を出そうものならすぐに燃え移りかねず、湧き上がる煙は歌はおろか呼吸さえも困難なものとしていた。

【闇の不死鳥:『運命の輪−火炙りの刑−』で虹色兄弟を囲む】
214闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/14(火) 00:37:59 0
>>211
炎の輪で囲んだところで、僕は近づいてくる新たな異能者に気づいた。当然それが見知った相手である事も。
…母様は逃げたのだと思っていたから、まさかこんなに早く向こうから会いに来てくれるとは思わなかった。
どうしよう…土産に考えていた降魔の剣も魔水晶もまだ取ってきてない。
そうだ…阿合の娘にしよう。
母様は彼女にも会いたがってた気がするし、化身本人なら筆頭の持ってる取り出された魔水晶より、秘めてる力も大きいはずだ。
…いや、母様のくれた血で僕も化身になったのだから、僕が何かしてあげればいいのか?
そうだな…きっとその為に僕に力をくれたんだ。僕が母様の力になってあげればいいんだ。
でも母様は何を望んでいるのだろう?始祖の血を取り出したという事は、始祖の血を色濃く受け継いだ存在…
――化身…
――化身は何を望む?僕の記憶にある化身…その人格の情報――
――初めに見た阿合の人格は化身のものだった?
――だとしたら化身の望む事…母様の望む事は…

『一度、破壊と殺戮の衝動に駆られた化身は、全てを滅ぼすまで戦いを止めない』

破壊と殺戮?




…ふっ、筆頭は化身をそんな存在と本気で思っていたのか?あまりにも愚かしい。
阿合の人格を変えたのは、薄汚れたアソナの連中の魂で汚された血による"人工化身"という存在だ。
母様や、その純潔を受け継いだ"本物の化身"である僕らは、そんな愚かな存在ではない。
…しかし筆頭がそういう考えを持っているのなら、あの男は化身の力でろくな事をしない。
そんな奴に支配者になられて、化身の存在が世に知れ渡る事となれば、化身の世に対する印象を悪くする。
筆頭の読んだ古文書に記されたような歴史を、再び綴られ続ける事になる。
――やはりあいつは世の為にも僕達の為にも消しておいたほうが良さそうだな。
問題なのは筆頭の持ってる降魔の剣…あれをどうにかすれば、化身の力を取り込んでいる僕達がカノッサを消す事など、
お札にライターで火をつけて灰にするくらい造作も無い事。多少勿体ないという気持ちに苛まれるだけだ。
当初は筆頭、もしくは他の降魔の剣を持った奴が出てきたら、海部ヶ崎の能力でそれを奪い取って勝利というシナリオだったが、
この女はいまいち信用に欠ける。万が一それで僕を切りかかってくる可能性が無いとも言えない。
同じ化身である阿合だけではそれを止められない。やはり念の為にもう1人くらい信用できる者が欲しいか…
215闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/14(火) 00:38:51 0
いや、今はそれより母様と会った時の事だ。
母様もそういう事情だと思うから、僕が父様と違う人格である事は信じてくれると思う。
だが考えてみれば僕は生まれて早々、手加減していたとはいえ母様を半殺しにした『闇の不死鳥(ダークフェニックス)』だ。
阿合の娘を土産などという考えも、父様が邪魔しなければ簡単に会えていたものを何様のつもりだ。
――今はまだ会えない。
僕はその場から見つからないように走り去った。『火の鳥形態(ファイヤーバードフォーム)』はあまりにも目立ちすぎる。
虹色兄弟への最期を見届けるべき…そうでなくてもここでトドメを刺しておくべきだったのかもしれない。
だがそういった考えが起きないほどに、母様から逃げるのに必死だった。

どこへ行くんですか?

その時、突如頭の中に声を掛けられた。
初めは父様…闇に封じたダークフェニックスの人格が目覚め始めたのかと思った。
だがこの声は…

「…阿合か?」

はい

「…」

【闇の不死鳥:アリス・フェルナンテの接近に気づき、虹色兄弟の前からいなくなる。逃走中、阿合哀と念話が繋がる】
216虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/14(火) 07:28:18 0
これが事実なんです」
少し表情を変え、
「でも、僕がその男に憎悪が無かった、と言えば嘘になります。
僕は子供が大好きです。純真無垢で小さくて可愛い子供がね。
それを壊す奴なんか要らない、死んだ方が良い、とすら思いますよ」
少し呼吸をおき、
「でも、これだけははっきりと言えます。僕はその男に対する殺意は無かった。その男の命を助けようとも思っていませんでしたが。
殺すつもりならとっくに殺してるし、現に男は鈎爪が原因で死んではいない。
僕は男を殺す為に鷲を出したんじゃないです。小学生を助けるために出したんです」
【虹色優:殺意を完全否定】
217アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/14(火) 09:18:23 0
不知哉川を乗せ、街を駆ける事数分――
アリスは虹色兄弟の近くまで来ていた。

(む、離れたか。こちらの接近に気付いたようだな。しかし何故逃げる必要がある…?不可解だな)

――おい、奴は逃げたようだがどうする?――
――優達の安全確保が最優先だ…!何かあってからじゃ遅い…!――
――ふむ、心得た。奴は放っておこう――

御月と会話を交わし、行き先を決定する。
背に乗せた不知哉川は先ほどから喋らない。気絶しているのだろうか。

(まぁ無理もないか。沙鈴との戦いの後すぐにこちらに向かったからな。
 緊張の糸が切れてすぐさまこの速度での疾走。凡そ常人には出せぬ速度だからな…。
 ましてやこの男は戦闘に関してはこの速度領域など体感は愚か目にした事すら殆どないかもな…)

不知哉川の事など気にも留めずに駆け抜ける。
背中に乗っているのは分かるのだから、今はそれでいい。


そうしている内に虹色兄弟を視認出来る位置まで来たが、様子がおかしい。
何と周囲を炎で囲まれているではないか!

――クッ…遅かった…!優達は…!?――
――案ずるな、生きている。ちと危ないがな――
――何とかならないのか…!早くしないと優達が…!――
――そう慌てるな。今助けてやる。幸いあれは"ただの"炎のようだからな――

御月を落ち着かせたところで、オーラを集中する。

(出力、物理攻撃。対象は燃え盛る炎)


『音速の吠撃』(ソニック・ハウリング)


そして一度吠えた。

「オォーン…――」

すると虹色兄弟の周囲で燃えていた火柱が、突然突風に吹かれたように消える。
しかし虹色兄弟の方は、髪の毛一本すら揺れていなかった。
炎が消えたところで、虹色兄弟の所へ向かう。

――初めまして、になるな。おっと、この姿じゃ失礼か――

変身を解き、優達に向き直る。

「では改めて――初めまして、だ。我が名はアリス。お前達の事は御月から聞いている。
 そちらも御月から少しは聞いているんじゃないか?――満月の夜は自分に近付くな、と。
 お前達は御月の、延いては我の雇い主でもある。少し詳しい話をせねばなるまい。
 疑いたい気持ちは分かるが、信じる信じないは話を聞いてから決めて貰いたい」

【アリス・フェルナンテ:虹色兄弟の元へ到着】
218不知哉川 霊仙:2010/09/14(火) 09:51:52 0
>>211
(やれやれ、危機は脱したか……)
手の甲を顎に添え、不知哉川はほっと息をついた。
だがそれも束の間、直後に直ぐ横から響き渡る甲高い声が、すぐに眉を顰めさせた。

「さて、貴様にも聞きたいことがあると言ったのを憶えているな?
 では答えてもらうぞ。何故化身の娘を狙った?貴様らも化身の力が目当てか?
 だとすれば――」

(あー、そうや。まだ面倒な奴がおったんや。
 ……まぁ、向こうは情報が目当てみたいやし、話し合いの余地があるだけマシやろ)
不知哉川はくるりと横を向いて彼女に相対すと、タバコを加えて火を点しながら
「わーったわーった。あんたの質問には答えたる。隠したって俺の得にはならんもんなぁ。
 だけどその代わりこっちの質問にも答えてもらうで?
 それが嫌やゆーならしゃーない。俺の命運も尽きたってことやろうから殺ってくれて構わへん。
 交換条件すら呑めん一方通行しか認めんっちゅー奴にはどの道平和的解決は望めんからなぁ」
と、どこか達観したような飄々とした態度で答えた。
だが、返ってきた言葉は全く解答になってない、素っ頓狂なものだった。

「そんなに慌ててどうした?あの男子(おのこ)らも能力者だろう?」
「は?」
「ふむ、そうか。あの程度では死なんと思っていたが…。
 しかしよくよく縁のある男よな。で、我にどうしろと?」

(……なんやこいつ。幽霊と交信でもしとるんか?)

「わかったわかった。そんなにいきり立つな。約束は守る。それに貴様が行くより我が行った方が早い。
 …おい貴様。少々付き合ってもらうぞ。我はこれから用事を済ませねばならん。
 しかし貴様にまだ聞きたいこともある。故に我と一緒に来てもらう。貴様に拒否権はない。
 なに、心配するな。今のところ貴様に危害を加えるつもりはない。貴重な情報源だからな」
そう言うと、赤毛は……いや、アリスは一頭の白銀色の獅子を出現させた。
勿論、オーラによって具現化した生命体であろうが、
別にそれが不知哉川に対しての攻撃の意思を具現化したものというわけではないようで、
彼女はその獅子に乗るように彼に顎で指示をした。

全く噛み合わない会話ながらも、「約束は守る」という言葉で一つでとにかく話は纏ったのだと
強引に自分を納得させた不知哉川は、その指示通りに獅子の背中に跨った。
(まったく、わけのわからんことになったで。相手が電波やと交渉もままならん。
 まぁ、危害は加えないと約束はしてくれたし、とにかく話は行き先についてからや。
 安全運転で頼むで、俺は乗馬の経験すらないんやからな)

そんな祈るような気持ちでいる不知哉川を他所に、
獅子はおかまいなしの猛スピードで地を駆け出した──。
219氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/09/14(火) 10:00:17 0
──午後八時を回ったカノッサの秘密本部地下25階──。
通称『虚空の間』といわれるここ雲水専用のフロアには、四人の男女の姿があった。
一人目は勿論雲水、二人目は氷室、三人目はディートハルト、そして四人目はあの切谷である。

「ほう、そんな奴がいたのか。それはまた面白そうだな」
一つしかないソファーにどかりと腰を掛け、目の前に立つ切谷にそう言ったのは雲水。
彼は彼女からアリスと名乗る謎の異能者の話を聞き、何か興味を持ったようであった。
いや、その余裕綽々とした態度からは、むしろその正体を知っているとさえ感じられる。
「……ふぅーー。一体、何モンだろうな、そいつは」
ソファー前の床に座りながらボトルの酒を豪快に飲み干し、そう疑問を呈したのはディートハルト。
「筆頭、どうせあんたなら知ってるんだろ?」
それに続いて、ディートハルトに向かい合う格好の氷室が、
シャッシャッと忙しくトランプを切りながら雲水に視線を投げかける。
「心当たりがないでもない、というだけだ。確証はない。だが、そいつである可能性はある」
「誰だ?」
無感情な声で切谷が問う。
「……『原初の異能者(ザ・ファースト)』……」
三人を一瞥して放たれた雲水の言葉は、どこか重い響が含まれていた。
それ故に三人は一瞬どこか無条件で納得するような錯覚を覚えたりもしたが、
それでも現実味という一点が直ぐにそれを妨げた。
「ザ・ファースト……あぁ、白済の文献にあった始祖の子か……。
 しかし、そいつが転生する理由は何だ? 始祖ならまだしも、その子が隔世で蘇る理由は?
 まさか誕生以来ずっと生き続けてきたとは言わねーだろうな?」
「始祖とは違い隔世ではないのかもしれんぞ。
 肉体は滅びても、人格とその異能力だけが、子から子へと延々と受け継がれている可能性はある。
 何しろ始祖の唯一の実子だからな。我々異能者とは一線を画す存在であっても何ら不思議ではない」
「いずれにしても、確かにキャスと闘った女がザ・ファーストだとするなら、
 その化身に近い異能値というのも納得いくね。……これは計算外だろ、筆頭?」
と、細目で意地悪く薄ら笑いを浮かべる氷室に、雲水は「フッ」と鼻で笑い返した。
「物事には予想外のことがつき物だ。
 ザ・ファーストの出現を予想していたわけではないが、過剰に恐れを抱く必要はあるまい。
 ……我々に敵対するというなら、古来より連綿と続く血の継承を、
 そいつの代で途絶えさせてやるまでのことだ。我々の手でな……クククク」
こうした会話に、今まで最も口数が少なかった切谷が、突然何かを思い出したかのように口を開いた。
「予想外のこと、か……。
 そういえばだ筆頭、ダークフェニックスの奴に何を命令したのだ?
 私が建物に辿り着くと調度同じ頃だが、奴らしき反応が街に消えてゆくのを確認したが」
「それの何が気になる?」
「反応が一つではなかった。三つ……そう、三つだ。奴と共にするように他にも二つの反応を見たのさ」
それを聞いて雲水がピクリと眉を動かす。
「……フッ、奴め……とうとう尻尾を出したか。大人しく従っていれば長生きもできたものを」
彼はダークフェニックスの造反を予見していたかのように吐き捨てたが、それは他の面々も同じであった。
「俺達が奴のきな臭さに気付いていたことを承知の上での造反か……
 いずれにしてもこのタイミング、やはり筆頭の魔水晶が狙いだろうな?」
「それ以外考えられないリアクションだろ? 大方、その二人は仲間ってところか。
 如何に自信過剰なあいつでも、私達相手に一人で勝てるとは思ってないだろうからね」
「何にしても──」
と言って雲水が立ち上がり、全員を再び一瞥する。
「誰が来ようと運命は既に決定付けられている。歯向かう奴らは全て俺達の手によって消されるとな」

「……」

氷室は切ったトランプの束からおもむろに一番上のカードを引いた。
実は先程からこの戦いの行く末を密かに占っていたのだが、
氷室は引いたカードの絵柄を見て、思わず目を細めた。

(“ジョーカー”……。その運命、案外思いもよらぬ形で狂うかも……ね、筆頭)

【氷室 霞美:現在地アジト。現時刻PM8:00】
220闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/14(火) 17:44:10 0
>>215から僕は阿合としばらく念話を通じながら、その足取りはカノッサ本拠地の方向へ向かっていた。

「――…少し目を離すとこれか」

阿合の話によると、僕がいなくなった後、海部ヶ崎は少女を連れて行方を暗ましたらしい。
一人残された阿合は僕達が戻ってくる様子がないと気取ると、化身の力を使って念話を飛ばしてきたようだ。

あの…私、どうしたら…

「…僕は引き続きカノッサに向かっている…というよりもう目と鼻の先だ。念話を飛ばせたのなら、位置も追えるだろう。
 急がなくてもいいから、追いついてくればいい」

もともとカノッサ四天王"ごとき"に、化身の力は1人もあれば充分なんだ。
はっきりいって降魔の剣を奪うという役割を担えない人工化身の阿合は、
化身となった僕にとって戦力としては必要以上であり、必要の無い存在といえる。
それでも、下手に敵に回す事にならないように味方に置いていた。

わか…りました…ぐっ!

「…随分辛そうだな。本当に急ぐ必要はないから、万全の状態で来い」

念話を通じた阿合の様子は辛そうだった。
1人にされた寂しさとか…そういうのも感じたが、辛そうなのはそれだけではない。
僕が念話を通じて言葉を返す度に苦痛を感じていたようだ。
あの感じは…そう、父様が僕に乗っ取られる寸前に見せたあの感じ。
内なる者に抵抗する、それでも抗えずに化身の力に人格を乗っ取られていくあの様子――
――まさかね。
カノッサ本拠地を地下に隠す角鵜野湖のつく頃には、いつの間にか念話は途切れていた。
可能性を考えつつも、それを軽視していた僕は、父様と違って本当に阿合をどうでもいい存在と思っていたのだろう。
その時、阿合哀に念話を通じて送られた僕の言葉は、その内なる者…人工化身の人格を呼び起こしていたのだった。
221闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/14(火) 17:46:45 0
角鵜野湖…この底にカノッサ本拠地がある。
筆頭を含めた四天王がそこにいるのはわかっている。湖が無ければ、化身の力を持ってして此処からでも本拠地ごと消すのは容易い。
しかし、このダークフェニックス身体は炎の能力を掌った異能者。
それをベースとした化身の僕も、唯一水場ではその力を存分に発揮できない。
もっとも、その水を存分に活用できる能力のカノッサ戦闘員はもういないので、戦いにおいて既に脅威はない。
降魔の剣…これだけが唯一にして化身の僕を倒す事のできる存在であり、できれば持ち帰りたい母様への土産だ。

「ダークフェニックスだ。入り口を開けろ」

あまりこの名を名乗りたくはないが、以前とは風貌がまるで別人といっていいほど変わってしまったので仕方がない。
スキャナーが壊れ、髪も白く脱色しきっているが、コートの黒鳥の紋章でカノッサのセキュリティは僕を通すはずだ。
阿合や海部ヶ崎とカノッサ殲滅を話したのは、スキャナーのスキャニングをも妨害するアソナ本拠地内、
そして僕が1人でいる時に、オーラも感じ取れないような特殊な波長で阿合と念話を通じて話しただけ。
四天王全員が此処に立てこもっているのなら、他の2人がその情報を吐かされた可能性もない。
たとえダークフェニックスに対して疑念を抱いていたとしても、常に彼は任務に忠実だった。
そんな僕を造反の証拠も無しに基地に入れないわけにはいかない。
筆頭は魔水晶が完全となるまでの時間、最悪今生き残っている四天王の信用だけは失うわけにはいかない。
もっとも、僕を基地に入れても入れなくても、最終的にそのハリボテの信用は崩れる事になるけどね。

【闇の不死鳥:角鵜野湖到着】
【海部ヶ崎綺咲:少女を連れて行方を暗ます】
【阿合哀:再び人工化身の人格が目覚める】
222虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/14(火) 20:34:55 0
>>217
炎が消え、アリス・フェルナンテの姿が見える
「あの…ありがとうございました」
「助かりました」
「焼け死ぬかと思いました」
優、詞音、御伽がお礼を言う
「よろしくお願いします、アリスさん」
挨拶をする
「満月の夜、ですか…。確かに気になっていました…」
「あなたに嘘を吐く理由なんて無いわけですし…」
「「「信じたくなくても信じます」」」
【虹色兄弟:アリス・フェルナンテの話を聞く】
223アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/15(水) 01:14:16 0
>>222
「「「信じたくなくても信じます」」」

「うむ、話が早くて助かる。ついでだ、貴様も聞いておけ」

3人の言葉を聞き軽く頷く。
後ろにいる不知哉川にも言葉を放つ。

「先程ここに来た男が『原初の異能者』という言葉を言っていたのを憶えているな?
 あれは我のことだ。意味は呼んで字の如く、お前達異能者の原点ということだ。
 これが意味するところは…お前達、始祖という言葉を聞いたことくらいはあるな?
 その始祖の子供ということだ。つまり、始祖と人間の間に生まれた"人間でありながら
 異能力を有する者"、その最初の存在が我だ。全ての異能者の母と言い換えてもいい」

一旦そこで言葉を切り、解放していた力を元に戻す。
翼は消え、髪と瞳の色が元に戻る。

「推測は出来ると思うが、当然我も子を産んだ。遥か昔の話だがな…。だがやはり血は薄まっていくもの。
 1/2が1/4になり、1/8になり…。現在いる異能者達は何万、何億分の1程度だろうな。
 あと、我は生まれた時よりこの体で生きてきた。他人に憑依、などということはしていない。
 不思議に思うだろうが、ちゃんと種はある。何のことはない、冬眠を繰り返していただけだ。
 まぁ冬眠といっても時間は止まっているんだがな。悪い、水をくれないか?」

優にペットボトルの水を描いてもらい、受け取って飲む。

「…すまん、喉が渇いてな。どこまで話したか…っと、冬眠の話までだったな。
 さて、お前達にとっては一番の疑問かもしれないが、次は我と御月の関係だ。
 はっきり言おう。我と御月は"同一人物だ"。元々主人格は我の方だったので、能力に関しては我の方がある程度自由が利くがな。
 この体に流れる血の内、始祖の部分を我が、人間の部分を御月が担当していたのだ。
 しかしとある魔術師と戦った折に、封印を掛けられてしまってな。主人格が入れ替わり、
 我は満月の夜しか出られなくなったというわけだ。尤も、封印は既に弱体化した為、
 壊すことが出来たがな。お陰で入れ替わりは自由自在になった」

一息つき、優達と不知哉川の顔を順番に見回す。

「何か質問はあるか?」

【アリス・フェルナンテ:虹色兄弟と不知哉川に自身の存在を話す】
224虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/15(水) 20:39:03 0
「始祖と人間の子供が原初の異能者…」
「それが貴方と言うわけですか…」
優と詞音が言う
「つまり僕たちも元を辿れば貴方の子孫と言うわけですね…」
御伽が言う
「あの…貴方と御月さんが同一人物であることは分かったんですけど、なぜ御月さんは満月の夜に近づくなと言ったんですか?」
「そして貴方の能力と僕たちの能力が全く別の性質なのも気になります。やはり血が薄まるうちに能力も変化していったのでしょうか?」
優と詞音が質問する
【虹色兄弟:アリス・フェルナンテに質問する】
225氷室 霞美 ◆ICEMANvW8c :2010/09/16(木) 18:47:40 0
>>221
『虚空の間』に通信室から来訪者の報せが届いたのは、
氷室らがそこに集結してからおよそ一時間が経過した午後九時になってのとこだった。

「ダークフェニックス様がご帰還されました。扉を開放します」
虚空の間の壁に設置された巨大スクリーンに通信室のオペレーターが映し出され、
ダークフェニックスの帰還と扉の開放を告げる。
四天王に告ぐ権限と実力の持ち主であるダークフェニックスに対し、
彼のような下級兵が何の疑いも無く扉を開放するというのは当然の流れであるし、
実際これまで四天王もそれを掣肘しようとはしなかった。
だが、それもこれまではのことであり、現在に置いては過去形なのである。

「待て、まだ開けるな。そしてカメラの映像をこちらに回せ」
モニター越しから雲水にそう指示を受けて、オペレーターは一瞬、怪訝な表情を隠せなかった。
だが、彼個人にとって拒否する理由もないとなれば、素直に従うしかない。

「ほう……」
モニターに映された監視カメラの映像を見て、雲水は何とも言えぬ声を出した。
カメラが捉えたダークフェニックスの風貌はこれまでの面影無く変わり果てていたのだ。
だが、彼らが気に留めたのはその風貌の変化というよりはむしろ、異能値の変化にあった。
「さて……これをどう見る?」
雲水は背後の三人に視線を向けたが、三人はしばしの間無言を貫いた。
何かあったことは間違いない。しかし、ダークフェニックスにセットされたスキャナーの数値は、
どう説明をつけていいか困るほどの変化だったのだ。
「次元の違う空間で修行していたのではないとするなら、
 これまで意図的に隠していたか、あるいは突然、潜在的な何かが目覚めたかだ」
とは雲水の見解。確かに論理的にはまずその二つが考えられるだろう。
「いずれにしても、問題は敵となったこいつを誰が片付けるか、だろ?
 仮に今の数値が平常時のものとして、全力がこの三倍とすると……結構ヤバイかもね」
と氷室は流し目であらぬ方向を見つめた。
言葉とは裏腹に表情は至って平静そのものだが、
仮定に仮定を重ね、しかも考えようによっては楽観論に属するであろうそれでは、
「ヤバイ」という言葉はそのまま彼女の危機感を表していると言える。

「筆頭、私が行こうか? 奴とは色々あったからね、私が適任だと思うけど」
それでも、氷室は淡々と言ってのけた。
相手が何者であろうとここに来て畏縮するようなか細い神経の持ち主ではないのだ。
そしてそれは他の三人も同じである。

「いや、食後のいい運動だ。俺が行くぜ」
「私にはまだこれといった戦果がない。二人とも私に譲れ」
続いてディートハルト、切谷も名乗り挙げる。
だが、雲水は静かに三人を両手で制止すると、モニターに向かって言い放った。

「俺が行くまで扉は開けるな、いいな?」
「はっ? 筆頭自らお出迎え……ですか……?」
「……」
如何にこれまで組織に貢献してきた人物といえど、
たった一人の部下の為に彼が出迎えるなどこれまで例がない。
しかも当のダークフェニックスは特に重要な任務をこなしての帰還ではないのだから、
これはもはや異例というよりは明らかに不自然極まる言動であった。
想像力豊かでない者であっても、これでは否が応でも雲水の真意を察知できるというものだ。
「……了解しました……」
オペレーターは神妙な顔付きで敬礼するとすぐさま通信を切った。

「明日は雪どころじゃないね、こりゃ。明日は地球が滅ぶ──」
いつになく積極的に動き回る雲水に、
氷室はいつも通り皮肉交じりの台詞を吐きかけて、途中でその口を噤んだ。
「まんざら的外れな表現でもないな」
雲水はニヤリと残し、さっと翻って出口へと向かった。
226雲水 凶介 ◆ICEMANvW8c :2010/09/16(木) 18:53:08 0
──角鵜野湖は多くの森林に囲まれている。
湖畔近くであればロッジが建っていたり別荘が建っていたりと人気も多いが、
森林を奥に進めば進むほど整地もされぬ不気味な森に変わり、途端に人気はなくなる。
カノッサのアジトへと通じる扉は、そんな森林奥にある古い洞窟の中にあった。

ゴゴゴゴゴ……
洞窟の暗い闇の中、重々しい音を発して厚さ10cmはあろうかという鉄の扉が開かれる。

地下に延々と続く飾り気のない緩い坂道になった通路。
意外にも通路という用途には不釣合いな広く確保された空間。
そして──待ち構えるようにして通路の真ん中で腕を組む黒尽くめの男──雲水。

「ご苦労だったな、ダークフェニックス。望み通り扉は開けてやった。入れ」

雲水の言葉に無言で従い通路に足を踏み入れるダークフェニックス。
それと同時に再び扉が閉まり、ガコン、と重低音が通路に鳴り響く。

「しかし、まさか一人で“乗り込んでくる”とはな。
 それだけの自信を得るほど大きなパワーアップでも果たしたか?
 それとも、今のお前が真の姿で、これまでは偽りのものか?
 ……いずれにせよ、俺に歯向かったのは間違いだったな」

【雲水 凶介:アジト出入り口でダークフェニックスと対面】
227闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/16(木) 20:19:00 0
>>226
「…会って早々何を言ってるんだ筆頭?僕がいつお前に歯向かう真似をした?」

どうやら筆頭は魔水晶を誰かに取られるかもしれないという恐怖で、相当疑心暗鬼になっているようだ。
証拠もなしにやってもいない事を自白するとでも思ったのか?
口では強がっていても、筆頭を纏うオーラはとても萎縮している。
もっとも、これは僕が化身となった事で、筆頭のオーラが今までより小さく見えてしまう心理現象が働いているのかもしれないが。

「僕が最後に受けた指令は、アソナでディートハルトの言『手出しはするな。勿論、あの娘にも』だ。
 その手出しできない娘がいつ目をつけてくるかわからなかったから、僕はあの場から非難していた。
 そしてしばらくして戻ったら、僕に何の連絡もなく筆頭達はいなくなっていた。
 この通り、スキャナーも壊れて連絡手段も無かったから此処に帰還した。
 どの辺がお前に歯向かったと言うんだ?」

筆頭に未来を見据える能力はない。
僕を敵視しているのは、自分で確かめていない不確かな物に、自分の不安を付け加えた末の結論でしかない。
故にこうして自分で確かめに来たのだろうが、僕はそれに呑まれてやる事はなく、完膚なきまでにその考えを否定する。

「この髪に文句があるなら我慢してくれないか?激戦があって疲れてるんだ」

実際に精神的に疲れは感じていないが、肉体的な負荷が回復してないから髪は脱色したのかもしれない。
そして母様との戦いの後に起きた現象である事に違いはない。

「全く…らしくないな筆頭。誰かに何か吹き込まれたか?」

ここで僕は筆頭のその疑心暗鬼を打ち砕くのではなく、別の相手に向けさせる流れに持っていく。

「気をつけたほうがいい。"四天王の中"に筆頭に成り代わろうとする人間がいてもおかしくはないからね」

僕は四天王がどういった志で筆頭に従っているのか知らないので、本当にいるのかもしれないしいないかもしれない。
ただ筆頭の疑心暗鬼からなるべく信用の置ける者しか近寄らせない事がうかがえ、何かを吹き込んだのが四天王の誰かというのは予想がつく。

【闇の不死鳥:筆頭の自分への疑念を四天王に向けさせる】
228アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/16(木) 22:05:02 0
>>224
「あの…貴方と御月さんが同一人物であることは分かったんですけど、なぜ御月さんは満月の夜に近づくなと言ったんですか?」
「そして貴方の能力と僕たちの能力が全く別の性質なのも気になります。やはり血が薄まるうちに能力も変化していったのでしょうか?」

優と詞音から質問を受ける。

「ふむ、いい質問だ。
 まず一つ目だが、満月の夜に近付くなと言ったのは、恐らく我の存在を明かしたくなかったからだろう。
 こちらは別に構わなかったのだがな。二つ目は、ある意味我が始祖だからだ。簡単に言うと、
 母は死に際に自分の力の根源を我に受け継いだ。故に我は始祖と同等の力を持っている。
 現代の能力者と性質が違うのは、純粋な始祖の血と混血との違いだ。現に御月はそちら側だぞ?」

質問に答え、更に続ける。

「更に言うと、我と御月は元々1つの人格だった。先程話した魔術師によって人格を分けられてしまったんだ。
 降魔の剣さえあれば元に戻れるんだが…。まぁこれはそちらには関係のない話だったな。忘れてくれ。
 さて、我の話はこれでおしまいだが、これからどうする?カノッサとやらの本拠地にでも乗り込むか?
 …どこにあるのかは知らんが」

話を終え、虹色兄弟にこれからの行動を尋ねる。

「そう言えば、貴様に質問の答えをもらっていなかったな。先程の質問に答えてもらおう。
 何故化身の娘を追っていた?…貴様が答えられないのならば女の方を探し出して聞いても良いんだぞ?
 化身の娘と一緒に行動している限り、我の目からは逃れられん」

終始黙って話を聞いていた不知哉川に目を向けた。

【アリス・フェルナンテ:話を終え、不知哉川 霊仙に質問の答えを求める】
229雲水 凶介 ◆ICEMANvW8c :2010/09/16(木) 22:17:34 0
>>227
「…会って早々何を言ってるんだ筆頭?僕がいつお前に歯向かう真似をした?」
雲水の指摘に対しダークフェニックスは即座に否定し、
裏切りと考えるに至った理由、そしてその疑念は自分に対し向けられるものではなく、
四天王の誰かに対し向けられるべきものであるとの主張を、立て続けに捲くし立てた。
雲水は静かにそれを聴いていたが、彼の言葉が終わると同時に「ククク」と笑い出すと、
目を瞑り口元を歪めたその顔のまま言い放った。

「……“僕”か。人格も変わったのか?
 それとも、それがお前の正体で、今まではお前自身が意図して作り上げた人格ということか?
 だとするなら大した演技力だな……だが」

雲水が目をカッと見開く。
笑みの見えた顔は殺意剥き出しのどす黒いそれへと変わっていた。

「それには気付かなくとも、お前の真意に気がつかなかったとでも思っていたか?
 お前が内に秘めていた微かな敵意を見逃すほど俺達は甘くはない。
 わかるか? 俺はお前に造反の“疑念”を抱いているんじゃない。“確信”しているんだよ。
 ──お前と問答する気などハナからないのさ──」

そうして彼の弁明を全て封じ込めた雲水は、纏っていた微かなオーラを一気に増大させた。
そこに氷室ほどの派手さはない。ディートハルトほどの量はない。切谷ほどの圧迫感はない。
だが、体の芯から震えを覚えるような、何とも言えぬ不気味さだけは誰よりも多く含まれていた。
                   インフィニットセイバー
「俺自らが闘うのは……そうだ、『幾億の白刃』の時以来か。
 俺の能力をお前はまだ知るまい。あるいは知っていてもその一端しか知らんだろう。
 光栄に思え。一生に一度あるかないかの好機に、お前は巡り合えたのだからな」

雲水の体から溢れ出る黒色のオーラは、
電灯の昼白色に染まった密閉空間を徐々に黒く染め替えつつあった。

【雲水 凶介:戦闘態勢に入る】
230闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/17(金) 18:08:04 0
>>229
「一人称程度で簡単に人格を否定しないでほしいな。しかし、そこまで僕が造反者と頭ごなしに決め付けるとは…
 四天王に慕われていない事を認めるのがそれほど怖いか?」

筆頭の反応は四天王への疑念を打ち払うのではなく、ただ考えないようにしているものだった。
精神に付け入る隙はいくらでもあるだろう。

「まあそれも仕方がないか。何せお前は当の昔に人を従わせる器ではなくなっていたからな。
 …そう、2年前『幾億の白刃』程の者を"従わせる事ができずに殺した"時から、お前は支配者としての器を失っていたんだ」

筆頭含めた四天王で『幾億の白刃』を殺した事は、僕からしてみれば支配者としての力量の低度を知らしめたものだった。
その程度の人間が支配者面してこれまで生きていた罪は、僕が直接手を下す事で制裁するものだろうか?
異能者が戦いで相手に能力を知られないようにしているのは常識だ。
僕が能力を知らずに戦った相手は筆頭に限った事ではないし、知った気にもなっていない。
だが口振りから筆頭は僕の能力を知った気でいる。
2年も自ら戦わないでいてこの自信…戦わない異能者は劣化していく一方のようだ。

「そうさ…誰がお前にこれ以上従う義理がある?別に僕に限った事じゃない。
 今日1日で数百人といた戦闘員の部下が全滅したのは、意図しようとしまいと全てお前の責任である事を、
 四天王だって解っているだろう。お前が此処で殺されそうになっても、誰も助けには来ない。
 今頃お前が死んだ後の"筆頭"を次ぐのが誰か相談している事だろう。
 もっとも、この戦いを終える頃にはその答えはおのずと出るけどね」

僕は忠誠心を否定する本音と共に、四天王の忠誠心も否定したまま、そうと決まってるかように筆頭の疑念を残しておく。
そうだ…こいつを殺すのは簡単だが、ここは今後の部下となる四天王に格の違いを見せる為に、
化身の…いや、"支配者としての力"を見せ付けておくべきだな。それに――

「――…実は僕も、お前が生涯巡り合う事のないはずの相手を用意している。
 使うか多少迷っていたが、やはりお前を殺す者として最も相応しいのはこいつのようだ」

そう言って僕がコートから取り出したのは1枚のタロットカード。
それは、父様が氷室霞美程度の女にできる占いなら自分にもできると購入した代物。
だが僕はこれで占いをするわけではない。
取り出したカードは、黒い甲冑を着た骸骨が描かれた]V番目の大アルカナ、DEATHの名を持つ死神のカード。
それをあえて逆位置、逆さで取り出してみせる。
死神の逆位置、それが持つ意味は再生、復活。
カードを伝って『闇の不死鳥(ボク)』の黒き炎のオーラが放出し、この筆頭の作り出した黒き密閉空間に溶け込んでいく。
この空間内に存在する筆頭と僕の思念、そして僕の化身の力を使い、
戦いの中で必然的に生まれる、常に隣り合った死の世界からその魂の炎を呼び寄せ復活させる。
そして、その魂は言うなれば筆頭を狩る"死神"
やがてカードは黒い炎で燃えて無くなり、広がった黒い炎は呼び出された魂に肉体を形成していく。
まるでカードからそのまま出てきたかのような、黒い甲冑に身を包んだ"死神"が黒い炎のオーラを纏っている。
その"死神"は優れた異能者としてのセンスを持って、自らを纏う僕の黒い炎のオーラをすぐに使いこなし、そのオーラで無数の剣を形作って自分を囲んでいく。
死の世界から呼び寄せられた筆頭を狩る"死神"とは、たった今話題に上がっていた、かつての最強の異能者『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』だった。

【闇の不死鳥:死の世界から『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』を呼び寄せる】
231雲水 凶介 ◆ICEMANvW8c :2010/09/17(金) 23:45:21 0
>>230
「一人称程度で簡単に人格を否定しないでほしいな。しかし、そこまで僕が造反者と頭ごなしに決め付けるとは…
 四天王に慕われていない事を認めるのがそれほど怖いか?
 まあそれも仕方がないか。何せお前は当の昔に人を従わせる器ではなくなっていたからな。
 …そう、2年前『幾億の白刃』程の者を"従わせる事ができずに殺した"時から、お前は支配者としての器を失っていたんだ
 そうさ…誰がお前にこれ以上従う義理がある?別に僕に限った事じゃない。
 今日1日で数百人といた戦闘員の部下が全滅したのは、意図しようとしまいと全てお前の責任である事を、
 四天王だって解っているだろう。お前が此処で殺されそうになっても、誰も助けには来ない。
 今頃お前が死んだ後の"筆頭"を次ぐのが誰か相談している事だろう。
 もっとも、この戦いを終える頃にはその答えはおのずと出るけどね」
更に捲くし立てるダークフェニックス。
だが、どんな陽動も駆け引きも、もはや雲水には馬の耳に念仏といったところだろう。
雲水はただ無言で一歩、また一歩とゆっくりと距離を詰める。
それに圧されたわけではないのだろうが、やがてダークフェニックスも口を閉ざし、一枚のカードを取り出した。
「……」
そこで雲水も足を止める。
取り出されたカードはタロットカード、それも死神の絵柄を持つカードだった。
一見、何の変哲も無いカードだが、この場でタロット占いに興じるほど彼も酔狂ではあるまい。
であれば、カードをタネにした何かしらの技が繰り出されることは想像に難くない。
もっとも、彼が足を止めたのはそれを警戒したからではなく、
どのようなものを繰り出すかに興味があったからである。

取り出されたカードがダークフェニックスの黒きオーラに覆われ燃え尽きる。
それでも炎は消えるどころか、逆に燃え広がり、徐々に何かを形作っていく。
それは人の形──。やがてはっきりとして現れたのは炎で創られし人の姿、
それもかつて自らの手で殺害したあの『幾億の白刃』であった。

「ほう」
雲水は珍しく驚いて見せたが、別にその見かけに驚いたわけではない。
人形が意思を持たぬ単なる操り人形(マリオネット)ではなく、
まるで本当に蘇ったかの如く、無数の剣を作り出し自ら戦闘態勢に入るその姿に驚いたのだ。
「フッ、大した手品だ」
生前の実力まで復元されているのだろうと雲水は推察したが、それでも動揺はない。
倒せなかった相手であるならまだしも、かつて一度倒したことのある相手なのだ。
恐れを抱く理由などあるはずもない。

「死に切れず戻って来たというのならそれもいい。だが、それも所詮は無駄なこと。
 また直ぐに送り返してやるまでのことだ……」
すっと半歩、足を近づける。
瞬間、『幾億の白刃』が、自身の周囲に浮遊させていた無数の剣を撃ち放った。
不規則な軌道、それでいて正に光に近いスピードを持って、それらが雲水に接近する。
だが、雲水はその場から微動だにしない。
できないのではない、しないのだ。
何故なら彼にとって、このような技は回避する必要がないからだ。

雲水の眼前にまで迫った無数の刃達がふとその場から消える。
物理的に破壊されたわけではない。煙のように突然消失したのだ。
「じゃあな」
『幾億の白刃』の疑問を他所に、雲水は一方的に宣告する。
それは消失した無数の刃が、突如として『幾億の白刃』の眼前に現れたのと同時であった。

刃は、容赦なく『幾億の白刃』の全身を撃ち抜いていった──。

【雲水 凶介:技を跳ね返す】
232不知哉川 霊仙:2010/09/18(土) 04:05:58 0
>>223>>228
アリスの話を短くまとめればこうなるだろう。
彼女は「御月」と呼ばれる人格と「アリス・フェルナンテ」と呼ばれる人格の二つを有している。
特に「アリス」は特別な人格で、『原初の異能者』──
つまり、始祖の子であり、異能力を有する人類最初の人間の人格らしい。
更に元々はその二つの人格も一つのものであったが、ある事情から人格が分裂してしまい、
それを戻すために降魔の剣を探しているとのこと。

(……ザ・ファースト……。なるほどなぁ、そういうことやったんか。
 ほんならあの出鱈目な強さもうなずけるってもんや)

そんなアリスの話も人によっては誇大妄想に聞こえるものだ。
不知哉川自身、聞き入りながらも初めは半信半疑な思いを拭えずにいたが、
始祖・化身に続くキーワード、『原初の異能者』というものを明らかにされてより、
何か全てが一本の線に繋がったような気持ちになっていた。

(んにしても、こいつ一体何年生きてんねん。
 数万? 数千? いずれにしてもめっちゃオバンやん……
 冬眠してたゆーてたけど、そんでもそろそろ腰に来る年齢とちゃうの?
 よくまぁあんな動けるもんや……やっぱ俺らとはモノがちゃうってことなんやろか)

「そう言えば、貴様に質問の答えをもらっていなかったな。先程の質問に答えてもらおう。
 何故化身の娘を追っていた?…貴様が答えられないのならば女の方を探し出して聞いても良いんだぞ?
 化身の娘と一緒に行動している限り、我の目からは逃れられん」
気がつけば彼女は不知哉川に話を振っていた。
彼女が条件を守った以上、不知哉川も変に隠し立てする気はなかったため、素直に喋ることができた。

「俺らは元はある事情からカノッサを追ってたんや。
 それが物騒な輩に車を破壊されるわ、四天王が出てくるわでゴチャゴチャなったところで、
 カノッサが化身を狙っとるっちゅーことを聞いてなぁ。
 別に放っておいてもよかったんやけど、俺の相方が化身は自分の顔見知りや言うんで
 放っておくわけにもいかず、あそこに向かったってわけや。ホンマそれだけやで」

目的は無間刀ということなどは省かれていたが、
化身を追っていた理由を聞かれただけだから別に嘘は言っていない。

「あー、それとなぁ、カノッサの本拠地は多分あっちやで」
と、不知哉川は西を指差した。
何故わかる? というような顔をするアリスに、不知哉川は両手を広げて答えた。
「あんたは化身の力に近いもんを持っとる分、気がつかんのかもしれんけどな、
 俺なんかはさっきから磁石に吸い寄せられるようなモンを感じてんねん。西の方からな。
 魔水晶ってのは要はエネルギーの塊やろ? なんか異能者を引き付けるような力が働いてんちゃう?」

【不知哉川 霊仙:質問に答える】
233アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/18(土) 13:55:47 0
>>232
「俺らは元はある事情からカノッサを追ってたんや。
 それが物騒な輩に車を破壊されるわ、四天王が出てくるわでゴチャゴチャなったところで、
 カノッサが化身を狙っとるっちゅーことを聞いてなぁ。
 別に放っておいてもよかったんやけど、俺の相方が化身は自分の顔見知りや言うんで
 放っておくわけにもいかず、あそこに向かったってわけや。ホンマそれだけやで」

不知哉川の答えを聞き、頭の中で反芻する。

「成程。貴様らは化身の力を狙っていたわけではなさそうだな。
 …ついでに言っておくが、我の肉体年齢は貴様らとあまり変わらない。
 自慢ではないが、これでも今まで"御月の時を含めて"何人もの男に言い寄られたものだぞ?
 それに貴様らとは根本的に"体の造りが違う"。貴様こそ無理をして"腰を痛めても"助けてやらんぞ?」

フフッ、と首を傾けて妖艶に笑い、不知哉川に皮肉を言う。
これはアリスなりの、多少なりとこの男を信用した証でもある。
当の不知哉川は驚いた表情をした後、バツが悪そうに頭を掻いていたが。

「あー、それとなぁ、カノッサの本拠地は多分あっちやで」

不意に不知哉川は西を指差した。

(何故方角が分かる?我ですら探知できなかったものを何故この男が…)

疑問に思っていると、不知哉川が解説を始めた。
どうやらこちらも顔に出ていたようだ。

「あんたは化身の力に近いもんを持っとる分、気がつかんのかもしれんけどな、
 俺なんかはさっきから磁石に吸い寄せられるようなモンを感じてんねん。西の方からな。
 魔水晶ってのは要はエネルギーの塊やろ? なんか異能者を引き付けるような力が働いてんちゃう?」

「ふむ、そういえばダークフェニックスも似たようなことを言っていたな。我にとっては魔水晶など
 単なるエネルギー体でしかないからな。吸い寄せられるようなことはない。しかし普通の異能者はそうではないのか…」

魔水晶とは化身の、言うなれば始祖の力の塊だ。強弱はあれど自分も同じ力を持っているのに、どうして吸い寄せられようか?
自分と他人との違いに少しだけ時代の流れを感じた。

「…そう言えば魔水晶に惹かれて街中の異能者が集まるという話だったが、結局集まったのは貴様らと我だけ、しかも我はその理由ではない。
 どう考えても少なすぎると思うのだが、街で何かあったのか?この街は異能者が多くいるはずだが…。
 それにカノッサとやらの戦闘員もほとんど見かけない。ほんの数人程度だ。
 仮にも組織を名乗るならば、四天王と呼ばれる4人、それにダークフェニックスを合わせても少なすぎる。
 貴様らを通り越したときに見たあの屍のような奴らも何か関係が?あれも戦闘員だったのか?」

【アリス・フェルナンテ:不知哉川に今までに感じた疑問を投げかける】
234闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/18(土) 17:11:23 0
>>231
自らの刃で全身を撃ち抜かれた『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』を見て、僕は半歩だけ後退り眉を顰めた。

「ばかな…あの『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』がこんなあっさりやられるとは…
 さすがはカノッサ四天王筆頭というだけはある――

 ――なんて言うと思ったか?」

だがすぐに姿勢も表情も戻し、僕は笑顔で彼を見る。
無数の刃に全身を撃ち抜かれたはずの死神も平然としていた。
弁慶の仁王立ち状態というわけではない。ダメージは全くなかったのだ。
その刃はやがて彼を纏う黒い炎のオーラに戻っていく。

「筆頭…その刃が何で作られたか見てなかったわけではないだろう?」

『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』を撃ち抜いた刃は、その肉体を成しているオーラと同じ物でできている。
その刃が彼に向けられたとしても、元の彼の身に纏うオーラに戻せばいいだけ。
そもそも彼の"殺気"こそがその刃を形作る感情。その"殺気"はこの空間内において、筆頭だけに向けられたもの。
彼自身はもちろん、仮に僕の方にその刃が現れても、他人に染められないそのオーラで傷つく事は無い。

「2年前『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』を、お前一人で倒した気でいるなら自覚した方がいい。
 お前一人でこの死神に勝つ事はできない」

そして彼もまた筆頭に、傷一つ付ける事が敵わなず勝負がつかない事になるかといえばそうとも限らない。
この黒き空間を支配しているオーラは筆頭のものだけではない。
『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』が漂わせている僕の黒い炎のオーラは、自身の周りだけでなく、
この空間全域に渡って筆頭のオーラに紛れて溶け込み、常にその殺意の刃を筆頭に向けられるようになっている。
そもそも目の前からだけ放った一射目の刃は、本気で筆頭を殺しにかかっていたとは思えない。
挨拶代わり…と言うよりはこの空間の仕組みを探る為の試射と言ったところか。僕もこの空間がどういったものかおおよそ解った。
そして僕が口を開けて数秒の間を置いた後に『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』の第二射の刃が放たれた。
二射目の刃は筆頭の目の前からだけでなく、四方八方の死角から、
脳、首、腕、背、腹、股間、脚、体中を狙って止め処なく放たれ続けた。
そして彼は全くその場から動かなかった一射目と違い、二射目は撃つと同時に筆頭に向かって、
再びオーラで作り出した無数の刃を嵐のごとく自らにも纏い、正面から突っ込んでいった。
一射目がその弟子の海部ヶ崎綺咲の技で言う『飛花落葉(ひからくよう)』ならば、この二射目は『百花斉放(ひゃっかせいほう)』
彼女と違うのは、使う刃物が跳ね返されても平気な、自らを形成するものと同じオーラで作られている事、
そして磁力が付加されなくても弟子をはるかに上回る、最強の異能者と呼ばれるに相応しいそのスピードだ。

【闇の不死鳥:『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』は筆頭の死角から刃を撃ち放ち、正面からは自らも刃を纏って接近する】
235雲水 凶介 ◆ICEMANvW8c :2010/09/18(土) 22:19:34 0
>>234
「ん……?」
雲水は眉をピクリと動かして呻った。
全身を自らの剣で串刺しにされて絶命したはずの『幾億の白刃』がむくりと起き上がったのだ。
「筆頭…その刃が何で作られたか見てなかったわけではないだろう?」
いわれるまでもなく、雲水自身も既に理解はできていた。
『幾億の白刃』の肉体はオーラによって復元され、剣も同じオーラによって具現化されたものだ。
剣が肉体を欠損させたとしても、その剣のオーラを崩して肉体に補填すればダメージなどあろうはずもない。
だが、それでも雲水は自らの優勢を信じて疑ってはいない。

「2年前『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』を、お前一人で倒した気でいるなら自覚した方がいい。
 お前一人でこの死神に勝つ事はできない」
故にこの言葉には失笑を禁じえなかった。
「フッ、“捨て駒”と書いて“死神”と読ませるのが流行っているのか?
 ──ハナから『幾億の白刃(こいつ)』に、死神としての価値などあるまい──」

彼が言い放つと同時に、再び戦端が開かれる。
雲水は感じていた。自らの上下左右、あらゆる死角に向けて、鋭い殺気が放たれたことを。
それはわざわざ視認するまでもなく、凶悪な刃の群れであるということも解っていた。
それでも彼は眉一つ動かさず微動だにしない。
完全に虚を突くタイミングではあったが、かといって避けても無駄と達観したわけではない。
先程と同じく避けるに値しないというのもあったが、
無数の刃を自らに纏って真正面から勢い良く突進してきた『幾億の白刃』の姿に、
一瞬、死角の刃の存在を忘れてしまうほど、無意識に意識を奪われた為でもあった。

「──亡者とは、哀れだな──生前の面影すらない──」

死角に降り注いだ無数の刃が雲水に触れる瞬間──
音も無く、蒸発してしまったかのように、またしても何の前触れもなく消失していく。
それは『幾億の白刃』とてついに例外ではありえなかった。
雲水の纏う漆黒のオーラに吸収されるようにして彼もその眼前で姿を消したのだ。
一滴の血も、一片の肉片も残さずに、跡形もなく──。
そして先程とは違い、消えた刀や『幾億の白刃』は、二度とこの世に現れることはなかった。

「さて、面白い手品を見せてくれた礼だ。俺も少し、変わったものを見せてやろう。
 ……そうだな、あれが良いか」

空間に蓄積されていた黒色のオーラが徐々に『円』を形成していく。
広い空間に目一杯広がったその円状のオーラは、あたかも小規模なブラックホールのように見える。
だが、これはブラックホールのようにあらゆるものを飲み込みはしない。
逆だ。あらゆる不吉を吐き出すいわば黒いホワイトホールなのだ。

「──我が異能力よ、今こそ時空を超えて解き放て──。──『リリース』──」

その言葉を合図に、黒円は強烈な風と、
それと共に見たこともないほどの巨大な岩石──いや、『隕石』を吐き出した。
隕石はその大きさから壁や通路を破壊しながらも、なお勢い衰えることなく突き進む。
当然、向かう先はダークフェニックス。だが、それは押しつぶすためのものではない。

「──『スーパーノヴァ』──」
これは技名なのか、雲水が轟音鳴り響く中、ぽつりと呟いた。
その瞬間、隕石が内部から爆裂──
周囲をもろとも木っ端微塵に粉砕する巨大な大爆発を引き起こした。

【雲水 凶介:『幾億の白刃』を消滅させ、巨大隕石を出現させ大爆発を起こさせる】
236闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/19(日) 00:24:14 0
>>235
…なるほど。
『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』は再び"死の世界"に帰されたようだ。
そして筆頭から繰り出される大技――
――これが"彼"の狙いだったようだ。

筆頭は"死神"がどこから来たのか解っていない。
"死神"はこの戦いの場に隣り合う"死の世界"から僕に呼び出された。
その魂は自身を殺した四天王が死ぬまで消える事もなく、
この場に存在する筆頭と僕が彼を忘れない限り、その思念が何度でも彼を此処に呼び寄せる道を作る。
そして『闇の不死鳥(ボク)』が此処に存在する限り、そのオーラで作った肉体も消える事はない。
肉体を保ったまま帰されたその"死神"の魂は、その肉体を成すオーラと此処にいる僕のオーラの共鳴を頼りに
確実に現世に向かってきている。そして――

「──『スーパーノヴァ』──」
「無間刀」

筆頭の言葉を遮る様な低い掛け声と共に、手にした刀で空間を切り裂き、世界を越えて"死神"は再び現世に舞い戻った。
そして舞い戻った場所は、消える前と同じ筆頭の眼前。
空間を切り裂いたその刃は、その軌道上にある筆頭の腹も切り裂き、
隕石の爆発から逃れる為か続け様に斬りつける為か筆頭の背に回る。

…そうか。筆頭は彼が降魔の剣を無間刀と呼んでいたなどと言っていたが、降魔の剣の効力でそう名付ける理由など考えられなかった。
だが無間刀が刀自体を指していたのではなく、その刀から繰り出される技を指していたのだとすれば説明がつく。
"間"を"無"にする"刀"…舞い戻った『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』の持っていた刀は僕のオーラで作られた刀ではなかった。
オーラを放さず刀身に込めたまま斬る事で相手との"間"に存在する全ての障害物を"無"くし、斬る"刀"と変える。それが無間刀。
オーラを全く放出しない刀身は、カマイタチどころか、一陣の風さえ起こす事もできないので、刀そのものが届く範囲まで相手に接近する必要がある。
だがその刀身が届く範囲に相手がいるなら、例えそれが能力で作り出された異空間の出入り口であっても両断し無に帰す。
斬れない物の無いその全能の刃によって、彼は攻撃面で敵う者無しの最強の異能者と謳われる事になったのだろう。
降魔の剣そのものを無間刀と呼んでいたと誤解していた筆頭は、その由来もこの技も知るはずもなく、こうして斬られたわけだ。
もっとも『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』のその執念は、微塵も僕を護る事になど向けられはしないから、
僕に向けられた攻撃は自分で解決しなければならないけどね(ここまでの思考時間は僕に隕石の大爆発の影響が届くまでの間の一瞬)

【闇の不死鳥:空間と筆頭を切り裂いて『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』復活】
237不知哉川 霊仙:2010/09/19(日) 15:03:41 0
>>233
「…そう言えば魔水晶に惹かれて街中の異能者が集まるという話だったが、結局集まったのは貴様らと我だけ、しかも我はその理由ではない。
 どう考えても少なすぎると思うのだが、街で何かあったのか?この街は異能者が多くいるはずだが…。
 それにカノッサとやらの戦闘員もほとんど見かけない。ほんの数人程度だ。
 仮にも組織を名乗るならば、四天王と呼ばれる4人、それにダークフェニックスを合わせても少なすぎる。
 貴様らを通り越したときに見たあの屍のような奴らも何か関係が?あれも戦闘員だったのか?」

   あいつら
「カノッサの連中はなぁ、オーラを感知できる機械持っとんねん。
 俺ら以外残らず死んだとは言えんけど、それでも短時間で相当殺られたのは間違いないやろな。
 けど、それは恐らく敵も然りやで。実際、あの建物ん中で戦闘員が虐殺されとったやろ?」
と、不知哉川がアソナの本拠地のある方角を顎でしゃくる。
「その死んだ戦闘員達が操られてゾンビになったのが、あの建物の周りでうろついてた連中や。
 思考能力はないけど異能者を発見して襲い掛かるようプログラムされとる。
 俺らは何とか切り抜けられたけど、あれで、また更に異能者が減ったんやないか?
 とすると、今も生き残ってる連中は、下手すると一桁いくかいかないかくらいかもなぁ」

顎に指を乗せて神妙につぶやく不知哉川。
推論ではあっても、ディートハルトから得た情報にもとづいてのものであるから、
少なくとも異能者が相当減っているということは確実である。
(……そういえばキサちゃんは大丈夫やろか。
 死んではいないと思うけど、そろそろどこかで合流した方がええやろな。
 問題はどこにおるかやけど……ん、待てよ……)

不知哉川の頭がピーンと閃く。だが、異変が起こったのは、その時だった──。
「ドォーーン」という耳を劈く轟音と共に、西の空が赤く輝いたのだ。

「うをっ!? な、なんや──」

思わずそう叫びながらも、彼は無意識の内に何が起こったのかを理解していた。
(あれは西の方角──。四天王の誰かが闘ってるんやな──)

「……とにかく、今はアジトに向かってもしゃーないやろ。
 敵は四人や五人とは言え強敵や。こっちもそれなりに頭数を揃えんと」
四天王と互角以上に渡り合えるアリスであればそうは思わないかもしれない。
だが、それはあくまで強者だからこそ言えることであり、不知哉川には真似のできないことである。
彼のような人間が生き抜くには、一人でも多くの人間と結束しなければならないのだ。
「キサちゃ──あ、いや、海部ヶ崎の居場所は判るんやろ?
 海部ヶ崎ってのは、化身と一緒に行動してるっちゅー女のことや。
 まずはそいつと合流させてもらうで。──なに、ただでとは言わんよ」

不知哉川は人差し指をピッと立てる。

「案内してくれたら俺も一つあんたに教えたる。
 それは『無間刀』──『降魔の剣』の在り処や──」

【不知哉川 霊仙:海部ヶ崎のもとに案内したら、無間刀の在り処を教えると言う】
238虹色優:2010/09/19(日) 21:27:51 0
>>228
「カノッサの本拠地…ですか…」
「場所は分からないけど…」
「探してみましょうか…」
優、詞音、御伽が交互に言う
どうやら向かうつもりのようだ
「そのためには準備が必要だね」
優が言う
「どうしようか…」
続いて詞音
「うーん…」
最後に御伽
【虹色兄弟:アリス・フェルナンテの質問に答える】
239アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/19(日) 22:17:11 0
>>237
「……とにかく、今はアジトに向かってもしゃーないやろ。
 敵は四人や五人とは言え強敵や。こっちもそれなりに頭数を揃えんと」

(確かに、四天王とやらがどの程度かは分からんが少なくともダークフェニックスより弱いということはなかろう。
 それを4人同時に相手にするとなると…降魔の剣があってもわからんな。如何に始祖の血縁とて限界はある)

「キサちゃ──あ、いや、海部ヶ崎の居場所は判るんやろ?
 海部ヶ崎ってのは、化身と一緒に行動してるっちゅー女のことや。
 まずはそいつと合流させてもらうで。──なに、ただでとは言わんよ」

確かにあの女の居場所は分からなくとも、化身の娘の居場所なら分かる。
一緒に行動しているのなら女の居場所が分かるのと同義だ。

「案内してくれたら俺も一つあんたに教えたる。
 それは『無間刀』──『降魔の剣』の在り処や──」

不知哉川のその一言に少し驚く。
何故この男が降魔の剣のありかを知っているのか?

(…そんなことはどうでもいい。真偽を確かめた方が早い)

「ほう?貴様が降魔の剣の在り処を知っていると?そんな事を我に教えて良いのか?
 我は降魔の剣さえ手に入れれば奴等全員に勝てるぞ?
 手に入れた瞬間足手纏いになりかねない貴様を殺す事だって有り得る」

不知哉川に脅しをかける。
これは情報の審議を確かめると同時に不知哉川の覚悟を見極める為でもある。
何せ今度の戦いは今まで以上に熾烈なものになるはずだ。
そんな戦いに中途半端な覚悟で臨まれたら、それこそ足手纏いだ。
240アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/19(日) 22:18:50 0
>>238
「カノッサの本拠地…ですか…」
「場所は分からないけど…」
「探してみましょうか…」
「そのためには準備が必要だね」
「どうしようか…」
「うーん…」

どうやら優達も戦いに参加するようだ。
こちらが不知哉川と話している間、先程の問いに対する答えを考えていたようだ。
しかし不安である。
優達の能力では四天王に通じるかどうか怪しい。
彼らは御月の、延いては己の雇い主である。むざむざ死なせるわけにはいかない。

「よく考えて行動することだ。これから行う戦は正しく総力戦。
 我とて無事に生きて帰れるかどうかは分からない。
 厳しい言い方になるが、我より遥かに劣るお前達が生き残れる確率は我より遥かに低い。
 ついて来た所で自分の身すら守れないようではいない方がましだぞ?それでも良いのか?」

優達にも覚悟の程を確かめる。
こちらは純粋に危険な目に会わせたくないという御月の願いでもある。

【アリス・フェルナンテ:不知哉川の情報の真偽を確かめると同時に、虹色兄弟共々戦いに臨む覚悟を確かめる】
241雲水 凶介 ◆ICEMANvW8c :2010/09/20(月) 00:05:31 0
>>236
爆風や轟音と共に、地面一帯に広がった巨大な大火球は、
とてつもない衝撃波と灼熱の熱線を広範囲に渡って撒き散らす。
周囲のあらゆる物体は容赦なく薙ぎ倒され、やがて焼失していく。
そんな灼熱地獄を生み出した火球の中心点で、雲水は涼しい顔で仁王立ちしていた。

本来、これは彼の技ではない。故に彼とて爆発に巻き込まれれば無傷でいられない。
しかし彼は、『カオスゲート』の入口を全身の表面にまるで防護服のように展開することで、
爆発の衝撃と熱を異空間に受け流すことができ、この地獄にも耐えうることができるのだ。

「バカバカしい技だが、その分効果は絶大だ。この爆発から逃れることはできん」

ひとしきりエネルギーを吐き出した火球はやがて急速にその輝きを失い収束していく。
火球が完全に消滅する頃には、周囲は緑溢れる森林地帯から、不毛の荒野へとその姿を変えていた。

「だが──」
全てが灰と化した辺りを見回しながら雲水が脇腹を抑える。
脇腹からは血が滴り、パックリと大きな切り傷ができていた。
「爆発よりも、『カオスゲート』が展開するよりも速く、俺に一太刀を浴びせるとはな。
 この様子では死に至ってはおるまい。大した奴だ、この短期間でここまでのパワーアップを果たすとはな」

ピピピ!
雲水のスキャナーが通信回線を開く。通信の相手は氷室であった。
「ガラにも無く派手なことをやったもんだね。
 お陰で洞窟ごと通路の半分が綺麗に吹き飛んだじゃないか。これじゃ丸見えだよ。
 全く、何の為の秘密基地なんだか……」
「フン、魔水晶が完成を見れば、こんな穴倉なんぞに篭る必要もなくなる。
 それに何もせずとも異能者どもには知れる場所だ。問題はなかろう」
「……ところで、敵は?」
「それについては後で話す。なにやら面白い事になりそうなんでな」
「……ふーん、そうかい」

氷室との通信はここで終了した。
雲水は周囲をもう一度一瞥すると、やがて半壊した通路に足を進めた。
「奴め……恐らく人工化身にでもなったか……。
 これは流石の俺も想定外だったが……だからこそ面白い……か。
 ──この俺も、久々に“本気”になれそうだな──ククククク──」

【雲水 凶介:アジトへ引き返す】
242雲水 凶介 ◆ICEMANvW8c :2010/09/20(月) 00:25:21 0
訂正

×爆発よりも、『カオスゲート』が展開するよりも速く、俺に一太刀を浴びせるとはな。
○『カオスゲート』ごと切り裂き、俺に一太刀を浴びせるとはな。
243闇の不死鳥 ◆vmVAU8BU2zJP :2010/09/20(月) 07:47:31 0
>>241-242
父様の異能者としての身体は、攻撃の破壊力と肉体の回復力が圧倒的に優れている分、
防御や回避に至ってはカノッサ中級戦闘員にも及ばないような代物だった。
なのでこの爆発…僕はそれを防ぐ事も逃げる事も無かった。
生きていられると踏んで回復力に賭けたか?
いや、この攻撃を受ければこの身は跡形も無く滅び、再生の余地はない。
そう、僕の身体はその爆発の前に跡形も無く消し飛ぶ結果となった。
化身の無限のオーラを得た破壊の力を持ってすれば相殺できない事も無かっただろうが、あえてそれもしなかった。
母様のくれた化身の力は失う結果になったが、僕の1つの念願が果たされたのだ。

『この様子では死に至ってはおるまい』

ハハハ…筆頭はやはり僕の真の目的には気づいていないようだ…
その一太刀を与えたのは『幾億の白刃(インフィニットセイバー)』の執念…
僕はその願いを叶える為の身体を与えたに過ぎない…
だが今お前が生きてるのは彼の執念が足りなかったわけも、お前の運が良かったわけでもない…
死神の一太刀はお前の死へのカウントダウンを刻んだ…
後は時を待てばいい…僕が全てを手にするその時を…この闇の中で…

【闇の不死鳥:???】
244不知哉川 霊仙:2010/09/21(火) 04:39:23 0
>>239>>240
「ほう?貴様が降魔の剣の在り処を知っていると?そんな事を我に教えて良いのか?
 我は降魔の剣さえ手に入れれば奴等全員に勝てるぞ?
 手に入れた瞬間足手纏いになりかねない貴様を殺す事だって有り得る」

と、すごむアリスだったが、不知哉川は少しも怖気づく様子はなく、サラリと言ってのけた。

「ホンマにその気があるなら、無間刀を手に入れるその時まで黙ってるはずやろ?
 わざわざ事前にその可能性を指摘するっちゅーことは、殺す気はないってことや」

もっとも、不知哉川が彼女の言葉を意に介していないのは、別にこれだけが根拠ではない。
そもそも彼女が指摘した可能性は、“在り処を知る”のと“手に入れる”がイコールでなくては成り立たない。
無間刀が雲水というカノッサ随一の強敵のもとにある以上、
可能性でいうならば、彼女の思考が足手纏いを排除する方向に進むより、
むしろその足手纏いと協力する方向に進む可能性の方が遥かに高いのである。

(もっとも、アリスに殺されなくとも、連中に殺されたら同じやけどな。
 俺だって『幾億の白刃』と組んでた時から修羅場は何度も経験しとるけど、
 今回は今まで以上に厳しい闘いになるのは間違いないやろ。
 場合によっては“アレ”を使うハメにも……ったく、気が重いで……)

【不知哉川 霊仙:アリスに返答する】
245アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/21(火) 12:54:49 0
>>244
「ホンマにその気があるなら、無間刀を手に入れるその時まで黙ってるはずやろ?
 わざわざ事前にその可能性を指摘するっちゅーことは、殺す気はないってことや」

(成程、情報屋だけあって頭の回転は悪くないようだな。使う価値はあるということか。
 しかしまだ何か隠している可能性もある。いや、隠していると見て間違いないだろう。
 …こちらには関係のない情報かもしれないがな)

不知哉川の返答を聞いて考えをまとめる。
殺すことを急ぐ必要はない。いつでも殺せるのだから。
信用できなくなったと判断した時点でも遅くはない。

「…さっきから気になっていたのだが、その『無間刀』というのは何だ?
 貴様の話しぶりからすると降魔の剣の別称のようだが…。
 我はそんな銘をつけた覚えはないぞ?
 まさか…奴か!あの男が勝手につけたのか!
 忌々しい奴…もし生きていようものなら必ず探し出し八つ裂きにしてくれる…!」

かつて降魔の剣を盗み出した一人の男を思い出し、怒りに任せて吐き捨てる。
あまりの怒りにオーラが抑えきれず、周囲の地面が小刻みに震動する。

(今はあんな奴の事などどうでもいい。せっかく手に入れた剣の情報、見逃すわけにはいかん。
 それに化身の娘がいるなら我にとっても好都合。一石二鳥が三鳥になるかも知れん)

「よかろう、その話に乗ってやる。だが出発するにあたって1つ忠告しておく。
 分かるのはあくまでも化身の娘の気配だけだ。貴様の仲間の女は一緒にいないかもしれない。
 最初から確率は50%ということだ。いなくても文句を言うなよ?」

本当は海部ヶ崎の気配も探知できるが、敢えてここで言う必要はない。
与えるのは最低限の情報だけで十分だ。それは向こうも同じはず。
まだ全てを信頼したわけではない。先程のこちらの身の上話も、全てを明かした訳ではないのだ。
246アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/21(火) 12:55:56 0
「優達はここに残ってくれ。幸い気配はそう遠くない。すぐに帰ってくる。
 万が一を考慮してこれを渡しておこう」

兄弟を代表して優に白く光る掌ほどの大きさの玉を渡す。

「これは我と連絡を取る為のものだ。それをもって心の中で我の名を呼べば通じるだろう。
 何かあったら連絡するといい。使わないに越したことはないがな。
 では行くとするか」

意識を集中して始祖の力を解放し、『楽園の守護者』に変身する。
そして先程と同様に不知哉川を背に乗せ、哀の気配に向けて走り出す。

(とは言ったものの、既に女の方は化身の娘から離れて行動している。
 このまま向かった所で会える確率は0%だろう。
 とりあえずは化身の娘が優先だ。話を聞いてみるとするか)

哀の気配は移動している。
方向を確認すると、先程不知哉川が示したカノッサの本拠地のある方角だった。

(如何に化身の力を得たとは言え、単身乗り込むつもりか?愚かとしか言いようがないな。
 紛い物とは言え始祖の力をいきなり手にした者が、この短時間で使いこなせるわけはない。
 血に支配され暴走しているのか?…いや、十中八九その線だろう。でなければこの愚行の説明がつかん)

走りながら哀の中に眠る始祖の血の状態を推測する。
その結果、哀は始祖の血に支配されていると判断し、その状況の対応策を構築する。


やがて多少ふらつきながらも、カノッサの本拠地の方角へ向かう少女を発見する。

(奴が化身の娘か。実際に会うのはこれが初めてだな。
 さて、血に支配されていたらまともな会話など期待出来んが…)

などと考えていると、頭の後ろで不知哉川の落胆の溜息が聞こえる。
無理もないだろう。一緒にいるはずの自分の探し人がいないのだから。
それでも最初の忠告を守ったのか、不平不満を漏らすことはなかった。
哀を飛び越して地面に着地し、振り返って念話を飛ばす。

――止まれ。お前に話があって来た――

【アリス・フェルナンテ:不知哉川と共に阿合 哀に接触】
247阿合哀(人工化身):2010/09/21(火) 19:00:24 0
>>220で目覚めた人工化身の人格は>>147で目覚めた"感情の無い、機械のような目をしていた人工化身"の人格の時とは少し様子が違っていた。
同じ血によって生まれた人格とあっても、それは遺伝子が同じでも違う存在である。
同じ親から生まれたといっても、兄弟で同じ人格を共有してるわけではないのと同じ。
それに依り代となる阿合哀が"眠ってた事で完全に意識を失った状態で生まれた人格"と違い、
"完全に意識を保っいた状態から生まれた人格"は、根本からそれを成そうとする遺伝子情報が変わってくるのである。
新たに生まれた人工化身の彼女を支配している感情は、"無"の感情などでではなかった。

「我は"姉様"のように何もできずにやられる愚かな存在ではない…」

降魔の剣を出されただけで、それまで猛威を振るっていた動きを完全に止めて抵抗を止め、
敵に都合良く成すがままにその力を奪われて消滅した哀れな人工化身。
『毒に愛された少女(ポイズネス)』の能力も殺しつくし、真の力を発揮できずにむざむざやられていった。
災いしかもたらさなかった迷惑な存在。その生き様はこの身体に刻まれたメモリーとして知る事ができた。
彼女に同情する余地もない。だが我がこうして生まれたのは結果としてその仇討ちをする為なのも悟っている。
この"衝動"を発散させるにもまずはあれから殺す。
しかし念話が通じなくなった"彼"は、きっとやられてしまった。
だが同じ血による力の結晶である"魔水晶"はまだ向こうの手にあるのを感じる。
それで一人で立ち向かおうなどと愚かしい事は考えていない。
自分の目の前に飛んできた一人の女、我が生まれる前から頭に語りかけてきたその声の主。
そう…こいつが来るのを待っていた。

「待っていたぞ…我が娘よ」

我は>>246の念話に応える。
>>176で"阿合哀"に話しかけてきたその声は"我"を自分の捜し求めている母親と思い込んでいる。
ならばこちらから出向かずとも、こうして再び我に近づいてくる事は予想していた。
強力な始祖の血を色濃く受け継いだ力は何者にも打ち勝つ力を秘め、我を自分の母と信じて溺愛するその心はとても従順に付き従う。
それは我にとって、とても利用価値のある存在。

【阿合哀(人工化身):止まってアリス・フェルナンテの念話に応える】
248アリス・フェルナンテ ◆21WYn6V/bk :2010/09/22(水) 08:55:04 0
>>247
「待っていたぞ…我が娘よ」

哀が答える。
やはり睨んだ通り血に支配されているようだ。
依然とはだいぶ雰囲気が異なる。
不知哉川を降ろして変身を解き、哀と向き合う。

「貴様、何者だ?その娘の人格ではないようだが。まさか…」

先程自分のことを我が娘と言ったことからも、その可能性はある。しかし――

(この者は母ではないな。母の振りをしている何者かだ。
 こちらが自分のことを母と信じていると思っているようだな。
 それを利用するつもりか…。ククッ、面白い。
 それを更に利用してやるとしよう。最悪捨て駒程度にはなるだろうしな)

目の前の人物が母でないことを看破し、更にその人物の思惑を利用する過程を瞬時に頭の中で構築する。

「母よ、久しぶりだな。こうして会うのは何年ぶりだ?とうに忘れてしまったよ。
 長い事あなたを追い続けてきたが…"アレ"の所在と合わせてあなたに会うのは初めてだ。
 ようやく念願が叶いそうだ」

まずは向こうの思惑通り、こちらが向こうを母と信じていると思い込ませねばならない。
そのためには後ろにいる不知哉川にも協力してもらう必要がある。
自分の背後にいる不知哉川の胸の辺りに翼の先端を差し込む。
驚いている不知哉川に話しかける。

――心配するな。実害はない。これは一種の念話の様なものだ。
   御月の方の力を利用しているから、化身の力では干渉出来ない。
   これから言うことをよく聞け。そして協力しろ。
   "お前"のように頭の回転が速い者がいた方が事が早く進む――

初めて不知哉川を"貴様"ではなく"お前"と呼ぶ。
不知哉川も納得したようなしていないような、半々の顔で目だけで頷いた。

――よし、では説明する。
   現在、目の前にいる女は化身の娘であってそうではない。つまり別人格だ。
   向こうは我の母のつもりのようだが、我は既に別人だと見抜いている。
   しかし向こうはそうは思っていない。こちらが母と信じていると思っている筈だ。
   そこでお前にも話を合わせてもらい、向こうに信じ込ませる。
   上手くいけばお前の仲間も探しやすくなるかも知れんぞ――

不知哉川に説明し、再び哀(?)と話をする。

「母よ、積もる話もあるがまずはこちらの用事を済ませたい。
 人間の女が一緒にいた筈だが、その女はどこへ行った?」

【アリス・フェルナンテ:人工化身に海部ヶ崎の行方を尋ねる】
249阿合哀(人工化身):2010/09/22(水) 20:22:28 0
>>248
溺愛した母親に巡り合えたと思っているはずの彼女の反応は、思ったよりも淡白だった。
言動からして、阿合哀が他の者と共に行動していた時からずっと気にかけていた様子だ。
>>176で語りかけてきた様子からしてもこの淡白な反応はあまりにも不自然…
…いや、此処には親子水入らずの邪魔となっている男が1人いる。
彼の手前、平静を装っているだけかもしれないが――殺したい…
そう思って男に注目していると、彼女は自ら生やしているその翼を、彼の胸に差し込んでいた。
親子水入らずを邪魔されたくない事を彼に訴えているのか、それとも――

「一緒にいた子らがどこへ行ったのかは知らん。"我"が目覚める前の事だったからな。
 大方、信用できる者がいなくなる事を直感したのではないかな?」

いなくなった彼女が信用していたのは、様子からして"彼"ではなく阿合哀だけだっただろう。
"彼"の戻る気配が無くなった時、阿合哀の我を抑えつける強固な意志は急激に弱り始めた。
阿合哀にとっての強固な意志を保つ為の心の支えだったのだろう。我は阿合哀の人格を再び侵食していった。
そしてその様子に気づいた彼女は、少女を連れて我の前から姿を消した。

「…それよりせっかくの親子水入らずの場に持ってきた"それ"はなんだ?」

殺したい…アリスが翼の先を差し込んでいる男を睨む。
これが>>154で雲水という男の言ったような破壊と殺戮の衝動とやらか。
始祖の血を色濃く受け継いでる事が関係してるからなのか、アリスに対してはその衝動は起きない。
だがその後ろの男に対しては"姉様"のような、理由も無く殺したい殺戮の衝動に駆られる。
我は"姉様"と違って理性という物をちゃんと持ち合わせて生まれたが、反する衝動が無いわけでなかった。

【阿合哀(人工化身):不知哉川霊仙を邪見にする】
250不知哉川 霊仙:2010/09/24(金) 00:38:29 0
>>246>>247>>248>>249
獅子に変身したアリスに跨って移動する不知哉川。
先程のように失神はしなかったが、そのスピードに表情は硬直している。
その表情に変化が表れたのは移動して数分が経過したころだった。

風を切る不知哉川の視界に現れた一人の少女。
それが誰かは、不知哉川にもすぐに理解できた。
「おっ……と」
同時にアリスが人間の形態へと戻ったことで、不知哉川も背から飛び降り、少女と対峙する。
その少女の風貌はディートハルトから得た阿合の情報と一致していた。
(キサちゃんは……残念ながらいないみたいやけど……この少女は阿合に間違いないようや)
だが……不知哉川は思わず首を傾げた。
(けど、この雰囲気、何か妙やな……。
 無間刀を刺されて、キサちゃんと接触するまでの間に……
 もしくは接触した後で、何かあったんやろか……?)

訝しげな目で阿合を見つめていると、ふと、胸を突然の違和感が襲った。
見れば、なんとアリスの翼の先端が差し込まれている。
何をする気だ──そう思っていると、頭の中を彼女の声が響き渡った。

『心配するな。実害はない。これは一種の念話の様なものだ。
 御月の方の力を利用しているから、化身の力では干渉出来ない。
 これから言うことをよく聞け。そして協力しろ。
 "お前"のように頭の回転が速い者がいた方が事が早く進む』

念話。つまり、彼女はテレパシーで直接頭脳に話しかけているのだろう。
(……協力……? 一体、何をさせようってんや……?)

『よし、では説明する。
 現在、目の前にいる女は化身の娘であってそうではない。つまり別人格だ。
 向こうは我の母のつもりのようだが、我は既に別人だと見抜いている。
 しかし向こうはそうは思っていない。こちらが母と信じていると思っている筈だ。
 そこでお前にも話を合わせてもらい、向こうに信じ込ませる。
 上手くいけばお前の仲間も探しやすくなるかも知れんぞ』

化身は始祖の血を色濃く受け継いだ存在。
化身を単純に始祖の生まれ変わりと言い換えるならば、
確かにザ・ファーストであるアリスは娘と言えることができる。
だが、その立場を利用して騙そうとするのは、一体何の意図あってのものなのだろうか?
そこが気にはなりながらも、不知哉川は直ぐにその思いを頭から振り払った。
(……まぁええわ。とにかくあんたに話を合わせればええんやろ?)

「…それよりせっかくの親子水入らずの場に持ってきた"それ"はなんだ?」

尖らせた目でギロリと睨む阿合に、不知哉川は臆することなく一歩身を乗り出した。

「俺は不知哉川 霊仙。職業は情報屋、三十三歳独身。
 事情はどうあれ、母を訪ねて三千里の途上にあったあんたの娘さんにここに向かうよう指示したもんや。
 結果として親子感動のご対面を実現させた恩人やのに、
 まさか粗大ゴミでも指すような言われ様をされるとは思わんかったで?」

【不知哉川 霊仙:阿合に答える】
251虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/24(金) 17:11:46 0
「優達はここに残ってくれ。幸い気配はそう遠くない。すぐに帰ってくる。
万が一を考慮してこれを渡しておこう」
「ありがとうございます」
優は受け取った玉をポケットにしまう
「貴方と連絡を取る為のものですか…。使い方は大体わかりました」
説明を聞いて、納得する三人
「あの…」
詞音が口を開く
「危なくなったら協力しますよ? 僕達、戦いは苦手でもサポート位はできますし…」
【虹色兄弟:光る玉を受け取り、アリス・フェルナンテを見送る
同時に優が、目玉のに手足のついた小さな生き物と、耳に手足のついた小さな生き物を描き、
こっそり着いていかせる。目と耳とはそれぞれ視覚と聴覚を共有している】
252アリス・フェルナンテ:2010/09/24(金) 18:47:56 0
>>249>>250
「…それよりせっかくの親子水入らずの場に持ってきた"それ"はなんだ?」

哀の姿をした化身が不知哉川を睨む。
血に支配されているせいか、まともな人格はあっても破壊衝動は起こるようだ。
今にも不知哉川を殺さんとする顔で見ている。

「俺は不知哉川 霊仙。職業は情報屋、三十三歳独身。
 事情はどうあれ、母を訪ねて三千里の途上にあったあんたの娘さんにここに向かうよう指示したもんや。
 結果として親子感動のご対面を実現させた恩人やのに、
 まさか粗大ゴミでも指すような言われ様をされるとは思わんかったで?」

不知哉川が平然と答える。

(ほう、この局面でも臆することなく答えるとはな。一歩間違えれば自分が殺されかねないというのに…。
 やはりこの男、ただの情報屋ではない様だな。修羅場をいくつも潜ってきている様だな。
 しかしそれでも戦闘に関しては並程度。とても化身に適うものではない)

不知哉川の答え方に感心すると同時に語りかける。

――やはり奴は血に支配されているようだ。…少々手荒になるが勘弁してくれ――

「まぁそう邪険にしないでくれ、母よ。この男は我の協力者だ。力は大した事はないが、此奴の情報力は侮れなくてな。
 一緒に行動していたのだ。しかし、そうだな。確かに"今は"邪魔かも知れん。退場してもらうとしよう」

不知哉川の方を見る。そして手にオーラを集中させる、塊を作る。
それを不知哉川に向かって掌底の要領で叩き込む。
いきなりの行動であったため、不知哉川も避けきれずに吹っ飛ぶ。
4〜5m地面を転がり、ようやく停止する。
起き上がって怒りの顔をこちらに向ける不知哉川に手を向け再びオーラを集中させ、攻撃の姿勢をとる。
253アリス・フェルナンテ:2010/09/24(金) 18:48:37 0
――よく聞け。今のは何もお前に攻撃しただけではない。今の行為でお前の中に我のオーラの塊をを仕込んだ。
   優達に持たせた玉と同じ効果がある。現にこうして話せているだろう?心配せずとも後で取り除く。
   それにもう1つ効果があってな。取り除くまでの間、少しだが身体能力が上がる。
   しかしあくまでも身体能力だけであって、お前のオーラの量が増えたわけではない。過信はするなよ。
   理解したならお前は今すぐここから去れ。ここにいては命が危ない。女の方はこちらから情報を送る。
   先程は騙す様な真似をしてまなかった。本当は女の方もオーラを探知できるのだ――

不知哉川に真実を告げ、ここから逃げるように伝える。
そして一度ちらりと彼の横にある繁みに目を向ける。

――…一度優達と合流した方が良いかも知れんな。彼らも戦闘に関してはあまり期待できないが、
   何らかのサポートはしてくれるだろう。そういう能力の持ち主だ。…優達も見ているのだろう?
   見ての通り緊急事態だ。一度不知哉川をそちらに帰す。合流して女の捜索のサポートをしてやってくれ。
   …そういうことだ。時間がない、早く行け――

不知哉川と共に、優達にも状況を告げる。>>251で優が描いた生き物の存在も確認する。
こちらを心配しての行動だと思うが、今はありがたい。お陰で話がスムーズに進む。

「さて、今は手加減したが次はそうはいかんぞ?死にたくなければ立ち去ることだ。
 貴様とは利害の関係上協力していたが、それ以外は知らん。
 これ以上我ら親子の邪魔をするなら、容赦はせん」

――優達を頼む――

走り去っていく不知哉川にそう告げて、哀に向き直る。

「さて母よ、これでよろしいかな?」

【アリス・フェルナンテ:化身の殺意に気付き、不知哉川を逃がす
              同時に虹色兄弟とも連絡をとり、不知哉川と合流するよう指示】
254阿合哀(人工化身):2010/09/24(金) 20:44:35 0
>>250
ひょうひょうとする男のその態度に我は強く拳を握る。手に爪が食い込み血が浮き出た。
『毒に愛された女(ポイズネス)』の血をかけて本気で殺してやろうと思ったが、
>>252-253寸前でアリスによって男は吹っ飛ばされ、そのまま走り去っていった。
アリスが男にかける言葉からも、殺すタイミングを逃した。

「そうだな…これで邪魔者は消えた――と言いたいところだが、まだ"何か"いるな」

次に目をつけたのは目玉と耳の化け物。
姉様も我も見た事のないはずの化け物だ…だが記憶に無いはずなのにどこか懐かしい気がした。
気の所為とは思う。だがこれはもしかしたら人工化身の"血"の持つ記憶かもしれない。

「これはなんだろうなアリス?見た事があるような気がしなくもないんだが、どうも永い眠りで記憶がな…
 もしかしてこれはあれじゃないか?ほら…昔いなかったか?邪気眼とかいう化け物が――」

気分が高揚していた。自分の中にこんな感情があるとは思わなかった。
これが始祖の"血"によるものだとしたら、化身とは本来あのような殺戮の衝動に捕らわれるような存在ではないのではないか?
実際、目の前の"化身"はあの男に対して殺戮の衝動が起きていたようにも思えない。
では何故我はあのような衝動に捕らわれてしまう?このような目玉の化け物にさえ好奇心を持つというのに、
人間に対しては同じ空気を吸っている事さえ許せないほどに殺意が沸く…
それほどまでにこの血は人間を憎んでいるというのか?

「――…なあアリス。我は永い眠りで記憶がとても不安定になっている。
 正直お前が娘である事も、お前が念話で語りかけてくれなければ気づきはしなかったよ」

我はすぐ傍の事情をよく知っていそうな"娘"に向き直る。

「お前はずっと見てきたんだろう?化身と人間の歴史を。
 お前の母…我がどういった生を送ってきたか、話してくれないかな?」

それはきっとただの好奇心に過ぎなかったのだろう。
我は目玉の化け物に対して好奇心を持った。だからこれも化身という化け物に対しての好奇心。
我の中に流れる血に対して、そしてそれを見てきた者の見解を知りたい好奇心に過ぎない…

【阿合哀(人工化身):アリスの見てきた化身の歴史について聞く】
255不知哉川 霊仙:2010/09/25(土) 05:09:35 0
>>252>>253>>254
「まぁそう邪険にしないでくれ、母よ。この男は我の協力者だ。力は大した事はないが、此奴の情報力は侮れなくてな。
 一緒に行動していたのだ。しかし、そうだな。確かに"今は"邪魔かも知れん。退場してもらうとしよう」

(……退場……?)
これまで、ヘラヘラとした表情を崩さなかった不知哉川の顔色が、ここで一変する。
その理由は彼に対する害意──しかもそれを阿合からではなく、アリスから感じたからである。
(──おい、どういう──)
不知哉川にはその真を質す時間さえ与えられなかった。
彼が行動するよりも早く、オーラが込められた彼女の掌底が腹部に叩き込まれていたからだ。

まるで地震が起きたように視界が揺れ、頭は真っ白になる。
不知哉川は受身を取ることもできずに地を転がり、背後の壁にぶつかってようやく停止した。
「ガハッ!」
ズキズキと痛む腹部を抑えて、何とか立ち上がる。
「不意打ち……でないと倒せない、そう判断してのことなんか……? 俺も高く評価されたもんやな……」
ペッと、唾を地面に叩きつけて、いつにない神妙な顔付きでアリスを見る。
不知哉川でなくてもこの突然の態度の豹変は納得行くものでなかっただろう。
それでもまだ彼が敵意を抱いていなかったのは、攻撃される瞬間──
「少々手荒になるが勘弁してくれ」という念話が届いていたからである。
でなければとっくに彼なりの対抗手段を用いていたことだろう。

(何の意図あってか、聞かせてもらえるんやろ?)
『よく聞け。今のは何もお前に攻撃しただけではない。今の行為でお前の中に我のオーラの塊をを仕込んだ。
 優達に持たせた玉と同じ効果がある。現にこうして話せているだろう?心配せずとも後で取り除く。
 それにもう1つ効果があってな。取り除くまでの間、少しだが身体能力が上がる。
 しかしあくまでも身体能力だけであって、お前のオーラの量が増えたわけではない。過信はするなよ。
 理解したならお前は今すぐここから去れ。ここにいては命が危ない。女の方はこちらから情報を送る。
 先程は騙す様な真似をしてまなかった。本当は女の方もオーラを探知できるのだ』
(……なるほど。けど、寸前に言うんやなくて、できればもっと早く言っておいて欲しかったわ。
 こちとらもうオッサンの域に入ってんねんで? 不意打ちは体に堪えてかなわへん)
『…一度優達と合流した方が良いかも知れんな。彼らも戦闘に関してはあまり期待できないが、
 何らかのサポートはしてくれるだろう。そういう能力の持ち主だ。…優達も見ているのだろう?
 見ての通り緊急事態だ。一度不知哉川をそちらに帰す。合流して女の捜索のサポートをしてやってくれ。
 …そういうことだ。時間がない、早く行け』
(優達……さっきの子らのことやな? ……まぁええ、そういう意図があんねんやったら、そうさせてもらうで)

「さて、今は手加減したが次はそうはいかんぞ?死にたくなければ立ち去ることだ。
 貴様とは利害の関係上協力していたが、それ以外は知らん。
 これ以上我ら親子の邪魔をするなら、容赦はせん」
「親子の会話に口を差し挟むつもりは毛頭あらへんよ。去れ、といえば喜んで去ったるわ。
 ……全く、ハナから口で言えば済むっちゅーに、親も親なら子も子やな」
悪態をついて不知哉川は二人に背を向けて走り出す。

『優達を頼む』

「まずは俺に頼る事態にならんことを祈っといてーな。物騒なことは起きんに限るで」

【不知哉川 霊仙:二人のもとから離脱する】
256アリス・フェルナンテ:2010/09/26(日) 09:58:01 0
>>254
「これはなんだろうなアリス?見た事があるような気がしなくもないんだが、どうも永い眠りで記憶がな…
 もしかしてこれはあれじゃないか?ほら…昔いなかったか?邪気眼とかいう化け物が――」

優の描いた生き物を発見し、哀が聞いてくる。

「邪気眼――久しく聞かない言葉だな。確かにそう呼ばれる者達は存在した。遥か昔に、だがな。
 しかし邪気眼とは"眼"を持つ者達の総称であって、あのような生き物を指す言葉ではない。
 特に害はない様だし放っておいても良いんじゃないか?」

哀の意識を生き物から逸らす。あれは優達にこちらの情報を送る大事な存在だ。破壊されては困る。

「――…なあアリス。我は永い眠りで記憶がとても不安定になっている。
 正直お前が娘である事も、お前が念話で語りかけてくれなければ気づきはしなかったよ」

どうやら意識を逸らすことに成功したようだ。哀がこちらに向き直る。

「お前はずっと見てきたんだろう?化身と人間の歴史を。
 お前の母…我がどういった生を送ってきたか、話してくれないかな?」

(やはりこの者は母ではないな。母と話したのは1度だけだったが、確かに記憶を持っていた)

「話しても良いが、少し長くなりそうだ。折角会えたのに残念だが、我は"仕事"があるのでな。
 一緒に来るなら話す時間もあるだろうが、"人間"も一緒だぞ?」

先程の不知哉川に対する態度を見ても、彼女は人間を憎んでいる事が分かる。
理由は分からないが根は深そうだ。

「さて、どうする?一緒に来ないのならば、別の機会を設けることを約束しよう」

【アリス・フェルナンテ:化身に行動を選択させる】
257阿合哀(人工化身):2010/09/26(日) 16:48:32 0
>>256
「――…さっきから聞いていれば、お前ずいぶんと連れなくないか?」

人間も一緒という言葉に我は顔を険しくする。
そしてアリスの連れない態度に、先程からの疑念をはっきりさせようと話し返す。

「アソナで語りかけてきた念話で、阿合という娘の中にあった我を自分の母と言ったのはお前ではないか?
 それともこうして人格が出て、自分の母親像にそぐわないから違うとでも思い直したか?それは我の記憶が曖昧だからと言ったはずだ。
 例えこれまでの歴史で数回目覚めた我が記憶を持っていたとしても、それが約束されたものだと誰が言える?」

我にこいつの母である記憶は無いが、この血に流れている人格が絶対にそうでないとも言い切れない。
あの目玉の化け物に、記憶に無い見覚えがあった時から感じていた事。
だがこいつの態度を見ていると、その可能性を強く考える事ができなかった。

「お前が信じないのなら我はお前の母親にはなれない。さっきも言ったように、我はお前が言ったから母親なのだ。
 ――だが我が母親でなければ、お前の捜し求めていた母親はどこにいるのだろうな?
 我の知るこの時代に存在した化身はお前と、我と、お前の血を与えられた男、
 我の前にこの身に宿り、今は魔水晶となっている殺戮マシーンだった人格だ。
 そして生き残りはおそらくお前と我だけだ。アソナの作った始祖の血もそういくつもありはしないだろう」

念話の通じたあの男からは、白髪化してからどこかアリスと同じ血を感じた。ならば大方の事情は合っているだろう。
だがアリスから直接血を受けたあの男が、アリスの母親の人格を持った化身というのはおかしいし、それはアリス自身も同様。
アリスの話から殺戮マシーンだった"姉様"がアリスの母親というのもおかしい話だ。
そうなると残った化身は我だけだが、それをも否定しているとしたら、こいつは…

「今一度聞こう…我はお前の母か?」

口先だけの言葉を聞く気はない。
この化身同士の念話の能力を利用して、アリスのその心に我は問いかけた。

【阿合哀(人工化身):自分を母親と思っているか確認】
258虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/09/26(日) 20:47:04 0
>>253
「了解…しました」
アリスの念話を聞き、そう答える優。先ほどの目と耳のおかげで状況も把握できた
「…みんな、今の聞いたよね?」
優が詞音達に確認をとる
「「うん…」」
静かに、しかし力強く答える二人
「これからはいつもより沢山能力を使う必要があるかもしれない…
みんな、しっかり準備してよ…?」
「わかってるって。兄さんこそ途中で絵の具切らさないでよ?」
優の言葉に、のど飴を嘗め、キーボードの調整をしながら答える詞音
「全力でサポート…それが僕たちにできる最高のこと…そうでしょ?」
本の重要なページに付箋を貼りながら言う御伽
「そうだね、さ、合流するまでにしっかり準備しとかないと…」
筆を整え始める優
【虹色兄弟:準備しながら不知哉川を待つ】
259アリス・フェルナンテ:2010/09/28(火) 20:21:22 0
>>257
「今一度聞こう…我はお前の母か?」

化身が問いかけてくる。
当初とは違い、その言葉の中に疑念が見え隠れしている。

「ふむ…そこまで言うのなら答えよう。
 結論から言って、お前は我が母ではない。だが勘違いするな。
 我も母だと思いたかった。今だから言うが、母と会えないと分かっていればこんな街には来なかった。
 今まで化身を追い続けてきたが、母と話が出来たのはたったの2度だ。それも数分間のみ。
 しかしながら、こちらにはいつ母が表に出てくるかを知る術はない。
 従って、結果的に母と会えようと会えまいと我は化身を追って行くしかなかったのだ。
 しかしそれももう疲れた。正直、お前の中に母がいると信じていたかった。
 だがそれも叶わなくなったようだ」

化身に真実を話し、自分の母であることを明確に否定する。

「さて、話はこれで終いだ。お前が母でない以上最早用はない。
 同じ血を持つ者として殺すようなことはしないが、共に行動する気もない。
 どこへなりとも行くがいい。たとえカノッサについても恨みはせんよ。
 それがお前の選択ならば、な。
 …最後に1つ言っておく。――我を化身などと一緒だと思うなよ?」

最後の一瞬、明確な殺意をぶつけ、踵を返す。
これから不知哉川の仲間――確かキサちゃんとか言っていた――を探さねばならない。
優達とも連絡を取り合って一度合流した方が良いかもしれない。
幸い居場所の方は特定できている――と言っても向こうは移動中だが。

(何にしても、早めに合流した方がいいな。優達の身が心配だ)

――優、聞こえるか。そちらに不知哉川が向かったはずだが、もう着いたか?
   まだならば、合流した後にこれから言う場所に来てくれ――

優達に海部ヶ崎達が移動中ということを伝え、移動予測地点に向かうよう指示する。
優達が通るであろうルートは予測できるので、上手く合流できるようにシミュレートする。
そして『楽園の守護者』に変身し、振り返らずにその場から走り去った。

【アリス・フェルナンテ:化身との対話を終了。
 虹色兄弟・不知哉川と合流するために行動開始】
260阿合哀(人工化身):2010/09/29(水) 00:12:35 0
>>259
アリスは我を否定し去った。
やはり否定したか。求めているものを…永遠の時を生きてる本来の目的を失いし哀れな存在よ。
始祖の血を色濃く受け継ぐ異能者であるお前が、化身である事には変わりない。
お前もいずれその血に狂わされるだろう。

「……」

このままカノッサに立ち向かおうが、つこうとしようが、
あのような強者を恐れて従わせる自信のない頭を持った組織では、
どうせ我の話など聞こうとせずに殺しにかかるだろう。
ならばこちらから出向く気は起きない。
これまで"阿合哀"が行っていたように、都市伝説『毒に愛された女(ポイズネス)』として、
適当に人間を殺しながら気ままに生きていくだけだ。
その場に残された目と耳の化け物に一目やって、我は角鵜野市の闇に消えていった。

【阿合哀(人工化身):行方を絶つ】
261不知哉川 霊仙:2010/09/29(水) 05:51:53 0
虹色らもとへ向かうその途上で、不知哉川は余計な足止めを食っていた。
すなわち敵との遭遇である。……いや、敵といっていいのだろうか。
確かに相手は不知哉川に対し殺意を向ける危険人物ではある。
しかし、不知哉川は敵と表現するのは適当でないような気がしてならなかった。

というのも、前に立ちはだかった敵……剣を背負った長身の男は、
本質的には敵ではないということを不知哉川は知っていたのだ。

(……黒部 夕護……やな、確か。ディートハルトに操られてる男や。
 敵として処理するほどの冷徹さは俺にはないし、何しろここで闘うのは時間の無駄やろうな。
 ……しゃーない、やっぱ正気に戻したるのが一番の早道か……)

黒部はオーラによって操作されているに過ぎない。
故に不知哉川の能力を持ってすれば恐らく簡単に操作を解くことができるだろう。
だが、そうは思いながらも、実のところ不知哉川はあまり気乗りがしなかった。

(単純な身体能力なら黒部はディートハルトを凌ぐらしい。
 いつもなら逃げ回って時間をかけるとこやけど、今はそうもいかんからな。
 だから一番早く、一番手っ取り早い方法を取るしかないんやけど……)

「殺す……殺す……殺す!」
狂気を爆発させた黒部が全身からオーラを溢れさせて不知哉川に飛び掛る。
そして、丸太のような腕を振り上げ、勢い良く拳を繰り出した。
不知哉川の倍以上もある筋肉を身に着けたその体では、流石にスピードはあるとはいえない。
不知哉川でもかわせただろう。だが、彼はその拳を、敢えて避けなかった。

「ぐっ……!」

重い衝撃が腹部に走り、顔が苦痛に歪む。
骨が何本が折れただろうか、気味の悪い音が全身を駆け巡る。
それでも不知哉川の行動は素早かった。
すかさず左手で彼の腕を掴み、もう片方の手で彼の頭を掴むと、ニタリと笑った。
「あ〜っ……いったぁ〜……。だから気が進まんかったんや……。
 けど、捕まえたで。これで終わりや……!」
頭を掴む手が白く光っていく。黒部の脳を支配するオーラが吸われているのだ。
そしてやがて吸いきったのか、光っていた手から輝きがなくなると、黒部は力なくその場に倒れた。
「まだ意識はあると思うから言っとくで。俺の名は不知哉川。あんたをそんな風にしたカノッサと闘う者や。
 けど、俺の仲間は少ない。恩に着せるわけやないけどな、あんたが手伝ってくれると嬉しいんやけど……。
 ……その気があるなら西の湖に向かうとええ。そこが奴らの本拠地やからな」

倒れた黒部に背を向けて、不知哉川はまた口を開く。
「怪我の全快にはもう少し時間がかかりそうやな。しゃーない、指示が来るまでここで大人しくしてるか」

【不知哉川 霊仙:黒部 夕護と接触。バーサーカー状態を解き、負傷した怪我の治療の為に移動を停止する】
262不知哉川 霊仙:2010/10/02(土) 04:33:20 0
「……不知哉川……と言ったな……」
「ん?」

不知哉川が背後からの声に振り向くと、
そこには倒れて意識を失ったはずの黒部が片足をついて立ちあがろうとする姿があった。

「おいおい、あんま無理せぇへん方がいいんとちゃう?
 あんたは脳を操作されてたんやで? 無理矢理にな。
 肉体と精神に及ぼす消耗と疲労は通常では考えられんくらいのもののはずや」
「……うっ」

黒部は眩暈でも起こしたのか、足をふらつかせて目頭を押さえた。

「ほれみろ。硬い地面の上じゃ寝心地も悪いってんなら救急車を呼んでやってもええで?」
と言って不知哉川は黒部に手を貸そうとするが、彼はそれを払う。
「……大丈夫だ」
「とてもそうには見えんけどな」
「それより、不知哉川とやら。お前はカノッサという組織について少しは通じているようだな。
 よければ私に教えてくれ。奴らの目的が何なのかをな……」
「……知ってどないするん?」
「知れたこと。奴らを叩き潰す……! 邪悪な目的があるなら、尚のことだ……!」

拳をグッと握り締めて、黒部が全身から彼らに対する敵意を滲ませる。
不知哉川はしばしじっと彼の目を見つめると、やがて一つ大きな息を吐いた。

「ふぅ、なるほど。死んでもええ──既にその“覚悟”はあるようやな。
 ええやろ、教えたる。奴らが何者で、何を企んどるのかは勿論、俺が知っとること全てをな──」

不知哉川は全てを話し始めた。
始祖のこと、化身のこと、ザ・ファーストのこと、無間刀のこと、魔水晶のこと、
そして、カノッサのこと──全てを。
263不知哉川 霊仙:2010/10/02(土) 04:35:32 0
「──と、こういうわけや」
初めはその話の突飛性に半信半疑な表情を隠せなかった黒部だったが、
話を終えた時の彼の表情は、全てを納得したような神妙なものであった。
「……異能者のルーツにそんな秘密があったとはな……なるほど、そういうことだったのか。
 魔水晶……そんなものを奴らが手にしているとは、一刻の猶予もない事態だ。
 それなら尚のこと、こんなところで寝ているわけにはいかん……!」
「だから無理はあかんて。どっち道、魔水晶が完成するまでには明日の日没までかかるんや。
 今、無理したところで、無意味やって」
「では、このまま明日まで手を拱いていろというのか?」
「俺らにできることといえば、一人でも多くの味方と合流するってことくらいや。
 すなわち、アリス、海部ヶ崎、後はあの兄弟三人……」
「他にあてはないのか?」
「あらへんよ。そして多分、今から新しい味方を探したところで無駄やろうな。
 何せ今日一日であらかた殺されてまったはずやからな……
 俺らと、今言った連中以外は、生き残っていなくても不思議やないで」
「……」
「ま、そんなところや」
「そうか……わかった。今はそいつらと合流することを考えよう」
「でも、俺もあんたも今動けるような状態ちゃうしな。向こうから来てもらった方がええやろ」

と言うと、不知哉川は再び彼に背を向けて喋り始めた。

「アリス、聞こえるやろ? 事情あってこちらからは合流できんことになったわ。
 だから悪いんやけどな、兄弟を連れたらこっちへ来て欲しいんや。場所はわかるんやろ?
 その時、できればキサちゃんの方も連れてきてくれると有り難いで。ほんじゃま、よろしく」

かなり一方的な要求ではあるが、実際、今の彼と黒部の二人が積極的に動くよりも、
彼女に動いてもらった方がスムーズに事は進むだろうし、合理的であるだろう。
不知哉川は夜空に向かって「ふぅー」と盛大に息を吐くと、
患部である胸を抑えてその場にしゃがみ込んだ。

【不知哉川 霊仙:アリスに念話を送り、治療に専念する】
264虹色優 ◆K3JAnH1PQg :2010/10/02(土) 08:37:23 0
>>259
「了解しました。…まだ来てないですけど…」
アリスの念話に優がこたえる
「…それにしても遅いね…。なにかあったのかな…」
「でも入れ違いになったら大変。向こうの居場所もわからないし。ここは待機しておくべき…」
御伽が意見を言う
「そうだね、僕たちは…」
「サポートに徹すために、しっかり準備しとかないと…」
再び戦闘準備を始める三人
【虹色兄弟:不知哉川を心配しつつも待機を続ける】
265アリス・フェルナンテ:2010/10/03(日) 10:30:40 0
>>263>>264
「了解しました。…まだ来てないですけど…」

優から返事をもらい、不知哉川が到着していないことを知らされる。

(何をしている?余計な事態を増やさなければ良いが…)

走りながら思案する。あの男はどうにも信用できない。
仲間と言う意味では信用できるのだが、如何せんあの性格だ。
行動の予測が立てられない。
と、そこにその不知哉川からの念話が入った。

「アリス、聞こえるやろ?事情あってこちらからは合流できんことになったわ。
 だから悪いんやけどな、兄弟を連れたらこっちへ来て欲しいんや。場所はわかるんやろ?
 その時、できればキサちゃんの方も連れてきてくれると有り難いで。ほんじゃま、よろしく」

軽い口調で一方的に言って、念話は途切れた。
思わず立ち止まる。

(事情だと?大方敵とでも遭遇したか?…いや、それなら念話など送っている暇はないはず。
 現在残っている敵を考えれば奴一人では生き残れるかも怪しい。
 と言うことは何か別の事態か。口調からして非常事態、と言うわけではなさそうだな。
 しかし動けないとなると――味方となり得る人物を発見し、説得していると言ったところか)

不知哉川の現状を予測し、これからの行動を修正する。
優達はまだ待機しているようだし、不知哉川も動けない。
となれば、自分が動くしかない。

(全く面倒を掛けてくれる…)

一人ごちて目標を変更する。
海部ヶ崎のいる方向はわかっている。現在は止まっているようだ。

(丁度いい。そのまま動くなよ)

海部ヶ崎に向けて聞こえるはずのない呼びかけをし、その方向に向かって走り出した――



――程なくして、小さな岩場に座り込む二つの影を発見した。
一人には見覚えがある。アソナの本拠地で不知哉川と共にいた女。
間違いない、この女が海部ヶ崎だ。
二人の前に着地する。いきなりの登場に驚いているようだ。
無理もない。空から突然銀色の猛獣が降ってきたのだ。普通の人間なら驚いて当たり前だ。
しかし海部ヶ崎の行動は素早かった。
少女を自分の背に庇い、警戒心を剥き出しにした瞳でこちらを見る。
一挙手一投足も見逃すまい、と。

(やれやれ…。これでは話にならん。この姿がまずかったか)

変身を解き、再び海部ヶ崎と向かい合う。

「また会ったな。アソナの本拠地以来か?
 …此度は貴様を殺しに来たわけではない。そういきり立つな。
 貴様に用があって来た。貴様の仲間…不知哉川は今こちらと行動を共にしている。
 その理由も含め、話が聞きたければ一緒に来い。
 貴様の仲間の希望だ。出来ればすんなり来て欲しいところだが…」

【アリス・フェルナンテ:海部ヶ崎に接触。不知哉川の現状を大まかに伝え、同行を促す】
266海部ヶ崎:2010/10/07(木) 17:22:06 0
海部ヶ崎は記憶喪失の少女と共に移動していた。
>>220で闇の不死鳥の元から離れた後は、行く当てもなく彷徨っていた。
自分はスキャナーを持っていないため、不知哉川の居場所も分からない。
そのため、少しでも出会う確率を上げるために歩き回っていた――

「しかし…霊仙さんどころか他の人にすら出会いませんね。
 どうしたのでしょうか?」

――のだが、猫の子一匹見当たらない。

「おねーさん、どうしたの?」

海部ヶ崎が難しい顔をしていたのを見たのか、少女が不安げに尋ねる。

「大丈夫、何でもないから」

少女を励ますと同時に、これからのことを考える。

(闇雲に動き回っていても合流できる可能性は低い。
それならいっそ、霊仙さんに見つけてもらうほうが早い、か?
確か、彼はスキャナーを持っていたはず)

>>183で不知哉川のスキャナーが壊れたことを知らない海部ヶ崎は、
止まっていれば不知哉川が見つけてくれるだろうと思い、手近な場所に腰を下ろした。
そこでふと、音が聞こえることに気付いた。
何かが走る音、それも人間ではない動物のような足音がかなりのスピードで近付いてくる。

「一体何が――」

来るのか、という独り言は最後まで発せられることはなかった。
それより前に、二人の頭上を何かが通り過ぎたからだ。
慌てて"それ"が着地した背後を見る。
それは一頭の白銀の獅子だった。
267海部ヶ崎:2010/10/07(木) 17:23:06 0
とっさに少女を背に庇い、獅子と対峙する。
この獅子が一体何なのか想像もつかないが、この少女を危険に晒す事だけは出来ない。
何とか隙を見つけて少女だけでも逃がさねば。
そう思っていると、目の前の獅子が溜息のようなものを吐いた直後、光に包まれた。
光が収まった後、そこから姿を現した人物を見て、海部ヶ崎は更に警戒心を強めた。

(この女は――!アソナの本拠地でダークフェニックスと戦っていた――!)

光の中から姿を現したのは、何とアソナの本拠地で見た、赤毛の女だったのだ。

(最悪だ…!こんなところで出会うなんて…!)

どうにかこの場を切り抜ける策を考えるが、いい案が浮かばない。
この強敵を相手に、一体どうすれば逃げられるだろうか?

「また会ったな。アソナの本拠地以来か?
 …此度は貴様を殺しに来たわけではない。そういきり立つな。
 貴様に用があって来た。貴様の仲間…不知哉川は今こちらと行動を共にしている。
 その理由も含め、話が聞きたければ一緒に来い。
 貴様の仲間の希望だ。出来ればすんなり来て欲しいところだが…」

そんな事を考えていた折、女が語りかけてきた。
しかしその内容は驚愕に値することだった。

「霊仙さんが!?どういうことだ…?」

確かに女から敵意は感じられない。今のところは、だが。
しかし不知哉川と一緒にいるなど到底考えられない。
アソナの本拠地ではこちらに攻撃までしてきたのだ。
そんな人物を信用しろ、と言う方が無理である。

(目的は不明だけど…。とりあえず敵意はないようだ。
 霊仙さんを見つけやすくなるかもしれない。付いて行くのも一つの手か…)

「…分かりました、付いて行きましょう。
 ただし、このこの安全は保障してもらいます。それが条件です」

【海部ヶ崎:アリスの提案に乗る】
268アリス・フェルナンテ:2010/10/07(木) 17:51:42 0
「…分かりました、付いて行きましょう。
 ただし、このこの安全は保障してもらいます。それが条件です」

海部ヶ崎の返答を聞き、背後にいる少女に目を向ける。
少女は海部ヶ崎の背に隠れ、頭だけ出してこちらを見ている。

(この少女…一体何者だ?この状況下で生き残っているとは…)

少女に対して疑問を感じるが、今は関係ない。

「いい返事だ。早速だが来てもらおう」

『楽園の守護者』に変身し、二人に背に乗るように促す。
海部ヶ崎が少女を抱き上げて先に乗せ、自身も後から乗る。
二人が乗ったのを確認して、走り出す。
不知哉川の居場所を確認して、その方向へ向かう。
4,5分走ってその場所に到着する。
そこには意外な人物がいた。
この街に来て初めて表に出た時に戦った男だ。

(あの時に動けなくしておいたはずだが…。存外しぶとい奴だな)

二人を降ろし、変身を解く。
すると海部ヶ崎が不知哉川の元へ駆け寄る。

「霊仙さん!無事で何よりです!…その怪我は?」

何やら二人で話しているようだ。
近くに座り込んでいる男に目を向ける。

「よもや貴様とこんな場所で会うとはな。中々しぶとい奴だ」

「それはこちらの台詞だ…。あの時は世話になったな」

複雑な感情を込めて男が言い放つ。
言いたい事はあるが、話など後でいくらでも出来る。まずは――

「感動の再開で積もる話もあるだろうが、まずは優達と合流しなくてはならん」

不知哉川達の元へ歩いていき、話を中断させる。

「行くぞ。優達も準備をして待っている」

そう告げると自らは『楽園の守護者』に変身し、他の人間の準備を待った。

【アリス・フェルナンテ:不知哉川たちと合流。虹色兄弟の元へ向かう準備を始める】
269不知哉川 霊仙:2010/10/08(金) 06:50:46 0
「ふー……」

タバコの煙が夜空に舞い上がる。
アリスの到着を待っておよそ10分──
不知哉川の足元に転がる吸殻は既に10本を数えていた。

「少し落ち着いたらどうだ?
 お前の言うように異能者のほとんどが死に絶えたのなら、ここで襲われる可能性は低いはずだ」

そんな不知哉川に黒部が言う。
彼のハイペースな喫煙ぶりを、危険を考慮しての「焦り」からくるものと思ったようだが、
その見識は実のところ的外れであった。
不知哉川は不安をタバコによって払拭しようとしたのではなく、
単に今日一日、吸うつもりであったタバコの数を、一気に消化しているだけなのである。

(……今日は吸う暇さえあらへんかったからなぁ。
 一日一箱吸わんと、どうにも体の調子が悪いような気がしてアカン)

それはヘビースモーカーの悲しい性ともいえた。
だが、それを知るはずのない黒部は、忠告も聞き入れずに黙々と吸い続ける不知哉川に、
半ば呆れんばかりの小さな溜息をついて顔を背けるしかなかった。

「……ん?」
そんな黒部の顔が一瞬緊張したのは、目線が不知哉川から東の夜空に外れたその時だった。
その方角から、正に自分達の場所に目掛けて銀色の光が高速で迫っていたのだ。
いくらオーラを感じ取ることに不慣れであっても、その異様さの前に警戒感を露にするのは当然であろう。
一瞬、緊張した彼の気配に、不知哉川も直ぐに気がつくが、
彼は迫り来る光を視認するやいなや、どこか残念そうに苦笑してみせた。

「やれやれ……えらいお早いご到着で。タバコ、残り一本やってのに。リアクションに困るやん」

銜えていたタバコをぷっと吐き出し、踏みつけてその火をもみ消す。
足をどけて火が消えたのを確認した時には、既に光は二人のもとに辿り着いていた。

「なっ……これは……」
目の前に現れた銀色の光を放つ獅子に、唖然とする黒部。
不知哉川そんな彼に
「あぁ、警戒には及ばんで。そいつがさっき言ったアリスや。……そして」
と言うと、獅子の背中から降りて駆け寄ってくる女性に目を向けて、安堵したような笑顔を見せた。

「霊仙さん!無事で何よりです!…その怪我は?」
「なぁに、たいしたことあらへんよ。もうほとんど完治しとる。
 それにしてもキサちゃんが俺を心配してくれるなんてなぁ。怪我もしてみるもんや。
 今度はボコボコにされて死に掛けてみるのもええかもな。
 そしたらキサちゃん、俺につきっきりで看病してくれるやろ?」
「……ところで、事情を聞かせて頂けませんか? 何故、あの女と……それに彼は一体……」
看病云々の部分を軽くスルーし、一転して神妙な顔付きで疑問を呈す海部ヶ崎。
不知哉川はポリポリと頭をかくと、黒部とアリスに交互に視線を送って一言、
「……なに、『敵の敵は味方』っちゅーことや」
と、答えた。
「……」
海部ヶ崎は納得したようなそうでないような難しい顔をしたが、
敢えて何も言わなかったのは、彼が無計画に物事を判断することはない、
ということを熟知していたからである。

「感動の再開で積もる話もあるだろうが、まずは優達と合流しなくてはならん。
 行くぞ。優達も準備をして待っている」
アリスがまた獅子の姿に戻り、背に乗るよう全員を促す。
「──お互い、詳しいことは背の上でな」
不知哉川は「よっこらせ」と立ち上がると、彼女の背に跨った。
270不知哉川 霊仙
正に風を切るようなスピードで道を駆け抜けるアリスの背の上で、
不知哉川はアリスや黒部と手を組んだ経緯を明かした。
それは海部ヶ崎に反感をもって、というよりは、むしろ理解をもって受け取られた。

「黒部……さんに、アリス……なるほど、そういうわけでしたか……」
「で、キサちゃん。さっきの少女は一体何者だったんや?」

さっきの少女。それは海部ヶ崎と一緒についてきたあの見知らぬ少女のことである。
過去形で語る言い回しをしているのは、アリスに跨って出発する直前に、彼女を置いてきたからである。
「一緒に居ては危険に巻き込まれるだけ」というのがその理由だった。

「阿合さんが人工化身となって行く際に、突如現れた少女です。
 阿合さんが凶悪な人格に支配されていくのを感じた私は、
 彼女が巻き込まれてしまわないようにと、咄嗟にその場から連れ出して……。
 私も必死でしたから、彼女についてはそれ以上のことは何も……」
「……まぁ、警察に連絡しといたから、今頃は保護されてる頃やろ。
 しっかし疑問なのは、阿合がどうやって再び人工化身になったか、やな」
「アソナの建物で接触した時から、既にその様子は変でしたよ。
 恐らくですが、私が接触するより早く、それも四天王が去ってからの僅かな間に、
 何者かの手が加わえられたのではないかと思いますが……」
「うん……やっぱ人為的なもんやと思うのが自然やろうな。
 しかし、そんなことをする奴がおるんか?
 あるいはアソナの連中が生き残ってて、苦し紛れに……とも考えられるが……」
「ですが、四天王が去っても、あそこにはダークフェニックスが残っていましたよ」
「そう、そんな奴がいたらあの男が見逃さんはずや。
 ……けどもな、今思ったんやけど、それもこう考えたら合点がいくんや。
 あの男はその現場を敢えて見逃した。あるいは、自分がやったか……」
「……まさか……。魔水晶を手に入れた今、人工化身という存在は彼らの脅威になるだけでしょう?
 カノッサの構成員が自ら危険を増やすような真似をしますか?」
「うーん……」

ポリポリと頭をかいて回答に詰まる不知哉川。
そこに、今まで無言で二人の会話に耳を傾けていた黒部が、口を開いた。

「裏切りかもしれんぞ」
「へ?」
予期せぬ回答者の登場は、不知哉川に間の抜けた声を出させた。
「そのダークフェニックスという男とやらがどんな経緯でカノッサに入ったのか知らんが、
 初めからスパイ、あるいは寝首を掻く目的で入っていたとしても不思議はないだろう。
 あるいは仕えて行く内に反感を持ち、下克上に至る……というのも考えられる。
 私は護衛という職務に身を置いているが、暗殺組織が予めターゲットとなる人物の側に
 刺客を差し向けていることは何ら珍しくない。敵は外から、と思い込むのはいささか短慮というものだ」
それだけ言うと、黒部は腕を組んで再び黙りこくってしまった。
「……裏切りか……。せやな、確かに──」

不知哉川の言葉をアリスの声が遮った。
三人が前を見ると、虹色兄弟の姿が目前まで迫っていた。

「これまたタイミングがいいやら悪いやら……。ま、ひとまず無事に合流できたことを喜んどこか」

と、複雑な表情をしながらも、不知哉川の声はひとまずの目的を達した安堵感に包まれていた。