邪気眼―JackyGun― 第T部 〜佰捌ノ年代記編〜

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1名無しになりきれ
かつて、大きな戦いがあった。

個人、組織、そして世界をも巻き込んだ戦い。

戦士達は屍の山を築き上げ戦い、

それでも結局、勝者を産まぬまま、

戦いは、全てが敗者となって決着を迎えた。

そして、『邪気眼』は世界から消え去った――――筈だった。
2名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:12:24 0

Q.ここは何をする所だ?
A.邪気眼使いたちが戦ったり仲良くしたり謀略を巡らせたりする所です。

Q.邪気眼って何?
Aっふ・・・・邪気眼(自分で作った設定で俺の持ってる第三の目)を持たぬ物にはわからんだろう・・・
 邪気眼のガイドライン(http://society6.2ch.net/test/read.cgi/gline/1246787133/)を参考にしてください。
 このスレでの邪気眼とは、主に各人の持つ特殊能力を指します。
 スタンドとかの類似品のようなものだと思っておけばよいと思います。

Q.全員名無しでわかりにくい
A.昔(ガイドライン板時代)からの伝統です。慣れれば問題なく識別できます。
どうしても気になる場合は、雑談スレ(後述)でその旨を伝えてください。

Q.背景世界とかは?
A.今後の話次第。
Q.参加したい!
A.自由に参加してくださってかまいません。

Q.キャラの設定ってどんなのがいいんだろうか。
Q.キャラが出来たんだけど、痛いとか厨臭いとか言われそう……
A. 出来る限り痛い設定にしておいたほうが『邪気眼』という言葉の意味に合っているでしょう。
 数年後に思い出して身悶え出来るようなものが良いと思われます。
3名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:18:40 0
現行まとめ最新Ver

名前              能力          目的                       現況

Y               無能力      アルカナの野望阻止           『世界』と対峙。何かが……?    
リー             魔溜眼      アルカナの野望阻止         深層にて『月』に勝利。『正義』と対峙

フェンリル          業狼眼       遺跡深部への到達       深部近くにて白虎と交戦。殴り合いの末撃破、深層へ
 
シェイド           影探眼        大学防衛             地上に戻り調律機関・リクス一派と交戦、敗北
 
アスラ            無能力        ヨコシマキメ盗掘         中層域にて『悪魔』と交戦。激闘の末勝利
ヨシノ            倒錯眼        "黒の教科書"入手                 同上
ステラ            暁光眼         『星』の救出              同上。ヨコシマキメに巣食う魔獣と戦闘


短髪の男           ???          ???           中層域にてY組と邂逅、闇に紛れ憑く

食堂の男           ???         ???            どうやらブッシュは俺達とやる気らしい

リバイヴ           水葬眼        侵入者への警告           ヨコキマシメ遺跡跡の小屋で監視

ルチア            ???        大聖堂への帰郷            大聖堂前にて『教皇』に遭遇
4名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:22:58 0
アルカナVer

名前              能力           目的                       現況

『吊られた男』       傀儡眼        地上での索敵           地上にてライドムーバーと交戦中
マリー        魔力武装<ギミック>     同上                        同上

『世界』            ???       『創造主』の殺害              最深部にてYと対峙

『正義』            ???        『世界』の護衛              最深部にてリーと交戦

『悪魔』           拳闘眼          戦闘               ステラ・アスラ・ヨシノと交戦、死亡

『塔』            瞬穿眼         侵入者の撃退              調律機関に捕縛される

『星』            白金眼        侵入者の迎撃          Y組を襲撃、シェイドによって撃破される
『戦車』          高速移動         同上            アスラ組を襲撃、魔剣と眼の連携で撃破される
白虎           ダディクール    フェンリルへのリベンジ       フェンリルと再戦、再び撃破される  


『月』          零明眼・夢境眼     侵入者の迎撃              深層にてY・リーと交戦中

『教皇』           ???         転移の調査           大聖堂前にてルチアと邂逅。思考漏洩中
5名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:28:08 0
第三勢力Ver

名前              能力           目的                       現況

レイジン           無能力       アルカナの制圧            『助手A』を探して大学内に散開  
調律機関           同上            同上                       同上

ムライ君         ライドムーバー        同上             多目的グラウンドにてクレイン・マリーと交戦          

リクス            氷結眼       調律機関のサポート         地上にてしぇいどと交戦、撃破 
6名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:29:36 0
避難所だ……

なりきり板邪気眼スレについての雑談 其之四
http://yy45.60.kg/test/read.cgi/jaki/1243695782/


866 :Welcome to Underground:09/05/05 00:10:34 ID:LP2HW+EB
キャラ人気投票の話が出たことだしここで今まで出たキャラの簡単な紹介文を作ってみた。
新世代ROM専の俺が独断と偏見で書いてるので癪に障っても怒らないでね

<Y>
ヨコシマキメに挑み入り口のトラップに引っかかっていた旅の冒険者。
この物語の始まりにして唯一の普通人。名前にはどうやら特別な意味がある模様。
無能力者だが持ち前の名演技とハッタリで邪気眼遣い達を出し抜き生きのこってきた。
普段は尊大な物言いだが素に戻ると常識人なようでアクの強い能力者達の傍では常に胃が痛い日々を送っているようだ。
シリアスシーンと素に戻ったときのギャップがたまらんと一部に絶大な人気を誇っている。ある意味王道キャラ。

リバイヴ
ヨコシマキメの地の管理者たる少女。水を自在に操る邪気眼『水葬眼』を持つ。
年寄りめいた口調で訪問者を迎えるが両親の墓前に手を合わせる時などは年相応の仕草も見せる。
一見旅人の生死については冷徹なようだが探窟を認めたY達に召喚の鈴を持たせるなど面倒見はいいようである。

フェンリル
シェイドをして「普通の奴」と揶揄されてしまった冒険者。狼を思わせる容貌と茶色の長髪を持つ。
大気中の邪気を取り込み自らを狼へと変身させる邪気眼『業狼眼』の使い手。
意外にも協調性を重んじる性格のようで、リーや短髪と出会ったときもいち早く相手の状況を汲み取り
仲間に加える方向へと話を進めている。その一方で強引な一面もあるらしくYを担いで走り去ったり
遺跡の地面をぶち抜いて中層域へショートカットしたりと主にYがその犠牲になッている。
7名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:30:17 0
その2

白虎(ダディ・クール)
ヨコシマキメの地に古くから生息している聖獣の一匹。普段は四足獣の格好をしているが戦闘時には巨大な紳士へと変貌する。
フェンリルと一戦交えたのちヨコシマキメの消えた聖地で闊歩しているところをアルカナに捉えられた。
今は『吊られた男』の支配下にありフェンリルとの再戦を叶えている。
肉片一つ残さず流れ星になって蒸発した。

ショボン
街へと降りてきたYとフェンリルに向けて放たれたアルカナの刺客。くそみそ。
閉じ込めた邪気眼遣いの動きを縛る邪気眼殺しの邪気眼『亜狗禁眼』を使う。
Yの機転によって能力を乱され敗北。二人にアルカナの存在を伝えたところで『月』の遠隔術式によって絶命した。
口調とキャラ付けを見るにブーン系出身か。「このショボン様さ!」

リー・ゼパップ
強い生物から命の糧を得るためヨコシマキメの地に舞い降りしデブ。
触れたエネルギーを自在に吸収・放出する邪気眼『魔溜眼』を持つ。こと食に関しては並々ならぬ執着を持ち
お眼鏡に適う得物を探して遺跡の奥まで足を踏み入れるほど。胸に下げた瓶にはかつての仲間の遺灰が入っているらしい。
遺跡を駆け抜けるフェンリルを追う際能力を使って遺跡をスケートしていたがなんとも圧巻な光景である。
能力を使うと更にピザる、風船みたいな奴。

アスラ (坂上明日香)
世界基督大学の大聖堂に勤めるシスターにして破天荒な銭ゲバ盗掘者。修道服の中身は四次元。
邪気眼や異能を持たない無能力者だが本人はそう言われることを酷く嫌っており
うっかり口にしたヨシノなどはハイキックの餌食になっている。魔剣『デスフレイム』と銃器類を使いこなし
能力者とも遜色ない戦闘力を備えている。また金に汚く割りと平気で仲間も見捨てるあたりシビアなリアリストでもある。
逃げ足は速いらしく誰よりも早く危険を察知し脱兎の如く遁走したが修道服でよくスピードが出るものである。

短髪の男
ヨコシマキメ中層域で立ち往生していた謎の男。
独特の鼻につく言い回しで周囲の感情が沸き立つのを楽しむ悪癖がある。
能力は不明だが闇に紛れ存在すら知覚できなくなるとおろを見るに某神の不在証明的な能力なのだろう。

ヨシノ=タカユキ
世界基督大学の学生で、考古学専攻。理屈屋かつ饒舌家で、余計なことを言ってはアスラの蹴りや刃物で粛清される。
道具を使った効果の作用する対象を任意に選択できる能力『倒錯眼』を使い学生の身分を詐称している。
かつてヨコシマキメの胃袋に消えた盗掘旅団の一員だったらしいが未だ断片的な描写しかなく全貌は明らかになっていない。
体力がなくすぐにへばってはアスラにどやされるあたりおおよそ戦闘向きとは言えないが対『戦車』戦ではそれなりに活躍した。
愛すべき変態その1。今は邪気を覆い隠すメイド服を着用している。あとロリコン。つくづく『星』と戦わなくてよかった。

アリス=シェイド
世界基督大学の研究員。有能なんだか無能なんだかよくわからない奴隷兼助手のAを従えた通称『白衣野朗』
影を操り実体化もできる『影探眼』の能力者。アスラとは個人的な知り合いらしくどうやら穏便な知人でもないようだ。
遺跡な中身を『研究』するためにやってきたらしいが発言を鑑みるにどうもマッドサイエンティスト的な研究者らしい。
フェンリルのことを「普通の能力者」「つまらん回答をした者」と揶揄するなど他人を分析する思考に長けている。
デスクワーカーのようで戦闘能力は高くアルカナの刺客である『星』を軽くあしらう程。逃げてーマリー逃げてー

ルチア
世界基督大学の大聖堂に勤めるシスターにしてやっぱりシスター。正統派にな純真娘。
聖水や浄化術式を習得しているあたり只者ではないのだろう。『教皇』との邂逅で何が起こるのだろうか。
アスラの同僚で天敵らしい。っていうかどこ行った。聖水はシャトルーズイエローらしい。
8名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:31:03 0
アルカナ編

月 (デシェ=ギルダルク)
顔に大きな傷痕を持つ雪国出身のアルカナ名参謀。年端も行かない少女だが、固い口調と含蓄は年齢を感じさせない。
アルカナの名を語らしめる者には容赦なく、幼少より習得した死の秘術が苦しみと絶命の二重奏を奏でる。
大アルカナの中でもかなり高い地位にあるらしく、『星』や『戦車』を使役したりと結構な権限を与えられている。
オッドアイは両目に別々の人工邪気眼を施術されたから。恐ろしき才能故に故郷を追放された過去を持つ。
冷徹な指令官のようだがYの挑発に容易くキレたりリーの登場にイライラしたりとそれなりに未熟らしい。

戦車
アスラ・ヨシノ組を襲撃した大アルカナ。堅牢な銀鎧に身を包み視線を軌道に変える高速移動能力を持つ。
荒木節を使いこなしその言動から某ポルポル君を彷彿とさせるがその実、鎧の中身は若干13歳のおにゃのこだった。
催眠術とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ!
アスラの魔剣とヨシノの戦略によって死闘の末敗北。ロリコンの毒牙にかかる寸前にまで陥った。
もし鎧がなかったら結果は変わっていたかもしれないというのが目下残念極まるところ。


Y組の迎撃に駆出された大アルカナの一員。みんな大好き金髪幼女。ついでにポニーテール。最高。
自分と触れたものを光に変える人工邪気眼『白金眼』を持つ。どこぞのスタンドのような名前だがつまりはピカピカの実である。
光の速さで突進したらどうなるの?リアルな話するとお前の住んでるヨコシマキメが吹き飛ぶ。お前のウンコで地球がヤバイ。
って気がしたがそんなことはなかったぜ!シェイドの能力により動きを封じられ最後の手段に自爆した。
なんだかんだその爆発でYは落下しリーもシェイドも負傷し物語の進展への一助となった。お前の自爆で遺跡がヤバイ。

教皇(フォウ=スレイン)
ヨコシマキメ大転移の原因調査に駆出された大アルカナが一人。能力は不明。詳細も不明。
忘れられているがコイツも変態。愛すべき変態その2。ルチアにセクハラ発言しまくるが総スルーでなんだか涙目。
聖水踏んでは滑って転び、偽名を考えても瞬時に看破されたりとなにかと失敗が多いがアルカナ内では結構いい位置らしい。
『月』に疎まれてるらしいが暑苦しいからじゃないかな。

太陽 (ステラ=トワイライト)
『星』の実姉。大アルカナの一員で、『月』とは同期の桜。愛すべき変態その3。最近妹が爆発した。
光を支配し自在の操る『暁光眼』という人工邪気眼の使い手。レーザーとか使う。
木野君も驚きのファッションセンスはいろんな意味でピカイチで、全身まっ黄色で合わせたりととにかく尋常ではない。
その格好で平気で街とか歩いたりする。これには『星』も思わず苦笑い。それにしてもこの不審者、ノリノリである。
第一の変態、ヨシノとの出会いは彼女にとって何を意味するのだろうか。


遺跡深部で繋がれている男。出番はいつだ
9名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:31:56 0
吊られた男 (クレイン=トローリング)
退廃的なニヤケ笑いが特徴的な大アルカナ。元ヒッキーのボンボンで、人形マニアのつまりはオタク。
『あや吊り糸』を繋げた物体を支配する能力『傀儡眼』を持つ。実にわかりやすい邪気眼である。
美少女等身大フィギュアのマリーを溺愛し戦闘にも用いるあたり非常にアレだが彼女もひっくるめた戦闘力は高いらしい。
アルカナの参入する人間が一様に過去や覚悟や決意を背負っているなか引きこもりから立ち直っただけと実に軽い経歴を持つ。
就職先が見つかってよかったね。フェンリルに「ガキ野朗」と揶揄されてしまうあたりとっちゃん坊やなのは否めない。

マリー=オー=ネット
『吊られた男』の愛玩人形。みんな大好き毒舌ツンデレ美少女フィギュア(等身大)
大時代的な口調の黒髪ロングと大和撫子っぽいが服装はゴスロリとミスマッチなところもキュート。
クレイン君の魔改造により魔力兵装<ギミック>を体の各所に仕込んでいるらしい。エロ同人が出たら格好のネタだな。
創られた目的は孫娘へのプレゼントだったらしいがキモイくらいに精巧な出来だったらしく一体何させるつもりだったんだろうね。
主人たる『吊られた男』を溺愛しているらしい描写が端々に見られるが種族どころか無機物の壁さえ越えた美しい愛である。

世界
ラスボス。なんか手からミスリルとか出しちゃう。ヨコシマキメを復活させた張本人。
Yの虚飾を容易く見抜き叩き潰すその慧眼はまさにラスボスの貫禄そのもの。
真紅のプレートと深い関わりを持つらしいが真相が明らかになるのはいつのことだろうか。

ヨコシマキメ
通称"怪物の口腔"。各地を転々と渡り歩きながらその土地の財宝や能力者を取り込みまた移動する『旅をする遺跡』
ヨシノの言によるとヨコシマキメは"生きている"らしいが実状はいかに?
その腹の中に溜め込んだ財宝を狙い多くの盗掘者が挑んだが内部の億千山千のトラップにより餌食となっているらしい。
邪気を吸収する性質を持っているらしく邪気眼使いですら長期の滞在は命取りになる。

悪魔
狂った理屈を笑顔で語る変態鬼畜狂人外道白痴論外脳筋軽薄単細胞レイパー。手からビーム出す。
格ゲー準拠なキャラクターと鬼気迫るほどの圧倒的なテンションでスレの一部をエキサイトさせた。
なんか色々とヤバい。間違っても愛すべきではない変態。逃げてーステラ逃げてー
大アルカナに名を連ねるもその行動はトリックスターで、名参謀『月』でさえ頭を抱える始末。
起用すればその戦闘能力の高さもあいまって間違いなく遺跡をぶっ壊すからあまり使いたくなかったらしい。

レイジン=シェープス(cv.若本)
政府公設の異能対策組織『調律機関』の実働隊長。ナナフシみたいな痩身の中年男性。
独特の謡うような粘っこい喋り方とは裏腹のポーカーフェイスで、常に冷静沈着な指令官。
対邪気眼遣いの戦術に長け、大アルカナ『塔』を智謀で攻略した。また分析力も高く初めて見る能力
でも即座に分析することが可能。無能力者だが熟年の勘で邪気や魔力を感じ取れるらしい。
一見普通そうだがなかなかヤバい脳の持ち主で、妄想の娘と戯れたりする。名前の由来は痩身麗人?

リクス=クリシュナーダ
世界皇族『三千院家』の当主セレネ三千院の執事。ってか黒執事。
あらゆる事象を微分し凍らせる『氷結眼』の使い手。
礼節端正で物腰柔らか、内的思考ですら相手をベタ褒めする徹底振りだが主人にへ結構いらんこと言って
怒られているようである。元ネタはやはり『黒執事』か。


アルカナの誇る人間対空要塞。その長身はダイダラボッチ的な長さで些かキモい。
狙撃のための武器を創りだしそれを100%使用できる邪気眼『瞬穿眼』を持つ。
が、あっさりとレイジンの仕掛けた罠にかかり捕縛された。かませの匂いがプンプンするぜぇ〜っ


10名無しになりきれ:2009/07/13(月) 22:53:59 0
「これは次なる世界の創造、そして次元の接続……どうやらこのあたしでも、>>1乙しておくのが礼儀のようね。」
三千院家の若き女帝は、そういって次元の扉を置いて行ったという。

後述の雑談スレ:http://yy45.60.kg/test/read.cgi/jaki/1243695782/
11名無しになりきれ:2009/07/13(月) 23:06:12 0
世界観まとめ

邪気眼…人知、自然の理、魔法すらも超えた、あらゆる現象と別格の異形の力

包帯…邪気を押さえ込み暴発を防ぐ拘束具

ヨコシマキメ遺跡…通称、『怪物の口腔』
            かつての戦禍により一度は焼失したが、謎の人物によって再生された。
            内部には往時の貴重な資料や強力な魔道具が残されており同時に侵入者達を討ってきたトラップも残存している。
            実は『108のクロニクル』のひとつ
            
カノッサ機関…あらゆる歴史の影で暗躍し続けてきた謎の組織。今回の件にも一枚かんでいる

アルカナ…ヨコシマキメの復活に立ち会い守護する集団。侵入者はもとより近づくものすら攻撃する。
       大アルカナと小アルカナがあり、タロットカードと同数の能力者で構成される。

プレート…力を秘めた古代の石版。適合者の手に渡るのを待ち続けている。

世界基督教大学…八王子にある真新しいミッション系の大学で、大聖堂の下には戦時から残る大空洞が存在する。

108のクロニクル…"絶対記録(アカシックレコード)"から零れ落ちたとされる遺物。"世界一優秀な遺伝子"や"黒の教科書"、"ヨコシマキメ遺跡"等がある。

邪気払い(アンチイビル)…無能力者が邪気眼使いに対抗するべく編み出された技術





12名無しになりきれ:2009/07/13(月) 23:42:52 0
『さあ怪物よ……残された牙は後いくつだ?』
『やあ。ようこそ"バーボンハウス"へ』
『――――君の『意志』では……戦うには些か足りない』
『命を頂くことに対して命を懸けないのは大変な侮辱だ』
『こういう輩は―――殲滅しないと。』
『く……吐きそうだ、人の死を間近で見ると……』
『―――怪物ヨコシマキメの、退治といこう』
『それが世界の選択か』
『やいこらそこの少年、誰だか知らんが教会の裏は死霊の溜まり場。憑かれたくなかったらとっとと帰れ!』
『ムカついて結構、ヒトが俺の思うままに感情を揺るがすのは愉快だ』
『見ての通り、「純情可憐な」「どこにでもいる」「美少女」シスターさ』
『オーケー姉さんとりあえず胸に手を当てながら鏡を見つつ免許証でも確認することをお勧めする』
『ストレイシープに、スケープゴート・・・ 遺跡の闇に呑まれるぜ。・・・カシになっちまいな』
『だから、俺の命を貸そう』
『……いえ。万事、我々選ばれし者……その頭脳、『月』にお任せあれ』
『シスターって、教皇の奴隷でしょ?』
『――『死ぬか消えるか喰われるか』、お好きなようにどうぞッ』
『ロリコンも正義であり、名誉!矛盾はない……整合した!』
『ド畜生が〜〜ッ!』
『影は光あるところなら、どこにだって追いつける』
『こいつと『こいつ等』の喉元へ牙を突き立てるためにッ!!』
『それっ!逃げダーーーーーーーッシュ!』
『我が名は<Y>……汝等も能力者なら、多くを語らずとも意味は分かろうな?』
『楽しく踊ってくれよな――我がマリオネット達と、ね?』
『へ、変態…………!!』
『変態に変態扱いされた……もういい死のうかな!!』
『変態!変態!変態!』
『任せたからには――――我を失望させるな?』
『逡巡は必要ない。返答も必要ない』
『───さあ、主人以外の者に「吊られる」気分はどうかね?』
『あんたが好むと好まざるとに関わらず、俺はあんたを全力でぶちのめすッ!!!』
『神様はスゲェイカス超寛大な御方だし、私みたいなのでも救ってくれるでしょ。』
『――つまり、僕の出番だね?』
『それは「胡椒の丸呑み」、と言うヤツだ……』
『そ い つ は 私 が 頂 こ う ! 』
『――お待たせしました『吊られた男』様!不肖マリー=オー=ネット、再び貴方の御許へ舞い戻りました』
『邪気眼遣いも銃で撃たれりゃ死ぬんでしョ?』
   『あくまで三千院家の執事でございますから』
                                  『願わくば、因果の交差路で再び会いまみえんことを――』
『ひやっはァッ!! “修道女”(シスター)ァ! テメー“べコべコ”にしてやるよォ!?』
                           『とりあえず置いてきぼりにしやがった件については後でネッチリコトコト釈明を要求するぞ!?』
『この変態鬼畜狂人外道白痴論外脳筋軽薄単細胞レイパァァァァァッッッ!!』
                                            『明日になれば、今日死んだ何億という細胞の怨念に苛まれるだろう。明日という日があればの話だが』
『寝床の中から起き上がってくるいつものあのやり方で!』
                                『地獄には程遠いが……その穴がお前の墓穴だ。先立って堕ちておけ!!』
『だから、光があれば――妹が傍にいれば私は負けない!私は『太陽』!日輪に依ってあまねく光を律する者!!!』
                                                         『如何なる手段を以っても保存できない、この美中の美の傍に居たい』
『だから、今は私の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ――――!!!!!!!!!』
              『たまたま立ち寄った美術館で、一枚の絵に心を奪われた人間というのが、このような気持ちなのかもしれない』
『最古と最新の奇跡のコラボレーション……見せてやりましョうじゃァありませんか』
                                                『君に、喜びを与えたい。そのために、こうしてここにいるのだから』

『なぜなら……星と、いうものは……いつも、黄昏(twilight)から……輝き始める……もの……なの…だか…ら………』

『貴方の決意も覚悟も過去も未来も意思も意志も遺志も何もかも全部ッ!!『黄昏』の名の下にッ!!『悪魔』の愛したステラ=トワイライトとしてッ!!』

『はい、おしまい。』
13名無しになりきれ:2009/07/13(月) 23:44:22 0
↓――それでは本編再開――↓
14名無しになりきれ:2009/07/13(月) 23:45:11 0
「――妹とか、いるかな」

ヨシノの変態丸出し発言にステラは硬直した。何故知っている。――否、

(なんでわかるの……!?『悪魔』の言葉ぐらいしか情報はなかったはず……たったあれだけから推測したっていうの?)

なんという洞察力の無駄遣い。なんという変態方向への行動力。なんという悲しき才能。そして、

(気をつけないと……『星』を助けても絶対ヨシノには会わせらんないな)

どうつっこんでいいやら、彼の肩を借りヘッドロック中のアスラが刃物でちくちくやりだしたのを見て、ああそういう突っ込み方していいんだと判断。
とりあえず低出力のレーザーを頭皮にぶち込んでやることでひとまず漫才の成立を得る。

「……とりあえず、シスターの質問には答えるね」

一つ目。

「アルカナを抜けた理由――といっても、アルカナに明確な"仲間"って意識はないんだよ。アルカナは元々リーダーであり創始者の『世界』に
 恭順した能力者が寄り集まって出来た組織で、私達は『世界』の駒でしかない。だから思想ひとつとっても様々な人間がいるの」

例えば『悪魔』。彼はひたすら闘いを求めてアルカナに籍を置いていた。故に『月』の指令にも滅多に従わなかったし、最期には同士討ちという形で散った。

「私と私の妹――『太陽』と『星』は、この時代の人間じゃない。……ヨコシマキメが健在だった時代にひっそりと生きて、共に滅んだ人間。
 この遺跡が再構成されたときにおまけで甦っただけの存在なんだよね。だから行くあてもないし勝手もわかんないしでとりあえず暫定的に
 アルカナに所属してただけなの。丁度いい具合に戦闘向けの邪気眼を植えつけられてたしね」

一息。

「私達は、私は居場所が必要だった。目的が必要だった。それをあなた達が用意してくれてる今、これ以上アルカナに義理立てする必要もない」

だから、

「『探求者』として、あの子の姉として、このヨコシマキメを攻略したい。だから私はあなた達に協力するよ」
15名無しになりきれ:2009/07/13(月) 23:45:53 0
二つ目。

「残りのアルカナによる迎撃――ヨコシマキメに潜る以上これは避けられないと思う。『悪魔』クラスの能力者もちらほら居るから
 このままじゃ一人二人は撃退できても多人数で押さえ込まれたら全滅は必至。なるべく見つからないルートは選ぶつもりだけど」

無論ステラとてアルカナ全員に勝てるとは思っていない。『月』の秘術は厄介だし、『吊られた男』と人形マリーのコンビネーションフォーム
がハマれば回避は困難だろう。『教皇』の防壁は一筋縄じゃいかないし、『塔』の狙撃に狙われれば逃れられない。

「ただ、アルカナの至上命題は『世界』の護衛……シスターやヨシノの目的が『世界を倒す』でなく単純に『攻略』なら、わざわざ余計な闘い
 を背負い込まなくたっていいはずだよ。ヨコシマキメは生きた迷宮。宝や『力』の眠る"胃袋"があるのは『世界』とは別の場所だから」

つらつらと同行者にとっての希望になり得る言葉を吐き出しながら、ステラを先頭に据えた一行は遺跡を歩く。
何かあったときに直ぐに能力で二人を護れるよう、警戒は怠らない。アスラはともかくヨシノは非戦闘員なので何が何でも護らなければならない。
ステラの言葉が途切れる頃、三人は二股の分かれ道に辿り着いた。ヨコシマキメの特異な環境が創りあげた天然の次元罠である。

(シュレンディガーの岐路か……参ったな、普段転移陣しか使ってないから真っ向な攻略法わかんないや)

支配光を飛ばしてどうにかならないものかと思案しかけたそのとき、ヨシノが懐から白杖を取り出し能力を発動した。
地面に浮かび上がった極彩色の矢印は正解であろう道を指している。ステラは内心舌を巻かざるを得なかった。

(へぇ、こういう使いかたも出来るんだ……引き出しの多い能力だね。戦闘にも応用できそうなものだけど)

そういえば『悪魔』戦でもアスラの銃器とヨシノの能力の組み合わせで見事に足留めを果たしてくれていた。
頑なに戦闘を拒むわりにはしっかりと活躍はしている。ふと、彼が戦闘向けでないのは能力でなく性格の問題なのではないかと思い、

思っていたが故に、

死角から振り下ろされる爪に気付くのが一拍子遅れた。

『〜〜〜〜〜ッッ!!!!!』

咆哮。
同じにステラの横腹に叩き込まれた剛爪の一撃は、咄嗟に展開した防御術式を容易く貫き、彼女は体をくの字に折り曲げながら
木の葉が宙に舞うよりも激しく空へと放り出された。ブレる意識の端に捉えた視覚には、振り抜いた爪に衣の切れ端を引っ掛けた異形の獣が映った。
獣は単体ではなかった。数えるのも気が遠くなりそうなくらいに犇く無数の獣がそこに居た。

(幻獣『剣虎』……!!聖獣『白虎』の下位種!そうか、入っちゃったんだ――『畜生ヶ道』)

ヨコシマキメは体内に異能の魔獣を飼っている。とりわけ凶悪な性質を持つのが"食道"に例えられるルート『畜生ヶ道』に巣食う幻獣達である。
ヨシノの能力は正しく道を選んでいた。選んでいたが故に、"胃袋"へ繋がる最短ルートとして、地獄より険しいこの道を選んでしまったのだ。
宙を舞いながら、ステラは叫んだ。

「シスター!ヨシノ!ヨコシマキメに咀嚼されたくなかったら――――今すぐこいつら根絶やしにするよ!!」
16名無しになりきれ:2009/07/14(火) 01:37:46 O
そげぶ
17名無しになりきれ:2009/07/16(木) 19:00:17 0
ム…!!
貴様、邪魔をするな!

…………………
……傀儡………傀儡だと…?
何故だ!何故貴様等は…どいつもこいつも人形の分際で俺の前に立つのかッ!!

《執事服の男が離れた間合いから拳を放っている。》

………何のマネだ?そりゃあ…
何だか知らねぇがテメェ何者だよ
その邪気、怖気が走るぜ…

  (魔溜眼の供給がおかしい…空気中のエネルギーか?
   気流が狂ってるな…何か、来る…!)

正義の味方の残骸?あぁ、確かに残骸みてぇだな
他人に殺しをさせようなんて……
正義の味方の風上にも置けねぇぜ…!!

《空気弾を灼熱の蹴りと燃え盛る拳で迎撃する。》
《リーが身体を動かす度に爆発音が鳴り響き、空気弾を相殺する度に衝撃が響き渡る。》

悪ぃなY…コイツ相手じゃ、他人の心配してる余裕は無ぇみてぇだ…

《迫り来る『正義』。リーもまた、彼へ向かい空を駆ける。》
《空気を、壁を、土を侵食し、腐敗させ死なせながら。》

俺はリー………いや…
今の俺の名は……カノッサ守護天使が一人…
命の守護天使、真餓鬼のベイルだ…!!

《左足で牽制の飛び蹴りを放ち、右腕に魔溜眼の力を込め始める。》

一気に行くぜッ!燃えろ!!
クリムゾン スライス ヘルキャリー
  紅脚三連獄渡!!

《ロー、ミドル、ハイの三連蹴りに加えて回し蹴りを打ち込む。》

ここだ…そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!
レイジングウィンド オブ ヘルミアズマ
     闇紫灼獄風!

《左足から撃ち出された炎を纏った瘴気が凄まじい突風となって『正義』に襲いかかる。》
18名無しになりきれ:2009/07/17(金) 17:41:41 0
「……はッ……ハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

Yの覚醒。そしてYが鎮痛な様子で語った、黒の歴史と創造主の死という仮説。
しかし、それを聞いた『世界』が見せた反応は、驚愕、落胆、怒り、そのどれでも無かった。
彼が、右手で顔を抑え、哄笑と共に浮べる、この世界において始めて見せるその表情は

――――――悦び。

そうして、ひとしきり狂ったように笑った後、それでもまだ愉悦を
抑えきれないような様子で世界は語りだす。

「ククク……面白い! 実に面白いぞ愚民……いや、『Y』よ!
 何らかの変容はみせるであろうと予測はしていたが、
 まさか、我以外に失われた世界を認識できる者になろうとは、思いもしなかった。
 ヨコシマキメ<ここ>が世界の原初に近いからか? 或いは、内包された玩具の力か?
 ……いや、違うな。それが、規定事項、『世界の選択』だからか!!」

先ほどまで炉辺の石程度にしかYを見ていなかった『世界』の視線。
それは今では、圧倒的な重圧を持つ、己と対等の存在を見るものへと変化していた。

「カノッサが衰退した故に、創造主が死んだ?
 ククク……ありえぬな。Yよ、奴は生きているぞ。
 その事はたった今、貴様が証明したのだからな」

「考えよ『Y』よ。世界を黒の歴史に巻き込むべく動く組織の存在。
 ソレに気付き、怪物が跋扈し、生命力を奪う遺跡に潜入しようなどと考える人間が
 何人いるかを。『世界』たる我との手段である、強力な能力者の集団であるアルカナ。
 奴らを出し抜き、我の元までたどり着ける可能性が如何程であるかを。
 まして、その行動を力無き≪白眼の民≫が果たす確率が、本来存在するか否かを!」

『世界』は掌に握っていた紅のプレートを再びYに見せる。
先ほどまで黒く染まっていたそれが、中央に針の様な一点しか紅を残していないのは変わらない。
しかし、その全様は大きく変化していた。半分は漆黒。そして、もう半分は――――純白に。
19名無しになりきれ:2009/07/17(金) 17:43:14 0
「プレートとは『白眼の民』に適合する物だ。それ故、貴様に反応し、
 今この様な姿になっている。この様な『物語』じみた、本来有り得ない筈の事が
 何故か起きてしまっている。
 それは一体何故か――――簡単だ。『創造主』が選択したからだ!」

「全ての世界は、『創造主』の干渉を受け、奴らにとって都合の良い方向へ進まされる。
 我はそれが不愉快だ。この我の所有物たる世界を、観客気取りの存在に弄り回され、
 飽けば葬り去られる。我は、そんな事を認めん。
 ――――故に、我はこの様な手垢だらけの世界を『黒の歴史』に堕とし、
 我が新たな『世界』となろうと決めたのだ」

「これより我は貴様を殺し、『世界』を解き放つという目的を果たす。
 その為ならば、全ての愚民が消費されようと関係が無い」

そうして、『世界』は両手を広げた。まるでオーケストラの指揮でも執るように。

「――――さあ、覚悟はいいか『世界の選択』よ。この『世界』の究極を見せてやろう」


 ―  『創世眼』、発動   ―


次の瞬間、『世界』の背後の空間がひび割れ、黒い光を吐き出した。
そして、あふれ出す黒い光は即座に形を変え、七振りの剣となった。
それぞれが邪悪で禍々しい気配を放つその剣。その剣をかつての人間はこう呼んだという。

即ち、【大罪の魔剣】と。
『世界』はその究極の魔剣を一本手に取り――――Yへと投擲した。
凄まじい速度で放たれたソレは、まるで一個の弾丸。
直撃すれば、魂ごと消失する破壊が与えられる事だろう。
20名無しになりきれ:2009/07/17(金) 18:38:05 0
「ふむ、カノッサの守護天使とは、また懐かしい名だね。私が名前を知っているのは
 激情のアルベルト君とセルフィム君、他数名程度だが……む」

『――――――結城流死闘術 朧手』

リーの放った牽制の飛び蹴りを回避した後、更に放たれた紅蓮の三撃。
各々が必殺の威力であろうそれを迎撃したのは、『正義』の放った拳。
速度が現実や次元を超過し、文字通り『全く同時に』放たれた三発の拳だった。

だがしかし、能力により超強化されたリーの攻撃は、武闘の極みたるその拳の
更に一手上を行った。

『 闇紫灼獄風 』炎を纏ったその瘴気は――――『正義』を飲み込み、蹂躙し、壁に叩き付けた。


リーの攻撃から十数秒後。
空間をすら焼くその一撃は、未だに炎を絶やす事無く吐き出している。
生命を殺すその炎、ここに決着は付いた――――かに見えた。

「……やれやれ。殺害を願っている側としては文句をいうのも憚られるが、
 出来れば私のカッコいい私の顔を吹き飛ばすのではなく心臓辺りを吹き飛ばして
 貰いたいものだね」

燃え盛る炎の瘴気。その死地から、一つの影が立ち上がり、ゆっくりと前に歩き出した。
それは、執事服に身を包み、所々に火傷を負いながらも――――五体満足な『正義』の姿。

「ベイル君といったね。うむ。素晴らしい攻撃だった。早く硬く重く熱い。
 耐熱性の筈の私の服が台無しだ」

あくまでゆったりとリーへ歩みを進めながら、相変わらずの無表情で『正義』は語る。

「この私が認めてあげよう。ベイル君。君は強い――――そして、それだけだ」

『 結城流死闘術守ノ型――――逢魔刻 』

言葉の直後、リーには『正義』の姿が消えた様に見えたかもしれない。
だが、実際には『世界』は消えてなどいない。
気配を殺し、相手の『死角』に自分を入り込ませる特殊な歩法技法。
それによって、己の存在を認識する事を出来なくしたのだ。

「ベイル君。君は私が私を殺してくれと言った理由を把握しているかね?
 私は――――『私がこのまま生かされいれば、より多くの人間を殺す事になる』
 からこそ、君に私の殺害を頼んだのだよ?」

声は聞こえど姿は見えず。
そしてその声の出所すら解らせない

「無論、この様な事を人に頼むのは、正義の味方とは言いがたい。
 だがね。これを君に頼まねば、無意味に多くの人が死ぬ事になる。
 故に私は、君に罪を犯させる事で多くの人が助かるのならば――――ソレをする事を躊躇わない。
 そして、それを実行出来ないというのならば、君はただの悪だ。それも薄っぺらい子悪党だね」

「その程度の意思無き『悪』では、堕ちた正義の味方にすら届かないと知るがいい」

直後、リーの真正面の位置から『正義』の掌底が放たれた。
到達点はリーの鳩尾、人体における急所の一つ。
気を練り込み、発痙とかした高速の一撃は、直撃すれば並みの人間の命ならば
易々と奪えてしまうというレベルの一撃だ。
21名無しになりきれ:2009/07/19(日) 15:41:48 0
「―――妹とか、いるかな」

(修道女は、不意に、思い出す。【戦車】の鎧を外した時のヨシノの“反応”(リアクション)を。
 目の前の男の洞察力は既に確認済み。きっとこの発言も明確な根拠の上に出された推察なのだろう―――だが!
 それでも修道女は!目の前の学生がッ!【ロリコン】である可能性を捨てきることができないッ!
 それは言うなれば“気配”!長年培った現場主義の勘がッ!目の前の男の“本質”を伝えているっ!)

はいはーい、根拠も無く妙な推論を大真面目に語るのはやめようねー、やーめーよーうーねー。

(ヨシノの発言があんまりだったので、とりあえず首をホールドしたまま首筋の頸動脈ハズした辺りからナイフで薄皮を数枚削った。刃を外に向けて。
 掃除してから三週間以上経った夏場の三角コーナーを見るような目でヨシノを見つつ、目線でステラと会話する。
 依頼料なんぞ貰ってもいないが、アスラは人として、ステラの首から下がる“その人”とヨシノを会わせないようにしようと心に決めた)


…………【世界】…?へえ…そいつがアルカナのリーダー格って訳?
それじゃ組織っつーより集団って感じね…邪気眼を植え付けられた?そりゃご愁傷さん。

《居場所》……ねえ。ま、アンタがそう思うんだったらいいけどさ。
あんまり仲間意識持っちゃうと望まぬ所で痛い目見るかもよ?

そうそう、そーいう情報を待ってたのよ私は!
ヨコシマキメの胃袋……どんなお宝が眠ってるんだか、考えただけで涎が垂れるわね!

…っと、分岐点?地図は…ちぇっ、範囲外に来たか…。
でもまあ、こーいう時にコイツがいるわけで…ほいヨシノ、頼んだよ。

「『倒錯眼』発動――『白杖』の『誘導』を『分かれ道』へ――…… 」

…よし、こっちか。
にしても案外たいしたこと無いねえ、この遺跡。こりゃもーちょいでお宝に…つわっ!ステラ後ろ後ろ!!

(剣虎の爪が、ステラの横腹にたたきつけられる。咄嗟に懐のコルトで二、三発を闇に向けて放つ。
 弾がはじかれる音が数回響き、やがて闇から目の前に無数の異形の化け物が姿を現した)

……………前言撤回させてもらうわよちくしょう!
22名無しになりきれ:2009/07/19(日) 15:44:02 0
(コルトの弾が通用しないことで武器を変える。背中から炎の魔剣を取り出し、なぎ払うように一振り。辺り一帯に炎を撒いた)

手榴弾でもバラ撒くか?…いや、室内だ…ヘタに撒けばこっちがマズいか…
かといって一匹一匹片づけてたら埒があかないのは当然…ええい、誰だこんなルート選んだ奴!

(剣虎の群れと今にも死合わんとしたその瞬間、修道女は、否、ここにいる全ての者は、ヨコシマキメ最下層から響き渡る一人の民の【咆吼】を聞いた)


「う ぉ ぉ お お お お お お お お あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ ぁ あ あ あ ぁ ぁ ッ ッ ッ ! ! ! ! ! 」


――――ッッッッ!

(何だ今の…声?能力者?何故?下から?最下層…まさか【世界】ってヤツ?
 否、これはそんなヤツの声じゃない…この声には何の能力も無い。これは…ただの………本当にただの絶叫!?
 だったら考えられるのは―――――)

下で【世界】と対峙する誰かがいる。そいつの勝機は絶望的そして―――【世界】は、倒さなければならない《絶対悪》である。
要するに【世界】でない世界を救いたきゃ最下層の“俺”を助けに来い――てこと?

(思考が、声に漏れる。下からの咆吼で怯みをみせた剣虎に斬り掛かりつつ)

どーするよお二方!胃袋の「メインディッシュ」の前に最下層に「前菜」があるらしいけど!?
23名無しになりきれ:2009/07/20(月) 23:30:37 0
戦場に休息は存在するのであろうか?

真に緊迫した状況であれば「気が緩む」ということはあり得ない。
達人同士の戦いは時に能動的な動きを伴わず、インターバルとは相互牽制タイムを指す。


そんな中、疲労困憊の漆黒の執事は、既に戦闘続行がためらわれる状態であった。

(シェイド氏の秘蔵の座学を聞かせていただくためにも、しばしの回復時間を要するようですね。手始めに、手薄になった大学の医務室あたりを狙って…)

『rrrrr』

平和的でないプランを組み立てていると、懐の携帯用の電話が鳴った。ディスプレイには彼の雇用主の名が表示されている。

「(こんな忙しい時に……)私です。一体何のご用でしょうか?」

『せっかく『あなたの』お嬢様がわざわざねぎらいの言葉をプレゼントしてあげようって言うのにずいぶん冷たいのね。
まあいいわ。ていうか、もうそんなにボロボロなのかしら?『おつかい』もできないような執事はどうなるか、わかってるよね。』

(くっ、やはりどこかから視られているようですね……)
「もちろんです、お嬢様。必ずや目的を果たして見せましょう。」

『そうそう。プライオリティは悪意の者にプレートを渡さないこと、そしてヨコシマキメに今いるっぽい『世界の破壊者』を仕留めること。どう、見つけられそうかしら?』

(おそらく先の戦闘中に感じた二つの大きな邪気の衝撃が彼らのものなのでしょうね。)
「ええ。どうやら足がかりは確保できたようです。それではこれから回復をして…」

『そのことなら心配いらないよ♪』

言うや否や、リクスの手元に一つの瓶が届いた。

『高度に発達した科学は魔法と区別がつかない、だったかしら?
モンスターすらポケットサイズに縮小したりネットワークを介して遠くに送れるくらいなんだから、これくらい訳ないのよね』

それはフィクションの話だろうよ、と突っ込みを入れつつもリクスは瓶を手に取る。
そこには『せ い な る は い』と書かれていた。

『どんなキズでもたちどころに治るよ!あたしが折角出してあげたんだし、もちろん大事に使ってくれるよね』

(!!『聖なる』灰などというものを摂取すれば邪気眼と反応して副作用があるのは必定、しかし執事には、主の期待に応える義務があるのです!!)

何かを得るためには同等の対価を要するのがこの世の真理である。リクスはたった数分の耐え難い痛みで、全快という果実を手に入れた。

(尤もお嬢様は、対価を払わず手に入れられるようですけどね。それにしても、執事服まで直っているとは、全くお嬢様は何者なのでしょう)

「何にしても、まずは調律機関の方々との合流が先決でしょう。」
(事態は急を要しているようですが、先程の『<ウォールオブバベル>』レベルの術式を見せられては、同行以外の選択肢はひどく魅力が失われて見えます。
特に私の少ない手数では、この先多くの使い手と遭遇するうちに情報を共有されてしまう惧れが大きいですからね。)

そう言いつつもリクスは巨大な邪気の源泉の方に歩きだす。目的地は、おそらく皆同じなのであろう。
24名無しになりきれ:2009/07/22(水) 00:16:09 0
宙を行く。
六機の脚部の足裏にそれぞれ搭載されたマジカルスラスターは魔力の陽炎を吐き出し、1tを越えるライドムーバーの
巨大質量を用意に空へと運ぶ。蟹の目にあたる部分に据え付けられた二つのメインカメラが届ける望像は流れる大気と森の陰影。
情報が絶えず運ばれるコックピットで操縦桿を握るのは、狂喜にも似た表情の小柄な軍人である。

「ひゃァァーーーはァァーーーーーーーー!!テンション上がってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ムライは日本に生まれ日本に育ち、陸上自衛隊の機甲科隊員として戦車の操縦手を担っていた。
しかしその類稀なる操縦へのセンスとエキセントリックなまでの性向は隊という集団の中で災いし、規律違反や単独行動の目立った彼は
クビになる一歩手前にまで立場を崩落させていた。この国の就労基準でそこまでなるのだから、相当なものである。

『たのしい?たのしい?うれしょんしちゃう?』  『下品』

左右のモニターが燐光と共に音声を放つ。レフティの懸念は杞憂であった。長時間の作戦を考慮して設計されたパイロットスーツには、

「既にオムツが内蔵されてんだぜぇーーーー!!おいおいお年寄りにも優しい親切設計だな!?」

学習型AIである彼女たちの本体は『シザーズ』の内部サーバーにインストールされたプログラム集合体であり、
戦闘経験やパイロットとの会話等から自己的に学習し新たな知性を身につけるというもの。魔力という奇跡のエネルギーがあってこそ
実現する技術である。"左右"だけでなく、ライドムーバーには魔力や術式を応用した技術が随所に盛り込まれていた。

「さぁて、とりあえずどこに喧嘩売りに行くよ?レイジンさん達のとこに助太刀すんのも悪くないけど、あの執事がいるからなぁ!」

『おーばーきる?かじょうせいあつ?』   『適材適所。我々、他、適任有』

「そうさな!大隊と能力者で囲んでフルボッコにしてる中にライドムーバーで降りても大して暴れらんねぇだろうしなぁ!」

無能力者のムライでもあの執事が唯並ならぬ戦闘能力を有していることは感じ取れた。レイジンはもっと明確に把握していたようだが、
ムライをこちらに行かせたのも執事の実力を見込んでのことだろう。レイジンがそう判断した以上、ムライはそこに疑問を抱かない。

「とりあえず他に大学まで出てきてるアルカナが居ないか索敵ついでに虱潰し――――おわっ!!?なんだ!」

ムライの言葉が途切れる。遮るような衝撃が『シザーズ』全体を揺らし、奇襲に遭った事実だけを運んでくれる。
すぐさまコンソールに指を走らせ、機体制御プログラムと俯瞰用射出カメラを起動する。

『わーにんぐ!えまーじぇんしー!てきしゅうてきしゅう!』   『狙撃。方向真下。損傷軽微。復旧即可。村井大丈夫?』

「あぁ、酷く揺れたが大丈夫だぜ。それより敵か、地上から撃ってきてやがるな……下りるぞ相棒!
 レフティは武装の構築、ライティは機体制御と俯瞰情報の処理!いくぜ……!!」

『あいさー!』               『了解』

ハッチの傍に設けられた小型の射出機が開き、中から小型の球体が飛び出した。球体は機械で構成され、その中心部を占めるレンズが
青空を反射して鈍く光っていた。物理法則を無視した浮遊術式で宙を漂い、レンズのピントを自身の出てきた蟹へと合わせる。
技術班の開発した、機体の状況を客観的に捉えるための俯瞰カメラである。射出されたそれは俯瞰から見た機体をリアルタイムで送像する。

「脚の一本が動作不良を起こしてる……なんじゃこりゃ、巻きついてんのは黒い――鎖か?」

地上の狙撃者が放った鏃は脚部装甲を少しへこませただけだったが、追随する鎖までは無効化できない。
六本の脚の一つに絡みついた鎖は、今や地引網かトローリング船もかくやといった膂力で下方へと牽引する。対するムライと『シザーズ』は、

「上等だオラァァァァァ!!!」

敢えて逆らわず、機体を下方へ向けてスラスターを加速させた。結果生まれるのは流星の如く降ってくる巨大な鋼の塊。
レフティによって構築された銃口から鉛の雨を吐き出しながら、鋼の蟹は地上の襲撃者へ向かって地獄のメテオドライブを敢行した。
25名無しになりきれ:2009/07/22(水) 23:10:02 0
【目の前でステラが吹っ飛んだ。彼女の居た空間に代わりとして存在する爪は、異形の罠が待ち構えていたことを如実に示している】

んなっ、ステラ!?何が起こった?あれは獣、それも幻獣クラス……なんでこんなとこに?

【理屈が疑問を発した刹那、天啓にも似た発想が脳に満ちる。フラッシュバックする記憶。異形の爪。散っていく仲間達。
 届かなかった手。咀嚼される人体。吐瀉。鉄の匂い。水音。血の色。赤。赤。赤赤赤赤あかあか赤赤赤赤赤赤アカアカアカ】

――……まさか、まさかこの道はッ!!

(知っているぞ……俺は『この獣達を知っている』ッ!ヨコシマキメの最後の罠。怪物の消化経路。かつて夢が途絶えた場所ッ!!)

【震えが来る。膝はがくがくと揺れ、歯の根が合わずに何度も音を鳴らす。忌々しい記憶の奔流があふれ出る。
 殺意として。戦意として。闘志として。震えは足を止めず、故にそれは武者ぶるいとなった】

待っていた。

                   俺  は  お  前  等   を  待  っ  て  い  た  ぞ  !   !   ! 


【加速する。両足の弾性を付与する術式『護謨疾走』を発動し弾丸の初速を以って剣虎の群れへと突入する】

覚えてるか?そのちっぽけな獣の脳味噌で。

憶えてるか?その穢れに満ちた爪の感触で。

識っているか?その死臭に塗れた牙の味を。

お前等は。

【髪より薄く鉄より硬い刃。それが剣虎の爪であり、主たる武装である。無数の群中にあってそれは最早林立した剣の森】

かつてここでお前等が囲み、その餌にした旅団があった。

規模はそんなに大きくない。二十にも満たない小さな集団だった。

幼い俺と同じくらいの子供も何人かいたんだ。

【そんな致死の林中を、ヨシノは駆ける。刃の隙間を縫うこともせず、ひたすら踏み越え砕くことで道を開いていく】

全員喰われた。

お前等に、その穢れた爪で、牙で、脚で。

蹂躙され陵辱され嘲弄され襲撃され加虐され冒涜され痛撃され侵犯され追討され咀嚼され最期に嚥下されてッ!!!

【遺跡の通路、剣虎達のひしめき合うそこを刹那の時間で突き抜ける。ヨシノの姿が向こう岸に見えた瞬間、】

俺以外にッ!生きてる奴はもういないッ!!
いいか、よく聞け獣共。お前等が命を繋ぐその糧は、俺の仲間の血肉だ。


返してもらうぞ。

【ヨシノが駆け抜けていった道、その周囲にひしめいていた剣虎達が一斉に血と脳漿を撒き散らしながら倒れていった】
26名無しになりきれ:2009/07/22(水) 23:57:07 0
【血の海に立つ。見れば一様に斃れた剣虎達は頭部や頚部や胸部を砕かれ、脳漿や血液や髄液を噴出している。
 破壊された箇所はどれもが、生物の構造的に脆い場所、つまりは『急所』と呼ばれる部位だった】

何が起こった、って顔してるな獣共。教えてやるよ『倒錯眼』の真骨頂――!!

【そしてまたヨシノは奔る。疾駆するその手には白く光る一本の棒。血糊を受けたにも関わらず極彩色を纏うのは『白杖』】

『白杖』でお前等の『急所』に導いた……『護謨疾走』の速度で接近し、定めた範囲に入った敵の急所を半自動で捉え――

【――邪気と魔力で強化を施した杖の一撃を叩き込む。魔剣や銃弾に比べれば軽い打撃だが、
  脆い箇所へ一点集中すれば骨や爪など容易く砕け散る。本来生物に用いる技ではないが、】

ドライヴマニピュレイト
 『弾弓閃撃』……獣相手なら申し分はないだろう。殲滅してやるよ、ケダモノ。
ヨコシマキメに寄生してぬくぬく生きるだけの、生産性の欠片もない、ステロタイプもいいとこな――雑魚が。

【言うと同時にやはり駆け抜けた分だけ斃れた獣が轍となる。立ち込める血と脳漿の匂いにむせ返りそうになる】

【だが】

俺はお前等を赦さない。
生物にとって最悪の事態って何だかわかるか?種族そのものが滅亡することさ。
俺はそれを味わった。だからお前等を赦さない。種の罪は種の償いによって初めて還る。

だから、

【肩で息をする。もともと戦闘向きの体ではないが、能力を並列発動し瞬速の世界を駆ければ体力は削がれていく。
 それでもヨシノは闘いに身を投じる。よたついた彼へと飛び掛った剣虎を一撃の下に叩き潰し、叫ぶ】

――だから。

お前等を。

根絶やしにしてやるよ腐れ遺伝子共ォォォ――――――!!!

【犇めく剣虎の数に変わりはない。斃しても斃しても湯水のように敵が沸いて出る。魔剣を振るうアスラも、光を纏うステラも、
 その顔には疲弊の表情が浮き始めている。そして彼等は聴いた。地の底から這い上がるようにして響く何者かの雄たけびを】

「どーするよお二方!胃袋の「メインディッシュ」の前に最下層に「前菜」があるらしいけど!?」

【アスラが黒髪を振り乱しながら叫ぶ。それは現状の打破を前提とした誘い。故にヨシノの答えは決まっていた】

オーケー。こんな状況じゃラチが開かない下にも向かえない。本当はこんなこと言いたくはないんだが……死亡フラグだし。
でも言うぞ。選択肢がないのなら逡巡は等しく時間の無駄に他ならない。だから言うぞ。よく聞け姉さん!


――ここは俺に任せて先に行け。

【最下層へ続くであろう道がある。そこだけ剣虎が寄り付いていないのは、放たれる濃厚な邪気に獣の本能が畏怖しているからだろう。
 直感よりも明確で、推測よりも感覚的な答えがそこにはあった。だからヨシノは道をつくる。修道女が先へ進めるよう、獣のスクラムを突破する】

さあ行け、これは俺の戦いだ!殲滅するために!"これから"を掴むために!未来への露払いをしよう!

【極彩色の衝撃が拡散すると同時に、先へと続く道が開いた】
27名無しになりきれ:2009/07/25(土) 22:20:25 0
<世界基督教大学・屋上>

(白いスーツを着たホスト風の男がリクスとシェイドの戦闘を観察していた)

へー、なるほど。まさかあのシェイドとかいう男がやられるなんてね。
『星』、『吊られた男』、『教皇』の三人を苦も無く撃破したって言うのにね。
まあいいや。これでそこの彼が「あの忌々しい女」の手駒だっていうことがわかったんだし。

(指を鳴らす。足元にダイアモンドの階段が生まれる)

さて、オレ様は彼を処分しなきゃいけなくなったわけだ。
まあ、しょうがないか。このセカイは「大いなる意志」が支配してるんだからね。
無関係なあの女に転がされるのは不愉快だし、なによりオレ様、御鏡皇子(みかがみのみこ)はあのお方の片腕なんだ。黙っちゃいられないさ。

(一歩一歩階段を下りて行く。その先には、リクスが入ろうとするヨコシマキメの入口)

キミ、あの女に送り込まれたエージェントだよね?悪いんだけどここには入らないでもらえるかな。
今から「世界の在り方をかけた戦い」をするんだよ。

(もっとも、それすらも「大いなる意志」の為せる業なのかもしれないけどね)

だから・・・・・・あの女には手出ししてもらうと困るんだ。
28名無しになりきれ:2009/07/26(日) 02:01:01 0
空が鳴動する。
『吊られた男』とマリーは上を見た。迎え撃つために。震える空気は巨大質量の降下によって押し出されたものであり、吹き付けるような
風が二人の頬を叩く。マリーの高解像度スコープアイは降ってくる鋼蟹の脚部にスラスターの光芒を視認する。すなわち、

「あの蟹、こちらに向かってさらに推進力を投じていますわ!数秒ともたずに地面へ激突すると算出できます」

「なるほど僕らも巻き添えにするつもりだね?避けるためにはこっちが労力使って彼を安全に降ろしてやらなきゃいけないわけだ。
 攻めと守りを同時にこなせる寸法か、なかなかやるね"あれ"の中の人も。ここは僕の出番だね?」

判断は一瞬である。『吊られた男』は自身の邪気眼を発動した。邪気を撚り合わせて構成された『あや吊り糸』を指先から伸ばし、
アンカーの鎖へと接続する。内包する概念は支配、生み出される動きは自在。

「とりあえず適当なとこに堕ちてもらおうか――鎖の指揮権もらうよマリー?」

マリーの頷きを端目に『吊られた男』は鎖を支配する。漆黒の魔力鎖は牽引によってピンと張られていたが、それが不自然に撓み軋み
曲がっていく。張力を保ちながら曲げるという暴挙染みた挙動を以ってして、降ってくる蟹の軌道が遠くへとズラされていく。

『吊られた男』の『傀儡眼』は糸で繋いだ万物を支配し操る、遠隔型支配系に属する邪気眼能力。
同じく支配系の『太陽』やシェイドのように自ら支配物を生み出すことは出来ず糸を繋ぐリスクを負うものの、故に操る対象に制限がない。
生物や魔力生成物にも作用し、白虎やマリーを御していた支配は今、鎖へと干渉している。

「!!――撃ってきます」

マリーの眼が吐き出される銃弾を捉えた。蟹から放出される銃弾は機銃のものであり、つまりは

「通常武装のようですわね。この程度なら、」

左腕の<ギミック>が展開する。パイルバンカーの過反動によって吹っ飛んだ左腕は、技術開発局の有志によって
今や飛躍的なグレードアップが施されている。既存の杭打ち機に加え、左だけの特殊パーツとして物理バリアの展開機構が搭載されている。
使う。

「雨ならば屋根で防ぎます――たとえそれが鉛の雨であっても。【ギミック:ルーフシールド】起動、局所展開」

左腕が唸り、魔力が凝縮する。生み出されるのは半透明の魔力盾。ばら撒かれる機銃弾はことごとく盾の内部に鈍い音をたてて埋まり、沈黙した。
『吊られた男』がひゅう、と口笛で称賛するのを聴覚素子に捉えながら、離れた位置に加速の速さで堕ちる寸前の蟹へと眼を向ける。

「このまま放っといても墜落するでしょうけど、」

「――ダメ押しで撃っとこうか。ツメの甘さはギリギリまで削っておきたいね?」

『吊られた男』は頷くと、『あや吊り糸』を展開する。空中に渦を巻くようにくるくると配置し、渦中心部を頂点とした円錐の形をつくる。
先端を堕ちかけのライドムーバーへと向け、円錐の円の部分――底部にマリーが右手を翳す。
練り上げるのは魔力の奔流。生み出すのは漆黒の鏃。

                         ライフリングリボルヴ
【――生成系及び干渉系攻性術式<廻転する刹那の裂破>――射出します】

糸によって形作られた円錐の中で、打ち出された楔が強烈な回転と、魔力による威力強化を上乗せされていく。
それは廻るほどに強く絡みつき、結果内在魔力の消費を抑えつつ乗算で威力、貫通力、精度のどれもを底上げすることを可能とする。
燃費の悪さ――シェイド戦で思い知らされた二人の課題点を克服するために編み出した術式である。

射出する。

空気摩擦で燃え上がる程の回転を得た楔は、抵抗が無いかのような美しい弾道を描きながらまっすぐと飛翔した。
29名無しになりきれ:2009/07/27(月) 00:27:09 0
かち上げられた空中でステラは一回転し、壁につけた脚を屈めることで衝撃を緩和する。
着地したときには既にアスラとヨシノは散開しており個々の戦闘と開始していた。

(体は動く……防御術式が思った以上に効いたみたいね。これなら!)

申し分はない。再び振り上げられた爪を剣虎の体ごと収束光条で細切れにしながら彼女は駆ける。
ふと、胸元で揺れる緑玉の遺眼が震えたような感覚を得て、ステラは苦笑した。

(大丈夫。――いっしょに行こう)

眼球とほぼ同じ径をもつこの宝石の中には二人分の意志が込められている。彼女の妹『星』と、彼女に残した『悪魔』。
ならば戦闘という場にして振動するこれは『悪魔』の武者震いだろうか。ステラは握った拳をゆっくりと肩の後ろへ引いていく。

「……戦おう、『悪魔』。技を借りるよ――」

『暁光眼』を発動し、支配光は過去を遡る。遺眼を媒体にして、呼び出すのは『悪魔』の痕跡。
光速とは一瞬ではない。光にも進める限界があり、故に遥か宇宙の果てにある星の光は何年もかかって届くという。

つまりッ!光とは『過去』!それが一瞬前か一億年前かの差異!ステラの『暁光眼』はその差異を自在に操れる!
喚起されるのは在りし日の『悪魔』!彼が用いた闘技の極意を、今ここに『再現』するッ!

「邪気を闘気に光を業に。今の私じゃここまでしか再現できないけど……『悪魔』流――」

拳が青白く光り始める。練り上げられた闘気の奔流が収斂していき、唸るような鳴動を得る。
技の構成を、光が知っていた。技の威力を、体が知っていた。だから作れる。再現できる。


                        『 白 虎 掌 』!!!!!


『悪魔』印の闘気弾が、ステラの支配を経由してこの世に再び顕現した。
30名無しになりきれ:2009/07/27(月) 01:04:24 0
ステラが戦闘を開始した直後、剣虎で埋め尽くされた『畜生ヶ道』の端で爆発にも似たざわめきが起こった。
一瞬の閃きと同時に多数の剣虎達が血や脳漿を噴出して倒れていく。それは通常の攻撃で得られる成果ではなく、
なによりステラの驚きはそれを行った人物の意外性によるものだった。

「ヨシノ!?隠れてると思ったのに――それよりも、」

強い。圧倒的な強さである。不意打ちとはいえステラに一撃入れるほどの強靭さを持つ剣虎達に囲まれているにもかかわらず、
微塵も手を出させていない。一瞬で接近し、的確に急所を破壊し、迅速に駆け抜ける。それの繰り返しによって、一方的な攻勢を維持している。

(それなのになんであんなに悲しそうなの?悲しみと喜びと怒りが同時に存在してるような、まぜこぜの感情!)

心理を感じ取る術に長けたステラでさえ、ヨシノに内在する機微を明確に判断することができない。
ただ彼の独白によって事情を察するのみである。

(復活したヨコシマキメにいくつもの盗掘旅団が挑んでは喰われていった、って話はよく『月』から聞いてたけど……)

その生き残りだろうか。ヨコシマキメは自身の中に立ち入ったものをすべからく餌食にするが、いくつかの例外が存在する。
アルカナのように対吸収装備に身を固めた者、ヨコシマキメを飼いならす者、そして――

(『ヨコシマキメに気に入られた者』……素養や天恵や幸運を持ってて、将来的にもっと美味になって還ってくる期待がある人間)

つまりヨシノは最後なのだろう。仲間の命を引き換えに、ヨコシマキメに見初められた人間。
その人生と運命は、復讐という言葉で縛り付けられ雁字搦めにされているのだ。

「どーするよお二方!胃袋の「メインディッシュ」の前に最下層に「前菜」があるらしいけど!?」

「――ここは俺に任せて先に行け」

最深部からの咆哮が耳朶を打つ。アスラが魔剣を振るいながら提案する。ヨシノが白刃を駆けながら託す。
ならばステラは応えなければならないだろう。それがヨコシマキメの攻略であり、全員が求める回答である。

「……行こうシスター!最深部に!――――『世界』が世界を臨む場所へ!」

言いながらステラは多段展開したレーザーで道を塞ぐ剣虎の群れを焼き払った。
31名無しになりきれ:2009/07/30(木) 00:42:09 O
                   ブ ラ フ
(チッ……だよな、この程度の"はったり"じゃあ揺さぶれないよな……ッ)
(分かってる……分かってるが、少なくとも動機の確認にはなった……良しとするか)

(――――創造主、か。俺はタダの邪気学者だ、んなもん本気で信じてる訳じゃない)
(だが……もし、もしそういった存在がいるんだとしたら……訊ねてみたいことがある)


(アンタ……一体どうして、こんな展開を望んじまったんだよ……?)


……ククク……興味深い現象だ。漆黒と純白、表裏で二色に分かれたプレートか。
我も見るのは初めてだが……どうやら、黒一色に染め上げられる心配は当面無さそうだ。
もっとも……我が汝に葬られれば、白は黒に負け消え去ってしまうのだろうがね……クック。

(グウ、ア……精神が……意識が、磨り減っていくみたいだ……何だ、これ……)
(……そうか……ッ、せめぎ合ってるんだ……! プレートの、白と、黒が……ッ)
(殺されてもダメ……根負けしてもダメ……ハハッ、荷が重すぎるぜ……く……!)

(い…意識をしっから保て……ッ、気を抜くな……抜けば一瞬で、白は黒に侵蝕される……!!)


<磨耗する意識の中で、青年が辛くも視認したのは……黒き光と、7つの剣>
<青年は確かにそれを、史料で目にしたことがあった。その呼称を、『魔剣』>
<特にあれは【大罪の魔剣】という種類のはず……七つの大罪にちなんで、全部で7振り……>


……な……んで……? まさか……アンタの"眼"の力の、正体は……!!


32名無しになりきれ:2009/07/30(木) 01:01:51 O

<――――その瞬間、一つの【大罪の魔剣】が弾丸のような速度で中空を駈け抜け>
<禍々しき黒の光の尾を描きながら、鈍く煌めく剣先で青年を肉片に変えようと飛来する>

<白に侵蝕してくる黒を意識で闘いながら、青年は地面を乱暴に蹴って横へ転がる>
<同時に青年の顔面があった空間を黒き光芒となって通過する魔剣……死を免れた>

<その超人的な回避を可能にしたのは、『世界の選択』たる所以なのであろうか>
<ソレハドウカナ………無慈悲に疑問を投げかけるのは、血の滲む右肩を庇うコート>

<今まで回避不能と思われた数々の致命的一撃の回避を可能にした青年の運勢>
<それが『世界の選択』なら、この魔剣の一撃は、その選択に傷を負わせた……>

<この世界に生きる者にして、この世界を葬り去ることを決意した、強大なる意志の一撃>
<これぞまさに、こう謳われるに相応しい――――“『世界』の究極”、と>


ぐ……あぁあ……ッ!! くっそぉおぉぉお……そうか……その眼だったのか……ッ!!
こんなややこしい事態を……引き起こしてやがったのは……ッ、“創世眼”……ッッ!!


<青年は改めて悟る。「自分1人で、こんな滅茶苦茶なヤツに勝てる訳がない」と>
<そして改めて思う……勝機があるとするなら、それは「能力者」しかいないのだと>

<抉られた傷の痛みが青年の意識を刈り取り、侵蝕を休まぬ黒の手を恭しく誘う>
<しかし、また青年は立ち上がる……純白は漆黒を抑え、プレートの表裏の割合を等しく保ち続ける>

<波濤のように寄せる耐え難き痛みの中で、無力な青年はただひたすらに信じた>
<この果てしなく強大な“『世界』の究極”を止められる者達の、駆けつけてくる足音を>

<それまで、『世界の選択』は諦めない>


うおぉおおぉおおおおぉおおおおぉぉおおおおおおおおおおッッ!!!
殺されてたまるかッ、てめえなんかにッッ、殺されてたまるかぁぁぁあぁああッッ!!!
33名無しになりきれ:2009/07/30(木) 15:51:13 0
「絶叫」について自分なりの推論を叫ぶように二人に伝えた刹那、アスラの頬を「何か」が通った。
それは以前の敵【戦車】にも似た超高速の動き。最早一つの弾丸である「それ」は、通り過ぎる剣虎達の急所を《白い刃》で迅速に精密に突き通して行く。

アスラは「それ」の正体に気付く。
さらに「それ」が纏うあまりに黒々しい闘志を感じ取り、「それ」がどうして「そうなっているのか」にもおおよその見当を付けることができた。

(これがアイツの【生きる意味】か…ま、否定はしないけどさ)

ヨシノが剣虎を切り払い道をつくり、ステラが多段階レーザーで塵を焼く。
奥の階段から漂うのは、常人たるアスラですら感じられる程の《邪気》――――反吐が出る。

修道女は道へ一歩踏み込み、足を止めた。迷い、畏怖、そんなヨシノを愚弄するような理由ではない。
彼女は二度と帰れぬやもしれぬこの道を渡りきる前に、言うべき者に、言うべき言葉があった。

「ヨシノ!」

剣虎の群れの中、舞うように戦うエプロンドレスの青年へ――――

「【白い婦人の絹衣】はアンタに貸しとく!レンタル料踏み倒して死んだらタダじゃおかないからねっ!」

――――貸した物はキッチリ返せ、と。

最早逡巡するには理由がない。
修道女は血と肉の焼ける臭いの中、【世界】への一歩を踏み出した。
34名無しになりきれ:2009/07/30(木) 15:51:55 0
【修道女】と【太陽】が通路を走る。
先刻前から道は徐々に整備された者へと変わって行き、今やそれは立派な回廊と言えるものになっていた。

しばらく走ると、やがて一際大きな扉へたどり着く。
既に凡人ならば焼け付く程の邪気が流れているが、アスラはその邪気すらもドアから「漏れ出て」いるものであることに気付く。
この向こうにはきっとこれ以上の《邪気》が吹き溜まっているのだろう――――目眩がする。

二人の女はその扉の前で立ち止まり、誰に言われるでもなく改めて身を引き締めた。
【修道女】は自らの頬を軽く張る。

「覚悟はいい?私は――――できてる!」

その言葉が合図だった。
アスラは大扉を無遠慮に蹴り飛ばし、中に転がりこむように飛び込む。

中に居たのは数人の男。まずは部屋の中央で剣を持つ男―――邪気の濃さから、誰に教えられずとも理解る。【世界】だ。

そして【世界】と対峙する男。おそらくは先程の叫び声の主だろうか。
左腕に封印とおぼしき包帯を巻いてはいるが、雰囲気からして一般人にしか見えない。

少し離れて、ローブを纏う巨漢の男と、その死角を取り続ける執事服の男。
彼らはどちらが【世界】に与する者か分からない。状況的には執事服の方が有利にも見えるが。

何処へ行くかは身体が理解している。足がひとりでに動き、思考は後から付いてきた。

(倒すべきは【世界】…あの丸と執事のどっちが敵か分からない以上、まずはあの男を一度【世界】から引き離すっ!)

【世界】はやがて後方に黒い光を放つ空間を形成する。あれこそが【世界】の持つ《邪気眼》――――息が詰まる。
そこから【世界】は禍々しく邪気を放つ剣を一本、目にもとまらぬ早さで投げ抜いた。
青年は肩に傷を負い、その場に伏す。が、やがてゆっくりと起きあがり、叫ぶ。

「てめえなんかにッッ、殺されてたまるかぁぁぁあぁああッッ!!! 」

それは力無き者の咆吼――――

「全く――本当に――その通りよっ!」

【世界】と青年の対峙する地まで一息で詰め寄り、そのまま押し倒すように【世界】と青年を一度引き離す。

「上層まで響くアンタの「声」を聞いた……味方させてもらうわ!」

身を起こし、部屋に生きる全ての者を見回す。
懐から二丁拳銃を取り出し、胸元で十字に構えた。

「ただの人間こと盗掘屋アスラ!世界を賭けたこの戦い、人間として参加させてもらうよ!」

――――もう、後戻りは出来ない。そんな覚悟を刻み込むように。
35名無しになりきれ:2009/07/30(木) 23:41:24 0
今まさに"怪物の口腔"に入ろうとしたリクスは、不可解な悪寒を感じた。
背後に現出したダイヤの階段、降りて来るのは1人の男。

(ダイヤモンドの階段とは、ずいぶん贅沢な方ですね。お嬢様にプレゼントしたら、少しはご機嫌取りになりそうです。)
「ここに他に気配もない以上、あなたは私に用があるということですね?」

リクスはわかりきった問いかけを行う。答えがわかっていても、コミュニケーションからボロを出すことに一縷の望みをかけるのがリクスのやり方である。

『キミ、あの女に送り込まれたエージェントだよね?悪いんだけどここには入らないでもらえるかな。
今から「世界の在り方をかけた戦い」をするんだよ。』

(どうやら彼は私の正体をご存知でいらっしゃるようです。それどころか、セレネお嬢様を『あの女』呼ばわりするとは、一体どれ程の方なのでしょうか。
何にしても、こんなところでつぶす時間はありません。戦うにせよスルーするにせよ、早い決着が求められるというわけです。)
「それは困りますね。あいにく私はこちらで『お使い』をしなければならないのですが。」

急ぐ、と決めたリクスは速やかに意思表示を行う。もちろん、邪気を発するのも忘れない。

(彼も何か目的がおありなようですし、衝突は避けられませんね。
とりあえず、彼の能力は「炭素を操る能力」なのか「元素を操る能力」なのかはたまたどちらでもないのか、早々に見極めてしまいましょうか。)
「『アイスソード』」

リクスの周囲にまたもや氷剣が生み出される。

「柄が付いているのにも、きちんと理由があるのですよ。」

柄がつくことにより、氷剣は、さながら十字を模ることとなる。これもまた、邪気を持つ者へダメージを与える、『象徴の理論』である。

(まずはそれが本物のダイヤであるか、試させていただきましょう!)
36名無しになりきれ:2009/08/01(土) 02:12:15 0
『礎』という言葉は
              前に進むためにあるのだから
                                   振り返ることも顧みることも赦されなくて

                   ――――――――

「【白い婦人の絹衣】はアンタに貸しとく!レンタル料踏み倒して死んだらタダじゃおかないからねっ!」

言われてヨシノはふ、と息をつく。金取るのかよ。いやこれは姉さんなりの『死なないでコール』なのか、いずれにせよ死亡フラグだ。
苦笑代わりに右手を挙げ、疲労に侵された身体を揺らして次の動きを作る。
返答は踏み込みと打撃の音で作り、ヨシノは再び駆けた。

傷は負っていない。そもそも剣虎の爪をまともに受ければ八つ裂きは確定である。
だからこの闘いは『如何に攻撃を受けずに素早く立ち回るか』にかかっている。
即ち究極のヒットアンドアウェイ。冷静さを欠けば幾段ものプロセスをすっ飛ばして即死に繋がる、ギリギリの綱渡り。

(問題ない。頭は理屈で動いてる。視界も広いし気分もクリアだ)

速さと攻撃力を補えてもヨシノには打たれ強さと持久力が皆無である。
術式により高速化された視界の中では緩慢に動く剣虎の刃も、客観世界では高速で振り下ろされる致死の爪。

(だが、動きは読める!所詮は獣の知能、いくら速くたって直線でしかない――!!)

思考が結論を出した瞬間、目の前に刃が迫ってきた。横薙ぎの一撃。大振りの攻撃範囲は思ったより広く、回避が間に合わない。
止む無くヨシノは眼前に白杖を突き出し爪撃を受け止める。衝撃は破砕の音に混じり、僅かに軌道を逸らされた爪が髪を掠めて通り過ぎる。

(チッ、思ったより限界が早いな――)

白杖が折れている。グリップから先が、抉られたような傷痕を残してごっそり失われていた。
背後からは既に返す刃で振り上げられた爪が降ろされようとしている。断頭台にも似たそのモーションはヨシノの命を刈り取るのに
幾許の抵抗をも得ないだろう。攻撃圏から脱しようにも前門の虎後門にも虎の密集状態に逃げ場はない。

だが!

だがッ!

「奪らせるかァァァ――ッ!!」

だからこそ、ヨシノは迷わない。退路を絶ったのは正解だ。背水は覚悟を研ぎ澄ませ、選択肢がないなら迷う必要もない。
軸足に回転を加え、ヨシノは振り返る。
必殺の一撃を叩き込まんとしている剣虎のその鼻っ面に折れた白杖の先端を突きつけ、唱えた。

「――伸びろ!!」

白杖に施術された伸張術式は生きている。流し込まれた魔力に反応し一瞬で伸びる棒の先端は、然るべき場所に叩き込めば立派な攻撃だ。
刹那の時を持って白杖は抉られた分だけの長さを補うべく伸びる。白色の閃光となった杖は、剣虎の鼻っ柱を正確に捉えて突き刺さった。
37名無しになりきれ:2009/08/01(土) 04:26:23 0
ヨシノ=タカユキには『かつて』がある。

ヨコシマキメに散った調査旅団、トレジャーハンター達の一人。それが彼の前身だった。
十年程前の話である。

(団長……リフィル……ボルト……ゼブル、――――みんな)

当時のヨコシマキメは復活したばかりであり、難攻不落の"怪物の口腔"であることが周知ではなかった時代。
命に関わるような任務である場合は精鋭だけが赴くが、今回の探窟にそれは当てはまらないだろうという判断のもと、
非戦闘員である在りし日のヨシノもまた当時のヨコシマキメへと挑むことになった。

安全だったはずだ。異能関連の遺跡を専門に扱う旅団として、罠や魔獣に関する知識もノウハウもあった。
それらの災厄を撥ね退ける実力もあった。交渉に秀でた団長の下、優れた術式使いや戦闘系の能力者もいた。
『雷撃手ボルト』 『悪食のゼブル』 『北欧半裸女リフィル』 ――――それぞれが一騎当千として名高い手練達である。

故に、

全滅した理由はただ一つ。慢心だったのだ。

『畜生ヶ道』で突如剣虎の群れに襲撃され、為す術もなく無力な非戦闘員達から切り刻まれていった。
"食道"は『胃袋』まで続く一本道。旅団は最後の最後で、ツメを誤った。警戒を怠ったのだ。

ヨシノは武闘派達について回って進んでいたため最初の襲撃で犠牲にならずにすんだが、仲間が殺されて激昂した戦士達に
冷静な戦闘が出来るはずもなく、剣虎達の徹底された集団戦法によって削り殺されていった。
精鋭だけならば、こうはならなかっただろう。全滅する前に、術式使いの手によってヨシノは擬似的な『歪』へ落とされ、そして逃がされた。

足手まといになったという現実。仲間が誰も居なくなったという事実。
その二つに幼いヨシノは打ちのめされ、そしてヨコシマキメへの復讐と旅団の求めていた財宝『黒の教科書』の奪還を誓った。
その覚悟をもとからあった素養が合わさり、目的と手段が倒錯したとき『倒錯眼』を開眼。

(だから俺は求めたんだ……一人でなんでもこなせる能力を。なんでも知ってる知識を。何でも導ける頭脳を。
          ――道具さえあれば仲間がいなくても俺は、なんだって出来るし誰の代わりにだってなれる!)

すなわち過去は『いしずえ』なのだ。ヨシノがここに立つ理由。彼がここに"立てる"理由。ヨシノ=タカユキを構成する要素。

復讐。仲間。万能。汎用。孤独。知識。能力。器量。才覚。理屈。饒舌。技能。精度。地力。道理。言葉。過去。未来。

それら全てが、『かつて』を共にした仲間達から生まれるはずだった可能性の萌芽。
全てを背負うつもりだった。事実背負ってきたつもりだった。『これから』を紡ぐための確定視点。

守銭奴の修道女と出会い、黄色で埋め尽くされた少女と出会い、そしてまた、独りになった。

無限速度の鎧武者を斃し、一人の狂った武闘蒐集家と戦い、そして今、ここにいる。

ヨコシマキメに見初められた人間。それは『復讐』という名の灯に集まる羽虫のように、心の深く深くで未来を絡め取られている。

だからこれは、決別なのだ。たった一人の、戦いなのだ。

「よく聞けヨコシマキメ!!俺はお前を、この"道"を!叩き潰して次へ進む!この糞しみったれたしがらみと決別してやる!」

さあ、

「――――見えてるぞ未来。お前の"戒め"と俺の"導き"、どっちが強いか力比べといこう」

見据えた先に、隆起があった。ヨコシマキメの防衛機構。剣虎の殲滅に危機を感じ取った『道』が、その支配を強めたのだ。
盛り上がる小山のように存在するのは巨大な剣虎だった。大きさは通常の比ではない。通路の天井にまで届きそうな巨体は、
岩棚がハウリングを起こして振動する程の大音声で、吼えた。

巨大獣・大剣虎<ツヴァイハンダー・タイガー>
ヨコシマキメ最強の生物が、ヨシノの前に立ちはだかった。
38名無しになりきれ:2009/08/03(月) 03:14:43 0
降下の軌道を強制的にずらされた。突如起こった状況の変化をムライと『左右』はそう結論付けた。

「この鎖、張ったまま曲がってやがる。尋常な動きじゃねぇな……なんかの能力か!?」

『じゃきがん!いのう!あびりてぃ!』   『分析完了。支配系能力。操作術式。下手人 隣男』

ムライは密かに舌を巻く。普通ならば自分に向けて落下してくるライドムーバーを見れば、敵の行動は自ずと
撃墜するか退避を選ぶかのどちらかに限定される。そしてムライはそのどちらをも無効化する手段を持っていた。

(自分は動かず俺の攻撃だけ無力化するか……やるじゃねぇか、燃えてきたぜぇ!!)

地面へと激突する。
瞬間、六脚の屈伸と同時に魔力緩衝術式を発動。ショックアブソーバが唸り、熱に変換された衝撃エネルギーによって
蒸発した緩衝材が蒸気となって噴出する。足場に展開した術式は半実体の衝撃吸収障壁となって隕石となった鉄蟹を受け止める。

『ふわふわたーいむ』      『着地成功。損傷皆無。即座戦闘可能』

結果、音もなく地上への帰還は成功する。独特の粘り気が混じる蒸気の向こう、青年と少女の姿が見えた。
分析モニタに映るエネミーサイトの生命反応は一つ。にもかかわらず目視できる敵影は二つ。帰着し得る結論は一つ。

「あの女の方……ナマモノじゃねぇな。いい趣味してるじゃねぇの!」

  『ひくわー』           『術式反応。大規模攻性術式』

ライティの警告に注視すれば、敵の二人が新たな術式を組み終わったところだった。漆黒の楔が飛来する。
燃え上がるほどの尋常ならざる回転と、幾重にも折り重ねられた術式が弾き出す想定破壊力はライドムーバーの装甲限界をゆうに越えている。

(ノータイムでトドメ刺しに来たか!強いし速えな……避けきれねぇ――!!)

あと3秒もしないうちに着弾するだろう。そんな僅かな時間で1tを誇るライドムーバーを静止状態から安全圏へと運ぶのは
いかなる神業をもってしても不可能である。人が空を飛べないように、それは物理的な問題である。

両腕に武装されたフレキシブルアーム――ハサミ部分で受け止めるのはどうか。否、いかに強靭かつ超密度の蟹鋏といえども
あの規模の術式を受ければ一瞬で砕けひしゃげ貫通するだろう。ならば。

「こいつはヤベェ――レフティ!」

『てすためんと!』

判断は刹那で完了し、ムライは相棒に指示を飛ばす。
左のモニタが一瞬で文字に埋まり、<シザーズ>の主武装が解放される。フレキシブルアームに内蔵された『奥の手』が起動する。

『あびりてぃきゃんせらー!』       『起動!』

電子音の宣言は衝突音に飲まれて消える。ほぼ同時に、超回転の楔がハサミに激突した。

否。

接触と同時に、まず音が消えた。風を切り裂く楔の飛来音が、空気を震わす楔の回転音が、その一瞬を起点として静寂の世界の住人となった。
まったくの無音で、次に楔そのものが砕け散り、そして空中へと霧散した。巨大な質量が一瞬で掻き消えたことによって生まれた真空を埋める
音だけが、紙を打つように響き、そして宙から全てが消え去った。残ったのはハサミを掲げる鋼の蟹と、不意に戻ってきた風の音。

冗談のような破壊力を秘めた術式が、これまた冗談のように消えてなくなった。

アビリティキャンセラー。『世界政府』兵器部が極秘に開発した対能力者用異能無効化兵器である。
39名無しになりきれ:2009/08/03(月) 17:11:22 0
ときおり思いだしたように鳴動する遺跡の中を、半ば埋めるように進む集団がある。
黒で統一された装甲服を身に纏い、各自が思い思いの武器を装備した一団の先頭にはナナフシのような等身をした男。

レイジン=シェープスと実働班は遺跡を歩いていた。白衣の仇敵アリス=シェイドの部下『助手A』を探して大学を巡っていた彼らだが、
ふとした拍子に発見した隠し扉からヨコシマキメ遺跡の内部へと通じる道を見つけ出し、そして現在ここにいる。

「んー、虱潰しでも見つからない助手A氏を、転移性質を持つヨコシマキメに匿ッているのやも……そう推測してここまで来たんですがねェ」

溜息の代わりにひとりごち、レイジンはぐるりと眼を回した。もう半刻もの間進み続けているが、それらしき人影が見えるどころか
かれこれずっと一本道である。地図を持たない彼らには知る由もなかったが、ここは深層域近くの通路であり、既に先行者達が通った轍だった。

「"白衣野朗"がやたらに大学とヨコシマキメへの立ち入りを差し止めようとしてたんで、ようやくこれで奴を出し抜けると思ったんですが」

隊員達にも動揺が目立つ。無理もない。仲間の仇と勇んでここまで来たはいいが、目的もなくひたすらに歩かされているだけである。
戻るという選択肢もあるにはあったが、最早ここ以外に調べられる場所が残っているわけでもなく。

「ただ、これで世界基督教大学とヨコシマキメに密接な関係があるッてことは解りました。大学内にも無頼の能力者がいくらかいましたし、
 やはりこの大学、ただのミッション系学府というわけではなさそうですねェ……」

矛盾がある。ミッション系とはすなわち布教を目的とした施設、つまりは聖教関連の学院であるということ。
邪闇の住人である邪気眼使いやヨコシマキメにとっては正逆の立場、相対すべきもの。にもかかわらず遺跡の転移はここを選び、
ヨコシマキメゆかりの能力者や遺跡への隠し通路が多分に見られる。まるで『ヨコシマキメを迎え入れる為にあるように』。

(『世界基督教』――十字教系の聖式宗ですか。『大聖堂』の存在といいどうもキナ臭さ満天ですねェ)

ふと、『世界の選択』という言葉が脳裏をよぎる。異能関係者ならば誰でも知っている文言だ。

繋がる。
世界基督教――ヨコシマキメの転移『選択』――アルカナ――そのトップ『世界』――聖と邪の二律背反。

――もしかしたら。

シナプスが情報を連結し解答を導き出す。頭脳の深奥で経験が像を結ぼうとしたそのとき、レイジンと実働隊は音を聞いた。

剣戟。
震脚。
咆哮。

前方に開けた空間がある。大学広場並みの広さがあるはずのそこは今、ひしめく獣と血の赤で埋め尽くされていた。
絨毯のように毛皮を寄せ集める獣達の半分は血まみれになり動かない。死骸である。
積み重なるように斃れる骸の上に、二つの影があった。

小山のように巨大な影は獣。しかしその体躯は形こそ足元に転がる亡骸に似てはいるが、大きさが桁違いである。

そして、それと対峙するように屹立する影は人。まだ歳若い青年であるだろう彼はそれなりに長身であるものの、
相対に聳える巨獣に比べれば歴然と小さい。にも関わらず、男は怖じもせずに獣を見上げていた。

レイジンは見る。周りに散らばった小さな、それでも人間よりは大きな獣達が、一斉に青年へと飛び掛るのを。
実働隊は見る。極彩色と白色の閃光が一瞬のうちに瞬いて、光が引いた頃には全ての獣が地に伏し砕かれているのを。

強い。恐らくは能力者なのだろうが、集団を相手に傷一つ負わず立ち回っている。
しかし状況は依然青年の不利のようだ。獣は何処からか湧くように溢れ、その包囲網を厚く取り巻いていく。
巨大な獣は動かないが、しかし"あれ"が始動すれば取り巻きとは比べ物にならない戦闘能力を有しているだろう。

どちらに加勢すべきかは火を見るより明らかだ。実働隊は各々の武装を構え、青年に助太刀すべく進軍する。

「どこの誰かは存じませんが。我々はこの先に用がありまして。――よろしければ、道をつける手伝いをお願いしたいですねェ」

彼らは何よりも人類の見方である。状況がどうであれ、ここで見殺しにする手はない。
レイジン=シェープスと調律機関実働隊実働班は、己の存在理由をかけて問う。護るために戦おう、と。
40名無しになりきれ:2009/08/04(火) 19:48:52 0
「そうだ、我が眼の名は『創世眼』。世界に存在した物の全てを、
 我の所有物として再現することの出来る、創世の眼――――」

必中であった筈の魔剣の投擲が外れても、『世界』が揺らぐ事は無い。
それは、今己が前に立つ無力な存在こそが、生涯において最強の敵である事を知っている故。
故に『世界』は目の前の敵を、徹底的に、容赦なく、完全に殺すべく動く。

>「うおぉおおぉおおおおぉおおおおぉぉおおおおおおおおおおッッ!!!
殺されてたまるかッ、てめえなんかにッッ、殺されてたまるかぁぁぁあぁああッッ!!!」

『世界』はその左手に大罪の魔剣「憤怒」を掴むと、目の前の生を叫ぶ者に――――

「消え去るがいい、『世界の選択』よ!!」

――――轟音。そして土煙。
憤怒の魔剣は大地を抉り、先程までYがいた場所を抉り取った様に消滅させていた。
先の投擲が必中の一撃ならば、この斬撃は絶対の一撃。
Yの移動速度や反射能力を計算に入れた上で放たれた物だったのだから、
避けられる筈が無い――――だが。

Yは、絶対を受けて尚生きていた。
そして、その生存を与えたのは一人の修道女。彼女がYを世界から引き離し、
絶対の一撃を回避させたのだ。

>「ただの人間こと盗掘屋アスラ!世界を賭けたこの戦い、人間として参加させてもらうよ!」

「……愚民が。この我とYとの戦いに横槍を入れるさせるとは
 ――――命を以て償う覚悟は出来ているのだろうな」

修道女の姿を見た『世界』は、まるで不快なゴミでも見る様な視線を送った後、
更にその奥にいたもう一人の女に目を向ける。

「ほう。もう一匹いると思えば『太陽』か。『悪魔』を殺した事には気付いていたが、
 まさか、この我にまで歯向かうつもりか? 貴様と『月』には、片鱗とはいえ我の力を、
 見せてやった筈だが……よもや力の差すら解らない白痴ではあったとはな。失望したぞ」

禍々しい邪気を放ちながらそう言った後、『世界』は再び憤怒の魔剣を構える。
まるで、新たな参戦者など、敵としての数に含まれていないとでも言うかの様に。
41名無しになりきれ:2009/08/04(火) 22:14:56 0
焼け付くような瘴気の中を進む。
煤けた石畳を踏みしめ、精神の暗中を模索しながらステラは先行する修道服に続いた。

一度だけ振り返る。これ以上進めば足跡は邪気に閉ざされ残してきた女中服が見えなくなる。
そうなる前に、ステラは憂いを振り捨てる。

(任せよう。ヨシノが強いからとか、私が対集団戦闘に向かないからとか、彼の闘いだからとか、そんな理由じゃなく――)

『――ここは俺に任せて先へ行け』

(……任せろ、って言われた)

ヨシノがそう言ったのだ。
頑なに戦闘を避けていた彼が。戦場で逃げ回っていた彼が。縁の下に徹していた彼が。

背中を預けろと、そう言ったのだ!

ならば預けない道理はない。振り向いた視界の中で、白と赤と極彩色が舞い散った。
視線を前に戻す。最早後ろ髪に抵抗はなく、背を押すように身体を前方へと押し出してくれる。

溢れ出る邪気は風を孕んで彼女達の頬を叩くが、躊躇は既に切り捨ててある。導き出される結論は一つ。

突っ切って進むだけ。

帰結した。

立ち止まった先にあるのは巨大な鉄扉。邪気の根源にして『世界』の待つ座楼の深部。
最終決戦の場。

ステラは後ろ髪をアップにしていた髪留めを外す。アルカナ参入の際に装用を決めた飾身具。
『星』と揃いの、二人の間だけで通じる疎通術式の織り込まれた品。ステラが『太陽』たる証。

シンプルな意匠の縛めを束になった髪から抜き取ると、重力に逆らっていた毛先が解放され、
山吹色の流れるような長髪が肩へと垂れる。うなじを覆うように広がる金の線は空気を孕み、雫のような艶を放った。

「――行こう。『世界の選択』を証す為。ステラ=トワイライトとして参じるよ」

「覚悟はいい?私は――――できてる!」

頷きは待たれない。言葉と同時にアスラの蹴りが扉へと炸裂する。
42名無しになりきれ:2009/08/04(火) 22:30:53 0
ステラには未来がない。それは既に失われたものだ。
かつてヨコシマキメで起きた争いは遺跡の消失という形で幕を閉じた。

彼女と『星』は、消えたヨコシマキメと共に亡き者となった人間である。
43名無しになりきれ:2009/08/04(火) 23:22:41 0
>>42
途中送信です申し訳ない!!


ステラには未来がない。それは既に失われたものだ。

かつてヨコシマキメで起きた争いは遺跡の消失という形で幕を閉じた。
彼女と『星』は、消えたヨコシマキメと共に亡き者となった人間である。

『世界』の邪気眼『創世眼』によって再現されたヨコシマキメの、おまけで甦った姉妹。
その肉体と魂は生前のものとまったく変わらないが、言わば『世界』は彼女達の生みの親と同義であり、
故に彼を超えることはできないという証左でもあった。

「ほう。もう一匹いると思えば『太陽』か。『悪魔』を殺した事には気付いていたが、
 まさか、この我にまで歯向かうつもりか? 貴様と『月』には、片鱗とはいえ我の力を、
 見せてやった筈だが……よもや力の差すら解らない白痴ではあったとはな。失望したぞ」

知覚することすら気の遠くなる程の禍々しく膨大な邪気。『世界』の怒りはほんの稚気ほどですらなかった筈なのに、
煽りを受けたステラはその場で自分の頭蓋を光条で打ち抜きたい衝動に駆られた。

圧倒的な力の前に立たされた人間は、ときに酷く自己罰的になるという。
まるで親に叱られたくない子供が率先して自分を罰することで叱咤を避けようとするように。

疼くのだ。
両目に施術された群青色の瞳孔。人の手によって創られた意志なき邪気眼ですら、『畏怖』という感情を強制的に根付かされた。

状況はあまりに良くない。『世界』だけでもこの部屋に居る全員を皆殺しにできる力を秘めているというのに、
他にもアルカナが居る。小太りの男と戦っているのは『正義』。ステラとは関わりがなかったが、『世界』が常に傍においている程だ。

他にも数名ちらほらと知った顔が居る。その誰もが剥き出しの敵意を彼女達に向けていた。
特に親しい連中が悉く出払っているのは幸なのか不幸なのか、今のステラには判断がつかない。

だけど。

「そう、どうやったったってわたしは貴方に勝てない。『太陽』は『世界』を越えられない」

びりびりと指先が痺れるような感覚。放たれる威圧が衝撃となってステラを襲う。

「だけど……人間が自分より遥かに強大な敵と戦うときどうするか、わたしは知ってるよ」

拳に力を込める。白くなるほど握りこんだ手に重なるのは『星』。そして『悪魔』。

「――徒党を組んで皆で戦うの」

光が過去を喚起し、映像という形で再現されるのはポニーテールの少女と鉢巻姿で獰猛に笑う男。
 
                        ・ .・. ・ ・
「一人じゃないから。――こんな畏れは要らない」


二人の鏡像は威圧の波動とぶつかりせめぎ合い、そしてお互いを喰い合って相殺した。
余波はステラの背後へ抜け、山吹色の輝く髪を揺らしながら霧散していく。

アルカナにして世界の反逆者たる少女は強く笑うと、抗う為の光を展開した。
44名無しになりきれ:2009/08/05(水) 01:05:44 0
  (―――入った…!
   奴はどうした、死んだか…?まぁいい!それよりもあの親玉を!!)

《踵を返し『世界』へ向かわんとするリーを、やや演技過剰な気のする声が引き留める。》

………チッ…
流石だな、あの程度じゃなんともねぇか
とりあえず、自転車だかヌンチャク女だか知らねぇがそんな名前は記憶に無ぇな
何かと勘違いしてんじゃねぇか?
それと顔を狙ったのは悪かった、何だか知らねぇがその顔見てると無性に腹が立つんだよ
にしても……心臓か?つまらんな…

……………!!
  (消えただと!?邪気は………ック…感じない!気流も地面の震動も駄目か!
   奴の気配という気配を感じない…本当に消えたとでも言うのか…?
   いや!!声がする!何処だ!?これは…後ろ?正面?いや…四方八方から聞こえてきやがる…!!)

クソ、いきなり出てきて殺せと言い…出来なきゃ悪だと言い放つ…
一つ言わせろ…

《リーがボソボソと呟いた後、掌底が鳩尾に直撃する。》

―――皆まで言うなッ!!

《掌底の力は魔溜眼によって吸収、取り込んだ力で右腕の肥大化が急激に進行する。》
《更に眼で『正義』の服「が」動く為に必要なエネルギーを奪い取り、間接的に『正義』を拘束する。》

さぁ、捉えたぞ
折角だからあと二三言わ―――

《リーの言葉が途切れ、口から血を溢れさせる。》
《奪った力は眼の限界を超え、リーの心臓に最後の一拍を逐えさせた。》
45名無しになりきれ:2009/08/05(水) 01:07:03 0
《しかし身を包む炎、周囲の侵食、『正義』の拘束も継続している。数秒経たずして、リーが再び口を開く。》

言わせて…貰うぞ…!!
一つ!

《今のリーは魔溜眼の力によって成っている。》
《侵食したエネルギーで直接体を動かし、燃え崩れる肉を繋ぎ、過負荷に砕ける骨を固める。》

仮定で…話を進めんじゃねぇ…!
……切羽詰まって余裕がねぇのは解るがな…
生き急いできた結果がぁ…!そのザマなんじゃねぇのか!あぁ!?

《右腕に蓄積され続ける力は、腕を面影も残さない程に膨張し変形させても止まることはない。》

二つめだ!
食事に…大切なことを知ってるか…?
感謝と愛だ、貴様にゃ愛が足りねぇよ…
正義を成すには…愛が要る…
罪を憎んで人を…憎まず、修羅に…輪廻は断ち切れねぇ…!
独り善がりな愛無き『正義』じゃ…救った奴も救われねぇ…!!
人を罪から救ってみせろよ、正義の……味方ぁッ!!

《流れ続ける血は口から出ると同時に蒸発する。》
《歯を食いしばり、おぞましい肉塊へと変貌した右腕を望み通り『正義』の胸へ叩き込んで殴り飛ばす。》

だが認めてやるよ、貴様の、正義を愛するその心はな!
もう残骸とは言わん!正義の味方に拳を、正義を振りかざす理由をくれてやる!
俺は幾多の命を灰に変え、更にこの邪気眼は暴走している
このまま暴走し続ければこの遺跡だけでなく辺り一帯まで生物の住まない地獄と化すだろう…!


『正義』!!
貴様は、真餓鬼の手に掛かる最後の犠牲者だ!
そして俺は、貴様が葬る最後の悪だ!

さぁ来い『正義』!!全力でな…!


46名無しになりきれ:2009/08/08(土) 15:20:43 0

「――――結城流死闘術守ノ型『舞花』」

リーの攻撃を受けた直後、その衝撃が浸透するのとほぼ同時。
打撃という運動エネルギーが与えられ、服の拘束が解けた『正義』は、
そのまま、まるで舞う様に後ろに『跳んだ』。
舞花。『正義』の習得しているその防御技能は、与えられた衝撃に逆らわず、
そのエネルギーに身を任せる事で、強力な物理攻撃を散らし、ほぼ無力化してしまう
という鉄壁に近い位置にある防御術だ。だが――――

「……!?」

その技能をも超越して、リーの一撃は『正義』に到達した。
暴走によりもたらされた強大すぎる力の流れは、凄まじい衝撃となり、
『正義』の胸部から背を貫く。
吹き飛び、地に膝を突いた『正義』がふらつきながら立ち上がった時には、
執事服の胸部分は破れ、そこから見える肌が赤黒く変色しており、
口腔からは、肋骨が何本も折れたのだろう。一筋の血が流れているのが見える。
そして、その鉄面皮にほんの僅かに見える……期待の感情。

「ゴホッ…………ふ、む。意見の相違という奴だね。
 仮定であろうと、それが実現可能な可能性であるのならば、
 全速かつ死に物狂いで防ぐべきだと私は考えているのだよ」

そう言うと、『正義』は服についた土埃を払い、呼吸を整える。

「そして、多くを救う為には愛を忘れねばならない時がある。
 何せ――――正義の味方は、決して正義にはなれないのだからね。
 強大な悪をより強大な悪で捻じ伏せる。それこそが『正義の味方』の正体だ」

そう言うと、『正義』は体内の気を開放し、戦いの為の構えを取る。

「それから……リー君。先程の言葉を訂正しよう。
 私は君に感謝する。君は、小悪党などでは無い。己が理念を持つ、戦士だ。
 この世界に呼び出されて以来の私には、意味など無かったが……
 最後にもう一度だけ『正義の味方』を出来るのなら、私はこの世界に存在できて良かった」

そう言うと――――

「――――さあ、終わりを始めようリー君。これより君を救う者の名は、有栖川ミカド。
 結城財閥執事長にして――――『正義の味方』だ!」

そう言うと、『有栖川ミカド』は疾駆する。
この世界において、初めてかつての己として、正義の味方として。
その左手に纏うは白い闇。その全力を用いて、有栖川ミカは己が最強の一撃を放つ。

「結城流死闘術秘奥――――――『    白 道    』!!」

白道。その正体は、限界を何度も超えた、自殺的な修練の果てに辿り着く因果の操作。
攻撃という動作が求める要素、必中、必殺、完全迎撃――――即ち、
『勝利』という結果を内包した一撃だ。回避は不能。防御も不能。
その決定された勝利に打ち勝つ物があるとすれば、それは――――
47名無しになりきれ:2009/08/08(土) 23:25:19 O
<勇ましく吼えた青年の視界を…黒が凄まじい速さで埋め尽くしていく……。>
<それは精神論で脱することは決して出来ない……「物理法則」の名をした絶壁……。>

<秒速300m超の弾丸の速度で迫る【大罪の魔剣】は、鈍くさい人間を嘲笑うように…、>
<圧倒的速度で青年の退路を塞ぎ、封じ込める……行き止まりにして結末は死、デッドエンド……!>

<ノロマナオ前ハドウセ何ニモ出来ナイッ! 死ネッ、死ンジャエッ無能ナ人間メェエエェエェェッッ!!!>
う、……ぐぅうぅうううぅぅううぅぅう………くそッ、くそぉおおぉおぉおおおぉぉおおおぉおおぉッッ!!!




<――【大罪の魔剣】の鮮やかな切っ先が、またしても虚空を切り裂き地を喰らう…。>
<気付けば、青年は地面に伏せっていた…誰かが助けてくれた? この状況下で一体誰が……?>

<……分かっている。分かっていたが、信じることができなかった。待ち望んでいたはずなのに…。>
<リーは『正義』と闘っている…なら誰か……。…そんなの、決まっているじゃないか……!>

<庇うように覆い被さっていた誰かは、凛とした声で『世界』へ宣戦布告を叩きつけている。>
<青年が上体を起こすと、もう1人…! 今までずっと待ち望んでいた「能力者」が2人も!!>

<……この時既に、「能力者」、アスラとステラは、『世界』の強大な邪気と闘っていたのだが>
<無力な青年にはそのことを知る術は持っていなかった……だが、しかし>


<消耗し続ける意識と伴う痛みに抗いながら、青年は確かめるように立ち上がる。>
<本当に、ただの人間だ……邪気の片鱗さえ感じ取れない、悲しいほどにただの人間……。>

<『世界の選択』と詠われるにしては、あまりに力不足と言われざるを得ない。>
<無力な青年は、アスラ、ステラの2人の傍らに並ぶようにして立ち…語るように、喋り出す。>

48名無しになりきれ:2009/08/08(土) 23:47:20 O

創世眼の能力、カリスマ性……そしてあの強大な意志……『世界』は紛れもなく、桁違いに強い。
我々の誰もが、奴を上回る要素を持っていないのかもしれない……だが、どうしても譲れない物はある。

この世界の未来……例えるなら「これから」……。俺達の、明日だ……。
……負けられない…何としても、負けられないッッ……! この世界を紡いでいくのは……

過去(いままで)を生きてきた、偉大な先人たちと……

それを受け継ぎ、現在(いま)を生きている俺達と……

そして未来(これから)を担って生きていく、まだ見ぬ誰かなんだ……ッッ!!

それを葬り去らせはしない……ッ、この世界の歴史をッッ無かったことになんてさせはしないッッ!!

こ こ は 絶 対 に ッ ッ 、 譲 れ な い ッ ッ !!!!


<それでも……ここまで無力な青年が心折れず、これほど強大な相手に立ち向かっていけたのは>
<先々で助けてくれた仲間達の存在……定められし宿命的幸運と……その白き、絶対の意志のお陰であった>


うおぉおおおぉおおおおおおッッ!! 『世界』ッ!! お前にッッ、「これから」は渡さねぇえええぇッッ!!!


<無力な叫びが雷光のように駆け抜けた瞬間、プレートに生じ始める異変……>
<表裏で一定だった漆黒と純白の割合…僅差でしかない…しかし、確実に……>

<純白が増している……それは<Y>の意識が、侵蝕する黒を押し返し始めたということ>
<二つの絶対の意志が相克し、そして、勝った方のどちらかの色で、プレートは染め上げられる……!>

俺は「こっち」から『世界』と戦う……「そっち」は頼んだぜ、…死なないでくれよ……ッッ!!
49名無しになりきれ:2009/08/10(月) 01:20:21 0
捉えたと思った。

<廻転する刹那の裂破>の廻転飛弾は威力、速度ともに申し分なく精度も完璧、これ以上ない程の質を繰り出せた。
無論分析術によって得た情報で装甲強度や機動性をも計算に入れた一撃である。
マリーの演算素子に狂いがなければ、鋼の蟹の装甲は容易く粉砕し動力部まで貫通するはずだった。

「!!?……消えました――!!」

鏃が着弾した瞬間、攻撃が掻き消えた。崩れるように、音を立てることもなく刹那のうちに飲み込まれる。

「転移術……?いや、高速で風化していった感じかな。それにしても僕らの技、――消され癖がついてるね?」

驚愕はしない。精神の硬直は思考を削ぎ決定的な隙を生みかねない。故に『吊られた男』とマリーは返答代わりに地を蹴った。
疾駆しながら分析する。おそらく魔法術式を無効化する類の兵器だろう。『アビリティキャンセラー』の名称から察するに、
邪気眼や能力すら消してしまうかもしれない。異能の眷属たる『吊られた男』とマリーにとっては天敵といっても過言ではない存在だ。

理解した上で行く。

「先ほどの挙動を分析しましたわ。無効化の起点となっているのは蟹の鋏です。鏃が着弾する瞬間、僅かに逡巡したあと鋏を振り上げていますわ」

「目敏いねマリー。なるほど、無効化兵器は装甲全体を護ってるわけじゃないようだね?」

つまり、鋏にさえ気をつければ攻撃は通るということである。これは貴重な情報だ。
触れただけで術式を解除されるのだったら、マリーの攻性術式はもとより『あや吊り糸』すら使えなくなってしまう。

「回り込むよ?」

ライドムーバーの目前で二人は分かれた。まずは数の利を活かし攻撃対象を分散させる。
如何に無効化装備が整っていようと動かすのは人であり、人である以上はシングルタスク。

『あや吊り糸』を伸ばす。支配対象は六脚のうち一つ、その関節部位へと接続し、強引に屈脚させる。

「ッツ……!流石は異能者専門の部隊だけあって装甲の魔力耐性も半端じゃないね。象でも吊れる僕の"糸"が曲げるのに精一杯だよ?」

得られるのは脚払いによる態勢の崩れ。ライドムーバーはその巨体の支えを一つ奪われ鋼の体躯を大きく傾かせた。
中央部、蟹の"腹"の部分がガラ空きになる。

「懐に潜り込みさえすれば、ご自慢の鋏は使えないでしょう!――【<ギミック>:パイルバンカー】展開」

左腕に魔力を集め、マリーの身長ほどもある杭打ち機を生成する。
爆発性質を持たせた魔力を油圧の代用とするこの武器は反動こそ甚大だが、それは戦闘においてそのまま威力に直結する。

「さらに僕が『あや吊り糸』をマリーに繋げて反動を糸に逃がせば、お手軽無反動打杭砲の出来上がりだね?」

完成する。
二本の腰から延びる糸によって重力すら逃がされ、空中に固定されたマリーの一撃がむき出しの腹部に叩き込まれた。

金属のぶつかり合う轟音の連なりが、空間の振動となってライドムーバーの巨躯を貫く。
揺るがされた安寧に横殴りの威力がぶち込まれ、鋼の蟹はそのまま裏返しになって地面へと叩きつけられた。
50名無しになりきれ:2009/08/11(火) 23:47:56 0
ちっ、どうやらキミはまだオレ様の実力がわかってないんだね。いいさ、教えてあげるよ。上の住人の実力をね!!

【リクスの振う邪気眼殺しの氷剣が一直線に御鏡を襲う。しかし御鏡は動じない】

アブソリュート・ダークマター
『絶対物質』ッ!

【何もなかったはずの空間に「それ」が生まれ攻撃を防ぐ】
(空気中の炭素をダイヤに変換しそこにオレ様の力を上乗せすることであらゆる物質を凌駕したこの絶対物質、負ける訳がない!!)

何だい?キミの力はこの程度なのか?こんなのを送り込んでくるなんてあの女も随分舐めてくれるじゃないか
ダイアモンドダスト
『結晶生成』ッ!!

キミの体内の二酸化炭素を利用して微小なダイヤの粉末を作らせてもらったよ。内側から傷つけられる気分はどうだい?
それじゃあフィニッシュと行こうじゃないか
プロミネンス
『爆散』ッ!!!

(酸素濃度が上がった空間では物体が擦れるだけで発火、爆発が起こる。オレ様の真の狙いって訳だ)

ジ・エンドかな?
51名無しになりきれ:2009/08/14(金) 00:04:47 0
アブソリュート・ダークマター
『絶対物質』ッ!

モース硬度10、修正モース硬度15、工業材料の硬さの尺度であるヌープ硬度8000。人間世界の通常の物理法則において、ダイヤモンドを上回る硬度の物は未だ発見されていない。
しかし、リクスの前に「生じ」た『絶対物質』はそれすらも凌駕する存在であった。

(魔術的意味を加えた攻撃ですら防ぐその力、最早ダイヤモンドのレベルではないように見受けられますね。)
瞬時に相手の力量を推し量ろうとするも、どうやら先の攻撃はサンプルとしては不十分な威力のようである。

(先程から内部で断続的に起こる邪気の放出から察するに事態は急速に進行しているのは間違いないでしょう。)
リクスは内心急いていた。内部で何が起こっているか分からない以上、ミッションのためにはまず何より、その衝突の趨勢が決する前にそこに到達しておきたいということである。

「なるほど、あなたもどうやら言う程の『力』はお持ちのようですね。しかし残念ながら今の私にはあまり時間がありません。
ですから、『アイス…」
しかしその先をリクスが唱えることはなかった。否、できなかった。

ダイアモンドダスト
『結晶生成』ッ!!

体内に俄かに生じる異物感。
(また内部攻撃のようですね。今日はつくづくついていません。)

微細なダイヤの結晶が内臓をズタズタに引き裂き、さすがのリクスも顔が苦悶に歪む。しかしリクスは考える。
(確かに相手によっては致命傷となるべき攻撃ですが、『上の住人』とやらの力を誇示しようとする彼がこんな手で私を殺すとは考えにくいでしょう。つまり彼は何らかの、もっと派手な〆の技を用意していると考えられます。)

プロミネンス
『爆散』ッ!!!
「『零凝』」

リクスの予想は的中した。しかし、これを通すわけにはいかない。
「『上の住人』などと名乗るだけのことはありますね。」
リクスの口から一筋の鮮血が流れる。しかし、身体が吹き飛ぶ様子はない。彼は自らの身体に零凝を使ったのである。
零凝を自らに適用することで爆発時の反応エネルギーを固定し、生成したCO2と共に呼気によって体外へ放出しようというのである。
範囲に使うことのできる零凝はさながらタイムストップのように便利に映るかもしれないが、
自らの周囲にしかそれを展開できないリクスにとっては実際には止まっている自らの身体を無理に動かそうとするのであるからそのダメージは計り知れない。

「まさか炭素を操作してできた副産物の方が狙いとは、正直驚きました。汎用性の高い防御術式がなければ死んでいたでしょうね。」
そう言いつつもリクスはダメージを受けた身体に鞭打ち既に次の攻撃に移ろうとしている。

「『アイスランス』」

リクスの手中に先よりも大きな氷の刺具が現れる。
今度の攻撃は槍。あのイエス・キリストでさえも復活まで数日を要した因縁の武器に、創造主とも与るであろう『上の住人』を仕留める力を期待し、リクスは投擲する。

「堕ちていただきましょうか。」
52名無しになりきれ:2009/08/15(土) 00:18:33 0
                        ・ .・. ・ ・
「一人じゃないから。――こんな畏れは要らない」

アルカナ『太陽』。『世界』の所有物のおまけ程度の存在でしかなかった筈の少女が、
今、確固たる一つの存在として『世界』のいる舞台に立ち、『世界』にその強靭な意思の刃を見せた。
だが――――

「……ほう。この我の邪気を身に受けて尚、折れぬか。
 『悪魔』との邂逅が貴様の意思を強めたか?」

だが、その眩しい意思でさえも『世界』は問題にすらしない。
それは、ステラがようやく『世界』のいる舞台に立てたに過ぎないという、
現実的な部分だけが原因ではない。
『世界』自身が、己がステラの光をすら上回る圧倒的な意思を持っていると確信しているからこそ。
そう――――究極は強靭をすら歯牙にもかけない。

「『太陽』よ。貴様は意思を高める方向を間違えたな。
 貴様程度の愚民は、ただ我に従属し続ける意思のみを高めれば、それで良かったのだ。
 愚民が群れようと衆愚にしかなれぬ。決して我には届かないという事を――――
 これから、この我が直々に教授してやろう」

そして『世界』は、ステラとアスラ。
その場にいる、己に取って余計な存在をすべて消し去るべく、
魔剣におぞましい程の力を込め――――

「うおぉおおおぉおおおおおおッッ!! 『世界』ッ!! お前にッッ、「これから」は渡さねぇえええぇッッ!!!」
「――――何!?」

その瞬間、突如叫ばれた究極に匹敵する絶対の意思。
それが、プレートの黒を押し流そうと凄まじい力となって『世界』の精神に負荷を与える。
この場において唯一『世界』と対等の力が、『世界』が魔剣に邪気を込める事を中断させた。

「……くっ!」

一瞬焦りを見せたが、それでも『世界』は即座に冷静さを取り戻し、
プレートに己の邪気を込め、白と黒の拮抗を取り戻そうと試みる。
だが、それは想像以上の負荷。『世界』個人が使える邪気のおよそ3割。
並みの能力者の比にならぬ程の邪気を注入し続ける事を強いられる事になった。
何とか拮抗を保った『世界』はその視線をYへと向けると、壮絶な笑みを浮べる。

「…………くく、ふはははは!!!!『世界の選択』、これ程までに強力か!!!
 だが、そうでなくては面白くない!! 我が意思は、決して創造主等には屈さぬ!!
 この世界は必要無い!! 不要な未来など、全て消し去り、我の担う始まりへと返すのだ!!」

そして、

「いいだろう『世界の選択』よ。やはりこの場で我の敵となり得るは、貴様だけだ。
 貴様に完全に勝たねば、我の矜持は創造主への勝利を宣告を許さん。
 故に――――貴様の意思に勝つ為に、貴様の意思を絶望へと叩き込む為に、
 これから、貴様に組する愚民を、貴様の目の前で全て嬲り殺しにしてやろう……!」

そして『世界』は、己が敵意をステラをアスラへと向ける。
さあ、覚悟せよ。世界を救わんとする二人よ。諸君らが前に立つは、世界の究極。
今まで強大な壁であったそれが、諸君らの前に『敵』として立つ事を宣告したのだ。
もしも、諸君らがその歩みを止めたいと言うのなら――――せめて死力を尽くすがいい。
例え、絶望に心折れる結末しか望めないとしても……。
53名無しになりきれ:2009/08/16(日) 19:41:27 0
(大学構内、先程までレイジンとシェイドによる異能者の戦いが行われていた地である。
と言っても今そこに戦いの起こった形跡はなく、ただコンクリートで固められた道とポプラの植え込み、数個点在するベンチ、
そして血に塗れた白衣を着込む男が一人、通信機のような物を耳に当て突っ立っているだけである)

…ふむ、ではこれで破損個所の修復は完了…と?
結構。だが仕事が遅いな。後で試験管O-1322号とK-112号を摂取した上で三倍濃度のコーヒーの刑だ。

(腹部に開いた大穴は未だに塞がっていない。眉をひそめ、懐から小瓶を一つ取り出す)

元々情報収集の拷問用に持っておいたものだが…クッ…これほど見事に刺されては、使うしかあるまいよ。

(使うことを躊躇うようにくるくると小瓶を手の中で回す。茶褐色のガラスに張られたラベルには大きく日本語でこう書かれていた)


《悶え汁》…か。


切り傷刺し傷火傷に虫歯、内傷外傷ノイローゼ問わず一瞬で回復するという反則クラスの回復力を持つ液体…
しかし代償は大きく、使用者は今負っている傷の数倍、数十倍の痛みを覚悟しなければならない。
使用者がみな一様に痛みに体を捩らせる様からこの名がついたという…か。

…ふ、真逆この私がこいつを使う羽目になるとはな…
これは──感謝すべきなのか、××?
(忘れさられたその名を呟き、小瓶のキャップを外す。でろりとした極彩色の液体を一気に傷口に塗りこんだ)

──────ッ!
ッ…アアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

(しばらくお待ち下さい)
54名無しになりきれ:2009/08/16(日) 19:42:15 0
(数分後)

ふ…ふふ…回復力は認めるが…私が今二度と使用したくないと考えているのもまた事実…か。
まあなんにせよこれで動ける。連中ももう遺跡へ向かった頃だろうし、「大学」としても遺跡へ向かう大義名分が立ったわけだ。
とっとと地下(シタ)へ参ろう…

っと、その前に…地上に愚図が残っていないか見ておかねばな…助手A、ここら一帯の生命反応をサーチしろ───

(シェイドがそう呟いた刹那、重たげな機動音が建物を挟んで向かいから鳴り響く)

   ず  ど  ん  。

(心底見たくないという風にゆっくりと音のなるほうを向き、色眼鏡を外す。そこにあるのは、巨大なカニだった)
(口元が呆れと殺意と苛立ちでぐにゃりと歪む。それは端から見れば笑ってるようにも見えたかもしれない)
(手に持った色眼鏡をそのままぱきりと握りつぶす。背景からは怒りの炎が燃え上がり、あたり一帯を焦土と化さんばかりの邪気を無遠慮に振り撒いた)

───まあ、そんな事より聞くがいい。

(無論、聴衆など誰一人としていない。しかしまるで誰かと会話をするように、両手を広げ、穏やかとも言えそうな声色で語り続けた)

そもそも探求者とは、探し、求める者。この宇宙に広がるありとあらゆる事柄から自分の興味の赴くもののみを探し出し、自
らの目的に近づく者の事を言う。さらに研究者とは究める者だ。一つの物事(カテゴリ)に深く根を張り穴を掘る者だ。故に私の
ような者の行動ベクトルは全て興味によって賄われていると言っても過言ではない。では何故私がヨコシマキメという魅力的
な知の巣窟の探索すら放り出しこんな所で油を売っているのか?私は「監視役」であるからだ。大学構内では基本安寧を保証
されている私にとってここは必要不可欠な研究所(ラボ)だ。故にここを乱すものは許さないし、許さないと思わなくてはなら
ない。まるで大学の飼い犬のようだが私にとっては飼い犬だろうと三葉虫だろうと研究ができれば細かいことは問わん。
だがな、それにも限度がある。
第一ヨコシマキメというだけでかなりの稀少価値があると言うのに先程感じた膨大過ぎる邪気に《声》。恐らくこの下では実
力的に私よりも上の奴らが互いに死肉を求め合ってるに違いない。欲しいんだよ。そういう力強い奴らの研究素材(サンプル)が。
邪気眼というだけで今だ謎の多い物体だと言うのにあの邪気だぞ?考察してみるにヨコシマキメの中で何かしら行動を起こし
ているのはそいつだ。ヨコシマキメの手綱を握ってるかもしれない男だぞ?研究者でなくとも興味が沸くだろうが。少なくと
も私は沸く。大いに沸く。話を要約するとだな、私は今すぐにでも最下層にすっ飛んで行ってこれら全ての出来事を調べたい
んだよ。そいつはこの上なく興味深い事柄であろうし、まだ《アルカナ》の連中も生き残っている。最悪でも邪気眼の一つく
らいは確実に入手できる。研究を生業にするものであれば壱千年に一度のボーナスステージのようなものなんだよ、これは。

(ほぼ無呼吸で語り終え、溜息を一つつく)


     な     の     に     。


(カニの全景を見渡せる建物の屋上へ飛び移る)


その価値……理解(ワカ)ってんのか貴様等ァァァァァァァァッッッ!!!


(影使いらしからぬ、太陽を背負っての登場である。しかしバトル中の二人と一体から見れば逆光で、その姿は正に影。
 肩まで届く巨大な鋏を斧のように振りかぶり、そのまま跳躍。クレインとカニ型ロボットの間に文字通り「割って」入った)

…!貴様、「人形屋」!?構わん、今は問答をする間すら惜しいわ!
問いは一つ───そこの蟹を潰すか、あるいは今最ッ高に機嫌の悪いこの私にミトコンドリアの一片も残さず消し去られるか!二秒以内に答えろ!
55名無しになりきれ:2009/08/17(月) 23:49:51 0
屹立する巨影へ向かう。
ヨシノが『弾弓閃撃』を発動する最初の一歩、跳躍の為の踏み込み、その一瞬の硬直を狙って剣虎達が飛び掛ってきた。

(もうタイミングを読み始めてやがるか……そろそろ全部相手にするのはキツくなってきたぞ!)

襲い来る影は六つ。最初の爪撃をスウェーで躱し、掬い上げるような第二撃をホッチキスで押さえながら三匹目を穴あけパンチで穿つ。
纏っていた邪気を拡大展開し、範囲内の全てに白杖を叩き込み、回転するようにステップ。六匹全ての急所を打ち込みながら宙へと身を投げる。

既に第二群が迫っていた。
見渡す限りに獣色の御用提灯が十重二十重。視界の全てが刃を広げた剣虎の襲撃で埋められている。

(最初の襲撃はデコイ……!包囲網を狭めるのが目的か!!)

避けきれない。
360°の密集攻撃は逃げ場なくヨシノの命を刈り取るだろう。あまりにオーバーキル。肉片すら残らない。
冒涜の力に抗いを示したヨシノへの、ヨコシマキメの本気。圧倒的暴力。

殺られる。絶望的かつ致命的な状況で思考だけが上滑りしたそのとき、目の前で嵐が吹き荒れた。
横殴りの流星群。高速強化した意識と視覚でやっと捉えられるその速度は弾速。すなわち星の正体は無数の銃弾。
『ヨシノだけを正確に除外して』、その場に遍く全ての物体が銃撃掃射の餌食になる。

「どこの誰かは存じませんが。我々はこの先に用がありまして。――よろしければ、道をつける手伝いをお願いしたいですねェ」

軌跡を辿ればそこには、個々の武装をこちらに構えた軍隊然とした集団。その先頭に立つのはナナフシのような等身の壮年。
彼らの纏う装甲服には見覚えがあった。異能関係者ならば誰もが畏怖とともにその名を脳に刻み付けている。

『世界政府』直属異能管理組織、『調律機関』。
邪気眼に限らず全ての異能者や術式使いを制圧し管理する特務機関。
その強さは個々の錬度のみならず、徹底的なまでの統率力とそれを裏付ける絶対の信頼、結束。

(ヨコシマキメでの戦闘を嗅ぎ付けてきたのか……?俺を捕まえにきたわけじゃないよ、な。口ぶりから察するに)

それどころか協力的でさえある。青息吐息の現状に際してはまさに渡りに船だ。
調律機関謹製の聖銀弾で撃たれた剣虎達は一様に傷を灼かれる苦しみでのた打ち回っている。

「ありがたい。大見得切って啖呵張ったはいいが、にっちもさっちもいかなかったところだ。
          俺はあのデカブツをやるから、その辺で邪魔をしやがる有象無象どもの相手を頼む」

返事を待たずに跳躍する。援護射撃は的確にヨシノの為の道を拓き、発条のような疾走は彼我の距離を無にした。

飛ぶ。

白杖の『導き』は確実に急所を精査し、喉下へ一撃を穿つ。

「獣の癖して紳士だな。こっちが向かうまで待っててくれたのか?……報いはしないがな。――導け。『倒錯眼』」

鋭く風を裂く乾いた音と肉と骨を穿ち砕く湿った音が交差し、大剣虎の喉笛に鮮紅の華が咲いた。
迸る血潮の向こうで、致命傷となる打撃を受けた大剣虎の表情が変わった。

巨大な口の端を器用に歪ませ、確かに『嗤った』のだ。

『……あア、オカゲで簡単に釣れたヨ――馬鹿正直に向かって来たナ』

それは刹那の出来事だった。故に全てが終わるまで、ヨシノには思考する暇さえ赦されなかった。
横腹に衝撃、続いて灼熱感と異物感。最後に腹の底から冷え切っていく感覚。体温と共に全てが奪われていくような喪失感。

「あ……!が……!?」

下を見る。
腹部から、血に塗れた巨大な爪が生えていた。
56名無しになりきれ:2009/08/18(火) 01:13:57 0
視界がぐるりと回転する。ぶちまけられた血は既に致死量。それを浴びた獣の顔すら最早確認できない。
暗くなっていく視野の端に、桃色の何かが映る。それが自身の内臓であることにすら気付けないまま、脳が生存を諦める。

『獣に知能がナイとでモ……?ソレは大きなミステイク、矮小な雑魚一匹ハ馬鹿でモ集合体たる私ニは知性を生む余裕がアル』

真横から貫いた刃は噛み潰したように嘲笑う大剣虎のもの。
ヨコシマキメに蓄積された戦闘データからヨシノの傾向を割り出し、耐久力が皆無であることに付け込んだ一撃必殺。

『私はヨコシマキメそのモノダ。故にどレだけ破壊さレようと再生ハ無限。その叡智もマた然り』

喉下に穿たれたはずの傷はもう塞がっている。ヨコシマキメの『腹』に溜められた『力』は甚大であり、惜しみなく大剣虎へと供給されていた。
睥睨とともに『ヨシノだったもの』を放り捨てる。稚気程の力しか入れてなかったのに、あっけないほどこの人間は破壊された。
放物線を描きながらヨシノは宙に投げ出され、遺跡の石壁に衝突し、赤黒い血の跡を広げながら斃れこんだ。

『脆』  、  『弱』 ――

『……極めテ脆弱ゥ!!邪気眼使いとハかくも弱いモのか!?"私"を喚起したアの男、『世界』はこンなものデはなかっタぞ!』

嘲笑う。
ますます人間染みていくその挙動は遺跡を震わせ、嘶かせ、鳴動させた。

『ハハ、ハハハハハ、ははははははははははァァァ!!!!』

哄笑う。
そして弓になった眼はぎょろりと回転し、群がる剣虎との戦闘を続ける調律機関の面々へと向けた。

『見ルが良い『調律』の。貴様等が守ロうとした命はこんナにも容易く握りツブされるのだ。
   圧倒的暴力!絶対的冒涜!理想的蹂躙!衆愚なヒトよ、それでも抗うトいうのなら――見て逝くが良い。我が力の体現!』

大剣虎が両の腕を掲げる。さながら祈りのように、しかしその実が邪悪。生み出される力の奔流はどす黒く渦を巻いた。
球体である。
黒い球が、凝固した空間から生み出された。それは艶のない渦を内部に持ち、ときおり痙攣するように振動する。

『昏く死せる者を喚びし霊珠(エクトプラズム・クーゲルガイスト)――!!』

ヨコシマキメに捕われた散りし者達の魂――死霊。その思念体が内包するエネルギーは物理的誓約を受けない故に甚大であり、
自我を失えば暴走し更なる破壊と死を生み出す。それがヨコシマキメにおけるサイクルであり、ヨコシマキメの申し子たる大剣虎の力。
つまりは、死霊をかき集めて凝縮したエネルギー弾である。

『ほウ……貴様のカつテの仲間も死霊となってヨコシマキメに喰ワれてイたようダな。
   貴様は仲間を犠牲にシて一人地上へと逃げタのだろう?今度はその仲間デ創られた力に滅ボされるがいい……!』

その威力は現存するあらゆる術式ですら再現できない破壊もたらす純破壊術式であり、逃げ場のない遺跡内で使用すれば確実に
大剣虎以外のこの場の全ての命が滅ぶだろう。そんな一個人にはどうあっても向けることのないレベルの術式を、大剣虎はヨシノへ向ける。

『たダ死ぬだケで終われると思うナ……貴様を消し飛バし、地上に遍く全てノ命への絶望ノ狼煙としてクれル――』

放たれた。
進行上の全ての空間を削り、砕き、消し去りながら霊珠は矢のようにヨシノへ迫る。
ヨコシマキメ――否、この世で最も凶悪な威力を秘めた術式が、この世で最も死に近い場所にいる青年へと牙を剥く。

そして、

『なん――だと――?』

ヨシノに触れた瞬間、そこを起点に最悪の終末を撒き散らすはずの霊珠が、止まった。
死にかけのヨシノをその身中にとりこんだ途端に、その動きが完全に停まった。

白。
漆黒の霊珠にあがなうように、純白の波涛が飛沫を飛ばす。白と黒の拮抗が、世界の終わりの始まりを、瀬戸際で停滞させていた。
57名無しになりきれ:2009/08/20(木) 14:21:46 0
なん・・・だと!?
(オレ様の攻撃が効かない?あいつ、体内にすら耐性持ちだって言うのかよ!)

ちっ、少し見くびりすぎていたみたいだね。「動かされている」人間にしては強い方って訳だ。
でも、このオレ様を本気にさせて、タダで済むと思うなよ!

出でよ魔鏡っ!!

【リクスの放った鑓が御鏡へと迫る。次の瞬間『鏡』が現れる】
(これ以上得体の知れない攻撃を受ける訳にはいかないな)

【攻撃が鏡の中に吸い込まれると同時に鏡からの瓜二つの攻撃がリクスを襲う】

フッ、これこそがオレ様が『御鏡皇子』と呼ばれる理由、『次元魔鏡』。
アブソリュート・ダークマター         アブソリュート・マテリアル
『絶対物質』    すら上回る   『絶対材料』   によって生成された鏡の100%の反射率によって並行世界は繋がれる。
つまり、キミの攻撃は鏡の中のキミを、鏡の中のキミの攻撃はキミ自身を襲ったっていう訳だ。

もうわかっただろう?オレ様の強さが。そろそろエンディングと行こうぜ!

サウザンズ・オブ・ブロークンミラー
『無数の割鏡』ッ!!!

【御鏡の周りに生み出された数多の魔鏡が次々と割れ、無数の破片が重力に逆らいリクスへと襲いかかる】

(このオレ様に本気を出させたことを後悔するんだな)
58名無しになりきれ:2009/08/22(土) 03:18:44 0
あらゆるエネルギー――力には"波長"が存在し、一定のベクトルに向かって伝達することでその効力を発揮する。
水に流れがあるように。拳を前に振りぬくように。魔力や邪気とて例外ではない。
それらの波長を瞬時に解析し、位相が逆の波長をぶつけることで相殺し、魔力や異能の産物を消し去る技術。

それが、『アビリティキャンセラー』の正体である。

「どうだ?どうだ?びびったろ?それでいい。正しい反応だぜぇ!」

漆黒の残滓が風に流れ、視界が晴れる。見えてくる筈の敵二人の唖然とした顔が、そこにはない。
慌ててサブモニタの魔力反応を追えば、二手に分かれて懐へと潜り込まんとするところだった。
青年の手から新たなる邪気の反応が伸びる。糸状のそれは六脚のうち一本に巻きつき、術式効果を発動した。

「脚を一本捉られた!さっきのと同じ術式か!?制御が効かねぇ……!!」

『肯定。脚部制御干渉。強制屈脚――!』

ライティの報告通りに、奪われた脚部管制のパーセンテージ分だけライドムーバーの巨躯が傾く。
即座にレフティに指示を飛ばし、アビリティキャンセラーで脚に取り付いた干渉術式を消去せんとしたその時、

「――【<ギミック>:パイルバンカー】展開」

人形の方が動いた。青年とはまったくの反対側から、瞬間的に莫大な魔力反応を展開する。
レフティの武装機動リソースをほとんどアビリティキャンセラーに費やしていたせいで、ほとんど何も出来ずに直撃を受けるハメになった。

轟音。続いて穿音と金属音がそれに混じる。ライドムーバーの千分の一にも満たないような質量であるはずの人形が繰り出した一撃は、
にも関わらず一tを越えるライドムーバーの巨体を容易く浮かせた。傾いたところに一方から横殴りにされたことにより、

『あおてん!ひっくりかえった!まずい?やばい?だいぴんち?』

気が付けば逆さまになっていた。裏返った鋼蟹は地面にその背中を強かに叩きつけられ、ワンバウンドする。

「っくぅぅぁぁーーーッ!!やってくれやがったな!!スタビライズスラスター機動!」

空中姿勢制御用の加速器を全開にし、跳ね上がった空中でさらに一回転。先ほどの倍以上のGがムライを襲うが気合で耐え抜く。
今度こそ六脚で着地すれば、装甲に破損こそあれど、戦闘可能状態にまでは立ち戻れる。曲乗り等の技巧操縦ができるムライだからこその駆動だ。

「さあこれで振り出しだぜ"人形師"ィ!!まだまだ始まったばっかだ、楽しもうぜぇ……!!」

左のコンソールに光が奔り、蟹の中心部に設けられた砲門が展開する。ライドムーバーの最大兵器――主砲である。
直径1メートルを誇る超大口径の砲身内部には魔力回路が敷設してあり、特定の性質を砲塔内に付与することができる。
その性質とは『摩擦係数0』……砲弾との摩擦を無くすことで音速すら超えた亜光速の砲撃を可能とした武装、『ゼロフリクションキャノン』である。

砲という武装において弾速の一番の障害とは砲塔内部で起こる摩擦である。電磁石の応用によって摩擦を無くし
亜光速の砲弾を実現したのがいわゆる『レールガン』。生み出される結果に限って言えば蟹の主砲とレールガンは極めて似た武装であると言える。
だが、電磁を使用するが故に砲弾を特定の金属でしか構成できないレールガンに比べてゼロフリクションキャノンは弾の種類に制限がない。
つまり、

「邪気眼使いが最も忌避する物質――聖銀で創った弾すら亜光速で撃ち出せる。回避は不可、掠っただけで跡形も残らんぜ?さぁどう切り抜けるよ!?」

『内在魔力充填終了。照準固定。仰角精査。――砲撃準備完了』

『ぜろふりくしょんきゃのん――ふぁいあ!』

発射トリガーを引ききる一瞬前、モニタの向こうで身構える青年と人形との間に鋏を担いだ白い影が闖入するのが見えた。
全身血塗れで、赫怒と憤怒の形相で、だれ彼構わず喚きながら、白衣の男が割って入ってきた。

「その価値……理解(ワカ)ってんのか貴――


迷わずぶっ放した。
59名無しになりきれ:2009/08/23(日) 11:48:47 0
目の前の板きれは白と黒で彩られ、陰陽道における両儀のように交じり合っている。
【世界】と包帯の男の口振りで大体理解した。あれはどうやら、とても大切な代物らしい。

「了解…でも流れ弾には気をつけなさいよ?」

反動を抑えるいわくつきの手甲を両手にはめ、両手に持った二丁の銃を突き合わせる。
弾倉に入る弾は銀の特製弾。教会の銀十字を夜中こっそりメッキのものと取り替え、その日のうちに溶かして鋳造したものだ。

弾を確認してから、改造修道服の内ポケットのものを手に触れる。
そこで触れた鉄の冷えた感触は、かえってアスラに安らぎと自信を持たせた。

「対邪気眼用の装備は十分…これなら対等に闘える。否、闘って見せる!」

見ればステラは既にレーザーを展開させ、戦闘体制に入ってる。

「勝利条件は死なない事そして死なせない事…そんじゃステラ、《世界征服》と行こっか!」

態度は明るく、一歩踏み出す。
【世界】からの邪気が頬をすり抜け、彼女に一筋の嫌な汗を残した。

鍛え上げられた肉食獣のような足が、地を蹴り前へ進んで行く。
一歩でも足を宙に浮かせば、身動きのできない空中を狙われる───そう考え、あくまで足は地面から離さない。

【世界】へバカ正直に、一直線に向かって行く。
彼が迫り来るアスラに何かしらの行動を起こす直前、彼女は踏み切ることなく跳躍した。

【世界】の身の丈は平均より高かったが、彼女にとって飛び越えるには造作なかった。
頭をかすめるように宙に舞い、一瞬だけ【世界】の視界から消え去る。

背後に回る。自由落下の最中に、照準を合わせて引き金を引く。
眉間と左胸。狙いは寸分ズレることなく、【世界】に向けて放たれた。
60名無しになりきれ
よっこら