【一心不乱の】オリキャラウォーズ3【大戦争を!!】
未明、体内からの急を要する訴えに、颶風は目を開いた。
ゆっくりと体を起こすと同時に、からっぽの胃が大きな音を立てて鳴る。
「おなか、空きましたね」
ポツリと呟く。充分に休息を取ったとは言い難いが、それでも多少は回復したのが判る。
魔力の回復は、通常時の半分弱と言った所か。
思ったよりも、遅い。空腹と、生命力まで使う破目になるような無茶が、未だに尾を引いているらしい。
ぱたりぱたりと、まくらを尾で軽く叩きながら考え込む。
出来るだけ早く、『食餌』を摂りたい物ではあるが・・・・。
「幾らなんでも、手近な所で済ますのはまずいですよね」
忙しく立ち働く看護士達を見遣りながら呟いた。
草食獣の獣相を持つ彼女らは、甚く颶風の食欲を刺激するのだが・・・・。
故郷で食物連鎖の頂点に立つ颶風にとって、同種であるはずの獣人を獲物として見る事にタブーは無い。
このような認識に至るまでには、故郷での法や慣習宗教的な意味合いなど、様々な要因が絡んでくるのだが。
基本的に、『より捕え易い獲物が居るから周囲の者に手を出さない』だけであり、
『他に獲物が居ない』状況であれば、周囲の人間や獣人を捕食する事に躊躇いは無い。
無防備に近寄ってきた看護士に、本能のまま狙いを定める。
脳裏に、ちりちりとした感触が生じたのはその時だ。
(ふむ、これも『召喚契約』に触れますか・・・・)
確かに、『帝國臣民を捕食する』=『帝國の不利益になる』事ではある。
その気になれば、無視して事を運ぶ事も不可能ではないが・・・・。
(まぁ、不愉快なのは確かですしね?)
看護士達に向けた『食欲』を抑えると、脳裏の不快な感触も消える。
颶風は、慎重にベッドから降りた。動くだけなら、支障は無さそうだ。
『狩り』に出るだけなら、これだけ動ければ充分だろう。
「敵兵でも、探しますかね」
魔術を併用しなければ為らないほどの相手を狩るつもりは無いが、
出た先でどんな強敵に出会うかは判らない。
内なる魔力の枯渇には多少不安が残るが、それは仕方が無い。
回復を早める為にも、何か腹に納める必要がある。
「近隣に牧場でもあれば、一番角が立たないのでしょうが・・・・」
家畜を飼育している農家でもあれば、家畜を買い取って喰えば良い。
・・・・前線では望み薄だが。
颶風は、のんびりと歩き出した。
途中で誰かに誰何されたら、『威力偵察に出る』とでも答えておく事にして。
行動:『狩り』の為に病院を出ようとする。(まだ病院内)
>67
ガリーナと共に車を乗り換え、事務所へ向かう。
「入隊手続きがある。内容は大体でっち上げで、後は君のサインを貰うだけだ。
それと書類上では、君がホロクロム氏の了解を得て志願した、って事になってるから」
起床時間の早い幾つかの部隊が、基地内を駆け回っている。
「ポッキー」第二旅団の隊はまだ見えない。
ルイはゲートからそう遠くない場所でジープを止め、ガリーナの手を引いて降りる。
「名前は書けるだろう、サインするだけでいい」
事務所へ入ってすぐのカウンターに声を掛け、事務員から書類を受け取ると、
形式だけの手続きを指示する。
「そこに名前を書いて終わり。もし何かマズい所があったら言ってくれ」
(空戦騎士隊)
帝國獣人騎士団『アスタル』が陣地に集結し始めている頃、後方の兵站基地には本国から飛竜で運ばれてきた獣人の一隊が到着していた。
数頭の輸送型飛竜船に分乗して此処まで着ていたのは、『アスタル』から一時離脱して本国で再編成中であった『空戦騎士隊』であった。
『空戦騎士隊』は鳥類型獣人のみで構成された騎士隊であり、竜騎士隊とは違って空を翼で飛べるので、彼らは空中からの支援を主に行う。
輸送型の飛竜船から降りた空戦騎士隊の面々は肩に長大な布袋を担いでおり、袋の中には大口径の魔装銃が入っている。
彼らは空中からの火力支援を得意とし、必要とあらば降下して乱戦に加わる事もあるので、騎士団の中では重宝されている戦力であった。
既に空戦騎士隊は兵站基地を離れ、丁度前線との境にある野戦病院に一時着陸してその羽を休めていた。
空戦騎士隊を率いる大鷲の獣人、『ルフルム・ダナドゥ』は野戦病院に運ばれてきているであろう『アスタル』の獣人の騎士達を見舞おうと、
野戦病院の正面玄関から病院内に入った。
朝早い時間にも関わらず、看護婦達は院内を慌しく駆け回っている。看護婦達はルフルムの獣人としての巨躯の脇を擦り抜けるようにして行き交う。
あまり野戦病院に来たことの無いルフルムには勝手が分からず、看護婦の誰かに尋ねようとはするが、ルフルムなどは眼中に無いようだ。
仕方が無いのでルフルムは案内板を見て、院内を探索する事にした。
「ふむ…獣人の病棟はこっちか」
長身を折って案内板を見、行き交う看護婦の邪魔にならないように背中の翼と巨躯を出来るだけ縮め込めて、獣人病棟へと足を運んだ。
>68
「ん?」
途中、曲がり角を曲がるときに何かが自分の胸に当たりにぶつかった。ルフルムは動じてはいないが、ぶつかった何かは尻餅をついたのだろう。
視線を下に向ければ、地面には自分と同じ翼を持った女性が尻餅を付いていた。
「おおっと、これは失礼」
ルフルムは慌てて女性に手を差し伸べ、引き起こす。女性は一見、看護婦という訳でも無さそうだ。かといって兵士にも見えない。
だが、驚くべきなのは女性の容姿。翼は生えてはいるが、顔は人間のうら若い女性。女性の後腰辺りからは尾も窺い見える。
亜人か?ルフルムはそう思ったが、少なくとも彼が生きてきた二十年間の余りの人生の中で、人間の姿と鳥人の姿を持った種族など聞いた事も無い。
士官学校時代は民族史サークルに所属していたので、東方大陸と西方大陸に住まう古今の民族については、下手な民族学者よりも詳しい。
(うーむ…古代のシャステカ帝国時代には顔が鳥人、体が人という変った種族がいたらしいが…この女性は反対だな。
顔は人、体も半分近くは人であり、鳥人の特徴を随所に残してるだけだ……うーむ。何と珍しきかな)
まじまじと女性の姿を観察し、物珍しそうに彼の猛禽類のように鋭い瞳が女性の顔を覗き込んでいる。
>70
ふわりと鼻先を掠める、嗅ぎなれないつんとした臭い。
故郷では用いられる事の無い様々な薬品の臭気に、つい気を取られる。
すたすたと、曲がり角を曲がろうとし・・・・、軟らかいような硬いようなモノに、したたかに鼻をぶつける。
空腹で力が入らないせいか、後ろによろけて尻餅をついた。
普段なら見せないような醜態に顔を赤らめる。
滅多にとらない『素』の姿だ。身動きの取り辛い事この上ない。
颶風の母が招いた男は、このような姿だったらしいが・・・・。
やはり、人の姿という物には馴染めそうに無い。
>「おおっと、これは失礼」
>ルフルムは慌てて女性に手を差し伸べ、引き起こす。
意地を張っても仕方が無い。不慣れな姿をとっている今だからこそ、ありがたく手を借りる。
立ち上がった後、出来るだけ無様に為らぬよう、故郷の神殿風の礼を取った。
顔の前で、軽く両手の指先を合わせ、軽く腰を折る。
「こちらこそ失礼いたしました」
>まじまじと女性の姿を観察し、物珍しそうに彼の猛禽類のように鋭い瞳が女性の顔を覗き込んでいる。
「何か?」
まじまじと見つめる視線を感じ、苛立たしげに尾を振った。
明け方の、まだ暗い周囲に合わせて広がっていた瞳孔が、感情に合わせて細い月の様な形に引き絞られる。
頭頂部から首筋にかけてを飾る糸のように細い青い羽根が、緊張を映した様に立ち上がりかけた。
指先に生えた鉤爪が、ゆっくりと起き上がり始める。
素早く彼我を比較する。それは、半ば本能的な反射で。
この相手は、獲物にするには手強すぎる。
そう判断し、取りかけた戦闘体制を無理矢理解いた。
立ち上がりかけた飾り羽を手早く撫でつけ、指先の鉤爪を手の中へ握りこんで隠した。
体調が万全であるならともかく、今は戦うべきではない。
第一、相対する猛禽が身に着けているこの紋章は、帝國軍の物だ。敵では無い。一応は。
「では、所用がありますので、これで」
軽く会釈をして、脇を通り抜ける。
行動:その場を立ち去ろうとする。
「………退却?……押し返すのは無理?」
戦場が見える崖の上でジェイクは何かブツブツ言っていた。
「………そうか。りょーかい」
手に持っていた小型の無線機をしまってライフルを担ぐ。
「…面白くないな。フツーに退却するのは……ん?」
ふと目に帝国の野戦病院が映る。
「…………」
無言でライフルを構えて照準をあわせる。
戦場に、怪我人病人関係無し。女子供老人差別無し。
公平平等、敵側に属するのなら、分け隔てなく死を与えよ。
……古巣で聞かされた言葉だ。
「……ヘドがでる」
腐っても、戦えない奴を殺しはしない。
さて、いっぺん本社に戻って帰還報告でもしよう。
行動:帰還準備
(ルフルム)
>71
傍から見れば変化が無いように見えるが、女性の中では徐々に闘争への体制が整りつつある。
鍛え抜かれたルフルムの鋭敏な感覚はそれを察知し、図らずも体が自然に反応しつつあった。
(む…いかん。実戦から少し遠ざかっているとはいえ、少しばかり神経が過敏になっているな)
鎌首を擡げていた闘争本能を半ば無理矢理に解除し、自慢の鋭い嘴を、鈎爪の生えた鳥類の指先で撫でる。
「失礼。貴女のような種族を私は見たことがありませんので…つい奇異の目で見てしまいました。どうかお許しください」
ばっと帝国式の敬礼を送り、素直に謝る。
(ふむ…この世界には存在し得ない種族。となると外界から呼び出したのか……)
手に取った時に微かに感じた魔力の感触が、少しばかり不思議な感じであったので、恐らく彼女は外界から呼び出された“召喚獣”なのだろう。
>「では、所用がありますので、これで」
>軽く会釈をして、脇を通り抜ける。
「もし」
自分の脇を通り抜けようとした彼女の華奢な手を、咄嗟に掴む。
相手は怪訝な表情をするだろうが、彼の中で徐々に隆起し始めた好奇心はその程度では沈まない。
「物騒な面持ちで何処へ行かれる?外界からの来訪者よ…私には分かりますよ?貴女は今はとても餓えている」
ルフルムは子供の頃から自分が興味を抱いた対象への追求をとことんする。それが何であれ、彼の知的好奇心を満たすまでは決して逃れられない。
「餓えを満たす為なら何でもするといった顔をしている…それでは屍喰鬼と何ら変わりがありませんぞ?此処は一、私が協力して差し上げましょうか?」
そう、ルフルムはこの女性に対し、興味を抱いた。自分の興味を満たす為に、少しでも対象への距離を詰めたい…そう思った末の行動だ。
些細な事であれ、対象に自分を認識させれば少なからず近づく事は容易になる。
「『狩り』ならば我等オオワシの獣人が最も得意とすることの一つです…見たところ、貴女は酷く消耗しておられる。それでは獲物に逆に狩られてしまいますぞ?」
「貴女がいいと仰るのならば、私、帝國獣人騎士団空戦騎士隊隊長、『追い風のルフルム』が手伝ってさしあげましょう」
そして長身を折って礼をする。