吸血大殲 第31章 夜を往くモノ――Night Walker

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376鈴鹿御前 ◆Y4SUZUKA :02/07/08 02:48
鈴鹿御前 vs チェカラク

>375

 片腕になった鬼は、山の方へと逃げていく。
 人の密集する方向に逃げられなかったのは、幸いだった。どうやら、これ以上の犠牲者を出すの
は避けられそうだ。

 木々の間を潜り、下生えを掻き分け、人には到底出し得ない速度で、疾走する。
 前方で、鬼が洞窟へと逃げ込むのが見えた。
 立ち止まって、眺めてみた。見た目には、何の変哲もない洞窟のようだ。
 中に入ってみても、その印象は変わらなかった。
 その通路に、行き着くまでは。
 
 虹色の奇妙な物質が、通路を覆っている。
 手を触れてみたが、何の抵抗もなく沈んでいく。行き止まりではなく、道は続いているようだ。
 おそらくそこを塞いでいたであろう岩が、力任せにどけられている。あの鬼の仕業であることは、
疑いない。
 ならば、私の取るべき選択は一つだ。
 この先に逃げ込んだであろう鬼を追って、私は虹色の壁を潜った。

 そこに、広がっていた光景は──
>337>348>362 アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルトVSフォルテッシモ
 
逃げる。ただひたすらに逃げる。
私を身を呈してかばってくれた少年と一緒に。
 
・・・この少年は、こんな私を・・・人間じゃなくなった私をそうと知ってて助けてくれる。
たった今出会ったばかりの私を。
 
―――正直、申し訳なかった。
これは私自身のことなのに、それでも遭わなくてもいい危険に遭ってまで
私を助けてくれる少年。
・・・本当に申し訳なかった。だって、なぜなら・・・
 
 
《ドクン》
 
 
・・・欲しい。たまらなく欲しい。
彼の口から流れ落ちた血。人間には味わえない甘美なる赤い血。
私の喉が渇く。彼の血を欲しがって喉が喘ぐ。あの赤い色が目に焼きついて離れな―――
 
 
 
・・・耐え切る。
疼く牙と喉、熱くなっていく頭を何とか抑える。
人の血は吸わない。吸うわけにはいかない。
・・・でも、今回ばかりはわからない。とても花の生気を吸ってごまかす暇なんかありそうにない。
視界を掠める自分の髪の色が青みがかっているのが見える。
もう・・・時間の問題なのかもしれない。
 
だから、私は。
手を引っ張られて逃げながら、心の中で何度も何度も彼に謝っていた。
―――血を、吸ってしまうかもしれないから。
英雄&新世界vsレイオット
導入

とある、寂れた田舎道を奇妙な二人組が歩いていた。
一人は巨漢だ。
黒い軍用コートを着込み、右腕は巨大な鋼鉄の義腕。
二の腕に着けられた砲門には木杖がはまっている。
もう一人は、女性。
この様な場所だというのに、男物にも似た給仕服を纏っている。

「大尉ー?本当にこっちで良かったのかしら?」

女に大尉と呼ばれた男は左手でコートの内側を探る。
取り出したのは一枚の紙片。地図だ。

「間違いはないはずだ」
「・・・というか、そもそもG機関の長である私と、
空軍部大尉の貴方がなんでこんな任務しなくちゃ行けないのかしら」
「人員不足なのだ。戦後、我々G機関は解体こそされなかったものの、
規模を削減されてしまったのは確かだからな」

G機関とは、世界中から喪失技巧や秘技術をかき集め、独逸の力と為すために存在している
政軍の上にある高機密組織である。

「だからって、長を向かわせるのはどうかと思うわよ?」
「気にせず、君は楽にしているがいい。相手には戦闘能力はないそうだからな」
「ふむ・・・」

一つ、うなり声。数秒の間。
女は言葉を続ける

「モールド、ッていう機構鎧・・・興味深い技術よねー」
「技術を持ち帰ったらエルリッヒ様が狂喜乱舞しそうだな」

そんなことを話ながら、二人は農道を歩き続ける。
やがて、大きな倉庫が見えてきた。

「あそこかしらね?」
「そのようだな」

二人はその倉庫に向かって歩みを進める。

「さて・・・簡単に確保できると良いのだけれどねー」
へラード&レーヴァンツァーン戦(導入)
>378

昼下がりの午後――やや遅めの昼食を採り始める。
場所は、当然の如く気の利いたカフェテリア――などではない。
油の臭いと無数の機械がひしめく、大型倉庫を改造した工場の如き場所の一部分だ。
無理矢理に作業机を片付け、その上に清潔なテーブルクロスを敷き、持参した茶器一式と
サンドイッチを並べていけば、とりあえずは食卓としての体裁を整えることが出来た。
 
紅茶を口に含みながら、猛烈な勢いで消費されていくサンドイッチと、それを為していく人
物を呆れた様子で見つめている。
まあ、それも当然だろう。控えめに言っても美形だと言える顔が、口いっぱいに食べ物を
詰め込んで咀嚼している様は、どこか喜劇めいた印象すら与えている。
だが彼は、そんなこちらをまったく無視するように、ごくん――という音すら伴ってサンドイッ
チを嚥下した。
満足げな表情で紅茶を一口。そして。
 
「んー。いい香りだ。カペちゃん、また腕を上げたかな?」
 
にこやかに、静かにカップを傾けていた少女に声をかける。

彼の名は、ジャック・ローランド。24歳。
この工房――「JR総合機械研究所」の主にして、レイオットのモールドの修理、調整を手
がける、一級の腕を持つ若き技術者だ。
とはいえ――彼は、当局発行のモールド・エンジニア資格を持っているわけではないのだ
が。平たく言えば、モールド技術者として言えば、彼もレイオットと同じくモグリである。
 
「……ありがとうございます」
 
感情のこもらない声音で、少女――カペルテータが応えた。
だがジャックは気分を害した様子もなく、彼女の血のように紅い髪を軽く数度撫でていた。

「うんうん結構。これからも頑張って。普段からこれを味わうのが味音痴のレイだってのが
気に入らないけど」
「いいんだよ。俺はこういうのが好きなんだから」

風味が消えるほどにたっぷりとミルクを入れた紅茶を飲み下しながら、レイオットが言う。
知人にも軟弱な飲み方だ――と言われたことがあったが、それを特に変えるつもりもない。

そんな、どこかのんびりとした雰囲気の中。昼食はつつがなく終了しようとしている。
最後に残ったカツサンドに、レイオットが手を伸ばしたその時――――
へラード&レーヴァンツァーン戦(導入)
>379

表から、倉庫のシャッターを動かす音が聞こえてくる。手を伸ばしたままの状態で、レイ
オットはそちらを振り返った。

「……なんか、今日客とかの予定ってあったのか?」
「……いや。別にそんなのはないけど」

どこかくぐもった声で応えてくるジャックに、いやな予感と共にレイオットは顔を戻す。
そこには、最後のサンドイッチも咀嚼しながら、表の方へ顔を向ける美青年の顔がある。
レイオットはうんざりとした表情で伸ばしたままの手を引き戻し、

「……じゃあ、なんなんだろうな。どっちにせよ、出ないと拙いんじゃないか?」
「ああ――そうだな。んじゃ、ちょっと行ってみますか」
 
サンドイッチを飲み下して、ジャックがおもむろに腰を上げた。
歩いていく彼の背中をなんとなく見つめて、気まぐれに、その後を追う――

一分もかからずに目的の場所へと到達する。広いとはいえ、元々が倉庫だ。さほど距離が
あるわけでもない。
そこにいたのは、ジャックと――それに相対するように佇む、奇妙な二人組だ。
軍服らしきものを身につけた巨漢に、かたや給仕服らしき姿の女性。まず、あり得ない組
み合わせである。
事、こんな場末の工房を訪れる客人としては。

「なんなんだ、一体……?」

ぼんやりと呻く。このすぐ後に、彼らと戦う羽目になるなどとは、露ほどにも思わずに。
(>380修正)
へラード&レーヴァンツァーン戦(導入)
>379

表から、倉庫のシャッターを動かす音が聞こえてくる。手を伸ばしたままの状態で、レイ
オットはそちらを振り返った。

「……なんか、今日は来客とかの予定ってあったのか?」
「……いや。別にそんなのはないけど」

どこかくぐもった声で応えてくるジャックに、いやな予感と共にレイオットは顔を戻す。
そこには、最後のサンドイッチも咀嚼しながら、表の方へ顔を向ける美青年の顔がある。
レイオットはうんざりとした表情で伸ばしたままの手を引き戻し、

「……じゃあ、なんなんだろうな。どっちにせよ、出ないと拙いんじゃないか?」
「ああ――そうだな。んじゃ、ちょっと行ってみますか」
 
サンドイッチを飲み下して、ジャックがおもむろに腰を上げた。
歩いていく彼の背中をなんとなく見つめて、気まぐれに、その後を追う――

一分もかからずに目的の場所へと到達する。広いとはいえ、元々が倉庫だ。さほど距離が
あるわけでもない。
そこにいたのは、ジャックと――それに相対するように佇む、奇妙な二人組だ。
軍服らしきものを身につけた巨漢に、かたや給仕服らしき姿の女性。男に至っては、その
右腕の部位には、冗談じみた大きさの鉄塊がある。あれは……まさか、義手か?
なんにせよ、こんな場末の工房を訪れる客人としては、まずあり得ない組み合わせだ。

「なんなんだ、一体……?」

ぼんやりと呻く。このすぐ後に、彼らと戦う羽目になるなどとは、露ほどにも思わずに。
対レイオット戦
>381

巨漢と女はシャッターの閉まった寂れた倉庫の前に立っている。
女は倉庫を見上げて

「大尉、さっきも聞いたけど、ホントに此処なの?どう見たって農家の大型倉庫だけど」
「ああ。事前調査に寄れば相手は無免許の魔法工学者――つまりは、モグリだ。
 …カムフラージュの一環だろうよ」
「ふーん…つまり、居なくなっても法律的には誰も困らない訳ね」
「そうだな。だからこそ我々も目を付けたのだがな」
「…なんかまるきり私たちって悪者よねー」

女は腰に手を当てて溜息。ふと、自分の格好を見直しながら

「私、変じゃないわよね?」
「…いつも通りだ、レーヴェンツァーン」
「大尉がそう言うなら、安心ね」

膝裏まである長い編み髪をちょっと直して、頷く。

「これでオッケーね…じゃ、大尉、お願い」
「了解した」

レーヴェンツァーンの言葉に従い巨漢は鋼鉄の右腕をシャッターに掛けた。
鋼と鋼がこすれる音がして、シャッターが少しずつ開いていく。
それと同時、倉庫に封印されていた濃厚な機械油の臭いが自己主張。
それから顔を背けもせず、二人は倉庫の奥から歩いてくる人物を待っていた。
二人の目の前には、油にまみれた作業服の金髪の男。
彼に向けて、小さく微笑み、レーヴェンツァーンが口を開く。

「あら。わざわざ出迎え有り難う。えーっと…」

レーヴェンツァーンは傍らで黙って立っている巨漢に向けて頷く。
それを受けて、巨漢は再び紙片を取り出し
其処に書かれている事柄を蕩々と読み上げる。
それは、ジャックの個人情報の一部。

「ジャック・ローランド。24歳。工房「JR総合機械研究所」の工房主で、
工学者であり超一流のモールド・エンジニア。
だが、後者については当局の免許を持っておらず、違法営業を続けている。
……この情報に間違いは有るか?」

ジャックの返答を待たずにレーヴェンツァーンは言葉を続ける。

「唐突に現れて、しかもお食事中、不躾なのは解ってるわ。
不躾ついでに悪いのだけれど、私たちと一緒に来てくれないかしら?といっても――」

先ほどと同じように笑いながら、しかし眼だけは笑わずに
ジャックの背後から近づいてくる黒髪の男にも聞こえる声で

「――いやだ、と言っても無理矢理連れて行くのだけれどね?」
そう、大したことでもないかのように言い放った。
vsへラード&レーヴァンツァーン
>382
 
「なにやら色々と情報が偏ってる気がするけど――まあ、大体そんな感じだな」
 
苦笑を浮かべて、その唐突な来訪者に向けてジャックは応えた。彼が資格を取らないのに
は、もちろん理由がある。彼にとって、モールドを含めたその他機械を弄くり回すのは、実
益を兼ねた趣味なのだ。それに、一度資格を取得してしまえば、彼は一切の仕事を断るこ
とができなくなってしまう。何故なら、法律にそう定められているのだから。徹底した趣味人
として生きるジャックにとって、それは望ましいことではない。なので当然。
 
「残念だけど、丁重にお断りするよ。どっかの誰かに従がってなんかやらされるのなんて、
まっぴらだだしね――というわけで、レイ。あとはよろしく」
「――――あ?」
 
いきなりこちらに振り向いて、なにやら物騒なことをのたまってくる彼に、レイオットは怪訝
に声を上げた。ほんの一瞬のあと、何を言われたのかようやく理解する――次いで口から
滑り出したのは、悲鳴に近い怒声だ。

「――って、おい。一体どうしろってんだよ!?」
「なにいってんだよ。こういう荒っぽいのはそっちの専門だろ。天才は頭脳労働って昔から
相場が決まってるんだ。それに、俺が居なくなって困るのはそっちだろ?」
 
意地の悪い笑みを浮かべて言ってくる彼に、レイオットは苦虫を噛みつぶしたような表情を
浮かべた。
 
「――くそ。あー。わかった、わかったよ。まったく――これは貸しにしておくからな。」

言いながら、一歩前に出る――同時に、腰のホルスタから、流れるような動作で銃を引き
抜き、構えていた。<ハード・フレア>カスタム。競技用の重銃身を備えるリボルバー拳銃の
銃口が二人に対し向けられる。
 
「……というわけで、このまま帰ってくれたりすると楽でいいんだが。お互いに、怪我とかし
ても面白くないしな」

どこか疲れ切った口調で、レイオットは二人に向けて警告――らしき口上を述べる。
言ったところで無駄だというのは、なんとなく理解できてはいた。
また厄介なことになった――と、胸中で深々と嘆息しながら。
対レイオット
>383

レイオットは口上を言い放ち、銃口が二人に向けられる。
それを見てもレーヴェンツァーンと男の表情は余裕のままだ。
銃口を向けられているのもお構いなしに二人はつぶやき合う。

「はぁ・・・先客が居たのね。コレは予想外だったわ」
「退いてくれ・・・と言っても聞きそうにはないな」
「と言うわけで大尉。後はよろしく」
「了解した」

レーヴェンツァーンは後ろに下がり、男はその右腕をレイオットに向ける。
が、砲門に収まった杖が飛び出すことはない。途中にロックボルトがあるからだ。

「名を、名乗っていなかったな。自分はG機関空軍部大尉、
ヘラード・シュバイツァーと言う」

義腕を構えて、

「またの名を・・・『音速裁断師』」

砲声。義椀の半ばにある排莢口から大型の薬莢が排出され、杖がパイルバンクされる。
杖が空間を叩く音が確かに響き、そして杖が収納される前に一つの抑揚有る詞が響いた。
その詞は、言実詞と呼ばれる、世界を書き換える言葉。

《英雄に刃向けることは叶わず》

拳銃の銃口あたりが流体・・・世界を構成する純物質でできた青白い線で構成された立方体に囲まれる。
一瞬後、銃口はレイオットの方を向き、宙に浮いていた。
空間が、切り取られ、回されたのだ。

「・・・恨むなよ」

シュバイツァーはその鋼鉄の右手でレイオットを打撃。
為す術もなくレイオットは吹っ飛んでいく。
vsへラード&レーヴァンツァーン
>384

――――衝撃。
無防備に、背中から壁に叩き付けられ、ほんの一瞬、息が詰まる。
咳き込み、口内に広がる鉄のような味に、彼はわずかに顔をしかめた。

「レイッ!?」

吹き飛ばされた距離は、およそ五メートルほど――焦ったようにこちらに声を返るジャック
に片手を挙げて応えつつ、激突したのがただの壁であったことに軽く安堵した。
もしここに作業機械のひとつでもあれば、それこそ洒落になっていない。それにしても。

「……なんだ、あれは」

飛ばされたダメージよりも、その直前に起こった奇妙な光景が、はっきりと脳裏に焼き付い
ている。声と同時に発生した青白い立方体。
そして、それに従うかのように切断された銃口――

「……どうも、簡単にはいかないみたいだな」

ふらつきを抑えつつ、彼は素早く立ち上がった。すぐさま、現在位置を確認――
無表情にこちらを見つめるカペルテータを視界の隅に収めつつ、目的のものを探す。

――あった。
視線の先には、キャリア・フレームに固定されたままになっている黒い鎧。装甲を開いたま
ま主を待ち受けているその様子は、どこか中世に使われていたという拷問器具のような、
奇妙な凄味を発している。
モールド。それは、魔法士を魔法士たらしめる、拘束衣にして作業服だ。

「ジャック! 助けて欲しかったら、ちょっとぐらい時間をかせいどいてくれよ!」

一方的に叫びながら、レイオットはキャリア・フレームに向けてかけだしていた。
対レイオット
>385
 
「ジャック! 助けて欲しかったら、ちょっとぐらい時間をかせいどいてくれよ!」
 
立ち上がった青年はそう言いながら二人の死角へと駆けていく。
それを見つめつつ、レーヴェンツァーンはジャックに話しかけた。
 
「で、天才さん。肉体労働担当の人はどこかへ行ってしまったみたいだけど――あら?」
 
視線を戻した先に、ジャックは居ない。
その代わりに、部屋の隅で鎮座していた作業用のクレーンが起動し始めていた。
エンジンの、大気を叩く音が連続すると同時、クレーンのアームが振るわれる。
その軌道上には、ヘラードの影。屋内用の小型とは言え、加速度を伴った大質量がへラードに迫る。
それに対し、彼は一言だけ告げる。
 
「……無駄な抵抗だな」
 
それ以上、言葉は続かない。あとは行動が示すのみ。
ヘラードは右手を振りかぶる。
各部で装甲版が戦闘位置に自動展開、微かな蒸気を吐き出した。
一瞬だけ動きを止め、次の瞬間、全力で打撃。
砲弾のような鋼の一撃がアームと激突した。
打音!
稲妻のうねる音にも似た轟音をもって、鋼と鋼はその力を存分に吐き出しあう。
一瞬の均衡の後、先に負けたのは、アームの方だ。
ヘラードの義腕「英雄」は、その表面の防御紋章を僅かに光らせつつも、その力を失っていない。
動力機関とその質量をもってした一撃は、しかし戦闘用大型義腕という兵器によってうち負かされる。
半ばからアームがひしゃげ、その過負荷によって動力部が煙を吐いた。
ヘラードはすかさず操作基盤を探す。やや薄暗い倉庫の中、ジャックの金髪は余りにも目立ちすぎた。
視界に納めると同時、傷一つ付いていないその右腕をジャックに向けて、仮発動。
先ほどと同じ砲声と突音。そして、詞。
 
《英雄より逃れることはできず》
 
逃げようとするジャックを、広がりゆく流体の青白い線が取り囲む。
出来上がったのは、ヘラードの眼前とジャックを結ぶ巨大な直方体の結界。
そして、y軸を中心とし、回転。ジャックとその周囲にあった幾つかの機械、
そして慣性ごと結界内を切断・回転させた。
つまり、ジャックがヘラードの方に走ってくると言う構図が出来上がる。
慌てる彼の首根っこをヘラードが義碗でつまみ上げる。
ハンガーに掛けられた洋服のようなジャックにむけて、レーヴェンツァーンは微笑。
 
「…余り手間は掛けさせないで欲しいわね。大丈夫。はやければ数週間、
 遅くても1年はかからない仕事だから。ちゃんとお給金も出すし」
 
そう言って、給仕服の隠しポケットから通信機を取り出そうとする。
その時だった。
倉庫の奥から鋼の鎧が這い出してきたのは。
vsへラード&レーヴェンツァーン
>386

音らしい音も立てずに、その黒い鎧――<スフォルテンド>と銘を刻まれたタクティカル・モー
ルドが、彼らの前にその姿を現していた。仮面越しに映る視界には、見事なまでに軍服姿
の巨漢につり下げされている友人の姿。予想通りの光景に、思わずレイオットは苦笑を漏
らす。

「……ったく。もうちょっと意外な展開とかがあっても罰はあたらんだろうに」

ともあれ、このまま彼を連れ去られるわけにはいかない。彼ほどの腕を持つ正規のモール
ドエンジニアを捜すのは至難の業だし、何より――レイオットは無資格だ。そのモールドを
修理、調整させるとなると、どれだけの労力を支払わなければならないか。
うんざりとしながら、彼は考える。

(……さて。どうする?)

見ればわかるように、彼らはジャックを連れ去る気満々だ。説得など出来そうもない。それ
は、先程こちらに見舞われた一撃からも明らかだった。当然――こちらとしても引くつもり
など無い。ならば――

「――やれやれ。結局はこうなる訳かっ!」

明らかにこちらに気付いているであろう二人に向けて、レイオットはスタッフを構える。機関
銃とチェーンソーを合わせたようなその長大な機械をレイオットは素早く操作。ごきん――
そんな音と共に、脳内に一瞬にして魔力回路が構成される。無音詠唱。
基礎級魔法一回分の魔力が活性化。そして――


「――イグジストッ!」

口から、撃発音声が迸る。瞬間、それを窓口として魔法が現実世界に顕現した。
<フラッシュ>発動。

唐突に、強烈な光と音が炸裂する。相手の感覚を麻痺されることを目的とした魔法が、閉
鎖された空間を縦横無尽に弾け飛んだ。
それと同時に、レイオットは走り出す。その動きは、とても全身鎧を身に纏っているとは思
えないほどに鋭い。目指すは……ジャックを掴み上げているあの男だ。
対レイオット戦
>387

自己の意志を持った動きで、鋼で出来たそれは音も立てずに立ち止まる。
右手に奇妙な機械を携え、マットブラックに染め上げられた中世の鎧のようなそれを見て、
レーヴェンツァーンは呟く。

「……タクティカル・モールド!?まさか、さっきの彼が――?」

一呼吸。予想外の状況だ。捕縛対象に戦闘能力が無いと言うことが前提としてあったため、
たった二人で捕縛しに来たのだ。周囲には大きな施設もなく、民間人が出てきても排除で
きる。その筈だったのに。
が、一瞬後彼女は考えを改める。手に入れようとしていた技術が、実物として目の前にあ
るのだから、何を迷う必要があるのか――

「大尉!あれも、なるべく無傷で捕縛して!あー、もうっ!どうしてこんな時に限って必
要なモノがないのよ!」
「……難しい注文だな。だが、やってみよう」

なにやらわめいているジャックを吊る下げたまま、ヘラードはモールドの方を睥睨した。その時。
鋼の重奏音と共に、黒い全身鎧が右手の機械をヘラード達に向ける。結界に一部を切り取
られた機械達から発せられる火花が、長大で凶悪なその形状を際立たせた。

「――!?この男ごと攻撃するつもりか!?」

ヘラードは思い出す。資料にあった戦術魔法士の使う魔法を、そしてその威力も。
呪文詠唱や流体への干渉を必要とせず、個人級としてかなりの威力を発揮するという魔法。
彼は急いでレーヴェンツァーンとモールドの間に割って入り、右手のジャックを左手に抱
え直す。そして、右手を構えた時だった。

「――イグジストッ!」

そう、男声の叫びが響く。と同時、唐突に閃光と爆音が走った。それは、倉庫という閉鎖
空間の中、反響して通常の数倍の効果を発揮する。

「くぅっ!?」
「きゃーーーっ!」
「のわーーっ!?」

ジャックも含めたそんな声さえ掻き消され、三人の感覚は完全に遮断される。
閃光によって本能的に三人の瞼は閉じられ、爆音と言う人が扱うには過分な情報を脳が
自動的に遮断している。
そんな中、ヘラードは一つの気配を捕らえた。こちらに向かってくる、明確な敵意を持っ
た気配。そちらに向けて、義腕”英雄”を振るう。が、金属同士が微かに擦れるような感触がしただけだった。
空振り。そんな事実を知覚するよりも速く、身体に衝撃が走る。重く、速い物がぶつかってきたのだ。
左腕のホールドが弱まり、ジャックを離してしまう。そんなことを気遣う余裕すら無く、
作業用クレーンにも微動だにしなかった巨漢は倉庫の外まで吹き飛ばされた。
対レイオット戦
>388

其処に来て、やっと、爆音の大気振動が収まってきた。
二人の耳――特に、耳をふさげなかったヘラードの――はしばらく役に立たそうになかっ
たが、瞼を明ければ光を感じられる。倉庫の入り口から6メートルほど離れて体制を立て
直した二人が見たのは、悠々と倉庫から一歩を踏み出してくる黒金の鎧。
それに対し、耳の感覚が少し戻ったレーヴェンツァーンは言葉を放つ。激音で狂った三半
規管を補助するように、焼けた砂の上に膝を付きながら

「――本当に、驚いたわ。こんな魔法も、ある、なんてね。でも――」

頭を二、三度振って、立ち上がる。ややふらついているものの、その瞳には力が満ちてい
る。彼女は左胸に右手を当てて

「――G機関長である”速読歴(ゾフォルト・レーザー)”が予言するわ。……貴方の魔法
は、私たちに届かない。」

レーヴェンツァーンの言葉に応えるように、無言でヘラードは腰を低く、義腕を構え戦闘態勢を取る。
その身体は三半規管が未だ揺れているにもかかわらず微動だにせず、その視線は鋼の鎧を
捕らえたまま強い意志を保っている。

戦いが、始まる――――
vsへラード&レーヴェンツァーン
>389

とりあえず、目的は果たされていた。
解放されたジャックを視界の片隅に収めつつ、彼は軽く溜息をつく。
だが、真の厄介事は、ある意味これからだと言えた。ゆっくりと倉庫から歩み出る彼を待っ
ているのは、静かに戦闘態勢を整えているあの男だ。

「さて……どうしたもんか、これは」

普通に考えれば、馬鹿馬鹿しいことこの上ないことではある。モールドを纏った戦術魔法士
と、かたや丸腰としか見えない相手。考えるまでもなく、結果は明らかだ。
だが――と、彼はひとりごちる。頭に焼き付いているあの光景。突如として空間に出現した、
青白い立方体。
そして、耳へと届くのは彼女の言葉だ。貴方の魔法は、こちらへは届かない。

それを受けて、レイオットはその顔に、ゆっくりと表情を乗せている。獣を思わせる、獰猛な
笑み――

「は――なかなか面白いことを言ってくれるな。だったら、ひとつ試してみるとするか!」

即座にスタッフを構え直し、続けざまにそれを操作。呪文選択を変更し、そのまま勢いよく
無音詠唱する。魔法撃発準備完了。

「顕ッ!」

叩き付けるように唱えられた撃発音声が、周囲の閑散とした空間へと響く。
瞬間、爆炎が現実事象へと上書きされる。<第一の業火>――<ブラスト>が発動。
小型爆弾に匹敵する破壊力を秘めたそれは、まるで小手調べだと言わんばかりに、引く身
構えているその男――たしか、へラードとか言ったか――へと襲いかかった。
対レイオット戦
>390

「顕ッ!」

目の前で鋼の鎧がそう叫び、空間が変異する。
たった一言での発動が、世界を変える。その力を、二人は欲しているのだ。
虚空に現れたのは、衝撃波を伴った業火。6メートルという距離は一瞬にして埋まる。
そんな中、レーヴェンツァーンは悠長に言葉を紡いだ。

「良い度胸ね。無謀だけど」

ヘラードは無言で義腕を操作。本日三回目の突音が倉庫に木霊する。
薬莢が地面に着くよりも早く、詞が響く

《英雄は反撃する》

それだけでは終わらない。今度は、もう一つ、別の詞が響いた。
女性の、高らかな声で。

《新世界は――》

見れば、レーヴェンツァーンが、左胸にそえた手を強く握っている。
額には脂汗。だが、明らかに彼女の声で詞が響く

《――新世界は英雄を助ける》

二つの詞が重なり合う。そして、変化が訪れた。
爆発を包むように空間に立方体が描かれる。が、今までとは違う。
描かれる速度も、その線の太さも、桁違い。

一瞬すら超える時間において、結界が完成。内側の爆発を、爆圧も、完成も、進行方向すら回転させたのだ。
己の放った爆炎が、レイオットを襲う――――!
vsへラード&レーヴェンツァーン
>391

「――――!」

正面に、<ブラスト>。それは間違いなく、たった今自分が発動させたものだった。
だがそれは、生み出された青い立方体――先程とは規模が大きく異なっていたが――に
包み込まれた次の瞬間、それがまるで何かも間違いであったかのように、真っ直ぐにこち
らへと襲いかかってくる。
驚愕が、一瞬だけその思考を白く塗りつぶしていた。
わずかな一瞬ではあったが、思考が正常に復帰したその時には、すでに回避のタイミング
には遅い。

(反則だろうがそれは!)

舌打ちしつつ、スタッフを更に操作。無音詠唱と同時に撃発音声を叫ぶ。

「顕!」

瞬間、スタッフの先端から不可視の魔力が溢れ出す。
それは着弾寸前の<ブラスト>に襲いかかると、それを構成していた魔力回路に干渉、瞬時
に無力化、消滅させる。<ジャミング>発動。

「くそ。どんな手品使ってやがる……!?」

何をされたのかは、まるで見当が付かなった。だが、その仕掛けというか――「それ」を行う
ための手段は、なんとなく見えた。
この妙な手品を披露するためには、こちらと同じく声を引き金とするらしい。

「……それがわかったからって、どうにかなるってもんでもないけどな」

少なくとも、このまま馬鹿正直に魔法を叩き付けても、返り討ちに合うのは容易に想像でき
た。くそったれ――吐き捨てながら、スタッフに新たな呪文を読み込ませる。
即座には発動させずに、レイオットは男の周囲を回り込むように走り出していた。
対レイオット戦
>392

「――はぁッ…はぁッ……」

レーヴェンツァーンは左胸を押さえて荒い息を吐く。冷や汗が頬を流れ落ちる事すら感じず、ただ苦しさを感じていた。久しぶりに己の詞を使った故か。それとも、別の理由か。

「まさか――たった一回でこんなにも消耗するとはねー」

そう、軽い口調で呟く。口調とは裏腹に顔色は著しくない。彼女は息を大きく吸って、深
呼吸。段々と、鼓動が落ち着いていくのが解る。

「大丈夫か?レーヴェンツァーン」
「大丈夫よ。…久しぶりだったから、ちょっとびっくりしただけ」

敵を見据えて呟く心配そうなヘラードの口調に、見えていないとは知りつつも微笑を持っ
て返すレーヴェンツァーン。ヘラードは、言葉を続ける。

「キミは、やはり”新世界”を使わぬ方が良い」
「……どうしてよ?私、元気になったのに、大尉の手伝いをするために此処に――」
「どうしても、という場合以外は別の方法で手伝ってくれ。……背後が心配で集中できん」

ヘラードの言葉に、レーヴェンツァーンは微笑む。それが、彼の優しさだと知っているから。
が、彼女は戦闘中だと言うことに気付き、即座に気を引き締めた。

呟き合う二人の周りを、鋼の鎧が駆け回っている。その速度はそれが金属の塊だと言うこ
とを忘れさせてしまうほどに、速い。だが、それは常人から見た場合のことだ。そして、
此処にいる二人は常人ではあり得ない。
G機関の構成員は、約1000年前に救世者を助け、乱れた独逸を平定して回った独逸竜
騎師団の末裔達だ。一騎当千。総勢500人にも満たない機関が、独逸政軍の上に立って
いられる理由の一つでもある。

「大尉。気を付けてね。あちらには呪文詠唱がほとんど必要ないのだから」
「解っている」

ヘラードのすぐ後で、懐からワルサーP38を取り出したレーヴェンツァーンの声にそう短
く答え、”杖”を構えたまま周囲を駆ける鋼鉄の鎧に対しヘ彼は義腕を向けた。陽光に、杖
の補強用の鉄板が鈍く光る。
対レイオット戦
>393

構えられた義腕”英雄”は、黒金の鎧に向いているものの、その砲口は厳密に言えばそれ
の方を向いては居ない。向いているのは、鎧の周囲の空間。
次の瞬間、もはや驚くべきも無く、ヘラードの声と”英雄”の言実詞が空間に響く。

「今度はこちらから行くぞ……さぁ、どうする魔法士!」
《――英雄は敵の退路を塞ぐ》

砲声。杖が収納されきるよりも速く、二発目の砲声。同じように、三発目も。等間隔で仲
良く薬莢が空に飛び、空中にある間に一辺約15メートル程の結界が完成されようとする。
高速の連続音は現実において長く続く単音となる。杖が空間を叩く突音が一つだけ、長く
響いた。
モールドを着込んだ男は身構える。だが、結界が発生したのは彼の左右と背後。さらにそ
の下半分は地面に埋没していた。追い打ちのように次の言実詞が空間に響く。

《大地すら英雄に味方する
   大地の怒りは情け容赦なく》

詞は結界の中身を回転させることを望む。左右の結界はZ軸を、背後の結界はX軸を中心
としてそれぞれ90度回転。一瞬にして、鋼の鎧の周り三方が乾きと人々の通行によって
鍛えられた高さと厚さ8メートル程の大地の壁に囲まれた。

「レーヴェンツァーン、援護を頼む。」
「はいはい。任しといて、大尉」

走り込んでいくヘラードの背後からレーヴェンツァーンは射撃する。モールドを傷つけるためではなく、その動きを阻害するのが目的。鋼鉄の鎧の足下や左右の壁に小口径弾が連
続着弾する。
その間に、ヘラードが接近。走りながら、鋼鉄の義腕を構え上げる。
疾走と体重による慣性に、義腕と言う機械の動きによる直線運動が加わわった拳が今、放
たれんとする――――!
vsへラード&レーヴェンツァーン
>394

―――タイミングとしては、絶好だったはずだ。
後は、一声叫べばそれで事足りる。撃発音声。それと共に、構築されていた魔法が、佇む
二人に襲いかかる――そのはずだった。

(――――――)

視界に、その映像が流れ込んでくる。一瞬を切り取られ、意識に刻み込まれるその光景。
微笑み合う二人。それは、ひどくありふれた。だが彼にとっては手の届かない、触れては
ならないものに見えて――――

へラードが義碗――と呼んでもいいものか、正直判断に迷う――をこちらに向けて構えて
いる。その瞬間、彼は自分が、決定的な攻撃の機会を逃したことを悟った。

「くそっ!」

舌打ち。自分の馬鹿さ加減を罵りながら、足を止め、男に正対するように身構える。
同時に、義碗から一抱えほどもある巨大な薬莢が排出されていた。

――――来る!
反射的に、撃発音声と叩き付けようと口を開き――だが、それよりも先に。
世界を書き換える、男の声が響き渡る。

起こった変化は、これまでのどれよりも劇的だった。
正面を除く全てが、瞬時に壁に閉ざされる。すぐに、それがかつて地面と呼ばれていたもの
であることを認識。だが、もはやそれには驚かない。思考は、この状況にどう対処するか、
その一点に集約される。

前からは、男――繰り出される巨大な義碗は、その疾走をも力と変えて、逃げ場のないこ
ちらへと真っ直ぐに繰り出される。

「は――はっ!」

零れるのは歓声。一瞬とは言え、戦意を失っていたなどとは露ほどにも思わせないような、
そんな歪んだ――だが純粋な笑い声。反射的に、レイオットはスタッフを操作。
解放桿と呼ばれるレバーを操作し、構築済みだった魔力回路を一気に脳から消滅させる。
立て続けに呪文選択装置を操作。新たな呪文書式を選択し、流れるように無音詠唱。
その全てを、一秒にも満たない早さで達成する。

義碗が、迫る。だが、その光景は、肉体強化を行っているわけでもないのに、ひどく――
ゆっくりに見えた。銃声。壁や足下へと叩き込まれたそれの一部が跳弾し、モールドと激突
し火花を散らす。だが、それだけだ。小口径弾では、モールドの防御を突破できない。無視
する。そして――

「――――顕ッ!」

叫ぶ。撃発音声。男の鉄塊の一撃が命中せんとするこの瞬間に、へラードとレイオットとを
遮るように、波紋状の力場平面が出現した。<デフィレイド>発動。
圧力や熱、そして一定以上の衝撃をも遮蔽し拡散させる防御力場面は、男の一撃を見事
に受け止めていた。
そしてそのまま――展開したままの力場面を、まるで掌底打ちのように。
へラードに向けて勢いよく叩き付けていた。
対レイオット戦
>395

「顎ッ!」

ヘラードが放った必中の拳は、その一言によって受け止められる。言葉を介して放たれた
魔法は、世界を書き換え力場の壁となり鋼鉄の一撃と交錯した。

「ぬぅぅっ!」
「大尉!」

ヘラードの動きが停止する。否、確実に押されている。力場がこちらに押し出されている
のだ。ヘラードは腰を深く構え、左手を添えた拳を全力で突き出した。義腕”英雄”の表
面装甲と打撃装甲版に彫り込まれた防御紋章は、もはや目映いほどの光を放ち超過起動中。
だが、それにも限界がある。
乾いた地面はヘラードの脚を捕らえない。一度動き出してしまえば、加速されるのは、実
に容易だ。

「おおおぉぉぉっ!」

雄叫びと共にヘラードの視線に力がこもる。脚を踏ん張り、義腕の駆動器がうなりを上げ
る。一瞬だが加速率が確かに落ちた。
が。唐突に場違いな音が聞こえてきた。
しかし、それは、有る意味その情景に最も相応しかったのかもしれない。防御紋章が彫り
込まれた打撃装甲板が、突如として光を失っていく。鋼をむしり取るような物騒な音が連
続し、装甲版が剥離していくのだ。金属が砕けると言うよりは、古く、乾いたペンキが微
細に砕けて風に融けていくと言った様相。

「大尉!」

その光景を見たレーヴェンツァーンは急いで隠しポケットの中を探る。確か、緊急時用に
一発だけ持って来た、あの弾丸。一見普通の弾丸と変わりないが、よく見ればその表面に
は微細な紋章がいくつも刻まれているのが解っただろう。彼女はそれを取り出し、急いで
ワルサーの弾倉を取り出す。その弾丸を込めて、再装填。
女の手でも片手で撃てる筈のワルサーP38を両手で構え、腰を低く保つ。そして叫んだ。

対レイオット戦
>396

「大尉!避けて!」

発砲音と、カルシウムのような独特の燃焼臭。次の瞬間、銃口から放たれた弾丸は周囲の
流体を急速にかき集め、一抱えもある光槍と化した。それは、対魔光槍弾という対魔物戦
用の弾丸。巨大質量が飛び出た反動で、レーヴェンツァーンは少し弾き飛ばされ、それで
も逃しきれない衝撃が彼女の手からワルサーを奪い取った。
ヘラードは光の槍が直撃する寸前に横に大跳躍。光槍は、戦術魔法士の放った力場に激突。
大質量ならではの激音を立てて砕け散り、力場の壁を道連れとした。
ヘラードは立ち上がりつつあるレーヴェンツァーンを視界の隅に一瞬だけ写すと、すぐさ
ま機械の鎧を見据える。そして、たった一つの武器である右手”英雄”を構えた。

彼は、打撃装甲版を砕かれ、それでも尚相手を無傷で捕縛しようとする。
砲声三発。
その音を聞いたレーヴェンツァーンは、上体を起こしつつ、補助の詞を放つ。

「これで…どうだ!?」
「これで…どう!?」
《英雄は壁を砕く》
《新世界は英雄を信じている》

敵の三方を塞いでいるそれぞれの土壁の上方に向けて結界術が放たれる。二人の言葉と詞
を受けて放たれた結界術は己の使命を律儀に果たした。
それぞれの土壁の、上方半分。結界の中を回転させ、それだけの巨大質量を鋼の鎧の真上
に転移。さらに、結界が消えると同時に支えを失った土壁は砕ける。
膨大な量の土砂が、未だ囲いの中に居る戦術魔法士の駆るタクティカル・モールドを押さ
え込まんと殺到する。
vsへラード&レーヴェンツァーン
>397

男が飛び退くと同時、展開された力場平面に更なる一撃が叩き付けられる。先程の銃から
それが射出されたのは、わずかではあるがその光景を確認していた。
しかしその直後に現れた現象は、またしても彼の認識の中にはない。
瞬時に光槍と化した弾丸が、それが何かと思考するまもなくこちらへと着弾する。光槍のま
とわりつかせていた力――流体と、<デフィレイド>の防御力場面が激突。相互干渉を引き
起こし、同時にその効果が消滅した。

「くっ――――!」

飛び退いた男を追うように、レイオットはその場でスタッフを操作。
呪文書式選択を<スパイラル>に設定。無音詠唱。

ここに来て、ようやくその仕掛けが見えた。
あの鋼鉄の義碗。紡がれる言葉と同時に駆動する機械。それが、男の能力の源だ――!

まるでそれ自体が全てを貫く武器であるかのように、レイオットは男へとスタッフを向ける。
視界に映るのは、義碗をこちらへと掲げ、みっつの薬莢を碗部から排出するへラードの姿。

視線が交錯し、時が、止まったような気がした。

――瞬間。
       双方から。



《英雄は壁を砕く》
                                            「顕っ!!」
《新世界は英雄を信じている》



全ての決着を導く決定的な一言が、同時に世界へと叩き付けられた。

「――――!」

降る――と言うよりは、落下といった方が正しい。半ば一個の塊と化した土砂が、黒いモー
ルドに対し振り下ろされた。重く、そして深い衝撃が全身を揺さぶり、彼の意識を急速に奪
い取っていく。頭部に直撃した土砂が、彼に軽い脳震盪を引き起こさせたのだ。
逃げ出すことも敵わずに、彼は為す統べなく、落ちてくる土砂の中へと埋められていく。
だが――そんな中でも、彼はしっかりと見ていた。

へラードの右腕――義碗に、螺旋状の力場が発生する。
対象物に対し直接作用する<スパイラル>は、設定された座標へと発動。
そのまま――瞬時に、その鉄塊を捻り潰さんと収束する。

――だが、レイオットは、その結果を見届ける前に。
落下してくる土砂の、更なる一撃を受けて、そのまま沈み込むように意識を失っていた
対レイオット戦
>398

言葉が、交錯した。

シュバイツァーの強臓式義腕”英雄”が叫ぶ言実詞と
モールドを徐の身にまとった魔法士が叫ぶ撃発音声が。

ただ、前者にはレーヴェンツァーンの強臓式心臓”新世界”の補助があった。
故に、相手の魔法が発動するよりも速く結界が放たれ、世界が書き換えられる。

しかし、撃発音声によって放たれた魔法は確実に世界に顕現した。
ヘラードが気付いたときには、変化はもう始まっていた。

右の義腕に、突然強烈な負荷がかかるのをヘラードは感じる。
一瞬で残っていた装甲版が白熱。砕け散った。
鋼鉄の、無骨な手指がひねり潰されていく。フレームがねじれていく、嫌な音。
戦闘用義腕ゆえ、痛みは感じない。だが、衝撃は響く。

「ぐぅぅぅっ!?」

時間的には、たった数秒だろう。土砂に埋もれた魔法士が意識を失い、魔法が制御を離れ
るまでの間。ただ、それだけの時間でも義腕を戦闘不能にするのには十分な時間だった。

戦闘不能。

そう。その砲門にはまっていた木杖は基部を残して砕け散り、かろうじて生き残った駆動
器が歪んだフレームを支えているだけ。

「…やられたな…」

そう言いながら、ヘラードは土砂の山へと歩いていく。魔法士が埋まっている場所へ。
土山につくと、おもむろにその砕けた右腕を振りかぶり、打撃。
砕けた土の集合体は、鋼鉄の義腕の一部分をむしり取りながらも素直にその身に鉄を受け
入れる。
数秒。
ヘラードが腕をひき抜こうとする。が。駆動器の出力が足らず、引っかかる。
彼は嘆息して義腕のボルトロックを外し、義腕を身体から離す。左脇にかかえ、思いっき
り引っ張った。
いささかホールドの甘くなった腕につかまれていたのは、土に汚れたモールド。汚れては
いるものの、徐の身に目立った損傷はなく鎧としての意味を自己主張。
半身をいまだ土塊に埋めてぐったりしているそれを一瞥して、ヘラードは後ろに向き直る。

「……レーヴェンツァーン。大丈夫か?」
「……なんとかー。大尉はー?」
「大事無い。…義腕をやられたが、対象の確保は成功した」
「ごくろうさまー」


彼女は大の字に倒れたまま片手を上げてそう返事。
一息着いた後、寝転がったまま懐の通信機を取り出し、スイッチを入れる。

「……あ、ベルマルク?私だけど。……うん。…うん。というわけで、治療の準備と、予定よりも大きめの護送車両ね。後は――」

レーヴェンツァーンは、此処に来たときのことを思い出す。

「お昼ご飯。多めに」

それだけ言って、レーヴェンツァーンは瞳を閉じた。
400エピローグ:02/07/08 05:09
ヘラード&レーヴェンvsレイオット
>399

三週間後――――

昼下がりの午後――やや遅めの昼食を採り始める。

油の臭いと無数の機械がひしめく、大型倉庫を改造した工場の如き場所の一部分――など
ではない。
場所は、当然の如く気の利いたカフェテリアだ。南側に面した窓からは日光が程良く入り
部屋の中を明るく照らす。
此処は、G機関本部の食堂である。
幾つかのテーブルが並ぶ中、中央に置かれた十人掛けの円卓には、しかし5人しか座って
いない。
無論、ヘラードとレーヴェンツァーン、レイオットとジャック、そしてカペルテータであ
る。

円卓の上には、子鹿の丸焼き。付け合わせのタマネギ等の野菜が香ばしい臭いを立ててい
る。
だが、円卓に座っている者達は紅茶やコーヒーを口に含みながら、猛烈な勢いで消費され
ていく御馳走とそれを為していく人物を呆れた様子で見つめている。
もも肉をかじり終わったジャックが次の獲物に手を伸ばす前に、レーヴェンツァーンが声
をかけた。

「…よくたべるわねー…明らかに胃の容積以上食べているように見えるのだけれど…」

彼女は、クリームの浮いたカフェを飲みながら、最初に確保した野菜を少しづつ囓っている。
ヘラードは無言。ただ、彼もコーヒーの入ったカップを傾けるだけだ。

「――ほら。高級車って大抵燃費が悪いから」

朗らかに、ジャックはそう答える。分かったような、分からないような。一様に困惑を浮
かべる同席者を置き去りにしつつ、彼はさらに、次の皿へと手を伸ばしていた。その中で
唯一、カペルテータだけは、我関せずと言ったようにカップを両手で包み込んでいる。そ
の姿を見つめるレイオットの視線は、どこか恨めしげなものに見えた。

「…で、強制的に連れてきてなんだけど、色々有り難う。G機関の長として礼を言うわ。
思ったよりも高度な技術を使っていたみたいだし、妖物なんかの対抗策として使えそうよ」

実際、強制的だったのは連れてこられたときだけ。本部内の移動は監視付きだが比較的自
由に行えたし、ジャックなど休憩時(半ば仕事時間にも)には重騎にべったりと張り付い
ていたと言っても過言ではない。
401エピローグ:02/07/08 05:10
ヘラード&レーヴェンvsレイオット
>400

「……まあ、俺が言えた台詞じゃないが。運用には気を付けてくれよ。俺等のせいでこの
国にまで魔族災害が及ぶようじゃ、流石に寝覚めが悪い」

もっとも。彼自身、この台詞にあまり意味がないことも知っていた。魔法がそこにある以
上、魔族は必ず現れる。魔法と魔族が密接な関係にある以上は、それはさけられない事実
だ。どんなに細心の注意を払おうと、一定数の事故というものは、必ず起こるものなのだ
から。例の――風水と呼ばれる技術でも、呪素の完全な分解は望めいないことは、先の実
験で分かっている。

こちらのそんな思いを知ってか知らずか、彼女は軽く、だが力強く頷いていた。軽く、微
笑みすら浮かべて。

「ちゃんと、報酬は用意して置いたわ。帰るときに、受付に寄ってもらえればいいから。
…あと、報酬には重騎が良い…って話だけれど、量産中騎だったら…何とかなるかもしれ
ないわ」

「ああ、それでも構わないよ。いやあ――まさかあんなものが存在するなんて思ってもみ
なかったからさ。あれを弄れただけでも来たかいがあったってもんだ」

「というか、あんなデカ物を持って帰るつもりか、お前は」

なお、「騎」とは、人型の有人兵器のことである。
言い合う二人――それはどちらかというと、じゃれ合っているようにも見える――をしば
らく眺めてから、レーヴェンツァーンが静かに口を開く。

「此処の本部のことは、誰にも言わないでね。あなた達を殺したくないから」

その彼女の台詞に、レイオットは苦笑しつつ了解した。独断で魔法関連技術を国交もろく
にないような国に譲渡しているのだ。知られれば、むしろ彼の方が立場的には危うい。

「それじゃ、またね」

レーヴェンツァーンは席を立ち、それに続くようにヘラードが立ち去る。
円卓に残されたのはレイオット達三人だけ。
静かな昼下がりのことだった。
ヘラード&レーヴェンツァーンvsレイオット・スタインバーグ
戦闘記録(レス番まとめ)

>378>379>381>382>383>384>385>386>387>389>390
>391>392>393>394>395>396>397>398>399>400>401

……やれやれ。
終わったこととはいえ、とんでもないことをした気がするが。
まあ……仕方ないか。
403名無しクルースニク:02/07/08 06:39
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>369(修正)
 
 終わった、と思える程の衝撃が全身を襲った。
 トレーラーの正面衝突にも等しい巨体の一撃が全身を押え付ける。
 巨大な腕に頭部を鷲掴みにされていた。万力のような力で頭蓋を締め上げるヴァルダ
レクの顔が、狂ったような喜悦に歪む。
 粘液めいた涎が顔面を汚す。自分の血か返り血か、前髪を伝う血の塊が瞼の内側に
流れ込む。視界が濁る。
 脳がシェイクされる様な激痛と錯覚が、思考を引っ掻き回す。
 骨が軋む。思考が混濁する。手足が言う事を聞かない。
 思考、が
 
『良いか、ここを動くなよ――』
 
 ――テメエで約束破って、如何する気だよ。
 
 怯える少年の顔が、意識のスクリーンに浮かび上がった。
 コイツを、如何にかして――殺さないと。
 僅かに生き残ったマトモな思考が、呟く様に叫んだ。連鎖反応で生き返った体の統括
意識が、今直ぐ殺せと吠え立てる。
 手駒は? 9パラが通じる? いいや。ショットガンは? 抜ける状態じゃない。
 否――手駒は、有った。
 薄笑いを浮かべて、青年は震える左の指先を、霞むような速さでカソックの袷に突っ込
んだ。再度閃く左手がヴァルダレクを殴り付けるようにその顔面へと走り、
 ――左手を、その口内へと押し込んだ。
 がぢ、と。当然のように閉じたその顎に、腕が引き千切られ掛ける。
 激痛に苛まれながら――理性のない瞳を見据えたまま、青年は笑った。
 
「……フィナーレだぜ、お山の大将気取りのクソ野郎」
404名無しクルースニク:02/07/08 06:43
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”
>403
 
 一瞬だけクリアになった思考が、両腕を閃光の速度で走らせる。
 左手が握り込んだ高性能爆薬が、口の中でピンを弾き飛ばした。
 腰の後ろ、カソックの継ぎ目の奥、ベルトに挟むように吊っていたククリナイフを引き抜
いた右手が――――――左手の肘から先へとナイフを叩き下ろす。
 衝撃。
 
 月の貌が、朱に染まった。
 
 鋭い断面から盛大に血を撒き散らし、左手をヴァルダレクの口に残したまま、身体は
ヴァルダレクから引き剥がされる。
 意識を沸騰させる様な熱さ。思考を沸騰させるような激痛。
 痛い。腕が無くなったから、そんなのは当然。意識が霞む。出血のせいだ。
 もう駄目か? ……さあ?
 
 左手は消失している。足の感覚が死んでいる。
 残り滓のような全力でヴァルダレクの体を蹴り放し――残った右手で銃を形作ると、青年
は口の端を三日月の様に歪めた。
 
「……ソイツからは――逃げられねえよ」
 
 言って、意識が薄れるのと、ヴァルダレクが身を捩るのは同時だった。
 置き土産の左手が、ヴァルダレクの口中で閃光を放つ。
 主塔から滑り落ちて行くのを自覚しながら――青年は隻腕で銃を形作り、こめかみに
人差し指を押し付ける。
 
 ――ザマあ――見やがれ。
 
「――バァン」
 
 ――夜を泳ぐ様に、身体は真坂に落ちて行く。
 ヴァルダレクを埋める主塔が――崩落の音さえ遮断する轟音と、夜を昼に変えるかの様な
閃光が包み込んだ。
 意識が、暗転する。
>348>362>377  アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト

 爆発の勢いに乗って砕け散ったガラスの破片がストリートの歩行者へ降り注ぐ。
 爆発と炎上。爆風と轟音。驚愕と悲鳴。ストリートの“静かな夜”はこうして破壊される。
 そんな破壊と同時、爆砕した個室から湧き出る煙と炎を突き破り、
アスファルトの大地に降り立つ一つの影があった。フォルテッシモだ。

 爆発の中心にいたはずなのに、傷どころか埃一つついていない。
 あれだけの爆風を浴びて、なぜ彼は無傷でいられるのだろうか。ストリートの通行人に、
それが分かる者は誰一人としていない。
 そんな他人の目を知ってか知らずか、煙をあげる二階の一室を見上げながら彼は思う。

(これが世に聞く“言像化”か……使い方次第では、いくらでも強くなれる能力だな。――む?)

 フォルテッシモの鋭い瞳が、煙の奧で駆ける二つの影を捉えた。

「逃げるつもりか? ……ならば!」

 左手が宙を駆けたと同時、横一文字に薙ぎ払われた腕に対し、宿に垂直の亀裂が走る。
 両方の軌跡を合わせると、それは正確に十文字を描いていた。

「ふん……宿屋ごと真っ二つって奴だ!」 

 疾る亀裂の行き先は……堅く結ばれた二つの手。 
406「鬼」:02/07/08 13:35
鈴鹿御前vsチェカラク
>376

 それは、自分以外の存在がこの獄舎に入り込んだことを感じとった。
 ひとつ、いや、もうひとつ。
 それは歓喜に震えた。
 食物を得ることのできる喜びに、何の変化もないという苦痛を僅かに癒される喜びに。
 来訪者は出口の存在しないこの獄舎を巡って、いずれはそれの前に姿を現すだろう。
 だが、それは待つことを嫌った。
 来訪者の気配のする方向へと、動き出す。
 一刻も早く、来訪者を食らうために。
 
 
 虹色に輝く壁を通り抜けた向こうに広がっていたのは、自然が創り出した洞窟ではなかった。
 そこは、明らかに人工的に造られた広い通路だった。
 未知の場所に対する不安はあったが、背後から迫るものの恐怖に較べればどうということはない。
 私は通路の奥へと進み、闇の中をさまよった。
 ここは、何の目的で造られたのだろうか。
 無数の分岐と曲がり角が存在し、まるでテレビゲームに登場する地下迷宮だ。
 この迷宮の奥には、いったい何が存在するのだろうか。
  闇の中で私は、ひとつの話を思い出した。
 この地方に伝わる民話、伝承だ。

 数百年の昔、恐ろしい疫病に襲われた村人たちは、神々に祈った。
 神々の力で、村から疫病を一掃してくれと。
 その祈りにこたえて現れた<火の神>は、疫病だけではなく、田畑や家々さえも焼きつくした。
 神にとって、それは助力に対する当然の代償だったのだ。
 さらに<火の神>は人々を焼こうとしたが、旅の僧侶の法力によって、山の下の洞窟に閉じ込められた。
 村人たちは<火の神の洞窟>を、立ち入ってはならない禁断の場所にしたという。
 
 つまらない民話にすぎないと思っていたが、まさか本当に、ここが<火の神>の幽閉された洞窟なのだろうか。
 そう考えながら通路を歩いていた私は、空気が暖かくなっていることに気づいた。
戦士たちの決勝前夜 〜ミア・フォーテー&星川翼vsヌアラ王
>354

痛――――
久しぶりの痛みだ。頭がグラグラする。
肉体的な痛みじゃない、なんと言うか・・・『存在そのものが軋んだ痛み』?

頭を軽く振りながら立ち上がってみると、『相棒』が倒れていた。

「あ・・・」

頭が混乱する。何でだ? 私が倒れてる間に何があったんだ?
―――簡単なことだ。力及ばず、王に刺された。ただそれだけの事。

駆け寄って頬を叩いてみる。返事がない。
王がこちらを見下ろしている。嘲笑うかのように、蔑みを隠さずに。
私の体を鮮血が染める。どうすればいい?

不条理に命を奪われることの、志半ばで果てることの悔しさを私は知っている。
だったらどうすればいい?

私はすでに人間じゃない。私には『相棒』を救う力がある。

『なら、やることがひとつ・・・』

意を決して、私は『相棒』の顔に自らの顔を近づける。

そして――――Kiss。

閃光が走り、私の姿は宮殿から消えた。
ちょっと早いけど、次スレ。
吸血大殲 第32章 〜薔薇の月に血の涙

http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1026106111/
409「鬼」:02/07/08 16:42
鈴鹿御前vsチェカラク
>406
 
 それは、来訪者の気配に向かって進んだ。
 それは、あと少しで食物を得ることができる。
 それと来訪者の間の距離は、あと僅かだった。
 
 
 これは、暖かいなどというものではない。
 不快な暑さだった。
 涼しいはずの地下迷宮がこんなに暑くなるとは、いったいどういう理由があるのだろう。
 ここは火山でもなんでもない、ただの山の下の洞窟にすぎないのに。
 幾つ目かの曲がり角を曲がると、通路の果てに光が見えた。
 出口だろうか。
 いや、外は夜のはずだ。
 誰かが明かりを灯しているのかもしれない。
 なんだっていい、あの光こそ私を恐怖から解放してくれる、自由の明かりだ。
 私は光に向かって走った。
 あれは日の光でも、電灯の光でもない。
 火の明るさだ・・・火!?
 
 私はあの明かりと<火の神>の関連に気づいて、足を止めた。 
 まさか、この先にいるのは・・・この光と熱の源は・・・。
 私は一歩も進んでいないにもかかわらず、光はどんどん強くなり、温度は高まっていく。
 肌がじりじりと焼けるような痛みを感じる。
 やがて、次の曲がり角の先から、炎が噴き出した。

「あああ!」
 歓喜と絶望が混ざった凄まじい声が、通路全体に響きわたった。
「あああ!やっと!」
 その声は炎のなかから響いていた。 
 私は動けなかった。
 人間を遥かに凌ぐ力を得た私の力をもってしても、それに勝てないことは本能的に解った。
 恐怖に脚がすくみ、逃げることさえできない。
 私が殺したあの女と同じだ。
 私は彼女に、これほどの恐怖を味あわせてしまったのか。
 空気が熱い、全身が焼き焦がされるようだ。
 炎が揺れ、人間の姿へと変化した。
 全身が炎でできた、長身の人物。
 それの両手が、私に向かって伸ばされた。
 いやだ、死にたくない、動けない、熱い、恐い。
 それの抱擁によって、私の全身が瞬く間に火に包まれる。
 死にたくない、いやだ、ごめんなさい、熱い、私の命が、魂が、貪り食われていく!
 すべての感覚が、ゆっくりと薄れていく。
 あの少女の刀に斬られていれば、せめてまともに死ねたのだろうか。
 それが私の最後に考えたことだった。
あああ!
鈴鹿御前vsチェカラクの闘争途中纏めをこれに示す!

>372 >374 >375 >376 >406 >409

余と鬼姫の闘争は、ただ生存のための闘争は、始まったばかり!
411ユージン:02/07/08 19:57
「さて、残念だが」


 ――足音が響く。


「おまえには死んでもらわなければならない」


 ――渇、割と。


 少女の怯えは臨界に達していた。
 両足は震え腰は抜け、身体中が軟体動物のように脱力しているのに
肩の強張りだけが針金のように抜けない。
 頭の中から脳が抜け落ちたようにあたりが真っ白で何も見えない聞こえない。
 そのくせ追いかけてくる、あの眼、あの声。あの跫。


「指示が変わって、不要なMPLSは全員消去ということになった」


 逃げなければいけない――でも、どこへ。
 逃げなければいけない――でも、どうやって。
 逃げなければいけない――でも、なにから。


 ――かつ。


 止まる足音。
 かざされる手の気配。


 
 ああごめんなさい、ごめんなさい許して許してください。かみさま、どうか神様たすけ



 ひゅっと風切り音。
412黒岩省吾 ◆sChIjITA :02/07/08 19:58
>411
vs合成人間
 
疾風を纏って放たれた手刀はしかし、途中で止まる。
俺がその手を掴み、止めたのだ。
 
「・・・・・・行け」
 
怯え切った表情を見せている少女に、俺は突き放すように告げる。
足を震わせながらも、彼女は立ちあがり、よたよたと俺達から離れていく。
 
MPLSと呼ばれる、特殊能力者。
東京都知事である俺は、彼らの調査を始めていた。
貴重なサンプルを、今失うわけにはいかない。
 
「何をしている?」
 
少女が立ち去ったのを確認すると、俺は掴んだままの腕の持ち主に問い掛ける。
彼から感じられる、妙な殺気。
この殺気は人間の物ではない。
 
そして、彼の動きを止めた俺もまた―――――――
ヒトでない事に気づかれてしまったようだ。
413ユージン:02/07/08 20:00
>412
vs黒岩省吾


ち、面倒くさい相手だ。
ユージンはそう思った。都知事黒岩省吾。
「何故ここにいるのか」「どうして自分の手刀を止めたのか」
この二つの問いを凍結させて、まず最初に思考した。面倒くさい相手だ。
消すと、一騒ぎ起こるのは間違いない。


――だが、だからといって、見過ごすわけにもいかない。


「あなたは何も見なかった。何もしなかった。そして何も知らない」

ぼそぼそと、されどはっきりと通告する。

「そうすれば――命だけは助けてやる」

掴まれたあたりに浮かぶじっとりとした熱。
なんということはない――このまま掴んだ手を焼いてやることだって可能なのだ。

(ディオゲネス・クラブ宛ての調査報告書より抜粋) 
 
Nameless Kresnik vs Count Vardalek
“The Party Of The Children Of Night”(途中経過纏め)

二十八章
>468 途中経過纏め

二十九章
>465 途中経過纏め

三十章
>74 途中経過纏め

三十一章
>28 >54 >104 >124 >126 >129 >156 >217 >247 >276 >297 >304
>314 >318 > 353 >356 >364 >369 >403 >404
 
付記:事態は終息の兆しを見せつも、次スレにて継続せり。
415御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/08 20:02
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
>74 
 
俺の掌打は腹部に突き刺さった。
と同時に、俺はサイコブローを叩き込む。
今ごろ、精神波を物理的な破壊力に換え、奴の体を駆け巡ってるんだろう。
言うなれば内家の発剄みたいなもんだ。
奴の顔が苦痛に歪む。これでやったか、そう思った。
 
が、それは奴の更なる闘争本能を目覚めさせちまったみてぇだ。
眼には憤怒が、体からは闘鬼が漲ってきやがった。
そして襲い掛かる破壊の暴風雨。
 
それはそう表現するしか他にねぇってくらいすさまじい攻撃だった。
それを俺は捌き、交わし、相殺し続けた。
だが、視界外からの一撃を喰らい、体の平衡を一時失った。
そこに飛び込む黒鉄の顎。
咄嗟に身を跳ばすことで直撃こそ避けられたものの、
風圧で壁まで吹き飛ばされた。口内に鉄の味が広がる。
 
俺は頭を振って混濁しかけた意識を取り戻すと、
スーツを再び展開させようと意識をこめた。
――が、うんともすんとも言いやしねぇ。
見ると、胸の部分が綺麗さっぱり引きちぎられ、
肉も軽く抉られている。・・・・・・・なんて野郎だ。あの野郎、スーツ切り裂きやがった・・・・・・
だが、こいつはモノに頼っちゃいけねぇって言う天の導きなのかもしれねぇ。
なら、やってやろうじゃねぇか。
 
俺はスーツの上着を脱ぎ捨てる。
その途端、俺の肌が周囲の風の動きを、気の流れを察知し始める。
これか・・・・・・・この感触なのか、朧が俺に言ってたのは。
今なら分かる。これなら・・・・・・いける!
 
「俺にスーツを脱がさせるとはね・・・・・・・いいぜ、見せてやるよ。
 スプリガンの真の力って奴をな!」 
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
>355 

手応えあった。
何かが潰れる音。
ジュネは口元だけでニタリと笑いそのまま拳を振り抜いた。

しかし

横島は確かに吹き飛んだ。そして――――横島の手元には

「棒・・・?」

ジュネが殴ったと思われた物は横島本人ではなく、へし折れた何かの棒切れのような物だった。
いや、今では『棒だったもの』と言った方がいいだろう。
横島はその棒を使いジュネの攻撃をまんまとかわした訳だ。

舌打ちをして振りぬいた拳を見つめるジュネ。
そこには感情の無い瞳の中に徐々に生まれつつある殺意のような物があった。


先の攻撃で舞いあがった塵も地面に戻り、視界も戻ってきた。
そして、ジュネも目標に向かって歩き出す。
コツリコツリとブーツの足音を響かせながらゆっくりと近づいていく。

目元が長い黒髪で隠れて表情は見えない。だが、口元を歪ませ笑っていることは確かだ。
何ゆえ戦う人形と化しているジュネが笑っているのかは分からない。
今、戦っている事が愉しいのか。それとも苦戦を強いられている窮地が愉しいのか。
それは横島にも、

そして――――笑っている本人でさえも分からない。


横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォード 
416の続き

ジュネは歩きながらゆらりと右手を天に向かって突き上げる。
また、背後に映る悪魔の影もそれと同じく拳を突き上げた。

そして、その突き上げた拳をそのまま力任せに振り下ろす。
それはまさに天から雷が落ちるがごとく。

「―――っ!!」

だが、それよりも早く横島が攻撃をしかけていた。
何かの光のような・・・。
ジュネが降ろしている悪魔とは正反対の神々しくも見える霊力の塊だった。
それに気が付き、ジュネは振り下ろしている拳を止め、そして腕で防御し様と思考するが
体がそれに付いて行かない。

「―――――――――!?」

直撃。

その衝撃は直接はジュネのダメージにはならなかったが吹き飛ばすのには十分な威力を
持っていた。彼女の軽い身体は宙を勢いよく舞いあがる。
だが、二度も同じような伝は踏まない。
ジュネはそのまま空中で器用にくるりと身体を反転させ、地面に手をつき着地する。
そして、手を付いたか付いていないか分からないほどの一瞬の時間で地面を蹴り、
そのまま横島を殴りに飛びあがる。

4度目の攻撃。

今回の攻撃は先ほどと違う点が一つある。
今までの失敗を思いだし、一つの結論に導いた結果。

それは――――――


「うあああああっ!!」



―――自身に悪魔を降ろしていない事だった。
418御神苗優 ◆OminaeNo :02/07/08 20:07
上海魔獣境〜スプリガンvs樟賈寶
 
俺たちの闘争のこの章の纏めだぜ。
 
導入
>29-30 >39
 
闘争
>51 >53 >55 >56 >57 >58 >59 >60
>61 >62 >64 >68 >74 >415
 
続きはこっちでやるぜ。
吸血大殲 第32章 〜薔薇の月に血の涙
ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1026106111/
 
それじゃ、いくぜ!
横島忠夫 vs ジュヌヴィエーヴ=コトフォードの中間纏めです。

導入:>296>298>299>300

闘争:>301>302>303>310>312>340
   >342>343>345>352>355>416>417 

『アレ』って一体何なんでしょうね?
ジャックー早く教えてくださいー。      
420閖(M):02/07/08 22:24
闘争の途中経過よ。
導入:>357
>358>359>360>361>363>366>368>371

―――決着は、次スレよ。
421星川翼:02/07/08 22:24
戦士達の決勝前夜
>407
 
(体が……動く?)
 
 今まで動かなかった体が動く。
 完全に元通り―――どころか、前よりも体が軽い。
 体の中に感じる、確かな彼女の鼓動。
  
「は、はは――――」
  
 思わず笑いが零れる。
 彼女は自分を信頼してくれた。
 ならばそれに応じよう。女性の声に応えるのが、彼の信念なのだから。
  
 敵は強い。だが彼女が共にあるならば恐れる事は無い。
 折れた剣に意識を集中し、霊力を注ぎ込む。
 すると青白い燐光を放ち、霊力で構成された刃が細剣の形を取った。
  
 冴え冴えとした光を放つ月と、刃―――。
 彼はその輝きを身に纏いながら剣を目の前に構え、弾んだ声で言葉を紡いだ。
  
「最高の夜だね」
422ヌアラ ◆tRUNEwlE :02/07/08 22:48
途中経過

>320>322>324>325>327>328>330>331>332>334
>336>341>334>347>349>351>354>407>421

ふっ、私を倒そうなどと、愚かな夢を見た物だ……。
緑川淳司&花村雅香 VS 弓塚さつき(27祖)
30章での纏め『ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1024844742/564
 
このスレでの経過。
>63
 
さつき「また終わりませんでしたね……」
雅香「…いつ終わるのかな?」
淳司「……まあ、頑張っていこう」
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎VSラルフ・グルト vsフォルテッシモ
途中経過

導入
>130

ラルフvsアセルス
>131>132

光太郎乱入
>133

光太郎&アセルスvsラルフ
>134>135>136>138>140>141>142>143>145>146>147

ff乱入
>150

光太郎&アセルスvsラルフvsff
>219>265>281>293>295>307>337>348>362>377>405

須藤雅史乱入
>294
アセルス(半妖ED後)&玖珂光太郎vsラルフ・グルトvsフォルテッシモ
>前スレ362、377、405
>前スレまとめ424
(ttp://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1025406070/424)
>56

「なかなか頑丈な方々ですなあ」

爆発の中、よろめきながらもお互い差さえあって立ち上がった少年と少女に対し、
男は素直な感想を漏らす。

「しかし二人・・・ですか。・・・ふむ?」

もう一人はいまだ瓦礫の下の埋もれているのだろうか?
それともあるいは・・・・・・。
男の意識が一瞬逸れた。
その隙を突いて響く裂帛の気合。式神が再び虚空に姿を現した。
そして振るわれる式神の包丁。
男の顔面を狙ったそれは、掛けていたサングラスを断ち割り、額から鼻梁へ斜めに赤い筋を刻み込む。

ダン!

次の瞬間、男の踵が式神の側頭部に叩き込まれていた。
続いて向けられる義腕の仕込銃。

「・・・逃げられましたか。まあいいでしょう」

式神の姿は、すでに掻き消えていた。少年と少女、二人の姿も。
だが狩人の耳は敏感だ。爆発後の静寂の中で遠く響く不揃いの足音を逃すはずもない。

「逃がしませんぞ?」

顔面を濡らす血を袖で拭い取り、男は銃を構えなおした。

振動。

建物が軋み、音を立てて爆ぜる。
歩調を速め、男は舞い上がる土煙の先へと急ぐ。
すると・・・

廊下が割れていた。
二人の姿は見当たらない。少なくとも、男の司会の範囲内には。
ただし、血痕が残っていた。半開きになっている奥の扉の向こうへと。
そして、何かが蠢く気配。
間違いない。二人は―――少なくとも、どちらか一人は―――この扉の向こうにいる。

「かくれんぼは、楽しめましたかな!?」

銃声。