『ひっ……あぅ……』【>199】
(目の前で震える華奢な少女は、まるで馬車の前に放り出された仔猫の様だ。
潤んだ瞳に浮かぶのは、純粋な混乱と恐怖―――演技であるとは思えない)
涙を流す時は―――…いや……泣かなくていい。
この場には貴様を……君を傷付ける人間は居ない。
(『――(僕を女みたいに扱うな!)――』【>前編706】
少年の紅潮した膨れっ面がフラッシュバックして、言葉を選ばせる。
涙目の相手に率直な物言いをするのは不味い。以前のミスの経験が生きた)
此処に居る多くの者は"上湘南第一中の赤い竜"アカイ・リューコに縁がある。
向こうには君の出身世界のカンシキも居る。信頼出来る男だ……案内しよう。
(仔猫にそうする様に少女の首根を掴んで持ち上げようとして、思い直す。
逡巡の後に溜息を吐いた。片膝をついて視線を合わせ、右手を差し伸べる)
――――立ち上がれるか、フォリナー?
…
……
『アッシュ!君はたらふく食べていたようだけど大丈夫なのか?』【>193】
ああ。問題無い。
―――泥水に浸かる様な戦場であれば、幾度も経験して来た。
(まるで他人事と言った口調で応答した後、鑑識に視線で傍らの少女を示す)
"アーたん"と同じ服装という事は、お前の世界の人間なのだろう?
カンシキ、保護を頼んだ……俺では、この少女を怯えさせてしまう。
(去り際に、革袋に入れた精霊銀製の弾丸とスリングショットを放り投げた)
―――受け取れ。お前が墓所で使っていた兵装を"模造"したモノだ。
再び蛇の魔女とエンカウントする機会があれば、迷わず叩き込んでやれ。
…
……
『やっぱり無事やったんやな!えらいシュッとした格好しおって!』【>176】
――――その言葉は心外の極みだ。
ランサーに伝えておいた筈だ……"今度の眠りは長くなりそうだ"と。【>10】
俺の言葉など、奴にとっては記憶に値していない可能性も捨て切れないが。
(柱に背を預けて余裕の表情を浮かべている神槍の戦士。その前を通過する)
また会ったな、ランサー。再び伝言を押し付けさせてもらおう。
これから"泥"を落として来る……無論、遺言の心算は無い。
それにしても―――随分と可愛気の無い姿になったモノだ。
(大宴会場の混沌と喧騒を背にして、酩酊者は身勝手に露天風呂へ向かった)