【兵員】第二次銀河大戦【募集】

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89ヴァイス中佐 ◆6k2N0.Pf9Y
「どうかね中佐、出発前に例の”特別大尉”と挨拶してみるかね?」

口調こそ穏やかな質問調だが、実質的には命令である以上「お断りします」などと言える訳も無い。
モニターが切り替わり、アブラクサスのメインブリッジが映し出される。
艦長席に鎮座して菓子を貪り食らう巨漢からは、おおよそ緊張感と呼べるものは感じられなかった。

艦長たる特別大尉が身につけたヘルメットは、無数のコードを介してコンピュータに接続されている。
視認すれば非常にわかりやすいこの設備こそが、感応リンキングシステムの根幹なのだろう。

特別大尉がこちらを見る目は怪訝だ。年の差を考えれば小僧と思われても仕方が無い。
かといってあまり舐められる訳にもいかないので、せめて将校らしく毅然とした態度で臨む。
無言の彼を他所に、ヴォルフガングはダイク相手に不満をぶつけ始めた。
だが会話を聞く限り、粗野な傭兵は自分の領分を踏み越えるような迂闊さは持っていないようだ。

(いいだろう…どうせこちらは引くも進むも地獄。ならこの男と組んでみるのも一興だ)

そのうち男がこちらに向けて、不遜な態度を崩さぬまま挨拶してきたが、もとよりその態度を咎めるつもりも無い。
自分にも覚えのあることだし、従順で規律に満ちた態度を目の前の傭兵に求める方がお門違いと言うものだろう。

「こちらこそよろしく頼むぞ、特別大尉殿。
 そこまで大言壮語したからには、卿の経歴と戦闘に対する意欲は大いに活用させてもらう」
「カカカカ、お互いに自己紹介が終わったようじゃの。それでは向かうとするか」

モニター通信が切られ、変わりに目標までの地図が表示される。
ブリッジの左舷にはアブラクサスに加速用のブースターが取り付けられている様子が見て取れた。
ダイクの説明によれば長時間の使用に耐える代物ではないらしいが、そもそも長期的に加速させる必要も無いから十分である。
いずれにしろ、戦場までは牽引する必要がある。数隻の駆逐艦からケーブルが延び、巨大なCWと連結した。

「発進!」

号令と共に、CW1個大隊がアルゴビーに向けて発進した。
90ヴァイス中佐 ◆6k2N0.Pf9Y :2008/11/05(水) 00:21:41 0
>>84-88
戦場に向かうにあたって、ヴァイスは情報の収集を徹底させた。
コロニーから発進させる情報は事態をリアルタイムで把握する材料になる為、映像音声問わず収集の必要があったからだ。
勿論、それら全てが鮮明なものとなってくるわけではないが、
現時点で大まかな情勢くらいであればぎりぎりわかるレベルにあった。

「…複合的に判断するに、アルゴビー側の船団はコロニーを盾にして戦っている模様ですな」
「解せんな。コロニー側の艦隊が取る行動としては理に適っていないぞ」

ヴァイスも副官も首をかしげた。コロニー側と目される艦隊が守るべき住処と住民を盾にし、
攻撃をしかけた帝国軍がそれに気を取られ、遅延と損害を余儀なくされているという状況が不可解でだったからだ。

(攻撃側は…ひょっとしたらアレフティナ司令かもしれんな)

確信に足る材料は無いが、彼女以外の軍人で民間人に躊躇して消極的対処を取る者は中々いないだろう。
だとすれば、彼女はいかなる指令の元にコロニーに攻撃をしかけなければならないのか。
ダイクは先ほどアルゴビー側からの攻撃の可能性を諮詢したが、どうにも納得しかねる。
あるいはあのマッドサイエンティストが、帝国軍が動かざるを得ない情報を意図的にリークしたのだろうか。

(いずれにしろやりきれん…住民にとってはたまったものではないぞ)

大抵のスペースコロニーには、デブリに備えてバリアコーティングが成されている。
勿論、万が一側面壁に穴があこうが火災が発生しようが、即時対処できるシステムも存在した。
が、戦闘に巻き込まれればそれらの仕組みが何ら効力を成さないことは映像音声によって十分に伝わってくる。
露骨な言い方をすれば、攻撃に晒されたコロニーは薄壁一枚で作られた棺桶に過ぎないのだ。
逃げ場も無くサンドバックにされ、内部の大気が炎に包まれた時の凄惨な光景には、ヴァイスにも覚えがある。

───なんとかならないものか!?───

大隊が現場に到着するにはまだ時間がかかる。焦燥感が場を支配した。
91ヴァイス中佐 ◆6k2N0.Pf9Y :2008/11/05(水) 00:22:23 0
大隊メンバーの焦燥感がピークに達しようとしていた頃、モニターの表示情報に変化が訪れた。

「帝国艦隊、後退していきます」
「いよいよ強硬手段に出たか…同じ状況下にいれば俺も同じ手段を取らざるをえんだろうな」

軍帽を被りなおし、頭を抱える。敵の司令の心中は察するに余りあった。

「帝国軍、攻撃を再開しました!」

帝国の艦隊から生み出されたミサイル斉射と言う名の洗礼が、円筒状コロニーに次々と突き刺さっていく。
逃げ場の無い筒の中で、無数の熱と光がみるみる広がっていき、最後には大爆発となって深淵の宇宙を照らす。
結果論でしかないが、ヴァイス達は間に合わなかった。沈痛な面持ちがブリッジを支配する。
だが、その直後に傍受された通信はそんな精神状態を吹き飛ばすには十分すぎる代物だった。

「海賊だと!?帝国軍は海賊退治のためだけに非武装中立地帯を蹂躙したのか?」

これには流石にヴァイスも驚いた。条約に抵触する軍事行動ともなると国家と国家の衝突になる。
大戦略レベルでの判断は、一介の艦隊指令にはとてもではないが許されるものではない。
もっと上、それこそ参謀本部が絡んでくる…そこまで考えて、彼は非常に嫌な予感に囚われた。
もしこれがあのダイクの策略に端を発していたとしたら、その政治的影響力は敵の高位高官にまで及んでいることになる。

(こいつはとんでもないババ(ジョーカー)を引かされたかもしれんぞ)

内心の身震いを隠しながら、彼は戦闘態勢を整えるように指示を飛ばした。
全体の陣形が縦陣形からより鋭利で突撃を意識した紡錘陣形へと変化する。
その最先端には、牽引艦からワイヤーを外されたアブラクサスが鎮座する格好となった。
アブラクサスには追加ブースターが取り付けられている。
よって移動速度という面では味方の足を阻害しないギリギリの線まで取り繕うことが可能となっている。
92ヴァイス中佐 ◆6k2N0.Pf9Y :2008/11/05(水) 00:23:36 0
当然こちらの接近も敵艦隊の知るところとなり、それに伴って鶴翼陣形へと移行しようとしていた。
こうなれば先手必勝である。敵に連戦を強いてその行動の余地を狭めるのが定石だろう。

「ゲイボルグ特別大尉、卿には大隊の最先鋒として突貫してもらう。
 側面と背面のサポートはCW隊の先鋒が勤める」
「良いのですか?相手の方が数では勝っておりますが」

副官の懸念を持って口を挟むのも最もである。だが彼はそれを片手で制すると命令を続ける。

「中衛は前衛に後続してアブラクサスがこじ開けた傷口を押し広げ、強引に突き抜ける。
 旗艦ブラオ・メーアを含む後衛もそれに続くのだ!」
「すると、敵を突破した後衛は最後尾にあってその追撃を受け止め、味方の脱出の時間を稼ぐのですな」

副官の新たな問いかけには、今度は意を得たといわんばかりに頷く。

「そうだ。しかる後に、先鋒は蛇の頭が如く取って返し、再び敵を撃つ、これを繰り返す
 もとより数で劣っているのだから、増援が来るまで持ちこたえるには他に手が無い!」

今までの焦燥感や悲壮感とは違う、明確な緊張感と高揚感がブリッジに浸透していく。
その熱気が一つの渦となって、指揮を取るヴァイスへと集約されていくのだ。

「全艦!突撃開始!」

本来非武装中立が約束されていた筈の場所で、凄惨な戦いの火蓋が切って落とされた。