【物語は】ETERNAL FANTASIAU:2【続く】

このエントリーをはてなブックマークに追加
172レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2007/01/30(火) 13:52:05
一体どんな気持ちでアーシェラはこの歌を唄っていたんだろうか…
演奏しながらアタシは、ぼんやりとそんな事を考えてた。
優しい歌詞に秘められた叶わない夢に向けた憧憬の念、やっぱりあの人は分かってたのかな…
こうなる事が…いつまでも続く平和なんて無いんだって事が…
そう考えたら、なんだか無性に悲しくなってきた。
同時に自分がいかに甘い気持ちでいたかを、痛いくらい思い知らされる。
「必ず、助けるよ…」
間奏の間に、聞こえないようにそっと呟く。
叶わない夢なんか無い。それをアタシに教えてくれた人を思い出して、勇気が少し湧いてくる。


あれは4年くらい前、季節は冬の終わり頃だったかな?あの人と出会ったのは。
とにかく変な人、第一印象はそんな感じの人だった。
「かーちゃんが言っていた。天を司り、地を統べる男に不可能は無いと…」
店に入ってくるなり、意味不明な決め台詞と謎のポーズ。もうすぐ春だなぁと思ったっけ…
「あの…どんな御用件でしょうか?冷やかしなら死んで下さい」
「フッ、いきなり厳しいな。接客の応対に『死ね』とは…攻撃的ってレベルじゃないぞ?」
又しても謎のポーズ。ちょうどその日はアレで苛々してたから容赦なかったっけ。
「てゆーか、うざいから今すぐ死ね」
「コイツを直してほしい。この街で最高の職人がいると聞いて来たんだ」
無視された事にもカチンときたけど、その男が置いたリュートを見てアタシはキレた。
どうやってここまでボロボロにできるのか。ってくらいに傷んだ状態だったから。
楽器は命と同じくらい大切な物、それをこんなになるまで放置したこの男に殺意すら感じた。
「………ソレ置いて即刻消えろ、マジで目障りだから」

当時のアタシはキレやすい上に、喧嘩早いから気がつけば男の胸倉掴んで頭突きしてた。
もちろん盛大に鼻血を噴いて悶絶する男の横腹に、蹴りをブチ込んで追い撃ちをかける。
「いい蹴りだ…真っ直ぐで、全く迷いが無い」
「喧しいわ!てか迷うかボケ!!」
アタシとその男、タードとの出会いは世にも最悪な形だったんだよね……


「レベッカちゃん、晩御飯だって!早く行こう!」
向こうでパルが目をキラキラさせながら手を振ってる。
早く行かないと、アタシの分まで食べられちゃうね。ダイエットの事は暫く忘れようかな…
173イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/01/30(火) 14:59:15
ずわんと、地面がたわむ。
高波による地響きではない。騎乗したリオネの第一歩目によるものだ。
サリアの街の南門から打って出た勇壮なる一騎は、それほどに巨大で力強かった。
主人の深蒼の鎧をより一層濃いものに見せる、迫力に満ちた湯気立つ赤銅色の馬体。
地割れから噴出した灼熱の奔流のような鬣。
そして目、穏やかな草食動物のそれとは思えぬ、血に飢えた血の色の目。
英傑リオネ・オルトルートは、この愛馬にデス≠ニいう名を付けた。
戦場で最も多くの死をもたらす存在ゆえにである。

馬の名は死=B
ならば、その背に乗るのは死神か?

「我が刃達よ!!」
いや、軍神であろう。
「我が誇りたる一矢一矢よ!! 度重なる敗退を耐え忍び、よくぞここまで研ぎ澄ました!!」
高波へと歩を進めながら、リオネが吠える。
「よくぞ、この時まで引き絞った!!」
南門の内側には、彼女の率いる公国騎士団の主力一万騎が突撃の合図を待っていた。
負け戦が続いたにもかかわらず、一人として覇気の衰えた者はいない。
ただ射手を信じて己の鋭さを保ち続ける。
彼らはまさに、軍神リオネという弓に引き絞られた一万本の矢であった。

「反撃の時は来たれり!! ここより南へ中原二千里、脇目も振らず死あるのみ!!
ただ我が背中を追い駆けよ! ただ己が誇りを胸に進め! 常にリオネは、お前達の前を行く!!」
デスが止まる。
リオネが長槍《流墜星》を頭上に構え、旋回させる。
「今、道を開かん!!!」
まるで竜巻、余りの速度に円盤状となった槍から轟々と風が巻き起こる。
更に、もう一段、もう二段、人智を超えて槍が回る。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああ…………っ!!!!」
まさかと、見る者は思うだろう。
確かに、呼気猛々しく高波を迎えるリオネの姿は、不可能を可能とする神話そのものだ。
だが、まさかこの天変地異を……まさか、まさかと思わずにはいられない。
そして同時にしかし≠ニも。
槍の加速が仙域を抜け、神域をも抜け、リオネのみが抱く頂点に達する。
その怪異に驚きの唱和が上がった。
ただ荒れ狂う風だけを残して、回る槍が跡形もなく消失したのだ。
変わらずそこにあるはずなのに、リオネの手にあるはずなのに、誰の目にも何も見えぬ。
彼女は、不可視の旋刃を前方へと解き放った。

「武りゃ嗚呼ああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」

突き進むべき道は、天を衝く雄叫びと共に開かれたのだ。
174イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/01/30(火) 15:48:51
後世に残るであろうその偉業を、街壁の上から眺めるイアルコ坊ちゃま。
感心感激を通り越して、これはもう失禁物である。
「ハッハッハ!! イアルコ仮面の未来のワイフは凄まじいな! うむ、リングネームは《超巨大女竜巻&馬》とでもしようか」
動じた風もなく豪快に笑うトルメンタと、黙ってお茶を勧めてくるメリーを左右に唸る坊ちゃま。
割れた高波は、丁度サリアの街を避けるように流れていく。
流れきるのを待たずに、騎士団主力が出陣する。
ここから攻勢に転じようというのが、リオネの作戦なのだろう。
一見では馬鹿げまくった力技に見えるが、中々どうして知恵が働いていたりもする。

サリアの街まで退いたのは、迫る海のルートを限定するため。
そして、ここまでの散々な敗退ぶりは、すべて敵軍を油断させるための芝居だったのだろう。
いくら海を断つリオネの武威があったとしても、広大な中原で戦っては勝ち目は薄い。
彼女は引いて引いて引き込んでの、カウンターの一矢に全戦力を注ぎ込んだのだ。
「確かに、これしか手はないのう。……とすれば、この進軍は敵の本陣を叩くまで止まらぬか」
「左様で御座います。リオネ様は、三日三晩で中原を駆け抜けると仰いました」
イアルコの呟きに、背後で控えていた騎士が答える。
確か名前はジェマといったか、性別不詳の中性的な顔立ちの若者である。
リオネとの繋ぎ役として傍に置かれた人物だが、まったくもって無愛想な奴であった。
不満そうでもある。
恐らくは、損な役を任せられたとでも思っているのだろう。
まあ、どうでもいい。
人から煙たがれるのは慣れっこのイアルコであった。

「さあて、では我らも行くとするかの?」
「かしこまりました」
「ようしっ! 子羊達に愛と暴力を教えてやらねばな!」
「何処へと?」
自身は馬に乗れないのでメリーの背中に飛び乗るイアルコに、ジェマは無表情に尋ねる。
「女のケツを追いかけるのは好かん。しかし待っているのも退屈じゃ。ならば、存分に引っ掻き回してやろうと思っての」
信仰する軍神を女と言われたことに眉を動かすジェマ。悪戯小僧の顔をするイアルコ。
「ま、お前は黙って余のケツを追っかけてこい」
「…………」
「退屈はさせん。それどころか、主人の助けになるやもしれんぞ?」

こうして、三騎と四人の別働隊は血生臭い中原へと発ったのである。

……あれ? ジョージどこ?
175アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/30(火) 23:14:13
会議の夜から二日目の夜。
そして進軍を開始してから初めての夜。
女だって知られた私は、ソーニャさんと一緒に女性仕官用テントにいた。
他にレニーさんやギルビーズさん達もいるはずだけど、今はいない。

「ロイトンで会ってから二週間も経っていないけど結構伸びたねえ。ぼさぼさ髪をこうするとすっかり女の子じゃないか。」
「あ・・すいません・・・おお女の一人旅はきっ危険、だから、、僕が自分で切ったんです・・・。」
ソーニャさんに髪を梳いてもらいながら、たわいもない会話が続く。
もう女だって隠す事ないから【僕】は止めてもいい。っていわれたけど、島を出るときに自己暗示をかけているから一年くらいは
解けないって応えたら「念の入った事だ。」って笑ってくれた。
私も一緒に笑い声を上げていると、ソーニャさんの声色に真剣みが帯びた。
「なあ、アビサル。ロイトンでなし崩しに連れてきちまったけど・・・あたしらはこれから今までよりももっと大規模な戦争に入って
いくんだ。
今日は何事もなく行軍できたけど、明日からはそろそろ散発的な遭遇も出てくるかもしれない。
だから・・・もし、その、なんだ・・・」
ソーニャさんの言いたい事はわかる。
私の後ろに立っているので表情は見えないけど、私の頭に置かれた手からその感情は伝わってきた。

「ぼ・・僕は・・僕たち一族はずっと星を観測してきききました。
星を見て地上で何が起こっているのか、みみみんな把握、してきたんです。
でででも、実際に触れた事はな、なかった・・・んです・・・。僕が旅に出たのは、実際に・・・触れてみたかったらか・・・世界に!
ソーニャさんとの出会いも、い、い、今ここにいることも僕の目的にあっているんです・・・。
そ、それに、最近気分はいいんです・・よ。おおお肉も一杯食べられるし・・・えへっ。」
あの日から私の眠りは浅い。
どんな夢を見ていたのかは全く覚えていないのだけど、毎晩うなされているらしい。
鏡を見て自分でもやつれ具合がよくわかる位だから。
ソーニャさんが心配するのも尤もだと思う。
そんなやつれている身体とは裏腹に、私の気分も体調も日に日によくなっている。

世界に渦巻く夢のような歓喜、身を焦がす憤怒、極上の悦楽、比類なき哀切。
それらが坩堝のごとく渦巻く戦場に近づくにつれ、その深淵を呼吸するように私は高まっていく。
もちろん、これを自覚するのはまだ先の話だが・・・。

「そ・・う、か。ったく!毎日毎日この小さい身体にどれだけの肉が消えているんだい!?
きっちりあたしの側にいてはぐれるんじゃないよ!」
ソーニャさんの声が一瞬沈んだ気がしたけど、すぐに明るく乱暴に私の髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜて笑い声を上げる。
私も転がって笑っていた。

#####ソーニャの回想##########

ルフォン領事館会議室。
リーヴが部屋を出てしばらく後にレオルが話題を変えるようにソーニャに尋ねる。
「アビサル、ですか。彼・・・もとい、彼女は?部屋で寝させている・・・結構です。
【炎の爪】殿。彼女とはどこで知り合ったのですか?」
「ン?ああ、ロイトンで海賊に絡まれていたのを助けてね。そのままなし崩しに連れてきちまったんだ。」
「そうですか。それはよい拾い物をしましたね。」
急な質問にその意図がわからず、とりあえず答えるソーニャだが、【拾い物】という表現に柳眉がピクリと動く。
不穏な粒子が部屋に漂い始めるが、レオルは気にする様子はない。
「情報は色々錯綜しておりますが、報告書、兵達の証言、そして私の見たことを総合しますと、グレナデアを一機破壊
したのは彼女の力です。
それだけでなく、宿営地を夜襲した新型ゴレム、ハイドラ、ですか。アレを一機、そして夜空に【炎の爪】殿の巨大映像を
浮かび上がらせたのも彼女の術ですね。」
「・・・何が言いたいんだい?」
炎を宿す瞳の質問を氷原の様な瞳で受け止め言葉を続ける。
176アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/01/30(火) 23:14:27
「私がなぜ彼女を救出したか、ご理解できていませんでしたか?
彼女には大きな力がある、という事ですよ。
その反面、肉体的には脆弱で、精神的には不安定です。どなたかの行き違いと勘違いで今現在寝込んでしまっているように、ね。」
鋭く細められた目がジーコに向けられると、ジーコは小さく咳払いをして視線を外した。
「彼女には私達王国騎士団やレジスタンスように忠誠心も公国への敵対心がない。あなた方レジスタンスのように金銭
的繋がりもない。
つまるところここにいる理由がないのです。
そのような不安定要素は戦略的に困り者でしてね。
しかし、あなたにはよく懐いているようだ。ですから・・・」
「あたしにアビサルを操縦しろって言うのかい?」
「不思議ですね。何かご不満のようだ。あなたが彼女を連れてきた時、こうなる事は想定しなかったのですか?
まさかご自分の立場を忘れピクニックにでも誘っていたつもりで?
・・・よろしいですね?もちろん私もできる限りの協力はいたします。」
感情的に割り切れない事があったものの、拒否する理由も見つからず、レオルの提案を呑むことになる。
その後部屋を出て、アビサルを引きつれ兵器格納庫で小芝居を繰り広げる事になるのだった。

#####################################

明けて翌日。
レオルの行動は早かった。
現在ルフォンのには王国騎士団、レジスタンス部隊群、傭兵隊に分けられる。
元々グレナデア奪取のために集まった戦力なので、それが失敗に終わった今、レジスタンス部隊群や傭兵隊は王国
騎士団の指揮下から離れている。
レオルは迅速な決定を期待できない騎士団を切り離し、【運命の牙】を隠れ蓑に部隊再編成を行ったのだ。
名目は【リッツの弔い合戦】という事でレジスタンス部隊群をまとめ、破格の報酬を提示し傭兵部隊を買い上げる。
「裏帳簿というものはこういう時の為にあります。」
事も無げに言い切るレオルにジンレインが目を輝かす。
公国の識別信号コードや、広域チャフなどを売り込んでいた。

#######################################

そして更に一日。今日の朝。
ロックブリッジを目指してレジスタンス部隊が出発をする。
部隊に割り当てられたのはズィーカタイプ10機と兵員輸送用の大型パンツァータイプをあるだけ。
ゴレムは王国にとっても貴重な戦力である。
特にズィーカタイプとなるとなおさらだ。
それをこれだけ割り当てたのもレオルの手腕といえるだろう。
「アルト様に【進言】してなるべく早く私達も向かいます。それまで時間を稼いで頂ければ結構です。」
「露払いだけして満足するような奴はいねえからな。早くこねえと出番はねえぜ?」
朝日に照らされながらレオルとジーコ、好対照な二人が別れを告げる。
「出発します!」
先頭のゴレムから呼びかけるレニーはこの一行に加わった数少ない王国騎士の一人だった。

大切なものを取り戻す為、生きる為、報酬の為、過去へと決着の為、復讐の為、導かれるままに・・・
兵士達とともに様々な思惑も乗せてゴレムは駆け抜ける。
目指すは決戦の地ロックブリッジ!
177ジンレイン ◆LhXPPQ87OI :2007/02/03(土) 19:28:46

ルフォンの基地が背後に遠ざかる。私たちの乗ったゴレムは、シャミィの運転で隊列について行く。
あの雪山で使ったゴレムより大型で、搭乗スペースも広く確保されてはいたが
後部座席が私の荷物とシャミィの銃――修理を終えた「霜乃武」、そして「ノルスピッシィ」の二挺に占領されてしまい、三人乗りに。
「まんまと釣られたの」
シャミィは何かにつけ皮肉じみた物言いをするものの、私の決断に反対らしい反対は一度もしなかった。
王国騎士団のレオルは何処か得体の知れない男だったが、金払いに関しては信用出来る。
勘が外れてしまえば丸損だが、どの道いつでも勘が頼みだ。
「あの男、軍閥でも作る気かの」
「かもね」
レオル・メギドの、美しいが味も素っ気も無い、能面のような顔を思い起こす。
あの男の表情はパターンに乏しい。私が知る限り、張り付いたような無気味な微笑、或いは完全な無表情の二種類だけだ。
狐目の中で時折微かにぶれるだけの瞳が、あくまで腹の底を見せる気は無いとあからさまに物語っていた。
ああいう目をした人間は必ず一角の人物で、相手をするにも油断がならない。
まるきりの愚行に走る心配が要らず、その点は安心でもあるのだけれど。

それになまじ学のある人間より、一本気な馬鹿の方がかえって何をするか分からない。「炎の爪」と、消えた死体の事だ。
「『白い牙』の件、シャミィはどう思う?」
「噂の力がネクロマンシィ(死霊占い)に使えるものか、私の知識の埒外だ。分からんの。
ただ、私もニャンクスだからという訳ではないが、獣人の戦士とやらがどうも気に罹る」
「そうね――傭兵殿は?」

私の隣、兵法書を被って寝た振りしていたジョンが身を起こす。
「……宅かて傭兵やないけ。大体それ、ワイなんかの横でくっちゃべってええ話題とちゃうやろ?」
彼が私たちのゴレムに乗り込んでいるのは
あのような事があった後でジーコやソーニャと同乗するのは気まずかろうとの、シャミィの計らいによってだ。
私を流し見てせせら笑う傭兵ジョン・リーブ、いつかは驚く程に良く回った舌鋒も今朝は重たい。
金、実質、現実と口にしておきながら自らも感情的になる辺り、主義の徹底は難しそうだ。
私はシャミィとは違って守銭奴に特別の興味は無いが、別の理由で相談しておきたい話題があった。
「一昨日の晩、シャミィがあなたに話しちゃったんでしょ?」
「そやかて……」
「私の代わりに報酬の話を出してくれたから、お礼よ。あなたに悪役を買って戴いて助かったわ」
「嫌味なやっちゃ」
会話を求められているのを悟ってか、ジョンが目隠し代わりの本を後部座席へ放る。私は話した。
「同業者として、ある程度までは切り札を共有しておきたくてね。
彼の裏金の源泉にも当たりを付けようとしてる最中なの。クライアントの懐を探るのは流儀に反するけど」
ジョンがにやりと笑い、傍目には朴訥そうな田舎者の顔に、狡猾の色を走らせる。
「そらそうや、ワイらにとっちゃ流儀の先にそもそも御法度やで。
で、女傭兵。どないな訳でもって、アイツのハラ探っとるんかいな?」
一瞬答えを考えあぐねたが、簡潔な説明は結局思い浮かばず、咄嗟の言葉で濁した。
「シャミィに同じ」
「獣の勘か」
良い解釈だと思った。今度は彼に尋ねてみる。
「あなたは? 彼の口約束は、危険に見合った額だと?」
「オッサンの前でああも大口叩いといて、あないな金額提示されたらもう辞めますとは言えんやろ」
「傭兵これ即ち金に釣られて走る狗、か」
「自分は違うとでも言うんか?」
「私はいつでも私個人の為の狗よ。その為なら偽善者にも、血に飢えた化け物にもなってみせるわ」
「あー、よう似合うわ、幾らでも『逃げ』の作れる理屈。女っぽいで」
「ありがとう」

話が終わったと見て、ジョンが座席に深く座り直す。
今度はバンダナを額からずり下ろし、目隠しにしようとしている。
「もうええか? ほな、お喋りは終いや。ワイは眠いさかい、もう変な話振らんといて」
「はいはい」
「それとな、アイツの裏金の調べ、難ならワイも一枚噛むで。ただこの仕事が一段落着いてからや。
この戦、大戦っちゅう他にどうもけったいな事が多い。今の世の中、道義ばかりでは喰っていかれんしな」
思わず横を振り返った。バンダナに隠れかけた彼の眼と眼が合い、何故か二人して呵々大笑する。
それからすぐに彼は眠った振りへと戻り、私もシャミィも休憩地まで口を聞く事が無かった。
178イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/02/06(火) 15:03:32
中原の大地を一万余の騎士達が駆け抜ける。
上空からならば、まるで一体の龍が天を昇るかの如く見えたであろう。
それは一糸の乱れも遅れもない、最高練度のみが成し得る鋒矢の陣であった。
先頭を行くのは、我らが女軍神リオネ・オルトルート。
「死ねええええええええええええええええええ!!! 死ねええええええええええええええええ!!!」
笑顔で雄叫び、一振りで十数もの武装した兵士を舞い上げる。
案の定、高波の向こうに陣を張っていた王国軍の気の緩みは甚だしいにも程があった。

無理もない話である。
この数ヶ月、圧倒的な海≠ニいう力の加護を受け、一兵も失う事なく勝ちを収めてきたのだから。
今回もそうだ。彼らは高波に浚われて抵抗する意気の挫けたサリアを楽々と占領するつもりだったのだろう。
死ぬ覚悟のない兵士達、指揮官達。そんな緩みは一目でわかる。
波を割った瞬間に、リオネはこの一矢の命中と貫通を確信した。

「リオネだ!! リオネがいるぞ! 討て! 討てぇい!! 誰でもいい! 討てば歴史に名が残るぞ!!」
後方で取り乱す千人長らしき人物の叫びに、リオネへの包囲は縮むどころか広がりを増すばかり。
槍を向ける歩兵達の顔は、わかりやすい恐怖の色で塗り潰されていた。
もちろん、王国軍も歴戦の集まり。混乱に流されるような雑兵だけではない。
自ら矢面に立って、士気の回復と大将首の手柄という一石二鳥を試みる者も、確かにいたのだ。

「リオネ!! いざ尋常に勝負!!」 「よし、死ねい!!!」
「一騎打ちだ!! 受けて立てっ!!!」 「未熟! 死ねいっ!!」
「おのれリオネ! この百人斬りのバルドが貴様の首を――」 「知らぬ! 死ねい!!!」

……だがまあ、いるにはいたが、そんな勇気ある者達は一合と持たずに血煙と化したのである。
この吹き荒れる武の嵐に、王国軍の誰もが思い、戦慄し、恐怖の虜となった。
これは、止まらない。
最後まで衰えず、中原南北二千里を踏破をしてしまうであろう、と。

「くそう!! リオネめ! あの雌竜めっっ!! 海は!? 海は使えんのか!?」
中原中央、ガルム要塞。
王国の旗がなびく屋上から遠眼鏡で戦況を眺めていた男は、この反撃に憤怒収まらぬといった調子であった。
中原の均衡を担う猛虎聖騎士団四万を率いる王国譜代の臣、ダズート将軍である。
「なりませぬ閣下! あのような乱戦の最中で海を使えば、御味方にまで被害が……」
かまわぬ! ……その叫びを呑み込むだけの分別はまだあったので、歯軋りするダズート。
「ならば、彼奴めに網を打ち掛けよ!! 対巨獣用のミスリル製の物があったであろう!?」
「それはもう最初に試みて、三十人の屈強な捕らえ手諸共引き千切られました!!」 「あいうえええ!!」
「狙撃だ! 弓矢でも大砲でもいい! ありったけをくらわせてやれば――」
「あの速度では、ロクに狙いもつけられませぬ!!」 「くきぃぃぃぃいい!!」
進退窮まるといったところか。
元より正攻法では勝ち目はない。だからこそ王国はあの海に頼ったのだ。
「ええい!! ならばならばならば…………っっ!!!!」
血走った眼をぐりぐりと動かし、ダズートは振り向いた。
「また……力を、貸して頂きたい」
彼の後ろに佇んでいた数人の異形の影へと、不承不承に言葉を紡ぐ。

ゼアド大陸の、特に内陸で暮らす者達にとっては余りにも縁遠い存在故に、怪物としか見えぬその者達。
数十もの種族に分かれて、まったく違う生態を持つに至った彼らを、陸の者はこう呼んで一括りにしていた。
水生種族――アクアノイドと。
179天馬を駆る者 ◆iK.u15.ezs :2007/02/07(水) 00:01:26
――大丈夫だから、目を開けてごらん。朝焼けがすごく綺麗だよ。
すごい……飛んでるの!?
不思議。空って一つだけなのに一瞬も同じじゃないんだ!君はどの空が一番好き?――
――全部。でも強いて言うなら……今みたいな空が一番だ。
天空を翔ける翼。それは幼い頃の憧れ、はるか未来への希望、かけがえのない相棒
そして……決して逃れられない罪の証。
空を、世界を知ってしまったから、そこにいられなくなった?
否、翼を持っていたから逃げ出した、それだけのこと。
“私を知る者”はもう誰もいない、それが私に与えられた罰。
だからせめて、“私が知った者”が、幸せに生きてくれる事をいつも願う……。

「知ってる?噂によるとゴレム狩りは人間の若い女の子らしいよ」
「マジで!?マジで!?」
「それに比べてうちの隊長ときたら……あれ、隊長は?」
「そろそろ出発の時間だというのに!」
「……起こしてきます」
こんな他愛も無い会話をしているのは、レジスタンスをしている庸兵隊《暁旅団》の人々。
見たところ何の変哲も無い普通の部隊だ。エルフばかりということを除いて。

「ムニャ……そのこには……ゆびいっぽん……ふれさせない……」
その隊長は、寝言のような寝言を言う。
「いい加減おきてください!」
そして、目覚まし担当の旋律士がアーリィバードを演奏するまで起きない。
演奏すること数分。ようやくもぞもぞと起きだして、出発したゴレムの一団を見て一言。
「……それじゃー私たちもそろそろいこーか」
この状況、どう見ても遠足に置いていかれた子供である。が、隊長は慌てる様子も無く
どこからともなく食パンを取り出してかじり始めた。
「そろそろ行こうかじゃないです!何してるんですか!?」
「見ての通り朝ごはんを食べ……あいたたた!」
目覚まし係は返事を聞かずに隊長の耳を引っ張った。
「分かったから、耳はやめて!」
さすがに降参したらしく、隊長は小さいベルを取り出して振った。
雪原に涼やかな音が響きわたる。
「おいで、シルフィール!」
呼び声に応え、舞い降りしは、一対の翼を持つ白馬……幻獣ペガサス。
透き通るような瞳に、純白の毛並み、空翔ける魔力を纏った翼。
その姿は、風の精霊にあやかった名にふさわしく、幻想的で優しい。
「今回は長い飛行になりそうだけどよろしく」
たてがみを撫でて優しく微笑み、騎乗する、この美しき幻獣の使い手は
美少年というべきか、美青年というべきか。太陽のような金髪とエメラルドの瞳をもつ森の民。
こうなると、口に食パンをくわえていることがとても悔やまれる。
そんな彼の後ろに、各自のペガサスに騎乗した部隊員たちが飛んできた。
「やっと起きましたか!」
「昼間旅団にでも改名したら?」
部隊員たちがからかっているのを気にも留めず、よく分からない号令をかける。
「それでは、わたくしセイファート隊長率いる《暁旅団》、出発しんこーう!!
任務はゴレム部隊よりも一足先に到着してロックブリッジ手前で公国軍をひっかきまわす!」
こうして、幻獣ペガサスを駆るエルフ達で構成された異色の部隊、《暁旅団》は
ロックブリッジに向かって飛び立ったのであった!
「あ!イチゴジャム塗り忘れた!」
『黙れボケ隊長!!』
隊員達の声が見事なハーモニーを奏でる!団結力は折り紙つきだ!
180名無しになりきれ:2007/02/10(土) 19:25:34
ホライゾンシュトローム!!
181雌伏の時 ◆9VfoiJpNCo :2007/02/12(月) 02:02:42
メロメーロの街。
未だ朝靄明けぬ早朝のこと、宿屋の息子は早起きして井戸へと向かった。
もちろん、家のために水を汲みにである。彼は誠実真面目な働き者なのだ。
あの謎の災害からおよそ半年、街はすっかりと昔のとまではいかぬものの交易都市らしい活気を取り戻していた。
宿にも徐々に客足が戻ってきている。
特に今度の客は印象的だ。恐らく、今まで一番の変わり者ではなかろうか?
「お〜〜う、少年! 孝行してるか〜? 親孝行はできるうちに存分にしとくもんだぞ〜!」
ついでに花壇に水でもやろうかと思っていたら、その印象的な客の一人がやって来た。
手拭いを首にかけ、傷だらけの逞しい上半身を顕わにした青年である。
「ああ、おはようございます、ギュンターさん」
「んおう、おはようさん! 顔洗って歯ぁ磨きに来た! 水くれ、水!」
「はあ、お水ならお部屋にお持ちしたはずですけど?」
「やだよ! せっかく井戸があるんだから! 朝一は気持ちよくザバババっと引っ被ってやらんと!」
そう快活に言って、歯磨き片手に両腕を広げるギュンターさん。
一瞬、何の意思表示なのだろうと口を開けた宿屋の息子だったが、すぐに思い当たり、汲んだばかりの井戸水を引っ被せてやる。
「サンキュ〜〜〜♪ 目が覚めるぜ〜〜〜え♪」
いつも元気一杯で、一日中物凄いハイテンション
とにかく黙っていれば生粋の男前なのに、信じられないくらいに子供っぽい人なのである。
「よ〜〜っし、そんじゃあお返しだ! 脱げ少年!」
「勘弁してください!」
「じゃあ、剣を教えてやろう! 一日で岩が斬れるようにしてやるぞ?」
「必要ありませんから」
「え〜〜〜〜〜!? 遊んでくれよ〜〜〜〜!」
これでも大の大人か……と呆れつつも、決して嫌いにはなれない。
それどころか、段々と心惹かれていく。
ギュンターさんは、そんな不思議な魅力を持った人であった。

……まるで子供だ。
宿の二階、客室の窓より井戸端で騒ぐ公王と少年を見下ろすクロネの面持ちは、風にそよぐ木の葉のそれであった。
「呆れるか、断龍?」
痛々しい包帯姿の男、カールトン侯爵がベッドの上にて淡々と訊く。
その左腕は、肘から先が完全に失われていた。
クラックオン達を封じ込める業火を作った代償だ。
「……かつて、龍人帝都で合間見えた時と余りにも変わらぬので……驚きはしたな」
「そうか、わしはどうだ?」
「とっくりと老けたにゃあ」
カールトンの年齢は人間にして五十程度。外見もそんなものだ。
だが、
「……奴は、そんな男と同い年なのだ」
公王ギュンターは、どう見積もっても二十歳がせいぜい。
「奴が生まれた時は大層な難産だったらしくてな。赤子の頃はよく熱を出して心配されていたそうだ」
だからかは知らぬが……そう言わんばかりに頭を振り、カールトンは誰にともなく言葉を紡ぐ。
「十歳、なのだそうだよ」
「……?」
「奴の精神年齢だ」
闘爵と呼ばれた男の、それは積もりに積もった悲哀であった。
「奴はその時から何も変わらぬのだ。そのままなのだ。俺と共に世界帝国やら統一国家やらの実現を熱く語り合った
純粋極まる情熱と理想に滾るガキ大将のままなのだ」
いっそ涙を流せれば、嗚咽の一つも漏らせたならば、どんなに楽になれるだろう?
「そんな男が、世界の覇者だと? 万民を導く王者だと?」
……だが、哀しみに溺れるには、夢を見続けるには、彼は余りにも強すぎたのだ。
「奴は……奴は、倒されねばならぬ男なのだ」

この空気の中、井戸端の無邪気な声は、耳に痛い。
……まだ、その時ではないな。
クロネはヒゲをそよがせ、ただ無言の背中で物語った。
182ST ◆9.MISTRAL. :2007/02/12(月) 17:39:59
そこは闇の中。僅かな光すら届かぬ真なる深淵。
2人の龍人は息を潜め、闇の先に“在る何か”を見据えていた。
「今ならまだ引き返す事も出来ます。本当に宜しいですか?」
そう問うたのはミュラー、公国軍元帥である。
その声色には、“その先に在る何か”に対する畏怖と、そして憧憬が混在していた。
「ずるいねぇ君は。そうやって僕様にブレーキをかけるなんてさ。とっくに引き返せない
 ところまで来ているにも関わらず、だ。ミュラー君、忘れたのかな?」
答えるはベルファー、公国随一の天才にして狂人。
闇の中でもしかとミュラーを見つめ、言葉を続けた。自分自身にも言い聞かせるように。
「この選択は必然だよ、ミュラー君。そして僕様は君の選択に乗った、これ以上に理由
 は必要無いだろう?“彼”は滅びなければならない。世界の存亡を賭けた選択だ」
ミュラーは無言でベルファーの言葉を聞いている。しかし、その表情は苦い。
「獣人も既に気付いているだろうしね、早い内に動かないと我々に未来は無いよ?
 これは我々龍人が始末しなければならない問題だ。奴らには譲れないからねぇ」
「そう…でしたね。申し訳ありません、私はまだ迷っていたようです。我々にもう時間は
 残されていないというのに。“祖龍”の目覚めはなんとしても阻止しなければ…」
奥歯を噛み鴫り、ミュラーは一歩足を踏み出した。
信じられぬ程の重圧、息をするのもやっとな存在感に2人は負けじと進む。

祖龍、アンティノラ。
6星龍の母であり、全ての龍の眷属がやがて還る生命の根源。
遥か古の闘争に於いて獣人の平和を、繁栄を、一夜にして焼き払った源初の龍。
其はここに在った。
幾星霜の眠りに入り、再び目覚める時を待っているのだ。
獣人が聖地と称し、禁忌とする封印の地で。
セフィラの央であり果てであり、“世界樹の主(リーヴ・スラシル)”へと至る門の向こうで。

唯々、待っているのだ。
愚かしい我が子らを再び焼き払うその時を。
その為に祝福を与えたのだ。
天を司り、地を統べる“力”を。今一度の破壊と再生を齎す、大いなる祝福を…

彼の祝福を授かりし者、金色の龍鱗を持ち、6星龍の眷属たる龍人と竜を束ねる龍人王…

その者の名はギュンター=ドラグノフ。
183サブST ◆AankPiO8X. :2007/02/13(火) 09:01:07 0
−−ジャジャラ遺跡崩壊直前
「どうしたのだメイフィム。ここはもう崩れ去る、急ぐぞ」
差し延べた手を振り払ったメイを、訝し気な顔で見るグレッグス。
「ゴメン、ちょっと用事があるから先に行ってて。私なら平気、いざとなったらアカマガを使うし」
ひらひらと手を振って「行け」と促すメイ。グレッグスは渋々ながらそれに従った。

彼女は十剣者の中でも最強と呼ばれる存在だ。
地上500mの空中都市に、置き去りにしたところで死ぬ事など絶対に有り得ない。
最初は自分を処断するために残ったかと思ったが、どうやら違ったらしい。
グレッグスも、その“存在”が遺跡内部に侵入したのを感知したからだ。
だがメイならば問題は無いだろうと、グレッグスはヒューアを追って外へと跳んだ。

「さてと、あなたは一体何者かな?このセフィラの《記録(レコード)》には載ってないけど」
倒壊を続ける遺跡の通路の奥に向けて、メイは声を掛けた。
その瞳は先程までの穏和な雰囲気は微塵も残されてはおらず、鋭く磨がれた刄の如く。
「だんまりってのは良くないよ。答える気がないなら・・・実力行使になっちゃうけど」
ゆっくりと腰の剣に手を伸ばす。

「あら暴力反対ですわ、剣者メイフィム。いいえ・・・“使徒”メイフィムでしたわね」
通路の奥から現れたのは、透けるような白い肌に、艶やかに映える漆黒のドレス。
カツ・・・カツ・・・と音を立てるは、大小様々な歯車の付いた、鋲打ちのロングブーツか。

その姿にメイは眉を寄せた。あまりに似過ぎたその姿。
先程のエルフの少女、確かパルスといったか。まるで鏡に写したかのような酷似。
唯一の相違点は耳の形だった。やや短いその耳は、ハーフエルフである証だ。
一瞬メイはパルスの縁者かとも思ったが、明らかにそれは違う。
何故ならば目の前の少女は、このセフィラに“存在しない筈の存在”だったからだ。

セフィラの《記録》とは、文字通り世界における全ての事象を余す事なく記録したものだ。
メイはこのセフィラに来た際に、《最深部》より《記録》を与えられている。
つまり、このセフィラに存在する全ての生物を個体識別する事が可能なのだ。
にも関わらず、この少女に関する因果事象は、セフィラの《記録》には一切載っていないのだ。

どう考えても異常だ。メイは少しだけ距離を量り、即座に斬り掛かる間合いを引いた。
セフィラに侵入する異分子の排除、これも十剣者の任務だからである。
更に、この少女はメイの事を知っていた。“剣者”ではなく、後任の“使徒”である事を。
これは現在このセフィラではメイしか知らない事実だ。だが目の前でクスクスと笑う少女は知っていたのだ・・・

184パルス ◆iK.u15.ezs :2007/02/16(金) 00:23:03 0
うっそうと草木が生い茂った道なき道を進む!
先頭を行くラヴィちゃんの包丁が今日も冴え渡る!
そのすぐ後ろで、千切りになった植物をお鍋のフタで受け止めると……
「あら不思議☆ サラダの出来上がり♪」
お鍋のフタにこんもりと盛られた雑草サラダを後ろの三人にアピール。
「ンなもん食うな!」
レベッカちゃんの回し蹴りが器用にお鍋のフタに叩き込まれ、雑草サラダが宙に舞う!
「ねえバカ、いつまでこんなところ通るのよ!?」
回し蹴りの勢いでそのまま半回転し、ハイアット君に尋ねる。
「戦争に巻き込まれないようにできる限り短い距離を選んだらこうなった!
僕の計算にぬかりは無い!」
と、地図を広げたハイアット君。
「だからって未開の地を通る奴があるか!?ルート係クビだあああ!!」
「ひえええええ!?お助け!!」
連日の、まるで未開地探検のような道中にレベッカちゃんがついにキレた!!
ハイアット君を締め上げにかかる!
「レベッカさん、落ち着いてください!」
「戦争に巻き込まれたら恐いんだよぅ」
「そうそう、公国ってゴレムとかいうやつを使ってるらしいし!」
「ゴレムとは古代セレスティア文明が作り出した恐怖の兵器だ!
大型の馬車のような……そうだなあ、あんな感じ」
地響きとともに地面が激しく揺れ始めた。
ハイアット君が指差したほうから、片っ端から木を薙ぎ倒しながら
凄まじい存在感を持つ何かが近づいてくる!
「え!?」
さっきまでの和やかなムードは一瞬にして吹き飛び、場は緊迫感に包まれた!
「ゴレムキタ――ッ!!」
叫びつつもすっかりお馴染みになったフォーメーションを展開し、臨戦態勢に入る!
その時、ゴレムから声が聞こえてきた!
『マイクテストマイクテスト……よし、おっけいです!』
そこで少し間が開き、別の人の声になる。
『フハハハハ!!ゴレムを手に入れた我らの前では貴様らなど赤子同然!
その素晴らしい悪運も今日で終わり……年貢の納め時だ!
ただし我らの前に平伏して資金援助をするなら特別に許してやろう!』
その言葉が終わらないうちに
ゴレムから変な装置が出てきて、あさっての方向に向かってビームを乱射し始めた!!
『あれ?方向が違う!』
『ちょっと貸してみ。これか?』
変な装置ではなく本体ごと回り始めた。
『二人とも手を出すな!こっちだって!』
今度は後ろに向かって急発進した。
『○×△□☆!!!』
車内で内戦が勃発したようだ。こんな時にとるべき行動はただ一つ。
「さあ、行こうか!」
何事も無かったようにみんなに爽やかに声をかけた。
185ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2007/02/16(金) 02:36:23 O
突然現れて突然仲間割れを始めたゴレムさん、これってチャンスだよね?
「あんなに早く走れるならアレ貰っちゃおうよ」
あぁーッ!!ラヴィが言おうとしたのにぃ!!レベッカちゃんに先を越されたよう!!
「ちょ!?あれはゴレムっていうヤバイ兵器なんだってば!!危ないよホントに」
ハッちゃんがササッと木の影に隠れながらそう言うものの・・・
「なるほど、それは名案かもしれませんね。おそらく中身は例によって彼らでしょうし」
キュピーン!
アクア姉さんの目が光るよう。歩くのにみんな疲れているから、楽したいんだね♪

「そうと決まれば速攻あるのみ!!行くよッ!!」
パルちゃんが剣をスラリと抜いて猛ダッシュ!アクア姉さんもそれに続くよ。
もちろんラヴィだって遅れる訳にはいかないし、東雲を取出して大きく背後に回り込む!
中に乗ってる人達を外に出しちゃえば、いくら怖い兵器でも単なるガラクタだよぅ♪
「とりゃああああああ!!!」
ふわりと華麗にジャンプしてゴレムの上に飛び乗ったパルちゃんが剣をテキトーに突き刺す!
「おわぁ!?ヤバイヤバイヤバイ!!こんな事してる場合じゃねーよ!!ビーム撃てビーム!」
「ちょ!?弾切れなんだってばよ!?さっきのでからっぽだよコレ!!」
「なんだとッ!!!?」
「うわッ!なんか入って来た!!なんじゃこりゃあ!!」
隙間からアクア姉さんが身体を軟化させて侵入したみたい。
パルちゃんも容赦なく剣を『黒ヒゲ危機一髪』的なノリで突き刺し続けてる。
ゴレムの中は阿鼻叫喚の地獄絵図になっちゃいました♪
「これかな?」
後ろからラヴィとレベッカちゃんはドアの開き方を探してたけど・・・中々見付からないよぅ。

もう面倒臭いから・・・斬っちゃおうか♪そーれッ!!!
 ギィーン!!
東雲の一閃がドアの開閉部分を一刀両断すると、やっぱりボロボロになった例の4人組。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、一斉に転がり出て来たお。


「マジでスイマセン・・・出来心だったんです。ホントにもうしませんから・・・」
「「「「 殺 さ な い で !!」」」」
泣きながら命乞いする4人組を、縄できつく縛り上げたけど困ったよぅ・・・・。
「また性懲りもなくやってくるんじゃないの?えぇコラ!?」
みんなでギロリと一睨み。なんだよぅ!!
186アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/17(土) 22:54:40 0
行軍一日目夜。
レジスタンス部隊は主だった者を集め、作戦会議を開いていた。
軍議には参加したことのないアビサルだったが、今日はその中央にいる。
なぜならば、この軍議はアビサルの要請によって開かれたものだから。

ソーニャが会議の口火を切り、これからの進路を指し示すと周りからは一斉に反論が吹き上がる。
それも当然だった。
ゴレムの足でこのまま直進すればロックブリッジまで5日で到着する。
にもかかわらず、示された進路は中原を大きく南へ下り迂回したルートだからだ。
このルートでは2週間以上はかかる。
反論が吹き荒れる中、ソーニャの脇から歩み出るは縦目仮面を被ったアビサル。

その異様な風体に反論の中にどよめきが混じるが、それに応えることなく術を行使した。
太極天球儀が展開し、ゼアド大陸の地図が映し出される。
精密な立体映像が10畳ほどの大きさで。

########################################

「みなさん、これが今の状況です。この黒い星が私達と王国軍。白い星が公国軍です。」
地図上に点在する白い星、すなわち公国軍部隊の場所とロックブリッジ。
そして現在地を考えれば、なるほど最初のソーニャの言った通りのルートなら接触せずに済む。
とはいえ、それでもその行程は時間がかかりすぎる。

その声にそっと中原中央に点滅する黒い星と、ロイトン沖に金色の星を伴う白い星を指し示して
応えるアビサル。。
「この星は暁旅団の皆さんです。そしてこちらがロックブリッジに向かう公国軍。
公国軍は各地を回って兵士を集めながら行軍。編成しながらですとどうしても足は遅くなります。
更にここ。何らかの力場によってライン大河の一部が溢れ中原へと流れています。
この影響でライン大河沿いに進軍する公国軍は大幅な迂回を余儀なくされる。
そんな中、空中からの牽制を受けることにより行進速度は無いも同然。
僕の計算に依れば公国軍より三日前にロックブリッジに到達できます。」
「公国には飛竜部隊ってのがあってな、暁の連中の空中優位性ってのはないも同然なんだがな?
それに連中エフルの部隊だろ?霊法が使えなくなったそうじゃないか。それでどれだけ足止めでき
るよ。」
「飛竜部隊は来ません。少なくとも僕たちが公国軍に接触するまでは。」
反論する傭兵の男に断言してガナンを指し示す。

ガナンには赤色の星が揺らめいている。
「巨凶星に不穏な動きがあります。この影響で飛竜部隊の出発が遅れることになります。」
それなら北ルートの方が更に早い、という声が上がる。
小さく首を振りながら手をかざすと、地図上の光点が様々に動き出す。
地図上の時間を進めているのだ。

中原に輝く白く大きな星が、ガルム要塞に輝く黒い星と青色の伴星に押されるように後退していく。
「このように、公国軍が後退してくるので接触する事になります。
後退しているにもかかわらず星気の衰えが見えない。ですから北ルートは通れません。」
「・・・この位置ってことはこの星は公国軍主力部隊!リオネの部隊だろ!?で、こっちはガルム要塞。
いくら猛虎聖騎士団四万といってもこんな風に後退させられるわけねえだろ。」
リオネの武勇は既にゼアド大陸全土に響き渡っている。
それが敗走するとは考えられないほどに。
その言葉が発端となりアビサルの情報が正しいかどうか、という根本的な疑問が軍議参加者達の間に
生まれ始めた。
187アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/17(土) 22:55:21 0
ざわつく一同にソーニャが口を開こうとするが、振り向きもせずに片手で制し、言葉を綴る。
「先ほどのライン大河の溢れた行き先が中原はガルム要塞。おそらくこれが戦局に関係しているとは
思いますが・・・。
あなた方の疑問ももっともです。では証を見せましょう。上を見てください。一瞬だけですよ?」
言われるままに見上げる傭兵、レジスタンス達から言葉が発せられたのは【それ】を見た数秒後だった。
余りにもありえないことを目の当たりにすると人は言葉を失う。
まさにその状態。

【それ】は夜空に輝く月だったもの。
一瞬ではあるが、その月に一線が走り、瞼を開いた巨大な一眼となり地上を見下ろしたのだ。
「僕の眼は義眼です。本来の眼は見たとおり、星界にある【星の眼】として地上の全てを見ることができ
ます。
さらに星辰の動きによって未来を測定できます。
これが黄道聖星術の秘術。もはや占いではなく、厳然たる事実なのです。」
「みんな見たかい。こいつの言う事の正確なのはこの【炎の爪】ソーニャが保証する。
こいつを羅針盤にしてロックブリッジを目指す。いいね!?」
詭弁によって巻かれ、驚きで心が空白になったところでソーニャが畳み込むように宣言すると、もはや
異論を挟む者はいなかった。
ロックブリッジに戦える状態で公国軍より早く到着する。
これが絶対条件なのだ。
斥候を放ち、戦闘を重ねながら行くのも時間的には変わらないかもしれない。
だとすれば頼れるものには頼っておこう、といった思惑も重なっての事なのだが・・・。
「よっし、じゃあ進路は頭に叩き込んだね。明日は早くから出発するから今のうちに休んどきな。」
こうして軍議は終了し、各自テントや持ち場へと帰っていった。

「・・・アビサル、あの月、あんたの術なのかい?それとも・・・本当の・・・?」
散会したあと、そっとソーニャがたずねるがアビサルは仮面をとらず、応える事もなくテントに向かって歩く。
(・・より大き・・・な・・・狂気のた・・め・・・に・・・)
自覚できない心の声に気をとられていたが故に。

###########################################

翌日から迂回ルートによる行軍が始まった。
曲がりくねり、整備されていない険しい道が続くため行軍速度も上がらない。
過ぎる時間に兵士達の間には焦りと苛立ちが募るが、それでも辛抱強く行軍を続ける。
その間、力を使い果たし寝込んでしまっているアビサルは見ていた。
暁旅団がロンデル率いる西部方面軍混成部隊に奇襲をかけるところを。
ガナンでグレナディアが起動し、大混乱に陥るところを。
【海】の出現によってリオネが撤退の一途を辿る事を。
全ては星辰の示す通りに事態は動いていく。

そしてルフォンを経ってから17日目。ロックブリッジより数十キロの地点にて、西部方面軍混成部隊確認の
報を斥候のスカウトからもたらされた。
この日接触する事は既に占われており、行動も事前に打ち合わせは済まされていた。
新型ゴレムで公国軍認識信号をあげながら接近し攻撃。
この奇襲によってロックブリッジ攻防戦は幕をあげたのだった。
188アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/17(土) 22:55:33 0
数の上では公国軍が圧倒していたが、兵を集めながらの行軍に空からの一撃離脱の強襲に悩まされて、
指揮系統も徹底しきれていない混成部隊。
奇襲で出鼻をくじかれ、要請した飛竜部隊の到着も遅れて士気は下がっていた。
一方、レジスタンス部隊は後続の獅子十字騎士団の到達まで時間を稼げばよい。
到着すれば挟撃して一気に勝利を収める事ができるだろう。
ゲリラ戦を織り交ぜた遅延戦闘でじりじりと戦線を下げながらの戦いが続いていた。

##########################################

戦闘が始まってから5日目。
西部方面軍混成部隊本陣の指揮官テントに二人の人物が向き合っていた。
「・・・随分と手こずっているね、鋼鉄の虎殿?」
テーブルを挟んで向かい側で紅茶を啜る男の呟きはロンデルのこめかみに血管が浮かび上がる。
「明日には飛竜部隊が到着するとの報が来た。これで一気に畳み掛けられる。
あなたが手を貸してくれていればもっと早くにお互いの目的は達せられたでしょうがな。」
愚痴の一つや二つこぼれてしまうというものだ。

フードを目深に被り、その顔すら未だ見えないでいるが、その力をまざまざと見せ付けられた。
ロイトン沖、海中遺跡マイラを浮上させたあの光景は未だにロンデルの脳裏に焼きついている。
この男はセレスティア復活の為に自分に協力を申し出たはずなのだ。
メロメーロ、この男の言うところの地の三角が一つ地底都市イルシュナーを落とし、ドラグノフ公国の世界制
覇をなすために。
なのにこの男は今に至るまで一切の戦闘をしようとはしない。
「僕には僕にしかできない事があるのさ。お互い役目は弁えようじゃないか。
なあに、目的は同じ、龍人の世界のために、さ。」
ローブのおかげで顔は見えないが、その身から溢れ出る狂気は隠しきれない。
穏やかな言葉の端々から感じるそれにロンデルは背を向け、テントからかすかに見えるメロメーロの光に眼
を向けた。
半年前、黒騎士ディオールと共に同じ光景を見たことが随分と昔のように思えてならなかった。
189ST ◆9.MISTRAL. :2007/02/18(日) 04:30:41 0
謎に満ちた少女。余りに異質な存在感にメイは神経を研ぎ澄まし、何時でも攻撃に転じる体勢を整える。
少女の存在は《記録》には無かったが、少女の身に着けたブーツには《記録》が在った。
正確にはブーツそのものではない。そのブーツに取り付けられた歯車に、だ。
「ワタクシは貴女と争うつもりはございませんわよ?」
余裕の笑みにメイは少々苛立った。彼女は何度となく異界からの侵略者を退けてきた守護者だ。
しかし目の前の少女は、これまで戦ってきたどの存在よりも危険だと、歴戦の勘が告げる。

じり…と間合いを狭め、メイは少女に問い掛ける。
「あなたの目的は何かしら、“そんなもの”を持ってるのに“たまたま居合わせた”なんて事はないよね?」
「勿論ですわ。ワタクシは確認する為に此処へ来たんですもの。ちゃんと“彼”がこの時代に居るかどうか」
そう言うと手に持った紅い日傘をふわりと広げる。同時に足の歯車の1つが回転を始めた。
「このままでは崩れてしまうわ、なんとかして頂戴…エプロサル」
遺跡内部に生い茂る蔦が、少女の声に応えるが如く一斉に動きだしたではないか!
蔦は爆発的な速度で増殖と成長を繰り返し、瞬く間に崩壊する遺跡をまるごと縛り上げていく。
「これでもう少しの間はお話ができますわね」
遺跡中に広がった蔦を愛おしい様に撫で、少女はメイへと振り向き微笑んだ。
桜色の美しい唇が弧を描き、翡翠の瞳は揺れる事なくメイを真っ直ぐに見据えている。

精霊。この時代には存在しない筈の力が、現実にメイの前に広がっている。
世界律の変化と、《根源》の消失によって精霊は完全にこのセフィラから消え去った筈だった。
だが今ここに精霊の力が働いている。植物の精霊力が満ち溢れ、蔦を媒介に実体化しているのだ。
どう考えても有り得ない出来事だった。
「確か、アニマ…だよね?これって。封印されて以来、誰にも渡ってない技術の筈が…
 今こうしてあなたのものになってる。どうやら、あなたの正体が判ったわ…」
自分の考えに寒気立ったが、そうとしか考えられない。《記録》に干渉無く失われた技術を持つ者…
則ち歴史の空白を行き来する事が可能な存在。
「あなた、この時代よりも未来から来た。そうでしょ?なら《記録》は白紙の状態だもの
 あなたの存在が一切記されていなかったのにも納得できるわ」
「だとすると、一体どうなさるおつもりですの?」
「決まってる…ここで消去する!!」
それはまさに光速、光よりも速く間合いを消して腰の二刀を閃かせる。
回避する事など到底不可能。人は光よりも速く動く事は出来ないからである。当然の結果だ。

だからこそメイは次の瞬間、致命的な隙を作ってしまった。当たらなかったのだ。
絶対に当たる筈だった攻撃が、紙一重で避けられた事実に戸惑ってしまったのだ。
(今のは確実に私が速かった、…なのにどうして!?)
「ふふ…今の攻撃は確実自分の方が速かった、とか思っていますわね?」
声はすぐ耳元で聞こえた。目の前の少女は瞬間移動としか思えぬ速度でメイの隣に移動している。
「貴女は確かに強い。けれども、ワタクシには絶対に勝てない…」
死の宣告にも等しい一言が鋭い痛みを伴い、メイの脇腹にて爆ぜ割れて…弾き飛ばされた。
創造から初めての“痛み”にメイは声にならない悲鳴を上げ、壁を突き破り悶える。
「じ……時…間…を停め…た…」
肺の空気を搾り出すかの様に口にしたメイの台詞は、少女の表情に深い愉悦を浮かばせる。
そう、少女は時の流れを“停止させた”のだ。
彼女の持つ《アニマ》、《烈風のフィーヴルム》の能力…時界域支配の成せる業である。
190ST ◆9.MISTRAL. :2007/02/18(日) 04:32:35 0
「抜いたらどうですの?“三本目”は飾りではないでしょうに」
またもやメイの知覚反応速度を越える移動により、少女が攻撃を繰り出す。
十剣者の持つ絶対結界は、自身に攻撃が加えられる瞬間にのみ展開されるシステムだ。
つまり、時を止め結界が発生する前に直接攻撃をされたら十剣者といえダメージを受ける。
「…こんなに酷い敵は…初めてかも……」
息も絶え絶えにメイは少女を見る。
三本目、則ち使徒に与えられる特別な剣の存在まで知っているとは。
この少女はどこまで知っているのか。おそらく剣の能力も既に知っているのだろう。
どう考えてもメイの不利は動かない。かつてない強敵に、メイはいつの間にか笑っていた。

戦う為だけに創られた人形、戦う事だけが存在理由、ならば戦う相手が強ければ強い程に…
メイの心は燃え上がる!ようやく巡り逢えたのだ。
数多の戦いを経て、自身の奥底に秘めた“飢え”を満たしてくれる強敵に…巡り逢えたのだ。
「あはは…まいったなぁ…楽しくなってきちゃった♪『削り取れ、アカマガ!!』」
2本の刀身が主の声に応え、その姿を変えた。目に見えぬ程に細い、無数の繊維状の刃。
十剣者の剣能力で最凶の性能を誇るアカマガ、その刃は触れた物質を『根底から否定する』

それは僅か一瞬の出来事であった。
遺跡内の空気を始め、あらゆる物質が消滅を開始したのだ。床も壁も全てが“削り取られ”ていく。
「アニマは精霊と同じ法則で起動する以上、媒介となる事象が無ければ起動出来ない!
 甘かったわね、私に少し時間を許し過ぎたんじゃない?」
凄まじい速度で“無”が広がっていく。あらゆる存在の繋がりを根底から断ち消し去る。
アカマガの刃は少女を捉らえ、その体を巻き込み消滅させた。
伸縮自在、数万にも及ぶ繊維状の刃から逃げる事は難しい。
遺跡のほぼ半分近くを消し去ると、メイはアカマガを元の姿に戻して鞘に納めた。
もう何処にも少女の存在は感じられない。決着したと溜息を吐いた途端、メイの腹が裂けた。

突然過ぎる余り、何が起きているのか理解するまでにたっぷり数秒の時間を要した。
アカマガによって消滅した筈の遺跡が、“何事もなかった”かのように存在しているではないか。
「だから“三本目”を抜けばよかったのに。人の親切を無駄にしてはいけませんわよ?」
涼しい声に全くの無傷、少女が相変わらず余裕の笑みでそこに立っていた。
「何をされたか、まるで理解出来ないみたいでしょうから、ちょっぴり教えて差し上げますわ」
そう言うと少女の歯車の1つが回転する。次の瞬間には辺りの景色がさらに変わり始める。


「ワタクシは貴女と争うつもりはございませんわよ?」
余裕の笑みにメイは少々苛立った。彼女は何度となく異界からの侵略者を退けてきた守護者だ。
「これで3回目ですわねぇ…3度目の正直という言葉もございますし、ワタクシも用事が
 山ほど残っておりますので…そろそろ失礼させていただきましょうか」
「何を言ってるのかよく分からないけど、あなたは危険だわ。ここで排除する!」
それはまさに光速、光よりも速く間合いを消して腰の二刀を閃かせる。
勿論、その攻撃は当たる事はなかった。
「お馬鹿さん、いい加減に気付いてもいい頃ですのにね。まぁ“彼”がちゃんとこの時代に
 来ているのが確認できたし、歴史は変動を始めたようですわね…」
そう呟く少女の長い髪の端が、ノイズの走ったかのようにぼやけて明滅した。
未来が確定状態でなくなった為である。しかしながら、完全な変動には程遠いようだった。
少女の存在が抹消されないのが、なによりの証拠である。

「さてと、ドゥエルが心配ですわ。あの子泣き虫だから、泣いてるかも…」
全てが静止した時間の中で、優雅に傘を広げると少女は軽やかな足取りで歩き始めた。
191レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2007/02/18(日) 07:49:07 O
こいつら…本当に懲りない連中だなぁ。呆れるのを通り越して感心しちゃうよ。
「愛について教えを説きましょう。先ずは…」
どうやらアクアさんの『必殺!愛の説法(殺法?)』が始まったようだ。かわいそうに…
「ぎゃあああああ!!愛関係ないコレ愛関係ない痛痛いッ!!!」
腕の間接はがっちりホールド決まってるし、逃げようにもロープで足を縛られてる。
こりゃ改心する前に命がもたないんじゃないかな?

30分後、一通りの説法(殺法?)を終えてアクアさんが戻ってきたから作戦会議開始。
アタシ達が進んでるルートは道無き道。当然ながら町や村からもかなり外れてる。
食料は現地調達も含めてボボガ族の村で用意した物があるから平気として…
問題は十字街道にぶち当たる所だ。
この辺は現在激戦区域らしく、アタシ達はより慎重に進まなきゃならない。
時間を無駄にできないので、一気に突破する必要があった。戦争に巻き込まれるのは嫌だし。
これに関してはみんな同意見だった。今は一刻も早くハインツェルを追い掛けないと。
「という訳でセプタの街から南西に抜けて街道を横切るのはどうでしょうか」

アクアさんの提案は至極明快だった。
確かにこのルートならギリギリまで人目に付かずに移動できる。
戦線も街からライン大河にかけて伸びてない限りは、もっとも安全な道順だといえた。


で、今のアタシ達は戦線のド真ん中にいる。
そう…まさかの公国軍が自陣を大幅に引き下げたために、バッチリ巻き込まれたって訳。
アタシ達はソッコーで捕まって、現在捕虜として軟禁されちゃってるのよ。最悪だよね。
「うぅ…なんで俺達まで捕まるんだ!?」
リーダーのトムが半泣きで愚痴った。そりゃアンタ達は犯罪者なんだから当然でしょうが。
「けれど…これは予想GUYだよ…こんな所で足止めくらうなんて」
ハイアットもすっかり意気消沈している。いや、ハイアットだけじゃない。みんなもだ。
「どうにかして脱出できないかなぁ…」
パルがテントの外を見回して溜め息。外には見張りの兵士が2人。その他にも数人がうろうろ。
「まいったね、武器は取り上げられちゃってるし…どうしよう。なんか良いアイデアない?」
そう言ってパルがこっちに振り返ったその時、外で何か騒ぎが起こったようだ。

これは…脱出のチャンスかな?
192朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:45:01 0

八つ裂きにされた歩哨の死体を、「ゼロ」のホビットが三人がかりで酒樽へぶち込む。

木樽から溢れたエール酒が地面の血だまりを、テントの周りに掘られた樋へと押し流す。
と一緒に、誰かの欠けた親指が泥水に浮かんだ。打ち合いの最中で、剣の柄ごと落とされたものだろう。
三人が黙々と設える死体のアルコール浸けは、見せしめとして他の部隊へ送り付ける荷物だ。
ホビットたちの血生臭い所業に、アンナは微かな親近感を覚えた。

襲われた公国軍夜営地は本陣から離れた小規模の部隊で、
且つ練度の低い民兵でもあった為、奇襲への反撃能力は無きに等しい。
しかしそれを差し引いたとしても、今回の夜襲は「ゼロ」の闘士の秀でた戦闘力のみが為し得る早業。
襲撃は十分足らずで決着、味方側に死傷者は居らず敵の取りこぼしもなし。
おまけに戦闘に火を使わない彼らの物資回収率は高かった。
驚いた事に、夜襲部隊の殆どが年端も行かぬ少年たち。
ホビット故の外見は勿論の事、実年齢も十五を越える者が居ない。
一糸乱れぬ統制で、家畜でも潰すように淡々と人間を屠るホビットたちの姿は無気味なものだ。
アンナは過剰殺傷がお家芸と評判の「ジェイコブズラダー」頭目レインにこそ、むしろ人間味を感じたくらいだった。

そのレインは敵を仕留めたばかりで未だ温かい血の滴る青龍刀を手に、テントを回って追剥ぎを監督している。
レインの義兄ジェリーも、今頃は目的のテントを訪問しているだろうが
八年振りの「親友」との再会を前にして、アンナには精神統一が必要だった。
立ったその場で忙しなく足踏みするアンナ、一動作毎に靴裏で、横たわる公国軍兵士の頭を踏みしだく。
ぐしゃぐしゃに骨を砕かれた男の首は盆の窪から下がおかしな角度に曲がり、砂に頬擦りする顔は早や生気も失せている。

公国軍の兵を踏みつけにして佇む彼女、
革鎧にデニム地のズボン、薄汚れてえび茶色のマントとカウボーイハットの女剣士は狩人アンナ。
猟理人見習改め始末屋、人肉捌きの「朱包丁」。今日は革長靴の上段蹴り一撃で兵隊を殺した。
折角の包丁は使わないのかとレインにからかわれたが、元猟理人だからと言って
殺しに毎度包丁を使わねばならない義理があるでもなし。殺し屋として名の知れた今、むしろ使わぬ有利が大きい。
猟理人鉄の掟を破りながら、師の教えを私闘に用いた事に対する気後れなどは既に消えている。
人も魔物もいずれ同じ肉ならば捌き方は然して違わず、知恵ある敵の狩り方に少しばかり工夫を積むだけ。
獲物に合わせて道具を変えるのも猟理の基礎であり、処世の知恵だ。
鎧を着込んだ人間相手に猟理包丁は決して最適な武器とは言い難く、アンナの昔の腕が生きるのは専ら敵を殺してから。
見せしめに人肉を調理して、皿と並べてみせるのが彼女の得意であり看板仕事。
193朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:46:07 0

「姉さん」
アルコール浸けの係りをしていたホビットの一人がアンナの元へ駆けつけて、樽の盛り付けについての意見を求めた。
「中身が一人だと結構空きがあるんだけど。もうニ、三個首を浸けるとかしたらいけないかな?」
ホビットが、近くに転がっていた別の死体を指差す。
仰向けになった一体は喉笛がぱっくりと裂かれている。首を完全に切り離すのは簡単だが、
細かな部品をぎゅうぎゅうと詰めてはかえって訳が分からなくなる。単体で、全身をしっかり沈められるのが適当だろう。
「他を混ぜるとちょっとうるさいし、下品に見えるな。このままが格好いいんじゃない?」
軽い身振り手振りを交えながら、素材の配置に関する簡単なアドバイスも加える。
アンナの料理にしても、調理過程で死肉から、およそ人格を想像させ得る要素を取り除けていくのは簡単で味気ない。
元来の造形を著しく歪めてありながら、同時に材料が人体であると明確に表現する事こそが、
完成品に強いグロテスクの属性を負わせる秘訣とアンナは信じている。

「ありがとう。で、姉さんが仕留めたソイツ、きっと隊長じゃないかな?」
ホビットの少年が言うのは、アンナが踏み付けている兵士の死体だ。
身なりが派手だし、鎧の背の紋章も他の死体と違う。アンナは足を上げて見た。
「みたいね」
アンナが退くと、少年が伏せて這い寄って、太刀と脇差のナイフを腰から抜いて調べた。
死体が剣を佩いたままなのは、抜く間を与えず蹴り殺された為だ。
剣の護拳の装飾を値踏みした少年が、アンナへ歓喜の口笛で知らせる。
「やっぱり物持ちいいよ。耳は取らない?」
「数珠は作ってないから要らない。あなたが持ってったら? 荷物も」
少年は頭を掻いた。気弱に笑み、名残惜しそうに死体から離れると
「遠慮しとく。俺が殺したのでもないのに、ずるいからね」
樽が仕上がり、方々のキャンプでも宝探しを終えた子供たちが口笛で合図し合う。
アンナは身を屈めて隊長の腰巾着を拾い、金貨を一枚抜くと少年へ投げ遣った。
少年はぺこりとお辞儀して、仲間の元へ走っていく。後へ残す血糊の靴跡がなければまるで何処かの村の子供だ。
果たして――ラヴィに出会わなければ、自分の他に
こうして流す血を持った人々の在る事も知らぬままに、全てを終えていただろう。
194朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:47:10 0

酒樽に押し込まれた公国軍の歩哨は、今夜の襲撃の犠牲者第一号だ。
滲み出す血で、満杯の安酒が真っ赤に濁る。樽が揺れるたび、皮一枚で繋がった首が酒の中で泳いだ。
彼ら民兵も恐らくは王国領の生まれだろうに、ジェリーは「故郷を裏切り蹂躙した醜行の報いだ」と言う。
軍務そっちのけで略奪に奔走する民兵隊への憎悪が口走らせたにしても、
ホビット流民の子にしてはあまり皮肉な物言いだから、聞くたびアンナは笑いを噛み殺す。

ホビットは悩まない。
社会生活のしがらみを嫌い、自由人である事を何よりも尊ぶという種族のアイデンティティさえ、
三百年前の戦争で駆り立てられた一日で捨て去ってしまえる柔軟さ。
それとも本能的な生への執着が、千変万化する環境への適応を強いるのだろうか。
かつて安住を許された筈の世界から爪弾きにされる、流刑者の身の上はアンナの同情を誘った。
骨の髄からホビットという生き方を愛する親友からは遠くて、逆に奇形(フリークス)の「ゼロ」が自分に近い。
修行時代の癖で一本を除いて研ぎを続けている、師匠の形見の黒包丁。
捨てるに捨てられない調理器具を持て余す自分を嘲ったレインに、親しみこそすれ憎めなかった理由はそれだ。

クラーリア王国特派員からの暗殺依頼を受け、アンナはレイン、ジェリーの兄弟、そして「ゼロ」と組んだ。
獲物が自分の知り合いだと打ち明けるなり、兄弟は「良い巡り合わせ」と彼女を歓迎する。
何処の馬の骨とも知れない殺し屋に行き当たるより、見知った人間に殺される方が相手も成仏できるだろう、と。
アンナにとっては出口の無いままに八年抱え続けだった愛憎をぶちまける最後の機会。アンナの自覚はおぼろげだが――
ラヴィの名を聞いた時、確かに手中の「鉄朱(てつあか)」が疼いた。彼女は衝動の赴くままに従い、依頼を承諾した。
テントでジェリーと話し込む、耳触りも懐かしい八年来の声。
アンナの肩を越さない長さで切り揃えられた金髪が夜風になびく。
顔を向けた先に、レインが青龍刀とランタンを掲げて立っていた。
「さあ、揃えたぜ。ウチはてっぺんからケツまでガキばっかりだが、ちゃんとやれたろ」
頷く。レインが乱杭歯を剥き出しにして笑う。彼は梨顔のジェリーと好対照の、吊り上った顔付きをしていた。
眉の傷で引き攣る右目じりや、うなじで一本にまとめたドレッドヘアが顔の細さを際立たせ、
暗がりに銅色の肌がくすんでみえるお陰で、今夜は特にホビットらしからぬ面相を現す。
「連中の荷物は森に隠した。で、流石に包丁使うんだろ?」
「どうして? 丘の荷馬車に置いて来たわよ」
「まあいいさ。首級は猟理人の分だけ持ち帰るのか?」
「その通り」
「人肉は日持ちが悪いからな。行こうぜ」
二人は、夜営の真中に設けられた広場へと歩いていった。
195朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:48:36 0

広場の焚火の回りには「ゼロ」と共に、公国軍に囚われていた冒険者一行も集められていた。
「ホビットさんたち、レジスタンスの人?」
不安げな面持ちでパルスが尋ねる。一行は公国軍に捕縛された時のまま、縄に繋がれていた。
ひざまずいた姿勢の彼ら、一人ひとりの背後に「ゼロ」が立ち、抜き身の剣をちらつかせる。
「まさか、盗賊だよ。僕らは王国軍と契約してるんだ」
ジェリーが愛想良く質問に答える。
見る者に一片の敵意も感じさせない穏やかな表情だが、視線は常にラヴィに据えられ、ぶれる様子が全くない。
「でも、みんな……まだ子供だよぅ!?」
ラヴィの叫びに、思わず顔を見合わせるハイアットとレベッカ。
「みんなラヴィちゃんと同じくらいに見えるんだけど……」

四人の盗賊は恨みがましくジェリーを睨む。
キノコ狩りのブタよろしくと、彼らにゴレムを渡したのはジェリーだった。
「縄を解けないってどういう事だよ!? お前、騙したな!?」
「あんたら、子供か」
子供にそう言われてトムは一変、意気消沈する。
「月並みな言葉だけど、恨みはないよ。君らには悪いが」
「こんな事してる場合じゃないんだよ!」
「僕はこんな事してる場合なんだ、レベッカさん」
「つけてたのか……」
「そこの四人が」
レベッカに睨まれ、また一段と恐縮する四人組。一行には武器もなく、逃げ場もない。
苦々しく地面を見詰めるばかりの数分が過ぎると、アンナとレインの二人が広場へ訪れた。
アンナを見て唖然とするラヴィだったが、一方のアンナは無表情に彼女を見下ろすと、
「仕事が済んだわね」
「まだだよ、まだ生きてる」
レインがラヴィの後ろに回り、青龍刀の白刃を首筋へ押し当てる。身を逸らして逃げるラヴィは
「アンナちゃん、どうして……今更何がどうだっての!?」
「姉御、自分でやるか?」
「いいわ。やって」

「待てよ、一人足りない」
ジェリーの言葉に、レインの青龍刀が振り上げられたまま止まった。
すかさずその場の全員が、縛された人間の数を目で、指で数え始める。一人足りない。
繋がれているのはレベッカ、パルス、ラヴィ、ハイアット、四人組。
ぐるりと囲む五、六十人ばかりのホビットたち。レイン、ジェリー兄弟、アンナ。
「アクアさんかな?」
「アクアさんだね」
「縄抜けできたんだ?」
「スライムだもんね」
196朱包丁のアンナ ◆LhXPPQ87OI :2007/02/20(火) 00:49:14 0

小兵に似つかわしくない声量で、ジェリーが怒号する。
「結界を急げ、誰も入れるな!」
たちまちに「ゼロ」が散開するが、早くも茂みの奥で悲鳴が上がる。
鞭のしなるような音と共に、ひとりのホビットの身体が森から広場へ投げ出された。
折れた剣が後から放り込まれ、遂に満を持して真打ちが登場する。
「愛の足りない、子供たち……」
現れた修道女は両の拳を重ねて握り締め、指の関節を鳴らす真似をしてみせた。
三節棍を手にしたジェリーと「ゼロ」がずいと歩み出て、女を迎え撃つ。
その間に、広場でレインが青龍刀を振るう。
彼は縛られたままのラヴィたちを人質に、アクアの動きを封じようとしたのだ。
「仲間を見殺しにはしまい」
ラヴィが目敏く、気の逸れたホビットのだらしなくぶら下げられた刀を見付けた。
素早く転がり込み、自ずから刃へ体を晒す。ホビットは慌てて刀を打ち払った拍子に、彼女の縄を切ってしまった。
レインが青龍刀で斬りかかろうとするも、ラヴィが部下と縺れ合っていて狙いが定まらない。
躊躇している彼の背中にハイアットが頭突きを喰らわせ、隙と見てラヴィはアクアと反対側の茂みへ駆けた。
「必ず! 助けに戻るから!」
そう仲間へ告げて走り去ったラヴィを、アンナが追う。ラヴィの逃げた方向は森の外れ、小高い丘へと続く道だ。

アンナは行きがかりに、「ゼロ」の荷馬車から包丁を二本取った。
一本は師匠の四番包丁、もう一本は刃渡り二メートル超のマグロ裂き大刀「鉄朱」。
八年前から唯一研がれていない、アンナの得物の六番包丁。巻かれていた布が落ち、赤錆に覆われた刀身が晒しになる。
何故咄嗟に二本取ってしまったのか、走りながらアンナは考えた。
しかし答えの出ないまますぐに森は開け、月明かりに照らされた丘へラヴィに追い着く。
野営地では、激しい殺陣の行われている事だろう。殴り合う修道女とホビットの、荒ぶる声。
197オザワ:2007/02/20(火) 23:08:14 0

      ,-‐-.、     ⊂⊃  _.,-‐-、
     /    `` ‐。 /⌒ヽ_´     \
   // ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ヽゝ \  <良コテのみんながんばるお〜
  / (/(/(ソソノ(/ / † ノ へ/ゝソソヽ\,\   
 (/(/丿`' ⌒   ( ヽノ       .⌒''ヽ)\.)
            ノ>ノ
            レレ
198アクア・ウーズ ◆d7HtC3Odxw :2007/02/22(木) 00:12:49 0
赤き、赤き月夜よ、何故、幼き心を狂気に駆り立てたのか・・・・・愛が足りなかったと言うのならお教え致しましょう。

じりじりと包囲を縮める集団、数はまずは4,5人程といった所でございましょうか。その手には各々獲物を携えておりました。
そして、前と後ろからまずは二人踊りかかってまいりました。わが身を一旦屈め反動で空高く飛び上がり両方に蹴りを見舞います。
いつもでしたら大抵はここで気絶するか、うろたえるものなのですが、今までの相手と違い相当訓練されているのか、動じる事なく、
体勢を整え、包囲に戻ってまいりました。

静寂・・・・・そして一瞬の緊張、風が吹いたその瞬間に、怒声が響き、一斉に襲い掛かってまいりました。

剣をかわし、相手の体に拳を沈めては掴み投げ、フレイルの打撃を受け止め、そのまま投げ飛ばし、気勢を張り上げ、
服が裂け、鎧を割り、相手の正体を認識し、認識され、怯むことなく尚、一人として折れる事なく向かい来る錬度の高き闘士達、惜しむは愛が無き事で御座います。
それにまだ気がつかれてはなりません、私は密かに体の一部を周囲に広げておりました。
そして、好機が訪れました。相手側が埒があかぬと感じたのか一旦陣形を組みなおそうと攻撃の手を休めたので御座います。
その瞬間、その背後に、全面に、左に右に、人影が出現したので御座います。そして一瞬の隙を突き、相手を絡め取り、間接を極めます。
実は、この人影、全て私の体で御座います。密かに足元から形状変化の応用で周辺に体を張り巡らして、そこから分身を出したので御座います。
しかし、分身ですから長くは力が持たないでしょう。本当の狙いは、これからで御座います。
相手を捕まえたまま、体に一気に元に戻します。引き込まれる力、そして、ぶつかり合う衝撃、さらに、

「愛の足りぬ 子供達よ、愛をお教えしましょう!!スリダブが奥義が1つ 剛熊碗激極!!」
足りないのならば愛を持って抱きしめましょう、力いっぱい、力の続く限り!!

それとは別に私は体を一部のみ気がつかれぬようパルスさん達の方へ伸ばしておりました。
199ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2007/02/23(金) 15:30:44 0
   ***************8年前***************

「どうして貴女なのよ・・・私の方が優れているのに!!」
辺りを覆う燃え盛る炎を映し、血の涙にも見える瞳から流れ落ちた一筋。
その双眸は怨嗟に満ちて、茫然と立ち尽くすホビットの少女を突き刺すように睨み続ける。
「どうしてなの・・・アンナちゃん・・・・。」
やっと開いた口からは、ぽそりと呟き声一つ。心なしか震えが混じり、かすれている。
「決まってるでしょ?黒包丁を持つのに相応しいのは私だからよ!!」
狂気に彩られた形相が牙を剥き吠えた。その足元に横たわるのは二人の師の屍。
殺したのだ。それは実に呆気ない事であった。


背後から袈裟斬りにバサリと一断ち。それが猟神と称された、伝説の猟理人の最期だった。
その瞬間に稲妻の如き速さで、包丁箱を引ったくるラヴィを反す刃で切り伏せたのだ。
結果、包丁は箱から飛び出し散らばった。ラヴィの手元にあるのは包丁箱と中身の三本。
そして互いに相対したまま、今に至る。


「さあ、大人しく残りの包丁を渡しなさい。それはもう私の物よ」
「違うよぅ!!」
ぎゅっと包丁箱を抱きしめてラヴィが断固拒否した。
「いいえ違わない!!黒包丁の所有者としての実力は私の方が上だもの、私の物よ!!」
最強である事への果てなき妄執、呪いにも似たそれに支配されたアンナにラヴィの声は届かない。
「さあ!渡しなさい!!」
先に仕掛けたのはアンナだった。電光石火の一太刀が風を裂いてラヴィを襲う。
寸分の狂いもなく狙った一撃が、ラヴィの首を撥ねるかと思われた瞬間、『それ』は起き上がる。
水竜グルムル。魚竜種最大の体躯を誇り、湖畔を主な棲息地とする竜である。

三人によって猟理した筈のグルムルはまだ生きていたのだ。活け作りなのだから当然だが。
身体の大半を開きにされて尚、のたうちまわり暴れ狂う生命力はまさに竜ならでは。
振り回された尾による不意打ちに、二人は為す術なく跳ね飛ばされてしまった。
その凄まじい一撃にアンナは湖へと放り出され、ラヴィは湖畔の森の中に飛ばされる。

「ぐぁ・・・ッ!?まだ動けたなんて・・・私の猟理は・・・完璧だったはず・・・・。」
水面に顔を出して、アンナは目の前の光景を否定した。
グルムルはますます暴れ狂い、周囲の木々を薙ぎ倒しながらのたうちまわり続けている。
竜が持つ驚異的な生命力にアンナの猟理人としてのプライドが爆発する。
「たかが素材の分際で・・・調子に乗るな!!!!!」
幸いにも包丁は岸に残されている。アンナは全力で岸まで泳ぎ着くと、猟理を再開した。
   ***************数十分後***************
完全に息絶えたグルムルを見下ろし、アンナはふと気付く。ラヴィの姿が見当たらない事に。
「今は・・・今はまだ預けておいてあげるわ。私も随分と深手を負ったものね・・・・。」
力無く笑うその瞳には、業火の如く燃える憎しみと苛立ち。
地面に散らばる包丁を拾い上げて、アンナはふらつく足取りでその場を後にした。

この日、伝説の猟理人の名を受け継いだラヴィは王宮に招かれ、宮廷猟理人となる。
そしてアンナはこの日を境に、猟理人の世界から姿を消した。
200パルス ◆iK.u15.ezs :2007/02/24(土) 00:25:45 0
「うお!?変なの来た!」
「でもあいつはあそこで戦ってるぞ?」
トム君と愉快な仲間たちが騒ぎ始めた。確かに粘液状の物体が這ってきている。
アクアさんは少し離れた場所でホビット達に愛の抱擁をお見舞いしているけど……
アスラちゃんがアクアさんの一部を取り込んで記憶を取り戻したことを考えると
スライムは分裂した小さい欠片も本体の影響下に置けるんじゃないだろうか。
「し・ず・か・に!!」
気づかれたら元も子もないのでトム君達を黙らせる。
思ったとおり、スライムが縄の結び目に入り込んで解き始めた。
青龍刀を持ったホビットににらまれた気がしたが、幸い気づいてはいない。

「ぐ……兄貴!助太刀頼む!!」
アクアさんに締め上げられているホビットのうちの一人が叫んだ。
唯一こっちに残っている青龍刀ホビットがその様子を見て舌打ちをして呟く。
「人質にしようと思ったが仕方がない。先に片付けるか」
青龍刀が振り上げられる。手始めにトム君が今にも剣のサビになろうとしている!
「ちょっと待った!」
縄がほどけるまで何とかして時間を稼がなければ!
「なんだ?」
「その人達公国の人じゃないよ!本当だよ、ほら、敵の僕が言うんだから……」
とりあえず刀を止めて答えてくれた。
「ああ、知ってる。お前たちも運が悪かったな、犯罪者と一緒にいたばっかりに」
「じゃあどうして……」
「決まってるだろ? 金だ」
これ以上会話してくれる気はないらしく、再び青龍刀が振り下ろされる!
……と思われたが、アクアさんの欠片が刀身に張り付いてそれを阻んだ!
たった今縄ほどきが完了したのだ。
「何!?」
青龍刀ホビットの驚きの声を合図に7人が一斉に散る!
「アンタら、さっさと走るのよ!!」
「は、はいっ!!」
レベッカちゃんと4人組が一目散に駆けていく!うまくいけば武器を取り返してきてくれるはずだ。
「くっ、いつの間に……逃がすものか!」
彼らを追いかけようとする青龍刀ホビットの前に立ちふさがる!
するとホビットは驚異的な機敏さでほぼ垂直に飛び上がり、上から斬りかかってきた!
腕にぐるぐる巻きにしてあるショールを素早くほどき、応戦する!
最終奥義“鉄のカーテン”!!布切れを両手で突っ張って持つことにより刃を防ぐという
常識を超えた離れ技! どう見てもアホだが武器が全部取られているので仕方がない!
201パルス ◆iK.u15.ezs :2007/02/24(土) 00:26:47 0
「!?」
一瞬後、青龍刀が止まる。空中のホビットの表情に驚愕が走る。
が、着地する頃には冷静な顔に戻っていた。
「なるほど……ムムル蛾か」
タネを見事に言い当てたので解説をしてあげる。
「正解!これはメロメーロを出発する時にレベッカちゃんのご両親が贈ってくれた
美しさと鉄壁のガードを兼ね備えた逸品……」
解説が全部終わらないうちに下段の構えを取って斬りかかってきた!
間一髪で飛びのいて避ける。身長差が大きい場合にその差を逆手に取る攻撃法だ!
こんなのをこいつの俊敏さでやられたら避け続ける保証は無い!!
が!ニ撃目が来ようとしたとき、相手は突然足を滑らせた!足元には例の黄色い物体。
「俺のことも忘れてもらっちゃ困るなあ!」
ロングコートのナイスガイが右手にバナナの皮を颯爽と携えて立っているのだった。
コマンダーだけあってバナナの皮の狙いも正確極まりない。

それを見た青龍刀ホビットは下を向いて奇声を発し始めた。キレたのだろうか。
「ふふ……」
なんだかとってもヤバい気がする。そして、それは奇声ではなく笑い声だった。
「あはははははは!!」
顔をあげた彼は、初めてホビットらしい顔をしていた。
「ジェリー!俺はこいつらと遊ぶからそっちはお前でどうにかしてくれ!」
アクアさんに締め上げられているホビットに声をかけ、こっちに向き直る。
「最近退屈しててさ、だって全然俺と対等に遊べる奴っていないんだよね。
……でも君たち二人は楽しませてくれそうだ。俺をがっかりさせるんじゃないぞ!」
心底楽しそうな表情。遊ぶのが大好きで好きなことには一直線に突っ走る性格。
方向性はちょっとアレだが、彼はやはりホビットだったのだ!
自慢の青龍刀を振りかざし、やる気……というより殺る気が全身から満ち溢れている!
「「ひええええええええ!?」」
ハイアット君と僕の絶叫と共に、命がけのお遊戯が幕を開けた!
202ラヴィ ◆P4yyuPbeoU :2007/02/24(土) 15:17:39 0
「この辺でいいんじゃない、あなたの大切な“おともだち”は見てないわよ?」
その言葉に立ち止まり、振り返る。その表情に普段の愛らしさは微塵も見当たらない。
「ずっとこの日を待ってたんだよぅ・・・・。先生の包丁が戻ってくるのを。」
何時になく真剣な面持ちで真っ直ぐにアンナと対峙するラヴィ。
手には包丁箱『艶八房』を抱えている。中身は入っていない、空の包丁箱だ。
ここに納まるべき包丁はアンナが持っている。8年前のあの時から、ずっとだ。
「奇遇ね、私も待ってたのよ。この日がくるのを・・・嬉しさのあまりに涙が出そうだわ。」
心底嬉しいといった表情のアンナは、巨大な包丁を構えた。鈍い朱に染まる刃が月の光に揺らめく。
刀身の形状からドラッドの6番包丁『虚帝(うつろいのみかど)』と判別できたが、その色は・・・・。

血塗られた怨念を顕したかのような赤。

「先生の包丁になんてこと・・・酷い・・・・。」
思わず呻くように呟くラヴィの手が、怒りに震える。
ゆっくりと十六夜を抜き、ラヴィも身構えた。6番包丁はその猟理人の最も得意とする包丁。
いわば全力での戦いにこそ真価を発揮する、猟理人にとっての最後の切り札である。
「酷い?どうしてかしらね、この包丁『鉄朱』は“私の”包丁なのに」
そう嘲笑うアンナの一言が引き金となった。
疾風迅雷、ホビット族の持つ超スピードで瞬く間にラヴィが間合いを詰める。
「返せッ!!」
短い言葉に込められた怒りが、刃に乗ってアンナに襲い掛かり・・・受ける刃と刃が火花を散らす!


猟理人の技量とは、生物の身体構造の熟知に始まる。
効率よく素材を解体する技術こそが、全ての猟理の基礎となるのだ。
ラヴィには人を相手に戦った経験は無きに等しい。だがアンナは違う。
“人の身体”を“効率よく解体”する技術を習得している上に、ホビットの構造にも詳しい。
アンナが「ゼロ」と組んだ本当の理由・・・それは、ホビットの身体構造を知る為だった。
他のメンバーに悟られぬよう、一人・・・また一人と殺しては“実験台”にしていたのだ。
たった一人のホビットを殺す為だけに、「ゼロ」は利用されていたに過ぎない。
プライドの高いアンナが、協力などありえないのだ。所詮は亜人種、ゴミ同然の価値しかない。


戦いは早くも決着が近付き始めていた。最初はラヴィが圧していたように見えた。
しかしそれはアンナの仕掛けた罠だ。アンナはじっくりと品定めをしていたのである。

これから“猟理する素材”を、じっくりと・・・

203名無しになりきれ:2007/02/24(土) 16:00:59 0
たまに上げないと落ちるのだよ
この世界はな!
204イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/02/27(火) 16:00:12 0
死≠ェ駆ける。
自らの蹄にかけられ、かかる飛沫を存分に吸い込み、赤く染まって駆け抜ける。
その巨大な人馬一体は血煙の中で輝くに、最も相応しい生き物に見えた。
先陣を薙ぎ払い、抜けたところでリオネのデスに一騎が並ぶ。
「リオネ様」
背に燦然とはためく公国旗と髑髏に咲いた蓮の花というオルトルートの旗を負った、中性的な顔立ちの騎士である。
「突出しすぎております。両翼はこれ以上追えませぬ」
騎士の駆る馬も千金に値する張りと躍動感であったが、さすがにデスの横では馬と呼ぶのもおこがましく映ってしまう。
こうして轡を並べるだけでも、刻一刻と命を磨り減らしているのは明白であった。
「リオネ様!!」
「……ジェダよ」
悲鳴寸前の騎士の呼びかけに、ようやくリオネが口を開く。
目は真っ直ぐに前を見据えたままだ。
「それでよい」「ハッ……」
「ジェラとジェナに伝えよ。これより大白鳥の陣を展開する」
崇拝する軍神の言葉に、騎士――ジェダは心臓が二つになったかのような錯覚を覚えた。
「他に言いたいことがあったのではないか?」
鼓動を抑えようと口元をきつくするジェダに、軍神の更なるお声がかかる。
この主人からの質問は、非常に珍しいことである。
「ジェマが、酷く不機嫌そうです」
若者は言っていいものかと少し迷った後に、かすれた声を出した。

ジェダ、ジェマ、ジェラ、ジェナの四つ子は、リオネの傍近くに仕える騎士である。
四人はその特殊な生まれからか、どこに居ようとも、どれだけ離れていようとも、完璧な意思の疎通ができるのだ。
公国騎士団が一糸の乱れも見せずリオネの手足の如くなるのは、彼らの尽力によるものが大きかった。

「さもありなん。あれは人を不快にさせる天才だ」
「いくら許嫁でパルモンテの当主とはいえ、ジェマを付ける必要はなかったではありませんか?」
言って、ジェダは蒼白になった。
口が過ぎたと思ったのだ。
「あれが、もし私の十分の一程にも逞しくあったならば……」「はあ……?」
「きっと私は、見向きもしなかったであろうな」「……はあ」
光の速さで折檻されるかと身を硬くしたジェダは、続くリオネの楽しげな響きに阿呆のように返すしかなかった。
「あれは自分勝手で品のない言葉を平気で吐く上に、どんな汚い手でも平気で打つ。龍人貴族の名門でありながら、およそ美徳や高潔さとは縁のない男だ」
「それは……最低では?」
目の前の女軍神とは釣り合わぬにも程がある。まるで正反対の人物だ。
「そうだな、最低だ」
なのに、何故かリオネは笑った。

ガルムの前庭≠ニ呼ばれる、要塞前に置かれた防壁陣地に二騎が着く。
ここでようやく、リオネは血の乾きに滾るデスの足を止めた。
周囲に蔓延るただならぬ気配に対処するためである。
「……下がっていろ」「いえ、ジェダはお傍を離れませぬ。例えお力になれずとも盾くらいに――」
「ふんっ」「ひいやあああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」
嫌がるジェダを馬ごと片手で放り投げ、流墜星を構えるリオネ。
辺りに塩の香りが漂い始めたのは、それから一呼吸もせぬ内のことであった。
205アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/28(水) 23:14:16 0
レジスタンスと公国西部方面軍混成部隊の戦闘は続く。
激しい戦闘という訳ではない。どちらかというと、のらりくらいと引き伸ばすような戦闘。
遅延戦闘というらしいけど、それでも・・・!
私がいる本陣からは、前線での戦闘を肉眼視できることはない。それでも・・・!
中原に充満する戦争の狂気は私の肌から伝わり、五臓六腑にしみ込む様だ。
ここのところ私は常時縦目仮面をつけている。
縦目仮面をつけると知識継承の使用が可能になる反面、全身の細胞が活性化するので負担も
大きいから長時間の着用はできなかった。
だが戦場の空気は私に活力を与え、常時着用を可能にしていた。

私は本陣司令部でじっと太極天球儀を見つめる。
それが仕事。
星の眼と占いで敵の陣形や戦術を見て、それを司令部に伝える。
刻々と変化していく戦況を先読みし、罠を仕掛け、消耗戦へと導いていくのだ。

#####################################

夕暮れ、戦闘もあらかた終了したのを見計らって私は司令部テントを出た。
彼を迎えに行く為に。

「・・・ああ、疲れた。何の因果でこないな土木工事をしとるんやっちゅうねん!」
誰に言うでもなく大きな独り言を口走りながらリーヴさんがやってきた。
鎧を着けず、泥まみれの服につるはしを背負いながら疲れた様子で歩いてきている。
レジスタンスの2割は戦闘には参加せず、ギルビーズさんの指揮の下、罠作りを行っている。
地の利を行かし、大規模な軍隊用の罠を作っているらしい。
今日のリーヴさんはその二割に入っていたんだ。

「おお!?なんや、どなたはんかと思うたら参謀殿ではおまへんか。
こないな場所にどないなご用件で?」
一日土木作業で疲れているのか、私にかける言葉に棘を隠そうとすらしていないようだ。
いつのも私ならこんな風に言葉を投げかけられれば逃げ出してしまうところだけど、縦目仮面を被って
いる今なら、普通に受け取れる。
「リーヴさん、あなたにお願いがあります。」
「おいおい、わいは疲れとるんや。こないな下っ端の傭兵なんかにお願いなんて恐れ多い。
炎の爪とかにお願いしてや。」
「あなたしかいけないのです。あなたはなんの宿縁も宿星も背負っていない。
だからこそ・・・、壊宿となりえうる。僕のお願いを聞くのは、あなたの運命です。」
「・・・はぁ?何わけのわからんこと言うとるんや?」
「これが、あなたの抗えざる運命です。」
しっしといった感じで手を振って私を追い払おうとするリーヴさんに手を差し出す。
私の手に握られているのは、一見するだけで高価だとわかる青い宝石。
「これはブループラネット。この大きさ、価値はわかりますね?
二重契約ではありません。ただの残業手当と理解してください。」
「こ、これは確かに、抗えぬ運命やな。それで、運命はわいになにをせいゆうとるんや?」
差し出されたブループラネットを受け取り、それを凝視したまま私に尋ねてくれた。
206アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/28(水) 23:14:45 0



「なあ、お前の占いに依れば明日には公国軍の飛竜部隊が到着するンやろ?こんなことしとってええん
かいな?」
「・・・はい・・・。」
馬上でリーヴさんにしがみつきながら私は小さく返事をする。

今まで暁旅団の活躍で制空権を握っていたけど、飛竜部隊が到着すれば戦況は大きく変わる。
飛行速度、耐久度、攻撃力、射程、およそ殆どにおいてその戦力は暁旅団を凌駕するだろう。
やや優位に立てるのは旋回能力くらいか・・・。
「いつごろ来るのかわかっていればそれなりの準備はできる。」
ギルビーズさんの心強い台詞だけど、楽観視はできない。
苦しい戦い・・・いや、一気に戦局が傾く事だってありうる。

そんな重要な局面だけど、私はこうやって陣を離れている。
どの道、飛竜部隊の移動速度はこちらの伝令速度を上回る。
私がいくら星の眼で動きを察知し伝えたとしても、それが前線に伝わる頃には既に飛竜部隊は通り過ぎ
たあとだろうから。
ソーニャさんもレニーさんもジーコさんも既にそれなりの準備と対策はできているといっていた。
だったらもう私の役目はないのだ。

私達がメロメーロに到着したのは空が白み始めた頃。
馬上で寝ていた私はともかく、一晩中馬を走らせ続けていたリーヴさんは流石に辛そうだ。
まだ眠りから覚めている人も少ないようで、街は静かなものだった。
朝靄の立ち込めるなか、家々が立ち並び、整備された広い道に私は驚きを隠せなかった。
ロイトンの大きさにも圧倒されたけど、ここはそれ以上だ。
日も上がればレジスタンスの飼料部隊が来て、大量の物資を買い付けていくだろう。
職を求める傭兵や、一山当てようとする商人たちで溢れ、戦争特需で町も活気に溢れるはずだ。
そんな町の様子も見てみたかったけれど、時間がない。
「このまままっすぐ、町の北に出てください。」
「お前は後ろで寝取ったからええやろうけど、ワイはもう限界や。朝飯くらい食わせえや。」
力ない返事で馬を御して到着したのは一軒の宿屋。
「おいちゃん、コーヒーとトースト。コーヒーはめちゃ濃い奴で頼むで。
それとこっちのチビにはメロンジュースでええわ。」
「あ、お肉!お肉もお願いします。」
「朝から見るだけで胃がおもたなるわー。」
寝ぼけ眼で注文してはぐはぐ食べていたので、げんなりするリーヴさんの顔も、この宿屋から溢れて有り
余る強い気にも気づく事はなかった。


町の北はずれ、立ち入り禁止と札と木の柵の向こう側に広がる大きな穴の前に私達は立っていた。
「何ぢゃこりゃ!ごっついのお!」
「半年前、アグネアストラが這い出た傷跡です。」
「精霊の消失した時期と一緒やんけ!しかもアグネアストラやて!!??・・・・ってなんや?」
「古代魔法文明セレスティアの遺物です。」
リーヴさんのボケを受け流し、あたりを調べると結界が敷かれていた。
多分街の人はここに穴があることを認識できていない、それにここに近づこうという気が起きないはずだ。
復興がなされているとはいえ、これだけのものを埋め立てるには至っていないのは仕方がないことだ。
「ちょ、ちょっと待ったらんかい!お前どこに行くつもりや!」
結界に穴を開けようとしていると、慌てた様子で方を掴まれた。
「僕の占いによると、もうすぐ恐るべきものが来襲します。
このまま手を拱いていれば王国、公国問わず、中原の戦線が崩壊する危険があります。
だから、僕はそれに対する準備をしにいきます。
リーヴさん、ありがとうございました。あとは僕一人で行きますから。」


207アビサル・カセドラル ◆9..WsvGTOM :2007/02/28(水) 23:15:19 0
アグネアストラが偶然ここに埋まっていた、そんなわけはない。
この地下には古代セレスティア文明の地底都市イルシュナーが埋まっている。
悠久の年月と地殻変動によってアグネアストラの封印は解いてしまったけれど、機能はまだ生きているはず。
地脈を引き寄せて動力としているのなら、封印機能が失われた分都市自体へエネルギーは溜まっている事
になる。
そう、私の全細胞が教えてくれたいた。
この感覚、まるでグレナデア破壊に駆り立てられたあのときと全く同じ感覚だけど、それを自覚する事はでき
なかった。

「アホンダラ!この状況でワイ一人帰ったら今度こそ炎の爪に消し炭にされるやんけ!
それに残業手当分はきっちり働かさせてもらうで!」
一礼していこうとしたら、リーヴさんがすごい形相で一緒についてきて驚いてしまった。
何が彼をこれほどまでに駆り立てるのか、わからないけど、最優先するのはイルシュナーへとたどり着く事だ。
これ以上追い返すこともなく、私達二人は重力制御をしながら穴の底へと落ちていった。
巨大な穴にもかかわらず、その深さに底は闇に包まれ見る事ができない。
まるで奈落の底へと降りていくように。

#############################################
西部方面軍混成部隊本陣
夜明けと共にロンデルはテントを出て空を見上げる。
飛竜部隊の到達を今か今かと。
今日到着という報はあっても、午前か午後かもわからぬ到着だが、それでも待ってしまう心情が今の戦況を
あらわしていた。
そんな背中をテントの中から見守るフードの人物。
あいも変わらず落ち着いた様子で紅茶を啜っている。

「・・・なぜ君がこのセフィラにいるのかな?」
『星辰の導きのままに・・・』
フードの人物の背後には幽かな姿で黄金の仮面の人物が立っていた。
共に顔の見えぬもの同士だが、視線を向け合う事もなく会話は続く。
「ふん。我が妹君が僕の仕事を取っちゃいそうなのだけど、君がその星辰とやらで導いたのかな?」
『第八の大罪が現われし故に我は生まれた。全ては定められし事・・・。』
「八?」
『第八の大罪・・・。哀れなり愚かなり。救われぬモノ。其の名を【正義】といふ!』
「・・・いいさ。天の三角が頂点、衛星軌道都市ライキュームを帰還させるのは君の方が得意だろうから任せるよ。」
フードの人物の言葉を受け、黄金の仮面の人物の姿は虚ろに透けていき、やがては消える。
紅茶を飲み干したフードの人物はようやく立ち上がり、遥か先にあるメロメーロの町へと目を向ける。
208レベッカ ◆F/GsQfjb4. :2007/03/01(木) 18:08:58 O
なんかとんでもない事になって来ちゃった!早くみんなの武器を探さないと…
「さっきチビがあの辺から箱を引ったくってたぜ?あそこにあるって事じゃねーか?」
トムがアタシ達の軟禁されてたテントの隣の貨車を指差してる。
なかなかやるじゃないの。これであの襲撃者を何とかできる!!
「よーし、急ぐわよ!ぐずぐずしてたらパルが危ない!!」
「その前に俺達の縄を何とかしてくれ、縛られたまんまじゃどうにもならねぇよ」
トムの主張は至極尤もらしいけれども…縄を解いた途端に裏切ったら…
ぶっちゃけアタシが危ない。
でも今は非常事態だし、時間は待ってはくれない。信じるしかないよね。
「いい?もしも裏切ったらどうなるのか分かってるでしょうね!?」
アタシの確認にトムは即答する。
「裏切ったりしたら…ってか今そんな悠長な事言ってる場合じゃねーだろが!!」
「そうだそうだ!俺達まで殺られるかもしれねーしな!」
他の3人も必死っぽい。そりゃそーだ、言う通り殺される可能性があるんだもん。
こいつらだって必死になるわよね。よし決めた、信じる!!
「ほら手出して!」
「え…?信じるのか?俺達はおまえらの敵なんだぞ?」

カチーン!!
「人がせっかく信用してんだから素直に手ェ出しなさいよアホ!!!」
ムカついたんでキン〇マ蹴り上げたら、トムは「ぎぼぁーッ」って悲鳴と共に撃沈。
ヤバイ、もしかしなくても戦力ダウン!?
「ざ…雑草…魂が……ッ」
「「「トムッ!?なんて酷い事しやがるんだオメーわ!!」」」
悲壮感全開でアタシを責め立てる3人、ちょっと力入れ過ぎちゃった…かな?


一方その頃、パルスとハイアットは攻撃から逃げ回るのに精一杯であった。
「ひいぃぃいいい!!当たったら死ぬ!絶対死ぬ!!」
情けない悲鳴を上げて必死に逃げ回るハイアット、バナナの次弾装填には時間がかかる。
つまり、単純にバナナを食べるという事。
いくらなんでもこの状況下でバナナを食べてる程、ハイアットも馬鹿ではないのだ。
「どうしよう!このままじゃ……!?」
甲高い金属音。パルス目掛けて容赦無く振り上げられた刃を受け止めたのは…

「けっ、別にテメェらを助けるためじゃねーからな。俺達が助かるためだ、勘違いすんなよ?」

燃える山賊ド根性!!リーダーのトム!!!
209イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/03/03(土) 01:08:23 0
潮が満ち始める。
この中原に、潮の香りが吹き抜ける。
リオネの周りを囲む形で出現した小さな海は、瞬時にして辺りを磯辺の風景へと変質させた。
この怪異に名を付けるならば、海の召喚≠ニでも言うべきだろうか?
まあ何せよ、眼前の脅威の呼び名など、この軍神には意味のない事であった。
「リオネ・オルトルートとお見受けする」
泡混じりといった響きと共に、海面から顔を出す者達。
その数、十六。
鱗に覆われた者、甲をまとった者、軟体の者、発光器官を備えた者と、明らかに同じ種族の者はいなかったが、一同の共通点もまた明らかであった。
全員が、海に住まう者達。
「我ら、七海十六聖臣。故あって汝の敵に手を貸す立場にある」
正面の半漁人の名乗りに目を細め、黙って耳を傾けるかに見えたリオネであったが、
「覚悟を決め――」
不意に、流墜星を一閃させる。
予備動作なしの神速が、どう見ても物理的な間合いの外にあったタコ頭を消し飛ばした。

「な〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!???!」

驚愕し戦慄する、残り十五。
即死したタコ頭が沈むと同時に、彼が海面下からリオネへと伸ばしていた触腕が浮かび上がり、程なくして持ち主の後を追う。
「……確かに戦は勝てば官軍。勝利の前では如何なる手管も正しき事……とはいえ、名乗りくらいは聞いてやるつもりであったが……」
淡々と低く言うリオネの姿は火の一言。愛馬デスもまた、さながらに火の如し。
「戦いの作法も知らぬ下種共には、相応しき死をくれてやろう」
人馬一体――まさしく炎の一文字がそこにあった。

一閃、一閃、また一閃。
彼女の槍が唸る度に、確実にこちらの命が散っていく。
各種族を代表する無類の強者達が、歯牙にもかけぬとは正にこの事。
「こ、こいつ、強すぎる……っ!!」
ほとんど水と変わらぬ体のおかげで一切の物理攻撃が通用しない、と自慢していたクラゲ種族のエチゼンが
何も出来ずに槍の露となったのを見て、半漁人――マーマンのリョウマは全身の鱗を逆立たせた。
一同に走ったのは恐怖である。
そして場を支配したのは、圧倒的な武力に対する畏怖であった。
「シン! かまうな! 一切の足場を沈めてしまえ!!」
堅牢さと海の召喚術の腕前を誇る、貝の種族一の使い手の名を叫び、リョウマは起こした無数の水竜巻でリオネを牽制する。
牽制といっても、全力の技だ。
「ふんっ!!」
だが、この怪物にとっては、やはり足止め程度なのだろう。
一撃で戦列艦にをも致命打を与えるはずの破壊の渦は、捻りを利かせた槍の一突きで悪夢みたいに消えてしまった。
「シィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッン!!!」
仲間の血で染まった海を必死にかき分けて、恐慌寸前の理性を震わせ叫ぶリョウマ。
だが、返ってきたのは彼の断末魔であった。
「…………」
天然ミスリル甲の六枚重ねを串刺しにして高々と掲げる軍神。その形を成した絶望には、もはや言葉を失うしかない。
「は……ハハ…ハハハハハハハ……」
いや、笑うしかない。
これが笑わずにいられようか!?
佇む軍神の足元、つまりデスの蹄の下には足場などなかったのだから。
シンは最初から全力で術を行使していたのだ。こいつはただ顔色一つ変えずに、一瞬で馬ごと水面に浮かぶ木の葉の境地に達してのけただけ。
逃げればよかった? いや、逃げる事も適わなかったろう。
すべては、彼女の前に顔を出した瞬間に決していたのだ。

無言で振り下ろされる一閃に割られるリョウマの脳裏に浮かんだのは、彼らの崇める女王の御美顔であった。
目の前の軍神と重なって見えたからである。
質は違えども、その圧倒的な美と恐怖によって……。
210遥かな高みより:2007/03/03(土) 10:33:24 0
ここは地上3万8千メートル、地上と星界との境界にあたる高度領域。
そこで地上を見下ろすのは機械仕掛けの巨大な“龍”であった。


「こちら“ドラッヘ”、現在軌道空域に到達。地上の標的を確認後、掃討を開始する」
私の名はトレス=カニンガム。公国空軍大佐だ。
かつてリエッタ共和国の騎士団長であり、霊鳥バラマと共に空を翔け抜けた天空騎士。
しかし友であったバラマを失い、翼を剥がれた空の騎士も…今や唯の軍人だ。
戦争に敗れた私達に、選択肢など存在しなかった。
本当に無かったのか?と聞かれたら、私はおそらくこう答えるだろう。
“無かった”と。

『カニンガム大佐、後方より星界獣の接近を確認した。直ちに迎撃せよ』
オペレーターの言葉通り、索敵盤に映し出された一点の白。かなり大きいようだ。
「了解、近接戦闘の動作試験も兼ねてみるとしよう。…ベルセルク射出!!」
機体の背に格納された24本の無線誘導式小型光剣、《ベルセルク》が一斉に発射された。
青蛇琴を目掛け、まるで群れをなして襲い掛かる獣の如く《ベルセルク》が殺到する。
星界に住まう巨大な蛇が細切れにされて、重さの無い世界へと散らばるまでに約12秒。
これが…これこそが公国の持つ恐るべき技術。
ゼアド大陸の北半分を僅か5年で制圧したのも納得できる。
自分達がいかに無謀な戦いをしていたか、その力に直に触れ、思い知らされた。
勝てる訳が無い。誰もがそう言うだろう、そして今の我々を責める事など誰にできようか。

従う以外に道は無かったのだ。

今でも自分にそう言い聞かせながら、私はかつての同盟国を侵略している。
決して楽な死に方はできないだろうな。何時もそう思い、“敵”を討つ。
赦せと祈りながら、“敵”を討つ……。

中央戦線に於ける王国連合軍の進撃を阻止する為、私はこの遥か空の果てに居る。
地上からこのドラッヘを肉眼で確認するのは不可能だ。完全な奇襲爆撃。
既存の航空戦力の常識を覆す『高さ』からの、陽電子砲による掃射は防ぐ事など出来まい。
私が引き金を引けば中央は大きく動くだろう。
展開した連合軍の戦力は壊滅的打撃を受け、オルトレート家率いる地上軍が戦線を塗り替える…。
更に、地上にはドラッヘと対を成すもうひとつの機体…ティーガーも配置されるという。
公国の勝利は揺るがぬものとなったと言って過言ではない。

しかし私の中に漠然とした不安が消える事はなかった。
かつて私が…私達がそうだったように、打倒公国を胸に戦う者達がいる。
真の自由と平和を願い、命を散らす者達が遥か彼方の地上には存在しているのだ。
それが不安であり、羨ましく堪らなかった。
本当は自分もまだあそこで戦っていたのではないのか、と。
捨てた筈の誇りと信念が、未だに未練がましく私の中に残っているのかもしれない。


『カニンガム大佐、星界獣の反応停止を確認した。作戦行動を続行せよ』
淡々と指示を出す官制の通信に、私は我に返る。悪い癖だ、すぐに思い詰めるのは。
「了承。作戦開始時間まで高度を維持。17:00より作戦を開始する」
手元の時計をちらっと見る。時刻は16:47、後13分で世界の歴史が動くのだ。

じわりと滲む汗を無視して、私は時が来るのを待った。
211パルス ◆iK.u15.ezs :2007/03/03(土) 11:06:52 0
有り得ない事に、万年やられ役ザコ山賊のトム君が青龍刀を受け止めていた!
青龍刀ホビットも満更ではないようだ。
「面白い……受けて立とう!」
さらに有り得ないことに、そのまま大剣戟が始まってしまった!
青龍刀ホビットがまるで瞬間移動のようにトム君の後ろに回りこむ!
ほぼ同時、トム君が後ろに蹴りを入れる!青龍刀ホビットは紙一重で後退してそれを避ける!
対するトム君は蹴りの勢いで空中で一回転して着地、再び二人が向かい合う。
一瞬後、刃と刃がかち合う金属音が響く! 青龍刀ホビットがゆっくりと口を開く。
「貴様のどこにそれ程の力が?」
刃を交えたまま、トム君が答える。
「燃える友情パワーだ!」
「友情……?ハハハ、くだらない!そんな物、弱さにしかならない!」
ホビットは青龍刀を打ち払い、二人の間合が開いた。
「笑うなら勝手に笑え!
このバンダナにかけて誓い合った日から俺達は不滅の友情で結ばれているのだ!」
そう言われてみれば、この4人組はおそろいのパンダ柄のバンダナを巻いている。

そんな激しい戦いの中、呆然と観戦しているだけの僕とハイアット君だったが
ふと後ろを見ると、トカゲの尻尾の3人がやけに真剣な表情でリーダーの方にに手をかざしているのに気づいた!
「何それ!?怖えええええ!」
かなりキテます。ハンドパワーでも送り込んでいるのだろうか!?ハイアット君が手をぽんっと打って言った。
「あれは……古代の遺産、“バンダナ・オブ・パンダ”!巻いたもの同士でパワーリンク
できるようになるものだ。送り込まれたパワーは友情度に対して相乗曲線を描いて増大する!」
「意味分からん!」
彼らは蠍の爪の倉庫番だったので、遺産の一つや二つ持っていても不思議は無い。
不思議なのは、なぜ今までその能力を使わなかったのか!?
その疑問に答えるかのように、ボブ君がポツリと呟いた。
「この特殊効果、三日ほど前に気づきました」
「気づくの遅ッ!……て、ちょっと!」
突然力が抜けたようにへなへなと倒れるボブ君。他の二人も同様に倒れていく!
リーダーにパワーを注ぎ込みすぎたのだ!
「お前らああ!?大丈夫か…ぎゃああああ!!」
トム君が急に押され始めた。というか逃げ回っている!
仲間の援護が無くなり、いつものザコ状態に戻ってしまったのである!これはまずい!

その時!武器を抱えたレベッカちゃんが走ってきた!
「パルとそこのバカ!!受け取れえ!」
投げられた剣を受け取る!レベッカちゃんは楽器を投げるなんてことはしないのである。
「君の動きはしっかり見させてもらったよ!」
剣を翻し、青龍刀ホビットとトム君の間に割り込む!
「俺達が相手だ!」
急に強気になったハイアット君が銃を構えつつ告げる!
「何!?」
慌てて、その辺で伸びている仲間に声をかける青龍刀ホビット。
「お前らあ! 助けに来い!」
しかし、誰も助けに来ない。アクアさんの愛の抱擁で改心……じゃなくて疲れきっているからだ!
「友情パワーが足りないお前の負けだ!特殊弾頭コード番外編……」
ハイアット君が、おそらくかつて無い恐怖に震えているであろう青龍刀ホビットの額に照準を合わせた!
212ST ◆9.MISTRAL. :2007/03/04(日) 21:54:05 0
――中央戦線
激しい戦闘が続く。互いに一歩も譲らぬ攻防は、まるで終わりの無い死の舞踏会。
その中で最初に異変に気付いたのは、連合軍の傭兵部隊を率いているケヴィンだった。
公国軍の反応が先程から妙に弱腰に思えたのだ。兵力ならば僅かに勝るというのに。
(防御陣形に魔力障壁、守りを固めたか…)
ケヴィンの長年の戦いで培ってきた勘は、既に警笛を鳴らしている。
「それに…要塞まで前線を下げた?どういう事だ…連中には何の得にもならねえってのによ」
思わず疑問が口に出た事で、ケヴィンの警笛は更に喧しく鳴り響く。
「奴らが退いて行くぜ。願ってもないチャンスだ、ここらで一気に押し込もうや!!」
そんなケヴィンの隣に同じ傭兵部隊のジャックスが息を荒げて駆け寄って来る。
このジャックスとは長い付き合いになる。かれこれ8年、共に戦場を駆けた仲だ。
信頼もしていたし、いつもならその言葉に返事一つで駆け出していただろう。
だが、今は違う。
何かが違うのだ。長い傭兵生活でこんな感覚は初めてだった。

『だからこそ判断が遅れたのかもしれない』と、後に彼は“その直後に起きた天災”を語る事となる。


――ガルムの前庭
一方的な虐殺、その戦いを見たら誰もがそう言うだろう。
それほどまでに力の差は圧倒的に開いていた。
“闘龍姫”の異名は伊達ではない。そう呼ばれてしかるべき武力を備えた女傑なのだ。
リオネ=オルトルート。公国12貴族に名を連ねるオルトルート家当主にして豪傑無双。
西方に住まう悪鬼すら怯む気迫と、大陸随一の槍術を以って敵を葬る彼女が、珍しく眉間に皺を刻む。
もうじき目の前に広がる中原は、一切の命も宿らぬ焦土の荒野と化すのを知っていたからだ。
リオネにとって最も嫌いとする文明兵器による大量殺戮。戦の誉れを蔑ろにする行為であると言う。
武を尊ぶオルトルート家の訓えを骨の髄まで染み育ったリオネは、己の“技”のみを戦に許す。
龍角種であるが為か、こと闘争に於いて抜きん出た力を持つ彼女らしい考え方だ。

「ふむ…つまらぬ余興よな。されど決定ならば仕方あるまいて。ジェダ、戦を畳むぞ!」
串刺しになった最後の七海十六聖臣、海豹の暴君サムチャイの身体を槍の一振りにて払い捨てた。
決して七海十六聖臣は弱くはない。しかし相手が悪かった…いや、悪過ぎただけなのだ。
どれだけ強い海の有力者といえど、荒ぶる龍の怒りの前では“まな板に乗った海産物”でしかないのだから…

リオネの一声に応じるかの如く公国軍の中でも優れた術者による広域結界が展開する。
間もなく降り注ぐ死の煌めきから、敬愛する戦乙女を護り通す為に。


程なくして中原に降り注いだ“それ”は、地上を…戦場を…瞬く間に燒き尽くした!!
その正体は《DMS-01ドラッヘ》の最火力兵装、16連装荷電重粒子砲“業火(ゲヘナ)”である。
幾条もの光の柱が一斉に大地へと突き刺さり、それだけでは飽き足らず周囲の全てを焼き払った。
「かの聖獣を討つべくして造られたグレナデアの砲を真似たにしては…よう出来ておるな」
何ともつまらなそうに零すリオネ。目を灼く程の強烈な輝きに、瞬きすらしないのは流石。
「…むぅ…賑やかし程度にはなる、かのぅ?」

この女傑にかかれば地上を壊滅させた焔ですら、生誕祭の打ち上げ花火と同じなのであった。
213イアルコ ◆neSxQUPsVE :2007/03/05(月) 01:41:51 0
魂燃やしての全力疾走。
その最中にうっすらと前方に見える輝きを、人はバニシング・ポイントとか言ったり言わなかったり。
「あひあひあひあひあひあひあひあひあひあひあああああああああああああっ!!!」
とにかくダズート将軍にとっては、尻に帆かけた人生最燃焼の逃避行なのであった。
「待たんかコラアアアアアアアアアアアアアアーーーーア!!!!」
今にも禿げ上がりそうな親父のやや後ろで、イアルコ坊ちゃまも道を同じく駆け逸る。
その横に無表情のメリーと笑顔のトルメンタ、僅かに下がって引き歪んだ顔で足を動かすジェマの姿があった。
ここは、ガルム要塞の地下に張り巡らされた脱出路の一つである。

意気揚々と中原に下りた三騎と四人の一行は、まず戦線を迂回して要塞の後方に回り、目論見通りに出遅れた伝令の始末に当たった。
相手は前しか見てない馬鹿な連中である。背後さえ取れば侵入は容易い。大将を縛り上げて身代金をふんだくり、更に機密をかすめて
転がして一儲けしてやろうとしたのだ。
とにかく、髭むさい将軍を追い詰めたまでは順調だったのである。
何か降って来なければ、今頃坊ちゃまは福々しい笑顔でいられた事だろう。
まあ、結果は惨憺たる大泣きの憂き目であったが……。
「復讐してやるわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
……誰にだよオイ。

膨大な熱と光を肌で感じるくらいに近い背後で、元要塞はすでに瓦礫と化していた。
いや、正確に言うと現在進行形で化していた。
更に言うと、残酷にも光の柱は拡大の一途を辿っていた。
故に、彼らは走るのだ。
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
真っ向から迫る振り子刃を、足を止めずに器用に仰け反ってかわすイアルコ。
「馬鹿者おおおおおおおおおお!!! 罠くらい解除しとかんかあああっ!!」「無茶言うなよおおおおお!?!!」
おまけにこの道罠だらけ。全速を出せないもどかしさまでもが一行を苛むのでった。

――以降は、お見苦しく面倒臭いので割愛。

一着ダズート。
「でぃゆわああああああああああああああああああああああ!!!」
最後の難関、ラムセス二世の大暴れに全員を嵌めての、実に堂々たる一着であった。
「逃げんな金ヅルっ!!」「やなこった!」
勝利の余韻に浸る余裕もなく、出口の扉の向こうに消えるダズート将軍。
「ご丁寧に閂までかけおってからにいいいいいいいいいいっ!! ぬおおお動けん!!」
止め処ない悪態を垂れる坊ちゃまに、嫌悪感全開のジェマが口を挟み、たちまちの内にイアルコ優勢の口喧嘩に発展する。
力技で罠から脱出したトルメンタと、いつの間にか自由になっていたメリーが荒々しく二人を仲裁した瞬間に、
「んん?? 何か言ったかの?」「歯が…歯が折れた……いや折られた」「扉の奥だぞ、イアルコ仮面」「…………」
それは起こった。

「ファンタスティコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」

想像だにしなかった絶叫に、頭からこけるイアルコとジェマ。
何だか、別人みたいだが間違いない。ついさっき先に行ったダズート将軍の声だ。
……だが、何故あんなにも楽しそうなのだろう? 気持ち良さそうなのだろう? わからないだけにメチャクチャ怖い。
ただの断末魔でも怖いのに、この叫びにはまったく理性の色がなかったのだから。

もはや道は前にしかなく、真っ先に選ぶであろう逃亡の選択肢の消失に震えるイアルコ坊ちゃまであった。
214ジーコ ◆ZE6oTtzfqk :2007/03/08(木) 01:04:37 0
相変わらずの泥仕合、いい加減に飽きてきた。これが今の俺の正直な感想だ。
それでもロンデルが指揮する部隊だけあって、そう簡単には退いてくれねぇがな・・・。
今日もお決まりの砲撃戦で〆だ。
かれこれ5日間続くこの消耗戦、そろそろ互いに息を切らす時期だろう。
ロックブリッジには連中の水陸両用ゴレム《メルクリウス》が4機、陣取ってやがる。
そのせいで俺達は迂闊に踏み込む事は出来ず、こうやってのらくらと撃ち合いしてるって訳だ。

「クソッタレが!弾にも限度ってもんがあるんだよ、こりゃマズイぜ・・・。」
心配なのは弾薬残量と兵の士気。流石にゴレムを使うのに慣れてる連中が有利だ。
こっちゃ素人だからな。にわか操縦でどうにかなるほど甘くはない。
練度の差ってやつがじわじわ顕れ始めたのは3日目だった。
こちらの機体は陸戦仕様の高機動型、当然だが水中戦には適していない。
よって行動範囲は橋梁上部に限られちまう。
奴らはそこに付け込んできやがった。ロックブリッジは橋幅6百メートル、かなり広い。
そんでもって水面から橋梁部までの高さは灼20メートル。この高さが厄介だった。
連中はこの橋をブチ壊しちまえばバンザイって事だからな、水面からドカ撃ちすりゃいい。
だがこっちゃそうはいかねぇ。橋を落とされたら完璧にアウトだ。
だから橋の縁にぶら下がりながら下の敵を迎撃しなけりゃダメだ。つまり行動可能範囲ゼロ。
で、連中からすりゃ俺達は宙吊りの的。にも拘わらず連中はまるでやる気の無いような戦い振りだった。

時間稼ぎ、と俺は判断した。判断材料は3つある。
まず1つ。連中は明らかに攻撃の手を緩めている。一切の得にならねぇのに、だ。
もう1つ。ロンデルが指揮する部隊の割りにはいまひとつキレが無い。
ロンデル本人が出張って来てないのもそうだが、何か不自然なバラバラ具合が見える。
俺達も似たようなもんだからな、向こうも混成部隊なんだろう。
で最後に1つ。ちびっ子の占いによれば、明日にゃ飛竜部隊が到着するらしい。
つまりロンデルは戦力の再編を待つために、こうやって時間稼ぎをしているって事になる訳だ。

6日目になった。これで空からの攻撃も加わるのはムカツクな・・・

まぁ今日も仲良くドンパチかと昼過ぎにロックブリッジを見回した時、地平線に影が見えた。
この距離であの大きさ、こりゃかなりデカイ。いや、デカイとかってレベルじゃねーぞ!?
「なんだ・・・ありゃ・・・。」
あ〜、自分でもずいぶんとマヌケな声だったと思う。
直ぐさま腰のフックに架けてある双眼鏡を覗いた俺は、さらにマヌケな叫び声を上げた。
公国軍の陸上移動要塞型戦艦《ニブルヘイム》。
ゴレム数百を格納出来て、それ自体もとんでもない重武装した不沈艦・・・。
「ロンデルの野郎、コイツを待ってやがったのか!!」

やばい!こっちにゃアレと戦り合えるような戦力は無ぇ!!どうすりゃいいんだ!!?
215クラックオンの万里行 ◆9VfoiJpNCo :2007/03/09(金) 00:01:41 0
焦げ目も絶妙に匂い立つ焼き魚にカボスの汁を垂らしながら、クロネは短く答えた。
「やっぱり、真っ直ぐ歩いてくるだろうにゃあ」
看病と称して明らかに遊んでいるギュンターの、差し出した匙を左右に振る姿にカールトンが唸る。
「こうして左腕を失っても燃え盛る感覚は伝わってくる。つまり、山火事はまだまだ続くのだぞ?」
「クラックオンは溶岩を糧とする種族だ。如何な大火とはいえ、熱で殺せるとはとても思えん」
スターグの緩まぬ進行を頑固に信じる黒猫に、カールトンは蔑んだ笑いを浮かべた。
「これだから蛮族は……化学反応というものをまったく理解しておらんから困る」
「かがくはんのう?」
「火に囲まれて苦しくなったことはないか? 燃焼は酸素と結びついて発生する。あの規模の炎の中では何者も生きられるはずがないのだ」
「おお、息ができないってことなのかあ」
「…………」
合点が行ったと頷くギュンターと、腕を組んで帽子をいじくるクロネ。
つまり、スターグの生存に足る判断材料がないのである。
「この250年で、奴が一番腕を上げた」
だがそれでも、
「もはや、一対一で打倒できる者は唯一人をおいて他にあるまい。そんな男が火にまかれて死ぬなど……」
在り得ぬ。認められぬ。信じられぬ。
クロネは、彼の生を疑ってはいなかった。

ガナン北東部。
大火収まらぬ辺境の惨状が、巨大な夕焼けにも似た美しさとなって見渡せる山の頂にて。
その男はいた。
いや、その男達はいた。

アント・クラックオン《ジオル》     マンティス・クラックオン《ザオウ》
メガボール・クラックオン《ダルゴス》  ワスプ・クラックオン《ビード》
ウィーヴィル・クラックオン《ハゾス》  ロングホーン・クラックオン《キバ》
ファイア・クラックオン《オウル》    ビートル・クラックオン《アカイライ》
ロキュスト・クラックオン《ホンゴウ》  キャリオン・クラックオン《ユウダイ》

そして、スカラベ・クラックオン《スターグ》

焦げ跡を残し、煙を棚引かせつつ佇む彼らの背後からも、続々と志士に従う者達が這い上がってくる。
誰も生きられるはずのない灼熱の地獄を、彼らはどうやって抜けたのか?
答えは、麓に空けられた大穴から容易に推察できた。
この六日間、スターグと十烈士が先頭に立ち、固い岩盤を掘り進んだ結果である。
その力は勿論のことだが、一筋の光明もない地の中での進軍など……人間では在り得ぬ精神力と言うしかない。
真に驚くべきは、その一途さの一言よ。
誰一人として、言葉を発する者はいなかった。
誰一人として、疲れを見せる者はいなかった。
この場の誰一人として、これからの死を拒む者はいなかった。
すでに実際、火中から地底へと飛び込んでみせたのだ。揺るがぬ意志は至極として明らか也。

すべては、ただ自らの誓いのために……。
志士スターグに付き従う、ただその誓いを果たすために……。
クラックオンは、誓いのために生きる者達であった。
216後のある一説から ◆9VfoiJpNCo :2007/03/09(金) 01:01:38 0
――クラックオンの万里行。

昆虫種族クラックオンが歴史の表舞台に登場する、最初にして最後の出来事である。
だからこそ、クラックオンという種族を語る上で、この万里行は絶対に欠かせない。
これには、私を始めとしたすべての歴史家が同意を示すだろう。
まあ、すでに滅び行く種族のことを語ろうとする者など、私以外にはいないのかもしれないが……。

さて、クラックオンといえば万里行――田舎の村の子供ですら御伽話として親から聞かされる程に有名な響きであるが、
その実態は意外とあやふやで容量を得ないものだ。
それというのも、資料が圧倒的に少ないからである。
些細な小競り合いの顛末までもが詳細に記され、残されている同時代の中にあって、これは実に異例と言える。
神話の時代故に、噂や誤情報の類が形を持って一人歩きしてしまったのだろう――とは、現在主流の歴史観だ。
だが、私はこれに異を唱えたい。
万里行を歴史的事実から外してしまうと、当時の情勢に説明がつかなくなってしまうからだ。
現在主流の大地震説、突拍子もない隕石説などの何事かの天変地異では決して置き換えられない、絶大な脅威がゼアドを駆け抜けたことは間違いないのだ。

当時の書記官が残した、たった一枚の擦り切れた文面が私の考えを後押しする。
まあ、雲を掴むよりましといった程度の頼りない根拠なわけだが、それでも私は思うのだ。
万里行は、確かにあったことなのだと。

悪魔に率いられた軍勢、ラライアの大地を揺るがし候。
 その数およそ一千五百也∴鼬ゥして魔物の群れとおぼしき候。
 続く地獄は、さながら神話の如し也、

後は、信憑性のない寓話ばかりが今に残っている。
だが、私は胸躍る。興奮せずにはいられないのだ。
近年、ゼアド南西部で発見された公文書に万里行のものと思われる一節が見受けられたからである。
未だ定かではない仔細は省き、ただ結果だけを言おう。
東方大陸への生還者、なし。
逃亡、及び脱落者、なし。
降伏、または抵抗を止めて捕らわれた者、なし。
つまり、生存者一切なし。

そして、そしてなんと驚くべき事に……。
彼らは……彼らを率いた悪魔は、最終的に勝利を収めたというのだ。

これは、すでに固まった最終神話を覆す一石足りうる発見である。
217万里行 第二戦 ◆9VfoiJpNCo :2007/03/09(金) 03:57:18 0
彼女に、師を敬うなどという心はなかった。
全盛期を無残に散らし、不様に負けた残り滓であると、常々と思う。
ましてや、彼は傲慢にも自分をまったく認めていないのだ。
この世界の最強者にして唯一無二の希望である自分を、しょうもない小娘としか思っていない。
故に、ディアナ・D・メイズウッズにとっての師とは、憎悪と侮蔑の対象でしかなかった。

彼の名は拳聖<Sロナー・ゴスフェル。
といっても、すでに隻眼となり、両腕を失った今ではかつての≠ニ付けねばなるまいが……。
無数の傷と鋭い眼光のおかげで、もはや猫としての愛嬌もすっかり失せてしまった師を前に、ディアナはクルクルと日傘を弄んだ。
「――では、行って参りますわ」
彼からは、その真髄たる拳ではなく足技と歩法の妙味を伝授された。
失われた拳の分は、もう一人の師アルフレーデの銃技にて十二分に埋め合わされたと、ディアナは自負している。
それは、新しい武術への昇華であった。
事実、自分だけではなく周りの誰もが賛辞を惜しまぬのだから、きっとそうに違いないのだ。
否定するのは唯一人、目の前のかつては猛き白虎のみ。

「匠が自らの手による完成を悟るのは、加えるものではなく、省くものがなくなった時だ。
 ……芸術には程遠い」

ゴロナーが自分に下した評価である。
ディアナには、それが我慢ならなかった。
「過去のアナタを完膚なきまでにして差し上げれば、その愚評は覆るのかしら?」
「いきなり自分に関わる者を消してどうする」
このもっともな言葉には、唸るしかない。
「お主が弱いとは言っておらんよ。ただ完成には程遠いと言ったのだ」
「ならば、どうすれば認められるのです!?」
我知らずと搾り出してしまった叫びに三角の耳を動かし、ゴロナーは喉を鳴らして短く答えた。
「わしの口から聞いたところで、お主はそれを認めはすまい。大層な自分の頭で考えよ」
「……まず、アナタの朋友の一人、スターグを始末しますわ」
「ほう、アルフレーデから聞いたか。あのオカマは恐怖症に苛まれておるから、当てにならんぞ」
「倒せば認めていただけますか?」
「倒せれば、な」
白猫、ここで初めて面に肉食獣の輝きを宿す。
「下らぬ自負は捨てよ、伴わぬ見栄は捨てよ。最初からすべてを投げ打つ覚悟で挑め。挑戦者となれ」
この言葉にディアナは歯噛みした。彼はアニマ・ギアの解禁をほのめかしているのだ。
「それでもって、ようやく勝負はトントンかにゃあ?」
全盛期であろう彼の壮絶な笑みを見たのは、後にも先にもこの一瞬だけであった。

山風にドレスの裾をはためかせ、彼女は優雅にヴァイスリンデを傾ける。
突如として目の前に現れてやったというのに、クラックオン達に驚きはなかった。
……この薄汚い虫けらどもめ。
内心の差別的な苛立ちはおくびにも出さず、悠々と最も見事な体躯を持つ者の前へと足を動かす。
「自己紹介は不要ですわね」
身の丈十五尺の彼を見上げて、ディアナは蔑みきった笑顔を作った。
「どうせ、この逢瀬は一瞬ですもの」

クラックオンの万里行における、ラダカン渓谷突破戦に次ぐ第二の関門。
誰にも知られず、語られぬ両者の対決の始まりである。

そういう遣り取りの積み重ねにこそ、後の世の命運は揺れ動くのだ。
218獄震 ◆9VfoiJpNCo :2007/03/10(土) 13:01:59 0
割れ鐘の如く、歪に響き揺れ拉ぐ。
「か――っ!?」
全感覚を遮断する衝撃に突き上げられ、ディアナ・D・メイズウッズは宙高く舞う土砂と道行きを同じくしていた。
言うまでもなく、これ志士スターグの打ち下ろしによる初撃故也。
女子供相手に非情なる神速の先制、されど卑怯とは言えぬ。
先に攻撃の意を見せたのは自分。彼奴目はそれに応えただけ。ただ思惑を超えて速かっただけなのだから。
……なんて手の早い……でも、確かに避けたのに――なんという威力!
「ルぅールーーーーーーーーーーーーーーーーっツ!!!」
この汚辱、早速もって雪ぐべし。
ロゴスの歯車、乙女の激情に突き動かされ、赤くなりて火花を上げる。
一瞬にして衝撃に破られた鼓膜が戻り、破片に傷つけられた網膜が再生する。
これぞ、肉体の強化と超高速再生を司る《躍動》の力也。
「イリっシオン!!」
続けて乙女、得意の歯車《雷鳴》を廻し候。
たちまちの内に雷走るヴァイスリンデ、この電磁帯びし矢弾は軌道速度威力すべてにおいて、甚だ理不尽となるもの也。
ギア開放により体勢を立て直し、乙女の指が反撃の引き金にかかるまで、これ実に一刹那のことであった。。

撃ち出されし無数の散弾、曲がり曲がりて志士の死角へ向かい行く。
最強無敵を自負するディアナの必勝の攻め、防ぐ術は果たして有りや無しや?
乙女の笑みが説くと語る。
一撃で仕留められなかったことがすべての帰結、即ち貴様の敗北は天の理、地の自明と。
しかしスターグ、笑みには応えず。
ただ、静かに激しくその攻めにのみ動きを見せる。
瞬間にして響いたのは、雷爆ぜて鉄砕け塵と還るが様を明快に表す音であった。
――果たして、何故?
《躍動》により数十倍に引き上げられたディアナの動体視力は、おぼろげながらもその正体を見たり。
スターグの、甲殻を物凄まじく揺れ動かして防ぐ様を。
彼女は知らぬ。知るはずもない。
これぞ、眼下の志士が編み出した、クラックオン八十二万年の歴史の上で初めての武技也。闘技也。
その性故に、武の蓄積なく朽ち果てるが宿命であった昆虫種族に生まれた、初にして究極の戦技也。
知る者これを《獄震》と呼ぶもの也。

人の戦の歴史において、火薬の発明が革命を起こしたように。
昆虫種族の歴史においては、獄震こそがそれなのである。
果たして人は、このような革命をもたらした不詳の発明者を何と呼ぶだろうか?
もし仮に知ったならば、恐れ敬い憎しみ込めて呼ぶのではないか?
悪魔の如き天才であると、革命児であると。
さあ人よ、呼ぶがいい。

――叫ぶがいい!

その男の名はスターグ。
後の世広く永く、悪魔と呼ばれるに値する者也。
219決着は人知れず ◆9VfoiJpNCo :2007/03/10(土) 14:53:49 0
この恐るべき魔性の技を見て、
「……ふっ」
地に降り立ったディアナは笑った。鼻で笑った。嘲った。
「野蛮で醜い怪物に相応しい、まったく美しさのない技ですこと」
スターグがそうであるように、彼女もまた集大成たる天才である。
攻防一体にして死角なき獄震の凄まじさ、わからぬはずがない。
それでも、笑う。笑うのだ。
自らこそが、至上であると。
確かに、己の体機能を始め自然から時空までもを自在に操る彼女には、余裕を持って然るべきだろう。
驕り高ぶっても仕方がなかろう。
「さあ、見なさいな! ……と言っても、アナタは何もわからず間抜けに死んでいくのだけれど」
――廻る。
「フィーヴルム!」
《疾風》の歯車、その名の如く疾く廻る。
時間よ止まれ。我が前に平伏し従い廻りたれ!

だが、ここで違和感が走る。
「――え?」
固まるはずの世界が、スターグが、相も変わらず動き続けているのだ。
動揺を見せる面に、獄震の拳、真正面より唸り来る。
反応遅れて回避ならず。逸らし和らげ、それでもやはり垂直に舞う。
「ルールーツ……っ!」
だが問題はない。あらゆる痛手も《躍動》さえ廻せばたちどころに完治する。
問題は、思いのままにならぬ時空にあった。
……何故?
問い質した所で、黙して迫るスターグが語るとは思えない。
……まさか?
大層な自分の頭で考えよ――この場において浮かんだ師ゴロナーの言葉通りに巡らし張り詰め、
……風が殺されている、とでも?
ディアナは、生まれて初めての戦慄を覚えた。
もはや、常時発動となって姿霞むスターグの獄震を見て、直感したそれが答えであったからだ。
風の精霊が時空間に影響を及ぼす明確な原理は、未だに未知の深淵にある。
確立しているのは、精霊力を操る術だけなのだ。肝心の精霊が応えてくれねばどうしようもない。
「フィーヴルム!」
ならば致し方ない。対処を変えて行使するのみ。挑むのみ。
幸いにして、自身だけに効果を及ぼす時間の加速は問題なく発動した。
そう、問題はない。これだけでも、自分に充分に無敵足りえるのだから。
時の戒めを断ち切り、閃光となったディアナ。死ねよ消えよとスターグ目掛けて殺光と化す。
空間に、激震走る。
……どうして!?
またしても、くらったのはディアナであった。
……どうして、そこに拳があるのよ!!??
二人の速度差は優に数百倍にも開いているはず。先読みにしてもべらぼうに過ぎる精度だ。
――それでもって、ようやく勝負はトントンかにゃあ?
屈辱噛み締め《躍動》を廻すディアナの脳裏に、ゴロナーの言葉が痛く苦く響き渡った。
この先、彼女は嫌いな師の言葉を繰り返し聞くことになるのであった。。

何度も、何度も、その気丈さを打ち砕き、嫌と叫ばせてしまうほどに……。
220ST ◆9.MISTRAL. :2007/03/10(土) 22:09:35 0
――ガナン北東部
物言わぬ鋼の行軍を、10km程離れた丘の上にて待ち受ける部隊があった。
最新鋭のゴレム《イクスゼアーテ》20機による公国首都防衛軍の1部隊である。
「クラックオンの一団を捕捉、《イクスゼアーテ》全機攻撃準備完了です」
副官の報告に、部隊長のベルダン=レーゼンバッハがインカム越しに指示を出した。
「よし、ムシケラ共を残さず灰にしてやれ!!」
ベルダンの指示と同時に、《イクスゼアーテ》の荷電粒子ライフルが発射され…

なかった。

爆発音が轟き、辺りは瞬時に火の海と化す。隊員達は訳も判らず恐慌状態となった。
「な…!?何が起きた!?………?なんだ、あいつは…?」
ベルダンはモニターをチェックして周囲の異変を捜し、1人の少年を見つけて呻く。
明らかに異常だった。炎に撒かれているにも拘わらず、笑顔でこちらに向かい歩いて来る!
「隊長…これは、精霊反応であああああああああああああああ!!!!!!」
又しても《イクスゼアーテ》が炎を撒き散らして四散した。
あれでは搭乗員は助からないだろう。どう見ても即死にしか見えなかった。
「くっ!ちきしょう!!親父の弔い合戦だってのによ!!こんな訳わからん奴にッ!!」
そう叫んだ次の瞬間、ベルダンの機体は爆発炎上し20機のゴレムは全て破壊された。


黒煙を吹雪で消し飛ばして、遠くの彼らに気付かれるのを防ぐ。
寄り道する時間は勿体ないからね。彼らには“やるべき事”をやってもらわないと。
「困るんだよね、彼らはここで死ぬべきじゃないから。ごめんなさい」
ゴレムの破壊を確認して、ボクは《霧氷のテクタリヌス》をギアに戻した。
《アニマ》…かつてエルフの指導者レシオンによって造り出された人造精霊獣。
自我を持つ精霊を完全に制御する為の技術を模索する過程で試験的に完成された存在。
その力はオリジナルである精霊の根源、イルドゥームを遥かに凌駕したものだった。
エルフと完全に同調した《アニマ》の力を使えば、この世界を簡単に破滅へと導くだろうと
 レシオンの息子のモーラッドは《アニマ》の存在を危惧し、レシオンを説得する。
だがレシオンは『エルフこそ世界を管理する選ばれし民である』という主張のもとに戦争を始める。

【龍人戦争】…ゼアド大陸に住む者なら誰でも知っている、人類史上最初の大戦だ。
世界史では悪の王とされる、龍人の王アーダ=アドミラルは当時、戦争に反対したのだ。
けれど一方的な侵略にいつまでも黙る龍人じゃなかった。
瞬く間に戦火は拡大し、大陸全土を巻き込む大戦にまで発展する事になる。
ここまでは“誰でも知っている”歴史。
ここからは“極僅かの者だけが知る”歴史。

《アニマ》に対抗する為に、アーダはイルドゥームを再び蘇らせようとしたが失敗した。
“断龍”と“破龍”。2人の獣人を筆頭に、獣人達の暗躍がアーダの計画を阻止したからだ。
では『金色の四英雄』と呼ばれた彼らが倒したのは、一体何なのか…
そう、《アニマ》だ。12の属性を統べる究極の人造精霊獣、《無のエクスマキーナ》。
他の《アニマ》を取り込み、世界へ浸食を始めた《エクスマキーナ》を止める手段は無かった。
だからモーラッドは真の管理者である《十剣者》の協力を得て、世界の外へと放逐したんだ。
自ら不死の楔を撃ち、永遠に《エクスマキーナ》を監視する道を選び、虚空の果てを漂った。

これで世界は平和になる筈だった。

でもそれは間違いだった。使徒の反乱によって世界を隔てる壁は消え去り、“彼”は戻ってきたんだ。
遥か古の時代、同じ様に世界を追われた始まりの龍と共に。この世界に生きる、全ての生命へと復讐する為に…
221ST ◆9.MISTRAL.
この世界に帰還した《エクスマキーナ》と《租龍アンティノラ》を倒す手段は無かった。
なす術なく人類は蹂躙されて、ボク達の戦いは始まった。
“断龍”クロネ、彼が《アニマ》の存在を母さんに教えた事で、ボクと姉さんが選ばれた。
精霊の…《アニマ》の力を限界以上に引き出すのは、ハーフエルフだけだったから。
ボクは正直言って戦いは嫌いだ。
でも、クロネさんは「過去を変えて未来を消す以外に方法は無い」と言ったから…
だから、今こうしてボクはここにいる。未来を消し去る為に、この時代で人を殺してる…


いきなり遠くに姉さんを感じて、ボクは驚いた。この先にいるのは…スターグ!!
「姉さん!?どうして彼らに!?」
理由はさっぱり解らない。けれどもこれだけは判る。
「姉さんはスターグを殺す気だ!!」
凄まじい精霊力が遥か前方に渦巻いた。《アニマ》の真の力…《霊獣化(ユニゾン)》!
展開しているのは【生命】、《久遠のルールーツ》。これではスターグに勝機は無いに等しい。

今スターグが死ぬのは勿体ない!彼らには中央の戦局を混乱させる役目がある。
ただでさえもう歴史は動き出してるんだ。“ボク達が知っている歴史”とは、別の方向に…



そこに在るのは“人”ではなかった。そこに在るのは“獣”でもなかった。
そこに在るのは……《アニマ》。
命とその根幹たる躍動を司るは《久遠のルールーツ》。
既にクラックオン十烈士に、立っている者はおらず、煉獄の志士たるスターグも膝を折る。
それはクラックオンの不死に等しい生命力が故だった。

『調子に乗るなムシケラ』
ディアナは“奪い取った”のだ。彼らの生命そのものを!!
彼女がただそこに存在するだけで、クラックオンの勇士達は地に倒れ伏したのである。
『弱い…弱すぎる…このムシケラにワタクシが劣るなんて、あ り え な い!!!!』
草木は涸れ、大地からも命の輝きは消え、ディアナの中へと呑まれていく。
『なのに何故!?先生はワタクシを…ワタクシの強さを認めてくれないの!?』
吠え猛る山吹色の魔獣を目指し、スターグは立ち上がる。生命力を奪われて尚、立ち上がる。
何が彼を奮い立たせたのか、それを知る者はいない。
あの日、誓いを交わした“盟友(とも)”以外には!!

「…………………」
突風と衝撃を纏いて黒の弾丸が迫る!拳が巻くは真空の牙、数多を貫く豪矛!!
普段のディアナならば、《烈風のフィーヴルム》の時流操作で難無く避けただろう。
だが今は《久遠のルールーツ》と《霊獣化》している最中だった。
《霊獣化》中は他の属性を一切起動する事ができない。
その代わり、《霊獣化》した際は通常時よりも強力な能力を行使できるのだ。
それ故に、今のディアナはこのスターグの攻撃を自力で回避しなければならなかった。
渾身の力を篭めたスターグの一撃。まともに食らえば唯では済まない。
しかしディアナは避けようとすらしない。そして豪矛が彼女の心臓を串刺しにした。
それだけでなく、更なる回転と振動の余力が肉を引き裂き、血を捩り、彼女の身体を空高く舞い上げた。

究極にして完全なる一撃。これを避けられる筈がないのである。
何故ならば、ディアナは《アニマ》の力を過信した。その力を己のものと驕った。
至極当然の結果なのだ。
いくら天才的な戦闘感覚を持っていても、それを磨ぐのを怠っては意味は無いのだから。
舞い上げられたディアナの身体が地に落ちると共に、スターグも崩れ落ち、片膝を着く。
煉獄の志士は静かに力を込め、再び立ち上がる。
例え1人であろうと、逝かねばならぬと。

約束の地へと…