279 :
名無しになりきれ:2009/12/28(月) 21:56:12 0
ダークネス
ダークネスってどこかのスレに昔いたな
ミアは外を眺めたまま、返事が無い。
もう1度聞いてみよう。
「あの、さ。パンツをその……借りてもいい?」
ダメだ。まるで反応が無い。
私はバナナを差し出してはにかんで見せた。
「バナナ、食べる?ね!」
ミアは面倒くさそうにこちらに振り向き一言だけ。
−絶対、嫌
こちらを不審気に見回した後、1度だけ首を振り溜息をついて
ミアは再びそっぽを向いた。
私は困ったなぁと思いつつ部屋を出て行く。
修理作業を行う乗務員達の間を掻き分けて歩いていく。
ふと、目の前に視線を向けるとそこには見覚えのある
鎧を着た青年がいた。
「あ!マジカルアーマー!?もしかして、あんた従士?」
馴れ馴れしく青年の肩を叩き、白い歯を見せる。
「懐かしいなぁ、っていっても1年前くらいだけどね。
もしかして帝都に行くの?ね?」
クルクル回りながら色んな角度で青年を見る。
あまり女馴れしてない感じもするけどそれが返って面白そうだ。
「帝都かぁ。私も久しぶりだから楽しみなんだけどね。」
ニッコリ笑って青年の股間をポンと叩いた。
「も〜いくつ寝ると帝都だよぉ〜帝都に行けば飯食って〜♪」
282 :
名無しになりきれ:2009/12/29(火) 20:03:21 0
帝都で地震が発生し、町の半分が壊滅状況におちいった
地震の原因は表向きには自然現象とは違っていた
その原因とは・・・
名無しの判断じゃねーだろ
意思を統一させたいならコテで書き込めや
名無しでストーリー書き込みたいなら質雑スレ池よ屑
名無しのネタがあしらえないなら、素直に名無しお断りと告知しとけばいいんじゃね?
287 :
名無しになりきれ:2009/12/30(水) 03:04:08 0
ここそういうスレじゃねーから!
「――ああ、やっと見つけたぞ。おい、お前だお前。そこのアホ面だ」
言われてレクストは反射的に振り向いた。言われたというより『呼ばれた』といった反応。
振り向いてからレクストは、そうしてしまったことと、その行為の愚かさに気付き、頭を抱えたくなって、二秒後には綺麗に忘れた。
中継都市ミドルゲイジ――補給と補修と補充の為に列車はこの都市へと停車していた。その間の一幕である。
「んん?白衣か、なんか用かよ?俺は今俺自身の沽券に関わる命題について煩悶する系の作業に忙しいぜ?」
「……アホ面と呼ばれる事に抵抗はないのか?」
実際、思考に没頭していたことは確かである。機関室で謎の美女に吸われた首筋には痕が残った。痛みは無いが、その割りにくっきりと。
元来鏡を見ない性質のレクストとしては特段気になるようなものではなかったが、見せていると何故かフィオナの機嫌が悪くなるので
暫定的に黒刃に巻いていた封印布を少々拝借して首に巻き、しかしそのファッションが意外にも彼の男心を刺激したため何度も位置を正していたのだ。
(トレードマークにしてえな……帝都行ったらいっちょスカーフ風のを仕立ててもらうか!)
「まあいい、お前とあの筋肉馬鹿しか顔を覚えてなくてな。筋肉馬鹿の方は馬が合わん上に面倒だからお前に言っておくぞ」
「おいおい甘いな!俺の面倒臭さは駄犬を遥かに凌駕するかもだぜぇ……?」
無視された。ガン無視である。白衣の男は鞄へ腕ごと突っ込むと、神経質そうに掻き回しながら一枚の襤褸切れにも似た何かを取り出した。
「これはさっきの魔物から取れた物だ。……ここに明らかに人為的だと分かる魔法陣があるだろう?」
無遠慮に鼻先まで突き出されたそれは、魔物の皮――それも極めて新鮮なそれである。
実際に対峙したレクストには理解できた。先刻撃墜したばかりの有翼種、その親玉のものだった。
「そして話は変わるがお前は、お前の仲間達は先日のヴァフティア事変で随分と活躍したそうじゃないか。列車の乗客達が随分と騒いでいたぞ」
「ホントに随分変わったな!けどすげえだろ俺、なあ、もっと褒め称えられて然るべきだと思うんだぜ俺は!」
「……おい、鼻を高くしてる場合じゃないぞ。――それはつまり、こう言う事なんだからな」
今まさに勝ち誇らんとしていたレクストの出鼻を挫き、白衣は一端焦らすように押し黙る。
「ヴァフティアを救ったお前達が乗り合わせて列車を、謎の魔法陣を刻まれた魔物が襲撃した」
十分な余韻を持って、再度飛び出した言葉は、
「これは偶然か? まあ偶然の可能性も無いとは言えないだろう」
レクストの片眉を吊り上げるのに余りある響きを持っていた。喚起される記憶は戦禍の故郷、母親の死体を駆る金髪の美丈夫。
それに、客車でハスタが昏倒していた。目立った外傷はないにも関わらず、衣服だけがぶち抜かれていたという。
どう考えても周辺に住む魔物の仕業ではない。もっと強大で、かつ不明瞭な力の存在を彼の後ろに感じた。
「その分だと、何か心当たりもあるようじゃないか。それなら話は早い、せいぜい気を付ける事だな。
あの魔物に魔法陣を――それも恐らくは隷従の呪いを刻める程の奴が相手だと言うのなら、用心は幾ら重ねても足りないだろう」
「なるほどなるほど……上等、だな。どうやらあの金髪、俺の熱烈なファンみてえだ。――こんな洒落た贈り物までくれやがって」
「あの筋肉馬鹿とお前には貴重なサンプルを頂戴したからな、とりあえず忠告はしておいたぞ。
とは言えお前達ならもっといい試験体が得られそうだが……流石に放蕩集団に付いて歩く程僕は暇じゃないからな」
そこまで言って、白衣はレクストから顔を背け踵を返した。魔物の皮と――彼の所属する研究所の所在を記した紙を押し付けて。
紙切れには終ぞ聞くことの無かった彼の名前が記されていた。
アイン=セルピエロ。
言葉にはしない意思をレクストに託し、彼は補修作業に追われる都市の人混みの中へと消えていった。
「――あ!マジカルアーマー!?もしかして、あんた従士?」
「ああ?いかにも俺は従士だけどよ、アンタよくこれがマジカルアーマーだって分かったな」
続けざまに呼ばれ、振り向くと知らない女が立っていた。否、立ち振る舞いはとおかく、顔のつくりは知ってる誰かに似ている気がする。
にっ、と男好きのする笑みを浮かべながらレクストを値踏みするように観察する。おもむろにポンと彼の股間を叩き、
「帝都かぁ。私も久しぶりだから楽しみなんだけどね。も〜いくつ寝ると帝都だよぉ〜帝都に行けば飯食って〜♪」
結論から言えば、もう二つ寝ると帝都だった。
【一一〇〇時:『帝都エストアリア』・鉄道用ゲート――】
昼に差し掛かろうと影を縮める陽光の中、ゲート内のホームでは警笛を合図に鉄道員達が蜘蛛の子を散らすように作業を開始した。
線路上の障害物を確認し、残っていた作業員を引き揚げ、魔導灯を操作して列車へとサインを送り、受け入れ態勢を整える。
列車がホームへと滑り込む際に突風が発生するため、駅舎の鎧戸は全て閉まり、駅員達は手近な物に掴まって停車に備える。
『鉄道都市メトロサウス発の登都便が停車致します。入門時の突風にご注意下さい――』
音響管を通してのアナウンスが響き終える前に、それは唐突を伴なってやってきた。閑散としたホームは鉄塊と突風で一瞬のうちに埋められ、
制動の擦過音と紫電を散らしながら減速していく。慣性を魔力で強引に押し留めるブレーキングは、しかしなめらかに鋼の巨躯を停止させる。
蓄えられた過熱を蒸気に変えて放出し、ホーム内の空気を根こそぎ白く塗りつぶす。染まった視界が開く頃には、列車がそこに鎮座していた。
「お待ちしておりました、道中非常の事態に見舞われたもののお客様の無事がなによりです。ようこそ帝都エストアリアへ」
駅長が歩み出て歓迎の文言を述べると、まず機関室の鉄扉が開き、気圧の混じる快音と共に機関士達が吐き出される。
彼等はいち早くホームに降り立つと、安全のため中から開けられないよう外装に取り付けた閂を外して客車の扉を開放した。
「――っつああああ、腰いってええええええ。着いた着いた!」
既に扉の傍で待機していたレクストが最初に飛び出した。何度経験しても長旅は馴れないらしく、しきりに腰を叩きながらの登場だ。
その後ろを客車に居た子供達が待ってましたと言わんばかりに駆け出していく。子供と列車を出る順番を争っていたレクストであった。
後からゆっくりとそぞろ出て来る乗客たちに混じって、彼の同行者達も晴れて帝都の地を踏む。
【帝都エストアリア・入門審査局:SPIN『駅』】
入門審査が完了し、登都便の乗客たちは審査局のロビー端にあるSPINの『駅』へと誘われた。
無論審査局から直に街へ出ることも可能だが、ここは広大な帝都の端、近くにあるのは農園と住宅地ばかりである。
ろくな交通手段も通っていないので、観光や登城目的の人々(今回は全員がそれだった)はここからSPINを利用するのだ。
「とりあえず3番ハードルの『駅』まで跳ぶか。あそこにゃ従士隊の本拠があるし、SPINのターミナルがあるから観光にもってこいだ」
レクストが述懐する。SPINの『駅』は直径3メートルほどの術式陣であり、行きたい場所を指定して陣に乗ることで発動する。
ターミナルとは『駅』の統括案内所――どこにどんな建物があり、どの『駅』を指定すれば良いかを教えてくれる案内所だ。
「初心者はちょっと『転移酔い』するかも知れねえな。まあすぐ馴れるぜぇ。そんじゃ行くか、指定はこうだな――『3番ハードル第23号駅』」
後ろ向きに喋りながら、ひらひらと手を振ってレクストは陣に乗り、そして消えた。まるで灯りを吹き消すように余韻も残さず消え去った。
暗転、明滅、眩光。体幹を掴まれて引っ張り上げられるような感覚。そのまま振り回されて、そこかしこにぶつけられる様な、
それでいて何の痛みも衝撃もない、慣性だけの身体になったような偽感。そのまま光の中に放り投げられて、着地したと思ったら。
「転移完了――ってわけだな!」
そこは大都会だった。ヴァフティアには数少ない巨大かつ高層な建築物がいくつも立ち並び、定間隔に並んだ鉄柱の先では魔導灯の光が踊る。
上空のミルキーロードをひっきりなしに箒が飛び交い、石造りの稜線は空から街を切り取ったまま視界の端まで続いていく。
足元の路面石材はなめらかに均され、ときおり魔力の光を網目の如く巡らせている。道行く人の流れは途切れることを知らず、同じ顔を二度と見ない。
「俺はよ、やっぱ帝都に来たって実感できるような場所でこのセリフを言いたいと思ってるんだ」
振り返れば『駅』の陣の上で次々と光が炸裂し、レクストに続いた同行者達がその身体を現出させていく。
帝都に縁のある者は懐かしそうな表情をし、初めてここへ来る者達は物珍しさと稀有な体験に目を白黒させていた。
レクストは軽く咳払い。両腕を広げ、彼等の眼に映る帝都の全てをその手の上に乗せて、愉快に口端を吊り上げながら、言った。
「――帝都にようこそ!」
【帝都到着 SPINを経て3番ハードルに レクストはこのまま従士隊本拠へ向かいます 観光・別行動→ターミナルへ】
肥満は名無しスルーか
>>242 お前、何考えて参加しようと思ってんだカス
「ふぅ、戻ったぜ。やれやれだ。」
頭を掻きながら部屋を出て行く。
日の光がまぶしい中、俺はバナナを頬張りながら帝都の地を踏んだ。
「おいおい、そんなに急がなくてもいーだろぉ?まったく子供ってやつは
元気だよなぁ…」
我先にと列車から出て行く子供達の中に、この前の青年もいる。
俺は声をかけようと思ったが、どうやら彼も子供と一緒に列車を出る
順番を争っているらしい。
「姉ちゃんは…いないよな?はは、まさかね〜」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――
「なんだ、この寒気はよぉ〜」
後ろでなんだか嫌な気を感じる。冗談かと思うほどの、嫌な気配ってやつだ。
あぁ、気のせいだ。そう思って少しだけ振り返る。
やばい、いた。こっちには気付いてないがすぐ後ろにいる。
俺は青年の後を追いながら何とか寒気の根源を撒けないか思案する。
後ろを振り返る。まだ来ている。
姉ちゃん、俺と気が合うんだな。あ、姉弟だからな。
そりゃそうだ。俺は嫌な汗をかきながらSPINまで来た。
(あっれ〜おかしいな。何でこの青年と同じ道来てんだ?
え、知り合い?いや、まさかなぁ。あははは。っていうか、何か話してたぞさっき。)
【帝都到着 SPINで移動】
294 :
名無しになりきれ:2009/12/31(木) 16:17:30 0
おっと、SPINのようすが・・・?
>「……そういえば、その役学の学者がヴァフティアに向かっていましたね。
> そろそろ、帝都に戻ってくる頃合でしょうかね」
沈黙の中で発せられた言葉に、マルコは露骨に顔を顰めた。
「学者って、まさかアインの事か? ……おおっと! 何か急に大事な用事を思い出しちまったぞ!」
あからさまにも程がある虚言に、ジースは表情に不審を露わにする。
「だってよお、アインの奴やたら細かい所が『アイツ』そっくりなんだよなあ……。
せーっかく口うるさいのを預けてんだから、自分から渦中に飛び込んでくこたあねーだろ?」
両手を肩の高さにまで挙げて、手の平を空に向けマルコはおどけてみせる。
「どーせ会っても飲みすぎに注意しろだとか賭け事は控えろとか、待ってるのはそんな言伝ぐらいだろうしな。
俺は謹んで遠慮するから、お前さんからよろしく伝えといてくれよ」
面倒臭さを前面に押し出しての拒否だったが、彼の本心はそうではなかった。
怖いからだ。
研究の成果が上がっていないと伝えられる事が。
物心ついた頃には既に傍にいた『アイツ』が、このままでは助からないと伝えられる事が怖くて、彼は逃げるのだ。
「っと、そう言えば。列車から降りた人や物は全部ターミナルに運ばれるんだぜ?
列車を直接見たくてはるばる帝都の端まで歩きたいってなら止めやしねえが、骨が折れるぜ?」
走り去る最中振り返って、マルコはこのままでは迷子一直線であろうジースにそう告げる。
それは単純な親切心からでもあり、また自分の心中を万が一にも悟られない為の誤魔化しでもあった。
そして驚愕の素振りを見せるジースに、マルコは図星だなと唇端を上げる。
「さてはその分じゃ、直接列車を見た事ねえな? 大方貨物やらを屋敷に運ばせたとか、そんなとこだろう。
駄目だぜえ、働くオッサン達の仕事を増やしちゃあ。
……しかし、そうまでして向かうって事はやっぱこれかあ!? んじゃまあ頑張れよ、お坊ちゃん!」
おちょくり、最後に立てた小指をちらつかせると、今度こそマルコはその場から去っていった。
――入門審査局前――
「じゃ、ま、だ、貴様ら! ほら、帝都公認の身分証だ! 分かったら大人しくどけ! ええいクソ!」
停車の寸前まで個室で実験をしていたアインは、他の乗客に比べて大幅な遅れを取っていた。
流石に発車前のような失態は犯さなかったが、彼が個室のドアを開けた時には既に、
乗客達は各々の目的地へと大群を成して邁進する奔流となっていたのだ。
帝都公認の身分証を使う事で入門審査はフリーでパス出来る。
けれども肝心の審査局に辿り着くまでの道のりで、彼は酷く揉まれ無駄な疲弊を強いられる羽目となった。
「クソ、この後『アレ』が控えていると言うのにこんな……」
顔を険しく顰め悪態を吐く事十数分、ようやく彼は入門審査局へと辿り着く事が出来た。
「ほらどけ、僕は帝都の研究者だ」
それだけ言って身分証を軽く翳して示すと、アインはさっさと門を抜ける。
再び有象無象の奔流を掻き分けてロビー端――SPINの『駅』まで辿り着くと、
彼は一度足を止めて顰めた顔で床を見下ろした。
「ああ、クソ……。これだけは何度やっても慣れん……」
小さくぼやくと彼は目を瞑り、大きく深呼吸をした後に一歩前へと踏み出す。
そして早口に、どうせ悪夢なら早く終わってしまえと言わんばかりに、
「――3番ハードル、第23号駅! 」
そう宣言した。
同時に、彼の足元が虚空に挿げ変わる。
視界が白く染まって天地の感覚を失い、肺が空気を拒絶して心臓はさながら警鐘のように揺れ動く。
例えるなら重力の手から突き放されての自由落下と、闇夜を映す海に抱き締められそのまま沈んでいく感覚。
その両方を混ぜ合わせたような最低の心地をたっぷりと味わった後に、
「っ……はぁ……、酷い目にあった……」
ようやくアインは、指定の『駅』へと到着する事が出来た。
時間にすれば数秒にも満たない筈のSIPNによる転移は、しかし彼の体感では一分にも十分にも感じられる程だった。
出張によって数日振りの使用である事も相まって、彼の顔色は最早青ざめるを通り越して土気色にまでなっている。
重い頭痛を訴える頭を辛うじて上げてみると、そこにはレクストを初めとした数人が集団で帝都の街を見上げていた。
他のメンバーよりも一歩前に出たレクストは両腕を大きく広げて笑みを浮かべていたが、今のアインにはそれをアホ面と謗るだけの余裕すらない。
そんな彼の様子に、ミアとハスタは訝しむように目を細めた。
ギルバートに関しては少々、笑いを堪えようとしているようにも見えたが。
その中で、フィオナはアインを案じるように心配した様子を見せた。
彼女の白く小さな手が、彼へゆっくりと伸ばされる。
彼女が彼に向けたのは混じり気なしの善意であり、それは彼も理解している。
けれども、
「……おいそこの神官服、余計な事をしてくれるなよ? 心配も無用だ。この程度、自分でどうにか出来る」
心奥に潜んだ琴線が奏でた怒りを、アインは抑える事が出来なかった。
差し出された手を弾き、膨大な敵意の全てを視線に乗せ、射殺さんばかりに彼はフィオナを睨みつける。
予期しなかったであろう言葉に彼女が怯んだ隙に、アインは白衣のポケットから小さな薬瓶を取り出した。
とは言え内容物はそう大それた物でもなく、ただ幾つかのハーブを混合して抽出しただけのエキスに過ぎない。
過剰な清涼感をもたらすそれを一息に飲み干すと、彼は再び口を開いた。
紡ぎ出される言葉に、毒と敵意を孕ませて。
「救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな」
侮蔑を込めた嘲笑を挟んで、彼の言葉は更に続く。
「助かればお前達と神のお陰、助からなければ悪魔のせいか。随分と都合のいい話だな。
神に愛された人間は頭の中までお花畑になるのか? ふん、大方神だけじゃなく誰からも愛を受けて生きてきたんだろうな。
不便も不足も味わった事のない人間が、一方的に上から施しを寄越してくれるな。反吐が出るんだよ」
吐き捨てて、アインはフィオナに背を向けた。
怒りに置いてけぼりを食わされていた理性がようやく彼に追いついて、『彼女』の事を思い出させたからだ。
出張の間も信用出来る者に世話を任せてはいたが、やはり一刻も早く顔を見て安心したいと言う念はある。
何より、『彼女』に残された時間はそう多くない。
このような所で激情に任せて、無駄な時間を過ごす暇などないのだ。
「――帝都にようこそ!」
従士の青年の言葉が俺は鬱々とした表情に変えた。
1年ぶりの帝都だ。「あんな事」があってから避けて通ってきた場所。
口じゃ楽しみなんて言ってるが本当は違う。
俺は、大事な者をここで失くしそして二度と取り返せない物を
置いてきてしまった。
右腕の痛みが一際増してくる。SPINには馴れている。
そのせいじゃない。この痛みと苦しみは、ここにある記憶が原因だ。
そして、ずっと逃げてきた。俺は、何からも目を背けてきた。
でかい力に負けて逃げ出した俺がもう1度、少なからず自分の意思で
来たのには理由がある。
故郷で起きた異変。ヴァヴティアでの災厄に奴らが関ってるのは間違いない。
―――帝国軍
ただ1つ、今分かる事。それは、俺にやらなければならない事がある。
―「……おいそこの神官服、余計な事をしてくれるなよ? 心配も無用だ。この程度、自分でどうにか出来る」
振り向けば、姉が研究者風の男と何やら揉めている。
凄まじい眼で睨む男と、戸惑う姉。
自然に足がそこへ向いた。あれほど会うのを恐れてたはずなのに。
しかし、一度こうなると俺は止まらない。
―「救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな」
姉の後ろに立つ。姉ちゃんなりの反論はあるだろう。
俺はそれを黙って聞いている。
しかし、次の言葉が俺の琴線に触れてしまう。
―「神に愛された人間は頭の中までお花畑になるのか? ふん、大方神だけじゃなく誰からも愛を受けて生きてきたんだろうな。
不便も不足も味わった事のない人間が、一方的に上から施しを寄越してくれるな。反吐が出るんだよ」
「そいつは違うぜ。」
大きく、そして強い信念の篭った言葉で返す。
気が付けば俺は姉と男の間に立っていた。
「俺はあんたがどんな奴でどんな人生を送ってきたかは知らねぇ。
だが、自分だけが辛い人生を送ってきたなんてしみったれた言葉は言うもんじゃないぜ。少なくとも、俺は…この人がどれだけ頑張ってきたか。
知ってるんだからよ。」
そう言うと姉の顔を見る。
もう逃げるのは止めだ。その意思表明をするかのように。
300 :
名無しになりきれ:2009/12/31(木) 23:45:08 0
>「――帝都にようこそ!」
その言葉を聞いた瞬間、おれは糸が緩んだようにその場にへたり込んだ
ようやく
(補足します。ごめんなさい)
>>297 背を向けた学者の肩を掴む。
言葉も無くただそいつの横っ面を左の拳で吹っ飛ばした。
既にプッツンした俺に、止める術などない。
「テメェはこれくらいが”気付け”にちょーどいい。そうだろ?」
姉の方を見つめバツが悪そうに笑う。
「わりぃ、俺が姉ちゃんの代わりに殴った。」
マルコと別れ、しばし歩いてみたものの全く何も見えてこなかった。
わりと半引きこもりなジースの想像よりもかなり帝都は広かったとそういうことだろう。
16年も帝都に住んでいて今更何を言っているんだと自分でも思ってしまう。
漸く、マルコの言っていたことにも合点がゆく。成る程、そういうことか。
それで、ここはどこなのだろう。それすらも確りと憶えてはいない。
果たしてこれからどうしようかもわからずもう屋敷に帰ってしまおうかと人波に流されるように歩いていたところ。
体の前面部に衝撃。人にぶつかったのだ。いや、これは体当たりと置き換えても語弊はないかもしれない。
ぶつかった人物は謝罪もそこそこにジースの脇を通り過ぎていった。
いくら人混みと言えど、ちゃんと前を見て歩いていればそうぶつかることなどあまりない。
少なくとも、ジースの不注意ではない。では他に体がぶつかる理由は?それは単純明快。
どちらかが、わざとぶつかろうとした場合だ。
懐が軽い。それにはすぐ気付く。何故軽いのか。それにもすぐ見当付く。
護身用の武器などは持ち出してこなかったが、幾らかの金は持ち出してきた。
金貨が詰まった小袋――重みを感じるのはそれぐらいだ。軽くなったのは、それがなくなったと言うことで。
つまり、それは。
すぐに振り向く。人の群れの中でもわかる、走り去って行く黒い姿。
盗られたからといってもメニアーチャ家の潤沢な資産に傷が付くことはない。
だが、それとは別問題だ。奪われたものをそのまま見過ごしてしまう訳にはいかない。
追いかけようとする。だがそれを邪魔する人々という天然の障害物。慣れていなければこんなところ走れるものか。
小さくなっていく背中。気持ちだけが逸り、足が縺れ片膝を付いてしまう。
「――」
声が出ない。前に突き出した手がそれ以上伸びることはない。
どこに向かっているかは予想出来る。そこまで逃げられたらほぼ諦めるしかないだろうか。
この街に張り巡らされた転移術式は都民の生活に快適と利便性を与えてくれたが、とても素晴らしい逃走手段でもあるのだ。
「すっ、すっ、すっ」
やっと声を絞り出すことが出来ても、今度は二の句が継げない。喉の奥で引っかかっているような、そんな気持ち悪さを感じる。
「スリだぁーーーー!!」
無駄に良く透き通った声で、その場に響き渡る。
しかし走り去るその姿が立ち止まることはない。
鉄道都市メトロサウス発の登都便の最後に出てきた乗客はマダム・ヴェロニカだった。
それもそのはず、その荷物の領が尋常ではない。
往復六日ほどの行程を過ごした荷物は鞄幾つ分というレベルでは納まらない。
衣装ケースから鏡台など、ちょっとした引越しの様相を呈していたからだ。
迎えに来ていた娼婦達がテキパキと荷造りをしていたが、それでも最後尾は免れる事は出来なかったのだ。
五人の娼婦達を引き連れ入門審査局を出たマダム・ヴェロニカは悠々とSPIN術式陣に乗る。
だがその口からは指定駅が紡がれる事はない。
これから行く先は・・・ターミナルの統括案内には載らぬ場所なのだから。
上級貴族専用の会員制高級娼館。
ラ・シレーナが上級貴族達の住居の立ち並ぶ2番ハードルに鎮座している事は会員にすらあまり知られていない。
性質と秘匿性故に建物の門は使われた事はなく、認識阻害の呪法陣によりそれが疑問にもたれる事もなかった。
ごく一部の会員のみに渡される割符たる魔石の組み合わせにより、SPINの直通経路で秘密裏に入館もしくは派遣されるのだ。
これは即ち会員となる貴族は館に専用のSPINを持つレベルである事も示している。
・・・こうしてマダム・ヴェロニカと迎えの娼婦達はラ・シレーナへと帰還した。
マダム・ヴェロニカがラ・シレーナへと戻り最初にした事は入浴。
不在の間の出来事や報告を聞きながら娼婦達に指示を出していく。
旅の疲れと香水を落とし、バスローブのまま執務室の更に奥、秘密の部屋へと入る。
そこは魔法灯により隅々まで照らされた真っ白な部屋。
室内にあるのは同じく真っ白な椅子とテーブルのみ。
テーブルの上に置かれた山盛りになった布だけが色彩を鮮やかに主張している。
これがマダム・ヴェロニカがヴァフティアへ赴いた理由であり戦利品であった。
大きくそして長く息を吐き、意を決したように布を取り払う。
布に隠されていたのは鋼鉄製の鳥かご。
そして鳥かごの中には・・・15歳ほどの少年の生首が入れられていた。
「さあ、永久の御子、深淵よりの使い、リュネ・シレア!
約束通り、色々喋ってもらうかねぇ?」
マダム・ヴェロニカの声に応えるように鳥かごの中の生首の目が見開かれる。
このような状態にも拘らずリュネと呼ばれた生首は生きているのだ。
終焉の月に終末思想を示唆し、世に混乱をもたらそうとした永遠の御子。
少年のようであっても500年以上の時を生きた魔人なのだ。
眼光には未だ光が宿り、口元が狂気を孕んだ笑みを浮かべて言葉を紡いだ。
「くくく・・・ああ、いいだろう。約束だからな。」と。
304 :
名無しになりきれ:2010/01/07(木) 04:33:56 0
ククク……
先を競って列車から飛び出していく子供達。
それに混じって大人気ない速度で駆け出すレクストをよそに列車を降りる。
『帝都エストアリア』駅舎。
広さだけなら街のほとんどが駅であるメトロサウスに軍配が上がるのかもしれないが構内の活気が段違いであった。
溢れんばかりの人。
職員や乗客だけではなく様々な出で立ちの人々が忙しなく行き来している。
「すご……い。」
ヴァフティアとは余りにかけ離れた光景に思わずぽかんと口を開け呟く。
おのぼりさん丸出しである。
しきりに感動しながら周りを見回しているのを仲間に窘められつつ入門審査を終え、先に待っていたレクストに案内されるまま付いて行く。
行き先は入門審査局ロビーの端。道中説明された帝都移動の要、『SPIN』ターミナルである。
『とりあえず3番ハードルの『駅』まで跳ぶか。あそこにゃ従士隊の本拠があるし、SPINのターミナルがあるから観光にもってこいだ』
『初心者はちょっと『転移酔い』するかも知れねえな。まあすぐ馴れるぜぇ。そんじゃ行くか、指定はこうだな――『3番ハードル第23号駅』』
気軽に言いつつ陣を踏み、次の瞬間には掻き消えるレクストの姿。
帝都に来たことのある者も同様に何気なく一歩を踏み出し、そして消えていく。
「え、あ……『3番ハードル第23号駅』をお願いします。」
フィオナも意を決したかのように陣へと立ち入ると、丁寧にお辞儀までして行き先を告げた。
実におのぼりさん丸出しである。
深い水底に落とされ引き摺りあげられる。そしてまた突き落とされる。
明滅と暗転。
神殿での水練の時と同じような感覚を何度も味わいやっと地に足が着いたと思ったときには目の前の光景は一変していた。
ヴァフティアでは市庁舎くらいでしか見られない巨大な建造物が群れを成し。
大通りにしか設置されていない魔導灯は街中ありとあらゆる箇所でその光を誇らしげに放っている。
守備隊や一部の趣味人しか使用しない『箒』は所狭しと上空を駆け巡り、丁寧に舗装された道路は人の波がとどまる所を知らない。
今度は声も出なかった。
唯ひたすらに目に飛び込んでくる情報量に圧倒される。
『俺はよ、やっぱ帝都に来たって実感できるような場所でこのセリフを言いたいと思ってるんだ』
心ここにあらず、といった感じだったフィオナの耳に聞きなれた声が響く。
転移酔いに因るものなのか、それとも別の感情から来るのかは判らないが膝が震えているのに気づく。
『――帝都にようこそ!』
おどけた仕草に満面の笑み。
この時初めて、フィオナは帝都に来たことを実感した。
実感が沸けば見える風景もまた変わったものとなる。
改めて周囲を見回すとSPINターミナルに一人の男性がぐったりとした様子で立っていた。
痩せぎすな体型に白衣、眼鏡。足元には重そうな鞄。
顔は蒼白を通り越し土気色、立っているのがやっとといった感じだ。
列車での騒動の折に見かけた人物、たしかギルバードと一緒に屋根の上に居た男性ではなかったろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
先程体験した転移の感覚を思い出し駆け寄る。
背中を擦るくらいしか出来そうもないが、それでもと手を差し伸べる。
『……おいそこの神官服、余計な事をしてくれるなよ? 心配も無用だ。この程度、自分でどうにか出来る』
しかし返ってきたのは拒絶の意思。
「え?」
今まで当たり前のように行ってきた行為だったがここまでの返答は初めてだ。
遠慮されたことはある。しかし何もするなと否定されたことは無かった。
当惑するフィオナへは一瞥もせずに男は白衣から薬瓶を取り出すと、数錠口へと放り込み嚥下する。
いくらか顔色を良くした男は今度はしっかりとこちらへ顔を向け言葉を紡ぐ。
『救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな』
浴びせられるのは敵意と嘲笑。そしてそれはなおも続く。
『助かればお前達と神のお陰、助からなければ悪魔のせいか。随分と都合のいい話だな。
神に愛された人間は頭の中までお花畑になるのか? ふん、大方神だけじゃなく誰からも愛を受けて生きてきたんだろうな。
不便も不足も味わった事のない人間が、一方的に上から施しを寄越してくれるな。反吐が出るんだよ』
「た、確かに関わった全ての人を救えるわけではありません……。
それに救いを求められながら見過ごしてしまった人も居るでしょう……。
ですが神の目はあまねく万物へと注がれています。
それでも救えないのはひとえに私達の力が足りないだけで他の何者にもその責を押し付けは……。」
神官である自分達の力不足をなじられるのはまだ我慢できる。
しかし神への冒涜だけは聞き逃すことはできない。
自然と反論が口を出るが男の鬼気迫る表情にそれも次第に小さくなってしまう。
話にならないとばかりに背を向ける男とフィオナの間に別の者が割り込む。
自分より頭一つ以上は高いであろう身長。長い黒髪。その背にはどことなく懐かしさを感じる。
学者然とした白衣の男の肩を掴み、振り向かせると左拳一閃。
問答無用で殴り倒した。
「あ――」
フィオナへと向き直った男は居心地悪そうに口を歪めると
『わりぃ、俺が姉ちゃんの代わりに殴った。』
「――ジェイドっ。」
飛びつくように首へと手を回し、ジェイドを抱きしめ胸に顔を埋めるフィオナ。
「心配したんだからっ!途中から手紙は寄越さなくなるし、知らない間に従士を辞めてたっていうし、でも無事で良かった……。」
一しきり言い終え、ここが往来のど真ん中だと思い出し赤くなりつつジェイドから離れる。
仲間からのなんとも言えない視線を身に浴びつつ、ふと思い出したかのようにジェイドへ目を向けなおす。
「それはそれとして。」
コホンと咳払い一つ。
「人様をいきなり殴ってはいけません。」
抱き合った姿勢のままの――膝を折って丁度いい位置にある――ジェイドの頭へ手刀を振り下ろした。
>277>290>297>306
目を覚まして暫くすると、少年が入ってきた。さっき乗り合わせていた乗客か
>「飲んでください。僕の家に伝わる薬草を混ぜたものです。体には良いはずですから。」
そう言って薬を渡されたが、困ったな正直体は全快している。
「あぁ、気遣ってもらって悪いな。今はむしろ体の調子はいいんだ。必要になった時使わせてもらう」
何となくフィオナを熱視線で見つめる少年を訝しげに眺めながら
列車は更に帝都へ向かう。
――で、その二日後。帝都へと列車は辿り着く。
『SPIN』の説明をしながらやたらテンションの高いレクストを横目に、続いて『SPIN』に入る。
「転送実行――『3番ハードル第23号駅』へ」
一瞬の暗転の後、目を開く。
その向こうでは、レクストが両手を広げて満面の笑み。
「・・・・・・。」
どことなく往来のど真ん中でこんなことをしている知人がいるというのは気恥ずかしい。
と、考えてさりげなく若干の距離を開けようとしていたら・・・
どうやらフィオナが絡まれている。しかも転送酔いの八つ当たりか。
主張を聞けば聞くほどげんなりしてくる発言に、路傍の石を眺めるような視線だけ送っておく
「――で、レクストはこのまま従士隊の所へ行くんだったよな。俺はちょっと野暮用があるんで
ハンターズギルドへは用事が終わったらでいい。場所は『5番ハードル11号駅』の正面だ
何だったらその隣の『銀の杯亭』で飯食っててもいいぞ。俺の名前を出せばツケも利くからな・・・午後の内にギルドに戻る」
簡単に言い残すと、俺は真っ直ぐ商店の並ぶ通りへ歩いていく。まずは花屋だ。
従士隊本部 駐屯地
「ミカエラ・マルブランケという錬金術師がいるであろう?
場所を教えてはくれないかね。」
丸刈りの白髪に牧師のような服を着た男が従士に黒塗りの袋を渡す。
従士達が中身を見る。中身はなんていうことは無い錬金術に使う液体のようだ。
彼らは男の言葉を疑う素振りなど無い。
それも当然だろう。何故なら彼は、「深淵の月」の幹部でもある男だからだ。
男の名前はマンモン。数々の奇跡を起こし、そして人々を救うといわれるカリスマ的な
男である。
「ミカエラ様、いつもの物を。」
黒塗りのビンをミカエラに渡す。そして同時にレクスト達の到着を待つ彼女の
至福の表情も見逃さなかった。
「やはり、貴女もかね?私も、だ。」
私も”という言葉にミカエラが顔を向ける。マンモンは笑みを浮かべ語りだした。
自分にもかつての弟子がレクストなる者と同じくこの帝都へと来た事を。
その弟子の名前はフィオナ・アレリィ。
「ルキフェル様から大事なお使いがあるので今日はこれにて。
久しぶりの対面だぁ……愉しんでくれぃ。」
――その後 帝都エストアリア「駅舎内」
マンモンは目指す。ただ1つの目標を。
少女の背中が目の前に映る。
舌なめずりをしながら、ゆっくりと彼は自分自身の
異能を引き出した。
名前:マンモン
年齢:35
性別:男
種族:人間
体型:186cm、70kg
服装:白髪の坊主頭、牧師のような服装
能力: ”引き出し”(相手の魂を吸い取る)
設定:元神殿の聖騎士。神を信じる敬虔な男。
「おい、役学研究室のアインだ。僕宛ての封魔オーブが届いている筈だが、どこにある?」
アインにとって今肝要なのは、出張前に申請しておいた魔物のサンプルが正しく入手されているか、だった。
輸送中に駄目になった、生け捕りは無理なので現場の判断で殺したなどと、眉間に深い皺を刻んでくれる報告を過去何度も言い渡されてきた彼としては。
SPINと神官のお陰でただでさえ腹の内で蟠っている苛立ちを、これ以上増長させて欲しくはないと言う願いがあった。
彼の問いかけに対して、恰幅のいい、恐らくはこの場を管理する立場にいるであろう男が駆け寄ってくる。
その表情は何故だか不安げで、その上顔一面に万遍なく浮かべられた脂汗が尚更に悲壮感を醸し出している。
「遅いですよ来るのがぁ……! もお、こんなのいつまでも置かれてちゃ仕事になりませんって! 早く持って行ってくださいよ……!」
年甲斐なく脅えを露にして、男は不恰好に膨らんだ皮袋を差し出した。
アインは双眸を細め呆れた様子を見せた後に、その袋を受け取った。
「ご苦労。ついでだ、奥のSPINを借りるぞ」
用事を済ませた彼は白衣の裾を翻し、さっさとSPINに向けて歩みを進める。
ぼそりと男の零した悪態が耳朶を撫でたが気にも掛けず、彼はSPINの陣を前にして自らの身分証を翳す。
「ああ、クソ……『役学研究室』だ」
翳されたそれが鍵となって、通常では開き得ない門が開かれた。
淡い光がアインを足元から飲み込み、彼は本日二度目の苦悶を味わう事になる。
「……うげぇ。ああ、やっと帰ってきたか……」
視界の明滅が収まると、彼は膝が笑い直立のままならない足で白を貴重とした部屋に立っていた。
脳髄まで蕩けたように思考の覚束ない頭を何とか立て直そうと左右に振るっていると、
不意に彼の視界に、部屋の白さに溶け込むように華奢な足が映り込む。
「お帰りなさいませ、アイン様。お疲れでしょう? ハーブティーのご用意が出来ていますわ」
顔を上げるとそこには濃紺と純白の給士服に身を包んだ、アインよりも尚若い女性が銀のトレイを手に佇んでいた。
少女と称しても差し支えのない彼女の名は、マリル・バイザサイド。
マルコ・ロンリネスから資金の代わりと貸し出された、お手伝いだ。
帝都有数の富豪に代々仕える家系である彼女は、その名と血に恥じぬだけの仕事を果たしている。
研究の助手は勿論、殆どここに住み込みとなっているアインの身辺は、彼女によってのみ維持されていると言っていい。
さてそんな彼女はと言うと、用意しておいたティーセットをアインの事務机へ運ぼうと一歩前に踏み出して。
――何もない、色調と同じくまっさらな床の上で何の因果があったのか、足を縺れさせ大仰にすっ転んだ。
手から離れたトレイ諸ともティーセットが宙に舞う。
けれども彼女の表情に変色は起こらない。平時から貼り付けられた沈着な仮面は、剥がれない。
それはアインもまた同じだった。
目の前で撒かれた惨事の種に彼は焦りの色を見せず、ただ呆れたように、僅かに目を細めるばかりだった。
「……っ!」
僅かに息を吐く音と共に、彼女は両足が地から離れた状態で縦に一回転。
転倒を伴わず着地すると、そのまま空中でくるくると踊っているトレイを右手に掴み取る。
更に間髪入れず、上下逆転して今にも中身を零そうとしているティーポットを勢いよくトレイで掬い上げた。
空いた右手はとうに湛えていたお茶をぶち撒けたティーカップを捕らえる。
そして最後に、不可視の摂理に囚われ床へと落ちていくお茶を目にも留まらぬカップ捌きで回収して。
彼女は何事も無かったかのように立ち上がり、今度こそアインの事務机へとティーカップを運んだ。
「……やはりもう一人くらい手伝いを雇った方がいいんじゃないか? もう慣れたとは言え、少し不安にさせられる」
呆然としながらもアインはもう何度目かになる提案をした。
今でこそそう驚きはしなくなったが、初めて見せられた時は驚愕の余り実験に使っていたガラス瓶を取り落としさえした。
もっともそれも、彼女が難無く拾い上げたのだが。
「必要ありませんわ。養豚……失礼しました。養殖所のメイドが一人や二人増えた所で私の仕事は変わりませんもの。
いえ、むしろ増やされてしまうのが心配で、仕事に手が付かなくなってしまいます」
彼女の言う養豚所、もとい養殖所とは即ち、マダム・ヴェロニカの経営する高級娼館【ラ・シーラ】の事に他ならない。
代々ロンリネスに使えてきた、言わば生粋の従者の家系に生まれたマリルは、やはり生まれ持ったその使命に誇りを持っている。
故に喰らうも自由、水泡とするも自由。
更には雇い主に媚を売り取り入ろうとさえする【ラ・シーラ】のメイドを、彼女は甚く嫌悪していた。
本当ならばアインの元へ貸し出されるのも断固拒否するつもりだったそうだが、
そこは主であるマルコの熱心な懇願と、彼女自身が抱えるやむを得ない事情によって納得したのだった。
「……それに前にも申し上げましたが、私がああして失敗してみせるのは『メイドの嗜み』なのですよ」
マリル曰く。
「勿論私は転ばず落とさず完璧な仕事をこなす事だって出来ます。メイドですからね。
しかし従者が一切の失敗を犯さない完璧な人間であったとしたら。
主は確かにそれを頼もしいと思って下さるかも知れませんが……同時に威圧感や畏怖までもを感じさせてしまうのですよ。
常に完璧な仕事をこなし続けるなど、そこには人間味を感じられませんもの」
だから、と繋ぎの言葉を挟み、
「私は敢えて、わざとあのように失敗をしてみせているのです。決してドジやその手の類ではありませんわ」
彼女は自らの話を締め括った。
「嗜み……ねえ」
「ええ、嗜みですわ」
アインの呟きに、マリルは旧態依然の能面顔で答える。
その面容のせいで彼は未だに彼女の言が真実なのか、それとも誤魔化しなのかを判断出来ずにいた。
「……まあいい。それより『先生』はどうだ? 僕が留守の間に容態が悪化したりは……」
答えの出そうにない思考を断ち切ると、彼はそれよりも遥かに重大な懸念事が思い出す。
どうでもいい事に埋もれてしまっていたそれを掘り起こすと、彼は留守中『彼女』の世話を任せていたマリルを注視した。
「別段、症状が進行した様子はありませんでしたわ。アイン様の顔が早く見たいと寂しがっておりましたし」
彼女の答えに、アインはほっと安堵した様子を見せる。
顔に残されていた険しさも、僅かに影を潜めたようだった。
そして続けて付け加えられた言葉に、ほんの微かだが嬉しそうな表情さえ浮かべた。
「そうか……。そうだな、なら帰ってきた報告でもしに行くとするか」
事務机に置かれたお茶を一口に飲み切ると、持っていた皮袋をマリルに預けアインは部屋を出た。
名前:マリル・バイザサイド
年齢: 21
性別: 女
種族: 人間
体型: 断崖絶壁
服装: 濃紺と純白のメイド服。
能力: 家事全般。従者として主に不便を来さないだけの技能。
所持品: バイザサイド家のメイド服。箒、シーツ、ティーセットなどなど。
説明: マルコからアインへ貸し出されたお手伝い。代々続く従者の家系に生まれ、その血と仕事を誇りとしている。
だから【ラ・シーラ】の貸し出しメイドは嫌い。そんな彼女がアインの元へ行くのを承諾したのは色々と事情があったり。
<報告書:都市規模無差別降魔術式乱発・同規模殺傷事件、通称『ヴァフティア事変』について>
報告者:認識番号108242 レクスト=リフレクティア(元・同都市民)
判明死傷者数 死者27名 重軽傷者332名 行方不明95名 (現時点)
都市被害 全壊56棟 半壊122棟 一部損壊254棟 公共遊戯広場、噴水、道路損壊多数
出現魔獣 小鬼、幻獣、蛇竜、醜鬼、邪鬼、触手獣、魔蛸 ――降魔被害者。
概要
同都市定例祭『ラウル・ラジーノ(以下、祭と表記)』の前夜祭の最中において、都市防衛結界の媒体となる尖塔付近にて魔獣が出現。
不自然な認識阻害により市民への被害及び露呈並びに恐慌の発生はなく、居合わせた民間戦闘職者の協力を得てこれを討伐。
この際民家一棟が出現時に全壊したが、これによる死傷者は無し。降魔オーブを破壊したところ降魔媒体と思しき男性の遺骸を発見。
尖塔に不審な出入りを認めた報告者が民間戦闘職者を伴ない飛翔術を用いて現場へ急行したところ、武装教団『終焉の月(以下、月)』の儀式を目撃。
供物として拉致後昏睡させられていた市民を確認。『月』の信徒が同市民を人質にとりつつ迎撃の構えをとったのでこれと交戦、殲滅する。
この際信徒は死体へ降魔し傀儡とする外法術を行使したが駆けつけた神殿騎士の聖術により撃退。信徒は首領格を残して全員死亡、人質の市民を確保。
尖塔での戦闘を終え信徒の一人を捕虜として拿捕したところ、突如地震が発生し尖塔が崩落、信徒が脱出用に用意していた『箒』を用いて脱出。
報告者は脱出の際に尖塔から伸びる巨大な光柱と都市全域に広がる大規模な術式陣、天上に浮かぶ巨大な赤い眼球を視認している。
同時に都市規模の降魔術式が発動。ヴァフティア市民のうち往来に出ていた者が無差別に魔物化。前夜祭によって住民の大半が往来にいた為被害は拡大。
魔物化した市民は別の市民を襲撃しこれを殺傷。この魔物化には同市扶助会の炊き出しを口にした者に多く見られたとして、当局には因果関係の調査をされたし。
報告者が『箒』を用い市内各所の状況検分を行っていたところ、同市東区の小広場にて明確に報告者とその同行者を標的とした暴徒と遭遇。
うち一名の所持していた呪詛殺傷式魔剣によって報告者を刺突、報告者は漸時昏倒状態に。居合わせた聖人の末裔の血液の抗呪力によって回復。
復帰した報告者と同行者によって暴徒の鎮圧に成功。その際魔剣を用いた暴徒は介入してきた『月』幹部によって降魔している。
→『月』幹部は一名。暴徒との対立に突如介入し、暴徒一名を降魔したのち報告者及び同行者と交戦。魔物化した市民と共に撃退される。
→尖塔付近で生じた爆発により術式回路に瑕疵が発生。大規模降魔術式は不完全かつ不安定な出力により自壊した。
→都市防衛結界に欠落が生じ、そこから近隣に生息する魔獣が襲来、市民を襲撃し始め恐慌に。
幹部との戦闘後、同市北部『揺り篭通り』にて極めて高い戦闘能力を有した反魂者(報告者の実母・故人)を伴なった術師が出現、これと交戦。
同行者及び守備隊の協力を得て抗戦するも敗退。戦闘終了と同時に術師と反魂者は逃走。都市の結界が回復し都市内の魔物を殲滅。
明朝未明に市内全ての戦闘行為が終了し、結界の再発動と崩壊した街の復旧へと着手した。
以上を以って『ヴァフティア事変』についての報告とす。
備考1:死亡・行方不明者の住所氏名所属は別途添付したリストの記載を参照されたし。
備考2:本件において検証により高濃度の聖水は降魔術にも抵抗力を有する為、衰弱させた降魔被害者に散布すると高確率で人間に戻せることが発覚。
詳細については別途記述した資料を参考のこと。(記述者:リフィル=リフレクティア、メリア=トロイア)
【3番ハードル――帝都王立従士隊本拠屯所】
庶民の味方、従士隊の総本山であるところの本拠はその敷地だけで言うならば一軒家を四つほどくっつけた程度の小規模な建物である。
門をくぐってすぐのロビーがその内容量の殆どを占め、各部署ごとの窓口が軒を連ねている。
左から三番目にレクストが所属する常務戦課、戦うしか能のない言わばヒラ従士の寄せ集めがあり、鎧開きの衝立から奥への通路が口を開けている。
「認識ナンバー108242、レクスト=リフレクティア。防衛派遣の完了と報告書の提出をしたいから隊長室への取次ぎ頼むぜ」
従士隊の面々が業務を行うには一定の符牒が必要であり、受付にそれを口述することで初めて通用口の使用が許可される。
従士は人種の坩堝と言って過言ではないほどに多種多様な人間の玉石混合であり、ともすれば身分を偽って施設を使用されかねない為の措置だ。
申請が通れば衝立が開かれ、その奥にある小部屋へと通される。『接続室』と掘り込まれた札を掲げるそこは、中央にSPINの『駅』が据えられているだけ。
「『隊長室』!」
気前良く叫びながら魔法陣に乗り、レクストは再びその身を転移に委ねた。
従士隊の屯所は市内の各支部との連携強化と敷地削減の為、直通の専用SPINを利用した庁舎接続システムを採用している。
SPINはそのまま『通路』となり、市内にまばらに点在する建物同士を空間跳躍で連結することによって施設の統合を行っているのだ。
例えば『食堂』は15番ハードルで、『宿舎』は8番ハードル。『本拠』は3番ハードルで、『教練所』は22番ハードル。
それらを全てSPINで繋げば、一箇所に施設を集中させることなくしかし遜色なしに利用できるのだ。距離を無視できるSPINならではのシステムと言える。
建物が隣り合わないことで火災の延焼防止や備品搬入の手間削減にのみならず、市井の街並みに紛れさせることでテロの対象になりにくいという利点まで備えている。
『隊長室』は、17番ハードルの下町の一角に存在した。表向きは民家に偽装されているものの、玄関の向こうは打ちっぱなしの漆喰で埋められその用を成していない。
一階部分は有事の際の避難壕として、平時は武器庫として利用される。隊長がそのデスクを構えるのは二階部分だった。
既に本拠の窓口から通伝オーブを通して連絡が行っていたのか、術式から放り出されたレクストを隊長は諸手を挙げて歓待した。
「おお、リフレクティアの馬鹿な方の息子ではないか。先の事変ではご苦労だったな!」
「……その呼び方酷いし長いしめんどくさくないすか?」
「ふむ、略すか。馬鹿で愚かな息子だから……愚息!」
「言うと思ったよ!!」
思わず飛び交う愉快な会話。老紳士という表現がドンピシャリでハマりそうな好々爺然とした男は、都市防衛力の頂点に立つとは思えない奔放口調である。
エイミール=ジェネレイト。帝都王立従士隊の隊長職であり、リフレクティア翁の古い友人でもあった。レクストも幼い頃から面識がある。
旧知のよしみかはたまた『七年前』の憐憫か、後手に回った負い目かは定かではないが落ちこぼれのレクストを何かと気にかけてくれている。
「……うむ、では確かに報告書は受理したぞ。命懸けの任務、改めてご苦労だったな。しばらく休暇でもとるか、有給マケておくぞ?」
「いいや、このまま『事変』の捜査に加わりますよ。有給はつけといてください、そのうち一年ぐらいポンととりますんで」
「なんだなんだ、実家の青果でも継ぐのか?相変わらず妹には甘いな。あれだ、いくら可愛いからって……犯罪だぞ?」
「どんな論理の飛躍!?思いつきで喋ってるだろアンタ!」
「まあ落ち着け愚息オブ友人――こんなこともあろうかと逮捕礼状と手枷を用意しておいた」
「思いつきじゃなかった!?」
さておき、と隊長は革張りの椅子から背中を剥がし、顎の前で指を組んだ。貫禄の窺える仕草は、彼が真面目な話をする前触れである。
無意識のうちにレクストは背筋を伸ばして謹聴の姿勢をとった。鋭く整えられた口髭がその稜線を歪ませ、発声を形作る。
「――確かにお前の妹は可愛いな」
「まだ続いてたんだその話!さておきいらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
愉快な会話だった。隊長は盛大に破顔し、あまりに紳士じゃない豪胆な笑い方で爆笑し、レクストもつられて笑う。引き笑いだった。
「そういえば、お前に客が来ているぞ。元教導院教員の錬金術師で、名前は確か――マルブランケとか言ったか」
教練所は22番ハードルの郊外にぽつりと建っている。その用途の関係上どうしてもある程度の敷地が必要であり、
住宅地を遠く離れ都市開発の犠牲となった荒地が広がり地価も安いこの場所は広大な土地を確保するのに最適だった。
背の低い草が生い茂るのみの平野で眼に優しくない原色の建造物がある以外は商店の一つもなく、殺風景以外の表現を思いつけない。
「ミカエラ先生が俺に用、ねえ……ウエッ」
レクストは教練所の『駅』に放り出されると、度重なる転移に酩酊感を覚えながら千鳥足で木張りの廊下を前進し始めた。
ミカエラ=マルブランケ。レクストの教導院時代の恩師である。若年にも関わらず教員きっての才媛で、学問だけでなく戦闘用の術式さえも極めていた。
その柔らかな物腰と垣間見える智慧、何よりもその妖艶碎美な体躯と仕草は男子生徒だけでなく一部の女子すら魅了していた。
「なんつーか、ヤバかったよな。あの先生」
レクストもそんな彼女に尻尾を振る凡百の一員に過ぎなかったが、同時に彼女の背後にちらつく儚さというか、根幹の不安定さを嗅ぎ取っていた。
崩壊寸前の堤というか、限界ギリギリまで水を入れた皮風船というか、突けば簡単に爆ぜ割れ中身をぶちまけてしまいそうな、そんな情感。胸のことじゃなくて。
そういえば、同じような雰囲気を纏った同級生が居た気がする。彼女はミカエラ先生に同属の臭いを感じたのか、いつも取り巻きの中心に――
「……や。待ってたよ、リフレクティア君」
不意に声をかけられ思索にのめり込んだまま面を上げたレクストは、脳裏に浮かんだ同級生と目の前の光景が見事に合致して少々面食らった。
面食らったというか、情けなくも短く声を挙げてしまった。心臓は早鐘となり、こめかみのあたりがぴくぴくと疼いた。深呼吸。深呼吸。
「誰かと思えば女史じゃねえか。待ってるのはお前じゃなくてお前の師匠だろ。なに、未だに腰巾着やってんのかよ?」
壁に背中を張り付かせて片手を挙げているのは教導院時代の同級生だった。
セシリア=エクステリア。ミカエラ先生が教員きっての才媛なら、彼女は院生きっての才媛。教導院を文字通りトップクラスで卒業した大秀才である。
落ちこぼれだったレクスト達はそんな彼女をやっかみと妬み嫉み、それに少しばかりの尊敬を込めて『女史』と呼称していた。
「はは、冗談キツいね。私がミカエラ先生に師事してたのなんか何年前って感じ?とうの昔に独立だよ。勿論今でも良好な師弟関係は維持してるよ?
なに、剣鬼リフレクティア翁の馬鹿な方の息子君は未だに万年ヒラ従士?」
「おかげ様でぼちぼちだぜ。才鬼エクステリア博帥の良く出来た娘さんと違って俺は才能に恵まれなかったからな」
「"才能"!うん、良いね。才能って言葉は好きだよ。――努力をしない言い訳になるから」
突如として目の前が真っ赤に染まった。体中の血液が沸騰し、血管という血管が膨張し濁流を全身に押し流す。
弾かれるように一歩踏み出していた。しかし明確な怒りを形にする前に、狭窄した視界の中央でセシリアが動いた。否、『何事かを呟いた』――
「――『天地天動』」
刹那、世界が回転した。世界が暗転した。世界が輪転した。踏み出した片足が地面と再会する頃には、目の前からセシリアが消失していた。
代わりに悪寒。首筋に虫唾。ちりちりと空気が威圧され背中を押す。咄嗟に振り返ると、眼前に魔導杖を突きつけられていた。
「君は何の為に従士をやってるの?」
凍てつくような試問。杖の先には紫電が奔り、今にも攻性術式を放たんとしている。乾いた舌が、辛うじて答えを紡いだ。
「……庶民を護りたいからさ」
「何故?」
「何故って」
「理由もなく?そんなわけないじゃない。気付いてないなら教えてあげるよ。君は他人を救うことで自分の器の矮小さを誤魔化したいんだ。
他者に手を差し伸べる感覚はどう?一方的な救済、命を掌に乗せてる自覚、局所的全能感。覚えがないわけないでしょ?美しいね。――反吐が出るくらい」
言うだけ言って、杖の先でレクストの額をこつりと突いた。そのまま得物を引くと、何事もなかったかのように魅力的な微笑みをたたえながら踵を返す。
彼女の姿が廊下の奥に消えるまでレクストは何も言えなかった。ようやく口の中に湿り気が戻り、双眸をすがめ、舌打ちした。
「分かったようなこと言いやがって」
腰の魔剣が、ぶるりと震えた。
【従士隊教練所にてかつての同級生と再会。そのままミカエラ先生の部屋へ】
【NPCデータ】
名前:セシリア=エクステリア
年齢:19
性別:女
種族:インテリ
体型:凹凸乏しい
服装:三角帽子と純白ブラウスにフレアスカート、上から濃紺のマント着用
能力:魔術が凄い。
所持品:魔導杖(ほぼ鈍器)、魔導書(完全に鈍器)
簡易説明:SPIN開発者エクステリア博師の一人娘。生まれ持った才能に加え努力も怠らないので魔術は超凄い。
教導院を卒業したのちミカエラ先生に師事し、魔導師(魔導具技術師)の職につく。ヤリ手のキャリア組。
同じく才能ある家系の血を引きながらうだつの上がらないレクストを心底蔑視している
扉がノックされ、従士の一人が来客について伝えた。
「入ってらっしゃい、と伝えなさい」
ミカエラが上機嫌で出迎えると、そこには三人の牧師のような格好の男がいた。
今の表情を見られたかしら、と慌てて来客向けに表情を戻す。
「ミカエラ様、いつもの物を。」
「いつも…の?」
その中の一人、丸刈りの男がミカエラに黒塗りの袋を手渡した。
中身を確認したミカエラは、一瞬目を見開くものの、すぐに男の方に向き直る。
「ご苦労様」
そう言って軽く微笑んだものの、歓喜のあまりに体が微かに震えるのが分かった。
「やはり、貴女もかね?私も、だ。」
「な、何のことかしら?」
軽くとぼけるが、マンモンと名乗る男からレクスト・フィオナについての説明があると、
そうなのよ、と笑顔で答えごまかした。
「ルキフェル様から大事なお使いがあるので今日はこれにて。
久しぶりの対面だぁ……愉しんでくれぃ。」
そう言うとマンモンは踵を返し去っていった。他の二人がそれに倣うように
体を返し、ミカエラと一瞬だけ目を合わせる。
(アレについてはこの男は触れない…みたいね)
それを彼女はただ無表情で見送っていた。
(あの男にこれ以上弱みを握られる訳にはいかない…)
ミカエラは、屯所の自室でこれからの事を考えていた。
自分が過去に行ってしまった過ちの節々に、ルキフェルの姿があったような気が、
今になって思い起こされてきたのだ。
(確実に、ルキフェルは私を利用するだろう…せめて、あの子だけは…)
その時、右手の指輪が輝き、かつての教え子である「協力者」の声が聞こえてきた。
『――先生、来ましたよ。リフレクティアの坊ちゃんが…――』
「そう…ご苦労。明日にでも新しい魔法を教えてあげる。…体力も使うだろうし、今日はキミは
下がってゆっくりお休みなさい」
そう言うと静かに腰を上げ、服装のずれをただして立ち上がった。
レクストとの久々の対面。ミカエラは手を組み、左手を口元に当てる「いつものポーズ」
で迎えた。その姿は知性・余裕・そして色気を感じさせ、多くの人間を虜にしている。
「お久しぶりです、ミカエラ先生」
「レック」
まず第一声にどきりとする。そしてその姿を見て、ミカエラはすっかり釘付けになってしまった。
お互いにゆっくりと近寄っていくが、あと五歩というところで我慢できずに
ミカエラはレクストに走り寄り、抱きついてしまった。
「お久しぶりね、レック…」
最後に会ったときに比べ、はるかに引き締まった顔つき、そして自分と同じぐらいある身長。
お互い靴を脱げば、おそらくレクストの方が高いであろう。
そして肩に手を回せば、たくましい肉体が触覚を通じて伝わってくる。
大きな乳房がレクストの胸に押し当てられて形を変え、独特の香水の匂いが広がる。
焦るレクストの顔を見つめながらうなじを撫で上げたところで、もう一人の存在を思い出した。
それはフィオナだった。怪訝そうな顔でこちらを見ているのに気づく。
ミカエラはすぐにレクストから体を離した。
「帝都によく来てくれたわね。従士のお仕事で?悩みがあるなら遠慮なくこの私に相談なさい。
ぜ〜んぶ吐き出しちゃって。何でもチカラになれるから…私にできないことはないのよ」
腕を組んでこぼれそうな乳房を持ち上げるようにして、腰を曲げてポーズを取る。
「あら、そちらの子は…キミのガール・フレンドかしら?」
唐突にフィオナの方を見て近寄りながら話しかけ、そのまま手を取り握手をする。
「まあ…誠実そうな子ね。私はミカエラ・マルブランケ。彼の元教導師…いや、
それ以上の関係と言った方がいいかしら?…そうね、一言話しておきたいんだけど、
彼はあなたには勿体無いわ。折角育ちが良さそうなのに、彼のワルガキが移っちゃう」
クスリ、と少し意地悪な表情を浮かべると、一言付け加えた。
「それは冗談として、彼がお馬鹿な事をしたら、ちゃんと叱ってあげるのよ」
そして、二人を椅子に座らせ、片手で瞬時に温めた器からカップに三人分の茶を注ぐと、
それを勧めてゆっくりと談笑をし始めた。
話が終わると、レクストに改まって話を切り出す。
「ちょっといい?レック…ひとつお願いがあるのだけれど…」
不思議そうな顔をするレクストに、真剣な眼差しで語りかける。
「今日の用事があったら、今晩、ここに一人で来てくれないかしら?
どうしても話しておきたい相談事があるの。お願い」
一瞬だが、ミカエラの目を見たレクストは、何か強力な力によって引き込まれていった。
>302
―7番ハードル、幌馬車通り―
レクスト達と一旦別れた後、俺は馴染みの花屋に顔を出すために7番ハードルへ移動してきた。
「さて、今年は何の花がいいのかね・・・・・・」
相も変わらず多種多様、雑多な店の立ち並ぶこの通りの人、人、人・・・・・・
流れてくる人を避けながらの思考は、一時中断する羽目になった。
>「スリだぁーーーー!!」
正面、多少遠くから聞こえてくる声にあわせて人ごみの中から何人かが振り返る。
俺も声のした方向に視線をやると、人をすり抜けるようにして誰かが駆けてくる。
普通、こういった状況では人々の中から有志がとっ捕まえるものだが嫌そうな顔をして視線をずらす者が多い
――などと、様子を見ていたら不意に男が自分の殺傷圏内に全力疾走で駆け込んできた。
――故に、条件反射で体は動いてしまっていた。
通りすがりざまに右足で相手の足を払い、宙に浮いた男の顎に右手をそえて
そのまま軽い力で男を仰向けにひっくり返して押さえ込む。
鈍い音と共に石畳の床に叩きつけられた男はうめき声を上げているものの、失神には至らなかったらしい
これが敵なら、脚で頚骨に蹴りを入れてやるところ・・・・・・と、なぜかどす黒い思考を振り払って前を見れば
「・・・・・・あぁ、成る程ね」
周りが手助けを好まない理由はソレだったのか。
おっとり刀で駆けつけてきた少年、本人はバレてないつもりなのかどうなのか
見る者が見ればすぐ上質な物であると分かる衣服を平然と纏って現れたのは
そう、名前までは知らないが確かメニアーチャ家、そこの現当主だ。
――これはまた、厄介な者と関わってしまったか?
そんな内心を殺して、スリを足蹴にして押さえつけながらその少年に伺いを立てる
「さて、このスリが右手に持つ袋の所有者は貴方でよろしいのかな?
だとすればこれはスリ、つまり窃盗だ。どうなさいます?
個人的にはこの場で命を絶ってやるのがせめてもの慈悲だと思いますが。」
何を馬鹿な、とでも言いた気な少年・・・・・・やはり世間知らずなのか
「ご存知の通り、貴族の身体・生命・財産に危害を加えた者は従士隊ではなく司法局が預かり
『厳正な捜査』と『公平な審理』によって重罪を科すのが帝都の法・・・・・・大概の者はその『厳正な捜査』の時点で
大概が尋問に耐え切れず命を落とすが故に不問に付される。つまり、私が捕まえてしまった時点でこの男に未来はほぼない
・・・・・・で、どうなさいます?大貴族の当主殿。」
帝都に住んでいる者ならば誰もが知っている、無自覚に何も知らぬまま不幸を撒くこの少年に
誰かが現実を突きつける必要があるとは思っていた。・・・・・・というのは建前にすぎない
正直ミドルゲイジの辺りからつもりつもっていた心の澱を吐き出したかっただけだ。
突きつけられたこの状況に彼はどう応じるのだろう
>>306 抱きつく姉に顔を赤らめる俺。
「ごめんよ…姉ちゃん。俺、いつか街に帰ろうと思ってたんだけどさ。
ようやくこの前帰ったら、あんな風だろ?おったまげたぜ。」
「それはそれとして。」
咳払いをして俺の頭を叩いた。
これが恐れていたことだ。俺は前から姉ちゃんには頭が上がらない。
「いって…ごめん。ごめん!悪かったって!」
知り合いらしい従士の方に顔を向けて姉に再び向き直る。
「姉ちゃんはこれからどうすんの?え?詰め所?
奇遇だねぇ」
「よっ、おひさっしぶり!」
「お、遊び人ジェイド!!」
「変人!!」
「帰って来たのかよ!このヤロー!!」
従士達が俺の顔を見るなり懐かしげな表情で集まってくる。
レクストという従士と姉ちゃんの後を歩きながら
馴染みだった連中と小突き合いながら22番ハードルへ向った。
SPINの転移酔いは大した事はなかった。転移の術式にはもっとヒドイのに出くわした事もある。
確かどこぞの妙な魔法研究者の集まった・・・何やら発音しにくい名前の街だった。
その時の感想と言えば・・・まぁグロい、の一言だろう。
人の体を順に分解していって再度組み上げるような・・・やられる方もだが見る方もたまったものではない。
まぁそんな事はいい。あまり酔わなかった理由はもう一つある。既に気分は最悪だったからだ。
中継駅で感じた気だるさは日を重ねるにつれて程度を増し、今では単純な思考すらもおぼつかなくなっている。
他の連中に悟られない様に振る舞うだけで一苦労だった。
目の前では誰か―――誰か?レクストに決まってる―――が大仰に両腕を広げ―――
「――帝都にようこそ!」
「ミディアムレアで頼む」
「え?」
「・・・・・・何でもない。気にしないでくれ」
隣にいたミアに不審な目を向けられ我に返る。くそっ。何だって言うんだ?
頭がボーっとしてひどく熱い。にも拘らず体は冷えて寒気すら感じる。
風邪?俺が?馬鹿な。だったら何なんだ?
「救える者だけを救って善人気取りか? まったく良いご身分じゃないか。
救えなくとも魂の安寧を嘯けば、それでお前達に非はないんだからな」
視線を転じると、列車で会ったあのむっつりのメガネがフィオナに何やら食って掛かっている。
そしてそこへ割り込む別の女性。アレもアレリィだったか。
しかし、それら全てを眼に収めながら、ギルバートは動かなかった。
誰しも信念はある。重ねた歳の高さだけ積み上げている。
それに手を出そうと言うのなら、その者にも必要な資格というモノがある。
それは、第三者が手軽に手を出していいモノではない―――かつての自分はそんな事も理解していなかった。
「それに、人サマの家庭事情に口出しても面倒なだけだろ?」
呟いて隣を見る。再度不審な視線。軽く肩をすくめ、ぐしゃぐしゃとミアの頭を撫でる。
「何でもない。俺はちょいと行く所がある。皆とはぐれて迷子になるなよ」
笑ってそう言い残すと、何か言われる前に背を向け、泥のような体を引きずって歩き出した。
皆と別れ、地形を確認しつつ7番ハードルへと向かう。
一人になりたかったのは・・・第一に自分の不調を晒したくなかった。
他人から心配や気遣いを受ける事には慣れていない。まぁ自分で言うのも何だが。
もう一つは、ミアを一人にしてやりたかった。列車では不覚を取ったが、
しかしガキでもないのに隣にべったりというのはどう考えても居心地が悪い。
誰かを守るってのは考える以上に難しいものだ―――
「かわいい子には旅させよ―――ちょいと違うか」
子供か。流石にこの歳であの歳の子供は困る。
くだらない事を考えている内に、無数の人が行きかう大通りへと出ていた。
そう、これだけ人がいるのだ。逆に危険は少ないくらいだ。
心配があるとすれば・・・痴漢にナンパ、それと―――
「スリだぁーーーー!!」
「そう、それ。スリだ。・・・・・・うん?」
顔を上げる。人の流れの中にできた小さな渦。
どちらの顔もこちらに向き、どちらの顔も必死で流れに逆らい向かってくる。
一つはまだ幼さを残した端正な―――上流階級特有の―――顔、
もう一つはそれと対照的な・・・世を呪いながら、かと言って大した努力もせず
半ば惰性で愚行に走る者のスレた顔―――まぁ、自分に言わせればどちらも薄っぺらい顔だ。
面倒だな―――そう思った時、前を歩いていた影が動き、スリを地面に這いつくばらせていた。
知っている顔だった。何とまぁ、今の今まで気づかないとは人の顔を馬鹿にできる所じゃない。
「さて、このスリが右手に持つ袋の所有者は貴方でよろしいのかな?
だとすればこれはスリ、つまり窃盗だ。どうなさいます?」
ハスタがスリに地面を舐めさせながら、どこか小馬鹿にした調子で問うている。
ああ、こいつは面倒だ。見なかったフリで通り過ぎる事ができれば一番なのに。
「おい、待てよ。たかが窃盗未遂だろ。なんだか知らんがそうカリカリすんなって」
面倒だが仕方ない。言いつつ出て行き、ハスタの足を外して男の襟首を掴んで引き起こす。
かがみこんだ瞬間、一瞬世界が揺れ、体がふらつきかける。くそっ。勘弁しろ。
「んな面倒な事しなくても、腕の一本もへし折って放り出せばいい事だろ。ん?」
次の瞬間、素早く回した腕が男の左腕に巻き付き、ぎりり、と嫌な音が聞こえ、男が悲鳴を上げた。
ちらりと貴族の少年に眼をやり、反応をうかがう。お高くても子供だろ?子供の反応をしろ―――
そうすれば面倒事にならず収まるのだ―――それくらいは利口であってくれ。
胸の内で呟きつつ、さらにもう1cm腕を捻る。男が歯を食いしばり、呻き声を漏らした。
「すいません、お嬢さん。少し宜しいかな?」
屈託の無い笑顔を浮かべミアの前に立つ坊主頭の男。
白髪と彫りの深い顔立ちが見る者に強い印象を与える。
マンモンはこの少女があのアルテミシアの生まれ変わりだと
聞いて来た。
無表情でこちらを見る少女を駅舎の裏まで誘う。
訝しげに見ていたが、田舎から来た神殿の衛視だと
伝えると何とか応じてくれた。
「それで、私に何の用?」
マンモンはゆっくりと笑うとミアの肩に手を置いた。
ミアは手を払いのけようとする。
しかし離れない。肩口から白い煙が上がり、それを目の前の
坊主頭の男が蒸気を吸い込むようにしていく。
ミアの体から力が抜け白目を剥く。気を失ったかのようにその場で
倒れ込む寸前。
近くにいた駅員達がミアを抱きかかえる。
「完了だ……後は伝達の通りに彼女を運べ。」
マンモンが口に含んだそれを吐き出す。
小さく光る霧のようなものを瓶にしまい込むと
何事もなかったかのように駅を後にした。
>>320>>324 「おぉ、これは酷い……」
群集の中を掻き分けるように現れた坊主頭の男。
「窃盗罪は神を裏切る行為です…厳正なる処罰を与えるべき。
―といいたいところだが、ここは私の顔に免じて。」
深遠の月の紋章を見せると辺りの群集から拍手が起こる。
マンモン様と叫び、はしゃぐ子供さえいる。
群集の拍手に応えながら男に手を差し伸べる。
ギルバート、ハスタ、ジースの顔を見てにこやかな笑みを浮かべ
銀の腕輪を見せた。
「ところで……この腕輪だが。つい先ほど駅舎に落ちていたのだ。
持ち主はおられぬかと。」
群集がこぞってそれを取ろうと喧嘩を始める。
誰もが私のだと叫びながら取っ組み合いになってしまう。
「落ち着いてくれ。私は君達に欲を捨てよと説いた筈だ。
嘘は良くない……私には真実が見える。
そうだろ、ギルバート君にハスタ君。
君達は”分かっている”ね。これが何なのか。
あぁ、そうだ……これも落ちていた。近くにね。」
銀の腕輪ともう1つ、白いローブを見せ付ける。
「ギルバート君……君の古い友人からの伝言だ。
また会えるのを楽しみにしている……と。
あとジース様だね。いつも援助を頂き感謝しているよ。」
群集の懺悔の声に後押しされながら男は立ち去っていく。
都は魔術と裸の獣で溢れている
たなびく国旗に涙を流す民、足首を同胞の腐肉に埋めたまま
空を仰げば、気づかない
人を信じると人が叫び、人でありたいと人が零した
人を生かすと人が囁き、人を殺めると人が誓った
定めは霧の奥 それでも
祈りが裏切られ、砕けた意志を繋ぐ言葉が失われたとしても それでも
誰かが望みあるいは否定した何かを きっと
誰かが失いあるいは、手に入れる
――迫る足音は、渇望と絶望だろうか?
――――――To Be Continued.