吸血大殲 第31章 夜を往くモノ――Night Walker

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221フリッツ(M)
>186 ファントムvsウピエル ドライ側エピローグ案

 フリッツ・ハールマン。職業吸血鬼ハンターがホールに足を踏み入れた時感じたものは「死」であった。
 硝煙の臭いや、血の臭いを「死」として表す。そんな曖昧なものではない。
 死の臭い。死、そのものがこのホールに充満している。
 
 フリッツは、無意識のうちにカービン銃の撃鉄を起こした。
 そうさせたのは死に対する恐怖からか。それとも戦士としての本能か。本人にも分からない。
 
 一歩、また一歩。銃口を左右に振り回しながら、辺りを探索する。誰もいない。
 その結論は、ホールに入ったときから出ていた。ここに生は存在しない。死しか存在しないのだ。
 が、警戒を緩めることができない。死が襲いかかって来るかもしれないからだ。
 
 死? 死とは、なんだ? 吸血鬼のことか?
 あぁ、確かに奴等は死だ。死そのものだ。
 死を克服し、死を畏れない奴等こそ、まさしく死そのものと言えるだろう。
 
          ――――違うな――――
 
 「!?」
 
 頭の中で声が弾けた。脳に直接響き渡る声。フリッツは、その声の主を知っている。
 今回の舞踏の主人公。自分が知る限り最強の吸血鬼。最強の「死」……。
 
        ――――死とは、ファントムだ――――
 
 「……ファントム?」
 
 フリッツの耳に届いた声は、その二言のみ。一体、なんだと言うのか。
 
 ふと、何かが爪先に当たる。いつのまにか、ホールの中央まで来てしまったらしい。
 視線を落とすと、足下には灰の池が広がっていた。明らかに吸血鬼の亡骸だと見て知れる。
 が、フリッツが注意を向けたのは灰では無い。灰の中に埋もれた、真鍮の輝き。
 
「こいつは……壊れた……懐中時計?」

 そのホールには誰もいない。生あるものは、フリッツ・ハールマンただ一人であった。
 
 
             ――――Fin――――