■プロローグ
これは、トレイユ宿場町での隠された伝承の一つである。
史実であると言われた話なので軽く聞き流して頂きたい。
公園のトイレに走れ
(ある町はずれの丘の宿屋。舞台はここから始まる・・・。威勢のいい声が鳴り響く)
「ありがとうございましたーっ!」
ドアベルの音と共に宿屋を後にする団体客の背にライは声をかけた。
今のが、夜の部の最後の客。
ドアが閉められ、ここならではの夜の静けさが訪れると、ライは大きく息を吐き、カウンターに突っ伏す。
「ああ、終わったぁー…。」
いつもの事だが、一日の終わりはこんな感じである。
それでも安堵と同時に充足感があるのは、自分がこの仕事を楽しんでることに他ならないのだけど。
「おつかれさま、お父さん。」
不意に、いや、いつものように、頭の上から声をかけられて、ライは顔を上げた。
「おう、コーラルもな。大変だったろ。」
そこには、相変わらずの眠そうな顔で、自分を見ているコーラルがいた。
ライがねぎらいの言葉をかけると、コーラルは首をふるふると振った。
「大丈夫、貴方に比べれば、たいしたことないかと。」
肩をすくめ、うつむき、そして頬を染めて、微笑む。
「…お、おう、そうか?」
なんだか気恥ずかしくて、ライは視線をそらす。そんな彼をみて、コーラルは首をかしげる。
「?、お父さん?」
「…なんでもねぇって。」
「そう?それなら、外のランプ、消してくるね?」
「あ、あぁ、頼む。」
不思議そうな顔をしたまま、コーラルはぽてぽてと外に出て行く。
その後姿を見送って、先ほどと同じようにドアが閉められたあとに、ライは大きくため息をついた。
「はぁ…なんだってんだ俺。」
上げていた顔をまたカウンターに預ける。冷えた感触が心地いい。
「…。」
さっきの仕草。不覚にも、ドキリとしてしまった。
いや、今日に限ったことではない。あの戦いの後から、そういうことが、多くなった。
ライも年頃の少年。異性にどきりとしたりするのは別に珍しいことではない。
だが相手がコーラルとなると話は別だ。
父親と子供。現状、というかことの始まりからライとコーラルはそういう関係にある。
ライ自身もそれが当たり前な環境なので、
コーラルをそういう目で見てしまうのは、絶対やめたいところなのだが…。
「大体、俺あいつの性別しらねぇもんなぁ…。」
さらに根本的なことに気づき、ライはなんともいえない表情になる。
竜の状態は当然ながら、人状態でもわかるものではない。
親子ならお風呂くらい、と言われそうだが、コーラルはそこら辺しっかりしているというか、
一人ではいって一人で上がってきてしまう。
でも、なんだろうー。
「ただいま。」
カランカラン、とドアベルが鳴り、ライを悩ませている人は帰ってくる。
「おう、お帰り。」
そういいながら、ドアをしめるコーラルの後姿を見る。
(腰あたり…とか、なんかちょっと…。)
女っぽいというか、なってきたというか。
「何?」
「あ、いや、なんでもない!」
視線に気づかれて、ライはあわててごまかす。
(だぁーっ!何みてんだ俺!)
「…?」
やはりさっきと同じように、コーラルは首を傾げるばかりであった。
しょっぱなから何このカオス。
廊下には、淡い橙色の光がぽつぽつと灯る。
少ないながらも一応いる客を起こさないように、
ライとコーラルはゆっくり自分たちの部屋へと向かう。
「明日休み…。」
「お、そういやそうだな。忙しくて忘れてた。」
「…働きすぎ、過労で倒れないか心配。」
コーラルは呆れるがライは別にそんな気もない、むしろまだまだ大丈夫といった感じである。
明日の休みは、一週間前、待遇の改善を要求して
テイラーの書斎で座り込み大会をしたリシェル、コーラルの行動の成果の休みである。
ギリギリまでとめようとして、一番とばっちりを食らったルシアン曰く、
町外れの農園の暴動のほうがまだ可愛かったよ、とのことであったが。
(そういや、黒煙上がってたよな…。)
「…?」
「いや、お前は思ったよりも大胆だなってこと。」
自室のドアを開き、コーラルを先に入れる。振り向いたコーラルはライを見上げ、顔で疑問をあらわす。
「一週間前のリシェルんちでの騒ぎのことだよ。」
「あ…うん。」
言葉を濁した、コーラルの背中を押し、ライも部屋にはいり、ドアを静かに閉める。
「…たまには、貴方と二人きりになりたいし。」
どくん
「…………――え?」
不意打ちだった。
言葉の意味を理解するのに一拍、その一拍が過ぎた後は、あっという間に心臓が早鐘を打ちだす。
「…え?」
間抜けにも、もう一度聞き返してしまう。
コーラルは、いつものように不思議そうな――顔を、してなかった。
「ライ?」
名前で呼ばれ、ゾクリと背筋に嫌なものが走る。
悪寒、やばい、なんかやばい。なにか企んでる。すごく、よくないこと。
後ろ手にドアノブを取ろうとして…できなかった。
――体が動かない。
「ッ…!!!!????」
「…せいこう。」
くすり、とコーラルは微笑む、小悪魔。そういう形容がしっくりするその笑み。
まだランプもついていない部屋の中で、瞳だけが猫のように爛々と輝いていた。
――竜眼。
瞳に魔力を込めて、相手の神経を麻痺させる能力…。
ライは、それをまともに食らってしまっていた。
「コーラル…おまっ…それ…。」
声すらまともに出ない、なんとか首から上は動くが、それでどうにかなるものではない。
能力のうちなのか、視線をそらそうとしても、無駄であった。
力を入れることのできない体が、閉められたドアにぶつかり、ずるずるとずり下がる。
その様子を見て、コーラルは眉をひそめる。
「ちょっと効きすぎ…。」
そういうと、少しだけ拘束が緩む、体は相変わらずびくともしないが、声だけは何とか出るようになる。
「何の真似…!んっ!」
そして、抗議しようとして、その口を塞がれる――唇で。
「ッ…!」
今までに感じたことのない距離とその感触に、ライは息を詰まらせる。
吐息がかかるとかそういう生易しいものではない、本当に、目の前にいる。
まぶたは閉じられて、表情は読めない。
ただ、ほんのり紅く染まった頬と、やわらかく甘い感触。
そしてほのかな香りに眩暈がする。
(―――ってそうじゃねぇだろ俺!)
正気に戻り、ばたばたと足掻く。実際にできないが、
気配は察したようで、コーラルは、ようやく、体ごと、唇を離した。
ものすごく、不満そうな顔で。
「往生際悪い かと…。」
「ぷはっ…あったり前だぁッ!」
「舌くらい、いれてくれると…。」
「自分の、子供にそんなことできるか!大体なんでこんな…うぐっ!?」
また拘束が強くなって、ライは二の句を継げなくなる。
コーラルは、そんな彼を見て、ひどく冷ややかな視線を向ける。
怒りとも侮蔑ともつかないような、そんな瞳。
「子供…?」
じり、じり、とコーラルはライへと寄る。
「う、う…!」
「貴方はそういう言葉でごまかすんだ…?」
近づくかれるたびに拘束は強まり、息が詰まる。
金の瞳には何もかも見透かされているようで、恐れが頭をもたげる。
「やめ…ッ…!」
「ボク、知ってるんだよ…?…ねぇ、ライ?」
「く…ぁ…!」
息がかかる距離。満足そうに目を細めるコーラルはその細い指でライの頬をなでる。
「貴方、ボクに欲情してるんでしょう?」
「ッ…!」
暴かれた。
いや、気付かれていた。
耳元で紡がれた断定の意味を込めた問いかけ。
ささやかだった気持ちを、暴力的な言葉で蹂躙され、上書きされ、汚された感覚。
何より、冷ややかなその声色に、心が黒くなる。
「お父さんって、変態…。」
「ちが…!」
「違わないよ?」
だってほら。
そう言ってコーラルは、ライの腹部にかけていた手を下にへとずらす。
「ここ、こんなに硬くなってる…。」
「う、ぁ…ぅ」
ライの顔が羞恥で赤くなる。コーラルが布越しになでる其処は、
すでに見てわかるほどに、大きくなっていた。
「こんなにされて、まだこうなるなんて…やっぱり変態、かと。」
くす くす くす
いつもは和やかな気分になる笑みがこんなにも怖い。
「…心配しなくてもいいよ?ライ。」
ライのズボンをずらしながら、コーラルは再び、耳元でささやく。
「貴方がしたいこと、ボクがたっぷりしてあげるから…。」
「は…ぅ…っ。」
口が自由になるのなら今すぐ舌を噛み切ってしまいたいほどに恥ずかしい。
けれど竜眼の効果はまだ全然有効で、というかむしろ上書きされており、
ライは依然として、ドアに背中から寄りかかったままの姿勢で拘束されたままであった。
「お父さん?」
「う、くぅっ…。」
下半身から走る刺激に身を硬くして耐えることも出来ず、ライは声のままに悶える。
すでに自分のものはコーラルの手の内であった。
硬くなっているそれを、コーラルはなんてことなしに眺め、手で包み込んでいた。
少年だけあって、まだ剥けきってもいないそれは、
しかしコーラルの手には余るもので、先が顔をのぞかせる。
「コーラル、やめッ…!」
「ねぇ、ライ、聞いてもいい?」
彼の制止など聞かず、性器を握ったまま、コーラルはライに尋ねる。
先ほどの妖しい笑みはなく、顔は無表情。問いかけに、拒否権は最初からない。
「ボクのこと考えて、一人でしたりしたの?」
「な…なんてこと聞いて、うぅっ!」
「誤魔化すの、いけないかと。」
握った手にぎゅう、と力を込められて、ライが顔を歪ませる。
「ね…どうなの?」
「…してねぇ。」
ぷい、と顔を背けてライは答える。
コーラルは一瞬きょとんとしたあと、そう。とだけ短く答える。
「あ、あのなっ?コーラル。いくらお前の言うとおりだからって、
俺が、お前でそんなことするような奴に見えるのかよ?」
その反応がなんとなく誤解を招いてるような気がして、ライは再度噛み付く。
「…硬くしてるくせに。」
「あぐ…。」
たった一言の反論に、ぐぅの音も出ない。ライは、情けないなら何やらでがっくりとなってしまう。
だがコーラルの方は、そうでもなかったようで、無表情に僅かながらいつもの笑みが灯っていた。
「…でもちょっと嬉しい。」
「え、なら…うっ!」
少しだけ緩まる拘束。
一瞬だけ甘い考えが頭をよぎったが、
1秒もしないうちに訂正を余儀なくされてしまう。
「あ、うっ…!」
ライのを包み込んだ手が、指がゆっくり上へ下へとこすられはじめる。
「でもね、ライ、それじゃ嫌なんでしょ?」
「そ、そん…な。」
「言ったよね、してあげるって…。」
手の動きが少しずつ早くなっていく。
相変わらず身動きは取れないのに、下半身の感覚だけは残されていて、緩い刺激が、思考を痺れさせていく。
何より、コーラルが自分のものを愛撫しているという様が、ライを混乱させる。
「ふ…ぅっ…あ…、ほん…と、や、め…。」
「無理かと…。」
「あぅ…!」
根元から先端まで一気に、搾り取るように擦られる。
下半身から、背筋を這う刺激。ほかの感覚がない分、それは強烈なものになって、脳を犯す。
「だって、こんなにも気持ちよさそうだから。」
心の底から、満足したような声の色。
ぞくぞくとした表情を見せるコーラルを見て、ライは改めてこの子供が、嗜虐趣味であると思う。
(―――だ、ダメだ、流されるな。俺。)
押し寄せる快楽に何とか飲まれないように、ライは歯を食いしばる。いっそ委ねてしまえばいい。
そう考える思考を隅へと追いやり、一度やったように、
・・・…これと似たものを打ち破った事を思い出しながら、四肢に力を込める。
だって、こんなの絶対嫌だ。
自分はこの子の親なのだ。いつかは崩れてしまう関係でも、こんな形で無しになってしまうなんて認めたくない。
コーラルもきっとどうにかしているのだ。
そう、今すぐにでもこれを破れば元通りになる、そう思っていた。
次の瞬間までは。
「ぅあっ…!?」
ぴちゃり。
滑らかな手とは違う、水気のある、生暖かい感触に、思考は無残にも吹き飛ぶ。
力こめる為、刺激を抑えるために閉じていた目を開くと、
コーラルが、屹立したものの先端に、自分の舌先を這わせている所だった。
「ばっ…!何してんだコーラルー!?」
たどたどしかった言葉、麻痺した声帯がうそのように悲鳴を紡ぐ。
流石に驚いたのか、コーラルは目を丸くしてこちらを見て、答える。
「嫌い…?」
「好きとか嫌いとかじゃなくてだな…、コーラル!俺はお前の…げぅっ!」
「…。」
再び正面から魔力を浴びせられ、ライは悶絶する。しかも今までの中で一番強いといってもいい。
意識と視界が暗転するほどの一撃。くらくらする意識の中で、耳だけがコーラルの声を拾う。
「そう言うのなら…そういうふうに、して欲しい。」
「…え?」
あいまいな言葉の意味を、コーラルは説明しなかった。視線を逸らし、ライを見ようともしない。
「…何でもない。言っても、分からないから。」
いつか言われたことと同じような言葉を放たれる。
「―…するよ?」
言葉の意味を確認する前に、コーラルが再びライの性器に口をつける。
「ぁう…!」
「ん…れろ…ん。」
流石に口に含むのは抵抗があるのか、舌先で、先端をなでる程度のたどたどしい行為。
だが、それだけでライには十分すぎる刺激であった。
先ほど、手で擦られていたときの何倍もの感覚に、くらくらするどころか、頭の中を白く塗りつぶされる。
「ライの…おおきい…かと―…ん。」
その言葉に、熱を帯びた表情に、心臓がはちきれんばかりに鳴っているのが分かる。
痛いくらいに大きくなったものに、つたなく、懸命に奉仕を続ける、自分の子供。
色恋に疎いライにだって分かる、背徳的な光景が、理性を奪っていく。
いつの間にか、四肢からは力が抜けていた。
「ふ…あ…ちゅ…。」
どれくらい経っただろう、
尚もつたない口付けは続いている。
それ以上のことを知らないのか、怖いのか、コーラルは先端を舐めるより先に踏み込もうとしない。
もどかしいような、切ないような攻めは、
最初こそ鮮烈な刺激を伴っていたものの、緩急の無いそれは、
体が慣れてさえしまえば、甘い波になってライをゆるゆると蕩けさせる。
「あ、ぅ…コーラル。」
「…気持ち、いい?」
「お…おぅ…。」
「素直なの、いいことかと…。」
濡れそぼった性器にはりついて絡む髪をかきあげながら、微笑むコーラルはとにかく可愛かった。
ああもう、どうして四肢が動かないのだろう。
動くのなら今すぐにでもこの子の頭を撫でてやれるのに。
先ほどまでは別の目的のために動かそうとしていた腕を、今度はそんな目的で動かしたくなる。
そんな事をぼんやりと思っていると、コーラルが不意に口を離す。
自分の口にたれた唾液をぬぐうと、再びライのものを手だけで撫でる。
「っ…?」
「もう、大丈夫だよね…?」
「な、何が?」
たずね返すと、コーラルは俯く。撫でていた手を離すと、立ち上がり、そして。
「挿れるの、貴方の、ボクの中に…。」
自身のズボンに、手をかける。
「ぐっ…!?」
押しつぶしたような声、とはこのことを言うのだろう。
そして、一気に目が覚めた。
いれる?何を?否、この状況でどうするかなんてライも知っている。
「ね、いいよね?ライ」
布と肌が擦れ合う音がして、ぱさりとズボン、そして下着は落ちた。
今、コーラルが着ているのはぴったりとした上着だけ、
ギザギザにカットされた布の合間から、濡れたものが姿を見せる。
女性の、それだった。
「お前…。」
「…。」
コーラルは答えずにライの下半身にまたがる。
思い切って、腰を下ろせば、コーラルの割れ目のその中に、ライのものが入るだろう。
「ちょ、ちょっと待てぇ…!」
駄目だ。ここまでされておいてなんだが駄目だ。
ライは力の入らない体に、再び力を入れようと歯を食いしばる。
「ぐぁッ…!」
即座に竜眼をかけ直される。容赦が無い。
本気でこの子は、このまま自分を犯すつもりでいる。
冷や汗が流れる中、なんとかライは口を動かす。
「だ、だめ…だ、コーラル。」
「…なんで?貴方は、こういうことしたかったんじゃないの?」
冷ややかな目。何を今更といった物を言わない抗議。
「そう、かもしれねぇけどッ…!」
やましい気持ちがあったのは嘘ではない。
コーラルのことをそういう目で見て、そういう考えが頭をよぎったことも、やっぱりある。
だから、今の状況は、自分自身の気持ちよさとか、
そういう一点を見れば、委ねたってかまわない、そういう状況だ。
「けど、だめだ…。」
ぎり、ぎり…
血が通うような、火が灯るような、そんな僅かな感覚。
コーラルが大きく目を見張る。
「ラ、ライ…?」
「こ、このさいだから言っておくッ…。」
もう言ってしまおう。ここまで来た事だ、ライは腹をくくる。
四肢に力が戻ってくる。尚も拘束は続くが、手ごたえが、確かにある。
「や、やめ…!そんな無茶したら。」
制止の声。聞こえない、うるさい。これだけぎっちりかけた奴がなに言ってんだ。
「俺はなっ…コーラル。」
「お、お父さんっ…やめ…。」
「そういう風に言うな!」
びくっ、とコーラルの体が一歩引く。それと同時に、拘束も心ばかりか緩む。
まるでぜんまい仕掛けのおもちゃのように、ライの体が少しずつ動き出す。
―――いける、これなら。そう思った刹那
「がっ…」
びしり、と体に亀裂が入ったような感覚。激痛が走る、身悶えることは、出来ない。
出来たとしても、この子の前では、そんな姿は見せたくない。
「お…おとうさ…。」
「だから、さ、コーラル。そういう風にいうなって言ったろ…。」
「…え。」
「コーラル、俺さ…。」
ああくそ、腕が動かない。伝えたいのに。伝えて、こいつの頭、撫でてやりたいのに。
せめて顔だけでも、ゆっくりと上げると、今にも泣きそうな顔のコーラルが、視界に入った。
―――ったく、俺は馬鹿だ。
言いたいのなら、言ってしまえば良かった。こんな風になる前に、いっそ素直に。
「ごめんな。俺…お前が、好きみたいだ。」
親子としてではなく、人と人として、恋とか愛とか、そういう感情の。
「…っ!」
「うおっ!」
とたんに、拘束が緩んだ、裂くような痛みは消え、力を込めていた分。ライは前のめりになる。
そのまま、ぽすん、と、いっそ勢いのまま、コーラルを抱きしめる。
「好きだぞ…、コーラル。」
「…おとうさ…ん。」
「だーかーら、そういうなっつったろ、何度も言わせんなよ。」
ぽんぽん、と頭を撫ででやる。
「…そう呼びたいのなら、別にかまわねぇけどよ。」
「う…えぐ…ひくっ」
自分の中に預けられた小さな体が、震えだす。しゃくりあげた声はやがて大きくなって
「ひっ…うぇええっ…ひっく…ライっ…ライぃ…。」
とうとう、泣き声になる。
「う…ぅう…貴方が、悪いんだから…。」
「お、おい…」
「貴方が…お父さんが、ボクのことずっと子供って言ってくれるなら、ひくっ…それでもよかったんだ。」
「…っ。」
そう、それならそれで良かったのだ。
自分の中の親子の枠を超えた淡い気持ちは、黙っておけば、
ライが自分をそう扱う限り、ずっと芽吹かないはずだったのに。
「ライが、ボクのこと、そういう風に見てくれてるって気づいて、うれしかった…なのに。」
あいも変わらない、行動とはまったく反対の子ども扱い。
ライがそういう目で見れば見るほど、コーラルの中の気持ちは大きくなっていくのに、
ライはそれを否定するかのように、振舞っていた。
「うっ、うええぇんっ…バカ…バカぁっ…。」
それ以上は言葉にならずに、コーラルはひたすらライの胸で泣きじゃくった。
「――…ごめん…ごめんな。」
本当に、自分は馬鹿だ。
こんなにも小さな気持ちに気づけないでいた。いや気づこうとしなかった。
それで、ここまでになってしまった、
気づいてやれば、こんな風に泣かせることはなかっただろうに。
本当につぶれてしまいそうな細い体。それを精一杯抱きしめて、ライは、コーラルが、泣き止むまで、そうしていた。
「もう大丈夫か?」
幾分かの時間がたって。
ライが差し出したハンカチでコーラルはおもいっきり鼻をかむ。
二人は今ベッドのはじに腰掛けている。お互いに服は着なおし、流れてる空気も、穏やかそのものだった。
「うん…平気、かと。」
「ならいいけどよ、なんか飲み物もってくるか?」
そういってライが立ち上がろうとすると、その裾を、コーラルがぎゅっと握る。
「いい、おとう…貴方と一緒の方がいい。」
「…そうか。」
中腰になった自分を再びベッドにへと戻し、ライは前を向く。
少しばかりの沈黙
「…体、大丈夫?」
「ん、ああ…平気だぞ。っていうかお前がかけたんだろうがよ?」
「だから、心配。ごめんなさい…。」
しゅん、とコーラルが肩を落とす。そんな彼女をみてライはふう、とため息をつく。
「まぁいいけどよ、そもそも俺が悪いんだしな。」
「…うん。」
「…ちょっとは、否定しろって。」
思わぬ肯定に、ライはがくりと肩を落とす。まったく、この子は本当に容赦ってものがない。
「…しかしさ、お前、女だったんだな?」
ふと、思ったことを口にする。先ほどの光景を思い出すのは恥ずかしいことこの上なかったが。
コーラルを見ると、それは彼女も同じだったようで、顔を真っ赤にして、俯いている。
「ボクなんていうから男かとおもってたぞ?」
「別に、ボクはどっちでもない…、お父さんが、こっちのほうがいいって思ったから、
人の姿のときはこうしてるだけだよ?」
「つまり、最初から性別ないってことか…。」
「違う、いらないの…ボクは、至竜だから。」
少しだけ寂しそうに、コーラルは言う。
そういえば御使いの誰かが、至竜は生殖行動で子孫を増やさない、
とか言ってたことをライは思い出す。
そりゃ当然いらないのも道理である。
「…お父さんは、男の子のほうが好き?」
「…いや、流石にそれはないぞ。」
ライは首を振る。
あのとき目の前で脱がれたとき、自分の目の前に現れたものが自分と同じもの、
とか考えるとそれだけで気分が暗くなる。
「…両方もできるよ?」
「それはもっといい…。」
げんなりとした顔で答える、両方ってなんだ。ライにはまだ想像がつかないことであった。
また、お互い一言もしゃべらなくなる。
「…あの、ライ。」
「ん?」
「続き、しないの?」
「…え?」
一瞬言葉の意味が分からなかった、
続き。続きって事はつまり、さっきの行為の続き。
それはつまり…。
思考がまとまる前に、コーラルがぽすん、と体を預けてくる。
力も入れていない、本当に自然に、ぽすりと、ライのひざに収まる。
くい、体をねじりながら、自分を見上げてくる。
その様は、今日見たどの表情よりも、可愛く殺人的なものだった。
ごくり、とつばを飲む音が、異様に大きく感じられる。
「…ボクは、いいよ?」
ライを見上げたまま、コーラルは言った。
どくん、どくん、どくん。
心臓が鳴る、さっきまでとはまったく違う理由で。
自分のひざに収まるほどの小さな身体。憂いの色とは裏腹に紅潮した頬。
期待と不安に潤んだ目は、退くも進むも貴方次第と、
しかしそんな姿の前に、選択肢なんてものは存在しなかった。
「ったく…、本当にお前は卑怯だよなぁ。」
緊張と照れで赤くなる顔を隠すようにライは顔を逸らし、
わしゃわしゃとその銀の髪をかきむしる。
こんな可愛らしいおねだりをされて、どうかしないほうがどうかしてる。
「ずるいのは、お互い様かと…。」
くすり、と膝の中でコーラルが微笑む。
もっとも、ライの場合は天然で、コーラルの場合は作為的という違いはあるのだが。
「そうだな、ったく…。」
そんなことは気にしないで、ライは笑い、コーラルの頭を撫でてやる。
「ん…。」
くすぐったそうに、コーラルは目を細め、そして猫のように手に擦り寄って甘える。
そんなこの子を見るだけでなにか満たされる感じもするが。
「…また大きくなってる。」
「う。」
コーラルの言うように、ライのそこはまた大きく張り詰めていた。
出していないのだから当然といえば、そうなのだが。
「また…舐める?」
「いや、流石に、もういいぞ…。」
直球で聞かれて一層赤くなる。
「っていうか、お前あんな事どこで覚えたんだよ。」
すこし聞きたかったことを聞いてみる。
肌を重ねるには、まだ少し心が落ちつかない。
「…何処って…ここ。」
そういってコーラルは自分の頭を指す。
――つまりアレか。継承した記憶の中に混じっていたと、そういう事か。
「…なんかお前の本当の親像がちょっと崩れた気がするぞ…。」
ライのイメージでは、コーラルによく似た女性で、
気品がああって清楚で儚そうな、そういうイメージがあったのだが…。
「子供のボクに欲情してるお父さんにいわれたくないかと。」
小悪魔の笑み。ライは再度がっくりとなる。
…ああそうですよ、俺は自分の子供に今から
――知識だけでしか知らないけど――あんなことやこんなことしようとしてる親ですよ。
「しょうがねぇだろ…、お前の事、好きなんだからさ…コーラルは嫌なのかよ。」
「ううん。」
即答だった。撫でる手を自分の手で包み込み、ライを、を見上げ、コーラルは言う。
「大好き。貴方も…貴方にもらった名前も…。」
そして、ライの膝の上に座る。彼は複雑な表情をするけれど、それでもいい。
この人のこれは、照れ隠しだって知ってるから。
「…ばかやろ。」
やっぱりライはぶっきらぼうにそう言って、それでもゆっくりと抱き寄せてくれた。
やがて、どちらからともなく、唇をあわせる。
「ん…っ…。」
「は…ら、ライ……んっ!?」
コーラルは口の中の異物感に驚く。生暖かくて、柔らかいとも硬いともつかない妙な感じ。
口内を這おうとするその何か…
(これ…舌?)
「ん…んぅっ…!」
逃げようともがくが、ライに後頭部をしっかりと抑えられてしまっているために、それも適わない。
「は、あぅ、は…。」
苦しい…頭がぼうっとする。
入ってくるそれをどうにかしようと、いつの間にかコーラルも、舌を動かす。
「ふ、あ、くちゅ…」
「ん…む、ぷ、ぁ…。」
唾液と唾液が混じり、粘った水音を立てる。
舌と舌が絡み合い、ざらりとした感触が、お互いの舌を這う。
甘い。味覚で感じないのに、頭がおぼろげとそう感じる。
脳が痺れる、すごく気持ち…良く、て…―。
「ふ…あ、ぷはぁっ…。」
ようやく、唇が離れて、コーラルは大きく息を吐く。
「――…舌入れろって最初に言ったのはお前の方だからな?」
「あ…ふ…。」
「コーラル…?」
ゆらり、とコーラルの身体が傾ぐ。それをあわてて抱きとめて、ライは初めて、この子の異常に気づく。
「…お、おい?」
「ふ…あぁ…ライ…?」
とろんとした目がこちらを向く。声と同じくぼんやりとした焦点。
「…な、なんか気持ち、いい…かと。」
「そ、そうか?」
「ん…熱い…。」
ぼんやりとした声。そして、なにを思ったか、自分のスボンに手をかける。
「お、い…!?」
「ん…。」
衣擦れの音も微かに、下半身を覆うものはあっけなく脱げてしまう。
ぽすん、という少し間の抜けた音の後に残るのは、
白い脚。そして、水気を帯びて照る女性の性器。
まともに見るだけでも、頭がくらくらするというのに。
「…いじって?」
「っ…!」
コーラルは、完全にライに身体を委ねていた。
くたりとした身体。服の隙間から見える秘裂は、
良く見れば、何かを求めてひくついている。
「〜〜〜〜〜ッ…く、そ。」
本当に正気を失いそうだ。自分の中の獣が、舌なめずりをする。
犯してしまえ、本能のままに、この子を食い散らしてしまえと。
最初のキスで主導権を握ったと思っていたのに、
あっという間に逆転をされた気分になる…勝ち負けの問題では、無いのだけれど。
「…どうなっても、しらねぇからな!」
自分へと言い訳をして、ライはおそるおそる、そこに指をあてる。
それは、触れるというよりは、おっかなびっくり、
得体の知れないものを確かめるといった感じのものだったが。
「はぅっ…!」
びくん、とコーラルの身体が跳ねる。
息が一層荒くなって、ライの服が握り締められる、ぎゅう、と音がしそうなほど。
「ラ、ライ…っ、ボク!」
ぷつん
(ああ、もう――チクショウ。)
「コーラル…っ!」
「ふあっ、あ、あうううううッ!?」
もうまどろっこしい事なんてやってられない。今すぐ食べたい。
勢いのままに、指を差し込む、
中はやっぱり濡れていて、肉の感触が、生々しく絡み付いてくる。
「あ、あ、あふ、ひゃああああんっ」
かき混ぜるように、劣情をたたきつけるように、ライは指を動かす。
身体をくねらす、コーラルをもう片方の手でベッドに押し付けると、
膣を攻める指の動きは一層激しくなる。
「ひゃ、ひゃうんっ!だめっ、だめぇっ!」
駄目とか、知らない、聞こえない。
さっき散々あんなに、誘惑して、竜眼までかけて。
自分だって、それくらいしたいんだ、いや、してやる。やってやる。
「は…、はぁっ…!コーラルッ…コーラル…っ」
「ふぁ、あ、ライっ…く、ぅんっ…ふ、ひゅ、ふええっ。」
指が蜜をかき回して起こる淫猥な音。
涙目が、泣きを含んだ声が、自分の下で快楽にもがくコーラルの姿が、
ライをさらに駆り立てる。
中で指を折る、かき混ぜるようだった指の動きはこするように、ひっかくように変わる。
「ひにゃあああああっ!?」
コーラルとは思えないくらいの声が上がる。
伸ばしてきた腕が、ひどい力で、ライの背中を抱く。
「や、やぁっ…やだぁっ…!な、なんか、なんかく…んむっ!」
再び唇をキスで塞ぐ、舌を絡めて、言葉を奪う。
離せば糸を引く唾液が、口に張り付いて冷たいものを残す。
「ライ、ライ…ッ、ボク、も…ふぅにゃあんっ!」
「駄目だ、まだ、いれてもいないんだから…!」
イくなんて駄目だ、もっと、貪りたい、もっと、もっと、もっと。
欲望が流れるままに、ライはコーラルの服に手をかける。
「…この、服、邪魔だよな。」
「ふぇッ…やっ…だめ、だめだよっ!」
制止など聞こえない。ぐい、と引っ張ると、
驚くくらいの脆さと予想以上の音で、コーラルの服は裂けてしまう。
「あ、あ、ああ…ぅ。」
肌が露になる。少女とも少年ともつかない、
まだ女の兆しも出てないくらいの平面な身体。
それでも、その絹のような美しさは、ライを魅了する。
息を呑む音、その一瞬だけ、あれだけ激しかった彼の動きが、思わずに静止する。
「…。」
「だ、だめ…触っても、たのしく、ない、かと。」
嵐の前の静けさというのは、こう言うことを言うのか。
たった一拍の静寂。
コーラルの言葉が引き金になったように、
ライの中を、再び言い表しようの無い劣情が支配する。
犯したい、犯したい、犯したい、犯したい、犯したい、犯したい。
味わいたいとか、指で苛めるとか、そんなのどうでもいい、どうでもよくなった。
挿れたい、このズボンの中で張り詰めてるこれを、挿れて、もう――――。
「わああああっ!?」
コーラルが腰を持ち上げられて、悲鳴を上げる。知識はあっても、経験が拙い自分でもわかる。
お父さんは、ライは、このまま――。
「…っ――そんなのやだぁっ!」
快感で散り散りになった身体に力を込めて、コーラルは、一瞬、ほんの一瞬。
ライと目があった瞬間、その瞳にありったけの魔力を叩き込んだ。
…目が覚めると、思った以上に低い天井。
――――頭がくらくらする、なんだ、どうしたんだっけ、俺。
「けだもの…。」
声がする。その方向に頭を向けると、
なぜかタオルをローブみたいに羽織ったコーラルが、視界に入る。
「コーラル…?」
名前を呼んでから、思い出す。竜眼を食らったその瞬間を、
そして、その前の情事というには余りにも乱暴な行為を。
ひどいことをした。
コーラルがタオルを羽織ってる理由も、
やけにはっきりしだした頭でなら、理解できる。
「…悪い。」
「…。」
謝るが、コーラルは答えない、
ぷく、と頬を膨らませ、ライをにらむばかりである。
しかしそればかりではラチがあかないと思ったのか、タオルに顔をうずめ、応える。
「…貴方が、あんなに積極的だなんて思わなかった。」
「俺も、意外…。」
ライもぽつりと返す。
あれだ、我慢してたから、それ分爆発してしまったとか、
そういうやつだろうと言いながら、自分で自分を納得させる。
「ひゃ…!」
「それにな、俺は別にそれでもかまわねぇって。」
寝かそうと肩を押すと、抵抗はなかった。白いシーツの上に裸体が横たわる。
ようやくベットの真ん中で出来ると、ライはそんなどうでもいいことを思う。
「いいの…、ほんとに。」
「ああ、いいからさ、な?」
念を押すと、コーラルはようやく安心したようで、にこりと笑う。
「…ばか。」
いつもの物言いに、思わず顔がほころぶ。
「ったく。満足したか?」
「もうひとつ…ボクも、貴方の、裸…見たい。」
言われて気づく。自分が着の身着のままだということに。
流石にこれでは不公平だ。
あわてて脱ぎ、コーラルと同じ姿になる。
覆いかぶさり、相変わらず硬さを失っていないそれをあてがうと、
流石に自分の心臓の音が耳元で聞こえる。
「――…勢いのまま入れたほうがよかったかもな。」
「緊張…?」
「っ…するぞ…。」
息を大きく吐く。そしてもう一度吸う。
思い切って腰を前に出すと、驚くくらいに抵抗は無かった。
「ん、あ…。」
「う…くっ…!?」
けれど一瞬で、焼けるような熱さと絞り出すような締め付けに変わる。
「あ、はぅ、う、んんんんっ!?」
それはコーラルも同じだったようで、
ぎゅっと目を伏せ、挿入の痛みに耐える。
「つ、あ…コーラルッ…。」
大丈夫と思ったのに。
穏やかだった心が途端に、先ほどの状態にまで引き戻される。
ひどい波、奥まで挿し入れると、火がついたように身体の中まで熱くなる。
「ライ、いいよっ…ボクなら、大丈夫、だからっ。」
「お…おぅ。」
促されて動き出す、少し動かすだけで肉が、蜜が絡む。
その度に、気を失いそうなほどの熱と快楽がライの意識を襲う。
気を抜けば、すぐにでも、果ててしまいそう。
それでも、なんとか正気を保って、動かす。
コーラルが気持ちよくなれるように、何とか自分が暴走しないようにと。
「は…ふっ…ライぃ…。」
「コーラル、気持ち、いいか…?」
「なんか、じんじんする…。」
はぁ…、とコーラルが甘い息を吐く。
この子を抱いている、こうなっている今でも信じられなくて、くらくらする。
「んっ…ライ。」
むず痒いのか、身体をよじりながら、コーラルがライを見上げる。
「どうした?」
「―…大好き、愛してる。」
かなり背伸びした言葉、口にするにはまだまだ自分は子供で…。
それでも伝えたかったから、コーラルは言う。
「…ばかやろ。」
ライはやはり、笑うとも、怒るともつかない顔で、それに答えた。
そして、何度かの後、二人は、甘い熱の中で、果てた。
鳥の鳴き声が聞こえる…
『こーらー、ラーイー、おーきーろぉーっ!』
そして、その中に混じるいつもの声に目を覚まされる、
むくりと起きると、ゴツリという衝撃が頭に走り、視界に星が飛ぶ。
ああそうだ、昨日はあのまま寝て、ここは二段ベッドの下のほう…。
「いってぇーッ…!」
「おはよう、ライ。」
痛みにもだえてると、笑いを含んだ挨拶が頭上から振る。
「…おう、おはよう、コーラル。」
「今日はボクが先…。」
そう言って、少しだけ得意げに胸を張る。
そんなコーラルが、いつもと違う服を着てることに気づく。
「それ…俺の古着。」
もっさりしたフード、オレンジを地にして、白のラインを走らせた、ライのお気に入りの服。
ややサイズは大きめで、袖が余っているようだが。
「ボクの服、昨日貴方に破かれたから…。」
抗議する目で、コーラルは言う。しかしすぐに照れ笑いに変わり。
「…似合う?」
「…おう。」
ライはこくり、と頷く。
『ラーイー!?コーラルー!?』
「いかないと、お父さん。」
「…だな。」
ライは立ち上がる。
着替えて、部屋を出ながらライはコーラルにおどけて言う。
「んだよ、昨日のあれは嘘かよ。」
「何…?」
「子ども扱いするなって。」
「…ボクは、ライの一番で、貴方の子供でいたいから。」
さも当然、という用にコーラルは答え、そして、ライの手を握る。
「欲張りだよな…ったく。」
肩をすくめ、ライは空いた手で、コーラルの髪をわしゃわしゃとかき回す。
「じゃ、行くとするか。」
「…うん!」
これ以上あの二人を待たせることは出来ない、
なんていったって、今日は休日なのだから。
「よし、遊ぶぞー!」
「…はしゃぎすぎるのは、駄目かと。」
ライの気合と、コーラルの釘指す言葉を残して、部屋のドアが閉められる。
開け放したままの窓からは、春風が吹き込んでいた。
■エピローグ
この語録は、トレイユ宿場町での隠された伝承の一つである。
史実であると言われた話なので事実ではない・・・。