【熱い】熱闘オリキャラコロシアム【戦い】

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49V3 ◆/6H3XVZ3Gc
意識を取り戻した瞬間、周囲の状況を把握するより先に愛用の銃の所在を確認した。
長年の習慣。そう、彼は本当に長い間そうしてきたのだ。
 
永遠に動くはずのない彼の貌から、動揺の気配が漏れる。
冗談でもなんでもなく、彼がこれほど驚いたのは1000年ぶりである。
 
彼が生きていた世界は、死の世界にも等しい。
三つの太陽が照りつける、永遠の砂漠。
見渡す限りの砂の牢獄。彼以外に動く物は突然変異の砂竜だけ。
彼はそんな孤独を生き抜き、闘ってきた。人類の正義と平和を願って。
 
守るべき人類が、全て滅んでしまってからも。
 
 
ここには建物がある。人の住む証がある。
懐かしさのあまり、涙が出そうになったが……
人造の瞳には、そんな余計な機能は付いていない。
 
そして、彼は気付かなかった。注意力の欠如と責めることは出来ないだろう。
文字を見ることですら1000年以上行っていなかったのだ。
 
全ての文字が、鏡に映したような逆さ文字で有ることなど
今の彼にとっては些細な事であったのだ。
 
 
彼の名はV3。
かつて「仮面ライダー」と呼ばれた男。
>49
戦いの匂いがしていた。
その匂いだけが、彼をこの空間へと呼び寄せた。
左右が反転し、価値観も反転したような鏡の中の世界。
そこに立つ脱獄囚、浅倉威・仮面ライダー王蛇。
 
鏡の中で殺し合うためだけに作られた存在「仮面ライダー」。
その「ライダー」の中でも浅倉の存在は異質だった。
 
他のライダーはみな、勝ち残ってその目的を果たすために戦っている。
浅倉には、何もない。
ただ、戦うことだけが彼の喜びだった。
どこか壊れたような、仮面ですら隠せない、ぎらつく表情の男。
 
目の前にいるのは、赤い仮面の戦士。
彼の知る「ライダー」と相似の姿だが、どこか微妙に違ってもいる。
だが、そんなことはどうでもよかった。
 
「戦おうぜ――――――――――」
 
溜息のように漏らし、浅倉は、王蛇は地を蹴る。
そのまま腕を振るう、腕の向かう先はその赤い戦士の肩口。
51V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 01:48:00
>50
「……いいだろう。オレと戦え!」
 
理由は無い。しいて言うならお互いが戦士である事。
それがたった一つの戦う理由にして、彼らの存在意義。
 
薄汚れた二本のマフラーを翻し、V3は疾風のように舞う。
体内に張り巡らされた人造の神経繊維が、風の流れを感じて脳髄に電子のパルスを返す。
たった一つ残った生身である脳髄が、闘志を電子の信号として身体全体に行き渡らせる。
 
肩口を狙った、紫の戦士の拳をあえて避けもせず平然と受け止めた。
彼の肩の筋肉は、特殊スプリング人工筋肉。鋼鉄球ですら砕けない、もっとも強靱な部分の一つだ。
 
「……いいパンチだ」
 
その拳に対して、彼は愛用の「ひょうたんのような形をした」銃を、戦士の腹に押し当てた。
 
卑怯だとは欠片も思わない。
持てる技、持てる武器、持てる知識を全て出し切る。
それがたった一つの礼儀。戦士として残された誇りなのだ。
 
銃弾が炸裂する。
V3の顔の中央に配置されたクリアーパーツ―――かつては白かったそのパーツを、
銃火が赤く染め上げた。
>51
コンクリートも切り裂くような浅倉の手刀。
それを肩口を受け止めて、赤い戦士はなお平然としている。
手元の銃を狂える騎士の腹に押し当て、トリガー。
内臓が裏返るような衝撃。王蛇は吹き飛ぶ。
 
「―――――くぅ、いきなりキツイねぇ」
 
恍惚と混じった浅倉の恨み声。
ゆらゆらと紫の身体は揺れている。
獲物を食らう隙をうかがう蛇のように。
 
その手がしなり、腰のカードホルダーからカードを抜いた。
手元の杖へと素早く装填。
 
『ソードベント』
 
無機質な声が、浅倉の手元へと異様に捻れた剣を召喚する。
剣を握り締める蛇の鎧を纏った騎士。
戦いへの意志を駆り立てる、冷たいグリップの感触。
 
「だが、まだ満足はできないな―――――」
 
浅倉の身がしなり、跳ね、赤い戦士の喉へと突き進む。
切っ先を真っ直ぐに向けた、紫に光る風。
53V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 01:50:16
>52
紫の戦士は剣士となり、荒々しく、それでいて研ぎ澄まされた一撃を放つ。
喉元に向かう剣を、腰をかがめて腕を十字にして受け止める。
 
人工の皮膚が、そして偽りの細胞が一気に活性化して刃に対して否を唱える。
 
彼が、自分のダメージを「怪我」と呼ぶのは正しくない。
本来なら、「損傷」とも言うべき一時的な破壊。
人工の器官は、偽の痛みを電子回路にフィードバックするだけなのだ。
 
「……」
 
無言で両の腕に力を込めるV3。
受け止めたはいいが、膠着… いや、僅かに押されているかもしれない。
 
緑色に輝く瞳が、冷静に戦況を判断する。
先程の剣は虚空から取り出された訳ではない。
視界の端に、一瞬だけわずかに蠢くものが見えた。
 
電子頭脳と、生身の脳髄とがはじき出した答えが一致する。
 
―――短期決戦で、決着を付ける。
 
胸の中央に赤く輝くラインと、胸筋を模したクリアーパーツが大きく起伏する。
透けて見える内部メカが目まぐるしく動く。
 
剣を弾き飛ばす程の力の差はない。できた隙はほんの一瞬。
その刹那の隙を無理矢理に通すようにして、V3は鋼の手刀を放った。
>53
吹き抜ける白い風。胸元に振るわれる手刀。
王蛇の胸に、痛みが走る。鋭い痛みに視界が白くなった。
首を上下に揺らし、浅倉は視界を無理矢理に取り戻す。
 
鎧胸部には深い傷が刻まれ、そこから零れる真紅の液体。
紫に光る鎧がその血に塗りこめられて、鏡界の太陽の元で妖しく煌いた。
焼かれたような痛み、凍りつくような快感。
この鏡の中のように反転した感覚を呼ぶ、胸元の傷。
 
片手で愛しそうにその裂け目を撫でさする。
もう片手にはまだ剣が握られている。
傷を撫でる手が止まり、そこにあった剣は突如残像と化した。
蛇の尾のようにしなり、翔けたのだ。戦士の脇腹を狙って。
55V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 01:53:11
>54
上半身にパワーを集中した分、下半身の反応が鈍くなる。
単純な足し引きだが、その積み重ねが戦闘であり駆け引きの全て。
 
プラスは敵の胸に与えた手傷。
マイナスは自らの脇腹に突き刺さる槍の穂のような剣。 
差し引きの結果はほぼゼロ。ダメージ量は互角と瞬時に判断。
 
ならば、当然次の手を繰り出すまで。
 
文字通り、吹き荒れるような勢いで再び手刀を振り下ろす。
ダメージを与えるためでなく、体勢を整え距離を取る為に。
 
そっと、愛用の銃を地面に置く。
彼の「第三の腕」とも言える大切でかけがえのない銃だが、今は必要ない。
 
両手を空け、右の肘を突きだして左の手は地面に並行に折り曲げる。
右の拳は人差し指と中指のみが立てられている。
 
―――いわゆるVサイン。
 
彼の闘志を極言まで高める、古代の武士が行ったという闘いの名乗り。
 
「……オレの名はV3。……名乗れ」
>55
「くだらん」
 
名前なんかどうでもいい。相手の名も、自身の名も。
必要なのは自分が戦っているという事実。そしてその瞬間。
それ以外の何も、浅倉は必要としていない。
 
ちゃき、微かな金属音を引き連れて、剣を構え直す。
たん、地面を蹴る音が響いた。
浅倉は馳せる。戦いを求めて剣を振るう。
剣は風を巻いて、唸りをあげた。
57V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 01:55:24
>56
永遠に表情を変えるはずのない機械の仮面が、僅かに笑ったように見えたのは錯覚か。
戦士の墓に刻む名は必要ないと言うことか。それもいいだろう。
 
紫の風と緑の風が正面から己の存在を叩き付け会う。
かつて二人の先達から受け継いだ技と力。
一人の親友と、そして師とも父とも仰ぐ人と培った戦う意志。
 
たった一つ残った、彼の脳髄の奥底に眠るもっとも大事なもの。
全てを叩き付けるようにして、V3は風となって吹き荒れた。
 
お互いに、細かい傷を数える暇も無い。
一瞬の攻防は、積み重ねられて流れるような闘いを奏で続ける。
 
埒があかないと見た彼は、大地を蹴り大きく飛び跳ねた。
ベルトに刻まれた二つの風車が、声を限りに唸りを上げる。
 
鋼鉄をも砕くキックが紫の鎧を襲った。
>57
その蹴り足は牙のように、浅倉の紫の鎧に食い込む。
剣を取り落とし、吹き飛ぶ体。肋をやられ、血を吐く口。
仮面の下の顔を熱い液体が濡らした。擦れるような音の息を肺が漏らした。
 
「ああ、いい感触だな」
 
浅倉の身体は震えていた。
恐怖からではなかった。恐れるものなど彼にはなかった。
戦うことの歓喜。破壊し破壊されることへの歓喜。
それだけが彼の身体を突き動かしていた。
 
跳躍。足が大きく開いたその間合いを一瞬で削る。
接近。目がV3と名乗った戦士の仮面を大きく映す。
攻撃。拳がV3の鳩尾を捉え、そして突き進んだ。
59V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 01:58:16
>58
V3の鳩尾を拳が捉える。
機械の臓腑は沈黙を守ったまま語らない。人としての弱みは彼の肉体には存在しない。
大きなダメージではあるが、致命のダメージには程遠い。
 
回避も防御もない。
受けたダメージ以上にダメージを与える。
戦略など無い単純な殴り合いは望むところではないが
V3はかつて無いほどの心の沸き立ちを感じていた。
 
戦っている。
1000年の時を飛び越え、戦う相手と巡り会っている。
返礼など思いつきもしない。全ての力を拳に込める事が戦士の流儀。
二人の間にかわされるものは、ただ短い呼吸音と鋼を殴る鈍い音のみ。
 
彼の身体を流れるものは、オイルと電子のパルスに変わったとしても、
指先にまで行き渡る闘志は作り物ではない。
 
拳同士がぶつかった瞬間を狙い、大きくジャンプ。
近くにあった、高い建物に降り立つ。
 
ゆっくりと手を開き、風の流れを全身に浴びる。
 
 
この瞬間。
1000年の時を越えた風の戦士は、その全ての力を自らの両脚に込めた。
 
 
―――再び1000年の時を越えようとするが如く。
>59
V3の拳が鎧を揺らす。肉に、骨にまで走る痛み。
ピキピキと薄氷のような骨のヒビ割れる音。
王蛇の拳が機械の体を打つ。硬いだけの機械の感触。
しかしわかる。苦しみ、怒り、歓喜。
そう、歓喜。お前も愉しいだろう?ああ、俺は愉しいが。
 
戦いだけは王蛇を裏切らない。拳が胃の腑を押し出す。吐瀉物を胃に無理矢理戻す。
死ねる、殺せる、憎しみも喜びもはっきりしている。肘で胸元を切り裂く。
この世界は、破壊本能でしか動けないケダモノが、自在に翔けられる唯一の異空間。
そして今の相手も戦うしかない存在なのだと、浅倉は本能で悟っていた。顎を突きあげる。
だからと言って共感するわけでもない。背骨が軋んだ。ただ憎む、ただ殴る、ただ潰す、ただ殺す。
彼の思考に、それ以外のことはなかったし、これからもないのだ。蹴りがこめかみを捉えた。
狂った化け物は、狂った化け物以外の何物でもない。
「くはははははははははははは!」
 
知らずあがる、笑い声。拳の交錯。
頬骨が凹んだかも知れない。何かバチッとV3の体も音を立てた。
痛い。痛がれ。憎い。愉しい。死ねよ。殺せ。
拳はもう拳と言える形すら留めていない。ヤツの手も機械が剥き出しだ。
永遠に続けばいいとさえ思う純粋なまでの殴り合い。
しかしそれは、V3の突然の跳躍によって打ち切られた。
一瞬の落胆。それが通りすぎると同時に、背筋にさむけが走る。
 
何かが来る。動物的な本能は、浅倉の思考より早く彼の身体を動かす。
カードを引き抜き、杖に装填するだけの単純な動作。
 
『アドベント』
 
機械的な音声に応じて、蛇が地を馳せる。
地を這う蛇は天上の戦士に、憎悪を込めた毒液を吐きかけた。
62V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 02:01:04
>60
>61

火が付くほどの熱い闘志、鋭利な氷刃のような冷静な思考。
二つが重なり合いはじき出した答えは―――正面より突き進むのみ。
 
身体を駆け巡る痛みは電子の偽物でも、この戦いの一瞬は本物だ。
逃げることなど、考える価値すらない。
全ては戦う為、何の為に戦うかは後で考えれば済むこと。
この一瞬が永遠である事はない。戦士は何時か、膝を折り崩れ落ちる。
 
 
だが、それまでは戦い続ける。
それが、彼の選んだ道だ。
 
 
「――――――V3」
 
彼は叫ぶ。
かつては、悪を断罪する正義の雄叫び。
 
「――――――スクリューキック!!」
 
そして今は、戦士に捧げる敬意と鎮魂の調べ。
 
 
彼が巻き起こした風の鎧が、毒液を弾き飛ばす。
緑に輝く一陣の疾風が、紫の蛇を貫かんとして空を貫いた。
>62
緑の形ある疾風が、蒼穹に閃光のように瞬いた。
唸りを上げ、闘志を宿した螺旋状の風。黄金色に煌く憎悪の炎。風と炎がぶつかり合う。
戦士の産む旋風は憎しみだけで彩られた毒液を、飛散させ、打ち破っても止まることはない。
旋回を続け、緑の疾風そのものと化したV3は、狂戦士をその行く先に捉えていた。
 
戦いの旋律を奏でながら吹き付けるその風を迎え撃つ、浅倉の仮面の奥の笑み。
殺せる蹴り。殺すつもりで放たれた蹴り。迫り来る死を招く風。
浅倉はそれを避けようともしない。ただその場に立ち尽くしていた。
自らの生死の天秤を玩具として扱っている。境界線。それだけが唯一の慰み。
蹴りより先に殴るような突風が来て、思わず浅倉はわずかに仰け反る。
ほとんど同時にV3の蹴りは大気を引き裂く音を、浅倉の耳に伝えた。
蹴りと肉体が接触し、浅倉の体は粉々に砕け散ったろう。あと一瞬跳ぶのが遅れていれば。
 
「ハァ――――――――――!」
 
浅倉の笑い声。
V3の蹴りは後ろに跳んだ浅倉の胸元を掠め、それだけで肋骨は肺をズタズタに引き裂いた。
酸素が血の味のするジュースに変わっていた。胸の辺りは電流でも流されたように痺れる。
一瞬だけ気絶。着地。足に伝わる地面の堅さが浅倉を起こす。
眩暈は止まらない。足元も定まらない。敵が何処にいるかだけが、分かっている。
首をふらりと回し、それだけの刺激で血と吐瀉物が仮面の中を満たした。
肉片が混じっていた。自分の体がぐっちゃぐちゃに潰れているようだ。
「こうだろう! もっと殺せ! もしくは殺させろ!」
 
自分の血臭に、浅倉は昂ぶって叫んだ。オーガズムにも似た感覚。
だが、本当の絶頂にはまだまだ足りない。全然足りやしない。
自分の肉と血を吐き出し、再びそれを舐め、飲み下しながらも、浅倉はまだ戦いを求める。
肺の残骸らしき肉片をくっちゃくっちゃと咀嚼しながら、1歩踏み出す。
死にたい。殺したい。その理由もない殺意だけで、カードを一枚引き抜いた。
 
『ファイナルベント』
 
蛇が、素早く地を馳せる。それに合わせて浅倉も駆け出す。
向かい風すらが身を苛み、鉄槌で殴られたような衝撃となる。視界はブラックアウト。
その衝撃すらも愉しみながら、浅倉は駆けた。ひたすら、その見えない目の先にV3を捉え。
そして、強く両足で地を蹴った。
蛇の騎士は、地表そのものを破壊する牙のように、蹴りを乱打した。
65V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 02:04:16
>63
>64

胸部のクリアパーツには無数の破損。
既に数少ない作動中の回路は、脳髄に痛みという名のエラー信号を吐き出し続ける。
何度も感じた死の予感。何百年も感じることの無かった、生の実感。
0と1、プラスとマイナス、生と死。
永遠に交わることのないその境の上に立つ自分を、どこか冷静に見詰めるもう一人の彼。
 
まだ倒れられない理由は、意地でもなく、誇りでもない。
V3は、全てを出し尽くしたつもりはなかった。
 
―――「アレ」を使えば死ぬかもしれない。
 
「風見志郎」の名も姿も、戦うために全て捨て去った。
この技を使えば、全機能が停止する危険性がある。
 
 
―――なら、それでいい。
 
 
悔いは無い。
固い仮面に封じられ、捨て去った筈の笑顔が彼の顔を一瞬だけかすめた。
自分にとって、これほど相応しい死に場所はないように思われる。
 
彼の生命の源である、力と技の風車が逆に回り始める。
体内に蓄えられた全エネルギーの一斉放出。
命そのものを迸らせる、最強にして最後の技。
 
「逆ダブル… タイフーン!!」
 
竜巻は、風の牙を持つ龍となって、全ての敵を飲み込まんと天空を翔けた。
>65
ベルトの産み出す圧倒的な風の渦に、嘆き声を上げる大気。
ありったけの殺意と憎悪が叩き込まれた牙の如き蹴り足を包む焼けつくような液体。
毒液を薙ぎ払い、蛇の顎にまで吹き抜けて渦の中に奪い去り、それでも収まらない互いの牙。
あらゆる物を食らい尽くす暴風を越え、確かにV3を捉える、浅倉の蹴り足。
しかし、己の蹴りの反動に耐えきれずに吹き飛ぶ、壊れた狂戦士の身体。
 
背中から地に落ちて背骨が肺を圧迫し、血の泡を作って吐き出される空気。
立ちあがろうとして、耳鳴りに蹂躙される浅倉の耳に響く、何かが割れたような金属音。
足元で崩れ去っていく黒い影。ライダーとしての力の源、カードデッキ。
そして、紫の鎧もまた引き剥がされて、生身となった、浅倉の身体。
 
吐き出され、弾け、グズグズの豆腐の様に崩れた胸元をさらに赤く覆う重たい血の膜。
蛇柄の皮ジャンを飲み込んでいく深紅の染み。裂け目から突き出した肋骨。
砕け散った肺と骨の屑とを撒き散らしつつ、波のように揺らいで、緩慢に進む浅倉の足。
その口元に確かに浮かぶ、蛇のように歪んだ、狂人の笑み。
 
「は、は、は――――――――――」
 
喉から漏れる、笑い声らしき、細かく断続的な空気。
足は重い。手も重い。頭まで重い。全身が重い。それでも戦いたい。
既に人としての体を成してもいない浅倉を突き動かす、衝動的な戦いへの欲求。
その欲求が浅倉を、立ち尽くす赤い仮面の戦士の前まで歩ませた。
67浅倉威 ◆uJFH.hFUyI :04/09/27 02:06:50
浅倉は、鉛を溶かし込まれた様に重いその腕を、ゆっくりと持ち上げる。
何かうめきながら僅かに手を後ろに引き、固めた拳を、打ち付けようとする。
それだけの動作ですら苦痛なのか、浅倉の口元は深く歪む。あくまで笑みの形に。
ぽん、と軽いだけの音を立て、彼の拳はV3の胸元を打った。
その拳には、もはや何の力も篭っては宿ってはいないようだった。
 
哄笑なのか、呼吸なのか。
ごろごろと奇妙な音を立てて、無数の血の粒子を作る、浅倉の喉。
その喉の動きもすぐに止まり、次には浅倉の身体が粒子と化していく。
V3の胸元に手を当てたまま、脱獄犯の体は沈む。
白い胸に赤い指紋の跡を付け、浅倉の体はくず折れ、そして倒れた。
少しずつ、不安定に溶けていく、その狂戦士の姿。
 
普通の世界に拒絶されライダーとなった、破壊しか知らぬケダモノ。
戦いと殺戮のためだけに存在するこの鏡界すら、そのケダモノを拒絶した。
 
鏡界に、無数の粒子として粉々に引き裂かれ、浅倉威の体は、完全に消失した。
68V3 ◆/6H3XVZ3Gc :04/09/27 02:07:57
>66
>67

エピローグ 〜 RIDERS REBORN 〜
 
生物学的に言うなら、V3は三時間の間「死んで」いた。
脳髄ですらほぼ仮死状態になり、全ての機能は停止。
自己修復機能を働かせることすらなく、彼の知覚にとっては三時間を飛び越えたに等しい。
 
 
目が覚めた時、彼は風の中に立っていた。
ゆっくりと軋むようにして、二つの風車が回り始める。
止まっていた時間が動き始め、V3の緑色の瞳に光が灯る。
紫色の戦士の姿は無い。
自分は勝ったらしい。……また死にぞこなったわけだ。
勝利への感慨は無く、敗者への憐憫もない。鎮魂の言葉は、先程唱え終わったばかりだ。
 
V3が改めて状況を確認するまでに掛かった時間はミリ秒単位。
だが、今の状況が心に染み入るまでは、たっぷり3分はかかった。
 
―――風が違う。
 
砂漠の乾ききった風ではない。
さっきまで居た世界の、無機質な風とも違う。
 
風に匂いがあった。
風に気配があった。
 
周りを見れば、窓に明かりがある。
あの向こうには、きっと暖かい家庭があるのだろう。
人々の息吹がもたらす柔らかな光が、もの言わぬ戦士の仮面をうっすらと輝かせていた。
ビルに立ち、夜景を見下ろす。
闇から人々を守る優しい光。何百年も見ることの無かった、平穏な暮らし。
 
帰って来たわけではない。
本能的に、彼は自分が居た世界とこの世界が違うことを悟っていた。
 
……それでもいい。
 
ここには人々の生活がある。
命があり、笑顔がある。
その為に戦えるのなら、何を捨てても、いつ倒れても一片の悔いすらない。
彼の戦いはいつも、その小さくてかけがえのないものを守るためのものだった。
 
 
一人のライダーが逝き、一人のライダーが再び立ち上がる。
平和への祈りと、明日への希望を込めて。
 
 
―――彼の名は「仮面ライダーV3」
 
人間の自由と平和を守る、正義の戦士。
 
 
                           <END>