>>86 【名前】レヴェッカ・エル・クシャンプーツ
【年齢】29
【性別】女
【職業】役人
【魔法・特技】速読、速記、剣術
【装備・持ち物】愛用のペンと剣
【身長・体重】163/50
【容姿の特徴、風貌】金髪のショート、深い紫眼、低めだが形の良い鼻、薄い唇
【性格】冷静
【趣味】読書
【人生のモットー】興奮は冷静をもって御し、冷静は興奮をもって御す
【自分の恋愛観】「良い人がいればね」
【一言・その他】
こんなところかな。
……どこかで冗談でも入れるべきだったか……まあつまらなくても許しておくれ。
>87
はい、承りました。
あ、羽ペンお借りしていいですか?
ただいま絶賛花婿さん募集中です、と。
よし!
では、掲示板に貼ってきますねー(そそくさ)
>>88 ……それで本当に良い人が来るならいいけどね。
母さんに言われてお見合いをしているけど僕好みの人には会えないよ。
断る度、母さんの小言を聞かなきゃいけないのがつらくて……でもこればかりはね……。
明日の夜も6回目のお見合いで……はぁ、憂鬱……。
しかし29歳か……ぶっちゃけ行き遅(ry
何でもないですすいません斬らないで下さい
>>90 いや……まあわかっているさ。
僕はもう昔からこんな感じだから、伴侶を得られないか、
得られてもそれが晩年であることは覚悟していた。わかっていたんだよ。
とはいえ、寂しいものもあるけどね。
ならば無理にご結婚なさらなくても、養子を迎え入れればいいと思いますよ。
そういえば東方の昔話に、自分の初恋の人によく似た子供を育ててツマに迎え入れるというものがありましたね。
「わたしのかんがえたさいきょうのおっと」を、自らの手でお育てになられるのも一興ではございませんか?
>>89 お見合い会場は、やはりどなたかの舞踏会会場かサロンですか?
>>92 あまりいい趣味をしてないね、その話を作った人は。
「僕の考え付かない夫」だから面白いんじゃないか、結婚は。僕は独身だけどね。
だいたい僕は無理に結婚したくないから、しないんだよ(笑)
>>93 今日は先方の屋敷に出向いてきたよ。
うちと同じで没落貴族の出らしくてね、会話自体は弾んだよ。
ただ今回も断らせてもらうつもりだ。
価値観の相違かな。僕は結婚しても仕事をやめるつもりはないんだ。
もう師匠と結婚しちゃったらどうですか?
>>95 先生は尊敬できる人だけど伴侶としては違うような気がする。
……というより、さすがに29歳と99歳じゃあ育った文化が違いすぎて無理だよ……。
まあまだしばらく独身を続けるさ。
師匠お元気ですねぇ。
しかしレヴェッカ様。
まさかその年齢になられるまで、恋の1つもしたことない、なんて事は・・・・・・
>>97 その言い方は失礼じゃないかい? もちろんあるさ。
初恋は先生の教え子の、つまり兄弟子ということになるけど、お兄さんだった。
僕がうまい具合に剣を振れたときは頭をわしゃわしゃって撫でてくれてね。
優しい人だった。
まあ、戦争で死んじゃったけどね……。
レヴェッカ様おいたわしい。
ところで、お父様はご存命なのですか?
おうちの没落と戦争はなにか関係があるのかと気になって夜も眠れなくて・・・・・ふあ〜(あくび)
(ぐー・・・ぐー・・・)
>>99 倒産は3年前にはやり病で亡くなったよ。
元々体の弱い人だったから。
思えば母さんが見合いにうるさくなったのもあの後だ……まあそういうことだね。
家が没落したのは3、4代前の話しだし、戦争とは全然関係ないんだけど……
(毛布をかけながら)その話はまた今度にしようか。
突然だが、貴殿に決闘を申し込みたい!
>>101 決闘のお申し込みですか?
それならそちらに置いてあります緑の用紙に必要事項を記入して
左手の突き当たり5番の受付へ提出してください(にこ)
レヴェッカ様のニコポ入りました〜
>>103 うまく落とせたかな?(笑)
昔飲食店ではたらいたときに身につけたスキルだ。
『付け合せにフライドポテトはいかがですか?』……ってね。
接客一つでお店の売り上げも全然変わることが、実際に身をもって理解できたよ。
今日の夕食は何ですか?
行軍に加わると、騎士様達はトカゲやヘビまで捕食するって本当ですか?
>>105 今日は魚のハーブソテーを食べたよ。
美味しかったけどちょっとハーブが強すぎたから今後の課題だな……。
捕食はちょっと聞いたことがないな。
行軍するなら行軍日程より多めに食糧を持っていくはずだし
途中の町や村でも補給ができないわけじゃないからね。
それはそうとトカゲやヘビは庶民の間ではよく食べられているよ。
トカゲは丸焼きにして食べるんだ。塩だけでもなかなか美味しい。
ヘビは最近は高くなってきたね。僕は蒲焼がお勧めだ。
ヘビの蒲焼がお好きなんですね
精がつきそうですね
他にお好きな食べ物は何ですか?
やっぱり剣の稽古をした後は、お肉とかガツガツ召し上がるんですか?
108 :
リン=セイス ◆xDxUGYLUgA :2010/10/21(木) 21:16:50 0
月が天上まで昇り、人々は眠りという名前の安らぎに浸る時間。
とある王国の中央にある城の壁に、蠢く一つの小さな人影があった。
「……よーし、あと少し……よっと!」
月光を反射し、月よりも美しく輝く絹の様な長い黄金の髪。
飾りこそ質素だが、見るものが見れば最上級の品であると判る両手剣。
背中に背負った大きな背負い鞄。そして、その全てと不釣合いな旅の傭兵が着る様な服。
城の窓から垂らされたたロープを伝い地面に降りたその人影は、
地上からその城を眺めると、口元にニヤリと妖精の様な笑みを浮かべると、
小さくガッツポーズを決めた。
「――ふふふ、やったぜ! 流石、私がこの日の為に準備した脱出経路、完璧だ!
お父様もお母様も爺やも、まさか私がこうやって出て行くなんて思わなかっただろ!」
かわいらしい声で独り言を呟いたその人影は、そこでハッと呟いた様に周囲を見渡し
安心した様にほっと息を付く。
「……危ない危ない。大きな声を出したら、見つかってまた連れ戻されちまう
今回だけは絶対掴まる訳にはいかねーからな。何が剣大会で優勝した最強の騎士と結婚だ。
そんなふざけた事認められるか。私は私の道を歩くんだ!」
そう小声で呟くと、その人影は城壁の裏側……そこにある王族しか知らない筈の
秘密の地下通路の入り口を開け、城壁の外へと出て行った。
そして、人影が城壁を抜けた直後
『姫様が脱走なされたぞおおっっっ!!!』
『またか!?』『最近大人しいと思ったら、やっぱり猫被ってたのか!!』
『探せ!探せ――――っ!!!』
「やっべ……見つかった! 急いで逃げねーと!
全く、私は明日から始まる剣大会で優勝しねーといけないっていうのに!もうっ!」
人影は長い黄金色の髪を風に靡かせ、重い背負い鞄を物ともせずに、
夜の城下町へ向かって風の様に走っていく。
【名前】リン=セイス
【年齢】14
【性別】女
【職業】姫
【魔法・特技】宮廷剣術
【装備・持ち物】宝物庫にあった両手剣 宝物庫にあった軽装な鎧
【身長・体重】147cm 41kg
【容姿の特徴、風貌】黄金色の長髪に可愛らしい顔
大剣を腰に下げ、一見傭兵が着る様な簡素な鎧を纏っている
城から脱走した後は、大き目の兜を被って変装している様だ
男言葉で話す
【性格】おてんば、男勝り、世間知らず
【趣味】騎士を題材にした冒険譚を読む事
【人生のモットー】自分の人生は自分で決める!
【自分の恋愛観】特に無し
【一言・その他】おてんば姫が家出した! 騎士よ、今こそ立ち上がれ!
家出姫リンたんと女騎士レヴェッカたんの二人旅キボンヌ
版権ありなら参加したいな
【名前】エステル・クーヴルール
【年齢】21
【性別】女
【職業】特別近衛騎士
【魔法・特技】剣、隠密行動
【装備・持ち物】細身の片手剣、小盾
【身長・体重】165cm 46kg
【容姿の特徴、風貌】
ざっくりと耳のあたりで切った銀髪に、静かな目。
今は、近衛騎士正規のものではない私物の軽鎧を身につけている。
【性格】冷淡、仕事人間
【趣味】古武具収集
【人生のモットー】明鏡止水
【自分の恋愛観】恋愛は時間の無駄
【一言・その他】
《特別近衛騎士》
王室や主要貴族の女性を低ストレスで護衛するために創設された、若い女性を中心とする特別枠の近衛騎士。
『おおおおおっ! リン……愛しい我が娘、リンよ……なぜじゃ、なぜ、わしらを困らせるのじゃ!?
騎士物語が好きと言われれば、本来なら宮廷にふさわしくない俗な書物を極秘で集めた!
剣術を学びたいと言われれば、はしたないという非難をなんとかなだめて習わせた!
だというのに……なぜじゃぁぁ……私のリンよぉぉぉ……!!』
豊かなヤギひげを涙でぺっとりと潰し、初老の男性が叫んでいる。
品もなにもなく地団駄を踏み、頭を掻きむしるその姿に平素の威厳はない。
その醜態たるや、平民一生分の富をつぎこんだ特注ガウンも安宿の寝間着と見間違うほど。
『うううぅぅ……お前も何か言ったらどうじゃ、エステル!』
「心中お察し申し上げます」
『冷たいぞ! お前はいつも冷たい! こういう時くらい、お前の言葉で慰めてくれてもよいだろう!?』
「では、僭越ながら。
いかなる悲劇にあっても、主君たる陛下は決して理性的判断力を喪失してはなりません。
具体的には、私の両肩をつかんで秒速3回ペースで継続的に振動を与えることは全く現状の打開策になりえませんので、おやめください」
『おぉぉぉぉ……すまんのぉ…………リンよぉぉ』
主君はがっくりと項垂れ、ようやく女性への八つ当たりを終了した。
エステルと呼ばれたその女性は、表情一つ変えず――顔色は多少紫がかっていたが――襟元を整えると、
「それよりも、陛下。いかなるご用件で、私をお呼びで?」
『――そうじゃ、時間を浪費している場合ではない!
今月、最もリンの私室前警備にあたっていたのはお前なのだ! リンの目的はわからんか?』
鼻水をぐしっと拭いながら問い詰める王を前に、エステルはしばらく黙考し、やがてゆっくりと首を振った。
「申し訳ありませんが、全く。
ただ……一昨晩に宝物庫から武具を持ち去ったあの賊は、もしや今日捕らえた商人ではなく王女殿下だったのではないかと」
『では、あの独房――“千の紫瞳の間”に幽閉したのは間違いであったと……!?』
「はい、僭越ながら。精神に変調をきたす恐れがあるので、今晩中に解放することを進言いたしますが――
いえ、些末事でした。お忘れください」
『そうだな、それはまた明日だ。問題は“リンが剣を使用するつもり”だということだ。
……今度は何だ? また冒険者ごっこか、それとも盗賊退治か?』
「わかりかねます」
『うぬう……もういい。これからお前は……そうだな――
他の騎士は、既に町中に散って捜索を開始している。月が山の端にかかる頃には、町の門の封鎖も完了するだろう。
お前は正規の鎧を脱いでリンを探せ。単独で、目立たないようにな』
「御意」
エステルは腰を折って一礼し、音の無く素早い歩みで退室した。
鎧を置くため宿舎へと駆け足で向かいながら、城下町の地図を思い浮かべる。
冒険好きのあの姫は、どのルートで逃げようとするのだろうか。
……想像がつかなかった。エステルには、あの姫が理解できない。
――定められた枠の外に出るとは、そんなに楽しいこと?
「……いえ、理解する必要などありませんね。
私は命令を全うするだけ。必要とされる行動を、必要とされたようにとるだけです」
そうして、星々に飾られた月が、その美貌を最も高い場所から天下に誇る頃。
冒険者に扮した若い騎士は、夜の城下町での活動を開始した。
「女の子を見ていませんか? 世慣れていなさそうな小さな女の子なのですが」
――路地裏で寝ていた乞食をたたき起こして金を握らせ、質問し、首を振られる。何度目だろう。
(成果はゼロ……場所が悪い? それとも、上手い変装?
いままでの脱走で、知恵をつけてしまったのでしょうか)
嘆息するエステルの目に、ゴミらしき大きなクローゼットがちょうど飛び込んで来る。
幸い今夜は月が明るい。これを足場に屋根に登れば、多少は見渡せるだろうか。
(騎士の肩書きを持つ者として、品のない行動は慎みたいのですが……今は、仕方がありません)
黴臭い木材に足をかけ、一気に跳ね上がる。そのまま屋根の上に着地。音は一切無い。
家主を起こさぬよう、ゆっくりと足を動かす。
暗いが、周囲の路地構造くらいはぼんやりと見渡せて――
「……あれ、は」
エステルは目を細めた。一本となりの路地に、きらりと月光を反射する金属の輝き。兜だろうか。
(王女殿下? ……よく見えませんね。
この時間帯に、この酒場や宿屋の無い地区を歩く者はそう多くはないですが、騎士の可能性も――)
エステルは、身を低くしてその人影に集中した。
人影は素早く、かつ、何かを警戒するような様子で路地を進んでいる。
(正解……かもしれませんね。尾行しましょう)
エステルはそうと決めると身体を縮め、一呼吸の後に解き放った。
屋根の淵まで一息で駆け、踏み切り、隣の屋根に飛び移る。煙突かなにかに隠れてしばらく静止。
気づかれていないことを確認すると、また淵まで駆け、踏みきり、飛び移る。静止。確認――
これを何度も繰り返して、エステルは家出姫らしき人物の元へと接近していった。
【よろしくお願いします、王女殿下。こんにちは、
>>110さん。
版権については殿下の判断に従います。
現在、それらしき人物を屋根の上から尾行中です】
「くふ……ふふふっ……」
城下街の夜闇の中、周囲をキョロキョロと警戒しながら進むリンの口元には、
ニヤニヤとした笑みが自然と浮かんでいた。
(誰も私を姫と思わねぇ……今、私は「私」なんだ!)
少しずれた変装用の兜を手で引っ張り被りなおしながら、リンは路地の角を左に曲がる。
どうやらリンは明確な行き先を決めているらしく、その歩調に迷いの色は見えない。
そうしてそのまま歩き続け五回程曲がり角を通った後、眼前にその光景が現れた。
一見すれば、それは巨大な壁に見えるだろう。
一面に広がる、綺麗に切り出された風化防止の魔法をかけられた煉瓦の壁。
だが、当然のことながらそれは壁などではない。
その所々には窓の様な穴が開いており、地面に接している部分には巨大な扉が君臨している。
そう、それは建造物だった。
遥か昔からこの国に存在していたという遺跡。
歴史という風に晒されその名前こそ伝わってはいないが、人々はこの遺跡をこう呼んでいた。
『闘技場』と
リンは、夜にも関わらず沢山の人が蠢いているその壮大な建造物の前で立ち尽くす。
「これが……私を始める一枚目の扉……」
小さな声でそう呟き、ブルリと震える。その震えには、恐怖と闘志と感動の全てが含まれていた。
――明日、この「闘技場」において武芸大会が開かれる。その大会は王国の歴史の始まりと共に
在ってきた伝統あるものであり、その優勝者には最強の騎士としての栄誉と膨大な賞金、
国王が出来る限りにおいてその者の願いを叶える、といった事が約束されていた。
そして、それ以外にとある商品が――――
「……! 誰だっ!!」
と、そこでリンは石畳の上の小石を踏みしめた音を自身の背後に聞き、
振り向き様に鞘に入れたままの両手剣を突きの形で繰り出した。その動きは
洗練された物ではなかったが、その速度と突きと言う簡単な挙動のお陰でそれなりの威力を持っていた。
【リン:尾行(?)してきた人物に向けていきなり鞘入りの剣で攻撃を仕掛ける】
>>113 「よくきたな!よろしくだエステル!」
>>110 「版権は私がその世界観を理解できないかもしれん。だから、オリジナルで頼む!」
モヒカン「ヒャッハー!!どけどけぃ!!
ダンゴクハ様がお通りだぁ!!邪魔する汚物は消毒だぁ!!」
盗賊ダンゴクハ「逆らうならはっきり逆らってください。あんまり逆らうとキレますけど。」
(なるほど……殿下の目的は、明日の剣術試合でしたか)
――闘技場。エステルは観光客らしき一団に紛れて様子をうかがっていた。
この場所は、夜中だというのに人が絶えない。大会の下見らしき戦士もいれば、観光者や一般市民の姿も見える。
厄介だ、と思った。おかげで、派手な行動がとれない。
エステルは、秩序を重んじる人間だ。上に立つ者の秩序に反する振る舞いを、民に気づかせたくはないのだ。
(説得は……殿下の性格上、できそうにありませんね。
しかし剣を取り上げてしまえば、さすがに諦めていただけるでしょう――)
エステルは念のため鞘のついた長剣を右手に持つと、息を潜め、人の群からそっと抜け出て姫に忍び寄った。
あと五歩、四歩、三歩、王女の腰に揺れる剣に手を伸ばし――
――足下に、小さな音。
>「……! 誰だっ!!」
油断していた。
後悔する暇もない。リン王女は振り向きざま、迷いなく剣を突き出してくる。
鋭く、早い――だが、鞘のまま。
ならば、と、エステルは臆せず加速し、突きとすれ違うようにして強引に懐へ踏み込んだ。
破裂音にも似た踏み込み音。避け損ねた大剣が脇腹をこする。
破れた自分の懐からいくつかの持ち物がこぼれるのを横目に、エステルは痛みを呼吸で無理矢理押し込めた。
そのままつば競り合いに持ち込むと、観衆の好奇の視線から隠れるように小声で囁く。
「お迎えにあがりました、王女殿下。
……どうか、このような行動は慎んでくださいませ。
下々の民が身分なりの幸せを享受するのと同じように、高貴なお方には、高貴な幸せが用意されています。
殿下には、秩序に従い優雅に生きることこそふさわしい――」
言い終えるなり、剣の重量差で競り負けないうちに跳ねるように間合いをとる。
(……王女殿下に直接的な攻撃を仕掛けるのは避けたいですね)
「その剣を大人しく渡してくださいませ。そうすれば、私から危害を加えることはございません」
今度は、さきほどの小声と違ってはっきりとそう宣言する。
そして彼女は自分の剣を相手の剣に滑らせ絡めるようにして、鍔の辺りを狙った攻撃をしかけた。
* * *
――その少し後、所変わって、城下で動くある騎士隊内での会話
『あぁ、何だって? 全く、この忙しい時に――!』
騎士隊長の憤慨した声が、夜の城下に響く。
この姫捜索という重大任務の真っ最中に、取るに足らない別件に煩わされることになったためである。
『後回しだ――とできたらいいんだがなぁ。畜生!
おい、その辺りのお前ら! すぐに闘技場まで行け! 市民からの通報だ!』
隊長は、苛立ちを隠そうともせずに言った。
『闘技場に出た、高そうな剣を狙う女の追いはぎを捕らえてこい!』
【・今のところはリンの剣を奪って無力化することを狙っています。
・正規の鎧を脱いでいる上に紛らわしい台詞を発したせいで、追いはぎと思われて通報されてしまいました。
何も知らない騎士たちが数人、こちらに向かっています。到着が何レス先かは臨機応変に】
「なっ!?何者だ貴様…………って、エステル!?」
リンは、振り向き様に放った突きを回避し、更に一瞬で鍔迫り合いをするまでの
接近戦に持ち込んだ見せたその追跡者の顔を見て、目を丸くした。
《特別近衛騎士》 エステル・クーヴルール。
リンの生家たる王国の騎士の中でも実力者として認められている騎士の一人であり、
かつてリンが剣術の稽古を受けた師の一人でもある。
そして、王宮における剣術の稽古に際して、リンが一度も攻め勝った事の無い相手でもあった。
>「お迎えにあがりました、王女殿下。
>……どうか、このような行動は慎んでくださいませ。
>下々の民が身分なりの幸せを享受するのと同じように、高貴なお方には、高貴な幸せが用意されています。
>殿下には、秩序に従い優雅に生きることこそふさわしい――」
「ふ、ん……黙れエステル! 何が高貴な幸せだ!幸せっていうのは、自分の手で掴み取るもんだろ!?
少なくとも、私が読んだ騎士物語の主人公達は、幸せになる為に努力をしてたぞ!
私は、本当の幸せも知らないままこの国の中だけで終わるのは嫌だ!!
旅をしたい!冒険をしたい!世界を知りたいんだっ!!」
リンは最初こそ慌てていたが、エステルの淡々とした台詞を聞くと、
その眉間に皺を寄せて、吼える様にして言葉を叩きつけた。
その言葉は、自分がどれだけ恵まれていて幸福なのかを知らない我侭な子供の言葉だった。
だが、それだけに真っ直ぐで折れるという事をしらない言葉だった。
……といっても、言葉を吐いた所で実力差は埋まらない。
両手剣と片手剣の違いこそあるが、そもそも体格が違う。
まだまだ少女であるリンの体格では、エステルの剣圧に押され――
「うわっ!?」
突如として間合いを取ったエステルの動きにバランスを崩した。
そのタイミングを逃さずエステルの放った一撃は、リンの持つ剣の鍔を的確に打ち抜き、
両手剣を彼女の手から弾き飛ばす。
中空を舞ったその両手剣はやがて乾いた音と共に石畳へと落下し、
それと同時にリンは尻餅を付いた。
(……畜生!折角ここまで頑張ったのに、また連れ戻されるのかよ……そんなの嫌だ!
何か方法がある筈だ……何か……あ!そうだっ! 確かポケットに「あれ」があった!)
冷たい地面からエステルを見上げる様にしていたリンは、一瞬俯き、顔を上げる。
その目に浮んでいるのは……涙。まるで悲しむ天使の様な表情を浮かべたまま、リンは
小さなか細い声でエステルの目を真っ直ぐ見る。
「……分かったよ。剣を取られたんじゃ私にはどうしようもない。
エステルの言うとおり、素直に帰って父様に怒られるよ……」
そうして、リンは俯いてエステルに「立たせて欲しい」とお願いするように、
服で掌に付いた砂埃を払うという動作を見せてからその右手を差し出し、
立ち上がろうとするそぶりを見せる……俯いたその顔には、先程の粛々とした表情が
嘘の様に、悪戯をしようとしている妖精の様な、ニヤリとした笑みを浮かんでいた。
(ふふふ……エステルが動いてるっていう事は、私を探す為に巡回している騎士が増えてる筈だ。
エステルは何か騎士の鎧を着てないし、それなら――――これでいける!)
エステルに伸ばした掌には、小さな魔法の玉。
音の魔法が封じ込められていて、それがぶつかった物からは十分程、
大きな音が鳴り続けるという防犯用のアイテム。
リンが大きな背負い鞄に詰めて来たものの一つであった。
【リン、剣を弾き飛ばされるが、エステルに防犯用の音響魔法玉を接触させようとする】
金属が金属を打ち据える、甲高い音が響く。エステルは体重を乗せて長剣を振り切った。
王女の手から肉厚な両手剣が嘘のように弾かれる。
野次馬たちのざわめきが一気に高まるのと、王女の遙か後方で石畳を叩く耳障りな音が響いたのはほぼ同時だった。
「無礼をお許しくださいませ。――いかがいたしますか?」
うつむいて尻餅をついた姫君の表情は、エステルには読み取れない。
……いや、意味はないだろう。読み取るつもりなどないのだから。
エステルが姫君に向ける眼差しは、問いのようで問いでない、ひたすらに冷淡なものだった。
数秒の沈黙後、王女は顔を上げた。水晶のような涙を浮かべ、儚げに。
>「……分かったよ。剣を取られたんじゃ私にはどうしようもない。
>エステルの言うとおり、素直に帰って父様に怒られるよ……」
「ご理解いただき、幸いです」
普段からは考えられない儚さを目の当たりにしても、エステルの事務的な様子に変化はない――
――ように見えるだろう。表面上は。
内心、彼女は後悔に苛まれていた。
見逃す気は毛頭無いにせよ、今更ながらプロセスの問題点が思考を占拠しだしたのだ。
力加減にミスはなかったか? 先ほどの暴言はこの場で言う必要性が皆無ではなかったか……?
そして、その動揺がさらなる失態を生んだのだ。
エステルは、差し出された右手を取ることになんの疑いも持たなかった。
注意深く観察してさえいれば、王女の前髪の隙間から覗いた悪賢い笑みに気づけたというのに。
(……!? 手の中に、何か――)
気づいた時には既に手遅れ。
怪鳥の悲鳴にも似た不快な高音が、静寂の城下全てに響くかと錯覚するほどの大きさで両耳を串刺しにした。
エステルは思わず、耳を押さえて膝を付いた。しかし音地獄からの救済は叶わない。
なぜなら、その発信源は彼女自身だったのだから。
「くっ……まさか、防犯用の……!?」
刹那、視界の隅で銀光が閃いた。
とっさに大きく右へ退く。振り向きざまに抜剣、追撃を弾く。
攻撃の正体を確認したエステルは、驚愕で血液が逆流するかとすら感じた。
いつしか自分を包囲していた5人の剣士は、同胞のはずの騎士たちであったのだ。
「剣を引きなさい……! 私は近衛騎士の――」
言葉が止まる。所属を証明する鎧を今は身につけていない。
もちろんそれは任務開始時から承知の上だから、証明できる品は別に携帯している。
しかし――彼女は懐の奇妙な軽さを感じて唇を噛んだ。
王女の最初の突き――あの時、破れた懐から大部分の持ち物が零れていたのだ。
集まる野次馬と夜という視界の悪さで、どこに落としたかなど確認しようがない。
『黙れ、不届き者め! 我らの名を騙るとはよい度胸だ!』
騎士たちに迷いはない。
知らないことだが、既に彼女は追いはぎとして通報されているのである。
決定的な証明もなしに信用を得ることは、ほぼ不可能。
(殿下は……!?)
完全にこちらを犯罪者と勘違いした騎士たちの連撃をいなしながら、なんとか横目で姫君の行方を確かめようと試みる。
このような致命的な隙が、見逃されたはずもないだろう。
全てが手遅れ。完全にしてやられた。
――エステルにできることは少なかった。
騎士の1人に強引に体当たりをしかけ、接近する。リン王女に行ったのと同様に。
口と頭の動きだけで、意志を伝えた。
「(あちらです。王女殿下を逃がしてはなりません……!)」
『――!? 貴様、なぜそれを知って――…………糞! おい、3人だけあっちで捜索続けろ!』
『は……!? り……了解!』
(3人ですか……いえ、向かわせられただけ、上出来と思う他ありません)
歩く音源となった自分は、しばらく王女に近づいても害しかもたらさない。
エステルは唇から鉄の味が広がるのを感じながら、騎士たちを振り切るべく、闘技場の外へと駆けだした。
『――犯罪者が逃げたぞ! 追え、追えーっ!』
(王女殿下……この失態、必ず……!)
【・音響玉の罠に引っかかりました。状況もあり、完全に犯罪者扱いです。
・エステルは逃走し、王女追跡からひとまず離脱です。
・騎士数名が闘技場内で姫捜索を続けますが、大幅に出遅れたので発見は困難でしょう。
・「闘技場で姫らしき姿を発見」という情報がエステル以外の騎士にも伝わりました】
響き渡る不快な大音響。
その発生源は、リンの手を取った女騎士エステルからだった。
「ふふふふ……あははははっ!!やーい!やーい!引っかかったなエステル!」
エステルに向けて「あかんべー」をすると、リンは素早く落ちた剣を拾い、
雑踏へ向けて駆け出していた。
何事かとざわめく群集を掻き分けて進むリンの顔には、悪戯が成功した子供の様な笑顔。
「くくくっ……計算通りだなっ!これで明日の朝までは逃げ切れる!
そんでもって、剣大会に登録さえしちまえば、父様だって手出しはできない!
何故なら、それがこの国の剣大会の決まりだからなっ!!」
一瞬振り返れば、遠くに見えるのは騎士に取り押さえられるエステルの姿。
「……エステルには、ちょっと悪い事しちまったかな?
後で父様にエステルは悪くないって手紙出しとこう。うん」
呟くと、リンはどんどんと先に進み、予め偽名……有名な騎士物語の主人公の名前で
予約してあった宿屋へと、転がり込むように入り込んだ。
『おい、何処へ行かれた!?』
『こっちにはいない!反対側へ逃げたのかもしれん!行くぞ!』
暫くして宿のドアの外から騎士達の声が聞こえ、だがそれもやがて遠ざかっていった。
入り口のドアに耳を立てるリンに、宿屋の主人は不可解そうな声で話しかける。
「あ、あの、ザイカー様?何をしておいでで?」
「シッ!!…………うん。行ったみたいだな。ああいや、何でもねーんだ。
それよりも主人、俺の部屋は空いてるか?」
「はぁ……空けておりますが」
「よし、なら俺は明日の朝まで寝るから起こすなよ。体調が万全じゃねーと、
剣大会で負けちまうかもしれねーからなっ!!」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらそう言うリンに、主人は「はぁ……」というと
暫くして興味を失ったかのように帳簿を纏める作業を始めた。
他人に深入りしない事が宿屋が長生きする為のコツだと知っているのだろう。
「ふぅ……」
部屋に入り鍵を閉めたリンは、兜を脱ぐと、用意してあった濡れたタオルで
自身の身を清め、ランプの明かりを消し、早々にベッドへと潜り込んだ。
普段暮らしている部屋と比べれば余りにも粗末な部屋である事に対し文句を言わないのは、
かつて彼女が家出をした時、数週間に渡って町の子供達と一緒になって騎士団ごっこを行った
時の経験が生きているからだろう
「……いよいよ、明日だ。この大会に勝てば、私は冒険に出られるんだ……!」
そう呟くリンの視界は徐々にまどろみという名前の闇に包まれ――――
【リン、追っ手をふりきって、予め偽名で予約をしてあった宿屋に戻り寝ようとする】
【大変申し訳ございません。今日中……は明言できませんが、今晩中には書き上げますので、もう少々お待ちを】
* * *
――城内。結局捕縛・連行されたエステルがなんとか誤解を解き、王や各責任者に報告と謝罪を行った直後のこと。
ちょうど宰相の執務室から退出した彼女に、横手から声がかかった。
『お疲れ。ちょうどいいところに…………珍しいな。君が疲れた顔をしてるなんて。
まあ、話は聞いてるよ。災難だったな』
一拍遅れて向けた視線の先には、きらびやかな甲冑に身を包んだ長身の青年がいた。――近衛騎士隊副隊長、ロジェ。
顔に出ている自覚はなかったが、城下での騒動を気にしていないといえば嘘になる。
「お気遣い感謝いたします。そして、申し訳ございませんでした。
好機を逃した上、自身の不用意な発言が元で同胞に捕縛されることとなるとは、陛下に賜った騎士の称号に泥を塗る行いでございます」
『ん……本当なら叱るところなんだろうけど、今は時間もない。
君は真面目だから、罰するまでもなく十分に反省できてると信じてるよ』
そしてロジェはしばし周囲の気配を探るような沈黙を挟んだ後、口を開いた。
『ちょっと君に頼みたいことがあるんだけど――その前に、姫の一件を巡る騎士団の現状について説明しなきゃいけないな』
次いで彼が見せた表情には、うんざりと苛立った様子が明確に現れていた。
『はっきり言うと、今回の騎士団は真っ二つなんだ。連携どころか身動きも取れない』
「それは、どのように?」
『まず、天竜隊を中心に“姫の行動を放置しよう”って意見が出てる』
天竜隊とは、騎士団内で一・二を争う力を持つ部隊である。
「――放置?」
『ああ。内容は、こうだ。
“探索を打ち切るべき。ただでさえ剣大会で国が浮き上がっている時に、これ以上姫の騒動で騎士を動員しては危急の自体に対応できない”
“だいたい、連れ戻しても繰り返すだけで無駄。敗北すれば自分を知る機会となる”
“仮に姫が登録を済ませてしまったとしたら、伝統ある剣大会に我々国家が介入することは一切ない”』
(……ありえません。登録後はともかく、現行の探索すら打ち切るなど)
昔から、天竜隊は姫の脱走癖を歓迎してた節がある。
“活動的な庶民の味方”としての姫を、国への支持集めに利用するつもりらしい。
『その一方で、地竜隊と僕ら近衛騎士隊を中心に、真っ向から反対する意見が出てる』
地竜隊もまた、天竜隊に次ぐ力を持つ部隊である。
『内容は、こうだ。
“探索を継続するべき。王族としての品格はもちろん、命を落とす危険すらある剣大会に年若い姫を参加させるわけにはいかない”
“仮に姫が登録を済ませてしまったとしたら、同様に登録した国家所属の騎士たちを用い、ルールに反しない範囲で姫を無傷での早期敗退に追い込むべき”』
エステルとしては、当然後者の意見を支持するところだ。前者の意見には怒りすら覚える。
『議論は全く進展する気配がなくて、騎士団はすっかり分裂状態。
おかげで身動きがとれない。正式な命令なんて迂闊に出せやしない』
――と。
エステルはこの時、ロジェの発する雰囲気が急に変化したことに気がついた。
それは、何かを企む顔へ。たとえるならば、あの時魔法玉を投げつけてきた姫のような。
近衛騎士隊副隊長は、わざとらしい咳払いをしてから続けた。
『ところで、話は変わるよ。
えー……君に、今回の失態への罰として自宅謹慎を命じようと思うんだけど?』
――事態を把握したエステルの涼やかな横顔には、珍しく小さな苦笑の色がにじんでいた。
(……今回は、その類の任務に縁がありますね)
「承知いたしました」
つまり――表向きは謹慎中ということにして身動きがとりにくい騎士団から一度離れ、秘密で剣大会に出場登録に向かって姫の警護を行え、と。
もちろん露見すれば大問題だが、おそらくこの類の仕事に適正が認められたのだろう。
『ちなみにどうでもいい話だけど、他にも休暇中の騎士が何人もいるんだよ。
偶然だけど、彼らは全員、銀細工の蛇の紋章を首にかけるのが趣味なんだ』
「ええ。顔を合わせる機会があれば、積極的に接触をとろうと思います。無論、単純に親睦を深める目的でございます」
「そうか、ぜひ親睦を深めてくれ。
おっと、そういえば僕も一つ持ってるんだ。でも趣味じゃないから君にあげるよ』
「ありがとうございます。せっかく頂戴した品でございますので、剣大会が終了するまで肌身離さず身につけることといたします」
『そうしてくれ。あまり露骨にならず、かつきちんと見えるようにね』
近衛騎士隊副隊長という地位に似合わない悪戯っぽいロジェの笑顔に、エステルもまた薄い笑みを浮かべて返した。
既に、声をかけられた直後の陰った様子はない。
明確かつ重要な仕事を与えられ、疲労も吹き飛ぶ思いである。
受け取った紋章を首にかけて一礼し、立ち去ろうとする彼女の背中に、最後に一言だけかけられた。
『今度は捕まってくるんじゃないぞ』
「……承知いたしました」
今度はなくしようのない場所に身分証明の品を入れておこうと決意し、今度こそエステルは自室へと立ち去った。
【・騎士団内は分裂状態にあり、王女殿下に対して大きな行動が起こせない状態です。
天竜隊が放置(むしろ歓迎)派、地竜隊や近衛騎士隊が妨害派です。
・エステル他数人の妨害派騎士が、非公式に殿下を邪魔する予定です。
・妨害派騎士は、今のところ蛇の紋章を互いを識別する手段としています】
* * *
――リンの取った宿の一室。
眠りに落ちようとする姫は、きっと翌朝まで気づかないだろう。
安宿の窓は値段なりの簡易な作りで、たとえ閉めても細く風を感じるような隙間がある。
その隙間から――コトン。折りたたまれた小さな紙片が、室内へと転がり落ちた。
紙片を開けば中には、珍しいほど発色のいい高級なインクで、一文。
《 蛇にご注意を 親愛なるお嬢様へ 》
今夜は、それだけ。
【非公式に行動を起こしているのは、放置歓迎派も同様のようです】
「むにゃんにゃ…………はうあっ!!? い、今何時だ!? 大会は!?」
安宿の布団を抱きしめ熟睡していたリンは、鳴り響いたラッパの音で
飛び上がるようにして目を覚ました。寝起きとはいえその黄金の髪には僅かな乱れもなく、
その容姿は相変わらずどこの妖精かと思う程に可愛いらしい。
寝ぼけ眼で周囲を見渡し、そこが自身が取った宿である事を確認すると、
慌てて易い木製の窓を開き、眼下に広がる光景を窓枠から身を乗り出して見渡す。
鳴り響くファンファーレ。
沢山の露店。
陽気に歌う人々の姿。
どこから集まってきたのか判らないが、窓から見える石畳の大通りは
人で溢れ帰り、活気と活力に満ち溢れていた。
見れば、通路を歩く人々の中には鎧を着込んだ者も多く、その者達の流れは
一つの方向へと定まっている。それはつまり、剣大会の開催の時間が近いという事を
示しているのであり、
「……やばい。失敗した」
リンの蒼白な顔は、彼女がなにやらミスを犯した事を示していた。
「うわぁ……朝一で登録して、父様達の追っ手に手が出せないようにしようとしたのに……」
頭を抱えしゃがみ込むリンだったが、しかしこのミスは実はそれ程大きなものではなかった
いや、むしろ彼女の計画を助けたともいえる。リンが朝一番で登録しようとする事など
彼女の国の騎士団達はとうに予測済みだったのだから。
ノコノコと朝から登録になど行っていたら、今頃リンは城に連れ戻されていた事だろう。
逆に、今は開催時間ぎりぎりまでリンが闘技場に現れない事で、騎士達は存在しない裏をかき
騎士達の警備は分散されてしまっていた。
そんな事を知らないリンだったが、彼女はしゃがみ込んだ先で目の前に何やら
紙が置いてある事に気付いた。
「ん?なんだこれ?」
>《 蛇にご注意を 親愛なるお嬢様へ 》
開けば、紙片にはたった一文のみ。
「……この宿、蛇が出るのかぁ……ってそろどころじゃねぇ!!
このままだと登録時間が終わっちまう!早く出かけないと!!」
リンは慌てて紙片をポケットへと突っ込むと、
鎧を着込み、兜を被り、腰に剣を下げると、大きな鞄を背負い、
急いで宿から駆け出した。人ごみの中を掻き分け掻き分け疾風の如く闘技場へ一直線に駆けて行く。
右手に掴むのは登録用の羊皮紙。これを受付に出しさえすれば、登録は確定するのだ。
途中で何度か騎士団の人間と遭遇したが、彼らは余りに唐突にあっさりと、かつ堂々と
姫が目の前を通過していった事で反応が遅れた様だ。
その間にリンは先を行き闘技場の外門をくぐり、ぐんぐんと受付に向かっていく。
そうして右手を伸ばし――――
【リン、寝坊。そして全力で走り登録所へ用紙を提出しようとする】
【設定了解した!】
『わああああーーーーっっ!!』
――伸ばしたリンの手が、受付に届くことはなかった。
小動物のように体を丸めた人影が突如現れ、頭からリンの横腹に激突する。
2人はそのままもつれながら、受付周辺の人混みへとダイブした。
小柄な影が地面に衝突する哀れな音が、他の客の怒声に掻き消される、その直前だった。
少年の腕から、一抱えもある大量の羊皮紙がバラバラに舞い上がった。そして、2人の頭上に降り注ぐ。
そこには、衝撃でリンの手から離れた登録用紙――ちょうど同程度のサイズ――も、いつの間にか混ざり込んでいた。
影はぺたんと石畳に尻をついたまま、慌てて羊皮紙の山をかき集め、一枚一枚中身を確認し始める。
『あ、あの、お姉ちゃん、ごめんね!』
焦ったボーイソプラノで言葉を紡ぐのは、非常に幼い顔立ちをした少年だった。
服装は、安物の服に年期の入った皮鎧。鎧はおさがりなのか、体格的な適正サイズよりはやや大きい。
口元から首にかけては、ふわふわの大きな赤いマフラーに覆われていた。
『僕――その! どうしても、その、えっと! 急いでたんだ!
頑張らないといけないの! お姉ちゃんも大変そうなのはわかったんだけどっ! でもね! そのね!』
少年は、支離滅裂にまくしたてる。
――羊皮紙をめくる手が何かをつかんで、ピタリと止まった。
彼はなぜか、マフラーに顔を埋めるようにしてうつむいた。
数秒の沈黙。おもむろに顔を上げる。そして、
『――その……僕、どうしてもそれがいるんだよーーーーー!!!』
少年が、叫んだ。空を仰いで。拳をにぎって。自棄を起こしたような、裏返った大声で。
客らの視線が、何事かと彼に集中する。
誰もが呆気にとられたその刹那、少年は、ただ一枚だけ羊皮紙をつかんで跳ねるように駆けだした。
素早い。華奢な体を生かし、身動きできないレベルの人混みを滑るように抜けていく。
少年は闘技場外門を抜けて左に折れ、露店がひしめく闘技場外周へ向かって疾走した。
【リンにぶつかった少年は、羊皮紙をつかんで闘技場外周へと逃げました】
* * *
――ちなみに、ほぼ同時刻。
闘技場から一区画離れた場所に位置する、ある通りにて。
「一か八か、第三宿場通りの終端で待機していましたが……いらっしゃいませんね。
殿下は、あの程度の低い第四宿場通りをご利用されたのでしょうか?
……後で、虱の薬をお飲みいただく必要がありますね」
昨夜と同様の武装へ首にさげた蛇の紋章を加えただけの格好をしたエステルは、首を振って嘆息した。
登録前に発見して連れ戻すことが最良であるが、時間的に厳しいと判断したのだ。
「刻限直前となってしまいましたが、私も出場登録を行いましょう。
殿下を警護・妨害し、必ずや無傷で早期敗退していただきませんと――」
【エステルは、まだ闘技場の区画には現れません】
* * *
128 :
リン:2010/11/03(水) 21:47:34 O
【今日はちょっと書けなさそう。待ってて】
「――――けふぅ!?」
疾走していたリンは、突如として横から加えられた衝撃に対し
抵抗する事も出来ず攫われ、奇妙な声を出して床に倒れた。
「……いったいなぁ……何すんだ!ちゃんと前を向いて歩けよ!危ないだろ!」
リンは左手で頭を摩りながら顔を上げ、自身にぶつかってきた何かを睨みつける。
『あ、あの、お姉ちゃん、ごめんね!』
『僕――その! どうしても、その、えっと! 急いでたんだ!
頑張らないといけないの! お姉ちゃんも大変そうなのはわかったんだけどっ! でもね! そのね!』
見れば、そこにいるのはまだ幼さ残る少年だった。
マフラーが特徴的なその少年はリンに謝罪の言葉を述べると、慌てた様子で
撒き散らした羊皮紙を確認している。
「……全く、そんなに慌てなくてもいいよ。怒ってないし。
でも、本当に気をつけろよ?私ならともかく、もしお前まで怪我したらどうするんだよ」
その何やら一生懸命なその様子を見て怒りを削がれてしまったらしく、
リンは少し不機嫌そうな声だが、そう言うと動きを止めた少年に手を伸ばそうとし
『――その……僕、どうしてもそれがいるんだよーーーーー!!!』
「へ?おい、この落とした紙は要らないのk」
直後、謎の言葉を残すと羊皮紙を一枚だけ拾い上げ、
脱兎の如く闘技場の外へと走り去っていった。
「……な、何だったんだ? 変な奴だなぁ……ま、いいか。えーっと私の登録用紙は……」
ポカンとしていたリンだったが、自身の目的を思い出したらしく
落ちている羊皮紙の中から自身の大会登録用紙を探し――――
「……あれ?」
探し―――――
「な、な、無いっ!!?」
そこにリンの登録用紙は無かった。先程まではあったというのに。
突然の事態に慌てたリンは周囲を見渡すが、誰も我冠せずといった具合で、
助てくれそうな様子は無い。
「待って……無くなる筈は無いんだ……という事は……ああっ!?」
頭を過ぎるのは、先程ぶつかった少年の顔。ここに無いという事はつまり
――――羊皮紙は少年が持ち去ったという事になる
「全く、私の登録用紙を「間違って」持ってくなんてどれだけ慌ててるんだよっ!!
私も時間が無いっていうのに……見つけたらゲンコツだっ!!」
だが、ここで奪われたと思わないのが王室育ちのリンである。
少年が自身の羊皮紙を間違って持っていたのだと断じ、その場に落ちていた羊皮紙の束を
自身の鞄に詰め込むと、兜の位置を直し闘技場の外へ少年を追って走り出た。
【謎の少年を追って外へ――――刻一刻と迫る登録の期限】
130 :
名無しになりきれ:2010/11/06(土) 22:40:47 O
悪魔「暇だからこの国滅ぼすわ」
そして全員死んだ
END
羊皮紙をひっつかんだ少年は今、闘技場外周に沿って全力で駆けていた。道の左右に並ぶ露店の店主たちが、胡散臭げな視線を向ける。
もっとも、少年にその視線を気にする余裕などなさそうではあるが。
『わーーーーー!!!ごめんなさーーーい!!』
少年の幼い顔は、焦りと緊張でぐちゃぐちゃだ。トマトのように赤いのも、酸欠だけではない。一歩ごとにマフラーを揺らしながら走るその姿は、初めての狩りに失敗してねぐらに逃げ帰る末っ子の狼といった感じである。
少年はおそるおそる後方に視線をやった。怒り顔のリンは、ちょうど闘技場の外に出てきょろきょろと左右をうかがっているところである。
少年はすぐさま前方へ視線を戻して身震いした。リンの表情は、既に頭の中で悪鬼の如く脚色されている。
気を抜けば悲鳴と謝罪が零れそうになる口を手で押さえながら、辺りを見渡す。目に入ったのは――ある、果物売りの露店。
『ご……ごめんなさあああい!』
少年は懐に手を入れた。そして何かをつかみ、店主の顔面に向かって投げつけた。
店主が悲鳴を上げる。顔を押さえてうずくまる。その顔と手は――真っ黒。
少年が投げたのは、黒インクであった。
投げるのは惜しいような、発色がよく高品質なその品が、店と人を汚しに汚す。
そして店主ひるんだその隙に、少年は積んであった柑橘系果実のカゴ、そして貨幣がつまった袋に手をかけ――それら全ての中身を、通りにむかってぶちまける。
果実が潰れる音、金貨が畳を打つ音、――人々の悲鳴。歓喜、あるいは驚愕の。
こうなると、通りは大混乱である。
あるものは、インクと果汁で服を汚して悪態をつき、大慌てで逃げ去ろうとする。またある者は、大喜びで金貨を拾い集める。
そして興奮は争いを生む。誰それが何を踏みつぶしたおかげで汚れただの、金の取り合いだの。
当然、加害者である少年にも暴力の手は伸びる。
しかし、彼のような小柄な人間は、混雑すればするほど身を隠しやすい――ものすごく怖いし、息は苦しいけれども。
好き勝手な喧嘩をする男たちの足の下をくぐり、金を拾う乞食に紛し――。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!』
怒号にかきけされるのをいいことにひたすら謝罪を繰り返しながら、少年は、この混乱に紛れて少女から逃れられることをただ祈った。
【少年、通りで果物カゴと金ばらまくことで混乱を起こし、姫をやりすごそうとする】
* * *
――一方そのころ、闘技場の区画にちょうど入った辺り。
登録用紙を片手に歩みを進めるエステルの耳に、前方から騎士たちの緊張した話し声が飛び込んできた。
『さっき受付に向かったはずなのに』『どこだ?』『とっくに登録は済んだはずだ』『中だ』『中の連中に連絡を』
(殿下は、少し前にここをお通りになったのですね。
……失格寸前の時刻まで登録なさらないのは、こちらを混乱させる策と見てよいでしょう。
昨夜といい今朝といい、窮地におかれてこの冷静さ――油断なりません)
まさか単なる寝坊とは思わず、エステルは勝手に気を引き締めるのであった。
――と。エステルは唐突に、首筋にチリチリしたものを感じて振り向いた。
そこには、同じ形状の首飾りをした2人組がいた。談笑を装いながら、チラリチラリと視線を送ってくる。
エステルは小さく首を振った――成果なし。
すると2人組も同じように首を振り返してから、雑踏へと消えていった。闘技場方面なので、彼らも受付に向かうのだろう。
(私も一刻も早く――……いえ)
速くなりかけた歩調を、ふたたび緩める。
(……殿下は、我々の思うよりも策士です。
一度姿をお見せになったことは、フェイクとも考えられます。
意図的に姿を見せた後、身を隠す。そして、我々の目が闘技場内部へと向いたところで、その後方から現れて登録を行う――
可能性として無視できるものではありません。
場外での行動が不自由になっては困りますから、私も、期限直前まで登録を待つことにいたしましょう)
勘違いをそのままに、エステルは周囲を警戒しながら慎重に闘技場へと歩みを進めていった。
【闘技場区画に入ったところです。ゆっくりと闘技場に向かっています】
* * *
「どいてくれっ!!……あいつ、何してやがるんだっ!!」
通りに巻き起こる大混乱。
果物が踏み砕かれ、金が奪われ、無数の喧嘩が発生する。
それは全て、先程リンの登録用紙を持って逃げた少年が巻き起こしたものであった。
遠目に見える謝罪しながら騒乱を巻き起こし走る少年に対して、
リンは表情に浮かんだ怒りの色を隠そうとしない。
「急いでるとはいえ、城下を混乱に陥れて逃げようとするなんて……まるで悪人じゃないか!
くそっ、こんな騒ぎの中走り回ったらエステル達に捕まっちまうかもしれないし、
けど、登録用紙はあいつが持ってるし……うううっ!!!
もういいっ!! とにかく用紙がないと私の計画がダメになっちまう!
……捕まえてゲンコツ10発して、用紙を回収だっ!!」
元々、騎士物語に現を抜かす夢見がちな姫であるリンは、少年の周囲を巻き込んだ
逃走に憤りを覚えつつも、とにかく後を追いかける。
だが、少年は人ごみの中を縫うように走り大きな荷物を背負っているリンでは
中々距離が縮まらない。
「くっ、こうなったら……!」
と、そこでリンは、突如として少年の走って行った方向ではない路地を曲がった。
曲がった先にあるのは壁。当然の行き止まりで――――否。
「騎士団訓練の時に見つけた抜け道……よし、まだ残ってる!!」
リンが壁に立てかけてあった板を蹴り倒すと、そこには大人が通れる程の穴が在った。
これはリンが昔城を抜け出した時、町の子供達と騎士団ごっこを行っていた時に
緊急用の通路として作らせたものであった。
この道を通れば路地一本分の道をショートカットする事が叶う。
そして、少年が走っていった道は一方通行。
「追いつい、たああああっ!!!!」
穴から抜け出してすぐ、少年の姿を目に留めるなり、
リンは少年に向けて身体ごとぶつかる体当たりを慣行する――――!
『も、もしかして……とんでもないことしちゃった?』
今更のことを呟く。パニックを起こした臆病者の行動は、一般人よりよほど大胆迷惑である。
そうして身を強ばらせる少年だが、後方から聞こえていた甲高い少女の声が途切れたことを確認すると多少は力が抜けてくる。
後の事はひとまず置いておき、大きく息を吐いて歩調を少し緩めた――その時だった。
>「追いつい、たああああっ!!!!」
『――!?』
声は、側方――警戒の外から。
少年は振り向いた。
視界に飛び込んできたのは、激怒で顔を赤くした少女。助走の勢いそのままの、勇敢な体当たり。
身体能力的な分析を行うなら、決して回避不可能な動きではないのだ。
しかし、少年には致命的な弱点がある。それは、情緒的な脆さ――
――要するに、神経の細い少年にはとっさに適切な行動をとることなどできなかったということだ。
『わあぁぁああああーー!?』
少年の視界に火花が散る。2人は組み合ったまま、ごろごろと転がった。
ようやく視界が正常化した時には、少年は鎧の少女にしっかりと組み伏せられる形になっていた。
暴れる。ぽかぽかと気の抜けた音で少女を叩いてみる。抜け出そうとする。……無駄だと悟ってはいるけれど。
(えっと、こういう時は……この先は……!)
捕まって殴られてお終い、は許されないことだった。
少年は、袖口に縫い付けられたメモにちらりと目をやった。やるべきこと、というか、言うべきことのメモ。
パニックに流されそうになりながらも、唾を飲み込んで意識を定める。
(ごめんね……“お姫様”)
『――ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!!! どうしても登録用紙が欲しかったんだよ−!』
ばたばたと暴れながら、涙目で少年は訴える。
「その」登録用紙ではなく、単に登録用紙が欲しかった、と。
『その……もともと用意してた用紙を、今朝怖いお兄ちゃんたちに荷物ごと取られちゃって!
でもほら、用紙の配布なんてとっくに終わっちゃってるし!』
登録用紙の入手は、リンのような特殊な経路を除き、一般には各ギルドや公的な施設で誰でも可能だった。……先週までなら。
無論、国が専用に発行したものでない適当な羊皮紙で代用することは不可能である。
『だから、もう盗むしかないんだって思って……!
僕……どうしても、剣大会に出なきゃといけないんだ。僕が賞金をとりさえすれば、村は冬を越せるはずだから』
怯えて目をぎゅっとつぶりながら、叫ぶように少年は続けた。
『お、お願いしますっ! 見逃して、ガードには突き出さないで――じゃなくって、用紙を譲ってくださぁぁいっ!』
【捕まった少年は、リンを揺さぶってみています】
134 :
名無しになりきれ:2010/12/01(水) 17:55:58 0
どうした騎士T
レヴェッカ様かむばっく
136 :
名無しになりきれ:
援護まだ〜?