【 帝都 】 サクラ大戦・第十八幕 【 巴里 】

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79ご注意 ◆Sumire5vIA

 お客様へ
 
 これよりの演目は暴力や残酷表現を伴います。 
 そういった内容に不快感を覚える方はご覧にならないようにお願いいたします。
 また本作品は暴力を賛美したり被害者を冒涜するものではございません。
 悪しき封建制度の弊害に関する個人的考察であるとご理解下さい。
80アバンタイトル ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:29:11

 ― 褒美に何がほしい?

 
 男に問われ、美しき踊り子は言った。

 美に対する代償はそなたの血。 そなたの首。 そなたの命。
 
 さあこの鎌で自分の首を刎ね、血飛沫の喝采を浴びせてくださいませ。

 ― 「 戯曲 サロメ1911より 」  
81神崎すみれ ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:29:55

>前847 >前852 ほか

 〜〜 「 鋼鉄の処女の恐怖! 吸血貴婦人物語 」 〜〜
 
 
 ・・・みなさんこんばんわ。 神崎すみれでございます。 

 リクエスト/実話恐怖シリーズ、本日は 『 エリザベート・バートリー伯爵夫人  』 でございます。
 
 
 ― わたくし、この恐ろしい話だけはお芝居にしたくなかった というのが本音ですわ。
 
 女性はいつも美しくありたいもの。 ましてや高貴な御婦人でしたら尚更でしょう。

 ですが、その美を求める心に邪な魔が棲み付き、時代の不備がそれに力を与えた時・・・
 このような恐ろしい事件が現実に起こり得るのですわ。  

 これから暫くの間、この恐怖に向き合い、事件の裏に潜む影について考えてみてください。
82上演中 ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:30:39

 〜〜 最も高貴でもっとも美しく 〜〜


 エリザベート・バートリーは、1560年、ハンガリー/トランシルバニア地方の名家、バートリー家の娘として誕生した。

 バートリー家はトランシルバニア各地に半独立の領主国を持ち、歴代の枢機卿やハンガリーの大臣、果てはポーランド国王を
 出すほどで、血筋的にも人類最高の名家、ハプスブルグ家と深い繋がりもある名門中の名門。 貴族の中でも最高クラスの家柄だった。

 当然、家柄を保持する為、親族間による近親結婚が盛んに行われ、エリザベートの両親もいとこ同士の政略結婚であり、
 夫婦の愛情もなく、娘にも無関心だった。 エリザベートは単なる政治的な駒として、数百の召使によって育てられた。

 何不自由ない雲上人の生活だったが、同時にそれは親の愛のない、いや召使いにさえ愛されることのない、作法を詰め込むブロイラー
 のような生活であった。彼女にとって自宅である宮殿は、「 豪華な養鶏場 」でしかなかったのだ。

 彼女が11歳になった時、売り先が決まった。 ハンガリーの貴族フェレンツ・ナダジー伯爵である。このナダジー家も、
 900年以上続いた由緒正しい軍人貴族の名門である。 その日から彼女はナダジー家で花嫁修業を積むこととなった。

 生まれながら運命を決められ、世間からも隔離され、愛というものを知らないエリザベートは、婚約者の母ウルスラ・ナダジーに
 よって厳しく躾されることになり、その心は砂漠のように渇いていった。 絶えず口やかましく、時として陰湿な虐めすら行う養母
 と暮らす毎日の中で、彼女を支えたのは、 「 最も高貴でもっとも美しく在らねば 」 というプライドだけだった。
83上演中 ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:31:18

 〜〜 魔女への変貌 〜〜


 こうして育ったエリザベートは他国の貴族が羨むほど美しく、高貴に育った。 すくなくとも外見だけは。
 
 1575年5月8日、ナダジー伯爵は26歳、エリザベートは15歳で結婚し、ハンガリーのニートテ地方にあるチェイテ城に
 移り住んだ。 だが、結婚生活は最初から不毛で、夫はエリザベートに愛情を注ぐどころか、戦争好きな性格だったので度々出征し、
 殆ど一緒に過ごす事はなかった。 たまに帰ってきても殺し合いの話ばかり。 血の臭いしかしない新婚生活であった。

 エリザベートは不在がちな夫と陰湿な姑に鬱積した不満を持ち、不貞を働いた。城下で身分を偽り、娼婦をしたのだ。 
 夫の気を引きたかったのであろうが、結果は裏目だった。  夫は気にすることもなく全くの無関心であった。彼にとっての関心は、
 バートリー家を名乗れる( 形式上は養子となる )ことだけであり、セックスも乱暴で自己中心的なものであった。 
 逆に姑はエリザベートを厳しい監視下において、前にも増して激しく罵るようなった。

 彼女はこの頃から、急速に黒魔術に傾倒しはじめた。魔女と称する怪しい人物を城に招き入れ、狂人と言われていた人物を執事に
 するなど、「 自分を中心とした魔界 」をつくることに異様な執着を見せるようになった。
 
 彼女は4人の子を授かったが、自分がそうであったように何の愛情も示さなかった。 彼女は満たされない愛など信じなくなっていた。
 年々すさむエリザベートの心は城内に恐怖政治を強いた。 メイドや使用人は些細なミスでも厳しく処罰された。
 こうした生活が25年も続き、 「 魔界 」 は完成しつつあった。

 1600年、ナダジー伯爵がオスマン=トルコ軍と戦って、51歳で戦死した。 「 魔界の扉が開いた瞬間 」 だった。
 彼女は残る最後の仇敵、姑、ウルスラをあっさり毒殺すると、何人にも咎められることなく、魔女となった。
84上演中 ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:33:00

 〜〜 恐怖の城 〜〜


 この時から城は正に魔界となった。 彼女は誰に遠慮する事もなく魔術やみだらな淫行に耽り、使用人に日常的に暴力を振るうなど、
 やりたい放題であった。 また不幸なことに取り巻きにも悪魔信仰者などがいて、その行為を正当化させるのに一役買った。
 
 だが、この魔女にも恐れがあった。 それは 「 老い 」 であった。 40歳をすぎ、彼女をここまで支えてきたプライド、
 「 最も高貴でもっとも美しく在らねば 」 は著しく衰え、彼女を苦悩させた。 それはメイドに八つ当たりしたり、黒魔術の
 薬を飲んでみたり、あるいは城内の鏡をすべて廃棄しても解決することではなかった。

 そんな1602年のある日、事件は起こった。
 
 その日、いつものようにメイドを折檻していた彼女は、メイドの返り血を浴びた部分の肌が瑞々しく、まるで少女のように潤っている
 事に気がついた。 これは勿論錯覚なのだが、魔界では事実以外の何者でもなかった。 
 即座にエリザベトは彼女の心臓に木杭を叩き込み、噴水のように噴き出た血を全身に浴びながら部下に笑顔で叫んだ。
 「 今日は人生最良の日である 」 と。

 美貌を保つために血を求める魔女、エリザベートは手当たり次第に少女を殺し、その血を浴び、飲み、そして生き血の風呂に浸った。

 天井から吊り下げた、棘付きの「 鉄の鳥籠  」に少女を全裸で閉じ込め、下から兵に長槍で突かせながらとる食事は彼女にとって
 至福の一時であり、その悲鳴はどんな交響楽より彼女の心を癒した。

 死者の血がまだ生暖かい浴槽で、彼女は面白い拷問の方法を取り巻きたちと相談した。 「 もっと楽しいことはないかしら? 」
 
 メイドである少女たちは次々と餌食になった。 血を抜かれる前に徹底した拷問を受けて。
 目つきが悪いと瞼を縫われる。 お喋りがすぎると唇を縫われる。 手が遅いと全部の指を切断され、呼ばれて来るのが遅いと
 片足を切り落とされた。 それらの滴る鮮血を飲み干すと、エリザベートは魔術の実験を行うのが日課だった。
85上演中 ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:34:06
 
 ほどなく城内には殺すべき少女がいなくなり、城下の少女を強制的に奉公に出させる法律を作り、
 それでも足りなければ兵に命じてさらわせたりもした。 

 この当時の封建社会では君主が法であり、司法・立法・行政のすべての権限を持っていた。

 それは恐ろしいことに、自分の娘が目の前で誘拐されても、相手がエリザベートでは逆らえない社会の仕組みであった。
86上演中 ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:34:39

 〜〜 鋼鉄の処女 〜〜
 

 1607年になると、彼女は新兵器を投入する。 
 高名な時計技師を呼び寄せて作らせたからくり人形、「 鋼鉄の処女=アイゼンメイデン ( eiserne Jungfrau ) 」 である。
 この人形は胸の宝石を押すと起動し、相手に向かって歩き出す。 そしてまるで愛しい恋人を抱きしめるように腕をまわしたその刹那、

 仕掛けナイフが内部から飛び出して相手を串刺しにするという仕組みだった。

 この殺人人形をいたく気に入ったエリザベートは、高価な衣装まで用意して飾り立て、以前にも増して血を浴びた。
 
 娘を奪われた領民は越境して国王に直訴した。 だがバートリー家、そのバックにあるハプスブルグ家に睨まれることを恐れた国王は
 エリザベート多額の借金をしていたこともあって、この訴えを黙殺した。 城内の兵士もすっかり魔女崇拝思想に染まっており、
 彼女を誰も止めることなど出来なかった。 神でさえも。

 更にこの頃になると、エリザベートは美少女、特に処女というものを 「 自分に無い美と若さの象徴」 として妬みから
 徹底的に憎悪するようになり、本気で領内だけでなく全欧州の美少女を抹殺を企てはじめ、内乱さえ起こしかねない状況だった。
 
 「 鋼鉄の処女 」 は毎夜のように死のダンスを踊り、処女の血を集めつづけた。 
 
 その数はエリザベート本人の日記に記された数だけでも612人。 実際はその数倍だったと推測される。 
87上演中 ◆Sumire5vIA :2005/11/14(月) 01:35:36

 〜〜 魔女の最後 〜〜


 1610年12月30日、下級貴族の少女、シャルロッテは靴を友人と二人で街道を歩いていたところ、城に来れば赤い靴を
 プレゼントすると城の女中に誘われ、チェイテ城の門をくぐった。 

 たいそうなご馳走を振舞って貰ったあと、城の三階にある謁見の間でエリザベートと会った。 「 赤い靴を授けるから近う寄れ 」 

 その言葉にはしゃいだ友人がエリザベートに近づくと、衛兵に両足のつま先を槍で突き貫かれた。 
 
 血に染まる両足を見ながら、悲鳴をかき消すほどの大声でエリザベートは叫んだ。 「 何て綺麗な赤い靴なんでしょう! 」

 シャルロッテは咄嗟に窓ガラスを破って城の外に飛び出した。 自殺のつもりだったが、立ち木の枝と雪がクッションになり、
 傷も負わず着地した。 そして神の恵みか大手門の跳ね橋が下がっていたのでそこから脱出に成功した。

 生還したシャルロッテの両親は聡明な人物で、国王でなくバートリー一族の中でも義に厚いとされるエリザベートの従兄、
 ジョージ・ツルゾ伯爵に助けを求めた。 伯爵は完璧な根回しをして、国王の足枷を解いた。 
 
 そして翌1611年3月、ついにエリザベートに追討令が出た。

 ・・・突入した騎士団が見た城内は正に魔界だった。 いたるところに髑髏が飾られ、拷問や陵辱で半死半生の少女、数十人が
 牢でうめき、おびただしい死体が倉庫には積まれていた。 異臭に咽びながら騎士団は関係者全員を逮捕した。
 この時、鋼鉄の処女は錆び一つ無いほど良く手入れされ、その獲物を待っていたという。

 その後の裁判で、拷問、殺害に関与した人物は全て公開処刑された。
 しかし、エリザベート本人は当時の裁判では裁けないほど身分が高かったので、謹慎・蟄居という罰にも当たらない軽い刑であった。

 だが、処女の生き血を飲めなくなり、魔力を失った魔女は1614年、54才で死亡した。 
 その死に顔には、かつての美貌は見る影もなかった。