「ノートの力はお前を孤独にする」
仮想と現実の狭間で私達は戦う
現実の壁に阻まれし者達、力、そして世界
そんな夢、妄想を書き綴ったノート
後にそれは『黒歴史ノート』と呼ばれる
そこに込められた強力かつ大量な思念は時として悪魔を引き寄せ、その持ち主を現実という名の枷から解き放つ
悪魔との取引によって得る、自分の視界さえも変えてしまうような現実打破の特殊能力
その名を『邪気眼』
今、邪気眼を与えるべく悪魔達が学園都市カノッサ・スクールに降り立つ
【邪気眼】黒歴史ノート付属説明書【避難所】
http://etc6.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1171452781/
【ルール】
・現GMは◆oS1IlT7hjE
・4日以内にレスを書き込めない場合は避難所に報告する事。4日以上無反応だと勝手に使われるかもしれません。
・悪魔コテで参加して、他のキャラを乗っ取って書き込む場合、名前を同じにしてトリップを自分のものにする。
・決定リール、後手キャンセル有。
【邪気眼と目の取引について】
・悪魔は邪気眼を生まれながらに持ち合わせ、人間は悪魔と目の取引を行う事で邪気眼を得る。
・目の取引は「悪魔の持つ邪気眼を人間に与える」これを当人同士が同意する事により成立する。
・取引を終えた直後その人間に邪気眼が宿り、悪魔はその能力が発動されるまでその邪気眼の中で眠りにつく。
・悪魔の持つ邪気眼は大きく分けて以下のようなタイプが存在する。
「変色の眼」能力発動時に眼の色が変わる。透視、他者の視点から見るなどの視界位置を変える能力がこれに当たる。
「第三の眼」能力発動時に額に眼が浮かぶ。視覚内の現実に対して直接影響を及ぼす能力がこれに当たる。
「心の眼」能力発動時に外的変化を示さない。対象の思考、力量などの形のない情報を見抜く能力がこれに当たる。
・いずれにも共通するのは“視界を変える能力”であるという事。
・人間は眼の取引を行った悪魔と同じタイプの眼を得るが、能力も同じになるとは限らない。
・人間の得られる邪気眼能力は、所持している黒歴史ノートの内容なを叶える為の能力だと考えられている。
・その現象を強く信じる事で能力を発動する。
・発動エネルギーを悪魔の身体は1回分までしか溜めておけないが、人間の身体なら3回分まで溜めておける。
・発動時間は眼を閉じるまでが1回分で、効果範囲は視力に影響する。
・まる1日で1回分の発動エネルギーを回復する。
・人間が発動エネルギーの足りない状態で能力を使うと回復不能に陥り、更に使うと死亡する。
・悪魔は発動エネルギーの足りない状態で能力を使う事はできない。
・人間が能力を発動した時、その邪気眼を与えた悪魔はその精神を乗っ取り、その身体を操る機会を得る。
・人間を操っている間に能力使用によって死亡すると、悪魔は目の取引を行う前の邪気眼を持った霊体に戻る。
・それ以外の状況で邪気眼を与えた人間が死亡した場合、悪魔は存在が消えるか邪気眼を失って霊体に戻る。
※人工邪気眼は悪魔と関わる項目に関連しない。
参加者用テンプレート(避難所に提出してください)
名前:(フルネーム、もしくは他の呼称)
年齢:(実年齢)
性別:(身体の性別)
種族:(人間・悪魔)
容姿:(体型、色、髪型、服飾などを加えた客観的な見た目)
能力:(邪気眼能力)
性質:(性格、もしくは黒歴史ノートの内容など)
概要:(その他の補足説明)
※能力欄がありますが、以下のいずれで参加しても構いません。
・登場時は邪気眼を持たず、ストーリー上の悪魔や施設などで邪気眼を得る。
・登場時から既に邪気眼を得ている人間、悪魔。
・邪気眼無しの人間として参加。
場所:カノッサ・スクール『報道部』
まともな報道を行っていない為に、報道部は現在廃部の危機に追い込まれている。
そんな危機から部を救えるスクープを仕入れたと部長から聞き、報道部一同は始業前から部室に呼び出された。
全員揃ってはいないが、時間も過ぎていくのである程度集まると部長はようやくその内容を皆に話した。
「また捏造記事っすか部長?」
部長の話に対して開口一番に出た意見がそれだった。
「いや、本当に悪魔を見たのだよ。選ばれし者だけが見る事ができ、その者に奇跡の魔眼『邪気眼』を与えると言われ―」
「創作活動なら文芸部に行ってください」
部長が真面目な態度で語っても内容が無いようなだけに部員達の反応は冷たかった。
その時、慌しく部室のドアが開かれる。
「部長、私もスクープに遭遇しました!一緒に来ていた○○君が怪しい人達に拉致されて校舎内に入っていくところを―」
遅れてやって来た女子部員に部室内から視線が集まる。驚きというよりは疑惑の視線が。
「本当ですよ!この人も一緒に見てたんですから」
女子部員が手招きすると、ドアの間から『それ』が部室に顔を見せる。
部長は『それ』の存在に気付くと再び口を開いた。
「ほら、あれが僕の言っていたスクープだ」
『それ』が全ての始まりを告げる合図だった。
場所:カノッサ・スクール『裏施設』
一般の者には知らされていない、学園の地下に存在する秘密研究施設。
暗闇の実験室の中、部屋の壁沿いには病院にあるようなベッドがずらりと並べられている。
部屋の中央の机の椅子には白衣を着た白髪の白人の男が腰掛けており、机の上にも様々な物が置かれている。
「人工邪気眼…オリジナルほどの能力ではないものの、悪魔の干渉を受けない奇跡の眼」
その男は“眼”の入れられた光る試験管を手に取りながら語る。
「この眼を移植する事で我々人類は新たな進化を向かえる事になるでしょう」
男の前には机を挟んで同じ白衣を着た女が立っており、黙しながら彼の話を聞いている。
女はベッドに寝かされたサンプル…先程ここに連れ去られた生徒を見る。
「ですがオリジナルを持つ者が限られるように、やはり素質のない人間に邪気眼の移植は耐え切れないようです」
一区切りついたと思われる男の話に対して、女は意見を述べた。
「そのような人間はどの道、我々と共に新世界を生きる事はできないのですよ」
男は薄く笑い、その左目に移植された人工邪気眼を鋭く光らせる。
腕時計を見ると始業時間まで5分を切っていた。
「では私は授業があるので、ここは君に任せるよ」
「はい」
白衣の男はエレベーターを使って地上に出て理科室へと歩を進める。
【設定】『裏施設編』◇参加者◆関連用語
◆黒歴史ノート
現実に存在を許さなれぬ夢・妄想を綴ったノート。
これを所有する人間の中には『悪魔』が見える者がおり、目の取引を行う事で『邪気眼』を得る事ができる。
◆邪気眼
『悪魔』、もしくは『黒歴史ノート』を持つ人間が、悪魔と目の取引を行う事で与えられる現実打破の特殊能力。
詳しくは
>>2参照。
◆カノッサ・スクール
物語の舞台となる学園都市。
広大な敷地を所有しており名門とされているが、何故か人間界に降り立つ『悪魔』の大半は此処に集う。
さらに裏では『人工邪気眼』を作り出しているなどの噂もある。
◆人工邪気眼
人間の手によって生み出された、『悪魔』の影響を受けずに能力を使用できる『邪気眼』
普通の眼の移植手術と同じように埋め込まれ、能力発動時にはその眼が光る。
予め決められた能力の邪気眼を人間に移植する形を取るが、素質のない人間には耐える事ができず精神を崩壊させる。
その能力は基本的に科学で実現可能な現象に限られて作られている。
◇報道部
記事のネタが無かった為、部で発行される新聞の多くは捏造記事であり、部員達のネタ帳は妄想記事に溢れていている。
そんな報道部にある日、学園の裏施設についての情報が入る…
◇悪魔
『邪気眼』を与える為に現実世界に降り立った霊的存在。
基本的に邪気眼の素質を持つ『黒歴史ノート』の所有者だけがその姿が見える。詳しくは
>>2参照。
◇裏施設
『カノッサ・スクール』の地下に存在する秘密研究施設。
教師の一部にも研究に携わっている者がおり、生徒をさらって『人工邪気眼』の移植実験などを行っている。
私は後藤那月。17歳。カノッサスクール2年A組。出席番号は11だ。
いつものように授業を受け、友達とたわいもない話をして、部活で小説まがいの記事を書いて、寮に帰ってきた。
部屋に入るとしっかり鍵を閉めて、今まで息を止めていたかのように深呼吸するのが日課。
実際に息を止めていたわけじゃないけれど、心理的には止めていたも同然なのだから。
くだらない連中に合わせてくだらない話に愛想笑い。
今日の体育だって本気を出せば陸上部からスカウトがくることがわかっているからわざとゆっくり走ってやったんだ。
・・・虚しくてくだらない毎日。
本当は友達とはいまいち馴染めないだけだし、走るのだって本気を出しても大して変わらない。判ってる。
げんなりしながら私は引き出しの奥にしまった一冊のノートを出す。
これが私のストレス発散法だ。
私は勉強ができるわけでもないし、運動ができるわけでもない。
顔だって美人とか可愛いだなんて自分でも思えない。
だから、このノートの中だけ、理想の・・・ううん、本当の自分に戻る大切な儀式。
今日もいつものようにノートを開いたけど、いつもとは違う事が起きた。
開いたノートから黒い靄の様なものが吹き出てきて、それが人間の形になっていく!
そんなオカルトチックな現象に遭遇した私はというと、ただ口をパクパクしていただけ。
人間驚きすぎると麻痺しちゃって何も行動できなくなるって言うのは本当なのね。
『それ』はいびつではあるけど人間の形になると、手を振りながら挨拶をした。
そのときから私と悪魔の邪気眼をめぐる取引が始まったのだった。
どうやら悪魔は『現状を受け入れさせる』力を持っているらしく、私がパニックにならずに話ができたのはそのためらしい。
それはそうだわね。
いきなり悪魔が登場したら大半の人間は取引どころじゃなくなるから、あって当然な能力だと思う。
よく本などで出てくる、取引したが最後、魂をとられる、というわけではないらしい。
私は一晩かけて悪魔と話を続けた。
力を与え、使いすぎると肉体を乗っ取られる。逆にいえば制御さえすれば危険はないわけだし、悪い取引ではない。
ただどんな力が与えられるかは悪魔にもわかっていないのがネックだけど・・・
ヒントは私のこのノート。黒歴史ノートと悪魔は言うけど・・・いいネーミングよね・・・それに関連するらしい・・・。
他にも悪魔はいるということ、取引が成立したら邪気眼の中で悪魔は眠りにつくということ、能力の発動時間は目を開いている間だけ、などなど。
ずっと願っていた。私は特別な人間であるって。でも、実際はそんな事なかった。
でも今ここで取引すれば確実に特別な人間になれる・・・
だから・・・私は悪魔と取引をした・・・!
「わかったわ。取引をする!私に邪気眼を、頂戴・・・!」
『取引成立だ!』
悪魔は厳かに言うと、私の頭に手をかざす。
額が厚くなるような感覚・・・。これで私は特別な存在になったのね。
悪魔が手を離すと、私の黒歴史ノートが勝手に開き、最後のページにメッセージが浮かび上がってきた。
【あなたの邪気眼の能力は《回転ノ力》です。第三の目が開いている間、視界内の対象を回転させる事ができます】
「・・・なにこれ?」
『よかったな。回転ノ力はかなり強力な邪気眼だぞ?これでお前は一生ドライバー要らずだ!』
「ふっ!ふざけんじゃないわよ!ドライバー持ってくる手間惜しんで身体乗っ取られるリスク犯すバカがどこにいんのよ!」
能天気な悪魔の口調に私はキレて黒歴史ノートを投げつけるけど、こいつらは霊的存在で肉体がないんだった。
ノートはすり抜けて壁に当たる。
『そんなに嘆くなよ。お前がその気になれば視界内の人間の首をねじ切る事だってできるのだぞ?』
「アホかーーー!誰がそんな猟奇殺人犯になりたいなんて言ったのよ!
ノートに書いてあるでしょ?他人の心を覗けるとか、確率操作して宝くじ当てるとか、金融システムに介入して貯金残高の桁増やすとかさ!
何度も何度もこういうこと書いてあるでしょ?なんで回転!?もうバカか!アホか!、なんていえばいいのよ!」
流石に徹夜明けでテンション上がっているから爆発したら出きっちゃうのね。
小説な世界でもあるまいし、人殺しの力を手に入れたからって使いようがないっての。
『ああ、何度も何度も繰り返しそう書いてあったな。繰り返し繰り返し同じ事を2ページサイクルで回転していた事が反映されたのだよ。
黒歴史ノートに反映する、ちゃんと伝えた通りじゃないか!ははははは!』
高笑いと共に悪魔は形を崩し、靄となって私の額に吸い込まれていった。
やっぱり悪魔となんて取引するんじゃなかった・・・。
落ち込んだ私はそのまま眠ってしまったらしく、気付いたときには既に夜だった。
一日サボってしまったけど、まあいいか・・・
取引から三日くらいはもう忘れようと思っていたのだけど、やっぱり特別である誘惑には勝てなかった。
一日一回のペースで回転ノ力を使ってみる。
何かいい使い道はないかって、ね。
>4
それから更に数日。
朝から報道部の集合がかかったからそそくさと参加。
そこで私は思いがけない言葉を聞き、思いがけないモノを見ることになった。
部長の口から【邪気眼】の言葉がでて、部室に入ってきた『それ』。私の部屋に現れた悪魔とは違うけど、確かに『それ』は悪魔だった。
半分寝ぼけながらパックジュースを吸っていた私は、咽てすっかり目が覚めてしまった。
>>4 「スクープって悪魔っすか?あれって言われても見えないっすよ?」
「私達は選ばれ者じゃないので見えませんね」
この部室内でも悪魔の見える者、見えない者で反応を違えている。
「用が無いならそろそろ始業時間なので私達は行きますよ」
『それ』の見えない部員達はドアの前で立っている女子部員の横の『それ』を通り抜けながら部室から出ていく。
「君達にも見えるだろう?」
部長は自分と同類であると思っている部員達に同意を求める。
>>5 場所:カノッサ・スクール『廊下』
「おや、南雲先生おはようございます」
白衣を着た理科の担当教師―独武津は前方から歩いてくる国語の担当教師―南雲藍氷に挨拶を交わす。
「先日行方不明の生徒はまだ見つかっていないようです。最近は物騒ですね」
歩き方は緩めつつ、独武は理科室のある方角へ歩き、南雲とすれ違う直前で止まる。
「ところで南雲先生、悪魔の存在って信じますか?最近生徒の間で流行っているんですよ」
場所:カノッサ・スクール『裏施設』
「引き篭もりですから素質は合うと思いますよ」
先程の実験室で、白衣の女に施設の下っ端誘拐犯の一人が、サンプルとなる生徒とそのおおまかな情報を献上する。
昨夜から今朝方にかけて数人の生徒を此処に連れ込んでいる。ちなみに先程の白衣の男と違い、この下っ端は此処の教師ではない。
ベッドには引き篭もりと称された女子生徒―伊戸空、他数人の生徒が寝かしつけてある。
「一応聞くけど誰にも見つからなかったでしょうね?」
白衣の女が問うと下っ端は若干口を濁す。
「いや…あの、夜中空ちゃんを寮から連れ出す時は大丈夫だったと思いますが、今朝校門で○○君を連れ込むところを
女子生徒に見られたような気が―」
「……」
「あ、顔は覚えてるので早いうちに対処します」
「本当に頼むわよ…とりあえず私は朝食取ってくるから、そこの生徒達を見張っておいてね」
白衣の女もエレベーターを使って地上に出て食堂に向かう。
10 :
名無しになりきれ:2007/02/16(金) 14:51:47 O
糞スレ
設定が長い長すぎ
産業にまとめろ
>>9 「おはようございます。独武津先生。」
まったく、他人と挨拶するのも面倒だ。
出来ることなら自分の世界に入り込んで、一日中本でも読んで暮らしていたい。
だが…何故そんな私が、他人と時には親族以上に親身になって関わらなければならないこの仕事を選んだのだろうか。
未だに解らないが、教師である以上生徒達と積極的に関わらねばならない。
……とここまで考えて、所謂『他者との協調性に欠ける生徒』と気が合うことが多いことに気がついた。
普通の生徒…仕事の性格上私が関わることが多いのは、友人と組んで集団で問題行動を起こす生徒…を相手にするときは、
どこかにある違和感…彼らが私とはまったく別の生き物であるかのような感覚…に苛立ちを隠しきれず、
恥ずかしい話だが手を出したこともある。だが一人でいることが多い生徒と話すときなどは…
…彼らの共通して持つ何かが私と惹かれあうのだろうか…などと考えていると、独武津先生の声で現実に引き戻された。
「悪魔…ですか……。そうですね…本人が信じていれば、それは存在すると思います。
悪魔の存在を信じている人は、自分の中で悪魔を作り上げてしまいます。つまり存在するという認識が先にあれば、
存在しているという現実を自ら創造してしまう…すいません、うまく言葉に出来ませんね。」
彼にはこの程度の演説で煙に巻いておけば十分だろう…。これで会話は続かなくなり、私は思索に耽ることが出来る。
独武津先生先生とすれ違い、2年1組の教室へ向かう。今日もまた、人間相手に辛く長い時間を過ごさなくてはならない。
だがしかし、悪魔……か……。噂を流すような生徒のところには現れないと思っていたが……。
昔と比べて、内面に沈み込むタイプのサブカルチャーも市民権を得てきている…
私の時代の考え方は通用しないのかもしれない……。
とりあえず、面倒ではあるが噂を流すような生徒達の退屈でいらいらさせられる話を聞いてみるか…。
本に聞いて解ることでなければ…結局は人に聞くしかない。これは私の経験則だ。
13 :
名無しになりきれ:2007/02/16(金) 16:50:26 0
もうこういうスレいらないから
―――聖良紅牙,女性,18歳,3年B組34番。
夜遅くまで深夜番組見たりネットしたり,あるいはノートに自分の理想の世界を書いたり。
お陰で朝に弱く遅刻三昧,『レイティストクイーン』の称号まで冠する程。
そんな私は文芸部で,今日も連載といわんばかりにファンタジー小説の続きを書き込む。
【場所:部室】
「・・・少年は大勢の村人に見守られつつも旅立った。
その先に何が待ち受けるのか楽しみにしつつも,『魔王』という自分より強い存在を見つけること,それを倒すこと・・・それが今の彼の目標となっていた,っと」
そそくさとペンを走らせノートから写し取った文を原稿用紙に書き込み,プロローグとも言える部分を締めくくる。
それからすぐに今書き終えたばかりの原稿を机の上に置き,ノートを閉じて,カバンに収納。
筆記用具も全部しまって,次の授業の支度を済ませる。
「原稿,上がりました。
滑舌の悪そうなところとか,遠慮無く赤修正入れちゃって構いません。
私,急いでクラスに帰りますんで」
いつも寝坊して遅刻する自分。
それを弄ぶ男子生徒が多いから,それを振り切るのにわざと早めに帰っているのだ。
それで今日も早めにクラスへ戻ろうとしていたんだが・・・何やら一騒動あったのかも。
クラスへの道の途中にある,廃部寸前の報道部の部長が慌ただしい。
>>4 >「いや、本当に悪魔を見たのだよ。選ばれし者だけが見る事ができ、その者に奇跡の魔眼『邪気眼』を与えると言われ―」
「・・・随分と大反れたことを言いますね,報道部長さん・・・」
・・・呆れた。 ノートの中だけじゃなく現実世界にまで持ち込んじゃってる?
信じ難いけど,ちょっと興味はあるな。
そう思いつつ部室を覗いてみたら,『それ』ははっきりと見えてしまった。
「・・・ぇ・・・ま,・・・まぢ・・・ですか・・・;;」
マンガで見たような真っ黒い服ばっかり。
それに羽だの尻尾だの,自分の愛読書のひとつ『でつのーと』のあれに似てる。
眼はマンガのように白抜きの多重線で描かれた円になっちゃう程驚いた。
でもきっとこれは夢だ,夢に違いない・・・今日の私はどうかしてる・・・。
「・・・とうとう私にも幻覚症状が・・・失礼します,通りますよ悪魔さん・・・;;」
取り敢えず敬語で挨拶,ついでに頭に手を当ててそそくさと部室を去ることにした。
早くしないと授業が始まってしまう・・・また遅刻したら大目玉食らうことになるし・・・。
――――懐かしい夢を見ている。
都会と田舎の合流点にある小さな町。
その公園で出会った少年と少女が会話するという、ただそれだけの夢。
公園にいる二人の内、一人は坊主頭で健康的に日焼けした少年で、
もう一人は、白い髪と白い肌と赤い目の先天性白皮症―――アルビノの少女。
少女はいつも眺めていた楽しげな光景に憧れ、病室を抜け出し公園を訪れた。
少年はいつものようにボールを持って、サッカーの練習をしに来たようだ。
少年の姿を目に留めた幼い少女は、見知った少年に嬉しそうに話しかけた。
「あの、初めまして。わたしは―――」
話しかけられた幼い少年は、見知らぬ少女を見て驚いた顔で言った。
「来るな!バケモノ!」
本当に懐かしく、他愛無い、どうでもいい夢―――……
(………五月蝿い)
数ヶ月に渡り自室に引き篭もっていた私の意識は、
久しく感じていなかった人の「会話」という刺激によって覚醒した。
「―――ッ」
目を半分ほど開いた瞬間、飛び込んできた光に一瞬目が眩む。
おかしい。確か私は電気を消して、自室で睡眠を摂っていた筈……。
ぼんやりとした頭の中で思考を巡らせていると、先に私の睡眠を
妨げた会話が聞こえてきた。
ぼんやりとしていた意識と記憶が明瞭になる。
(……ああ、そうだった。私は誘拐されたんだ。)
部屋でレム睡眠を貪っている最中、鍵を「開けて」入ってきた人物に
私は誘拐された。若干の抵抗は行ったものの、数ヶ月の篭室生活で鈍った私の
体力ではどうなる訳もなく、妙な薬で眠らされ、連れ去られ、今に至るようだ。
……会話をしている二人は私の起床に気付いた様子はない。
とりあえず、盗み聞きした内容から彼らが誘拐犯だということは断定できた。
まあ、何にせよ行動を行う際に重要なのは、現状把握。
私は、彼らに気付かれないよう周囲を観察することにした。
場所は―――病院の手術室のような雰囲気だ。得たいの知れない生物の
ホルマリン漬けやら、見たことも無い機械やらが置いてあるのが差異か。
周りには熟睡中の数人の少年少女。制服からスクールの生徒だと判断できる。
……去年の夏廊下に捨てられていた報道部の壁新聞に、「生徒が宇宙人に
攫われている」というゴシップ記事が書いてあったが、あれはあながち
嘘ではなかったのかもしれない。
(ちなみに、その記事を見て以来私は報道部発行の新聞を欠かさず見ている)
そして、手足の拘束は――――まだない。誘拐されたてだからだろうか。
奥にいる数人はしっかり拘束されている。
ふと、男女の会話が途切れた。どうやら、女のほうが部屋を出て行ったらしい。
確認、ここの移動手段はエレベーター。
(……多分、ここにいても碌な事にはならない)
状況整理の次に重要なのが行動決定。
私は、状況から結論を出して、ここを抜け出すことに決めた。
とすると、まずはどう脱出するかだが……
(交渉は……難解。なら結論は一つ―――)
見張りを付けるということは、監視カメラはないだろう。
私は、気付かれぬよう起き上がって近場にあった「メス」を手に取った。
薬の影響か、まだ少し頭が痛い。深い呼吸をし、息を整える。
そして目標を視認すると、私はおもむろにメスを振り上げ、女を見送って
背を向けている男の頚椎を目掛けて、何の感傷も抱かず
(殺しはしない、安心して消えて。屑。)
メスを、振り下ろす。
17 :
名無しになりきれ:2007/02/16(金) 19:33:58 O
これはいてぇ…
18 :
名無しになりきれ:2007/02/16(金) 19:44:36 O
中二病クオリティ丸出しじゃねーか
21 :
名無しになりきれ:2007/02/16(金) 21:17:36 0
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それは部活を終え、部屋に帰ってきた時だった。
僕は部屋に入り、いつもと同じように「ただいま」と言って靴を脱ぐ。
ここは個室だから返事などあるわけがない。
だが、僕の耳は「おかえり」という声をはっきり捕らえた。
僕は慌てて周りを見回した・・・誰もいない。当たり前だ。
靴も履かずに部屋を出て表札を確認する。確かに僕の部屋だ。
もう一度部屋に入り、じっくり観察する。声の主を探すために
学習机には、パソコンと秘密のノートが置いてあるだけ。
ベットの位置もいつも通り。少し乱れてるが、それは僕がしたことだ。
最後に本棚を見た・・・・が本棚には本がびっしり入っている。隠れる場所なんてない。
「幻聴か・・・?」そう独り言を呟くと、またあの声がする・・・「ノートを開け」と。
「ノート?もしかしてこれか?」
僕は机の上のノートを手に取った。延々と僕の理想のを書き綴ったノートを。
開いたその刹那、黒煙が噴き出してきた!
僕は驚いて尻餅をつき、ノートを手放した。
そして、黒煙は形を成し、こちらを見ている。
勇気を出して僕は尋ねた。「あの・・・ど、どちら様ですか・・・?」
それはニヤリと口の端を鋭くし、笑みを浮かべ言い放った。
「悪魔だ」と・・・
>>9 その後僕は彼と話し合い、契約した。
己の理想を手に入れるために。
多少、差異は在るものの満足はしている。
今、目の前にあるそれも同じ。僕はあの時に「非日常」を受け入れた。
一度それを受け入れた以上、後には戻れない。そんな気がした。
「部長・・・僕にも見えてます。」
落とせよ
以下書き込み禁止な!
>9>14
しまった!と思った時には時既に遅し。
邪気眼というキーワードと部室に入ってきた悪魔に驚いてむせ返っている間に、大半の部員は部屋から出て行ってしまった。
大勢にまぎれてさっさと抜け出せばよかったのに・・・。
部長は「君達にも見えるだろう?」なんて期待した声で聞いている。
あのタイミングでむせ返っただけでも状況証拠としては十分なのに、今から出て行くなんて不自然すぎる。
いつもなら拉致とか言われても、真相は友達と教室まで競争して走っていった程度が相場だ。
でもこれは・・・多分・・・悪魔関連のマジでやばい事だ・・・
>「部長・・・僕にも見えてます。」
げ!ハクタク!
本名は白沢だけど、中国の妖怪に同じ字で【ハクタク】って読む奴がいるから勝手にそう呼んでいるんだけどね。
何でも言う事聞く便利な奴だと思ってたけど、アレが見えるって事はこいつも黒歴史ノートを持っていて選ばれたって事よね・・・
ハクタクだけでなく、恐竜時代とか他にも残っている部員は数人いる。
意外と多い・・・って言うか不自然だ・・・こんなに固まるなんて!
あ、ちなみに恐竜時代って言うのは氷月白亜。白亜→白亜紀→恐竜時代の三段論法で勝手に命名したのね。
とにかく、厄介ごとは真っ平だけど、特別な出来事でもある。
心の中では関わりたくない理性と、首を突っ込みたい本能が綱引きで硬直状態だ。
私はどうするか答えも出せず、後ろの方で小さくなって黙って事態の成り行きを見守る事にした。
おや…報道部は朝から熱心なことだ。
部室に集まっていたようだが……会議だろうか?まったく、無気力な生徒達にも見習わせたいものだ。
『おはようございます、南雲先生。』
「うむ、おはよう。」
いつもどおり形式的な挨拶を交わし、そのまま歩いていこうとしたが…『ある単語』が私の耳を捕えた。
・ ・ ・ ・ ・
『邪気眼とか悪魔とか…部長、前からちょっと変だと思ってたけど、いよいよ頭やられたのかな?』
『さあね…でもさ、悪魔って最近噂じゃない。聞いた?×組の△△が悪魔を見たって。まあ部長の妄想とは関係ないと思うけどさ。』
『邪気眼』!?『悪魔』!?確かにこの年頃の子供のところに現れやすい――実際、私が『彼』と会ったのも16のときだ――ものだが…
……始業まではまだ少し時間がある。話を聞きだすために下らない話に付き合う手間が省けた…かもしれない。
それに報道部の部員には波長の合う人間が多いからな…関係無かったとしてもストレスをさほど溜めずに済むだろう。
よし……あまり気は進まんが、確認しておくか。解決しない疑問を心に留めておくほど不健康なことは無いからな………。
理由付けも出来たし、自分でもそれに納得できる。そう確認して、報道部室に入る。
「失礼するよ……悪魔がどうとか言っていたね?
最近生徒達の間で噂が流れているそうだが…噂の裏に真実が隠れていることもある。
上の立場から物を言うようですまないが……こんな話し方しか出来ないんだ……どんなことが言われているか話せる範囲で教えてもらえないだろうか。」
>>9>>23>>24 (あれあれ?)
僕がお得意のガセネタ記事をノートに書きだす中、部員達が部室をぞろぞろと後にする。
また部長の自称"スクープ"らしい。
――部長のスクープって皆に信用ないからなぁ
ときたま部長はスクープといって部員を集めては、どこぞの妄想の中で見付けてきた捏造記事を報告する。
僕は聞いてて楽しいから部長のスクープは好きだけど、だからといって周りの皆が皆、好きな訳じゃない。
部長のスクープの度に集められるのが、面倒だと感じる人もいる。
今回のスクープもいつもと同じような感じだった。
興味ない部員はさっさと帰って、いつも残るのは僕達だけ。
で、残った僕達はというと部長の捏造スクープを記事にまとめる。
ただ今日は一つだけ違った。
――部長のスクープ…、"捏造"じゃなくて"現実"だったんだよね
「大っ丈夫、部長!僕にも見えてるよォ」
期待するような部長の声に記事を書くのを止め大きく手を挙げながら、悪魔が見えてる事を主張する。
良く記事の書きだしを手伝わせ…、もとい手伝ってもらっている、寅ちゃんも見えてるらしい。
(ここに残ってる人、悪魔見えてるの何人いるのかな)
見えてはいないが面白そう、といった理由で残っている人もいるかもしれない。
悪魔が見えてる人数についてテキトーに鎌かけるきっかけを作りに、後ろにどことなく隠れる様に座ってた一人の女の子に声をかける。
「ねー、那月ちゃん。
那月ちゃんもアレ見えてるよね?」
場所:カノッサ・スクール『裏施設』
>>16 「ん?おっと!」
下っ端は背後からの襲撃に気付き、自分にメスを振り下ろした空の手首を持つ。
「悪い娘だな…僕ちょ〜っとドジなところあるけどね」
手首を強く握り、手刀を加えてメスを叩き落とす。
「ふらふらな女の子にやられるほどじゃないよ」
さらに空をベッドに押し倒して覆いかぶさる。
「だがこういうタイプの娘は嫌いじゃない。ただの見張ってるだけなのも退屈だし楽しませてもらうかな?」
下っ端の男は下卑た笑みを浮かべて眼を血走らせている。
場所:カノッサ・スクール『報道部』
>>22>>26 「白沢!氷月!君達ならわかってくれると思ったよ!」
部長は嬉し涙を拭うようなパフォーマンスをしている。
>>25 「ああ、俺の事俺の事。おっさんは見えてるか〜?」
『それ』は南雲の方を向きながら、自分の事を指差す。
その様子を見ていた先程の女子部員は不満そうな顔をする。
「ああ、そうだったな。この嬢ちゃん嘘言ってねえから。俺も見た俺も見た」
『それ』は他の部員達のほうにも向き直って自分の眼を指差す。
「詳しく話してやりてえところだが…そろそろ始業時間じゃねえのか?お前らちゃんと授業出ろよ。おっさんもな」
部室内の時計は逆L字の形を取ろうとしていた。
場所:カノッサ・スクール『廊下・報道部近辺』
>>12 うーむ、彼が悪魔から邪気眼を得たという不確定情報が入っていたがどうなのだろうか?
彼が悪魔と繋がりを持っているようなら排除しておきたいものだが…人間が何を考えているかというのはわからないものだ。
まあ、だからこそ邪気眼を欲する者が絶えないのだろうな。
そんな事を思索しながら独武は理科室へ歩き続けた。
>>14 「ちょっと顔かせや」
教室へ向かっている紅牙の前にヤンキー風の3人組が立ちはだかり、彼女を人気のない所へ連れ出した。
「お前邪気眼持ってるんだってな?」
「邪気眼見せろよ!邪気眼!」
今日の帰りに邪気眼を得る運命だった紅牙だが、この時点で彼女は邪気眼を持っていない。
紅牙の存在を気に食わぬ者達が、彼女が邪気眼を持つ人間だという噂を流していたのだ。
この学園の裏では邪気眼を持っている事が知れ渡ると、謎のヤンキーグループ『アンチ・アイズ』による制裁が待ち受けている。
彼らの事については後の章で語られる事となるだろう…
『アンチ・アイズ』の登場で彼女の運命は大きく変わってしまった。
邪気眼の一つも持たない女の力で男3人に敵うはずもなく、彼女は過酷な現実を味わう羽目になる。
その後、紅牙は肉体的・精神的に重症を負い入院する事になったが、学園生徒のほとんどはそれに気付くこともなく、
最初は気にかけていた文芸部員達や彼女を苛めていた生徒達もすぐにその存在を忘れていった…
>>27 何だ、ただの悪魔か。危険な何かの隠喩かと思っていたが……まあ杞憂ですんでよかったというところか。
といっても、悪魔の噂とここにいる『彼』が無関係である可能性も否定はできん。…彼にも一応聞いてみるか?
ふむ……迂闊な反応はできん。この部屋にいる生徒全員が悪魔を視認できるわけではないだろう…教師として、軽率な行動は慎まねばならん。
…が、かといって彼を無視するのも危険だ。
私の視線の動きやその他全体的な気配から、彼は私が彼を視認できることを知っていると見るべき……。
「おや?いかんいかん。もうすぐ始業時間だ。早いところ教室に行かなければ。
すまんが、あとで…そうだな、昼にでも…詳しい話を聞かせてはもらえんか?」
彼の科白の変奏……これで私が彼の言葉を聴いていたと彼が気付いてくれればいいが…。
そして同時に、生徒達へも問いかける。彼とはまったく無関係であるかのように。
これなら悪魔の見えん生徒達にも怪しまれることはあるまい。
手首への一撃でいとも簡単にメスを取りこぼした。
(……やっぱり)
自分が漫画やドラマの主人公じゃない。
ただの遺伝子異常な引き篭もりだという事実を再認して、私は表情を変えずに嘆息する。
男が私を押し倒した。どうやら性的暴行を加えたいらしい。
あの年齢で研究所なら、溜まっているのは仕方ないのかもしれないが、
実験体に手を出すのは研究者としては三流なんじゃないだろうか。
(……顔近いよ、ペド野郎。)
普通なら悲鳴なり暴れたりする所だろうが、頭の中で「抵抗しても無駄」という結論が
出ているからだろう。そうはしなかった。いや、出来ないだけかもしれない。
全く、私という人物は私に興味が無いのだろうか?
男に覆いかぶさられながら、私はそんな理不尽なことを考えていた。
ふと、犯す前なら何か話すかもしれない という考えが浮かぶ。
人間、自分に余裕があると寛大になるというし。
「ここは……どこ?私を、どうするつもり?」
とりあえず、精一杯か弱いオンナノコの演技をしながら聞いてみる。キモチワルイ。自分が。
対人コミュニケーションが皆無なセイで表情筋が思うように動かなかったので、
髪で表情が隠れたのは幸運だろう。
>26
>「ねー、那月ちゃん。 那月ちゃんもアレ見えてるよね?」
「・・・!!!・・・!??・・・!!」
事態を見極めようと様子を伺っていたのに、それを台無しにするように声をかけられた。
氷月白亜!勝手に名づけて恐竜時代!
こいつは心理的距離感が全く感じられないらしく、誰とでも馴れ馴れしく話す。
(いきなりこっちに話し振るってんじゃねえよ!!空気読め空気!今ヤバイ事に巻き込まれるかどうかの瀬戸際ってのがわからねえのかよ!!)
殺意のこもった表情で口を動かすが声には出さない。
普通ならこれで意思は通じるのだろうけど、こいつにどれだけ通じるのだかわかったものじゃない。
>25
そんな吠えるような表情も、この来訪で一瞬で固まってしまう。
部室のドアから現れたのは南雲!
現国の教師で、やたらと一人の世界に浸っているような奴。
態度とか言葉遣いは丁寧だけど、本心は絶対見せない感じ。生理的に受け付けないタイプの教師が入ってきたからだ。
(報道部ソースの会話で一々首突っ込んでくるんじゃねえよ!)
心の中で絶叫したけど、もちろん声には出さない。
>27>28
悪魔は悪魔で始業時間を気にしている始末。
どんな悪魔よ!?
それに南雲の言葉のタイミングが微妙にあっていて、見えているのだかどうだかわからない。
もう考えたり迷ったりできる時間もない!
「〜〜〜・・・気持ち悪い!お腹痛い!氷月君、保健室まで付き添って!白沢君、私のカバン持って来てね!
南雲先生、保健室行くから一限目休みます!」
ちょうど一度間目が南雲の現国だからめんどくさいからサボっちゃう。
悪魔が見えるって手を上げた恐竜とハクタクに話も聞きたいしね。
有無を言わさず宣言すると、早足で保健室へと歩いていった。
あとは部長が何とかしてくれるだろうしね。
>>27 「いや、部長、大げさですよ。」
と言いながら部長を宥める。
部長はスクープを信じて貰えたのがすごく嬉しいようだ。
たしかに、今まで誰一人としてスクープを信じてもらえなかった。
初めてそれが受け入れられたと思うと部長の嬉しさが伝わってくるようだ。
そんなことを思っていると部長に変化が現れた。
「ほら見ろ!ちゃんとスクープを物にしたぞ!誰だ!俺を嘘つきだと・・・」
日ごろの鬱憤が爆発したのか愚痴まで零し始めた。
(やばい・・・長くなりそうだ。)
と心の中で呟くと・・・
>>30 >気持ち悪い!お腹痛い!氷月君、保健室まで付き添って!白沢君、私のカバン持って来てね!
「え、はい・・・」
いきなりだったので少し呆けてしまった。
だが状況を考え、このまま部長の愚痴を聞くよりもマシ。という決定を下した。
僕は部長に一言かけて(聞いていたかは、わからないけど)
後藤先輩のカバンを持って保健室に向かった。
>>27 「ふふふ、分かるに決まってるでしょ。何時だって何処だって、僕は部長の味方なんだからさっ!」
涙を拭うような仕草をする部長に合わせて、僕もちょこっと大袈裟に声を張る。
何時だって〜、は少しばかり空事だけど、部長の味方って言うのは嘘じゃない。
――何故って?
部長って楽しいんだもん
>>30 声をかけると那月ちゃんは困った様な顔をした。
(ありゃ…、声かけちゃマズかったかな…)
――何だか話に参加したそうな顔してたから声かけたんだけど…
声をかけた事について思案していると、いつの間にか那月ちゃんは険しい顔をしていた。
口をパクパクさせて何か伝えようとしているが…。
(?どうしたんだろ……)
表情の変化に疑問と不安を抱いて、心配の視線を送る。
何か言いたそうだったけど……。
那月ちゃんは突然声を上げた。
>「〜〜〜・・・気持ち悪い!お腹痛い!氷月君、保健室まで付き添って!白沢君、私のカバン持って来てね!」
――そっか、体調が悪かったんだ!
先の表情の変化を、体調不良だと思い納得する。
「うん、分かった!」
笑ってそう言うと部屋を出る彼女の後へ着いていく。
>>28 「藍氷先生、もう授業始まっちゃうけど、僕那月ちゃんを保健室まで送ってきまーす」
ニコニコしたまま先生に断りを入れて、僕は部室を出た。
>>31 荷物持ち。
相も変わらず寅ちゃんはパシリのような扱い。
「寅ちゃん、ソレ重たくない?」
重いからどうするとか考えてる訳じゃなかった。
ただ、ちょっと不憫に見えて、気が付いたら聞いていたんだ。
僕、手ぶらだったしね。
33 :
オザワ:2007/02/20(火) 22:59:46 0
,-‐-.、 ⊂⊃ _.,-‐-、
/ `` ‐。 /⌒ヽ_´ \
// ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ヽゝ \ <良コテのみんながんばるお〜
/ (/(/(ソソノ(/ / † ノ へ/ゝソソヽ\,\
(/(/丿`' ⌒ ( ヽノ .⌒''ヽ)\.)
ノ>ノ
レレ
場所:カノッサ・スクール『裏施設』
>>29 「此処は学園の地下だ。お前はこの後、此処のマッドサイエンティスト供に変な眼を移植されるんだってよ」
下っ端男は中央の机に向かって後ろ手に親指を指す。机の上には
>>5で独武が手に取っていた“眼”の入った試験管が置かれている。
「でもそん時に拒絶反応が強いと失敗して精神がイカれるって言うからな。そうなる前に楽しい思い出を残してといてやるよ」
下っ端は空の顔をじっと眺めつつ少しの間思索に耽る。
「ホントは目隠しとか好きなんだが、もうすぐ無くなる眼だしな。涙目のぐしゃぐしゃな顔を拝む事にするぜ」
下っ端はゴカンに神経を集中させて、舌なめずりをしながら空の顔に自分の顔を近づけていく。
場所:カノッサ・スクール『報道部』
>>28>>30-32 部長の話はBGM化して部室内にいた者は次々に出ていく。
『それ』は部室から出ていく南雲、那月、氷月、白沢を見送った。
「…ちゃんと後で話してくださいよ。えーっと」
「名前だったら決めてもらってないから何とでも名付けてくれ」
「決めてもらってない?…あー、うん。考えとく」
『それ』を連れてきた女子部員も部室から出ていき、おそらく教室へ向かった。
部室内に残っているのは『それ』と部長だけになる。
「なあ、君は―」
「アンタも早く行った行った。別に逃げようとか思ってねえから」
「……」
最後に部長が部室の鍵を閉め、室内に誰もいなくなったのを確認すると『それ』はやれやれといったパフォーマンスをする。
「ほとんど売却済みか」
場所:カノッサ・スクール『保健室』
「―まったく独武先生には困ったものです。私も保健室を留守にしたままにするわけにはいかないのに」
そこには
>>9で地上に出た白衣の女―保健の先生が、食堂で買ってきたパンをかじっていた。
保健室にはこの先生の他にマスクをした生徒がいて、時々相槌するように笑いながらその話を聞いている。
「先生の方も大変だな」
「そうなのよ。あなたの方は順調かしら?」
「今朝も一人潰させた。邪気眼の有無の確認取れてないけど、かなり嫌われてたみたいだし無かったとしてもかまわないだろ」
「あら、私に余計な仕事押し付けないでよね」
「そんな生ぬるいレベルじゃないから安心してくれ」
二人は爽やかに笑いながら話を交わしている。
「じゃあ、放課後まであなた私の代わりに行っててくれない?今夜頼まれてたもの仕入れておいてあげるから」
マスクの生徒はOKの合図をして保健室から出ていく。
「じゃあな…おっと、俺の代わりもさっそく来たぜ」
「え?」
「患者(サボり)の方だよ」
マスクの生徒は保健室の戸を閉め、那月達の来る方角と反対側に向かって歩いていった。
そして学園全体に始業を告げるチャイムがに鳴り響く。
ふむ…後藤は欠席…か。
状況的にはやや怪しいが……?
まあ私も急な腹痛に襲われた経験はあるし、生徒を疑うのは教師としてあまり良いとは言えんだろう。
しかし、最近の子供は平気で嘘をつくからな…いやいや、私が知らなかっただけで昔の子供もそうだったかもしれんぞ?
脱線した。思考を戻そう。後藤のこれまでの出席率は平均的な数値……特に不自然なところもなかった…だが……
まあいいか。ここは信用しておこう。
「うむ、ゆっくり休んできなさい。無理をしてもいいことはあまり無いからな。
ただし、体調が戻ったらちゃんと授業に出るように。」
私もそろそろ教室に向かおう。
「では私も失礼するよ。あとで詳しい話を聞かせてほしい。」
------------------------
(教室)
「……では16段から18段、
『「そうね」
と紅涙に浮く静寂
ぽろり ぽろり と泣き虫やさん』。
既に調べてあるとは思うが、『紅涙』とは美しい女性の涙、または血涙を意味する。
この場合はどちらの意味で使われているか、またこの段の情景はどのような物をイメージしているか、
そうだな……今から3分間、各自考えをまとめなさい。相談は禁止する。」
いつもと変わらぬ授業。もう20年近く同じことを教え続けている。
この『雫』は私の十八番だ。他の単元も特に指導内容に問題は無いと先輩の先生方にも言われているし、
また繰り返すうちに少しずつでも私自身成長している…と思う。
しかし…最近は少しこの学園の空気が変わってきている。
無論社会も変わってきているが、私の感じているのはそういったことではない。
若者の品行の低下や凶悪犯罪の増加など、何十年も前から言われているし、そのたび自省することのできない低俗な大人達が
昔はよかった、今の若者は馬鹿だらけだと自分達の若い頃のことは棚に上げて声高に批判するのなぞもう慣れてしまった。
今私が感じているのは、私の持つ『眼』と同種の者達の気配…!!!
いや正確にはまったく同じではないが、それに極めて近い。
……邪気眼の持ち主は大抵――私の偏見かもしれないが――人と積極的に関わることを避けるような性格で、噂話などから最も遠いところにいるような人間ばかりだ。
それが今、邪気眼とは無縁にしか見えない一般の生徒達の間で噂に上っている。
これは今まで――少なくとも私が教師になってから――無かったことだ。
私の…いわば勘であり、根拠などどこにも無いが、この噂の裏には邪気眼が絡んでいる。
しかも今年に入ってからの生徒の失踪事件……!!!!
二つを結びつけることは今の段階では不可能だが……というよりも十中八九無関係だろう…どちらも異常だ。
失踪のほうは私に手が出せるような問題ではないだろうが…悪魔のほうは……邪気眼使いである私の領分だ。
とりあえずは昼だ。報道部員と……あの悪魔から話を聞いてみよう。
男が指差した試験管の中にある「眼」を見て、私は一月ほど前に見た
夢を思い出した。私の部屋のノート、真っ白の絵の具で塗りつぶした
「それ」から自称悪魔が出てきて妙な力をくれるという、子供じみた夢だ。
あの時は四日間ほど寝ないでいたので、幻覚か夢かは定かではないが、
確か「邪気眼」とかいう能力だったか。
……人体実験をするような組織の構成員にしてはよく喋る男だ。
構成員の教育が行き届いていないのは問題なんじゃないだろうか?
まぁ、そのおかげで情報は大量に手に入った訳だが。
名前も知らない組織に対し、私は心の中でダメ出しをしてみる。
それにしても、まさかここが学園の地下だとは思いもしなかった。
これだけ大きな施設だから何かしら裏があるとは思っていたが、
ここまで大きな裏だとは。報道部もビックリだろう。
これは普通に脱出しても無駄だったかもしれない。
男が顔を近づけてくる。どうやら、私の貞操はここまでらしい。
相変わらず抵抗の無駄を理解しきってしまっている私は、悲鳴一つ
上げようとしない。
(……GAMEOVER)
所詮、遺伝子異常のヒキコモリ。漫画の主人公でもなんでもない
私の人生はここで終わるのでした、と。
何を思ったのか、そこで私は一つの言葉を念じてみた。
恐らく大した理由は無いのだろう。最期の戯れのつもりだったのかもしれない。
私は一月前の夢を辿るように、一つ一つ、丁寧に言葉を念じた。
(……邪気眼、発動)と。
――――途端、額に覚える強烈な違和感。
思わず目を閉じる。その感覚があまりに気持ちの悪いものだったからだ。
それは人間に備わるはずの無い器官が「生える」感覚。
「っ!?(なに……これ……?)」
時間は数瞬。違和感が消え目を開くと、私の視覚には
「第三の眼」の視界が広がっていた。
>>36 …どうやら邪気眼を使ったようだな…なんだこいつは?
「目が!!目がー!!」
この第三の眼に驚いているのかと思ったが違うようだな。この男の目の焦点があってない。
「どこだ!?どこ…声が出な―」
うるさいので殴って黙らせる。
しかしこいつが引き篭もりから脱出したとしても此処はどこだ?
変な生物が置いてあるし…ってなんでこんな所にアレがあるんだ?自分(空の体)の頬を強くつねる。うん、やっぱり夢じゃない。
だが此処の空気、妙に現実味が欠けている。やはりあの生物は…調べる必要があるようだな。
まず、この状況をベッドに拘束されてるガキ供と、床に倒れてる男のどっちに聞くべきか…いいや面倒くさい。
とりあえず部屋から出て散策してみる事にする。だが一方通路で他に部屋は見当たらず。
とりあえず歩いていると向こうから人影がこちらにやってくるのに気付く。だが近くに隠れる壁や柱などはない。
「おいあんた」
>>34で此処に向かったマスクの生徒に遭遇する。見なかった事にしてくれ。
再び邪気眼を発動するとマスクの生徒の五感の全てが失われる。
「!?」
驚く様子のマスクの生徒の方を向いた姿勢を取ったまま、彼の来た方角へ向かうとエレベーターがあった。
まさか学園の地下だったとはな。だがなんとか無事地上に出る事はできた。
とりあえず学園内で目立たないようにする為に、この時間はちゃんと授業に出ておくべきだな…こいつどこの教室だ?
挙動不審な様子で廊下を歩きながら2−Aの前にたどり着く。
「ここか…?」
戸のガラス越しに中の様子を見ると
>>35の様子が見える。
その時、空本人の精神が浮上しかけ、引き篭もり生活で弱った身体と相まって、ふらつき戸を叩きながらその場に倒れてしまう。
>31>32
私はだらだらしているのは嫌いだ。
同じ勉強するにしても、だらだら3時間するより集中して1時間で終わらせたい。
だから自然と歩くのも早くなってしまう。
今のように問題を抱えながらだと尚更だ。
ハクタクと恐竜野郎を引き連れて早足で歩く私を見たら、どんなに上手に嘘をついても腹痛なんて信じてもらえそうにない。
でも急ぐだけの理由があるから仕方がない。
朝から平穏な日常を打ち壊され、後ろにはこちらの意図が全く伝わっていない恐竜野郎の二重奏でイライラが募るばかりだ。
>34
ようやく保健室に着いたと扉に手をかけようとした時、私はその隙間から中に保険医がいるのに気付いてしまった。
(げええ!?ちょくちょく消えていない時の方が多いくせになんでこういうときにしっかりいるのよ!ふざけんな!あんた邪魔!)
理不尽な悪態を心の中で叫びながらそっと扉から身を離す。
授業中いても不自然じゃなくて、誰もいなくて落ち着いて話せる場所。
邪気眼の話をするのだもの。他の誰かに聞かれたくない。
それに付き添い扱いで連れてきた二人はさっさと返されてしまう・・・!
僅かな思考を経て、保健室を通り過ぎて歩き出した。
後ろの二人に大きく身振りで【早く来い!いいから!】と伝えて。
始業のチャイムが鳴り響く中、校舎の一番隅まで一気に移動。
ここら辺りは社会準備室や用具入れ、空き教室が固まっていて、殆ど人が来ることはない。
だからこそ先客がいることもあるので、教室には入らず階段下の用具入れにもぐりこんだ。
階段下のスペースに設けられたこの用具入れは、3畳ほどの広さがある。
中に入っているのは年一度の大掃除の時しか使われないワックスやモップが入っているだけなので、その存在自体思い出されることはない。
窓もなく、空気も澱む用具入れなら先客がいることも後から入ってこられることもありえないから。
とにかくこれで場所は確保できたというものだ。
「・・・ここならいいわね。え・・・っと・・・。」
なんて切り出そうか流石にちょっと迷う。
でも、悪魔が見えるなんて能天気に手を挙げちゃうような二人だし、ストレートに言ったほうが話が早いかな?
「わかっていると思うけど、お腹なんか痛くないから。悪魔の事で話がしたかったからだから。
悪魔が見えるって言ったわよね。って事は邪気眼の取引も、したの?」
うまく答えを引き出すような質問にもなっていないような気がするけど、これが精一杯。
自分自身混乱しているのがよくわかる。いや、もしかしたら・・・興奮?
この用具入れが実は地下の裏施設への偽装されたエレベーターの一つだったなんて知る由もなかった。
大きな音と共に、私の意識は浮上した
(―――っ)
体が重い。まるで、重労働をした後のようだ。
さっきまでは割となんとも無かった筈だが……
(……さっき?)
その言葉で、意識がやや明確になる。
そう、『さっき』私は、学園の地下施設にいた、筈だ。
鉛の用に重い瞼眼を開けて周りを見る。
私の目に入ってきた風景、それは普通の学校の廊下だった。
(……)
確信する。白昼夢でも何でもない。私は、確かに連れ去られた。
「私が昼間の校舎にいる」それはありえないことなのだから。
と、まだ半覚醒な頭でそこまで考えた時、
私は、覚醒する際に起きた「音」のことを思い出す。
まるで、何かがドアにぶつかるような音。
(………)
落ち着いて横を向く。
教室のドアがあった。
普通に授業中らしい。
その時点で、私は急いで教室の前から立ち去ることを決めた。
先程の出来事が現実である可能性が0でないのなら、注目を浴びるのは
良くないという考えと、
そもそも目立つのが嫌いだという嗜好の相俟った結論だった。
私は、急いで(疲労した体では早歩き程度の速度しかでないが)
目立たない場所、とりあえずは寮の自室にに向かおうと走り出した。
(ドオン)
「!!……??」
何だ今の音は…
人が思索に耽っているというのに…邪魔をするな。
まったく、音ももう少し空気を読むべきだ。もう少しで小説のアイディアが浮かびそうだったのに……。
(タタタタタタ………)
「!!!!」
いや…違う!!!今の音は……人間がドアに当たった音だ!!!!
今は授業中……廊下に人がいるのは明らかに不自然……『不審者』か…!!??
ガラッ
……………私服の女性……年齢は……10代後半…15〜17歳といったところか。
常に最悪の事態を考慮して行動すべき……
「すまん、私は少し用事が出来た。少しの間席を外させてもらう。
戻ってくるまでの間各自自習していなさい。終了までに戻らなかった場合はチャイムが鳴ったら解散していい。」
ダダダダダダ………
疲労しているのだろうか、動きは遅い。
私ならすぐに……追いついた。
「君、こんなところで何をしている!?今は授業中だぞ!!」
41 :
名無しになりきれ:2007/02/26(月) 18:57:12 0
邪気眼を持っているな!?
用具入れで私たち三人は邪気眼に付いて話し合っていた。
それぞれの悪魔や与えられた邪気眼。
その制限や能力を。
密閉された用具要れなのに、不思議と落ち着いて話せたのは空気が澱んでなかったおかげだったのだけど、それに気付きはしなかった。
ハクタクが「嘘を見抜く能力」。恐竜野郎が「第三視点を得る」。
小さく舌打ちが出てしまったのも仕方がないと思う。
くそ〜〜〜・・・こいつら、なんて使える能力を貰ったんだよ!
嘘が見抜けるのなんて相手の心が丸判りも同然じゃないか。交渉や詰問で騙される事ない!
第三視点が得られるなんて、カンニングし放題じゃん!
「あ、あたし?私の能力は・・・か・・・回・・転・・・」
そんな便利能力を聞いたあとじゃそりゃ口ごもるわよね。
なのに無神経な恐竜野郎は興味深々に聞いてくるからだんだんムカついてきて・・・
「回転よ回転!目に映るものくるくる回せる、生活に役にも立たない能力よ!私のは!」
ちょっと声が大きくなっちゃった。
ドライバー代わりな能力って間抜けにも程があるもん。
色々研究して使い道を探っているけど、生活に役立つような使い方は余りないわね。
「ま、とにかく!」
大きな声出しちゃったから恥ずかしくって、ごまかすように一旦話を打ち切って・・・
「こんな超常現象が狭い範囲に集中するのって偶然なわけないよね。
しかも今朝の悪魔。もしかしたら私達何かヤバイ事に巻き込まれるかもしれない。
だから、不用意に悪魔が見えるとか言ったり、ヤバイ事に首突っ込んじゃ駄目よ。」
判った事はお互いの事くらい。
今何が起こっているのかや、邪気眼が与えられた意味。本当に必要な事は結局判らずじまいだった。
でも判らない事は仕方がないし、お互い連絡取れるようにして注意するくらいが実際にできる全てなのね。
話も終わったし、外に出ようと扉を開けた瞬間。私の目の前は真っ暗になった。
ありえないありえない。
学校の階段下のスペースに作られた用具入れに入ったはずだもの。
それは絶対に間違いない。
でも、扉の外に広がる光景は見たこともない小さな部屋。
裏施設、緊急予備エレベーターの一つだなんて・・・。
「あー、もう既にヤバイ事に首までどっぷりと浸かっちゃったみたいだね。」
後ろから聞こえる能天気な声に私は頭を抱えてしゃがみこむしかなかった。
43 :
名無しになりきれ:2007/03/01(木) 10:27:17 0
このノートは一体・・・
私は、走り去ろうとする途中で腕を掴まれた。
運動不足とはこうも厄介なものだったか、
もう息が上がってしまっている。
とりあえず、振り向いて手を掴んだ人物を確認する。
……中年の男、恐らくはこの学校の教師だろう。
授業中ならそのまま授業を続けていろと思う。給料泥棒。
……しかし、これは面倒くさい事になった。私は、急いで
自室の『ノート』を確認し、妄想と現実の区別を付けなければ
ならないのに、その区別が付かない状態での人との遭遇はまずい。
もし先程の出来事が白昼夢で無いならば、この学校の関係者は
須らく疑うべきなのだから。
幸い、服装はジャージだが……いくらこの学校の生徒に
変わったセンスの人間が多いとはいえ、私の髪と目の色では
疑われるかもしれない。
……とりあえず、カマをかけてみよう。
尤もな解答をして、私を無理に連れて行こうとすれば「黒」だ。
「……生理です。教室に戻れ、給料泥棒。」
>>44 ………生理、か。
それなら別にいいが……彼女が本当の事を言っているかどうかはわからない。
仮病とかならまあ見逃してやってもいいが……もし『事件』の関係者やそれとは別口の悪党だったら大変な事になる。
まったく…学校の規模が大きいとこういう時に困る。
生徒全員の顔と名前ぐらい覚えろと言う奴がいるが……千人を超える生徒全員を覚えるなど到底不可能だ。
しかも私は人の顔など覚えようとしていないせいで、自分の担任しているクラスの生徒ぐらいしかわからない。
仕方ない………。
「給料泥棒とはひどいな……。私は学校の保安も教師の仕事のうちだと考えているんだがね。
とりあえず……君の言葉を信じようとは思うが、なにぶんこの学校は大きいのでね。生徒全員の顔を覚えてはいないんだ。
すまないが、万が一ということもある。名前と所属学級を……おっと、名簿は職員室か。
体調の悪いところ申し訳無いが、一応確認のために職員室まで同行してもらえないかな?」
やれやれ……私の考えすぎだといいが。
最近は物騒だ。用心してもし過ぎるということはない。
(……)
やはりここは、「黒」と考えた方がいいだろう。
言っていることの体裁は整っているように感じるが、普通、生理の女子を引き止める
教員はいない。と思う。
「……本分の授業を怠けて、警備員の真似事ですか。気楽そうですね。」
思考をする為、とりあえず思いついた時間稼ぎの台詞を言ってみる。
全く、学生の本分をサボって引き篭もっている私が言えることじゃないだろうに。
……
……
……まずい。どうも思考がまとまらない。酸欠のセイだろうか?
まあ、重要なのはなんとかしてこの場から離れることだから、単純に教師が引きとめられない
条件を言えばいいだろう。
「……名前は伊戸 空。生徒IDは828BN75。寮の部屋番号はQ-5409。同行は断ります。
一人で名簿でも何でも調べて、不振な所があるなら通報でも何でもご自由に。」
碌な考えが浮かばない自分の脳みそに若干失望しつつ、最善と思う解答をする。
ちなみに内容に嘘は無い。さっきのことが現実ならどうせ個人情報は割れているだろうし、
幻覚なら別段知られても問題は無いからだ。
「……そろそろ限界なので、行っていいですか。
まあ、先生に女生徒の生理に興奮する性癖でもあるなら許可しないんでしょうけど。」
>42
私が頭を抱えていると、軽い足取りで恐竜野郎が用具入れから出て行った。
信じられない。
こんな得体も知れない状況になって、あっさり外に出るか?
「後藤先輩、ここにいてもどうにもならないですし、行きましょう。
非常識な事に遭遇しちゃったけど、僕たちは黒歴史ノートで悪魔という非常識を受け入れた以上後戻りはできないんだと思うんです。」
「・・お・・・おま・・・」
そっと手を差し伸べるハクタクが妙に男らしく見えて思わず言葉に詰まってしまった。
ハクタクの癖になんでそんなに落ち着いているんだよ!
言葉にならない叫びを噛み締めて、もう差し出された手を握るしかない。
「どうやらこれはエレベーターだったみたいだね。ほら、上。」
こんな状況でも落ち着いて状況分析している恐竜野郎は神経も恐竜並みに鈍いらしい。
でもその鈍さが今は羨ましくて仕方がない。
言われたように扉の上を見ると、B1・1と、エレベーターの回数表示が取り付けられている。
でもボタンの類なんてどこにも見つからない・・・
「学校の地下にこんなところがあるなんて!報道部始まって以来のスクープだね。」
「それで、どうするの?」
もっと他に気にすることあるだろう!というツッコミを入れる余裕もない。
「このエレベーターの動かしかたがわからない以上、他に帰る通路を見つけないといけないですね。」
「えー、寅ちゃん、せっかくだから探検したいかない?」
私を置き去りにしてハクタクと恐竜野郎は会話しながらこれからの予定を立てている。
「後藤先輩、行きましょう。」
「那月ちゃん、行こうよ。」
部屋の扉を開けながら、二人は私にハモリながらついてくるように促した。
>>46 「何が気楽なものか。何かあったときは、たまたまその場に居合わせたものが事に当たらねばならんのだ。
私としても、こういった面倒事は警備員なり警察なり、その方面の専門家に任せたいよ。」
まあ本心をいえば、暴力沙汰の一つや二つ欲しいのだが。
何しろ私の邪気眼は『攻撃の軌道を読む』。こんな能力が役に立つ場面など、現代においては喧嘩ぐらいしか有り得ない。
一応『敵意を持った軌道』のほかに『私にとって危険な軌道』も見ることができるが、これとて大した意味は無い。
それを見ることができるのは邪気眼の発動中だけだ。いつ襲ってくるかわからない天災に対し、あまりにも無力。発動し続けるなど無理な話だ。
話が横道に逸れた。相手が何か話し始めたようだ。
……伊戸、か。聞いたことのある名だ。なぜ私が知っているのだろうか……。
担任するクラスの生徒の名すら何とか覚えている程度の私が会ったことも無い生徒の名前を知っているなど、明らかに不自然だ。
……………
……思い出した。先天性色素欠乏症……所謂アルビノ……で、そして……長期欠席生徒。
何度か問題生徒として、或いは興味本位で話題に上がったことがある。
これなら彼女を信用しても大丈夫だろう。わざわざそんな…あまり言いたくは無いが……先天的特徴のある生徒の名を騙るとは思えない。
それに注意してみれば、乳白色の肌、白髪、赤い虹彩など、アルビノ固体に特有の身体的特徴を備えている。
っと……あまり見てはいかんな。興味本位の馬鹿共と同一視されたくはない。それに彼女とて、そういった好奇の目を嫌っているだろう。……私の憶測に過ぎんが。
…人間におけるアルビノ固体の発生率は約1/20000程度と言われている。偶然の一致ではなかろう。
「うむ、すまなかった。……今のところは君を信用しよう。行っていい。
……私にはそんな性癖は無いよ。寡聞にしてそのような性癖を持つ人がいるという話も聞いたことがない。
まあ世の中には電車に欲情するような人間がいるそうだから、その位いてもおかしくは無いが……っと、こんな話はどうでもいいな。
まあ、体調が悪いときはゆっくり休みなさい。では私はこれで……。」
本当は学校に来るようにも言ってやりたいが……どうも警戒されているようだ。
今私が言っても逆効果だろう。それに私にも高校時代、半年ほど学校に行かなかったときがあった。
そのときの経験上、こういった問題は時間が解決するのを待つのが結局一番早い。
彼女があのまま立ち直れなかったら……その程度の人間だったということだ。
その後一応職員室に戻り、生徒名簿を確かめる。
ID:828BN75…伊戸空。確かに本人に間違いないようだ。悪いことをしたな。
さて、授業に戻るとするか。あと5分程度しかないが……やれることはやらなくては。
「……では、失礼します」
男性教師は、想像よりもあっさり立ち去った。
無理矢理にでも連れて行かれるかもしれないと思っていたので、意外だ。
(……)
まあ、考えてみればこの教師が先の出来事と無関係な可能性も、
そもそも先の出来事が現実でない可能性もあるのだから、現実的な反応だろう。
とにかく、これで先の出来事が現実でない可能性が高まったという事だ。
・・・
・・
・
やっとの思いで寮に辿り着いた。たかだか数百メートルの移動なのに
息は乱れ、発汗の量も尋常じゃない。ヒキコモリの弊害、ここに極まれり
といった所か。
ドアを開く。あまり開閉しないせいか、錆を擦るような音を鳴らして扉は開いた。
そして目に飛び込んだのは、勝手知ったる自室の風景。
暗幕で閉ざした窓、乾燥機の中に放置したままのジャージ、ダストシュートに入れるままに
なっているゴミ袋、通信販売で買ったカップ麺が入ったダンボール、
テレビに机に冷蔵庫。
まさに、引き篭もり生活において理想的な、何一つ不便をすることのない空間。
(……さてと)
私は、特に感慨に耽ることも無く当初の目的を実行する。即ち「ノートの確認」。
果たして、先程のことが現実だったのか白昼夢だったのかが、これで分かる。
机の奥に仕舞い込んだ、気まぐれに真っ白に塗りつぶしたノート。
何の変哲もない筈のそれを、私は開いた。
「……これは」
真っ白な筈の一ページ目。そこに書いてあったのは『ノートの使い方』だった。
やや粗雑な筆跡は、間違いなく私のものだ。
『邪気眼』『悪魔』『第三の眼』『五感の無力化』『乗っ取り』
書かれた文字が、霞がかかったようだった私の記憶を確かなものにする。
「……」
ノートを読み終えて、私は確信した。
一つは、先程の出来事が『現実』であったということを。
もう一つは、私がニンゲンではなくなったということを――――。
>48
用具室エレベーターの部屋から出ると、そこは結構広い廊下。
どちらにいけばいいかも判断できないけど、とりあえず右手に私達は歩いている。
こういうときは恐竜野郎の能天気さが頼りになる。
何の根拠もないのに自信満々で道案内しているのだから。
他に頼るものもないし、おとなしくついていく。
どれくらいの広さなんだろう。
結構狭い空間なのかもしれない。
突き当りT字路の右手にはエレベータ。左手に突き当たったところにドアがある。
迷うことなくエレベーターの方に行きたいのだけどね。
その手前に扉があってそれが気になる・・・
今まで人の気配はしなかったけど、誰かいるのかも。
ヤバイ事になる前にさっさと逃げたいのだけど、顔を見られるのは避けたい・・・
ドキドキしながらそっとエレベーターに歩いていくと、手前のドアから人の声!
私達は慌てて引き返し、左手の突き当たりのドアに飛び込んだ。
ギリギリのところで扉を閉めて、ほっとしていると、ドアの向こうから声が聞こえてくる。
「・・・くそっ!逃げられた!アレは邪気眼だ!」
「おい、名前は?」
「伊戸 空。夕べ攫った女だ。すぐに報告を!」
三人くらいの男の声。
剣呑ならないないように私は全身の鳥肌が立ってしまう。
謎の地下施設、邪気眼、拉致。
頭の中で様々な情報がぐるぐる回転して訳がわからなくなる。
パニックに陥りそうなとき、引き戻したのは意外にもハクタクだった。
肩を叩かれ、振り向くと、そこは階段だった。
まるで非常階段のような・・・。
>>51 扉一つ挟んで非日常な世界が繰り広げられている中、私の中に余裕というものが生まれていた。
恐竜が一足先に階段の行き先を見てきてくれたからだ。
階段は体育館の用具入れに繋がっていたらしい。
退路が確保されたとなると、余裕も生まれるというものだ。
一刻も早く逃げたかった先ほどとは違い、もう少し話を探ってみたくなっていた。
「逃げられたですって?何やっているのよ!」
「すいません。でも、アレは絶対邪気眼ですよ。」
「俺も、いきなり感覚がなくなってパニくっちまって・・・」
「いいわけはいいわ。今『視る』から。その子が寝ていたベッドは?」
:
:
「逃走経路はこのエレベーターからね。
伊戸・・・引きこもりのアルビノね・・・いいわ。あの子なら何言っても妄想で終わらせられる。
ここで慌てて手を出して事を荒立てないように。念のためこのエレベーターは封鎖して。」
「げ・・じゃああっちを使うんですか?狭いしワックスの匂いが・・・」
「お黙り!逃がしたあんた達の責任でしょ!」
:
:
透視能力があれば・・・
あとからやってきた女の声、あれは保健室の先生ね。
先生がここに関わっていただなんて。しかも『視る』っていうから多分、先生も邪気眼持ち・・・!
バタバタ動き出したから、私達は潮時といわないばかりにそっと階段を登り始めた。
体育用具室から抜け出すと、私たち三人は大きく息を吐く。
ホント冗談抜きでかなりヤバイ体験をしたのだから。
「これは大スクープだね!部長に早速報告しなきゃ!」
「駄目ですよ、氷月君。女の人の声が言っていたでしょ。これだけじゃ妄想って言われるだけです。
ボイスレコーダーやカメラを持っていくべきだったなあ。」
恐竜野郎が能天気なのはいつもの事だけど、一番頼りなさげなハクタクが一番しっかりしていてちょっと驚いてしまった。
「そ、そうね。色々判ったけど、まだこれじゃ情報不足だわ。
でも証人の場所は判っているし・・・行ってみましょ。」
証人というのはもちろん会話に出てきた伊戸のこと。
寮生なのに引きこもりってある意味有名だから。
つかまっていたなら色々見ただろうし、引きこもりだから逃げ出したら戻る場所はひとつしかない。
>50
一時間目終了を告げるチャイムを聞きながら誰もいない女子寮の廊下を歩く。
Q-5409の前にて、二人は死角に隠れさせておく。
引きこもりの上に非現実的体験から逃げ出したばかり、どう声をかけても警戒されるだろうけど・・・
「伊戸さん。2-Aの後藤だけど。邪気眼に付いて話をしたいの。」
小細工しても無駄だろうから、ストレートに呼びかけてみた。
53 :
名無しになりきれ:2007/03/12(月) 21:47:00 0
この力はいったい・・・・
久しぶりに、本当に久しぶりに感じた心に感じた何かは、すぐに冷めた。
別に、今までと何かが変わった訳ではない。
異常に異常を足しても異常にしかならないのだから。
ノートを懐に仕舞い込む。夢想が現実と判った以上、ここにいるのは危険だ。
恐らく、この部屋はさっき私を攫った奴等に特定されているから。
私は鞄に必要な荷物を背負い、やや錆付いたドアを開けた。
幸いこの学校の寮は数が無駄に多く、空き部屋も異常に多い。
そこのどこかを選んで潜めば、学校を脱出する考え位は浮かぶかもしれない。
振り返り、数ヶ月の間篭った部屋を見る。日光の遮ぎられた薄暗い部屋は、
やはりなんの変哲も無い薄暗い部屋でしかなく、電子機器の待機音のみが響いている。
―――そして、鈍い擦過音を鳴らし扉は閉まった。
外では授業の終了を告げる鐘が鳴っている。
さて、まずはどこへ行こう。
……。
とりあえず、昔、報道部の新聞で掲載されていた『幽霊寮』とやらにでも向かおうか。
新校舎の設計ミス、構造の死角のあそこなら、滅多に人は来ないだろうから―――
「では今日はここまで。明日は26段までのまとめとして簡単なテストを行うので、しっかりと復習しておくように。」
予想通りブーイングが起こるが、何も感じないのはもう慣れてしまったからだろうか。きっとそうなのだろう。
だが私としては生徒達に各々の望む職に就けるだけの力を得てほしいと思ってやっていることなので、やはり気付かないだけで心は痛んでいるのかもしれない。
いや、なぜ人と関わりたがらない私がこんなことをしているのかというところから思考を開始するなら、
嫌われるような行動をして生徒達との間に意図的に溝を作っているとも考えられる。
……やれやれ、どうして自分の心すら正確に理解できないのだろうか。これが私という人間の限界なのか?
おっと、考えている場合ではないな。次は3-Cか。
3年は今『夢幻の光』か……。どうもこの単元は好きになれん。まああれが終われば次は私の最も得意とする『蛹』だ。あと2週間ほど耐えるとしよう。
…………
「全員席に着きなさい。授業を始める。」
欠席は二人。一人は急な頭痛に襲われたとかで、もう一人は……
3日前から行方不明。まったく物騒なことだ。
だが私にどうにかできるような問題ではない。私はただ……教えるだけだ。
……本音を言うなら私もその事件に関わりたいが。最近は事件の影響だろうか、不良生徒達も大人しくてどうも面白くない。
たまには邪気眼を使って大立ち回りを演じたいものだ。
邪気眼といえば、今日の昼は報道部に行かなくてはいけないのだったな。3限目終了後に早めに食事を取っておくか。
新校舎と併設された学生寮5階、西Dブロック。俗称『幽霊寮』。
本来購買を置く筈だった区画だが、建築の欠陥により入り口が無くなった密閉された空間。
その密閉された空間の中に私はいた。
別に透過ができる訳ではない。単純に入り方を知っていただけだ。
引き篭もる直前に読んだ、三期前の報道部が製作した壁掛け新聞。
発行取りやめで、資源ゴミの束とまとめて捨てられそうになっていた「それ」には
『幽霊寮』が特集されており、教師にばれない様に壁の一部を破壊して潜入した事、
内部の電力水道施設が生きていることや、寮の構造などが書かれていた。
私は、そのルートを辿って進入したという訳だ。
(……埃っぽい)
機密性が高い為だろう。廊下には大量の埃が堆積していた。
電気が付いていないせいか、無闇に広く薄暗いその空間は成程、幽霊寮と呼ぶに相応しい様相を呈している。
―――なるべく目立たない一室を選んで中に入る。
扉は錆付いていたが、力を込めて引くとなんとか開いた。
……正直、拍子抜けした。内装は至って普通。埃っぽいことを除けばむしろ私の部屋より
綺麗といえるだろう。
試しに水道の蛇口を捻る。最初、赤水が出たが暫くすると普通の水になった。電気も点いた。
パソコン、家電、水道完備。この施設を放置する学園の経営方針はどうなっているのだろう。
そんなことを気にしながら、床に荷物を置くと―――
―――大量の埃が舞い上がり、思わずむせ返った。
……面倒くさいが、とりあえず掃除から始めよう。
埃まみれでは、流石に作業能率が悪いから。
伊戸の扉の前で呼びかけて一分。
なんの返事もなく、私はただ立ち尽くしていた。
「ねえねえ、那月ちゃん。」
「何よ!ご飯食べている犬と待たされている私には声かけちゃいけないって習わなかったの!?」
待たされるのは嫌いだ。
こっちが呼びかけているのになんの返事もなく待たされるって言うのはかなり腹がたつ。
そんな時に能天気な声で声をかける恐竜野郎に私は噛みつかんばかりの勢いでまくし立てた。
「いや、そのことで今寅ちゃんと話していたんだけれどさ。」
「なによ!」
かなり不機嫌な私に一歩引きながら恐竜野郎が説明を始める。
伊戸は引きこもり。すなわち、自室から拉致された可能性が高い。
つまり引きこもっていた自室は安全な場所ではなくなった。
むしろ攫われた現場だから、そんな場所に逃げ出した人間が戻ってくるとは考えにくい。
説明を聞き終わったあと、私は言葉に詰まってしまった。
確かにその通りだ。
そんな事少し考えればわかることなのに。恥ずかしさと悔しさで言葉が出ない。
でもそれを素直に認められるほど人間できては居ない。
「じゃあどこに居るって言うのよ!」
こんな理不尽な質問にハクタクや恐竜野郎が答えを持ち合わせているはずもなく、お互いの顔を見合って首を振るばかり。
そんな姿を見て溜飲を下げていたのだけど、結局は状態は0に戻ったようなものだ。
「・・・仕方がないわね。」
私は手鏡を取り出すと、自分の顔を写しじゃ気眼を発動する。
何もなかった額に突如現れる第三の目。
回転回転回転回転・・・・・・そう!私の頭の回転が加速される!
思考回路が冴え渡り、状況整理と閃き、そこから導き出される結論・・・
「引き篭もり・自室からの拉致・逃避・隠れ場所・学園・・・・
ハクタク!あんた前に新校舎の設計ミスでできたデッドスペースを記事にしてたわよね。そこよ!」
「幽霊寮ですか?でもあそこは死角過ぎて普通知らないと思いますけど・・・」
「必ず見てる。去年の夏に報道部の新聞をやたら熱心に見ていたのを見かけたもの。今の私の記憶や推理は確実よ!」
そう、今この第三の目が開いている間は覚えていない僅かな記憶でも必要な記憶なら鮮明によみがえる。
他の空き教室やトイレのように、誰もが来る可能性のある場所ではなく、限りなく誰も来ないような場所に行くはず。
>54
確信を持って私達は寮を出て、幽霊寮へと向かう。
そして幽霊寮には、それに相応しく幽鬼のような伊戸がいた。
確認するまでもない、睫から手の先まで真っ白なその姿を見て、私にふつふつと怒りがわいてくる。
「引き篭もりでアルビノで腰まであるストレートでこの顔?それでもって邪気眼、攫われて逃げてきたぁ?アンタ私の人生に喧嘩売ってんの!?」
何から何まで特別尽くめ。
その上整った顔に腰まである綺麗なストレート。女の私が見ても守ってあげたくなるようなその姿に怒りが爆発したわけだ。
視界に入ってから二秒もかからず詰め寄ってまくし立てちゃいもするわね。
「まあまあ、那月ちゃん、趣旨違っているから。」
「そうですよ。すいません、驚かしちゃって。僕たち報道部のものです。」
恐竜野郎が私を羽交い絞めにして引き離し、ハクタクが穏やかな声で私達の紹介と事情説明を始める。
私達が用具入れに偽装されたエレベーターで怪しげな施設に迷い込み逃げてきた事を。
伊戸の名前が出ていたこと。その対処。
見たこと聞いたことを判りやすく説明し、こちらも対抗する為に情報が欲しい。協力して欲しい、と。
私が備え付けのロッカーから箒を取り出しのろのろと掃除を始めようとした時、突然ドアが開いた。
(……)
自分を攫った集団、立て付けの不良、あるいは幽霊、瞬間的に頭の中で幾つかの予測が浮かぶ。
が、入ってきたそれらは私のどの予想とも違っていた。
―――少年二人に少女一人。
それは、一見特別な所などなさそうな集団だった。が、この状況ではその普通はかえって猜疑心を
強めることになった。
何故なら、理由も無くこんな所に来る人間はいないし、来れる人間もいない筈だったからだ。
そんな風に思考がシフトしている最中、突然少女がまくし立てた。
「……貴女の人生に喧嘩売る価値があると思ってるの?だとしたら、可哀想な脳味噌。」
少女の言葉にあった『邪気眼』という響きに内心驚きつつ、反射的に台詞を返す。
……どうも、私の反射的な言動は悪辣になる傾向が強いようだ。
そんなどうでもいい自己考察をしていると、少年のうちの一人が何か話し始めた。
(……)
地下の施設。少年が言っているそれは、私が監禁された施設で間違いないだろう。
言っている事に不審な点もないし、報道部ならこの場所を知っていても不思議はない―――――が。
「……アニメか漫画の話ならアキハバラでも行ってすればいい。それとも、精*病院の診察券が必要?」
白を切る。そもそも私に問題を解決する気はなく、必要なのは学園からの遁走であり、彼女等が
組織の構成員、関係者であるというような様々な可能性がある中、彼女等に対しての私の信用は
限りなくゼロだからだ。
「ここにいるのは報道部の新聞内容に興味を持ったからで、あなたの妄想と私は無関係。」
これで退いてもらえると楽なんだけど。などと考えつつ、私は言葉を放った。
>58
>「……貴女の人生に喧嘩売る価値があると思ってるの?だとしたら、可哀想な脳味噌。」
な・・・こいつっ・・・人が下手にでていれば!
守ってあげたくなるなんて完全に取り消しっ!こいつは敵だわ!
まあ、下出に出ていたなんて私の勝手な脳内改竄な訳だけど、私は完全にこの伊戸を敵と認識したわけね。
「まあまあ」
なんて後ろで宥める恐竜野郎は何だかんだ言っても男子だわ。
伊戸に掴みかかってやろうと思ったけど、がっちり羽交い絞めにされているから喚くしかできなかった。
そんな私とは別世界のように伊戸とハクタクは話してる。
>「ここにいるのは報道部の新聞内容に興味を持ったからで、あなたの妄想と私は無関係。」
「それは【嘘】ですね。」
伊戸の棘のある言葉にも笑顔を崩さず、きっぱりと嘘の言い切るハクタク。
結構情けない奴って言う印象しかなかったけど、こいつなんでこんなに男らしくなっちゃっているんだろ?
「伊戸さん。僕を含めてここにいる人間全員邪気眼を持っています。
その能力はそれぞれ違うようですが。僕の能力は【嘘を見抜く能力です】。
【報道部の新聞内容に興味を持ったから】、というのは部分的に嘘。多分、この場所を知ったのは報道部の新聞だけど、ここに居るのは別の理由なんじゃないですか?
【あなたの妄想と私は無関係。】これも嘘。
僕たちの言っている事を妄想とも思っていないし、無関係とも思っていない。」
「地下施設の全部を見てきたわけじゃないけど、偽装されたエレベーターが二つ。
僕たちみたいに空き教室とかに隠れているとはレベルが違うんだよね。学校建設時に作られたと見るのが妥当じゃない?」
ハクタクの喋りもびっくりだけど、私を羽交い絞めにしている恐竜野郎までそれっぽいことまで言い出して二度びっくり。
こうなると一人喚いているのもばかばかしくなってきちゃうのよね。
「もう暴れないから離して。」
落ち着いて恐竜野郎に離すように言って伊戸に向きかえる。
「攫われて逃げてきたばかりでそりゃ警戒するのはわかるけどさ。
扉越しで声しか聞いていないけど、あんたの逃走経路は確定してたのよ。多分邪気眼の力だと思う。
事を荒立てないようにって言ってたから、暫くはまた攫われる事はないと思うよ。
でも学校ぐるみなら学校から抜け出ようとしたら流石に向こうも動くでしょ。
相手は引き篭もりの戯言だからアンタが何はなしても妄想で片付けられるって油断しているのよ。
その間に証拠を集めて、妄想で片付けられないようにする必要があるんじゃない?
こっちが判っているのは地下に怪しげな施設があること、それが生徒を攫うような犯罪者集団だってこと。その中の一人は保険の先生ってこと。」
こちらの情報を全部差し出して、伊戸に情報の共有と協力をしてほしいと続けた。
矛盾の無い筈の解答を少年が嘘であると「断言」したことに、私は反論しようとしたが
>ここにいる人間全員邪気眼を持っています。
>その能力はそれぞれ違うようですが。僕の能力は【嘘を見抜く能力です】。
少年の言葉で、それをやめにした。彼らが本当に全員邪気眼の持ち主ならば、恐らく次の嘘も見抜かれるから。
少年は、的確に「嘘」を指摘していく。話しぶりからして、彼の能力が【嘘を見抜く】ものであるというのは本当の様だ。
そして、恐らく彼の能力の詳細は『どんな嘘か分かる』のではなく『嘘かどうかを見抜く』能力見抜くもの。
……私を捕まえるのが目的なら、こんな能力の人間を動員する必要はない。
恐らく彼等は私を攫った組織とは関係ないだろう。
(……)
これ以上無関係を装うのは、無意味だろう。彼らは、私が関わりがあることを確信している。
「――――確かに、私は邪気眼に関係してる。そして、学園の地下施設に攫われた」
開放された少女の言葉を聞き終え、私は事件との関わりを話すことにした。
「彼らが行っているのは、生徒を誘拐して『人造邪気眼』を移植すること。学園の地下には
他にも数名の生徒が拉致監禁されてる。ちなみに、『人造邪気眼』の移植は命に関わることらしい。」
隠す必要はないので、知っている情報は全て教える。
「信じるか信じないかはそちらの自由。あと―――」
ある意味では、一番はっきり言っておくべき事を告げる。
「――――私は、あなた達に協力するつもりはない」
少女達の反応を見つつ、続ける
「第一に、誘拐現場見た人を始末することを行うような組織が、校内を堂々と歩く私を見て攫わない理由がないから。
第二に、そもそも私はこの学園が行っていることを公表するつもりが無いから。興味が無いの。人造邪気眼にも、攫われた生徒にも。
第三に―――子供のヒーローごっこに協力する暇はないから。」
先二つは少年のほうを見て、三つ目は少女の方を見て、言う。言葉に嘘はない。
そして次に言うのは交換条件。
「……けど、あなた達が『ここに不審者を連れて来ない事』と『私の情報を漏らさない事』を約束できるなら、
情報交換に限定して協力しても構わないわ。ここの購買のコンピュータはおそらく学園のメインコンピュータと
直接繋がってるから、いろいろ情報は入手できると思うし。」
「安全性の高い部屋」「PCによる情報提供」。二つの交渉材料を出して私は、安全に学校を
脱出する情報を得る為の交渉を持ちかけた。
やれやれ、何とか終わった。明後日には全てのクラスが次の『蛹』に移っているだろう。…あと一日の辛抱だ。
………しかし、いくら好きではない単元とはいえ、頭痛やめまいに襲われるというのはただ事ではない。…私の高二病はまだ直らんのか?
それともあれか?所謂『虫の知らせ』だの『高次の存在からの警告』だのというやつか?
私はそういう現象の存在を否定しないし、また最近のこの学校の状態を考えればありえない話ではないが、いくらなんでも考えすぎだ。
…などと考えながら職員室で早めの昼食を取っていると、不意に背後から声を掛けられた。
『よう南雲!お前が早弁とは珍しいな。』
「ああ、杉本か。今日は昼に少しばかり用があるんでね。早めに昼食を取らせてもらったよ。」
彼は古文の杉本。音楽の新谷とともに、私がストレスなく話せる数少ない人間の一人だ。
『へ〜、お前が「用がある」なんて珍しいこともあればあるもんだ。あれか?最近の失踪事件お前の腕で解決してやろうってのか?』
「いや、私に手が出せるような問題ではないだろう。それとは別件さ。」
『ほう?じゃあ何だい?』
……杉本は邪気眼などとはまったく無縁の一般人だ。私を信用してくれてはいるが、邪気眼や悪魔のことを話せる人間ではない。
正直に話したら私が狂ったと思われるだろう。いくら私でもそのぐらいのことはわかる。ここは適当にごまかして別の話題に切り替えよう。
「いや、大したことはないさ。ちょっと問題生徒の矯正をね。」
『なるほど、お前は格闘技を習ってるからな。ちょっとぐらい乱暴な奴がいても平気ってわけか。』
「まあそんなところだ。ところで杉本。」
『何だ?』
「そういえば失踪問題のほうにも少し興味がわいた。行方不明生徒のデータを公開されている範囲で集めてもらえないかな?
私はそういったことには疎いのでね。君ならわかると思うんだ。」
『いいぜ。だが…安心した。お前が来たからにはこの事件はすぐにでも解決するだろう!!』
「買いかぶりすぎだ。本職(警察)が解決できない事件が私の手に負えるものか。
私はただ私の立場から見ればまた違ったものが見えるかもしれないと思っただけだ。」
『ま〜た謙遜する。まあ、そこがお前のいいとこなんだがな。
資料は集められる限り集めといてやる。昼か、放課後か……まあ時間が出来たら取りに来い。』
「ああ、ありがとう。っと……もうすぐ授業が始まるな。じゃあ私はこれで。」
やれやれ、杉本は私を金田一耕助かシャーロック・ホームズだとでも思っているのだろうか。
私はただの教師だというのに。何が彼のお気に召したのやら。
まあとにかく、追及は避けられた。後は昼を待つだけだ。
次は2-C。『雫』の小テストだな。
>62
「何を言っているんですか!?僕たちに邪気眼が与えられた意味は!こういうことに立ち向かう為なんですよ!」
「寅ちゃん、そんなに気張っていると脳みその血管切れるよ?
難しい事いわなくても、こんな楽しい事を放っておけるわけじゃないじゃないか!」
伊戸の言葉を聞いての二人の反応だ。
恐竜野郎の、ことの重みが一欠けらもわかっていないような言葉もアレだけど、ハクタクがやたらとがんばっているのはそういう訳か・・・
やたらとさめた伊戸に二人して詰め寄って力説しているその後姿に思わず蹴りを入れてしまう。
「あんたらアホかーー!
あたしらは一度あの怪しげな施設に入っちゃってんのよ?
邪気眼の能力によっては、それがいつ察知されてもおかしくないんだから。他人事じゃないの!
自分の身を守る為にやるのよ!」
恐竜野郎とハクタク、それに伊戸も含めた三人にちゃんとわかりやすく宣言する。
保険の女医は伊戸の逃走経路を断定した。
人工邪気眼、数人の拉致・・・それを考えれば、どんな能力の人間がどれだけ学校にいるかすらも見当もつかない。
相手に確定される前に、相手を殺せるだけの、少なくとも自分に手を出せないだけの情報がいる。
「いいわ。何かわかったら連絡頂戴。これ、私のメアド。」
今のところ、人工邪気眼を移植する組織に私達は知られていない。
だけど、保険の先生がその組織構成員という事はわかっている。突き崩すのならそこからだろう。
とにかく情報を・・・
そう考えていると、不意に眩暈が・・・
邪気眼を使った後、よく起こるのだけど、今回は結構酷い。
「悪いけど、体調悪いから部屋に帰るわ。」
これ以上頭も回りそうもないので、三人に別れを告げて部屋へと戻った。
小学生かと思うような発言をする二人の少年に、少女が蹴りを入れた。……かなり痛そうだ。
私は、呻いている少年二人を横目に、彼女――――確か、少年の内の一人にナツキとか
呼ばれていた少女から、アドレスを受け取った。
「念の為、連絡は最小限にして。あいつ等がどれ位の規模なのか分からないから。」
一応、釘を刺しておく。盗聴の心配もあるが、それよりも人と話すのが好きじゃないから
というのが大きな理由かもしれない。
そして、邪気眼の副作用だろうか。ナツキはややふらふらしながら出て行った。二人の少年を残して。
……残して?
「……あなた達、出て行け。」
私は、残った二人に先ほど渡されたナツキのメールアドレスを教え、
『顔が割れていない人間がここにいる必要は無いんだから帰れ』『あなた達と一緒にいたくないから帰れ』という
二つの意味を込めて告げる。ちなみに少女のアドレスを渡したのは、私の痕跡を出来る限り減らす為だ。
少年達は何か言っていたが、私が部屋から持ち出した荷物の万能包丁を取り出すと、割と
あっさり帰って行った。
(……さて)
少年達が『幽霊寮』から出て行ったのを確認して、私は中断していた部屋の掃除に取り掛かる。
私の体力と部屋の大きさを考えると、昼ぐらいまでかかりそうだなどと思いながら、
とりあえず箒がけを始めた――――
64 :
名無しになりきれ:2007/03/26(月) 12:03:51 0
ゴーストバンクだと
寮の自室の着くと私はベッドに倒れこむ。
あまりの頭痛にこれ以上立っていられない。
それどころか、意識も朦朧としてきた。
今まで邪気眼を発動させても、ここまで酷い事になったことないのに・・・
黒く視界が狭まっていく中でも、僅かに移る室内はぐにゃぐにゃと歪む
『許・・・い・・・悪・・・の領・・・に足を・・・・・れる・・・・・・を知ら・・・・に・・・・・・を刻・・・・・・め・・・!』
『許・・・い・・・悪・・・の領域に足を・・・・・・れる・・・れを知ら・・・・に・・・れを刻・・・込め・・・!』
『許せない・・・悪魔の領域に足を踏み入れる畏れを知らぬ者に畏れを刻み込め・・・!』
消え行く意識に反し、徐々にはっきりとしだす内なる声。
それがなんなのか気にはなったけど、歪み朦朧とする意識にすぐに押し流される。
そして私の意識は・・・消えた!
どのくらいの時間がたったのだろう。
後藤那月であった身体は立ち上がる。
明確なる力と目的を持って・・・
放課後になったが…杉本は現れない。
他の教師に聞いても、どうしたのかはわからないとの答えばかり。
外部からの急な呼び出し?急病?或いは……
頭に浮かんだ最悪の想像を振り払おうとするが、報道部の部員達も昼に来なかったことを思うと…或いはこれが最も現実味のある応えのような気がする。
あの時は学生というのは結構いい加減な者だとしか思わなかったが……今から考えれば……
私が何に触れたのかはわからないが、地雷を踏んでしまったことだけは確かなようだ。
報道部の生徒や杉本のことも気がかりではあるが、今私にとって最も大きな問題は、私自身もここにいては危険なのではないか、ということだ。
そう考えると、すぐさま邪気眼を発動させる。……やはり。『危険』が私を付け回している。監視というわけか。
私の眼が『心の眼』でよかった。外見が変化するタイプだったら、この発動で気付かれたかもしれない。
もともと独善的、自己中心的な私だ。そう考えると、すぐさま行動を開始した。
職員室に戻り、帰り支度をする。当然不審がられたが、「妹が急病で」と言っておいた。
妹がいるのは事実だ。だが病気ではない。今頃は勤め先の会社で書類の整理でもしているだろう。
家族……妹と両親のことを考えると少し心が痛むが、残念なことに私は自分勝手だ。残される家族ですら決心を揺るがせるには足りない。
校門を出て車に乗ろうとしたとき、一見して不良とわかる集団……13〜4人はいるだろうか…に取り囲まれた。
どうやら私を逃がしたくないらしい。何者かは知らないが、いい手だ。不良に因縁を付けられてリンチ。ありふれている。誰が見ても不自然な点はない。
だが、一つだけ重大な間違いがある。それは……
「どうした、もう終わりかね?私はようやく体が温まってきたのだがねえ……。」
私が邪気眼使いかつ空手家であるということだ。所詮数に任せて暴れまわるだけの馬鹿共など何人いようと、1対多の状況に対する訓練を受けた私の敵ではない。
全員気絶させて、悠々と車を発進させる。行く当てはないが、もうこの町には居られないと考えたほうがいいだろう。
――――――――――――――――――――――――――
あれから…一昼夜走り続け、たどり着いた小さな山村に今も暮らしている。
町に比べれば生活は良いとは言えないが、俗世の煩わしさもないし、何より安全だ。
今はこの村の小さな学校で教鞭を取っている。純朴な子供達に囲まれて、少しは人嫌いも治ってきたようだ。
このままこの地に骨を埋めるのも……悪くないだろう。
だが……今でも思い出すのは、あのカノッサ・スクールの奥底から感じた恐ろしい悪意と危険だ。
あれは一体なんだったのか。消えた人たちはどうなったのか。私は何に触れてしまったのか。……あの学校は、今もあそこに在るのだろうか。
あの町においてきた家族とともに、不意に私の心を締め付ける。
『人は危険の中では安全を求め、安全の中では危険を求める』とは、誰の言葉だったか。
この平和そのものの村の中で、あの悪と毒、そして謎に満ちた世界にふと心惹かれる自分の心が恨めしい。
………来年か、再来年あたり…あの町にもう一度だけ……戻ってみるのもいいかもしれない……
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名無しになりきれ:
ヨウリョウオーバ