吸血大殲30章 薄暮の月/黎明の十字軍

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39ウピエル ◆Upielb0Y
ウピエルvsファントム
前スレ>438
 
両腕を失い、全身の傷から血液を流し、それでも悠然と歩みながら、吸血鬼はホールに姿を顕した。
口にスクリーミング・バンシーを咥えながら。
 
顎に力をこめる。
ギターのヘッド部分の金具が弾け飛ぶ。
牙がギターを噛み締める。
ヘッド部分が軋み、罅割れ、噛み砕かれ─―――――スクリーミング・バンシーが床に落ちた。
ギターのヘッド部分に装着していた、チタン・セラミック複合素材の銃剣のみを口元に残して。
 
全身の傷から流れ出る血流が止まる。
代りに、傷口から何か別の物が――液体では無い何かが、風に散る様に落ちる。
灰。
既に、灰化が始まっている。
残されているのは、本当に僅かな時間。
その短い時間に残る全ての力をかける。勝っても何も得る物は無い。
だが、俺は闘う。
避け得ぬ亡びだけが待つ中、ただ、闘うために闘う。
 
銃剣を口に咥え、軽く屈む。
軽く飛びあがる。否、軽く跳び上がったかのように見えるが、その高さは吹き抜けのホールの天井に達する。
ホールの天井を、蹴った。
酷使される脚の、全身の筋肉が一斉に悲鳴を上げ、所々で断裂する。
肉体構造の持つ耐久性の限界を超えた力に、関節や靭帯、骨格も異様な音を立て自壊をはじめる。
 
だが、肉体の崩壊と引き換えに達した速度は吸血鬼の限界すら遥かに超えた物。
口に咥えた銃剣をドライの喉に突き立てようと、まさに弾丸と化して、ウピエルが跳ぶ。
片足が衝撃に千切れ跳ぶ。
音速を超える音が、確かに聞こえたような気がした─――――――――――――――――