吸血大殲 第31章 夜を往くモノ――Night Walker
>84 vsウピエル
トス、と肉を突き刺す音を肌で感じた。
見ることはできないが、恐らくあたしのナイフが吸血鬼の何処かを抉った音だろう。
あれ? おかしいな……。
あたしは生きている。まさか、実はもう死んでますなんてこたぁ、ねぇだろ。
でも、だとすると――――
(……なんで、あたしは生きているのに、こいつを刺しているんだ?)
そんなのは、あり得ない。このときの吸血鬼のスピードは、神速の領域だ。
神速を操る相手より速く、あたしが攻撃を繰り出せる道理は無い。ならば、なぜ?
シュッ、閃光が走る。眼で負うことは不可能。だけど、あたしには分かる。
その閃光は吸血鬼がくわえていた最後の獲物……銃剣だ。
テンションが、滾った血が急激に冷めていくのが分かる。
先程の精神の高ぶりは何処へ行ったのか、冷水を浴びせられたかのように、急激に冷めてしまった。
どうして……? 自分でも分からない。
同時、見えない壁によってあたしは吹き飛ばされ、白い壁に叩きつけれた。凄まじい衝撃。
「――――ッ!!」
意識は確実だが、その分このダメージが自分の命を更に縮める結果になったことも冷静に受け止めてしまう。
だけど、そんなことは今のあたしにはどうでも良かった。あたしの命の話など、どうでも良かった。
一番重要なのは、あたしの視界には写っているはずの吸血鬼。なのに、吸血鬼はいない。変わりに――――
「――――な、なんだこりゃあ!?」
両手のナイフを投げ捨て、掴みようのないそれを必死で掴もうとしながら、叫んだ。
あたしは気付かない。ホールを静かに包んでいたオルゴールの音色が、もう聞こえないことに。