誤爆だけで1000まで逝くスレ@卓ゲ板

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223おきんたま
26.セッカイ

眼前の大気へ陰りを感知すると同時に、交差した両腕から全身へと凄まじい衝撃の波が渡る。
理外の凶撃がただの掌底であったことを理解した瞬間、一休は全てを忘れて陶然となった。
落とした珠の数が即ち速度であった。枯れた四肢が即ち鋭さであった。
これほどの仏教が。これほどのものが、俺を壊すためだけに存在するのだ。
遠慮無く俺の皮を裂き、容赦無く俺の肉を削ぎ、徹底的に俺の骨を砕くためだけに存在しているのだ。
ぬふ。漏れた音は己の吐息であった。夢から覚めたように、傍らの卒塔婆へ降り立つ和尚を見返した。
風が吹けば倒れそうな卒塔婆の上へ、怪僧は微塵も揺らぐことなく留まっている。
 「もはや説戒ではない」
宙空の鬼が低い唸りを発した。ねめ上げた地上の鬼が玲瓏と嘲笑う。
 「もとより、そのつもりにございます」
 「仏敵よ」
 「まさしく。敗れし者こそ御仏の加護無き者」
とんちであった。傲慢なほど太く正しいとんちであった。とんちとは彼自身を表す言葉だった。

立て板にはコノ橋渡ルベカラズと書かれていた。だから真っ直ぐに渡った。
戦ってみたかった。だから虎を出せと詰め寄った。
なのに誰もが負けを認めた。
  − 端でなく真ん中を渡るとは − 絵の虎を出せとは − 見事なとんちでございます −
皆怯え、後退りながら泣き喚いた。失禁する者もいた。
己が理不尽を突きつけた相手こそ捕食者と、喰われる者の本能によって否応なく気付かされた結果であ

る。
圧倒的な暴力が本気で牙を剥いてしまう前に、必死で負けたと叫ぶのが彼らの常だった。
拳はとんちであった。とんちは拳であった。
そして今や地を割り天を衝く巨怪へ変貌を遂げたとんちの求めた理不尽が、恐るべき怪物自身を生み出

した外観和尚である。
勝てるというのか。超人強度七億の雪板男すら凌駕するといわれる魔僧に。
戦って、お前はいったい何処へいくというのだ一休よ。とんち坊主一休よ。