騎士たちの奮闘空しくサタンの復活は成された
サタンの率いる魔軍の攻勢にフレゼリアはおろかオーガスを含む周辺国すら陥落した
一年後…
旧オーガス皇国を中心に周辺の数カ国を領土として足場を固めたサタン軍
それを囲むように周辺各国に結成された、動乱を生き延びた戦士たちを中心とした抵抗組織
――抗魔統一戦線同盟
通称『同盟軍』の中にひときわ功績を挙げる戦士たちの姿があった
ある者は黒衣黒髪の拳士
ある者はいささか頭髪を気にしている、明朗快活な壮年の騎士
ある者は精霊を操り万軍を薙ぎ
またある者は闘気によって闇を払う
そして……身の丈を超える七支の大剣を背負い戦場を駆ける者の姿もその中に在った
かつて皇国と呼ばれた国の都、その玉座に座るサタンへ向け、彼らは刃を振るう
あるいは汚名をそそぐため
あるいは仇を討つため
あるいはただ褒賞のため
そして――――
人の世の滅びを免れるために
今こそオーガス城に乗り込んでサタンをぶちのめす!!
2げっと
4 :
名無しになりきれ:2006/05/19(金) 19:53:06
キモい
レナスにヨルムンガンドをけしかけた後、シズネは場所を移していた。
カラリ、コロリ、と三枚歯下駄を引きずる音が響きわたる。
ここはオーガス城内。
城内ではあるが、どこだかは定かでない。
空間がねじれ、様々な空間が内包されているからだ。
シズネが歩く場所は完全なる闇に閉ざされたただただ広く何もない場所であった。
濃厚な魔素により空間が歪むオーガス城にあって特異点というべき場所。
ここは城内のあらゆる場所に繋がり、あらゆる場所から隔絶された空間だった。
様々な場所で行なわれる激突がまるですぐ隣で行なわれているようにも感じられる。
いや、実際にすぐ隣であり、空間の歪みとタイミング次第によっては行き来さえ出来
るだろう。
「程よいところだねい。ここなら・・・」
完全に闇で覆われているにも拘らず、注意深くあたりを探り妖艶な笑みを浮かべる
表情が見えるようだ。
おもむろに袖から砂陣巻をだし、、勢い良く広げる。
広げられた砂陣巻からは大量の砂が際限なく出、見る見るうちに山と化していく。
山と積もった砂は形を整え、砂が出切る頃にはただ広い空間に相応しい大きな楼閣と
なっていた。
その後、符を撒き散らすと符はひとりでに各所に飛んで行き蒼白い炎と化す。
更に楼閣玄関から一直線に回廊を作るように灯篭が砂で形作られ、同じように蒼白い炎を
灯す。
真っ暗だった空間に蒼白い炎の光で浮かび上がる楼閣には、どことなく神聖で幽玄とした
雰囲気を醸し出す。
蒼白い光に照らされて佇むシズネ。
どれほど時が経っただろうか?
灯篭の光に浮かび上がる回廊の先に二人の人影が現れた。
人影はシズネとの距離を縮め、薄暗い中でもお互いの顔が確認できるところまで来て歩を
止める。
マックスは既に剣を抜いており、マリスも聖印を手にいつでも詠唱ができる体制になってい
る。
そんな二人の姿を見、シズネの眼から一粒の涙が流れた。
「やっと・・・やっと逢えました・・・あなたが、フンバルト様の血の繋がらぬ不詳の息子、マッ
クスウエル様ですね?」
か細く、だがはっきりと聞き取れる声でシズネが口を開く。
その問いかけはもはや確信を持った口調で・・・。
両手を頭の後ろに回し、髪を結い上げていた簪を一気に引き抜き、地面に突き立てる。
地面に突き刺さった簪は旗や槍に変化し、シズネを囲うように立っている。
簪の抜かれたシズネの髪は一瞬大きく広がり、まっすぐに腰の辺りまでその先を落とした。
涙を拭うように顔を袖にうずめ、再び顔を上げたとき、シズネの顔は一変していたことに、二
人は驚きの表情を浮かべる。
化粧が落ち、今までの妖艶な雰囲気が完全に消え去って、まるで別人のように。
そこにあるのは清く凛とした一人の巫女の顔だった。
「突然申し訳ありません。私はシズネ・ラ・ファウスティナ。詳しくは中でお話しますのでどうぞ。」
マックスとマリスに一礼をすると、先導するように楼閣の中へと歩きはじめる。
*********************************************************
砂陣巻:巻物を広げると大量の砂が出てくる。砂は自在に扱える。
楼閣のなかは落ち着いた雰囲気で、神殿を思わせるつくりになっていた。
その中の一室にてシズネはマックスに跪いて語り始めた。
「驚かせて申し訳ありません。
改めて申します。ワタクシはタカマガハラでとある大妖を封じた社の巫女、シズネ・ラ・
ファウスティナと申します。」
改めて自己紹介をし、淡々と語りだす。タカマガハラの歴史とブレードヒチシについて。
百年ほど前、タカマガハラでは大戦があった。
敵は一匹の大妖。
タカマガハラの全ての禍祓いが総力を結集し、長いときと多くの犠牲の元、大妖を封じ
込める事に成功した。
その大妖を封じ込めるのに使われたいたのが、魔力霧散の力を持つ神刀・七支刀なのだ。
七支刀を持って大地に縫いとめ、そこに社を建て幾重にも結界を施した。
そして百年の歳月その封印を守り続けてきた一族だと。
そして時は一年前。
大陸から一人の老騎士が渡ってきた。フンバルト・ヘーデルホッヘである。
実態のない情報生命体であるヴォルフを滅するために、魔力霧散の力を持つ七支刀の貸
与を求めたのだ。
当初封印守護者は拒んだが、フンバルトの熱心な願いを受け三ヶ月の期間を持って貸与
を認めた。
三ヶ月間であれば要の七支刀がなくとも結界で抑えられるからだ。
だが、フンバルトは返ってこなかった。
封印を守るため、当代一の禍祓いであるシズネの父がその身を柱として封印の代行を行
なっている。
だが、如何にに能力の高い禍祓いといえども、どれだけ長く代用となるものではない。
命を削り、封印を行なっているのだ。
そしてシズネは七支刀を探しに大陸に渡ってきた、というのだ。
「大陸に渡ってみると魔王軍が跋扈し、人の国は制圧されておりました。
そんな中、七支刀を捜索するためには魔王軍に身をやつさねばなりませんでした。
魔王軍であるために非道な事をしました。もはや許されるとは思っておりません。
ですが、全ては父の為、そしてタカマガハラのためなのです。かの大妖が蘇ればタカマガハ
ラは混沌の世界と化します。
お願いします、マックスウエル様。七支刀をお返しいただけませんか?
私たちにはもはや一刻の猶予もないのです。
特別な呪法を用いておりますので、我が手に渡してさえくれれば社に転送され、父は助かる
のです。
それさえしていただければもはや思い残す事はありません。
あなた様方を魔王サタンの元に案内し、その後は罰を受け殺されても構いません。ですから・・・!」
一通り話し終わると、顔を床にこすり付けるように頭を下げる。
そしてとめどなく流れる涙を拭く事もせず、跪き両手を差し出しながらマックスを見詰めていた。
そこでシズネがちんこを…
…
前スレ>320
相手は自分読みどおり断った。
しかも飛び切り丁重に来たもんだから二の句が告げない。
そうか……話には聞いた事があるが、この男があの女王の息子だったとは。
フェンリルやガストラ帝と戦えるだけの力を持つ者。
道理で強さの桁が違うわけである。信頼か裏切りか敬愛か……どれも久しく聞く言葉。
ワシャぁそれら全てを断ち切ってきた、何もかも。
たとえ自分が求めたとしても、『奴』がそれを一切許さないのだ。
「そウか……まあ予想ハしトったさかい、コノ話は忘れトくれヤ。」
残念そうに手を下げる鎧武者。
しかしすぐに顔を上げると誇らしげにこう付け加えた。
「せヤが、それでエエんや。信じる道ヲ突き進み命を散ラす。それこそガワシ等武人の掟ナンやからのォ
ワシの終着点ト、オマエの終着点は違う。オマエはオマエの道を誇レ」
そして相手は自らの力を解放した、漆黒の気が我が闘気を跳ね除けそうになる。
しゃがれた声、背筋が興奮でゾクゾクと震えた。
コイツを斬れる……自他共に認める強者を斬れる……それだけで狂ってしまいそうだ。
「ヨッシャぁ!!ほナ遠慮はモウいらへん、ココでケリつけヨウや。
信頼だの愛だの友情だの恩義だの……ワシャぁ全てを断ち切ってきた!今回も同じ、オマエの全てを切り伏せるッ!」
切っ先を相手に向けると、自分が許される限りの怨霊の力を全て解放する。
相手の漆黒のオーラと我が紫色の闘気が混じり空気は混沌と化す。
「簡単に死んでくれんなヨFALCON!!!最後までド派手に命を散らそうヤ!!」
両手に持ち直し上段に構え、最も攻撃に適した構えをとった。
何ダメージを受けたとは言え、相手と自分の基礎体力を比べると
丁度同じか軽く上回っただけ、ハンデとしては申し分ない。
膝をグッと曲げると大地を思い切り蹴り上げた。衝撃により砂塵が舞い上がる。
ラックの時に放った技、しかし今回は違う。
刀を振り上げ、腰が限界まで反り返らせながら最高点を目指す、今回は腰にヒビは入らなかった。
そして最高点に到達すると。
「ヌゥゥン…………ハァァッ!!!」
腰の力を解放させながら、刀を垂直に振り下ろした!
始まった現象、それは勢いが付いた見えぬほどの車輪の様な回転。
それの紫のオーラを纏った凶器はそのままFALCON目掛け突き進んでくる!!
限界までは力を溜めれなかったが、
『回転』『妖刀』『落下速度』『怨念』『怪力』それらを従えた『闘気』
それらを全て会わせた生前からの得意技である。
―――――――――『ゴゾロの丁:大蛇落し極』――――――――――
>8
>「そウか……まあ予想ハしトったさかい、コノ話は忘れトくれヤ。」
>「せヤが、それでエエんや。信じる道ヲ突き進み命を散ラす。それこそガワシ等武人の掟ナンやからのォ
> ワシの終着点ト、オマエの終着点は違う。オマエはオマエの道を誇レ」
相手も最初からこちらが断ると分かっていて、誇らし気に自分の道を突き進めと言う。
「あぁ…俺は自分の道を突き進む。
その為に……ザジン。俺はあんたを超えていく」
>「ヨッシャぁ!!ほナ遠慮はモウいらへん、ココでケリつけヨウや。
> 信頼だの愛だの友情だの恩義だの……ワシャぁ全てを断ち切ってきた!今回も同じ、オマエの全てを切り伏せるッ!」
相手も妖気を開放。
闘気と妖気が混じり合い、戦い、この場を死の空間に変えていく。
弱者がこの場にいたら、発狂……いや、荒れ狂う気にあたって死んでしまうだろう。
「俺の思いは切らせない……
俺は、あんたの刃をこの思いによって培ってきた力で叩き折ってみせる!!」
>「簡単に死んでくれんなヨFALCON!!!最後までド派手に命を散らそうヤ!!」
「あぁ!!派手にやろうぜ!!!」
ザジンは刀を上段に構えて、地を蹴る。
上昇しながら、彼は自分の腰を限界まで反り返らせる。
対するFALCONは、紅きオーラを纏っていた。
ザジンのジャンプが最高点にまで到達すると、彼は腰の力を解き放って刀を振り下ろす。
FALCONは紅きオーラを翼に染み渡し、漆黒の翼を真紅の色に変えていた。
ザジンは妖気に包まれて、車輪の如く回転しながらこちらに突撃してくる。
FALCONは闘気でも魔力でもない、二つの力が合わさった新しき力を、炎のオーラに変えて、右掌に集める。
そして、鳥になった。
「これぞっ!!鶴仙流奥義ぃ!!鳳凰掌だぁぁー!!!!」
自らの力を全て炎のオーラに変えて身を包ませて放つ、右手による突き。
右手には高密度のオーラが集まっている。
オーラを纏ったFALCONが、炎の鳥の姿を写し出した為にこの名が着いた。
炎の鳥が紫の車輪と激突し、周囲のものをなぎ払う突風が、辺りに巻き起こる。
決着は一瞬。
FALCONは紫の車輪に弾き飛ばされた。
炎のオーラに守られていた右手は、相手の技によって深い切り傷を負ってしまった。
前スレ>322
>「その人間の姿は偽り・・・ということか?」
冴波の問いににっこりと笑う誓音。
「偽りじゃありませんよ。今やどちらも私です。」
ふとまた思い出す紅い月の夜。
誓音はあの夜、あの人の死にかけの体でつくられた器に押し込められたのだ。
精神が切れ…最早痛みと悲しみしか感じなくなってしまったあの人の体で…。
「…いきますよ…。」
冴波の方を再度向く。
そして誓音は怪物の手を冴波を掴み潰すため伸ばす。
一瞬冴波が崩れる。―いける!
「死ね。」
>右足が異形と貸した誓音の腕に掴まれる。
「捕まるわけにはいかない!」
冴波が叫ぶ。
>「<未生天:生成・氷槍>」
「な…!」
誓音は一瞬自分の目を疑った。
足元から吹き上がった冷気が幾本もの氷槍を作り、冴波の足ごと貫いたのだ。
(こいつ…!足を捨てたか!)
恐ろしさと歓喜に笑みが零れる。―愉快!
冴波は氷で義足を作ると静かに誓音に向かって言った。
>「その姿、守る筈の人間にいつか背かれるだろうな。『バケモノ』だと。」
ふんっと笑う。まるでそんなの慣れっこだといった感じだ。
そして誓音はふと気付く…大剣に集まっていく紅い水を。地響きがなり響く。
一瞬ぞくっと背筋が凍った。戦士の勘…否、人間としての死の予感というものだろうか。
そしてその大剣は誓音に降られた。
>「<未生天:強化・生成⇒空断ちの水剣>」
>「・・・砕き、溶かして消し去ってやろう。その姿も!」
冴波の言葉に答えず誓音はばっと上の悲鳴の球体を見た。
(まだだ!後わずか!)
反射的に氷槍でダメージを受けた怪物の手を悲鳴の皮膚に包ませる。
―悲鳴装束!!!―
悲鳴が鳴り響く…そして冴波の振りかざされた大剣を受け止めた。
悲鳴の皮を羽織っても尚溶ける感覚と重さに顔を歪める。氷槍のダメージもあり力が上手く出ない。
押されていく…溶かされていく…。
しかしここで負けるわけにはいかないのだ。
(自分には償わなければならない事がある…。)
きっと冴波を睨みつける。
(例え人間に石投げられろうが確かめなきゃいけない事がある…!)
しかし睨みつけた目は時期緩んだ。
大剣によって怪物の手が二つに引き裂かれる。
唯一自分が人間だという証である紅い血が流れる。左目から紅い血が墜ちていく。
(まさかこんな形で涙を手に入れるとは思わなかったな…)
ふっと笑うと誓音は3つ目の悲鳴の球を勢いよく自分の横ッ面にぶち込んだ。
その衝撃で誓音は横に飛ぶ。割れる音が響きわたる。血も横に飛んでいく。
空中に浮かぶ中、空を見てみれば二個目の球体が巨大な十字架と化していた。
期は熟した…左手の人差し指を動かす。
「…墜ちろ…」
そして誓音は地面に叩きつけられた。骨の砂浜に埋まる誓音。
それと同時に発動される技!
―鎮魂歌…!
罪の十字架!
悲鳴が響くと巨大な十字架が冴波の上から音を立て墜ちていった。何度目かの砂埃が立つ。
倒れたまま砂浜に若干埋もれ動かない誓音…。そこにあるのは死の静寂か…それとも…
>10-11
>反射的に氷槍でダメージを受けた怪物の手を悲鳴の皮膚に包ませる。
>―悲鳴装束!!!―
どうも、水と音では相性が悪い。
真剣な命のやり取りをしているというのに苦笑してしまう。
全身を両断するつもりだった一撃は、腕を犠牲に受け止められた。
先ほどから何度も空中を窺っていることに今更見上げれば・・・そこには十字架。
情報の過負荷に氷の義足が崩れ、移動することもままならない。
「これは・・・参ったな。」
>「…墜ちろ…」
>―鎮魂歌…!
> 罪の十字架!
仰向けになった自分の体を十字架が貫き通す。
それは丁度心臓を抜けて、砂浜にその姿を縫いとめた。
上空から見れば、標本の蝶のように見えただろう。
「ぐっ・・・ぐぐっ・・・か・・・はっ・・・。」
恐らく先ほどと同じような悲鳴で作られているのだろう。
体の中がグラグラと揺さぶられ、全身の細胞がバラバラにされるような衝撃が襲ってくる。
「これが・・・50億の命を屠った・・・罪か・・・・・・ぐうっ・・。」
「<警告:身体構造維持困難。身体能力強化解除>」
最早、指の一本も動かすことすら出来ない。
私を貫く十字架の中に・・・いくつもの人影が見えた。
ボロボロの人形を抱いた少女。その子を背に庇い、剣を向けてきた少年。
奴隷達を支配した醜い男。青少年達を食い物にして若さを保った女。
『罪は・・・重く 私は地獄 エロイ・エロイ・ラーマ・サバクター』
ふと口元から紡がれる祈りの言葉。いや、呪いの言葉だったかもしれない。
地響きが鳴り止まない。それはつまり、先ほどの大剣とは違う理由によっていることを示していた。
先ほどから海岸線が引いていた事、つまりこれは・・・。
もはや、こちらからでは誓音の姿は確認できない。
だから、声だけで伝えよう。
「この一撃は致命的だな。私はもう戦えないだろう。だが、まだ鬼札(ジョーカー)は伏せられている。
それを今から見せよう。これで最後だ、生き残ったら誉めてやろう!」
砂浜に繋ぎ止められた体を中心に、微細な『波』が走る。
<未生天:最終定理・神罰・忘却という粛清>
『さぁ箱舟を築こう、友よ 汝は選ばれたり 番いの獣を呼び込むがよい。
私はそこに行くことは叶わない 私は地獄 私はゲヘナ 私はアビス』
その声に『剣』の声が重なる
『閉ざされたる絶望の扉を開こう
目覚めし汝が名 それは 【 】』
冴波の体から膨大な情報が・・・そう、呪文の構成式が流れ出す。
それは、この部屋全体を使って一つの陣を作る。
「生き延びられたら・・・癒しの力でもくれてやる。」
「<『最終構成式・ノア』>」
砂浜に巨大な影が落ちる。それは、天を衝く高さに至った赤い水の津波だった。
自分にはこの力は効きはしないが、生き延びたとしてもやがて罪が私を押しつぶすだろう。
自身の周囲の【領域】に飛び込めれば・・・あるいは他に生き延びる術を持つならば。
仮初の砂浜に立つ氷柱はみな波に引き寄せられ、同化していく。
そして・・・
私の意識は・・・
暗闇に落ちていった・・・
はいはいうざすうざす
そんな事より1よ、ちょいと聞いてくれよ。スレとあんま関係ないけどさ。
このあいだ、近所の騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜行ったんです。騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで参加できないんです。
で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜、とか書いてあるんです。
もうね、他力本願かと。自作自演かと。
お前らな、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜如きで普段来てない騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜に来てんじゃねーよ、ボケが。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜だよ、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜。
なんかシズネとかもいるし。一家4人で騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜か。おめでてーな。
今こそ立ち上がれ!!騎士よ、とか言ってるの。もう見てらんない。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜やるからその席空けろと。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜ってのはな、もっと他力本願なべきなんだよ。
Uの字テーブルの向かいに座った荒らしといつ騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜が始まってもおかしくない、
荒らすか荒されるか、そんな騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜がいいんじゃねーか。初心者は、すっこんでろ。
で、やっと参加できたと思ったら、隣の奴が、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜なんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜、だ。
お前は本当に騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜をやりたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜って言いたいだけちゃうんかと。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜通の俺から言わせてもらえば今、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜通の間での最新流行はやっぱり、
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜、これだね。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜。これが通のやり方。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜ってのは自演が多めに入ってる。そん代わり肉まともなネタが少なめ。これ。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜これ最強。
しかし騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜と次からGMにマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあお前、1は、無人島でも脱出してなさいってことを騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜!
静寂な空間でシズネは身形を整えながら、上を見る。
そこには城の各所で行なわれている戦いが映し出されているからだ。
空間の歪んだ城で大きな気同士の激突は更に空間を複雑に歪ませ、特異点たるこの場所
にその姿を写しているのだ。
髪を結い上げ、簪を差しながらエヴァンスと辻斬りがそれぞれカイザーとファルコンを相手に
激しい戦いを繰り広げている姿を見上げる。
「愉しそうに、男の子は無邪気だねい。」
小さく呟きを漏らしながら、別の方向に目をやる。
そこにはアステラとセシリアが戦いを繰り広げていた。共にまだ様子見といったところか。
「ああ・・・あれが・・・アステラや、いい女に巡りあったねい。せいぜい痛めつけてもらうんだよ
う?『その時』に『人間である』為に、さ。」
アステラに渡した妖刀。確かに使用者を支配する力を持つ。
だが、簡単に支配できるものではない。
それは刀(アステラ)と使用者(悪魔)の魂の力比べなのだ。
強靭な使用者ならば妖刀の支配能力を撥ね退け、従属させてしまうだろう。
そう、辻斬りのように。
だが、如何に強力な使用者であろうと、肉体が痛めつけば魂も弱る。
即ち、この戦いでアステラ(悪魔)がダメージを負うほどアステラ(妖刀)の支配力が上がり、長
く人間でいられる、というわけだ。
そういった面で先に見たカイザーやえファルコンとは別種の強さを持つと感じるセシリアがアス
テラと相対している事に喜びを感じていた。
「おやま、終わったら一緒に店をやるって話しまだ返事聞いていないのに。
まったく、罪なんてモノは法を作ってそれに従う奴だけが負うモノなのにねえ。勝手に背負い込
んじまってさあ。」
他の戦いを見ていたため、冴波の戦いを見るのに時間がかかってしまった。
視線を向けたときには、もはやのっぴきならない状態になっており、慌てて符を数枚飛ばした。
空間の歪みを操る術だ。
もし冴波がシズネの渡した下着を穿いていれば、それが座標設定ポイントになって空間は歪み、
冴波はこの特異点に落ちてくるだろう。
だが、穿いていなければ・・・ランダムな空間の歪みが一瞬起き、すぐに閉じるだろう。
全ては運次第。
符を飛ばしたあと、もはや興味なさそうに視線を落として身支度に戻る。
「おや、紅が足りないとは・・・参ったねい。」
それぞれの戦いを見ながら化粧まで始めていたが、紅が足りないのに気付き歩き出す。
その空間には既に楼閣はなく、ただ砂が一面に広がっているだけ。
そこに滴り落ちる液体を人差し指で受け、唇に塗って満足気に呟いた。
「・・・ん〜〜処女の血はやっぱりノリが違うねい。」
*****************************************************************
涙を流しながら手を差し出すシズネにマックスは快く七支刀を乗せた。
その重みを感じ、シズネは喜び深々と頭を下げ、立ち上がった。
「ありがとうございます。約束通りサタンの元へとご案内いたしましょう。
しかし、このまま行けばすぐに私の裏切りが露見し、即座に襲撃がかかるでしょう。
それでは逆にマックスウエル様にご迷惑。
そこでここは一つ、まだ魔王軍のシズネとして通させていただきます。
あなた様方を捕縛したと言う口実でサタンの元へとお連れします。出来る事ならばお仲間を一人
でも多く・・・
では、参りますので、力をお抜きください。」
片手に七支刀を持ったまま恭しく提案する。
マックスが何か声を上げたようだが、その時には楼閣が砂に戻り、マックスとマリスに一気に覆い
かぶさっていった。
*******************************************************************
そして今、マックスとマリスは砂で出来た柱に内包されるように閉じ込められ、マリスは口から血を
流し、それが滴り落ちていたのだ。
「さ、約束通り、お仲間様を連れに行きますえ。」
妖艶な表情を取り戻したシズネは七支刀を片手に特異点から移動を始めた。
城門前、レナスとヨルムンガンドの戦いが繰り広げられる中、シズネが現れた。
シズネは直立不動、片手に七支刀を引きずるように持ち立っているだけだ。だが、その移動速度は
かなり速い。
足元の砂が動き、シズネを運んでいるのだ。
愉しくて堪らなさそうに顔をゆがめ笑い、口を開く。
「おやま、すっかりと打ち解けて、結構なことだねい。
さて、ここでちょいと割って入ってすまないが・・・これなぁんだ?」
長い七支刀の刀身をレナスに見せ付けるように掲げてみせた。
そんな事より1よ、ちょいと聞いてくれよ。スレとあんま関係ないけどさ。
このあいだ、近所の騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜行ったんです。騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜。
そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで参加できないんです。
で、よく見たらなんか垂れ幕下がってて、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜、とか書いてあるんです。
もうね、他力本願かと。自作自演かと。
お前らな、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜如きで普段来てない騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜に来てんじゃねーよ、ボケが。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜だよ、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜。
なんかシズネとかもいるし。一家4人で騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜か。おめでてーな。
今こそ立ち上がれ!!騎士よ、とか言ってるの。もう見てらんない。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜やるからその席空けろと。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜ってのはな、もっと他力本願なべきなんだよ。
Uの字テーブルの向かいに座った荒らしといつ騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜が始まってもおかしくない、
荒らすか荒されるか、そんな騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜がいいんじゃねーか。初心者は、すっこんでろ。
で、やっと参加できたと思ったら、隣の奴が、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜なんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜、だ。
お前は本当に騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜をやりたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜って言いたいだけちゃうんかと。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜通の俺から言わせてもらえば今、騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜通の間での最新流行はやっぱり、
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜、これだね。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜。これが通のやり方。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜ってのは自演が多めに入ってる。そん代わり肉まともなネタが少なめ。これ。
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜これ最強。
しかし騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜と次からGMにマークされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあお前、1は、無人島でも脱出してなさいってことを騎士よ、今こそ立ち上がれ!!〜行くぜ大決戦!編〜!
前スレ>323
>「俺は落ちるだけ…だが、貴様ぐらいなら地獄へ道連れに出来る」
聖闘気をまとい、急加速と同時に流星の如く上空よりの突撃を仕掛けるカイザー。
しぶとい相手だ。ならば此処で見せてやらねばなるまい、「赤きティンクトゥラ」の圧倒的な力を。
彼を見上げるエヴァンス、フライトユニット主翼の光の翼が更に輝きを増し、遥かに鋭く長く伸びる。
「「地獄? 地獄とな? 冗談ではない。地獄は有限の生命を運命付けられた神の猿ども、彼らの牢獄だ。
私も貴様も等しく脆弱な人間の身ではあるが、私は神の器を手に入れた。
私こそ革命の名において創造主を断罪する、新世界の復讐神(ネメシス)となろう。
そして貴様は今日ここで果てる。駒は駒のまま、己を阻む卑俗で矮小な殻すら破れぬままに」」
光の翼は右翼の一端から左翼の一端までを、凡そオーガス城本棟の対角線ほどに伸ばした。
刃の様に細く鋭い、蝙蝠の翼。鎧に覆われた、左腕の義手も呼応して激しく紫の光を放つ。
翼から放出された魔力の余波が砂塵を舞い上げ、先の衝撃波で乱れた気流すら巻き込み再び竜巻を呼ぶ。
オーガス城一帯が全て吹き荒ぶ暴風の壁に包まれ、果ては天高くにすら陽光を見出す事叶わない。
城門外で未だ戦う同盟軍の多くが、風に巻かれて進攻を停滞させた。
魔王軍とて同じ事で、竜巻に呑まれぬ様、地べたへ這いつくばるより他無い有象無象の雑兵どもは皆動きを止める。
玉座と地獄のゲートから、屋外まで満ち満ちた魔素が竜巻のエネルギーとなり、止まない風の壁を築く。
「「何も、自身を哀れむ事は無い。人間の限界とは大様にしてそれなのだから。
だが私は人間の身でありながらにして、人智の限界を越えてみせよう。そして救ってやる、地獄で待つ貴様もな」」
翼と義手の魔光が、紫から鮮やかな紅色へと変容した。
塵で覆われ夕闇の様に真暗な暴風の渦中に、巨大な真紅の翼が輝く。
「赤きティンクトゥラ」――「賢者の石」の、無尽蔵の生命エネルギーを魔力に変換し、「Calverinia」機関が更に増幅する。
エヴァンスの全ての力の源だが、今までは「Calverinia」機関の熱量放出の限界が即ちエヴァンスの限界であった。
機動装甲服「Glorified G」のフライトユニットが加わった今、
エヴァンスはかつての活動限界を遥かに上回る火力を有するに至った。
正しく無尽蔵の、生命の力。「賢者の石」と同じ真紅の魔光がそれを裏付ける。
エヴァンスは揺るやかな羽ばたきで、ゆっくりと横に回転を始めた。
撃ち振るう翼の揺れ一つで真空の刃がカマイタチとなり、城壁を抉る。
やがてカイザーの剣がエヴァンスに襲い掛かる瞬間、回転は紅の光の渦を造り、エヴァンスの身体を上空へ撃ち出した。
擦れ違いざま、身体の回転によって聖剣を紙一重でかわし、続く刃の翼と紅い渦がカイザーを襲った。
棚引く光の渦を払い、翼のみで飛翔する。カイザーの攻撃を回避すると、
天使の召喚術式をばら撒き、「Burning Chrome」の銃口を下へ向け、光弾で追撃した。
光弾を放つと魔法反射装甲が魔方陣を展開し、下方からの反撃を今しばらく遮断する。
「「カイザー、悪いが一度お別れだ。だが案ずるな、直に機が訪れる。決着は近い。
生憎と、今回の私の役目は見届ける事だからな。サタンと貴様ら、どちらが生き残るか。
魔王の玉座の元で、後に再び相手してやろう。純粋に、戦士としてな。
貴様が生きていればの話だが――デイジー、ヘティ、ヴァイオレット、ジェニー、ジョイス、アンジェリン、キャサリン、奴を押さえろ」」
エヴァンスが上空に達した後、天使の召喚術が発動。
七人の天使がペンタグラムから出現し、入れ替わりにエヴァンスの姿はゲート魔法へと消えた。
召喚者が去った後、天使たちは各々に武器を抱えて飛び、敵の姿を探る。
(※天使たちは全部で七人、決定リール可です。スペックは避難所にて)
>12
何度目かの砂埃が晴れてきた。それでも鳴り響く地響く…。そんな中、誓音はまだ起き上がってなかった。
顔の左半分は罅が酷くなっており罅からは金の少女の眼が覗かせてる。その目は心なしか死人のようだ。冴波の声が響く。
>「この一撃は致命的だな。私はもう戦えないだろう。だが、まだ鬼札(ジョーカー)は伏せられている。
> それを今から見せよう。これで最後だ、生き残ったら誉めてやろう!」
「…っぁ…な…んだ…まだ…っ…生きてたんですか…。」
右手で真っ二つに裂けた右腕を抑えながらゆっくりと…手をつきながら起き上がる。
誓音は生きていた。頭がまだグラグラするが…。
暫くじっと地面を見つめると真っ直ぐに冴波の方を見た。
見てみれば冴波は巨大な悲鳴の十字架に貫かれ酷い有様になっていた。いつもならそんな女を見て冷笑してるところだろう。
しかし誓音は無表情だった。悲鳴の十字架を見て分かるこの女の罪の重さに軽く恐怖を覚え冷や汗が流れる。
すると突如冴波の体に波が走ったように見えた。
><未生天:最終定理・神罰・忘却という粛清>
>『さぁ箱舟を築こう、友よ 汝は選ばれたり 番いの獣を呼び込むがよい。
> 私はそこに行くことは叶わない 私は地獄 私はゲヘナ 私はアビス』
一瞬地響きが大きくなったように思える。
ばっと上を見る。第六感が鋭く反応する。誓音は冴波に問う。
「お前…一体何を…!」
>『閉ざされたる絶望の扉を開こう
> 目覚めし汝が名 それは 【 】』
すると突如冴波の体からなにやら印が流れ出す。
>それは、この部屋全体を使って一つの陣を作る。
>「生き延びられたら・・・癒しの力でもくれてやる。」
>「<『最終構成式・ノア』>」
「な…!」
何か言おうと口を開いたが砂浜に巨大な影が落ちた。ばっと前を見るあったのは水の巨大な壁…赤い水の大津波だ。
「っく…!」
迫り狂う巨大な紅い壁。誓音は裂けた腕を波の壁に向けた。
しかし突如左顔の罅から血が吹き出る。
「…っな…」
ぐらりと揺れ誓音は膝まつく。戦闘のダメージがここにきて一片に来たのだ。
「ゲホッ!ガハッ!ハッ!」
(っ…こんなところで…!)
ぐんぐんと近づいていく紅い波。誓音は一瞬死を覚悟した。しかし…その時だ。
ガンッ!という巨大な音と共に一瞬目の前で紅い波が黒くなり止まる。
何が起きたのかわからず下を向いてた顔を上げた。そこにいたのは…
「っ!花太郎!?」
そこにいたのは誓音が使っていた黒い刀を加えた馬の花太郎だった。
波に若干押されつつ必死に額を波にぶつけ足止めしている花太郎。その加えた黒い刀の銀の刃は黒い光を纏っている。
(花太郎…)
一瞬表情が緩む。するとキッと表情が変わり両手を再度波に向けた。罅からツーっと血が流れる。黒からまた赤へと変わっていく波。
「吹き飛べ…」
――大協奏曲第13番!
不死鳥狂歌!
腕から球体を出したかと思うと巨大な鳥二匹と化して波にぶつかっていく!すると凄い爆発音と共に紅い波が吹き飛ばされた。
水しぶきはどんどん細かくなっていくと存在自体をなくしていきやがて霧になっていく。紅い空を遙か遠くへ飛んでいく二匹の鳥。
紅い濃くなった霧の中、誓音は静かに腕を降ろした。目の前にはまだ光を若干帯びている刀を加えた力尽きた花太郎が倒れていた。
「花太郎…。」
優しくほを撫でると黒い刀をすっと取った。黒かった持ち手が真っ白にかわっている。
ふと思い出す花太郎と出会った日。
花太郎は元々誓音が産まれた魔族の使用人を蹴り殺した罪の罰として家の庭にあった地獄と現世をつなぐひび割れに挟まられた馬だった。
それを誓音とあの人の力で助け出し一緒に村へ逃げ出したのだ。ふと再度思い出すあの人のあの時の笑顔…。刀を握る力が強くなる。
「…姐さん…。」
静かに呟くと誓音は花太郎を抱きかかえ顔を押しつけた…押しつけた顔に死体の冷たさがじわじわと伝わっていった。
>15>20-21
冴波が意識を失ったことによってか、部屋はその仮初の姿を脱ぎ捨てた。
現れたのは、処刑場。中央に聳え立つ石造りの柱を伝い、水が流れ落ちる。
その水は地面に彫られた溝を伝っていずこへともなく流れてゆく。
そんな部屋だった。
・・・そこに、瀕死の冴波を救う為に放たれた符。
それが冴波の元へたどり着く瞬間!
倒れ伏した冴波から白い影が飛び出した。
金属が擦れあうような音の後、符は燃え尽きてしまった。
いや、塵にされた。
「ん・・・まぁ助けは無粋、かもねぇ?」
現れたのは純白のケープを纏った男。
肩にまでかかろうかという銀髪に、どことなく冴波とも似通ったような顔立ちをしている。
これまでに現れた人物と違うのは、そこに間違いなく冴波の躯が存在すること。
そして、その姿が陽炎のようにぼやけていることぐらいだろうか・・・。
>「…姐さん…。」
悲しむ誓音のことも知らぬ気に近づいてくる。
ふらふらと歩く死体のような動きだが、それはビデオの早送りのような速度で近づいてきた。
「『妹』がお世話になりました。と、言えばいいのかな?
どうも、『扉』が開かれたので不肖の兄が出てまいりました。
さて、『妹』との賭けに勝ったわけだし約束を果たそうか?」
ふらふら
ふらふら
ふらふら〜
と、倒れた花太郎の傍にしゃがみこむと右手手をあてがう。
「げんりしき、『そんざいいし』 こーかしてい、さいせい。」
どこが幼い発音と共に、光が花太郎を包み込む。
それほどの間も置かずに、花太郎の心臓が動き出す・・・やがて血色も戻りだした。
「さて、次は君かな?随分痛そうだね。」
やはり、ふらふらと近づいてくると誓音の右腕に向けて手を向ける。
「げんりしき、『そんざいいし』 こーかしてい、さいせい・ふくげん」
手から放たれる微細な魔法の構成式が、誓音の『設計図』を読み取ってその姿へと復元させていく。
尤も、自分が認識している誓音の姿である以上殻が壊される前まででしかないが。
「放っておけば、その内その顔も元に戻ると思うよ。『悲鳴』に関してはよく分からなかったから戻せないけど、さ。」
「あーあー、妹よ。死んでしまうとは情けない。って死んでないか。
あー・・・こっちも痛そうだね。げんりしき、『そんざいいし』 こーかしてい/かんしょー・まっさつ。」
やはり翳した左手の力か、悲鳴の十字架を先端から昇華、『抹殺』してゆく。
「ほっとけば直るかなぁ・・・。はぁ、少し疲れたかも。」
冴波を背後に回して、どっかりと座り込む。
「早く行った方がいいと思うよ。『おともだち』が危ないかもしれないよ?
それとも、ここで『妹』を<ころして>いく?後で直しちゃうけど、ね?」
>18-19
>「「地獄? 地獄とな?(中略)そして貴様は今日ここで果てる。駒は駒のまま、己を阻む卑俗で矮小な殻すら破れぬままに」」
地獄という言葉を聞いた途端にエヴァンスの口調は変わった。
「神の器やらネメシスやら…何を言ってるのか知らんが、俺はこんな場所で死ぬつもりは無い。」
エヴァンスの背に構えた翼は急激に肥大化し、再び空をも覆い隠すような巨大な竜巻が巻き起こった。
>「「何も、自身を哀れむ事は無い。(中略)そして救ってやる、地獄で待つ貴様もな」」
「貴様の定規で他人を計るな…意味の分からない言葉をグダグダと、いい加減にしろ!」
エヴァンス発する言葉の意味が掴めないカイザーは苛立ちを隠しきれないでいた。
そして一つのミスをしてしまう。
突きに構えた剣を頭の上に振り被り、大振りの体制になってしまったのだ。
>やがてカイザーの剣がエヴァンスに襲い掛かる瞬間、回転は紅の光の渦を造り、エヴァンスの身体を上空へ撃ち出した。
>擦れ違いざま、身体の回転によって聖剣を紙一重でかわし、続く刃の翼と紅い渦がカイザーを襲った。
銃弾をも上回る速さの筈のカイザーの攻撃は外れてしまった。そう、相手の言葉で冷静さを失ってしまっていたのだ。
だが、それを悔やんでいる暇は無かった、赤い渦と翼がカイザーの身体を切り刻んでいるのだ。
「…ハアアアアアァッ!!」
聖闘気の開放で竜巻と翼を弾き飛ばしたのも束の間、続いて上空から炸裂音が鳴り響く。
空から銃弾が降り注いできたのだ。
「甘く見るな!!」
カイザーは光の闘気を纏った剣を一振りする。すると、光の闘気に包まれた銃弾は音も無く消え去った。
…だが、下方の注意を怠っていたカイザーは急激な速さのまま、城下町に墜落してしまった。
>「「カイザー、悪いが一度お別れだ。だが案ずるな、直に機が訪れる。決着は近い。(中略)奴を押さえろ」」
上空のエヴァンスの姿が消え去り、次いで7人の天使の少女達がカイザーに向けて襲い掛かってきた。
一人の天使が遥か下方のカイザーへ向けて光線銃の引き金を引いた。
銃口から光の弾丸が発射され、それはカイザーの心臓を狙っていた。
「…ちっ、あれは普通の銃弾じゃなさそうだ…!!」
カイザーはその銃を避ける為に横へ飛んだ。
だが、落下のダメージのせいか思ったように足に力が入らず、弾丸が右肩をかすめた。
そして肩をかすめた弾丸は民家の壁を木っ端微塵に吹き飛ばした。
カイザーは肩を抑え、そのまま走り出した。だが、今度は7人の天使は同時に銃の引き金を引こうとしていた。
―――その時であった…突如、空が黄金に輝いたのだ。
輝きは一つの数メートルはあろう巨大な玉となり、
凄まじい衝撃を空中に撒き散らしつつ、カイザーと天使の少女達を引き離す様に空から降り注いだ。
そして、カイザーの眼前に着地する。
天使達はその波動で遠方へ吹き飛ばされた。だが、天使達がこの場所へ戻ってくるのは時間の問題だろう。
カイザーの目の前の玉の輝きは徐々に薄れてゆく。
薄れ行く光に映るシルエット、その姿だけでカイザーには輝きの中に存在する者の正体が分かった。
4本の足を大地に下ろし、背には巨大な翼を、額には鋭角を持つ者。
…やがて、輝きは完全に無くなり、正体は明らかになる。
そう、それはカイザーの愛馬、ペガサスであった。
「カイザーさん、ここは私に任せて下さい。」
ペガサスは背を向けたまま、カイザーにそう告げる。
「ペガサス、どういう事だ?」
状況を把握できていないカイザーは、ペガサスの行動の真意を問う。
ペガサスは後ろへ振り向き、続けて言葉を発した。
「女性、それも子供と戦うのに気が引けているのでしょう?例え、それが敵であろうとも。
ですが、今はそんな感情は単なる時間の無駄でしかありません。
貴方は貴方のやるべき事を優先してください、私でもそのサポートぐらいは出来ます。」
それを言い終えると、ペガサスは天使達が近づいて来る事を察知し、西の方角へ向いた。
「…分かった、俺は必ずサタンを倒す。
だから、死ぬな。お前も俺の大切な仲間だからな。
ありがとな―――ここはお前に任せた!俺は天聖騎士として、この道を突き進む!!」
そう言い残し、カイザーは再び城門へ向けて走り出した。
走り去るカイザーの背後で、激しい発光と共に蹄の駆け抜ける乾いた音が周囲に響き渡った。
>9
風が空を切り轟音を立てながらも刃の歯車は回る。
回転しながらも地上の相手を見やった、すると真紅色の気が見えるではないか。
闘気か?いや妖気か……どれも違う、二つの背反する属性が合わさったような力。
よくよく見るとFALCONが真紅のオーラを纏い身構えていた。
やがて翼もそれに同調するが如く紅に染まり、
まだ触れてもいないのに紅きオーラが我が紫の闘気と混じり、周囲を戦場へと変えていく。
恐らくは幾戦もの戦場で戦い培った業なのであろう、その業を持ってワシにぶつけて来るのか。
――――――面白い、実に面白い!!
>「これぞっ!!鶴仙流奥義ぃ!!鳳凰掌だぁぁー!!!!」
そして相手は叫びながら渾身の突きを放った。
その姿例えるならば鳳凰の如し。
炎の鳥と怨念の車輪の一騎打ち。
信じる者、大切な者を守る為に恩義を果たすための力
……対するは何も考えず無骨なまでに強さのみを追求した力。
そしてその二つの力は激しくぶつかった。体に感じる激しい衝撃
ガキィンと言う衝撃音と共に突風が起こり吹き荒れ周囲のものを吹き飛ばす。
しかし勝負は全てを捨て強さを追求した我が力に軍配は上がった。
ふと相手からの力が消え、勢いのまま地に衝突する車輪
相手は真っ二つになる事はなく弾き飛ばされた様だ
しかし手に感じた確かな手応えと、顔に飛んできた血飛沫がそれを教えてくれた。
「ヒャッハ!!力比べハワシの勝ちヤなFALCON!!!」
車輪の如し回転は止まる事を知らず、地に衝突するも
そのまま回転しながら凄まじい速度でコロシアムを駆け巡った。
車輪と化した武者は砂塵を巻き上げ、弾き飛ばされた相手に向かって突き進むが
相手の反応速度はこちらの予測をはるかに上回っていたのだ。
車輪は何度も何度も相手の横を通過するばかり
しかもこちらとて無傷では無い、
紅き拳の凄まじい衝撃により左腕に更に大きなヒビが入ってしまったのだ。
そしてそれは音を立てて崩れ始めている……恐らくはあと一撃はいれば完全に砕けてしまうだろう。
なるべく早く決着を付けねば……奴が……奴が。
静かな焦り、……埒があかん
「ウォォォォオ!!!こうナら、もう一丁行くデェ!!」
車輪を防壁に衝突させ、そのままの勢いで防壁を上り天高く舞い上がり。
回転する凶器が再びFALCON目掛け堕ちて行く。
しかし鎧武者は気が付かない
その時開いた右胸から何かがポロッと空中へ飛び出た事。
それは大切な大切な、サイコロの片方であった事、
車輪の眼の前で宙で踊る白いサイコロ。……ゆっくりと刃へ引き寄せられていく。
そして鎧武者は気付かない、
大切なサイコロを叩き切った事……生きていたザジンである証明を自ら切り捨てた事に。
真っ二つになり弾き飛ばされたサイコロの破片はFALCONへ軽く当った
セシリアがアステラに向け放った連撃は、そのことごとくがかわされた。
やはり数を出しただけの攻撃で押し切れる相手ではないようだ。
アステラは最後の斬撃を体を反らせて服を犠牲にしただけでやり過ごし、
体を戻す反動でそのまま踏み込んできた。セシリアも剣を振り上げたまま踏み込み、左肩でアステラの背を突き飛ばした。
下手に下がって相手の攻撃を受け止めるよりは、前に出て行動そのものを潰すほうが安全なことも多いのだ。
そのまま追撃をかけようとするセシリアだが、アステラが手に留めている気を感じ、一度下がる。
うかつに踏み込んであれをもらえば、たとえ致命に程遠い程度の威力であったとしても、
相手に糸口を与えてしまうことになる。
翻って、セシリアの方はどう糸口をつけるか。
手数を増やしただけでは先刻と同じように、ほんの少しでも近いところから順番に潰されるだけだろう。
手数を減らして完全に同期が取れた攻撃を仕掛けたところで、今度は攻撃自体の密度が低くなる。
一方大技を出せば城への被害が出る。が、そもそも物理的損害を抑えて勝つなどと、甘い事を言える相手だったか。
――わずかな時間に考えをめぐらせたセシリアが出した結論は、子供だましといえるほど単純なものだった。
鎧に宿る精霊「揺らぐ者」に命じ、水を呼び出す。これ自体はただの水だ。
水は蛇のような形を成しアステラの周りを緩やかに飛び回る。
それが4体ほどになったところで、急にアステラに向かって襲い掛かった。
しかしそこからまた急速に方向を転じ、4匹の水蛇はアステラの頭上で弾ける。
即席の雨粒が、アステラに落ちかかった。
>24
紫の車輪と化したザジンは、鳳凰掌と激突したにも関わらず、回転を保ったまま、試合場を駆け回っている。
「鳳凰掌でも止めることすらできねえのかよ……」
鳳凰掌は今の自分ができる最高の技の一つ。
第三魔法陣を破壊した際に、偶然にも見付けた未完のパワーアップ法を用いた技。
「やっぱ……付け焼き刃じゃ無理だったのか……」
これが自分の限界なのか?
FALCONの脳裏に浮かぶ、負の思考。
やはり、三年前の自分には届かないのか?
いや……自分は常に限界を超えてきた。
それは魔族になってからもだ。
ならば、今回も自分の限界を超えるまで。
ザジンが回転しながら壁にぶつかり、勢いを使って壁に登り、こちらに襲い来る。
丁度良い。
覚悟はできた。
自身の限界をさらに超える覚悟が……
「俺は……まだまだ強くなる!!!」
決意を言葉にし、紅く身に溢れる気を全て右拳に込める。
傷付いた拳を紅きオーラが包み、傷を癒す。
上級魔族特有の回復能力に、自身の紅きオーラの力により復活した拳。
さらに、限界を超える意思を込めて、溜めを作る。
「はあぁぁぁ!!!!」
拳に纏ったオーラが、自身の限界を超えて、闘気と魔力を完全に融合させて変わる。
黄金の色に……
極限を超えて高められた突き。
紅きオーラは失われ、翼も黒色に戻り、纏ったオーラは右拳に輝く黄金のみ。
その拳に全てを賭ける。
再度激突する刀と拳。
閃光と巻き起こる暴風、激しい気のぶつかり合いにより生み出される気の雷。
顔に何かが当たるが、気にしてたら、即座に死に到る。
今回は、先程のように簡単に弾き飛ばされたのではなく、拮抗しているのだ。
黄金の拳は刀によって、どんどんと傷が付けられていく。
治り掛けていた傷も拡がり、このままいけば右拳は使い物にならなくなるだろう。
それでも構わない。
この敵ながらに尊敬できる武人に勝てば、何かが見える。
それさえ見えれば、命でも喜んで投げ捨てよう。
「貫けぇ!!はぁああ!!!」
拮抗している状態でさらに、力を振り絞る。
もう、右拳はこの戦闘では使い物にならないだろう。
レナスが魚の無駄な疲労感に苛まれていると、一人の女が目の前にいる。
なんと言うか・・・一目で食えない女だと分かる。怪しすぎる。絶対何か企んでる。間違いない。
>「プックックッく・・・アッハッハッハ。いやいや楽しんでもらえたかえ?」
唐突に女が笑い出した。
「正直、効いたよ。ひょっとするとあのボーヤよりも手ごわそうだよ。」
ひとしきり話し終わると(不気味な程こっちの情報を知ってた)、その女は地に手を当て・・・
>「さあ、いでませ。あんたに相応しい相手はここにいますえ?」
次の瞬間、地面が揺れ始め・・・現れたのは、巨大な蛇。
――見覚えがあった。
世界蛇ヨルムンガンド。
忘れようにも、こんな大きな蛇、忘れようと思ってもインパクトが強すぎて忘れられないのだが・・・・
>「プルプルッ。僕、悪い蛇じゃないよ」
「まぁ・・・ね。」
確かに悪いようには見えない。
多少、頭は回らなそうだが、曲がり曲がりにも世界蛇の名を持つ者である。早々、早まった事をするとも思えないのだが。
「ヨルムンガンド・・・悪いことは言わないから、パパの所へお帰り?」
むわりとする毒気に胸を悪くしながら、説得を続けた。
ふと蛇の背後に、何かが立っているのが見えた。
女・・・しかも、この蛇をけしかけた女だ。
さらに不気味な事に、直立不動の姿勢のまま、こちらに向かってくるではないか。(ただでさえ不気味なのに。)
>「おやま、すっかりと打ち解けて、結構なことだねい。
「どこが打ち解けてるように見えるのさ・・・・」
ぼそりと呟いたレナスの目に、見慣れた剣が映った。
>「さて、ここでちょいと割って入ってすまないが・・・これなぁんだ?」
「あんた・・・それ・・・。ヒチシとかいう剣じゃないの?あの厳つい兄ちゃんが持ってた・・・」
レナスの脳裏に、最悪の状況が浮かんだ。
もしかしたら、また人を殺めなくてはいけなくなるかもしれない。
そう、思った。
レナスはヨルムンガンドの鼻先に”ポン”と触れ、顔を近づけてささやいた。
(ヨルムンガンド、アンタも神族の一員なら私に手を貸して。)
(世界蛇の名を冠する貴殿なら、手を貸してくれると信じてるから・・・)
そう伝えると、改めてシズネの方へ向き直る。
「我が名はレナス!我が盟主の義により参上した!
この命、欲しければ奪うが良かろう!しかし、我が騎士団の義、決して消えぬ事をを肝に命じよ!」
敢えて、剣は抜かなかった。理由は分からないが、”抜きたくない”そう思ったからだ。
レナスは囁いた。
神族の一員なら手を貸して欲しいと。
だが、何をして良いのか全く分からない。
とりあえずはことの成り行きを見守ろう。
二人とも悪い人には見えないし。
戦いになったら、僕が止めればいいしね。
フェンリル兄ちゃんより強い力を使ってね。
>26
>「俺は……まだまだ強くなる!!!」
迫り来る刃、先程の恐怖があるにもかかわらず
FALCONは先と変わらぬ構えを取った。
そうだ諦めるな、オマエの本当の力で弾き返してみろ!!
FALCONは力を溜め凄まじい気を拳に集中させていた。
まさしく己を信じる力……それは黄金となりて彼の右手を包み込む。
拳が突き出されたと同時に刃がこの拳に喰らい付く!
走る閃光に体に感じる重い衝撃。周囲の状況を飲み込むことすら出来ない。
再び衝突する拳と刃。しかし相手の拳には今までに無い決意が篭っていた
それは刀と拳を通して心に響き染み渡る、コイツが何を考えていたか。
どのような決意でここに立っているのかをも……
それに比例して全身に掛かる先程とは比べ物にならない位の圧力。
体全体に亀裂が入っていく……それでも退かない戦士ザジンの誇りに掛けて。
こちらとて負ける訳には行かないのだ、この戦に勝てば。
永久にこの体はワシに戻ってくる、これは最後のチャンスなのである。
恐れも何も無い、純粋な力のみがこの場の審判。どちらの意志が強いか、どちらが誠の強者か。
やがて左腕が砕け散った。
そして凄まじい轟音を立て勝負は決する。
右手が弾き飛ばされ、その隙に潜り込んだ相手の拳。
相手の拳は我が身に深く食い込み上半身を覆う鎧と肋骨全てを吹き飛ばした。
ヒビだらけであった左では砕け散り、更には全身に渡り無数の大きな亀裂が走る。
相手に貫かれたまま方膝が地面に付く。
「ハァハァ……ゼェゼェ………ヨゥやったナ。エライで……FALCON。」
我が身を貫いた拳に優しく手を掛けて出た労いの言葉。紫色の闘気が消える。
こうなってしまえば静かな物……アア、力が入らん。
「…………FALCON……ワシャァ幸せヤ。オマエの様な武人に出会い……
全力で殺し合い、そしてワシを超える相手と出会えた。」
満足そうな言葉、心なしか動くはずのない表情が笑って見える。
「ココで再び地獄へ落ちるなラ、ワシも本望ヤ……オオキニ。
オオキニ………これでワシの中の奴も死んで……」
ドクン。
その時、頭の中で何かが疼いた。
「ガァぁ!?」
怨霊たちが慌しくザジンに声を掛ける。
『ザジン!!大変だよ奴が……』<どうやら俺達が眠ることは許さないらしいな>
【クゥっ……もう抑える事が出来ない!ザジン!貴様サイコロを壊したな!?】
バカな……奴が……ココに限ってだと?
「アカン!…逃げイ………奴が…モウ一人の忌むべきワシが……顔を出ソうとしとル。」
苦しそうな呻き声を上げながらFALCONに伝えた。
頭を押さえながら必死に叫ぶ。
「ヤメロ……FALCONは!オマエにャぁ……やらン!!!。」
相手の腕を抜きボロボロになった体で地にのたうち回る。
頭が割れそうに痛い、奴は再び我が体に宿ろうとしてるのか!?
「止めろォォォ!!!『辻斬り』ィィィィィィ!!!」
忌々しき奴の通り名を叫んだ。
刹那漆黒の炎が体中から吹き上がり全身を覆った。
胸元の周りには肋骨を表すかのように炎が渦巻き
そして失われた左肩から黒き炎で出来た左腕が生える。
それはゆっくりと立ち上がった。
――――――――それは既に骨の武者ではない。例えるならば炎に包まれた化物。
聞えてくるのはヒューっヒューッと掠れた様な呼吸。
そして空を仰いぐ
「ギリィィィ!?ガラガァァァァ!!??」
先程までの武者とは思えない獣染みた咆哮。それはコロシアムを揺らすような幻想を見せた。
宙に浮かんでいたコロシアムの英雄達の魂達がゆっくりと引き寄せられる。
そしてそれを黒き魔人は口を開け思い切り吸い込み魂を喰らった。
辺りを支配するのは妖気でも闘気でもなく身を裂くほどの『殺意』と『狂気』。
英雄達の魂の明りは消え去り暗闇が空間を支配した。
「ラギィ?リギリィ????」
その黒い化け物は白い鞘の短刀を抜く。
それは引き抜かれた瞬間、炎に包まれた禍々しい紅い長刀に変貌していた。
殺意の妖刀、名は『鬼葬』
そして右手に栄える狂気の妖刀名は『陣刃交』。
「ウグラァゥゥ!!ランガァァ!!!」
化物は、その2本の狂器を振り上げると思い切り振り下ろす。
巨大な炎の斬激が飛び崩壊音を立て観客席を両断し燃え上がらせた!
英雄達の魂の明りは消え代わりに会場を照らし出したのは
紫色の炎に燃え盛る観客席。
冷たい空気がFALCONへ空気が伝える。人を殺めるのは人でも武具でもない。
それは殺意そのものであると、、、
しかし化物はこちらに向かってこない……まるで品定めでもするかのような視線でFALCONを見やる
その時紫色の人魂が4個、化物の中から飛び出してきた。
「おう!気ぃしっかり持ちや!FALCON!」
聞えてきたのは先程の鎧武者の声と、男と少年と女の声。
【そして私達はザジンに斬られた者の魂。】
『フフッ……アナタは僕等をザジンから解放してくれたんだせめて礼をしなくちゃね』
<しかし残念だが抜け出せたのは、俺達3名とそこの元骨武者一人。>
『不本意だけど僕等はサポートに回るよ。ザジン後は頼んだよ』
そう言うと三人の声は消え癒しの効果を持つ暖かい光がFALCONを包む。
「さぁ……はよ逃げや、あの化物の原動力はこの世に存在する全ての『殺意』
感情も何も無い、ただ殺すだけの機械染みた化物なんや。
近場は戦場……つまり奴の力の源は腐るほど沸いてで来るちゅー事。
それにオマエは一人、奴は今まで殺してきた幾万の魂を力と変えて酷使させよる。
結果は歴然ヤ……幸いな事に入り口は開いたままや。」
武者の魂はFALCONを労わる様に声を掛けた。幸いな事に化物は未だ襲い掛かってくる様子はない
>29>30
紫色の車輪と黄金の拳。
勝利したのは、こちらの限界を超えた黄金の拳。
相手の胴体を貫き、相手の全身の骨にヒビを入れて砕く。
代償として、右拳は使い物にならなくなったが……
この勝利と引き替えなのならば安いものだ。
>「ハァハァ……ゼェゼェ………ヨゥやったナ。エライで……FALCON。」
>「…………FALCON……ワシャァ幸せヤ。オマエの様な武人に出会い……
> 全力で殺し合い、そしてワシを超える相手と出会えた。」
方膝を着き、今にも消えかかりそうな闘気で言葉を紡ぐザジン。
その満足気な声は、お互いが悔いのない死合いをした証だ。
>「ココで再び地獄へ落ちるなラ、ワシも本望ヤ……オオキニ。
> オオキニ………これでワシの中の奴も死んで……」
>「ガァぁ!?」
>「アカン!…逃げイ………奴が…モウ一人の忌むべきワシが……顔を出ソうとしとル。」
>「ヤメロ……FALCONは!オマエにャぁ……やらン!!!。」
>「止めろォォォ!!!『辻斬り』ィィィィィィ!!!」
ザジンの様子が急に変わった。
まるで、内側からの何かに自己を侵食され、その何かに恐怖を抱いているような感じに。
その推測は正しかった。
ザジンの内なる自分が現れようとしているのだ。
ザジンは体に刺さった拳を引き抜いて、地面にのた打ち回って苦しむ。
もう、FALCONにはどうすることもできない。
無償に腹が立った。
自身と命を掛けて戦った、尊敬する宿敵が苦しんでいるのに、どうすることもできない自身の無力。
心底腹が立った。
彼が辻斬りの名を叫んだ時、ザジンの肉体に変化が起こる。
ザジンの肉体から漆黒の炎が噴出し、自身の欠損した体を炎でできたパーツで補う。
現れたのは、もはやザジンではなく、全く別のモノ。
言い換えるならば、炎の化け物。
バックジャンプで距離を取り、残り少ない気を集め、自身の精神を集中させて、戦闘民族の闘気と魔王の魔力を融合させる。
闘気と魔力が巧く噛み合わなかったが、先程から噛み合うようになっている。
ザジンのおかげだ……
「絶対に助けてやるぞ!!!」
>「ギリィィィ!?ガラガァァァァ!!??」
ザジンだった化け物、辻斬りは先程までの武者とは全く違う雄叫びを上げる。
辻斬りは口を開けて、死した英雄の魂達を食らっていく。
そして、食った直後に放たれた力。
闘気でも妖気でもない、言うなれば殺意。
「くそったれ……化け物めが……」
感じる威圧感は、かのガストラ帝をも上回っているかも知れない。
闘気と魔力を融合させているが、まだ完璧には歯車が合わさらない。
完璧に歯車が合わされば、何かが見えると言うのに……
あの化け物に対抗するには、まだ見ぬ何かに期待するしかない。
英雄達の魂が消え、暗くなった闘技場内。
爆音と共に火が付いた。
何時の間にか辻斬りが持っている二つの刀。
あの刀で、観客席に火を付けたのだ。
それにしても、辻斬りは一向にこちらを襲いに来ない。
視線をこちらに向けて、ただ暴れているだけ。
不気味だが、今はそれがありがたい。
だが、しばらくこちらを見ていた辻斬りは、口を開いて何かを吐き出す。
>「おう!気ぃしっかり持ちや!FALCON!」
「ザジン?」
吐き出されたのはザジンの魂。
だが、他にもまだ吐き出されていたような……
>【そして私達はザジンに斬られた者の魂。】
>『フフッ……アナタは僕等をザジンから解放してくれたんだせめて礼をしなくちゃね』
><しかし残念だが抜け出せたのは、俺達3名とそこの元骨武者一人。>
>『不本意だけど僕等はサポートに回るよ。ザジン後は頼んだよ』
他に吐き出されたのも、魂だった。
ザジンに斬られた者達の魂は、FALCONに全てを託し、暖かい光で体を包んで癒してくれる。
「すまない……この借りはあの化け物を倒すことで返すから!!」
負けられない理由がまた一つ増えてしまった。
>「さぁ……はよ逃げや、あの化物の原動力はこの世に存在する全ての『殺意』
> 感情も何も無い、ただ殺すだけの機械染みた化物なんや。
> 近場は戦場……つまり奴の力の源は腐るほど沸いてで来るちゅー事。
> それにオマエは一人、奴は今まで殺してきた幾万の魂を力と変えて酷使させよる。
> 結果は歴然ヤ……幸いな事に入り口は開いたままや。」
スケールが違う。
相手はこの世全ての殺意。
それに比べて、自分はたった一人の無力な男。
だからこそ闘志が燃え上がる。
「ザジン、俺は逃げない。例え相手が何であれ、俺はそれをさらに超えて見せる。
それが戦闘民族の血を引いた武道家だ。
それに、ちょっと試したいことがあるんでな」
丁度、闘気と魔力が完全に融合した。
もう、闘気と魔力に分かれることはないだろう。
人間の闘気と魔族の魔力が完全に融合したことにより、FALCONは戻った。
本来の、生まれたばかりの時の自分に。
容姿は従来のままの銀髪に紅眼。
気の質は少しだけ変わり、気の絶対量も少しだけ上がる。
「今の俺なら……かつての俺を超えることができそうな気がする……」
癒しの力によって回復した気を引き出して、体を漆黒のオーラで包み込む。
「はぁっ!!!」
気合いと共に、漆黒のオーラが黄金のオーラに変化する。
そして…FALCONの体も変わった。
銀髪から黄金の頭髪に変わり、翼の色も漆黒から黄金に変わる。
その姿は絵本に出てくる天使のようで、身から溢れ出る雰囲気は地獄の悪魔のように…
「ふははははは!!!戻ったぞ!!あの時の俺に匹敵する力が!!!ははははは!!!」
狂ったような笑い声が闘技場に響き、今までの力を超えた黄金の気が烈風を生む。
三年前の自分に匹敵する力がFALCONに戻ってきた。
しかし、まだあの辻斬りには及ばないだろう。
「ザジン!!この力のお礼だ!!あいつを何とかしてあげよう!!」
爽やかな笑顔で、ザジンの魂に語り掛ける。
「それで、何かいい小瓶なんかない?」
小瓶など何に使うか分からないが、きっとFALCONには策があるはずだ。
>23>27>28
レナスがヨルムンガンドの鼻先でなにやらやると、巨大な蛇は動きを止めてしまう。
だが、そのことよりシズネには気にかかる事があった。
濃密な魔素が充満するオーガス城周辺にもかかわらず・・・、いや、だからこそはっき
りとわかる気配。
それは暗闇だからこそはっきりと輝いて見える月のように。
そう、カイザーの接近を感じていたのだ。
動きを止めたヨルムンガンドの耳元まで行き、そっと囁いてやる。
「どうしたってんだい。この一大事にボケーっとして。
ほら、感じるだろう?この聖なる気を。お前さんの嫁を奪いに来た奴の気さね。
男としてとるべき態度はわかってるね。一飲みにしちまうんだよ!」
その言葉と共に巨大な蛇は大きくうねり動き出す。
カイザーを迎え撃つ為に。
頭は既に城外に出ているが、その巨大さ故に身体は未だにこの場でうねり続けている。
その姿を見ながらシズネはキセルを取り出し一服。
レナスの口上を他人事にように聞き流すと、そっと視線を流し目で送り微笑む。
「立派な口上だねい。
騎士団の義とやらが消えないのは三日くらいは覚えておいいやるよ。
張り合いのないことだけど、奪って良いと言ってくれるのならのなら貰っておくとするよ。」
にたりと笑いレナスに向かって煙をフーっと吹きかける。
途端、レナスの立つ石畳の目地から大量の砂が噴出し囲っていく。
まるで噴水のようにレナスの周囲に吹き出て壁を形成する。
囲んだ砂の内側の砂が変化し、巫女の表情のシズネが現れる。
『レナス様、このような扱いをお許しください。
ワタクシはシズネ・ラ・ファウスティナ。魔王軍は仮の姿。実はタカマガハラの巫女です。
マックスウエル様との盟約によりあなた様方が消耗する事無くサタンの元へお連れするた為
に芝居を打っております。
七支刀がその証にございます。力を抜き術に身をお任せください。」
早口ではあるが丁重な言葉で事情ヲは語り、その顔は崩れもとの砂の壁となる。
そして砂の壁は徐々に狭まりレナスを砂柱に埋めようとしていた。
その砂の壁の向こう側ではシズネが瞳に怪しい光を称えながらキセルを吹かしていた。
徐々に出来つつある砂柱を満足気に眺めながら・・・。
背中を見せたところで突き飛ばされ、距離を取られる。
中途半端に下がるよりも前に出る、そんな所もよく似ていた・・・気に入らない。
そのまま畳み掛けて来るかと思いきや来ない。魔弾に気付いたようだ。
いまだ肉を焼き続ける炎の残りカスを爪を立てて焼けた肉ごと力任せに毟り取る。
流れた血は闇色に染まり、その血も傷が塞がり見えなくなった。
強敵との戦いで重要なのは攻めてペースを掴む事だ。
ちょうど最大チャージも終わった、これを皮切りにラッシュを・・・!
しかし相手の方が一瞬動くのが早かった。水の精霊による攻撃。
この水滴を受ければ、次は氷か雷撃か。どちらにせよ不利な状態になるのは
明白だった。右手の魔弾を足元に叩きつけて大気と大地の弾幕で水滴を弾き、
同時にセシリアの斜め上6mほどの空中に『跳び』急降下蹴りを放った。
そして今度は両手でチャージを始める・・・少しずつ、魔力が電撃へと変換されていく。
城門が遠方に見えてきた。
後方では同盟軍の仲間達やペガサスが己の命を賭けて戦っている。
その想いや誓いを叶える為にも、傷ついた身体を気に掛けず、走り続けるのだ。
>28>34
「…なんだアレ?」
城門まであと数十メートルという場所でカイザーは足を止めた。
…とてつもなく巨大な蛇が地面を這いずりながら城門からこちらへ向かってきているのだ。
そして、大蛇はカイザーの目の前で動きを止めた。
「…ッ!!」
カイザーは後方へ跳んだ。
大蛇は渦巻く炎をその口から吐き出し、眼前の草を一瞬にして灰に化し、土を焼き払った。
焼けた土の熱気が蒸気となって舞い上がる、それはまるで炎の熱さを物語っている様であった。
あと一瞬判断が遅かったらカイザーも同じ運命を辿っていたであろう。
「何か引っ掛かっていたが…思い出したぜ。
3年前のアイツと貴様の気が似ている…いや、ほぼ同じ物と言って良いだろう。
…だがな、フェンリルと同じ力では今の俺には勝てない!俺は3年前の聖騎士じゃないんだ!!」
だが、大蛇はブツブツと「嫁…わたさない…嫁…」と連呼しており、他人の声に耳を貸そうとはしていない。
相手の対応を待っている余裕は無い。
カイザーは空高く舞い上がり、両手で掴んだ剣を天に翳す。
剣は淡い光を放ち、勢い良く大蛇の胴体に突き刺さった。
大蛇の傷口から鮮血が噴き出し、地面に血溜まりを作り出した。
会z-あの頭の上に黒い影が覆いかぶさった瞬間、吹き飛ばされ巨木に叩き付けられた。
巨木はミシッ!ミシッ!という大きな音を立てて揺れ、カイザーが叩きつけられた部分は抉り取られるように欠けていた。
…大蛇はまるでダメージを受けていないのだ。
身体が巨大すぎて、あの程度の傷では文字の如く蚊に刺されたも同然なのだ。
「……くそっ…なんて馬鹿力だ…!!」
カイザーは巨木の下で片膝を地面に付けていた、予想外の威力の反撃に脳震盪を起こし、立ち上がる力を一時的に失ってしまったのだ。
視界も霞み、敵の姿を確認することも十分に出来ない。
「…来るなら…来い!!」
それでも右手に剣を構え、片膝を地面に付きつつも敵に立ち向かおうとする。
だが、木にぶつかる直前にカイザーは上方に とある物を発見し、口元に笑みを浮かべていた。
…時間が過ぎても大蛇は襲い掛かってくる気配が無かった。
やがて視界が元に戻り、脳震盪も回復した。
大蛇は明らかに怯えていた、それもカイザーでは無く、巨木の枝をじっと見つめていた。
「……やはり、サイズがでかくても蛇は蛇だな…どうだ?もう少し揺らせば落ちて来るぜ?
この木には5つもあるからな。俺もビックリだ。
俺は刺されると辛いが、まあ貴様は刺されても平気だろう…だから、揺らしてみるか?」
大蛇は大きな顔を大げさに横に振り続ける。
よほど木の上にあるものが怖いようだ。
「残念だな…パンに塗ると美味いのに。…じゃあ、さっさと消えろ。
それから、俺は人間だから貴様の嫁になんぞ興味は無い。だから安心しろ。
もう悪さはするなよ、今度は許してやらないぜ」
それを聞いて安心したのか、大蛇は地平の彼方へ去って行った。
カイザーは上を向き、木の枝に目をとめた。
「ありがとな、助かったぜ『ミツバチ』達」
蜂の巣に手を振り、そして再び城門へ向けて走り出した。
※蛇の弱点は意外にもハチミツ、それも純度の高いもの。
純度の高いハチミツを身に浴びると鱗が剥がれ、最悪だと骨まで溶けてしまうという蛇にはとても恐ろしいもの。
ちなみに、家庭の純度の低いハチミツでは効果は無いらしい。
(注意:うろ覚えだからハチミツの話は間違ってるかも)
>36の訂正
×会z-あの頭の上に黒い影が覆いかぶさった瞬間、吹き飛ばされ巨木に叩き付けられた。
↓
○カイザーの頭上に黒い影が覆いかぶさった瞬間、カイザーの身体が吹き飛ばされ巨木に叩き付けられた。
>22>27
紅い霧が籠もる中…部屋が仮の姿を脱ぎ去った。
脱ぎ去ったその姿は処刑場。ここで一体何人の人間が死んだのだろうか…。
しかしそんな事考える心の隙間など誓音にはなかった。
今誓音の胸にあるのは花太郎という一匹の馬の死と、自分が昔殺した姉の遺品の一つでもある刀が起こした奇跡だけであった。
「…姐さん…。」
呟き花太郎に蹲る。そんな中一人の男が近づいてきた。
>「『妹』がお世話になりました。と、言えばいいのかな? 」
>どうも、『扉』が開かれたので不肖の兄が出てまいりました。
>さて、『妹』との賭けに勝ったわけだし約束を果たそうか?」
いきなりの男の登場に思わず顔を上げる。
(この男…一体何処から…扉って…いやっ…そんな事より約束…?)
一瞬考えを巡らす。すると男が倒れた花太郎に右手をあてた。
>「げんりしき、『そんざいいし』 こーかしてい、さいせい。」
>どこが幼い発音と共に、光が花太郎を包み込む。
するとみるみるうちに花太郎の体が温かくなっていく。もしやと思い花太郎の胸に耳を当てる。
するとそこには生きている証の心臓音がした。信じられない出来事に思わず誓音は男を見る。
そしてそれと同時に冴波が言ってた事を癒しの力をくれてやると言ってた事を思い出す。
「…あんた一体…。」
>「さて、次は君かな?随分痛そうだね。」
誓音の問いかけに答えずその男はこんどは誓音の怪物の手を治し始めた。さっきと同じように幼さが残る声で…。
みるみるうちに回復していく怪物の手…。
>「放っておけば、その内その顔も元に戻ると思うよ。『悲鳴』に関してはよく分からなかったから戻せないけど、さ。」
そう言う男。誓音は冴波をじっとみつめる。改めて疑問に思うこの女の正体。すると今度はその男は冴波に近づいた。
>「あーあー、妹よ。死んでしまうとは情けない。って死んでないか。
> あー・・・こっちも痛そうだね。げんりしき、『そんざいいし』 こーかしてい/かんしょー・まっさつ。」
消滅していく十字架。 すると男は少しため息と愚痴を漏らすと冴波を背後に回して誓音の方を向いた。
>「早く行った方がいいと思うよ。『おともだち』が危ないかもしれないよ?
> それとも、ここで『妹』を<ころして>いく?後で直しちゃうけど、ね?」
男の問いに少し考えると答えた。
「…直っちゃうのなら殺しても意味はない。…殺しませんよ。それにこれ以上悲鳴使うと後の戦いに響きますからね。」
無表情ながらどこか不満そうに言うと刀を鞘に収めた。気がつけば花太郎はすでに起き上がっていた。
「…回復…ありがとうございます。…起き上がったらその女に言っておいてください。
もしまた人を殺したりするのなら…今度は例え直るとしても殺してやる……いや…『救ってやる』と…。」
そう言うと誓音は静かに出口に向かって歩き出した。
--------------------------------------------------------------------------------
暫く怪物の手を引きずりながら移動する。
とは言っても誓音はあの男の一言が気になっていた。お友達が危ない…と…。
(…敵の言葉を信じるのはどうかもしれませんが…。)
ふっと誓音は目を閉じ耳を澄ます。
―誰かが剣を鳴らす音…
―誰かが話す声…
―砂の音…
「…砂?」
砂の音に妙な違和感を抱き誓音は音が鳴る方へと走り出した。
「…ここらへんか…」
再度耳を澄ます。
「うん…やっぱここ!」
そう言うと誓音は怪物の手を天井に貫いた。
崩れ落ちる天井……崩れる砂の感触…飛び上がる誓音。
するとそこには戦士乙女を名乗ってたレナスと…着物を着た女が一人。
「あらっ…お邪魔しましたか…。」
そう言うとレナスの前に着地する。見てみればそこは城門に出てしまったらしい。
>31>32>33
殺意と狂気が支配する空間。
その中でFALCONはザジンに己の意思を伝えた。
相手が強ければ強いほどそれを超えて見せると、逃げる事は武人の恥だと。
『ヘヘッ・・・オマエホンマに馬鹿正直やな。』
呆れたような驚いたよな笑い。
『だが、それでこそ武人として誇りや、その心意気かったで!』
心から嬉しそうな言葉、さすが自分がライバルとして認めた男である。
そしてFALCONは気を集中させ始めた。漆黒の気がFALCONを包むがザジンは感じていた。
それは魂となった身でも感じる先程とはまったく違う力。
この男がまだ成長を続けている証を・・・
>「はぁっ!!!」
やがて気合の篭った声と共に黒きオーラは光り輝く黄金のオーラに色を変えて
美しい銀髪も漆黒の羽も金色輝く神々しき姿へ変わった。
『ハハハ・・・オマエ・・・・・まだそないな力隠しもっとんたんか?』
最早笑うことしか出来ない、
まだ・・・限界は超えてはいなかったと言う事実。そして自分が微かな確信を抱き始めてる事実に
>「ふははははは!!!戻ったぞ!!あの時の俺に匹敵する力が!!!ははははは!!!」
狂ったような笑いと共に強き気を纏った風がコロシアムに吹き荒れた。
しかしその力を持ってしても・・・・・・まだ奴には及ばないだろう。
そっと耳元で悔しそうにFALCONに伝えた。
『なあFALCON、お前にゃぁ聞えるか?奴に斬られた死者の慟哭が。
奴がこの世に存在する限り、その魂達は輪廻の鎖にも戻れず永久に奴の中で苦しみ続けなければならん。」
そして悲しそうな今にも泣きそうな声で続きを話した。
「ワシもその力を使ってしまったんや・・・だから罪滅ぼしがしたいんや。
ああワシが言っても許されん事は解ってる、だから・・・だから・・・
このザジン武人の誇りを持ってオマエに頼む!
奴を倒し、奴に囚われてる全てを助けて欲しいんや!!」
>「それで、何かいい小瓶なんかない?」
しかしそれを遮ったFALCONの言葉、魂の頭上には明らかに?が浮かんでいた。
『え?えぇぇ?小瓶か・・・そやなぁここはコロシアムやしぃ、仏さんがもっとるんと違うんか?』
ザジンはFALCONの眼の前に転がる亡骸を見る、
案の定薬入りの小瓶が彼のポケットから落ちているではないか。
その時化物が動く。
「ググゥ……ゲェルィィィィィィットォ!!!!」
再び空に向けて放たれた雄叫び。その声に城全体が揺れるような錯覚を覚える。
この化物の声だけでは無い。耳に残る悲痛な叫び声。
化物の一部と化した、怨霊達の悲鳴だった。
その空に向けて放たれた咆哮と共に
体より滲み出る殺意の炎がコロシアムに横たわる英雄達に燃え移る。
すると、何と亡骸たちが立ち上がったのだ。
揺ら揺らと黒い炎を揺らしながら、かつての己の武器を手にFALCONを囲うように近づいてくる。
しかしこれは化物は意図していないこと、逆に邪魔なのだ。
「ラギャぁぁ!!!」
そして間髪いれず右手の陣刃交を構えると恐ろしい速さで袈裟斬りに振り下ろす。
再び剣圧による巨大な斬激が巻き起こる。
「ヒィゥディィッ!!」
そのままの勢いで今度は左手の鬼葬も逆袈裟に切り上げる。
此方も巨大な真空刃となりて相手目掛け放たれる。
「ザァイッ!!」
不気味な掛け声と共にそれが、目にも留まらぬ速さで5回繰り返された。
どれも構えも何も無いただ我武者羅な亜流剣術。
それ故に威力はザジンとは比べ物ならない位に強いのだ。
一発は地を削り砂塵を巻き上げながら、一発は真横一文字に、規則性の無い攻撃
放たれた5発の真空刃は燃え盛る衝撃波となりて
屍骸を一瞬にして消し飛ばしながら、FALCON目掛け突き進む。。
>40>41
>『なあFALCON、お前にゃぁ聞えるか?奴に斬られた死者の慟哭が。
> 奴がこの世に存在する限り、その魂達は輪廻の鎖にも戻れず永久に奴の中で苦しみ続けなければならん。」
FALCONは耳を澄まして聞いてみるが、全然聞こえない。
だが、辻斬りの体内から幾重にも感じとることができる魂達の無念の情。
>「ワシもその力を使ってしまったんや・・・〜〜〜奴に囚われてる全てを助けて欲しいんや!!」
辻斬りを封印することはできるかも知れない。
だが、そうしたら、無念の魂達は永遠に辻斬りの中で苦しみ続けることになってしまう。
>『え?えぇぇ?小瓶か・・・そやなぁここはコロシアムやしぃ、仏さんがもっとるんと違うんか?』
目の前に倒れている遺体のポケットから、薬の入った小瓶が溢れ落ちている。
小瓶を手に取ってまじまじと見つめ、視線を不意に天井の方に向ける。
「やっぱ……やめた……」
視線を正面に戻し、小瓶を遺体のポケットに戻す。
「最初はあの化け物を封印するつもりでいたんだけどな……
そうすると、化け物に食われた人達の魂は永遠に苦しみ続けてしまう。
あまいって言われるかも知れないが……俺は皆の魂を苦しめたままにしておきたくない。
だから、俺は必ず倒す……
皆の魂を救えなくて、魔王なんてやってられねぇしな」
突然化け物が雄叫びを上げた。
雄叫びには化け物の声だけでなく、斬られた者達の苦しみや哀しみといった負の感情も混じっている。
雄叫びと共に、化け物から黒き炎が染み出る。
黒き炎はコロシアムに点在する遺体達に乗り移り、かつて愛用していた武器を手に取って、自分達を取り囲んだ。
「くそったれがぁ!!」
全身から衝撃波を放って迎撃しようとしたのだが、炎を伴った剣圧によって邪魔される。
剣圧は屍達を砕いて直進。
当たればただでは済まない威力。
初撃目を間一髪のところで避け、続く二撃目三撃目も避けていく。
幸いなことに炎を伴っていた為、軌道が読みやすかった。
四撃目五撃目も軽々と避けて、今度はこちらの番だ。
気を右手に集中させて、半径1m位の気功弾を作成。
その気功弾を圧縮していき、テニスボール位の球まで縮め……
「吹っ飛びやがれぇ!!」
気合いを込めて、アンダースローで辻斬りの顔面に投げつけた。
>35
アステラは右手を振り上げ、溜め込んでいた気を足元に叩きつける。
吹き上がった土が雨粒を弾いた。セシリアはそれにかまわず、
視界がさえぎられた隙に今度は自分の周囲に水を撒く。
そのまま次の一手を指そうとするが、収まりつつある土煙の中にアステラの姿が無いことに気づいた。
精霊の力で音を拾い、気配を探る。上空。
セシリアはそちらを見ることなく瞬時に行動した。
土の槍を斜めに発生させ、それと同時に自分は後ろへ跳ぶ。
その瞬間、地盤を踏み割らんばかりの勢いでアステラが突っ込んできた。また土煙が上がる。
アステラはいきなり空中に現れた。つまり空間跳躍を行うことが出来るわけだが、
これはセシリアにとって大きく計算を狂わされる要素だった。
箱罠や虎バサミで狼を捕らえることは出来るが、鳥が相手ではそうは行かない。
「カスミ網……か」
セシリアは呟くと同時に霧を噴き出させた。
周囲が見る間に白く染まってゆく。
カスミ網とは鳥の通り道を横切るように網を張る罠だ。
大規模なものでは鳥の群れ一つを根こそぎ捕らえる事が出来る。
それだけに、必要以上の被害がでやすい。
胸元に手を差し込んで、皮袋を一つ引っ張り出した。
中には何の加工もされていない、漆黒の魔石が一つ入っていた。
>43
蹴りも不発、またしても土の槍を砕いただけだ。
さすがにかつて目指した事のある存在・・・騎士、こうでなくては
幼かった自分の誓いがバカらしくなる。だからこそ、獲物に相応しい・・・
避けた相手は霧を発生させた。霧は水分が多量に含まれていて、
通電性が高い・・・悉く見抜かれている気がしたが、お構い無しに最大放電を行う。
目眩ましなのか布石なのか、どちらにせよ一旦チャージしたものは放出しないといけない。
本来は自分に影響のない攻撃が、思った以上に負荷をかけてくれる。
こんな攻撃を今まで繰り出してきてたのかと、改めて『悪魔』の力に恐れを抱き。
しかし一連の行動で目標を見失った・・・気配はするが、方角が分からない。
結果対応が遅れた・・・致命的な隙を晒す事になってしまったのは、未熟と言わざるを得ないだろう。
(何かはづかしいセリフを叫んじゃったなぁ・・・)
余りにも自分らしくないセリフに、やや赤面しながら再び女を見据えた。
女は・・・ヨツむん(愛称)になにやらささやいている。
すると、ヨツむん(愛称)は大きく動きだし、頭のみが場外へと消えた。
>「三日くらいは覚えておいいやるよ。」
「あは♪五日くらい覚えておいてくれればいいや♪」
気分はニュートラル、いつものレナスだ。
にやりと笑ったレナスに、女がにたりと怪しく笑った。
――その瞬間、足元から突如砂が噴出し、壁となりレナスに迫る。
たかが砂とはいえ、この勢いでは接触すればタダでは済まなそうである。
囲んだ砂の一部が変化し、先ほどの女の顔が形成される。
『レナス様、このような扱いをお許しください。力を抜き術に身をお任せください。』
要は、自分を信じろ・・・というのだ。
とはいえ、この女、何分怪しすぎる。ヨツむんをわざわざ退けた理由も理解できない。
「シズネとやら、私はあんたのよーな胡散臭い輩は信じないことにしてる!
どうせアンタも腹に蝮を飼ってるクチでしょ?」
さて、これだけ言っても砂壁が消えないことから、やはりあの女は敵だったようである。
となると、ここを脱出する手段を考えなくてはならないが・・・
脱出するとすれば、この壁を破るのは余りにも経済的ではない。
すると・・・上か、下か。
とりあえず床の様子を探ろうとすると・・・・天井が突然降ってきたではないか!
よく見えなかったが、降ってきたのは天井の残骸と、人影。
なぜ見えなかったかと言うと・・・残骸に埋まっってしまったからである。
>「あらっ…お邪魔しましたか…。」
聞き覚えのある、そんな言葉が聞こえた気もした。
>『辻斬り』VS FALCON
ついに目覚めたか……貴様に与えし名に従い狂気に身を任せ、
眼前を塞ぐ者全てを破壊するがよい。さてFALCON、貴様に倒せるかな?
……我が力受け生まれし、純粋なる破壊衝動を以って滅びを齎す者『アエシュマ』を。
>冴波 VS 誓音
倒れたか……愚かなり、冴波。
罪とは己のみぞ知る、なれば己こそがその重さを決めるのだ。
内に潜む他の心以って生きながらえはせよ……
既に新たな剣持つ腕は失われた、止め得る事叶わじ……
>アステラ VS セシリア
フン……なんとも、表面に出ぬ戦いよ。
双方揃って用心深い、決着はまだまだ先か……
さて、どちらが先に隙を作り、付け込めるか。見物だな。
……『異界の悪魔』、あまねく魔界の反逆者よ……
死人の影を追い滅するか、断ち切って生きるか……貴様はどちらを選ぶ?
>シズネ VS レナス&カイザー&誓音
フフフッ……あの雌狐め、ようやりおるわ。
一等情に弱い者を白々しい三文芝居で縛し、『探し物』を奪うとはなぁ。
……が、ヨルムンガンドは腐っても神に類する者、愚昧なる神の代弁者を
気取る戦乙女相手にするには相応しからぬだろうが……まぁよい。
彼奴の考えは我にも読めぬ。彼奴の父もそうであったからな。
さてさて、戦乙女は雌狐の言う事を真に受けるかな……?
もっとも、横槍が入ってしまっては彼奴も些か苦しかろうが。
>エヴァンス
「クククッ、奴はどうにも侮り癖があるようだ。
見届ける、だと?そこまで我が寛容と思ったか……愚か者め。」
そう言うとサタンは右腕を自ら捻じ切って放り上げる。
すると、サタンの魔力によって保たれていた形が崩れ別の存在へと変貌していく。
出来上がったのは、古来サタンに打ち倒されその身を形どる、幾千幾万の『原初の魔』の
一体であり時に応じて強者を殺し、喰らって今の『サタン』と言う存在を創り上げてきた
地獄の死刑執行機関の長、『復讐者アラストル』の仮宿だった。
「行け、そして奴を我が身の一部に加えるのだ……。
エヴァンス、貴様の目的は与り知らぬが、戦わぬ者には死を。
それが当初からの定め事、恨むならば己を恨め。」
>42
FALCONは自分の願いを静かに聞き入れると瓶を遺体のポケットへ戻し。
そして静かに呟く。
>「やっぱ……やめた……」
その瞳には魔族らしかぬ暖かさが溢れ、
その奥に静かに燃える決心と言う炎を窺い知ることができる。
>「最初はあの化け物を封印するつもりでいたんだけどな……(中略)
> 皆の魂を救えなくて、魔王なんてやってられねぇしな」
『封印やと?・・・FALCONオマエ・・・・・・そか、なるほど・・・・。』
この男の思考、足先は既に魔王へと向いていたのだ。
それは揺るがない意思・・・そうか確かに奴を封印する事ならば手垂の者ならば出来るかも知れない。
しかしこの男は自分の願いを聞きいれ、奴に囚われた者達を助けると言う
誰も選んだ事の無い選択肢を取ったのだ。
しかし封印と言う単語はザジン自身も思いもよらぬ発言であった。
『FALCONよぉ・・・もしかしたら、その作戦行けるやも知れへんで。
奴を倒さずに魂を開放させる方法・・・。』
そして化物により幾重にも放たれた斬激を交わすFALCONに己の考えを伝える
『あの化けモン自体は言った通り、殺意の塊みたいなモンや。
せやが、魂を管理しとるんは奴の右の妖刀『陣場交』の方』
集中の気を乱させないためそっと語りかける。
さて次はこちらが攻込む番である、FALCONは力を溜め始め、
しばらくすると、その手には大きなエネルギー体が出来上がっていた。
そしてFALCONはそれを小さく圧縮させると掛け声と共に化物に投げつける。
それは化物の顔面へと凄まじい速度で放たれた。
「ゲゴゥ?・・・・・・」
化物もFACONが放った気弾に気付いたのであろう、首を軽く傾げそれの動きを伺う。
恐らく小さすぎた為、余り威力がないと踏んでいたのだろう
化物は、その気功弾を斬ろうと刀を軽く横に振るが、
的が小さすぎたのか見事空振り、
小さく圧縮させたのが功を制したかそれは、化物の顔面にクリーンヒットする。
刹那、化物の顔面が爆音と共に炎に包み込まれた。
「・・・ギガッぅぅ!!!」
直立不動を保ちつつも呻き声と共に微かに顔が後ろに動き。
そして化物の顔面が煙に包まれる。
「ギリィィィ?ザージ?・・・ラギナァァ?」
爆炎が消えた時、煙の向こうに見えたもの。
顔を覆う黒い炎が部分的に消えその下に、元の無骨な骨が顔を覗かせていた。
目に表れた赤い光がギロリと全てを威圧するようにこちらを見つめている。
果たしてダメージを与えたのか?
『殺意の鎧』
しかしその期待も脆く崩れ去った。黒き炎は止まる事を知らず
何事も無かったかのように再び傷を包み込み黒く燃える。
『クソッタレ!聖光魔法でもあれば奴の鎧を一時的にひっぺ返せるやも知れへんけど・・・・・・。
あるいは刀を破壊する事が出来れば・・・・・』
ザジンの魂が嘆くが、それも化物の殺意により途中で掻き消されてしまった。
どうやら攻守交代の様だ。
「グルルゥ・・・・・・ザージラギャァ!!!!」
化物が唸り声を上げながら動く、
体制を低くし地を這うような突進技。先ほどのザジンと同じだが速度が明らかに違う。
まさに化物の様な速度で間合いに突入し、一定距離に達するとFALCONに飛び掛った。
「ゲヒャアア!!!」
両腕を広げ、左右からの挟み込むような一撃。
ただ本能のまま破壊と殺戮を行う、それだけしか知らないのだ。
知力も何も無い、全ては殺意が支配する体。
>47>48
辻斬りは気功弾を払い飛ばそうと刀を振るが、見事にスカッと空振りする。
辻斬りの顔面に気功弾が直撃し、闘技場内に轟音が鳴り響く。
「効いてねえのか……?」
直撃した部分の黒い炎は一時的に消えたものの、すぐにまた燃え盛る。
>『クソッタレ!聖光魔法でもあれば奴の鎧を一時的にひっぺ返せるやも知れへんけど・・・・・・。
> あるいは刀を破壊する事が出来れば・・・・・』
聖光魔法など自分には使えない。
あの魔法は聖騎士や僧侶の魔法だ。
パーティー内で使えるとしたら、カイザーやマリス、それにレナスぐらい。
この場に救援に来ることは、絶対にありえないだろう。
「となると……やっぱザジンが言ってたように刀を破壊するしかないか……」
ザジンが言うには、辻斬りの持っている刀を破壊すれば魂は解放されるらしいが、鳳凰掌でも傷一つ付かない刀だ。
並大抵の攻撃では破壊することなど無理であろう。
こちらのターンが終り、今度はあちらのターン。
辻斬りが異常とも言える速度でこちらに突進。
両腕を広げて、鋏で斬るようにこちらを攻撃。
その攻撃に成す術もなく、FALCONの残像は両断された……
「ホントに危ねえ……あんな攻撃、一発でも喰らったらこっちは死んじまうぜ……」
あの一瞬で、辻斬りの遥か横に移動して、脱いだコートから漆黒の短刀を引き抜く。
「たまにはな……武道家だって武器を使うんだぜ!!」
短刀に気を送って、刀身を三倍以上にまで延ばす。
刀を正眼に構えて気を集中。
黒き刀身に黄金の気が覆われ、神秘的に輝いている。
「さぁ……来やがれ!!」
狙いは相手が攻撃する瞬間。
FALCONの力だけでは、辻斬りの刀は破壊できない。
ならば、相手の攻撃を利用するまでだ。
エヴァンスの起こした竜巻の余波がまだ様やらぬ中、城の空気が震えるように一変する。
その変化にシズネの表情は強張り、咄嗟に背後の城に振り向く。
「・・・これは・・辻斬り、なのかい?」
空間が歪み様々な空間と連結しているオーガス城。
連結はしているが、それぞれが独立した空間でもあるためその影響が外に出ることはほと
んどない。
だが、辻斬りの・・・今は殺意の塊の化け物だが・・・その気は城門の空気すらも震わせた。
>36>39>45
その空気の震えに気を取られ、足元からの異変に対処が一瞬遅れる。
誓音にとっては天井、シズネにとっては地面が突き破られ、砂の捕縛結界ごと破壊し誓音
が現れる。
「な、なんて化け物なんだい?」
その出現に何の対処する事も出来ず、羽衣を広げ宙に実を避けるだけで精一杯であった。
捕縛結界が未完成だったとはいえ、そう簡単な力だけで打ち破られるものではない。
だが、誓音はそれをやってのけた。そのことに驚嘆していたのだ。
しかも、レナスはどうやらこちらの事を信用しなかったようで、きっぱりと断りながら瓦礫に埋
もれる。
そして城外からははっきりと近付いてくるのがわかる聖なる気。
宙を舞ったまま小さくため息をつき、右手に持った七支刀を肩に担ぎ下を睨ね付ける。
「・・・まったく、仕方がないねえ。辻斬りに当てられたわけじゃないけど・・・
ああいいさ!いいだろうよ!三人も束になってくれればちったあ『闘い』の体裁くらい保てるだ
ろうからねえ。
久しぶりに『闘い』をしてやるからかかってきな!
あんたもやるからには悠長に瓦礫に埋まっているんじゃないよ!蝮程度を相手にするつもり
でいたらすぐ死んじまうよ!!」
啖呵を切り、左手で符を撒き散らす。
宙に舞う数十枚の符は黒い炎で形作られた龍となりレナスと誓音の周辺に雨のように降り注ぐ。
#######################################
黒炎符・因果律を狂わし存在そのものを消す。曲がったり出来ず一直線に進む。
直径十センチ程度のレーザーと思ってください。防御不能。躱したり瓦礫除去に使っていた
だけるとありがたいです。
>44
白く濁った視界の中を稲光が駆け抜けた。アステラの放った一撃だろう。
さすがに自ら串刺しになるほど間の抜けた相手ではない。
しかしセシリアにしてみれば予期しなかったことだが、電撃の性質上、
向うにもいくらかの影響はあるはずだ。
何の備えもなしに魔石の力を解放すれば、セシリアも同じ目にあう。
セシリアは精霊の力で水を操作し、自身の周りに水の球体を形作る。
中に入り込んだ霧はそれに吸収させた。球体は地面に接している。
水の壁を隔てて外界と完全に遮断されたその状態で、剣に指を滑らせた。
小さく浮かび上がった血の珠は、魔石に触れると同時にそれに吸い込まれて消えていく。
セシリアは魔石を親指で弾き、水球の外へ放り出す。
「『銀の双輪』よ!我が血において命ず!
一時の目覚めを許すにつき、汝が力もて我に仇成す者を滅せよ!聞かん!?」
セシリアがすべてを言い終わらぬうちに魔石から雷光が迸り、霧を伝ってゆく。
常に力を振るいたくて隙を窺っているような相手に、
「私の声が聞こえたか?」などとたずねる必要はなかったのだ。
後は、その目覚めが「一時」で済むかどうか――
灼天の雷霊『銀の双輪』。
有象無象の区別なく戦場を薙ぎ払い万の将兵を一撃で壊滅させた、
セシリアが最も頼りたくなかった一手だった。
水球の表面を伝って雷撃が地面へ逃げて行く。
その中ではセシリアが剣を地面に突き立て、
精霊の力を絞って解放させるため神経を集中していた。
霧を発生させたのも通電の効率を上げて少しでも力の開放を抑える狙いがあった。
出力調整に神経を尖らせているので狙いは付けられないが、どうせ辺り一面でくまなく暴れて回るだろう。
その性格を一言で言えば高い矜持を持った幼子。久しぶりの外はさぞ楽しいはずだ。
だが、いつまでも遊ばせておくわけにはいかない。
セシリアは奥歯を噛み締め、『銀の双輪』を抑え込む。
空気を裂く雷鳴の音が止んだときには、セシリアは片膝をついていた。
槍を呼び、背を守らせる。精霊の加護により毀れる事の無いはずのその刃には、
薄く焼けた跡が浮いていた。
>46>51
スカートと翼、魔法反射装甲のみ残して、
胴部鎧の変形術式を解き軍用コート姿に戻ったエヴァンスは砲を抱き、謁見の間へ続く赤絨毯を歩いていた。
魔素の濃霧に包まれ通路は、壁掛けの燈台が仄かな火を燻らせるより他に灯りも無い。
彼の後ろでは行きずりに殺された魔族の守備兵たちが、無気味な屍骸を晒していた。
彼らの死体は皆大きく手を広げた格好で、壁に磔にされている。
両の掌に突き立てられた剣が死体を壁に留め、致命傷は額へ刺さった石壁の破片だ。
血で腹に十字を描かれ、目玉をくり貫かれて空洞となった眼窩から赤い涙を流す。
空中で留められた死体の足下には殴り書きの血のペンタグラム、ゲート魔法が用意された。
カイザーが城外へ墜落した後、エヴァンスはオーガス城に仕掛けたゲート魔法で
玉座を囲む、次元侵食から保護されたフロアの一つに移動していた。
そこで不運な守備兵の数人を血祭りにあげると儀式の準備を整え、謁見の間に向かったのだ。
深い意味など無い。ただ、遅からず戦場は玉座へ近付くと考えたからだ。
歩く内に、暗い通路の先から訪れる殺気を感じて立ち止まる。
自分の他に、殺気の主が目指すべき標的らしい標的も控えてはいない。
戦闘へ立ち入る前にエヴァンスは指輪の念話装置でシズネへ連絡を試みた。
魔素の通信障害を、ゲート魔法で補った。短波を位相空間から直接、彼女の最寄のゲートへ送りつける。
もしも彼女が指輪を何処かに置き去りにしていたなら、徒労に過ぎないのだが。
また或いは、彼女が既に斬り伏せられた後であるなら。
『シズネか? 返事は必要無い、聞こえているならそれだけで構わない。
城内へ配置した機械兵士、四台が各方位に待機中だが、お前の近くに姿が見えたなら気をつけて欲しい。
そいつらは爆弾だ。保険に取っておいたんだがな、どうやら私は、その――クビになったらしい。魔王軍を』
話しながら、通路の奥から現れた黒のローブを見遣る。
思うよりも手回しが早かったが、監視状態は予想出来た事。
先の撤退と衛兵殺しを利敵行為と判断されたのも無理はない。
『尻尾を巻いて逃げようかとも思ったんだが、折角だから花火は見ていきたい。
サタン殿に挨拶してくるから、お前もくれぐれも火の気には注意して、な。
つまり何だ、ひとまずは城の中のが案外安全だって事を憶えといてくれ』
闇に溶け込む漆黒のローブ姿が、虚空から大鎌を喚び出した。
鎌を手にした刺客は床を滑るように、エヴァンスへと接近する。
『もし城が落ちる段になって、逃げ場に困った時は良い場所を知っている。
その時まで保つかは分からないが、教えておいてやる。方法は簡単だ。
所定の場所で指輪を振りかざすだけ。それでゲートが開く。場所は聞かれると不味いから念像転送するぜ』
指輪をこめかみに当て、「場所」のイメージを転送した。オーガス城内、とある広間に飾られた騎士像の裏。
城が完全に崩れてしまえば別だが、そう簡単に解除出来る術式ではない。
『今更ながら「百鬼夜行」隊長命令だ、生き残れ。
魔王軍側の生き証人が私を除いて皆果ててしまうのでは、まるで面白くないからな。幸運を祈る』
>刺客・両軍屋外戦闘者
通信が終わると同時に手を下げると、エヴァンスの指輪が通路の奥へ四本の光の矢を放った。
機械兵士に仕掛けられた魔法爆弾の発動術式だ。
通路奥のペンタグラムが輝き出し、ゲートに転じて着弾した光の矢を受け入れる。
するとペンタグラムを発端に、迷宮と化した城内を、ゲート魔法で転送された光線が縦横する。
オーガス城周辺部の各地点に配置された三機、屋上でカイザーに撃破された一機、
光線は諸所のゲートを潜る内に各機へ到達、自爆装置を起動させた。
爆弾とは対物理障壁発生装置のリアクター――
――エヴァンスの命令を受けた内燃機関が暴走を始め、やがて余剰魔力が装甲を破って爆発する。
爆発はオーガス城全体を揺るがした。放出された魔素の光は、一帯を真昼のように照らし出す。
内三機の爆発が方角毎の城壁をごっそりと削り取り、屋上からは大量の瓦礫が城内へ雪崩れ込む。
エヴァンスは、衛兵から奪った剣を構えて刺客と睨み合う。
身体の部位すらあやふやな姿だが、恐らくは最低限の目耳をサタンと共有しているであろう。
魔王への「挨拶」のつもりで、エヴァンスは喋っている。左腕の義手が赤い輝きを放つ。
「聞こえたろ? 例のロボット爆弾だ。
けど今のは本命じゃない、本当に只の花火程度の威力しか持たせちゃいない。問題はこの先だ、さて」
城外では自爆した機械兵の放出する魔素が、エヴァンスの義手に呼応して赤く輝き始めていた。
方々へ散ったそれらの光は止みかけの竜巻に乗って、ダイヤモンド・ダストのように大気へ満ち満ちていく。
首都オーガス中、屋外に居た者全てが空を見上げた。風に巻いて天へ昇り行く紅の塵。
塵の一粒一粒は次第に光を強め、渦が天高くに昇りつめる。
先の竜巻と同じに、オーガス城を取り囲む壁を作り始めている。
「『最終出口』が近い、サタン殿へ今一度お聞きしたい事がある。
そこのボロ切れ、お伝えして差し上げろ。どうせ見えてるんだろうがな。
魔王サタン、貴君は、神が創りし運命の鎖から万物を解き放つ術があるとお考えか?
貴君もまたヒトと同じに創られた存在だ。生と死の理、あなたの言を用いれば『唯一無二の絶対』によって御される存在。
貴君は一体何と戦おうとしている? 運命か? ヒトか? 神か? 天界か? 悪魔か? それとも己か?」
光の粒が溶け、雲上に届く光は一瞬にして渦を巻く大量の紅い水へと変わり、地上へ叩きつける。
衝撃が大地を震わせ、城は膨大な量の「水」の壁に包まれ孤立した。
「地下の古代魔方陣から力を借りて、嵐を呼んだぜ。これで逃げ場は消えたな」
巨大な水柱は轟き、止む事無く屹立する。
飛沫は雨となって降り注ぎ、渦の果ては雲も途切れて形の歪んだ太陽が覗いた。
城門へ向かっていたカイザーの背後にも間一髪、彼を外して水の壁が走った。
渦の勢いは地上の如何なる激流をも凌ぎ、触れればたちどころに呑み込まれ、水圧に押し潰されてしまう。
紅の「水」は魔素を含み、例え強力な魔法を用いても壁に孔を穿つ事は出来ない。
「城内外の魔素が、地下の魔方陣を中心に渦を巻いている。城は台風の目みたいなものだ。
しかも地獄の門との引力・斥力の関係で、渦は段々と狭まっていく筈。
全ての力が集束すれば、さしもの魔王でも無事では居られまい。
何せこの嵐は殆ど貴君自身と、貴君が呼び寄せる地獄からの魔素で力を得ているのだからな。
嵐の尽きる時は、貴君の魔力が尽きると同時だ。
貴君が一時のみ力を封印すれば嵐は止むかも分からんが、それをオーガス騎士どもの前で出来るかな?
奴らは嬉々として玉座の間へ攻め入るだろうし、私もそうする。
滅びの渦を止めるには、オーガス騎士と私を殺すか、貴君が殺されるより他に方法は無い。洒落てるだろ?」
喋り終えたエヴァンスは、素早い踏み込みで剣で刺客へ突き掛かる。
>53
エヴァンスの言葉を最後まで律儀に聞いてやり……
アラストルを通じてサタンはエヴァンスへと語りかける。
「エヴァンス、貴様ほどの力ある者がこの期に及んで
途方もない勘違いをしているとは驚いたぞ……神が運命を創った?
それは違うな……神もまた運命に翻弄されるだけの存在、
絶対者ではないのだ……今の時点ではな。まぁそんな事は置いておこう。
我が挑む存在……それは、『外なる者』だ。この世界のみならず、あまねく存在を
創り上げその生き様を眺めてせせら笑っている……親気取りの造物主。
貴様とて感じた事はあるだろう?誰もいないのに誰かに見られている感覚を……。
気紛れに貴様の全てに土足で踏み込んだ、箱庭の主の視線だ……!」
そして、この決戦に実に似つかわしい舞台装置を起動させた事を暴露する
エヴァンスのそのセンスに思わず邪悪な笑みが漏れる。
「ククク、自画自賛とは面の皮の厚い。が、我が心昂ぶらせるには
十分な代物よ。しかし、貴様がこの術を行使できたとはな。実に惜しいぞエヴァンス。
このまま殺すには、なぁ。故にその力、その存在を我が一部へと取り込んでくれよう。
光栄に思うがよい、人界では貴様が初めてなのだから。」
アラストルは動かない。エヴァンスの突きに対し正確無比なカウンターを返す。
ぐにゃりとローブが歪み、突きを無効化すると同時に『エヴァンスの』影から
闇の槍を突き出した。
黒のローブは剣による突撃を易々と避ける。と同時に死角からの反撃、エヴァンスはかわせない。
大鎌の先端がエヴァンスの顔面を薙ぐ。
「っと」
刃はエヴァンスの顔を目元の辺りで横一文字に叩き割った。
血飛沫が壁にさっと走って、黒髪振り乱してエヴァンスの頭の上半分が暗中へ転がる。
綺麗に割られた頭蓋骨と内器官の断面から激しく血を吹き、エヴァンスの身体がよろめく。
常人ならば即死だ、到底助かりはしない。サタンの部下の攻撃は正確だった。
だがエヴァンスは倒れない。
「……ふは、ふはははははは! は、は、は! 私を床へ転ばす事すら叶わぬか!」
傷口から吹き上げる血が勢いを増し、血潮と共に頭部断面の位置がせり上がっていく。
血が断面から頭頂部まで、皮膚や筋肉、骨格、器官を新たに作り出しているのだ。
再生されていく骨肉は元の姿を取り戻し、終に彼の目、眉、髪までを血の海から構築した。
頭部の造形を完成させたエヴァンスは、血塗れの額と前髪を片手で撫でて払い、
「『外なる者』、創造主、如何なる名で呼ばれようとも然したる違いは無い。
私は『それ』を滅ぼす。永劫に渡る破壊と創造の連環、輪廻を、私が、脆弱なる人間の身の程で、打ち砕いてみせよう。
……俺も大っ嫌いなんだよ、クソみてえなルールを俺たちに押し付けやがる、
手前自身は高見の見物決め込んで、お高くとまってやがる、その『箱庭の主』ってのが。
かつて俺たちを蔑ろにした、俺たちの人生、全部クズで埋め立てた、そいつに借りを返さなきゃ、俺たちに還る場所はねえ。
あんたもそうだ、拘ってばかりだな。意地張る甲斐性ってのだ、前に言った通り俺はあんたが嫌いじゃない。
理由は『それ』さ。俺たちはそいつの存在を信じてる、だから殺せる。
だが人間と魔族、どっちが奴を引きずり下ろすのに適任かな?
オーガス騎士とあんたを使って試したかったんだが、もうじき結論が出るな。
そして俺はまだ人間だ。最後は人間として、あんたと戦わなきゃならなくなったって事だ、とても理に適ってる。
こいつで人界を整理した後は人間を断罪し、果ては天界を通じて『外なる者』を追い落とす。生き甲斐を感じるね」
義手の指先が魔力を噴出し、鮮紅色の光の爪を伸ばす。
エヴァンスが義手を後ろ手に振り払うと魔力の余波が石壁を大きく抉り、通路の奥までずっと長く鋭い爪跡を残した。
「さあボロ布、大将に会わせろ。薄汚れた繊維質の一片でも、形を保てれば良いのだがな」
光の爪を、黒のローブ目掛けて振り立てた。
>45>50
「あっれ〜……さっきレナスさんがいたような気がしたんですけどね…。」
きょろつく誓音。どうやらレナスを埋めてしまったことに気付いてないらしい。
地面には大きな穴と地面を吹き飛ばしたときに飛び散った欠片が大量に飛び散ってる。
そんな中、一人女の声が響く。
>「な、なんて化け物なんだい?」
見てみるとそこには見知らぬ女が一人…そして即座にその女の手に持ってる物に気付く。
そう…それはマックスが使っていた…。
「…七支刀…なんであんたが…。」
>「・・・まったく、仕方がないねえ。辻斬りに当てられたわけじゃないけど・・・
>ああいいさ!いいだろうよ!三人も束になってくれればちったあ『闘い』の体裁くらい保てるだ
>ろうからねえ。
>久しぶりに『闘い』をしてやるからかかってきな!
>あんたもやるからには悠長に瓦礫に埋まっているんじゃないよ!蝮程度を相手にするつもり
>でいたらすぐ死んじまうよ!!」
その言葉でこいつが敵だという事を知る。そしてその七支刀をその女が持っていると言うことは…。
一瞬敵の言葉を思い出す…お友達が危ないと…。
「お前…まさ…!」
何かがこみ上げかけた声で何か言おうとしたがそれは中断される。
上から撒き散らされる数十枚の紙切れ…さっきの台詞からしてみてどうやらこれは攻撃…!
誓音は瞬時に後ろにぐんっと飛び符が撒き散らされた地帯から離れる。
その時ふとまたまたさっきの女が言った言葉を思い出す。
(…あれ?…そういえば…さっき瓦礫に埋まってるって…)
一瞬あっ!とした顔をする…すると地面に落ち頭をぶつけてしまった。降り注がれる龍の雨…!
「いてて…て…!って!大丈夫ですか!?レナスさん!」
起き上がり叫ぶ誓音。どうやらやっと自分がレナスを埋めてしまったことに気付いたらしい。
>51
気配を探っていると、凶悪な力を持った精霊の波動を感じた。
その精霊の力は霧を通じて一面を伝い、さながら雷の檻に閉じ込められた
状態へと追いやられてしまう。少しでも雷撃の威力を下げる為に刀を
地面に突き刺して耐えるが、一方向ではなく周囲全てが雷撃、到底逃がし切れない。
段々と体内温度が上昇し、体組織が破壊されていく・・・耐え切れない、
と思った次の瞬間には変質していた。魔力で人の形に封じていた、『悪魔』本来の
姿と力を解放して・・・動くのが遅かったせいで殆ど減衰出来ていないが、
辛うじてまだ動ける。精霊の攻撃が終わったタイミングを計って襲い掛かった。
セシリアからはさぞ醜悪な姿に見えるだろう。
辛うじて人型を留めてはいるものの、鎧の装飾なのか悪魔の皮膚なのか
判別の付き難い物が間接部を守り、背中からは葉状の薄翅が生え、山羊の様な
角が飛び出し・・・猫の目の様な裂け目が眉間に現れ、赤く輝いているのだから。
その姿は『悪魔』を想起させる物であり人間とは相容れない存在である事を物語っている。
>53
>城門へ向かっていたカイザーの背後にも間一髪、彼を外して水の壁が走った。
>渦の勢いは地上の如何なる激流をも凌ぎ、触れればたちどころに呑み込まれ、水圧に押し潰されてしまう。
突如、背後に出現した巨大な水の壁、その出現はカイザーを驚かせるものとなった。
「なんだこれは…!?」
立ち止まり、驚きの表情で水の壁を見る。
おそらく走る速度が今よりほんの少し遅ければ、自身はあの水に巻き込まれていただろう。
…と、そこまで予想していた所で、カイザーは水の壁の先で戦っている仲間の事を思い出した。
「…ペガサス!!無事か!?」
大声で叫ぶが、返事は返ってこない。
単純に声が届いていないだけなのか、ペガサスの返事が水の壁で聞こえないだけなのか、それとも…
(…いや、俺はアイツと約束したな。…サタンを倒す、と)
カイザーは再び城門へ向けて走り出した。友との誓いを果たす為に。
>45>50>56
カイザーが城門に辿り着いた時、今にも龍の雨が誓音に降り注がれようとしていた。
>「いてて…て…!って!大丈夫ですか!?レナスさん!」
誓音は地面を見ながら叫んでいる。
(…まさか、レナスがあそこに埋まっているのか!?)
今から自分が瓦礫を掘り返す時間などは無い、そう判断したカイザーは右手にオーラを集中させた。
「誓音!レナス!多少の痛みは我慢しろ!威力自体は大した事は無い!!」
声とほぼ同時に右手を上に掲げて握り拳を作る。
するとカイザーの右手の光が爆発したかの様な衝撃を発生させた。
その光の衝撃は激しい風圧を生む。
風圧の勢いだけは超大型台風並みに凄まじく、瓦礫を次々に吹き飛ばしてゆく。
その風に身を任せれば、おそらく人体までもが数メートル以上飛ばされるだろう。
>49
「ギーゴォォォォ!?・・・・・・」
化物の一撃は見事にFALCONを両断したかに思えた。
だが化物から発せられたのは歓喜の雄叫びではなく、疑問の様な唸り声。
手応えがまるで無かった様だ。
それもその筈、斬られたのはFALCONではなくその幻影。当人は遥かに横に飛び退いたのだ
化物は砂塵を巻き上げ派手に着地すると、すぐさまFALCONへ向き直る。
「グリィ・・・・・ラギャギャ!!!!」
砂塵が舞い上がる中、その瞳が捉えた相手はやはり傷一つ無く健在であった。ザジンの魂は殺意に当てられ未だ喋れずにいた
そしてFALCONは脱いだコートから短刀を取り出し気を送り始める。
瞬時にその短刀は3倍ほどの長さまで伸び上がった、
まるで化物の持つ白鞘の短刀が鬼葬の様な長刀になった時の様に。
しかし大きな違いは一つ、それは刀に宿りし力。・・・・・神々しきオーラがその刀には溢れていたのだ。
「ルゥゥゥゥガァァァ!!!」
獣の様な叫びと共に、轟音と共に室内が大きく揺れる。
見ると化物が足を大きく上げ地面を思い切り踏みつけているではないか
奴なりの悪態だろうか・・・・・・?
おもむろに左手の刀を逆手に持ち替え、胸の前まで持ってくる・・・・・
そして・・・自らの右胸目掛け・・・
―――刺した
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
響き渡る感情の篭らぬ叫び声、吹き出た炎は右胸から生えた妖刀を覆う
やがて深々と突き刺さった妖刀はそのまま体内に飲み込まれ、再び化物と一つになった。
そして体を覆う黒い炎は勢いを増し燃え上がる・・・全てを焼き尽くすかのように・・・
手に残った妖刀は一つ・・・ゆっくり相手を睨んだ
「・・・・・・。」
無言の重圧感とも周囲の雰囲気が一瞬にして凍てついた。
物言わぬプレッシャーと殺意が重く圧し掛かる、常人なら間違いなく発狂しているだろう。
――――――ゆっくりと右手の刀を鞘に戻す化物、・・・その動作はとてもとても遅く見えたが
実際のところは2,3秒だろう。
『あ・・・アカン・・・奴・・・ワシの奥義を使うつもりや・・・気ぃつけや・・・レベルがちゃ・・・うで』
ザジンの微かな呻き
化物は腰を深く落とすと、左手で固定した妖刀に右手を掛ける。
カチカチと炎に包まれた歯が何度かなった。
「ピ・・・ン・・・・ゾ・・・ロノ・・・・・チョ・・・・・ウゥ・・・ウウウ――――――
その時、音が消えた。
放たれた技―――――それは居合い抜き。
紫色のオーラがその軌道をゆっくりとなぞり、
発生した衝撃は周囲には全てを吹き飛ばさんばかりの暴風になる
その一撃は空間を両断するような錯覚さえ覚えた
しかし。
ピシッ・・・・・ビキビキ
何かが割れるような音。・・・・・・刀の腹に幾重にも渡りヒビが入った。
そう、ピンゾロの丁はザジンが『自己の限界』と『刀の強度』を両立するべく編み出した奥義。
当然化物の力に業と刀の強度が追い付かず、このバランスが崩れてしまったのだ。
その結果が陣場交に入った多数のヒビである。
>55
アラストルの攻撃は実に正確だった。
望んだとおりの部位に攻撃を加え、望んだとおりのダメージを与えた。
しかし、エヴァンスは既に半分人間を止めているようで、
斬られた部位を吹き出す血で再生させてしまった。思わず苦笑をもらしてしまう。
「やはり気付いていたか。貴様からはどことなく我と同じ何かを感じていた……。
似たような生き方、似たような経験、似たような目的……既視感、と言う奴だろう。
故に我は貴様を召抱えた……目指す先が同じならば、相応の地均しはする筈であろうから。
実際貴様は良くやってくれたよ、我が計画の実に1/3は貴様の言動で消化できたような物だ。
だからこそ、余計に惜しい……ク、ク、『強欲』のマモンのような物言いだな、これでは。」
「だがエヴァンス、頭を割られて死なぬ存在が果たして普通の人間と言えるか?
ああただ言いたかっただけだ、言える言えないはお互いの内に秘めておくが吉であろうよ。
……それを決めるのは、今ここにいる我々。決して奴ではない。これすらも奴は
己の空虚な心を満たす為のゲームに仕立て上げるであろうがな……!故に隙もあるのだが。
さて、では見せてもらおうか……貴様がひた隠しにしてきた力、その一端を。」
光の爪、魔力で形成された一撃を受けて限界を突破。
ただの一撃でコアが露出してしまった。手練の魔導師が100人束になっても
一回コアを露出させるまでに9割は仕留められてしまう、それほどにダメージ許容量は多い。
それを、一回の攻撃で飽和状態になってしまったのだから驚いてしまう。
>59
辻斬りが獣じみた叫びと共に足を大きく振り上げ、地面を踏みつける。
そして、左手の刀を逆手に持ち替え、自身の胸に刺した。
「……狂戦士って言葉は、あいつの為にあるってもんだな……」
その異様な辻斬りの行動に、FALCONは驚きを通り越して呆れ果てる。
辻斬りの胸に刺さった刀は、体から溢れ出る炎に包まれて、そのまま体内に収まっていく。
刀を体内に入れたことで、漆黒の炎は更に激しさを増して、辻斬りの力を上げていく。
寒気がする。吐気もする。今にも死にそうだ……笑いが込みあげてくる。怖い。
あの化け物に見られた瞬間、FALCONの脳裏に様々な負の気配と戦闘意欲が沸き上がってくる。
全てはあの化け物から放たれる殺意を持った瞳から。
「………はっはっはっはっは……」
FALCONも発狂してしまったのか?
いや……元々狂っている。
強い敵と死力を尽して戦うことを、至上の喜びとする民族。
例え大きな力の差があったとしても、相手の強さに狂喜乱舞してしまう。
そういうものなのだ、戦闘民族サイヤ人というのは……
ゆっくりと辻斬りは刀を鞘に納めていく。
FALCONは笑いながら全身の気を体全体に張り巡らせ、刀を上段に構え直す。
辻斬りが腰を落として、神速を越える居合い抜きを放つ。
居合い抜きの剣圧により暴風が巻き起こり、試合場に点在する遺体全てが吹き飛ばされる。
壁に叩き付けられた遺体は、その原型の片鱗もなくし、歪なオブジェと化した。
「……ふははははははは!!!!」
FALCONは耐えた。
胸と両腕に深い裂傷を負ったが、まだ戦える。
本来ならあの辻斬りの一撃は、FALCONを簡単に殺す程のものだった。
FALCONは相手の居合い抜きが放たれるのと同時に、刀を振り下ろして剣圧を放ったのだ。
居合い抜きの威力は剣圧によって削ぎ落とされるが、それでも通常のFALCONを殺すには充分な威力。
しかし、FALCONは体全体に気を張り巡らせて、防御力を上げている。
そのお陰で両断されることなく、深い裂傷で抑えることができたのだ。
「今度は……こっちの番だ!!!」
試合場を胸から滴る蒼き血で染めながら、FALCONは傷付いた両手に鞭打ち、刀を構え直す。
輝きを失っていた刀は、再び黄金の輝きを取り戻した。
「……これぞ……鶴仙流の奥義……」
黄金の気を体全体から噴出させて、一気に駆ける。
弾丸の様な驚異のスピードで距離を詰め、自身の間合いの十歩手前で刀を大きく振り上げる。
辻斬りもこの速度に反応し、迎撃するべく刀を構える。
「だあああああぁぁぁあ!!!」
FALCONが辻斬りの間合いに入り、辻が一足先に刀を振るう。
横からの薙払い。
薙払いを刀の振り下ろしによって、相手の刀を地面に叩き付けて回避。
お互いが崩れた体勢を立て直す。
辻斬りの方が僅かに速い。
もう刀を振り上げている。
FALCONはバックステップで距離を取って間合いを空ける。
辻斬りも距離を取ったFALCONを叩き潰す為に、こちらに踏み込んでくる。
こちらの当初の思惑通りだ。
辻斬りは自身の間合いまで詰めよって、FALCONを両断すべく刀を振り下ろす。
振り下ろす刀を狙って、FALCONは下段に構えたままになっていた刀を振り上げた。
お互いの気が詰まった刀同士がぶつかり合い、闘技場に破滅の光が奔り、とてつもない爆音が、闘技場どころか城内に響き渡る。
FALCONはその光に巻き込まれ、体がボロ雑巾の様にボロボロになって、勢いよく闘技場の壁に激突する。
そして、そのまま意識が消え、髪の色が元の銀髪に戻った。
>38-39>46
霧のように茫洋とした体を揺らめかせながら、誓音が立ち上がるのを見上げる。
>「…回復…ありがとうございます。…起き上がったらその女に言っておいてください。
>もしまた人を殺したりするのなら…今度は例え直るとしても殺してやる……いや…『救ってやる』と…。」
その決意の言葉にも何も答えず、微笑を返すだけだった。
やがて傍らの冴波の方を見つめると、髪を撫ではじめる。
曖昧な体のせいか、その手は髪に触れる事も叶わず通り抜けるのみ。
誓音が遠ざかったところで、漸く口を開いた。
「ふふふ・・・、『救い』かぁ。『救い』なんて、僕らにあるわけないだろうにねぇ?
真っ直ぐだよねぇ、キミと一緒。でも、真っ直ぐすぎる存在はもう人間じゃないよ。
だから、『迷い続けていればいい・・・』。」
しばらくして、誓音が入って来た側から人間達が現れる。
おそらく、突撃隊の残りだろう。
『おい、あれは・・・』
[あぁ、何度か見た氷の女だ。]
『横のヤツは誰だ?』
〔知るもんか。どうせ人間じゃない、やるぞ!〕
口々に抜刀して切りかかってくるのに対して彼はただ右手を挙げただけだった。
「すこし、五月蠅い。」
その手から目に見えない波動が走る。
切りかかってきた騎士達はまるで、花弁が風に吹き散らされるようにバラバラになっていく・・・。
その剣も鎧も、血も肉も骨も光る粒子へとなっていく・・・。
その場に、騎士達が現れた痕跡も残らなかった。
そして、男と冴波の姿も・・・。
その姿は魔王の謁見の間の前の廊下にあった。
閉ざされた扉の傍らで、壁に背を預けるようにして彼は座り込んでいる。
冴波は未だに横たわり、男の傍で眠っている。そのすぐ傍に彼女の剣の姿もある。
「誰が、ここにくるのか。ちょっと見てみたいからね。
それとも・・・役立たずは処分しに来るのかな?」
豪奢な床と壁に映りこむ相も変らぬ微笑は、見るものに恐怖を与えるほどに不気味だった。
>50>56>58
狙い通り・・・というかお約束のようにレナスは埋まった。
埋まったとはいえ、お約束のうちなので大きな怪我などはない。
>「いてて…て…!って!大丈夫ですか!?レナスさん!」
「今更気が付いたのかぁぁぁ!」
盛大なツッコミを入れたのも束の間、今度はカイザーの声が降ってきた。
>「誓音!レナス!多少の痛みは我慢しろ!威力自体は大した事は無い!!」
「へ?」
そんな間抜けな声を出す暇も無く、すさまじい爆音が聞こえてくる。
爆音はさらに大きさを増し・・・レナスを埋めていた瓦礫を吹き飛ばした!
――レナスもろとも。
「にゃああああああ!?」
カイザーの竜巻、あるいは台風のような技(?)により、思いっきりレナスは吹き飛ばされる。
そして、その飛行方向には、偶然にも・・・シズネが。
>56>58>64
宙を漂いながらカイザー、誓音を見詰めシズネは小さくため息をついていた。
そして吹き飛ばされてくるレナス。
そのまま見ていれば人間魚雷よろしく正面衝突だろう。
「このままさくっと殺してもいいが・・・」
つまらないものを見るような目で一瞥すると、おもむろに羽衣の端を掴むと軽く一振り。
薄桃色の薄い布。ぶつかったからといって大した障壁にはならない・・・はずだった。
しかしレナスとその周辺の瓦礫は弾かれるように叩き落される。
闇の羽衣。
重力を操り、使用者を浮遊させる事が可能。
だが、それだけではない。斥力を使い、結界としても使えるのだ。
レナスを叩き落したあと、シズネも地に降りる。
そして心底呆れたように哀れんだ眼で三人を見詰める。
「やれやれ、舐めてんのかい?それともその程度の力で迷い込んできちまったおのぼりさ
んなのかねい?
七支を持つ者の仲間がこれじゃあ、あの二人も浮かばれないねえ。」
三人に七支刀を突きつけながら語りかける。
だが、語りかけている最中にもシズネの左袖からは大量の符か流れるように舞い出る。
符はまるで紙吹雪のように三人の周辺を漂う。
「ちったあ楽しませておくれよぅ。でないと久しぶりにやる気出した意味がないだろう?
三人束になって、持てる力出し惜しみせずにかかってきな!」
啖呵を切ると同時に一枚の符が小さな紫電を発する。
発生した紫電は枝分かれをし、周囲の符の四枚に焦げ目を作る。
焦げ目が作られた四枚の符から同じように小さな紫電が発してそれぞれが周囲四枚の符に
焦げ目を作る。
四の四乗の四乗の四乗の・・・・
連鎖的に紫電は広がり三人を飲み込む巨大な雷球と化す。
雷球の中はたえず紫電が縦横に駆け巡る雷の嵐!
宙を舞う符を中継反射増幅しているのでアースも役に立たないだろう。
眩く光る雷球に照らされたシズネは眼を細めながら唇を歪ませる。
×闇の羽衣
↓
○常闇の羽衣
>57
セシリアが呼吸を整えていると、霧を裂いて何者かが襲いかかってきた。
とっさに槍を掴み、体の前に回して繰り出された一撃を受ける。
直撃を食らうのは避けられたが、タイミングが合わなかったせいで受け流すことは出来ず、後ろへ吹き飛ばされた。
空中で体をひねり、槍をついて着地したセシリアの目に、襲撃者の姿が映る。
鈍く光る甲殻、葉脈を透かしたような翅、角、そして額の目……。
悪魔と言えば誰もが納得するであろう容姿だ。
剣を収め、一度、深く息を吸い込み、細く吐き出す。
気配を探るが、目の前の悪魔以外には誰もいないようだ。
つまり――
「……それが本性か、アステラ」
セシリアは槍先を軽く揺らしながら問う。
しかし、向うが答えを口にする前にその揺らぎを止め、
疾風と共に鋭く突きかかっていった。
>67
雷撃で外も中もボロボロの一撃、大した威力も稼ぎ出せない。
形だけ吹き飛ばせても相殺できない衝撃もなく、相手は受身を取った。
解放した魔気が機械がショートしたかのような音を弾く。
徐々にダメージは回復しているが、本調子には程遠く―――
相手の突きを辛うじて体を捻って致命傷を避けるのが精一杯。
脇腹を槍が貫通する、激痛と脱力感が襲い掛かってくる。
だが、チンケなプライドも意地も捨て切っていない。
せめて一撃、いや掴めればと相手の首に手を伸ばす。
>64-65
風圧によって吹き飛ばされたレナスをシズネは軽々しく叩き落し、シズネは地に下りた。
>「やれやれ、舐めてんのかい?それとも(中略)七支を持つ者の仲間がこれじゃあ、あの二人も浮かばれないねえ。」
「…ッ!…貴様……!!」
シズネが突き付ける剣、それは紛れも無くマックスが持っている筈のブレードヒチシであった。
>「ちったあ楽しませておくれよぅ。でないと久しぶりにやる気出した意味がないだろう?
>三人束になって、持てる力出し惜しみせずにかかってきな!」
シズネの袖から次々に飛び出し続けていた符が雷を発した。
その雷は周囲の符へ飛び移り、それがまた周囲の符へ飛び移る。
…異常に気付いた時には、雷球の中へと閉じ込められてしまっていた。
>雷球の中はたえず紫電が縦横に駆け巡る雷の嵐!
>宙を舞う符を中継反射増幅しているのでアースも役に立たないだろう。
「…くっ!」
雷球の中を縦横無尽に走る雷撃、その発動を空気の変動で見極めてカイザーは後方へ飛んだ。
だが、一直線に進んでいた筈の雷撃が急激に進む方向を変えた。それは符の力によるものだ
急激な変化に対応できなかったカイザーは、その身に雷撃の直撃を許してしまった。
「………………!!…………!…………ッ!!!」
身体全体の粒子を駆け巡る雷撃に感電したカイザーは声を出す事も出来なかった。
そして、身体を駆け巡る雷は高温を生み出し、身体を内部から焼こうとする。
「……何故だ?……その剣を何故、貴様が持っている…?……答えろ!!」
感電しているのにも関わらず、カイザーは叫んだ。
そして、聖闘気の光を身体から発し、雷球の中を駆け出した。
「レナス、誓音!一箇所に固まるな!奴を取り囲むんだ!!」
そう言い放ち、剣を鞘から抜いた。
カイザーの聖剣に光の力が集い、それに加えて剣を蔽う様な電が発生した。
剣先から発せられる光の力は、雷球の一部分を吹き飛ばし、脱出口を作り出す。
「俺のこの身に受けた雷撃ごと受け取れ!!」
雷球から脱出したカイザーは、剣を大きく振り被り、シズネ目掛けて走り出した。
剣は放電による光のスパークを生み出し、そして大きく上空へと飛翔する。
落下の加速力を味方に付け、自分の両腕と剣に力を託し、シズネ目掛けて振り下ろす。
「ブレンテル流、闘気の剣と稲妻の力!
――――オーラスマッシャー・ライトニング!!」
いきなり聞き覚えがある声を聞き振り向くとそこにはカイザーがいた。
どうやら少々手荒い方法をとるらしい。怪物の手を地面に置き力を入れる誓音。
するとカイザーが何やら技を繰り出すと暴風が襲ってきた。
一瞬吹き飛ばされそうに鳴りつつなんとか堪える。
前を暴風に耐えつつ見るとレナスが宙を飛んでいた。
「ちょっ…!」
一瞬助けようとするが、敵軍の女が何やら布を一振り、するとレナスは布にぶつかり跳ね返った。
どうやら敵軍に救われたらしい。
>レナスを叩き落したあと、シズネも地に降りる。
>そして心底呆れたように哀れんだ眼で三人を見詰める。
>「やれやれ、舐めてんのかい?それともその程度の力で迷い込んできちまったおのぼりさ
>んなのかねい?
>七支を持つ者の仲間がこれじゃあ、あの二人も浮かばれないねえ。」
そう呆れた言葉を言うと女は袖から大量の符を出していた。
「…まぁそうですね。」
素直に受け付ける誓音。確かにこれじゃコント状態だ。
>「ちったあ楽しませておくれよぅ。でないと久しぶりにやる気出した意味がないだろう?
>三人束になって、持てる力出し惜しみせずにかかってきな!」
>啖呵を切ると同時に一枚の符が小さな紫電を発する。
そして誓音は静かに冷笑した。
「三人束になってか…出し惜しみしないと隠し玉が出ちゃうんですよね。」
地面に刺してた怪物の手がぐっとしなる。
―黒い箱部屋×40発動!―
すると突如レナス、誓音の周りを40人の悲鳴を含んだ箱部屋が囲む。
なんとかカイザーの方へ箱部屋を広げようとしたがどうやら遠くて囲むことができない。
(…カイザーさんの方へ届かない…か…)
一瞬すっと悟る。しかしこれでレナスと自分の身はある程度守れるはずだ。
この黒部屋は過去に誓音が使った防御技…しかし威力は40人…しかも殻が破れかけた今、以前より遙か上。
電撃と悲鳴が衝突する。ミシミシと天井が鳴る。
(っ…強化された箱部屋でもここまでダメージをあたえるとは……)
思わず苦笑いをする。すると黒い箱部屋の外から声が聞こえてきた。
>「……何故だ?……その剣を何故、貴様が持っている…?……答えろ!!」
>「レナス、誓音!一箇所に固まるな!奴を取り囲むんだ!!」
カイザーが叫ぶ。すると誓音は「そうですね…」と呟くとレナスに言った。
「今から電球を吹っ飛ばしますんで…しばしお待ちを。」
そう言うと地面に刺してた怪物の手を捻った。高速回転する黒き箱部屋…するとそれは竜巻状になっていく。
―黒き渦鎧!―
すると電撃は竜巻に巻き込まれ一瞬にして消される。消滅する悲鳴の竜巻。
「…私は正面行きます…」
呟く誓音、するとぐんっと悲鳴の手を女に伸ばしピタッと怪物の掌を向けた、
天から聞こえるカイザーの声…それとほぼ同時に誓音は女に笑顔を見せた。
―音撃!―
ドン!
鈍い音と共に女に向かって音の強力な衝撃波がでる。受ければ肋骨は粉々だろう。
>60
光の爪が刺客のローブを払い、宝玉のようなコアを露出させた。
一際強い魔力の渦巻く、恐らくは心臓部。打ち砕けさえすれば力を失うだろう。
エヴァンスは「爪」を戻し、拳へ魔力を集束させた。
>「だがエヴァンス、頭を割られて死なぬ存在が果たして普通の人間と言えるか?
「……まだ人間さ。
俺の力は人間の力だ、人間を侮った貴様に俺は殺せない」
左腕を腰につけて引き、右手は義手の手首に据えた。
「賢者の石」が発する無尽蔵の魔力が、真紅の熱気となってエヴァンスの鋼の腕を包む。
余剰魔力が軍用コートの表面をノイズとなって駆け巡り、翼が炎を噴く。
髪を濡らす血も立ち昇る闘気の陽炎に煙と散って、
「見せてやる」
エヴァンスが駆け出すと、翼の推進力で急加速する。
露出したコアを狙って繰り出すボディブローの拳圧が、通路に篭ったすえた空気を叩き出し、爆発音を立てる。
>62
>「………はっはっはっはっは……」
狂ったような笑いが響く、FALCONの物だ。・・・・・・ついに狂ってしまったか。
しかしFALCONは立ち続けていた。
様々な感情の中で、最も黒く危険な感情、『殺意』、それを直接浴びているにも関わらずだ。
眼の前の小さな存在、その中に潜む強大な『何か』。
化物もその何かを感じたのであろう、しかし表面には出る事は無かった。
そして静かに対峙する両雄。
――――化物が仕掛けた、居合い抜き。
妖刀の力と狂気と殺意と気狂いなまでの怪力が合わさった技。
しかしそれでも
――――――衝撃音。・・・飛び散る蒼い血飛沫
FALCONはそこに立っていた。
剣圧を発生させ化物の使うザジンの奥義の勢いを削ぎ、
更に気を体全体に纏いあの一撃を受け切ったのだ。
「・・・・・・・」
化物は呻き声も唸り声も上げなかった、感情など無い筈なのに相手の事を認識してるのか?
それともただ単に声を上げることが出来なかっただけか。
そして刀が何度も交差する、FALCONが斬り、化物が斬り。
コロシアムに響き渡る刃の音、狂った世界で唯一正確に聞くことの出来る命を刻む音。
そして互いの斬激が今一度激しくぶつかり合った。
まさに力vs力、弱い方が負け強い方が勝つシンプルな生物の原点。
刹那――――会場に走る閃光、耳を劈く様な爆音、吹き飛ばされる両雄。
やがて永遠に続くと思われた光は弱まり、闘技場の視界は晴れる。
そこに広がっていたもの、地面が抉れクレーターと化した地面、
お互い向かい会うように壁に衝突しているFALCONと化物・・・・・・。
果たして決着は・・・・・・最後まで立っているのは・・・・・?
ムクリと化物が上半身を起こす、体に奔る炎は勢いを和らげ静かに燃えている。
所々炎が消えてる部分があるが、何故か再生はしない。
何故だ・・・・・・。化物はゆっくりと起き上がると、周囲を見回す、そしてその視線は正面で止まった
視線の先には自分の向かい側で倒れているFALCONがいたのだ。・・・アレはまだ生きている・・・
「・・・・アァ・・・・・アア・・・?」
ゆっくり倒れている『それ』に向けて歩き出した瞬間である。
ビシッ・・・・・・何かがひび割れ砕ける音。足が止まる
見ると刀の刃が役目を終えたようにゆっくりと音を立てず零れ始めていた。
パラパラ・・・パラパラと、粉雪が舞うように静かに静かに。
破片は風に乗り宙を彩る、花吹雪の様に・・・・・・。
そしてそれは連鎖するように一つの現象を引き起こした。
「・・・・・・・!?」
ポツンと化物の体から人魂が出てきたのだ
一つだけではない一つ、また一つと徐々に数が増えて行き。
それは幾千万にもなり、やがて巨大な光の柱となりて音が消えた闘技場に溢れかえる。
妖刀陣刃交の破壊、それが指し示す答え。
それは化物に囚われていた魂達の解放・・・。
FALCONも化物の体もザジンの魂もその暖かい光に包み込まれた。
「・・・・・・?・・・・!?」
化物は目障りなのかそれを捕まえようとするも手をすり抜けてしまう。
そして魂たちは、倒れているFALCONを包み込むように集まると巨大な玉となった。
それを見ていた化物は倒れているFALCONに向かい腕を振り上げる、トドメを刺そうと言うのか。
しかし、その一撃はFALCONへは届かず、
逆にバチッと言う電撃が奔る音を立てながら光に弾かれてしまう
それでも諦めなかった、何度も何度も腕を振り上げ、何度も何度も弾かれる。
腕を突き刺す、バチッ!・・・腕を叩き付ける、バチッ!、・・・拳を振り上げる、バチッ!。
さすがに諦めたのか、傷がついた体を引き摺り後方へさがる。
どうやら場所を移そうとしているようだ・・・・・もっと殺意がある場所へもっと強い奴がいる場所へと
――――――――――――――――――――――――
光の中のFALCONの心に優しい声が掛けられた。
何重にも重なっている声だが、不思議と聞き分けることが出来る。
その声は男、女、子供、老人。魔族、動物・・・様々な声が混じっていた。
ただ一括して言っていることは同じだった。
『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』
『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』『ありがとう』
そして最初に入り込んだ少年の声が問いかける。
「君は誰よりも強いね・・・・使命を背負い、誓いに生きて・・・。
誰よりも優しい・・・・・義を忘れず、信頼すべきもののために戦う」
「これは私達を混沌から解き放ってくれた、せめてもの気持ち・・・。
君彼が使っていた半分の力を貸して上げる、戦いが終わるまで・・・僕らは君の力になってあげる」
「まだ僕らは輪廻に戻るわけには行かない・・・君が義に生きるなら僕らも義で返さなきゃ
・・・・って皆言ってるよ♪」
その暖かい光の玉がFALCONの中へ入り込もうとする。
>68
セシリアは踏み込むと同時に確かな手ごたえを感じた。
しかし、浅い。
アステラが体を捻って位置をずらしたのもあるが、
先ほどの打撃であばらを痛めた影響も大きいだろう。
痛みからすると折れてはいないようだから、
しばらく休んでいれば問題なく動けるはずだが……
その『しばらく』を与えてくれる相手ではない。
刺さった槍をどうにかする前に、アステラの手がセシリアの首に伸びる。
セシリアは咄嗟に槍を放して間合いを開けようとしたが、
一瞬早くアステラの手がセシリアを捉えた。
そのまま強烈に締め上げられ、声も出せない。
動脈からは少しずれているのですぐに意識がなくなることは無いが、
その代わりにひどく苦しむ羽目になる。
「ぐっ……放……っ」
セシリアは腕を絡めてアステラの腕を極めようとするが、
力がうまく入らず、そのまま手がぱたりと垂れる。
やがて薄暗く霞み始めた視界に、刺さったままの槍が映った。
奥歯をかみ締め、セシリアは即座に槍に命じる。
(行け!)
槍は竜巻を起こしながら飛翔した。
セシリアはそれに巻き込まれ、噴水まで吹き飛ばされたものの、
拘束から抜け出すことには成功する。
しかし、まず酸素を取り入れることに精一杯で、
周囲の状況の確認までは気が回っていなかった。
>72>73
とっても暖かい……
囚われていた魂達の感謝の気持と歓喜の想いが流れ込んでいる。
沢山の人が自分に言ってくれた。ありがとう……と。
>「君は誰よりも強いね・・・・使命を背負い、誓いに生きて・・・。
> 誰よりも優しい・・・・・義を忘れず、信頼すべきもののために戦う」
>「これは私達を混沌から解き放ってくれた、せめてもの気持ち・・・。
> 君彼が使っていた半分の力を貸して上げる、戦いが終わるまで・・・僕らは君の力になってあげる」
>「まだ僕らは輪廻に戻るわけには行かない・・・君が義に生きるなら僕らも義で返さなきゃ
> ・・・・って皆言ってるよ♪」
熱き魂の想いが力となってFALCONの中に入り込んでいく。
FALCONは再び立ち上がった。
辻斬りと決着を着ける為に。
「おい……どこに行くんだ?俺はまだ死んじゃあいねぇぜ……」
この場から去ろうとする辻斬りを呼び止め、FALCONは超化して黄金の気を噴出。
黄金の気は先程より力強く、暖かい。
「これはなぁ……お前に囚われていたみんながくれた力なんだ……
俺は負ける訳にはいかない……」
気合いを入れて、体全体に稲妻を伴った黄金の気を纏い、持っていた刀をクレーターと化した地面に突き刺す。
「地・水・火・風・光・闇」
眼前の空間に六芒星の魔法陣を描く。
魔法陣の各々の頂点には、魔術の基本属性が一つずつ配置されている。
そして、ありったけの気を込めた両手を重ね合わせて、銃のような形を作り、魔法陣に向ける。
「六星!!どどはめ波!!!」
体内の気を凝縮して放つどどはめ波が、魔法陣を貫いて、辻斬り目掛けて一直線に突き進む。
魔法陣を貫いたことにより、どどはめ波の威力が究極にまで高まり、虹色に輝いた。
>71
>「……まだ人間さ。
>俺の力は人間の力だ、人間を侮った貴様に俺は殺せない」
「フフッ、そうかも知れぬ。
だがな、エヴァンス……侮るのは貴様とて同じであろうが。」
>「見せてやる」
エヴァンスの放った一撃が露出したコアに当たる。
魔力でコーティングされた一撃は相当量のダメージを相殺した筈だが、
それ以上の物理ダメージによって臨界突破。
コアが紅く輝き、瞬時に闇のローブがコアを包む……が、その色もまた紅い。
コアに蓄えられた魔力が衝撃で罅割れていく。それに合わせて圧縮された魔力が
漏れでて仮初の器を徐々に満たしていく……魔力が飽和状態になれば、次の瞬間には
大爆発を起こすだろう事はエヴァンスには察知できた筈。それに巻き込むべく、
そんな状態でも正確無比な攻撃を繰り出しエヴァンスを捕らえようとする。
不覚にも、カイザーに吹き飛ばされたレナスは、無残にもシズネに叩き落された。
地面へと急降下し、顔からモロに着地した。
「ったぁ・・・、顔面から・・・」
しかし、不思議な障壁により、ダメージは最小限に抑えられたようである。
>「レナス、誓音!一箇所に固まるな!奴を取り囲むんだ!!」
「りょーかいっ、と。」
そう返事を返すと、レナスは一気にシズネへと跳躍する。
「私の残り少ない命・・・まだ貴様にやるわけにはいかないのよ。
そうそう・・・電気なら私も多少使えるよ?
・・・・エンチャント・モノヴォルト。」
すると、剣が凄まじい電気を帯び、やがてその一部が地面に放電され始めるほどになる。
端から見ると、まるで稲妻がシズネに向かっているような錯覚すら覚える。
「滅びよ!」
そのままカイザーと同時にシズネへと切りかかる。
――レナスの体が悲鳴を上げていた。先は・・・そう長くなさそうである。
>69>70>77
紫電に照らされながら、雷球の中をシズネ見ていた。
三人がどう対処し、どう動くか。じっくりと観察し分析してたのだ。
########################################
カイザーは電撃を喰らいながらも光の力で雷球を穿ち脱出し、飛翔する。
いかにも剛直な騎士の対処法だ。
仲間への指示も的確。
そして闘気と稲妻を纏わせた剣撃の威力は恐るべきものだろう。
誓音は悲鳴を使い結界を展開して雷を防ぐ。
念の篭った音による空気震動で空間断層を作ったのか・・・。
更に竜巻を発生させ、雷球自体を消滅させてしまう。
レナスは誓音の黒い箱部屋により回避行動をしなくて済んでいる。
雷球が消えた途端飛び出し、凄まじい電気を剣に纏わせ斬りかかってくる。
飄々としながらも鬼気迫る気迫をかもし出すのは、言葉通り寿命を悟った者故なのか・・・。
########################################
誓音の笑顔と共に音撃を繰り出された瞬間、シズネの眼は大きく見開かれ、柳眉が釣り上がる。
「どどのつまりは音だろう!このあたしに音で抗しようなんざ1000年早い!!鏡音陣!!!」
右手で七支刀を持ったまま、左手を後頭部に回して簪をまとめて引き抜く。
簪を叩き付ける様に正面に投げつけた。
シズネの正面にはいつの間にか符が数枚敷かれており、簪はそれぞれ符を貫くように石畳に突き
刺り、その姿を槍に戻す。
槍はシズネを守る柵のように立ち並び、震えだす。誓音の音撃を防いでいるのだ。
非力なシズネが使うための槍。
通常の槍とは違い、金属製ではあるが中が空洞になっている軽量型の槍だ。
貫いている符の効果もあいまって、丁度音叉の役割を果たす。
共振増幅反射・・・スピーカーの音をマイクが拾い続け際限なく音を増幅させ、やがてはスピーカー
が壊れてしまう。機械に限らず自然界でも日常的に起こる『音』の特性。
音撃はシズネの手前数十センチのところで鏡音陣により増幅され、やがて一気に反射する。
数倍の威力となった音撃は石畳を砕きながら誓音に襲い掛かる。
鏡音陣を敷いた後、きっと上を向きカイザーを睨む。
「受けとれだあ?わざわざ相手に受け取ってもらわないとい当たらない様な攻撃繰り出すなんざど
んだけ甘えん坊なんだっつうんだよ!
地に足も着いてない奴がほざくんでないよ!!」
怒鳴りつけながら常闇の羽衣の斥力結界を最大限に引き出す。
シズネの周辺の重力が遮断され、逆に斥力が働く。
それは当然、直上から落下するカイザーにも影響を与える。
重力による自由落下がなくなった今、カイザーはゆっくりと軌道を逸らしながら落ちてくるだけ。
足の踏ん張りようのない空中にあってはその剣撃もただの手振りの一撃。
更に剣に纏わせた稲妻は、鏡音陣の槍が避雷針の役割を果たし、吸い込んでいった。
「ハン!本当に優れた術者ってのはね、攻撃の倍の防御術を持っているもんなんだよ!」
そして飛び出てきたレナスに鼻で笑うように言い放ち、そのまま斬撃を受ける。
だが、その剣は届く事はない。
シズネの羽織る着物には免雷符の術式が裏打ちされており、レナスの剣から迸る稲妻と避雷針では
防ぎきれなかったカイザーの剣から放たれた雷を無効化していたのだ。
そして後は剣圧とのせめぎ合い。
手振りとはいえ、闘気を纏ったカイザーの斬撃の剣圧は凄まじく、レナスの剣圧もまた鋭い。
鋭く切り込む神剣と聖剣。それを弾こうとする常闇の羽衣の斥力結界。
そのせめぎあいの中でシズネの首筋に纏わりつく部分にほつれが出始める。
ほつれは常闇の羽衣の全体に広がり、やがてそれ自体が弾け飛んでしまう。
呪物崩壊の際には凄まじい反発力が生まれる。
それまでの斥力結界が数倍になり一気にカイザーとレナスを弾き飛ばしたが、シズネもまた同じように
弾き飛ばされる事になった。
##########################################
シズネは小さく宙を舞い、無事着地するがそれから数メートル勢いのままに轍を残しながら下がる事に
なった。
結果的に三人とは距離を空けられ、ほっとする。
追撃を受けては防ぐ手立てがないからだ。
だが、そんな窮地にも拘らず、表情には一切出さない。
むしろ妖艶な笑みを浮かべるのだ。
「こっちの大陸の奴らの技ってのはエフェクトが派手なだけで中身がないものばっかりなのかえ?
やれやれ、出し惜しみせずに来いって言ったはずなんだけどねい。言葉が通じなかったのかい?坊チャ
ン嬢チャンや。」
三人それぞれの顔と得物を見ながら失望の言葉をかける。
「・・・ああ、そうか。あんたらは騎士だったんだよねぇ。確か正々堂々な戦いと名誉に命をかける面倒な
生き物なわけだ。
くくくく、確かに女一人に三人じゃ全力も出しにくいってもんだわいねえ。
こりゃあ、あたしが悪かったよ。無理な注文つけてたわけだ。じゃあ・・・全力出せるようにしてやるえ?」
シズネの表情が怪しく明るくなる。
笑いをかみ殺せないような表情に。
その笑みが最高潮に達した時、足元の石畳を突き抜けて二本の砂で出来た柱が出現した。
高さ三メートル、幅一メートルの砂で出来た柱。
その中央にはそれぞれマックスとマリスの顔がのぞいている。
「そこの坊や、あたしがなぜ七支を持っているかって聞いたねえ。こういうことさ。
この二人とは意気投合しちまってね。こうしてあたしの味方になってくれたって訳さあ〜・・・あーっはっはっは!
さあ、これで三対三になったわけさぁ〜。遠慮無にやっておくれよう。
ただし、所詮は砂だしねい。簡単に中身ごと壊れちゃうから歯ごたえなかったらごめんよう?
悲しいけど戦争なのよねえ。遠慮せずに殺してやっておくれよ。」
さもおかしそうに高笑いするシズネ。
マックスとマリスは覗いている顔を残して砂と一体化しており、砂の柱を破壊すればその中の二人も死ぬ。
誓音には二人の心音が聞こえるかもしれないが、二人の意識はなく、ただ眠っているように動かない。
マックスを取り込んだ柱は誓音に、マリスを取り込んだ柱はカイザーに。
それぞれシズネを守るように火線上に浮かび立ちはだかる。
柱からは鞭状に伸びた砂が独特の軌道を描きながらカイザーと誓音に襲い掛かる。
#############################################
「さあて、ついさっき命を奪ってもいいって言ったのに、舌の根も乾かぬうちにやれないだなんて言う嘘吐きは
あたしが相手してやるとするかねい。」
カイザーと誓音の相手を砂柱に任せたシズネはレナスの前に歩み出る。
「残り少ない命の者は涅槃域の力を出せるってもんだがねい・・・。小細工弄してあたしに勝てるわけないんだ
から、ちったあ気合入れておいでよ。
あんたの手に持つその神剣は飾りなのかい?
全てを凌駕する神気の一閃ってのをおくれよ。そのくらいじゃないと楽しめないからねえ。」
静かにレナスに告げ、シズネはここで初めて七支刀を両手に持ち下段に構える。
その表情は巫女のシズネのものになっていた。
二人の間合いは一刀一足。僅かに動けばお互いに必殺の間合いとなる。
空気を凍らす闘気がシズネを中心に広がりつつあった。
>74
運よく首を掴む事ができた。そのまま締め上げる。
かつて『辻斬り』とやりあった時と丁度立場が逆。
もっとも、あの時とは色々と状況が異なっているが。
・・・本調子でないせいで掴む場所がずれた。オトすのに時間がかかる
=逃げられる可能性があると言う事・・・実際、腹に刺さったままの槍の力を
使って逃げられた。だがそれ以上に・・・間に合わなかった。
首元から覗いたロケット、あれさえ砕ければかすかに残った『アステラ』の
残骸を消し去って、完全に復活できたのに。チャンスはただ一度、
それを逃せばロケットに宿るアステラの家族の念が『アステラ』を揺り起こす。
そのチャンスをモノにする自信はあったが、結果は御覧の有様・・・『悪魔』は
再び自分を取り戻した『アステラ』の中に封じられていく。体組織は変化しないが、
魂は完全に『アステラ』に戻ってしまう。
そうした諸々の変化が祟って、アステラの姿も人間の姿に戻り、そして意識を失ってしまう。
五感が闇に溶け込んでいく・・・その闇の中に、自ら封じた幼き日々の記憶があった・・・
>75
>「おい……どこに行くんだ?俺はまだ死んじゃあいねぇぜ……」
ゆっくりと去り行く背中に声が掛けられた。
思った以上の元気な声、FALCONの声である。
化物はバっと振り向いた・・・感じる力が先程とはまったく違うことに気付いたのだ。
化物の視線先、その先にFALCONはいた、化物に匹敵するほどの力を身に付けて
体から溢れ出る黄金のオーラは力を増し、
その姿は神々しく見るものを圧倒するかのようように・・・・。
>「これはなぁ……お前に囚われていたみんながくれた力なんだ……
> 俺は負ける訳にはいかない……」
>「地・水・火・風・光・闇」
相手は地面に獲物を突き刺し、力を溜め始めた。
宙に浮かんだ魔法陣を通しその気は更に力を増しFALCONへと集中する
全力でこの殺意の化物とぶつかるつもりなのか?
化物は何も言わず腰を低く落とし身構えると、左腕を腰に構えた。
「・・・・・・・グルルゥゥゥゥウ!!!!。」
地を揺るがすような低い唸り声。
それと共に体全体に力を入れる、体中の炎が再び黒く燃え盛り化物包み込む。
殺意が城内、城外、そして城下で展開されてる戦場から・・・殺意が黒いオーラとなりて
戦場に舞う殺意が今この化物に集中し始めているのだ。
>「六星!!どどはめ波!!!」
虹色の波動が放たれた、それは魔方陣の力を
集めた殺意を左腕に集中、瞬時に燃え盛る巨大な球体が現れた。
それは化物の中に蠢く『殺意の塊』。
左手を腰の回転に任せ思い切り前に突き出す。
――――――『殺意砲』
球体が巨大な黒い柱となりて放たれた。
まさにその勢いは波動砲の如く、虹色の波動目掛け突き進み。
そしてFALCON『達』のどどめ波と衝突した。
再び闘技場を揺るがすほどの轟音と衝撃が響き渡る。
地にひびが入り、空気は振るえ、突風が吹き荒れた。
魂と魂のぶつかり合い。
虹色の波動と黒い波動は互いに押し合い、一進一退の攻防を繰り広げる
しかし体中の殺意を波動砲に集中させた結果、化物にある変化が現れた。
黒焔が波動砲に集中して行くにつれ、
体を纏う黒き炎が徐々に薄くなっていくのだ。
そして、胸元に纏いし炎も薄れた時、『それ』は現れた
赤黒く光る心臓。
まさにこの化物の機動力である『殺意』の中心、
その心臓に戦場の黒い殺意がオーラとなりて集まり力となるのだ
それは突き刺した狂気の刀『鬼葬』が変化した物である、
つまり化物は図らずとも弱点を晒す形となってしまったのだ
その時化物に誰かが声を掛けた。
『へへへっ・・・気ぃ抜いたな『辻斬り』ィ!』
ザジンの魂である、
『このまま消えるも性にあわへん・・・FALCONが頑張ってるんや・・・ワシもやらなあかんでぇ!!』
ザジンの魂は勢いを付け、紅く脈打つ心臓目掛け飛び込んだ。
この体は元よりザジンだった物、本来ならば精神を物にする事は可能である。
しかし、かつてはこの化物が纏う殺意に阻まれていたのだ。
しかし辻斬りの消耗が激しくなった今
この化物から精神を取り戻すのも容易になるだろう。
魂が心臓の中に入ると、化物の反応は見る見る内に変わり始め
それもその筈、化物の体の中にザジンの感情が流れ込み始めたのだ。
それは化物の殺意を乱し、全身に迸る力を抑え始めた。
黒き炎、そして殺意砲の勢いが徐々に落ち初める。
勢いが削がれる、それ即ち・・・・・
――――――――刹那虹色の柱が化物の体を貫いた。轟音が轟く
「グルゥ!?・・・ガァッ!、アァァァァァ・・・・アァアアアァアアアア!!!!???」
化物の断末魔の叫びがコロシアムに木霊する。
それは痛みや苦しみを持った呻き声
殺意の心臓は光に飲み込まれ・・・・消えた。
心臓が消えた事によりコロシアム内が強大な黒い光に包まれる。
行き場を失った殺意が砕け散ったのだ。
やがて光が止み視界が開ける。そこに広がっていたもの
黒いオーラは消え、先程まで張り詰めた殺意が嘘の様に身を沈めた。
中央に何かが倒れこんでいる、それは辻斬りの亡骸であった。
吹き飛んだ下半身、大きく穴が開いた上半身。消えた左腕。
その亡骸がゆっくりと顔を上げた。
「へへへっ・・・・よゥ・・・やったのォ・・・FALCON・・・・・。」
辻斬りはザジンに戻っていた。
「ゲヒャ・・・・・・・オマエ・・・・ホンマ化けモンやなァ・・・・正直ビックリしたデェ・・・。」
明るく振舞うが、放たれたのは今にも消え入りそうな声。
「アアァ・・・ワシャぁな嬉しゅうて堪らン・・・最後の最後で・・・体を取り戻せたンやからなァ。」
頬を何かが伝う、流す事が出来ない筈の涙。
「オオキ・・・ニな・・・FALCON。悔しいガ礼は出来そうになイわ・・・。
ワシゃぁ大罪を犯してモうた、もう輪廻に・・・戻れハせん・・・・・。」
残った右手には何かが握られていた。
「セやが・・・悔しゅう無い・・・ヘヘヘッ・・・・オマエ見たいな武人に見取られ死ぬンや。
サタンの親父様に恩を返せなかったンが心残りやがなァ・・・。」
ゆっくり右手でそれをFALCONに投げた、
それはザジンが大切にしていた黒塗りのサイコロ。
「オマエが持ってケ・・・・ワシにャもう・・・必要ないンやからな・・・・・・。」
投げた右腕が崩れ始め、それはやがて全身へと及ぶ。
「FALCONよォ・・・オマエは立ち止まるンや無い・・・・・何があってモ進んでケ。
自分を・・・・見失ったらアカンでぇ・・・・・ゲヒャ・・・。」
ポロポロと崩れる体は止まらない。
体が限界を迎えたのだ。
「人生悩んだモンは負け、楽しんだモンは勝ちや・・・・。」
「ほな・・・今度は『地獄』で・・・・・・遊ぼうヤ・・・・。」
そこまで言い残すと、残っていたザジンの体は役目を終えたように崩れ落ちた。
砂塵となった体は風に吹かれ静かに舞い上がる。
それは何かを労うように・・・
それは何かに謝るように・・・
そして何かに感謝するように・・・
ついにファル辻が終わったか、二人とも乙
ダントツに面白かったよ
誤爆スマソ
>82>83
辻斬りは左腕を腰に備えて低く構え、低い唸り声を上げながら、漆黒の炎を身体中に噴出させる。
様々な場所から負の力が集まってくる。
その力の名は……殺意。
辻斬りは殺意を全てその左手に集めていく。
現れる漆黒の球体。
左腕を腰の回転を使って突きだし、漆黒の球体は光線となって虹色の気弾に向かって突き進む。
激突する究極の力。
片方は虹色の想いと力の詰まった気功弾。
もう片方は全てを飲み込む漆黒の殺意の波動。
互角。
どちらも一進一退の押し合い。
永遠とも一瞬とも言える攻防に変化が起こった。
辻斬りの体の炎が、時が立つと共に、だんだんと薄くなっていく。
胸元の炎が薄くなった時、それは現れた。
辻斬りの心臓。
「く……くくく……あの化け物にも心臓があったとはな……」
心臓が露出している今の内に、辻斬りの心臓に強力な攻撃がぶち当たれば、かなりのダメージを与えられるはずなのだが……
FALCONは殺意の閃光を虹色のどどはめ波で抑えるのが精一杯。
ザジン達は魂だけの存在で、他に仲間はこの場にはいない。
だが……
「ザジン?」
ザジンの魂が辻斬りの心臓に入り込む。
次の瞬間、辻斬りの様子が変わっていった。
辻斬りの気の流れが乱れ、力が弱まっていく。
殺意の閃光が弱まった……
「はあぁぁぁぁ!!!」
全身全霊の雄叫びと共に、更に勢いを増していくどどはめ波。
殺意の閃光を飲み込んで、虹色の閃光と化したどどはめ波は、辻斬りの体を貫いた。
辻斬りの体を貫いたどどはめ波は、コロシアムの壁をも貫き、どこかへ飛び去っていく。
辻斬りの断末魔の叫びがコロシアム内に響き渡り、黒い閃光がコロシアムを照らした。
黒い閃光が止み、殺意の波動が消えた時、辻斬りはコロシアムの中央で倒れていた。
上半身に大穴が空き、左腕と下半身は消失している。
辻斬りが顔を上げた。
>「へへへっ・・・・よゥ・・・やったのォ・・・FALCON・・・・・。」
辻斬りではない。ザジン。
>「ゲヒャ・・・・・・・オマエ・・・・ホンマ化けモンやなァ・・・・正直ビックリしたデェ・・・。」
>「アアァ・・・ワシャぁな嬉しゅうて堪らン・・・最後の最後で・・・体を取り戻せたンやからなァ。」
今にも消え去りそうな声で、流せないはずの涙を流すザジン。
>「オオキ・・・ニな・・・FALCON。悔しいガ礼は出来そうになイわ・・・。
> ワシゃぁ大罪を犯してモうた、もう輪廻に・・・戻れハせん・・・・・。」
>「セやが・・・悔しゅう無い・・・ヘヘヘッ・・・・オマエ見たいな武人に見取られ死ぬンや。
> サタンの親父様に恩を返せなかったンが心残りやがなァ・・・。」
右手に握っていた何かをザジンはこっちに投げ渡す。
黒塗りのサイコロだ。
>「オマエが持ってケ・・・・ワシにャもう・・・必要ないンやからな・・・・・・。」
ザジンの形見である大切なサイコロ。
ザジンは自身の全てを俺に託してくれた……
>「FALCONよォ・・・オマエは立ち止まるンや無い・・・・・何があってモ進んでケ。
> 自分を・・・・見失ったらアカンでぇ・・・・・ゲヒャ・・・。」
>「人生悩んだモンは負け、楽しんだモンは勝ちや・・・・。」
>「ほな・・・今度は『地獄』で・・・・・・遊ぼうヤ・・・・。」
ザジンの体は崩れ落ちて、灰となった。
風が……崩れ去ったザジンの体をどこへともなく運んでいく。
「お前は凄かった……
たった一人であんな化け物を体の中に抑え込んで……
今度は……地獄でまた戦おう……
またな!!」
天を見上げ、弔いの言葉を語り掛ける。
きっと、届いているはず……地獄で俺のことを待っている宿敵に……
翼を消して、コロシアムの観客席まで吹き飛ばされていたコートを着て、コートの内ポケットにサイコロを入れる。
無駄な体力の消費を避けるため、超化を解いて歩き出す。
目指すはサタンのいる場所。
また一つ、負けられない理由と想いを手に入れて強くなったFALCONは、近くにあった空間を繋ぐゲートに入る。
例え、どんな敵がこようとも…苦難が待ち受けていようとも……
「俺は突き進んでいくだけだ」
>81
咳き込みながら荒い息をつくセシリアの前に槍が戻ってきた。
それを掴んで杖代わりにし、立ち上がる。多少足元がふらついたが深刻なダメージは残っていないようだ。
とはいえ、服のあちこちから青臭い水が滴り落ちているのにはいささか閉口するが。
息を短く吐き出して槍を構える。アステラは仕掛けてこない。
左右に目をやる。アステラの姿は無い。
構えながら後ろへ向き直る。そこにアステラの姿があった。
すでに悪魔の姿ではなくなっているが、まだ息はあるようだ。
大量の血が石畳と土に染みを作っているものの、新たな出血は無いらしい。
おそらく悪魔の状態では非常に高い治癒能力を持っていたのだろう。
セシリアはまず服についた水を操作してすべて噴水に戻し、
次いでアステラに歩み寄って槍を突きつけた。
喉に触れるか触れぬかのところで穂先は止まり、そのまま暫し。
セシリアは無言で槍を引いた。首に手をやり、かけていたロケットを外す。
アステラの傍らにしゃがみこむと、その手にロケットをしっかりと握らせた。
「……ちゃんと返したよ」
アステラの目蓋に落ちかかった前髪を横へ払ってやりながら声をかける。
おそらく聞こえてはいないのだろうが。
差し当たってこれからどうするか、とセシリアは考えた。
仲間の様子を見に行くにしろサタンの元へ行くにしろ、空から行ったほうが早い。
恐らくサタンは玉座の間にいるはずだ。直接乗り込む事は出来なくても、近くまでは行けるのではないだろうか。
立ち上がって上を見る。
丸く切り取られた空には急速に雲がかかり始めている。
戦場の喧騒が風に乗ってかすかに届く。
それよりもだいぶ近いところで戦闘をしているような音も聞こえた。
セシリアは真っ直ぐ上に飛ぶ。中庭を出る直前で一度止まり、足下を見た。
「次に会うのは金の雄鶏の元、かしら」
アステラへの手向けとも自身の覚悟の表れとも取れる言葉を呟き、セシリアは中庭を後にした。
上げるでよ
>78>79
>誓音の笑顔と共に音撃を繰り出された瞬間、シズネの眼は大きく見開かれ、柳眉が釣り上がる。
>「どどのつまりは音だろう!このあたしに音で抗しようなんざ1000年早い!!鏡音陣!!!」
>右手で七支刀を持ったまま、左手を後頭部に回して簪をまとめて引き抜く。
>簪を叩き付ける様に正面に投げつけた。
>シズネの正面にはいつの間にか符が数枚敷かれており、簪はそれぞれ符を貫くように石畳に突き
>刺り、その姿を槍に戻す。
>槍はシズネを守る柵のように立ち並び、震えだす。誓音の音撃を防いでいるのだ。
一瞬誓音ははっとした表情をする。
まさかこうも簡単に防がれるとは…、跳ね返ってきた自分の攻撃に直撃する。
割れる肩…誓音は自分の攻撃を受け、空中に飛びながらため息を一つ付くと地面にたたきつけられた。
暫く寝転がったままの誓音。
「…まさか…こうも簡単に…ね…」
そう静かに言うと、誓音は立ち上がった。表情は笑顔、しかしどことなく邪気を込めている。
「さっきのあの水女といい…あの女といい…。」
静かに怪物の手じゃないほうの手で刀を抜く誓音…
その間、当のあの女はレナスの攻撃をうけ、少し飛ぶと挑発してきた。
>「こっちの大陸の奴らの技ってのはエフェクトが派手なだけで中身がないものばっかりなのかえ?
>やれやれ、出し惜しみせずに来いって言ったはずなんだけどねい。言葉が通じなかったのかい?坊チャ
>ン嬢チャンや。」
>「・・・ああ、そうか。あんたらは騎士だったんだよねぇ。確か正々堂々な戦いと名誉に命をかける面倒な
>生き物なわけだ。
>くくくく、確かに女一人に三人じゃ全力も出しにくいってもんだわいねえ。
>こりゃあ、あたしが悪かったよ。無理な注文つけてたわけだ。じゃあ・・・全力出せるようにしてやるえ?」
>シズネの表情が怪しく明るくなる。
しかし誓音は全然愉快じゃない。
同じ笑顔でも誓音の笑顔は明らかにむかついている。
すると足下から二本の砂柱が出てきた、見てみるとそこにはマックスとマリス。誓音の表情が無表情になる。
>「そこの坊や、あたしがなぜ七支を持っているかって聞いたねえ。こういうことさ。
>この二人とは意気投合しちまってね。こうしてあたしの味方になってくれたって訳さあ〜・・・あーっはっはっは!
>さあ、これで三対三になったわけさぁ〜。遠慮無にやっておくれよう。
>ただし、所詮は砂だしねい。簡単に中身ごと壊れちゃうから歯ごたえなかったらごめんよう?
>悲しいけど戦争なのよねえ。遠慮せずに殺してやっておくれよ。」
一瞬何かがぷちっと切れる音がした。
するとマックスを取り込んだ砂柱が突如鞭状に伸びた砂が襲ってくる。
さっきのあの水女といい…この女といい…一つため息をつく。
「なんでこうも上手くいかないんでしょうかね。」
そう静か刀をしまい手で顔を抑えにくすっと笑うと、誓音の足下から黒い悲鳴が吹き出した。
消滅する砂の鞭…すると次の瞬間誓音はシズネの方へ掛けだした。
しかし尚も砂が壁を作り誓音を跳ね返す。誓音は砂の攻撃を受けて暫く考える。
(っ…やはりあの柱をどうにかしなければですね…)
すると今度はマックスの方へ走り出した。
「心臓音がしてるという事は…」
再度襲ってくる砂の鞭を今度は怪物の手を振りあげかわす。
「ねているだけ…って事なんですね。」
飛び上がる誓音。刀を握ってた手は拳を握ってる。
「なら…目を覚めさせるだけです。」
砂の鞭が誓音の四肢を掴み罅を入れる。すると冷たい目つきになった。
「どけ。」
そう言った途端誓音ははいったばっかの罅から悲鳴を発射、再度消滅させるとぐんっとマックスの顔に近づいた。
「貴方が眠ってたらどうにもならないでしょうが…」
きっと目つきが変わる。
「いい加減目を覚ましなさい!!」
と叫び顔面もろパンチ!マックスの顔面には当たった物も誓音は背後から素早くやってきた鞭に再度吹き飛ばされた。
今度は地面に当たらず。しっかりと着地する。
これで目が覚めたのだろうかはたまた逆効果か…?
結局アラストルはエヴァンスを完全には捕らえられなかった。
もっとも、かなりの近距離で自爆したのでいかなエヴァンスと言えども
無事では済まないだろう。だが、自爆した辺りから
エヴァンスの気配が完全に消えた……魂がその場に漂っていないので
死んでいないのは分かるが、どうやら潜伏したようらしい……往生際の悪い。
闇討ちでもするつもりなのかはたまた。すぐにどうこうと言う気はないか?
闇が戻ってきた……エヴァンス相手に仮宿であそこまでやったのだ、
文句はあえて言うまい。手をかざして我が内に戻す。
>78-80
雷を纏った聖剣技は防がれ、カイザーは弾き飛ばされた。
宙を舞う身体を上手く反転させ着地に成功するものの、シズネとの距離は離れており、追撃は出来ない。
>「こっちの大陸の奴らの技ってのはエフェクトが(中略)言葉が通じなかったのかい?坊チャン嬢チャンや。」
>「・・・ああ、そうか。あんたらは騎士だったんだよねぇ。(中略)じゃあ・・・全力出せるようにしてやるえ?」
敵がそう言うと、地面から何かが突き出てきた。
その何かが砂の柱だと理解できた数秒後、カイザーは驚愕する事になる。
砂の柱の中央部には、マックスとマリスの顔が覗いていたからだ。
>「そこの坊や、あたしがなぜ七支を持っているかって聞いたねえ。(中略)遠慮せずに殺してやっておくれよ。」
「女では初めてだな…全力でぶん殴ってやりたい奴ってのは」
二つの柱のうち、マリスの顔が覗いている柱がカイザーの目の前に立ちふさがった。
(…敵の女はヒチシを持っていた…という事は、マックスが捕らわれた可能性は十分にある。
……マリスだけ偽者を用意するとは考えられない。…やはり、あれはマリス本人か。手出しは出来ないな)
怒りに震えている筈なのに、思考は冷静そのものであった。
>柱からは鞭状に伸びた砂が独特の軌道を描きながらカイザーと誓音に襲い掛かる。
大きく後ろへ跳び、砂の鞭の射程範囲外へと移動する。
「…く、マリスが目を覚ましてくれなければ手出しは不可能か…!!」
万が一の事があってはいけない。マリスの無事の為にその場から動くことが出来ない。
「…他人に任せるのは性に合わんが、ここは任せるしかないか」
対峙しているレナスとシズネを遠目から見る。
この場面でカイザーがすべき事は仲間の無事を優先することである。
>88
10年前・・・姉に連れられてオーガスに来た時の夢。
誕生日に姉からプレゼントされた、当時の大事な物を不注意で
どこかに落としてしまって・・・泣きながら探してる夢。
思いつく限りの心当りを回っても見つからず、そもそも初めての土地で
一人出歩けば、当然迷う。探し物も姉も見つからず、無様に泣いてた・・・。
そんな俺を、見ず知らずの少女が助けてくれた。一緒に探してくれて、
プレゼントを見つけられた、と言うか見つけてくれた。
俺一人じゃ絶対見つけられなかった・・・姉を探してる間、寂しくないようにと
一緒にいてくれたその少女も、騎士を目指してた。その頃からだ、
より強く騎士になりたいと思うようになったのは。
何よりも・・・少女の少しそっけない態度(と言うか不安な気持ちが伝染ったのかもしれない)
が印象的だった。見つけてくれた時、こう言われたんだったな・・・『……ちゃんと返したよ』・・・!?
耳元で聞こえたような気がして飛び起きる。塞がり切ってない脇腹の傷が酷く痛む。
血が不足している事から来るだるさで吐きそうになった。その手には、
渡した筈のロケット・・・そうだ、俺はセシリアと戦って敗れたんだ・・・
味方として戦っていた時よりもはるかに強かった。背負う物の違い、だろう・・・。
同時に思い出した、大切な事を・・・家族の事を思い出すからと、自分で隅に追い遣った
とてもとても大切な・・・返されたロケットを首にかけ、俺は行く。
目指すは地下の魔法陣。魔素のせいで空間が歪み、密閉された筈の地下への通路が
出来てしまったのは皮肉な話だが・・・もう、見失ったりはしない。倒すべきはサタン、
その為に俺は潜入した筈だったのに。
腰の妖刀には何の魂も宿っていない。切り離すとか移し変えるとか、
そう言う事ができる状態じゃなかった。これに魂を封ずる力があるなら、
尚の事みだりに使う訳にも行かない・・・目指すは地下闘技場、最奥部に
地下魔法陣・・・一年前の戦いの場である地下神殿へ通じる歪みがある。
>63
空間を繋ぐゲートを通り、FALCONは謁見の間に通じる廊下に現れた。
謁見の間にサタンがいるかどうかは分からない。
だが、可能性としてはここが一番高いはず。
自分や親父ではあるまいし、腹ごしらえの為に食堂にいるっていうことはないだろう。
人の気配のない廊下を歩いていく。
辺りを見ると、装飾はあまり変わってはいないが、所々に戦いの痕跡がある。
サタン達が攻めこんだ時に付いた傷なのだろうか?
しばらく歩いていると、遂に、謁見の間の前にまで到着した。
長かった……
長かったようで短い一年間。
とうとうオーガス城をこの手で取り戻す時が来たのだ。
幸い、中で戦いの気を感じてはいない。
おそらく、自分が一番乗りだろう。
謁見の間に入ろうと、扉に手を伸ばそうとした時、不意に視界に扉の片隅で座っている人の姿が映る。
視線を移すと、見知らぬ男が座っている。
その横には前に魔法陣破壊の際に戦った女性、冴波が寝そべっていた。
「誰だ……あんたは?
俺の敵か?それとも、味方か?」
一応、男に聞いてみる。
敵であったならば容赦はしない。
叩き潰すのみ。
>95
この場所に居座ってから暫く・・・
数回、闘気の衝突を感じて待っていると
空気がビリビリと震える。どうやら恐ろしく強い人が来たらしい。
そういえば、妹の記憶にあったねぇ。FALCON・・・だったかな?
>「誰だ……あんたは?
> 俺の敵か?それとも、味方か?」
「うーん。そうだねぇ・・・究極的にはどちらでもない、かな。
妹は魔王軍に入った以上、君の敵だろう。
僕は傍観しているつもりだよ。僕と同じような事をしようとしている魔王。
そのやり方と行く末に僕は興味があるんだ。」
凄まじい迫力が周囲の壁にまで圧力を加えている。
けれど、泰然自若とした姿勢を、微笑みを崩さない。
「でも、捉え方次第では敵だろうね。
僕はこの子の兄だし。それに先程ね、君達と一緒に入ってきた兵士達を・・・
4、5人『消却』したからね。襲いかかってくる上に喚いていてうるさかったな。
実力が段違いだというのに君達についてくるなんて自殺願望でもあったのかな。」
ジジッ・・・と、体にノイズが走る。
「そうそう、まさかこのままいきなり魔王サタンと一対一!なんて考えていないよね?
いくら強くなってもサシでやり合って犠牲も無しに勝てるほどあの人は弱くはないはずだよ。
ウォーミングアップに僕と戦うにしろ戦わないにしろ暫く仲間を待ったらどうだい?
来られるかどうか保障はしないけど、さ。」
>96
>「うーん。そうだねぇ・・・究極的にはどちらでもない、かな。〜略〜そのやり方と行く末に僕は興味があるんだ。」
敵でも味方でもない、傍観者。
それにしても、サタンと同じことをしたということは、世界征服でもしたのだろうか?
>「でも、捉え方次第では敵だろうね。〜略〜君達についてくるなんて自殺願望でもあったのかな。」
男は微笑みながら会話を続ける。
分かったことは、冴波の兄だということ。
ならば、この者もまた冴波なのだろう。
同盟軍の者を殺したというが、殺されたのは一緒に入ってきた名の知れぬ雑兵だろう。
仲間達がそう簡単にやられることは絶対にありえないからだ。
>「そうそう、まさかこのままいきなり魔王サタンと一対一!〜略〜来られるかどうか保障はしないけど、さ。」
普通にサタンと一対一で戦おうと思っていた。
何故ならFALCONは武道家だからだ。
確かにサタンは最強の敵。
仲間を待ってから戦いを挑むべきなのだろう。
だが、目の前の極上の料理をお預けされて、我慢できる程、FALCONは忍耐深くない。
「冴波さん。心配してくれるのはありがたいが、俺は仲間を待つつもりはない。
俺は早くサタンを倒して、オーガス城を取り戻したいんだ。
それに、一人で戦うつもりはない」
冴波兄の方を微笑みながら見つめ、右手を差し出す。
「傍観者も暇だろ?一緒に戦わないか?」
>97
>「冴波さん。心配してくれるのはありがたいが、俺は仲間を待つつもりはない。
> 俺は早くサタンを倒して、オーガス城を取り戻したいんだ。
> それに、一人で戦うつもりはない」
>「傍観者も暇だろ?一緒に戦わないか?」
「冴波?ふふ・・・冴波はこの子の名前だよ?
間違いを訂正しよっか。元々、僕やこの子には名前なんてないんだよ。
僕らを識別する呼称は一つずつ。『虚』と、『水』。
ただ、それだけなんだ。それだと虚しいからって先生は名前をつけてくれたんだけど・・・。
先生は僕の事は知らなかったから僕は未だに名無しなんだ。」
微笑みは途切れない。心底この状況を愉快に思っているらしい。
「暇と言えば暇なんだけれど・・・この戦いが終われば、ね。
僕は君達とは、あるいは魔王ともスタンスが違う。
この戦いが終わり、僕達がこの世界から『追放』されない限り・・・
<僕はこの世界の生命全てを殺す>だろうね。」
その言葉を発した瞬間、『兄』の周辺の空気だけが凍りついた。
まるで時が止まったように・・・。
「世界の生命全てを殺す。それが僕の役割<ロール>なんだ。
今はもっと面白い事が起きてるからしてないけどね。
これで分かったかな?僕は君達と一緒には行けないんだ。
もしかしたら、この戦いが終わったら都合良く世界が追放してくれるかもね。」
かつてFALCONが見た冴波の憂いや悲しみを帯びたような顔ではなく。
ただ、そこに浮かぶ感情は喜怒哀楽の『楽』。
「行くのならば止めないよ。一つ言うなれば彼はいまとても怒っているだろうね。
なんせ部下が余り役に立てなかったから。」
その言葉と共に、周辺の壁は姿を消した。
入り口と謁見の間へと続く二枚の扉を残し、周辺は雪の降る雪原へと姿を変えた。
「あはは、僕のココロの影響が出ちゃったね。まぁいいや。いってらっしゃい。」
屈託の無い笑顔で手を振る。
その笑顔の向こうでは何を企んでいるのか・・・
>98
>「冴波?ふふ・・・冴波はこの子の名前だよ?〜略〜先生は僕の事は知らなかったから僕は未だに名無しなんだ。」
名前が無いらしい。
理由は分からないが、名前が無いのは非常に寂しいものだ。
>「暇と言えば暇なんだけれど・・・この戦いが終われば、ね。〜略〜<僕はこの世界の生命全てを殺す>だろうね。」
周囲の空気が止まったような感じがした。
この男はまるで何でもないかのように、この世界の全生命を殺すと言った。
>「世界の生命全てを殺す。それが僕の役割<ロール>なんだ。〜略〜この戦いが終わったら都合良く世界が追放してくれるかもね。」
笑いながらこの男は言っている。
世界の全生命を殺すのが自分の使命だと。
狂っている。
サタンや他の魔王様達だって、絶対にそんなことはやらないだろう。
FALCONの脳裏に警報が鳴り響く。
この男は危険だと。
>「行くのならば止めないよ。一つ言うなれば彼はいまとても怒っているだろうね。
> なんせ部下が余り役に立てなかったから。」
>「あはは、僕のココロの影響が出ちゃったね。まぁいいや。いってらっしゃい。」
周囲の壁が消え失せて、辺り一面は雪原に変わる。
残ったのは入り口と謁見の間に通じる扉と、自分とこの男のみ。
「ったく…こんなスケールの大きな戦いは母さんや父さんや師匠に任せりゃいいんだけどな……」
笑いながら自分に手を振る男を見つめ、気を開放する。
黒いオーラがFALCONの体を鎧の様に覆っていく。
「予定変更だ。サタンを倒す前に、俺はお前のやろうとしてることを止めてみせる。
お前が全生命を殺す前に、俺がお前をぶっ倒したら、お前は役割を果たすことはできないだろ。
たまには世界の平和を守る為の戦いってのも、面白そうだしな」
サタンよりも危険かも知れないこの男を、野放しにしておくと世界が危ない。
事態を引き起こす前に倒しておくのがベストだろう。
>99
>「予定変更だ。サタンを倒す前に、俺はお前のやろうとしてることを止めてみせる。
> お前が全生命を殺す前に、俺がお前をぶっ倒したら、お前は役割を果たすことはできないだろ。
> たまには世界の平和を守る為の戦いってのも、面白そうだしな」
どうやら相手をやる気にさせてしまったらしい。
照れたような笑みを浮かべて頭を掻く
「あらら、ちょっと余計な事まで言っちゃったかな?
失言失言。僕もまだ死ぬつもりはないからなぁ・・・。
<封印解除>」
ふっ・・・と体が霧のように霧散し、FALCONの後方に出現する。
冴波の体はそこに置き去りにして。
白い雪が舞い降りる雪原に白いケープを羽織った姿はさながら一枚の絵画のよう。
ただ、彼が破滅の意思を持つことを除けば・・・だが。
「因果なものだね。始めは生物が星の害となるから僕は作られたのに。
今度はその生物の害として僕は排除される運命を負う。
いわゆる前哨戦。肩の力は抜いた方がいいよ。」
ケープの裾をはためかせ、構えを取る。
それは居合いの型。右足を前に、左手は腰に添えて右手は左手の延長上に。
だが、剣も鞘も持たずにただ素手でその構えを取っただけで何の意味があるのだろう?
「『戦闘意思を感知。命題:目標の無力化あるいは消却』・・・<死線>起動。
戦う心算ならしょうがない。中々楽しそうな人だけど・・・さよなら。」
唐突に音も無く、FALCONと『兄』の間の雪が抉れた。
FALCONから見て、左から右へ『兄』を中心に据えた弧の形に、だ。
それはつまり、『何かが通り過ぎて、間にある物を消した』ということ。
耳が痛くなる程の静寂を微塵も揺るがすこともなく・・・。
助走するように更に数本の弧を雪に描いた後、見えない『消滅』の壁が左側からFALCONに襲い掛かる!
>100
>「あらら、ちょっと余計な事まで言っちゃったかな?
> 失言失言。僕もまだ死ぬつもりはないからなぁ・・・。
> <封印解除>」
男の体が霧のように消え去る。
逃げたのか?……いや。
>「因果なものだね。始めは生物が星の害となるから僕は作られたのに。
> 今度はその生物の害として僕は排除される運命を負う。
> いわゆる前哨戦。肩の力は抜いた方がいいよ。」
振り返ると、後ろに男が構えていた。
居合いの型。
ただし、何も持っていない。
>「『戦闘意思を感知。命題:目標の無力化あるいは消却』・・・<死線>起動。
> 戦う心算ならしょうがない。中々楽しそうな人だけど・・・さよなら。」
コートから漆黒の短刀を取り出し、不敵に笑う。
「さよならと言ったのは……お前が死ぬからか?」
男とFALCONの間の雪が弧の形を描くように削り取られる。
何らかの術の一種なのだろう。
見えない何かは雪を弧の形に削り取っていき、一本一本とその軌跡を雪原に残していく。
その軌跡は段々とFALCONに近付いていき、削り取っていく何かは、横からFALCONに向かっていく。
FALCONはその場から跡形もなく消え去った。
いや、消え去ったように見えた。
男の右方向に突然FALCONは現れ、長く延びた刀を振るう。
剣閃は閃光の如く、男の首を跳ねようと軌跡を描く。
>101
>「さよならと言ったのは……お前が死ぬからか?」
「どちらが勝ってもお別れだから・・・かな。」
>男の右方向に突然FALCONは現れ、長く延びた刀を振るう。
>剣閃は閃光の如く、男の首を跳ねようと軌跡を描く。
一瞬にして側面を取られたというのに、笑みはまだ崩れない。
体は正面を向いたままだというのに、その『眼』だけはFALCONの姿を捉えて離さない。
短刀と思いきや一瞬で伸びて刀と化す。その空間を裂く一撃が『兄』の体を引き裂く・・・
寸前で何かを破壊した。
無色透明の壁のような物が砕け散り、透明な破片を撒き散らす。それはやがて空間へと溶け込み・・・
そして、FALCONの目には彼の姿が歪んだように見えただろう。
「<歪曲・炸裂>」
破壊された壁から衝撃がFALCONの方向に向かって噴出する!
一方、ようやく側面へ向き直った『兄』は・・・その顔にまだ笑みを浮かべていた。
その頬に一筋の紅が引かれている。壁を破壊した斬撃は鎌鼬を生んで顔を切ったのだ。
「ん・・・物理攻撃でここまでやるんだ。なるほどね」
>102
刀は何かにぶつかった。
形容するなら見えない壁。
見えない壁を砕くように刀を振り切ると、男の姿が歪みだした。
いや、目の前の空間自体が歪んでいる。
次の瞬間、FALCONは突然の衝撃によって吹き飛ばされる。
おそらく、目の前の空間の歪みから発生した衝撃波なのだろう。
吹き飛ばされたFALCONは、空中で一回転して態勢を立て直して着地。
「面白いなぁ……実に面白い。まさに食欲をそそるとはこのことだ……」
流石に全生命を殺すと言っただけのことはある。
不可解な謎の術を使い、防御。そして、攻撃。
ただの魔術でもこの程度のことは造作もないことなのだが、力の波動が読みにくい。
自分みたいな特殊な力なのだろうか?
「今度は……防ぎきれるかな?」
正面から相手に向かって駆け、自身の間合いに入った瞬間、再び閃光が走る。
今回は二度。
縦と横の十字の斬撃。
威力は先の太刀より低いが、先の障壁程度なら砕くことができるだろう。
そして……
「吹っ飛べっ!!!」
縦と横の斬撃が交わる部分に、回し蹴りを合わせる。
縦と横、中心の三段攻撃だ。
104 :
名無しになりきれ:2006/06/12(月) 14:35:45
>103
「つっ・・・!」
駆けてくるFALCONの目の前で左手が空間を撫でるような動きを見せる。
すると、再びの障壁が。しかし、それも十字の斬撃に一瞬で砕け・・・。
続く蹴りが『兄』の体を吹き飛ばす。ギリギリの反応で腕を交差させたが、衝撃は殺せない。
その結果、壁にめり込むことになる。
「ふ、ふふふ・・・いやぁ強いな。障壁の突破方法がすぐ分かったみたいだね。」
ふ・・・と壁にめり込んだ体が霧散。
次の瞬間、FALCONの頭上に右手を振りかぶった状態で出現する!
「<獣の右手>」
不可視の力が右手に集い、巨大な獣の爪を作り出す。
力の集積に伴い空間が歪み始め・・・そこに2m以上の大きさの爪があることがわかる。
そして、それを振り下ろす!爪を受け止めた床は先ほどの弧と同じように音も無く消失している。
舞い上がる粉塵は床の残骸だろうか、それが視界を悪くする・・・。
「<騎士の左手>」
そこで左手に更に力を収束。前方に向かって突き出す!
爪の一撃で視界が悪くなっているが、そこにいた時の為の追撃として・・・。
粉塵を飲み込み、消し去りながら見えない力の槍が放たれる!
「まだ、遊んでいく?」
粉塵の向こうの相も変らぬ笑みが、得体の知れない力の不気味さを一層引き立てていた・・・。
その時、小さくではあるが地震が起こった。
どれだけの者が気付けただろうか。それが天地自然の地震ではない事を。
だが、その源は聖でも魔でもないもの。震源地は遥か彼方と思われる。
その源が何かまで掴める者は殆どいなかったであろう。
##################################
>92
オーガス城内謁見の間。
玉座に座るサタンの脇に突如として二本の砂柱が出現し、床に突き刺さる。
砂柱は勿論それぞれマックスとマリスが封じ込められているものだ。
「シズネ・ラ・ファウスティナ・・・只今戻りましてございますえ。」
柱と柱の間、陰になった部分にシズネの白い顔が浮かび上がり、サタンに慇懃な報告をす
る。
「お役目確かに果たしましたよ。オーガス騎士のそっ首二つ、ここに並べましてございます。
憤怒の化身たる魔王が人質などとお怒りなさいませんでおくれよ。
この二人、運動神経を切り離して封じてあるので動く事は一切できませぬが目も耳も聞こえ
ております。
目の前で仲間たちが殺されていく・・自分達は動く事も出来ない、という苦しみを与えるのも
一興でございましょう?
ほほほ・・・これもあたしの性でございますからお許しくださいな。」
可笑しげに報告をするシズネだが、その表情はピクリとも動かない。
そう、瞬き一つ、息遣いによるぶれもないまま。
いや、動いた。報告が終わると同時にぐらりと倒れこむようにシズネの顔が宙に転がる。
「くくくく・・・あははは・・・!サタン様ぁ?お役目は確かに果たしましたが、あなた様の忠実な
る僕、シズネ・ラ・ファウスティナはこれこの通り、屍を晒してございますよぅ〜。」
柱の影から滲み出るように現れたのは、大きく開いた口にシズネの首を乗せた巨大な狐だっ
た。
####################################
>城門
一刀一足の間合いで対峙するシズネとレナス。
二人の闘気の為、空間が歪んだように周囲の景色がいびつな形に変わっていく。
徐々に二人の周囲が暗くなっていく。
レナスの神剣グランス・リヴァイバーが周囲の光を吸収していっているのだ。
周囲の暗さとは反比例し、神剣グランス・リヴァイバーが光り輝く。
その光りは剣だけでなく、レナスの身体にも宿っていく。
やがて、余りの光量にレナスの体の輪郭がかけ始めたとき、シズネが一歩踏み出す。
お互いが必殺の間合いに入った瞬間、二人は動いた。
一瞬で交錯するレナスとシズネ。
光の軌跡はくっきりと残り、二人はすれ違う。
「・・・がはっ・・・!」
大量の血を吐き、肩膝をつくレナスは既に光が失われ、急速に生気すらも失っていく。
振り向きそれを涼しげな顔でそれを見下ろすシズネ。
「ありがとうよう。命を削ってまで神気の一閃ってのを見せてくれてねい。」
そういうシズネの首にはくっきりと光の軌跡が横切っていた。
だが、ただ光の軌跡が横切っているだけでジズネに変化はない。
「まったくたいしたもんだよ。余りにも鋭すぎて細胞が斬られた事にすら気付いてないんだか
らねえ。
このまま半刻も動かなければくっつきそうだけど・・・・クククク・・・アッハッハッハ!」
静かに語っていたシズネではあるが、突如狂ったように笑い出す。
その瞬間、手に持った七支刀の全身にひびが入り、粉々に砕け散った。
それに呼応するようにシズネの首がボトリと落ちた。
だが、シズネの狂ったような笑いは途絶える事無く城門に響き渡る。
切断された首からは血の代わりに夥しい量の金色の奔流が立ち上り、空中に何かを形作って
いく。
そしてその時、小さく地震が起こった。
「あーーーっはっはっはっは!ありがとうよう!
神器ってのは厄介な代物でねい。ただ破壊してもいけないんだ。
破壊された神器は転生し、より強力な神器としてこの世に現れるからねい。
だが、同じく神の器で破壊されれば別さ。これであたしの役目は果たされた!
レナスさんよう。命を削ってまで協力してくれてありがとうよう?」
肩膝をつき、血を流すレナスを嘲笑うかのように現れたのは、金色の体毛、九本の長い尻尾、
そして、シズネの面影を残す白い顔をした巨大な狐であった。
「お初にお目にかかりますえ?ワタクシ、金毛白面九尾・鎮音、と申します。
挨拶したばかりで恐縮だがねい、役目も果たした事だし、失礼させてもらうよ?
もしも憤怒の魔王に打ち勝てたのならタカマガハラに御出でませ。
真の百鬼夜行が跳梁跋扈する混沌の世界でお出迎えして差し上げますえ?
尤も、今のような有様じゃあ、一刻もせずに絡め取られてしまうでしょうけどねい。」
ゆったりと宙を舞い、おちょくるように挨拶をする鎮音。
だが、その身体から発せられるのは魔でも聖でもない。妖気。
それは刺す様に発せられる気ではなく、沈殿し纏わりつく、まるでタールの海に浸かった様な
錯覚を起こさせる濃密な妖気。
「そこのお嬢チャン?」
不規則に宙を舞いながら、思い出したように誓音の方を向き、言葉を続ける。
「タカマガハラには言霊と言う概念があってねい。名前の言葉が能力を顕すのさ。
あたしの場合は鎮音。あらゆる音を鎮める力さ。
音って言うのは言い変えれば空気の振動。あんたも音を操るのならこのくらいはやっておくれ
よう?」
クワッと大きな口を開くと、誓音に向かって何かを発する。
だが、何かが飛んできたわけではない。
誓音の周辺の空気の振動を完全に封じきったのだ。
そう、空気の動きそのものを。
すぐにその効果は消えたが、まるで空気が固形化したように感じられただろう。
一方的に語りかけるだけ語りかけると、鎮音はシズネの首を咥え、マックスとマリスの封じられ
た砂柱を伴い城内へと飛んでいく。
城門に残されたのはレナス、カイザー、誓音。そして首のないシズネの骸だった。
その骸の指に嵌められていた指輪が消えていた事に誰か気付いただろうか?
>88
空を飛ぶセシリアの周囲にねっとりと絡みつくような思い妖気が充満する。
次の瞬間、巨大な狐の顔が横に並んでいた。
その顔はニッと禍々しい笑みを浮かべると、大きく口を広げ赤い霧を撒き散らした。
そう、第三魔法陣の戦いで渓谷に立ち込め、平衡感覚などを狂わせる蚩尤霧だ。
「せいぜい楽しませておくれよう?あーっはっはっはっは!」
狂ったように笑い声を残し、鎮音は城内へと消えていった。
>再び謁見の間
空間の歪みにより果てしなく広がった謁見の間を舞うように鎮音は舞い、サタンに話しかける。
「さて、既に感じて降りましょうが我が父、金毛白面九尾・玉藻は復活しました。
早速言伝が届いておりますのでお伝えしますえ。
『憤怒の魔王よ、幾久しく喜ばしけり。大陸を制した暁にはタカマガハラに来たれ。阿鼻と叫喚の
茶を一服立ててしんぜよう。』
でございます。」
地に付き、まるで使者のように恭しく頭を下げ口上を述べ終わるや否や、まるで道化のように舞
い、宙を駆ける。
「一年、あなた様の軍でお世話になり愉しかったですえ。
目的である奪還だけでなく、もう一本の神剣のおかげで破壊まで出来ましたのでねい。
そのお礼にサタン様に一つお言葉を差し上げますえ。
あなた様は刃。憤怒の炎と屈辱の槌で鍛え上げられし名刀。その刃にかかって斬れぬものはな
いでしょう。
ですがその切れ味ゆえに、刃こぼれもしやすい。努々お気をつけあそばせ。」
可笑しそうに笑い声を上げながら宙をぐるぐる回り、いつしか金色の糸の輪のようになり、徐々に
その輪が細くなって行く。
「それではサタン様、この戦いの行く末、タカマガハラへの土産話代わりに見届けさせていただきま
すえ・・。」
見えないほどに細くなった糸の輪が消え、その言葉だけを残していった。
>105>106
先程と同じ様な感触がした。
障壁が張られていたらしい。
先程と同じ様に障壁を砕いて、追撃の回し蹴り。
ガードはされたが、手応えはあった。
ダメージを与えられただろう。
男は吹き飛んで、壁にめり込んだ。
>「ふ、ふふふ・・・いやぁ強いな。障壁の突破方法がすぐ分かったみたいだね。」
相手はまだ余裕を持っている。
まだ、隠し玉のようなものを持っているのだろう。
「ったく……もったいねぇ」
男はまた霧のように消える。
今度はFALCONの頭上に現れた。
男の右手に謎の力が集まっていく。
その力は空間を歪める程に収束し、空間の歪みは約2m程になった。
男は右手を振り下ろす。
最初に放たれた技のように地面を削って、粉塵を巻き上げる。
「目隠しなどは……俺には通用しない!!」
後ろに下がって、相手の力の流れを読む。
目隠しの後には、大抵は攻撃が来るもの。
予想通り、相手はまた力を収束し始めた。
FALCONもまた、右手に気を溜める。
相手の術は、最初は物体を魔術的な要素で消失させるかと思っていたが、
魔術的な消失の場合、粉塵すら残らない。
おそらく、相手の濃密な力によって削っているのでは?
ならば、エネルギー波で相殺できるかもしれない。
粉塵を消し飛ばし、相手の見えざる力の波動が放たれてきた。
FALCONもその力の波動を狙い、突き出した右手からエネルギー波を放つ。
ぶつかり合う二つの力。
お互いがお互いの力をかき消し合い、力の流れは消え失せる。
>「まだ、遊んでいく?」
「そうしたいところだが……サタンと戦う時に力を残しときてえからなぁ……
それにしてももったいねえ……お前の力はもったいねぇと思うぞ。
全生命を殺す前によ、お前の使命ってやつを殺しちまえばいいのにな。
お前の力は戦ってて面白いからなぁ、全生命を殺す為だけに使うなんてもったいねぇと思った……?」
突然、揺れと共に何か感じた。
ねっとりとした……いやな何か……
「こりゃ、サタンのおっさんを倒しただけじゃ、駄目なのかな?」
>106-108>109
>「そうしたいところだが……サタンと戦う時に力を残しときてえからなぁ……
> それにしてももったいねえ……お前の力はもったいねぇと思うぞ。
> 全生命を殺す前によ、お前の使命ってやつを殺しちまえばいいのにな。
> お前の力は戦ってて面白いからなぁ、全生命を殺す為だけに使うなんてもったいねぇと思った……?」
「勿体無い・・・ねぇ。使命というより『意思』というほうが正解かな。
それにしても・・・この異質な力は・・・誰だろう。まぁいいか。」
>「こりゃ、サタンのおっさんを倒しただけじゃ、駄目なのかな?」
「争いはとまらないよ。もし人間の恒久的な平和を望むなら・・・人間以外を皆殺しにするまでね。
いや、人間の中も・・・かな?」
白いケープから垣間見える力が密度を増していく
胸の前に上下に構えた掌の間にその力が集中してゆく・・・
無色の力はぼんやりとした鈍い光を帯び、空間に漆黒の球体を形作る。
瞬間、それは一瞬にして縮小し小石程の大きさになる。縮小した瞬間、力の性質が反転した。
それは・・・正が負になるように、赤が青になるように、善が悪となるように、有が無になるように・・・
小さくなったとは言え、その力は先程より更に濃密になっていく。
「これでそろそろ終わりかな。この一撃に打ち勝てたらそちらの勝ち。僕が負けたらこの世界での活動は自粛しよう。
<ヒト>が絶望と虚無の果てに生み出した力、全ての生命を滅ぼした力の片鱗を見せてあげるよ。」
胸の前にある球体を掌の間に浮かせたままで、それを腰へと引く。
左足を前に、右足を後ろに。両方の手は球体を間に浮かべて右腰の辺りに。
漆黒の球体は光を飲み込み、闇そのものと化す。紫電が『兄』の全身を走っていた。
「人類の希望の力ってやつを見せてもらうよ。」
「<原理式、固有名称『存在意思』→効果指定:抹消>・・・・・・行くよ。」
空気が震える。まるでソレを恐れているかのように。
風が叫ぶ。それは存在してはならないもの。それを操るものは世界の敵。
「<虚砲>」
腰溜めに構えた両手を突き出す。その両手の間にあった球体がFALCONに向かって解き放たれる。
周辺の空間を食らい、光を飲み込み、大気中の魔素を滅ぼしながら球体は突き進む。
それは受ける側から見れば視界に生じた漆黒の点が急速に拡大していくように見えるだろう。
何にせよ、この一撃で全てが決まる。
>106-107
二人の決着は付いた。
命を削ってまでも放ったレナスの一撃は、シズネの首を的確に捉えた。
>「まったくたいしたもんだよ。余りにも鋭すぎて細胞が斬られた事にすら気付いてないんだからねえ。
>このまま半刻も動かなければくっつきそうだけど・・・・クククク・・・アッハッハッハ!」
常人ならば致命傷を負っているであろう状況なのに、シズネは高笑いを始めた。
命が風前の灯火であるが故の発狂なのだろうか、
そして、シズネの首が地面に落ち、城門での戦いが終わったかと思えた。
だが、それで自体は終わらなかった。
切断面から噴き出す金色の奔流、地は揺れ、シズネの高笑いが周囲に響く。
>「あーーーっはっはっはっは!ありがとうよう!(中略)レナスさんよう。命を削ってまで協力してくれてありがとうよう?」
現れたのは巨大な狐だった。
>「お初にお目にかかりますえ?ワタクシ、金毛白面九尾・鎮音、と申します。(中略)一刻もせずに絡め取られてしまうでしょうけどねい。」
鎮音と名乗る狐は嫌な気を感じさせ、次々に挑発的な言葉を発した。
鎮音は誓音に何かをした。おそらく音に関するものなのだろうが、カイザーには何かとしか理解できなかった。
そして、鎮音は城内へ飛んでいった。マックスとマリスと共に・・・
急に辺りは静かになった。
カイザーは周囲を見渡したが、これ以上この場所で何かが起きるという事は無いようだ。
「誓音・・・あの狐に何かされたようだが、大丈夫か?
異変があるようなら、無理はするな。たとえサタンに勝っても死んだら意味が無いんだからな。」
見た目には誓音の異変は感じられないが、敵が誓音へ向けて何かを発したのは事実だった。
「レナス、その傷じゃこれ以上は危険だ。無理に動かずここに待機したほうがいい」
レナスがその言葉だけでここに待機するかは分からないが、傍目から見てもダメージが大きいのは事実だった。
「・・・とにかく、俺はサタンの所へ急ぐ。
奴の思い通りにはさせない。聖騎士として、人としてな」
カイザーはマントを翻し、駆け出した。
そして、再び城の中へと入ってゆく。
城中に充満した魔素を吸い込んだとき、一瞬の頭痛が走った。
すぐに正常な状態へ戻ったが、1回目に突入した時には何の異変も感じられなかった魔素だ。
カイザー自身の状態も良くは無いのであろう。
「・・・たのむぜ、聖闘気」
トン、と自分の胸を軽く叩き、走り続けた。
>110
>「争いはとまらないよ。もし人間の恒久的な平和を望むなら・・・人間以外を皆殺しにするまでね。
> いや、人間の中も・・・かな?」
「俺は知っている……魔界の俺の国じゃ、種族の別け隔てなく平穏に暮らしてるってな。
もっとも、平穏に暮らしてるのは知性のある奴らだけだけどな。
まぁ……魔族と違って人間達は欲が深い奴らが多いから、お前の言っていることが正しいのかも知れねぇけどな」
相手の力がどんどん上がっていく。
胸の前に掌を構え、力を収束。
収束された力は無色ではなく、漆黒の球体。
漆黒の球体は現れると共に、一瞬で小石程の大きさにまで小さくなる。
まるで、自分が愛用する技の如くエネルギーが圧縮されている。
違うのは、気の性質が正反対に変わっていること。
>「これでそろそろ終わりかな。この一撃に打ち勝てたらそちらの勝ち。僕が負けたらこの世界での活動は自粛しよう。
> <ヒト>が絶望と虚無の果てに生み出した力、全ての生命を滅ぼした力の片鱗を見せてあげるよ。」
「上等だ……」
巻き上げられる黄金の気。
FALCONの髪の毛が黄金に逆立ち、コートから飛び出た翼が黄金に輝く。
相手は掌を腰の辺りにもっていく。
構え方が似ている。
他流派のあの技に……
FALCONは両手を胸の前に突き出し、気を溜めていく。
全身の黄金の気が激しく燃え盛り、掌に黄金の気弾が現れる。
>「人類の希望の力ってやつを見せてもらうよ。」
「悪いけどな……俺の力は人類の希望の力なんかじゃねえよ」
相手は両手を突き出し、絶望を呼ぶ魔弾が放たれる。
空間が震えている。
世界が恐怖に唸りをあげているのか?
それもそうだろう。
全生命の敵の力に、究極の血脈を引く男の力。
世界が恐怖に震えても仕方のないことだろう。
段々と迫り来る漆黒の球体。
球体は徐々に大きくなって迫り来る。
全生命を殺す力に対抗するものは、希望の力?
いや、そんなチンケなものなんかではない。
「これが!!!大切な奴らの想いを背負った!!武道家の力だあぁぁーー!!!!」
放たれる黄金の気功弾。
黄金の気功弾は神秘的な黄金の光を放ちながら、漆黒の球体に立ち向かう。
激突する二つの究極の力。
全てを消し去る漆黒の球体と万物を粉砕する黄金の気功弾。
空間が、世界が、激しく震え上がる。
まるで、世界の終わりのように………
「ちっ……」
二つの力の戦い。
結果は引き分けに終わった。
漆黒の球体が黄金の気功弾を食い尽した後、漆黒の球体は黄金の光を放ちながら消え去った。
「ったく、あんたら兄妹は楽しい思いをさせてくれるぜ。
あんたの技を、一応は打ち破ることができたのかな?
まぁ、俺は人間の世界がどうなろうが知ったこっちゃねぇ。
だけどな、オーガス皇国だけは話は別だ。
恩のあるオーガスさんの国を守るのが俺がここにいる目的なんでね。
もし、お前がこの世界の全生命を殺すようなら、容赦はしねぇ……ぶっ倒すだけだ」
鋭い眼光で相手を見据える。
果たして相手は本当に世界の生命を殺すのを自粛するのだろうか?
>112
>「これが!!!大切な奴らの想いを背負った!!武道家の力だあぁぁーー!!!!」
衝突する二つの力。黄金と漆黒の激突。
漆黒の力は黄金に呑まれ、あるいは黄金を食らい。消え去った。
>「ったく、あんたら兄妹は楽しい思いをさせてくれるぜ。
> あんたの技を、一応は打ち破ることができたのかな?
> まぁ、俺は人間の世界がどうなろうが知ったこっちゃねぇ。
> だけどな、オーガス皇国だけは話は別だ。
> 恩のあるオーガスさんの国を守るのが俺がここにいる目的なんでね。
> もし、お前がこの世界の全生命を殺すようなら、容赦はしねぇ……ぶっ倒すだけだ」
その言葉を受けた彼は・・・顔を俯かせたまま肩を震わせている。
体が震える度にその部分ごとにノイズが走る。
「・・・っ・・・っ・・・ック・・・くふっ・・・ふふっ・・・あははははははははははは!」
静寂の向こうに響いたのは大笑だ。
うっすらと目尻に涙さえ浮かべ、可笑しくて仕方がないというように笑う。
「あははは・・・あははっ、ははははっ!凄いねぇ。そんなに手加減した心算はなかったからなぁ・・・
つまり実力ってことなんだろうね。うん、こっちの負けだね。こっちでもう人を殺めるようなことはしないよ。
それに、もうお迎えの時間だからどっちにしろ出来ないよ。協力してくれてありがとう。
巨大な力の衝突に世界が反応してくれたね。帰りのドアが開く。」
いつの間にかその腕に冴波を抱きかかえ、彼はまだ笑みを崩さない。
そして、彼の傍らにはいつの間にか青い獣が・・・。その彼らの背後には極彩色の空間が顎を開いている。
見るものにはその向こうへの抗い難い誘惑と、危機感を感じ取るだろう。
「ふふっ・・・ふふふふっ・・・さて、遊びの時間も終わったし。帰るかな。
あのおぞましく愛しい地獄へ、ね。そうそう、一応ここの僕はやめるけれど・・・。忠告が二つ。
他の3人の兄妹の中に封印されている僕が来たら、同じことになるかもしれないよ。
それと、決着を着けるなら早めにね。お城の外側は大変なことになってるらしいから。」
邪魔した僕が言える台詞じゃないか、と言い残して背後の空間に向かって跳躍。
顎を閉じた空間の向こうから声が響く。
<この世界の続き・・・もうちょっと見てみたかったよ。じゃあ、さよなら>
こうして、傍迷惑で最悪な災厄は次元の向こうへと消えた。
>114
相手は下を向いて肩を震わせている。
自身の技が打ち破られたことがショックで泣いているのか?
>「・・・っ・・・っ・・・ック・・・くふっ・・・ふふっ・・・あははははははははははは!」
違う。笑っていやがった。
そんなに笑えることを言ったのだろうか?
真面目に言っていたのに……
ちょっと鬱になるFALCONだった。
>「あははは・・・あははっ、ははははっ!凄いねぇ。そんなに手加減した心算はなかったからなぁ・・・
> つまり実力ってことなんだろうね。うん、こっちの負けだね。こっちでもう人を殺めるようなことはしないよ。
> それに、もうお迎えの時間だからどっちにしろ出来ないよ。協力してくれてありがとう。
> 巨大な力の衝突に世界が反応してくれたね。帰りのドアが開く。」
思わずFALCONは叫びそうになった。
いつもの習慣で。
だが、今回は違った。
何も吸い込もうとしていない。
>「ふふっ・・・ふふふふっ・・・さて、遊びの時間も終わったし。帰るかな。
> あのおぞましく愛しい地獄へ、ね。そうそう、一応ここの僕はやめるけれど・・・。忠告が二つ。
> 他の3人の兄妹の中に封印されている僕が来たら、同じことになるかもしれないよ。
> それと、決着を着けるなら早めにね。お城の外側は大変なことになってるらしいから。」
色々と事情があるようだ。
他に兄弟がいて、その中に男が一人づついるらしい。
それにしても…外では何が起こっているのだろうか?
「忠告ありがとな。その地獄へ帰っても暴れんなよ」
男は空間の裂目に、冴波と蒼い獣を引き連れて帰っていく。
空間の裂目が閉じてしまった。
><この世界の続き・・・もうちょっと見てみたかったよ。じゃあ、さよなら>
閉じた筈の空間から声が聞こえる。別れの言葉……
「あぁ…またな」
さよならとは言わない。
まだ決着が着いていないから……
決着を着ける日が来ると信じて……
>106>107
誓音は仰向けに倒れた。息が荒い。
「くそっ…」
目の前にあるのは砂の壁。あれから幾度も行動してみたが結果は見た通りだ。
自分の無力さにイヤになる。何故こんな事になったのか…。
すると突如あの女の高笑いが響く。
>「まったくたいしたもんだよ。余りにも鋭すぎて細胞が斬られた事にすら気付いてないんだからねえ。
>このまま半刻も動かなければくっつきそうだけど・・・・クククク・・・アッハッハッハ!」
「…終わった…んですか?」
静かに呟く。
>「あーーーっはっはっはっは!ありがとうよう!
>略
>レナスさんよう。命を削ってまで協力してくれてありがとうよう?」
命…?神器?
砂の壁でどうなってるのかが見えない。
ただ、とてつもなく不愉快だった。殺してやりたい。そう思い刀に力を入れる。
すると突如狐が宙を舞った。
>「お初にお目にかかりますえ?ワタクシ、金毛白面九尾・鎮音、と申します。
略
>尤も、今のような有様じゃあ、一刻もせずに絡め取られてしまうでしょうけどねい。」
「何が失礼させてもらうんですか…?ここで殺しますよ。」
静かに立ち上がるしかし力が入らない。
>「そこのお嬢チャン?」
>不規則に宙を舞いながら、思い出したように誓音の方を向き、言葉を続ける。
>「タカマガハラには言霊と言う概念があってねい。名前の言葉が能力を顕すのさ。
略
>よう?」
>クワッと大きな口を開くと、誓音に向かって何かを発する。
誓音は空気が止まるのを感じた。
固形化される空気。誓音は察す。この女とは永遠に交じる事はないと。
そして女は消えていった。マックス、マリスと共に…。
追いかけることはできなかった。
カイザーが心配してくれる。
>「誓音・・・あの狐に何かされたようだが、大丈夫か?
> 異変があるようなら、無理はするな。たとえサタンに勝っても死んだら意味が無いんだからな。」
「…いえ……大丈夫です。」
そうやっとの事で呟く誓音。
一瞬まだ殻を覆ったままの手を握る。中身が大きく動く。
(……傷つけたくない…今までその一心で中身を制御してきたんですよね…)
(………しかし、今回で…この殻は消滅する…今までずっとひたすら守ってきたこの殻は消える。)
カイザーがレナスに近づく。レナスはボロボロだった。まさに命を削ったといった感じだ。
そんな姿を見ながら、誓音の紅目は揺れた。何故か鳥肌が立つ。
(…………覚悟不足…なのか…?)
突きつけられた自分の無力さと覚悟の足り無さ。
なぜだか知らないが恐怖心が一瞬芽生える。自分は殻を消滅させる。
否、自分は姉を殺す。
この殻は精神的には死んでしまったが生きた姉の体。
自分は本当に姉を殺す事ができるのか?例え精神が切れた姉だとしても…。
>「・・・とにかく、俺はサタンの所へ急ぐ。
> 奴の思い通りにはさせない。聖騎士として、人としてな」
カイザーが動きだし誓音は重い足を動かした。自分の正義、それは固い物のはずだ。
なのに何故だか知らないが恐くて恐くて仕方がない。
まるで悲劇の始まりのあの日の夜のように…。
>116-117
(誓音の奴・・・本当に大丈夫なのか?)
自分の後方を走る誓音は、思い詰めた表情をしている。
だが、本人が大丈夫と言った以上、カイザーが追求する事は出来なかった。
・・・それからどのくらい走っただろうか。
城全体の空間が不安定な為、思った場所へ進むことが出来ず、さながら迷宮を彷徨っている感覚であった。
だが、下手な鉄砲数打てば当たるという言葉があるように、
手当たり次第に城中を走り回っていると、徐々にではあるがサタンの待つ場所へ近づいていた。
>115
そして、謁見の間前廊下へ辿り着く。
カイザーは少し先で立ち尽くしている男を見つけた、その男はFALCONだった。
FALCONの元へと駆け寄り、肩を竦めて声を掛けた。
「壁なんて眺めて何やってるんだ?」
FALCONが眺めている空間、そこへ消えた者の存在をカイザーは知らない。
だから、このような質問をしてしまった。
「・・・それよりも、目的の場所は眼前だ。」
謁見の間へ入る為の扉を見据える。
この先に待ち受ける者は魔王サタン。
今はまだこの大陸だけだが、放っておけば世界は奴の手に落ちてしまうだろう。
その野望を防ぐ為にカイザーは立ち上がった。
1年前の戦いには参加することすら出来なかったせいで快く思わない者もいたのかもしれない。
だが、それは事実であり、その事自身は変えようの無い過去なのである。
だから、今こそ立ち上がる時。
未来の光を掴む為に、今は闇の中へ飛び込む騎士が必要なのだ。
「さあ、もうやり残した事は無いか?」
ここに集う仲間がやり残している事など決まっている。
それは扉の向こうで待っているのだから。
命は、何にだって一つだ!
だからその命は君だ!彼じゃない!
>118
消え去った空間の裂目をしばし見続ける。
感傷に耽っているのだ。
>「壁なんて眺めて何やってるんだ?」
「……友を見送っていただけさ……友を……な」
声を掛けてきたのはカイザー。
不思議そうにこちらを見ているが、仕方がない。
ここにいたのは自分だけなのだから。
>「・・・それよりも、目的の場所は眼前だ。」
>「さあ、もうやり残した事は無いか?」
視線を扉に向ける。
サタンが待ち構えている場所。
サタンもそろそろ暇を持て余しているところだろう。
「やり残した事はない……だが、これからやらなければならない事はある。
友の弔い。親の後を継ぎ、新たな魔王として君臨。師匠に今までの戦いの報告に……
オーガス城の奪還かな……」
扉の前に立ち、万感の想いと不屈の闘志を胸に秘め、扉に手を掛ける。
「さぁ……行くとしようか……俺達の誇りと想いを取り戻す戦いにな……」
扉が開かれた。
抗魔戦争、最後の戦いが、今、始まろうとしている。
扉を開けると次元の穴が開いておりFALCONを吸い込んだ!
>118>120
とてつもない巨大な恐怖を振り払いながら謁見の間前廊下へ辿り着く。
鳥肌が立つ、追い求め続けた物が目の前にある事の喜びからか?
>「・・・それよりも、目的の場所は眼前だ。」
>「さあ、もうやり残した事は無いか?」
カイザーが聞く。ビクッと肩を揺らす誓音。
>「やり残した事はない……だが、これからやらなければならない事はある。
> 友の弔い。親の後を継ぎ、新たな魔王として君臨。師匠に今までの戦いの報告に……
> オーガス城の奪還かな……」
静かに語るFALCON。誓音は扉を見た。
(…何を迷ってるんですか?私は…)
(誓ったんじゃないですか…姉と同じ生物となった時に…)
ふと思い出す。あの日の悲劇。
(そうですよ…自分はあの日から誓ったんです…ずっと…姉の意志に生きると)
「…大丈夫です。…私もファルコンさんと同様、これからやらなければならない事しかありません。
私がこれからやらなければならない事…それは目の前の悪意の塊を殺す事。」
真っ直ぐに、強い意志を込めながら誓音は言った。
ファルコンが扉の前に立つ…。
>「さぁ……行くとしようか……俺達の誇りと想いを取り戻す戦いにな……」
ファルコンはそう言うと扉に力を入れた。
扉が開けれていく…。
扉が開く音と共に自然と過去の記憶が濁りながらも思い出されていく。
自分の産まれた部屋、とある魔族のあの部屋の思い手が…
*************************************************************
誓音が産まれたのはとある魔王に従う魔族の拷問部屋だ。
魔族に逆らった自分の母親の無惨な死骸の腹から肉を引きちぎり出てきたその子供は、
母親の悲鳴の力によって細胞が変化し、それはそれは醜い少女として産まれた。
その邪念が籠もった醜き姿は皮肉なことに魔族に気に入られ誓音はその魔族の門番として生きることになる。
毎日毎日その魔族を恨んでいる人間、魔族がやってきそしてその者達の殆どは誓音の餌となった。
爪を剥がし、目を抉り、出せるだけ悲鳴を出させ肉を食べる…
そんな血肉に塗れた生活をずっと送ってきた。
だからあの女が来たときも何も感じなかった。
また強い者に逆らう哀れで惨めな生物だと思った。
しかしその女は違かった。
茶髪に灼眼、そして綺麗な少年顔。
その女は誓音を見るなり大笑いして言った。
「あんたの力はここで使うもんじゃねーよ。」
************************************************************
扉が完全に開き、誓音は眼を見開いた。
濃い魔素が誓音を襲う。
しかし不思議と吐き気も何もしなかった。
真っ直ぐと前を見る誓音。
「…サ…タン…?」
静かに震える声その名を呼んだ。
>118、>120、>122-123
扉の外に異質な気配を感じる。遂に来たか、と。
扉を開けた者達は、怒気そのものの奔流に当てられたことだろう。
玉座の間は空間が歪んでいるオーガスで最も強く歪んでいる。つまり、
歪みの源……魔王サタンがそこにいる事を疑いようも無いほど表していた。
歪みの中心、輪郭すら捉えるのが難しいと言うのにその双眸から放たれる
憤怒の赤き光が仇敵たるオーガス騎士達を射すくめる。ただそれだけで、
死に至らしめかねないほどの暗い感情を言霊に乗せて、言い放つ。
「来たか、オーガス騎士共……!長かった、実に長かったぞ……
かつての遺跡の戦いの折、貴様等より受けた耐え難い屈辱……!
全界の覇者たる我が、脆弱なる人間如きに敗れるなどと言う!
……貴様等だけは、楽には死なせてなどやるものか……苦しんで苦しんで、
苦しみ抜いて、それでも死なせてなどやらぬ……この世界が、貴様等の言う
『地獄』へと変わってゆく様をその目に焼き付けてくれようぞ……!」
一言発するたびに空間全体が震える。サタンの怒りが、震わせているのだ。
しかしサタンは立ち上がらない。立ち上がらせたいのならばやって見せろと言うのだろう。
>124
扉を開けると、恐ろしい程の濃い魔の気が吹き付けてくる。
その魔の気の本質は、怒り。
サタンが司る、七つの大罪と呼ばれる力。
謁見の間に入ると、そこは見慣れた場所。
ただ、果てしなく空間が広がり、サタンを取り巻くように濃密な魔の気が渦巻いている。
そして、知り合いが封じ込められている、二つの砂柱。
>「来たか、オーガス騎士共……!長かった、実に長かったぞ……
> かつての遺跡の戦いの折、貴様等より受けた耐え難い屈辱……!
> 全界の覇者たる我が、脆弱なる人間如きに敗れるなどと言う!
> ……貴様等だけは、楽には死なせてなどやるものか……苦しんで苦しんで、
> 苦しみ抜いて、それでも死なせてなどやらぬ……この世界が、貴様等の言う
> 『地獄』へと変わってゆく様をその目に焼き付けてくれようぞ……!」
サタンが一言言うごとに、空間がビリビリと震え上がる。
とんでもない程に怨念と怒りが混じった言葉。
思わずこちらも歓喜に震えてしまう。
「くくく……サタン様とも有ろうお方が、そんなにお怒りになるとは……
余程悔しかったんでしょうねぇ……三年前に封印されたことが……
ここで俺達を倒して、気分良くこの世界を地獄に変えたいと思ってらっしゃいますが、そうはいきません。
この世界がどうなろうと、俺には関係ありません。
ただ……俺はキッカケを与えてくれた人に恩を返すだけ。
だから……この城ででけぇ顔してるあんたを半殺しにして、魔界に連れて帰る。
さぁ、楽しい戦いを始めようぜ!!」
巻き起こる黄金の気の暴風。
黄金の頭髪と翼を携えたFALCONは、座ったままのサタンを狙い、ご挨拶の気功弾を放つ。
>120-123
FALCONと誓音、それぞれの思惑はある。
だからこそ、今は未来の為に戦う覚悟を決めている。
そして、扉は開かれた。
>124>125
開かれた部屋の内部から激しい怒気と濃い魔素が身に降りかかる。
それらを発しているのはサタン
玉座に座りながらも、その威圧感は流石魔王と言った所であろう。
だが、その程度で臆しているのならば、ここに来た意味は無い。
カイザーは足を進め、謁見の間へと入り、床のちょうど中心部に立つ。
>「来たか、オーガス騎士共……!長かった、実に長かったぞ……
> かつての遺跡の戦いの折、貴様等より受けた耐え難い屈辱……!
> 全界の覇者たる我が、脆弱なる人間如きに敗れるなどと言う!
> ……貴様等だけは、楽には死なせてなどやるものか……苦しんで苦しんで、
> 苦しみ抜いて、それでも死なせてなどやらぬ……この世界が、貴様等の言う
> 『地獄』へと変わってゆく様をその目に焼き付けてくれようぞ……!」
FALCONは既にサタンへの攻撃を開始していたが、それは牽制の攻撃だ。
サタンへ致命傷を与えるほどではないだろう。
「世界を地獄に変える…か。」
落ち着いた口調でそう言うと、鞘から聖剣を抜き、その切っ先を玉座に座るサタンへと向ける。
「世界を地獄に変えてどうする、
サタン、貴様はその先に何を求めているんだ?」
カイザーの身体から聖闘気の白銀の光が放たれた。
その光に照らされ、部屋中に充満していた魔素が薄らいでゆく。
「知っているかもしれんが、名乗らせてもらうぜ。
俺の名は天聖騎士カイザー。世界に降りかかる災厄を吹き飛ばし、真実を求め流離う求道者だ。」
数年前に生まれた因縁
その因果は数年の時を経て人々に降りかかる
降りかかった闇は人々を絶望の渦へ巻き込み、暗き一年の歳月が流れた
だが、人は未来を諦めなかった
闇に対抗すべくして生まれた同盟軍に戦士達は集い、己が信念の元に立ち上がる
そして、様々な物語と様々な思惑の末に今、人はサタンの眼前へと辿り着く
後に抗魔戦争と呼ばれるこの出来事の、最後の戦いが始まる
*************************************************************
「あんたの力はここで使うもんじゃねーよ。」
その女は笑いながら言った。
「…何しに来たんです?」
誓音の静かな声が巨大な門の前で響く。
今宵は新月。周りにあるのは静かな暗闇のみ。
そんな中、その女はニコニコしながら誓音の答えに答えず問いかけた。
「あんたの名前はなんだ?いっや〜…初めて見たぜ。おめぇみたいな子。
普通なら俺君みたいなのはブッ倒してズドーンっていくんだけど…」
「そんな事聞いてるんじゃないです。」
誓音はふざけてるような態度を取るその女に巨大な怪物の手を振り払うように投げる。
ヒョイッと身軽に後ろに飛び避けるその女。誓音の怪物の手は空を切った。
「うっひょ…おめぇこえぇな…」
「……。」
静かに睨みつける誓音。
それに怯む様子もなくその女は相変わらずのニコニコ顔だ。
「なるほど、おめぇは人間だな?」
「……。」
「ここの魔族に脅されてるのか?おめぇ。」
「……。」
「…おいおい…黙ってちゃわかんねぇぞ。ってぬお!」
突如怪物の手から悲鳴が発射され女のほを掠める。
「うっへ〜!殺す気満々かよ…」
そう言うとその女はほから流れる血を拭くと、黒い刀を抜いた。
************************************************************
>124-126
扉を開け…そして目の前その男はいた。
「…サ…タン…?」
静かに震える声その名を呼ぶ。
―そこにいるのは全ての元凶、サタン…!
小刻みに震える、やはりこの男は悪の中の悪だ。
歓喜と狂気、憤怒に警告、全身に鳥肌が立つこの男の存在。
誓音の瞳の赤は揺れた。
そしてその男はゆっくりと口を開いた。
>「来たか、オーガス騎士共……!長かった、実に長かったぞ……
> かつての遺跡の戦いの折、貴様等より受けた耐え難い屈辱……!
> 全界の覇者たる我が、脆弱なる人間如きに敗れるなどと言う!
> ……貴様等だけは、楽には死なせてなどやるものか……苦しんで苦しんで、
> 苦しみ抜いて、それでも死なせてなどやらぬ……この世界が、貴様等の言う
> 『地獄』へと変わってゆく様をその目に焼き付けてくれようぞ……!」
「地獄…。」
静かにその言葉を繰り返す。
地獄…誓音には何故かその言葉が一瞬身近にあるように感じられた。
>「くくく……サタン様とも有ろうお方が、そんなにお怒りになるとは…… 」
ファルコンが言葉を発す。
>余程悔しかったんでしょうねぇ……三年前に封印されたことが……
>略
> さぁ、楽しい戦いを始めようぜ!!」
するとファルコンがサタンに向かって気功弾を撃つ。
誓音もサタンを静かに見るとスッと怪物の手をサタンに向け一発悲鳴の黒き衝撃波を出した。
―音撃!
>125-128
>FALCON
>この城ででけぇ顔してるあんたを半殺しにして、魔界に連れて帰る。
「貴様……FALCONだな?
フン……貴様はやはり己が内にある力に気付いていない。
貴様などが持っていても宝の持ち腐れだ……半殺し、だと?
そこまで我を侮るか、『狭間の証明』よ!
……出来るものならば、やって見せるがいい。だが貴様は後悔する……
我に、不遜な口を利き侮った事をな!」
>ご挨拶の気功弾を放つ。
放たれた気功弾を右手で受け、手の内に留める。
黄金に輝くそのエネルギーが見る見るうちに闇色へと変色していき……
途端、全てがそこに吸い込まれ始めた。
>カイザー
>サタン、貴様はその先に何を求めているんだ?
>真実を求め流離う求道者だ
「貴様等如きに語ったところで理解など出来ぬし、しようともせぬは明白。
脆弱にして無知蒙昧なる人間共は『絶対者』への謀反など考えもせぬ。
かように卑屈極まりなき恭順に収まる者など、我には不要!
……貴様の求める道など、彼奴の掌の上に過ぎぬ。そんな物に、如何程の価値があろうか。
外に目を向けぬような小童が、道を語るなど万年は早いわ!」
>誓音
>一発悲鳴の黒き衝撃波を出した
誓音の放った悲鳴も保持している闇の球体に吸い込まれて消える。
その球体は徐々に膨れ上がり、伴って吸い込む力も強くなっていく。
「このまま無限の闇……超重力の檻の底に沈めてやろうと思ったが、
それでは貴様等を徒に苦しみから解放するだけ……この程度で、終わりではあるまいな?」
サタンがその球体を放つと、騎士達に向かって球体が移動する。
丁度中間に来た辺りで球体が形を失い消え去る……その時、凄まじい衝撃と
熱量が一帯に放たれ、玉座の間を砕き焼き尽くしていく。
>129
>「貴様……FALCONだな?
> フン……貴様はやはり己が内にある力に気付いていない。
> 貴様などが持っていても宝の持ち腐れだ……半殺し、だと?
> そこまで我を侮るか、『狭間の証明』よ!
> ……出来るものならば、やって見せるがいい。だが貴様は後悔する……
> 我に、不遜な口を利き侮った事をな!」
放った気功弾はサタンの右手で受け止められ、黄金の気功弾は闇色に変色してしまう。
闇色に変色した球体はその性質を変え、他の物を吸い込んでいく。
周囲の魔素や、誓音の放った悲鳴も吸収されてしまった。
球体は徐々にその大きさを増していき、吸い込む力も比例して大きくなる。
サタンが球体をこちらに目掛けて放った。
直感的に危険だと判断したFALCONは、仲間達の前に出て、気のバリアを張る。
その判断は正解だった。
球体の形が崩れて消え去ると、玉座の間を絶大な衝撃波と熱が支配する。
その衝撃波と熱の凄まじさは、バリアごしにも伝わってくる。
強固なバリアを張ったのだが、そのバリアもしばらく衝撃を受け止めた後、簡単に砕け散った。
だが、バリアを張ったのは無駄ではなかった。
受けるダメージを大幅に抑えることができた。
直撃したのなら、かなりの痛手を受けるのだが、バリアのおかげで少しダメージを受けたといったくらい。
だが、その少しのダメージでも並の戦士だったのならば、即座に絶命していただろう。
「……後悔なんてとっくにしてる……この城を守ることができなかった時からな……
あんたの力に俺の力が遠く及ばないのは分かってる。
だが、俺は負けるわけにはいかない。
俺を信じて待っててくれる奴のためにもな……
あんたが言った、『狭間の証明』としてでなく。
武道家として生きていた俺の力を見せてやる!!」
>129>130
>「貴様等如きに語ったところで理解など出来ぬし、しようともせぬは明白。
> 脆弱にして無知蒙昧なる人間共は『絶対者』への謀反など考えもせぬ。
> かように卑屈極まりなき恭順に収まる者など、我には不要!
> ……貴様の求める道など、彼奴の掌の上に過ぎぬ。そんな物に、如何程の価値があろうか。
> 外に目を向けぬような小童が、道を語るなど万年は早いわ!」
「…なるほどな、聞く耳持たずって事か」
FALCONと誓音の放った攻撃はサタンに受け止められ、黒い闇の球体に変貌し、膨れ上がってゆく。
そして、その球体をサタンは放つ。
光の闘気を身から発して防御の体制を取ったその時、FALCONが前に飛び出し、気のバリアを張った。
球体とバリアが接触した瞬間に激しい衝撃が部屋全体を震わせた。
やがて限界を超えたバリアは砕け、攻撃の余波がカイザーに襲い掛かった。
1,2歩ほど後ずさったが、バリアのお陰でダメージは無に等しい。
>「……後悔なんてとっくにしてる……この城を守ることができなかった時からな……
> あんたの力に俺の力が遠く及ばないのは分かってる。
> だが、俺は負けるわけにはいかない。
> 俺を信じて待っててくれる奴のためにもな……
> あんたが言った、『狭間の証明』としてでなく。
> 武道家として生きていた俺の力を見せてやる!!」
FALCONが言葉を発し終えるに続いて、カイザーが言葉を発する。
「俺達は自分の信じる道を進んでいる。
貴様のような魔族には分からないかもしれないが、信じる道を進むのが人間ってものだ。
だから、俺は天聖騎士として その道を塞ぐ障害物を取り除くだけだ。
そして、今は外に目を向ける時では無い!
世界の人々の為、信じる道の為、そして俺達の明日の為に…貴様をここで討つ!!」
右拳を硬く握り締めた。
すると、右拳から溢れんばかりの光が放たれ、部屋のあらゆる部分を照らしつける。
「先ずは貴様を玉座から立たしてやる。」
光り輝く右拳を前に突き出し、サタンを見据えた。
「ブレンテル流、弾丸の技!――――聖闘気圧縮弾!!」
叫び声と共にカイザーの右腕から拳台の光の弾丸が次々と打ち出されてゆく。
轟音が鳴り響き、空気を切り裂く光の弾丸、その総数は百発を越える。
その光景は受ける身からすると巨大な光の壁が襲い掛かってくる様にも見える。
打ち出される弾丸の9割はサタンを討ち貫くべく突き進んでいる。
しかし、残りの1割は微妙ではあるがサタンの身体から離れている。それは玉座自体を狙ったものだ。
音速をも軽く超える光の弾丸は絶える事無く放たれ続けたが、それもついに途切れる事となる。
「最後に特大のオマケだ、とっておけ!」
カイザーの声と共に、直径1メートル以上の光の球がサタン目掛けて降り注ぐ。
オーガス城内。誰もいない広間に一匹の巨大な狐が現れる。
宙を舞うように駆け、騎士像の頭の上に器用に座り込んだ。
その狐は全長10メートル、金色の体毛、九本の尻尾、そしてシズネの面影を残す白い顔をして入る。
耳にはエヴァンスから渡された指輪がピアスのようにはめ込まれていた。
金毛白面九尾・鎮音はエヴァンスの命令通り、「その場所」へと来ていた。
*ズズン・・・*
低い音と共にオーガス城全体が揺れている。
空間が歪み、様々な空間と連結した今のオーガス城で城全体が揺れるほどの影響を与えるもの。
そのサタンの力に顔を歓喜に歪めながら宙を見る。
鎮音の右目には目の前の空間が、そして左目には玉座の間での戦いが見えているのだ。
「やれやれ・・・。同じ小手調べでもこうにも彼我の差があるとわねい。
脚色の一つでもしないと一方的過ぎて土産話にもならなさそうだけど・・・
この憤怒の魔王を向こうに回して生き証人が他にいなくなるなんて事はあるのかえ?エヴァンスさんや。」
サタンの圧倒的な力に戦慄と悦びを感じながら、最後の通信をしてきて以降、音信普通のエヴァンスの顔を思
い浮かべる。
七支刀の奪取と破壊と言う目的を果たした以上、もはやこの戦いは鎮音にとっては単なる劇であって、自分は舞
台にあがる者ではない、観客の立場だ。
そして絶対者や運命などと言う思想的基盤のないタカマガハラの者にとってはサタンの主張も他人事でしかない。
ただただ、この戦いを愉しむのみ。
BGMは破滅の雨音。
随分と大きくなってきている。もうすぐ城門付近まで迫ってことうかと言うところであろうか?
魔力、闘気、殺気、破滅の雨音、様々なものが交錯する戦いを鎮音は眼を細めながら愉しんでいた。
「たいしたもんだねい。あれだけの弾幕がこの魔素の中で張れるだなんて。
でも・・光は闇の対極であって対等。決して天敵ではないのだがねい。
刃こぼれはもう望まないから、せめて立たせてやっておくれよう?」
カイザーが聖闘気圧縮弾を放つのを見、歓声を上げながら愉しんでいた。
>129-131
誓音が放った音撃はいとも簡単にファルコンが放った気功弾が変化した闇の力に吸収されていく…。
吸収する力が強くなる。
誓音は刀を抜いた。
>「このまま無限の闇……超重力の檻の底に沈めてやろうと思ったが、
> それでは貴様等を徒に苦しみから解放するだけ……この程度で、終わりではあるまいな?」
>サタンがその球体を放つと、騎士達に向かって球体が移動する。
心臓音が高鳴る…これはやばい。
急遽誓音は悲鳴の部屋で防御しようと構えた。
しかしその時一瞬何故か自分ではない何かの力が働いた。
使うな!
―え?
グラリと目眩を起こし倒れそうになる。刀を地面に刺しなんとか倒れずに保つ。
ファルコンが前方でバリアを張る。少々軽い衝撃波が走る。
ファルコンがバリアを張らなかったら大怪我どころではすまなかったかもしれない。
「………。」
静かに動く誓音の中身。
(使う…な…?…いや、その前にあの声は…)
ふとさっきの暖かみのある声について考える。
***************************************************************
夜が明け始める。
普通なら誓音は門番の仕事を休む時間だ。
しかし誓音は休める状況ではなかった。
「おいおい…もうへばってるのか?」
先ほどまで対決していた女が花太郎にのりながら後ろを向き声をかける。
周りには木々が立っている。ここは門の前では無くとある森の中。
「っ…もうへばってるって…こちらは走って…」
息切れしつつなんとか答える誓音。ボロボロの白い長年着ている質素なドレスが揺れた。
あの門の前の決闘の後、誓音は何故かこの女に付いてきていた。
何故この女に付いてきている理由はその時は分かっていなかった。
圧倒的な力の差を見せつけて自分との決闘に勝ったその女が何故門を潜らず自分を村に連れて行ってる理由も分からなかった。
ただ、なんだか知らないが誓音はこの女に何かを見てついて行ってた。
ただただ…ひたすら…
「もう少しでつくぜ〜。俺の愛する村にはよ。」
そう言うと馬を走らせながらその女は水筒の水を飲み誓音に投げ渡した。
走りつつなんとか受け取り水を飲む誓音。
「いい村だぜ〜あの村は…きっとあんたも受け止めてくれる」
機嫌良く鼻歌を歌いながらその女は言った。
「……何故…」
「ん?」
「…何故、家に入らなかったんですか?」
走っている足を止めずに問いかける誓音。
「貴方はあの…家に用があったんでしょ?」
「……ん〜…」
考える女。
「…最初は……大切な物を取りに来たんだけどね
…なんだかあんたと会ったとたんどうでもよくなっちゃったんだな。」
「…は?どうでもよく…」
間抜けな声を出し聞き返す。
「おう!なんだか…なんて言ったらいいんだろ…なんだか取り返せたような気がしたから…」
そう言うと困った顔でほを掻いた。
「…まーいいじゃん。別に。って!ほらほら…あれだぜ。村が見えてきたぜ、」
前を指すその女。誓音は前を見た。そこにあったのは小さな小さな灯の団体。
「綺麗だろ。」
そう言って笑う女。誓音はシカトした。確かにその灯は綺麗だったから…
**********************************************************************
>「……後悔なんてとっくにしてる……この城を守ることができなかった時からな……
> あんたの力に俺の力が遠く及ばないのは分かってる。
> だが、俺は負けるわけにはいかない。
> 俺を信じて待っててくれる奴のためにもな……
> あんたが言った、『狭間の証明』としてでなく。
> 武道家として生きていた俺の力を見せてやる!!」
ファルコンが言葉を発した。
誓音は刺していた刀を抜くときちんと立った。
一つ前の事を考えている余裕はない。
(集中しなきゃですね…)
真っ直ぐサタンを見る誓音。次にカイザーが口を開く。
>「俺達は自分の信じる道を進んでいる。
> 貴様のような魔族には分からないかもしれないが、信じる道を進むのが人間ってものだ。
> だから、俺は天聖騎士として その道を塞ぐ障害物を取り除くだけだ。
> そして、今は外に目を向ける時では無い!
> 世界の人々の為、信じる道の為、そして俺達の明日の為に…貴様をここで討つ!!」
右拳を硬く握り締めるカイザー。
>すると、右拳から溢れんばかりの光が放たれ、部屋のあらゆる部分を照らしつける。
>「先ずは貴様を玉座から立たしてやる。」
カイザーはサタンを見据えた。
>「ブレンテル流、弾丸の技!――――聖闘気圧縮弾!!」
>叫び声と共にカイザーの右腕から拳台の光の弾丸が次々と打ち出されてゆく。
>打ち出される弾丸の9割はサタンを討ち貫くべく突き進んでいる。
>しかし、残りの1割は微妙ではあるがサタンの身体から離れている。それは玉座自体を狙ったものだ。
誓音も動き出した。走りサタンに近づく。
音撃が聞かないなら直接攻撃。刀を鳴らす。
>「最後に特大のオマケだ、とっておけ!」
背後からカイザーが叫ぶ。すると
>カイザーの声と共に、直径1メートル以上の光の球がサタン目掛けて降り注ぐ。
そしてそれと共に誓音も飛び上がる。刀を悲鳴が覆う…。
「さらにオマケです…。」
そう呟くと誓音は光の球の後にもの凄い力を込めサタンに向かって斬りかかる…否、刀を叩きつける。
−ザラリとした感触が体を包んでいる……いや、体自体が砂の様に感じる。
−闇だ。何一つ見えやしない。俺はあの女に騙され、ヒチシを奪われ……捕らえられた。
−そうだ、マリスはどうした? 俺と一緒に捕らえられたのか? それとも助けられたのだろうか?
−何にせよ、この状態のまま黙ってられないな。……感覚が蘇ってきた……。
−見える……聞こえる……仲間達とサタンの姿と声が。
−畜生、動けねえ。指一本ピクリとも動きやしねえ。目だけしか動かねえなんて……。
−いや、動けたとしてもヒチシ無しの俺なんて役に立たねえか……。
−サタンの魔力の前に、俺が立ち向かえる筈もねえ……。
−ヒチシが無けりゃ、俺はお役御免だ。傭兵風情の出る幕じゃねぇよな……。
静かに開かれたマックスの虚ろな瞳は、まだ始まって間もない死闘を映していた。
−フンバルトさん、俺は駄目でした。あなたの遺志、継げませんでした……。
マックスはまた静かに瞳を閉じた。フンバルトの姿が脳裏に映り、目からは涙がこぼれ出す。
その涙は不思議にも砂に吸われる事無く、床に滴り濡らしていた。
マックスの脳裏に映るフンバルトの顔が突然紅潮しはじめる。
深く刻まれたしわがより、猛禽を思わせる眼光が更に鋭くなっていく。
「くぅおの、ぶあっかもおぉーーーん!
マァークスウエル!貴様に託した儂の遺志はなんぢゃあ!!
それはシチシなんぞではないぞ!
フレゼリアの騎士の誇り!いやさ人間の尊厳ぢゃ!!
よいかマックスウエル!戦いってのは最後の最後は根性!!死線を越え、限界を踏破したその先に戦士だけが味
わえる快感があるっ!!
ヒチシなんぞなくとも貴様には人間の尊厳が!儂の!フレゼリアの!魔と闘う人間全ての意思が貴様の双肩に圧
し掛かっておるわ!
天地自然の法則を捻じ曲げる妖術が如き小細工の拘束なんぞ根性で打ち破らんか!
貴様と、貴様の背負う人の意志の力!今こそ見せてやれえぇい!!」
マックスの脳裏にフンバルトの怒声が響く。
「まったく、出気の悪い息子ぢゃとおちおち死んでもおれんわい。
マックスウエルよ、人には限りない可能性が与えられておる。自分を信じるのぢゃ・・・」
これはフンバルトの亡霊かマックスの幻覚か。
マックスだけに、だが、確実に聞こえるその声は暖かい光を残し、消えていった。
>130-131、>133-135
>FALCON
>だが、俺は負けるわけにはいかない。
「そう言いながら敗れていった者共を、嫌と言うほど見てきた……
力なき者が何を語ろうと所詮は遠吠え、実効性が無い。
その愚かしい決意もろとも、貴様等の存在をあまねく世界から消し去ってくれるわ……!」
>カイザー
>貴様のような魔族には分からないかもしれないが、信じる道を進むのが人間ってものだ。
「貴様の様な人間には分からぬだろうが、己が道を振り返らぬのが魔族だ……
貴様ら人間共は常に自種が頂点に立っていなければ気が済まぬ、実に子供じみた
習性を持つ。まぁ、それも彼奴に植え付けられた……偽りでしかないが。」
>そして、今は外に目を向ける時では無い!
「……外に目を向けねば、同じ事が何度でも繰り返されるぞ?
我が道に続く者は必ず現れる……彼奴が、『外』にいる限りはな。
その程度の事にすら気を回せぬで何が天聖騎士だ……笑わせてくれる!」
>聖闘気圧縮弾
サタンは微塵も動かない。既に具現化した魔王の鎧のバリアを発動させているから。
展開したバリアは光弾を弾き、消し去って主であるサタンを完全に守る。
>誓音
>「さらにオマケです…。」
光弾の弾幕を盾に懐に女が飛び込んでくる。
見た目からは考えられないほどの膂力を以って振るう刀の威力は
推して知るべし、だろう。そんな一撃を、サタンはバリアでなく手で受け止めた……
正確には、『人差し指と中指だけで止めた』のだ。真剣白刃取り、あれの指版。
「賢しい人間はこうでもしなければ勝てんと踏んで策を弄する……が、
それこそ罠よ。絶対的な力持つものは、この期に及んで下らぬ策など使わぬわ。
即ち……貴様等など、我が敵にあらず!」
指で挟んだまま刀ごと女を壁の方に放り投げ、超振動波を誓音に放つ。
二の太刀、三の太刀とばかりに接近するカイザーとFALCONには、お返しの
火球、雷球を撃ち。
「この程度か、オーガス騎士共……やはり、我が敵はオーガスただ一人。
……気が変わった、お遊びはもう終わりだ。貴様等を速やかに滅し、我は
三界を掌中に収め……彼奴を討つ。絶対運命を取り戻す為に……!」
そう宣言して、サタンは立ち上がる。
手をかざして、愛用の錫杖を具現化、魔力を収束して広範囲魔法の詠唱を始める。
サタンクラスともなると、無詠唱で人が操れる最大級の魔法を行使できる。
そのサタンが詠唱すると言う事は、確実に殺しにかかると言う事に他ならない。
>138
カイザーが放つ、機関銃の様な光弾の弾幕と、巨大な光球はサタンに当たった。
だが、サタンの身に纏うバリアが全ての光弾を弾く。
光弾の弾幕に身を隠して放った誓音の一撃も、軽く指で挟んで受け止める。
さすがに七つの大罪を司る魔王のことだけある。桁違いの強さだ。
………いつも邪険に扱っているベルゼバブも、これ程の強さを持っているのだろうか?
サタンは誓音を刀ごと放り投げ、衝撃波の様なものを放ち、こちらには火球と雷球を放つ。
どの技も桁違いの威力を持っている。
FALCONは刀をコートから取り出し、刀身を長く伸ばす。
長く伸ばした刀に黄金の気を纏わせ、襲い来る火球を叩き斬った。
>「この程度か、オーガス騎士共……やはり、我が敵はオーガスただ一人。
> ……気が変わった、お遊びはもう終わりだ。貴様等を速やかに滅し、我は> 三界を掌中に収め……彼奴を討つ。絶対運命を取り戻す為に……!」
サタンは立ち上がると、虚空から杖を取り出して、呪文の詠唱に入る。
濃密な魔力がサタンから吹き出し、この部屋全体に伝わっていく。
はっきり言うとやばい。
これ程までに凄い魔力が流れ出す呪文をFALCONは知らない。
だが、そんなことで怯む自分達ではない。
「三界を掌中に収めるのも、外にいる何かを倒すのも勝手にしろよ……
俺は武道家の誇りに掛けて、あんたをぶっ倒す。
俺の帰りを心配して待っててくれるイルの為にも、俺は負けるわけにはいかねえ!!!」
黄金の気が炎の如く燃え盛り、FALCONを包み込む。
刀を床に突き刺し、右掌に気を収束させて、サタンの方に向ける。
「鳳凰掌!!!!」
黄金の鳥となったFALCONは、詠唱中のサタンに向かって突き進んでいく。
>135>136>138-139
>「貴様の様な人間には分からぬだろうが、己が道を振り返らぬのが魔族だ……
> 貴様ら人間共は常に自種が頂点に立っていなければ気が済まぬ、実に子供じみた
> 習性を持つ。まぁ、それも彼奴に植え付けられた……偽りでしかないが。」
>「……外に目を向けねば、同じ事が何度でも繰り返されるぞ?
> 我が道に続く者は必ず現れる……彼奴が、『外』にいる限りはな。
> その程度の事にすら気を回せぬで何が天聖騎士だ……笑わせてくれる!」
カイザーの攻撃を全てその身に受け、更に誓音の斬撃がサタンに襲い掛かる。
だが、サタンはそれらを全て防ぎ、雷球と火球の反撃をこちらへ向けて放つ。
「…この攻撃では俺を仕留める事は出来ない」
カイザーは聖闘気を集中させている右手で雷球を掴み、消滅させる。
ふと、部屋の片隅にある砂の塊が視界に入った。
>その涙は不思議にも砂に吸われる事無く、床に滴り濡らしていた。
その滴り落ちる水滴を見たカイザーは、とっさに叫んだ。
「マックス!お前が成すべき事は何だ!
そんな所で腐っている事が、お前の成すべき事なのか!?」
(…とっさに叫んでしまったが…?)
自分でもどうして叫んだのか分からぬまま、視界をサタンへと戻す。
>「この程度か、オーガス騎士共……やはり、我が敵はオーガスただ一人。
> ……気が変わった、お遊びはもう終わりだ。貴様等を速やかに滅し、我は
> 三界を掌中に収め……彼奴を討つ。絶対運命を取り戻す為に……!」
サタンは立ち上がり、杖を空間から呼び出すと魔法の詠唱を始めた。
計り知れない強大な魔力が術者の元へ集い、その小気味悪い空気が部屋全体へ浸透してゆく。
「…笑わせてもらうのはこっちだ。
絶対者とやらの存在を知っておいて、やっている事はお城の王様気取りか。
俺達を倒してから彼奴を討つ?…やる事の順序が逆なんだよ!」
カイザーは剣を鞘に収めると、呪文の詠唱を開始したサタンを睨みつける。
「貴様の思い通りにはならない。・・・3年前も、そして今日もな。
あの時、オーガスやデュラハンが命を賭けて貴様を討った事を無駄にはさせない!」
FALCONが自分の気を右掌に収束させてサタンへ向けて突撃する。
それに続くようにカイザーは自分の聖なる力を高める。
「ハアッ!!」
聖闘気が爆発的に大きくなり、それは突風を生み出す。
指先で描かれるは光り輝く線で結ばれた5つの頂点、光の五芒聖の魔方陣が作り出された。
そして、カイザーは魔法の詠唱を開始する。
>138
勢いよく飛び出したセシリアは一分の隙もないほど迷っていた。
「えーと、今通ったのが三階の……西側でいいのかな?」
玉座の間へ続く廊下へ飛び込んだはずだが、なぜか舞踏場へ出た。
そこを出ると側塔、次は礼拝堂、続いて銃眼の並ぶ城壁内部……と、
少なくとも玉座に近付いている気配は全くしない。
セシリアが一度城門まで戻ってみるべきか、と考えたところでそれは起こった。
最初は全く気がつかなかった。角を曲がるときに壁に手をかけて初めて異変を察知した。
――揺れている。その揺れはすぐに全身で感じられるようになった。
急ぎ外へ飛び出したセシリアを熱風と衝撃が襲う。大きく崩れた体勢を立て直したセシリアの目に、
崩壊した玉座の間と、そこに在る者の姿が映った。
「あれが……魔王」
その姿は濃いもやに包まれたようで確たる形を成してはいなかったが、
迸る憤怒は物理的な圧力すら伴ってセシリアを打った。
自然、荒くなった息を落ち着けてから位置を変えた。
そこに剣を突き立てる。さらに位置を変え、そこに指輪を落とした。
もう一度位置を変え、その場で腕輪を外し、投げた。腕輪は西の方角へ飛んでいく。
セシリアは細く息を吐き出すと、槍を振り上げ、詠唱を始めた。
――いざや歌え永久なるものらよ
鎧にはめた魔石が光りだす。
――我が血の巡り行くに乗せて
セシリアの位置からでは確認できないが、剣や指輪も同様のはずだ。
――汝らの在りたるを虚ろへと示せ
降星術……精霊、特に世界を形作る上で根幹となる地水火風の元素霊の力を借り、
空に浮かぶ星の力をこの大地へ呼び込むミディアリオ家伝来の秘術。
騙し討ちのような形になるが、魔王と呼ばれる相手に手段を問う事は愚かしい事だろう。
セシリアは槍を振り回し、踊るように、歌うように詠唱を続けた。
――声高らかに呼べ 汝らが朋友を
詠唱が最終段階に入り、セシリアの視界に白と黒の景色がかぶる。
揺らぐ白の中に大きな黒い点が一つと、少し小さな点がいくつか。
星の目で見玉座の間を覗くとこうなる。
点の大きさは放っている力の大きさ。つまり大きな点はサタンだ。
そこに向けて意識を集中させる。狙うは文字通りこの一点。
――赫々たる剣を携えたる王を!
「灼陽斬!!」
詠唱が完成した。同時に雲が円形に晴れ、その環の中を太陽からの一条の光が、玉座の間へ向けて疾り抜けた。
>138
誓音の渾身の一撃はあっさりとサタンに防がれた。
否、正確に言えば受け止められた。
誓音の眼が見開く。
>「賢しい人間はこうでもしなければ勝てんと踏んで策を弄する……が、
> それこそ罠よ。絶対的な力持つものは、この期に及んで下らぬ策など使わぬわ。
> 即ち……貴様等など、我が敵にあらず!」
>指で挟んだまま刀ごと女を壁の方に放り投げ、超振動波を誓音に放つ。
誓音はおもいっきし吹っ飛び壁に打ち付けられた。
「ぐぁあ!」
思わず叫ぶ誓音、そしてその後からくる衝撃波…。
衝撃波は見事に誓音に当たった。
全身に罅が入る。
「っ…ぁ…」
寝転がる誓音。
全身を襲う悲鳴さえ出ないほどの激痛…!
そして脳裏に叫ばれる誰かの声。
壊すな!壊セ!壊すな!壊セ!壊すな!壊セ!壊すな!壊セ!
誓音は頭を抑えた。
サタンを倒すためには姉を殺さなきゃ行けないことぐらい分かってる。
しかし自分の中の何かが必死にそれを制御している。
(誰?)
(いったい…)
「ぁ…ぇ…あっ……あぁっ…っ!」
***********************************************************************
誓音はその女が住んでいる村に住むことになった。
そこにいる人間は今まで出会ってきた人間とは違かった。
最初は驚かれたが決して怪物と罵る事もなく、普通の人間として扱ってくれた。
もちろん誓音をこの村に連れてきた張本人の女…誓夜も。
誓夜は正義感が強かった。
魔王軍に占領されそうになったこの村を何度も知恵や力を使い守ってきた。
だから誓夜はとても村人からも信頼されていた。
だから誓音もこんなにあっさり受け入れて貰えたのかも知れない。
誓音にとって今まで生きていた中で一番幸せだった。
血肉に触れることもなく…人の死に触れる事もなく…。
ずっとこの幸せが続くと思ってた。
ずっとここの人間と一緒にいれると思ってた。
しかし、その幸福はいとも簡単に失われた。
それは誓音が村に来て一年近くたった頃、誓音が村を少し離れた間に起きた。
目の前に広がる村。そこにはいつものような暖かい灯はなかった。真っ暗で薄気味悪くなった村。
誓音は慌てて近くの知り合いのおばさんの家に向かって走り出した。嫌な予感がする。
バン!
ドアを勢いよく開ける。
そしてそこにあったのは…。
首が取れたおばさんの姿。
「…嘘…。」
後ずさりする誓音、すると今度はいつも一緒に遊んでいた女の子の家に走っていった。
ドアを開ける誓音。そしてそこにあるのは…。
胸が引き裂かれた少女の姿。
誓音は絶叫した。そしてまた走った。兎に角生きている人間の姿が見たかった。
いつも遊んでる桜の木…農家、行けるところには全て行った。
しかしそこにあるのは全て死体だった。誓音は絶望した。
そして最後に誓音は自分と誓夜が住んでいた家に戻った。
きぃいいいい…
静かにドアを開ける誓音。そしてそこに居たのは。
「よぅ……。」
椅子に座っている傷だらけの誓夜だった。その顔にはいつもと違った雰囲気の笑顔を浮かべてる。
誓音は静かに聞いた。
「一体…何があったんです…か?」
以前笑顔の誓夜。その手には刀があった。誓音は再度問いかけた。
「なんで笑ってるんですか…?」
「しらばくれないでくれよ。誓音。」
「…え?」
「全部あんたがやった事じゃねぇか…。」
そう言うと静かに誓夜が立ち上がった。
「何…言ってるんですか?」
声が震える誓音。すると誓夜は静かに刀を誓音に向けて言った。その表情はもう笑顔ではなかった
「…化け物…。」
気が付けば空は暗闇、赤い満月が輝いている。
************************************************************************
先ほどまでもがき苦しんでいた誓音の表情、全てが止まった。
ぺキッ…ぺリぺリぺリ…
ほの殻が二三枚剥がれて上へ上がっていく…。
まるで魂が天に召されるかのように…。
>139-144
>FALCON
>「鳳凰掌!!!!」
火球を切り裂き、そのままFALCONは自らの闘気を収束させて纏い、
黄金色に輝く鳳となってサタンへと向かってくる。
魔法に魔力を割いている為、バリアは展開できない……直撃を受ければ
発動は不可能だろう。そこでサタンは、自身が取り込んだ魔の内の一体を
強制的に具現化させ、FALCONへと射出する。確実に砕かれるだろうが、
威力は減衰できる筈だ。出来なくとも、致命的な一撃さえ受けなければいい。
>カイザー
>そして、カイザーは魔法の詠唱を開始する。
その後ろでは、カイザーが何やら魔法の詠唱に入っているようだ。
サタンの魔法に対抗しようと言うのか、いやこの場合は決め技と思った方がいい。
こう言う時、単騎は手が回らない。だがこの程度の事は幾度と無く経験している。
それに、いかな仇敵とは言え今の自分の詠唱している魔法を相殺できるほどではない筈。
そもそも、相殺とか言っていられるようなレベルじゃないのだ。
今は集中せねばならない、失敗すれば……自分にまで影響が出る。
>セシリア
>「灼陽斬!!」
……迂闊だった。いくら魔法を完成させる為に集中していたとは言え、
敵意どころか精霊魔法の発動を感知し損ねたのだから、迂闊としか言えない。
遍く世界を照らす光の象徴、太陽より放たれる光と熱を収束した一撃への
反応が遅れ、直撃を受けてしまった。忌むべき光と熱で体がボロボロにされていく。
その一撃が消えた時、サタンの両腕は影形を無くしていた。咄嗟に防御に回した結果だ。
当然集中も切れ、魔法は失敗に終わった。しかし……
「……貴様らぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
内なる怒りを迸らせ、消えた両腕を復元させる。
怒りが魔力へと変換され、それを吸収した魔王の鎧が形状を変化させ始めた。
金属とも肉とも判別の付かない物質が寄り集まり、左端を魔族に相応しい姿へと―――
「……どこまでも、どこまでも愚弄してくれる……!
所詮貴様らなど、彼奴が逆らう者を滅する為だけに因果律を操作し、
結果寄り集められただけの、人形に過ぎぬ分際でぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
サタンが更に魔力を解放すると、空間が変質し風景が変わっていく。
そこはまるで、神の座する場所の様でもあり忌まわしき魔物の巣の様でもあった。
>誓音
>ぺキッ…ぺリぺリぺリ…
何かが剥がれる音が耳に響き、サタンは誓音の方を向く。
見れば、卵の殻に入った皹のような物がありそして剥がれているではないか。
刹那、サタンは本能的に危険を察知して誓音へと向きを変えた。
>140->145
サタン目掛けてFALCONは突き進む。
詠唱に気が向いて、無防備になっている今が最大のチャンス。
呪文が完成してしまえば、こちらも全滅してしまう可能性があるが、
鳳凰掌を直撃させれば詠唱を妨げるどころか、大ダメージを与えられるだろう。
だが、FALCONの鳳凰掌はサタンに当たることはなかった。
サタンが体から魔物を噴出し、鳳凰掌の直線上に配置したのだ。
魔物も一気に吹き飛ばそうとしたのだが、意外にもしぶとい。
鳳凰掌は魔物の体を貫通しただけ。
サタンの所まで届く威力はなかった。
このままではサタンの呪文により一網打尽にされてしまう。
カイザーも後方で呪文を詠唱し始めているが、サタンの呪文の方が早く発動してしまう。
だが、その不安も杞憂に終った。
遥か上方から力の収束が感じられる。
それも、とんでもない程に強い力。
光がサタンに向かい降ってくる。
オーガス城を貫いて、サタンに降り注ぐ。
その正体は、遥か上方から感じたエネルギー。
そのエネルギーは強大な力を持ってサタンを焼き尽す。
鳳凰掌が決まらずに良かった。
下手をすれば、サタンと共にあの光によって焼き殺されていたかも知れない。
光が消えた時、サタンは両腕を失っていた。
>「……貴様らぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
サタンが咆える。
両腕を再生し、自身から沸き上がる怒りを糧にして、魔力を高めていく。
それに応じ、サタンを守っていた魔力の鎧も変化し、判別することのできない謎の物質に変化。
謎の物質はサタンに寄り集まって、禍々しい姿へと変わっていった。
>「……どこまでも、どこまでも愚弄してくれる……!
> 所詮貴様らなど、彼奴が逆らう者を滅する為だけに因果律を操作し、
> 結果寄り集められただけの、人形に過ぎぬ分際でぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
サタンが更に魔力を開放すると、空間が歪み、別の場所が現れる。
そこは神秘的で禍々しく、全てが矛盾した場所。
まるで、魔族と人間の力を一つにした自分のように。
「ったく……外ばっか気にしやがってよ……
てめえの敵は外にいる奴じゃなくて、この俺達だろうが!!
くだらねぇことばっか言ってる暇があったら、さっさと俺達を倒して外にいる奴と戦ってきやがれ!!!」
突然、この場にふさわしくない卵の殻が剥がれるような音がする。
気になって振り向くと、誓音の体に異変が起きている。
まるで内側から何かが現れるような感じ。
その誓音の異変にサタンも気を取られ、誓音の方に向き直る。
サタンが誓音に気を取られている内に、FALCONは動き始めた。
今のサタンは誓音の方に注意が向いていて隙だらけ。
その隙にFALCONはサタンの横側に距離を取り、足止めするかの様に気功弾を乱射した。
>141-147
≪前に見るは我の正しき姿、後に見るは彼の正しき姿≫
カイザーは己の集中力を高め、魔法の詠唱を始めた。
このままではサタンの詠唱が先に終わるだろう。
サタンが隙を見せてまでも使う呪文だ、まともに喰らえば大打撃を受けるだろう。
だが、逆に言えばそれを凌げばこちらのチャンスが生まれる。
≪上を見ればそれを証明できる≫
大魔法を使えば術者は誰でも精神的にも肉体的にも反動を受ける。だからこそ、その一瞬を狙う。
…と、その時だった。
天から熱線が降り注ぎ、一瞬にしてサタンの身を焼く。
おそらくセシリアの技だろう、そう判断したカイザーは呪文の詠唱を続けた。
≪ならば我も天へと飛ぼう≫
サタンは両腕を失い、魔法も失敗に終わった。
>「……貴様らぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
怒号、サタンの叫び声が周囲に響き渡った。
魔法の発動が中止された事、そしてそれが人間の手によるものだという事実が彼をここまで怒らせているのだろう。
≪天翔ける不死鳥の姿を見たならば≫
五芒聖の輝きが大きくなり、その光は脈打つ様にも見える。
そして、更に輝きは強くなる。まるで城に充満している闇の力をを吹き飛ばすかのように
>「……どこまでも、どこまでも愚弄してくれる……!
> 所詮貴様らなど、彼奴が逆らう者を滅する為だけに因果律を操作し、
> 結果寄り集められただけの、人形に過ぎぬ分際でぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
≪そなたの旅もここが終結の地≫
不意に周囲の風景が変貌してゆく。
そこは光、闇、緑、灰、様々なものが入り混じった不思議な感覚のする場所であった。
「…おいおい、貴様の物差しで世界を測るなよ。」
魔法の詠唱の途中であるが、カイザーはそう言葉を告げ、更に続ける。
「今、貴様が戦ってるのは絶対者とやらでは無いし、ましてその人形なんかじゃない。
貴様が目の前に対峙している者達は、自分の意思で自分の大切な物を取り戻す為に戦う騎士なんだよ。
目の前の視界が開けていない者に俺達は倒せない。…さて、そろそろ決めさせてもらう!」
≪それを否と証明したくば≫
詠唱が残り一節にまで進んだ。
FALCONは気弾を乱射し、カイザーもそれに続こうとする。
>ぺキッ…ぺリぺリぺリ…
その瞬間、嫌な音が耳に入った。
そして部屋内の雰囲気が変わった、サタンまでもがそれに気を取られているようだ。
カイザーは振り向く、その先には無表情、無感情の誓音がいる。
「…誓音!どうしたんだ!?」
何かが神経を這いずり回るような感覚をカイザーは感じ取り、思わず反射的に叫んでいた。
>137>140
>マックスの脳裏に映るフンバルトの顔が突然紅潮しはじめる。
>深く刻まれたしわがより、猛禽を思わせる眼光が更に鋭くなっていく。
−フ、フンバルトさん……。
マックスはフンバルトのその様子に、血の気が失せる様な錯覚を受けた。
>「くぅおの、ぶあっかもおぉーーーん!
>マァークスウエル!貴様に託した儂の遺志はなんぢゃあ!!
>それはシチシなんぞではないぞ!
>フレゼリアの騎士の誇り!いやさ人間の尊厳ぢゃ!!
>よいかマックスウエル!戦いってのは最後の最後は根性!!死線を越え、限界を踏破したその先に戦士だけが味
>わえる快感があるっ!!
>ヒチシなんぞなくとも貴様には人間の尊厳が!儂の!フレゼリアの!魔と闘う人間全ての意思が貴様の双肩に圧
>し掛かっておるわ!
>天地自然の法則を捻じ曲げる妖術が如き小細工の拘束なんぞ根性で打ち破らんか!
>貴様と、貴様の背負う人の意志の力!今こそ見せてやれえぇい!!」
−……!!
−そうだ……いつだって俺は、気合と根性で切り抜けてきた……それでどんな激戦も生き延びてきたんじゃないか。
>マックスの脳裏にフンバルトの怒声が響く。
>「まったく、出気の悪い息子ぢゃとおちおち死んでもおれんわい。
>マックスウエルよ、人には限りない可能性が与えられておる。自分を信じるのぢゃ・・・」
>これはフンバルトの亡霊かマックスの幻覚か。
>マックスだけに、だが、確実に聞こえるその声は暖かい光を残し、消えていった。
−全く、本当に出来の悪い息子だ……こんな事も忘れて、勝手に悲観して……貴方を眠りから覚ましてしまった。
マックスの目に涙とは別の輝きが甦る。闘志の炎、希望の光が。
−目が覚めましたよ、フンバルトさん。お詫びと言ってはなんですが、あのクソ野ろ……いえ、サタンの最後を見てて下さい。
−無論、この(自称)戦場の主役と謳われた、この俺の活躍もねぇっ!!
彼の調子は元に……以前のお調子者で、熱い頃のマックスに戻っていた。この単純さがマックスの良いところである。
>「マックス!お前が成すべき事は何だ!
>そんな所で腐っている事が、お前の成すべき事なのか!?」
今は確かに甦ったマックスの意識に、カイザーの声が直接響いてくる。
−へへっ、んな訳無いだろ。行くぜ、俺の出番だ……ん? あ、あれ!?
マックスは体の自由が利かない事を再び認識して、やっと自分の状況を思い出した。
そう、彼は囚われているのだ。
『目覚めなさい……』
何者かの声が脳裏に響き、マックスを捕らえた砂柱が黒い光に包まれる。
砂柱の中心から、黒い光に包まれた彼の左手が突き出し、続いて右手がそのすぐ隣から突き出る。
−お……おおおぉぉぉぉ……。
「うおおおりぃやぁあああ!!!」
確かな声として空間内に響き渡り、その両手は砂柱を抉じ開ける様に破壊した。
マックスの体は黒い光に包まれたまま宙を舞い、すぐ前に軽く着地した。
「……この光は何だ……? どうやら気の類の様だが……いや、それよりも」
まだ良く解らぬ新たな力に軽く戸惑いつつ、目の前の魔王に目を向ける。
>144
「魔王サタン……テメェの罪はその大層な呼び名通り、何千年掛かっても償いきれるもんじゃねぇぞ、クソ野郎……!!」
マックスは歯を食い縛り、魔王の姿を見据える。だが、魔王はあらぬ方向を向いていることに気づく。
そしてこの奇怪な音。殻が割れるような音。その音はマックスの耳にも届いた。
彼がサタンの向いている方……音の方に顔を向けると、その先には誓音の姿があった。
その姿に反応したのか、マックスの体を纏う黒い光が一層黒く輝いた。
>145
セシリアは光が収まりきらぬうちに手近な城壁の上に降りた。
そのまま背を壁に預ける。息がひどく乱れている。
体力の消耗が思った以上に激し過ぎるためだ。
なにぶん初めて行った術なので、勝手がわからなかった。
威力自体はほとんど際限なく上げていけるようだが、
逆に威力を減じる事と照準のために多大な集中力を要求された。
顔を上げると、「星の目」の映像に、魔王の姿が重なった。
いくらかの打撃は与えたが、致命打にはならなかったようだ。
(威力を絞りすぎたか……でもみんなを巻き込む可能性が……)
失敗の原因はいくらでも浮かぶ。しかし、今更考えて見ても始まらない。
槍を床に突いて立ち上がろうとしたセシリアだが、足が萎えてまた床に尻をついた。
もう一度立ち上がろうとしたところで、玉座の間の異変に気がついた。
空間に起きた変貌に、ではない。
その変貌した空間の中、奇妙な緊張状態が生まれているようにセシリアには感じられたのだ。
何かが起こる、それだけは間違いのないことだが、何が起こるというのか……
セシリアはその場に膝をついて、体力の回復に努めることにした。
今飛び出して行ったところで足を引っ張るだけだろうし、
何よりここからなら全体の様子が見て取れた。
*********************************************************************************
「…化け物…。」
そう呟いて向けられた刀の先は満月で紅く輝いていた。
「誓夜・・・?」
無表情でその名前を呼ぶ。しかしそれに答えることは無かった。
紅い刃が誓音に向けて振られる。
―ドン!
何とか怪物の右手で受け止めるも、誓夜の刃の破壊力に耐えきれず壁ごと吹っ飛んだ。
地面に叩きつけられ引きずられる誓音に即座に飛び上がる誓夜。上から刀を誓音に向かって叩きつける。
ガッ!
反射的に右手で受け止める。
刀が食い込む。ジワジワと出る血…。
「くっ…!」
―音撃!
ドォォオン!
張り詰めた音が鳴り響くと誓夜は吹っ飛んだ。上空に飛ぶ誓夜の体。全体から血が出てくるのにその目は冷たい。
大あわてで立ち上がる誓音。即座に後方へ逃げる。
さっきの一撃で分かったのだ。最初に会った誓夜とは違う。これはマジの誓夜だという事を。
誓夜は地面に叩きつけられず着地すると、誓音に再度詰め寄る。
「逃がさねぇよ。」
再度横に振られる刀は誓音の背中を斬った。
激痛が走る背中。誓音は前に倒れそうになるが踏ん張ると、バギッと左手だけを後ろへ捻り誓夜に叩きつける。
しかしそれは誓夜に当たらなかった。怪物の手を飛び避けると前に光のごとく進み軽く飛び背後から一発拳を振るった。
頭蓋骨を揺らす衝撃、悲鳴を上げ倒れる誓音。
「な…ん……で?」
自然と呟かれる言葉。誓夜は誓音の後頭部を足で踏んだ。
「……村人達の仇だ。」
そう言うと誓夜は刀を両手で持つと上に上げた。
ガラリと変わる誓音の目付き。
ビチャッ!
血が飛び散る音が響いた。
果たしてどれぐらい時がたったのだろうか。
額の横に切り傷を付けた死んだような目をしたボロボロの誓音。
その手に抱かれたのはそんな誓音よりもっとボロボロに傷ついた誓夜だった。
紅い満月が照らすのに雨が降ってくる。
誓音は勝った。誓音は恩人の命より自分の命を選んだのだ。
悲鳴の大音量で脳神経を壊した誓夜を手に涙は出なかった。
暫く抱きしめたまま動かない誓音。そこに可愛らしい少女二人の声が響く。
『キャハハハ♪殺しちゃったんだね。』
ばっと振り返る誓音。そこにはかつて自分を従えたあの魔族の一族の母と双子娘がいた。
「お前は…。」
静かに呟く。
「どうかしら……素敵な演出でしょ?」
その母は冷たい微笑みを浮かべながら言った。
「その女は貴方を連れ去ったからねぇ…」
「…貴方たちが…村人を殺したんですか?」
「……娘の能力は変化の力だという事をお忘れじゃなくて?」
「ああ…忘れてない……そうですか…私に化けて村人を殺したんですか。」
「あら…殺したのは紛れもなく貴方よ。…ただ私は手伝っただけ。」
「…私は殺してない!」
そう叫ぶと怪物の手の爪先を母に向けた。表情一つ変わらない母。
「…哀れな動物ねぇ……。」
そう一言言うと誓音の爪先に指を軽く指す。ダラリとその母の指から血が出てくる。
そして次の瞬間周りから薔薇の茨が出てくると誓音と誓夜を覆った。
激痛が走る誓音、そして最後にあの母の声が聞こえた。
「あぁ…そうそう…教えて差し上げるわ…その女…貴方の姉なのよ?
…あの日取り返そうとしたのはね…あの拷問部屋で死んだ貴方のお・か・あ・さ・ま。」
目を見開く誓音。そして目の前は真っ暗になり暖かい血が覆ったかと思えば目が覚めた。
気が付けば外は清らかな朝。そしてふと掌を見れば黒い罅にかつて誓夜が…否、自分の姉が彫っていた赤い刺青があった。
―今の誓音の誕生であった。
その後、誓音は自分の弱さを姉の正義の意志を継ぎ魔王を倒しに…
姉の意志を継ぎ?
*********************************************************************************
べリべリと姉の殻がはがされていく誓音。はがされた殻の下に白い柔肌が露わになってきた。
それと同時に誓音は自分の精神に異変を感じた。
(おかしい…何かがおかしい…)
ファルコンの声が聞こえる。
(まるで…これは…)
カイザーの声が聞こえる。
(なんなんだ…この感覚は…)
マックスの声が聞こえる。
(!!…もしかして…いや…そんな…)
セシリアの心臓音が聞こえる。
そして次の瞬間…。
「逃げてぇええぇええぇぇぇぇえええ!」
誓音は叫んだ。そして次の瞬間殻が一片に吹き飛び恐ろしいほどの暴風が吹く。
そしてその暴風の後に現れたのは金の右目、銀の左目をもった体の右半分が黒い怪物化した黒髪の白き布を巻いた少女。
その少女はただの人間なら死んでしまうほどの殺気を帯びていた。
そしてその少女は周りをじっと見るとサタンを向きニッと笑い怪物の手を地面に置くとカッと目を見開いた。
―無意怨撃!
地面全体が揺れると部屋全体が真っ黒に成り同盟軍、サタンの足下から衝撃が走る。
ズン…!
揺れる部屋。
悲劇が 始まった。
>146-153
>FALCON
>足止めするかの様に気功弾を乱射した。
牽制のつもりなのだろう、本来の威力には程遠い攻撃が迫る。
しかしサタンは注意を逸らさない。まっすぐ、誓音へと向かう。
いくつもの攻撃が直撃するが、かすり傷一つつけられない。
魔力によって異常に高められ、三界の如何なる物質をも凌駕する剛性と
自己修復能力を備えた装甲は多少の攻撃にはびくともしない。
邪魔なハエを撃ち落すような動作で腕を振るって真空を纏った衝撃を放つ。
>カイザー
>自分の意思で自分の大切な物を取り戻す為に戦う騎士なんだよ。
「……それこそが思い込みよ。
貴様らに己の意思などあるものか……貴様らの意思など、彼奴にとっては
操り人形の糸も同じ……せいぜい意思ある者と信じるがいい、人形よ。」
魔力でカイザーの影から影の槍をいくつも召喚して攻撃する。
形態変化により更に感覚が研ぎ澄まされているらしい。
>MAX
>「魔王サタン……テメェの罪はその大層な呼び名通り、
> 何千年掛かっても償いきれるもんじゃねぇぞ、クソ野郎……!!」
後ろから新たな声が聞こえた。振り向くと、拘束されていた男が脱出している。
しかも、今までに確認されていない奇怪な力も持っているようだが……
「……愚かな……貴様のその怒り、それこそが我が力。
分からぬか?貴様自身が、我に力を与えている事が……所詮、感情を
処理できぬ欠陥品よ、貴様ら人間という存在はなぁ……!」
マックスの周囲の空気を高速回転させて急激に冷却し、空気中の水分を凍結させて
微細な氷の刃を生み出し回転に乗せて局地的なブリザードを発生させる。
報告にある通りならば、この一撃で致命傷となる筈だが?
>誓音
>―無意怨撃!
周りに気を取られている内に、危険な存在がその本性を現した。
そこにあるのは、純粋な破壊衝動……『殺す』と言う意思、亡者の怨磋。
『辻斬り』よりも更に激しく、陰鬱で、そして……
「……フハハハハ……それが貴様の本体か……!
なるほど、よくぞ今まで我が目を欺いてきた。そして、貴様こそが
彼奴の真の刺客よ……我も、こやつ等も彼奴にしてみれば等しく邪魔な存在……
貴様はいずれ自滅する、が我等はそうも行かない。故に、だ。
恨むならば……彼奴を恨め!貴様を選んだ、彼奴を!」
襲い来る亡者の念から怒りを抽出して力を溜めつつ、絞り粕を呪術の媒介にする。
内容は、相手を衰弱させ死に至らしめる、遅効性の呪い。それを誓音だったものに
向かって解き放つ。効かないだろうと踏んではいるが、相手の動きを知らねばならない。
>148-154
気功弾を連射してみたものの、全く効果がない。
やはり足止め程度の攻撃では、サタンの気を引くことすらできないのか?
いや、余りのうっとおしさに堪えかねて、腕を振るって真空波を放ってきた。
気功弾を射ち止めたFALCONは、腕を交差させて真空波に堪える。
思ったよりダメージは少ない。
サタンの奴は誓音の方ばかりに気が向いているようで、こちらに対しては手を抜いてやがる。
今度はサタンに強力な気弾を放とうとした時、この場に怒号が響き渡った。
マックスが砂柱をぶち抜いて戻ってくる。
黒い闘気の様な力を身に付けて、マックスは最終決戦の場に参加するのだった。
そして、今度は誓音の番だ。
誓音が悲鳴を上げると、誓音の殻が破れて、辺り一帯を暴風に巻き込む。
誓音のいた方を見ると、そこにはいつもの誓音の姿はなかった。
金と銀の眼を持った、黒い半身を持つ者。
その雰囲気は、どこか辻斬りに似ている。
少女はサタンの方を向いて笑うと、地面に手を置く。
地面が揺れ、部屋全体が闇色に変わると、衝撃波が地面から襲ってくる。
敵も味方も関係ない。無差別攻撃。
衝撃波に成す術もなく吹き飛ばされるFALCON。
FALCONは吹き飛ばされる中確信する。
あいつは誓音ではない。辻斬りだ。
何で誓音が姿を変えて辻斬りになったのかは分からない。
だが、このままだと誓音の魂もあの化け物の中に、ずっと閉じ込められてしまうのは確かだ。
FALCONは空中で一回転して態勢を立て直し、衝撃波に吹き飛ばされてきた黒爪をキャッチ。
地面に着地すると、コートの内ポケットから黒塗りのサイコロを取り出す。
そのサイコロを握り締めて、あの世に行った強敵のことを想い、サイコロを再び内ポケットに入れた。
「ザジン……俺に仲間を守る力を貸してくれ……」
祈る様に呟きながら気を高めて、誓音だった者の様子を見る。
辻斬りと同じなのならば、何かを破壊すれば、元の誓音に戻るきっかけが現れるかも知れない。
それを見極める。
もしその何かが無いのならば、殺すしか手はないのかも知れない。
>149>151-155
>「……それこそが思い込みよ。
> 貴様らに己の意思などあるものか……貴様らの意思など、彼奴にとっては
> 操り人形の糸も同じ……せいぜい意思ある者と信じるがいい、人形よ。」
>魔力でカイザーの影から影の槍をいくつも召喚して攻撃する。
誓音に気を取られている隙に、背後から多数の黒い槍が飛び出してくる。
「…!」
背後からの攻撃に判断が一瞬遅れたが、すかさず跳び上がり、後方宙返りで槍を避けようとする。
頬と肩部に槍が翳めたが、浅い。軽い出血だけでその攻撃を避けた。
そして着地し、サタンに言い放つ。
「貴様の物差しで世界を測るなという意味が分からないのか?
…ま、どうせ馬の耳に念仏だろうからな、御託はいいから消えてもらう。」
光の五芒星の輝きが増し続けている、サタンの黒き力に反応しているのだろう。
カイザーの光を遮るように、黒い光が目線に入った。
>「うおおおりぃやぁあああ!!!」
気合と共に現れたのは黒き光を身に纏うマックス、そして彼はサタンへ目を向ける。
>「魔王サタン……テメェの罪はその大層な呼び名通り、何千年掛かっても償いきれるもんじゃねぇぞ、クソ野郎……!!」
(何か新たな力を得たようだな…見せてもらうぜ)
>「逃げてぇええぇええぇぇぇぇえええ!」
その時、絶叫が部屋中に響いた。
カイザーが振り向いた瞬間、凄まじい殺気をその身に受けた。
「あれが…誓音なのか」
突然の仲間の変貌に驚きを隠せず、行動する事を忘れていた。
>―無意怨撃!
>地面全体が揺れると部屋全体が真っ黒に成り同盟軍、サタンの足下から衝撃が走る。
激しい衝撃が足元から発せられ、対応する事さえ出来ずカイザーは天上に叩き付けられる。
大きな亀裂が天上に走り、カイザーの背部は天上にめり込む形になっていた。
「…くっ!」
体から聖闘気を噴出させ、天上から抜け出て床へと着地する。
…その時、カイザーは五芒星が消滅している事に気付いた。
だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
殺意は全ての者に向けられている。
彼女にとってこの部屋に存在する者全てが敵なのだ。
「…だがな、これはお前の意思じゃない。
変貌する直前の『逃げて』という言葉、それは間違いなくお前の物だったからな。」
カイザーの光の闘気が大きく輝き出した。
「…何があったのかは知らないが、正気に戻してやる」
元に戻す方法など分かるはずも無い、だが誓音は仲間だ。
今は待つしかない。そして見極めるしかない。
何かの条件によって変貌したのだから、条件さえ揃えば元に戻れる可能性も0じゃない筈だ。
>154
>「……愚かな……貴様のその怒り、それこそが我が力。
> 分からぬか?貴様自身が、我に力を与えている事が……所詮、感情を
> 処理できぬ欠陥品よ、貴様ら人間という存在はなぁ……!」
誓音の方に気を向けて居た所に、サタンの憎憎しい声が耳に入る。
「んだとこの野ろ……いかんいかん、平常心平常心!!」
そう呟くマックスの周りに、冷気が生まれ始めていた。
「!? させるか!!」
マックスは両手を目の前に突き出し、黒い気を打ち出そうとする。似たような技をFALCONが使っていたのを知っているからである。
「俺にだって出来るはずだ!」
両手に黒い気が集まり大きな球体が作り出された。その球体を打ち込み、呪文を中断させようという目論見である。
「食らいやがれぇ!!」
マックスはその球体を気合と共に放った。
しかし、その球体は数メートルも進んだ所で音も無く四散した。
「なっ、何ぃ!? もしかしてこの力って使いものになんねえんじゃ……ぬおぁあ!!」
ブリザードがマックスの体を包みこむ。
「寒! 魔法が効きやすいのも変わっちゃいねぇし……! こいつはヤベェ!!」
黒い気は相変わらずマックスの周りを包み込んではいるが、特に効果を及ぼしては居ない様だ。
>153
>「逃げてぇええぇええぇぇぇぇえええ!」
誓音の叫びが響き渡り、暴風が部屋中を駆け巡る。
その直後、マックスは寒さに凍える体に尋常ではない殺気を感じとった。
目の前の誓音の変化と、その凄まじい殺気、そしてサタンの魔力の前に声一つ出せずにその場に蹲る。
>―無意怨撃!
>地面全体が揺れると部屋全体が真っ黒に成り同盟軍、サタンの足下から衝撃が走る。
「に、逃げ、逃げるったって……そ、そ、そうももも行か……」
寒さに震えながら声を絞るが、そのまま衝撃波に吹き飛ばされ、玉座の横の柱に減り込んだ。
普通の人間ならば万が一にも助からないだろう。だが、その柱からは軽い調子の声が聞こえてきた。
「ふいーっ、お陰でブリザードから抜けられたぜ」
何故、この衝撃で無傷なのか。答えは簡単である。
「この力の効果……物理的なダメージなら相当軽減できるみてぇだな……だぁあ! くそ! 意味無ぇ!!」
マックスは壁から這い出ると、誓音を見つつサタンを警戒する。
呪文には相変わらず弱いと知った今、更なる警戒をするのは当然のことである。
>155
突如FALCONの中にいた少年の霊が問いかける。
どうやら、渦巻く怨霊の思いに刺激されたらしい。
『ボク等には聞える・・・・あの子を取り込もうとしている怨霊達の叫びが。
辻斬りが破壊者なら、あの子の中にいるのはまさに復讐者・・・。
殺意こそ『奴』に微かに劣るまでも、怨霊達の怨念は確実に『奴』を超えてる・・・。』
微かに震えた声、何かに怯えるような声。
FALCONの中の霊全体が怨霊達の悲鳴に臆し始めているのだ。
『気を付けて、『奴』の魂も・・・あの怨霊と共にあの子の体に乗り移ったかも知れない。
キミが・・・・ボク達を完全に使えるならあの子に敵わずとも力になれるのに・・・。』
少年が諦めるような声を出した。
それは突然の事。
―――――胸ポケットのサイコロが微かに紫色に光り始め、
そしてFALCONの脳裏に聞き覚えのある声が響いた。
それはもうこの世にはいない者、冥府へ落ちた者のしゃがれた声。
『―――――なんやぁ?FALCON、気ぃしっかり持たなアカンでェ』
『忘れおったか?、お前はあの全てを殺し兼ねない殺意を経験しとるんやろ?。
相手の怨念が凄まじかろうが、奴より強かろうが・・・・
一度出来た事、二度出来ん筈は無い・・・・・オマエなら超えれる筈や。
自分を信じな誰がオマエを信じるんや、FALCON・・・・』
そっと黒爪を握る手が後ろから握られた様な気がした。
それと同時に薄らとだが黒爪に紫色のオーラが奔る錯覚を覚える。
『刀の握り方ならワシが教えたる、オマエは霊魂の扱にゃ慣れてへんからのぉ。』
心なしかFALCONの中の魂達の光が薄らと強くなる。
『正直戻す方法はワシにも分らん・・・・せやが、奴等の無念の情を断ち切ったるのが人情。
いや、オマエの場合は叩き伏せると言った方がええか?』
『仲間なら救ってみせい・・・信頼、愛、友情・・・全てを背負って生きるんやろ?
――――――オマエ、いやオマエ等なら・・・・きっと・・・・。』
暖かい声、励ますような声。
途切れ途切れであった武者の言葉。
その声は最後まで聞けなかった、霊魂達が見せた幻だったのかも知れない。
場には少女が放つ殺意と魔王が放つ狂気が渦巻いているだけだった・・・・。
>153-157
内郭の城壁の上は展望はよかったが、壁や崩れ落ちた天井の残骸に隠れているせいで、
玉座の間の様子が全て見えるというわけにはいかなかった。――肉眼では。
いまだに視界を覆う「星の目」では、いくつかあった点のうち、一つが急速に膨れ上がっていくのがはっきりと見える。
力の「種類」までは分からない。が、今度はセシリア自身の体でそれを感じ取れた。
さあ、と血が下がった。それとは逆に全身の毛が逆立つ。
吹きぬけた突風が髪をなびかせ、それがまた背に落ちかかったとき、足元の床が噴き上がった。
下からというのはセシリアにとって幸いだった。屋外だから上には何もない。
横だったら城壁に叩き付けられた可能性が高く、今の状態でそうなったなら確実に戦線離脱だろう。
レンガと共に剥がれた床に降り立つ。「星の目」はようやく消えて、セシリアの目には彩られた世界のみが映っている。
玉座の間では大きな動きがあった。そこに割って入らなければならない。
セシリアは左腕を横に突き出し、腕輪を呼んだ。風を裂いて飛んで来た腕輪がその手にしっかりと掴まれた。
腕輪にはまっている魔石に軽く触り、念じる。石がポロリと外れ、セシリアの手のひらで小さく揺れる。
白銅製の腕輪をその場に落とし、手の内に残った石を躊躇うことなく飲み下した。
丸く磨かれた石は滑らかに喉へ落ちてゆく。
精霊の力を宿す魔石を装着した品は、その精霊の加護によりとても高い強度を得る。
薄絹一枚が密に編まれた鎖鎧の如くにまでなるほどに。
また、宿る精霊の属性により様々な特色を持たせる事が出来る。
水を入れれば湯になる水差しや、入れたものをたちまち凍らせる瓶など、用途は武具に限らない。
では、拠り代を人間にした場合はどうか。
答えはこれからの戦いで十分すぎるほどに示される。
セシリアは胸元へ手をやる。その下、着ているものに阻まれて見えないが、
ちょうど左右の鎖骨の間に魔石が浮き出していた。少し手を上げてマントの留め金を外して投げる。
それは南へ、置いて来た剣の元へ飛んでいく。それが戻るのを待たずに、セシリアは床を蹴った。
玉座の間の上まで、文字通り風の速さで飛ぶ。破れた天井からは仲間と魔王、そして見た目の印象だけは誓音に似た
――しかし怨嗟の布を、憎悪の糸で繕い、殺意の綿を詰め込んだ人形のような――何かがそこにいた。
その場にいる全員がその異形へ注意を向けている。
セシリアはその心理的な間隙を縫うように一気に加速した。
そこから魔王へ槍を投げ、自身はわずかに遅らせて拳を打ち出した。
>154-159
無意怨撃は同盟軍を吹き飛ばす結果に終わった。
静かに顔を動かさず見回す少女。
無傷なマックス、巨大な石の力を持つセシリア・・・、そんな中声が響く。
すぐ気づくその声、カイザーだ。少女はカイザーを見た。しかしその表情は無表情。
この女は最早誓音ではない、声は届かないといった表情だ。
無論、実際にカイザーの声はとどいてなかった。
今考えるのはどう殺すのかだけだ。
それなのに何故だろうか、一瞬カイザーに暖かい光を見る。
一瞬空耳が聞こえる。
―…れ…―
?
わずかな違和感、完全に思い出したはずなのにまだ何かがおかしい。
次にファルコンが目に入る。
ファルコンは様子…見…?いや、ちょっと待て、あそこに一瞬…。
少女はっとする少女再度聞こえる声が大きくなる。
―戻れ!―
ズンッ…!
少女は一瞬背中から衝撃が走ったのを感じた。
少女は気づく、やはりカイザーを見たときに感じたあの声が自分の中から発されていることを。
思い出せそうで思い出せないあの声。
一体誰?
そんな中、サタンの笑い声が響いた。
>「……フハハハハ……それが貴様の本体か……!
> なるほど、よくぞ今まで我が目を欺いてきた。そして、貴様こそが
> 彼奴の真の刺客よ……我も、こやつ等も彼奴にしてみれば等しく邪魔な存在……
> 貴様はいずれ自滅する、が我等はそうも行かない。故に、だ。
> 恨むならば……彼奴を恨め!貴様を選んだ、彼奴を!」
少女の意識は声を離れサタンに向けられた。
一瞬、不機嫌そうな顔になる。まるで子供みたいに。
やはりこの攻撃じゃ誰一人やられないか、取りあえずまずはこいつだ。
サタンの手に集まる邪気…。そしてそれは呪いと化し発される。
禍々しい邪気、一瞬笑ってしまう。
おそらく受けたら死ぬだろう。
しかし少女は避けずに攻撃を受け止めた。
いや、正確に言えば避けられないのだ。
少女の身体能力ははっきり言って誓音の時より下がっている。
殻に長時間引きこもってたせいか大分鈍っているといった感じだ。
しかし・・・。
少女は呪いを受けても尚サタンに手を向けた。
身体能力の低下を能力の強化がカモフラージュする。
今の少女なら体内の悲鳴で呪いをも粉砕…できるはず。
真っ黒な球体の集まりが手をゆっくりと全体覆っていく。
セシリアがサタンに向かって攻撃を仕掛けてるのが見える。
セシリアを吹き飛ばしてしまうかもしれないが…まあいい。
丁度セシリア攻撃が終わった時、一片にその球体はサタンに向かって発射された。
―黒蓋波!
当たれば黒い球体はサタンを覆いバンッと爆発する。
しかし、相手はサタン、これだけじゃ無理だろう。
黒蓋波を発してすぐに二次攻撃を発す。黒い無数の羽が黒い風と一緒にサタンを襲う。
―不死鳥の羽暴風!
この攻撃はうければ内側からの衝撃を受ける。
流石のサタンもこれを受ければ効くだろう。
>159
>そこから魔王へ槍を投げ、自身はわずかに遅らせて拳を打ち出した。
意識を別に向けていても攻撃の気配は察知できる。
空を切る音、力を蓄え開放する音、全てが耳に届いているのだ。
隙を突いて投擲された槍をそちらを見もせず柄を掴んで誓音へと投げつけ、
続く拳は当たるに任せた。威力が高ければ高いほど、速度と重量を乗せていればいるほど
撃ち抜けなかった時のリバースダメージは大きくなる。肉体強化を施していなければ
相手の拳が砕けるだけなのだ。
魔力で闇を固めて具現化させた投剣数十本を周囲配置し、
ランダムに撃ち出す。避けても残った切っ先は確実に相手を向く。
>161
致死の呪詛は無効化されたようだ。
想像していた以上に強い力を蓄えている。
そして反撃、一撃目は大した事はなかった。外殻を貫けるほどの火力はない。
しかし、二撃目は勝手が違った。外殻を無視して内部を直接攻撃するタイプ。
これによって体の各所の隙間から瘴気を放つ黒い血が流れ出す。
「……クッ、クックッ……!
どこまでもコケにしてくれるものだな貴様らは……!」
両手から黒い光の様な物を放つ。それは障害物に当たると拡散・反射して
敵を貫く。敵対者の意識に反応して正確に反射する能力を持った攻撃。
同時にサポートとなるビットを射出する。
黒いエネルギー球は度重なる反射によって減衰した光線の威力等を
回復させ、またそれ自体が単独で光線を発射する機能を備えているのだ。
そうして自身は結界を張り、ダメージの回復に努める。
さすがに防御無視の攻撃は効いた、態勢を立て直さねば。
幸い、連中は向こうに意識を持って行かれがちだ。
>156->162
自身の内側から声が聞こえてくる。
この声は辻斬りに閉じ込められていた少年の声。
少年は震えた声でFALCONに話掛けてくる。
>『ボク等には聞える・・・・あの子を取り込もうとしている怨霊達の叫びが。
> 辻斬りが破壊者なら、あの子の中にいるのはまさに復讐者・・・。
> 殺意こそ『奴』に微かに劣るまでも、怨霊達の怨念は確実に『奴』を超えてる・・・。』
>『気を付けて、『奴』の魂も・・・あの怨霊と共にあの子の体に乗り移ったかも知れない。
> キミが・・・・ボク達を完全に使えるならあの子に敵わずとも力になれるのに・・・。』
誓音のあの姿は辻斬りではないらしい。
復讐者と呼ばれる者。
殺意では辻斬りに劣っているが、体に内包する怨霊達の怨念は辻斬りを超える。
そして、辻斬りの魂も復讐者の中に入っているかも知れない。
「ホントに厄介なことになったもんだな……」
少年が諦めの声を、FALCONが焦りの声を出した時、また声が聞こえた。
その声は、この世にいない宿敵と書いて友と呼ぶものの声。
>『―――――なんやぁ?FALCON、気ぃしっかり持たなアカンでェ』
「……ザジン」
もう二度と聞くことはできないと思っていた声……
>『忘れおったか?、お前はあの全てを殺し兼ねない殺意を経験しとるんやろ?。
> 相手の怨念が凄まじかろうが、奴より強かろうが・・・・
> 一度出来た事、二度出来ん筈は無い・・・・・オマエなら超えれる筈や。
> 自分を信じな誰がオマエを信じるんや、FALCON・・・・』
黒爪を握る手に誰かが触れたような暖かみが。
その暖かみと同時に黒爪にも紫色の力が宿る感触がする。
>『刀の握り方ならワシが教えたる、オマエは霊魂の扱にゃ慣れてへんからのぉ。』
体の中の何かが熱くなっていくのを感じる。
FALCONの体の中に入っている魂達が、勇気を取り戻している。
>『正直戻す方法はワシにも分らん・・・・せやが、奴等の無念の情を断ち切ったるのが人情。
> いや、オマエの場合は叩き伏せると言った方がええか?』
>『仲間なら救ってみせい・・・信頼、愛、友情・・・全てを背負って生きるんやろ?
> ――――――オマエ、いやオマエ等なら・・・・きっと・・・・。』
ザジンの声は途切れて聞こえなくなった。
ザジンのおかげだ。
FALCONの焦りは消え、闘志が再び燃え盛る。
「ザジン。お前には世話になってばかりだな……すまねえ……
だけどな、これで俺も踏ん切りが着いたぜ。俺は復讐者をぶっ倒す。
あの世で見ててくれ。お前から借りた魂達と俺の力を……」
FALCONは天を見上げて呟く。
この言葉もきっと……いや、絶対にザジンに届くはずだ。
「はっ!!」
気合いを込めて全身から力を振り絞り、オーラを体に纏う。
燃え盛る黄金のオーラと魂達の紫色のオーラが混じり合い、独特の色を作り出す。
目を閉じて精神を集中させると、黒爪にもオーラが覆われ燃え盛る。
復讐者の方を見ると、サタンに攻撃を仕掛けていて、こちらの方に気が向いていない。
「復讐者ッ!!!!!」
城全体に響き渡る様な大声を上げて、復讐者に向かって名前を呼ぶ。
「お前の怨霊達の怨念を俺は叩き伏せる!!!だから!!!」
言葉を紡ぎながら復讐者に向かって走り寄り、刀を両手で握り直し天高く舞い上がる。
「俺達の誓音から!!出て行きやがれぇぇ!!!!」
この一撃に全てを賭け、復讐者の内包する怨霊達を叩き伏せるが如く。
天からの振り下ろしの一撃を復讐者に放った。
>157-164
声に反応したのか、誓音がこちらヘ向いた。
だが、感情の起伏は感じられない。寒気がする程に感情が無い。
>―…れ…―
「…ッ!」
一瞬だけ、誓音の心に動きが見えた。
それは動揺と言う程大きな物ではない、しかし誓音の感情は無になりきれていないのだ。
>向かって解き放つ。効かないだろうと踏んではいるが、相手の動きを知らねばならない。
誓音はサタンの攻撃をその身に受け止めた。
そして、誓音はサタンへと反撃をする。
自我を取り戻した様には見えない、サタンへの攻撃は自分に危害を加えるものを排除するという理由であろう。
そして、誓音の攻撃はサタンに傷を負わせ、身体の各所から黒い血が流れ出していた。
サタンは自身の回復に務めるために防御体制に入った。
(…今は、奴の相手よりも重要な事がある。)
これで集中する相手は誓音一人に絞られた。
カイザーは右掌を開き、高く上げる。
両掌から気弾が発射され、誓音の頭上の天井に大きな穴が空いた。
「光で照らして…お前の暗き思いごと、輝きに変えてやるさ」
カイザーの右腕から大きな光が発せられ、それは天井の穴を抜け、上空へと飛んでゆく。
「光の太陽よ、この悪しき部屋へ降り注げ!」
高く上げていた右手を硬く握り締める。
「ブレンテル流、希望の技!―――グラン・ホーリーライト!!」
カイザーは右手を振り下ろす。
鋭くも暖かく、神々しい光が天井の穴から降り注ぎ、その光は部屋一面を照らしつける。
この光には物理的な破壊力は無い。
だが、人の光の力を強める効果がある。…もちろん、それは心の光の力もだ。
もっとも、それはカイザーの場合であり、仲間にも同じ効果があるとは限らない。
「思い出せ誓音!…お前がお前である事を!俺達の仲間である事を!!」
声を張り上げて叫ぶ。その声が誓音に届く様に、と
166 :
名無しになりきれ:2006/07/19(水) 13:09:38
上げるでりゅ
>159>161-162
マックスは突然の風を切る様な音に、誓音から目を逸らして上を見上げる。
槍がサタン目掛けて天から飛来し、その上からセシリアが追撃を加えんと落下する。
「(セシリア!)」
しかしサタンはその槍を投げ返し、さらに闇の刃によって追撃を狙う。
セシリアとほぼ同時に誓音は攻撃をする。
「しまった!」
マックスは目を離していた事を後悔した。
しかし、この攻撃は仲間達ではなくサタンに向けられていた。
漆黒の巨大な球体と、無数の羽がサタンを襲い、どうやら傷を負わせたらしい。
サタンは両手から黒い光の様なものと、謎の物体を放つ。
>164-165
FALCONとカイザーは誓音を助けうるであろう手が有る様だ。
「俺には無い……だが、戦うことなら出来るさ!」
誓音の事は一旦二人に任せ、自分はサタンとの戦いに集中することにした。
だが、どう戦ったら良いのだろう? どうやら身体能力周りは恐ろしく上昇しているようだ。
しかしそうなれば武器はその力に耐えられないだろうし、相変わらず呪文への耐性は皆無なのだ。
「……信じるしかねぇな、相棒の力を」
コンポジットボウを手に取り、駄目で元々精神で矢を番えて思い切り引いた……が、弦が切れたりはしなかった。
マックスはコンポジットボウが黒い気で包まれ、不思議な輝きを放っている事に気がついた。
「やる気満々じゃねぇか、心配して損したぜ」
軽く笑って構えなおすと、サタンの胸を目掛けて矢を放った。
「連閃牙!」
続けざまに素早く、かつ正確に、かつ力強く3本、頭部、腹部、股間へと矢を放つと、それは黒い光となり飛んでいく。
素早くコンポジットボウを背にしまい、ケレンファを出し構えて、黒く輝いている事を確認する。
「お前もやる気満々か、よっしゃ! やぁってやるぜぇ!! 食らえサタン! 神風特攻撃!!」
ケレンファを突き出しつつ横に高速回転しながら、体勢を立て直すサタンへと突進する。
―その疾さ、神風の如し……
>162-165>167
セシリアが投げた槍は掴まれた。精霊の力を解放せず、ただ投げただけだから当然だ。
次の一撃への布石。それがこの投擲の意図だった。
魔王はセシリアを見ようともせずに、掴んだ槍を他所へ投げ放った。
「はッ!」
そこへセシリアが拳を突き出す。が、横面に打ち込んだところで拳が止まる。
純粋に高い肉体的強度を持つ魔王に小細工は無用という事か。
振り抜き、相手に全て乗せるはずだった衝撃がそのまま腕に返ってくる。
いささか痺れたが、それだけだった。
殴りつけた反動で飛び退き、間合いを離したセシリアに漆黒の剣が襲い掛かる。
セシリアは左手を頭上に差し上げた。その手に先程投げたマントが剣を抱えて戻ってきた。
それを大きく振るい、次々に飛び来る剣を叩き落とす。打ち払えなかった分は右手に握った剣で防ぐ。
それでも逃した数本が肌を掠めたが、傷はつかなかった。
今、セシリアの体は精霊の依り代になっているからだ。
生半な事では髪の毛一本落とす事はできない。
だが、精霊が耐え切れる以上の力を加えられた場合は……。
セシリアが魔王の攻撃を回避している間に誓音が魔王に仕掛けた。
魔王はそれを受けて、両手から黒い光といくつかの球体を放ち、自分の周囲を固める。
誓音にはカイザーとFALCONが当たっている。
(あの二人なら……)
必ず相手を打ち倒すだろう。たとえ心の内に巣食う者であれ。
余計な手出しは無用だ。ならばセシリアがすることは――
セシリアは投げ捨てられた槍を呼び、それで辺りを飛び交う光を払い落とした。
一瞬密度が減った「網」の中を、マックスが放った矢が翔け抜けていく。
次いでマックス自身が斧槍を振り立て突き進む。
それに同調してセシリアも魔王へ向け飛んだ。
「――いえぇりゃああぁっ!!」
裂帛の気合と共に、まるで竜巻そのものとなったかの如くに。
愚か、実に愚か。
倒すべき敵を前に背を向けるなど、愚か以外の何者でもない……
>167
>食らえサタン! 神風特攻撃!!
いつの間にかブリザードの中から脱出した人間が攻撃してくる。
立て続けに急所めがけて撃ち込まれる三本の矢、貫通こそしないものの
結界を撃ち抜かれて砕け散る。小者と思って侮ったか……
その人間は凄まじい速度で槍を突き出しつつ突進してきた。
避けるには値しない、真正面から相殺するだけ。錫杖を槍に変化させ
相手の槍の穂先に穂先をぶつけ弾く。予想以上の威力に使った左手の
体組織にダメージが走る。距離の離れた相手に今度は炎の渦を仕掛ける。
>168
>「――いえぇりゃああぁっ!!」
放った闇の剣は牽制程度にしかならなかったようだ。
が、何の役にも立たないよりはマシだろう。しかし殴られた横面には
ひびが入った。女の細腕でここまでの衝撃、精霊による強化か。
横並びに突っ込んでくる。勢いはどちらも同等、これも弾けば
右腕も負傷して一瞬だが無防備になる。こちらの方には結界を前方多重展開して
威力を可能な限り減衰させる。だが、どれ程の効果があるやら……
しかし、放った闇の光条を一度闇球に集め再発射させる。その内の八割を
こちらの人間に向けた。死角から襲い来る攻撃をも捌かねばならないのだ。
そうそうこちらにばかり意識を集中などさせられん筈。
>162>163-164
第2次攻撃は結構サタンに効いた。
黒い血を流すサタンの姿は、愉快だった。
>「……クッ、クックッ……!
> どこまでもコケにしてくれるものだな貴様らは……!」
両手から黒い光を放つサタン、その光は少女は目を見開いた。
悲鳴の球体を十何個かだすと自ら身に当てた。
すると誓音の身が斜め上空に吹っ飛びその光から逃れる。
血が出ようが関係なかった。
壁に当たり後頭部に衝撃が走ると壁に寄りかかりながらズサー!と落ち、床にペッタンと座り込む少女。
しかしその攻撃は避けるだけじゃ駄目だった。
床に反射し、壁に反射し、そしていつの間にか少女の胸を貫いた。
「っぁあ!!」
数秒、動きを止め胸元を押さえる少女。
血がだらだらと出てくる。
暫く息切れをなんとか抑えながら、
キッと次の瞬間再度サタンの方を見た。
しかしその時だ。
>「復讐者ッ!!!!!」
叫び声を聞き声の方へ向いた。
そこには壮絶なオーラをまとったファルコンが一人。
ファルコンは声を荒げ走ってきた。
>「お前の怨霊達の怨念を俺は叩き伏せる!!!だから!!!」
少女はなんとか立ち上がりファルコンを見る。
一瞬その男がサタンよりも恐ろしく感じられたからだ。
スッと無表情で見る金と銀の目。
そしてファルコンは飛び上がった。
>「俺達の誓音から!!出て行きやがれぇぇ!!!!」
反射的に怪物の腕で受け止める刀。
刀が手に食い込む。その攻撃の重さに一瞬驚いた。
いくら怪我している身とはいえ、此処まで強靱な刃はなかなか無い。
刀に押され押し返しつつ、少女はファルコンを見て初めて言葉を発した。
「…何コレ…。」
にやっと笑う少女、そのほには冷や汗が一滴流れる。
そして今度は少女の頭上の壁が破壊される音が響く。
ドン!
少女はファルコンの肩上からカイザーを見た。
>「光で照らして…お前の暗き思いごと、輝きに変えてやるさ」
>カイザーの右腕から大きな光が発せられ、それは天井の穴を抜け、上空へと飛んでゆく。
>「光の太陽よ、この悪しき部屋へ降り注げ!」
>高く上げていた右手を硬く握り締める。
少女の動きが止まる。
>「思い出せ誓音!…お前がお前である事を!俺達の仲間である事を!!」
>「ブレンテル流、希望の技!―――グラン・ホーリーライト!!」
カイザーの声が響く。少女は見た。
眩しく暖かい光を。
光に包まれていく少女。
光の中で少女の意識が飛ぶ。
そして…光が消えるとそこにはぐったりと眠ったような顔で倒れている少女が居た。
>165>170>171
振り下ろされた刀は化け物の様な腕で受け止められる。
刀が腕に食い込んではいるが、中々断ち切れそうにない。
>「…何コレ…。」
復讐者は汗を垂らし、笑みを浮かべながら呟く。
次の瞬間、上方で小さな爆発音が聞こえた。
>「ブレンテル流、希望の技!―――グラン・ホーリーライト!!」
カイザーの声と同時に、天から人間にとっては暖かい光が降り注ぐ。
どんどん苦しくなってくる。
心の奥底が痛い。
どんなにオーラの輝きを放とうが、FALCONは魔族の混血児。
その心に潜む力は、闇。
カイザーの放った術は、FALCONにとっては非常に相性が悪いものだ。
だが、光があるところに闇もまたある。
光が輝きを増すごとに、闇も深さを増していく。
「……俺は……光なんかには負けない!!誓音も……負けるんじゃねぇえ!!!」
光が、誓音を、FALCONを、この部屋を包み込んだ。
意識が一瞬だが途切れてしまう。
次の瞬間、FALCONの視界には天井が映っていた。
戦いの余波の為か所々に穴が空いている。
「誓音!!」
上体を起こして辺りを見回すと、誓音らしき少女がぐったりと寝転んでいた。
安堵の息を吐いて再び仰向けに寝転ぶと、刀を持った腕を天に掲げて呟いた。
「ザジン……俺はやったぜ……」
なんとデュランがあらわれた。
デュランは性欲を持て余している。
>167-172
光は辺りを包み込み、一面が照らされる。
一瞬の間、視界は全て光となる。そして、光は徐々に薄れ、視界が開かれた。
そこには、少女…誓音が変貌した者が倒れていた。
「なんとか…なったか?」
カイザーは誓音の元へと駆け寄り、彼女の状態を確かめようとする。
側へ近づいても反応が無い。
表情を確かめ、カイザーは小さく安堵のため息をついた。
「ふぅ…意識を失っている、か。
案ずるより産むが易し、なんとかなったな」
カイザーは自分の肩部に装着いていたマントを外し、それを倒れている誓音の上に被せる様に掛けた。
「お前が目を覚ました時…俺達の仲間の誓音なのか、それともFALCONの言う復讐者なのか…
どちらが目を覚ますのかは俺には分からない。
…だけど、信じてるぜ。誓音、お前の光は自分の影さえも乗り越えられるって事をな」
気を失っている誓音へそう告げ、後ろを振り返る。
カイザーの視線の先では、サタンを相手にマックスとセシリアが激戦を繰り広げていた。
この場所からならばサタン目掛け、呪文を撃ち放つのにも集中できる。
(だが遠いか、ここから技を出すのは危険だな)
呪文がサタンに直撃しなければ、その近くで戦っている仲間に誤射してしまう恐れがある。
(…ならば、動きを見定めるまでだ)
この状況で有効な手段は、サタンの隙を待つ事。
2対1で戦っているのだ、待てば隙は必ず出来る。
そう判断したカイザーは、その場で戦いの動向を見始めた。
勿論、いつでも技を放てる用意をしながら。
>169
サタンは槍に変化させた錫杖の穂先で上手く相殺し、マックスを弾き飛ばした。
「のわ!」
と声を上げて吹っ飛ばされるが、空中で体勢を立て直して着地する。
そこに炎の渦が放たれたが、マックスは横に大きく飛んでそれを避ける。
無論、本来ならばその炎の威力は、人並み外れた運動神経を持つマックスでも避け切れなかっただろう。
だが、この黒い気はその炎の渦すらも避けられる程に、彼の身体能力を上げていたのだ。
「フッ……」
誰が気付いたであろうか。この死闘の中でマックスは小さく、しかし楽しそうに笑った事に。
「(あの高速回転している切っ先を真っ向から弾くたぁ……半端じゃねえ……!)」
マックスはコンポジットボウを構えて飛んだ―そう、サタンの頭上へ。
「食らえ! 流星衝!!」
マックスは先程以上の力と、念を込めて弦を引き、矢を放った。
その狙いはダメージ。そして、サタンの気を出来るだけ長く此方に向けることだ。
念の影響か、放たれた矢は流星の如く、夜の様に包み込む黒い光の中で輝きながら、サタンの頭上を落ちて行った。
>169
先を行くマックスが魔王の元へ達した。
が、魔王は独楽のごとく回転するマックスの持つ槍先に
自らの槍を叩き付け、その軌道を強引に捻じ曲げる。
勢いを失わぬまま吹き飛ばされたマックスへ向け、魔王が炎を放ち追い討ちをかけた。
そこへ今度はセシリアが間合いを詰める。
接近したセシリアに対し、魔王は多重に展開した結界で威力の減殺を狙う。
セシリアは一瞬たりとて躊躇うことなく槍を投げた。
槍は結界を貫き、最後に大きく弾かれ視界から消える。
槍のこじ開けたその「通路」を進むセシリアに、光条が襲い掛かる。
セシリアは体を捻りながらマントを投げ、同時に剣を抜く。
マント一枚で攻撃を食い止める事は不可能だろう。
だが、ほんの一瞬、それだけ持ってくれれば……切っ先が届く。
そして――マントはその何にも代え難い一瞬を作り出した。
最後に一つ残った結界を突進の勢いのまま剣を振って打ち破ったセシリアは、
返す刃で魔王を真っ向から切り下げた。
ほぼ同時にマントを突き破った光条がセシリアを捉える。
セシリアに体勢を変えて鎧で受ける余裕は無く、
直撃した光は魔王の眼前からその姿を吹き飛ばした。
先ほど結界に向かって投げた槍が、きりきりと回転しながら落ちてきて、床に突き立った。
>175-176
まるで女騎士の様な芸当をする。
空中戦は奴の専売特許だろうに、付け焼刃とはいい度胸だ。
矢を弓に番って放とうとしている、今度こそ消し炭に……!?
しかし、そうはさせてくれんようだ……多重結界を撃ち抜かれ
一撃がこの身を襲う。鋭い斬撃が鎧に叩きつけられる。だが鎧には傷一つない……
斬られたのは鎧ではなく、中身の方だった。
……曲刀の奥義に似た様な現象を利用した技があるのは知っている。
無論、自身も体得している、が故にその現象が直剣で起こった事に驚きを感じる。
その一瞬の思考の空白を突いて上からの矢が襲う。直撃こそ免れたが、その矢は角を折ってしまった。
下級ならばともかく、上級魔族にとっての角とは自尊心の現れであり、また自身の
感情の昂ぶりと力を抑えるリミッターの役割も果たしているのだ。古くは竜族より
連綿と受け継がれてきた特性、それを知ってか知らずか人間は折ってしまったのだ。
……もう抑えは利かない、片方だけでは、押し寄せる、『大罪』と、呼ばれる、
憤怒を、押し込める事は、不可能!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
魔力を安定させる為には理性がいる。その理性も吹き飛んだ今のサタンは
動く者を全て破壊する、最凶最悪の破壊マシーンである。
押し込めていた魔力を解放、オリジナルの魔法陣からの魔力供給も最大レベルまで引き上げられている。
魔力に反応して形状を変化させる魔王の鎧がサタンを包みその姿を変えていく。
そこにいたのは、竜に酷似した悪魔……魔王の鎧によって作り出された傀儡。
大地に巨大な手を叩き付ければ大地を隆起させ、その衝撃で真空の刃が乱舞する。
周囲に浮かんだ膨大な量のルーンが無意識に、無作為に破壊魔法へと変質して
一帯に天変地異を起こす。地上の覇権や絶対者への報復など既に掻き消えている。
怒れる破壊者の望みは、全ての消滅だけ。
>174>176>177
破滅の時は近い、約束を果たさねば。
原初の海にまどろんでいた彼の意識が、召喚された無数のルーンの一点に集束する。
ルーンへ封印された破壊魔法の術式を解放すると、激しい閃光と衝撃波が、魔王へ対峙するオーガス騎士たちを襲った。
同時に、鳴動するオーガス城、その全体が、逆向きの重力で引き上げられる。
一連の戦闘によってオーガス城周辺の魔力は臨界点に近付き、空間収縮を起こしているのだ。
城塞は大地を割って空中へ浮き上がり、自重に耐えられず崩壊したフロアを分離しつつ緩やかな上昇を始める。
ルーンが炸裂した後の虚空へ紅い翼を撃ち広げ、エヴァンスは「帰還」した。
サタンの反撃に弾き飛ばされたセシリアを受け止めるとその場に降ろし
少女に寄り添うカイザーへ向くと、ヴァイザーの内からからくぐもった声で話す。
「「空間収縮が始まった。この城は丸ごと天使の輪を頂いたみたいに、地から足を離してる。
このまま集束した場と力は、サタンと魔法陣を中心に一個の爆弾みたいなものだ。
空気の薄くなった頃合には皆まとめて消し飛ばされ、塵も残らないだろうな。どうする?」」
サタンの理性は憤怒に呑まれ、ゲートから逐次供給される魔力を制御出来る者が消えた。
臨界を防ぐ手立ては唯一つ、オーガス騎士がサタンを倒し、魔法陣を封印するのみ。
「「後先考えずに魔力を撒き散らすからだ、猪武者どもが。
この城と共に全てが永遠の無に帰す、その前に貴様らは魔王を倒さねばならん。
人間を代表して、魔族の長と雌雄を決してくれたまえ。私を失望させるな?」」
崩れた天井から覗く天高くまで、再び赤禍が空を覆い尽くした。
玉座への通路に僅かな時間開いていた、異空間へのゲートが再び出現する。
さながら傷痕を抉り開けて血を流すかのように、異空間からの魔力の奔流が紅い水となって玉座へ雪崩れ込む。
最早サタンの巨躯にそぐわない入れ物となった玉座は、壁も、天蓋も
溢れる水に押し崩されて、騎士と魔王の足場のみが残った。
小さな足場から身を乗り出して見下ろせば、離れつつある地上の景色に気が付く筈だ。
エヴァンスは小銃「Burning Chrome」を装備していない。
兜と胴部鎧の一部を解除して、二の腕の間接を自由にする。
カイザーに微笑み、
「「魔王殿はとうとう意地さえ忘れたな。
折角綺麗な舞台を用意してやったのだから、死戦期は散り際まで美しく願うよ。
さて、天聖騎士。私は先の続きをやってみても構わないが? もし抜くならどうぞ――お先に」」
おざなりな挑発だが、エヴァンスは元よりカイザーを邪魔立てするつもりだ。
義手に強い紅い光が宿る。
>174-178
突然、とても大きな叫び声と共に身震いする程の魔力の猛りを感じる。
この魔力は……サタン。
起き上がってサタンの方を見ると、そこには一匹の龍の様な姿をした化け物がいた。
化け物が地面に手を叩き付けると、地面が隆起して、真空の刃が辺り一帯を縦横無人に駆け巡る。
全身に気を巡らせて体を気の鎧で包むと、両腕を胸の前で交差させて防御。
サタンが放った真空の刃には耐えた。
続けて放たれた高威力の破壊魔法にも何とか耐えることができた。
気の鎧を解除して再び刀を構えた時、何か違和感を感じる。
まるで体が持ち上げられているような……
そんなことを感じていると、一人の男がどこからともなく現れて、
吹き飛ばされたセシリアを受け止めると、カイザー達の側に降り立つ。
この気の主は……エヴァンスだ。
>「「空間収縮が始まった。この城は丸ごと天使の輪を頂いたみたいに、地から足を離してる。
>このまま集束した場と力は、サタンと魔法陣を中心に一個の爆弾みたいなものだ。
>空気の薄くなった頃合には皆まとめて消し飛ばされ、塵も残らないだろうな。どうする?」」
>「「後先考えずに魔力を撒き散らすからだ、猪武者どもが。
>この城と共に全てが永遠の無に帰す、その前に貴様らは魔王を倒さねばならん。
>人間を代表して、魔族の長と雌雄を決してくれたまえ。私を失望させるな?」」
エヴァンスの話を聞くと、早くサタンを倒さなければ、この城ごと自分達は魔法陣の暴走に巻き込まれてしまう。
それは不味い。
この城を必ず取り戻すと誓ったのだ。
魔法陣の暴走に巻き込まれては城が跡形もなく消えてしまう。
それだけは絶対に防がなくては。
空を見ると赤い渦が空を埋め尽している。
エヴァンスの話は本当なのだろう。
玉座の間の扉から異空間のゲートが開き、魔力を伴った紅い血の様な水が辺りを浸蝕する。
残った足場はサタンと自分達ののみ。
早く決着を付ける為に、FALCONは舞空術で宙に浮いて、両手を天に掲げて呪文の様な言葉を呟く。
「海よ……空よ……大地よ……」
>177>178
竜と化したサタンの余波により城全体が大きく軋み始める。
微妙に上昇感と共に、部屋は唸りを上げながら崩壊が始まる。
倒れる石柱。罅の入る床。軋みに耐え切れず破片を舞い落とし始める天井。
「おやおや、エヴァンスさんが用意してくれたアリーナだけど随分と危なっかしくなってきたねい。」
部屋の辺りを見回しながら鎮音が苦笑を漏らす。
右目に映るのは崩壊の始まる部屋、そして左目に映るのは終局を迎えつつある玉座の間。
そこに出現したエヴァンスの姿を捉え鎮音の口が愉悦に大きく歪む。
「正に千両役者だねい!さあ、面白くなってきたんだから足掻いてもらわなきゃ。」
台詞と共に城上空に赤い霧が集まり始める。
鎮音が城に入る際にセシリアに吐いておいた蚩尤霧だ。
赤い霧は徐々に形を成し始め、最終的には倒れた三角柱となった。
「お天道様の力を二度も借りているからねい。三度目は遠慮してもらうとするよ?」
そう、鎮音はセシリアやカイザーの使う太陽光を利用した術を防止する為にプリズムを作ったのだ。
「やっぱり自力で頑張ってもらわないとねい。さあ、終末まで踊っておくれよう?」
>175-180
>「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
凄まじい咆哮、サタンの怒りは叫びとなり周囲に響き渡る。
己の誇りの象徴とも言える角を折られた怒り、それが真のサタンを呼び覚ましてしまったのだ。
真空波の衝撃が襲い来る。避ける事は不可能ではないが、そうすると気絶している誓音へ被害が及んでしまう。
瞬時にカイザーは光で作り出した刃を手刀で刳り出し、相殺させた。
「自我を失っているか…
まずいな、ああいう形振り構わない敵が一番厄介だ」
危機を感じ取ったカイザーは、サタンの元へと駆け出そうとする。
…しかし、それを遮るかの様にセシリアを抱えた何者かが空から降りてきた。
>「「空間収縮が始まった。この城は丸ごと天使の輪を頂いたみたいに、地から足を離してる。
>このまま集束した場と力は、サタンと魔法陣を中心に一個の爆弾みたいなものだ。
>空気の薄くなった頃合には皆まとめて消し飛ばされ、塵も残らないだろうな。どうする?」」
その者の正体は声で分かった、エヴァンスである。
「…まだ生きていたか」
周囲の足場が赤い渦の壁によって削られてゆく。
決着までのタイムリミットも迫っている、ここで手間取っている時間は無い。
ここでFALCONが動いた、赤い渦への対応策が思い浮かんだのであろう。
ならば、その件はFALCONに任せるのみ。
城を取り戻す為の戦いで城を壊されたとあっては、元も子もないのだから。
空に赤い霧が集まっていた、
誰の仕業かは知らないが、これでは自分の気を上空へ送っても途中で遮られてしまう。
>「「魔王殿はとうとう意地さえ忘れたな。
>折角綺麗な舞台を用意してやったのだから、死戦期は散り際まで美しく願うよ。
>さて、天聖騎士。私は先の続きをやってみても構わないが? もし抜くならどうぞ――お先に」」
「他人じゃなく、これから散る自分の散り様を考えるんだな。
今は貴様などと戦っている場合ではないが、道を塞ぐならば斬るだけだ」
白銀の聖闘気を身体から放ち、剣を抜刀する。
先程使ったグラン・ホーリーライトの影響で、普段よりも光の強度が強い。
聖闘気が放出される影響で風は吹き荒れ、地は揺れを増す。
聖闘気は右手に持たれた聖剣に集う。
それに反応し、聖剣の柄の部分に埋め込まれた青い宝玉が光った。
カイザーは駆け出す
「邪魔をするな…俺達の到達点は貴様じゃないんだ!」
加速の速度を味方に付けてエヴァンス目掛け斬りかかった。
先程、己の聖なる力で生み出した技、グラン・ホーリーライトに照らされたこの空間
光は薄れて消えたと思われていたが、そうではない。
・・・生み出された全ての光が、戦場からやや後方の、ある一箇所に集まっていたのだ。
そして、集まった光は徐々にその形状を作り出す。
集う光―――その形は、五芒星
ぐったり倒れている少女。
少女は夢を見た。
*************************************************************************
ここは何処?
真っ白で暖かい光の中…一つの影が見えている。
そしてそれは近づいていき、その存在が何なのかに気付く。
茶髪の髪、そして赤い瞳、それは…誓音ではなく。
「ね…え……さん?」
少女は呟いた。
そう、そこにいたのは死んだはずの自分の殻、誓夜の姿。
誓夜は無表情で少女をみていた。少女は一瞬立ちすくみながら言った。
「…貴方が剥がれたとき、全て思い出したの。」
表情を変えない誓夜。
それでもなお、少女は話し続けた。
「…あの日、あたしと貴方はあの家族に融合された……その時…身体だけじゃなく…
精神も…記憶も…性格も…貴方のものと融合されてしまった……誓音の正体…それは私…悲音と誓夜が融合された物。
だから…姉さんと…私の融合が解除されてしまえば…それは誓音ではなく、悲音と誓夜…二人。」
不器用ながらも自分の知った事を確認するように話す悲音。
誓夜は黙って聞いていた。
「…そんでね…知ってしまったの、私がなんの為に産まれたのか…私の本当の過去」
そういうと悲音は膝間付いた。
「…村襲撃の時…私は村を離れたのではなく、誓夜が村を離れた。
そしてその間、私は悲鳴を求める為にみんな殺してしまったの。
事実だったのよ、あの女が言っていた事は。」
地面に手を置く。悲音の声が震えた。
「私が…誓夜についてきたのもそう、
誓夜についていけば…人間の悲鳴が手に入ると思ったから…だからついてきた。
私はね、最初から最後まで自分の餌の事しか考えてなかったの。
正義も何も無い、そう、全部悲鳴を求めるために生きていた…!」
声の震え、速さが早くなる。誓夜はそれでも黙っていた。
ぽつぽつと地面の色が変わる。
悲音は泣いていた。
「あの家族もそうよ、あの家族の言ってる事は正しかった…!そして…
貴方との融合は戒めでもなんでもない、私に対しての慈悲…!
姉さんの中に残っていたわずかな精神と私の精神を融合させ誓音を作る事によって
私のこの醜い欲望を抑えてくれた…私の中に正義心を作ってくれた
私っ…敵に情けをかけられてたのよ?ずっと…ずっと…。」
顔を押さえる悲音。涙が止まらなかった。
自分がやってしまった罪。その大きさに悲音は暫くずっと泣いていた。
誓夜はただ見るだけだ。
それでも悲音は泣いて…泣いて…泣いて…そして、一言ポツリと言った。
「…貴方は…昔、人は救われると言いましたね。」
顔を上げ誓夜を見た。
「……私…ずっと心の奥で疑問に思ってたの、本当に人は救われるのかって。
そして……誓音だったとき、…あの水の女に、救いとは何って問いたじゃない?
その時、その女が言ってた事覚えている?救いとは死と言っていたの。…それって本当なの?
死ねば救われるの?」
問う悲音、誓夜は何も答えない。
悲音は下を向いた。
「…私のこの半身の怪物の正体知ってる?これ、母親の悲鳴が…作った…ううん、私達の母親自身なの。
母親はあの女達に何度も何度も暴力を振られてる間、唯ひたすら、あの女達を殺そう殺そうと強く思い続けていた。
その結果、その復讐心は私の半身となってしまった…本当はこれは…ううん、私は、あの女達を殺すための道具だったの。
色々な悲鳴を吸収する事によって強くなる道具。
でもいずれ、悲鳴を吸収しているうちに、強さを求めるうちに、それは唯の悲鳴を求めるためだけものになってしまった。
魔王を倒す倒すと思っていたけど本当の私の気持ちはただ魔王の悲鳴が欲しかっただけなのよ。
救いようがないよね。…でも…死ねば…
あの女が言ってたように…救われるのかな…姉さん達にやってしまった事の罪滅ぼしになるのかな?」
「…それは違う。」
誓夜が初めて口を開いた。
はっとした表情で再度誓夜を見る。
そして誓夜は続けた。
「…死ぬのは簡単だ。でもそれは救いじゃねぇ。罪滅ぼしでもねぇ。死ねば救いも罪何もねぇよ。何もない。ただの無だ。
本当の救いってのはな、本当の罪滅ぼしってのはな、死にはない。生きることにあるんだ。」
誓夜はそう言うと悲音のほを叩いた。
鳴り響く音、ジワリと痛みが伝わってくる。
「…悪はね、人を殺すことはあっても生かすことはない。
だから悪は滅ぼさなきゃならない。お前には…ううん、うち等にはそれができる。
人間どころか…うち等なら魔族だろうが怪物だろうがきっと救える。現に今お前は救われかけてるじゃねぇか。
あの聖騎士と武道家と…その横に見えた魂にな。
お前が本当に罪滅ぼしをしたいと願ってるなら生きてあいつ等の力となれ。あの魔王を倒すんだ。」
「…でも、目を覚ませば私の意志と関係無しにこの半身は悲鳴を求めてあの人たちを襲うの。」
「そんなのおいらが抑える。」
はっとした表情になる悲音、一つの事実に気づく。
そんな悲音の頭をポンと一回たたくと誓夜は優しく笑って言った。
「大事な妹の為だもんな。」
ほをつたる一滴の涙。
口元が動く。
***********************************************************************
「哀れ…ですね。」
消え入りそうな声でそう言う倒れた悲音。
いつの間にか部屋の中は邪悪で塗れていた。
その中に僅かな光が見える、恐らくそれは同盟軍のメンバーだろう。
―ミシッ…
ゆっくりと悲音は起き上がった。
そして次の瞬間…サタンの周りに僅かな光の粒子が一つ光ると
―パンッ!
と大きな音を立てて悲音の元に集まった。
そして一瞬光ったかと思うと、光は消えていき…
そこに現れたのは灰色の怪物の手と肩を持った誓夜の姿。
即ち誓音が居た。
罅の姿は無かったがそこに居たのは正しく誓音。
「…お前はもう間に合わなかった。お前はもう生物でもなんでもない、ただの憤怒。」
消え入りそうな声でそう言うと悲鳴の腕を上空に向けた。
そして悲音は「すみませんでした…皆さん」とつぶやくと悲鳴の球体を上空に打ち込む。
その色は白に近い灰色。
見る見るうちに赤い霧は晴れていき、その灰色の光は僅かに輝き始める。
そして球体から光の鱗粉が出てきカイザーの聖剣の周りに纏った。
この悲鳴は光と闇が混ざったもの。
否、もう悲鳴とも言わない光と闇の結合物。
闇の成分も含んでいるので、ファルコンを苦しめることは無い。
それは悲音と誓夜の和解の意味でもあった。
誓音はキッと魔王を見ると腕を向けて叫んだ。
「さっきまでとは違います。食らえ!」
そう言うと白に近い灰色の衝撃波を一発出した。
光の割合を多くした衝撃波だ。
>177>178>181
目の前が暗く霞む中、床に横たえられたような気がした。
>「「人間を代表して、魔族の長と雌雄を決してくれたまえ。私を失望させるな?」」
どこか遠くで声がする。
星が瞬いているのが見えた。
セシリアは焦点の合わぬ目でそれを追ううちに明瞭な意識を取り戻し、
魔王の放った光によって吹き飛ばされた事を思い出す。
体を起こそうとして、自分の体が赤く染まっているのに気がついた。
目に付く限り、外傷は見当たらないのだが。
詳しく検めようとして、肩が外れている事に気がついた。痛みは全くない。
恐らく吹き飛ばされた時にどこかしらに激突したのだろう。
剣を握ったまま床に手をついて肩を入れた。やはり痛みはない。
痛みがないということは、ダメージにも気がつかないということだ。
いささか不安を覚えながらセシリアは立ち上がった。
辺りを見回すと、ほんの数秒の間だというのに状況は激変していた。
着衣に染みた液体が血でない事がまずわかった。
床の上を流れるそれは、どこからか流れてきて玉座の間を浸していた。
見上げると天井はすっかり消えうせ、雲が近い。床ごと徐々に上昇しているようだ。
猛り狂った魔王は辺りに破壊をばら撒いているが、
その狙いは強いて言えば周囲の全てであり、「誰か」「何か」に対してのものではなかった。
そして、カイザーと対峙している竜の骨格を模したような鎧――先ほどの声の主、エヴァンスだ。
エヴァンスはカイザーを挑発する。
>「「さて、天聖騎士。私は先の続きをやってみても構わないが? もし抜くならどうぞ――お先に」」
それに応えてカイザーが斬りかかった。
セシリアは瞬時に床を蹴ってカイザーの前に割って入り、エヴァンスを睨む。
「失望させるな、と仰る位ならご自身で手を下されては?ジェネラル」
右腕を横に伸ばすとその手の中に槍が飛び込む。そのまま肩越しにカイザーへ振り向いた。
「やる」気になっているところへ気勢をそぐようなことはあまりしたくないが、カイザー自身が言うとおり相手は他にいるのだ。
「小者一人にかかずらっている場合ではありません……最強の相手には、こちらも最強の駒をぶつけるものです」
サタンへ向かえとカイザーへ言い、それからエヴァンスに向き直る。
「お互いカーテンコールには居場所のない者同士、一曲いかが?」
槍をくるりと回して穂先を突きつけ、さらに続ける。
「お望みならば群舞でも構いませぬが」
あくまでもカイザーの前に立ちはだかるのであれば、セシリアが加勢に入る、という事だ。
どうなるにしろ不安は残る。が、剣にかけて主君に捧げた命である。
ここまで来てそれを惜しんで、何が騎士か。
>181>185
聖剣に力を込め撃ちかかろうとするカイザーを、セシリアが阻んだ。
エヴァンスは舌打ちし、義手の魔力を抑える。紅い輝きが弱まり、光は外板の内に篭った。
槍を手にした白装束の女騎士は、一年前より精悍さの増した佇まいを見せる。
カイザーに代わって自らが死合う積もりか、このジャック・エヴァンスを相手に。
魔王を中心に、尚も上昇を続けるオーガス城はやがて雲に跳び込まんとする。
憤怒の化身が振り撒くルーンの魔力は、残り少ない足場を更に分断していく。
スカート内蔵のバーニアが火を噴き、エヴァンスの身体が余波で二つに割られた床から浮き上がった。
やがて赤禍に取り囲まれていた空の遥か天上、渦の頂上には微かにだが、蒼穹の深い色が開ける。
少年将軍は目を細めて笑み、
「セシリア――久し振り。女ってのはしばらく会わない間に、随分雰囲気の変わるものだな。
亡国の騎士としちゃ絵になってるが……苦労もしたろう。っていうか、ちょっと老けたか?」
>「お互いカーテンコールには居場所のない者同士、一曲いかが?」
セシリアは槍の穂先をエヴァンスに向けた。
「退いてはくれないのかい? 俺はお前さんを斬りたくないよ、勿体無い。
女の尻に隠れてる聖騎士殿は別としてだ。そいつは俺と同じ、知恵足らずのチャンバラ野郎だからな」
溜め息をつくと再度、左腕に魔力を集中させる。
低い呟き声に応えて、義手の握り拳から剣状のオーラが延び、次第に実体化していく。
<回せ、転がせ、くそったれサーカス
突き刺せ、一方通行の針、ゆっくり引き抜け>
血の結晶で形作られたような、ルビー色の真紅の大剣がエヴァンスの手中に召喚された。
<俺の血だ>
剣をニ、三度片手で振り立て具合を確かめると、切っ先をセシリアの後ろに控えたカイザーに突きつける。
「けど、まず話したい事がある」
「貴様のちっぽけな定規で他人や世界を測るな、か? カイザー、セシリアもよく聞いておけ。
最低世界の冥王をも、天界の神々をも統べる絶対者の存在、それがサタンの追い求めた覇道の真意だ。
絶対者とは万物の法則を司る、『宇宙』とか『運命』それそのものに等しい存在だと考えてくれて構わない。
目的の一致を期待して、魔王軍に回ったんだ。予想以上の成果だった。
良い足掛かりになったし、得るべき情報は得られた。絶対者、『外なる者』の確固として存在する事を知った。
ずっと探してたんだ、『外なる者』に借りがあるからね。
大切な仲間と、恋人を奪われたんだ。俺たちを追い詰めたのは外からの力さ。
人生とか運命とかに逆らおうとするには、余りにか細い子供の腕だったからな。まんまと持ってかれちまった。
残り香を守るため、寿命を捨てた俺はもう二百年ばかし生かされてる。
俺より先に、サタンも借りを返そうと躍起になってたらしくて――人界は絶対者に届くための第一歩だったみたいだ。
でも俺は、絶対者への復讐は奴ら魔族でなくて、人間にこそ御鉢が回ってくるべきと考えていて、そこで決裂。
今はこうして人間代表のお前らにハッパをかけに来てるという訳でな。
自分たちが守り切れなかった多くのもの、誓音――あの少女が背負った苦痛、
踏み躙られた夢も誇り、罪無く失われた家族や仲間、それらが皆誰かに仕組まれた、誰かの仕業であると知ったら?
俺は捨て置けない。例えこの世界の全てを犠牲にしてでも、失ったものを取り戻す。お前たちはどうだ?」
剣を持つ手が小刻みに震える。一言一言に、エヴァンスの紅い翼が揺らいだ。
狂気だ、理屈抜きの狂気と激情だけが自分を此処まで連れて歩かせた。
鎧すら軋ます体の震えを必死に堪えながら、言葉を接いだ。
「サタンを倒して地獄を封印した後、俺は天界の門も閉じる。
絶対者への復讐は人間の手で遂げる、役立たずの神など要らん。真に一なる神は、我々の心にこそ召しますものだと。
そうして最後に、『外なる者』のくびきから人界を解き放つ。
その手助けをしてくれないか? セシリア、カイザー。考えろ、お前たちが何の為に剣を手にしたかだ。
守りたいもの、取り返したいものの為に剣を取った、違うか? なら、もう切っ先の置くべき場所を迷うな」
>182-187
>そして球体から光の鱗粉が出てきカイザーの聖剣の周りに纏った。
不意に聖剣から感じる力が増大した、見ると光りの粉が聖剣に纏っていた。
(この力は…誰だ!?)
視線を先へ向ける…そこには仲間、誓音の姿をした誓音の心を持った者が立っていた。
(乗り越えたのか?…いや、二つの力の進むべき道が一つになっている)
光と闇が互いを支え合い、未来の為に戦っている…理想の姿が誓音を中心点として眼前に映っていた。
そしてカイザーは駆け出す。眼前の敵を斬る為、更なる光を得た聖剣と共に。
>セシリアは瞬時に床を蹴ってカイザーの前に割って入り、エヴァンスを睨む。
「…っ!」
急なセシリアの出現に足を止める。
カイザーが理由を問う前にセシリアはエヴァンスへ話し、そしてこちらへ向いた。
>「小者一人にかかずらっている場合ではありません……最強の相手には、こちらも最強の駒をぶつけるものです」
今倒すべき者、それがエヴァンスかサタンのどちらかなど決まっている。
「そうだな…最強の駒なのかは分からないが、俺は冷静さを失っていたのかもしれないな。」
そう言い、視線の先にいるサタンを睨みつける。
近くを舞っていた自分のマントを見つけた。それを手に取り、鎧の肩部に装着する
>「退いてはくれないのかい? 俺はお前さんを斬りたくないよ、勿体無い。
>女の尻に隠れてる聖騎士殿は別としてだ。そいつは俺と同じ、知恵足らずのチャンバラ野郎だからな」
「俺が知恵足らずのチャンバラ野郎ってのは否定する気は無い…しかし、お前と同じなのは勘弁してくれ」
挑発を続け、自分に剣の切っ先を突き付けているエヴァンスにそう言い返す。
>「けど、まず話したい事がある」
エヴァンスは話した。
大切な仲間と恋人を失った事、その復讐の為に寿命を捨てた事、
サタンがこの世界を征服しようとした理由と、エヴァンスがサタンと決裂した理由。
そして、それら全てに絶対者が関わっている事を。
>自分たちが守り切れなかった多くのもの(中略)例えこの世界の全てを犠牲にしてでも、失ったものを取り戻す。お前たちはどうだ?」
(失ったもの…か)
その一言に過去を思い出す。
魔物の軍団に襲われた故郷、抗う力すら無かった幼き自分。
旅先で世話になった小さな村は紅蓮の炎火に焼かれ、そこには逃げ惑う人影すら確認できない。
夢を語り合えた戦友は自分に後を託し、闇の力の前に散っていった。
そして…闇の礎と化した皇帝騎士の城。
>「サタンを倒して地獄を封印した後、俺は天界の門も閉じる。
>絶対者への復讐は人間の手で遂げる、(中略) セシリア、カイザー。考えろ、お前たちが何の為に剣を手にしたかだ。
>守りたいもの、取り返したいものの為に剣を取った、違うか? なら、もう切っ先の置くべき場所を迷うな」
思い出す数々の風景、それと共に言い放つ。
「だからどうしたんだ、邪魔をするなと言ってるんだ!!」
聖闘気から発せられる波動が突風を発し、赤い渦がほんの一瞬だけ揺らいだ。
「世界の全てを犠牲にしても、だと?…貴様の利己主義な話はもう聞き飽きたんだよ!」
自分の故郷を救った後の師匠となる一人の聖騎士。
焼き果てた村で救った一人の少女。
散っていった仲間の想いはいつも背中を後押ししてくれる。
目の前に映る、誓音の理解し合えた新たな二つの力。
そして…この城を取り戻す為に立ち上がり、遂にここまで辿り着いた騎士達の願いは一つ。
「どんな絶望の中にも希望の光は残っている!
そして、その光を絶やさぬ為に今やるべき事は一つ…殺意の化身となったサタンを討つだけだ!!
絶対者はいずれ倒すべき敵になるかもしれない。だがな、今やるべき事を踏み違えるな!」
カイザーは足を踏み出し、駆け出した。向かう先はエヴァンスではなく、サタン。
「セシリア、ここは任せた!お前の望み通り、俺の…天聖騎士の光の力をサタンにぶつけてやる!」
そして、エヴァンスの横をすり抜けようとする。
地下闘技場・・・ここでどうやら『辻斬り』とFALCONが闘ったらしい。
結果はFALCONの勝利のようだ。かつて『辻斬り』だった残骸がそこにある。
埃とも砂とも言い切れない、それには戦い済んでなおもその記憶を留める様に
激戦の幻が纏わり付いていた。
「ずいぶんと派手にやりあったみたいだな・・・。
よくもまぁ、ここまでやれるよ。成仏しろ、間違っても化けて出るなよ・・・。」
念仏を唱えつつその場を後にし奥へと向かう。
地下闘技場最奥、そこに歪みはあった。その先こそ、オリジナルの魔法陣があるフロア。
地下神殿そのものを転移させたのだ、すぐには到達できないだろう。だが、
最後の魔法陣がある限りサタンを倒すなんて言うのは無理な話・・・オリジナルが
コピーから吸い上げ蓄えた力を供給しているだけでなく魔界からも力を取り出しサタンに与えているのだから。
逆に言えば、このオリジナルを破壊すれば多少なりとも聖なる結界の影響を受けざるを得ないだろう。
正面から叩くだけが戦いじゃない、今までの戦いで学んだ事だ。
神殿フロアは不気味なほど静かだった。かつてサタン復活を目論み、
邪悪な儀式などを執り行い、それを守る為にありとあらゆる存在がいた筈なのに。
転移させる時に全員弾き出されたか、処分されたのか、或いは・・・
濃密な魔素を掻き分けて、流れてくる方向へとひたすら歩んでいく。
一瞬とも永遠ともつかない時間をかけて、魔法陣のある部屋へと侵入した。
・・・凄まじい力の奔流を感じる。上?に向かって立ち上るその様は異様に映った。
その時、『悪魔』の魂を押し込めた妖刀が蠢く。鞘から抜き放つと・・・刀身が巨大化した。
長さは背丈、幅は自身の腕ほどもある大太刀だ・・・同時に、頭の中に『奴』の声が響いた。
「・・・それが真相か。そんな事の為に・・・俺は・・・!」
中身を聞いて自棄になった。もういい、ここで全てを終わらせる。
バカバカしい茶番も、サタンの横暴も、『悪魔』の命も、俺の戦いも・・・!
魔法陣の中心に立ち、大刀を逆手に持って・・・一気に突き立てる!
反発する力が加速度的に膨れ上がり、連鎖爆発を引き起こす。
衝撃が神殿を伝い、亀裂が奔り、縦に横に空間自体が揺れ動き、魔法陣が砕けてゆく。
禍々しい光を放っていた魔文字は力を失い、行き場を無くした力が充満していき・・・!
視界が光と闇に包まれていく。意識が、無に溶け込んでいく――――――――――。
>186-188
>「退いてはくれないのかい? 俺はお前さんを斬りたくないよ、勿体無い。
>女の尻に隠れてる聖騎士殿は別としてだ。そいつは俺と同じ、知恵足らずのチャンバラ野郎だからな」
エヴァンスの視線はセシリアを通り過ぎあくまでもカイザーへ据えられていた。
セシリアの歯が屈辱にきり、と小さな音を立てる。
そんな事には構わず、エヴァンスは自らの掌中に剣を出現させた。それをやはりセシリアではなくカイザーに向ける。
>「けど、まず話したい事がある」
そしてエヴァンスは話しはじめた。自らがなぜ魔王に利するに至ったか、なぜここに姿を現したか、
得たもの、無くしたもの、それを仕組んだ『絶対者』、取り戻すべき過去、それを成すための未来……
恐らくエヴァンス自身が知りえた事の全てか、それに近いだけの量の知識を。
そして、最後をこう結んだ。
>「セシリア、カイザー。考えろ、お前たちが何の為に剣を手にしたかだ。
>守りたいもの、取り返したいものの為に剣を取った、違うか? なら、もう切っ先の置くべき場所を迷うな」
それを聞いたセシリアの手が小さく動いた。
そしてゆっくりと槍を構えなおす。
「人は未来に向かって歩むものだ、過去に手を伸ばしたところで髪の一筋すら手には残るまい。
……悪いが今の私にこの世界より他に守りたいものなどない!
それを犠牲にしてまで己の私欲を満たさんとする輩に、オーガス騎士たるものが助力など出来ようか!」
仲間や家族はセシリアにもいる(ついでに言えばまだ見ぬ想い人もいるはずだ)。
その家族や仲間にもまた、それぞれ大切に想う人がいる。その想われている人たちにも、また。
そうして一人一人の小さな繋がりで世界は織り成されているのではないか。
一人の男の復讐のためにそれを全て引き裂く……到底承知できる事ではなかった。
この男は他に手がないとなれば、確実にそれをやるだろう。
>「どんな絶望の中にも希望の光は残っている!
> そして、その光を絶やさぬ為に今やるべき事は一つ…殺意の化身となったサタンを討つだけだ!!
> 絶対者はいずれ倒すべき敵になるかもしれない。だがな、今やるべき事を踏み違えるな!」
カイザーが吼え、駆け出してゆく。カイザーもまた迷いなどなく、自らの行くべき道を揺らぐ事のない目で見据えていた。
後を任せられたセシリアは、カイザーとエヴァンスの間に自らを置くように移動しながらエヴァンスへ話しかける。
「全てが仕組まれた事だというなら、私にも借りはある。だけどそれは自分で返すわ。
それに、私にはあなたのように世界を犠牲にしても、と思えるほど麗しい過去はないの。
灰にして墓石の下へ閉じ込めてしまいたいような事は一つあったけれど」
その声には先ほどのような熱さは無く、冷え冷えとしていた。
セシリアは言わなくても良かったことを言ってしまったように、軽く目を伏せた。
>177
マックスの矢はサタンの角を折った。だが次の瞬間、マックスの表情は凍りついた。
サタンの姿は変わり果て、その魔力は世界をも飲み込まんと思える程に溢れ出していた。
マックスは吹き飛ばされそうになるが、床にケレンファを刺してやりすごす。
急に体が震えだす。怯えではない。言うなれば武者震い、そんな所だろうか。
「怒ってんのかよ……ハッハッハッハ! 偉そうな事抜かしてクールぶってても所詮はその程度かよ!?
テメェの怒りが何だ? テメェの尊厳が何だ? 結局自分の事しか考えてねえじゃねえか。
なっさけねえな、ハーッハッハッハッハッハ!!」
たかが力自慢の人間が、力の制御を失った憤怒の魔王、怒りに狂う破壊者を嘲笑している。
それは喧嘩に負けた子供が、負け惜しみを言いながら強がっているかの様な滑稽な姿だった。
>178>181>185
閃光と衝撃が騎士達を襲い、マックスの嘲笑は自身の驚きの声で遮られた。
大地が天に昇っていくような、そんな感覚を体に感じながら現れた男の方を向く。
「エヴァンス……相も変わらずド派手なこって」
セシリアを抱えながらカイザーの傍へ降りていったエヴァンスを見て、聞こえないようにそう言った。
エヴァンスの言葉に耳を傾けつつ、周りを見回して即座に状況を整理した。
「一言で言やぁヤバいと言うわけだ」
マックスはエヴァンスとカイザーの目を、そして倒れているセシリアを見ると、体を半回転させて床を軽く蹴って跳んだ。
「因縁か……手を出すのは野暮かな。それに……」
>179>184
誓音の傍に降り立つと、FALCONが呪文を唱えているのを確認する。
マックスが援護にとケレンファを構えて跳ぼうとした時、誓音の両手から灰色の衝撃波が放たれた。
「誓音……」
マックスはかける言葉が見つからない。誓音に何が起こっていたのかは、彼は知らないからだ。
マックスは誓音のすぐ横に立ち、誓音の方に顔を向けるとただ一言、語り掛ける様に呟いた。
「おかえり」
自分でも言葉をかけるタイミングを間違っているとは思ったが、どうしても一言言っておきたかったのだ。
誓音の為に何も出来なかった自分が、今出来るのはこうして一言声をかけること。
そして、共に戦うことだけである。
「行くぞサタン!」
FALCONと誓音の援護の為、マックスは大きくケレンファを振りかぶった。
怒りの念はほぼ無くなり、マックスの黒い気は更に大きく燃え上がる。
「斧鎌翔!!」
マックスの手を離れた黒く輝く矛槍が、超高速回転をしながら怒れる破壊者に向かって飛んで行く。
>177>184>188>190>191
エヴァンスの左右に延びた光の翼が、カイザーの通過に合わせて出力を弱める。
構えていた剣を下ろし、自らも身を引いた。
問い掛けに対する返事はあれで十分――今の所は。
正義、希望、美しくも虚ろな言葉。彼がまだ、それだけで満足出来るというなら構わない。
好きにすれば良い。要は実践だ。
地上からの魔力供給が止まった。空間への魔力流入の停滞から、それと知れた。
オーガス騎士か、赤禍の出現以前に侵入した後続の同盟軍部隊かが、魔法陣の破壊に成功したのだ。
憤怒の化身を囲む空中庭園が上昇を止め、タイムリミットが遠ざかる。
「百鬼夜行」及び通常部隊の、ほぼ城外に限定しての配置が功を奏したか。
「地下神殿の魔法陣を破壊した奴がいる、お仲間か?」
聖騎士がサタン目掛けて走り抜けていった後、セシリアが残った。
未だ槍の穂先を逸らしてもらえてはいない。
>「全てが仕組まれた事だというなら、私にも借りはある。だけどそれは自分で返すわ。
それに、私にはあなたのように世界を犠牲にしても、と思えるほど麗しい過去はないの。
灰にして墓石の下へ閉じ込めてしまいたいような事は一つあったけれど」
「生きてる限り、過去は何処へだってついて回るよ。埋められる過去なんざ無い。
ただ、いずれ老いれば苦痛に対して鈍感になる。俺は年を取らないから分からないけど」
カイザーを追う様に、エヴァンスもサタンの側へ向かって歩く。
セシリアに突き付けられた槍を除けようと手をかざし、
「オーガス城陥落を皮切りに、首都周辺へ潜伏させた俺の私設軍が一斉に魔王軍基地を急襲する。
後援は旧ガストラ帝国諸侯だ。今回の作戦で武勲を立てれば、戦後の領地分割も有利に進められるって腹積もりらしい。
お前はオーガスを待つんだろう? 戦争が終わってしまえば、俺は連中に忠義立てする必要も無い。
だから副業で兵隊を貸してやっても良い、考えといてくれ――それだけだ」
剣は右手に持ち替え、もたげた義手の指先を魔王に据える。
「今やるべき事を履き違えるな……だろ? 今更私が加勢したところで、天秤の傾く軽さでもあるまいよ。お前らは」
人差し指から、無数の巨大な光弾が放たれた。
全弾散開、弾道は弧を描いてサタンを狙い、
火線の一部はカイザーやマックス、誓音に被るが、エヴァンスは構わず撃ち続ける。
光弾の直撃を受けた破壊のルーンが次々と術式解放され、衝撃波が一帯を巻き込む。
>184
>「さっきまでとは違います。食らえ!」
敵意を感知して相手の攻撃を相殺しようと衝撃波を放つ。
が、先程とは質が違うのだろう、その攻撃は一方的にこちらの攻撃を
打ち消して迫る。着弾した箇所から徐々に装甲に亀裂が走りダメージを負っていく。
供給される魔力で傷を癒すが、どうも治りが遅い……相手の攻撃の副作用なのか?
>191
>「斧鎌翔!!」
その傷の治り切らない内に追撃が来る。
シールドを張るが、同一の物とは思えぬほど脆い。
易々と撃ち抜かれて矛槍が右肩に刺さり、貫き砕いていく。
痛みこそ感じないが、本能的にサタンは異変を感じ取っていた。
魔力が、枯渇し始めていると言う事を。そして気付いた……
既に魔法陣が失われている事を。サタンの魔力は拡散を続け、オーガス城と
その外側の荒れ狂う竜巻にまで及んでいた。それを維持し続けるのは最早不可能、
と拡散する魔力を抑え込み、自身に収束させる。結果、戦闘能力を維持する事はできたが
オーガス城の浮上、内部の空間の歪み、竜巻、そして敵対者が感じていた威圧感までも
消え失せてしまい、どう見ても追い込まれている。
>192
>光弾の直撃を受けた破壊のルーンが次々と術式解放され、衝撃波が一帯を巻き込む。
そこに更に無慈悲な攻撃が加わった。何者かは分からないが
今正に放たれようとしていた破壊魔法を構成するルーンがその時を待たず
発動し自らを痛めつける結果へと転んだ。こんな事になるとは誰も思わなかっただろう。
無論、サタン自身さえも……右腕は肩から砕け落ち、その他の部分も亀裂の無い場所は無く、
傀儡である筈の鎧竜は荒い息を吐き、満身創痍の状態である事は疑えない。
しかし、収束させた魔力の行方は未だ知れず、本体もまた不気味なほど沈黙を保っていた。
>180->193
「ちくしょぉ……なかなか集まんねぇ!!」
大地から、海から、空から、世界中の人々から少しづつ力を分けてもらってはいるが、サタンを倒すには至らない。
先程までは、オーガス城の地下にあるという魔法陣から魔界の魔力も分けてもらっていたが、
その供給も不意に途切れてしまった。
おそらく魔法陣に何かがあったのだろう。
サタンの方を見ると、仲間達の攻撃によってボロボロになっている。
魔法陣に何かが起ったことによってサタンの魔力も低下し、
怒濤の如き仲間達の攻撃を防ぐこともできず、また回復することもできなくなったのであろう。
その証拠に最初にあった異空間の歪みが綺麗に消えてなくなっており、サタンから発せられる威圧感も小さくなっている。
先程の言葉を訂正しよう。
今の元気玉でも何とか倒せそうだ。
「これに似た状態って……前にもあったような……」
それは三年前、フェンリルと戦った時のことだろう。
その時もFALCONは元気玉を作ってはいたのだが、仲間達がフェンリルを倒しかけていたので、
危うく元気玉が無駄になりそうだったのである。
その時は無理矢理元気玉を放ったのだが……
「……元気玉撃ったって、この状況じゃ力の無駄使いになりそうだな……
この元気玉……どうしよ……」
FALCONは元気玉を見上げると、この膨大な力の処分について考え始めるのだが……
FALCONはまだ気付いていない。
サタンの魔力の収束と不気味な沈黙のことを……
>191>192>193
放った攻撃はサタンに当たった。
>「斧鎌翔!!」
マックスの矛がサタンを貫く。
そして背後から誓音に鋭い衝撃を走らせたかと思うと、誰かの衝撃波がサタンに向かって当てられる。
衝撃波を受けたせいで誓音の目、口から血が出る。
しかし誓音は何故か突っ立っていた。
足が何故か石みたいに動かない。
沈黙するサタンを見る誓音。
サタンの沈黙は明らかに妖しい不気味な雰囲気を醸し出している。
誓音は怪物じゃないほうの手を前に出した。
するとひと光すると目の前に白い刃を持った刀が出てきた。
しっかりとそれをつかむ誓音、サタンをもう一度見た。
そして…
誓音は駆けだした。
そしてサタンの手前、
誓音は急ブレーキをかけたかと思うと刀を斜め上に上げ、薙ぎ払う。
「罪の十字刃…。」
凄い閃光がサタンの部屋を一瞬明るくする!
そして薙ぎ払った瞬間十字の巨大な衝撃刃がちょうどサタンの頭めかげて発射された。
この技はあの水の女を倒したときと同じく、罪の分だけ力を帯びていくものだ。
そして…誓音は知らなかった。
その時から誓音の怪物の腕が若干萎んでいた事を。
>190-192
(自我を失っている…ならば、防御も甘くなっている筈だ)
そう判断した直後、背後から熱気を感じ、振り向く。
光弾が頬を掠め、飛んでいった。
更に光弾は休まる暇無く次々と迫り来る。
「エヴァンスか…!」
光弾を避ける為に剣に集めた闘気を右拳へと送り、下方向へ噴出させた。
その反動によって、カイザーの身体は上空へと飛ばされ、光弾の回避を成功させた。
>火線の一部はカイザーやマックス、誓音に被るが、エヴァンスは構わず撃ち続ける。
>光弾の直撃を受けた破壊のルーンが次々と術式解放され、衝撃波が一帯を巻き込む。
衝撃波が発生するのと同時、聖闘気を全身から放ち咄嗟に防御体制へと移る。
しかし、衝撃に耐え切れる程の闘気を放つまでには到らず、身体が更に上空へ吹き飛ばされる。
だが、逃げる方向が存在していた為、ダメージはそう深くは無かった。
>193>194
着地し、サタンの様子を見る。
(あれならば俺が攻撃に加わらずとも、あと少しで倒せるはずだ。)
そう判断するには十分なほどにサタンの身体は傷ついていた。
人間ならば致命傷に近い傷を負い、反撃すらままならないのであれば、誰の目にもサタンの敗北が迫っている事は明らかだった。
(…しかし、妙だな。)
先程サタンは城中に散乱していた魔力を自分の身体へ集めた。
だが、反撃はおろか自身の身の回復すら行っていない。ならば、魔力を集める必要はあったのだろうか?
(…俺が奴ならどうする?
自我を失うほど憎い敵に手も足も出ないほどにボロボロにされ、最後の刻を迎えようとしている。)
自身に置き換えて考え、…そして、一つの結論に達した
(俺ならば、その敵を絶対に倒す。
―――――自分の身を引き換えにしても、な)
自分と同じ考えならば、次のサタンの行動もおおよその予測がついた。
「攻撃の手を休めるな!!
追い詰められたサタンが何をするか分からないぞ!!」
言葉と共に走り出す。
再び剣に聖闘気が集い、大きな輝きを生み出した。
そして、カイザーは跳び上がった。
サタンへは誓音が向かっている、ならばターゲットは鎧竜だ。
「重要な時に操り主を庇われると厄介なんでな、貴様から消えてもらう!」
剣に纏う白銀の光の輝きが刀身が確認できないほどに激しくなる。
「ブレンテル流、闘気の剣!―――オーラスマッシャー!!」
鎧竜の額目掛け、剣を振り下ろす。
>192
エヴァンスの放った光弾の流れ弾を、背後からまともに受けるマックス。
先程より高められた黒い気の壁は、光弾の威力を軽減しようと働いたが、まだ物理攻撃以外には脆い。
マックスは痛みと衝撃によろめき、更に破壊のルーンの衝撃で空高く飛ばされ、そのまま落下した。
ダメージによって気が緩んだうえに、受身も取れずに地面に叩き付けられた為、そのダメージは大きい。
「ぐはっ……!!」
体全体に痺れが走る。大きく震える体を、何とか起こすとエヴァンスの方へ振り返ると睨み付けた。
マックス本人としては「狙って撃て」などと、エヴァンスに怒鳴りつけてやりたかったが、今はそれ所では無い。
>193
マックスがサタンの方へ向き直した時には、サタンの右肩は既に崩れ落ちていた。
続け様に放たれた攻撃と、衝撃波によって崩れたと見て間違いは無い。
無傷な部分などありはしなかったし、その威圧感も殆ど無くなって来てはいる。
「(もうすぐぶっ倒れそうだな。それは間違い無ぇ……)だが……」
先程収束された魔力の事など、マックスが気付く筈も無い。しかし、マックスの勘が危険であると告げていた。
「何かヤベェ、さっさとケリつけねぇと……な……!」
痺れる足で一歩一歩前へと進み始める。今、彼の手には何も持たれてはいない。
弓は背中に有るが、矢はもう無い。黒く輝く矛槍は、サタンから少し離れた場所に刺さっていた。
>194-196
FALCONの元気玉は巨大に膨れ上がっている。マックスには、サタンを倒すには十分な大きさだろうと思えた。
そのために、何故早く撃たないのかが彼には解らなかった。
まさか、FALCONが力の無駄遣いだと考えているとは、夢にも思わない。
「そうか! トドメは確実にって訳か……!」
勝手に納得していた所をカイザーの声に促された。
体勢を整え始めた時、彼の頭に声が響いた。
「……そりゃ本当かよ?」
心の中でそう返すと、突然目を瞑り、深呼吸をする様に息を整え始めた。
すると、弱まりかけていたマックスの気が膨れ上がり、その体は漆黒の炎で燃えているかの様に見えた。
「はいはい、やっと解ってきたぜ……この力の仕組み。ハハッ、面白い様な……」
再度溢れ漲る力に喜ぶ様に、白い歯を剥き出しにして笑った。
「面白く無ぇようなッ!!」
そして駆け出した。誓音の攻撃とほぼ同時に叩き込むつもりだ。
両腕を顔の前で交差させてサタンに接近し、相手の胸を十字に斬る様に手刀を仕掛ける。
「双斬刃ッ!!」
>192-198
カイザーはエヴァンスの横を駆け抜け、サタンへ迫る。
エヴァンスもそのあとを追う様に、しかし悠然と歩を進めながらセシリアに声をかけた。
>「生きてる限り、過去は何処へだってついて回るよ。埋められる過去なんざ無い。
>ただ、いずれ老いれば苦痛に対して鈍感になる。俺は年を取らないから分からないけど」
セシリアはそれには答えず、軽く下唇をかんだ。
他の痛みをそれでいくらかでも誤魔化そうとするかのように。
エヴァンスは未だ下がらぬ槍先を手で制しながら続ける。
>「オーガス城陥落を皮切りに、首都周辺へ潜伏させた俺の私設軍が一斉に魔王軍基地を急襲する。
>後援は旧ガストラ帝国諸侯だ。今回の作戦で武勲を立てれば、戦後の領地分割も有利に進められるって腹積もりらしい。
>お前はオーガスを待つんだろう? 戦争が終わってしまえば、俺は連中に忠義立てする必要も無い。
>だから副業で兵隊を貸してやっても良い、考えといてくれ――それだけだ」
「要らん」
これにはきっぱりと拒絶の意を示した。
エヴァンスにこれ以上魔王に利するつもりが無いと言うところは信用できそうだが、
だからと言って今まで同盟と敵対していた者から兵を借りることなど出来る事ではないし、
何より今度こそ自らの手で国を守れなければ、騎士団は存在する意義を失うと考えたからだ。
とはいうものの、セシリアの一存で決められる問題でもないのだが。
言い終えたエヴァンスはセシリア越しにサタンに指を向けた。
>「今やるべき事を履き違えるな……だろ? 今更私が加勢したところで、天秤の傾く軽さでもあるまいよ。お前らは」
言葉と同時に指先に光球が膨れ上がる。セシリアが飛び退くと同時にそれが立て続けに放たれ、辺りに降り注いだ。
周囲に刻まれていたルーンに光弾が直撃し、内包していた魔力が衝撃波を起こす。
セシリアは槍を振り、風を衝撃波にぶつけて相殺した。
ルーンに取り巻かれた只中にいた魔王は、すでにその姿を保っていられるのが不思議なほどの損傷を受けていた。
収束させた力も全て消失したかのように、ただじっと佇んでいる。
しかし、その力はどこへ?
セシリアがは、と顔を上げたと同時にカイザーが叫ぶ。
>「攻撃の手を休めるな!!
> 追い詰められたサタンが何をするか分からないぞ!!」
それに呼応するように誓音、マックスが魔王に打ち掛かる。カイザー自身もそれに続いた。
そして、セシリアも。
伸ばしたセシリアの手に瞬時に金属塊が飛び込んでくる。
元はマントの留め金だ。はまった石には損傷は無い。
それを槍に押し付けて曲げ、固定する。
――何よりも疾い一撃。今の望みはそれだけだ。
魔王を守る鎧に穴の一つも穿てれば、後は仲間たちの連撃で決着するはず。
そう考えたセシリアは、持てる力全てを注ぎ込んで魔石を並行励起させ、放った。
「疾きにおいて汝ら姉妹に勝る者、無し!行けぇ!!」
文字通り龍のごとき姿をあらわした竜巻の中を、二つの魔石を持った槍が音よりもなお速く駆け抜けていく。
しかし――それが魔王に到達する前に、既にセシリアは意識を失っていた。
>193>194
サタンズベッドが陥ちる。
オーガス騎士は崩れ果てた足場の上の縫うように駆け、集中攻撃でサタンの外骨格を剥ぎ取っていく。
エヴァンスも血の大剣を魔王へ投擲すると一行から離れて、赤禍の果て、蒼穹の天蓋を目指して飛翔する。
「FALCON! 敵の自爆に備えろ、相殺するんだ!」
魔王の敗北は決した、今度はノー・バディを回避するための準備に取り掛かる。
FALCONの元気玉は既に膨大な魔力を蓄えている、利用しない手は無い。
翼の軌跡から召喚された七人の金色の天使が、飛行に追従した。
やがてエヴァンスは空中にブイのように静止した「Burning Chrome」まで辿り着くと、
銃を取り、眼下の戦場へ狙いを定める。
「安心して逝け、代替わりしてやる」
<海よ、その潮に、過ぎた日々を溶かし去り給え
三日間、或いはそれより長く 別離すら気付かれぬままに>
天使が手を繋いで円陣を組み、小銃の火線を取り囲む。
エヴァンスの装甲服が変形し、携えた武器の銃床を胸部鎧に接続した。
光の翼は左右上下に延びてエヴァンスを中心とした十字を描き、
<太陽よ、登り詰め、我が仮面を焼き払い給え
三日間、或いはそれより長く 私は終に、この皮膚から抜け出せる>
天使の輪が廻り、眩い金色の光で戦場を照らし出す。
魔王の最後の力の解放を見越して、騎士との同時攻撃による相殺を目論む。
>195->200
>「FALCON! 敵の自爆に備えろ、相殺するんだ!」
「はぁっ?!自爆だって?!!」
そんなまさかと思い、FALCONはサタンの方を見る。
仲間達がサタンの方にとどめを刺そうとしているのが見えた。
肝心のサタンはというと……
「……かなり魔力を溜め込んでいやがる。本当に自爆するつもりかっ!」
サタンは膨大な魔力をその身の内に溜め込んでいる。
もし、その魔力を自爆という形で開放したのならば、ここにいる自分達は全滅する。
それどころか、この城ごと吹っ飛ばされてしまうだろう。
「くそったれ……俺はサタンと無理心中なんぞ、したくはないぞ!!」
上方の元気玉の方に視線を寄せて、精神を極限まで集中させる。
これからやることは非常に無茶なこと。
だが、そんなことをしなければサタンの自爆を相殺することはできない。
「元気玉よ……俺に元気を分けてくれ!!」
その言葉と同時に、元気玉が段々と小さくなっていく。
FALCONの体の中に元気玉の元気が入っていっているのだ。
FALCONは体の内側から爆発する様な痛みを、歯をくいしばって必死に耐える。
この元気玉の膨大な元気に耐えることができるかどうかは、まさに一種の賭け。
そして、FALCONはその賭けに勝った。
「うおぉぉぉお!!!」
FALCONの体が虹色に輝きだす。
元気玉の元気をすべてその身に納めた証だ。
FALCONは両手を胸の前に出し、手を重ねて菱形の形を作り出す。
FALCONの体の輝きが消えていき、両手にすべての輝きが集まっていく。
後は、サタンの魔力の開放の瞬間に合わせて発射するだけ。
それもまた、一つの賭け……
202 :
名無しになりきれ:2006/08/08(火) 15:25:28
オザワと聞いて飛んできました
>195-201
>「罪の十字刃…。」
最早ただの的同然となった鎧竜の頭に十字の白刃が撃ち込まれた。
亀裂の入った頭部はその一撃で口部が砕かれ、ブレスなどが使用不可になる。
その状態で使えば、確実に自壊する。しかし、巨体は動かない。
>「ブレンテル流、闘気の剣!―――オーラスマッシャー!!」
更に追撃。
振り下ろされた光の剣が鎧竜の頭部を完全に破壊してしまった。
砕けた破片はチリとなって消滅し、衝撃で長い首が後ろに振れる。
それを押し留める事も出来ない様で、緩慢な動作でよろけ後ずさっていく。
>「双斬刃ッ!!」
そこに迫るは黒い手刀、角を折った一撃と同じ性質だけに威力は凄まじい。
その上今にも砕けてしまいそうな体にはそれに耐えるだけの剛性も、避ける膂力も
残されてはいなかった。棒立ちで胸部を十字に切り裂かれ、前のめりに蹲る。
残った左腕で自らを支えるも、その腕の亀裂が悪化し自重でダメージを深めていく。
>「疾きにおいて汝ら姉妹に勝る者、無し!行けぇ!!」
光に近いほどの疾さで突進する物体があった。
タイミング悪く、辛うじて起き上がらせた胸部……双斬刃で十字に傷つけられた部分の
中央、一番脆くなった場所にその速度で凶悪なまでに高められた破壊の一撃が撃ち込まれ……
ついに鎧竜の胴体までもが砕け散った。残った下半身はいまだに倒れはしないが、
何ができる状態ですらない。その物体は胴体を貫通し反対側へと落ちたが、
それを巨体が知る事は無かった。
>後は、サタンの魔力の開放の瞬間に合わせて発射するだけ。
サタンは、かつてない屈辱に塗れていた。
如何に力あろうとも所詮は人、血みどろの戦いを幾星霜となく続け
力を蓄えてきた自身が敗れる事など、万に一つもあり得ぬ、そう、あってはならぬ筈だった。
が、実際はどうだ。今正に、自らの全てを破壊、唯一つに集約せねば相打ちにすら持ち込めぬ。
その事実が、かつての戦いの恥の上に圧し掛かり怒りを高めているのだ。
許せなかった、何もかもを。世界の覇権だの、『絶対者』への報復だの、そんな物はどうでもいい。
今、ここで、奴等を、屈辱を与えた者を、滅せねば、未来永劫収められぬ。
その一心で、禁呪の為に魔力を集約し、最後の一文を詠唱しようとしたその時……
全ての感覚が、『無』の中に落ち込んでいくのが分かった。
当惑したサタンは周囲を見渡し……今いる場所が何処なのか、それだけを把握した。
サタン「……何!?……ここ、は……。」
ベリ「『惰眠の間』……サタン様がお休みになられる際にお使いになられている場所です。」
サタン「ベリアール……!貴様の仕業か!?」
ベリ「……。」
ベリアールは語らず、佇んでいる。それがサタンの怒りに火をつけた。
サタン「何故だ!奴等を滅せねば、我が悲願は達成されぬ!
奴等は間違いなく我が道を阻む者ぞ!」
ベリ「……。」
サタン「それに、この様な事を含めておいたつもりもない!
貴様、何の権限があってこのような……」
ベリ「……黙れ。」
サタン「……!?」
ベリ「己が何者か、忘れたか……?」
サタン「……!……」
はっ、と何かに気付いたような表情を見せ、視線を彷徨わせて黙ってしまうサタン。
一瞬とも永遠ともつかない、その沈黙を破ってベリアールが口を開く。
ベリ「ご自愛下さいませ。御身は強大なる憤怒の化身、大いなる魔族の長と言うだけでなく
魔界の均衡を支える御柱でもあらせられるのです。仮に彼の地で潰えようものならば
魔界の均衡は失われ、その衝撃は三界を揺るがし寿命を早めます。
それこそ、『彼奴』の思惑通り……ここは耐え、力を取り戻されるが賢明かと……。」
サタン「……奴等は、どうするのだ……?」
ベリ「この戦いの結果が全てです。
後は私めに任せ、サタン様はお眠り下さい……。」
サタン「……。」
促されるままに、サタンは『無』の中で眠りについた。
それを見届けて、ベリアールは呟く。
「……まだ、失うわけにはいかないのだよ……。」
オーガス騎士達の目の前で、鎧竜は崩れ去っていく。
本体がある筈の胴体は空っぽ、残った下半身も音も無く砕け散っていく。
サタンの断末魔は? 最後の一撃は? 不気味なほど静まり返った玉座の間は
いつの間にか元の姿を取り戻していて……緩やかに、城は元の場所に降下して行き、
やがて、あるべき場所へと僅かな地響きと地面に着いた事を示す音を起こし収まった。
既に市街での戦いも終わっていた。ある時を境に全ての魔族が消え去っていたのだ。
残ったのは、種々の理由はあれどサタン側に付いていた人間だけ。その彼等も降伏している。
戦いは、終わったのだ。
ベリアールは玉座の間に姿を現した。
折られたサタンの角を拾い上げ、それを眺めすぐさま一同を見て。
「……どうしたのですか?あなた方は、勝ったのです。
もっと喜んでは如何ですか?」
>203->205
サタンの鎧が崩れ去った。
龍の鎧に包まれているはずのサタンの姿は無く、自爆も無し。
収束した魔力すらも、跡形も無く消え去った。
腹に響くような重低音が辺り一帯に響き渡り、城が地上に戻って来たことを示す。
ここで疑問が浮かんでくる。
サタンは何処に行った?
サタンの言っていた絶対者とやらの干渉により、サタンは消し去られたのか?
そんな疑問が浮かんでくるが、とりあえずは構えを解き、地面に降り立って辺りを警戒する。
何が起こるか分からない。
絶対者の軍勢が不意打ちを仕掛けてくるかもしれない。
まぁ、サタンの様に跡形も無く消されたら警戒も糞もないのだが……
辺りを警戒して少し。
一人の魔族が玉座の間に現れる。
いったい、誰だ……?
サタンの部下なのだろうか?
魔族はサタンの角を拾い、少し眺めた後、こちらを見てくる。
>「……どうしたのですか?あなた方は、勝ったのです。
> もっと喜んでは如何ですか?」
この第三者の様な口調から察するに、おそらくは絶対者の手下か何かなのだろう。
FALCONは両手を魔族の方に向けると、質問をした。
「あんたは誰だ?サタンの言う絶対者の手下か?それに、サタンを何処に消し飛ばしたんだ?」
騎士達の連続攻撃によってサタンの鎧は破壊された。…しかし、何かがおかしい。
それもその筈、中にいるべきのサタンの姿が見えないのだ。
(身体を消す魔法でも使って、不意打ちでも狙っているのか…?)
そう判断し、指をパチンをと鳴らす。
すると、先程作っておいた魔方陣がカイザーの目の前に瞬間移動した。
だが、サタンからの攻撃はこない。
と、今まで不安定な状態であった城が元の状態に戻った。
そして、一体の魔物が玉座の間に現れた。
>「……どうしたのですか?あなた方は、勝ったのです。
> もっと喜んでは如何ですか?」
それに最初に反応したのはFALCONだった
>「あんたは誰だ?サタンの言う絶対者の手下か?それに、サタンを何処に消し飛ばしたんだ?」
疑問点は同じため、カイザーは何も言わず、その状況を眺めている。
>206-207
>「あんたは誰だ?サタンの言う絶対者の手下か?それに、サタンを何処に消し飛ばしたんだ?」
沈黙を破ったのはFALCONだった。
突然の展開にそれぞれが状況や思考を整理し切れていないのだろう。
それも当然と言える、先程まで死闘を繰り広げていたのだ。最後の一撃が来ると
構えていたのにそれがないとなるとかえって隙が出来るもの。そこに付け込む気は無いが。
「ああ、申し訳ありません。一方的に知っているだけなのに、
既に知った仲と思い違いを起こしてしまいました。お初にお目にかかります、
私はベリアール……サタン様の傍近くに仕えさせて頂いております、一魔族です。」
今ここにいる人物で自分を多少なりとも知っているのはエヴァンスだけ。
それ以外の全員は、知っていると言うだけでしかない。
「……絶対者、『外なる者』とは何の関係も……無い、と言えば嘘になりますか。
しかし、一から説明すると長くなります。そしてそんな物に耳を傾ける気など無いのでしょう?」
そう言うと懐から瓶底眼鏡を取り出してかけ、折れた角を眺め始める。
「消し飛ばしたとは恐れ多い事を……お忘れですか、FALCON殿?
七大魔王が司る『大罪』が、魔界を支える柱だと言う事を。
その内の一つである『憤怒』が魔界でなく、人界で潰えなどしようものならば、
三界への影響は計り知れず。最悪、諸共に無に帰してしまうのです。
さすがにそれを見過ごす事も出来ませんので、独断で魔界へと送還しました。
……熱くなり過ぎるのが欠点ですね。それも、仕方ない事なのですが。」
淡々と語る。そこには真面目さこそ感じられるものの、どこか冷めた雰囲気が感じられる。
「話が変わりますが、『外なる者』がいる世界、それは天界の先にあります。
天界の者達が我等魔族の話に耳を傾ける事などあり得ませんからね……。
魔界からでは恒常的に『通路』を開くには消費する力が絶対的に足りない。
仕方なしに一つ、向こう側に近い人界を掌握し、『通路』を開いて―――と
言うのが今までの戦いの真相です。魔法陣もきちんと完成し、兵も集まって。
計画は最終段階へと移行する筈でした……そう、あなた方が現れる前までは。」
そこまで言って一同を見渡し
「しかし、あなた方が戦いに参加した事で計画に狂いが生じ、
その結果『通路』を開き固定する為の魔法陣は全て潰え、唯一対抗出来る存在であった
サタン様も、云百年もの眠りに陥る事になった……ままなりませんね。
せめて、エヴァンス殿が『通路』を開くまで協力してくれていればまた少しは
違ったのかも知れませんが……今言っても詮無い話ですね。」
ふぅっ、と溜息をついて一旦話を切る。聖なる結界の影響で体が重いのだろう。
>208
現れた魔族の名はベリアール。サタンに仕えているという。
その彼はFALCONに対して驚愕の事実を言う。
>「消し飛ばしたとは恐れ多い事を……お忘れですか、FALCON殿?
〜略〜
>……熱くなり過ぎるのが欠点ですね。それも、仕方ない事なのですが。」
サタンを殺してしまえば三界のバランスが崩れて、下手をすれば全てが無になるらしい。
実はFALCONはこの事実を全く知らなかったのだ。
危ないところだったと、冷や汗がFALCONの顔を濡らす。
そして話は続く。
>「話が変わりますが、『外なる者』がいる世界、それは天界の先にあります。
〜略〜
> 計画は最終段階へと移行する筈でした……そう、あなた方が現れる前までは。」
>「しかし、あなた方が戦いに参加した事で計画に狂いが生じ、
〜略〜
> 違ったのかも知れませんが……今言っても詮無い話ですね。」
サタンは私怨の為にこの地上に攻めて来たのだと思ったが、
いや……絶対者との戦いもサタンの私怨かも知れないが……
まぁ、要するにサタンは自分達のことなど眼中になく、狙いは絶対者のクビ一つだったのだ。
ここで疑問点がいくつかある。
ここではそのことを聞いてみよう。
「ベリアールさんよぉ……質問するぜぇ
絶対者って奴は一体何なんだ?話を聞いた限りはこの世を裏から支配してる奴みたいだけどよぉ。
強いのか?」
サタンより強いかも知れない奴。
FALCONの気が沸々と上がってくる。
>208>209
>「ベリアールさんよぉ……質問するぜぇ
絶対者って奴は一体何なんだ?話を聞いた限りはこの世を裏から支配してる奴みたいだけどよぉ。
強いのか?」
「『強い』」
エヴァンスが年長の天使の手を取って、玉座の間へと降り立つ。
他六人の天使らは崩れた壁の天辺に腰を掛けて、騎士とベリアールを取り囲む。
「その形容が正確であるかどうか」
オーガス城は地上へと帰還し、市街では後続の同盟軍攻撃隊が、早くも勝ち鬨を挙げていた。
雨上がりの空は焼け、雲の切れ間から差し込む陽と、
地平線に冠したオーロラ状の聖光結界が暖かな白い光で、城下に残された嵐の跡を照らし出す。
古代魔法陣を失った今、魔王軍は二次攻勢に耐え得る戦力を持たない。
明日にも同盟諸国の代表団が首都へと馳せ参じ、領土分割を含む戦後処理へ取り掛かるだろう。
戦争は終わった。玉座から遠く見下ろす先、大路を埋め尽くす人と声とが間氷期の始まりを報せる。
「鎧」を解いた軍用コートのエヴァンスは小銃を担いで歩くと、広間の隅に小高く積まれた瓦礫の山へ登った。
今夜、残党狩りを終えた空中母艦が彼を回収しに来る手筈だ。シズネに教えた緊急脱出口も、今や無用の長物。
「運命とか、法則とか、神。万物を司る、この世界そのもの。『絶対』ってのはそういうことだ。
俺たち人間は神さまに作られて、盤上へ並べられた駒だ。駒はゲームの決まりに従った働きしか出来ないだろ?
いくら望んでも、ルールを破って勝手気ままに歩き回る事は許されない。
その『望み』にしたって、元より仕組まれた枠組みをなぞってるだけかも知れない。喜怒哀楽、感情ですら。
俺やサタンがやろうとしてたのはとどのつまり、人生っていうボードゲームのテーブルを探して、引っ繰り返す事なんだよ」
銃を下ろして、瓦礫に座る。左腕を叩いて、
「これだ、この腕。こいつは盤の端の端だ。俺は昔、そこから駒を動かす神さまの手を見ちまったんだ。
ベリアール? 今回の件は良い足掛かりになった。貴様の御主人に代替わりして、俺がちゃあんとケリをつけてやる」
>209-210
>「ベリアールさんよぉ……質問するぜぇ
なんとFALCONは絶対者の強さを聞いてきた。
サタンの目的など眼中に無い、と言う事なのだろう。
まぁ、FALCONの性格は知っているし予想できた内容なのだが。
「支配……違いますね、そんな生易しい物ではありません。
『絶対者』とは、この世界のみならず数多の世界を私欲の為に創り上げ……
実験と称して生まれた全ての命、運命を弄んできた独裁者。
我々は奴にとって、モルモットも同然……それ以下かも知れませんが。」
律儀にFALCONの言葉を訂正して
「強いかと聞かれれば……弱い、としか言えません。
少なくとも純粋な肉体の強さを言えば、この場にいる誰にも敵わないでしょう。
しかし、奴はこの世界の造物主。初めの頃は大した干渉も出来なかったのが、
度重なる実験によって全ての事象、即ち運命を自在に操れるようになった……。
そして『絶対者』は用済みになった、自身が創った全ての世界を消去しようとしている。
それを見過ごすのは、生を放棄するのと同義です。そうは思いませんか?」
>ベリアール? 今回の件は良い足掛かりになった
「いつまでも使われる立場にいるとは思っていませんでしたが……
実に口惜しいタイミングで離反されてしまいましたよ。
とりあえず向こうに着くまでは猫を被っていた方がよろしかったのではとも思うのですが。
……しかしエヴァンス殿、失礼ですがどのような手段を使って『通路』を開くおつもりで?」
>人生っていうボードゲームのテーブルを探して、引っ繰り返す事なんだよ
「要はそう言う事です……まぁ、それ以外にも、個人的な恨みと言う物もあるのですがね……。
サタン様、いえ魔界の七大魔王は、『絶対者』の最初の干渉の犠牲者なのですよ。
それがなければ、今日まで続く血みどろの戦いは、少なくとも今の七大魔王、そして『サタン』と言う
存在が引き起こす事は無かった……とは言え誰かが同じ道を通って、今の結末を齎していたとは思いますがね。」
>210>211
>「『強い』」
天使達と共に舞い降りたエヴァンスは、そう答えた。
聞いたところによると、絶対者は支配者ではない。
運命や法則、そういった類のモノ。
絶対者にとっては、自分達はゲームの駒。
自分達の感情や何から全て操られているかもしれないのだ。
>「強いかと聞かれれば……弱い、としか言えません。
> 少なくとも純粋な肉体の強さを言えば、この場にいる誰にも敵わないでしょう。
〜略〜
> それを見過ごすのは、生を放棄するのと同義です。そうは思いませんか?」
ベリアールが言うには、肉体的な強さは貧弱らしい。
だが、運命や法則を自在に操って、用済みになった世界を次から次へと滅ぼしてる。
ガストラ帝の奴よりタチが悪い。
あの野郎はただの強欲野郎だったが、絶対者の野郎は他の存在を何とも思ってねぇ野郎。
気に入らなければ消す。用済みなら消すって、独裁者としてはガストラ帝よりも数倍は最悪だ。
>「要はそう言う事です……まぁ、それ以外にも、個人的な恨みと言う物もあるのですがね……。
〜略〜
> 存在が引き起こす事は無かった……とは言え誰かが同じ道を通って、今の結末を齎していたとは思いますがね。」
サタンやベルゼバブ達、いわゆる七大魔王は絶対者に対する最初の被害者。
その絶対者の為に、サタンも自分達の道も歪んでいった。
思えば、三年前。
自分が赤い姿に覚醒した時に、急に時空の狭間に吸い込まれるようになったのも絶対者のせいなのかもしれない。
ガストラ帝が三年前の悲劇を起こしたことも、イルが一度死んでしまったことも、ヴォルフがサタンを復活させたのも。
そして……俺が捨てられたのも……
>「これだ、この腕。こいつは盤の端の端だ。俺は昔、そこから駒を動かす神さまの手を見ちまったんだ。
>ベリアール? 今回の件は良い足掛かりになった。貴様の御主人に代替わりして、俺がちゃあんとケリをつけてやる」
エヴァンスも又、絶対者による被害を受けた。
その時に絶対者の干渉の瞬間を僅かながらに見たらしい。
「悪いね、お二人さん。
この俺も絶対者の作ったくだらねぇボードゲームを、チャブ台返しするのに参加させてもらうぜ。
この俺も絶対者に個人的な怨みができちまってな」
戦いはあまりにも後味悪く終わった。
騎士達の攻撃を受けたサタンはどうやら永いお眠の時間に入ったらしい。
魔力の解放、そしてこの戦いの終わりを期待した自分の期待はどうやらあっさりと裏切られた。
魔将とファルコン、エヴァンス、カイザーの会話を取りあえず立ち聞きする誓音。
その表情は何処か落ち着いたものでもあった。
次にやることは決まっていた。
ファルコンが言う。
>「悪いね、お二人さん。
> この俺も絶対者の作ったくだらねぇボードゲームを、チャブ台返しするのに参加させてもらうぜ。
> この俺も絶対者に個人的な怨みができちまってな」
「……私も、もしよかったら参加したいですね。
絶対者の手のひらで踊らされたままなんて…ごめんですし…」
誓音はそう言うと真っ直ぐに魔将とエヴァンスを見た。
気がついたら、オーガスの城下町の外れに寝そべっていた。
最初、俺は死んだものとばかり思っていたんだがどうもそうじゃないらしい。
・・・あの爆発で空間が歪んでそこに引き込まれたんだろう、きっと。
そうでもなければ、今ここにいる説明がつかない・・・生きてるのは、きっと・・・
戦いは同盟軍の勝利に終わったようだ。あちこちで勝利に酔いしれる兵士の姿が見える。
そんな光景に目もくれず、アステラはおぼつかない足取りで戻ってきたオーガス城に向かって
歩を進めていく・・・白い大刀を引き摺りながら。
>「……私も、もしよかったら参加したいですね。
>絶対者の手のひらで踊らされたままなんて…ごめんですし…」
思えば、まともなオーガス城を歩くのはこれが初めてだ。
決戦の時にはサタンのせいで空間が歪んでいたから、仕方が無い。
聖なる結界と、過負荷で感覚がさっぱりだがそれでも道を間違えずに玉座の間に
辿り着けたのは奇跡に近い。半開きの扉を押して中に入り・・・ベリアールの足元めがけて
『悪魔』の魂入りの刀を投げつけた。刀は床に刺さり、刀からは『悪魔』の波動が漏れ始める。
丁度、見慣れない女が『絶対者』とか聞きなれない言葉を口にした時だった。
「・・・あんた等の探し物だ・・・」
それだけ言うと、扉の傍の壁に寄りかかりそのまま座り込んで頭を垂れてしまう。
正直立っているのも辛い・・・眠ってしまえるならどんなに楽だろうか。
>210-214
>「俺や……やろうとしてたのは……いうボードゲームの……引っ繰り返す事なんだよ」
>「生を放棄……そう……せんか?」
>「この俺も絶対者の作った……チャブ台返し……させてもらうぜ」
>「……の手のひらで踊らされたまま……ごめんです…」
さまざまな声がセシリアの脳裏を通り過ぎていく。
誰のものか判然としないその声を聞いているうちに、セシリアの意識は覚醒に向かう。
そして、きん、という音が届いた瞬間、セシリアの意識は完全に闇から脱していた。
最初に目に映ったのは床に突き立った刀。
これが刺さった時の音がセシリアを覚醒させたのだった。
次いで仲間たちの姿。魔王の元へ至った者、誰一人欠けてはいない。
瓦礫に腰を下ろすエヴァンスの姿もあった。それぞれの視線の先には見慣れぬ魔族が。
さらに視線をめぐらせると壁に背を預け、項垂れるアステラが。
魔王の姿は……どこにも無い。
立ち上がろうとしたセシリアだが体がなかなか言うことを聞かない。
槍の一撃に体力精神力全て注ぎ込んだのだから当然の結果だ。
剣を抜いて、それを杖代わりに何とか立ち上がった。
「ちゃぶ台返しも結構っ……ですが、その前に、やることがあるのでは」
言い切らぬうちに一際大きな歓声が聞こえた。
戦勝に沸く兵や民が、オーガス城へ詰め掛けているのだ。
掲げた槍や剣に雲間から差し込む陽光が反射している。
「ゲームの前に、宿題が残っています」
宿題……いうまでもない、戦後処理だ。
一つの戦いには一応の区切りがついた。
たとえそれが次なる動乱の種であったとしても。
論功行賞、領土割譲、そしてオーガス城、いやオーガス国の再建。
やるべきことはいくらでもある。早急に皇帝オーガスを迎え、地歩を固めなくてはならない。
領内はそこまで荒廃しているわけではないが、確実に爪痕は残る。
そして、寄る辺なく生きてゆけるほど人々は強くないのだ。
セシリアは床に突いていた剣をすいと持ち上げ、魔族へ向けた。
「何者かは知らぬが、失せろ。絶対者はいずれ倒さねばならぬ相手だろう、だが貴様らの力は……」
そこまで言ったところで持ち上げていた剣が落ちた。
それを追うように体も崩れ落ち、セシリアは再び床に倒れ伏す。
胸元から、よく磨かれた石が一つ、転げ出ていた。
>212-215
>「悪いね、お二人さん。
>「……私も、もしよかったら参加したいですね。
やはり、そう言うか……見込んだとおりの人間達だ。
もっとも、そうでなければ今回の戦い、あまりに無意味すぎる。
……サタンは、自らこそが奴を討つに相応しいと考えていた。
しかし、『自分』はそうは思わなかった。もっと相応しい存在がいるのでは?
そう思い立ち……距離を稼ぐと言う名目等々(無論これらの意味も強いが)を
隠れ蓑に、戦いを挑んだのだ。結果……人が選ばれた。ならばそれに従うだけだ。
「そうですか……では、『通路』は用意しましょう。
もっとも、現状では片道分しか確保できません。一度向こうに行ってしまったら
別の手段を確保せねば、帰還する事は叶わない……それでも―――」
>「・・・あんた等の探し物だ・・・」
不意に玉座の間の扉が開き、行方不明のアステラが入ってきたかと思うと
手に持った大刀を投げつけてきた……足元を狙っていたようで、当たりはしなかったが……
そこから放たれる気配に目を見開く。そして理解した、そうか、そういう事かと……。
「……貴方が、そうだったのですね。
人の時間にして15年前、私達は奴の、向こうの世界の事を知る為に『通路』を開き
一体の同胞を送り出しました……その同胞は様々な情報などを持って、5年前
今一度開いた『通路』を通ってこちら側に帰還する筈だったのです。が、奴の
干渉によって『通路』は歪み、同胞は肉体を失い……そのまま、消滅したと。
今この気配を感じるまでは、私もそう思っていたのです。」
「貴方には感謝してもし切れません……お陰で、対策が立てられるかも知れません。」
>「何者かは知らぬが、失せろ。絶対者はいずれ倒さねばならぬ相手だろう、だが貴様らの力は……」
気絶していたセシリアが起き上がり、自分に対して失せろと言ってきた。
しかし本調子には程遠く、すぐに倒れてしまった。転がった石はベリアールの足元に。
「本当は長居するつもりだったのですが、予定が変わりました。
我らが同胞が、その身を犠牲にしてまでも持ち帰った情報……これらの報告を
元に準備に取り掛からねばなりません。ですが、その前に……」
ベリアールが刀に手をかざすと、『悪魔』の波動がベリアールに流れ込む。
少しして、大きく一度頷くと全員を見渡し
「まだ時間的な猶予はあるようですね……『絶対者』、奴のやり口は
あまりにも露骨過ぎたようで我々以外にも気付いた他の世界の者達が
世界の壁を越えようとしている……奴は、そちらの方に気を取られている。
……世界を消すと言うのも、そう簡単な事ではないようですね。
もう少し詳しく引き出さないとこれ以上の事は言えないのですが……
もし、もしもあなた方が行くと言うのであれば、休息を取り英気を養うべきです。
同時に、新たな戦士を探す事も……我等の世界最強の戦士達で……奴を討つ。
それが、この戦いを勝ち抜いたあなた方の使命なのですから……。」
再び手をかざし、刀から『悪魔』の魂を完全に抽出する……残った刀をアステラの脇に
投げ返して
「それは貴方がお持ち下さい。得物は多い方がいい……。」
そして、足元の石を拾おうとして……
訂正
×我等の世界最強の戦士達で……奴を討つ。
○世界を滅ぼす絶対者……『外なる者』を討つ。
>213->217
>「……私も、もしよかったら参加したいですね。
>絶対者の手のひらで踊らされたままなんて…ごめんですし…」
誓音も絶対者との戦いに参加する模様。
絶対者が操るお人形ってのは、誰だって嫌なのだ。
ここにいる者達は全員が絶対者との戦争に参加することだろう。
ベリアールの足下に刀が突き刺さる。
その刀からは魔族の気が溢れ出ている。
>「・・・あんた等の探し物だ・・・」
声のする方を見ると、そこにはアステラがいた。
やはり、アステラは生きていて、サタンとの決戦に駆け付けてくれたのだ。
>「ちゃぶ台返しも結構っ……ですが、その前に、やることがあるのでは」
セシリアが言った。
サタンとの戦いで限界まで力を使い果たしたのか、立ち上がることすらままならないといった状況。
セシリアが言った直後、城内に、国全体に歓声が巻き起こる。
この歓声の主は同盟軍の兵士や民間人。
やっと長いことの宿敵を打倒でき、歓喜の極みによりってとこだろう。
呑気で良いねぇ……
こっちは更に上等な美味の敵が出されたというのに。
絶対者のことを考えただけで血沸き肉躍る。
早く戦いたい…
>「ゲームの前に、宿題が残っています」
続くセシリアの言葉に、急に現実に引き戻された。
絶対者の前に戦後の処理をしなければ。
この国のことだけではない。魔界においても戦後の処理というものが必要だろう。
七大魔王の一角が人間達によって敗北したのだ。
魔界ではサタンの眠っている隙を突いて、他の魔王が覇権を握ろうと画策していることだろう。
下手に戦争をしてしまえば絶対者の思う壺。
自らが手を下さなくても、魔王達の反乱という不安要素を潰せることになる。
ここは絶対者打倒の旗頭の元に魔界が一つになるべきだ。
その為には自分が重要となることだろう。
他の者達と協力したとはいえ、サタンを倒したのだ。
サタンの力は魔界最強と言われている程。
他の魔族達に対して、十分な抑止力になれるはずだ。
それに自分にはベルゼバブという強力な後ろ盾がある。
そのベルゼバブに協力をしてもらい、魔界を統一することも十分に可能なはず。
そうと決まれば話は早い。
足下にある石を拾おうとするベリアールに声を掛ける。
「ベリアールさんよぉ、俺も一緒に魔界に行くぜ。
俺も魔界でやらなければならないことがあるんでな」
まぁ、色々とやる前に、イルに会って安心させておかないと……
そのとき むすうの やが じょうくうから ふりそそいだ!!
「私はガストラへ帰る。貴様らは好きにすればいい。
言う通り絶対者討伐に乗ろうと、乗るまいと、全て自由なんだ」
エヴァンスが差し出した義手を年長の天使が取り、飛び立った。純白の羽毛が石畳に散る。
他の天使たちもエヴァンスに寄り添い、その腕を取って支えた。
「けど一応は言っておく。誰一人として、盤を引っ繰り返した後の事を保証出来る者は居ない。
殺せば良いさ、絶対者でも何でも。そうして、裏返った盤でもゲームを続けられるかどうか試してみようか?
あまり楽観的でない方が、後々傷付かずに済むよ。私は私のためだけに戦う、だから躊躇が無い」
エヴァンスの身体が宙に浮き、玉座の間を離れていった。
天使たちの金色の輝きが騎士たちを照らす。去り際に、エヴァンスが微笑んだ。
「今有るモノを大切に思うのなら、本当は戦わずに逃げるべきかも知れないな。
私はこれ以上失うモノが無いから、幾らでも後ろ向きに戦える。それはあまり愉快な事ではないけれどね」
ゲート魔法の余波が巨大な魔法陣となって空中に広がると、エヴァンスと天使たちは跡形も無く姿を消していた。
誓音が言葉を発した後、魔将が通路を通してくれる事を保証してくれた。
そして突如ドアが開く音が響く。
誓音は振り向く。そこには女顔の男が一人。
そしてその男は鞘に入ってない刀を魔将の足下に投げ付けた。その刀は邪気を帯びている。
「…敵?」
静かに刀を構える誓音。しかしその男は、
>「・・・あんた等の探し物だ・・・」
と言うとその男が壁に寄りかかって座り込んだ。
「ちょ…!大丈夫ですか?」
誓音は驚いてその男に近づこうとするが、誓音の動きが止まった。
>「ちゃぶ台返しも結構っ……ですが、その前に、やることがあるのでは」
セシリアが起き上がったのだ。
>「ゲームの前に、宿題が残っています」
そう言うと剣を持ち上げセシリアは魔将に向けた。
>「何者かは知らぬが、失せろ。絶対者はいずれ倒さねばならぬ相手だろう、だが貴様らの力は……」
そして、言い終わらぬうちにその女は倒れてしまう。
「ちょ…。」
魔将が話す。
>「本当は長居するつもりだったのですが、予定が変わりました。
> 我らが同胞が、その身を犠牲にしてまでも持ち帰った情報……これらの報告を
> 元に準備に取り掛からねばなりません。ですが、その前に……」
そう言うと魔将は刀を手に持つ。
>「まだ時間的な猶予はあるようですね……『絶対者』、奴のやり口は
(省略…)
> それが、この戦いを勝ち抜いたあなた方の使命なのですから……。」
「それは貴方がお持ち下さい。得物は多い方がいい……。」
そして、足元の石を拾おうとする誓音。
カイザーがそれを受け止める。
>「ベリアールさんよぉ、俺も一緒に魔界に行くぜ。
> 俺も魔界でやらなければならないことがあるんでな」
そしてファルコンも…次の行動を定める。
エヴァンスも天使となって飛んでいく。
なら…
「…なら、一時期お別れですね…。
セシリアさんが言った通り……私達にはまだ宿題があります、
セシリアさんも倒れてるうえ、カイザーさんやマックスさんもお疲れのようですし、
戻ります。城に。
…それに…私ももう限界が近いですし。」
気づけば誓音の右腕は若干萎れかけていた。どうやらがたが来てるようだ。
誓音はセシリアに近づくと背負い、ファルコンの方を見た。
「…こんな事言うのはなんですが…結構楽しかったです。
魔族の人間である貴方と共に魔王倒しの旅は…ほんの少ししか参加できなかったけど。
そして…ありがとうございました…私を救ってくれて。また会いましょう。」
そう言うと誓音は笑顔でファルコンに手を差し伸べ握手を求めた。
勝利に沸き謁見の間になだれ込む兵士達。
皆が歓声と勝鬨を上げている。
その時には既にファルコン、エヴァンス、ベリアールは去っており、絶対者の存在を知るものはいない。
はずだった。
不意にカイザー、マックス、誓音の腕が引かれる。
腕を引いたのは喜びに湧く兵士達とはまったく異質の雰囲気を持つ者たち。
その者達は小声で控えの間に行くように伝え、呪符を貼り付けた。
その途端、カイザー、マックス、誓音は目の前に自分自身を見ることになるだろう。
声をかけた男達はそれぞれ英雄として他の兵士達にもみくちゃにされている。
そしてカイザーたちは一般兵士へと姿を変えている。
衆人環視の中、変わり身の札を使って入れ替わったのだ。
ただの変わり身の符ではない。白昼堂々と入れ替わり誰も気付かないほどの高度な呪法が練りこまれた符なのだ。
訳のわからぬまま三人は控えの間へと移動する。
そこは玉座の間の熱気からは考えられぬほどの静けさ。
見張りがいるわけでもなく、鍵がかかっているわけでもない。
呪術に詳しいものならば、控えの間に入った瞬間、結界空間に入った事に気付くだろう。
控えの間には一人の男が佇んでいた。
少しやつれてはいるが、それは間違いなくガーオス、その人であった。
そしてその脇には簡易ベットに寝かされているアステラとセシリアがいた。
「諸君、おめでとう。そしてありがとう。よくぞ困難な戦いを勝ち抜いてくれた。」
ここに来て今までのガーオスとは別人のような殊勝な言葉。
片膝をついて深々と下げる頭。
そして何よりも驚いた事に、ガーオスの鎧にきらめく王家の紋章に不名誉印が刻んであったのだ。
騎士にとって忠義と名誉、そして誇りは何よりも重い。
不名誉印はそれが全て否定された罪人である事をあらわす。
ガーオスは静かに語りだす。
既に城外では諸侯によって戦後処理の協議が始まっている事を。
ガーオスはオーガス騎士がオーガス城を奪還し、サタンを倒したのだから領土分割を求めず人類の聖戦として終わらすべきだと主張したのだ。
その結果が不名誉印だと自嘲するように笑う。
「戦いの一部始終は把握している。絶対者の事もね。
だがその事は口外しない事だ。
君たちは人類を救った英雄ではあるが、為政者にとっては邪魔な存在となったのだよ
大きすぎる力は平和の時代には恐れられるだけだ。
戦後処理が終わり、世が落ち着くまでは君たちには静かにすごしてもらいたい。
絶対者なるものが運命や人の心を作り出している超越者なのか、異世界から異世界の運命や人の心を操る干渉者なのかどちらにしても軍を動員してどうこう出来る存在ではあるまい。
超絶した力を持つもののみを選抜し、戦うのがいいだろう。
干渉を受け操られる可能性が僅かでも減る。
アステラ君には殴られてやらねばならんのだがね、その力も残っていないようだからこの忠告を持って変えさせてもらうよ。」
そう言うとガーオスはもう一度深く礼をとり、控えの間から出て行く。
ドアを開ける瞬間、思い出したように振り向き三人に問いかける。
「絶対者とやらはこの世界を箱庭にように観察し操っているのだろう?それを倒すのはいいだろう。
だがその先はどうするのだね?絶対者の世界も箱庭の一つで更なる超越者がいる可能性は?
更なる超越者も箱庭の住人で・・・幾重にも重なった箱庭である可能性は?そうであった時、君たちはどこまで外の世界を求めるのかね?
私のような凡俗な男は自分の世界で安楽に暮らす事を願うよ・・・」
最後に言葉を残し、歓声と熱気の渦巻く謁見の間にガーオスは消えていった。
>222-223は無効です。
結局どっちなんだよ
「さて、そろそろ俺も退散させてもらうとするか」
不意にそう言い出すカイザー。
いつの間にか、その横にはペガサスの姿もあった。
「ここら付近の国民は既にサタンの驚異が過ぎ去った事が分かっているようだ。」
城内外から聞こえる歓喜の声。人が勝利した喜びの声
「だが、まだそれを知っている人間は少数だ。
俺はこれから、世界各国に人類が勝利した事を伝えていこうと思う。」
戦いの終わりを人々に教えてゆく。これも立派な戦後処理だ。
もっとも、カイザー自身は奉られるのをあまり好んでいないため、今の内に抜け出しておこうと思っているだけなのかもしれない。
ペガサスの背に飛び乗り、部屋全体を見渡した。
「短い間しか行動を共に出来なかったが、共に戦えて色々と学べたぜ。
ま、再会もそう遠い日ではないかもしれないが…とりあえず、また会う日まで元気でな」
ペガサスの翼が大きく上下に動き、風と共に宙へ浮かんだ。
そして、強いはばたきで天井に空いた大きな穴から飛び出していった。
>220>221>231
エヴァンスは天使達と共に光に包まれて去って行き、カイザーはペガサスと共に飛び立っていった。
FALCONは元気玉の膨大な力を利用して、魔界へと繋がる魔法陣の道を宙空に描き出す。
>「…なら、一時期お別れですね…。
>セシリアさんが言った通り……私達にはまだ宿題があります、
>セシリアさんも倒れてるうえ、カイザーさんやマックスさんもお疲れのようですし、
>戻ります。城に。
>…それに…私ももう限界が近いですし。」
>「…こんな事言うのはなんですが…結構楽しかったです。
>魔族の人間である貴方と共に魔王倒しの旅は…ほんの少ししか参加できなかったけど。
>そして…ありがとうございました…私を救ってくれて。また会いましょう。」
誓音はこちらに向けて手を差し出す。
それに応じ、FALCONは誓音と力強く握手をする。
「俺も楽しかったぜ…
俺は今回の旅で色々と手にいれた。力、経験、大切な仲間達。
俺は……お前達に会えて本当に良かった……
誓音……また、お前が悪気に乗っとられても、俺が絶対に救ってやる。約束だ」
「それじゃあ、みんな!!また会おうぜ!!」
魔法陣の前に立って呪文を呟く。
魔法陣内から強い光が溢れ出し、城内を虹色の光で彩り、FALCONは魔界に帰っていった。
エヴァンス、カイザー、FALCONと別れた。
絶対者という存在について明らかになった今、また必ず同じ下に集い、共に戦う事になる筈だ。
「さて、どうすっかなぁ……」
特に悩んでいるわけでも、考えているわけでもなさげに一人呟くと、誓音の方へ向いて言った。
「……俺は孤児院に戻る。ガキどもも心配だし、また更に孤児も増えているだろうしよ。……誓音はどうする?
もし、行く所が無いなら……良かったらでいいんだがよ、ウチの孤児院に来ないか?
住む所が無いんなら、構わないんだぜ? アステラもよ」
その後小声で、手伝ってもらうもんは手伝ってもらうけど、と付け足した。
「って、無理かなぁ! ガキどもと暮らすなんて真っ平だよな! 悪ぃ悪ぃ」
笑いながら前を向くと左足を一歩前に踏み出し、再度誓音の方へ顔を向ける。
「んじゃあ、そろそろ行くか?」
>「俺も楽しかったぜ…
> 俺は今回の旅で色々と手にいれた。力、経験、大切な仲間達。
> 俺は……お前達に会えて本当に良かった……
> 誓音……また、お前が悪気に乗っとられても、俺が絶対に救ってやる。約束だ」
FALCONはそう言うと誓音と握手した。
そしてFALCONは去っていく。
そしてカイザーも…。
>「短い間しか行動を共に出来なかったが、共に戦えて色々と学べたぜ。
> ま、再会もそう遠い日ではないかもしれないが…とりあえず、また会う日まで元気でな」
ニッコリとカイザーに向かって微笑む。
カイザーはそれを見るとベガサスを高らかに飛ばし帰って行った。
そして結果的に残るわ妖刀を投げつけた男と倒れたセシリアとマックスだけとなった。
>「さて、どうすっかなぁ……」
マックスが呟く。
>「……俺は孤児院に戻る。ガキどもも心配だし、また更に孤児も増えているだろうしよ。……誓音はどうする?
> もし、行く所が無いなら……良かったらでいいんだがよ、ウチの孤児院に来ないか?
> 住む所が無いんなら、構わないんだぜ? アステラもよ」
「…いいんですか?」
驚いた表情でそう呟いた後少し考える。
>「って、無理かなぁ! ガキどもと暮らすなんて真っ平だよな! 悪ぃ悪ぃ」
「あっ…そういう事じゃないんです。……うん…お言葉に甘えさせて貰おうかな?
でもその前にセシリアさんを城に運んで…後もう一つ、行かなきゃならない所があるんです…。」
そう言うと誓音はほを掻いた。マックスは「そっか」と一言言うと。
>「んじゃあ、そろそろ行くか?」
と振り向いた。
「はい…。」
そう言うと誓音はうなずいた。
後日、
とある朽ちた村に一つの白石の綺麗な墓を作り可愛らしい霞草の花を添えた人物の名前は言うまでもない。
かくして――
大陸全土を巻き込んだ騒乱は一応の決着を見た
ある者は残り、ある者は去る
そう遠くではないだろう「その日」を思いながら
ひとまずは、それぞれの道へと
数日後、オーガス城にて戦勝の宴が執り行われることとなる
その中心にいたのは、誰あろう皇帝オーガスその人だった
クククク、乙
終了
我輩に成り済まそうとした雑魚とガーオスとか言う変な虫けらをぶん殴り、我輩はマイクを手に取った。
「もう知っとるじゃろうが、サタンの糞野郎は我輩の部下達が倒した!
皆の者!今日は無礼講じゃ!!騒いで騒ぎまくるぞい!!」
ワーと叫びだす兵達、宴の始まりじゃ
「人類の勝利に乾杯じゃあああああ!!!!」
騎士よ、今こそ立ち上がれ!
―――第四部、完!!
騎士達よ、また会う日までさらば…
地上の人間達がサタンを撃破してから五年後。
天地魔界は激動の時代を迎える。
日々訪れる天変地異、食糧難、人々の心を襲う負の感情。
世界の終末が今まさに始まろうとしている。
世界を…人々の未来を護るため。騎士よ、今こそ立ち上がれ!!
騎士よ、今こそ立ち上がれ!!
第五部ラグナロク編
騎士達は…真なる神を打倒することができるのだろうか……
仕切りなおして
第五部の本当のプロローグは↓
>238
……そして騎士たちは大陸だけではなくこの星の全てに平和を取り戻した。
まだ各地に混乱の残るこの現状を平和と言い切ってよいものかは異論があるだろうが、
ともあれ世界そのものを脅かしうる存在は確実に消えたのだ。
喝采を浴びる者、歴史の裏に消えるであろう者、生き延びた騎士たちの行く末はさまざまである。
ある者は自らの国を興し、ある者は拳の頂点を極めるための旅に。
いつかは再び会える日も来るだろうか?
その日の遠からんことを願うことしか、私にはできない。
私はそこまで書くと最後にfinと書き込んでペンを置き、大きくため息をついて椅子の背に体を預けた。
目蓋を揉む。体を起こして革の装丁の分厚い本をばたりと閉じる。
それを持って本棚へ向かった。同じような装丁の、タイトルのない本が何冊か。
『絶対者』と騎士たちの戦いと、そこに至るまでの道程を私の目線で書き記したものだ。
いつか、これは真実の記録として人々を驚かせるだろう。
しかし、今はまだ……。
ざわついた世界に、これはいささか刺激が強すぎる。
私は本を本棚へ収めた。これが世に出る日を思って。
並んだタイトルの無い背表紙を軽く撫でて、私は書斎を後にする。
ドアが閉まると同時に魔力灯が消え、書斎は闇に沈んだ――――
という夢を見たカイザーであった
闇に沈んだ書斎に次に燈った灯りは自らの燃える炎だった。
書斎は明々と燃えた後、再び闇に沈んでいった。
と思うカイザーであった
「こちらラック。大佐、応答してくれ。」
「うっせえ」
「こちらマリス、マックス様応答してくださいですわー」
「こちらの電話番号は現在使われておりません」
「こちらレナス。せっちゃん久ぶりー」
「ガチャッ!プー…プー…プー…」
247 :
名無しになりきれ:2006/08/30(水) 22:56:19
「サタンですが、またセクハラレス祭りを名無しでやろうかと思うんですよ」
「ではクスタファとセリシアも復活させます」
抗魔戦争から半年余りが経過した。
オーガス皇国ではそう遠くない未来に起こるであろう絶対者との戦いに備え、急速に軍備の増強を進めていた。
事情を知らない周辺各国はそれに対し警戒を強めていたが、特に大陸の南方に位置する国家ラバートは、
これを「皇帝に南進の意思あり」と捉え、密かにオーガスの暗殺を企てていた。
そんな折、皇国周辺の数ヶ国と合同での軍事演習、模擬戦闘の話が持ち上がった。
先の戦争を教訓とし、国家の枠を超えた防衛機構の構築、という建前の裏には
皇国の軍事力の実態を少しでも把握しようという周辺国の意図があったが、
兵らに少しでも経験を積ませたいと願うオーガスはこれを快諾。自らを含め、騎士団も演習に参加すると確約した。
しかし、その情報を得たラバート元老院はこの機に乗じて暗殺を実行に移そうと動き出す。
演習当日。
オーガス軍は森が点在する平原の北に布陣、西は大河、東は丘陵地帯となっている。
木製の剣や槍で武装した兵たちが、戦闘開始の合図を待っていた。
はたして騎士たちは皇帝暗殺を阻止できるか?
暗殺者たちはその刃を皇帝の胸に沈められるだろうか?
っていうかオーガスってその程度で死ぬか?
むしろ無限切りで暗殺者まとめて一発だろ?
でもヅラ取ったら死ぬよ?
さまざまな思惑を乗せて、運命の車輪は回る。
そして、号砲が鳴り響いた――――
〜オーガス騎士団本日多忙〜
騎士たちに(いろんな意味で)安息の日はない。
――バシャバシャッ!!
平野付近の西の大河で冷たい水を頭から被る女一人。
そして突如石けんを取り出したかと思ったらいっぺんに髪の毛を洗いだす。
顔半分の火傷の後、赤い目、耳と口元に刺さる銀のピアス、
真っ黒なシャツに真っ黒な長ズボン、オレンジ色した短髪の髪の毛、
そして包帯が疎ら巻かれた怪物の右手。
――ドンドンドーン!!
「……ん?」
その女は石けんの泡だらけになった手を払いながら号砲の鳴り響く方面を見た。
暫く黙ってそちらを見て何か考える。
「…何かあったんでしょうかね。」
そう言うと河原の水を被り顔を横に大きく振り雫を飛ばすこの女、
その名は誓音。
半年前のサタン討伐隊のメンバーの中の一人だ。
が、もっともそれより、やたらがさつな女、そしてやたら滅茶苦茶な女。
という形で誓音の名は有名となっていた。
オーガスと初対面した時、
蚊!と叫んでオーガスの頭を思いっきり殴ったのは特に有名な話だ。
暫く誓音は持ってきたタオルで髪の毛を拭く。
そして置いていた鎧を被った。
今日は軍事演習当日。
誓音はオーガスの命令で演習場に向かっていたのだ…が、
親子代々受け継いでるのかなんなのかよく分からないが極度の方向音痴の誓音。
ついさっきまでもろ迷っていた。
しかもその上何故か滅茶苦茶な獣道を通ったため泥だらけになってしまい、
誓音は近くの河原でひとまず髪の毛を洗っていたのだ。
愛馬、花太郎に掛けている懐中時計を見る誓音。
「…うわ、やばいです。もう始まってるかな…。」
そう言うと懐中時計を閉じ、花太郎に乗り込む。
すると、花太郎の耳元で何か呟くと、一回大きく振り上げ駆けだした。
先ほどの大砲の音が開始の合図とは知らずに東の平野へと…。
*********************************************************
暫く走る誓音。
走って二十分ちょっとでようやく目的地の平野に出た。
「ふぅ…やっと付きました!」
そう言うとおもいっきし背伸びをする誓音。
しかしとっくのとうに演習は始まっていた。
「うわー…もしや大遅刻って奴ですか?」
そう言うとポリポリとほっぺを掻く誓音。
(……取りあえずオーガスさんに謝りに言った方が良いかな。)
そう悟り、誓音は演習が行われている中、オーガスを探す。
―平野
オーガス皇国の紋章の刻まれた鎧が並ぶ中、明らかに毛色の違う者達が混ざっていた。オーガス皇国に雇われた傭兵達である。
彼らはその立場から常に先陣を勤める事が多く、生き残るものは少ないと言われている。しかし、それ故に強い。
そして、金と引き換えに命を賭して戦う彼らへの信頼は厚く、その名は他国にも轟かせている。無論、中には警戒する者も多いが……。
「マックス、どう思う?」
「ん?」
その傭兵達のリーダー格であるマックスウェル……マックスに対し、隻眼の女剣士が問いかける。
「幾ら軍事演習の一環とは言え、この様な大規模な戦闘では負傷者所か、死者が出かねないだろう?」
「……」
「おい、聞いているのか?」
「んー……」
マックスは女剣士の話など上の空で、ぼうっと遠くの空を眺めていた。
「誓音……」
「? それは誰だ?」
「え? ……あ、ああ……いや、うちの孤児院で働いてる女の子なんだけどさぁ……今日の演習に出るんだよ、その子」
マックスは大きな溜息を漏らしながら続けた。
「後から来るって言うから俺は一人先に孤児院を出て来たんだけど、その子……方向音痴だから、今頃付いているか心配でなー……」
「実力は確かなのか?」
「俺より強いんじゃねえかな。腕は俺が保障する」
「ほう、一度手合わせ願いたいものだな」
女剣士は静かに笑いながら言った。
「安心しろマックス。この大軍だ、嫌でも目に付く。それに案外、もう着いているかも知れんぞ?」
「ヘルガ……そうだな、そろそろ開戦だ。その合図もあるし、気付くよな」
「ああ」
木製の槍を片手に、半年前の戦いから結構伸びた黒い髪を整え遠くを見据える。その様子を見たヘルガは安心したように木剣を抜いた。
開始の合図の号砲が平野に響き渡った。
「行っくぜぇえ!」
「おおう!」
傭兵達は各々の木製武器を持ち、全員半殺しを目標に敵陣へ駆け出した。
待ちに適した地形から出て攻めに行くのは兎も角、何故あの遠く離れた敵陣までいきなり全力疾走なのか。後方の兵士達には解らなかった。
>252
号砲に陣幕が揺れた。同時に前方に土煙が上がる。
「ふむ・・・?どこぞの馬鹿が突っ込んできておるようじゃな。」
ディグリスは手に持っていた骨付き肉を皿に置き、軽く手を上げて部下に指示を出した。
「前方に三隊ほど伏せておけ!斉射ののち突撃!一番槍は必ず我らが取るのじゃ!」
矢には塗料が塗られており、まともに当たったかどうかは一目でわかる。
塗料が付着した兵は退く決まりだが・・・ディグリスはいざとなればそんな決まりは平気で破る。
指示を受けた部下たちが陣を離れ前進し、ひたすら突っ込んでくるマックスの部隊を待ち構えていた。
【年齢】51
【性別】男
【職業】国王
【魔法・特技】馬術 剣術
【装備・持ち物】木製ランス、木剣、プレートアーマー、カイトシールド、マント、肉
【身長・体重】173cm80kg
【容姿の特徴、風貌】短く刈り込んだ金髪、白い肌
【性格】小心
【一言・その他】
オーガスの西のほうにある国の国王。
抗魔戦争では全く目立てず、ここでオーガス騎士団を倒して名をあげたいと思っている。
今回の皇国対周辺国連合による模擬戦の発案者で、その立場を生かして強引に指揮権を獲得したものの、
他の国の軍がそれに従うかは疑問である。
銀色の月と金色の星が浮かぶ綺麗な夜の中。
一台の馬車が森を駆けていた。
ガッタン…ガッタン…
一定のリズムを刻みながら走る馬車。
球体型の薔薇が彫られた美しい白色のその馬車の中に揺られて居るのは一人の女。
頭には薄青の薔薇の刺繍がほどこされた帽子を被り、藍色のドレスを着た彼女はまるで一国の姫の様。
しかし彼女が向かう場所は一国の姫様とかフランスのロココ時代のようなドレスを身につける者にはとても似合わない場所だった。
森を抜け、馬車が止まり彼女は馬車から左足、右足と一歩一歩出し下りる。ドレスと靴の隙間から見え隠れする肌はほんのり焼けている。
「…………此処だわ…。」
見上げる目の前の巨大な建物。ビー玉のような美しい青い瞳の中にその巨大な建物が映る。
それはオーガス皇国が誇る軍事施設。
女はそれを見て華やかに微笑む。
何故なら此処は薔薇騎士、ベビーバドル・グリオン・ギャビ・ローズの次の舞踏場だからだ。
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
号砲が響き渡り早数十分。
襲い狂う戦士達。それを木剣で思いっ切し一発の薙ぎ払いで倒す隊の最後列近くに居る一人の女。
ザンッ!!
「うわああああああああああ!」
馬から降ちた戦士達はおもいっきし叫ぶと逃げていく。ローズはその様子を見て一つため息をついてしまう。
「…随分生温い物だわね…。これがあのサタンを追い詰めた軍隊とは思えない…。」
そう言うと剣を鞘に収めた、その途端にもう一人兵が襲うが軽々と避け、後頭部にパンチ一発。
今日はオーガス皇国の軍事演習日。ローズは薔薇の加工がなされた陶器のように白い鎧に身をくるみその演習に参加していた。
と、いってもローズはこんな頼りない木剣を振るう為にこの演習に参加してる訳じゃない。
目的はオーガス皇帝騎士殺し、即ちローズはラバート元老院が雇った暗殺者の一人だ。
ローズはチラッと軍の少し前に居る一人の男を見る。その男もローズに気付いたらしく一つ頷く。
暗殺者の人数はローズ含めて7人。その男も暗殺者の一人。
ローズはその姿を見て冷笑すると隊の隙間を通り前へ出ようと進み始めた。
------------------------------------------------------------------------------------------
NPC 暗殺隊×6
ローズ率いる暗殺隊。
P現段階ではNPC扱いとさせて頂きます。後々PCとしての参加有り。
現段階の武器設定は主に吹き矢一人、剣士二人、槍一人、爪一人。強さはそこそこ強い。
開始の合図の号砲が鳴らされた。
いよいよ戦闘となる。
一昔前の私は弱かった…だけど、今ならガストラ帝にも勝てる!
うつ向いていた顔を上げ、少女は木剣を握り戦場を駆けた。
少女の名はイル。
七つの大罪を司る魔王の一人、ベルゼバブの娘。
そして、FALCONの大切な人。
四年前の死を越え、彼女は強くなった。格段に。
守られているいるだけじゃなく、大切な人と肩を並べて戦えるように…
大切な人を守れるようになる為に。
彼女はまだまだ強くなる。
>251
「そこのあなた!ここに居ては危ないです!」
戦場に一人で立っている女性を発見。
見たところは木製の武器を持っていない。
もしかしたら民間人がこの場に迷い込んだのかもしれない。
【名前】イル
【年齢】154歳
【性別】女
【職業】上位魔族
【魔法・特技】多種多様な魔術と護身術程度の武術
【装備・持ち物】長剣、魔力を溜め込んだ宝石
【身長・体重】158cm、39kg
【容姿の特徴、風貌】蒼い長髪、深紅の瞳、服装は黒色のローブ
【性格】温厚
【趣味】武術の稽古
【人生のモットー】大切な人を守れる位に強く在りたい
【自分の恋愛観】愛した方に一生を
【一言・その他】FALCONの奥さん。
四年前に死亡した経験から、二度とそんなことが無いようにと修行を積んだ結果、魔族の中でも強者の部類になった。
武術はFALCONから習い、FALCONと同じ流派の技を使う。
この度の演習には、良い修行とFALCONに奨められ参加することになった。
ちなみにFALCONは魔界での仕事がまだまだ終りそうにない。
>252、>253
傭兵部隊の一つ後ろ、真っ赤な武具に身を包んだ女騎士の部隊からは
前方の自軍、そして仮想敵軍の動きが良く見える。
「あちゃー、参りましたねぇ。傭兵さんの方はやる気満々みたい」
「チェンバル国の部隊、真正面から受ける心算のようですが」
今回の演習は女騎士にとっては仕官出来るかどうかの試験である。
そのお目付け役に選ばれた騎士は若輩ながら先の抗魔戦争末期、オーガス奪還の
最終決戦において一部隊を任されて見事戦い抜いた歴戦の勇士である。
特に的確な用兵と部隊指揮に定評があり、人の才能を見抜く目を持つ。
つまり、女騎士......レミュリアの試験管としてはうってつけなわけである。
「う〜ん......側面から敵部隊を強襲するべきですよねぇ。
強引に前に出て乱戦になったら、騎馬部隊の強みなんて無くなっちゃいますし......」
「正面、迎撃にしては層が些か薄いようですな。罠かもしれませんよ」
今回は適正を見る為にレミュリアを上官に見立ててサポートする立場にあるのだが、
彼はどちらかと言うと戦場に女が立つ事を嫌う部類の人物である。あからさまに嫌悪感こそ
出さないものの、遠まわしな邪魔と言うか嫌がらせをついしてしまうのだ。
「でも、連携も取れないようでは集団戦闘では勝ち目はありませんよね。
攻めあぐねてまごついているようでは、騎士の名折れですし。側面から攻めます」
「......はっ、では先陣は」
「あー、先陣は私が切ります。もともと部隊指揮なんて柄じゃないので、
前に出て戦う方がいく分か気が楽なので......部隊のこと、お願いします。」
「......はっ、ご武運を」
いきなり職務放棄か......規律重んじる正規軍には向かないな。
バツの悪そうな笑顔を向けるくらいなら、素直に部隊指揮をしていればいいものを。
自分の妻と同い年ぐらいの女騎士が馬を走らせ、先陣を切って駆けて行くその後姿を
そんな事を考えながら苦々しい面持ちで見つめていた。
【名前】レミュリア・ファフニール
【年齢】25
【性別】女
【職業】竜騎士
【特技】
・ジャンプからの急降下攻撃(まだまだ狙いが甘い)
・炎のブレス(火事が起こせる程度の火力はあるが、本物未満)
・ファフニール召喚(最高2分、召喚条件は時々によってまちまち)
・竜の血の覚醒(ドラゴラム、裸で使わないと装備品や衣服を吹っ飛ばす)
・竜語魔法(そもそも魔法使わない人なので習熟度は非常に低い)
【装備・持ち物】
・火竜鱗の剣(演習中は木剣使用)
・火竜鱗の斧槍(演習中は木槍使用)
・火竜鱗の鎧
・火竜革のマント
・火竜の魂(首飾り、ファフニールの寝床)
【身長・体重】164、53
【容姿の特徴、風貌】燃えるような赤い短髪に瞳、左目に眼帯
【性格】努力家
【趣味】裁縫
【人生のモットー】一歩一歩確実に
【自分の恋愛観】違いの分かる人
【一言・その他】「一緒に頑張りましょ」
抗魔戦争終結前後に火竜ファフニールに仮免を貰った見習い竜騎士。
騎士としては一流を自称してもいいレベルだが、竜騎士としてはペーペー。
まだまだ実力が伴わないのでファフニールと完全に通じ合えておらず、
竜騎士としての経験は中々蓄積されない悪循環......
寒いのが大の苦手で、ファフニールの血を受けてさらにひどくなったが、
その分各種身体能力が強化されたので、デメリットには目を瞑っている。
暫く誓音は戦場で花太郎を引きオーガスを探す。
しかし、こんな大勢の中から一人の人間を見つける等不可能に近い。
増しては戦闘中の人間達の中からだ。
が、誓音は一人の女を見つける。
その女は黒いマントを身につけ、
他の者とは違い薔薇の美しい武装に身を包んでる上見た目はまだ15歳程度。
その上かなりの腕前だ。
木製の剣を巧みに操るその姿は明らかに他の兵とは違う。
(あの女の方……)
暫くぼんやり立ってその女騎士が可憐に戦う姿を見る。
すると突如前からこれまた女の声が投げられる。
>「そこのあなた!ここに居ては危ないです!」
「……え?」
振り返る誓音。
そこにはこれまた美しい青色の髪の毛を持った女が一人。
誓音は暫くぼけーとその女を見ると何かに気付いたかのようにポンッと手を叩いた。
「あ、軍の方ですか。」
そう言うと誓音は笑顔になりその女に近づく。
そして膝まつくと一つ礼をした。
「なんだかご忠告ありがとうございます。私は騎士の一人の誓音と申すんですが…
演習に参加しようと思ってここ目指してたら迷っちゃいまして。
ネズミの大群に襲われるわ毛虫は出るわでもう死ぬかと、ははは…
ところでオーガスさんじゃ、ない……オーガス皇帝騎士はどちらにいるかご存じありませんか?
あのおじいさん…じゃ、ないオーガス皇帝騎士に会って一喝して貰わなきゃ参加できなさそうな物で…」
そう軽く状況を説明すると顔を上げその女に微笑む。
すると突如横から一人木剣を持った騎士が剣を振り上げてきた。
突如誓音の目つきが変わる。
そして振り上げられた槍を右手で掴んだ。
右手、即ち誓音の怪物の腕だ。
そして一回その誓音はギロリとその騎士を睨み、
次の瞬間木製の槍を握り潰したかと思えば掌を広げる。
右手の掌に巻かれた包帯の隙間から見えるのは灰色の硬質な肌。
そして衝撃波がそこから出された。
―丸光弾!!
―ブワン!!!!
『うわっ!!』
そう叫ぶと槍を持った騎士は吹っ飛び倒れた。
冷笑を浮かべる誓音、
そして数秒その男を見てはっ!とする誓音。
「嘘!敵じゃない!?」
そう叫ぶと慌てて倒してしまった騎士に近づく。
手をさしのべ謝る誓音。
「すみませんすみません!!
てっきり蛇か何かが襲ってきたかと思って…ってああ!血が!」
そう言うとその男を馬に乗せ額から出た血を拭いてあげる。
そしてその男の血を拭き終わるともう一回謝る。
慌てて走ってその場を去る騎士。
そして一つため息をつき青髪の女を見る。
再度あっとした表情になる誓音。
そしてまた慌ててその女の前に膝まつく。
「な、なんだか見苦しい所をお見せしてすみません…
あはは…こんな所に蛇が出る訳ないですよね…」
そう苦笑いをすると再度女の顔を見た。
「で、オーガス皇帝騎士はいずこへ?」
「どうせ木剣やたんぽ槍だ、気楽にやれ!それでもここで死ぬならそのほうが幸せだ、
実戦で仲間に迷惑をかけずに済む!騎兵にだけは気を付けろ、馬は加減など知らぬぞ!」
小さく笑いが起こった。戦闘前のセシリアの訓示だ。
立ち並ぶ兵たちの旗印は皇国章ではなく、旋風とユリの紋章。
ミディアリオ家の抱える騎士団、白花騎士団である。
先代からの騎士たちは抗魔戦争で父と同じく陣没しているものが多く、
今の騎士団を構成しているのは大半が戦の経験がない若者たちである。
セシリアは居並ぶ騎士たちを見回し、最後に一言付け加えた。
「負けても気にするな。訓練が厳しくなるだけの話だ」
緩みかけていた雰囲気が適度に緊張したものへ変わる。
それと同時に号砲が轟いた。
号砲の残響も収まらぬうちに飛び出していく一隊。
はためくのは傭兵部隊の染め抜きの旗だ。
「マックスか…囲まれて良いようにされるのが落ちだぞ」
セシリアは眉間に指を当てため息をついた。もっともマックス自身がどうこうなる心配はなさそうだが。
振り返って兵に向け叫ぶ。
「我らも出るぞ!丘を押さえる!」
本陣の近くにある高所を相手に取られればとたんに不利になる。
まずは近いところにいるセシリアが先んじて押さえに行こうというわけだ。
経験を積ませるのが目的なので延々丘に陣取っているわけにもいかないが、
あの位置からなら戦況も見やすい。
セシリアは愛馬ヴォーロスの腹に拍車を入れ、丘へ向けて軍を進めた。
>257>258
声を掛けてはみたものの、女性は何の反応も返さずにこちらを見ている。
魔族がこの場にいるのが、そんなに意外だったのだろうか?
彼女はしばらくして何か気付いたのか、こちらを軍の関係者と認識して話を進める。
>「なんだかご忠告ありがとうございます。私は騎士の一人の誓音と申すんですが…
〜略〜
>あのおじいさん…じゃ、ないオーガス皇帝騎士に会って一喝して貰わなきゃ参加できなさそうな物で…」
彼女のことは大体分かった。
この人がよく話に聞く誓音さん、FALCONの仲間の一人。
今度はこちらの方が誓音の顔を、まじまじと見る。
そんな中、突然誓音の目の色が変わる。
誓音は、文字通り横槍を入れてきた槍を掴むと、その槍をいとも簡単に握り潰す。
握り潰した槍を手放すと、手から衝撃波を放ち、横槍を入れてきた張本人を大きく吹き飛ばした。
少しやりすぎとは思ったが、不意打ちをしてくるような騎士には、これくらいで十分なのかもしれない。
誓音はかいがいしくも、傷付けてしまった騎士の血を拭いて、謝り通している。
今は軍事演習中。
相手も傷付くのを覚悟している筈。
こちらが謝る必要はまったく無い。
騎士が去ったのを見送ると、彼女はこちらに気付いたのか、慌てて膝を付く。
>「な、なんだか見苦しい所をお見せしてすみません…
>あはは…こんな所に蛇が出る訳ないですよね…」
やはり彼女は軍事演習が始まっていることを知らないのだろう。
「お気になさらずに。この場には蛇など出ませんが、か弱き女性達に手出しするような無粋な騎士がいるようですから」
苦笑した誓音の腕を取り、立ち上がらすと、本題に入る。
「これからあなたをオーガス皇帝の元に連れて行きます。
皇帝はここから少し北に行った場所に陣を構えています」
誓音の腕を取り続けたまま、北の方に歩き出す。
まだ、この辺りは本格的な戦場と化してはいないので、あまり危険は無い。
「そういえば、私も名を名乗っていませんでしたね。
私の名はイル。
七つの大罪を司る魔王、暴食のベルゼバブの娘です」
>253
敵の隊がこちらに向かって前進し、伏せて待機した所を見たマックスが敵の本体まで聞こえる様な大声で叫んだ。
「お前達ぃ! あの程度の兵など蹴散らしてみせぇーい!! 我らがマックスウェル隊の力を見せ付けてくれようぞ!!」
「おおぅ!!」
傭兵達の何時に無く気取った返事に、マックスは笑いを堪える。
自分らしかぬ言い回しとその虚言、更に傭兵達の勇ましくも妙に気取った返事がどうも可笑しく感じてしまう。
だが笑っていられるのか。このまま行けば敵の総攻撃により一網打尽にされてしまうだろう。
傭兵達が敵の弓の射程距離に入ったその時だった。
「うわぁあ! 弓兵が潜んでいるぞおっ! 撤退だ! 撤退するぞぉ!!」
マックスは動揺をした様な声で叫び、傭兵達はその声に驚いた様に慌てて回れ右をすると、そのまま元来た方へ逃げ出した。
しかし、その速度は常人の全力疾走と変わり無い程の速度だった。そのうえ、弓の射程距離にはまだ「ギリギリ」入っていた。
>>258>>260 「マックスウエル夫人、ファルコン夫人、こんなところにいましたか!」
演習が始まり周囲が慌ただしく動き出す中、誓音といるに声をかける男がいた。
模擬戦とはいえ、その男が纏っているモノは儀礼用のローブでいかにも場違いであった。
「探しましたぞ。使いのものがお二方とも所定の位置にいないと戻ってきて慌てまして。」
汗を拭いながらついてくるように促すのは、オーガス皇国の侍従長。
要するにオーガスの身の回りの世話やスケジュール調整を担当するものの長である。
二人が案内された先はオーガスがいる本陣から少し離れたテント。
厳重な結界が幾重にも張られ、招かれたものしか入れなくなっている。
まるでそこだけが実戦の様相をかもし出していた。
中は急ごしらえながらも会議室のようになっていた。
「お二方の他にも何人か読んでいるのですがまだ来ていないようですな。
まあよろしい、とりあえず机の資料に目を通してくだされ。」
机の上に置かれている資料には、オーガス暗殺計画察知の旨がかかれている。
抗魔戦争終結からまだ半年。政情は不安定なものだ。
この軍事演習のドサクサに紛れてオーガス暗殺を企てている事を侍従長は掴んだ。
だが、オーガスの気性を考えれば暗殺計画があるからといって自重するような事はない。
むしろ先の戦いで自重していた鬱憤晴らしとばかりに前線に出るだろう。
故に、侍従長は密かに特務部隊を組み、暗殺防止に乗り出したわけだ。
「現在の状況は思わしくありません。
暗殺者は模擬戦に紛れて来るでしょう。未然に防いだとしても、暗殺の意図無としらを切られ逆に模擬戦の一部なのに過剰攻撃をしたと火種にされかねません。
ですから、こちらが使える武器は模擬戦で使用する武器だけです。
そして出来れば相手は殺さずに、あくまで模擬戦の一環として撃退せねばならぬのです。」
余りにも不利な条件である。
だからこそ、一般の騎士や近衛兵ではなく、誓音やイル達に声がかかるのだが・・・
オーガスにすら気付かれる事無く、暗殺者を探し出し模擬戦の形式を守って撃退するのだ。
>261
>「お前達ぃ! あの程度の兵など蹴散らしてみせぇーい!! 我らがマックスウェル隊の力を見せ付けてくれようぞ!!」
>「おおぅ!!」
チェンバル軍の前衛にはっきりと伝わる声でマックスが叫び、それに傭兵たちが答える。
「うぬれ雑兵どもが!・・・いやいかんいかん、もう少し引きつけねば」
前衛部隊の指揮を取る40がらみの騎士が、激昂しかけた自分を押さえている間に、マックスの部隊が弓の射程に入った。
しかし騎士が斉射の号令をかける前にマックスの部隊は転進していった。
「ええい、見え透いた手を! 追えーい!!」
指揮官は即座に追撃の命令を出す。それを揮下の騎士がいさめた。
「いや見え透いた手ってわかってんのに追うんスか!?」
「たとえ失敗だってわかってても上の命令ならやる、宮仕えってのはそーゆーもんなんだよ!」
功名に逸るチェンバル王である。ここで追撃をせず相手の部隊に釣り出されただけの結果で終われば、
どんな叱責があるかわかったものではない。たとえそれが王の命に従った結果であるにせよ。
だが、このまま追撃に移れば不利は免れない。相手の後続が詰めてくる前に一撃与えて下がれればいいのだが、
それも難しいだろう。こちらが被害を受ければやはり後に待つものは・・・。
こうして行くも地獄、退くも地獄のチェンバル軍、模擬戦闘の第一局面が幕を開ける。
まだぎりぎりで射程内にいるマックスの部隊の中列あたりに矢を射掛けて動きを遅らせながら、
同時に騎兵が側面をつこうと駆け出していった。
「よし、両軍とも動き出したな…」
顔に緋色の布を巻きつけた男が呟く。
その周囲にも同じような格好の男たちが見えるだけで数十人。
他にも巧みな穏身でその存在をようとして掴ませない者たちがほぼ同数はいるようだ。
「良いか、まずは歩哨や単独行動中の部隊から装束を奪い、両軍に紛れ込む。
これに半数を当てる。肌の色を変えるための白粉を忘れるな。
残りのものは森に潜み、皇帝が軍を進めたところを狙え。
皇帝の性格からして本陣に居座って采配を振るうなどせぬだろう。必ず機はやってくる」
リーダー格の男は全員を見回しながら言葉を続けた。
「元老院は他国の暗殺者を雇い入れてまでここに賭けている。
口惜しい話ではあるが。・・・我らの力を今一度示す為の機でもあることを忘れるな!
なにか確認しておきたい事項はあるか?」
誰も口を開くものはいなかった。
「よし、散れ!」
言葉に答えて姿を現していた半数が連合、皇国両軍の陣地に向け、
残り半数が皇国側陣地に点在する森へ向けて走り去っていった。
【名前】ラジャリ:カーディナル
【年齢】26:15〜30
【性別】男:男がほとんど
【職業】暗殺者
【魔法・特技】体術、薬学、暗器術
【装備・持ち物】短刀、吹き矢、爆薬
【身長・体重】177cm67kg:いろいろ
【容姿の特徴、風貌】黒髪黒眼、褐色の肌
中近東風の衣装で、顔を隠すように緋色の布を巻いている
【性格】例外なく忠実
【一言・その他】
ラバート元老院直属の暗殺者集団。
身にまとっている布の色からいつしかカーディナルと呼ばれるようになった。
毒、狙撃、爆殺等々、手段はさまざま、場合によっては刺し違える事も全くいとわない。
リーダーのラジャリは代々続く頭目の家の出。
>261、>263
>「お前達ぃ! あの程度の兵など蹴散らしてみせぇーい!! 我らがマックスウェル隊の力を見せ付けてくれようぞ!!」
>「おおぅ!!」
「おっとぉ......すんごい声。
耳鳴りがするわ。チェンバル側にも丸聞こえねぇ、あれじゃ。」
先陣を切るべく馬を走らせ、5頭分は部隊から突出したレミュリアの耳に
鼓膜を突き破らんばかりの怒鳴り声が聞こえた。ファフニールの血を受けて
身体能力が強化されているわけだが、必要ない時は自分でセーブをかけている。
だが、いくら演習とは言え戦場である以上能力強化は必要だ。だからセーブを
解いて感覚を高めていたのだが......裏目に出てしまった。耳の奥がイタイイタイ。
>「うわぁあ! 弓兵が潜んでいるぞおっ! 撤退だ! 撤退するぞぉ!!」
>同時に騎兵が側面をつこうと駆け出していった。
「うぅぅぅっ、これは堪えるわぁ......弓兵を見て転進かぁ。
私よりは確実に部隊指揮に向いてるね。私だったら......吶喊しようとするだろうし。
ん、チェンバルさんも横を突く算段ねぇ。......私一人だし、騎兵の方に回ろっと。」
そう決めた途端、あぶみから足を外してクラの上に両足を乗せた。
まだ手綱は引いているが、その不安定な中バランスを取りつつ距離を測り、
一跳びで届く距離に入った瞬間手綱を放し、空高くジャンプした。
150mほど跳び上がったところで自由落下が始まり、同時に着地地点を見極める。
......狙いが甘いのが幸いしたのか、チェンバル騎兵部隊の目の前に着地できた。
しかし、レミュリアの顔には苦笑いが......
「タハハ、本当は騎兵舞台の真ん中に落ちる予定だったんだけどなぁ。
人死にが出なかっただけよしとしよっと......さぁ、かかってきなさい!」
最後の一言だけ、マックスに勝るとも劣らない大声で言い放った。
うまくいけば騎兵部隊の意識をこちらに引き寄せられるはずだが?
一方、正面部隊の側面を突こうとしていた試験部隊の副官はその
一部始終を見て「......失格。」と一切の抑揚を削ぎ落とした、能面の
ような表情で一言だけ呟いたのだが、レミュリアが知ってるわけは無い。
ともかく、試験部隊は無事、マックス率いる傭兵部隊を追撃中のチェンバル正面部隊の
側面へと回り、順次突撃を開始した。
「......側面への守りを怠るとはブツクサ......」
レミュリア関連で大分ストレスが溜まったようで、戦いながらも
ストレス発散のためなのだろう、独り言を呟き続けていた。
ローズは進む。進む。
目の前に居る騎士一人を剣を突き馬から落としたかと思えば白馬が後ろにいる兵を蹴り落とし、
槍で突こうとする物があるなら剣を右に持ちその槍を巧みに避け兵士の首もとに木の刃を食い込ませる。
此処までは非常に快調だ。ローズはどんどん兵士を倒していき前へ前へ進んでいく。
そしてふとローズは少し遠巻きにある一つの木製の塔を見た。
否、それは塔では無く監視台だ。
まるで平野を囲むようにして計六つほど置いてある。
それから暫くしてローズの耳に挟んだ淡いピンクの薔薇のつぼみから声が発せられた。
『ディグリス国王付近、接近完了いたしました。』
冷笑するローズ。
今回の暗殺計画は至極、単純な物であった。
暗殺者はローズ含めて六人。
まず始めにローズ率いる暗殺団の吹き矢術士と剣士に遠距離戦を有利にさせる為、
オーガス皇帝騎士率いる軍隊の一番付近の監視台を乗っ取らせる。
乗っ取りが完了後、ローズ以外の暗殺者一人はディグリス国王へ接近しディグリス国王の暗殺を演じる。
兵に不人気とはいえ一国の王、暗殺にかかれば大事件だ。
当然軍内は騒然、その上、そのすぐ後に残りのもう一人はローズの仕掛けを発動させ、軍の機能を完璧に混乱させる。
そしてその混乱の中で、ローズはオーガス皇帝騎士を討つという戦略だ。
可憐にステップを踏むかのように走る白馬。
余りにも無茶苦茶な戦略といえばそうであろう。しかしだからこそ面白い。
失敗すれば死ぬという任務の中、ローズは任務を結構なんだかんだ言って楽しんでいた。
あれよあれよと倒れていく馬、人間。
そんな中、再度薔薇のつぼみから声が響く。
監視台組からだ。
『…こちら、監視台乗っ取り成功しました。』
「ご苦労様…貴方達にしては上出来だわ…次の段階へ進ませて貰いましょう…。」
『その前に一つご報告を…どうやらカーディナルが動き出した模様。』
「………ラバート元老院の狂犬ワンちゃん達が…?」
そう言うとふと頭だけを斜め後ろに向け、一つ冷笑すると、ローズは木剣を投げ捨て黒い鉄板入りグローブを手につけた。
カーディナルとは裏の世界でその名前を言うだけで震え上がらせるほど優秀なラバート元老院直属の暗殺者集団だ。
特にカーディナルのリーダー格のラジャリはローズが愛する美しき強者。
しかしローズは呟く。
「そう、そうね……別に関係無いわ。ワンちゃん達が何しようが…ね。」
ローズの目にとまったのは遠巻きに目に映るのは一人の燃えるようなオレンジの髪を持った和装女騎士と藍色の髪を持った女性。
じっとその二人を見ると前をむき直し新たな敵兵二人を拳で殴った。そしてローズは指示をする。
「……国王組…聞こえる?作戦の第二段階へ進みなさい。…時間稼ぎは五分程度でいいわ…貴方達じゃ五分も危ういだろけど。」
そう言うとローズは馬の脇腹を蹴った。
+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
ディグリス・チェンバル国王軍の騎兵が走り出す中、騎士の一人が逆方向へ走り出す。
兵達も異変に気付き反対に走り始めた騎士を見る。
国王に接近する騎士、そして黒マントを取った。
ブワッ!!
そこにあったのは一本の太陽光で輝く真剣。
そしてそれを抜くとその騎士は国王へ斬りつけにかかる!!
ザン!!
剣の音の後に静寂が一瞬流れる。そして事態を把握した兵の一人が呟いた。
「は…反逆者だ。」
そして兵は大声を上げた。
「は、反逆者だぁぁあぁぁぁあぁぁあぁあぁあぁ!!!!!!!」
---------------------------------------------------------------------------------------------------
半NPC 反逆する剣士×1
黒い馬に乗り、長い剣を持った剣士。
強さは普通に強い。
決定リール有り。
>「お気になさらずに。
>この場には蛇など出ませんが、か弱き女性達に手出しするような無粋な騎士がいるようですから」
そう言うと女は誓音の腕を持ち上げる。
立ち上がる誓音。
握られた腕はいかにも女性らしい。
そして女は言った。
>「これからあなたをオーガス皇帝の元に連れて行きます。
> 皇帝はここから少し北に行った場所に陣を構えています」
「そうだったんですか!?てっきり南かと…」
根拠無しに彷徨っていた誓音は驚く。
そして次に発せられた彼女の言葉にもっと驚いた。
>「そういえば、私も名を名乗っていませんでしたね。
> 私の名はイル。
> 七つの大罪を司る魔王、暴食のベルゼバブの娘です」
「…え!?魔王の娘様だったんですか!?」
再度全身を見る誓音。
魔王と聞きサタンを思い出す。
ごっつごつのいかにも悪人そうなあの姿を。
しかし目の前に居る女はとてもそんなんじゃない。
どちらかというと穏やかそうな女性だ。
唖然とする誓音。
すると突如背後から声を掛けられる。
>「マックスウエル夫人、ファルコン夫人、こんなところにいましたか!」
「!?え!?ファルコンさん!?」
誓音は自分がマックスウエル夫人と呼ばれたことよりそっちに反応した。
振り返りそこに居たのはオーガス皇国の侍従長。
誓音は再度ひざまつくと礼を一回して立ち上がる。
>「探しましたぞ。使いのものがお二方とも所定の位置にいないと戻ってきて慌てまして。」
そう言うと侍従長は誓音と女性、イルをつれて一つのテントに案内する。
そこは結界が何十も張り巡らされている。
そう、ただの演習にしては異常なまでに…
>「お二方の他にも何人か読んでいるのですがまだ来ていないようですな。
>まあよろしい、とりあえず机の資料に目を通してくだされ。」
そこに書かれていたのはオーガス暗殺計画察知について。
「これは……」
そう呟くと資料を捲る。
しかしそこに書かれてあったのは余りにも不明な事だらけの資料。
暗殺隊が現段階調べただけで最低でも二組ある事と、
暗殺者を派遣した国の候補ぐらいしか書かれてない。
さらに侍従長は不利な状況を説明する。
>「現在の状況は思わしくありません。
略
>そして出来れば相手は殺さずに、あくまで模擬戦の一環として撃退せねばならぬのです。」
「そんな…無茶苦茶な…」
思わず呟く誓音。
すると侍従長から木製の刀を渡される。
撫でて見つめる誓音。
こんな物で見えない敵と戦えと言うのだ。
しかも敵は殺す気満々の暗殺者。
渋々とした顔をする。
が、断るわけにはいかない。
「…わかりました。なんとか頑張ってみます。」
そう呟くように言う誓音。
しかしまだ不安そうだ。
すると一人の兵が侍従長の元へやってきた。
『大変です!反逆者です!ディグリス国王に真剣を持った者が切りつけてきたようです。』
唖然とするテント内。
誓音はそれを聞き、
木刀を取るとテントを勢いよく出た。
>木刀を取るとテントを勢いよく出た。
を訂正。
*************************************
木刀を取るとテントを勢いよく出ようとする。
が、しかし侍従長が誓音を止める。
『お待ち下さい!誓音さん!』
そう言われ誓音は止まる。
振り返る誓音、侍従長は誓音に近づき言った。
『…今回演習とはいえチェンバル国王とは敵同士。
オーガス軍の一員である貴方を国王の元に行かす訳にはいきません。』
「…人一人が殺されるかも知れないのに…見殺しにしろというんですか?」
静かに聞く誓音。
侍従長はそんな誓音を見て言った。
『そういう意味じゃありません…
チェンバル国王は国を束ねる一人の騎士です。。
その上周りには国王だけじゃなく他の兵達もいます。
…そう簡単にやられるとお思いますか?
それにチェンバル国王が攻撃された今こそ、尚更、オーガス様の身が心配です。
オーガス皇帝騎士を狙う暗殺者の捕獲を急いでください。早急に。』
そう言われ誓音は少し黙り込む。
一瞬オーガスの老けた顔を思い出す。
誓音は少しため息をつくとコクリと頷き
「すみません…」
と一言言った。
>262>268>270
魔王の娘と言った瞬間、誓音が唖然とした表情でこちらを見る。
魔王の娘がこんなところで何をしているのだろうか、とでも思っているのだろうか?
>「マックスウエル夫人、ファルコン夫人、こんなところにいましたか!」
背後から掛けてくる声。
振り返ると、厳粛な儀式で使われるようなローブを着込んでいた男がいた。
>「探しましたぞ。使いのものがお二方とも所定の位置にいないと戻ってきて慌てまして。」
所定の位置も何も戦闘が始まったのだから、場所を移動するのは当たり前。
それに、今、私達の居る場所は初期に配置された場所から余り離れていない。
男はイルと誓音をあるテントに連れて行く。
幾多もの結界が掛けられていて、まるで本物の戦場を想定しているといったところ。
>「お二方の他にも何人か読んでいるのですがまだ来ていないようですな。
>まあよろしい、とりあえず机の資料に目を通してくだされ。」
机の上の資料を取って、一通り目を通す。
絶句した。
オーガス皇帝を暗殺しようとする、身の程も知らない愚か者達がいるなんて。
オーガス皇帝を殺すことができる人間はこの世にはいない。
魔族の中でもおそらくはいないだろう。
あの、憎き神々の血を吸ったガストラ帝ですら、オーガス皇帝を打倒することができなかったのだ。
>「現在の状況は思わしくありません。
〜略〜
>そして出来れば相手は殺さずに、あくまで模擬戦の一環として撃退せねばならぬのです。」
「了解しました」
暗殺者を内密に、オーガスにも気付かれずに撃退する。
派手な魔法とかは使えない。
自分は戦力が半減されるが、相手が戦力を損なうことは無いと思う。
苦しい戦いになりそう。
突然、ディグリス国王が真剣を持った者に襲われたと報告を受ける。
それを聞いた途端、誓音が一目散にテントを出ようとするが、侍従長と呼ばれた先程の男に引き止められる。
ディグリス国王を襲ったということは、元々の標的だったのかもしれないが、陽動の可能性が高い。
暗殺者が敵陣の真ん中で、真剣を使って国王を襲うとは考えられない。
そんな目立った行為をしては、暗殺なんて到底できない筈。
「とりあえずはここから出て、オーガス皇帝の周囲を捜索するのはどうでしょうか?
遠距離から弓や鉄砲で皇帝を狙った方が、暗殺が成功する可能性が高い筈です」
食事とかに毒を盛られる可能性も考えたけど、毒味の方もいるし、侍従長がしっかりとしてそうだから、この考えは除外します。
>265
マックスの部隊に追いすがり、側面から突撃を敢行せんとしたまさにそのとき、
前衛部隊の眼前に跳躍したレミュリアが降り立った。
>「さぁ、かかってきなさい!」
「言われずとも!突げぇーーーき!!」
指揮官が咲けんで木剣を振り下ろした。レミュリアを踏み潰し、
その勢いでもってマックス隊へ一撃加えるため、騎兵たちが馬に拍車を入れて加速していく。
そのとき、マックスの部隊とすれ違うように新たな部隊が姿を現し、チェンバル軍の側面を襲う。
「ぬぅ、やはり伏兵があったか!」
指揮官にしてみれば予想していた事だが、それでも不利は免れない。
縦列隊形の後半が側面からの部隊のさらに側面へスライドし、牽制に当たる。
これで相手を挟み込んだ形にはなったものの・・・。
>267
「ええい、何をやっておるかあやつらは!!あっさり側面を取られおって!!」
オーガス傭兵部隊とチェンバル前衛騎士団の戦闘の様子を陣地から遠眼鏡で見ていたチェンバル王は、
だむだむと足を踏み鳴らしながら怒鳴りちらしていた。
もっとも追撃に出ていなければ、前衛の指揮官の言うとおり「何をもたついているか!」と怒り出すのだが。
それを知っている周囲の重臣たちの表情もなんかこう苦いものを噛んだ的なザン!!
――ザン?重臣たちが一斉に音のした方向を向く。
黒衣の騎兵が行く手を阻む兵の一人を切り倒し、剣を振り上げ王へと迫っていた。
「むぅん!!」
チェンバル王は即座に従卒の持っていた木剣を引っ掴むと、それを大きく振りまわした。
ギン、と金属音がして剣が弾かれる。
チェンバル王もまた一代で国を興した人物である。伊達や酔狂で一国一城の主は務まらない。
「だだだだ誰ぞはようこの痴れ者を何とかせぬかっ!!」
剣を放り出して王が陣幕の後ろへ逃げ込む。どうも長続きはしないようだ。
転がっている木剣には大きく傷がついており、そこから鉄条が覗いていた。
チェンバル王の軍勢は大半がこの鉄条仕込みの木剣や木槍で武装しているのだ。さすがの卑怯ぶりである。
さてその槍でもって近衛兵たちに散々ぶん殴られた黒衣の騎兵は身柄を改められていた。
「こやつ・・・我が軍のものではないな?何でこんなわかりやすい奴が紛れこんどるんじゃ、この馬鹿者ども!!」
明らかにチェンバル軍のものではない装束の騎兵が、本陣まで入り込んでいるという事実に王は激怒した。
が、急に冷静になる。
「してみると・・・一体何者じゃ?」
王は考えた。オーガスの手のものではないのはわかった。
向こうでは(腹立たしい事に)チェンバル王のことなど歯牙にもかけていないのだから。
では連合のいずれかの国かというと、これも違うように思われた。
今チェンバル王を害して得をする者などいない(損をする者もいないのだが)。
「むぅ・・・、差し当たりこの事は他言無用といたせ。オーガスにも連合諸国にも知らせるな、良いな?」
王は臣下たちにそう告げる。
しかし、演習場である平原を取り囲む監視塔の存在はすっかり忘れていた。
「やれやれ、あっさり潰されるようだとこちらも困るのだがな」
マックス隊とチェンバル軍の戦いを見ながらラジャリが呟く。
その耳にかすかに甲高い音が届いた。カーディナルは人には聞き取りづらい音域の音を出す笛でもって、
互いに連絡を取り合う術を習得している。これは配置完了の合図だった。
ラジャリは顔を覆う布を少しずり下げ、笛を吹いた。別命あるまで待機、の指示である。
それからすぐにチェンバル軍本陣が騒がしくなった。ラジャリが聞くまでもなく、
配下の暗殺者が状況を伝えてきた。
「・・・ほう、考える事は同じというわけか」
即座にローズの手際であると判断したラジャリが声を漏らす。
連合側の諸侯に対し攻撃を仕掛け戦線を混乱させ、それに乗じて皇帝を暗殺する。
ラジャリもそのために各方面へ手勢を潜入させたのだが・・・
「先を越されたとなると同じ手は使えんな・・・皇国側はどう動くか」
今のところマックスとレミュリアの部隊が大きく突出しているが、
他はセシリアの部隊だけが少し前進して丘の上に構えている程度だ。
ラジャリは再び笛を取り出し、皇国側へ潜入させた者と付近の森林地帯に潜んでいる者へ、
数分毎に状況を伝えるように指令を送った。
>265>273>274
セシリアはマックスの部隊が鮮やかに転進し、チェンバル軍を誘い出すのを丘の上から見ていた。
「ふぅん、横手から仕掛けた部隊もうまいな。あれはどこの隊かわかるか?」
部下たちと言葉を交わしながら戦線を眺めているその様子は、完璧に物見遊山である。
今のところチェンバル軍以外の連合部隊に動きが無いので、白花騎士団としても特にする事は無いのだ。
だが、兵に戦場の空気を味わわせるのが今回の目的だ。
絶対者との戦いに連れて行くならもちろんの事、
国へ残す事にしてもこのままでは留守は任せるに不安は残る。
「さて、人の喧嘩を肴に口ばかり動かしてはいられまい。周辺部隊に伝令出せ!チェンバル軍右翼を叩く!
先ほども言ったが、真剣は使わんのだから気楽にやれ。せいぜい骨が折れるか肉が潰れるくらいのものだ!」
さらっと生々しい事を言って、セシリアは馬首を巡らせる。その視線が、一瞬森を掠めた。
(?……何かいる)
緑の色濃く茂る森の梢の一つが大きくたわんでいる。
そして、良く見ているとそれは明らかに他の木々とは違う揺れ方をしていた。
「待て、森に何者かいるようだ。敵方の斥候かも知れん、ついでに叩くぞ」
即座に指示を変えたセシリアは部下とともに丘を駆け下り周辺を押さえ、それから森へ踏み入った。
>「とりあえずはここから出て、オーガス皇帝の周囲を捜索するのはどうでしょうか?
> 遠距離から弓や鉄砲で皇帝を狙った方が、暗殺が成功する可能性が高い筈です」
「そうですね、
…遠距離から弓や鉄砲で皇帝がギリギリ狙えるところと言えば…」
机の上に広げられた周辺の地図に一本の赤線を引く。
「……ここらへんって感じですかね。
でも恐らく敵は確実に狙える所から打つはずです。
なんせ一度失敗すれば暗殺が達成される可能性が低くなりますし。
という訳で…もっと絞ると
第四監視台付近と第三監視台付近と此処って感じです。」
そう言うと三カ所に丸をつける。
「…取りあえず…第三監視台付近から回ってみましょうか…。」
そう言うとテントを取りあえず出た。
>276
>「そうですね、
>…遠距離から弓や鉄砲で皇帝がギリギリ狙えるところと言えば…」
>「……ここらへんって感じですかね。
>でも恐らく敵は確実に狙える所から打つはずです。
>なんせ一度失敗すれば暗殺が達成される可能性が低くなりますし。
>という訳で…もっと絞ると
第四監視台付近と第三監視台付近と此処って感じです。」
机の上に拡げられた地図に印が書き込まれていく。
射撃可能なギリギリの距離を示した赤いライン。
暗殺者にとって、絶好の位置と予想される三つのポイント。
三つの位置の二つ、第三監視台付近と第四監視台付近は、この場所からそう離れてはいません。
>「…取りあえず…第三監視台付近から回ってみましょうか…。」
最初に、一番距離的に近い、第三監視台付近の探索から行われることになりました。
早々と誓音はテントから出て行きます。
私も誓音の後をついていきます。
二手に別れて探索をした方が、効率が良いのですが。
敵方は真剣や銃器等で武装してると思われる為、万全を期して二人で行くことになりました。
>263
後退する数十人の傭兵達。その殿を務めるのは、先程まで先頭に居たマックスだ。
顔を後ろに向かせて襲い来る矢の数と距離を確かめると、後退する足を止める事無く樫の木製の長槍を頭上で高速回転させた。
「へっ、そこらの新兵と百戦錬磨の傭兵を一緒にすんなってんだよ。ピンポイントで狙ってきた矢なんぞ……」
長槍を振り回しながら上体を大きく動かし、矢を全て叩き落す。しかしこの回転速度、人の為せる技なのか。
「守円陣、決まったぜ! さぁて、動きが見えてきたな。突撃開始まで間も無さそうだな」
マックスはニヤリと笑い、傭兵達に走る速度を上げる様に指示した。先程は誘いの為に速度を落としていたに過ぎない。
「しかし……あちらの大将だって馬鹿じゃねえだろうに、何でまたノコノコと……まあいい、来るならブチのめすだけだ」
そう呟きながら走るマックスの息はまだ乱れてはいない。エンジンが掛かるのが極端に遅いのが彼の超肉体の弱点一つである。
>265
「ん?」
走る傭兵達の頭上、遥か遠くを何かが通り過ぎる。
「あれは何だ!」
「鳥だ!」
「竜だ!!」
傭兵達が叫びながら走る中、マックスが冷静に言った。
「いや……ありゃあ人だな。しかも結構な美人だぜ」
マックスの視力でようやく確認できたが、その人影の飛んでいる高さは人の跳躍出来る領域では無い。
敵の騎兵達の前に降りていった人影に気を取られる傭兵達の横を、試験部隊の兵達が通り過ぎる。
「試験部隊……あのジャンピング姉さんの仕官試験中か? しかし、あんな無鉄砲じゃ不合か……」
説得力の無いマックスの発言を遮るかの様に女性の大声が響いた。マックスの優れた聴覚には結構なダメージである。
「耳痛ぇ〜……この声、さっきの姉さんか? へぇ! あの無鉄砲さ、強靭な肉体、そしてあの声! ありゃ間違い無く強いぜ!!」
マックスはその姉さんことレミュリアに興味を持っていた。強い人間に目が無いのは相変わらずの事であった。
>273-274
敵の部隊、即ち、チェンバル国軍の前衛部隊がレミュリアを踏み潰さんと突撃を開始した所に、試験部隊が側面から攻め込んだ。
更にその側面からチェンバル国軍の半分が攻撃を仕掛け、挟み撃ちの状態となった。
「いや、ここまでくりゃあ俺の作戦は成功なんだよな」
チェンバル軍から距離が離れて最早蚊帳の外といった傭兵達の中、マックスはニンマリと笑っていた。
「(……さっきから嫌な音がしやがるな。俺達には何も伝えられていないし、もしかすっと敵の合図か何かもしんねえな。
それに遠くからだが、ひしひしと伝わってくるこの殺気は殺すつもりで演習頑張りましょう、なんてレベルじゃねえ)」
マックスは珍しく一旦思考し、間も無く傭兵達に大声で叫んだ。とは言っても相手の注意を引かない程度の声量で。
「転進して試験部隊の側面の敵に突撃だ、遅れるな! 一気に戦闘不能にするんだ!!」
「おおう!」
マックスの顔色が優れない。嫌な予感がするのだ。焦りの様なざわめきが彼の心を占領する。――早く、早くあの軍を抑えねば……と。
マックスの軍は目標に向かって突き進む。全員歩兵だが、対騎馬戦には慣れている。
無論、それでも不利である事に変わりは無いが、側面からの突撃という事もある。
小回りの利かない騎馬相手ならば、勝機は十分に有る。但し、その為にはマックスの考える通り、早急にケリをつけなくてはならない。
>275
まだ年若いカーディナルの一人が、百合の旗印が近付いてくるのに気がつきあわててラジャリに指示を仰ぐ。
一定の規則にしたがって吹き鳴らされる笛を聴きながら、ラジャリはこめかみを押さえた。
「未熟者め・・・。百合に旋風の紋章、となると『オーガスの白百合』セシリアか。無茶は通るまい」
ラジャリはため息混じりに笛を吹いた。攻撃を仕掛けた後、森伝いに逃走し連合軍方面へセシリアの部隊を誘導、
追跡の有無に関わらずそのまま連合軍後方に潜伏する仲間と合流。これが下された指示である。
「逃げるくらいはやって見せろ。・・・出来ないのであれば死ね」
口元と布を引き上げながら、ラジャリは呟いた。
カーディナルはセシリアら白花騎士団が森へ踏み込むと同時に指示通りの行動を取った。
吹き矢や投げナイフで樹上から攻撃を加え、その成否を確認せず即座に逃走を開始する。
森を盾に監視台や周辺の部隊から身を隠し、木々を伝いながら迅速に連合軍陣地へ後退して行った。
>278
一方チェンバル軍前衛部隊は、予想通り転進してきたマックスの部隊と、
レミュリア試験官部隊に見事挟撃されていた。
「くそぅ、これだからあの王の下で戦うのはいやだと言うんだ!」
「不敬っスよ!」
「どうやったら敬えるんだよ、あれを!」
騎馬の文字通り側面、特に武器を持たない左手側から攻めて来る歩兵に苦戦しながら指揮官と部下が怒鳴りあう。
盾で押し返してもすぐに詰め寄られ、盾を捨てて武器を取ればそのまま馬から引き下ろされる。
一人倒す間に二人か三人倒される有様で、流石にこれ以上持ちこたえるのは無理と判断した指揮官は即座に退却を始めた。
倒れた兵らはよろよろと立ち上がって、戦闘不能になった印として赤い布を腕に巻き、戦場から離れていった。
「ええい、何をやっておるかあやつらは!!あっさり側面を取られおって!!」
オーガス傭兵部隊とチェンバル前衛騎士団の戦闘の様子を陣地から遠眼鏡で見ていたチェンバル王は、
だむだむと足を踏み鳴らしながら怒鳴りちらしていた。なんだかほんの数分前にも見た光景だ。
チェンバル王が全く同じリアクションを取っているだけで、決してコピペで文章量を水増しして楽をしようという訳ではない。
「戦線を押し上げい!突出している部隊を叩くぞ!」
無茶な命令に思えたが、そろそろ様子見をしている段階も過ぎたと判断した連合の諸侯らは、
これに従い軍を前進させた。チェンバル軍だけ余計に前進していたことは言うまでも無い。
その張り出した陣の右翼に、カーディナルが近付いた。
森の木々を次々飛び移るそれを目ざとくそれを見つけた王は、
少し視線をずらした先に白花騎士団がいるのに気づく。
「森に何者か居るぞ!皇国の斥候やもしれぬ、捕らえよ!
その後ろの一隊、あれも接近するようであれば叩け!チェンバル軍の勇猛さを諸侯に知らしめるのじゃ!!」
勇猛と蛮勇は違いますよ、と素直に言えない辛さが王以外の誰の顔にも滲んでいた。
>279
>「森に何者か居るぞ!皇国の斥候やもしれぬ、捕らえよ!
> その後ろの一隊、あれも接近するようであれば叩け!チェンバル軍の勇猛さを諸侯に知らしめるのじゃ!!」
そう叫びチェンバル軍が向かおうとした時だ。
オーガスの方面から吹き矢が飛んでくる。
『ウゴッ!』
兵の数名が倒れたかと思うと他の兵達も次々に倒れていく。そしてチェンバル国王の耳元から女の声が聞こえた。
「こんにちわ…聞こえていらっしゃいますか?私は偉大なるチェンバル国王様を尊敬していらっしゃる一人の女騎士でございます。
あなた方の元に暗殺者が来てませんでしょうか…?嗚呼!間に合わなかったら申し訳ありません。
貴方と通信するのに苦労しててなかなか伝えられなかったのです。」
そう言うと女は言葉を続ける。チェンバル国王の耳元にはいつの間にか白いバラの蕾が刺さっていた。
「…実は貴方様に一つ密告させていただきたいのです。
今回の演習をオーガスが受け止められた理由についてです。
実はオーガス様は今回の演習で貴方様の命そのものを狙ってるので有ります。
オーガス皇国は貴方の国を滅ぼそうとしていらっしゃるのです。
最近オーガス国が地道に軍事力を上げて言ってる理由を知っていらっしゃるのでしょうか?
…その理由は実に明快、オーガス国王はこの世界の統一を企んでいるのでございます。
……現に今吹き矢がトンできましたのが見えますよね。そちらの方をご覧なさい。
ホラ、飛んできた方向にあるのはオーガス国が担当している監視塔じゃありませんか。
ではお次に先ほどの暗殺者を兵にでも頼んで持ってこさせご覧なさい。
その人の身を調べてくれれば一目瞭然。オーガス皇国の紋章があるはずです。」
そう言う女。事実、その暗殺者の耳にはオーガス皇国の紋章のピアスがなされている。
「…オーガス皇国は貴方を殺害しようと目論んでます。私は…いくら愛する祖国の決定事項とはいえ、貴方様だけは…
貴方様だけには生きて欲しいのでございます。
…チェンバル国王様、私とご一緒にオーガスを倒し、否、殺そうとは思いませんか?
私の名前は薔薇騎士のサラと申します。…信用して貰うためにも私の力をお見せしましょう。監視台をご覧下さい。」
そう言った途端に吹き矢が飛んできた第三監視台が崩れた。
『うわぁああっ!!!』
叫び落ちていく暗殺者二人組、ローズの仕業なのは言うまでもない。監視台の下に巻き付かれた薄い青色の薔薇。
その名も時進薔薇。巻き付いた物質の時間を進ませ脆くさせる薔薇だ。
サラ…即ちローズは含み笑いをした。
チェンバル国王の上に一匹の薔薇が巻き付いた鳥がやってきたかと思うとチェンバル国王前に一つの包みが届く。
「どうです…?国王様。こんなか弱き私をもしよろしければそちら側に付かして貰えませんか?
もし了承してくださるなら貴方の前に置かれたその包みの中に入った薔薇の種、2種類と水をお飲みになられてくださいません?
決して毒作用などありません、なんなら近くの兵に一つ囓って貰ってもよろしいです。
この薔薇は能力を開花させる薔薇でございます。
これを使えば貴方様に特殊な能力が一つほど与えられるでしょう。
…その能力を試したいならあの騎士団に向かって試してみたらよろしいじゃないでしょうか?
試し方は簡単です。口を開き息を吐けばそれだけでOKです。貴方様は驚愕するはずです、自分の得た能力に。
…では、またご連絡なさいますわ。チェンバル国王様…。」
そう言うとローズの通信は途絶えた。
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
先ほどまで喋りかけていた薔薇の花を潰すローズ。
ローズの姿は先ほどの薔薇の鎧では無い地味な鎧を着ていた。
「…これで第二の作戦の仕込み完了…あっさりと無能がやられて王様への恐怖心の煽りと混乱が足りないかと思ったけど…
なんとかなったわ。
…裸の王様はどうなさるかしら。
……あの王様が乗るにしろ乗らないにしろ私がやる事はただ一つよ……。」
そう呟くと白馬に跨った。
「……それにしても近くにいた騎士さん達とワンちゃん達は哀れねぇ…
ま、ラジャリは生き残れるかもしれないけど他はどうかしら…」
私は魔王の隠し子の一人俺の美しい上腕二等筋を見てくれぇ!
すまない・・・俺も魔王の隠し子なんだ・・・・・・
ダブルバイセップス・フロントをしながら砲術師は言った
>282-283
まさか・・・・間違いないあんたら俺の兄貴だぁ!!
モスト・マスキュラーをやりながらやけに筋肉質の剣士が言った・・・
ちなみに上からバラン、アドン、サムソンといい魔王アスタロスの息子達である
当然アスタロスもすごい筋肉だ
魔王の身内って結構多いんですね・・・・・
一人の兵士がつぶやいた
好色をつかさどる魔王アスモデウス・・・・・・その隠し子が10000人以上いることをまだ
兵士Aは知らなかった・・・・
>279
セシリアが森へ踏み込むと同時に、頭上から空気を裂いて飛来するものがあった。
とっさに槍を振って叩き落としたセシリアの目に鋼のきらめきが映り、耳には部下の苦痛の呻きが届く。
「本身!?」
叩き落されたものは投げナイフ、刃もしっかりとついている。さらに槍に目を落とせば吹き矢が幾本か。
どちらも明らかに模擬戦闘で使う得物ではない。
梢が揺れ、茂った葉の中から数人の男が飛び出してくる。フードのついたマントを着、口元には緋色の布。
白花騎士団には目もくれず、連合国軍の陣地へ向けて逃げ去ろうとしている。
「…カーディナル!」
即座にその正体を見極めたセシリアが思わず声を漏らす。
南方の狂信的宗教国家ラバートの暗殺者集団である。それが何の目的もなくここにいる訳がない。
そして暗殺者の目的と言えばただ一つ、誰かを殺す事だろう。
セシリアは周囲を確認する。部下数名が投げナイフで手傷を負わされているが、致命的なものではない。
吹き矢は当たらなかったようで、これは幸いだった。人間相手に吹き矢を使うなら、毒の一つも仕込んでおくのは定石だ。
「暗殺者が侵入している、本陣に伝令を走らせろ!ただし必ず人払いをしてから伝えるように。
兵に知れれば余計な動揺が起きかねん。特に陛下のお耳には絶対に入れるな。
こういうことを楽しいと思われるお方だ、動かれると面倒が増える」
部下に指示を出し、セシリアはカーディナルを追った。
カーディナル達は森伝いに連合陣地を南進していく。それを追うとなれば当然の結果として
連合軍、特に先陣に張り出したチェンバル軍へ接近する事になる。
それを進言した部下に対しセシリアは、
「言われずとも解っている。来るようなら一戦交えるまで」
と事も無げに言い放ち、大きく手綱をしごいて速度を上げる。
しかし森を真っ直ぐ突っ切っているカーディナル達にはなかなか追いつくことが出来ずにいた。
>280-281
王の命に従い、カーディナルを追おうとした部隊に吹き矢が撃ち込まれる。
倒れた兵を驚愕の面持ちで見つめるチェンバル王の耳元から、声が聞こえた。
>「こんにちわ…聞こえていらっしゃいますか?
>私は偉大なるチェンバル国王様を尊敬していらっしゃる一人の女騎士でございます。
>あなた方の元に暗殺者が来てませんでしょうか…?嗚呼!間に合わなかったら申し訳ありません。
>貴方と通信するのに苦労しててなかなか伝えられなかったのです。」
その女の声はさらに先を続ける。しかし王はどうも奇妙な感じを受けていた。
まず普段使い慣れていない言葉遣いでしゃべっているようなぎこちなさ。
聞いているうちにどうしても気になってきたのだが、これがなければ内容そのものも疑わなかったかもしれない。
疑念というか『話できすぎてねぇ?』と言う率直な疑問である。
美人騎士が(顔も見ていないと言うのに美人と決め付けているようだ)余のこと慕ってて、
おまけになんかゴイスーなパゥアーもくれる?有り得ねー。
これが王の心中であった。
しかし、実際におかしなことが多いのも事実である。
オーガスであるにしろないにしろ、何者かには狙われている。しかし演習の中断は出来ない。
持ちかけたチェンバル王の側からそれを申し入れるのは、降伏と取られかねないからだ。
とりあえず渡された『種』とやらは一応拾っておき、大盾を持った兵士に周囲を固めさせ狙撃に備え、
連合を率いる諸侯にも伝令を発した。オーガスに対しては何のリアクションも起こさず、
あくまで演習のなかで様子を見るつもりだった。
>287
しかしセシリア率いる白花騎士団を見た瞬間にそんな方針も吹っ飛んだ。
挑発するかのように近付いてくる(向うにはそんな意図は無いのだが)敵部隊を静観しているなど、
どだいこの王に出来るはずは無いのだ。
「なめおってアバズレめがぁ!弓隊撃てぇい!!斉射3回の後、三角陣形で突撃!!」
今までに比べれば大分まともな指示に、兵は喜んで従った。
とは言うものの、戦場に満ちる違和感は、今や誰もが感じるところとなっていた。
>273
>指揮官が叫んで木剣を振り下ろした。レミュリアを踏み潰し、
>その勢いでもってマックス隊へ一撃加えるため、騎兵たちが馬に拍車を入れて加速していく。
「やる気満々ねぇ。そう言うまっすぐなところ、お姉さんは嫌いじゃないけど。」
先頭の騎兵と槍を打ち合う......折れた。しかも相手の槍は無事だ。
「ちょ、ちょっと......嘘でしょ?」
いまだチェンバル国軍の演習武器の中に鉄が仕込まれてるなんて事には
気付いてないレミュリアにしてみれば、たった一度の打ち合いで槍がへし折れるなんて
ありえない。しかし折られてしまったのだからしょうがない。
第二波の騎兵の胸元に折れた槍を逆に持って突きを放って落馬させ、相手の槍と剣を奪う。
......持ってみて初めて、普通の木剣と木槍でないことを知る。明らかに、重い。
なにか芯に仕込んでいる、鉄かそこら辺りだろう。
「......聞きしに勝るとはこのことねぇ。ここまでやる?」
呆れながらもチェンバル特製の木槍を振り回して次々に敵騎兵を打ち倒していく。
力加減をまちがえるとさっきの普通の木槍でも人を殺せてしまうので手を抜くのも一苦労なのであるが。
>そのとき、マックスの部隊とすれ違うように新たな部隊が姿を現し、チェンバル軍の側面を襲う。
>「ぬぅ、やはり伏兵があったか!」
>指揮官にしてみれば予想していた事だが、それでも不利は免れない。
>縦列隊形の後半が側面からの部隊のさらに側面へスライドし、牽制に当たる。
縦に伸びた陣形からこちらの動きに反応してさらに側面に兵を回す。
「迅速な用兵、さすがだ。しかし、立て直すには時間が足りない......」
最近でこそ周りに気を配るようになったものの、かつては一番乗り、一の太刀は
自分の役目とばかりに連携も何も一切考えず突撃していた時期もあったのだ。
だからこそ、昔の自分を見ているようでレミュリアを見ていて余計に腹が立つのだが......
当人はそのことに気付いてないのか、それとも認めたくないのだろうか?
「隊長......おかしくありませんか?」
「ああ、チェンバル側の攻撃がやけに重い。木製の武器とは思えん。」
そう言いながらも声高に言いふらしたりしない。どうせ国王の無茶な提案に
文句も言えずしたがっているのだろうから。宮仕えの辛さと言うやつだ。
そう言う自分たちも、オーガスと言う主君は守り甲斐がないと言う点では
彼らに通ずる部分もあったり。それでも戦うのが、騎士と言うもの。
>278
>「転進して試験部隊の側面の敵に突撃だ、遅れるな! 一気に戦闘不能にするんだ!!」
>「おおう!」
試験部隊の援護もあって自分の持ちまわりは大体片付いた頃、
本隊のほうへ傭兵部隊がまた転進、攻撃を始めていた。
その動きの鮮やかさ、機を見る目にレミュリアは感心していた。
「へぇ、いいタイミングで動くじゃない。
戦いなれた傭兵なのは分かるけど......少し、分けてもらいたいわね。」
言わずもがな、部隊指揮のスキルの話。
叩きのめされた兵士達は赤い布を巻いて戦闘不能の意思を表しつつ退却を開始していた。
援護に来た試験部隊の連中も本隊に合流したし、自分も行こうかと思ったその時。
>280-281
チェンバルの本陣がなんか慌ただしい。
周りの状況を確かめるために見渡していたらぐうぜん見えたのだが......
そう思っているうちにオーガス側の監視台が崩落してしまったではないか。
監視台には攻撃は禁止されているはず、ではいったい誰が?
さすがにきな臭さを感じてレミュリアは試験部隊長のところに急いで戻った。
「すみません、少し前に出すぎました......」
「......まぁいい、それで?」
「気付きましたか?オーガス側の監視台が一つ、崩れたことに。」
「何?それは本当の事か?」
さきほどまでのうんざりした顔から一転、厳しい表情に変わった。
「ええ......それに、チェンバルの本陣もどこか慌てた雰囲気を感じます。
演習にかこつけて、誰かがよからぬ事をたくらんでいるのでは?」
「......ありうる。多くの国が統治者もろとも参加しているこの大演習、
一度戦闘が始まってしまえば、国の威信などがある、意識が逸れるだろう......
暗殺などには、もってこいの状態だ。常々暗殺というものは平時よりも
戦闘中にこそ成功しやすいと言われているからな......分かった。
......我々は騎士だ、むやみに動くことは出来ない。君は仕官試験中だが
それだけに自由に動きやすい。悪いが、戦場を回ってくれ。そして何かを見つけても、
無理せず必ず帰ってくるんだ......すまないが、よろしく頼む。」
そこまで言って、どこの馬の骨ともわからない女に頭を下げる隊長。
それを見てやる気が限界突破したレミュリア。
「任せてください、それじゃあ......行ってきます!」
二つ返事で『任務』を受けてレミュリアは再びジャンプする。
>287-288
そうしてはるか上空から目に入ったのは、マント姿の集団と
それを追いかけるオーガス騎士団。この演習場でマント姿なんて、怪しい。
これはいったんあの部隊に合流した方がいいかも、と言う事で降下開始。
......風に吹かれて狙いがずれるずれる。白花騎士団の後方に着地する予定が
カーディナルの前方に落ちるはめになってしまった。チェンバルは仮想敵、
そしてカーディナル(もちろんレミュリアはカーディナルのことも知らない)は
まだはっきりしないがオーガス騎士団が追ってる以上は敵なんだろう。
見事に単独で挟まれてしまった。
裸マントの変態がいるぞぉ!!
>288-291
ひゅうひゅうと風を切るような音が響く。
だが耳を澄ませばそれが一定のリズムで繰り返されている一種の信号だと気がつくだろう。
もちろんその内容はセシリアにはわからないが、何者かが意思を通じ合っているということだけは確かだ。
その『何者か』が今追っている相手だというのもまた確かである。
セシリアはヴォーロスの尻を木槍で軽く叩き、加速させる。
あと暫く駆けさせれば追いつくというところで、視界の隅のチェンバル軍が動いた。
白花騎士団めがけ、矢が雨のごとく降りそそぐ。セシリアは腕輪に宿る風の精霊の力を開放した。
本来使うつもりは全くなかったのだが、状況が状況だ。ただしおおっぴらに使うのはやはり躊躇われたので、
矢の軌道をほんの少し変えるだけにとどめる。
きれいに統率の取れた一斉射撃三回のあと、間をおかずに騎兵が突撃してくる。
突進力を最大に発揮できる三角陣形だ。騎兵隊は白花騎士団よりも数が多く、
まともに当たればあっさりと飲み込まれてしまうだろう。
だが、セシリアは不適に笑いながら馬を駆けさせた。
真っ直ぐにチェンバル軍騎兵部隊に向かい、ぶつかり合う寸前、ほんのわずか方向を変える。
三角陣形の張り出した左翼部分。そこに向け、白花騎士団が槍をそろえて突っ込んだ。
「小魚を取るには銛よりも網を使うものですぞ、チェンバル王!」
騎兵隊は大勢で、しかも十分に加速がついていたが故に小回りの利く状態ではなかった。
それを小勢ゆえの機動力で翻弄したのである。
もちろん無傷で、とは行かないが損耗率は騎兵隊のほうが高いはずだ。
さて、このまま通り過ぎてカーディナルを追いたいところだが、
それでは転進した騎兵隊に追われる格好になってしまう。
追われるだけならともかく、前からも部隊を出されれば全滅したところで不思議はない。
見れば連合軍からもカーディナルへ兵が差し向けられているようだ。
驚いた事に一騎駆けのオーガス騎士もいる。見慣れぬ顔だが、
やるからにはそれなりの自信、それを抱けるだけの実力はあるはずだ。
無理に追う必要は無いと判断したセシリアは、馬首を返してもう一度騎兵隊へ向かった。
>277
――第三監視台付近
暫くイルと誓音は付近を彷徨く。
が、不審な者は見たところ全く見つからない。
いや、この大群の中で不審者を二人という少人数で捜すこと自体そもそも難しい。
いくら強者であろうとこの状況は非常に不利だった。
「…居ませんね…って事は残るは監視台って所ですか…。」
そう言うと誓音は監視台を指さした。
木製の頑丈な第三監視台にはオーガスの勲章が掲げられている。
そして次の瞬間、監視台が揺れた。
「…あれ?」
思わずひょうひょうとした間抜けな声を出す誓音。
そして一瞬のうちに第三監視台が崩れた。
>『うわぁああっ!!!』
人の悲鳴が響く。
「…嘘…。」
思わずそう呟く誓音。
そして早急に馬をその場へ走らせた。
******************************************************
崩れた第三監視台付近についた誓音。
その瓦礫の有様に驚いた。
「…一体なんでこんな事に…」
そう呟く誓音。
そして第三監視台に一つの物を見つける。
「…これは…。」
誓音は瓦礫に乗っかるとそれを採った。
それは薄い青色をした綺麗な薔薇。
此処は平野、こんな物がこんな所にあるのは非常に不自然だ。
「…なんでこんな所にあるんでしょうかね…。」
そう言うと誓音は花びらを一枚つまみ舐める。
「むむっ…この味は魔力がついてる味だ」
>293
第三監視台付近までやってきましたが、一向に怪しい人影は見つかりません。
空でも飛んで探せば楽なのでしょうが、逆にこちらが怪しい者と思われて、弓で攻撃を受けるかも知れません。
>「…居ませんね…って事は残るは監視台って所ですか…。」
「そうですね……この場で探していないのは、そこにある監視台だけですし……」
木製の監視台に視線を向けました。
監視台にはオーガス国の勲章が掲げられています。
その勲章が僅かに揺れました。
目の錯覚かな?と思いましたら、激しく揺れ始め、ついには倒壊してしまいました。
二人の人間が頭から落ちていく。
誓音さんは急いで馬を走らせました。
私もその後を、走って追い掛けます。
倒壊し第三監視台に着きました。
酷い有り様。
二人の人間が倒れていました。
ですが、もう生きていません。
二人の死体は、ありえない方向に関節が曲がり、骨が体から突き出し、頭はまるでトマトを潰したような……
吐気を堪えながら現場を探索すると、吹き矢を見つけました。
吹き矢は死体の近くに落ちており、毒が塗られています。
私は勇気を出して、二つの死体を調べることにしました。
調べた結果、不可解なものが見つかります。
「誓音さん!大変です!ちょっとこちらに来てください!」
私が二つの死体から見付けたものは、真剣と吹き矢の毒針。
そして…潰れた二人の頭に付いた、オーガス国の紋章が彫られているピアス。
これはいったいどういうことなのでしょうか?
>279
「なんとか撤退させたか……ちょっくらこの場を離れてこの嫌な気配を探りたいんだが……」
周りを見ると傭兵の中にも何人か負傷者が出ていた。新米の傭兵が殆どだが、中には熟練の者も居た。
「なんてこった……すまねえ! こんな無茶な作戦をしちまって!!」
マックスが深々と頭を下げて謝った。その顔には後悔の念がありありと出ていた。
「なぁに言ってやがる。無茶なのは今に始まった事じゃねえだろうがよぅ」
折れた木の大剣を持った中年の傭兵、ガザックが割れた額に血止めを塗りながらマックスの方へ寄って来る。
「ガザック!? まさかアンタまでやられたってのか!?」
マックスは驚き隠せない。ガザックは傭兵達の中でも年長に近い。マックスも一目を置く様な戦闘のプロだ。
「油断したぜぇ、ざまぁねぇやな。あいつらの武器ぁ俺達の物とは質が明らかに違ったよな? おめぇも気付いたろ」
「あ、いや……俺は武器を打ち合わなかったから……」
マックスは槍で相手の頭を叩き、馬から落とすという戦法を取っていたため、細工された武器の事には気がつかなかったのだ。
「ありゃあただの木の武器じゃねえ。俺の剣も打ち合ってこのざまだ」
改めてその大剣を見ると、その木の刀身は根元から折れている。幾ら勢いが付いていたとしても、木の武器同士でこうなったりはしないだろう。
「あいつら、ルールを破りやがって!」
「気にするなぃ。俺達は正々堂々やっちまえばいいんだよぅ。」
「……あ、ああ。そうだ……な」
マックスは悔しそうに撤退したチェンバル前衛騎士団を睨みつけていた。
>290
マックスはまた慌しくなりはじめた敵陣の方を眺める。また前進してきている。
辺りを見回すと、試験騎士達の中から赤い人影が空へと跳び上がった。その方向は森の方角だ。
「(姉さんが動き出したか……さっきいきなり崩れた監視塔の事も気になるし、俺も動き始めるか)
ヘルガ。俺はちょっと別行動を取るけど……良いか?」
頬を人差し指で掻きながら、サブリーダーのヘルガに別行動をしたいという意を伝えた。
ヘルガはただ一言「行って来い」とだけ言い、顔をマックスから背ける。それを見たマックスは苦笑いをしつつ槍を構えた。
「おう、反則野郎のお守りは頼んだぜ!」
マックスはそう言って爆音の様な音と、大量の土埃と共に森の方へ跳躍した。無論、レミュリアの跳躍力を意識しての事である。
>292
「……自信は有ったんだがな」
マックスは平野から森に入ってすぐの所を走っていた。飛距離が微妙に足らなかったのだ。
「あの姉さん、何食ってるんだろうな……」
ぶつぶつと独り言を言いつつ、大勢の気配のする方へと足を速める。軽装であったため、その人ならぬ速力が十二分に発揮された。
それから間も無く、旋風と百合の旗が揺れているのが遠目にだが見えてくる。
「(あれは確かセシリア達の旗……)」
暫くは離れて後を追いつつ、様子を見ようとマックスはただただ走り続けた。
薔薇の味見をする誓音の前に、宇宙の帝王フリーザが突然現れた。
「デスビーム!」
フリーザの指先から必殺の威力を持った光線が、誓音に放たれる。
どうやら王はローズの誘いにはまだ乗っらないらしい。
ローズは冷笑した。
「流石王様ね…。」
>293-294
そう呟くとローズは動き出した。適当にきょろきょろと周りを見るローズ。
そして二人の騎士に再度目をつける。監視台付近で物色してる二人組。
ローズは動きを止めてその様子を見る、実は先ほどからどうも気になっていたのだ。
オレンジ色の髪を持つ女と青色の髪を持つその女。何故かは知らないが同じ香りがする。
ローズは暫くその女達をじっと見つめる。
見つめて…見つめて…そして脇に刺していた剣を抜いた。
「…決めた…。」
そう呟き、そして思いっ切り馬の脇腹を蹴ると、その女達に猛スピードで近づく。
「覚悟っ……!」
そう剣を上に上げるローズ。
そして藍色の髪の毛の女に斬りつけに掛かっていく!!
「でゃァァア!」
黒いマントを棚引かせ…その黒いマントの下にはチェンバル国王が率いる軍がつける鎧の輝き。
>294>297
誓音が薔薇に気付いた頃、イルも何やら気付いたらしい。
>「誓音さん!大変です!ちょっとこちらに来てください!」
「何かありましたか?」
そう言いイルに近づく誓音。
そしてイルが指さした物を見る。
「…これは…!」
そこにあったのは無惨になった二人の兵の姿。
真剣と吹き矢の毒針、
そしてオーガスの紋章が入ったピアス。
誓音は驚きつつそのピアスを拾った。
「……なんでオーガスの紋章を持つ者が…こんな物騒な物を…。」
そう呟く誓音。
落ちていた毒針も拾った。
この毒は恐らく致死性が高い。
即ち暗殺者対抗というわけじゃないようだ。
要するにこいつ等は十中八九暗殺者。
しかしそれならあの薔薇の花は一体なんなのだろうか。
誓音はさっぱりわかんなかった。
しかもその上死体は見事にグチャグチャ。
その為この二人を調べるのにも時間が掛かりそうだ。
しかし、
イルを見ると、誓音は言った。
「取りあえず…駄目もとで侍従長さんにこの人達の事を聞きませんか?
どうもこの人達はただの監視員って訳じゃなさそうですし。」
そう言うと立ち上がり少し歩き出す。
すると途端に背後から殺気を感じた。
―ゾクッ!
振り返る誓音。
イルのすぐ後ろになんと真剣を上に上げてる一人の女の姿。
誓音は木刀を抜きながら叫んだ。
「危ない!!」
>297>298
誓音がやってきて、イルは二人の死体を指し示す。
誓音も驚愕の表情で死体の持ち物を確認。
>「……なんでオーガスの紋章を持つ者が…こんな物騒な物を…。」
「私には分かりません。
ただ、オーガスの国の騎士が、このような暗殺用の武装をするとは思えません。
何か、裏があるのではないでしょうか?」
見たところ、オーガス国の騎士に扮して、オーガスやその他の重要人物を暗殺するつもりだったのだろう。
だが、何で二人は監視台倒壊の犠牲者になったのだろうか?
普通に考えれば、すぐに崩れる様な不安定な足場で吹き矢を使った暗殺を実行する訳がない。
他の勢力が暗殺に気付いて監視台を崩したのだろうか?
しかし、あの場には監視台の上にいるこの二人しか居なかった。
謎は深まるばかり。
>「取りあえず…駄目もとで侍従長さんにこの人達の事を聞きませんか?
>どうもこの人達はただの監視員って訳じゃなさそうですし。」
侍従長が暗殺の手引きするとは思えない。
だが、侍従長なら演習場にいる兵士達の配置位置は心得ていることだろう。
「そうですね…侍従長なら全兵士達の配置や装備等を知ってらっしゃると思いますし、確認の為に聞いておくのも良いと思いますよ」
先程のテントを目指して歩き始めた時、後方から馬の蹄が地を踏み鳴らす音が聞こえる。
その音と共に伝わってくる濃密な殺気。
>「危ない!!」
>「覚悟っ……!」
イルはその場から動けず、成す術もなく斬られた。
だが、斬った方はまるで手応えを感じなかっただろう。
イルはよくある手を使ったのだ。
「残像拳……便利な技です。習っておいて良かったです」
残像から数メートル離れた場所にイルは居た。
「いきなり真剣で斬り付けてきて、あなたは何を考えているのですか?
それに、あなたの着ている鎧に付いている紋章…
チェンバル国の者が何故、私達を狙ったのです?」
相手が真剣でくるのならば、こちらも容赦する必要はない。
イルは掌に魔力を溜め、いつでも魔法が放てる準備をしておく。
>290
さして息も乱さず走り続けるカーディナルの前方から、チェンバル軍の部隊が近付いていた。
このまま逃げるか、森に誘い込んで始末するか…。
カーディナル達が判断を下す前のほんの一瞬の間にレミュリアがその眼前へ降って来た。
思わず足を止めたカーディナルとその間にいるレミュリアに対し、チェンバル軍が槍を揃えて突撃した。
>292
一方白花騎士団へ向かった騎兵隊は、馬に気合を入れながら、
出せる限りの速度で突撃を敢行した。が、それが間違いだった。
正対して突撃してくる相手と、まさに槍先が触れるかと言う寸前で方向を転じられてしまう。
先頭にいた騎兵はあわててそれについていこうとするが、後続が次々に寄せてくるので前に出ざるを得ず、
その勢いで白花騎士団と交錯した騎兵隊は陣形の左側をごっそり持っていかれた。
「転進!横列陣形に切り替えろ!」
指揮官の命に従って、全隊が横に広がった陣形をとった。
これで数に劣る相手を包囲して攻撃しようと言うわけだ。
…だが遅かった。
陣を整えなおす前にすばやく転進してきた白花騎士団が、薄くなった隊列の中央を押し通る。
一気に数を減らされ自棄を起こした騎兵が、指示を待たずに乱戦を始めた。
>295
「ほぅ、『豪腕』マックスウェルか。一人で何をしているかは知らんが…」
樹上から見下ろしながらラジャリが呟く。
抗魔戦争の後、その武功から諸国に名が知られるようになった戦士。
そのオーガス暗殺に対する大きな障害が、一人森のそばをうろついている。
これを都合が良いといわずして何と言おうか。
だがラジャリは飛び出していこうとする部下を制してこう言った。
「お前らでは無理だ。…オレが行く」
そのまま無造作に木を飛び降りる。着地の時にも小枝一本折る音さえさせず、
走り出してもかすかな草ずれだけを背後に残し、マックスの背後から近付く。
そして走り寄ったままの勢いで首筋めがけて短刀を水平に振った。
301 :
サスケ ◆E5xojIqhUo :2006/09/16(土) 15:40:09
障害者達に言いたい、君達は生きてるだけで家族や介護してくれてる人達に金銭的に精神的に肉体的にも迷惑をかけている!だから障害を持つ者達は今すぐ死んでしまう方が皆にとっていいと思う!障害を持って生まれて来たのは仕方ない。だけど周りに迷惑をかけてはいけない。
302 :
名無しになりきれ:2006/09/17(日) 03:34:42
・スターホーン
冒険者の集う宿、五竜亭の名物騎士フンバルト=ヘーデルホッヘの魂の愛剣で、
様々な怪物や障害をばっさばっさと斬り伏せてきた名剣(フンバルト談)
これを手にしている時のフンバルトはプライドが高く勇猛な(猪突猛進な)騎士なのだが、
取り上げられ(ry
五竜亭なんて気付かなかったorz
・・・許さん!絶対に許さんぞローズめ!
>299
ローズが振った剣は見事に命中したように見えただろう。
しかし…ローズは振ってすぐ気付いた。思わず一瞬ニンマリと笑うローズ。拳法も少々嗜んでるローズはこの技を知ってる。
…まさかこんな高等な拳を扱う者が居たとは…。
>「残像拳……便利な技です。習っておいて良かったです」
女は数m後ろに存在していた。くるりと表情が変わり驚嘆の顔をするローズ。
「ざ…残像拳?何よ…それ…!聞いてないわよ!そんなのが使える人がいるなんて…!」
そう言うとローズは二三歩下がる。イルがその様子を見た後、魔力を手に練り訪ねる。
>「いきなり真剣で斬り付けてきて、あなたは何を考えているのですか?
> それに、あなたの着ている鎧に付いている紋章…
> チェンバル国の者が何故、私達を狙ったのです?」
「…そんなの…今から死ぬ貴方達には関係ないわ…。私の役目はチェンバル国王の名において…
この塔を調べに来たオーガス側の者を殺すと言うことだけよ…。」
そう言うと剣を構える。チラリと横にオレンジ色の髪の毛を持つ和装騎士を見ると真剣を地に刺した。
「グランマ式剣術 一の地剣…土氷柱の剣!!!」
そう言うと突如周囲の土に振動が走り、ローズ周辺の地面が針状になる!
>300
マックスは木々の上に居る者達の気配を感じとったが、そのままスピードを落とす事無く駆け抜けた。
「(狩人舐めとんのか……殺気も隠しきれてないし、未熟未熟。それに――)」
自分の走っている速度は常人に追いつける様な速度ではない。そう思っていた。
追って来る気配は無い。音もしない。もう問題は無いな……そう思ったその時、背後に風の揺らぎを感じた。
「!?」
瞬時の判断であった。彼は体を低くして後ろから迫ってきた者の刃をかわし、そのまま横に転がり瞬時に体勢を立て直す。
「……!」
マックスの額に汗が浮かんでいる。この一瞬の出来事が、彼の暢気な心臓と神経を一気に刺激したのだ。
「……ふう、ちょっと油断したかな」
額に浮き上がる汗を腕で拭いながら余裕ありげに呟く。内心、死ぬかと思ったのは表に出さない。
気配どころか殺気も感じず、音も感じず、更にこの速度に追いての的確な急所への攻撃。こいつは強い。
「ああ、アンタ達がカーディナルってのか。傭兵の中にも暗殺者集団に詳しいのが居るからよ、話には聞いてるぜ」
あくまで心の中は見せぬように、そして警戒しつつ言葉を続ける。
挑発に乗る相手とは思えないが、とにかくやってみようという考えだ。
「ラバートだかの飼い犬……どんなにすげぇ集団かと思えば……大したことはねぇ……なぁっ!?」
マックスは顔に半ば嘲る様なに笑みを浮かべながら言い放ち、長槍を刺客の足を狙って投げつける。
相手が交わした所を一気に接近して叩く。かわして接近してくればそこを迎撃する。彼はそう考えながら空いた両拳に力を入れた。
>300
「遅い!」
陣形を組みなおそうとする騎兵隊に対して、セシリアが真っ先に槍をつけた。
それに続いて次々と騎士が突撃し、陣形のほころびを広げてゆく。
そのまま相手を左右真っ二つに断ち割り、駆け去ろうとする白花騎士団だったが、
騎兵隊がすぐさま追撃に移った。いまだ数に勝る相手に食いつかれ、たちまち乱戦が始まってしまう。
この距離では槍は使いづらい。セシリアは槍を捨て剣を抜いた。
同じように剣を抜いた騎兵隊の一人が打ち掛かってくる。それをいなし、頭部をなぎ払う。
胴でも戦死扱いになるのだが、冷静さを欠いた相手はそれを忘れているかもしれないからだ。
頭を殴られた兵士は馬の上でふらふらと揺れている。
「貴様は『討ち死に』だ、下がれ!それとも踏み潰されて死にたいか!」
セシリアはその兵士の肩を掴んで揺さぶりながら声をかけ、片手間に背後からの打ち込みをかわしつつ一旦輪の外に出た。
同じように輪の外に出ていた仲間の助太刀に入り、騎兵を叩き伏せる。
仲間は数少ない先代からの騎士団員で、今は副長を任せている老騎士だった。
「ご無事で?」
声をかける。立場はセシリアのほうが上だが、偉大なる先達である、思わず敬語が出てしまう。
「ご覧の通り」
老騎士も短く返す。少し息が上がっているが、怪我はないし『討ち死に』もしていない。
手にした木剣をセシリアに差し出しながら、老騎士が言う。
「お気づきになりましたかな、セシリア様?」
木剣にはひびが走っていた。
「ええ、鉄か鉛か…どちらにせよ思いのほか真っ当な手ですね。魔力強化くらいはするかと思いましたが」
チェンバル王に限らず、こういった不正を働こうとする軍は出てくるだろうとセシリアは予想していた。
しかし、相手の兵力が多い、相手の方が質の良い武器を持っている、相手の方が地理、気候に詳しい…
これはどのような戦にも起こりえることだ。
「この程度でなくてはひよっ子どもがついて来れますまい」
老騎士が小さく笑いながら言った。
「ついて来てもらわねば困るのですが…はいッ!」
セシリアはそれに言葉を返し、拍車を入れる。
ヴォーロスは一ついななくと四肢で地を蹴り立て、乱戦の中へセシリアを運んだ。
老騎士もまた、後に続いて切り込んでゆく。
女騎士の剣がイルに向かって振られる。
そしてその刃は見事に当たった。
「イルさん!」
叫ぶ誓音。
しかし、切られたイルの身体は消滅する。
そして切られた場所から少し離れた所にイルがいた。
驚嘆する誓音。
>「残像拳……便利な技です。習っておいて良かったです」
そう言うイル。
流石あのファルコンの妻というだけある。
女騎士は動揺の声を上げる。
>「ざ…残像拳?何よ…それ…!聞いてないわよ!そんなのが使える人がいるなんて…!」
そういう女。
その女の顔を見て誓音は一瞬違和感を感じる。
この女の顔はどこかで見たことがあるような…。
イルが女騎士に問う
>「いきなり真剣で斬り付けてきて、あなたは何を考えているのですか?
> それに、あなたの着ている鎧に付いている紋章…
> チェンバル国の者が何故、私達を狙ったのです?」
我に返る誓音。
女騎士は答える。
>「…そんなの…今から死ぬ貴方達には関係ないわ…。私の役目はチェンバル国王の名において…
>この塔を調べに来たオーガス側の者を殺すと言うことだけよ…。」
チェンバル国王の名において…
女はそう言った。
そしてこの男達が持ってた毒矢。
どうやらチェンバル国王と今回の暗殺に関わりを持っているらしい。
しかしチェンバル国王は小心者と陰で噂。
そんな国王が世界一とまで言われる剣豪、
オーガスに勝負など無謀な事を挑む暗殺サイド接触などするのだろうか?
正直言ってあの国王がそこまで考え無しとは思えない。
しかし、元々オーガスを妬んでいたという噂もある、
チェンバル国王が暗殺側に手を貸す可能性も0とは言えない。
誓音は一瞬考えをめぐらした。
するとローズがチラリとこちらの方を見てくる。
そして次の瞬間地面に真剣を刺したかと思うと技を発動する。
>「グランマ式剣術 一の地剣…土氷柱の剣!!!」
すると途端に地面が揺れ始める。
何か来る。
誓音は飛び上がった。
そして考えたとおり地面からローズの攻撃がやってくる。
針と化す地面。
なかなか精密で素晴らしくできが良い術だ。
剣術においては誓音を遙かにしのぐか?
誓音は怪物の手を地面に向けた。
「…でも…その土の剣が大砲に耐えられるとは思えないですね。」
そう言うと途端に掌に白い光が集まると刃状となり放たれた。
―第一の聖弾
白三日月!
放たれる白い刃はブーメランのように一瞬軌道から外れると、
土の刃を次々と大破する。
何もなくなった地面に着地する誓音。
すると誓音は即座にもう一発白三日月を放った。
手を抜かないとと分かりつつ思わず少々気合いが入った刃が。
>303>306
>「…そんなの…今から死ぬ貴方達には関係ないわ…。私の役目はチェンバル国王の名において…
>この塔を調べに来たオーガス側の者を殺すと言うことだけよ…。」
塔に居た二人の騎士達のことを知っていたのか、チェンバル国王はこの塔について調べに来たという者を殺せと命じたらしい。
だが、この塔の騎士達がオーガス国の紋章を付けていたように、この女性もチェンバル国の鎧を着ているだけかも知れない。
彼女が崩壊したオーガス側の監視台を調べに来た者達を、チェンバル国の名義を使って殺すことにより、
オーガス国とチェンバル国の不和を引き起こそうとしているのであろうか?
地上の国のことは詳しく知らないが、絶対者との決戦の為に国力を高めているオーガス国に、
チェンバル国をぶつけることで国力を減らそうという可能性もある。
鍵を握っているのはこの女性。
何にせよ、彼女を無力化して捕縛することが大切なのかも知れない。
>「グランマ式剣術 一の地剣…土氷柱の剣!!!」
剣を構えた彼女は地面に剣を突き刺す。
地面が僅かに揺れ、女性を中心に地面が針状と変化。
誓音は地面が針と化する前に飛び上がって回避。
針の効果範囲は2〜3m。
イルの方にまでは地面の針が襲い掛ってくるということは無かった。
飛び上がった誓音は、地面に異形の手を向けて、白い三日月の刃を放つ。
三日月の刃は地面から噴き出た土の針を、ブーメランの様な軌道を描いて次々と破壊。
全てを破壊し終えると同時に、誓音は着地。
それと同時に先程の三日月を、今度は女性に放つ。
その攻撃から一拍を置いて、イルは女性の後方へと回り込んで、女性の足下に水面蹴りを仕掛けた。
>306-307
土の刃はあっさりと砕かれた。
目を見開くローズ。すかさず和装の女は土の刃を砕いた白い三日月の刃をローズに向けて発射!
ローズは避けようとするがその刃の早さに追いつかずに当たってしまう。
「ぐはっ…!」
血を吐くローズ、そして今度はイルの水面蹴りがヒット!
するとローズの足がボキン!と折れた。
イルと誓音の余りにも強力な力に持ち通り折れたのか?
それは違う。
倒れるローズ、その顔はみるみるうちにローズの顔からローズが率いてた暗殺者の一人である爪使いの顔へと変化していった。
そしてその折れた足の断面から出てきたのは灰色混ざった黄緑糸をした薔薇の茨!
茨はみるみるウチにあふれ出ると、近くにいた軍の者の一人の耳の中に入る。
そしてその者は内側から人食い薔薇の餌食と化した。
人食い薔薇に食べられたその軍の者は穴だらけになると根を張られる。
先ほどより少し大きくなった人食い薔薇。どうやらこの薔薇は人を食っていく事により、
巨大化し、パワーアップするらしい。
人食い薔薇はクネクネと成人男性ぐらいの大きさとなった茨の茎をうねらせる。
その姿を見た周りの兵達は騒ぎ出す。
クネクネとうねらせていた茎の動きをピタッ!と止まらせる人食い薔薇。
すると次の獲物を捕らえようと、再度、軍の兵の一人に向かっていく…!!
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
オーガスの軍隊もどうやらその様子に気付いたらしかった。
オーガス率いる軍隊は慌てて動き出す。
その中に一人毛の色が違う女が居た。
それは本物のローズ。
ローズは静かにオーガスに近づく。
元々全ての混乱、仕込みは場を混乱させることと、
待機しているオーガスの軍を予定より早く、急に動かし慌てさせ自ら軍に侵入するのが目的であった。
オーガス皇帝騎士の鎧の輝きが見えるまで近い位置に移動する。
ニンマリと笑うローズ、そして…静かに真剣を抜くと、オーガスに斬りかかる!!
ザン!!
「…!?!?!?」
しかしローズが斬りつけたのはオーガスではなかった。
受け止められる刃、そして周りの兵達がローズに向かって木製の槍を向ける。
そしてローズは自分が振った刃を受け止めた者の正体に気付くのだ。
それはオーガスが身につけてる鎧に似たものを身を纏ったオーガス皇国の侍従長、ランべ…!!
「…あら……邪魔する気なのかしら…皇帝様のママ代わりに落ちたランべ様がこの私を…」
そう言うと鮮やかに笑うローズ。しかし明らかに心中はむかついていた。
オーガス皇国の侍従長、ランべはその笑みを笑みで返す。
「フン…私もまだ腕は落ちてないつもりだ……あの戦いから数年……お前こそ暫くこの国を離れていたせいで鈍ったのではないのか?
緊急で集めた兵で作った偽オーガス軍にまんまと騙されるなんてな。」
そう言うランべ。その顔と口調は先ほどとは全く違うものとなっている。
実はランべは過去ある戦に参戦していた勇者の一人であったのだ。
そう、嘗てローズが参加していた戦の…。
しかしそれは今になってはローズにとって苦い思い出だ。
ローズは言う。
「…驚いたわ…どうりでテントの結界がやたらよく出来てると思ったら
…優秀な結界師であられた貴方がオーガス皇国の侍従長をやってるなんてね……。
…そう…オーガス皇国はまだこの事を知らずに待機してるって事…貴方の幻結界によって……。」
幻結界…その結界内に入った者に数分ほど幻を見せる事が出来るという高等な技。
「まあな……しかしもうそろそろ気付かれるだろう。
第三監視台を破壊した時これ以上派手な事がオーガス皇帝騎士の目にとまらせてはいけないと思い緊急に貼ったものだからな…。
……それにしてもあの趣味の悪い薔薇をオーガス軍の所だけじゃなく……チェンバル王にもしこんだらしいじゃないか…。
チェンバル王…今頃さぞお怒りになられてるぞ?…あのような悪趣味な敵を送られたのだから…」
「あら…私の遺伝子を組み込んだ子供に酷いこと言うわね……そこまで知ってるのなら彼女達やチェンバル王を助けないで良いの?」
そう言うとローズは侍従長、ランべを睨み付ける。本当に我が子供を貶されたときの親の表情のようだ。
ランべはその顔を見てフンと鼻で笑うと言った。
「…お前の目は節穴か……第一お前の計画は根本的に狂ってる。オーガス皇帝騎士を甘く見すぎだ。
それに……お前はあの者達を余りにも甘く見過ぎてる…
彼女達は俺より頭が働く上…強いぞ?」
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
人食い薔薇×2(イル組に一匹、チェンバル王に渡した種が急に発育され一匹)
人を食う度に力を蓄える薔薇。
寄生型で、取り憑いた者を食べるだけじゃなく、操ることもできる。
ラスト仕込みです。
月の刃はローズに当たる。
>「ぐはっ…!」
血を吐くローズ。
そして今度はイルの水面蹴りが当たり、
そしてローズの足がボキン!と折れた。
「え!?」
唖然とする。
その折れ方は正しく木が折れたかのようだ。
みるみるうちに顔が変わる。
そしてその顔を見て女の事を思い出す…
「あ、あの時の…!!」
そして、茨が溢れていった。
思わず後ずさりする誓音。
すると茨は地面をはっていくかと思うと猛スピードで近くの軍の人間に寄生しようとする。
慌ててそれに向かって白三日月を放つが、
間に合わない。
あっさりと寄生され、
肉は食い散らかされた。
そしてそこから巨大な薔薇の怪物が現れる。
「…随分と…悪戯にしては悪質ですね。」
そう言う誓音。
誓音は怪物の手を下に置く。
そして薔薇は次の瞬間他の兵へと乗り換えようとする。
が、
―第一の聖弾…応用弾
白九日月!!
伸ばされた茨は、
九本の三日月によってズタズタにされた。
悲鳴をあげ赤い花が下へ落ちていく。
しかしその花は茨を再生すると、
大量の茨の蔓の束となる。
そしてその内の二本が、今度は誓音に寄生しようと蔓を伸ばす。
目つきがガラリと変わる誓音、
同じ笑顔でも殺気を込めた残忍な笑みに変わる。
「私に寄生しようっていうんですか?」
そう言う誓音、
今度は技も使わず怪物の手で襲ってきた二本の茎全て掴むと
木刀で蔓をぶち切った。
そして誓音は天へと伸びる蔓を警戒に上り、叫んだ。
「イルさん!薔薇の花に攻撃を!!」
上空にある、花の少し上まで飛び上がる。
>308-310
白い三日月の刃がローズの胸元に当たり、続くイルの水面蹴りが綺麗にヒット。
ボキンと、嫌な音を発ててローズの足の骨が折れる。
これで戦いは終ったのだろうか?
ローズは倒れた。
そのローズの顔が別の人間に変わっていく。
イル達が倒したのは囮で、本物のローズはどこかにいるのか?
それとも、ただ他の者達を欺く為に、女性の姿に化けていただけなのだろうか?
>「あ、あの時の…!!」
「誓音さん、何か知っていらっしゃるのですか?」
イルが誓音の方を見た途端、誓音は後退りする。
何に対してか?
それは、先程の女性の半ば千切れかけている、骨折した足の断面から生えた茨。
茨は凄い速度で地面を這って進み、一人の兵士の耳元から侵入。
誓音が三日月の刃を放つが、放たれる前に茨は侵入し終り、三日月の刃は兵士の首をかすめていくだけだった。
侵入した茨は内部から兵士の血肉を養分に変えていってるのだろう。
兵士の体からは所々から茨が生え出る。
茨は兵士の体を完全に食い尽し、前より大きくなった。
「人食い薔薇ですか…
魔界ではよくこのような植物がいますが、地上の人間はこのような類の植物には慣れていないようですね」
それ故に、被害が甚大になっていく可能性がある。
一番良い方法は、早い内に焼き尽すのみ。
イルはその場から下がって人食い薔薇から距離を取ると、魔術を組み立てる。
その間にも人食い薔薇は犠牲者を増やそうてするが、誓音に阻まれている。
>「イルさん!薔薇の花に攻撃を!!」
魔術の構築はちょうど完了したところ。
後は、大きいのを一つ放つだけ。
誓音の言葉に反応して、人食い薔薇がこちらに触手を延ばしてくる。
だが、遅い。
「これで…燃え尽きてください」
人食い薔薇に向けられた掌から放たれた、極太の火炎流が襲い来る触手を焼き滅ぼし、薔薇の本体をも滅ぼさんとする。
>304
ラジャリが振り抜いた短刀は空を切った。
素早く転がり、その勢いで立ち上がったマックスに対し追撃もできない。
そのままほんの一瞬睨み合った。槍を構えたマックスが口を開く。
>「ああ、アンタ達がカーディナルってのか。傭兵の中にも暗殺者集団に詳しいのが居るからよ、話には聞いてるぜ」
>「ラバートだかの飼い犬……どんなにすげぇ集団かと思えば……大したことはねぇ……なぁっ!?」
最後の言葉と同時に、ラジャリの足元に槍が投げつけられる。
ラジャリは右足の外側で穂先を蹴った。槍が向きを変える。
そのまま足を振り戻しながらもう一蹴り、槍をマックスへ返した。
「オレ相手に素手で来ようなどと思わんほうがいい。そんな棒切れでも足しにはなるだろう」
マックスに言われた事など何一つ耳に入っていないようにラジャリが言う。
それから無造作に一歩踏み込みながら体を沈め、伸び上がるようにマックスへ斬りつけた。
>305>309
一方チェンバル王は、白花騎士団に対し繰り出した騎兵隊の戦いぶりに対しすでに言葉も出ない状態だった。
顔色も赤くなったり青くなったりと目まぐるしく変わる。
騎兵隊は冷静に対処するセシリアに対し数で押すのが精一杯で、良くて相打ちまでいけるかといった所だろう。
オーガスの他部隊も進行してきている中、これ以上一つの戦局に兵士を投入する事は、
さすがのチェンバル王にも出来なかった。王が歯を軋らせる音がぎりぎりと響く中、ある兵士が王へと近付く。
「ええい、今度は何事かっておわあぁぁ!!」
いらだたしげにその兵士へと振り向いた王が悲鳴をあげ後ずさる。
兵士は先ほど『種』を回収した近衛兵の一人で、そのまま種を持たされていた。
そして今、それが発芽し、兵士の体を蝕んでいた。剣の柄に手をかける。
「な、何をしておる!はよう取り押さえんか!!」
王の叫びに我を取り戻した近衛兵たちが先ほどと同様にその兵士をタコ殴りにする。
殴り倒された薔薇野郎が運ばれていく様を目で追っていたチェンバル王の背が震えていた。
「………どいつもこいつもコケにしおって…魔導士を呼べい!この上は余自らが出る!」
呼び出された宮廷魔導士が王の周りに魔法陣を描き、呪文を唱える。
王の各種能力を増加させる術を執り行っているのだ。
これがすめば王はしばらくの間はそれこそオーガス騎士に匹敵する戦闘力を得られる。
詠唱は最終段階に入った。
「…ブツブツ……アッヤベ」
「ちょ、おま『やべ』ってどういう…ぐおおおおおおおおお!!」
絶叫とともに王の体が膨れ上がる。
魔導士のミスは些細なものだったが、扱っている魔力は膨大なものだった。
それゆえにほんの少しのずれが、最後には大きな歪みとなって現れるのだ。
そして、現れた歪みは目を大きく見開いた形相に角を生やし、
全身を隆々とした筋肉に覆われた体長およそ10mの巨人。
言うまでもなく暴走した術によって姿を変えられたチェンバル王である。
「ゴアァァァァァァァ!!」
王は周りにいる兵士を腕で跳ね飛ばすと、一声咆哮を上げ、口から火球をでたらめに吐きまくった。
>312
「……!?」
マックスは戻ってきた長槍を右手で取った。マックスが投げた長槍は、ラジャリによって軽く返されたのだった。
「へぇ、実は結構力入れて投げたつもりだったけど、まさか簡単に返されるとは……はわぉ!?」
マックスの言葉などお構い無しといった風に、ラジャリは踏み込みから鋭い一閃を放つ。
マックスは左腕に思い切り力を入れ、その地面から伸び上がる閃光を真っ向から受け止めた。
刃は何も着けていない腕にガッチリと止められている。 すかさず長槍を持った右手に力を入れる。
「……素手じゃ何だって?」
マックスの肉体改造は常軌を逸する。彼の筋肉は力の入れ具合次第では刃など受け付けないのである。
但し、「切れ味を強化する術」がほんの少しでも掛かった刃であったなら、マックスの腕などゼリーよりも簡単に斬られていただろうが。
「勝算の無ぇ戦いをする馬鹿がいるか!」
そのまま左腕で刃を左に弾き、ラジャリを薙ぎ払わんと右手の長槍を思い切り振り回して追撃を図る。
>312
セシリアと老騎士が戦線に戻る。
包囲されぬように外縁をなぞりながら目に付く敵を片っ端から殴って回り、何とか相手を押し返していった。
当初明白だった数の差も、向こうがいまだ恐慌を来たしていることもあって埋まりつつあった。
他の部隊が接近していることもあり、チェンバル軍騎兵隊は退却を始める。
セシリアはそれは追わずに味方の状況を調べる事を優先させた。
あくまで模擬戦、実際の戦のように執拗な追撃は必要ないという判断だ。
「3分の2といったところか…思いのほか残ったな。取られた者にも大事は無いな?」
部下の報告を聞き、呟く。十分に戦闘を継続できる戦力だ。
「よし、総員弩持て!今度はこちらから仕掛ける!」
セシリアは追っていたカーディナルのことなどすっかり忘れ、部下に指示を出す。
そして鞍にクロスボウを引っ掛け、馬を走らせようとしたその時、チェンバル軍陣地から悲鳴が上がる。
目をやると、陣地の中央に巨人が出現していた。
その巨人が腕を振り回し、火球を吐き散らかしている。
「召喚術か?さすがに見過ごせるレベルでは無いな…」
セシリアは剣を捨て、左腕を突き出した。
「それが許されるのならこれも範疇ですな?チェンバル王!」
叫ぶと同時に腕輪が光り、空気の塊が高速で撃ち出された。
立て続けに撃ち出されたそれは巨人の吐く火球を次々に吹き消していく。
そうして周辺への被害を食い止め、それから部下へ指示を出した。
「全員下がれ!さすがに『おもちゃ』で相手に出来る敵ではない!」
木剣や鏃のない矢では挑むだけ無駄だ。
今あれを倒せるのは武器の有無が余り関係しない者、つまり魔道士か、オーガス騎士である。
さらに言うならこの事態を見るにつけ、チェンバル側の魔道士はあてにならないだろう。
セシリアは走る馬の背で手綱から両手を離し、鐙をしっかりと踏みしめる。
左手に右手を添え、真っ直ぐ巨人に向け、3発連続で撃った。
>314
巨人は首をかしげている。
自分の吐いた火の玉が地面に当たる前に消えてしまった。
「グオァァァァァ!!」
理解できない事態に思わず怒りを覚え、また咆哮を上げる。
率直に言って頭の出来は悪いらしい。素材のせいかどうかはわからないが。
巨人が辺りに首を巡らせて、もう一度火球を吐く。丁度その時セシリアの放った風が襲来する。
最初の二発は火球と相殺されたが、残った一発が顔面を直撃し、大きくのけぞった巨人は、
しかし何とか踏ん張って姿勢を戻した。
――その目に映ったのは皇国旗。
「オオォォォォガァァス…」
攻撃してきたセシリアより先にそれが目に入った巨人は、オーガス本陣へ向けて動き出した。
途中にいた兵士達を敵味方を問わずに跳ね除けながら。
>313
>「……素手じゃ何だって?」
ラジャリが繰り出した下からの斬撃をマックスは素手で止めた。
というより「素肌で」といったほうが正しい。ラジャリが思わず目を剥く。
そのまま刃が食い込んだ腕を振って短刀を弾くと、連続した動作で右手の槍を振る。
ラジャリは水平に振りぬかれようとする槍に足をかけ、スイングのスピード、槍の反発力、
それに自身の身体能力を合わせ大きく跳んだ。
「聞きしに勝る出鱈目ぶりだな…」
起き上がりながら呟くラジャリの耳に笛の音が届く。
チェンバル王の変身した巨人についての報告だ。
ラジャリは即座に、周辺の目が巨人へ向くこの機に乗じて皇帝を狙えと指令を返す。
演習に参加している主なオーガス騎士の居所はおおむね掴んでいた。
セシリアはチェンバル軍本陣近く、巨人の進路上だ。
イル、誓音は第三監視台。異国の暗殺者、ローズと戦闘中。
そしてマックスは、ラジャリ自身が抑える。
これでイレギュラーが無い限り、皇帝の周辺警護は通常戦力のみということになる。
もっともその皇帝自身が通常をはるかに逸脱しているのではあるが…。
「さて、効かぬというのであればこれは要らんな」
ラジャリはマックスへ向け走りながら短刀を投げ、それを追うようにさらに速度を上げて踏み込み、
マックスのこめかみ目掛け掌打を打ち込む。
>310-311
「…!?」
ローズを覆っていた我が子の気配が弱まっている。恐らく2匹とももう命を絶ったか立つ寸前か…。
…即ちどうやら負けという事らしい。
ローズはため息をつくとランべを観た。
ランべは不敵に微笑み「言ったろ?」といった感じだ。
ローズは剣を降ろす。
「…我が子が殺された上敵の罠に引っかかる……私も落ちた物だわ…全て…貴方の言ったとおりね。…憎い人…。」
そう言うと剣を収めた。周りにいた兵達は以前睨んだままだ。ローズの表情は寂しそうだが以前冷たい表情だ。
ランべの表情は少し穏やかになると、少し目を瞑ると口を開いた。
「……絶対者…という神に最も近き者が居るらしい。」
「…絶対者?」
聞き返すローズ。ランべは目を開いた。
「…嘗ての対魔戦争も全てその者が巧んだ戯れ…他にも数多の戦、悲劇を引き起こしたであろう者、それが『絶対者』だ。
…君の嘗ての悲劇ももしかして奴が起こした事なのかもしれない。」
その言葉に目を見開くローズ、そして素早く剣を抜くとランべのほすれすれを掠らせる。周りの兵が動く。
しかしランべは以前表情を変えない。
「…それは本当の話?」
「…ああ……まだ一部の兵や人間にしか知らされてないが…本当の話だ…。」
そう言うランべ。暫くランべとローズは見つめ合う。そしてローズが何か言おうと口を開いた瞬間だ。
>312
――ズド――――ッン!!
突如大きな音が鳴り響く。
ローズとランべが音がする方を観るとそこにはおぞましい力を纏う巨人。
「あれは…!!チェンバル王ではないか…!?お気を触れたのか!?」
そう言うランべ。ローズはその中で表情も変えずその巨人を観ていた。ランべはざわめく兵達を観ると一喝する。
「静まれ!お前らはそれでもオーガスの一軍か!すぐさまにオーガス皇帝騎士の護衛へいけ!以前気づかれずにな!
結界班は幻影結界の強化を頼む!」
「あ…はっ!」
一喝された兵達は一斉に動き出した。
そしてランべはローズの腕を掴んだ。
「お前はこっちへこい。」
「!?一体何を…」
しかしランべはローズの問いには答えず、巨大な羽をはやすとローズを抱え共に飛び上がった。
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
飛び上がって何分もせぬうちにランべは誓音とイルの元に着地する。
「…!降ろしなさい!早く!」
そうローズに言われランべは丁寧に降ろすとイルと誓音の元に駆け寄る。
「イル殿!誓音殿!姿は違いますが私、オーガス皇国の侍従長、ランべでございます。この通り…」
そう言うとみるみるウチに顔が先ほどイル達の目の前に居た侍従長の顔へと変わる。
そして再度元の顔に戻ると話を続ける。
「…暗殺者の捕獲はあなた方のお陰で見事成功しました。しかし、事態が急変いたしました。
至急あの巨人の元へお急ぎ願いたいのです。あの巨人はそこらの兵では抑えるのはムリです。
武器になりそうな物はもってきました…が、お気づきかもしれませんがあれはチェンバル国王です。
悪魔でも不殺しを貫いてください。」
そう言うと刀や槍など武器へ変化する銀色の球型ジェルを二人に渡す。
そしてランべはローズへ近づきローズに言った。
「…お前も一緒に来い、そして…直々にこの者達の闘いを観ればいい。」
そう言うとローズが言い返す前に、巨人の元へ行こうとする者達はランべの羽に包まれ、巨人の前へテレポートした。
>315-317
人食い薔薇はイルの魔術によって燃え尽き、灰へと変わった。
幸いにも、被害は一人だけで済んでいる。
後は、元凶となった女性を探し出して倒す。
そして、他に暗殺者達がいないか警戒し、辺りを捜索するだけ。
「では、誓音さん。先程の女性を探しに行きましょう」
そう言って動きだそうとした瞬間、上空から何かがやってくる。
それは、先程の女性と見知らぬ男性。
女性の方は男性に、無理矢理抱きかかえられているといった形だ。
二人はイル達の目の前に着地し、女性を丁寧に降ろした。
>「イル殿!誓音殿!姿は違いますが私、オーガス皇国の侍従長、ランべでございます。この通り…」
男の顔が変わり、前に見た侍従長の顔に変わり、また元の男の姿に変わる。
何故、あなたはその女性と一緒にいるのか?と、聞こうとした途端、男の口が開く。
>「…暗殺者の捕獲はあなた方のお陰で見事成功しました。しかし、事態が急変いたしました。
〜省略〜
>悪魔でも不殺しを貫いてください。」
侍従長は何を言っているのだろうか?
巨人がいて、それがチェンバル国王。
にわかには信じられない話。
チェンバル国王は模擬戦で死者を出すつもりなのだろうか。
先程から地の底に響くような重低音が鳴っているが、それも巨人が歩いているのだとすれば、少し納得はできた。
侍従長は銀色の球体をイル達に渡す。
これが武器らしい。
試しに、魔力を通して使う武具のイメージをする。
手に持った球体は刀の形に変化した。
刀を元の球体に戻し、イル達は侍従長が生やしている羽根に包み込まれる。
その中には、暗殺者の女性もいた。
舞台は変わり、巨人の近くへ。
目の前には理性を無くしたような巨人が、雄叫びを上げながら本陣へ進んでいく。
「本当にチェンバル国王なんですよね?
あの様子から見ますと、魔力が暴走しているようです。
あのままですと、魔力が切れるまで見境無く暴れ続けるか、最悪の場合は爆弾のように爆発するかも知れません」
イルは手に持った球体を投げ槍の形に変形させ、巨人の脇腹に狙いを付ける。
「対処法としては、ダメージを与えて動けなくなった後に、体内の魔力をゆっくりと外に出すこと」
大きく振り被って、投げ槍を巨人の脇腹目掛けて投げつけた。
>315
風を打ち出した瞬間、巨人がセシリアを向いた。
口を開き火球を吐く。最初の二発がそれと相殺された。
最後の一発は全く減衰される事なく命中する。しかし、巨人は倒れなかった。
「見た目どおりに頑丈、か」
のけぞった姿勢から背筋だけで体勢を整えた巨人を見ながらセシリアが呟く。
馬をとめて鞍から下り、手綱を取って向きを変えさせる。そのまま軽く脇腹を叩いて走らせた。
優秀な軍馬だが、さすがにこれ以上はついて来られないだろう。
振り向くと、巨人が一歩を踏み出しているところだった。
「…本陣が狙いか」
セシリアとしては攻撃を仕掛けた自分に注意が向くものと思っていたが、
巨人はそれよりも皇国旗に敵意を向けているようだ。
邪魔になるものを腕で払い飛ばしながら真っ直ぐに進んで行く。
「どなたかは存ぜぬがレディを放っておいてどこへ行かれるおつもりか!?」
大声で巨人に呼びかけながら、魔石の力を解放する。
冷風が吹き抜け、細い氷の筋が巨人の足元へ向かって伸びていった。
イルの魔法により怪物薔薇は死んだ。
上級魔法じゃないというのに凄い威力だ。
誓音は唖然とする。
しかし、騒ぎはそれだけではすまなかった。
>「では、誓音さん。先程の女性を探しに行きましょう」
「あっはい!」
そう言うと誓音は走り出そうとした時だ。
突如上空から一人の男がやってきた。
見たところ若いその男、そして男は女を抱きかかえていた。
暫くその女を見て誓音は叫んだ。
「あっ!この女…」
その女は先ほどの白いおかっぱ頭の美女だった。
そしてやっと気付く。
この女どこかで見たと思ったら先ほどもの凄い腕の良い剣を振るってた女だった。
何か言おうとした途端男は驚くべき事を言ってきた。
>「イル殿!誓音殿!姿は違いますが私、オーガス皇国の侍従長、ランべでございます。この通り…」
「え!嘘!」
思わず叫んでしまう。
途端に男は顔を変えてみせる。
確かに男はオーガス皇国の侍従長だった。
男は言う。
>「…暗殺者の捕獲はあなた方のお陰で見事成功しました。しかし、事態が急変いたしました。
省略
>悪魔でも不殺しを貫いてください。」
>そう言うと刀や槍など武器へ変化する銀色の球型ジェルを二人に渡す。
誓音はそれを受け取ると少々瞳を閉じた。
すると聞こえてくる。
巨人の音が。
心臓音が。
「…確かにこの音は…人間っぽいですけど…」
しかし誓音は余りに信じられなかった。
一国の王が一体全体どうしたというのだろう。
するとランべは羽根を伸ばした。
そして一瞬で誓音達は巨人の前へ移動してくれる。
すると確かにそこに巨人は居た。
しかも思ったより大きい。
イルが言う。
>「本当にチェンバル国王なんですよね?
> あの様子から見ますと、魔力が暴走しているようです。
> あのままですと、魔力が切れるまで見境無く暴れ続けるか、最悪の場合は爆弾のように爆発するかも知れません」
「そんな、んじゃなんとかしないと…」
そう言うと誓音は球体を刀型に変化させた。
イルも槍状に変化させる。
>「対処法としては、ダメージを与えて動けなくなった後に、体内の魔力をゆっくりと外に出すこと」
そう言うとイルは、
>大きく振り被って、投げ槍を巨人の脇腹目掛けて投げつけた。
そして誓音の目付きも一片に変わった。
「御意。」
そう一言言うと誓音は飛び上がった。
刀を天高くあげる。
スイッチが完璧に切れ変わる。
誓音は笑った。
残忍な笑み。
「我を忘れてご乱心ですか?王様。
…お痛はここら辺にしてくださいませんかねえ!」
そして次の瞬間誓音は肩を目かげて刀を振り下ろす。
殺す気はないが右腕を全部切り取るつもりだ。
322 :
名無しになりきれ:2006/10/07(土) 17:17:45
あにき
323 :
安倍 ◆ABePGhu9xc :2006/10/08(日) 19:11:59
安倍です
>318-321
「…お前も一緒に来い、そして…直々にこの者達の闘いを観ればいい。」
ランべの言葉に否定も出来ぬ間に、ローズは羽根に包まれていった。
そしてランべとイル、誓音は巨人の前へテレポートする。
その中にローズの姿はいない。
>「本当にチェンバル国王なんですよね?
> あの様子から見ますと、魔力が暴走しているようです。
> あのままですと、魔力が切れるまで見境無く暴れ続けるか、最悪の場合は爆弾のように爆発するかも知れません」
「ああ、それだけは絶対に避けなければならぬな。」
そう言うとランべは呪文の詠唱に取りかかる。
*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+
戦闘が開始した中、ローズはというと、ランべの分身に抱きかかえられ、結界の貼られた上空内に浮かんでいた。
ローズはランべを一回睨んだが、こうなっては仕方がない。
上空で下でイルと誓音を静かに見つめる。
静かな上空の中、地面はもの凄い惨事となっていた。
様子に気付き逃げまどう兵達もいれば、忠実に隊長命令を聞く者、その中で戦おうとする者達もいた。
過去の苦い思い出が思い出されローズは目を背けたくなる。かならず戦争にこういう者はいるのだ。
弱いくせに自分の誇りの為に必死で強い者と戦おうとする戦士が。
しかし結果はいつも分かり切っていた。
無表情でローズは見つめ続ける。
目を背けたかったが、人の前で、ましては過去の戦友の前でそんな弱い事はしたくなかった。
ランべの分身はそれを察したかのように語り出す。
「…私は、抗魔戦争が起こる前、正直言って負けると思っていた。」
ローズははっとした顔でランべを見つめる。
ランべの方は以前戦火を見続けていた。
「…正直言って圧倒的にこちらは不利だった上、自分が強ければ強いほど、サタンの力を痛いほど理解してしまう。
だから私は皇帝騎士の侍従長であり続けた。家族もいる身の上死ぬわけにはいかなかったし…
何より私はやるだけ無駄だと思っていたからだ。
あの戦を…。」
そう言うランべの顔は穏やかながら少々苦々しかった。
ようするにローズ風に解釈すると勝負をする前からしっぽを巻いて逃げたという事だ。
しかしローズは毒を吐かず静かに聞きいる。ランべは話を続ける。
「しかし…奴らは違かった。奴らは強かった。だから知っていたはずだった。サタンの力を。
しかしそれでも尚立ち向かっていった。人のため、世のために…強い信念を持って。そして勝利を掴んだんだ。
…圧倒的に不利な状況の中何故彼らは勝利を掴んだと思うかい?」
そうやっとローズの方を見るランべ。
訪ねられたローズは少しランべの顔を見ると、背け言った。
「…そんなの積み上げてきた物がサタンより彼らの方が大きかったからに決まってるじゃない。
サタンがのうのうとでかい顔して居座ってる間、そのお馬鹿な英雄達は必死扱いて積んでいったのよ。
…勝負なんて全てそうよ。例えどんな素質を持っていたって所詮はただの蕾。
水を与えなければ枯れて無くなるわ。」
それは自分にも言えることだ。
ローズはイルと誓音を見つめる。
必死で今まで頑張ってきた何十年、何百年、何億秒。
今まで一度だって剣を振るわなかった日はなかった。
自分の蕾が例え一生完全に咲かないかもしれなくても、ひたすら、何百回と。
ランべは苦笑した。
「…お前らしいといえばお前らしい答えだな。
確かに其れも正解と言えば正解だ。努力は戦において最も重要な物だ。
…だが…積む以前に大切なことが一つある。」
ランべは戦火を見つつ微笑む。
まるで目の前に居る英雄達にそれを教えて貰ったかのように。
私とて魔王屈辱を受けるくらいなら死んだ方がましよ
327 :
名無しになりきれ:2006/10/09(月) 19:24:56
埋めるんならはやく埋めたらどうだい
328 :
名無しになりきれ:2006/10/09(月) 19:29:38
NPCでも考えるか
329 :
名無しになりきれ:2006/10/10(火) 01:33:06
新必殺技
カイザー
カイザーフェニックス
必殺技
セシリア
酒乱でGO!
331 :
名無しになりきれ:2006/10/11(水) 01:44:44
カイザー新必殺技
ゴッドフィンガー
フェラコン新必殺技
龍拳
セシリア新必殺技
ファイナルアトミックバスター
マックス新必殺技
剛体術
誓音新必殺技
黒の黙示録
とりあえずカイザーはカイザースレで頑張れ。
埋め立てとしてレスしておく。
騎士スレの繁栄を願って、名無しとしてネタをこれからも振りたい。
次回は絶対者編は無しにして、フリーザ編を希望。
それが駄目なら邪悪竜編。
>>332 >次回は絶対者編は無しにして、フリーザ編を希望。
>それが駄目なら邪悪竜編。
それ何てドラゴンボール?
俺としては非常に面白くなりそうだと思うが。
面白くないのは
それ何て〜〜
の事だろ
あと版権だったら他でやれ
次スレでレスが来ないのは、ここがまだ埋められてないからなのだろうか?
そこで私はそれを確認するべく埋めの作業に入る。
だが、気のきいた小咄など私はできない。
文才が無いのは辛いものだ。
かといって、現在私は携帯を使用している。
それ故に長編AAが書けない。
ならばどうする?
地道にここで無駄話でもすればいいのだろうか?
無駄話をするくらいなら試合がしたい。
かつてのオリキャラコロシアムのような試合を所望する。
勝負はこのスレが容量切れを起こすまで続く。
使用キャラは版権キャラ限定。
容量も少ないことだ。
テンプレ等を書いていたら容量が切れる。
私の使用キャラはダイの大冒険のフレイザードを使用させてもらう。
現在容量495
あと1、2レスはいけそうな気がするけどな
>>338 ファルコン、それは新たにコロシアムスレ立てた方がいいんじゃないか?
5KB埋められても通らないだろ
ちょっとした文章でも書いて、早めに落としたいところ。
344 :
名無しになりきれ:2006/10/27(金) 07:08:39
ほっしゅ
345 :
名無しになりきれ:
シャインフェニックスバード!