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「がぁッ!」
腕の肉を抉るかのように突き立つ銃剣。痛い。
もう、限界だ。左手から流れる血は相変わらず止まらないし、右腕は、今の一撃でこの有様。
まぁだけど、限界なのはお互い様だぜ。この吸血鬼なんて、両腕無くなってやがるからな。
「はは、こいつは仕方がねぇな。さて、どうやってケリを――――ッ!」
衝撃。為すがままに吹っ飛ぶあたし。
数瞬、宙を浮いていたかと思うと地面に叩き付けられ、その勢いでもう一度跳ねる。
吹っ飛んだ先は、劇場のホールだった。一体、何メートル蹴り飛ばされたんだか。
遠くから、オルゴールの音が聞こえる。ペースがかなり落ちてるみたいだ。
そろそろ……終幕……か。
しかし、あのおっさん……両腕失っても、まだ殺る気かい……元気、だ……ねェ。
「はは……はははは……!!」
悪かった。悪かったな、吸血鬼。ちょっと、あたしはどうかしてたみたいだ。
自分の命を惜しんだお上品な闘い方なんて、あたしには似合わないよなァ。
そんなあたしを相手にしていても、面白くも何とも無いよなァ。
よろよろと立ち上がりながらあたしは嗤う。ゴポリ、と口から血の塊が流れ出るが気にしない。
もう、自分の血で汚れていない場所なんて何処にもねェ。
「はぁ……ははははははは……はーっははははは!!」
未だに右手に握っていた拳銃を投げ捨てると、両腕をジャケットに突っ込み、
肩吊り式の鞘からナイフを抜き放つ。左手に一本。右手に一本。
どちらも奇妙な波紋を生んでいる肉厚の刃は、ナイフと呼ぶには大きすぎる。
正直、この傷じゃナイフなんて満足に扱えない。右手に握られたナイフなんて、指が無いせいか酷く不安定だ。
だから、我侭は言わない。ナイフとフォークが持てる身体なんて望まない。
せめて……せめて、この殺し合いのときだけは……!! 頼むよ、あたしの両腕さんよォ!!
「はははははははは! 殺す! 殺してやるぜぇ、吸血鬼野郎!!」
さぁ、ファントム・ドライ一世一代の晴れ舞台だ!
ここで成功しなきゃ、ファントムを名乗る資格はねぇからな!