江戸末期の黒船来航。この事件をきっかけに、日本は大きく変貌を遂げた。
だが…もし黒船来航がなかったら? もし武士が生き続けたまま現代に至ったとしたら?
これは、そんなもしもの現代日本「日ノ本」を舞台にした、チャンバラ活劇風物語である。
浪人として放浪するのか、人斬りや忍びとして裏の世界で暗躍するのか、
賊として修羅の道を行くのか、剣が支配するこの世界でどう生きるかは貴方次第だ。
舞台となる日ノ本とは
・日ノ本(ジパング)は現代日本と中世日本を複雑に併せたような国。
携帯電話やパソコンが普及している一方、ガソリン車の代わりに馬車や人力車が走ったり、
木造の高層ビルや城が立ち並ぶ都市を和服を着た女性や腰に刀を下げた侍が往来している。
ものによっては時に近未来的な技術が使用されていることもある。
ルール
・NPC以外のキャラを勝手に殺すことはできません。
・キャラは東洋人でも西洋人でも構いませんが、オリジナルでお願いします。
・氏名は苗字と名前の間にスペースは入れずに「苗字名前」と表記して下さい。
西洋人キャラとしてカタカナで表記する場合「名前・苗字」という形にして下さい。
・武器の所持品は剣・槍・弓など、基本は銃器以外のものにして下さい。
・テンプレ(
>>2以降)にもそれぞれ説明がありますので、よくお読み下さい。
・以上の事項が理解でき、守れる自信のある方はテンプレに記入してご参加下さい。
テンプレ壱
名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
出身:(出身地…架空の地名でも構いません)
職業:(剣客・忍者…など)
装備:(武器、その他所持品など)
容姿:
備考:
テンプレ弐
・筋力・速力・知力・体力の四つの項目に1〜10までの数値を振り分けてもらいます。
これがキャラの強さを表す一種のパラメータになります。
・ただし、筋力を7以上とした場合、速力の上限は6までとなり、
同じように知力を7以上とすると体力の上限も6までとなります。これらは逆も同様です。
・合計値にも制限があり、合計値の上限は25。下限は12となります。
・当初から合計値が25に達しているキャラの場合はそれ以上数値を伸ばすことはできませんが、
25未満としたキャラの場合は後にスレ内で25まで自由に数値を伸ばす(成長させる)ことが可能です。
勿論、25未満のまま成長させないということも可能です。
筋力:(1〜10まで)
速力:
知力:
体力:
合計:(筋力〜体力値の合計…最低12・最高25)
西暦2010年春、東京某所にあるとある武道場──
ここでは、擦り切れた学ランを身に纏い、時代錯誤なリーゼントを頭に乗せた若い男が、
道着姿の白髪の老人の手により何度も宙に放り投げられ地に叩きつけられていた。
「く、くそジジイ〜〜! 調子に乗んじゃねェ〜〜〜!!」
猪のように突進し、その勢いで老人目掛けて拳を繰り出すリーゼント。
しかし、老人はそれを難なくかわすと、瞬時に彼の体を掴み、勢い良く地に叩きつけた。
ドスン! 小気味の良い音と男の呻き声が道場に響き渡った。今日、これで何度目だろうか。
「あっ、だだだだだ……。チクショウ! 少しは手加減しやがれジジイ!」
「戯けが! 手加減をされて強くなれると思っておるのか!? ワシの後を継ぐには──」
「誰もテメーの後を継ぎたいなんて言ってねェよ!!
大体、剣術家の後を継がせようってのに、何で柔道をさせるんだよ! あぁ!?」
バチン! ──今度はリーゼントの頬を引っ叩いた音が鳴り響く。
「『鬼神無双流剣術』の極意を会得するには、全ての武道に通じておらねばならんのじゃ!
我が家に生まれた男児ならばそれを学ぶ義務がある! 判ったかバカタレ!!」
「ケッ……」
老人の剣幕にリーゼントは言い返せないというように視線をそらした。
この男の名は刃振剣一。この春、都内にある都立高校を卒業したばかりの男なのだが、
身なりや言動から察しられるように、当然、ただのではない。
というのも、通っていた高校というのが都内で有名な不良校・獄道高校であり、
そこの番格を五年も張り「喧嘩伝説」も残している、ある意味の強者(つわもの)なのである。
しかし、そんな怖いもの知らずの剣一を畏縮させる、唯一の存在がいた。
それが先程まで彼の体を軽々と投げつけていた老人である。
彼は剣一の唯一の肉親であり、祖父であり、高名な剣術家であった。
「フン、後を継ぎたくないと抜かしおったが、高校を卒業して雇ってくれるところはあったか?」
「ぐっ……」
高校を卒業したはいいが、彼の学力レベルでは大学進学など不可能であった。
かといって不景気の今、悪童達が集まることで有名な高校の卒業者など、
どの企業も率先して雇ってくれるはずもない。
両親を早くに亡くした剣一にとって、今は祖父に養われている身でしかない。
剣一はばつが悪そうに呻くしなかった。
「お前はワシの後を継ぐしか生きる術はないんじゃ。餓鬼のように駄々を捏ねず、早く腹を決めい!」
「……わかったぜ」
「ほう? 意外と素直じゃのぉ」
また何やらと悪態をつくかと予想していた祖父は、剣一の意外な反応に驚いた。
しかし、それも束の間……やはり剣一は素直に応じたわけではなかった。
剣一はすっくと立ち上がると、祖父に背を向けて道場の扉を蹴破った。
「勘違いすんな! 俺は俺で生きてくってんだよ! それなら継がなくても文句は無ェだろ!?」
「止めておけ。直ぐにここに帰って来るのがオチじゃ」
「フン! いいから見てやがれ、ジジイ!」
捨て台詞を残して道場を後にする剣一を、祖父はやれやれと頭をかいて見送った。
一度決めると誰が止めようが耳を貸さない。そのことは祖父が一番に理解していたからだ。
「ま……しばらく待ってみるのもいいじゃろう。少しでも成長して帰ってくればいいがの」
一人残された道場で、祖父は期待と不安の入り混じった声で呟いた。
──家を出て数時間後、剣一は大都会を徘徊していた。
勢いで出てきたはいいが、当然当てなどあるはずもない。
着の身着の儘の学ラン姿で出てきた為に、持ち物は古びた携帯電話のみである。
ちなみに、学校を卒業しているのに未だ学ラン姿でいるのは、それが彼の趣味だからである。
「クソッ……財布まで置いてきちまったぜ。取りに行って戻るのも癪だしな……」
財布を取りに戻った剣一の姿を見て、祖父が「もう帰ってきたか」と高笑いする映像が
剣一の頭の中で浮かんだ。口にした通りこれでは戻るわけにはいかない。
「しゃーねぇ。どこかでカツアゲでもして……」
物騒なことを言いながらさながら獲物を探す肉食動物のように周りを見回すが、
当てもなくさ迷ったせいだろうか、剣一は知らぬ内に郊外に来ており
辺りには手頃な獲物は徘徊していなかった。あるのは誰もいない小さな公園だけ。
(……どんな僻地だよ、ここは)
こんな場所に来てしまった自分に半ば呆れながら、
剣一は一休みしようと公園のベンチに腰を下ろして嘆くように空を見上げた。
(あーあ……これからどこいきゃいいんだ、チクショ………………あ?)
その時、一瞬、思考が止まった。
公園の上空をまるごとすっぽり覆うように、黒い穴がぽっかりと口を開けていたのだ。
如何に学がない剣一といえど、このような不自然な現象を目の当たりにして違和感を覚えぬはずがない。
──何かヤバイ! 即座にそう直感したが、体は動かない。いや、動けなかったのだ。
気が付いた時には地面は遥か下にあり、剣一の体はベンチごと上空に吸い上げられていた。
「おいおいおいおいおい!! ──おわああああああああああああ!!」
わけがわからないまま剣一の視界は闇に飲まれ、そのまま意識はぷっつりと途絶えた。
空に広がった黒い穴は、剣一の体を飲み込むと次第に小さくなり、やがて消えた。
数秒後の公園の上空は、いつもの澄み切った青い空があるだけだった……。
……意識を失ってどのくらい経った時か、剣一はふと何かが騒ぐ音で目を開けた。
「な、な、なん……だ? うるせ……うおあっ!?」
と同時に、剣一は声をあげて飛び起きた。
剣一の体の周りを無数の鶏がはしゃいで──いや、暴れているのだ。
「コケーコッコッコッコ!!」
「だぁー! なんだこりゃぁ!? 鶏小屋かぁ!?」
周りを見れば確かに小屋のような狭い密室である。
だが、何故自分がこんなところにいるのかは考える余裕はなく、
剣一はわけのわからぬまま混乱する修羅場から這いずるように小屋を飛び出した。
そうして一瞬安堵する剣一だったが、広がる外の景色がすぐに彼の顔を強張らせた。
「……あ?」
そこは街の中。といっても、いつも見慣れたあの大都会東京ではない。
木造の家々が立ち並び、街往く人々は時代劇で見るような和服を着ている。
(あの江戸村か……?)
そう思ってはみたものの、当然そんなところに行った覚えはなない。
(待て待て、俺は公園にいてそれで……)
自分の行動を思い返していて、浮かんだのはあの黒い穴。そしてベンチごと吸い込まれたあの記憶である。
夢かと思い頬を抓るが、瞬間痛みが走る。……夢ではない。
見れば、人々は剣一を何か珍しいものでも見るかのような顔をして通り過ぎていく。
「……ここ、どこだ……?」
チャンバラTRPG -ジパング- ここに始まる──。
名前:刃振剣一(はぶりけんいち)
年齢:20
性別:男
身長:180cm
体重:78kg
出身:東京
職業:無職
装備:現在、古びた携帯のみ
容姿:黒い学ラン姿。髪を今時珍しいリーゼントで決めている。
備考:各地からならず者ばかりを集めた超不良校「獄道高校」の番格だった男。
「鬼神無双流剣術」の師範である祖父に後継者にと鍛えられていた為に
都内で有名になるほどの喧嘩が強かったが、その反面学業の成績は壊滅的で
偏差値が低すぎて計れないほどのDQN校を五年かけて卒業した。
卒業後は就職口もなく、祖父の後を継ごうともせずに家を飛び出したところを
謎の黒い穴に吸い込まれてパラレルワールドに行ってしまった。
筋力:5
速力:4
知力:2
体力:4
合計:15
とりあえず初回はここまで。
続きは参加者の方がある程度集まってからにします。
その間質問がありましたらどうぞ。
7 :
名無しになりきれ:2010/01/08(金) 19:52:23 0
呪文とか魔法みたいな特殊能力はなし?
特殊能力というと忍法とか一時的にポテンシャルを高める憑依術とかになりますかね。
基本はチャンバラ路線なんでとりあえず光線とか炎を制限なく出せるようなものでなければいいでしょう。
とりあえず話に絡む前に今の場面は日ノ本とやらの
どういうところなのか地名か何かを一言ヨロ
場所については次の書き込みで触れるつもりでしたがそれでは事前に説明しておきます。
場所は首都の「江渡(えど)」です。人口1000万ぐらいと考えています。
刃振がいるのはそこの郊外といったところでしょうかね。
11 :
名無しになりきれ:2010/01/08(金) 22:17:02 0
剣で戦う現代和風ファンタジーという感じか
忍法ありってことは分身の術なんかも?
素早いキャラなら高速移動で増えたように見せるのはOKですし、
本当に分身を作る影分身術みたいなのをもっててもOKです。
ただしその場合分身は本体より能力が劣るとかダメージを負ったらすぐ消滅するとか
ある程度の制限を設けてもらうことになりますけど。
参加希望だけど、こんなキャラはおk?
名前:秋元 義三郎(あきもと ぎざぶろう)
年齢:17
性別:男
身長:165cm
体重:62kg
出身:陸奥の国・北方の山村
職業:ゴロツキ(自称・浪人侍)
装備:木刀、握り飯×3、水筒
容姿:旅装束、ゴロツキ風のマゲ
備考:平穏過ぎる故郷の暮らしに退屈し、武者修行と称して旅にでた男
だが特にやりたいこともなく、見つけようともしない
敢えて言うなら今までに無かった刺激的なことがしたい、という漠然としたことだけ
日々を無計画に生きている、日本にも日ノ本にもよくいる典型的な若者
剣の腕はケンカのために使うだけなので素人
生まれた土地が険しい山奥であるため足腰は鍛えられている
筋力:3
速力:5
知力:3
体力:3
合計:14
>>13 氏名はルールに添ってスペースは入れずに表記して下さい。
(名前欄にも統一感が欲しいのでご協力お願いします)
後はOKです。ようこそジパングの世界へ。
ゴメン、見落としてた>スペースなし
以下は改定版、今後は気をつけるんでヨロシク
名前:秋元義三郎(あきもと ぎざぶろう)
年齢:17
性別:男
身長:165cm
体重:62kg
出身:陸奥の国・北方の山村
職業:ゴロツキ(自称・浪人侍)
装備:木刀、握り飯×3、水筒
容姿:旅装束、ゴロツキ風のマゲ
備考:平穏過ぎる故郷の暮らしに退屈し、武者修行と称して旅にでた男
だが特にやりたいこともなく、見つけようともしない
敢えて言うなら今までに無かった刺激的なことがしたい、という漠然としたことだけ
日々を無計画に生きている、日本にも日ノ本にもよくいる典型的な若者
剣の腕はケンカのために使うだけなので素人
生まれた土地が険しい山奥であるため足腰は鍛えられている
筋力:3
速力:5
知力:3
体力:3
合計:14
あとは自分から書き込みしてもおk?
はい、後は自由に書き込んでくださって結構です。
まだ昼間だというのに、明らかに暇を持て余している様子の若者が一人
通りをフラフラと歩いていた。
この男、名を秋元義三郎という。
故郷である山村の生活に嫌気がさして飛び出したは良いものの
これといって目標を持っていた訳でもないため、ただ無為に一日を過ごすだけであった。
そんな日々に『このままでは故郷にいた頃と何も変わらない』
と思いつつも、そんな現状を変えるには何をやれば良いのかさえ見つけられないでいる
そして、この男にはそれ以前の問題があった。
「大工仕事の日雇い人足……今日で終わっちまったし
明日からどーすんのよ?」
今、この男にとっては明日からの寝床とメシをどうにかしなければならない
という問題の方を先に解決しなければならないのである。
昨日まで臨時人足として雇われていた仕事は今日で終わった
僅かばかりの銭と弁当の残りを貰い、立ち去ったはよいが
次の予定など全くもって有りはしなかった。
「別のトコにはまだ仕事あったけど、大工仕事は疲れてもうコリゴリだし
でも野宿や、廃寺の軒先で過ごすのもなぁ、ハァ〜」
>「コケーコッコッコッコ!!」
>「だぁー! なんだこりゃぁ!? 鶏小屋かぁ!?」
「え?」
思わずため息を漏らしながら、情けなさに打ちひしがれていると
朝でもないのに鶏の鳴く声と男の怒鳴り声が聞こえた。
声のした方向に振り向くと……何と言うべきだろうか。
義三郎自身も真っ当な格好とは言い難いことは自覚しているが
罵声と共に鶏小屋から飛び出して来た男の姿は、妙に盛り上がった髪型に
全身黒ずくめの見たことも無い形の着物で、挙句の果てに白い羽毛が体中にまとわりついている。
「……また、随分と傾奇(かぶ)いた奴が居たもんだ」
義三郎は思わず足を止め、黒ずくめの傾奇者を見つめる。
「おい、そこのアンタ。ここは一体──」
たまたま目が合った和服の女性に声をかける剣一。
しかし、女性は剣一の姿を目にしただけで、まるで鬼でも見たかのような顔をして慌しく走り去っていく。
追いかける間もなく女性は人混みの中へと消えていった。
「お、おい、ここは──」
今度はすれ違ったチョンマゲの男性に声をかけるが、
男性は大きく視線を横にずらして知らん振りをして通り抜けていく。
(俺のような不良とは関わりを持ちたくないってか……ケッ、上等だぜ)
剣一はポケットから携帯を取り出して、メモリーから気心の知れた友人の番号を出し、発信ボタンを押した。
(ここがどこだか知らねぇが、ここと同じような風景のところを探してもらって迎えに来させりゃいい)
しかし、いつまで待ってもコール音が鳴らない。
不思議に思った剣一が携帯の画面を見ると、そこには『圏外』の文字。
剣一はこめかみに血管を浮かばせ苛立つように道の土を蹴り上げた。
(チィッ! こうなったら適当にそこら辺の連中をぶちのめして無理矢理吐かせるか!)
剣一はジロリと辺りを睨め回す。瞬間、人々は剣一が発する不穏な空気を感じ取ったか、
まるで蜘蛛の子を散らすようにその場から足早に立ち去っていった。
獲物を見定める間もなかった剣一は、ただ誰もいなくなった道を呆然としながら見回すだけだった。
「ん……?」
その時、剣一の視線が止まる。
人通りがなくなった道の先から、一人の若い男が剣一をじっと見つめているのだ。
剣一はカモを見つけたといわんばかりにニタリと笑い、のっしのっしと男に歩み寄った。
「おい、そこの変な格好をしてる奴。……そう、テメェだ。他に誰がいんだ、コラ!
ちと聞かせてもらいてェことがあんだけどよォ……」
笑いながらドスの効いた声で近付くその様は、まるで金品目当てに絡もうとするチンピラである。
勿論、当の本人にはそんな気は全くないのだが、これは勘違いされたとしても仕方がないだろう。
だが、そうして相手に警戒感を与えかけた、そんな時である。
「ちょ、ちょっと! 何すんのさ、止めとくれよ!」
「へっへっへ、いいじゃねぇか姉ちゃんよぉ。少し俺達と楽しもうぜ?」
若い女の声と数人の男の声が、大通りから外れた道の小脇から聞こえてきたのだ。
どうしようもない不良ながら、人一倍強い正義感を持ち合わせている剣一は、
それを見過ごすことはなかった。男に向けた足を返し、すぐにその方向に駆け出した……。
辿り着いたそこでは、黒い長い髪をポニーテールに仕立て花柄の着物を纏った若い女性が、
如何にもその筋の者という風貌の無骨な男達三人に囲まれていた。
「おい!! 女一人に何やってんだコラァッ!!」
「あぁアン? なんだテメェは? 俺達が誰だかわかって──」
男の一人が迫力ある顔で剣一を覗き込んだ、その瞬間──剣一の右拳が男の顔面に命中した。
不意の、しかも重い一発に、男は一瞬の内に顔面を血だらけにして地に伏すことを余儀なくされた。
「誰だか? ハッ、知るかよ!」
「──こ、このガキ『ども』!! ぶっ殺してやる!!」
(ガキ、ども……?)
剣一がふと背後を振り返ると、そこにはあの若い男が立っていた。
20 :
名無しになりきれ:2010/01/09(土) 22:10:33 0
支援age
黒ずくめの男は何やら目が合った人間に対して片っ端から詰め寄っている
……が当然いうべきなのか、いかにもな姿の男とまともに話そうとする者など居らず
皆、一様に目を逸らして退散していく
そんなことを何度か繰り返した後に、やがて諦めたのかポケットから携帯電話を取り出して
どこかへ通話を掛ける
(見たことないケータイだけど……どこの新機種だ?何にしろどこぞボンボンか)
そんなことを考えていたのだが、突然に件の男が地面を蹴りつける
何が原因かは皆目検討がつかないが、先程より更に苛立っているようだ。
>「おい、そこの変な格好をしてる奴。……そう、テメェだ。他に誰がいんだ、コラ!
> ちと聞かせてもらいてェことがあんだけどよォ……」
「アレ?」
いつの間にか気付くと通りに立っているのは自分一人となっている
(あ、やっべー!逃げそびれた)
生まれも育ちも生粋の江渡っ子ならば往来での喧嘩など日常茶飯事
喧嘩を売られたときや、それ以前に関わり合いにならないためにはどうすれば良いか等
ガキの頃から身に着けていることだろう
しかし、哀しいかな、この秋元義三郎は田舎から飛び出してきた若造に過ぎず
思わず目についた、見るからに関わってはいけない男を凝視し続けてしまったのだ
「んっと、金は無いんで出来れば他所を当たって欲しいんですけどー……」
遅まきながらに逃げの体勢を取って半歩下がる
が、向こうの答えが返ってくる前に脇道から女の悲鳴交じりで言い争う声が聞こえた
途端に黒ずくめの傾奇者は弾かれたかのような勢いで走り出す
「見逃して貰った、のかな?」
ここで止せばいいのにつまらない好奇心を出すのが義三郎という男である
つい脇道へと入るれば、先程の傾奇者が町娘に絡むガラの悪い男を殴り飛ばしているところが見えた
「おぉー、伊達に派手な格好してる訳じゃないのね、おにーさん」
などと感心するのもつかの間
>「──こ、このガキ『ども』!! ぶっ殺してやる!!」
という台詞に、傾奇者も振り向く、なにやら仲間と思われたらしい
「え……『ども』って、自分も入ってんの?ちょ、ちょっと待った!」
「てめぇら、容赦はしねえぞオラァ!!」
こちらの言い分も聞かず、ガラの悪いの男の一人が迫り来る
「は、話を聞いてくれってええぇぇ!?」
などと言ってみるものの、仲間をやられていることで頭に血が昇っているらしく耳を貸そうとしない
もう一人の方も傾奇者へと殴り掛かって行く!
>「てめぇら、容赦はしねえぞオラァ!!」
男達は怒声を上げて懐から銀色に輝く凶器を取り出した。短刀だ。
怖いもの知らずの剣一でも、これには流石に、一瞬たじろいだ。
(なっ……! い、いきなり光りモンを抜きやがった……!)
不良や族同士の抗争でも、一方がナイフをチラつかせることは珍しくない。
だが、それはあくまで脅しの手段で用いられることが多く、
少なくとも剣一が住む地域では、殴り合いが基本という暗黙のルールが存在していた。
しかしこの男達はどうだ。とても脅しで短刀を抜いたという様子ではない。マジで殺る気なのだ。
(……チッ、マジもんの極道か! ……上等、だぜ!)
剣一は一瞬の怯みを直ぐに打ち消した。どこか笑みが窺えるその顔は、危険を愉むようですらある。
自信があるからだろうが、恐らくそれ以上に戦闘狂な部分が彼にはあるのだろう。
「死にさらせやぁぁああああ!!」
男の一方が若い青年に向かい、もう一方が剣一に刃物を突き出してくる。
剣一はそれを紙一重でかわしながらさしだされた腕を掴み、素早く手首を捻った。
「うをっ!?」
手首をかつてない方向に捻じ曲げられた男が呻き、ポロリと短刀を落とす。
「オラァ!」
一瞬、動きが止まった男の隙を突いて、剣一は男の腹部に、それも鳩尾に膝蹴りを放った。
鈍い音が鳴り、男がよろめく。──勝機である。剣一はそれを逃さなかった。
「オラオラオラオラァ!!」
素早く連続して放たれた拳が、ことごとく男の顔面にヒットしていく。
激しい殴打で脳を揺さぶられ、意識を失いかけている男に、もはや抵抗の余地はなかった。
「うっらぁぁぁぁアアアッ!!」
止めとばかりに、剣一は懇親の力を込めた拳を男の頬に見舞う。
男は白目を剥き、体をぐるんと一回転させて、バタリと倒れた。
「ケッ! 光りモンばっかに頼ってっからこんな目に遭うんだよ。
まずは喧嘩の腕を磨くことから始めるこったな。わかったか、コラ!」
剣一は倒れた男に「ペッ」と唾を吐きかけて、後ろの青年を見た。
そこでも、戦闘は終わっていた。どうやら勝者はあの青年だ。
(フン……俺の足を引っ張らねぇだけの力はあったようだな)
思いながら視線を後ろから前へと戻すと、絡まれていたあの女性と目が合った。
すると女性は感心したように微笑み、無警戒にも剣一に歩み寄ってきた。
「へぇ〜……てっきり返り討ちに遭っちゃうかと思ったけど、意外と強いじゃない。
でも、助かっちゃった。最近こういう輩が多くてさぁ、二人にはお礼を言っておくわね」
突然のことに呆然としているか、またどこかへ走り去っていくかと思っていた剣一にとって、
この意外な反応には少し戸惑った。
「あ……いや……。……フン、礼にはおよばねぇさ。俺が勝手にやったことだ」
「私、天木雪音(あまきゆきね)。すぐ近くで酒場を営んでるんだけど、これから来ない?
お礼にご馳走してあげるわよ?」
「いや、俺は別に礼は……」
と、一瞬断りかけた剣一だったが、すぐに口を噤んで言い直した。
「……俺は刃振。刃振剣一だ。どうしてもって言うなら仕方ねぇ、ついていってやるぜ」
普段は人の礼などに素直に応じる男ではないのだが、
こうして敢えて誘いを受けたのには勿論、理由がある。
(いい機会だ。ここがどこなのか、ついでに訊きだしてやらぁ)
【酒場の娘・『天木雪音』登場】
すみません、こんなキャラで参加したいのですがいかがでしょうか?
名前:楠木燕 (くすのき つばめ)
年齢:19歳
性別:女
身長:158
体重:46
出身:紀州の国 武家の出
職業:武芸者
装備:標準的な弓より小振りな弓 無名の脇差し 矢十数本
容姿:髷を結わず背中まで伸びた髪を現代で言うポニーテールにし、青い着物に袴を身に付けている
備考:女の身ながら全国武者修行中の武芸者
性格はよくいえば生真面目、悪く言うと融通が利かない
武家である実家を継ぐために日々の鍛練に励んでいる
実はお酒が大好きでかなりの酒豪
筋力:2
速力:4
知力:5
体力:3
合計:14
>>23 良いと思いますよ。これから宜しくお願いします。
「う、うそー!?いきなりそんなモン持ち出してきちゃうのー!?」
恐ろしいことに短刀を取り出した男に驚愕しつつも義三郎は必死に避け続ける。
「いや、あの、俺とそこの黒いおにーさんは赤の他人で……」
「ちょこまか動くんじゃねぇ、このクソガキィ!!」
「聞いてねぇー!!」
胴を横一文字に薙ぎ払う刀をさけながら、呼びかけの効果が全く無いことを嘆く
先程から説得を試みているのだが、この調子ではではその努力も報われそうにない。
「ああもう、いい加減してくれよ!」
義三郎も流石に我慢の限界とばかりに木刀を構える
こんなものでも彼としては一応、最後通告のつもりだった
……が向こうはそんな甘い考えの通じるような相手ではなかったらしい
「そんなので脅しのつもりかァ!?ナメんじゃねぇ!!」
「逆効果ーー!?チクショー!」
半端に抵抗を示したことより相手の神経を逆撫でしたらしく、ますます怒気を漲らせた男が突っ込んでくる。
(もう仕方ない……覚悟決めたぞコラ!)
向かってくる相手に対して正面から木刀を下ろす
無論、普段から短刀を扱っている輩を相手に義三郎の素人剣法など通用しない以上、これは囮だ。
思った通り相手は易々と避け、短刀を突き出そうとする。
その相手が一番狙いやすいマトの大きい場所、こちらの胴体に狙いを定めるため
ほんの僅かに動きを止める、その時をこちらは狙う
「せいッ!!」
相手の首に向かって右足を振り上げる
昔から足腰だけは自慢できるだけのものを持っているつもりだった
義三郎の狙い通り、男の首を刈った右足はそのまま悲鳴を上げさせる間もなく意識の方も奪い去っていった。
ようやく落ち着いた義三郎だったが、とっさにもう一組の喧嘩に目を向け
……ようとして既に終わっているも同然だった
(ひ、ヒデェあんなにボコボコに……強いのは分かったがやっぱりおっかねーわ、このにーさん)
と、彼が戦々恐々していると何やら絡まれていた女性が近寄ってくる
>「私、天木雪音(あまきゆきね)。すぐ近くで酒場を営んでるんだけど、これから来ない?
> お礼にご馳走してあげるわよ?」
何やら誘われて、剣一の方は申し出を受けるようだ
義三郎としても飯にありつけそうなのはありがたいところだが……
「じょ、冗談じゃねえって……どこの連中かは知ったことじゃねぇが、いきなり短刀持ち出すようなヤツらだ
それなり仲間なり後盾なりがなけりゃ、あんな無茶やらねぇだろうよ!
こんだけ騒いだらイヤでも目につくし、顔だって割れてる……俺は当分人目につかないところに落ち着くさ
あんたもこの界隈でのんびりやってないで、さっさとズラかることだ」
そういって義三郎は剣一と雪音に背を向ける。
雪音と名乗った女性の誘いを受けた剣一だったが、一方の青年はそうではなかった。
彼は倒した男達の復讐を恐れて、ここを離れようとする。
だが、それを見た雪音は、やがてクスクスと笑い出した。
「フフ、人目につかないところって、もしかして今から『江渡』を離れる気かい?
止めときな、今からじゃ夜には山道で野宿することになって余計危険だよ?
旅人は知らないだろうけど、ここら辺の山にはこいつらよりタチ悪い山賊がいるんだから」
言いながら雪音は倒れた男の頭を蹴飛ばす。
「私の酒場でよければ一晩貸してあげてもいいけど、まぁどうしてもって言うなら止めないわ。
えーと、それじゃ剣一……だっけ? ついてきなよ」
雪音は剣一と青年に背を向けて歩き出す。青年には気が変わったら来いということだろう。
いきなり名前で呼び捨てにされて、剣一は若干曇った顔をするが、
文句を言っても始まらないので素直に彼女の後をついていった。
「ところで……貴方結構腕が立つみたいだけど、剣客さん? んー……やっぱ違うかな?
髪型もそうだけど、変わった格好してるし刀も持ってないしね。その着物、もしかして西洋のもの?」
雪音はそう言いながら、じろじろと剣一を見つめる。
(……さっきから何を言ってやがるんだ、こいつ?)
剣一は違和感に首を捻った。雪音は学ランすらも知らないのだろうか?
リーゼントも今ではほとんど見かけなくなったとはいえ、知らない人はほとんどいないだろう。
しかも彼女は、先程から普段聞きなれない単語を当たり前のように口にしている。どうもおかしい。
「学ランも元々は外国のもんなのかも知れねぇけど……詳しいことなんざ知らねェよ」
「ガクラン? ふーん……ガクランって言うの。とにかく異国のものみたいね。家は貿易商?」
「あん? 何でそうなんだ?」
「……。ま……いいか」
「?」
一瞬、雪音が訝しげな顔をするが、直ぐに納得したように顔を前に向ける。
彼女にしてみれば会話が通じないことが不思議だったのだろうが、それは剣一も同じである。
(しっかし……)
剣一は辺りを見回して更なる違和感を感じていた。やはりおかしい。
歩いても歩いても、周りは木造の建物ばかり。道は依然土のまま。
前を見通しても見慣れたアスファルトになる様子は一向にないのだ。
「おい……聞こうと思ってたんだが、ここは東京のどこなんだ?」
振り向いた雪音は顔をポカンとさせている。
「トウキョウ? ここは『江渡』よ。日本の首都のね。もしかして知らないで来たの?」
(首都……? おいおい、首都は確か東京……だろ……?)
いくら頭の悪い剣一とはいえ、自分が生まれ育った都市が国の首都ということくらいは解っている。
それでもどこか自信なさげなのは愛嬌と言ったところだろう。
(こいつらの格好、口振り、エド……何なんださっきから……絶対変だぞ……。
まさかあの黒い穴に吸い込まれたせいで変なところに来ちまったんじゃ……)
剣一の顔は珍しく緊張していた。自分がいる場所が、あの日本ではないのではないか……
という疑念が渦巻き、得体の知れぬ恐怖を感じ始めていた。
「おい……今は西暦何年何月何日だ?」
「西暦? えーと、2010年の四月一日だと思ったけど」
「四月……一日……」
剣一は携帯を取り出し日付を確認した。2010/04/01──携帯の日付とは一致している。
そしてこれは剣一が祖父の道場を飛び出した日付とも一致しているのだ。
まさかとも思いながら、心の底ではタイムスリップをしてしまったのかと考えていた剣一は安堵した。
(やっぱ飛び出してから時間は経ってねぇ。ってことは……やっぱ俺の思い過ごしか。
エドってのも俺が知らねェだけで東京のどっかにある地名ってわけか)
盛大に息を吐く剣一を見て、雪音が再び訝しげな顔をする。
「いや、悪ぃ悪ぃ。ちと考え事があってな。……で、酒場ってのにはまだつかねェのか?」
「実は町中の方にあってね。もう郊外からは抜けたから後少しよ」
「へぇ〜、そりゃ便利なところにあるな。客も沢山来て大変じゃねェのか?」
「うふふ。実はそうでもなくてね。ま、ウチって特殊な店だから」
「特殊? そりゃ──……あ゛っ?」
剣一は目を見開いた。遠目に見えるのは、何と戦国の世にあるようなどでかい城。
そしてその周りに連なるようにいくつも立ち並ぶ高層ビル。それも木造のである。
前に広がった道には、何百という着物の女性や腰に刀を差した男が行き来し、馬車も走っている。
そこら中に立てられた看板にはでかでかと『江渡』の文字。……ここが東京であるはずがない。
「ここが……エド……江渡か……? 日本の首都か……?」
「ふふふ、驚いてる様子ね。やっぱり初めてだったんでしょ?
人が多いから嫌う人もいるけど、住んでみれば結構いいところよ?」
振り返って雪音が微笑む。その後ろでは、道往く人達が物珍しそうな顔で剣一を見ていた。
(2010年四月一日……でも、ここは東京じゃねぇ……江渡なんだ……。
だが、タイムスリップじゃねぇとしたら一体……)
剣一の頭が忙しく動く。脳の引出しから、かつて本やテレビで学んだ知識を一斉に引き出し、
この不可思議な現象の解明に取り掛かったのだ。
これが学校のテストであったらここまで脳は働かなかっただろうが、
やはり事の重大さ故か、脳はこれまでにない程に回転した。
そして、数秒の時を経て、脳は一つの結論を導き出した。
(ま、まさか……これはパラレルワールドってやつに来ちまったのか……っ!?)
パラレルワールド。これまで幾度と無くSFの題材に用いられてきた複数の現実というやつだ。
普通の人間であれば、まだ「いや、そんなまさか」と思うところなのかもしれないが、
その点は単純な剣一である。既に自らの仮説を信じ切ってしまっていた。
(なんてこった……! まさか俺がこんな目に遭うとは……! だが、来ちまった以上しょうがねぇ。
ここで暮らしながら何とかして元の世界に戻る方法を考えねぇと……)
剣一は覚悟を決めたように拳を握り締めた。
割り切るのが上手いというか、切り替えが早いのも彼の特徴である。
「ほら、あそこよ。あの道の奥にある、あれが私の店」
と、雪音が表通りから外れた小さな小道を指した。
その突き当たりに、古い長屋風の建物に囲まれたこじんまりとした店が建っていた。
「あそこ……か」
剣一は足を店へと向けた。
雪音の一晩寝床を貸してくれる、と言う提案に心は揺れるが
やはり義三郎としては二人の後を追う気にはなれなかった。
「江渡の女は気前が良いと言うか、物怖じしないと言うか、豪気なことだよ。
有り難い話だと分かってはいるが、よそ者のオレはそうそう気楽じゃいられないって」
そう一人で呟くと彼はその場を後にする。
雪音の言う通り、義三郎の格好は一目で地元の人間ではないと分かる旅人の装いである。
あの手のヤクザ者たちが、自分たちの縄張りで騒ぎを起こされた挙句
よその土地からやって来た人間に仲間を倒された、とあっては黙っている筈がないのだ。
今回はなんとか凌げたから良いものの、もし数で来られたら義三郎としては非常にマズイ
(とりあえず、ここから離れた後は人目を避けないといけねぇ)
それに義三郎の方も伊達に旅をしている訳ではない
確かに最も確実に面倒を避けることが出来るであろう『江渡を出て、他の町に逃げ込む』は
今からでは間違いなく、日が暮れて夜道を歩く羽目になり、それもまた危険だ
ならば残る手は江渡の何処かに身を隠すこと、となる。
そして、この江渡の様に多くの人々が行き交う大都市ともなると
人々の注目を集める、華々しい街並みの表通りもあれば
ひっそりと人から忘れ去られたかの如く、影に隠れた場所が存在するものである。
義三郎も江渡に限らず他の大都市でも、到着した当初、金も無ければアテも無い時期は
郊外の橋の下や荒れ寺の軒先など、そういった場所を探して雨露を凌いできたのである。
どうせ今晩も野宿を覚悟していた身の上だ、というやけっぱちな思いで義三郎は歩みを進めて行く
やがて彼は目的地の、剣一たちと別れた場所から南へとしばらく進んだ場所にある
長い間、人の手が入っていないと見える廃れた神社へ辿り着いた。
とりあえず、ここは自分と同じような輩の先客もおらず人目につかない
義三郎はここに当分の間、腰を落ち着けることに決めた。
(チクショー、半ば自業自得とは言えロクでもないことになっちまったな)
>>23 楠木さんいらっしゃいますか?
参加するために何か、希望する展開があったら協力しますが
お気遣いありがとうございます。
今、入るタイミングを見計らっている所なのでどうしても手詰まりなった時に改めてご相談します
雪音が戸を開けた店の看板には、大きく『あまき』と書いてあった。
「ようこそ酒場の『あまき』へ。どうぞ」
雪音が剣一に中に入るよう手招きする。素直に戸を潜った剣一はまず店内を見渡した。
中はゴザ敷きでその上を小さな四角いちゃぶ台が四つ並ぶだけの簡素な造りだった。
店は町中にあるにも関わらず客は一人もいない。それどころか、店員の姿すら見えない。
「元々は両親が営なんでた店なんだけど、二人とも早くに亡くなってね。今は私一人」
剣一の疑問を見透かしたように雪音が言った。
「一人で切り盛りしてんのか。つっても、確かにこれじゃ忙しくはなさそうだが」
剣一は適当なちゃぶ台の前にどかりと座った。
雪音は、一旦店の奥に消えると、今度は丸い盆に徳利と器を載せて出てきた。
「今日はあんたの貸切りみたいなものだからゆっくり寛いでいっとくれよ。
といっても、うちじゃ酒と軽いつまみぐらいしか出せないけどね」
雪音が器に酒を注ぐ。剣一はその器を手に取り、勢い良く咽に流し込んだ。
「どうだい?」
「……美味い、と思う。つか、よくわかんねぇ」
剣一の言葉はいまいち歯切れが悪いものだった。
というのも、実は剣一は見かけによらずあまり酒を呑める人間ではなく、
口にできるアルコールと言ったら精々梅酒や甘酒ぐらいだったからだ。
「よくわかんないって……贅沢だねぇ。これ、結構上物の酒なのよ?」
「ケッ……どーせ俺は味音痴だ」
剣一はもう酒はいいというように器を置き、用意されたつまみをがっつき始めた。
酒が苦手な剣一にとって、つまみは酒の肴ではなく、むしろ酒がつまみのついでなのだ。
「ところで……さぁ。貴方、これからどこ行くつもりなんだい?」
雪音の言葉に剣一の手が止まる。
単に目的を訊かれただけだが、剣一は言葉に迷った。
これから向かう場所といえば勿論『元の世界』以外にはない。
しかし、これまでの経緯を説明したところで、理解してくれるとはとても思えない。
適当に誤魔化すにしても、こう急では話を見繕うこともできない。
考え込むように床に視線を落とす剣一を見て、
雪音は何か複雑な事情があるのだろうと察したのか、直ぐに話題を変えた。
「ま、それはいいとして、しばらく行く当てもないんだったらさ、どう? しばらくうちで働いてみない?」
「はぁ?」
雪音の意外な提案に思わず剣一は間の抜けた声を発した。
「ああ、別にお客に酒を出すとか、相手をするとか、そういうことじゃないのよ。
貴方に手伝って欲しいのはうちのもう一つの仕事の方……」
「もう一つだと……?」
雪音がこくりと頷く。
「私の店はね、実は酒場の方は副業みたいなものなの。本業は裏稼業と呼ばれるものに近いかしらね」
「裏稼業? おい、それは……」
まさかと目を細める剣一に、雪音は御名答というようにクスリと笑う。
「用心棒から仇討ち、暗殺……そういう依頼を多額の報酬で裏で生きる人達に引き受けてもらう。
うちはそんな裏稼業の仲介屋をやってるのよ。曽祖父の代からずっとね。
聞いての通り、結構危ない仕事が多いから引き受けてくれる人もあまりいないんだけど」
「……そうか、それでか。わざわざ酒をご馳走したいと言ったのは」
「見たところ腕に自信はあるみたいだしね。でも、感謝の気持ちがあったのも本当よ?
だからお酒を呑んだら帰ってもいいし、宿を決めてないなら一晩泊めてあげてもいいわ。
けど、働く気があるなら一晩といわず気の済むまでここに居たっていいんだけど、どうする?」
どちらにしろこの世界でしばらくは暮らさなくてはならないが、
何も命の危険がある仕事をして暮らさなくてもいいのではないだろうか?
流石の剣一も迷った。しかし、それでも剣一は自分の血が沸き立つのを感じていた。
この男、どこまでも喧嘩狂いの番長なのだ。
「危険な仕事、か……。……フン、上等だ。いいだろう、しばらく厄介になるぜ!」
「ふふ。よろしくね、傾奇者のお兄さん。いや、剣一」
雪音が微笑んで差し出した手を、剣一はガシッと握り締めた。
(俺はここで腕を上げる……! 待ってろよジジイ、必ずテメェの鼻を明かしてやる……!)
時は西暦2010年4月1日。この日を境に、剣一の運命は大きく変わっていった──。
「御免」
戸の外から涼やかな、女性の声がすると共に戸が開かれる。
「……………?」
入ってきたのは髪を結い、凛とした表情で、背中に小弓と矢を背負い、腰に脇差しを差した誰が見てもわかる武芸者の“女”だった。
入ってきた女は他に客が一人しか居ない事に怪訝そうな表情を浮かべる。
「すまない、今日は貸切りか?ならば店を変えるが…」
出てきた店主らしい女性によるとしっかりと営業をしているらしい。
女は良かったと言うと空いていた適当な場所に腰を落ち着ける。
店内を見渡す女。やがて
「店主、すまないが上等な酒と適当な焼き魚を頼む。」
店主らしい女性は一旦奥に引っ込むとしばらくして魚と酒を持ってやってくる
「あぁ、ありがとう。」
女性ににこりと笑いかけると手を合わせ食べ始める。
焼き魚を食べ終えるとゆっくりと酒を呑みながら先に居た奇妙な男に目を向ける
男は奇妙な身なりと髷の結い方をしていた。
(随分と傾いた男だな…あれは南蛮渡来の物か?)
あまりの奇妙でついじろじろと見てしまう女
お姉ちゃんバラ
「で、その依頼ってのは、今はどんなのがあるんだ?」
剣一が訊ねると、雪音は着物の帯の辺りをまさぐり、筆入れ程の大きさの小さな木箱を取り出した。
「ちょっと待っとくれよ。今、調べてみるから」
雪音はそれだけ言い、親指だけを使って何やら木箱を弄くり始めた。
どうやら筆入れではなさそうだが、剣一にはそれが何なのかはわからない。
「……おい、なんだそれは?」
剣一がたまらず質問すると、途端に雪音はキョトンとした目をした。
「なにって……携帯電話だけど?」
と言って、雪音はその木箱の前面を見せ付けた。
そこには確かに携帯に使われている見慣れた液晶が全面に貼り付けてあったが、
ボタンなどはどこにも見当たらない。液晶がある意外はどうみてもただの平たい木の板である。
「……これ、押すところがどこにもないぞ。どうやって使うんだ?」
「あぁ、これね。『軽触式携帯』っていう最新式の機種よ。
押さなくても軽くその部分に触れるだけで入力できるの。ふふ、いいでしょ? 高かったのよこれ」
と、自慢げに話す雪音。
話を聞く限りでは、どうやら液晶にはタッチパネルのような機能が搭載されているらしい。
ここの人々は格好こそ江戸時代だが、意外にもハイテク技術を持っているようだ。
(よく判んねぇ世界だな……。こりゃしばらくはカルチャーショックってやつが続きそうだぜ)
「と、それはいいとして……依頼の方は今のところ一件だけね。
家出した夫を見つけてくれたら五万両を差し上げます……要は“尋ね人”ね。
こういうのって報酬が少ない上に、くたびれ損に終わることが多いんだけど……」
依頼内容を携帯に登録してあるのだろう、雪音は自分の携帯に目を通して言った。
だが、剣一はその内容より、報酬のくだりの部分に耳を惹かれていた。
(今、五万両と言ったのか……? おいおい、両ってのは確か……昔の小判の単位じゃなかったか?)
小判と言っても金の質によって価値は様々だが、
いずれにしろ五万両を現在の価値に当てはめればとてつもない額になることは間違いないだろう。
だが、それも“元の世界”での話である。
「悪ぃ……ちょっと外国での生活が長かったんでな。この国のことは実はよく判らんねぇんだ。
金のことについて少し詳しく教えてくれ」
と適当な理由をつけると、雪音はどこか納得したようにすんなりと説明し出した。
「あら、どうりで……。……ま、いいわ、教えてあげる。
この国の通貨は“両”っていって、一・十・五十・百・五百までが硬貨で、千・五千・一万が紙幣なの。
昔はもっと色々と複雑だったんだけど、随分前に幕府が異国を見習って改革したのよ。
まぁ、実際に見てみれば判るわ。ちゃんとそれぞれの貨幣に大きく「壱」とか「五」とか書いてあるから」
(……つまり、円がそのまま両になってるわけか。この点については判りやすくて助かったぜ)
もし複雑であれば、剣一の頭ではそれを覚えるだけでもどれだけの労力を消費するかわからない。
剣一は安堵するように小さく息を吐いた。
>「御免」
と、その時、店の戸が「ガラガラ」と音を立てて開いた。
剣一も雪音も咄嗟に目を向ける。するとそこには、長い黒髪を一本に纏め、
腰に刀を差し背中に弓矢を背負った若侍が立っていた。
いや、侍というよりは武芸者と表現した方が適当であるかもしれない。
武芸者は剣一の隣のちゃぶ台に座り込んで注文すると、やがて出てきた注文品を食べ始めた。
見かけは武芸に心得があるに相応しい凛とした“男”である。
だが、剣一の耳がおかしくなければ、その声は紛れも無く“女”のそれなのだ。
良く見てみれば体つきはどこか丸みを帯び、胸元には膨らみがあるように見える。
(女でこの格好かよ。フン、珍しい奴もいるもんだ)
だが、この世界では、女が刀を差していても珍しくはないということは十分にあり得るのだ。
だとするなら、彼女より剣一の方が珍しい人間であるだろう。
彼女も剣一が気になったのか、一瞬、彼女を見る剣一と目が合った。
「……なんだ? 何か文句でもあんのか、コラ?」
剣一はギロリと女を睨み付けた。
(通貨は一・五・十・五十・百・五百・千・五千・一万の九つですね。五が抜けてました。ちなみに二千はありません)
黒い服の男と目が合う
>「……なんだ? 何か文句でもあんのか、コラ?」
「ああ、私の視線が気に障ったのなら謝る。すまない。」
凄んでくる男を諌め酒を呑む
「いや、全国を旅している身だがそのような身なりをしている者にあった事が無くてな。
つい奇異の目で見てしまった。」
酒を注いでいたが無くなったのだろう、徳利を軽く振り
「店主、すまないがおかわりをくれないか?あと、お猪口をもうひとつ」
酒のおかわりを求める。
新たに出されたお猪口を男の前に置き、酒を注いでいく。
「不快にさせてしまった詫び代わりだ。一杯奢らせてもらえないか?」
男のお猪口に注ぎ終えると自分の席に戻り再び呑み始める。
一刻もたった位だろうか。女の席にはゆうに十数本の徳利の山が出来ていた。
女の様子は入ってきた頃と変わらず、しかしほんのりと頬を赤く染める程度であった。
「店主、おかわりを。」
そこである事を思い出したようでおかわりを持ってきた店主を呼び止める。
「私は修行をしながら全国を回っている身なのだが、そろそろ旅をするための金が少なくなってきてな。
要点だけ言うと働き口がないか、と言う事なのだが
修行もかねて私の武芸が役に立つ働き口がよいのだ。
どこかそのような働き口はないか?」
>「いや、全国を旅している身だがそのような身なりをしている者にあった事が無くてな。
>つい奇異の目で見てしまった。」
凄む剣一に、女はすんなりと詫びの言葉を入れた。
いくら血の気の多い剣一と言えど、こう素直になられてはこれ以上絡むわけにはいかない。
「ケッ……詫びたんなら別にいいけどよ」
肩透かしを食ったような顔をしながら剣一は女から視線を外した。
すると、剣一の前にトンと器が置かれ、その中に酒がなみなみと注がれていく。
>「不快にさせてしまった詫び代わりだ。一杯奢らせてもらえないか?」
酒を注いでいるのはあの女であった。
既に詫びているにも関わらず、律儀にも更に酒を奢るというのだ。
「……一杯だけな」
酒が呑めない剣一は断ることもできた。
しかし、礼を失せぬ品ある振る舞いの前では、無碍にすることができなかったのだ。
剣一は注がれた酒をグッと呑みほした。
それからしばらくして、剣一は女の正体に関して思案を巡らせていた。
(格好や態度からしてただモンじゃねぇとは思ってたが……)
剣一は台を見渡す。そこには、まるで宴会でもあったかのように、空の徳利だけが山と並んでいた。
勿論、剣一が作ったものではない。先程から女が一人で作っているのだ。
凡人ならとっくに酔いつぶれていても良い本数である。
しかし彼女はどうだ。へべれけになるどころか、頬をほんのりと赤らめる程度なのだ。
しかもペースが緩む気配は全く無い。
(並の酒豪じゃねぇ……何なんだこいつは……?)
これまで何人もの酒豪を見てきたはずの雪音ですら流石に顔を引きつらせているが、
女はそれに気付く様子も無く、更におかわりを要求する。
だが、そうして雪音が今日何度目かのおかわりを用意してきた時だった。
女はこれまで止める気配のなかった手を突如として止めて、雪音に言った。
>「私は修行をしながら全国を回っている身なのだが、そろそろ旅をするための金が少なくなってきてな。
>要点だけ言うと働き口がないか、と言う事なのだが
>修行もかねて私の武芸が役に立つ働き口がよいのだ。
>どこかそのような働き口はないか?」
それを聞いて、引きつっていた雪音の顔が急に神妙なものとなる。
“仕事の顔”というやつだろうか。
雪音はその表情でまるで品定めでもするかのように女の至る所に視線を向けた。
「……ま、合格ね。いいわよ、仕事を紹介してあげても。
けど、今ある仕事は貴方に合ってるとは思えないけど……」
と雪音が言うと、突然、店の戸が開かれた。
また来客か? と、剣一はけだるそうに玄関に目を向けると、そこには着物を着た若い女性が立っていた。
いや、女性というよりは、十代前半の女子といったところだろうか。顔はどこかあどけない。
その娘は雪音を見ると、腰を低くして駆け寄り、ペコリと頭を下げて言った。
「あの……依頼があるんですけど……」
「貴女が? えーと、うちは子供の頼みごとは……」
いたずらか何かかと思ったのだろう、雪音は苦笑しながらやんわりと追い返そうとする。
だが、そこで娘は大真面目な顔をして言い放った。
「父上の……父上の仇を討っていただきたいんです!」
途端に雪音は仕事の顔付きとなる。そして、娘に詳しいことを訊き始めた。
──しばらくして、娘は深々とお辞儀をして店を後にした。
娘が語ったことをまとめればこうだ。
娘の家は繁盛している商家だという。だが、つい先日──夜中に複数の盗賊が押し入った。
娘とその母親はいち早く隠し部屋に逃げ込み難を逃れたが、
逃げ遅れた父親が彼らの餌食となり、金品と共に命を奪われたという。
彼らがどこの誰かは分からないが、彼らの一人が持つ刀の柄には「卍」の文字が刻んであったそうだ。
「柄に卍……確か“梟”とかって言う盗賊団の頭がそんな刀を持ってるって聞いたことがあるわね。
江渡を本拠にしてる二十人くらいの盗賊団で、殺しも日常茶飯事の過激な連中だって話よ」
「詳しいじゃねぇか」
「こんな仕事をしてれば嫌でも耳に入ってくるわさ」
と雪音。
「殺しが当たり前の連中か……。おい、警察は何でそんな連中を野放しにしてんだ?」
剣一はふと疑問に思ったことを雪音に訊ねると、雪音は首を横に振って答えた。
「警察なんてダメダメ。確かに取り締まってはいるけど、
この江渡の中だけでも賊の組織は大小合わせて1000は数えるって言われてんだから。
しかもそのほとんどが所在地不明。実在するかどうかすら、はっきりしたことは警察だって分かってないのよ。
そんなだから私のところに依頼する人が多いの。大金をはたいてでも、ってね」
聞きながら、剣一は雪音に絡んでいたチンピラ達のことを思い出していた。
(あいつらのように刀を抜くなんてのはここじゃ珍しくねぇわけか……)
一瞬、剣一の体がブルッと震える。
武者震いだろうか? いや、分からない。何の震えかは、剣一自身すら知りえぬことであった。
「どうするのお二人さん? この依頼、引き受けてみる?
危険はあると思うけど、報酬の方は期待してもいいと思うわよ?」
雪音が二人を一瞥する。女の方はあくまで平然とした態度を崩さない。
一方の剣一はというと、「バン」と両拳を合わせてニヤリと笑って見せていた。
「へっ……殺人強盗集団か。……上等! やってやるぜ!!」
店内にボーンと古めかしい壁時計の音が鳴り響く。
音は六回続いた。夕方の六時に突入したことを告げたのだ。これからすぐに闇が江渡を覆うだろう。
この時、剣一はまだ知らなかった。
夜となった江渡は、この国で最も危険な「魔都」であるということを──。
40 :
名無しになりきれ:2010/01/28(木) 12:46:22 0
外部は危険だぁ!?
働き口についてきいた所、まるで品定めをするような目で見られて落ち着かない気分になった
>「……ま、合格ね。いいわよ、仕事を紹介してあげても。
> けど、今ある仕事は貴方に合ってるとは思えないけど……」
「ふむ、合っている仕事が無いというならまた日をあら――」
改めてと言いかけた所で新たな客が入ってきた
入ってきたのはまだ若い娘でどうやら何か依頼があるらしい
>「父上の……父上の仇を討っていただきたいんです!」
話を聞けば盗賊の被害者らしい
こう言った被害は全国を旅している女からは珍しくないらしく、残っている酒をちょこちょこと呑みながら聞いている。
娘が帰った後、店主の女から盗賊についての話があった。
今回の下手人は梟と言う名の盗賊団らしい。人数は20前後、頭の刀の柄に卍の装飾があると言うこと
>「どうするのお二人さん? この依頼、引き受けてみる?
> 危険はあると思うけど、報酬の方は期待してもいいと思うわよ?」
男の方はやる気らしい。
「盗賊団の討伐だな。あいわかった、この楠木燕、謹んでこの依頼受けさせて頂く」
燕はペコリと頭を下げ、依頼を受ける事を告げる
「貴方も共に仕事をする仲間としてよろしく頼む。私は楠木燕、呼ぶ時は燕で構わない。
貴方の事はどう呼べばよいのだろう?」
黒い服の男の方を向き自己紹介をする
長文垂れ流しウザ巣
43 :
名無しになりきれ:2010/02/07(日) 12:54:59 0
age
剣客が俺の商売
黒覆面で骸骨の模様が入った全身タイツの男たちがポン刀を振り回している
盗賊団だ
イーイーイー
46 :
名無しになりきれ:
続きないの?