【ZONBIE】ゾンビから生き残るスレ2

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144田舎の男
信金職員の胸元に深々とカマの刃が刺し込まれる。職員は後ろによろめくが、すぐに体勢を立て直して俺のほうに両手を突き出す。
唇が裂けんばかりに大口を開けて迫る職員の股間に、俺は満身の力を込めて蹴りを見舞う。
ごり、と軟骨を噛み砕いたような音がして職員の下半身が振るえ、ひざをついた。俺はベルトに挿していたナタを取り出し、その頭にぶんと振り下ろす。
赤い筋から血と脳汁らしき液を垂らしながらけいれんする職員。その上着でナタについた血を拭い、胸に刺さったカマを引き抜く。

俺は小走りで移動することにした。歩いても‘あれ’は振り切れるが、街に押し寄せたたくさんの‘あれ’のこともあり、少しでも早く街から離れたかった。
道の両脇は相変わらずの畑、荒れ地、山。そして点々と立つ小屋、サイロ、看板。
‘あれ’の数も次第に多く見るようになった。‘あれ’はみんな俺がいた田舎のほうに向かってふらついている。
俺は都合よく解釈した。大きい街にいる‘あれ’はあらかた獲物を食い尽くして、こっちの田舎にむかっている。つまり今大きい街にいけば‘あれ’とは入れ違いになって、俺は安全に行けるんじゃないか、と。
楽観的な展望で笑みさえ浮かびかけた時、道の側溝にはまって傾いたキャンピングカーが視界に入った。
その側には髪が乱れた若い女が座っている。車と女にはさまれるように、幼児が寝ていた。肩で息をしているのが遠くからでもわかる。
「あ、お巡りさん。たぁ、・・・助けてくださぁい」女が俺に叫ぶ。・・・?、ああ、この帽子のせいか。
俺はかぶって以来すっかり制帽の事を忘れていた。しかし、帽子一つで俺を警官と見間違うとは、この女どうかしているのか。
「く、車がはまって。ワタシ一人じゃどうにもならなくて・・・。娘がケガしてて、病院に行きたいんです。でも街はもうメチャクチャで。ワタシも襲われてケガして・・・」
女は俺を見ながら一気にまくし立てる。女も幼児もぼろぼろな格好で、その体はケガなのか返り血なのか、乾いた血のりでべっとり汚れている。
俺は女の左手と幼児の両足に、包帯やスカーフがきつく巻かれているのを見た。俺の視線が動いたのに気づいたのか、女は聞いてもいないのに傷のことを話し出した。
「娘が、娘が街で化け物に噛まれて、病院にいこうにも病院もダメで、車に乗ろうとしたらワタシも噛まれて、ああどうしたら・・・」
女は頭をかいたりうつむいて独り言を言ったり、俺のことなど眼中になさそうだった。
面倒なことは好きじゃないから。俺はそう言うと、ナタを女の頭に振り下ろした。直前に女が気づきよけたため、ナタは片耳とその周りの肉をそぎ落とした。
「ヤァ、・・・!ぎゃああぁ〜っっ!」耳がちぎれた痕を両手で押さえて女が悲鳴を上げる。まずいな、この悲鳴で‘あれ’が寄って来るかもな。俺はナタをベルトに挟む代わりにナイフを取り出し、女の肩を掴む。
「噛まれたんなら、手遅れだから」愛想良く話しかけ、ナイフを女の胸に刺す。意外とすんなり刃は奥まで刺さり、女は息が詰まったような顔で仰向けに倒れる。
・・・やはり女の悲鳴のせいか。何体かの‘あれ’がこっちに向かっている。このまま走って逃げても‘あれ’はずっとついてくる。俺は映画で学んだ知識に従って‘あれ’を足止めする事にした。
まだ息のある幼児が俺をじっと見ている。口を動かしているが何を言っているかはわからない。俺はボトルの蓋をあけ、クーラント液を幼児の周りに振りまいた。
独特の甘い香りが鼻につく。液の赤い色は幼児の乾いた血よりずっと明るく、シロップのようにも見えた。
紙マッチを数本まとめてちぎり、火をつける。硫黄の焦げる匂いを胸いっぱいに吸い込み、俺は液を撒いたところに放る。
ぶぉあっ、と小さい爆発がして、一帯はオレンジの炎に包まれた。その中でゆらめく幼児の恐怖の顔には、奇妙な美しささえ伴っていた。
思ったとおり、近づいた‘あれ’は炎に怯えているのかその場から動けないようだった。俺はやはりな、と安堵し、また歩を進めることにした。
「ふざけるな。生き残るためには何だってやるんだ」映画の受け売りのセリフ。俺は道の脇にある交通安全の看板に向かってそう吐き捨てた。