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「チィッ!」
罵声を吐く暇さえ与えず、吸血鬼は間合いを詰める。
この間合い、このスピード。もう、あたしに出来ることなど僅かもない。
――――だから、その『僅か』の中から最良の行動を選択する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
一瞬で覚悟を決め、あたしは駆けた。駆けるとは言っても、吸血鬼とあたしの距離は大して空いていない。
一歩踏み出した所で、眼前一杯に吸血鬼の焼けただれた顔が写る。
(こんな化け物相手に、玲二はよくもまぁ、こんなダメージを与えられたもんだぜ……!!)
吸血鬼の残った一本の腕が一瞬ぶれたかと思うと、銀の軌跡があたしの右腕へと走り寄る。
その一撃は、あたしが今から回避運動を始めるために筋肉を動かすよりも速く、あたしの腕を切り裂くだろう。
だけど、あたしだって利き手を何の代償も無しにくれてやるほど、お人好しじゃない。
「この……化け物がぁぁぁぁ!!」
銃声。吸血鬼が繰り出した銃剣があたしに届くよりも、ベレッタの引き金を三度引くほうが速かった。
逆に言えば、三度しか引かせてくれなかったのだが、あまり我侭が言える状況でも無いから、仕方が無い。
これはゲームだ。賭けだ。あたしはろくに狙いもつけず、三発の銃弾を吸血鬼の腕へと撃ち放った。
もし、吸血鬼がこの距離からの発砲もかわせるような化物だったら、あたしの負けだ。
だけど、少しでも喰らい、その銃剣の軌道を逸らしてくれれば……まだあたしにも可能性はある!