深淵　第9夜【黒の海王】

命短き者よ、行き急ぐな。
お前の生きる大地は、
常にゆっくりと歩む。

死は安寧。
限られし命の者のさだめなり。
拒むことこそ悪なり。

耳元にささやく者あり。
これもまた夢なりや？

運命は流転する。

反逆には炎をもって戦わん。
一同、情けは無用ぞ。

炎は生きるが故に、燃え広がっていく。
炎として、生きるが故に、他者を焼き尽くそうとするのだ。

我はここで待つ。
汝のときが至るのを。

たとえ、永遠に見えても
すべてのものに必ず終りが存在する。

熱意の生きられる場所は限られる。
狂気こそ必要。

迷える魂あり。
迷い迷って、迷いをさらに広げる。
我、これを滅す。

見ないことこそ、見ることに通じる。
それを忘れるな。

樹木は枯れて、地に帰り草を育てる。
獅子は死んで虫を育てる。
死は決して無駄ではないのだ。

今ひとたびの我慢。
いつか戻る日だけを夢見て、
しばらく待つとしよう。

最初は心地良けれど、
深入りは剣呑､剣呑。

夢さえも死をもたらす。
狂気こそ究極の平和の証｡

見よ。
光と闇の双方があって
初めて意味があるのだ。

多彩の渦が流れる。
水なき場所にさえ
深淵の波音が響き渡る。

我は瞳を閉ざす。
涙とともに希望をこぼさぬように。

欲望を忘れるな。
それこそ汝の生きる力の根元なり。

裏切り者よ。まがいもの者よ｡
汝は悪しきもの。
我は復讐を忘れず。

時過ぎれば、
憎悪すらも思い出に変わる。
嵐はいつか去るのだ。

我は灯りを掲げ、後続を導く､
闇の中にも、
常に道は存在するのだ。

今ひとときの我慢。
いつか戻る日だけを夢見て、
しばらく待つとしよう。

運命は流転する。

血が一滴滴った。
無明の闇の中から、今、何かが誕生し、世界に波紋をもたらしていく。