アリシア・フローレンス(ARIA) in 『愛撫』
1 :
以上、自作自演でした。:
【ARIA】の 永遠の白き妖精 アリシア・フローレンス メインのジュブP
2 :
以上、自作自演でした。:2009/07/25(土) 22:41:47
目安
官能度 0〜1 N (全年齢対象)
官能度 2〜3 PG (12禁)
官能度 4〜5 R (15禁)
---------------------------- 規制
官能度 6〜7 X (18禁)
官能度 8〜 XXX (21禁)
3 :
以上、自作自演でした。:2009/07/25(土) 22:43:08
プロローグ “スノー・ホワイト・エクリプス”
(プロローグ官能度3/10、§ 官能度3)
行為の最中、折に触れアリシアの反応を確かめようとしつこく話しかけていた男が、今はすっかり口を閉ざし、静かになった。
代わりに目立つようになったのは、耳を覆いたくなるような哀しい調べの囀り、アリシアの喘ぎ声。
灯里はすぐにでも飛び出していって、男の手からアリシアを救い出したかった。けれどもその衝動を抑えてドアの陰にかくれて息をひそめている。
そんなことをすれば、きっと誰よりも傷つくのはアリシアにちがいなかった。
薄闇の支配する廃屋のリビング。
まだ暗さに馴れていない灯里の目には、長いすの上で重なる二つの影がどのような形で結ばれているのかわからない。
けれども、とぎれとぎれに続く甘啼きの調子、ときおり堰を切ったように発せられる溜息の、その尋常ではない熱っぽさに、
アリシアの迎える歓びが、もうすぐそばまで迫っているとわかるのだった。
望まない逸楽の瞬間――。
4 :
以上、自作自演でした。:2009/07/25(土) 22:44:03
せめてもの慰めは、たとえこんな時であっても、どこまでも彼女らしいつつましさで、けして大きく乱れるようなことはなかったこと。
それゆえに少女の胸はまたぎゅっと、しめつけられてしまう。
いまアリシアがどのような状態に置かれているか、どんな思いでいるのかがうかがえて。
あと一押しされれば、くずれてしまいそうになるのを必死に保ちこたえているのだ。同じ女として、こんな形で初めて――を、
迎えなければならなかったアリシアの悲しみがひしひしと伝わってくる。
清潔無垢なスノーホワイトと、
セックス――。
灯里にとってもっとも縁遠く思われた言葉の組み合わせ。それが陵辱といういちばん惨たらしい形でひとつに結ばれようとしていた。
「アリシアさん……」
少女は低く悲しみのつぶやきをもらした。
5 :
以上、自作自演でした。:2009/07/25(土) 22:44:12
(______________ J
こ 君 (__ ┌―‐―┐ ) き
ん ! (_ |`l TT了| } ゃ
な (_ j .| .|:| .l | / あ
糞 待 (_ | | .|j .j | イ |
ス .ち (,_ |.| .|l .|:| ,. -‐ /_. っ
レ た ( |.|. |! |/ / !
立 .ま (` `ー /..:::::\≧,,,、:::7___
て え (―――――――――(:::::::>'´ == \::⌒l^⌒
_. て (⌒ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ノ く彡/// ∪,ノ ;|
.レ Y^'⌒`\________ く:::::∧ '_,. -、 く/::::::::/
|:::| \xく _,,,...,_ \:::::l、ヽ ,ノ \,,∠,,__
\|:::| _,....!,,_ \ iれ__,.、ヽ lF〒`ヾ.\,,..イ |::::::::,
`7´ _,,.ィ ヽ{|iュ ェッリ | || _,..-/7゙h _|:::::://
\.{n|.ィァ it} ', _'_ j) r'"三¨7´\| |´.|:::://
|:::トl、 rュj . ト ニ イl、 / ゚`.|n./ .イl ,∧ |:://
|::,| 'ーケトr'TTlイ /_`ヾtっ r'l゙ /⌒`lくミV /
,r1´|`'六´ //` ̄´ `Y´ |└┬シj ./ 7ヽ〈 /ヾ)<
./ | ∨|::|∨ ! { r ,、 _,シ /゙丁〈 / } { { \
| ',|::|/ ! ,ゝ-< ( / .| |/ ∧ \|
l .Y。 .| |` 〃 ̄ ̄⌒ / 〈 /! ', __,,....::-‐
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ヽ、`'::、L.∧/ / |.{ u 〈.| イ 〈 /::::/:::::::::::
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6 :
以上、自作自演でした。:2009/07/26(日) 12:00:27
涙はもう枯れている。
ただ――。
少女らしい潔癖さから、どうか、それだけは――と、希っていることがひとつだけあった。
たとえ清らかさの証は奪われても、男にはそれだけはしないで欲しい、そこまで貪欲にならないで、と思うことが。
恐れたのはアリシアに“それ”がなされること。
少女の感覚では、ある意味、セックスをするよりも、ずっとおぞましい淫らな行為だった。
女にとって恥辱の極みとも思える変質的で、好色なたくらみ。
自分がされているところを想像すると、それだけで震えるような羞恥と恐ろしさに身がすくんでしまう。
そんなひどいことを経験するのだけは、アリシアには避けて欲しい、拒んで欲しい。
なにより、相応しくなかった。
アリシアのような女性には、いかがわしい画像で見かけた女たちのように、尊厳を奪われた哀れな姿にはなって欲しくない。
絶対に――。
7 :
以上、自作自演でした。:2009/07/26(日) 20:37:00
以下、普通のヤリシアスレ
↓
8 :
以上、自作自演でした。:2009/07/26(日) 23:50:21
少女のせつない思いをよそに、徐々に暗さに馴れていく瞳に、ソファの上の二人の輪郭が次第に見えるようになっていった。
重なりあうシルエットの異様な形に気がつくと、灯里はひどく混乱して、もう意味が分からなくなった。
それがどういうことなのか、祈るような気持ちで別の答えを探し求めた。
二人の手足のシルエットが占める場所、顔の位置、体の向き……。
脚のように見えるのは、きっと長椅子のアームの影……あんなところにアリシアさんの脚があるはずがないから――。
自分に言い聞かせる。
が、一縷の望みにすがる少女の前に、やがて身も蓋もない残酷な現実が突きつけられたのだ。
厚い雲の合間から午後の長い日が差し込んできて、ほんの少しの間だけ長椅子の上の二人を照らしあげていった。
成熟した男と女の秘め事、濃密な性のいとなみが気まぐれな自然のスポットライトによってさらけ出されたのだ。
鮮やかなコントラストを描いたのは、アリシアの目に染みるような白さと男の着ていた地味な濃紺のスーツ、黒い髪と、そして……。
正視に耐えない光景に、灯里は目を見開いたまま凍りついた。
9 :
以上、自作自演でした。:2009/07/27(月) 14:51:47
訂正 3
四行目 耳を覆いたくなる ×
耳を塞ぎたくなる ○
10 :
以上、自作自演でした。:2009/07/27(月) 14:52:56
空が再び厚い雲に覆われて部屋が暗さを取り戻しても、灯里は呆然と立ち尽くしたまま、垣間見たシーンを繰り返していた。
自分が目にしたものが信じられずに。
嘘だ、と思いたかった。こんなことが現実であるはずがない、と。
悪い夢であって欲しかった。
けれども――。
眼鏡をかけた男の顔にははっきり見覚えがあったのだ。
昨日の午前に、アリアカンパニーを訪れた一人の客。
たしか、愛沢、という名の。
社員の慰安旅行だと言った、マンホームからの客だ。
話しぶりは穏やかな中年の頭脳労働者風、でも眼鏡の奥の切れ長の目つきは鋭く、油断のならない輝きを放っていた……。
ぱっと見の印象と、直後の印象との落差に驚いて、警戒感を覚えた、
あの男――。
11 :
以上、自作自演でした。:2009/07/27(月) 14:54:43
灯里は目を閉じた。
そいつが今、アリシアさんの……。
そう思うと、胸の奥からなにか得体の知れない、こわいもの、がこみ上げてきそうになる。
この瞬間にもアリシアの清らかさが奪われている、やさしい魂が傷つけられいている。
マンホームの男に。
自分が棄てた世界の、欲深な中年男に――。
そんなことは絶対にあってはならないことだった。
* * *
(§ 官能度0〜1)
アリアカンパニーの朝――。
灯里はいつものようにアリシアと朝食のテーブルを囲みながら、これもいまではすっかり日常となった――灯里の
社における数少ない仕事らしい仕事――アリシアへの業務連絡をしていた。
もっとも連絡といってもさしてお堅いものではない。むしろ食事の合間に交わされる雑談に近いものだ。
前日午前中までに受けた予約の最終確認状況やルーティンのスケジュールを伝える、ただそれだけのこと。
12 :
以上、自作自演でした。:2009/07/27(月) 22:59:57
「……午前と午後に一件ずつ、今日も二件のフリーの予約が入ってます。それ以外にルートが五件も……やっぱりすごいです、アリシアさんは。
もう二ヶ月以上もフルブッキング状態が続いているなんて……」
灯里はブルーチーズとラズベリージャムのサンドイッチを頬張りながら、嬉しそうに顔を綻ばせた。そのうえ今朝のジャムはアリシアさん
お手製のスペシャル、灯里の大のお気に入りなのだ。
甘酸っぱくてやさしくて、豊かな風味はアリシアのイメージそのもの。
以前、一度だけ真似をして、教えてもらったレシピに沿って作ったことがあったが、どういうわけか出来上がりが格段に違ってしまう。
甘みと酸味のバランスがとれていなかったり、風味を損なう雑味が残っていたり……。
その一件以来、灯里は、アリシアがゴンドラを操る以外にも、自分でも気づかぬうちに知らず知らず魔法を使っているのだと信じるようになった。
幸せの魔法を―― 。
「あの晃さんでも月に二、三日は、どこかでゴンドラを遊ばせてる空き時間があるって言われてましたから……ウンディーネの中ではアリシアさんが
一番人気ってことですよね」
13 :
以上、自作自演でした。:2009/07/28(火) 20:03:12
指名予約の密度と数は単純にウンディーネの実力と人気のバロメーターと言ってさしつかえなかった。
三大妖精と言っても、アリシアは頭ひとつ抜けている。
「それはウチが小さな会社で、まだわたし一人にしか営業資格がないからよ……晃ちゃんの姫屋さんには、かわりをしてくれる立派な
プリマウンディーネさんたちがたくさん居るでしょう?……だから、その所為」
「すみません……私、まだ全然……お役に立てない半人前で……」
灯里は華奢な肩をすぼめ、しゅんと神妙な顔をする。
「ちがうの……ごめんなさい、灯里ちゃんに皮肉を言っているのではないのよ」
それは灯里にもわかっていた。
「わたし、もっともっとガンバリます。早くアリシアさんのお役に立てるように、少しでもアリアカンパニーの力になれるように……」
灯里が真顔になって決意を口にすると、アリシアはにっこりと白い歯並みをのぞかせた。ぱっと花が咲いたように晴やかで、
日だまりのようなあたたかい笑顔。
14 :
以上、自作自演でした。:2009/07/28(火) 20:04:31
「ええ、期待してるわ。そのうち灯里ちゃんにはしっかり働いてもらって、わたしは楽をするつもりでいるから覚悟しててね、うふふ」
「ほえー、そんなーぁ」
こんなふうにアリシアは、時に冗談を言って灯里を笑わせることもあった。
初めて逢ったときにはあまりにも綺麗で、本物の妖精のように思えたものが、こうして間近で接していて分かるのは、アリシアが整った
外見以上に取りつきやすい、人好きのする女性であること。
表情も豊かで、態度や物腰、立ち居振る舞いにも同性にありがちな衒いがない。
「お客さんはどんな方たち?」
「えーと、内訳は……」
灯里は、膝に置いたメモ書きに戻ってさらに報告を続けた。
「……フリーの二組はどちらもマンホームからのお客さんです。午前の組は高齢のご夫婦。子供の頃マンホームの北イタリアに
暮らしていたことがあったとかで、お二方ともアリシアさんのガイドを本当に楽しみにしておられました……」
「まあ素敵……お話をお伺いしたいのはわたしの方よ、お会いするのが楽しみだわ……」
15 :
以上、自作自演でした。:2009/07/28(火) 20:05:40
「それにしても最近マンホームのお客さん、目立って増えてますよね、やっぱりみんな懐かしいのかな……ルートの方も五件のうち
四件がマンホームからですよ……あ、最後の一組は新婚さんです……ワー、勇気あるなぁ、このお二人さん。よりによって
ハネムーンの最中にアリシアさんのゴンドラを選ぶだなんて……」
そう言うと、アリシアはキョトンとした顔を向ける。
「勇気? あら、どうして? わたしのゴンドラ、灯里ちゃんにはそんなに危なく見えるの?」
こんな表情をするときのアリシアはことさら無垢な感じになって、少しも年の差を意識しなくなった。お姉さんというよりも、
無類に愛くるしい女の子の雰囲気。
灯里の胸がまた、きゅん、となる。
「そんなんじゃありません……」
ただ――と、説明しかけて、灯里は言葉を濁した。
聡明なアリシアにも、一点だけひどく無自覚なところがあるからだった。
自身の持つ魅力や周囲への影響力の大きさについては鈍感といえるほど頓着がない。
ある意味、罪作りと言えた。
16 :
以上、自作自演でした。:2009/07/28(火) 20:06:37
仮に「新郎がアリシアさんに夢中になって――」と、やったところで「熱々の新婚さんに、そんなことあるはずがないでしょ」と
一笑に付されてしまうのが関の山だった。
だから灯里は、
「それとは別の理由で……この人たちにはアリシアさんはいちばん危険なのではないかと……」と、曖昧に言い抜けるしかない。
アリシアは大きな青い瞳を白黒させると、しかたなさそうに微笑んだ。
「わかったわ、灯里ちゃんのご忠告に従って、とりわけ慎重にご案内してさしあげることにするわ」
ダイニングの窓から差し込む柔らかい朝日と、清々しい海の香り……。
ここには灯里が夢見て、望んだすべてがあった。
アクアに来て素敵な人たちと巡り逢って、マンホームに居たときには想像すらできなかった、人生観を一変させられるような毎日の連続、
終わらぬ夢の日々を送っている。
その美しい夢の最大の理由ともいえる愛しい人に、見まもられている、愛されているのを感じる歓び。
「……それと……午後、もう一組のフリーは、リピーターの方たちです……」
「リピーター?」
17 :
以上、自作自演でした。:2009/07/28(火) 20:07:45
アリシアが黄金の眉の片方をわずかにつりあげた。
「いけない、これはちゃんとお伝えしておかないと……午後1でご予約の、愛沢さんという方が代表者のマンホームからの御一行様なんですが……」
灯里は、自身の走り書きのメモを苦労して読み解きながら言った。
「………」
「……前回、見せてもらったところがとても気に入ったそうで、また同じ場所をもっとじっくり見せて欲しいからって……もしも可能ならずっと奥の方まで
散策の手を広げてみたいとか……」
「………」
「……だから時間を有効に使うために、拾い上げてもらうのもここじゃなくて、もっと手近な出先の方がいい、と……そうお伝えすれば、
きっとアリシアさんには通じますって……」
読み上げながら灯里は小首を傾げた。
「なんだか変わったリクエストのお客さん……どこへ行きたいんだろう、この人たち……?」
怪訝そうな顔をしてメモから視線をあげた灯里は、突然のアリシアの常ならぬ様子にびっくりした。
顔から笑みが消え、思い詰めた表情で皿の上をじっと見つめていたからだ。
18 :
以上、自作自演でした。:2009/07/29(水) 21:49:26
「アリシアさん……?」
「え?」
けれども顔をあげたアリシアはいつものアリシアにもどっていた。灯里にいっぱいの笑顔を向けている。
「どうかなさったんですか?」
かすかな違和感を覚えながら、灯里はアリシアの皿の上に、氷山のように取り残された二つの三角形のサンドイッチを不思議そうに交互に見比べた。
「いいえ……なんでもないわ……どうして……?」
問い返されると逆に灯里の方が言葉に詰まってしまう。
「あの、おなじみさん、なんですか……?」
アリシアはゆっくりと頭を振る。
「……以前に一度、お見えになった方かもしれないけれど……」
「社員旅行って言ってましたけど、ちょっと変ですよ、メンバーが男女半々だなんて言ってましたから……」
言いながら灯里は感じている違和感の正体に気がついた。
アリシアのマリンブルーの瞳が、さながら色の薄い調光レンズをつけたように、心なしか明るいライトブルーに変わって見えたのだ。
19 :
以上、自作自演でした。:2009/07/29(水) 21:50:40
そのせいか視線に微かではあるが、らしくない硬さが含まれているのを感じる。
どうしたんだろう、急に―― ?
灯里には理由が分からなかった。
光線の加減のせいか、単に気のせいかもしれない……。
が、ダイニングの空気はさいぜんと較べて微妙に重さを増している気配である。
「……もしかしたら合コンのグループだったりするのかも……アリシアさん、急に女の子に欠員が出たからって誘われても、
絶対に混ざったりなんかしないで下さいねっ」
緊張感の漂いはじめた空気を払おうと、灯里は軽口をきいたつもりだった。しかしアリシアはのってはこない。
「そうね……わかったわ……」
そっけなく応じるばかり。俯く顔にはまた影が差しているよう。
アリシアはチラ、と壁の掛け時計を確かめると、何を思ったのかスッとテーブルから立ち上がった。
その様子が、お話はおしまい、と言うようにも映って、灯里はやっぱり何か気に触ることでも口にしたのだろうかと、にわかに不安になるのだった。
同じように時計に目をやってから、おや、と思う。
いつもよりも十五分ばかり早かったからだ。
20 :
以上、自作自演でした。:2009/07/29(水) 21:52:19
時計のように正確で、晃さん曰く「コイツが何をしているか見れば、今が何時何分かわかる」と揶揄されるほど
時間に厳密なアリシアにしては珍しいことだった。
「ちょっと用事を思い出したの……」
鏡の前に立って制帽を乗せ、前髪とサイドのロングヘアーを両手で整えていたアリシアは、鏡に映る灯里の表情を読みとったらしく、
「すぐにもどるから心配しないで」
と、付け加えた。
足早に玄関まで来たところで足を止め、背後に従う灯里を振り返った。
「大丈夫よ、灯里ちゃん……」
にこやかに言う。
「……?……」
「大丈夫……」
アリシアは同じことをもう一度、繰り返した。それが自分にではなく、むしろアリシア自身に向けての言葉のようにも思えて、
灯里はいっそうわからなくなった。
やっぱり何か、心配事でも?――と、案じた。
重なる視線。碧い瞳が潤んだように感じたその刹那、アリシアが突然、思いがけないことをしたのだ。
灯里の肩を両手で抱き寄せると、ぎゅっとハグする。
「!?」
いきなり迫る柔らかな胸の感触が頬にやさしく、ふんわり甘く香る体臭が好ましい。トクトクトクと拍つ心臓の響き。
アリシアの尊い命を刻む音が灯里の胸を熱くさせる。
21 :
以上、自作自演でした。:2009/07/29(水) 21:53:47
「アリシア、さん……?」
「なあに?」
少女を見おろすアリシアの顔は、何も変わらずいつもどおり。
愛情深くて落ち着きのある、穏やかなまなざし。
予期せぬ振る舞いにびっくりした灯里だったが、すぐにアリシアの深い胸に甘えると、背中に腕をまわして自分からも
抱きしめるようにする。
素直な思いを伝えようとして。
腕をまわした体の、思いがけない細さにおののきながら、
「大好きです……アリシアさん……」
灯里はうったえた。
「ありがとう……灯里ちゃん……わたしも灯里ちゃんのことが大好きよ……」
アリシアも耳元で囁く。
永遠とも思える瞬間が流れ、抱擁の名残を惜しんで立ち尽くす灯里を残して、醒めたときにはアリシアの姿はもうそこにはなかった。
灯里は、ふーと、長くため息をつく。まだ胸のときめきの余韻が残っていた。
何かの理由でアリシアが気分を損ねていたのではなく、また自分の気持ちを伝えることができたのは嬉しかった。
が、灯里の顔はまだ懸念を宿したままだった。
22 :
以上、自作自演でした。:2009/07/29(水) 21:54:51
「どうしたんだろう、アリシアさん……」
ダイニングのテーブルには、主を失ってそのままになったサンドイッチの残りと、飲みかけのティーカップが置かれている。
デザートの果物にいたっては手もつけられていなかった。
アリシアが灯里の用意した朝食を食べ残すことなど、これまでに一度もないこと。
「やっぱりなにか変だよ……今朝のアリシアさんは……」
呟いた灯里は、何かに急き立てられるようにデッキに跳びだした。街の方を見回してアリシアの姿を探す。
そして通りの先を去っていく後ろ姿を見つけると、瞳をきらめかせてその背中を追い続けるのだった。
歩き姿も端然とした、アクアの明星、スノーホワイト。
やさしくて、おだやかで、いつも綺麗で、
どこまでも素敵な年上の女の人―― 。
「恋しているのかな……」
呟く。
アリシアさんに、と口にしかけて言葉を飲み込んだ。
それは、いけないことだと思うから……。
でも―― 。
「……あたしがもしも……男の子だったら……きっと……」
やがてアリシアが通りを折れて視界から消えると、灯里はなぜだか言いようのない寂しさに襲われて表情をくもらせた。
>この板では、アニメーション、マンガ、出版物、ドラマ、映画、ゲームのキャラクターや
>歴史上の人物、政治家、芸能人やプロ活動をしている有名人の「なりきりスレッド」を立てることができます。
板違いなのでSSの創作は
創作発表板
http://namidame.2ch.net/mitemite/ へどうぞ。
>創作物全般を作って発表し感想を貰う板です。
>オリジナル、二次創作、競作等幅広く受け入れています。
25 :
以上、自作自演でした。:2009/07/30(木) 17:32:38
「あらあら、灯里ちゃん、管理人さんがここで遊んではいけませんって……」
「はへー、ここ、いけなかったんですかあ……どうしよう……」
「でも、ちゃんとわたしたち用に別の遊び場、用意してくださったみたいよ」
「ホントだ、管理人さん、ありがとうございます」
「ご迷惑おかけしました……でも後片付け、どうしたらいいのかしら? 散らかしっぱなしだわ……よろしくお願いいたします」
26 :
楽屋、にて……:2009/10/21(水) 23:21:24
「アリシアさん、変ですっ、あたしたちの板がなくなってます」
「あら、それはおかしいわねぇ、どうしたのかしら、うふふ」
「あのぉ、平気、なんですか? 跡形もなく無くなってるんですよ」
「もうかれこれ二ヶ月半も……マンホームに居る間中ずっと放置していたのよ、きっと誰も居ないと思って管理人さんが片付けてくれたのよ」
「でも、こっちの方が古いのに残ってて……」
「そうねぇ、どうしてかしらね、うふふ」
「……むこうでの公演中はウエブにも接続できなかったから……アップなんてとても無理だったし……」
「過ぎたことを悔やんでもしかたがないわ、大事なのはこれからよ。この後どうするかは灯里ちゃんにおまかせね……だからよろしく」
「やっぱりそうなりますよねぇ……じゃあ、こんどは思いきって大人板でっていうのはどうですか?」
「うーん、わたしはかまわないけど……でも、灯里ちゃんはいいの? あなたはまだ未成年でしょ……」
「だいじょぶですっ! あたし、がんばりますからっ!」
「あらあら、じゃあ、お手並み拝見させていただくわ……うふふっ」
27 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:26:05
一章 “そのひみつの島のおつとめは……”
(章官能度7/10、セクション官能度0)
今日は独り――。
藍華ちゃんはお家の事情でお父さまとメストレへデート、アリスちゃんは行事で夕方遅くまで学校に足止め。
二人とも午後は予定がいっぱい。
だから、
今日は一人――。
独りだけ……。
アリア社長も今朝からずっと姿を見かけなかった。
「……社長、また町の顔役さんたちとの寄り合いかな……みんなとどんなお話をしてるんだろう。聞いてみたいな……」
灯里は手を休め、くすり、と微笑んだ。
たったひとりで練習するのは久しぶりのこと。だから会社を出てきたときは少しだけ心細かったけれど、今はそうでもなかった。
むしろ繰り返しやってくる睡魔の方が手ごわいライバルかもしれない。
春のネオ・ヴェネツィアはポカポカ陽気で、ラグーナから見るとかげろうにゆれる本島全体がなんだか幸せなまどろみの中にいるようだったから。
実際、河岸の賑わいが過ぎて長い昼食を摂ったあとのひととき、活動的なのはセルを片手に観光スポットを巡る旅行者ばかりで、ここに暮らす人々は
町が再び活気を取り戻すまでの数時間を午睡に当てるものも少なくなかった。
コバルト色の空と海の間に浮かぶアンティークな意匠の建築物、チョコレートデコレーションのようなテラコッタの瓦屋根……。
「素敵……」
28 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:26:56
ぼんやり眺めているうちにまた眠気に襲われて、灯里はおおきな欠伸をひとつ。
「おかしいな、今日はどうしてこんなに眠いんだろう……あたし、ひとりだとたるンじゃうのかな……」
灯里は自分を叱りつけるように両手で頬をパチパチと叩いて気合を入れなおす。けれどもそうしてやり過ごせるのも一刻のこと。水面をわたるそよ風が
体にじゃれつきながら通りすぎていくと、またとろんとして瞼が重たくなってしまう。ここちよい暖気はほのかに甘く香って誘惑し、深い眠りの淵へと引きずり込もうとする。
「……いい香り……この近くにお花畑なんてあったっけ……リド島の方からかなぁ……それとも……」
風は陸風で、沖からではないようである。
灯里はうっとりしながら香りの来し方をうかがおうと整った鼻先を中空へと向けた。
「なんだかアリシアさんが近くに居るみたいだよぉ……」
フローラルな芳香は灯里に、大好きな先輩ウンディーネであり、やさしい指導者、庇護者でもあるアリシアの洗い髪の香りを思わせた。
それとともに、また今朝の出来事が思い出されて灯里はかわいい小鼻をくすくすさせる。
ふんわり甘やかな、とってもステキなにおいの記憶。
「……大好きですぅ……アリシアさん……」
灯里のつぶやきはすでに寝言のようになっていた。
29 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:27:49
(セクション官能度0)
「はひッ! なにやってるんだろっ、あたしっ」
目を開くと、ゴンドラは裏通りの狭いリオをゆっくりと進んでいた。路壁に接触しそうになって灯里はあわてて舳先を戻した。
ほんの一瞬、目を瞑ったつもりが、見回すとあたりは本島市街のようである。灯里はいまさらながら自分が情けなくなった。
「ほへー、戻ってきちゃったみたいだよぉ……」
水路の両側は煉瓦と塗り壁、潮汐で浸食されたコンクリートの土台の建物が続いている。けれどもほどなく、そこが本島ではないことに気づいた。今居る場所が頭の中の市街地図のどこにも無かったからだ。
何より違和感があったのは、一帯に生活感がないこと。ただひっそりと静まりかえっているばかりで人の気配がない。
「どこだろう、ここ……みんな、どこいったのかな……」
水路を分け入りながら次第に不安になってくる。が、生来の好奇心がそれを上まわった。額の真ん中のステキ探知機に反応……アリ。
灯里の操るゴンドラは隘路を奥へ奥へと進んでいく。
街は水路が格子状に配されていて本島よりもすっきり整然としていた。建物のデザインもいくぶんモダンで画一的である。
「……そういえば大昔、ネオ・ヴェネツィアが移築される以前には近くにいくつも入植地があったって、前にアリシアさんが言ってたような気がするけど……そのひとつかな……」
そうした初期入植地の多くは今は廃墟として放置されたままになっているという。ただ最近、マンホームのディベロッパーが再開発を申し入れたとかで、地元ネオ・ヴェネツィアとの間でちょっとした騒ぎがもちあがっているということだった。
「……そうだよねぇ……誰も住んでいないなんて、もったいないよ……」
灯里の目には、少し手を加えればすぐにも住めそうな建物があちこちにあるように見えるのだった。もっとも都市生活に不可欠なこみ入ったインフラ事情など十五歳の少女の想像には上らなかったが。
30 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:28:48
こうして練習を兼ねた廃墟散策すること小半時、あせたセピアの景観にも馴染みかけたころ、ふと通り過ぎた水路の先、廃屋のバルコニーに覚えのある人の姿が見えたような気がした。
え?! と、驚いて、あわててゴンドラを止める。
一瞬だったが、廃墟のモノトーンをバックにその影はとても際立った印象。こんなシルエットの持ち主がそう滅多に居るはずもない。
ゴンドラを逆漕ぎして交差路にまで戻ると、建物と建物の合間の細い水路の先を窺った。ひとブロック、二十メートルばかり先の四つ角の辺りを。けれどもそこにバルコニーのある建物など見当たらないのだ。
目に入るのはかつてはアパートであったらしい三階建ての古ぼけた煉瓦の建物、その向こう隣の廃屋は元は倉庫だったのか窓さえない。
「やっぱり見まちがいかなぁ……そんなハズ……ないから……」
時計を確かめる。
午後三時を少し過ぎたところ。
帰途につくには早いが、そうかといって見当識のないまま先へ進むのにも躊躇われる、中途半端な時間。
(五時前には……アリシアさんが帰ってくるまでには戻らないと……)
灯里の一日のスケジュールでは、午後の練習を終えた後は、仕事から帰るアリシアを必ず社でお出迎えすることになっていた。身のまわりのあれこれをお世話させていただくために。
単に足手まといなだけかもしれなかったが、それは置いても、灯里はアリアカンパニーの窓からネオアドリア海を望みながら、アリシアの帰りを今か今かと待つドキドキときめいた気持ちが大好きなのだ。
遠く水面の先に気配を感じたときの嬉しさ。たとえ姿は見えなくても大切な人がどこにいるかは分る。どんなに離れてもアリシアのまわりには、たとえ燦々と陽の差す真夏の昼間でもそこだけぽうっと光が差しているようだった。
31 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:30:32
アクアの神さまから誰よりも愛されている、みんなの憧れ、
この世でいちばん笑顔の似合う人。
自分がいちばんの笑顔を向けたいと思う人。
「今日の入浴剤はなんにしようかな……おととい市場で見つけたヴィリドアン・ハーブ……気に入っていただけるといいんだけど……」
入浴剤に限らず、灯里が何を用意してもアリシアは喜んでくれる。そこに装いは無くても、それゆえに灯里は今もアリシアが何が好みなのか本当のところは良くわからなかった。
そこが――、
「やっぱりアリシアさんは神秘的だよぉ〜♡」
と、なるのだが、アリシアの笑顔を見るためにも、やはり灯里は彼女のことをもっとよく知りたかった。確かめてみたいことがたくさん、たくさん、ある。
ヴィリドアン・ハーブもそのひとつ。
この香料はハーブとは名ばかりの動物性。キョッカンジカの分泌腺から採取したもので、ぐっと大人びた香りが官能的な、灯里にするとちょっとしたチャレンジだった。
アリシアの楚々としたイメージには遠くても、その隔たり感が奥行きのある陰影をつくって、もしかするととてもよく似合うかもしれない……。
そう思うと少女の瞳は潤み、胸は甘くとろけそうになる。
「きっとアリシアさんは、どんな香りをまとっても……アリシアさんで……とてもお美しくて……」
楽しい夕餉の前のひと時。
はやる心、おどる胸、それを今だけは抑えて、灯里は一旦、廃墟街の外、ラグーナまで戻ることにした。自分がどこまで流されたのか、展けたところまで出ればおよその位置がつかめる。
進むか退くか、後のことはそのときに考えればいい。
逆漕ぎの誘惑に負けず、指導されたとおりに正しく切り返しを試みた。狭い水路での回頭はいつだって神経を使うのだ。万が一にもお与りした大切なゴンドラを粗略に扱って傷つけないように、
腰をたわめ、オールに慎重に力を乗せて……。
と――。
視界の隅をまた白いものが掠めた。
身を屈めたまま顔を向けた灯里は、今度ははっきりと人影の正体を捉えることができたのだった。
半開きになったアパートの窓のひとつが風になぶられて向きを変え、そこになじみのある人物を映しだしていた。
「アリシア……さん……!?」
32 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:31:39
(セクション官能度0〜1)
遠目にも見まちがいようがなかった。
白い制服と白磁の肌、豊かなブロンドは、廃墟のくすんだ灰色の景観にあって場違いの輝きをはなっていたから。
アリシアは死角側になる手前の廃屋のベランダに居るらしい。
(でも……どうして……?!)
灯里は、なぜ今、アリシアがこんなところに居るのか不思議になった。
たしか今日の午後3には、どこかの町の老人クラブ御一行様の予約が入っているはずなのに。その中にこんな廃墟めぐりが予定にあるわけもない。
「どうしたんだろう、アリシアさん……なにか、あったのかな……?」
灯里はあたりを見まわしてゴンドラを係留できる場所を探した。近くに頃合の杭があるのを見つけると、ゴンドラを寄せ、艫綱を手際よく巻きつけて係留する。
水路の脇、軒先に沿って続く足場を頼りにアリシアのもとへと向かった。
平均台のような幅の狭い小径をひょこひょこと身軽な足取りで辿りながら考えを廻らせ、もしかすると……と、一人合点する。
キャンセルがあって次のお客さんを乗せるまでの間を、ここで待機しているのかしら、と。
高齢者のグループの場合、誰か一人が急に体調を崩したりすると観光日程そのものに影響が及ぶことがあるからだった。
(せっかくのアリシアさんの予約をキャンセルしなければならないなんて、お気の毒……)
お年寄り客たちの不運を勝手に気遣いながら、灯里の心は逆に浮き立った。
(もしかすると、ここがアリシアさんお気に入りの、とっておきのおくつろぎスポットだったりして……)
遠く憧れの人のプライベートの一端に触れられるようでワクワクしてくる。
思い返すとアリシアがたった一人で居るところをみかけるのも、これが初めてのような気もする。
33 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:42:20
だから……お目当の廃屋に近づくにつれて足音を忍ばせるようにしたのは、
アリシアさんをびっくりさせてみたかったから――。
交差路まで来たところで建物の陰から、まるで悪戯っ子のように顔だけ覗かせてアリシアの姿を探した。
(やっぱり、アリシアさんだッ!)
彼女はすぐ隣の建物の二階ベランダに居た。タイル張りの手すり越しに半身が見える。視線は遠く、廃墟の町並みを眺めているよう。
長い鬢の髪が風と戯れてサラサラと黄金の滝のように流れている。
(……きれい……)
同性の灯里から見ても、こんな風に独り佇むアリシアはただ眺めているだけで胸に痛みに似た感覚が兆してくる。
今の彼女は、押し寄せる荒廃にたったひとりで立ち向かう気貴い女神そのもの。まるで画聖の手による宗教画のような光景。
灯里はうれしくなって、大好きなご主人さまをみつけた仔犬が尻尾をふるように、手をふって自分をアピールしようとした。
その時だった。
階上のアリシアが、「ああ」と、か細い声をあげ、白い喉許もあらわに上体をのけぞらせたのだ。
灯里はその場で凝固まった。
34 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:43:28
(セクション官能度2)
灯里の目に優美な曲線を描くアリシアの喉のラインが長くくっきり映っている。その眩ゆいばかりの白さに少女はドキッとさせられる。なんだか罰当たりな気分になって。
アリシアがこんなにも無防備に自身のウィークポイントをさらした姿を見るのも初めてのこと。
灯里は年上の友人の見なれない様子に目を瞠った。
けれど……。
もっと驚いたのはアリシアが一人ではなかったことだ。
声、が、した。
男の声――。
灯里はとっさに建物の陰に身をひそめるとベランダの様子を窺った。自分でもなぜそんなふうにするのか理由もわからないままに。
(お客、さん……?!)
訝しむ。
前の合コン客の時間が延びたのかしら、と思った。が、それにしては少し妙なのだ。
ウンディーネがゴンドラをおりて観光客を案内することは普通、ないこと。たとえ求められても応じてはならない定まりになっている。海と陸にはそれぞれ持分があって、互いに侵さぬように棲み分けられている。
それをアリシアが知らない筈はない。
35 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:44:36
(何をしてるんだろう……アリシアさん……)
後ろで、また男の声がした。
もっとリラックスしてごらん――。
聞き取れて、灯里の眉にうっすら険が差してくる。
なんて失礼なものいいをするお客さんだろう、と思って。ことにアリシアに向けて投げかけられた言葉としては甚だしく不適切。まるで使用人かメイドにでもするような狎れた口ぶりなのだ。
(感じの悪いお客さん……苦手だな、こういう人……)
たいていのことには受容的な少女にしては珍しく、ネガティブな感情に心を乱してしまう。ピリリと頬をそそけだたせた灯里をよそに、姿なき声はさらに続けた。
「初めは抵抗があるかもしれないが、じきに慣れるよ……」
もったいつけるような押しつけがましいもの言いはかなり年上の印象。四十歳くらいだろうか……。
不審と猜疑、嫌悪のないまぜになった大人びた表情を浮かべ、声のするあたりに灯里は目を凝らした。ベランダの陰、アリシアの背後のあたりに。
けれども目に入るのはアリシアの優美な立ち姿だけ。彼女はベランダの縁に両腕を突っ張り、幾分前屈みに上体を支えるようにしている。
ただ――。
初め気づかなかったことで、いまははっきりと変だと思うことがあった。
ベランダ越しに見え隠れしているアリシアの白い制服の腰のあたりが、どうしたことか寄せジワとたるみをつくって膨らんだ感じになっている。
着衣に見苦しい乱れをつくるなど、およそアリシアらしくなかった。というのもそれが、ウンディーネにはご法度のとても恥ずべきものだったからだ。
かけだしの見習い生が教習のあいま、時間に追われて慌しく用を足したときなどにうっかりつくってしまうような、くしゃくしゃのシワ。とても不用意で、お客さまを不快にさせる、だらしなく不潔な無精者のしるし。
輝けるスノーホワイトの制服には絶対にあってはならないもの、あるはずのないもの。
それに――。
(……あんなふうにすれば、きっと……脚がまる見えに……すぐ近くにお客さんだって居るのに……男の……)
と、不意に奇怪なイメージが浮かんで、灯里は、ごくり、と喉をならした。胸がにわかにドキドキ拍ちはじめる。
36 :
以上、自作自演でした。:2009/10/21(水) 23:45:40
「そんな……こと……あるはずが……」
嫌な予感を追いはらおうと、そう自分に言い聞かせようとしたときだった。突然、アリシアが悩ましい姿を晒して乱れたのだ。
堪えきれなくなったように、はぁっ、と、熱っぽいため息をつく。ふっくらとした清らな唇のあいまに覗く真珠の歯並み。
(ど、どういう……こと……!?)
思いがけない場面にたじろぐ少女。アリシアが普通ではないのはもう誰の目にも明らかだった。
アリシアは荒い呼吸に肩を上下させている。豊かなふくらみを秘めた胸が制服の前をはちきれそうにしながら大きく起伏する。わななく喉もと。
たとえどんなに喫水を深くしても息ひとつ乱さず自在にゴンドラを操る彼女が、あろうことか今は息を乱していた。
「ひらきなさい、シア、いうことをきくんだよ」
また声が命じた。
シアって、まさか、アリシアさんのことっ――?!
怯える視線でなりゆきを見まもる少女に追い討ちをかけるように、アリシアが声を震わせて訴えた。
「……イヤ……」
哀しく弱々しい声音。
呼吸を整えるようにして、窄めた肩の間にうなだれた顔を見て灯里はショックを受けた。
上気した頬、辛そうに細められた双眸には懊悩の昏い陰を宿している。
普段のおっとり柔和な笑顔の時とはまるで別人。
たのみとする年上の憧れの人がこんなにも頼りなげな姿でいる。
それは恐ろしい出来事を暗示していた。
見てはいけないものを見ている、知ってはならないことを知ろうとしている……。
それでも灯里はもう視線をそらすことはできなかった。
ここでやんなカス
38 :
楽屋、にて……:2009/10/28(水) 00:28:02
「ほへー、アリシアさぁーん、大変ですぅ」
「あら灯里ちゃん、それなあに? どこからかお届けもの?」
「これ、みんなお手紙ですって、今、郵便屋さんが配達してくれたんです。こっちの大きな段ボールはアリシアさん宛、
わたし宛のもちっちゃい箱入りですけど、こんなに……」
「まぁ……」
「マンホームからだそうですよ、このあいだのお台場公演を見たっていうファンの方たちからみたいで……」
「あらあらまぁまぁ……」
「困ったなぁ、お手紙は嬉しいけど、こんなに一度にたくさん貰うと読むだけでも、はへー……」
「そうねぇ、うーん……」
「それに、お返事もしないといけないですよね、せっかくみんな心をこめて書いて送ってくれたんですから……
でも、あたしあんまり字が上手じゃないし、書くのも遅いから……どうしよう……」
「みんなにお返事するとなると、たしかに大仕事ね……」
「あっ、電話っ、あたしとりますっ!……はい、アリアカ、あっ藍華ちゃんっ!……えっ、うん、こっちにも……えーっ、そうなんだぁ!……」
39 :
以上、自作自演でした。:2009/10/28(水) 00:29:18
(セクション官能度3)
ホラっ、と、男はしきりに何かを促している。が、きっとそれはとうてい受け容れられない要求なのにちがいない。
こんなに嫌そうな、眉間に縦じわを刻んだアリシアの顔も灯里は見たことがなかった。
だが声の主はどこまでも無慈悲。
「イヤ? イヤっていうのは……こういうことかな?」
念押しする。
途端、アリシアがとても密やかに、ひっ、と息をのむのが気配でわかった。
驚愕に見開かれた両目がすぐに嫌悪の色に染まって細められる。瞼にうかぶ繊細な皺。
「ほうら、いいコだ……」
「……やめて……ください……」
声をふるわせ、途切れがちにうったえた。長い睫の目をしばたたかせ、落ちつかない視線をおよがせる。
アリシアは、それまでとは違ってすっかり怯えたようすをみせるようになっていた。
「ナニをやめるのかな?」
応じる声は揶揄するような調子。たとえ姿は見えなくても口元に下卑た笑みが刻まれているのが見えるよう。
(……いったい、何を……してるの……?!)
灯里の疑念はさらに深まった。
40 :
以上、自作自演でした。:2009/10/28(水) 00:30:07
「それとも……こっちの方かな……」
男は更にアリシアを問いつめているらしい。すると、はうっ、と喘いだアリシアの背中が、瞬間、電気に撃たれたようにぐっと弓ぞりになった。
「あっ、アヤキさん……それだけはっ……」
アリシアは独り、苦しそうに身を捩る。
みている間にも追い詰められた雰囲気になっていくアリシアの、喘ぐように開かれた口からつむぎだされる、やめてください、のうったえが痛々しく少女の胸に迫る。
それがどういうことなのか、ついには灯里も認めるしかなかった。
あまりにも、おんな――を意識させる乱れ様だったからだ。
思い過ごしでも気のせいでもない、紛れもない現実。それも現在進行形の。
アリシアは男から何かされている――。
それも、とてもひどいことを。
41 :
以上、自作自演でした。:
(……うそ……うそです……アリシアさん……どうして……?)
急に目頭が熱くなった。
アリシアが女のあつかいを受けること、それは灯里にとって、ぜったいにあってはならないことだった。
スノーホワイトはどこまでも特別の存在のはず。
清らで、人の穢れなどとは無縁の純白の妖精、輝ける光の天使。
それが――。
少女の両目から、溢れた涙が頬をつたって流れ落ちていった。
アリシアらしからぬ気配の正体が、身にまとわりつく官能のオーラだったとしたら全て説明がつくのだ。
彼女の首すじが長く白く見えたのは着衣に乱れがあった所為。
上気した頬も甘い溜息も、愛くるしい啼き声も、性的な意味をもつ女性固有のしぐさだとしたら合点がいった。
そして――。
男の不可解な言葉の意味も。
「言ってごらん、ドコをどんなふうにされるのがイヤなのか」
おぞましい仄めかしに少女は慄えあがった。
案の定アリシアは口をつぐんだまま、くやしそうに唇を咬むばかり。けれども彼女の無言の抵抗は長続きはしない。
すぐにせつない悲鳴に置き換わってしまうのだ。
「……やめ……て……」