吸血大殲 第31章 夜を往くモノ――Night Walker
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吸血鬼はいた。喉に突き立つ牙。失われていく血液。
一体、あたしの身体にどれだけの血が残っているというのだろうか。
これ以上血を失うことを意味するのは、吸血鬼化では無く純粋な死だ。
だけど、あたしは――――
吸血鬼の吸血行動を、拒む気にはなれなかった。
喉にしゃぶり付く吸血鬼を、翡翠色の瞳がそっと見下ろす。
例えれば、母親が己の子供に母乳を与えるかのようにあたしは吸血鬼を見守っている。
ふと、あたしの口が開いた。
「もっと、吸っても……いいんだぜ……」
翡翠の視線が天を仰ぐ。真紅の血に装飾された金髪が流れる。
「それで、あんたが生き長らえるなら。あたしの手で、あんたを殺せるのなら――――」
言葉は最後まで続かなかった。
吸血鬼の弱々しい、それでいて不屈の意志を感じさせる言葉に遮られ、あたしは口を動かすのをやめる。
が、それも数秒。吸血鬼が言葉を言い終えると同時。
いや、言い終えるよりも速く―――吸血鬼は灰となりて、死んだ。
死んだ。
「……馬鹿……野郎……ッ!」
またか。玲二のときと一緒だ。またあたしは――――
あたしは一面に広がる灰を拾い上げ、抱きかかえるように蹲ると、肩を震えさせながら……泣いた。
床に散らばる灰の一部が色を変える。白い肌を汚していた赤い汚れが洗い落とされる。
握りしめた両手から流れ落ちる灰が、白い滝を作る。
殺したかった。この手で、あの吸血鬼を殺したかった。
だけど――――
――――俺の代りに殺せ――――
一体、誰を殺せと言うのか。その問いに答えられる者は、もういない。