吸血大殲 第31章 夜を往くモノ――Night Walker
>186 ファントムvsウピエル ドライ側エピローグ案
フリッツ・ハールマン。職業吸血鬼ハンターがホールに足を踏み入れた時感じたものは「死」であった。
硝煙の臭いや、血の臭いを「死」として表す。そんな曖昧なものではない。
死の臭い。死、そのものがこのホールに充満している。
フリッツは、無意識のうちにカービン銃の撃鉄を起こした。
そうさせたのは死に対する恐怖からか。それとも戦士としての本能か。本人にも分からない。
一歩、また一歩。銃口を左右に振り回しながら、辺りを探索する。誰もいない。
その結論は、ホールに入ったときから出ていた。ここに生は存在しない。死しか存在しないのだ。
が、警戒を緩めることができない。死が襲いかかって来るかもしれないからだ。
死? 死とは、なんだ? 吸血鬼のことか?
あぁ、確かに奴等は死だ。死そのものだ。
死を克服し、死を畏れない奴等こそ、まさしく死そのものと言えるだろう。
――――違うな――――
「!?」
頭の中で声が弾けた。脳に直接響き渡る声。フリッツは、その声の主を知っている。
今回の舞踏の主人公。自分が知る限り最強の吸血鬼。最強の「死」……。
――――死とは、ファントムだ――――
「……ファントム?」
フリッツの耳に届いた声は、その二言のみ。一体、なんだと言うのか。
ふと、何かが爪先に当たる。いつのまにか、ホールの中央まで来てしまったらしい。
視線を落とすと、足下には灰の池が広がっていた。明らかに吸血鬼の亡骸だと見て知れる。
が、フリッツが注意を向けたのは灰では無い。灰の中に埋もれた、真鍮の輝き。
「こいつは……壊れた……懐中時計?」
そのホールには誰もいない。生あるものは、フリッツ・ハールマンただ一人であった。
――――Fin――――