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タイミングを計る。
一つ目の『魔』が、ドアを通り過ぎて室内に侵入。
もう一つが、部屋に入り掛ける―――――
ガン!
バン!!
それは遠野志貴がドアを蹴る音。
そして、ドアが悲鳴を上げて閉じられる音。
だが俺は、そんなコトは無視して。
ドアを蹴り上げると同時に、軸足を支点に身体を反転。
部屋の中に孤立した『魔』を滅すべく、その『死線』を、『死点』を―――――
その瞬間、時間が凍った。
―――――赤。
赤い、髪。
纏わり憑く、
赤い鬼気。
なんて無様。
今まで幾度となく死徒以外の『魔』にだって対峙して来たって言うのに。
その、燃えるような、焼けるような鮮烈な『赤』に魅了されたかの如く。
遠野志貴は、闘争の場に於いて、その動きを停めてしまっていた。
だけど、理由はそれだけじゃない。
何故って…。
ドアの閉じる音に驚いて振り返った、その顔は。
その顔は!
忘れられない。
忘れる事なんて出来ない。
それは遠野志貴のココロの一番深い所に、今でも刻み付けられている存在。
―――守りたかった。
守れなかった。
ずっと、一緒に居たかった。
別れは、唐突に訪れてしまった。
幸せにしてあげたかった。
いつも怒らせてばかりだった。
そう、最後まで哀しませてばかりだった―――――
幼い日の、何処か人のご機嫌を伺っている様な、気弱そうな表情。
数年後に再会した時の、『当主』としての凛とした強気な顔。
―――――そして、今。
遠野の屋敷を出て数年、綺麗な女性の姿で目の前に居る、『魔』。
それは、見間違う筈も無く―――――
「―――――秋、葉…? なんで、こんなトコロに………」