吸血大殲 25章『Memory Of MoonBlood』
ウピエルvsファントム達
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腰を落し駆け寄るエレンに対し、目標地点から銃口が突き付けられた。
だがそれは彼女も充分に予測していた事であり、脇に抱えたAK74はいつでも撃てる体勢になっている。
しかし相手の姿を確認した直後、エレンは咄嗟にトリガーから指を外すと通路から客席の影へと飛び込んだ。
銃口から放たれた銃弾がそれを追尾するがごとく動き、間を遮る客席に次々と弾痕を穿っていく。
「……まさか、またあの子と出会うことになるなんて……」
客席の影深くに身を潜め、銃撃をやり過ごすエレン。
襲撃者の顔には見覚えが有った。
三人目のファントム、ドライ。
かつて逃亡中だったエレンと玲二に向けて放たれたインフェルノからの刺客。
その時は何とかお互い死なずに済んだものの、因縁が晴れたとは言い難い。
「どうする?……玲二にあの子を殺すことは出来ない」
数秒後一旦銃声が止み、間髪入れずに再び銃声が吠える。
そのドライの攻撃が自分に向けたものでないことを確認すると、
客席中央に立つ男――ウピエル――へと視線を戻す。
ウピエルの姿を視界の端に納めた瞬間――その姿が突如消え去った。
慌てて周囲に視線を走らせるエレン。
しかしそこにウピエルの姿を捕らえることはできなかった。
だが彼の歌声は、その溢れる攻撃性を隠すことなく、依然としてホールに木霊している。
刹那、エレンはうなじの毛がざわりと逆立つ感覚に襲われた。
「上!?」
咄嗟に振返ることもせず、前方の床――客席と客席の隙間目掛けて頭から飛び込む。
寸前までエレンがいた空間を銃弾が通過し、兆弾が僅かに彼女の足を掠める。
飛び込んだ体勢のまま、空中で一旦AK74を放し、自由になった両手を劇場の床に打ちたて
その勢いを利用して前方にとんぼを切る。
着地した瞬間、いつの間に引き抜いたのか腰後ろのホルスターに収まっていたはずの
イングラム M11サブマシンガンが、彼女の右手に魔法のように出現していた。
エレンは一瞬天を仰ぐと、人間には到底不可能な跳躍力で宙を舞うウピエルに向け銃口を合わせる。
そのまま引き金を絞ると、着弾を確認することなく体は舞台へ向けて走りだしていた。