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テンプレ:2009/02/20(金) 21:22:49 0
※参加者は原則として、絡んでる相手の書き込みから
【三日以内】に書き込んでください。(一人の場合は前回の自分の書き込みから三日)
もし、それが無理な場合は
>>1にある【避難所に報告】してください。期限を最大七日まで延ばせます。
もし報告もなく、【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったとみなして、話を勝手に進めさせてもらいます。
どうかご協力お願いします。
*【テンプレ】
(キャラクターのプロフィールを記入し、避難所に投下した後、
まとめサイトにて、自分のキャラクターの紹介ページを作成してください)
名前:
二つ名:
ttp://pha22.net/name2/ ←で↑のキャラ名を入力
年齢:
身長:
体重:
種族:
職業:
性別:
能力:(一応二つ名にこじつけた能力設定を)
容姿:
趣味:
好きなもの:
嫌いなもの:
キャラ解説:
S→別格 A→人外 B→逸脱 C→得意 D→普通 E→不得意 F→皆無
U→変動 N→機能未保有 ……の九段階まで。
・本体
筋 力:
耐久力:
俊敏性:
技 術:
知 力:
精神力:
成長性:
・能力
範 囲:
破壊力:
操作性:
応用性:
持続性:
成長性:
リスク :
>>240>>193-194 「そうだYH-7823?」
天井に備え付けられたダストを見上げる。
『浮遊能力』発動。
そのダストを対象に指定して浮かせると上に外れる。するとそれを支えにしていた若い男女の2人組が落ちてくる。
YH-7823がそのでかい図体をどこに隠していたのかは気付かなかったが、
会議が始まる頃から私達の様子を窺っていたこの2人には気付いていた。
てっきりこの2人から紹介されるものとばかり思っていたので先程は面を食らってしまった。
「この2人もこれ以上隠しておく事も無いだろう」
まあこの2人が残りの隠し玉なのか、侵入者なのかは知らんがね。
後者ならビルの警護をしている55の『ハウンドドッグ』も職務怠慢だな。
【ゴールドウェル:リン&桐北のいる通気口のダストを外して2人を落とす】
前スレ
>>237の続き
所々に高いビルが立ち並ぶこの街の中に一つだけ寂しく立っている赤茶色の大きな洋館。
これまでに幸い大きな問題は発生することなくここに辿り着けた。
どれだけ歩いたのかは分からない、10分かもしれないし1時間かもしれない。
起きた問題といえば……犬が集まってきた事だろうか。その犬達は与一を追いかけるように寄ってきていた。
……犬の匂いでも出しているの?もしかしたらこの異様な腕が原因なのかも…
手袋が覆っていない部分から黒く硬質な毛が露出している、一体彼女に何があったのか…
いや、そんな事は後回しにするべきだ。今は少しでも速く与一を休ませてあげなければ。
私たちは錆付いた門を開き、敷地内へと入った。
庭に敷かれている芝生は整備されてないようで酷く荒れていた。
これは近づいて分かったことだが、館の窓もいくつかひびが入っており、壁も塗装が剥げている。
芝生……後で綺麗にしてあげようかな…
真っ直ぐ向かった先にある中への扉はなぜか開いていて、来る者拒まずと言った感じだ。
どうせ機関の会堂なんだから…私たちが入っても……構わないはず。
―――――
外の庭とは違って、中は丁寧に掃除がされていて綺麗な空間を保っていた。
渡り廊下に置いてある高そうな壷やら観葉植物が目に映る。
私たちは少し進んだ先にあった、使われていない小さな客室を借りて与一を備え付けてあったベッドに寝かせた。
彼女は相変わらず穏やかな寝息を立てている。少し眠れば回復するだろう。
さてこの洋館、無人とは言ったものの中はとても綺麗だ。誰かいるのでは?
もし、いるならば挨拶に行かねばならない。
私は与一を寝かせ、洋館の主に会う為に部屋を出た…
【会堂に到着、与一を寝かせている】
【美月は洋館内を歩き回っている】
前スレ
>>238>>240-243>>3 >「…ゴールドウェル、俺が大嫌いなタイプの人間を知ってるかァ?」
城栄は一旦葉巻を灰皿へ置くと、ゴールドウェルに食らいついた。
開口一番の会議の合図から今まで黙していた城栄だが、ようやくその重い腰を上げたか……。
いや、この場合は怒りが爆発したと言う言葉が適切だな。
>「俺ァ、まだ働いてもいねぇのにグチグチ能書き垂れてる人間が……大っ嫌いなンだよ!!」
むっ……! 城栄の奴め、『因果律』を使ったか……!?
光り輝く数式がゴールドウェルに絡みつき、そして奴は城栄の下へと吸い寄せられていった。
城栄は徐に立ち上がると、タイミングよく引き寄せられたゴールドウェルの胸倉を掴む。
>「いいか!!てめーの様なジジイの小言を聞く暇なんかこっちにはねェンだよ!!」
親友よ、私も同意見だよ。
我々にはもう時間が無いのだ。こんな所でもたついている暇は無い。
>「俺や虐殺部隊に文句があるンなら、まずテメーが戦果を上げるこったなァ」
城栄は80kgもある最新式サイボーグの体を意図も簡単に投げ飛ばす。
相変わらず怪物じみた身体能力だな……。
対してゴールドウェルもその異能力を発揮し、ふわりと軽やかに着地をした。
反重力か……。応用力は高そうだな。
城栄は虐殺部隊に対して脅しとも取れる内容の言葉を掛けるが、
虐殺部隊や私は知っている。これは奴なりの叱咤激励なのだ。
如何せん粗野な奴だからな。もう少しオブラートに包んで欲しい物だ。
>「じゃあ、話を本題に戻すか。人員補充についてだったな、それなら心配いらねェ、こいつらが入るからな。」
金剛の言葉に一抹の不安が頭を過る。嫌な予感は得てして実現化してしまうものだ。
まさか……いや、しかしその方法は危険すぎるぞ。
連中は『バンダースナッチ』なのだ、誰の命令にも従わない。
『バンダースナッチ』を繋ぎ止めて置く事は不可能なのだ。
城栄が指差した方向を見ると、テーブルの上に一人の女性が立っていた。
彼女は長身にモデルのようにスレンダーな体に暗い赤のコートを羽織り、腰まで行きそうな黒の長髪をしていた。
青い目が獣のような鋭い眼光を放っている。
ロ、ロストナンバー……! 不安は現実のものとなり、眩暈が襲ってくる。
ロストナンバー
忘却数字――
それは城栄が機関のトップになる以前から炎魔復活の贄として、
自分の担当部門である研究部門で開発していた研究の成果だ。
異能の素質のある者に大量のメタトロンを注入し、
異能の絶対値を増やす事で神に捧げるに相応しいものにした、云わば改造異能者。
しかし、その反面大量のメタトロンに耐えられず廃人と化す者も多く、
コストパフォーマンスが劣悪なのが難点だった。
城栄と私の計画でも最重要機密事項――トップシークレットの存在……。
そんな連中が……こんな……!
今まで影で生きてきた者達を、日向に呼び戻すと言うのか……。
>「ボクの名前はルージュ。ホントはYH-7823っていうんだけどボクはこれが嫌いだからネー。
> えっと、それで今日から雑魚いセカンドナンバーの代わりにボクが入ってあげるんだけど、何か質問あるかナー?」
>「こいつァ、俺の実験の作品の一つなンだが勝手に死んでいった野郎どもよりかは働くと思うぜ。」
小村君ではないが、溜め息が出そうだよ……。呼ぶならもっとマシな奴を呼んで欲しい物だ。
>>5 >「今主力の『虐殺部隊』は何を言っても自分らのやり方を変える気はないようだし、
> 01も私個人に戦果というものを期待しているようだからね。
> 私はもう会議を抜けて構わんかね?」
宙に浮いたままドアへと向うゴールドウェルを、予想外の人物が呼び止めた。
>「まぁ待ちなよ、オジイチャン。」
その人物は城栄の隣で一連のやり取りを眺めていた機関のNo.2、ツバサ・ライマースであった。
流石にこれは予想外だった。彼が介入してくるとは……。
ツバサの放つ言葉には、明らかな城栄への皮肉が見え隠れしている。
ツバサよ、その辺にして置け。さもないと――
勢い良く机を叩く音がツバサの言葉と私の思考を停止させる。
遅かったか……。やれやれ。
しかしながら、相変わらず何を考えているのか解らん男だ。
城栄や私の利になる行動を取る事もあれば、他の世襲幹部達の利になる行動を取る事もある。
まるでジョーカーのような存在だな……。
まぁ、その辺りが私は面白いと思っているのだがな。
>「今私と重ねて挙げるとしたら『冥界解体(アンノウンブレイカー)』のような奴だろう。
> …もっとも、アレの行動も所詮自分で思うように変えられない組織からの"逃げ"に過ぎん」
私が思いに耽っていると、思いもよらない所で"あの男"の二つ名を聞き、体がピクリと反応した。
アンノウンブレイカー
『冥界解体』…長束誠一郎。城栄と私の崇高な理想の最大の障害。
奴は我が師の理想を曲解した節がある。
世界を平和で素晴らしい世界とは数多の犠牲の上に成り立つ物なのだ。
誰も傷つかずに平和な世界など作れはしない。
師と"彼女"の望んだ世界――それは私の目指す世界だ。
その為だったら私は地獄に落ちても構わない。
――その時、部屋中に響く大きな音がし私は はっとした。
天井から男女二人組みが落ちてきたのだ。一人は桐北修貴――
そしてもう一人は……。
「リン……!?」
驚いて声を上げてしまうとは……私も歳だな。
しかし、迂闊だったな。会議と物思いに集中していて異能の気配に気が付かなかったとは。
……会話の内容を聞かれたか?
しかし、知った所で無意味か。どの道、神に捧げられる運命なのだから。
【レオーネ:総合会議室】
あらすじ
『廻間 統時』、そして『リース・エインズワース』との邂逅
柴寄を心配する二人と、彼等を巻き込みたくない柴寄、
二人と少しずつ打ち解けて行く柴寄だが、別れ際、廻間統時の携える不可解な短刀を眼にして、彼らの存在に疑問を抱く――――。
―――――…
柴寄のその眼は唯一点、ソレへと向けられている、
視線が視線を呼び、黒髪の少年の眼もそれを追う様に重なり、互いの視線はやがて終点を迎える、
その先には、少年の腰に携えられた、一振りの短刀が、
ソレを写す二人の瞳の奥には、それぞれの思惑が、刀を写している瞳と共に交差する。
一方は困惑、もう一方は疑惑。
其の――、時間にして実に僅かながらの事柄だが、其処に確かにあった沈黙を、黒髪の少年が破った。
「ああ、これが気になるか?
ちょっと俺の通ってる道場で模範演技を頼まれてね。
そのために持ってるってわけだ」
そう言い放ちソレの意図を説明する、今の彼は不可解な事柄には人よりも敏感だ、
故にその説明には蟠りが残り、ただ体裁上は納得したと言う、それは怪訝そうな表情で表された、
「うん、それじゃ、気を付けて」
気を付けて、その言葉と共に、三人は判れた、互いの間に、幾許かの蟠りを残して――――
――――――――
プアァァン!
騒々しい警笛の音と共に樹脂にでかたどられた外皮に包まれた四つの車輪が
地瀝青で模った人造の大地を掻き分けて進んで行く。
そしてその四つの車輪を束ねる歪で大きな長方形が今、柴寄の身体を掠めて行った所だ。
―――五月蠅い―――
普段の自分からは程遠い凶暴性を孕んだ感情が芽生えた事に驚きつつもその感情を有体に表した瞳を過ぎ去って行く大型車両に向ける、
そしてその行為にまた驚きを覚え辺りを見回す、
二人の少年と別れここ貳名市の玄関口である貳名駅から西へ離れたこの辺りは玄関口の華やかさは色褪せ、些か以上に寂れた感じは否めない、
誰しも上面だけは綺麗そうに見せる物、そう思いながら坂を上り切りこの丁字路の交差地点に差し掛かった所だ。
眼下には小規模ながら丘が在り、そして川が在る、此処を南下した先に在る橋を渡れば対岸の西区へと続くのだが、
生憎目の前の道路は整備が行き届いてない性か路側帯が無い、故にたった今この丁字路で大型車に身体を掠められるという事態に柴寄は遭った訳であるが。
さて、このまま西区へ行くとすればこの道を南下する事になる、しかしこの道路には路側帯が無い為此処を通るとなれば草むらに身を寄せ多分にせせこましい事この上ない、
元来人目に付く事や騒がしい所に居る事を受け付けない柴寄は当然、必然的に、河川敷へ降りて南下する、という結論に彼は至る事だろう。
上着をはためかせながら丘を下って行く、若葉色のその上着は纏い手と確かな一体感があり、草原を行くその姿すらが、
一つのなびく草の様で其処に"居る"のでは無く、其処に"在る"ような存在の稀薄さと、儚さがあった。
見る者を惹きつける何かと同時に、迂闊に触ると散ってしまいそうな儚さを持って、彼は蒼天の下草原を行く。
【七草 柴寄:河川敷を南下中、前方には鉄橋がある】
>>228 >>229 私の目の前に『アブラハム』が居た。
出てきてくれたとは嬉しい限りだ、これで能力を隠す手間も省ける。
「やはり貴方がアブラハムか、ご足労傷み入るよ。
だが質問させて貰う前に、レコーダーの中身を聞かせて貰おうか。」
レコーダーのスイッチを入れると、男の声が流れ始める。
音楽的な声、クロノから引き継いだ記憶の中に居た男だ。
名をレオーネ・ロンバルディーニ、機関の幹部。
彼は語る、恋島は「アブラハム」であり機関は恋島を狙っている。
その目的は炎魔の復活である。
だが自分は恋島を保護するために動くつもりがある。
最後にレオーネは「巻き込んですまない」と語り、そこで録音は終わっていた。
・・・機関の奴らはどいつもこいつも、自分勝手な善意に満ちているらしい。
自分のやっていることに絶対の自信をもっているのだ。
それもそうだ、おそらく奴らは世界を支配していて常に正義の側にたてるのだから。
「私は依頼人への義務を果たす、貴方及び恋島さんの身柄は守りきる。
これは私の職業的義務と公共性にかけてお約束しよう」
「だが質問がある、そもそも炎魔とは何だ?アブラハムが炎魔をよみがえらせると言うが
一体どういう事なのですか?」
【宗方零 恋島とアブラハムを保護する意志を固める】
【炎魔とはなにか質問する】
前スレ
>>236 「……昨日出会った、お前の失った右腕すら治せるかもしれん程の治癒能力を有した異能者の名だ。
使い物になると思い協力を要請したんだがな。奴は首を縦に振らぬまま、それっきりだ……」
池上は戦場ヶ原の問いに機械的に答えた。
治癒能力者…。リンもまた治癒能力の使い手であったが、それはあくまでも副産物のようなもので、彼女の能力の本懐は火炎を操るところにあった。
一口に異能者と言っても、七重のように身体能力を向上させるものから、屡霞のような妖刀。果ては金剛の持つ全能の力までさまざまなものがある。
異能力とはあくまでそういった超自然の力全般をさす呼称に過ぎないのかも知れない。
であるからこそ、失われた戦場ヶ原の右腕を復元させるというほどの、いわば神への冒涜ともとれるような能力を持っている異能者がいたとしても、それはそれで不思議では無い。
戦場ヶ原はその織宮という異能者の名を意識の底へ刷り込んだ。
そこで、右腕のことを言われた戦場ヶ原は無いはずの右手首にチクンとした痛みを感じた。
(『幻肢痛』―――…!?)
手足を失った者は、失ったはずの四肢の痛みを脳が覚えていて、時折その痛みを感じるのだと言う。
彼にとって、この痛みは初めてのものではない。二日前、禍ノ紅によって両断された彼の右腕。
彼は、後日屡霞と再会した時、彼女に言われた言葉を思い出した。
(君は己の右腕を差し出してでも私を助けた。ならばその右腕の役目、私が担うのが筋だろう?)
「ところで、何て言ったかな? あの女剣士の名は」
戦場ヶ原が屡霞のことを思い出していると、池上はまるでその胸中を読んだかのように彼女の名を上げた。
「…、神野 屡霞だ。」
「……神野か。一つ忠告しておいてやるが、今度からあのジャジャ馬の手綱はよく握っておくことだ。
さもないと、いつかは奴を失うこととなる。俺にとっては一致した目的のために動く一人の協力者に
過ぎないが、お前にとってはそれだけの存在とも言い切ることはできまい」
「!」
無表情のまま放たれた言葉は、戦場ヶ原の胸を冷たく抉りこんだ。
天音 滴。猿飛 栄吉。そして東雲 来蓬斎。
戦場ヶ原に深くかかわった人間は、悉く骸となって彼のもとを去っていった。
今度は屡霞が、そうなるのではないか―――…。
その懸念が、今、彼の心に楔となって突き刺さった。
「あぁ…、そうだろうな。」
戦場ヶ原は静かにそれを認めた。
「だが、奴は俺の仲間である前に一人の『戦士』だ。奴自身その覚悟が出来ているし、それは無論俺にも言える。
…しかしさっきからずいぶん弱気な類推が目立つな。池上燐介。いまさら臆病風に吹かれたわけでもねェだろう?」
強がってみせるのも、また彼自身に戦士としての誇りがあるからだった。
皮肉を言い返した彼の顔には微塵の隙もない。ただ力強い戦士の顔があるだけだった。
【戦場ヶ原:国崎薬局にて廻間待ち。】
>>3>>6 ゴールドウェルはツバサの茶化しが癪に障ったようで、一挙に言葉をまくしたてた。
ツバサは『私と私の世界』の名が出たところでピクリと眉を動かしたが、それ以外についてはただニヤニヤと状況を愉しんでいるようにしか見えなかった。
しかし、ゴールドウェルから異能力の反応が出たところで、ツバサは顔色を変えた。
「この2人もこれ以上隠しておく事も無いだろう」
そう言ってゴールドウェルが能力を向けたのは天井のダクト。ツバサは形相を変えて立ち上がった。
「きゃぁっ!」「うわわぁっ!」
甲高い悲鳴とともに円卓の真ん中に落ちて来たのは二人の少年少女。―――煌神リンと桐北修貴である。
「リンッ!!」
ツバサが声を上げるのとレオーネがその名を呼ぶのがほぼ同時に聞こえた。
「―――チッ」
ツバサは静かに舌打ちをした。
機関のファーストナンバー。それほどの使い手たちが一堂に会しているのだ。今ここにいる者で、ダクトの中に隠れていた二人の存在を感知できないかった者などいないだろう。
しかしツバサにとって重要なのはそこではない。
今こうして幹部たちの目の前に『脱走者リン』の姿が露わにされてしまったことの方が重要なのだ。
「…おやおや、こんなところでどうした子ネズミちゃんよ。」
額に癇筋を走らせたまま、金剛はにやりと笑ってこの闖入者たちに声をかけた。
ツバサはそのまま金剛に視線を移す。彼は金剛とある約束をしていたのだ。
『リンの中にあるメタトロンはすべて譲る代わりに、彼女に危害を加えないでくれ』
というものだ。金剛はそれを、『リンが余計な行動をしないこと』を条件に承諾した。
だからこそ彼はリンを監禁するのではなく、出来る限りの自由を与えて軟禁状態にしたのだ。
しかし、彼の目測は、妹を愛するあまりに見誤ってしまったようだ。
今、こうしてリンは同サンプルである桐北とともに幹部たちの目の前に姿を現してしまった。
これはもう言い訳のしようがない。
金剛は焦燥感にかられるツバサの顔を一瞥すると、ニヤリと笑って呟いた。
「言うことをきかねェ悪い子にゃァ、きっついお灸を据えてやらねぇといけねぇみてェだな。…ルージュ!」
名前を呼ばれた黒髪の美女が嬉しそうに振り向いたのを見て、ツバサはさらに焦った。
「…ちょうどいい機会だ。こいつらを捕らえて研究室の収容独房へブチこんどけ。てめェの力、エライさん方に見せてみろよ。」
リンと桐北に許された行動は、ただおびえることだけしかなかった。
>>7 今朝の大木南川周辺の様相は、明らかにただならなかった。
旭光を跳ね返して流れる大河そのものは、如何にも平静を装ってはいるが、
一度何人かが通りかかれば、すぐ様異変に気付く。
そよ風に誘われて、ふと深呼吸でもしようものならば、
鼻腔を打つ臭気、まろやかな中に刺激を孕む、一種のチーズ臭を嗅ぐであろう。
更に万が一、好奇心に従ってよくよく臭気の正体を嗅ぎ極めんとして、
より一層鼻を利かせれば、次第に、たかがチーズの醸す臭いでないことにも気付く。
そして次第に、顔面蒼白の内に、臓腑から突貫する未消化物を押さえきれなくなる。
――腐乱臭。
麗らかな朝には少々似つかわしくないパフュームである。
とは言え。大木南川周辺一帯は比較的人跡稀であるから、
実際に通りがかる人などそうはおらず、この異変は誰の注意を引くでもない。
これほど歴然とした怪異が誰に気付かれるでもなく、
紛れもなくそこに存在しているのである。
異変はもう一つあった。
大木南川をまたいで憚る鉄橋、その中央に、
辺りの静けさを払うようにして立つ大男の姿があった。否、巨人が相応しい。
巨人の表現は決して誇張でない、その背丈は天を穿つ程に高く、
青年男性の平均身長を、容易く頭一つ二つは飛び越えている。
肩幅も馬鹿にならない。衣服も所々はち切れんばかりに隆起している。
ただ、自己主張の強すぎる肉体に反して、顔面は些か大人しげであった。
目深に被ったキャップとサングラスによって、表情は殆んど読み取れないのであったt。
しかし、顔面積下半分は露となっており、その浅黒い肌と、
引き攣ったような笑みを浮かべる唇は隠しきれていない。或いは隠そうとしていない。
またその右手には、物々しい男の雰囲気とは正反対の、
けばけばしい黄色の財布が握られ、揺すられるごとに小銭の躍る音が漏れていた。
しばし、ぎっしりとしてさぞ中身の詰まっているであろうそれを弄んではいたが、
視界の端に、或る動く一点を確認するや、さっさとデニムの尻ポケットにしまいこむ。
遠く河川敷の草原を漂う一点は、次第に橋上の巨人に近づくにつれ、輪郭を明瞭とさせる。
それは、若葉色の上着を羽織った、少年か、或いは少女か、巨人には確然としない。
二人の距離が更に狭まって、接近者の端正な顔立ちがいよいよ露になった時、
野獣じみた荒い吐息を漏らした巨人の挙動は不気味であった。
先と同じ、引き攣った笑みを浮かべると、ジャンプ一番に橋から飛び降りて見せた。
黒い影が宙を舞い、まだ冷たさの残る空気を切って降下。
接近者の目の前に、地鳴りを呼ぶほどに勢い余った着地を決めたのであった。
「Oh,how cute,yeah!あなたは綺麗なヒトですねー、あなたは散歩しているんですか?
私は一人ですから、歩きたい、一緒に。そして、ご飯を食べましょう。」
初対面の相手に向かって、いきなり分別の無い挨拶を浴びせるという非礼ではあるが、
少なくとも言葉そのものに害意は無い。
しかし、その嫌に抑揚ある口調からは猥雑さが漏れ出して、本心を余さず曝け出していた。
「デートです。私は優しいから、怖くない。行きましょう、私と一緒に。
あなたが男性でも女性でも、私は気にしません。Let's go!」
このような巨体が必死に自己をアピールするのは、見ように寄っては滑稽でもある。
しかし只の滑稽ではない。闇を抱えた、一種のブラックジョークである。
闇とは即ち、目の前の美少女もしくは美少年に、よからぬ狙いをつけている事。
また、闇はもう一つ、即ち、
己の後方、橋の下で、ぐずぐずに腐れ落ちている繊維質と肉塊の混合物を、
浅ましくも、己が巨体をもって隠そうとしている事。
【サイゾウ:現金を得るためだけに、婦人を殺害。その後、七草をナンパ】
>>10 これは一体どうした事だ……! リンは今特殊な環境化に捕らえていた筈だ。
そこは独房と呼ぶに相応しい空間で、一切の外部とのコミュニケーションが隔離されている筈。
それがどうして……。いや、そもそもどうやって抜け出して来れたのか?
リンの管理はツバサがその役を買って出ていた事を思い出す。
つまりは、あの男の肉親に対する情がこのような状況を招いたのか。
ツバサめ、余計な事を……!
不味いぞ……! これは非常に不味い……!
一番の問題はNo.3達に知られてしまったのが非常に不味いのだ。
これは要らん軋轢を生み出しかねん。
が、今はそのような事を気にしている場合ではない。
>「…おやおや、こんなところでどうした子ネズミちゃんよ。」
チラリと城栄の奴を一瞥する。その額には案の定癪筋が浮かんでおり、
彼の怒りを窺う事が出来る。
>「言うことをきかねェ悪い子にゃァ、きっついお灸を据えてやらねぇといけねぇみてェだな。…ルージュ!」
止すんだ、金剛。その女は危険だぞ……!
>「…ちょうどいい機会だ。こいつらを捕らえて研究室の収容独房へブチこんどけ。てめェの力、エライさん方に見せてみろよ。」
「ルージュと言ったな! その二人は必要だ!
殺すんじゃあない!」
私は勢い良く椅子から立ち上がると声を荒げた。
ロストナンバー
城栄の命を受け、今にもリン達へ飛び掛らんとする忘却数字のルージュ。
彼女の挙動の一切を見逃す訳には行かない。
この女がどのような性格をしているか、そこまでは知らん。
だが、これまでのロストナンバーを見てきた限りでは連中は加減を知らなさ過ぎる。
このままではリン達が危険に晒される。
ようやく集めたヤハウェだ。ここで散らされる訳にはいかん。
……城栄の事だ。これも計画のステップアップに組み込んでいたのだろう。
この一件を利用して、ツバサの管理下から自身の直轄の管理下である研究エリア独房へと
二人を監禁するつもりなのは目に見えている。
リンに手を回そうとすると何時もそこには兄ツバサが障害として立ちはだかっていた。
それは正真正銘の障害であり、本来ならば排除すべき物なのだが……。
如何せんツバサ自身有能であったし、その力が今の機関には必要不可欠な物であった為、
"排除"が出来ないのだ。
故にこういう機会はリンを妹思いの兄の下から遠ざける絶好のチャンスであった事は言うまでも無い。
凡人の私でもそう考える。これを城栄が考え付いていない訳が無い。
彼の頭の中では、そのような図式が既に成り立っていたのだろう。
リンと桐北が脱走した事も、ゴールドウェルが彼らを露見させる事も……。
そしてそれらを利用して、ツバサの下から奪い去る事も……。
恐らく、この会議室に入った時から既に知っていたのだ。
――私はこの男が味方で良かったと安堵すると共に、
底知れぬ彼の器の大きさに驚愕するより他に無かった。
【レオーネ:総合会議室】
【ルージュが桐北とリンに対して危害を加えるつもりなら二人に対して加勢するつもり】
人通りの少ない路地裏を、俺とリースは歩いていく。
時折人とすれ違うものの忙しい朝の時間帯なので、誰も俺たちの事を気にしている様子は無い。
また、歩いている間ずっと黙っていると言うのも気まずいので、俺たちは適当な会話を挟んでいる。
とは言っても、リースが俺が学校にいなかった間の事を一方的に聞いてくるだけだったので
会話をしていると言うよりは、俺が喋っていたと言う方が正しいかもしれない。
そうして歩いていると、目的の薬局に到着した。
「付いたぞ、ここだ」
「へぇー……こんな所に薬局があったなんて。
俺、初めて知ったよ」
「ま、個人経営の店だしな」
そう言って、俺は店のドアを開ける。
どうやら数人は先に来ているようだ、奥のほうに影が見える。
来ているのは戦場ヶ原と池上……二人だけのようだな。
……ん?ちょっと待てよ?
「戦場ヶ原?
屡霞はどうしたんだ、一緒に行動してたはずじゃあないのか?」
すると、「途中で分かれた」と一言だけ返ってくる。
……こんな状況で別行動をとって大丈夫なのか?
そういいたかった俺だが、何やら深い理由がありそうなので黙っておく事にした。
「ああ、そうそう。
俺の後ろにいるのは……」
「リースってんだ。よろしくな〜」
朗らかに笑いながらリースは名乗った。
「リースも異能者で、俺達に協力してくれる。能力は……
……そういや俺も今さっき知ったばかりだから、能力は分からないな。
ちょうどいい、ここで能力を見せてくれないか?」
「ん、分かった」
リースは了承すると、手のひらの上に握り拳大の氷塊を作り上げた。
「見ての通り俺の能力は氷を作る能力。
ま〜、正確に言えば水や空気を凍結させる能力なんだけどな〜」
そう言うと、能力を解除して作り出した氷を凍解した。
氷が溶けた事によって、リースの足元には小さな水溜りが発生した。
「……さて、これからどうするんだ?
まさか、この人数で攻撃を仕掛けるわけにもいかないだろうし……
また仲間を集めに行くか?」
【廻間:薬局に到着、リースを紹介。
次はどういう行動をとるのか聞きたい】
【リース:自分の能力を明かす】
>>9>>13 >「だが、奴は俺の仲間である前に一人の『戦士』だ。奴自身その覚悟が出来ているし、それは無論俺にも言える。
> …しかしさっきからずいぶん弱気な類推が目立つな。池上燐介。いまさら臆病風に吹かれたわけでもねェだろう?」
「なに、少し気になったのさ。お前の中で守るべき存在と、そうでない存在を決める境界線がな」
力強く言い放った山田に向けて、俺は静かに返した。
俺はそれだけ言うとこれ以上何も言おうとはしなかったが、それは山田も同じであった。
こうして再び沈黙が場を支配しようとした時、俺は突如として店内のドアに首を向けた。
薬局に近づく二つの気配を感じたからだ。しかし、俺は身構えるようなことはしなかった。
何故なら、それら二つの気配からは敵意や殺気というものがまるで感じられなかったからである。
気配の主らが店の前にまで接近すると、店内のドアが外から開かれた。
ドアが開かれると、気配の主であろう二人の男が店内に足を踏み入れた。
一人は見覚えのある顔、昨晩の襲撃に加わった廻間であったが、その後ろから着いてくるもう一人の
金茶色の髪の毛を持つ少年の方は、俺は勿論、そして恐らく山田も見覚えのない人物であったろう。
俺や山田の「こいつは一体、何者か?」というような視線を感じたのか、金髪の少年は直ぐに自己紹介を始めた。
──それで分かったこと。
それは金髪少年の名は『リース』。異能者であり、その能力は『氷を作り出す』というものであった。
氷を作り出す──それは基本的には俺と同じ異能力であると考えていいのだろう。
そう考えながらも俺が特に驚きもしなかったのは、貳名製薬で闘ったケルベロスという化物の例に加え、
ブレザー男や衣田といった同じ異能力を持つ者が度々俺の前に現れたという経験からだった。
この世の中に果たしてどれだけの数の異能者が存在しているのかは定かではないが、
仮に自分と同じ異能力を持った人間が100人いたとしても、それは恐らく不思議とはいえないのだろう。
リースという人間についてある程度把握すると、それを見計らったかのように今度は廻間が口を開いた。
>「……さて、これからどうするんだ?
> まさか、この人数で攻撃を仕掛けるわけにもいかないだろうし……
> また仲間を集めに行くか?」
リースとは対照的に、俺はあくまで無表情のまま静かに答えた。
「……俺達に協力してくれそうな人材に心当たりがあるならそれもいいだろう。
だが、心当たりはあっても肝心のそいつの居場所が分からなければ、それは心当たりなど無いも同意。
手掛かりも無く、この広い市内で一人の人間を探し出すことなど時間と体力の無駄になるだけだからな」
>>9>>13 >「だが、奴は俺の仲間である前に一人の『戦士』だ。奴自身その覚悟が出来ているし、それは無論俺にも言える。
> …しかしさっきからずいぶん弱気な類推が目立つな。池上燐介。いまさら臆病風に吹かれたわけでもねェだろう?」
「なに、少し気になったのさ。お前の中で守るべき存在と、そうでない存在を決める境界線がな」
力強く言い放った山田に向けて、俺は静かに返した。
俺はそれだけ言うとこれ以上何も言おうとはしなかったが、それは山田も同じであった。
こうして再び沈黙が場を支配しようとした時、俺は突如として店内のドアに首を向けた。
薬局に近づく二つの気配を感じたからだ。しかし、俺は身構えるようなことはしなかった。
何故なら、それら二つの気配からは敵意や殺気というものがまるで感じられなかったからである。
気配の主らが店の前にまで接近すると、店内のドアが外から開かれた。
ドアが開かれると、気配の主であろう二人の男が店内に足を踏み入れた。
一人は見覚えのある顔、昨晩の襲撃に加わった廻間であったが、その後ろから着いてくるもう一人の
金茶色の髪の毛を持つ少年の方は、俺は勿論、そして恐らく山田も見覚えのない人物であったろう。
俺や山田の「こいつは一体、何者か?」というような視線を感じたのか、金髪の少年は直ぐに自己紹介を始めた。
──それで分かったこと。
それは金髪少年の名は『リース』。異能者であり、その能力は『氷を作り出す』というものであった。
氷を作り出す──それは基本的には俺と同じ異能力であると考えていいのだろう。
そう考えながらも俺が特に驚きもしなかったのは、貳名製薬で闘ったケルベロスという化物の例に加え、
ブレザー男や衣田といった同じ異能力を持つ者が度々俺の前に現れたという経験からだった。
この世の中に果たしてどれだけの数の異能者が存在しているのかは定かではないが、
仮に自分と同じ異能力を持った人間が100人いたとしても、それは恐らく不思議とはいえないのだろう。
リースという人間についてある程度把握すると、それを見計らったかのように今度は廻間が口を開いた。
>「……さて、これからどうするんだ?
> まさか、この人数で攻撃を仕掛けるわけにもいかないだろうし……
> また仲間を集めに行くか?」
リースとは対照的に、俺はあくまで無表情のまま静かに答えた。
「……俺達に協力してくれそうな人材に心当たりがあるならそれもいいだろう。
だが、心当たりはあっても肝心のそいつの居場所が分からなければ、それは心当たりなど無いも同意。
手掛かりも無く、この広い市内で一人の人間を探し出すことなど時間と体力の無駄になるだけだからな」
実のところ、協力してくれそうな人間の心当たりなら俺にはあった。
しかし、その大半がそもそも所在地不明、連絡先不明で、接触すら困難なのが現状である。
俺が始めに国崎薬局を訪ねたのも、唯一所在が明らかである人物が国崎であったからだ。
俺は廻間に言いながら、無意識の内に左手をズボンのポケットへと収めていた。
すると、俺は左手の指先に、何か硬い紙のようなものが当たることに気がついた。
長束から得た会堂を記したリストの紙だろうか? いや、それは前に籐堂院に渡してしまっているので違う。
今の俺の持ち物は財布に携帯、そしてクラコフ戦で得た戦利品のタバコとライターだけであるはずだ。
では、この硬い紙のようなものは何なのだろうか? そう気になった俺は、それをポケットから引き抜いた。
見れば、それは長方形の小型の紙で、誰かの名刺のようであったが、何も書かれてはいなかった。
だが、その紙を裏返してみると、そこには『宗方総合調査事務所』という社名と共に、
そこの住所と電話番号が記されていた。
(調査事務所……? なんだこれは……?)
聞き覚えの無い社名が記された名刺。俺はこの名刺を一体いつどこで手に入れたのかと
直ぐに過去の出来事を振り返った。そして、俺は一つのことを思い出すのだった。
そう、長束に招かれた夕食会からの帰り際、俺に強引に名刺を渡した人物のことを。
「……フッ、タイミングが良いというべきか。まさかこんな所から手掛かりが見つかるとはな。
──『宗方零』──。折角見つけた手掛かりだ。とりあえずこいつを当たってみる、か……」
宗方の名刺を手に取りながら、俺は三人を一瞥した。
【池上 燐介:宗方零と接触を試みることを考える。現時刻AM8:30】
>>8 二本目の煙草に火を付け、一服。「彼」の嗜好であるこの煙草は正直旨い物ではないが、何処となく心身が落ち着くので悪くは無い。
部屋にレオーネからのメッセージが響く。なるほど……どうしても、「彼」もとい「俺」を手に入れたいようだ。
レコーダーが無機質な停止音を挙げ、部屋に沈黙が戻る。……「彼」が聞くべきでは無いな。ここに来る前の不安定な精神状態では、機関に走りかねない。
宗方と神重の反応は至極冷静だ。特にリアクションを起こす事も無く、「俺」に怪訝な表情を向ける事も無い。
と、宗方が俯いていた顔を「俺」に向けて静かに口を開いた。
>「私は依頼人への義務を果たす、貴方及び恋島さんの身柄は守りきる。
これは私の職業的義務と公共性にかけてお約束しよう」
それは心強い。けれど申し訳ないが、その心意気だけを受け取っておく事にしよう。
単独行動の方がお互いやりやすいだろうし、なにより「俺」が困る。これから色々とね。
と、宗方は二言三言言葉を紡いだ。聞き逃さぬよう、耳を傾ける。
>「だが質問がある、そもそも炎魔とは何だ?アブラハムが炎魔をよみがえらせると言うが
一体どういう事なのですか?」
「俺」は煙草を揉み消し、宗方に視線を向けた。なるたけ柔和な笑顔を作って。
なかなか良い質問だ。何故なら「俺」が聞きたいくらいだからな。奴らの本意を。
「申し訳無いが私も貴方達と同じく、炎魔について知りえる事はあまり無いのです。が……」
席を立ち、永瀬が「俺」の位置を細くしていないか窓際まで歩み寄る。人の姿は無い。
それにしても雑多な風景だな……「彼」の住んでいた東京に、確かに似ている。
「ぼんやりと記憶を辿ると、何となく思い出せますね。
何らかの文献で読んだと思うのですが、世界で初めての異能者……という覚えがあります。それも……」
「とんでもないエネルギーの持ち主だったようで、常人じゃ手をつけられないとかなんとか。
まぁ、いうなれば化け物ですね。そんなのを復活させて、「機関」とやらは何を考えているやら……
例え復活させた所で炎魔が素直に従うとは思えませんし。世界をリセットでもする気じゃないでしょうか」
自分自身、記憶を辿ると確かに「俺」は炎魔について何かを知っている。
・・・・・・・・ ・・・・
だが知っているだけだ。それが何時、何処で、どの様にかは俺は知らない。
「あぁそうそう、例のアブラハムですが、彼らが語るにその炎魔を復活させるのに不可欠なエネルギーとか。
正直傍迷惑ですよ。誰がそんなキナ臭い物の為に、ね」
振り返り、椅子に座りなおす。取りあえず宗方の疑問には順々答えたつもりだ。宗方には不服かもしれないが。
さて、もう1分程度しかない。「俺」は頭の中では話すべき内容に順序を付け、ゆっくりと語る。
「取りあえず一つはっきりさせたい事は、私も貴方達と同じく「機関」に敵対する者であり真実を追求したいという事です。
恋島達哉の意思に背く訳ではありませんが、私自身の考えを述べると……」
「まず、「機関」が必要としているアブラハムのデータを得る事が先決です。なるべく細かくね。
そしてそのデータを元にアブラハムを探し出し、是が非でも仲間に引き入れる。もしくは保護する。どちらにしろ「機関」に渡してはなりません。
……ま、そんな草の根運動していたら、あっという間に「機関」に出し抜かれてしまいます」
「ならばどうすれば良いのか。
非常にリスキーですが、「機関」に直接コンタクトし……どんな方法で良い。炎魔の居場所を聞き出すしかありません。
「機関」の狙いがアブラハムと分かった時点でやるべき事は二つに一つです」
ここまで一気に話していて、浮き上がる矛盾点に我ながら呆れる。これじゃどっちにしろ、戦う事でしか道が無いと提示しているようだ。
なるべく余計な犠牲を出さずに奴らの支柱を叩きたいが、何しろ何も奴らに関する情報を持ち得ていないのだ。それだけでも非常に不利な状況だ。
……だからこそ、宗方、そして神重には動いて貰わねばならない。例えそれが、暗雲立ち込める螺旋の渦だとしても。
両手を組み、宗方を一瞥する。声のトーンを落として、笑顔を打ち消す。
「アブラハムを「機関」に奪われる前に手に入れるか、炎魔を潰すか……どちらが危険なのかは、賢明な貴方達ならお分かりでしょう。
しかし事態は一刻の猶予も許しません。もう……」
視線を落とす。実際残されている時間はほんの僅かだ。「俺」にとっての時間は。
残り30秒か……もうそろそろだな。「俺」はしまったメモ帳を取り出し、1ページを切り取ってある文章を書いた。
宗方の眼元にそれを渡す。口に出すとすぐに時間が経ってしまうからな。
『護衛はいりません。恋島達哉には私が付いていますし、何より恋島達哉は強いですからね。
貴方達にはこれまでと同じく「機関」に対してのを続けてもらいたい。メールアドレスと電話番号を記載しておきます。
その代わり、貴方達も私、及び恋島達哉に連絡先を教えてあげて下さい。お互い有益な情報を得られたら連絡しあいましょう』
「残念ですが、もう時間切れです。その紙は、恋島達哉には見せないようにしてください。恋島達哉にはうまく言っておきますから、協力して下さい」
「それでは……」
「俺」はゆっくりと目を閉じ、「彼」と意識を交代する。次に出てくるのは……。
【恋島達哉と意識を入れ替える】
【AM:8:30】
ごめんなさい、ちょっとタイプミスorz
×「機関」に対してのを続けてもらいたい
○「機関」に対して調査行為を続けてもらいたい
>>11 柴寄の前方には、川を跨ぐ鉄橋がある、それを目前とする距離に差し掛かった、その時だった、
―――何か、来る―――
身体に直接訴えてくる様な感覚、それは予感や直感などといったものよりも確然とした何かであった、そして。
忽然と影が柴寄を覆う、次の瞬間だった、空から、おおきな、ナニカが落ちて来た。
そのナニカは、風を切るように、そしてその勢いで落ちて来る、
風を切る勢いそのままで落ちて来たソレは、地面と接する、着地と呼ぶには余りにも規模の大きい事を起こしたソレは、
大地を穿ち、揺らし、打ち砕く、柴寄の身体を煽るには、その余波を持ってすれば十二分たる物だった。
柴寄は、その余波を受けた際に顔を庇った左腕を下ろす、そして落ちてきたソレがなんたるか見極めようとした。
「Oh,how cute,yeah!あなたは綺麗なヒトですねー、あなたは散歩しているんですか?
私は一人ですから、歩きたい、一緒に。そして、ご飯を食べましょう。」
ソレは動いた、ソレは黒い、そしてソレは、とてもおおきい。
そしてソレは、言葉を話した、そう、ソレは"落ちて"来たのではない、"降りて"来たのだ。
ソレは、見れば見るほど黒く大きく、一見すれば、熊の様にも見えた、
しかしその体表を装飾するのは体毛では無く、編みこんだ繊維、その所々には意味や事柄を持たせた文様が描かれている。
ソレは熊ではなく、人間だった、知性を持ち、人語を解し、柴寄と同じ理を引くのなら、それは紛れも無く人間なのだろう、少なくとも、柴寄にとっては―――
そして、先程の言葉だが、ソレ――、否、――彼が話した言葉、その言葉自体には何の害意も無いだろう、
しかしそれは、その言葉を文字として、意味だけで捉えた場合の話である、
言葉はその拍子息遣い、その抑揚や、話し手の身振り表情、その状態によって、その意味が千差万別に変る、
今の彼の、その下卑た口調からは猥雑さが漏れ出し、その言葉の意味を歪める。
柴寄とってその言葉の真意は定かではないが、彼に対し警戒態勢を取っている、
それも当然だろう、目の前に突然と落下して来て、いきなり分別も無い挨拶を浴びせる行為、
目の前の非礼千万な男に対して、柴寄は既に十分な被害を蒙っていた。
そして次の男の言葉で、柴寄の警戒は拒絶へと変る。
「デートです。私は優しいから、怖くない。行きましょう、私と一緒に。
あなたが男性でも女性でも、私は気にしません。Let's go!」
言い終えた後の男の口元卑猥なモノを溢し、その吐息は獣めいた雄のそれそのもので、それ等は全て、唯一人、柴寄へと向けられている。
先程出会った少年二人の時と同じく、初めは自分の事柄に、他者を巻き込みたくないという受動的な拒絶であったが、目の前の男の言葉を皮切りに、それは能動的な拒絶へと変る。
このままでは自分という存在が侵されるような、そんな予感さえ覚える、自分の中に入ろうとする人間など、柴寄にとっては必要無い、この男と関わる価値は、もう何処にも無い、そう思うと目の前の男が酷く卑しい存在に見えた。
行こう、これ以上、目の前のソレに関る必要はない、柴寄の進行を遮ろうとする男をかわし、そのまま通り過ぎる、男がその巨体を持って遮っていた視界が開ける、次の瞬間、柴寄の眼に飛び込んできたモノ、それは―――
「―――ッ!」
―――大きな――花が――あった―――
ソレは、ばけばけしい色を放ち、
その、極彩色の中で一つの房が、柘榴めいた口を開き、
果肉は、ぐずぐずに朽ち爛れ、膿んでいる、
そして実を区分けするかのように、内壁めいた白い骨が露になる、
生え揃った骨は実を溢さぬ様に包み込み、
ソノ中身を腑分けにしている――――
花に見えたモノは、人の遺体、不自然に朽ち落ちた肉の中央は大きく口を広げ、ソノ中身を余す事無く曝け出す、
その外壁も内壁も、何色とも呼べないモノに変り果て、唯一色と呼べる物は、規則的に生え揃った、白い骨のみであり、
同時に意味を持つモノは、その白い骨と、それに覆われた幾つかの臓腑のみである、
白い骨はその内側の臓腑を包み込み、そして臓腑は果肉としてその骨に包まれ、
辛うじて、ソレには果実としての意味を、そして、
それと同時にソレが人であった時の、彼女の紅い衣装がだらん、と虚しく地面に垂れ広がり、
それを花びらに見立て花の様に見る事も出来た。
だがソレはかつてあったモノの意味を失い、今では朽ちた繊維質と肉から成る有機物と無機物の混合物でしかない。
それでも尚ソレを人間とするのなら、その胸の部分のみが不自然に開き、まるで其処を起点に朽ちて行った様に見えるソレは、
果たして一朝一夕で成りえるモノなのだろうか、否、朽ちると云う現象のソレは、月日を経て、徐々にかつてのモノの意味を薄れさせて行くからこそ
朽ちたモノとして足り得る、垂れ広がった紅い衣装はその日のままの鮮やかな色を放ち、月日の経過を感じさせない、
故にソレからは、月日の経過と云うものが感じられない、ならばソレは朽ちると云う現象を経たものでは無いのではないだろうか。
とはいえ其処にソレが在る以上、ソレは朽ちたモノが在ると云う事であり、ソレが例えどんな経過を経ていても、ソレを観ていたモノが無い限りソレは朽ちたモノでしかない。
そしてその真意は、柴寄には解らない、柴寄は唯、その物事を淡々と捉える事しか出来ない、たとえその朽ちたモノがかつて人であったとしても、それが人の死に直結するとしても、
柴寄の心を動かす要因にはならない、肉親の死に対しても何も感じる事の無かった柴寄には、
ただただ其処に朽ちたモノが在ると云う事実だけを捉える事しか出来ない。
そして、柴寄の中から来るものは、感情から来るそれではない、もっと生物的な、目の前のモノから発せられているであろう瘴気から来るものである。
「……ぁ…ぁぁ…ぅぅ…う…あ…あ……」
体の中から何かが這い出てくる様な感覚、同時に体が熱を持ち、がくがくと足の感覚も失われて行く、
膝を着き、前のめりに這い蹲る、そして体の中を掻き回される感覚と共に、這い出てくるものを吐き出した、
「――ぅあ……ぁぅ…ぅぅぁ……――」
透明な液体を地面に溢し、それが糸を引く、口の中は苦く酸っぱく、軽く胃が焼ける様な感覚と、蟲が体の中を這いずり回る様な感覚に襲われる、
次第に、腕の力も抜けて行き、そしてそのまま地面に崩れ込む。
ソレは感情から来るモノでも無ければ、朽ちた遺体から放たれる臭気でも無い、
確かにその臭気は嘔吐を呼ぶものであるが全身の自由を奪うものでは無い、
柴寄の症状は他から来る何か、瘴気の症状のソレであった。
柴寄は言う事を聞かない身体で、目の前の己の嘔吐物を眺めながら、唯もがき苦しむ事しか出来なかった。
【七草 柴寄:謎の症状に襲われる】
>>13-16 池上は戦場ヶ原の言葉に短く返答すると、再び黙りこくってしまった。
そもそも生来無口な池上と、他人嫌いの戦場ヶ原の二人だ。仲良く雑談している方が不自然である。
至極簡素なコミュニケーションを終えた二人のもとに、廻間が見知らぬ少年を連れて戻ってきた。
「戦場ヶ原?屡霞はどうしたんだ、一緒に行動してたはずじゃあないのか?」
戻ってきて早々、廻間は屡霞の不在に気がつき、戦場ヶ原に声をかけた。
「…途中で別れたが、問題はねぇ。それより貴様の方は仲間でも連れてきたのか?なんだそいつは。」
「ああ、そうそう。俺の後ろにいるのは……」
「リースってんだ。よろしくな〜」
金髪の少年は、しとやかな見た目とは裏腹な陽気な声で自己紹介をした。
その後の廻間の紹介を聞いたところ、彼もまた異能者であるらしく、氷を生み出す能力であることを彼自身が体現して見せてくれた。
戦場ヶ原はその様子を皮肉な笑みとともに見守っていた。
(初対面の異能者の目の前で自分の能力を曝け出すとはな・・・。俺たちを仲間と信じているのか、はたまた考えなしのただの莫迦か…。)
「……さて、これからどうするんだ?まさか、この人数で攻撃を仕掛けるわけにもいかないだろうし……
また仲間を集めに行くか?」
「……俺達に協力してくれそうな人材に心当たりがあるならそれもいいだろう。
だが、心当たりはあっても肝心のそいつの居場所が分からなければ、それは心当たりなど無いも同意。
手掛かりも無く、この広い市内で一人の人間を探し出すことなど時間と体力の無駄になるだけだからな」
廻間は今後さらなる戦力の補強を提案したが、廻間、池上両名とも具体的な心当たりがあるわけではないようだった。
戦場ヶ原は自分の場合を考えてみる。
今まで出会った異能者―――…それは、桐北、屡霞、廻間、七重、リン、池上、籐堂院…。
しかし、そのうち廻間と池上を除いた全員はいずれも連絡がとれる状態にはない。
戦場ヶ原は顔を上げて廻間の方を向いた。
「…おい廻間、二日前に貴様と一緒にいた筋肉馬鹿はどうした。…あの無口な野獣みてぇな奴だ。」
七重について尋ねるも、廻間は力なく首を横に振った。
こうして考えてみると、戦力は限られてくる…。しかし機関という巨大な組織に立ち向かうためにも、まず必要なのは『数』だ。
「…しかたねェか。」
戦場ヶ原はため息をついてボロボロの携帯電話をとりだした。
心当たりがないわけではなかった。しかし、彼としても、再び『彼ら』の力を借りるのは心苦しいものがあったのだ。
『彼ら』―――そう、戦場ヶ原とともに機関を離反した、『もと虐殺部隊』である。
3年前の離反事件以来バラバラになり、あれから機関の残党狩りによって数は減っているだろうが、それでもそれなりの数がいるはずである。
彼らはいずれも戦場ヶ原の人柄に惚れてついてきた荒くれ者どもだ。
彼が頼めば喜び勇んで死地へと赴くだろう。…しかし、それが彼には辛かった。
(また彼らを俺の個人的な理由で闘いに巻き込みたくはない…、しかし…。)
戦場ヶ原はあたりを見回す。
廻間、リース、池上。ここだけでも3人の戦士が、機関打倒のために立ち上がっている。
それぞれが機関に何か因縁を持ちながら…。
「…。」
「……フッ、タイミングが良いというべきか。まさかこんな所から手掛かりが見つかるとはな。
──『宗方零』──。折角見つけた手掛かりだ。とりあえずこいつを当たってみる、か……」
戦場ヶ原が考え込んでいたところ、池上がニヤリと笑いながら一枚の名刺をひらひらと翳していた。
どうやら彼は新たな繋がりを見つけたようだった。
「『宗方 零』…?何者だ、そいつは。」
―――“鬼ども”に頼るのは、最後の切り札だ。
そう決意して、戦場ヶ原は池上に視線を移した。
【戦場ヶ原:機関時代のもと部下、通称『鬼ども』の存在をちらつかせるが、まだ明かすつもりはない。】
>>18 (ほう…これがアブラハムってやつか…)
(…………)
(どうしたよ智 気分でも悪いのか?)
(いや……なんでもない)
驚かざるを得なかったアブラハムの正体。
恋島という男も二重人格者…全く異種の物かもしれないが…もう一人の"蠢く少年"
恋島ではなく彼自身がアブラハムだと言い、これまでの経緯を語る。
それとほぼ同時に神重の精神には異変が起きていた。
同じ…いや全く別物と考えるべきだろうが二重人格の異能者。
それを目の前にしたときから何かの違和感を感じていた。
恋島とは別の名を…ただの通称かもしれないが蠢く少年の名を持つ男。
神重智 神重敬
作られた字は違えど同じサトシの名を持つ我々。
何故私はあえてサトシを名乗ったのか。記憶を隔離したいなら別の名でもよかったのではないか?
わざわざ過去を思い出すような名を…なぜ名乗った。これすらも機関の陰謀?
名を名乗ったのは私自身だ。しかしそれが既に仕組まれた物だったとしたら…?
――格の一致によ――力な異――
!?
何か…思い出せない記憶がある。
しかし思い出そうにも情報をこれ以上引き出すのを拒否するかのように、記憶の欠片が少し引き出されただけだった。
蠢く少年の話を聞いている間我々…いや私はこの違和感に悩んでいた。
勿論それは表の顔に出さないようにだが…。
私の隠された記憶は間違いなく…二重人格及び多重人格に関係している。
記憶の中身は気持ちのいいものではないことに間違いはないが。
この考え事をしている間に蠢く少年の話は終わったようだ。
蝙蝠達のお陰で聞きそびれた部分もほとんど記憶に入れることができた。
あの様子だと"彼"の仕事はここで終わりのようだ。
多重人格ではない限り次に出てくるのは恋島本人だろう。
そしてこの短時間であれだけ大きな話をしたのだ、宗方も多少精神的に疲れているだろう。
それは私にとっても同じことだった。こういう時には紅茶に限るのだが……。
宗方のデスクを見るとそこには空のティーカップが。
「宗方、代わりの紅茶をいれようか?
恋島君もよければ飲まないかな?」
意識が戻ってるかどうかは別にして、一応恋島にも話を振っておく。
そう言えば私はまだ恋島に一度も喋りかけていないことを思い出した。
【神重:蠢く少年を見たことによって精神的な違和感を覚える】
>>10>>12 この様子ではこの2人は後者だったようだ。
という事は今用意されている隠しだまは1人だけか?それともまだ私に気付かせていない者がいるのか?
まあいい。いずれにしろそれをあてにするつもりなどないのだから…。
誰も私を引き止めるつもりも無いようだし、当初の予定通り先に会議を抜けさせてもらおう。
――さて。1人会議室から出た後、データベースからいくつかのスコアデータは炙り出す事に成功した。
…それにしても酷い状況だな。これは見せられないのもいたしかたあるまい。
――『虐殺部隊』はスコアの低い者を優先的に排除するという方針だったかな?
放っておいても戦わぬ者はいずれその報いを受けるのだから意味の無い事なのだ。
まあ"弱者"たる彼らにはそういった事でもやらせない限りは使いどころも無いのだろう。
どちらかといえば問題なのは無駄にスコアの高い者であろうに。
生き残るための最低条件、スコアを2倍にする事。そこまで稼げば充分なのだ。
だが念には念を…などと余分なスコアを稼ぐ者が出ると、最終的にそれだけ必要以上に死ぬ者が出る。
もちろんスコアの余っている者を殺しても同様。この選定はそういうシステムだ。
その均衡を乱す者は取り締まらねばなるまい。
『ハウンドドック』が本部強襲を目論む"違反者"、『虐殺部隊』が戦わぬ"弱者"
なら私は力を奪いすぎ、生き残る者を減らす"強者"を標的とさせてもらおう。
『歪んだ重力(インセインオーバードライブ)』『幻想鋼刃(ブレイドミラージュ)』『氷雪昇華(スリーピングエクソダス)』
特にここに来る時に会った3人は酷いものだ。ほとんどが『虐殺部隊』の屍によるものだがな。
…やはり17も空席となっているな。負けの見えていた戦いを無理にでも引き止めなかった私の責任でもある。
古い付き合いだった『鬼神機関(グレネイドサイクル)』の仇もいるし、この辺りに要点を絞って追ってみるとするか。
私は社内で休息と食事を終えた後、街へと出た。
【ゴールドウェル:1人会議を抜けて街へ出る】
26 :
虐殺部隊:2009/03/05(木) 23:38:32 0
>>12 混沌とした会議だ。
幹部が集まってるというのにその幹部が喧嘩をはじめる始末。
もっともこの会議の内容は一流企業や正義の味方の集合では無いことは明らかであるが…。
四つの漆黒、それぞれが城栄の言葉を受けて態度を示していた。
「……………」
戦場ヶ原天…次に俺が敗北すれば俺の命は無い。
だがそれでいい。俺が奴に敗北することはもう無いのだからな…!
「やれやれ…これでスティクスの標的は確実に絞られたか…」
城栄の言葉で恐怖に負けるかと少し悩んでいたセルゲイだったが…。
この考えは杞憂に終わったようだ。
「あたしも自分の体を久々に動かすとするかね…」
研究材料も揃ったことだし、久方ぶりに動かなければ城栄に忘れられてしまう。
研究では評価されても、そろそろ異能者としても本格的に評価されたいのだ、と黒神。
「フフッ…金剛様…」
城栄の言葉に物凄い上機嫌な様子のロルト。
僕がスティクスを踏み台にして隊長になるのもそう遅くは無いんじゃないかと
実に子供らしい考え方をしていた。
それぞれが反応を見せた後、現れたのはルージュと呼ばれる女。
名指しこそされなかったものの、虐殺部隊が貶されたのは間違いなかった。
ロルトが噛み付こうとしたものの、城栄に褒められた手前何か言うわけではなく鋭い視線を向けるだけであった。
その虐殺部隊の中で全く別の考え方をしていたのが、黒神だった。
(……YH-7823……ロストナンバーを前に出すとは…城栄様も何をお考えなのやら…)
黒神はため息を吐く。天才的な頭脳を買われて実験に参加していた黒神にとって
この光景はあまり好ましいものとはいえなかった。
(確かにアレの強さはかなり強力だろうが、まだ確実に信頼できるレベルのものではない
それこそ暴走すればどうなるかわかったもんじゃないよ…)
こともあろうに城栄はそのYH-7823に謎の侵入者の捕獲を命じたのだ。
「ルージュと言ったな! その二人は必要だ!
殺すんじゃあない!」
レオーネの言いたいことはわかる。彼らは恐らく加減という物を知らないのだ。
YH-7823といえば確かに他のロストナンバーと比べれば多少完成度が高い作品といえよう。
しかしあくまでそれは他のロストナンバーと比べれば、の話だ。
黒神も何か発言をしたい、しかし研究室ならともかく、ここはファーストナンバーが集まる会議室。
それをセカンドナンバーである黒神が発言を許される内容ではないとわかっていた。
とにかく今はロストナンバーが加減をしっているレベルにまで制御が可能なことを祈るだけだった。
【虐殺部隊:会議傍観】
>>10-12>>26 なんだか暇だナー…。
折角登場したのに白髭のおジィちゃんは勝手に退室しちゃったし、赤髪のおニィちゃんは金剛様を怒らすし。
もうちょっと、驚いたっていいのにネ。
ボクの姿知ってるのって金剛様とレオーネ…?だっけ、その人とあと向こうに座ってるピアス女だけなんだから、
もう一寸反応したっていいと思うんだけどナー。
ま、こんなに殺したらおもしろそうな人が目の前にたくさん居るから、気分が悪くはならないナ。
部屋を出て行こうとする白髭のおジィちゃんがこっちを向いた。
「そうだYH-7823?」
「ボクはその記号的な名前、キライだって言わなかったかナ?」
一応言っておいたけど、あーゆータイプって絶対なおさないんだよネー……
「この2人もこれ以上隠しておく事も無いだろう」
うん?
ドササッ
人が降ってきた?なんでー?
「リンッ!!」
……リン?あぁ、アブラハムの天然者さん達の名前のリストにそんな名前があったっケ。
ふ〜ん、この子が…おっと、触らないヨ。金剛様の指示があるまでしゃがんで見るだけ、見るだけ。
「言うことをきかねェ悪い子にゃァ、きっついお灸を据えてやらねぇといけねぇみてェだな。…ルージュ!」
「は〜〜〜い。」
「…ちょうどいい機会だ。こいつらを捕らえて研究室の収容独房へブチこんどけ。てめェの力、エライさん方に見せてみろよ。」
やった、この国に来ての初命令だネ!!
「ルージュと言ったな! その二人は必要だ!
殺すん殺すんじゃあない!」
「分かってるって、生きてりゃいいんでしょ。生・き・て・れ・ば♪」
それだけ言うと天然者の男の子の喉元を素早く掴んで持ち上げてやった。
「ん〜、でも抵抗しないのって詰まんないんだよネー。ほら、なんかやって見せて、本物のアブラハムでショ?
ボクより上の存在ナンデショ……?」
喉を掴んだまま右へ左へと揺さぶってみるけど、なんでコイツを見てるとこんなにムカつくのかナ?
「く、くそ!!」
おや?ボクの顔に向けて突き出したその掌でなんかしてくれるのかナ?
「『放電‐スパーク‐』!!!!」
バチンッ!!!目の前で青っぽい火花が散った。……綺麗だナ。
「……」
……うーん、まぁ痛いほうかナ?あ、でも捕まってたのなら異能を封じられてるんだよネ。
なら今のはがんばって絞りきった最後の一撃だった、って事かナ?
「…そうだとしたら、それでボクの顔を半分も炭に出きたんだ。やるネ。」
でもこの程度の力なら模造品のボクの方が全てにおいて圧倒的に上だネ。
さて、初見の人たちは驚いてるかナ?電撃で顔が右半分真っ黒なのに喋るボクの姿に。
「じゃあ、こっからボクのびっくりショーだヨ。ハイ、ナンタラカンタラ〜。傷よ治れ〜。」
ボクのテキトーな掛け声とともに、顔が再生されていく感覚が疼く様に伝わってきた。
「ハイ、元通り。これがボクの…正確には今のボディの力だネ。ボクが云ったとおりの事が起きるノ。
さっき表れたのもボクが自分の体を消したからだヨ。」
ハハ、天然者さん達二人とも驚いて呆然としてるヨ。
「ふふん、こんなことも出来るヨ。上がれ。」
そう言い放つと男の子の体が上がり、天井にぶつかった。
この能力はボク以外の生き物には使えないから、服に適用してやったの。
「下がれ。」
今度はテーブルに叩き付けてやる。結構いい音がしたんじゃないかナ?
それにしても、ん〜?なんでかナ?これやると凄く胸がスッとする。
「や、やめてください!!」
「ん?」
振り向くとリンが燃えるような瞳でこっちを睨みつけている…つもりなのかナ?
「……あ、そうだお仕置きなんだから二人ともやらなくちゃだめだよネ。」
この二人を見てるとホント何故かムカつくナ。アブラハムってみんなこうなのかナ?
【ルージュ:桐北を何回か天井と床に叩きつけたあと、制止に入ったリンに能力をかけようとする】
夜が明けた。私は無事帰って来たが、小村さんが帰ってこず。……。……。
「探すのが大変だから占い師に相談しようと行列に朝まで並んで……なわけないか。」
そんな事を考えつつ、狭くていろんな物で混雑してる狭い室内で朝食のジャムパン(ブルーベリー味)をかじった。
他の部屋は綺麗に(といっても全部ではないけれど)しているのは、それはただ単にストレス発散のようなもので
別段私が綺麗好きな訳ではない。むしろ散らかってる方が落ち着くので自分の生活ルームは散らかっている。
でも時々は片付けないと埋もれちゃうな、この本の山に…。
横に天井にまで届かんとする…いや届いっちゃってる本の山を見上げた。
この山の4割はこの会堂に置いてあった書物だ。うっかり忘れていったのか、そんなに重要じゃなかったのかは分からないが。
残る6割はアーリーが気に入った、又は読みかけの小説の山だ。
ここに住み着いたのは二年と数ヶ月前、それから時折小村さんから暇つぶしになるだろうと本が送られてるが
それにハマってから、なんとか小村さんや機関の残党狩りの目を盗んで集めてるのだが、こんなになるなんて……。
「うーん、自分でもこんなに集められるとは思いませんでしたね……って、そんなことより。」
小村さんがどうしてるかだ。もしかしたらこっちに向かってるかも知れないし、二階から様子を見てみようかな。
ジャムパンも食べ終わりそう思い立ったち、昨日のままの格好で部屋を出た。
今居た研究室は地下にあったので階段で一階にすこし駆け足で昇っていった。
「……あれは…」
一階に上がり、この屋敷の中央フロアにつくと見かけない女性が立っていた。
見たところ迷い込んだ浮浪者やホームレスには見えないが。
「まさか、機関の人間とか?」
そう呟く瞬間に見つからないよう壁に背をつけた。
その可能性は充分にあるだろう。こういう廃墟をねぐらにしている異能者を狩りに来た、と考えられる。
それに機関の人間じゃなくてしても異能者なら同じ異能者である私を見つけたら自分の能力を上げようと私を狩ろうとするだろう。
それならば、先手必勝、神風特攻、仕掛けて仕損じ無し。
「……動かないでください。」
不意に聞こえた背後からの声に女性が動きを止めた。
「……今あなたの後ろの柱から、あなたの心臓を狙ってマシンガンを構えてます。質問に答えてください。
あなたは何の目的でここに来ましたか?」
今の言葉には二つ、嘘が混じっている。
一つ目は、私は彼女の後ろの柱には居ない。その柱の付近に小型のスピーカーを滑らこませ、違う柱から声を静かに発している。
相手の異能力が身動きせず発動できるタイプなら近くに居るのは危ない。
二つ目は、確かにマシンガン(昨日戦った虐殺部隊からこっそり頂いた)は構えているがその狙いは心臓ではない。足だ。
私は人を殺すのは嫌いだから、そして自分のテリトリーに入られたから相手を殺すような人間じゃないから。
異能で人を簡単に殺せるからって機関の虐殺部隊や喜んで人を殺すような……私はそんな人間じゃない。
【アーリー:美月に質問する】
アブラハムは語った。
炎魔とは世界で最初の異能者で、とんでもないエネルギーを持つ。
それは人の手に負えるものではなく、復活させたところでコントロールできるか解らない。
しかもアブラハムが言うにはこうだ、「機関は世界をリセットするつもりか」と。
私にも解らない。
アブラハムの話が真実なら、炎魔とは核以上の破壊力を持つ者というに事なる。
既に世界を支配して居るであろう機関が、何故そんなものを欲しがる?
「あぁそうそう、例のアブラハムですが、彼らが語るにその炎魔を復活させるのに不可欠なエネルギーとか。
正直傍迷惑ですよ。誰がそんなキナ臭い物の為に、ね」
――つまり炎魔とやらは、復活のためのエネルギー、贄を必要とする――
「取りあえず一つはっきりさせたい事は、私も貴方達と同じく「機関」に敵対する者であり真実を追求したいという事です。
恋島達哉の意思に背く訳ではありませんが、私自身の考えを述べると……」
アブラハムは今後の方策を話し続ける。
私はそれを聞きながら、久々に見知らぬ感情がわき上がってくるのを感じた。
それが殺意≠セという事に私は気づいた。
長い間心の隅に仕舞い込んでおいたので気づかなかったのだろう。
くわえ煙草の先端の火が、タバコを少しづつ灰にしていく。
チリチリという音がやけに鮮明に聞こえた。
よろしい、長束誠一郎も金剛城栄も同じく有害な人物と言うことがよく解った。
――滅ぼさなければな。
そこで、アブラハムは私の顔を見据える。
私は感情を悟られたような気がして、アブラハムに視線を返す。
「アブラハムを「機関」に奪われる前に手に入れるか、炎魔を潰すか……どちらが危険なのかは、賢明な貴方達ならお分かりでしょう。
しかし事態は一刻の猶予も許しません。もう……」
それは解っている。
とにかく、関係者に近づき情報を得る。捜査の基本だ。
アブラハムは最後に、護衛は必要ない事と連絡先を伝えて退場した。
「それでは……」
アブラハムは目を閉じた。
気づくと、口元で煙草が灰になっている。
私はタバコを掴み、無造作に灰皿へと突き刺す。
吸い殻から立ち上る煙を私はじっと見つめていた。
「宗方、代わりの紅茶をいれようか?
恋島君もよければ飲まないかな?」
神重が私に紅茶を勧めてきた。
「ああ、すまんな。一杯貰おう。」
意外だった、傍若無人と言って良いこの男にそんな真似ができるとは。
おそらく彼も多少なりとも動揺しているのだろう。
「お話は承りました、何かあれば連絡しますよ。」
私は恋島の言葉を待つ。
【宗方零 恋島の反応を見る】
>>24>>30 ――あれ? なんで視界が真っ逆さまに落ちて来るんだ?しかもいつの間に椅子に座ってるし……って。
「いてぇっ!」
視界が真っ白になって後頭部に鈍い痛みが走った。真っ白……蛍光……灯? 俺は……俺は確か……。
あぁ、そうだ! 俺は立ち上がって、間抜けに倒れている椅子を起こした。そうだそうだ、何か分かんないけど、急にめまいがして……。
確か宗方さんに言われてバックの中身を出したんだ。それで……ええっと……駄目だ、思い出せない。
何だろう、偉く重要な事を忘れてる気がする。けれど思い出せない。とにかく一つだけ分かってる事がある。
俺は椅子に座ったまま転んだって事だ。……いや、よく分かんないな。何時椅子に座ってたかも覚えてないし。
とにかく椅子に座らねば。ふと、痛い視線を感じて顔を上げると、宗方さんと神重さんが訝しげな表情で俺を見ていた。え、えっと……。
「す、すみません! ちょっと寝不足だったもので……うつらうつらしてて……その……」
弁明しようとするほど、凄く情けない気がしてきた。実際どうしてこうなったか上手く説明できないからだ。
なんつうか、記憶がすっぽ抜けてる。とっても大事な事を話していた気がするのに。偉くむず痒い。
「それで……すみません、どこまで話しましたっけ……」
『達哉、達哉? 大丈夫か?』
耳鳴り、お前今までどこ……てか、いたなら警告しろよ! まぁ転んでからじゃもう遅いとは思うけど。
……大丈夫だよ。元々頭は悪い。これ以上悪くはなんないと思う。で、何?
『神重……さんが、紅茶を入れてくれるそうだぞ。飲むか?』
え……いや、駄目だ。勝手な依頼で宗方さんと神重さんのプライベートを邪魔した手前、食べ物を頂くなんて厚かましい。
しかし、紅茶の優雅な香りが俺の鼻をゆらりゆらりと刺激する。駄目だ、踏ん張れ、踏ん張れ俺の食欲……
「……ありがとうございます。生憎、喉は乾いてないのでお気持ちだけ頂いておきます」
耐えた、けど耐えるべき所じゃ無かった気がしないでもない。素直に頂きますって言えばよかったじゃないかと。
いや、良いんだ。これで。多分良いんだろうと思う。……こんな事に神経を使うなんて小さい男だ、俺は。
にしてもどうしようかな……宗方さんに「機関」の調査を依頼したは良いけど、俺はどうすべきか。
一番手っ取り早いのは「機関」のアジトに潜入して……はあまりにも危険すぎるし、何より発想が突飛過ぎる。
なら「機関」の構成員に接触……してどうするんだよ。俺の力じゃ軽く捻られて落とされるのが目に見えてる。
……俺が出来る事なんて何も無いじゃないかぁ。思わずマジで頭を抱えてしまう。はぁ〜……。
……やめた。多分やるべき事はおのずと決まって来るさ。待ってるだけじゃ何も始まんないけど、歩いてりゃ棒に当たるって言うじゃないか。
痛いのは勘弁してほしいけど……あ、でも今まで相当痛い目に逢ってるから、死なないくらいならまだ大丈夫だろ。
って、大丈夫って何だよ……。もうやだこの町。早く東京に戻りたいよ。もちろん「機関」を倒してからな。
そういえば……宗方さんと神重さんに、俺のメルアドって教えたっけ? 互いに連絡しあった方が……。
『それなら心配無い』
耳鳴り? 心配無いってどういう事だ?
『さっき、宗方さんに言われてバックの荷物を出しただろ? その時に連絡先を書いたメモ帳を渡したんだぞ。覚えてないのか?』
え? あれ、そうだったっけ……? なんか覚えがない、てか全く無いんだけど……まぁお前が言うならそうだったのかもしれない。
神重さんが紅茶を入れてくる間、俺と宗方さんのツーショットとなった。
……何となく場が気まずい。かといって雑談は……まぁ、いっか。
「あの、ちょっと聞いてみたかったんですけど」
「宗方さんと神重さんって何時から仕事仲間として組んでるんですか?」
【肉体の主導権が恋島達哉に戻る】
【宗方に話しかける】
>>30 >>31 「ああ、すまんな。一杯貰おう。」
紅茶を勧める私に宗方も同意する。
同時にかなり意外だ、という顔をするが冗談ではない。
教師の間でもなかなか気が利くと有名なのだ。そんな顔をされるとは思わなかった。
(あれだな、恐らく俺のイメージが宗方にはついちまってんだよな)
(最悪ですね、早くそのイメージを払拭してもらいたいものだ)
「いてぇっ!」
後ろから声がする。振り返ると恋島が見事に椅子に座ったまま転んでいた。
なんとも器用な人物である。
(器用な…やつだな)どうやら敬も同じことを考えたようだ。
「……ありがとうございます。生憎、喉は乾いてないのでお気持ちだけ頂いておきます」
(紅茶の勧めを断るとは…こいつ人生をかなり損してるぜ)
(まぁ言ってやるな、彼なりの気遣いだろう)
神重は宗方の茶器と自分の茶器を持って奥へと引っ込む。
茶器をよく洗い、紅茶の入っている箱を取り出す。
(……よくそこにあるってわかったな)
(僅かに葉の匂いがしたのでね)
確認できたのは…セイロン、アールグレイ、ダージリン
等級は全てオレンジペコ……。
さきほど飲んだ紅茶はアールグレイ。残量を見るとセイロンが圧倒的に多い。
セイロンをよく見るとウバと呼ばれる少々味に癖がある紅茶である。
中でも多いのがメンソールのような独特の香りを持つタイプだろう。
この癖のある味はミルクと絡めることでなかなか味わい深い物となるが、私は香りを楽しむためにストレートでいただくことが多い。
そういえば今日の朝はアールグレイ、一昨日はダージリンをいただいていることを思い出した。
やはり同じ種類の紅茶を飲むというのも味気ない、ここはウバを嗜むのが最良であろう。
茶器にウバを注ぎ、少し緊張が解れた私は若干の笑みを浮かべながら宗方達のほうへ戻った。
湯気で眼鏡が白く曇り、口元は少しにやついていたので普通に見れば怪しい人だったのかもしれない。
恋島が何か宗方に対して質問をしていたようだが私にその内容はわからない。
とりあえず彼の近くに紅茶を置く、それと同時に宗方が紅茶の匂いでウバだということに気がつき怪訝な顔をするが
「こういう時はウバのような少し癖のある紅茶を飲んでおくべきだ」と小さく耳打ちをする。
私は自分が元々いた場所まで戻り、茶器を置いて恋島の質問内容を知るために傍観する。
【神重;紅茶を入れ、ふたたび傍観に入る】
>>20-22 巨漢が創意工夫して造り上げたムードは、
軟派で真心のない、所詮はハリボテ程度のものである。誰が引っかかる訳もない。
ましてや、今目の前にいる、いかにもナーバスそうな顔つきをした子どもが、
そうホイホイと安い文句に乗りかかるわけがなかった。
それどころか、唖の真似でも始めたか、呼吸すら押し殺しているようである。
黒い巨漢――サイゾウにとっては、最も困る状況であった。
自分に恐れをなして逃げ出したのなら、それで人払いが済む。
背後のグロテスクなオブジェを見られて、サツを呼ばれる事はないのである。
大人しく自分についてきてくれると言うのなら、それに加えて、
少なくとも今日の午前中は、好みの子猫と宜しくやっていける保証がつく。
ただこうして睨めくらをしている間は――目線の合う気配もないが――
サイゾウとしては居心地が悪い話である。
停滞は最も忌むべき、と知っているわけではないが、
このままでは不味い事は分かりきっていた。
この状況を動かす二の句が中々次げない事に、サイゾウは胸の焼ける焦燥を抱く。
いっそ力づくでか、と目を光らせたところ、
思いがけず、突如と少年はつんのめったようにして歩き出し、
サイゾウの脇をすり抜け、更には背後へと、滑るようにして動いた。
振り返る間もない。
しまったな、と――肺臓にすら冷や汗が吹く。
『元・お金持ちのばあちゃん』を目の当たりにした少年は、
しばし、バランスを失いかけて前後に振れていたが、
終に、我が身を吊る糸を切られてか、膝からくずおれ、やがては地に這い蹲った。
サイゾウもそっと身をかがめて、その様子を見るが。
「What's the fuuuuuck!!!」
少年の口から迸った液体を目にしては、そう叫ぶ他はなかった。
麗しい顔の少年ではあるが、だからこそ、このような醜態は許せない、見るに耐えないものである。
その感情には、少年に対する考慮は微塵もない、
ただ、己の中に在る偶像めいた憧れにクソを塗られた為、怒るという、ひどく自分勝手な想いからであった。
とは言え、サイゾウ自身の情動はともかくとして、彼の犯罪の残滓を見られたのも確かである。
行動が必要であった。しかめ面でうんと唸ってから少々考え、再び口を開く。
「それは……私は知る、ないです。それはあります、最初から……。
私の仕事ではないで、しょう。行きます。No!well……行きましょう。」
言うが早いか、サイゾウは少年の身体を勢いよく担ぎ上げると、
猛牛の様相で駆け出して、河川敷を後にせんとする。
烈しい振動で、少年の口元からまた液体が垂れかかるのも気にかけない。
向かう先があるわけではない。しかし、一種の本能のようなものは働いていた。
自然と彼の足は、自身のねぐらであるアパート、
移民の溜り場であり、殆んどスラム化している魔窟へと辿っていくのだった。
そこへ着いたとして、少年へ何をなすべきかということまでは考えが及ぶところではない。
ただ、そのアパートの住人層の特徴を察するに、穏便な結果にならないことは確かである。
双眸をぎらつかせて走る邪な獣の遥か後方にては、
人体の成れの果てが、静かに地に染みてゆくばかりである。
【サイゾウ:七草を拉致、自分のアパートへ向かう】
>>14-16 >>23 >「……俺達に協力してくれそうな人材に心当たりがあるならそれもいいだろう。
だが、心当たりはあっても肝心のそいつの居場所が分からなければ、それは心当たりなど無いも同意。
手掛かりも無く、この広い市内で一人の人間を探し出すことなど時間と体力の無駄になるだけだからな」
(それもそうか……実際あまり時間も無いんだろうし、時間を無駄に使うわけには行かないか。
それに街中に機関の刺客が放たれていてもおかしくない。
目的もなく、迂闊に行動するのは危険ってことだな……)
俺は池上の言ったとおり、人材に心当たりがいないか試してみる。
最初に戦った竜……アイツは俺が病院送りにした。
七重は分かれてから行方が知れない、それに確か怪我をしていたな……悪いが、戦力としては余り期待できない。
沙羅はルナと別行動している、危険は無いと思うが……携帯は通じるのだろうか?
瑞穂は戦力として期待できる……が、携帯を持っているか覚えてないため連絡はとれないだろう……
先輩は逃げたからな、モチベーションが低いところを無理矢理戦わせたところで、マトモな戦力になるのだろうか?
アニキと師匠は間違いなく戦力としてはトップレベル……だが、俺の戦いには付き合ってくれないだろうな。
……こうして思い出すと、戦力として加入しそうな人物がいないことに気付く。
己の人望の無さに軽くめまいを覚え、ため息をついた。
>「…おい廻間、二日前に貴様と一緒にいた筋肉馬鹿はどうした。…あの無口な野獣みてぇな奴だ。」
「……七重は別れて以来、行方が分からない」
ため息交じりに出る声には力が無い。
それは、あの時七重を止めなかった自分へのため息も混じっているのだろう。
……いつまでもため息をついていても仕方が無い、思考を切り替えないとな。
>「…しかたねェか。」
そう思って俺が脳内を書き換えていると、戦場ヶ原が何かを取り出した。
どうやら携帯電話のようだ、随分とボロボロだが……
誰か心当たりでもあるのか?それにしては余り気が進んでなさそうだが。
>「……フッ、タイミングが良いというべきか。まさかこんな所から手掛かりが見つかるとはな。
──『宗方零』──。折角見つけた手掛かりだ。とりあえずこいつを当たってみる、か……」
戦場ヶ原の様子を見ていると横から池上の声が聞こえる、どうやら心当たりのある人間がいるらしい。
今はとにかく仲間を増やすのが先決だろう。
いくら俺達の個々が強くても、それでも数の暴力が相手となると分が悪すぎる。
ここは少しでも強く、少しでも多く戦力の増強を図るべきだ。
「なら、連絡を取ったほうがいいと思う。
ここで会話をしているうちにも、連絡が取れなくなる可能性があるからな」
【廻間:池上の案に賛成】
>>23>>34 >「『宗方 零』…?何者だ、そいつは。」
「20代の男で、職業探偵の異能者だ。確か異能力で自分の姿を消すことができたはずだが、
それ以外のことは何も分からん。俺も二回しか会ったことがないからな」
俺が山田の問いかけにそう答えると、タイミングを計ったように今度は廻間が口を開いた。
聞けば、彼は宗方との接触に賛同するとのこと。
他の二人を見ると、山田やリースも特に異論はないといった感じの視線を俺に向けていた。
俺は自分の携帯を取り出すと、すぐに名刺に記された電話番号を打ち込み、発信のボタンを押した。
携帯は「トゥルルルル」といったお決まりのコール音を流し、事務所の人間に受話器を取るよう促し始める。
そしてそんなコール音を四、五回聞いた時だろうか。
突如、「ガチャ」という音と共にコール音が止み、代わって若い男の声が聞こえてきたのだ。
俺はそれが留守禄のメッセージではないことを確認すると、静かに喋り始めた。
「もしもし。私、池上 燐介と申す者ですが、そちらに宗方零さんは…………あぁ、あんたか」
どうやら電話を取った主は『宗方零』本人のようであった。
電話越しの声なので初めは気がつかなかったが、よく聞いてみれば確かに聞き覚えのある声だ。
向こうも俺の名を聞いてこちらが誰であるのか気付いている様子だったので、
俺はすぐさま本題に切り出した。
「あんたは長束の話を聞いて大方の事情は把握してるはずだから、余計な前置きはせず用件だけを言おう。
俺はこれまでに、共に機関を倒す協力者を何人か見つけたが、それでも奴らを倒すにはまだ数が足りない。
そこであんたにも協力してもらいたいんだ。協力する気があるなら午前九時までに国崎薬局まで来てくれ。
住所は……いや、あんたの事務所からは割と近い場所にあるから、いちいち言わなくても大丈夫そうだな。
──あぁ、それと……あんたの方にも仲間がいるなら、一緒に連れてきてくれると有り難い。──それじゃ」
俺は一方的にそれだけを伝えると電話を切り、携帯を仕舞った。
「聞いての通り、連絡は取れた。後は奴が来るまでここで待てばいい。
来なかった時は諦めて、ここで神野を待つ方に切り替えた方がいいだろうな」
俺は仮に宗方が来なかった時の行動を決めながら、店内奥の台所へと入っていった。
そして数十秒後──再び三人のいる部屋へと現れた俺の手には、
何故か何枚かの食パンが入った袋と数本の缶コーヒーが握られていた。
俺はそれらを畳みの上に置くと、先程まで座っていた場所に再び腰を下ろした。
「腹が減っては戦はできぬという。食欲が無くてもとりあえず口に入れておくことだ」
彼らにそう忠告しながら、俺は缶コーヒーのタブを開けた。
【池上 燐介:宗方零に連絡を取り、食事を始める】
>>29 …誰もいない。ここまで見つけた部屋は全部見てきたが、どこも与一を寝かせた部屋と同じような個室と物置部屋しかなかった。
そういえば一人になるのは久々かもしれない。この戦いが始まってからは大変な事ばかりだ。携帯にあのメールが
届いたその日から色々な能力者に襲われ、その度に逃げつづけてきた。そして昨日は機関という秘密組織に拉致されて
を消す暗示をかけられて…与一があの体が貫通する男に襲われる所を見てしまった。そして光に包まれて…
次の日には貫通男と私は公園で寝ていて私が能力をかけているうちに与一の体を借りた卦宮夜がその貫通男を殺してしまった。
思えばここ最近で何度死にそうな目にあった事か。もう嫌だなぁ…帰りたい。毎日学校に通って、静かに本を読みふける日常に戻りたい…
こうして考えてるうちに長い廊下は終わり、大きなホールに出てきた。どうやらここがこの洋館の中心らしく、二階に続く階段まである。
どうやら一階には誰も居ないようだし、このまま二階に上がってみよう。と、私が一歩踏み出そうとしたとき、後ろから女性の声がした。
>「……動かないでください。」
寒気がした。私に呼びかけている声は明らかにこちらを警戒している。
私は歩きを止めて、女性は言葉を続けた。
>「……今あなたの後ろの柱から、あなたの心臓を狙ってマシンガンを構えてます。質問に答えてください。
あなたは何の目的でここに来ましたか?」
どうやらこの洋館の主だろう。しかしこの女性は一体どこに隠れていたのだろうか?やっぱり隠し部屋が…
とにかくこの状況を乗り越えなければ。こちらが無断で入ってきただけだ。ちゃんと事情をを説明すれば分かってくれるだろう。
「友達を休ませに来た、ここは機関の施設だから安心して休めるから。勝手に入った事は…ごめんなさい。
少し部屋を貸してくれるだけでいい、迷惑はかけないし、友達が起きたらすぐにここを出て行くから」
今、私に出来る事は女性からの質問に答える事のみ。後は後ろにいる女性がこちらの状況を理解してくれるか、だ。
ズボンのポケットには卦宮夜から貰った銃が入っているが、相手に後ろを取られてる以上、反抗的な態度を見せたら即死だろう
ここで何も出来ない自分が憎い、せめて与一のような力があったのならば…
私は成す術も無く、ただ相手の反応を待って立ちつづけた…
【アーリーの質問に返答】
【抵抗の意思はない】
「宗方さんと神重さんって何時から仕事仲間として組んでるんですか?」
気まずい雰囲気を打ち消すように、彼は私に問う。
「神重と?そうですね、あれは2年前、雪の降る晩に・・・」
恋島に嘘八百を展開しようとしたその時、電話が鳴った。
液晶画面には見知らぬ番号。誰だ?
コールが5回まで待つが、出ることにする。
「失礼、こちら宗方総合調査事務所です。」
電話の向こうからは聞いたことのある声。
「もしもし。私、池上 燐介と申す者ですが、そちらに宗方零さんは…………」
池上。あの小僧、まだ息災だったようだ。
「宗方だ。」
「あぁ、あんたか」
池上は相変わらず無愛想な口調で、勝手に話を切りだした。
「あんたは長束の話を聞いて大方の事情は把握してるはずだから、余計な前置きはせず用件だけを言おう。
俺はこれまでに、共に機関を倒す協力者を何人か見つけたが、それでも奴らを倒すにはまだ数が足りない。
そこであんたにも協力してもらいたいんだ。協力する気があるなら午前九時までに国崎薬局まで来てくれ。
住所は……いや、あんたの事務所からは割と近い場所にあるから、いちいち言わなくても大丈夫そうだな。
──あぁ、それと……あんたの方にも仲間がいるなら、一緒に連れてきてくれると有り難い。──それじゃ」
「待て、私はまだ朝食中・・・もしもし?」
池上は一方的に言いたいことだけを言うと、通話を切った。
なんと勝手な奴。
腹立ち紛れに残ったサンドイッチを口に詰め込んみ紅茶で流し込む。
だが頭数が揃うのは願ってもないこと、カップを持ってきた神重に話を振る。
「神重、仕事だ。家出少年の池上君が見つかったらしいぞ。
薬局まで来て貰いたいそうだ。向こうも多少は居るが人手が少ない。
午前9時までに来て欲しいだそうだ。」
私は恋島に言いつつ、ジャケットとコートを着込む。
「すみません、出かけることになりそうです。」
【宗方零 神重に薬局への移動を提案】
>>27 >「分かってるって、生きてりゃいいんでしょ。生・き・て・れ・ば♪」
息を吐くと再び席へと腰を下ろす。
ルージュは楽しそうに桐北の体を、まるで全く重さが無いかのように持ち上げた。
……かなりの素早さだ。
桐北少年も機関に捕獲されるまでは他の異能者と戦っていたと報告書には書いてあるし、
決して戦闘に関してズブの素人という訳ではない筈だ。
それをこうも簡単に接近を許してしまうとは……。
>「ん〜、でも抵抗しないのって詰まんないんだよネー。ほら、なんかやって見せて、本物のアブラハムでショ?
ボクより上の存在ナンデショ……?」
このルージュという女は『アブラハム』という物に固執しすぎている様子だ。
無理も無い。彼女達はアブラハムの代用品に過ぎないのだから。
いや、ひょっとするとこれは……。
ルージュは持ち上げたままの桐北の体を二、三度揺さぶる。
対する桐北もまた、最後の一撃を放ち窮地を脱しようとその掌をルージュの顔面へと向ける。
>「『放電‐スパーク‐』!!!!」
これは……電撃か。なるほど、桐北少年の能力は電気を操作できる異能なのか。
威力は申し分ない。しかし、それではロストナンバーを倒す事は出来ないよ。
あれは仮にも私と城栄の研究の成果の一つだ。それほど柔には出来ていない。
>「…そうだとしたら、それでボクの顔を半分も炭に出きたんだ。やるネ。」
顔半分を煙に包まれながらもルージュの言葉は止まらない。
その言葉の中から見えるのは、圧倒的に本家を上回っている事への確かな自身。
そして、嫉妬……か?
そうであるとすれば、判らない話でもない。
自分が明らかに勝っている相手よりも価値が下だと教えられれば、な……。
>「じゃあ、こっからボクのびっくりショーだヨ。ハイ、ナンタラカンタラ〜。傷よ治れ〜。」
相変わらずロストナンバーという連中は常軌を逸している。
このルージュと言う女もそうだ。人間、いや――生命として何かが間違っている。
普通の生物であれば、黒焦げになった顔の右半分が元通りになったり等しない。
それ以前に生きてはいまい。
リンと桐北は目の前で起こった"奇跡"に言葉も出ない様子だ。
そう、これが普通の人間の感性なのだ。
その点、私はあのロストナンバーと同じく、常軌を逸しているな。
呑気に葉巻を咥えているなど……。
>「ふふん、こんなことも出来るヨ。上がれ。」
ルージュの掛け声と共に桐北の体は浮かび上がり、天井へと叩きつけられた。
ここまでは許容範囲、しかしこれ以上はアウトだ。
奴らロストナンバーは膨大な異能エネルギーを付与したお陰で、
その能力はセカンドナンバーを遥かに凌駕する性能を持つに至った。
しかし、その反面……。
>「下がれ。」
声が聞こえると共にアジア人にしては長身の少年は、
今度はテーブルへとその体を打ち付けるハメになった。
あのルージュと言うロストナンバーの表情を見ていると、
どうも無邪気な子供という言葉を思い浮かばずには要られない。
オリジナルに対するこれまでの鬱憤を晴らすチャンスなのだろう。
異能力や身体性能をメタトロンによって限界以上に引き上げた所為で、
彼女達の精神面は非常に危うい物となってしまった。
最早狂人と紙一重のラインなのだ。
>「や、やめてください!!」
むっ……! リン? 馬鹿な!? 正気か!?
私は目を疑った。机にしこたま体を打ち付け、未だに身悶えている桐北を、
リンが庇うように悲鳴を上げたからだ。
……いや、正確にはその事に関して目を疑った訳じゃない。
>「……あ、そうだお仕置きなんだから二人ともやらなくちゃだめだよネ。」
問題は今のルージュに対して『アブラハム』であるリンが声を掛けたという事が問題なのだ。
次の矛先は間違い無くリンだ。ルージュの瞳が狂気に光る。
――咄嗟に私は指差した。今まさにリンへと異能を仕掛けんとするルージュへと。
ツー
「――PHASE 2! ハリカルナッソスの霊廟ッ!
……ルージュ、お前はもう動けない」
ルージュの体を透き通った緑の立方体が包み込む。
いや、包み込むと言うよりは囲み上げたと言う方が正しいか。
この『ハリカルナッソスの霊廟』は、フェイズ2と呼んでいる発展技の一つだ。
目標の四方を薄緑色をした半透明の壁で覆う事でその動きを封じる。
いくら強力な技や武器を使おうとも、どんな異能を持っていようとも――この壁は絶対に破れない。
その理由は……余りにも簡単なオチだ。
実は壁の方はダミーで本当は対象者に"半透明な立方体"という幻覚を見せ、
"その中に閉じ込められていて動けない"と"思い込ませる"。
……トリックと言うのは案外シンプルな方が騙されやすい物なのだ。
「もう良いだろう。その辺にしてやれ」
【レオーネ:ルージュに対して異能を使用する】
>>33 大木南川の辺を上る小さな影が在った、その影の主は人間であり、影は周りの草花と比較すればとても巨大な物だったが、
先程の巨人と比較すれば小さな物と言わざるを得なかった。
して、影の主はその身体には不相応な黒い羽織りを身に纏い、その配色は黒で統一されている。
その黒い影の主はそのまま暫らく大木南川を北上する、影の動きは観れば見るほど躍動感に溢れている、
よく見ればその影の主は、小柄な少女であった、身に纏った不相応な黒い羽織りは少女の体形を覆い隠す不釣合いな物だが、それが何処か彼女らしさを見せていた
少女は立ち止まり、辺りを見回した後、周囲に自分を見るモノが無い事を確認すると、
その後少女は空高く跳躍した、いや、それは跳躍と云うよりは飛翔に近いものであり、少女はその黒い羽織りをはためかせ、それを翼に見立て、まるで小鴉めいた飛翔を観せた―――
空高く飛ぶ少女は地上から見れば大きな鳥にも観えるだろう、今が夜であれば完全な闇に溶け込めたであろう、その為の黒い配色なのだろうか、はたまた唯の偶然なのかは解らない。
しかしながら、必然として黒い衣装は光を余分に吸収し、少女の背を焼いて行く、
(う〜背中が熱いな〜、まったく、こういう時は黒色って不便だよね〜)
などと心の中で呟きながら少女は遥かな上空から地上を見下ろす、此処からなら、この大木南川全域の大まかな状態が把握できる、その中流の辺りで一つの異変があった、少女はそれに目を凝らす、
それを良く見れば、一人の大きな男がそれよりも一回りも二回りも小さい人間を担いで走っているではないか、なにやら不穏な雰囲気である、更に眼を凝らせば、大きな男に担がれている人間は男とも女とも見れ、その性別を判断できない、
そしてそこに更に思考を加えれば、その人間が自分の知っている人物と合致する、"彼"は男であり、そして彼に合う事こそが今の彼女――、伊賀響の目的であった。
しかしながら、"彼"に合った所で別段如何しようと決まっている訳ではない、もっとも、それが"彼"ではなく、"彼女"だったのなら話は別なのだが。
とまれ、今現在眼下で起きている出来事が、非常時な事には変らない、ましてや、見ず知らずの大男に自分の目的を攫われようとしている状況をほおって置くことなど出来る道理が無い。
少女は黒い鷹となり大男の進路上へ急降下する、地面間際で体勢を整え、ふわり、と急停止する、その際に衣装が慣性で捲り上がり、一瞬、黒い百合の花を連想させた、響にとってはそれが多分に気恥ずかしいものだったのだが、、、
そして大地の草花はその風圧で押し退けられ、円形状の波紋を模り、その後少女は静かに着地した。
大男は全身黒尽くめの服装に、頭部には一際目立つ鳥帽子、
響が小鴉だとするならこの男は大鴉だろう、それもとびきり大きな、
「ピッピー!、こら!そこの大男!、未成年の誘拐は……ん〜…と、誘拐は犯罪だよ!!
今すぐその子を解放しなさい!、それから……」
大きく胸を張り、小さな威厳を持ってびしっ、と大男を指差し臆する事無く命令する、途中言い詰ったあたりがなんとも格好が付かないものではあったが、
「……と、とにかくその子を放しなさい、そうすればボクも何もしないから、ね…?」
大男の身体から汗が噴出す、ソレは先程までの激しい運動と、その他諸々から来る嫌な汗であった、
この大男がその黒眼鏡の奥で何を考えているのか解らない、だが響は大男の返答を落ち着かない様子で待った。
【伊賀 響:サイゾウに七草を解放するように命令】
>>37 「神重、仕事だ。家出少年の池上君が見つかったらしいぞ。
薬局まで来て貰いたいそうだ。向こうも多少は居るが人手が少ない。
午前9時までに来て欲しいだそうだ。」
(ほう…池上君と言えばあの時の子ですね…)
(知ってるのか?智)
(ああ、一度だけあったことがある異能者だな)
宗方が恋島に謝りつつ、ジャケットを着込んでいるのを見て、神重も準備を始める。
とは言っても、準備するものなど何もないのだが。しいて言うならば血液か。
「恋島君、わざわざ来ていただいたのに何もかまえなくてすまなかったね。
我々は急な用事ができてしまったようだよ」
恋島にそう言うと宗方のほうに向き直り
「私は準備できている。君の準備が出来次第出発しよう」
さて、念のために吸血蝙蝠をあとで放つ必要があるな…
【神重:準備はできている】
>>39-38 やっぱり、何事も公平って大切だよネー。
ルージュがその目にサディストの光を輝かせた時、6の席に座っていた人物が勢いよく立ち上がった。
ツー
「――PHASE 2! ハリカルナッソスの霊廟ッ!
……ルージュ、お前はもう動けない」
「ン?」
ルージュの体を透き通った緑の立方体が包み込む。
いや、包み込むと言うよりは囲み上げたと言う方が正しいか。
「もう良いだろう。その辺にしてやれ」
6……レオーネ・ロンバルディーニがそう告げた
動けない…って言ってるから、これ多分壊れないんだろうナ。
うーん、じゃあ無駄に暴れるなんて事はしないで、無駄に喋っちゃおうかナ。
「…確かにこんなに狭くちゃ、いくらボクのスレンダーなボディでも一歩も動けないよネ。
でも言わなかったかナ?ボクの今のボディの力はボクが云った通りの事が起きるってネ。
だから、口さえ動けば……」
更に言葉を続けようとしたが、ここでピタっと口を動かすのを止めた。
「……やっぱ、やめておいてアゲル。こんなとこで能力もろくに使えない状態のヤツを痛ぶっても、ぜーんぜん楽しくないしネ。」
レオーネの方を向き、ニッコリと笑顔で箱をこんこんと叩いて出して貰いたい事を伝えた。
相手にものを頼む時はいつもこの顔なのだ。口を開かず、その顔だけなら上品な美女に見えるのだが…。
レオーネは疑うような目を少し見せたが結局解くことにした。特に笑顔は関係なく決めて、だ。
うーん、やっぱりボクって一箇所に留まるのがキライだナー。
ここ来る前にやってた潜入任務も面倒くさくなって見張りを全員殺して、ファイル奪ってきし。
あの任務、性能実験とか言ってたけどただ詰まらなかっただけだったナー。
うーん、考えてたらこの詰まんなさに耐 え ラ れなくなっ テキ たナ。
「金剛さま〜。もうやることはボク決まってるんだし、活動しはじめてイイ ヨ ネ ?」
ルージュの目にはさっきまでとは違う光が灯っていた。
欲求不満……腹を空かせたケモノの目よりも凶悪な光が灯っていた。
ルージュの要求を金剛はすんなりOKした。
「やった、ありがと金剛様。じゃ、皆さん御機嫌ようーーー。」
ルージュはそれだけ言い残すとさっさと部屋を飛び出していった。
桐北、煌神のことはまるっきり、忘れたまま……
【ルージュ:会議に退屈を覚え、退室】
>>37>>41 俺が場を紛らわすために出した阿呆な質問に、宗方さんは真摯な表情を浮かべて答えてくれた。良い人だなぁ……
が、宗方さんが2年前の雪の降る夜と言いかけたその時、テーブルの上の宗方さんの私物であろう携帯電話が着信音を鳴らした。
何か急な用事でも入ってしまったのだろうか? 俺は黙って宗方さんの様子を伺う。
……嫌な予感でもするのかな? 五回ほど着信音が鳴った末、宗方さんは恐る恐る携帯を取り、通話ボタンを押した。
程なくして、宗方さんはどことなく呆れている様な顔をすると、紅茶を入れて来た神重さんの方を向きこう言った。
>「神重、仕事だ。家出少年の池上君が見つかったらしいぞ。
薬局まで来て貰いたいそうだ。向こうも多少は居るが人手が少ない。
午前9時までに来て欲しいだそうだ。」
池上君? 誰なんだろう……君付けってことは子供だよな?
まさか迷子? でも迷子の捜索って普通警察がやるもんじゃ……。警察でも手が掛かるほどの迷子か? それとも依頼主が警察を頼れないとか……。
というか薬局って。それに人手とか時間指定とか突っ込みたい所……は失礼だけど気になる個所が結構あるんだが、止めておこう。
これは宗方さんの事情であって、俺が関与する所では全く無い。だから俺は黙っておく。
宗方さんは立ち上がり、椅子に掛けてあるコートとジャンパーを着ると、俺に申し訳なさそうな目線を向け、言った。
>「すみません、出かけることになりそうです。」
続くように神重さんもこう言った。
>「恋島君、わざわざ来ていただいたのに何もかまえなくてすまなかったね。
我々は急な用事ができてしまったようだよ」
「あ、構いません。というか俺もそろそろ仕事に戻らないと」
ぶっちゃけ仕事何ざ浮かばない。というか何をすれば良いかさっぱり分からんが、これ以上此処にいても宗方さんと神重さんに迷惑だろう。
立ち上がり、バックを背負って席を立つ。持ち物は全部バックの中に戻してある。……何時戻したのか思い出せないけど。
「依頼を引き受けていただき、ありがとうございました。休日の所を邪魔してしまい、申し訳無いです」
そこまで言い切り、頭を下げる。せっかくくつろいでる所に、俺みたいな闖入者が現われて二人ともさぞ困惑した事だろう。
そうだ……それと、流石にキャッシュカードはやりすぎたが、かといって無償で依頼を引き受けてもらうわけにはいかない。
「それと、何時でも良いのですが依頼の見積金額を連絡して頂けると幸いです。まぁ、この件を解決できるなら幾らでも払いますがね」
多分口元では笑っている様でも、目は笑っていないと俺は思う。それぐらい俺は「機関」を恨んでるし、打倒したいと思ってる。
……さて、宗方さんに伝えたい事はすべて伝えたつもりだ。後は野となれ山となれ。迷わず行けよ、行けば分かるさ多分。
踵を返して玄関に向かう。
「それでは……」
二人に会釈をして、ドアを開く。お世辞にも爽やかとは言えない、生暖かい風が俺の頬をくすぐる。
さて……どこに行こうか。取りあえず情報収集でもしてみようか。適当にほっつき歩いてるだけでも、何か分かるかもしれない。
……そうだ、無茶苦茶確率は低いだろうが、もしかしたらアイツはあの事を知っているかもしれない。携帯を取り出し、メールボックスを開ける。
用件を打ち終わり、携帯をしまう。さて、何処に行こうか。
そういや、何か池上って名前……どこかで聞いた覚えがあるな……。心当たりはある。
けど、まさか彼が君呼ばわりで、しかも迷子なんて考えられない。同姓同名だろう。多分。
あ……キャッシュカード忘れた……。
【宗方の事務所から退出】
【現在地:路地】
>>36 「友達を休ませに来た、ここは機関の施設だから安心して休めるから。勝手に入った事は…ごめんなさい。
少し部屋を貸してくれるだけでいい、迷惑はかけないし、友達が起きたらすぐにここを出て行くから」
返ってきた言葉は信用できるかどうかは微妙なところだった。
ただ、ごめんなさいの謝罪の一言でアーリーはこの人を信じることに決めた。
自分から謝れる人間はいい人だ、って私のおじいさんも言っていたし、今回は少しやり方が乱暴だっただろうし。
「わかりました。もうこっちを向いてください。」
アーリーはこっそりと小型スピーカ−とマシンガンをカーキ色のトレンチコートに収め、女性に近づいていった。
そして、彼女が振り返ると同時に頭を体がくの字になるほどの高さまで下げた。
「えっと……まずはすみませんでした!! 時々ここには機関や乱暴な異能者が入るので、念のための行為だったんです。
えー、私アーリー・テイストって言います。まぁ、ここに勝手に住み着いてる者です。」
結構早口だったからかもしれない、それともすごい勢いで頭を下げたからかもしれない。
とにかく理由は分からないが、相手はなんだか唖然としている。
……やっぱり、脅したり、戦うのではなく、普通に人と接するのって緊張する…
って、なかなか返事が来ないけど大丈夫かな?
…あれ?
【アーリー:相手に自己紹介、敵意は全く無くなった】
【急激な態度の変化に相手が動揺】
>>35 「20代の男で、職業探偵の異能者だ。確か異能力で自分の姿を消すことができたはずだが、
それ以外のことは何も分からん。俺も二回しか会ったことがないからな」
池上は短く答えると、さして躊躇う様子もなく携帯を取り出すと、その宗方という男にコンタクトを取り始めた。
電話の内容は戦場ヶ原達からもよく聞こえたが、なんとも池上らしいというか、
極端に簡素で必要最低限の伝達事項だけを淡々と述べるだけであったため、
戦場ヶ原は最初、相手が留守電か何かだったのかと思ってしまった。
しかし電話を切った後の池上の様子から、確かに相手は出たようだった。
「聞いての通り、連絡は取れた。後は奴が来るまでここで待てばいい。
来なかった時は諦めて、ここで神野を待つ方に切り替えた方がいいだろうな」
「…フン、相変わらずの迅速な判断力だな。俺はお前の判断に従うぜ。リーダーさんよ。」
聞くものが聞けば嫌味にも聞こえる語調だったが、戦場ヶ原はいつしか心の中で池上を『リーダー』として認め始めていた。
無表情に池上が朝食を摂り始めるのに合わせて、戦場ヶ原もまた台所から食べ物を適当に漁って和室に腰をおろした。
家主の不在をいいことに、戦場ヶ原が漁ったあとの台所は、さながら強盗が入って物色したどころの騒ぎではなく、むしろ爆弾が爆発でもしたのかというほどの散々な散らかりっぷりであった。
「ふん。こんな場末の薬屋でも、結構な喰いもんが揃ってるじゃねぇか。ありがたくいただくとするぜ。」
乱暴に言い捨てると、眼の前のパンを獣のようにむさぼり始めた。
【戦場ヶ原:食事を始める。薬局にて宗方一行待ち。】
>>38-39>>42 ロストナンバー、ルージュにいたぶられる桐北とリンの姿を目の前にしていながら、ツバサは一歩も動くことは出来なかった。
―――ここでリンを庇うように動こうものならば、機関内でのツバサの立場は大きく瓦解する。
ライマース家が代々受け継いできたナンバー2の地位。それがなければ、リンを金剛の魔手から守り抜くことは出来ないだろう。
そのためにも今、感情にまかせてリンを助けることは、リンのためにはならないのだ。
「ぐッ…!!」
ツバサは口惜しげに唇を噛んだ。
子供二人を嬲ることに愉悦を感じているようなルージュの奇行を、ツバサの代わりに止めたのは、レオーネ・ロンバルディーニであった。
レオーネに実力行使で止められたルージュは、眼の前の二人に興味を失くしたように、金剛へ退出の許可を乞うた。
「いいぜ。もう十分だ。」
金剛が満足げにそれを承諾すると、ルージュは次の遊び場へ向かう子供のように、さっさとその場を後にしてしまった。
「…!」
ルージュが退室していくと、ツバサは我慢できずにリンの傍へと駆け寄った。
「兄…さん…?」
リンの怯えきった表情が彼の胸を強く抉る。
(すまない――…)リンに見せた顔は、今まで機関の誰にも見せたことのない優しい兄の表情であった。
しかし、そんな涙ぐましい兄妹愛の現場をぶち壊しにする一言が、金剛の口から漏らされた。
「よォ、ツバサァ。ウチの隠し玉の失敗を、おめぇが直々に尻拭いしてくれるたァ殊勝な心掛けだぜ。」
振り返った先にいた金剛は、勝ち誇った獅子のように笑っていた。
そして葉巻に火を灯させ、煙を大きく噴き出してから、低い声でゆっくりとツバサに命じた。
「…そいつら二人を『研究室の収容独房へ運べ』。No.2。」
なんと冷酷な命令だろうか。金剛は勿論ツバサが妹を溺愛していることなどよく知っている。
知っている上で、ツバサに自分の手で妹を『収容独房』という名の『地獄』へ運ばせるのだ。
しかし今の彼に拒否権はない。彼自身が出した条件を、破ってしまったのだから。
「…了解。」
ツバサは冷たく吐き捨てると、異能力を行使した。
「第九十二使徒『ヨルムンガンド』」短くその名を呼ぶと、突然空間が割れ、中から二匹の大蛇がぬるりと姿を現した。
大蛇はそれぞれリンと桐北の身体に巻きつき、首元に噛みついてその身体の自由を奪った。
2匹の蛇に二人を運ばせ、会議室を後にしていくツバサの姿は、さながら自分の娘を自分の手で怪物ヤマタノオロチの生贄に捧げる憐れな村人のようにも見えた。
その様子を見て、金剛はニヤリと笑う。
これが彼の統率術なのだ。一見すると豪快無比な実力主義に見えるが、造反の恐れが少しでもある者には『弱み』を必ず掴んでおく。
それが彼が今までこの最強異能者集団の長となるまでに培った才能なのである。
「…伝達事項は終えた。他に何か言いてェことがある奴はいるか。いなければ解散だ。各々自分の任務に戻れ。」
>>40 無論、異様な巨体が異様な風体をして、
人を担いで走っていると言う異様な行動をとりようものなら、
すぐさま警察のご厄介になるべきではある。
しかし、彼の周りを通りがかるのは、
未だ冷たさを残す春風ばかりであり、猫の子一匹も姿を現さない。
誰も、この男を見咎めるものは居ないのである。
一体、法治国家でこのような蛮行が許されるはずは無いのだが、
そこは、貳名市特有の圧倒的過疎の為と言う外はなかった。
或いは、善良なる一般人達も、異能者らの発する一種の毒に侵されて、
奇を奇とも感じられぬ麻痺に陥ったか知れない。
視界の端に映るこの異状に、何食わぬ顔で溜息を吐くか――
だとして、サイゾウには関係の無い話である。むしろ都合が良い。
サイゾウはいよいよ己のねぐらへと近づいてくる。
河川敷を抜けた彼は、これまた人通りの無い、平坦な道を駆ける。
建物はまばらで、電柱と街灯ばかりが目立っている。
車道は小ぢんまりとした両側二車線で、素直な直線ばかりを描いていた。
辺りはやけに暗い。まだ午前中にて、雲も無く日は照っているにも関わらずにである。
しかし、それには何の不思議も無い。ここいら一体の住人がそうさせるのである。
後ろ暗い生き方をして、今なお殺伐の気に浸って暮らす彼らの吐息は、
地を這いずるようにして辺り一面に満ち満ちては、
道行く人の心に縋り付いて、憂鬱の毒を醸すのである。
そうされた者は急に気落ちして、見るもの皆ほの暗く感じてしまう。
一種の呪いであった。
冗談めかした話ではあるが、それほど、人が人に与える影響は強く、
そして、ここの住人が並々ならず腐敗している事の証明である。
しかしサイゾウともなると、この空気が逆に心地良い。故郷の味であった。
なんとなく口笛さえ漏れる。が、そのささやかな旋律を遮って、彼の眼前に一筋の影が降り立った。
鳥か。否、確かに人間、しかも未だ年端もいかぬ少女である。
いきなり少女が虚空から降ってくるなど、まるで現実じみていない。
だからサイゾウだって驚いてのけぞる。
彼はまだ、日本独自の若年層向け小説には不慣れである故。
>「ピッピー!、こら!そこの大男!、未成年の誘拐は……ん〜…と、誘拐は犯罪だよ!!
> 今すぐその子を解放しなさい!、それから……」
降ってくるのみならず、次には悪行に対する指斥とおいでなさった。
おろおろするサイゾウに向かって、間髪入れず、
>「……と、とにかくその子を放しなさい、そうすればボクも何もしないから、ね…?」
との二の矢をも放った。頗る気丈である。
これにはサイゾウも居心地が悪かった。
サングラスに阻まれてよくは見えないが、視線はあちらこちらへ気ままに散歩するという有様である。
しばしのこそばゆい空白をはさんでから、観念したかのように溜息を吐いて、
おずおずと少年のしなやかな身体を肩から下ろし、そっと地に横たわらせた。
そして、口内の気炎の熱が未だ消えぬ様子の少女に向け、
消え入るような声で、「sorry」と呟いてみせた。が――ブラフ。
サイゾウの首を彩っていた紫のアフガンストールは、瞬かぬ間に自ら結び目を解き、
宙へと舞い上がっては空を覆うかの如く広がったかと思うと、
少女の顔面を強襲して巻き付き、その目口を塞いだのであった。
「Terribly sorry.しかし、私は嫌でぇす……。
あなたも私と遊びます。この『ガキ』と一緒に。」
次いで、押し殺したような低い笑いが、喉の奥から響いた。
少女の失態は、僅かとは言え甘さを見せてしまった故である。
この下賤な大男のような手合いは、付け上がるのである。どこまでも。
そして付け上がりの果てにあるのは、全く、欲望に任せた暴虐である。
大量の筋肉を搭載したサイゾウの左腕は、天へ向けて大きくしなり、
その先の大判の平手を、布地に隠された少女の頬へ見舞わせた。
【サイゾウ:伊賀の命令を無視し、攻撃】
>>44 >「わかりました。もうこっちを向いてください。」
言われた通りに体を後ろに向ける、と同じタイミングで大きなコートを着た金髪の少女が頭を下げていた。
両手は横につけられていて当然マシンガンなど持っていない。
>「えっと……まずはすみませんでした!! 時々ここには機関や乱暴な異能者が入るので、念のための行為だったんです。
えー、私アーリー・テイストって言います。まぁ、ここに勝手に住み着いてる者です。」
―――暫しの沈黙―――
アーリーと名乗った少女は若干緊張しながらも謝罪と自己紹介をした。
顔にはまだどこか幼さが残っていて年齢も与一とあまり変わらないように見える。
彼女が冷たい声で警告したのは私の事を乱暴な異能者と思ったからで決して残忍な人ではない……と思いたい。
でも、なんで私まで緊張しなければならないんだか…
このまま二人で立ち尽くしていてもまた沈黙が続く気がする……そろそろ与一の様子も見に行かなくてはならない。
「……ちょっと友達の様子を見てくる。私たちは入り口からすぐの部屋に居るから」
私はアーリーを避けて、歩いて来た道を戻っていく。自然と足は早歩きになっていた。
最後に一度だけアーリーの方を振り向いて自分の名前を名乗る
「十六夜、美月」
部屋に戻ると与一は上半身を起こして起きていた。
一瞬こちらの方を見ていて気まずそうな顔をしていたがすぐに微笑んでこちらに話し掛けてきた
「ありがとう、美月……ちゃんと会堂に着けたみたいだね」
与一は特に寝ぼけた様子もなく、いつもの口調で話した。目覚めたばかりではないようだ。
私はドアを閉めて、与一のそばの椅子に座って、これまでの経緯を話した……
【自己紹介後、アーリーの前から去る】
【与一が目覚める】
>>47 しばしの空白の後に男は観念したのか溜息を吐き、
おずおずと柴寄の身体を肩から下ろし、そっと地に横たわらせた。
そして、消え入るような声で響に謝罪の意を呟いて見せた。
しかし――それは虚構。
響は大男の態度にささやかな満足を覚え、一息つく、
しかし、次の瞬間には、響の顔を影が覆う、
影は響の顔に取り付くと、その身を巻き、響の目口を塞いで見せた。
「――わふっ!……むがむが…もが……」
影の強襲を許したのは、決して時期の早い蝶々に気を取られていた訳では無く、
僅かとはいえ男の態度に気を許し、警戒を緩めてしまった事、
それが響の失態であり、目の前の蝮の様な男にとってそれは大きな隙であった、
だから目の前の蝮はその隙を突いて刺客だって放ってみせる。
これには響も不意を突かれた、
飛来した刺客に目口を塞がれ情けなくもがく事になった、
しかし寸刻後には、響はこの大男が油断のならない相手である事を認識した。
「Terribly sorry.しかし、私は嫌でぇす……。
あなたも私と遊びます。この『ガキ』と一緒に。」
観れば、男の首を彩っていた紫の装飾が無く、
それが代わりに響の目元を覆っていた。
次いで、押し殺したような下卑た笑いが、男の喉の奥から響いた。
男は増長し、次に出るのは欲望に任せた暴虐であった。
男の左の腕は天へ大きく掲げられ、
その先の大判の平手を布地で覆われた響の頬に振るわせた。
響はその振るわれた暴虐の象徴を低く屈んで避けて見せた、
風を強引に押し退けて振るわれたその平手は、
響の頭上で音を立てて虚空を掴む、
かわすと同時に腰に取り付けてある両の忍刀を引き抜き、
左手に握られたそれを男の右の太股に突き立てた、
大量の筋肉と十分な重量で固定された刀を足場に見立て
全体重を掛けて踏み抜く、
しかしこの男に対して響の体重などたかが知れている、
だから響はそのまま飛び上がり男の肩に腕を立てて倒立し、
弧を描いて宙を舞い、右の刀で顔を覆う布を切る、
落下に差し掛かる辺りで布は顔から離れ、風に乗って流れて行く、
そして後頭部を思い切り蹴りつけ、その反動で後方へ一回転して距離を取った。
およそ視界が閉ざされているとは思えない一連の動きを
響は視界が閉ざされた状態で瞬時にやってのけた、
惚れ惚れするようなその動きは長年の鍛錬と経験が成せる技であり、
後に残すものは男の激痛と、噴出す鮮血のみとなる。
男の足は刀を踏み抜いた際に内部を抉られ、
更に後頭部への蹴りで前のめりにバランスを崩し、
重心が前に崩れた事により足への圧力が強まり、鮮血を噴出す結果となった。
それでも男は、まだ倒れない。
「まだやるつもり?降参するなら今のうちだよ?」
そう言う彼女の中には未だに甘さが在った、
それは先程の攻防の最中で男の首に刃を突き立てようとしなかった事、
そして、今なお止めを刺さずに、見逃そうとしている事。
かつて殺人人形だった彼女を知る者からは、
今の彼女の言動は想像もつかないものだった。
そして、男の鮮血は、傍で横たわる柴奇の白い肌を、紅い斑紋で汚している。
【伊賀 響:サイゾウの攻撃をかわして反撃】
>>42>>46 ――ハリカルナッソスの霊廟。そこは夢幻の牢獄にして迷宮。
そこに囚われた者は、二重三重に繋がれた自己暗示という名の鎖を解き放つか、
術者である私自身が解くか以外に脱出する術は無い。
>「…確かにこんなに狭くちゃ、いくらボクのスレンダーなボディでも一歩も動けないよネ。
> でも言わなかったかナ?ボクの今のボディの力はボクが云った通りの事が起きるってネ。
> だから、口さえ動けば……」
口"さえ"動けば……。この言葉を聞いた私は、ルージュが確かに術に嵌っていると判断できた。
動けないと思い込んでいる。故にこのような言葉になったのだろう。
>「……やっぱ、やめておいてアゲル。こんなとこで能力もろくに使えない状態のヤツを痛ぶっても、ぜーんぜん楽しくないしネ。」
ひとまずは安心か。だが油断ならん。眼前に佇む赤コートの女は、
頭のネジが二本も三本も吹っ飛んだ連中の一人なのだから。
名乗った名前と同じ紅のコートを羽織った女――ルージュは、
ドアをノックするよりも弱弱しく、それでいて案外上品にヒスイ色の立方体を叩く。
まるでフランス人形のように端正な顔が微笑みを帯びている。
だが、そこには可憐さなど微塵も無い。己の内を覆い隠そうとする紛い物でしかないからだ。
「解ってもらえたようで何よりだ」
自分に向けられた笑みを目で殺し指を鳴らすと、
ルージュを覆っていた立方体は氷が解け落ちるように床に崩れ落ちて行った。
>「金剛さま〜。もうやることはボク決まってるんだし、活動しはじめてイイ ヨ ネ ?」
最早二人のアブラハム――正確にはヤハウェだが、そんな彼らに対する興味は既に失せたようで、
ルージュの奴は城栄に自由行動の許可を申請し、果たしてそれは受理された。
ロストナンバー
風の如く部屋を後にするルージュ。私はその姿を見て忘却数字への教育を再度見直さなければと思案した。
ルージュの退出に間髪入れずリンの下へ駆け寄るツバサ……。
普段であれば微笑ましい光景だが、今この場には相応しくないな。
リンの瞳には、明らかな怯えの色が映っていた。
……全く何時になったらツバサも理解するのだ?
愛などでは世界は救えない。世界を救うのは純然たる戒律だ。
この兄妹には昔から嫌という程言ってきている筈だ。それを未だに理解しないとはな……。
――まぁ、良いさ。何れ解る時が来る。
>「よォ、ツバサァ。ウチの隠し玉の失敗を、おめぇが直々に尻拭いしてくれるたァ殊勝な心掛けだぜ。」
……? 城栄の奴は何を……?
"してくれる"?
>「…そいつら二人を『研究室の収容独房へ運べ』。No.2。」
なるほど、そう来たか。算段は出来ていたという事だな。
城栄とツバサの間でどのような取引が行われたか、そこまではまだ聞かされていない。
だが、現在どちらが有利に立っているか、それは二人の表情を対比してみれば解る。
勝ち誇った顔の城栄と血の気を失った顔のツバサ……。
どちらが勝者でどちらが敗者なのか、簡単に見て取れる。
これでツバサの行動を、完璧とまではいかないが掌握できるな。
>「…了解」
今、ツバサは身を切る思いの筈だ。それは彼の能面のような顔から容易に推測できる。
他の人間ならば何の問題も無いが、よりによって"あの"ツバサなのだ。
素人でも簡単に予測できる。
――ツバサが平常心を欠いている事は、誰の目にも明らかであった。
>「第九十二使徒『ヨルムンガンド』」
突如として空間が割れ、そこから這い出てきたモノ……。それが『ヨルムンガンド』の正体であった。
ツバサの命に冥府より出でてきたヨルムンガンドは、背中にまるで岩のような突起を持ち、
ウナギのように滑り気のある光沢を放つ鱗に覆われた巨大な大蛇であった。
それが二匹も居るのだから、正直この部屋が狭く感じる。
常識的な巨大を遥かに超えた大きさで、もう一匹居れば会議室に入りきらないのではないかと思えるほどだ。
爬虫類特有の体温を感じさせないその眼は桐北少年とリンを捉えると、
二匹は二人に各々巻きつく。これは蛇が獲物を捕食する時の動作だ。
蛇は通常獲物を発見すると音も無く忍び寄り、相手の体に巻きつく。
そして、その次に体の自由を奪う神経毒を牙から獲物の体に流し込むのだ。
これはまるで『ヒュドラ』だな……。
身動きの出来なくなった桐北少年とリンを連れ、二匹は会議室を後にする。
それに続いてツバサも会議室を去って行った。その表情までは私には解らない。
だが……。暗く影が堕ちている事は確かだろうな。
>「…伝達事項は終えた。他に何か言いてェことがある奴はいるか。いなければ解散だ。各々自分の任務に戻れ。」
案外早かったな。
さて、伝える事、か……。ふむ……。
「No.30。聞きたい事が在るのだが、時間を貰っても構わないかね?」
No.30黒神 雪那(こくのかみ せつな)――。鬼どもを束ねる四人の羅刹の一人にして、
異能力再現装置という機関にとっては非常に注目すべき代物を発明した才女だ。
この装置は未だ実験段階という事もあってか正しい評価はされてはいないが、
これが完成すれば確実にファーストナンバーの地位に上り詰める事が出来るだろう。
科学者としては二流どころか三流の私など、異能力を強制的に覚醒させる薬物しか作る事が出来なかった。
そう、機関で民間人や異能力を持たない構成員に対して投与される例の薬だ。
あれも嘗て所属していた超常現象研究部門で古文書や口伝を収集したお陰で閃いた物しかない。
……別に自慢ではないがね。
No.30の二つ返事に、私は話を続けた。
しびと
「その異能力再現装置とやらは、死人の能力も再現できるのかね?
仮に出来るのだとすれば、一つやって欲しい事が在るのだがね……」
――今は戦力を確保するべき時だ。例え死人の力を使ってでも……。
【レオーネ:総合会議室】
【死者の異能も再現できるか知りたい】
>>43 宗方さんの事務所から離れてどれくらい歩いただろう。全く「機関」に対する情報は掴めちゃいないが、何かしない事には何も始まらないからだ。
けれどもまことに困った。その何かが浮かばない。取りあえず「機関」についての情報が欲しいのは山々だが……ね。
耳鳴りー。取りあえず、変な奴とかいないか調べてくれるか? その他危険でも良い。
『……今の所は無い、な。けど油断大敵だぞ』
分かってるよ。駅の方をなぞりながら、何処を目指す訳でもなく足を進める。犬も歩け……は、もう良いか。
どれだけ歩いたのだろう。土地勘が狂ってしまったのか、ここが何処なのかさっぱり分からなくなってしまった。
海が見えるって事は……港町か? この町には長く(三日)いるけど、港町があるのは知らなかったや。
ここらでちょっと一休みでもするか? うーむ……にしては何だろうなぁ、この雰囲気……。
どことなく、いや、はっきり分かる。この雰囲気は不穏だ。人の影の部分が充満していると言えばいいのか。
耳鳴りが警告するまでも、明らかにやばい場所というのは理解できる。目線を上に向ける。
軒を連ねるアパート群は人を拒むような暗いオーラを放っていて、その部分だけが外界と分断されてるように思えた。
『達哉、離れよう。理由は言わずも分かるだろう?』
あぁ、耳鳴り……。分かってる。分かってるけどさ、何だろう。
妙な予感がするんだよ。こう、記者の勘って奴がな。一歩、二歩と俺はそのアパート群へと近づく。
実際自分でも、危険に足を突っ込む事は阿呆だと思ってる。けれど今度は違う。上手く形容はできない。
根拠のない確信と云うのも間抜けだが、とにかく行ってみたい。そんな衝動に駆られる。
『達哉……分かったよ。けれど危険な状況になったらすぐに逃げる事。良いね』
耳鳴りの忠告に無言でうなづいて、俺はその区域に足を踏み入れた。
グンと足元に重い重圧が圧し掛かる……錯覚を覚える。圧されぬ様に一歩ずつ確実に進んでいく。
――――来やがった。その曖昧な予感を確定づける根拠が。角に隠れながら、目の前の光景を見張る。
色黒の異様にガタイがでかい長身の男が、スーツを着た小柄の女性と対峙している。あのスーツの女性は恐らく……。
違う、おそらくじゃない。あの女は、「機関」だ。今までの経験上からして、そうとしか思えない。
しかしこのシチュエーションのデジャビュは何だろうな。妙に笑えてくる。
けれどあの時と決定的に違う事が一つある。今の俺は覚悟を決めている。そしてもう一つ。
俺は視線を地面に移した。……神のご加護かね。これは。
まぁ良い。危なくなったら利用させてもらおう。状況は完璧だ。俺が逃げる分にはね。
さて、戦況はどうなっているのかな? 壁をすりながら、俺はあの二人の様子を覗き見た。
……長身の男がどの部位からかは分からないが、血しぶきが上がっている。女の背中で隠れてはいるが、相当凄惨な光景だぞ。これは。
慣れちまった俺も俺だが……まぁ良い。とにかく現状では、女の方が有利か。……ちょっと困るな。これは。
ってアレ? 長身の男をよくよく観察してみる。……人を抱えてるのか? 人助けではなさそうだし……何故?
【現在地:サイゾウのアパート近く】
【伊賀とサイゾウの戦闘を静観】
恋島は急ぎ足で事務所を出て行った。
キャッシュカードを忘れたまま。
仕方ない、私はキャッシュカードを小型金庫に仕舞う。
見積もりをしておこう、この戦いが無事にすめばだが。
「では行こうか」
神重に告げる。私と神重は事務所の外へと出る。
驚いたことにドアが修理されていた、あの大家もたまには仕事をするらしい。
古ぼけたビルの階段を降りて、街へと降りる。
朝の光が眩しい。
私にとって昼間は好機だった。
急ぎ足で街を歩く。
学生やサラリーマンとすれ違う、彼らはまだ何も知らない。
街を歩いていて思う。この街を牛耳っているのは奴ら機関だとして・・・長束とレジスタンスはどうするつもりなのだろう?
彼らを最大限利用する必要があるだろう。
クロノという男から引き継いだ記憶が役に立つはずだ。
そうこうしているうちに薬局へと着く。
「宗方だ、入るぞ。」
シャッターの鍵はかかっていない。
店主の国崎もいなかった。
そこにいたのは、ふてぶてしくもパンをかじっている池上。
派手な浴衣の男。
青年二人、片方は黒髪でもう片方は金髪。
全員が異能者だという事だけは間違いなかった。
「朝食中失礼する、宗方だ。名刺を持っていてくれたとは感心だ、池上くん。
だが私にも朝食を食う権利はある。年長者を呼び出すくらいならそっちから来い」
私の後ろから神重が入ってくる。
「紹介するよ、相棒の神重だ。
・・・それで、このメンツでどう動く?私にも考えがないわけではないが・・・」
【宗方零 神重をつれて薬局に到着】
>>55 『いや、やはり危険だ。達哉』
耳鳴りがそう言った。確かにそんな気が肌にビシビシ伝わってくる。これは……。
ゾクリッと、首筋に鳥肌が立った。やはり俺が関与するべきじゃないな、これは。
分かった、耳鳴り。この場から離れよう。チャンスはいくらでもある。
俺は立ち上がり、後ろを振り向かずにその場を離れた。
何の収穫も無いのは非常に痛いが、命には代えられない。
しばらく無我夢中に走る。多分来た道を戻ってきていると思う。
にしてもこんな事で大丈夫だろうか、俺
【サイゾウのアパートから逃げる】
>>45>>56 パンをかじりながら、口の中にコーヒーを流し込み、飲んでいく。
無言で、そうした機械的ともいえる動作を何度繰り返した頃だろうか。
ふと横目で店内の壁掛け時計に目を向けると、時計の針は約束の九時を指そうとしていた。
「……間に合ったか」
俺が独り言のように呟くと、突然一人の男の声と共に店のドアが開かれた。
目を向ければ、そこには予想通りというべきだろう、見覚えのある男が立っていた。
>「朝食中失礼する、宗方だ。名刺を持っていてくれたとは感心だ、池上くん。
>だが私にも朝食を食う権利はある。年長者を呼び出すくらいならそっちから来い」
入ってくるなり不満を口にしたのは、あの『宗方零』。
そしてそんな彼の後ろにいたのは、共に夕食会に出席していた『神重』とかいう眼鏡男だった。
宗方曰く彼は「相棒」ということらしい。
病院前で宗方と会った時もそこに神重の姿があったのだから、特に不思議な話ではないだろう。
>「・・・それで、このメンツでどう動く?私にも考えがないわけではないが・・・」
俺は手に持っていたかじりかけのパンを口の中に詰め込み、
喉を鳴らして一気に胃の中へと押し込むと、静かに返答した。
「簡単だ。機関の本拠地であるナガツカインテリジェンスビルに攻め込む──」
俺はそう言うと、今度は缶の中に残っていたコーヒーをぐいっと口内に流し込んだ。
そしてそれを素早く喉に通すと、すくっと立ち上がった。
「現時点でここに集った反機関のメンバーは六人。山田の連れである神野という女剣士を含めても七人。
未だ物量では差があるのは事実だが、短期間でこれ以上の戦力増強は望めないこともまた確かだろう。
俺達四人には既に協力者の心当たりはないし、それはここに二人だけで来たあんたらも同じだろうからな」
俺は宗方と神重を一瞥すると、次いで他三人をも視界に捕らえ、更に言葉を続けた。
「だが、こちらのビル襲撃を予想しておきながら、昨晩ビルに配置されていた敵のほとんどが俺達の
前では無力も同然の戦力だったところを見ると、恐らく敵も駒不足に悩まされ始めて来ているのだろう。
時間が限られているからといってこちらが焦りを感じる必要はないが、
敵に多くの時間を与えて戦力を補充する機会を与える必要もまたない。
先程の山田の言葉ではないが、神野が町で機関の目を攪乱してくれているとするなら、
俺達にとってビル攻撃のタイミングは今が頃合──少なくとも俺はそう考えるが、お前達はどうだ?
もし他に意見があるなら聞かせてもらいたい」
言い終えると、突然「ボーン」という時計の音が店内に鳴り響いた。
どうやら、店の壁掛け時計が九時になったことを告げたようだ。
【池上 燐介:食事を終える。現時刻AM9:00】
×そしてそれを素早く喉に通すと、すくっと立ち上がった。
○そしてそれを素早く喉に通すと、空となった缶を畳の上に置き、すくっと立ち上がった。
訂正。
>>54 金剛による会議解散宣言。
それにより、4匹の鬼も其々の位置へ戻ろうとした時だった。
No.30 つまり、黒神雪那がレオーネに呼び止められたのだった。
残る3匹の鬼はそれを気にせず、自分の持ち場に戻る準備をし始めていた。
セルゲイは若干不審な顔を浮かべていたようだが――
黒神に告げられた内容はこうだ。
死んだ者の異能を異能再現装置で再現できるか否か、ということだ。
それに対して黒神は――
「ええ、データさえあれば可能です。
ただし…その異能者のデータが少なければ少ないほど再現時の使用者には負担がかかりますが…」
しかし、それでも科学者としてのプライドがあるのだろう。
前にかかった髪を右手で払い、言葉を続ける。
「しかし私にもプライドというものがあります。
ほぼ完成に近づいている再現装置を使った実験データを取るという条件であれば
できる限り最高の状態で死者の異能力を再現できるようにいたしましょう、No.6」
>>56 >>58 恋島と別れ、宗方に連絡があった池上の下に向かう。
道中に思うのはやはり謎の声だった。いや、記憶というべきか。
薬局についたものの、店主である国崎の姿は見当たらない。
あれだけ戦いを拒んでいた彼がいなくなるということはいい予感はしない。
代わりといってはなんだが、池上と複数の人間を確認することができた。
池上の説明に気をとられて気づいてはいなかったが
着物姿の男からはあまりいい臭いはしなかった…血の臭いがベッタリとついていたのだ。
洗ってもとれるものではない血の臭い…恐らくかなりの使い手なのだろう。ここにいる人物は皆――と思ったところで気がつく。
その中にあった二人の顔、それは私が所属する高校で見かけた顔だ。
確か名前は――廻間統時君に……リース君…。
(なんだ、知っているのか兄弟)
(知っているも何も、我が校の生徒だ…なぜこんなところに…)
(お前もわかっているだろう、ここにいるということは…異能者だ)
ボーンという音とともに、池上の説明は終了する。
見ると時刻は午前九時。まだまだ朝は始まったばかりだった。
「その作戦自体に意見は無いといいたいところだが、中枢に入ったところで
我々が手に負えるかというのが問題だな…正確に機関中枢の人間と戦った人間はいないのか?」
それと――廻間とリースを見ながらと付け加える。
「人違いだと言って貰いたいところだが…君たちは唯能高校所属
廻間統時君に、リース・エインズワース君で間違いないかな?」
【神重:全員に機関の中枢人間と戦ったことがあるか聞く。加えて廻間達に質問を重ねる】
>>56>>58>>61 朝食を貪っていると、先ほど連絡を取った宗方が、一人仲間を伴って店を訪れた。
池上は二人と簡単な挨拶をかわすと、単刀直入に作戦を話し始めた。
戦場ヶ原は入ってきた二人をじろりとねめつけながら食事を終え、その話を黙って聞いていた。
「簡単だ。機関の本拠地であるナガツカインテリジェンスビルに攻め込む──」
池上があっさりと作戦内容を口にした時、それまで憮然としていた戦場ヶ原は皮肉な笑みを浮かべた。
「フン…、素人どもが。」
池上と宗方の連れによるブリーフィングがひと段落したところで、戦場ヶ原が初めて口を開いた。
「貴様らしくもない粗雑な判断だな、池上燐介。たったこれだけのメンツで本気で機関を叩き潰せるとでも思っていやがるのか?
こんな素人ばかりのこのこ連れ歩いても、ビルのロビーに入る前に全滅だろうよ。」
戦場ヶ原の毒咬みに他の人間は顔をしかめたが、それも構わず戦場ヶ原は話を続けた。
「少数には少数の闘い方があるはずだ。…違うか?」
そう言って彼は机の上にボロボロに使い古した携帯電話を放り投げた。
「さっきは黙っていて悪かったが、その中に、かつて俺が率いた兵隊ども50人の連絡先が入っている。その気になれば今すぐ召集することが可能だ。
俺がそいつらを率いて正面から機関とぶつかる。…そちらに敵が陽動されている間に貴様らは別の入口から潜入して、敵の心臓部を叩け。」
それを聞いた全員が面食らった表情をしているのを尻目に、戦場ヶ原は眼鏡をかけた宗方の連れに視線を移した。
「おいメガネ。さっき機関の中枢と戦ったことがあるかとかぬかしたな。
…俺の名は戦場ヶ原 天。かつて機関で部隊を率い、ナンバーワン城栄金剛の許にいた。
この中で最も機関の本当の恐ろしさを知っているのは、この俺だ。」
続いて戦場ヶ原は鋭い視線を宗方とその眼鏡男の二人に移した。
「しかし、兵隊どもを集めるには一つ条件が要る。
貴様ら二人の異能力を、ここで俺達に明かしてみせろ。
生憎俺は初対面のよく知りもしねぇ野郎に背中を預けられるほどお人よしじゃねぇんでな。」
不信感を隠そうともせず戦場ヶ原は二人を睨みつけた。
元部下たちの命を賭けることになるであろう大切な作戦だ。戦力外を連れて行く気にはならなかった。
戦場ヶ原は睨みつけたまま二人の返答を待った――…
【戦場ヶ原:作戦の対案を提案。兵隊を召集するかわりに宗方・神重に能力の開示を要求する。】
あたまが、ぼうとする
からだが、とても熱い、それなのに、からだがまるでうごかない
まるで、自分のからだじゃないみたいだ
たしか、、、アレを見てから何だかおかしい
アレを見てから、僕はよくわからなくなって
それから僕は意識があったのかなかったのかわからない
けど揺れる何かに乗っていたような気がする
僕は胡乱したあたまでとりとめのない事を考えていた
アレは、、、アレの意味する事は解っているのに
それがどうでもいいような些細な事に思えてしまって
くだらなく感じてしまって
ただただ自分がめんどうな事に巻き込まれるのかな、と
そんな事を考えてしまっていた
そう考えることがいけない事なのか、もうわからなくなってきてしまった
ああ、僕はきっと、、"ヒトデナシ" だから、、、
そもそも、僕はどうして此処にいるんだろう?――――
――――――
―――
―
―…う、ん、何か、来たみたいだ、この感覚は、さっきと同じだ。
相変わらず身体は動かない、けれど感覚だけはとても敏感で
全身に汗が纏わりついて気持ちが悪い、誰かの、声が聞える。
―――「まだやるつもり?降参するなら今のうちだよ?」―――
この声、聞き覚えがある
瞼は開くみたいだ、だから開いてみる―――――
―――ナンダ――コレ―――
飛び込んできたのは痛烈なアカイロ。
―――ソラガ―――ソラガ―――アカイ――――
柴寄の身体は、傍に居る男から迸るアカイロによって汚されている
アカイロは柴寄の瞳をも汚し、その瞳に紅い幕を掛ける。
「――ァ…ァァ!!」
今の柴寄は何も見えていない
何故なら ―――紅いフィルム越しに、違うセカイを観ていたから―――
>>35 池上から手渡された食パンと缶コーヒー。
ハッキリと言えば、それは俺とリースには必要のないものだった。
先ほど外食を済ませてきた俺達は、それを胃の中に押し込む気にはならなかった。
ただ、それは『食べる』という行為だけであって『飲む』という行為に向けられてはいない。
俺とリースは缶コーヒーを開け、中身を飲み始める。
……空ける前に振るのを忘れてたから、少し苦かった。
ふと、池上に聞いたこれから来る宗方という男の特徴を思い出す。
確か、姿を消すことが出来る能力と言っていたが……
隠密行動に優れた能力なのだろうか、そうなら奇襲には向いているだろう。
もし本当にそれだけなのなら、先ずはその宗方に偵察をしてもらうか……
>>56>>61 そんなことを考えて、ちびりちびりと缶コーヒーを飲む。
そうやって少しずつ飲んでいた缶コーヒーも無くなった、どうやら結構時間が経っているようだ。
(遅いな)
俺は意図せずため息をだす、問題の人物が思ったより遅かったためだ。
もちろん問題の人物こと宗方にも、準備などはあるのだろう。
それにこの程度の遅れで怒るほど、俺は短気じゃあない。
ここは黙って待つことにした。
いつもは明るく振舞っているリースも沈黙に飲まれたのか、目を閉じて黙っている。
考え事をしているのか、それとも寝ているのか……それは分からなかった。
しばらくすると扉が開いた、どうやら宗方が来たようだ。
後ろのほうにも人が見え……
「「!?」」
俺とリースの驚愕の表情が重なる。
何故なら、宗方の後ろにいたのは見知った人物は……
(お、おいあの人……)
(ああ……)
俺達が通っている学校の教師、神重……
神重先生と呼んでいるため、下の名前は忘れたが目の前にいるのは紛れもなく神重その人だった。
……ここにいるという事は、先生も異能者ということになるが……
>「人違いだと言って貰いたいところだが…君たちは唯能高校所属
廻間統時君に、リース・エインズワース君で間違いないかな?」
どうやら、先生は俺たちの顔を覚えていたらしい。
先生の授業を受けた事はあるし、当然といえば当然なのかもしれないが……
……あっちが知っているという事は、誤魔化してもしょうがないだろう。
ここは正直に認めるべきだな。
「ええ、確かに俺は廻間統時です」
「俺もリースで合ってますよ」
「まあ、俺たちがここに来るまでの経緯は長くなるのでいいでしょう。
それより、問題はこれからどうするか……」
そう言い放ち俺は各々方を見回した。
>>62 話は進む。
作戦に関して色々と提案は出たが、どれもこれもいい案とは思えない……
何故なら、味方の数が少なすぎるからだ。
数が少ないとなれば、必然的に戦闘を重ねる回数も増える。
つまり、戦闘による疲弊も溜まっていくことになる。
下っ端の構成員などは疲労もそれほど貯まらずに戦えるだろうが、幹部格ではそうはいかない。
それに疲労以外の問題もある、つまり無傷で勝てるとは思えない……負ける可能性だってあるのだ。
もしそんな状態で勝っても、相手のボスは幹部よりももっと強い。
こうなってくると、勝てる可能性は相当少なくなってくる。
どうしたものかと俺が唸っていると、戦場ヶ原が机の上に先ほどの携帯電話を放り出しこう呟いた。
>「さっきは黙っていて悪かったが、その中に、かつて俺が率いた兵隊ども50人の連絡先が入っている。その気になれば今すぐ召集することが可能だ。
俺がそいつらを率いて正面から機関とぶつかる。…そちらに敵が陽動されている間に貴様らは別の入口から潜入して、敵の心臓部を叩け。」
陽動作戦か……それなら幹部格も全員とはいかないまでも、少しは引きずり出せるかもしれない。
その間に俺たちは中心部に潜入し敵を叩く……今はこの作戦が、一番可能性が高いかもな。
>「貴様ら二人の異能力を、ここで俺達に明かしてみせろ。
生憎俺は初対面のよく知りもしねぇ野郎に背中を預けられるほどお人よしじゃねぇんでな」
俺が作戦について色々と思考を巡らせていると、戦場ヶ原が宗方と先生にこう言っていた。
……確かに、味方の能力は出来るだけ把握していたほうがいいな。
この意見に関しては、特に異論は無い。
さて、先生たちの能力はどういう能力なんだ?
【廻間:宗方と神重の能力が分かるのを待っている】
>>60 >「ええ、データさえあれば可能です。
> ただし…その異能者のデータが少なければ少ないほど再現時の使用者には負担がかかりますが…」
問い掛けに出された答えは"条件付き"ではあるが、再現は可能、という及第点な答えであった。
元より捨てた命、惜しむ事は無い。
問題は再現度であるが……。こればかりは黒神の才能に期待するしか他は無い。
現時点では彼女しかあの装置の全てを理解している人間はいないのだから。
黒神は、おおよそ虐殺部隊という機関の暗部に属する女性とは思えない
しなやかな知性を感じさせる顔にかかった黒髪を、やや鬱陶しそうに右手で払い除けた。
>「しかし私にもプライドというものがあります。
> ほぼ完成に近づいている再現装置を使った実験データを取るという条件であれば
> できる限り最高の状態で死者の異能力を再現できるようにいたしましょう、No.6」
「ありがとう、No.30。被験者の安全はこの際無視しても構わない。
データも記録しよう。なに、完璧に再現出来ればごの字さ」
彼女の科学者としてのプライド、か……。
だが、これで再現度の問題は解消されたと言って良いだろう。
次の問題は被験者だが、これは既に確保してある。後は黒神に再現させるデータを見せるだけか。
ふむ……。ではあの場所へと向うとしよう。
それにしても、私の疑問にセルゲイはやや不審気な表情を見せたのが気になるな。
まさか、あの男が死者を冒涜するな、などと言う訳は無いだろう。
今の時点では知る術はないのが悔やまれる。
「着いてきたまえ、No.30。君の言うデータとやらをお見せしよう」
それだけを述べると静かに席を立ち、腕時計を見る。
……丁度、午前7時を過ぎたところだった。
出来れば早めにあの場所へと行きたい。何せ、今日はあの人の命日なのだから……。
私には花を添える義務がある。
「――ちょいと待ちな、レオーネ」
黒神を促し、人影も疎らになった会議室を出ようとした瞬間、
重低音の声が私をその場に繋ぎ止めた。
神の後継者となるべきあの男に呼び止められたのだ。
「テメェ、死ぬ気かよ」
無二の親友は若干の怒気を窺わせている。
迷子になった子供を見つけた時の親のような怒り方に、
彼の気遣いのような物が見えた気がする。
だが、私には使命がある。やらなければ為らない事がある。
その為だったら喜んで命を差し出そう。
「……それがオレの使命だ」
だから、私にはこうとしか答えられなかった……。
――黒神という最高な同行者を連れて、私は会議室を後にした。
後ろで城栄が何かを呟いた気がしたが、私が振り返る事は無かった。
――我々が向う先は機関の心臓部、メインサーバルーム。
【レオーネ:総合会議室→地下13階メインサーバールームへ移動中】
>>61>>62>>66 作戦の是非を巡って、それぞれが思い巡らし意見を交わす中、
食事を始めてからこれまで一言も発することのなかった男がそこに初めて口を差し挟んだ。
その男の名は山田 権六──。
「……なんだ、聞いていたのか」
俺は彼がこれまで場を静観していたことについては、特に彼の関心を惹くことではないからかと
一方的に思い込んでいたせいか、彼の言葉は俺にとって意外で虚を突くものであったが、
山田はそうして驚きの表情をする俺に気をとられることなく言葉を続け、既存の意見を両断していった。
そして彼は、最後に古びた携帯電話を机の上に置くと、
切り捨てた意見の代わりというように「自分の元部下50人を使い陽動作戦を行う」という新たな作戦を提案し、
更にその実行の条件として、宗方と神重二人が異能力を明かすということを提示するのだった。
「50人とは……フッ、大層な人望じゃないか。人間、何か一つでも取り柄はあるものだな」
俺の言葉に一瞬山田が眼光を尖らすも、俺はそれを受け流すように目を瞑り、軽く口元を歪ませた。
山田の元部下──となれば、いつぞやの山田の昔話で触れた連中のことに違いない。
つまり、山田と同じく『虐殺部隊』と呼ばれる部隊に入っていた元機関の人間達。それも50人である。
それだけの数が一斉に動けば嫌でも機関の目につく。確かに陽動も可能だろう。これは意外な収穫である。
(だが、それでも陽動にかかることなく俺達を待ち構えるのは、恐らくファーストナンバー達──)
それを思った時、俺の頭の中を先程の神重の言葉と共に、城栄や夜叉浪と相対した時の場面が蘇った。
「手に負えるかどうか……か。
一つ言えることは、生半可な覚悟で挑んでも勝てる相手ではないということだろうな」
俺は目を開けて、誰に言うとはなく静かに呟いた。
【池上 燐介:戦場ヶ原の要求に宗方達がどう答えるか窺う】
>>50-51 空気を裂いて唸り、真一文字に天地を分ける巨腕の一薙ぎ。
が、それぎりである。手ごたえは無い。空振り!
予想外。大男の知覚はワンテンポ遅れる。
その隙に、踏み込んだ右太腿に食い込む激痛。
苦悶に顔を歪めようとするサイゾウだが、その猶予すら与えられなかった。
間髪入れず、後頭部へ、頭蓋を貫かんばかりの打撃!
凄まじい。見開かれた双眸に星が瞬くのを感じる。
しかし幸いにも追撃は無い。
寸刻に凝縮された猛烈なカウンターを浴び、
意識を手放しかけて倒れそうになりながらも、
意地だけで踏みとどまり、女によって膝をつけさせられるという屈辱だけは避ける。
頭部と脚部の痛みに息を乱すサイゾウは、
未だ混乱を残す脳をなだめつつ、静かに顔を上げた。
だが視線の先に女は居ない。
>「まだやるつもり?降参するなら今のうちだよ?」
振り返るより早く、言葉。既に背後を取られていた。
女はいささかも苦を露にしておらず、
まるで先の連撃を放った人間には見えない。奇妙な自然体であった。
生唾を飲みつつ、ちらと視界の端を確認したところ、
己の右太腿を、深々と刃物が刺し貫き、
どくどくと脈のリズムを示して、血液が溢れ出していた。激痛の原因である。
我が鋭さを誇示するようにして輝く刃の白銀と、
止め処なく湧いては、地に溜まりつつある紅との対比が美しい。
――見ると余計に痛い。しかし下手に抜いては出血が増す危険がある。
歯を食いしばりつつ、再び注意を女に向ける。
右手に提げられた刀は、只今己の脚部に突き刺さっているものと対らしい。
目隠しに特攻させたはずストールは、とうに消えている。
代わりに、風に乗った二つの布切れが、空へ空へと、
のんびりと昇っていく様が目に入った。
己の反応を遥かに超えた、魔術じみた迅さでの反撃を繰り出した上、
今も退屈ささえ醸す程にごく平常を保ち、それでいて隙なくこちらを伺っている。
しかもその片手には、素人目に見ても、余りに研ぎ澄まされた刃。
サイゾウとはまた違った意味で、また濃厚な意味で、闇の世界に棲(いきづ)く者。
逆らうべき相手ではない。
とは言え、ここで頭を下げて逃げ帰ったのでは、余りに情けない。
それにサイゾウは既に、この女には及ばぬ腕ではあるが、
異能の人間と命のやり取りを交わしている――三度。
覚悟は充分であった。
「Oh...oh.すません。私は悪い。ごめんなさい。
Ouch.oh,oh,oh...」
嗚咽交じりにそう言いながら、赤く染まった腿部を押さえ、
身体を縮めてしゃがみこんでしまった。が、当然それだけでは終わらない。
女に対して己の向きをさり気なく調整し、
死角となったデニムのポケットから、そっとタバコケースとジッポーライターを取り出す。
次いで、痛みに耐え切れなくなったかのように、哀れなうめき声を発して、地べたに寝そべってうずくまる。
この時もやはり女に背を向けるようにして、己の手元の操作は見えぬようにするのだった。
大層な呻き声でライターの鳴らす金属音を隠し、火の点いたタバコを口に咥え、
また気取られぬよう、そして素早く、ライターとケースをポケットに戻す。流れるような所作。
女の技術を達人の妙技とするならば、こちらはペテン師の小手技とでも称されよう。
笑うのだか引き攣るのだか判然としない口元からは、何故か煙は一筋とも漏れない。
俺を舐めた上、痛い目に合わせてくれたコイツをどうしてくれよう。
「Let's trifle(リッツ・トライフォ)...」
呻き声に混じり、呪詛じみた呟きが零れる。
そして辺りに立ち込め始めた、神経を殺す汚れた瘴気……
【サイゾウ:戦闘不能を装いつつ、臭いも色もない、神経を麻痺させる煙を大量に吐く】
「 …俺の名は戦場ヶ原 天。かつて機関で部隊を率い、ナンバーワン城栄金剛の許にいた。
この中で最も機関の本当の恐ろしさを知っているのは、この俺だ。」
この男の事は亡霊から引き継いだ記憶で知っている。
元虐殺部隊隊長、機関の反逆者。
戦闘的オーラを身に纏う、危険な男。
だが彼を慕う人間は居るようだ。
50人の兵隊を陽動に使うというのは名案ではある。
だがいかに少数精鋭でぶつかっても、一度に撃滅されれば元も子もない。
私はこの街に潜む第三勢力「殲滅機関」の事を口にしようとした。
「兵隊どもを集めるには一つ条件が要る。
貴様ら二人の異能力を、ここで俺達に明かしてみせろ。
生憎俺は初対面のよく知りもしねぇ野郎に背中を預けられるほどお人よしじゃねぇんでな。」
・・・なるほど、テストをしようと? それなら手っ取り早くやろうか。
「では私から行こうか。私の能力は――」
喋りながら体を高速で光子に変換、自分が立っていたところに己の虚像、分身を作り出す。
ルクスドライブ#ュ動。光速で跳んで$場ヶ原の背後ヘ。
戦場ヶ原の凶悪なオーラがこちらを察知する感覚。
迎撃を避けて戦場ヶ原の頭上に回避しつつスペクトラム投射。
戦場ヶ原の斜め前に分身その2を作る。
分身が玩具のレーザーガンをベルトから抜き、構え、撃つ。
それと同時に、戦場ヶ原の前方に残した分身も銃を抜き撃つ。
弱装モードでルクスビーム発射。
ZAP! ZAP!
二本の力線が戦場ヶ原の横顔を掠め、背後の壁に着弾。
弱装モードで射出した力線は減衰し、壁を焦がして消失。
同時に戦場ヶ原の背後へと着地。
細身の懐中電灯を抜いてルクスブレード発動。
戦場ヶ原の背後へ刃を突きつける。
「明滅<Xペクター。光を操る能力。」
【宗方零 能力発動 戦場ヶ原の背後に立つ】
トリップ忘れ、失礼。
>>62 >>66 >>68 >>71 悪い予感は的中ってな!勘は俺のほうが鋭いと思うんだが)
(うるさい、私にそんな鋭さなど必要は無かったのだ…なぜ生徒が…)
(偽善者ぶんなって、お前、桐北が怪しいっていうだけの理由で重力かけてただろ)
(………言うな)
聞いた結果はやはり…。
彼らは我が校の生徒二名だった。そして同時に異能者でもある。
彼らが何故ここにいるか詳しい内容はともかく置いておくことにしよう…。
目つきの鋭いから声が上がる。
もともと自分は機関の人間で、トップの恐ろしさを知っている。
そして自分の仲間がいるから、それを陽動に我々が中核に突っ込むのだ、と。
ハッキリ言って戦術的には有効だと言うべきだろう。実にいい情報であった。
(それにしてもメガネメガネと…伊達メガネの何が悪い…!)
(落ち着けよ兄弟、お前は素顔のほうがカッコイイってことさ)
ただ同時に余り好ましくない情報もいただいてしまったようだが――
しかし、と目つきを更に鋭くさせて男は言う。
我々の能力を明かすこと、と。
その言葉を挑発ととったか、それとも別の考えか。
宗方は一瞬で男に能力を明かし――もとい軽い挨拶程度の攻撃を仕掛けたのだ。
攻撃が掠ったのか、男の頬からは軽く血が出ていた。
(おいおい、アイツなかなかやるじゃねえか。さすがは俺が認めただけ――)
(一応あの男の動きを止めておくか)
宗方にもし反撃でもされれば大変なことになる。
我々は能力を見せているのだ、殺し合いをはじめるわけじゃあない。
男が動く前に"重力指定"で男にかなりの重力をかける。男が倒れないのが凄いくらいだ。
「では私も能力を明かさせてもらおうか。
どういうことか私は能力が二つ存在していてね――」
手を翳し、この薬局に空間重力で多少強力な重力をかける。
ミシミシ、という薬局の軋む音がする――すまんな国崎――
「これが私の第一の能力、重力連鎖(デスペレイトオーバーフロー)…重力を操る能力。」
翳していた手を下ろし、空間重力を解除する。
「そして…これが私の二つ目の能力…!」
服の中に隠していた硝子の破片を手に突き刺す。少し子供にはよろしくないが仕方ない。
一瞬戸惑いの視線を感じた気がしなくも無いが、気にしている場合ではない。
勿論手からは鮮血がほとばしり、床を朱く染める。その朱に指令を下す…形を成せ、と。
朱の液体は形を作り、数十匹の蝙蝠が出来上がった。
「鮮血瘴気(エクリプスクリムゾン)……全ての血を操る能力……」
(ほう…ついに能力として認めてくれたか)
(……。)
(それにしてもまだ若干不安定だな。能力が)
【神重:能力発揮 戦場ヶ原がもし宗方に反撃した時のために重力はかけたまま】
>>67 メインサーバールームに向かう途中。
黒神が少し疑問を持ちながら言葉を発する。
「少し――お聞きしたいことがあるのですが。」
その言葉に前方のレオーネも歩みを止める。
黒神の質問を察しているか察していないかは別として、話を聞いてくれるつもりだろう。
「No.6、貴方が死者の異能を再現したいとおっしゃるのは正直意外でした。
異能再現装置はもともと私が考案した物ですが、反対者も随分と多かったので…
No.6も反対派の方だったのかとてっきり私は思っていたので――」
前方のレオーネの顔は見ることができない。
黒神は左手の甲の紋章を見ながら言葉を続ける。
「ですが、私の研究を使ってくださるとは嬉しい限りです。
今の私の所属の都合上、どうしても使用者は荒々しい人間になってしまいますからね。
No.6のような繊細な方に使っていただけると思うと私も研究をした甲斐というモノがあります。
……再現装置を使おうと思ったのは、唐突のお考えですか?
それとも…………綿密な計画でもおありでしたか?」
この黒神の言葉の意味は一体何なのか…
それは誰も知る由が無かった。
――そして――その場から少し離れた位置に一つの影が存在していた。
その名は――セルゲイ・ロルトニクス――もっとも、今の彼の容姿はただの研究員だった。
――彼が今行使している二つ名はそう―― 轟 雷 数 奇 ―――
【黒神:レオーネの正確な目的が知りたい
セルゲイ:姿を変え二人を追尾】
>>71>>73 「では私から行こうか。私の能力は――」
宗方が不敵な笑みを含むと、彼の姿はぼやけて霞んだ。
異変を咄嗟に察知した戦場ヶ原は彼の動きを殺気で追う。
しかし、
(―――速い!)
宗方の殺気は『霧散』して消え、眼の前に現れる残像を眼で追うのが精一杯だった。
どこからかおもちゃの音が聞こえたかと思うと、眼にも止まらぬ熱線が戦場ヶ原の頬を掠めた。
(どこだッ!)
「明滅<Xペクター。光を操る能力。」
戦場ヶ原が索敵しようとした時にはもう遅い。宗方は戦場ヶ原の背後に立ち、光の刃を背中へつきつけて立っていた。
次の瞬間、彼の身体を強烈な重圧が襲った。
(!?これは――重力攻撃ッ!)
重力使いの戦場ヶ原にはそれが瞬時に感じ取れた。今の彼の体は、外からの重力攻撃を受けている。
「これが私の第一の能力、重力連鎖(デスペレイトオーバーフロー)…重力を操る能力。」
そう言ったのはもう一人の温厚そうなメガネの男。
メガネの男は続けて自らの手にガラス片を突き刺した。そこから滴る血液が、みるみるうちに蝙蝠の形へと変貌していく。
「そして…これが私の二つ目の能力…!鮮血瘴気(エクリプスクリムゾン)……全ての血を操る能力……」
「フン…、なるほどね…。」
背中に刃を突き付けられ、全身に重力の拘束を受けながら、戦場ヶ原は満足げに笑った。
彼は軋みを立てる身体を立て直し、下腹部に力を込めた。
「喝ァつッ!!!」
耳をつんざく炸裂音と同時に、その身体から爆発的な斥力が放たれた。
マイクロワームホールを体表面から炸裂させたのだ。
これによって自らにかけられた重力を相殺すると同時に、背後に立った宗方を壁際まで一気に吹き飛ばし、血液の蝙蝠までもことごとくを掻き消した。
もちろん部屋の中は散々だ。棚は倒れ、その中の薬品類までもぶちまけてしまう。
「…及第点だ。褒美に俺の能力を教えてやる…。」
戦場ヶ原がみしりと軋んだ左腕を掲げると、そこに小さな重力球を生み出した。
「引力と斥力を操る『歪んだ重力(インセインオーバードライブ)』…!圧倒的破壊力が、俺の力だ。」
戦場ヶ原は重力球を引っ込めると、壁際に飛ばされながらも咄嗟に態勢を立て直していた宗方と、メガネの男を順に見比べた。
「フン…、光を操る能力に、重力と血液か…。狡っかしそうな貴様らには打ってつけの能力だな。」
相変わらずの嫌味を漏らすが、現に今、戦場ヶ原は相手の攻撃を予期していながらも二人の見事なまでのコンビネーションにより一瞬で動きを封殺された。
彼らの戦闘能力は本物だ。戦場ヶ原はそれを心の中で認めた。
戦場ヶ原はさっと机の上の携帯を手に取ると、部屋を出た。
「…いいだろう。約束通り、これから陽動部隊を召集する。貴様ら突入部隊の作戦はすべてそちらに任せるぞ。
池上燐介!判断を下しやがれ。」
それだけ言い捨てると、彼は颯爽と裏口から店の外へ出た。
店のすぐ裏で、携帯をじっと見つめる。
幾多の闘いを経て、ボロボロになってしまった携帯電話。しかし、今となっては彼と『鬼ども』を繋ぐたった一本の命綱なのだ。
「すまねぇ…みんな。これが最後の最後だ。俺に力を貸してくれ・・・!」
彼は一人ぽつりとつぶやくと、携帯電話をコールした。
【戦場ヶ原:宗方、神重に能力を開示。彼らに池上、廻間、リースを含めた5人を突入部隊と認め、自分は陽動部隊召集のため一旦席をはずす。】
>>71>>73>>75 俺が壁に背を預けながら目を開けた時には、
既に宗方と神重による攻撃的な異能力が山田に向けて発揮されていた。
その中でも神重の力は薬局全体を巻き込む程のものであったが、
この時点ではまだ薬局は営業に支障が出る程の被害を被ってはいなかっただろう。
しかし、そんな二人に負けじと山田も異能力を発揮したことで、
店内は一気に台風が荒れ狂ったかのような散々たる様相を見せることとなるのだった。
(……フッ。姿を消す宗方の力のカラクリも、俺の『氷壁』をも砕く黒球の正体も、そういうことだったか)
そんな騒がしい店内で、先程から壁に背を預けたまま微動だにしなかった俺は、
彼ら自身の口から語られた異能力の正体と、これまでに見た彼らの力の片鱗が起こした
現象とを符合させ、一人冷静に合点を合わせていた。
宗方と神重、二人の異能力をその身を持って体感した山田は彼らの力量に満足したのか、
突入作戦はこちらに一任すると言い放つと、そのまま裏口へと向かい、外に出て行った。
俺は壁から背を離すと、店内に残された面々に視線を向け、静かに口を開いた。
「……だ、そうだ。奴の陽動部隊の行動開始と共に、こちらも動くことにしよう。
だが、その前に我々がどこから潜入するかということくらいは、決めて置いた方がいいだろうな。
まぁ、どこから潜入するにしても、ビル内でのファーストナンバーとの戦闘は避けられんだろうが」
言いながら、俺はツカツカと店の表玄関口まで歩くと、四人に背を向けて立ち止まった。
ファンダメンタルデリート
「ところで廻間。今日になって、お前の前に『殲滅結社』とかいう連中は現れたか?」
俺がそう訊ねると、廻間は「いや……」と、昨晩以来彼らとの接触が無いことを告げた。
俺はそれに対し「そうか……」とまず一言返すと、更にこう続けた。
「まぁ、こちらがビルで闘っていると知れば、奴らもそれに乗じて機関への攻勢に出る可能性はある。
今はそれに期待するだけだな」
【池上 燐介:議論中】
>>69 男はゆらりと顔を上げて少女を探す、だがそこに少女は居ない。
次に背後からの声に振り向き。少女の姿を視界に納め
ちら、と視線を下方に落し己の脚を見やる、見れば男の腿部には
白銀の刃が深々と突き刺さり、刃は紅い雫を玉のように零している。
その凄惨な光景に僅かばかりか苦悶の表情を浮かべ、額には大粒の汗が滴る。
だがすぐに視線は少女へと集約され、そして次には観念したといった顔で。
「Oh...oh.すません。私は悪い。ごめんなさい。
Ouch.oh,oh,oh...」
男は嗚咽交えに腿部を押さえ、少女を背にして倒れこみ
その後大層な呻き声を上げて蹲る。
しかし男の背からは観念の意より、むしろある種の欺瞞に溢れていた。
彼女は油断無く男の動向を観察し妙な動きがあればすぐさま
迎撃する構えだ。
油断はしない、この男は必ず何か仕掛けてくるから。
蹲る男の動きを凝視する、此方からは仕掛けない、先に仕掛けてしまえば
それは唯の殺しになってしまうから
そうなったら、またあの頃に戻ってしまうから――――
逡巡はばかる響、そんな彼女を横目に優々と舞う白い蝶々
先程の時期尚早たる白い蝶はひらひらと男と柴寄の間を舞い
そしてまた、ひらひらと白い羽は墜ちて行った。
白い羽は柴寄の血塗れの頬にひらりと落ち、
羽はその鮮血を吸って、柴寄の頬の上で赤い花を咲かせた。
傍から観ていた彼女はその蝶が
見えざる何かに墜とされた様にしか見えなかった。
先程垣間見た処、柴寄の状態はとても安全な状態ではなかった、
恐らく、何か穏便ではない方法で身体機能を封じられたのだろう、
その何かがこの男の異能力であろう事は想像が付く。
はっきりとは解らないがこの男の能力はガスのような類を操る能力、
そう彼女は判断した、何か発動条件が在る異能力なのか
それとももっと単純な能力なのか、其処までは解らないが
とにかく、この男に異能力を使わせてしまったようだ。
そして、この手合いは、此方が手を誤れば
たちまちに呑み込まれてしまいそう
そんな黒く醜悪な蝮(まむし)の様な男―――――
今彼女が前にしているのはそんな男、もし仕損じれば
此方も只ならぬ損害を負うだろう、蝮の毒に中てられれば
命を落す事にもなろう、彼女はまだ死ぬわけには行かった。
右手の刀を鞘に納める。
「―――…念だよ―――…」
彼女は貌に影を落し、ぽつり、と呟く――――
「―――残念だよ…、こうなっちゃったら……――」
彼女の貌から 笑顔が消える――――
そして――――
「―――― 殺 す し か な い じ ゃ な い か ――――」
彼女の瞳から 光が消えた―――――――
――――瞬間、彼女を中心に、嵐が吹き荒れる。
嵐はこの周辺一帯に吹き荒れ、横たわる男と柴寄の身体を煽る
周囲の建物は軋み、悲鳴を上げている
柴寄の頬に咲いていた赤い花は、嵐に飲まれて消えて行った。
嵐の中心に立つ彼女の羽織は引きちぎれんばかりに靡(なび)き。
その下の衣装を露にする。
機能性を重視し、動きやすい様改良された忍装束。
腰と背には武器を入れたホルスター。
同じく腰に二刀一対の忍刀、右の一振りは鞘に収まり、
左の一振りは男の右の腿部に突き刺さったまま。
また、先とは異なる短刀が脚にも取り付けられている。
「―――……」
カオ
彼女はその表情を歪ませ、左腕をゆらりと挙げる―――
ブラインド
――――『裂空』――――
左腕は大きく天へと掲げられる
その掌には文字通り "嵐" が収束している――――
エクステンド
――――『蜂起』――――ッッ!!!
左腕を振り下ろし
男に "嵐" そのものを投げ付けた―――
――――ゴッ!!!!――――
圧縮された嵐は膨張し遂には爆発を起こす。
巻き起こる嵐は全てを蹂躙する暴君と化した。
男の身体は打ち上げる嵐に屠られ、一瞬で上空まで飛ばされた。
「―――…はぁァああア!!」
彼女は身に付けている黒い羽織を広げる、その裏地には無数の刃が備え付けられている。
彼女はそれ等を引き抜き、流れる様な動作で男の居る上空へ風雨の如く打ち出した。
放たれた刃には風を受ける為の布が取り付けられている
風に乗った刃は意思を持ったよう飛び
無数の刃が宙を舞う男を取り囲む。
―――柳葉飛刀弐拾六連―――
キラー・ドール
―――――『殺人人形』―――――!!
彼女は掲げた手で上空の、小さくなった男を握りつぶす様な動作を取る
「――…バイバイ―――」
男の四方八方を取り囲む刃が、その合図で
中心に居る男に向けて殺到した――――――
【伊賀 響:サイゾウを上空に打ち上げ26本の布の付いた飛刀でサイゾウを取り囲み
その中央に居るサイゾウへ向け飛刀を殺到させる】
古びた洋館の扉が開き、内部に光が差し込む
そして外から若い男の声が流れて来た。
「お、あいとるぞ、光龍よ!さぁ入ろう」
その声は若々しく、それでいて何処か老獪な語り。
それによる不釣合いな様がある種の滑稽さを醸し出す。
逆立てられた前髪は赤く、ひときわの異彩を放つ。
後手に束ねられた髪は長く伸びて何かの尾を連想させ
その異彩にアクセントを加えていた。
声の主は扉の向こうに居るもう一人の人物に話しかけているようだ。
光龍と呼ばれたもう一人の少年は遅れてやってきたみたいで
息も絶々にこう溢した。
「はぁあああ……、まったく…はぁ、何でこんな、はぁ、はぁ…」
そして二人は館の中へと足を踏み入れた。
「――そう云うな光龍よ、これでようやく人心地つけるぞ…
実はわしも長から三日三晩食を抜かれててな、いやこれで四日三晩か……」
二人の少年の声が静まり返った館に木霊する。
「うわ!それひっでえな、なんかやらかしたのかお前!?」
「聞くな光龍よ、それよりもわしのカンではこっちに食い物がある
もう少しの辛抱じゃついてこい」
「…またオマエのカンか……はぁはぁ………それの所為で
こんなに振り回されてんだけど……」
せっかく沙羅が居たってのになんで逃げ回らなきゃならないんだよ。
話はおよそ半日前に遡る―――――
―――――――
――深夜、ガラス工場から大きな音が聞こえ、周辺に異変を知らせる。
「光龍、誰かいるようじゃ…気を付けんとな…」
「おう、そうだな…」
(もしかして沙羅か?本当にきやがった、馬鹿だな…)
物陰からそろりと覗き込む、すると二人の女性が居た。
彼女達の周辺にはコンクリートの破片が散乱している
地面には大きな穴が二つ空いており
その後方の工場のトタンには綺麗な穴が空けられている。
「…わ、わしの……部屋に…あ、あなが…あいとる………」
どうやらその穴の空いた部分は彼の寝床であったようで
彼は呆然とその光景を見て、全身をわなわなと震わせている。
「お〜お〜、どうした?
――…沙羅じゃねえか、もう一人は……誰だ?」
光龍は呆気に取られている彼を尻目に覗き込む、
「なんと!どちらかわからぬがあれがオヌシの彼女さんかえ!?
暗くてよくワカランがどちらもべっぴんさんじゃのう
光龍よ……、くぅ…… 羨ましいのう……羨ましいのう………!」
とくに左の女性なんぞ云い様の無いくらい―――!――!
そう思ってその女性を見た時、わしの身体に電流が走った。
恋などしたことがないからわからんが少なくともこれは
恋ではないのう、わしの直感が彼奴等はヤバイとハッキリ告げとる。
彼は学生時代、常に喧嘩ばかりの日々を送ってきた。
そんな彼等のような人種にとって何よりも大事な能力は
腕っ節の強さでも威勢のよさでも無く、相手の戦力を即座に見抜く能力だった。
それは時に喧嘩の強さよりも大事な才能となりうる。
特に眼の前の存在は、闘争者としての次元が違う。
「イカン……イカンぞ光龍よ……、
わしのカンが彼奴等と絡むのはヤバイと云っとる……
……って!! おい!!オヌシは何をしとる!!」
そういう彼の手に握られているのは拳銃。
「ん〜? 決まってるだろ?邪魔な奴はぶっ殺す」
そう言い彼はその拳銃で狙撃の構えを取っていた。
―――そして―――
――そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!―――
――やめんかいアホウッ!!オヌシはどこぞのスナイパーじゃ!!―――
――俺の背後に立つな…っ!じゃなくて放せ!邪魔だっ…―――
――彼女さんを撃つ気かい!!何を考えとるんじゃオヌシ!!ええい!!―――
――おわっ!あぶな……―――
―――バァン!!――――
けたたましい音が夜空に炸裂した
翌朝この辺りは発砲事件があったと騒ぎになるだろう
此処貳名市が正常な街であったなら、だ。
「気付かれた!!逃げるぞ光龍!!」
「沙羅が居るのになんで逃げなきゃなんねぇんだ!
おわっ引っ張るな!!―― 鳳旋!!邪魔するんじゃねぇ!!」
鳳旋と呼ばれた赤髪の彼は、光龍の腕を強引に引き
作業着の姿のままその場から駆けて行った―――
―――――――
と、此処までが今現在に到るまでの、大まかな話の流れである。
彼等はその後、逃げている途中恐ろしくがたいの良い男と出会い
その男に「…異能力者か?」と聞かれ追い回されたという。
男は此方の必死で逃げる様を見て、何時の間にか追いかけるのを止めていたが
彼等はそれに気付かず、そのまま一晩中今に到るまで逃げ回っていたのだった。
――――
――
「おぉ…見ろ光龍よ…、キッチンがあるぞぉ……
ふほ……しかもオーブンまで完備しておる!
夢のようじゃあ…、夢のような設備じゃあ!」
「そんなの火が付くわけないだろ……って付いた…
マジかよ…廃館だろここ……そういえば入った時からなんかおかしかったな
人が住んでんのか?」
「そんな事はどうでもいいんじゃあ!今のわしにあるのは
肉、即、食!!これがわしの正義じゃあぁ!!」
「俺も腹減ったし…さっき買ったパンでもかじっとくか…」
そう言い椅子に腰掛け手に提げていたビニール袋から紙袋で梱包されたパンを取り出し
頭だけ除かせてかじる、一方、鳳旋の方はというと。
「ふほほ〜!ふほほ〜!焼け焼け〜!焼け焼け〜!!」
「うるせぇ、どっかの蛮族かオマエは、
まぁ4日も食事ぬいてりゃあテンションもおかしくなるわな…
……お!このパンうめぇ、オマエも食うか……って聞えてねぇな」
【場所;廃棄された洋館型のシナゴーグ内・料理中】
>>49,
>>80-83 目が覚めた時、私はベッドで眠っていた。
あれからどれくらい時間が過ぎたのだろうか。体を動かすとまだ少し痛むけど、さっきに比べれば大分楽になった。
あんな強大な力を行使してもこの程度で済んだならそれだけでも幸いだろう。
客室と思われるこの部屋は中世風な机とベッドが置かれているだけのようだ。隅々まで掃除が施されていて清潔な印象を与えている
だが体を起こして全開になっている窓から外を見ると、荒れた庭が広がっていた。
なぜ中だけ……?その場で眠っている頭を起こしながら考えているとガ゙チャリと扉を開く音が聞こえた。
私はすぐに左手を布団の中に潜らせ、刃が短い小さなナイフを創り出す。
投擲用の投げナイフなので殺傷力はあまりないが威嚇程度ならば十分通用するだろう。
今日は不幸続きだったからなぁ……今度こそ危険から回避したい。
扉が少しずつ開かれていく、と同時に背中に冷や汗が滴り、胸の鼓動が速まっていく。
中に入ってきたのは……美月だった。彼女は変わらず長い黒髪に黒いスーツで全身黒一色である。
左手に握ったナイフが消えていき、口からは安堵の笑みがこぼれる。
「ありがとう、美月……ちゃんと会堂に着けたみたいだね」
私は美月から私が寝ていた間の事を話してもらった。
やはりここには機関の人間は居らず、アーリーという女の子が住み着いているだけだという。
「さて、と。そろそろここを出ようか。アーリーさんにも心配かけちゃうだろうし」
ベッドから出て、バッグを取って準備をする……と、騒がしい物音が聞こえた。
ここから少し離れた場所で男の声。会話をしていると言う事は一人ではないようだ。
アーリーさんは女の子だし……これは……
「侵入者」
「アーリーさんが危ない!今すぐ行かなきゃ!」
部屋を出て急ぎながらもやや早歩きで声が聞こえる場所へと向かう。
着いた場所は中央の部屋のすぐ隣に設けられている調理室。私達は物陰に体を潜めて内部を覗く。
侵入者と思われる声の主は……肉を焼いていた。
>「ふほほ〜!ふほほ〜!焼け焼け〜!焼け焼け〜!!」
>「うるせぇ、どっかの蛮族かオマエは、
まぁ4日も食事ぬいてりゃあテンションもおかしくなるわな…
……お!このパンうめぇ、オマエも食うか……って聞えてねぇな」
炎みたいな真っ赤な髪のハイテンションな人に私と同年代くらいの少年がツッコミを入れている。
なんだろうあれ……漫才コンビ……?服装からして浮浪者の類ではなさそうだけど……やっぱり異能者?
とにかく何でもいいから此処から追い出さなきゃ。アーリーさんに迷惑がかかってしまう。
美月にバッグを任せて物陰から彼らに見えるように姿を現す。
「あのー……失礼ですがここは私の家なんですけど……そのー……警察には言わないんですぐに出て行ってくれませんか?」
流石に無茶な嘘を付いてしまったと思う。
後は相手の出方で対応するだけだが、"もしも"の時の為にさっき創り出した物と同じ投擲用ナイフを私の背後に三本創り出しておく。
上手いとは言い難いがそれでも体に当てられるくらいの技術はある。本当にそのまま帰ってくれればいいけど……
やっぱり今回も良くない事が起こるようだ。
【調理室:鳳旋&光龍に遭遇、美月とバッグを物陰に隠して姿を現す】
【与一の背後には護身用のナイフが三本浮いている】
――――――
「旨し旨し旨し旨し旨し!!」
「フライパンで焼いたまま食うんじゃねぇ!
皿に盛れよ皿に……俺の分も残しとけよ、一応俺の金で買ったんだしな
こっちのマグロは…後で火を通して食うか……」
ようやく人心地付いて多少冷静になった鳳旋は焼き上がった肉を盛り
食卓に二人分の皿を並べ席に着いた。
「ふご…、ふん…、人間腹が減ってりゃ何でも旨く感じるもんだな、もぐ…」
「むごっ……!むがっ……!!もがもが……!」
光龍がナイフとフォークで切り分けて食しているのに対し
鳳旋はフォーク一本刺しでそのまま肉に被り付いている
なんという大胆な食し方だろう
反対側の光龍の食べ方が比較対象となり
鳳旋の食べ方がより大胆に強調される。
「もがっ……!後は白い飯があったら最高なんじゃがのう……」
「もぐ……米は無いがパンならあるぞ、ほら」
「わしはそんなスカスカした軟弱な食い物なぞ好かんのじゃ…
じゃが腹も減っとるし、オヌシがどうしてもというなら食ってやらん事も無いぞ
……う…うんまぁ〜〜い!!っこ、これは!この味はぁ!
わしが今まで食べてきたパンは何だったんじゃあ〜〜〜!」
「うるせぇよ…オマエもコンビニとかで売ってるパンしか食った事無いって口か
それにしてもうめぇなこのパン…、店の名前は確か……、ムッシュイノウだったか?」
盛り上がっている二人に忽然と少女が割って入る。
「あのー……失礼ですがここは私の家なんですけど……そのー
……警察には言わないんですぐに出て行ってくれませんか?」
「……んが?」
「……むが?」
鳳旋と光龍の二人は少女の突然の登場に呆気に取られた。
しかしその口だけは忙しなく活動し、
あまり心地良いとはいえない二人の食事の咀嚼音が静かな館に流れる。
やがて口内の物を飲み終え鳳旋が返事を返す、
「おーすまんのー、じゃがこれだけは食わせてくれんかの――
――――ふごっ……!」
言うや否や再び手元の肉をフォーク一本刺しで口にほおばる。
次に―――思い出したかの様に再び少女へ振り向き
「…むご………おふぉそうじゃ…おふひもふってひかんかのふぉっッぷ…!」
肉を口に含みながら話す、当然の事ながら発音は乱雑
その所為でその言葉の意味を汲み取るのが多少困難になる
おまけに口の中の物をこぼす有様、お世辞にも行儀が良いとは言えない。
「うわきたねぇ! え〜?"オヌシも食っていかんかの"だって?」
鳳旋とは反対の席に居る光龍が彼の言葉を意訳し
少女に対し特に悪びれた様子も無く接する。
「だってさ、わるいな、良かったら俺のパンでも食ってってくれ」
そう言い袋から先のパンとは別の小振りの紙袋を取り出し
それを弧を描く軌道で少女に投げる。
「!!こらふぉうりゅう!
くひものをなげるとふぁなんとばちあたりなん……ふごッ!」
食べ物を投げ渡すとはなんと罰当たりなんだろうか、
そう云い鳳旋は再び噴出した。
【姫野にメロンパンの入った紙袋を投げる
食事が終われば出て行くつもり・特にこの場所に執着は無い】
私が会議室に向う途中に見た空は白みを帯びていたが、
今この通路から見える景色は既に青空が見え、そろそろ賑やかに為り始める頃合だろう。
美々しい太陽の輝きが燦然と空に照らしている。
>「少し――お聞きしたいことがあるのですが。」
私とやや離れて歩いていた黒神から言葉が聞こえてきたのは、
丁度エレベーター前の通路を直進していた時だった。
彼女の言葉に私は歩を止める。
>「No.6、貴方が死者の異能を再現したいとおっしゃるのは正直意外でした。
> 異能再現装置はもともと私が考案した物ですが、反対者も随分と多かったので…
>No.6も反対派の方だったのかとてっきり私は思っていたので――」
後ろを振り向く事無く、黒神の言葉をただ黙して聞く。
確かに異能再現装置の研究・開発にはメリットも多かったが、デメリットも多い。
それは莫大な金と労力が必要になるからだ。
安易に異能力を使役する事が出来るようになる試験薬を用いる従来の方法を
上層部は重視したのだ。
だが、私は反対を決意した事は無い。何故ならば、今回のような時に役に立つと踏んでいたからだ。
目先の利益ばかりに固執する連中には解らんだろうな。
>「ですが、私の研究を使ってくださるとは嬉しい限りです。
> 今の私の所属の都合上、どうしても使用者は荒々しい人間になってしまいますからね。
> No.6のような繊細な方に使っていただけると思うと私も研究をした甲斐というモノがあります。
> ……再現装置を使おうと思ったのは、唐突のお考えですか?
> それとも…………綿密な計画でもおありでしたか?」
「……」
確かに彼女の被験者には好戦的な人物が多い。そういう人間の方が、データを採り易いからだろう。
その中で私という存在は異質な存在だな……。
そうだ。今回異能力再現装置の被験者は、この私自身。
セカンドナンバーに空きが目立ち始めてきた以上、正式にファーストナンバーに命令が下るのは時間の問題だ。
正直、ここまでこの街の市民が粘るとは思わなかった。賞賛に値する。
抵抗分子を甘く見ていた我々の責任とはいえ、厄介な事に敵は彼らだけではないのだ。
市民達に便乗してアイツも動く筈だ。
長束誠一郎……。奴を倒さねば、理想の世界など夢物語に過ぎないだろう。
アイツだけでも"落とし穴"に叩き落さなければ……。
>>87>>74 「理由か……。確かに開発者としては聞いておきたい所だな?」
この時点でようやく私は黒神の方に向き直った。
相も変わらない無骨な戦闘服を着ているな。もう少し小洒落た服でも見繕えば良いものを……。
折角素が良いのに勿体無いと思うがな。
「……現時点でセカンドナンバーの犠牲は甚大なものとなっている。
今戦力にブランクが出来るのは機関にとっても、また城栄にとっても好ましくない。
かと言って、サードナンバーを二桁に繰り上げるだけで解決する問題でもない。
セカンドナンバー以上の強さを持つ存在が必要だ。
――まぁ、全くの無計画という訳ではないが、保険を掛けて置いて良かった、という所かな。
私は君の研究に反対した覚えは無いよ。"こういう時"に必要になるだろう?
何せ、条件次第では直ぐに強力な異能が扱えるようになるのだからね。
これが"理由の一つ"だ」
歩みを再開し、エレベーター前へと辿り着いた。
…のは良いのだが、エレベーターは別の階で止まっている。
かと言って、別のエレベーターでは駄目だ。
メインサーバルームへと行く為には、この中央エレベーターを使わなくては為らない。
仕方が無い、少しの間待つとするか。
私は"下降"のボタンを押すと仰々しく肩を竦めて見せた。
正直、オーバーアクションだと言えなくも無いが、
癖なのだから仕様が無い。放っておいて貰おう。
「これから見せるデータの持ち主――
もう死んでいるが、生前は他の異能者が阿呆に見えるほど強かった。
君らの"上司"が手こずった程さ。私の記憶が正しければ、未だに勝敗は付いて居ない」
今でも思い出す。城栄の"数式"を打ち消したあの時の、
凛々しくも可憐な顔を……。
【レオーネ:現在地23階中央エレベーター前通路】
【セルゲイには気付いていない】
>>75 >>76 (おいおいなんて野郎だコイツァ…)
周囲に散らばった薬品などを見ながら智はやれやれと呟く。
こういうモノには上がいるというものだが、随分と凄まじいバケモノがいたものだ。
戦場ヶ原の嫌味に少しムッとする神重だったが、同時に男の戦闘力は本物だということがわかった。
池上に全てを託すと言った後、彼は颯爽と裏口から店の外へ出て行ってしまった。
そして池上が告げるファーストナンバー、これが機関の中核であり
これを倒すことによって我々は勝利する…といっても過言ではない。
(ファーストナンバー……か)
(なんだ、何かあるってのか?)
(いや、頭のスミに引っかかることがあるんだ)
(……?)
考えている間に、池上は廻間に別の組織の動向を聞いていたようだが、あまりいい返事をもらえなかったようだ。
そこで自分の能力を見せたことを思い出し、3人に問いかける。
「ところで、我々が能力を見せたのはいいが
我々は君たちの正確な能力は見せてもらっていないわけだが――見せてもらえるのかな?」
ある程度池上についての情報収集は済んでいる。
しかし、残る二人…つまり廻間とリース・エインズワースの能力が知っておきたいのだ。
桐北に廻間、リース・エインズワースという我が校の生徒とこのような形で会うとは思っていなかったが――
【神重:二人の能力が知りたい】
>>84-86 彼女は男物の黒スーツを着て、大人びた顔つきをしていた。
実際に自分よりニ、三才上なんだろうが、その年には似合わない落ち着きがあった。
先ほどまで、銃器で脅されていた相手と会話しているのに、あまり動揺していない。
人間って今までの経験が顔に出るって言うけど、何か色々あったのかな。
そんな妄想を交えつつ、アーリーは沈黙した空間で相手の返事を待った。
「……ちょっと友達の様子を見てくる。私たちは入り口からすぐの部屋に居るから」
息苦しい沈黙を破り、彼女はそれだけを告げ、入り口の方向へ歩いていった。
最後に一回こちらに振り向き、名を名乗った。
「十六夜、美月」
そして、去っていった。
彼女との会話は、勿論緊張はしたがそれ以上に気になる部分が幾つもあった。
何故こんな廃墟と化した館に友達を休めにきたのか。何故ここが機関の会堂だとしっているのか。
それに何で機関の会堂だと安心して休めるのか。なぜスーツなのか……いや、これは別にいいや。
髪の毛を指でいじりながら、考えた。ここに住み着いてからの癖なのだ。
「まぁ、悪い人には見えませんし、どうやら私を知ってるわけじゃないからいいか……な?」
まぁまぁ思考した割には結論がこれである。結局は勘。彼女がドジることが多いのはこれのせいでもある。
「……でも地下室見られのは駄目ですね…どうしようか…」
この館は二階建ての建造物の地下にもうワンフロアあるのだ。
しかし、その階への入り口の大体はいろいろ偽装され、隠されている。
その階がこの会堂の本当の役割を持っているのだ。
といっても、そうとう゛ガタ゛が来ているので何かの拍子に見つかることも考えられなくもない。
「となると……どうしよう…ん〜…とりあえず、飲み物でも渡しにいこうかな。」
アーリーも十六夜と同じように自分の歩いてきた道を戻っていった。
「うーん、紫の野菜ジュースとコーンポタージュしかなかったけど、変かな。」
地下から持ってきたアルミ缶を五つ―何人居るか分からないので―とも握ったままコートのポケットの中へ入れ、
一階に戻ってきた。
そして上がってくると同時に聞こえてくる騒ぎ声。
「旨し旨し旨し旨し旨し!!」
「フライパンで焼いたまま食うんじゃねぇ!
皿に盛れよ皿に……俺の分も残しとけよ、一応俺の金で買ったんだしな
こっちのマグロは…後で火を通して食うか……」
「……十六夜さんの友達かな?」
その声はここから何部屋か離れた調理室からだ。
食事はコンビニで大体済ませるからあまり使ってないけど、確かガスとかは携帯用のを改造して入れておいたのだ。
つまりまだ充分に使える、それを使って料理でもしてるのかな?
調理室に着くと、赤髪で口からパンをこぼしながらしゃべる男性とそれを通訳している男性がいた。
自分が来た通路と反対側の通路に十六夜さんと黒セーターの女性が立っていた。
四人が自分の存在に気づき、全員がこちらを向いた。ここで一気に緊張のメーターがMAXを振り切った。
「え、えっと……あの…その…飲み物どう……すか?」
その飲み物の缶はポケットに入れたまま、顔はぎこちない笑顔で何故か語尾が体育会系。
さっき十六夜さんとの間に流れた沈黙がこの場に再来した。
【アーリー:姫野達と反対側の通路から登場】
>>86,
>>90-91 >「……んが?」
>「……むが?」
……なんと表したらよいのだろうか。
私が話しかけてもひたすら食べつづける二人の男性。そんなにお腹が減っていたのかな……?
やがて一人の―――髪の毛が真っ赤な方が口に含んでいた物を飲み込み―――
>「おーすまんのー、じゃがこれだけは食わせてくれんかの――
――――ふごっ……!」
―――なんだ、もう少し待ってくれって事か。
赤髪の男の人は再びフォークに肉を突き刺し食べ始めた……かと思いきや
再び私の方を向き喋りだした。
>「…むご………おふぉそうじゃ…おふひもふってひかんかのふぉっッぷ…!」
……イライラしてくる。
何で頼んでいる側がわざわざ不法侵入者(私もだけど)の食事が終わるのを待たなきゃいけないのだろうか?
それになんて言っているのか分からない。彼は再び食べ始める。と、すぐにもう一人の少年が口を開いた。
>「うわきたねぇ! え〜?"オヌシも食っていかんかの"だって?」
>「だってさ、わるいな、良かったら俺のパンでも食ってってくれ」
そう言ってどこからか紙袋を取り出して私に放り投げた。
仕方がなく袋を開き中を見てみると入っていたのは――――メロンパン。
>「!!こらふぉうりゅう!
くひものをなげるとふぁなんとばちあたりなん……ふごッ!」
――――汚い。もうとにかくこの人汚い。
料理を皿に盛り付けもせずがっつき、口に物を含んでいるのに喋りしかも辺りに食べかすを散らしている。
あの相方の……「ふぉうりゅう」――――こうりゅうさん?は疲れないのだろうか…いや、絶対疲れてると思う。
私は受け取ったメロンパンを手に取り一気に被りつく。む、結構美味しいかも。
美月は美月で、立ち上がってあるものを見つめている。彼女は何かあるとジッと睨む癖があるようだ……
彼女の見ている方向には……金髪の少女が立っていた。男性二人も気づいたのか彼女を見ている。
あれがアーリーさん?彼女の顔はどんどん紅潮していき、そして―――
>「え、えっと……あの…その…飲み物どう……すか?」
ぎこちない笑顔で私達に話し掛けた。絶対に緊張している。
彼女の登場から誰も口を開こうとしない、呆気に取られているというわけでもないようだが……
多分、美月はこの沈黙状態を彼女と一対一で行っていたんだろうなぁ……とりあえず何か話せば会話に繋がるだろう。
「あのー……大体の人が初対面だと思うので自己紹介しませんか?なんとなく……お互い知らないままも嫌じゃないですか……アハハ
あ、私は姫野与一っていいます。それで後ろのスーツの女性が十六夜美月。実は私達も仕事の都合でこちらに立ち寄ったわけで
ここの住人ではないです。えっと、嘘ついてすいませんでした。あ、メロンパンありがとうございました」
と、自己紹介して男性二人の方を向いて軽く頭を下げる。この沈黙を何とか破れればいいけど……
頭を下げる際に投げナイフを一本だけ残して消した。豪快な人だけど危害は加えてこなさそうだし。
次に多分アーリーさんな人の方を向き話し掛ける
「あ、飲み物頂けますか?いや、喉渇いちゃって……」
【調理室:三人に自分達の事を紹介】
【投げナイフを一本だけ残して消す】
>>88 黒神の問いにレオーネは答える。
その答えに対し、黒神は何も言わずに歩みを再開したレオーネについていく。
そして、メインサーバールームへと続く中央エレベーターへ到着する。
しかし急がば回れというのか、エレベーターが到着するには少々時間がかかるようだ。
仰々しく肩を竦めたレオーネがこちらを振り向いて告げる。
「これから見せるデータの持ち主――
もう死んでいるが、生前は他の異能者が阿呆に見えるほど強かった。
君らの"上司"が手こずった程さ。私の記憶が正しければ、未だに勝敗は付いて居ない」
「あの城栄様が苦戦…随分と凶悪な異能者だったようですね。
城栄様は悪魔とでも対峙しておられたのですか?」
クスリ、と笑いながら黒神は言う。
実際にその事件を見たわけではないが――資料に載っていた記憶がある。
そのことだろう、と推測して黒神は言ったのだ。
髪が鬱陶しいのか、左手で前髪を払いのける。
同時に鬼の紋章が妖しく輝いたようにも見えたが…。
「…我々がそこまで関知する必要も無いのかもしれませんが。
我々は…あのお方の理想実現のための…忠実な駒…なのですから。」
言い終わった後にハッと我に返って言葉を続ける。
「とは言ったものの、スティクス、セルゲイ、ロルトの三人は
実際どういう考えをしているかは私の理解を超えているようですけどね。」
【黒神:エレベーター待ち】
【セルゲイ:???】
>>90>>92 彼女は不服げな表情で二人を見ている、
どうやら不服の原因は彼等の言動にあるようだった。
次に彼女は投げ渡された紙袋を受け取り中身を確認する。
中に入っていたのはメロンパン。それを見て彼女は少し表情を和らげ
二人の方へ向き直すと、またその表情をけわしめた。
少し間を置いて、彼女は半ば呆れたといった風に
手にしたメロンパンにかぶりついた。
その小さな口でメロンパンを頬張り、パッと眼を見開いて表情を柔らげる姿が愛らしい。
―――観れば、彼女の後ろに、もう一人少女が居た。
その視線は彼女達とはまた別の方向へ向けられており
何かを見詰めている。
一瞬、その場にある種の静寂めいたものが流れ、
鳳旋と光龍の二人も怪訝そうに少女を見る、
そして、その視線が彼等の後ろの一点に向けられているのに気付き
そのまま、首を後ろに向ける、
其処にいたのはこの館に古くから居着く幽霊ではなく
これまた一人の少女であった。
その少女は、眼前の四点から発せられるある種の放射能に当てられて真っ赤に紅潮している。
そして、遂には何かが飛んでしまったのか
壊れたカラクリ人形のようなたどたどしさでこう言葉を紡いだ。
「え、えっと……あの…その…飲み物どう……すか?」
なんともぎこちの無い、しかし彼女の精一杯の努力が伝わってくる言葉を皮切りに、
暫しの間、言い知れようの無い沈黙が、三たびこの館に訪れた―――。
「あのー……大体の人が初対面だと思うので自己紹介しませんか?なんとなく……お互い知らないままも嫌じゃないですか……アハハ
あ、私は姫野与一っていいます。それで後ろのスーツの女性が十六夜美月。実は私達も仕事の都合でこちらに立ち寄ったわけで
ここの住人ではないです。えっと、嘘ついてすいませんでした。あ、メロンパンありがとうございました」
彼女の言葉が沈黙を破る、が、特に状況は変らない
鳳旋は依然変わり無く肉を頬張る、
先の沈黙の時も変らずに口と肉を運ぶ手だけは動いていた。
そして彼女の言ってる事が解らないようで、遂に彼は肉を頬張る事だけに専念しだした。
光龍は光龍で、卓に頬杖を付き、冷ややかな目付きで彼女と、鳳旋を交互に見ている。
変らぬ状況を彼女、姫野与一は何とか変えようとする、
そして、この状況を変えるために彼女は、
「あ、飲み物頂けますか?いや、喉渇いちゃって……」
奥に居る少女の持っているという飲み物に白羽の矢が立った、
少女は先程とは打って変わり、
火の付いたようなあわただしい動作でコートのポケットから缶を取り出す
手持ちの飲み物は二種類だけなのだろうか、その二本を持った腕を前に突き出し
やはりぎこちない動きでずりずりと姫野の傍らへ歩み寄る、
中間点に差し掛かった所で鳳旋と光龍の視線が容赦無く彼女を集中砲火する
彼女の貌は真っ赤に染まり、
今や鳳旋の髪よりも赤くなっている、というのは些か言い過ぎではあるが
彼女の眼が丸になってしまっているというのは言い過ぎではないほど眼が見開いており
もう頭が真っ白と言った様子だ。
「おう、俺にもくれ」
「わしにもくれ」
見計らったかのようなついげきの注文で彼女の動揺はさらに加速した―――
【姫野に飲み物を渡そうとするアーリーの傍で割り込んで飲み物を要求する】
>>89 明滅(スペクター)に重力連鎖(デスペレイトオーバーフロー)と鮮血瘴気(エクリプスクリムゾン)……。
何れ劣らぬも一級品の異能力ばかりだ。
しかし、真にリースが気になったのは一点のみ。
神重 智の能力の事についてである。
自ら嫌う父親譲りの癖――即ち額に手を当てて考える。
自分の通う高校の教師で、温厚さに定評のある人物だ。
いくら生徒数の多い高校とはいえ、そうそう異能者にお目に掛かれる訳じゃない。
流石に彼は違うだろうと思っていたが……。
だが、今回の事で確信は持てた。神重 智は二重人格だ。
誠一郎から教えられた――『アブラハム』だったか『ヤハウェ』だったかあやふやだが、
それを持っている。
異能力は一人一つまで。それを例外的に破る事が出来るのは人格が複数存在する場合のみだ。
故に神重もその枠組みに加えても良いだろうとリースは判断したのだ。
ふぅん、と緊張感の欠片も無さそうな声を発すると、隣に居る廻間に小声で話しかけた。
「おい、トージ。神重先生の能力って二つあるじゃん?
あーいうタイプって特別な人間なんだぜぇ……」
その場に居る異能者を見渡す。先程の着流しを着た男は去って行ってしまったが、
それでもこの場には自分を含めて四人の異能者が居る。
しかしながら、その事に対して不思議と嫌な感覚はしなかった。
この場に居る異能者は、目的を同じくする同志であるからだ。
>「ところで、我々が能力を見せたのはいいが
> 我々は君たちの正確な能力は見せてもらっていないわけだが――見せてもらえるのかな?」
「ん? 俺の能力? ど〜しても見たいのかい、先生」
リースはあはははと、さも楽しそうに笑い声を上げる。
が、その瞳に笑みは無い。リースはふと思った。
――あの着流しの男は多分であるが、死ぬ気かもしれない。
いくら機関で恐れられているジェノサイドフォースの元精鋭といえど、たかが50人で何が出来る。
そんな陽動じみた行動に機関の"精鋭"が引っ掛かる訳が無い。
よしんば掛かってくれたとしても、相手はファーストナンバーだ。
結果は目に見えている。
機関がこれ以上 人を不幸にするのは許せない。
連中のやっている事はただの独裁だ。機関は絶対に間違っている。
異能力は誰かを幸せにする為に使われるべきだ。
――それは誠一郎から聞かされた亡き母の考え……。
それがリースの価値観の根本にあるものであった。
>>96 「OK、OK! 分かったよ〜。俺の異能って奴を
出血大サービスで見せてあげるよ」
先生は初見だ、派手な奴で持て成してやるか――
そう思ったかどうかは定かではないが、
リースは腕を交差させて呼吸を整える。
「こいつが……俺の異能『ホワイトレクイエム』だッ!
――氷竜槍(ドラゴンランス)ッ!」
窓ガラスを割らんばかりの裂帛の気合と共に作り出されたのは、氷で形作られた六匹の竜。
正確には竜の首だけがリースの背中から生えているのだ。
天井に届かんばかりの大きさのそれらは、氷で作られたというよりは
水晶で作られたといっても過言ではないくらい透き通っていた。
「そ、俺の異能は氷を操る能力さ。たかが氷と侮る無かれ。
こ〜んな事も出来ちゃうのさ」
丁度良い位置にあった四人家族用の木目調のテーブルに目を付けると、
食卓に置かれていた食器を一匹の竜の首が、子猫を運ぶように優しく咥え込む。
彼にとってはこんな事造作も無い事である。
長束誠一郎に嫌というほど叩き込まれた異能力の訓練の賜物なのだ。
竜の口から食器を取り出すと、背中の竜を水蒸気に変えて文字通り霧散させる。
「破壊力と精密さの両立。それが俺の異能のスタンスさ」
窓から差し込む太陽に金色の髪を淡く輝かせながら、
リースは事も無げに答えた。
【リース:その場に居る四人に異能力と技を見せる】
>>89>>97 俺は四人に背を向けたまま、無言で店内のガラス窓から覗かせる外の景色だけを見つめていた。
その間、俺の後ろでは廻間とリースが神重の要求に応えるようにして異能力の解説を始めていたが、
俺がそれに関心を示そうともしなかったのは、既に二人が持つ異能力を知っていたからということもあったが、
ビルへの潜入についてあれこれと考えを巡らしていた為でもあった。
そんな俺が次に口を開いたのは、考えを一つにまとめ終え、そして二人が説明を終えた直後だった。
「今の内にお前達に言っておくが、潜入の件については、俺は単独でやらせてもらうことにした。
あまりまとまって行動していては、昨晩のように一瞬で全滅することにもなりかねんからな」
言いながら、彼らの方に向き直ることもせぬままドアのノブに手をかけると、
俺の突然の発言を聞いて静まり返っていた四人に向かって、こう付け加えた。
ヤ ツ
「俺は今から潜入のポイント探ってくる。そして、山田が動き次第、一人ビルのどこからか入り込むつもりだ。
お前達はお前達で好きにやればいい。四人で団結して進むのもよし、俺のように単独で行動するのもよし。
まぁ、いずれにしても──危険な道に変わりはないがな」
それだけを言い残すと、俺は店内に残る四人の反応の待たずに、ドアを開いて店外に出て行った。
【池上 燐介:単独で潜入するの意思を伝え、国崎薬局を出る】
訂正
×俺は今から潜入のポイント探ってくる
○俺は今から潜入のポイントを探ってくる
×四人の反応の待たずに
○四人の反応を待たずに
>>91-92>>94-95 アーリーにとって本日二回目の息苦しい沈黙タイムは、十六夜さんの連れの女性が破ってくれた。
「あのー……大体の人が初対面だと思うので自己紹介しませんか?なんとなく……お互い知らないままも嫌じゃないですか……アハハ
あ、私は姫野与一っていいます。それで後ろのスーツの女性が十六夜美月。実は私達も仕事の都合でこちらに立ち寄ったわけで
ここの住人ではないです。えっと、嘘ついてすいませんでした。あ、メロンパンありがとうございました」
初対面……ということはこの男の人達は友達じゃないのか。
彼女、姫野与一さんは自分より年は余り変わらないだろうが、背が五センチ以上は違っていた。
……にしても彼女が喋っているのに、赤髪の男性は構わず自分達が持ち込んだ肉を頬張っていた。
よほど腹が減っていたのかな。でも人の話は聞いた方が…
「あ、飲み物頂けますか?いや、喉渇いちゃって……」
「え?…あ……は、はい」
慌てて愛用しているカーキ色のトレンチコートから、握ったままだったアルミ缶を取り出した。
握ったままだったので汗がついていたのでまたもや慌ててコートで拭い去った。そして、彼女に歩み寄る。
片手は野菜ジュース、もう片手はコーンポタージュ。ここでアーリーは一つ大事なことに気づいた。
……どうしよ、コーンポタージュがキンキンに冷えてる…
自分は冷やした方が好きなのでそうしているのだが、他人が飲むとおかしいだろうな……
しかし、既に彼女は目の前。加えて、今気づいたのだがイスに座った男性ニ組がこちらを見つめている。
…自分が上がっているのを楽しんでいるだろうか……そんな考えが頭の隅でちらついた。
もうここまで来たら仕方ないと思い、彼女にアルミ缶を二つ手渡そうとする。
同時に「えっと、私アーリーっていいます。」と口に出そうとした瞬間だった。
「おう、俺にもくれ」
「わしにもくれ」
ずっとこちらを見つめていた男性二人から、見計らったようなタイミングで声がかかった。
……ほんとは見計らったんじゃないだろうか…そんな考えはすぐ消えて、姫野さんに急いで手渡した後、
急いでコートからもう二つアルミ缶を取り出した。
またも両種一個ずつだった。それをおそるおそる彼らがテーブルとして使っていた調理台の上に置いた。
そして元居た場所に後退り、それぞれが飲み物を飲む姿を少し見ていた。実に三者…いや、四者四様だった。
そろそろオーバーヒートしすぎて逆に冷めてきた頭を動かし、何とか話題を出そうと考えた。
「きょ、今日はいい天気ですよね」なんて在り来りなことを言おうとしたが慌てて、やめた。意味がないと悟った。
…そういえば名前まだ言ってないや。
四人が落ち着いた頃を見計らってしゃべりだした。
「まだ、自己紹介してませんでしたね。私はアーリー・テイスト、ここに勝手に住み着いてるような者です。
ところで最近この辺…いや、この街が妙に騒がしいんですが、何かあったんでしょうか?」
自分は他の感受性が豊かな異能者と違い、他者の異能の気なんて感じられない。
そのため、この四人が異能者かどうかなんて分からないが、少なくとも十六夜さんは
機関を知ってる以上異能についても知ってるはず。
ここはホームレス少女の振りをして、一般の人間がどれだけ機関の情報を持ってるか聞いてみるのもいいだろう。
……ここまで考えられたのだから、そろそろ緊張もほぐれてきたのだと実感して、少し安心した。
【アーリー:四人に飲み物を渡し、最近の街の様子について聞く】
「もしもし…、…俺だ。」
そこは国崎薬局裏手の路地。戦場ヶ原は真剣な面持ちで携帯電話に話しかけていた。
しかし、そんな戦場ヶ原の様子と打って変わって、電話越しの相手の出方は明るいものであった。
「旦那!?久しぶりじゃぁねぇですか!今まで何してたんですかい!?
俺達ゃ旦那のこったからその辺でおっ死んでんじゃねぇかと笑い話にしてましたぜ!ガッハッハ!」
「少しは心配しやがれよこのタコ。」
口では思わず毒吐いてしまったが、もと部下の元気な様子に戦場ヶ原は内心安堵のため息をついた。
電話の向こうの相手は、不知火 蓮治(しらぬい・れんじ)。
元No.121であり、虐殺部隊隊長戦場ヶ原の片腕であった男だ。
口調は乱暴だが思慮深い一面を持っており、部隊の荒くれどもと戦場ヶ原の間の緩衝材として大いに働いていた。
3年前の離反事件もまた、当初は戦場ヶ原一人が機関を抜ける話だったところを、不知火の働きかけで戦場ヶ原を慕う部下たちが一斉に蜂起し、彼の脱走を手助けしたのだ。
「不知火…。3年ぶりの会話だってのに、急な頼みで申し訳ねぇがな…。」
「おっと旦那。みなまで言いなさんな。ここんとこの街の動きを見てりゃぁ、この旦那からの電話が、呑みの誘いじゃねぇってことくらいわからぁ。」
「不知火…!」
「へへっ、本名呼ぶなんて旦那らしくもねぇや。アッシのことァ昔通り『砂坊主』と呼んでくだせぇ。」
「…!す、すまねぇ。そうだったな、『砂坊主』。」
「聞きましたぜ旦那。…猿の兄貴のこと。
城栄金剛……!許せねぇ。あんな外道のもとで働いてたってことすら思い出すだけで反吐が出らぁ…!」
「…。」
「旦那!何人だ!?」
「?」
「すっとボケねぇでくだせぇよ。このタイミングで電話よこしたってこたぁ、討ち入りでしょう。何人必要か言ってくだせぇ!」
「…!お前…!」
「旦那ってのは昔っから単純なもんで、簡単に何考えてんだかがわかっちまうんだよなァ。」
「…フン、ほっとけ。」
戦場ヶ原は安心した。不知火は、あの頃からまったく変わらず、戦場ヶ原の片腕であり続けていた。
自分を理解してくれる仲間がまだいたことを知って、胸の奥が力強く鼓動を打った。
「…『鬼ども』は、100人いたが、いまは何人だ?」
戦場ヶ原が問いかけた。
「3年前の残党狩りで2割。最近の新虐殺部隊とやらの襲撃で大半がやられちまった。だがまだやれるぜ。
45人の羅刹どもが、闘いを望んでくすぶってやがりますよ。」
「4…5人、か。…そいつらをすぐ集められるか?」
「何言ってやがんですかい。今ここに全員揃ってますよ。」
「な…なに!?」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
電話越しに荒くれどもの雄たけびがこだまし、戦場ヶ原は驚いて思わず受話器から耳をそむけた。
「あっしらァ待ってたんすよ!旦那の電話を!いくらでも命令してくだせぇ!あっしらぁ旦那の手足になって闘いやす!
戦って戦って、金剛のクサレに今まで担がされたツケってやつを払ってもらいやしょうッ!!」
不知火のアツイ言葉が、戦場ヶ原の胸を打つ。
「すまない」そう謝るつもりだったが、もはや今の彼らにその言葉を投げかけること自体、彼らの闘志に失礼な気がした。
「…野郎ども。」
戦場ヶ原の表情は、もう迷っていなかった。
「……出撃だッ!!」
街のどこかであがった鬼の咆哮は鳴りやむことはなかった。
>>89>>97>>98 「そっちの話はまとまったか?」
電話を終え、戦場ヶ原は池上達のいる部屋へと戻った。
しかしそこにあった光景に、戦場ヶ原は違和感を覚えた。
開いたドア。唖然としてそこを見つめるリース、神重、やれやれといった表情の宗方。憮然とした廻間。
池上の姿は、なかった。
(フン…池上の奴め。また何かしでかしたな。)
そう思いながら、戦場ヶ原は一番近くにいた神重に話しかけた。
「おいメガネ。池上はどうした?」
メガネと呼ばれた神重は若干不服そうな顔をしながらも、池上が単独行動をとるといって出て行った旨を伝えた。
それを聞いた戦場ヶ原は、くくくと苦笑いした。
「フン、共同戦線を言い出しておきながら作戦自体は特になく、結局は単独潜入か。…奴らしいと言えば奴らしい。」
次に戦場ヶ原は壁に貼り付けてあった周辺地図を乱暴に引っぺがして、机の上に広げた。
バカ
「池上のことは放っておけ。…今俺の部下と連絡がついた。人数は45人。作戦開始は本日正午。
俺は45人を引き連れて敵の本陣…ナガツカインテリジェンスビルの正面から攻め込む。貴様らはそれに合わせて潜入を開始しろ。」
ぴっ、と戦場ヶ原はまず地図上のナガツカビルの南側を指さした。大通りに直面する、正門だ。こんなところを45人が練り歩けば、それなりに人の眼は集めるだろう。
次に戦場ヶ原はぴっ、ぴっ、ぴっと指を動かしていった。
「潜入経路はさまざまだ。北側の搬入口。西側に入口のある地下駐車場。東にはちょうどいい高さのビルがある。そこの屋上から飛び移ることもやろうと思えばできる。
もちろん警備はどこも万全だが・・・、そこのガリガリの能力を使えば潜入自体は容易だろうよ。」
戦場ヶ原がガリガリと称したのはどうやらスレンダーな体格の宗方のようだった。
「貴様らは、どうするつもりだ?…まさかこの期に及んで怖気づいたなんて臆病者はいねぇだろうな?」
じろりと鋭い目で4人をねめつける。
【戦場ヶ原:旧虐殺部隊の突入は12:00。現在時刻10:00。神重、宗方、リース、廻間にどう動くつもりかを問う。】
>>100 少女はまるで猛獣の前に食事を置く様な仕草で
鳳旋と光龍の二人が着いている卓の前に缶をそっと差した、
置かれた両の缶の肌には少女の触れた面を除いて結露した水滴が斑に付いており
少女の手形を浮かび上がらせている。
気化した水分が気流を描き、それが低温である事をまじまじと見せ付けている。
「お、サンキュー」
「おースマン」
二人は一礼しその缶を手に取る、手の平に伝わる清涼感が今の二人にとっては心地良い。
後は各々が飲み口を開けて飲んでゆく、その様は、まさに四者四様、
豪快に口内へ流し込む者も居れば、特に当たり障りの無い、言うなれば普通の飲み方の者、
女性らしいしとやかな様、まっことつつしんで飲む者。
一口二口と各々が一頻り飲み終える頃合を見計らい少女が切り出した。
「まだ、自己紹介してませんでしたね。私はアーリー・テイスト、ここに勝手に住み着いてるような者です。
ところで最近この辺…いや、この街が妙に騒がしいんですが、何かあったんでしょうか?」
アーリーと名乗るこの少女は、この洋館で暮らしているようで、近頃この街に異変が無いかと尋ねてきた。
鳳旋と光龍の二人にとっては、彼女の問いに対し特に返す言葉が無いのでこう答えた。
「いや、別に」
「しらんの」
彼等は実際にはその異変の一端を担っており、彼等の行動は異常そのものであるのだが
それを彼等は自覚しておらず、故に彼女が求めている答えは帰ってこない。
人が持たざる力を持った者は何処か狂っているのだろうか、
彼等の背景は常人から見れば"異端"そのものなのかもしれない。
【アーリーの問いに特に知らないと返す】
>>100-101,
>>104 >「え?…あ……は、はい」
私の声に気づき、彼女はハッとした顔で着用していたコートから、アルミ缶の飲み物を二本取り出した。
彼女が私の前まで近づいて来て、私に飲み物を渡そうとした、瞬間
>「おう、俺にもくれ」
>「わしにもくれ」
と、言ったのは食事を終えて休んでいた二人の男性陣。
彼女は私に缶を渡した後、急いで二人の下にも飲み物を置きにいった。
私も後ろに下がり、両手に缶を持ち美月に飲み物を渡しに行く。
メロンパンも一人で食べちゃってたし、彼女に選ばしてあげようかな?
「はい、これどっちか取っていいよ」
美月が受け取ったのは右手に持っていた緑色の缶。野菜ジュースかな?
そして私の左手に乗っていたのは……黄色い、コーンポタージュだった。
ゴクリと唾が喉を通る。別にこれは嫌いではなく寧ろ好きな方なのだが、このコーンポタージュには一つだけ違和感がある。
―――冷たいのだ。キンキンに。
あったか〜いではなくつめた〜いを誤まって押してしまったのだろうか?いや、それは自販機自体おかしい
じゃあ、もしかして……?とにかく貰ったものはちゃんと頂かないといけない。私は恐る恐る、缶を開け、口を付ける。
口の中でヌルリと冷たい液体が広がっていくのが分かる。アーリーさんには悪いが、とても不快な気分になった……
他の人が貰った飲み物を飲み終わる頃(私の缶には半分残っているが)、アーリーさんが口を開いた。
>「まだ、自己紹介してませんでしたね。私はアーリー・テイスト、ここに勝手に住み着いてるような者です。
ところで最近この辺…いや、この街が妙に騒がしいんですが、何かあったんでしょうか?」
>「いや、別に」
>「しらんの」
アーリーさんの質問にまだ名前も知らない男性陣二人は知らないと答えた。
私達の事は……美月が彼女に何処まで教えたかは分からないけど、最低、異能者という事くらいは理解しているだろう。
しかし、本当に関係者ではないのだろうか……?この街にいる限りは一度くらい異能者を見た事くらいはあるはず……
ここは一つ……彼らに試してみようかな?
この部屋には開いた窓が数箇所ある。その一つ―――男性二人の横に位置する窓の外に……ナイフを創りだす。
さっきと同じナイフだ。私が構成を想像しただけで創れるのでこちらが創ったことは彼らには分からない。分かるのは私と美月くらいだろう
ナイフは弓に引き絞られるように後ろに下がり、そしてく恐るべき貫通力を持ったそれは、紅い髪の人目掛けて銃弾の如く飛んでいく。
さて……どう出る?まず避けてしまえば隣の相方に当たってしまう。彼らが何らかの能力であれを防いだら成功。何も出来なかったら失敗。
彼らは本当に一般人だという事になる。
【鳳旋&光龍を異能者と疑い攻撃を仕掛けてみる】
──俺は、ナガツカインテリジェンスビルから西に数百メートル程離れたとあるビルの屋上に来ていた。
手には先程近くのカメラ店で購入した双眼鏡が握られており、
目はその双眼鏡を通して数百メートル先に佇むナガツカインテリジェンスビルの屋上に向けられている。
双眼鏡のレンズは、ナガツカインテリジェンスビル屋上の様子を鮮明に映し出していたが、
俺は浮かないといった様子で一つの溜息を漏らしていた。
「ここにも監視カメラが一つ、二つ……。加えてビル内部に通じる出入り口に守衛が二人……」
俺はこれまでに、地上と地下のいくつかの潜入ルートを探ってきていたが、
どこもが屋上同様、厳重な警戒態勢のもとに置かれているということに変わりはなかった。
「陽動部隊が動いても、警戒態勢が緩むということはなさそうだな。
見張りやカメラを潰すことくらいは造作もないが、それだと早々に潜入者の存在を教えてやるようなものか。
……中々厄介だな」
そう独り言を口にすると、俺は他に潜入ルートはないかと、
ナガツカインテリジェンスビル屋上に向けた双眼鏡を、その遥か下の地上へと向けていった。
地上に向けた双眼鏡のレンズはビルの一階、二階部分を映し出していくが、
先程自分自身で確認したように、他に潜入できそうな場所は見つからなかった。
(……場所を変えてもう一度探してみるか)
そう思い、俺は一旦、目から双眼鏡を離そうとした──。
が、俺は直ぐにその動きをピタリと制止させていた。レンズの端に映ったとある光景を目にしたからだ。
双眼鏡が捉えたのは、ナガツカインテリジェンスビル裏の敷地内に入っていく、
「ナガツカ運送」の文字がでかでかと書かれた大型トラックの列だった。
先頭のトラックが止まると、閉じられていた荷台の扉が開き、
作業員と思われる人間が中から大型のダンボールに包まれた何かを次々にビル内に運び込んでいる。
「……陽動の前に潜入、か。……案外、それが一番楽かもしれんな」
俺は何かを思いつたかのようにぽつりと呟くと、手に持った双眼鏡を投げ捨てていた。
そして『冷翼』を発動し、未だ敷地内に入っていないトラックの列に向けて飛び去るのだった。
「ふぅー、随分運んだなぁー。もう終わりかー?」
「いえ、まだ一つ残ってます」
「ゲッ……最後にまだこんなデカいもんが残ってたのかよ。一体、何が入ってんだぁ?」
「えーと、このトラックが運んだのは生鮮食品ッスから、野菜か何かじゃないスか?」
「……しゃーねー。おい、俺がこっちを持つから、お前は反対側を持て。二人で運ぶぞ」
「へーい」
そう言って作業員の二人が運んでいくダンボールには、「生鮮食品輸送用」と書いてある。
もし、運ぶダンボールの数を誰かが細かくチェックしていたら、中身を確認していたかもしれない。
そしてもしそうなっていれば、大変な騒ぎとなっていただろう。
「これッ……重いッスねぇ〜!」
「あぁ……ったく、ホント何が入ってんだよ〜!」
二人の作業員が思わず呻き声をあげた。──それもそうだろう。
このダンボールの中には、重さ成人男性一人分の荷が入っているのだから。
そして、その荷とは──何を隠そうこの俺、池上 燐介自身である。
ビル屋上から飛び立った俺は、列をなす最後尾のトラックに向け着地。
そして誰にも気付かれぬようそのトラックの荷台に潜り込み、
都合よく積まれていた大きめで空のダンボール箱の中に入り込んだのだ。
勿論、中に人が入っているとも知らずに、作業員がビルに運んでくれることを計算して。
(ダンボールを被って潜入……か。フッ、まるで『スネール』だな……)
しかし、ダンボールに潜り込んで潜入する。──実践しておいてなんだが、
俺はどこかバカバカしい思いを拭えず、箱の中で一人複雑な表情を浮かべるのだった。
ちなみに『スネール(カタツムリ)』とは、大手コンピューターゲーム会社『KONAMU(コナム)』が
開発した人気ゲーム作品、『メダルギア』シリーズに登場するキャラクター、
元・BOX HOUND隊員『ソリッド・スネール』のことである──。
それはさておいて、こうして俺が何やかんやと考えている内に、
俺を乗せたダンボールは二人の作業員の手によってビルの中に持ち込まれ、
所定の貨物室まで運ばれようとしていた。
「えーと……二階の食料庫で、野菜室はここだな?」
「えぇ。早く置いて帰りましょうぜ。──よっと!」
「ドスン」という音と共に、俺の入ったダンボールはビル一階どこかにある食料庫に置かれ、
二人の作業員はそれを見届けると踵を返して去っていった。
俺自身の異能の気は完全に消しているので、二人が気がついていないとするなら、
今のところ俺が潜入したことを知るのは俺自身だけと考えていいだろう。
後は、山田ら陽動部隊が動き、ビル内が手薄になるのを待つだけだ──。
【池上 燐介:ビル内に潜入。現時刻PM11:00。現在地:ナガツカインテリジェンスビル2F、食糧庫】
ミス……最近多いな。訂正。
×ビル一階どこかにある食料庫に置かれ、
○ビル二階のどこかにある食料庫に置かれ、
……訂正。
×現時刻PM11:00
○現時刻AM11:00
>>105 二人はアーリーの問いに答え、
次は姫野と、十六夜美月と呼ばれた少女、彼女達がその問いに答えを返すのであろう
鳳旋はその間に肉を掻き込み、アーリーから渡された野菜ジュースを飲み干し、
およそ彼の卓にある、全ての皿を平らげた。
「ふ〜 良い気分じゃ」
鳳旋が食事を終え気を良くして
不意に、椅子に体重を預けてもたれ掛かり仰け反った、その時だった――――
―――刹那、瞬きする間も無い、白々と輝く刃が、鳳旋の後頭部に "刺さって【いた】" ―――
考える事よりも千倍速い、痛みだけが鳳旋を支配し、彼の意識はそこで暗転した―――
「―――……」
「おい如何した? ――――!!」
鳳旋は前のめりに倒れ、そのまま、卓に頭部を打ち付けた、
衝撃で皿が床へ落ち、けたたましい音を立てる。
世界が、モノクロの帳に包まれた。
「おい!大丈夫か!? 鳳…旋…? 鳳旋っ!!」
光龍は慌てて向かいの席から姫野の目の前を通り過ぎ、鳳旋の傍について、わなわなと震えている。
気が動転して然るべき処置が取れない。
普段の彼ならあるいは適切な処置、即ち治療行為に思考を傾けていたかも知れない。
彼にはその知識も、技術もあった
だが、この異常事態において平静を保つには光龍は余りに幼すぎた、
それよりも今何が起きているのか?
何故こんな事が起こるのか? 今の彼の中にはそれしかない。
生物を殺しその死体を解剖する事を日々繰り返してきた光龍にとっては
生命の"死"など身近なモノであった、それは人間と言えど例外では無い、
コロシ
だが、この事柄から観測されるのは"死"では無く"殺"だ、
"死"はその後から遣って来るモノに過ぎない。
コロシ
そして、この"殺"は、とびきりのイレギュラーだ、
何しろ、在る筈の無い刃が忽然と鳳旋の後頭部を穿って"いた"のだから。
このような事は、常識を逸した力―――、異能力を持ってしなければ成しえない
光龍がソレを"殺"と認識するにつれ、ある感情が対となって湧いてくる
疑惑―― この中の誰がやったのか。
不安――― 自分は今 囲まれている。
恐怖―――― 次に殺されるのは俺。
光龍はこの時今までの自分の行動が軽率だった事を後悔した。
しかしそんな考えもこれから訪れる死の恐怖に侵食され、恐慌状態に陥る。
「うああああ! 誰だよ!!この、"人殺しぃぃィ!!" 」
光龍の表情はたちまち蒼白になる、だがこの暗転した場で、
また違った意味で蒼白な貌をする者がもう一人居た。
――― 姫野 与一、この出来事を起こした張本人 ―――
彼女の軽率な考えで放った刃がこの悲劇を引き起こしたのだ。
今彼女の中に在るのは罪悪感か、後悔か、それとも自分のした事のへの逃避か。
人殺し、光龍が叫んだその言葉は彼女の胸に深く突き刺さった――――
「クソ!!誰なんだよ!誰が鳳旋を殺したんだよ!!次は俺を殺すんだろ!!?
殺されてたまるかよ!!」
狂乱する光龍。
光龍は己の異能力を発動させた、
彼の能力は、その存在の背景にある観測された"殺"を見る事が出来る
それを持って姫野の背景の殺した人間の数を"見てしまった"
「……なん…だよ………オマエ………殺しすぎだろ…… 『化け物』 ハ…ハハ……ハハハハハ……」
姫野を指差しそう言う。
彼女の背景には鳳旋の殺しは観測されなかった、他の者からも鳳旋の殺しは観測されなかった、
だがしかし彼女、姫野の背景にある殺した人間の数は数え切れない、
――――『化け物』―――― 彼が過去に付き合っていた沙羅に言った言葉だ、
あの時は沙羅が人ならざる力を持った異能力者だった為に放った言葉だった。
人ならざる事を成すモノは皆化け物だ、その一言が原因で沙羅とは別れた。
後に何の因果か自らも人ならざる事を成す力を手に入れ、自身も化け物になった。
そしてこの時光龍の中の化け物の規準が変った。
しかしそれでもコイツの殺しの背景は―――異常だ――――
【鳳旋の後頭部に姫野の短刀が刺さり倒れる、傷は浅い
気が動転しており生死の確認が出来ていない
姫野の殺した人間の数と殺し方を観て狂乱する】
>>93 >「あの城栄様が苦戦…随分と凶悪な異能者だったようですね。
> 城栄様は悪魔とでも対峙しておられたのですか?」
悪魔――。あれは悪魔だったのか……。
それとも神の使途だったのか。今と為ってはそれを知る事は出来ない。
何であるのかさえも……。
>「…我々がそこまで関知する必要も無いのかもしれませんが。
> 我々は…あのお方の理想実現のための…忠実な駒…なのですから。」
駒、か……。その定義に当てはめるのであれば、この私も駒の一つだ。
>「とは言ったものの、スティクス、セルゲイ、ロルトの三人は
> 実際どういう考えをしているかは私の理解を超えているようですけどね。」
「……若いのさ」
丁度私がニヤリと笑みを浮かべたその時、エレベータの扉が音を立てて開いた。
私は先に乗り込み、"B13"のボタンを押し込む。
黒神が乗り込んでからややあって、エレベータはゆっくりと静かに動き出した。
――エレベータが降りた先は一直線に伸びる通路であった。
この通路の先に機関のメインサーバルームが在る。
周りを囲む壁は鉄やコンクリートではなく特殊合金で出来ており、
薄暗い蛍光灯が辺りを照らし続けている。これではまるで洞窟(ケイブ)だな……。
洞窟(ケイブ)の中を進んでいくと、自分が探検家にでもなった気になる。
「……懐かしいな。昔、超常現象研究部門に居た時は、こうやって洞窟や未開の地を歩いたものさ。
未知の生物を捕獲する為にね」
――やがて暫く進むと、壁と同じ特殊合金製のドアの前に到着した。
この扉をくぐれば長いようで短かったメインサーバルームへの旅は終わる。
だが、このままでは中へは入る事は出来ない。ドアを開錠する必要があるのだ。
金属質のドアの上には、ロック中を示す赤いランプが光っている。
私は近くにある小さな装置へと足を伸ばした。メインサーバルームへの扉を開く為には、
この生体認証システム――網膜スキャンをクリアしなければならない。
そして、その認証は我々ファーストナンバーの物しか登録されていない。
メインサーバルームの中に入る事は、ファーストナンバーしか許されないのだ。
だから、私は黒神を一人で行かせなかった。
生体認証の対象としては最も正確で信頼できるとされている。
確か論文で読んだが誤認率は100万分の1の確立だという話だ。
……まぁ、本当かどうか怪しいものだがね。
読み取りが終了すると、即座にロックの解除を示す緑のランプがドアの上で点灯し、
ついにサーバルームへの道は開かれた。
――この先に"答え"がある。
"歪んだ因果(カオティックリベリオン)"とは一体何者だったのか?
"答え"はこの先に眠っている。
>>113 ドアを開き目の前に広がったのは、先程までとは打って変わった白色灯に照らされた辺り一面の白い壁であった。
広大な部屋の中では、精密機器の温度を最適な温度に保つ為のファンが重低音を奏でている。
そしてその奥には、私の身の丈の二倍はありそうな真っ黒な"石版"らしき物体が佇んでいた。
否――それは"石版"などではない。現に天井や床からはコード類が大量に差し込まれているし、
近づいて見ると分かるが無数の緑色のランプが小さく瞬いている。
……まるで星の煌きのようだな。
これこそ機関の"心臓"……。膨大なデータを並列処理する為の、
60eb(エクサバイト)の記憶・演算可能容量を持つ世界でも有数のシステムサーバ。
私はこのサーバを外見に準えてこう呼んでいる――。
「"モノリス"……。似ているだろう? 形も用途も石版のそれに。
……古来より人は当時の出来事を石碑や石版に残してきた。
そして、この装置にも機関の全てのデータが収まっている。
だから"モノリス"なのさ」
ここが私たちの旅の終着点。にしては、随分と無味乾燥だがな。
"モノリス"に備え付けられているタッチパネル式の画面を弄り、データバンクへアクセスする。
「私は……私はこの世界が大嫌いだ。今日を懸命に生きている人間の幸せが簡単に失われてしまう。
人は生きていく為に平気で他者を傷つける。人間とはそうプログラムされている。
その方程式が故に、世界の何処へ行っても悲しみしかないのだ。
――昔、ある二人の男女が居た。二人はそれぞれ別々に、こんなにも歪な世界を何とかしなくてはと考えた。
男は情報をマクロなレベルで管理・運営し、万人の意思を統制する事で世界を幸福にしようと考えた。
しかし、所詮は人の身。男は病に侵され、とうとう打ち勝つ事が出来なかった。
女の方もまた世界に嘆き、男とは違った救済の道を選んだ。即ち愛や情で他人を慈しむ事。
不当に他者を貶め、嘲いものにする事の無い世界を築き上げる事。
そんな世界が人々を平等に幸せにすると考えた。しかし、彼女もまた、死という挫折をしてしまった」
>>114 「そんな二人の生き様を見て私は、一つの結論に至った。
この世界を幸福にする為には、人の身では重過ぎるのだ。
"世界の後継者"は死の運命から抜け出した存在でなくてはならないと……。
そう、安易な言葉を使うのならば、"神"という奴だ。
――私は誓った。この世界を人の手から神の手に返すと。
そして、その資格を持つ人間は君達の上司である城栄金剛ただ一人のみ。
私は彼と共に世界を変えてみせる」
何も自分が正義の味方だとは思っちゃ居ない。だが、誰かが汚れ役にならなければいけない。
世界を真に素晴らしい世界とする為には、誰かがその業を背負わなくては為らないのだ。
「その為にも、今は力が必要だ。立ちはだかる壁を打ち砕く、絶対的な力が……。
それが今回君に死者の異能を再現してもらおうと考えた理由の最後の一つだ」
目的の項目を選択すると、空間にホログラフィとしてデータが浮かび上がった。
私と黒神は自然にそれを見上げる姿勢となる。
『 −データバンク ver4.73−
氏名:アンジェラ・エインズワース
性別:女
人種:白人
身長/体重:154.6/40
異能力:万物の事情・現象を操作可能
YHVH(ヤハウェ):あり(覚醒済)
状態:死亡
死因:急性的な心肺停止
関連人物項目:レオーネ・ロンバルディーニ』
「これが君に再現を依頼する人物のデータだ。
DNA情報も表示されているだろう? そいつから再現できるか?」
パーソナルデータの隣に表示されている3Dで構築された彼女の塩基配列の解析データ。
これだけで再現は可能なのだろうか? 疑問が残るが……。
【レオーネ:現在地 本部地下13階 メインサーバルーム】
>>103 二人の能力を見せてもらい、納得をした表情の神重。
特に興味を惹かれたのはリースの異能力の精密さである。
(氷を操る能力…つまり池上と似たような能力というわけか)
実際の詳しい内容はわからないにしろ、近しい物であることには違いないであろう。
解説が終わると同時に始まる池上の演説。
池上は自分の意見をスッパリ残し、立ち去った。
それにほぼ間を置かず入ってくる着物男。
宗方はやれやれ、といった表情をしているがこちらもそれと同じ考えだ。
(即興のチームとやらは、やはり統一性がないもんだなぁ…兄弟)
(七草との共闘を言っているのか、皮肉を言うもんだ)
着物男が神重に対し、池上はどこだという質問をしてきた。
メガネという余計な言葉もオマケとしてついてきたが。
こちらの返答を聞いて苦笑し、己の作戦を説明しはじめる。
説明を聞く限り、着物男はやはり自分の元部下を連れ敵本陣に正面から突っ込み陽動を行うと言うのだ。
この男の実力はさきほどの一瞬で測ることができた…しかし、敵はそれより遥か上に位置する者も当然いるだろう。
陽動は成功するのか?一瞬で蹴散らされてしまえば我々が完全潜入できる確立が大幅にダウンする。
これだけ若い…自分の学校の生徒まで巻き込んで死地へ向かわせるのだというのだから、不安が付きまとう。
そこだけが神重は引っかかった。そしてそれは言葉となった。
「私は当然覚悟はできている……できてはいるが…。
元隊長だかなんだか知らないが、本当にその45人である程度の陽動は行えるのだろうな?
一瞬でやられてしまっては我々の潜入作戦もまったく意味を成さないことになるのだぞ。」
戦場ヶ原の鋭い目を真っ向から見ながら神重は言う。
「それに、私は他の人間が覚悟できていなくとも、池上のように単独でいく考えもある。
今更その決意を疑わないでほしいものだな」
【神重:作戦の完全遂行を期待している】
ここは空気読んでageるぜッ!!
>>105>>110-112 「いや、別に」
「しらんの」
自分の問いに返ってきた答えは随分素っ気無いものだった。
朝っぱらから、こんな廃館で肉をやくなんて異様なことをしていたから、
てっきりこのバトルロワイヤルに巻き込まれたんだと思ってたのに読みが外れたかな。
姫野さんと十六夜さんの回答を待ているとき、それは起こった。
「え?」
目の前の光景を一瞬、理解できなかった。
赤髪の男性がイスの背もたれに体重を掛け、仰け反った瞬間―――彼の後頭部に弾丸の如き速さでナイフが的中した。
彼はそのままナイフからの反動を受け、調理台に勢いよく突っ伏した。
その倒れこんだ音を追う様に、床に落ちた皿が騒がしい音を発した。
「おい!大丈夫か!? 鳳…旋…? 鳳旋っ!!」
もう一人の黒髪の彼が突っ伏した鳳旋という名前を叫ぶが、返事がなかった。
(……調理室西側の庭の監視カメラの映像を表示。)
そう念じると、脳に映像のデータが送られてきた。
バロックピエロ
これは私の、頽廃空虚と名付けた異能の力によるものだ。
私の能力は他の人間、電子機器にH.V(ハーブ)というウィルスを入り込ませる。
それだけではなく、その入り込んだときに見た情報を同じくH.Vが入り込んだものに送れるのだ。
ピエロノオクリモノ
これを、私は『情報電達』と呼んでいる。
つまり、ほぼ廃館と化してるこの会堂の微かに生きている機能にH.Vを入り込ませてるので、
この会堂の僅かに残ってる監視カメラ、侵入者撃退システムを遠隔操作できるのだ。
もっとも、本当の僅かなので十六夜さんたちや、この男性達の侵入は気付かなかったけれど……
(……あれ、なんだろう、これは。)
念じて数秒も経たず、瞬時に送られてきた映像には窓の近くでいきなり投擲用のナイフが現われ、
室内に飛び込んで行くまでの出来事しか映ってなかった。
遠距離での異能攻撃?……いや、いまはそれどころじゃない。
監視カメラの映像を脳内で見てる間に、黒髪の男性が理性を失って、阿鼻叫喚していた。
「うああああ! 誰だよ!!この、"人殺しぃぃィ!!" 」
完全に我を見失っている、もしも彼が本当にただの一般人ならこの反応は正しいと言えるけれど。
でも、早く鳳旋さんの手当てをしてあげたいのけれど、彼がいまは正常じゃない。
もしも彼が異能力者なら、近接での戦闘能力の無い私の異能じゃ、もし襲われても反撃できない。
「クソ!!誰なんだよ!誰が鳳旋を殺したんだよ!!次は俺を殺すんだろ!!?
殺されてたまるかよ!!」
そういい、彼がまるで何かを見透かすような眼で十六夜さん達を見つめ始めた。
彼の意識が彼女達に向いた隙に、鳳旋さんをイスから降ろし、ナイフを抜き、傷口を手で押さえ、止血する。
片膝をついて膝枕をするような体勢なので、彼の血がズボンに落ちていくが気にしてる場合でもない。
それと同時に、彼の眼からH.Vを抽入し、頭部の血の流れを穏やかにし、彼の脳に異常がないかをチェックする。
「……なん…だよ………オマエ………殺しすぎだろ…… 『化け物』 ハ…ハハ……ハハハハハ……」
応急処置をしている間、黒髪の彼が姫野さんを指差し、壊れたかのように笑った。
これは、彼が異能力を使った……って事なんだろうか。そしてこのナイフは姫野さんが?
抜き捨てたナイフを見ると、あることに気付いた。血が刃の先端から三分の一ぐらいまでしか付着していないのだ。
あれほどのスピードでこの切り口の深さはおかしい。
ということは犯人が姫野さんかは分からないが、少なくともこのナイフの持ち主には殺意はなかった?
そんな憶測をしつつ、私は彼がどうするか窺った。もし、彼女達を襲うような事があれば、そのときは仕方ない。
この手に持ったナイフで彼女達を助けなくちゃいけない……
【アーリー:鳳旋を手当、光龍が攻撃的な行動をしたら、ナイフを持って飛び掛るつもり】
誤字
そういい、彼がまるで何かを見透かすような眼で十六夜さん達を見つめ始めた。
↓
そういい、彼はまるで何かを見透かすような眼で十六夜さん達を見つめ始めた。
この手に持ったナイフで彼女達を助けなくちゃいけない……
↓
この手に持ったナイフで彼女達を助けなくちゃ……
>>110-111,
>>118-119 真っ赤な頭髪の彼にナイフが刺さり、反動で頭からテーブルに突っ伏す
その衝撃で周囲の皿が揺れ落ちた。もう一人の彼は、突然の事に一瞬戸惑ったが
慌てて彼の傍に駆け寄る、その体は震えていた。
>「おい!大丈夫か!? 鳳…旋…? 鳳旋っ!!」
目の前が一瞬だけ、真っ暗になった。
彼らが異能力者なのか――答えはNOであった。
本当に彼らはただここに肉を焼きに来ただけの一般人だ。
その時、……鳳旋さんを介抱していた彼が顔を蒼くして叫んだ。
>「うああああ! 誰だよ!!この、"人殺しぃぃィ!!" 」
>「クソ!!誰なんだよ!誰が鳳旋を殺したんだよ!!次は俺を殺すんだろ!!?
殺されてたまるかよ!!」
胸の鼓動が激しく高ぶる。手足が震え、寒気もしてきた。
私は自惚れすぎたんだ、ギリギリでアレを消すなんて出来やしない。卦宮夜が出来たからって私に出来るわけがないじゃないか。
馬鹿だ、未熟だ。自分が情けなくなってくる。
アーリーさんが鳳旋さんのそばに駆け寄り、手早く刺さったナイフを抜き止血する。
つい見ていてしまったが、いつからか、鳳旋さんの相方の――こうりゅうさんがこちらを指差し笑っている。
>「……なん…だよ………オマエ………殺しすぎだろ…… 『化け物』 ハ…ハハ……ハハハハハ……」
(……なに?一体彼に何が起きた……?)
『殺しすぎ』『化け物』、彼は私に向かってこう言った。彼は何らかの力――異能力で私の情報を知ったのだろう。
今まで"あんな事"をして来たのだ。そう言われてもおかしくはない、それは化け物と言われても否定できない事だ。
アーリーさんはずっと鳳旋さんを手当てしている。その手には私が創り出したナイフ、刃の先端は彼の血で真っ赤になっている。
美月は後ろでずっとこちらを見ている。やはり彼女は無表情で何を考えているのかは分からない。
そして、私を指差し笑う彼は壊れたように笑い続けている。
間違いなく彼は異能力者だ。今ここで、下手に刺激したら何をしてくるか分からない。私がここで謝罪でもしたら彼は私を殺そうとするだろう。
そしたら彼を止めればいい。私は、生き延びるんだ、こんな所で死なない。
【周りの行動を見渡してながら光龍の行動を警戒】
【光龍が異能力を発動したら止めるつもり】
>>115 機関の心臓部と呼ばれる"モノリス"
金剛から話を聞いていたものの、実際に目にするのは黒神にとって初めてである。
形だけを見ると随分と寂しい物にも見えるが、この中には我々が記憶できない記憶すら保存されている。
数多の実験データ、実験体の情報…我々の忌まわしい記憶すらも。
この世界を幸福にする為には、人の身では重過ぎるのだ。
"世界の後継者"は死の運命から抜け出した存在でなくてはならないと……。
そう、安易な言葉を使うのならば、"神"という奴だ。
――私は誓った。この世界を人の手から神の手に返すと。
そして、その資格を持つ人間は君達の上司である城栄金剛ただ一人のみ。
私は彼と共に世界を変えてみせる
レオーネの強い意志を聞き、黒神は小さく頷く。
表情を読み取ることはできないが、彼女の中には何らかの意志が宿っていた。
「これが君に再現を依頼する人物のデータだ。
DNA情報も表示されているだろう? そいつから再現できるか?」
黒神はホログラフィとして浮かび上がったデータを見上げる。
基本的なプロフィール、そして異能力の説明…ここまでならデータの再現は不可能に近い。
しかし最後の…塩基配列の解析データ、これが異能の再現を可能にする。
一般人と異能者の最大の違いはDNAである。一般人には無い塩基を加えてあることによって
異常な身体能力、あるいは体内から何かを作り出し、操ることができる。
その中身を有機塩基類の種類に注目して記述することで再現が可能なのだ。
加えてヤハウェ及びアブラハムと呼ばれるこのタイプは特殊塩基が非常に複雑化されており
そのため一般の異能者よりも理論的には、強力な力を発揮することができると言われている。
「最大で本来の異能の60%〜70%と言った所でしょうか…
それもあまり長時間は使用することはできませんね。」
死んだ者の異能は再現は理論上可能だ。
しかし、それはあくまで機関が作り出した後天性異能者であって、
先天性異能者であるヤハウェやアブラハムの完全再現は不可能に近いのである。
もっとも、実験体が生きていればまた別の話なのだが………。
この意味ではセルゲイは非常に特殊な能力を持っていると評価されるべきである。
「異能再現装置は…DNAを一時的に書き換え、その精神に作用する特殊な機械です。
僅かなお時間をいただける事ができるならば、直ちに再現データを作り始めることができますが…?」
【黒神: レオーネに再現を直ちに取りかからせるか尋ねる】
>>118 >>121 「うわあああ!!」
そう叫ぶや否や光龍はその場から逃げ出し、暫らくしてから鳳旋が意識を取り戻した。
「はっ……わしはいったい何を?」
そう言い鳳旋はむくっと上半身だけ起き上がる。後頭部から出血しているが不思議と痛みは感じない、
その所為もあってか鳳旋は自身の異常に気付いていない。
鳳旋は周りを見渡し散乱した皿を見てこう言った。
「スマンスマン、わしがずっこけた所為で皿割ってしまった」
立ち上がり、軽く頭を下げて謝罪する。
アーリーがなにやら安静にするようにと制して来ているが彼はそんな事は気にしていない。
「ん?ところでわしの連れの光龍はどこじゃ?」
光龍が居ない事に気付き問い掛ける。
【光龍:この場から逃げ出す】
【鳳旋:眼を覚ます】
>>116 「私は他の人間が覚悟できていなくとも、池上のように単独でいく考えもある。今更その決意を疑わないでほしいものだな」
戦場ヶ原の眼光から眼もそらさずに、神重は力強く答えた。
それに呼応するかのように、他の3人も静かにうなずく。
フン、と戦場ヶ原は上機嫌に笑った。
「…どうやら貴様らには愚問だったようだな。」
時計に目を移すと午前10:40。20分後には作戦決行だ。
戦場ヶ原はさっと立ち上がると、表のシャッターをくぐって外へ向かった。
「…おいメガネ。」
外に出て、4人に背を向けたまま、戦場ヶ原は神重に声をかけた。
「俺たちが一瞬でやられた場合はどうするかなんて愚劣な問いは二度とするんじゃねぇ。
…必ず作戦は成功させる。そして機関をぶっ潰す。何か賭けろとでも言うのならば…」
そこまで言って振り返った戦場ヶ原の顔は、
「俺はこの『命』を賭けよう。」
己の死を覚悟した『戦士』の形相だった。
ヴォゥヴォゥオウ!!!
突如けたたましい数のバイクの音が、静寂を切り裂く。
数十台のバイクが現れ、戦場ヶ原を取り囲んだ。
「旦那ァ!…いつでも準備はできてますぜエ!」
先頭のバイクにまたがった逆立ち髪の男が威勢よく戦場ヶ原に声をかける。
「フン」と戦場ヶ原はいつものように笑い、そのバイクのタンデムシートに飛び乗った。
「行くぞ、悪鬼羅刹ども…。貴様らの命、まるごとこの俺に預けろッ!!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
45人の鬼どもの咆哮が、天を貫いたかと思えば、彼らの姿はもはや、そこにはなかった。
【戦場ヶ原:神重、廻間、リース、宗方と別れ、作戦開始。】
>>121>>123 「うわあああ!!」
彼は笑うのを止め、突然叫び声を上げて、この場から走り去ってしまった。
その突然の奇行にまだ名も知らない彼が走り去った廊下を呆然と見つめていた。
だけど、そんなのはほんのニ、三秒。すぐに鳳旋さんの応急手当に意識を戻した。
鳳旋さんの怪我は幸い、さほど深くない。彼の脳内に抽入したH.Vも脳の異常はないと示した。
あとは血が止まれば何も問題なしだ。
「はっ……わしはいったい何を?」
鳳旋さんが意識を取り戻した。上半身を起こし、周りを見回している。
でも彼は自身の怪我よりも、
「スマンスマン、わしがずっこけた所為で皿割ってしまった」
落とした皿の方を気にした。自分の怪我に気づいていないのかな?
「あの……鳳旋さん、まだ血が止まってませんから、そんなに歩き回ったら、血が…」
私が安静にするように言っているのに彼は全くの無視。皿の謝罪として一礼しただけだ。
「ん?ところでわしの連れの光龍はどこじゃ?」
……どうも会話が一方通行だ…だめだ、これじゃ。早く何とかしないと…。
そう考えるも、一応この会堂の監視システムにまたアクセスし、監視カメラで館内を調べてみた。
と、云っても動くのはほんの一部なのでこの館の全体の四分の一も把握できない。
とりあえず分かる範囲での捜索はしたが走り去った彼の姿は捉えられなかった。
でも、これをどう鳳旋さんに伝えよう……。こんな時どういえばいいんだろう。
アーリーの脳内での会話術は僅かな経験と、機関で習った会話術だけである。
その中に『肉を食べに来た二人組みの片方がどこかへ走り去った時の対処』なんてあるわけもない。
本当の事を言っても、異能を知らない人間には信じてもらえないことだろう。
「えっと……彼はその…かれは…かれ…あ、そう!!腹が減ったからってカレーの材料を買いにいったんですよ!!」
……我ながら、酷いいい訳だと思った。
「そ、そうですよね。十六夜さん、姫野さん。」
アーリーは子犬のような目で二人を見つめていた。
もうこうなったら、この二人が誤魔化してくれるのを願おう。他力本願だ。後は野となれ、山となれ。
【アーリー:酷い言い訳を押し通そうと姫野、十六夜に同意を望む】
>>122 アンジェラのデータを閲覧した黒神の出した答えは――
>「最大で本来の異能の60%〜70%と言った所でしょうか…
> それもあまり長時間は使用することはできませんね。」
それはつまり再現可能だという事に他ならない。
これこそが私の求めていた答えだ。
「――素晴らしい。その言葉が聞きたかった」
だが、気になる点を一つだけ挙げるとすれば、
本来の異能の6割から7割しか引き出せないという事だ。それも"最大で"というオマケ付き。
アンジェラの能力は万物の概念や自然の法則を捻じ曲げる事が出来る異能力。
それの基本的な動作は再現できるだろうが、フルパワーは無理という事か。
……問題ない。その程度、技量でカバーできる。
それにしても、やはり『ヤハウェ』を完全に模倣する事は不可能か……。
彼らは生命の基盤である塩基配列自体が高度に複雑化しており、
それ故に判別も比較的容易に出来る。しかしながら、複雑化し過ぎている所為で、
機関の科学力を持ってしても人為的に作り出すことは不可能に近い。
予てから機関は、我々は『ヤハウェ』と『アブラハム』に関する研究を重ねてきた。
ルージュたち『忘却数字』は"この研究"の成果なのだ。
しかし、満足な成果が取れた訳ではなかった。
――結局、人はどこまで行っても人なのだ。
それでも、黒神の答えに文句を付ける所は無かった。
「よろしく頼む。私は用事が在るのでこれにて失礼させてもらうが、
完成したら連絡をくれたまえ。
機連送の番号はデータベースに載っている。
この部屋の事なら、君が部屋から出れば自動でロックが掛かるから問題は無い」
データベースに載っているアンジェラの遺伝子コード……。
それは嘗て『ヤハウェ』として世界を変えようとした女の生きていた証。
「愛などで世界は救えないのだ、アンジェラ……」
愛や情などというまやかしで世界が救えるのであれば、
何故私の"家族"は救われなかったのだ?
何故世界はこれ程までに不幸に満ち溢れているのだ?
――所詮まやかしはまやかしに過ぎんのだ。
暫し呆然とホログラフィを見詰めていたが、そろそろ時間であったし出立する事と相成った。
「――済まないな、後は任せた」
黒神に一件を任せると、一先ず私はサーバルームを後にした。
――目指す地は貳名市の裏山。私はそこに行かなければ為らない。
これは義務なのだ。弟子として、そして彼の志を継ぐ者としての……。
【レオーネ:メインサーバルームから移動中】
>>123,
>>125 狂ったように笑っていた光龍さんが突然、叫び声を上げ、その場から去って行ってしまった。
あまりに一瞬の事で呆気に取られていたが、テーブルの辺りで物音が聞こえた事は逃がさなかった。
>「はっ……わしはいったい何を?」
なんと今まで意識不明だった鳳旋さんが目を覚ました。
しかも何事もなかったかのように体を起こして周りを見ている。
>「スマンスマン、わしがずっこけた所為で皿割ってしまった」
>「あの……鳳旋さん、まだ血が止まってませんから、そんなに歩き回ったら、血が…」
そして、立ち上がり軽く頭を下げて謝った。……あれ?ナイフに気づいてない?
アーリーさんが鳳旋さんを止めているが、彼は全く無視。
>「ん?ところでわしの連れの光龍はどこじゃ?」
鳳旋さんは光龍さんがいないことに気づいた。
……なんて答えようか?「突然逃げ出しました」なんて言えないし……
その時、何かを考えていたアーリーさんが顔を上げ――
> 「えっと……彼はその…かれは…かれ…あ、そう!!腹が減ったからってカレーの材料を買いにいったんですよ!!」
>「そ、そうですよね。十六夜さん、姫野さん。」
(彼、かれ、カレーか……)
正直、かなり無茶な質問を押し通そうとアーリーさんは私達に確認を取ってきた。
彼女は何かを訴えている小動物のような目でこちらを見てくる。これは……
「はい。そうです、そうですよ。あーカレー楽しみだなー……」
流石にあんな目で訴えられたら同意せざるをえない。
美月もコクコクと頷いていたが……
「美月、どこに行くの!」
美月は突然、後ろを向いて、私の言葉も無視して走り去ってしまった。光龍さんを探しに行ったのだろう。
私は、近くの椅子に座り込み、深いため息を付いた。時刻は既にお昼時。
「はぁ、頭が痛い……すいません、ちょっと眠ります」
私はアーリーさんにそう告げて顔を伏せた。
【与一、睡眠に入る】
【美月、光龍を探しに、調理室から出る】
そこはナガツカインテリジェンスビル3Fオフィスフロア。
勤勉な社員たちがせわしそうに動いているその後ろで、『作戦』は静かに始まっていた。
「…こちらB-11。準備完了。」
仕事に追われる社員たちのすぐ脇で、静かに呟く清掃員。
しかし、彼の存在を気にかける者はそこには誰一人いなかった。
自分の『仕事』を終えた清掃員は、音もなくそこから消えていた。
―――次の瞬間。ビル内に立て続けに響く破裂音。
少し遅れて、人々の悲鳴。続いて防火ベルが響きわたる。
ビル内の非戦闘員区域―――オフィスフロアにおかれたゴミ箱というゴミ箱が悉く、爆発したのだ。
パニックに陥るフロアをすり抜けて廊下を駆け出して行くのは先ほどの清掃員。
彼は周囲のパニックなど素知らぬ顔で冷静にトイレの個室へ駆け込んだ。
「ミッション完遂。受け入れ態勢は万全だ。山田の旦那。」
ニヤリと呟く彼の正体は、戦場ヶ原の息のかかった工作員。猿飛の所属していた諜報部隊の隊員であり、彼らもまた戦場ヶ原の顔なじみだ。
「非戦闘員を巻きこんじゃいねェだろうな。」
通信機の向こうから戦場ヶ原の声が聞こえる。
そう、これはあくまでも撹乱であり、殺傷が目的ではない。
「へっ、俺はプロですぜ。ケガ人を出さずに驚かせる最大限の位置に仕掛けたからな。
…しかし、一般人を巻きこまねぇってのは、山田の旦那らしくねぇやりかただな。」
「…フン、手当たりしだい皆殺しに出来るほど、もう若くはねぇってことさ。」
場所は変わり、ナガツカインテリジェンスビル正門。
近づいてくる地響きのような轟音に、最初に気がついたのは、警備員だった。
「…?なんだ…この音は…?」
しかし、気がついた時には既に遅い。眼の前には黒く輝くバイクの群れが、まるで一個の巨大な生き物のようにこちらへ向かってくるのが見えた。
「…!!ひっ…、と、とまれ!止まらんか!!」
警備員の声は虚しく轟音によってかき消され、門に設置された簡易バリケードは、圧倒的質量の突進に遭い無残に踏みつぶされた。
轟音が通り過ぎるのをただおびえて待つしかなかった警備員は、自身の無事を確認してようやく本部事務所への電話をとった。
「き、緊急事態ッ!!い、いま…正門から、謎の武装集団がビルに向かって突撃を…!」
警備員がそこまで言った時には、もう既に『彼ら』はビルに雪崩れ込んでいた。
バイクのままガラス張りのドアを打ち破り、ロビーへ飛び込んだ彼らを待っていたのは、非戦闘員たちの悲鳴と非常ベルの音だった。
阿鼻叫喚の様子をただじろりとねめつけるのは、先頭のバイクのタンデムシートに乗った男。
赤髪をたなびかせ、男は、地上50階あるこのビルを貫くような大声で、吼えた。
「城栄 金剛ォォォオオオオオオオオ!!!!俺は、テメェのツラを、ブン殴りに来たッ!!!!」
その声を皮切りに、バイクに跨る鬼たちの鬨の声が上がった。
彼らは総じて戦場ヶ原と同じく漆黒の着物を身に着けていた。
見方によってそれは、黒い死に装束のようにも見えた。
大パニックを蹴散らして、鬼たちは戦場ヶ原を先頭に、広い吹き抜けにかかる大階段を駆け上がる。
あまりに咄嗟なことで警備の対応がまだ追い付かないのだろう。彼らの前に立ちふさがるのは、とるに足りぬ非異能者のSPだけだった。
しかし、これだけ派手な入場だ。これだけで済むはずがあるまい。
(上等だ…!)
戦場ヶ原の顔は、笑っていた。
立ちはだかる敵は、すべて斃す。陽動とは言ったものの、彼は退くつもりなど一切なかった。
ただ一重に、斃して斃して斃して斃して、自分の生命の輝きある限り、斃し続ける。
それこそが、『鬼神』。それこそが戦場ヶ原 天という男にふさわしい生き様だ。
極限に不器用な男の、精一杯の自己表現。
そう、戦場ヶ原は自覚していたのだ。
これが彼にとって、最期の闘いであることを―――…
【戦場ヶ原:撹乱と同時にビル突入。AM11:00】
光がささぬ暗がりの中で、腕時計の発光機能を利用して時間を確かめる。
時間は午前11時を少し過ぎたところだった──。
俺は一つ大きく深呼吸をすると、今まで自らの身体を覆い隠していたダンボールをどかし、
ゆっくりと立ち上がりながらポツリと静かに呟いた。
「……始まったか。意外に早かったな」
部屋の外からは先程から「ジリリリリリリリ」といった非常用のベル音と、
無数の激しい足音が鳴り響いている。恐らく、これは火災が発生したとでも思っている
ビルの社員達がこぞって非常用階段にでも向かっている音と、異常に気がついた機関の
人間達が異常を引き起こした元凶を速やかに排除しようと動いている音なのだろう。
俺は音を出さぬように静かに出入り口のドアに近付くと、外に人の気配が無くなった
ところを見計らってドアを開いた。
開かれたドアから一歩、二歩と歩みを進めて、廊下に出る。
普段であればここも大勢の人間が行き交う場所として喧騒を響かせているのだろうが、
今は無機質なベル音だけが場を支配していた。
ふと階段の踊り場に目を向けると、そこの壁には各階のフロアの案内板がかけられていた。
俺はそれに近付くと、自分自身の行き先を確かめるようにして指を這わせた。
(……現在地はやはり2階。最上階がここで……なるほど、地下もあるのか。
さて……上と下、どちらに行くべきかな)
踊り場から、俺は幾度か交互に階下に向かう階段と階上に向かう階段に視線を向けると、
最後に上の階に続く階段を見上げ、そしてそこを駆け上がっていった。
俺が地下を目指そうとしなかったのは、階下に集まる敵との鉢合わせ避ける為ということもあったが、
上の階から強力な異能の気を感じたからでもあった。
(──城栄 金剛。待っていろ、今度こそ片付けてやる──)
人が通る気配の無い階段を、俺は一人、ただひたすら上へ上へと進んで行った。
素早く、だができるだけ足音を立たせないように、3階、4階、5階──と、順調に階を通過していく。
だが、そうして10階に達したところで、俺は突然足をピタリと止めていた。
(──フロアの廊下から話し声。機関の構成員か)
俺は壁に背をつけると、その体勢からゆっくりと壁の切れ目まで進み、そこから廊下の様子を窺った。
見ると、そこには、こちらに背を向ける格好で仁王立ちしているマント姿の男と、
そんな男に真正面から何事かを伝え、会話している黒服の男が立っていた。
俺は階段を駆け上がってきたことで乱れた息を静かに整えながら、聞き耳を立てた。
「……そうか、元・虐殺部隊の仕業か。で、奴らの数は?」
「40名ないしは50名ほどかと思われますが、防衛には虐殺部隊を中心に多くの戦闘員を回しておりますので、
裏切り者どもは一人残らず死に絶えることになるでしょう」
「……フン、なるほどな。それが奴らの狙いか」
「はっ?」
「いや、なんでもない。ご苦労だったな。下がっていい」
「はっ……」
黒服の男はマント姿の男に一礼すると、エレベーターを使ってどこかの階へと向かっていった。
だが残ったマント姿の男は、「フッ」という笑みを零した後、突如くるりとこちらを振り返った。
俺は素早く体を壁に潜ませるも、時既に遅し──。マント男は嘲笑うように喋り始めた。
「……元・虐殺部隊は囮。彼らに我々の注意を引きつけさせておいて、その間に別働隊が潜入する。
作戦はそんなところだろう? なぁ、池上 燐介?」
(──!? ……フン……やれやれ)
俺は観念したようにその身をマント男の前に現し、まず一つ溜息をつくと、
男に視線を合わせながら、どこか呆れたように口を開いた。
「こちらは異能の気も消していたはずだがな。それでも感知できるとは、大した感覚じゃないか。
なぁ? 『夜叉浪 稔次』サンよ」
俺が『夜叉浪 稔次』と言った男は、不気味に「ククク」と笑い始めた。
彼は上下黒色で、ファスナー止めタイプの服を着、更に両肩から長いマントをたらしている。
そして顔は中性的。──彼はかつて俺の前に現れた、機関の『No.8』に違いはなかった。
「私はこれでも常人より聴覚が発達していてね。遠くのかすかな音でも拾うことができるのだよ。
そう、人間の息遣いさえな。──それはそうと、私も貴様を褒めてやらねばなるまい」
「なに?」
「私の片腕とも称された衣田を難なく倒し、生きて再び私の前に現れたことをだ。
貴様は私自身の手で直接倒すと決めた男……こうでなくてはな……フフフ」
「……一つ聞かせろ。お前は、俺への復讐が目的だと言ったな? 俺を恨む理由は何だ?」
俺の問いに、今まで薄ら笑いを浮かべていた夜叉浪は、突如として顔色を変えた。
しばらくの間を置いて、夜叉浪は鋭い目つきで睨みながら、殺気混じりに返答した。
「……私はかつてお前と闘い、敗れたことがある……」
「バカな。俺に敗れたということ──それはイコールそいつの死を意味している。
例外はこの四日間の内に闘った幾人かだけのはずだが……?」
「フッ……そうだろうな。だが、もし『死人が蘇ることがある』とするならどうする?」
「──! なん、だと……?」
『死人が蘇る』──。思いもよらなかった常識外れの台詞に、
俺は思わず目を見開き、驚きを隠さなかった。
──そんな俺をよそに、夜叉浪は尚も言葉を続ける。
「肉体など、所詮は魂の入れ物に過ぎんということだ。
入れ物が壊れることで魂が抜けて死に至るなら、入れ物を修復し、再び魂を呼び戻せばいい……。
……事実、私はそうして蘇った。もっとも、こんな芸当は機関の力をもってせねば不可能だろうがな」
「……一体、何者だ……お前は」
これは俺の純粋な質問であった。
数えたことはないが、俺がこれまでに殺害した人間など恐らく三桁の数に達している。
いちいち、一人一人の顔を覚えているはずもないのだ。
だが人間の脳は、何かを切欠にこれまで失っていた記憶を瞬時に取り戻すことがある。
次の夜叉浪の言葉を聞いた俺の脳が、正にそうであったといえるだろう。
「……五年前、私はこう名乗っていた。『神楽坂 庚晋』──とな」
(神楽坂……? ──ッ! まさかッ!)
『神楽坂 庚晋』──。これは五年前に俺の友を殺し、そして俺に殺された男の名だった。
【池上 燐介:夜叉浪 稔次と相対する。現在地:ナガツカインテリジェンスビル10F】
「―――これが、私の考えだ」
この中からさらに人間を分割しようと言うのだ。
分割される人間は一人…それはこの私だ。
なぜかって?それは私―いや、我々が理論上の不死身だからだ。
「宗方…お前はその二人の援護をしながらいい潜入場所を探してくれ。
お前の能力なら造作も無い筈……と信じたいところだが。」
宗方に言い終えたあと、二人の生徒に向き直って神重は言う。
「君達のような生徒を巻き込みたくは無かったのだが…。
状況が状況なんだ、許してくれ。君達の幸運を祈るよ」
少し悲しそうな目をし、神重は薬局を出る。
向かうはナガツカインテリジェンスビル―――
(いいのか?兄弟…自分達の可愛い生徒を人任せにしてよ)
(近くにいると色々と感情が鈍るものでね…宗方に任せておけば安心だろう)
背中を切り裂き、血で飛翔し、近くのビルに潜伏する。
あとは戦場ヶ原の暴れ具合によって、隙ができた場所にうまく入りこみ…機関のボスとやらの首を取る。
言うのは簡単だが、実行するのは難しい。不死身とはいえ、ダメージは蓄積するのだ。
極力戦闘は避けたいところ……。
さて、まずは戦場ヶ原の暴れ具合を蝙蝠で確認させてもらおうか……。
【神重:近くのビルに潜伏 偵察蝙蝠を大量に放つ】
>>126 レオーネが立ち去った後、黒神は機連送でとある場所に連絡をした。
その場所は――
「……私だ、黒神だ。
再現装置の具合はどうだ?」
[良好ですぜ、姉御 いきなりどうかしやすったんですかい?]
そう、虐殺部隊異能研究所である、再現装置の改良のためにかけたのだ。
「いや、それならいいんだ。
研究班の鷲沢はそこにいるか?」
[何か御用でしょうか?黒神様]
変わって機連送に出たのは紳士風の声をした男性。
研究所副所長の鷲沢である。
「今から…"ヤハウェ"の異能の再現を行う。
私もすぐデータを持って行く、各員に準備をさせておけ。
これは緊急の仕事だ……準備不足の者はこの私が切り殺すよ。」
[……かしこまりました]
機連送を切り、ふうとため息をつく。
"ヤハウェ"の再現は並大抵の物ではない。
再現をしてもフルパワーは出せず、他の異能と比べても再現時間の短さ
再現時間をオーバーすると精神に以上をきたし…廃人となり…やがては死ぬ。
それを分かっていても使用を決心したレオーネのため…というわけではないが
彼の命を捨てる覚悟に惹かれる何かがあった、ただそれだけだ。
「早くあの装置での完全再現を目指さなければならないな。
我々機関の道を阻む…邪魔者共を全て排除するために…!」
【黒神:再現装置に取り掛かるためにメインサーバールームを出る】
>>128 ――ナガツカインテリジェンスビル某階――
この階層に集まる者の特徴を挙げよう。
一つ、黒いボディースーツに身を包んだ者が多い。
一つ、胸には朱い髑髏のマークがついている。
一つ、彼らの両手のどちらかには…鬼の紋章が。
ここは、虐殺部隊専用階層。
そこに鬼共を束ねる魔鬼がいた。
ビルには耳が痛くなるほどのベルが鳴り響いていた。
鬼の中の一人が魔鬼に告げる。
[どうやら、このビルの中に侵入者が現れたようです]
目を閉じていた魔鬼は、ゆっくりと目を開き、そして言う。
「雑魚程度、下のやつらでもなんとかなるだろう。
俺らが出る幕じゃあねえな……。」
[そっ…それが…]
少しあわてた様子で鬼は言う。
[侵入者の数は約50…元虐殺部隊隊長…戦場ヶ原天を筆頭に…このビルへ攻め込んできています。]
「戦場ヶ原天…だとぉ!?」
驚いた魔鬼は立ち上がり、そしてその場にいた鬼共に告げた。
「てめぇら!
いいか!今から俺達は戦争を行う…退くことは許されん!
鬼の紋章の使用も許可してやる、全員皆殺しだ!」
幹部の席には運悪く誰もいなかった…それが彼を余計に駆り立てたのかもしれない。
「戦場ヶ原天……てめぇだけはこの俺がズタズタに殺してやる…!」
そう、彼は一度戦場ヶ原に敗れたスティクス・ガノスビッチである。
「もし貴様らの中に戦場ヶ原を見つけるやつがいれば…
俺はコロシアムの間で待つ…そして上への鍵は俺が持っている…こうヤツに告げてやれ!」
その場にいた全員に、隊長の命令が下った
「いけ!野郎共!
裏切り者には死の制裁を!」
[[裏切り者には死の制裁を!]]
【スティクスはコロシアムの間へ 虐殺部隊活動開始】
>>125>>127 「えっと……彼はその…かれは…かれ…あ、そう!!腹が減ったからってカレーの材料を買いにいったんですよ!!」
一泊置いて姫野達へ視線を送り同意を求める
「そ、そうですよね。十六夜さん、姫野さん。」
アーリーはまるで何かを懇願するような瞳を姫野達へ向ける、
彼女達はその意を汲んだのかアーリーに同調した。
「はい。そうです、そうですよ。あーカレー楽しみだなー……」
姫野が返し美月が頷く、その後、
「美月、どこに行くの!」
姫野がそう言うと美月は呼び掛けに応じずに走り去る、
姫野はそれを一人納得して傍にあった椅子に腰掛け深いため息を付き
アーリーにこう告げた。
「はぁ、頭が痛い……すいません、ちょっと眠ります」
そして姫野は椅子に体重を預けて俯いた、
背景にある大層古ぼけた時計が正午を指していた。
鳳旋は彼女達のやり取りを黙って見届けた後、合点を返した。
「ほ〜、そうか」
鳳旋にしては珍しい落ち着いた調子だ。
「じゃあ光龍のヤツが帰って来るまでわしは皿を片付けるとするか、
すまん、、、ホウキはどこじゃ?」
アーリーに箒の場所を尋ねる。
(なんかクラクラするのう)
【鳳旋:アーリーに箒の場所を尋ねる・怪我には気づいていない】
>>42 「くそ、なんなんだよ!!てめーは!!」
男は嘆きに近い叫び声をあげ、今にも息絶えそうな体を引きずり、廃ビルの階段を登っていた。
「くそ!!くそ!!こんなはずじゃあなかったんだ!!」
怒りと後悔が入り混じったような声で、悪態をつきつつ、屋上への扉を蹴飛ばした。
「ハァ…ハァ…撒いたか?」
「ざーんねんでしタ〜。」
彼が振り返った時にはもう遅い。
彼の背後に立っていた、彼よりも一回りも大きい女性の正体は―――機関の忘却番号 ルージュだった。
ルージュは、彼の首を掴むと高々と持ち上げた。
「…狩碕 圭輔。火焔模型(レッドゲイザー)の能力者にして、このバトルロワイヤルにて五クラス中クラス四の成績を持つ…カ〜。
とんだ期待はずれ。ちょっと、反撃しただけで逃げ出すなんて、ホント心底ガッカリ。」
「カッ……」
狩碕と呼ばれた男の体は全身の至る所に火傷を負い、抵抗もままならない状況だった。
それは一般人のちょっと、から大きくかけ離れたほどの傷だ。
「もう攻撃はしないノ〜?……ないなら、ちゃっちゃとあの世に行っちゃおうカ。」
「……へ…逆だ…それが、てめーが地獄に墜ちるんだ!!」
彼がそう叫んだ刹那、屋上が火焔のドームが顕現した。
否、ドームでは無い。内側からなのでよく分からないがそれは火焔で模った龍の首だ。
「へ、てめーを此処まで来させたのは充分に広い場所でこいつを使うためだ!!喰らえ、紅龍首咬(ボルケーノヘッド)!!」
火焔のドームが閉じ、灼熱の地獄が訪れた……
地獄が去ったあと、そこに立っていたのは赤いコートの女性、倒れているのは蝋人形の様に融けた男の死体だった。
「……全身攻撃ならボクの能力で跳ね返されないと思ったノ〜?。
まーーったくつまらない発想だネ。そんなんじゃ、五百回生まれ変わってもボクには勝てないヨ〜?」
主導権を奪われ己の技で死んだ、蝋のような死体にそれだけ告げ、自分の能力でその死体も一緒に融けた屋上を元通りにした。
その光景は何の耐性もない人間が見たら、嘔吐するほど気味が悪いモノだ。
「みんな金剛様の計画に逆らわずに、大人しく機関に協力してればいいのニ〜。
…さて、これで八人か…何だか、ドイツもコイツもいまひとつだナ〜〜」
「……なら、私が相手をしてやろう。」
声と刀が振られたのはほぼ同時――――が、しかし。刀は何もない空間をただ横切るのみだった。
「いきなり、斬りかかってくるなんて卑怯だゾ〜」
相変わらずの声でルージュが、振られた刀の上に立ち、文句を垂れた。
「ふん……少しはやるようだな。」
斬りかかってきた女性は刀を勢いよく引っ込め、それに合わせルージュはひょいっと、刀の上から下りた。
「私の名は神野 屡霞。いつもなら後ろからの奇襲など好まないのだが、生憎今は機嫌が悪い。
お前が機関の者であるなら、ただ私に斬られろ。」
「さっきのボクの独り言を聞いてたのカ。……ラッキ〜〜〜〜〜〜!!!」
ルージュはまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように喜んだ。
「……って、おっと。」
ルージュが手を後ろにまわして、背後からの斬撃を人差し指と中指で受け止めた。
ちょうど指二本で白刃取りするみたいな感じに。
「へ〜〜〜。一瞬でボクの背後に……カテリーナほどじゃないけれど、結構早いネ。」
「フン……禍ノ紅弐の舞 紅疾風!!」
神野と名乗った女性が握っている刀が周囲より、紅い気を収束させ、彼女が叫ぶと同時に゛それ゛が弾けた。
「うわっ!!」
バン!!、とルージュの体を切り裂きながら通過したざ斬撃はそのまま床にぶち当たり、砂煙を上げた。
(ヒャハハハハハ!!屡霞、思ってたよりあっさり片付いたじゃねえか。さっさとあの姉ちゃんの血を吸わせろ!!)
(待て、どうも手応えがおかしい。やつはまだ死んでいないかもしれない。)
(んなわけねーだろ!!あいつ、腕ごと体が真っ二つになったんだからよ!!)
(ところがところが。この程度で死ぬボクじゃ、無いんだヨ〜。)
「なッ!!……そんな…馬鹿な。」
砂煙がはれ、そこに姿を現したのは傷一つ無いルージュの姿だった。
「ボクのこのボディの能力、それはボクの体と他の生き物以外のすべてを言葉一つで操るこト。分かったかナ〜?
じゃ、レクチャーが終わったら、次はこっちのばン!!伸びろ!!」
ルージュの右手の爪が伸びたかと思うと、突然まるで物理法則を無視するようなスピードで神野に突進した。
く!!、と神野もバックステップしつつカウンターの斬撃を喰らわそうと、刀を横薙ぎに振った。
刀はルージュの右腕を切り落としたが、その瞬間…神野のどんな速いものでも見切る心眼は見た。
右手の平に゛第二の口゛が現われ、その口が微かに動いたかと思うと、すでにルージュの腕は元通りになっていた。
「じゃ、バイバイ☆」
それだけ言うとルージュは神野の腹をその手刀で貫いた。
「うぉ……」
なにも言わなくなり、神野は血溜まりをつくって、その上に倒れた。
「ボクの体を『加工』っていうのは形を変えるだけじゃなくて速度、力、重さなども自由なノ。
そして、この手の口は金剛様に特別につけて貰ったノ!!これなら普通に喋る三百倍は早いんだッテ。」
(おい、屡霞!!しっかりしろ!!)
(あ〜ダメダメ、多分それじゃ目覚めないヨ〜)
(テメー、よくも屡霞を……それにどうやって、俺と屡霞の思念波に入ってきた!!)
(それは又説明すると長くなるんだけど……それにしても、武器に自我があるなんて、コムランのゴッドバルトみたい。
よし、決めた!!このボディ、もーらい☆)
(ア!?)
ルージュは神野の体を左手で軽々と持ち上げた。どうやら息はまだあるみたいだったが、それも時間の問題だ。
「んじゃ、お邪魔しま〜ス。」
ルージュは歯で右手の爪を噛み出血させると、その血を神野の口に注いでいく。
それは実に異様な風景だった。まるで、どこぞのオカルト宗教団の儀式の如く、異様な雰囲気だ。
「よし、これでこの体はボクのもの。だから、能力も適用だれるから、傷よ治れ〜〜ット。」
ルージュが神野の体を降ろすと、腹に開いた穴はみるみる塞がり、神野は自分で立てるようにまで回復した。
しかし、その顔に少しの感情は読み取れない……
(オイ!!屡霞!!どうしたんだっていうんだ!!)
(無駄無駄、もうこれはボクの物なんだから。)
「んじゃ、次はどうしようかな〜〜……って、んん??」
このビルの遠く、街の中心部にそびえ立つナガツカインテリジェンスビル。
その勇ましいほど巨大な建物の所々に煙が上がっているのが、此処からでも良く見えた。
「うわ!!なんか始まってるじゃん!!もう!!あんな楽しそうな事をボク抜きで殺るなんて、ぜっっったいに!!許さない!!」
ルージュはその顔に相応しくないほど、悔しさを表し地団駄を踏んだ。
「……そーだ。折角だし、コイツも使ってみようかナ?よし、そうなったら…レディー、ゴー!!。」
ルージュは刀を持った人形と化した神野を引き連れ、飛び出した。快楽の旅へ………
アビス
【ルージュ:神野と融解し、ナガツカインテリジェンスビルに向かう】
訂正(申し訳ない)
ルージュの右手の爪が伸びたかと思うと、突然まるで物理法則を無視するようなスピードで神野に突進した。
↓
右手の爪が伸びたかと思うと、突然ルージュはまるで物理法則を無視するようなスピードで神野に突進した。
爪が突進したわけじゃありませんでした
>>126 ビルを出てはや二十分余り。既に本社ビルの大きさはジオラマサイズの大きさに変わり、
街も朝方よりは若干賑わい始めてきたようだ。
――私は今、車を走らせていた。
昨日のような年甲斐の無い『ライラック』ではない、日本車だ。
極めて静かだ、やはり日本車は良い……。
オーディオからは朝の街の様子を伝える地元ラジオが流れている。
勿論、そこには異能者の異の字は無い。全て機関が報道規制してある。
道路に走る車の数が少ないので随分快適に走っている。
目的地へのルートは分かっている。街の構図が昔と変わっていなければだが……。
カーナビゲーションに頼るまでも無い。
ビル群は立ち上ったが、それでも基本的な部分は何一つ変わっていないな、この街は。
唯能学校、教会、そして大木南川を挟んで北側に位置する通称"炎魔山"……。
「む……?」
――ふと視界の端に古めかしい造りの洋館を捉えた。
この貳名市の中には機関の人間が情報交換の場所としたり、訓練を積んだりする場所がある。
そういった建物は"シナゴーグ"、機関の人間にはそう呼ばれている。
この古びた洋館もその『シナゴーグ』の一つなのだが、建物自体の老朽化と他の主要施設との位置関係から既に破棄されていた。
それでも、警備の目は破棄された『シナゴーグ』にもきちんと行き届いている。
棄てられた『シナゴーグ』の機能を停止させていないか、
それはこの"会堂"が絶好の隠れ蓑だからだ。
頭の良い奴ならこの場所で反旗の時を窺う筈……。
「フ……杞憂か」
――車は舗装の行き届いた街道から外れ、うら寂れた道へと左折していく。
道路脇には反射ポールほどの高さもある雑草が生えている。
時代が時代ならここは獣道なのだろうな……。
アスファルトで固められてはいるが、十分にその名残を感じ取る事が出来た。
――見えてきた。『炎魔山』
この山がそう呼ばれるようになったのは、一体何時の頃からだろうか……。
少なくとも私が産まれるずっと前から呼ばれている事だけは確かだ。
この山のニックネームは『炎魔』を知っている人間がつけたのだろう。
車を山の入り口である林道への入り口に止めると、颯爽と降りていく。
私は自然と上着を正した。
――この山の頂上に目指す場所は在る。
【レオーネ:現在地 裏山】
【アーリー達の居るシナゴーグを通り過ぎる】
「貴様に殺されたあの日……私の肉体は機関によって収容された。
当時の、まだ『死者蘇生』の技術を確立していなかった機関にとって、
私の亡骸は『死者蘇生』の実験体には打ってつけだったわけだ。
成功確率1%という失敗前提の実験の中、私の魂は奇跡的に元の肉体に復帰した。
無神論者の私も、あの時ばかりは神に感謝したものだ……。
……そしてその後、私は直ぐに名を変えた。
改めて機関への忠誠を誓う為と、無残な敗死を遂げた"弱者"と決別する為にな。
そんな覚悟の甲斐あって、私は強くなり、『No.8・オーストラリア大陸総轄』の地位まで得た。
だが、それでも私は、"弱者"から脱したと思ったことはない。何故だか分かるか?」
「…………」 リベンジ
「どれだけの力を得ようが地位を得ようが、結局のところ貴様への復讐を果たしたという
結果がなければ、私自身が精神的に再出発を果たすこともできないからさ……」
「……つまりこの数年間は、お前にとって俺を倒す為の準備期間、だったということか」
俺の言葉に、夜叉浪は「二ィ」と口元を歪ませながら答えた。
「私が真の"強者"となる為に、死んでもらうぞ……! 池上 燐介……!」
「……俺がお前を殺したのも復讐……お前が俺を殺そうとするのも、また復讐か……。
仕返しは仕返ししか生まんとは、良く言ったもんだな。全く……やれやれだ」
俺はどこか呆れたようにそう呟くも、直ぐに夜叉浪に鋭い眼光を当てると、
今度は強い口調で言い放った。
ヤ
「……だが、その負の連鎖を断ち切る為にも、闘らねばなるまい。
それに、お前を生かしておいては、墓の下で眠るあいつが浮かばれんしな……。
──死んでもらうだと? それはこちらの台詞だ。今度は、二度と復活できぬよう粉々にしてやる……!」
俺の右手を覆っていた手袋が緩やかに外されると、夜叉浪の顔から笑みが消えていった。
「さて、そう上手くいくかな……?」
そう言うと、夜叉浪は腕を一本突き出して、こちらに右手の平を向けた。
そして力強く目を開くと、瞬間、凄まじい衝撃波が放たれ、
俺は回避することもできず衝撃の威力をまともに受けた形で体を宙に舞わせた。
体は自らの後方に吹き飛び、やがて窓ガラスへと突っ込んだ。
脆い窓ガラスは衝撃の強さに耐えられず瞬時に砕け散り、
支えを失った俺の体はビル10階から外へと仰向けに放り出される形となった。
(──ッ!!)
青空と、太陽の光が目に注がれる。
細かく砕けたガラスの破片が太陽光に反射して、キラキラと輝いているのも分かる。
が、それらに見とれてばかりもいられない。高さ10階の位置から放り出されたのだ。
このまま地面に激突を許すわけにはいかない。
俺は『冷翼』を発動させ、降下のスピードを緩めると、
続いて体を反転させ緩やかに地面へと着地した。
目を動かして周りを確認すると、そこはビル敷地内裏口に位置する場所だった。
ビル正面から陽動部隊が突入したせいか機関の人間の姿はなく、驚くほど人気が感じられない。
そうして左右に目を動かしていると、不意に「ドン」という音が俺の前で立った。
視線を向けると、そこには夜叉浪の姿。
どうやらビルの10階から飛び降りながらも、無事に着地したらしい。
「無事に着地できたか。それでいい、ほんの挨拶程度の技で死んでもらっては面白くない」
「……お前は着地の心配をしないでもいいようだな。どんな体の造りをしてるのか気になるところだ」
「その内、私のことなど気にできなくなるさ。……嫌でもな」
夜叉浪はそう言うと、先程と同じように右腕を突き出し、手の平を開けた。
すると、開けた手の平から徐々に横長の棒が出現したかと思えば、
それはあっという間に管楽器のフルートとして実体化されていった。
(フルート……!? こいつ、物体を具現化するのか……)
すかさず夜叉浪がフルートを構える。
そして、目をギラリと光らせながら強烈な異能の気を放ち始めた。
肌にビリビリと来る感覚に、俺は思わず目を細ませた。
「さぁ、これからが本番だ……! 見せてやるぞ、私の真の異能力をな……ッ!」
そう強く言い放つと、夜叉浪は静かにフルートを奏で始めた。
笛特有の音質というべき、澄んだ音色が空気を伝って辺りに流れ始める──。
しかも、これも異能力のせいなのか、どこか美しすぎるとさえ感じる程のものだ。
──と、戦闘中であるにも関わらず思わず聞き入ってしまいそうな俺を正気にさせたのは、
突如として左頬を襲った鋭い痛みだった。
(──なに? 頬が、切れている……?)
だが、俺には突然現れた謎の傷の解明に考えを巡らす間もなかった。
今度は頬傷を触っていた左手の甲の部分が、突然数センチ程裂けたのだ。
しかも切り傷はそれだけに留まらなかった。次いで右胸部分が小さく縦に、
右の額を横に、左胸を小さく縦にと、目に見えぬ何かによって次々と裂かれていったのだ。
(──こ、これは……攻撃されている……!?)
そうした俺の疑問を見透かしたように、夜叉浪が不気味な笑い声を漏らしながら口を開いた。
メロディックブレイド
「笛から発せられる音色を攻撃的音波に換え、敵を切り刻む。人は私を『鱗刃旋律』と呼ぶ……」
俺は夜叉浪を一睨みしつつ、裂けた皮膚に視線を向ける。
見れば、傷は刃物のようなもので切りつけられた感じであった。
(まさか、異能力で刃状に変形させた空気の塊を飛ばしているということか……?
仮にそうでなくとも、目に見えない何かを飛ばし、物理攻撃を仕掛けていることは間違いない)
瞬時にそう判断すると、俺は目を大きく見開き、異能力を解放した──。
次の瞬間、俺の眼前に出現したのは分厚い氷の壁であった。
アイス・ウォール
「──『氷壁』。お前の妙な技は、一旦これでかわさせてもらうことにする」
言いながら、俺は即座に右手で凍気を集約させ始めていた。
これは『氷雪波』──。敵の隙を見て、一気に攻勢に転じようという算段である。
だが、夜叉浪はこちらの出方を予想していたかというように、不気味に口元を歪ませた。
「フッ……流石に素早い判断力だな。……だが、それで私の力が防げると思ったら大間違いだ。
──聞け、死の旋律を! 『シンフォニック・レクイエム』!」
夜叉浪の笛から、これまでになく盛大に音色が奏でられた。
──それは、聞くたびに命を削り取られる、文字通りの死の旋律であった。
「──こっ、これはっ……! うぉぁぁぁぁあああああああああああッ!!」
──内臓をかきむしられる様な、血管や神経を引きちぎられる様な、
とてつもない痛みが俺の体を駆け巡った。
しかも、少しでも体を動かせば、それだけで全身に電気ショックを受けたような激痛が走る。
倒れて転げまわることもできず、俺は立ち尽くしたまま顔を天に向けて痛楚な叫びをあげた。
「クックック……まるで体の内部を刃物で切り刻まれるような痛みだろう?
音波によって生じた物理衝撃で敵に外傷を与え、同時に音波で敵の聴覚から痛覚神経を刺激し
地獄の苦痛を与える……。この外と内、両面同時攻撃こそ私の真の力なのだ……!」
(痛みで……体が痺れたように麻痺してきた……このままでは、動けぬまま嬲り殺しだ……!
まずい、体を動かせる内に……勝負を決めなければ……ッ!)
腕を上げ、右手の平を夜叉浪へと向ける。
その一挙一動だけでも激しい痛みが走るが、もはやそんなことを気にはできなかった。
「ほう……何をするつもりか知らんが、まだ動ける気力が残っているのか……。
だが、それもいつまで持つかな……?」
「……さぁ……なッ!」
俺は言葉を吐いた直後に、夜叉浪の物理攻撃を防いでいた『氷壁』を蒸発させた。
辺りにもうもうと水蒸気が立ち込め始め、俺と夜叉浪の間の視界を遮る。
──瞬間、俺の右手から凄まじい勢いで極寒の凍気の渦が放たれた。
敵の一瞬の隙をついた攻撃──距離的に見ても、回避されることはないだろうと踏んだのだ。
しかし、夜叉浪はそれに動じることはなかった。
「それはかつてこの私を倒した技だろう? ──バカめ、同じ技が通用すると思ったか!」
突然、夜叉浪のフルートからこれまでにない甲高い音域の音が吹かれると、
直撃確実かと思われた凍気の渦が、突如として彼の眼前で、
まるで見えない壁に防がれたようにして四散していくのだった。無論、夜叉浪は無傷である。
「な、なに……!」
「貴様への物理攻撃は、空気を操作し飛ばしたもの。
そんな私にすれば、空気操作による物理的な防御壁の形成など、造作もないこと。
──敵の動きを封じつつ攻撃を加え、尚且つ同時に自らの防備をも固める。
この攻防一体の戦陣に、死角は無い──!」
【池上 燐介:夜叉浪 稔次と戦闘中。現在地:ナガツカインテリジェンス裏口敷地内】
――公誠の屋敷で暮らし始めてから早一年半が過ぎようとしていた。
セミの鳴く声をBGMに、部屋の窓の外で風鈴が微かな風に小さな体を震わせている。
師からは夏の風物詩だと教えられたこの光景に、今のオレは全く興味をそそられなかった。
オレの関心が専ら机の上で広げられたエジソンの伝記へと向けられていたからだ。
この伝記は先日師が日本語の勉強に役立つと買い与えてくれた物で、
表記言語は勿論日本語だ。難解な言い回しをしてはいないものの、
日本語に不自由な身としては若干難敵である。故に辞書は欠かす事の出来ない相棒だ。
机に備え付けられた椅子へと腰を下ろし、分厚い本を捲っていく内に、
次第にこのエジソンという人物がどんな人物だったのか理解できてきた。
エジソンは子供の頃から"なぜ?"という事に拘っていた。
ある時には、"なぜ物は燃えるのか?"という事を思い立ち、
薬品で燃やしてみた所、自宅の納屋を全焼させてしまった事もあったという。
波乱の少年時代を送ったエジソンは、1877年に蓄音機の実用化させて名声を得る。
その後、電話や電灯、レコードに至るまで様々な発明品を商品化した。
何れも今日の文明に無くてはならない物ばかりだ。
伝記は未だ途中だが、読破できるまでそう時間は掛からないだろう。
世界的な天才発明家の人生を綴った書物は、オレの知識に潤いを与えてくれている。
読めない漢字を見つけ、辞書を引こうとしたその時、
廊下を駆け足で走り抜ける音が聞こえたかと思いきや、勢い良く部屋のドアが開けられた。
部屋の入り口では長束家の使用人のサトナカが息を切らしている。
「――っはぁっ…はぁっ……。
レオーネ、すぐに来てくれ!」
伝記を仕舞いながら彼へと近づく。
注意深く見ると彼の額からは汗に混じって血が薄っすらと滲み出ていた。
「どうしたんですか、サトナカさん――」
「金剛の奴が――」
全てを聞く前にオレは部屋を駆け出して行った。
広間のフスマを開けると、そこには対峙する師と城栄の姿が在った。
金剛の目は怒りに血走っており、相手が師でなければ直ぐにでも八つ裂きにしているであろう。
師といえば、殺気全開の城栄とは逆に全く戦う素振りを見せない。
城栄が荒波と例えるならば、師は静かな小波といった所か。
「城栄、これは一体何事だ。師に向って殺気を放つなどやり過ぎだ」
オレは最初、何時もの様に城栄が突っかかって行ったのだと思ったが、
次の城栄の反応を見てそれは掻き消された。
「――うるせぇよ、黙ってろ」
闘気を収めるでもなく、寧ろ一層それを強めていく。
師はそれを涼しい顔で受け止めてはいるが……。
「お父様よォ…もう一度言うぜ。
二桁番号だかなんだか知らねェが、何様のつもりなんだ?
なんだありゃ、え? 自分らがスッとろいから俺がカバーしてやってンだろうが!
頼み込むならまだしも、命令するなんて腹の虫がおさまらねェ!」
セカンドナンバ-
二桁番号……? 確か、昨日から今日に掛けて、
城栄はキュウシュウの方にセカンドナンバーのサポートを命じられていた筈だ。
そこで何か気に食わない事でも在ったのだろうか。
「だから……なんだ?」
いつもとは異なる師の態度。オレはそれにいち早く気が付いた。
涼しげに城栄の殺気を受け止めてはいるものの、眼光は鋭く光っていた。
「だから、今度から俺にやらせろっ!
あんなバカどもなんか目じゃないくらいの活躍をしてみせる!」
キュウシュウで彼らの間で何が起こったかはわからないが、
少なくともセカンドナンバーがヘマをしたという事はわかった。
それが城栄の奴がイラつく原因なのか。
これに対して師は――
「ふっ……。少しは大人になったかと思えば……。
お前がやって何が変わる? 機関にとってのメリットは何が増える?
考えてみたが、リスクだけしか生まれないぞ。
身の程を知れ、このド阿呆……ッ!」
師の体から一気に殺気が解き放たれた。
それはマグマの如く城栄だけではなく、その場に居合わせたオレたちをも飲み込んでいった……。
ここで一旦オレの記憶は途切れる。
――次に気が付いた時は、全身ボロ雑巾のようにされた友人が木目の床に倒れていた。
「これは……!?」
……一体、何が起こったんだ?
一瞬の間に城栄をこれほどまでに痛めつけるとは……。
ハッとなって広間で時を刻んでいる時計に目をやると、時間は十数秒ほど進んでいた。
まさか……これが師の能力? 噂に聞いていた"時間を吹き飛ばす能力"?
「――取り押さえろ」
この師の一言で我に返った使用人たちは、息も絶え絶えの城栄を押さえつけた。
「大丈夫か、城栄……」
使用人たちのマットとなっている親友に声を掛けるが、彼からのレスポンスは無い。
城栄の状態も気になったが、それ以上に師の力を改めて認識した。
機関の指導者、『武神結界(ブルータルテリトリー)』。
その絶対たる力を前にしては、どんな異能者も等しく"無"なのだ。
【レオーネ:回想3回目】
【回想残り3回】
──放たれた凍気球や氷の弾丸が、見えない壁によって弾かれたように
瞬時にその軌道をあらぬ方向へと変えていく。
「クッ……!」
それを見て、俺は思わず歯を噛み締めた。
そんな俺と対照的な顔を見せていたのが、薄ら笑いを浮かべている夜叉浪であった。
「フッ……何をしようが貴様に私の作り出す『空気の壁』を破ることはできん。
──さて、悪あがきもやるだけやって、気も済んだかな?」
夜叉浪は再び鋭い目つきで俺を睨み付けると、フルートを構えてすぐさま曲を奏で始めた。
『シンフォニック・レクイエム』──この悪魔的な曲が、再び俺の脳を痛烈に刺激し始める。
先程と同じように、耐え難い激痛が走ると同時に、体の自由も奪われていく──。
だが、今回はそれだけに終わらなかった。
突然、俺の視界がボンヤリと、まるで霧がかかったようにボヤけ始めたのだ。
(──なに!? これは……)
俺の頭に浮上した疑問を見透かし、それに答えるように、夜叉浪は静かに喋りだした。
「クックック……どうやら視覚が閉ざされ始めているようだな……。
だが、驚くことは無い。それは私の『シンフォニック・レクイエム』を聞きし者に表れる症状だ」
「……どういうことだ?」
「私が奏でる曲は、敵の神経を刺激し激痛を与える。では、強制的に刺激を受け続けれはどうなるか?
感覚器官は徐々に麻痺し、結果その機能が衰える。今の貴様が視覚に難を抱え始めたようにな。
だが──当然、それだけでは終わらない。衰えた感覚器官は、終いには永久にその機能を停止する。
私が『シンフォニック・レクイエム』の最終章を奏で終えた時にな──」
「……!」
「その時、私の旋律を聞いていた者は、体中の全神経をズタズタに切り裂かれるのだ。
そうなった者に待つ道は二つしかない。想像を絶する激痛に耐え切れず発狂死するか、
もはや指一本動かせぬ廃人となるか……貴様はどちらになるかな?
クックックック……フハーッハッハッハッハッハッ!!」
夜叉浪の勝利を確信した高笑いが、大きく鳴り響いた──。
「──『シンフォニック・レクイエム』も、そろそろ最終章を迎える。
それにしても、ここまで発狂せずに耐え続けた者は、貴様が初めてだ……褒めてやるよ」
「ハァ……ハァ……」
もはや一度の呼吸をすることにさえ、苦痛が伴うようになっていた。
絶え間なく続く激痛のせいか、意識も目と同じく、どこかボヤけ始めているようだった。
そんな俺を見て、夜叉波は突如として演奏を止めると、何かを思いついたように喋りだした。
「そうだな、ここまで耐えた褒美に貴様にあることを教えてやるか……」
「…………」
「あの時、貴様の友を私が始末しなければならなかった理由について──」
「──な……に……?」
俺がボヤける目を大きく見開くと、夜叉浪はいやらしい笑みを浮かべながら、ゆっくりと語り始めた。
シナゴーグ
「五年前、私は数ある機関の『会堂』の一つを警備する、一警備部隊の隊長だった。
警備部隊長などは、精々『サードナンバー』という機関にとって一戦闘員に過ぎぬ者が率いるもの。
勿論、幹部のような重責を担うものではない。
……ところがあの日、機関から私に突然ある任務が舞い込んできた。
それは『とある会堂に安置されたモノを極秘に本社に運び込め』という奇妙なものだったが、
機関の他の人間にすら漏らすことは許されない、完全極秘の重大任務だった。
失敗すれば粛清の対象にもなりかねないが、逆に成功させれば私の株も上がる。
……そんな目論見もあって、私は任務を引き受けた。
私は、部下にそのモノを運び込むよう指示した。
何事もなく、事は順調に進んでいった──しかし、そこで想定外な事態が起きた。
下っ端の構成員など、我欲を満たす為だけに機関につくしているような連中が大半なのだが、
そういった手癖の悪い部下が、あろうことか任務遂行中に民間人の少女に暴行を働こうとしたのだ。
それだけならまだ良かったが、一度歯車が狂うと予想外の出来事が続くもの。
その少女を助けるべく正義の味方の如く現れた男が二人いた。
一人は後に少女と共に逃走……残る一人が部下と闘ったが、
そこで彼は、私達が運び出したモノを、目撃してしまったのだよ……不幸なことにな。
それを見られたまま生かしておくこと、それは任務の失敗と同義。だから始末された……」
「……お前らが運び出したモノとは、一体何なんだ……!」
夜叉浪は一つ間を置くと、ハッキリとした口調で言い放った。
「──『炎魔』だ」
「炎魔だと……? バカな……遥か昔に死んだ人間をどうやって……」
そう言い掛けたところで、俺はあることを思い出し、「ハッ」となった。
昨日、廃屋の会堂で、一体のミイラが保管されていたという記録があったことと、
そこには炎魔に関する資料の山が積まれていたことを。
「まさか、炎魔のミイラを……!? だが、どうしてそこまで炎魔に拘る……」
「──炎魔は異能者なのだよ。それも、生前は絶大な力を誇った……な。
そんな炎魔を再びこの世に復活させることが我々の目的なのさ」
「……炎魔を蘇らせて、何をするつもりだ……?」
「少なくとも……城栄は自身の野望の為に利用するつもりでいるだろう。
まぁ、城栄のような野心家でもなければレオーネのような理想家でもない私にしてみれば、
機関が炎魔を使って何をしようが関係のないことだがな」
炎魔が異能者であった──。
しかも城栄は、その炎魔をこの世に復活させ、自身の野望の為に利用しようとしている。
それを聞いた俺は、思わず歯軋りをした。
城栄と炎魔が組めば、この街で最悪の惨劇が生み出されることは想像に難くないからだ。
「──話は終わりだ。さぁ、とどめをさしてやるぞ! 聞くがいい、最終章を!」
再び地獄の旋律が奏でられ、それを合図に、俺の体もギシギシと悲鳴をあげる。
しかし先程と違って、俺の顔はもはや苦痛に歪むということはなかった。
それどころか、顔には今にも相手を倒さんとする気迫が漲っていた。
「城栄の目的が炎魔にあるということを知って、ここでチンタラしているわけにもいかないというのに、
お前には"今の俺の力"が通用しないときた……。全く、つくづくファーストナンバーは厄介だな」
「なんだ……? 今更命乞いか?」
「いや──決心したのさ。今まで隠してきた、"真の力"を見せることを。
出し惜しみしたまま殺されては、流石に悔やんでも悔やみ切れんからな……」
「バカな、その満身創痍の体で何が──うっ!」
夜叉浪の体が、一瞬ピクリと硬直した。
俺の体を、これまでにない程に強いオーラが包み込んでいくのを、見たからだ。
(これだけは使いたくなかった……。下手をすれば、城栄と闘う前に、俺の方が力尽きちまう……。
だが……ここで使わなければ、奴を倒し先へ進むことすらできない……! もってくれよ、俺の体!)
包み込むオーラはどんどんと激しさを増し、
ついには炎のように猛りながら、まばゆいばかりの光を発し始めた──。
「はぁぁぁぁッ……!! 異能力──100%解放ッ!!」
俺の叫びと共に、青白い閃光が、瞬時に辺りを照らした──。
【池上 燐介:夜叉浪と戦闘中。ついに全力となる】
>>135>>127 「はい。そうです、そうですよ。あーカレー楽しみだなー……」
姫野さんは私に口裏を合わせてくれて、十六夜さんも頷いて肯定を表してくれた。
しかし…姫野さんの反応を見て、改めて自分の嘘の酷さを後悔した……すごく。
「美月、どこに行くの!!」
突然、十六夜さんが体を百八十度回転してこの場から走り去っていった。
あんまりこの館を歩き回って欲しくないんだけどな……
もし、『地下への入り口』を見つけられたら変な誤解を生みそうだから。
って…光龍さんも監視カメラで見つからないからって館(なか)には絶対居ないとは限らないんですよね……
まずいな。
「はぁ、頭が痛い……すいません、ちょっと眠ります」
気が付くと姫野さんがイスに腰掛け、眠りに入っていた。
「ほ〜、そうか」
姫野さんが眠りに入って話が一段落した、と見て鳳旋さんが納得の声を出した。
にしても、妙に落ち着いてるな……どうも、この人の考えが読めない。
「じゃあ光龍のヤツが帰って来るまでわしは皿を片付けるとするか、
すまん、、、ホウキはどこじゃ?」
未だに彼は自分の頭じゃなく、床に四散した皿の方を気にしていた。
「えっと……確かこのロッカーに入っていたような…」
姫野さんの腰掛けているイスの近くにあったロッカーから箒を引っ張り出した。
「あった、あった。はい、どうぞ。……あっ」
どん!!…カララ
箒を渡した時に、姫野さんに少しぶつかってしまった。
……ふぅ、どうやら目覚めてはいないようだ。ん?なにかがGパンから落ちたような。
拾い上げるとそれは携帯電話に似ているが、少し形状が違う。
「え?……これって…」
そう、それは自分も使った事があり、今もちょっと普通の使い方とは違うけど使用しているもの。
機関連絡用特殊電波送信機―――――――通称、機連送だ。
ハッ、とまるで子供が親に見せたく無い物を隠すように隠して、振り返った。
そこには鳳旋さんが陽気に皿を片付けていた。血を流しながらなので、大分不気味な雰囲気だったが。
とりあえず、こちらには気づいてないようだった。
(……これを持ってるって事は姫野さんは機関の人間?それともただ単に拾っただけ?)
顔を上げると、姫野さんが気持ち良さそうな寝顔をしていた。
(……疑いたくないけど…念のため…)
そー、と。起きない様に慎重に手を動かして、自分の右手を覆いかぶさるように姫野さんの顔の前に持ってきた。
鳳旋さんはまだ、こちらに気づいてない。
自分の異能力で、最低の行為だけど…姫野さんの脳の中を調べよう。
アーリーは勝手に脳の中を見る事の申し訳なさと、姫野が機関の者では無いことを祈った。
【アーリー:鳳旋に気づかれないように姫野に異能力を使おうとする】
>>125 「ハア…ハア…」
廊下を走り抜け、角を曲がった所で止まり、
背を預けた後懐から銃を取り出し、暫しの間それを見つめる。
この銃は警官から奪った銃だ、弾丸の数は残り4発、この数は今までの発砲数からの逆算なので銃のシリンダーを開けなくともこの弾数は確定だろう、
「4発……なんて縁起が悪いんだ…」
光龍は一人ぼやく。
追ってくる気配はねぇしどうする?
このまま鳳旋を置いて逃げ出す?それとも戻ってあの二人を撃ち殺す?
殺すんだったらこっからゾンビ放って隙見て撃ち殺すか……でもあいつら何してくるかわかんねぇし、
昨日殺した"イモ男"、え〜と"四方山四方男"だっけか?出してみるか?―――
そうこう考えてると、突然、左側から声が聞こえた。
「ねえ……」
とても静かで、それでいてこの洋館に澄み渡る声。
―――!!
光龍は飛び跳ねるようにそちらを振り向いた。
「ッウワア!」
見ればアノ女の相方が俺の側に立っていた。
考え事に夢中になってたのか?気配に気づかなかったぞ……
落ち着け…落ち着くんだ…
「な、なんだよ、気付くかなかったぞ…それがオマエの能力か…?」
「能力…?」
彼女は不気味なくらいに静かで殺気なんて微塵も感じられない、しかしそれがかえって光龍の恐怖心を煽った。
「…ヒ…ヒ……うああああああ」
目の前の女に銃を向ける。
【宮野 光龍:美月に銃を向ける(安全装置は降りてない)】
>>149 アーリーが与一の前に立ち、彼女の額へと手を伸ばす。己の異能力を与一に対して発動させる為だ。
それは神経を伝って瞬く間に、彼女の脳へと侵入しようとする。
だがそれは、彼女の脳へと到達する直前、与一とは別の意思によって阻まれた。
――ヨイチニフレルナ ツギハコロスワ――
"それ"は送り込まれた光ウイルスを介して直接アーリーの脳に警告した。
直後、現実の世界で十本の槍弾がアーリーの頭を囲むように出現する。
が、それらは一瞬のうちに溶けるように消えていった……
―――――
近くで大きな物音がして、目が覚めた。
隣を見るとアーリーさんが尻餅を付いて倒れていた。
両手で体を支え、左手にはなぜか私の携帯を持っていた。いつ落としたのかなぁ?
鳳旋さんも何があったのかと言った表情でこちらを見ている。
未だに頭から血を流している、自分の身の心配をした方がいいんじゃ……
よく見ると、アーリーさんは体をわなわなと震わせている。私は立ち上がり、彼女へと手を差し伸べる。
「大丈夫ですか……?それ、私の携帯なんですけど……何があったんですか?」
【アーリーの光ウイルスに対し、与一の中の別の意思が防ぐ】
【与一、目覚める アーリーに手を差し伸べる】
>>150 突然声を上げて部屋を出た少年――光龍君?を探して私も部屋を出る
どこに行ったのかは分からないけどいつかは見つかるだろう。あの部屋には居たくなかったので丁度いい。
今回は幾らなんでも与一のやり過ぎだ。生きていたからいいものの……
少し歩いていると、目的の彼が立っていた。
壁に背を預けて、何かを考えているようだ。本当に集中しているようで、私には気付いていない。
私は彼の隣まで近づき、話し掛ける。
「ねえ……」
>「ッウワア!」
光龍君は驚いて数歩後ろに下がる。
手には小さな銃が握られていた。
>「な、なんだよ、気付くかなかったぞ…それがオマエの能力か…?」
「能力…?」
>「…ヒ…ヒ……うああああああ」
彼は答える時間もくれず、さっきと同じように叫びながら、私に銃を構えた。
それでも私は光龍君に近づき、彼の両肩を掴んで言った。
「大丈夫、私は何もしないから。落ち着いて」
彼は子供のように顔をこちらに向け、銃を降ろしてくれた。
光龍君から離れて真っ正面から向かい合うように立つ。そして私はもう一度口を開く。
「……どうして与一から逃げたの?何を見たの?」
最後の光龍君の挙動は明らかに与一に対してのものだった。
だから絶対に彼は与一の"何か"を知っている……!
【現在地:廊下】
【光龍に質問】
>>152 女はそのまま近づいてくる、気が付けば、両肩を捕まれる程にまで近づいてきていた。
「大丈夫、私は何もしないから。落ち着いて」
静かで、淡々とした口調、どこか機械的だが彼女の言葉には人を信用させるなにかがあった。
恐らく彼女の言葉には嘘や偽りが無いのだろう、
打算的でない彼女の言葉には温かみがあり、人を信用させる、それは不器用そうな彼女が持った一つの才能なのかも知れない。
(って、近い近い!銃が怖くねえのか…?、よく見たら安全装置外れてないし…
これはやべえ、ってかこれはダサい……落ち着け落ち着け落ち着け、
とりあえず本当に殺意はないの…か?)
光龍は不思議と彼女の言葉を信用し、銃を降ろす、彼女と向き合い、目を合わす。
(あ〜なんだその目、気まずいからやめてくれ、目のやり場がねぇ……)
彼女の目から逸れようと光龍の目は四方八方に泳ぎ回る、ずっと見られていると何かを見透かされそうなその眼は実は何も見透かしてないのかも知れない。
そして彼女は再び口を開く。
「……どうして与一から逃げたの?何を見たの?」
「………」
光龍は黙り込み、暫くそのままでいた、勿論彼の目は、彼女の眼と合わすまいと明後日の方向を見ていた。
そしてその後、意を決したように光龍は口を開いた。
「……言って解るか?、信じるのか?」
彼女はコクリと頷いた。
「あ〜〜あれだぞ、この話は能力を持たぬ者には解るまいな話だし…あんたも能力者なんだよな?」
光龍の問いに、彼女は再びコクリと頷いた
「ぜんっぜんいい話じゃねえぞ、お前それでいいのか?
……俺があんまり話したくないんだけど……、ああしかたねえ」
コロシ
そう言って光龍は話し出した、自分の能力の一部分、"人の殺を観ることが出来る事を"―――
殺とは、その人物が行ってきた殺しを観測したものであり、観測された殺はその人物の背景となる。
完全犯罪を起こす事は出来ない、何故ならその人物を殺した瞬間にその殺しが観測されるからだ、
たとえ誰も知る由が無くても、殺した本人が知っている、たとえ本人が知らなくても、世界がその事実を知っている。
そしてそれは、誰も知ることが無くても、そのままその人物の背景となる。
光龍はそういった背景を観ることが出来る、
もっとも本人は唯見ることが出来る程度にしか捉らえていないし、あらゆる生き物の殺を観るとなるときりが無いので人間の殺を観ることだけにとどめている。
しかしそれは、他者の過去を暴く。言い換えれば他者の存在を解剖する事と同義である。
光龍は話した、姫野与一のして来た過去を、そしてどんな事をして来たか、どんな殺し方をしたか、どれだけの人間を殺してきたか、
大まかな話ではあるが、それだけで十分に、姫野与一がどんな人物なのかを美月に曝け出した。
それを聞いた時の彼女は、どんな顔をしていただろう?
―――――――………
「お前らがどんな付き合いかしらねぇけどやめたほうがいいぜ、アイツは人を殺すのが好きなんだよ、
さっきだってそうだろ?、……………鳳旋のヤツを………殺しやがった!!!」
光龍の顔は、恐怖とも怒りとも、どちらともいえない表情を浮かべている。
これから彼はどう動くのだろうか、それは、傍に居る彼女の行動に懸かっている。
【美月に姫野のしてきた事を曝け出す】
>>139 鬱蒼と生い茂る草を掻き分けながら、獣道をひたすら踏破していく。
木々は春の風にその青々とした葉を踊らせている。
私は山道特有の急な斜面を跳躍して一気に飛び越えた。
日頃の鍛錬はこういう時に役立つ。普通の人間には真似できない芸当だな。
山を登り始めて、既に十分余りが過ぎていた。
朝のうちに着て良かった。太陽が真上に来ていないからな。
これが午後だと話は違ってくる。
照りつける太陽と山道の相乗効果は想像以上に厳しいものだ。
道を塞いでいた直径2m程の岩を取り除くと、
内ポケットで小刻みに震え始めた携帯電話を取り出した。
「あ、もしもし おじさま?」
声の主は永瀬か。何か状況に変化があったのだろうか?
きちんとこなせているか、どうにも怪しいが……。
「翠か……。例の件はちゃんと出来ているか?」
永瀬と会話をしながらも、私の両足は歩みを止める気配は無かった。
――もう間も無く山頂に着く。このピクニックももう直ぐ終わりである。
これまで草と木々しか生えていなかった場所から、
急に拓けた空間へと切り替わった。
中央には小高い丘が在り、その中心に目的の場所が鎮座していた。
「もちろんデスヨー。でも、恋島さんには逃げられちゃいました……。
翠ちゃん、ショック」
ふぅ……。どうやら予想は当たったようだな。
しかし、永瀬の負けん気に火が点いたらしい。
グッと拳を握り締める永瀬の姿が脳裏に浮かぶ。
中心部を目指しながら、私の口元は緩んでいた。
小高い丘の中心部――ちょうど街が一望できる場所に辿り付くと、
そこには上質の石材で建てられた墓が、
日本では珍しいオリーブの木々に囲まれポツリと存在した。
汚れや傷が付いていないか確認する為、しゃがんで"それ"に手で触れる。
「気張るのは良いが、あんまり無茶はするんじゃない。
恋島には傷をつけるなよ」
そんな彼女を諌める意味で、僅かばかり声を低くした。
これが功を相し、永瀬の奴は電話の向こうでたじろいだ。
「えー…っと、おじさまは今どこなんですかぁ?」
流石に気不味くなったのだろう、永瀬は急に話題の変更を行ってくる。
「私は墓参りさ。また何か在ったら連――。……やはり来たか。
すまない永瀬、一旦切るぞ」
永瀬の返答を待たずに一方的に通話を終わらせる。
同時にすっくと立ち上がった。
「……割と早かったな、もう少し遅れると思ったよ。
――誠一郎」
振り返るとそこには、白いモーニングフロックを着込んだ紳士と、
赤く大きなリボンを胸元に付けた少女の姿が在った。
――紳士の手には真っ赤な花束。それが彼岸花だという事はひと目で解った。
【レオーネ:AM 8:30頃 現在地 裏山】
【長束誠一郎、塚原ひかると対峙】
俺は、悠々と一歩、二歩と夜叉浪へと近付いた。
対する夜叉浪は、頬に大きな一滴の汗を垂らしながら、驚いたように一歩、後ずさりする。
「な、なにぃ……ッ! 貴様に、これ程の隠された力があろうとは……ッ!」
俺を見る夜叉浪の目は、まるで先程までとは違う、別人を見ているかのようだった。
いや、人間が入れ替わったということではないにせよ、
別人のようになっているという意味では、事実と言えるだろう。
ゆっくりと、平然として歩みを進める俺の体には、天に向かって猛り狂う青白い炎のようなオーラが包み込み、
紐で束ねられていない前髪の部分は、そのオーラの流れに沿うようにして激しく逆立っている。
「しかし、如何に力を高めようと、この私の力の前には所詮無力……ッ!
──再び聞かせてやるぞッ! 最終章をッ!」
再び俺の体が悲鳴をあげ始めると、俺はピタリと足を止め、左右に両腕を広げた。
これは無抵抗の意思表示ではない。
広げられた両腕の先の手の平からは、見る見る内に青白い輝きが放たれ始めていた。
「無力……? さて、どうかな……?」
言いながら、俺は両手に力を込める。両手の平から一層青白い輝きが増していく。
だが、変化したのはそれだけではない。
輝きを増すごとに、両手にオーラが──凍気が集約されているのだ。
その両手から感じられる圧倒的なエネルギーは、『氷雪波』さえも及ばないものになっていったが、
夜叉浪はそれに動じるどころか、逆に己の自信を揺ぎ無いものへと変えていた。
「まさか、その凍気の塊を私にぶつけようというのか……?
クックック……バカが。私が作り出す防壁を物理的に破ることは、今の貴様の力をもってしても不可能だ!」
吠える夜叉浪に対し、俺は一瞬、軽く「ニヤ」と口元を歪ませると、
素早く横向きに両手首を合わせ、大きく叫んだ。
フリージング・エクスプロージョン
「──破る? 悪いが、そのつもりはない! うけろ── 『 爆 凍 波 』 ッ ! ! 」
俺の両手から放たれたのは、バレーボール程度の大きさの凍気球──。
一見すると、これまでに放った凍気球とほとんど何の変わりもないものだが、
それに内在するエネルギーはこれまでの技とは比べ物にならないくらいである。
当然、それを感じ取っていた夜叉浪は、即座に自身の眼前に強力な空気の壁を形成し防御を固めるが、
その直後には拍子抜けといった感じの表情を見せていた。
それもそのはず──放たれた凍気球は夜叉浪へと向かわず、彼の頭の遥か上を通り越したのだ。
「フッ、折角のとっておきも、力んであらぬ方向へ飛ばしてしまっては何の意味もないな。
クックック……勝負はついたな。さぁ、地獄へ逝くがいい! ──『シンフォニック・フィナーレ』ッ!」
これまでの演奏を劇的に締めくくらんとばかりに、激しい音色が奏でられた。
(──勝った!)
夜叉浪はそう勝利を確信したことだろう。ところが、そう思っていたのは俺も同じだった──。
何故なら、夜叉浪の演奏がフィナーレを迎えたと同じ瞬間、上空を浮遊していた凍気球が突如として
爆音をあげ、光を発しながら爆裂していたからだ──。
弾けた凍気球は、中に超圧縮、そして−270度という絶対零度に近い超低温化されたエネルギーを
空中から放射状に撒き散らし、瞬時に周囲の大気をも氷結させながら、爆発の範囲内に潜む全ての
生命体の生命活動を強制的に『停止』させていった──。これが、『爆凍波』の威力──。
「──なっ──!?」
夜叉浪は一瞬の驚愕の声を最後に、もう二度と口を開くことなかった。
俺の前で佇む、高さ、直径共に数メートル以上はあろうかという巨大な氷壁──。
夜叉浪はその中心で、まるで生きているような表情で凍り付いていた。
「俺の狙いは、防壁をぶち破ることじゃかったんだよ。狙いは、その防壁ごと凍りつかせることさ」
──言いながら、「パチン」と指を鳴らす。
それを合図に、『爆凍波』によって誕生した頑丈そうな氷の塊は、音を立てて瞬時に崩れ落ちた。
「……言っただろう? 『二度と復活できぬよう粉々にしてやる』って……な。
康平……遅れちまったが、奴は今度こそ地獄行きだ。後は、お前に任せるぜ……」
文字通り氷と共に砕け散った夜叉浪の体を一瞥すると、
俺は近くの壁に背をつき、力尽き倒れるようにして地面に座り込んだ。
俺の体を取り巻いていた激しいオーラはいつの間にか消え、逆立っていた前髪も普段の状態へと戻っていた。
だが、表情は普段のそれとはまるで違うものであった。
顔には異常ともいえる程の大粒の汗の玉が浮かび、全力疾走直後のように肩で大きく息をしているのだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
──通常、俺が戦闘で解放する力の上限は、およそ全力時の80%までに抑えられている。
では、戦闘によっては命の危険すらある中で、何故100%の力を出し惜しみするのか。
人間は潜在的に強大な力を持ちながらも、脳にはその力を三割、四割程度に制御する
一種のリミッターがあると言われている。
潜在パワーがフルに発揮されれば、その負担に体そのものが耐え切れず、壊れてしまうからだ。
俺の100%異能力も、そういった禁断の力に近い。
鍛錬の末、80%までの力であれば耐えられるようになり、
更に自らの意思をもって力を100%引き出すことは可能となってはいるものの、
未だその時にかかるとてつもない負担は、俺の体にはあまりに大きすぎるのだ。
そういったことと、夜叉浪の技のせいもあってか、
気付けば俺の視界に映るものはほとんど暗闇だけとなり、失明に近い状態となっていた。
(……目も見えなくなったか。……やはり、100%の反動は、あまりに大きすぎたようだ。
さて……満身創痍のこの体で、どうやって城栄のもとまで辿り着くか……。──ッ!)
城栄との闘いを案じる最中、突如俺の周りで「ザザザザ」という足音が鳴り響いた。
それと共に感じられる無数の気配。どうやら、機関の構成員に見つかり、取り囲まれたらしい。
「……貴様も侵入者だな?」
「違う……といっても、無駄なんだろう? ……どうせな」
「フン……覚悟はできているようだな。なら、大人しく死んでもらおう」
「ジャキ」という銃器の金属音が一斉に鳴らされた。
俺の周りを取り囲む人間は非異能力者、数は音からして恐らく十人前後といったところだろう。
普段であれば恐るるに足らない連中だが、今の俺にとってはそうではない。
異能力を発動しようとしたが、瞬間右手に激しい痛みが走り、まるで力が解放されないのだ。
「……しばらくは、使えないか……。こりゃ、万事休す……か……」
微かな声で力なくつぶやいた言葉が、心の中で何度も木霊した──。
【池上 燐介:疲労困憊。裂傷多数。更に失明の大ダメージを受け、機関の武装構成員に囲まれる】
【機関幹部No.8夜叉浪 稔次、死亡】
>>151 私の手から放たれたHoly virus――――通称H.Vは彼女の目からその体内へと侵入した。
H.Vは脳から筋肉へと送られる電気信号を逆流し、人体の総司令部……脳へと向かった。
(……機関かどうか調べるだけ……調べるだけ……調べるだけ…)
ただそれだけを繰り返しながら、後頭葉に到達したH.Vを海馬と呼ばれる『記憶の保管庫』へと誘導する。
……しかし、それは『実行不可』だった。
(え!?な、なんで………)
直後にH.Vを経由し、直接脳に”警告”は発せられた。
―――ヨイチニフレルナ ツギハコロスワ――――
海馬への侵入を阻止したのは謎の意思を伴った若い女性の声。これは異能によるカウンターや、結界などでは無い。
そんな……そんな単純なモノじゃない。
神々しく、美しい。人間なんかを遥かに超える『神の意思』だ。
「ひゃっ!?」
気が付くと私の頭上に自分を囲む形で細長く、冷たさを具現化したような鋭い槍が顕現していた。
一瞬の事で思考が追いつかなかった。諦めや抵抗など、何も感情も出せなかった。
だが、次の瞬間槍が溶けるように消えていき、跡形も無くなった。
「ん!!……ハァ…??………ハァ…ハァ…」
体が脱力感に襲われ、いつの間にか息が荒くなっていた。
ここでアーリーは二度経験した事がある、ある"感覚”を思い出した。
一度目…十年前、機関が自分の町を焼き、滅ぼしたとき。
二度目…二年前、機関から逃げ出した時、追っ手に追いつかれたとき。
そう、間近に迫った自分の『死』と言う感覚。
心臓が止まったかのように静かになり、周りの音や光が全く見えない感覚。
どんなに体を押さえても止まらない体の震え。
「あ…」
不意にバランスを崩しドン、と大きい音を立ててコケた。
体育座りで手を肩のより後ろにおいた形で床に着地した。衝撃で腰を少し痛めた。
その音に反応して、姫野さんが目覚めた。鳳旋さんも何事か、とこちらを向いた。
「大丈夫ですか……?それ、私の携帯なんですけど……何があったんですか?」
ハッと我に戻って、自分が未だに姫野さんの機連送を握ってる事に気が付いた。
強く握り締めていた為か、さっきの缶ジュースの様に汗で表面に水滴がついていた。
私は彼女の差し伸べた手の助けを借りて何とか立ち上がった。
機連送を姫野さんに差し出すと同時にカラカラに乾いた口を動かした。
「あの……すみませんが、先にこっちの質問に答えてくれませんでしょうか…?
私、ちょっと機械には強いんですが、これは携帯…に似ているけど、違う機械ですよね?
以前機関の者と名乗った人間が同じ物を持ってました。そして、あなたはこれを自分のだと言う……
あなたは一体何者ですか。それに十六夜さんは『”機関”の施設で安心できるから休みに来た』って言いました。
つまり――――あなた達は機関の人間なんですか?」
畳み掛けるように次々と言葉を紡ぐが、一文字一文字をゆっくり、はっきりと諭す様に話した。
こんな話し方が出来のは恐らく、恐怖があるからこそ冷静になるという、極限の境地とか言うものだろう。
横で二人を見てる鳳旋さんは『一体なにを話してるんだ?』と言いたそうな顔だ。
アーリーは今でも心の隅では『そんなことは無い、これはただの私の思い違い。彼女らは一般人だ』と祈っている。
しかし今の彼女には姫野の笑顔も、殺人鬼がピエロのお面を被ってるようにしか映っていなかった。
【アーリー:姫野に機関の者なのか、と問う】
今更だけど訂正
こんな話し方が出来のは恐らく、
↓
こんな話し方が出来るのは恐らく
>>155-156 遅ばせながら訂正です。
名前欄は『レオーネの回想』ではありませんでした。
代理投稿した此方側のミスです、レオーネ氏、本当に申し訳ありません。
164 :
名無しになりきれ:2009/05/17(日) 21:01:50 0
参加者募集も兼ねてageてみる
>>134 「…来たか。」
悲鳴と怒号とが飛び交うロビー。『鬼ども』が大暴れしている中でただ一人、近づく殺気のカタマリに気がついた男がいた。
その男――戦場ヶ原天は、不意に顔を上げて、吹き抜けの天井を凝視した。
『裏切り者には、死の制裁を…』
その声は、静かに、しかし確実に増えて広がり、いつの間にか『鬼ども』を取り囲んでいた。
「な、なんでェこいつらァ!!」
SPの巨漢を投げ飛ばしながら、不知火は初めて新たな敵の出現を知った。
吹き抜けから見えるすべての上階が、黒一色で埋め尽くされている。
否、眼をこらせば、それは一人一人が黒いボディスーツに身を包んだ人間であることがわかる。
「…虐殺部隊、俺たちの後釜さ。不知火。驚いてるヒマなんざねェぞ。…来る!」
『裏切り者には、死の制裁を!』
黒い塊が一斉に叫ぶと、彼らの手の甲に光るどくろの紋章が妖しく光り始めた。
「あッ!旦那!あれってまさか…!」
「…あァ、『鬼の紋章』だ。…まさか実戦投入されてやがるとはな…!」
赤黒い光を甲に宿した黒い人影は、狂戦士となって一斉に階下の『鬼ども』へと飛びかかった。
その姿はさながら天を覆い尽くす大烏。死骸に貪りつくレイヴンのようにも見えた。
「ぎゃぁぁああああああああああ!!!!」
「ヤス!タカァッ!どうした!」
「や…やめ…ゴフゥッ!!」
「ヒィイイイ!!」
黒一色に染められたロビーでは、もはや仲間たちの姿すら見えない。
見えるのは赤黒く光る髑髏の紋章と、黒光りするボディースーツ。聞こえるのはただ仲間たちの悲鳴と断末魔の声のみ。
「チッ…クショォオ!!なんてぇ数だ!!軽く200はいやがるぞ!!」
不知火も、能力を行使して敵に当たるが、いかんせん敵の数が多すぎる。
「砂ボウズッ!!無事か!!」
不知火の身を案ずる戦場ヶ原も、不知火のもとにはその声しか届かない。
「…へっ、参ったねこりゃァ。まさかこんなに早く俺の闘いが佳境を迎えるなんてなァ…」
「砂ボウズ!おい!何を言ってやがる!」
「山田の旦那ァ!あんたにゃまだやることがあんだろォ!!?ここは砂ボウズこと不知火蓮治サマに任せて、あんたは先へ進めェ!!」
「…!!おい!砂坊主!!テメェまさか…!!」
「おいおい、あっしが死ぬとでもお思いですかァ!?部下のことは信じるもんですぜ、旦那ア!」
「!!」
黒い肉壁に阻まれた二人の男の会話。それは、戦場ヶ原にとって幾度となく経験してきたものだった。
(俺は…、また助けられた…。)
おそらく不知火はここで死ぬ気だ。そしてこれ以上の説得はまったく意味をなさないだろう。
―――それは誰よりも戦場ヶ原自身がよく知る、『男の意地』――……
「……ッ!!ここは任せたぞッ!!不知火!ハデにぶちかましてやれッ!!!」
声高にそう叫ぶと、戦場ヶ原は取り囲む虐殺部隊の悪魔どもを跳ね飛ばし、階段を駆け上がる。
一度も後ろを振り返らずに―――…
「…ヘッ、やれやれ、虐殺部隊ってのも、しばらく見ねぇ間に変わっちまったなァ。」
戦場ヶ原が立ち去るのを見届けると、不知火は安心したように、腹を据えたようにぽつりと笑った。
その隙を敵が見逃すはずがない。ボディスーツの悪魔たちは、異能力でその身を刃に変え、次々と不知火の身体にその刃を突きたてていった。
一瞬の沈黙。しかし不知火は、口から大量の血を吹き出しながらも、笑っていた。
「…違う違う。異能力ってなァ技名をはっきり叫んで使うんだ。…なんでそんなことするのかって?…そりゃぁ決まってらァ。」
不知火の身体が砂のように崩れていく。それだけでなく、その床も、壁も、何もかもが風化するように砂に溶けていく。
「…その方が強そうに見えるからさァ!!!『解剖流砂(トラッシュ・ウェエエエエエエエエイヴ)』ッ!!!!」
流砂が全てを巻き込んで沈んで行く。不知火の最後の、最大の攻撃だった。
【戦場ヶ原:一人で階上へ進む。】
【旧虐殺部隊は5,6人を残し壊滅。不知火の攻撃によって新虐殺部隊も5分の4を失う。1階が砂に呑まれたことでビル全体が軋む。】
俺は見えぬ目を天に向け、自らに迫る決定的な死を、奇妙なほど自然に受け入れていた。
人は死を確信した時、脳の中で過去の記憶がリピートされるという現象が起こるらしいが、
俺の場合は疲労のせいもあってか、頭の中は不思議なくらい"空っぽ"であった。
無心状態でぼんやりとしている俺に向けて、敵の一人が感情の窺えない声で言い放った。
「──さぁ、今楽にしてやるよ。……死ね!」
敵の一人が銃を構える音を立てた。恐らく、今、正に引き金を引こうとしているのだろう。
だが──次に俺が聞いたのは、発砲音ではなく、強い突風音と敵の悲鳴であった。
しかもその突風は、今の季節に吹く風にしては珍しく温風の……
いや、むしろ異常なまでの『熱風』と言った方が正しいものであるだろう。
「──ぎゃああああああああああッ!!」
敵の何人かが叫びながら、地面を転がりまわっているような音を発している。
同時に、コゲついた、何かが焼け付くような臭いが俺の鼻を突いた。
(なんだ……? 一体、何が……?)
視覚を失った俺には何が起こったのか知る術もないが、何か異常な事態ことは確からしい。
敵の何人かが混乱し、声を張り上げていた。
「な、なんだ!? 何が起こったんだ!」
「分かりません! ただ、我々の背後から『炎』が向かってきたような──」
敵の一人がそう言い掛けると、突如近くで一つの力強い叫び声があがった。
「うぉおおおらぁあああああああああッ!!」
再び俺の頬を熱風が叩きつけると、また周りで敵が悲鳴をあげた。
先程と同じく、何かが燃えるような、コゲつくような臭いを発して。
(──そうか、炎を放った時に風が生じ、その炎に熱せられて熱風となったのか……。
しかし、『炎』に……そしてこの声は、まさか……!)
「な、なんだ貴様は!」
敵の一人が、力強く叫んだ声の主に向けてそう訊ねると、声の主は短い間を置いた後、
再び力強く声を発して答えた。
「俺の名は『高山 宗太郎』ッ!! 弱きを助け、強きを挫く者ッ!!
──そして! これからテメーらを倒す者だぁぁぁぁぁぁあああああッ!!!」
訂正。
×>何か異常な事態ことは確からしい。
○>何か異常なことが起こったのは確からしい。
『高山 宗太郎』──その名に聞き覚えはない。
しかし、『高山 宗太郎』と名乗る男の声には、聞き覚えがあった。
(……あの『炎使い』……か)
「──くらいやがれぇぇッ!! 『ヒートフィスト』ォォォォッ!!」
「ボワ」という発火音を残して、敵が一人、また一人と音を立てて地面へと倒れていくのが分かる。
そしていつの間にか、地面に立っている敵は、一人も残っていなかった。
「へっ、安心しな! 二、三ヶ月は足腰が立たねーだろうが、手加減はしてあるぜ!」
倒れた者共に向けて、炎使いは──いや、高山はそう言った。
その時、恐らく高山の後ろからだろうか、別の何者かの声がした。
しかもその声も、また俺の知っている声であった。
「──甘いな。殺るか殺られるかの世界で加減をする君の甘さは、いつか命取りになるかもしれないぞ」
「構わねーさ、これが俺のやり方だ。俺はどんな野郎でも、できれば命までは奪いたくねぇ……」
俺は「ふぅ」と一つ溜息をつくと、二人の会話に口を差し挟んだ。
「……『籐堂院』か。どうやら、闘う気は失っていなかったようだな」
「池上……遅れてすまない。私も薬局へ行くつもりだったが、途中で敵と遭遇して戦闘になってな……。
闘いを終えたら、今度はビルで闘いの気を感じたものだから、君じゃないかと思ってかけつけたんだ」
「お前も既に闘っていたのか……相手は、機関のナンバーか?」
「あぁ……。それも、『No.7』と呼ばれる『『ファーストナンバー』の一人だった……」
『No.7』。この数字を聞いて思い出したのは、今朝、海岸で遭遇した老人のことであった。
「No.7……フッ、あの老人か……。しかし、よく無事でいられたものだ」
「私一人であったら……今頃どうなっていたか分からないさ。
私も君と同様、そこにいる高山に助けられたんだ。もっとも、二人がかりでも倒すのは容易ではなかったがな」
「なるほど……。ところで、高山とやら。お前は、何故俺を助けた?」
「……瑞穂から話は全て聞いた。お前は瑞穂の仲間で、このふざけたゲームを仕組んだ機関を潰す
つもりでいるみてーじゃねーか。機関を許さねぇ、ぶっ潰してやるって気持ちは俺も同じだ。
だから俺も、瑞穂の仲間になった。いくらお前が悪党でも、仲間の仲間を、見殺しにするわけにはいかねぇ……!」
「な、なんだ? 二人とも知り合いだったのか?」
「えっ? あ、ま……まぁ……な」
俺との微妙な関係を告白することは避けたのか、
高山はぎこちなく、あやふやに誤魔化すようにして籐堂院の問いに答えた。
「ところで、君も相当派手に闘ったようだな。傷もそうだが、ここら一帯が雪で化粧をしたように真っ白だ」
「……雪化粧、というやつか。……フッ、いいな、それは」
「え?」
「いや、なんでもない。それより、悪いが肩を貸してくれ」
俺は籐堂院の肩に手を乗せ立ち上がろうと、腕を伸ばした。
しかし、光を失った目では、腕は空しく空振りをするだけだった。
俺のそんな不自然な動作を見て、籐堂院もすぐに異常を感じ取ったようだった。
「池上……君はまさか、目が……!」
「……フッ、目だけじゃない。体力も、限界近く使い果たしちまった。
だが、お陰で敵のファーストナンバーの一人を、始末することができたがな」
「君一人でファーストナンバーを……? そうか、それならそのダメージも、無理はないかもしれないな……。
だが、安心しろ池上。その怪我、今この場で治すことができるぞ」
「なに……?」
「私も高山も、No.7との闘いで負った深い傷を治してもらったんだ。ここにいる、織宮さんにな。
──織宮さん、池上の怪我を治してやって下さい」
「えっ? あ、は、はい。瑞穂さんの頼みなら喜んで!」
一瞬、織宮が躊躇するような声を出すも、彼は俺の体全体を手の平でなぞるように触れると、
何やら唱え始めた。そしてしばらくすると、織宮は手を離した。
「これで怪我は全快しました。体力の方もある程度回復されているはずです」
その言葉を聞くと、俺はゆっくりと目を開いた。
目の前には、籐堂院、高山、そして織宮がこちらを覗き込むようにして立っていた。
彼らが見えるということは、確かに目が治ったのだ。
「……実は、織宮さんは私が半ば無理矢理に連れてきたんだ。
色々考えたが、やはり……こうして私達に協力させることが、結果織宮さんの為にもなるかと思ってな。
今更ですが、織宮さんの意思も確認せずに危険な場所に連れてきてしまい、申し訳ないと思ってます」
「いえ、とんでもない! 機関だか何だか分かりませんが、瑞穂さんと一緒にいられるなら……
いやいや、瑞穂さんのお役に立てるならどこまでもお供しますよ! フヒヒヒ……!」
俺はゆっくりと立ち上がった。
体に痛みもなければ、大きな疲れも感じない。確かに体力の方も多少は回復されているようだ。
「今、ビルの中には俺の仲間達が潜入している。そして恐らく、それぞれが戦闘中のはずだ。
敵の戦力が分散されている今を逃す手はない。言うまでもないが、もはや後戻りはできん。
一応、お前達に聞いておくが……覚悟はできているんだろうな?」
鋭い眼光を放ち、三人を一瞥する俺に向かって、それぞれが交互に答えた。
「ここで逃げ出すくらいなら、初めから仲間になったりはしねぇさ!」
「案ずるな。私にはもう、迷いは無い……」
「瑞穂さんの為なら、例え火の中だろうと水の中だろうと、喜んで飛び込みます!」
俺は三人の意思を確認すると、今度は目をビルへと向けた。
「そうか……ならいい」
そう静かに呟く俺の頬を、不意に一滴の水玉が叩いた。
空を見ると、空はいつの間にか暗雲が立ち込めていた。
落ちてきた雨粒は、ポツリ、ポツリとその数を増して、瞬く間に本格的な大降りとなっていった。
「雨か……なんだか久しぶりに見る気がするな」
「あぁ。ここ数日が長く感じられたせいか、何年、何ヶ月ぶりの雨のような感じだ……」
雨を見た高山と籐堂院が、そんな感想を漏らしていた。
俺は異能力を発動し、手の平に落ちた雨粒を瞬時に氷の塊へと変えた。
(──こっちもある程度回復している。戦闘に、支障はなさそうだな)
手の平を握り締め、氷の粒を音を立てて潰すと、三人に向けて声を挙げた。
「──行くぞ!」
新たな戦力を引き連れて、俺は再びビルへの侵入を開始した。
スノースケープ
【池上 燐介:怪我が全快し、体力もある程度回復する。ついでに能力名が『雪化粧』に改名される】
【No.7ゴールドウェル、死亡。高山 宗太郎、籐堂院 瑞穂、織宮 京が再登場。池上の仲間に加わる】
>>160-161 アーリーさんは私の手を掴んでなんとか立ち上がれる状態だった。
立った後もまだ足がフラフラで少し危ない。
だけど、アーリーさんは私に携帯を渡した後、口を開き、私に喋りかけてきた。
>「あの……すみませんが、先にこっちの質問に答えてくれませんでしょうか…?
私、ちょっと機械には強いんですが、これは携帯…に似ているけど、違う機械ですよね?
以前機関の者と名乗った人間が同じ物を持ってました。そして、あなたはこれを自分のだと言う……
あなたは一体何者ですか。それに十六夜さんは『”機関”の施設で安心できるから休みに来た』って言いました。
つまり――――あなた達は機関の人間なんですか?」
胸の中心を風が吹き抜けたような気がした。
あぁ、まただ。"機関"という大きな存在はいつも私の邪魔ばかりする。
こんな事になるなんて分かっているならまた違った未来があったのに。
だけどいつまでも悩んではいられない、私は少し間を空けて、真実を告げた。
「……えぇ、これ以上は隠し切れませんよね。
初めて会った時はこんな所に居るんだから、私の事も知っているんじゃないかと思ってたんですけど
そうですよ、私は機関の構成員の一人、二桁番号No.20姫野与一。ここは"機関"の施設だから休みにきたんです」
確証はないけど、アーリーさんは機関そのものになんらかの恨みがあるんだと思う。
私は彼女と正面に向かい合い、両手を後ろで合わせながら再び喋りだす。
「これが私が隠し通していた嘘です。あぁ、そうだ、鳳旋さんに刺さったナイフも本当に異能力者か確認する為に私が放った物です。
これで全て、言いましたよ。では、本当の事を知ったあなたは私をどうするんですか?アーリー・テイストさん」
【自分の正体を明かす】
【アーリーに質問(アーリーの持っているナイフを消しておく)】
>>153-154 私の承諾を受けて、光龍君は二つの事について説明した。
一つは自分の異能力にの事、そしてもう一つはその力で見てしまった与一の暗い背景について。
与一が殺した人の大半は頭部か、胸部――つまり急所にあの槍の弾を受けて即死だそうだ。
それも一人や二人ではなく何十人もらしい。
正直、受けたショックは大きかった。
初めてあった時、彼女は機関の二桁番号と名乗った事を思い出す。詳しくは分からないけどあの組織の中でも高い位にいるのだろう。
そんな階級なのだからかなりの実力・実績はあると言う事。なんでそんな事に気付かなかったんだろうか……
しばらく、二人の間に沈黙が続き、やがてそれを断ち切るように彼が喋った
>「お前らがどんな付き合いかしらねぇけどやめたほうがいいぜ、アイツは人を殺すのが好きなんだよ、
さっきだってそうだろ?、……………鳳旋のヤツを………殺しやがった!!!」
「それは違う……鳳旋さんは生きてるよ」
私の言葉に、彼は意表を付かれたように黙り込む。
そして私は小さく深呼吸をして、言葉を繋ぐ。
「与一の今までは変える事は出来ない。けど……これからは変えられる、私は信じるって決めた。与一を、彼女がどう変わるのか。
もし彼女が道を踏み外しそうになったら私が正す。さっきみたいな事はもうさせない。だから、彼女を、許してあげて」
そう言い終えると、美月は光龍に頭を下げた。
これが今の美月に出来る精一杯の償い、そして決意だった。
【光龍に対し頭を下げて謝る】
【与一の行ってきた事を知る】
部屋でアーリーの事を少し心配しているときだった、その爆音が聞こえたのは。
その音はどうやら、この階の真下から……いや、そこだけじゃない。
爆音の正体である爆弾は、このビルの至る所に仕掛けられたのだろう。
部屋を出てみると自分と同じく小休憩をとっていたこのビルの”裏”の人間達が急いで自分の持ち場へ戻ろうと廊下を駆け抜けていった。
『本社への攻撃を確認。総員直ちに己の持ち場に戻れ。繰り返す……』と、天井からブザーと共に流れる放送が耳障りだった。
「……全く、ようやくですか。じゃ、こっちの『作戦』も行かせて貰いましょうか。」
小村禅夜は行動を開始した。目指すは、地下十三階――――機関のメインサイバールーム。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
チーン
少し前の電子レンジのような音を奏でて、エレベーターは無事地下十三階に着いたようだ。
来る途中に避難しようとした”表”の人間である社員を一人も乗せずにこのエレベーターに乗るのに苦労した。
(全く、機関の人間だけじゃなく、会社の人間も私を卑下するなんて……ブツブツ…)
(ソレハ、イキナリ避難中ノ人間ニ『エレベーターから降りろ』ナンテ言ッタラ文句モ言ワレルダロウ。)
(相変わらずうるさいですね。……さて、こっからがどうなるか運任せですね…)
エレベーター内に監視カメラは無い……ズボンから小型のリモコンを取り出し、@のボタンを押す。
途端に、エレベーターの電気は落ち、遠くに聞こえていた喧しいブザーの音も消え失せた。
オーギュスト・トラップ
「どうやら、ちゃんと"効いた”ようですね。アーリーから預かったウイルスを徐々に溜めて発動させた『愚行/悪戯/混乱』」
『愚行/悪戯/混乱』は、施設の一部の電力供給を停止させる。今、このビルの地下の階のシステムは全て止まっている事だろう。
「全く、このリモコンをズボンの方に入れておいてよかったですね………コードレスイヤホンは上着に入ったままでしたが…」
何故、小村は機関から発見されそうな所にアーリーを住まわせたのか。
何故、危険が大いにあるのにも関わらず度々彼女に会いに行くのか。
それは全てこの『愚行/悪戯/混乱』の為、自分の機連送にH.Vを溜めてもらっていたのだ。
彼女のH.Vは直接操作する事が多いが、行動を『プログラミング』して遠距離で発動させる事もできる。
しかし、どうやって侵入したのか。それは、まず機連送というものは携帯などと違う電波によって交信しているのである。
その電波は機関の宇宙衛星に届けられて1秒も掛からずにこの階の『メインサーバー』に送られ、繋げられる。
そう、”アーリーの光ウイルス――H.Vは小村の機連送の電波に乗って、機関の心臓部へと侵入した”のだ。
それは手を切ってしまったときに偶々入ったバイ菌が、知らず知らず心臓に行き渡り病気を起こすようなもの。
今、このビルの地下の階は電力供給の停止――――人間で言えば心臓の停止と同じ、無防備だ。
勿論"白血球”(カウンタープログラム)はあるだろうがそんなの所詮は機械のプログラム。異能による侵攻には全くの無力だろう。
「それにもし、異能力による"白血球"があっても『あいつ』から教育を受けていたアーリーの技術には敵わないでしょう……」
ゴッドバルトでエレベーターの扉をこじ開けると、そこは真っ暗の通路だった。
何か変わった素材で出来た壁、天井が一本に続く通路。幅は大人が四、五人通れる位だろう。
自分のポケットから、錆びた金色のライターを取り出すとそれを灯りに前へと進む。
(……まるで、悪い夢の中のようですね。真っ暗の狭い一本道……全く、息苦しいですね。)
(ソンナ柔ナ、スピリチュアルジャナイダロウ)
(…最近、本当の本当に口が過ぎますよ。)
通路の突き当りまで付くと、壁と同じ素材で出来た扉が現われた。
確か、アーリーの情報だとここは網膜チェック式の扉。網膜チェックといえば、FBIやCIAも採用してる最も信頼度の高い識別機器。
なかなかの難敵だろう。
「さて、此処からが本当の運試し。『愚行/悪戯/混乱』の効果が切れない間にクリアできるかどうか……」
最初の@のボタンを押した際に、リモコンから電波が発信されている。
その電波はアーリーのいる『会堂』に届き、作戦の開始を告げているはず。
そうしたら、アーリーが持っている”改造機連送”と自分の持っているリモコンを通じて、直接メインサーバーに侵入する。
この後の自分の役割はこの扉を突破した後にメインサーバーにこのリモコンを取り付けるだけだ。
だから、ここさえ通過すれば、あとは『目的』を達成するだけ。
『目的』―――それはアーリーがメインサーバーに直に侵入し、今回の計画の全貌を盗み見る事。
最初はデータを丸々頂いたり、消去(デリート)してやろうか、と考えていたがそれは『不可能』らしい。
アーリーによれば、機関のメインサーバーは膨大な量のデータが蓄積してるのでま全て見ようとすると自身の脳がパンクするのだとか。
だから今回はこの計画についてだけだ
「……人間の脳は百二十年分の記憶が入るらしいですが、それをも凌駕するデータか…」
その海のように大量のデータの中で一体どれだけの人間の血が流れた事だろうか。
「……この計画については、大体分かる。おそらく、三年前の『神器の儀』で見たあれをなんらかに利用する気でしょう。
そんな事はさせるものですか。機関があれを利用するなら更にそれを私が利用してやるまでです……!!」
【小村:地下十三階通路】
【ナガツカインテリジェンスビルの地下の階のシステムが一時的に停止】
>>170 「……えぇ、これ以上は隠し切れませんよね。
初めて会った時はこんな所に居るんだから、私の事も知っているんじゃないかと思ってたんですけど
そうですよ、私は機関の構成員の一人、二桁番号No.20姫野与一。ここは"機関"の施設だから休みにきたんです」
……気のせい、だろうか。彼女の口調は何だか少し哀しい響きがあるように感じた。
いや、私の勘違いだろう。話している相手の気持ちを考えるなんてこと、ここ十年あまり人と喋っていない私なんかが出来るわけない。
「これが私が隠し通していた嘘です。あぁ、そうだ、鳳旋さんに刺さったナイフも本当に異能力者か確認する為に私が放った物です。
これで全て、言いましたよ。では、本当の事を知ったあなたは私をどうするんですか?アーリー・テイストさん」
彼女がそう言い終わると同時に、その『鳳旋さんに刺さったナイフ』は隠していたコートの袖の中から跡形も無く消え失せた。
消えるまで、存在を忘れていたから急に腕が軽くなったような感覚がした。
この消え方と監視カメラで見た出現の仕方を見ると、彼女の能力は『何も無いところから刃物を作り出す』ってところだろうか。
となると、普通に”戦ったら”こちらが不利。持っているマシンガンも効くか分からないし、自分は物理系の異能者じゃない。
でもH.Vはまだ姫野さんの体内に残ってるので体の電気信号を乱せば、相手を転ばせたり、頭を壁に打って気絶してもらうなんて”手段”もある。
……あれ?ちょっと待って――――”戦ったら”?―――”手段もある”?
あれ、どうして自分はこんな好戦的な考えが出てくるのだろう。
これじゃあ私の村を焼いた、人を道具ぐらいにしか考えていない機関の人間と一緒だ。
でも彼女がその機関の人間。そして自分が機関の人間に確認されたら小村さんの計画が……
戦いたくない……相手が機関の人間だからなんて理由でまだ会ったばかりの人となんて。
「……私は貴方が機関の人間なら、少し強引な手を使うのは仕方ないと考えています。
でも、その前に……光龍さんが貴方を『化け物』と呼んだのは貴方がそういわれてもおかしくない数の人間を
殺めたってことですよね。なぜ、そんな事がするの…いや、出来るのですか? 」
予想外の質問だったのだろうか、彼女は少し呆気にとられていた。
機関の人間に何を言ってるの?と考えてるのかもしれない。
「機関の命令だからですか?……でも、だからって人ひとりの人生を全て奪うなんて…。
何か理由があるんですよね?……そんな事をしなきゃいけない理由が……
そうじゃないと、おかしいですよ……私とほぼ年齢も変わらない女の子がそんな事が出来るなんて。」
小村さんの計画も大事だし、こんな事今から戦かうかもしれない相手に聞くなんてどうかしてると自分でも思う。
でも、私はまずこの人はどういう人間なのか知りたい。確かめたい。
彼女は自分の村を焼いた人間と同類なのか、それとも三年前までの自分みたいに機関に縛られている人間なのか。
自分にとって許せないのは機関の人間じゃなくて、簡単に人間を殺す人なのだから。
イツワリ ホントウ
だから、確かめたい。さっきまでの彼女の笑顔は仮面なのか素顔だったのか。
【アーリー:何故人を殺すの? と姫野に問う】
>>156 「レオーネ……。まさか貴方がここに居るなんて思いもしなかったわ」
少女――塚原ひかるにとって、ここで機関のファーストナンバーと出くわすなど誤算中の誤算だった。
ここは長塚家所縁の地なのだ。それを知っていて彼らが手を出すとは思わなかった。
「塚原君、そう邪険にするな。――彼岸花か……今の時期に珍しいな」
そう言って男は、柔らかな風にそよぐブロンドの髪を左手でそっと押さえた。
相づちを打たないまま、白のスーツに身を固めた紳士――長束誠一郎は墓前へと歩み寄る。
つられてひかるもまた墓前へと歩み始めた。
ブロンドの髪の男は彼らに場所を譲ると、如何にもネクタイが気に入らないのか、それをより一層強く結んだ。
誠一郎は日本式の墓石に刻まれている自身の実父の名前に目を向けた。
「世界の統一を目指した男、ここに眠る……か」
誠一郎が誰に向って吐くでもなく呟いた。
この丘からは貳名市の様子が一望できる。今日も何処かで馬鹿げたシナリオの犠牲者が増えているのであろう。
誠一郎は心を痛めた。この状況は自分が機関を、城栄金剛を止められなかった結果なのだと。
「きちんと手入れされているようで安心したよ、誠一郎」
レオーネは気障ったらしく片手を腰に添えると、ひかるに目を流した。
当のひかるは顔を背ける。彼女にはレオーネの視線が堪らなく嫌だった。
自分の体の奥底を覗かれているような、そんな感覚に陥ってしまうから。
「良い庭師が居てね。……久しぶりに会ったのに、なんて言い草だ。
私が手入れを怠ると思ったかね?」
洒落た言葉で嫌味を返す誠一郎であったが、その目つきは鋭いままだ。
本来ならば敵同士である二人。今ここで一戦交えてもおかしくない。
二人が戦わない理由、それはここがレオーネには崇敬する師の、
そして誠一郎には自分を産んでくれた父親の墓前であるからだった。
「それは結構。良い庭師に巡り遇えたようだ」
既に両手を合わせていた誠一郎と同じ様に、レオーネは墓前で両手を合わせた。
イタリアではこのようなやり方で死者を弔わない。これは日本式である。
業に入れば郷に従え。――この金髪の異邦人が学んだ日本の文化だ。
一向に衝突する気配は無い二人。それを塚原ひかるは内心冷や汗をかきながら見つめていた。
――その静寂は暫くその場を包んだが、ややあってレオーネによって破られる事になる。
「……もう間も無く計画は完遂する。昨日の時点で復元率は40%を越えた。
この調子で行けば今日の夜には50%を超えるだろう。
もっと行くかも知れないな」
彼の言葉の主語が何であるか、誠一郎には聞かなくとも解っていた。
『炎魔』――嘗てこの地を支配していた異能者 湯瀬長政。
機関の現最高責任者、城栄金剛はこの炎魔と呼ばれた異能者を復活させようというのだ。
炎魔はその絶対無比な力の他に、残虐な性格でも知られている。
そんな文字通りの怪物が蘇ってしまえば、この街はおろか世界の危機である。
誠一郎はこれを是が非でも阻止しなければならなかった。
「問題は無いよ。私の命に代えてでも阻止してみせるさ……」
ひかるはこの誠一郎の言葉に、一抹の不安感を感じずに入られなかった。
普段は思慮深く温厚で知られる誠一郎が、このような言葉を吐くのは初めての言葉だったから……。
「長束……さん」
ひかるには誠一郎の決意は汲み取れたが、その覚悟までは汲み取れなかった様子であった。
【レオーネ:現在地 裏山】
【長束誠一郎と塚原ひかると対峙中】
池上と戦場ヶ原と別れた俺達は、時間をずらしてから相手の本拠地に潜り込むことになった。
なお、池上と戦場ヶ原と分かれた後は具体的な俺の能力の紹介をし、お互いの能力を把握した。
俺も【月下十時】と【鬼神炎球】と能力を二つ持っていることを明かしたら
リースが大分驚いているような様子を見せていた。
とは言っても、コレは竜から吸収したものなので元は俺の能力ではないと説明したら、一応は理解してくれたようだ。
チーム訳は俺とリース、先生と先生の相方である宗方と言う人の2人1チームが二つの構成になった。
このチーム構成になった理由は、4人で行ってもし足止めを食らったらせっかくの陽動の意味が無いからだ。
戦力は減るが、ここの戦力は大きい。そう簡単に遅れは取らないだろう。
「なぁ、トージ。どこからどうやって行くんだ?」
リースが目的地までの行きかたを尋ねてくる。
…やはり、徒歩が一番だろうか。
自転車やバイクを使おうにも、自転車は今手元に無いしバイクは免許が無い。
クルマはもちろん論外だ、タクシーって方法も無いことは無いんだが…
…万が一、タクシーに乗っている時に襲われたら運転手が大変な事になる。
となると…
「人通りの少ない道を、徒歩で行くか…」
「人通りの少ないところ〜?多いほうがいいんじゃないか?」
「俺だけだったらそれでもいいだろうけどな。
リースは本気で戦うとなったら広範囲の技になると思うわけだ」
「まあ、確かにそれはそうだけど…」
リースは俺の予想に頷く。
だが、それはそうだとはどういう事だ?最大の技は範囲が狭いってことか…?
まあ、それは実戦で明らかになるだろうな。
「俺は関係の無い人間を巻き込みたくないしな…」
「俺だってそーだよ」
「それに人通りが少なければ、その分気配も察しやすい。
つまり、戦いやすいって事だ」
「ふうん…なるほど」
「…いつまでも喋ってるわけにも行かないか、行こうぜ」
俺とリースは敵の本拠地に向かって、歩き出した。
【廻間:リースと共にナガツカインテリジェンスビルに向かって移動開始】
──俺を含めた四人は、ビルの裏側敷地内から、ビル内部の一階へと辿り着いていた。
本来なら敵に発見される危険を回避すべく、速やかに階上を目指すべきであっただろう。
だが、俺達はそこで予想だにしない光景を目にしたことで、思わずその足を止めていた。
「こ、これは……どうしたってんだ……?」
「ここでも、やはり何かあったらしいな……!」
まず驚きの声をあげる高山や籐堂院を尻目に、俺は一階を覆い尽くしていたあるモノを手に掴むと、
一人冷静にそれが何であるかを確かめた。
「……砂だ。しかも、どうやらこの階に存在していた物体が風化したものらしい。
この階は俺の仲間が率いる部隊が闘っていたはずだ。
機関の奴らが迎撃の為にやったのか、それともの仲間の部隊の誰かがやったものなのか……
いずれにしろ、一階は敵も味方も、かなりの損害が出ていることは間違いなさそうだ」
「正面口の方ではまだ何人かが戦闘を続けているようですが……どうするんです?」
「仲間もピンチだとするなら! 当然! ここは援護に行くぜ!」
と、拳を握り締めながら血気に逸る高山に、俺は冷たく答えた。
「その必要はない。俺達は上へ向かう」
「なっ……! て、てめぇー! 仲間を見捨てるつもりかよ!?」
声を荒げる高山に向けて、籐堂院が口を差し挟んだ。
「待て、高山!」
「な、なんだよ! まさかオメーまで非情なことを言うつもりじゃねーだろうなァ!」
「君には冷酷な判断のように聞こえるかもしれないが、これが作戦なんだ……!
彼らは私達をスムーズにビルに潜入させる為のいわば囮! 彼らはそれを理解した上で闘っているんだ!
我々が行けば、その時点で陽動は何の意味もなさなくなる……彼らの覚悟も無駄にすることになるんだぞ!」
「……クッ!」
説き伏せられたように顔を背ける高山に、俺は溜息混じりに言い放った。
「そういうことだ。全く、説明されなきゃ分からんとは、脳の無い奴だ」
「ッ! う、うるせェーッ! ……俺はお前らのように、そうやって割り切れねぇだけだ!」
「……上に行くなら早く行かないと、いずれここにも人が集まってこないとも限りませんよ」
「あぁ、そうだな……」
俺は三人に、直ぐ近くにあった階段を「行くぞ」と言うように親指で指した。
そうして三人が「コクリ」と頷くのを確認すると、俺は階段に向けて走り出した。
「ぎゃああああああ!」
鋭い斬撃音の後、黒服の男から悲鳴があがった。
男は体から空中に激しく血飛沫を舞わせると、その内力なく地に倒れた。
それを見届けた籐堂院は、手に持つ愛刀に滴る真っ赤な血を振り払うと、
愛刀を鞘へと納めながら背後にいる俺達三人に目を向けた。
「これでこの階の敵は終わりか?」
俺は辺りを見回して敵の影がないことを確認すると、今度は敵の血で染まった床を見渡した。
そこには、身をボロボロにされて伏している、五人の黒服の男達の姿があった。
五人の体は、勿論ピクリとも動かない。
「あぁ……11階で四人。14階から19階までで十人。そしてこの22階で五人だ」
「しっかし、敵は予想以上にこのビルに戦力を抱え込んでるようだぜ。
このペースで敵に出てこられちゃ、キリがねぇな」
「なに、そう悲観することもあるまい。お前らにとってはレベル上げの良い機会だろうからな」
ロープレ
「俺達はRPGのキャラクターか! それになんだ! 自分だけは俺達よりレベルが上ってな物言いは!」
「少なくとも、俺がお前より格下とは思えん。逆なら十分有り得るだろうがな」
「──ッ! ど、どーしてオメェーはそう──」
俺に向かって、高山が激高し掛けた時、女性独特の澄んだ声が強く空間に響き渡った。
「落ち着け! 二人とも、ここは敵の本拠地内だぞ! 喧嘩してる場合じゃないはずだ!」
「そうですよ! 何を考えてるんですか貴方達は! (ウヒョ〜! 怒鳴る時の顔もまたイイ〜〜!)」
「で、でもよォ、元はといえばコイツが……」
「でももヘチマも無い!」
そう一喝して反論を封じ込めた籐堂院は、静まり返った各々を見て今度は静かに言った。
「それに、池上の言っていることも、私にとっては出鱈目でもないんだ。
池上、君はこの数日間の戦闘で、一度でも敵に背を向けたことはあるか?」
「ない」
「では、この数日間で、一体何人の異能者を倒して来た?」
「数えたことはないが……このビルで闘った連中を含めれば、20人前後ってところだろう」
そんな俺の言葉を聞いて、直ぐに高山と織宮が、驚いたような複雑な表情を見せた。
「──なっ……!」
「──マジで? (コイツ、どこかの戦闘民族かなんかじゃないだろうな?)」
チ カ ラ
「恥ずかしい話だが、私はこの前、敵の思わぬ異能力に驚いて、仲間を置いて逃げ出そうとしたことがある。
倒した敵の数だって、池上ほどじゃない。
ここ数日だけに限定しても、私と池上とでは、潜り抜けてきた死線の数とそれによる経験の差は大きい……。
君達はどうなんだ?」
「お、俺は…………」
「……。(どうと聞かれてもな……。私、聖職者だし……。まぁ、人を殺めたことはあるけど……)」
口ごもる二人に、籐堂院は真っ直ぐな視線を向けたまま言葉を続けた。
「……命の奪い合いとなる戦闘では、時に乗り越えるのが困難な『壁』が立ちはだかるものだ。
先程も言ったように、私はそんな『壁』を前にして、臆病にも逃げだしてしまったことがある……。
このままでは、私はいずれ、君達に対しても同じことをするかもしれない……それは御免だ!
だからこの先何人だろうと何十人を相手にしようと、私は闘い抜く!
そして、立ちはだかる『壁』を乗り越えられる程、強くなってみせる……!」
籐堂院は拳を握り締めながら、そう強く言い放った。
「……闘うのは男だって昔から相場が決まってんだぜ?
刀を持っているとはいえ、少しは女らしいかと思ったら……ったく、変に張り切りやがって」
高山は呆れたように呟きながら、こちらに背を向けた。
だが、その手は、何かを決心したように固く握られていた。
「(何だか良く分からないけど、とにかく瑞穂さんがカッコイイってことだけは理解した!)
……あの、ところで……先へ進みませんか? いつまでもここにいてもしょうがないですし」
織宮の言葉に頷くようにして俺は階段に向けて歩き始めた──
だが、その時突如としてロビーに響き渡った声が、俺にその行動を止めさせていた。
「親は無くとも子は育つ……か。だが、育つ方向が間違っちまったようだな」
俺を含めた面々は、即座に声の方向を振り向いた。
そこには、黒髪で長髪の見慣れない男が立っていたが、敵と判断した俺や高山は瞬時に体を身構えた。
だが、籐堂院だけは呆然としたように、その場に立ち竦んだままだった。
「そこにいるのは池上……か。んで、俺が知らない他の男はお前の仲間ってわけか」
「……機関の人間が俺の名を知っていてももはや不思議ではないが、
その口振りから察するに以前に会ったことがあるようだな。……何者だ、お前は?」
謎の男にそう訊ねた。だが、男の答えを待つより先に、籐堂院がその答えを発した。
「師匠! ここに、来ていたのですか……!」
──籐堂院の師。それは刀に封じられていた、あの『籐堂院 神』のことで間違いはないだろう。
良く聞いてみれば、確かにその声には聞き覚えがあるものだった。
(そういえば『機関に寝返った』と聞いていたが、そうか……あれが蘇った籐堂院の師か)
「師匠ォ〜? 瑞穂、オメーに師なんてもんがいたなんて、聞いてねーぞ?」
「私も初耳ですね……。(年いってそうなのに、私よりイケメンだな……クソッ! またライバルが増えやがった!)」
「あ、あぁ……すまない、私も師匠のことは忘れようとしていたのか、君達には話していなかったんだ。
それより、師匠……私がここに来ると、分かっていたのですか……?」
籐堂院の問いに、神は頭を二、三度かきながら答えた。
「俺がここに来たのは、ちょいと人を探すついででな。
ここで闘いの気を感じたもんだから、もしかしたらそいつが来てんじゃねーかと思ったわけだ。
ま……俺はお前がとっくに剣を捨て、機関のことなんざ忘れちまってると思ってたさ」
その言葉に、籐堂院は怒気交じりに叫んだ。
「ウソだ! 私が貴方をどんなに必要としていたか、貴方には分かっていたはずです……!
それを……それを……どうして……ッ!?」
「その答えは、あの時言った通りだ。あれ以上、お前に言うことは何もない……」
「師匠……!」
「それより……だ、瑞穂。機関に入った俺にしてみりゃ、機関を潰そうと考えてる連中をこのまま
見逃すわけにはいかねーんだ。分かってるだろ? だから、お前にチャンスをやるぜ。
お前は今から、機関のことを忘れて去りな。そうすりゃ、ここで殺るのは残りの連中だけにしといてやる」
「──ッ!? つまり、私のことは見逃すから、消えろ……と?」
「そうだ。お前がこれ以上進もうってなら、俺の手で始末しなきゃならねぇ。
親が子を殺す……こんなに不幸なことはねぇ。親孝行したいなら、俺の言うことを素直に聞きな」
神の眼光は、既に蛇が獲物を睨み付けるような鋭いものへと変わっていた。
そんな神からの脅迫に近い要求に、籐堂院は顔を下に向け、徐々に体をブルブルと震わせ始めた。
しかし、そうして神に屈してしまうかと思われた籐堂院は、
不意に震えを抑えるように左手を鞘にかけると、静かに、だか力強い眼差しをもって顔を上げた。
「……できません」
「あん? なんだって?」
「仲間を犠牲にして生き残るなど、私にはできません!」
「……ほう」
「師匠も聞いていたはずです……。私は、『壁』を乗り越えると!
私は、貴方という『壁』を! 『恐怖』を! 今ここで! 乗り越えてみせる!!」
【池上 燐介:籐堂院 神と遭遇。現在地、ナガツカインテリジェンスビル22階】
【機関No.80〜98、No.102死亡】
>>174 >「……私は貴方が機関の人間なら、少し強引な手を使うのは仕方ないと考えています。
でも、その前に……光龍さんが貴方を『化け物』と呼んだのは貴方がそういわれてもおかしくない数の人間を
殺めたってことですよね。なぜ、そんな事がするの…いや、出来るのですか? 」
与一は彼女に投げかけられた質問の内容に困惑した。
が、何も言わず、ただ黙ったまま彼女の話を聞き続ける。
>「機関の命令だからですか?……でも、だからって人ひとりの人生を全て奪うなんて…。
何か理由があるんですよね?……そんな事をしなきゃいけない理由が……
そうじゃないと、おかしいですよ……私とほぼ年齢も変わらない女の子がそんな事が出来るなんて。」
「なぜって……それが――人を殺す事が私の"仕事"だったからです。そう、あなたの言ったように機関の命令です。
学校を卒業して、就職をして、気が付いたらそこに私は居ました。殺したら、また殺して、また殺す。毎日がそれの繰り返しですよ。
ハッ、機械的とでも言うんでしょうね、この時の私を。この力で、この手で人を殺す事に全く抵抗がなかった――」
与一は深く息を吐き、黒い手袋に包まれた右手を見つめる、
その目は懐かしそうだが、何か、忌々しいようなものを見る目だった。
彼女は再び顔を上げ、話し始める。
「でもね、アーリーさん。今の私には友達や自分の近くにいる人を失うのが怖い。
さっき知り合ったばかりのあなたも……いや、もういいです。これ以上話すと私はどうしていいのか分からなくなってしまう」
与一は手袋を脱ぎ捨て、獣毛が露になった右手を握り、前に突き出す。
彼女の手にはいつの間にか三本のナイフが握られていた。
「あなたが仕掛けてくるのなら止むを得ない、だけど命までは奪いません。手足の機能だけを奪わせてもらう――ッ!」
与一は右手のナイフをアーリーの四肢目掛けて放ち、同時に後ろに下がって彼女との距離を開く。
待ち望んでいなかった戦いが始まる……
【アーリーの質問に返答、彼女の手足に向かって三本のナイフを投げる】
古めかしい造りの洋館の前に、静かに青のバンが止まる。
バンの車体には貳名クリーンアップサービスと黒い文字が踊る。
経済に詳しいものなら、それがナガツカインテリジェンスグループの
系列企業の子会社の下請けである事が分かるかもしれない。
表向きは普通の清掃会社。裏世界に浸ったものなら恐らく知っている。
彼らは『掃除屋』だ。普通の清掃業者に知られれば不味いモノを片付ける玄人。
例えば銃弾の薬莢、血痕、或は死体。現場に散乱する裏の痕跡を消し去る者たち。
場合によっては一日で壊れた建物の内装を修復し、一般人の記憶さえも片付ける。
「数年に一度の今は使われていない会堂の定期点検、か」
車から降りた青年が一人ごちた。彼の名は銀水苑統治。
くすんだ紅いツナギ。墨色の短い髪に混じった一房の白い髪。
いかにもやる気のなさそうな態度。
手にはダルそうにバケツとモップを持ちどう見ても
ちょっとカッコつけた、不真面目で目つきの悪い
清掃業者の兄ちゃんといった風情。
「そういえばこの前片付けた奴が「えんま」っつってたかな。
……地獄の閻魔でも見たのかね。もし炎魔って字面なら何を当たり前の事を。
………炎は魔性に決まっている」
自身の痕跡すら衆目にさらさない。玄人。
「機械類の誤作動のチェックと清掃だけ済ませりゃ帰れるな。
仕事はダルいが一番平和な部類ってのがいいね」
統治は屋敷の敷地正門前で、機関から渡される鍵を取り出そうとし―
不穏な気配に気が付いた。
「……熾火(おきび)」
ポツリと呟く。
その異能もまた静穏のうちに発動し、不必要な気配を垂れ流さない。
まさしくチロチロと燃える炭のような、静かな気配。
たちまちに統治の目の前が、まさしくサーモグラフィーのような七色の景色に切り替わる。
「ひいふうみい………なんで使われてないはずのシナゴーグに体温が幾つも有る」
建物の温度は大体外気温と同じ。
だが建物内に人の形の虹が銀水苑統治の眼にははっきり映る。
銀水苑統治は考える。何故、他の炎使いは『火焔』を破壊にしか使わない、使えないのか。
こういう使い方をしないのか。感覚を磨いて他者の熱量を探る事にも使えるのに。
炎使いの実力といえば、炎の大きさ熱さだけが、破壊力や範囲とかばかりが評価されている。
何故気が付かない。世界はゆっくり燃えているのに。
人は酸素を取り入れ心臓を動かし、体温を発する。細胞の燃焼と脂肪の燃焼。
暖かいという事はそれは誰も気に留めぬほど弱くて緩やかな炎。
そして誰もが火葬に付される。
俺以外の誰も知らない。炎には目に見える炎と、目に見えない炎の二つが有るのに。
目に見えぬ物理的な炎ばかりに気を取られる。
目に見えない炎……心火。魂の炎。熱い男といえば情熱の炎を宿した奴の事。
地獄の業火の如く人の胸に煮え滾る欲望や殺意、悪意の炎を幻視する。
考え事をしながらも、能力とは反対に
冷ややかな眼光で屋敷内部を探る。
だが、見るものが見れば気付けただろう。
完璧に『裏の人間』で有るにも拘らず
気配察知とはいえ能力を発動しているのにも拘らず
気配、所作、匂いすら「普通よりちょっと態度悪いあんちゃん」に抑えている異常さが。
裏に長く浸れば気配は殺気や闘気、凄みを帯びる。
所作は戦闘に洗練され、つい無音歩行やありえない動きが出る。
身体に血と硝煙との匂いが染み付く。
裏の、機関の人間のこの男にはそれが無い。
必要なれば自身の痕跡すら衆目にさらさない。玄人。
しかし統治は能力を幾ら磨いても火だけは支配した気になれず、畏怖を持つ。
火は変わらず揺らめくだけ。
本当は、人間が火と相容れない事も知っているから。
それでもそれ無しには生きられないことも。
――「見える火」も「見えない火」も人をいつか荼毘に付すのにそれ無しでは凍えてしまって生きられない。
火は破壊と知恵と生命の象徴。
人間は火を手に入れたが故猿から進化した。今更捨てられない。
「……それなら、能力って火を手に入れた異能者は何処に行くんだろうな」
索敵と考え事を同時に終了させると
屋敷の中に足を踏み入れず
まず手に持ったバケツを敷地内の有るポイントに投げ込んでみる。
人間の頭くらいの高さで。
プシュ、っとガスの抜けたような音の一瞬後。
ガララン、と落ちたバケツには銃弾の跡が穴を穿っている。
「定期点検の時期なのにサイレンサー付き自動迎撃機銃まで動いてる、か。
どう考えてもまともじゃないことが起きてやがる、ねえ」
今度は統治に向けられる銃口に対し。
彼は慌てず騒がずついっ、と指を振る。
弾が出ることは永遠に無かった。
それよりも早く、機銃を火焔の舌が舐める。
機銃は一瞬で溶けたアイスのように鉄と鉛が混ざって融解した金属液に変じた。
「……やはり中に入って誰がいるか、
何が起こったか確かめる必要があるか…機関員だといいがな
誰かが入り込んだなら記憶をけさにゃならん…
……どちらも希望的観測か」
静かに鍵を開け、ゆっくりとシナゴーグの中に入る。
途端にトラップの数々が襲う。
「…囁き、祈り、詠唱、念じろ」
常人なら間違いなく即死の刃や機銃を前に怯むことなく
「…灰になれ」
火の華が、咲いた。
最新科学の粋を凝らした迎撃兵器が瞬時に粗大ゴミに変わり、あっという間に燃えていく。
「………どうなるにしろ今回の掃除は面倒そうだな」
そう一人ごちて、館を注意しながら、ゆっくりと進む。
【シナゴーグの中に入り、中で何が起きたのか確かめに行く】
>>160-161>>170>>174>>182 「ふんふん…ふふふ〜ん」
わしはアーリーから手渡された箒で床に散乱した皿の破片を片付ける、
自分で言うのも何じゃがなかなか手馴れたモンじゃとおもう。わしもよく不器用じゃと言われるが、こういう事だけは長達によく扱かれたからのう
ま、仕事柄というヤツじゃの、ああ、長達に散々叱られた日々が眼に浮かぶわ…しかしこないだのミスでまさか三日も食事を抜かれるとは…とほほ……
仕事を終えて、後に残るのはささやかな満足感の筈だった。しかし異変は掃除の半ばで起こった。
「ひゃっ!?」
不意に驚きの声、その後ドン、と音が起こり鳳旋は振り向く。見ればアーリーが尻餅を付き、姫野が手を差し伸べている。
あれは腰を少し痛めたな、などと思い二人の方を眺めていた、箒を杖代わりにし、柄の部に手を当て頬杖を付く、そんなことをすると箒の毛が痛むなどと鳳旋に御咎めを与える者は此処にはいなかった。
彼がすぐにアーリーの元へ駆けつけなかったのは二人の間に不穏な空気を感じたからである。
「大丈夫ですか……?それ、私の携帯なんですけど……何があったんですか?」
ああ、携帯電話を落としたのかと鳳旋は二人のやり取りを見ている。
しかし何やら様子が変だ、アーリーが切羽詰った表情で何やら喋り出す、内容は鳳旋にもはっきりと聞こえた。
その内容は、何やら落とした携帯電話に問題があるようであれは携帯電話では無いらしい、
そして"機関"という単語が上がる、あの携帯電話を持っている事が問題らしい。
アーリーの話は次の言葉で締め括られた。
「つまり――――あなた達は機関の人間なんですか?」
ああ、何だか面白そうだ、自分の中に炎が滾るのを感じる、
こんな感覚は昨日の晩以来だ。
鳳旋の未知の者への興味や関心、好奇心が二人に向けられる。
「……えぇ、これ以上は隠し切れませんよね。
初めて会った時はこんな所に居るんだから、私の事も知っているんじゃないかと思ってたんですけど
そうですよ、私は機関の構成員の一人、二桁番号No.20姫野与一。ここは"機関"の施設だから休みにきたんです」
――機関の構成員――二桁番号――No.20―――、まるで漫画の中の様な台詞じゃ、あのメールと何か関係があるのじゃろうか?
恐らくあの娘も異能者なんじゃろうなぁ、わしの退屈な日常を潤してくれるもんが今目の前におる。
彼女が続いて口を開く。
「これが私が隠し通していた嘘です。あぁ、そうだ、鳳旋さんに刺さったナイフも本当に異能力者か確認する為に私が放った物です。
これで全て、言いましたよ。では、本当の事を知ったあなたは私をどうするんですか?アーリー・テイストさん」
「…は?」
刺さったナイフ?、ふと後頭部に触れてみる、血は既に固まって来てはいるが、それでも少量の血液が鳳旋の手に付着した。
それを目にした鳳旋は別段どうするわけでもなく、特に痛みが無いので気に止めないことにした。
でもあの口ぶりからすると彼女もほぼ間違いなく異能者だろう、胸の昂りがさらに高くなるのを感じる。
話に入りたい、が、どうやら完全に蚊帳の外みたいで彼は話に入る隙を窺っている。
「……私は貴方が機関の人間なら、少し強引な手を使うのは仕方ないと考えています。
でも、その前に……光龍さんが貴方を『化け物』と呼んだのは貴方がそういわれてもおかしくない数の人間を
殺めたってことですよね。なぜ、そんな事がするの…いや、出来るのですか? 」
アーリーが話す。
光龍が?そういえばアイツそういうことがわかるとかいってたのう、
まあ難しい話じゃったのでわしはあんまりよくわからんかった。
つうことはコヤツは相当の手誰なのか?
さすがのわしでも殺人鬼は引くぞ。
「機関の命令だからですか?……でも、だからって人ひとりの人生を全て奪うなんて…。
何か理由があるんですよね?……そんな事をしなきゃいけない理由が……
そうじゃないと、おかしいですよ……私とほぼ年齢も変わらない女の子がそんな事が出来るなんて。」
まったくアーリーのゆうとおりじゃと思うぞ。
話を聞いてれば段々コヤツが悪者に見えて来おった、よし、成敗してやる―――
姫野の返答はこうじゃった。?なんだ――? 本当に悲しそうな顔をしている。
「なぜって……それが――人を殺す事が私の"仕事"だったからです。そう、あなたの言ったように機関の命令です。
学校を卒業して、就職をして、気が付いたらそこに私は居ました。殺したら、また殺して、また殺す。毎日がそれの繰り返しですよ。
ハッ、機械的とでも言うんでしょうね、この時の私を。この力で、この手で人を殺す事に全く抵抗がなかった――」
彼女は黒い手袋に包まれた己の右手を、何か忌々しいものを見るような眼で見る、少し間を置き、彼女が顔を上げて再び話し出す。
「でもね、アーリーさん。今の私には友達や自分の近くにいる人を失うのが怖い。
さっき知り合ったばかりのあなたも……いや、もういいです。これ以上話すと私はどうしていいのか分からなくなってしまう」
彼女は手袋を脱ぎ捨てる。そこから露になったのは異型の手先、脱ぎ捨てた手袋よりも綺麗で、艶やかな、黒。
鳳旋がそれに驚く間も無く、姫野の手には三本のナイフが握られていた。
まずい!!
鳳旋は飛び出した。彼女達との距離は然程空いていない為、次の瞬間にはもう姫野に手が届く範囲に居る。
「あなたが仕掛けてくるのなら止むを得ない、だけど命までは奪いません。手足の機能だけを奪わせてもらう――ッ!」
「――ッ!コンアホウがッ!!」
姫野の手から三本の刃が放たれる。放たれたそれは人を簡単に傷つける凶刃―――しかし。
それよりも寸刻早く、ガンという鈍い音と共に、宙を舞い彼女達の間に割り込む大きな影々―――
影の正体は、光龍と鳳旋が使っていた食卓だった。
放たれたナイフは食卓に阻まれ瞬時にコココン! と小気味の良い音を奏で突き刺さり、同じく舞い上げられた皿達が先に地面に着地し、カシャンと砕け散る。
そして間髪置かずにやって来た食卓が追い討ちを掛け、それが皿達の止めになった。
ガシャァァン!
けたたましい音と共にさらに細かく粉砕される皿達、だが彼女達がそれに気をとられる間は無い。
鳳旋は既に次の行動を終えていたからだ。
「コラァ!!」
コツン、と箒の柄で姫野の頭を叩く、これがもし真剣だったら、などと彼は言うつもりは無い、
しかし男が女を殴る訳には行かないのだ。故に彼女の頭を小突く程度に収めた、しかし多少なりとも痛みはあるだろう。
これにあっけらかんと取られたのはアーリーよりも姫野の方だろう、目をぱちくりとさせ、鳳旋の方を見やる。
「黙って聞いとったら…何をしとんじゃオマエラッ!!」
今の彼からは普段の陽気な彼からかけ離れた、"怒気"が放たれている―――
【鳳旋 希一:姫野の放ったナイフを止めた後、激しい剣幕で姫野達を叱り立てる】
籐堂院の持つ鞘から、鈍い輝きを放つ鋭利な白刃がスーっと抜かれた。
何人もの敵を屠ってきた愛刀が、今度はこれまでそれに憑りつき力を化していた者に向けられるのだ。
籐堂院にとっても、その師である神にとっても、これは初めての経験であるに違いない。
二人は相も変わらずの眼光を叩きつけあっているが、どこか表情は曇っているように見えた。
「瑞穂ッ! 無理をするなッ! ここは全員で闘うんだッ!」
一対一だと効率が悪いとでも考えたのか、高山がそう叫んだ。
だが、その瞬間、神がこちらをギラリと睨みつけると、静かに言葉を発した。
オマエラ
「──俺は三人が動くことを認めない」
その言葉が俺の耳に届くや否や、俺はその場で体を凍り付かせた。
いや、俺だけではない。
目だけを動かして左右を見ると、高山や織宮も金縛りにあったように立ち竦んでいる。
ヤツ
「……これが神の異能力か」
俺がそう呟くと、神はたまたま足元に転がっていた刀剣を足で掬い上げた。
あれは、この階で倒した五人のナンバーの内の一人が、武器として使っていたものだ。
神はそれを右手で掴むと、視線を籐堂院に向けながらも、俺に返答するように言った。
チ カ ラ
「そうだ、これが俺の異能力。俺が認めぬとした行動は、誰にもとれない……。
だが瑞穂、お前の動きも封じなかったのは、この俺の手でお前が進む道を正すためだ。
俺とお前の一対一……誰にも邪魔はさせん。……いいな? 瑞穂」
「……望むところです」
言いながら、籐堂院は刀を構えた。それを見て神も、低い姿勢となって刀を構えた。
二人の視線はお互いだけに向けられ、既に俺達三人のことなど文字通り眼中にないようだった。
「クソッ……! 俺達は何もしてやれねぇのか……!」
「瑞穂さん……」
「…………」
ピリピリと張り詰めた空気が空間を支配し始めたことで、次第にその雰囲気の重みに
精神が圧迫されてきているのか、外野から二人を見つめる高山や織宮の顔からは
大粒の汗が流れ始めていた。
そして、高山の頬を流れ、顎の先に溜まった汗の玉が床に向けて落ちた瞬間──
それを合図にしたかのように、籐堂院と神の構えた刀が、素早く振り抜かれた。
──ギャキィィィィンンン……!
鋭い金属音が辺りに響き渡った。二人が振り抜いた刀の剣先が、高速で交錯したのだ。
二人はそこから更に、互いに自らが操る剣先を相手に切りつけようと、力で押し合いを始める。
「覚えているかぁ、瑞穂よ? 昔もこうしてお前に剣の稽古をつけてやったっけなぁ?」
余裕の表情を浮かべながらそう語りかけるのは神。
だが、籐堂院はそれに反応することなく、交錯した剣先を裏返して相手の剣先を力強く弾くと、
素早く刀を鞘へと納めた。一方の神は、弾かれた衝撃で右腕ごと刀を空中に浮かせる格好となっていた。
それを見た籐堂院はくるりと体を右回転させながら、今度は鞘から抜刀──先程よりも鋭い斬撃を繰り出した。
「──『瞬剣・韋駄天』ッ!!」
隙の生まれた神の右脇腹目掛けて白刃が舞う。
が、それが神に直撃したかと思ったその瞬間、神は刀の柄を天上に向ける形で素早く半回転。
無防備な右脇腹付近の空間に刀身を差し出し、向かってくる剣閃を受け止めていた。
「……クッ!」
「カテリーナに言われなかったか? この技は随分とキレが悪いってな。
俺もそう思うぜ、瑞穂? この技はスピードが命の居合だ。だがお前のそれは、動きが鈍い……!」
再び互いに交わった剣先が強く弾かれた。だが、今度のそれは、神が弾いたものだった。
神は手に持つ柄を素早く、今度は先程とは逆方向に半回転させると、
弾かれた衝撃で刀を大きく左側背に流し隙を生んだ籐堂院に目掛けて刀を振り抜いた。
「ぐうっ!」
振り抜かれた刀は籐堂院の右の腹に命中──。
籐堂院は受けた衝撃のまま、体を自らの数歩後ろへと飛ばしたが、すぐに体勢を整えて着地した。
しかし、右脇腹を押さえるその表情は苦痛に歪んでいた。
「折角、敵の隙を突いても、繰り出した技にスピードが無ければ当たりはしない。
そうなると今度は逆に己自身に隙が生まれ、こうしてそこを敵に突かれるわけだ。
もう今の一瞬の攻防で気がついてるだろう? "俺には勝てない"ってな。
今の一撃も峰打ちでなければ、お前はとっくに死んでいたんだからな……」
「……ハァ……ハァ……」
「そぉーら。さっきまでの強い意気込みが水面に立った波紋のように消えていくのが分かるぜ?」
「──ッ!」
「瑞穂、背伸びしたって届かないものは届かない。やりたいと思うことと、できることは別なんだ。
……今ならまだ間に合う。諦めて、ここから去れ」
「……う、うぉぉぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」
籐堂院が狂ったように叫びながら神に向かって突進した。
そうして瞬時に間を詰めた籐堂院は、大きく振りかざしていた刀を、神目掛けて振り下ろした。
「──ああああああああああああああッ!!」
しかし、神は涼しい顔でそれを回避。
「……『剛剣・毘沙門天』か。だがな瑞穂、あれは相手の動きの先読みとキレのいい剣速があって
はじめて技として成立するんだぜ? それじゃ、ただ力任せに刀を振り下ろしているだけだ」
技を回避されながらも、籐堂院は負けじと更に攻撃を続ける。
右薙ぎ、切り上げ、唐竹──しかし、動きを事前に読まれてしまっているのか、
あるいは籐堂院の剣閃にキレがないのか、神にそのことごとくをかわされてしまっている。
「ハァ……ハァ……! く、くそぉ! は……速い!」
「瑞穂、今のお前じゃ何度やっても同じことだ。分からないのか……?」
「はぁぁあああああああああああああああああッ!!」
横薙ぎに鋭い斬撃──しかし、それもまた神には当たらない。
神は高くジャンプして、一旦籐堂院との距離をとると、刀を鞘に納め、抜刀の構えをとった。
「口でも言ってもわからないんじゃ、仕方ねぇな。
あまり気は進まねぇが、こうなりゃお前を何度でも立ち上がらせる"杖"を、この世から消してやる。
この──『神技・天道断』でな!」
「ハァ……ハァ……。……いいでしょう。全力を込めた一撃の勝負は、私も望むところ……!」
籐堂院も刀を鞘に納めて抜刀の構えをとった。
それから互いにジリジリと相手との距離を詰めていくと、二人は同時に刀を抜いた──。
「「──『神技・天道断』ッ!!」」
二つの白刃が、空気を切り裂きながら高速でぶつかり合った。
──キィィィィイイイイインンンッ……!! ──ヒュンヒュンヒュン……ドン!
鋭い金属音の後、何かが音を発しながら宙を舞い、二人の直ぐ傍の床へと突き刺さった。
──それは、刀の切っ先。二人が持つ刀のどちらかが、叩き折られたという証明だった。
二人は刀を振り抜いた格好のまま固まっていたが、やがて神が目を細めなら静かに呟いた。
「お前を起き上がらせる杖は、失われた……勝負はついたな、瑞穂?」
籐堂院は今の打ち合いの結果を確かめるように自らが握る刀に視線を向けると、
やがて力なく刀を落とし、腰を抜かしたようにヘナヘナと床に尻をついた。
そう、折られていたのは、籐堂院の刀だったのだ──。
「瑞穂ッ! 返事をしろ、瑞穂ッ!」
高山がそう呼びかけるも、籐堂院はショックのあまりか、全くの無反応だった。
そんな籐堂院を尻目に、神は刀を構えたままこちらに一歩、二歩と歩み寄った。
「さて……後はお前達だ。瑞穂には止めを刺さずとも、もう誰とも闘えないだろうからな……」
高山は動かさない体を動かそうと必死にもがき、
織宮は怯えるようにして、顔を強張らせていた。
「く、くそぉッ! 動け! 動きやがれェェェーーッ!!」
「う、動かない……! (おいおい、冗談だろ! 絶体絶命ってレベルじゃねーぞ!)」
だが、そんな危機の中、俺は二人に向かって微塵も動揺する素振りも見せずに言い放った。
「やれやれ、少しは静かにしたらどうだ? うっとおしい」
「お、おまっ……なに一人でカッコつけてんだ! そんな場合じゃねーだろ!」
「フン、どうせしばらくは指一本動かせんのだ。足掻いたところでどうしようもあるまい。
それに、一対一を望んだのは籐堂院だ。勝負がつくまで、俺達が手を出すべきではない」
「勝負がつくまでって……瑞穂さんの武器があれでは、もう……」
動揺する二人に交互に視線を送ると、俺は「やれやれ」といわんばかりの溜息をついた。
「ふぅー……。こんな時、俺のある仲間はこう言うだろうよ。『信じろ』──っとな」
「信……じろ……?」 アイツ
「籐堂院が仲間として信じ通せる存在であるなら……籐堂院の勝利を、俺達は信じていればいい」
【池上 燐介:神の異能力で体の動きを封じられる】
>>187-189の追記文
――この娘は可哀想だ、あんなに悲しそうな顔をしているのに。
人を失うのが怖いといっているのに。
結局、人を傷つける事しか出来ないなんて―――
それに―――なんて顔してるんだ―――
彼女を歪めたのは機関。その機関を、鳳旋は許せなくなった。
今の彼の怒りは彼女の後ろに在る機関へと向けられている。
鳳旋は姫野の胸倉をつかみ上げ、激しい剣幕で叱り立てた。
「いいか!オマエに今まで何があったかは知らんッ!!
だが、どうしてそんな物騒な物の考えしか出来んのじゃ!?オマエは本当にそれで良いのか!!
そんな力で人を殺して、傷つけて――力は――力は正しい事に使うものじゃ!少なくとも自分の正しいと思える事にな!!
自分が本当に正しいと思ってる事をよく考えろ―――!!」
手を離し、最後に鳳旋はこう付け加えた―――
―――それでもわからないって言うならワシがその根性叩き直したるッ!!―――
>>176 「命に代えても……か」
右手を口元へかざすレオーネの目には、
本来の思慮深さとは別の、何か怪しく光る物が在った。
「誠一郎、お前は何時まで意地を張っているつもりだ?
いい加減に認めてはどうだ? 城栄の、私の目指す世界を……」
レオーネの右手が口元から離れ、今度は堅く握り締められた。
相変わらず誠一郎はレオーネへと顔を向けないが、
視線だけはこのブロンドの男を捉えていた。
「君こそ、何時まで金剛などと手を組んでいるつもりだね?」
「死が二人を別つまで、さ……」
揺ぎ無い絶対たる信頼……。
いつもそうだった。誰がどう言おうと、レオーネは常に金剛の傍に居た。
誠一郎は静かに目を瞑り、そしてやや在って――開いた。
彼は立ち上がると、主役を待っていた舞台客のように木の葉が歓声を上げる。
「この街を見てみろ。ここは未来の縮図だ。
金剛が支配した後の世界の姿だ」
力の無い者、従わない者は容赦無く切り捨てられていく。
弱者を糧に強者のみがその生を謳歌できる世界……。
――そんな世界が在って良いのだろうか?
「これが……これが"彼女の望んだ世界"だと言うのか!?」
誠一郎は自然と声を荒げる。そうなるだけの怒りが在った。
金剛とレオーネが目指す世界。それは法と罰が重石となり、歴然と人々の上で軋みを挙げる世界。
全ては監視され、統制される。
そこに個々の自由など無い。在るのは打算に裏づけされた管理者の方針のみ。
――そこはもう地獄だと言える。
その世界の完成は、誠一郎の最も忌み嫌う思考の停止に他ならなかった。
「世界を支配してどうするつもりだ?」
最早聞くまでも無い。……無いのだが、それでも誠一郎は聞かずには居られなかった。
自分の目で、耳で、城栄のレオーネの野望を知りたかったのだ。
案外現実主義者なのが、この長束誠一郎という男であった。
「世界の成り立ちを紐解いていくと、そこには純然なる支配が確立されている事に気付く。
民は強者に支配される事を望んでいるのだ」
そう言ってレオーネは尚も話し続ける。どうもこの男は、話し上戸というよりも、喋る事自体が好きなようだった。
「――目を開け。個々の意思に何の意味が在る?
人間は自分自身で運命を選択する事を嫌がるものだ。
道を敷いてやると、喜んで直ぐにその道に乗り換える。
ならば、我々が与えてやる」
レオーネ達が目指す物はコンテンツ(内容)の作成ではない。
コンテクスト(文脈)の作成なのだ。
神が決めた文脈に沿って世界は動かされる。運命と言う名の楔が人の一生を決定してしまうのだ。
彼らの世界創造のプロトコル。それは人の尊厳を著しく貶める物であった。
誠一郎は知っている。それは人が人に絶対にやっては為らない事だと。
「私たちの下へ戻って来い、誠一郎。
一緒に世界を変えようじゃないか。
城栄だってきっと許してくれるさ……」
そう言うレオーネの目には、まるで聞き分けの無い弟を諭す兄のような優しさが在った。
誠一郎は偶にふと思う事が在る。レオーネが機関という闇の住人にならなければ、どんな未来を選択出来ただろうかと。
彼だけではない。今や憎き敵の城栄金剛も機関に入らなければ――否、そもそも長塚家に来なければ、
もっと別の未来を選べたのではないだろうか。
だが、彼らを長塚家に連れてきたのは誠一郎の父親、墓標の主となった長束公誠だ。
二人が間違った道に進むのだったら、それは長塚家の責任だ。
家督を継いだ今となっては、それは誠一郎本人の責任となる。
「人を人たらしめているのは、"自分で考える事"。そして自分自身の手で未来を切り開く事だ。
他人から与えられた運命に何の意味がある?
私は……、私はそんな世界など認めない……!」
ここで漸く誠一郎がレオーネに振り返った。
久しく見る誠一郎の顔は、若干やつれたようにレオーネの目に映った。
「――ならば議論は終わりだな。やはり私たちとお前は相容れない存在のようだ」
風がピタリと止んだ。ひかるには、これから起こる戦いに自然が恐怖しているように思えた。
レオーネの目が獲物を狙う猛獣の如くギラリと輝く。
それは心の奥底まで射抜くかのように誠一郎とひかるに襲い掛かってきた。
No.6は機関の最高幹部、その実力は折り紙つきである。
咄嗟に身構えるひかる、そしてそれは誠一郎も同じであった。
――いや、寧ろ同じ"師"の下で異能の修行をした誠一郎が一番良く分かっていたのかも知れない。
レオーネは、本来攻撃向きではないとされて来た精神系の異能力を、
感性と鍛錬によって限界まで昇華させた男だ。
お互いに相手の能力、技をある程度知っているからこそ、
誠一郎とレオーネは両者共に先手を討とうしなかった。
しかしながら、気を許す気配は待ったく無い。
二人は異能こそ発動させては居ないものの、互いを射程圏に捉えている。
先に動いたのは――
アンジェラ
「誠一郎、十七年前の続きをしよう。あの時のように"止めてくれる者"は居ない。
――さぁ、来いッ!」
――レオーネの裂帛した掛け声が戦いの火蓋を切った。
【レオーネ:現在地 裏山】
【長束誠一郎と塚原ひかると戦闘】
銀水苑統治はシナゴーグの中をゆっくりと探索していた。
人の気配のするほうに向って。
「古びた洋館で探索か。まるでハザードバイオだな」
有名なゲームのシーンを思い出した。
古びた洋館でゾンビに襲われるシチュエーションだ。
ゾンビ…腐った死体…
「……超嫌な仕事を思い出した」
統治はうんざりした表情になる。
――回想が始まる。
あれは数年前、外道院とその部下達が、機関の裏切り者が潜伏したと思われる村を村ごと粛清した時。
その抹消の仕事だった。
陵辱、蹂躙、凄惨。この世の地獄と言うのが生ぬるい。
機関の仕事は大抵人倫を無視しているがあれは酷すぎて忘れたくても忘れられない。
死体の状況は長く始末屋をやって来た統治も思わず顔を顰めたほど。
おぞましい腐臭に包まれた村。
激しい苦悶の表情で、手の先からじわじわ腐らせたと思われる死体が無数。
明らかに暴行された後異能で嬲り殺されたと思しき女性の遺体。
略奪に精を出す外道院の部下。
そして村の広場で陶然とした表情で香を楽しむ
袴の丈を切り落とした巫女装束の女外道院。
…常人なら五秒で吐き戻すこんな腐った匂いの空気を良く吸える。
全く心の篭らない会釈をし端的に要件だけ告げる。
「お楽しみの所失礼ですがNo.5……この村は山火事にあって滅んだ事にします」
統治にはこの惨劇を引き起こした上位ナンバーを前に怯えも迷いも無い。
只事務的に任務をこなすのみ。
「なんじゃ抹消部隊の者か。無粋じゃの。
この死の香をもうちょっと楽しんでいかぬか」
「機関員にしか分からない香あそびも結構ですが……時間が押していますので」
周囲から人の出入りを止めてられる時間にも限界が有るんだよ。
「ほうお主香道をしっておるのか」
「嗜み程度に。香が一種類しかない上に匂いが強すぎて香当てになりませんよ」
皮肉のつもりで言ったのに乗ってきた。
死体の匂いが嫌いで少しでも忘れようとアロマテラピーをやってるのに。
本当にうんざりした様子で答える。
外道院はさも楽しそうに笑いながら答えた。
「それもそうじゃの。痛い所を突かれたわ。
分かる奴には分かるのう……どうじゃお主うちの隊にこぬか?」
「死体片付けの方が性にあっているので謹んで遠慮します。
……これから焼き払うんで部下を下がらせてください」
本音を言えばこの女も部下も一緒に焼いた方が間違いなくこの世の為だと思う。
特に気分を害した様子も無く答える。
「ふうむ。変わった趣味かつせっかちじゃの。まあよいわ」
外道院が部下を下がらせる。
「じゃ、片付けます」
統治が指差すごとに、村も死体も燃え上がる。
しかし……統治の炎で焼かれる建物も死体も煙は出ない。
煙とは不完全な燃焼で発生する。
そして余計なものが全く燃えていない。
村全てが燃えているのに外道院やその部下に熱すら伝わらない。
一切の無駄が無いのだ。熱量が対象だけに集中して焼き尽くしている。
ほんの数秒で紅くなり、墨になり、灰になる。
「…そこに居ると汚れますよ」
統治はそう外道院たちに感情を押し殺して事務的にそういった。
外道どもに蹂躙された村に雪が降る。
雪は灰。巻き上げられた細やかで真っ白な灰が、まるで雪のように降り始めただけ。
見た目だけは幻想的で美しい、死者で出来た雪。
「ほほほ……雪とは風流じゃの」
(喋るな外道。お前のためにやったんじゃねえ。
殺すなら一瞬で殺してやれ。俺のせめてもの弔いが穢れる。
惨く醜い死に様を衆目に晒すのは死んだ村の奴等が余りに哀れすぎるからな…)
「……任務は終わりました。先に失礼します」
「風流なものをみせて貰ったわ。なんぞほしいものはあるかの?」
「地位も金も手柄も要りません……強いて言うなら暇が欲しいです。
次に任務頼むなら抹消部隊の他の奴にしてください」
「ふむ、そうかえ。これ、名前くらいは言っておけ」
「……銀水苑統治です。では次の任務が有るのでこれで」
名前とか覚えなくて良いから!
踵を返して村を立ち去る統治。
(俺がせめて弔ってやらなきゃ誰がやるんだよこんなこと)
統治のその呟きを聞いたものは誰も居ない。
統治は回想から立ち返る。
「……はあ、やだやだ。組織にはクズと外道と狂った奴しかいねえ。
まあ人の事は言えないが……
俺も奴等も所詮は生ゴミ、不燃ゴミ、粗大ゴミ、資源ゴミくらいの違いしかねえがな」
自嘲気味に呟くと、二つの気配の元へ警戒しつつゆっくりと向う。
【光龍達の近くへ慎重に接近】
ナガツカインテリジェンスビル地下階層。
このビルは地下三階までは表の顔をしている、
そして次の、地下四階には "何も無い"
その何も無い空間が、表の世界と、闇の世界とを隔てていた。
地下七階―――
そこは収容独房と云う名の地獄だった。
此処に在るモノは、全てが実験体のモルモット。
薄暗い独房で蠢くのは異形を保った、かつて人であったモノ達。
区画ごとに、地の底から響く様なソレは、哀れな肉塊の声にならない声。
無機質めいた世界が広がるこのビル内部でこの七階だけはまるで、その世界から切り離されたようだった。
床や壁は特殊な鉱石で出来ており、怨霊達を封じ込めている。
苦痛や憎悪や恐怖、あらゆる負の感情が空間をのたうち壁や石畳をこの世の外側の色に染め上げ、地獄を作り出す。
ツバサはぞっとした、こんなモノは、自分の操る、亡者の世界にだって無い。
だがツバサが真にぞっとしたのは、これから最愛の妹を、この地獄の一角に閉じ込めなければならないことだ
背景には円柱状の水槽が立ち並ぶ、その中には奇怪にも翡翠色に輝く液体と、無数の管に繋がれてソコに浮かぶナニカ。
突如、緑色に輝く背景に亀裂が入り、割れ、四散する、しかし割れたのは水槽ではない。空間に大きな穴が開き、その中から出てきたのは、燃え盛るような赤髪を持った青年と、それに従う異型をした、双の大蛇。
それぞれの蛇は牢獄の向うへと渡ると、その腹に抱えた少年と少女の戒めを解いた。
解き放たれた少年と少女の二人はぐったりと崩れ落ちたまま、動かない、意識を失っている様子だ。
「リン……、どうすれば良いんだ…俺は……?」
役目を終えた蛇は、自らが現れた穴へと入り、姿を消した。
絶望に暮れているのは、今し方、蛇を従えていた主。
―――第九十二使徒『ヨルムンガンド』まったく、便利な能力だな―――
突然の、声。
「誰だ……?」
ツバサは虚ろな顔で声の方へ振り向く。振り向いた先には黒衣を纏った一人の男が立っていた。
「――久しいな、"ツバサ"」
ツバサはその男の顔を見て、驚きを隠せなかった。
「"幻十"…?」
今目の前に居る男は、かつて機関の幹部でありながら、その身分を捨て、機関を去った裏切り者。
忽然と姿を消し去り、その行方は、機関の力を持ってしても今まで掴む事が出来なかった男。
そして目の前の裏切り者は、かつて自分の親友だったのだ。
「どうして…こんなところに……?」
どうして此処に来たのか、いや、そもそもどうやって此処に来たのか?そんな事今はどうでも良い
横目でリンの方を見ると想像は付いた。
機関を裏切った者がこのタイミングでこの場所に現れたという事、
リン達の救出、即ちヤハウェの搾取の阻止だろう。
「リン達を…連れて行く気なのか…?」
しかしそれはツバサの希望的観測に過ぎない、かつての親友の返事は、ツバサの希望とは違っていた。
「まさか? お前は何か勘違いをしていないか? 俺の事は、ツバサ、お前ならよく知っている筈だ」
「ならどういうつもり――!!――ッ!まさか!?」
幻十は、リン達を殺すつもりかも知れない、やりかねない、この男なら―――!!
だが幻十はあくまで冷静に、説き伏せるようにこう言う。
「俺が連れて行ったら、機関内でのお前の立場が危ういだろう?
だから――"妹を救う手段を教えに来た"――!」
"妹を救う"―――ツバサの心情の変化を見透したかの様に、幻十は微かに笑みを浮かべ、こう続けた。
「今の炎魔は肉体は朽ち、魂は封印された状態にある、肉体はともかく、魂に施された封印を解くにはヤハウェの力が必要だ。
だから機関、いや、城栄金剛はヤハウェを欲する」
「…何が言いたい?」
「要するに、炎魔の封印を解く為のヤハウェさえ居れば良いわけだ、だから―――」
幻十は俺に二枚の書類を渡して来た、これは?機関が取った異能者のレポート?
一枚目のレポートに貼り付けられた写真の男、俺は知っている。
二日前の夜、俺が戦った奴だ、そいつが何故?
「その二人はどちらもヤハウェだ、この二人を連れて来る事が出来れば城栄金剛もリンを見逃すだろう」
確かに、炎魔の復活に必要な数のヤハウェが居れば、後のヤハウェはどうでもいい存在だろう、
金剛にとっては炎魔さえ復活すればそれで良い筈なのだから。
炎魔の復活後残りのヤハウェを消す可能性も考えられるが、だとしてもリンにだけは手出しはさせない――!
だが、何故?このタイミングで俺にこれを教える?こんな後の無い状況で、まるで俺を誘導するような―――
しかしツバサのそんな疑問も、幻十の次の言葉で掻き消えた。
「もう時間が無いぞ?妹を、こんな風にしたくは無いだろう?」
背景の水槽をコンコンと、音を立てて小突く。
「―――!」
突き付けられたのは、そう遠くない未来、妹がこうなる現実。
させない―――リンをこんな風には絶対に―――ッ!!
「そうだろう?その二人は、その為にオロチに捧げる"身代わり羊だ"
ツバサ…妹を生贄に捧げる必要は何処にも無い―――」
―――そうだ、リンが犠牲になる必要なんて何処にも無いんだ。生贄になるのは他の"クズ共"で十分なんだ―――
ツバサはレポートを投げ捨て、駆け出していった。地に落ちたレポートには『廻間統時』、『神野沙羅』二人の名が記されていた。
――――――――
「――…いけません、現在ファーストナンバーは本社の護衛を最優先とされて―――!」
「煩い!」
「ああっ!!」
一旦部屋に戻り仕度を整え、出発しようとした所を自分のメイド、空雲に止められる。
ツバサは空雲の制止を振り払い、彼女を突き飛ばした。
「はぁっ…ぅ……お待ち…下さい――」
空雲の制止も空しく、ツバサは行ってしまった―――――
―――――
それから暫く経つ、既に人通りの無い大通りに車を走らせているツバサの後方にはナガツカインテリジェンス本社ビルが小さく映る。
ツバサは赤いスポーツカーを道路に横付けし、其処から路地裏へと入って行く。
本社ビル周辺は殲滅結社の襲撃に備え常人は寄り付かない状態に成っている。
つまり――既に人払いは済んでいるのだ。
気配を辿り路地裏へ入っていったツバサは、すぐに二人の少年と対峙する。
「――よう、これから何処へ行く気なんだい?」
二人を捉え、そう言った。俺は向うの返答を聞き流し、こう告げる。
「言っただろ…『次に逢う時は俺は完全に敵だ』ってな……
――ヤハウェケース――『廻間統時』ッ!貴様には機関の計画の為の生贄になって貰うッ――!!」
鎌を手に取り、振り翳す。号令と共に、通路を埋め尽くす程の亡者の腕が地表より突き出し、統時達に襲い掛かる―――
【ツバサ:統時達に戦闘を仕掛ける。場所、路地裏、外は広い道路に面している】
「何をゴチャゴチャ言っている。談笑する暇があるなら、念仏でも唱えるんだな」
そんな俺や高山らのやり取りの間も、神はこちらとの距離を詰めて来ており、
手に持つ刀を大きく振りかぶっていた。
そして俺達三人を交互に一瞥すると、初めに誰から切り捨てるかを決めたように「二ィ」と口を歪ませた。
「まずはお前からだ! ──池上!」
「──ッ!」
「さらばだ、死ねェ!」
鈍く輝き光る白刃が、俺目掛けて振り下ろされた──。
だが、刃が俺に直撃するその瞬間──神の背中から突如として爆音があがった。
不意の爆発──それによって神は体勢を崩し、結果として刃は俺に命中することはなかった。
「──なにッ!?」
神は爆発の原因を確かめるように後ろを振り返ると、驚いたように目を大きく見開いた。
──神の視線の先には、立ち上がり、折れた刀を握って闘志を露にしている籐堂院の姿があったのだ。
「……『滅剣・神滅劫火』……!」
「瑞穂……お前、まだ……!」
「生ある限り、貴方の相手はこの私……まだ終わってはいない!」
神は見開いていた目を、今度は逆に細め、再び籐堂院に向けて刀を構えた。
籐堂院もそれにつられるようにして、折れた刀を神へと向けた。
「瑞穂ォ……これ以上俺を困らせるな……。俺はお前に止めを刺したくはないんだ……」
「師匠、私は機関に寝返った貴方を、恨んでいるわけではありません。
できることなら、闘いたくはないと思っている……。けど! あくまで私達の障害となるつもりであるなら!
私は何としてでも貴方を倒さなくてはならないのです! 例え、刀が折れていようとも……!」
「言うな瑞穂。……だが、その痩せ我慢がいつまで続くかな?」
そう言い残して、神はその場から消えた。
いや、姿を消したように見えるほどの高速の動きで、瞬時に籐堂院との間合いを詰めたのだ。
──キィィィイイインン!
ナガツカインテリジェンスビル22階から、再び刀と刀の交錯音が響き始めた──。
──キィイン! ギギ……ギギギ……!
幾度かの攻防の後、二人は刀を交え、つばづりあいを始めた。
どちらかが押されるとも、押しているとも分からない、力と力の比べ合い──
いや、これは意地と意地のぶつかり合いと言っても良いのかもしれない。
「瑞穂……相変わらず力だけはあるようだな……!!」
「うぐぐぐぐッ……ぐぉぁああああッ……!!」
「いや、これはお前の心の中の何かが、それだけの力を引き出していると見るべきか……!
一体なんだ瑞穂……一体何が、お前をそこまで突き動かす……!」
「……私を突き動かすものがあるとすれば、それは『仲間を想う』、その気持ちただ一つ!」
──チャリィィインッ!
刀を弾き、二人は密着していた体を離した。
だが、攻防は休む間もない。神が左右上下から剣閃の嵐を繰り出せば、
また籐堂院もそれを素早く真正面から受け止める。
籐堂院が鋭い斬撃を放てば、神は紙一重でそれをかわす──。
「何を利いたふうな口を……!」
神が鋭く刀を振り抜いた──。瞬間、籐堂院の右頬から血がふきだした。
しかし籐堂院はそれに動じることなく、一気に間合いを詰め迷わず刀を振り下ろした。
「ぁぁぁああああああああああああああッ!」
「──なに!?」
それを見た神は、反射的に後ろへ跳び退き、紙一重でかわした。
だが、神の肩口の服は避け、そこから僅かながらも血が滴っていた。
籐堂院の剣撃は神の予測を超えたスピードだったのか、僅かながらも確かにとらえたのだ。
「バカな……! 瑞穂の剣が、徐々に俺をとらえつつあるというのか……!?」
切っ先の折れた刀で浅手だが傷を負わせたということは、
もし仮に折れた刀でなかったなら、致命傷にはならなくとも深手にはなっていたかもしれないということだ。
神の顔から、これまでの余裕の表情は、もはや消し飛んでいた。
「……先程までとはまるで別人だ。まさか、たかが気持ち一つで本当にそれだけの力を……」
神の問いに、籐堂院は迷いの無い強い口調で答えた。
「師匠……貴方が私の愛刀、『天之尾羽張』を叩き割ったことが、皮肉にも私を窮地から救ってくれたのです」
「なん……だと……?」
「聞こえるはずです。私の、仲間の声が……!」
先程までの激しい戦闘音が消えたことで、これまでそれに掻き消されていた音が、
代わってこのフロアに響き渡っていた。それは、高山と織宮の声──。
「そうだ、瑞穂ッ! オメーなら刀が無くたって十分闘えるんだ! その調子だぞ!」
「瑞穂さん! 貴方がどんな傷を負おうと治してみせます! ですから、早くやっつけちゃって下さい!」
「……」
「彼らは、不利な状況下にある私に対しても、私の勝利を心の底から信じ続けてくれている……。
その熱き想いを、たかが刀の一本や二本失ったくらいで、無にするわけにはいかないのだ……!」
籐堂院の言葉に、神は呆れたように息を吐くと、鋭い目で籐堂院を睨み付けた。
「……結局、お前が進むのは、親不孝の道ということ……か。
これ以上お前を止めても、もはや無駄というわけだな……。
──いいだろう! 道を正すだけにしておこうかと思ったが、気が変わった!
悪いな瑞穂……。俺は機関の人間として、機関に背くお前を──殺す!!」
神は刀を鞘へと納め、抜刀の構えをとった。
決着をつける全力の一撃を、あの構えから繰り出すつもりなのだろう。
とするなら、恐らく放たれる技は──『神技・天道断』。
それを見た籐堂院も、神と同じく抜刀の構えをとった。
それは、勝負が『神技・天道断』の打ち合いを意味していることは、誰の目にも明らかであるだろう。
必殺の一撃を放つ構えをとる二人を中心にして、再び緊張感漂う空気が辺りを支配し始める──
これまで声援を送っていた高山や織宮も、その空気に圧されたかのように無言に切り替わっていた。
籐堂院も神も、互いにタイミングを計るように、構えたまま微動だにしない。
そんな中、俺はこの沈黙を無造作に破るように、声をあげた。
「籐堂院! ……勝て! お前なら、それができる!」
籐堂院は相変わらず微動だにせず、こちらに背をむけたまま振り向くことはしなかったが、
その背中から感じられる気配から、一瞬、どこか表情が微笑んだような気がした。
そして、その直後──構えをとる二人から、一斉に声があがった。
「「──『神技・天道断』ッ!!!!」」
──金属の激しい交錯音の後、一人の人間が血しぶきを上げて床に力なく倒れこんだ。
その手には、刀身を砕かれた刀が握られており、『神技・天道断』の威力がどれ程のものか
を証明しているようだった。
「……神の時は刀身を折るだけだったが、まさか刀身を砕いた挙句、相手に致命傷を与えるとはな。
あれが本来の威力ってわけか……凄ぇな」
打ち合いを見た高山が思わずそう漏らした。
俺は床に倒れた人間から、その直ぐ傍で佇む人間に目を向けた。
切っ先の折れた刀を鞘へと納める動作で、長い銀髪をふわりと揺らす一人の女──。
勝負に勝ったのは、籐堂院瑞穂──。
と、勝利者を再認識した時、これまで動かなかった体が、不意に揺れ動いた。
どうやら神が倒されたことで、体の自由を奪っていた異能力の効果が解かれたのだろう。
高山と織宮が籐堂院のもとへと走り寄ろうとしたが、俺は彼らの動きを制止させた。
彼らは「なんだ?」というような顔をしたが、俺が神を両手で抱き抱えている籐堂院の姿に向けて
あごをしゃくると、やがて彼らも察したようにその場に立ち竦んだ。
「……不利な折れた刀を使われたのに、俺はこの様か……。見事だぜ……瑞穂……」
「師匠……」
「……フフ、瑞穂……仲間ってのは、いいもんだよなぁ……。
あいつらの後押しがなかったら、俺の本気の天道断を破るほど強くはなれなかっただろうぜ……」
「……」
「なぁ……瑞穂、一つ頼まれてくれねぇか……?」
「なんでしょう……?」
「桔梗のことだ……。俺が死んだと聞いたら、あいつはきっと悲しむだろうぜ……。
だからよ、あいつに会ったら、俺は機関の命を受けて急にこの町を離れることになったって、
伝えといてくれ……」
「……はい。わかりまs」
「……駄目。もう、知ってしまったから」
二人のやり取りに横槍を入れるように、突如として謎の女性の声がフロアに響き渡った。
声のする方向に目を向けると、どこから来たのか、そこには長い黒髪を持つ女性が立っていた。
その女性を見て、神と籐堂院が、同時に叫んだ。
「──桔……梗……!?」
「──桔梗さん……!?」
【池上 燐介:神の異能力が解除され、動けるようになる。水瀬桔梗、登場】
ナガツカインテリジェンスビル周辺は機関が警察に働きかけ広範囲に封鎖されていた。
自らの体を透明に『加工』しているルージュ達はともかく異能者以外の一般人は入り込むのは難しいだろう。
「ついた、ついた〜〜〜っと」
ルージュ達はビルから十メートル弱付近にまで近づくと透明化するのを止めて姿を現した。
そこに現われた彼女達の内の片方、ぶかぶかの大きなワイシャツに刀を背負い、感情が一片も篭っていない目をした女性――神野屡霞。
彼女には先程までとは一目で分かる違いがあった。それは首に鮮血のような真っ赤な色のマフラーが巻いてあったのだ。
そのマフラーは二人で巻く用の代物らしく首を既にニ、三周しているのにもかかわらず余りの部分が腰まであった。
「うんうん、ここに来る途中で入手できてよかったボクの新しいコレクションもいい感じになったなった。」
(屡霞はテメーの着せ替え人形じゃねぇんだぞ!!)
そう文句を吐いたのは意思を持つ彼女の刀―――禍ノ紅。
「うるさいナ〜。お前が”これ”を守る契約をしたなんてことはどうでもいいノ。……それにこれは着せ替え人形じゃないヨ。
立派なボクのお仕事用の玩具なノ。」
禍ノ紅は既に諦めたのか、これ以上の口出しはしなかった。
「よーし。それじゃ、金剛様の邪魔立てをする雑魚虫共を狩りにいk……」
小学生の子供が遊びに行く時かのように喜びの声を遮ったのは一発の銃弾。
綺麗に額の中心を撃ち抜かれたがその真ん丸い弾痕を、右手の口を動かして消し去るにはものの三秒を掛からなかった。
「……確か、ハウンド・ドッグだっけか守護をしている奴ラ。ああ〜、そうか。だから、”ビル前には誰もいなかった”んだナ。」
ルージュが振り返ってみると、道の端や建物の影から死体が幾つか転がってるのを確認した。
彼らは一般の異能者、機関の本拠地が襲われてるのを見てそれに便乗してやって来たが、防衛線一つ超えられず死んだのだろう。
「……飛翔。」
ルージュがそう呟くと同時に彼女の体は弾丸のようにビルの頂上を目指した。
向こうは驚きつつも、5〜6人で狙撃銃で乱射して応戦しようとした。
しかし、その銃弾全てはルージュの「粉砕」の一言で粉々になって塵へと帰った。
「……これで分かってくれたかな?ボクが味方だってコト…」
二メートルを超えるがスリムな彼女はそのハウンド・ドッグのメンバー一人の喉を掴み持ち上げた。
周りでそれを見ていた隊員達は全員頷き、それと同時に自由を奪われていた隊員は解放された。
「あ〜もう、時間を無駄にした。さっさとビル内にいかなk……そうだ」
脳内で頭上に大きな豆電球が浮かんだ。
途端にルージュの瞳から感情という灯が消えた。
「面白そうな奴が来たらあっちの体に任せればいいんだから、こっちの体でビルに入ればいいんだよね」
(な!?おい、どうした。何言ってる!!)
「ん?頭悪いナ~。何回も言ってるでしョ〜。これはもうボクの物だって……スカートが長くて邪魔」
そう言って、スカートの端を掴むと思いっきり引っ張って長さを膝丈ぐらいにしてしまった。
「よし、楽しんでくるかナ」
勢いよくビルに向かって走り出す。
目指す先は――――――――――――戦場。
求めるモノは―――――――――――快楽。
その進む先は―――――――――――崇高なる使命の為の血生臭い道。
【ルージュ:本体を神野屡霞(衣装替え)に移し、戦場ヶ原天と同じルートを疾走】
【もう片方のボディはビルの屋上でハウンド・ドック達と待機】
>>204 移動を始めて、数十分…俺とリースの間に会話はなかった。
これから死地に赴くという事があってなのか、いつもは飄々としているリースの顔も今回限りは真面目だ。
そして、敵の本拠地が目前と迫った、その時…
「!」
これは…殺気…いや、それとはまた違う…!
>「――よう、これから何処へ行く気なんだい?
言っただろ…『次に逢う時は俺は完全に敵だ』ってな…」
この男は…ツバサ・ライマース!数日前に戦った、召喚術を操る男!
どうやらセリフから戦いを挑みに来たようだが…!
「統時、この男は!?」
「敵だ!名前はツバサ、召喚術を操る機関の幹部!それ以上は知らない!」
「機関の幹部…それじゃー、遠慮はいらないな!」
リースの中にやる気が漲ったようだ、今はそのやる気が頼もしい。
しかし…不味いな。月の出ていない今は剣が出せない…!
ルナを呼び出そうにも、ツバサと戦った後にも連戦は続く…ルナを呼び出すわけには…!
「チィィッ」
仕方なく紅い月を鞘から抜き放ち、周りの敵を切り払う。
肉体の一部一部が腐り落ちていたゾンビは、普通の人間に比べると肉体にはダメージが通りやすい…
だが、敵は既に死んだ身であり考える事は無い。ならば!
「リィィィッス! 頭部だ、頭か首をブチ壊せ!」
「あいよ!」
肉体は脳からの電気信号で動かされている…
つまり、脳を破壊すれば動く事は無いってことだ。
リースは手のひらサイズのつららを作り出し、ゾンビの大脳に向けて撃ち出した。
ゾンビはつららを避けることなく歩み続け、大脳を破壊された。
大脳を破壊されたゾンビは音をたて崩れ落ちた。
(やっぱ、こいつは強くない…だが、この数…
なんて面倒…!)
この前戦った時より、ゾンビの数が多いのだ。
そのため、ゾンビを地面に叩き付けて肉体を破壊するという戦法が使えない。
流石にこの数、紅い月一本だけでは二方向からの同時攻撃に対処しきれない。
【月下十字】で二刀流が行えれば少しは楽になるってのに…
あふれ出るような亡者に、俺達は予想外の苦戦を強いられることとなった。
【廻間:紅い月一本で戦わなくてはいけないため苦戦】
【リース:出てくる亡者を片っ端から撃破】
籐堂院と神が『桔梗』と呼んだ女性は、どこか哀しそうな眼をして二人のもとへと歩み寄った。
「桔梗……ど、どうしてここに……?」
「貴方の傍にいることが私の役目だもの……」
「き、桔梗さん……私は……」
顔を下に背けながら、言い難そうに口を開く籐堂院に、桔梗と呼ばれた女性は優しく微笑みかけた。
「……気にしないで。これは貴方のせいじゃない。全ては、私が再び現世に蘇ったことが原因なのだから」
「な、何を言うんだ……桔梗……! お前の、決してお前のせいじゃ……!」
「神……いいのよ……。私が蘇ってしまったことで、貴方が機関へ復帰してしまい、
結果、貴方とその肉親とで命を奪い合うという事態を引き起こしてしまったのは、紛れも無い事実なんだから……。
そうよ……全て、私がいけないの……!」
彼女は声を絞り出すように言うと、やがてボロボロと大粒の涙を流し始めた。
それを見た神は、血まみれの手を震わせながら、慰めるように彼女の肩に置いた。
「桔梗……泣くんじゃねぇ……俺と瑞穂が闘ったことに、お前が責任を感じることは……」
神がそう言い掛けた時、彼女が突如として苦しみ出した。
そして口から、徐々に赤い色をした液体を──そう、『血』を滴らせ始めたのだ。
「──!? き、桔梗! どうした!」
「桔梗さん!」
「神……私も貴方も、遅かれ早かれこうなる運命だったのでしょうね……。
機関に再生された私の体は……所詮、まがい物……私の魂には、合わないものだったのよ……。
いずれ、私の体は崩れて、最後には消滅するわ……」
「──なんだと……!? 幽玄の野郎……! 俺を、俺を……ち、ちくしょぉぉ……!!」
「怒らないで、神……。いいのよ、これでいいの……。
今の私は、本来この世にいてはいけない存在……これで元に戻るだけなのよ……」
「織宮さん、何とかできませんか……?」
籐堂院の意を受けるように織宮は直ぐに小走りで三人のもとに駆け寄ると、
彼は苦しそうに顔を歪ませる彼女の体に手を置き、何かを唱え始めた。
俺の失明さえも治癒させてみせた織宮の回復の力──だが、その力を持ってしても、
彼女が苦しみから解放される様子は一向に見えない。
すると、やがて織宮は、彼女から手を離して無言で顔を横に振り始めた。
「瑞穂さん……私のこの能力は、私が神から得た力を相手に直接送り込むことで、
その人が持つ自然の治癒力を増幅させるものなんですが……
この方の場合、送り込んだ力がどんどん体外へ抜けてしまう……。
そう、まるで穴の空いた容器に、水を注ぎ込むように……これではどうすることもできません……。
残念ですが……」
「そ、そんな……!」
「……言ったでしょう? 遅かれ早かれ、こうなる運命だって……。
私がすべきことは、この運命に逆らうことじゃなくて、運命を受け入れること……これでいいの」
三人のやり取りをみて、俺は夜叉浪の言葉を思い出していた。
(……奴は、成功確率1%の実験を受けて、奇跡的に復活したと言っていた。
その奇跡が起こらなかった者の末路が、あの桔梗とかいう女の今の姿ということか……)
「師匠……もう一度、私と共に機関と闘いましょう。桔梗さんの命を弄んだ者共に、復讐する為に……!
織宮さん、師匠を治してあげてくだ──」
籐堂院の肩を、神が待ったをかけるようにガシっと掴むと、
一つの間を置いた後にゆっくりと喋り始めた。
「……瑞穂。俺はもう、お前とは闘えねぇ……。そうだろ? 一度はお前を本気で殺そうとした男だぜ……?
今更、また仲良くやりましょうなんて言ったところで、誰にも信じちゃもらえねぇさ……」
「師匠、そんなことは……」
「それにな……俺はお前と闘い敗れ、そして桔梗の言葉を聞いて分かったんだよ……。
この世の法則を捻じ曲げてまで死んだ人間を復活させても、結局良いことはねぇってな……。
桔梗もあの世で一人じゃ寂しいだろうしよ……大人しく、一緒に逝くことにするぜ……」
籐堂院が肩を小刻みに震わせ始めた。
敵として倒した相手とはいえ、彼は親であり師──。込み上げてくるものがあるのだろう。
だが、それでも涙を流そうとしないのは、ここ敵地であり、自分一人が感情に流されている
場合ではないと考えているからだろうか。
「瑞穂、お前はこれから、更に激しい闘いを繰り広げることになるだろう。
……そんなお前に、俺からの最後のプレゼントだ。
俺は、折れた『天之尾羽張』など認めない──」
不意に神の異能力が再び発動──鞘に納められていた籐堂院の刀がひとりでに抜かれ、
空中に浮き上がった。刀はそのまま空中を移動すると、床に突き刺さっていた切っ先に吸い付く
ように合わさり、瞬時に戦闘前の状態へと修復されていくのだった。
「……折れた『天之尾羽張』が。師匠────ハッ!」
一度、修復された愛刀に目を向け、再び神を振り返った籐堂院が驚くように小さな声をあげた。
いや、驚いていたのは籐堂院だけではない。
高山も織宮も、そして俺も──無言ながらもそれぞれ驚きの表情を隠せないでいた。
目を閉じ、体を寄り添わせながら倒れる神と桔梗の体の上から、
煙のようなものが立ち上っているのだ。しかも、その煙は寄り添う二人の形をしている。
「瑞穂……悲しむことはねぇぜ。お前の周りには仲間がいる……そして、お前の愛する者がな。
あー、隠すな隠すな。あの時のお前の表情を見てりゃ、誰にでも分かるってもんだ」
「し……師匠……」
「この上の階には、まだ生き残りのナンバーがいるはずだ。……いいか、死ぬんじゃねーぞ、瑞穂。
若くして死んだって、何の得にもなりゃしねーんだからな。
……池上、ちとおてんばで色々と手のかかる娘だが、良くみてやってくれ。
高山に織宮、お前らにも、娘を頼んだぞ……」
神の形をした煙の顔の部分がそう言うと、
今度は桔梗と互いに見つめあい、微笑みながら言った。
「お前と過ごしたこの十数年……色々なことがあったが、楽しかったぜ……。……元気でな」
「さようなら……瑞穂ちゃん。この闘いが終わった後、どうか、幸せな人生を……」
「し、師匠! 桔梗さん! 待ってくだ──」
その時、どこから入ったのか、一陣の風がこのフロアを駆け巡り、俺は思わず目を閉じた。
その風はものの数秒でおさまったが、俺が再び目を開いた時には、
そこに二人の体から立ち上っていた煙は、どこにもなかった。
あったのは、目を閉じ、二人で寄り添い眠るようにして横たわる二人の遺体だけだった。
「あれは幻覚か……それとも……」
誰かに訊ねるようにして俺はボソリと呟いたが、それに答えられる者は誰もいなかった。
「し……しょう…………! うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────」
ピクリとも動かない二人を見て死を実感したのか、籐堂院はこれまで抑えていた
感情を抑えきれなくなったように、膝をついて大粒の涙を零し始めた。
その姿からは、もはや幾多の敵を屠ってきた異能者・籐堂院瑞穂の力強さは感じられず、
代わりに神の娘としての、一人の人間としての彼女が、感じられたような気がした。
【籐堂院瑞穂:右脇腹と右頬に軽傷を負うが、『恐怖』を跳ね除ける強い精神力を手に入れる】
【籐堂院神、水瀬桔梗:死亡】
>>171 「それは違う……鳳旋さんは生きてるよ」
えっ!マジで!?
光龍は意表を突かれ、黙り込んだ。
そして美月は、深呼吸をして、意を決し、話す。
「与一の今までは変える事は出来ない。けど……これからは変えられる、私は信じるって決めた。与一を、彼女がどう変わるのか。
もし彼女が道を踏み外しそうになったら私が正す。さっきみたいな事はもうさせない。だから、彼女を、許してあげて」
そう話す彼女の顔からは決意の表情が読み取れる。
彼女は言い終えると光龍に頭を下げた、それが彼女の決意の表れだった。
対する光龍は―――
(あ〜なんかいい話してるな…)
「とりあえず鳳旋とこへ戻ろうぜ、え〜……美月…さん」
そういう光龍の言葉はなぜか敬語、彼は照れながらそう言った。
(よく考えたらこの人年上だったぜ……)
「俺がアイツの事とやかく言える"ガラ"じゃないし、とりあえず…戻ろう」
続けてそう言い二人が来た道を先に戻って行く。途中廊下を曲がった所でいかにも清掃人といった風情の男と出会った。
「うおっ!?なんだアンタ!?」
目の前の男は「ブツブツ…ブツブツ…」と独り言を呟き、いかにも"怪しい人の気配"を放っている。
「先に行ってくれ、この変なのと少し話ししてくる」
後から付いてきた美月を先に行かせようとする。
【美月を先に行かせる、統治と対峙】
回想から立ち返った後、廊下の曲がり角付近で
全身男物のスーツに身を包んだ美女と
着崩した学生服の少年に出くわした。
……出くわすことは【熾火】で分かっていたが。
変なの呼ばわりされるのは心外だ。
「む……変なのとは失礼だな」
どうやら独り言が聞こえていたらしい。
少年の方は女性の方を先に行かせようとしている。
……どうやら二人とも異能者だ。
この街のゲームに巻き込まれたのだろう。
いきなり襲い掛かってこないだけましか。
(まあ、会話次第では余計な仕事を増やさずに済むか)
(弱い異能者を殺して点数稼ぎするのは他の奴がやれば良い。めんどくさい)
統治は怯えず、騒がず、慌てずに受け答えする。
「仕事の愚痴が聞こえたみたいだが独り言は癖だ。気にするな。
…あんたらこそこんな所で何やってんだ。不法侵入だぞ。
ここは使われてない建物って聞いたんだがな。
ああ、俺は此処にいて良いんだよ。
侵入とは管理権者の意に反して立入ることであり許可を取った営業はその限りではない。
俺は許可貰って仕事で来たからな。この格好見れば分かるだろ」
統治はモップを翳してみる。
「俺は此処の建物の掃除と点検頼まれてるんだよ
ほら。土地の管理者からの見積書と社員証」
ポケットから書類とクリーンアップサービスの
貳名クリーンアップサービスの社員証を二人に見せる。
「お前らこんな廃屋でデートかきもだめしか?
…まあ不法侵入は多めに見てやるし、別に此処にいても良いが仕事の邪魔はするなよ」
統治はめんどくさそうに手をプラプラさせた。
態度はやる気なさげだが光龍たちを冷ややかに見つめている。
(能力者だ。波動を隠すことが出来ない事から
この戦いに巻き込まれ、此処に身を隠したと思しき異能者。
銃器を所持している事も丸分かりだ)
銃を身につけたものが帯びる衣服のラインをまるで誤魔化せていないし。
重心が微妙にずれている。ポケットにLの字に温まった物体が入ってる。
(仕掛けてくるのなら仕方が無いが…めんどくせえな)
【余計な仕事を増やしたくないので普通の反応を装う】
>>182>>187-189>>194 「なぜって……それが――人を殺す事が私の"仕事"だったからです。そう、あなたの言ったように機関の命令です。
学校を卒業して、就職をして、気が付いたらそこに私は居ました。殺したら、また殺して、また殺す。毎日がそれの繰り返しですよ。
ハッ、機械的とでも言うんでしょうね、この時の私を。この力で、この手で人を殺す事に全く抵抗がなかった――」
彼女は自分の右手を眺め、まるで自分の平凡な半生を語ってるかのようだった。
非日常的もなく、異常ですらないのだ。彼女にとって、"人を殺す"と言う行為は『平凡な日常』ぐらいの事なのだろうか。
私は自分のため、私欲のために人殺しをする人間を許せない。それは二度と取り返しのつかない行為だから。
でもきっと、彼女は気づいていない。襲われる側の痛みが………『異能の力』を持ってしまったばっかりに理解できないのだろう。
「でもね、アーリーさん。今の私には友達や自分の近くにいる人を失うのが怖い。
さっき知り合ったばかりのあなたも……いや、もういいです。これ以上話すと私はどうしていいのか分からなくなってしまう」
彼女がどういう人間なのか分かってき気がした。
彼女にはまだ『迷い』がある。少し前までは機関の命令だから機械的に人を殺していた。
だけど今、彼女は迷っている。自分が生きてきた『平凡な日常』に疑念を持っているのかもしれない。
眺めている右手にも何か疑念を持つキッカケが含まれているのだろうか……
彼女はまだ私の村を焼いたような”あちら側”の人間ではなく、"こちら側”の人間になれるのかもしれない――――!!
そんなこと、出来るのかは分からないけれど、これ以上異能力なんてもので人が死んで言い訳ないんだ。
でも、彼女の次の言葉は自分が考えていた甘いモノとは正反対のモノだった。
「あなたが仕掛けてくるのなら止むを得ない、だけど命までは奪いません。手足の機能だけを奪わせてもらう――ッ!」
彼女が手袋を脱ぎ捨てると、そこには犬のような綺麗な黒い体毛が生えている。
そして、その手には三本のナイフ……があることを認識する前に、彼女はそれをこちらに投擲した。
「くっ……!」
「――ッ!コンアホウがッ!!」
「……へ?」
私が迎撃の動きを見せる前に、今まで私達の話を黙って聞いていた鳳旋さんが動いた。
彼は一気に彼女との距離を詰め――――
…コココン!
ナイフから私を守る壁として、彼らが使っていた食卓を舞い上げたのだ。
カチャン、カチャン………ガシャァァン!
先に落ちた皿を更に砕くような形で、食卓は床に落下し、その激しい粉砕音と共に壁としての役割を終えた。
「コラァ!!」
その声に驚いたのは、彼が姫野さんの額を箒の先っぽで小突いた後のことだった。
私はまだ、自分が警戒の体勢を解いていないのも忘れてその光景を呆気にとられて見ていた。
「黙って聞いとったら…何をしとんじゃオマエラッ!!」
彼の言葉に含まれるのは、先程まで人の話も聞かずに肉を頬張っていた時や、光龍さんと喋っていた時のような雰囲気じゃない。
純粋な怒り。戦いを激しく嫌悪しているのか、目の前で命のやり取りをされるのがいやなのか。
何が彼を怒らせたのは分からないが、彼の怒りは彼女に向かっているのは確かだった。
彼は姫野さんの胸倉を掴み、叱り立てるかのように怒鳴った。
「いいか!オマエに今まで何があったかは知らんッ!!
だが、どうしてそんな物騒な物の考えしか出来んのじゃ!?オマエは本当にそれで良いのか!!
そんな力で人を殺して、傷つけて――力は――力は正しい事に使うものじゃ!少なくとも自分の正しいと思える事にな!!
自分が本当に正しいと思ってる事をよく考えろ―――!!」
私が姫野さんに問い掛けた時とは全く違うタイプの言葉の畳み掛け方だ。
荒々しくも彼女の耳に、脳に、心に届かせようと必死に彼が怒鳴っているように、私には見えた。
彼は姫野さんの胸倉を放し、最後にこう付け加えた。
―――それでもわからないって言うならワシがその根性叩き直したるッ!!―――
彼が言う事はもっともだった。彼女は自分の周りの人間を失いたくない。だから、機関に従って人を殺す。
それを彼女は正しい、と考えてるのか。
鳳旋さんに続くように私はしゃべりだした。
「姫野さん。あなたは、本当は機関になんか居たくないんじゃありませんか?
…………実は私も三年前まで機関に居たんです。」
私の言葉に彼女は少し驚き表情を見せた。
「私は身体能力が高いわけでもないし、異能力が強力なわけでもないし、ずば抜けて頭がよかったって訳でもなかった。
そしてある日異能力の発芽実験に掛けられ、失敗。そして、"処分”されそうになったんです。
でも、こんな私でも人の手を借りて機関から逃げ出せた。だから、きっとあなたも逃げ出せるはずです。
姫野さん、私が手を貸しますから……機関を抜けだしませんか?鳳旋さんが言ったような”自分が正しいと思える事”に力を使うために。」
自分が言ってるのがどれだけ無茶な事なのか、自分でも良く分かっている。
機関から脱走した者は、その約九割が殺されている。
生きているのはほんの一握りの人間。三桁もいかないような人数だ。
だけど、彼女を出してあげたい。人殺しが当たり前の『平凡な日常』から―――
【アーリー:姫野に機関から逃げ出さないか?と問う】
>>216-217 「む……変なのとは失礼だな」
変なのを変なのと言って何が悪い。
「仕事の愚痴が聞こえたみたいだが独り言は癖だ。気にするな。
…あんたらこそこんな所で何やってんだ。不法侵入だぞ。
ここは使われてない建物って聞いたんだがな。
ああ、俺は此処にいて良いんだよ。
侵入とは管理権者の意に反して立入ることであり許可を取った営業はその限りではない。
俺は許可貰って仕事で来たからな。この格好見れば分かるだろ」
そう言って俺達に清掃員ルックを見せ付けてくる。
「俺は此処の建物の掃除と点検頼まれてるんだよ
ほら。土地の管理者からの見積書と社員証」
む…確かに、、美月がなんだか納得いかなさそうにしてる。
「お前らこんな廃屋でデートかきもだめしか?
…まあ不法侵入は多めに見てやるし、別に此処にいても良いが仕事の邪魔はするなよ」
デート……その発想は、無かった。
【統治の事を"ヘンな清掃員のオッサン"だと思っている】
>>211 「リィィィッス! 頭部だ、頭か首をブチ壊せ!」
もう一人の異能者は邪魔だ…
亡者の腕がリースの足元から突き出し、彼の右足を掴んだ。
「ウワッ!」
亡者は強い力で、リースを地中に引きずり込もうとする。
リースは、その亡者の頭部を氷弾で破壊し、機能を停止させる、だが亡者は、機能を停止してもその腕を離すことは無かった。
「くっ!」
亡者は、そのままリースの足枷になり、彼の動きを鈍らせる。
続けて、這い出る亡者達がリーズを掴み、引きずり倒す。
「うぁああ!!」
「お前はいらない…やれ…」
ツバサの号令と共に、亡者の群れは津波となってリーズを飲み込む―――
【大量の亡者達がリーズに襲い掛かる】
──ふと窓を見ると、大きな雨粒が窓を叩きつけていた。
遠くの空では「ゴロゴロ」という音を発して、稲光が瞬いてもいた。
どうやら先程降り始めた雨が更に激しさ増しているらしい。
静かなるナガツカインテリジェンスビル22階のフロアには、そんな雨音だけが響いていた。
「動けますか? よかったら、私が怪我を治して差し上げますが」
「……いえ、傷の方は軽いもので済みましたので、何とか自力でも動けます。大丈夫です」
そんな雨音の支配を破ったのは、床に座り込む籐堂院に手を差し伸べた織宮の声と、
その手を掴み、ゆっくりと立ち上がりながら頷いた籐堂院の声だった。
籐堂院は立ち上がると、そのまま自分の愛刀が突き刺さっている場所まで歩き、
感触を確かめるようにして刀を引き抜いた。
──ヒビ一つ、刃毀れ一つない刃に、フロアの電灯の光が反射し、鈍く輝く。
紛れもなく、籐堂院の愛刀は完全に修復されていた。
「お前の親父さんも味なことをしやがるぜ。まさか最後にこんな置き土産をしてくれるとはな」
高山がまるで刀に見とれるような目でそう言った。
籐堂院は刀を二、三度、近くの空間に向けて振り抜くと、改めて刀身に目を向けながら呟いた。
「……この手に吸い付くような一体感。そして、軽く振り回しただけで空間を裂いたようなこの感触。
どこか、以前にも増して刀が活き活きとしたような、そんな感じだ……。
一度は死んだが、師匠が新たな命を吹き込み、蘇った……そうだ、これは『新・天之尾羽張』……!
……師匠、貴方からの最後の贈り物……ありがたく受け取らせていただきます」
刀の柄を力強く握り締めた彼女は、長い髪を宙に舞わせながら颯爽とした動きで刀を鞘へと納めた。
その姿を見届けた俺、いや、俺や高山の表情には、どこか笑顔のようなものがあった。
「な、なんだ……? 何かおかしいことでも言ったか?」
怪訝そうな顔をしてそう訊ねる籐堂院に、俺達は交互に答えた。
「なに、多少顔付きが変わったんじゃねーかと思ってな? それも、良い方向によ」
「フッ……立ちはだかる師の『壁』を乗り越えた、その結果といったところか。
見事だ、籐堂院。お前のその強さがあれば、もはや敵に背を見せるということもないだろう」
籐堂院は軽く微笑みながら、それでもクールな態度で言い返した。
「これも君の……いや、君達のお陰だ。
師を自らの手で倒してしまったことに対してはいささか心苦しいものがあるが、
それでもこれからの闘いを見据えれば、私にとって良い試練であったといえるだろう」
そう言う籐堂院の眼からはこれまでに感じたことのない力強い輝きが放たれていた。
それは、異能者・籐堂院瑞穂の復活を、意味しているようであった。
「──ところで瑞穂。お前、誰に恋してんだ?」
「──ブッ!」
不意に高山から、誰もが予想だにしない質問が飛び出し、籐堂院は驚いたようにふきだした。
高山はニヤついた目つきでぐぐっと顔を籐堂院に近付け、更に訊ねた。
「お前の親父さんがそう言ってたのを、確かに聞いたんだぜ?
いやいやいや、一見『私は男になど興味はない』とでも言いそうなイメージのある瑞穂が、
まさか恋をしてるなんてな〜。……で、そいつはどんな奴なんだ?」
先程まではクールな表情だった籐堂院の顔が、途端に動揺するように真っ赤に染まった。
「き、急に何を!? ち、ちちち違うんだ! わ、私は別に……そのっ……」
「へぇ、違うのか? じゃあ、そこら辺にいる小汚いおっちゃんにでも惚れたのか?」
「違う! ……もっと身近にいて、色々と頼りにできる人だ! ──ハッ! し、しま……」
「なんだ、やっぱり惚れてる奴がいるんじゃねーか。
って、身近にいる奴って……まさか俺達の中にいるってか?」
高山はこの場に居る面々の顔を一瞥する。
「…………まぁ、ありえねぇな」
俺や織宮を見て何を思ったのか、彼は引きつった表情を見せた。
織宮も織宮で、一人何か勘違いしたような締まらない顔をしている。
そうして、それぞれが複雑な思いを顔に出す中、俺は一人冷めたように「フッ」と笑うと、
彼らに背を向けて階上へと続く階段の前へと立った。
「何だっていいが、お喋りはそこまでにしておけ。先はまだ長いんだからな。
──行くぞ」
そう一言残し、俺は階上目指して、先頭を切って走り出した。
「あれ? 何だか妙なところに出ちまったな。これまでのフロアとは内装が違うぞ。
まさか、ここが最上階?」
「……いや、前を良く見ろ」
22階を後にした俺達が次に行き着いた場所は、何もないだだっ広い真っ白な空間だった。
22階から上ってきた階段はこの階で切れているせいもあってか、
一瞬高山が最上階に着いたのかと錯覚していたが、俺は目の前に広がる空間の奥に向けて
あごをしゃくりながら、それを即座に否定した。しゃくった先には開かれたドアがあり、
その中は暗闇に包まれていながらも、微かだが更に階上へと続く階段の存在が確認できる。
「22階から数えて、ここは恐らく37階だ。最上階はまだ上だな。
何もないところを見ると、この階はもしかしたら使われていないフロアかもしれないな」
そう言うのは籐堂院。
「……ま、何にせよ、何も無いところに留まる必要はない。一気に駆け抜けるぞ」
俺はそう話を纏めて、再び走り出そうとした──だが、そんな俺を籐堂院の一声が制止させた。
「──池上! 危ない!」
「──ッ!?」
瞬時に足を止めた俺の目の前を、何かが「ヒュッ」と風を切って通過していった。
その何かは「ドス」という音を立てて壁に直撃──
直ぐにそこに目を向けると、そこにはナイフが深く壁に突き刺さっていた。
籐堂院が声をかけなかったら、ナイフは壁ではなく確実に俺の体に突き刺さっていただろう。
「チッ! 大人しくくらっていればよかったものを……」
突然、フロアに謎の声が鳴り響いた。
全員がその声が発せられた場所に視線を向ける──すると、そこにはどこから来たのか、
スーツを着込んだサラリーマン風の男が立っていた。
「何だ貴様は!」
「私の名は『曾壁』。貴方がたの敵ですよ」
「機関の異能者か……。しかし、一人で待ち構えるとは余程自分の実力に自信があるらしいな。
我々を甘く見ると痛い目を見るぞ?」
籐堂院がそう言うと、『曾壁』と名乗った男は不気味に口元を歪ませた。
「一人? 私がそう言いましたか? ──『七重』さん、出番ですよ」
曾壁は「パン」と手を叩く。
すると、階上へ続く階段が見える、あの奥の暗闇から一人の男がのそっと現れた。
男は日焼けでもしているのか肌は浅黒く、服の上からでも隆起した筋肉が窺える。
見るからに格闘家といったような風貌だ。
「この方は『七重 凌司』さんと言いましてね。今日の朝、私が町で見つけてきたんですよ。
時間が無かったので連れて来たのは彼一人ですが、それでも貴方がたを片付けるくらいなら、
私と、彼一人で十分でしょう」
曾壁は自信たっぷりに言い放った。
だが、俺はそんな彼に対し、嘲笑うように鼻を鳴らした。
「……何がおかしいのですか?」
「要するに、機関が駒不足だから、その代わりに外部から駒を補充してきたんだろう?
そんな即席の手下を、たった一人作っただけで得意気になっているお前が、滑稽に見えたのさ」
「……そうやって笑っていられるのも今の内ですよ。──七重さん!」
曾壁が名を呼ぶと、七重は黙ってこくりと頷き、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
俺はその七重を迎え撃つように右足を前を踏み出したが、
その時、待ったをかけるように俺の肩を高山が掴んだ。
「まぁ、待て。オメーは外で敵と闘い、さっきは瑞穂が闘ったんだ。
そんで織宮は戦闘に向いてねーとなると、次は俺の番だろ? オメーは引っ込んでな」
高山は肩から手を離すと、そのまま曾壁の前へと近付いていった。
そんな高山を制止させようと声をかけようとするが、今度は籐堂院が俺の肩を掴んだ。
「曾壁とかいう男は彼に任せておけばいい。だが、もう一人の男の方も相手をするとなると、
高山一人では苦戦するだろう。ここは、私が行く」
「お前は先程闘ったばかりだ。無理をする必要はない」
「……多分、あの七重という男は、私と同様に高い身体能力を駆使して闘うタイプだ。
特に身体能力が高められているわけでもない君とは、相性が悪いだろう。
それに、七重は恐らく、催眠術か何かで曾壁に操られているに過ぎない、この闘いとは無関係の人間だ。
君がその気になれば勝てるかもしれないが、そうなると彼の死は免れない……そうだろう?
無関係な人間を殺めるのは、君の本意ではないはずだ」
「つまり、お前ならあいつを傷つけることなく、高山が決着をつけるまで持ちこたえることができる……と」
籐堂院は真剣な表情で頷いた。
「……お前に任せる。……好きにしな」
籐堂院は俺に向けて微笑むと、直ぐに顔を七重に向き直し、刀を抜いた。
だが、抜かれた刀の刃は七重には向けられておらず、逆に峰の部分が向けられていた。
【池上 燐介:ナガツカインテリジェンスビル37階に到達。戦闘を静観】
【機関異能者・曾壁、七重 凌司:再登場】
【籐堂院瑞穂、高山宗太郎:戦闘を開始】
>>187-189,
>>194,
>>218-219 ナイフは直線的な軌道でアーリーさんの手足目掛けて飛んでいく。
が、彼女に届く寸前、三本のナイフは突然現れた大きな壁に阻まれた。
それとほぼ同時に、私は箒の柄で頭を叩かれていた。
>「コラァ!!」
目の前には箒を片手に持って立っている鳳旋さん。
私は鳳旋さんに頭を叩いかれたようだ。彼はアーリーさんと私の間を阻むように立っている。
どうやら壁と思われた物は彼が咄嗟に持ち上げた食卓だったようだ。
>「いいか!オマエに今まで何があったかは知らんッ!!
だが、どうしてそんな物騒な物の考えしか出来んのじゃ!?オマエは本当にそれで良いのか!!
そんな力で人を殺して、傷つけて――力は――力は正しい事に使うものじゃ!少なくとも自分の正しいと思える事にな!!
自分が本当に正しいと思ってる事をよく考えろ―――!!」
鳳旋さんは私の胸倉を掴んで激しい剣幕で怒鳴りつけてくる。
まるで子に叱り付ける父親のように。
彼は私から手を離し、最後にこう付け加えた。
―――それでもわからないって言うならワシがその根性叩き直したるッ!!―――
そんなこと言われたって、私には正しい力の使い方なんて分からない……
いいや、この――手に入れてしまった力は生きるために使うってあの時誓ったじゃないか。
それなのに私は――――
>「姫野さん。あなたは、本当は機関になんか居たくないんじゃありませんか?
…………実は私も三年前まで機関に居たんです。」
アーリーさんが静かで落ち着いた声で鳳旋さんに続いて私に話し掛けてきた。
彼女は自分の過去を告白する、機関の人だったなんて……
>「私は身体能力が高いわけでもないし、異能力が強力なわけでもないし、ずば抜けて頭がよかったって訳でもなかった。
そしてある日異能力の発芽実験に掛けられ、失敗。そして、"処分”されそうになったんです。
でも、こんな私でも人の手を借りて機関から逃げ出せた。だから、きっとあなたも逃げ出せるはずです。
姫野さん、私が手を貸しますから……機関を抜けだしませんか?鳳旋さんが言ったような”自分が正しいと思える事”に力を使うために。」
「そ、そんな事言われたって、私は……私は……―――ッ!」
――いつまで、そんな意地を張り続けてるのかしら?――
私の脳内に直接囁き掛ける女性の声。
つい最近聞いた知っている声。でも確かにあの時……
――そんな事はどうでもいいの。私は貴女と一つになった、ただそれだけの事よ。
貴女は私、私は貴女。だからあなたが思ってる事も何でもお見通し。
つまらない意地張ってないで、自分に正直になりなさい――
今までいた機関を抜ける事なんて出来ない……
私が居なくなるだけで多くの人を困らせちゃうし、裏切る事にもなる。
だから、これは私自身が選んじゃいけない事なの……
――じゃあ、あなたは一生あのつまらない屋上の上で同じ事を繰り返し続けるの?
それが嫌だからあなたはあそこから出たいと思ったんじゃないのかしら?
もっと楽しい事はたくさんある。あなたはもう充分彼らのために働いたわよ
せっかく与えられた命をもっと有意義に使う事ね。ホラ、泣いちゃ駄目よ――
そう……なのかな……そうだね、そうだよね。
彼女の言葉の一言一言が全て私の胸に突き刺さる。
そうだ、私はあの場所が嫌になったから外へ出たいと思ったのに、
自分から戻ろうとしてるなんてバカだ。人の事ばかりで自分の事を全く考えていなかった……
いつの間にか私の目からは涙が流れていた。
私はそれを拭ってアーリーさんと鳳旋さんの二人の方を向き、口を開く。
「……私はあの場所から――機関から逃げたい。これからは誰にも縛られる事なく、自由に生きたい」
私はポケットにしまっていた携帯電話――本当の名前は機連送と呼ばれる物を、取り出して、地面に叩きつけ、
改造された異能犬の強靭な足でそれを砕き潰した。踏まれた箇所は木端微塵、もう使えそうにない。
「その為に……私に力を貸してくれませんか?」
私はアーリーさんに近づき、笑顔で手を差し出す。偽りの無い本当の笑顔で――
【機関から抜ける事を決意】
【アーリーに握手を求める】
>>197 「思い残せし異界の住人よ。この世界に未練あれば
我、手助けとなりて――」
「むっ、させるか!」
豹の如く駆け出すレオーネ。その目の先には、
やや後方に居たリボンを身に着けた少女が映し出されていた。
それほど離れていない為か、あれよあれよという間にひかるに肉薄すると、
何事か呟いているひかるの腹部――鳩尾にとりわけ重いパンチを叩き込む。
同時にそのまま流れるような動作でひかるを背負い投げたのだ。
急所を突かれ、力が抜けて動けない状態で投げ飛ばされた為か、
流石のひかるでも満足に受身を取れなかった。
誠一郎は反射的に後ろへ飛び退く。距離を取ったと同時に、自身の異能力を瞬時に発動させた。
自分の罪が、そのまま自分自身へと帰って来る能力……。
その空間で"判決"を下せるのは、誠一郎ただ一人なのだ。
「この空間で、レオーネ――君の罪を断罪する……!
――磔刑!」
レオーネが飛び退くよりも素早く地中から茨の蔦が、彼の足に絡み付いて行く。
それらは徐々に肉へと食い込んでいき、レオーネの顔を苦痛に歪ませるのであった。
「グッ……オォォォォォッ!?」
咆哮と共に茨はレオーネの体をバラバラに引き裂く。
磔刑というよりも四肢断裂と言う方がお似合いの刑であった。
「案外……呆気なかったわね」
痛みの残る腹部を擦りながら立ち上がるひかるの言葉に耳を傾けず、
すぐさま次の攻撃への準備に取り掛かる誠一郎。
彼には解る。こんな物であの男が斃れる筈が無いと……。
騙し合いに掛けては誰よりも彼が一番だ。恐らくこれは奴の技『幻覚投影』だろう。
そして直後、ひかるはそれが正解であった事を思い知らされるのだった。
誠一郎の"磔刑"よってバラバラになった筈のレオーネの体が何処にも無いのだ。
「幻覚……!? 彼は何処へ……!」
「ここだよ、塚原くん」
レオーネの姿を探すひかるに答えるように、その声はひかるの直ぐ近く、真後ろから聞こえてきた。
同時に右腕を掴まれる。はっとなって振り返ると、そこには先程引き裂かれた男がニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
バラバラに引き裂かれたはずの両手両足は、どのようなマジックを使ったのか解らないが無事である。
誠一郎も流石にこんな近くに来ているとは思わなかった。
――思わなかったから、最悪の事態に対する対処が遅れてしまった……。
「捉えたぞ……ゼロ距離だ。『オッカムの剃刀』」
レオーネに掴まれた右腕……。
普段であれば気にも留めない自身の腕が、今は物凄く違和感を感じる。
その存在がでは無く、その中身がである。
中で何かが……何かが蠢いている。いや、何かが出てこようとしているのか?
柔らかそうな右腕の白い二の腕の肉が血飛沫と共に飛び散ると、
その違和感の正体も判明することができた。
よく目を凝らしてみると、血肉に混じって何か"煌びやかに輝く"物体が待っているのが解る。
違和感の答え……。それは直径2センチはあろうかという両刃の剃刀であった。
それが無数としてひかるの右腕から飛び出してきたのだ。
人は思い込みによって、時として釘や刃物を体内に生成してしまう事がある。
それを自身の異能力で自由に操作可能にした物が、この『オッカムの剃刀』なのだ。
体内で自身が思い込みによって作り出した剃刀……。それは一度作り出されればもう止める事は出来ない。
作り出されれば、そのまま筋肉の伸縮によって自ら体外へと排出してしまうからだ。
「……まずは一人」
氷のように冷たいこの一言が、ひかるの意識を彼岸の彼方へと連れ去って行く……。
糸の切れた人形のように崩れ落ちるひかるを背に、レオーネは次の標的を誠一郎へと移した。
「目に見える物が真実とは限らない。そうだろう? 誠一郎」
確かにその通りだと、誠一郎は心のどこかで薄ら笑いを浮かべたのであった……。
「私のフェイズ2はこんな物じゃない。今日は特別だ。
私の"とっておき"を見せてあげよう」
レオーネはニヤリと口元を歪め、深く息を吐いた。
その隙に誠一郎は血だまりに倒れたひかるの様子を窺う。
胸が動いていると言う事は、呼吸はしている。
だが、出血の量が多すぎる。早めに屋敷に連れて帰らねば命が危ない。
幸い屋敷には治癒系異能者が医者代わりとして仕えている。
問題はレオーネがこのまま無事に、ここを帰してくれるかどうかだろう。
「コォォォォ……」
――とっておきはコケ脅しじゃない、今彼に近づくのは危険だ。
そう誠一郎が思ったかどうかは解らないが、白服の紳士は微動だにせずじっと自分の位置を守っていた。
「――神具創造……!」
レオーネが掌を空へかざすと、その手の上に一本の深紅の長槍が浮かび上がった。
それは禍々しく、それでいて澄んだ赤い色をしている。
難なくその槍を振り回すと、風圧で誠一郎の髪がなびく。
最初は幻覚かと思ったが、どうやら違うらしい。
「待たせたな、誠一郎。これがフェイズ2の本領だ」
中世の騎士が使っていた騎馬槍を髣髴とさせるその槍を、
レオーネは低く構えた。
【レオーネ:現在地 裏山】
【塚原ひかる:気絶中】
>>215,
>>216-217,
>>220 >「とりあえず鳳旋とこへ戻ろうぜ、え〜……美月…さん」
>「俺がアイツの事とやかく言える"ガラ"じゃないし、とりあえず…戻ろう」
光龍がそう告げると美月は無言で頷き、二人は歩き出す。
彼らは自分が通って来た道を、与一達のいる食堂へ戻るため歩く。
>「うおっ!?なんだアンタ!?」
だが、途中で廊下を曲がったところで見知らぬ男に出くわした。
赤いツナギを着ていて、片手にはモップを携えている、いかにも清掃人といった感じの男。
どうやら二人に気付いていないのか、清掃人は独り言を呟いている。
>「先に行ってくれ、この変なのと少し話ししてくる」
光龍は美月を先に行かせようとする。
彼女は歩き出し、丁度清掃人の背後に回った辺りで今まで独り言を呟いていた彼が喋った。
>「む……変なのとは失礼だな」
>「仕事の愚痴が聞こえたみたいだが独り言は癖だ。気にするな。
…あんたらこそこんな所で何やってんだ。不法侵入だぞ。
ここは使われてない建物って聞いたんだがな。
ああ、俺は此処にいて良いんだよ。
侵入とは管理権者の意に反して立入ることであり許可を取った営業はその限りではない。
俺は許可貰って仕事で来たからな。この格好見れば分かるだろ」
清掃人は二人に見えるようにモップを翳す。
>「俺は此処の建物の掃除と点検頼まれてるんだよ
ほら。土地の管理者からの見積書と社員証」
次に彼はポケットから書類と、清掃会社の社員証を見せた。
光龍は納得した様子だが、美月は疑問に思っていた。
なんでこんな廃屋に清掃人が派遣されるのか?使われていない場所に清掃人がやってくるなんて変だ。
そしてここは機関が管理しているはずの会堂。土地の管理者とは、機関の事で、もしかして彼は……
>「お前らこんな廃屋でデートかきもだめしか?
…まあ不法侵入は多めに見てやるし、別に此処にいても良いが仕事の邪魔はするなよ」
どうやら彼は二人しかいないと思っているようだ。
という事は与一達が居座っている食堂の方にはまだ行っていないという事になる。
美月はそのまま後ろを向き、食堂へと歩き出した。
だが、美月は再び後ろを向き、付け足したように彼の言葉を冷たく否定した。
「デートじゃない」
なぜか光龍がダメージを受けたような顔をしていたが
美月はまた歩き出す、新たに異端者が現れた事を彼女らに伝える為に。
冷静を装っていた彼女だが、内心ではどこかに焦りの様子が見えていた。
【光龍と合流】
【そのまま、銀水苑を無視し食堂へ歩き出す】
>>230,
>>220 >「デートじゃない」
歩き出す彼女を見送る。
不審に思われぬよう走らず歩くのは大したものだが
心火は焦りの色に揺らめき体温が緊張で僅かに上がっている。
(……いよいよきな臭くなってきたな)
機連送を取り出して情報をチェックする。
【放棄された会堂の清掃と点検及び調査】
(ここ数日はクソ忙しかったが
……何故このタイミングでこの仕事が入る?)
正直、ここ数日は抹消部隊は大忙しだった。
城栄金剛の「世界改竄」の綻び。世界に漏れ出る異能の痕跡を握りつぶす。
抹消部隊の人員にそれほど余裕は無い。
それなのに俺が此処に寄越されること自体、何か作為的なものを感じる。
正直言って下っ端でも足りるはずの仕事が……
実際の現場では不確定要素のオンパレードだ。
作動する罠や、何人もの異能者の気配と体温。
女が歩き出した方向には更に三人分の体温と異能の気配を感じる。
「……ちっ」
思わずかすかな舌打ちが漏れ出る。
かなりヤバイ状況に巻き込まれていると、勘が告げている。
その時、洋楽のメロディと共に、携帯に偽装された機連送から通信が入る。
「電話か……ちょっと待ってろ」
静かに光龍たちから離れると通信を受ける
抹消部隊からだ。本社が襲撃されているらしい。指示を仰いでいる。
……どうやら向こうも修羅場のようだ
他の二人に聞こえぬよう声を抑えて、向こうの連中の話に答える。
「……荒事は他の奴等に任せお前らは成るべく難を避けろ。
街中に散っている奴らはそのまま仕事を継続。
上もお前らに戦いは期待していない。
この後どうなるにしろ『掃除』をするやつらがいないのは不味い。
静かに、且つ冷静に事態に当たれ。
……上に反意ありとあらぬ嫌疑を掛けられてもつまらん。
上に申し訳が立つ程度やれば全滅しないうちに引け。責任の方は何とかする。以上だ」
機連送から慌てたような声が聞こえる。
上の命令を玉虫色に解釈する事に抵抗が有るらしい
「いいんだよ……もう連中大分上の階まで来てるんだろ?
……俺の予想じゃ上は恐らくお前らや俺の処遇どころでは無くなる。
あ、そうそう、符丁は【マクガフィン】だ。
じゃ、気をつけろ。敵は前にだけいるとは限らん。
こっちはこっちで忙しいんだ。またな」
機連送の通信を一方的に打ち切った。
此方は最悪の場合、たった一人で此処にいる五人ばかりの
異能者の相手をしなくてはならない。
…それはめんどくさいし、戦闘は最後の手段だ。
嫌な予感はひしひしとするが少なくとも今引く事は出来ない。
先ず此処で何をすべきか。とりあえず、先ずは状況と情報の確認だ。
引くのも進むのもそれからでも遅くない
再び戻ると、まってはいてくれたようなので話しかける。
「あー待たせたな。俺のせい置いて行かれたみたいですまんね。
……なんか変だな。掃除に来たはずなのに、
此処の廃屋妙に綺麗に片付いてるんだよ。殆どやる事が無いくらいだ。
さっきの女の子が向かった方向で何か皿かなんかが壊れる音したし…
お前らとその友達が廃屋に入り込んで秘密基地にしたり宴会か喧嘩でもしてるのか?
俺も何が起こってるかさっぱり分からんから
事情も聞きたいし、とりあえず何が起こってるかだけでも見にいこうと思うんだが…どうする?」
そういって、ゆっくりと美月の向った食堂の方に歩き出す。
【美月を見送り、光龍に食堂の方に行かないかと提案】
>>229 「――さぁ、ラウンド2だ。本気で行くぞ!」
レオーネは槍で誠一郎の顔を狙って来たと思えば、それを基点に横に薙ぎ払って来る。
かと思えば、体を狙った突きから体術を絡めてくる。
変幻自在……。レオーネの槍捌きは、そんな言葉が心底似合う動きであった。
傍から見れば誠一郎が押されているように見える。
だが、防戦一方を許せる誠一郎でもない。
彼は虎視眈々と反撃のチャンスを窺っていたのであった。
後退や横とびを上手く使い、自分の求める状況に誘い込んでいく。
勿論、レオーネもそれを感づいているが、何か策を施してあるのか攻撃の手を緩めようとはしない。
「この『パーシアスの矛』、これほどまでに避けていくとはお見事としか言いようが無い。
お礼に私の最高の技を見せてやろう」
基礎
思考強制と幻覚投影がフェイズ1だとするならば、
発展
この技はフェイズ2に当たる。
レオーネは自分と周囲の人間に"槍"という武器を認識させたのだ。
余りにも禍々しい形状の"それ"は、レオーネの心を体現でもしているのか……。
応用と発展――。それこそ、レオーネ達が長束公誠から教わった異能の全て。
例えどんな能力を持とうとも、工夫次第では他の如何なる異能にも勝る。
無論、それは誠一郎の異能力も同じであった。
「来るか、レオーネ。串刺しの刑……!」
誠一郎が虚空より将来した物、それは対を成す二本の長剣であった。
西洋剣は日本刀よりも幾分か切れ味に劣っている。
それは純粋な切れ味よりも重さによって叩ききると言う事に重点を置いているからだ。
長剣の一振りは、いとも簡単に人間の首を骨ごと断ち切れる。
誠一郎の剣もまた、例に漏れずレオーネの首を彼の周囲を威嚇しながら狙っていた。
レオーネもそんな物に易々と当たってやる訳には行かないとばかりに、
剣の動きを注意深く観察しながら誠一郎を攻めて行く。
「――仕方が無いな」
『カッシーニの隙間』……。
それは脳の知覚を司る分野に強制的に空白を空ける事によって、
自身の存在を一瞬ではあるが消す事が出来る。
周囲の人間には、レオーネが恰も瞬間移動したように見えている事だろう。
「カッシーニか…!」
周囲の気配を隈なく探す誠一郎であったが、レオーネの方が一瞬早く誠一郎を捉えた。
誠一郎の背後に難なく回りこむレオーネ。
「おいおい、私はここだよ」
「誠一郎、お前とは長い付き合いだったが、これまでだな。
――我が魔槍、受けてみよ!」
相手を完璧に捉えたのは、レオーネが先だったようだ。
「ヴィア・ラ・テア!」
中断の構えから遠心力を利用して放たれた、
天の川の名前を冠したその強烈な突きは、
大地を削り取り深い溝を作るほどであった。
しかしながら、完璧に捉えたとは言い難く、
誠一郎本人の姿は既に露と消えていた……。
【レオーネ:現在地 裏山】
【長束誠一郎と戦闘中】
──七重から放たれた鋭いパンチを、籐堂院が柔軟な身のこなしで避けていく。
一方で、籐堂院から繰り出された無数の剣閃も、七重の華麗なフットワークでかわされていく。
二人の戦闘は、早くも一進一退の様相を呈し始めていた。
「目を醒ませ! 私達との闘いなど、君は望んでいないはずだ!」
「…………」
籐堂院が説得を試みるも、七重は操られているせいか一言も発さぬまま攻撃を続ける。
「籐堂院、無駄だ。今のその男に説得は通用しない。
仮に操られているとするなら、その術を解く方法は一つしかない……」
俺は言いながら、互いの出方を伺っている高山と曾壁に目を向けた。
術を解く方法──それは、術者である曾壁を倒す以外には考えられないであろう。
「貴方一人で私と闘うつもりですか? やれやれ、私もナめられたもんですね……。
──まぁ、それも良しとしましょうか。さて、貴方は心の奥底にどのような感情をお持ちかな?」
曾壁はかけていたサングラスを外し、何かを見透かすような目をひとしきり高山に向けると、
やがて口元を歪ませて言った。
「やはり、貴方にあるのは機関に対する激しい怒り……
フフ……それを上手く隠しているようですが、私の前では所詮無駄なこと。
その感情、利用させてもらいましょう……!」
瞬間、高山に激しい眼光が叩き付けられると、高山はそれに圧されるように目を閉じ、
動きを固まらせた。
「さて、高山さん。貴方が憎悪する敵は、そこの灰色の髪の毛の男と、
神父の格好をしている男です。二人を貴方自身の手で片付けてしまいなさい」
曾壁の言葉を聞いた高山は、ゆっくりと目を開けると、目だけをこちらへ向けた。
それを見た織宮が、一歩後ずさりをする。
「……ゲゲ! ま、まさか……」
織宮の考えたことが正解だといわんばかりに、曾壁が鼻で息を漏らした。
「フフッ……そのまさかですよ。私は彼の怒りを利用して、正常な判断力を失わせたのです。
もはや彼は、貴方がたを殺すまで闘いを止めない、戦闘マシーンとなったのです。
言ったでしょう? 貴方がたを片付けるくらいなら、私と七重さんの二人で十分だと」
「なに!? 駄目だ高山! 奴の言いなりになっては──うっ!」
籐堂院の頬を七重の拳がかすめた。
籐堂院は七重を食い止めるだけで精一杯、そして織宮も闘いに不向きと考えると、
俺は一人で高山と曾壁の二人を相手にしなければならないだろう。
これは予想外である──。
──などと、普通ならこうして危機感を感じるところであったろう。
しかし、今の俺がそのように感じることはなかった。
それどころか、俺は冷静な態度を崩すことなく余裕の表情で言い放った。
「なるほど……相手が持つマイナスの感情を刺激して、自分の言いように操る……
それがお前の使う催眠術の正体か。……ま、そんなところだろうと思ったがな」
「……仲間割れの闘いを前に、嫌に冷静ですね。開き直ったということでしょうか?」
曾壁は怪訝そうに訊ねた。俺はそれに答えるように、高山に向けて顎をしゃくってみせた。
曾壁が何かと確かめるように高山に目を向ける──その瞬間、彼は驚きながら横に飛び退いた。
彼に向けて、いつの間にか大きな炎の塊が放たれていたのだ。
炎は飛び退いた体をかすめていき、曾壁が背にしていたフロアの壁に直撃した。
「なっ……こ、これは一体……!?」
驚きの声をあげる曾壁に、ポキポキと指の関節を鳴らしながら高山が近付いていく。
「人の感情につけ込み、それを利用して他人を闘わせる……
ケッ! てめぇは俺の一番嫌いなタイプのようだぜ!」
「ば、バカな! 貴方は私に操られているはず……! 何故、私を攻撃する……!」
「操られる? へっ、悪ぃがそんな気分は全くしねぇな。
それより、何だか今まで以上にてめぇら機関に対してムカついてきたぜ……! 覚悟しな!」
曾壁は自分の力が通用しないことに怯え始めたのか、
徐々に一歩、二歩と後ずさりを始めた。
それを見て、織宮が不思議そうに俺に訊ねてきた。
「ど、どういうことです? 何故、彼には曾壁の術が通用しないのですか?」
「……怒りは冷静な判断力を失わせる。
曾壁は高山の機関に対する怒りを利用して、上手い具合に同士討ちを目論んだ。
だが、誤算だったのは、高山は闘う時、常に怒りに身を任せてしまうタイプであったということだ。
いわば瞬間沸騰型の単細胞……そこに元より冷静さは存在しない」
「と、ということは……」
「そう。元々無いものを失わせようとしても、無意味なのさ……。
逆に怒りを刺激されたことによって、パワーアップしてしまったと見た方がいいだろう」
拳に青色の炎を纏わせて、曾壁に突進する高山を見ながら、
俺はどこか感心したとも呆れたともつかないような口調で呟いた。
シンプル
「俺や籐堂院であったら、案外容易く術中に嵌っていたかもしれん。馬鹿ほど強い……ということかもな」
「──うおおおおぉぉぉぉらぁぁぁああああッ!! 『ベイルイフリィィィィィトォォォォォォオ』ッ!!!!」
「ヒッ、ヒィィィイイイ!!」
強力な炎を纏った両拳が、曾壁の腹部目掛けて勢いよく放たれた──。
「……安心しな! 手当てすりゃ死にはしねぇ! ま、二度と足腰は立たねーだろうがよ!」
丸焦げになり、床に倒れてピクピクと痙攣している曾壁を見下ろしながら、高山が言い捨てた。
怒りながら手加減ができるところも、高山の一種独特の闘い方なのかもしれない。
だが、俺は曾壁に歩み寄ると、そんな彼の心遣いを無にするように、足で曾壁の喉元を踏み潰した。
瞬間、「ゴキャ」という骨の砕けた鈍い音が鳴り、曾壁はピクリとも動かなくなった。
それを見て激昂しそうな高山を冷たく見据えると、すかさず無感情に言い放った。
「生かしておいたら、いつまた俺達の前に現れるとも限らん。念のためだ」
「……お、オメーって野郎は……」
高山は拳を握り締めて掴みかかろうとしてきたが、それを籐堂院の一声が止めた。
「おい、大丈夫か! しっかりするんだ!」
籐堂院に目を向けると、その直ぐ傍の床の上で糸の切れた人形のように
グッタリと倒れ込む七重の姿があった。
「こ、ここは……?」
今まで一言も発さなかった七重が、どこか虚ろな目をしながら訊ねた。
籐堂院はこれまでの出来事を話しながら、今あったことを説明した。
恐らく、七重は何も知らなかったのであろうが、
時折驚きの表情を見せながらも素直にその話に聞き入っていた。
「──と、言うわけだ。私達はこれから更に上の階を目指し、城栄を倒さなければならない。
できれば君にも協力してもらいたいが、強制はできない。ただ、機関を潰さぬ限り、
この先同じようなことが何度も起こるかもしれないということだけは覚えておいてくれ……」
「……俺は、お前達に助けられた借りがある。この借りを返すまで、ここから帰るわけにはいかない。
だが……しばらく動くことはできなそうだ……」
籐堂院がすかさず織宮に視線を向ける。
織宮も自分のすべきことを瞬時に理解したように、手を七重の体に置いた。
「……これまで操られていたせいか、精神に極度の疲労が見られます。
肉体的な疲労ではないので回復には結構時間がかかるでしょう」
籐堂院が判断を仰ぐように俺に目を向けると、
俺は彼女の考えたことを察知してすかさず頷いた。
「分かりました。では、織宮さん。私達三人は先に上の階へ向かいますので、
貴方はここに残って、彼の回復を頼みます」
男の七重と二人だけになることを嫌ったのか、織宮は嫌そうに露骨に繭を顰めたが、
籐堂院の真剣な表情を見て断ることもできなかったのだろう、最後にはコクリと頷いた。
「は、はい……任せて下さい」
「俺も後から必ず駆けつける。その間の織宮の安全も、俺が保障する。
……安心して先へ向かえ」
「では……行くか」
俺と高山と籐堂院の三人は、ナガツカインテリジェンスビル37階に織宮と七重の二人を残して、
階段を駆け上がっていった──。
【池上 燐介:七重 凌司が仲間に加わるが、彼と織宮を37階に残して階上へと向かう】
【機関異能者・曾壁:死亡】
>>231-
>>233 二人が話している間に美月は先へ行く。
そして去り際に一言残していった。
「デートじゃない」
ですよねー
んなわけねーだろバーカバーカ。
光龍がなんとなく残念そうにしている。
そんな彼を尻目に男は携帯電話を取り出し、画面を見ている。
その直後、男の携帯電話から着信を知らせるメロディが流れた。
「電話か……ちょっと待ってろ」
「おう」
清掃員のオッサンが携帯持って離れていった。
結構長い、あーめんどくせー俺もう先行って良いか?
そう思ってると戻ってきた。
「あー待たせたな。俺のせい置いて行かれたみたいですまんね。
……なんか変だな。掃除に来たはずなのに、
此処の廃屋妙に綺麗に片付いてるんだよ。殆どやる事が無いくらいだ」
(それは俺も来た時思った)
「さっきの女の子が向かった方向で何か皿かなんかが壊れる音したし…
お前らとその友達が廃屋に入り込んで秘密基地にしたり宴会か喧嘩でもしてるのか」
(だいたいあってるな、人殺しが一人居るけど…)
「俺も何が起こってるかさっぱり分からんから
事情も聞きたいし、とりあえず何が起こってるかだけでも見にいこうと思うんだが…どうする?」
――光龍は焦った。それは悪戯をした子供が親にその悪戯がばれるのを恐れて必死に隠そうとするのに似ている。
隠すモノが悪戯の次元で済めば良いのだが、恐らく、向こうは修羅場になっている。それに、本音を言うと光龍自身も戻りたくは無いのだ。
(やばい!やばい!ヤバイ!まじヤバイ、宴会とか喧嘩ってレベルじゃねーぞ!
上手い言い訳考えろ……無理、)
「すんません…勝手に遊んでました…」
(なんで俺が謝らなきゃなんねーんだよ!)
オッサンは何も言わずに鳳旋達の所へ行こうとする。っ!ちょっと待て!!
「まっ、待ってくれ!すぐ片付けて出て行くからあっち行くの勘弁してくれ!!」
見られてマズイ物は、まぁ在る、それより関係の無いオッサンに見られるのが気まずい。
このオッサンなんでこんなタイミングで来るんだよ……なんて空気の読めないオッサンなんだ…。
【統治を食堂へ行かせたくない】
>>240 「すんません…勝手に遊んでました…」
言葉は殊勝だがあまり誠意は感じられないな……
「まっ、待ってくれ!すぐ片付けて出て行くからあっち行くの勘弁してくれ!!」
嘘が下手だな……心火を見るまでも無く
それだとこの先に何かありますよ、と自ら言っているようなものだ。
本来なら付き合う義理もなし、何が有るか確かめに行くのが優先されるため
無視してもよい所だが……
『待っててあげた方が良いんじゃない?』
俺の頭の中に軽い頭痛と共に声が響く。
思わず顔を顰め、顔に手を当てる。
……この俺にしか聞こえない声とももう随分長い付き合いだが……
なにもこのめんどくさい時に出てこなくても良いのに。
「……ふう、わかったよ」
少年の方に向き直ると歩みを止める。
無理矢理進めばこの少年と揉めるかもしれんしな。
此処は、警戒しつつ、待つか。
廊下の窓を開けて、ポケットから煙草と携帯灰皿、ライターを取り出す。
「ひょっとして喧嘩の真っ最中か?……それだったら俺が行くのも気まずいか。
最近この街は何かと物騒だからな……最近では
学生の殺傷事件が多発したり手抜き工事でビルが倒壊したり製薬会社で爆発事故が起きたり」
ジッポライターを付けようとするが中々つかない。…オイル切れのようだ、ええいめんどくさい。
「最近の若い奴は荒っぽくて加減を知らんからな。喧嘩に巻き込まれるのもつまらん」
煙草を咥えて指を軽く弾くと、ライターに火が灯る。
「根性叩きなおしたるって男の怒声が聞こえたから恐らくそうだろ……
で、お前ら二人乱闘から空気呼んで抜け出してきた…かな。
お前も吸うか?名前をまだ聞いていなかったが」
何で俺はこんな世間話っぽいことをしてるんだろうか
……何だか調子が狂うが…まあ、何とかなるさ。
【謎の声と光龍の制止に従う。また光龍に煙草を勧めつつ名を尋ねる】
>>241 男は白々しい目で光龍を見る。が、とたんに思い直したかのように立ち止まった。
「……ふう、わかったよ」
言うと共に懐から喫煙道具一式を取り出し、此方に語りかける。
「ひょっとして喧嘩の真っ最中か?……それだったら俺が行くのも気まずいか。
最近この街は何かと物騒だからな……最近では
学生の殺傷事件が多発したり手抜き工事でビルが倒壊したり製薬会社で爆発事故が起きたり」
「へえ、大変だな」
光龍は男の言う事を他人事のように聞いている。
オッサンはなんかライターをカチカチやってる。火がつかないらしい。
「最近の若い奴は荒っぽくて加減を知らんからな。喧嘩に巻き込まれるのもつまらん」
なんかそう言って気取った感じでタバコを咥えて指パッチンした。
…おおすげえ、火が点いた。これも何かの能力か?オッサン…能力者なのか?
「根性叩きなおしたるって男の怒声が聞こえたから恐らくそうだろ……
で、お前ら二人乱闘から空気呼んで抜け出してきた…かな。
お前も吸うか?名前をまだ聞いていなかったが」
煙草を燻らせながら、そう言い、煙草のケースを差し出す、其処からは煙草が一本顔を覗かせ、
光龍に喫煙をすすめる。ドラマや映画でよくあるワンシーンだ。
「NO…じゃなくて吸わねぇよ、俺はそんなにやさぐれてねぇ!
まぁ…向こうは乱闘なんだろうなぁ……うん、乱闘だきっと」
とりあえず良い感じにオッサンの話に合わしとこう、だいたい間違って無いし。
あぁしまった、オッサンに能力者かどうか聞くタイミングを逃した。
【とりあえず話を合わせる、統治を異能力者じゃないかと勘繰る】
>>242 「NO…じゃなくて吸わねぇよ、俺はそんなにやさぐれてねぇ!
まぁ…向こうは乱闘なんだろうなぁ……うん、乱闘だきっと」
この少年は煙草を断り、そう答えた。
心火を見る限り、そう間違ってもいないのだろう。
「そうか、そりゃ大変だな……酷い怪我をしてなきゃ良いが」
少年の心火はそれよりも好奇や疑問の火を映す。
「……さっき免許証を見せたが俺は銀水苑統治と言う」
ふう、と煙を吐き出して、答える。
「さっき煙草に火をつけたのを興味深げに見てたな。
……まあ、想像してるのは当りだ。
隠しても仕方がない。お前さんも不思議な力を持ってるだろ?
そしてそれで襲われたことも……俺は同類は大体分かるからな。
ああ、そう構えるな。メールの事も知ってるが…
無駄な戦いは嫌いなたちだ」
落ち着き払った態度を崩さず、そう答える。
「信じろとは言わないが、
さっき、襲おうと思えば幾らでもチャンスはあったはずだ。
無駄な戦いも、殺生も嫌いなのさ。本当にめんどくさいだけだ」
──誰かを押しのけて前に進む事。
──誰かから搾取し奪い取る事。
――誰かを蹴り落として踏み台にする事。
――己の都合で他の誰かを取捨選択すること。
――己が強いという、ただそれだけの理由で 誰かの全てを否定すること。
弱肉強食が世の摂理とはいえ、それを当然と思って恥じない傲慢は幾らなんでも醜すぎる。
これでも抹消部隊を只の掃除屋と舐めて掛かってきた
反機関組織や敵性組織の奴等の命を数多く奪っている。
それを誇り喜ぶほど下種でもない。それを仕事だからと正当化し死者を哀れむほど偽善でもない。
正当化も喜びも通り越し只ひたすらに面倒で疲れるだけだ。必要もない殺しは。
「間違いなく俺は悪党だがその辺は信念だ」
どこか疲れと諦めを含む顔で統治は答えた。
「戦いは避けれるなら避けるのが美学でね……
大きすぎる火は争いと不幸しか呼ばん。
この力のお陰で餓鬼の時分から随分苦労したよ。
お前さんも多少似たところが有ると思うが…
異能者ってだけで戦いの運命に放り込まれたが
必要以上の不幸も戦いも願い下げなのさ」
【光龍の疑問を感じ取り、それに答える】
>>235 ――周囲を見渡した限りでは誠一郎の姿は確認できない。だが……。
レオーネは視線を地べたに倒れた少女へと向ける。
傷ついた者を置いて逃げる事などしない筈だ。
誠一郎の姿が見えない以上、それを探すしかない。
唐突に空間が、まるで地面に落としたガラス細工のようにひび割れると、
中から一本の剣が浮かび上がって来る。
この世に生を受けた、あるいは戻ってきた剣はひとしきり宙を舞った後、
レオーネ目掛けて急激に加速してきた。
「それで気配を消したつもりか、誠一郎……!」
レオーネが槍で剣を下段からなぎ払い捌くが、空中で不自然に踏み止まり、
またレオーネ目掛けて進撃してくる。
――こいつは自律型ではないな。挙動が不自然だ。どこかで誠一郎本人がコントロールをしている筈だ。
レオーネは舌打ちをすると、再び襲い掛かってきた剣を打ち払いつつ、誠一郎の気配を探り出した。
完璧に"異能の気配は"絶てている。では、"人間としての気配"はどうか?
確かに誠一郎は優れた異能者だ。レオーネに世界最高の異能者を五人挙げろと言われれば、
間違いなく彼の五本の指に入るだろう。
しかし逆に、人としての気配は完璧には消せないだろう。
異能以外の技術は学んだだけ。突き詰めた訳ではない。
相手に接近を、反撃を許さないその異能力が故に、誠一郎には不必要な事だったのだ。
武術はアマチュア、良くてセミプロレベルだろう。
ならば、どこかから気配が漏れ出ている筈……。
レオーネは三回四回と、まるでロボットのように襲い掛かってくる剣を捌き、
ある一点を見つめた。そこは彼の頭上。
朝の青空に千切れた雲が風で運ばれている虚空。
その一点に向けておもむろに槍を構える。
凶器の剣はそんなレオーネを阻止するかのごとく、勢い良く加速してきた。
「お前の異能力は亜空間を作り出す事。どんな事が起こっても不思議じゃない。
例えば、"空中に隠れて居た"としても……! これで……チェックメイトだ!
ヴィア・ラ・テア――デ・ヌォーヴォ!」
レオーネは渾身の力を込めて構えた朱の槍を、自分の頭上遥か上空へと向けて投擲した。
槍はその存在を米粒大に小さくして行く。だがしかし、一向に目的の物に当たる気配は無かった。
――外れたか……? レオーネは読みが外れた事に落胆をするよりも先に、
真正面から襲い掛かってきた剣を、今度は両手で白刃取りをして難をかわす。
……この状態、この体勢。これこそが誠一郎が望んでいたもの。
「ようやく、こちらの作戦に掛かってくれたね。
頭上の空間に居るのではないかと言う君の考えは、間違っては居ない。
だが、正解という訳でもないのだ……」
声の出所……。それは驚くべき事にレオーネの真下から聞こえてきた。
勿論、彼の足の下は地面である。よく手入れされていて、所々野生の花が咲いている事くらいしか気になる点は無い。
だが、ここは誠一郎の異空間。何が起こるか解らないのだ。
――しまった! 気配は頭上ではなく自身の真下だったのか!
レオーネがそう考えたかは解らないが、少なくとも今の彼に先程までの余裕は無くなっていた。
「チェックメイトをするのは私だったようだ。
――串刺しの刑!」
レオーネの周囲を取り囲むように、またしても空間から剣が生み出された。
それも今回は四本という大盤振る舞いである。それに加えて今受け止めている剣である。
いくらファーストナンバーといえど、合計五本にも及ぶ剣を無傷でかわしきるというのは至難の業である。
――敵を確認した白銀に光る剣たちは、一斉にレオーネ目掛けて襲い掛かって行った。
【レオーネ:現在地 裏山】
【長束誠一郎と戦闘中】
>>243 「そうか、そりゃ大変だな……酷い怪我をしてなきゃ良いが」
光龍の返答に相槌を打ち、それから、男はこう切り替えした。
「……さっき免許証を見せたが俺は銀水苑統治と言う」
煙を吐き出して、そう言う、次に、銀水苑統治と名乗ったこの男は落ち着き払った態度でこう語りだした。
「さっき煙草に火をつけたのを興味深げに見てたな。
……まあ、想像してるのは当りだ。
隠しても仕方がない。お前さんも不思議な力を持ってるだろ?
そしてそれで襲われたことも……俺は同類は大体分かるからな。
ああ、そう構えるな。メールの事も知ってるが…
無駄な戦いは嫌いなたちだ」
(俺が能力者だって事ばれてるし…)
「信じろとは言わないが、
さっき、襲おうと思えば幾らでもチャンスはあったはずだ。
無駄な戦いも、殺生も嫌いなのさ。本当にめんどくさいだけだ」
「……」
「間違いなく俺は悪党だがその辺は信念だ」
「戦いは避けれるなら避けるのが美学でね……
大きすぎる火は争いと不幸しか呼ばん。
この力のお陰で餓鬼の時分から随分苦労したよ。
お前さんも多少似たところが有ると思うが…
異能者ってだけで戦いの運命に放り込まれたが
必要以上の不幸も戦いも願い下げなのさ」
言い終えた彼はどこか感傷的だった。
それに対する光龍は――
「で、そのアンタは本当は何をしに来たんだ?
殺傷がどうたら言ってるけど信用できないぜ」
――統治は光龍の中で、"変なオッサン"から、"やばそうなオッサン"に昇格された。
>>246 「……信じてねえか、無理もねえ。異常なことが起きすぎただろうに」
仕方ないな、という苦笑が知らず漏れ出す。
「本当の目的、か。まあ、知ったら間違いなく、只ではすまない事だが。
いいだろう、教えてやる。だが後悔するなよ?
お前、この街で異能者同士がドンパチして死人も怪我人も大勢でてるのに
マスコミも自衛隊も事件の割に静か、おかしいと思わないか?
警察は慌しく動いているがな。決して真犯人にはたどり着かん」
問いかけるように静かに、統治は告げる。
「何故か教えてやろう。警察もマスコミも軍隊も―
そんな国家権力風情を凌駕する
このバトルロイヤルの『黒幕』とその手下が全ての証拠を握りつぶしているからだ」
相手の少年は少し血の気が引いた顔をしている。
「ああ…このバトルロイヤルに参加した時点で参加者の過去の罪状と
開催中の犯罪行為は全ては無かった事にされることとなる。
異能者が居る、とは表向きばらす事は出来ないからな…」
ああ、やっと思い出した。一応、参加者の顔写真や資料、把握してるからな。
「安心しろ、宮野光龍。過去に何人か【解体】してるみたいだがそれはもう永遠に表沙汰にならんよ。
……あれだけ細かく解体して各所にばら撒けば
まあほっといても警察じゃ捕まえられないだろうがな」
彼の血の気の引いた顔が、衝撃を受けた表情に変わる。
「ま、それはどうでも良いが…今の話は黙ってたほうが良い。
普通の人に言っても信じてもらえないだろうがな。
俺が此処に来た目的は今のところ調査だな。あとは…」
統治は氷水のような冷ややかな視線で光龍を見た。
「殺意が無い、と言うのはこの話を聞いたらお前なら恐らく理解できるし、信じるさ」
彼の心中に燃える炎の形をじっくりと見つめる。
「先ずはお前の本質について教えてやる。なるほど。面白い色の炎だな。
臓腑と死に塗れなければ人の温もりを感じることが出来ないのか。
お前の中では解剖する事と愛する事が一緒くたに混ざっている。
生物や死体を解体する時黒い炎と白い炎が吹き上がり一番情熱と歓喜が激しく燃え上がる。
…矛盾した炎の歪みだな。
でも強い抵抗感と忌避感が入り混じり人としての禁忌を越える己自身に暗い喜びと激しい嫌悪を感じる。
しかし余りにも沢山の凄惨な殺しを見てさっき正気に返った、ってとこだろ?」
統治は問いかけるように、哀れむように言った。
「……大分救いが無いが今ならまだ戻れる。
死に恐怖し殺しに恐怖する人間の感覚が残っているうちに。
友を思い死を恐れる僅かな善意がお前の心臓を暖めているうちに。
殺しの先輩として忠告してやるが――
有る一定の数を超えると、殺しに喜びも嫌悪も無くなる。
只ひたすら面倒で億劫だから殺したくないんだよ。
これで分かっただろ?余り殺り合いたくない、って理由が」
「お前達を殺せという命令は受けていない。
簡単に言えば、此処で見たことを全部忘れて黙ってるなら見逃してやる、って言ってるんだ。
それでももし、俺に挑みかかってくるというのなら仕方ない」
気だるげな温い空気が消えて―
「俺はおまえを殺さにゃならん。
それでもあえて来るのなら加減はしてやれんぞ。
その狂気の炎を抱えて闇の中で生き続けるより
此処で死ぬ方がよほどにましかもしれんぞ?
選べ。逃げるか、戦うか……邪魔さえしなければ屋敷の中に居ても構わんが」
焼けつくような熱を持った殺気が
室温を押して一瞬だけ広がり、消えた。
「強制しないが、隅っこで大人しくするか逃げるかしてくれると俺的に嬉しい」
【邪魔さえしなければ見逃し、邪魔するのなら戦うという姿勢を見せる】
突如現れた赤い髪の男。トージの話ではそいつは機関の幹部らしい。
機関……。どこまで行っても、まるで輪廻の輪のように巡り合う。
運命と言う鎖で俺を絡め取る気かねぇ。
トージは刀を引き抜くと、先程赤髪の男が"創り出した"異形の者達を切り捨てていく。
おかしい? トージはどうして異能力を使わないんだ?
あいつは身体強化タイプじゃないはずだ。
そこで俺は気が付いた。――"制約"。
異能力と制約は切っても切れない関係にある。
即ち、人間が異能力を行使する為の条件、って奴さ。
まさにゾンビと呼ぶに相応しい怪物たちは、痛みを物ともせずに襲い掛かってくる。
散漫な動きで殴りかかって来るゾンビを殴り返すと、そのまま首が明後日の方向へ吹っ飛んでいく。
やば、力を込めすぎたか? ――いやいや、そんなんはどうでもいい!
問題は……
>「リィィィッス! 頭部だ、頭か首をブチ壊せ!」
そう、頭を潰せば事は簡単なのだ。トージの奴も気付いたようだ。
さすが相棒、頼りになるねぇ。
「あいよ!」
俺はすかさず自分の手のひらほどのつららを作り出すと、
ゾンビたちの頭、正確には脳みそを次々に破壊していく。
うげぇ、こいつぁ気持ち悪いぜぇ……。
っていうか、数が多すぎる! キリが無いぜ、これじゃあ!
目の前のゾンビを土に返したその時、俺は自分の足に絡みつく何か薄気味悪い感触に気付いた。
見るとそこには、土中からゾンビが俺の脹脛まで掴みかかり、足の自由を奪っている。
チッ! こいつめ! ゾンビは死んでいるとは思えないほどの強い力で、
俺を地中へと引きずり込もうとしている。
「この! 離れろってんだよ!」
氷弾を作り出すと、足に纏わり付いていたゾンビの頭を破壊する。
しかし、それでもゾンビは俺の脚を放す事は無かった。
精確すぎたのが仇となったのか!?
ゾンビの死体はそのまま足枷となり、俺の自由を奪うと言う皮肉な結果になってしまった。
その隙を見逃してくれる筈も無く、ゾンビたちは一気に俺へとなだれ込んでくる。
うっげぇ、きしょくわるっ!
>「お前はいらない…やれ…」
赤髪の男の号令で、ゾンビたちは俺のもとへ押し寄せてくる。
それも大量に、津波のように……。
っぁああああ〜〜!! 今の状態でも十分気味が悪いってのに!
これ以上服を汚すなってのよ!
「――っざけんなよぉ!
氷竜槍〜ドラゴンランス〜!」
俺は、覆い隠したゾンビたちを次々に吹き飛ばしていく。
背中の竜の首は、地獄の亡者達を食らい、そしてなぎ払っていく。
例え俺自身が自由を奪われようとも、このドラゴンランスには関係ないね。
この技は手足で操作しているワケじゃないからだ。
覆い被さっていたゾンビたちを一掃すると、ここでようやく立ち上がる事が出来た。
今まで地べたに仰向けの状態だったからか、ケツが痛い……。
「なるほどねぇ〜。トージはヤハウェ様だったのか」
だったら俺の答えは決まっている。機関に渡すワケには行かない!
「大事な友達を俺のおふくろのようにさせるワケには行かないんだよ!
かかって来な、機関の兄ちゃん」
【リース:ツバサと対峙中】
【ゾンビを払い除けて復活】
>>247-279 「……信じてねえか、無理もねえ。異常なことが起きすぎただろうに」
苦笑を交え、そう言う。
「本当の目的、か。まあ、知ったら間違いなく、只ではすまない事だが。
いいだろう、教えてやる。だが後悔するなよ?
お前、この街で異能者同士がドンパチして死人も怪我人も大勢でてるのに
マスコミも自衛隊も事件の割に静か、おかしいと思わないか?
警察は慌しく動いているがな。決して真犯人にはたどり着かん」
「何故か教えてやろう。警察もマスコミも軍隊も―
そんな国家権力風情を凌駕する
このバトルロイヤルの『黒幕』とその手下が全ての証拠を握りつぶしているからだ」
(なん…だって……)
光龍はぞっとした、自分では想像も付かない程に巨大な闇が在る事を知った。
「ああ…このバトルロイヤルに参加した時点で参加者の過去の罪状と
開催中の犯罪行為は全ては無かった事にされることとなる。
異能者が居る、とは表向きばらす事は出来ないからな…」
「安心しろ、宮野光龍。過去に何人か【解体】してるみたいだがそれはもう永遠に表沙汰にならんよ。
……あれだけ細かく解体して各所にばら撒けば
まあほっといても警察じゃ捕まえられないだろうがな」
―――!、なんで知ってるんだ…、証拠は残さなかったはずだろ……?くそっ、俺の楽しみを…
光龍は答えない、否、答える事が出来ない、この男は全てを見透かしてるかの様だ。
「ま、それはどうでも良いが…今の話は黙ってたほうが良い。
普通の人に言っても信じてもらえないだろうがな。
俺が此処に来た目的は今のところ調査だな。あとは…」
「殺意が無い、と言うのはこの話を聞いたらお前なら恐らく理解できるし、信じるさ」
「先ずはお前の本質について教えてやる。なるほど。面白い色の炎だな。
臓腑と死に塗れなければ人の温もりを感じることが出来ないのか。
お前の中では解剖する事と愛する事が一緒くたに混ざっている。
生物や死体を解体する時黒い炎と白い炎が吹き上がり一番情熱と歓喜が激しく燃え上がる。
…矛盾した炎の歪みだな。
でも強い抵抗感と忌避感が入り混じり人としての禁忌を越える己自身に暗い喜びと激しい嫌悪を感じる。
しかし余りにも沢山の凄惨な殺しを見てさっき正気に返った、ってとこだろ?」
ドクン、と心臓が脈打つ、この男は、本当に全てを知っているんだ。
なんで…なんでだよ…、何でこんな奴が俺の本性を知ってるんだよ…
俺のこの本性をぶつけるのは、沙羅だって決めてたのに……
統治は問いかけるように、哀れむように、言う。
「……大分救いが無いが今ならまだ戻れる。
死に恐怖し殺しに恐怖する人間の感覚が残っているうちに。
友を思い死を恐れる僅かな善意がお前の心臓を暖めているうちに。
殺しの先輩として忠告してやるが――
有る一定の数を超えると、殺しに喜びも嫌悪も無くなる。
只ひたすら面倒で億劫だから殺したくないんだよ。
これで分かっただろ?余り殺り合いたくない、って理由が」
俺にはまだ解らない、死体を解体す時の興奮が、まだ忘れられないんだ。
本当は…美月だって、アノ女だって、殺して、ぜんぶぶちまけたいと思ってた。
でもこのオッサンは、そんなものもいつか感じなくなる、と言ってる。
俺には、どうすれば良いのか解らない。
戻れる?、何を馬鹿な……、そんなわけ、ないじゃないか。
「お前達を殺せという命令は受けていない。
簡単に言えば、此処で見たことを全部忘れて黙ってるなら見逃してやる、って言ってるんだ。
それでももし、俺に挑みかかってくるというのなら仕方ない」
スゥ、と辺りの空気が冷めて行く様な感じがした――
「俺はおまえを殺さにゃならん。
それでもあえて来るのなら加減はしてやれんぞ。
その狂気の炎を抱えて闇の中で生き続けるより
此処で死ぬ方がよほどにましかもしれんぞ?
選べ。逃げるか、戦うか……邪魔さえしなければ屋敷の中に居ても構わんが」
その時、俺は炎に焼かれて死んで行く自分の姿がはっきりとイメージ出来た。
気が付けば息が上がり、額から汗が止め処なく流れていた。
オッサンは、これだけの事をさらっと言って、それから何の気無くこう言った。
「強制しないが、隅っこで大人しくするか逃げるかしてくれると俺的に嬉しい」
そんなオッサンの話が俺には死刑宣告を読み上げる時の様に長く感じた。
やっと開放された俺は、汗まみれで、それから目眩がした―――
「――…オッサン…、俺は、どうすれば良いのかわからねえよ……なんでオッサン、
そんな事知ってるんだよ、そんないっぱい言われたら、俺わかんねえよ…」
今この人に何か言わないといけない気がして、勇気を振り絞って言った言葉が、これだった。
>>226-227 「そ、そんな事言われたって、私は……私は……―――ッ!」
やっぱり……無理なんだろうか。
力の無い私じゃ、こんなの高望みに過ぎないのだろうか…
しかし、彼女はまだ悩んでいる。まるで自分自身に問い掛けるかのような顔つきで。まだ完璧に無理とは決まってない。
そして数分と経たずに――――――彼女の目から涙が流れた。
「……私はあの場所から――機関から逃げたい。これからは誰にも縛られる事なく、自由に生きたい」
……よかった。
不安でいっぱいだった肺は、彼女の言葉を皮切りに全て外に流れた。
体が一キロぐらい軽くなったんじゃないかってぐらい重い息だった。
姫野さんは自分の機連送を力強い一踏みで粉砕した。もう使えないだろう。
「その為に……私に力を貸してくれませんか?」
「ええ、勿論です。」
彼女が差し伸べた手を私は力強よく握った。
暖かい手だった、なんだか彼女自身の心の温かさのようにも思えた。
「これからの事ですけど……えっと、姫野さんが今機連送を破壊したので機関から抹消部隊と呼ばれる人間が来るはずです。
え〜、だから、その人間が来たら私の異能力で記憶を改竄すれば、姫野さんは機関にとって"死人”になるはずです。」
姫野さんの説得辺りから次はどうするか考えていたため、すっと考えが出てきた。
でも、『だめだったとき』の事は考えてなかった自分にすこし呆れた。
「つまり…もう少し暇になるんですけど、どうします?
……って、あれ?」
少し自分ばかり喋りすぎだと自覚しつつもこれは声を上げるほどの事だった。
何時の間にか正面入り口付近の対侵入者の迎撃システムが発動していたのだ。
姫野さん達も使用した部屋の位置を考えたら、姫野さん達も同じ道を通ってるはず。
なら誤作動か。それだけなら(姫野さん達の時に作動しなくて良かった) と考えるだけで終わるのだがもうひとつ”厄介な事実”があった。
その誤作動した迎撃システムは完全にロスト…破壊されている事だ。
そして、破壊寸前の監視カメラの映像を見ると紅いツナギの男が”火炎”を放つ姿が捉えられている。
機関の抹消部隊? ……にしては早すぎる。
私が考え込んでいると姫野さんがどうしたのか、と尋ねてきた。
「…異能者がこの館に乗り込んできました。数も目的も分かりませんが…
うーん……ど、どうしましょうか?」
二人の方に振り向き、彼女達に意見を求めた。
私の意見は……『二人連続説得は……無理だ…な』
【アーリー:握手に応じる】
【銀水苑の入館に気づき、二人にどうするか聞く】
>>226-227>>254 「そ、そんな事言われたって、私は……私は……―――ッ!」
鳳旋は少し距離を取って姫野を見守る。後は彼女自身の問題だからだ。
それから、少しして、彼女の目から涙が零れた。彼女は涙を拭い、それから。
「……私はあの場所から――機関から逃げたい。これからは誰にも縛られる事なく、自由に生きたい」
そう告げる彼女の瞳には確かな決意があった。
そして彼女は取り出した端末を地面に叩きつけ、踏み砕いた。
「その為に……私に力を貸してくれませんか?」
彼女はアーリーに近づき、笑顔で手を差し出す、曇りの無い、本当の笑顔だった。アーリーも、それに答え、握手を交わす。
「ええ、勿論です。」
よかった、よかった。コレで一件落着じゃの、それにしても、良い話じゃ、…二人の話がわしにはイマイチよくわからんがの……まぁともかく。
「よかったのうオヌシ!」
ぽん、と姫野の肩を叩く、初対面の女性の肩をいささか気安く叩きすぎだが、勿論、勢いでした事なので鳳旋はそんな事気にしていない。
「これからの事ですけど……えっと、姫野さんが今機連送を破壊したので機関から抹消部隊と呼ばれる人間が来るはずです。
え〜、だから、その人間が来たら私の異能力で記憶を改竄すれば、姫野さんは機関にとって"死人”になるはずです。」
良い考えじゃと思うぞ、じゃがなんかわし、話に置いて行かれてる気が……
「つまり…もう少し暇になるんですけど、どうします?
……って、あれ?」
アーリーが何やら考えこんどる。姫野が何事かを尋ねた。
「…異能者がこの館に乗り込んできました。数も目的も分かりませんが…
うーん……ど、どうしましょうか?」
「なんと!」
姫野と鳳旋の二人は少し間を置き、先に口を開いたのは鳳旋の方だった。
「そいつは敵じゃな!!よし倒そう!!わしが行って来るッ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
アーリーが止めに入る。
「なんでじゃ!?、このタイミングで来るヤツは悪者と決まってるじゃろうが?」
「そうかもしれませんけど、もう少し様子を見てから…」
其処へ、光龍を探しに行っていた美月が帰路につき、光龍が異能者と立ち合っていると云う旨を告げた。
「なんじゃと!!こうしておれんすぐ行くぞまっとれ光龍!!」
その旨を聞くや否や、鳳旋は矢の如く駆け出していった。
後の話も聞かずに、場所も聞かずに、、、
残された彼女達が懸念したのは、鳳旋が、異能者たる侵入者に対抗する力、
即ち異能力を持っているという確たる証拠が無いまま彼を行かせてしまった事だった―――
【鳳旋:走る】
>>252-253 「――…オッサン…、俺は、どうすれば良いのかわからねえよ……なんでオッサン、
そんな事知ってるんだよ、そんないっぱい言われたら、俺わかんねえよ…」
彼は戸惑いの表情を浮かべながら、勇気を振り絞るように尋ねた。
「すまんな。秘密を隠す立場の人間は、他人の秘密にも聡い物だ。
特に『裏』ではな。色々な秘密を表の一般人から隠す奴が
秘されるべき秘密について知らないわけが無い。
だが、俺は余りにも色々知りすぎたがな……」
己の道に迷う者は、少なくとも俺の殺すべきものではない、と思う。
「迷っているな……人の心は酷く脆い。
異能を手にすれば力の大きさの魅力に負け必ず振るってみたくなる。
お前は自分の狂気と異能の炎に魅せられ、振るってみたいという欲望に負けただけだ。
お前だけじゃない。本当に良く有ることなんだよ。宮野光龍……
異能の炎はその熱さと明るさゆえ人の闇をくっきりと照らし出す……そして火を焚かずには居られない」
本当に悲しそうに統治は呟いた。
「俺は異能を手に入れたばっかりに人間として大事なものが壊れた奴を数多く見てきた。
異能者が一度は魅入られる道だ……人間の本当に恐ろしいのは弱さ。
バトルロワイヤルの参加者や、黒幕たちの多くも異能を手に入れたばかりに狂った。
自らの楽しみのため人を殺したり、自分の強さを確かめるため闘争に取り憑かれる異能者の何と多いことか。
俺が思うに……異能者の多くがキレたり狂っちまうのは
異能の覚醒が原始的な人間の獣性、殺戮衝動や闘争本能を呼び起こすからだな」
光龍は静かに話を聞いていた。
「お前は迷いと恐怖が有るだけましだ。本当に狂った異能者は迷わない。
話がそれたが……俺の経験上只一つ言える事は
異能を何の為に使うか、自分が何の為に戦うかハッキリしておかないと
絶対に後悔するという事だ。
自分の本性と欲望の為に戦うか、あるいは譲れない己の信念の為に戦うか。
それとも誰かや何かを守る為に使うのか……人それぞれだがな」
一旦言葉を区切り、そして答える。
「具体的にどうするか、と言うのなら選択肢はそう多くない。
ゲームに乗って黒幕に取り入るか……
仲間と共に黒幕とメールを送った異能者を打ち倒し
この狂ったゲームから開放されるか、だ。
この街から逃げるのはオススメできない。あのメールは『異能』だからな」
もし此処に機関の他の者が居たら青ざめていただろう。
統治の語っている言葉はぼかしているが多くは真相であり機関の中でも極秘事項……
第一級反逆で粛清されても文句は言えぬ内容だからだ。
【何らかの思惑があって、光龍に真実を告げる】
>>254-255 >「ええ、勿論です。」
アーリーさんは私が差し出した手を力強く握り返してくる。
柔らかくて小さい年相応の少女の物だ……。こんな子が一人で機関に刃向かっていたなんてとてもじゃないけど信じられない。
>「よかったのうオヌシ!」
次は鳳旋さんが私の肩をポンポンと叩いた。
さっきまであんなに怒っていたのに、一体この人の怒気はどこに行ったんだろう?
>「これからの事ですけど……えっと、姫野さんが今機連送を破壊したので機関から抹消部隊と呼ばれる人間が来るはずです。
え〜、だから、その人間が来たら私の異能力で記憶を改竄すれば、姫野さんは機関にとって"死人”になるはずです。」
アーリーさんはこれからの事について説明してくれた。
抹消部隊……話でしか聞いた事無いけど機関の異能者を影でサポートしてくれている人とか。
そういえば屋上で撃った人の遺体がいつの間にか消えていたのもその人たちのおかげなのかもしれない。
>「つまり…もう少し暇になるんですけど、どうします?
……って、あれ?」
アーリーさんは何かに気付き、突然黙り込んでしまう。
「突然黙っちゃって……一体何かあったんですか?」
>「…異能者がこの館に乗り込んできました。数も目的も分かりませんが…
うーん……ど、どうしましょうか?」
このタイミングで新たな異能者の出現。
さっき説明してくれた抹消部隊?機関の追っ手が来るのはいくらなんでも速すぎる。
でもよりによってこんな所にやって来る物好きな一般人も……居るかも。
>「なんと!」
私より先に鳳旋さんが口を開いた。
何か案でもあるのだろうか、きっとないだろうなー……
>「そいつは敵じゃな!!よし倒そう!!わしが行って来るッ!」
>「ちょ、ちょっと待ってください!」
今にも駆け出しそうな鳳旋さんをアーリーさんが止める。
確かにこの人を一人で行かせるのは危険かもしれない。彼が異能者ではないという事は私の行動で証明されたし、
なにより、相手の目的が分からない以上、この人を送り込むのは厳禁だ。
>「なんでじゃ!?、このタイミングで来るヤツは悪者と決まってるじゃろうが?」
>「そうかもしれませんけど、もう少し様子を見てから…」
アーリーさんがオロオロとしていると、食堂の扉の奥から人影が近づいてくる。
その影はどんどん近づき、私達の前に姿を現した。
「なんか……変な人が……」
「美月!?」
奥から現われたのは光龍さんを追いかけに行ったはずの美月だった。
彼女はどこか焦った様子で、ここまでの事を私達に説明してくれた。
光龍さんと和解した事、帰る途中で、知らない人に出会い、光龍さんを置いてきたと言う事。
>「なんじゃと!!こうしておれんすぐ行くぞまっとれ光龍!!」
美月の話を聞き終えるや否や、結局鳳旋さんは飛び出してしまった。
彼らが何処に居るのか分かってないのにどうするんだろう?
「と、とりあえず、私は鳳旋さんが心配だから追いかけてくる。ここもちょっと心配だけど……
うーん……ゴメン!やっぱり行ってくるね。美月、アーリー!」
私は食堂から勢いよく駆け出す。急がないと鳳旋さんに追い付けないし、それにちょっと恥ずかしかったから。
いきなりだったけど、ちょっと馴れ馴れしかったかな……
【アーリーへの態度が変わる】
【与一:鳳旋を追いかけて食堂を出る】
黒服の男の頭部に大きなツララが勢いよく突き刺さり、血しぶきがあがった。
直後にフロア内に轟く断末魔の悲鳴──。
司令塔を破壊された男の体は、その内力なく床に倒れた。
俺はそれを見届けると、続いて目を右隣にいる籐堂院へと向けた。
「ハァハァ……どうやらこのフロアの敵はそれで最後のようだ……」
籐堂院は額に汗を滲ませながらこのフロアの敵が全滅した事を告げた。
それを聞いて俺の左隣にいた高山が、ペタンと尻をついた。
「ゼハァーゼハァー……敵が多いって事は分かってたが、こう連戦続きだとたまんねーな。
しかもこちとら階段を駆け上がって来てるんだぜ? 少し、ハンデありすぎと違うか?」
「……あまり弱音は吐きたくはないが、全くその通りかもしれないな……ハァハァ」
言いながら、籐堂院もその場にチョコンと腰を下ろした。
二人とも息を切らし、流石に疲れの色を見せ始めていた。
もっとも、それは俺とて例外ではない。
「……なぁ、ここには敵はもういねーし、少し休んでいかねーか?
そこで水分補給もできることだしよ……」
高山が親指を立てて自らの背後を指すと、そこには大型の自動販売機が置かれていた。
俺と籐堂院の二人は、彼の小休止の提案に無言で賛同した。
──────────────────────────────。
缶のタブを開けて、中身を一気に咽の奥へ流し込んでいく。
血まみれの敵の亡骸に囲まれながら咽を潤そうなど、
普段ならやろうとは思わないだろうが、今はそんな些細なことを気にしてもいられない。
ただ、ゴクゴクと咽を鳴らして缶の中身を減らしていく──気がつけば缶は空となっていた。
俺は空となった缶を自販機横に備え付けられたゴミ箱に投げ捨てると、
落ち着いたように一つ大きく深呼吸をした。
そうして俺が一段落つけたところを見計らってか、突然高山が訊ねてきた。
「なぁ……さっきの戦闘の時も気になってたんだけどよ、オメーも瑞穂も敵を視認する前に
敵の存在に気がついてただろ? あれはどうしてなんだ?」
「……敵の異能力、俺はそれを人の気配のように感知することができる。
敵が異能の気を絶っておかぬ限りはな」
「私は人間の肉体から発される気を感じ取る。これはかつて修行で身につけたものだ」
高山は感心したように「へぇ〜」と頷くと、一旦間を置いて言葉を続けた。
「ったく、器用だなオメーらは。俺には気とかそういうのはサッパリだぜ」
「なに……このまま闘い続ければ、その内嫌でも身につくさ……嫌でもな」
高山に対しそう言うと、籐堂院が何かを思い出したように話を切り出した。
「……池上、実はこのビルに入った時から私はある人物の存在を感じているんだ。
闘いもあって忘れかけていたんだが……」
「誰だ?」
「この街で出会った、『桐北』という少年なんだが……」
「──『桐北』ァ!?」
『桐北』──。その名を聞いて、俺は思わずすっとんきょうな声をあげた。
桐北といって思い浮かんだのは、あの夕食会に出席した高校生風の少年──
彼がこのビルにいる、それが俺にとっては意外だったのだ。
「……まさか、桐北とはあの白髪頭の少年のことか?」
「あ、あぁ……なんだ、君も知っていたのか?」
「まぁ……な」
「おいおい、誰なんだよその桐北ってのは。オメーらだけ知っててズルイぞ!」
不満を口にする高山を無視して、俺と籐堂院は二人で会話を続ける。
「前に彼に会った時、私はある術を施した。それは彼の居場所を把握できるというものだ。
気配を感知するのとは違うから、彼がどんなに遠くにいようと私には分かるようになっている。
それが先程から私に告げているんだ。『彼はここにいる』──と」
「奴がどの階のどの部屋にいるかまでは分からないのか?」
「あぁ……。本来ならこんなことはないんだがな。
恐らくこのビル全体から放たれる激しい闘いの気が、妨害電波のようになって邪魔をしているせいだと思う」
俺は少し何かを考えるような素振りを見せると、直ぐに目を籐堂院へと向けてあることを訊ねた。
「……籐堂院、桐北は何故このビルにいると思う?」
「そりゃあオメー、俺達のように闘いに来たんじゃねーか?」
「お前は黙ってろ」
会話に乱入してきた高山をそう封殺すると、続いて籐堂院がハッとしたような顔で声をあげた。
「──そうか、迂闊だった! 私が師匠のことに気を取られている内に、捕らえられた!」
「そう考えるのが自然だな。あの男の性格から察するに、自分から危険に飛び込むことはしないだろう。
そしてこのタイミングで捕らえられるということは、奴が『ヤハウェ』とかいう人種であることを証明している」
「──ッ! い、池上……君はそこまで気がついていたのか……?」
俺は軽く髪の毛をかき上げながら、静かに答えた。
「お前も『煌神 リン』という女のことは知っているだろう?
山田から聞いたが、あいつも機関の手によって捕らわれたという話だ」
「なっ……! ということは、まさか……!」
「少なくとも俺も山田も、あいつが『ヤハウェ』という人種であると睨んでいる。
だから桐北の時もピーンときたのさ。あいつも煌神同様の理由で捕らわれたんじゃないかってな。
いずれにせよ、機関に捕らわれたままにしておけば、最終的には消される運命にあるだろう」
「私としたことが……彼を守ると誓ったのに……! くそう!」
籐堂院が拳を床に叩きつけ、怒りを露にした。
その怒りは恐らく自分自身にも向けられているのだろう。
「おいおい、いい加減俺にも説明してくれよ! 何のことだかサッパリだぜ!」
高山は高山で別の怒りを見せている。
俺は呆れたように息を吐くと、高山を見つめてこれまでのことを分かり易く簡潔に話した──。
「──というわけだ」
「なるほど……その二人を機関が狙ったのは、『ヤハウェ』とかいう特殊な人種だったからなのか。
にしても……機関は『ヤハウェ』を使って何をするつもりなんだろうな?
その山田って男の話じゃ『何か』を集めてるって話だけど……。瑞穂、何か知らねーのか?」
「すまない、私もそこまでは……」
機関の目的は何か、その疑問に首を捻る二人を俺は交互に見据えると、ある人物の名を出した。
「──『炎魔』だ。
機関の目的は『炎魔』の復活。恐らく、『ヤハウェ』に拘るのもそこに理由がある」
「え、えんまだって!? ……え、えんまってあの地獄にいる?」
「そ、それは閻魔大王だ! 炎魔とは、あの『湯瀬政康』のことだろう?」
籐堂院が高山にツッコミを入れながら、俺に答えが合っているか確かめるように顔を向けた。
「そうだ。鎌倉時代、ここら一帯に圧制をしいていた暴君として有名だな。
最終的には石田彦三郎直政との戦いに敗れて死亡。圧制が解かれ、石田彦三郎直政のもとで
人々は活気を取り戻した……。この町の人間なら小学生でも知っているぞ?」
「う、うるせェー! 歴史はあまり得意じゃねーんだよ、俺は!
……しかし、そんな歴史上に存在するタダの暴君をなんで機関が復活させようとしてんだよ?」
「残念ながら、"タダの"じゃない。──炎魔は、異能者なんだよ」
俺の言葉に、二人も流石に驚きを隠さなかった──。
「い、異能者……だと……? ま、待てよ、何でオメーにそんなことが分かるんだよ……」
「俺が倒した機関のNo.8がそう言っていた。
ファーストナンバーの一人が俺にそのような嘘をつく必要はないからな。これは確かだろう」
「そういえば……炎魔は人智の及ばぬ力で、人々を恐怖のどん底に叩き落したと言われている。
古典によくある過剰な表現かと思っていたが、異能者だとするなら確かにあり得るかもしれない……。
池上、君はその炎魔復活の為にヤハウェが必要なのだと思っているのか?」
俺はこくりと頷く。
ヤツラ
「それなら機関がヤハウェに拘る理由も全て説明がつく」
「……クッ! とすると、正に桐北達は炎魔への生贄ということか……!」
「過去の異能者の復活だと……? もし復活を許せば、この町はどうなっちまうんだ……?」
「炎魔は町を焼き尽くしたと言われている。この貳名市一つくらい、確実に消え去るだろうな」
「いや、それならまだいい。炎魔だけじゃない、バックには城栄だっているんだ。
この世が劫火に包まれてもおかしくはないはずだ……!」
肩を震わせて、今度は高山が壁に拳を打ちつけた。
「許せねェッ! そんなの、俺は認めねェぞッ!!」
「……池上、桐北達はどうする?」
「どこにいるか分からない奴らを探すよりは、このまま城栄目指して進む方が良いだろう。
それに、桐北らのもとへは山田が向かっているかもしれんしな」
「そうか……そうだな……」
どこかまだ納得できない顔をする籐堂院の肩を、俺は「心配するな」というようにポンと叩いた。
籐堂院は承知したというように軽い笑みを浮かべるが、その表情はどこか硬い気がした。
(俺が何を言っても、奴らが捕らわれの身ということに変わりはない……無理もないか……)
「よし! 休憩終わりだ! 行くぜ皆!」
これまでの疲労が嘘のような気合で、高山が号令をかけた。
現在ナガツカインテリジェンスビル41階──城栄のもとまで、後僅かである。
【池上 燐介:更に階上へ向かう】
【機関No.70〜79:池上、高山、籐堂院の奇襲により死亡】
264 :
才牙:2009/06/23(火) 00:39:49 0
「ふぅ・・・やっと一息つけるな。」
そうため息を漏らしたのは眼鏡をかけ白衣を着た青年だった。
「っん、メールが来ているな。とりあえず確認するか。」
そう言い確認しようとしたメールは前日に来ていたらしいメールだった。
その内容を見、ため息を漏らした。
「ふぅ、異能力者たちのバトルロワイヤル、ね……
しかしこれまで何もなかったというのに、いきなり何なのだろうか?
でも、いたずらというわけでもなさそうだ。
とりあえず研究中のやつらと戦えばいいか。」
青年はそういい部屋を出、階段を下りた。
【才牙:地下に向かい研究中の異能力者3人を選びに地下に降りる】
カツ、カツ、カツ
青年の足音が聞こえる。
「しかし、この貳名市にそんなに多くの異能力者がいたとはな。」
ガン、ガン、ガン
研究中の異能力者がいる独房に青年が来たことを感じたのか、
壁をたたくような音が聞こえ始める。
「またか、うるさい奴だ。まあいいこいつから戦うことにしよう。
なぁ、ケルメス・カーロイス。」
「うるせー!!早くここから出しやがれ!!
こんなことをしてどうなるか分かっているんだろうな!!」
「ふん、国家権力が怖くて自由に研究ができるか。
それに君はまだ立場というものが分かっていないようだ。
出ろ、そんな口を叩けなくしてやる。」
そう言った青年の腕が光りだし、離れ、形を作った。
ヒトカタ
そしてその人形は動き出し、牢の鍵を開ける。
青年は大広間のような研究室に向かって歩き出す。
「ああそうだ、早く付いてくることだ、もし私に勝てたのなら君はここを出られるのだからね。」
それを聞きケルメスと呼ばれた男はそれを聞き飛び出すようにして牢を出、青年に付いていった。
「では、やろうか。君の勝ちはないと思っていいと思うがね。」
「そんなことはわからねーだろうが!!俺はここを出てママの所に変えるんだ!!」
【広い研究室に付き戦いを始める:ケルメス・カーロイスはNCPです。】
ケルメスはそう叫び才牙に飛び掛った。
「ふ、下級雷剣兵。」
そう言った才牙の前に、武装した剣兵が現れケルメスの攻撃をはじき返す。
「ぐっ、くそ!!てめーただの力の強いだけの人形を作り出す能力じゃ無いのか!」
「ふ、そんなこと誰がいつ言った。
私の能力は(雷の)兵士を作り出す能力。
これまで出していたのは、武装していないやつらだったということだ。」
「だが、そんなこと関係ねー!てめーを倒すそれだけだ!!」
「やれるものならやってみればいい。行け。」
才牙の言葉に剣兵は動き出しケルメスに切りかかる。
【戦闘開始】
>>265-266 「くっそがあぁぁあ!」
ケルメスは後を振り向き、そして全力で駆け出した。
才牙との距離は段々離れて行く、いわば、敵前逃亡である。
ある程度の距離が離れた処でケルメスは踏み止まり、片足を軸にその勢いでくるりと振り返り、そして構えた。
はぁあぁぁ…
ケルメスの周りにゆらり、と薄黒い雲の様なものが揺らめく、
それ等は次第に大きくなり、薄く、紫掛かった淡い炎となり、ケルメスの身体を取り巻く。
――炎の正体は、この研究所に捕まった者たちの、怨念。
チカラ
ケルメスの能力は、怨念を、具現化させることが出来る。
怨念は、願いにも似た意思の力。
怨みや辛み、不の感情が生み出した力の一人歩き。
それには彼等の、そうしたいと云う願いが込められている。
―――即ち、捕えられた者達の、才牙に一矢報いたいという願いの集合体―――
「cry's coat(クライス・コート)……」
呪詛の様にそう呟くと、ケルメスはその炎を全身に纏い始めた。
炎を纏ったその姿は妖しく揺らめき、才牙へと距離を詰める。
チカラ
ケルメスの能力は、怨念を、具現化させることが出来る。
ヤローに捕まってる間に気が付いたんだが、俺には"オンネン"とか云う日本独特の概念を集める事が出来るみたいだ。
オンネン達の気持ちは目の前のヤローをぶっ倒すって考えで、不思議なくらいに一致してた。そして、あの技名は適当に考えた。ジャパンコミックの影響をかなり受けてるな…。
怨念の量は、十分、"過ぎたるは及ばざるが如し"、だ
さあ、行くぜぇ、皆、あのイカレヤローをぶちのめしてやる。
妖火を纏い才牙に近づくケルメス、振り下ろされる兵士の剣を妖火を纏った左手で受け止め、同時に右腕で人間で云う処の鳩尾に当たる部分に拳を入れる。
拳はそのままヒトカタを貫き、兵士は形を保てなくなり霧散した。
「…すげえ………」
自分でも驚いた。これ程までの力が得られるとは思わなかった。怨念の方向性が、一致してるからか…、
これなら、いける、な。
ケルメスは、再び構えると、今度は、豹の如く疾駆した。異能力によって強化されたケルメスの身体能力。
一度は離れたが、再び才牙へと距離を詰めるのに、今度は数秒と掛からないだろう――
【自身を強化、距離を詰める】
>「やれるものならやってみるがいい。行け。」
そういい下級雷剣士に切りかからせようとし命令した。
しかしその時いきなりケルメスが逃げ出し距離をとった。
ん、やつの性格なら猪突猛進に飛び込んでくると思っていたがな、
ふ、まぁいい、能力を得てまだ短いようだからな、発動するための時間稼ぎだろう。
>ケルメスの周りにゆらり、と薄黒い雲の様なものが揺らめく、
>それ等は次第に大きくなり、薄く、紫掛かった淡い炎となり、ケルメスの身体を取り巻く。
ほう、あれは身体強化系の能力か?
負けるとは思わんがとりあえず万全をきしておくか。
私はケルメスに見えない位置で、兵士をすぐに作り出すため雷をためる。
>妖火を纏い才牙に近づくケルメス、振り下ろされる兵士の剣を妖火を纏った左手で受け止め、同時に右腕で人間で云う処の鳩尾に当たる部分に拳を入れる。
>拳はそのままヒトカタを貫き、兵士は形を保てなくなり霧散した。
へぇ、下級兵士の中でも一番弱い力で作ったやつだが、一撃で壊すとは。
しかし、あそこまでの力があるとは知らなかったな。
まぁ壊された兵士の雷は徐々にやつに纏われていく。すぐに全身が麻痺してくるだろう。
>ケルメスは、再び構えると、今度は、豹の如く疾駆した。異能力によって強化されたケルメスの身体能力。
>一度は離れたが、再び才牙へと距離を詰めるのに、今度は数秒と掛からないだろう――
突っ込んでくるか、やはり猪突猛進だな。
まぁ、軽く受け止めてショックを与えてやろう。
「下級雷防御兵、下級雷弓兵。」
大きな盾を持つ防御兵と、矢筒を持たず弓だけ持つ弓兵が前に現れた。
ガギィィン
防御兵がその盾をもってして、ケルメスの攻撃を受け止める。
そして、横に現れた弓兵が矢の無い弓を構える。構えた弓に光が集まり矢の形になる。
【ケルメスが防御された盾から退いたら弓兵はすぐに矢を放つ】
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ9
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1246115227/ /|
ヘ /|/ | N /i/´ ゙ ̄ ̄``ヾ)_ ∧ /
V .| , Nヾ ゙ ゙ヽ |\/ ∨l/
レ' 7N゙、 池上 ゙i _|`
/N゙ゞ .! ヽ 新
作 7ゞミミ、 ノ,彡イハヾ、 i Z ス
っ Zー-r-==、'リノ_ノ_,.ヾミ,.ィ,ニi ヽ レ
た / {i `゙';l={゙´石ゞ}='´゙'r_/ 〈 を
ん |: `iー'/ ヾ、__,.ノ /i´ /
だ i、 ! ゙ニ-=、 u / ,ト, ∠_
よ |` ヽ、i'、_丿 /// ヽ /_
!! | _,.ィヘヽ二 ィ'_/ / ゙i\|/Wlヘ
|' ̄/ i ヽ_./´ ./ .| `\ ∨\
wヘ /\|/ /ィ´ ゙̄i / ir=、 l'i"ヽ、
∨ ∠__,,..-イ i /\_,イ,=-、 i 、,.ゞ、 | ゙'"ヽ \
! .i-'´ ,i | ./`゙'i' /i_.!._,..ヽ<! ゙i、゙i. =゙! \
! | .,i゙::|/ .| ,/::/-i ゙i ゙i 三゙i ゙i | /⌒
i/ .| ,i゙:::i' | ,/ ::/= .|三. ゙i/.| .| .| .ij:.
.l〉 | ,i゙ :::| .!' ::::i゙'i ト. ゙i | _,.. V =,!
! | ,i゙ ::::| / ::::::| l= ヾ!.._ ヽ」 "´;i :.:i ./
. | .| .,i ::::::| ,/::::::::::| ヾ:.:. ヾ::" ゙ //
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.| | i::::::::,イ::::::::::::::::| /ト、;:;:;:;:;:;:;:;:;:;::,ノi|Y
_人人人人人人人人人人人人人人_
> な なんだってー!! <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄それは本当か池上!
_,,.-‐-..,,_ _,,..--v--..,_
/ 高山 `''.v'ν Σ´ 織宮 `、_,.-'""`´""ヽ
i' / ̄""''--i 7 | ,.イi,i,i,、 、,、 Σ 籐堂院 ヽ
. !ヘ /‐- 、u. |' |ノ-、 ' ` `,_` | /i'i^iヘ、 ,、、 |
|'' !゙ i.oニ'ー'〈ュニ! iiヽ~oj.`'<_o.7 !'.__ ' ' ``_,,....、 .|
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!、\ \. , ̄ γ/| ̄ 〃 \二-‐' //`