立たせようとした少女は僕の手を振り払った。
>「味方?ふざけたこと言わないでよ!
> どうせ・・・どうせ・・・あんただってそこにいる奴と変わらないんでしょ」
「…違います。落ち着いて…信じてください…!何も貴方に僕は危害を加えない…!」
そう言うと僕は横にいるEXeMを見ます。注射が効いてきたせいか泡を吹いて顔を動かしています。
>「く、うぅ・・・糞があ・・・顔は覚えたぞ!」
そう言うEXeM。…僕の薬が効いたせいか少々動きが鈍い…
…それでもここでこのEXeMが襲いかかって少女と僕が無事でいられる保証はない。
…しょうがない。
僕は静かに睡眠薬が入った注射器を忍ばせます。こうなったら…眠らせて運ぶしか…。
が、先に動き出したのは彼女の方でした。
>「私は誰も信じない!何一つ!すべて!信じない!」
そう言うと少女は地面に落ちた刃を拾い僕に向かって持ち上げてきました。
一瞬やばいと思って蜂化しようとします。その時、僕の視界に飛んでいく赤いもの…!
そしてそれは彼女の顔と手に当たりました。
>「ここ五階だったああぁぁぁー。」
[ごっ!]
>「おぶっ・・・!!!」
「……ちょ!」
僕は地面に倒れる直前に少女を抱えました。
気絶してる…?いや!それより!
僕は横を見ました。
するとそこには先ほどいたEXeMは居ず、散らばった内蔵があるだけの状態。
…僕は彼女を優しく寝かせると彼女の顔面に当たったと思われる内蔵を拾い他の散らばった内蔵を見ました。
……一つ一つ見てみるとそれは先ほど僕が麻痺薬を投与した部位が散らばっている。
……散らばってる部位からして生きてる可能性は高い。
僕はそう察すると内蔵の一部を小型カプセルに入れました。
そして…僕は寝てしまった少女を見ます。
「……。」
*********************************************
――某ホテル廃墟
…とりあえず持ってきてしまった。
僕はボロベッドに置かれた少女を見てため息をつくと
再度EXeMの内蔵と彼女のNEを横にノートPCで作業に打ち込みます。
外には僕の数千匹の仲間が見張りのため飛び狂ってます。
…恐らく今夜はあのEXeMは襲いにこないはず…
あれだけの内蔵をぶちまけたから回復にも時間掛かるだろうし…ここの場所を知るのにも時間が掛かるはず。
だからこそ今のうちに奴について調べておかないと…。
暫く淡々とキーボードを打ち込みます。
僅かな蜂の羽音とキーボードの叩く音が響き渡るだけの静かな室内。
……
>「ウワァァァァァァァ!!!」
「んが!!」
思わず目の前のキーボードで打ってた文字を消してしまいます。
僕は振り返りました。…どうやらお姫様が起き上がったようです。
「気が…つきましたか?」
そう言うと僕は彼女の腕を見ました。彼女の腕は綺麗さっぱしなおっています。
「…どうやら僕の蜂の毒も効いたようですね。よかった…
EXeM専用の薬じゃないから効くかどうかよく分かんなかったから効かなかったらどうしようかと思いました。」
そう言い得意な営業スマイルを決めると僕はメモに書き込みます。
-EXeMにも効き目あり…と。
「師団長!これはどういうことですか!」
若い獣人の士官がドアを開ける。
「フフフ・・・なんのことかな」
「ふざけないでください!何故オズを出撃させたのですか!!!」
「フハハッ・・・なんだ。そのことか・・・君も知っているだろう?
K32ポイントの吸血鬼の話ぐらい」
「・・・あの・・・」
「そうあの吸血鬼だ!一週間前に送った部隊もソイツにやられたそうだ
だがね・・・映像が手に入ったんだよ・・・その吸血鬼のね」
「・・・はぁ・・・」
「驚くことに・・・彼女だったんだ・・・その吸血鬼が」
「・・・!!!」
「それを見た彼女は驚くところか、血相を変えて自分の部隊をそこへ行かせろと私に話してね
彼女は虫型の獣人だ・・・あんな芸当はできないよ・・・」
「だから・・・」
「行かせたよ・・・大丈夫さ彼女の部隊なら・・・
それに吸血鬼を手懐けられれば・・・この戦争に有利に働くだろ?」
300年の時間を費やしても人は変われなかった。
名も無き戦争
この新世界の指導者の座を巡った地球上最も醜い戦争
オルタヴィレ共和国軍とアスロ帝国軍、この二つの軍が激化する戦闘の中で力を強めていった。
それは・・・およそ30年前の出来事
しかし、戦争はまだ続いていた・・・長きに渡って均衡状態が続いてはいるが両者は戦闘をやめるつもりはなかった。
そんな折、同時期に両軍に少女がNEと共に入隊した。
03と02が接近しているか・・・
ふふふ・・・いい展開だ・・・
そうは思わないかレイ?
この計画には彼女達の血が必要となるからな
ククク・・・ハァハハハハハッハハアハハハハッハハ!!!
イオと崎島の気配が消えてからしばらく経ち、一人の女が現れた。
中肉中背。垂れ目で緑の複眼。白い髪に触角を生やしている。
こつこつと足音を響かせ、カルビを覗き込むようにしゃがんで声をかける。
「みっともないわね。」
「ああ・・・・」
「感想は?」
「邪魔が入った。次は殺せる。」
「その様で?」
「・・・確かに、な。だから・・・養分が必要だ!」
地面に叩きつけられ動けないかに見えたカルビが突如として起き上がり、オズに襲い掛かる。
だがオズは予想していたかのようにその攻撃を軽々と躱して、カルビの頭をはたいた。
「お馬鹿!内臓全部捨てたくせに食べてどうするのよ!」
「ぐ!?ぎゃはははははっ!そりゃそうだ。」
「まったく、あんたは馬鹿力だけでどうしようもなく頭悪いんだから。」
襲い掛かったときの殺気もなかったようにカルビは大声で笑う。
反面オズははたいた時に手についてしまった粘液を、不快そうに振って落とそうとしていた。
鱗粉を使って操り人形にしようとしたのだが、カルビの全身をおおう粘液に鱗粉が吸収されてしまってそれができなかった。
カルビ自身が頭も悪い事もあって、簡単に手駒として利用できたのではあるが、忌々しいことには変わりがない。
「へっへっへっへ、そんなに怒るなよ。簡単に殺しちゃつまらないんだろう?
こう見えても俺は頭脳派でな。奴らの居場所はわかってるんだ。」
オズの気持ちも知らず、下卑た笑いとともに話しかける。
放出した内臓の匂いが染み付いたからそれを追えば居場所がわかる、という事を。
既にイオと崎島に対する対策もできている事も。
そしてカルビは自分の内臓の匂いを辿って走り始める。
走っている間にも内臓は再生してきている。
崎島の想像より遥かにその再生速度は早かったのだ。
程離れた廃墟の一室にたどり着いた。
そこにはClass-B EXeMがカルビの内臓を網焼きにして食べていた。
「う・・・う・・・うがあああああ!」
弱肉強食の世界。落ちていた肉は天の贈り物のようなものだ。
あの部屋に散らばった内臓は殆どが持ち去られていた。食料として、だ。
自分の完璧なマーキング術がこのような形で欠点を突きつけられてしまい暴れ狂うかルビ。
イオと崎島に付いた匂いを嗅ぎ当てるのはまだしばらくかかりそうだ。
そんな様子を空中からオズが呆れた溜息とともに見ていた。
ツクヨミが滅びてから300年後
最終決戦に使われた核の影響により文明は衰退し
自然に発生した謎のウィルスの蔓延によりほとんどEXeM因子を持つ生物しか生き残らなかった
また生き残ったEXeM人間は獣人と呼ばれ生を謳歌しており、旧人類は希少種族として保護対象となっていた
しかし、獣人となっても人間は変われなかった。
2306大戦
この新世界の指導者の座を巡った地球上最も醜い戦争起こってしまった。
激化する戦闘の中で二国が力を強めていった。
一つは旧イギリスに本部を置くオルタヴィレ共和国
もう一つは旧日本にあるアスロ帝国
この二国の領地が世界を二分した折、2人の女兵士が同時期に両軍に入隊した。
BLACK×EDGE 2nd 哀幻無我
>「気が…つきましたか?」
私はぎょっとした目で少年を見て、とっさに下腹部を左腕で摩る。
無い!私の武器が無くなっている!!!
>「…どうやら僕の蜂の毒も効いたようですね。よかった…
EXeM専用の薬じゃないから効くかどうかよく分かんなかったから効かなかったらどうしようかと思いました。」
「毒!?・・・」
私はキッと男を睨んだあと、襟元を掴み、そのまま押し倒して馬乗りの体制になった。
「この糞野朗!!!お前はそうやって何人殺ってきた!!!」
彼が蜂毒療法をやったことを私は勘違いしてしまったようだ。
渾身の力で作り笑いを殴り潰し、私は続けた。
「お前に言いたいことは山ほどあるんだ!何で上半身が裸なのかってこと!
解毒剤をよこせ!NEはどこに隠した!どこの所属だ!私は誰だ!私は私はぁ何者なんだ!!!」
”!”のタイミングで殴り続けたが私はこの行為が急に空しくなって止めた。
彼をそっちのけでまずはベットの布を裂き、胸に巻いたあと
部屋の隅に行き、体を丸め私は泣き始めた。
私の泣き声は驚くほど静かだったので幸いにも能力は発動しなかった。
きっと発動していたら、この一帯にいる敵にばれるだろう。
彼の慰めを聞かず、私は一頻り泣いた。
日が傾いたころ、ようやく私は泣き止むことが出来た。
いや、泣いている場合じゃなかったからだ。
異常に発達した耳が敵の存在を確認したからだ。
私は立ち上がり彼に言った。
「スン・・・クスン・・・敵が・・・来た。私のNEを返してくれ」
行動とは裏腹に感情はまだ収まりきれていないのか、涙声のままだ。
「頼む!返してくれ!返してください!!!」
>「毒!?・・・」
「え!ちょ!!」
あっという間に馬乗り状態になり僕は襟元を思いっ切り掴まれました。
>「この糞野朗!!!お前はそうやって何人殺ってきた!!!」
「ぐぉ!苦し…苦しい…ちょ!離して…ください……何もしてないですって」
そう言って作り笑いすると少女に殴られます。
「ぐご!」
>「お前に言いたいことは山ほどあるんだ!何で上半身が裸なのかってこと!
> 解毒剤をよこせ!NEはどこに隠した!どこの所属だ!私は誰だ!私は私はぁ何者なんだ!!!」
「ってちょ…!……!?」
反論するよりも殴られて意識が飛ぶよりも先に彼女の最後の問いにつっかかりました。
そして途端に彼女は殴るのを辞め、泣きそうな顔で上半身を隠すと、途端に部屋の角に丸まり泣き始めます。
僕は上半身だけ置き上げると彼女を見ました。
「………何を泣いてるんですか…?」
僕は問いかけます。しかし彼女は問いに答えません。
「……何がそんなに悲しいんですか?」
「……生きてるんだから…それでいいんじゃないですか…」
僕はさらに彼女に投げかけます。
しかし彼女は以前振り向きもしませんでした。
人間を失ってから早数百年。その時間の間に僕はどうやら何かを腐らせてしまったようです。
僕はそう言ってから黙り込んで彼女の泣き声に聞き入りました。
*******************************************
彼女が泣き始めて少し立ち、
僕は彼女そっちのけでパソコンに打ち込み始めてました。
取りあえずあのEXeMの対抗ワクチンを作らなきゃ…。
僕はその一心で必死に頭に数式を描きます。
あのEXeMがここを割り出す為に掛かる時間は遅くても三日ちょい。
いや…最近のEXeMはやたら頭がよくなってるからもっと早いかも…。
とにもかくにも時は一刻を争ってました。何度も何度も頭の中で練っては書きを繰り返します。
…すると、突如彼女が立ち上がります。
>「スン・・・クスン・・・敵が・・・来た。私のNEを返してくれ」
「…え?」
僕は聞き返しました。彼女の突然の発言に驚きます。
すると彼女はさらに大きな声を出しました。
>「頼む!返してくれ!返してください!!!」
「あ、はい!」
そう言うと僕はメンテナンスを完了したNEを投げました。彼女はそれを受け取ると腰に付けます。
その間に僕は窓から外を見ました。
敵…?他のEXeMか何かか?…こんな時に…面ど・・・!?
そして、僕は、敵の正体を見て。唖然としました。
「嘘……。」
いや、いくらなんでも早すぎる…なんで…
カルビ・ナ・ブラーナがここに!?
僕は彼女の手を思いっ切りひっぱるとノートパソコンを取りました。
途端に大量の蜂が僕に警告します。
カルビ・ナ・ブラーナ…最近人間保護の団体サイトでも危険視されているEXeM。
…今戦うには相手が悪すぎる。
「早く非常階段から逃げましょう!いくらなんでも相手が…!」
と、僕は彼女をひっぱり非常階段へ走ろうとしたら途端に少女は立ち止まります。
「…!?どうしたんです…か…?」
僕は彼女を見ました。
「勝ち目なんて……ありませんよ?第一貴方の腕は僕の薬が効いてるだけでまだ完治した訳じゃないし…!」
「勝ち目?私にはそんなもの用意されていなかった。」
私は彼の腕を振り払いこう言った。
「今の私たちに逃げ道が残されていると思っているのか?
あると思うならあなたはそうとうめでたい人だ。・・・変身!」
紫光を浴び、私は戦闘形態に切り替える。
「敵はあのデカブツだけだと思っているのか?
違う・・・もっと別の奴がすでのここに侵入している」
そう言って私は刀を構え、息を深く吸った。
そして、壁に一閃を振るう。
「ピギェエエイアェイアァァァァァァイイイィイイィィ!!!」
崩れ落ちた壁の向こうにはあのデカブツとは違うタイプの敵がそこにいた。
NEではなく量産型のBEをつけたソイツはこちらに敵意を向けている。肩に帝国軍のエンブレムが入っているのも確認できた。
・・・ん?帝国・・・私はあのエンブレムを見るのは初めてなのに・・・
その些細な疑問に私の刃は一瞬動きを止めたが、私はそのことを考えることを止めた。
「ここはもう戦場・・・考えることは逃げることよりも生き残ること」
そう彼に吐き捨て私は敵に斬りかかった。
帝国兵の骸を片手に血塗れの私はそこにいた。
他の生物を殺すということに慣れてしまっているのか、
私は喜怒哀楽すべてに属さない不気味さを感じさせる顔をしていた。
NEとBEの差は絶望的なくらい大きなものであった。
たった二太刀で勝負は決した。
装着者の死を確認したのかBEは霧状になって解除され、私は腰についてあるBEを奪った。
「・・・」
あの不気味な顔で彼を見た。
まるで汚いものでも見るかのような目だ。
その眼差しに私の心は大した反応はしない。
「戦争なんだ・・・当然の結果でしょ」
私は彼を直視できず、視線を背けながらそう言った。
どうせこの世は弱肉強食・・・戦わなければいけない・・・
「使いなよ・・・無いよりはマシだと思うし、量産型なら誰でも使える」
そういって私はさきほど盗ったBEを彼に向かって投げ捨て、屋上へ向かい始めた。
昼と夜のほんの僅かなの境目。
全てを紅く染め、影を伸ばす夕日に照らされながらカルビが一つの廃屋へと足を踏み入れる。
今までの廃屋とは違い、飛び交う蜂の存在が確信を与えていた。
ここに獲物はいる、と。
放出した内臓は既に完全再生し、体中に点在する円錐状の突起からはいつにも増して粘液が流れ出ている。
そう、崎島が警戒用に放った蜂を絡めとってしまうほどの粘液を。
ゆっくりと階上を見上げ、そこに戦いの空気を感じ取っていた。
ヒリヒリと頬の焼け付くような感覚。
その感覚を楽しむようにニヤリと笑い、跳躍!
跳躍の衝撃により地面は爆発したように小さくクレーターを作り、カルビは一気に屋上へと舞う。
「はぁーはっはっは!自分の内臓を焼かれて食われるところを見たことあるか?
俺は見た!ついさっき!五回程っな!・・・て、誰だ?」
この廃墟にたどり着くまでにカルビは五箇所、自分の内蔵のにおいを辿って関係ない場所へと無駄足を踏んでいた。
啖呵を切って登場した屋上には獲物であるイオと崎島の姿はなく、帝国軍の制服に身を包んだ数人の獣人が待ち伏せをしていた。
カルビのとって計算外の獣人たちだったが、帝国軍の獣人たちにとってもカルビは計算外の来訪だった。
「っち!イレギュラーか。排除しろ!」
「あん?」
反応が早かったのは訓練された部隊である帝国軍獣人たち。
隊長の指示の元一斉にカルビに向かって銃弾を浴びせる。
状況把握ができず、前段ろくな防御もできずに食らったカルビは肉片を飛び散らせながら吹き飛んだ。
「この馬鹿共がぁ!!!」
カルビらが戦闘を始めた瞬間、彼らの頭の上からオズが一喝する。
「カルビ・・・紹介が遅れたわぁ・・・この子たちは私の部下」
そうカルビにいったあと、オズは自分の部下らを睨みつけ
「いつ私が発砲命令を出した!!!撃った者は前に出ろ!!!」
そう怒鳴りつけると同時にカルビに向かって発砲した者が前に出てきた。
それを確認したオズは羽をしまい屋上に降りた。
そして、自分の命令を無視した部下の口に自分の拳を叩き込んでいった。
一通り殴り終えると、オズはまた羽を出して飛んだ。
そして、殴った部下達を睨みつけ
「死ね!」
と命令を下した。その言葉に忠実にしたがうかのように
ある者は飛び降り
ある者は手首を斬り
ある者はこめかみに銃をつきつけて自殺した。
これが彼女のやり方なのだ。使えない駒は己が手を汚さすして処分する。
処分が終わり、彼女は部下達に命令を下す。
「全員屋上から離れ、下から攻めろ、吸血鬼は私が殺る
お前らはサポートの男をやれ!」
【Sir!YesSir!!!】
「カルビ、あなたも下から攻めなさい。大丈夫、死体はあげるから」
そういってオズは不敵に微笑んだ。
>「勝ち目?私にはそんなもの用意されていなかった。」
>「今の私たちに逃げ道が残されていると思っているのか?
> あると思うならあなたはそうとうめでたい人だ。・・・変身!」
紫光が光り輝く。僕は何も言えなかった。
少女はNEを纏うと言う。
>「敵はあのデカブツだけだと思っているのか?
> 違う・・・もっと別の奴がすでのここに侵入している」
「違うヤツ?それって一体…」
しかし少女は答えなかった、けたたましい叫び声。
>崩れ落ちた壁の向こうにはあのデカブツとは違うタイプの敵がそこにいた。
そしてその腕には帝国軍のエンブレム、僕は攻撃しようとした手を止める。
彼らは人間だ。殺す事なんて…。しかし、彼女は呟く。
>「ここはもう戦場・・・考えることは逃げることよりも生き残ること」
はっとし僕は彼女を見る。そして次の瞬間彼女は一片に帝国兵を殺していった。
僕は一瞬自分の昔を見ているような錯覚に陥った。
血は飛び散り彼女にかかる。僕には掛からなかった。
少しの沈黙が走る。
そして彼女は僕を見る。
僕は…びくっと肩を動かすと二三歩下がった。どんな表情をしてたのか自分でも分からない。
ただ……彼女は平然と言った。
>「戦争なんだ・・・当然の結果でしょ」
彼女は僕の目線を会わせず言う。その姿になんとなくだけど哀愁が込められていたような気がした。
彼女は先ほど取ったBEを僕に投げる。
>「使いなよ・・・無いよりはマシだと思うし、量産型なら誰でも使える」
そういうと彼女は屋上へ駆けていった。僕はBEを受け止め立ち止まったままだった。
少女の消えていく背中を見つめながら…。
そして僕はBEをじっと観た。
TSUKUYOMI…額に傷の女…空気の女…崎島大和…Proto-Edge…。
色んな物をいっぺんに思い出し僕は一瞬吐き気さえ覚えBEを落とした。
彼女のあの姿を見たせいなのか…いや…違う…嫌がってるのだ。
過去僕と一緒に居たこれを見ると…醜いものばっかを思い出す。
僕は暫く頭痛が酷い額に手をあてる。
そして近づいてくる足音を聞きはっとし急いでポッケから薬剤銃と注射器を出した。
すると時間がたたないうちにEXeM達が品のない笑いでやってき、一片に襲い狂ってくるEXeM達…。
先ほど言った少女の言葉を一瞬思い出す。
>「ここはもう戦場・・・考えることは逃げることよりも生き残ること」
僕は一つ吠えるとけたたましい銃声と肉の飛び散る音を響かせた。
悲鳴が響く、数分も立たず僕は敵を殲滅させる。
そして僕は頭を抑えるとふらふらと足を動かし下の階へ走った。
生き残る…?
「だったら尚更逃げるべきじゃないですか…なのに…」
なんで彼女は戦うんだ?なんで彼女はNEを持った?
僕は下の階にいくと薬剤銃を構えた。
「カルビ・ナ・ブラーナ!!」
そう叫ぶと僕は頭目かげて体力をじょじょに奪っていく猛毒入りの薬が入った薬剤銃を撃った。
…僕の蜂が教えてくれた情報。それは女が一人屋上へいったという事とこいつがここにいるって事。
…屋上はあの少女に任せれば大丈夫だろう。ならば僕は下に居る男を倒すのみ。
僕は銃を撃った後、即座に注射器を握りました
「げははは、いいのか?死体は操り人形にできないんだろう?
俺はいいんだぜぇ?おかげで銃弾に勝る外皮を手に入れたからな。」
オズが部下に死を命じ、部下がそれを実行しているときに、笑いながら起き上がるカルビ。
銃で受けた既に傷は再生し、傷一つ残っていない。
その言葉を聞いてもオズは眉一つ動かさない。
手駒などいくらでもいるのだ。それを惜しいと思う感情すらない。
だが一つ重要な事を気付いていなかった。
オズの鱗粉による人体操作。
そんなことカルビは知るはずも知りえる知能もなかったはずだということを。
事が済んだ後、カルビはオズに従い強襲部隊とともに階下へと降り、玄関から上っている。
隊員達は訓練された動きですばやく階段を上っていくが、カルビは玄関ホールに座り込む。
そして数分後。
崎島と接触。
銃を撃たれるもまったくの無防備にニヤニヤと笑っていた。
自信があったのだ。今の自分の外皮は銃弾を軽く弾くほどの強度がある、と。
だが、その余裕が命取りだった。
「無駄無駄無駄ああああぎゃあああ!!」
弾は外皮に唯一覆われていない眼球を撃ち抜いたのだ。
撃ち抜かれた右目を押さえながら叫び声をあげるが、それでも倒れはしなかった。
「ぐひゃひゃひゃ、運がいい野郎だ。
だがこんな豆鉄砲一つじゃ俺は倒せねえぞ?それにな、もうお前の毒はきかねえんだよ!このD-エボリューションの力でな!」
潰れた右目を弾ごと抉り出し捨てると、掌から鎌を出して突きつけて宣言する。
カルビの持つNE『D−エボリューション』は装着者に強い学習能力を持たせる。
強力な生命力、再生能力と、NEの力によってカルビは銃弾を弾く外皮を、そして崎島の麻痺薬への抗体を手に入れている。
もはや小さな注射器しか持たない崎島に負ける事はないという勝利宣言とともに、その機能を高らかに説明。
話している間に右目の再生も完了し、それと同時に襲い掛かる。
鎌を振りかざし斬りつける!
それと同時に握られた鎌だけでなく、腕から生えた数本の鎖鎌が触手の様にそれぞれ別の間合い、別の軌道で崎島に襲い掛かった!
恐るべき能力と攻撃を見せるカルビだが、自身も気づいていない事があった。
それは、崎島の麻痺薬に対する抗体ができているのであって、今撃ち込まれたくするに対してはまったくの無防備。
徐々に体力が奪われていく事を自覚するのはもう少し先なのだが・・・。
226 :
名無しになりきれ:2007/01/06(土) 01:32:50
クローン技術か・・・
227 :
名無しになりきれ:2007/01/06(土) 20:00:19
クローンだっていいじゃない
階段を駆け上る間、私の中である対をなす感情が徐々に高まってきた。
一つは殺意
一段一段上がるたびに沸々と湧き上がり、私の体を焼く
私はその感情を感じるたびになんともいえない高揚感と吐き気を感じていた。
そして、それを感じた瞬間、どうしようもない悲しみが私に襲い掛かる。
その悲しみは私の高揚感を殺ぎ、残った吐き気を増させる。
何段か上ったとき、その吐き気に耐えられずに私は吐いてしまった。
しかし、吐き出しても楽になるわけでもなく、逆に苦しさを感じた。
その苦しさを知った私はそれに逃げるように階段を駆け上がり、殺意にすがった。
私は屋上のドアを蹴破り、屋上へと出た。
「遅かったわね」
「ッ!!!」
私は屋上で始めて視野に捉えたものに驚愕した。
自分がそこに居たのだ。
しかし、あちらの反応は私とは違い、冷静にこちらの様子を見ている。
彼女は不敵に微笑みながら、腰についているベルトに手をかけていた。
「・・・あなた・・・笑っているわね」
彼女の一言で、更に私は驚く
しかし、彼女はそれを気にも留めず続けた。
「散り際の笑みとしてはあまりにも不気味ね・・・まるで、殺し合いを望んでいるような目・・・
まぁ・・・私からしてみれば・・・丁度いいわね・・・・・・変身!」
「変身ッ!」
私は彼女の後を追いかけるように変身した。
二つの紫光が屋上を照らす。
別々の軌道を描き崎島に襲い掛かる数本の鎖鎌。
逃げ場はないかのように思われたが、崎島はそれを全て躱しきった。
それだけでなくカルビの懐に入り込んでいたのだ。
300年・・・。
300年にわたり蓄積された戦闘経験。
その経験に裏打ちされた崎島のシミュレーションは神業の域に達しているといっていい。
作られてからまだ一年と経っていないカルビの及ぶところではないのだ。
崎島はカルビの懐に入ると、手に持った注射器をその腹に突き立てる!
だが、軟体生物特有の柔軟性を持ち銃弾をも跳ね返すまでになった外皮。
更に全身を粘液で覆われており、注射の針がカルビの体内に入る事はなかった。
一瞬の交差を経て崎島は悟る。
今の自分では目の前の敵を殺しきる事ができない、と。
仮に毒を注入できたとしても、それは更なるパワーアップさせるえさに過ぎない、と。
そう悟ってからは、崎島は守勢に回る。
そんな思惑も知らず、カルビはとにかく全身あらゆるところから鎖鎌を放ち攻撃をするがことごとく躱されてしまう。
そして数分後。
「お・・・おかしい・・・まさかてめえ・・・!?」
打ち込まれた毒は確実にカルビの体力を奪い、消耗させていく。
気付いた時には崎島は蜂の姿となり、玄関から飛び去っていってしまった。
「くそお!きたねえぞ!さっきの毒とは違うじゃねえか!!」
あとには口汚く罵るカルビだけが残された。
体力を奪い、チャンスとも言えた状態で飛び去った崎島の判断は正しかったといえるだろう。
事実既にカルビの体内では体力を奪う猛毒に対する抗体ができており、これ以上体力を奪われる事はなくなっていたのだから。
とはいえ、既に奪われた体力が回復するわけではない。
よろよろと外へでて、オズの命令で飛び降りて死んだ帝国兵を貪り始める。
貪り急襲しながら屋上を見ると鱗粉がそこを覆い、薄く紫電がオズとイオの戦闘を告げていた。
230 :
名無しになりきれ:2007/01/15(月) 10:59:13
わたしたちは人間だ!!
兵士を丸まる一人食べ終わった後、鎌を両手からそれぞれ一本ずつ出して外壁へと向かう。
【養分補給】ができたからといって、失った体力がすぐに回復するわけではない。
跳躍を持って一気に屋上へ行かず、鎌を鉤爪の様にしてよじ登っていった。
僅かの間を置いて屋上へと到達するカルビ。
そっと顔を出し覗くがよく見えない。
オズの鱗粉によって濃霧のように視界を遮っているからだ。
(・・・この鱗粉で音を乱反射させるのか音の方向性を掴むかはしらねえが、相性的にもうケリついていてもおかしくない、が・・・?)
確かにおかしくはない。
だが、まだ決着はついていないという確信はあった。
オズの異様なまでのイオに対する執着。
本来直接戦うタイプでないのにも関わらず兵を下がらせ1対1を望んだほどだ。
簡単には殺しはすまい。
案の定鱗粉の霧の中、イオの姿を確認する事ができた。
鱗粉のためか、幻覚に陥っているのか、それとも別の理由かはわからないがまだこちらに気付いているそぶりは見せていない。
カルビはいっぺんの躊躇いもなく屋上に躍り出て、何かを投げつける動作をした。
投げつけられたもの。
それはカルビの粘液を更に練り合わせたもの。
飛びながらその形状を皮膜状に変化させイオに迫る。
「げはははは!これで糞厄介な音は出せねえだろう!」
狙い通り強力な粘液が顔面に命中したなら音を出す事はおろか、呼吸すら難しくなるだろう。
「幻覚に抱かれる気分はどう?」
上空で私を見下しながら彼女は言った。
私は何も返せない。
いや、私は今目の前の幻覚に何遍も殺されている最中だった。
彼女と私の戦闘経験の差は絶望的なものだった。
彼女は私と剣を何回か交えた後、急に飽きたかのように鉄扇を広げ
屋上を銀色の霧で包んだ。
やっかいなことにこの霧は目暗ましではなく、私を極限まで無力化するものだと知るのはずっとあとにわかることになる。
そうとは知らず、私は声をあげ彼女を探した。
しかし、これがこの状態を生み出すきっかけだった。
霧が作り出した不愉快な音は私の耳を狂わせ、それを聞くたびにまた声を発する。
その無様な螺旋は私を壊すのに数分もかけなかった。
「まずは・・・脚でもいただこうかしら」
そう彼女の声が聞こえたとき、私の足は千切れ飛んだ。
「あぁぁぁぁぁぁ」
「あら?いい声で鳴くのね?もう一本いただきちゃいしょうか?」
「いがぁぁぁぁぁあぁ」
もちろん私の足はまったくの無傷だ。
私は彼女の声が作った幻想に踊らされただけだ。
ただそれだけのことなのに、私はどうしようも出来ず彼女の声に操られる。
ある程度傷を負わされて、殺されて現実に戻り、また殺される
この螺旋の中、私の意志は段々と薄くなっていった。
もちろん、あの大男がいることも、粘膜を投げつけたこともわからず
私は顔にそれをぶつけられ、そのまま倒れた。
「ぎゃははは!ざまあみろおぶべええ!」
イオに粘液を命中させたのを見て大声で笑うが、その笑いは長くは続かなかった。
「貴様、なんの真似だ!!」
怒気のこもった冷たい声とともにオズがその後頭部を鉄扇で叩きつけたからだ。
床に頭をめり込ませるカルビの姿でその威力を押して知るべし。
普通の獣人なら頭が潰れ絶命している一撃だが、カルビはめり込んだ頭を引き抜いて薄ら笑いを浮かべながら弁明を始めた。
「まあいいじゃねえかよ。十分痛めつけたし、そろそろ殺しても問題ねえだろ?」
媚びている様に下からオズを見上げる。
そんなカルビの顔をオズは蹴りつけ、粘液煮からめとられ倒れているイオの元へと宙を舞う。
完全に気絶していると判断したのか、屋上を包む鱗粉の霧が徐々に薄らいでいく。
「さっきまではただ殺してやりてえとばかり考えていたけどよぉ、いざその段になると旨いかどうかが気になるんだよなあ。」
背中越しにイオを見下ろすカルビの言葉にオズの柳眉が不愉快そうにつりあがる。
**もう用はないし殺そう**
オズの手に閉じられた鉄扇「呪解夢」が開く。
次の瞬間、オズの叫びが屋上に鳴り響いた。
オズが攻撃を仕掛けるより先にカルビがオズの羽を毟り取ったのだ。
「わりぃなぁああ!死体より生きているまま食った方が旨そうだからよおお!げひゃははは!」
羽を毟り、頭を掴み二、三度床に叩きつけ投げつける。
羽はなく、傷ついた身体で屋上から落とされれば死ぬだろう。
だが勝利を確信したカルビの目に信じられない光景が映る。
投げ捨てられたオズが空中で身体を捻り鉄線を投げつけたのだ。
落下し屋上から姿を消したが、鉄扇はカルビの頭を縦に真っ二つにした。
「や・・・やべえ・・・」
狼狽の声には二重の意味が込められている。
一つは頭が縦に切り裂かれた事。
これで死ぬ事はないが、外皮と粘液で守られていた内部がむき出しになったという事だ。
薄れたとはいえ、まだ鱗粉が充満している。
もう一つは、地面から*ドサッ*という落下音ではなく、空気がはじけたような音とともに殺気が立ち上っている事だ。
羽はなくとも風を操り落下を防いだのだろう。
「き〜〜〜〜さ〜〜〜〜ま〜〜〜〜!!!!!」
怨念と殺気に満ちた声が上がってくるのに気付き、カルビはとっさにイオを小脇に抱えてビルの反対側に飛び降りた。
オズも傷ついている。羽根の再生にも時間がかかるだろう。
だが、ぐずぐずしていては帝国軍がやってくるかもしれない。
今なら逃げ切れる、と判断したからだ。
後ろも振り返らず一目散に駆け抜け、迷路状の下水道網へと身を滑らせた。
「!!!」
息苦しさで私は目が覚めた。
何かが口と鼻を塞いでいるのか!?
私は顔を引っかく様に塞いでいる何かを取ろうと必死でもがく
酷く粘性のあるそれは鼻の近くの部分だけ取れて千切れた。
窒息寸前の私はめいいっぱい深呼吸したが、酷い悪臭に咳き込んだ。
「(ここはどこなんだ・・・)」
頭をあげ状況を確認し始める。
「(・・・下水施設か?・・・水の流れる音も聞こえる)」
もっと情報が欲しい私は立ち上がり歩き回ろうとしたが、鎖に脚をとられ転んだ。
「(クソ!足枷か・・・刀は盗られてるな)」
腹を立て壁を思い切り叩いた。
悔しい!無力な自分の存在が恨めしい。
イオが壁を思い切り叩いてから一分と経たないうちに部屋の扉が開く。
開いた扉を塞ぐ壁のような巨躯。
全身をぬめらせる粘液。
そして下卑た笑み。
そこに立っていたのは間違いなく襲撃者、カルビだった。
「おいおい、古い建物だからあんまり暴れると壊れちまうぞ?
そんなに構えるなよ。取って食っちまうつもりではあるが今じゃねえ。俺の頭の中でそういう声がしてたんでなあぁ。」
トントンと己のこめかみをつつきながらおどけるその姿は意味不明ではあったが、ただの凶暴性ではない。かすかながらも知性を宿しているようにも見える。
片手に持っていたイオの刀を投げ渡すと同時に足枷も外れる。
だが出口はカルビの背後の一箇所のみ。
「いろいろ知りてえって顔だな。まあ落ち着け。知っている限りは話してやる。」
カルビは語り始める。
ここは地下3000メートルの地下施設。300年前、まだ人間が地上の覇権を握っていたときに作られたものだ、と。
地上には獣人の都市があり、垂れ流される下水が更に流れ込む最下層だと。
そしてカルビはここで作られ事。
だが、何者によって何の為に作られたのかはわからない。
「そしてなぜこんな事をお前に話すか、だ。
俺の頭の中で延々と響くんだよぉ。こうしろこうしろってなぁ。しつこいくらいに響くんだ。
頭の中に他の奴がいるんじゃねえかと思ったが、いなかったんだ。オズとか言うお前の双子に頭カチ割られたが中には誰もいなかったからな。
それ以降声はしねえ。もしかしたら割られたときに外に飛び出ちまったのかもしれねえな。
糞しつこい声だったが、なくなっちまうと俺は何をすればいいかわからなくなった。
だから声の最後の指示に従う事にしたのさ。
お前はまだ食うに値しない。もっと強くなってから食えってな。
強さってのは単に戦闘能力じゃねえ。知り、理解する事も一つの強さだ。」
長い台詞に一息入れ、イオに指をさす。
「そこで、だ。この上に何があると思う?3000メートル上がれば地上だ。そこには都市がある。もちろんここと地上の都市の間にもいろんなものがある。
上がる事によってお前が何者かもわかるし、強くもなれる。強くなったら俺はお前が食えるわけだ。
だからお前はここから出て登れ。俺に殺される前に登るんだ。
いひひひ・・・うまそうな肉があると我慢できなくなるから早く早く俺から逃げて登るんだぜええ??」
徐々に言動が怪しく、表情や目の光から知性が掻き消えていく。
それが完全に消えたとき、カルビは突然イオに襲い掛かる。
隙だらけで動きも早くはない。すばやく動けば脇を抜け部屋を出られるだろう。
だが、ぐずぐずしていればその巨躯の圧力に押され潰されてしまう。
正直、カルビの話を私はあまり理解できなかった。
そりゃそうだ。自分を殺そうとしている相手を結果的に助け、強くしてやろうとする大馬鹿者がいると思うのか?
その疑問が私の動きを一瞬鈍らせた。
カルビの巨体が目の前まで迫っていた。
反撃?無理だ!こいつに斬撃は効かない。
『・・・・こっち・・・・』
「(え・・・)」
気がつくと私は先ほどいた部屋から出ていた。
何が起こったのかわからない。ただ、子供の声が聞こえて気がついたら・・・
少しばかりこの異変に動揺したが、今はそんな余裕も無い。
私は口の周りにある粘膜に刀で切れ目をいれ、そこから引っぺがした。
ちょっと痛かった。
「カルビ・ナ・ブラーナ!!!
お前のその挑戦、受けてたちます。しかし、私は食べられるつもりは一切ないです。」
立ち上がろうとしているカルビに向かって私はそういって、思いっきり空気を吸い込む。
「きぃ嗚呼アァァァァァァァアァァアアアァァアッァッァッァ!!!」
けたたましい叫び声と共に生死を賭けた鬼ごっこが始まる。
目標物であるイオの消失にも気付かずにカルビはそのまま突っ込み、壁に大穴を開けた。
のっそりと振り向いたところで、けたたましい叫び声に三半規管から脳までゆすぶられ転がる事になる。
顔を歪めながら起き上がったときには既にイオの姿はない。
「げひゃひゃひゃひゃひゃ!逃げろ逃げろお!
これは挑戦じゃねえ。【調理】だ!!
旨くなるまで死ぬんじゃねえぞぉおお!!がひひひひひひひひひ!!!!」
暗い通路に瓦礫が撒き散らされる音とカルビの狂ったような笑い声が響き続ける。
血走った目でゆっくりと力強く歩き出す。
既に自分を駆り立てる頭の中の声はない。
カルビ自身も【この場所】についてよく知っているわけではない。
声に駆り立てられるまま行き来した一定の通路以外はまったくの未知の世界といってよかった。
この先に何が広がっているのか、何が待ち受けているのか、何も判らないがそれを気にする様子もなく追跡を開始する。
一頻り笑い終えたあと、カルビは部屋を出た。
自分を導いていた【声】は消え、臭いも強烈な下水道の臭気のためにかき消されてしまっている。
更にこの部屋が地下3000メートルの最下層であるという事意外殆ど判っていない。
それでも予感があった。
必ず引き合う、という予感が。
薄暗い通路を彷徨って見覚えのある部屋にたどり着いた。
その部屋は壁中に試験管がびっしりと取り付けられている。
中央には穴が開いている。
この部屋、この場所こそがカルビ達が生まれた場所であった。
数百のカルビが一斉に試験管から産み落とされ、頭に響く【声】に従い中心の穴を目指す。
生まれたばかりのカルビはまさに海鼠そのもので、大きな口だけが唯一の武器だった。
周りの自分自身を喰らい、喰らわれながら中心を目指す。
喰らうたびに身体は大きくなり、手足が生え、牙が生える。
中心にたどり着いたのは数体の人間の形をしたカルビだった。
なぜ喰らうのか、なぜ戦うのか、なぜ中心を目指すのか。
そのような疑問自体が存在しなかった。
中央に集まった数体のカルビに言葉はなかった。
ただ当たり前のように殺し合い、喰らい今のカルビとなって穴から外へ出て行ったのだ。
自分の生まれた場所にたどり着いてもカルビにはなんの感情も去来する事はなかった。
唯通り過ぎる部屋の一つだというだけ。
更に彷徨いどれだけ歩いただろうか。一つの扉に行き着いた。
今までの半ば崩れた景色とは違い、その扉は今でも堅牢に立ちふさがっている。
数回の体当たるの末、扉はようやく歪みカルビはその中へと入っていく。
扉を一枚隔てたそこはまるで別世界だった。
綺麗に磨き上げられ、誇り一つない清潔な床。
白く照らす光。
「げひっ。なんだこりゃあ。こんなところがあったとはなあ・・・。」
流石のカルビもこの変化には驚き、辺りを見回しながら整然と続く通路を歩いていった。
カルビがそこの部屋に入る数分前、イオもこの部屋に入っていた。
「・・・なんで・・・ここから・・・」
何故イオがここで混乱しているのか?
それは、先ほど使った能力に深く関係している。
イオがカルビから逃亡する際に叫んだのは、足止めではなく、この地下通路の構造をしるために叫んだのだ。
予定では半径3kmの大体の通路は判断できたはず、しかし、それは出来なかった。
帰ってきた音から脳内で作られたマップはイオの予想を遥かに下回っていた。
範囲の狭さは誤差の範囲に入っていたが、通貨可能な道として判断できたのはこの部屋までの通路だけ
イオは半ば強制的にこの道を選択されたのだ。
さっきとはうって変わって、その部屋はとても綺麗だった。
「・・・どうして・・・」
恐る恐る壁にさわり、原因を確かめる。
とくに異常はない、ただの壁だ。
・
・・
・・・
・・・・
「ハッ!!!」
次の瞬間、私は先ほどとは違う場所にいた。
いや、白い部屋にいることは変わらないが、先ほどの場所とは違う。
「私は今まで・・・!!!」
周囲を確認した私は、固まった。
白い床に血文字でびっしりと譜面が書いてある。
誰が・・・まさか・・・私?
恐る恐る掌を見ると、そのとおりだった。
鼓動が段々と大きくなるのがわかる。
恐怖なのかそれとも別のものなのかは判らない。
ただ・・・Cotelettes(カツレツ)と譜面の近くにそう書いてあるのが見える。
「・・・練習曲・・・なんで?」
240 :
名無しになりきれ:2007/01/31(水) 00:14:13
シャドービーストが・・・・
清潔なエリアに入ったおかげか、嗅覚が役に立つようになる。
どこからか血の匂いと共に、自分の内臓の匂いが漂ってきている。
それはすなわちイオもこのエリアにいるということをあらわしていた。
だが荒野や廃墟と違い、いかんせん通路というものに邪魔をされてしまっている。
思い通りに匂いを辿れないもどかしさに苛付きながら歩みを進めると、大きな部屋に出た。
「・・・いけすかねえ・・・。」
ドーム状の大きな部屋には眩いばかりの光が降り注いでいる。
何も遮るものもなく、ただ向かいにドアが一つあるだけの部屋だ。
それなのにカルビの本能はこの部屋に危険を告げていた。
降り注ぐ光の熱は身体を覆う粘液を乾かしてしまう。だが、それ以上の危険を察したのだ。
とはいえ、匂いは扉の向こう側へと続いている。
進まぬわけにも行かず用心深く進んでいく。
部屋の中央まで来たところで、入ってきた扉が閉じた。
この部屋に何かがあるのは予想していたが、次の起こることは流石に想定外だった。
ドーム状の天井各方向から照らされカルビの影が八方に分かれているが、その影から狼のような形をしたモノがせり出てきたからだ。
影から出てきたシャドービーストは間をおかず一斉にカルビの襲い掛かる。
「ちぃい!んだああ!?」
めくらめっぽうに手を振り回し、シャドービーストを殴りつけるが、「影」であるその身体を殴れるわけもない。
カルビの攻撃をすり抜けたシャドービーストは、粘液の乾いたカルビの身体に牙を立て切り裂き飛びのく。
「があああああ!!」
自分の攻撃は当たらず、相手の攻撃は当たる。
そんな理不尽な存在との戦いに雄叫びを上げながら鎖鎌を振り回す。
理不尽の戦いがどれだけ続いただろうか。
どれだけ攻撃を当てようとシャドービーストはそれをすり抜け、牙は確実にカルビの肉を抉っていく。
いくら鋭い牙でも身体を覆う粘液が滑らせ、突きたてる事を至難とするのだが、強く照らされる光のために今はその効果もない。
一方的に思えたこの戦いにも、転機は訪れる。
シャドウビーストの一匹が突き出されたカルビの豪腕をすり抜け首元に牙を立てた。
決して大きいわけではないが、確実にカルビの肉を抉る牙。
だが、抉られた場所は首ではなく突き出した拳。
絶望的な戦いの最中とはいえ、いや、絶望的な戦いの最中だからこそ、この違和感は強烈に焼きついた。
その後も繰り返される攻撃と防御をもって、違和感は確信へと変わる。
「くくくく・・・がはははは!ここは闘技場ではなく処刑場だったのか!あっはっはっは!」
防御を大笑いをするカルビにシャドウビーストが一斉に襲い掛かる。
その瞬間、カルビの身体の至るところから20本の鎖鎌が飛び出た。
完璧なタイミングでもカウンター。
それでもシャドウビーストに傷をつけることはできなかった。
今までと同じように鎖鎌をすり抜けカルビに襲い掛かる。
今までと同じでないところは、シャドウビーストが牙を突き立ててもカルビの身体には傷一つ付かなかった事だ。
「わかっちまえばチャチな仕掛けじゃねえか!!!」
カルビの身体から飛び出た鎖鎌はシャドービーストを突き抜け、部屋の壁に突き刺さっていた。
正確に言えば壁に開いた小さな穴。
そのままカルビが身体を回転させると、壁に突き刺さった20本の鎖鎌は壁を切り裂きながら同じく回転する。
壁を切り裂き、照明を断ち割り、投影装置を破壊した。
この部屋の仕掛けは単純なものだった。
直上より照らされる強い光と、それによってできる影にあわせてホログラムを投影する。
投影された映像なので、いくら攻撃しようとすり抜けてしまうわけだ。
そして攻撃は壁に小さく開いた穴から圧縮空気を発射。
このからくりに気付けないと、まさに影から現れたモンスターに食われるように死んでいくしかなかっただろう。
シャドウビーストが消え、カルビは悠々と向かいのドアへと歩く。
「くははは!このエリアは一体誰が何の為にいつ作ったんだぁ!?不思議におもわねえか、ええ!?」
大きな声と共に突き蹴りをすると、扉は本来開くべき方向を放棄してその衝撃に身を任せて飛び出した。
ゆっくりと新たな室内に身を入れながら、凶悪な目線を向ける。
私はあの後、譜面のほかにもヒントが無いかと近くを探し回っていた。
「やっぱりカツレツだけじゃわかんないです。」
地べたに這いつくばった状態で私はちょっとふてくされてみた。
「カツレツは元々ピアノの練習曲だから・・・やっぱりピアノ?でもなんでピアノ?」
いや、それ以上にわからないことは沢山ある。
なんでこのエリアにはいったとたんにこんな譜面を書いたのか?
「・・・私は・・・誰なんだ・・・」
這いつくばるポーズから芋虫のように丸まって考え始めた。
ふと、あの夢の言葉を思い出す。
自 分 の 存 在 は 誰 か の 真 似
私はその言葉を思い出した瞬間、どうしようもない怒りと悲しみが湧く
「私は私だ!誰の真似でもないんだ!!!」
ゆっくりと私は立ち上がり目の前にあるドアを開いた。
隣の部屋は先ほどの部屋の色とは対象的だった。
壁も天井も床もすべて金属感のある黒で統一されている。
それを小さな電球の赤色が照らしているから少しばかりの不気味さも覚える。
また壁を触ろうとしたが先ほどのように気を失っては困るので止めた。
コツーンコツーンと黒い廊下鳴らしながら私は進んだ。
始めは足音も近くの壁に反応してエコーがかかったように聞こえるが
肝心の音、つまり、距離を認知できる音は一切返ってはこない。
私はそのことに苛立ちを覚え、同時に恐怖を感じていた。
広いところに出たと思ったら、そこにはピアノが一台スポットライトを浴びていた。
「・・・罠?」
何かの研究施設なのに何故ここにグランドピアノがある。
不自然だ。おかしい
スポットライトなんてもう罠としかいえないだろう。
しかし、私はそう頭で理解していても体がゆうことを聞かなかった。
「・・・なんで・・・なんで体が・・・」
遂に私はピアノの前に座ってしまった。
「・・・弾いてみようかな・・・譜面あったんだし」
私は震える指でピアノを恐る恐る弾き始めた。
始めはところどころで切れたり止まったりして演奏とはいえないものだったが
段々と音が繋がり始め、曲として完成し始めている。
正直、ちょっと楽しくなってきた。
・
・・
・・・
「えらいぞ〜○○○そうだその調子だ」
「○○○偉い?でもおにいちゃんのほうがもっと上手いよ」
「いや・・・○○○は将来俺を越えるよ」
「アハハハハ」
「ハハハ」
・・・
・・
・
「ハッ!」
ダーンと不協和音が響く
なんだ、なんだあの兄妹は!
それと・・・
私はおそるおそる顔を触ってみると涙が流れていることに気がついた。
・・・
「どうなっているんだ・・・ッ!!!」
私は背後に何者かの気配を感じ、ピアノから離れた。
245 :
名無しになりきれ:2007/02/10(土) 19:27:47
黒い弾丸が飛んできた
「ためらわず 弦(いと)を鳴らし 悲しみを歌え!
運命の強き一撃(うち)は 力ある人すら 打ち砕くが故に・・・♪
矜(ほこり)たかく 健やかなる運命は ついにわがものにあらず!
われならず望み われならず 望みを失いね!♪」
カルビは歌いながら歩く。衝動に駆られ、全身で歌いながら。
シャドウビーストの部屋を突破し、潜り抜けた次の部屋には誰もいなかった。
だが匂いは確実に強くなっている。
注意深くにじり寄るように歩むカルビの耳にピアノの音が飛び込んできた。
匂いが強くなる方向からの突然の音。
まるで警戒心のないような不用意なそれはかえって罠を疑ってしまうほどの。
そんな警戒心も、曲を聴いているうちに徐々に薄らいでいく。
代わりに一つの衝動が全身を駆け巡る。
歌いたい!と。歌わずにはいられない、と。
自分の接近を察知される事がわかっていながら、その衝動に抗う事はできなかった。
カルビは口を開き大声で歌いだす。
その曲が人間が地上を支配していた時代ですら
自分自身何を歌っているか全く判らぬまま、だが、全細胞がそれを知っている感覚。
その歌を「カルミナ・ブラーナ」という。
まだ人間が地上を支配していた時代にすら中世と呼ばれる時代に書かれた詩であることも知らずに。
大声で歌い続けながら大股でイオのいる黒い部屋へと近づいていく。
247 :
名無しになりきれ:2007/02/15(木) 00:09:07 0
まさかの赤外線センサー
248 :
名無しになりきれ:2007/02/15(木) 17:46:00 0
レーザーが飛んで来る
もう楽にしてやれ
250 :
名無しになりきれ:2007/02/16(金) 01:16:44 0
hutuno system
もう300年か。
何度目の朝だろう。
俺は目を覚まし、空を見上げた。
相変わらず、不機嫌な空だ。
俺の周りに散らばるのはバケモノの破片。
ずっと、戦ってきた。
そして俺は地獄から帰ってきた。
大声で歌いながら歩を進めるカルビ。
自分の存在がイオに察知される事も気にする様子もなく、無防備に歩いていく。
だが歌声で察知される以前にカルビは既に細くされていた。
目に見えぬ、カルビではその存在すら認識できぬ赤外線センサーによって。
だからこそ、それは待ち構えていた。
イオを守るようにたちはだかり、大きな銃を構えながら。
扉を蹴破り身を乗り出すカルビに光のシャワーがそそがれる。
黒い部屋に走る閃光は美しくもあった。
とっさに構える事もできず、カルビはその光に貫かれるが、余りにも鋭すぎる閃光はただその肉体を通り過ぎただけだった。
「・・・レーザーか!!」
銃弾すら跳ね返すまでになった外皮が肉体がなんの抵抗感もなく貫通。
その傷口は収束された光の熱によって炭化している。
ダメージはさしてないものの、確実に自分を傷つける存在にその口物が大きく歪む。
「しゃらくせえ!てめえが何者かはしらねえが!とりあえず死にやがれ!!!」
NE『D・レボリーション』は他のNEとは違い、装着者の内部に展開する。
あらゆる事態に対し、強い学習能力を装着者に与えるのだ。
その能力を遺憾なく発揮し、既にカルビにレーザーに対抗する手段を与えていた。
「レーザーなんてものは元々大気中で使う代物じゃねえんだよオオ!!」
体中の突起物から大量の粘液を放出しながら突進する。
レーザーは液体を通すとその威力が激減する。
更に屈折も加われば、まともに当たる事すら叶わないだろう。
そんなカルビの行動をもとよりわかっていたかのように、その黒衣の男は銃を捨てて身構えた。
圧倒的質量とスピードを持って迫るカルビに鉄拳一撃!
まさに黒い弾丸と化したその拳は、粘液を弾き飛ばし、カルビの身体にめり込んだ。
勢いも、質量も全て真正面から受け止めなおかつ弾き飛ばす!
殴り飛ばされたカルビの方はというと、何が起こったのか全く理解できずにいた。
完全なる空白。
その間僅か3秒だが、勢いよく転がり用意されていたかのような穴に落ちるには十分な時間であった。
############################################
意識を取り戻したときには、清潔で幾何学的なエリアからは程遠い場所にいた。
全く知らない場所。
壊れた機械や溶けた床など、廃墟という言葉すら生ぬるい場所に転がっていた。
転がる機械類を掻き分け、あてもなく彷徨ううちに薄く光る【何か】のまえに辿りつく。
なんの材質でできているかはわからないが、2Mほどの円柱。
地面から30センチほど浮いて、静かに回転していた。
表面には『hutuno system 』の文字が彫られている。
どこかで見たような文字。
いや、見たことがあるわけがない。
なのに身体が、細胞がこの文字を知っている。
「・・・hutuno system ・・・hutuno・・・・ふつの・・・・布都御霊(ふつのみたま)!?」
しばらく考えているうちに一つの言葉に突き当たった。
知識ではない、本能が知っていた言葉だった。
「げははははは!俺をダストシュートで捨てたつもりだろうが、とんだ誤算だな。
いや、元々仕組まれていたのか・・・?
まあいい、今行くから待っていろよおお!!」
むんずとその円柱を掴むと、歩き出す。
掴んだその手が円柱と癒着、いや、融合しているのもまるで自然な事のように。
カルビは恐るべき存在へと変貌しながら、上を目指して進んでいった。
253 :
名無しになりきれ:2007/03/03(土) 21:26:16 0
そして世界は突然振ってきた隕石により終わった
西暦2307年のことである
254 :
名無しになりきれ:2007/03/10(土) 14:10:57 0
そして世界は繰り返す
6週目の世界1971年4月1日
255 :
名無しになりきれ:2007/03/10(土) 22:29:20 0
新番組 ”特撮ヒーロー活劇 変身専用”
256 :
名無しになりきれ:2007/03/19(月) 10:31:18 0
迫りくる魔の手
257 :
名無しになりきれ:
戦えヒーロー