アルクェイド・ブリュンスタッドVS鉤道士
『ブラッディムーン・オーバーロード』〜超越者たちと紅い月〜
紅い服の道士は興味深そうに実験を見守る。
部屋の傍、鬼門遁行で方角的に霊的死角となってるために、警備員や研究員達に気付かれない位置だ。
輪廻に何か法則性があるなら、それとも、輪廻する先を追う手がかりがあるなら。
この実験で何かわかるかもしれない。
かつての自分の保護者であり、友であり、仲間であり、母のような存在で。
護られっぱなしで護ってあげる事が出来なかった、あの娘の逝き先が。
再びあの娘に会えるなら、どんな些細な手がかりでも求めよう。
紅い服の道士、『鉤』と呼ばれる道士はその為だけに生きているのだから。
八卦易占感覚に反応あり、凶事が迫っている。
「小雷」
傍らの童子に呼びかける。
施設入り口付近に強力な反剋の気。
反剋の気は鬼に通じ、鬼気と言う。この規模の鬼は感染源不特定吸血鬼。
それも、真祖と呼ばれる部類のさらに大物だ。
この規模の反剋の気を発する存在など有り得るのだろうかと言うほどの大きな気。
吸血鬼の規格から大きく逸脱している。
そして、吸血鬼でありながら、地脈との一体感はまるで精霊のようだ。
『魔神』もかくやと思わせる、ここの警備では手も足も出ない規模の災厄だ。
鉤道士は緩やかに舞う。不思議な足運びの異国的な舞い。
禹歩と呼ばれる呪術的歩法。霊相渦巻く施設の微妙な流れを察知して、
「疾(チッ)」
小雷と呼んだ童子と共に、その隙間へと飛び込んだ。
空中に生じた霊気の流れの隙間―径<パス>―から、施設の入り口付近に現れる。
見事なまでに破壊された、かつて施設の入り口だった場所。
そこに居たのは白い姫君。赤い目に金髪の美女だった。
「うわ、反剋の気がぷんぷんするぜ!これなら百里先からでも臭いそうだな!」
小雷が大きな声で呼びかけた。
「やあ、綺麗な人だ。こちらに何か御用ですか?」
鉤道士は、柔らかい笑みを浮かべて挨拶をした。