一緒に冒険しよう!ライトファンタジーTRPGスレ5
『ハローハロー。異世界の皆様、聞こえますでしょうか?
我々は貴方々と時空の異なる世界の住民でございます。文字通りの異世界ですね。
そしてこの通信が示すように、我々はつい先日、かねてより開発を進めていた異世界間通信を完成させました。
無論、ある程度の技術を有した世界でなければ受信が出来ないと言う真に残念な、改善すべき点もある技術なのですが。
ともあれ今はこの通信の主旨を述べましょう。
異世界の皆様、我々の世界へいらっしゃいませんか?
と言うのも実のところ、この通信技術は一人の天才によって齎された天啓のような物でして。
我々の世界は全体的な技術は、高いとは言えないのです。
しかし勘違いなさらぬよう。我々は決して、貴方々の技術を無償で頂戴したいなどと言う訳では御座いません。
我々は代わりに、この世界を提供いたしましょう。この世界に訪れた、異世界の皆様に。
見てみたいとは思いませんか? 貴方々とは全く異なる技術体系、想像すらしなかった科学の在り方。
それらがこの世界を器として、混ざり合うのです。
その器の中に描かれる模様が一体如何なものなのか、気になりませんか?
……さて、これで我々の通信は終了です。
もしこの提案をお受け頂けるのならば、『合意』の意を送信して下さい。
何処へ、とは言いません。送信さえして頂ければ、我々はそれを何としてでも受信致します。
猶この通信は様々な異世界へ、無節操に送信しております。
でなければ意味がありませんし、少なからず、我々が一方的な侵略を受ける事に対する抑止策の意味合いもあります。
我々が皆様が望むのは未知の世界の構築であり、植民地の作成ではありませんので、不快感を覚えるかもしれませんが、悪しからず。
それでは皆様、『まだ見ぬ世界』でお会いしましょう。猶この通信は、概念言語なるものを使用しております』
「……と、これが初めての異世界間通信の原文です。この通信から、この世界の基準で一世紀。
この世界は通信文の内容にあった通り、変わりました。様々な技術体系を持つ科学が集い、『まだ見ぬ世界』を作ろうとしました」
長々しい教科書の例文をつらつらと読み上げ、一呼吸置いた女性はそう述べた。
学校、教科書、教師、どれも旧時代のものではあるが、様式美などの意味を有して、この世界に現存している。
学校関連だけではなく、異世界それぞれの、昔の街並みを保存した住宅街だってあるくらいだ。
「この世界が元々有していた技術は二つ。一つはさっきの異世界間通信ですね。
そしてもう一つは、異世界人を誘致する技術でした。ただそれだけの技術から始まったこの世界は、
文字通り『まだ見ぬ世界』へと変貌を遂げました。そしてそれは今もまだ、続いているのです」
多種多様で高度な技術が集いながらも、この世界は何処か、ちぐはぐな様相を示す所がある。
まだ集まった技術同士が混ざり合っていなかったり、また技術と技術の隙間が存在するからだ。
「ですがそれは決して悪い事ではありません。それらを含めて、『まだ見ぬ世界』なのです。
この先、この世界はまだまだ変化していくでしょう。進化していくでしょう。新たな姿を見せるでしょう」
一旦言葉を切り、女性は視界に並ぶ生徒達をおもむろに見渡す。
視界を左右に一往復させてから、彼女は言葉を再開した。
「貴方達もいつか、どんな形でも構いません。その『まだ見ぬ世界』を築き上げる一助となりましょうね」
《こちらドール01、こちらドール01。誘導を感謝する》
前方の機械へ、解放した通信で連絡する。反応はない、原始的な誘導機械だったのだろうか?それ以上の思考を
中止し、大気圏への突入を開始するためにスラスターを吹かせ、角度を調整する。
《ドール02より、幸運を祈る》
《ドール03より、同じく》
《ドール01より、有難う。これより大気圏に突入する。突入時には通信が途絶することが予想される。アトゥ》
《こちらアトゥ、了解。これより衛星軌道から貴船の後方支援に入る。最適の健闘を》
プツリ、と通信が切れる。突入開始したのだ。機体の表面温度が跳ね上がるのがグラフから見て取れる。この後、
無事に大気圏を突破できたら迷彩を展開させ、データ収集に入らなければならない。恐らく休む暇は今しかない。
オートパイロットに切り替え、投薬量を調整し、一時的な休息に身を委ねる。
意識を閉じる瞬間にふと、思考に引っ掛かった数値……元素の比率の異常を示す数値に、自分は今、確かに違う
宇宙に居るのだと実感する。
我々よりも原始的で、豊かな資源を持つ宇宙へ。
「博士?博士〜もう朝ですよ。起きてくださいよぅ」
博士、と呼ばれる人を揺する人影。
小柄なその人物はボサボサの頭で全裸に引っかけるように着た白衣の人物を必死に揺り起こしていた。
しかし、その「博士」はわがままな事でも有名である。
「眠いからヤダ」
「ヤダって……ご飯冷めちゃいますよ?」
「朝から白米とかどこのザパニーズよ。絶対食べないんだから」
そういうと博士は布団に潜り込むと目を閉じる。
大丈夫。いつものことだ。
「ハニートースト」
ピクリと布団が蠢く。大丈夫後は、勢いで押し返せる。
「チョコレートドリンク。後……」
「おk。服来てぐから用意しといて」
撃沈。これがこの家の毎朝の光景である。
「早く来てくださいね?」
そう言い扉を開けたとき、ゲートが開かれたのだった。
「あれ?」
気付かずに扉をくぐったのは幸か不幸か……
くぐった先に広がるのはみたことのない世界。
「どうしよう。どうしよう……」
中心世界で最も高いと称されるビルがあった。
とは言え形状はビルと言うよりも、塔――地表から天へ伸びる針のそれに近い。
異世界間通信が成されてから初めに集った四つの世界、
彼らの各様な科学によって建てられたそのビルは名を『未知への指標』と言い、程無く建築百周年を迎える。
にも関わらず、百年間依然変わる事の無い銀色を湛えていた。
当時の科学技術の粋とも言えるこの建築物は、『異世界人同士の変わらぬ親交』のモチーフなのだ。
そして『未知への指標』の最上階、宙空に浮かぶ無数のモニターによって仄明るい部屋があった。
モニターは尖塔の先端とは思えぬ程広い部屋の中を暇無く、球形を描くようにして並んでいる。
球の内側には一体如何なる原理によってか、浮遊する円卓と、椅子が一脚だけ。
巨大な卓と見比べれば不釣合いな、しかし十分に大きく優雅さを醸す椅子には、一人の男性が腰掛けていた。
姿は標準的な『中央世界人』のナリを、上等な――合成でない天然のウールを用いたスーツで包んでいる。
更に彼の隣には、一人の女性が凛と澄ました態度で佇んでいた。
長い睫毛に縁取られた目を瞑り、薄い唇を真一文字に結んで屹立する彼女は、男性と同じくビジネススーツを纏っている。
すらりと細い頭身の彼女は容姿も相まって、クールビューティと呼ぶに相応しい。
ただ人によっては、スーツやスカートに覆われていない四肢に、薄い線が幾重にも走っている事に、目が行くかも知れないが。
不意に軽やかな電子音が二つ、重なりながら室内に響く。
伴って、球を成すモニターが二枚、朧気な赤色に染まった。
女性の切れ長な目と唇が開かれる。
『大気圏外にて、未知の通信を確認しました。また新たな『来訪者』のようです』
「へえ、随分と久しぶりだね。それも同時に二つとは……動向は分かるかい?」
『来訪者』と言うのは、異世界から訪れた何者かの呼称だ。
100年前に発せられた通信は今も異世界の狭間をさ迷っている。
故にこうして、新しい『来訪者』が来る事も有り得るのだ。
『片方は街中に現れたようです。危険は今の所ありません。
もう一方は……どうやら迷彩を展開したようです。大気流動、熱源、その他全ての感知要素から捜索中……見つけました』
「ありがとう……。ふむ、しかし降ってくるとなれば急いで近隣の一般人を避難……いや、まずはエネルギー拡散力場の展開だね」
滔々と語る男性は一度言葉を切り、それと、と繋ぎの一言を挟む。
「『私』の手配を早急に頼むよ、ジェリー君」
『既に向かっております』
ジェリーと呼ばれた女性はそう報告したきり、再び目を閉ざした。
「やれやれ、力場展開が間に合ったようで何より。……それにしても、避難勧告を出した筈なのに、全く何だねこれは」
視界に広がる人々の群れに、『男性』は嘆息を零す。
意を決して人混みに飛び込むと、前の人達に断りを入れながら押しのけ、進んでいく。
人垣の向こうでそそり立つ、流線型の『来訪者』へと。
「……さて、ようこそ『来訪者』さん。私はこの『中央世界』の『議長』、
クロウン・アイソトープだ。私は、我々は君と君の世界を歓迎しよう。……これは、聞こえているのかな?」
普段の癖から握手を求めようと差し出された手は、しかし巨大な金属の円筒を前に中を泳ぐ。
そして彼とその仲間がもしも、目の前での出来事を確認していて、尚且つ通信を再開していたならば。
各々の前に『まったく同じ姿をして、同じ名を名乗った男』がいる事を理解するだろう。
慌てふためく『C』は瞬く間に、押し寄せた周りの人々に取り囲まれてしまう。
彼らは口々に「ようこそ」だとか「歓迎するよ」等と言った事を口走っているのだが、
果たして混乱を窮めている『C』にそれらの言葉は届いているだろうか。
言語の壁に関しては、『中央世界人』に生きる者は皆『概念言語変換機』を所持している。
それにより言葉の概念のみを抽出して送り出しての会話を行っている為、通じるには通じる筈なのだ。
「やれやれ、こちらも一応避難勧告は出したんだけどなあ。体内の大気とか、本人にその気が無くても危険な場合だってあるのに」
そこに再び『男性』が、クロウンが訪れる。
「……さて、ようこそ『来訪者』さん。私はこの『中央世界』の『議長』、
クロウン・アイソトープだ。私は、我々は君と君の世界を歓迎しよう。……これは、聞こえているのかな?」
奇しくも『他の三人』と同じ事を口走りながら、ひとまず彼は目の前の、少年の姿をした『C』に握手を求めた
偵察を開始して数時間。なんとも意外な形で機体を表に晒す事になった。
《ビーコンを受信しました》
機体に積まれた対話学習型のAI、YITHが私の意識上に二次元的なウィンドウを展開した。ウィンドウに表示され
た地図には、予測されるビーコンの発信源が表示されている。
《それがどうした》
元々偵察に来たのだ、交信すべき相手がいるとは思えない。
《“貴殿が見えない、後十時間で事故と処理し、捜索隊を派遣する”ビーコンから発信された内容です》
《……無視することは?》
《あまり推奨できません、こちらの存在が既に気付かれていた、と考えるのが妥当でしょう。それに》
我々の母艦と隊員達は未だ気付かれていないようだ、とYITHは推測した。気付かれているのなら、既に隠れる意
味はない。むしろ捜索隊を組織されて、母艦や隊員達を発見される可能性を無闇に増やすよりは、こちらから接
触に応じた方が幾分マシだ、と。
《選択の余地は無いようだな》
機首を旋回させて、全ての迷彩を切る。ビーコンで指定された周波数に無線を合わせ(ごく原始的な方式の電波
だった)通信を開始した。
《こちらドール、只今機体の不調によりレーダーに写らなくなっていたようだ。そちらに着陸願う。繰り返す》
何度かの反復の後、着陸の許可が下り、ドール01はゆっくりとその体を巨大な都市の交差点へ降ろしていった。
「……さて、ようこそ『来訪者』さん。私はこの『中央世界』の『議長』、
クロウン・アイソトープだ。私は、我々は君と君の世界を歓迎しよう。……これは、聞こえているのかな?」
僅かな驚きと共に、画面上に写る男の姿を眺める。姿形が我々とそっくりだ。と言っても脳の摘出手術を受ける
前、と言う意味でだが。
《人形へ、ドール01の意識をインストール完了しました。並列化しますか?》
《いや、しなくていい。“私”とは分けてくれ。次にドール01に乗る機会があれば、その時にでも》
《了解しました。これよりYITHはドール01の人形へのコピー、“ドール01”の支援に入ります》
そうして、戦闘機に乗る“私”は船外活動用の人形にインストールされた“私”の二人になった。
戦闘機のハッチが開き、中からは宇宙服のような形をした人形、ドール01が出てくる。戦闘機の前で立つ男、ク
ロウン・アイソトープに向き合い、無造作に自己紹介をした。
《こんにちは、私はドール。この国の文化は知りませんが、私は貴方達に敬意を払うつもりだし、貴方達が私に
敬意を払う事を望んでいます》
状況が分らずにただおろおろと周囲を見渡す。
そんな「彼」をよそに彼を取り囲んだ人物たちは奇妙なニュアンスの言葉で接してくる。
「あ、あう……」
実のところ、Cには人と接した経験が全くない。その原因は保護者である所有者にあった。
彼の所持者である「博士」は尋常ではない程の独占欲の持ち主であり、彼女の意志のもとCは外界から隔離された存在だった。
そのため彼に与えられた世界は「博士」と自分。それから時折、顔を見せる「アケミチャン」という人物で構成されており、
このような人だかりは初めての経験であった。
混乱を通り越して思考停止に陥ったC。その時だ。そんなCの様子に気づいた人物が現れる。
「……さて、ようこそ『来訪者』さん。私はこの『中央世界』の『議長』、
クロウン・アイソトープだ。私は、我々は君と君の世界を歓迎しよう。……これは、聞こえているのかな?」
Cの周辺の人をのかしながら現れる壮年の男性。その差し出された手は何処となく温かみを感じさせるものだった。
「クロウン・アイソトープ?」
名前。と思しき内容の部分を抽出すると言葉として発してみる。
そして、そこでCはとんでもない事に気がついた。
今、自分が何をしていたのか?と言う事だ。
いま、じぶんははかせのしょくじをつくっていたのではないだろうか?
「……うわわわあぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!」
「博士?は〜か〜せ〜?」
「どうでした?」
「ダメです。こうなったらこの人は誰にも止められませんよ……」
薄暗い研究室の一角に備え付けられた小さな食事台。
その上にはもう冷めてしまったチョコレートドリンクとハニートーストが並んでいる。
その前にペタリと女の子座りで座ると何もない空間を見つめている人物がいた。
「にしても、不思議な話ですよね。あの子犬君が出て行ったなんて……」
「ですねぇ。でも家出とは限らないんじゃあないかな?」
「まぁな。普通ダッチは家出とかはしないからな。捨てられるならあるけど」
「つまり、それだけ条件付けをしてなかったんでしょうね。博士。あの子にベッタリだったし」
「本当、皮肉なもんだよ。本来なら依存しなければ生きていけないダッチに依存していたなんてな」
切れかけの蛍光灯の明かりの中、彼女は飽きることなく幻想に浸っていた。
銀色の円筒から現れた、ドールと名乗る宇宙服めいた姿の――恐らく男にクロウンは改めて握手を求めた。
ドールは概念言語変換機を持っていないが、クロウンも伊達に『議長』をしている訳ではない。
これまでに中央世界を訪れた異世界人達の言語体系から、ドールの挨拶に近いものを想起する。
「恐らくあっていると思うのだが、間違っていたら申し訳ない。ようこそドールさん。
勿論、我々は『来訪者』の皆さんをおしなべて歓迎し、経緯を払います。
……ところで、こちらの世界へ来られたのは貴方だけですか? 」
実のところ、クロウンは既に彼の同胞達が来ている事を把握している。
初め一つだった反応は途中から三つに別れ――しかし迷彩を展開した為捕捉出来たのはドール1のみだったのだ。
とは言え発見は、捜索を続ければ時間の問題だろう。
だが、もしもここで『ドール01』が嘘を吐いたのならば、その時は彼らに『来訪者』ではなく。
『侵略者』と認識を改める必要が、少なくとも警戒心を抱く必要が出てくる。
おしなべて歓迎するとは言ったが、敵意の香りが僅かにでもするのならば用心するのも、また重要な仕事だ。
「もしも同胞の皆様がいるのなら、そちらにも出迎えが必要ですから」
「えぇ、私の名前です。私は貴方を歓迎致しますよ。……ところで、こちらの世界へ来られたのは貴方だけですか?
もしも同胞の皆様がいるのなら、そちらにも出迎えが必要ですから」
握られた手から返ってくる微かな温度を感じながら微笑み、しかしクロウンは『C』にも同胞の確認を怠らない。
だが『C』は何やら呆然とした様子で、押し黙っている。
隠し事かと一瞬考えたクロウンは、しかし過去に何度か彼のような『来訪者』がいた事を思い出す。
直後、狼狽を顕にした叫び声が上がる。
絶叫の瞬間に脳裏を駆け巡るのは阿修羅をも凌駕するような形相の主の姿。
絶望。と言うには大げさかも知れない。
しかし、これは彼にとって地獄に落とされたのよりも絶望的なことでもある。
なぜなら、道具には持ち主が、玩具には使用者が、奴隷には所有者が、必要なのだから。
(どうしよう!どうしようどうしようどうしよう。どうしよう!!)
「やはり……! っ、ひとまず落ち着いて下さい。貴方は望まずしてこの世界に来てしまった。そうですか?
もしそうならば、我々は貴方を全力で援助します。この世界での暮らしは勿論、貴方の故郷とのアクセスもです」
そう言うアイソトープの声。しかし、もう遅い。圧倒的なまでに遅いのだ。
いくら、Cが世間知らずであろうともここが見たことのない場所であることは理解できる。
そして、彼の主はそれをよしとする事は今までの人生で置いて一度もなかった。
図らずとは言えそれを破ったのだ。「博士」はもう着替えを終わらせたところだろう。
となれば当然Cが居ない事にも気づいているはずである。
つまる話、必要のない道具は捨てられる。そう言う事だ。
「僕…どうすれば良いのでしょう。
多分、捨てられる……そうなったら、……うぁ」
そう呟きながらCはくず折れる。
握りしめた掌の感触だけがこの瞬間がリアルだという事を物語っていた。
「恐らくあっていると思うのだが、間違っていたら申し訳ない。ようこそドールさん。
勿論、我々は『来訪者』の皆さんをおしなべて歓迎し、経緯を払います。
……ところで、こちらの世界へ来られたのは貴方だけですか? 」
《そうですね、“私”は確かに一人ですよ。“ドール”は一人しかいません》
さしのべられた手を無視する。それが挨拶なのだとしても、残念ながらこの人形では過出力過ぎて握りつぶして
しまうのが関の山だろうから。目の前の男も、それくらいは察してくれるだろう。
《ドール01、指示を》
YITHが“感づかれている”と言う内容の警告文を意識内にモニターする。
(嘘は一つも吐いていない。後は相手方の認識次第だ。仮に私に対して攻撃してきたとしても、帝国にとって戦
争への良い口実になるだけだ。“分裂を当然の事とする種族としての意識の違いを認識せずに、主観によって判
断され、国民を殺された”とかな)
どちらにしろ、何も問題はない。気づかれていたことは意外だったが、逆に言えばそれは迷彩状態は全く補足で
きなかったと言うことになる。
愛機は単独で星間航行が可能であることが強みであり、迷彩についてはそこまでではない。この時点で、軍事力、
情報戦についてはこの世界とミスト03ではかなりの開きがあることがほぼ確定できた。もっとも警戒しなければ
ならないはずの異世界の戦闘機を、こちらが近づくまで完全にロストしていたのだ。
《はい、こちらの状況は常に観測されています》
と言うことは、迷彩が補足できなかったと言う事実はアトゥにも当然観測されている事になる。
(これをもって主要任務を達成。これより補足の情報収集に入る)
あとは自身の生死など問題ではない。完全なる蛇足だ。帝国は侵略を確定し、そう遠くない未来にこの世界に攻
め込むことだろう。
《さて、私が提供できる技術は微々たる物だが。この世界の発展に役立ててもらいたい》
私は目の前の男、アイソトープにそう言った。取り敢えず何らかの手続きが必要だろう。私はそれについての指
示を仰いだ。
呆然と絶望の同居した表情で、『C』は譫言を零す。
過去に意図せずこの世界を訪れた者達も程度の差はあれど、元の世界での人との繋がりを憂慮していた。
家族に、恋人に、身を置く組織にと、対象もまた多様だった。
「……ですが、大丈夫ですよ。我々は貴方の生涯をバックアップ致します。そのような規約があり、過去の貴方と同じ境遇の人々にもそうして来ました。
貴方の世界にアクセスする事が出来たのなら、時間跳躍技術の使用解禁許可も出ます。これも規約で決まっている事です。」
クロウンは『C』を何とか安心させようと、クロウンは希望を連ねていく。
だが彼の言葉には一つ、意図的に開けられた穴があった。
時空跳躍により人生のやり直しが可能とは言ったものの、それはあくまで『目的の異世界にアクセスが出来たのならば』なのだ。
過去に『C』と同じく望まずこの世界に来た人間は数多といる。
しかしその中で生涯の内に故郷に帰る事の出来た者はほんの一握り、一摘みだけだった。
無論帰れなかった彼らが不幸な一生を終えたかと言えばそうではないが、それにしても無念があったにはあっただろう。