吸血大殲27夜 ――Lunatic Dance――
ウピエル&ツァーレンシュベスタンvsファントム達
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時間を、僅かに溯る。
キャルが、ツァーレンシュベスタンと命がけの隠れん坊を繰り広げてい頃、
エレンの気配は、完全にホールから消えていた。
それのそのはず、その時既にエレンはホールの裏口から外に出ていたのだ。
そこには、逃走用に用意した『BMW R1200 C Independent』が止めてある。
傷だらけの身体を無理矢理引き上げるようにして、バイクに跨がった。
キルスイッチだけで止めてあったそれをRUNの位置まで戻すと、
セルスターターを回しエンジンをかける
アイドリングを開始したエンジンの力強い振動が、朦朧としていた意識を
水面近くまで引き上げる。
その体勢のまま、ホルスターからパイソンを引き抜くと、シリンダーをあけ
残弾を確認する。
使い慣れたグリップの感触が、嗅ぎ慣れた硝煙の香りが、意識を完全に覚醒させた。
銃をホルスター戻すと、エレンは状況を再確認する。
玲二はウピエルと一対一、キャルは手負いの状態で、一対二の状況だ。
正直、現状は窮地と言って差し支えはない。
更に、相手を倒すために武器を使用しなくてはならないファントム達にとって、
時間の経過は状況を悪化させこそすれ、好転させる可能性は極めて低い。
エレンはほんの数瞬考え込んだ後、車体の右側面にくくりつけてある
あるものに一度だけ視線を落す。
そして顔を上げると、アクセルを二三度軽く捻った。
鋼の獣は、その合図に巨体を震わせて応えると、次の合図で勢いよく駆け出していった。