吸血大殲 第26章 殲鬼達の慟哭 夜魔達の哄笑

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488エレン ◆Elen1cxc
ウピエル&ツァーレンシュベスタンvsファントム達
>339 >485 >486 >487
 
 エレンのとった行動は、キャルに対する牽制と、
あわよくば同士討ちを狙ったものであったが、フュンフとノインの行動は
そんなエレンの想像を越えるものであった。
 
 フィーアの体をブラインドと化し、襲い掛かる銃弾。
 それは、人体と言うフィルターが存在するため、単純に銃口の方向から
射線を予想することはできない。
 
 さらに、エレンにとってはもう一つ誤算があった。
 ほんの一瞬ではあるが、キャルの硬直がそれである。
 エレンとしては、キャルからの乱射を期待していたのだ。
 しかし、それは考えてみれば無理はないことである。
 キャルは、精神調整を受けたエレンとは異なり、天性の素質と
玲二に対する憎しみのみでファントムになった少女なのだ。
 当然、ここまでの窮地に陥った事など有るはずがない。
 いや何よりの違いは、彼女は自分とは違い、死ぬために闘っているわけではないのだから。
 
「くっ!!」
 
 咄嗟に踵を返したエレンは、客席の背もたれの上に飛び乗り、そこを驚異的な速度で走る。
 そのまま自らの体を盾にする様に、キャルの眼前に飛び込んでいった。
 
 フィーアの体を貫いた銃弾が、次々にエレンの体に突き刺さる。
 
 それは、エレンを絶命させるには、充分な銃弾であった―――
 
 
 
 
 
           ”対人戦であれば”
 
 
 そう、フュンフとノインにとって最大の誤算は、ブラインドに使ったフィーアが
吸血鬼であった事だ。
 常人を遥かに上回る吸血鬼の肉体を貫通した銃弾は、著しくその速度を落し、
エレンが服の下に着込んだ、防弾チョッキと、脊髄パッドによって、
体の中心線に致命的なダメージを受けるのを避けることができたのである。
 
 しかし、受けたダメージも決して軽視出来るものではない。
 防弾チョッキのみの部位に着弾した銃弾の中には、何発か肉体に届いたもの存在するし、
当然、防弾チョッキの加護を得ていない腕や足へに着弾は、確実に肉体を貫いている。
 
「……ぐ……かはっ!!」
 
 呻くエレンの眼前で、キャルが奇妙な表情をしていた。
 
『何故助けた?』
 
 その表情が、そう語っているようにエレンには思えた。
 その表情は、どこか玲二に似ていた。
 だから、エレンは苦しい呼吸の下、なんとかこう答えた。
 
「貴方が死ぬと、玲二が悲しむ」