吸血大殲 25章『Memory Of MoonBlood』
ウピエルVSファントム
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「Shit!!」
しまった、ミスった、しくじった。
咄嗟に目を伏せ耳を塞ぐ。
フラッシュグレネードの発する、ストロボをとてつもなく強烈にしたかのような閃光が、瞼を通してなお瞳孔を焼く。
瞬間的な視覚の喪失。刹那の盲目。
全身の感覚を研ぎ澄ませ、聴覚、嗅覚、皮膚感覚だけで気配を感じる。
銃声を聞いてからでは間に合わない。その前の攻撃に移る気配を感じ・・・勘任せで回避する。
「クァァァァァ!!」
当然、避け切れない。
肩に、脇腹に、首に、腿に、背に、
5.56mm小銃弾を、9mmパラベラムを、.357マグナムを
8発、2発、1発、合計で11発。
熱く焼けた金属が肉を抉り骨を穿つ。
吸血鬼は吹っ飛び、流れ弾で粉砕された『座席だった物の残骸』の中に突っ込む。
『急所』こそ外しているが、常人なら即死。どれほど頑丈な人間でも、致命傷に等しい。
だが、吸血鬼は人間とは違う。
元来の頑丈さが、皮膚の強靭さが、筋肉の丈夫さが違う。
何より、吸血鬼の最大の特性たる『負傷に対する耐性』即ち、『不死性』
そもそも、吸血鬼にとって『急所』とは心臓以外の何処でも無いし、何処にも無い。
「クク」
この負傷は、ウピエルにとて致命傷では有り得ないのだ。
埃と破片を巻き上げ、全身の銃創より吹き出すように流血しながら立ち上がる。
「クハハ」
痛ぇ、痛ぇ、やられたぜ畜生。苦痛と怒りが脳を灼く。
と、同時に、獲物の強さを確信し、歓喜と期待が身体を走る。
ああ、これは思ったより遥かにスリリングな狩りに、猛獣狩りになりそうだ。
「ヒャァァッハッハッハッハッハッハハハハハハハハハハァァァァ!!!」
全身の傷口から、食い込んだ銃弾が押し出される。
肩と脇腹の銀の弾丸は指先で抉って、銀に触れた肉ごと穿り出す。
「クハハハハ、痛ぇ、痛ぇじゃねェか畜生!ハッハァァ、やられたぜ・・・!」
怒声と笑声をごちゃ混ぜにして叫ぶと、パチン、とフィンガースナップ。
幕間の笑劇の終りの合図。本当の演目の開始の合図。
劇場の扉を開け放ち、出番を待っていた俳優が出揃った。
先ほど暗殺されたサイス=マスター秘蔵の手駒。
暗殺の武器として完成された4少女達─ツァーレンシュベスタン―が、各々手に獲物を持っての登場だ。
本当は6人だったが、先程の暗殺でサイスにはりついていた2人が死んでいるのが残念だが―――
「ここまでやるとは流石ファントム、正直感心したが・・・さあ!幕間劇はもう終り、本番はこれからだ!!」