「…そ…そうなんですか?」
狼狽した老人の言うことを間に受けた火々は首を傾げる。
「いや…でも、ん〜」
何かが引っかかっているような気がして考え込むが全くわからない
そう考え込んでいる最中、消し炭にした戸の裏から導果が姿を表した。
だが、愚断のように敵意を向けず、笑顔で勧誘してきた。
しばらく黙りこんだ後、火々は静かに椅子に座り残っていた料理を食べ、酒で流しこんだ。
「確かに材料は一級品みたいですが…それを作る料理人の腕は三流ですね
どんなに珍しい料理が作れても基本が出来ていないなら話になりません
それに物珍しさを売りにしている時点でどうかと思いますよ?
確かに初めは儲かりますが、次第に飽きられるのがオチです
ここで腕を振るうのぐらいなら、この店で小さな屋台やってたほうがマシです」
そう導果に言い、火々は足元に火を放った
>86
導果の誘いに火々は考え込むように黙り、静かに料理を食べ、酒で流し込む。
その様子を顎に手を当てながら見守っていたが、返ってきた言葉は辛辣なり拒否。
「ふむ、それは残念。しかしそれもまた一つの道だねい。
ならば盛大に宴の一部となってもらおうか!」
足元に放たれた火を気にする様子も無く宣言をする。
その表情は誘いを断られたというのに、微塵も曇っていない。
むしろこうなる事を望んでいたかのように歓喜の笑みで満ちていた。
長く垂れた裾に火がついたとき、突如として酒家の壁が割れ、何かが飛び込んできた。
くるりと宙を舞い、テーブルの上に柔らかに着地したのは導果その人である。
###################################
>85
鉄甲と猛牙との戦いに触発された流木は闘志を漲らせて迫る。
酒家の壁を背にした導果に対し、あらゆる角度から繰り出される木刀に死角はない。
が、導果の笑みは消えることはなかった。
「はっはっは!君は地の利というものを学ぶべきだね。
この享楽都市シャンバラがどうやって作られたか、教えてやろう。」
そういいながら繰り出される木刀から逃れる為、後ろへと跳躍する。
背後にあるのは壁。
だが、導果がそれに触れる瞬間、壁は大きく口を開き導果を酒家へと通したのだ。
導果の能力は具現化。
その筆で書き記されたものは形を得る。
寂れた漁村を一夜にして享楽都市にしたのはこの能力があってこそだ。
そして具現化したものは導果の筆一つであらゆる変化を可能にする。
導果を中に吸い込んだ壁の割れ目は大きく口を開け、瓦礫は命を得たように飛礫と化した。
大小無数の梁が、レンガが、流木へ殺到するのだ。
####################################
「はっはっは、老耳翁よ、不意打ちの姦計を台無しした事はお詫びしますぞ。
しかしあっさりと倒されては興醒めというもの。
激しく宴を楽しもうではないですか。」
導果は回転しながら袖や裾についた火を払い、宙に舞う。
着地地点は壁の穴から飛び込んできた導果と同じ位置。
激突するかに見えたが、二人の導果は交じり合い、二面四臂の導果と化した。
「流木よ、これが天の刻、人の和、だ。これしきの事で倒れてはいまい?」
導果の四本の手には、それぞれ剣、環、鎖鎌が握られている。
「さあ、盛大に宴を楽しもうではないか!」
そういうや否や、大きく口を開け、未だ土煙が舞う壁の穴に向かって鎖鎌の分銅を放つ!
>>84 猛牙が言葉を口にし終わるか否かのところで衝撃、鉄甲の拳、そして破裂音が響く。
それは鉄甲の速さがマッハを越えた証。
猛牙は防御の体制をとることも適わず、攻撃を受ける。
反撃に回ろうにも、あまりの速さにその姿を目で捉えることは至難だろう。
そして風の中から声だけが耳に届く。
>「牙なんざな折れちまうよ・・・」
その声とは違う方向から、確かに拳と衝撃だけは猛牙に届く。
2、3歩後ずさりする猛牙。しかし彼の体には、目立った外傷は見られない
「迅いな、まるで雷神だ」
猛牙の表情は変わらず、余裕を見せている
どうやら猛牙を取り巻く不気味な赤い闘気が、その衝撃を最小限に留めているようだ
「だが、軽い。その程度では何億何兆打ち込もうとも我が牙は折れぬ」
猛牙は斧を後ろに引き込むと、横一線に力いっぱいその場を薙ぎ払う。
斧の切っ先から放たれた闘気は剃刀のような切れ味をもって放射線状に広がる。
その階上にいる全てのものに届くような衝撃が、全体を駆け抜けた
「終えぬならその身、逃れられぬ範囲まで破壊するのみよ」
>>88 パンチを決込んでも猛牙の表情は変わらず、鉄甲もかつてほどの力が出せないことを悟る
今の自分に出来るのは見た目だけの早いだけのこけおどしでしかない事を
猛牙からの賛辞は、自分の拳の力のなさを気付かされる
>「だが、軽い。その程度では何億何兆打ち込もうとも我が牙は折れぬ」
御もっともだ、手ごたえの無さに少々ではあるが焦りを感じる。
猛牙の強さの一つは闘気のコントロールだ、彼を渦巻く闘気は彼を守るために働いている
「どうしよう・・・・・・」
弱音を吐いていると、猛牙の横一線から放たれる闘気は今度は攻撃へと転じた
剃刀のような切れ味の闘気が鉄甲へと迫り来る
腕をクロスさせ、正面を固め大きく後ろへと下がる、放物線上に放たれる闘気から逃れるすべは無く
肌を多くさらしている鉄甲にとっては防ぎ様がなく鋭い痛みが体中を走る、肌を出しているところに
鋭利な物で切られたかのような切り傷が出来る(宝貝なので血は出ない)
「うわあっ!・・・・ああぁぁぁぁ・・・・・・」
悲鳴とまでは行かないものの、痛みに悶絶する声が漏れる
あまりの痛さに両膝を突く
「痛い・・・痛い・・・痛いよぅ・・・くっ!」
反撃に転じようと拳を突き出し、自分も闘気の衝撃弾を繰り出すも
スピードはなくよれよれとした動きに、子供ですら当たっても痛くなさそうな弱い一撃が飛んでいく
>>87「地の利もクソもあるかよ!!」
導果は流木刀の攻撃を逃れる為、後ろへ飛ぶ。
しかし後ろは壁だ。
逃れる術は無い、今度こそ…と思ったのも束の間。
壁が導果を飲み込んだのだ。
「んだとおぉぉっ!!?」
そして今度は大小無数の梁とレンガが流木刀を襲う。
「ちっくしょうがぁぁぁあ!!」
木刀で何とか捌こうとするが、どんなに頑張っても全てを防ぐ事は不可能だった。
「けほっ、げほっ…。
くっそ…痛ぇじゃねぇかゴラァ!」
土煙が舞っている中で、流木刀はダメージを負いながらも立っていた。
目はまだ死んでいない。
むしろ更に眼光が鋭くなっている。
「おらぁ!」
土煙が舞い、未だ視界が悪いにも関わらず突如飛んで来た分銅を木刀で打ち返す。
「もう許さねぇ。マジでぶっ飛ばす!後悔すんなよ導果のオッサン!!」
分銅が飛んで来た方向に向かって飛ぶ。
土煙の中から現れた流木刀の手に握られている木刀は、先ほどの2倍以上はあろうかという大木刀に変わっていた。
もちろん重さも先ほどの比ではない。
だが流木刀は重さなど丸っきり感じていないかのように、軽々と大木刀を導果に打ち込んでいく。
「へ?あ…あれ」
今目の前で起こっていることに頭がついていかず、火々はただ呆然とその光景を眺めるしかなかった
(ありのままに起こったことを話すと、もう1人の導果が現れて、合体した
幻術や体術じゃなくもっと恐ろしいものの)
「ってそうして場合じゃない」
この際、あの老人のことは思考の外に置いておこう
いや、導果が何か話しかけてたのだから、やはり、逃亡側のはず
異論は認めない
一先ず立ち上がり、導果との間合いをとる
その間に流木が仕掛けてはいるが…
「流木さん!離れて」
そう促し、先ほど放った炎弾よりも大きな炎弾を放った
しかし、これは必殺の一撃にはならないだろう
相手は四腕の魔人、この程度ならば容易くあしらえるだろう
もしかしたら、ここにいる二人では刃が立たないかもしれない
「ここは一旦退いて、猛牙さんと合流しましょう」
>88>89
楼閣全体を揺るがす猛牙の攻撃範囲はフォロアー全域に及び、鉄甲を切り裂いた。
悶絶する鉄甲の様子を楼閣から見ながら導果は笑っていた。
シャンバラでの生活に安寧するうちに鉄甲の力は確かに落ちた。
だからこそ、猛牙の攻撃によるダメージは導果にとって待ちかねたものでもあるのだから。
「ふっふっふ。これでいい。鉄甲・・・敗北の宝貝よ!
君は打ちのめされ、敗北するたびに強くなる。
さあ、そこから這い上がり嘗ての己を越え、激しき宴を!」
傍から見ればもはや勝負はついているように見えるだろう。
だが導果は信じている。
いや、信じているのではない。疑ってすらいないのだ。
これから更に激しさであろう鉄甲と猛牙の戦いを祝福していた。
>90>91
打ち返された分銅をキャッチし、導果は土煙を凝視していた。
相手は武器の宝貝。
瓦礫や分銅で倒せるなどとは思っていない。
いや、倒すつもりなどないのだから。
なるべく長く痛めつける為の戦いなのだ。
ギラリと四つの手に握った刃を光らせ土煙から出てくる流木を待っていた導果の表情が驚愕に凍りついた。
現われた流木の手に握られていた木刀が二倍以上になっていたのだから。
獲物が大きくなれば重量も増す。
これほどの超重の武器と化した木刀ならば打ち込み方も自ずと決まってくる。
そう考えるのはやはり導果が道具の宝貝だからなのであろう。
導果の想定に反し、流木は大木刀を軽々と打ち込んでくる。
「お、おおおおお!」
通常の流木の攻撃ならば二本の腕を使えば受け止められるだろう。
が、これはどう考えても無理。
四本の腕を使ったとしても受け止めた腕後と叩き伏せられる。
直感的に感じた導果はギリギリのところで身体を躱した。
鼻先を掠めながら床に叩きつけられる大木刀。
勿論その気を逃すつもりはない。
「ふん!所詮は力任せの単純攻撃か!」
そういいながら導果は剣と鎌を叩きつける。
木刀にではない。
これだけの大木刀を打ったとしても導果の腕ではどうにかなるものではない。
だから、床にめり込む大木刀に剣と鎌を交差させ床に打ち込み、鎖を絡めた。
剣、鎌、鎖で大木刀を床に縫いつけ流木の動きを封じようというのだ。
そしてその隙に残った圏で流木に襲い掛かる!
>「流木さん!離れて」
だがそれは火々からの攻撃で中断を余儀なくされる。
間合いを取り、巨大な炎弾を放ったのだ。
本来ならば不意打ちクリティカルヒットというところだが、今の導果はニ面。
流木を見据える顔のほか、周囲を警戒するもう一つの顔がその攻撃を察知していた。
武器を手放した三つの手を掲げると、その掌には【瀑】【布】【壁】の文字がそれぞれ書かれていた。
文字は三文字連なり具現化される。
大瀑布を思わせる滝の壁が火々の火炎弾を遮り、水蒸気爆発が起きる。
吹き飛ぶ机や椅子、窓。そして揺らぐ酒家。
「ぐっは・・・・やはり本来が属ではない術は・・・」
煙の中、姿は確認できないが、導果の声はする。
この爆発の中、無事ではないようだが、倒せてもいないようだった。
>>92流木刀の攻撃はギリギリのところでかわされた。
そして大木刀が床に叩きつけられた瞬間を狙って導果は剣、鎌、鎖を使い大木刀を床に縫い付けた。
「てめっ、んの野郎!」
木刀を解放しようとする流木刀に、導果が圏を持って襲いかかる。
>>91>「流木さん!離れて」
万事休すかと思われたその時、火々の炎弾が導果に放たれた。
その炎弾が導果にクリーンヒットする事は無かったものの、武器を手放した事により木刀を解放する事が出来た。
「よし、これで存分に…」
>「ここは一旦退いて、猛牙さんと合流しましょう」
この言葉に流木刀は真っ向から反対した。
「ふざっけんな!何で俺がテメェの…」
そこまで言ってさっき火々に助けられた事を思い出す。
あそこで助けられていなければ、武器を手放すどころか、導果に殺られていたかもしれない。
「…煙が邪魔で何処に導果のオッサンが居るか見えやしねぇ…退くぞ。」
声で導果の位置を確認する事は可能だが、今は火々の作戦に従う事にした。
「…はい」
少し間を置いて流木に返事をすると、火の壁をその場に作り出し、流木の後を追った。
直ぐに追わせない為の火の壁だが、水蒸気で充満しているあの場ではそこまで長くは持たないだろう
火の手があがる酒屋を背に一先ず大通りを目指す
出来ればこれで気がついてくれればいいが…
生粋の戦闘狂である彼がもし、その真っ最中であるのならば
十中八九、彼は私たちを見捨てるかもしれない
やっとの思いで大通りに抜け出たその時である
「…流木さん、ちょっと」
いつもの脳天気な声ではなく、その声は静かに震えていた
(…こういうことしてる場合じゃないんだけどなぁ)
頭の中ではそう考えているが、体の中から溢れ出しそうな感情を抑えることが出来ない
「このバカたれがぁぁぁ!」
流木が顔を向けた瞬間、渾身の力で平手打ちを叩き込む
熱々の手のひらで叩かなかったのは最後の良心かも知れない
「1人じゃどうにもならない相手だからこうしているんですよね?
それなのに、あなたは何なんですか?
来るなり勝手に行動して、そのせいでこうなっているんですよ
自覚が無さ過ぎる!
逃げる時も逃げている最中もずっとふてくされている感じで
確かに戦う力ならば我々よりも武器であるあなた達には適わない…ですが
導果さんにはそれを埋めるだけの知恵がある
さっきのあれだってもしかしたら、そのほんの一部なのかもしれない
そんな相手に1人で立ち向かうつもりですか
そんなに頼りないんですか?ねぇ…答えて下さいよぉ!!!」
>>89 両膝を突きうずくまる鉄甲を見て、猛牙は勝機とばかりに突進を始めた。
しかしその猪の如き侵攻は鉄甲の放つ衝撃弾によって遮られた。
猛牙の猛攻が、ではない。遮られたのは猛牙の闘志。
「なんだその覇気のない技は・・・避ける価値もない」
よれよれと進む衝撃波を片手でいなすと、猛牙はうずくまる鉄甲の前で立ち止まった。
見下ろす猛牙の目は、まるで肥溜めを見るかのように霞み、蔑んでいた。
「こんなものがあの愚断を倒したというのか?あの誉れ高き兇刃をこんなものが・・・」
もはや猛牙にあるのは鉄甲に対する蔑みよりも、血沸き肉踊る戦いが終わってしまうという絶望が勝っていた。
猛牙は左手一本で鉄甲の頭を鷲掴みにするとそのまま高々と持ち上げ、鉄甲を見上げる形になる。
猛牙より身長の低い鉄甲は宙を浮き、体重の全てが首にかかる。
「貴様の二つ名は確か、敗北の宝貝・・・だったな。なるほど楽しむ間すらありはしない。愚断を倒したというのも嘘なのだろう」
猛牙は弱いものいじめは嫌いである。
仙境にいたころ、鉄甲の仇名が敗北の宝貝であるということを聞いてから愚断を倒したという報を聞くまで
鉄甲は敗北を続ける弱い宝貝なんだと思い込み、眼中になどなかったのである。
もし彼が二つ名の本当の意味を知っていれば、彼は絶望などせず、掴んだ頭を地面に叩きつけていたであろう。
「もはや貴様に興味はない。消えうせい」
猛牙は大きく振りかぶると、左手に抱えたそれをまるで野球選手が遠投するかのように楼閣から放り投げた。
>>94 放り投げたその先に、火の手があがる酒屋が見える。
「炎・・・火々の仕業か?相手は誰だ・・・導果ならばこの俺が奪い取ってやる」
そう言うと猛牙は、ゆっくりと楼閣の階段を下りていった
>>94導果から逃げ出した流木刀は非常に不愉快そうな顔をしていた。
欲しい物を買って貰えなかった子供のような表情だ。
暫しの沈黙を経て、大通りに抜け出たその時
>「…流木さん、ちょっと」
火々からいつもと違った調子の声がかかる。
「あん?んだよ…」
いつもと違ったその調子に、流木刀が振り返った瞬間――
>「このバカたれがぁぁぁ!
火々の平手打ちが流木刀の顔面に放たれた。
「!?!?!?」
あまりに衝撃的過ぎて声も出ない始末だ。
そんな状態の流木刀に次から次へと指摘をしていく火々。
それを流木刀は黙って聞いていた。
「……俺は…今までずっと一人で戦って来たんだ!
今さら他人に頼れるかってんだよ!
俺ぁ…一人で居たいんだよ!
てめぇらと一緒に戦うくらいなら一人で戦った方がマシだ!!」
>93>94
「くくくく・・・なんともはや、最後の宴に相応しくしてくれる・・・!」
酒家に取り残された導果が術を解くと、水蒸気は消えうせる。
それによって足止め代わりに火々が放った火の壁は急速に勢いを得て、紅蓮の炎の壁となった。
半壊した酒家は瞬く間に炎に包まれてゆく。
酒家を燃やす炎が天まで昇り、大通りを明々と照らす中、地面が微振動を起こす。
「やれやれ、仲間割れですか?そんな態では宴が盛り上がりませんよ?」
それと共にどこからともなく聞こえてくる声は・・・導果のものだった。
声と共に地震は大きくなり、いよいよ大通りに石畳も歪み始める。
「はっはっはっは!言ったはずですよ。この都市は私の思うがままだ、と!」
大通りの中央、石畳が突如として隆起し、高さ2m程の石柱となった。
その上に乗っているのは導果!
既にその手に武器はなく、二対の腕組をして流木と火々を睥睨していた。
しかし地面の異変はまだ収まらない。
導果の断つ石柱と同様に、大通りのそこかしこに石柱が林立し始めたのだ。
逆に隆起していない部分は石畳の隙間から泥が滲み出し、沼と化してゆく。
酒家が炎に焼けくずれる頃には振動が収まっていた。
が、その代わりに大通りは完全に沼と化し、足場といえば不規則に林立する石柱のみとなっていた。
>>95 「はっ放せ・・・・・・」頭をつかまれジタバタともがく鉄甲
力が入らない、急激な運動をして心臓が爆発しそうになる老人のごとく
体が鉄甲の思いとリンクしていないのだ
動こうとする意思に体がついていかない、体の感覚が鈍く感じる
自分が力を込めようとすればするほど肩透かしを食らうように力が体を通り過ぎていくのを感じる
猛牙の言葉が自分の中を通り過ぎていく
自分は何者なのか?自分は何でこんな事をしているのか・・・
薄れていく意識の中
>「もはや貴様に興味はない。消えうせい」
体が開放されたのが分かる、そして猛牙が遠ざかっていく
自分が投げ飛ばされたというのが分かったと気付くと既に楼閣からかなり遠ざかっていた
体が徐々に落下の体勢に入る
このまま消えてしまえればどれだけ楽か・・・・・・そう思い眼を瞑ると深い闇に意識がどっぷりと浸かっていった。
>>97 私は誰なのか・・・?何故こんな所で傷ついているのか・・・?
暗い闇の世界に、地べたに這い蹲り動かない少女が見える・・・これは私なのか?
こんなに傷ついて・・・このままこの少女と共に闇の中に消えよう・・・。
「鉄甲、立ちなさい!まだ修行は終わってませんよ!」
この声は・・・聞き覚えがある・・・厳しく、そして懐かしい・・・師匠・・・・・・
「鉄甲、貴女がそこで地面に顔を埋めている限り誰もあなたに手を貸しませんよ!」
厳しいな師匠・・・でも、もう立ち上がる気力が無いんですよ・・・体に力が入らないんです
体を流れる私の力が・・・私の中をただ過ぎていくだけなんです・・・。
「忘れたのですか鉄甲?貴女に流れるその力こそが、無限の活力その物!貴女の中を駆け巡る力を
繋ぎとめていくことは出来ない、だから体を力に任せるのです」
体を力に任せる・・・?・・・・・・
「思い出しましたか?」
そうか・・・そうだった・・・流れる力を塞き止めることは出来ず・・・ならその力を理解し、その流れに身を任せる
「そう・・・それでいい・・・貴女はアナタでしかない・・・無理に気張ろうとするから、上手く力が入らないのです
あなたに流れる力、それは貴女自身・・・貴女の中に流れる力が繋ぎとめられる事を拒否したなら、好きにさせてあげなさい」
師匠!私は!
叫ぼうとした瞬間、今度は闇ではなく沼に浸かっていた
「 意 地 を 張 る の も 大 概 に し て く だ さ い !」
身勝手な流木の理由を聞き、遂に火々の堪忍袋の尾が切れる。
爆裂音と共に両手には火が灯り、髪を結っていた紐も焼き切れた。
「そんなに一人がいいなら、目を閉じ、耳を塞ぎ、口を塞いで孤独に暮らせばいい
それさえも出来ないお前はなんだ!中途半端、何もかもが中途半端
孤独したければ好きにするばいい!しかし、他人に迷惑をかけないよう勤めるべきだ」
徐々に勢いを増す両手の炎と体温、そして、茜色に染まっていく毛髪
いや、染まっているのではなく、炭のように赤く燃えているのだ。
普段は髪留めの紐によって抑えていたのが、現れたのだ。
激怒に歪み、流木を睨みおろしていた表情が、何かを悟ったように冷たい表情に一変する
「なるほど、そうか…そうなんですか
結局、あなたは誰かを背負う重さから逃げているだけの臆病者だったんですね
孤独ならば、孤立すれば…それから逃げられると…だから、あなたは弱いんだ!!!」
そう言って、流木に背を向ける。
「帰れ…何も背負えない臆病者なんて居ても邪魔なだけです
それに導果さんは確か木属性の宝貝、火属性の私なら、あなたが戦うよりもずっと勝てる見込みがある。
それとも、これ以上駄々をごねるのなら………炭にしてやろうかガキ」
冷たく、そして、侮蔑するようにそう吐き捨る。
その言葉には殺意が滲み出ていた。
>「やれやれ、仲間割れですか?そんな態では宴が盛り上がりませんよ?」
突如、導果の声が聞こえ、足が止まる
「宴の肴が腐っていては元も子もないでしょう?それだけですよ。さっさと姿を現したらどうです?」
そう返してみせるが、状況は最悪といっても過言ではない。
地震によって膝がつき、身動きが出来ず、そして、挙句の果てが仲間割れ
だが、火々の目には諦めの陰りなどなかった。
そして、遂に現れた導果とそれを追う様に乱立する石柱の数々
タイミングを見計らい、生えてくる石柱に飛び乗り、導果と同じ高さにまで昇る
「ならば、その結界ごと燃やし尽くすだけです。」
そう告げ、炎弾を放とうとした瞬間だった。目の前を流れ星…いや、人型の何かが通過する
驚きのあまり動きが硬直し、視線は流れ星ならぬ地に落ちた流れ人に視線がいく
「クフフフ…、人の命の儚いこと儚いこと…。
宝貝の命もまた然り、ってとこかしら?
やっぱりあたしの血塗られた宿命の前に、安穏の時なんて無いのねえ。
あ〜あ、つまんないわ。」
楼閣のてっぺんから、宝貝たちの戦いを見下ろしている男が居た。
今まで戦闘のできない者たちに紛れていたが、次々と起こる異変の前に姿を現したのだ。
「この様子、導果センセが派手にやらかしちゃったみたい。
面倒事はイヤだったから隠れてたけど、随分と乗り遅れたわね〜。」
クネクネした動きでその場を歩き回っている。
分かってると思うけどレスしちゃだめだよ
>99
「これはまた美しい!
激昂したあなたは最高の料理ですな。」
火々の結っていた髪の紐が焼き切れ、美しく広がっていく。
髪だけでなく、その見も茜色に染まる。
あまりにも上昇した体温のお陰で周囲の空気が歪み、ところどころ火々身は歪んで見える。
石柱の上に立ち、目線が等しく揃った火々を導果は眩しそうに見つめる。
迸る熱気に包まれたこの姿こそ、導果が待ち望んだ事態なのだから。
>98
ゆっくりと組んだ二対の腕をほどき、力を込めた刹那。
それが飛び込んできた。
ダッパーーーンと水音を響かせ立ち上る水しぶき。
その中心に見えるはボロボロになった鉄甲の姿。
「はっはっは!程よくやられましたな、鉄甲。
これで漸く内燃炉も稼動する、というところかな?」
ボロボロになった鉄甲の姿を心配するでもなく、労わるでもなく。
導果は心底喜んだように声をかけ、石柱を蹴る。
宙に舞う導果の四本の腕には【土】【水】【壁】【挟】の文字が浮いていた。
それと共に火々の左右には見上げるほど大きな壁が競りあがる。
岩や土ではなく、沼の泥で出来上がった壁は衝撃を吸収し、全てを飲み込む壁。
それが左右から飲み込み押し潰す為に迫るのだ!
沼に落ちた瞬間大きな水柱が立つ
バッサーンと白い柱が立つとブクブクと泡が立ちはじめる
「!」
水中でカッと目を見開く
今度は沼から自分が着水した時以上に水柱が立つ
吹き上がる間欠泉の如く水は空へと吹き上げられる
「ウオオオオオオオオオオオ!」
鉄甲の体から溢れる闘気は辺りの水を巻き込みながら空へと上昇していく
丁度沼の水が程よくなくなった辺りで闘気を抑えると、巻上げられた水が、雨の様に落ちてくる
ザアーーと降りしきる雨はしばらくすると止みだした
体からは抑えてるはずの闘気が薄っすらだが漏れ出し、自分の出している闘気と闘気がぶつかり合い
体中でスパーク現象が起きている様である。
「ようやく過去に近づけたかね・・・」
>>99>>102 水にぬれた鉄甲は頭が冷えたとばかりに辺りをゆっくり見渡すと自分が先程まで居た楼閣が見えた
それを見て自分が随分遠くまで飛ばされたと気がつく
「おや?先生・・・そして、久しぶりの顔だね」
自分の視界に入ったのは、導果先生と以前追跡側として愚断剣を追いかけた知った顔だった。
火々が来るのは分かっていた、どうやら自分は火々と先生が対決していた場所に飛ばされたようだ
>「はっはっは!程よくやられましたな、鉄甲。
>これで漸く内燃炉も稼動する、というところかな?」
「さあてどうだろうね?だけど今は自分の中の溢れ出る力を慣れさせないとダメだからねぇ
まだ体とうまく馴染まないよ・・・だが、時間の問題さね」
軽く右手を上げると、拳の周りに光りだしていく
輝くというより光集まっていくという感じに近い
「調節ができないからねぇ、少し派手になっちまうが良いかい?」
そう言うと自分の拳に溜めた光が勢い良く天高く昇っていく、以前魔采を葬った時のような激しい光の柱が放たれる
ようやく、昔の感を取り戻したようだ。
何者かが巻き上げた大量の水は重力に逆らうことなく、雨のように降り注ぐ
別に濡れても問題は無いが、今濡れる訳にはいかない
右手を上げ、頭の上に巨大な火球を作り出し、傘代わりにする
なんとか耐え凌いだ頃には、人を飲み込めるほどの大きさだった火球も西瓜と同程度の大きさに萎んでしまった。
一難去った所で、改めて視線を乱入者に向けた
「…なっ」
その時、火々は絶句した。
そこにいたのは、対愚断の時に共に行動した鉄甲だったのだ。
「…な、なんであなたがそこに居るんですか!」
己の目を疑うのも無理は無い
別に鉄甲は愚断らのように自らを表す場に飢えていた訳ではないし、追跡隊に身を置けば常に戦いに困ることもない
はたから見れば充実した生活に見えている
それなのに、わざわざ裏切りに走るのは何故か
その理由を問い詰めようとした瞬間、視界が暗くなった
余りにも鉄甲の裏切りが衝撃的だったのか
今、戦いの場に身を置いていることを忘れてしまっていた。
迫る泥の壁、避けることは不可能
そう判断し、両腕を横に広げ、壁に向かって火を放つが
それも虚しく火々は泥の壁に飲み込まれてしまった
そして、駄目押しと言わんばかりに鉄甲の光の柱が泥の壁事火々を吹き飛ばす…はずだった。
泥の壁が吹き飛び、何も残らないはずの石柱の上には、得体の知れない茶色い球体が乗っかっている。
「ナンダなんだ?もう始まってるジャネーか!」
闘いを始めている導果達の所へガッチャガッチャと音を鳴らしながら
近づいていく大きな影が一つ。背中のパイプのようなところからは蒸気を吹かし。
その声は普通の人間ではありえないほどノイズがかかっている。
この大男の名は『常鎧』全身鎧の宝貝である。原体は言うまでもなく鎧。
重い体を必至に動かし導果達の元へと走っていく。
「いけね、スッカリ倒すコト忘れて遊んじまった!」
性格は単純、この一言に尽きる。何もかもが単純で考えることを嫌う。
今回追跡体に加わったのも特に使命感があるわけでも、
逃亡者達に恨みがあるわけでもない。理由は単純。仙人に行ってこいと言われたからである。
そんな馬鹿が今まさに戦っている導果と手甲、火々の元へと駆けつける。
「ヤイヤイてめぇ等!!この鉄壁の宝貝である常鎧様が
来たカラにはもうオシマイだってんだ!!大人しく降参しやがれ!」
背中に刺さっている何でもないようなガラクタ(大剣?)を抜き、
構えて威勢よく自分の目の前に映る宝貝達に叫ぶ。
興奮したせいか沸騰したヤカンの様な音をたて、背中のパイプ達から蒸気が一斉に上る。
出だしは上々、後は敵である逃亡者をこのまま勢いに任せて倒せれば完璧。
「あー……トコロで誰が俺と戦う相手ナンダ?」
その言葉に逃亡者組も追跡者組もどういった反応を示すのだろうか。
あろうことか常鎧は敵と味方の区別もできないほどの馬鹿のようだ。
分かってると思うけどスルーだよ
>103
水柱を上げながら気勢を発する鉄甲を導果は傘を具現させ差しながら満足気に見ていた。
気炎万丈充実した鉄甲と、嘗ての仲間の裏切りに驚く火々。
その隙を逃さずに火々は左右から迫る泥壁に飲み込まれてしまう。
それもそうだろう。
硬い壁ならばいざ知らず、軟体ともいえる泥には殆どの攻撃は通用せずに飲み込まれるだけなのだから。
まず一人・・・
少々あっけなさを感じながら息をつく導果だが、それを直ぐに間違いだと知らされることになる。
閉じた泥壁を吹き飛ばす鉄甲の光柱が過ぎ去った後、そこには火々はいなかった。
変りに茶色い球体。
原体に戻ったのであれば鍋が残るはず。
いや、あの光の柱を受けて未だ留まるその茶色い球体に導果は戦慄と期待感を覚える。
それは戦いの歓喜と言う物だろう。
>95>96>100
戦いの歓喜を全身に満たしながら導果はぐるりと辺りを見回す。
沼には流木。
そして隠そうともしない闘気の塊。
そう、猛牙も猛直ぐそこまで来ている。
迸る闘気に紛れてしまいそうだが、ぬるっとした狂気・・・その主たる魔刃も見逃す事はない。
宝貝たちがここに一同に階層としているのだ。
導果の宴の為に!
「調整?最後の宴だ。そんなものは必要ない。
もう直ぐ役者も揃う事だしね。思う存分やってくれたまえよ!」
嬉々とした導果の宣言が沼に響き渡る。
>105
そして最初に現われたのは・・・常鎧だった。
ガシャリ、ガシャリと重苦しく金属がこすれる音と蒸気を吹かしながら現われた鉄の塊。
背負った巨大な剣を引き抜き啖呵を斬るが、イマイチ判っていないようだった。
>「あー……トコロで誰が俺と戦う相手ナンダ?」
「愚鈍なる常鎧よ!お前の相手は私だ。尤も、私のところまで辿り着けたらだがね。」
そう言いながら振るわれる二本の腕には【広】【深】の二文字が。
途端に沼の範囲は広がり、常鎧の足元まで広がる。
ぬかるみ、そして深い沼に常鎧がゆっくりとだが沈んでいく。
>104
泥の壁が吹き飛ぶとそこには茶色い球体があった
一瞬見た感じではなんなのか分からないが、鉄甲にはそれがなんであれどうでもよかった
軽く頭をよぎったのは何らかの手段で泥と自分の攻撃を防いだ火々なのだろうと
だとしたら、結局答えは同じである
「アラよっと!」
軽く腕にスナップを効かし光の玉を投げる
投げ方自体はただのキャッチボールのような感じであるが
投げられている光弾は尋常ではない速さである、光速ではないものの
剛速球という言葉では言い表せないほどの早さである
鉄甲の光弾は茶色い球体の横をかすっていく
「あららー?狙いが外れちまったか、まあ次は・・・!」
と次を投げようとしたときである。
ガシャンガシャンと音が近づいてくる
>>105 >>107 後の方へ目を向ければ仙境きっての馬鹿である常鎧であった
なんとなく予想はついていた、たぶん常鎧はこの後名乗りを上げる
そして・・・
>「あー……トコロで誰が俺と戦う相手ナンダ?」
相変わらず振りの常鎧に仙境に居た頃を思い出す、懐かしい気持ちとともに
もう戻れないのだという気持ちが鉄甲の胸に響く
「常鎧!久しぶりだねぇ〜私を覚えてるかい?鉄甲だよ鉄甲、流石のアンタも覚えてるだろ?」
そう呼びかけると先生の力により足元が沼へと変わっていく
先生は自らが倒すべき敵だと名乗ったようだ・・・だが、ちょいとばかり昔の心を思い出した鉄甲は
ほんの少し、軽いイタズラ心がくすぐられた
「おい常鎧、そのままだと沈んじまうぜ〜!常鎧助けてやろうか?
ついでだから教えておくと、お前を沈めた奴の仲間はお前の目の前にあるその茶色い球だ
もし助けたら、協力してその茶色いのを倒さないか?」
流石の常鎧もこれに釣られるとは思えないが
鉄甲の中では淡い期待が満ちていた、なんとなく・・・そうなんとなく
自分のくだらない嘘を信じて行動してしまう常鎧を想像したら、仙境の頃人をからかって遊んだ自分を思い出し
笑えるんじゃないと・・・
茶色い球体の正体、それは火々の火力によって焼かれ、固まった土である。
先に固まった土が泥を押し広げ、火々が入るスペースを作り
熱によって土が陶器のように固まったのだが
それに加え、周りの固まっていない泥が衝撃を吸収し、吹き飛んだことにより、卵のように綺麗に残ったのだ。
「クソッ…これが狙いだったんですか!」
と上記で説明したように現状は偶然の賜物であるが、当人はすっかり勘違いしている
「火力を逆に利用して捕縛とは…いや、違…」
息が苦しい…火の勢いも弱まってきている
「(このままだと…やられる)」
そのとき、陶器独特の鈴のような音が響く
「(…追撃!?何故…いや、そこはいい…追撃するつもりなら…こっちの渾身をぶつけるだけ)」
いつまで気を保てるかわからないが、淡い希望にかけるしかなかった
誰が敵なのか、誰が味方なのか判断ができずにポリポリと頭を掻いている常鎧。
>「常鎧!久しぶりだねぇ〜私を覚えてるかい?鉄甲だよ鉄甲、流石のアンタも覚えてるだろ?」
すると鉄甲が手を振り常鎧に呼びかける。しばらく硬直していた常鎧だったが、
人の顔ぐらいは覚えられるらしく嬉しそう(?)に一回蒸気を噴出させると勢いよく手を振る。
「おお、鉄甲の姐さん!!久しぶりじゃねーか!!元気シテたか!?」
表情というものはないがどことなく常鎧が嬉しそうなのは伝わってくる。
しかし、その直後に常鎧の足元が沼になり重く鈍重な常鎧はただその泥濘に嵌るよりなかった。
>「愚鈍なる常鎧よ!お前の相手は私だ。尤も、私のところまで辿り着けたらだがね。」
「ウオオッ!!ナンダこりゃ!?おい!元に戻しヤガレってんだ」
大声で吠えるがそんな言葉でやめるわけもない。敵の思惑通り
どんどん沼に浸かっていき腰辺りまであっという間に飲みこまれてしまう。
進もうと足を動かしても全くの手ごたえのなさに常鎧が焦っていると鉄甲が語りかける。
>「おい常鎧、そのままだと沈んじまうぜ〜!常鎧助けてやろうか?
ついでだから教えておくと、お前を沈めた奴の仲間はお前の目の前にあるその茶色い球だ
もし助けたら、協力してその茶色いのを倒さないか?」
「本当か!?よっしゃ!そうときたらサッサと引っ張り出してクレや姐さん!!」
鉄甲の申し出に懐疑の念を持つどころかさっさと引っ張りだしてくれと頼む常鎧。
後ろの方の条件など完全に聞いちゃいない。手をのばして鉄甲が握ってくれるのを待っている。
だが、そこでようやくおかしいと理解したのか手をゆっくり降ろす。
「なあ姐さん。ナンデ俺の味方だって言うナラ、そいつと仲良くシテルんだ?
もしかして姐さん!アンタ逃亡者か!?………ソウカ、じゃあ手助けはイラネ!!
姐さんは嫌いジャねえが逃亡者と仲良くシテたら爺の奴に怒られちまう!!済まねえな!」
とは言ったものの。すでに沼には体の大部分が使っており今は肩まで使ってしまっている。
(さあて、ドウすっかなぁ。参っちマッタぜ!!)
3択−ひとつだけ選びなさい
答え@カッコイイ常鎧は突如脱出のアイディアがひらめく
答えA仲間がきて助けてくれる
答えB脱出できない。現実は非常である
正直なところAの答えに頼るのは不可能に近い。
おそらく他の人間は自分のことで精いっぱいだろうし
仲間が来ても鉄甲なみのパワーファイターや特殊な能力を有してなければ
凄まじい重量の常鎧を引っ張り上げるなど不可能!
「ってことは。@シカねーだろうがッ!!ウオオオオオオオオ!!!!」
力を込め沼から出ようと奮闘しはじめる常鎧…しかし抵抗するたびに
まるで文字通り泥沼にはまるがごとく体が沈んでいく。それは剣を振るってみても
何をしようと変わることはなかった……そしてとうとう首まで浸かってしまう。
答えB−脱出できない。現実は非常である。
「ここまでってコトか……ッテわけダ!!どうやらお前には辿りつけナカッタぜ!!」
最後の最後に導果にそう叫ぶと常鎧は泥沼へと落ちていった……
階段を下り、ようやく楼閣の入り口までやってきた猛牙には
そこに入ってきたときとはまるで違う光景が目に入ってきた。
自分の手前まで侵食している深く濁った沼。
ターゲットとしていた導果の姿。
先ほど自分が投げ飛ばし、覇気の感じられなかったはずの鉄甲。
今にも沈み、顔だけ見えている常鎧。
そして見える茶色い球体に、柱、柱、柱。
三つ巴、三竦みの状態であると猛牙は察知した。
今自分がいる場所までは沼は侵食してきていない。ならば足をとられぬようここから動かないのが賢明。
猛牙は状況判断をし、何がもっとも自分を優位にし、何がもっとも自分を楽しませてくれるのかを分析した。
まず、やはり敵である導果と先ほどとは違う強力な光に包まれた鉄甲が一番脅威であろう。
その次に不気味に浮かぶ謎の球体。これは何かの罠の可能性もある。
最優先で破壊しなければならない。常鎧はどうなっても知らん。
分析の終わった猛牙は、茶色い球体へその場から斬撃を放った。
>108>109>110>111
「ふん、力馬鹿というのなんぞあっけないものだ。」
成す術なく沼に沈む常鎧を一瞥して鼻で笑う導果の眼には侮蔑の光が宿っていた。
鉄甲が弄ぼうとしていたようだが、どちらにしても結果は変らない。
となると、あとは火々だった謎の球体。
下手に攻撃してカウンターを喰らっては溜まったものでは無いと思案をしている矢先にそれに気付く。
猛牙の攻撃波動。
「中々どうして、巡り合せというものだな!」
放たれた斬撃の向かう先は都合よく謎の球体。
下手に手を出せぬ球体に攻撃を仕掛けてくれるばかりか、攻撃という隙間で見せてくれるのだ。
「ふははは!礼を言うぞ!猛牙!」
タンと石柱を蹴り宙を舞う。
向かう先は猛牙の直上。
四本の腕には全て【衝】の字が浮かび上がっている。
猛牙の頭上で炸裂する四連衝撃は一つの大きな衝撃波となって猛牙を襲う!
一方、一瞥したまま省みる事のなかった常鎧。
沼に沈んでいき、あることに気付くだろう。
足先に硬いものが当たる事に。
元々沼は相手の機動力や滑らす事により攻撃力を減ずる為にあったのだ。
深くしたと手底なしにはなっていない、という事なのだ。
ましてや長身巨躯の常鎧がしっかりと直立すれば首までの深さしかない。
足掻くあまり体制を崩し、完全に沈んでいただけだったのだ。
「導果センセイ…、お久しぶりです…
そしてさようなら…」
導果の背後から突如影が現れ、三言呟くと両手を合わせた
線の細い痩せた感じの若い男がいつの間にかこの場に来ていたのだ
縫い針だが、戦闘用の特殊能力を移植され人間形態での戦闘力を飛躍的に高めている
千本は飛び上り、導果の真上に回り込むと、懐から一本の針を取り出し投げ付ける
「秘技、串刺しの術!」
真上から投げ付けられた針は、最初は指で摘めるほどの小さなものであった
しかし、一瞬にして槍のように巨大化したのだ
巨大な針の先が導果の体を脳天から刺し貫こうとしている
「導果センセイ…、孤独だった僕に優しくしてくれたお礼です…
楽に逝っちゃってください…」
気を失い掛けたその時、何者かの攻撃により球体が切り裂かれ、瞬時にその方向へ炎を放った
その瞬間、球体は大爆発を起こし、飛散する
バックドラフトという現象をご存知だろうか?
火災現場で起こる現象の1つで、密閉された空間にて不完全燃焼が起こり
一酸化炭素ガスが充満した中に大量の空気が入った瞬間、大爆発が起こるといった現象であるが
まさに、今この場でそれが発生したのだ。
爆炎を両腕に集め、肺の空気を取り替えるかのように深呼吸する
「くはぁ…死ぬかと思った」
体調を整えると即座に辺りを確認する
導果は猛牙に食いついている最中のようだ。
(手助けはかえって邪魔になるだけ…ならば)
視線を下ろし、鉄甲と授鎧を睨む
その目には憤怒の色が出ている
「…授鎧さん…何ふざけているんですか?みんな必死になっているのに…1人泥遊びですか
一生そこで遊んでろ屑鉄!
そして、あなたは何なんですか!
戦えればどうでもいいんですか!
返答次第では…わかりますよね?」
>>110 「悪いねぇ〜・・・はっはっはっアンタの言うとおり逃亡者だよ私は、はっはっはっ」
哀れにも沼へと沈んでいく常鎧の姿が可笑しく
ここしばらく笑って居なかった鉄甲は久しぶりにこの出来事を楽しんでいた
「はーはー・・・ああ、可笑しかった」
指で涙を拭うと、 沈みゆく常鎧に語りかける
「常鎧、落ち着いてちゃんと立ってみな、お前くらいだったら足が着くはずだよ?」
実際問題、この沼は相手の動きを止めるためでありそんなに深い訳ではない事は
沼に入った鉄甲が知っている
すると、球体の方で爆発が起きる
>>114 どうやら火々が何らかの手段で球体から出てきたようだ
>そして、あなたは何なんですか!
>戦えればどうでもいいんですか!
>返答次第では…わかりますよね?」
「なんだいなんだい・・・折角出てきたと思ったら忙しいお嬢さんだねぇ・・・
私にはアンタの言ってる事がわかんないねぇ・・・戦えれば?」
鉄甲は両手を軽く広げ、分からないのポーズを取る
「まあ、アンタの言いたい事は分かるさ、どうせ私が酔狂で戦い求めて裏切ったとでも言いたいんだろ?
なら今の答えで満足かい?アンタに私の気持ちなんざわかんないよ・・・」
先程までの笑顔は消えて、また悲しげな表情に戻る
「火々、今度はアンタに聞くよ・・・アンタは自分の生き方に満足してるかい?」
>>112 斬撃を放ったその刹那、上空から声が響く。
>「ふははは!礼を言うぞ!猛牙!」
言うなり、大きな衝撃波が上空から降り注ぐ。
「ふん、隙ができたと思い掛かってきたか。なかなかどうしてこずるい奴よ」
体に闘気を蓄え、衝撃波を迎撃しようとしたときである。
巨大な破裂音とともに炎の渦が真横から飛んでくるのが目に入る。
前門の狼、後門の虎。どちらにせよダメージを負うのは避けられない。
ならば猛牙に相性の悪い炎を避けることが先決。
そう判断した猛牙は、闘気の結界を解くと、手を広げまともに導果の衝撃波を食らった。
「あ・・・・ぐぁあ・・!!」
真上からやってきた衝撃波は猛牙を押しつぶし、やがて猛牙は大の字に倒される。
しかしその衝撃もすぐに飛んできた炎の渦によってかき消され、その場には仄かな焦げ目と凹んだ大地
そして寝転がる猛牙の姿が残った。
除に立ち上がり口から煙を吐き出すと、今まで押さえ込んでいた闘気が再び放出する。
>>113 「千本・・・あぁ・・・邪魔だっ・・・諸共に消え去れ!!」
憤怒の表情を浮かべた猛牙はその怒りをも闘気に乗せて、左手から巨大な闘気玉を形成する。金気を帯びたその巨大な玉は
木属性の導果には脅威となるだろう。そしてその玉を中に浮かせると、
大きく振りかぶりバッターのように斧の腹の部分を玉に打ちつけ、巨大なそれを二人のいるほうへ打ち飛ばした。
>114>116
衝撃波を放った瞬間、導果の猛一つの顔は謎の玉が爆発する様を見ていた。
猛牙の残撃が当たった瞬間、巻き起こるバックドラフトと言う名の大爆発は導果のいた場所にもその猛威が及ぶ。
だが、カウンターを想定していた導果はその備えも既にしていた。
二本の腕を背中に回し、【緩】【壁】の二文字を具現化させる。
爆炎は不可視の壁によりその勢いを減じ、導果にダメージを与える事はなかった。
一方、猛牙は爆炎を避けるために衝撃波をまともに喰らう道を選ぶ。
全ては導果のペースで戦いが進んでいた。
この時までは・・・。
>113
> 楽に逝っちゃってください…」
いつの間にか背後に回っていた千本が放った鍼が巨大化し、導果の脳天を貫いたのだ。
猛牙と謎の玉に注意が言っていた為、これに対応する術はなかった。
「せ・・・千本・・・君が来ていたとは・・・な・・・。」
脳天を貫かれ呻く導果。
その言葉を最後に導果はグラリと体制を崩し倒れていく。
そう、脳天を貫かれた導果は・・・
今の導果は二人の導果が重なり二面四臂。
脳天を貫かれた瞬間、導果は股二人に分かれたのだった。
脳天を貫かれた導果は沼に落ち、その姿が消える。
残ったのは針に串刺しにされた【導果】と書かれた一枚の紙だった。
無事だった導果は空中で向きかえり、千本をうち倒さんと力を込めていた。
その刹那、猛牙を押し潰したクレーターから凄まじい闘気が迸る。
そこには憤怒の表情の猛牙が巨大な闘気玉を打ち飛ばしていた。
金気を帯びた巨大球を前に導果は即座に対応する。
もはや千本の相手をしている場合ではないのだから。
巨大闘気玉の前に現われる爆炎の壁。
金気を剋する炎の壁で迎え撃とうと言うのだ。
壁と玉が触れた瞬間、大爆発が巻き起こる!
辺り一帯を吹き飛ばさんとする爆発のあと、詩化して導果は未だに空中に立っていた。
「ふふふ・・・やはり退気の火気では天敵の分は拭えぬか・・・!」
空中に佇む導果の左手と右足は消失し、脇腹にも大きな穴が開いていた。
如何に五行相克を操ろうとも、本来の属性ではない術では防ぎきれなかったのだ。
導果はその言葉を最後に体制を崩し、姿を消した。
残ったのはボロボロに千切れた【導果】と書かれた紙だった。
そう、二人の導果は導果の術によって具現化していた式神だったのだ。
「いやー見事見事!私を倒すとは!」
二人の導果が敗れ去った後、沼地に導果の声が響き渡る。
その声の元はシャンバラ上空。
そこには更に導果が立っていた。
楼閣の屋根の上で様子を窺っていた導果が、上空で今までの気を溜め、大きな文字を書いていたのだ。
「さて、宴も十分に盛り上がった。十分であろう。
追跡宝貝の諸君。輪が誘いに応え集まった逃亡宝貝の諸君。
もはや君達は用無しだ!散ってくれたまえ!」
地上で戦う宝貝たちを睥睨し、荘厳に、そして残酷に導果は宣言する。
月明かりに照らされ夜空に浮かぶのは巨大な【剛】【化】【剣】【乱】の四文字。
導果の振り下ろす手とともに、文字は具現を得る!
一本2mから大きいものでは5mもあろうかと言う剣が無数に出現し、豪雨の如く享楽都市シャンバラ全域へと降り注ぐ!
>>116-117 「さすがセンセイ…、こんな程度じゃ堪えませんか…」
嬉しそうにやつれた顔を歪ませながら微笑んでいる
次の攻撃に移るべく、指の間に仕込んでいた複数の針を露わにさせる
しかし、すぐさまその場を離れる道を選んだ
猛牙の闘気玉が凄まじい勢いで迫ってきていたからだ
「ああ…、酷いなあ、猛牙さん…
確かに寝てて出遅れちゃいましたけど、一応仲間ですよ、僕…」
(この猪突猛進野郎…、いつか殺してやる…)
恨めしそうな表情をしながら、泣きそうな声で猛牙に抗議する
幾分かの憎悪と殺意を抱いたが、今は導果の始末が先決である
二人の導果は式神だったが、千本は身じろぎ一つせず針を弄っていた
導果はあらゆる呪術に長けた筆の宝貝であり、この程度の小細工は朝飯前だろう
そして、導果の声がしたと同時に空を見上げる
「センセイ、嬉しいですよ!
あなただけは他の誰にもやらせない!
原体に至る全てを僕の手で始末して差し上げますからね!」
しかし、導果はその千本の物言いに答えることなく四つの巨大な字を描き出した
千本はこれが直ぐに危機的状況を生む大技だと感付いた
あれだけ巨大な術印字を一瞬にして大成させる筆など、導果以外に無いだろう
文字通り、頭上に巨大な剣が無数に現れ、降り注いできた
トンデモな術を披露してくれるものだ
「センセイ、僕まだ終わりたくないんですよ!
秘技、千本針の術!」
自らの名を冠した術をいきなり口にする
その瞬間、千本の体は細かく分解され始めた
だがよく見れば、体が無数の細かい縫い針になってしまっているのだ
これが「千本針」と呼ばれる所以である
無数の針と化した千本の体は降り注ぐ巨大な剣の雨を難なく掻い潜る
「この分だと他の人たちは戦闘不能かな?
早く止まないかなあ…
単純な術だけど結構仙力使っちゃうんだよね」
剣の雨を掻い潜りながら、辺りを見回そうとする
しかし、その中では他者の様子など確認の仕様もないだろう
>「常鎧、落ち着いてちゃんと立ってみな、お前くらいだったら足が着くはずだよ?」
泥沼の中でいつ意識が消えるものか待っていた常鎧に鉄甲の声が届く。
常鎧は素直に鉄甲の言うとおりに屈んでいた身をシャンと伸ばす。
「アリャ?……なんでいなんでいッ!普通に足が着くジャアねえか!!
ガーッハッハッハ!!どんなもんだい!!」
沼から顔だけ出してすぐさま調子に乗り始める常鎧。
鉄甲の助言がなければそのままずっと沼の中に沈んでいたが、
常鎧は足がつくことをさも自分が発見したかのように嬉しがっている。
>「…授鎧さん…何ふざけているんですか?みんな必死になっているのに…1人泥遊びですか
>一生そこで遊んでろ屑鉄!
そんなところに自力で土玉から脱出した火々が常鎧を怒鳴りつける。
「な…な…ナンだとぉ〜!!おい火の字!
屑鉄ッテノハ言いすぎじゃあねえのか!?
俺だってソレナリに真面目にヤッテルってのっ!!
泥も本気で死ぬカト思ったんダゾ!!やい!!聞いてるのか!!おい火の字!!」
怒っているのか鉄甲のときよりも数倍蒸気を吹かし火々を指差しながら
ノソノソと沼地から這い上がろうとしている常鎧。
最も喋りに集中しているのか沼地から上がろうとしても手が滑ったりで一行に進んでない。
更には火々は鉄甲との掛け合いで忙しいようだ。
「ウムググ!!!無視シヤがって!!」
悔しそうにしながらモソモソと沼地から這い上がる。体中泥だらけで
火々の言った屑鉄そのまんまだ。黙って座ってれば汚いガラクタに見えるだろう。
羽織っている着物もまるでボロ雑巾。今日着てくるんではなかったと後悔しても先に立たず……
「ウガ〜!俺の一張羅がぁ!!!畜生畜生っ!!導果の奴モウ許さねー!!」
そう叫んで導果の元へとダッシュしている丁度その時。
猛牙の放った巨大な闘気玉と炎の壁が互いにぶつかりあい、凄まじい大爆発が起こる!!
「アガガグガガガ!あ痛っ!!」
その激しい衝撃に当てられ吹っ飛ばされ転がりそのまま頭を地面にぶつける。
何とも情けないがそれだけの衝撃がさっきの戦いで発生したということもまた事実。
当の導果は左手と右足を失い。脇腹には風穴が空いてしまっている。
いや、これでもさっきの衝撃を考えると軽く済んだのかもしれない。
しかし、一番恐ろしいのはさっきの衝撃でも、ましてや猛牙でもない。
一番恐ろしいのはこの状況の中でも笑っている導果本人。
>「ふふふ・・・やはり退気の火気では天敵の分は拭えぬか・・・!」
そしてその言葉を最後に一枚の紙切れを残し消え去る導果。
紙切れには様々な呪術のようなものが書かれており。それが式神であることを見るものに伝える。
>「いやー見事見事!私を倒すとは!」
沼地に響き渡る声、声の元を探すとそこはシャンバラの上空。
桜閣の屋根の上で何やら大きな文字を書いている。
>「さて、宴も十分に盛り上がった。十分であろう。
>追跡宝貝の諸君。輪が誘いに応え集まった逃亡宝貝の諸君。
>もはや君達は用無しだ!散ってくれたまえ!」
その宣言とともに【剛】【化】【剣】【乱】の文字が浮かぶ。
「なんだアリャ?」
呑気に構えている常鎧が次に見たものは導果の手の合図により一斉に天より
地上に向かって降り注ぐ剣の嵐だった。
「うおおおおおお!?」
鈍重な常鎧に降り注いでくる剣が避けれるはずもない、
覚悟を決め両腕を交差させ致命傷を避けようと頭の前に出す。
次の瞬間何本もの剣が常鎧に突き刺さっていく。
「ウググググググググ!!」
必至に耐えているがあっという間にハリネズミのように剣に覆われてしまった。
「全く!」
鉄甲の問いに火々は迷うことなく、堂々と答える
「その目は憐れみですか?
この火々鍋には夢がある!だが、そこまでの過程には壁があり、それを超える為の目標がある
それを何一つ成し得ていない以上、私は現状に納得など出来ない
他人から貰った生き方に満足しているようなあなたとは違うんです!鉄甲!」
腕の炎が強まり、鉄甲に仕掛けようとした瞬間
空に現れた第三の導果が話し、そして、大技を仕掛けてきた。
導果の言動に火々は呆然とした。
なんの躊躇いもなく仲間を捨てたその導果の行動が理解出来ず思考が停止したのだ。
しかし、その状態の中、1つだけ確かなことがある
(こいつを許してはいけない)
大剣の雨が直前まで迫り来る瞬間
「この外道がぁ!お前だけは絶対に許さない」
腕の炎の勢いが急激に強まる
「現体ごと消し炭になれ!煉獄爆炎掌」
まるで巨人の掌を思い起こすほど巨大な炎の掌が導果に向かって放たれる
飛んでくる大剣はドロドロに溶けてなくなり、火々に向かうことはなかった
>他人から貰った生き方に満足しているようなあなたとは違うんです!鉄甲!」
「馬鹿が!知った風な口を聞くんじゃないよ!!」
鉄甲がキレることなど日常茶飯事だろう、だがその怒り方は違っていた
ここシャンバラに来てから怒る事などなく、平穏のまま過ごしてきたが
火々の発言にめずらしく感情を爆発させる
闘気が爆発したかのような怒りの気迫は辺りを静まり返らせるほどだ
「火々、私はねぇ・・・もう宝貝としての生き方なんざしたくないんだよ!!
アンタは、料理を作る道具だろうよ、だけど私は誰かをぶっ飛ばすだけの道具さ
自分の生まれてきた意味を理解してる私らは、その用途用途に合ったことをしてればそれでいいだろうさ
だけどねぇ・・・私は、鉄甲の宝貝として生きる以前に・・・・・・女なのさ・・・」
「今まで人をぶっ飛ばすだけの人生を送ってきた女に、男を振り返らせるほどの魅力なんて無いのさ」
鉄甲が仙境を捨て、ここシャンバラに来た理由
それは、男を愛したが故、武具として生きる事を捨て、女として生きるために此処へ来たのだった
ある日のこと、逃亡した宝貝を追っていた鉄甲は一人の男に恋をした
しかし、思い叶わず・・・自分が家事もできないただの闘う事しか取り柄がない女である現実を突きつけられた
鉄甲は自分の生き方を恥じた。それからである、鉄甲は女として生きる事を決意したのは。
「此処に来て・・・今までの生き方を捨てて・・・別人として生きると決めたのに・・・もう無理なんだね
所詮、私は宝貝・・・武具の宝貝が恋に生きる事事態が・・・間違いだったんだろうね」
鉄甲の胸には風鉄の「宝貝は徹して宝貝たるべし」という言葉がよぎる
今の鉄甲はこの言葉の意味を理解した
「ああ・・・悲しい、生きていく事がこんなに悲しいのか!今までの生き方がどれだけ無意味なのか!
自分という存在を捨て去る事がどれほど哀れなのか!なぜ苦しまねばならない!!
こんなに苦しくて!こんなに切ないのなら!!いっそ心などなければいいのに!!」
「どうして私たちに心を与えた!!!」
自分の押さえていた感情を解き放ったとき鉄甲の目には
巨大な剣が無数に降り注いでくるのが見えた、避ける事など容易い事
しかし、今の手甲には自分が何をすべきかなど考える余裕など無かった・・・
ただ、頭をよぎるは苦しみからの解放・・・このまま悲しみが終わるのなら、幕が下りるのなら
それはそれでいいのだろう・・・・・・
空から降ってきた剣に埋もれながら、訪れる闇を迎え入れた
激しい戦いが繰り広げられるシャンバラ。
しかしこの場はそんな戦いの音も遠く、静寂の闇に包まれている。
音もなく燃え盛る護摩壇は炎の柱となって前に座る導果の顔を照らしている。
その目が見据える先は護摩壇の前に浮かぶ三枚の札。
それぞれに【導果】と書いてあり、一枚はビリビリに千切れ、もう一枚は真ん中に穴が開いている。
そして最後の一枚は文字が薄くなり、突如として燃え上がる。
「ふふふ、あれで生き残るばかりか反撃をして倒すとは!
まあ、我が門出を祝う贄としては相応しかろう。」
燃え盛る護摩壇の炎は立ちあがる導果の影を伸ばし、その影は更に後ろに佇む巨大な人型へと至っていた。
#######################################
剛・化・剣・乱の巨大な四文字に余ってシャンバラ全域に巨大な剣を豪雨と降らした導果。
流石に力を使い果たしたのか、肩で息をしている。
空中でぐるりと見回し、生き残っているものがいないかと、視線をやった刹那。
その視界が眩い光に眩む。
眩んだ目に映ったのは巨大な剣を溶かしながら突き進む炎の掌。
認識できたのはそこまでだった。
力を使い果たしていた導果はそれ以上の反応をする事無く炎に包まれ姿を消した。
後に残ったのは空から落ちてくる【導果】と書かれた紙の燃えカスだった。
そう、この導果もまた前の二人と同様式神だったのだ。
三人の導果が消えると同時に、沼地や石柱は消え、元通りの大通りとなる。
直後、海に面した館の向こうで轟音が響いた。
見やると館越しでもはっきりと判る巨大な水柱。
とともに、大地を振動させ、*ズシン、ズシン*という重いものが落ちる音。
その正体は直ぐに目の当たりにする事になる。
シャンバラで一番大きな館を踏み潰しながら巨大な人のようなもの、が現われたのだ!
見上げるその大きさは10mを越えようかと言う巨大なそれは、頭に当たる部分がなかった。
雲が晴れ、月明かりが照らすと、それの醜悪な正体がはっきりと見えるだろう。
「それ」は数多くの宝貝の原体がより集められて人の形を形成しているのだ。
そして頭の部分には導果が両手を広げて笑っている。
「ふん、愚かな女だ。己の宿業に耐え切れず、そのまま果てたか。
利用もし終えたところでもはや用済。丁度良かったわ!」
無数の剣に貫かれた鉄甲を一瞥し、侮蔑の言葉を吐いた後、生き残った宝貝に目を戻す。
「諸君!良くぞ生き残った!
是非とも祝ってくれたまえよ!我が門出を!」
高らかに吼える導果は語りだす。
その目的を、そして享楽都市シャンバラの意味を。
「知っているかね?我々宝貝は神珍鉄で出来ていることを。
そして宝貝となるために、膨大な仙気が込められている事を。
宝貝は使用し、戦うことによって仙気を発散する。
戦いが激しければ激しいほど!
そして原体に戻る瞬間、全ての仙気を吐き出すのだよ。
それと同様に、人は欲望が高まると人気を発する。
仙と人の気は膨大な力となり、それを制御すれば私は更なる高みに上れる!
そう・・・私自身が道具としての宿業から脱し、仙人となるのだ!」
導果がシャンバラを作り、逃亡宝貝を集めたのは、追跡宝貝とのより大きな戦いをさせる為だったのだ。
そしてまた結界を作り、戦いの場を切り離したのは人気を発する人間を守る為。
戦いと享楽。
シャンバラとは二つの宴によって発せられる気を集める都市装置だったのだ。
「諸君らが苛烈な戦いを繰り広げてくれたお陰で充分に気は溜まった。
見よ!これがその成果、人仙融合、鬼道兵器、大崑崙だ!」
気を集め、仙界の鉱物である宝貝を使い作り上げたその巨人は、いるだけで醜悪な気を周囲に撒き散らす。
「生き残ってくれていて本当に礼を言おう。
この大崑崙の試運転には丁度良い。
絶望し、倒れ、大崑崙の一部となるが良い!」
残酷な笑みを浮かべた導果が複雑な印を結ぶと、大崑崙が動き出す。
その太い腕を無造作に振るうと、暴風が巻き起こる。
暴風は巨大な空気の壁となり、宝貝たちに襲い掛かる。
「な、何だと…?
センセイがあんな巨大に!?
あ、あれも術なのか…?」
巨剣の豪雨を耐え切り、元の姿に戻ってみて驚愕の表情を浮かべる
やはり、三人目の導果も偽物であった
しかし、今度の巨大な導果は一体何なのであろうか?
術で作り出す幻影や分身体にしては、余りに大仰で馬鹿馬鹿しいものである
そしてそれは、木偶の坊ではなく巨大さに見合う醜悪で濃厚な気を発している
並みの宝貝であれば、息をするのでさえ苦しくなるほどのレベルだ
おそらくは、疑いようもない本物の「巨大な」宝貝なのだろう
「アハハハハハ!
思い上がりをほざかないでよ、センセイ!
仙人通り越して天帝や神にでもなるつもり?
ちゃんちゃら可笑しくて理解できないね!」
しかし、実際は圧倒的な気の前に押し潰されそうになっている
こんな馬鹿みたいな気、今まで味わったことなんてない
宝貝を宝貝が使うことは禁忌だが、これはそんなものなどお話にならない
宝貝を通り越して、今の導果は「天災」そのものである
懐から針を一本取り出し、気を込めながら構える
「ぐうぅっ…、な、なんて凄まじい風…!
ひ、秘技・気針縫いの術!」
目に見えるほどの凄まじい風圧が空気の壁となって迫ってきている
咄嗟に身構え、手に針の形をした針を作り出す
それを用いて、目にも止まらぬ速さで己の身を地面に縫い付けた
よく見れば、縫い糸のようになった気が気の針の尻から伸びている
そのまま蹲り、襲い来る突風に必死で耐えた
気の針と糸によって縫い付けられた千本は、がっちりと地面に固定されていた
「さすがです…さすが僕にこんな無様な真似をさせてくれる方だねえ!
けどその図体、いい的だよ!
戦技、串刺しの術!」
そのままの態勢で無数の針を導果目掛けて投げ付ける
それらは最初のものと同様、平均的な人間ほどに巨大化し、導果の間接部に飛んで行く
手足を狙うことで、巨体の動きを封じようという策である
気がつくと火々は壁に叩きつけられていた。
突如石柱がなくなり、間髪を入れずに風の壁に吹き飛ばされたからだ
「…っ!!」
余りの衝撃に声も出ず、火々は地に伏した
ここで倒れている場合じゃない…立て立ってあの男に思い知らせろ
「…あなたは…仙人じゃ…ない」
ゆっくりと立ち上がり、巨人を睨みつけると、それに向かって駆け出していた
千本の放った針が頭上を通り過ぎた時、何かを閃いたのか
巨大化した針の一本に飛び乗り、そのまま巨人の膝に刺さった
「思った通りです」
宝貝の集合体であるが故にその表面は、非常に登りやすい状態になっていた
払い落とされる前に火々は登り始めた
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「くくく!こんなものかね!まさに蚊の刺すようなものではないか!」
大崑崙の頭部部分に鎮座する導果は複雑な印を結びながら笑う。
大崑崙は導果に操作されるまま腕を上げ、頭部の導果を守る。
逆に言えば頭部以外の防御は一切なく、放たれた巨大な針は膝や肘に突き刺さる。
それもそのはず、操縦者たる導果さえ無事ならば大崑崙の耐久力で凌ぎきれるからだ。
針を突き刺したまま構わず動きを続ける。
間接部分に刺さってはいても構わずに!
バキバキと突き刺さった針を折りながら進むのだ。
「ん?懐かしい顔でも見つけたのかな?」
膝に突き刺さった針を足がかりに大崑崙に上り始める火々に気付き、導果は残酷な笑みを浮かべた。
この大崑崙はシャンバラでの戦いで倒れた多くの宝貝にて構成されている。
追跡、逃亡問わず、だ。
術を持って練り上げてその一体一体の力を導果は引き出すことができるのだ。
そして胴体部分をよじ登る火々は見覚えのある宝貝を目の当たりにするだろう。
共に厨房にあり、追跡に旅出ていた宝貝。
名を霊蔵庫という。
その力も直ぐに思い当たったはずだ。
「火々よ、旧知の者の術で葬ってやるのは私の情けだよ!
霊蔵よ!その力を我が為に解放せよ!放熱結界展開!」
導果が放った呪文が大崑崙の身体を這い、霊蔵の原体へと流れ込む。
それと共に青白く光り始める霊蔵。
直後、大崑崙の周りの空気は凍りつき、ダイヤモンドダストが舞う。
逆に大崑崙から少し離れた場所には熱風が吹き荒れるだろう。
霊蔵庫の能力は熱の分別。
周囲の熱を排出する事により、極寒の世界を作り出すのだ!
「ちっ…、あんな程度じゃ針治療にもなりゃしないか…
やっぱり、頭になってるセンセイを直接叩かなきゃ…」
地面に体を固定したままの状態で、天を突くほど巨体を見上げる
針は確かに刺さったが、これと言って影響が出た様子はない
物理的な耐久力が桁違いなのだ
ここに居るメンツだけでは、こんな化け物を直接倒すなど不可能である
「あの鍋女、僕の針を利用して直接取り付いた!?
何をするつもりだ?」
大崑崙の体をよじ登っていく火々鍋の姿が見えた
しかし、直ぐに導果による妨害が開始された
いきなり大崑崙の周囲が凍り付き始め、更に外側の周囲に熱風が吹き荒れ始めたのだ
取り込んだ宝貝の力を利用しているのだろう
千本の居る場にも、熱風が襲いかかって来た
「ぐうぅぅ…
僕を焼き、鍋女を凍らせて一気に勝負を着ける気か!
僕を…舐めるなあぁぁっ!」
その一言と共に、いきなり千本の体が熱気を帯び始める
千本は、自らの扱う針に熱気を込めることができる特殊能力を持っている
それは、針を原体とする己自身も例外ではない
しかし、金属性である彼は、普段苦手とする熱の力を出そうとはしない
だが今は、そのままの状態で居るよりはこの熱風に耐えることはできる
「センセイ…、僕はね、普通の宝貝じゃないんですよ…
ただの道具宝貝に戦う力を植えつけられた準戦闘用宝貝…
ですから、内包している仙気は武器宝貝と同等以上のものがあるんですよ?
だから、驚いてくださいね、センセイ…」
そう呟くと、熱風の中で一本の針に仙気を込め始める
自分の中に残る仙気を有りっ丈、注ぎ込み始めたのだ
それは、凄まじい熱風の中で小さくとも強いうねりとなって逆らっていた
今、千本は自らの命をも引き換えにするつもりで捨て身の策を講じようとしている
順調に登っていく中、火々はそれを見て愕然とした
それは、火々の兄弟子にして、他の追跡隊に居た霊蔵庫の現体に手をかけていたからだ
瞬間、導果の力によって霊蔵の能力が発動し
火々は声を上げる間もなく凍りついた。
火々にとって霊蔵の能力は対にして最悪の力
それを間近で受けてしまったのだから一溜まりもない
凍てついた火々はそのまま重力に逆らわず真っ逆様に落ちていく
そのまま落ちてしまえば現体ごと粉々になるのは間違いない
その時、何かの取っ手に引っかかり、間一髪の所で難を免れたが、その偶然も直ぐに無駄となるだろう
「情けないのぅ情けないのぅ」
暗闇の中、聞き慣れた声が聞こえる
「魔炎とまで呼ばれた儂の孫がこの体たらくとは…」
忘れる訳がない…これは超えなければいけない者の声…炎々鍋
火々の祖父に辺り、火力が有りすぎて隠居という名義で軟禁されていたのだが、隙を見て逃亡した。
火々の追っている宝貝の一つである
「これ…起きぬか火々」
目を見開くと、そこには邪な笑みを浮かべた炎々がそこに居た
「…あれ?」
「呆けとる場合か、お前さんは今あの若造の手によって、死の淵をさまよっておるわけじゃが…
儂から助け舟を出さない訳でもない…断るならば、このまま落ちて粉々に砕けるがよい」
さらに炎々が邪な笑みを強め迫ってくる
本心からいけば、断りたい気持ちで一杯だった
しかし、ここで断ると言うことは同時に自分の死と導果の手によって様々な悲劇を止められないことに繋がっていく
「…理由はなんなのですか、あなたが其処までする理由は」
そう訪ねると炎々は笑みを消し、怒りを露わにして火々に返す
「あの若造!儂を騙した上にこんなガラクタの混ぜ込みおって許さん…楽には死なせんぞ
じゃからの儂のかわいい孫よ…儂が力を貸そう…あの若造を…あの若造を消し炭にしておくれ」
と炎々は火々の返答を聞かず、火々の体に腕を突き立て、そのままズブズブと体内に侵入してきた
氷漬けになった火々は、引っかかっていた鍋ごと落下した。
だが、その瞬間、共に落ちた鍋が火々に吸収され、火々を黒い炎が包む
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放熱結界を発動させた後、導果は満足気に周囲を見回していた。
自身の作り上げた大崑崙のその力によっていたのだ。
周囲にはダイアモンドダストが舞い、取り付いていた火々は凍りつき落ちた。
その極寒世界を一歩出れば灼熱の突風によって吹き荒れた荒野。
金属性の千本はひとたまりもあるまい。
ここに導果は完全勝利と、仙界での勝利を確信した。
「くはははは!見たか!
最早私は道具の域を完全に超えた!
仙界よ!待っていろ!私の存在を認めさせてやる!」
高らかの勝利宣言の後、漸くその異変に気付く。
熱風に晒された荒野に気配がする。
声ははっきりと聞き取れないが、確かに千本は生きていた。
それだけではない。
凍り付いて落ちたはずの火々が黒い炎に包まれているのだ。
それは勝利に酔っていた導果の気分を害するに充分であった。
「宴の幕も下りようという時に無粋な!
役割を終えた道具は大人しく退場しろ!」
再び印を結ぶと、それに呼応するように大崑崙は大きく手を振り上げる。
その手は無数の雷が束になったように変形し、横薙ぎに振るわれる!
大崑崙の足元の火々に、そして千本に。
無数のかみなりの鞭は全てを飲み込みは介すべく石畳を砕きながら迫るのだ!
雷の鞭の束が迫り来る。
その時、火々を包んでいた黒い炎は消え、ゆっくり瞼を開いて鞭の束を堪忍する
「…クカカカカ、たかがその程度か若造」
火々らしからぬ発言と邪悪に歪んだ笑みを浮かべると次の瞬間、火々の姿はそのまま鞭の中へ飲み込まれていった
「クカクカカカカッ!ククカカカカッ!」
しかし、不気味な笑い声は消えずに残っている
それは、火々がまだ無事でいるという事実でもある。
笑い声は徐々に導果の元へ近付いていき、急に消えた
「女の体ではあるが…やはり、若い肉体はいいのう」
導果が気がついた時には火々は導果の背後で仁王立ちしていた。
だが、その出で立ちは先ほど導果と対峙していた火々とはうって変わっていた
邪悪な笑みを浮かべる両目は紅く染まり、黒い炎を纏う左腕はまるで鉄(クロガネ)のように黒く怪しく輝く
「我が孫ながら発想は良かったが、ツメが甘かったな
だが、儂のように体内を溶かしながら進めば…分かっていても何もできなかったであろう」
火々の背後には、まだ煙を上げている穴があった。
「さて、茶番もここまでにするかな」
131 :
運金:2009/02/10(火) 20:43:08 O
あげ
>130
それは正にのた打ち回る蛇の群れ。
石畳を粉砕しながら雷の鞭の束は薙ぎ払われた。
飛び散る破片に舞い上がる土煙。
それに晒されて生きていられる者などいないと確信を持っていたのに。
導果の表情に笑みは浮かばなかった。
荒れ狂う雷鳴の中でも確かに火々の笑みは耐える事無く続いているのだから!
土煙を凝視する導果の背後、それは突如として現れた。
>「女の体ではあるが…やはり、若い肉体はいいのう」
背後に火々が仁王立ちしている。
しかしその気配は火々であって火々ではない。
完全に背後を取られながらも導果は振り向かなかった。
否、振り向けなかった。
道具の宝貝でありながらも、今ここで動けば殺られる直感で感じていたのだから。
そしてその背後の者の正体も察していた。
「ご老公、あなたには大崑崙の動力、八卦炉の一卦をになうと言う重要な役割を与えていたつもりでしたがねい。
満足せずにわざわざ出て来られるとは、流石は亀の甲・・・!」
勿論判っていた。
騙し、薬で無力化したのだ。
隙あらば逆襲をしようと思っていることなど。
しかし、そのような隙を与えるほど導果も不用意ではない。
原体に戻してしまったからには完全に無力と思っていたが、ここで火々と融合を果たすとは流石に想定外であったのだ。
背を向けたまま顔を引きつらせながら密かに手は字を描く。
>「さて、茶番もここまでにするかな」
「左様ですな!今一度原体に戻し大崑崙に組み直して差し上げよう!」
言葉と同時に導果は大崑崙を離れ宙を舞う。
それと同時に手から字は零れ落ち、大崑崙へと吸い込まれていく。
こうも近すぎると放熱結界も意味を成さない。
そこで苦し紛れに作動させた大崑崙の昨日、【土角結界】。
沼地で火々を閉じ込めた泥の壁が今一度火々の足元から競りあがってくるのであった。
「小賢しいわ!」
足元から競りあがってくる泥の柱を見て火々は、否、炎々は黒い炎を全身から噴出させる。
その高温に泥の水分は一瞬にして消し飛び、土は陶器になる暇もなく塵となって霧散した。
「クカカカカ!不出来な孫と同じと思うなよ!逃すか!!」
塵を蹴散らし炎々は宙を舞う導果の後を追い飛んだ。
そして間髪いれずに黒い炎に包まれた手刀で導果を貫いたのだ。
胸板を貫かれた導果は声を上げるまもなく黒い炎に包まれた。
あっけない勝敗、かに思えたが、そうでないことは当の炎々が一番良くわかっていた。
あまりにも手ごたえがなさ過ぎたからだ。
「ふふふ、簡単な幻術に引っかかっていただけるとは。
さて、あなたがどうやって倒されたか、再現しようではないですか。」
声の主は導果。
大崑崙の足元で悠々とした笑みを浮かべながら手を上げていた。
それと共に大崑崙から八つの水球が放たれ、炎々を取り囲む。
「己、小癪な!」
炎々は黒い炎を最大限に噴出させるが、八つの水球の囲いを破る事はできない。
そう、できないのだ。
「くくく、無駄だと判りませんか?
全開は大掛かりな陣を用意しましたが、この大崑崙をもってすれば指先一つで再現できる。
水角を歪ませた狂水式八卦陣です。
己の強すぎる炎でメトルダウンを起こすがいい。」
そう、炎々が魔炎と呼ばれる理由。
それはあまりにも強すぎ、制御の聞かないその火力にあった。
炎々自身の強すぎる火力を逆利用し、自滅を誘引しているのだ。
狂水式八卦陣の内側では黒い炎が濁流となって渦巻き、既に炎々の姿は見えない。
自分の強すぎる炎に焼かれ、炎々は原体に戻るだろう。
導果の完全勝利である。
そう、炎々が相手ならば・・・
己の勝利を疑っていなかった導果はこの後驚愕の光景を目にすることとなる。
黒い炎の濁流が徐々に小さくなっていき、一点に集まっていく。
そしてその炎の色は黒から赤、そして白へ。
ついには光輝く黄金へと変化していくのだから。
「なっ・・・?どういうことだ?炎々翁にはこのような力はないはずっ!?」
眩い黄金の炎に手を翳し、目を細めながら驚く導果。
直後、八つの水球は破裂した水風船のように飛び散り、蒸発しつくした。
陣から解き放たれ降りる【ソレ】は・・・
「炎々・・・いや、火々・・・なのか?」
「・・・さあ・・・ね?」
恐る恐る尋ねる導果に対し、火々はどこまでも穏やかであった。
メトルダウンを起こす瞬間。
最大の魔炎の中、火々は炎々を越え、進化したのだ。
最強の火力を持ちながらソレを制御する存在へと。
火々はゆっくりと手を上げる。
その動作に導果は最大級の危険を感じ反射的に大崑崙を動かした。
大崑崙のては巨大な壁となり、火々を叩きつぶさんと繰り出される!
が・・・その壁が火々に届くことはなかった。
間接に突き刺さった千本の針。
砕かれ折られたその針の先端が、今、遂に大崑崙の間接の中心部を捉えたのだ。
「導果。無駄だよ。
あんたは道具でありながら道具をないがしろにしすぎた。
逃亡した宝貝も・・・追跡してきた宝貝も・・・」
ふとよぎるのは鉄甲の最後の言葉。
揺れる【心】に苦しんでいた鉄甲すらも導果は弄び利用していたのだ。
「ば、馬鹿な・・・!私の大崑崙があんな針ごときに!
う・・・く・・・寄るな!よる・・・っ・・・」
大崑崙が動きを止め、身一つになった導果は脆かった。
圧倒的なプレッシャーで歩み寄る火々に取り乱し、後ずさりをするが・・・
最早逃れられるはずもなかった。
「ああ、そうさ。千本の針だけじゃない。
それをきっかけに大崑崙を構成する宝貝たちがあんたを拒否したのさ。」
悲しげに諭すような火々の声。
そしてその手は導果の胸を貫いていた。
「く・・・くそう・・・私が・・・!道具である事から脱却した私が・・・」
導果の最後の言葉だった。
「心を踏みにじったあんたは道具にすらなれないのさ・・・。」
悲しげに原体に戻った導果筆を握る火々は夜空を仰ぎ見ていた。
シナリオ2・享楽都市シャンバラ 終劇
はい、チェイサーズ2終劇にございます。
最後まで息が続かなかったのは私の不徳の至り。
これからの課題にしたいと思いますですよ。
参加してくださった皆さん、ROMしてくださった皆さん。
お付き合い頂きありがとうございました。
お疲れ様でした。
とても楽しかったです。
それでは、またいつか、どこかで。
再見。