【名前】 ハンター
【性別】 男
【種族】二足歩行の爬虫類
【年齢】 不明
【容姿】 トカゲのような肌、全身に軽量の鎧
【特技】 武器を使った戦闘
【持ち物・装備】 槍、鍵爪、捕縛用ネット等
【キャラ紹介】戦いに至上の喜びを見出す種族の出身。性格は冷酷非道。
カメレオンのように姿を消す能力を持ち、冷徹に獲物を狩っていく。
あたしもキリノ先輩もダメですけど……
東さんやサヤ先輩でもダメです……。
>296
>「ここですか…。」
>「赤屍です、失礼します。」
傍から見たら実に奇妙な光景だっただろう。
悪鬼羅刹も泣いて裸足で逃げ出すほどの力を持つ召喚戦士、赤屍が
敵の、しかも今では何の力も持たない捕虜であるリーベルが押し込められている
部屋に入る時に律儀にノックして入ったのだから。
戦場での赤屍を知る者ほどその姿は信じがたいものに違いない。
「どうぞ、鍵はかかっておりません」
入ってきた赤屍はフルーツの入った篭を手に持っていた。
差し入れなのだろう。先の死闘を繰り広げた相手とは同一人物と思えないほど紳士的だ。
>「申し訳ございません。
> もう少し良い待遇をしてもらえるように掛け合いたいのですが…。
> 私もあまり権限が無いもので、部屋を用意するだけで精一杯でした。」
今の待遇を上申したのが赤屍と知って内心少し驚いた。
しかし、きちんと入室マナーを守ったり差し入れを持ってきたりと言った行動から
それもあり得なくはない、と勝手に納得したので顔には出なかった。
「あなたが口添えを?……何故です?
そこまでする義理などあなたにはないはずでしょう」
だがそれはそれ、これはこれ。どうしても聞きたかったので聞いてしまう事にした。
>「次の戦いで今回の戦に関わった貴女の仲間を全員殺すように言われました…。」
>「残念ですが、これが戦です…。諦めて下さい。
> ……リンゴ、食べますか?」
予想通りのお達しだったので別段驚きはしなかった。
「そうですか。自軍の兵力として勧誘する事は諦めた、と。
ですが、残った戦士達は皆私よりもはるかに手練です。
言うほど容易く成し得られるとは思わない事ですね……
あなたにとってはかえって喜ばしい事でしょうけれど。」
皮肉でもなんでもなく、赤屍はそう言う人物なのだからそう言っただけである。
……顔には出さないが、心配事が二つある。一つ目はフェルの事。
大佐に負けたフェルに先日の自分の姿を重ねたリーベルはそれに発奮して
限界を一つ超えた……あの時の言葉は自分だけでなくフェルにも向けていたのだ。
その事に気づいて少しでも活力を取り戻してくれていればいいが……もう一つは
ランカムの事。ひどく取り乱していたのと、それまでのランカムには出来なかった攻撃、
何か悪い事が起きていなければいいのだが……という案件。
「せっかく手間を掛けて下さったのです、ありがたく頂戴しましょう。
正直、いつ満足な食事を取らせてもらえなくなるか分かりませんから……」
これも皮肉ではない、生殺与奪の権限は今の自分にはないのだ。
煮るも焼くも好きに出来る以上、余計な反抗は無意味なのだから。
宴が催されている大広間の端の席で、ルミナは魔銃のメンテナンスをしていた。
もちろん、傍らにはブドウ酒と料理はきっちりキープしている。
「………やっぱりコイツがイカれてたか」
本来なら綺麗な円筒形をしているパーツが熱で変形し使い物にならない状態になっていた。
確か、このパーツのスペアなら上着に入れておいたはずだ。と革ジャンのポケットを探してみるがあるのは、タバコとライターとアレだけだった。
「……ッ、しゃねぇな」
ブドウ酒を一口飲み、静かに詠唱を始める。
詠唱を始めるとパーツはまるで熔けるように形を変え、黒い球状になる。
そこから更に詠唱を続けると、黒い球はまた同じように形を変え、綺麗な円筒形のパーツに形を戻した。
よく確認し、魔銃の組み立てを始めた。
>>288>>286 >「そう、リーベル。彼女は“弱かった”。そういう事でしょう」
「…そして俺は闘いもせずに敗北を認めた臆病者というわけだ…」
ランカムのらしくない挑発的な態度が少し引っかかるが…
しかしやはり俺の魂は抜けがらで……ランカムに問いただす気にもなれなかった。
>「助けたくはありませんか?」
「…それは……どうだろうな。」
分からない…俺は言葉を詰まらせる。そもそも俺は人を助けたことなどない。
家族であろうがなんだろうが俺は気を許した覚えなどない……
生きるために強くならなければならない、それが俺の世界だ。
家族すら信じたことない俺には助けたいという気持ちも分からない…
まあ…もし助けたいと思っても俺にはもはやそんな力などないが…
>「なに、あなたは強くなれます。我々の“仲間”として…」
「……強くなる?……仲間?…」
ランカムの言葉に違和感を感じ俺は振り向いた時、
ポップがこちらを見つけて走ってくる。ポップはこちらに来るなりまくし立てるように喋り始める。
「……そうか、ムーミン大佐を追い払ったのか…ははは…お前は強いな。」
ポップのムーミン大佐を撃退したというその言葉はいっそすがすがしいものだった。
これで戦いを放棄した俺はもはや戦士ではないことが分かったのだから。
>「上条は無事のようですね。…パラシエルを探しましょう。この辺りにはいないようだ」
その言葉に俺はゆっくりと立ち上がる…人探しぐらいならできる…
「地下王墓?…とりあえず行くか……ランカム、道案内を頼む。」
ランカムの案内の元に王墓へと向かうと…そこには倒れたパラシエルの姿があった。
俺はかけよりとりあえず地に伏せるパラシエルを仰向けにさせる。
「……ダメだ、分からん。気絶らしいがどこか損傷してるかもしれん。
おい、ランカム…この前の薬みたいなのは持ってな……」
そこまできて、なにやら後ろのランカムから殺気のようなものを感じ振り返る。
そこにはやはりいつものランカムとはいえないような別人にも見えなくもない男が立っている。
「…ラ……ランカム?」
>294
紅竜が城へ誘い込む献策をしたところ、鳥は眉一つ(鳥に眉は無いが)動かさずに応答した。
煌びやかな翼を大きく広げている。
「わざわざこちらが誘うまでも無い。
彼等は必ず宝玉を取り戻しに来る。それ以外に勝つ手段は無いからだ。
故に、城の周りに居る者の相手をすることより、まずこの城に侵入することを考えるはず」
そう、まさに鳥の言うとおりになることは間違いなかった。
あの宝玉が本物であれば、もはや相手がとれる策はそれ以外に無い。
鳥は更に強い調子で言葉を続けた。
「更に、奴等は宝玉を奪還したその足で大魔王様まで迫ろうと、捨て身の攻撃を仕掛けてくる。
宝玉を奪った後に退却して体勢を立て直すほどの余裕は、もはや敵には無いだろうからな。
だが、召喚戦士と国王直属の精鋭が、後ろを全く省みずに向かってくるとなれば、
どれだけの兵で囲んだところで、1人くらいは侵入を許してしまうだろう。
故に、こちらが特に何もしなくても、敵は向こうから現われるし、誰かがこの城に侵入する。間違いない。
が、外でわれわれとお前が、脱落する者も多く居よう。
考えるのは、城に張る罠だけで結構」
よく喋る鳥だったが、ボーナスを求める要求に対しては、少し言葉を渋った。
「ボーナスか……そうだな。しばし待ってもらいたい。
こればかりは、大魔王様の気持ち次第なのでな。事が決まり次第通達する」
今回の褒美の内容は、大魔王にどれだけ信用されているかを表す目安になる。
褒賞としての価値以上の意味があるだろう。
>298
紅竜を見送った後、次はムーミン大佐の提案を聞いた。だが……
「……」
紅竜を褒める内容の発言を聞いた鳥は、ほんの一瞬、後ろに控えている大魔王に目配せした。
それに反応して、カーテン越しに見える二つの群青色の光が明滅した。
締め上げられている謎の生き物が、心なしか頷いているように見える。
そして視線を戻すと、大佐の発案に対して、先ほどよりも僅かに冷たさを感じさせる、威圧的な口調で言い放った。
「その辺りは抜かりは無い。箱が開き次第、真贋に関わらず、わたしがこの手で焼却処分する。心配は無用」
心なしか早口でそう言っている。
油断も隙もあったものではなかった。
ほんの僅かに失敗があるとすれば、自分の戦法を明かしていることくらいか。
そう、「焼却処分」という言葉から、この鳥は少なくとも炎を扱うことができることがわかる。
大魔王だけでなく、この鳥も謎が多いが、それだけがわかった。
「ところで大佐殿。密偵の話によれば、敵のパラシエルとかいう天使は、大量のダミーを用意したと聞く。
実は、私はこの箱の中の宝玉が偽物ではないかと疑っているのだ。
まあ、間違いは誰にでもあることだし、大魔王様は心の広い御方ゆえ、それだけで罰せられる事もあるまいが……
ともあれ、まだ開錠に時間がかかるだろうから、後でゆっくり話そうではないか」
一通り要望を聞くと、鳥は自らもパーティ会場へと足を向けようとしている。
それに対し、大魔王はまだカーテンの向こうで人型生物に締め上げられながら眼を光らせている。
「ところで大佐。
紳士ならば、婦人に挨拶をするときは帽子をとってお辞儀をするものだと聞くが……」
>>304 「おおう。こんな時にまで武器の手入れとは感心なことだな」
ようやく東條を見つけた紅竜は、仁王立ちのまま話しかけた。
「私の名は劉紅竜。大魔王様の忠実な部下であり、やがては国を治める王となる男よ」
紅竜の世界征服の野望は、ムーミン大佐を下僕にすることで一気に現実味が増した。
他にも下僕が欲しいと思うのは、別に不思議でもない。
召喚戦士はその点理想的な相手といえるだろう。
実力は十分な上、大魔王への忠誠心もそれほど高くはないのだから。
下僕化には危険が伴うので、味方として引き入れるだけでもかまわない。
そのためには、他の戦士たちの考えを知らねばならないのだ。
「私はこの戦いが終われば、アヨガンとオロッパスに加え、さらに他の国の支配権をもらうつもりでいる。
それぐらいの働きはしているからな。
お前の望んだ報酬は何だ?」
紅竜は近くのテーブルからワインを持ち上げ、高く掲げた。
「なんにせよ、我らの望みがかなう日も近いというものだ。
永久の夢、大魔王様の支配する新たな世界に乾杯!」
>>303>「あなたが口添えを?……何故です?
そこまでする義理などあなたにはないはずでしょう」
リーベルの言う事はもっともだ。
敵である彼女に部屋や差し入れを用意するなど普通じゃ考えられない。
しかもつい数時間前までは殺し合いをしていたのだ。
義理など存在する筈が無い。
「私を楽しませてくれたお礼、ただ、それだけです。」
そんな理由で敵にここまでする人間はまず居ないだろう。
だがそれが事実なのだ。
>「(前略)あなたにとってはかえって喜ばしい事でしょうけれど。」
>「(前略)いつ満足な食事を取らせてもらえるか分かりませんから……」
「どうぞ、好きなだけ食べて下さい。その篭に入っている果物も置いて行きますので…。
…正直、貴女の言う通り私にとっては嬉しい限りですよ。
貴女以上の手練と戦える機会なんてあまりありませんので…。」
嬉しそうに見せる赤屍の笑顔は無邪気な子供を思わせる。
無邪気、故にタチが悪いのだが…。
「食事については定期的に持って来るように伝えておきます…。
味はあまり良くないと思いますが、ご了承下さい。
それでは、私はそろそろ失礼します…。」
帽子を抑えつつリーベルに一礼すると部屋を出て行った。
する事もないので宴の会場へ向かおうと廊下を歩いていると一人の兵士に出会った。
「すみませんが、捕虜の方に定期的に食事を持って行ってはくれませんか?」
兵士は一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに納得したようだ。
>「…承りました。」
「ありがとうございます。」
兵士に一礼し再び宴の会場を目指し歩き始めた。
赤屍が宴に出る理由、それは会場に居る将軍の強さを見極める為だった。
(あまり期待はしていませんでしたが…。
なかなか楽しませてくれそうな方が多いですね…)
宴の会場には赤屍が初めて会う将軍が何人か居た。
その将軍のほとんどが強者のオーラを纏っている。
>>304>>308ある程度将軍に目星を付けたところで話をするルミナと紅竜を発見する。
「どうもお二人さん。今回の戦ではお二人共随分活躍されたようで…。
紅竜さんの活躍ぶりは私も拝見させていただきましたよ…。」
結果的に逃げはしたものの、召喚戦士二人相手にあれだけ出来れば善戦と言えるだろう。
「ルミナさんも初戦で結果を残すとは、大したお方だ。
私も見習わないといけませんね。」
>307
ムーミン大佐の提案に大魔王の側近の鳥は開錠ができ次第焼却処分にすると言い放つ。
それを聞き、にっこりと笑みを浮かべるムーミン大佐。
「それは助かりますな。将軍に任せるのは心苦しいが、おかげで私の心配事が一つ減ったわけだ。」
あくまで深追いをせず、相手に任せる事にした。
だが、側近の鳥は更に一歩踏み込んでくる。
箱のダミーの可能性について、だ。
そこに話が及ぶと、ムーミン大佐の表情は曇る事になる。
「ふうむ。いやいや、信賞必罰は軍規の要。
もしそれがダミーだとすれば私の減俸は免れますまい。」
苦虫を噛み潰したような表情で鳥に反論する。
あくまでプロなのだ。
たとえ自分の不利になる事でも、罰には罪を与えなければ気がすまない、というわけだ。
とはいえ、それほど本気で苦しんでいるわけではない。
「ダミーの可能性は確かにあるが、果たしてダミーにそれだけの厳重な封を施すか、ともね。
箱からもれ出るオーラもそれなりのものだ。
ま、大元私は実物の封魔の宝玉を知らないのでねえ。どの道開くまではなんとも言えんですな。」
言葉通り、真偽の程はわかったものではない。
それに実物を見た事がないのだ。ムーミン大佐に真贋判定ができようはずもない。
それも見越しての鳥の言葉ではあろうが、ムーミン大佐もそれに苦笑を持って応えるのだった。
>「ところで大佐。
> 紳士ならば、婦人に挨拶をするときは帽子をとってお辞儀をするものだと聞くが……」
今まで曇ったり苦笑したりしたムーミン大佐だが、この言葉に表情は一変する。
戦場で見せる猛禽のような鋭い眼光が鳥を射抜く。
「紳士?私が・・・?・・・くはははは!」
持っているグラスの液体が零れんばかりに肩を揺らし大笑いを始める。
一通り笑い終えた後に、隋と鳥との距離を縮めてあたりを気にしながら囁くように言葉を続ける。
「いや、失礼。
これはね、帽子のように見えるが、私の部下を収納している母船・オーケストラ号なのですよ。
そして私の本性を抑え付ける防止装置でもある。これを取ると本性が露になってしまうのでねえ。
奥の手を晒す危険性、お分かりになろう?
そのカーテンの向こうでならばいくらでも晒そうが、それはできますまい。
かといって、ご要望に応えねば非礼に当たる。
そこで2秒だけでよろしければ・・・。」
そういうと、ムーミン大佐はシルクハットを取り、片膝をつき頭を垂れる。
頭には、あるはずの下僕アンテナはなかった。
その直後、爆発的な妖気が謁見の間に広がっただろう。
普段のムーミン大佐の妖気とは全く異質なもの。
剥き出しの凶暴性を予感させずにはいられぬものが。
きっかり二秒後、シルクハットを被り、小さく息をついている。
「これ以上だと妖気だけでは収まらなくなりますのでな。ご容赦を。
次なる戦いでは更なる戦果を約束しますぞ。」
鳥とカーテン越しの大魔王に笑みを送り立ち上がる。
ところで、下僕アンテナはどこに行っていたのか?
それは、シルクハットの中。しかもケルピーの水分操作によって見えなくされていたのだ。
2秒というのは、外してもまだ効果が消えないラグタイムだったのだった。
ランカムは、パラシエルに駆け寄るフェルを、冷ややかに見つめていた。
ほのかな灯火に照らされた玄室の内部には、まだ細かな塵が舞っている。
「やはり戦闘があったようですね」
確かめるように、散乱した人間大の箱の一つに手をかける。
その拍子に、崩れた棺から乾いた音を立てて骸が床に滑り落ちた。
フェルが、気絶したパラシエルの体を仰向けにする。
「…女?」
持ち物や気配から、あの少年に間違いない。
だが今、フェルの手元にある膨らみは、女性の物である。
−−まあ良い。
やる事に違いは無いのだ。
「薬なら、兵舎に残っていましたね」
こちらの異変を察したフェルに、そう答えを返す。
もしもに備え、リーベルが作り置き物した物だ。
「だが、もう必要のない物だ」
それは婉曲な殺害予告だった。
「…聞こえませんか?」
虚空に差し出した手を、水平に動かしていく。
「“魔”の声が」
途端、部屋全体が震え出す。
《フェル・エクスティム》
その声は、直接脳に響くようだった。
急激に、風景が溶けだしていく。そして世界から色が失せる。
遠くから、小さな光が近付いてくる。
“魔”は幻想の中で、フェルの魂に手を伸ばす。
光の中には父が、母が、兄が、幼い頃のフェルがいた。
そして洪水のような怒り、悲しみ、挫折、屈辱、敗北、喪失の走馬燈。
過去の幻影の中で、あらゆる痛みがフェルの心を揺さぶる。
誰かが叫んでいた。泣いていた。罵っていた。嘲笑っていた。
その雑音は、段々と大きくなる。
《失われた過去を取り戻す事はできない》
そして、限界まで大きくなった雑音が消える。
そこに幻想のリーベルが、微笑んでいた。
“魔”の仕掛けた偽りの安らぎが、フェルの心に忍び寄る。
《過去よりも、未来を見つめろ》
フェルの姿をとった“魔”が歩み寄る。
《どれだけ失った? まだ失う気か? …違うだろう?》
“魔”が手を差し伸べる。この手を取れば、力が手に入るのだと。
一瞬前まで目の前で微笑んでいた幻影のリーベルは地に伏し、
胸からとめどなく血が溢れてゆく。
《そんな結末の為に、オレ達は戦ってきた訳じゃない筈だ》
フェルの姿をした“魔”は、唇の端を歪めた。
《我々の“仲間”となるのだ》
この時点で“魔”は、フェルを容易に“喰える”と侮っていた。
その為に一度、意識を現実に集中する。
「さて…こちらの始末をつけましょう」
現実の世界、ランカムが剣の柄に手をかける。
>>288 >「…リーベルがさらわれました」
>「彼女の事は残念ですが、それも“神”のご意思でしょう」
しばしの沈黙の後、ランカムはそう言い捨てた。
言い捨てた、のだ。
「お、おい…?」
あまりの事に、一瞬怒りさえも出なかった。
あの穏やかなランカムが何故こんな態度を取るのだろうか?
一瞬遅れ、カッとなって胸倉を掴もうとした時、背後でフェルが言う。
>>305 >「……そうか、ムーミン大佐を追い払ったのか…ははは…お前は強いな。」
「お……おいおい!」
フェルの調子にいたたまれなくなり、ポップは彼の方を振り向いて両手を広げる。
「どうしたんだよフェル!しっかりしてくれよ!いつもの憎まれ口はどうしたよ!
勝気で自信家で、でもとんでもなく強ええフェルの兄ちゃんはどこ行っちまったんだよ?」
ムーミン大佐が折れたと表現していたが、ここまで打ちのめされているとは。
これでは大佐でなくとも肉体にとどめを刺す必要などなかっただろう。
その時、向こうから上条の足音が聞こえてくる。
様子からして元気とは言えないようだ。
「上条!」
>「上条は無事のようですね。…パラシエルを探しましょう。この辺りにはいないようだ」
>「玉座方面から来たポップが遭遇しなかったのなら、恐らくは…地下王墓です」
>「地下王墓?…とりあえず行くか……ランカム、道案内を頼む。」
そして奇妙な二人は地下王墓へ向かい、歩き出した。
「さ、先に行っててくれ!」
二人の背中に叫び、ポップは上条に駆け寄る。
「無事で良かったぜ。大丈夫かよお前?」
上条に回復呪文(ベホマ)をかけながら、ポップは言う。
「お前だけは変になってなくて本当よかったぜ。実はよ…」
ポップは状況を掻い摘んで説明する。
大佐と戦い、本物か偽物か分からないが箱を奪われてしまったこと。
リーベルがさらわれ、パラシエルは居所不明であること。
フェルとランカムの様子がおかしいこと。
「フェルの方はカバ野郎に負けたショックだと思うんだけどよ、ランカムがとにかく変なんだ。
まるで感情がない…いや違うな。人間らしいあったかみを無くしちまったみてえだ。
何か嫌な感じがする。地下王墓だ、俺達も急ごうぜ!」
回復呪文(ベホマ)をかけ終え、ポップは立ち上がり、走り出した。
「理解出来ないことが2つあるんだが、いいかい」
気持ち良さそうに語る紅竜に見向きもせず、ルミナはそう尋ねる。
「その忠実な部下がなんで此方に来て語ってんだ?忠実な部下ってのはあそこにいる奴(将軍)らみたいに近くにいるもんじゃないか?
それと、アンタ…随分自信満々に語るな?いくら、一人で城を落としたとしても傭兵は傭兵…酔狂でも国を与えるなんざ考えられねぇな」
組み立てた魔銃を確認し、ルミナは先ほど口をつけたワインに手を伸ばそうとするが
手を伸ばした先にソレは無く、そのまま後ろへと倒れた。
「…っ!………ったくついてねぇな」
ぶつけた頭をさすりながら、立ち上がり紅竜を睨む。
「質問に質問を返す真似をして悪かったな…東條ルミナ、探偵…っても意味ねぇか。まぁ魔術師もやってる
報酬として、あの石を調べる権利と元の世界に戻る権利と…まぁ、あとは金、銀等の金目の物ってとこか
それと…」
紅竜の質問に粗方答えた後、紅竜の手にしているワインを奪う。
「これは私のだ…それに、アンタは少しばかり勘違いをしている…私は帰れればどっちでもいいのさ」
そう言い放ったあと、手にしたワインを煽った。
「偶々だ偶々…それに、あんたがそんな事言うと嫌味にしか聞こえねぇよ」
いつの間にか会話に入っていた赤屍に皮肉をいうと先ほど紅竜からの質問をぶつけることにした。
「ところで、あんたは報酬に何をもらってんだ?アンタのことだから、大魔王との一戦か?」
そう言うと、ルミナはヘラヘラと笑いながら、皿の料理に手を伸ばそうとした。
その時、ルミナの胸元から激痛を伴いながら大剣が生えた。
「………嘘………だ…?」
瞬きした瞬間、生えた大剣も傷口もなかった。
しかし、そのかわりに滝のように流れる脂汗と寒気が残っている。
どうやら、ルミナだけではなかったらしく、先ほどまで騒がしかったのが嘘のように広間は静まり返っていた。
上条は痛む脇腹を押さえ、軋む全身を壁に手を着く事で支えながら
ゆっくりとだが、何とか城の中を進んでいた。
ランカム達の姿は愚か、足音すら既に見失っていた為、
闇雲に進んでいるだけという事になる。
「はぁ、はぁ……くそ、何処行ったんだランカムさんは……」
ぼやく様に言い、角を曲がる。時間の経過で体力は少しづつ
回復してきているとはいえ、やはりダメージは易々と消える物では無い。
>>313 >「上条!」
と、その先から聞き覚えのある声が聞こえた。
上条が顔を上げると、そこには
「ポップ、か……? 良かった、お前も無事だったのか」
見知った顔を確認して、安堵する。信じてはいたが、
紅竜の台詞が頭に残っていたので、やはり不安はあったのだ。
上条はもたれかかっていた壁を背にずるずると地面に座り込む。
「ああ、俺なら大丈夫だ。黒狐って人が助けてくれた。
……って、それ回復の魔術か何かか? もしそうだったら、
やめといた方がいい。俺の右手はそういうのも消しちまうらしいからな」
くそぅ、こういう時他の連中なら一発で治るのに……と、慢性的に
襲っている痛みに、内心でそんな事を思いながら答える。
そして、様子が妙だったランカムの事を話そうとするが、その前に
ポップが口を開いた。
>「お前だけは変になってなくて本当よかったぜ。実はよ…」
>ポップは状況を掻い摘んで説明する
「……ランカムさんの様子が妙になったのは、多分紅竜って魔術師が
フェル達が皆殺しにされたっていう様な台詞を言ったのを聞いてからだ。
はったりだったみたいだけどな」
話を聞いた上条の表情が険しくなる。状況は思ったよりも深刻な様だ。
だが、二人の居場所が判ったのは僥倖だった。
「わかった、地下王墓だな……っ!」
上条は休憩によって戻った体力で立ち上がり、ポップの後を追い
よろよろと走り出した。
「…聞こえませんか?」」
そういいランカムはどこに向けるでもなく手を出し水平に動かしていく。
「“魔”の声が」
そして急に部屋が震えだす…まるで何かが起きたように振動を始める。
「…な、何をした……」
そう俺が言ったとき、俺の名を呼ぶ声が聞こえる…
それは俺の中に響き渡るようなどこから呼ばれたか分からない
不思議な声だった…
「な、なんなんだ……ぐっ!!」
そして信じられない光景を目の当たりにする…
景色が溶け出し色が消える…捻じ曲がり溶け合い平行感すらなくなる。
思わず俺は地面に手をつく…立ってられない。
そして不意に俺の中に何かが入ってくるのを感じる。
それと同時に封じ込めた過去の記憶の櫃が開けられ
凄まじい流れとなって俺の中にながれてくる…
「ぐうぅッ!!やめろ!!やめろぉぉ!!」
そうだ…俺が殺した父親…母親…俺に関わった人間との記憶が流れてくる。
―父さんなんで僕を殴るの―
俺は小さいころ親父に酷い扱いを受けてきた…
奴隷のように働かされて…理由も分からず血反吐を吐くまで蹴られ殴られる。
飯など毎日は食えはしない…三日も何も口にしない日もあった。
あいつは俺の恐怖そのものだった…
―母さんは僕のことが嫌いなの―
母親だって最低だった…何も言ってはくれず…
むしろ俺に何の関心もなかった……俺が死のうと生きていようと
どうでもよかったんだろう…家族など…信用できない。血のつながりなど脆く儚い。
あの女は俺の中の冷酷そのものだった。
―なんで誰も僕を助けてくれないの…―
他の奴らもそうだ…俺を助けるばかりか一緒になり俺を殴った。
憂さ晴らし、気晴らし…時には何と無しで俺から奪っていく…
他人はすべからく俺の敵だった…こちらを見る人間全員が憎らしかった
―兄さん…僕を助けてよ―
兄だけが頼りだった…しかし俺は兄に劣等感を抱いていた…
そうだ。あいつは俺よりも強いから俺に施しを与えられる。
俺に手を差し伸べられる…俺は兄に助けてもらうたびに心が痛かった…
兄に依存する俺も反吐が出るほど嫌いだった…弱い自分が恨めしかった…
「やめろ!やめてくれッ!!もうこれ以上はやめろぉ!!」
父親が俺をまるでボロ雑巾のように扱い。
母親が俺を路傍の石ころのように見て。
他人が俺を悪魔のような冷たさで見捨て。
兄が俺をまるで自分が聖者だと言わんばかりに助ける。
そのたびに俺は壊れていく…俺の何かが奪われていく…
「だから!俺は強くならなければならなかったんだ!!」
そうだ、誰も俺を壊せないように強くならなければならなかった。
何も奪われないように…だから父親を殺した。殺してやった!!母親も殺した!!
でないと俺はどんどん奪われていく!そうだ、俺に文句を言う奴。
俺を恐怖する奴。俺に取り入ろうとする奴…俺に手を差し出す奴、
俺に優しい言葉を掛ける奴…すべてを壊していった!
俺はただ奪われる側から奪う側に回りたかっただけだ…
無様に死んでいくのは…嫌だった。
だから闘って…闘って。勝つんだ!…勝たなければ俺はどんどん奪われていく…
俺がどんどん壊れていく…勝って勝って勝って勝って勝って勝ち続けるんだ……!
誰も俺を救いはしない…誰も俺のことを本当に想いはしない…だがそれでもいいさ。
俺は勝ち続けてやる!!そうすれば俺は生きられる!
そしていつしか俺は争いの歴史の中に己が魂を見出していった。
《失われた過去を取り戻す事はできない》
……構わないさ……俺はそもそも失ってなどいない…
何も持ってなどいないんだからな…俺は1人だ。
そして次の瞬間、俺の前に微笑むリーベルが現れる。
「やめろ…微笑むな……憎め…恨め…
そうでないと…俺は……そんな顔をするな!」
俺は叫びリーベルを見ないよう横を向く…
すると俺の姿をした影のようなものが俺に歩み寄る。
《どれだけ失った? まだ失う気か? …違うだろう?》
影が差し出す手を払う……俺は失ってなどいない……
そして失うものなど何もない…俺は1人だ……
ふとリーベルの方に目を向けると…そこには地へと倒れ、血を流しているリーベルの姿があった……
「リ、リーベル!!大丈夫か!?」
そしてリーベルに近づいたとき、触れるのをやめた…
「今…俺は何をした……俺が気遣ったのか?俺が……」
今、俺の中に何か分からない気持ちが湧き上がってきていた……
《そんな結末の為に、オレ達は戦ってきた訳じゃない筈だ》
影からその言葉を言われて、更に俺の中で何かが膨らんでいく……
「なんだ…なんなんだこの気持ちは……そうだ……ムーミン大佐との戦いの時…
あの一般兵を助けたときも…同じような気持ちだった……それだけじゃない…
ランカムを背負ったときも…わずかに俺は感じていた……」
《我々の“仲間”となるのだ》
「……仲間!!」
その言葉に俺は解き放たれた……この胸に募る使命感。
この世界に来る前は感じなかった感情……そうか……これが……
「そうか…分かったぞ……俺は……」
影の方へと俺は振り向き鋭い正拳突きを食らわす!
影は掻き消え色がなく捻じ曲がった世界は元に戻りリーベルの幻影は消えていく。
「さて…こちらの始末をつけましょう」
ランカムが剣の柄に手をかけまさに抜こうとしたとき。
ランカムの兜に拳が叩き込まれ衝撃が走る……
「ランカム……やっと分かった……お前が人を救うわけが。
そしてランカム!今お前に指す黒い影を追い払ってやる!!」
ポップと上条も地下王墓へとやってくる。俺は構え後ろも振り向かずに言う。
「おいポップ!覇気が出ない、お前の援護が必要だ。どうやらランカムは何かに操られているようだ!
上条だったか?お前の能力はあいつを操っている何かを消せそうか?」
>>317 >「ああ、俺なら大丈夫だ。黒狐って人が助けてくれた。
> ……って、それ回復の魔術か何かか? もしそうだったら、
> やめといた方がいい。俺の右手はそういうのも消しちまうらしいからな」
「おっと、そうなのか?なんだ、体にかけるのも駄目なのかよ」
強力な能力は、その強力故に大きな反作用を持ち得る。
跳ね返されたらその脅威が丸ごとこちらを向く極大消滅呪文のことを、何となくポップは思った。
そして状況説明を終えると、上条が言う。
>「……ランカムさんの様子が妙になったのは、多分紅竜って魔術師が
> フェル達が皆殺しにされたっていう様な台詞を言ったのを聞いてからだ。
> はったりだったみたいだけどな」
「へっ、当たり前だぜ。俺達がそう簡単に死んでたまるかってんだ」
ポップはぶっきらぼうに言い捨てる。
「しかし、結局ランカムに何が起きたんだろうな…。何か嫌な感じがする。地下王墓だ、俺達も急ごうぜ!」
走り出したポップは、上条のダメージが回復していない事を思い出した。
「ああそうだったな……よし!」
気合いを入れると、よろよろと走る上条に駆け寄り、彼を強引に背負った。
(ぐおっ!重てえ!)
大魔道士を自称していても、体力は普通の人間と変わらない。
大の男一人を運ぶのは難儀な仕事ではあったが、
「た、体力は少しでも温存しといてくれよ…!いざって時は頼りにしてんだからな、相棒!」
ポップは奮起し、そのまま地下王墓へ走り出す。
>>320 >「おいポップ!覇気が出ない、お前の援護が必要だ。どうやらランカムは何かに操られているようだ!
> 上条だったか?お前の能力はあいつを操っている何かを消せそうか?」
「ぶはっ!ぜぇぜぇ……へへっ」
上条を下ろし、ポップはまた荒く息を吐く。そして嬉しそうに笑った。
フェルが立ち直っている。それどころか、自分達を頼りランカムを元に戻そうとしているのだ。
以前のフェルからは有り得ない言動である。どうやら何か吹っ切れたらしい。
「分かった、任しとけ!いっちょランカムをバシッと正気に戻してやろうぜ!」
ポップは元気一杯に胸を張った。
だが実際のところ、その残された力は僅かであった。
今回の戦いでの度重なる魔法の使用により、回復薬を使ったにも関わらずもう充分な魔力は残っていない。
ダメージは無理矢理治したが、走りっ放しで体力自体は残り少ない。
そして上条にしろフェルにしろ、万全とは程遠い。
特に上条のダメージは気になったが、ランカムをを元に戻すには、効くかは分からないが上条の右手に賭けるしかない。
ポップは懐から、空っぽの試験管を取り出した。さっき飲み干した、黒狐に貰ったMP回復のポーションの入れ物だ。
それを握り締め、ポップは上条と構えたフェルに短く小声で伝える。
「フェル、なんとかランカムの動きを少しだけ止めててくれ。そしたら俺がとっておきの呪文で隙を作る。
あとは上条、お前の右手を頼りにしてるぜ」
>>315 ルミナが顔も上げずに返事し、質問に質問を返したことに、紅竜は不快感を隠そうともしなかった。
軽く思われていると感じたのだ。
だが周囲には大魔王に忠誠を誓う者もいる。
争い事は避けたいと考えた紅竜は、質問に答える事にした。
「おおう。これだから愚昧な一般人は困る。
来たる戦いに備え、我々が結束して敵に当たるために、友好を深めようとしているのではないか。
その上1つや2つ国を支配できるくらいの働きはしておる。
寛大なる大魔王様は、私の仕事を十分に評価してくださるだろう」
一度後ろに倒れたルミナが、立ち上がって睨みつけてくる。
紅竜も負けずに睨み返した。
>「質問に質問を返す真似をして悪かったな…東條ルミナ、探偵…っても意味ねぇか。まぁ魔術師もやってる
報酬として、あの石を調べる権利と元の世界に戻る権利と…まぁ、あとは金、銀等の金目の物ってとこか
それと…」
>「これは私のだ…それに、アンタは少しばかり勘違いをしている…私は帰れればどっちでもいいのさ」
無礼を謝ったので、ワインを奪ったのは帳消しにしてやろうと紅竜は考えた。
今の会話でわかったのは、ルミナが探偵であり、目当ては帰還と金品だということ。
それならば仲間に引き込むのは簡単だ。
帰還方法を先に抑え、金で釣ればすぐにでも味方になるだろう。
>「どうもお二人さん。今回の戦ではお二人共随分活躍されたようで…。
紅竜さんの活躍ぶりは私も拝見させていただきましたよ…。」
いつの間に近くに来ていたのか、赤屍が話しかけてきた。
活躍と言われたのを紅竜は皮肉と受け取る。
「おおう。お前が女に苦労しているうちに、不覚をとったわ」
目的を聞かれている赤屍に毒づいている前で、ルミナは後ろから大剣で貫かれた。
一瞬後には大剣は消えていたが、ルミナの反応も広間の静まりも、目の錯覚ではない事を証明している。
紅竜には見知った現象だった。
ムーミン大佐が本性を表した時、紅竜も同じような幻に苦しめられている。
あいさつもそこそこに紅竜は宴の会場を飛び出す。
ムーミン大佐が本性を表す時とは、シルクハットを取った時。
つまり下僕アンテナを付けている事が知られてしまう時なのだ。
玉座の間に向かった紅竜は、そこから出てきたばかりのムーミン大佐に話しかける。
「おおう!たった今お前の妖気が膨れ上がったように感じたのだが、
もしや敵の召喚戦士が乗り込んできたのではあるまいな!?」
下僕コントローラーを確認するのを見られると怪しまれる。
ムーミン大佐に直接話を聞いて、アンテナが正常に働いているか確かめなければならない。
−−来る。一人? …いや、足音が重い。二人。上条も来たか。
階上から聞こえてきた足音に視線を流した、一瞬後の事だった。
「おあッ!」
不意の衝撃が頭部を襲う。
予想だにしていなかった、フェルからの攻撃。
覇気の込められていない、ただ肉体の力と技のみで放たれた一撃。
だがそれは、強固な意志の込められた一撃だった。
“魔”には何が起こったのか、理解できなかった。
−−“魔”の誘惑を、振り払ったと言うのか。
導き出された、認めがたい結論。
だがそれを証すように、今やフェルの魂は彼の覇気と同じ色…
誇りの蒼い輝きに満たされていた。
更に間の悪い事に、ポップ達までもが王墓に姿を現す。体勢は立て直せていない。
−−どうする。どうすれば騙せる? 錯乱したフェルに突然攻撃されたと偽るか?
都合の良い事に、フェルも先程まで自失状態だった。
口先だけの嘘だろうと、一瞬の迷いが生まれるはずだ。その隙を突く。
口を開きかけた瞬間、フェルが油断無く二人に指示を飛ばす。
−−チッ、先手を打たれたかッ!
またも、予想外の一手。あのフェルが、仲間との連携を試みようとしているのだ。
人質の選択を考えてパラシエルを横目に見るが、フェルが隙を見せない。
変わった。決定的な何かが。
覇気を使えない状態だと言うのに、フェルの醸し出す気迫は鋭さを増している。
「ぐ…」
地上階への出入口には、ポップと上条が構えている。
自ら選んだ王墓の舞台に、逆に追いつめられた形になる。
「…愚かなッ」
立ち向かう三人を見回し、苦々しげに表情を歪め嘲りの言葉を放つ。
「“力”を受けいれ、“魂”を明け渡せば、何も苦しむ事はない」
その口調は穏やかながら、民衆を誑かす扇動者の物だった。
「さあ、“神”に赦しを請うのです。今ならまだ間に合う」
今度こそ剣を抜き払い、“魔”が傲慢にも神を騙り出す。
「私が神の“代理人”としてあなたがたの罪を赦しましょう」
それを開戦の合図とするかのように、天井付近まで、
常人ではあり得ないほどの跳躍を見せる。
“魔”は、肉体の安全装置を外される事で宿主の肉体が損傷する事も厭わない。
反転して天井を蹴り、更に落下の加速を加えた突きが、ポップの頭上に迫る。
死角からの攻撃。当たれば鋼板をも貫くだろう威力を秘めた突きである。
>>316>>323>「おおう。お前が女に苦労しているうちに、不覚をとったわ。」
「申し訳ございません。
私の予想を上回る力をお持ちの方だったので…。」
口では謝っているものの、反省の色は全く見えない。
>「ところで、あんたは報酬に何をもらってんだ?アンタのことだから、大魔王との一戦か?」
「クスッ……ルミナさん…。
あまり滅多な事を口にしない方がよろしいと思いますが…。」
ルミナが言葉を発した次の瞬間、とてつもない妖気で広間が満たされた。
人によってはそれだけで死をイメージ出来る程だ。
一瞬、大魔王の仕業かと思うが、どうやら違うらしい。
(将軍クラス…いや、それ以上の力の持ち主ですね…。)
「…ルミナさん?大丈夫ですか?
顔色があまりよろしくない様ですが…。」
赤屍はゆっくりとルミナに近付き、耳元で囁いた。
「今はまだ…その時ではありません。
ですが、時が来たら私が大魔王の首を頂きます…。
この広間に居る方々の首も、いくつか頂く予定です。
欲を言えば…ムーミンさんの首も欲しいところなんですが…。」
ルミナから顔を少し遠ざけ、周りの将軍達の顔を見渡す。
「暫くは大人しくしているつもりですよ。
今回の戦である程度楽しませて頂きましたし…。」
>>320,,322
>「おいポップ!覇気が出ない、お前の援護が必要だ。どうやらランカムは何かに操られているようだ!
>上条だったか?お前の能力はあいつを操っている何かを消せそうか?」
>「フェル、なんとかランカムの動きを少しだけ止めててくれ。そしたら俺がとって>おきの呪文で隙を作る。
>あとは上条、お前の右手を頼りにしてるぜ」
ポップに背負われて辿り着いた地下王墓。
歴史の中に没した王達の墓前には、二つの人影があった。
フェル・エクスティムとランカム。
立ちはだかるのは操られているというランカム、立ち塞がるのは意思を持つフェル。
上条達の仲間、少なくとも上条がそう思っている人々。
今のランカムに幻想殺し(イマジンブレーカー)が効くかはわからない。
そもそも、身体能力が一般人程度で、更にダメージの残っている上条では、
攻撃を当てられるかどうかすら怪しい。
だがフェルは言ったのだ。
自分達の力が必要だと。
その力を貸してくれると。
「当たり前だ。俺達の『友達』がつまんねぇ幻想に捕らわれてるって言うなら」
ギリ、と右拳を握り締め、吼える。
「――――その幻想をぶち殺す!!」
上条は地を蹴り、駆け出す。
フェルとポップによって動きを止めてもらったとしても、
拳を当てなければ幻想殺しは発動しない。
故に、上条はランカムにある程度接近する必要があった。
しかし、
>>324 「な!?」
ランカムが、異常な程の跳躍を見せてポップへ向かい跳んだ。
それは人間の限界を超えている動きだ。
一瞬、ポップの方へ向かいたい衝動に見舞われるが、思い留まる。
(最悪、ポップの事はフェルが何とかしてくれる筈だ。
それに、ポップだって強い。だったら、俺は俺のやるべき事をする!)
上条は走り、ランカムと一定の距離を保つ。
>323
玉座の間から出ると、紅竜が駆けつけてきた。
>「おおう!たった今お前の妖気が膨れ上がったように感じたのだが、
>もしや敵の召喚戦士が乗り込んできたのではあるまいな!?」
その事にムーミン大佐は一瞬きょとんとし、クスクスと笑いをこぼした。
「はっはっは、即座に駆けつけるとは。紅竜さんの忠誠心には感服しますぞ。
ちょっとした余興だったのだがね、少々過ぎたようだ。」
いつもと変らぬ様子で紅竜に応える。
変化は見られない。
「心配をかけて申し訳なかった。戻ってパーティーを楽しんでくれたまえ。
私は一仕事ある。
Dr.ジャッカルが骨を追ってくれた分、仕上げ位はしておきたいのでね。」
紅竜の肩をポンポンと叩き、笑いかけるが、目は笑っていなかった。
その瞳は「これから捉えたリーベルを虜にしにいくので下僕アンテナの用意を。」と語っている。
だがその瞳は一瞬。
ムーミン大佐はすっと紅竜の横を通り過ぎ、リーベルの捕らわれている部屋に向かう。
途中、食事を運ぶ兵士を見つけ、その運搬を代わる。
赤屍の要望を察してか、豪華の食事がカートに乗せられている。
よく冷やしたワインまで入っている気の使いように小さく口笛を吹いてしまった。
豪華な食事とともに、リーベルの部屋へとムーミン大佐は近づいていく。
>>322>>324 「分かった、任しとけ!いっちょランカムをバシッと正気に戻してやろうぜ!」
その言葉に微笑で返す…お互いに疲れ果てている。
上条に限っては動くことも辛いような状態であり…俺も覇気が使えない。
…だが不思議だ……今までここまで俺の何かを動かすような闘いはなかった
「フェル、なんとかランカムの動きを少しだけ止めててくれ。そしたら俺がとっておきの呪文で隙を作る。」
「…任せろ。俺が何とかしてみせる!」
今一度拳をしっかりと握る…二度と砕けぬように……強く…堅く!
そしてランカムも剣を抜く……そうだ。今は俺しか止められん。
ポップと上条の二人とランカムの間に体を入れ続けなければ……
「私が神の“代理人”としてあなたがたの罪を赦しましょう」
速い!ランカムはここまで速く跳躍などできなかったはず!!
確かにあいつの剣の腕前は買うが基礎としての体力や運動能力は高いにしても…
そこは人間…しかし今目の前のランカムの動きは…覇気などで強化していないというのに
…やはりこいつは……ランカムではない!!
そしてランカムの突きがポップの頭上へと迫る!
俺は考えるよりも先に動き、ポップを突き飛ばしていた。
「ぐうぅッ!!あがぁぁッ!!!」
ランカムの剣が俺の胸を貫く……覇気など出していない体は
用意に刃を通し脈動するように血が溢れ出す……これでもなんとか頭上の直撃は避けれた。
「ラ…ランカム……お前は神の心などを騙って人を裁くような奴ではないはずだ…!!」
俺は自分を貫いている剣を抜かずに逆にランカムとの距離をつめる。
剣は更に俺を貫き激痛が走る……しかし俺はここで引く訳にはいかない!!
「お前は少し前に俺に闘う方法を…教えてほしいと言ったな……」
更に距離をつめる…すでにランカムの剣の柄部分まで俺は自分の体を押し込んでいた…
「きっと、お前は…力がほしかったんだろう。だが…お前は気付いていなかった!!」
そして俺はランカムの肩を強く掴む。おそらく今ここで剣を横になぎ払われたら俺は真っ二つ…
だが!たとえこの剣が俺の胴体を切り裂いてもこの腕だけは離すわけにはいかない…!!
「お前はすでに俺には持ち得ない力を持っていた!!
そして…それを俺に教えてくれたッ!!お前は弱くなどない!!」
その瞬間、わずかにランカムの動きが止まり、剣に込められた力が緩んだ。
「ぐっ……ポップ!!今のうちにさっきいった…取っておきをやってみろぉ!!」
>309-310、>327
>「私を楽しませてくれたお礼、ただ、それだけです。」
ただそれだけの理由でここまでするとは……
赤屍という男の事を多少は理解したつもりだったが、その予想を
はるかに超えていたようだ。内心呆れてしまったがそれを顔には出さず
純粋に心遣いに対して礼を言う。
「そうですか……感謝します。」
頭を下げると、ジャラリと鎖が耳障りな音を立てた。
>「どうぞ、好きなだけ食べて下さい。その篭に入っている果物も置いて行きますので…。
> …正直、貴女の言う通り私にとっては嬉しい限りですよ。
> 貴女以上の手練と戦える機会なんてあまりありませんので…。」
自分など大した手練ではないのだが、先の死闘の際に超えた限界など
とっくに超えて一つ先或いは二つ先の限界も既に超えた、化け物と形容する以外に
言葉で表せないような強者達と戦った事も何度かあるようだ。
それでいて今目に前にいる……今更ながら自分の見立てが余りにも都合よく
下方修正を掛けていた事を思い知らされる。
「……そうですか。あなたには、他に楽しみと言えるものはないのでしょうか……?」
そこまで突き抜けた存在との開港は初めてなリーベルにはとても興味深い事柄である。
答えが得られるとは思ってない、ただつい思いついた事を口に出してしまうだけだ。
>「食事については定期的に持って来るように伝えておきます…。
> 味はあまり良くないと思いますが、ご了承下さい。
> それでは、私はそろそろ失礼します…。」
先ほどの言葉の意味を勘違いしたのか、定期的に食事を持ってこさせると約束して
赤屍は退室した。真面目なのか天然なのか、掴み所のない赤屍はリーベルの好奇心を
大いに擽る存在だった。絶望的な状況下にも拘らず、笑い声が漏れる。
「クスクス……おかしい人ですね。
でも……困りましたね。あのままでは果物は食べられないわ……。」
一頻り笑った後で問題に気づいた。今の自分には
皮付きの果物に齧り付くだけの顎の力もなく、皮を剥く刃物もなく、
歩く為の腱は切られたまま、篭の置いてあるテーブルまではどうしても歩かないといけない。
……数分考えて存外あっさりと諦めた。無理なものは無理!
「……そう言えば、赤屍さんは運び屋を営んでいる……
そして、彼の望みは強者との戦い…………」
数分考えて、リーベルの頭の中で一つの案が浮かび上がり骨格が出来上がった。
同時に浮かび上がる問題点を念入りに潰して肉付けをしていく。
期待は出来ないが何事も駄目元、分の悪い賭けだが試してみる価値はある、と
結論付けた。その為には……もう一度赤屍に会わなければならない。
この稚拙な企みは、前提として赤屍がいなければ始まりもしないのだから。
>豪華な食事とともに、リーベルの部屋へとムーミン大佐は近づいていく。
そんな企みを考えているとは露知らず、ムーミン大佐が部屋へと近づいてくる。
幸いにして、聴覚だけは聊かの損害も受けていなかったようで、廊下に響く靴音から
その足音の主がムーミン大佐のものだと瞬時に気づいた。一番厄介な相手が
このタイミングで……いや、大佐の性格や言動を考慮するとむしろ遅すぎるぐらいだ。
気付かれる訳にはいかないと、平静を装う事にする。同時に、力を取り戻せていないか
精神を集中させるが……やはり駄目。赤屍の毒は抜けている筈、ならばやはり
肉体と精神の状態が平時にも届いていないからか……
>>324 >「さあ、“神”に赦しを請うのです。今ならまだ間に合う」
>「私が神の“代理人”としてあなたがたの罪を赦しましょう」
ランカムが言い終えた途端、その姿が消えた。
「なっ?」
いや、消えたかと思うほどに速かったのだ。
気付いた時には、ランカムは天井を蹴りポップの頭上から剣を突き立てんと迫っているところだった。
(死っ……)
速すぎて思考すら追いつかない。しかし剣が当たるより先に横から衝撃が走った。
その衝撃に弾かれ、ポップは床を転がって壁にぶつかった。
「あつっ!」
>>328 >「ぐうぅッ!!あがぁぁッ!!!」
一瞬目を回しかけたポップだが、耳に入った絶叫に気を持ち顔を上げる。
そこにあったのは、さっきまで自分がいた位置で、ランカムの刃に胸を貫かれたフェルの姿だった。
「フェ、フェル!そんな、嘘だろ!?何やってんだよ!!」
目の前の全ての光景が、ポップには信じられなかった。
あのフェルが、自分を庇って凶刃を受けるなんて。いや、それどころではない。
あれは致命傷ではないだろうか?
しかしフェルは怯むこともなく、ランカムの正義の心に訴えかけながら、逆に前進して行くではないか。
自らの体が両断されかねないというのに、それすら厭わず。
ポップの両目から大粒の涙がこぼれる。
「ちくしょう、ちくしょお!俺のばっきゃろーっ!!」
ポップは天を仰いで絶叫し、それから決死にも似た表情で場を見据えた。
フェルが命を賭して守ってくれた勝機、決して無駄にはできない。
>「ぐっ……ポップ!!今のうちにさっきいった…取っておきをやってみろぉ!!」
「まかせろ!フェル、お前は絶対に死なせねえからな!」
握り締めていた試験管を、ポップはランカムの足元に思い切り投げつけた。
試験管は派手に割れ、エーテルを僅かに含んだその破片がランカムの周囲に散らばる。
「とっときだ、くらいやがれ!破邪呪文(マホカトール)!」
詠唱と共に、エーテルを含んだガラス片のうち5つが光輝き、五芒星の頂点となって魔方陣を描いた。
マホカトール。それは魔方陣の内側の悪しき力を打ち消し、外側からの侵入も拒む破邪の呪文である。
ただしそれは絶対効果ではなく、強い魔の力の前ではその影響を軽減するだけで終わったり、
さらに強大な魔の前ではあまり効果のない場合もある。動きを止めるほど効くかどうかは一種の賭けだ。
しかし、フェルの魂の声にランカムの正義の心が揺さぶられているのなら。
破邪の呪文は、ランカムの魂が魔の力を押し返す助けとしてより強力な効果を発揮することだろう。
「上条−っ!今だああっ!」
魂の奥。ランカムは闇の底に居た。
−−ここは…一体、どこなんだ…?
そうだ。自分は仲間の安否を確かめる為に、城へ向かっていたはずだ。
−−暗くて…よく…わからない…。
手足の感覚が無い。立っているのか、座っているのかすら解らない。
これが、地獄と言う物なのだろうか。
−−…そこにいるのは、フェル……?
ふと、懐かしい気配を感じる。彼といたのは、今では酷く昔のような気がする。
−−待ってください……身体が、思うように動かないんです。
感覚の無い手を、動かそうとする。その手に肉を裂く感触が伝わってくる。
−−フェルッ!!!
現実世界、剣がポップを庇ったフェルの胸を深く貫いていた。
「無駄な事を…。愚かな“ランカム”は死にました」
だが、本来ならそのまま心臓を貫いていただろう刺突は、微かに狙いを逸れていた。
“魔”が、その小さな違和感に気付く事は無い。
「弱い人間だから“神”にすがる。人は、支配される事を望んでいるのですよ」
ランカムの肉体を借りた“魔”が、ランカムを侮辱する。
「ゴミクズのような人生しか歩まないような輩に、“救済”など必要ない」
なおも呼びかけるフェルを嘲笑うように、語調を荒げる。
「必要なのは“選別”ですよ。共通の“価値観”、剃刀の刃一枚入る隙もない完璧な“法”…」
「…我々が愚かな人間に、“神”を与えてやろうと言うのです」
だがフェルは、ランカムへの呼びかけをやめない。
自分の身を犠牲にして、なおも前進しようとする。
「お、おやめなさいッ!」
魂を根底から揺るがされるような気迫に、“魔”がたじろぐ。
フェルがランカムの肩を掴む。その手から、熱い思いが伝わってくる。
「…我々が責められる理由は、何もないッ!」
それを振り払うように、腕に渾身の力を込めようとした。
このままあと数センチ手を動かせば、フェルの心臓を貫き、フェルの命は失われる。
だが、その手が動かない。まるでそれ以上動く事を、手が拒んでいるようだった。
足下で砕けた試験管が、魔法陣を描き出す。
「……フェ…ル…」
その一瞬後、マホカトールの閃光が玄室を光に染めあげた。
《何故だッ! 何故お前たちは戦える? 人間とは、脆弱な存在ではなかったか!》
狼狽と怒りに錯乱した意識が、拡散を始める。
“魔”がランカムの魂と拮抗し、一時的に主を失った全身が、石のように硬直する。
>>328 ランカムが槍を突き出す。
空気を穿つ人外の速度と膂力。それを用いて放たれた一撃は、
銀の軌跡としてポップへ襲い掛かり――――しかし、彼を貫く事は無かった。
>「ぐうぅッ!!あがぁぁッ!!!」
「フェル!!?」
ランカムの放つ槍が貫いた先、そこにいた人物はフェルだった。
彼はポップを庇い、自らの体でその凶刃を受けたのだ。
フェルは槍に貫かれながら、夥しい量の血を流しながら、
その命を削りながら、それでも前に進んでいく。
一歩、また一歩。ランカムの心へ呼びかけながら。
おそらくは仲間として 友として
フェル・エクスティムはランカムへ進む。
>>330 >「とっときだ、くらいやがれ!破邪呪文(マホカトール)!」
フェルが作り出した好機、それ無駄にしない為に、
ポップが涙を流しながら魔術を放った。
ガラス片が散り、五芒星がランカムを包み込む。
>「上条−っ!今だああっ!」
そのポップの咆哮、それを起点に上条はランカムへ向かい疾走した。
未だに全身は痛む、怪我をした脇腹が無理に動き回ったせいで熱い。
だが、フェルとポップが作り出してくれたこのチャンス、
絶対に逃してはいけない。
待つしかない状態の中、強く噛み締めた下唇からは、血が流れていた。
駆ける。上条がこのままランカムに接近しても迎撃されるだけだっただろう。
だが、フェルとポップ、彼らの意思が、ランカムの動きを止めてくれていた。
だから、出来る。
>>331 >《何故だッ! 何故お前たちは戦える? 人間とは、脆弱な存在ではなかったか!》
「うるせぇ、引っ込んでろ最弱!ここにいる全員が、
ランカムって人間を大切に思ってんだ!だから――――」
上条は硬直したランカム懐へ潜り込む。その距離は零になり
「とっとと、目ェ覚ましやがれえぇェェ――――ッッ!!!!!」
咆哮と共に、幻想を殺す拳が放たれた。
>>327 >「はっはっは、即座に駆けつけるとは。紅竜さんの忠誠心には感服しますぞ。
>ちょっとした余興だったのだがね、少々過ぎたようだ。」
「おおう。やはり余興だったのか。
知っていたが、念には念を入れようと思ってな。ふははははははは!」
笑いながら紅竜が見る限り、ムーミン大佐に変わりは無いようだった。
これから赤屍絡みの一仕事をする、と言って紅竜の肩を叩く仕草にも。
だがその目を見て、紅竜もムーミン大佐の意図を知る。
悪の天才として悪巧みにも自信があるのだ。
「では私はパーティー会場に戻るとするかな。
せっかくの宴は楽しまんといかん」
ムーミン大佐と別れ、紅竜は自室に戻った。
部屋の中には、この世界に飛ばされてから新しく開発した機材や器具が、所狭しと並べられている。
真ん中の巨大な水槽の中では、データ解析中のストロングポチ3号が静かに眠っていた。
紅竜が魔法石を元に開発した人工知能は、ポチが普通の大トカゲである事を水晶球に表示している。
「おおう‥‥ドラゴンを触るだけでトカゲに変える能力か‥‥
天才である私が手に入れる価値のある力よ」
上条の持つ幻想殺しの力を解明する作業は、まだ始まったばかりなのだ。
人工知能に別の指示を与えた紅竜は、下僕アンテナを持って再びパーティー会場に戻った。
「おおう。そろそろお前たちも退屈してきたのではないか?
今から赤屍が捕まえてきたリーベルとやらを尋問しに行くのだが、見に来てはどうだ?」
会場にいる赤屍とルミナに話しかける。
自分の作ったアイテムの効果を見せて、自慢したかったのだ。
「………」
今まで何度か修羅場はくぐったことはあったが、こんな悪寒を感じることはなかった。
赤屍との初対面時の比では無い。考える余裕すらない。
軽度のパニックに陥っているルミナに赤屍が耳打つ
赤屍の目的を聞いた後、ルミナは一呼吸すると、直ぐ様立ち上がり、近くにあったアルコール度数が高そうな酒を一気に飲み干す。
「……うぇあ…ゴフゴフ……そうか…できりゃそのリストに載ってないことを祈るよ…ところで、奴……紅竜に何か感じなかったか?」冷静になった所で、赤屍にそう訪ねる。
「探偵の勘っつーかなんつーか、何となくだが、奴は嘘をついている筈だ
証拠は今のところ全くねぇがな…あぁそれとな」
「…いややめとく、ちょっとばかし飲み過ぎてな。部屋で寝てるよ」
姿を現した紅竜の誘いを蹴り、ルミナ若干よろけながら宴会場を後にした。
>329
*コンコン*
リーベルの捕らわれている部屋のドアからノックの音が響く。
そしてドアは、返事を待つ事無く開かれた。
ドアの向こうにいるのは、豪華な食事ののったカートを押すムーミン大佐。
「やあ、リーベル。」
にこやかに声をかけ、親しげに呼び捨てで呼ばれると、かつてのことを思い出すだろう。
以前リーベルはムーミン大佐とは気を許す関係だった。
勿論それはムーミン大佐の策略であり、芝居の上で踊らされての事。
つい口を滑らせた以降、追われる日々を送る事になる。
リーベルにとっては苦い思い出だろうが、ムーミン大佐はまるで気にしていないようだ。
「君の力は戦力面より、戦略・戦術面でこそ生きるものだ。
なのにDrジャッカルとまともに戦うのだから、君にしては随分と無謀な事をしたものだ。」
肩を竦めながら差し出される一粒の種。
二人の間に種についての説明は要らなかった。
ドライアードの種。
体内に入り、回復の力を振るうのだ。
「安心したまえ。小細工はしない。
折角五体満足でいるのだ。できれば同僚となりたいのでね。」
二人っきりで部屋の中。
たとえリーベルの魔力と体力が回復しても、魔力封じの鎖がある。
種を渡すと、ムーミン大佐はワインを抜き匂いをかぎ、「うむ、上物だ。」と満足気に二つのグラスに注いでいく。
「こうやって落ち着いて話すのはどれくらいぶりだろうかね。
再開に乾杯しようじゃないか。」
そして、グラスをリーベルに差し出すのであった。
上条の拳が、王墓に音高く響いた。全身が熱くなる。
その一撃に込められた思いは、魂までも届くようだった。
ランカムは再び、魂の世界にいた。
−−私は…何を見ているのだ?
“魔”が消え去る、最後の瞬間。
その時になって、ランカムに秘められた力が発現したのだ。
次元を越えて垣間見た光景は、自分がいた世界の事だった。
「やはり、団長は亡くなられたのですね」
どこか納得したように、寂しげに笑う。予感していた通りだった。
もし、この戦いが終わって元の世界に帰ったとしても、
敬愛する騎士団長は、もうこの世にはいないのだ。
後ろを振り返る。
闇が広がっている。そこに、騎士団長がいた。
…理想を持ち、騎士団中の尊敬を集める人だった。
若くして騎士団の一部隊長となった直属の上司がいた。
…神経質だが、仲間を思いやる人だった。
気のいい仲間がいた。自分と同期の騎士。
…士官学校の頃から、共に夢を語り合った。
「“魔”よ−−」
彼らはもう、この世にはいない。
ここには居られない。帰らねばならない。
今、守りたい“仲間”がいるのだ。
そして今度は振り返らずに、光に歩き出す。
「−−去れ」
光が溢れた。
霧状の“魔”が、ランカムの身体から飛び去ってゆく。
それと同時に、全身の力が抜ける。
「上条…殿……ポップ殿……………フェルッ!!」
自分も倒れそうになりながら、慌ててフェルを支える。
「すみません……皆さん…すみません…」
涙で言葉が続かない。
応急にフェルを止血しながら、仲間達の状態を考える。
ポップは今日一日で、相当の魔力を使っていたはずだ。
上条にしても、その疲労は並大抵ではないだろう。
そこで、黒狐の姿を思い浮かべる。
−−正式に仲間に加わって貰えるよう、頼もう。
治癒の力を扱える彼女の存在は大きい。
一方、上条は魔法では治療できない。
−−リーベルの残した霊薬は、幾つあっただろうか。
次に目についたのが、パラシエルだった。
何事も無かったかのように、寝息を立てている。
−−そう言えば、彼の鷲にも治癒能力があったな。
その鷲が、宝玉を胃袋に収めているとは、その時思いもよらなかったが。
急に、城の外が騒がしくなる。勝鬨をあげているのだ。
…勝ったのだ。徐々に、その実感が沸き上がってきた。
>>334>「……うぇあ…ゴフゴフ……そうか…できりゃそのリストに載ってないことを祈るよ…ところで、奴……紅竜に何か感じなかったか?」
「ご心配無く…今のところルミナさんの首を頂く気はありませんので。
…紅竜さん…ですか?いえ、私は特に。」
>「探偵の勘っつーかなんつーか、何となくだが、奴は嘘をついている筈だ
証拠は今のところ全くねぇがな…あぁそれとな」
「……私は別に構いませんよ…。
彼が私の邪魔さえしなければ、何を企んでいようが関係ありません。
私の妨害にならない限り彼に必要以上に干渉する気もありません。」
>333会話をしている赤屍とルミナに紅竜がリーベルの尋問に付き添わないかと誘ってくる。
ルミナは飲み過ぎた為部屋で寝てると断った。
「……お付き合いましょう。このまま此処に居ても退屈ですしね。」
>335
>「やあ、リーベル。」
果たして、ノックへの返事を待たずに開かれたドアの向こうには
リーベルの耳が捉えた足音の主、ムーミン大佐がいた。
その気安い調子で名を呼ばれるのはいつ以来だったか……
若さゆえの過ち、そう過去の自分を断じたリーベルはもうその件は
気にしていないつもりだったのだが……改めて古傷を抉られると
顔にこそ出なかったがやはり不快だった。
>「君の力は戦力面より、戦略・戦術面でこそ生きるものだ。
> なのにDrジャッカルとまともに戦うのだから、君にしては随分と無謀な事をしたものだ。」
「そうね、誰かさんと違って小細工の通用する相手ばかり選ばなかったもの。」
かつての様ににこやかに、気安い調子で返答するが言葉の端々に刺々しさが見え隠れする。
発せられた言葉は、大佐への皮肉とも自身への自嘲とも取れる内容だった。
>「安心したまえ。小細工はしない。
> 折角五体満足でいるのだ。できれば同僚となりたいのでね。」
「その言葉を信じろと?私に人の親切を疑うように仕込んだのはあなたでしょう?
前にも言った筈よ……お断りだって。人を騙す事に何の迷いも呵責も感じない、
あなたの様な者とは、特にね。」
力がない上に鎖が重いために種を突っ返す事は出来なかったが、
改めて魔王軍に下る意思がない事を表明する。大魔王の目的は依然として知れない、
しかし目の前の存在はその奥底に凶悪な本性を眠らせている。
もし知識を渡してしまえば、それは必ず全ての世界に災いを撒き散らす。
自分のミスでそんな事になるのは耐えられないし、折れてしまったら
自分を信じてくれた全ての仲間への冒涜に繋がるのだ。
孤独な戦いを続けていたリーベルにとって、この世界で出会った仲間達は
何よりも大切なもの。そして恐れるのは死ではなく、憎悪或いは侮蔑からの別離なのだ……
>「こうやって落ち着いて話すのはどれくらいぶりだろうかね。
> 再会に乾杯しようじゃないか。」
ジャラリ、とわざと耳障りな音を鳴らせて肩をすくめる。
「ええ、ぜひとも乾杯したいわ。
……この状態で出来ればの話だけれどね。」
赤屍も同じケアレスミスを犯しているのだが、対応と感情には雲泥の差があった。
もっとも、赤屍はその事に気づく前に出て行ってしまったが。
> リーベル
空気嫁
空気嫁とまでは言わないけど中の人のミスをまんまキャラのミスにしてしまうのは気遣いが欠けてる
キャラらしからぬミスはフォローしてあげる優しさがほしかった
リーベルも自分の立場なら中の人のミスをいちいち突っ突かれるのは気分がよくないだろうに
閃光の走りぬけた地下王墓の入り口で、黒狐は立ち尽くしていた。
味方しかいない筈の場所なのにほぼ全員満身創痍。
何かトラブルがあったのは間違いないが・・・。
「もう少し早めに来るべきでしたか・・・。」
そう言いながら一人一人の傷口を検分する。
「仕方ないですね、これを使うと多少疲れますが。」
黒狐が胸元のペンダントに手をかざすと、漆黒のペンダントから蒼い光が溢れ出す。
その光はまるで霞のようにその場にいる召喚戦士達を包み込む。
「《ガイア》よ、この場に立つもの全てに等しく恩恵を与えたまえ。
・・・・・・《ネルガル》、《イドゥン》。」
蒼い光は奔流となってその場に立つもの全ての傷を癒してゆく。
ただ、上条のみがその光をはじいているのだが。
やがて、蒼の光が収まる頃には上条を除く全員の傷、そして魔力が回復していた。
「回復はさせましたが、傷を負った自分の精神までは回復しませんから
とりあえず今日は皆さん安静にすることですね。神の加護も万能ではありませんし。」
さらに黒狐はよっこらしょ、と何もない空間からデイパックを取り出した。
中には以前ポップにも渡した試験管のようなものがぎっちりと詰め込まれている。
「上条さんは魔法が効かないようですので、ちょっと沁みますけど我慢してくださいね。」
そうまくしたてて座り込むと、上条が抵抗するより早く頭を膝の上に乗せて全身の傷口に
試験管の中身を浴びせてゆく。傷口が白煙をあげてふさがってゆくが、かなり沁みるのだった。
>>334>>337 >「…いややめとく、ちょっとばかし飲み過ぎてな。部屋で寝てるよ」
>「……お付き合いましょう。このまま此処に居ても退屈ですしね。」
紅竜の誘いにルミナは部屋で寝ていることを選び、赤屍は付いてくる事を選ぶ。
説得工作は1人ずつばらばらに行う方が効果的なのだから、これは紅竜にとっても嬉しいことだ。
「赤屍よ。召喚戦士たちの戦い、お前も楽しめているようだな。
だがもうすぐ強敵との戦いも我らの勝利に終わる。
優秀なる悪の陣営の定めとはいえ、辛いものよ」
リーベルの捕らわれている部屋に向かう途中、紅竜は赤屍に話しかける。
赤屍が強敵との戦いを願っている事はわかっていた。
一度は大魔王に戦いを挑もうとしたほどの男が、戦いの終了を受け入れられるのか?
そんなはずはないと紅竜には思える。
目の前に戦いを置いてやれば、ある程度この危険な男を制御できるはずだ。
「ところで、じつは私はこの後、さらなる強敵と戦う予定があるのだ。
もしお前がよければ、その強敵との戦いに加わって欲しいと思ったのだが‥‥
もしその気があるのなら、ぜひDr.ジャッカルの力を私に貸してもらいたい。どうだ?」
話ながら紅竜は、手元の盗聴監視装置をのぞき込む。
緑色の光は、魔法や誰かによる盗聴が一切無いことを示していた。
それでも念のため、大魔王という言葉は出さないようにしているのだが。
>338
あくまでも反抗的な態度のリーベルにムーミン大佐は小さく息をつき肩を竦める。
「やれやれ、随分と嫌われてしまったね。
もっと早くご機嫌伺いにこればよかったかな?
私も宮仕えの身でね、色々仕事があったのだよ。」
リーベルの言葉の糸をを知りながら話をはぐらかす様に冗談を交えて応える。
だが、それでもリーベルの態度は変わらない。
ワイングラスを二つ片手に持ちながら、リーベルのすぐ前まで歩み寄る。
「鎖が重い?種を飲めば力はすぐに戻るのだが、飲まないのかね?
何なら・・・口移しで飲ませてやろうか!?」
最初は穏やかに語っているが、徐々に言葉は強く、凶暴性が滲み出てくる。
リーベルの顎を掴み強引に上を向かせる。
が・・・すぐに手を離し三歩離れる。
「・・・ふっ・・・やめておこう。私とてまだ殺されたくないのでね。」
身震いをするムーミン大佐の考える事はやはり妻の事だった。
下手な事をして後で知れれば命は無いのだから。
小さく息をつき、呼吸を落ちつかせると、また元の笑顔でリーベルに語りかける。
「まあいいさ。すぐに気が変わるだろう。
ぜひとも君とはご同輩になりたいので、ね。」
そう、焦る事は無いのだ。
もうすぐ来る紅竜に任せればいい。
ムーミン大佐はその到着を待ち、グラスを傾ける。
王家の墓で争いをしていると聞きつけた兵士達が集まってきた。
召喚戦士同士の争いを、何とも言いがたい表情で見ている者も居る。
「まったく、行く先の不安なことだ。
現状、大魔王軍では内輪揉めをしている様子も無いというのに、こちらが仲間割れをおこしてどうする?
ただでさえ兵力で劣るのに、これでは付け込む隙まで与えかねん」
鎧も戦場で大いに目立つ立派な鎧を着込んだ男はそのような発言をした。
彼は数名の従者を引き連れている。将軍だと思われる。
「国王がお呼びだ。食事と寝る場所を用意するが故、是非にとのことだ」
将軍らしき男は短くそういい残して、踵を返した。
態度から察するに、どうも召喚戦士に良い印象を持っていない人物のようではある。
しかし、国王自身からは高く評価されているようだ。
召喚戦士達が食事等を済ませた後に通された会議室は、驚くほど質素なものだった。
よほど近しい人物としか話し合いをしないのだろうか?
「古の兵法家は言う」
国王は突然、そのように話を切り出した。
「戦えるときに戦え。それが駄目なら守れるうちに守れ。
守れぬようなら逃げられるうちに逃げ、それでも駄目なら降伏せよと。
その後、降伏もできぬ輩は死ね、と続く訳だが……」
王は椅子から立ち上がり、言葉を続ける。
宝玉を奪われたことを知ってなお、その瞳の奥の闘志は、いささかも失われていない。
「戦力的に見て、われわれはまだ戦うことができるが、もはや守ることはできない。
『封魔の宝玉』が敵の手に落ちた以上、戦略的に守る価値があるものは無い。
無論、戦う力を持たぬ民を守らねばならぬのは、言うまでも無いがな」
「申し上げます」
初老の家臣が提言した。
「敵に奪われた宝玉は、パラシエルが用意したダミーかと」
そう言って取り出したのは綺麗な丸い玉。
それは間違いなくあの封魔の宝玉に相違なかった。
「むむむ。だが、向こうもすぐに気付くだろう。
あのとき奪われたものが本物であれば、こちらがなんとしても宝玉を奪いに来ると考えて、罠を仕掛ける迎え撃つだろうが……
だが、どちらにしても、これ以上、無闇に防衛戦を続けて兵を疲弊させるのは、得策ではない。
攻めに回らなければ魔王は倒せぬ。事態が解決しない。
私はそう思うが、お前たちはどう思う?」
国王は召喚戦士たちに意見を求めた。
自室へと戻る最中、ルミナは考えに耽っていた。
その足取りは先ほどの千鳥足が嘘だったかのようにしっかりとしている。
その通り、あの千鳥足はあの場から消える為の演技で、まだルミナはそこまで酔っていなかったのだ。
「………」
ルミナの魔術はこの世界の魔法よりも優れている点もあるがそれ以上に劣っている点も多い。
例えば、空間移動ならば、この世界の魔法使い、またはそれに近い魔法使いならば、どんなに離れた場所でも直ぐに行けるが
ルミナの場合、半径100m無いぐらいの範囲内の何処かに移動出来る程度が限界
始点、終点を確定させれば場所に関してなら融通は聞くかもしれないが
空間移動でそこまで苦労するのだから、平行世界への移動なんて無理難題もいいところだ。
石を調べればどうにかなると思ったが、それも大きな壁にぶつかって困っている。
そんな折りに、捕虜になった召喚魔法に詳しいリーベルの存在は貴重である。
予定ならば、今頃、目の前で話をしているつもりだったがそうもいかない。
警戒している人間の前で、そんな話をしてみろ。後悔するに決まっている。
紅竜の誘いを蹴ったのはそういう理由があったからだ。
「……だが、このままじゃ」
帰る為のヒントが奪われるのは必至だ。
だからこそ、こうして策を練っているのだが中々いい案が思い付かない。
いっそ、紅竜は謀反を〜と魔王にいうか?
いや、こんな一言でどうにかなるなら、探偵という仕事がどんなに楽か。
とにかく、目立った証拠が無い限り密告は不可能。
「………そうか…待たなくてもいいのか」
何か思い付いたのか、ルミナは周囲を見回し、人気の無いことを確認すると詠唱を始める。
「………"サーフェイス・オフ"発動」
詠唱を終えると、ルミナの姿がボヤけるように消え、紅竜の姿が露になる。
一目見た相手に一定時間変身する魔術を使いルミナは紅竜に化けたのだ。
「…さてと、忙しくなるな」
軽く準備運動をしたあと、来た道を叫びながら走る。慌てているようにしなければ誤魔化せることは出来ない。
「大変だぁぁ!」
宴会場の扉を勢いよく開ける。
呆気にとられる兵士を見回した後、近くにいる兵士に向かって
「おいッ貴様!さっきここに私が来なかったか?
愚か者!それは敵の召喚戦士だ!先ほどの異変で何もないと思ったか!敵は私の姿でこの城の中にいる」
「貴様らは先ほど逃げた私を追え!私は大魔王様の元へ行く!」
そう言い残し、宴会場を後にし、直ぐ様人気の無い場所に隠れる。
「"解除"」
紅竜の姿を解き、ルミナの姿に戻り、物陰から兵士が来るのを待つ。
「…さて、鬼ごっこの始まりだ。」
追ってきた兵士に魔弾を撃ち込み、紅竜の姿に変える。
いつの間にか追われているなんて本人らは奇妙な気分だろう。
「………さてと…行くか」
タバコを一服し、リーベルの部屋に向かった。
>>342リーベルの部屋に向かう途中、紅竜が赤屍に話かける。
>「赤屍よ。召喚戦士たちの戦い、お前も楽しめているようだな。(中略)
優秀なる悪の陣営の定めとはいえ、辛いものよ」
「ええ、召喚戦士の方々には大変楽しませてもらってます。」
>「ところで、じつは私はこの後、さらなる強敵と戦う予定があるのだ。(中略)
どうだ?」
この発言を聞いた赤屍は一旦立ち止まり、紅竜の顔を黙って凝視する。
数秒凝視した後、口を開いた。
「考えておきましょう。」
そう一言だけ返すと足早にリーベルの部屋に向かった。
ドアをノックし、扉を開ける。
「失礼します。何度もすみません…おや?貴方まで来ているとは、予想外でした。」
部屋にはムーミンとリーベルの姿があった。
そして部屋に入るなり、紅竜に疑問を投げかけた。
「ところで、紅竜さんは彼女に何の用事があって来たんですか?」
>>330-
>>333 「まかせろ!フェル、お前は絶対に死なせねえからな!」
「ぐっ……ふふ…俺もまだ死ぬ気などない……!!」
俺はニヤリと笑う…そうだ、まだ死ぬ気などない。
ここからだ…ランカムを救ってから俺の新しい闘いが始まる!まだ死ぬわけにはいかない!
「……フェ…ル…」
ポップが試験管を投げた時ランカムが俺の名を呼ぶ……
「ランカム!闘え!お前の中の暗き闇に打ち勝て!!」
そして魔方陣ができあがり閃光が一帯を包む。
聖なる光りとランカムの意思が魔を抑え俺を貫く剣が止まり…ランカムの動きが止まる!
「とっとと、目ェ覚ましやがれえぇェェ――――ッッ!!!!!」
そして上条のその手がランカムへと放たれる!
光りが収まっていきランカムの体から霧のようなものが抜け出る。
そしてランカムの腕から剣が離れる……
「上条…殿……ポップ殿……………フェルッ!!」
倒れ掛かる俺を正気に戻ったランカムが支える。
「やれやれ……やっと本来のお前に戻ったようだな。」
涙を流すランカムを見て若干溜息混じりに俺は言う…
だが心の中では感謝していた……俺を導いてくれたお前を……俺に新しい道をくれた俺を。
「ランカム……お前は」
ランカムに言いかけた時外から大きい声がいくつも上がる……どうやら兵達が
勝利の雄たけびをあげているようだ…丁度よかったので俺は歓喜の声をバックにランカムに続ける。
「見ろ…外の奴らを。ここもあいつらも…俺達が守ったんだ。聞け…奴らの声を…
お前が、お前が全身全霊をかけてここを守ったんだ…お前は弱くなんかない。
お前が弱いわけがない!」
勝利の実感を感じ嬉しそうなランカムに俺は力強く言い放つ。
「しかし…それにしても全員満身創痍だな。」
>>341 「もう少し早めに来るべきでしたか・・・。」
声がし振り向くとそこには知らない女が立っている。
だれかと聞こうとも思ったが…他の奴らが何も言わないところを見ると
面識があるのかもしれないし…攻撃してくる様子もなく一人一人の傷を見ていく。
「仕方ないですね、これを使うと多少疲れますが。」
そういい女はペンダントをかざし呪文のようなことを言い始める。
するとみるみるうちに俺の傷が塞がっていく…体力も回復している。
上条1人を除いてだが……どうやらあいつはそういう能力全てを拒絶する能力を持っているらしい。
だからランカムを戻せたし最初の魔王の攻撃も防げたというわけだ。
「上条さんは魔法が効かないようですので、ちょっと沁みますけど我慢してくださいね。」
そういい上条に女は傷に薬を浴びせていく。かなり沁みるようで上条は叫び声をあげる。
「情けない!男ならそのぐらいの痛みは我慢しろ!」
>>344 そんなやり取りをしていると外から兵士達が集まってくる。
どうやらこの騒ぎに対して集まってきたようだ。
「まったく、行く先の不安なことだ。
現状、大魔王軍では内輪揉めをしている様子も無いというのに、こちらが仲間割れをおこしてどうする?
ただでさえ兵力で劣るのに、これでは付け込む隙まで与えかねん」
兵士の中からかなり大柄の男が現れる。どうやら歴戦の兵士のようだ。
動きに無駄がなく顔の表情からしてかなりの実力者だということは見て取れる。
「国王がお呼びだ。食事と寝る場所を用意するが故、是非にとのことだ」
男はぶっきらぼうにそう言い放ち去っていく。
俺も久しぶりに腹が減ったために宝物庫を出て行った。
飯が終わったあと俺達は話し合いのために部屋に案内された。
俺は壁に背中をつけ国王の話を聞く……
どうやらこれ以上防戦に徹していてはジリ貧になり負けるということだ。
確かにその意見には俺は賛同する。おそらく宝玉があろうとなかろうと負ける。
兵士1人の質も数も圧倒的に俺らが不利だからだ…宝玉があっても魔王まで辿り着けなかったら意味がない!!
「攻めに回らなければ魔王は倒せぬ。事態が解決しない。
私はそう思うが、お前たちはどう思う?」
国王の問いに真っ先に俺が答えた。
「俺もその意見に賛成だ。頭を打たなければ闘いなど終わらない。
それに、俺はどっちにしろ守りというのはあまり向いていない…
今まで俺は獣の牙のように敵を倒すことしか知らなかった男だ……」
そう。俺はランカムのように守るのは向いていない。
俺の手はすでに血で染められているんだ…確かに俺はランカムを救いはしたが。
過去は絶対に消せない…俺はすでにどうしようもないぐらい汚れている…だからこそ、
俺はいまここで…新しい誓いを立てるために国王の前に行き後ろを振り向く。
そこには家臣…将軍達…そして集いし仲間達が見える。そして…俺はできる限りの大声で全員に聞こえるように叫ぶ!
「俺は……魔王を倒しにいく!この闇の世界に光りを点すために……俺は牙なき者のための牙になるとここで誓おう!!!」
そう…弱き者を守るための盾にはなれないならば俺は弱き者が闘うための剣になる!!