蓬莱学園の終焉
東京都台東区宇津帆島
……そこは廃墟だった。
「数年前には10万人いたなんて、信じられないな」
かつて生徒たちが笑いさざめきながら通った校舎も、今は風の音を空しく響かせるだけ。
「誰かいるー? おーい?」
答えるのはウミネコばかり。
さび付いたパンター戦車、朽ち果てた路面電車、そして環状線の通勤電車は止まったまま動かない。
「終わったんだね……。あたしたちの青春が」
「夢だったのさ。真夏の夜の夢。戻ってくるんじゃなかったよ」
かつて委員会センターと呼ばれたビルも、窓ガラスは割れ放題で、人気はない。
あの時は賑わった新町も、赤錆びたシャッターが降ろされ、猫達だけが昼寝の邪魔をとがめるように二人を見つめた。
クラブ会館も男子寮、女子寮もほこりと海鳥の糞がうずたかく積もり、不在が長期間であったこことを示していた。
「何もかも全部、去ってしまったんだな……誰も彼もみんな……」
空ばかりが青い。だがそこには複葉機もジェット戦闘機も気球も無い。海にも船は無く、ただ空しい青さを映し出すだけだった。
「この島って人がいないと広いんだね。ごみごみして嫌になるときだってあったのに……。裸人の人とかマフディーとかさ、大嫌い
だったのに、あんな奴らでもいなくなると、……寂しいよ」
鼻をすする音だけがやけに響いた。白い雲が音もなく流れていく。
ちりん どこかで鈴の音が鳴った。
「おじさん達、夢の続きを探してるの?」
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506:05/01/18 02:00:22 ID:???
「え?」
二人の後ろには、小柄な女生徒がいた。
懐かしい濃緑の制服、黒髪の下には人形めいた整いすぎている顔、白すぎる手には碁石のようなものが乗っている。
石が震えると、ちりんという音が再びした。
「ここにはもう何もないわ」
女生徒の色の薄い唇がわずかに開き、言葉を紡ぎ出した。
「何があったか知りたければ、旧図書館に行けばわかるわ」
「どういう事だよ? 廃校になったんじゃなかったのか?」
だがその言葉に何の反応もせず、少女は背を向けた。
ちりんという音ともに少女の姿がかき消える。
そして、同時にチャイムがなり始めた。音程が狂って歪んだ音は、二人を嘲笑うかのように響き渡って唐突に終わった。
黒いカラスたちが、旧図書館の方向でさかんに飛び回って鳴き声をあげた。
それが終わりの始まりだった。