ウピエルVSファントム
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加速した意識が捉えるのは、コマ送りのような世界。
ベレッタを持つドライの動きは、まるでスローモーションだ。
銃口をこちらに向ける動きが、銃爪を絞ろうとする指の動きさえも、酷くゆっくりとして見える。
「Bitch!!Fuck Your Ass!Baby!」
嘲笑の声が響く。
哀れな羊。自分が相手にしているのがどれほどの化物だか理解しているのだろうか。
この距離では外しようも無いだろうが、ロクに狙いもつけない3連射。全て弾き飛ばせる。
そのはずだった。
だが、銃口に迫る銃剣が初弾を弾いた瞬間、俺の脚から力が抜けた。
ツヴァイの放った銀の弾丸による傷のせいだ。
ドライを見出し保護したのはツヴァイだと言う。ツヴァイはドライを守ることを望んだのだろうか。
だとしたら、こんな所まで俺の邪魔をするとは、今更ながらツヴァイの人間離れした執念に一種の尊敬を感じる。
バランスを崩したのは一瞬。いや、一瞬にも満たないごく僅かな時間。
だが、それは致命的な時間だ。
銃剣の切っ先の向きを修正する。
鋭く突き込まれた銃剣―指先から肩の付け根まで真っ二つにするはずだったその銃剣は、ドライの上腕部を深く抉るだけだ。
そしてドライの弾丸は、全て叩き落すはずだった銃弾の内の2発は、銃剣を握った右腕を続けざまに穿つ。
皮肉にも、お互いに武器を握った腕にダメージを与え合ったのだ。
元々深く傷ついていた右腕が、ついに千切れ飛んだ。
100分の1秒に満たない時間。傷口を一瞥する。最早、傷口から流れ出す血すら弱々しい。
意識の何処かが獰猛な咆哮をあげた。
足元に落ちるスクリーミング・バンシーを蹴り上げる。
そのままドライを軽く―とは言ってもヘビー級キックボクサー並の―蹴り飛ばし、反転。
後方宙返りをしながら、空中でスクリーミング・バンシーを口に咥え、再び距離を取った。
限界はとうの昔に超えた。ならば。
口にギターを咥えたまま、器用に声を出す。
「そろそろ終りにしようぜ。何もかも、なぁァ!!」
両腕を失ってなお、そう叫んだウピエルのその顔には、血の気も生気も失ったその顔には、
獰猛な野獣の笑みが浮かんでいた。