吸血大殲28章『仄き鮮血の舞踏』

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 赤く濡れたオルゴールが床を叩く。左手の感覚が無いんだ。燃えるように熱いが、それだけ。
 痛みも何も無い。ただ、目には滝のように流れ出る血液が映し出されている。

(これは……マジで死んじまうかもしれねぇぞ……)

 失血死。既に血液は大分失ってしまった。その上この傷である。
 生きたいのであればすぐに止血をして、病院に転がり込むべきだ。
 そう、生きたいのであれば。

 AKを床に放り捨て、ふところからベレッタ92Fを取り出すと、スライドを自慢の白い歯で噛み付き、
無理矢理撃鉄を起こした。
 そして、狙いを――――

「ノイン……」

 初めて、吸血鬼を名前で呼んだ。元から全員知っている。
 一度も会ったことは無いが、サイスから聞いていた。

 ノイン……可哀相な女――――
 でも、

 「ノイン、あんたの親の名前……教えてくれないか?」
 
 軽い銃声。続いて爆発音。視界に広がっていく火炎の雲。
 それに飲み込まれていく……吸血鬼。
 
 爆音で聞こえないが、あたしの血に包まれてオルゴールが鳴り響いているはずだ。
 哀れな女達ツァーレンシュヴェスタンがこの瞬間、全滅したことを告げる鐘の役目を背負って。